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店名 INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 本店 電話番号 0120-06-1600 店舗住所 東京都渋谷区神宮前3-3-11 ルフィチュール田端ビル1F 店舗までのアクセス 地下鉄表参道駅A2出口より徒歩7分 営業時間のご案内 10 00~20 00(カット最終受付19 00) 定休日 毎週火曜日 取り扱いクレジットカード VISA・MASTER・JCB・AMEX・DINERS・DC カット価格 6300円 スタイリスト数 11人 席数 11席 備考 ドライカット/デジタルパーマ/ドリンクサービスあり/カード支払いOK/完全予約制 ▼表参道・青山エリアのその他の美容院 Nalu pu loa ohana to-and-fro PLACE IN THE SUN Le MUSE AKs CREATEUR Uchino INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 表参道店 maniatis PARIS 表参道本店 suburbia persereno OASIS pas de deux 表参道ヒルズ店 HAIR HORIBE BRILLIANT gokan OMOTESANDO sophia KINGDOM アリュウル Ausdruck 青山店 L arte Of HAIR表参道店 HAYATO NEW YORK CHERISH Belleza COR Tributo RENJISHI AOYAMA Flair HAIR DESIGN INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE TERRACE KURASHIGE JURER Spin 青山店 SPICE 青山店 elf ATELIER FAGOT momo PLACE IN THE SUN ON ing HAIR DIMENSION 1 BEACH INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山ガーデン店 hair Loops MINX青山店 BarL aura by HAIR DIMENSION eizo animus Innocent kind MASHU 表参道 EartH is art INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山店 Angel gaff HAIR SALON nuance PLACE IN THE SUN WOOD allys etoile Luxe apish Rita PeLOTON COCO CHIC AZURA COLORS S. VITA AOYAMA da-is YOKe BLANCO ELEGANTE Gaff 青山ベルコモンズ店 hearty AOYAMA Sugar Lani hair ohana drop キュール RMX jam MINGLE スターカットクラブ Natural AOYAMA Chic 表参道店 arca
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店名 sophia 電話番号 03-5778-9720 店舗住所 東京都渋谷区神宮前6-7-8ネスト原宿VI-3B 店舗までのアクセス JR原宿駅徒歩7分/東京メトロ表参道駅徒歩5分・副都心線明治神宮前駅徒歩3分 営業時間のご案内 11:00~22:00(火曜定休日)メール予約(携帯、パソコンから24時間受付中)sophia@1cs.jpに空メールをお送り下さい。 定休日 火曜日 取り扱いクレジットカード VISA・MASTER カット価格 6825円 スタイリスト数 3人 席数 5席 備考 夜19時以降も受付OK/ドライカット/一人のスタイリストが仕上げまで担当/パーティーメイク・セット/最寄り駅から徒歩3分以内にある/ドリンクサービスあり/カード支払いOK/完全予約制 ▼表参道・青山エリアのその他の美容院 Nalu pu loa ohana to-and-fro PLACE IN THE SUN Le MUSE AKs CREATEUR Uchino INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 表参道店 maniatis PARIS 表参道本店 suburbia persereno OASIS pas de deux 表参道ヒルズ店 HAIR HORIBE BRILLIANT gokan OMOTESANDO Belleza KINGDOM アリュウル Ausdruck 青山店 L arte Of HAIR表参道店 HAYATO NEW YORK CHERISH INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 本店 COR Tributo RENJISHI AOYAMA Flair HAIR DESIGN INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE TERRACE KURASHIGE JURER Spin 青山店 SPICE 青山店 elf ATELIER FAGOT momo PLACE IN THE SUN ON ing HAIR DIMENSION 1 BEACH INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山ガーデン店 hair Loops MINX青山店 BarL aura by HAIR DIMENSION eizo animus Innocent kind MASHU 表参道 EartH is art INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山店 Angel gaff HAIR SALON nuance PLACE IN THE SUN WOOD allys etoile Luxe apish Rita PeLOTON COCO CHIC AZURA COLORS S. VITA AOYAMA da-is YOKe BLANCO ELEGANTE Gaff 青山ベルコモンズ店 hearty AOYAMA Sugar Lani hair ohana drop キュール RMX jam MINGLE スターカットクラブ Natural AOYAMA Chic 表参道店 arca
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宜しくお願いいたします!! 渋谷ビラ配りOFF 今日はノボリもプラカードもありません。 私はオレンジのウィンドブレーカーに眼鏡です。 目印にしてください。 -- (こけん) 2010-05-15 13 39 36
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【エーライツ】今井華 7年間英語特訓で渋谷と世界の架け橋に!【エーライツ噂】 今井華 7年間英語特訓で 渋谷と世界の架け橋に! 東京ランウェイを盛り上げた今井華(エーライツ所属) 元テラスハウスメンバーで、モデルでタレントの今井華(20・エーライツ所属)が14日、東京・東京体育館で開かれたファッションショー『東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER』のステージ終了後に囲み会見を開いた。 今井華(エーライツ所属) アジア諸国からモデルの集結、人気海外ブランドなどの出展、豪華アーティストらの共演などを見せるショー。今井は『KAWI JAMELE』『Samantha Thavasa』ステージに登場し沸かせた。 「神コレに続き、多くの人の前は久々なのでめちゃめちゃ楽しい!緊張?まったくしてないですよ」と、余裕を見せテンションも高い今井。ランウェイ中も「お客さん近くて、ああ見てる見てるって思って」と、楽しげ。 今井華(エーライツ所属) 現在ブランドを立ち上げ活動しているという今井は、秋冬の流行については「セットアップとかベレー帽とかかぶりものとかを入れたものとか。カラーでいったらネイビー、渋めなダークカラーを入れたもの」という。 2020年東京五輪にかけて7年後の話となり、目標があるという今井は「英語をしゃべれるようになって、ペラペラになって渋谷カルチャーと外国のカルチャーを融合というわけじゃないけど、幅を広げていって、渋谷を盛り上げられたらと。東京五輪が決まった瞬間にガチで決めました」と、力強く語ることに。 今井華(エーライツ所属) さらに、「7年後は結婚していたい。子供もそれまでには欲しいです!いい人がいれば!常に誰かにキュンキュンしていた方がモチベーションが上がるので、そうやって自分を上げてます」と、一気にまくしたてる今井。 タイプの男性については、「年上がいいですね。今まで大変そうなことしてて、器がでかくてドンと座っているような人がいい。下は23ぐらいから、上は35くらいまで。振り幅が大きい?毎日狙ってますから!反町隆史さんみたいにワイルドな人が好きです。スギちゃん?ワイルドですけどタイプではなかったですね」と、苦笑いを浮かべていた。 今井華(エーライツ所属) ||今井 華(いまいはな)プロフィール 生年月日:1992年11月12日(20歳) 出身地:埼玉県 身長:165cm 血液型:A型 趣味:買い物、キャップ・チョーカー集め 特技:料理、スノーボード 所属事務所:A-Light(エー・ライツ) 雑誌「JELLY」専属モデルとして活躍するかたわら、ファッションイベント出演やアパレル、コスメ等の広告モデルとして各媒体に露出するなど幅広く活動している。バラエティ番組にも活動の場を拡大中。 「東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER」に 出演した今井華 (エーライツ所属) ⇒今井華 7年間で英語特訓で渋谷と世界の架け橋に!スギちゃんは「タイプではなかった」 - 芸能ニュースラウンジ ⇒元テラスハウス今井華、「毎日恋してキュンキュンしてます」 - モデルプレス ⇒エーチーム/エーライツ/エープラス @ wiki - 【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 ⇒テラスハウスメンバー、渋谷109のイメージモデルに抜擢 - モデルプレス ⇒エーチーム オーディション@Wiki - 【エーチームグループ】エーライツ所属人気モデル、渋谷109のイメージモデルに抜擢【エーライツ ギャラ】 ⇒【エーライツ噂】「JELLY」「Ranzuki」「egg」人気モデルが華やかファッションショー<写真特集>【エーライツ 評判】 エーチームオーディションに関するQ&A♪ ⇒エーチーム/エーライツ/エープラス/オーディション 【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 ⇒【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 | エーチームオーディション・・・エーチーム/エーライツの評判・噂・2ちゃんねる - 楽天ブログ ⇒【エーライツ噂】人気モデルが華やかファッションショー - エーチームオーディション/エーライツ ⇒今井華プロフィール|A-Light Official Website ⇒エーチームグループオーディション|所属タレント|今井華 ⇒エーライツとは - はてなキーワード ⇒A-Lightとは - はてなキーワード ⇒今井華とは - はてなキーワード 「東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER」に 出演した今井華 (エーライツ所属) エーライツ エーライツ ギャラ エーライツ 今井華 エーライツ 仕事 エーライツ噂 テラスハウス バイブス 今井華
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【エーライツ】今井華 7年間英語特訓で渋谷と世界の架け橋に!【エーライツ噂】 今井華 7年間英語特訓で 渋谷と世界の架け橋に! 東京ランウェイを盛り上げた今井華(エーライツ所属) 元テラスハウスメンバーで、モデルでタレントの今井華(20・エーライツ所属)が14日、東京・東京体育館で開かれたファッションショー『東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER』のステージ終了後に囲み会見を開いた。 今井華(エーライツ所属) アジア諸国からモデルの集結、人気海外ブランドなどの出展、豪華アーティストらの共演などを見せるショー。今井は『KAWI JAMELE』『Samantha Thavasa』ステージに登場し沸かせた。 「神コレに続き、多くの人の前は久々なのでめちゃめちゃ楽しい!緊張?まったくしてないですよ」と、余裕を見せテンションも高い今井。ランウェイ中も「お客さん近くて、ああ見てる見てるって思って」と、楽しげ。 今井華(エーライツ所属) 現在ブランドを立ち上げ活動しているという今井は、秋冬の流行については「セットアップとかベレー帽とかかぶりものとかを入れたものとか。カラーでいったらネイビー、渋めなダークカラーを入れたもの」という。 2020年東京五輪にかけて7年後の話となり、目標があるという今井は「英語をしゃべれるようになって、ペラペラになって渋谷カルチャーと外国のカルチャーを融合というわけじゃないけど、幅を広げていって、渋谷を盛り上げられたらと。東京五輪が決まった瞬間にガチで決めました」と、力強く語ることに。 今井華(エーライツ所属) さらに、「7年後は結婚していたい。子供もそれまでには欲しいです!いい人がいれば!常に誰かにキュンキュンしていた方がモチベーションが上がるので、そうやって自分を上げてます」と、一気にまくしたてる今井。 タイプの男性については、「年上がいいですね。今まで大変そうなことしてて、器がでかくてドンと座っているような人がいい。下は23ぐらいから、上は35くらいまで。振り幅が大きい?毎日狙ってますから!反町隆史さんみたいにワイルドな人が好きです。スギちゃん?ワイルドですけどタイプではなかったですね」と、苦笑いを浮かべていた。 今井華(エーライツ所属) ||今井 華(いまいはな)プロフィール 生年月日:1992年11月12日(20歳) 出身地:埼玉県 身長:165cm 血液型:A型 趣味:買い物、キャップ・チョーカー集め 特技:料理、スノーボード 所属事務所: A-Light(エー・ライツ) 雑誌「JELLY」専属モデルとして活躍するかたわら、ファッションイベント出演やアパレル、コスメ等の広告モデルとして各媒体に露出するなど幅広く活動している。バラエティ番組にも活動の場を拡大中。 「東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER」に 出演した今井華 (エーライツ所属) ⇒ 今井華 7年間で英語特訓で渋谷と世界の架け橋に!スギちゃんは「タイプではなかった」 - 芸能ニュースラウンジ ⇒ 元テラスハウス今井華、「毎日恋してキュンキュンしてます」 - モデルプレス ⇒ エーチーム/エーライツ/エープラス @ wiki - 【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 ⇒ テラスハウスメンバー、渋谷109のイメージモデルに抜擢 - モデルプレス ⇒ エーチーム オーディション@Wiki - 【エーチームグループ】エーライツ所属人気モデル、渋谷109のイメージモデルに抜擢【エーライツ ギャラ】 ⇒ 【エーライツ噂】「JELLY」「Ranzuki」「egg」人気モデルが華やかファッションショー<写真特集>【エーライツ 評判】 エーチームオーディションに関するQ&A♪ ⇒ エーチーム/エーライツ/エープラス/オーディション 【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 ⇒ 【エーライツ 評判】今井華、テラスハウス卒業 心境を語る【エーライツ 仕事】 | エーチームオーディション・・・エーチーム/エーライツの評判・噂・2ちゃんねる - 楽天ブログ ⇒ 【エーライツ噂】人気モデルが華やかファッションショー - エーチームオーディション/エーライツ ⇒ 今井華プロフィール|A-Light Official Website ⇒ エーチームグループオーディション|所属タレント|今井華 ⇒ エーライツとは - はてなキーワード ⇒ A-Lightとは - はてなキーワード ⇒ 今井華とは - はてなキーワード 「東京ランウェイ2013 AUTUMN/WINTER」に 出演した今井華 (エーライツ所属) エーライツ エーライツ ギャラ エーライツ 今井華 エーライツ 仕事 エーライツ噂 テラスハウス バイブス 今井華
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東郷神社(S)
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虐殺性鬼ガール タイトル:虐殺性鬼ガール 作者:熊谷 春樹 掲載号:2013年ハロウィン号・2013年冬号 1 蟻木葉色。私だ。 友達は少ないタイプだ。 理由は明確。私の目は死んだように濁っている。初対面の人にはとにかく引かれる傾向にあるし、私自身それをコンプレックスに思っているため高校生となった今も自分から他人に話し掛けるのが苦手だ。 そんなわけでクラスではちょっとだけ浮いている。 「あー」 喧騒に包まれた昼休みの教室。弁当を食べながら誰にも聞こえないように声を漏らす。 本当なら何かの創作物の登場人物よろしく校舎の屋上で一人になっていたいところだが、生憎この学校は平常屋上への扉が封鎖されている。 私は弁当を食べ終わり、箸を置く。私の弁当箱は小さい。男子が持ってるやつの半分くらい。食の細い人間なのだ。 さて、今日の三十分。一体どのように過ごしたものか。 私は席を立ち、なんとなく歩きだす。 図書館にでも行こうか。 そんなことを思いつつ、階段を上る。なぜ私は階段を上っているのだろう。図書館に行くなら下るべきなのに。 念のために言っておくが、これは誰かに操られていたとか実は階上に向かわねばならなかったとか、その手の伏線では一切ない。毎日時間を潰すために過ごしている人間にとって、思考と行動が伴わないのはよくある現象なのだ。 私は一つ上の階に到着するも、その光景に違和感を覚える。 階段の先に看板がない。 このとき言う看板とは、「ここから先立入禁止」と表記された生徒の注意を喚起するためのそれである。 しかしそれがない。奥にある屋上へ続く扉の前に立ちふさがってないのだ。 私は多少の迷いの後、一線を踏み越えた。 鉄製の重厚な扉。ドアノブに手をかけるとあっさりと半回転する。普段ならこれにも鍵がかかっているはずなのにも関わらず。 扉を開けると陽光が差し込み、廊下を照らす。 私は隙間に滑り込むようにして屋上へと出る。背後で扉が自重により閉まった。 空を見上げると、なんだか近くにあると感じた。錯覚だが。 同時に人の存在を認識する。 普段立入禁止の屋上に、人。それもここの生徒ではない。まして教職員でもない。着ている制服から判ずるに他校の女子生徒のようだ。それが二人仲良く並んで体育座りしている。 一人は極端に背が低い。座っていて尚わかる小ささだ。こちらに視線をやっているその顔は、なんだか笑っていた。にやにや、というよりはにこにこ、という擬態語が当てはまる。そんな屈託のない笑み。スカートを膝に畳み込んでちょこんとコンパクトに座っている姿は妙に愛らしい。 もう一人の身長は中背よりちょっと高いくらい。しかし肉付きが薄く、全体的にシャープなシルエットである。プリーツスカートの端が何やら裂かれており、スリットからちらりと太ももが覗いている。手には独特なフォルムのボトル入り乳酸菌飲料、端的に言ってヤクルトを持っていた。 「来ると思ってたよ。なんとなくだけどね」 小さい方が言葉をかけてくる。他校の生徒が校内にいる、という状況に戸惑っていた私は不覚にもびくっとしてしまった。 来ると思っていた? つまりこの二人は私を待っていたということだろうか。 小さい方が立ち上がり、こっちに歩みを進めてくる。そしてあと一歩近付けば確実に百合カップル誕生というところでぴたりと立ち止まった。 「そこ。肩にゴミついてるよ。とったげる」 などと言い、硬直する私をよそに彼女の指が肩に触れた。 「はい」 相変わらずにこにこと笑ったまま、指先につまんだ糸くずを見せてくる。 「あ、」 私は反射的に言った。 「ありがとうございます」 そして彼女はその距離を保ちつつ、含みがありそうな笑みとともに告げる。 「でね、今日は折り入って頼みたいことがあるんだ」 そこで数秒間を開けてから、ヤクルト飲んでる子を指差して言った。 「彼女と戦ってくれないかな」 2 突然だが私蟻木葉色は魔法使いである。総務省統計局の調査によると、西暦二千年に魔法という概念が確認されて以来、二千十年となった現在は日本にはおよそ一千人の魔法使いが存在しているとのこと。私はその中の一人だ。 魔法の出自は不明。先天的に備わっているものなのか、後天的に突如芽生えるものなのか、科学的分析が全くきかないためにわかっていない。 わかっているのは、魔法を発症するのは二十歳未満の女性だけだということ。そして発症すると、人それぞれの固有の能力が目覚めるということ。 日本政府は、魔法を使うことができる人々を差し「魔法少女」という名称を付けた。 さて、なぜ私がこのように突然ともいえる背景説明を挿入したかといえば、現在私と互いに向かい合って立っているヤクルト娘、彼女もまた魔法少女であるらしいからだ。 小さい方の女の子曰く、 「私とジューカは、君と戦うためにここに来たんだよ」 だそうで。 ジューカ、という響きが初耳すぎて一瞬なんのことやらわからなかったが、どうやらこのヤクルト娘の名前らしかった。 「俺は楠重香だ」 ハスキーな声で自己紹介。 しかし一人称俺の女の子。天然記念物級ではなかろうか。 「んじゃ、行くぜ」 彼女はそう言うや否や、前傾姿勢をとり地面を蹴った。 場所は屋上、すなわちコンクリートの床。その上を俊敏に駆け抜ける姿はさながら稲妻の如く。私と彼女との間にあった距離、数字にして十五メートル程の空間は瞬く間に消え、彼女は私のすぐ眼前に迫っていた。 咄嗟に数歩後ずさるがその程度では焼け石に水、走ってきた勢いをのせたパンチの射程圏内だった。 「っつ――」 頬に固めた拳の感覚が走る。じわりと口内に鉄の味が広がり、よろめいたあまり膝が折れ地面に右手をついた。 「あんたもよ……損な役回りだよな、ったく」 彼女は体勢を崩した私に追撃を浴びせる様子もなく、そんな風に言葉を投げ掛けてきた。 ゆらりと立ち上がりつつ、その台詞の意味を考えてみる。 損、とはどういうことだろうか。魔法が使えるとはいえただの女子高生、そんな私が何やら戦闘に慣れた様子の彼女と戦う羽目になったことかもしれない。しかし、気になるのは「あんたも」という箇所だ。も、ということはつまり楠の言うところの「損な役回り」たる人間が他にもいるというわけで、語調から察するにそれは楠重香その人だと推測できる。 すなわち彼女にとっては戦うことにデメリットがある立場。それでいて小さい方の子(そういえば名前を聞いていない)の「戦ってほしい」という言。 明らかなる意見の食い違い。その食い違いを飲み込んだのは楠の方であるという現実。それが示す意味とは。 「つぅか、あんたはこれが初めての戦闘なんだろ? そんな奴に向かって今の俺の攻撃は少し大人気なかったかもしれねー」 彼女は両手を広げてみせた。 「そもそもあんた、人を本気で殴ったことがあるのか?」 ない。 「サービスだ。俺を一撃殴れ」 その発言に、私は少なからざる戦慄にも似た感情を抱かずにはいられなかった。 「別にフェアプレーとかそんなんじゃねぇけどよ。遊びじゃねえんだ、これは」 戦い。 遊びでない、戦い。 私は何のために戦っているのだっけか。 「俺はあんたを殺す気でいく。あんたも俺を殺す覚悟を持て。その景気付けの一発だと思えよ。全力で殴ればいい」 そんなもんか、と思いつつ私は一歩踏み出した。 腰を落として、重心を段々と前に運ぶ。そして私はそのまま全体重を拳にのせて、振りぬいた。 楠は躱す様子も見せず、腕組みをした姿勢のまま。私のパンチが迫るのにも瞬き一つせず、受け切った。 べきゃっという効果音が鳴るが、彼女は私の全身全霊をもって放ったパンチを受けてなお全くよろめかず、攻撃する前と全く同じ姿勢でじろりと視線を向けてきた。 「気合いがこもってやがる。俺の身の心配なんてもんが一切含まれてねぇ、いいパンチだ。だが」 未だ彼女の頬に突き刺さったままだった私の拳をやんわりとした手つきで外し、言った。 「鉄を砕くにはまだ柔い」 その言葉で、やっと先程のべきゃっという効果音。それが他ならぬ私自身の拳から発生したものだと気付く。 3 「俺の魔法の名前は『鉄頭鉄尾(ヘヴィメタル)』。髪一本から爪の先、内臓器官に至るまで……全身を鉄と同レベルまで硬質化する魔法だ」 自分の右手に目をやると、薬指が変な方向に曲がっていた。出血も少なからずあり、生理的な嫌悪感を覚える。 「殴っていいとは言ったがダメージを食らってやるとは言ってねぇ――嘘はついてねぇが、卑怯と言われても仕方ないわな」 などと語るものの、私自身彼女の「作戦」を卑怯と詰るのはお門違いだと思う。殴っていいと言われ何も考えず何も疑わずに行動してしまった。それこそ命懸けである戦闘という行事において最も避けるべき行為だった。 「しかし、あんたも随分とクールだな。悲鳴一つあげねぇ」 それは――私の持つ魔法の内容にも関与する話だ。 「とにかく、あんたの利き手はこれで封じた。覚悟してもらうぜ。遠慮なく戦う覚悟なんかじゃねぇ。死ぬ覚悟をな――っと」 楠が言い終わるよりも先に私の体は動いていた。といっても進行方向は彼女がいる方向と真逆。攻撃ではなく、一時的な逃走のための挙動である。 ここ、すなわちだだっ広い学校の屋上に、身を隠すことのできる遮蔽物が一つだけ存在する。 ――雨水タンク。 緊急時に必要な量の水を貯めている立方体のタンクだ。 私はその裏に回り込む。タンクは屋上の端ぎりぎりに設置されていたため、フェンスとの隙間という狭い空間に身を押し込むことになったが。 「おい、待ちやがれ」 一分と経たないうちにそんな声が聞こえてきた。私はタンクの端から顔を出し様子をうかがう。すると顔を出したところで楠とばっちり目が合ってしまった。 「あ、」 私は慌てて雨水タンクに取り付けられた梯子を登る。 タンクの上面に立つ。そこで辺りを見渡すと、開閉式のハッチのようなものが目についた。閂となる金属の棒を差し込むことで鍵をかけるタイプのそれだ。 私は怪我していない左手で、金属の棒を抜き取る。素手の攻撃では十全にダメージが通らない。ならば武器を使えばいいという考えだ。 「それは甘ぇ。ヤクルトよりも甘々な考えだぜ」 私に続いて梯子を登って来たのだろう、楠がよくわからない例えで私の考えを否定した。 「外側だけじゃねぇ。内側までも硬くなる……そういう魔法なんだよ。でかい衝撃を与えても仕方が――」 がぃぃぃん、と。 私が金属棒で彼女の頭を殴り付けた音だった。 「――ない。そんな柔らかい金属じゃ、鉄殴ってもへこんだりしねぇだろ」 金属棒は、曲がっていた。真ん中辺りから三十度ほど折れ曲がっている。 私は使い物にならないその棒を軽く転がして捨て置き、考える。彼女は、彼女自身の魔法を「硬くなる」ものであると表現したが、あらゆる衝撃に耐性があるというならむしろ「固定する」魔法と言うべきだろう。 自分自身を固定している間は、ほとんど無敵状態。それこそ、こんな屋上から突き落としても傷一つつかないということなのだろう。 ならば、破る手段はない? 「おいおい、ボケっとしてる場合かよ」 彼女は再び詰め寄り、左手の拳を振りかぶる。 私は無傷の方の手で、彼女の手首をつかむことで回避を試みるが、あちらが使える腕は二本。 彼女は自由な右手で私の顎あたりを殴る。上体を反らすことによりダメージの軽減を図ったが、私が彼女の手首をつかんで離せないのが逆効果、大した意味はななかった。 「ぐっ……」 慌てて彼女の腹を蹴って距離を取る。履いていたのは学校指定の上履きだったので、跡がついたかもしれないことを思えば申し訳ないが、そうも言ってられないだろう。 唇の端が痣になっているようだ。舌を這わせると、じわりとした触感を覚えた。 と同時に。 著しい違和感。 さっきは焦って反射的に彼女を蹴ったわけだが――それで距離をとることができた。 彼女の魔法が発動しているとき、すなわち右手に怪我を負った際と金属棒が曲がった際だ。彼女は衝撃に対する耐性を持っていた。後ずさりするどころか瞬き一つしなかったというのに。 思い返せば、私を攻撃するときにも違和感はある。本気で私にダメージを与えるつもりならば。 硬質化した状態で殴るべきなのに。 鉄の硬さになるというなら、そのまま鉄塊で殴るのと同義なのだ。常に魔法を発動させておくべきである。 それをしない理由。 否。 できない理由が――ある。 「よそ見してんじゃねぇぞ、どらぁっ!」 私の方へ駆け寄ると同時に右足を弧を描くように振り上げる。その軌道の途中で彼女の爪先がタンクのハッチに引っ掛かり、勢い良く跳ね上がってハッチが開く。そこからはタンクの中にたまった雨水の水面が覗いていた。 「っ! 捕まえたぜ!」 ぎゅむ、と布地が軋んだ音と共に、私は楠に右足を踏まれたことに気付く。 そしてこの瞬間に。 私の作戦が完成した。 それは半分くらいは偶然の賜物と言えるだろうが……奇しくもそれは、彼女の言った通り。 戦いに卑怯も何もない――のである。 私は彼女が拳を振り上げたのを見て、 「はぁあっ!」 と派手に声を出しながら大きなモーションで殴ろうとする仕草を見せる。 「馬鹿がっ! んなもん効かねぇって言っただろ!」 構わず殴る。彼女の魔法により硬化した肌に触れ、左手から腕、そして全身に小刻みな振動が伝播する。彼女はその場から一歩と動くことなく、完全に私の攻撃は防がれてしまったようだ。 そしてそれでいい。 今のは単なるフェイクである。 こちらが彼女の魔法の絡繰りに気付いていないとアピールするための、伏線としてのパンチである。 「っ!」 彼女が私の左手首をつかむ。それは、まさに先程の焼直し。つかむ側とつかまれる側が逆になってはいるが――もしつかまれることがなかったら、私の方からつかむつもりだった。 「これであんたは攻撃する術を失った。だろ?」 と思わせるのが狙いだ。 怪我をしている右手。 つかまれている左手。 踏まれている右足。 右足が踏まれていることにより軸足を失った左足。 しかしそれは――彼女の方にしたって同じようなものである。 私を攻撃する手段は、左手しか残っていない。 「死ね」 彼女の左腕が動く。 まだだ――まだ。 チャンスを逃せば、恐らく次はない。 彼女の固めた拳が勢いに乗った頃を見計らい、私は――攻撃に移る。 彼女は私の攻撃手段を封じたつもりだろうが――甘い。彼女の言葉を借りれば、ヤクルトよりも甘々だ。私の四肢のうち、一つだけ自由に動かせるものがある。 怪我をしていることと。 相手を殴れないことは。 決して等号では結ばれない。 私は、硬化した彼女を殴り付けたことにより手としての機能を完膚なきまでに破壊された、その右手で。 再び全身全霊を懸けて。 伸びてくる腕と交錯するように。 パンチを放った。 人間がなぜ動けるかという話をしよう。 脳が電気信号を送り全身の筋肉が駆動するから、とかではなくもっと根本的で、表層的なことである。 単純に言って、皮膚が伸縮性を有しているためだ。 それを考えれば、楠重香の魔法というもの――殴られたところでダメージはおろか衝撃すら通さない、拳が当たったところの皮膚が沈まないというものは。 道理に沿って考えたならば。 発動している間、動けるはずがないのだ。 逆に言えば。 動いている間は発動できない。 かくして。 私の捨て身の、否、捨て右手のパンチは彼女の頬を捉えた。 インパクトより少し前、若干先行する形で私も殴られたため、威力はいささか落ちただろうが。 楠のパンチは私を弱らせるためのもの。 私のパンチは勝負を決めるためのものだ。 その程度、ハンデにはならない。 彼女は殴られた勢いのままに二、三歩後退する。後退した先にあるのは。 ぽっかりと開いたタンクのハッチである。 彼女は足をとられ、雨水の中へ落ちる。しかし流石の運動能力、そして経験。すんでのところで伸ばした指先がへりにかかり、完全に沈むことは防いだ。 私はゆっくりと穴に歩み寄り、落ちかけの楠を見下ろす。 「ふざけるなっ!」 彼女は叫んだ。冷静さを失っているようだ。 「骨の砕けた手でもう一度人を殴るなんて、まともな人間のすることじゃねぇ!」 私は勝者のプライドに則り、その言葉を受け入れよう。私はまともでない人間、魔法少女だ。紛うことはない。 「あがっ!」 へりにかけていた指の、中指から薬指のあたりを狙って踏み付けにする。そして、ぐりっと踵を捻った。 あっさりと彼女の手は外れ、再度少量の水飛沫を立てて沈む。 私は上がったままのハッチを蹴って閉め、先程彼女を殴ったことにより変形した金属棒を無理矢理気味にねじこむ。これで内部からハッチを破るのはおよそ不可能だろう。 勝利宣言。 私の名前は蟻木葉色。 痛覚の存在しない女子高生である。 4 パチパチとまばらな拍手。 存在を忘却しかけていたが、名称不明の小さい方である。 「すごかったね。いや、重香にもいい経験になったと思うよ。たぶん次はないんだろうけど」 私は登ってきたのと同じ梯子で雨水タンクの上から降り、屋上の真ん中に移動した。 「重香は自分の魔法を『硬くなる』と説明してたけど、本当は『固まる』と言った方が正しいんだよね。まぁあえて語弊のある言い方を選んだんだろうけど」 二人して屋上のふちのフェンスにもたれる。私は疲労のあまり座りこんでいたが。 「重香は『固まって』いる間、あらゆるダメージを受け付けない。外部からどんな影響があっても変質しないんだ。理論上は老けることすらない」 老けることがなくても、発動すると動けないなら大して意味はなさそうだ。少なくとも彼女は永遠の命を欲するような人間には見えなかったが。 「そんな奴に対し、『水の中に沈める』なんてのは完璧すぎる殺し技だよ。『固定』すれば死ぬことはないだろうけど、自由を失うわけだからね」 などと、冷静に懇切丁寧な解説をしているところ申し訳ないが。 楠を助けなくていいのだろうか。外部からなら雨水タンクは開けられるのに。そんな私の視線を読み取ったのか、彼女はゆるりと首を振って言う。 「いや、重香はもういいんだ。ただの人柱というか、かませ犬というか。どの道、 不適格――だからね。 もともとそんなに期待してたってわけじゃない。敗者復活戦はいらないよ」 かませ犬。 不適格。 敗者復活戦。 死者への冒涜としては最上級の単語を並べ立てた。死者、といっても殺したのはまさに私自身であるゆえ、批判も糾弾もお門違いであること甚だしいが。 「葉色ちゃんの魔法……痛覚を消す、というものだけど。それ自体の素晴らしさもさることながら、人を殺すにあたって躊躇一つしない葉色ちゃんのメンタルも……なかなかどうして、えげつないものがあるよね」 どうやら彼女は思い違いをしているようだ。 厳密に言えば、私の魔法は痛覚を消すことではない。 「えっ、そうなの?」 などと。 心を読んだとしか思えないタイミングで驚きをあらわにした。 となると彼女の固有の魔法というのは、恐らくマインドリーディングやそれに類するものなのだろう。 「とも限らないんだけどね。で、一体どんな魔法なの?」 限らない、ってどういうことだろう。物凄く応用の幅が広いということなのだろうか。 「なるほど、そういうことか」 あう。 強いて全く関係ないことを考えようとしたが、尋ねられたことが耳に入れば無意識に答えを用意しようとしてしまう。 どうやら彼女はかなり精密に心理を読むことができるようだ。 「葉色ちゃんのは、魔法というより体質に近いんだね。痛覚を消せる、というか消えっぱなしか」 その通りである。 私は生命の危機を知らせる指標、シグナルとなる痛みというものを人生において味わったことがただの一度もない。 「そうなると、異常ってほどでもないのかな……いや、こっちの話だけどね」 何やら伏線チックな台詞だが。 彼女は、座っている私の真正面にしゃがみこんで言う。 「あ、そうだ。葉色ちゃん、右手怪我してるんだっけ。治してあげるよ、手貸してみ」 軽い調子で言った後、私が差し出した右手をぎゅっと握る。すると皮膚の内側がほんのりと熱を帯び、骨が溶けるかのような感覚と共に右手が自在に動くようになった。 しかし、彼女の持つ魔法とは一体どのようなものなのだろう。人の心を読むことができて、かつ怪我を治せる。 そんな疑問を感じている私をよそに、彼女はしゃがんでいた状態から立ち上がった。 「ま、帰ったらニュースでもチェックしなよ。我慢のきかない誰かが何かをしてるかもしれない」 そう言い残し、じゃあね、と彼女は扉の方へ向かう。帰るつもりだろうか。 「待って」 私のその言葉でぴたりと動作が止まって、一時停止の体勢のまま、ぎぎぎと軋む音が聞こえそうなほどぎこちない動きでこちらを向く。 「びっくりした。ずっと喋らないのに急に喋り出すから」 そういうことかよ。 「何? 質問? 重香を殺したご褒美に、一つ何でも答えるけど」 一つだけか。意外な心の狭さに驚きつつ、私は頭に浮かぶ数々の疑問の中からたった一つだけを選んだ。 「あなたは――誰」 「んん」 彼女は困ったような、それでいて嬉しくもあるというような複雑な表情を浮かべ、しばらくの間を開けた後、答えた。 「私は古川あけび。今年で千二百八十歳になる」 その日の夜。 テレビをつけると、どのチャンネルでもとあるニュースが報道されていた。 本日十三時十二分、琵琶湖が干上がりました。 5 あれから三日。 その間にも鋸山が抉れたり、瀬戸大橋が陥落したりといったある種天変地異的な事件が幾度となく発生していた。しかしそれらのニュースはどこか遠い異国の話のように空々しく響き、消える。今日も今日とて学校に登校し、やはり特に変わった様子もなく談笑しているクラスメイトを眺めるだけだった。 「じゃ、日直、号令」 「きりーつ、礼っ」 ありがとうございましたー、とお決まりの流れで解散。 今をときめく根暗系女子、一年生のときに颯爽と帰宅部への入部届を提出した(勿論言葉の綾である)私は、放課後だろうと特に嬉しいことなどない。さも当然といった顔でカバンを掴んで帰路につく。 「やぁ。久しぶりって程じゃないけど」 校門を微妙に出かけたところで、声をかけてきたのは古川あけびだった。 私はさほど驚かない。この間別れたときの口振りからして、どうせ近いうちに会うことになるだろうと予測していた。 「今日はこれ、あげに来たんだ」 などと宣い、渡してきたのは一枚のぺらっとした長細い紙。 印字された文字列を読み取る限り、ただのライブチケットである。日付は今日、十八時ちょうどから。 「行ってくるといい。蓮見黒栖、知ってるよね」 その名前なら、今の日本で知らない人はいないと言っていいだろう。 元々はアイドルグループの一員だったが独立。抜群の歌唱力とルックス、オープンな姐御キャラで人気を博している女性歌手である。 「彼女のシークレットライブのチケットだ。この間出したシングルのCDを買うと百人だけ当たるってやつ」 それならテレビで聞いたことがある気がする。 「じゃ、とにかくこれは渡したから。楽しんできてね、ばいばいきーん」 一体どんなテンションなのか、ふわふわとした足取りで去っていった。 私は手元のチケットを見つめる。 古川は、これをどのように入手したのだろう。CDを買っても確率はかなり低い。ネットオークションなどで誰かが出品していただろうが、今人気絶頂の歌手、しかもシークレットライブのチケットである。かなり高額だろう。 行くべきだろうか。 私自身さしてミーハーなタイプではないが、蓮見黒栖に全く興味がないといえば嘘になる。 しかし前回軽々に彼女の掌の上で踊ってしまったばかりに、危うく楠重香に殺されかけた。 まぁ、いいか。 悩むのも面倒だし、何より私が握っているのは超貴重なチケット。これをみすみす捨ててしまうのはもったいない。 場所は都内のとあるライブハウス。 移動が多少手間ではあるが、それくらい構わない。 どうせ暇だし。 蓮見黒栖のライブは、簡潔にまとめるとすごかった。 音が空気の振動であるという事実の実感を、初めて得た気がする。彼女の喉から発せられる高音、中音、低音が。鼓膜を伝って脳内を駆け巡り、自らも歌いだしたくなるような、いっそ暴力的ともいえる衝動にかられた。 ライブ特有のファンサービスも盛り上がった。持ち歌であるバラードをシャウトをしながらロック調に歌ってみせたり、随所にアドリブを入れたりといったパフォーマンス。曲の合間に挟まるトークも、たびたび会場をわかせていた。 ライブは二時間で終わる予定だったが、度重なるアンコールにより大幅に上回り、時刻は九時に程近い。 他の来場客が三々五々散っていく中、私はライブハウスで一人突っ立って、しばらくステージの方をぼーっと眺めていた。 残っている人もまばらになり、私は足元に置いた通学バッグを持ち上げ、未練がましいような遅い足取りで出ていく。出口の直前、ライブハウスのスタッフの一人と思しき男が、黙って私に一枚のメモを手渡してきた。 その小さな正方形に記されていたのは、今夜十時に再びこのライブハウスに来いという伝言。そして「蓮見黒栖」という署名だった。 「来るとは思わなかったぜ」 午後十時、ライブハウスに二度目の訪問をした私を迎えたのはそんな言葉だった。 つい一時間程前までステージで叫び踊っていた、蓮見黒栖本人である。ステージの段差に腰掛け、こちらに視線をやっていた。 服装はライブの際の衣裳とは異なり、デニムにだぼっとしたパーカーという姿だった。しかしそれでも彼女特有の華のある雰囲気が損なわれることなく伝わってくるのは流石だった。 「今日本がどんな状況か、知らねぇってことはないんだろう? 魔法少女、蟻木葉色さんよ」 どうして、その名を。 「『どうして、その名を』っつう顔してんな」 おうふ。 「決まってんだろ? 古川あけびに聞いたんだよ」 その事実は、少なからず私を驚かせた。私をこのライブに向かわせたのも彼女だし、裏でこの邂逅を手引きしていたということなのだろうか。 「そんでもって、あたしも魔法少女だ。魔法少女同士がこうして向かい合ってる。これが何を意味するか、わかるよな」 正直全くわかりません。 「その通りだ」 マジですか。 「どろっと濁った良い目だな、お前。あたしも結構楽しめそうじゃねぇの」 私の目を「良い」と表現する人間は恐らく彼女が最初で最後だろう。私自身鏡を見る度に、視力が宿っているのが不思議に思えてならない程なのだから。 「んじゃま、戦闘開始だっ!」 突然叫ぶや否や蓮見黒栖はステージから降り、その際に腕で勢いをつけたのだろう、右足を振り上げた姿勢で私に襲い掛かってきた。 咄嗟のことに反応が追い付かず、彼女のパンプスが私の右胸の上辺りに炸裂する。そういえば靴はライブ中に履いていたものと同じだ、ひょっとしたら私物だろうか。そんなどうでもいいことを思考する程度に余裕はあったが、私の魔法は痛みを感じないというだけで、ダメージを回復することも衝撃を緩和することもできない。足を前後にずらして踏ん張ろうとするも、あえなく尻をついてしまう。 彼女は、倒れた私を思い切り力を込めて踏む。足を持ち上げ、もう一度踏む。頭を狙いの中心として何度も何度も踏もうとする。 私は腕で頭を防御する。致命傷を受けない限り私は戦い続けることができるが、意識が落ちてしまっては元も子もないからだ。 隙を見て、地面につけっぱなしになっている左足を掴む。そして引っ張る。彼女は倒れることはなかったが、そうなると作用反作用、自然の摂理。私の体が持ち上がる。 そのまま足で床を蹴るように勢いをつけて、下から上へ。蓮見黒栖の顔面に向けて、頭突きした。 「あがっ!」 呻き、一瞬全身の力が弛緩する。私はその間に慌てて彼女と距離をとった。 「っ……お前、あたしの顔を狙うなんてファンが黙ってねーぞ」 そっちこそ私の顔をガンガン踏み付けておいてよく言う。まぁ、趣味の悪い冗談の類なのだろうが。 見ると、腕の数ヶ所が擦り剥けている。この調子だと頭のどこかから出血でもしていておかしくなさそうだ。 「古川あけびとは知り合い?」 ちょっとした時間稼ぎのために聞いてみた。 「知り合いも何も、魔法少女の中で古川あけびのことを知らん奴とかおらんだろ。何せ『戦争』の引き金を引いたんだぜ?」 戦争? 初めて聞くワードだ。もちろんこの場合の「初めて」は魔法少女との関連性とかそういう話をしているわけで、私が常識のない人間だとかそういう話ではない。 「こうしてお前と殺し合ってんのも、戦争の一環だろうが」 つまり、どういうことだ? 古川あけびがその「戦争」とやらを起こしたとして、私を含めた全国の魔法少女を巻き込もうとしている? 否、蓮見黒栖、彼女の言い方では、私が戦争の勃発を知る以前からその事実を把握しており、なおかつ魔法少女ならば当然知っていて然るべき、というニュアンスだった。 彼女の発言を整理すると、全国規模で魔法少女達が戦いを繰り広げているということは間違いなさそうだ。 「お前の魔法がどんなもんかも聞いてるぜ」 それはあまり好ましい事態とは言えない。 私が楠重香を殺し仰せたのは、彼女の警戒と油断がうまく機能してくれたおかげである。「こいつの魔法って一体なんなんだ?」という警戒が、彼女に牽制や様子見といった決定力に欠ける行動を促した。そして「でもまぁこんな有利だしいっかぁ」という油断。それら二つのタイミングがうまい具合に合致していたというのが大きい。 それは私の魔法「痛覚を消す」というものが初見の相手にとっては極めて看破しづらく、それでいながら水面下にてしっかりと効力を発揮できるから為し得た現象である。 最初から魔法の内容を把握されていたなら、そのプロセスは崩れてしまう。 「お前の魔法、それは確か『全身を鉄レベルにまで硬くする』ってもんなんだろ?」 「…………」 言葉を失った。 少々違うってか全然違う。 ヤクルトばりに甘いリサーチである。 「だがあたしが思うに、それは敢えてずれた表現をしてるな? 実は発動すればその場から動けなくなってしまうんだろ!」 それは三日前に済んだくだりだ! これ以上ほっとくとどんな痛々しい台詞を吐くかわかったものじゃないので、私はアクションを起こす。 「あ、待てコラッ」 楠との戦闘と同じように、私は彼女の脇を抜け、彼女がもといた方向、すなわちステージの方へ駆け出した。腰の高さ程の段差になっているステージ。そこに手をつき、走っている加速度が死なないように下半身をひらりと持ち上げる。イメージはパルクールとかその感じ。 ステージ上に立つと、目についたマイクスタンドを掴む。そしてぐるりと身体ごと翻るように回転し、マイクスタンドを振るう。もし後ろにすぐ蓮見黒栖が追ってきていたら、ヒットが狙えるだろうという読みだ。 その読みは功を奏し、マイクスタンドの足が彼女の顔面に迫る。 「うお――」 彼女もその攻撃に気付くが既に遅い。彼女が私を追うスピードと、私がスタンドを振るスピード。その二つのエネルギーが合致したとき、人間の機動力では躱せるはずがない。 そしてマイクスタンドの足というのは、金属の棒が三つ又に分岐することによって本体を支えている。すなわちその部分はある程度尖りを有しているのであり、当たり所次第では彼女を一撃のもとに殺すことができる。 スタンドと彼女の顔面の距離が。縮まり。先が触れ。 蓮見黒栖は死んだ。 より正鵠を期すならば、マイクスタンドの先が彼女の眼窩を突き破り、およそ脳に到達しているであろうことは誰の目にも明確な程に刺さりこんでいたのである。 時がとまったかのように静かだった。 私は蓮見黒栖の喉元あたりに足の裏を押しつけ、マイクスタンドをしっかりと保持したまま蹴り放すことにより、刺さったマイクスタンドを抜く。ぶしゅっとおまけのように血が吹き出た。 私が蹴ったことで彼女の死体は仰向けに倒れた。 そっとステージを降り、近寄る。彼女の端正な顔は歪に変形し、流れだした血が頬や首元を赤く染めていた。 左胸に手をやると、拍動が停止している。当然だ、心臓は不随意とはいえ筋肉。脳からの電気信号が途絶えれば、自然動作しなくなる。 即死とみて間違いなさそうだ。 私は振り返り、ステージの方を向いた。そしてべっとりと血液や体液が付着した手元のマイクスタンド、さて処理をどうしようかというところで。 ばつん、という聞きなれない音。 振り向くと、蓮見黒栖の右手の人差し指が、空を飛んでいた。 6 警戒しなかったわけではない。 未知の力、魔法。 彼女固有の能力が何かなど知る由もない。が、彼女を殺したから大丈夫だと安心していた。 慢心していた。 死んでも魔法を発動できるなんて、パワーバランスの崩壊もいいとこだ。そう思い、思い込んでいた。 だって、どうしようもないじゃないか。 死なない魔法なんてものが存在したら。 つまり、忘れていたのだ。 現実にパワーバランスなどないことを。 魔法という概念がいかに不条理で理不尽なものかを。 そんなこんなで。 死んだはずの蓮見黒栖の指が千切れ、飛んだ。これこそが彼女の魔法が発動した証であることを言うまでもなく理解した私は、後方に飛び退いて様子を伺う。 ぼとり、と思いの外大きな音を立てて人差し指が落ちる。すると、ちゅるちゅるという音とともに、蓮見黒栖の身体の傷口が徐々に癒着してゆく。それと同時に再び人間としての動きを取り戻しはじめ、ゆっくりとしたモーションではあるが、立ち上がる。 彼女がぱち、と一回瞬きをすると潰れたはずの眼球が復活し、血塗れであること以外は全ての傷が完治した。 否、回復する前に千切れた人差し指は戻っていない。 これはいわゆる代償、魔法で治す代わりに指一本を消費するということだろうか。 「――ってーのが、あたしの魔法なんだけどよ。指と引き替えに死や致命傷をリセットすることができるんだぜ。あたしは『指命料(パワーポイント)』って名付けた」 やはり魔法の効果は見た通りということだ。 すなわち。 彼女を殺すには、十回。 否、足の指すら含めるならば二十回。 殺す必要がある。 それは、絶望的すぎる数字だった。 「あ、たぶんお前が考えたことは間違ってるぜ」 彼女は私に向かって右手を差し出す。私の角度からは彼女の千切れた指の断面、骨と肉が露になっているのが見えた。 瞬間。 ちゅるちゅる、というつい先程聞いた覚えのある擬音。 人差し指の根元から延長するように肉が生成され、皮が張り、爪が伸びる。 紛れもない、指が生えた。 「こっちはあたしのもう一つの魔法。千切れた指を復活させる、名前は『欠痕指輪(リングオブメビウス)』」 今度こそ、終わったと思った。魔法を二つ操れるなんて聞いてない。 絶望云々を通り越し、笑いだしたくなるような感覚。 こんなの、無理ゲーじゃないか。 待て、落ち着こう。 目の前の敵を倒せないと理解したとして、ならばせめていかにここを無事に切り抜けるかというところに焦点をシフトしよう。 三つ目、四つ目の魔法を持っているかもしれないという懸念は切る。論拠は「あたしのもう一つの魔法」という台詞。語感的には一つともう一つ、合計二つと考えていいだろう。希望的観測も含め。 となると、目立った攻撃能力は所持していなさそうだ。私の出鱈目なスタンド攻撃(某少年漫画風)が通用してしまったところを見ると、武芸の心得も皆無なのだろう。 相手を殺せない。それが大前提にある以上、こちらの体力が消耗しないうちに、できる限り後腐れの残らない方法で逃げ切ってしまうのが最善。次善として彼女を死なないように拘束し逃げるという手段はあるものの、また今日のように突然私の前に立ちはだかる可能性を考慮すると、できることなら避けたいところだ。 いや、待て。それなら、彼女が何度でも生き返り続け得ると言うのなら。殺し続ける、という方法はどうだろう。 例えば、何か非常に重いものを彼女の上に乗せ、圧殺し続けるとか。彼女の能力が単に生き返るというだけであれば、致命傷はリセットできても圧自体を消せるわけではない。死ななくとも行動不能に陥れることが可能だ。 ただの仮説とはいえ、試す価値はありそうだ。 争点は、彼女の魔法により彼女を殺す物体――先程の例を用いれば非常に重いものだ――をどうこうできるのかということである。どういうことかと言えば、彼女は「自分の上に重い物体がのっている」という事態そのものを「致命傷」とみなし、リセットすることができるかもしれない、ということだ。もしも柔軟性に富む魔法ならば、ありそうな話である。 また、その魔法の発動条件も気になる。死ぬ寸前に発動するのか、死ぬ瞬間に発動するのか、死ぬ直後に発動するのか。そこには本人の意識の有無も関わってくるだろう。彼女が生き返りたいと思うから生き返るのか、死ぬから強制的に生き返るのか。 現段階で全く判断できない。 「なぜ生き返れるんですか」 聞いてみた。 無論、返答は期待していない。あくまで私の思考時間の確保のための質問である。 「簡単さ。あたしが生き返りたいと思うからだ」 「…………」 答えるんかい。 「そこらへん、この魔法はかーなーり、使い勝手がいいぜ。死ぬ直前、あたしが生き残ることを望んでいるか否かを読み取ってくれるからな。生死の選択はあたしの意思とほぼ直結してるって言っていい。即死の攻撃でも余裕で復活できんぜ?」 自慢気に語る蓮見黒栖。 が、今の台詞のどこに自慢できる要素があっただろう。 決定的かつ致命的な弱点を、明確に私に教えただけじゃないか。 安心した。慢心は駄目だが、これなら安心できる。彼女を殺す術が確立したのだから。 エンディングは彼女の死で決定した。問題は、その過程である。私が彼女に殺されては話にならない。 ふと疑問に思った。 彼女は私の魔法が「自身を固定する」ものだと本気で信じている。 ならば、なぜ彼女は私に勝負を挑んできたのだろうか。 単純な能力で比較した場合、彼女が勝てるわけがないのである。私が自分を固定したままずっといたならば、魔法だけでは勝てないはずである。殺されても生き返る、だが相手を殺せるわけではない。勿論その場合は私も勝てないが、少なくとも負けることはない。 その状況で、殺し得る手段を用意せずに、全くノープランで戦うなんてことが果たして有り得るのか? 私が楠と戦ったときは、たまたま存在した雨水タンクを利用することで難を逃れたわけだが。そうでなければ単純な力量差により削り殺されて終わりだったろう。 彼女は十中八九、対策を講じているはずだ。 それがどんな対策かはわからない。 「おしゃべりは終わりだ――ぜっ!」 蓮見黒栖が私に飛び掛かってきた。 幸いマイクスタンドは持ちっぱなしだった。顔面を目がけて弧を描くように振る。 牽制としての意味合いが強かったのだが、彼女は怯まない。マイクスタンドの先が彼女の顔を掻いた。 肉の感触がスタンドから私の皮膚へ伝播し、彼女の鼻の辺りが左から右へばっくりと上下に開く。しかし血が出るよりも早く、その細胞同士が絡み合うかのように傷が閉じ、一拍置いて指が飛ぶのを視認した。そして飛んだその瞬間、付け根からまた新しい指が生える。 速過ぎる。こんな風な回復も可能なのか。 彼女は痛みに顔を歪めたが、一度殺される覚悟で突っ込んできた彼女がその程度で止まるはずもなく、マイクスタンドを振り終えた姿勢の私の左肩を廻脚蹴りする。もろに食らい、私は横倒しになって床の上を数メートル滑った。 初撃の蹴りもそうだったが、彼女、力が強い。格闘技経験はないにしろ、私なら回し蹴りなんて咄嗟にできないだろうし、できたところで有効なダメージを加えられるとは思いがたい。かなり運動神経が良いのだろう。 スタイルいいし。 「ほっ」 蓮見黒栖は、掛け声と共にステージの上に登った。 いや、意味がわからない。 何を思ってその行動をとったのか。 倒れた私に追撃を加えるわけでもなく、私が先程彼女から逃げた状況とも違う、こんなときにステージに登る必要性は―― ――ある。 彼女が私の対策を練っているならば。例えば、そう、雨水タンクがここにはない。だからタンクを持ってきてしまおう、という対策。 タンクは流石に発想の飛躍かもしれない。しかしその根底に存在する理念は同じことだ。彼女は「固定」魔法を打ち破る何かを用意している。 彼女の立場からすれば、それがタンクであるにしろでないにしろ、私の目から隠す必要がある。しかし、ライブハウスというのは基本的にどの位置からもステージを見ることができ、それすなわちステージからも視線が通るわけで、まぁ、言ってしまえばかなり見通しがよい。物を隠すには向かない。そして彼女がとったステージに上がるという行動。 それらをあわせて考えれば。 ステージの上手か下手か、とにかくステージのバックグラウンド。そこに隠されているはずである―― 「あ、おいっ!」 私は駆け出した。彼女に、ではない。出口に、である。 彼女の意識はステージ裏にいっていただろう。逃げ切れる。 まぁ、逃げ切るつもりは実はあんまりないのだが。 ここでは二つの可能性があった。 一つは蓮見黒栖が逃げる私を見て諦め、見逃す可能性。そちらでも一応「私が生き残る」という最低ラインがクリアできる。 もう一つ。彼女が私を追ってくる可能性だ。 「待ちやがれ、てめえっ!」 後者だった。 どこか反応が過剰のようにまで見受けられる。 私はライブハウスの出口を抜け、外へ出て、素早く右折した。 彼女の運動神経がいいのに対し、私は平均の女子高生。スタートにいくらかのラグがあっても、走っていればいつか必ず追い付かれてしまう。 だから、逃げるつもりなどなかったのだ。 少なくとも、彼女が私を追い始めてからは。 逃がしてくれるならばそれも次善。されど本命はこっち。 私は右折してすぐ身体を反転させ、出口を私に続いて飛び出してきた蓮見黒栖からは全くの死角となる位置から―― 手に持ったままの、マイクスタンドを振り下ろした。 マイクスタンド自体の重みによる遠心力が働きかなりいい手応えだったものの、恐らく死んでいない。私はスタンドをバットを振るような構えで保持し、二度フルスイング。彼女が身体をくの字に曲げていたおかげで、スタンドの先がうまい具合に顔面にぶつかる。 彼女の魔法の弱点。その一つは、不意打ちに弱いということ。 死ぬ瞬間の意思により生き返りが左右される。ならば確かに生への執着は常に存在するので、全くの不意打ちでも生き返ることはできるだろう。しかし、生き返り方が選択できるかといえば話は別だ。 ヒントは彼女が見せた二度の生き返りである。 一度目は偶然にも不意打ちだった。そのとき、彼女は床に倒れ、それから指が飛び、回復した。 二度目は彼女の動きが止まることすらなかった。指の損失と致命傷の治癒が同時に起こった。 つまり。 自分が死ぬだろうことを予期していれば生き返り方はスピーディーになるよう指定できるが――不意打ちでは無理。 特に先程は、彼女にとっての前提が「私は逃げようとしている」というものだったのだ。頭の中を「捕まえる」意思が独占し、判断が遅延するのは不可避。 現象だけを説明するなら、彼女が息を吹き返すのに数秒の時間が必要だということである。 私は前のめりに倒れこむ蓮見黒栖を無視し、ライブハウスに逆戻り。受け付けの裏に入って紐状のものを探す。 ビニールテープやガムテープの類を期待していたのだが、あったのはコンセントの延長コード。ケーブル程の太さ、刹那迷いはあったがどの道残り時間は少ないわけで、私はコードを持って外に出た。 そこでは蓮見黒栖が今まさにちゅるちゅるやってる最中だった。私は地面に倒れ伏している彼女の両腕を背中に持っていき、手首同士をクロスさせて延長コードでぐるぐると巻き、固結び。そしてその先を、ライブハウスの壁を伝うよう縦に設置されているパイプにくくりつけ、決してほどけないように固結び。 「てめぇ、覚悟しとけよ……」 彼女の傷が完治したようで、そんな風に凄まれた。 手の拘束だけでは不安だったので再びライブハウスに戻り、受け付けをスルーしてステージに上がり、舞台裏に入る。 「!」 ペットボトルが置いてあった。 二リットル入り、透明な液体が中を満たしている。 爆弾である、と思った。 映画でよく見るスーツケース爆弾とか円筒状のダイナマイトとか、そんなスマートさは欠片もない。液状の火薬がたっぷり二リットル存在する。そう思った。 確たる証拠はないが。 いくつか考えた可能性の内の一つである。 私を殺すために彼女がとった対策。 固定しているところでこれを爆発させ、ライブハウス自体を倒壊させて瓦礫の山に生き埋めにするつもりだったのではないだろうか。 実にシンプルだ。 ペットボトルがぽつんと放置されているという不自然さから見ても、この推測はほぼ間違いないだろう。 私はその場にあった麻製のロープを手にとり、外に出た。 蓮見黒栖の両足首を結び、手のところも二重に巻いて補強する。 蓮見黒栖は特に抵抗を見せるわけでもなく、拘束を受け入れた。 恐らくわかっていなかったのだろう。 これから自分が何をされるか。 拘束してから私が逃げ出すなどという幻想にでも捕われていたのかもしれない。 「こんな風にあたしを縛ったってお前に何ができんだよ。あ? あたしを殺せるとでも?」 小馬鹿にしたような態度で挑発してくるが、今は取り合わない。 ライブハウスの出入口は細い路地に奥まって作られていた。そうでなくとも時刻が深夜であるために人通りはなきに等しいのだが、念の為だ。大通りに面したところに手元に残った麻縄を架け、立ち入り禁止の様相を演出した。工事中、みたいな看板があれば良かったのだが流石にそこまでうまい話はなかった。 まぁこのような工作も杞憂に終わるとは思う。蓮見黒栖が直接私を手にかけようとし、最終的にはライブハウスごと爆破する腹積りだったならば、彼女自身が人払いを行っているであろうことは想像に難くない。 彼女が縛られ地面に座っているところへ戻り、自分で置いておいたスタンドマイクを拾い、握り締める。今夜はこいつが大活躍だ。 私は無言のままそれを頭の上に振り上げる。 「おい……お前、ちょっと、待てって――がっ!」 殴った。 殴った。 殴った。 彼女の魔法の二つ目の弱点である。 生き返るか否かが自分の意思で決定するなら――簡単だ。 死にたいと思わせればいい。 殴った。 殴った。 殴った。 翌日、大人気歌手蓮見黒栖が殺されたこと、そしてその傍らには六百三十八本の彼女のものと思われる指が転がっていたことが大々的に報じられた。 7 「葉色ちゃん、君は自分のことを平凡な女の子だと思っているようだけど、全くもってそうじゃないということにそろそろ気付いた方がいい。 「この平和な日本に生まれ育っておきながら躊躇いなく二人もの人間を殺し、その後罪悪感に苛まされないなんて十二分に異常人格さ。まぁ私はそこを買って君にアプローチを仕掛けたわけだけど……。今思い返せばもっとよく考えるべきだったかもしれないね。君の魔法――否、能力は……肉体的な痛覚を遮断するだけじゃなく、心の痛みまで無視するんだから。 「身体的な痛みを感じないだけの人間だって驚異だよ。何せ、何のメタファーでもなく、字面通りに『他人の痛みがわからない』――んだから。だから君は躊躇なく容赦なく人を殴れるし、蹴れる。そこに加えて精神的痛みを無視するなら、容易に人を殺せるよね。人を殺す時の嫌悪も罪悪も背徳も、一切合財ない交ぜに織り交ぜて『痛み』と定義して、ぜーんぶ一律に感じないわけだもん。 「そんな人間が、さ。まともな人格を所持してるわけがないんだよね。実のところ、君は生きていたいとさえあんまり思ってないんじゃないの? 生への固執、死への抵抗は間違いなく苦痛だからね。にも関わらず君は重香と黒栖ちゃんを殺した。殺すことを選択した。『勢い余って』だとか『そのつもりはなかった』だとか、その手の釈明が不可能な手段で殺した。それは、『生き残るために人を殺すのは人間の本能だ』とかいうふわふわした倫理観。君は何の信念も、何の感慨もなく二人を葬ったわけだ。 「図々しいよね。君は、自分がまだ人間だとでも思っているのかい? 「前口上はこの辺にして、まぁ、なんというか、やってくれたね葉色ちゃん」 そんなわけで古川あけびだった。 蓮見黒栖を殺した後、既に日付は変わっていたが帰宅して、気休め程度の睡眠をとり学校へ向かった。下校時刻までなんとか耐え、帰ろうとして校門を出た辺り。つまり、楠重香を殺した後と概ね同じ状況である。 やってくれたね、と言われたが正直何を? という感じだ。確かに私は間違いなく殺ってしまったわけだが、楠の件にしても同じだったじゃないか。 「殺人が違法行為だってことを理解しているかい? 見つからないよう隠密にやりなよ。というか君は二人の人間を殺しておいて未だに公権力の手が伸びてこないことに疑問を持たないの? 私がやらなくちゃいけなかった事後処理がどれだけ大変だったと思ってるのかな」 戦うように仕向けたのはそっちの癖してよく言う。 しかし、説教しているような台詞に比べて浮かべている表情は楽しそう、というよりどこか嬉しそうだ。 「まぁこんな所で立ち話もなんだし、どっか行こうか。訊きたいこともあるだろうしね」 訊きたいこと。 蓮見黒栖から聞いたこと。 戦争。 私は彼女の後を追い、歩き始める。古川あけびはかなり小さな体格であり、歩幅も比例して小さいのだが、とてててというオノマトペが似合う若干小走りになっているようなテンポで歩くので、特に歩行のスピードをいつもより緩めたりする必要はなかった。 彼女は迷いのない足取りで、全国にチェーンを展開している大型ショッピングモールに入っていった。そしてその中に店舗を構える喫茶店を訪れ、二人席に向かい合って腰を落ち着ける。注文を取りに来た店員さんに、彼女が勝手にホットコーヒーを二つ頼んだ。私は普段コーヒー飲まないのだけれどそれは無視か。 しばらくは口を開かずにこにこと笑っている彼女だったが、コーヒーが運ばれてきてそれを一口啜ると、言う。 「日本の魔法少女達が戦争をしているってことは、黒栖ちゃんから聞いたんだよね」 首肯。 「なるほど。……まぁ、それは私の差し金なんだけどね。私の魔法の一つ、『暴利貸(アンフェアトレード)』っていうのがあるんだ。誰かに『ありがとう』と言わせることを条件に発動する。『ありがとう』と言った時点で相手が私に貸しがあると見なされて、その代わりに何でも言うことを聞かせることができるんだ」 それを聞いて心当たりが一つ。彼女と学校の屋上で初めて出会った直後だ。肩に糸くずがついてるよ、とったげる。 あれ嘘かい。 とはいえ、私が何か彼女に還元した覚えがないのだが。 「何でも言うことを聞かせる。つまり私が要求したことは、決して起こりそうもない馬鹿げた事象だとしても、必ず実現される。実現されなくてはならない。そういう魔法だ」 ご都合主義が現実に適用される。そういう魔法。なんて理不尽。使い勝手がいいどころじゃない。 私は静かにコーヒーカップを傾けた。やはり苦い黒い汁のようにしか思えない。子供舌だという謗りを受けるだろうが、どうしてもこればっかりは仕方ない。 「私は葉色ちゃんに『ありがとう』と言わせる代わりに、魔法少女達の間で戦争が起きるように要求したんだ。自分以外は皆敵、そんなバトルロイヤルが日本全国規模で発生するように」 何のためにそんなことをしたのかはさておき、そうなると蓮見黒栖は須らくして私と戦ったということになる。それは筋が通る。しかし、楠重香はどうだったろう。彼女には、私を殺そうという意思こそ感じられたものの、私と戦おうとは思っていなかったというか。 私のことなど相手にしていなかったような節がある。 さらにいえば、古川あけびとの関係――それが協力か服従かわからないが、とにかく関係はあった。魔法少女の戦争を起こしたいだけならば、古川は楠に「ありがとう」と言ってもらえば済む話である。にも関わらず、なぜ私との接触を試みたのだろう。そして、本来ならば私と楠の戦闘は不必要ではないか? 「琵琶湖が干上がったのも、魔法少女の誰かが戦ってる最中にやっちゃったんだろうね」 やっちゃった、ってまるで凡ミスしたみたいな表現はどうかと思う。地理の教科書で日本一大きい湖は霞ヶ浦に変わったし、滋賀県の真ん中では馬鹿でかいクレーターができたようなとんでもない様相を為しているというのに。 「私から言うことはこれくらいかな。どうだろう、葉色ちゃん。何か質問はあるかな? 今回黒栖ちゃんに勝利した分、私へ一回質問ができる権利をまた手に入れたわけだけど」 なんだろう、彼女は私が一人魔法少女を倒す度に一つ質問に回答するという制度を恒例化するつもりなのだろうか。 流行らないと思うけど。 「なぜ、戦争を起こしたんですか?」 私の平凡な質問を受け、古川あけびは目を伏せた。 店員さんが注文をとる前に持ってきた冷水のガラスコップの表面に、結露して水滴が付着している。彼女はそれを指先で拭い、その指を顔の前にかざすようにしてみせる。 「探してるのさ、私は。最後の一人を。生き残って全ての頂点に立つ、たった一人の女の子を」 指先には水が溜まり、ふるふると震えて今にも雫となって落ちそうだった。一応表面張力で耐えてはいるが、時間の問題だろう。 「その子には、やってもらわなければいけないことがある。大切なことだ。少なくとも私にとっては」 指先の水が、ついに耐え切れずにぽとりと落ちた。机の表面に半球状になって静止したその雫を通して見ると、机の木目が歪んで見える。 「というか、私はその最後までこの戦争を勝ち抜く子を、君。葉色ちゃんだと思ってるんだ」 私は水滴の観察を中止。古川あけびに視線を合わせた。 「それでね、君に言わなくちゃならないことがある」 彼女もまた伏せた目を上げ、私の目を真っ直ぐに見据える。お互いに見つめ合っているようなこの状態。 彼女は言った。 「葉色ちゃん。君は、魔法少女じゃない」 8 「私の名前は岬塔子(みさきとうこ)、なんだから」 そう名乗る人物が現れたのは、つい先程のことである。 私、蟻木葉色が学校から帰る途中、ふりふりのレースが随所にあしらわれたファッション――いわゆるロリータである――を着用した人物が話し掛けてきた。 服装だけでなく、喋り方や瞳の中にもキラキラなパーティクルが飛び散っているかのような。一言で言えばイタい女の子。まぁ、本人の表情や仕草にはどことなく幼さというかあどけなさが残っているため、直視に堪えないという程ではない。 そして彼女が現れたことにより、今私は彼女を追い掛ける羽目になっている。否、この言い方では少々の語弊が生じる。私は、彼女と距離が離れすぎないようにしているのである。 「私の魔法は『饗宴(カニバリズム)』、なんだから」 そう言われたのもつい先程である。 「私が見たものならなんでも爆弾に変えられるんだから。爆弾は私と三十メートル以上離れると爆発しちゃうんだからっ」 とわかりやすい説明をした後、 「ばきゅんっ!」 と。 ばきゅん、とは即ちあのばきゅんである。 親指と人差し指を直角に伸ばし、人差し指を銃身に見立てたばきゅんである。 何この子イタい、と思う暇もなく彼女は続けた。 「今のであなたの右の目玉は爆弾に変わっちゃったんだからっ」 などと聞き捨てならない発言。 「きゃっほーなんだから」 彼女はくるりと踵を返し、脱兎のごとく走りだした。 先の発言が全て真実なのだとすれば、私は彼女と三十メートル以上離れると死ぬということになる。 こりゃまずい、というわけで追い掛け始めて現在に至る。 学校からの帰り道とは言っても私は電車通学であり、さらに言うなら住所を置くのがそこそこの田舎。周囲に同じ学校の知り合い等は見受けられず、思う存分気兼ねなく走ることができる。 相手は子供らしい風貌で、一見した限りでは小学生から中学生くらいの年齢に見える。まぁ、私は女子高生に扮することができる千二百八十歳を知っているわけで――いや、勿論余りに規格外な彼女を引き合いに出すのはどうかと思うが、とにかく見た目で人の年齢を判断するのは難しく、おしなべて何歳とは言えない。とは言っても岬塔子。小柄な体格であることは間違いない。流石に本気で走っていればすぐに追い付けるだろうと考えていたが、これがなかなか追い付けない。 私、実は運動音痴? 十六歳帰宅部の発見である。 閑話休題、未だ岬ちゃんとの間には十五メートル程の距離があるものの、どうやら少しずつ着実に詰まってはきているようだ。 彼女は曲がり角を折れ、私の家とは逆方向の道、イコール私が彼女に話し掛けられる前に歩いていた方向の道、イコール私の家からの最寄り駅が存在する方へと走っていった。 しめた、と私は思う。 駅付近には駐輪場がある。申し訳ないがそこから自転車を一台拝借すれば、この鬼ごっこにおいて大きなアドバンテージを獲得できるだろう。 駅までの距離が徐々に縮まり、駐輪場の前を岬ちゃんがスルーする。自転車が目に入れば彼女だって手に入れたいところだろうが、それはあくまでスムーズに手に入ればの話。いくら日本が平和と言えども、今日び駐輪場に停める自転車に鍵が掛かってないなんてことは殆ど有り得ない訳で、都合よく鍵の掛かっていないものがあったとしても、それを駐輪場の中から捜し出すのは時間がかかる筈。案外すぐ見つかるかもしれない、なんて奇跡に賭けるのは、後ろから私に追い掛けられている彼女にとっては非常に危険である。そんなわけで彼女が駐輪場を通り過ぎるのは必然。 勿論、その条件は私にも適用できる。彼女と三十メートル以上の距離を開けるとまず間違いなく死ぬ、そんな状態で鍵の掛かっていない自転車を探すなんて、ある種彼女が行う場合よりもリスキーと言える。 にも関わらず、なぜ私は自転車を確保しようとしたのか。 その質問に対する解答は実にシンプル、勿体ぶることなど何もなく、私は無数に駐輪された自転車の中から鍵の掛かっていないものを探し出す必要など最初からなかったためである。 岬ちゃんが駐輪場を過ぎた直後、私は体力を振り絞って急加速。作業は迅速に済ませるに越したことはない。 駐輪場の入り口付近に停めてあった自転車を捕捉。ごく普通のママチャリで、鍵もホイールに金属の腕を通し車輪の動きを封じるオーソドックスなタイプ。ベストだ。 私はポケットからリップクリームを取り出した。 無論ただのリップクリームではない。とっておきでとびっきり、わくわくどきどき揃い踏み、七つもないけど秘密道具。そしてとある人物からの――貰い物。その名を『インスタント風化軟膏』。彼女らしい、何とも言えない味のあるネーミングセンスだ。 一体どのような効力があるかと言えば……私にこれをくれた彼女の言葉を引用して曰く、「私の持つ二つの魔法――物体の経年変化を促進する魔法『次時酷刻(アフターエフェクト)』と、魔法の効果を物体に付与する魔法『歓恨相殺(キャンディウィップ)』の合わせ技だよ。簡単に言えばそのクリームを塗ると、塗った物体において時間が早回しになるんだ。一方通行のタイムマシンとでも言えばわかりやすいかな。食べ物に塗れば腐るし、人間に塗れば老ける。紙にでも塗ったら脆くなるだろう。そういうアイテムさ」とのこと。 私はキャップを外し、自転車の鍵の部分にクリームを塗る。この場合は、金属疲労。一秒と経たない内に金属の腕の部分が急速な劣化を遂げ、指で叩くと容易に砕くことができた。 すぐにサドルに跨り、駐輪場を出た。大丈夫、距離は離れすぎていない。あと数秒でも手間取っていたなら危なかっただろうが。 横目でこちらを窺っていた岬ちゃんは、自転車を手に入れた私を見てぎょっとした様子。 「ず、ずるいんだからっ」 という抗議の声を無視、ペダルを踏みしめる。流石は人類が誇る文明の利器といったところか、ぐんぐんと加速し彼女との距離を詰める。ただのママチャリだけど、相手が生身の人間となればそれも当たり前だろう。 残り十メートル、九、八……とカウントダウンの様相を呈し、より一層体を前に倒してスピードを上げようというところで、意外、というより予想だにしていなかったことが起こる。 彼女が突然左折、駅舎に入ったのだ。 考えてみれば当たり前、私が彼女の立場でも同じことをしただろうが――意表を突かれた。このおいかけっこ、自転車を手に入れるという彼女を追うための手段を、まるで目的かのように錯覚してしまったのだ。油断していたと言う他ない。 ――電車。 鮮やかな解法。歩くより速く、自転車より速い移動手段。 そして何が問題かと言えば、この駅の構造である。一階に電車が発着するホームがあり、改札や切符販売機が設置されているのは二階。駅に入って電車に乗ろうとするとき、利用者はどこかのタイミングで絶対に階段を上らなくてはならないのだ。そして、ここの駅の場合、階段は駅の入り口、岬ちゃんが今まさに入っていった箇所に作られている。 つまり、自転車に乗ったままでは駅に入ることすら叶わない。華麗な自転車封じ。殺し技、返し技、搦め手、言い方は様々あるわけだが、そんな感心はともかくとして。 石に靴の底を打ち付ける、かつかつという小気味よい足音を立てながら階段を上っていく岬ちゃん。私は半分蹴り飛ばすようにして自転車を降りた。自転車は横倒しになって結構派手な音を鳴らしたが、かまってはいられない。慌てて彼女を追う。 待て、落ち着こう。彼女がただ私が自転車を使うのに対する合わせとして駅に入ったならば、決して詰んだというわけではない。私を撒くためにはタイミングよく電車が来なければならないし、第一切符がないと改札は通れない。彼女は実は全くの無為無策で駅に入るというアクションを起こしたというのも、可能性としては低くないだろう――なんて。 的外れな予想。 都合のいい妄想。 体裁だけの幻想。 つまりは現実逃避の一種なわけで。 かんかんかんかんかんかんかんかんかんかん! 耳に入ってきた、踏み切りの信号音。言うまでもなく、それはホームに電車が入りかけているというサイレン。 悟った。全て計算ずくだったわけだ。私に話し掛けるタイミングからして。 自転車を使うというのは彼女の予想の外だったとしてもだ。彼女は、私の眼球を爆弾に変質させた後逃走し、駅に着いたところで私を置いて電車に乗り込み一気に距離を開かせ爆発させる。そういう作戦に基づき、あらゆる一切を敢行していたのである。 無為無策なんてとんでもない。闇雲の要素だって一つとして存在しない。 岬ちゃんは殆ど減速しないままに改札口を抜ける。スイカだかパスモだか、とにかくICカードだった。如才なく事前にチャージしておいたのだろう。私は通学にこの路線を使用しているので、自然定期券を持っているが――それで彼女との距離が縮まるわけではない。 ふしゅー、という気の抜けるような音。電車がホームに到着し、停止したのだ。一拍遅れてぶしゅー、と濁点が付随した若干強い音、プラスぴーんぽーん、みたいな電子音のジングル。ドアが開いたのだろう。 階段――ホームに直通している下り階段だ――を駆け降りる岬ちゃん。 直線距離で私と彼女は二十メートル近く離れているだろう。 まずい。実にまずい。 逃げ切られて電車に乗られてしまったならば、その先にあるのは単なる死である。 何か手を打つ必要がある。彼女との大きな間隔を短時間で一気にショートカットできる手を。あまり気が進まなかったが、この切羽詰まった状況に追い込まれたらごちゃごちゃ言わずにやるしかない。 走り寄って行き、下り階段の一番上から、 ――飛んだ。 正確には、跳んだ。跳躍である。改札を抜けてから減速せず走っていたそのスピードを利用して、丸っきり走り幅跳びの要領で。 そうなると物理法則に従い私の体は質量かける重力加速度分の加速度を伴い下に落ちる。階段の下りにおける二十段飛ばし。飛び降りというかイメージ的には決死のダイブとった具合で、まぁ、危険この上ない。テレビ番組なら良い子の皆は真似しないでね、というテロップが流れるだろう。 ジャンプしてから地面に着いてもまだそこは階段。下手に足から着地しようとして挫いたりしては致命的なので、体から倒れこむようにする。身体的な怪我の危険という面では圧倒的にこちらの方がリスキーなのだが、そこは費用対効果を優先。 私は石の階段に叩きつけられ、残りの段数もほぼ転がるようにしてこなす。 ひょっとしたら骨くらい折れたかもしれないが、ハンデにはなるまい。 地べたに伏した体勢のまま、見ればもう既に岬ちゃんは電車に乗っている。階段を降りたところから一番近い位置の扉から入り、さらに私から遠ざかるように走っている。同時に、車内に乗っている何人かの人間が、全力で駆け込み乗車する岬ちゃんとそれを追い掛け壮絶な転倒をかました私を何事かという目で見ているのが視界に入った。 私はごろんと一回転して立ち上がる。ぴーんぽーん、というジングルが再び鳴った。扉が閉まり始める。 間に合え。 体を横向きにしつつ、車内へ滑り込み。腕が入った。頭と体が入った。反対側の腕が入った。 五指の内の半分が入り――すぐそこに扉が迫っている。挟まれるわけにはいかない。 最後の小指が。 ギリギリ、本当にギリギリに。 抜ける。 閉まる扉が爪の先を掠めた。半ば倒れこみかけたが、倒れている場合ではない。早く後を追わなければ―― ――と。 嫌な予感などしなかった。 なぜなら私は心身における痛覚の存在しない女子高生だからだ。 嫌とか恐怖とか、その手のマイナスな感情を覚えることはない。だからこそ、飛び降りに恐怖を感じずかつ骨折などの怪我をした後でも動き回れる自信があったからこそ、階段を使わずに階段を下りるなどという無謀なアクロバットが可能だったのだ。 そんな私が嫌な予感などを察知できるわけもなく、また只の予感ですらなかった。 強いて言うなら生物の本能的な危機感情か。一瞬だけ、腕の手首に近い方から肩へかけて鳥肌が立っただけである。 岬塔子が、電車を降りていた。 勿論テレポーテーションやイリュージョンの類ではない。種を明かせば簡単なことで、岬ちゃんは電車に一旦乗った後、私が彼女を追従して車内に乗り込むのを確認、隣のドアから電車を降りたのである。 言葉にすれば単純だが、それを実現するのにどれだけ緻密で精密な算段を立てる必要があるのかということについては、考えたくもないと言う他ない。この駅までの道中にも彼女は幾度となくタイミングの調整というかフォローをそれとなく行っていただろうし、ここに到着した直後には私が階段を転げ落ちるという最大のイレギュラーさえ迎えていた。それに対しても彼女は冷静に立ち回り、結果このように私はぴったりと思惑にはまってしまった形になる。 そう考えれば岬ちゃんは知己に富み即時判断力に長けた、かなり賢いタイプの女の子だということだ。 見かけに騙された。 あのふりふりの服を着て「○○だからっ」という口癖がある人間のことを、誰が実は頭が良いだろうと推断できる? 実はあの奇抜な服は、自身を偽り相手を油断させるための鎧だったのかもしれなかった。 まぁ、普通に趣味で着てる可能性も否めないが。 そんなこんなで私は電車の中に取り残されたわけで。 ガラス越しに岬ちゃんが思いっきり口角を釣り上げて笑っているのが見えた。 電車はそのままゆっくりと加速し、彼女から離れていく。 三十メートル以上は爆発―― 慌てるな。 自分に言い聞かせつつレバーを引いた。 手が震えたりはしない。なぜなら私は緊張しないから。焦りはする。動揺もする。だが、そこから平静に戻るまでが早い。即座に状況に適応し自分の思う最前の行動を冷静に取ることができるようになるのが、私の痛みを感じないという体質の長所である。 私が引いたのは扉に近いシートの下に格納されているレバー。非常時にはこれを引いてください、手動でドアが開きます―― 「――はあっ!」 強行軍。飛び降り降車を決行した。 レバーを引いてロックが解除されたドアをこじ開け、もといた駅のホームへ転がり出る。 走行中の電車から降りるなんて自分でも無茶だと思ったが、やらなければ死ぬのだからやるしかない。発車したばかりで然程スピードが出ていなかったのが幸いし、怪我は地面との摩擦による掠り傷だけで済んだ。今は確かめている余裕はないが、恐らく階段から落ちた時の怪我の方が深刻だと思う。 私が電車からの脱出をしてみせたのを受け、岬ちゃんは驚き一瞬だけ硬直した。しかしすぐに気を持ち直して私から逃げることを試みるようで、ホームから線路に飛び降りた。 「岬ちゃん!」 私は叫んだ。 彼女は私に背を向けていたが、くるりと振り返って私の方を見据える。 「あなたは、何のために私と戦っているの」 この質問は、特に作戦などではない。 純粋な興味からの問い。 日本中の魔法少女の間で戦争を勃発させた人物がいる。その人に操られて私に戦闘を挑んできた岬ちゃんは、一体どのような返答をするのか。 「……そんなの、決まってるんだから」 岬ちゃんは、何か大いなる意志の下に盲目になっているかのような、それでいてどこか達観や諦観の念が見て取れる、その世代の女の子としては全くそぐわない表情を浮かべる。 そして、千二百八十歳で、私に風化軟膏を渡し、魔法少女戦争の火蓋を切った張本人。 彼女の名前を口にした。 「古川あけびを、殺すためなんだから」 9 二日。 私が岬塔子と出会った今日から遡って数え、君は魔法少女ではない。古川あけびからそう告げられたときまでの期間である。 あのとき私と古川あけびは喫茶店で向かい合って座っていた。そしてお互いに相手の目を見つめながら聞いた事実。それは、今まで前提として信じていたことを根底から覆されるような話だった。 「葉色ちゃん、君は魔法少女じゃない」 しかしながら、私という人間に「痛覚が存在しない」という能力が備わっているのもまた厳然たる事実であり、じゃあそれが魔法でないなら一体何による作用なのかという謎が生じる。 彼女は言った。 「そもそも、私が『暴利貸(アンフェアトレード)』で魔法少女が戦い合うように指定したのに、その直後重香と対峙した葉色ちゃんにはまるで戦おうなんて気がなかった。それが最初の違和感さ。 「ちょっとした手回しは既にした後だったから、重香のメンタルが普通だったことは不思議じゃないんだ。まさか魔法が不発だったのかな、と思って私は第三者である黒栖ちゃんと接触したんだ。そしたら黒栖ちゃんにはしっかり効果が表れていた。まぁ、元々好戦的な子ではあったけどね……。おっと話が逸れたかな、そこで念のために葉色ちゃんと黒栖ちゃんを引き合わせてみた。遠くから様子を眺めてたんだけど、相も変わらず葉色ちゃんは戦意ゼロだったね。殺意はあったみたいだけどさ。 「そこで結論に辿り着くのさ。『魔法少女は戦う筈だが、蟻木葉色は戦わない』。だったら蟻木葉色は魔法少女じゃないという回答以外ありえないんだ。 「葉色ちゃんが持っている『痛みを感じない』という能力は何なのか……。それなんだけど、私にはわからないと言うしかないね。いや、それが葉色ちゃんだけに特異的に備わっている体質のようなものだってことはわかるんだ。本来触覚と痛覚は同一なのに、痛覚だけ存在しないなんて明らかに変態的だからね。でもそれはやっぱり特別変異だから、特別変異だけに、前例がまだない。つまり私や重香、黒栖ちゃんが使うのはそりゃあ魔法なんだけど……君のそれには名前が付けられてないから、正体不明と言わざるを得ないんだよ。 さて、回想シーンは終了。私と岬塔子の戦闘の顛末についてだが、なんだか申し訳ないくらいあっさりと終わった。 電車から転がり降りた時点で私は二つの作戦を思いついていた。 一つ目は、私の体を分断することである。例えば指などを切断し、それを岬塔子のロリータ服のポケットなどに忍ばせる。すると私は何メートル距離を取ろうが爆発しなくなるだろう、という作戦だ。指を彼女に無理矢理食べさせ栄養分として消化吸収させてしまい、私の一部を彼女の一部に強制的に変えてしまおうという暴力的かつ猟奇的な案も思いついた。しかしながら、ポケットに忍ばせるにしろ食べさせるにせよ、とにかく彼女と近づくことが難しい。分断した指を私の体として認識してくれるか不明。そもそも指なくなっちゃうのやだ。そういった理由で実行には多大なる難があった。 ならば二つ目の作戦。石などある程度の質量と硬度を有する物体を投擲し、遠距離から彼女を殺す。 私がどちらの作戦を行ったか、そしてその理由については言うまでもなすぎるため割愛。 線路に落ちていたこぶし大より一回りか二回りくらい小さい石を拾った。 投げた。 彼女の頭に当たった。 それで終了だった。 呆気ないというかまるで肩透かしのような戦いだったわけだが。 彼女の死体は線路の上に放置した。それでどうなるということもないかもしれないが、彼女は自殺を図っていたのだというカモフラージュ……にはいささか以上に足りないにしても、目眩ましくらいにはなるかな、と。いくらこの死亡事故が都心から離れた閑静な駅で起きたからといっても、第一発見者が現れればすぐに第二第三の野次馬や公的機関が集まることは予想できる。そこで私にあらぬ嫌疑……いや、思いっきりある嫌疑なのだが、それをかけられないとも限らない。私は誰にも見つからない内にさっさとその場を退散した。 それが昨日の出来事。 本日は、魔法少女の戦争が始まってから数えて九日目の朝八時である。 土曜日だ。 私の通う学校は公立。すなわち今日は、休日だ。 やったね。 いや、私は何もやってないのだが。兎角休日というのは心踊るものである。 と言いたいところなのだが、今日ばかりは勝手が違う。何せ九日の間に三人もの魔法少女と殺し合いを繰り広げているわけで、さらに言うならその内の一人、蓮見黒栖と戦った日に至ってはほぼ完徹だった。昨日も数十分に渡って鬼ごっこをした挙げ句階段ジャンピングである。疲れるのも必定と言えよう。 休日というのは時間を自由に使えるがゆえに、どうも「有意義な一日にするため何かをしなければならない」という強迫めいた観念に囚われがちだ。 そこで敢えて『休日』というその文字通りに一日のタイムスケジュールを休むことただ一本に充てることで、何かこう日本における休日の過ごし方界に一石を投じることになるのではないだろうか。自分でも何を言っているのかわからない。私は眠いのだ。 おやすみなさい。 二度寝を敢行した。 おはようございます。 目が覚めたばかりでまだ頭が働いていない私を支配していたのは「今、何時?」というシンプルな疑念だった。カーテンを閉めた窓の隙間から陽光が漏れているので、丸一日以上熟睡している可能性を除けば、日没までずっと寝てましたーなんて状態でないことは予想できるが。 ベッドに寝たままで体を捻り、枕元のデジタル表示の時計を確認する。現在時刻は十四時過ぎ。午後まで寝込むなんて本当に久しぶりだった。しかしそのおかげだろう、二度寝する前は全身の至る所に存在した倦怠感が消えていた。 寝ていたのだから当たり前なのだが、そういえば朝から何も食べていない。あらゆる活動も停止していたためか然程空腹感は強くないとはいえ、何か口にした方が良いだろう。まずは先に水でも飲んで―― といった瞬間。 何かがおかしい。 部屋の中を見渡したが何もいつもと変わった様子はない。視覚ではない、違和感があるのは触覚である。 私は掛け布団を捲る。 古川あけびが私の隣で寝ていた。 何してんの。 いや、私の部屋にいるのは百歩譲ってまだわかる。だがなぜベッドに入っている。そしてなぜ寝ている。 「……やぁ」 鋭敏に私の視線を感じ取ったのか、あるいは狸寝入りでも決め込んでいたのか、狙ったようなタイミングで目を覚ました。 「ある日起きたら隣に美少女が! っていう展開をお届けしようと思ったんだけど」 「…………」 無理すんな千二百八十歳、と思わなくもなかった。 「しかしねぇ、数日前喫茶店で話したときまで私はなんとなく君が血も涙もない鬼であるかのように思ってたんだけども、甚だしい勘違いだったよ」 鬼って。 おい。 「痛みを感じないというスキルがあまりにも人間的じゃないもんで、それを持っている君も人間じゃないんじゃないかってね」 ハロー効果の逆だね、と彼女は呟く。 「でも君は人間離れするには余りにも人間過ぎた、ってところかな」 意味ありげに笑い、ベッドの端に座り直して言った。 「生きてくれるんだね?」 私は黙って首肯した。 彼女と喫茶店で話をしたとき、「私はこの戦争を勝ち抜くのを君だと思ってるんだ」。そう言われた。ただしそれは蟻木葉色自身にモチベーションがあるのが前提である、とも。 私は痛覚のオンオフが切り替えられるわけではない。緩急すら付けられない。常に痛みを感じない。つまり私はいかなる人生を送ろうと、最終的な到達点は安楽死以外にない。かつ生存に対する執着もない。ないない尽くしだ。それが導くところは、私にとっては生と死どちらの道も茨などないということ。裏返せばどちらにも茨が茂っているとも言えるが、とにかく生も死も状況に応じてクレバーにフレキシブルに選択できるのだ。 つまり、この時点ではモチベーションは正にも負にも働かない。 絶対値はゼロ。 生きることもそれを辞することも容易にできる。 そんな心意気では、戦争のどこか途中で後悔一つ滲ませないまま頓挫してしまう――古川あけびの言わんとすることは、つまりそういうことだった。 そこで彼女が提案したのが、「やりたくなかったらやんなくていいよ」という譲歩である。「私は優勝する可能性が一番高いのは葉色ちゃんだと思ってるんだけど、君が勝つ気がないというなら私も潔く諦めるから、今ここで判断してくれないかな」。 そこで私がどう返したかと言えば、まぁ、保留した。今ここで、と求められていたにも関わらず。次に魔法少女と戦ったとき、もし私が勝ったら最後で頑張る。と、そう言った。 その「次の魔法少女」が、まさに岬塔子ちゃんだった。 三十メートル離れたら爆発、その条件下に置かれた。負けるのは簡単である。その場に立ち竦み、彼女が走り去るのを黙って見届けるだけで完遂する。にも関わらずそれをしなかったのは、ひょっとしたら私は最初から生きると決めていたからかもしれない。 そこに複雑な理屈はない。 ただ単純に嬉しかったのである。 古川あけびから必要とされたことが。 それが彼女の都合に過ぎないとしても。 嬉しいという感情は痛みではない。ゆえに消えない。モチベーションがプラスに傾いた。それだけの話である。 後付けで蛇足するならば、日本中を巻き込む戦争を起こしてしまう程に何か困っているらしい古川あけびを助けたいと思ったのも決して嘘ではない。 「塔子ちゃんを倒したのはその意思表明と受け取るけど、問題ないかい? ……問題ない。オーケー、じゃあ恒例の質問タイムといこうか」 魔法少女を一人倒すごとに質問一つ。三度目ともなると流石に慣れたもので、私も質問の内容を昨日の内に考えておいた。 「魔法って何ですか?」 「おっと、今までとは切り込み方が違うねぇ」 魔法。当たり前のように使う人間はそこらにいるのだが、それを理解するのには圧倒的にエクスキューズが足りな過ぎる。現在知られていることは、二十歳以下の女性の一部のみが持っているというただその統計結果だけだ。魔法が一体どのように生まれ、どのようにそのユーザー数を拡大したのか。それがこの度の戦争にも関係するのではないだろうか。 「実にいい質問だ。それを訊く相手は私しかいないだろう、ってぐらいにジャストミート。何せ、この世で一番最初の魔法少女はこの私、古川あけびなんだからね。まぁ、私が生まれた時代に魔法なんて言葉はなかったけど」 千二百八十歳という年齢から考えて、それくらいは予測の範囲内というか選択肢の一つとしてあり得ると思っていたが。 しかし、彼女の千二百八十歳という長寿が魔法に起因していたとして、気になることはある。彼女は外見上の年齢が十代前半。具体的な数字なら十二歳前後に見える。となると何か『長寿』の魔法を使ったのはそれ以前ということになる。そうなると今年が西暦二千十三年なので、古川あけびという魔法少女の誕生は九世紀くらい。翻って、最近確認されるようになった総勢一千人の魔法少女。そちらはその全員が二十歳以下。つまり誕生したのはどう贔屓目に見たところで二十世紀。その間、歴史的に見ても魔法少女やその類は確認されていないのだ。 一人目の魔法少女の誕生から、二人目以降が誕生するまでに十世紀以上の間隔がある。 長すぎじゃなかろうか。 「それは簡単な話でね、魔法少女っていうのは自然には生まれないんだ」 なぜそんなことがわかるのだろう。 「だって魔法少女を作ったのは私だから」 …………。 「私が生まれつき所持していた最初の魔法、なんだかわかるかい? 『魔法を作る魔法』さ。『新規親(イースターエッグ)』って最近名付けたんだけどね。まぁ、若輩の私には過ぎたるツールだったよ」 魔法を作る魔法。 彼女がただの子供でしかない段階で使ったのだとしたら、確かにそれはオーバーテクノロジー。強すぎる力は武器どころか防具にすらならず、赤子に核爆弾の発射ボタンを渡すのと同じように行き着く末は単なる危険。想像しやすい理屈ではある。 問題なのは、それを発言したときの彼女の表情。 憂い。 翳り。 そんな暗いものが見え隠れしていたような。 「そして二十年くらい前だったかな、『魔法を付与する魔法』でまだ母親の胎内にいるような赤ちゃんや物心つく前の子供達に魔法をあげたんだ。だから今は魔法に目覚めるのは二十歳以下、なんて言われてるけど二十歳過ぎたら魔法が使えなくなるとかそんなことはないよ」 魔法に目覚める年齢はばらつきがあるようだが、それが「予め与えられていた魔法にいつ気付くか」というタイミングの問題だとするならば、二十歳を過ぎてから初めて魔法の存在に気付くことがあってもおかしくなさそうだ。現段階で一番遅く気付いたのが二十歳の魔法少女だったのだろう。 「つまり魔法の正体ってのはそれさ。今のとこオリジナルは私一人で、他は全部劣化コピー。今言えるのはそれくらいかな」 質問タイムはこれで終了ということだろう。 彼女はベッドから立ち上がり、一旦去るような仕草を見せて私に背を向けたものの、「あぁ、そうそう」と何か思い出した様子でくるりと振り返った。 「戦争が始まって大分経ったわけだけど、今この瞬間生き延びている魔法少女の数は、魔法少女じゃない葉色ちゃんを含めて七人だ」 「!」 その報せを聞いて驚く。 千人から七人。たった九日の間に九百九十三人もの魔法少女が間引かれたのだと思うと、さらに言うならその洗練された人数の内に私が入っているのだと思うと、中々に複雑な心持ちである。まぁ私が殺した魔法少女はたった三人なので、他の六人と実力が伯仲しているかと言われれば正直自信に欠けるが。 「かなりハイペースだよね。でも、それは原因があってさ。葉色ちゃんは今朝からニュース見てないんでしょ? とんでもないこと起こってるよ」 彼女は部屋に据え置かれている小型テレビを指差す。すると魔法の効果なのか、ひとりでに電源がついた。主電源のボタンを押す手間くらい惜しむ必要もないだろうに。 チャンネルはNHK。画面のなかの女性ニュースキャスターがちらりと手元に視線を落とし、すぐに顔を上げて言った。 『関東地方を除く本州、北海道、九州、四国並びにその他の諸島が、本日付けでアメリカ合衆国の領土となることが決定したと発表されました』 10 あの後、古川あけびの「一緒にもう一眠りする?」という素敵過ぎる勧誘を丁重に却下し、彼女が(窓から)去っていくのを見送った。 日本が関東地方のみになったらしい。 古川あけび曰く、魔法少女の分布は人口密度ではなく土地面積あたりに準拠しているらしく、関東地方のみに限定された現在となっては元々の九割以上の魔法少女が日本から姿を消したということになるようだ。さらに連日の勝ち抜きトーナメント的な戦いも相まって、魔法少女の人口は激減。 そりゃあ千人が七人にもなるだろう。 さて、小難しい話を聞いていたらすっかり忘れていたがお腹が空いているんだった。私の部屋は二階にあるので、リビングに行くために階段を下る。 ちなみに私の親は、私が自分の能力を自覚した頃から家に寄り付かなくなった。 私から話したわけではないので明らかではないが、きっと両親は薄々感付いていたのだろう。 自分達が生み出した子供の異常性に。 扶養義務を放棄した彼らを親失格と詰るのは容易い。大人失格という雑言すらもある程度正当性を持つだろう。 ただし人間失格とは表現できない。 なぜなら異端を遠ざけ異様を忌避する彼らの姿は――人間生物としては驚く程に正しい。 正し過ぎる。 君子は危うきに近寄らない。 そんな彼らの選択を私は妥当と判じたし、彼らとしても少なくとも産み落とした瞬間までは愛していたであろう私を半ば捨てるという行動はそれなりに辛い決意の末にあったと思う。 ならば等しく痛み分け。 生活費は毎月口座に振り込まれるので問題ない。双方の需要供給は零和である。 階段を下り切り、廊下を渡ってリビングへと続くドアの前に立つ。木製の板の一部に磨りガラスが嵌め込まれたような、どこにでもある扉だ。私はいつものようにドアノブを捻り、押し開けて部屋に入った。 そこには。 両親はおろか住んでいる私ですら必要な時にしか行かないそこには。 人がいた。 不法侵入ではない、私の顔見知りの人物だったことは幾らか私を安心させたが、かといって仲間意識を共有し諸手を挙げて再会を喜ぶような友人でもなく、緊張を解くには至らない。 「お姉ちゃん……」 私の呟きとも呼び掛けとも取れるような言葉を受け、リビングの中央のソファに我が物顔で陣取っていた彼女。 私の実姉。蟻木絢葉(ありきあやは)(ありきあやは)は言った。 「えぇ、お姉ちゃんよ我が妹」 会うのは五年ぶりになる。姉、といっても年齢は二歳しか変わらないため、未だティーンエイジ。そこらの世代にとって五年とは非常に大きな幅を占めるブランクではあるだろうが。 五年前の私から見た彼女の印象――つまり、横柄、厚顔、二枚舌。三拍子揃った変人という印象。 その性格は今も変化していないようで、相も変わらず不遜に胸を反らしていた。 「お腹が空いたわ。何か作ってくれるかしら」 当然といった態度でふてぶてしくも要求してくる。元々何か作るつもりでリビングに下りてきていたのだから、どうせ一人前も二人前も大して変わらない、それくらいはどうということもないが。 私はリビングとほぼ一体化しているキッチンに立ち、冷蔵庫を開いた。簡単にチャーハンなどでいいだろうか。少々簡単すぎるきらいはあるが、そもそも血縁関係にある相手に対し過剰に気を遣うのもおかしな話だ。 十五分程かけて(あまり手際がいい方ではない)チャーハンを作り終える。テーブルに運び、姉と向かい合う位置に座った。 彼女はスプーンでそれを口に運び、一体どんな心ない感想が飛び出すかと思いきや、一言。 「おいしいわ」 忘れていた。彼女の性格、横柄、厚顔、二枚舌に一つ付け加えるならば、強かであるということ。毒舌家でないどころか自分の嫌味な性格をはっきり自覚した上で、敢えてこちらを褒めるようなことを言ってギャップを作り出すのである。昔からそうやって異性をたらしこんでいた。五年前家から出ていったのだって、どこぞの男と駈け落ちしたとかしないとか。 いや、あるいは彼女のギャップは同性までもを魅せるのかもしれない。証拠に、私は姉にあれ程苦手意識を抱いていたにも関わらず、料理を褒められたぐらいで純粋に嬉しいと思ってしまっているのだった。 「しかし我が妹ながら本当に喋らない奴ね、あんた。しけた目しちゃってもう。あたしが家を出たのも、あんたがあんまりにも辛気臭いからだわ」 一切の言葉を発することなく食事を終え、食器を洗おうと立ち上がった私に向かって言った。台詞の後半は彼女お得意の二枚舌にしても、私の目がしけていることに関しては反駁の仕様もない。辛気臭いか否かは議論の別れる所だろう。いや、誰が議論するのかという話だが。 「せっかく久々に帰ってきたんだから、あんたの声くらい聞きたいものだわ」 自分から家を出ておいて虫のいいことを言う。まぁ彼女が何の為に帰ってきたのか不明だが、言ったところで齢十八の小娘。五年に渡る家出の間に思うことは色々あっただろう。それを慮れば案外私の声を聞きたいというのは本音かもしれない。 「まぁ、いいわ。ちょっとあんた、私に付き合いなさい」 実妹に対する唐突な告白、ではないだろう。私の姉とてそんなアブノーマルな性癖は持ち合わせていない筈だ。とすると何らかの行動に関しての同伴を命令しているという解釈が妥当である可能性が高い。いや高いどころじゃない、百パーセントだ。 ならば益々もってわからない。私の知る姉は、意味もなく人に阿るような真似は間違ってもしない。彼女がしようとする何かに私を付き合わせたところで、一体彼女にどのようなメリットが生じるというのか。それとも五年という月日が彼女の中にセンチメンタルな感情を芽生えさせたとでも言うのだろうか。 先刻から連発される「彼女らしくない」発言。それらは何らかの思惑に裏打ちされているのか。はたまた単に彼女が昔と変わったというだけなのか。 どちらにしても現時点で私に残された選択肢は「従う」のみらしかった。 姉が言うことには「関東に戻ってくるのは久しぶりだから、東京観光がしたいわ」とのことだった。今となっては関東と他の地方を行き来するのにパスポートが必要になっているので、昨日の内に戻ってきたのは幸運な偶然だったらしい。 最初に行ったのは渋谷にある塔のようなビジュアルの建物。ファッションに関する様々なアイテムを置く店舗が犇めいていた。が、私はその手の文化には疎いので興味もなければ特に欲しいものなどもない。数万単位で次々と衣服を購入する姉を斜め後ろから眺めるのみだった。 姉「あんたもいい歳なんだからお洒落くらいしなさいよね」 私「センスないし……」 姉「確かにそんな泥とヘドロの混合物みたいな目しといて服だけ可愛くてもドン引きよね。あたしが似合うの選んであげるわ」 私「ヒョウ柄はちょっと……」 みたいなやり取りがあったりなかったり。ちなみに聞いた話によるとその時提示された服の柄はヒョウ柄ではなく虎柄迷彩、つまりパンサーではなくタイガーだったのだが、どちらにせよ勘弁願いたかった。 戦利品で膨らんだ紙袋合計三つを私に持たせ、次に向かったのは台東区の浅草寺。『雷門』と刻印された提灯が提げられているのを見て、 「大きいわ」 と神妙に呟く。おのぼりさんでもあるまいに。それを尻目に私は人形焼きを買うものの、姉に遠慮なくかぶりつかれて半分程持っていかれた。 訪ねたそこは人の往来が激しく、つまりそれは関東以外が日本でなくなったという異常事態においても人々は呑気にそれぞれの日曜日を謳歌しているということに他ならない。何だか報われない心持ちだった。いや、私がこの状況を作ったわけでもなければ日本中が大パニックに陥るのを期待していたわけでもないのだけれど。拍子抜けというか空回りというか、そんな感情。人々の淡泊な反応は、琵琶湖旱魃や瀬戸大橋陥落といった現象の連続による慣れや麻痺から生じているのかもしれないが、どの道『魔法』なんて超越的な概念にだってすぐ適応できてしまうことの証明である。 報われない。 魔法の使い甲斐がない。 姉「視力検査のときに見るC字型の輪って、ランドルト環って言うらしいわよ」 私「いや、別に……」 そんな応酬も挟みつつ。 日も沈んでしまった頃合いだが、「東京湾が見たいわ」という彼女たっての希望により、私たちは東京の沿岸部へと移動した。特に観光地でもない、ただ海に面しているだけの場所である。辺りには街灯もなく、唯一の明かりといえば月光くらいだった。 コンクリートで固められた足場が湾に出っ張るようにして作られている。船着き場としての役割もあるのかもしれない。私は姉に先導されるままにそこへ行った。足場の淵には膝まで程の高さで鎖が張られているが、その頼りない防衛ラインの内側からでも少し前傾すれば海面に月明かりが反射しててらてらと光っているのが見える。足場から海面までの落差は案外大きい。今立っているのは海抜二メートルくらいの高さだろうか。 正直なところ、私は耐えがたい程の疲労を感じていた。午前中あれだけ寝たというのに。やはり体力がないのが原因か。それとも連日の魔法少女との戦いがたたったか。実際はそのどちらもだろうし、姉の観光に付き添うのがハードなものだったということも手伝っていると思う。 姉は出っ張った足場の先の方に歩んでいき、張られた鎖すらも跨いでもし踏み外せばダイビング確定というところで停止する。そして夜闇と水平線の境目を探しているかのように目を細めて海の遠くの方を見ながら言った。 「暗くてよく見えないわ」 自然現象に文句を言う。わざわざここまで私を連れて来ておいて、デリカシーとかないのだろうか。いや、ないわけではないのだろう。ただ私の前では放棄しているだけだ。 私は疲労からその場に座り込みたい衝動に駆られたが、道に座れば服が汚れるという当然の常識がそれを押し留めた。 しかし私、いささか疲れすぎではないか? 先程はそれらしい理屈をつけて納得したわけだが、今までの経験則からすれば今日の私はどう考えたっておかしい。運動量と疲弊度合いがまるで釣り合わない。思考を疲労が阻害しているような感覚すらある。うまく頭が回らない。 「あたし、実は魔法少女なのよ」 ――え、あー、いや、驚きだ。驚いている。驚いているのに。 反応速度が圧倒的に遅い。 どうした、私は。 姉が実は魔法少女だった? もしかしたらそうかもしれないとは思っていた。魔法少女戦争が始まった直後に関東に帰ってくるという時期の一致。私に優しい態度というか実家を懐かしむような態度を取ったのは、私を油断させて寝首を掻くためだろうか? 魔法少女は古川あけびの指令に則って、他の魔法少女を排除しようとしている筈だ。そう考えるのが自然だろう。 逃げなきゃ。 ずるずると足を引きずるようになってしまっているのは故意ではない。体が重く、頭が重いのだ。 「あー無駄無駄。既にあんたはあたしの罠にかかってるわ。蜘蛛の巣に囚われた蝶さながらにね」 高圧的な声色もそのままに、勝ち誇ったような台詞を吐いた。 実の妹を騙すとは、随分と外道な真似をしてくれる。 しかし私の心は痛まない。 前触れなく久しぶりに帰省してきた実姉に、作ったチャーハンをおいしいと褒められて、声を聞きたいのにとか文句を言われて、観光に付き合ってほしいと頼まれて、渋谷で五年ぶりとは思えない仲良さげな会話を交わしながらショッピングをして、浅草寺を二人で見て間接キスが嫌とかお互い微塵も思わないで人形焼きを食べて食べられて、東京湾が見たいと誘われて。 それら全てが本当は私を殺すためだったと知ったところで。 私の心は痛まない。 痛覚がないのが私のアドバンテージで、 ディスアドバンテージだから。 私はついに前のめりになってその場に倒れこんでしまう。勿論倒れたくて倒れたのではなく、極限まで乳酸が溜まったふくらはぎや膝が自分自身の体重さえ支えられなくなり、為す術なく崩れ落ちるように倒れてしまったのだ。もはや座るのが汚いとかそんな次元じゃない。道端に俯せという姿勢だ。 彼女はそんな私の真横にしゃがむ。後頭部に視線を感じた。 「あたしの魔法はね、『荷物役(ロードローラー)』っていうのよ。誰かの足を引っ張る魔法。今日一日も一緒に観光すれば、あんたは普通のときの数十倍は疲れている筈だわ。常に重荷を抱えながら歩いているようなものよ。今はもう動くこともままならないと思うわ」 必死に立ち上がろうとするものの、私の背中に彼女の手が置かれているというただそれだけで、その課題の難易度は跳ね上がる。 彼女は私が動くのもままならないだろうと推測したが、それは一般人ならばの話。私の場合、疲労は痛みではないので無視するというわけにはいかないにしても、『疲れた状態で尚活動する』という行為に伴う苦痛は消すことが可能だ。つまり私はいくら疲れていようが、後々の自分の身体を顧みなければ立ち上がって歩き回るくらいなら余裕綽々にできる。しかし疲労により私の持つフィジカル面のステータスは軒並み底下げされているので、彼女に背中を押さえられている今は立ち上がれないというロジックである。 しかしそんな風に冷静を装って解説してみても、現状は何一つ好転しない。 彼女が私の背に添えているのを手からナイフに切り替えたならば、私は普通に死ぬ。生殺与奪の権は完全に相手が握っているのである。 「あたしの魔法はこれだけじゃなくてね。いや、持っている魔法は掛け値なしに足を引っ張るというこれ一つだけど、発現効果にはバリエーションがあるわ。例えばね。あたしの魔法は、物理的に足を引っ張ることもできるのよ」 次の瞬間、私の体は俯せのまま海の方向へと動き出した。 一発芸、俯せムーンウォーク。というわけでは勿論無く、私は右足を引っ張られているのだった。文字通り、何の比喩表現も慣用表現も含まずに。 まるで見えない糸を右足に括り付けられ、それを誰かが手繰り寄せているような。 引く力はそれ程強いわけでもない。それこそ、こんな疲れきったコンディションでなければ問題にならないくらいに。しかしそれは逆説的に、今の私の削られた体力では太刀打ちできないことを意味する。 引っ張られる先は東京湾。このままだと落ちる――否。落ちるどころでは済まない。 海の中でさらに海底の方へ足を引っ張られたらどうなる? 窒息する。 溺死する。 水死体になる。 土左衛門とも言う。 とにかく笑えない事態は免れない。 ざらついた地面に爪を立てて抵抗を試みるも、その程度では止まらない。そのまま引き摺られ、半身が足場から空中に出てしまう。私は張られている鎖に腕を通し、反対側の手で手首を掴んだ。腕でリングを作るような感じだ。これで一時的には海への移動を止めることが出来る。 足を引っ張る力は未だ消えない。鎖につかまって耐えているので、体が横向きに真っ直ぐになって浮いたまま静止するという通常ならありえない体勢だ。 「その様子だと海に落ちるのも時間の問題だわね。直接手を下すなんてあたしの肌には合わないから、これでさよなら」 彼女はくるりと振り返る。どうやら身動きの取れない私を放置してこの場から去るようだ。 直接手を下すなんて肌に合わない。 それはまるで、直接誰かを殺したことがあるかのような物言いである――なんて、ただの深読みかもしれないが。 彼女はこちらを一瞥し、最後通牒として言った。 「ばいばい我が妹。愛していたわ」 かつかつと響くヒールの足音が段々と遠ざかっていった。 さて、彼女にとっての誤算は痛覚がないという私の特性である。疲労が肉体が活動できない限界まで溜まってしまえばどうしようもないが、そこに至るまでの間ならば普通より全然動ける。つまり余力は残っている。ただしこの足を引っ張られているという状況を無理矢理ごり押しで突破できる程ではない。まとめると、足にかかる引力に逆らいこの鎖に掴まって耐えていられる限られた時間の間に、その引力自体をクリアすることができなければ死ぬ。 さぁどうしようか……なんて勿体ぶってみたところで、実は先程咄嗟に思いついていた策がある。余りにシンプルすぎて実行するのを躊躇っていただけだ。しかし私の体力が切れるタイムリミットも迫っている。それまでに代替案を思いつくことはきっとないだろう。やるしかない。 その策とは、つまりはトカゲの尻尾切り。 トカゲが何かしらの生命の危機に瀕した際、自身の尻尾を切り離し逃げるという荒技。小さな犠牲で大きな被害を回避するのである。ここで留意すべきは、一度尻尾を切ってしまえば後に生えてくる二本目の尻尾は実はまるで役に立たないということ。骨の構造自体が単純になるので意思のままに動かないし、尻尾としての役割は殆ど失っていると言って過言ではない。 よって得られる教訓とは、世の中には取り返しのつかない犠牲を払わなければならない瞬間があるということ。 彼女の魔法が『足を引っ張る』ということなら。 その『足』自体がなくなったら一体どうなる? 私は鎖に回している腕を掴んでいた方の手を外し、ポケットへと伸ばす。中に入っているのはリップクリーム――に擬態しているが、その正体はインスタント風化軟膏。 古川あけびからの貰い物。 物体の経年変化を促進する薬。 片手に握りこんでキャップを外し、またも手を伸ばす。 引っ張られているのは右足のみ。伸ばした手で、右足首の周りをぐるっと一周するように風化軟膏を塗った。 何年もの、何世紀もの時間が圧縮された数秒が、私の右足首には流れている。 肉体がぐずぐずに腐り始める。 神経や細胞が次々に老化・崩壊する。 強度を失い極端に脆くなった私の足首は、しかしそれでも引っ張られ続ける。 すなわち。 右足が取れた。 突然に足が引っ張られる力から解放され、鎖に掴まっている箇所を支点に重力に従って振り子のように振れ、切り立つコンクリートに強かに体を打ち付けた。その体勢で左足を思いっきり持ち上げて、コンクリートの足場の上面に引っ掛ける。そしてぐっと力を込めて体を持ち上げた。ごろりと半回転するような感じで何とか岸に上がることができた。 右足を切り離すのに至るまでの素早い判断が功を奏したのだろう、姉の後ろ姿はそう遠くない場所に発見できた。 しかし片足を失った状態で追い付く術はない。もしあちらが私を認識すれば、残った左足を引っ張られることになるのだろう。さすがに両足は無くしたくない。まぁ既に五体満足ではないという時点で、片足だろうが両足だろうがそんなのは所詮気分の問題なのだけれど。 地面に仰向けに寝転がっている状態から、勢いを付けて回転することにより左足だけでバランスを取りながら立ち上がる。 ここから先は運任せだ。 私は決して運動神経がいい人間ではない。野球でピッチャーを務めた経験はおろか、ボールを手にした回数さえも数える程しかない。 だから、ビギナーズラックに賭ける。 私は手に持ったままのインスタント風化軟膏を、大きく腕を振りかぶって投げ付ける。 投げた後に多少体勢を崩して、けんけんで数歩よろめいた。 しかし、私の手を離れたそれは。 大した肩力もないことが丸分かりな、山なりもいいところだったけれど。 自分でも予想した以上に綺麗な放物線を描いて。 蟻木絢葉に直撃した。 彼女はこちらを振り向く。当然だ、背後から突然正体不明の飛来物に襲われれば誰だって振り向こうと思うに決まっている。そして、私の姿を視認してようやく気付くだろう。 し損じた、と。 そこから先は、まるで早回しのビデオテープでも見ているかのような。彼女の肌が徐々に乾燥し皺が増えているのが遠目にもはっきりと確認できる。髪が白く染まり始め、全てが白髪になれば今度はどんどん抜けていく。背中が曲がっていくのも手伝って、身長は凄まじいスピードで縮む。驚きのせいか瞳孔が開いて、虹彩は死んだ魚のように白く濁っていく。 要するに、際限なく老けていくのだった。 妹の私を、愛していたって? そうかい。 「私はそうでもなかったよ、お姉ちゃん」 結局その言葉が通じたかはわからない。 老人化だけには留まらず、水分という水分が抜け切って体積の縮小したミイラ状になり、さらにその体は砂と化して次々と風に攫われていく。 五分も経てば、そこには何も残らなかった。 かくして蟻木絢葉はこの世から消え、残る魔法少女は私を含めたった六人―― 「いや、葉色ちゃん。それは違うよ」 その――声。 疲労で朦朧とした意識。視界がぼやけ、霞んでいく最中に何とか捉えた一人の小さな女の子の人影。 古川、あけび。 「日本に魔法少女はもう一人として残っていない。この戦争の最終的な優勝者は、君だ」 11 『人心事故(ハートフルハート)』郁野都(いくのみやこ)。『相死相遭(メタトラベル)』刈谷(かりや)カガリ。 埼玉県川越市にて対戦、引き分け。両者死亡。 『全身逆鱗(ホットペッパー)』多々良文(たたらふみ)。『門前自摸(ロイヤルホスト)』函南小波(かんなみこなみ)。 神奈川県鎌倉市にて対戦、引き分け。両者死亡。 『纏粘水(アクアトピア)』先崎早紀(さきざきさき)。 東京都文京区にて自殺。 中間発表として、残る魔法少女の数は七人と告げられたのが、昨日の昼過ぎ。そのときは、前述の五名に加えて私と私の姉が生存していたために総勢七名だったようだ。 しかしその内私を除く六人が落命。つまり、この魔法少女たちによる戦争は、私の一人勝ちという結果で終結した。 とのこと。 あくまで古川あけびに聞いた話だ。 まぁ、彼女が私に向かって嘘をつく理由も特にない。信用に足るとは思うが。 昨夜蟻木絢葉との戦いを終え、疲れの余り私はその場で半ば失神するように眠り込んだらしい。古川あけびは、そんな私をここまで連れてきたらしい。 ここ、とはつまり東京スカイツリーである。 二千十二年にグランドオープンした、東京タワーに代わる日本の新たなシンボルとしての電波塔。 そのてっぺん辺り、ただし展望台などのように対観光客用に整備されている様子は全くなく、明らかに一般には開放されていないであろう場所。鉄骨が露になっていたり風雨にも晒されっぱなし、フェンスさえも取り付けられていないところを見ると、点検などでも直接は立ち入らないような、そもそも足場という前提で作られていない可能性すらある。そんな場所。そこで今朝私は目が覚めた。 痛みを感じないので筋肉痛などというものとは無縁だが、どうにも身体を動かしたときにしこりのような違和感を覚える。それは姉の魔法で疲労困憊させられたからというだけではなく、一晩金属の硬い床の上で寝ていたことも影響していたのかもしれない。 ちなみに右足は再生していた。古川あけびによるサービスらしい。あのまま放置すれば、断面から壊死が進行するのは避けられなかっただろうから、そこは素直にありがたい。 既に古川あけびからは軽く説明を受けた後だ。私が優勝してしまった経緯については。 「さて、一段落ついたわけだけど……なんだろうね、祭りの後っていうか、テーマパークの帰り道っていうか。脱力感? 虚脱感? どうにもしょぼいって感じが拭えないね」 そんなことを独白する彼女は、柵も取り付けられていないにも関わらず、落ちる限界ギリギリのところに立って街を見下ろしている。高所が怖いとかそんな感情はないのだろうか。東京スカイツリーの高さは確か六百三十四メートルだった筈だ。ならば今私と彼女がいる場所はどう控えめに見ても地上五百メートルは超えているのだが。 「じゃあ、葉色ちゃん。とにかく優勝おめでとう。それ以外に私から言うことはもう特にないな。頼みたいことが一つあるだけだ。おっと、その前に恒例のアレいっとこうか」 恒例のアレ、とは質問タイムのことだろう。魔法少女一人を倒すごとに一つずつ。 そんな慣わしも、きっとこれが最後。 「戦争を勝ち抜く人を必要とする、理由は」 「そう来るだろうと思ってたよ」 彼女は私に背を向けていた状態から、私の方に向き直って訥々と語り始める。 「私が千二百八十年生きていることは知ってるよね。なぜだかわかるかい? 別に長く生きることを望んだわけじゃないんだ。ただ私は、時を征服しただけさ。出来心、っていうのかな。『魔法を作る魔法』なんて、所詮私はそんな大それたものを使える器じゃなかったんだ」 器。 強い力を行使するには、それに見合った器が必要だ。 赤子に核のスイッチを持たせるのが危険であるように。 「今私が君に見せているこの姿は、私が十二歳だった頃のものだ。肉体の成長をこの年齢で停めているから、死なないし老けない。これは一種の枷、というかセーブみたいなものでね。何せ私は強すぎるんだ。純粋に最強なんだ。魔法をいくらでも量産できる以上、理屈屁理屈こまねいていくらでも生き延びることができるようになってしまったんだよ。そして、強いということは弱い。私は死ねなくなってしまった」 死ねなく――なる。 そのフレーズで思い出したのは、今は亡きアーティスト。蓮見黒栖。指を犠牲に生き返ることが可能で、その指を何本でも生やすことができる魔法の持ち主。私が彼女と対峙したときには、強制的に「死にたい」と思わせることにより魔法の発動を阻止し、死に至らしめた。 「私は、生きることに疲れた」 疲れた。 「思春期の子供なら誰でも思うようなことだ。陳腐な響きだとは自分でもわかってるんだけどね……。それでも、どうしたって、私は生きることに疲れた。長く生き過ぎた」 生き過ぎた。 「勘違いしないで欲しいのは、私はいつでも好きなときに死ぬことができるっていうこと。魔法は禅問答じゃないし、『魔法を無効にする魔法』だって私は作れる。というか作った。でもね、それを発動することができない。勇気がない。私は死にたいという以上に、死にたくないんだ」 死にたいという気持ちと死にたくない気持ちが共存するのは決して矛盾しない。 彼女は呟くようにそう続けたが、私にはそれがどこか言い訳じみて聞こえた。 「そういう意味じゃ、いついかなるときにも死ぬことができないとも言える。私は強いけど弱いから、この世にたっぷり未練があるし、死んで全てを失うことが怖い。だから今日まで生きてるんだ。そんなくだらない、惰性みたいな理由で」 彼女は軽く俯き、首を横にふるふると振った。 「痛みを知らない葉色ちゃんには理解しがたいだろうね。でも、開き直るようで悪いけど、私はそういう思考回路の愚かしい人間だ。だから、この戦争を起こした」 それは脈絡のないようで、しかし一方で明快でもあった。 「私はどう頑張っても自殺できない以上、誰かに殺してもらおうってね。でも、そこらの有象無象に私を殺すことはできない。きっと私は抵抗するから。死にたいと思ってるのに、死に全力で抗うだろうから。だから、殺されても仕方ないって私が納得できる相手を選抜しようと思ったんだ。それがつまり、君さ」 古川あけびを、殺し得る人間。 古川あけびが、殺され得る人間。 岬塔子と戦ったときのことを思い出す。あなたはどうして戦っているのか? 私が彼女にそう訊いたときの返答。 古川あけびを、殺すためなんだから。 それは、古川あけび自身が望んだことだった。他の魔法少女たちにも一様にその目的意識が埋め込まれていたのだ。魔法少女でないゆえに私は知らなかっただけ。 「葉色ちゃん。私が君に頼みたいことっていうのはもう察しがついただろうね」 ――私を、殺してほしいんだ。 「君になら私は……殺されても、構わない」 彼女はそう言って目を閉じた。 ここは地上五百メートル。何の障害もない。 私が彼女の身体を少し押すだけで全てが終わる。 彼女の死にたいという悲願が達成される。 日本中を巻き込む戦争の、真の終結。 身体を硬質化する彼女も。 指が生死を分かつ彼女も。 見たものを爆弾に変える彼女も。 他人の足を引っ張る彼女も。 その他会ったことのない彼女たちも。 死にたくて死ねない彼女だって。 死ぬ。 もう、いい加減終わらせよう。 物語はデッドエンドでいい。 さよなら。 私も彼女にならって一瞬だけ目を閉じ。 開けた。 そして彼女の首の辺りを手で突き飛ばす。 そこから先は、スローモーションで見えるようだった。 彼女は後ろ向きに倒れ――しかしそこに空間はない。 両足とも地面から離れて、完全に空中に放り出された。 後はただ落ちていくのみだ。 と、その瞬間だった。 青空を流れる雲が静止した。 鳥も羽ばたいた姿勢で一時停止。 この高さからだと米粒程の大きさにしか見えない、東京の街中を走る車たちも止まる。 全てが――止まった中。 彼女、古川あけびは。 落ちている途中で空中に浮かんだまま。 こちらを見て、にこりと笑った。 「まずは葉色ちゃん。私を殺してくれてありがとうと言わせてほしい。それでね、すっかり忘れていたんだけど私も魔法少女の一人だったんだ。ついうっかりあの時は残り七人とか言ってたけど、冷静に考えれば残る魔法少女の数は私を含めて八人が正解だったわけだ。そうなるとさ。葉色ちゃんは私を殺したことで、新たに一人の魔法少女を倒したことになるよね。つまり、毎回恒例の質問タイムを設けないとアンフェアだ。ルールは守らないとね。そんなわけでこれが本当に最後の質問タイム……といいたいところだけど。恒例だからといって毎回同じことをやっているようでは駄目だというのが世の常だ。それじゃ始めよう。質問タイム最終回スペシャルと題して、君より千二百六十四年間だけ長く生きてる私から、人生の先輩としてアドバイスだ」 12 「ひょっとしたら、君としては私に『一緒に死んでくれ』と言われたかったんじゃないか。なーんて疑念を持ってしまうのは、ちょっと自意識過剰気味かな? 「君の持つ痛みを感じないという能力、のことなんだけれど。そもそも能力と表現するのが間違っていたんだ。体質、だとか特性、だとかそこらでやっと及第点。より正鵠を射た表現は、欠点だ。欠落だ。欠陥だ。人間が人間として生まれたならば、痛覚というのは誰しも持っているべきものなんだよ。痛覚を持っているからこそ、人の痛みがわかるからこそ、他人を思いやり慈しむことができるんだ。それを持たざる者のことを、人間失格と言わずして何と言う? 端的に言って、君は人間より劣っている存在なんだよ。 「君自身それには薄々どころかはっきりと気付いていたんだろう? そうじゃないと説明がつかないんだ。君のその、濁った瞳の説明がね。君は両親から不遇の扱いを受けているし、友達もいない。でも、それっておかしくないか? 君は確かに痛みを感じない人間失格だけど――人間失格であるというただそれだけで、周囲の人とわだかまりができるなんて。つまり、君は他人を自ら遠ざけていたんだろう? 戦争を勝ち抜いてくれなんて迷惑千万な私の願いをあっさり聞き入れてしまったあたりが、君の性格が良い証左さ。表情一つ変えず人を殺せることを除けばね。 「ネックになるのはまさにその『表情一つ変えず人を殺せる』っていう点さ。君は、それを除けなかったんだ。コンプレックスとも言えるかな。人より劣っている自分は人と接してはならない……そんなことを自分に強いていたんじゃないかな。違うかい? 最初に立ち返れば、だから君の目はそんなにも濁っている。自分は生きているべきではないんじゃないか。そんなことを考えながら、死んでいるように生きていたから。 「そんな君を、私が救ってあげよう。 「いや、救ってあげない、ともいえるけど。君にとって一番の解決策は死ぬことだろうからね。でも、それは私が許さない。私は君を、死なせてあげない。 「もう一度言うよ、葉色ちゃん。君は人間失格だ。人間として大切な能力である『痛覚』を持たない、選ばれざる存在だ。鬼のように冷血に残虐になり得る。それはとんでもないことだ。あってはならないことだ。 「でもね。 「人間失格であるくらいで、人間として大切な能力である『痛覚』を持たない選ばれざる存在であるくらいで、鬼のように冷血に残虐になり得るというくらいで、とんでもないくらいで、あってはならないくらいで。 「君が幸福になれないことの理由にはならない。 「君は望んでいいんだ。除いていいんだ。『痛みを感じる』というのは正当な権利で、確かに君はそれを持っていない。だからって卑屈になって腐ってる必要はないんだ。胸を張っていい。声を張っていい。友達を持っていい。親に顔向けしていい。人並みに笑っていい。人並みに悲しんでいい。人並みに喜んでいい。人並みに怒っていい。 「――君は幸せになっていい。 「それでも、なんだかんだ言ったけど、やっぱり君が世間に迎合するのは難しいと思う。人を殺すのはタブーだから。君は私を含めて既に五人の人間を葬っている。罪の意識に苛まれることはなくても、世間一般の常識に照らし合わせて引け目を感じるだろう。でも大丈夫。君がそうやって引け目を感じたら、大丈夫だ。二度と人を殺さないと今誓ってくれさえすれば。君はうまくやっていける筈なんだ。私がこんなことを要求するのもおかしな話だけど、君は、本当に、大丈夫だから。大丈夫な人間失格だから。 「でも、それでも、人生は辛いことばっかりだ。自分は大丈夫じゃないんじゃないかと不安になるときもあるかもしれない。そんなときは。私のことを思い出してほしい。 「私は君にとって最初の友達だ。君が君自身の人徳で、君自身の魅力で獲得した、一人目だ。 「繰り返しになるけど、私を殺してくれて本当にありがとう。君はこれからも生きるんだよ。生きて、幸せになるんだ。 「だから、お別れさ。 「君は大丈夫だよ。 「ばいばい。 13 後日談。 学校。授業と授業の間の十分休憩。 「友達、できねぇ……」 思わずボーイッシュ口調な呟きが漏れてしまうくらいに、うまくはいっていなかった。今更ながら、友達を作ることの難しさは想像以上だった。既に大半のクラスメイトが友達同士のコミュニティを築いてしまっているので、話しかけづらさはマックスなのである。 勿論中には私と同じように人との輪に馴染むことができない生徒も存在するものの、それはそれでまた別の意味で話しかけにくい。ぼっち同士でグループを組んでどうするのだ。 「蟻木さん」 背後から話しかけられ、ばっと凄まじい勢いで振り返ってしまった。考えていたことが考えていたことなので、突然話しかけられて過剰に驚いてしまったのだ。 私の名前を呼んだのは、ちょうど真後ろの席の女の子。自習か何かをしていたのか、あるいは次の授業で提出する宿題でもやっていたのか、机の上にはノートが広げられていた。そしてちょいちょい、と何やら下を指差している。どうやら、文房具系の小物類を落としてしまったようで、拾ってほしいと要求しているらしい。 私はかがんでそれを探す。足元に消しゴムが落ちていた。彼女の席からだと私の足が障害物となって取れない位置関係だったのだ。 「はい」 「ありがと」 そこで何かもう二言三言会話が続けば、私のコミュニケーション力にも成長が見えるのだけれど。生憎何一つとしてかける言葉は見つからず、話は途切れてしまう。 いやはや、本当に人間関係は難しいものだ。 ぱん、と両手で頬を挟むように叩いて自分に言い聞かせる。 「大丈夫だ」 その様子をおかしく思ったのだろうか、後ろの女子がくすっと笑ったように聞こえた。 私はちらっと後ろを伺うと、彼女は笑った表情のままこっちを見て言った。 「蟻木さん、ちょっと雰囲気変わった? なんか可愛い」 その発言に私は狼狽し、軽く挙動不審になる。がたっと机を揺らしてしまい、今度は私の消しゴムが床に落ちた。 完
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店名 apish Rita 電話番号 03-5464-9300 店舗住所 東京都渋谷区神宮前5-18-10 EXA SPACE 2-E 店舗までのアクセス 地下鉄表参道駅 徒歩5分/地下鉄明治神宮前駅 徒歩5分 営業時間のご案内 月水土/11 00~21 00(カット最終受付 20 00) 木/11 00~20 00(カット最終受付 19 00) 金/12 00~21 00(カット最終受付 20 00) 日祝/10 00~19 00(カット最終受付 18 00) 定休日 毎週火曜日 取り扱いクレジットカード 全てのカード可 カット価格 ¥6500~ スタイリスト数 5人 席数 8席 備考 夜19時以降も受付OK/ロング料金なし/ドライカット/デジタルパーマ/一人のスタイリストが仕上げまで担当/パーティーメイク・セット/ドリンクサービスあり/喫煙OK/カード支払いOK/男性スタッフが多い/女性スタッフが多い/お子さま同伴可 ▼表参道・青山エリアのその他の美容院 Nalu pu loa ohana to-and-fro PLACE IN THE SUN Le MUSE AKs CREATEUR Uchino INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 表参道店 maniatis PARIS 表参道本店 suburbia persereno OASIS pas de deux 表参道ヒルズ店 HAIR HORIBE BRILLIANT gokan OMOTESANDO sophia KINGDOM アリュウル Ausdruck 青山店 L arte Of HAIR表参道店 HAYATO NEW YORK CHERISH INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 本店 COR Tributo RENJISHI AOYAMA Flair HAIR DESIGN INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE TERRACE KURASHIGE JURER Spin 青山店 SPICE 青山店 elf ATELIER FAGOT momo PLACE IN THE SUN ON ing HAIR DIMENSION 1 BEACH INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山ガーデン店 hair Loops MINX青山店 BarL aura by HAIR DIMENSION eizo animus Innocent kind MASHU 表参道 EartH is art INTERNATIONAL HAIR CLINIC A・ONE 青山店 Angel gaff HAIR SALON nuance PLACE IN THE SUN WOOD allys etoile Luxe Belleza PeLOTON COCO CHIC AZURA COLORS S. VITA AOYAMA da-is YOKe BLANCO ELEGANTE Gaff 青山ベルコモンズ店 hearty AOYAMA Sugar Lani hair ohana drop キュール RMX jam MINGLE スターカットクラブ Natural AOYAMA Chic 表参道店 arca