約 2,967,888 件
https://w.atwiki.jp/harukaze_lab/pages/68.html
しづやしづ 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)苧環《おだまき》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#6字下げ] ------------------------------------------------------- [#6字下げ]一[#「一」は中見出し] 「――しづの苧環《おだまき》くり返しか」と貞吉は頭をゆらゆらさせた、「むかしをいまに、だろう、むかしをいまに、なすよしもがな、てんだろう、違うか」 「ひどく酔っちまったな」と小村屋のいうのが聞えた、「これはもう歩けそうもねえぞ」 「泊らせちまうさ」とだれかがいった、「たまにはそのくらいのこともさせなければ、いくら四丁目が辛抱づよくっても可哀そうだ」 「しかし、場所が場所だからな」 「深川の網打場じゃあ、小村屋さんの御人体にかかわるか、いいさ、私がいっしょに泊っていくよ」 そら始まった、とだれかがいった。だれの声だかよくわからないが、「八官町のおきまりだ」と笑い、「四丁目はかこつけで、本当は八官町が泊りたいのさ」といった。 するともう一人が、四丁目のかみさんは家付きで、おそろしく気が強いという評判じゃないか、といった。 それは桜橋の松田屋の声らしい。続いて小村屋がなにかいい、だれともわからない声が、また、八官町をやりこめた。 「私は帰らないぜ」と貞吉がいった、舌のもつれるのが自分でもおぼろげにわかった、「――しづの苧環、むかしのことをいったって始まりゃあしない、私は泊るよ」 [#6字下げ]二[#「二」は中見出し] 「お呼びですか」という声がした、「どうなさいました、苦しいんですか」 貞吉は眼をあいた。こちらをのぞいている女の顔が、すぐ眼の前に見えた。 「なにかいったか」 「あたしをお呼びになったって、――」と女が微笑した。女は手拭で、濡れた髪の毛を拭きながら、貞吉に微笑しかけた、「お芳さんがいま知らせに来たんですよ」 「いまなん刻《どき》だ」 「九つ半(午前一時)ころでしょ」 「みんな泊ってるのか」 「八官町さんていう方だけよ、ほかの方たちはお帰りになったわ」 貞吉は「新兵衛か――」とつぶやいて、頭を振りながら起きあがり、枕もとにある水を飲もうとした。 女は「おひやなら新しいのを汲《く》んで来ますよ」といい、髪の毛の先を、手拭で巻いて束ねながら、水差を持って立ちあがった。 貞吉は手をあげて、「ちょっと――」と呼びとめ、ここでは酒は飲めないのか、ときいた。 お飲みになりたいの。うん、少し醒《さ》めたらしいんでね、無理でなければ飲みたいんだ。表むきはいけないことになってるのよ、でもあがりたいんなら持って来ますわ。じゃあ、そうしてもらおう。でもお肴《さかな》がないかもしれませんよ、といって、女は出ていった。 貞吉は立って、帯をしめ直した。 「堅いばかりが能じゃないよか、ふん」と彼は呟《つぶや》いて、夜具の脇へ片よって坐り、こぼれてくる髪の毛を掻《か》きあげた、「そういうことか、いいとも、好きなようにおだをあげるさ、ふん、おれだって――」 貞吉は耳たぶを引張った。 ――たまにはやきもちのひとつもやかせてごらんな。 そういったときの、おひで[#「ひで」に傍点]の顔が、また眼のさきに見えるようであった。 「家付きの女房で、おそろしく気が強いっていう評判じゃないか」と彼はまた呟いた、「あれは桜橋の声だった。たしかに松田屋の文さんの声だった。……おそろしく気が強いって評判か、ふん、知ってやがるくせに」 女が戻って来た、「ごめんなさい」と声をかけて唐紙をあけ、貞吉を見て微笑した。 「おそかったでしょ、ごめんなさい」 女は背丈が高かった。痩《や》せがたで、三寸五分ちかくあるだろう。貞吉は女の背丈の高いのに初めて気がつき、「のっぽだな」といった。 そうなのよ、と女ははにかみ「ばかだから、ごはんを縦にたべたんですって」といい、坐って、酒肴をのせた盆をそこへ置いた。坐るときにふんわりと留木が匂った。 「刻はずれに済まなかった」と彼は一つ飲んでいった、「つきあってくれるだろう」 貞吉が盃《さかずき》を出すと、女は「どうしようかな」と首をかしげた。 「飲めるんだろう」 「あたしだめなの」と女はいった、「もう五年くらいも飲んだことがないのよ」 「五年くらいだって」 「でも頂くわ」と女は手を出した、「まねだけ注いでね」 貞吉が酌をすると、女は左手で盃を持ち、右手を盃の下へ当てて、「見ないでね」といいながら、危なっかしくすすった。あまりにうぶらしい手つきなので、貞吉は、こぼれてくる髪の毛を掻きあげながら、われ知らず微笑した。 女はそれに気がついたのだろう、肩をすくめてくすっと笑い、「いやだ――」といいながら盃を返した。 「いやだ――見ないでっていったのに」 「よかったよ」と彼はいった、「花嫁が祝言の盃を飲むようだった」 女ははにかんだ眼でにらみ、「気持が悪いかもしれないけれど」と頭へ手をやりながら、立ちあがった。 一杯で気持が悪くなったのか。いいえ、おぐしがうるさいようだから、といって、女は貞吉のうしろへまわった。あたしの櫛《くし》では気持が悪いでしょうけれど、ちょっと撫《な》でつけさせて下さいな。いいんだ、汚れてるからよしてくれ。でもちょっと撫でつけるだけ、この櫛きれいなのよ、「ほんと」といい、女は貞吉の乱れた髪を撫でつけた。 「名前は聞いただろうね」と彼は低い声でいった、「酔ってたもので忘れちゃったが」 「ほんとの名前はおしづ[#「しづ」に傍点]、へんでしょ」 「へんじゃないさ」と彼はいった、「――私の番になってくれたんだね」 「番って」 「よく知らないんだが、あいかた、とでもいうのかね」 「いいえ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は含み笑いをした、「そうじゃないの、あたし手伝いなのよ」 女は櫛を自分の髪へさしながら元のところへ坐って、燗徳利《かんどくり》を取りあげた。あたしはここの女主人の友達で、女主人はおしげ[#「しげ」に傍点]というのだが、病気になったので、手伝いに来ていたの。ゆうべは客がたて混んだから、酒の酌にだけ出たのよ、と女は話した。 「そりゃあ悪いな」と彼がいった、「そういう人にこんな面倒をかけるなんて悪かった」 「あら嘘、あたしこそ悪いわ」と女は微笑した。「こんなのっぽのおばあさんで、あたしこそきまりが悪いわ」 「のっぽだけはたしかだ」と貞吉はいった。おしづ[#「しづ」に傍点]はにらんで、酌をしながら、「今夜は客が多くて、うさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんがあなたのお相手に出られなかったのよ」またこんどいらっしゃいな、若くて可愛くていいひとよ、といった。 まるでとりとめのないことを、次から次と話しながら、かなり飲んで気がつくと、窓の障子が白んでいた。 「あら、雨戸を閉めなかったのね」とおしづ[#「しづ」に傍点]が立ちあがった、「ごめんなさい、もう明るくなってるわ」 「少し障子をあけようか」 「そうね、ちょっと息抜きをしましょう」 そういって障子をあけ、「あらひどい霧」とつぶやいた。五月の明けがたの、冷えた空気がながれこんで来、貞吉の酔った頬をひんやりとなでた。 「山か川か海でもあるといいんだけれど」と窓際に立ったままおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「ここは家が建て混んでいて、なんにも見えないわね」 「山や海が好きなのか」 「山の見えるところにもいたし、海の見えるところにもいたの」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「あたしいろんなことをして来たのよ、あなたなんか聞いたら、それこそびっくりするような、いろんなこと」 貞吉はふと眼をつぶった。おしづ[#「しづ」に傍点]のいいかたに、胸にしみるような調子があり、その声がかなりしゃがれ声だということに気づいた。 ――悲しい、辛いことがあったんだね。 そうきこうとして、貞吉は頭を振った。 「生きていれば」と彼はいった、「だれだっていろいろなことにぶっつかるさ、私だって、――私なんかいまだって」 おしづ[#「しづ」に傍点]が障子を閉めた。少し荒っぽい閉めかたで、ぱたっと音がし、彼女は振向いてこっちへ来ながら、「よしましょう、こんな話」といった。貞吉が見ると、おしづ[#「しづ」に傍点]の頬がこまかくひきつっていた。 どこかの部屋で、客の起きる物音がしはじめた。 [#6字下げ]三[#「三」は中見出し] 三日目に、貞吉はまたその家へいった。 梅雨にはいったらしく、湿っぽい小雨の降る晩で、まだ宵のくちだったが、路地はひやかしの客も少なく、店もひっそりしていた。おしづ[#「しづ」に傍点]はすぐに出て来て、はにかんだ微笑をうかべ、「濡れたでしょ」といいながら、手拭で彼の袖や裾まわりを拭いた。そして、傘や履物を片づけておくようにと、店にいた若い女に頼んでから、このまえとはベつの、いちばん奥にある四帖半へ彼を案内した。 「汚ないけれど、いいかしら、ここ、あたしの部屋なのよ」 「おちついていいよ」 「いいわね」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「どうせ、うさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんのところへいくんですもの、飲むうちだけの辛抱だから」 「うさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんだって」と彼は訊き返した、「おしづ[#「しづ」に傍点]さんはだめなのか」 「あたしはだめよ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は眼をそらした、「あたしは手伝いに来ているだけで、しょうばいに出てるんじゃないんですもの」 貞吉は「そうか」と溜息《ためいき》をついた。 「じゃあ、――」と彼はいった、「ここで飲むだけ飲んで帰る、ってわけにはいかないかな」 「さあ、どうかしら」 「いかないだろうな」と彼はいった、「料理茶屋じゃあないんだからな」 「そうね」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「でもちょっと待っててちょうだい、あたしおしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんにきいて来てみるわ」 そして、すらっと立って、出ていった。 戻って来るまでに、ちょっと暇どった。「だめなんだな」と貞吉はつぶやいた。二十八にもなるのに、場所のしきたりにも気がつかない、なにかいい方法があるかもしれないのに、その思案もつかないだらしなさ、ちぇ、と貞吉は舌打ちをし、「だから、てめえの女房にまで軽く扱われるんだ」と自分にいった。 おしづ[#「しづ」に傍点]は酒の支度をして戻って来た。 「いいんですって」とおしづ[#「しづ」に傍点]は舌を出し、蝶足の膳《ぜん》をそこへ置いた、「あたしの好きなようにしていいんですってよ」 貞吉は「そいつは」といって、てれたように眼をそらした。 おしづ[#「しづ」に傍点]は一つ酌をしてから、いまおいしい物を拵《こしら》えて来るから、「もう少しひとりで飲んでいてちょうだい」といい、ぱっと上気したような眼で、貞吉を見て、出ていった。――貞吉はゆっくりと、なめるように飲みながら待っていた。それは楽しい時間であった。そんなに安らかな、包まれるように温かな、おちついた気分を味わったことはない。結婚して五年になるが、こんなにくつろいだ、安らかな気持を感じたことは、貞吉にはいちども覚えがなかった。 「あそこはうちじゃあない」と彼は口の中でつぶやいた、「おれのうちじゃない、これからも、いつまで経っても、決してこのおれのうちにはならないだろう」 おしづ[#「しづ」に傍点]が戻って来た。くすっと笑いながら「できそくなっちゃった」といって、皿と鉢を膳の上へ置き、新しい燗徳利を持って、的をした。鉢のほうは卵の黄身と味噌とを火で煉《ね》ったもの、皿のほうは干鱈《ひだら》を焙《あぶ》って裂いたのへ、甘酢をかけたものであった。 「気取ったことをするね、美味《うま》いよ」 「上手にやればもっとおいしいんだけれど」とおしづ[#「しづ」に傍点]は恥ずかしそうに笑った、「いそいだもんだから、それはできそくないよ」 貞吉は「これで充分だ、美味いよ」といい、一杯つきあわないか、と盃をさしだした。 おしづ[#「しづ」に傍点]はこんども「どうしようかな」とためらい、それから受取って、用心ぶかく、すするように飲んだ。 「あなたはお堅いんですってね」と盃を返しながら、おしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「このあいだ八官町さんて方からうかがったわ」 貞吉は自嘲《じちょう》するように「新兵衛か」とつぶやいた。 「めったに茶屋あそびなんかなさらないんだって、だからあたし、もう来ては下さらないだろうって、思ってたのよ」 「いくじがないから」と彼がいった、「だれかさそって来ようと思ったんだけれどね、ずいぶん勇気をだしたんだけれど――迷惑じゃないかとも思ったしね」 「迷惑な筈がないじゃありませんか」とおしづ[#「しづ」に傍点]はそっとにらみ、低い、つぶやくような声でいった、「あたし、うれしかったわ」 それは(また)胸にしみるような調子であった。貞吉は眼をそらしながら、だれかさそって来れば二人きりで話ができないし、逢いたいことは逢いたいし、「ずいぶん迷った」のだといった。おしづ[#「しづ」に傍点]は急に、はずんだ声で、「あたし、頂くわ」といい、もう一つ盃を持って来るから、と立ちあがって出ていった。 貞吉は眉をしかめた。あやされるような楽しさで、胸がときめき、あまりに気持がうきたってきて、われながら「だらしがねえぞ」と思ったようであった。――おしづ[#「しづ」に傍点]は戻って来たが、盃を膳の上に置くと、客があがったので花帳をつけなければならない、「すぐに済むから」と引返していった。 貞吉は立って窓をあけ、独りで飲みながら、部屋の中を眺めまわした。 壁に掛けてある(包んだ)三味線。小さな茶箪笥《ちゃだんす》と鏡台。古びた長火鉢と、それを囲うように隅に立ててある枕屏風《まくらびょうぶ》。道具らしい物はそれだけであるが、それらがみな、あるべき場所にきちんと片づいていて、おちついた気分をつくっていた。 ――ふしぎだ、この部屋はまえから知っているようだ。 まえに幾たびも来て、飲み食いもし、寝起きもしたような気がする、と貞吉は思った。そうだ、露月町のうちの、おふくろの部屋がこんなだった。もっと道具はそろっていたし、唐紙の模様も違う。窓はなくなって、廊下のほうが障子になっていた。よく見るとみんな違っているが、どことなく同じ感じがする。こうしていると、あのおふくろの部屋にいるようだ、と貞吉は心のなかでうなずいた。 おしづ[#「しづ」に傍点]が硯箱《すずりばこ》と小さな帳面を持ってはいって来た。客がたてこみそうなので、ここで帳面をつけることにして来た。「うるさいでしょうけれどごめんなさい」と貞吉をみつめ、はにかみ笑いをして、「だって向うにいるとお顔が見られないんだもの」とささやいた。 貞吉は眩《まぶ》しそうに眼をそらして、「私は構わない、うるさくなんかないよ」といい、その芸のない受けかたに(自分で)肚《はら》を立てたのだろう、盃を取って乱暴におしづ[#「しづ」に傍点]へさした。 「だいじょうぶかな」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「酔って帳面がつけられなくなりゃしないかな」 「そうしたら、私がつけるよ」 「あらまさか、こんなものをつけて頂いたら、それこそばちが当るわ」そういっておしづ[#「しづ」に傍点]は顔をそむけながらささやいた、「――今夜、泊ってって下さいね」 [#6字下げ]四[#「四」は中見出し] 貞吉はその夜おそく帰った。 おしづ[#「しづ」に傍点]は泊ってゆけとすすめたが、客の多い晩でおちつけなかったし、泊ることがおしづ[#「しづ」に傍点]にとって無理かもしれないと思い、九時ごろに立ちあがって、雨の中を帰った。 「またいらっして」とおしづ[#「しづ」に傍点]が店の外まで送って来て、いった、「おうちのほうに悪かったら、お顔だけでも見せにいらっしてね」 貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]の眼をみて、うなずいた。黒江町の通りへ出ようとして振返ると、おしづ[#「しづ」に傍点]はまだ軒下に立って、じっとこちらを見送っていた。 明くる日の夕方、貞吉はまた網打場へいった。まえの日からの雨が、まだ降り続いていて、灯ともしころだったが、その一画は昨日よりひっそりしていた。貞吉を見ると、おしづ[#「しづ」に傍点]は「あッ」というように口をあき、顔がべそをかくようにゆがんだ。 「不動様の近くまで来たんでね」と彼は口ごもった、「すぐに帰るよ」 おしづ[#「しづ」に傍点]は黙ったまま貞吉をあげ、ゆうべの部屋へとおした。部屋へはいるとすぐ、長火鉢の抽出《ひきだし》から、小さな紙包を出して、「いやだ、こんなことして――」といいながら、貞吉の手へ渡そうとした。 「お帰りになったあとでみたらこんなものがあるんですもの、いやだわ、あたし」 「だって」彼はどもった、「―――じゃあどうすればいいんだ」 「お金なんて、いや」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった。 貞吉はわけがわからず、「じゃあ、来られないぜ」といった。ただで飲み食いをするわけにはいかないからね、少なくって悪いが、それを取ってくれないんなら、もう来ないよ。困ったな、とおしづ[#「しづ」に傍点]は紙包を持っている自分の手を見た。あたし、いやなんだけれど、困ったな。困るほど、ありゃあしない、たぶん不足だろうけれど取っておいてくれ、さもなければ本当に来られやしないよ、と貞吉がいった。 「そんならいいわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「悪いけれどおあずかりしておくわ、その代り今夜はひまらしいから、ゆっくりしていらしってね」 「いや、今夜は用達しの帰りなんだ」と彼は首を振った、「この次にゆっくりしよう、今夜は早くひきあげるよ」 「つまらない」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった、「つまらないわ、あたし、そんなら、いっそ来て下さらなければいいのに」 そういってすぐに「うそ、うそ」と強くかぶりを振り、貞吉にとびついて、「うそよ、ごめんなさい、来て下さるだけでいいの」と両手で抱きしめ、「お顔を見るだけでいいの、ごめんなさい」といいながら、そのままのどで泣きだした。 貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]の肩を抱き、激しく頬ずりをしながら「おしづ[#「しづ」に傍点]」とささやいた。すると胸がいっぱいになり、息が詰って、あえいだ。おしづ[#「しづ」に傍点]は顔をまわして、唇をよせたが、貞吉はぶきように避けた。 「あたし、悪い女ね」とおしづ[#「しづ」に傍点]がすすりあげながら、ささやいた。「あたし、悪い女よ、あたしがどんな女だかっていうことがわかったら、あなたきっと嫌ってしまうし、もう来ては下さらなくなるわ」そして声を詰らせ、まるで苦痛を訴えるようにいった、「あたしにはいろいろなことがあったのよ」 「生きていれば、だれだっていろいろなことにぶっつかるよ」 「このまえもそう仰《おっ》しゃったわね」 「おしづ[#「しづ」に傍点]は悪くはありゃあしない」と彼はいった、「生きてゆくっていうことは、男にだってなまやさしいものじゃないんだ、まして女の身となれば、どんなに苦しい辛いことがあるか、どんなに生きにくいかっていうことは察しがつくよ、もし悪いとすれば、それはおしづ[#「しづ」に傍点]じゃあない、世間のほうが悪いんだ」 「そうじゃないの、あたしはそうじゃないの」とおしづ[#「しづ」に傍点]はしゃがれた声でいった、「あたしは自分が悪かったの、世間の罪じゃなく、みんな自分が悪かったのよ、ほんと、あたしって悪い女なのよ」 そして急に貞吉からはなれ、酒の支度をして来る、と立ちあがった。袖口で眼を拭きながら、部屋を出ようとして振返り、にっとはにかみ笑いをして「いやだ――」と低い声でいった。 貞吉は半刻ほどして帰った。用達しというのは嘘だったが、いってしまったてまえ、おちつくわけにはいかなかったのである。 おしづ[#「しづ」に傍点]はやはり送って出て、また来てくれるようにといった、「またいらしってね、きっとよ」と繰り返し、手を伸ばして、そっと貞吉の腕にさわった。 明くる日、――貞吉は午《ひる》すぎに八官町の新兵衛を訪ねた。新兵衛は「井ノ伊」という足袋屋で、父親は亡くなったが、継母のたよ[#「たよ」に傍点]がまだ(四十二歳で)元気だったし、しょうばいのほうも職人を七人ほど使ってかなり繁昌していた。新兵衛にはおもと[#「もと」に傍点]という妻と、二人の子があるが、継母はよくできた人で、家内のおりあいも、うまくいっていた。貞吉が「井ノ伊」の店を訪ねるのは久しぶりで、新兵衛はすぐに酒の支度を命じたが、貞吉は「ちょっと出られないか」とさそった。 「出てもいいが」と新兵衛はさぐるような表情で彼を見た。「――なにか、あったのか」 貞吉はあいまいに首を振り、「ちょっとつきあってもらいたいんだ」といった。 新兵衛はなにかあるなと感じたらしい、手早く着替えをして、いっしょに外へ出た。「さきに一軒よってくれ」といって、新兵衛は三十間堀の「金八」という料理屋へさそった。小体《こてい》な店だったが、近ごろ店開きをしたのだそうで、家もしゃれた造りだし、凝った物を食わせるので評判だ、ということであった。そこで一刻ばかり飲んでいるうちに、また雨が降りだした。 貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]の話をするつもりだったが、いざ二人で向きあってみると、なにも話すことはなかった。話せば笑われるか、意見をされそうだし、相談してどうしようということもない。これはなにもいわないほうがいい、と貞吉は思い直した。 新兵衛はやがて「なにか話でもあるのか」と訊《き》いた。貞吉は首を振った。べつにそんなことはない、ただ一杯つきあってもらおうと思ったんだ。珍しいな、四丁目へいってから初めてだぜ、と新兵衛がいった。 「うちでなにかあったのか」 貞吉は「いや」と頭を振った。 「しっかりしてくれよ」と新兵衛がいった、「おまえ、露月町にいたじぶんとは人が変ったぜ、まるでしょっちゅう重荷でも背負ってるようじゃないか、婿ってものはそんなに小さくなってなくちゃならないのか」 貞吉はびっくりしたように新兵衛を見た。新兵衛はもう酔っていて、その表情も、口ぶりにも、酔っているときの辛辣《しんらつ》な色があらわれていた。 「四丁目へ婿にゆくまえ、みんなで飲んだことがある」と新兵衛はいった、「桜橋の松田屋へいった文ちゃん、――小村屋と、おれ、――寺子屋じぶんからの友達四人だった、覚えてるか」 [#6字下げ]五[#「五」は中見出し] そのときおれたちが、婿になんかゆくなといったら、おまえはいばって、「河内屋のしんしょうを飲み潰《つぶ》してみせる」といった筈だ。そういばった筈だが、覚えてるかと、新兵衛はいった。 あのじぶんは、四人のなかでおまえがいちばん活きがよかった。おれたちに酒の味を教えたのもおまえだ。露月町の「越前屋」といえば、糸綿問屋では知られた老舗だし、しち堅いので評判の家族だった。おやじさんは堅人だったし、兄貴の仲次郎さん、平吉さん、みんな堅かった。 おまえだけは向っ気が強くって、十六七から酒も飲むし、芝居小屋だの寄席だのへ出入りはするし、ぐれたような仲間ともつきあってた。まさか河内屋を「飲み潰す」とは思わなかったが、おまえなら、婿にいってもしぼんじまうようなことはなかろう、さぞ活きのいい婿になるだろうっておれたちは話しあったものだ。 それがどうだ、いったとたんからしゅんとしちまって、ろくすっぽおれたちとのつきあいさえしなくなった。どうしてだ、河内屋にはもうしゅうともしゅうとめもいない、だれに気兼ねしてそんなに小さくなってるんだ。家付き娘のおひで[#「ひで」に傍点]さんが、そんなに怖いのか、そうなのか、と新兵衛はいった。 「このまえ松田屋のじいさんの、米の字の祝いで宴会があった」と新兵衛は続けた、「そのとき、おれたち三人で話したんだ、四丁目があれじゃあ、ひどすぎる、ひとつ活を入れてやろうって、それでむりに酔わせて、網打場へつれていったんだ、新吉原《なか》なんぞじゃあ、薬が効くまい、岡場所にしようといったのはおれだ、わかるか」 「わかるさ、よくわかるよ」と貞吉は力のない声でいった、「おれだって、われながらだらしがねえと思っているんだ、しょっちゅう思ってるんだ、けれども――」 「飲めよ」と新兵衛がいった、「おひで[#「ひで」に傍点]さんがいくら男まさりだって、まさか取って食うわけじゃあないだろう、しっかりしてくれ」 あの晩、おまえは酔って「昔を今になすよしもがな」ってしきりにいってた。気取るなよ、越前屋の貞の字がなんだ、いまはれっきとした河内屋貞吉、自分のかみさんと自分のしんしょうじゃねえか、びくびくするない、と新兵衛がいった。 だが、少しいいすぎたと思ったのだろう、貞吉の浮かない顔に気がつくと、「おい」と声をひそめた。 「本当になにかあったんじゃないのか」 「なにかって、――」 「このあいだうちをあけたことでよ」と新兵衛がきいた、「おひで[#「ひで」に傍点]さんと喧嘩《けんか》でもしたんじゃあないのか」 「そのくらいの情があればな」と貞吉は顔をそむけ、それから急に「いきなりだが」と新兵衛を見た、「少し都合してもらえるか」 「金か」と新兵衛がいった、「少しぐらいなら持ってるが、いくらだ」 「いや、いまじゃないんだ、近いうちに頼むかもしれないんだ」と貞吉はいった、「三十両ばかりあればいいと思うんだが、露月町の兄貴には頼めないんでね」 「仲次郎さんも相当だからな」と新兵衛は手酌で飲んだ、「婿入りの晩だろう、聞いたよ、河内屋の婿になった以上、もう私と兄弟の縁は切れた、これからはどんなに困ったからといって、一銭の補助もしないからって、みんなの前ではっきりいったそうじゃないか」 「おれの行状も悪かったんだろうが」 「いいにくいことをいう人だ、仲次郎さんという人は」と新兵衛がいった、「貞の字もおふくろさんの生きていたうちが華だったな」 そして「金のことは引受けた」といった。 貞吉はそこで新兵衛と別れた。新兵衛はなにもきかなかったが、「なにかある」とは察したらしく、貞吉がひと足さきに帰るというと、いいだろうとうなずき、「おれはもう少し飲んでゆく」といって、あとに残った。――貞吉は駕籠を呼んでもらって、「金八」からまっすぐに網打場へいった。雨になったためだろう、時刻はまだ四時くらいなのに、あたりはたそがれのように暗く、空気も冷えてきて、駕籠の中にいても肌寒いくらいだった。 「そうだ、ぶっつかってみよう」と彼は駕籠の中でつぶやいた、「金のことをいいだしたのがきっかけだ、自分でも思いがけなかった、いうつもりはなかったのに、ふいと口に出ちまった、こういうのが、いいきっかけというやつかもしれない、そうだ、ひとつぶっつかってみよう」 黒江町から曲るところで駕籠をおり、手拭を頭からかぶって、その横丁へ走りこんだ。店は人のけはいもなく、狭い土間は暗くひっそりしていて、お芳という女が出て来るまで、幾たびも呼ばなければならなかった。――ねぼけまなこで出て来たお芳は「あらッ」と眼をみはり、どうぞといって、おしづ[#「しづ」に傍点]の部屋へ案内した。 「おしづ[#「しづ」に傍点]ねえさんは、うさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんたちとお湯へいってますの」とお芳はいった、「もう帰るじぶんですから、待って下さいな、あ、それから――、いつもどうも済みません」 貞吉は「なんだ」と訊いた。お芳は「うさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんや自分がいつも花をつけてもらって済まない」といい、座蒲団を出したり、茶を淹《い》れて来たりした。 ――おしづ[#「しづ」に傍点]のしたことだな、と貞吉は思った。そうだ、二度めのときからだ、おしづ[#「しづ」に傍点]はしょうばいに出ているのではないから、ほかの女に花をつけなければ、おれをあげるわけには、いかなかったんだろう。自分で花をつけて、しかも、おれが金を置いていったら返そうとした。 「おい」と彼は自分にいった。「この田舎者、しっかりしろ、みっともねえぞ」 おしづ[#「しづ」に傍点]はまもなく帰って来た。廊下の向うが賑《にぎ》やかになったとおもうと「あら、ほんと」という、おしづ[#「しづ」に傍点]のはずんだしゃがれ声が聞え、つぎに女たちのはやしたてる声が聞え、続いて、女たちのはやしたてる笑い声と、「ええ、いいわ、おごるわよ」といいながら、廊下をいそいで来る足音が聞えた。 貞吉は耳たぶをつまんで引張った。唐紙をあけて、おしづ[#「しづ」に傍点]が貞吉を見、「ほんとだ、ああうれしい」といいながら、はいって来た。いらっしゃい、あたし、だまかされるんだと思ったわ、まさか今日いらっしゃるとは思わなかったものだから。いまお湯へいって来たところなの、こんな恰好でごめんなさいね。 おしづ[#「しづ」に傍点]はそういいながら、湯道具を鏡台の脇へ置き、貞吉をじっと見て、微笑した。――湯あがりの頬がつやつやとして、衿《えり》あしから頬まで、ぱっと血の色がさしていた。貞吉はまた耳たぶを引張り、おしづ[#「しづ」に傍点]はもういちど微笑してから、「ちょっと待ってね」といって鏡台に向った。 ざっと髪を撫でつけ、白粉《おしろい》をはいてから、おしづ[#「しづ」に傍点]は貞吉のそばへ来て、改めて、「いらっしゃい」と神妙におじぎをし、それから低い声で「うれしいわ」といった。 「八官町と飲んで来たんだ」と貞吉はまぶしそうな眼つきをしていった、「今夜はゆっくりするよ」 [#6字下げ]六[#「六」は中見出し] 夜なかの二時すぎ、――貞吉は寝衣《ねまき》の上に半纒《はんてん》を重ねて、夜具の上に坐って飲んでいた。枕許《まくらもと》の膳には、喰べ残した皿小鉢と、徳利が二本。おしづ[#「しづ」に傍点]が十能を持ってはいって来て、長火鉢に火をいれ、それから出ていって、こんどは燗徳利を三本と、小鍋《こなべ》を持って戻って来、小鍋を火にかけてから、こっちへ向いて貞吉に酌をした。 このあいだずっと、おしづ[#「しづ」に傍点]は(ほとんど)休みなしに話していた。 彼女は芝の金杉に生れた。家は建具屋で、兄が二人あり、かなり豊かに育てられた。小さいじぶんから読み書きを習うかたわら、長唄や踊の稽古にかよい、十六の年までに、どちらも名取りになった。そこで謀叛心《むほんしん》が起こり、親たちに無断で芸妓になった。 「どうしてそんな気持になったのか、いまになってみると、自分でもわからないの」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった、「お父っさんはやかましい人だったけれど、おっ母さんや兄さんたちには可愛がられていたし、これがいやだ、っていうことはなに一つなかったんですもの」 彼女は柳橋で芸妓になった。 芸妓になった手順は話さなかったが、長唄か踊の関係でそうなったのだろう。そこにいまこのうちの主婦になっているおしげ[#「しげ」に傍点]がいて、必要なことをしんみに教えてくれた。好きでなった芸妓だから、自分でも面白かったし、客もよく付いて、二年ばかりは天下を取ったような気持だった。親や兄たち、――ことに父親は怒って、「戻って来い」と幾たびもどなりこんで来たが、おしづ[#「しづ」に傍点]はそのたびに逃げだして、いちども会わずにしまった。母は来なかったが、兄たちは三度ばかり来て、おしづ[#「しづ」に傍点]の気持が動かないとわかったのであろう、「いやになったら、すぐに知らせろ」といい、それから暫くのあいだは縁が切れたようになった。 これらの話は順序立ったものではなく、あとさきになったり、脇へそれたり、記憶ちがいに気づいていい直したりするし、またその言葉つきはぎこちなく、いいたいことの半分もいいあらわせないというぐあいで、そのために却《かえ》って、話すことにしんじつさが感じられた。 「それからね、あたし、――いってしまうけど、人のおかみさんになったの」 「好きだったのか」 「ええ、正直にいうけれど好きだったわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった、「あたしのほうからおかみさんにしてくれっていって、いっしょになったの、ばかね、よしたほうがいいって、みんなに意見されたのよ、そのひと堅気じゃなかったもんですからね」 「堅気じゃないって」 「恥ずかし、きかないで、――」とおしづ[#「しづ」に傍点]は手を振り、貞吉に的をしながらいった、「その人とは七年いっしょにいて、三年まえに別れちゃったの、これでおしまい」 貞吉はちょっと黙っていたが、やがておしづ[#「しづ」に傍点]を見て、「苦労したんだな」ときいた。ええ、苦労したわとおしづ[#「しづ」に傍点]はうなずいた。お話にならないような苦労のし続けで、京、大阪から、九州の長崎というところまで、ながれていったこともあるのよ。長崎だって、と貞吉が眼をそばめた。いやだ、訊かないで、とおしづ[#「しづ」に傍点]はまた手を振った。あたし、苦労するのは平気だったわ、ときには二日くらい喰べないでいたことがなんどもあるけれど、そんなことはなんでもなかったの。そしてその人が立ち直って、景気がよくなると女でいりが始まった。お定りね、あたしはばかだけれど、それだけはがまんできなかった。ほかのことならどんな辛抱でもするわ、でもそれだけはいや、それだけはがまんできなかった。すぐにとびだして、こっちから離縁状を送ってやったわ、とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった。 貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]に盃をさし、酌をした。 「酔ってるのね、あたし」とおしづ[#「しづ」に傍点]は盃をひと口にすすった、「ばかな話ばかりで、ごめんなさい」 「うちの人たちはどうしている」 「ふた親と下の兄さんは死んじゃったわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった、「上の兄さんは麻布で世帯を持って建具屋をやっているけど、ふた親と下の兄さんは一昨年の流行《はや》り病いで、いっぺんにとられてしまったわ」 「その――」と貞吉がきいた、「ご亭主になった人とは、すっかり縁が切れたのか」 「向うでは戻って来てもらいたいらしいの、でもあいだに人を立てて、はっきり離縁状も取ってあるし、それよりも、あたしの気持が変っちゃって、戻ろうなんて気はこれっぽっちも起こらないの、自分でもふしぎなくらいよ、きれいさっぱり、二度と顔も見たくないわ」 「それなら」と貞吉がいった、「私とうちを持っても、さしつかえることはないじゃないか」 おしづ[#「しづ」に傍点]は頭を振り、「うれしいけれど、とても――」としゃがれた低い声でいった。 「よく聞いてくれ」と貞吉がいった、「さっき話したとおり、私は河内屋を出るつもりだ、どうしても女房とうまくゆかない、たぶん性が合わないんだろう、ほかにどういいようもない、女房は私が不満らしいし、私は女房に歯が立たない、本当に歯が立たないという感じで、このままいっしょにいると、腑抜《ふぬ》けになってしまいそうなんだ」 「あたしお針もうまいのよ」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「縫い張りもできるし、御飯も炊けるの、ほんとよ、嘘つかない、自分でいうのはおかしいけれど、なろうと思えば、あたしいいおかみさんになれると思うわ、でも、――そういって下さるのはうれしいけど、とてもなれないわけがあるのよ」 「まえの人のことか」 「ちがう」とおしづ[#「しづ」に傍点]はかぶりを振った、「それはあいだに人を立てて、はっきり縁を切ったっていったでしょ、そんなことじゃないの」 「じゃあどういうわけなんだ」 おしづ[#「しづ」に傍点]はうつむいて、「いえないわ」とつぶやくようにいった。だれにもいえないことなの、どうかきかないで、これだけはどうしてもいえないことなんだから。それなら一つだけきくが、おしづ[#「しづ」に傍点]は私が嫌いじゃあないのか、と貞吉がいった。するとおしづ[#「しづ」に傍点]は「ひどい」と小さく叫び、とびかかるように貞吉へしがみついた。 「ひどいわ、知っているくせに」とおしづ[#「しづ」に傍点]は彼を抱き緊め、激しく頬ずりをしながら、ふるえ声でささやいた、「知っていてそんなことをいうなんて、意地わるよ、ごしょうだからいじめないで」 [#6字下げ]七[#「七」は中見出し] 私はあきらめない、どうしてもおまえとうちを持ちたいんだ。河内屋を出て、おまえとうちを持って、自分で糸綿の商売を始めたいんだ、どうしてもだ、と貞吉は繰り返した。おしづ[#「しづ」に傍点]はかなしそうに、それだけはできない、「それだけは堪忍してちょうだい」とかぶりを振るばかりであった。 「おまえが承知するまで来る」と貞吉はいった、「なん十たびでも、かよって来る、私は本気なんだ」 おしづ[#「しづ」に傍点]は長火鉢の前へ戻り、銅壺《どうこ》の中へ燗徳利の一本を入れ、煮えている小鍋を、膳の上へおろした。貞吉が見ていると、おしづ[#「しづ」に傍点]の口から鳴咽《おえつ》がもれ、頬が涙で濡れていた。おしづ[#「しづ」に傍点]はそれをふこうともせずに、小鍋の蓋を取りながら「召上ってみて」といった。 「煮詰っちゃったけれど、薩摩汁《さつまじる》っていうの、長崎で覚えて来たのよ、ほんと、わりかたおいしいのよ」 明くる日、貞吉は午ちかいじぶんに帰った。 「またいらしってね」とおしづ[#「しづ」に傍点]が弱よわしく笑いかけながらいった、「怒らないで、またいらしって、ごしょうよ」 それから貞吉は足繁く網打場へかよった。長くて二日おき、たいていは一日おきで、毎日かよう日も続いた。彼の顔を見るたびに、おしづ[#「しづ」に傍点]は可哀そうなほどよろこび、そのたびごとに済まながった。 「あたしが出られるといいんだけど」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいう、「おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんが病気だから、夜は出られないし、まさか昼ひなかよそでお逢いするわけにもいかないし、わがままばかりいってごめんなさい」 おしづ[#「しづ」に傍点]はすぐにあやまる。なにかいってはいそいであやまり、小娘のようにはにかみ、そしていつも隙だらけなことを、貞吉は知った。芸妓になるために無断で家を出奔したり、堅気でない男に惚《ほ》れて、七年ものあいだ(九州くんだりまで放浪するほど)苦労したというような、激しい気性はどこにも感じられない。少なくとも貞吉には感じられなかったし、あまりにすなおで隙だらけなところが、むしろ不憫《ふびん》に思われるくらいだった。 「気をつけたほうがいいよ」とあるとき貞吉がいった、「おしづ[#「しづ」に傍点]は火傷をしても火の熱さがわからないらしい、そんなふうだと人に騙《だま》されるよ」 「あたしばかだからね」とおしづ[#「しづ」に傍点]は微笑し、そして、まじめな顔でいった、「――でも、あたしみたいな女をだますとすれば、よっぽどの悪人だと思うわ」 貞吉は眼をみはった。みはった眼でおしづ[#「しづ」に傍点]を見まもり、それから「うん」とうなずいた。 こうして網打場へかようあいだに、貞吉は一方で自分の計画を進めていた。八官町の新兵衛が相談に乗ってくれた。河内屋を出ることも、自分で商売を始めることも、新兵衛はよろこんで同意し、松田屋と小村屋を呼んで、資金を集めたり、手分けをして借家を捜したりしてくれた。これらのことは、露月町へも河内屋へも内密のままはこんだ。話せば事が面倒になる。さきに事実をこしらえてしまうほうが、「話は早い」という意見だった。 河内屋では妻のおひで[#「ひで」に傍点]が、うすうす勘づいていたらしい。貞吉が、にわかにおちつかなくなり、絶えず外出したり、泊って来たりするのだから、まるで気づかないというほうが不自然である。たしかに「なにかある」と思っているらしいが、態度にも口にも、それらしいことは決してあらわさなかった。以吉はふと「おひで[#「ひで」に傍点]の思う壺にはまっているのではないか」と思い、妙なことにひどく不愉快になった。しかし、そのほうがうるさい手数が省けるし、こっちも気が楽だと肚をすえた。 その年は梅雨が長く、六月中旬になっても、晴れるかとみるとまた降りだす、という日が続いた。 神田横大工町の、柳原地に面した通りに家を借りて、造作を置し、水を入れた。間口九尺、奥行二間半の小さな家だが、「夫婦で商売にとりつくには十分だ」と思った。――家の支度が出来あがったとき、貞吉は三人におしづ[#「しづ」に傍点]のことをうちあけた。網打場の女だというと、三人はあっけにとられたが、新兵衛だけはすぐに「あの女か」とうなずいた。初めての晩、貞吉が酔いつぶれて寝たあと、新兵衛はながいことおしづ[#「しづ」に傍点]と話した。彼が貞吉のことをいろいろ出したということは、おしづ[#「しづ」に傍点]の口から貞吉も聞いていた。新兵衛はその晩のことを覚えていたらしい。小村屋や松田屋が、不服そうな、がっかりしたような顔をすると、あの女なら自分も知っている、「いいじゃないか」と、少しためらいがちにいい、それからはっきり、「いいよ、あれなら大丈夫だ」といった。 「会ってくれればわかる」と貞吉がいった、「あさっての二十二日がいいんだ。こころ祝いをしたいから、三人で来てくれ、そのときおしづ[#「しづ」に傍点]にも会ってもらうよ」 「ふしぎだな」と松田屋がいった、「こうしてみると、貞の字はすっかり昔に返ったようじゃないか、こんどのことが始まってから、顔つきまで変ってきたようだぜ」 「あんまり昔に返られても困るよ」と小村屋がいった、「なにしろ、相当な三男坊だったからな、うっかりすると手綱を切りかねないんだから」 「こんどのかみさんに頼むんだね」と新兵衛がいった、「つれ添う相手によって、性分まで変る者がある、どうやら貞の字はその口らしいや、こんどのかみさんに会ったら、よく三人で頼むことにしよう」 貞吉は苦笑しながら、黙って聞いていた。 その夜、――貞吉はいちど河内屋へ帰り、店の者に、「四、五日留守にするから」と断わって、すぐにとびだすと、駕籠をひろって深川へ向った。 おしづ[#「しづ」に傍点]は浮かない顔で彼を迎えた。「どうしたんだ」と部屋へはいるなり、彼がきいた。「機嫌が悪いようじゃないか、どうかしたのか」 おしづ[#「しづ」に傍点]は首を振り、「なんでもないわ」少し頭が重いだけよ、といった。貞吉はぐったりとそこへ坐った。はずんでいた気持が挫《くじ》かれ、これまで奔走していた疲れが、いっぺんに出てくるようであった。お酒の支度をしましょうか、とおしづ[#「しづ」に傍点]がきいた。うん、と貞吉は陰気そうにうなずいた。今夜はここのおかみさんに話があるんだが、飲んでからでもいいだろう。おかみさんって、おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんのこと。そうだよ。おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんになんの用があるの、おしづ[#「しづ」に傍点]はちょっと色を変えた。 「おしづ[#「しづ」に傍点]はこのうちを出るんだ」と貞吉がいった、「だから、代りにだれか人を頼んでもらうんだよ」 「あたしが、どうするんですって」 「このうちを出るんだ」 「からかわないでちょうだい」 「じゃあ、おかみさんの部屋へゆこう」と貞吉は立ちあがった、「さきに話をつけよう、そのほうがいい、そうすればからかってるかどうかわかるよ」 [#6字下げ]八[#「八」は中見出し] おしげ[#「しげ」に傍点]は承知した。 寝床の中で横になったまま、「あなたのことは、うかがっていました」いちどおめにかかりたいと思ってたんです、といい、貞吉の話を聞き終ると、おしづ[#「しづ」に傍点]に向って、「それごらんなさい」といった。 「あたしのいったとおりじゃないの、ちゃんといらっしゃったし、そんな苦労をなすってたんじゃないの」とおしげ[#「しげ」に傍点]はいった、「それなのにあんたときたら、もう棄てられたんだなんて」 「あ、いわないで」とおしづ[#「しづ」に傍点]はあわてて遮《さえぎ》った、「ごしょうだから、いわないで」 「なにがどうしたんだ」 「あなたが四日おみえにならなかったら、もうきっといらっしゃらない、棄てられたんだなんていって、今日は朝から泣いたりしていたんですよ」 おしづ[#「しづ」に傍点]は袖で顔を隠し、「ひどい」とからだを振り、「ひどいわ、おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃん」と袖の中からいった。ああそれでか、と貞吉は思った。それであんな浮かない顔をしていたのか、と思い、おしげ[#「しげ」に傍点]と眼を見あわせながら、苦笑した。 「このひと弱虫なんですよ」とおしげ[#「しげ」に傍点]はいった、「気が強いくせに、弱虫なんです、でもおめにかかって安心しました。あなたならこのひとを仕合せにして下さるでしょう、どうか末ながく可愛がってやって下さい」 「いやだ、待ってよ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は遮り、抑えていた袖をとって、まじめな顔つきでいった、「そんなふうにいわないで、おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃん、まだきまったわけじゃないんだから」 「きまったわけじゃないって」と貞吉がおしづ[#「しづ」に傍点]を見た、「それはどういうことだ」 「あっちへいきましょう、あたし聞いて頂きたいことがあるの」 「いや、ここで聞こう」 おかみさんの前で聞こう、と貞吉はいい、おしづ[#「しづ」に傍点]は、「向うへいきましょう」と首を振った。 おしげ[#「しげ」に傍点]はとりなすように「あっちへいってあげて下さい、二人っきりで話したいんでしょ」と笑い、おしづ[#「しづ」に傍点]に向って、「今夜は帳面は構わないから、ゆっくり話すほうがいいわ」といった。おしづ[#「しづ」に傍点]は貞吉を促して立ち、自分の部屋へ戻ると、いま酒の支度をするから、といって引返していった。 このあいだに、外はまた雨になったとみえ、降る音は聞えないが、窓の外のどこかで、間遠にあまだれの落ちる音が聞えた。 その夜は気温があがって、かなり、むしむししたが、おしづ[#「しづ」に傍点]は長火鉢に火を入れ、角樽《つのだる》を持ちこんで来て、「今夜はあたしも頂くわ」などといい、膳拵えにかなり手間がかかった。すっかり支度ができて、飲みはじめてからも、肝心なことはなかなかきりださず、「おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんていいひとでしょ」とか、「このごろ旦那の足が遠のいているのよ」などと、ひとのことをとりとめもなく話した。――客のたてこむ時刻になり、このうちへもあがったし、裏隣りのほうも賑やかになった。 「話さないのか」と貞吉がいった、「いつまで待たせるんだ」 「もう少し待って」とおしづ[#「しづ」に傍点]はまた盃を取った、「もう少し酔わなければだめ、これじゃあまだ話せないのよ」 「断わっておくが、私のほうはきまってるんだぜ」と貞吉は酌をしてやった。 「家もはいるばかりになってろ、河内屋と縁を切る手筈もついてる、商売の元手も友達三人で出してくれる、みんなすっかりきまってるし、いまこのうちのおかみさんも、あんなによろこんでくれていたんだから」 「おしげ[#「しげ」に傍点]ちゃんは知らないのよ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は遮った、「だれも知らないことでわけがあるの、ごめんなさい、もう少し飲まして」 貞吉は酌をしてやった。 自分でも飲みながら、貞吉は待った。おしづ[#「しづ」に傍点]は話しださなかった。肴《さかな》を替えに立ち、酒の燗をし、ふと雨の音に聞きいるかと思うと、またおしゃべりをはじめるというぐあいであった。貞吉も酔ってはくるし、そのとりとめのないおしゃべりが面白いので、つい時間の経つのを忘れてしまった。――そんなふうにして、二刻ばかりも過したらしい。やがてうさぎ[#「うさぎ」に傍点]さんという女の「もう店を閉めよう」という声が聞え、気がついてみると、あたりはいつかひっそりしていて、やや強くなった雨の音が聞えて来た。 「もういいだろう」と貞吉は坐り直した、「話を聞こう」 「困ったなあ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は声をひそめた、「困ったな、いやだなあ」 「私は聞かなくってもいいんだぜ」 「だめなのよ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は首を振った、「あなたといっしょになるとしたら、どうしたって聞いて頂かなくちゃならないし、お聞きになったら、きっとあたしがいやになるにきまってるんですもの」 隠した子でもあるのか、と貞吉がきいた。おしづ[#「しづ」に傍点]はかぶりを振った。子供は産んだことがない。「七年いっしょにいた人とも子供はできなかった」とおしづ[#「しづ」に傍点]はいった。それなら遠慮ぬきにきくが、牢へはいったことでもあるのか。まさか、牢屋へはいるほど悪いことはしないわ。じゃあなんだ、ほかになにがある、牢でもなく、子供でもなく、またまえのひととはきれいに縁が切れていて、ほかになにがそんなに「困ること」があるんだ、なんだ、と貞吉がたたみかけた。 「いいわ、いってしまうわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は顔をあげた。酔っていた顔が、急に硬ばって白くなり、唇がふるえた。よほど話すのがいやらしい、「困ったなあ――」と、もういちど呟いてから、盃を取って冷えた酒を飲み、それからうつむいていった。「あたしね、あたし、背中に刺青《ほりもの》があるの」 そして両方の袖でぱっと顔をおおった。 貞吉は茫然と彼女を見まもった。おしづ[#「しづ」に傍点]は袖で顔をおおったまま語った。まえのひとが堅気でないということは話したと思う、自分は正直にいってそのひとが好きだった。いまは塵《ちり》ほどのみれんもないし、どうしてあんなひとを好きになったかもわからない。けれどもそのときはのぼせあがり、そのひとと同じようになろうと思って、「そのひとがよせというのに」自分からすすんで刺青をした。三年まえ、そのひとと別れてから、急にその刺青がこわくなり、消そうと思っていろいろと手を尽した。けれども、消すことができない。いいといわれる薬も、名のある灸《きゅう》もためしてみたが、消すことはできなかった。 「そのために辛いおもいをして来たわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は袖の中からいった、「これが火傷か、けがでもしたんならいいわ、それなら人に見られてもいいんだけれど、女のくせに刺青ですものね、みつかったら、どうしようかと思って、一日も気の休まることがなかったのよ」 貞吉は黙ってうなずいた。 [#6字下げ]九[#「九」は中見出し] 「わかったでしょ」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「こんなからだではとても、堅気なお店のおかみさんになんかなれやしないわ」 「なれるとも、立派になれるよ」 「いいえだめ、あたしがだめなの」 「まあ、おちつこう」と貞吉がいった、「おちついて話そう、――私はそれを刺青じゃなく、けがだと思う、つまずいて転んだけがだ、おしづ[#「しづ」に傍点]はまだ若くって、夢中にのぼせあがっていた、だれだって若いときには、間違いをするし、だれだってからだか心に傷のない者はいやあしない、みんなそれぞれ、人に見られたくない傷を持っているよ、それよりも」 と貞吉はまた、坐り直した。自分が刺青をした経験がないから、おしづ[#「しづ」に傍点]がそれほど思い詰めている気持を、ばかげているなどと笑いはしない。だが、それよりもっと大事なことがある、と貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]を見た。 「初めて会ったときから、私はおしづ[#「しづ」に傍点]がいつもひかえめで、すぐにはにかむのに気がついた」と貞吉は続けた、「そんな年になり、世間の苦労もしているだろうのに、まるで娘のようにうぶですなおだ、それがいまの話でわかった、もちろん生れついた性分もあるだろう、けれども、そんなにいつもはにかんだり、なにかするたびにすぐあやまったり、絶えず人のために気を使ったりするのは、刺青のせいだ」 おしづ[#「しづ」に傍点]は袖をおろして、信じかねるように貞吉を見た。 「おしづ[#「しづ」に傍点]はその刺青に礼をいってもいい」と貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]の手を取った、「それがおしづ[#「しづ」に傍点]をこんなにもいい気性にしたんだ、おしづ[#「しづ」に傍点]は人に好かれる、だれにでも好かれるだろう、背中に刺青があるからという、その謙遜な気持が続いている限り、おしづ[#「しづ」に傍点]はきっと仕合せになれる、きっとだ」 「じゃあ、――」おしづ[#「しづ」に傍点]がどもった、「あなたも、あたしのこと、嫌わなくって」 「おれたちのうちへゆこう」と貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]を抱きよせた、「明日いっしょにここを出よう、おれはもう一生おしづ[#「しづ」に傍点]を放しゃしないよ」 「こわいな、いいのかな」とおしづ[#「しづ」に傍点]は抱かれたままふるえた。「ねえ、あたし、こわいから、もっとしっかり抱いて」 貞吉は強く抱きしめて、唇を合わせた。 明くる日、おしづ[#「しづ」に傍点]は荷物をまとめ、貞吉といっしょに網打場の家を出た。おしげ[#「しげ」に傍点]は「もう会わないわよ」といって涙をこぼした。あんたは堅気になるんだから、二度とこんなところへ来てはだめよ、といい、「どうぞ、このひとを大事にしてやって下さい」と貞吉に繰り返し頼んだ。三人いる女たちも、名残りを惜しんで、お芳は黒江町の角まで送って来、そこで涙をふきながら、「ねえさんお達者で」といった。おしづ[#「しづ」に傍点]は泣かなかった。おしげ[#「しげ」に傍点]と別れるときも、女たちに別れるときも、きりっとしていた。 二人は駕籠で神田へ向った。 その翌日。――二十二日の夕方から、横大工町の家で祝いをした。おしづ[#「しづ」に傍点]は丸髷《まるまげ》に結い、縞にとび飛絣《かすり》のあるじみな単衣《ひとえ》と、黒繻子《くろじゅす》の帯という、やぼったい恰好で、化粧も殆んどしなかった。酒や肴は近所の仕出し屋から取った。膳や食器も仕出し屋に頼んだし、「おしづ[#「しづ」に傍点]さんは花嫁だから」といって、酒の燗なども(あまり飲めない)松田屋が受持った。新兵衛はいうまでもなく、松田屋も小村屋も、明らかにおしづ[#「しづ」に傍点]に好感をもち、好感をもったことを少しも隠そうとはしなかった。みんないかにも気持よさそうに飲み、話も賑やかにはずんだ。 三人は一刻半ばかりでひきあげた。 「有難うよ、おしづ[#「しづ」に傍点]さん」と小村屋が帰りがけにいった、「よく貞の字の嫁になってくれた、これで私たちも安心できるよ」 「くどいぞ、小村屋」と酔った新兵衛が遮った。「おまえ、同じことをなんどいうんだ、さあ、いいからもう帰るんだよ」 「頼んだぜ、おしづ[#「しづ」に傍点]さん」とまた小村屋がいった。「貞の字はおれたちの大事な友達だからな、頼んだぜ」 おしづ[#「しづ」に傍点]は微笑しながら送りだし、一人ひとりに「有難うございました」と礼を述べた。三人が帰っていったあと、ざっと片づけてから、貞吉とおしづ[#「しづ」に傍点]は、べつに用意してあった膳を出し、向きあって坐った。 「さあ、きざなようだが、祝言のまねごとをしよう」貞吉はおしづ[#「しづ」に傍点]に盃を持たせ、自分は燗徳利を取った。「いずれ時が来たら、改めて式をあげ披露もする、今夜は仲人もなしだけれど、これでがまんしてもらうよ」 「うれしいわ、このほうがいいわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「でも見ないで、初めてで、恥ずかしいから」 初めてという言葉が、貞吉の心につよくひびいた。交互に三度ずつ飲むあいだ、おしづ[#「しづ」に傍点]はふるえて、酒をこぼし、あわてて手で拭いては、「ごめんなさい」笑わないで、といった。 「みろ――」と貞吉がいった、「おしづ[#「しづ」に傍点]はみんなに好かれた、三人ともすっかり気にいったのが、わかったろう」 「いい方たちね」とおしづ[#「しづ」に傍点]がいった、「みんないい方よ、あなたが羨《うらや》ましいわ」 「おしづ[#「しづ」に傍点]が気にいったからさ」 「いい方たちだわ」とおしづ[#「しづ」に傍点]は溜息をついた、「殿がたの友達同志って、なんともいえないほどいいものね、あたし羨ましくってやきもちがやけたわ」 「もうこわくはないね」 「ええ」とおしづ[#「しづ」に傍点]はうなずいた、「もう、こわくはないようよ」 そして、べそをかくように微笑した。貞吉は「おいで」と手を出した。おしづ[#「しづ」に傍点]は恥ずかしそうにうつむいた。それで、貞吉が立っていって抱くと、おしづ[#「しづ」に傍点]はぶるぶると震えていて、とつぜんむせびあげ、「あなた」と低く叫びながらしがみついた。 「おしづ[#「しづ」に傍点]」と彼は激しく抱きしめた、「ああ、おしづ[#「しづ」に傍点]」 おしづ[#「しづ」に傍点]は声をころして泣き、まるで狂ったように、彼を力いっぱい緊めつけたり、顔を振りながら唇を合わせたりした。 それからの幾時間をどう過したか、貞吉にははっきりした記憶がない。消えてゆくような陶酔のなかで、眼をさましかけては眠り、ふと眼ざめかけては、またうとうとと眠った。――同じ夜具の中にいたおしづ[#「しづ」に傍点]が、起きだしたけはいは知っていて、「まだいい」今日は朝寝をしよう、といった覚えはある。おしづ[#「しづ」に傍点]がなにか答え、貞吉はまた眠った。 こうして、やがて彼が眼をさましたとき、おしづ[#「しづ」に傍点]はそこにいなかった。 「おしづ[#「しづ」に傍点]」と彼は呼んだ、「なん刻ごろだ」 だが返辞はなくて、しんとした家の中に、隣りで米を搗《つ》いているのだろう、杵《きね》を踏む音が重おもしく聞え、雨戸の隙間からさしこむ外の光りが、斜めにしまを描いていた。貞吉は夜具をはねてとび起き、「おしづ[#「しづ」に傍点]」と高いかすれた声で呼んだ。米を搗く、単調な、だるいような音が聞えるばかりで、返辞はなく、人のいるけはいもなかった。 貞吉はとんでいって、戸納《とだな》をあけた。そこにはおしづ[#「しづ」に傍点]の荷物はなかった。彼はふるえながら、表の雨戸をあけて戻り、茶箪笥や長火鉢のそこ此処《ここ》を、うろたえたようすで捜しまわった。――おしづ[#「しづ」に傍点]は置き手紙をしていった。それは貞吉の枕許に、結び文にしてあり、彼は立ったままでそれを披《ひら》いた。 ――堪忍して下さい、あたし、やっぱり出てゆきます。 という意味で、その手紙は始まっていた。 いちどは心をきめた。あなたの仰しゃるとおりにしようと決心したが、三人のお友達に会い、みんなの楽しそうな話しぶりを聞いていたら、あなたばかりではなく、お友達にも済まなくなってきた。みなさんのお情けがうれしければうれしいほど、からだに「あんなもの」のある自分がいとわしくなり、このままではとても、あなたのおかみさんにはなれない、なっては申し訳がないと思った。 ――初めてあなたに会った晩、あなたの眼をひとめ見たときから、あたしはあなたが好きになった。逢えなくなるなら死ぬほうがいいと思ったし、お別れするいまも、死ぬほど辛い。けれど、どうしてもこのままでは気が済まない。どんなにお別れするのが辛いか、この済まない気持がどんなか、あなたにはわかって頂けると思う。 あたし、帰って来ます。 とその手紙はむすんであった。 たとえ、背中の「もの」が消えなくとも、自分でもういいと思うときが来たら帰ります。待っていて下さるわね、待たないでくれなんていえません。あたしばかだけれど、待たないで下さいなんていったら、あなたが怒るっていうことはわかります。外が白みはじめたようだから、まだ書きたいことがたくさんあるけれど、これでやめます。あなたの寝顔を忘れないように、ようく見ておいてから、出てゆきます。わがままばかりいってごめんなさい。 しづ[#「しづ」に傍点]。 「ばか」と叫び、手紙を茶箪笥の上へ置くと、着替えをするのももどかしそうに、家を出て雨戸を閉め、「まず網打場だ」とつぶやきながら、あたらし橋のほうへと、駆けだしていった。 [#6字下げ]十[#「十」は中見出し] 「――しづの苧環《おだまき》くりかえしか」と貞吉がいった、「おめえもう帰ってくれ、わかったよ」 「おまえ、酔っちまったぜ、貞の字」と新兵衛がいっていた、「もう一軒のあるじなんだ、小さくたって店を持ってるんだから、商売にさしつかえるほど飲んじゃあだめだ」 「わかったよ、今夜だけだ」と貞吉は頭をぐらぐらさせた、「明日は飲まねえ、飲むかもしれねえが、商売を忘れるほど飲みゃあしねえ、ほんとだぜ、嘘じゃあねえ、ほんとだ、――ほんと、嘘つかない……か」 貞吉はぐたっと頭を垂れ、「ばかだからね」と口の中でささやいた。 「今夜は新の字か来たから飲んだんだ」と貞吉はいった、「来なくっても飲むけれど、いつもはこんなに酔やあしねえさ、大丈夫だから、安心して帰ってくれ」 新兵衛は溜息をつき「こう酔っちゃあ、しょうがねえな」とつぶやいた。貞吉は泥酔していて、新兵衛の言葉は聞えなかったらしい。「おめえばかだぞ、おしづ[#「しづ」に傍点]」と頭を垂れたまま、もつれる舌でいった。 「底ぬけのばかだぞ、おしづ[#「しづ」に傍点]、いまどこにいるんだ、どこでなにをしているんだ」と貞吉は耳たぶを引張った、「――いつ帰るんだ、いつになったら帰って来るんだ、おしづ[#「しづ」に傍点]、いってくれ、いつだ……」 貞吉の口から嗚咽がもれ、新兵衛は顔をそむけた。貞吉はみじめに嗚咽しながら、かすれた声で、また女の名を呼んだ。 底本:「山本周五郎全集第二十七巻 将監さまの細みち・並木河岸」新潮社 1982(昭和57)年8月25日 発行 底本の親本:「週刊朝日別冊初夏特別読物号」 1956(昭和31)年6月 初出:「週刊朝日別冊初夏特別読物号」 1956(昭和31)年6月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
https://w.atwiki.jp/83452/pages/14205.html
1 2 紬菫 ネタバレカプ 律→澪→唯梓 2011/06/21 ※苦手なカプがある方はネタバレを参考にスルーしてください http //hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1308666977/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 菫「・・・おしおきありがとうございました。喉が渇かれたでしょう、お嬢様?」 紬「あらありがとう」ゴクゴク 菫「・・・」ニヤリ -- (名無しさん) 2012-02-21 21 40 34 シェイクスピアを下手な書き手がいじったら、ヒドイSSになったでござる…の巻 -- (名無しさん) 2011-06-23 23 14 02 菫が頑張るSSなのに、ヤンデレ化しかけている澪律を始めとしたけいおん部のドロドロな人間関係(しかも結局未解決)のせいで釈然としない俺ガイル… -- (名無しさん) 2011-06-23 21 08 19 菫SSがまた一つ…! -- (名無しさん) 2011-06-23 12 59 28 これなんか恐いぞ -- (名無し) 2011-06-23 09 46 49 ↓すみれ -- (名無しさん) 2011-06-23 01 41 53 ずっと薫だと思ってた……orz 何て読むんだこの名前? -- (名無しさん) 2011-06-23 01 36 51 菫ちゃんはちょっと抜けてるっぽいのがかわいい! -- (名無しさん) 2011-06-23 00 44 35 お仕置きマダァ? そうだよね、律澪がくっつけば解決するのにw菫かわゆす -- (ギー太) 2011-06-23 00 21 58 一体どんなお仕置きが待っているというんだぁぁぁ! -- (名無しさん) 2011-06-23 00 05 14
https://w.atwiki.jp/nicoworld/pages/746.html
くやしいのうとは、誰かの失敗や惨めな様、形勢不利で困っている状況、あるいは敗者などをせせら笑うフレーズとして使われる。 元ネタとしては、中沢啓治によるマンガ、「はだしのゲン」(1972年~/ 月刊少年ジャンプ/ 集英社) に登場するセリフ、「くやしいのぅ くやしいのぅ」 (「くやしいよ、くやしいよ」 というセリフも) に由来する。 また同作の迷?セリフに「ギギギ」等もあるが、これはアレ子の名前を決めるときに使おうとしていた。
https://w.atwiki.jp/pokeani/pages/78.html
伊東みやこ 伊東 みやこ(いとう みやこ、2月23日)は女性声優。岩手県出身。 小さな子供や動物役を得意としており、アニメ「ポケットモンスター」シリーズでは無印編のガルーラの子供役で初出演、その後サトシのヨーギラス役を経てAG編でタケシのハスボー役で準レギュラー入り。その後もほぼポケモン役オンリー(たまにモブの人間役)を担当した。DP編終了をもって準レギュラーを降板した。 ※ノンクレジットは声等から判断しているので正確な情報ではありません。参考程度でお願いします。 (★はレギュラー、準レギュラー) (※はノンクレジットキャラ) ★伊東 みやこ(いとう みやこ) 【所属】賢プロダクション 【出身地】岩手県 【誕生日】2月23日【代表作】キョロちゃん(キョロちゃん) ペンギンの問題シリーズ(木下ベッカム) ぷるるんっ!しずくちゃんシリーズ(しずくちゃん) 役名 主な登場話 ★サトシのヨーギラス 【無印】第258-264話 ★サトシのユキワラシ 【AG】第108-123話 ★サトシのエイパム 【AG】第179-186話【DP】第1-55話【映画】長編9.10作目(蒼海、VS)【OVA】ピカチュウのわんぱくアイランド、たんけんクラブ ★ヒカリのエイパム 【DP】第55-60話 ★ハルカのフシギダネ 【AG】第73-133話【OVA】ピカチュウのなつまつり ★タケシのハスボー 【AG】第12-63話【映画】短編6作目「ひみつ基地」 ★タケシのハスブレロ 【AG】第63-105話 ★タケシのピンプク 【DP】第38-190話【映画】長編10-13作目(VS、氷空、超克、幻影) ★タケシのラッキー(※) 【DP】第190話 ゲスト 【無印】 ガルーラ子 【無印】第229話 【AG】 ※コウタ 【AG】第15話 【DP】 ※少年トレーナー 【DP】第8話
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/1526.html
たけやでたけやラーメン(こってり醤油・細麺)を。 1178265599.jpg 相変わらず、こってりとは思えないあっさりなこってりです。 あっさり、こってりでなくてもう魚系、肉系という区分けで良い様な気もします。 (住所)登米市迫町佐沼字中江5-6-6 by 灯 お会計 たけやラーメン 930円 つい先日、食べに行きました。もう冷やしを始めたみたいです。早いですね~。 -- tomomo (2007-05-08 07 14 24)
https://w.atwiki.jp/jyumawiki/pages/1743.html
アニメ スタッフさ行検索 さ し す せ そ さ 西條真麻 (さいじょうまあや) 斎藤秋男 (さいとうあきお) 齋藤昭裕 (さいとうあきひろ) 斎藤敦史 (さいとうあつし) サイトウケンジ (さいとうけんじ) 斎藤滋 (さいとうしげる) 斎藤俊輔 (さいとうしゅんすけ) 斎藤仁 (さいとうじん) 斎藤恒徳 (さいとうつねのり) 斎藤恒芳 (さいとうつねよし) 斎藤友子 (さいとうともこ) 斎藤朋之 (さいとうともゆき) 斎藤久 (さいとうひさし) 斉藤寛 (さいとうひろし) 斉藤雅己 (さいとうまさみ) 斎藤麻由 (さいとうまゆ) 斉藤めぐみ (さいとうめぐみ) 斎藤裕子 (さいとうゆうこ) 斉藤良成 (さいとうよしなり) 崔ふみひで (さいふみひで) 佐伯昭志 (さえきしょうじ) 坂井久太 (さかいきゅうた) 酒井寿一 (さかいじゅいち) 酒井基 (さかいただし) 境成美 (さかいなるみ) 堺三保 (さかいみほ) 酒井良 (さかいりょう) 坂上貴彦 (さかがみたかひこ) 榊枝利行 (さかきえだとしゆき) 坂口安吾 (さかぐちあんご) 阪口良多 (さかぐちりょうた) 坂田理 (さかたおさむ) 坂田純一 (さかたじゅんいち) 坂本いづみ (さかもといづみ) 坂本一也 (さかもとかずや) 坂本久美子 (さかもとくみこ) 坂本耕作 (さかもとこうさく) 坂本俊博 (さかもととしひろ) 坂本隆 (さかもとたかし) 坂本千代子 (さかもとちよこ) 坂本信人 (さかもとのぶと) 坂本雅紀 (さかもとまさき) 坂本昌之 (さかもとまさゆき) 坂本昭 (さかもと) 嵯峨敏 (さがさとし) 佐上靖之 (さがみやすゆき) 先川幸矢 (さきかわゆきや) 崎元仁 (さきもとじん) 鷺巣詩郎 (さぎすしろう) 佐久間ヨシ子 (さくまよしこ) 桜井圭記 (さくらいけいき) 櫻井崇 (さくらいたかし) 櫻井優香 (さくらいゆうか) 沙倉拓実 (さくらたくみ) 桜井のりお (さくらいのりお) 桜井弘明 (さくらいひろあき) 桜井正明 (さくらいまさあき) 桜庭一樹 (さくらばかずき) 桜美かつし (さくらみかつし) 迫井政行 (さこいまさゆき) 酒匂暢彦 (さこうのぶひこ) 酒匂幡彦 (さこうはんひこ) 佐光幸恵 (さこうゆきえ) 佐々木明美 (ささきあけみ) 佐々木啓悟 (ささきけいご) 佐々木忍 (ささきしのぶ) 佐々木貴宏 (ささきたかひろ) 佐々木洋 (ささきひろし) 佐々木政勝 (ささきまさかつ) 佐々木正典 (ささきまさのり) 佐々木洋平 (ささきようへい) 佐々木亮 (ささきりょう) 佐々木礼子 (ささきれいこ) 笹倉逸郎 (ささくらいつろう) 笹田直樹 (ささだなおき) 笹野恵 (ささのめぐみ) 笹野雄介 (ささのゆうすけ) 笹野芽実 (ささの) 笠原達也 (ささはらたつや) 笹本安詞 (ささもとやすし) 笹本祐一 (ささもとゆういち) 桟敷大祐 (さじきだいすけ) さそりがた (さそりがた) 貞方希久子 (さだかたきくこ) 定松剛 (さだまつたけし) 貞光紳也 (さだみつしんや) 貞光寿幸 (さだみつとしゆき) 貞本義行 (さだもとよしゆき) 佐藤敦 (さとうあつし) 佐藤綾 (さとうあや) 佐藤歩 (さとうあゆみ) 佐藤英一 (さとうえいいち) 佐藤香織 (さとうかおり) 佐藤和治 (さとうかずはる) 佐藤和巳 (さとうかずみ) さとうけいいち (さとうけいいち) 佐藤孝一 (さとうこういち) 佐藤広大 (さとうこうだい) 佐藤信介 (さとうしんすけ) 佐藤準 (さとうじゅん) 佐藤順一 (さとうじゅんいち) 佐藤進 (さとうすすむ) 佐藤拓 (さとうたく) 佐藤卓哉 (さとうたくや) 佐藤健悦 (さとうたけよし) 佐藤竜雄 (さとうたつお) 佐藤達也 (さとうたつや) 佐藤豪志 (さとうつよし) 佐藤照雄 (さとうてるお) 佐藤寿子 (さとうとしこ) 佐藤とも子 (さとうともこ) 佐藤利幸 (さとうとしゆき) 佐藤直紀 (さとうなおき) 佐藤直子 (さとうなおこ) 佐藤広明 (さとうひろあき) 佐藤裕士 (さとうひろし) 佐藤弘幸 (さとうひろゆき) 佐藤正和 (さとうまさかず) 佐藤正樹 (さとうまさき) 佐藤雅弘 (さとうまさひろ) 佐藤正浩 (さとうまさひろ) 佐藤勝 (さとうまさる) 佐藤大 (さとうまさる) 佐藤真由美 (さとうまゆみ) 佐藤美由紀 (さとうみゆき) 佐藤裕 (さとうゆう) 佐藤裕子 (さとうゆうこ) 佐藤由美 (さとうゆみ) サトウユーゾー (さとうゆーぞー) 佐藤陽一郎 (さとうよういちろう) 佐藤好春 (さとうよしはる) 佐藤陵 (さとうりょう) 里見哲朗 (さとみてつろう) 真田竹志 (さなだたけし) 佐野恵一 (さのけいいち) 佐野妙 (さのたえ) 佐野隆史 (さのたかし) 佐野ひとみ (さのひとみ) 佐野弘明 (さのひろあき) 佐野由里子 (さのゆりこ) 佐橋俊彦 (さはしとしひこ) 澤田剛 (さはだごう) 佐山聖子 (さやまきよこ) 佐山哲郎 (さやまてつお) 佐山善則 (さやまよしのり) さらちよみ (さらちよみ) 澤井幸次 (さわいこうじ) 澤口和彦 (さわくちかずひこ) 澤田豊二 (さわだとよじ) 沢田完 (さわだかん) 澤野弘之 (さわのひろゆき) 沢登昌樹 (さわのぼりまさき) 澤野瑠花 (さわのるか) 澤見泰治 (さわみやすはる) 座古明史 (ざこあきふみ) 雑破業 (ざっぱごう) し 椎木隆太 (しいきりゅうた) 椎橋寛 (しいばしひろし) 塩入大介 (しおいりだいすけ) 塩川貴史 (しおかわたかし) 塩川智幸 (しおかわちゆき) 塩澤良憲 (しおざわよしのり) 塩谷翼 (しおやつばさ) 塩見和欣 (しおみかずやすし) 塩谷直義 (しおやなおよし) 塩山紀生 (しおやまのりお) しぎのあきら (しぎのあきら) 重田国義 (しげたくによし) 重村建吾 (しげむらけんご) シコルスキー (しこるすきー) 宍戸淳 (ししどあつし) 宍戸久美子 (ししどくみこ) 宍戸幸次郎 (ししどこうじろう) 宍戸史紀 (ししどふみのり) 静野孔文 (しずのとおるふみ) 下谷智之 (したやともゆき) 設楽友久 (したらともひさ) 設楽希 (しだらのぞみ) 紫藤晃由 (しとうあきらよし) 品川宏樹 (しながわひろき) 品地奈々絵 (しなじななえ) 篠崎真哉 (しのざきしんや) 篠崎文彦 (しのざきふみひこ) 篠原愛子 (しのはらあいこ) 篠原一雄 (しのはらかずお) 篠原健二 (しのはらけんじ) 篠原健太 (しのはらけんた) 篠原俊哉 (しのはらとしや) 篠原睦雄 (しのはらむつお) 筱雅律 (しのまさのり) 柴田亜紀子 (しばたあきこ) 柴乃櫂人 (しばおさむかいじん) 斯波重治 (しばしげはる) 柴田勝紀 (しばたかつのり) 柴田光輝 (しばたこうき) 芝田千紗 (しばたちさ) 柴田知典 (しばたとものり) 柴田英樹 (しばたひでき) 柴田洋史 (しばたひろし) 柴田正人 (しばたまさと) 柴田由香 (しばたゆか) 柴田千佳子 (しばたちかこ) 芝美奈子 (しばみなこ) 渋谷圭子 (しぶやけいこ) 渋谷幸弘 (しぶやゆきひろ) 嶋智子 (しまさとこ) 島沢ノリコ (しまさわのりこ) 島崎奈々子 (しまざきななこ) 島田篤 (しまだあつし) 島田フミカネ (しまだふみかね) 島田満 (しまだみちる) 島貫正弘 (しまぬきまさひろ) 島村秀一 (しまむらしゅういち) 島村達雄 (しまむらたつお) 清水愛 (しみずあい) 清水明 (しみずあきら) 清水東 (しみずあずま) 志水淳児 (しみずあつし) 清水勝則 (しみずかつのり) 清水恵蔵 (しみずけいぞう) 清水賢治 (しみずけんじ) 清水慎治 (しみずしんじ) 清水順子 (しみずじゅんこ) 清水貴子 (しみずたかこ) 清水哲弘 (しみずてつひろ) 清水友幸 (しみずともゆき) 清水洋 (しみずひろし) 清水洋史 (しみずひろし) 清水博之 (しみずひろゆき) 清水義治 (しみずよしはる) 志村錠児 (しむらじょうじ) 志村久 (しむらひさし) 下浦亜弓 (しもうらあゆみ) しもがさ美穂 (しもがさみほ) 下崎昭 (しもざきあきら) 下田正美 (しもだまさみ) 霜月かいり (しもつきかいり) 志茂文彦 (しもふみひこ) 下山和人 (しもやまかずと) 下山真吾 (しもやましんご) 下山健人 (しもやまたけと) 白石唯果 (しらいしゆいはて) 白井久男 (しらいひさお) 白井宏旨 (しらいひろし) 白根秀樹 (しらねひでき) 白井裕美子 (しらいゆみこ) 宿谷葉子 (しゅくたにようこ) 宿利剛 (しゅくりごう) 小日置知子 (しょうひおきともこ) 清池奈保 (しょうげなほ) 東海林修 (しょうじおさむ) Choro Club feat.Senoo (しょーろくらぶふゅーちゃりんぐせのお) 白土晴一 (しらとせいいち) 尻火 (しりび) 士郎正宗 (しろうまさむね) 舘藤健一 (しろふじけんいち) 新海岳人 (しんかいたけひと) 新海誠 (しんかいまこと) 新房昭之 (しんぼうあきゆき) 真保裕一 (しんぼひろかず) ジェイムス下地 (じぇいむすしもぢ) 直谷たかし (じきたにたかし) 実原登 (じつはらのぼる) 乘田拓茂 (じょうでんたくも) ジョー伊藤 (じょーいとう) 神宮司訓之 (じんぐうじのりゆき) 神野学 (じんのまなぶ) 神保大介 (じんぼだいすけ) す 末次由紀 (すえつぐゆき) 末永絢子 (すえながあやこ) 末永康子 (すえながやすこ) 須江信人 (すえのぶと) 末広孝史 (すえひろたかし) 末吉裕一郎 (すえよしゆういちろう) 周防義和 (すおうよしかず) 須貝克俊 (すがいかつとし) 菅井翔 (すがいしょう) 須賀重行 (すがしげゆき) 菅正太郎 (すがしょうたろう) 菅沼栄治 (すがぬまえいじ) 菅沼直樹 (すがぬまなおき) 菅沼芙実彦 (すがぬまふみひこ) 菅野利行 (すがのとしゆき) 菅原静貴 (すがわらしずかき) 杉田圭 (すぎたけい) 菅原弘文 (すぎわらひろふみ) 杉井ギサブロー (すぎいぎさぶろー) 杉井光 (すぎいひかる) 杉浦幸次 (すぎうらこうじ) 杉島邦久 (すぎしまくにひさ) 杉野昭夫 (すぎのあきお) 杉林恭雄 (すぎばやしやすお) 杉光登 (すぎみつのぼる) 杉本功 (すぎもといさお) 杉山孝太 (すぎやまこうた) 杉山延寛 (すぎやまのぶひろ) 杉山登 (すぎやまのぼる) 杉山祐子 (すぎやまゆうこ) 杉山好美 (すぎやまよしみ) 助野嘉昭 (すけのよしあき) すしお (すしお) 鈴木朗 (すずきあきら) 鈴木依里 (すずきいおり) 鈴木行 (すずきいく) 鈴木おさむ (すずきおさむ) 鈴木薫 (すずきかおる) 鈴木国泰(すずきくにやす) 鈴木慶一 (すずきけいいち) 鈴木健一 (すずきけんいち) 鈴木さえ子 (すずきさえこ) 鈴木智子 (すずきさとこ) 鈴木俊輔 (すずきしゅんすけ) 鈴木しん (すずきしん) 鈴木信吾 (すずきしんご) 鈴木慎二 (すずきしんじ) 鈴木清司 (すずきせいじ) 鈴木貴昭 (すずきたかあき) 鈴木武志 (すずきたけし) 鈴木大介 (すずきだいすけ) 鈴木勤 (すずきつとむ) 鈴木敏夫 (すずきとしお) 鈴木利正 (すずきとしまさ) 鈴木伸明 (すずきのぶあき) 鈴木光 (すずきひかる) 鈴木博文 (すずきひろふみ) 鈴木裕幸 (すずきひろゆき) 鈴木藤雄 (すずきふじお) すずきたかこ (すずきたかこ) 鈴木寿枝 (すずきますえ) 鈴木雅詞 (すずきまさし) 鈴木雅久 (すずきまさひさ) 鈴木美咲 (すずきみさき) 鈴木悠羽 (すずきゆうはね) 鈴木幸江 (すずきゆきえ) 鈴木良武 (すずきよしたけ) 鈴木麗 (すずきれい) 鈴城るみ子 (すずしろるみこ) スタジオ美峰 (すたじおみほ) スターチャイルドレコード (すたーちゃいるどれこーど) ストライカーユニット (すとらいかーゆにっと) 須藤友徳 (すどうとものり) 須藤瞳 (すどうひとみ) 須藤昌朋 (すどうまさとも) 須藤正巳 (すどうまさみ) 砂川正和 (すながわまさかず) suble (すぶる) 角南攻 (すなみおさむ) 隅沢克之 (すみさわかつゆき) 諏訪道彦 (すわみちひこ) せ 瀬川英史 (せがわひでふみ) 瀬川真矢 (せがわまや) 積惟文 (せきおもいぶん) 関一彦 (せきかずひこ) 関口可奈味 (せきぐちかなみ) 関島眞頼 (せきじままより) 関田修 (せきたおさむ) 関戸雄一 (せきどゆういち) 関根聡子 (せきねさとこ) 関根陽一 (せきねよういち) 関本美津子 (せきもとみつこ) 関谷能弘 (せきやよしひろ) 瀬口泉 (せぐちいずみ) 瀬崎利恵 (せざきとしえ) セトウケンジ (せとうけんじ) 瀬波里梨 (せなみさとなし) 妹尾亘 (せのお) 瀬谷新二 (せやしんじ) 瀬山武司 (せやまたけし) 千住明 (せんじゅあきら) 千羽由利子 (せんばゆりこ) そ 蒼山サグ (そうざんさぐ) 相馬洋 (そうまひろし) 相馬満 (そうまみつる) 十川誠志 (そがわせいじ) 袖崎友和 (そでさきともかず) 外崎春雄 (そとざきはるお) 外崎真 (そとざきまこと) 外村敬一 (そとむらけいいち) 園田英樹 (そのだひでき) 園部淳 (そのべあつし) 曽野由大 (そのよしひろ) 曽根孝治 (そねこうじ) 染谷和正 (そめやかずまさ) 反田誠二 (そりたせいじ) 孫祥喜 (そんしょうき) そ~とめこういちろう (そーとめこういちろう) アニメ スタッフさ行検索
https://w.atwiki.jp/kumedisiketai/pages/439.html
J けいれん
https://w.atwiki.jp/wcs1/pages/84.html
アンコールの達人 奈良優勝者 あまり目立たない存在だったがパプリカの生放送に現れマルティムと対戦、一躍有名人になった。 その際コメント欄に「奈良優勝は本物だった」「アンコールうめえwww」「アンコールが上手い事で有名なたけまる」など賞賛の書き込みが相次ぐ。 この件に関してスレッドで自演説が浮上したが真偽は不明。
https://w.atwiki.jp/yurupedia/pages/2763.html
みやとめさん 携帯画像 都道府県 宮城県 肩書き JAみやぎ登米マスコットキャラクター 公式サイト http //www.miyagitome.or.jp/miyatomesan/ 解説 環境保全米発祥の地・仙台牛の主産地「宮城県登米市」で育ったお米と牛の妖精。お米が大好きで身体が黄金色に輝き、いちご「もういっこ」が美味しくて髪とほっぺがいちご色になった。 攻略難易度 ★★やや易。登米市周辺のJAのイベントにて。 名刺の有無 ? 狙い目イベント イベント情報 http //www.miyagitome.or.jp/miyatomesan/schedule.php
https://w.atwiki.jp/kemotar/pages/865.html
Selma ヒューム♀、8a(赤茶髪)、バストゥーク商業区・職人通り近辺(イベント時) かつて「闇百合の魔女」として恐れられた伝説の魔女の一人。 関連イベント ハロウィンイベント「闇百合の魔女」交霊祭 代表セリフ集 「……この街路樹……「ファイア」で……燃やしたけれど……今は……元どおり……植わってる…… 」 「……まるで……私は……存在して……なかったよう…………私の……罪も……消えたかしら……?」 「……さぁ……そこのあなた…………もう……探偵ごっこは……終わりにして…………今は……1人に……なりたいの。」 関連事項(補足) 名前の発音は「ゼルマ」。 現在は既に故人であり、20年前のクリスタル大戦前後で行方不明となっている。 実際には悪魔と契約を交わし人ならざる者になってしまった。その原因とは強大すぎる魔力を持っていた為に人間社会で恐れられる存在だった為に絶望してしまったから。 元々バストゥーク出身で、その身が滅び魂のみの存在となった現在も未練を残し彷徨っていた。 この世に残した未練、それは憎んでいたはずの故郷が何故かとても懐かしく感じてしまう、時の流れがもたらした安らぎ……。 関連事項 Selma (詳細・ネタバレ編) Pretty Heart Pretty Heart(詳細・ネタバレ編) Brian 闇百合の魔女 公式:Dark Lilies -闇百合の魔女- <前編> 公式:Dark Lilies -闇百合の魔女- <後編> 公式:Dark Lilies -闇百合の魔女- <追憶編>