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<前6-7へ|次7-2へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-1 182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 11 37.45 ID OGIpmW2P ――魔王城、深部、魔王の居住空間 魔王「けふっ。けふっ。わたしを病人扱いするな」 メイド長「そんなこといたって、まおー様」 勇者「そうだぞ。お前病人だろうが」 魔王「これは怪我だ。病気ではない」 メイド長「はいはい。それは怪我ですけれどね」 女騎士「少しは大人しく、治癒の法術をうけろ」 勇者「そうだそうだ魔王。反省しろ!」 女騎士「お前もだ、勇者!」 勇者「痛っ。ったったった!?」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 女騎士「勇者だから死ななかったようなものを。 お前だって魔王に負けず劣らずの重傷だ」 魔王「ふっふっふ。のたうち回るが良い」 勇者「ったく。こんなの舐めておけば平気なんだよ。」 女騎士「治癒の通りが悪いな……」 勇者「密度の高い魔術だからな。このクラスになると ダメージと呪いとを一緒に撃ち込まれたようなもんだ。 回復能力や免疫系まで狂わされる」 女騎士「毎回思うが、勇者の身体は人間離れしているぞ」 183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 13 52.31 ID OGIpmW2P 魔王「そう……なのか?」 勇者「元気だからな、俺」 女騎士「風邪を引かない種類の元気さだ」 ペシンッ! 勇者「~っ!」 女騎士「毎回心配で寿命をすり減らす身にもなれ」 魔王「ふふっ。勇者も包帯でぐるぐるまきだ」 勇者「何で嬉しそうなんだよ」 メイド長「おそろいだからでしょう? 単純ですこと」 魔王「ちがうぞっ! わたしはただ単純に、勇者と境遇が似通うことにより、 しばらく親交を深めることが出来るという現在の状況に 密やかな愉悦を感じているだけだ」 メイド長「同じ事でしょうに」 女騎士「何か忘れているようだが、二人を救ったのも わたしの祈祷のお陰だぞ?」 魔王「感謝しておる。女騎士」 勇者「おお。さんきゅな」 女騎士「二人の治療のために、わたしもしばらくは 魔王城へとやっかいになる」 勇者「え?」 女騎士「仕方あるまい。まだまだ予後が不安定だ」 184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 15 07.78 ID OGIpmW2P メイド長「そうですよ。まおー様。 いくらなんでも今回は無茶が過ぎましたよ。 死んだふりするために治癒術を一時的にせよ止めるなんて!」 魔王「すまん……」 勇者「まぁ、今度からそう言う無茶は俺に任せておけ」 メイド長「勇者様もですっ」 女騎士「そうだぞっ!!」 魔王「あやつは……強かったのか?」 勇者「うん。まぁまぁかな」 女騎士(勇者……手加減していたのか? 体調でも悪かったか。 確かにすさまじい強さだったが、 勇者の本気ってあんなものだったか?) 魔王「こまったな」 勇者「どうした?」 魔王「これでは、勇者をもふもふ出来ないぞ」 勇者「そうな。まぁしかたないだろ」 女騎士「わたしは出来る」もふもふもふ 魔王「なんだと!?」 メイド長「あらあら。そんな事わたしだって出来ますよ」 もふもぷぱにょぱにょ 魔王「メイド長までっ! なんていうことをっ!」じたじた 勇者「ちょっ! えっと、すんませんすんませんっ。 うう、なんか良い匂いするしっ!?」 魔王「は、はなれろーっ!!」 メイド長「ふふふふっ。多少煽った方が 魔王様は早く完治しそうですからね」もふもふ 193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 44 25.10 ID OGIpmW2P ――聖王国南部の開拓地、光の子の村 ざわざわ……。 開拓民「何が始まるんだ?」 痩せた農奴「しらねぇ」 小柄な平民「俺たちは、村の司祭様にここにいけって」 少年農民「ここに行けば、とりあえず一日二回は パンを食べさせてもらえるって聞いたのです」 開拓民「それは俺も聞いた」 痩せた農奴「ああ。俺はもう、 パンさえ食えるなら、なんでも良いよ」 小柄な平民「おれもだ。何で麦を育てている俺たちが、 パンの一つさえ食えないんだ……」 少年農民「ぼくも。僕が家にいたら、小さな二人の妹が、 飢えて死んでしまうんです」 開拓民「……」 痩せた農奴「……今年の春は、麦はよく実ったけれど、 値段はちっとも下がる気配がない」 小柄な平民「俺たちは、あれを食べていたよ」 少年農民「……あれ?」 開拓民「ああ……」 痩せた農奴「“悪魔の林檎”だよ」 小柄な平民 こくり 少年農民「だってあれは!」 194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 46 05.98 ID OGIpmW2P 開拓民「……仕方ないじゃないか」 痩せた農奴「いくら異端の食べ物だって、 俺たちはこのままじゃ死んでしまうって云うところまで 追い詰められていたんだ。 俺の村、いや俺の国で、一度もあれを食べていない農民なんて 居ないのじゃないかと思うよ」 小柄な平民「そうだよな……」 少年農民「だ、大丈夫なんですか?」 開拓民「なにが?」 少年農民「だって、異端なんですよ? 身体に悪魔の印が浮かび出るとか、 手が山羊の蹄に変わるとか、狂い死にするとか」 痩せた農奴「俺の村ではそんなことはなかった」 小柄な平民「こっちでもだ……」 少年農民 ごきゅり 開拓民「馬鈴薯、美味かったよな……」 痩せた農奴「ああ、たっぷりの湯で茹でて、バターをかけてな」 小柄な平民「薄っぺらい土壁の中で食ったけれど、甘かった」 少年農民「そんな……」 ぐぅぅぅっ 開拓民「仕方ないさ。俺たちは結局」 痩せた農奴「ああ、上の云うことに従うしかないんだ」 小柄な平民「そうでなきゃ、なけなしの財産も 仕事も食い物も、根こそぎ取られちまう」 195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 47 14.12 ID OGIpmW2P ざわざわ……。 開拓民「あ」 司教「……静まりなさい」 痩せた農奴「司教様だ……」 小柄な平民「初めてみた」 司教「この地に集った聖なる光の精霊の信徒に祝福を」 がばっ、がばっ、がばっ 少年農民「し、司教様だっ! 司教様に祝福して頂いたっ!」 開拓民「なんてことだ。俺たちみたいな農民に司教さまがっ」 痩せた農奴「ありがてぇ、ありがてぇ」ぼろぼろ しーん 司教「汝ら光の子がこの地に集められたのは、 来るべき邪悪との戦いに備えるため。 この村には畑があり、汝らを養うだけの 食糧が備えられておる。 また、汝ら悪魔との戦いを指導する教え手もある。 汝らはこれから半年の間、この新しい村で生活し 光の精霊の子としての奉仕をせねばならぬ」 開拓民「え……戦い?」 痩せた農奴「俺たちには、そんなことは無理だ」 小柄な平民「でも司教さまの言葉なんだし……」 がやがやがや……。 196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 48 46.76 ID OGIpmW2P 司教「安心するがいい! 光の精霊の子らよ!」 しーん 司教「光の精霊は、汝ら光の子を嘉したもうっ。 慈悲深き彼の精霊は、決して我が子を見捨てることはない。 汝らには、汝らを脅かす魔族を倒す武器をお与えになった」 開拓民「……?」 痩せた農奴「武器?」 ガチャ、ガチャリ 司教「その鉄の杖を持つがよい。 この鉄の杖こそ光の精霊が魔を討つためにお与えになった マスケットなる武器。 この鉄の杖さえあれば、 汝らであっても歴戦の古強者がごとく、 戦場をかけることが出来るのだ。――みせよっ!」 精鋭銃兵「はっ!」 ちゃきっ! ジリジリっ! ダンッ!! バキンッ!! 小柄な平民「何だ、あれはっ!?」 少年農民「離れた鎧が!」 司教「この武器は50歩離れた鉄の鎧さえ打ち抜く力がある。 この武器を使えば、相手の爪も牙も、剣も槍も届かない 距離から敵を打ち倒すことが出来るのだ! 汝らはこの武器に習熟することにより、この大陸随一の 精兵となるであろうっ!!」 197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14 50 58.11 ID OGIpmW2P 司教「そして聞くが良い、精霊の子らよ! 祝福の使徒よ。 大主教殿が今回、汝らに助けを求められたわけを」 痩せた農奴「だっ、大主教様っ!?」 小柄な平民「た、助けってどういうことだ?」 ざわざわ……。 司教「汝らも知るであろう、 南の果て世界の凍える凍土に作られた監獄を! 魔界と呼ばれる地は精霊に定められた幽閉の檻でもあるのだ。 知るが良い。そこは教会の言葉に逆らう背教者が送られる 凍てつく極寒の流刑地。 魔族とはかつて精霊に逆らった罪人の裔なのだ」 開拓民「教会で何度も教えてもらってる話だ……」 少年農民「魔族はそれゆえ残虐な心しか持っていないのです」 司教「しかし、事もあろうにその背教者達は われらが光の子の宝を盗み、 今の今まで謀り続けてきたのだっ!」 小柄な平民「へ?」 司教「それは、光の精霊様の聖なる遺骸。つまりは聖骸である! やつら教えに背いた者どもめらは、光の信徒の希望、復活の象徴 聖骸を貶め辱めんがために、我らからそれを奪い、 押し隠してきたのだっ!」 開拓民たち「っ!?」「せ、精霊様をっ!?」「まさかっ」 司教「大主教様は御自ら仰られた! このような過ちを 我らは見過ごすわけには行かない。 たとえ自らの命を掛けてであろうと聖骸を奪還すると! これは聖なる任務であるっ! 光の子らよ! マスケットを持ち立ち上がれっ!! 光の信徒の力を今こそ結集させるのだっ!!!」 204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 21 24.70 ID OGIpmW2P ――――鉄の国、新興の開拓村 巡回軍曹「さ、ここだ」 難民一家の父「ここですか!」 難民一家の母「寒いですね……」ぶるぶるっ 難民一家の娘「でも、ひろいよぉ! 向こうの丘までずーっと道がまっすぐだよ!」 巡回軍曹「寒いのは仕方ない。南の国だからな。 がんばって働けば汗も噴き出すさ! さぁさ、畑の方にいこう。誰かいるはずだ」 難民一家の父「はい!」 ぎぃっ、ぎぃっ ざっざっざっざ 難民一家の父「さぁ、馬よ。ボロ馬車だが頑張っておくれ。 もう少しでたどり着くからね」 ぎぃっ、ぎぃっ 開拓民兵娘「おーうい! 軍曹さんじゃないかぁ」 巡回軍曹「おーうい! 調子はどうだい?」 開拓民兵「ぼちぼちですよ。 今週中にも、この丘の根っこは全部掘り返せる」 開拓民兵娘「そうすれば、一面の馬鈴薯畑にできるよ」 巡回軍曹「そうかそうか! 今日はまた新しい家族を案内してきたんだよ」 難民一家の父「川蝉の領地から来ました、よろしくお願いします 難民一家の母 ぺこり 難民一家の娘「よろしくなの!」 205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 22 54.75 ID OGIpmW2P 開拓民兵「へぇ! 川蝉! あんな遠くからよくぞ」 開拓民兵娘「ねぇねぇ、奥さんかしら? 顔が真っ青だよ」 難民一家の母「いえ、ちょっと寒くて……」 巡回軍曹「ああ。調子が悪そうだから わたしが付き添って、ここまで送り届けに来たんだよ」 難民一家の父「出来れば、妻を休ませてやりたいんです。 わたしが二人分働きますから、どうかお願いしますっ」 難民一家の母「そんな、あなた……」 開拓民兵「そうだなぁ、まずは集会所にでも」 開拓民兵娘「ったく! なに云ってるのよ! 見なさいよ。 ねぇ、奥さん。もしかして……お子様が生まれるの?」 巡回軍曹「え?」 難民一家の父「そっ、そうなのかおまえ!?」 難民一家の母「ええ……。はっきりとはしないけれど、 先月あたりからずっと。そんな気もするの、あなた……」 難民一家の娘「えー!? お母さん、ほんとっ!?」 開拓民兵娘「ほら見なさい! そんな時にこんな寒いところに 立たせておくなんてとんでもない! ましてや集会所だなんて」 開拓民兵「そ、そういうもんなのか?」 開拓民兵娘「だからあんたはいつまでたっても 嫁の一人も来ないのよっ!」 巡回軍曹「ど、どうすればいいんだ!?」おろおろ 開拓民兵「そうだよ大変じゃないかっ」おろおろ 206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 24 54.93 ID OGIpmW2P 開拓民兵娘「これだから男なんてのは!」 開拓民兵「お前だって子供なんて産んだこともないくせにっ!」 開拓民兵娘「女には女の口伝、ってもんがあるのっ! ほら、奥様。まずこの上っ張りを羽織ってくださいな」 難民一家の母「そんな。……こんなにちゃんとしたものを お借りするわけにはいきませんっ」 開拓民兵娘「これだって、軍の支給品なんだよ。 大丈夫、ちょっと貸すだけ。羊の毛だから暖かいよ?」 難民一家の父「ありがとうございます……」 開拓民兵娘「ね。村長の所までひとっ走りしてきてよ。 このご家族は、わたしの家の隣を使わせて貰おう。 薪と泥炭を運んでおくんだ」 開拓民兵「そ、そうだな! 俺はひとっ走り行ってくるよ」 開拓民兵娘「頼んだからね! それから、着るものと 食べる物もね! 村長の奥さんにも来てもらうんだよっ」 巡回軍曹「任せても大丈夫かな」 開拓民兵娘「もちろん! さぁ、行きましょう。 あんまり立派じゃないし小さいけれど、家があるんですよ。 まとめて建てたばっかりだから、 どれも同じ形で迷ってしまうけれど、 何だったら後で何か植えて目印にすればいいです」 難民一家の父「い、いいんですか? こんなに良くして頂いて」 難民一家の母 こくこく 開拓民兵娘「何言ってるんですか。これから沢山沢山、 この国の人も南の人もみんながおなかいっぱいになるまで ここで馬鈴薯を作ってもらう仲間じゃないですか」にこっ 巡回軍曹「鉄の国へようこそ! 開拓兵の一家の皆さん。 我が国も、我が軍も、あなたたちを歓迎しますよっ!」 211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 47 59.24 ID OGIpmW2P ――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場 銀虎公「さて」 巨人伯「……集まった」 火竜大公「お集まりの族長方、ご足労に感謝する。 さて魔王どのから一時でもその全権を預かった以上、 その信頼に応えるためにも、一つの失敗もなく やり遂げなければならん。そうですな、黒騎士殿」 勇者「その件についてだが、 俺は少数氏族の権利について以外はなるべく 他の族長達の判断を優先し尊重するように釘を刺されている。 いってみれば外様だしな」 妖精女王「そのようなことはありませぬが」 紋様の長「魔界の、いや地下世界のことは我らで面倒を見よ、 と云う魔王殿の意志であろうな」 鬼呼族の姫巫女「うむ」 銀虎公「頼られて撥ね除けるは武人の名折れぞ」 碧鋼大将「今日は、何の話を?」 東の砦将「ふむ」 火竜大公「まず、各々の氏族の中のことは 今までどおり氏族の中で決めてゆけばよいと思う。 この会議の目的はあくまで今まで魔王殿が一人でやられて いたことの代行。つまり、我らが魔族および地下世界全てに 関わる問題の解決や、氏族間の利害、意見調整。 そして一つの氏族では解決できないような問題での協力の あり方についてであろう」 212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 49 33.84 ID OGIpmW2P 妖精女王「ええ、賛成です」 紋様の長「異議はない」 鬼呼族の姫巫女「妥当であろうな」 銀虎公「と、なると」 東の砦将「目下の問題は、蒼魔族についてですな」 巨人伯「……そうだ」 火竜大公「そのとおりだ。蒼魔族はすでにこの会議からも離れ、 独自行動に移ったようだ。 物見の報せに寄れば、蒼魔族の領地へと軍を返すために、 すさまじい速度で進んでいるらしい」 妖精女王「もし仮に蒼魔族が魔族全体を敵に回し 暴れ回るようなことがあれば、 我ら妖精族などはひとたまりもありません」 鬼呼族の姫巫女「われら鬼呼族は抗し得るだろうが それでも甚大な被害は免れ得ぬであろう」 銀虎公「それは獣人族も同じ事」 勇者「いや、まってくれ」 巨人伯「……なぜ? ……黒騎士?」 火竜大公「何かご意見でも?」 勇者「俺は蒼魔の新王と戦った。あいつの力は半端じゃぁ、無い。 いまの蒼魔族は強いぞ。おそらく想像以上に、だ」 紋様の長「ふむ……。先の乱世よりも その力は上がったと見るべき、ということでしょうな」 213 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 50 33.26 ID OGIpmW2P 鬼呼族の姫巫女「黒騎士殿が云われるのならば、そうなのだろう」 火竜大公「で、あれば、蒼魔族については 一層この会議で取り扱わなければならぬ問題と云えよう」 銀虎公「そうだな」 碧鋼大将「他にも問題はあるでしょうが、 目下もっとも急を要するのはこの蒼魔族の問題でしょう」 巨人伯 こくり 紋様の長「ふむ、まずは問題を整理してみます、か」 鬼呼族の姫巫女「それはよい」 紋様の長「ひとつ。蒼魔族は新しい王を迎えた。 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は 魔王に向かって弓を引き、忽鄰塔を離脱した。 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は 現在、彼らが領土に向かっている。 ひとつ、その数は約1万数千。 ひとつ、蒼魔族の新王は魔王候補者の刻印を持ち その戦闘能力は極めて高い」 鬼呼族の姫巫女「そのような所じゃな」 碧鋼大将「きわめて的確な要約だ」 火竜大公「と、なると問題は」 妖精女王「蒼魔族全体の意志、ですね」 銀虎公「は? 蒼魔族は裏切り者だろうが?」 214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 52 21.41 ID OGIpmW2P 妖精女王「とはかぎりません。特に蒼魔族新王の即位は この忽鄰塔中に行われたきわめて異例かつ、急いだものでした。 今考えると、何らかの陰謀がなかったとも云えないでしょう?」 紋様の長「うむ」 鬼呼族の姫巫女「ことによると、蒼魔族の本国は、 新王が魔王を裏切ったことをまったく知らぬ可能性もある」 銀虎公「じゃぁ、いっそ蒼魔族の軍が、 奴らの都に着く前に攻撃しちまえばどうだ? そうすれば、もし蒼魔族の都が白でも黒でも問題はない。 白なら敵が減るし、黒でも敵軍の合流を避けられる」 碧鋼大将「それは名案だが、蒼魔族の行軍速度が速すぎる。 今から追いかけてはとても間に合わぬ」 巨人伯「……白か……黒、か……」 火竜大公「それは、わしには明らかなように思われるな」 紋様の長「どういうことです? ご老公」 火竜大公「この行軍速度が語ってくれているであろう。 つまり、蒼魔の軍は我らには是が非でも 追いつかれたくはないのだ。 戦闘になれば自らの領土から援軍が来るということならば ここまでがむしゃらに自らの都に急ぐ必要はあるまい。 つまり、きゃつらも己の都を掌握は出来ていないのだ」 妖精女王「一理ありますね」 215 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15 54 04.24 ID OGIpmW2P 鬼呼族の姫巫女「と、なると我らが魔族全軍をもって 蒼魔族の都を包囲するのも逆効果と云えるでしょうね」 銀虎公「なんでぇ。だめなのか?」 鬼呼族の姫巫女「我らが魔族全軍を率いるとなると、 その数は5万を超えるだろう。 そこまでの数をそろえてしまうと、蒼魔の一族には絶望が広がる。 魔王に反逆をしたのが新王だろうと何だろうと、 すでに自分たちは魔界を裏切ってしまったのだ、とな。 となると、これは自暴自棄というか、 もはや新王に協力するしかないであろう。 蒼魔族は、全て袋の中に猛り狂った狼となり、血を見ずには済まぬ」 銀虎公「面倒くさいことになって来やがったな……」 碧鋼大将「そもそも蒼魔族は厳格な身分制度を持つ 軍政を引く一族だ。このような事態もあり得る展開だった」 巨人伯「ふぅ……む……」 東の砦将(また一方、最悪の場合、 蒼魔の新王が軍人以外の自らの氏族の命さえ人質に取る、 などという展開もありえるってこったな。 通常でならばとうてい想像さえ出来ぬような卑劣な手段も、 毒殺、暗殺さえも決意した連中だ。 追い詰めたならばあり得るかも知れねぇ。 こいつはショックすぎて魔族の皆様には言えねぇが……) 火竜大公「まず、蒼魔の軍が自らの領地に帰り着くのは 避けられまい。これはすでに過ぎたこととしよう」 妖精女王「はい」 紋様の長「そうですね」 221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 17 02.35 ID OGIpmW2P 火竜大公「そのうえで。で、あればこそ、 蒼魔の軍から目を離してはならぬ。今もっとも恐ろしく こちらがして欲しくないことは、蒼魔の軍が蛇のように、 この魔界の中を動き回り、哀れな犠牲者に噛みつくことだ」 鬼呼族の姫巫女「そうだな」 火竜大公「蒼魔一族の領域の外には偵察を張り巡らせ、 蒼魔の軍の動きをいち早く監視する必要があるだろう」 妖精女王「では、その役目は我ら妖精の一族が受けましょう。 我らは小さく力も弱いですが、夜の闇をも見通し、 小さな音も聞き逃しません」 紋様の長「もし妖精の一族が何かを見つけたのなら、 我ら人魔が一族がその情報をここまでとどけましょう。 人魔一族は氏族の中でもっとも数が多い。 古来よりこの魔界の中に伝令の“駅”をつくり 換え馬による情報のやりとりをしてきました」 火竜大公「各々がた宜しいか?」 東の砦長 こくり 紋様の長 こくり 火竜大公「では、この件は妖精の一族と、 人魔の一族に頼むとしよう。 手助けできることあれば遠慮無く申し出て欲しい」 妖精女王「承りました」 紋様の長「お任せを」 222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 18 27.41 ID OGIpmW2P 火竜大公「さて、一方蒼魔族が軍を発してきた場合」 銀虎公「それも決めておかなければ始まらねぇな」 碧鋼大将「どうする?」 銀虎公「先鋒は俺たち獣牙だ」 巨人伯「……むぅ」 銀虎公「俺たちは今回の件では大きな不名誉をおった。 是非先陣を務めさせて頂きたい」 火竜大公「よろしいか? 姫巫女どの」 鬼呼族の姫巫女「ふっ。……お見通しだな。 よかろう、先陣はゆずるとしよう。 しかし、蒼魔と一番長い国境を接しているのは、 我らが鬼呼族の地。ゆえに我らが第二陣だ。 また、蒼魔族が我らの地に突っかけてきたら 先陣を保証することは出来ぬ。その時は諦めてくれ」 銀虎公「承知した」 火竜大公「獣人、鬼呼の二氏族ならばおさおさひけは取るまいが 蒼魔族はなにやら得体が知れぬ。十分に気を引き締めて かかって欲しく思う」 紋様の長「心得た」 銀虎公「任せるが良い」 火竜大公「さて、我ら竜族も相応の義務を果たさねばなるまい。 お役目をお願いした四氏族には、我ら竜族から食料や 必需品を運ばせよう」 銀虎公「かたじけないなっ!」 224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 19 59.10 ID OGIpmW2P 紋様の長「そのようなところ、ですか」 東の砦長「もう2点お願いしたいことがある」 火竜大公「なんだ? 衛門の族長よ」 東の砦長「そいつは流民のことだ。 いっくら蒼魔族が他と交わらない、 内部統制で上意下達の氏族だと云ったところで例外はあるだろう。 あちこちの街に少数暮らしている連中がいるはずだ。 そいつらの保護をお願いしたい」 銀虎公「何故そのような細々としたことを。 たいした人数でもないではないか。 形勢に影響を与えるとも思わん」 東の砦長「戦に関しちゃその通り。 だが、こいつは戦が終わった後のためだ。 俺たちの方が蒼魔族をよってたかって滅ぼしたのでは“無い” ってことを、誰かに証人になって貰わなきゃ困る」 巨人伯「……ふむ」 東の砦長「今回の戦にしたってそうだ。 この世界から蒼魔族を一人残らず、女子供も皆殺しにするっ ていうのならそんな気を遣わないでも済むが、そうはいくまい? 俺たちは皆殺しとは行かないが、そんな無法は通らないからな。 だが残された蒼魔族は恨むぜ? 事と次第によっちゃぁ、 “何もしていない蒼魔族を恐れた他の氏族が よってたかって蒼魔族を攻撃した”って子々孫々まで語り継ぐ」 鬼呼族の姫巫女「そのようなことも、無いとはいえんな」 225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 22 35.33 ID OGIpmW2P 勇者(……こいつの統治センスってのは、切れ味あるな) 東の砦長「だから、そうではないってあたりを 今から意識しておかなきゃまずい。 蒼魔の一族だけなら、全面戦争になれば勝てない 相手じゃないのだろう? だったらなおさらだ。 なーに、面倒なことになりそうだったらまとめて開門都市に 送ってくれてもよい。 あそこは氏族も人種もごちゃごちゃだから、 迫害も大きくはないさ」 碧鋼大将 こくり 火竜大公「して、もう一点は?」 東の砦長「こちらの方が、ある意味重要でな。領民の安堵だ」 妖精女王「ふむ」 東の砦長「これも今云った話と関係あるのだろうが、 いったい今起きていることは何なんだ? 仲間内の利権沙汰のごたごたなのか、 それとも戦争なのか、小競り合いなのか。 どうすればこの状況は解決するんだ? ってな話だよ」 銀虎公「そもそも蒼魔族が不意の裏切りで 我らを攻撃してきたことから端を発したのだ。 この戦はその間違いを糾弾するのが目的であり、 そのようなことは自明であろうがっ」 碧鋼大将「そのとおり、そのような問い自体、 我らに向けられるべきではない」 鬼呼族の姫巫女「しかし、それでは領民の不安はどうする。 蒼魔族の責任を問う。それはそれで正論なれど、 我らが領民のその疑問に、蒼魔族が答えてくれるはずもない」 226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 24 43.40 ID OGIpmW2P 東の砦長「そう言うことだ」 銀虎公「……っ」 巨人伯「領民に……大きな声で……おしえる」 火竜大公「ふむ」 東の砦長「俺もそれが必要だと思うぜ。 今回の戦は、忽鄰塔中に乱心した蒼魔族の新王が父親を殺害し 一族の軍を率いて他の氏族を攻撃した、ってな」 銀虎公「父を殺害!? それは本当なのかっ!?」 東の砦長「いや、事実は知らないが。そのほうがいいだろう?」 火竜大公「……そうだな」 妖精女王「結果的に間違った推測では無いと思います」 紋様の長「それを領民に語って聞かせる、と云うのか」 鬼呼族の姫巫女「面白い考えだ」 東の砦長「俺たちの街は今必死で畑も作っているが、 度重なる戦で神殿も農地も壊されて、 すっかり疲れ果てちまっていたんだ。 戦も辛いが、民にとって一番辛いのは 何をやっているか判らないことだというな。 自分たちの国や軍が何をやっているか判らないと、 自分たち民では何の手も打てない気分がして、 自分が無力で取るに足りないちっぽけば存在に過ぎないと いう気分で、だんだんと腐ってゆく。 こいつは町も人も産業も腐らせるぜ? 何せ心の根っこが腐ってゆくんだからな。 そうなったら、街は酷い有様になる」 227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 27 01.55 ID OGIpmW2P 鬼呼族の姫巫女「……」 勇者「……」 東の砦長「そいつをどうにかするには、 何が起きたからこうなって、この状況はどれくらい酷くて、 またどれくらい希望があって、どういう風になれば 解決するんだってことを、教えてやらなけりゃならない。 まぁ、事が戦だ、全部教えるってわけにも 全部真実って訳にもいくまいが……」 銀虎公「ふむ、つまりはこういう事だろう? 全ての民も戦場に出ないだけの戦士だと。 将軍ならば士気を鼓舞するのもその手腕である、と」 東の砦長「そうそう、そういうことだよ。虎の旦那」 銀虎公「だが、ふぅむ」 銀虎公「そうとなると、いよいよ、我らが蒼魔族との一戦に どのような決着を望んでいるのかが重要になるだろう」 妖精女王「……決着」 紋様の長「そうだな。蒼魔族が自分の領地から 出てきたところを叩く。 それだけでは、永遠に決着などつかぬ。 何も攻め込んで征服しようと誘うわけではないが、 最終的にはどのようになればいいのか、と云う話にも通じる」 鬼呼族の姫巫女「そうだな」 (あるいは魔王殿は、我らが望む未来の我らを 我ら自身に考えさせたかったのであろうか……) 228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 29 01.42 ID OGIpmW2P 東の砦長「……それは俺には難しいな。 新参者の俺には、蒼魔族との戦が、 様々な氏族にどのような利害関係があるのか 感情的にはどのようなもつれがあるのかは判らねぇ」 鬼呼族の姫巫女「我ら鬼呼族は先の乱世において 蒼魔族と長い長い戦闘を続けてきた。 我ら氏族には蒼魔族とに対する恨み辛みが根付いている。 だがそれは領土や支配権に関わる問題で、 当時の魔界では日常的に起きていた抗争なのだ」 銀虎公「俺たちも人魔族との争いが絶えなかった」 紋様の長「当時は大小様々な氏族が入り乱れ、 この会議の席には来ていない、中氏族や戦闘氏族を 如何に取り入れるかと云う謀略も日常でした」 勇者「そうだったのか……」 火竜大公「ふむぅ」 巨人伯「まずは、知らせる……」 火竜大公「そうだのぅ。まずは、先のこと。 “蒼魔族の新王が裏切り、忽鄰塔を襲った”と云う事実を 領民に告げるとしよう。そして戦に怯える領民のために 蒼魔族は領地へと戻ったために、当面みんなが住まう場所は 安全であると云うことを伝えるのだな。 念のために警備兵の増強なども進めてゆくという、 いわば根回しを領民にするにはよい機会だろう」 紋様の長「妥当な対応でしょうな」 鬼呼族の姫巫女「戦の決着については、それぞれの氏族が よく考えて、その考えを持ち寄る必要がありますね」 230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 30 28.63 ID OGIpmW2P 銀虎公「では、当面の蒼魔族への対応はそのようで」 東の砦長「おう」 銀虎公「さっそく領地へと戻るとするか」 碧鋼大将「ふむ……。衛門の長どの、後で時間を。 商取引に関する話がある」 東の砦長「判った」 巨人伯「……かえって、声の大きいモノに、噂を広めさせる」 火竜大公「それで宜しいか? 黒騎士殿」 勇者「おお。見事にまとまったな。 大公殿、これからもよろしくお願いする」 火竜大公「なんのなんの! はぁっはっはっは」 紋様の長「そういえば、魔王殿の様子は?」 勇者「ベッドからでる事は出来ないが、 口先だけは元気になってきているよ」 東の砦長「そいつぁ、良かった」 勇者「今日の会議の結果も、早速伝えよう」 銀虎公「お願いいたす、黒騎士殿」 火竜大公「では、今回の会議はこれで終了とする。 何もなければ次の会議は40日の後、ということに。 蒼魔の動きは途切れず報告を入れ合うとしよう」 一同「心得ました」 233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 54 09.68 ID OGIpmW2P ――魔王城、深部、魔王の居住空間 女騎士「ほら。口を開けて」 魔王「……」 女騎士「何で嫌そうな顔?」 魔王「このシーンは、わたしと勇者が行うのが常識だろうに……」 女騎士「勇者は会議に出たり忙しいの」 魔王「だからといって……」 女騎士「あーん」 魔王「くっ」 女騎士「……あーん」 魔王「ううう。……」ぱくっ 女騎士「それでよし」 魔王「……なんだか屈辱的だ」 女騎士「友達だろうに。気にする方がおかしい」 魔王「そうか? そういうものなのか?」 女騎士「うん、そうだ」 魔王「女騎士は……。わたしやメイド姉妹と話す時は 言葉が少しだけ優しいな」 女騎士「……そうかな?」 魔王「うん、そうだ」 234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 55 15.98 ID OGIpmW2P 女騎士「これでも一応軍を率いていたりするからな。 男に舐められないようにしようとすると、 やっぱり言葉遣いもそうなってしまうんだろうな」 魔王「そういうことか」 女騎士「……やはり女らしくないと好かれないよな」 魔王「そんなことはない。女騎士は女らしいと思うぞ」 女騎士「……」ちらっ 魔王「?」 女騎士「魔王が言っても説得力がない」 魔王「む。そう言うことではない。わたしは……その。 確かにここのサイズは大きいが、包容力とか、母性とか、 細やかな気遣いとか……色気とかにかけていると よく指摘されるのだ。女らしさでは、女騎士に大きく劣る」 女騎士「そんなことはないと思うけれど」 魔王「そもそも、女らしさとはどういうモノなのかよく判らぬ」 女騎士「うん」 魔王「書物にあるらしい耳かきや添い寝なども試してみたが 勇者に大きな感銘を与えたようにも思えぬ。 ……そもそもちょっと隙を見せると、すぐに襲いかかってきて 場面は暗転、結ばれるのが男女ではなかったのか」 女騎士「わたしも相当に偏っている自覚があるけど 魔王はその比じゃないな」 魔王「ふむぅ……」 235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16 57 33.41 ID OGIpmW2P 女騎士「……よく判らないけど」 魔王「うん」 女騎士「わたし達は、ある側面では勇者に避けられてるんだ」 魔王「……」 女騎士「……」 魔王「この話は、止めよう」 女騎士「うん」 魔王「ああ。メイド妹の料理が懐かしいな」 女騎士「そうだな。もちろんこの城の料理だって最高だが」 魔王「そうだが、メイド妹の料理には、 最高の料理にも無いような、特別な味わいを感じるのだ」 女騎士「ああ。その気分は判るぞ」 魔王「パイが食べたいな」 女騎士「あははははっ。気持ちはわかる。 けど、いまはこれだ。ほら、あーん」魔王「むぅ……」 女騎士「ふふふっ」 魔王「やはり屈辱的だ」 女騎士「健康になってから復讐すればいいさ」 魔王「もちろんだ。このお礼は勇者にする」 女騎士「え?」 魔王「女騎士にはそれが一番よく効くって判っているからな!」 242 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/23(水) 17 14 13.25 ID OGIpmW2P ――聖王国、国境沿いの貿易の街 小麦の卸人「小麦! 小麦~! 大麦もあるよ、今朝入荷! 早いもん勝ちだ! ふっくらパンにも、オートミールにもぴったりだ! 一袋、新金貨7枚だ」 太った市民「旧金貨じゃ駄目なのかい?」 小麦の卸人「だめだめ。そんな金貨は聖王国じゃもう使えないよ。 そんなものが使えるのは、南の蛮族の国だけだ」 旅の商人「まだまだ市中には旧金貨が残っているというのに」 小麦の卸人「市の宿舎に行くんだね。そこで旧金貨と 新金貨を取り替えてくれるよ」 太った市民「だが、取り替えると行ったって旧金貨を350枚 持っていっても新金貨を100枚だけじゃないか……」 旅の商人「タイミングを逃したからさ」 小麦の卸人「さぁさ、おろしたての小麦! 小麦はどうだい?」 太った市民「……くそっ。そんな小麦、金持ち以外 食えるわけが無いじゃないかっ」 旅の商人「まったくだ」 がやがや……がやがや…… 酒場の店員「そう言えば聞いたことがあるかい? あの噂を」 太った市民「噂?」 243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17 15 58.88 ID OGIpmW2P 旅の商人「ああ、光の子の村の噂かい?」 酒場の店員「ああ、それだ」 太った市民「なんだい、それは?」 酒場の店員「なんでも、この聖王国を中心に、 大陸のあちこちに新しい村が作られているらしいのさ。 多くは森の中や山中や古く滅びた村があったような 戦場らしいんだが。 それらの村には沢山の小麦が集められていて、 食うには困らないらしいんだ」 太った市民「なんだいそりゃ、すごい話じゃないか!」 旅の商人「ああ、どうやらその噂は噂じゃないらしい。 教会が特別な任務のために、農民や開拓民を集めて 訓練を行っているそうなんだ」 酒場の店員「そいつが最新の話さ。 どうやら、その話のおおもとの所は『聖骸』にあるらしい」 太った市民「『聖骸』……?」 酒場の店員「そうさ。聞いて驚け。 なんと、光の精霊様のご遺体だ!」 太った市民「ええっ!?」 旅の商人「なんだって!? そんなものが本当にあるというのか?」 酒場の店員「さぁなぁ。噂だから俺にも本当のところは判らない」 太った市民「俺は精霊様って云うのは、もっとなんか、 風とか光みたいなものだと思っていたよ」 旅の商人「うーん」 244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17 18 19.64 ID OGIpmW2P 酒場の店員「だが、教会はその『聖骸』は 魔族に奪われたと云っているんだ。 魔族から『聖骸』を奪い返すために今までにない 精鋭兵が沢山必要とされる。 そのための『光の子の村』で訓練するんだって話だぜ」 太った市民「ふぅむ……。でも、飢えなくて済むんだろう?」 旅の商人「ああ、それはそうらしい。別の街でも聞いた話だ」 酒場の店員「光の精霊の恵みなんだとさ。 その村では、一日二回のパンの食事と、昼にはこってりした にんじんのシチューが出るらしい。しかも夜のパンは 真っ白いふかふかのパンだって云うじゃないか」 太った市民「白いパンが出るのか!?」 旅の商人「何とも豪勢な話じゃないか」 酒場の店員「ああ」こくり 「この話からつまり教会は どうやら随分本気なのじゃないかって云われているな」 旅の商人「本気……?」 酒場の店員「ああ、ここだけの話だが、こんなにも小麦が 値上がりしているのは、教会が買い占めを行って、 その『光の子の村』へと送っているせいじゃないかと。 そんな話があるんだ」 太った市民「!!」 旅の商人「そうか、そう言うこともあり得るよな」 酒場の店員「だろう?」 太った市民「でも、だとすれば、本気で戦争をするんだな」 旅の商人「そうだなぁ、だが、光の精霊のためなのだろう? ならば、それはそれで仕方がない」 245 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17 19 31.43 ID OGIpmW2P 酒場の店員「ああ、まったくだ。精霊の恵みあれ」 太った市民「恵みあれ! 我が暮らしにもせめて黒いパンを」 旅の商人「だがそう言うことになると、見てみたいな。その村を」 太った市民「俺は見るよりも住んでみたいよ。 だってそうだろう? 光の精霊様のご遺体を取り返す、 つまり正義の戦いをするだけで、食事がもらえる。 飢えなくて済むなら俺だってそんな村に行きたいよ」 教会職員「無理な話ではありませんよ」 旅の商人「へ?」 教会職員「すみませんね、耳に入ってしまいました。 ……その『光の子の村』は増えているんです。 何せ卑劣な魔族との戦いの時が迫っていますからね。 教会へ毎晩の懺悔にやっていらっしゃい。 近いうちにまた『光の子の村』へと送られる優秀な人々への 祝福が始まると思いますよ。 最近教会は、この特別の祝福を求める方で ごった返しているのです」 酒場の店員「本当ですかい? 司祭様!」 太った市民「本当なんですか!?」 教会職員「わたしはまだ司祭などという身分ではありませんが 云っていることは嘘偽りはありませんよ。 今晩にでもまた新しい隊が荷物をまとめてこの街を発つでしょう」 太った市民「俺も行ってみたいぞっ」がたっ 旅の商人「それを言うなら俺だって!」 教会職員「では是非教会へといらっしゃい。 司祭さまが、あなたたちの献身を待っていらっしゃいますよ」 ページトップへ <前6-7へ|次7-2へ>
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魔族娘とは、魔界開門都市に住んでいる混血の魔族娘。 2年目夏ごろ、酒場の主人に使用人として雇われくすんだ酒場で働いていたが、聖鍵遠征軍兵士達に絡まれた。 その後、彼女が住んでいた下級娼館で黒騎士(勇者)に開門都市の現状について聞きだされた。 3年目晩夏の開門都市大通りの縁日では、火竜公女の侍女として働いている様子が見受けられる。 初出 2-1 2スレ111レス 2009/09/06(日) 16 31 51.18 魔族娘「きゃっ!!」 関係者 黒騎士(勇者) 酒場の主人 火竜公女 彼女の侍女に。 東の砦将 面識 聖鍵遠征軍兵士 傷病魔族 人物 女性 開門都市の人物 魔族の人物
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火竜公女とは、魔族八大氏族竜族の氏族長火竜大公の娘である。本作の主人公の一人。 父火竜大公が約束した通り、3年目年始に開門都市を第二次聖鍵遠征軍から解放した黒騎士(勇者)に婚約者として与えられることになった。本人も黒騎士には好意を抱いていて積極的にアタックした。 開門都市解放後は、同都市に居住し、周辺魔族の代表として連絡議会議員となった。 初出 1-4 1スレ703レス 2009/09/05(土) 21 25 30.11 火竜公女「おとうさま、私はここに」 関係者 火竜大公 父 黒騎士(勇者) 婚約者 東の砦将 開門都市自治委員会の仲間 魔族娘 侍女 主人公 人物 女性 竜族の人物 開門都市の人物 魔族の人物
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1.第二次極光島攻略作戦に参加した南部諸王国軍の将官。極光島上陸部の戦闘を指揮した。また、戦後は冬寂王や執事とともに、膨大な書類仕事に追われた。商人子弟任官後は彼とともに事務作業に努めた。 2.第二次聖鍵遠征軍で片目司令官に仕えた将官 初出 1. 2-3 2スレ666レス 2009/09/07(月) 17 18 01.37 将官「義勇兵と軽装歩兵に任せろ! この場所を死守すれば後続は来る! 退くな! 王国のために!」 2. 2-3 2スレ677レス 2009/09/07(月) 17 51 00.73 将官「……」 関係者 1. 冬寂王 君主 執事 上司 商人子弟 同僚 従僕 部下 伝令 王国軍兵士 2. 司令官(片目司令官) 東の砦将 人物 人間 男性
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<前5-3へ|次5-5へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-4 729 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15 41 41.92 ID BJlDi/AP 魔王「やはり勇者は人間の娘のほうが好きなのだろうな。 ――などと思う自分がいるのが、ただ、哀しい」 女騎士「魔王……」 魔王「いや、そんな弱気は全体から見ればほんの1%にも満たない。 勇者はわたしのものだ、誰にも渡さない。 あんな過去の魔王など指先さえも触れることは許さない。 でも、それでも。 人間である女騎士には負けてしまいそうな気持ちもある」 女騎士「……」 魔王「でも、やはりだめだ。騎士の誓いが譲れぬものであるように わたしの所有契約だって不破の約束。 ずっと昔から勇者が会いに来てくれるのを待っていたのだ」 女騎士「うん」 魔王「……」 女騎士「……そう、だよね」 魔王「だが、仕方あるまい」 女騎士「え?」 魔王「わたしは“仕方ない”と云う言葉が嫌いでは、ないのだ。 もちろんその言葉は、十分な努力もしていないものが 己の安逸を求める言い訳に使うことが多い事も承知している。 だが、時にその言葉は飲むに飲めない妥協へ飲み込んでも 前へと進む言葉になってきた。 辛く厳しい現実を受け入れてでも立ち上がる 勇気に満ちた言葉だからだ」 730 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15 45 30.84 ID BJlDi/AP 女騎士「……」 魔王「だから、わたしが魔族なのは仕方ない。 女騎士が、勇者に……想いを寄せたのも、仕方ない。 いや、沢山の類似ケースを考えれば 一番妥当で痛みのないケースかもしれないな。 そもそも歴代魔王の中ではハーレムを持たない者の方が 少ないくらいだ。勇者のことは知らないが、 それくらいの規模は予想してしかるべきだった。 でも、そんな時に勇者の隣に誰がはべろうが、 その中でも、女騎士が、いちばん“仕方ない”。 他の誰であるよりも、わたしは我慢が出来ると思う」 女騎士「……魔王」 魔王「だからといって譲るつもりも負けるつもりもないぞ? 大体の所、騎士の誓いとは聞けば主従契約ではないか。 つまり終身雇用だ。所有とは概念レベルで勝負にならぬ」 女騎士「わたしにだって、勇者と旅をしてきた歴史があるのだぞっ」 魔王「歴史? 歴史と云ったか、この図書館族のわたしに? 歴史などという言葉は150年前に通過済みだ」ふっ 女騎士「意味不明だっ。わたしは勇者(の毒蛇に噛まれた傷口)に 口づけをしたことだってあるんだぞっ!?」 魔王「~っ!? な、な、なっ。 過去の栄光にすがってどうする! わたしは勇者に膝枕を した上に、先ほどは二人で読書デートを決行したのだっ!」 女騎士「はっ。読書デート。それこそ子供のような」 魔王「云ったな、女騎士」 ごごごご 732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 15 48 19.60 ID BJlDi/AP ――冬越し村、魔王の屋敷、談話室 ドッゴォォォーン!! バキャァ!! メイド姉「なんだか大きな音が……」 勇者「ああ、再会を祝ってるんだろう? 二人で。 酒を入れるとみんな明るくなるよなぁ……」 メイド姉「当主様、飲んでいたかしら?」 メイド妹「ねーねー。お兄ちゃん、それはいいからー」 勇者「おう、そうだったなー。えーっと」ごそごそ メイド妹「わくわく」 勇者「じゃーん、こいつがお土産だ! かさばったぞう!」 メイド姉「これは、なんです?」 勇者「まず、妹には緑柱石の髪飾りと“せいろ”だ」 メイド妹「せいろー? おっきいー。これ、かご?」 勇者「いや、これは鍋の上にのっけるんだ」 メイド妹「のっける?」 勇者「下でお湯を沸かして、湯気でものを暖めるんだよ。 “蒸す”っていうんだけど。判るか?」 メイド妹「うわぁぁ! おもしろーい!!」 733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15 49 52.50 ID BJlDi/AP 勇者「で、メイド姉には、こっちだ」 メイド姉「いただけるんですか?」 勇者「おう、あいつが選んだのはこの櫛。 あいつも昔から使っているんだって。まか……じゃない。 学士の故郷じゃ、娘が一人前の年齢になると、 櫛を貰うんだってさ。美人度が上がって彼氏が出来るように」 メイド姉「綺麗です。宝石みたい……」 勇者「こっちは俺からだ」 メイド姉「これ……」 勇者「絹の朱子織だよ。ほら、なんかさー。 服とかそういう洒落たものを買っていくと良いのかなって 思ったけれど、そういう知識もないしさ。 大きさが違うのもよく判らないし。 だから、悪いけど、この布地で」 メイド姉「すごい……」 勇者「あ、やっぱだめだった? 手抜きだった? ごめんな」 メイド姉「いえ、いいんです。嬉しいですっ! こんな上等な。こんな綺麗な布地は見たことがありませんっ」 メイド妹「うん、すごーい! お姫様の衣装みたい」 勇者「そっか。学士が、姉なら仕立ても出来るって云ってたから」 メイド姉「はい、ありがとうございますっ」 746 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20 02 52.49 ID BJlDi/AP ――地下世界(魔界)、辺境部の通商道 びゅぉぉぉぉっ 中年商人「うっぷ、すごい風だな」 犬頭の商人「季節風だよ」 歴戦傭兵「こいつぁ、参るな」 中年商人「おーい! 飛ばされんじゃねぇねぇぞ! しっかり荷の確認をしろーい」 キャラバンの一行「ほーぅい!」 犬頭の商人「逞しいな、あんたらは」 中年商人「商売って云ったら何処でも同じじだろう? 逞しくなきゃやっていけやしないさ」 犬頭の商人「違いない」 歴戦傭兵「この辺の治安ってのはどうなんだい?」 犬頭の商人「良かったり、悪かったりだね」 歴戦傭兵「ふぅむ」 犬頭の商人「近頃は落ち着いているが、 この開門都市ってのは古代からの聖地なんだ。 何十もの神殿があってね。 それらのお参りで人の出入りが激しい。 人間世界と軍が行き来していた頃は主要な中継地にもなってた。 知ってるように、あんたらと戦争してたからだ」 歴戦傭兵「ああ」 747 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20 06 22.25 ID BJlDi/AP 犬頭の商人「そんなこんなで、支配者や、 そん時ついてる勢力が変わるたびに治安が乱れるんだよ」 歴戦傭兵「なるほどな」 中年商人「いまは?」 犬頭の商人「今やってるのは随分と評判が良いね。 税も安いし、交易はだいぶ自由だ。 毎月のように広場を開放してくれるし、 毎週月の曜と木の曜には市場を開いてくれる。 俺たち旅商人には有り難いし、治安も悪くはないね。 でも、だからって、このあたりが物騒になりやすい地域だって 事には何の代わりもない。 俺たちは決して油断をしないんだ」 歴戦傭兵「ああ、それが一番だよ」 犬頭の商人「あんたらは随分と大きなキャラバンだもんな」 中年商人「そうか?」 犬頭の商人「ああ、ここらを歩く商売人の殆どは らくだ一頭に荷を左右にぶら下げて引き歩く行商人だよ」 中年商人「馬車や、らくだ車は流行らないのか?」 犬頭の商人「砂やぬかるみに弱いからね。 手を集めて引っ張り出せるあんた達のような十人以上の 一行なら扱えるんだろうが、独り者の商人の手には負えない」 中年商人「なるほど。俺も若い自分にはポニー一頭をひっぱって 旅暮らしをしていたことがあるよ」 748 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20 07 44.19 ID BJlDi/AP 犬頭の商人「何を扱っていたんだ?」 中年商人「その頃は麦、香辛料、それに割れ物だな」 犬頭の商人「麦か。このあたりでは、取れるには取れるんだが、 あまり質は良くねぇな。殆どを酒にする」 歴戦傭兵「良い酒なのか?」 犬頭の商人「いやぁ、全然さ。酒と云えば、妖精族のが一番だ。 竜族の醸す強い酒も上等だな。鬼呼族の作る米の酒も値段は 張るが乙なものだ。なかなかお目にかかれないけどね」 歴戦傭兵「酒は、やはり難しいか」 中年商人「割れたりするトラブルがつきものだからなぁ」 犬頭の商人「そうだなぁ、だが、良い値段で売れた時には 美味しい商売だ。何よりも、何処でもそれなりに商品を さばける」 歴戦傭兵「ちがいない。はっはっはっ」 中年商人「都に着いたら、何処を根城にすると良いかね」 犬頭の商人「まぁ、まずは庁舎に行って商札をもらわねぇと」 中年商人「許可か」 犬頭の商人「そうだ。そのあとは、茶館にいって一服するといい」 750 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20 10 07.70 ID BJlDi/AP 中年商人「茶館?」 犬頭の商人「ああ。そうだ。……人間達の街では違うのか? 茶館っていうのは、茶を出す建物のことなんだよ。 茶ってあるのか?」 歴戦傭兵「もちろんあるさ。馬鹿にするな。 まぁ、言葉で何となく判るがよ」 中年商人「商人が集まるのか?」 犬頭の商人「ああ、そうだな。 茶館は都市の商人が集まる、情報の集積地だ。 高級な茶館には高いものを売り買いしたい 金を持った商人があつまる。 まぁ、茶館のランクがそのまま商人の懐具合になってる感じだな。 もちろんこれは何の保証もないから、 目星をつけた後は、嗅覚とコネを使って相手を見定める必要が あるのは、何処で知り合っても一緒だ。 茶館によっては個室で茶を供するところもある。 商談には便利な場所だよ」 歴戦傭兵「そういうことか」 中年商人「酒場と似たようなものだな」 犬頭の商人「酒場は朝早くは開いていなかったりするだろう? 茶館は小鳥の鳴き声がする前から開いている。 小鳥をかごに入れて飾っている建物が茶館なんだ」 中年商人「良いことを教えて貰ったよ」 犬頭の商人「そら、そろそろ見えてきたぞ」 歴戦傭兵「おお、あれかぁ。……はるばるとした街じゃないか」 犬頭の商人「あれが『開門都市』。このあたりじゃ一番の都だ」 753 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20 33 08.45 ID BJlDi/AP ――魔王城、東館展望部 メイド長「……ふっ。集いなさいっ!」 メイドゴースト ―― メイド長「ふむふむ。判りました。12番は腹痛で欠席ですね。 他には体調を崩した子はいませんか?」 メイドゴースト ―― メイド長「わかりました。では、本日の業務内容です。 今週はこの東館を集中的に。 いいですか? 集中的に清掃を行います」 メイド長「リネンのセット、生花の準備、 庭の手入れを行ってください」 メイドゴースト ―― メイド長「厨房ですか? 当然です。今週は食糧倉庫の 全品入れ替えも行いますからね、手抜きはしないこと」 メイドゴースト ―― メイド長「は? ゴキブリ? 許可します。殺りなさい」 メイドゴースト ―― メイド長「怖い? それくらいどうにかなさいっ!。 場合によっては初級魔術の使用も許可します。 いいですね、当魔王城のメイド部隊の名にかけて 遺漏は許しませんよっ!」 758 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20 54 13.67 ID BJlDi/AP ――地下世界(魔界)、開門都市、中央庁舎 副官「砦将、お客人です」 東の砦将「おお、入ってもらってくれ」 ガチャ 中年商人「お邪魔しますよ」 東の砦将「いらっしゃい。俺がこの都市の自治政府、 執行委員なんてものを仰せつかっている砦将というものだ。 あー、すまないが……」 中年商人「わたしは中年商人というものですよ。 お初にお目に掛かります。 いや、人間の方が仕切りをやっているとは聞いていましたが 長い旅をしてきてみると感無量ですな」にこにこ 東の砦将「ははは。逃げ出す時に転んで取り残されただけだ」 がしっ 中年商人「このような薄汚れた格好で申し訳ない。 しかし、取り急ぎ報告をした方が良さそうだと思って」 東の砦将「どのようなご用件だろう?」 中年商人「塩の輸入を依頼されて運んできたんです」 759 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20 55 22.25 ID BJlDi/AP 東の砦将「火竜公女かっ? はははっ! やりやがった!」 中年商人「そう、随分気合いの入ったお嬢さんでしたよ。 手紙も預かっている、これですな」にこにこ 東の砦将「かたじけない! 彼女は?」 中年商人「手紙にも書いてあると思いますが、 まだあっちにいますよ。そうだ、紹介しましょう。 こっちは今回のキャラバンの副長兼、護衛隊長の歴戦傭兵」 歴戦傭兵「よろしく」 東の砦将「おお、よろしく。これはわたしの副官だ」 副官「副官です。以後お見知りおきを」 中年商人「荷物は荷馬車に十八台。確認してみてくれませんか?」 東の砦将「よし、副官。見てきてくれ」 歴戦傭兵「俺も立ち会いましょう」すくっ 中年商人「頼んだぞ」 歴戦傭兵「一働きしてきますさ」 がちゃ、とっとっとっと 東の砦将「……ふぅ、これで一つ心配事が減った」 中年商人「こっちも長旅の肩の荷が降りた想いです」 760 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20 57 03.56 ID BJlDi/AP 東の砦将「彼女はところでどうだった、どうしている?」 中年商人「わたしは、じつは『同盟』というあっちでは 名の知られた商人のギルドに所属しているんですが」 東の砦将「ほう」 中年商人「彼女はそこに接触して、わたしの上司とでも 云うべき商人に渡りをつけまして。 その手配で今回の荷運びをしたってわけなんですよ」 東の砦将「そうだったのか。支払いの件など どうすればよいのだろう?」 中年商人 ふるふる 中年商人「私はすでに『同盟』のほうから手当を 受けているんです。 『同盟』のほうはお嬢さんと協力してもっと大きな仕事に 手をつけてって云う話でしてね」 東の砦将「大きな仕事?」 中年商人「こういった塩をもっと潤沢に 輸入するための仕事だそうですよ。 今回のキャラバンは当面の塩不足をどうにかするための 手始めらしくてね。わたしはそのために雇われたんです」 東の砦将「……ふむ」 中年商人「そちらの儲けからたっぷり手当は頂いているから 代金などは頂く必要がないんですよ」 東の砦将「そうか。……では、中年商人殿は、この街への 視察をかねていると思って良いのだな?」 762 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21 02 47.10 ID BJlDi/AP 中年商人「いや、それはどうだか。わたしは小物ですから」 東の砦将「ふっ。では、接待などしなくてはならないだろうな。 だがこの街の政府は自治政府で、台所事情が厳しいのだ。 わたしの馴染みの場末の酒場と云うことになってしまうが」 中年商人「いや、それはありがたい。 かえってそう言う場所の方が気兼ねないというものです。 わたしはこの街は初めてなんですよ。 しかも長い旅をしてきた。 長い旅の後に、都に詳しい人について酒場に入り、 冷えた酒を一杯やる。これに勝る幸せなんてどんな宴に だってありはしませんよ」にこにこっ 東の砦将「はははは! 宿舎のでよかったら、 水を浴びてくれ。日が暮れたら繰り出そうじゃないか。 その頃には塩の検品も終わっているだろう」 中年商人「ああ、品質だけは保証できますよ。 西ノ海で取れたまじりっけなしの雪花石膏のような花の塩です」 東の砦将「して、帰りは何か荷物でも仕入れるつもりなのかな?」 中年商人「いや、しばらくはこの街を根城に、 色々話を聞いていこうかと思っているんですよ。 良かったら紹介して欲しい職種もいくつかあるのですが」 東の砦将「ほう? どのような?」 中年商人「魔族の職人や傭兵というのは、 どうすれば雇えるのでしょうね。 ゲート後に開いた大穴、あそこに安全な街道を造るのは なかなかなにやりがいのありそうな仕事だ」 765 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 21 47 46.32 ID BJlDi/AP ――冬越し村、魔王の屋敷、執務室 魔王「すさまじい激変だったようだな」 メイド長「ええ、レポートを見るだけでも、大騒ぎですね」 魔王「異端審問から始まり、天然痘の撲滅までか」 メイド長「はい」 魔王「青年商人の企てた策は、まさに“売り浴びせ”だ。 資産の全てを投げ打つ戦略にはわたしでさえ背筋が氷る。 さらには原始的な先物さえ創造しているんだ。 銀行システムが流布していない世界において、 半ば強引に信用創造を行い“見かけ上の現金”を 増やしてのけた。 その長いロープは中央諸国の首を軒先にぶら下げるに 十分だったろうな」 メイド長「ええ」 魔王「それに、そのオチの付け方が洒落ているではないか」 メイド長「そうですか?」 魔王「ああ。ジャガイモに変える、とはな」 メイド長「はい」 魔王「青年商人は、あの位置から聖王国最大のスポンサーに なることも出来た。 そうしなかった理由が、わたしとの約束という義理なのか それとも商人の嗅覚なのかは判らないが 彼は二大経済圏の成立という賭けに討って出たんだ。 その方が明日があると信じて」 766 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21 51 24.73 ID BJlDi/AP 魔王「彼の判断は、理論としては正しい。 経済の発展のためには、多数の国家や多数の貨幣、 それらの衝突や摩擦が必要だ。 いずれやってくる魔族との交渉のためにも、 それらの経験値は必要不可欠」 メイド長「ゲートは、壊れてしまったのですからね」 魔王「ああ」 メイド長「早かったですね」 魔王「だが、だからといって伝統や慣習に こだわる守旧派勢力が勝たないとも限らない。 いや、事実それらの勢力は今まで勝ち続けてきたはずだ。 それなのに、その賭に出た。 一回も見たことがない勝利に賭けた。 その商人の魂に、深い敬意を抱くよ」 メイド長「あとは、勝負ですか」 魔王「そうだろうか。時間との、相手の覚悟との、 押しとどめようとする勢力との勝負だろう。 でも、いずれ同じ事。二つの世界は“異世界”など ではなかったのだ。 いずれ誰かが気が付いて、二つの世界の垣根は ぐっと引き下げられていただろう。 それがゲート破壊と云う手段かどうかは判らないけれど 魔力や法力による操作をしなければ行き来できない ゲートがなくなったことで地上と地下世界はいっそうの 接近を迎えた」 767 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21 53 37.40 ID BJlDi/AP メイド長「この波は、止めることは出来ない」 魔王「そうだ」 メイド長「準備が出来ていればいいのですが」 魔王「何時の場合も“十分な準備”などというものは 存在しない。現場の工夫で乗り越えられるか否かだけだ。 そのための支度だけは、出来うる限りしてきたはずだ。 それに……」 魔王「見たか? メイド長?」きらきら メイド長「はい」 魔王「すごいじゃないか! 素晴らしいじゃないか! これは……これだけはわたしが残していったものじゃない。 生命、財産、自由の三つを自然権として謳っている。 まだ旧来の信仰や神学と融合した形だが、これは明らかに 人間性の自立や他者への友愛を含んだ、lumen naturale。 啓蒙主義的な発想だ。 ……この言葉は、この世界にいきている 彼女個人が傷と痛みと精神の血の中から必死でもがき、 探り出した自由主義の萌芽だ。 わたしが教えたものじゃない。 いや、教えたとしても“知識”では越えられない壁が 存在するはずだ。教えることでどうにかなるものじゃない。 彼女はその壁を魂の輝きで乗り越えたんだと思う」 メイド長「はい」 768 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 21 57 54.39 ID BJlDi/AP 魔王「嬉しくないのか? この報告の言葉には、書いてあるよ。 “二度と虫にはならない”、 “それがどんなに辛く厳しくても”と」 メイド長「……いえ」 魔王「?」 メイド長「わたしは、彼女に……」 魔王「うん……」 メイド長「……なにか」 魔王「……」 メイド長「何ほどのことが出来たかと」 魔王「うん……」 メイド長「だめですね。……これは、言葉にはなりません」 魔王「……ふふ。彼女だけじゃない。見てみろ」 魔王「他にも有りとあらることが起きているようだ。 紙を利用した記録の有用性の再発見。 試験制度や報酬制度を含んだ官僚主義の成立。 関税による輸入障壁に、原始的な本位制度。 それにしても馬鈴薯本位とはね。 なかなか上手く切り抜けたようじゃないか。商人子弟」 772 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 03 02.14 ID BJlDi/AP 魔王「軍事にしてもそうだ。 わたしは詳しくはないけれど 野戦陣地や斜線陣形はこの時代の発想にはない戦術だろうな。 戦場医療の充実、か。 医療については確かに発想が抜けていたな。 どれもこれも確かに教えたのはわたしだけど、 すべてに工夫の跡がある。 この世界に生きる人間が、この世界なりのやり方で、 ちょっとでも何かを手にするために 自分たちの知恵を凝らした創意の跡が見える」 メイド長「はい」 魔王「人間は、すごいな。 世界は、すごい……。 魔族だって負けていない。沢山の風車が回っていた。 為替の機構だって軌道に乗ったそうだ。 郵便の話を聞いた時には、わたしだってびっくりした。 公共工事で病院を設立もすごい。 獣人族、鬼呼族は互いの利益を保護するために 共通の憲法に署名をするそうだ」 メイド長「はい」 魔王「図書館の外の世界が、 こんなに騒がしくて こんなに無秩序な世界が、こんなに愛しく思える」 メイド長「まおー様?」 魔王「ん?」 774 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 06 56.60 ID BJlDi/AP メイド長「泣いて、いるんですか?」 魔王「え?」 メイド長「まおー様」 魔王 こしこしっ メイド長「……レディはハンカチを使うものですわ」 魔王「ん」 メイド長「辛いのですか?」 魔王「いや、違う。たぶん」 メイド長「はい」 魔王「ちがうよ。これは。 涙だけど、おそらく泣いている訳じゃない。 良かった。そう思っている 多分、わたしは、ちょっとだけ 誇らしいんだ。 わたしの手柄じゃないけれど この世界が、好きなんだ」 メイド長「――わたしもそう思っています。 出会って、良かったと」 780 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 26 08.63 ID BJlDi/AP ――冬越し村、修道院裏手の広場 ギィンッ! 勇者「……はぁっ、はぁっ」 女騎士「はっ、はぁっ……はぁっ、はぁっ」 ギンッ! ギンッ! ザシュッ! 勇者「せいっ!」 女騎士「やぁっ!」 ギィンッ! 勇者「気合い入ってるな」 女騎士「まだまだぁっ! はっ!」 勇者「こっちだっ!」 ヒュバンっ!! 勇者「~っ! “加速呪”っ!」 女騎士「“瞬動祈祷”っ」 ギン!ギン! ガギン! ギッ! ギガッ! ガガっ! キンキンキンキン! ザシュ! ヒュバッ! 勇者「や、るなぁっ! せやっ!!」 女騎士「ま、だだぁっ!」 ジャギンッ!! 783 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 29 31.81 ID BJlDi/AP 勇者「すごいな、腕が上がったのか、気合いか」 女騎士「両方だ」 じりじりっ 勇者「んじゃ、こいつで、仕舞いだっ! はぁぁ!」 女騎士「っ! “光壁三連”っ!」 ヒュバウッ!! シュバァァァーーッ!! 女騎士「~っ!! って、うわぁぁぁっ」 勇者「で、おっしまい」 ぴたり 女騎士「……っ」 勇者「俺の勝ち~」 だばだば♪ だばだば♪ 女騎士「くっ……」ぷいっ 勇者「女騎士から稽古しようって云ったんじゃん」 女騎士「それはそうだが、悔しいものは悔しい。 この悔しさを無くしたら、わたしは弱くなる。 だからこの場合、悔しいのは正しんだ」 勇者「そっかそっか」 とさっ 女騎士「どうした?」 勇者「俺もちょっと休憩」 784 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 31 32.79 ID BJlDi/AP 女騎士「髪は、切ったんだな」 勇者「うん。切って貰ったぞ」 女騎士「その方が良い。似合うぞ」 勇者「そうかな。頭が軽いと調子が良いな」 女騎士「じゃ、勇者は不調にならないな」 勇者「ああ、そうな」 勇者「……」 女騎士「……」 勇者「ちょっと待て、それどういう意味だ!」 女騎士「いや、他意はないんだ。軽口だ。ほんとだ」わたわた 勇者「……そ、そか? お、おう」 女騎士「……」 女騎士(ど、どうする。勇者の態度も不審だぞ。 こっちまでドキドキしてきた。剣を捧げてから 二人きりなんて無かったしな。ってか、顔おかしいか? わたしはもしかして赤面しているんじゃないのか!?) 勇者「……あー」女騎士「なんだ勇者っ」 勇者「なんでもない」 女騎士(な、なんであんな口調で返事してしまうのだっ わたしの脳みそのほうが最軽量かっ!?) 786 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 34 03.74 ID BJlDi/AP 勇者「まぁ、女騎士は防御が固いけど」 女騎士「う、うん」 勇者「大きな技ほど光壁で止めようとするからな。 自分の力量と停止力に自信があるんだろうけど」 女騎士「そうかな?」 勇者「わりとな」 女騎士「そうか……」 勇者「……あ、えーと」 女騎士「?」 勇者「けなしてるんじゃないからな?」 女騎士「そんなことは判ってる」ぷいっ 勇者「……」 女騎士「……」 勇者・女騎士「その」 勇者「あ、どうぞ。」 女騎士「そか……その、だな。勇者」 勇者「ん?」 女騎士「さっきも使ってた、剣がふわってぶれて、 霞んで消える技な。気配も消えてしまう技」 789 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 36 19.21 ID BJlDi/AP 勇者「ああ、勇者剣技その46なー」 女騎士「そうなのか? 昔からたまに使うよな。 あれを覚えたい、見せてくれないか?」 勇者「そりゃ、無理だろう」 女騎士「そうなのか?」 勇者「だって、勇者の剣技だしなぁ。特別なんじゃないか?」 女騎士「やって見なきゃ判らないだろう?」勇者「……それもそうか」 かちゃ 勇者「こんな風に構えるだろう? いや、足はどうでもいいや。 とにかく、剣を敵に向けて半身だ」 女騎士「ふむ」 勇者「で、左手の薬指で、重心を取るみたいに力を抜いて」 女騎士「剣を落としちゃうじゃないか」 勇者「そこはバランス取るんだよ。手のひらで柄が ぶらぶらする感じだ」 女騎士「なんて適当な技なんだ……」 勇者「そしたら、剣の刀身から魔素を吸い込むような気持ちで」 女騎士「詠唱するのか?」 勇者「いや、気持ちだけ。そんな気分で、周辺の空間を掴んで、 引っ張るわけだよ、こうきゅーっと。で、いてもうたる! と」女騎士「いきなり難しいぞ、おいっ」 勇者「だって、そういう気分の技なんだ」 女騎士「気分で技を作るなっ」 791 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 38 37.34 ID BJlDi/AP 女騎士「まったく信じられないな」 勇者「そう言われても」 女騎士「人に教えるのも向かないのは判ったよ」 勇者「自分でも判ってる」 女騎士「……しょげてるのか?」 勇者「いや、そんなことはないけど。 でも、壊したり殺すのが得意でも、あんまり面白くはないぞ」 女騎士「……そっか」 勇者「そういうもんだ」 女騎士「……」 勇者「……」ぶるっ 女騎士「冷えてきたな。修道院に戻ろう、暖かいものでも出すよ」 勇者「そうすっか」 女騎士「そしてその後、膝枕をする」 勇者「はぁ!?」 女騎士「少しでもハンデを埋める」 勇者「何の話だ」 女騎士「いいではないか! 協力してくれてもっ! 胸は追いつけないんだから。太ももくらい使わせてくれっ」 勇者「……な、何で怒ってんだろう」 女騎士「これでもわたしは遠慮しているのだ。欲求不満だぞっ」 796 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 45 04.65 ID BJlDi/AP ――冬越し村、魔王の屋敷、談話室 魔王「慰安?」 勇者「旅行?」 メイド長「はい」 魔王「なんだそれは? 天文学用語か?」 勇者「いや、それはないだろう」 メイド長「古代から伝えられるメイドへの報償です」 魔王「そうなのか?」くるっ 勇者「俺にふるなよ。聞かれたって知らないよ、そんなの」 メイド長「間違いございません」 メイド姉「旅行?」 メイド妹「おねーちゃん、それってなに?」 魔王「あー。遠くへ行くことだな」 勇者「旅みたいなものだ」 メイド妹「お引っ越し?」 魔王「いや、引っ越しは伴わない」 メイド妹「じゃ、屋根無し? 家無し放浪?」 じわぁ 勇者「なんか、生い立ちが忍ばれて胸が痛むな」 797 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 46 34.57 ID BJlDi/AP メイド長「慰安旅行というのは、普段家事に追われている メイドに対する最高の報酬であり、 古来様々な文献において、絶賛されている休暇のあり方です。 神代のギルドには専用の役人や部署まであったとか」 メイド姉「はぁ」 勇者「それは、どんなことをやるんだ?」 メイド長「まずは遠隔の景勝地へと赴きそこに宿を取ります」 魔王「ふむ」 メイド長「宿には当然他の使用人がおり、 炊事洗濯掃除と云った日常的な雑事をメイドに代わり行います。 普段は家事に忙殺されているメイドを解放する。 それが慰安旅行の目的です」 魔王「つまり、休日か。なるほど、云われてみればもっともだ」 勇者「そういえば、そうだな。 二人にはお休みらしい休みもなかったもんな」 メイド長「さらに云えば、慰安旅行には温泉がつきものです」 メイド妹「温泉?」 魔王「大きな風呂だな。場合によっては、 城の大広間くらいの大きさがある」 メイド姉「そんなに!?」 メイド長「この温泉において日頃の疲れを洗い流し、 メイドは新たなる段階へとステップアップできるのです」 798 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 50 53.85 ID BJlDi/AP 魔王「ふむ、云わんとすることは判った」 メイド長「今回まおー様とわたしの里帰りによる長い不在。 そのあいだこの二人のやってきた仕事と 周囲の評価を鑑みるに何らかの報酬を与えるのが 妥当と判断しました」 メイド妹「つまり、ごほーびって事?」ぴょんっ! メイド姉「大人しくしてるの、妹」 魔王「うむ、この件については、 わたしはメイド長に全幅の信頼を置くものだ」 勇者「云われれば納得だ。今まで思いつかなかったのが 不思議なくらいだぞ」 メイド長「いえ、聞けば長い間、かなりの大騒ぎで それどころではなかったそうですし、仕方のないことでしょう」 魔王「わたし達も忙しかったしな」 勇者「魔王は例の広間で寝てただけじゃないのか?」 メイド長「メイド姉、メイド妹。こっちに来なさい」 メイド姉妹「はい」「はいっ」 メイド長 なでなで メイド妹「え……」 メイド姉「あ……」 メイド長「よくやりました」 799 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22 53 17.57 ID BJlDi/AP メイド妹「ありがとう! 眼鏡のお姉ちゃん!」 メイド姉「ありがとうございます、メイド長」 魔王「ふふっ」にこっ 勇者「よかったな!」 にこにこ メイド長「ついては、まおー様、勇者様。お二方、加えて 僭越ながらわたしも同じ場所に行きたいと存じます。 他にもお誘いになりたい方がいれば準備させます」 勇者「そうなのか?」 メイド長「救出にも一役買って頂いたことですし、 こちらでは戦争の危機回避やいざこざなどもあったそうですね。 疲労もたまっていることでしょう。 冬が開ければまた忙しくなるのでしょうから、 行くとすればここがチャンスかと心得ます」 魔王「そう云えそうだな」 勇者「そうかぁ」 メイド姉「ご一緒ですね」にこっ メイド妹「一緒一緒!」 メイド長「移動は勇者様にお願いします」 勇者「あー。転移? まぁ、手間が無いっちゃないか」 魔王「宿は取ってあるのか?」 メイド長「はい。長い伝統を誇る古城民宿でして 目下急ピッチで準備中。3名どころか連隊規模の 入浴にも堪える大浴場を備える雰囲気ばっちりの宿でございます」 858 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/17(木) 12 41 51.81 ID z6GJxeoP ――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”入り口 しゅいんっ! メイド長「さぁ、到着ですよ」 魔王「なかなか綺麗になっているではないか。 掃除したのか? 普段とは大違いだぞ」 メイド姉「ここが民宿ですかぁ、すごいです。まるでお城みたい」 勇者(いや……城だよ……) メイド妹「すごーい! すごーい、これ壺?」ぴょこぴょこ 女騎士「ちょ、ま、まて。勇者。 身体を休めるための二泊三日の小旅行だと 云ったではないかっ!」 魔王「いかにもそうだが?」 女騎士「ここは、まっ。まっ。まっ」 メイド長「高級古城民宿、“まおー荘”でございます」 女騎士「嘘をつけぇい! どこからどう見ても民宿じゃないだろっ。 なんだあの鎧はっ! 血の流れる絵はっ! 何処の民宿にあんなものがあるのだっ!」 女魔法使い「……アート」 メイド長「あらあら。ゴーストのおもてなしの心は ちょっぴりずれていますわね」 859 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12 43 21.98 ID z6GJxeoP 女騎士「ちょっぴりで済むかっ。く、くそっ。 ああ、精霊様すみません。汚い言葉を使ってしまいましたっ。 あまりの事態のせいです。お許しください。 こんなところで死地に踏み込むとは一生の不覚っ。 わたしが突破のための尖錐騎行をするっ。 勇者は中衛でみんなの護衛を、 魔法使いは後方警戒と火力支援をっ」 勇者「おちつけ」 めこっ 女騎士「何をするっ!」 メイド妹「騎士のお姉ちゃん痛そ~」 勇者(小声)「少しは落ち着けっ! 俺たちは魔王と一緒なんだぞ! やばいわけ無いだろっ!」 女騎士(小声)「そ、そうであった……。すまない」 女魔法使い「仲良し……」 メイド姉「ええ、お二方は仲が良いです」 魔王「わたしだって仲良しなんだぞ。ほんとは」ぶつぶつ メイド長「ええ、そうですとも。 まおーさまと勇者様は仲良しですとも。 わたしがその生き証人です」 魔王「メイド長のせいで、すごく嘘くさくなってしまったではないか」 860 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12 45 10.64 ID z6GJxeoP メイド姉「仲の良いことはよいことですよ」にこにこ メイド妹「いいこと?」 女魔法使い「……比較において好ましいということ。わたしも メイド妹と、仲良し」すりすり メイド妹「昼寝のお姉ちゃんと仲良し」むきゅ 女騎士「いーやっ! わたしの方が仲良しだっ」 魔王「仲良しにおいてはわたしに一日長があるっ」 勇者「もうね。みんな仲良しで良いじゃないですか」 メイド長「あらあら」 メイド姉「仲良しが過ぎてなんだか大変ですね」 メイド妹「お兄ちゃんは、女の人と仲良し?」 女魔法使い「……女の人、沢山と、仲良し」 メイド妹「もてるんだね♪」 女魔法使い「……そのような解釈をすることも出来る」 魔王「……」 女騎士「……」 メイド長「そういえば、勇者様。執事さんは 誘わなかったんですか?」 勇者「いや、ほら。まだ色々話していないこともあるし。 そもそも温泉にあの爺連れてきたらどうなるか判るっしょ」 メイド長「3人子弟の皆さんは?」 勇者「みんな忙しいんだよ。それにやっぱり前述の問題が、その」 863 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12 47 56.24 ID z6GJxeoP メイド妹「お兄ちゃんは、男の子の友達いないの?」 女騎士・魔王 ビキィッ! 勇者「な、な、なにを云ってるのかな?」 メイド妹「一緒にお出かけしてくれる友達、いないの?」 勇者「え? あ。 ……そんなことないすよ? たまたま。 たまたまだよ? ほら、みんなもう要職って云うか、国家運営って云うか、 組織の指導っていうか、いろいろあるわけじゃない? その辺子供にはちょっと難しくて判らないかなぁ、って 思うんだけどさ。世の中ってのはそう簡単にはできてない わけですよ。ね。何事もさ。 俺くらいの年齢になるとさ、一人で動くのがクールっていうの? なんでも群れて動けばいいってもんじゃないっしょ? ね?」 メイド長「そういえば、男性は勇者様一人ですね~」 女魔法使い「……独占欲」 魔王「ゆ、勇者? そうなのか? 以前から勇者の知り合いは どうも女性が多すぎるのではないかとうすうす感じていたんだが」 勇者「な、なにをっ」 女騎士「大体勇者が見境なくあっちの街でもこっちの街でも ピンチの女性や少女を都合良く発見、 その上救出しているからこうなるんだ。 勇者はファンクラブでも作るつもりなのかっ。 それとも作った上で会員を増やそうと営業しているのかっ」 864 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12 50 02.67 ID z6GJxeoP メイド妹「お兄ちゃん虐められてる?」 メイド姉「怒られてるみたいね」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 女騎士「大体勇者はちょっと胸の大きい女性を見ると すぐにぽやんとして節操というものがないっ」 魔王「良いではないか。胸くらいっ。勝手に育ったんだ。 肉に罪はない。いつまでたっても増えないよりは利息が付いて 健全な財務状況というものだっ」 勇者「な、何で到着早々こんな流れに……」 メイド妹「お兄ちゃん、お兄ちゃん」 勇者「ううう……」 メイド妹「大丈夫。わたしが友達になったげるね♪」なでなで 女騎士・魔王 ビキィッ! 勇者「え、あ。……う、うん。ありがとう」 女騎士「勇者、まさか……」 魔王「よもやそんなことはあるまいと思っていたが」 勇者「ちがっ。ちげーよっ! 誤解だよ。 なんか誤解に満ちてるよっ」 メイド姉「こ、こらっ。妹」ぺし メイド妹「はう?」 865 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12 51 40.46 ID z6GJxeoP メイド長「あらあら、まぁまぁ」 女騎士「だいたい身近に女性が複数いながら 新規開拓とはどういう了見だっ」 魔王「勇者の所有者としても勇者の交友関係の 性別比率については一言言わせて貰いたいっ」 勇者「ううっ。違うっ! 違うんだっ! 今回はたまたまだったんだっ!」 女騎士「言い訳とは騎士らしくありませんね」 勇者「俺は騎士じゃないっ」 魔王「ただでさえハンデがあるというのに、 これ以上出走馬を増やされては叶わないっ。どうにかしろっ」 女魔法使い「……勇者も受難」 勇者「助けろ、魔法使いっ」 女魔法使い「殺人事件は、常にごきげん」 勇者「意味がわからねぇ~っ」 女騎士「それもこれも勇者が悪い」 魔王「甲斐性の欠如だ。安心感と安定感がないのが悪い」 勇者「言いたい放題云いやがって! 女は簡単に連合軍を作るから包囲戦じゃねぇかよっ!。 わぁった! 見てやがれっ。俺だってダチの一人や二人いるんだ。 後で見てろよっ!!」 ひゅいんっ! ページトップへ <前5-3へ|次5-5へ>
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主要キャラ 勇者 種族:人間 性別:男 主人公の1人 魔界の奥、魔王城へ一人と乗り込んだ戦闘能力の持ち主。 魔王を倒しても戦争は終わらずより酷い結果になると説得され魔王の仲間となった。 女の子が周囲に集まってくるギャルゲー体質の持ち主。しかし童貞。 黒髪(この世界では珍しいらしい)だが、それは先祖に侍がいるかららしい。 一族全員が戦士という家庭で生まれ育った。 魔王と過ごした時間や、一人で行動する時間が次第に彼を「ただの無敵勇者」から別の存在へと進化させてゆく。 正体を隠すために人間界では「白の剣士」、魔界では過去の魔王が使っていたという鎧兜を身に纏い、「黒騎士」と名乗る。 魔王 種族:魔族(図書館族) 性別:女 主人公の1人。魔界の端っこで経済学を研究していた学者。150歳。 歴代の魔王と比較すると圧倒的に戦闘能力が劣るが、その分を知識でカバーしている。 広範な知識を持ち戦争を経済的観点から分析、戦後処理を含めて「まだ見ぬ未来」を模索しようと勇者に持ちかける。 星の最果てにあると云われる『外なる図書館』で育ち、この世界ではまだ誰もたどり着いていないような高度な知識をもつ、 勇者と並ぶ『世界の特異点』の片割れ。 長い間待ち焦がれていた勇者と相互所有契約を交わす。 人間界では「紅の学士」と名乗り、農法の改善や馬鈴薯の生産などで目覚しい功績を挙げる。 また、南氷海での戦いにおいては流氷を船代わりにするという冬寂王の考えを事前に見抜き、塩を提供した。 しかし、その功績が仇となり中央聖教会から異端扱いされてしまう。 地味に巨乳。 メイド長 種族:魔族(図書館族) 性別:女 主人公の1人。「メイド道」を追求している。これでも魔王より年上。魔王軍の指揮も任されたことがある。 眼鏡っ子。 メイド姉 種族:人間 性別:女 元々は隣村から逃亡してきた農奴。冬の寒さに耐え切れず、妹と共に魔王の邸宅に逃げ込んできた。 その後、妹と共にメイド長からメイドとしての指導と魔王の教育を受ける。 思索的な性格で、書類の扱いに長ける。 当初はメイド長の下でメイドの仕事全般をおこなっていたがその能力を見いだされて魔王の秘書のような仕事もすることに。 メイドとして雇われるきっかけともなったメイド長の問いかけから自分がいかなる存在なのか、人間とは何なのかを常に悩んできたが、 異端審問騒動を契機に思想家としての側面を見せ始める。 亜麻色の髪を持つ。7人兄妹の3番目だが、生き残ったのは彼女とすぐ下の妹だけだった。 メイド妹 種族:人間 性別:女 姉と共に逃亡してきた農奴。姉共々メイドとしての指導と魔王の教育を受ける。 料理の才能があり、将来は料理人になるのが夢。 女騎士 種族:人間 性別:女 元聖銀冠騎士団所属で、現在は湖の国に本部を構える「湖畔修道会」のトップにして勇者の仲間。 勇者に惚れているが、中々行動に出せない。 冬越し村修道院へと居を移し、魔王と勇者の屋敷に足繁く通う。 さっぱりとした性格。 気性の娘。魔王の正体や勇者との関係を知り、それでも友情を結ぶ。 貧乳がコンプレックスで、その件で時々魔王と揉める。 勇者と共に旅をしていた頃は「勇者の右の翼」「鬼面の騎士」「怪力皇女」「石壁しぼりの女夜叉」などと賞されていた。 女魔法使い 種族:人間 性別:女 勇者の仲間の1人。よく眠る電波系キャラだが、魔法の腕は確か。 妖精族の魔法を学んだ後、「外なる図書館」へと向かう。 勇者と共に旅していた頃は「出来の悪い悪夢」「昼寝魔道士」と賞されていた。 同盟 青年商人 種族:人間 性別:男 主人公の1人。「同盟」に所属する若き商人。南氷海西方を担当している。 改良型羅針盤を巡る交渉で魔王の元を訪れた際、強い感銘を受けて、取引相手としての関係を結ぶ。 『同盟』の最高幹部10人委員会の一人に出世した彼は勇者とも語り合い、商人として新しい境地へ。 三国通商同盟と大陸中央部、聖王国との軋轢を利用した 巨大な商戦をしかけ、その規模は、この時代には珍しく経済戦争の域に達する。 利にさとい辣腕商人として巨額の富を扱いつつも、ポーカーフェイスを崩さない。 父親も商人だった。 辣腕会計 種族:人間 性別:男 青年商人の補佐役。 中年商人。 「同盟」の商人。 人間界 冬の国 冬寂王 種族:人間 性別:男 主人公の1人。冬の国の王。父である先代王を魔族との戦いで亡くした。槍武王の末裔。 登場時にはまだ王子であったが、南部諸王国の会議の席で即位を宣言。 開明的な思想の持ち主で、鉄の国、氷の国との連合国家を目指すことを表明。魔王に興味を持つ。 王としての初陣は極光島奪還作戦であり、その時は戦場の地の利を知り尽くした地元であることを生かし、流氷を連結し海峡に陸を作ることで、海上戦を避けるという知略を見せる。 その後、南部諸王国のうち3カ国をまとめる通商同盟の締結など様々な改革で王としての頭角を現してゆく。 執事 種族:人間 性別:男 冬寂王に仕える執事で、勇者の仲間。 現在おそらく60代であるが、まだ背はしゃっきりと伸びた変態ヒゲ紳士。既に白髪。 常にタキシードを着用し、現在では冬寂王の執事としてことあるごとに「若、若」と呼びかけている様子。 どうやら勇者パーティーでは男二人(勇者と)でさんざんな悪さをしていたようで、勇者からはパフパフの師匠と呼ばれている。 勇者と共に旅をしていた頃は「黒点の射手」「突然死」「弓兵」と賞されていた。 商人子弟 種族:人間 性別:男 冬の国の商人の三男坊。魔王の教え子であり、経済・金融に強い。 商会と金貸しを上の兄が、交易を下の兄が継いだせいで仕事がなく、魔王の紹介で城に来たところ官吏としてこき使われる羽目に。 将官とのやり取りの中で官僚制を発案する。 従僕 種族:人間 性別:男 商人子弟の助手。泣き虫。ショタ。 将官 種族:人間 性別:男 冬の国の将官。商人子弟の話し相手。商人子弟が官僚制を発案するきっかけを作った。 鉄の国 鉄腕王 種族:人間 性別:男 鉄の国の王。優れた軍人でもある。 軍人子弟 種族:人間 性別:男 軍人の息子。魔王の教え子であり、女騎士の弟子。軍事に強い。何故かござる口調。 最初は女騎士のことを馬鹿にしていたが、その剣の腕前を見て恐れをなした。 後に鉄の国の国境守備隊隊長に就任。 氷の国 氷雪女王 種族:人間 性別:女 氷の国の女王。既婚者。巨乳。 貴族子弟 種族:人間 性別:男 氷の国の貴族の息子。魔王の教え子であり、外交分野に強い。宮廷に叔父がいる。 宮廷で暇を持て余していたところ、中年商人と共に他の10人委員に接触することに。 白夜の国 白夜王 種族:人間 性別:男 白夜の国の王。后を中央から迎え入れる。 パーマ頭。司令官の叔父に当たる。 司令官 種族:人間 性別:男 聖鍵遠征軍の司令官。 開門都市に駐留していたが、勇者と羽妖精、夢魔鶫の作り出す幻影に怯え逃亡。 軍事裁判の結果、極刑の判決を受けるが白夜王の策略により脱獄。その際の拷問で片目を失った。 東の砦長と冬寂王に強い恨みを持つ。 霧の王国の王家の血筋を引いている。 魔界 火竜大公 種族:魔族(火竜族) 性別:男 紅玉神殿に住まう火竜族の族長。竜族全体を束ねている。 火竜公女の父でもある。 火竜公女 種族:魔族(火竜族) 性別:女 火竜大公の娘。時代がかった口調で話す。紅玉髪に薔薇水晶の角を持つ。 黒騎士(勇者)との賭けにやぶれた火竜大公がその男気に惚れて嫁でも妾でも、とさしだした。 公女本人はそのつもりなのだが、勇者の方がヘタレで色っぽい関係にはならずにいる。 現在は開門都市の自治委員の一人として内政を見ているが、元来は好奇心が強く多少驕慢な性格。おてんば娘だったようだ。 魔界のではあるが、高等な教育を受けている、この時代では進歩的な女性。 妖精女王 種族:魔族(妖精族) 性別:女 妖精族を束ねる女王。 夢魔鶫 種族:魔族 性別:不明 勇者の使い魔。幻影を作り出すことが出来る。 開門都市 東の砦長 種族:人間 性別:男 開門都市東の砦を担当する傭兵。茶髪巨漢。 歴戦の勇士。どうやら東方出身の血を引くらしい。 人間統治下の開門都市にあり、東の砦を治める士官の一人だったが、無能で横暴な司令官の夜逃げ同然の退却を受けたった500の手勢で開門都市の維持を引き受けることになる。 魔族に対しても公正な視点を持つ好漢だった彼は、いち早く周辺魔族との交渉を開始。 開門都市の自治独立を目指す非凡な統治センスをも見せつける。 副官 種族:人間 性別:男 東の砦長の右腕として開門都市を取り仕切る。 酒場の主人 種族:人間 性別:男 開門都市で酒場を営む。人間も魔族も隔たりなく扱う度量の良さを持つ。 魔物娘 種族:魔族 性別:女 酒場の使用人。聖鍵遠征軍の兵士に絡まれているところを勇者に助けられる。 その後、勇者を神殿に案内した。 聖鍵遠征軍撤退後は火竜公女に仕える。 南氷将軍 種族:魔族 性別:男 南氷海を支配する魔族で強硬派。銀鱗族、飛魚族、鉄亀族、巨大烏賊族、歌姫族を率いる魔界屈指の実力者。 武器は銛。 女騎士と一騎打ちを繰り広げ、武人として散る。
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ここを編集 敵一覧 取得経験値は、各ダンジョンのページを参照すること。 敵名 属性 特殊能力 説明 出現戦地 F-ランク ヤマ 無 - 裁きの神。罪人を裁くもの。 南の砦、征服者の塔 Fランク ナイト・セイリュウ 無 ブルースラッシュ 東方を守護する伝説の騎士。竜を守護神とする。 東の砦、征服者の塔 インドラ 無 - 武勇の神。巨躯、赤髪、豪胆な性格。 東の砦 クンビーラ 火 - 亥の神。 宗教都市セント、征服者の塔 ヴァジュラ 金 - 戌の神。 宗教都市セント、征服者の塔 ミヒラ 土 - 酉の神。 宗教都市セント、征服者の塔 アンティラ 木 - 申の神。 宗教都市セント、征服者の塔 アニラ 水 - 未の神。 宗教都市セント、征服者の塔 シャンディラ 無 - 午の神。 宗教都市セント、征服者の塔 パジラ 火 - 辰の神。 宗教都市セント、征服者の塔 マクラ 金 - 卯の神。 宗教都市セント、征服者の塔 シンドゥーラ 木 - 寅の神。 宗教都市セント、征服者の塔 チャトゥラ 土 - 卯の神。 宗教都市セント、征服者の塔 ヴィカラーラ 水 - 子の神。 宗教都市セント、征服者の塔 F+ランク ジン 火 - 見ることも触れることも許されない魔神。人と天使の間のもの。 アブラシティ、征服者の塔 ヴァイシュラヴァナ 無 - 神を守る四天王の一人。棍棒を武器とする。 北の砦、征服者の塔 トウシャ 火 - 炎をまとった蛇の姿。 宗教都市セント、征服者の塔 リクゴウ 無 - 調停者。 宗教都市セント、征服者の塔 コウジン 金 - 金色の蛇の姿。 宗教都市セント、征服者の塔 キジン 無 - 頂点に立つ者。 宗教都市セント、征服者の塔 テンコウ 水 - 舟人の女神。 宗教都市セント、征服者の塔 ダイオン 木 - 知恵の長老。 宗教都市セント、征服者の塔 タイジョウ 無 - 善の神。 宗教都市セント、征服者の塔 テンクウ 土 - 霧や黄砂を呼ぶ神。 宗教都市セント、征服者の塔 E-ランク ナイト・ゲンブ 無 ブラックスラッシュ 北方を守護する伝説の騎士。亀と蛇を守護神とする。 北の砦、征服者の塔 D-ランク ナイト・スザク 無 レッドスラッシュ 南方を守護する伝説の騎士。鳳凰を守護神とする。 南の砦、征服者の塔 巨大神像ロボ 無 目から怪光線 色々合体した超巨大ロボ。製作途中でスポンサー撤退。予算の関係上大部分がハリボテ。威圧感だけはある。 アックスデス島、征服者の塔 C-ランク ヴァローチャナ 無 - 天にも届かんとする巨大な神。 宗教都市セント、征服者の塔 タロー 無 - 迷ったら危険な方へ進め。色々爆発する。 ソラリスの塔、征服者の塔 ブラフマー 無 - 天を守護する神。 ソラリスの塔、城塞都市イーグリット、征服者の塔 プリティヴィー 無 - 地を守護する神。 ソラリスの塔、城塞都市イーグリット、征服者の塔 アーディティヤ 無 - 太陽を守護する神。 ソラリスの塔、城塞都市イーグリット、征服者の塔 チャンドラ 無 - 月を守護する神。 ソラリスの塔、城塞都市イーグリット、征服者の塔 Cランク ナイト・ビャッコ 無 ホワイトスラッシュ 西方を守護する伝説の騎士。虎を守護神とする。 西の砦、征服者の塔 B-ランク イカロス 無 - 高くとびすぎて墜落死した。 バベルの塔、征服者の塔 B+ランク ヴァルナ 無 - 秩序と倫理を支配する神。 西の砦、征服者の塔 ネプチューン 無 - 海洋神。大地を揺らす神。 城塞都市イーグリット A+ランク アリアドネー 無 岩石落とし 隕石落とし 小治癒 中治癒 大治癒 全体小治癒 清らかな女神。 ミノタウロスの迷宮、征服者の塔 S-ランク ポセイドン 無 - 海洋神。大地を揺らす神。 バベルの塔、征服者の塔 ロデ 無 - 海洋神ポセイドンの娘。 バベルの塔、征服者の塔 Sランク テセウス 無 - 慈悲深い賢知の王。偉大にして高名。 ミノタウロスの迷宮、城塞都市イーグリット、征服者の塔 X-ランク 海神カナロア 水 2回攻撃、3回攻撃、4回攻撃、5回攻撃、6回攻撃、7回攻撃、8回攻撃、9回攻撃、10回攻撃、魔法の三叉戟 ヤリイカと魔法と冥界の神。 最果ての海、征服者の塔 XX+ランク バロン・ビャッコ 無 3回攻撃、ホワイトスラッシュ 西方を守護する伝説の騎士の一人。男爵。虎を守護神とする。 南西の砦、征服者の塔 XXX+++ランク カウント・スザク 無 5回攻撃、レッドスラッシュ 南方を守護する伝説の騎士の一人。伯爵。鳳凰を守護神とする。 南西の砦、征服者の塔 EXランク スターシステム 無 3回攻撃、マザー・レーザー、精神波攻撃、睡眠、麻痺、混乱、魅了 脅威の8bitCPUを搭載する伝説の演算装置。メモリにいたっては64KBも使用可能。夢の2スロットモデルであり、なおかつテープレコーダーが標準搭載されている。自称マザーコンピューター。 リリーの渓谷、征服者の塔 バロン・スザク 無 3回攻撃、レッドスラッシュ 南方を守護する伝説の騎士の一人。男爵。鳳凰を守護神とする。 南東の砦、征服者の塔 UX-ランク カウント・セイリュウ 無 5回攻撃、ブルースラッシュ 東方を守護する伝説の騎士の一人。伯爵。竜を守護神とする。 南東の砦、征服者の塔 バロン・セイリュウ 無 3回攻撃、ブルースラッシュ 東方を守護する伝説の騎士の一人。男爵。竜を守護神とする。 北東の砦、征服者の塔 UX+ランク カウント・ゲンブ 無 5回攻撃、ブラックスラッシュ 北方を守護する伝説の騎士の一人。伯爵。亀と蛇を守護神とする。 北東の砦、征服者の塔 UX++ランク バロン・ゲンブ 無 3回攻撃、ブラックスラッシュ 北方を守護する伝説の騎士の一人。男爵。亀と蛇を守護神とする。 北西の砦、征服者の塔 UX+++ランク カウント・ビャッコ 無 5回攻撃、ホワイトスラッシュ 西方を守護する伝説の騎士の一人。伯爵。虎を守護神とする。 北西の砦、征服者の塔
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職業 名前 原作 人間関係 備考 武道家 琴吹紬 けいおん! 唯の旧友 放浪騎士 アデット・キスラー キング・ゲイナー ムギの実家の食客 斥候 東横桃子 咲 唯編のダイスにより佐伯と木下の雇用も確定 ※アデットらは個人的護衛。実家の届く範囲なら、他にモブがつく。 商売関連 3600金 (+1000まで商業ギルドで借り入れ可能) 予定 2月 4週 砦へ 馬車 8台 16荷物 武器 16 ×120金 大口取引 武器 120金 糧食 25金 被服 12金 ※馬車一台に /2つまで乗せられる。 スケジュール 1週 買い物 旅人の服 2週 図書館、近隣の地理と情勢 3週 遍歴の騎士アデットを護衛に雇用 4週 学校 2月 1週 コロセウムで東横桃子を雇用 2週 シブタクと面接 3週 神殿でお祈り 4週 ⇒ 学校で佐伯さんに伝言 3月 1週 東の砦へ出発 ※王都で活動した週は、戦闘スキルP+6 コロシアム 奴隷市場 広場 港湾 酒場 傭兵仲介業者 商工会議所 お城 ×
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片目司令官とは、元第二次聖鍵遠征軍司令官である。魔界開門都市に駐在していたころは司令官と呼ばれた。 聖王家に連なる霧の国の王族または貴族出身だが、聖王国で育った人物と思われる。 また叔父の親戚に白夜王がいる。 比較的高貴な生まれにもかかわらず、魔界という辺境の地で軍役についていることに不満を持っていて、開門都市で暴虐の限りを尽くした。 3年目年始ごろ、黒騎士(勇者)の策略により夢魔鶫に毎晩悪夢を見せられ、精神を病み、極光島で行われている第二次極光島攻略作戦への援軍という名目で、第二次聖鍵遠征軍の開門都市からの撤退を決定した。 関係者 白夜王 叔父の親戚 将官 部下 遠征軍士官 第二次聖鍵遠征軍の部下 東の砦将 元部下 魔族奴隷 夢魔鶫 悪夢を見せられる 人物 人間 男性 聖王国の人物 開門都市の人物 霧の国の人物
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<前6-4へ|次6-6へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」6-5 561 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 17 21 46.06 ID 2wq60CIP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、魔王の天幕 魔王「……」 勇者「どうした? どこからだったんだ?」 魔王「ふむ。鬼呼族の姫巫女からの親書だ」 勇者「どんな?」 魔王「停戦に同意する、と」 勇者「おお。……つっても、 あそこは元から交戦派じゃないよな」 魔王「いや、この意味合いは小さくはない。 “交戦したくはない”と“停戦をしたい”では その示すところが大きく異なる。 鬼呼族は大勢力であるしな。 先の乱世では 蒼魔族とは感情的なもつれがある仲だ。 蒼魔族を説得、とはいわぬが、意志をかえさせるには 鬼呼族の側面支援はありがたいだろう」 勇者「そうか。……機怪族はどうだ?」 メイド長「勇者様に運んで頂いた、鉱石、土壌サンプルなどを 全て届けさせました。大きな興味を示されたようです」 魔王「そうでなくては、かなわぬ」 勇者「これでテコ入れになったかな?」 魔王「確実に効果はあろう。機怪族は発展のためにも、 一族を増やすためにも希少鉱石と鉄が必要不可欠だ。 この二つが、地上世界との交易により安定的に 供給されるとあらば、一族の意志は根底から 問い直されることとなろう」 勇者「良い方向だな」 563 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 17 22 49.08 ID 2wq60CIP 勇者「それにまぁ、荒療治だけど、 獣人族の方も云われたとおりにしてきたぞ」 メイド長「いかがでした?」 勇者「メイド長の思惑どおり、矛は収めてくれたよ」 メイド長「そうでしたか。ふふふっ」 魔王「どういう事なんだ?」 勇者「いや、獣人族の女性蔑視が酷いって言ってたじゃないか」 魔王「ああ」 勇者「その辺いじって喧嘩をふっかけさせてさ。 そのうえで十人抜きとかいって、その侮辱を撤回させてきた」 魔王「そんなこと出来るのか?」 勇者「おいおい、一応は勇者だぜ」 魔王「でも、余計に感情が悪化しなければいいが」 勇者「その辺は、メイド長の作戦でな」 メイド長「はい」 勇者「適当なところでこっちも譲って、 相手を持ち上げていおいたんだ。成功したとは思うけれど」 メイド長「しばらくはぎくしゃくするかと思いますが 悪い方に転がってはいないでしょう。殿方ですからね」 魔王「ふぅむ、やるな」 勇者「ちょっとつついただけさ」 564 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 17 23 54.49 ID 2wq60CIP 魔王「だが、こうなると。そろそろ頃合いか」 勇者「うん」 魔王「……迷うが」 勇者「でも、そろそろ時間的にも押してきているんじゃないか? なんとなくだけど、他氏族の長も苛々している印象を受ける」 メイド長「そうですねー。あまりにも長引きすぎると、 温度は魔王様の指導力の問題も感じさせてしまいますね」 勇者「だけどまだ、蒼魔族は全然攻略できてないんだよな」 メイド長「ですね」 魔王「いや、一度押してみる時期か」 勇者「いくのか?」 魔王「ああ、この件で鬼呼族が当てに出来ると判った以上、 他氏族の反応も含めて探るべきだろう。 特に機怪族の意見について変化があったかどうかを知りたい。 うまくいけば、蒼魔族の底意が開戦であったとしても 全体の意見の圧力で雰囲気を一気に停戦に 持っていけるかも知れない。 そうなれば蒼魔族の1氏族だけでは、そこまで強固に 交戦の主張も出来ぬであろうしな」 勇者「確かにそうなるか」 メイド長「では、明日にでも」 魔王「うむ、最初の激突といこう」 567 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 13 48.69 ID 2wq60CIP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕 ざわざわ…… 魔王「さて、議論も出尽くした感がある。 我ら魔界を支える偉大なる八大氏族。その氏族の長がたに 今一度、この先の人間界との関係について意見を求めたい」 紋様の長「ふむ……」 蒼魔王「そんなものは決まっている。踏みつくし侵攻すべきだ」 銀虎公「おう! 人間何するものぞっ。 そもそものところが、われらが緑なる大地に盗賊のように 忍び込み、火を放って侵略を進めてきたのは人間ではないか!」 鬼呼族の姫巫女「しかし、勝ちが決まったとういう訳でもあるまい」 巨人伯「そうだ……。関わり合っても……。 人間とは……被害、増える、だけ……」 碧鋼大将「地上世界の鉱物資源には気を引かれますがな」 蒼魔王「鉱物資源など、征服してしまえばいかようにでもなる!」 火竜大公「……これは勇ましい」 妖精女王「わたしは反対です。せっかく二つきりの世界。 戦争は多くを踏みにじり、踏みにじられ、 互いに疲弊する選択肢。 ここは平和への道を模索するべきです」 銀虎公「ふんっ。腰抜けの妖精族がっ」 568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 15 46.37 ID 2wq60CIP 魔王「銀虎公。忽鄰塔の場だ、無駄な挑発は慎んで頂こう」 銀虎公「ふんっ」 魔王「わたしはなにも、停戦して即座に人間世界と 共存しようだなどとは考えてはいない。 だがしかし、現在の地下世界と地上世界の戦力を考えると 戦争をして勝てるとは言いきれぬ。 いや、緒戦もしくは短期間であるならば、 奇襲を中心に勝ちを収めることも出来ようが 長期に渡る遠征は費用から見ても難しいだろう。 そもそも勝ってどうする? 人数では圧倒的に勝る人間の地を我ら魔族が支配して その支配を維持できるのかが疑問だ。 当面の間、ゲートが破壊された“極”には十分の防衛軍を置き 出入りに関してはな警戒を続ける。 我ら地下世界にとって有利で有益な貿易であれば、 制限しつつ続行をしても良いが人間となれ合う気はない。 開門都市を取り返したとは言え、我らは侵略を受けた側なのだ。 謝罪の必要は認めぬ。 ただ現在の状況を見て、戦争を継続するのが合理的かどうかを 判断して欲しい」 勇者「上手い言い様だな。あれなら反感もかき立てない」 メイド長「魔王様ですから」 紋様の長「我ら人魔族は、最初からの意見を変えるつもりはない。 この件に関しては氏族の中でも議論も意見も割れている。 よって立場としては中立、どちらにも与せぬ」 569 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 17 06.97 ID 2wq60CIP 蒼魔王「われら蒼魔の意見は統一されておる、 このさい人間は滅ぶべきだ。彼らには彼らの罪の深さを 炎の中で思い知らせるのが我らの道だと考える」 銀虎公「我が一族も同様。人間どもの狩り場を 我ら魔族の物とすれば、遠征にかかる費用など容易く 取り戻せよう。……ただし」 火竜大公「ただし?」 銀虎公「そのための準備期間として、しばらくの停戦が 必要だというのであれば、その声に耳を傾けぬでもない」 蒼魔王「銀虎公っ。臆したかっ」 銀虎公「何を言うっ!」 鬼呼族の姫巫女「わが鬼呼族は戦争には反対だ。停戦を求める」 蒼魔王「っ!!」 鬼呼族の姫巫女「万事考え合わせるに、 こたびの戦は我が方の受ける被害が 甚大であろうという結論に達した。 おのおのがたも覚えておいでだろうが、 我らは一度は人間界の版図、極光島を占領したのだぞ。 しかし、その極光島を維持することは出来なかったのだ。 それはなぜか? われらが維持に必要なだけの兵力や物資を あの島に供給し続けられなかったのが大きな要因といえよう。 確かに口惜しいことではあるが、現在の我らは 仲間内で争うばかり。この戦争をやり遂げる実力に 欠けるのではないかという疑念をぬぐえん」 570 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 18 48.21 ID 2wq60CIP 妖精女王「私ども妖精族も停戦には賛成です。 もとより戦を望んだことは一度もありません。 しかるべき使いを立てて、人間との交渉に当たらせるべきです」 巨人伯「俺たちは……戦争……しないで……すむなら…… 停戦に……合意……する……」 碧鋼大将「停戦するにしろ、地上世界の物資は我が氏族に とって必要だと判断する。 よって停戦の場合の条件に何らかの交易取引、 もしくは賠償としての物資要求をしていただきたい。 ――そのような条件下で停戦に合意しましょう。 かなえられない場合は、一戦を辞さないと我が氏族は考えます」 火竜大公「まぁ、このような流れになってしまっては 仕方ありませぬなぁ。 竜族としても停戦に合意いたしましょう。 懸念であった開門都市もまた、 人間族からは奪い返し魔王殿の直轄領となった。 あの地が征服されたままでは絶対に合意することは ありませんでしたがな」 ぼうっ 魔王「ふむ、ではとりまとめると…… 条件はあれど、停戦に合意できるとする氏族が6。 中立が人魔族一統、そして交戦すべしが蒼魔族……。 このようになるな」 勇者「思ったよりも良い流れだぞ」 メイド長「ええ。獣人族が曲げてくれたのが大きいです」 蒼魔王「なんて軟弱な奴らなのだっ。おのおのがた! 魔族の誇りはどうなされた! 我ら魔族が人間の風下に 立ってなんとするっ!」 571 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 20 58.03 ID 2wq60CIP 妖精女王「しかし、停戦は魔王様の意志でもあります」 銀虎公「ふんっ。小癪だが魔王は、魔王だ」 巨人伯「そう……だ……」 鬼呼族の姫巫女「われらが魔族の大協定。 魔王の言葉にはそれだけの重みがある。 一考しなければなるまい?」 蒼魔王「っ! 敗北主義者どもが」 魔王「どうだろう? 蒼魔の勇士よ、ここは曲げてもらえぬか?」 紋様の長「あえて、というならば人魔の意見も停戦だ。 なにもことさら人間と和議を結びたいわけではないが、 ここで会議の結果が割れては、 またしても魔界は乱世をむかえてしまうだろう。 それだけは避けねばならぬ」 蒼魔王「――そんなにも」 銀虎公「?」 蒼魔王「そんなにも魔王の言葉が重いのか。 では、各々がたに問おう。 たしかに三十四代魔王“紅玉の瞳”の意志は停戦に有りとて しかしその魔王ご自身が決戦を決意されたならどうなさる!」 572 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 22 26.35 ID 2wq60CIP 巨人伯「……それは……しかたない」 碧鋼大将「魔王のご意志であれば、我ら鋼の民はくつわを並べて 戦場にはせ参じ、人間らと一戦交えるのみ」 銀虎公「それこそが我ら獣牙の勇者の望みよっ。 そのような雄々しい魔王の指揮の下、新たなる肥沃な世界に 領土を求めることこそ、戦士の誉れっ」 妖精女王「しかし、戦はっ。戦争は互いの氏族を滅ぼす 諸刃の剣っ。そのようなことでは氏族の命脈保てませぬっ」 蒼魔王「それこそ魔王の責務であろうっ。 魔族を導き魔界に大いなる繁栄をもたらすことがっ。 優れた魔王であるならば、 妖精族から被害を出さずに勝利を手にすることも可能なはずだ。 妖精族は魔王に信頼を置くことが出来ないというのか? それともなにか? 妖精族は我が氏族可愛さに 魔界全ての繁栄を否定するというのかっ」 妖精女王「そのようなことはありませぬが……」 蒼魔王「我ら蒼魔の一族は、ここに 三十四代魔王“紅玉の瞳”の廃位を要求するっ!!」 巨人伯「っ!」 火竜大公「なんじゃとっ!?」 鬼呼族の姫巫女「そのようなこと、許されると思うてかっ!」 573 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 23 34.25 ID 2wq60CIP 魔王「っ!?」 勇者「なっ、なんだ!? そんなことあるのかっ!?」 メイド長「判りませんっ。そんなことが出来るか どうかなんて考えたことさえありませんでしたっ」 妖精女王「馬鹿なことをっ! どのような権利を持って たかが一介の氏族長がそのようなことを要求するのですっ!」 蒼魔王「出来るのだ。『典範』にも明記されている。 非常に希なことではあるが、第八代の治世に前例がある」 巨人伯「前例……」 火竜大公「うかつっ」 鬼呼族の姫巫女「前例とは?」 蒼魔王「『典範』によれば、“魔王を除いた忽鄰塔参加族長の 半分の賛成を持って魔王を廃位出来る”となる。 すなわち、4名だ。 使われたことが一度しかない権利だが、前例は前例だ」 銀虎公「そのような前例が……」にやり 碧鋼大将「魔王殿はその在位の間一度も戦の経験がおありではない。 このような魔界存亡の危機にその資質が問われると?」 蒼魔王「我ら蒼魔族はそのように考える」 銀虎公「そうだな。魔王たるもの相応の実力を持ってなきゃいかん」 碧鋼大将「……理に叶うのであればそれも道」 巨人伯「……魔王は……おおきな……ほうが……良い」 574 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 26 18.09 ID 2wq60CIP 勇者「何だってんだこいつら」ぎりっ メイド長「落ち着いてくださいっ」 火竜大公「ふぅ……」 鬼呼族の姫巫女「魔王の廃位か。……して、新魔王は?」 蒼魔王「それは魔王が倒れた時と同じように、 新しい星が魔王を選ぶだろう。 候補者の中から魔王選定の武会を開催して決めればよい」 銀虎公「今度こそ、我が獣人から魔王を出すのだっ」 蒼魔王「これは頼もしいことですな。だがしかし、 われら蒼魔族も忘れて貰っては困りますぞ。 どちらにせよ、次代は雄々しい魔王をいただけるというわけだが」 巨人伯「我ら……巨人の子らに……栄光は……輝く……」 鬼呼族の姫巫女「……そのようなことを考えておったか」 魔王「……」 メイド長「まおー様が、真っ青です……」 勇者「魔王っ。どうにかならないのか」 メイド長「まったく予定にないことですから……」 蒼魔王「では、決を採るとしましょう、各々がた」 火竜大公「いや、またれよ」 蒼魔王「は?」 575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 18 28 46.55 ID 2wq60CIP 火竜大公「これはこれで、重大事。 しばし協議の時間をいただきたい」 蒼魔王「何を話合う必要がある。 この評決は全会一致を目指す訳でもない。 己が信じるところの意思を表明すればそれで事足りるわ」 銀虎公「その通りだっ」 鬼呼族の姫巫女「いや、火竜大公の云うことももっとも。 氏族への説明も無しに決めることは、出来ないこともあろう。 それぞれがそれぞれの事情を抱えているのだ」 蒼魔王「ふんっ」 巨人伯「日没……来る……」 蒼魔王「良いでしょう。日没まで後二時間ほどだ。 採決は日没に行いたい。 そのために二時間を協議に当てると云うことで宜しかろうな」 火竜大公「……良かろう」 鬼呼族の姫巫女「心得た」 妖精女王「そんな……」 魔王「……では」 紋様の長「いや、これは魔王“紅玉の瞳”殿の進退を問う評決。 魔王殿、あなたが発言することは重大な『典範』への 挑戦となりましょう。二時間を、心安らかにお過ごしあれ。 結果如何によっては、今宵、開戦の決が取れるやもしれませんぞ」 603 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 20 29 22.37 ID 2wq60CIP 魔王「やられたっ」どんっ メイド長「まおー様……」 魔王「あんな手に出てくるとは、予想してなかった。 こちらの読みが甘かった……。 わたしも魔王の権威に頼っていたというのかっ」 勇者「……」 魔王「……すまぬ。良いところまで議論を 追い詰めていたというのに。このままでは……」 勇者「いや、これは俺の責任だ」 メイド長「勇者様……?」 勇者「警告は受けていたんだ。――魔法使いから。 『典範』を探して、調べろって。それを突き詰めなかった ――俺の責任だ」 メイド長「……」 魔王「いや、そうではない。 結局は目先の停戦ばかりを追いかけて、魔族の中に信頼を 育てることが出来なかったわたしの無為が招いた結果だ」 勇者「駄目なんて云うなよ」 メイド長「そうですよ、諦めるには早すぎます」 魔王「しかし、この二時間で打てる手がない。 あそこまではっきりと釘を刺された以上、 わたしが他の族長の説得をすると云うことは、 保身以外の何者でも無かろう。 残されるとすれば、採決の場にて魔王廃位に票を投じた長を」 604 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 20 31 12.87 ID 2wq60CIP 勇者「殺しちまう、ってやつか」 魔王「そうなる」 勇者「だが、この状況になっては意味がないな」 メイド長「そうですか? まおー様だって云ってたじゃありませんか。 過去には言うことを聞かなかった 長を消し炭にした魔王さえいるって。 それこそ前例があります」 魔王「だが、しかしそれは1名だったのだ」 勇者「ああ。つまりは、全会一致のために、 その1名を取り除く必要があったんだ。 消し炭って云う過激な手段に目が行くけれど、 結局魔王は他の7氏族の支持を受け代表して粛正したに等しい」 メイド長「……」 魔王「この状況で、たとえば4名の長がわたしの 廃棄に票を入れたとする。 その長を皆殺しにして決定を破棄させたとしても、 “半数の氏族が魔王を支持していない”と云う事実は 消えることがない」 メイド長「そんな……」 魔王「今までも支持をしていたわけではないだろうが、 それでも魔王の名前が持つ権威に従ってくれていたのだ。 蒼魔族は判っているのだろうか。 わたしの廃位うんぬんではなく、 ここで決定的な亀裂が起きてしまえば また魔族の内部分裂が始まる。 乱世の再来を自分たちで招いていることに……」 勇者「……」 魔王「事は魔王が廃位する、と云うことより深刻なのに ただ見ているしかできないとは……」 607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 06 12.56 ID 2wq60CIP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕 蒼魔王「さて、時間だ」 魔王「……」 勇者「大丈夫だ。いざとなれば力尽くでも」 メイド長「でもそれじゃ」 勇者「魔王を護る。そうすればまだチャンスはあるはずだ」 紋様の長「日が沈むな……」 蒼魔王「さよう。緑の太陽がその輝きを衰えさせる」 銀虎公「評決と行こうではないか、皆の衆」 碧鋼大将「良かろう」 巨人伯「……わがっだ」 火竜大公「……」 蒼魔王「では、動議を提出させて貰ったわたしから行こう。 われら魔族が戦を望もうと望むまいと、 現に今は戦時下である。人間が何時攻め込んでくるやもしれぬ。 そのような時に、怯懦な魔王を頂くとは 氏族の民に対する裏切りにも等しい。 わが蒼魔は、現魔王の廃位に票を投じる」 609 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 08 21.73 ID 2wq60CIP 妖精女王「妖精族は現魔王の今までの業績を評価します。 魔族同士の争いを止め、紙や土木技術などの面で 魔界の文化に貢献なされました」 銀虎公「文化? ふんっ」 妖精女王「我らは小さきもの、かそけきもの。 月光と森羅に住む妖精族は現魔王を支持します」 魔王「……」 銀虎公「わが獣人族にとって力が全て。力あるものに従い 戦においては武功を立てて、平時にあっては力を蓄える。 現魔王は1回の親征も行ってない故にその実力は未知数。 わが獣人族は伝統に従い、力計れぬものに信頼は置けぬ。 獣人族は、現魔王の廃位を求める」 鬼呼族の姫巫女「我らが戦に対する求めは 先に話したとおりの現状維持。魔王を変えてなんとする。 次に選ばれる魔王が、戦に狂った狂人でない保証はなく 現魔王よりも力に溢れているという保証もない。 我らは常に何時の世代であれ、 配られた札での勝負を余儀されなくされてきた。 それがこの世界の不文律。 限られた選択肢の中で知恵をしぼる尊さを理解する故に、 我ら鬼呼の民は現魔王を支持する」 碧鋼大将「地上に溢れる宝はやはり我が氏族に不可欠。 その素晴らしさを教えてくれた現魔王には感謝するが やはり我らと人間はわかりあえぬ。 魔族の中ですらその異形ゆえ、 長い間権利も認められず機械人形の類として虐げられてきた我らは 人間との交わりの中で、 一度得た我らが権利が失われることをこそ恐れる。 やはり人間と共には暮らせぬ。 ――我らは、現魔王の退位を望む」 610 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 09 47.40 ID 2wq60CIP 紋様の長「我らが人魔一統は、この件に関しても中立を 貫かせて頂く。つまり、棄権だ」 蒼魔王「ふんっ。その優柔不断がそのうち手ひどい 火傷になって自らを焼かないように気をつけることですな」 巨人伯「……魔王は……ちいさ、すぎる……。 俺たちは……小さいひとより……おおきな、ひとが、良い…… ……いくさは。なくてもいい……が…… 魔王は……変わるなら……変わった、ほうが…… 良い……」 魔王「……っ」 勇者「よっつだ……」 メイド長「駄目――なのですか……」 銀虎公「魔王は廃位。これで次代の魔王が生まれるのだっ!」 碧鋼大将「新魔王、か」 蒼魔王「早速ふれを出さなければ。しかし、在位20年。 長くはないが、けして短くはない。 しかも、存命のまま魔王の座を降りることが出来るなど ある意味限りなく幸運なことと云えましょうな」 火竜大公「黙れ」 蒼魔王「は? なにを云っているのですか? 老公。 もはや結果は出たのです。今さら何をかばう必要があります」 火竜大公「黙れ、と云ったのじゃ」 ごうっ! 619 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 24 51.07 ID 2wq60CIP 鬼呼族の姫巫女「……」 蒼魔王「では黙りましょう。ご老公。何か仰りたいことでも?」 火竜大公「我がまだ票を入れていない」 銀虎公「何を言っている、もう結果は出たのだ!」 蒼魔王「さよう。ご老公が現魔王を支持したとしても、 結果は変わりませぬ。何を言い出すのです」 火竜大公「そのようなことを云っているのではない。 我はこれでももっとも古くから魔界の氏族として 成り立ってきた竜の一族、そのとりまとめたる火竜大公ぞ。 何故その言葉を聞かれることもなく かような重大な決議を下されねばならぬっ!」 銀虎公「だから結果は変わらないと……」 火竜大公「黙らっしゃい!! 我が一族を軽んじるのではない! そのように云っているっ!!」 鬼呼族の姫巫女「それは、もっともな仰りようではあるな」 紋様の長「確かに」 蒼魔王「ふむ。一理あるようだな。 是非ご老公の判断も伺いたい。 たとえその意見が結果にいささかも影響を 与えられないとしても、ですがな」 620 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 25 55.06 ID 2wq60CIP 銀虎公「早く言って欲しいな、こちらは年寄りではないのだ」 火竜大公「……」 妖精女王「火竜大公、最後の意見を」 魔王「……」 紋様の長「ご老公、票を投じ為されませ」 火竜大公「……」 蒼魔王「ええい、何を押し黙っているのだ! みずから軽んじるな、発言を重んじろと云っておきながら 沈黙を通すとは、いかなる了見か。応えて頂こうっ」 銀虎公「そうだ、ご老公。その態度はわれら八大氏族と 忽鄰塔を愚弄することに他ならぬぞっ」 バサッ 東の砦将「遅れましたかい?」 副官 ぺこり 魔王「え?」 勇者「砦将……? なんで」 624 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 27 22.12 ID 2wq60CIP 火竜大公「では、我が竜の一族から申しあげよう。 我が竜の一族は、ここに改めて、新しい氏族を紹介したい」 蒼魔王「なっ、何を言い出す! この危急の時にっ!」ダンッ 銀虎公「氏族だと!? 聞いたこともないっ!」 鬼呼族の姫巫女「説明して頂けるか? ご老公」 火竜大公「もちろんだ。 だがひとまずは彼の者の口上を聞くのが宜しかろう」 東の砦将「あー。俺、じゃねぇや。 えーっと。それがしは東の砦将と申す者。 ここに忽鄰塔本会議すなわち大氏族会議への 参加を求めてやってきた」 魔王「参加……?」 蒼魔王「何を言う! 忽鄰塔本会議は魔族のなかでも もっとも実力ある八大氏族と魔王が意志決定をする 魔界の最高機関。 貴様のような木っ端魔族が参加するような所ではないわっ!」 東の砦将「そいつぁどうも。俺は魔族でもない人間なもんで」 蒼魔王 がたっ! 銀虎公「人間だとっ!?」 巨人伯「に、人間……!」 蒼魔王「どういうつもりだ、火竜大公っ!!」 火竜大公「どういうつもりもこう言うつもりもない。 そもそも魔族とはなんぞ? この地下世界、魔界へ住む ものの総称であろうがよ。この者は魔界に住んでいる。 故に魔族だ。人間でもあるのだろうがな」 627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 28 35.56 ID 2wq60CIP 銀虎公「そんな説明が納得できるかっ!」 火竜大公「『典範』のどこにも、人間を魔族と認めぬとは 書いていないではないか」 鬼呼族の姫巫女「あははははは!!!」 紋様の長「その人間がこの会議に何用なのだっ!」 東の砦将「ええ、それをこれからご説明しますよ。 俺、あー。それがしは、族長として」 蒼魔王「人間の次は族長だとっ!?」 東の砦将「そうですな。 それがしは衛門族の族長として、氏族四万八千を背負い、 この忽鄰塔大会議への参加を要求します」 銀虎公「……」 碧鋼大将「な、なんだ、それは……」 妖精女王「四万八千……?」 火竜大公「さよう。この忽鄰塔大会議は魔王と魔族の中の 有力部族の長による会議。 別に八大氏族などと決まっていたわけではない。 思い出すが良かろう? そもそも機怪族が参入したのは、たかだか6代前ではないか」 碧鋼大将「我らはその権利を勝ち取った」 巨人伯「あれは……戦争の……結果……」 火竜大公「何も戦は必須ではない。4万を超える氏族と すでに会議に参加している二氏族の長からの推挙があれば それでよい」 635 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 30 35.71 ID 2wq60CIP 妖精女王「4万……?」 紋様の長「ばかな、それでは中小の氏族でさえ、 大会議に参加できることになる」 蒼魔王「そうだ、そのような民の数で何故有力を名乗れる!」 火竜大公「そんなことは、わしのあずかり知ったことではないわ! 前例があり、『典範』に記述がある。それだけよ」 副官「私から説明させて頂きます。 えー。 おそらくは前例の作られた時代による要因が 大きいのではないでしょうか? つまり当時であれば、おそらく4万は十分な 大氏族であったのかと考えます」 紋様の長「時代……だと……」 火竜大公「しかし、前例は前例だ。前例は絶対なのであろう?」 銀虎公「だ、だれが推挙するというのだっ! 人間の治める氏族などっ!!」 東の砦将「頼むよ、爺さま」 火竜大公「我が後見に立とう。後1名は、そうじゃな……」 鬼呼族の姫巫女「あはははははっ! これは愉快、痛快じゃ。 よかろう。わたしが立とう。妖精女王でも引き受けては くれようが、わたしもこの人間の言い様が気に入った」 644 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 33 49.52 ID 2wq60CIP 副官「こちらが氏族四万八千の連名書。 および氏族の本拠地たる開門都市自治政府の信任状。 ただいま後見を頂きました両氏族の長の言葉を持ちまして 全ての条件を整えましてございます」 蒼魔王「我らの声はどうなるっ」 火竜大公「この前例は評決さえ必要とはせぬよ。 手続きが終わった今よりこの男は衛門族の族長。 この会議に参加し、発言する権利を完全に備えた参加者じゃ」 鬼呼族の姫巫女「はははっ! して、どうする」 魔王「っ!」 蒼魔王「……まっ、まさか」 東の砦将「問うまでも無きこと。我が衛門族が望むは平和と繁栄っ。 すでに我が都市には多数の人間が暮らし、 魔族と手を携えてやっておりますよ。 もちろん面倒揉めごとはありやすがね。 それでも何とかやっていけるもんでさぁ。 俺たちゃべつにガキじゃねぇんだ。 腹立ち紛れに殴り合うこともあれば、 同じ釜の飯を食って肩をたたき合うこともある。 人魔族、獣人族、妖精族に、竜族、蒼魔族、 数は少ないが巨人族さんや機怪族、鬼呼族さんだって いらっしゃるんだ。 ルールは一つだ。仲良くやって豊かになれ。 俺たち……あー、なんだ面倒だな。 それがしと衛門族は、現魔王を支持しますってことで」 火竜大公「さて。おぬし。半数は取れなんだようじゃの」 653 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 49 03.77 ID 2wq60CIP 勇者「砦将っ! 砦将っ! ば、馬鹿やろうっ! 知らなかったぞ、俺はっ!!」 東の砦将「すまねぇな、勇……黒騎士さんよぅ。 俺たちだって馬を何頭もつぶしてさっきついたばっかりなんだ。 どうもその、二時間か? その間についちまったらしくて どうやっても魔王の天幕には近づけなくてな」 魔王「これだけのことを……。 わたしはその恩に応えるほどの事もしていないだろうに。 あの都市に砦将殿が残された遠因はわたしにもあるのに」 東の砦将「いいってことさ。あの馬鹿な司令官の 煤払いをしてくれたんだって思えば有り難いくらいで。 って、魔王さまだったな。 えー、ありがたく思っているんです」 魔王「ふふふっ。普段どおりで良いのだ」 東の砦将「ほう。なんだよ、笑うじゃねぇか」 副官「ま、その辺は後ででも」 火竜大公「そうだの。卿の会議はこれ以上進むまい?」 鬼呼族の姫巫女「宜しかろうな、皆様方」 銀虎公「ちっ! 切り上げだ! 帰るぞっ!」 蒼魔王「不愉快だ。失礼するっ」ガタッ 紋様の長「あれが開門都市の……」がたり 654 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 21 50 40.53 ID 2wq60CIP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕前 魔王「そうか、それで馬を飛ばして……」 勇者「魔法使いが『典範』を届けてくれていたのか」 副官「そうなんですよ。でも、解読するのに時間が掛かって。 それで、もしかして何か役に立てるかもと思って信任状を とったり慌ただしかったものです」 魔王「手間をかけたな。深く礼を言う」 勇者「魔王がこんなに感謝するのも珍しいぞ」 魔王「何を言う、わたしは恩知らずではないぞ!」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 勇者「まぁ、ともかく天幕で一息つこう」 東の砦将「喉もからからだし腹も減ったよ」 副官「そうですねぇ」 メイド長「とびっきりのお茶を入れますわ。 ねぇ、魔王様。お祝いですから、紅葉色の深煎り茶でも」くるんっ ヒュン! ヒュンヒュンヒュン!! 魔王「え」 トスっ 勇者「狙撃っ!? どこだっ!?」 東の砦将「弓矢かっ、伏せろッ!!」 副官「なんて威力だっ」 メイド長「魔王様っ!? 魔王様っっ!!!」 魔王「あ。……ん。……ゆう、しゃ」 勇者「魔王っ!!!!!」 755 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 21 22.12 ID 0Bi87sEP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、魔王の天幕 バサッ!! 火竜大公「魔王殿が倒れたというのは真実かっ!」 東の砦将「……」 鬼呼族の姫巫女「そうだ」 火竜大公「何が起きたというのだ。説明せんかっ!」 副官「あの会議の後、わたし達は魔王様の天幕へと 短い距離を談笑しながら移動していました……。 何者かが、無防備な魔王様を弓矢による狙撃で……」 火竜大公「魔王殿は、魔王殿は無事なのであろうなっ」 紋様の長「今は遅延の紋様を施した奥の部屋にて」 火竜大公「遅延……とは?」 紋様の長「毒をお受けです。その効果をゆるめるために」 東の砦将「弓矢は、肺を貫いた。どうあっても相当な重傷だ。 いや、本来即死でもおかしくはねぇ。 それを黒騎士が尽きっきりで食い止めようとしている」 副官「……」 紋様の長「紋様の唱え師と鬼呼族の癒し手に 祈呪をさせてはいますが、あまりにも傷が深すぎ 毒性も強すぎる……」 756 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 22 48.45 ID 0Bi87sEP 鬼呼族の姫巫女「なにゆえ……」 火竜大公「どこの誰がやったのだっ。 このような時に、このような場所で。 かつて忽鄰塔において魔王が討たれたことなど一度たりとて無いっ」 東の砦将「……っ」 鬼呼族の姫巫女「このようなやり方で魔王を討ってなんとする。 そのような卑劣なやり口、 我らが魔族において受け入れられると思うているのか。 ――痴れ者がっ。 卑劣な暗殺などで意を通そうとしても八大、 いや九大氏族ことごとく背くことがなぜ判らぬ」 紋様の長「人間、ですか……」 副官「何を仰るんですっ!?」 紋様の長「このような方法で魔王を討ったとしても それは汚名になりこそすれ、武名とはなりません。 魔族においてそれは判りきったこと。 我ら族長を動かすことなど……。 であれば、魔王を討つための人間の刺客を疑うのは必然」 火竜大公「……いや、さように考える我らたればこそ。 ことさらに魔族かも知れぬ。 討っ手が露見さえせねば汚名もまたかぶる必要がない。 “障害が取り除かれた”。 その一事を持ってよしと考える輩かも知れぬ」 鬼呼族の姫巫女「今は祈るしかないのか……」 757 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 24 04.91 ID 0Bi87sEP ぱさり…… 勇者「……」 火竜大公「黒騎士殿っ」 鬼呼族の姫巫女「魔王殿の様態はどうなのだ!?」 勇者「……一両日が峠だ」 東の砦将「っ!」 鬼呼族の姫巫女「何かいりようなものはないか? 氷か? 薬草か? いま本拠に最高の癒し手を 呼びに行かせておる」 勇者「……いや、お二方には世話になった。 望める限りの援助の手をさしのべて貰って、感謝の言葉もない。 いまはメイド長がついているが……。 奥には入らないでくれ。 ――壊死が、ひどい」 副官「そんな……」 勇者「……魔王が倒れたら、次の魔王の選出はどうなる?」 火竜大公「今はそれどころでは」 勇者「教えてくれ」 紋様の長「……星が魔王の候補者を選びます。 候補者は身体のどこかに刻印が現われる。 刻印がくっきりと大きいほどに魔王になる素質が高いと 一般には言われています。 事実、歴代の魔王は濃い刻印を持っている」 758 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 25 40.85 ID 0Bi87sEP 鬼呼族の姫巫女「刻印を持つ者は多くの場合複数現われる。 と云っても、二人から三人だが。 現魔王が即位した時は、例外的に刻印を持つ者が多かった。 あのときは確か……」 紋様の長「六人でした」 鬼呼族の姫巫女「刻印を持つ者が一人であれば、その者が魔王だ。 複数であれば、魔王を決めるための継承候補者戦を行う。 魔王本人、もしくは従者を代理に立てての勝ち抜き試合だ。 この勝者を持って魔王とする」 勇者「……そうか」 ざっざっざっ 火竜大公「どこへ行く、黒騎士殿っ」 東の砦将「おいっ!」 勇者「魔王の意に沿いに行く」 火竜大公「何を!? どこへじゃ」 勇者「……戦いを止めるには時を移す訳にはいかない。 魔王の命を燃やす時は黄金の一粒より貴重だ」 副官「そんな……」 鬼呼族の姫巫女「黒騎士殿」 紋様の長 ざっ 鬼呼族の姫巫女「鬼呼族の長としてわたしはここに留まろう。 結果をうけあえぬは断腸の想いなれど癒しの祈り手と共に 最善を尽くしましょう」 勇者「感謝する」 ばさっ! 759 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 26 33.82 ID 0Bi87sEP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、天幕の街 ひゅん、しゅばっ! たったったったっ、たったったったっ。 勇者「夢魔鶫っ」 夢魔鶫「御身の側に」 勇者「足跡は?」 夢魔鶫「申し訳ありません、たどれませんでした」 勇者「位置の把握は出来たか」 夢魔鶫「北東の丘の一つです」 勇者「案内しろっ。“加速呪”っ」 ひゅん、しゅばっ! ――。 ――――。 夢魔鶫「こちらです」 勇者「……ここから狙撃したのか」 妖精女王「黒騎士様」 勇者「こちらにいたのか」 妖精女王「はい。妖精族は氏族をもって都市を封鎖しています。 もっともわたしたちの戦力では、封鎖と云うよりも 監視に過ぎませんが……」 勇者「それで良い」 760 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 12 27 26.96 ID 0Bi87sEP 妖精女王「魔王様は……?」 勇者「危険だ」 妖精女王「……」 勇者「そのまま監視を続けてくれ。変事があれば報告を頼む」 夢魔鶫「主上」 勇者「どうした?」 夢魔鶫「逃走経路を探索した結果、複数の形跡を発見。 おそらく犯人は、数人から十人程度の組織で行動中です。 互いに移動の痕跡を消しあいながら移動している様子」 妖精女王「集団なのですね」 勇者「そいつには聞きたいことがある、色々とな」 妖精女王「はい」 夢魔鶫「主上、おかしな痕跡を発見しました」 勇者「……なんだ」 妖精女王「何もないではありませんか」 勇者「これは……戦闘か?」 夢魔鶫「判りません」 妖精女王「妖精族の魔力でも、何かあったかどうか かろうじて感じることが出来る程度ですが……」 勇者「“影の中の一矢”。……爺さんか」 770 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 13 08 29.97 ID 0Bi87sEP ――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、天幕の街外縁 羽妖精「イタ?」 羽妖精「イナイー」 羽妖精「ミタ?」 羽妖精「ミナイー」 羽妖精「デモ」 羽妖精「デモ」 羽妖精「ナンカ、キタ」 羽妖精「兵隊ダヨ、兵隊ガイルヨ」 羽妖精「息ヲ潜メテイルヨ」 羽妖精「隠レテイルヨ」 羽妖精「ゴ注進ダ-!」 羽妖精「女王様ニゴ注進ダ-!」 羽妖精「黒騎士様ト魔王様ガ危ナイヨ」 羽妖精「危険ダヨー!」 羽妖精「ゴ注進ダ-!」 羽妖精「女王様ニゴ注進ダ-!」 羽妖精「谷間ニハ兵隊ガ潜ンデイルンダッテ!」 ページトップへ <前6-4へ|次6-6へ>