約 6,940,210 件
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/228.html
ある歌に、こんな歌詞がある。 『なつやすみはやっぱり短い』。 日々移ろいゆく季節の中で、これほどにはじまる前に胸をときめかせ、終わってみれば短いと感じる季節は夏くらいのものだろう。 この話は、本来は重なることのない二つの世界の中で重なってしまった子供たち、その短い夏の物語。 オープニング・1<今日も今日とて -放浪の魔剣使い-> 月匣、と呼ばれる結界がある。 それは第八世界ファー・ジ・アースと呼ばれる世界においての非日常の象徴。 日常の世界を覆う世界結界に、非常識の存在が干渉を受けないようにするための個人用結界『月衣』を改良した、個人による一つの即席結界。 逆に言えば、持ち主(ルーラー)を中心とした一つの異界だ。 この世界において、これを使えるものは二つ存在する。 一つは人間でありながら、この世界の常識外の法則を身に纏う者。夜闇の魔法使い。ナイトウィザード。 いまひとつは、そもこの世界の法則より外れたもの。異界より来るもの。この世界を狙うもの。侵魔。エミュレイター。 月匣の内容は千差万別。何もない月匣もあれば、夏草の匂いに青い空と白い太陽と夏の世界が再現されているものもある。 これは個人の心理状態が多少なりと反映される結果であると言える。 しかし。侵魔の作った月匣は、必ず同じ一つの現象が存在する。それが、 ―――紅い月だ。 月門(ムーンゲート)をくぐり現れる彼らの月匣には、欠けることなき紅い月が昇る。 それはどこで月匣が展開されても変わらない。北極だろうが深海だろうが、果ては月面や宇宙空間であっても紅い月が浮かぶ。 そして、ここにも一つ。 紅い月の照らす月匣の中で、一つの闘いが終わろうとしていた。 月光に照らされ、その赤光を跳ね返す白刃。それをのどもとに突きつけられしゃがんでいる、金髪に紅い目、白いシンプルなフレアワンピースの少女。それがルーラーだ。 彼女は片腕を喪失しており、しかしその断面から血は出ていない。それこそが彼女が人間でないことの証左。 白刃を突きつけるのは、ボロボロの青年だった。服は汚れだらけ、顔には疲労の色がある。けれどそのまなざしだけはいっそ残酷なまでにまっすぐに侵魔を見据える。 ヘーゼル色の髪、ダークブラウンの瞳、だらしなくゆるんだ襟元、エンブレムのついたロングコートを羽織った東洋人。 彼の顔と名を知らぬウィザードはいまやないと言っていいだろう。その名は裏界帝国や他世界にも知れ渡っている。 柊蓮司(ひいらぎ・れんじ)。 相棒である赤い宝玉の魔剣を担い、輝明学園卒業後は各地を飛び回る生活を続けるフリーの魔剣使い。 ……最近は『ノラ魔剣使い』とか『二割魔王の小間使い、四割ロンギヌス、四割異世界旅行者なトラブル磁石』とか 『不幸学生改め不幸住所不定無職』とか酷いあだ名も増えたが。とりあえず彼の忙しさは変わらない。 ちょっと前まで実家に帰省しようとして東京は大田区桃月町にいた彼だが、その後世界の守護者によって捕獲。 神無月を狙って、富士山に封じ込められている100年に一度目覚めかける冥魔ヴォルカリーノの封印を解こうとする侵魔との攻防戦を浅間神社で繰り広げ、 最終的に目覚めた冥魔ヴォルカリーノを仲間達とともにぶち倒すことに成功した彼は、その地と仲間達とも別れを告げて今度こそ実家に帰ろうとした、その矢先。 悪意ある月匣に一人飲み込まれ、多数の雑魚を放ってくる侵魔相手に70時間ほどサバイバルゲリラ戦を繰り広げて根競べし、なんとか彼の勝利で幕を閉じようとしていた。 柊は、恐れを含んだ瞳で見返してくる侵魔に対してため息をつきながら言う。 「……ったく、時間だけ取らせやがって。数で攻めりゃなんとかなるとでも思ってたのか?あんまり人間ナメるなよ」 それに対して侵魔は奥歯を強くかみ締めただけ。この体勢からではできることそのものがほとんどないとも言えるが。 そして彼にはこれまで積み上げてきた数々のエミュレイターとの交戦経験がある。この状況でも油断することはありえない。 生命力を吸わせ、魔剣に青い輝きが通る。その間にタイムラグはない。彼らが同じ修羅場を幾度となく乗り越えたゆえにできる連携だった。 彼がとどめをさすために魔剣を握る手に力を込めた、その時。 ―――月匣が、大きく揺らいだ。 月匣とは先ほど記述した通り結界だ、地震なんて天災が起きるはずもない。 柊がその異変に対して周囲への警戒を強めた瞬間、自身への警戒が揺らいだことを感じ取った侵魔は後ろに駆け出した。 反応の一瞬遅れた柊は舌打ちして異変を後回しに相手との距離を詰めにかかる。だいぶ疲労しているとはいえ、ここまで追い詰めた侵魔を逃がす気は毛頭ない。 あと一歩で剣の間合いに取り込もうというところで、侵魔は振り向きざまに手のひらに虚空を生み出し柊に向けて放つ。 存在を司る虚属性の初等攻撃魔装、<ヴォーティカルショット>だ。そう大きなダメージにはならないが、柊が魔剣をもってその魔法を弾こうとした、その刹那。 柊の前方に、強力な空間の歪みが発生する。 ちょっと前の事件で虚属性―――空間や存在を統べる属性―――の魔法に対して、蝿の女王により軽いトラウマを与えられていた彼は思わず足を止める。 そもそも、月匣の中で空間の歪みが発生することは稀だがある。柊自身も少しばかり経験があるため、その記憶がオーバーラップした。 あの時は魔剣だけが空間のゆがみの先に飲み込まれ、しばらく「使い」扱いされたということもあったりした。ちょっと嫌な懐かしい思い出である。 そして、その判断が運命の分岐点だった。 柊に向けて放たれた虚属性魔法と、彼の前方に発生した空間の歪み。それはいっそ見事なまでにかちあってしまったのだ。 虚属性魔法は空間や存在に干渉するもの。それが発生した空間の歪みに妙な相互干渉を招き起こし―――結果、その歪みは暴走した。 一瞬針の先ほどのサイズに収縮する歪み。次の瞬間には次元爆発が月匣中を覆い、その圧力は月匣の存在限界を容易く突破する。 その爆発力は、すでに存在力の限界に極めて近かったルーラーの侵魔はもちろんのこと、至近距離にいた柊を巻き込み――― ―――月匣を破砕した後、収縮・消滅した次元の歪み。その後には何も残っていなかった。 柊蓮司は、この日を境にファー・ジ・アースから姿を消すことになる。 オープニング・2<任務中の出来事 -ファルコンブレード-> 「……なんで俺がゴミ捨て担当なんだ?体力なら加賀の奴の方が上だろうに……」 夜明けの秋葉原。 季節柄下がらない暑苦しい空気の中、よたよたとゴミ袋を両手に持ったウェイター姿の青年が、グチりつつ人通りのない道を歩いていた。 彼の着ている給仕服は、秋葉原の常連ならば皆知っているメイド喫茶「ゆにばーさる」のものだった。 やや短めで、ぴんぴんとハリネズミのように立っている黒髪。中肉中背。やる気のないだらけた表情の青年は、胸の紙製のバッチに平仮名で「はやと」と書いてある。 高崎隼人(たかさき・はやと)。 秋葉原のメイド喫茶「ゆにばーさる」のウェイターの一人であり、レネゲイドウィルスに侵され、オーヴァードとなって、UGNに育てられたUGチルドレンの一人。 UGN、正式名称『ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク』とは、18年前に存在の明らかとなった謎のウィルスであるレネゲイドウィルスと、 それの作用によって生まれた異能者・オーヴァードという存在を、通常の人々と共存していこうという思想の下に設立された団体である。 世間一般的には、レネゲイドウィルスのこともオーヴァードのこともいまだ知られていない。だからこそ、現状はレネゲイドがらみの厄介事をなんとかする組織でもある。 その「なんとかする」の状況上、ウィルスに感染した身寄りの無い子供達に能力の使い方を学ばせ、 UGNの組織構成員として組み込んだ存在―――それがUGチルドレンと呼ばれる存在である。 隼人はそのチルドレン出身であり、今はれっきとしたUGNのエージェントであるはずなのだが、この町でウェイターの仕事にいそしんでいた。 一応言っておくと、これも悲しいことに立派にUGNとしての仕事である。UGNアキハバラ支部、それこそがメイド喫茶『ゆにばーさる』なのであった。 なんでメイド喫茶が世界的規模の団体の支部なんだよっ!?というツッコミは日本支部のお偉いさんにしていただきたい。 ともあれ。早朝から店の仕事に狩りだされていた隼人はやる気なさげにゴミ捨て場に向かっていた。 ゴミ捨ての日の朝に出さないとカラスと猫と町内会がうるさいのである。近所づきあいは大切だ。 なお。隼人はゴミ捨てだからやる気が無いわけではなく、仕事全般にやる気が見られないのだと記しておく。基本的に人から指示されてやることにはやる気のない男である。 よっこらせ、とじじむさい声をかけてゴミを置き、踵を返したその瞬間だった。 背中を向けたゴミ置き場から凄まじい音がして、隼人は思わずそちらを振り返る。そこにあったのはゴミの山だけではなくなっていた。 ゴミの山。そして―――その中から天に向けて伸びる二本の足がはみ出ていた。 あまりの光景に、一瞬本気で呆気に取られる隼人。 それも無理からぬことだろう。結構な無理やムチャクチャには慣れているはずの彼でも、こんな状況ははじめてだった。 ともあれ、数々の奇妙な体験をしている彼も順応は早い。とにかくゴミか事件かを判断するためにもその足に手をかけて引っこ抜いてみる。 ……手をかける直前にこれで足だけだったらホラーだな、なんてちょっと考えて怖くなってしまったりもするが、スプラッタ自体は見慣れている。それも悲しい話だが。 とにかく引っこ抜いてみれば、それは足だけ―――なんてことはなく、ちゃんと胴体も頭もついた人間だった。 年のころは隼人と同じくらい。ちょっと身長が高めの男。特別奇妙な格好をしているわけでもないが、この「真夏」に薄手とはいえコート姿というのが妙といえば妙か。 やけにぼろぼろなのが気になって、よく観察してみるとその服のところどころには自然に擦り切れたというような穴ではないものが見つかった。 何かで突き刺したり、千切り取ったり、果ては不自然に消え去っているところまである。 そんな数々のコートの穴を見れば、隼人にもこの青年がまっとうに生きている類の―――日常の側の存在でないことが理解できる。 オーヴァード(どうるい)の可能性が高いな、と思ってから、支部長に連絡しないわけにはいかないと判断。その場で携帯を取り出し指示を仰ぐ。 その時だ。 倒れていた男が、隼人のエプロンのすそを掴む。 ちょっとホラーな展開に、慌ててうっかりモルフェウスの能力が暴走しかけた。近くのゴミ袋の山が砂に変わるのを横目に見つつ、隼人は男に問いかける。 「な、なんだよ……っ?」 その問いに、小さな声が返った。あまりに小さすぎて聞き取れないため、おそるおそるしゃがんでもう一度問いかける。 「―――もう一回。聞こえないからできるだけはっきりしゃべってくれ」 ホラー展開にちょっぴりビビりつつも、相手の言葉を聞き取ろうとする隼人。 もしもこれが最後の言葉になるのだったら、それを聞く人間は心して聞かなければならないと、彼は知っているからだ。 そして、もう一度同じ言葉が繰り返される。今度はちゃんと聞き取れた。 「……腹減った」 ……真相を知るとものすごく脱力してしまいそうだったが。 いっそここに捨てておいてやろうか、という思考が生まれるものの、携帯の先の上司と繋がってしまったためそうもいかない。 とにかく上司にはあやしい男を発見したこと、話が聞けそうなこと、ついでに腹を空かせていることを告げると、 彼女は詳しく事情を聞くのでマンションの部屋までつれて来い、との命令を下した。 時間は早朝。他のエージェントをたたき起こすのも忍びないので、隼人が背負ってくるように、とのお達しである。 面倒だなぁとか、置いてきたもう一人の店員―――加賀十也(かが・とおや)に後でキレられんの俺じゃね?とか憂鬱に思いつつ、 かといって言われたこと全てに反逆しなければ気がすまないような、『No』としか言わない男でもないためいやいやながらも男を背負う。 同じような体格の人間を背負うのはちょっぴり厳しいが、無理というほどでもない。 ぶつくさと文句を言いつつ、指定の場所に謎の腹ペコ男を連れて行く羽目になる隼人だった。 UGNのアキハバラ支部は一つマンションを貸切で所有している。 他の支部に飛ばされては戻る人間がいたり、また掻き入れ時には人員が倍近く膨れ上がったりと人の出入りが他の支部に比べ大変多いので、 いちいち住居空間をとり、把握するのが大変めんどくさいという理由から日本支部長がわざわざ買い与えたという経緯である。 そのアキハバラ支部のセーフハウス、その支部長の部屋に隼人はいた。呼び出されたのだから当然といえば当然だが。 とりあえず担いできた男を見るなり、支部長は一言。 「だいぶ汚れてるみたいなので洗ってきてください」 ……明け方に叩き起こされて大分ご立腹なようである。 ともあれ。 『なんだか準備よく用意されている隣の空き部屋のバスタブになみなみと水が張られているので、さっさと叩き込んでこい』とニコニコとした笑顔で言われ、 『ワカリマシタイッテマイリマス支部長サマ』としか答えられない立場(原因には性格も多分に影響しているが)の隼人が逆らえるはずもなく。 とりあえずは隣の部屋を開け、浴室に入り、一つ深呼吸。可哀相な気もするが、これも支部長命令だ。悪く思うな、と心の中で先に謝罪。 肩に担いでいた青年を、ぽいっと空中で半回転させながらバスタブに放り込む。大きな質量が沈んだことで大量の水が舞う。 制服姿のまま水をかぶるのはまずいとハヌマーンの能力をフルに使って浴室の扉を閉めて被害をシャットアウト。やけに所帯じみた能力の使い方である。 そうやって、一秒経過。二秒経過。三秒――― 「……ぶはぁっ!な、なんだっ!?なんで俺はいきなり水責めくらってんだっ!?アンゼロットの陰謀かっ!?」 「お、起きた」 「起きないと溺死するわっ!?」 なんか司の奴に雰囲気似てるなーこいつ、と隼人は思いながら見ていたが、まず聞かなければならないことを聞くことにした。 「でさ、お前誰だ?」 「いきなりそれかっ!?今水の中に放り込まれてる状況についてとか、ここがどこなのかとかこっちが聞きたいことは山ほどあるんだがっ!?」 「それについては俺じゃない奴が後で説明することになってる。とりあえず名前聞かないと話もできないからな」 ……ちなみに、これは先ほど支部長から授けられた質問法である。 交渉事の苦手な隼人に相手を怒らせかねないことをさせるわけなので、ある程度相手を丸め込む方法を教えておいた支部長であった。 <社会>の低い隼人であったものの、相手はさらに低かったのか、お、おうと呟いて答えた。 「俺の名前は柊蓮司。で、お前は?」 「高崎隼人だ。とりあえず体洗って出てきてくれ。状況の説明してくれる人のところにつれてくから」 ばたん。と浴室の戸を閉める隼人。 浴室はしばらく静かだったものの、ざぶざぶという音がし始める。 隼人はさっさと青年が出てきてくれることを祈った。野郎の風呂上がりを待つ趣味は彼にはない。 結局のところ隼人は男―――柊が出てくるまで、これは任務なんだから、と何度も何度も心の中で繰り返す羽目になった。 タオルも着替えも用意していなかったはずなのに、髪の水気を大雑把にふき取り、新しい服を着て浴室から出てきた柊を見て少しだけ疑問に思うものの、 隼人の仕事は彼を浴槽に放り込んだ後、柊を支部長のところに連れて行くまでだ。無駄に干渉する必要はないだろう。 隣の部屋のドアの前に立ち、ノックを二回。はーい、とかわいらしい返事を待って入る。 そこには、黒髪を分けて綺麗に微笑む、アルミの椅子に座ったちみっこい女の子がいた。 彼女の名前は薬王寺結希(やこうじ・ゆうき)。弱冠14歳のUGN秋葉原支部支部長である。 通された部屋は、樫のデスクにシンプルな革のソファがあり、その対面に結希が座っている。彼女の部屋に特別に用意されている応接間だ。 笑顔を崩さず、結希は二人の青年に座るように促す。 「ご苦労様でした隼人さん。お名前は聞いてもらえましたか?」 「あ、はい支部長。えーっと、こっちは柊蓮司って名乗りました。 柊。こっちが俺の今の上司で、薬王寺結希支部長」 「……支部長?」 柊は目で礼をした後にソファに座ると、不思議そうにきょとんとしている。 結希は少し頬を膨らませると、抗議する。その見た目が子供がむくれているようにしか見えないのが問題だが。 「む。私、これでもこっち側では有名なんですよ?外見で判断しないでください」 「あ、年恰好で驚いたわけじゃないんだけどな。気分悪くさせたなら謝る。悪い。年と中身と外見が一致しないっつーのには慣れてるしな」 その言葉にはにゃ?と首を傾げる結希。 柊はしばらくあー、とかうーとか唸っていたが、やがて頭の中で考えがまとまったのか、結希にたずねた。 「で、えーと支部長さんだっけか。こいつ―――高崎だっけ?によれば、状況を聞かせてもらえるっていうからついてきたんだが、いくつか質問させてもらっていいか?」 「こちらも伺いたいことがいくつかあるんですが、あなたも状況を把握してからの方が話しやすいでしょうしね。 お話に答えるのはいいですけど、隼人さんもこの部屋にいてもらったままにしてもいいですよね?」 「おい、支部長っ!?」 任務が終わったと思い込んでいた隼人があわてて割り込むものの、そこは結希も慣れたものだ。 笑顔の高速切り返しが飛ぶ。 「あれ?隼人さんは戦闘力のほとんどない女の子と、得体の知れない男が一つの部屋にいることを放っとくんですか?」 「ぐ……わかったよ、わかりましたよ仕事だろ!」 「はいお仕事です。そんなわけですのでもうしばらく支部長(わたし)の言うことを聞いててくださいね」 そんなやりとりを見て、柊はちょっと隼人に同情したような視線を向けるものの、さて、という結希の言葉に彼女に視線を戻す。 「それで、柊蓮司さんでしたか。何が聞きたいんですか?」 「まずは地名か。あと日付」 結希、再びのはにゃ? 首を傾げたまま答える。 「ここは東京の秋葉原で、日付は8月×日ですよ?」 「秋葉原……ってことは日本か。それはいいとして、8月だぁ?……うぉ、今度は時間旅行か?先なのか過去なのかはわからんが」 「8月がどうかしましたか?なにかまずいことでも?」 「いや、こっちの話だ。えーっと……薬王寺ってことは支部長さんは日本人ってことでいいんだよな?」 「えぇ、ここ日本ですし。……っていうか、さっきから妙なことばっかり気にしますね?」 結希はいぶかしげな表情で柊を見る。柊はといえば、やはり何か色々なことを考えているようだった。 しばらく考えた後、再び結希に視線を向ける。 「で、支部長さんはここに高崎を残してるよな? 同じ部屋に男と一緒にいるのは危険だから、ならわかるけどあんたは自分をさして戦闘力のない、って言った。 それは高崎があんたの護衛役としてここにいる、ってことでいいよな」 「えぇ。それで問題ないですよ」 続く柊の質問に、結希は少しだけ目を細めて隼人に目配せする。 もしも自分を狙っているのなら守ってくれ、という意味の目配せだ。しかし、次に柊の口から出た言葉に隼人も結希も言葉を失うこととなる。 「あんたらは、『人間』から恨みをかうようなことをしてんのか?」 「……はい?」 「そもそも、支部ってことはなんかでっかい組織の下っ端ってこったろ?どこの組織なんだ?」 「え?え?あー……私たちはUGN、ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークのエージェントってことになるんですけど……」 オーヴァードが、しかも柊くらいの年で主に所属する場所といえば、UGNか、敵対組織のFH(ファルスハーツ)になる。 このどちらでもないとした場合でも、こちら側に慣れているとすれば、『支部』という単語を聞いた場合は単独行動の多いFHよりもUGNのことを想像する可能性が高い。 結希は考える。 柊は頭の回転自体は悪くない。それは結希たちの短い会話を聞いただけで、隼人がいる理由を正確に掴んだことからもわかる。 戦う、といった剣呑な話題にもついていけることから、日常の世界からいきなり非日常の世界に放り込まれた成り立てオーヴァードでないこともわかる。 なのに彼は結希たちがUGNの人間だと予測できない。 それはまるで「UGNという組織の存在を知らない」かのようではないか―――? 結希の混乱をよそに、柊はまた何かを考え込んでいるようだった。またもしばらく唸った後、彼は三度結希に視線を戻した。 「悪ぃ。UGNっていうのは聞いたことねぇわ。世界的な組織か?」 「え?ゆ、UGNですよっ!?ほんとに聞いたことないんですかっ!?」 あわてる結希にこくりと頷き、柊は隼人の方をちらりと見た。 隼人としてもUGNを知らない、というオーヴァードははじめて見たためそれはもう驚いている。 UGNのチルドレンとして育った身としては、UGNを知らない非日常の存在はかなりの衝撃だった。 その様子を見て納得したのか、彼は頷いてもう一度結希に向き直る。 「まったく聞いたこともない。確認のために俺からも質問していいか。アンゼロットって女の名前、聞いたことないか?」 「アンゼロットさん、ですか?……ごめんなさい、聞いたことないです。有名なオーヴァードですか?」 「いや、俺の……あれ?あいつと俺ってどういう関係だ?腐れ縁とか?上司と部下じゃないし、そもそも俺はフリーだし、えぇと……あぁ、依頼人!依頼人だ今回の!」 「……そ、そんなに関係に困る人なんですか。どんな人なんです、アンゼロットさんって」 「人使いは荒いわ、無理は笑顔で押し付けるわ、毒飲ますわと俺への嫌がらせに命かけてる奴だ。絶対に。そうとしか考えられん」 『失礼ですわね。わたくしはそんなにヒマではないですわよ、柊さん』 柊と結希、ついでに隼人でもない声が響く。 声自体は落ち着いた、しかし少女のソプラノだ。そのきれいな響きを耳にして、なぜか柊の動きが凍りつく。 その声は柊の懐から。ゆっくりと、いっそおそるおそると言った方が正しいような様子で彼は懐を探り、音の元と思われるものを引きずり出す。 それは携帯電話だった。 ちょっと普通の携帯には付いていない水晶のような結晶が張り付いているが、それもアクセサリとして見られないほどのものではない。 なお、柊はそれを取り出すだけでなにか人体から流れるには危ない量の汗を流しているような気がしなくもないが、隼人はそれを無視することにした。可哀相ではあるが。 その携帯からは『開けてー開けてー、早く早く早く早く開けて開けて開けてぇぇぇぇっ!』とちょっとホラーっぽい声がする。 それは先ほどの声とは違う電子音である。悪趣味にもほどがある気がするが、まぁそれは仕込んだ人間の趣味だろう。柊自体には覚えがなさそうだし、と隼人は思う。 柊は意を決して携帯を開く。同時に携帯の液晶画面から、立体映像の少女が浮かび上がった。 おぉ、と感嘆の息をつく隼人。それはこの町に来てから趣味としてちょっとばかり機械関係に詳しくなり、機械関係で友人を作った彼にとっては興味をひくものだったのだ。 立体映像の少女は長い銀の髪。地球をそのまま瞳にしたかのような蒼い瞳。年のころや発達段階は結希と同じくらいだろう。黒く、装飾の少ないドレスを着ている。 神秘的な空気を振りまき、優雅にティーカップを傾け、携帯を前にぐったりしている柊に微笑みかける。 『お久しぶりです柊さん。ご無事なようでなによりですわ』 「お前、人の0-Phone に何を仕込んでやがるんだアンゼロットぉぉぉぉっ!?」 『あら仕込むなんて人聞きの悪い。ちょくちょく異世界に引きずり込まれる柊さんのために状況を整理するためのギミックをいくつか仕込ませていただいただけですわよ?』 「仕込むって自分で言ってんじゃねぇかよっ!?」 さっきまでぐったりしていた柊が元気にツッコミをいれだしたことに驚く隼人。 彼が結希の方を見れば、彼女は彼女であまりの事態にもう頭の処理がついていっていない様子だ。 そんな彼らをおいてきぼりに、柊と少女―――アンゼロットの会話は続く。 『それだけツッコミの活きがよければ大丈夫そうですわね。 ―――さて、あまり漫才をしている時間もありません。貴方は今の状況を把握してらっしゃいますか?』 「―――あぁ。また異世界に来ちまったっつーことだろ?」 『正解ですが、もうひとつ大切な点があります。その異世界に来たのはあなただけではないということ、それがどういう意味か、理解なさってますか?』 「……可能性の一つとしちゃ考えてたが、最悪だな。ここがどんな世界かもわからねぇっつーのに」 柊が苦い表情で言う。 ちなみに隼人や結希は本気でどんな話が進んでいるのかまったくわかっていない。 それまで処理限界を吹っ飛んでいた結希の意識が戻ってきて、彼女は意を決したようにホログラムの少女に問う。 「え、えぇーと……あなたが柊さんの依頼人のアンゼロットさん、ですか? 彼の身柄は私たちUGNが預かってます。どういう事情があるのか話していただけませんか?」 『あらあらはじめまして。アンゼロットと申しますわ、薬王寺結希さん。お話は柊さんの内ポケットの中から聞かせていただきました』 「盗聴器までついてんのかっ!?」 『気にしたら負けですわよ柊さん。 それで―――そちらにご厄介になっている柊蓮司の状況と、私たちのことについてご説明すればよろしいのですわよね? とはいえ、話すと時間がかかってしまいますので―――<安直魔法・かくかくしかじか>~♪』 そうアンゼロットが言った瞬間、隼人の頭の中に大量の情報が流れ込む。 魔法と呼ばれる力の存在する世界、ファー・ジ・アース。 その世界を襲うもの、エミュレイター。 その世界を守るもの、ウィザード。 柊蓮司はアンゼロットの依頼をよく受けるウィザードであり、今回は事故により戦闘中に異世界であるこちら側に飛ばされたこと。 そして、柊が直前まで戦っていたエミュレイターもまた、この世界に漂着していること。 そういったことが、頭の中に放り込まれたのがわかった。 結希の方を見れば、結希は必死に今与えられた情報を吟味しているようだった。しばらく目を閉じていた彼女は、やがて瞳を開けて真剣なまなざしでアンゼロットを見た。 「大体事情は飲み込めました。 正直信じがたい気持ちでいっぱいですが、遠隔地にいる相手に一方的に情報を送り込むなんてことを苦もなくやってのけるオーヴァードなんて聞いたことがありません。 もし私が知らないだけだとしても、そんな実力者が私に嘘をつく意味がありませんしね」 『わかっていただけて嬉しいですわ。ところでわたくしから一つお願いがあるのですが、聞いていただけますね?』 「内容によります。なんですか?」 『携帯電話でも置き電話でもいいですが、UGN日本支部長の霧谷雄吾(きりたに・ゆうご)氏とテレビ中継でお話をさせていただけませんか? 実はわたくしはあの方とは交流があるのですが、柊蓮司の処遇についてお話をしたいのです』 はぁ、と頷き、結希が携帯のテレビ電話機能を呼び出して霧谷とアンゼロットの会談をセッティングしている中、 手持ち無沙汰になった隼人は同じく蚊帳の外に置かれた柊を見て呟いた。 「……魔法使い、ねぇ?」 「なんだよ、疑ってんのか?」 「いや。ゲームとかのイメージだとやっぱり魔法使いって知力高そうなもんじゃないか?」 「どうせ俺は頭悪い(ちりょくひくい)よっ!?」 ……まぁ、高校ろくに行ってないしなぁ。それは隼人も同じわけだが。 閑話休題。 柊はふてくされた様に言う。 「仕方ないだろ。魔法がろくに使えなくても、魔法っていうシステムを利用した武器だとかを使えたり、存在そのものが魔法的なもんでも『ウィザード』って括られる。 俺がまともに使える魔法っつったら3つくらい。それも自発的に使えるとなれば2つだ」 「へぇ。魔法かー……見てみたいんだけど、問題ないか?」 興味津々、といった様子の隼人。 柊は唐突なリクエストに、何かを探るように虚空を少し見た後頷いた。 「たぶんな。月衣は問題なく動いてるみたいだし、これくらいならなんとかできるだろ。―――よっと」 言いながら、彼は何もない空間に手を伸ばし―――長い剣を抜き放った。 赤い宝玉。鋼の刀身。なんの曇りも無い刃金色。刀身の中心には、隼人にはあまりなじみのない彫りこまれた文字がある。 それを見て、隼人は純粋におぉ、と呟いた。 西洋剣を持つ人間は見たことがある。戦ったこともある。彼と因縁の深い人間だった。今も忘れることはない。 けれど、その剣は過去に見たことのある西洋剣とは違った。もちろん形自体が違うのは当然だが、なにか在り方が違うように思えた。 どちらが偉いとか、尊いとかいうつもりはない。が、存在の仕方が違うがそこに強い意志があることは同じ。 それが、純粋にきれいに見えたのだ。 そんな隼人に、魔剣を月衣内に戻した柊が声をかける。 「ものをしまったり出したりできる個人用の結界、月衣っていうんだけどな。これはウィザードならみんなが使える魔法だ」 「便利だなぁ。四次○ポケットか?」 「そこまで便利なもんじゃねえさ。収納限界はあるし、生き物は入れられないし。ス○アポケットもないしな。 で、えーとお前らもなんか妙な力があるんだろ?オーヴァードだっけ?」 柊の問いかけに、隼人があぁ、と頷く。 柊自身がそう悪い人間でないことがわかって安心したこともあり、隼人はオーヴァードやレネゲイドウィルスについての説明をはじめた。 18年前に存在が証明されたウィルス、レネゲイドウィルス。 そのウィルスのキャリア(潜在感染者)が、ある衝撃を受けて生まれる超人、オーヴァード。 オーヴァードに宿る能力、シンドローム。 そして、オーヴァードの組織であるUGNとFH。 一通り聞くと、柊は何度か頷いて隼人に確認する。 「で、お前らはUGNに所属するオーヴァード、ってことか。だから俺がどこの組織に属してるか聞いたんだな、FHに所属するなら何か企んでると考えるのが普通だ」 「そういうことだ。まぁ、無駄な心配に終わったわけだけどな」 「そりゃよくわからん人間が異世界から来たってのは普通は思わないだろ。俺も思わないし」 「お前のトコはちょくちょく異世界人とか来るんじゃないのか?さっきの変なので伝えられた内容だと、どうもお前は色んなとこに行ってるみたいだし」 「待て。あいつんなことまで話してんのかっ!?」 何気ないやりとりの中、結希が戻ってくる。隼人がたずねた。 「おう、お帰り支部長。どんな感じになりそうなんだ?」 「えぇと、一通りの話し合いが終わって、今は世界紅茶会議の次の日程の話になってるんで抜けてきちゃいました」 そんな顔見知りかよUGN日本支部支部長と世界魔術協会会長。 閑話休題。 結希が柊をじっと見て、話し合いの結果を伝えようとしたその時だった。 「支部長おおおおおぉぉぉっ!」 ばたんっ!とノックもなしに、その部屋に少し小柄な白髪のツンツン頭の少年が飛び込んできたのは。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/196.html
渾身の力を込めて、その剣を振るう。 全霊の力をもって、その拳を振りぬく。 真っ向から激突した力と力がぶつかり合い、その衝撃が周囲のビル、鏡のように張り巡らされた窓を一斉に破砕する。 粉雪のように舞い散るガラスの雨の中で一瞬の静寂を伴った後、その両者は弾けるように吹き飛ばされた。 後方に吹き飛ばされる身体を、両の脚で制止する。 アスファルトに数mの傷跡を残しつつ身体を停止させたモーリーは、一歩踏み出すと同時に魔剣を上段から一刀にて虚空を両断した。 刃から放たれた圧倒的な魔力は先の傷跡を消し飛ばし、更に抉り砕きながら一直線に敵――ブラボーへと殺到する。 「!」 モーリーと同様に体勢を立て直したブラボーは、眼前に迫ってくる衝撃波を見て取るよりも速く地を蹴った。 一瞬遅れてブラボーのいた場所を魔力の暴圧が駆け抜ける。 留まる事を知らない衝撃波は100m程離れた突き当たりのビルに衝突し、一瞬で瓦礫へと変貌させた。 「ち……!」 忌々しげに舌を打つモーリー。上空を見上げた。 モーリーの放った魔力の斬撃を回避した後、ビルの壁面を蹴って上空に跳んだブラボーを見て取ると、彼女もまたそれに追いすがり地を蹴った。 十階建てのビルの屋上に向かって物理法則を無視して駆け上がる。 一瞬にして屋上まで辿り着いたが――そこには既にブラボーの姿はない。 ――頭から足の先に、悪寒が走り抜けた。 反射的に天を見上げる。自分に向けて一直線に降下してくるブラボーの姿があった。 「流星・ブラボー脚ッ!!」 咄嗟に魔剣を振り上げてブラボーの蹴足を刃で受け止める。 圧倒的な衝撃が身体を貫き、屋上の床が瓦解した。 「ぐ、う……っ!」 十階、九階、八階。魔刃にて剛脚を受け止めたまま、モーリーはブラボーと共に床を貫通しながら絡み合っていく。 七階、六階、五階。渾身の力を込めて魔剣を振るう。同時にブラボーが身体を回転させるように翻り、拳を叩き込んだ。 「直撃・ブラボー拳!!」 僅かに身体を反らして肩口で受け止める。胸元を貫く衝撃。 四階、三階、二階。モーリーは口惜しげに歯を噛んで、シルバースキンの襟元を掴んだ。 そして一階。床に叩きつけられる直前、モーリーは渾身の力でその腕を引く。 少女の外見からは想像もつかないような剛力にブラボーは引き摺られ、空中で体躯を入れ替えられた。 モーリーを上に、ブラボーを下にして両者は床に叩きつけられる。 シルバースキンによって衝撃は相殺できたとはいえ、相手に上を取られた不利は覆せない。 身体を翻すよりも速く、モーリーの脚が飛んだ。 床を踏み抜かんばかりの衝撃がブラボーの胸に叩き込まれ、その身体を床に縛り付ける。 「終わりだっ!」 叫んでモーリーが魔剣を振りかぶる。 と同時に、ビルの壁を突き破って無数の魔力の塊が飛来した。 「っ!」 反射的に虚無の弾丸総てを切り払う。 一瞬とはいえ気が逸れたその隙をブラボーが見逃すはずがない。 押さえつけていた脚を払い、僅かに身体を傾がせた彼女にブラボーは倒立姿勢から蹴りを叩き込んだ。 モーリーの身体が吹き飛び、ビルの壁を打ち壊して外にまで押し出される。 ブラボーの蹴撃をまともに喰らってしまった彼女は屈辱に瞳を燃え上がらせて、制止すると同時に地に手をたたき付けた。 「――噛み砕け!」 モーリーの号令と同時に魔力が収束し、放たれる。 今しがた彼女が押し出された――そしてブラボーがいるであろうビルを挟み込むような形で巨大な鉄塊が天に伸びる。 コンクリートで形作られた《ドラゴンファング》が、その名の通り地からその顎を開いてビルを飲み込み、圧壊させる。 その魔力の発動の中心にいたブラボーがそれを避けられたはずもなく、彼は膨大な鉄塊によって押し潰され―― 「ッ!?」 ――白銀のコートを揺らし、ブラボーが躍り出た。 《ドラゴンファング》で完全に圧壊したはずのビルは何事もなくモーリーの眼前に聳え、彼女が外に蹴りだされた時にできた穴からブラボーが疾駆していたのである。 まるで時間が巻き戻ったかのような錯覚――否、そもそも魔法による破壊が始めからなかったかのような状況。 「《ノーリーズン》! 夢使いっ!!」 肉薄するブラボーから地を蹴って跳び退ると同時、モーリーは忌々しげに叫んだ。 因果に干渉して魔法そのものを始めから”なかった事”にする、虚無系統に属する高位魔法だ。 先程ブラボーへの一撃を阻んだ虚無の弾幕――《ヴォーティカルカノン》を思い出して彼女は結論を出した。 《ノーリーズン》で打ち消されないほどの干渉力を持つ魔法も、無論モーリーは使う事もできる。 だが、元々彼女は魔法を用いるタイプではなかった。 彼女は歯を噛んで魔剣を握り締める。 ”女公爵”モーリー=グレイの恃む所は手にした魔剣、その剛刃のみ。 「舐めるな……!」 迫撃するブラボーを鋭く見据え、真っ向から受け止める。 再び激突する魔剣と剛拳。 踏み込みの衝撃が互いの立つ大地を打ち砕き、衝撃が周囲を駆け抜けていく。 しかし、先の激突の再現は、結末まで再現される事はなかった。 モーリーが身体ごと叩きつける勢いで魔剣を一気に振りぬく。 「ぐ――っ!」 そしてブラボーの身体が吹き飛んだ。 身を引いたのではなく、完全に力負けして弾き飛ばされた。 実に数十mを吹き飛ばされてブラボーはようやくたたらを踏んで体勢を立て直す。 そこに――返しの刃で放たれた衝撃波が全身を貫いた。 衝撃を相殺するシルバースキンがみしみしと悲鳴を上げる。 腕を前面で交差させて耐え凌ぐがその威力は凄まじく、ブラボーの身体は更に吹き飛ばされた。 ブラボーを巻き込んで背後に立ち並ぶビル群を次々と薙ぎ倒し、なお威力を減じないその魔力。 衝撃波に押し飛ばされながらブラボーはその拳を天に振り上げ、そして渾身の力でそれを振り下ろす。 「両断・ブラボーチョップ!!」 突き刺さる力が魔力を叩き潰し、破砕する。 周囲のアスファルト、鉄筋の悉くを崩壊させてモーリーの魔力はようやく霧散した。 だが――次の瞬間、彼が見たのは眼前で魔剣を振り上げるモーリーの姿だった。 衝撃波だけではブラボーを討ち得ない事を理解していたのだろう、彼女は魔力を放つと同時にそれに追いすがり、間合いを詰めていたのだ。 避けられるタイミングではない。 ブラボーは腕を上げてシルバースキンにてその斬撃を受け止める。 圧倒的な衝撃がぶつかり、火花が散る。 そして――六角形の破片と共に拳から腕部、肩口までのシルバースキンが一気に粉砕された。 ここにおいてモーリーの気概と魔剣の威力は先日の比ではない。 魔剣から放たれる魔力の衝撃波はまだしも、その剛刃による直接攻撃はもはやシルバースキンを以てしても防ぎきれなかった。 「―――ッ!」 だが、委細構わずブラボーは勢いを減じたモーリーの魔剣をいなし、一歩深く踏み込んだ。 斬撃の間合いから拳撃の間合いへ。 モーリーの剣をブラボーが避けられなかったように、モーリーもまたブラボーの拳を避けられるタイミングではない。 彼女の胸部に拳が叩き込まれた瞬間、まるで爆薬でも仕込んでいたかのようにモーリーの身体が弾けとんだ。 その背後にあったビルに激突し、壁面を貫いて彼女の姿が爆煙の中に消える。 そして空から、 「《ジャッジメント・レイ》!!」 光の雨が降り注いだ。 ビルを諸共に巻き込んで光がモーリーの吹き飛ばされた場所へと殺到する。 目を覆うほどの光量と爆音、破壊の嵐。 下階部分が完全に崩壊し、上階部分が崩落して中にいるだろうモーリーを押し潰した。 総てを打ち砕く光の乱舞が収まり、ビルの瓦礫が爆煙に包まれる。 少しだけの静寂。 そして――瓦礫のビルが蠢いた。 巨大な岩塊と化したビルがゆっくりと持ち上がっていく。 おおよそ四階分はあるだろうその上階部分を、モーリーは片手で持ち上げていた。 「お、おぉおおおっ!!」 裂帛の声と共にモーリーがブラボーに向けてビルを投げ飛ばす。 飛来する巨大な塊を前にブラボーは、地を蹴って跳んだ。 「粉砕・ブラボラッシュ!!」 無数の拳がビルに叩きつけられる。 叩き、抉り、砕き、潰し、叫んだその技の通りにビルが粉砕されていく。 だがブラボーの動きはそこで止まらない。 「ぉおおおおっ!!」 中空で粉砕し無数の岩塊となったそれを、次々とモーリーに向かって蹴り飛ばした。 墜落する流星群を思わせる瓦礫が降り注ぐ。 だが、彼女にとってそのようなモノは小石のようなものだ。 「下らん――!」 委細構わずブラボーに向かって突進する――その刹那。 彼女はほんの僅かに身体を傾がせた。 甲高い金属音が響き渡る。 火花を散らして駆け抜ける何かを、しかし彼女は一顧だにせず、 「賢しいぞ、小僧……!」 あらぬ方向へ向けて魔剣を一閃させた。 それまでの攻撃とは違う、明らかに手を抜いた魔力の衝撃波。 それがモーリー=グレイの先の一撃に対しての返礼であり、その相手への正当な評価だった。 モーリーの魔力が一直線に剛太へと迫っていく。 彼は唇を噛んで地を蹴った。 十分に距離を取っていたとはいえその威力は絶大であり、生身の剛太が受ければ一撃で戦闘不能になる事は明らかだった。 とはいえ、モーリーは始めから中村 剛太を歯牙にかけていない。 ここで討ち取る事も考慮には入れていないだろう。 ほとんど当てる気のないその一撃を余裕を持って回避して剛太は屈辱に拳を握る。 「大魔王にとっちゃ俺はその辺の小石同然ってか……くそっ」 吐き捨てるように言いながら、頭の中ではその事実を冷静に受け止める。 目の前では再びモーリーとブラボーの戦闘が再開されている。 端的に言ってしまって、レベルが違う。入り込む余地が微塵にもない。 だが、それでも。 それでもここにいる以上、自分は何かをしなければならない。 「無事か」 空より声が響き、ナイトメアが静かに滑空してきた。 それを目の端で確認しながら剛太は小さく頷く。 「まだやれるか?」 「やりますよ。俺なりのやり方で」 問いに即答してきた剛太を見てナイトメアは僅かに目を見開き、そして薄く笑った。 絶対的な戦力差を目の当たりにして、なお戦意を失わずに戦局を見据える少年に、ナイトメアは静かに言う。 「ならば任せよう。フォローは要るか?」 「要りません。強いて言うなら頑張って下さい、と。美味しい所は俺が持っていきますんで」 「……そうか。ならば俺達も美味しい所を持っていかれないように頑張らねばな」 苦笑を漏らしながらナイトメアは再び宙に浮かび上がる。 主戦場に向かって空を駆けていくナイトメアを言葉もなく見送って、剛太は一つ深呼吸をした。 戦力差は論ずるのが馬鹿らしいほどに明確。それは認めよう。 ブラボーやナイトメア達に加勢して闘ったとしても、いいとこ足手纏いにしかならない。それも認める。 そもそも、己が力で以て真っ向から敵を打ち倒し道を徹すのは中村 剛太のスタイルではないのだ。 非力なモノならばそれ以外の部分で補い、覆すだけだ。 剛太は両の手に持つチャクラムを握り締める。 手の中でモーターギアが速度を増して回転する。 歯車(ギア)は既に揃っている。チャンスは恐らくただ一度。 中村 剛太は両の手と頭のギアを回転させながら、その一瞬を待つ。 振り下ろされる刃を正に紙一重で回避する。 擦過する魔力はシルバースキンによって防ぎ、致命的な直接攻撃のみを受け流す。 絡み合うように踏み込んで蹴りを放つ。だが、それは突き出された手甲によって完璧に受け止められた。 下段から返しの刃。だが、片腕を防御に使った分威力は少ない。 彼女がそうしたようにブラボーもまた片腕で受け止める。 白刃と銀鱗が激しい火花を上げ―― 「………っ」 ブラボーは吹き飛んだ。 半ば衝撃に乗って退いた形であったのでダメージは殆どない。 ましてシルバースキンを纏っているならなおさら……と言いたい所だったが、ハットの奥のブラボーの表情は険しかった。 傍から見た状況であれば五分の戦いに見えただろうが、当事者のブラボーにとってはそうではない。 明らかな劣勢。ここに来て予想だにしていない『問題』が露呈したのだ。 神速の踏み込みでモーリーがブラボーの間合いに侵入する。 両の手で振りかぶる渾身の一撃。 「!?」 殆ど反射的に地を蹴って、ブラボーはモーリーから大きく距離を取った。 モーリーは僅かに眉根を寄せて動きを止め、十mほどの距離で対峙し、睨みあう。 これまでの戦いで始めてみせる、ブラボーの明らかな後退。 その意図が読めずにモーリーはうかつに踏み込めないでいた。 彼女の見据えるブラボーの背後に、一つの影が降り立つ。ナイトメアである。 彼は迎撃の魔力を蓄えたまま、モーリーから視線を外さないブラボーに囁いた。 「身体は大事無いか」 「今の所は問題ない」 ウィザードたるナイトメアと錬金の戦士たるブラボーが行動を共にするにあたって、事前に判明した問題が一つだけある。 それは絶対防御を誇るシルバースキンの特性ゆえの問題――それは、シルバースキンは魔法的な効果も一切遮断するという事だ。 シルバースキンの防衛能力は物理的な攻撃は当然の事ながら、ウィザード達の使う魔法に対しても絶大な防御を発揮する。 それはある意味有利な点であるのだが、逆にブラボーにとって有利な魔法すらも遮断してしまうのだ。 周囲に障壁をはる防御魔法ならば問題はないが、彼自身の身体能力を強化したり傷を癒す回復魔法は完全に遮断して無効化しまう。 そして、彼が徒手空拳であるが故に得物に魔力を乗せる付与魔法も効果を示さない。 「――だが、恐らく長くはもたん」 「何……?」 続けられた声にナイトメアは眉を潜めブラボーを凝視した。 彼はモーリーを見据えたまま、半ば自嘲めいた息を漏らした。 「どうやらシルバースキンにも限界があったようだ」 モーリー=グレイとの戦闘を経て露呈した問題。 それは、シルバースキンの耐久力と再生速度が低下している事だった。 シルバースキンは確かに絶対の防御力を誇る。だが、それでも核鉄から構築される武装錬金には違いない。 度重なる特性の発動で、核鉄そのものが損耗してきているのだ。 なまじ彼自身の力量とシルバースキンの防御性能が高く、一度の戦闘においてこれほどまで硬化と再生を繰り返す事はなかったがゆえに露呈しなかった欠点だった。 「ならば早々に片をつけるとしよう。中村 剛太が漁夫の利を企んでいるらしいからな」 「……ブラボー」 ナイトメアの皮肉気な言葉に、ハットに表情が隠されていても明らかに苦笑とわかる声を漏らしてブラボーが呟く。 会話はそれで終了した。 何をどうするかなど、歴戦の二人にとっては確認する必要もありはしない。 ナイトメアが地を蹴って後退すると同時、ブラボーはモーリーに向かって一歩を踏み出した。 二人の動きを見てモーリーが魔剣を構え、目を細める。 距離を取った夢使い。立ちはだかる戦士。 ならばそこから来るのは当然―― 「――さあ、悪夢の時間(ドリームタイム)を始めよう」 ナイトメアの周囲に魔力の暴風が吹き荒れた。 両の手を掲げ、音にならない詠唱を囁くナイトメアに圧倒的な力が収束していく。 それはこれまで放たれてきた魔法の比ではなく、神威を思わせるような圧力は魔王モーリー=グレイを以てして表情を険しくさせるほどのもの。 「そのようなモノを撃たせるとでも――!」 それゆえに彼女がその行為を赦すはずもなく、 「行かせん!!」 それをブラボーが看過するはずもなかった。 疾駆する甲冑の騎士に真っ向から立ち塞がる。 邪魔者は総て斬って捨てんと振り下ろされた一撃をブラボーは裂帛の気合で受け止めた。 じりじりと不協和音を放つシルバースキンを奮い立たせて魔刃を受け止める。 身体ごと激突してきたモーリーの疾走を数mで押し留め、拳を振るう。 だが現状モーリーにとって重要なのはブラボーを倒す事ではなく、その背後にて強大な魔法を練り上げているナイトメアを駆逐する事だ。 眼前に迫る拳撃はあえて無視。甘んじて一撃を受ける代わりにその防壁を突破する―― 「粉砕ッ!」 「っ!!」 ―― 一撃、ではなかった。 「ブラボラッシュ!!」 弾幕のような無数の拳撃。 喰らう事を許容したモーリーの身体に次々と拳が叩きこまれる。 モーリーにとって重要なのがナイトメアの駆逐であるように、ブラボーにとっても重要なのは彼女の打倒ではなくその足止めなのだ。 敵を屠る一撃は必要ない。ただ侵攻を押し留める壁であれば良い。 怒涛のラッシュで動きを止められたモーリーの腹部に衝撃が貫き、彼女は吹き飛ばされる。 拳撃の隙間を縫うように放った蹴りでモーリーを後退させると、ブラボーは彼女に追随するように更に前進する。 モーリーはたたらを踏んで押し流される身体を制止すると、前方を垣間見るより早く魔剣を一閃させた。 放たれる衝撃波の暴圧。魔力の波を貫いて、モーリーに肉薄するブラボー。 一瞬にして間合いを詰めると同時に地を踏みしめた。 大地を踏み抜かんばかりの震脚。そして眼前の魔王に渾身の拳を―― 「―――っ!?」 放たれた拳が、空のみを貫いた。 やり過ごしてブラボーを抜き去ったのではない。 防衛を念頭においている以上どう動こうともブラボーはそれに対抗できるようにしていた。 それでも相手を捕らえ損なったのは、モーリーが跳び退って後退したからである。 遠距離からの魔法――否、魔剣の衝撃波。 肩に担ぐようにして振りかぶるモーリーの魔剣が圧倒的な魔力を纏う。 だが、現在のモーリーとブラボーの立ち位置――中距離においてその選択は賢明とは言い難かった。 モーリーがナイトメアに向かって魔剣を振りぬく前に、その拳が彼女を打つ。 ブラボーが地を蹴って追撃する。間合いの詰めは一瞬。 防御を度外視している無防備な胸部に渾身の拳を叩き込む、その刹那。 「―――」 ブラボーは遅すぎるタイミングで、それに気付いた。 眼前のモーリーが凄絶な笑みを浮かべてブラボー”だけ”を見ていた事に。 「砕けよ!!」 拳を打ち出すだけのブラボーと、剣を振り下ろさねばならないモーリー。 明確にすぎる勝敗の道理は、常識を逸脱して覆された。 相手の攻撃に《重ね、当て》る、魔剣使いが絶技。 刹那の時間に割り込むように魔剣がひらめき、ブラボーの身体に食い込む。 叩きつけられる膨大な魔力。神速と呼ぶに相応しい圧倒的な一閃。 ブラボーを守護するシルバースキンが崩壊する。 銀鱗が千々に砕け散っていく中、なお勢いを減じない魔王の白刃がブラボーの胸を袈裟に切り裂いた。 刹那の攻防に勝利を収めたモーリーは、しかし崩れ落ちるブラボーを一瞥する事もなくもう一人の敵――ナイトメアに視線をやった。 彼の周囲に寄り集まった魔力は既に人外の領域――魔王のそれに匹敵する。 もっとも、魔法として放たれない限り何の意味もない事ではある。 モーリーは地を蹴ると同時に再び魔剣に魔力を纏わせた。 ナイトメアにはブラボーのような防御力はない。まして現在は魔法の詠唱中で無防備だ。 仮に詠唱を破棄してここから放たれる衝撃波を回避したとしても、所詮は魔法を旨とする夢使い。後に相対してモーリーに抗しうる相手ではない。 どこぞにいるチャクラム使いの少年は論外だ。 「……終わりだ」 ナイトメアを見据えたままモーリーは魔剣を振りかぶる。 そしてこの戦闘の終焉の一撃を―― 「……?」 振りかぶった姿勢のまま、モーリーは不意に動きを止めた。 否、彼女が動きを止めたのではない。振り下ろそうとする腕が、何かに絡め取られている。 気付けば腕だけではなく、その脚その身体が総て動かない。 ちらちらと踊る銀鱗を視界に収めたその瞬間、モーリーは顔をゆがめた。 「これ、は……!」 「――シルバースキン・リバース……!」 シルバースキンが打ち破られた原因はモーリーの一撃の苛烈さでもあり、シルバースキン自体の限界でもあった。 だが、あの刹那で敗北を悟ったブラボーは半ば打ち砕かれるに任せていたのだ。 全力で受け止めてダメージを幾分減らした所で二人の攻防に何ら意味はない。 先に念頭に置いた通り、彼の目的はモーリーの足止めであるが故に。 「錬金の戦士っ! 貴様あぁあっ!!」 「ぉおおおぉおおおぉおぉっ!!」 二人を繋ぎとめる銀鱗の鎖がぎしぎしと悲鳴を上げる。 猛るモーリーを全霊の力を以て拘束するブラボーの咆哮に応えるように、 「―――《ヴァニティ・ワールド》!!」 極大の魔力が重なった。 モーリーの周囲の空間が切り取られる。 銀鱗の鎖にて拘束された彼女を閉じ込める檻のように結界が構築され、世界を遮断する。 その内側――モーリーが取り込まれたのはその魔力によって生み出された一種の異世界。 その極小の世界は存在するために生み出されたのではない。それはただ、捩れ砕けるためだけに生み出された世界。 因果と空間を巻き込んで世界が圧壊する。世界そのものの崩壊には如何なる防御も意味を成さない。 捩れ狂い潰れていく世界がモーリーの存在そのものを打ち砕く―― 「あぁあああぁあああぁっっ!!!」 ――だが、その世界を捻じ伏せてこその魔王の称号。 裂帛の咆哮と渾身の力で魔剣を振り上げる。 総身に叩きつけられる魔力の衝撃を以てなお”女公爵”の意思と魔剣は砕けない。 纏った魔力と共に刃を振り下ろす。 せめぎあい荒れ狂う魔力。取り込まれた世界の内側からその力で斬り拓く。 耳朶を貫く破砕音と共に、《ヴァニティワールド》が斬って捨てられた。 「――どりぃ~む」 「―――」 虚無の世界より脱出したモーリーが見たのは、ただ暗闇。 魅入られたように動きを止めた彼女の眼前、広げられたナイトメアの掌。 黒色の腕に鮮やかな刻印が浮かび上がる―― 「《ディヴァイン・コロナ》――!!」 ――それは確かに、モーリー=グレイにとっては悪夢といえた。 虚無の属性の《ヴァニティワールド》と、天聖に属する《ディヴァインコロナ》は共にこの世界で知られる中でも最上級の魔法。 絶大な威力を保有するそれらの魔法は、その力と代償に致命的なほどの詠唱時間を要する。 魔王級の存在であるか術式構築速度を極める陰陽師であるならともかく、夢使いであるナイトメアに二つの魔法を連続使用する事はできないはずだ。 実際最初の《ヴァニティワールド》はブラボーに守られて詠唱を行っている。 この事態は絶対にありえない。それこそ夢か幻だ。 だが――彼女の身を包む白色の閃光と浄罪の灼熱は、間違いなく現実だった。 生み出された小型の太陽に、周囲の瓦礫ごと呑み込まれ消えていくモーリーを視認しながら、ナイトメアはブラボーの許へと跳躍した。 「……やはり一度しか使えんか」 腕に刻まれた淡い光を放つ刻印を擦りながら、彼は小さく呟く。 それは、『魔装』と呼ばれる近年になって開発された新しい魔法形態。 戦闘に際して術式を組み上げるのではなく、予め組み上げられた魔法を刻印する事によって魔法を即時発動を可能とする技術である。 魔法そのものを肉体に刻み込むという行程ゆえに負担がかかる事になるが、それを差し引いても詠唱の無防備状態を解消できるのは十分なメリットになる。 現在においてはまだ実用化に至っていない魔装であるが、一線級のウィザードであるナイトメアはモニターとして試作型を運用していたのである。 無論、試作段階のモノをこんなぎりぎりの戦闘で使うつもりはなかったのだが、おかげでモーリー=グレイの虚を突く事ができた。 「無事か、ブラボー」 「……どうにかな」 問うてきたナイトメアにブラボーは苦々しく答えた。 既にシルバースキンを核鉄に戻し袈裟に切り裂かれた胸に押し当てているが、それでも傷はかなり深い。 しかもその核鉄も、戦闘によって細やかな亀裂が浮かんでおり十分な治癒力を発揮できないでいる。 「少々残りの魔力が怪しいが、治癒を施そう。中村 剛太の核鉄も併せれば」 「ナイトメアッ!」 ナイトメアの言葉を遮って、ブラボーが叫ぶ。 傷の痛みを無視して彼はナイトメアの身体を押し退け――かろうじて可能だったのは、致命傷を避ける事だけだった。 身体を貫く灼熱にナイトメアが顔を歪ませる。胸に突き立った槍の穂先を忌々しく睨みながら、彼は膝を付いた。 鈍い甲冑の音が、静寂の中に響き渡った。 崩れ落ちるナイトメアを遮る形でブラボーは彼女に立ちはだかる。 裂かれた胸はまだ満足に治癒していない。 だが、傷の程度で言えば彼女も同様だった。 身体に纏っていた白銀の甲冑はもはや見る影もなく砕け焼き融かされ、覗く素肌は鮮血に染まっている。 だが……だが、それでも。 虚無の世界に押し潰され、断罪の光球に焼き尽くされてなお、”女公爵”の烈火のような眼光は更に強く敵を睨み据える。 「――まだだッ!!」 咆哮し残る魔力を解き放つ。 満身創痍でありながらその放つ圧力は大気を揺らしブラボーの全身を撃つ。 「我が名はモーリー! モーリー=グレイ!! 偉大なる金色の魔王より序列三位を賜る”女公爵”!! この名、この剣にかけて、人間に敗れる訳にはいかない!!」 「……それはこちらとて同じ事!!」 裂帛の気合と共に魔剣を構えるモーリーを真っ向から受け止めて、ブラボーはその手に持つ核鉄を掲げる。 「人々を守る戦士として、この惑星(ほし)に生きる一つの生命として! 世界を侵す魔王に敗れる訳にはいかん!!」 「星薙ぐ魔剣よ! 我が生命を以て刃と成せえぇぇぇ!!」 鮮血に濡れた手を刃に走らせると同時、これまでにないほどの力が魔剣より溢れ出す。 「猛ろ、俺の武装錬金!!」 手にした核鉄を掲げて叫び、その総身に輝く銀鱗のコートを纏う。 地を蹴るのは両者同時。 小手先の業などここにおいてはもはや無意味。 総てを打ち砕く絶対の破壊と、総てを護り防ぐ絶対の盾が真っ向から激突する―― ――この戦いにおいてブラボーやナイトメアがモーリーを侮っていた、という要素は微塵もありえない。 これから訪れる事になる結末の要因は、詰まる所たった一つの事実のみ。 それは当たり前に過ぎる、ごく単純な事。 それはただ単純に。 「―――――――魔器、」 目の前の魔王という存在があらゆる常識を覆し、あらゆる想定を超越したモノであったという事。 「解放!!!!」 放たれた閃光が地を薙ぎ払い、天を穿ち貫く。 それまでの闘いが茶番であったかのような膨大な力。 世界結界の拘束を断ち切って吐き出される死活の一撃。 それは正に人智を越えるモノであり、そしてヒトの力の及ぶ所ではない。 「散華せよ!!」 この惑星総てを打ち砕かんとする渾身の刃は周囲の何もかもを消滅させ、正面に立ちはだかるただ一人の男に向かって解き放たれる。 遍く破砕を齎すその破光は全霊を以て形作られた銀鱗を跡形もなく粉砕し。 それを纏うブラボーとその背後のナイトメア、その進路上の総てを呑み込んだ。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/sevenlives/pages/251.html
ウィザード【wizard】 読み:うぃざーど 英語:wizard 意味: 複雑なアプリケーションの操作を簡潔にするために作られた対話形式のウィンドウのこと。 ウィザードを使うとユーザーは質問に答えていくだけで簡潔に操作を済ませることができる。 インストールの操作などに多い。 2007年02月28日
https://w.atwiki.jp/soulknight001/pages/26.html
概要 ウィザードは赤紫色の髪とスカーフを巻いており、黒い服に茶色のコートと魔女帽子を身にまとっている。可愛さは司祭と良い勝負。 NPCとして遭遇し、話しかけるとエネルギーを200回復してくれる。 目次 概要 目次 アンロック条件 ステータス(強化前→強化語)HP:3→4 アーマー:5→6 エネルギ:240→260 クリティカル率:0 近接ダメージ:3 パッシブ:エレメンタル属性の弾はクリティカルダメージが上がる、杖系の武器を強化する 初期武器ザ・コード(強化前) ザ・コード(強化後) スキル説明スキル1 ライトニングストライク電撃を放ち敵を気絶させる スキルクールダウン:6(4)秒 スキルアップグレード 師匠のアップグレード スキル2 ピアシングフロスト氷の塊を放ち敵を凍らせる 6000ジェムでアンロック可能 スキルのクールダウン:6(4)秒 スキルのアップグレード 師匠のアップグレード スキル3 ファイアーストーム火の玉を周りに生成し、回転しながら敵にダメージを与える $1.99でアンロック可能 スキルクールダウン:5.5(3.5)秒×6 スキルアップグレード 師匠のアップグレード キャラクターの評価 名言集 スキン一覧 アンロック条件 3000ジェム ステータス(強化前→強化語) HP:3→4 アーマー:5→6 エネルギ:240→260 クリティカル率:0 近接ダメージ:3 パッシブ:エレメンタル属性の弾はクリティカルダメージが上がる、杖系の武器を強化する 初期武器 ザ・コード(強化前) ザ・コード(強化後) スキル説明 スキル1 ライトニングストライク 電撃を放ち敵を気絶させる 最も自分に近い敵に電撃を放ち相手を気絶させる。最大四体まで気絶させることが可能。 ・最初に電撃を当てる敵は必ず視界内かつ障害物がない状態であることが必要。 ・その後は視界外でも障害物が有っても飛び越える。 攻撃が当たると敵に8ダメージを与え、2秒間気絶させる。 ・周りに敵が居ない場合はもう一度同じ敵に16ダメージを与える。(合計24ダメージ) ・レーザーバフを使用した場合、雷が大きくなり一回の攻撃あたり2ダメージを増加させる。(合計30ダメージ) ・[弾が壁に当たると反射するバフ]]を使用した場合、5体の敵に攻撃を当てることが可能になる。 スキルクールダウン:6(4)秒 スキルアップグレード 雷のダメージが増加する 師匠のアップグレード 基本+9ダメージまたは一つの敵に33ダメージ 敵を気絶させる時間の増加 スキル2 ピアシングフロスト 氷の塊を放ち敵を凍らせる 6000ジェムでアンロック可能 スキルを発動すると氷柱を6つ形成しながら1方向に向かって攻撃を放ち、敵を凍らせる。 ・氷は全部で9タイル覆う。 ・氷柱は敵の弾をブロックすることが可能。ただし、バウンドする弾は防げない。 強化することができるバフ ・ショットガン弾数の増加:氷柱が2つ増加 ・氷付けを無効化し、敵を凍らせる時間が増加する:凍結時間を伸ばす スキルのクールダウン:6(4)秒 スキルのアップグレード 氷柱の数+2 ショットガンの弾数の増加バフと重複可 師匠のアップグレード 基本ダメージ+2 凍結時間の増加 スキル3 ファイアーストーム 火の玉を周りに生成し、回転しながら敵にダメージを与える $1.99でアンロック可能 5秒間プレイヤーの周りに火の玉を生成し、5秒間プレイヤーの周りを回転しながら的にダメージを与える。 ・火の玉は火傷を引き起こす可能性がある。 ・敵の弾を防ぐことができる。 ・破壊可能なブロックを貫通し、壁を貫通する。 このスキルは最大6回までチャージが可能 強化されるバフ・像 ・バーサーカーの像は火の玉を大きくする。 ・火傷を無効化し、敵に与える炎ダメージを増加させるバフでダメージを増加できる。 ・敵の弾を反射するバフで火の玉で弾を反射可能。 ・{{コンボを増加させる]]バフでスキルのチャージを1増加させる。 スキルクールダウン:5.5(3.5)秒×6 スキルアップグレード 敵を火傷させる確率が上がる。 師匠のアップグレード スキル継続時間が2秒増加し、そのまま消滅する。 キャラクターの評価 全てのスキルに状態異常が付与できるTHE魔法使い このキャラはソロよりマルチ向きのキャラになっている。実際スキル2や3に助けられた人も多いのではないだろうか? ステータスはアーマー値が高いものの肝心のヘルスが心もとないのでむやみやたらに突っ込むとすぐゲームオーバーになってしまうので、立ち回り重視のキャラとなっている。しかし火力面ではパッシブのおかげで属性系統のダメージが上がっており、あまり武器依存がすくないキャラクターでもある。 名言集 原文 日本語訳 リビングにいるとき I can feel the magic recovering. (N/A) Books are a uniquely portable magic. (N/A) スキン クジャクプリンセス I won't just show you my feather~ (N/A) How do I ditch that nagging eagle? (N/A) My Prince will come to me riding a white horse. (N/A) I will wait for his reincarnation (N/A) I will! (N/A) スキン シグナス Ballet is my faith, and magic is my power! (N/A) The combination of dance and magic is mysterious and wonderful! (N/A) Gah! Dancing with the devil is strictly forbidden!! (N/A) My magic heralds light and order. (N/A) Every time I dance, it's a challenge and a breakthrough. (N/A) Musca may look dull, but he's actually a splendid dancer! (N/A) ダンジョンで会ったとき Out of energy? I can help you with that エネルギーが足りない? Energy restored! 回復してあげる! スキン一覧 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 キャラスキン 初期武器スキン スキン名 開放方法 メモ ザ・コード デフォルト なし 最近のアップデートでかわいいイラストが見れるようになった。 ザ・コード ダークレディ 2000ジェム 専用のスキルエフェクトが有る2017年に開催されたKT PLAYスキンコンテストで選ばれた ザ・コード 司書 5000ジェム 専用のスキルエフェクトが有る ザ・コード 見習い 2000ジェム 専用のスキルエフェクトが有る2017年に開催されたKT PLAYスキンコンテストで選ばれた ザ・コード ハロウィン魔女 2000ジェム 専用のスキルエフェクトが有る ザ・コード 中国の旧正月 $1.99 専用のスキルエフェクトが有る ザ・コード ソウルスネア(2周年記念) $2.99 専用のスキルエフェクトが有る歩くとホバリングする(ゲームプレイには影響しません) ザ・コード グランドウィザード(ボスの遺産) グランドウィザードの旗8個 専用のスキルエフェクトがあるグランドウィザードの旗8個と1000ジェムでデザインテーブルにてアンロック ザ・コード 夜(極道スクール) 8000ジェム 専用のスキルエフェクトがある日本の暴走族を参考にしたと書かれているがどちらかというとヤンキーである。このスキンシリーズの名前を繋げると「夜露死苦」になる 九尾のキツネ(古代の伝説) $2.99 専用のスキルエフェクトがある中国神話の九尾の狐がモチーフ ザ・コード 赤ずきん(おどぎ話) 8000ジェム 専用のスキルエフェクトがある話しかけると「あかずきんちゃん」にんついて話してくれる (N/A)(京劇) 実績「Be There for You」を達成 専用のスキルエフェクトがある古代中国における北宋時代、楊家の将軍伝説で有名な穆桂英がモデル (N/A) 小魚を30個 専用のスキルエフェクトがある ザ・コード 貴族メカニック 10000ジェム 専用のスキルエフェクトがある Mikan Ko $2.99 専用のスキルエフェクトがある巫女さんがモデル ミラベラ $2.99 専用のスキルエフェクトがある ザ・コード (N/A)デモンマンサー 2023 ガシャポンマシンイベント限定スキン クジャクプリンセス $2.99 専用のスキルエフェクトがあるビジュアルカード付き カサンドラ 小魚30個 専用のスキルエフェクトがある 白鳥座 $2.99 専用のスキルエフェクトがあるビジュアルカード付き
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/429.html
第六章 蝿の女王 _heavy_player_ 1 巨大な河は、大地に刻まれた傷痕のようにも見える。 山から海へ、内から外へ、 学園都市に発生した侵魔の群もまた、流れると言う点では河のようなもの。 けれどソレは、外から内への大海嘯。いや、唯一点へと収束する、譬えるならば湖だろうか。例外は海に続く出口がないこと。蒸発する他減る事は無く。蒸発すれば濃度は増す。 湛えるのは悪意と憎悪。 湖面は沸き立ち黒々と煮え立つ真性の悪魔たち。 第六学区の廃墟は、この世に出現した地獄そのもの。 ならば、それに蓋をしなければ。舞台の下、板子一枚挟めば底なしの奈落。しかしその床(ふた)失くして、人の生など立ち行かぬ。 「ぅおおおおおおおおおおおお!!!!!」 声は力。腹の底、魂の奥から搾り出す。 身の丈を超える巨大な剣は、裂帛の気合に呼応するように、刃を震わす甲高い音を立てた。 薙ぐ。横一閃に。 刃圏に入った下級侵魔共を、一撃で両断してのける魔法の箒。 神殺しの魔剣を素体に、鍛ち上げられたウィッチブレード。振るう事が許されるのは、柊蓮司唯一人。 殺すものは、群からはぐれた悪魔たち。 人の居なくなった学園都市に被せる蓋。多重複合結界の基点の一つ。 第六学区へ向う本筋からはぐれた怪物たちは、そこに襲撃をかけ、しかし。魔剣使いと超電磁砲。そしてこの世界の学生たちによって阻まれていた。 しかし、マジカルウォーフェアを戦い抜いたベテランウィザードも、他の学生たちも、人の身の枠に囚われている事は変わりない。 無限再生機能を持つ侵魔の群。 有限(人間)の身では、無限など架空の概念に過ぎない。それは、人の精神の射程を大きくは擦れている。 けれど、『無限』とは、限りが無いのではなく、限りを測れない事であるのなら―――、尤も。それでもソレを殺しつくすというのなら、終わりを見る事が叶わない事は当然至極。 悪魔を切り裂く柊も、すでにして満身創痍。大小深浅多種多様。頭、胴体四つの肢。傷の無い箇所を探す方が困難である。 身につける特別製の呪錬制服は、斬られ破れ鉤裂かれ、視るも無残な襤褸切れ同然。血の滲む箇所も、両の指では数え切れない。 それこそ、激戦を物語る虚像の指標。 けれど、その体から力が無くなる事はありえない。 「ぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」 叫ぶ。 脳に直流する精神の電流は、心臓を鼓舞し鼓動を速める。 開いた傷から、血があふれ出す。 赤黒い命の滴。血塗れになった神殺しの刃。 魔剣使いの命を喰らい、彼の剣は切味を増す。 巻戻すように起き上がる侵魔を、処女血を啜る吸血鬼のような、刃鳴りの音が笑う。 何度斃しても起き上がる。殺しても殺しても死なない相手。 だがそれに何の意味がある。 達成すべき勝利の条件は、敵の殲滅にはない。地獄と日常を分ける結界(フタ)。それを形成するまでの時を、稼ぐ事ができればそれで良い。 そうであるのなら、魔剣使いの勝利は確定している。 異界の神々の力を、異界の理論で編み上げ、異界の理と絡み合って組み上がった領域の壁。 ソレは、数分前に完成していた。 一心不乱に、祈りを捧げた異世界の神官、巨漢の神術師に、褐色の肌の妖精僧兵。役割を果たした彼らは、既にこの街の住人の手で『外』へと避難し終えている。 柊が成すべき事は、あとは、御坂美琴と合流して上条当麻を助けにいくことだけ―――― そのために、立ちはだかる悪魔の壁をぶち抜く必要がある。 そうして、魔剣を振り上げて、 不意に、世界から音が消えた。 まるで、彩度の無いフィルムに押し込められた写真。 若しくは、ブルーレイにハイビジョン録画した映像を、最早博物館にしか無いであろう白黒テレビで再生したような。 そんな、覚えの在りすぎる灰色の世界。 柊蓮司は、そこでそれに出会った。 2 深い緑に輝く破壊の槍。矢継ぎ早に撃ち掛けられる攻撃魔法は、目標を捉え得ず粉塵を巻き上げる。 一瞬、視界を覆い隠すカーテンが晴れた時には、既に其処には何も無く、何時の間にか拳が届く範囲にまで接近を許していた。 慌てて、空に飛に逃げる。 魔王と超能力者が重ねた拳が、箒を掠めて機能停止。ガラクタは重力法則と言う基本原理に則り、落下する。上に乗っていた魔法使いごと。 落下までの短い間に体勢を立て直して、無様に転がる事は避けたウィザードだが、その間に踏込んできた、二人組の拳に脳を揺らされる。 三日三晩の徹夜明けの、睡魔にも似た暴力的な衝動が四肢に根を伸ばし、ウィザードは仰臥する。 そんな方法で、戦闘不能に追い込まれたのはこれで三人目だった。 邪魔な下級侵魔を排した月匣の中。葛葉亨以下、十名の魔王監視部隊は、アゼル・イヴリスと上条当麻を追い詰めた。しかし、それが直接的な攻略には繋がっていない。 荒廃の力と幻想殺し。 前者を後者が押さえ込んでいる以上、アゼル・イヴリスより先に上条当麻を殺すことは出来ない。 幻想殺しが効果を失えば、その先に待っているのは破局(カタストロフ)唯一つ。 ソレを防ぐ為にウィザードが居るというのに、それでは本末転倒だ。 タイミングは、二人同時かアゼル・イヴリスが先。それが望ましい。 しかし、広範囲に二人とも巻き込む攻撃は、幻想殺しでガードされ、アゼルを狙った攻撃は、安全地帯に入り込まれて空を切る。 上条当麻に向けられる攻撃は、アゼル・イヴリスの行動を制限する為だけの牽制。上条当麻が一秒前に居たところには、決して致命傷が飛んではこないのだから。 遠距離からの射撃は、かわされ防がれる。 ならば、近距離(ショートレンジ)での白兵戦はどうか。 接近した一人が、刃を振りかぶり叩き落す。 あろうことか、其処に二人は、握りあった右手左手を突き出してきた。 この一撃は、いわば牽制。魔王の腕を切れるとは思わない、しかし、人間上条当麻の右手はどうか? それでもし、幻想殺しの効果が失われてしまえば! その迷いが、刃の進行を滞らせる。その時間は一瞬にも満たず、しかし、その一瞬で上条とアゼルは踏込み、左手と右手の掌底を、挟みこむようにウィザードの脇腹に叩き付ける。 合計二十四本の肋骨の内、左右第八から第十一までの計八本が、鈍い音を立てた。 かはっ。と、湿った咳のような音をたてて、肺の中身が空になる。身体が酸素を求めたその隙に、箒(ウィッチブレード)を折り砕いて、複合ストレートが顔面に突き刺さった。 接近戦を挑めば、魔王の膂力の前に敗北する。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)上条当麻』。 葛葉亨の最大の誤算は、彼の存在を見誤った事だ。 ありとあらゆる異能の力を打ち消す右手。彼らの最大の武器である荒廃の力を押さえ込むハンディキャップ。 表界ではないこの世界で、魔王相手に対等に戦える。彼等(ウィザード)にとってのアドバンテージ。 それだけだと思っていた。けれど蓋を開ければ『荒廃の力』という確実な『死』を、余計に浮き彫りにする恐怖の象徴。 機能停止=死。 自然、攻撃の手は弛み、相手は其処につけ入ってくる。 此方の魔法を打ち消す事や、学園都市製一般人的身体能力など瑣末な事、上条の存在は、ウィザードたちの行動をも縛り付ける鎖であった。 しかし、葛葉亨は、ウィザードだ。 異能の力を操り、無垢なる人々の為に命を使う、夜闇の魔法使いである。 裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。 世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。 そして何より、アゼル・イヴリスは希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇。 あの戦場で、星々の海で、荒廃の魔王と対峙してただ一人生き残った自分だけは、 決して、この少女の姿をした怪物を逃すわけにはいかないのだ。 監視部隊の残りは七人。対する相手は二人。数の上では十分にこちらが有利。 それに、もう幻想殺しを見誤りはしない。 「桂木、相川、稲枝! 間合いを取って集中砲火!! 粟根、十叶は私と共に白兵戦!! 菫は雨原、峰百、麦奈を回復後、四人で砲撃に回れ!! 何も考えるな!! 魔王を斃す事だけを念頭に置け!!」 戦術を投げ捨てる。選ぶのは特攻。 部下を二人引き連れて、槍型箒を掲げて突進する。 質を変えた三種類の砲撃が、上条とアゼルの足を止めた。幻想殺しを掲げて防御する。其処に、光輝の槍先が肉薄。三方向からの直接攻撃に、逃げ場をなくした魔王は、跳躍する。 唯一開いた上空。 そこに、待ち構えるように、四つの砲口が光を湛えていた。 対多数戦の鉄則は、攻防の主導権を常に持ち続けること。 常に攻め手を持ち、決して護る為だけに護ってはならない。防御は須らく次の攻撃への布石で無ければ成らない。 意識的、または無意識的に、幻想殺しの機能停止=荒廃の力の開放という恐怖を使って、上条当麻はウィザードの動きを牽制していた。戦場での主導権を占有していた。 ならば、避けられようが防がれようが、アゼルだけを狙えばいい。喩え上条の右手が機能を失ったとしても、そのときには荒廃の魔王を斃して居ればいい。 死の恐怖で行動が縛られる。状況の分析が攻撃を阻害する。そんなものは捨ててしまえ。そうすれば、戦場は民主主義が席巻する。 閃光がすべてを塗りつぶす。 二人が頼るものは、幻想殺し以外にありえない。 攻勢魔力の奔流を、上条の右手が打ち消して安全地帯を形成する。 思惑通りに。 ウィザードは、槍の穂先を上空に向ける。 燐光を纏い、爆光を噴射して光の槍が魔王に迫る。 あらゆる異能を封じられた今、支えの無い空中では、流石の魔王と雖も体勢を立て直す事はできない。 「アゼルッ!!」 上条の絶叫も、肉を貫く嫌な音を掻き消す事はできなかった。 この通り、嘘の様にあっさりと、結果(こたえ)がでる。 どさり。と、重たい音をたてて魔王と超能力者の身体が地に伏せる。 衝撃に悶絶する上条。そして、 「ぅぐっ、■■■ぁ!!」 苦痛に呻く。 アゼル・イヴリスは、豊かな胸から、なだらかな腹から、絞まった腿から、光の刃が貫通した傷口から噴き出した血で、全身を染め上げていた。 ウィザードは攻撃の手を緩めない。 泥にまみれた芋虫のように、身を捩るアゼルに光の刃を振り下ろす。 刃は大地を抉る。 自らも肋骨の何本かは持って行かれているであろう、もしかしたら内蔵も痛めているかもしれないその体で、上条当麻は少女の身体を巻き込むように転がった。 そして、魔王の血で全身を汚しながら、少女を抱えて身を起こす。 上条の腕の中で力なく、アゼルは咳と共に大量の血を吐き出した。 「てめぇら………」 睨み付ける。その瞳に浮かぶのは怒りの一色。 「何で、何でこんな事が出来るんだよッ!!」 自明。ソレは敵だ。 ウィザードは言葉なく断言する。 「それに、俺は被害者だ。加害者を憎んで何が悪い」 ウィザードは光をたたえる。 憎しみで彩られた、死の光。 その光は、上条とアゼルを消し飛ばすだろう。 ギシリ。と、奥歯が鳴った。 死の光が解き放たれる。 網膜を灼く閃光は、この身、この腕に抱く少女の身体すら焼き尽くすだろう。 握られる右手を突き出す。 ソレが異能の力であるのなら、仮令神様の奇跡であっても打ち消す右手。 光が掻き消える。 異世界の魔法とは言え、所詮異能の力。 上条の網膜に補色の痕跡を刻んで、攻勢魔力は霧散した。しかし、 (!?) 敵は一人ではない。 灼き付いた色を砕いて、襲い来る攻撃魔法の嵐。 圧迫する闇が、牙のような隆起が、出現した瀑布が、竜の息吹とばかりの炎が、巨大な竜巻が、歪んだ闇の矢が、拳のような空気が、炎の獣が、泥の拳が、 すべて、上条ごとアゼルを討ち滅ぼそうとする殺意の顕現。 (……っ、クソッ!!) 幻想殺し(イマジンブレイカー)は間に合わない。 効果が及ぶのは右腕、その手首から先。全方位からの範囲攻撃には対応のしようがない。 約束された絶命までの数瞬。 その間、上条にできたのはアゼル・イヴリスを庇う壁になる事だけだった。 3 学園都市は広い。 開発の遅れていた西東京一帯を一挙に買い取って造られた学校の街は、東京、埼玉、神奈川の三県を又に掛け、東京都の半分ぐらいの敷地を円形に切り抜いて鎮座していた。 この学園世界へも、街一つがそのままやって来ている。そのため、世界内でも有数の広さを持っているわけだ。 つまり、何が言いたいのかと言えば、そんなところで人一人を見失えば、見つけ出すのはとても大変だという事。 そしてそれが、一度見つけた迷子であるのなら、その精神的疲労感はイロンナモノを振り切ってしまうという事だ。 「ちょっと!! 待ってってば!!」 何もかも投げ出したくなるような徒労感を回避する為に、魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤこと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、声を張り上げる。 怖しくすばしっこく、体格を生かして狭い路地ばかりを逃走する、肉体年齢一〇歳程度の少女が、振り向きもせずにのたまわく。 「待てと言われて待つ奴がいるかぁあ!! って、ミサカはミサカはどこかで聞いたような科白をカナミンの偽者に向って言ってみる!!」 「まぁ!? なんという事でしょう!! この由緒正しき(リリカルマジカルな)魔法少女(カレイドルビー)を偽者扱いだなんてっ!!」 イリヤの手にある杖が、傷ついたような声をあげる。 因みに、カナミンとは学園都市で放映されていたテレビアニメ『超起動少女(マジカルパワード)カナミン』。と、その主人公のことである。 言うまでも無く、日本が誇るオタクの戦略物資(ジャパニメーション)であったりする。 それはともかく。 戒厳令(コード・ブラック)下の学園都市で、発生した迷子。名前を『打ち止め(ラストオーダー)』という彼女は、一度はイリヤを含めた執行委員の手で保護された。 なんでも、同じく学園都市出身の御坂美琴の妹らしく、執行委員長とでも言うべき柊蓮司と、彼女が捜索に加わった途端、いともあっさり見つかった。というか自分からやってきた。 ふらふらと。 で、曰く。 「うわーい、お姉様だお姉様だって、ミサカはミサカは偶然の出会いに吃驚してみるって、いたたたたたた!! なんでいきなりミサカのこめかみをグリグリするの! ってミサカはミサカは暴力反対って声高に叫んでみたり!!」 「喧しいわこのアホ妹!! 戒厳令(コード・ブラック)よ、戒厳令!! にも拘らずふらふらふらふらと! どれだけの人に迷惑掛けたか!! 解ってんの!!」 「だって、あの人が近くに居る気がしたんだもん!! って、ミサカはミサカは自分の正当性を主張してみる!!」 「なに言ってんのよ!! 学園都市の人間は避難してるの!! アンタが避難し終えてない最後の一人なのよ!!」 「痛いいたいいたい!! 御免なさいお姉さま!! ってミサカはミサカは泣きながら謝ってみる!!」 周囲に迷惑を掛け捲った妹を折檻する姉の声が、住人が殆どいなくなった街に反響した。 その後、御坂美琴と柊蓮司は他の執行委員からの電話で、街に張る複合結界の基点の防衛に回され、イリヤは打ち止めの避難誘導を任されたのだが、 「なんで逃げるのぉお!!」 姉譲りの電撃をイリヤに食らわせて、怯んだ隙に逃げ出しやがったのだ。 「だってだってコッチの方からあの人の気配がしたんだもん! ってミサカはミサカは自分の直感を信じてみたり!! きっと迷子になって泣いてるんだからミサカが行ってあげなくちゃいけないのってミサカはミサカは不退転の意思で断言してみる!!」 此方は空を飛べるとは言え、土地勘は地元民(ラストオーダー)の方が圧倒的に上。 つまり、ちょこまかと動き回る打ち止めの行動に、イリヤはついていくのがやっと。 このままでは、遠からず見失ってしまうだろう。 と、その時ポケットの中が震える。バイブレーション設定の0-phoneを取り出して、通話ボタンを押して。 「もしもし初春お姉ちゃん!? 今すっごく立て込んでるんだけど!!」 『イリヤさん? 迷子ちゃんの避難誘導のことを伺いたかったんですけど………』 「今全力で追っかけてる!」 電話の向こう。コンピュータに向っているであろう初春飾利に、イリヤは叫ぶようにそういった。 『なるべく急いでくださいね。その子が最後の住人です』 「それホント? なんか知り合いがいる気がするって言ってたんだけど」 『……少なくとも、学園都市の住民として登録されている人たちは、間違いなく避難完了していますよ』 「………。解った、急いで捕まえるね」 『お願いしますね。 っと、そうだ、もう一つ確認しておきたい事があったんです』 わざわざ前置きをする初春の様子に、イリヤはなんだろうと首を傾げ、 『柊さんたちが第六学区に向わず、結界基点の防衛に向っているんです―――』 何故だかわかりますか? と、疑問を呈するその科白に思わず「は?」と、聞き返していた。 『ですから、柊さんたちが複合結界の基点に向っているのは―――』 「いや、そうじゃなくて。それ、ノーチェが電話して頼んだでしょ? 0-phoneから声聞こえてたよ?」 今度は、向うから『は?』と返って来た。 『へ? それホントですか!?』 「うん。美遊も聞いてたはずだけど」 「私も聞いてましたよ~」 魔法の杖にも太鼓判を押されて、スピーカーの向うで慌しい音が聞こえてくる 『ノーチェさん? いつの間にそんな事を? 『知らないであります。私は演算にかかりきりでありましたよ!!』』 「………。ノーチェじゃないの?」 『本人は違うと言い張ってますが―――『そもそも、迷子の捜索に加われなんて言った覚えも無いであります!!』……だ、そうです』 「―――じゃあ、だれが?」 『………ちょっとまずそうですね。 ―――わかりました。それはコッチで何とかしますからイリヤさんは迷子の追跡に全力を尽くしてください』 通話を切って飛行に専念する。 打ち止め(ラストオーダー)の背中は、思ったよりも小さくなっていた。 「ヤバ」 4 腕の中には死にかけた少女の躯。 護ろうとしたものに刃を突きたてられ、痛々しく血に塗れた。 上条の身体など壁にすらならないとしても、死なせてたまるかと抱きすくめる。 その魔法は殺意の具現。 再現された自然現象を模して、死神の鎌が迫る。 背を向けた。襲い来るであろう破壊に、歯を食いしばる。 恐らくは、空前にして絶後の痛み。死を告げるチカラであるのなら。 耐える為に力を込めて、しかし痛みは――――――無い。 ―――紅い月が昇る。 魔法の代りに届いたのは、 「で? アンタはいつまでアゼルを抱きしめてる気なのかしら?」 まるで害虫を見下ろすような冷え切った視線と声。そして同時に、上条の脇腹に激痛。 「みぎゃぁあああ!!」 折れた肋骨の上から、黒革のローファーを叩き込まれて、上条当麻は愉快な絶叫を上げた。 仰臥して苦悶のダンスに身を捩る上条を無視して、凶悪無比な蹴りを放った当人は、気を失っているアゼル・イヴリスの身体から、血で汚れた黒い帯、その残骸を引き剥がす。 「う、うぐぉおおおお……」 上条を蹴たぐった少女は、その身体に刻まれる大小さまざまな生傷の数々に貌を顰めながら、取り出した包帯のようなものを巻きつけていく。 首、胸と、帯を巻きつけ、左腕に及ぼうかと言う辺りで、 「おおおおぅうるぅおおお……」 眦を吊り上げる。 ぎゅうっ。と、握り締められた左手。いまだに悶え続ける上条の右手を握り締めている左手にピクピクと眉を上下させ、 「ちょっと、手を離しなさい」 「おおおおおお、き、効いたああああああ。どごって、脇腹、ボキってなんか、ぐぉっ」 苦悶の声をあげて何一つ聞いていない上条に、再び革靴で蹴りを入れた。 大きく咳き込んで跳ね起きる上条に、彼女はもう一度同じことを告げると、 「いや、俺がこの手はなしたら大惨事だし。荒廃の力つったか? それがあらゆるプラーナだかなんだかを吸い取っちまうらしい って、何でアゼル裸なんだよ!?」 「欲情したら殺すわよ」 「んあっ!? 欲情するなってそんな無茶な っ!? ごめんなさい許してください冗談ですそんな状況じゃないのはよく解ってます!!」 「………どうでもいいから、土下座する前に目ェ瞑って右手を離せ」 「―――いや、だから。俺の右手は幻想殺しっつって―――」 上条は、自分の右手と、アゼルの力について説明しようとするが、少女はそれを遮って、 「んなこと解ってるわよ。 だから魔殺の帯を巻くのに、アンタの右手が邪魔だっていってんの」 意識をなくして尚、しっかりと幻想殺しを握り締めるアゼルの左手を引き剥がし、その少女が告げた言葉に、上条は引っ掛かりを覚える。 「………魔殺の帯って、アゼルの力を抑えてたって言う? それってかなり貴重なんじゃなかったか? 確かアゼルが代えはないとか言ってたけど―――」 価格、日本円にして約三百万円。そんなもの、そうそう用意できるものではない。 目の前の少女は、見た感じ御坂美琴と同じくらい。つまり中学生ぐらいの年齢にしか見えない。そんな少女が、どうして魔殺の帯など持っているのだろう? 高山外套(ポンチョ)の下に輝明学園の制服を着ている事からきっと第八世界の関係者だとは思うが。 波打つ銀髪の下から、黄金の瞳を覗かせて、その少女は不機嫌に告げる。 「そ。苦労したわよ。あんたとアゼルを引き合わせるのはゲーム上の必要事項だもの。 その時、間違いなく幻想殺しが魔殺の帯を破壊するでしょうし、そうなるとココから先には進めないもの―――」 あらゆる異能を否定する右手。それは魔王の装備ですら例外なく破壊するだろう。 だから。と、彼女は、 「贋物にすり替えておいたわ。 そこの残骸は、単に魔殺の帯っぽい感触がするだけの布切れよ」 なんでもないように、告げた。 「そういうことだから、今後一切アゼルに触れるんじゃないわよ。アンタが壊した贋物と違って、本物(コレ)は跡形も無く消えちゃうんだから――――」 「…………ちょっと待てよ」 何かを言っている少女の言葉を遮って、上条は声をあげた。 「ってことは何か? 第六学区が壊滅したのって……」 もしも、アゼル・イヴリスの魔殺の帯がちゃんと機能していたのなら、此処まで被害が出る事はなかった。 もしも、此処までの被害が出る事がなければ、アゼルがこれほど傷つく事はなかったのではないか。 つまり、それは――― 「お前が―――、元凶?」 上条の視線を受けてその少女は、ニィっ、と三日月の笑みを浮かべる。 「半分ほどね。 力を解放したのはルー・サイファー。被害を広げたのはこのあたし。 ま、帯が贋物だって気付かなかったアゼルも迂闊と言えば迂闊かしら――――っ!?」 気付けば、上条の手は少女の胸倉を掴みあげていた。 その気楽な物言いに、理性の掛け金が弾け跳んでいた。 「この手を離しなさい、上条当麻」 「テメェはッ!! どの面下げてココに居るんだッ!!」 「何を怒るの上条当麻。私たちは魔王。悪魔の王よ。 望まれる役割(ロール)なんて、人に仇為す事だけでしょう?」 「五月ッ蝿ェ!! そんな言葉で誤魔化せると思うな。 死んじまった一万人以上の人たちに、何よりお前はアゼルを傷つけたんだぞ!!」 氷河のように冷え渡る少女に、烈火の如き上条が拮抗する。 「お前はアゼルの事が大事なんだろ!! だったら何でそんなコトができるんだよ!!」 ほんの一瞬。いや、それ以下の時間、彼女は言葉につまり、 「―――、……」 そう、小さく呟いた声は上条には届かず、彼女は音を発てて上条の腕を叩き落とした。 「恨み言なら後で幾らでも聞き流してあげる。 アゼルを治した後でね」 5 心にある感情はたった一つ。 ただ、怒りだけが―――すべてを塗り潰していた。 葛葉亨は、ウィザードだ。 所属は超時空多次元機甲特務武装黄金天翼神聖魔法騎士団。通称ロンギヌス。 常に、人間の世界を奪いに来るエミュレイターとの戦いの最前線にでる部隊にいる事は、彼の誇りだった。 少し前には、あの柊蓮司とともに冥魔『夜闇よりも冥きもの』の封印に関わる事件で、輝明学園秋葉原分校の『学園迷宮(スクールメイズ)』に潜った事もある。 そして、この学園世界でも彼は魔王がらみの任務についていた。 『蝿の女王』ベール・ゼファー。 『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。 学園世界に入り込んできた二体の魔王。その魔王の監視が、その任務の内容だった。 魔王とは、世界に対するクリティカルな危機的存在のことである。戦闘能力は低くとも、世界の危機に直結する能力を持つもの。『荒廃の魔王』などが、その代表格であろう。 予想されうる危機に対して、その発言の兆候をいち早く発見し、それに対応する事が彼らに求められる仕事だった。 そして、その日が来た。 学園世界でも、有数の土地を有する学校の街『学園都市』。その第六学区が消滅した。 異世界の街に吹き荒れたのは、プラーナを収奪する死の嵐。魔王アゼル・イヴリスが荒廃の力。 其処に在るだけで世界を滅ぼす怪物は、ついにその正体を顕にしたのだった。 彼と、その部下たちはただちに迎撃に出た。 魔王は、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という異世界の異能者によって、あらゆる力を封じられていた。忌まわしき『荒廃の力』も含め、すべての魔法も特殊能力も使えない。 絶好の機会であった。 裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。 世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。 そして何より、希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇をとるためには、この機会を逃すわけには行かなかった。 ソレなのに、自分たちが張った月匣の中に、更に強力な月匣を張ることでアゼル・イヴリスは彼らの手から逃れ得た。 心には怒りが在った。 アゼル・イヴリスは残酷だ。 ソレが与える死のカタチは、尊厳そのものを奪い去る。 プラーナを食い尽くされるという事。ソレは物事が存在する為の力。ソレを失ったものは消滅する。 肉体がなくなることではない。魂が食われるだけでも無い。ソレそのものが、存在していたという事実が、消えて、無くなる。 記憶も、記録も、何一つ残らない。 誰に聞いても、何を聞いても、誰も知らない。 今まで生きてきたすべてを、人生を、すべて無かった事にされてしまう。 それは、人間の死ではありえない。 それが、どれだけ残酷な事か 人は、肉体が滅んだ程度では死に得ない。ソレまでにかかわった人々の中に、有形無形の影響として残るからだ。 だから、人間らしく死ねなかったものは、唯の無意味な肉の塊になる。否、其の骸(にく)すら残っていない。 アゼル・イヴリスは、ソレを与える。 関わった人々はまだ生きているのに、忘れ去られてしまう。いや、最初から居なかったことにされてしまう。 人間の尊厳を、正面から踏み砕く蛮行。 その怪物に、仲間を殺された。そして、自分ひとりが生き残った。 記録など何処にも無く、もう、顔も名前すら思い出せない。 それでも、失った事実だけは残っている。ぽっかりと黒々とした穴がこの胸に開いている。 だから、苦しい。 だから、許せない。 この胸の欠落を埋めるには、幕を引くしかない。 怒りの一色で心を塗りつぶし、ウィザードは魔王を殺す為に引き金を引いた。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/315.html
新米らしきロンギヌスが仲間を抱えて逃げ出すのを確認し、ナイトメアは再び冥魔の方に向きなおる。 「…ふん。まだまだやる気は十分、と言ったところか」 仮面がひび割れ、右手を失ってなお立ちあがってくる冥魔。 それを一瞥してナイトメアが言う。 「…しぶとい」 それに答えるのは、巨大な銃を抱えた、紅い髪の少女。 「攻撃力に優れる姫宮空の攻撃に耐えきるとなると、少し厄介」 緋室灯がナイトメアの横に立ち、無表情のまま言う。 「うむ。パワーアップのペースを考えると、いずれお前の射撃でも撃破が困難になりかねんな、どりぃ~む」 灯の言葉にナイトメアが頷く。 ここ最近、世界各地で出現している仮面をつけた冥魔。 目的も何も無く暴れまわる彼らを撃退し、元を断つと言う依頼を受けて編成された、絶滅社の精鋭部隊。 若手ながら魔王クラスとの戦闘経験もある実力あるウィザードのみで編成された彼らは、すでに相当数の仮面の冥魔を撃退している。 だからこそ、分かる。この冥魔が、段々強くなっていること。このままではいずれ彼らの手にも負えなくなると言う事が。 「やはり一刻も早く元を断つ必要があるか…だが今は目の前の冥魔を…うん?あれは?」 再び意識を冥魔の方に戻して、ナイトメアは気づいた。 コワイナアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!! 起き上がった冥魔の攻撃対象が、いつの間にか部隊のメンバー以外になっていることに。 * 「うおおお!?なんでコワイナーが!?」 羽音を響かせながらブンビーは必死に攻撃を避ける。 「待て待て!大体何で私に攻撃してくる!」 コワイナアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!! だがコワイナーの方は意に介さず、ブンビーに対しての攻撃を続ける。 「お前の敵はプリキュア!私は違うの!結局リーダーにはならなかったの!OK!?」 ブンビーの必死の説得。だが、それに対する返答は。 コワイナアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!! 更に苛烈になった攻撃にて返された。 「ええい、いい加減にしろ!温厚な私にも我慢の限度ってものが…」 ブンビーは冥魔の仮面の方へとその腕を向ける。正確に狙いをつけ… 「…あるんだよ!」 その腕から巨大な針が発射された次々と仮面に突き刺さる。的確な一撃に冥魔が苦しみもだえた。 「いくら落ちぶれたと言ってもね、たかがコワイナーごときに負けるほど、私は弱くないんだよ!」 だが、ブンビーの活躍もそこまでだった。 「ははははは…うぷ…」 がくんと。 ブンビーの高度が落ちる。 「やばい…」 急激に動いたせいでさっきまで浴びるように飲んでいた酒が、一気に回ったのだ。 「ぎぼぢわるい…」 胃からこみあげてくるものを必死に戻さないように口を押さえるブンビー。 とてもじゃないが戦うどころじゃない。 だが、こんな所で逃げ出すわけには…と考えたところでブンビーは気がついた。 「ぐぇ…考えてみたら戦う必要、まっだぐないじゃないか…」 襲われたのでつい応戦したが、いつものように瞬間移動で逃げれば良いことに。別に街が壊れたからって困らないし。 「ぞうとわがれば…」 いつものように逃げ出そう、そう考えたときだった。 「ガンナーズブルーム」 すぐ横から囁くような少女の声と同時にコワイナーの仮面が完全に砕け散る。 アアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!! 仮面を砕かれ、断末魔の悲鳴を上げて、コワイナーが消滅する様子を、ブンビーは呆然と見ていた。 「…あれ?」 この世界にはプリキュアはいないはず。なのになんでコワイナーが倒されているんだ? っていうか誰が? そんなことを考えながら辺りを見回したブンビーは気づく。 自分がいつの間にか、囲まれていることに。 「な、なんだお前ら?」 周りを見回したブンビーが困惑して問いかける。 怪しい集団だった。 プリキュアたちより少しだけ年上の、紫色の制服を着た少女が2人と地味な少年、そして…1人の怪しい男。 「その姿…人狼?魔物使い?」 2人のうちの1人、紅い髪の少女が人間離れした姿のブンビーに驚くことも無く無表情に淡々と謎の質問を投げかける。 その手には少女が持つには似つかわしくない、巨大な銃を抱えている。 その様子からすると先ほどコワイナーを倒したのは、この少女なのだろう。 「え~っと…大丈夫ですか?」 それとは対照的に、にこやかに笑いながら声をかけてくるのは、茶色い髪の少女。 紅い髪の少女と違い、手ぶらである。何故か服の右腕の袖だけが破けていたが、それ以外は特に変わったところは無い。 「鈴木さん、この人です。さっき、冥魔に襲われてた人」 地味目な少年がこちらをうかがいながら男と話している。その手には小さめのナイフのようなもの。 確かプリキュアと時代劇村で戦ったときに見た、クナイとか言う奴だ。 「ふむ…たまたまここを歩いていたウィザードか…すまない、少し話を聞かせてもらえないだろうか、どりぃ~む」 ブンビーの顔を観察しながら渋い声で呟く、男。 今までの彼らの会話からすると、この集団のリーダーかも知れない。だが。 「な、なんだその変な格好!?」 ファッションセンスがぶっ飛んでいるせいで色々台無しであった。 「変?どこがだ?これは妻の愛の詰まった、夢使いのフォーマルなコスチュームだが?」 「嘘つけ!そんなもん贈る妻がいてたまるか!大体お前らは一体…」 思わず突っ込みを入れながら、ブンビーははっと気づいた。 「まさかお前ら…エターナルの追手か!?」 そう考えれば説明はつく。基本的にエターナルは服装に縛りが無い分、変わった格好をした連中も多かったから。 「…何の話だ?聞いたことのない組織だが。それと我が妻の選んだこの服の侮辱はやめてもらおうか」 一方の男はブンビーの出したエターナルと言う名にむっとしながらも答える。 「僕たちは絶滅社の傭兵です」 リーダーらしき男のそばに立つ少年がフォローするように答える。 「絶滅社?」 「うむ。今回の冥魔事件を追っている。少なくともエターナルとやらでは無い」 その答えにブンビーは内心安堵する。奴らが追ってこないように逃げ込んだ先なのだ。 速効で見つかったら、来た意味が無い。 「そ、そうか…いや、分かった。ブンビーだ。よろしく頼むよ」 とりあえずエターナルでないのなら、仲良くしておいて損は無い。 瞬時にそう判断し、人間の姿に戻り笑顔で握手を求める。 「うむ、俺の名はナイトメア。クラスは夢使いだ…うん?どうした変な顔をして」 名前を名乗った瞬間、なんとも言えず微妙そうな表情を浮かべたブンビーに怪訝そうな表情で問いかける。 「…いや。何でも無い。ただちょっと昔を思い出しただけだ。気にしないでくれ」 それを慌てて誤魔化す。 自分が昔いた組織と同じ名前を名乗った男に対して。 「そうか?まあいい。それと彼らが」 「斉堂一狼です。忍者をやってます。よろしくお願いします」 「姫宮空です。人造人間です」 「…緋室灯。強化人間」 3人の少年少女がそれぞれの名前とクラスを名乗る。 「ああ、分かった。そちらも、よろしく頼む」 正直人造人間だの強化人間だのの意味はさっぱりだったが、とにかくプリキュアのように戦う力を持っているんだろうってことで納得する。 「さて、お互い名乗ったところで、今度はこちらの質問に答えてくれないか?」 頃合いを見計らい、ナイトメアが切り出す。 「お前が先ほど戦った冥魔についてな」 「冥魔?…ああ、コワイナーのことか」 「そう、ブンビー、君がコワイナーと呼んでいるものについてだ」 ブンビーがポンと手を叩いて納得したのを見て、ナイトメアはやはりと確信する。 「どうやらその様子だと我々がまだ知らぬ何かを知っているとみた。情報の提供を頼みたい。相応の礼はする」 相手は情よりも利でもって動く人間であると判断したナイトメアが交渉を行う。 「礼、か…」 ブンビーはしげしげと目の前の男を観察する。 無表情の男。その身から漂うのは張り詰めてはいないが決して油断はしていない、程よい緊張感。 元々戦闘任務が主体の組織に在籍していたブンビーには分かった。この男は、場慣れした、本物の“プロ”だと。 「…分かった。私が知っていることならば教えてやろう。その代り、条件がある」 自然と自らも真面目な表情となり、承諾する。 「条件?」 つられるようにナイトメアが聞き返す。 そして、ブンビーはその条件を口にする。 「…宿泊先を用意してくれ。酒が抜けるまで休めるようなところを」 逃亡者ブンビー。現在の地位は…住所不定無職。 手もちも寂しい彼には、非常に重要なことだった。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/cafedeanri/pages/43.html
各職考察・ウィザード 工事中です⊂二二二( ^ω^)二⊃
https://w.atwiki.jp/ankapoke/pages/16.html
これまで行われた・行っている安価プレイまとめwiki 初代 スタープラチナ◆CdLYkywJus ポケモン初代(青)を安価プレイ 【完結】 にせもん◆8HdYpQBrEo ポケモン(緑)を安価でプレイ 【完結】 サンドのしたっぱ◆IHwCl1jhIo 安価でポケモン青やるぜ 黄色人種んゃんっぺ◆jtHtMr3tGQ 安価でポケモン黄やることになった 金/銀/クリスタル リリ才夕◆0kWIEJNwuM ポケモン水晶安価プレイ 【完結】 R/S/E 銀バエ◆GmgU93SCyE ポケモン赤しかやったことない俺がルビー安価プレイ FR/LG チンカスwwwww ◆zH1xBNYF5j8K ポケモンFRを安価でやるぜwwwwwwwwwww D/P/Pt にせもん◆8HdYpQBrEo 安価でポケモンプラチナやる
https://w.atwiki.jp/originsro_jp/pages/27.html
ウィザード転職クエスト(英語) 工事中
https://w.atwiki.jp/rohanswallowtail/pages/54.html
ウィザード ウォーロックとどこが違うの? ■対人特化型なウォーロックに対し、狩りに特化したウィザード。ソロでもPTでも、狩りに関しては全職業中狩り性能ナンバー1である。 ■知能型や精神型、体力型など、育て方によって多彩に性能が変化する。 ■対人に関しては知能ウィザードを除けば優秀とは言いがたい。タウン戦ではどちらかというと支援的な役目。 ウィザードの看板スキル メンタリティシールド…PT全員のダメージを大幅に軽減。転職前の紙防御もこのスキルで解決。 アドデンバー…PT全員のスキルダメージを最大500増加。属性スキルにも効果があるため、ヒューマンやハーフエルフに喜ばれるスキル。 リングバースト…4秒間のリキャストで打てる範囲攻撃スキル。全職業中最高の狩り効率といわれるゆえん。 エリアディスペル…唯一の範囲バフ消しスキル。エターナルダークネス→エリアディスペルのコンボでタウン戦で大活躍。 精神ウィザード リングバーストやストライクバッシュなどで、最高の範囲狩り性能を誇るスタイル。 デストロイを使うことで、通常攻撃でも範囲狩りができる。 メンタリティシールドが精神依存なため、硬さも期待でき、PTでの需要は一番高い。 知能ウィザード 魔法攻撃力%武器を持ち、デストロイを最大限に生かして通常範囲攻撃で敵を撲滅していくスタイル。 マジックブーストとストロングマインド、ガーディアンのクリティカルオーラを組み合わせれば立派な範囲対人職に。 魔法攻撃力を中心に伸ばすため、DFのモラルエクスパンションで飛躍的にダメージが上がる。 欠点は、知能振りな為にメンタリティシールドの効果が低く、防御面が紙であることと、魔法攻撃スタッフが非常に高価であること。。 体力ウィザード 体力振りとHP%スタッフを持ち、タウン戦でのウザキャラに特化したスタイル。 主な仕事は敵の攻撃に耐えつつ、キリングタイム→エリアディスペルで範囲バフ消しや、ストライクバッシュで仲間の攻撃を支援する。 また、死んでもリレイズによってその場で復活→再びストライクバッシュといった最も相手にしたくない存在にもなれる。 武器に関して 精神、魔法攻撃力、HPスタッフのどれかを持つことになる。 精神スタッフに関しては、HP吸収とMP吸収をつけるのが基本で、HP吸収が7%ほどあれば、永久に範囲狩りすることができる。 オススメOP石は、指輪+指輪+指輪+冠(精神)、香炉+香炉+香炉+涙(知能)、香炉+香炉+香炉+古びた香炉(体力)。 スキル