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最終幕「其の求める名は」 起動直後の神姫は、最低限のパーソナリティーを有しながらもまっさらな状態で目を覚ます。 それはコミュニケーションをも目的とした玩具、道具であるからである。 余談ではあるがそれは、十数年前まで流行していた育成シミュレーションゲームに取って代わる原因でもあった。 たとえ一度起動したものだとしても、原則的に別のオーナーの所有物になった時点で全ての蓄積されたデータは消去される。新たなオーナーと、新たな関係を作り出すために。 では、この何も加えられてはいない記憶領域に、過去に蓄積された別の神姫の記録をコピーされるとどうなるのだろう。 もちろん、その過去の記録の所有者になるはずは無い。 最低限の個性が、初期段階で生まれているのだから。 しかしそれは、本当の意味で初期状態の個性から派生する人格と言えるのだろうか。 結城セツナの友人となった武装神姫、焔とは別人格の過去の記録をも有する神姫である。 「ご主人、朝ですよ。起きて下さい」 二月の中旬。 この時期、朝と言っても外は未だ薄暗くそして寒い。 礼儀などに厳しくしつけられたセツナも、この時期はベッドから抜け出すのが辛い。 「早く起きてくださいよー」 焔の声がセツナの意識を覚醒させる。 それにしても今日は一段と寒い。 「ごーしゅーじーんー」 とうとう焔はセツナの顔をぺちぺちと叩き始める。 「……わかったわよー」 根負けしてセツナはゆっくりと体を起こした。 途端 「寒っ! なに? 容赦なく寒っ!!」 「雪が降っているのです!!」 肩を抱くセツナとは対照的に、そわそわと落ち着きの無い焔。 ショールを肩に掛けカーテンをめくると、そこは一面の銀世界だった。 「…………カーテンを開けたら其処は雪国だった?」 「それを言うならトンネルを抜けたら、です」 その日は記録的な大雪となり、多くの学校は休校となった。もちろんそれはセツナが通う女子高も同じ事である。 「せっかく雪が降ったのですから、ワタシ外に行きたいです」 焔のその一言で、雪の降りしきる中外に出ることに決定。 天から舞い降りる雪を見れば海神のいなくなった日を思い出してしまうが、それでもセツナは友人たる己の神姫の願いを叶えることを選んだ。 しん、と真っ白な世界を静寂が支配する。 普段なら聞こえてくる喧騒もさすがに今日はなりを潜めていた。 興味深そうにただただ空を見上げる焔の横顔を見ていると、セツナは感傷に浸っている自分が勿体無く感じてくる。 雪の日に海神を失ったけれど、今はその雪を一緒に見る友達がいる。 それはとても幸せな事のように思えた。 「ご主人、雪って本当に冷たいのですね」 そういって無邪気に笑う焔を見て、セツナは先ほど感じた幸せが偽りで無い事を知る。 「そうね。雪って冷たいのよ」 そう言って天を見上げたセツナは、心の中で「ごめんね」と海神に言う。 貴女がいなくなったのに、それでも私は幸せを感じている。だから…… 「ご主人、どうかしましたか?」 そんなセツナの寂しそうな表情を気遣って、焔は尋ねる。 そんな焔にセツナは優しげな笑みで返した。 誰もいないだろうと思いながらも来てしまった神姫センターには、まだらではあるがそれでも人と神姫の姿があった。 その中に見知った顔を見つける。 「あら。奇遇ね」 「あぁ、結城さん」 「おう、結城の所も休校か?」 藤原雪那と式部敦詞が、それぞれティキときらりを伴ってそこにいた。 「焔ちゃん、こんにちはなのですよぉ~♪」 「……どうも」 ティキは無邪気に、きらりは少し含みを持たせて焔に挨拶をする。 「こんにちはー」 「?」 いつか戦った時と比べ、明らかに雰囲気の変わった焔に戸惑うきらり。 だが、あまりに自然に焔と接しているティキを見て、きらりは頷くと改めて焔の目を見つめた。 「え? えぇ?」 その真っ直ぐすぎる眼差しに焔はたじろぐ。 そんな様子までも真摯に見止めてから、きらりはニコリと笑った。 「あの時はごめんなさい。改めて宜しくね」 そういって手を差し出された手に、焔は嬉しそうに手を重ねた。 「あー……なんだか解決したみたいだなぁ」 その神姫たちのやり取りを見ていた敦詞が、面倒臭そうに言う。 「まぁ、ね。二人には迷惑かけたみたいね」 「なんだ? 雪那も何かしたのか?」 「いや、僕は何もして無いよ。結城さんは自分で気が付いたんだから」 「ふーん…… ま、イイけど、ね」 実は敦詞としては雪那がセツナと焔の事に絡んだ事は計算外であったのだが、それを表に出すようなヘマはしなかった。 ただ、「あー……司馬のダンナは出遅れたかな」と思っただけである。 「で、今日はどうしたの? わざわざこんな雪の日に」 「なんていうか、暇を持て余していて、気が付いたらここに」 「以下同文」 「あはは。なら私たちと一緒ね」 今までと違って険が無くなり、明るく笑うセツナを見て敦詞はもう少しだけ認識を改める。「これは司馬のダンナよりも雪那の方が一歩リードしちまったのかな?」と。 「で、これからどうします? 僕とティキはバトルにエントリーしちゃいましたけど」 相変わらずティキにしか興味なさそうな雪那の態度を見て取り、「進展はしそうに無いか、な」と溜息をついた。雪那は朴念仁が過ぎる、と。 「そうねぇ。私もエントリーしてこようかな? 後一勝で昇級資格が手に入るし」 「えー? 僕等と一緒じゃないですか!」 「そうなの? じゃあ、ティキちゃんと戦わないようにしないと」 会話は弾んでるのに、相手にはまるでその気が無いというのだからセツナも浮かばれない。 「ちぇっ。オレ達はまだ先だってのに、ずりーぞお前等!」 未だサードランクより抜け出せない敦詞ときらりであった。 帰り道。 日はすでに沈んでしまったが、降り積もった雪の反射せいか辺りは未だ明るい。 その日焔は見事セカンドへの昇級資格を手に入れた。もちろんティキも一緒だ。後はお互い昇級トーナメントを勝ち抜けば晴れてセカンドランカーの仲間入り、である。 「これは何かお祝いしなくちゃね」 セツナのテンションはかなり高い。 「それなら一つだけ」 おずおずとしながら焔は口を開く。 「ご主人が今一番大切に思うものを教えてください」 「? なんで?」 お祝いというには随分と的外れな問いかけ。セツナが疑問を抱くのも当然といえる。 焔は照れたように体を動かしながら答えた。 「あの……ご主人が大切なものを、ワタシも大切にしたくて、えっと、だから、ワタシも、ご主人と同じくなりたいなぁ……って」 よくは解らない理屈だったが、セツナは一応理解したふりをする。 そして少しだけ考えたふりをし、悪戯めいた笑みを浮かべて焔を見つめた。 「それは凄く大切で、ずっとずっとなくしたくないもの。私が迷ってもきっと助けてくれる」 「なんだか凄いものですねぇ」 半ば感心した様な顔をする焔。 その焔に飛びっきりの笑顔で。 「一番、というのはおかしいかもしれない。だけどきっと私が今一番求めるもののその名は――」 ――Y.E.N.N END―― / 戻る
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「ハイジャック犯に告ぐ!!この建物は完全に包囲されている!諦めて大人しく投降しろ!!」 深夜8時、大東亜共和国首都の新東京市にて銀行強盗が発生した。 I.N.S.P日本支部サイバー犯罪捜査課勤務の安田 聡美警部補もこの現場に出動していた。サイバー犯罪捜査課は当初は名前道理、インターネットを使った犯罪の取り締まりを行っていたが、2016年のロボティクス・ドライブシステム、2022年のアムドライバー、そして2031年の武装神姫の登場により、それらに関する犯罪捜査も請け負うようになっていった。 「警部、このままでは人質が保ちません。強行突入の許可を!」 「しかしだな安田警部補、今交渉人が説得を続けている。今犯人を刺激するわけには・・・・・」 「だからと言ってホイホイ要求を聞くわけにはいきません!!」 現場近くの本部テント内にて、聡美は上司である初老の警部に食ってかかっていた。 「うむぅそこまで言うなら、やって見せろ。ただし、必ず人質を救出及び犯人確保しろ。MMSの使用を許可する」 「はっ!必ず!!」 しかし、この現場が誰かにとって最後の仕事になることは、聡美自身も判るはずがなかった。 その二:ドライの場合 「と言うわけ、アイン、ツヴァイ、ドライ、戦闘準備急げ!」 「「「了解!」」」 聡美は指示を受けると直ぐさま神姫達の詰め所に向かい、アイン達に出撃指示を出した。 一番機を務めるアイン、接近戦担当のツヴァイ、そして後方支援を受け持つドライで構成される小隊は複数個設定されたルートから突入(否、潜入)した。 「ツヴァイ、ドライ、そろそろ敵が来ますよ」 「判っている・・・」 「OK、いつでもどうぞ」 先頭で呼びかけるエウクランテタイプのアインに対し、それにストラーフタイプのツヴァイとランサメントタイプのドライが答える。 「二人とも安心して。キッチリサポートするから」 「それを聞いて安心しました。・・・・・来ます!」 アインが叫ぶと同時に犯人グループとその神姫達が銃撃してきたが、聡美は咄嗟に避けて難を逃れた。 「イーグル0より各機、散開して各個に応戦!!」 「「「了解!!」」」 自らも物陰に隠れて拳銃で応戦しつつ、聡美は檄を飛ばす。 それを受けたアインはビームライフルで、ツヴァイはサブアームを盾にしながらヴズルイフで、ドライは重装甲にものを言わせて被弾しながらもアクティオンで迎え撃つ。 暗い廃ビルの中、繰り広げられる銃撃戦。辛うじて確認できるのは、大小の銃弾が着弾する音と、マズルフラッシュのみ。後はどれが敵でどれが味方かも判らない闇。 『このままじゃ埒が明かない・・・・。向こうは多人数故に同士討ちの危険も高い。こっちの手持ちは三体、だとすればとれる手は一つ・・・!』 「アイン、ツヴァイ一時後退!!ドライ!反応弾の使用許可!!」 「ええ!?それって一発撃つのに政府の許可が必要じゃ・・・」 「ガス爆発って言い訳しておく!!纏めて吹っ飛ばせ!!」 そう言って聡美はポケットの中から38口径ほどの大きさの反動弾頭を取り出すとドライに放る。 反応弾、赤外線によって誘導され、着弾した際に大爆発(爆風の半径は20センチほど)を起こす強力な爆弾だ。 「もう、どうなっても知りませんよ!!」 とか言いながらもドライは反応弾を受け取り、アクティオンの銃口の先端に装着させて照準を合わせる。 「お願いだからできる限り逃げてよね!!」 アクティオンの引き金が引かれ、白い尾を引きながら飛んでゆく反応弾。 次の瞬間、大爆発が起きて犯人グループの一部と殆どの神姫が熱で、爆風でなぎ倒される。 「相変わらず、凄い威力・・・」 「後で管理官にどう言い訳すれば・・・・。OTL」 「被疑者確保ー!!!」 呆然とするアインとツヴァイを尻目に、聡美の号令一過、警官隊が突入して犯人達の両手首に白く光る手錠を掛ける。 「さてと、私たちは引き続き人質の保護に向かうわ。アイン、ツヴァイ、ぼさっとしてないで行くわよ!」 「そうなる原因を作ったのは姉さんでしょう・・・・!」 「アイン、今は仕事中」 「そうよぉ、後でジェリカン奢ってあげるから」 「はぁあ、寿命縮みそう・・・・」 聡美達が周囲を警戒しながら奥の一室へ足を踏み入れると、人質に(基、神姫質)されていたのか、一体のパーチオが部屋の隅に座り込んでいた。 「姉さん!人質を見つけました!!」 「ご苦労様。保護してちょうだい」 「了解。もう大丈夫よ、安心して」 アインが保護しようとパーチオに近づくも、完全に怯えてしまっており、なかなか向こうも動いてくれない。 「困ったわねえ、これじゃ連れて行きようが無いわ」 「そうだ!姐さん、私に考えがあるわ」 「どうするの?」 「こうするんです」 そう言うとドライはほぼ全ての武装を解除し、パーチオに歩み寄る。 「もう大丈夫よ。怖かったでしょう」 感極まったフェレット型が赤いカブトムシに抱きつく。まるで迷子になっていた子供が、母親を見つけて駆け寄っていくような・・・。 しかし、パーチオは嬉しいはずなのに一向に声を発しようとしない。 「可哀想に、声帯機能が壊れているのね」 「・・・・可愛い・・・」 「にしてもおかしいわねぇ?野良神姫とは思えないし、本当に人質のだったらどっかしらに彼女のオーナーが居るはずなのに・・・・・。まさか・・・・ドライ!その子を離して!!」 「えっ!?」 聡美が叫んだその瞬間、抱きついていたパーチオから閃光が発せられたと思うと、爆発した。 「なんてこと!!神姫に爆弾を仕掛けるなんて!?」 「姉さん!ドライが・・・・ドライが!!」 問題のドライは2メートルほど離れた所に倒れていた。 爆風をもろに受けたドライはあちらこちらがひしゃげてカーボン製の内骨格が飛び出しており、近くにいたツヴァイも顔を中心に損傷を負っている。 「修理班!何人かこちらによこして!!負傷者が出たわ!!!」 聡美が発した通信機への叫び声が、ツヴァイが気絶する前に最後に聞いた声だった・・・・。 無機質な天井がツヴァイの視界に入る。周囲を見渡すと、自身がメンテナンス用のクレードルに寝かされていることが判る。 「ん・・・・、此処は・・・・?」 「気がついたんですね、ツヴァイ」 「アイン・・・?そうだ!ドライは!?」 そう言われて首を振るアイン。 「コアユニットに留まらず、CACにも損傷が・・・。修理班もさじを投げたって姉さんが・・・」 「そんな・・・・・私が、もっと気を付けていれば・・・」 「自分を責めないでツヴァイ。悪いのはあの子に爆弾を仕掛けた連中よ」 「・・・・・・人質は?」 「別働隊が全員保護したわ。安心して」 「そう・・・・なの」 数日後修理が完了したツヴァイは治安局のメンテナンス・センターから出所してきた。 しかし、その顔には斜めに奔る傷跡が無惨に残っている。 オフィスの自身の机に着くと、二人に肩に乗っかられている聡美が口を開いた。 「ちょっとツヴァイ、どうして傷口を消さなかったの?一応神姫なんだし」 「良いの。これは戒めだから・・・」 「それよか、二人に新しい仲間を紹介するわ。ドライ、出てらっしゃい」 「「?」」 すると、一体の神姫が山積みにされた書類の影から現れた。 カーキ色のヘッドマウントディスプレイに赤いお下げ髪が特徴の砲台型神姫、フォートブラッグだった。 「アイお姉様、ツーお姉様、初めまして。本日付でイーグルチームに所属する事になりましたドライです。よろしく・・・」 「貴女は私たちの知っているドライじゃない」 「ツヴァイ・・・」 「まあともかく、三人とも仲良くしなさいよ」 「「「はーい」」」 この段階ではまだまだ馴染めないドライ(2代目)だが、この後初代以上のコンビネーションを発揮することになるが、それはまた本編で。 とっぷへ
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ホワイトファング・ハウリングソウル 第十九話 『砕かれた未来~The broken future~』 時は少し遡る。 ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。 それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。 「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」 都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。 「駄目だ! マスター!!」 「マイスター!!」 都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。 大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから 「――――――――――――――!」 勢いよく、振り下ろされた。 ・・・・・・・・アメティスタは、ゆっくりと目を開ける。 自分の体がまだ無事であることに疑問を覚え、横を見る。 そこには都の手があった。 「・・・・壊さないの?」 その手をみながら、彼女は言った。 都は何も言わない。 「・・・・ボクは、キミになら壊されてもいいと思ってたんだけど」 「・・・・・・・・・・いだろう」 と、都が何かを口にする。 「・・・・殺せるわけ、無いだろう・・・!」 都は・・・都は泣いていた。 雨の中でも判るくらい、泣いていた。 「どうして? ボクは武装神姫・・・ただのオモチャだ。それに殺すんじゃない。壊すんだ」 「・・・私は、ハウとノワールを家族だと思ってる。・・・・サラとマイは友達だ・・・!」 「ボクたちを人間と区別していないのか。それは単なる誤解と錯覚だ。ボクたちとキミ達じゃ根本的に・・・・」 「そんなことは判ってる」 都はそういって、アメティスタを押さえつけていた左手を離す。 「・・・・・でも、殺せない」 「・・・・なぜ?」 「・・・・そんな泣いてる奴を、殺せるか」 言われてアメティスタは始めて気づく。 彼女の頬は・・・涙で濡れていた。 「・・・・・・・・・どうして」 「そんなもの私が知るか・・・畜生ッ!」 そういうと都は持っていた石を川に向かって投げつける。 大きな音がして、小さな水柱が上がった。 「・・・よかった。マスター・・・」 「・・・・ん」 と、都を止めようとしていたハウとノワールが溜息をつく。 「・・・悪かった。ついかっとなってな」 その様子を見て都はすぐに謝った。 間違いを起こす前に本気で止めようとしてくれたからというのもあるが、やはり心配をかけたからだろう。 都が謝り、発言するものがいなくなり場を静寂が包む。 その静寂を破ったのはやはり都だった。 「・・・・お前、壊れてなんていないだろう」 その言葉はアメティスタに向けられたものだった。 「・・・・どうしてそう思うのかな?」 都の言葉にアメティスタはそう返した。 「簡単だ。お前、私を怒らせようとしてたな? 昔の事を思い出させて怒らせて・・・自分が真犯人だって言って。そんなことを言われたら私がどうなるか、判っていたんだろう? 小さな予言者さん」 今までのお返しとばかりに皮肉たっぷりに都は言う。 「どうなるか判ってて何故私にそんなことをするのか。何故罪の告白がしたいのに、相手を怒らせるのか。それが判らなかったが・・・お前、もしかして殺して欲しかったんじゃないか」 アメティスタは答えない。 しかしそれは肯定と同義の無言だった。 「さっきの話だと“壊れてるからアシモフコードを無視できる”はずだ。だったら自殺だって・・・できるはずだ。じゃぁなんで私に殺させようとする? それは・・・お前が壊れてないからだ」 「穴だらけで推理とも呼べない。それは殆どがキミの妄想と傲慢と身の程知らずから来た考えにしか思えないね」 ようやくアメティスタが口を開く。 「そもそもボクが自殺したがってるって根拠は何さ。それにボクは衛にぃを・・・殺した。これで壊れていないわけが・・・」 「アシモフコードが未来予知とか、そんな事にまで対応できるわけ無いだろう。元々コードには抵触しないんだよ。・・・・衛のことはな」 「・・・・ボクが見た程度の事じゃ、マスターの死に直結するとは判断されなかったってこと?」 「そうだ」 都は肯く。 アシモフコードは今更言うまでもなくロボット三原則の事だ。その第一条・・・『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない』にアメティスタの予言は抵触するか否か。 するわけが無い。 それはまだ起こっていない事、起こるかどうかすらわからないこと。 そして何より・・・予知は果たして神姫のアシモフコードに認識されているかということ。 「アシモフコードに認識されなければそれはプログラム的には“無い”ことにされるんだろう。もともと予知そのものがイレギュラーな要素だから認識されないのはある意味当然といえる」 「・・・つまり、あれは不幸な事故だったというの?」 「そうだ。アイツが死んだことで、誰か悪者を作り出すなら・・・車の運転手以外にだれもいやしないってことさ」 都はそういって黙る。 雨は、少し酷くなってきていた。 「・・・キミはそれで、納得できるの?」 「理解できないものに何か理由をつけ、理解した気になる。それが悪いこととは言わないがね。納得するさ。だってあそこで・・・私の目の前で起きた出来事には、お前が介入する余地なんかないんだから」 都は迷い無くそういいきった。 それは・・・アメティスタの罪を、許すといっているのと同義だ。 「・・・はぁ。また死に損なっちゃった。いい加減、衛にぃの所に行きたいんだけどな」 「やっと本音を言ったなこの馬鹿魚」 アメティスタのその言葉に、都はキシシと笑う。 その笑顔に偽りは無く・・・本当に楽しそうだった。 「・・・なぁ。お前、今何処に世話になってるんだ」 「山下りたとこにある神社だよ。・・・・ボクを引き取るってんならお断りだよ。ボクは今のこの生活が気に入ってるんだ」 「お見通しか」 「・・・ま、たまには遊びに行ってもいいけど」 「・・・・クク、素直じゃないな」 そういって更に笑う都。 雨はもう・・・・降っていなかった。 前・・・次
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あの、白い刃を持った同類の少女。 ただ、違うのは、彼女は強い。 そして、自分の中のパルスが、沸き立つ。 ―――ああ、私は武装神姫なんだなと、思った瞬間である。 ちゅんちゅんちゅん 冬は過ぎ、春が来たと言うのに…………まだ寒い、そんな三月手前の日。 「ん……んうう?」 どれどれ……まだ寝ておるな、ふふ 「……?」 ふむ、やはり夜討ち朝駆けは基本だな、どれどれ。 さわ、とこう、暖かい感触が、なんと言うか。 「うおっ!?」 寸前で目を覚まし、慌てて頭を振る。 「……ち、起きおったか」 「ディス……なにしてんの?」 ズボンは下げられて、こー、危険一歩手前、というか、まあ、朝の元気の象徴が。 「――――神姫たるもの、朝の奉仕は基本だろう?」 艶かしく、舌をちろ、と魅せる。 「……勘弁してくれ」 流石に前屈み、仕事前に精力抜かれたらたまらん。 「―――残念じゃな」 ふ、っと笑う、ディス……ってこー上目で見るなこー欲しそうにっ、あー、あー!? 「天国に、連れて行ってやるぞえ?」 ちょっと、揺れた、というか更に危険領域にっ!? 「―――」 殺気、つーか、ピンチ!?、助けてピンチクラッシャー!? 何見てるつーかいつの間にか起きたんですか碧鈴さん!? 尻尾立ってるし、こー、なんだ……髪の毛逆立ってるっていうかこー!? 「マイロード」 爽やかで、朝の起きるときに相応しい、優しい声 「は、はひ」 即答且つ、瞬時に背中を正す。 「…………天国へ行きましょうか?」 砲莱向けながら言わないでくださいっつーかだんだんと近寄らないでー……って、え? 「……」 凍ってる、碧鈴さん……。 「……ふふふ」 笑っている、ディス。 「ん?」 ……えーっと、まあ、なんだ、原因は朝で寝起きで、そしてそのまま起立なんてしてたから―――― 「―――せ、せいよくのごんげっこのへんたいすけべしんきになによくじょうしてるんですかこのどへんたい ぽるのやろういいかげんにしてくださいもうだいたいじゅんじょからいえばでぃすよりわたしがさきというか わたしもまいろーどがのぞみならいくらでもというかこれじゅうはちきんれーといいんですかいいんですなら いろいろされるのもやぶさかじゃないですというかむしろしてくださいというか」 と、真っ赤な顔でぶつぶつという碧鈴。 「???」 正直、わけがわかりません。 「……碧鈴、本心までだだ漏れだぞ」 ディスは、どーやら聞き取ったらしい。 「―――」 ぼふん、っと顔を真っ赤にした、碧鈴は 「―――きっ、記憶を失えっ、まいろーどっ!?」 周囲に、大量の影……これは、ぷちマスィーンズ、うちにいるのは24体。 「24体……セット、一斉射撃……ファイエル!!」 職場の仕事を終え……取りあえずエルゴへ、ディスの顔見世もしないとな、と。 ……あ、れ? 「有難うございましたー」 なんで、俺、爽やかに、店員さんしてるん、だろ。 「……あむあむ」 碧鈴はもしゃもしゃ、と頭の上でポテチ一袋を貪っている、機嫌よく、尻尾を振って。 買収されたな……。 いきなり先輩に、ちょっと店換わってくれって言われてやってみれば―――はぁ ……まあ……それが「G」の仕事ならしょーがない。 とらぶった時には力になるのが俺の仕事だ。 「どないしはったん、はーちゃん」 「ちゃん言うなラスト」 「この体のときは、凛奈って呼んでくれいうたろ?」 耳を引っ張られる、いだだだ……こいつは、Dフォースのラスト。 現在は「人型なんとか」に入ってるらしいが興味はない、というかまあ、別になんとも…… 俺の厄介な上役様の一人、というかぶっちゃけ、Dの面々のぱしりの俺は立場が弱い。 「……で、凛奈さん、どしたの?」 「んー、ちいとな、働いてる若人に、お礼っちゅーやつや」 手には缶コーヒーがほかほかと湯気を立てて。 「あ、ありがとうございます」 ふう、と客も引いて、ひと段落ついた時なので、ありがたく口をつける。 「ぶううっ!?」 「ん、どしたー、乙女の入れたコーヒーが飲めへんかー?」 「……何入れました?」 「んー、そやねえ、マムシドリンクとか、本当は夏はんに使って後押ししよーかと思うてたんやけど」 ん?……彼女でもいるのかなあ、先輩さん。 「……そっちに、D-ソード、行ってるやろ?」 あ……ああ……なるほど、秋奈さんカスタムしてたんだから D、として使う気だったのを、俺に? 「まあ、今はディス、ですけど」 「……折角なんで暴走させて碧ちゃんと一緒に食べたらおいしそうかなぁ、と」 「怒りますよ?」 苦笑、この人はいたずら好きだ、知っているが性質が悪い。 「あはは、じょーだんや、疲れきった顔してるから、栄養ドリンク」 「……はあ、まあ助かりますけど……」 「マイロード」 碧鈴が、頭をの毛を引っ張る。 「ん、どうした?」 「……子供のないている声が」 「らじゃ、ラsじゃない、凛奈さん、ここ、任せます」 「了解~」 碧鈴の指示で、二階のバトルスペースへ 「……うわぁ、あ、やだ、やめてよぉ」 どうやら、子供を泣かすやつが居るようだ。 「へっへっへ、しょっぱいパーツ使ってるぜ、全くよお」 「仕方がナイでゴザルよ、餓鬼でゴザル」 あー、癇に障る声だ、こーいうの嫌い。 「何してるんだ?」 その辺に居た子供に聞く。 どうやら、こー、バトルロイヤルで力任せにサード上位の二人組みが、下位の始めたばかりの子を嬲っているらしい。 「ほら、ほら、逃げないと死ぬでゴザルよー?」 眼鏡を掛けた肥満体の男の操るアーンヴァルが足を打ち抜き。 「……あぁ?、ほらほら、舐めてるのか、ああ?」 茶髪を逆立てたモヒカンのストラーフが、相手の腕を、もぎ取る。 ――――見ちゃ居られん。 正義でもないが悪でもないが。 ―――これは、見ちゃおれん、だが全く戦闘訓練の無い、碧鈴を連れて行くには、と思った瞬間。 「儂を呼んだか、主?」 白い悪魔が、囁いた。 徒然続く、そんな話。 第六節 彼の理由、私の理由。 節終 続く 戻る
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ウサギのナミダ ACT 1-13 ◆ 「って、菜々子ちゃん! 大丈夫なのかよぉ……」 大型筐体に一人座り、黙々と準備をする菜々子に、大城はそわそわと話しかけた。 大城の心配ももっともだ。 このゲームセンターで最強と呼ばれる三人とスリー・オン・ワン……三対一の同時プレイで対戦するというのだから。 いくら有名なエトランゼといえど、実力者三人を同時に敵にするのは圧倒的に不利だ。 「大丈夫。絶対に負けない」 菜々子ははっきり言いきった。 ミスティは菜々子を見上げた。 「……『本身を抜く』のね?」 「そうよ。わたし、キレたから。もう徹底的にやる」 「やっとキレたの? わたしはもう先週からキレっぱなしなんだけど」 無表情に話す二人に、大城は空恐ろしいものを感じずにはいられない。 「なあ……ほんみをぬく、って、なんのことだ……?」 「見ていればわかるわ」 菜々子は筐体の向こう側にいる、三強の男達を見た。 三人とも、こちらを睨みつつ、バトルの準備をしている。 スリー・オン・ワンで相手をする、と言ったら、男達は激怒した。 「なめやがって……!」 捨て台詞を吐いて、バトルを承諾した。 菜々子の思惑通りに事は進んでいる。 頭に血が上っていては判断が鈍る。そして、三対一という圧倒的優位からの油断。 もちろん、それらを生かすための実力があってこその策略だった。 菜々子は、耳元のワイヤレスヘッドセットをオンにすると、マイクに囁きかけた。 「ミスティ、リアルモード起動。入力コード“icedoll”、タイプ・デビル」 菜々子は三強の男達をもう一度見て、そして目を閉じた。 意識を切り替える。 あれは『対戦相手』じゃない…… 『敵』だ。 再び菜々子が目を開いたとき、バトルの準備は整っていた。 三強とエトランゼのスリー・オン・ワン対決と知り、ギャラリーが続々と集まってきた。 都合がいい。 バトルの見届け人として、そしてバトル後の相手として、ギャラリーは多いほどいい。 うるさい連中は、実力で黙らせる。それがエトランゼの流儀だ。 「ミスティ、調子はどう?」 「問題ないわ、ナナコ」 勝つ。 菜々子には確信がある。 この程度のバトルに勝てなくちゃ、『ヤツ』を倒すなど夢のまた夢だ。 菜々子は鋭い表情のままスタートボタンを押した。 近代的なビルと、その間を縫うように走るハイウェイ。 都市ステージは立体的なバトルフィールドが特徴だ。 三強とエトランゼ、どちらも持ち味の生かせるフィールドとして、ここが選択された。 『ヘルハウンド・ハウリング』は、そのハイウェイのど真ん中で、正面と背後に気を配っていた。 『エトランゼ』が来るとすれば、やはりフィールドを横切って走る、このハイウェイだろう。 エトランゼは、トライク形態からの反転奇襲が得意技だ。 だから、防御力の高いハウリンのヘルハウンドが待ちかまえ、エトランゼを足止めする。 そして、後から合流した二人と、三人がかりで仕止める。 エトランゼは、ヘルハウンドもたびたび対戦したが、勝てない相手ではなかった。 それが三強をいっぺんに相手にして、かなうはずがない。 さあ、来い。 ヘルハウンドはハイウェイの先を鋭く見据えた。 ……まさか、待っている相手がビルの上から降ってくるとは、思いもしなかった。 「ぎゃっ!?」 強い衝撃と共に、いきなりうつ伏せに押し倒された。 振り向くよりも早く、背面に設置された二本の武装用アーム……ヘルハウンドの名の由来が、ばりばりと引き剥がされる。 何が起こっているのか。 そんなことさえ確認する余裕も与えられなかった。 エトランゼは、手にしたマシンガンの引き金を引き絞り、ヘルハウンドのアーマーが隠していない後頭部と腰に、まるでリベットの打ち込み作業をするように撃ち込んだ。 ヘルハウンドと合流すべく、『ブラッディ・ワイバーン』は滑空していた。 ウェスペリオーの素体と羽、脚から先がイーアネイラの魚型パーツになっている。 マスターが言うには、昔見た強い神姫の武装を参考にしているという。 確かにこの武装は、空を自由に飛ぶのに適していた。 空中から、足止めされているエトランゼを狙い撃ちにするのが、ワイバーンの役目だった。 だが。 下方から銃撃を受けた。 ワイバーンは驚く。 足止めどころか、エトランゼはハイウェイ上でワイバーンを待ちかまえていた。 あわてて、こちらも銃撃を開始する。 直後、エトランゼの緑色の副腕が何かを投擲した。 大きな何かが、ワイバーンを直撃する。 それは、ヘルハウンドの残骸だった。 「うわああぁ!」 バランスを崩し、高度を下げる。 そこに、間髪入れずにジャンプしてきたエトランゼが迫る。 剛腕一閃。 ワイバーンの右羽を根本からもぎ取った。 そして、その勢いを借りて反転し、さらに剛腕が振るわれる。 エアロ・チャクラムが、今度はワイバーンの素体を捕らえる。 力任せに掴むと、ハイウェイ脇に立つビルの壁に叩きつけた。 「あああああっ!」 ワイバーンはビルにめり込み、エアロ・チャクラムに押さえ込まれ、身動きがとれない。 逃げようともがいても、抜け出す術はなかった。 エトランゼが装備していた太刀を引き抜く。 視線が合う。 イーダ・タイプの赤い瞳は、まったく感情に揺れていなかった。 ただ、殺意だけが、込められていた。 ワイバーンが恐怖にすくみあがったのも一瞬だった。 彼女の胸に太刀が突き立てられた。 大城は息を詰めてバトルを見ていた。 背中に冷たい汗が流れている。 斜め前で筐体を前に座っている菜々子は、いつもと様子が違っていた。 いつもはミスティと楽しげにやりとりをしながらバトルしているが、今日はやけに静かだ。 指示用のワイヤレスヘッドセットに、小さな声で短くささやく。それだけだ。 そしてミスティは返答さえしない。 バトルは一方的な展開を見せている。 ミスティはこんなに強かったのだろうか? 今日の菜々子とミスティは何かが違う。 疑問と不安を抱きながら、それでも大城はバトルから目が離せなかった。 『玉虫色のエスパディア』は、もうバトルが終わっているかも知れないと思っていた。 三強二人を相手に、いくらエトランゼが強者とは言え、何分も持つとは思えない。 もう勝負の趨勢は決していることだろう。 低空から、ハイウェイの先の様子を見定めようとする。 確かに、勝負の趨勢は決していた。 ハイウェイの先、仲間二体の残骸があるのを目視した。 「ば……ばかな!?」 玉虫色は空中で急停止すると、逆向きに方向転換。 元来た方向へ加速する。 少なくとも、エトランゼはあの残骸のそばにいるはずだ。 とりあえず距離を取る。 それから対策を立てる。いままでも対戦して勝てない相手ではなかったはずだ。 だが、玉虫色の脳裏に、すでに残骸と化した二人の姿が浮かんだ。 ……まだ、バトル開始から、二分も経っていないじゃないか! 本当にエトランゼなのか!? そう思った玉虫色の耳に、ホイールの回転音が聞こえてきた。 まさか、と思って振り向いた瞬間、トライクが猛然とハイウェイを走って来るのが見えた。 ハイウェイの下道から、合流ラインを抜けて、メインのハイウェイへ。 トライク形態のエトランゼは、一気に加速すると、玉虫色を下から追い抜いた。 視線を前に戻したときには、すでにエトランゼはストラーフ形態に変形し、反転を開始していた。 リバーサル・スクラッチ。 まぎれもなく、エトランゼのオリジナル技だった。 エアロ・チャクラムが玉虫色に思い切り叩きつけられる。 仰向けに押し倒されたエスパディアは、組み替えてあった背部アーム装備の機銃を狂ったように乱射する。 それを意にも介さず、エトランゼは副腕を動かして、玉虫色の装備をむしりとりはじめた。 前輪のタイヤがはじけ飛び、副腕の装甲に弾痕が走る。弾丸がバイザーに当たり、頬をかすめても、エトランゼはいっこうに気にした様子がない。 まるで、意志がない機械のように。 黙々とエスパディアの装備を引き剥がしていった。 そして、素体だけの姿になったところで、胸のあたりを副腕の爪で掴みあげた。 その姿をさらすように持ち上げる。 「ひいいいいいぃぃっ! や、やめ……やめてやめてぇっ!!」 玉虫色は悲鳴を上げる。 しかし、エトランゼは一切表情を変えない。 菜々子が一言、囁いた。 次の瞬間。 「いやぁああああああああっ!!……」 断末魔の悲鳴が、無人の都市に響きわたった。 玉虫色の身体には機械の爪が食い込み、つぶされていた。 ハイウェイ上に無惨に転がるハウリンの残骸、ビルに磔になったウェスペリオーの残骸、そして、副腕の爪にいまだ引っかかったままのエスパディアだったモノ。 それらを背景に、逆光の黒いシルエットが立ち上がる。 ミスティが顔を上げた。 表情はない。ただ、殺気に満ちた赤い瞳だけが爛々と光って見える。 「あ、悪魔……」 誰かの呟き。 それと同時に、ジャッジAIがエトランゼの勝利を告げた。 試合時間は二分二十七秒だった。 アクセスポッドが開く。 ミスティは立ち上がると、筐体の回りのギャラリーを見渡し、そして正面の三強のマスターと神姫達を睥睨した。 誰も一言も発しようとはしない。しんと静まっている。 驚きと畏怖が、エトランゼの二人以外の意志を奪っていた。 ミスティは、先ほどのバトルの時とはうってかわった怒りの表情で怒鳴った。 「よわっちい連中が……こそこそ陰口叩いてんじゃないわよ!」 いまにも噛みつかんばかりに、周囲を威嚇している。 逆に、菜々子は氷のように冷えきった表情だ。 「宣戦布告よ」 薄く目を開け、三強に、そしてギャラリーに向けて宣言する。 「私たちは……エトランゼは、ハイスピードバニー・ティアにつくわ。 文句があるなら、バトルロンドで私たちに勝ってから聞いてあげる。 言いたいことがある人から……」 ミスティと菜々子の声が重なった。 「かかってらっしゃい!!」 ギャラリーがどよめいた。 いま、ハイスピードバニー・ティアを擁護するということは、このゲーセンの神姫プレイヤーだけでなく、すべての武装神姫を敵に回すに等しい。 菜々子はそれをはっきりと公言してのけたのだ。 「そ、そんなこと言ったら……誰も君の相手なんてしなくなるぞ!? それでもいいのかよっ!?」 ワイバーンのマスターの言葉はほとんど悲鳴だった。 菜々子はワイバーンのマスターを、氷の眼差しで睨みつける。 「上等よ……練習にもならないバトルなんて、こっちから願い下げだわ」 吐き捨てるように言う。 ワイバーンのマスターは、怒り心頭の様子だったが、ぐうの根も出ない。 他の二人も同様だった。 ギャラリーの目の前で、三対一で完膚無きまでに叩きのめされたのだ。三強としてのプライドも粉々に打ち砕かれた。 今、彼らが何を言っても、負け犬の遠吠えにしかならない。 三強のマスター達は、菜々子の激しい言葉にも、黙って耐えるしかなかった。 いまだに皆が立ち尽くしている中で、菜々子は黙々と後片づけをはじめた。 そこに大城が声をかけてくる。 「……ミスティってあんなに強かったのか……知らなかった」 その言葉に菜々子は首を振る。 「違う……あれはバトルロンドと呼べないわ。だから、あなたの言う『強さ』じゃない」 「け、けどよ……圧勝だったじゃねぇか。三強と三対一で勝つなんて、信じられねぇよ」 大城の声はうわずっている。 彼も感じているだろう。いつもと違うわたしたち。 いつもと違う、あまりに凄惨なバトルの内容に、引いているだろう。 「あれが、『本身を抜く』ってやつなのか? なんで……ミスティがあんな風に戦えるんだ?」 虎実が尋ねた。 菜々子は頷いた。 「『本身を抜く』っていうのは、真剣を抜いて戦うってこと。その心構えと戦い方で戦うってことよ」 大城と虎実は、よくわからない、といった顔をしている。 「そうね……剣道に例えればわかりやすいかしら。 防具着て竹刀でやる試合と、真剣での果たし合い。その違いってこと」 近代剣道の試合は、防具をつけ、竹刀を持ち、有効部位への打突をもって、審判が判定を下す。いわば模擬戦闘だ。スポーツであり、ゲームである。 対して、真剣での果たし合いは、防具はあるものの、持っている武器は真剣である以上、傷つくことは避けられない。攻撃がどこに当たろうとも、相手の戦闘力を奪い、相手を倒すことが優先される。つまりは命の奪い合いなのだ。 これを武装神姫に例えてみればどうか。 隆盛を極めるバーチャルバトルは剣道に当てはめられる。 ファーストクラスのリアルバトルでさえ、審判がいてルールがあるから、剣道の方に入る、と菜々子は考えている。 ルールの下で戦うが故に、バトルロンドにはそれに適したプレイスタイルが求められる。 「わたしだって、バトルロンドは楽しくプレイしたいわ。だから、バトルロンドに適した戦い方をするし、そういうつもりでプレイする。 でもね、『実戦』は違うの……つまり、真剣での果たし合いと剣道の試合が違うように」 菜々子の言う「実戦」は、ルール無用、審判なしのリアルバトルだ。バトルの結果が神姫の命に直結するような、紛れもない殺し合いである。 それは剣道の試合とは心構えからしてまったく違う。 「そうか……本身を抜くってのは、殺し合いをする気ってことのたとえなのか」 菜々子は頷いた。 「そう。 三強は剣道の試合をしようとしてるのに、わたしは真剣で彼らを殺そうと思っていたのよ。 そのためには自分のプレイスタイルにもこだわらないし、何より敵を早く確実にしとめることを優先する。 彼らは、あくまで「エトランゼとバトルロンドで試合しよう」としていた。 その心構えの差が、結果に現れたのね」 「なるほど……」 たとえ三強が、今度はミスティを殺すつもりで戦うとしても、それは結果につながらない。 なぜなら、彼らは「実戦」というものをまったく知らないからだ。 とするならば、菜々子とミスティは、その実戦を経験したことも、その心構えも、実戦向けの戦い方もあるということなのだが……。 「なあ、菜々子ちゃん……」 「本当なら、『本身を抜く』なんてこと、ずっとするつもりなかった」 大城の言いたいことを遮り、菜々子は早口でしゃべる。 「ここでは……遠野くん達がいるから、絶対にしないと思ってた。わたし自身の問題で身につけているものだし、バトルロンドでは使わないことにしてた。必要もなかった。 もしかしたら、もう『本身を抜く』なんて、忘れてもいい気さえしていたの。 ……でも、遠野くん達のために、自分にできることをすると、決めたから」 装備を片づけたアタッシュケースを閉める。 そして菜々子は大城に視線を移した。 「だから、わたしは全力を尽くす。本身だって抜くわ」 大城は菜々子の大きな瞳をみつめた。 真っ直ぐな視線。揺らがない。 誰かに似ている。 ああ、と大城は思い至る。 遠野だ。あいつの視線にそっくりだぜ、菜々子ちゃん。 大城は小さくため息をつきながら、頭を掻いた。 「まったく……惚れ直すぜ」 「それはダメ」 菜々子はいたずらっぽく笑い、人差し指を立てた。 「わたし、好きな人がいるから」 その笑顔を見て、大城はほっとする。 ようやくいつもの『エトランゼ』が戻ってきた。 次へ> トップページに戻る
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第1部 戦闘機型MMS「飛鳥」の航跡 第2話 「風兎」 大阪城外堀、水上ステージ 大阪城の外堀の一部をそのまま武装神姫の水上ステージとして、利用したステージで障害物として杭や半壊したボートなどが置かれている。 エーベル「さて、はじめようか・・・ルールはシンプル。俺と戦え」 エーベルは黒い翼をピンと伸ばし、右手にはアルヴォPDW9を装備し、左手は腰に手を当てている。 赤い瞳がじっとアオイを見据える。 アオイ「気が済むまで戦うってことか、まあ分かりやすくていいな、そういうの好きだぜ」 尻尾のエンジンをブウウウンと唸らせる。心なしか悦んでいるかのように軽いリズムを刻む。 立花「アオイ、武装は何を持っていく?」 アオイ「三七式一号二粍機関砲が1門と千鳥雲切、1本」 立花「二粍機関砲!?あれは対重MMS用の機関砲だろ?」 立花は首をひねる。二粍機関砲は強力な機関砲だが、大きく重く取り回しが悪く機動性が高い神姫に命中させることは至難の業だ。flak171.5mm機関砲のほうがアーンヴァルのような機動性の高い神姫に命中させるには相性がいい。 アオイ「そんなこたァいちいち言われんでもわかってるわ!!ここは俺に任せろや!!」 アオイが立花に苛立ち怒鳴る。 立花「へえへえ、釈迦に説法でごぜいましたねェ!!すみやせんでした!!」 立花は苦々しい顔をしてアオイに武装を渡す。 アオイ「ごちゃごちゃうるさいわ!ヴォケ」 エーベル「おーい、まだかー早くしろよ」 アオイ「せかすな、慌てる乞食はもらいが少ないっていうだろ?」 アオイはゆっくり丁寧に武装を確認しながら装着する。 エーベル(こいつ・・・焦らずにしっかりと安全確認しながら武装をつけてる。相当慣れてるな・・・・) エーベルはアオイに一挙一動を注意深く観察する。 戦いは戦う前からすでに始まっている。相手の数少ない言動や行動、クセを読み取り、相手が何を考えてどういう行動を行うのか、事前に予測しながら戦術を考える。 エーベルはカマを賭けた。アオイをわざと挑発することで怒らせて雑に武装をつけるのかと予想していたが、挑発には乗らなかった。 つまり、こいつは武装の大切さ、口は自分と同じく悪いがリアリストだ、落ち着いている。そして気が付いている。 私がカマを賭けたことを・・・・ エーベル「・・・・・・・」 アオイ「悪いな、待たせたな!!考えはまとまったか?」 エーベル「いいや、気にしちゃいない、ある程度な」 油断できない、即効で決めよう、一気にスラスターを吹かして一撃離脱。攻撃がはずれたら急上昇して上を取って太陽を背にして再び一撃離脱。アスカ型は格闘性能に優れる、ドックファイトに持ち込まないほうがよいな、幸い、相手は重い機関砲を背負ってる。こっちの速度にはついてこれないだろう・・・・・・ エーベルの考えがまとまった。 アオイ「さあて、はじめようか」 エーベル「ああ」 ドルンドルンとリアパーツのスラスターを吹かせる。アイドリング、機関が主目的に貢献せず、しかし稼働に即応できる様態を維持しようとする動作。即応できるようにエンジンを温めるエーベル。 ヒュイイイイイインンインインイン、スラスターが風を斬り唸る。 アオイはニタリと笑う。 こいつなにが可笑しいんだ? バトルロンドの画面にテロップが流れる。 □黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス VS □戦闘機型MMS 「アオイ」 Aクラス 「ゲットレディ・・・・・」 バトルロンドの筐体のランプが点滅し無機質なマシンヴォイスが叫ぶ 「go! 」 ポオンとランプが光る。 エーベルは獣のように咆哮を上げ、呼応するようにスラスターが真っ赤に燃え上がり爆発的な加速力を生み出し、エーベルは一直線にアオイに向かって突撃する。 エーベル「いやあああああああああおッツ!!!」 両手でしっかりとアルヴォPDW9機関銃を保持し固定すると、アオイに向けて放った。 黄色の曳光弾の光跡がばらっと流れる。 アオイはくんと身体をひねるように大回りで攻撃を回避する。 エーベルはぐんとアオイとそのまますれ違い、そのまま加速を生かして急上昇を行う。 エーベル「よし、このまま太陽を背にして上位を取る!!空戦の基本だ」 一度上を取ってしまえばこちらのもの、相手は重い機関砲をぶら下げている。それに相手は大回りで大げさに回避した。機動性と速度で圧倒してしまえば・・・・ エーベルの目が見開かれる。 エーベル「な・・・」 追い越し、急上昇するエーベルの真横からさっとアオイが踊りだしスラッと左手で千鳥雲切を抜刀し、エーベルに向かって切りかかってきたのである。右手には重い機関砲がさっぱりなくなっている。 そこでエーベルは初めて気が付いた。 エーベル「コイツ!!はじめから二粍機関砲を捨てて身軽になるつもりでッ!?」 アオイ「でやああッ!!!」 すれちがいざまにアオイはエーベルのアルヴォPDW9機関銃を一太刀で真っ二つに切り捨てた。金属音が響き、 バラバラになった機関銃がぼちゃぼちゃと水面に落ちる。 エーベル「っち!!」 エーベルはすかさず、左肩に搭載していたM4ライトセイバーをすばやく抜き取り、アオイの斬撃に対応する。 開始から数秒もたたずにすさまじい攻防が繰り広げられる。 野次馬の神姫やオーナーたちはポカーンと口をあけている。 コウモリ型「おおおーー」 砲台型「すんげえー」 オーナー1「思い切りがいいな、あのアスカ型」 オーナー2「こんな空戦、滅多にお目にかかれないぞ」 ワシ型「エーベル!!押されるな!」 立花はカバンからペットボトルのお茶を取り出しくびっと一口飲むと、て2人の戦いを観戦する。 立花「ふむ、そういうことか、アオイ・・・はなっから機関砲なんて使うつもりはなく、ブラフだったのか、無茶しやがる」 ちょうど、そのとき公衆便所から一人の若い女性が満足そうな顔で手をハンケチで吹きながら出てきた。 斉藤「ふんふふーんふーん♪三日ぶりー三日ぶりぶりーーんと・・・あれ?なんか盛り上がってるわね」 ひょことバトルロンドのステージを覗くと、なにやら見知った顔の神姫・・・というか自分の神姫が戦っている。 斉藤「あれ?エーベル?誰かとバトルしてるのかな?」 エーベルは斉藤の姿をチラッと見つけて、一瞬動きが止まる。 エーベル「マスター!?いまごろノコノコと・・・」 アオイ「余所見してる場合かァ!?甘いぜッ!!!!!!!おらァッ!!」 エーベル「ッツ!!しまっ・・・」 ミス、非常に単純なミスだったが、アオイはそれを見逃さなかった。 そして次の週間、アオイは思いっきり頑丈な着陸脚で、エーベルの柔らかいお腹に突きこむように蹴りを放った。 ズム・・・鈍い音を立ててエーベルの腹に鋭い蹴りがめり込んだ。 エーベル「がはっ・・・」 エーベルの口から雫が飛び散る、アオイは千鳥雲切の柄で続けざまにガツンとエーベルの顔面を殴った。 アオイ「うおおおおおおおおお!!」 バキンとエーベルのバイザーが粉々に砕け散り、エーベルはショックで失神し、そのまま水面にたたきつけられるかのように墜落した。 どぼんっ・・・・ 墜落し戦闘不能となったので、バトルロンドの画面にテロップが流れる。 □黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス 撃破 アオイはひゅんと千鳥を振るい、カキンと着陸脚を鳴らす。 アオイ「足癖が悪くてな、スマンな」 斉藤「!?えーエーベル!?な、なにがあったの!?あれ?負けたァ?」 斉藤はイマイチ事態が飲み込めず、持っていたハンケチをぼとりと地面に落としてしまった。 To be continued・・・・・・・・ ・第3話 「牙兎」 トップページに戻る
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凪さん家の弁慶ちゃん 「義経、準備は良い?」 「…はい、TR-2全システムオールグリーン…いつでもどうぞ」 「おっけ!じゃあいくわよ!皆!」 「「「了解!」」」 凪さん家の弁慶ちゃん/0 「TR-2」 「アーサー、ハンゾー、義経、状況を報告!」 「アーサー異常なし!」 「…ハンゾー、問題ない」 「義経、異常ありません」 「よし、アーサー、ハンゾーはそのまま前進、義経はユニット展開後待機!」 「「「了解」」」 今回もうまくやってみせる。私はそう誓った。 今回は「T3」として私こと義経はこのリアルバトルのチーム戦に参加していた。 しかし今回の戦いでは指揮を担当するマスターは一人という制約が課せられている。 なので通常、早坂未来が私に指示をだすのだが今回は渡瀬美琴がチーム全体の指揮を取っていた。 この大会でアーサーはTR-1という強化ユニットを装備、これは陸戦型アーンヴァル、または量産型ストラーフといった感じの装備で、脚部はアーンヴァル純正装備にストラーフの脚部装備を移植、そしてストラーフのサブアームのマニュピレーターを汎用性の高いものに交換し長さを調節したものだ。 その手には奇跡の剣という名の剣が握られていた。 そしてハンゾーにもこのTR-1ユニットが搭載され、こちらはカロッテTMPを二丁装備している。 そして私はこの二人とは違う装備を身につけていた。 TR-2 これは高威力の超長距離射撃を行う事を目的に、現存する神姫純正武装でアッセンブルされたものだ。 脚部はストラーフの脚部装備をアーンヴァルのブースターなどで固め右腕にはアーンヴァルのLC3レーザーライフルが二門装着されている。 しかし使用するのは一門のみ、あとの一門はレーザーの増幅器として機能する。 背部には吠莱壱式が二門。これは攻撃用ではなく、あくまでも緊急移動用としての装備である。 いちいちブースターを吹かすより実弾兵器の反動の方が始動が早いのではないか…という目的で取り付けられたものだ。 本当にそうなのだろうか? そして各部アタッチメントコネクターにはヴァッフェバニー用の背部タンクやジェネレーターが装備され、そのすべてをレーザーライフルに直結させる事によって限界まで威力を上げている。 はっきりいって神姫用の装備としてはあまりにも特化しすぎており、これで神姫といえるのだろうかという疑問も生まれてくると言うものだ。 しかしこれが後に世に出る姉妹達への開発データになるのならば、甘んじて受けるとしよう。 「義経、TR-2装備完全展開完了」 「よっし!相手方に一発でっかいのをお見舞いしちゃいなさい!」 「了解!エネルギー充填開始…収束率増加、ロックオン完了…発射!」 ヒュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン… 砲身にエネルギーの渦が形成され ビャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!! 空気を切り裂く青白い光が照射された。 その太さは通常のレーザーライフルのものに比べるとはるかに図太く、禍々しい。 その光が敵チームを包み込み一瞬にして行動不能にした。が、何とか逃げ延びた神姫がいたようだ。 「どう?」 「右腕に衝撃による不具合が少々、でも予測範囲内です」 「わかった、次いける?」 「もちろん!」 「よし!じゃあ第二射!てぇー!!」 「了解!」 なんだ、楽勝ではないか。この装備初弾である程度敵チームを壊滅させれば第二射までアーサーとハンゾーが私を護衛してくれれば勝利は間違いない。 または右腕への損傷を最低限にするならばこのまま私は待機して、あとは二人に任せても良い。 「TR-2はほぼ成功ですね」 「ええ、中々良いわ」 「よし、第二射充填完了…いきます!」 ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ… 再びエネルギーの渦が形成される。そして青い光が大地をえぐる… はずだった。 ビビー!!ビビー!!ビビー!! 「!?」 「義経!?」 ライフルの砲身部から異常。あまりのエネルギー量にライフルの許容限界を超えたらしい。 そのエネルギーの一部が逆流して、システムに過大な負荷を与えている。 「く、ライフルへのエネルギーを全カット!砲身切り離し、緊急離脱ブースター展開!」 ライフルからエネルギーの光が漏れる。その光が私を包もうと迫ってくる。 「!く…腕が…!」 「早く離脱しなさい!義経!?」 「そうしたいですが…無理みたいです。腕が挟まって…抜けない…」 崩壊を始めたライフルなどのパーツにより、私の右腕は付け根からがっちりと挟まっていた。 「あぁもう!!諦めるなぁ!!」 「くそ!くそぉ!」 こんなところでスクラップになってたまるか!! 「こうなったら…!!」 私は脚部に装備されていたナイフを手に取り 「うあぁぁぁぁ!!」 自らの右腕に突き刺した。 「っくぅぅぅぅ!」 なんという激痛か…しかし! 「まっけるかぁぁぁぁ!!」 バチィィィ!! 左腕で右腕を抉り、無理やり引き剥がした。 そしてブースターを噴射。瞬間ライフルユニットが爆発。その爆炎が迫り私を完全に包む。衝撃と高温で体が焼かれる。しかし間一髪スクラップは免れたようだ。 赤い光に包まれていた景色がドームの光りに照らされたいつもの景色に戻る。 ブースターはすべて焼ききれたようで噴射できない。 そのまま自由落下により大地に叩きつけられた。 ドッザァァァッァァァ!! 「ぐぅぅぅがはっ!!うが、あぁ…くぅ…」 状況は芳しくないな…右腕破損…頭部に損傷…両脚部損壊…か…まぁAIに以上は無いようだ…。でも戦闘は無理だな…。とりあえず活動限界か…。 『ピピーピピーピピー試合中止、試合中止』 ドーム内に響く音声、私の意識はそこで切れた。 「む…」 充電完了…各部異常なし…生きている…のか 「…つね!よしつ…!!義経!」 「く…未来…?」 私の目の前にはマスター、早坂未来の顔があった。 「起きたぁ!」 「義経!」 「…起きたか」 「…ふむ」 「おぉ!」 「う…う~ん…!?」 「気付いた?その体」 「頭部形状…それに右腕が…これは…」 「アドバンスドユニット」 その声の先には渡瀬美琴。 「?」 「衝撃対策として右腕間接を汎用強化間接ユニット「リボルバージョイント」に換装、そして頭部ユニットを換装して情報収集能力を上げたの。本当はバイザー式にするつもりだったのだけど、損傷がひどかったから丸ごと換装したんだけど…どうかしら?合わなかったら既存パーツに交換するけど」 アドバンスドユニット…体に施されたマーキングライン以外は既存の素体であった私の体が…強化された? 確かに視覚ディスプレイに追加された項目がある…これは今後装備されるTRシリーズのためか…?それに右腕…今回の戦闘での意見がフィールドバックされたのだろうか…。 「合わないかな?」 「いえ、そんな事はありません」 「そう、よかったぁ~」 「それに合わなかったら合わせます。それが私です」 「ふふ、そうね。まぁ今日は一日ゆっくりして慣らしていって」 「はい、分かりました。ありがとう、美琴」 「はいな、んじゃまた明日」 「ええ、また明日」 「有難うございました、先輩!」 未来が美琴達にぺこりとお辞儀した。 そういえばここは…あぁ部室か…。 明日からまたさまざまな装備を試す毎日が始まる。武装…決まった装備が無い私にとっては毎回毎回ワクワクする時だ。 そりゃ今回みたいな危険は常に付きまとう。 しかし誇りに思う。 私に装備された物がブラッシュアップされ、次の世代の神姫の武装になる…。 そんな特別な関係性に…。 渡瀬美琴は既存部品を組み合わせて新たな武装を作り出す優秀な装備開発者だ。 そして神姫開発の上層部に父親がいて、武装神姫の初回モニターでもある未来…。 私に装備されたものは情報として逐一開発部に送信される。 今回のTR-2がどうなるのかは分からないが…。 この時、砲撃用に特化した装備…という部分が後のフォートブラッグへと繋がることは私達はまだ知らない。 知る事になるのはTR-5が開発され、新たな仲間、弁慶が来てからの事である…。
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春の風にしてはやや肌寒い感じが残る鳳凰カップ初日 雲ひとつない日本晴れがまさにイベント日和といった感じだろうか 予選開始時間は十時 初日である今日の予定はバトルカップ予選とブース出店 ちなみにバトルカップの解説は決勝リーグからとなっている だから今日の俺にはあまりやることがないのだ 本来イベントの始めにおこなわれる開会式は軽く開会宣言のみで、主催者挨拶なんかは決勝リーグ前におこなわれるらしい 御袋曰く「運動会前の校長先生のお話ほどやる気が無くなるものはないからねぇ~」とのこと 俺はその判断に激しく同意していた 「グッジョブ、御袋…」 そう頷く俺の両隣には 「うっわぁ~スッゴイ人の数~」 「こんなに大掛かりなイベントだったのか?」 と人間大のマオチャオとアーンヴァル 言わずもがな、神姫のコスプレをしているインターフェイス使用中のミコとユーナである ………やっぱり神姫なのに神姫のコスプレするのってなんかおかしいよなぁ いや、俺がさせてるんじゃないよ?よいこのみんなならば犯人が誰だか解ってくれるよな? そう、犯人は勿論今回の祭りの主催者にして俺の宿敵… 「ふおっほっほ、やはり似合っとるぞ美子ちゃん、優奈ちゃん!」 うちのクソジジイさ 「兼じぃだ~」 「でたなジジイ」 「くたばれジジイ」 「登場して間もないのに凄いブーイングじゃな…」 美子、優奈、俺の三段コンボは老人の心を少し傷つけた 「当たり前だ。なんたってこいつらにこんなかっこさせにゃならんのだ」 いくら神姫のイベント会場にいたとしてもこいつら二人の格好はかなり目立つ それとともに俺も一緒となると吊るし上げをくらったようなもんだ 正直周りの目線がキツイ オイコラ、勝手に写メを撮るな 「祭りには可憐な華が必要じゃろ。二人には祭りの盛り上げ役として力を貸してもらいたくてのぅ」 可憐な華? こいつ等が? うん、それじゃあよいこのみんなもお兄さんと一緒にジジイに並んで二人の姿を観察してみよう!! 俺は前にも見たことはあるんだが、この際上から下までジックリと観察してみることにする うちの三人の中では一番小柄な美子 控えめな胸、細身の体、そしてくりくりとした目のはちょっと危ないロリ属性 「にゃ……お、お兄ちゃん…」 すらっと伸びた両足、結構ボリームのある胸、オレンジ交じりの髪から覗く首筋、赤くなった頬に少しつり目のツンデレ属性、優奈 「あ、アニキ…目が……えろいぞ…」 というか二人ともモジモジと身悶えするんじゃない お前らのほうがよっぽどえろいからさっきよりも周りの視線が集まってるじゃないか 「後は毎朝優しく起こしてくれる幼馴染ぐらいは欲しいのぅ」 ボソッと老人らしからぬ発言 まぁこれは今に始まったことじゃないんだがな… 「老人の朝は早いから起こしに来るのは無理なんじゃねぇの?」 しかし、うちで朝起こしてくれる幼馴染キャラといえば俺の左肩に座っている奴が最も近かろう 「御爺様、私はよろしいのですか?」 一人だけ神姫素体のノアである 三人の中じゃ最も俺との付き合いは長いし、お互いのことも相当理解してる 朝起こしに来てくれるのもノアだしな もっとも、俺の中じゃ炊事に洗濯、掃除に買い物、何でも来いのクールな万能メイドさんのイメージが濃いのでそれもどうかと思ったりするのだが… 「ノアちゃんはいいんじゃよ。明人がこのイベントに参加するんじゃ。神姫を一人も連れとらん明人なんぞに価値はありゃせんわい!」 物凄く酷い言われようだがもっともなので言い返しはしない こちらとしても武装神姫のイベントに神姫も連れず、代わりに神姫のコスプレしている女の子を三人も連れて歩くウザイ野郎になることは御免こうむりたいのだ 「ノアちゃんは一番顔が知れとるからの。それにほら」 ジジイがノアにパンフレットを指差してみせる 俺たちは四人ともジジイの指差すパンフレットの位置を覗き込んだ そこはブース案内の國崎技研の紹介箇所 「國崎技研……ああ、ミラコロを共同開発してるとか言ってたな」 「そうじゃ。しかしあれからさらなる機能が追加されたんじゃ。國崎にできる若造がおっての…と、今言いたいのはそこじゃないんじゃ。内容を読んでみい」 ジジイに言われるがままもう一度パンフレットに目を落とす 「ヘンデル及びグレーテルのデモ、体験。グレーテルを使ったお菓子作りコンテスト。優勝商品はグレーテル通常版……お菓子作りコンテスト?」 「うむ、そこの『グレーテル』とは神姫用のシステムキッチンのことじゃ。なかなか小粋な宣伝をしよるわ。ふぉっほっほ」 神姫用のシステムキッチンねぇ… あいにくうちの神姫は普通のキッチンで毎日俺にメシ作ってるからなぁ… っておい、まさか…… 「ジジイ…コレにノアを出させようとか思ってんだろ?」 「薦めてみようと思っとるだけじゃ。無理にとは言わん」 なんだ…良かった ノアが出たら反則気味に有利になっちまうからなぁ 「無理に言わんでも結果はでとるからのぅ…」 「は? 何か言った…」 そこまで口にすると左肩から物凄い気配を感じる 悪い予感が渦巻く中、そぉっと視線を左に移すと… 「お菓子作りですか……ふふふふふ、腕が鳴ります」 地獄の番犬様が両目を閉じて微笑んでいらっしゃいました 燃えてらっしゃいます 橘家の台所番長様が闘志を燃やしてらっしゃいます 橘さんちの番犬さん、お菓子作りコンテスト参加決定… それから少しの間ブースを回る 大手企業各社に噂のアマチュア『F-Face』と三屋八方堂 凄い人の波でそれだけ回るとかなりの時間が経っていた バトルカップ午前の部が終了したことを知らせるアナウンスを聞き、俺たちは足を止める 「もうこんな時間か…」 「ひとまずアルティさんたちと合流しますか?」 「そうするか…」 携帯を取り出すと葉月からのメールが一件入っていた ブース、喫茶店LENに集合!(*^▽^*) 簡潔に記された用件と最後に顔文字… 「コレはあれだな。嬉しいけど内容は直接話したくてとり合えず早くメールしてしまえと……」 「よくわかるなアニキ…」 「まぁ一応あいつの兄貴だしな。とり合えず今のところ全員勝ってるみたいだ」 パンフレットを持っているノアのナビを頼りに待ち合わせのブースに向かおうとして思いとどまる 「おっと、おまえら…そのままだったらまずいな…」 「あ、葉月んがいるんだもんね~」 ノアのインターフェイス時は紹介してあるから問題ないのだがこの二人はまだだったりする というか説明するのがめんどくさい 「じゃあ鳳条院のブースまで戻るか?」 ミコとユーナのために鳳条院の企業ブース兼、総合本部の裏にロケバスを用意してもらっている そこで神姫素体とインターフェイスの交換を自由にできるようにとのジジイからの処置だ しかし、そこまで戻るのか…面倒だが仕方がない 少し遅れるとメールを早打ちすると若干早歩き気味で本部へと歩き出した 「兄さん遅いよ~」 予選も休憩時間となり、出場者や予選観戦客もブースの方へと移って来たので人の波も混雑して約束のブースまで15分もかかっちまった オープンカフェになっている喫茶店LENはランチタイムともあって大盛況の様子だ 「わりぃ、ちょっとあってな」 俺用に用意していてくれたのか、葉月とアルの間に空いている席に座る 「こっちにいたならそんなにかからないでしょ?」 一度本部に帰ったとも言えず、誤魔化すようにウェイトレスの男性を呼んで注文する ノアとミコはチキンサンド、俺とユーナはカツサンドのコーヒーセットだ 「で、調子は?」 俺の一言に全員がニヤリとする こりゃ聞くまでもねぇみたいだな 「無論、勝っている。私達はAグループで三戦三勝だ」 「予選は何試合だったけ」 「全四試合、それに勝ち抜けば決勝リーグにいける」 なるほど、アルとミュリエルは決勝リーグまで王手をかけているわけか… 「俺達はJグループで二勝中だ」 「私達も同じく二勝。グループはMで、次が三戦目です」 「私達はアルティさんと一緒で試合がスムーズに進んだから次で最後だよ。あ、グループはBね」 とり合えずグループは分かれたみたいだな 決勝リーグまで同士討ちということはなさそうなので一安心か 運ばれてきた昼食は物凄く美味かった ちらっと特設カウンターの方を見るとここのマスターであろう女性が黒葉の学生となにやら話しながらコーヒーを淹れている うをぅ…なかなかの美人だぞ 昴が気に入るわけだこりゃ… とぼんやり考えながらマスターを見ていた俺の両太股が葉月とアルに抓られた その後、食事を終えてから皆と別れる アル達は午後の予選開始までにはまだ幾分か時間に余裕があるらしく、予選会場に近い大手企業の方を見て回る言っていた 一緒に来いと誘われたのだが、さっきまで回っていたのでさすがにお断りしておくことにした それから俺たちは律儀にも再び本部まで戻り、ロケバスでミコとユーナを再びインターフェイスに変えてから一般参加ブースを見て回るために表通りに出たところで営業二課の渡辺さんを見つけた 「渡辺さん」 挨拶しておこうと見慣れた後姿に声をかける 「あぁ若、丁度よいところに」 振り向いた渡辺さんは少しホッとした様子 「ん? 何か俺に用事?」 「はい。ですが私ではなく…」 「久しいなアキヒト」 渡辺さんの後ろから俺の名前が呼ばれる 後ろを覗き込むと不敵な笑顔の少女が一人 「観奈ちゃん」 「フッ、挨拶に来てやったぞ」 國崎技研の社長、 國崎 悠人氏の愛娘にしてランキング72位のファーストランカー、國崎 観奈ちゃんである 「久しぶりなのだノアール」 「ミチルさん…」 彼女の頭の上にはパートナーである『白い翼の悪魔』、ミチルちゃんが乗っている 「久しぶりだな。たしかアメリカに行ってたんだって?」 「うむ、NY大会が目的だったのじゃ。なかなかの猛者ぞろいで楽しかったぞ」 楽しかったか…相変わらずカッコいい性格してるなぁ… 「優勝したんだろ? 大したもんじゃないか」 「む…ただ心残りがあっての」 心残りってか? 「むこうで戦ってみたい者がおったのじゃが、奴はもうアメリカにはいなくての…」 ほう、観奈ちゃんに注目される相手か… 「気になるな。誰なんだ?」 「アキヒトも多分知っておるじゃろ。アルティ・フォレストじゃ」 「……………」 「どうした?知らなかったのか、この大会にもエントリーしとるはずじゃぞ」 「ミュリエルとのバトルが楽しみなのだ」 知ってるよ よーく知ってるよ あ~んなとこやこ~んなとこまで知ってるよ… まぁ、いたいけな少女相手にそんなこと言える訳でもないけどさ 「わらわ達はCグループじゃからの。上手くいけば奴とは決勝リーグの二回戦で当たるというわけじゃ」 腕が鳴るのうと気合満々の観奈ちゃん 「…明人さん…お久し…ぶりです」 「うわぁ!!」 いままで気づかなかったが観奈ちゃんの後ろに一人の女子高生が立っていた 「…すいません…驚かせて…しまったようで…」 「あ…あぁ、いえ、こちらこそすいません」 さっきからいたのに気づかなかった俺のほうが悪いと思うんだが彼女は丁寧に頭を下げてくれた 「えぇ~と………どちらさまでしたっけ?」 その上俺はこの人のことを憶えてないのだ 俺って無礼者? 「…憶えて…いないのも…無理は…ありません…およそ…七年ぶり…ですから…ね」 七年ぶり…ん? この独特の話のテンポは… 「もしかして…斗小野会長のお孫さんですか?」 「…はい…斗小野 水那岐…です…」 驚いた 何にって…彼女の容姿は七年前の社交界で会った時とそっくりそのままだったのだ え~と、確か俺より二つぐらい上だったように記憶していたんだが… 「…ほんと…お久しぶりです…とは言っても…明人さんの…活躍は…いつも…メディアで…拝見…させて…もらって…いますけど…」 「あぁ、それは恐縮です…えと、水那岐さんも武装神姫、始められたんですか?」 彼女の両肩にはジルダリアとジュビジーが 「…ええ…まだ…始めた…ばかりですが…二人とも…挨拶…」 「やっほー。私は火蒔里。ひじりんって呼んでね♡」 「花乃ともうします。明人さんにノアールさんですね。お二人のことは存じております。御会いできて光栄です」 眩しい笑顔で手を振るひじりんと礼儀正しくお辞儀をする花乃ちゃん 「そりゃどうも。もしかして二人も大会に出るんですか?」 「…ひじりんは…アクシデントで…出れなく…なりましたけど…花乃が…頑張って…くれて…います」 「それじゃあ今のところ…」 「…ええ…次は…Iグループの…三回戦です」 ルーキーなのに大したものだ こう見えて水那岐さん、センスあるのかもな… 「それよりもノアールだけでミコとユーナの姿が見えんが…」 いつのまにか美子にだきしめられている観奈ちゃん 「あ、あいつらは…」 アナタを思いっきり抱きしめてますよ~とも言えないよなぁ… つぅかお前は何やってるんだよ美子!! (だって可愛いんだもぉ~ん♡) 目線で返事をするな 「二人は御爺様のお手伝い中ですよ」 ノアのナイスフォロー 確かに嘘は言ってねぇよな… 「ふむ、だからアキヒトはこんな美少女を二人もたぶらかしていたと…」 ジト目になる観奈ちゃん いや、誤解だってば たぶらかしてねえし、噂のお二人はここにいますってばよ 「まぁ、わらわが言うのもおかしな話だがな…」 と、微笑交じりの最後の言葉がひっかかったが… 「それで、解説者様がこんなところで何をしているのじゃ?」 「解説は決勝リーグからだからな。今日はこれからおたくのブースでお菓子でも作りに行こうかと」 「なに、まことかっ!? それならば共に来るがよい。わらわも恋人に会いに行くところじゃ」 「恋人?」 おませさんですね、最近の小学生は… 「うむ。おぬしに劣らず男前じゃ!」 いや、観奈ちゃんの恋人だろ? 小学生か、少し年上でも中学生くらいだよな… それと比較さてれも複雑な気分だぞ 「ほら、行くぞ!!」 観奈ちゃんに背中を押され、俺たちは國崎技研のブースへと向かったのだった 追記 鳳凰杯、警備隊本部 「いまのところイベント進行は順調なようだねミス・桜」 「フェレンツェさん。えぇ、なんとか予定通りに進んでいます」 「そうか、それは何よりだよ。私はお祭りが大好きでね」 「あなたの周りはいつもお祭りのようですけどね」 「ハハハ、確かに」 「娘さんとご一緒しないんですか?」 「なに、急がなくても祭りは逃げやしないよ。私は責任があるのでね。万が一の事態に備え様子を見に来たんだよ…」 「インターフェイスですか…大変ですね」 「なに、理解ある協力者達が助けてくれている。私は幸せ者だよ」 「そうですか。なら、私もその協力者としてここの警備指揮はまかせていただきます。どうぞ祭りをお楽しみ下さい」 「…ホントに私は幸せ者のようだな。ここはお言葉に甘えるとしよう。古き友や知人がブースを出しているものでね。娘と挨拶に行ってくるよ」 「そうですか。では楽しんでいらしてください」 「君もよい祭りを…ミス・桜」 続く メインページへ このページの訪問者 -
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紅い巨神・・・皆川が『ギガンティック』と呼んだそれは、バーチャルの空に向かって大きく吼えた 自らが生まれた事を誇る様に、或いは、呪う様に・・・ 「か・・・墨?なの・・・?」 『ギガンティック』の黄金の瞳がニビルを見据える ごうっ!! 「!!」 その一撃をかわせたのは全くの偶然だった 体が反射的に逃げた方向に、偶々手が来なかっただけの話で、攻撃そのものは全く見切れたものではなかった・・・それが左の爪を振ったのだと気付いたのすら攻撃直後だった その動きの速さは『G』の「Gアーム」・・・キャロラインが「ジェノサイドナックル」と呼んだ・・・に匹敵するものだった 神姫に十数倍するその体躯で神姫の最高速度近い攻撃を繰り出してきたと言う事は、この巨神が神姫を遥かに上回る速さを持っている事を意味した 「・・・あ・・・あぁぁ」 それは絶望的な戦力差と言わざるを得なかった 「奈落の底」 「画面が見えない・・・姉さま、どうなったんだろう?」 皆川は、機械をチェックすると言って出て行ってしまった 残されたランカー達は、各々露骨に不満そうな顔をしながらも、その場に皆留まっていた というのも、画面自体は見えないが、バーチャルスペースで戦闘の様なものが行なわれていると思しき音や気配がやまなかったし、ジャッジマシンがいかなる結果もまだ伝えては居なかったからであろう とはいえ、それだけの情報量ではヌルの不安感を拭い切るにはとても足りなかったのであるが 「クイントスさま・・・」 「・・・・・・やはり行く事にしよう」 「え?」 覗き込んだクイントスの表情は硬かったが、どこか嬉しそうでもあった そう言ってクイントスは華墨側のオーナーブースコンパートメントに向かう 「っ・・・待って!私も行く」 会場の誰も、ふたりが抜けた事に気付いていないようだった 明らかな戦力差だったが、ニビルは何とか回避し続ける事が出来た 何故か、使い切った筈の「ゴールドアイ」が復活したからだ それも、いつもより予見が冴えている 同時に判った事は、『ギガンティック』がほぼ「ジェノサイドナックル」「ゴールドアイ」に匹敵する速さと、先読み能力を持っている事であった (かわす事は出来ても反撃は無理ね・・・せめて空戦装備があれば話は違うのだろうけど・・・) 振り下ろされた右腕が大地を割る! 追跡してくる脚力はさながら「ジェノサイドナックル」の脚版だ、歩幅と相俟って、殆ど瞬間移動とも言える速さで移動出来る様だった (駄目、もうかわしきれない!!) 瞬間、『ギガンティック』の動きが止まる 空を見上げる様な仕草をし、どこか、ニビルに見えない遠くを見ている様だった ごつん!! 扉に剣戟で穴を開けて潜入する 強引だが、取り立てて気にした様子も無く、クイントスは佐鳴武士が居た筈のコンパートメントに足を踏み入れた そこに武士は居ない 代わりに、バトルポッドの前に、身長170センチ程の『ギガンティック』が佇んでいた 「!?」 ヌルの驚愕を無視して、クイントスが走る 「会いたかったぞ・・・!!」 ごうっ!! 剣速に音を引き連れて、クイントスの刀が鞘から引き抜かれる その一撃は、これ以上無い程明確に体格差のある『ギガンティック』の爪を一振り斬り飛ばし、刃先には一切血曇りを残さない程だった 怯んだ様子すら無く、ニビルも驚いた「ジェノサイドナックル」ばりの速さで殴りかかる『ギガンティック』・・・それを、クイントスはすんでの所で回避した 外れた拳で床が抉れる 見る迄も無い、神姫が喰らえば全壊は免れ得ない一撃だ・・・恐らく人間でもひしゃげるか、体の一部が捥げるだろう 「まだ自分の体の使い方が判っていないのか・・・?それとも所詮『まがいもの』なのか・・・?そんな程度では」 長い腕の下に潜り込み、合計4撃、極悪無比な音速剣が炸裂する それでクイントスの刀はへし折れたが、同時に『ギガンティック』の五体もバラバラに引き裂かれた 胸から大量の、人間のそれと同じ赤い血を噴き出しながら 「どんな強力な武器を持とうとも・・・それを扱う者が弱者では話にならないという事だな『華墨』とやら」 『ギガンティック』となっていた武士の胸に華墨が浮き上がり、剥離してゆくのがヌルには見えた 『よう華墨、しっかりしろよ』 (マスター?どうしたんだ一体) こんな所でぼさっとしてんなって!ニビルを倒して、クイントスに一泡吹かせてやるんだろ? 『勝とうぜ、俺達二人で!』 (あぁ・・・そうだな、そうだった、二人で勝つんだったな・・・『クイントス』に) そこは暗い奈落の底 漆黒の闇なのか、混沌なのか だが『私』は既に寄る辺無き花ではない 立ち上がり、歩き出す マスターが居てくれる・・・ならば取り敢えず、歩く道は判る だから、私のマスターで居て下さい・・・佐鳴武士 目を開けると、そこはどうもメディカルセンターの様だった 「目が覚めたみたいだね」 振り向くとそこには琥珀嬢とエルギール、それと、ニビルが居た 吹き込んでくる風が、季節の移り変わりを感じさせた どうも、私の認識から季節がずれている様に感じる 違う!季節はそう簡単にずれない、いかに今年は春が短かったからといって、この空気は私が知っている昨日迄と全く違う では、ずれているのは私の認識の方か・・・私の・・・認識・・・? 「マス・・・」 『マスターは何処に?』と聞こうとして、頭に激痛が走った 待て、待て待て華墨、お前は何か重大な事を忘れていないか・・・?何かとても重大で、そしてとても、巨大な何かを!? 「君のマスターは此処に居る、僕だ、僕神浦琥珀が、君のマスターだ」 それで、私の知る限りの全てを思い出した 「佐鳴武士は・・・死・・・」 吐いた 何かを そこで、自分のもうひとつの異常に気付いた 「君はね、普通の武装神姫では無くなってしまったんだよ・・・華墨」 「今の君は、人間とそう変わらない体を持っている、食事をし、排泄をし、呼吸をする体・・・機械と生体のハイブリッド・・・君は・・・」 吐いた、転げ回った 何も聞こえない 何も判らない 聞きたくない!!! 「落ち着きなさい!受け入れ難いのは判るけど!取り乱しても何にもならないッ!!」 ニビルに頬を張られて、動きが止まった 頭の中が真っ白になっていた ただ涙だけは出た 語る言葉も何も無く、ただ、溢れた そしてそれが、他ならぬ私自身に、状況を思い出させていた 「・・・・・・暫く一人にさせてあげよう、ニビル」 出て行く直前に、エルギールが私を見たが、それに対して何かを返す余裕は、今の私には全く無かった 「マスター・・・・・・!!」 その悲鳴に近い声は、涙と共に奈落の底に程近い今の私の心に大きく波紋を浮かべ、虚空に虚しく消えた・・・ 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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「武装神姫のリン」 第17話 「花憐」 「ぶっふぇぇ!!!」 今日はリンの2回目の"誕生日"、それでリンにプレゼントに何がいいか聞いてみた。 その返答に対する俺の反応が上のモノだ。 思わず下品にも口に含んだものを吹き出してしまった… そのリンの返答っていうのが、 「子供が欲しいです」 うん、俺の反応は間違ってないはずだ。 茉莉も口をポカンと開けるばかりでティアもさすがに閉口している。 「…リン。判ってるよな? 子供って…」 「あの、私そんなに変なこと言いましたか? マスターが子供に相当するパーソナリティを持つモデルを買ってくれるって言ったじゃないですか。」 しばしの沈黙。そして… 「もう、亮輔のバカ!!!」 茉莉の思い切りのいいビンタを頂戴した俺であった…orz そして数時間後、俺たちはエルゴの店頭にいた。 頬を腫らしている俺を見て苦笑しながらも店長はかねてからおねがいしていた"頭身が低い素体"と"成長速度鈍化""子供思考"のCSCを棚から出している。 「ヘッドユニットはストラーフでいいのかな?」 素体とCSCを接続した店長が聞いてくる。 「はい、それでおねがいします。」 俺ではなく、リンが返答する。 「そういえば…ちょっと提案があるんだけど。」 「どうしたんですか?」 「あのね、今度から神姫の髪の色を変えるカスタムのサービスを始める予定なんだけど、この子にモニターっていうか、なんていうか試しにやってみないかい?」 「リン、どうする?」 「私が決めるんですか…じゃあお願いします。さすがに全く自分と同じ顔というのは気になるので」 「わかりました、で何色がいいのかな? 好きに選んでくれていいよ」 そういって髪の色のカタログやら見本をリンに渡す店長。 見ると茉莉やティアもカタログに見入って、話しをしている。 「ちょっと、亮輔君」 その隙をみて急に店長が俺に言い寄ってくる。なぜか俺だけに話したいことがあるらしいが… レジ裏にしゃがみこんだ俺と店長。そして店長は俺にものすごい小声でこう言ってきた。 「あれってリンちゃんのプレゼントだよね?」 「そうですけど、子供が欲しい…自分で世話をするからそういう子供に相当する神姫が欲しいって」 「たぶん前代未聞だよ、母親になる神姫だなんて…まあそれは置いといて。もう1個プレゼントになりそうなものが今、ウチにあるんだけど、どうかな?」 「物を見せてくれないとなんだかわからないんですが…」 「ふれあいツール"赤ずきんちゃんご用心"って言えばわかるだろう?」 「プ…ッ(必死に吹き出しそうになるのを押さえる音)」 「あれがね~幸運にも手に入ったんだよ。結構競争率高いらしいんだけどね。」 「で、俺とリンにですか?」 「うん、リンちゃんにもそろそろ"ホンモノ"の感触を知ってほしくないかい?」 俺の脳裏にピンクな景色が一瞬広がる 「…ホントに商売上手ですね、店長。」 「じゃあ買う?」 「ハイ。」 「じゃあがんばってね」 「あの、それっていうのはどういう意味で?」 「さあ~どっちだろうw」 そんな感じで商談が成立した。 そして何も無かったかのようにリンたちの所に戻る。さっきまでのことは忘れよう、ウン。 「決まったか?リン」 「あっ、マスター。いちおう決まったといえばそうなんですが…」 「じゃあ言ってみろ」 「黒はイヤですか?」 「なんで?リンが好きならそうすればいいだろ。」 「だって、マスターって金髪好きそうなんで…」 そうして茉莉の方を見るリン。 くそ、そんなにカワイイ表情しないでくれ…さっき想像したことが再び頭の中に浮かんでくるのをかき消して返答する。 「はは、そんなこと気にするなよ、もし俺とリンの子っていうなら黒でいいんじゃないか?」 「じゃあそれで、店長。黒でおねがいします」 「たしかに承りました。処理に5分ぐらい掛かるから待っててくれるかな?」 「はい、じゃあその間に料金払っときますよ、で合計でいくらですか?」 「うん…基本のセット料金に素体の特注のライセンス料、黒髪は特別料金だけど今回は割り引きで…しめて…この値段だね。」 まあ予想通り"それっぽい名目"で書かれた料金票を見る。 うん、この値段なら予算の範囲内だ、微妙に余計な費用が加算されたりはするが…今回はジェニーさんのレジを通すわけには行かなかった。 レジと接続した状態のジェニーさんにはそういう偽装は通用しないことは以前のことで知っていた。 だからこそ、店長に直接料金を支払うのだ。物はあとで取りにいくとしてもこれだけは回避しなければならなかった。 そうして支払いを済ませて待つこと数分。艶やかな黒髪のストラーフが俺たちの前に横たわっている。 CSCは先ほどのもに加え、"おしゃれ"を選択。これはリンの提案だった。 CSCおよび素体、ヘッドユニットのチェック完了。リンの娘である神姫が起動し、ゆっくりと瞳が開かれた。 「…う~ん、眠ぃ…」 第一声がコレだった。やっぱりCSCの特性が関係してるんだろう。とりあえず俺がまずはマスター登録をする。 「藤堂 亮輔をマスターとして登録しましたぁ~で呼びかたはどうしますかぁ?」 「お父さん、だ。」 「……お父さん…お父さんですねぇ~判りましたぁ…むにゃむにゃ…」 今にも寝そうな彼女を必死に起こして言う。 「まだ名前をあげてないだろ、キミの名前は花憐だ」 「花憐…カワイイ名前です~こんな名前をもらえて花憐はうれしいです。」 名前をもらえたことがいい刺激だったのか、眠そうだった花憐の目に光が宿ったように感じた。言葉遣いも安定してきた。 「それは良かった、それで…この子がキミのお母さんのリンだ。お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ~」 「はい~わかりました」 そうして 花憐はくるっと回転して、リンに向き合う。 「お母さん よろしくおねがいします。」 「ええ、花憐」 リンは花憐を抱きしめる。 リンはとてもうれしそうで、涙さえ浮かべてた。 花憐のほうもなんだか安心したような表情で。 こうしてウチに新しい家族。俺とリンの"娘"の花憐が加わった。 これでウチは以前にもまして明るくなるだろう。この幸せを大切にしていきたい。そう俺は思った。 ~燐の18「アキバ博士登場」~