約 3,015,319 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/792.html
彼女はいつだって光だった。 幼いながらも厳しい戦いに身を投じ、その小さな手は人々を守る為に広げられ、いつも他の誰かに差し伸べられた。 誰より強く輝く桜色の光は弱者を暖かく包み込み、それを傷つける者を討つ為にあった。 空を飛ぶことが大好きで、光る翼でいつも高くから笑顔を振り撒いていた。 きっと今日だって彼女は誰かを助けて、いつもの能天気な笑顔で帰ってくる。 そう、思っていた。 この日、桜色の光が陰る。ミッドチルダを闇が覆い始める。 それは錬金術という名の闇。途轍も無く永い時間を掛けて醸成された闇には彼女でさえも絡め取られ翼を?がれるしかなかった。 そして闇を照らすべき太陽は――山吹色〔サンライト・イエロー〕の陽光はまだ、差さない。 なのは×錬金 第4話 『光』 〈ぜひ……ぜひ……〉 とある街の裏路地では、薄汚れた服装の少年が喉を押さえて転げまわっている。目からは涙が、口端からは涎が零れ出していた。 ミッドチルダ、廃棄都市区画の1つの住人である。 整備区画として幾つか点在する廃墟はいつの時代、どの世界でも"吹き溜まり"として活用される。 それはミッドチルダでも例外ではなく、彼もその一人だった。 市民として登録されていない彼らは、十分な保証も受けられず碌に医者にも掛かれない。 全身を襲う痛みと呼吸困難で、失神することもできずに悶えるこの奇病の発端は、何故かこういった場所からだった。 病に掛かったのが彼らでなければ、或いはもっとこの病が知られていたのかもしれない。 聖王教会の本部。いつものように八神はやては騎士カリムを訪ねていた。 清潔で簡素、しかしどこか気品を漂わせ、落ち着いた暖かさを感じさせる部屋はカリムという人をよく表している。 彼女の部屋には既にクロノとカリムが揃っていた。これもよくある光景。テーブルにはティーセットが並べられている。 「久し振りやね、クロノ君」 「最近忙しくてな。ここで少し話したらまた任務だよ」 「海も最近は物騒になってるらしいですね……」 こうしてここで近況の報告や私的な会話をすることがたまにある。ここでは友人同士ということもあり、正直な気持ちを打ち明けることができるのをはやては嬉しく思っていた。 「それは陸も同じや。ガジェットだけやなく戦闘機人まで出てくるし……」 「それと廃棄都市区画で流行ってる奇病ね……。もっと多くの症例を調べることができると良いのだけど……」 彼女やシャッハは騎士でもあるがシスターでもある。廃棄都市区画の住人達に関しては随分気に掛けているらしい。 「さしたる成果は上がっていないそうだな」 「ええ、患者を聖王医療院で受け入れたいのですが、教会内で反対する声も多くて……」 彼らの暮らす環境は清潔とは言い難いし、病が広がるのも無理はないのだが、今回のそれはどうやら違うとのことだ。 会話を遮って部屋のドアがノックされた。 「どうぞ」 「失礼します。あら、八神部隊長に……提督もいらしていたのですか」 扉を開けて入ってきたのは、優しげな金髪の女性。歳はおよそ三十代くらいか。 彼女とも一度面識があった。確か聖王教会のロストロギア研究を取り仕切っている人物。 「エッカルト騎士長……」 デートリンゲ・エッカルト――騎士達を取り纏める騎士長。カリムの上司である。 「騎士カリム。前にも話しましたが、私はこれから本局でハウスホーファー少将とお会いしてきます。ですから留守をお願いしますね」 「ええ、お任せください。確かお帰りは二日後と仰っていましたね?」 「ええ、それでは。お二方もどうぞごゆっくり」 にこやかに微笑んで彼女は会釈して去っていった。 「腰が低いのに随分堂々として見える人だな」 それがクロノのエッカルトの印象らしい。なるほど、自分も大体同じことを思った。 優しげなのにどこか威厳を感じる居振る舞いは、流石は騎士を纏めるだけのことはある。 「優しそうな人やね。……ってどないしたん?カリム」 カリムはエッカルトの去ったドアを見つめて溜息を吐いた。 「いえ……先程の話ですが、あの方は何も言って下さらないのです。普段は意見が対立した際もよく纏めて下さるのですが、今回に限って中立を決め込んでいるのです」 「その理由は?」 「解りません……。ただ最近はハウスホーファー少将とばかり頻繁にお会いしてらっしゃるようですし、後はレリックの研究ばかり」 カリムは不安げに顔を曇らせた。彼女の中で尊敬と疑念が入り混じっているのだろう。 「その病、他に解っていることはないのか?」 「症状に関しては、激痛を伴う呼吸困難の発作……としか。あと、これは噂に過ぎないのですが、錬金術によって生み出された病だと……」 「錬金術……」 何やらクロノは錬金術と聞いて考え込んでいる。 「クロノ君、何か知っとるん?」 「いや、何も。その噂の出所は?」 カリムは黙って首を振った。 「おそらく原因が不明であることから、誰かが冗談混じりに嘯いたことだとは思うのですが……」 「なあ、はやて。六課に隊員を一人出向させたいんだが、どうかな?」 突然のクロノの提案にはやては目を瞬かせる。カリムも同様だ。 だが、クロノはお構いなしに続けた。 「まだ新人だが俺の隊のエースだ。研究にも手を出していて、知識も豊富にある。スタンドプレーが目立つが使える奴には違いない」 「なんや、クロノ君。えらくいきなりやなぁ」 まぁ、あのクロノがそこまで褒める隊員なら間違いないだろうし、戦力は多いほうがいいのだが。 「どうしたのですか?クロノ提督」 カリムにも答えず、再び彼は顎に手を当てて考えだした。はやてとカリムが見守る中、ようやく彼は口を開いた。 「もしかしたらその奇病、その男が役に立つかもしれない」 「スバル!立ち止まらない!」 「うわぁ!」 スターズ・ライトニングの新人達はその廃棄都市区画で模擬戦を行っていた。勿論、これはシミュレーターだが。 追いかけてくる魔力弾を振り切るように走り、周囲を見回したスバルの背中を魔力弾が直撃する。 「くぅっ……」 「立ち止まっちゃいい的だよ!周囲の状況は動きながら把握!」 衝撃に数秒間蹲るスバルに、なのはは注意しながらも次の弾を放つ。 「はい!」 答えてまたスバルは走り出す。 どうすれば掻い潜って一撃を当てられる?一人ではどうやっても返り討ちだ。 そう、自分一人では。 廃墟をシミュレートした模擬戦。追跡する魔力弾を回避しながら、なのはに一撃を加えるのが今回の課題である。 ハンデがあるとはいえ、今日はいつもよりも随分厳しい。それはなのはがこれを訓練の一つの区切りと考えているからだ。 こちらは動きながらなのはの位置を掴むだけでも難しいというのに、アクセルシューターはしつこく追跡、分断してくる。このままでは当てるまえに走らされて体力が尽きるだろう。 「ティア、何やってるの!ティアは戦場全体を見渡して有利なポジションを確保!全員の指揮を執る!」 ティアナも正直、自分の回避だけで精一杯。とはいえ、それが役割ならば。 (やらない訳にはいかないか……) ティアナは宙に浮かぶなのはを睨み、策を練り始める。 「(でも……そんなことできるんですか?)」 ティアナからの念話にエリオはそう返す。いくらなんでも、そこまで上手くいくだろうか? 「(できなきゃやられるだけよ。二度目はないから全力全開で行くのよ、いい?)」 「(……わかりました!)」 こうなれば腹を括るしかない。 まずは位置取りだ。それぞれが上手く位置を確保できるかどうか。そしてそれを維持できるかどうかが最初の難関。 早速エリオは走り出す。時が来るまでひたすら走り続けるのみ――。 立ち止まることは許されなかった。 「(キャロ、あんたはどう?)」 キャロは押し黙ったままだ。やることは単純だが、タイミングを逃すことは絶対にできない。そして確保した位置を動くことも。 なのはの追尾弾を防ぎながらそれができるだろうか? 「(ごめんね、私にはこれぐらいしか思いつかない。難しいし、痛いかもしれない、それでも聞くわ。できる?キャロ)」 走りながら思案する。あまり時間に余裕はない。 もう一度だけ自身に問い掛けてみる。 (私に……できるの?) 不安は勿論ある。一方、胸の奥で疼くものもあった。それは確かに"自信"。厳しい訓練を潜り抜けてきたという自負に違いなかった。 難しいが不可能ではない。それは自分が一番解っているのだ。 「キュオオーー!」 隣でフリードが嘶いた。「大丈夫、きっとできる」そう言っている。 「(ずるいですよ、ティアナさん……。仲間に「できる?」なんて聞かれたら「できない」なんて答えられないじゃないですか)」 「(頼りにしてる。よろしくね、私の目)」 まずは場所を確保することが先決だ。ターゲットを確認できる高所へ――。 エリオとスバルがなのはの目を盗んでくれている隙に、キャロは目的のビルへと駆け上がった。 「(ねえねえ、ティア。私には無いの?)」 「(あんたに今更言うことも無いわよ。とにかく喰らいついて、タイミングが来たと思ったら思いきりやりなさい)」 「(それだけ……?)」 「(それだけよ)」 何だか当てにされてるんだか、されてないんだか。でもその方が単純明快で解りやすい。 ティアナは自分には確認をしようとしなかった。それは聞くまでもないからだ。 自分は彼女の作戦を信頼してるし、彼女もきっとできると信じてくれているから。 ひたすら殴り、殴り、打ち抜く。あらゆる障害を突破していく突進力は自分自身を信じることで始めて力になるはず。 マッハキャリバーで地を駆け、火花を散らし、スバルはなのはの前に躍り出た。 この作戦はなのはが動かないこと。誘導弾のみで攻撃してくること。 廃棄都市区画とはいえ一応区画整備はしてある為、碁盤の目に近い形で建造物が並んでいること……etc。 様々なハンディキャップの元に成り立っている。実戦で使える筈もない。 (でも、今はそれを利用させてもらう……!) 勝つ為に、生き残る為に自らの特性を生かして役割を果たす。使えるものは何でも使う。 これがなのはから受けた教えの、自分なりの実践だ。 それぞれが位置に着いたことを確認し、ティアナはクロスミラージュに意識を集中。チャージを始める。 緊張で高鳴る鼓動を抑えることができず、ティアナは祈るようにクロスミラージュを額に当てた。 それが治まると、銃口を無人の方向へ向けて放つ。 「クロスファイアー……シュート!」 十字路の中心に浮かぶなのは。周囲には4つのスフィアが浮遊している。 どこから仕掛けられても即座に対応して出端を挫く為だ。 「うぉぉぉぉぉ!!」 雄叫びを上げてスバルは向かっていく。真正面から。拳を振り上げて。 4つのスフィアは複雑な軌道を描きスバルに向かった。一つは落とすことができたが、左右と下から吹き飛ばされて、スバルは大きく地面を滑る。 「スバル!正面から突撃するだけじゃあ駄目だって――」 スバルへの説教をなのはは途中で打ち切った。いや、打ち切らざるを得なかった。 「たぁぁ!」 側面に回りこんできたエリオがストラーダを振り下ろすが――。 「エリオ!バリアを貫ける威力でなきゃ隙を作るだけ!」 斬撃は強固なバリアによって弾かれる。 それでもエリオはすぐに空中で体勢を立て直し、なのはの周囲を走りだす。もとより深く打ち込むつもりはなかったからこそ、可能な芸当だ。 放たれた魔力弾はエリオを狙って地面を抉る。よく避けているが、離れることもせずに必死に周囲を回るのは明らかに不自然。 これは陽動。本命は別にいる。 なのはは、バリアを破られないよう迎撃するスフィアの制御や、バリアにも意識を向けつつ手を右後ろに高々と上げた。 エリオは再度機会を狙っているが、背後までも堅く守ったなのはには迂闊な攻撃は通用しそうにない。全力で走らなければ、立ち止まれば直撃を受けるのは確実。 立ち上がったスバルは逆に、シールドで防ぎながら果敢に攻撃を仕掛ける。その度に弾かれて転げまわるが、受身も完璧だ。まだまだやれると言わんばかりに立ち上がる。 キャロはその戦いを屋上からずっと見ていた。なのはの意識は完全に二人に向いているように見えた。 「今ならやれる……――!?」 見下ろすなのはの右腕がこちらに向いた。尾を引いて伸びる桜色の光は、口を開くフリードごとキャロを下から突き上げた。 「きゃああああ!」 突然で対処が間に合わなかった。訓練用なのに直撃のショックで頭が揺れる。 「(キャロ!行ったわよ、指示よろしく!)」 まだ倒れることはできない。キャロは手を着いて立ち上がる。 六課に来てもうすぐ三ヶ月、もう三ヶ月だ。なのはは日々自分達を試している。訓練の内容も段々ときつくなってきた。 フェイトの期待に応える為にも、そして一緒に戦えるようになる為にも、早くなのはに認められたいから。 「(ティアナさん、今!)」 なのはを中心にして外側――キャロのビルの左側をオレンジ色の光が見える。 合図に呼応して、それは右へとほぼ直角に折れ曲がり、地表擦れ擦れを這うように飛ぶ。 「(右に傾き過ぎです。左に5度修正!)」 微妙に角度を修正する魔力弾。多くの魔法を同時に発動、制御しているティアナをサポートすることもキャロの役割だった。力を合わせてなのはを攻略する上で、四人の内一人でも役割を果たせなければ作戦は瓦解してしまう。 (絶対にあの弾を見逃す訳にはいかない……!) 弾の軌道を追う余りに、なのはへの注意が逸れたキャロの背後に次の魔力弾が迫る。気付いた時にはもう遅かった。 回避も防御も間に合わない。これを受ければ指示を出すのは遅れて作戦は失敗――。 「キャウウウ!!」 キャロの目の前、射線にフリードが割り込む。フリードの吐いた火球と相殺して弾が掻き消された。 「フリード……」 「キャウ!」 フリードが胸を張って短く鳴く。一人で防げるかどうか不安だったが――頼りになるパートナーがすぐ傍にいてくれたではないか。 キャロはフリードに感謝の代わりに微笑んだ。 そうしている内に眼下をティアナの魔力弾が通り過ぎる。 「(ティアナさん!右折です!)」 なんとか指示が間に合った。一直線に、且つ蛇のように静かに、弾が目指す先は高町なのはの背後。 エリオとスバルに陽動をさせ、キャロを囮にして背後から強力な一撃。だがこれだけでは足りない。 相手は百戦錬磨のエース。これくらいは見抜いているかもしれない。いや、多分見抜いている。 一つでも、一発でも多く罠を、弾を増やす必要がある。それもなのはを脅かすくらいのものを。 「(エリオ!スバル!行ったわよ!)」 スバルとエリオに指示を出す。 ここからでは彼らの行動はキャロの念話でしか解らない。当の二人は念話もままならない程切迫しているのか、状況確認などできそうにない。 自分から見えない弾を操作するのは非常に難しい。その上、複数制御となれば今の自分では到底扱えないだろう。その為のキャロだ。 今は集中の為、移動も攻撃も難しい状況だ。ここを攻撃されたら全てが終わりだ。 (隠れてはいるけど……魔力を追尾するアクセルシューターはきっとここにも来る……) 一発ならなんとかなる。だが、なのはが司令塔たる自分を見逃すだろうか? (賭けにでるしかないか……) 後少し、せめてあと少しすれば動くこともできるのだが――。 (考えるな……。今は制御に集中しないと……) 少なくとも今のティアナには祈ることしかできそうにない。 スバルとエリオは相変わらずアクセルシューターを防ぎながら、かわしながら隙を窺っている。どうやらキャロも持ち堪えているようだ。 だが、どちらも長くは持たないだろう。 (これだけやっててもティアナは出てこない……) 間違いない、本命は彼女だ。そう、なのはは確信した。 周囲にエリオとスバル。自分の後方にはキャロ。ならば彼女が出てくるのは――。 (横!) その時、側面からの気配を感じた。なのはの右側面、やや離れた位置に彼女はいた。 膝を着き、両手でしっかりとクロスミラージュを握り、一直線にこちらに狙いをつけている。 「撃って!ティア!」 スバルの声より速くなのはは4発の魔力弾をティアナへと飛ばした。念を入れ、四発とも別の軌道を取り前後と側面から囲むように。 それでも彼女は動かない。微動だにせず照準を定めている。 (やっぱり……) 魔力弾はティアナへと肉迫し――彼女の身体をすり抜けた。 (幻術!) 予想はしていた。頭の働くティアナが"この程度"で自分の隙を突けると思うはずがない。 しかし、あれが本物であれ幻像であれ、なのはは撃っただろう。万が一本物だったならば、まともに狙撃を受けることになる。 (問題ない。スバルとエリオに対する弾は残してあるし、キャロへの警戒も怠ってない……) 新たなスフィアを生み出そうと意識を集中させた途端、なのはは背中に強い衝撃を感じた。 「やった!」 ここまでは作戦通り。なのはの背中でオレンジの光が爆ぜた。ティアナの迂回させたクロスファイアーシュートは見事になのはの背中を突いたのだ。 「ストラーダ!!」 自らのデバイスの名を叫んで突進。今度は振り下ろしではなく、槍の最も強力な攻撃、すなわち突き。 この絶好のチャンスにエリオは今出来る全力の突きを放ったつもりだった。だが、またしてもバリアに阻まれる。 「くぅぅぅぅぅ!」 なんとか突破を試みるが、強固なバリアはあくまでエリオを拒絶する。 甘かった――。ティアナの不意打ちに加えてストラーダでも貫けない。今のエリオはなのはに突き刺しているストラーダ以外は宙に浮いている状態だ。貫けないのに、このままでは体勢を立て直すこともできない。 なのはがこちらを向いた。その冷ややかな眼に寒気が走る。 次の瞬間、全てのスフィアがエリオの身体を打った。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 激痛に意識が飛びそうになるが堪えることができた。でも、大きく後ろに吹き飛ばされるのは止められない。 「まだ!」 これこそが好機だった。なのはは自分を撃墜したと思っている。 (そうでなくとも、地面に身体を打ちつければすぐには反撃できない、そう考える……!) 「錬鉄召喚!!」 キャロの声が聞こえた。同時に、飛ばされるエリオの身体に地面から四本の鎖が伸びて四肢を繋ぎとめた。 鎖がギリギリと引き絞られ更に痛みは増す。だが、おかげで飛ばされずに済んだ。 着地したエリオは再び地を蹴ってなのはに向かって跳ぶ。 錬鉄召喚――鎖を召喚する、本来は拘束に使う魔法。こんな魔法でなくとも、衝撃を殺すならもっとましな方法がある。 しかしそれでは足りない。そうティアナは自分に言った。 これくらい無茶でなければなのはを驚かすことはできない、と。 たった一人に対して四人で不意討ち、騙し討ち。それでも勝てないのが高町なのはだ、とも。キャロ自身もそれは身に染みて解っていた。 (全てはなのはさんのペースを崩す為に。私にできるのはもうこれくらいしかないけど……!) キャロは手を翳して気休めの補助魔法を掛ける。対象は勿論エリオと本命の彼女。 「ブーストアップ……ストライクパワー!」 「まさか錬鉄召喚で勢いを殺すとはね。ちょっと驚いたよ」 しかし左手一本でエリオを御するなのはの顔は涼しいものだ。これでもまだ突き抜けることができない。 複数の魔力弾の直撃――たとえ訓練用でも、あれを二度喰らって立っている体力はエリオにはない。 背中から何かが迫っている気配がする。これもティアナの仕掛けだ。 これを当てる為に必死に掻き回してきた。もうこれに賭けるしかない。 早くても遅くても駄目だ。しかもキャロから見辛い位置だからタイミングは自分で計るしかないだろう。 背中から風を切る音が聞こえる。 (まだだ……) 音は徐々に大きくなり、熱を感じるようになってきた。 (まだ……) ストラーダに更に力を込めて、噴出する光で背後の光を覆い隠す。なのはを前にしてエリオは全感覚を背中に集中していた。 「ソニックムーブ!」 『Sonic Move』 エリオの姿がなのはの前から消えた。突然、追尾目標が高速移動した為に軌道修正の利かないオレンジ色の魔力弾は勢いのままになのはのバリアに着弾。ぶつかり合う光が辺りを眩く照らす。 光が弾ける瞬間にスバルはウィングロードを伸ばす。 もう策はない。後はひたすら進むのみ。目標に向かって一直線に駆け抜けるのみ。 なのはがエリオに集中した分、こっちに多く弾が回ってくる。だが、そんなことはどうでもいい。スバルの目は道の先――高町なのはだけを睨んでいる。 「はぁぁぁぁぁああああ!!」 気勢を発してスバルは走り出す。飛来する十近い魔力弾の幾つかを拳で粉砕。幾つかをシールドで防ぐ。それでも3発が身体を打った。 「くっ……!ディバイィィィィィン――」 キャロの補助は攻撃に回してもらったので一度体勢を崩しそうになる。スバルは足を強く踏み込んでそれに耐えた。最早痛みも気にならない。 拳を振りかぶって魔力を溜める。左手に淡い水色の光が集まる。 「バスタァァァァァ!!」 バリアへと光を叩きつけ、それを右の拳で打ち抜く。膨れ上がって光が弾けた。 周囲一帯に濛々と煙が立ち込める。衝撃が瓦礫を吹き飛ばす。 「っはぁ!はぁ……はぁ……」 崩れ落ちるように跪いて荒い息を吐くスバル。もう一片の体力すら残っていない。 「よく頑張ったね……スバル」 降ってきたのは、なのはの声。訓練中とは全く違った優しい響き。 煙が晴れるとなのはの姿が見えてきた。レイジングハートを持った両手をクロスさせスバルの拳を受け止めている。BJは傷だらけだ。 「いい拳だったよ、合格。それに皆も自分のポジションと特性を良く活かしてた」 その顔は笑っていた。とても優しげで暖かい笑顔。 認められた――。そう解ると更に力が抜けて涙が滲んでくる。 なのはの背後にはダガーモードのクロスミラージュを持ったティアナ。横にはストラーダを腰溜めに構えたエリオ。頭上にはフリードが飛んでいた。キャロもビルを下りて駆け寄ってくる。 「皆もう少しで一人前かな。ううん、力を合わせればもうそれ以上かも。これからも協力していくようにね」 「はい!」 皆どこにそんな元気が残っていたのか。スバルも気付けば大きな声で答えていた。 空はいつの間にか赤く染まり陽が落ちようとしている。 「それじゃあ帰ろうか。明日からは更にハイレベルな訓練もやっていくから、今日はしっかり休むんだよ?」 明日――。明日になればもっとなのはに教えてもらえる。もっと皆と強くなれる。 ほんの少しの不安、そして大きな期待と意欲を胸に五人は帰路に就いた。 明日もきっといつもと同じ大事な一日だと、そう思っていた。 夜が訪れ、六課の隊舎もそろそろ休む者も多くなってきた。それは高町なのはらフォワード陣も同様だった。 特に新人四名はたっぷり夕食を摂った後、まさに眠ろうとしていたのだが、それは隊舎内に響き渡るアラートによって遮られる。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2388.html
閉鎖された戦場――リニアレール車両内に、嵐が吹き荒れていた。 「うおおおおおおおぉっ!!」 青い髪の破壊神――スバルが雄叫びを上げながら敵陣の中心に飛び込み、車両を占領するガジェットの一体に掴み掛かった。 コード状の触手をしっかりと掴まえ、スバルは捕獲したガジェットをハンマーのように振り回し、手近な敵に容赦なく叩きつける。 咄嗟にAMFを展開するガジェットだが、高度な対魔法防御も原始的な物理攻撃には何の意味も無く、鈍器代わりに使用された仲間共々に破片を撒き散らしながら砕け散った。 「次っ!!」 獰猛な光を瞳に宿し、スバルは次なる獲物へと魔の手を伸ばす。 ローラーブーツを噴かし、背後から抱きつくように新たなガジェットを捕まえたスバルに、残りの敵が一斉に光線を放つ。 降り注ぐ魔力弾の集中砲火にスバルは不敵な笑みを浮かべ、捕獲したガジェットを盾のように前方へ突き出した。 迫り来る凶弾の雨を認識したガジェットは防御プログラムを作動、AMFを展開する。 味方の展開したAMFに阻まれ、ガジェット達の攻撃はスバルに届くことはない。 「わはははは! 無駄無駄無駄ぁっ!!」 敵の攻撃を敵の障壁で無効化しながら、スバルは勝ち誇ったように哄笑する。 あらゆる魔法を打ち消すガジェットのAMF、敵に使われれば確かに厄介極まりない「壁」だが……自分で使う側に回ってしまえば、これ程便利な「盾」は無い。 更にガジェット本体の強度やスバル自身の腕力も相まって、魔導師にとっての最悪の「敵」は、今やスバルにとっての最適な「武器」と化していた。 敵の集中砲火が止んだ瞬間、今度はスバルが攻勢に回った。 手元のガジェットを力任せに放り投げ、敵にぶつけて牽制する。 敵が怯んだ隙に距離を詰め、術式を纏わせた拳で全力で殴りつける。 「リボルバーキャノン!!」 咆哮と共に零距離から撃ち出された衝撃波が、ガジェット達を粉微塵に消し飛ばした。 「あたしを誰だと――へぶっ!?」 高らかに勝ち名乗りを上げかけるスバルの背中に、ガジェットの放った光線が容赦なく突き刺さった。 バリアジャケットのおかげで光線自体によるダメージは皆無であったが、着弾の衝撃スバルの身体は前のめりに倒れ込み、顔面を強かに床に打ちつけた。 「っつぅー……」 痛む鼻頭に涙目になりながらスバルは上体を起こし、決め台詞を邪魔した無粋な敵を憤怒の表情で睨みつける。 「お前ら……」 幽鬼のようにゆらりと立ち上がり、スバルは額に青筋を浮かべながら口を開いた。 右手首のタービンが獲物を追う獣のように獰猛に唸りを上げ、全身から溢れ出る魔力が竜巻のように渦を巻き、荒れ狂う嵐となって車両内を吹き荒れる。 ライトニング隊との合流というティアナの指示も、リニアレール奪還という自分達の任務そのものも、既にスバルの頭から消え失せていた。 今の自分のやるべきことは唯一つ、空気の読めない馬鹿共の抹殺――今のスバルの思考回路は、その一点に支配されていた。 「――全員、極刑!!」 スバルの怒号と共に空間が爆砕し、衝撃で車両天井が弾け飛ぶ。 この瞬間、戦場は処刑場へとその名を変えた。 リニアレール第五車両、戦闘続行中。 リニアレール車両内を、一陣の風が駆け抜ける。 ≪Sonic Move≫ 合成音声の無機質な呟きとほぼ同時に、車両中央に浮かぶガジェットが細切れに解体される。 ≪Sonic Move≫ 再び響く合成音声と共に、振り下ろされた鋼の塊が車両後方を飛ぶガジェットが叩き潰し、更に返す刃でもう一体、敵がAMFを展開する前に一瞬で斬り捨てる。 ≪Sonic Move≫ 三度紡がれる死刑宣告。 次の瞬間、今度は車両前方のガジェットを、赤い髪の死神――エリオの槍が貫いていた。 動きを止めたエリオをガジェット達が素早く取り囲み、一斉に光線を撃ち出した。 ≪Sonic Move≫ 迫り来る光線の集中砲火に、エリオのデバイスが四度目の呟きを発する。 次の瞬間、突如エリオの身体が霞のように掻き消えた。 標的を見失った光線は直進を続け、その先に浮かぶ仲間の身体に無慈悲に突き刺さる。 遅い、余りにも遅くて欠伸が出る……同士討ちして爆発するガジェット達を背中越しに一瞥し、エリオは軽やかな音を立てて床に着地した。 鋭く正確なガジェットの光線攻撃だが、キャロの加速補助を二重に受け、しかも高速機動魔法を発動した今の自分の敵ではない。 破片の散らばる床を蹴り、壁を、天井を、そしてまた床を……車両内を縦横無尽に駆け回り、エリオは踊るように生き残りのガジェット達を翻弄する。 ガジェットがエリオを捕捉し、内蔵武器を起動する――その一瞬の隙に敵の懐に飛び込み、光線を放たれる前にデバイスを突き立てる。 AMFを発動させるべく敵が動きを止めたその刹那、ガジェットの背後に回り込み槍を一閃させて斬り伏せる。 魔法を無効化するガジェットのAMFも、鋭いが遅い敵の攻撃も、使われる前に倒してしまえば気にする必要は無い。 圧倒的とも言えるエリオの猛攻を前に、生き残りのガジェット達は撤退を開始した。 卵のような身体を反転させ、脱兎の如く逃げ出すガジェット達だが、しかしその必死な行動を嘲笑うかのように……、 ≪Sonic Move≫ ――敵を遥かに凌駕する神速の動きで正面に回りこんだエリオが、槍を携え立ち塞がる。 更にエリオの隣にもう一人、桃色の髪の伏兵――キャロが姿を現した。 「錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」 キャロの呪文発動と共に床面に魔方陣が展開され、その中心から出現した無数の鎖がガジェット達を絡め取る。 「フリード」 捕縛したガジェット達を油断なく見据え、キャロは傍らの相棒に呼びかけた。 主の命令に応えるように、フリードが口の中から火球を生み出す。 同時に隣のエリオも槍を構え、穂先に魔力を集束させる。 「ブラストレイ」 キャロの号令と共に炎の弾丸が、 「ルフトメッサー」 エリオの怒号と風の刃が、 「「――シュート!!」」 撃ち放たれた。 同時に撃ち出された炎と風の魔法は互いに干渉し、力を増幅させながら混ざり合い、最終的に巨大な火球となってガジェット達を飲み込んだ。 まるで赤い絨毯を引いたように車両中が火の海に包まれ、防火装置の作動した天井から人工的な雨が降り注ぐ。 スプリンクラーの水滴を全身に浴び、消えていく炎の海をどこか名残惜しそうに一瞥してから、エリオとキャロは互いの健闘を称え合うように笑いながらハイタッチを交わした。 リニアレール第十車両、制圧完了。 「あの馬鹿共が……」 各車両に設置された防犯カメラからリアルタイムで送られてくるスバル達の戦闘映像を横目に見遣り、ティアナは苛立ったように舌打ちした。 「馬鹿スバル! 遊んでないでとっとと先に進みなさい!! エリオにキャロ! 車両燃やしながらはしゃぐな!!」 調子に乗る同僚達を通信回線越しに怒鳴りつけ、ティアナは続いてロングアーチへと通信を繋ぐ。 「スターズF、五両目で戦闘中。ライトニングF、十両目を奪還」 自分は何をしているのだろう……列車の停止作業と並行して、いつの間にか現場管制の真似事をしている自分自身に呆れるように、ティアナは重い息を吐いた。 管制など訓練生時代に軽い講義受けただけで演習すらも行った経験は無く、そもそも複数の作業を両立出来る程の処理能力は自分には無い。 現に今自分は現場の状況報告と司令部からの指示伝達との中継に追われ、肝心の車両制御の方は中々進展していない。 本来どちらかに集中するべき――否、現状を鑑みればどちらに集中するべきかは明らかなのだが、どちらとも中途半端に進んでしまっているので切り捨てるに捨てられない。 結果どちらにも集中出来ないまま時間だけが浪費されていくという本末転倒な状況が続いているが、自分を変えようにもつまらない意地が邪魔をして中々一歩を踏み出せない。 大体このような作業はリイン曹長の仕事だろうに……出撃の際に隊舎に残った上司に八つ当たりするように恨みの矛先を向けながら、ティアナは黙々と己の仕事を続ける。 手元に展開したウィンドウ――緊急操作マニュアルを慎重に確認しながら、掲載された過程の一つ一つを丁寧に消化していく。 『ティア! 五両目のガジェットは全部潰したよ!!』 『ティアナさん、十両目の鎮火を確認したので次の車両に進みます』 スバルとエリオからの報告を受け、制御パネルを操作しながら該当する車両の防犯カメラの映像を呼び出す。 ……マニュアルを読み間違い、操作手順を一つ飛ばしてしまいエラー表示が出た。 「スバル、六両目のガジェットは五体。七両目の重要貨物室には敵はいないみたいだから、さっさと潰してとっととちび達と合流しなさい。 エリオにキャロ、九両目の敵は九体、ちょっと数が多いけど気合いと根性で乗り切るのよ」 操作をやり直しながらしながら現場のスバル達に通信を繋ぎ、激励の意味を込めて指示を出す。 ……パスワードを打ち間違い、エラーの壁にぶつかった。 「スターズF、五両目を奪還。ライトニングF、九両目に突入」 再度パスワードを入力し、ロングアーチにも状況を報告する。 ……指が誤って削除キーに触れ、これまでの苦労が白紙に戻った。 ティアナの中で、何かが切れた。 「だああああああああああああっ、もう! このポンコツ列車がああああああああっ!!」 髪の毛を両手でかき回しながら絶叫し、ティアナは八つ当たりするように操作パネルに拳を叩きつけた。 緊急操作マニュアルに羅列された二十以上の手順を再び最初からやり直し……自身の過失が原因とはいえ、これは流石に気が滅入る。 大体電車などどうせ走るか止まるか車内放送を流すか程度の機能しか存在しないというのに、その操作に何故ここまで煩雑な手順が必要となるのか。 犯罪防止のためか何かは知らないが、無駄なハイテクなど害悪以外の何物でもない。 やってられるか……据わった眼でマニュアルのウィンドウを睨みつけ、ティアナはデバイスを取り出した。 クロスミラージュの銃身が怯えたように一瞬震えるが、頭に血が上ったティアナが気付くことは無かった。 わざわざ正攻法で付き合ってやる義理など、考えてみれば無いではないか。 目には目を、ハイテクにはハイテクを――クロスミラージュを制御システムに介入させ、ガジェットと同じやり方で車両の制御を乗っ取ってしまえば万事解決。 インテリジェントデバイスに搭載されたAIは戦闘用、しかもクロスミラージュは最新型……ガジェットのような訳の解らないメカに出来て、自分の相棒に出来ない道理は無い。 デバイスの装甲をこじ開け、必要な配線を引き出す。 機械の扱いは簡易デバイスを製作する際に多少は勉強した、ハードウェアを繋げるだけならば自分でも簡単に出来る。 ソフトウェアの接続と掌握――言い換えればハッキングの作業自体は完全にクロスミラージュ頼みであるが、そこは相棒の性能を信じるしかない。 ≪M……master?≫ クロスミラージュが困惑したように声を上げるが、ティアナは無視して作業を続ける。 ガジェットの残骸から拝借したケーブルにデバイスを繋ぎ、制御機器に接続して準備完了。 「クロスミラージュ! ちょっとハッキングでメインコンピュータを乗っ取って、大至急列車を止めなさい!!」 まるでイソギンチャクのように無数のコードやケーブルに繋がれ、急造のハッキングツールと化した己のデバイスに、ティアナは高らかに命じた。 こいつはデバイスを一体何だと思っているのだろーか……所有者の破天荒な行動に些か呆れながらも、クロスミラージュは主の命令を忠実に実行する。 ――メインシステムにアクセス、プロテクトを突破 ――制御プログラムに介入、システムの掌握完了 リニアレールの制御奪取を完了させたクロスミラージュが停止シグナルを送信し、列車が急ブレーキをかけて減速する。 まるで地震でも起きたかのように車両が大きく揺れ、窓の外の景色が動きを止める。 ≪Order complete≫ 「ご苦労」 命令完遂を報告するデバイスに労いの言葉を短く口にし、ティアナは大きく安堵の息を吐いた。 さて……クロスミラージュに繋いだコードやケーブルを引き抜きながら、ティアナは今後の段取りを思案する。 まずはロングアーチに列車停止を報告、ついでにスバル達の戦闘状況も伝えておけば効率的だろう。 その後はスバルと共にエリオ達と合流……否、先にスバルを合流させて後から追い着いた方が良いだろうか。 各車両内の映像を映すウィンドウ群を見回すティアナは、その時ふと眉を顰めた。 エリオ達の戦う第九車両からの映像が、いつの間にか途絶えている。 受信機の故障か、それとも戦闘の余波でカメラが壊れたのか……十中八九後者だろーなーとエリオ達の荒っぽい戦い方に嘆息を零しながら、ティアナは二人に通信を繋ぐ。 「エリオ? キャロ?」 二人の名を呼びかけてみるが、しかし通信機から返るのは雑音のみ……念話でも同じことを試してみたが、結果は変わらなかった。 敵のジャミング……ティアナの顔から血の気が引いた。 AMFを全開にすれば、通信魔法の妨害など造作も無い。 その思考に至らなかった自分自身を責めながら、ティアナは唯一通信の繋がる仲間――スバルに叫ぶ。 「スバル! エリオとキャロを助けて!!」 同時刻、エリオとキャロは半壊した第九車両で、巨大な敵と対峙していた。 比喩ではない……自動扉を周囲の壁ごと突き崩し、ガジェット掃討も佳境に入っていた第九車両に、それは突然姿を現した。 車両の幅の半分以上を塞ぐ球形の巨体――これまで自分達が倒してきたガジェットとも、外でなのは達が戦う敵とも異なる、しかし明らかにその面影を持つ新手の敵。 ガジェットの新型、卵型の通常タイプをⅠ型、三角形の航空型をⅡ型とするならば、これはさしずめⅢ型と言ったところだろうか。 この車両に残存していたガジェットⅠ型数体を周囲に従え、威圧するように自分達と相対する未知の敵に、エリオ達の顔が緊張に強張る。 ガジェット達も敵を警戒しているのか、攻撃を仕掛ける様子も先の車両に進攻する気配も見せない。 まるで時が止まったかのように続く沈黙、しかしこのまま永遠に睨み合いで時間を浪費する訳にもいかない。 「キャロ、頼むよ」 「任せて、エリオ君」 パートナーの言葉に力強く首肯し、キャロは呪文の詠唱を始める。 エリオの足元に薄桃色の魔方陣が展開され、くるくると独楽のように回転しながら輝きを増していく。 「What I want is the chain of bonds, What I wish is the sword of justice.(我が請うは縛めの鎖、我が求めるは正義の剣) What I hope is the bliss of my edge, what I desire is ruin of my enemy.(我は望む幸運を我が刃に、我は欲する破滅を我が敵に)」 朗々と紡がれるキャロの言の葉を聞きながら、エリオは腰を落としてストラーダを構えた。 両脚にぐっと力を込め、穂先の切っ先に魔力を集束させる。 穂先の付け根のカバーがスライドし、カートリッジの空薬莢が排出される。 放物線を描いて落下する空薬莢が、からりと音を立てて床に転がり……瞬間、エリオが動いた。 地を穿つような勢いで床を蹴り、デバイスのブースターを点火する。 ほぼ同時に、キャロの呪文も完成していた。 「アルケミックチェーン・デュアルブーステッド!!」 車両内に凛と響き渡るキャロの声と共に、床に敷かれた魔方陣から数本の鎖が〝高速で撃ち出され〟た。 術式構成の段階で「加速」と「突撃強化」の補助効果を組み込まれ、無機物操作の魔法によって召喚と同時に矢のように射出された錬鉄鎖が、ガジェットⅠ型を正確に射抜く。 一つ眼に灯る光が消え、鎖に貫かれたまま力なく床を転がるガジェットⅠ型に一瞥も向けることなく、エリオはただひたすらに目の前の敵――ガジェットⅢ型へと突き進む。 ≪Sonic――≫ デバイスの無機質な呟きと共に、エリオの世界がギアを切り替えた。 音が消え、まるで早回しのビデオのように加速しながら流れ過ぎる景色……神速の領域、時の流れから切り離された孤独な世界で、エリオはただひたすらに前進を続ける。 走る、奔る、駆ける、翔ける……。 敵の懐に飛び込む、己の間合いに捻り込む……辿り着いた。 床を踏み締める、槍を振り上げる、そして……飛ぶ! ≪――Move≫ 再度耳朶を打つストラーダの声……音を取り戻し、世界は正常な時の流れに帰還した。 一瞬でガジェットⅢ型の頭上に移動したエリオが、渾身の力を込めてデバイスを打ち下ろす。 大上段から振り下ろされたエリオの斬撃を、ガジェットⅢ型は帯のようなアームを交差させて受け止めた。 魔力の刃と鋼の鎧がぶつかり合い、火花を上げて拮抗する。 堅い……予想外の敵の頑丈さに歯噛みしながら、エリオは更に槍を捻じ込む。 魔力を纏った鋼の切っ先が敵のアームを貫通し……刹那、逆三角形に並んだガジェットⅢ型の三つ眼が不気味に輝き、放たれた光線がエリオの身体に突き刺さった。 「ぐぁっ……!」 呻き声と共に吹き飛ぶエリオを、ガジェットⅢ型のアームが絡め取るように拘束した。 容赦なく身体を絞めつける敵の拘束に骨が軋み、エリオの口から苦痛の声が漏れる。 「エリオ君!」 捕われたパートナーに悲鳴を上げ、エリオの元へと走り出すキャロの足に、黒い触手が絡みついた。 転倒するキャロの目に映ったものは、身体を貫く鎖を引きずりながらゆっくりと起き上がる、破壊した筈のガジェットⅠ型。 倒し損ねていた……キャロの瞳が愕然と凍りつく。 再起動したのか、最初から死んだフリをしていたのかは定かではないが、どちらにしても形勢が逆転してしまったことに変わりは無い。 危機に陥る主の前にフリードが盾のように立ち塞がり、口元に火球を生み出す……が、生成された炎の弾丸は、しかしその直後に魔力レベルで霧散した。 AMF……キャロの顔が絶望に染まった。 必死に術式を構築しようと試みるが、魔力は欠片も結合しない。 足掻くキャロを嘲笑うように、ガジェットⅠ型は触手をのばしながら獲物ににじり寄った。 割れた単眼が鈍く煌き、コード状の触手が嬲るようにキャロの身体を這い回る。 「い、やぁ……!」 掠れたような悲鳴がキャロの口から漏れ、大粒の涙が頬を零れ落ちる。 その瞬間、エリオの中で何かが切れた。 「ゴミ屑風情が……キャロを、放せええええええええぇっ!!」 怒りに染まった咆哮と共に、突如エリオの全身から激しい電光が迸った。 まるで爆発するようにバリアジャケットが弾け飛び、衝撃でガジェットⅢ型のアームが千切れ飛ぶ。 敵の拘束から解放されたエリオはガジェットⅢ型に背を向け、キャロを陵辱するガジェットⅠ型へと走り寄った。 狂犬のように牙を剥き出し、猪のように直線的な突進を仕掛けるエリオを嗤うように、ガジェットⅠ型が光線を放つ……が、 「鬱陶しい!!」 怒号と共にエリオの体から放たれた電撃の牙が、まるで食い千切るように敵の光線を消し飛ばした。 守りたいと思った人がいた、護ると決めた人が出来た。 いつも笑っていて欲しいと願った、だから自分がその笑顔を守ろうと誓った。 故にエリオは……キャロを泣かせたあの敵を、全力全開で殺すことを心に決めた。 どくん……と、ストラーダの奥で何かが鼓動したような気がした。 「うおおおおおおおおおおおおっ!!」 雄叫びを上げながらエリオはガジェットⅠ型に肉薄し、デバイスを力任せに突き刺した。 体内の魔力の全てを電気に変換し、ストラーダ表面を伝えて敵の体内に叩き込む。 内部機構を直接破壊され、黒煙を吐きながら完全に機能を停止したガジェットⅠ型を、エリオは槍に突き刺したまま振り上げ、まるで鉄槌を振るうように床に叩きつけた。 まるで硝子細工のように粉砕され、破片を撒き散らしながら爆発するガジェットⅠ型に、キャロが安堵したように吐息を零す。 「ありがとう、エリオ君……」 涙の残る顔で控えめに笑うキャロに応えるように、エリオは荒い呼吸を整えながら満面の笑みで親指を立てた。 その時、エリオによる仲間の破壊を静観していたガジェットⅢ型が、再び動いた。 無機質な――しかしどこか獲物を狙う猛禽のような鋭い光が三つ眼に灯り、撃ち出された三条の光線がエリオの背中を襲う。 しまった……迫り来る敵の攻撃に、エリオは愕然とした表情を浮かべた。 キャロを助けることで頭がいっぱいで、背後の敵のことまでは考えていなかった。 身を護るバリアジャケットは既に無く、回避も電撃による相殺や防御陣の展開――魔力が残っていれば、の話であるが――もこのタイミングでは間に合わない。 やられる……自身の甘さと現実の残酷さに歯噛みするエリオの前に、青い影が突如滑り込んだ。 「スバルさん……」 まるで盾になるように自分の前に立ち塞がる白い背中、まるでヒーローのように自分の窮地に颯爽と現れた仲間――スバルの名を、エリオは思わず呟いていた。 ≪Protection≫ 術式発動を告げるデバイスの声と共に、スバルは掌を前方へと突き出す……が、AMFが展開されているのか防御陣が出現することはなく、三発の光線が正面からスバルを直撃した。 「ぁ痛っ!?」 「「スバルさん!?」」 予想外の事態にスバルは小さく悲鳴を漏らし、エリオとキャロは唖然と声を上げる。 しかし第五車両の時には敵の不意打ちにあっさりと吹き飛ばされたスバルだったが、その際の教訓を生かしたのか、今度は踏鞴一つ踏まずに持ち堪えてみせた。 文字通り身を盾にして仲間を守り抜き、スバルは背中越しにエリオ達を振り返る。 「二人とも、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ!」 笑いながら紡がれたスバルの科白は、根拠も説得力も――数秒前に本人があっさりと敵の攻撃を喰らったこともあり――皆無だったが、何故かエリオ達の心に染み入った。 格好良い……と、素直に思えた。 「さぁ、二人とも……皆で玉コロ退治といこーか!!」 不敵な笑みと共に轟くスバルの号令と共に、反撃が始まった。 天元突破リリカルなのはSpiral 第10.5話「初めて会っていきなりだけど、一緒に頑張ろうね(後編)」(続) 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/284.html
【反目のスバル氏の作品】の参加者に与えられた支給品の経過 【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸】 【デイバック】【支給品一式】は【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】が入手しました。 コルト・ガバメント@魔法少女リリカルなのは 闇の王女 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】↓【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】 カード@魔法少女リリカルなのはA’s 【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸】により全消費 録音機@なのは×終わクロ 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】↓【F-6 レストラン前(ミラーワールド)】に放置されたデイパック内↓【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【殺生丸@魔法妖怪リリカル殺生丸】 【デイバック】【支給品一式】は全て消滅しました。 童子切丸@ゲッターロボ昴 【F-7】市街地に損傷(大)で放置↓【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸】↓破壊後に【D-4学校の校庭】に放置 スタングレネード@現実 【殺生丸@魔法妖怪リリカル殺生丸】により1/3消費↓全品消滅 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】 【デイバック】【支給品一式】は焼失しました。 洞爺湖@なの魂 焼失 小タル爆弾@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER 【ディエチ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】により1個消費↓焼失 インテグラのライター@NANOSING 焼失 【C.C.@コードギアス 反目のスバル】 【デイバック】【支給品一式】は【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】が入手しました。 ブリッツキャリバー@魔法妖怪リリカル殺生丸 【ゼスト・グランガイツ@魔法少女リリカルなのは 闇の王女】↓【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】 フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【高町なのは(StS)@魔法少女リリカルなのはStrikeS】 カードデッキ(インペラー)@仮面ライダーリリカル龍騎 破壊 【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反目のスバル】 【デイバック】【支給品一式】は【E-5】に放置されました。 ヴァッシュの銃@リリカルTRIGUNA's 【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反目のスバル】により6/6消費↓消滅 翠屋の制服@魔法少女リリカルなのは 【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【F-6 レストラン前(ミラーワールド)】に放置されたデイパック内↓【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【E-5】に放置 St.ヒルデ魔法学院の制服@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【F-6 レストラン前(ミラーワールド)】に放置されたデイパック内↓【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【E-5】に放置 【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル】 【デイバック】【支給品一式】は焼失しました。 ヴィンデルシャフト@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】↓【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】↓【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】↓【F-6 レストラン前(ミラーワールド)】に放置されたデイパック内 ゼロの銃@コードギアス 反目のスバル 全弾消費後破壊 マシンガンブレード@仮面ライダーカブト 【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】全弾消費後【F-6】に放置 【セフィロス@リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【デイバック】【支給品一式】は【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】が入手しました。 ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【F-3】市街地のどこかに吹き飛ばされ放置↓【柊かがみ@なの☆すた】 イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのは STS OF HUNTER 【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】↓【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】 【アンジール・ヒューレー@リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING】↓【H-6 川】に放置されたデイパック内↓【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【F-6 レストラン前(ミラーワールド)】に放置されたデイパック内↓【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】↓【E-5】に放置 田中ソード@ナナナーナ・ナーノハ 【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】↓破壊
https://w.atwiki.jp/2chfigma/pages/244.html
No.087 エリオ・モンディアル バリアジャケットver. (Erio Mondial Barrier Jacket Ver.) 「大丈夫!スピードだけがとりえだから!」 情報 作品名 魔法少女リリカルなのはStrikerS 価格 3,500円(税込) 発売日 2011年02月19日 商品全高 約115mm 付属品 表情:笑顔、叫び顔 手首:×10(握り手×2、開き手×2、別表情開き手×2、持ち手×2、別角度持ち手×2) 武器:ストラーダ・スピーアフォルム、ストラーダ・デューゼンフォルム用本体・石突、ストラーダ・ウンヴェッターフォルム用本体・石突、エフェクト付ストラーダ先端 共通付属品(スタンド、スタンド用アーム、収納袋、di stage用カバースキン) その他:交換用前髪、アーム用ジョイント 写真 キャラクター概要 機動六課・ライトニング分隊のガードウィング担当。 戦闘では高い機動力と魔力資質を生かした突撃・殲滅型としてのスタイルでスバル・ナカジマと共に前衛を勤める。 6歳の時フェイト・T・ハラオウンに過去の任務で研究施設から保護され、8歳まで時空管理局本局の保護施設にてすごしていた。 同じくフェイトの保護下にあったキャロ・ル・ルシエとは機動六課配属時の初対面以降仲間の介添えもあって少しずつ交流を重ね親密になっていく。 正体はフェイトと同じく当時すでに違法研究とされていたプロジェクトFで生み出された特殊クローンでありオリジナルのエリオは既に病死していた。 機動六課解散後は自然保護隊に希望配属され、キャロと共に竜騎士として密猟者の摘発や自然保護業務にあたっている。 商品解説 スバル、ティアナに続きライトニング分隊メンバーの発売も決まり、いよいよコンプリートに向けて動き出したなのはStSからの登場。 少年系キャラとしては2年以上の開きがある鏡音レンからの技術進歩に期待したいところ。 ストラーダは劇中に登場した3形態を再現可能であり、本体のボリュームもあってかなのはシリーズとしては最高額のアイテムとなっている。 良い点 悪い点 不具合情報 関連商品 高町なのは バリアジャケットver. フェイト・T・ハラオウン バリアジャケットver. 八神はやて 騎士甲冑ver. シグナム 騎士服ver. シャマル 騎士服ver. ヴィータ 騎士服ver. スバル・ナカジマ バリアジャケットver. ティアナ・ランスター バリアジャケットver. キャロ・ル・ルシエ バリアジャケットver. コメント 案内まだか?雑誌にも公開されてないKOS-MOSが案内開始した為、次はガハラさんだそうだし。コイツはなのはキャラでも人気低いし発売中止は確定だな。仮に発売は中止しなくとも分配確定 -- 名無しさん (2010-10-07 23 30 46) 普通に発売されております。とはいえ他で出てくる可能性が低いのは事実だから今のうちに買っておくか。 -- 名無しさん (2011-08-02 11 52 44) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/191.html
ミウラ・リナルディ 八神家道場の秘蔵っ娘 八神はやてが主宰する八神家道場の通い弟子。 ザフィーラを師匠に、鍛錬の日々を送っている。 ヴォルケンリッターのヴィータ、シグナム、シャマルたちにも、ちょくちょく稽古をつけてもらっており、技に磨きをかけているようだ。 反面、はやてやリインフォーズが作るおいしいおやつを楽しみにしている子供っぽい一面ももっている。一人称はボク。 NEXT ISSUE 稽古中に見せたハイスピードの蹴打。力加減をコントロールできないところがあるようす シャンテ・アピニオン お転婆盛りなシャッハの愛弟子 聖王教会本部に所属する修道騎士で、シスターシャンテの名をもつ。 シャッハが愛弟子として鍛えているが、彼女曰く性格的にも礼節面にも問題があると、嘆かせている。 インターミドルの参加は、もともとシャッハに許可されていなかったようだが、勝手に参加申請書を出してしまった。 ヴィヴィオとは知り合いのようで、陛下と呼ぶ間柄でもある。 NEXT ISSUE 「すんごい迅さ」の能力とは?そのスピードは眼で追うことができないらしいが…… ハリー・トライベッカ 無流派の砲撃番長(バスターヘッド) ミッドチルダ南部エルセア第9地区の学校に通う高校生。 自分のことを「オレ」と言うように、かわいらしい容姿とはじゃっかんのギャップがあるが、仲間思いの性格のようで、 リーダーと呼び慕われている。昨年のインターミドルでは、都市本戦で敗北。 その敗北がよっぽど悔しかったのか、思わず声をあげて泣いてしまうほど気にしているようだ。 NEXT ISSUE 戦いとなれば番長オーラを開放。町で出会ったコロナとリオの表情を一変させてしまった ヴィクトーリア・ダールグリュン 雷帝の血を引くお嬢様 ミッドチルダの豪邸に住んでいるお嬢様。だが、それに甘えたところは見られず、 自室はトレーニング用具に囲まれた生活をするほど、鍛錬には余念がないようすだ。 旧ベルカ王のひとり、「雷帝」ダールグリュンの血をほんの少しだけ引いており、 インターミドルでは、旧ベルカの最強覇者は雷帝であることを知らしめる、という野望をもっている。 NEXT ISSUE 実績が示す通りの実力者。自信過剰な物言いにも自分のレベルに対する信頼が伺える ジークリンデ・エレミア 鉄腕の現役最強ファイター いまだすべてが謎に包まれているが、インターミドル世界代表戦で優勝した実績が示すように、 ミッドチルダの現役最強の称号を持つ実力者だ。 総合魔導戦技というファイトスタイルから、相手がどのようなスタイルをもっていようと対応して、 打ち負かすことができる資質はあると思われる。 今大会、最注目の選手である事は間違いない。 NEXT ISSUE フードを被り一心不乱にトレーニングに汗を流す。王者とはいえ、おごりは感じられない ここからは、大会のQ&Aです。 インターミドル豆知識 ① Q,正式名称は? A,「DSAA(ディメンション スポーツ アクティビティ アソシエーション)公式試合 インターミドルチャンピオンシップ」と言います。 ② Q,組み合わせ方法は? A,地区選考会をまず通過する必要があります。そこで健康チェック、体力テスト、簡単なスパーリング実技をした結果で、 最終的な地区予選の組み合わせが決定されます。 ③ Q,地区予選はどのように行なわれますか? A,地区選考会の結果で「ノービスクラス」と「エリートクラス」に区分けされます。 エリートクラスには、地区選考会の優勝者や過去に入賞歴がある者が振り分けられます。 ④ Q,都市本戦とは何ですか? A,まず17区に分けられた地区予選で、そこを勝ち抜いた者から20人の代表が選ばれます。 都市本戦は、前回の都市本戦優勝者と合わせた21人で戦うことになります。 ⑤ Q,都市本戦の後は? A,ヴィヴィオの参加するミッドチルダ中央部ほか、2つの都市本戦で優勝した計3人で、都市選抜が行なわれます。 その後各地の都市選抜優勝者同士で、世界代表戦が行なわれます。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1439.html
訓練という名前の退屈な日々が続いていく。 ひよっこは相変わらずひよっこで、それを見るたび空虚な思いは加速度を増して、 どうにかしてしまいそうな心を蘇ったアルファにすがりついて必死に繋ぎとめる日々。 毎日毎日夜中の訓練所の使用許可を申請しては、不満だらけの虚しい戦いを1人続ける。 そんな日が繰り返されて、気がどうにかなりそうだったとき、 機動六課に響き渡ったのは日常を侵す警報だった。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第4話 開幕 父さん、ギン姉、お元気ですか?スバルです。 あたしとティアがここ、機動六課の所属になってからもう2週間になります。 本出動はまだ無くて、同期の陸上フォワード4人と、 変わった人、本人はハンターとか言っていました、1人は朝から晩までずーっと訓練付け。 理由をつけてハンターのはんたさんはよく私達との訓練から抜けてしまうのだけど。 それは置いておいて、あたし達はまだ一番最初の第一段階です。 部隊の戦技教官なのはさんの訓練はかなり厳しいのですが、 しっかりついていけばもっともっと強くなれそうな気がします。 当分の間は24時間勤務なので前みたいにちょくちょく帰ったりできないのですが、 母さんの命日にはお休みをもらって帰ろうと思います。 じゃぁ、またメールしますね。 ―――――スバルより。 追伸となるのですが、機動六課に幽霊がでるそうです。 なんでも夜の訓練所が勝手に動き出して、 誰もいないのに物音がしたりビルが真っ二つになったり爆音が響き渡ったり なんだかとてもすごいことになっているらしく怖くてとても近づけません。 なにかご存知ですか? 「今日もやるぞー!!」 「「おーっ!!」」 父さん達のところにそんなメールを出して、訓練着に着替えたあたしは 隊舎の前で声を上げた。 あたしの声に合わせて元気よくエリオとキャロが声を上げてくれる。 ティアはどこか恥ずかしそうな顔でこっちを見ていたから、 あたしはティアに向けてにこっと笑ってみた。 そういえばはんたさん、正直まだ怖くって呼び捨てにするなんて恐れ多くて『さん』付け にしてしまう、はいつも早起き、というよりも隊舎で見かけたことあったっけ?、で いつも私達よりはるかに早くから訓練場にいる。 デバイスを不思議な円柱状の巨大な容器、ドラム缶というらしい、の形にして 右へ左へと押しては往復するのを繰り返して待っていることが多いのだけど。 『横にして転がしたほうが楽なのに』とあたしが尋ねたら、 はんたさんに『ドラム缶は押すに決まっているだろ!』なんて力いっぱい答えられたけど。 その作業をしているはんたさんがどこか満足げな雰囲気で・・・・・・。 いったいなにが面白いんだろう? 今度あたしもやらせてもらおうかな。 「はい、せいれーつ。」 純白のバリアジャケットに身を包んだなのはさんの声に足を止める。 今日の訓練も大変だった。 あたし達みんな、息を切らせ汗を滴らせ土塗れになっている。 あたしは深く息を吸い込んで呼吸を整える。 「じゃぁ、本日の早朝訓練ラスト1本。みんな、まだがんばれる?」 「「「「はい。」」」」 「じゃあ、シュートイベーションやるよ。レイジングハート。」 「All right. Axel Shooter.」 返事を返したあたし達の前で、なのはさんの周りにたくさんの魔力弾が作られていく。 それらが高速でなのはさんの周囲を飛び交い始めた。 「わたしの攻撃を5分間、被弾なしで回避しきるか、わたしにクリーンヒットを入れればクリアー。誰か1人でも被弾したらまた最初からやりなおしだよ。がんばっていこう!!」 「このぼろぼろ状態でなのはさんの攻撃を捌ききる自身ある?」 「ない!!」 「同じくです。」 ティアの言葉に躊躇いもせず即答したあたしにエリオが同意する。 ティアならなにかいい考えがあるんだろう。 あたしはティアを信じている。 「じゃぁ、なんとか1発いれよう。」 「はい。」 「よーし、行くよエリオ!!」 「はいっ!!スバルさん!!」 ティアの言葉に返事を返し、同じ前衛のエリオへ声をかけながら、 あたしは右腕につけた母さんの形見のアームドデバイスであるリボルバーナックルを 左手でうちならし、エリオがストラーダを構える。 「準備はOKだね。それじゃ、Ready Go!」 「全員絶対回避。2分以内で決めるわよー!!」 なのはさんのアクセルシューターが開始の合図と共に撃ちだされると同時に、 ティアが早口であたし達にそう告げる。 ティアの言葉に掛け声1つで返事を返したあたし達は飛来するアクセルシューターを 各自で避けながら散開した。 回避してすぐにあたしはウイングロードを展開する。 「アクセル」 「Snipe-Shot」 なのはさんの声に合わせて、なのはさんのデバイスのレイジングハートが 周囲を飛んでいた魔力弾をあたしとティアに向けて飛ばす。 物凄い速さの魔力弾。 だけど、そっちはティアが作ってくれた幻。 本命はこっち。 「うぅぅぅぅっりゃぁぁぁぁーー!!!!!!」 ウイングロードで道を作り、なのはさんの上からリボルバーナックルで殴りかかる。 だけど、なのはさんのシールドに簡単に止められる。 加速して押し切れるか。 しかしそれよりも早く、どこかに置かれていたなのはさんの魔力弾があたし目掛けて 高速で飛んでくる。 慌ててローラーブーツに急制動をかけさせて、後ろに飛びのいたあたしの目の前を 魔力弾が飛びぬけていった。 「うん、いい反応・・・・・・。」 なのはさんはそう言ってくれたけど、自分で展開したウイングロードについた傾斜と 咄嗟に飛びのいたせいできちんと着地できなかったことから、 ローラーブーツから火花を散らせてウイングロードを駆け下りるハメになる。 なんとか体勢を立て直したけれど、後ろからはなのはさんの魔力弾が物凄い速度で 追いかけてくる。 「バカ。スバル。危ないでしょ!!」 「ごめん・・・・・・。」 「待ってなさい。今撃ち落すから・・・・・・。」 「アルファ、先ほどの幻への対応策は?」 「幻影魔法と言うようです。新規情報として登録します。 対応策は飽和攻撃を始め、無数に存在します。マスターの思うとおりで問題ありません。 ティアナ、デバイスよりミスファイア。新規情報として保存します。」 「こちらでもカートリッジにミスファイアが起こるのか。」 ビルの上でドラム缶になったアルファを押す手を止めて、 アルファが送り続ける様々な情報を視界に走らせながら スターズとライトニング4人の通信と動きを観察していた。 事前にやることを言うようになったティアナは少しはましになったみたいが、 それでも一番肝心な『どうやって』を省いているあたり殺したくなる。 それが無ければ行き当たりばったりと変わらないだろう。 『ご丁寧に』『わざわざ』なのはが待っていてくれたというのに。 スバルのほうもウイングロードとかいうあれは便利だが、 あれではブルズ・アイの前に殺してくれと全力で叫んでいるようなものだ。 もう少し幅広くや密集させるなど展開方法を変えれば戦略が増えるだろうに。 ただ、思ったよりもスバルの格闘技能は高い。 そこに彼女の師か目標とする者の存在を感じる。 やはり明確な目標があると上達が早くなるのか。 「なのはも大変だな。完膚なきまで叩きのめすわけにもいかないなんて。 理由をつけて抜けておいて正解だったか。」 「はい。マスター。最初の1撃目の時点で回避せずに全弾迎撃後、なのはを撃墜可能です。」 「俺がなのはの代わりにあそこにいたら?」 「スターズ及びライトニングを10秒以内に撃墜可能です。」 「『やってみせ、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば人は育たじ』とか 言ったのは大破壊前の誰の言葉だったか。さて、キャロとエリオがなにかするみたいだ。」 「ブーストアップアクセラレイション。機動力強化のようです。」 「スバルのほうにブーストしなかったのは経験不足のせいか、 それともライトニングというチームで戦略を考えたせいか・・・・・・。 いずれにせよ、キャロにもう少し判断力がつけばいいハンターとなるだろう。 エリオのほうもまだまだ伸びそうだ。 『スピードだけが取り柄だから』とか言ってなのは目掛けて突っ込んでいったが、 あの速度を維持したまま戦えるようにさえなれば、 相手が動く前に全てを終わらせられるだろう。 さて、これで訓練も終わりだな。なのはが加減してエリオの攻撃を受け止めて、 先端が突き抜けてかすったとでもして終了だろう。アルファ、G3A3。」 「了解しました、マスター。」 ドラム缶になったアルファの上に手を置きながらそう宣言すると、 重厚な金属音を響かせながら稼動と変形を繰返し、 慣れ親しんだ形となって右手に収まった。 なのは達も予想通りの結末で終わったようだ。 「それじゃ今朝はここまで、いったん集合しよ。」 「アルファ、サディスト設定でここからあそこの5人を狙うなんてどうだろう?」 なのはの言葉にふっと頭をよぎった提案をアルファにしてみた。 バトー博士の言葉を信じるなら、サディスト設定である限り死なないようだし、 たいした怪我にもならないそうだ。 油断しすぎの彼らにちょっとした教育というものをしてあげる。 実にいい考えに思えた。 「マスターが言うところの『面倒』が増えると考えられるためお勧めしかねます。」 「そうか。ならばやめておこう。しかし、いつまでこんな退屈な日が続くんだろうな。」 「分かりません。マスター。また、スバルの装備ローラーブーツが大破したようです。 同時に、なのはが実戦用新デバイスに切り替えかとスターズおよびライトニングへ 告げています。」 淡々としたアルファの言葉を聞きながら、足早になのは達のところへ歩を進める。 大破。 ろくに揺れ動かなくなりつつある心をひどく郷愁的にする懐かしい言葉だ。 数えることもできないくらい幾度と戦車のCユニットに表示されては、 機械油塗れになって付き合ってきた言葉だ。 破損も大破も無縁にしてくれたバトー博士に感謝したい。 特にそれがアルファの身体であるだけに・・・・・・。 さて、大破した以上、機動六課としても自作させるなんてことはせず、 デバイスとして新たに作り直すだろう。 しかし、スバルの性格じゃバトー博士のトモダチになれる可能性は低いだろう。 ティアナならなおさらに。 案外、エリオとキャロは普通にトモダチになりそうだ。 あの世界に言葉の意味が分からないくらいの幼子が溢れていたなら、 バトー博士はトモダチに囲まれることができたのかもしれない。 未練がましくて、今更で、絶対にありえない想像をして思わず笑っていた。 そもそもあの世界に弱者たる子供が溢れられるはずがないだろうに。 「どうして女はシャワーを長々と浴びていられるんだろうな?どう思う?」 「そ、それは・・・・・・その・・・・・・・いろいろ・・・・・・あるんじゃないでしょうか。はんたさん。」 「例えば?」 「そ、それは・・・・・・・。」 「冗談だよ。エリオ。ペット君もキャロ達に告げ口しないでくれよ。」 「キュクルルルゥ。」 早々にシャワーを終えた僕とはんたさんがロビーで時間が過ぎるのを待ち続ける。 僕が『みんなまだかな』と無意識に呟きかけたとき、 不意にはんたさんからそんな声をかけられた。 僕にしてみれば降って湧いたような問いかけに慌てるしかできない。 冗談だと言ってくれたけれど、かけらも変わらない表情に本当に冗談なのか聞きたくなる。 藪蛇になりそうで躊躇われるのだけど。 フリードにまで釘を刺しているところを見ると、 僕の退屈な様子に気を使ってくれたのかもしれない。 そうだ。 今まで聞きたかったことをこの機会に聞いておこう。 「そういえばはんたさん。いつも僕達の訓練の間、なにをしているんですか?」 「ドラム缶を押してるのさ。」 「ドラム缶?」 「そう、ドラム缶。」 「お、押す?」 「押すんだ。」 「どうして?」 「どうしてドラム缶を押すのか?という意味か? それともどうして訓練に参加しないかという意味か?」 「その両方です。」 「訓練が訓練にならなくなるから。」 「それはいったい・・・・・・。」 「エリオ達ー!!お待たせー!!」 スバルさんの声に一番聞きたかった部分が聞けずじまいだった。 『どうしてもっと遅く来てくれないんだ』と思わず言いかけて気がついた。 最初と考えが逆になってるよ、僕。 「うわぁ・・・・・・これが・・・・・・。」 「あたし達の・・・・・・新デバイス・・・・・・・?」 「そうでーす。設計主任、私。協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハート およびリイン曹長、それと本当にちょっとだけバトー博士。」 物凄く感動したような、驚いたようなスバルとティアナに私がそんな声をかけてあげる。 文句なしにバトー博士は天才だけど、さすがにあれは渡せないもんねぇ。 そんなことを考えていた傍らでエリオ君とキャロちゃんが疑問を口にする。 「ストラーダとケリュケイオンは変化なしかな?」 「うん・・・・・・そうなのかな・・・・・・。」 「違いまーす!!変化なしは外見だけですよ。」 「リインさん。」 「はいですー。」 「2人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですからー、 感触になれてもらうために基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです。」 「あ・・・・・・あれで最低限・・・・・・?」 「本当に?」 ああ、リイン曹長。 お願いだから本当のことを話せない雰囲気にしないで。 誰かとこのやるせない思いを共有したいのに・・・・・・。 そんな私の思いも知らず、リイン曹長が言葉を続ける。 「みんなが扱うことになる4機は、六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と 経験の粋を集めて完成させた最新型。部隊の目的に合わせて、そしてエリオやキャロ、 スバルにティア。個性に合わせて作られた文句なしに最高の機体です。 この子達はみんなまだ生まれたばかりですが、いろんな人の思いや願いが込められてて、 いっぱい時間をかけてやっと完成したです。ただの道具や武器と思わないで大切に、でも性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげて欲しいですー。」 「うん。この子たちはね。きっとそれを望んでいるから・・・・・・。」 そんな言葉を口にできた私、よくがんばったわ。 でも、どうしよう。 こんな雰囲気じゃ絶対に言えないよー。 山のように酷いスラングを絶叫するけど重量と魔力効率が同じで2倍強の性能のものを バトー博士がたった2時間程度で作りかけていたなんて・・・・・・。 メカニックスタッフ全員が卒倒しかけたし・・・・・・。 どんな干渉をしているのかスラングを言わないようにすると性能ガタ落ちするし!! 構造理解がメカニックスタッフ全員で考えても1割さえ理解できなかったし!! ふと、思い出したように周囲を見回してエリオ君が口を開いた。 「あれ?はんたさんは?」 「彼のデバイスはかなり特殊だから、バトー博士が付きっ切りで説明しているとこよ。 物凄く物凄く本当に物凄く難しくて聞いても絶対にわからないから、絶対に絶対に絶対に ぜっっっっっっっったいにバトー博士の研究室に行って説明してもらおうなんて 考えちゃだめよ。わかった?わかったよね?わかったはずよね?エ・リ・オ・く・ん。」 「は、はい・・・・・・。」 よし。 これだけ念入りに釘をさしておけば大丈夫だろう。 バトー博士の説明を聞いたらこの子達卒倒しちゃうんじゃないかしら? 「ごめんごめん、お待たせー。」 「なのはさん。」 「ナイスタイミングです。ちょうどこれから機能説明をしようかと。」 本当にナイスタイミングです、なのはさん。 あなたは女神です。 みんなから問い詰められていたら私は耐え切れずに真実を話してしまうところでした。 一方その頃、バトー博士デバイス研究室と掲げられた部屋ではバトー博士の説明が はんたに向けて行われている真っ最中。 「・・・・・・(中略:専門用語とその100倍以上のスラングが5分間飛び交ってます)・・・・・・ ということでオナニーを覚えたサルみたいにガチャコンガチャコンヤりまくって いくらでも激しいプレイをしてくれていいというファッキンシットなゴキブリ専用の クソッタレスペシャルダッチワイフデバイスから、アルチュウでヤクチュウのホーリー シットでクサレビッチなアルティメットクソッタレスペシャルダッチワイフデバイスに パワーアップしたんだ。少し早口だったかもしれないけどこんなに簡単にしたんだもの。 ゴキブチは当然分かったよね?」 「わからない。」 「ゴキブリーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!! やっぱりゴキブリは貧弱で脆弱でウジが湧いたクソッタレ脳味噌だよね。 まったく、3日はかかる説明をこんなに簡単にしてあげたのにわからないなんてさ。 でも大丈夫。なんたってボク達トモダチじゃないか。 例え何回わからないなんて言ったってゴキブリが理解できるまで 絶対に見捨てずにゴキブリの足りない脳味噌でもちゃんと理解しきるまで ちゃんと説明してあげるからね。それじゃ貧弱で脆弱な脳味噌のタンショーで ソーローでマザーファッカーなゴキブリでもわかるくらい簡単に1つ1つ説明するよ、 1.今までの機能はそのまま。 2.サポートデバイスというアルチュウでヤクチュウでクレイジーな仕様が追加。 3.ゴキブリが覚えているアルチュウでヤクチュウでデンジャラスな道具に変形可能。 4.宣言すれば変形してくれるけど相変わらず変形に4秒もかかる。 5.手榴弾なんかに変形して放り投げちゃったら拾いにいかないといけないマヌケ仕様。 6.錠剤にして飲んだらハラワタをえぐりだして取り出さないといけないマゾヒスト仕様。 7.大きさそのままだけどちょっぴり太ちゃって重さはたったの320kg。 8.お飾りに近かったバリアジャケットとかいうボロキレ装着機能を正式搭載。 9.それに伴い、ゴキブリらしい飛びっぷりに磨きが掛かるその場で羽ばたき機能搭載。 10.ゴキブリに理解できない空の飛び方は地面を這いずり回る感じで大丈夫な親切設計。 11.ボクの設計した不思議魔方陣MK.Ⅱでゴキブリ飛行+ヤクチュウを完全補助。 12.ボロキレにゴキブリのダッチワイフとおそろいの触覚をつけてあげた超気配り設計。 13.それに伴ってレーダーレンジ拡大など諸々のクソッタレ追加の親切設計。 14.ゴキブリが大好きなムチャに耐えうる虫の薄羽根ゴキブリボロキレ緑色仕様。 15.ゴキブリ以外に使ったら簡単にくたばっちゃう超絶ジャンキー設定。 16.ボロキレは『アルファ、セットアップ』というつまらない掛け声で展開。 17.今日のおやつはプリンが食べたい。 どうだい。言い足りない部分が物凄く物凄くものすっっっっっっっっごく たくさんあるけど貧弱で脆弱でウジが湧いた脳味噌のマザーファッカーなゴキブリでも 分かるようにここまで簡単にしてみたんだ。これだけ簡単にしたんだもの。 今度こそ分かったよね?ねぇ、ゴキブリ?」 「わかった。」 そう答えたとき、機動六課施設内に耳障りなまでの音が鳴り響く。 ディスプレイが赤くそまってALERTと表示されている。 無意識のうちに口の端がつりあがりはじめていた。 「機動六課フォワード部隊出動!!」 「それでどこまで壊していいんだ、八神はやて隊長どの?」 説明を終えた八神はやて部隊長に『はい』っと威勢よく答えた僕達の横から そんなはんたさんの通信が入った。 はんたさんの言葉の意味がわからない。 「リニアレール自体、レールが無ければ止まらざるを得ない。 ポイントを選んでぶち壊せば強制的に足は止められる。 動けなくなったリニアを蜂の巣にすればいい。 わざわざ敵が密集しているとわかる場所に突っ込む必要もないだろう。」 言われてみて気がついた。たしかにはんたさんが言っている通りだ。 どこにも矛盾らしいものもないし、足場の制限を強く受ける僕達フォワード4人には 非常に魅力的な作戦に聞こえる。 こんな見方もあったんだ。 すぐにこんなことを考えられるはんたさんはすごい。 「せやな。けどな、壊したら金がかかるちゅうことを忘れんといてな。 リニア本体よりも運行が潰れるレールのほうが高くつくんよ。わかってもらえるな?」 「ああ、実にとってもわかりやすい俺好みの親しみ馴れた答えをありがとう。 なのは、ヘリに直接向かう。そっちで合流する。」 お金か。 たしかにリニアを止めちゃうと物凄い金額の請求書が来るっていうけど。 もしもレールを壊しちゃったらどこ宛に請求書が来るんだろう? そんなことを考えながら、ヘリに向かって走りだしたなのはさん達の後ろを ストラーダを手にしながら僕も駆け始めた。 「おっかなびっくりじゃなくて思いっきりやってみよう。」 「「「「はい!!」」」」 ヘリの中、なのはとリインフォース(でよかったか?紹介受けた記憶がない。)が フォワード4人にアドバイスと激励をしている。 思ったよりも緊張していないところをみると案外・・・・・・って、 キャロがガチガチに緊張しているじゃないか。 ペットにまで心配されるほどに。 4人の中で一番マシなのだからドンと構えておけばいいだろうに。 「大丈夫?」 「ごめんなさい。大丈夫。」 そんな返事を返すキャロの口はこれ以上に無いほどに引き攣っている。 ティアナも手元のデバイスを見つめたまま動かない。 スバルも同様だ。 他人に気を使う余裕があるエリオはやはり伸びるな。 そういえば、このデバイスを渡されてぶっつけ本番になるのか。 それなら緊張するのも仕方ないで済ませたい。 だが、緊張を仕方ないで済ませられないのが実戦で、親しみなれた殺し合いだ。 到着するまでにどうにかなるかエリオがどうにかしてくれることを願っておくとしよう。 さて、この後を考えるとしよう。 まず、大前提として陸戦魔導師とかいうのはウイングロードのような 足場作りをしない限り、ろくに空が飛べないらしい。 その上で行うことができるひよっこ作戦の内容とすれば 4人がリニアに取り付いて前と後ろか外からと中で制圧といったところか。 モンスターも賞金首も空を飛ぶ増援を確実に入れてくる場面。 増援がきたらそっちの迎撃になのはとフェイトと間に合えばはやても追われるだろう。 帰りの足であるこのヘリは戦闘に参加できないと考えられる。 そうなると俺の役目は・・・・・・。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2225.html
人影にいち早く気がついたガロードはティファを連れて素早く岩陰へと隠れた。 岩に背を預けたまま顔を覗かせ、背後の様子を窺う。 彼の視線の先には四人の魔導師がいた。 内、二人は金髪の若い男。 もう二人は女性で、片方はどう見ても子供だ。 そのことに一瞬戸惑いを感じたがガロードだが、時空管理局は才能と本人の意志さえあれば入局出来ることを思い出す。 恐らくあの子供もそういう者の一人なのだろうと結論付け、再び様子見を始めた。 幸いにもまだ誰にも見つかってはいないようで、ガロード達を探して辺りを見回している。 更に後方にはガロードが潜入した白い船が停泊しており、それを見た彼には魔導師らの目的が容易に想像出来た。 (あいつら……ティファを連れ戻しに来たな) 一難去ってまた一難。 ガロードは緊張を解いた体を再度引き締め、GXを持つ手に力を入れる。 手と額にはうっすらと冷や汗が滲んでいた。 一方、ティファを追って来た四人の魔導師達――正確には二人の魔導師と二人の騎士―― 大破したガジェットを囲み、燦々たる有り様を目の前にしていた。 「I型とは言え、AMFを持ったガジェットをここまで見事に破壊するとはな」 その内の一人、ヴォルケンリッターが将・シグナムはその場にしゃがみ込み、ガジェットの破損具合を見極めていた。 ガジェットの状況や傷口から、破壊した人物の情報を少しでも得るためだ。 先程まで激しく燃えていたであろう炎も今は納まり、今は黒い煙だけが立ち上っている。 しかし破損状況は思ったよりも酷く、ガジェットの残骸から得られる情報は無いに等しかった。 唯一解ったことと言えば、鋭利な刃物で両断されたということ位。 ある意味予想通りの結果に溜め息をつき、シグナムは立ち上がった。 「こりゃ、久々に骨のある相手と戦えそうだぜ!」 その横で、白と赤が目立つバリアジャケットを着た魔導師が己の闘志を燃え上がらせていた。 彼の名はウィッツ・スー。 ジャミルに傭兵として雇われおり、二丁のライフル銃型ストレージデバイス『ガンダムエアマスター』を操るフリーの魔導師である。 根が熱い性格であるウィッツは強い相手と戦えるとあり、任務を忘れて気分を高揚させていた。 そんなテンションの上がるウィッツを、少し離れた所から冷めた目で見ている魔導師がまた一人。 「ウィッツの奴、張り切っちゃってまぁ。やることだけちゃっちゃとやって、ギャラ貰うのが大人じゃないのかねぇ?」 濃い緑のバリアジャケットを身に纏い、腕、肩、足など体中を兵器型のデバイスで武装しているのは、ウィッツと同じくフリーランスで魔導師をやっているロアビィ・ロイ。 体中に装備された様々な兵器型デバイスの管制・運用を行っている高処理性能ストレージデバイス『ガンダムレオパルド』の所有者で、彼もまたジャミルに腕を買われ雇われていた。 ウィッツとは対照的にクールな性格のロアビィは敵の魔導師に大して興味がなく、一見するとやる気がないようにも見える。 「お前! 口動かしてないでさっさと探せよな!」 「はいはい、分かってるって」 その姿勢が癪に障ったのか、すぐ側でティファの捜索をしていたヴィータはロアビィに向かって怒声を浴びせた。 愛機グラーフアイゼンを振りかざして懸命に威嚇するも、残念な事にあまり怖くない。 ロアビィはヴィータを軽く受け流し、ティファの捜索を再開した。 四人はゆっくりと、ゆっくりと、ガロード達へ着実に近づいて行く…… 第二話「あなたに、力を…」 (来る……っ!) スラッシュフォームに変形させたGXを握り、ガロードはシグナム達の動きを伺っていた。 少しずつ近づいてくると同時に緊張も高まってくる。 相手は四人、こちらは実質一人。 圧倒的に不利な状況の中、現状を脱出できる最良の策を必死になって考える。 (ここから逃げても見通しがいいから見つかっちまう。見つかっても逃げきれる方法! なんか、なんかないか!?) 考えれば考えるほど思考は泥沼化し、一向に良い案など浮かばない。 更に刻刻と近づく足音がガロードから落ち着きを奪っていく。 すぐそこまで迫る複数の足音。 頭を抱えて悶え苦しむガロードだったが、ふと、一つの名案が迷走する頭に閃いた。 ……この場合、迷案と言った方が正しいのかもしれないが。 兎にも角にも、もう一刻の猶予も残されていない。 ガロードはこの状況を脱するべく立ち上がった。 横ではティファが心無しか不安げな表情を投げ掛けていたが、安心させる為に笑顔で答える。 シグナム達がいるであろう方を向き、ガロードは隠れ蓑にしていた岩に飛び乗った。 「やーいっ!! お前達!!」 開口一番、大声を張り上げその場にいる全員の視線を集めた。 見た目からして腕利きの魔導師三人(ヴィータは数に入れていない)を前にしても、ガロードの声色は全く変わらない。 一人でアフターウォーを生き抜いてきた彼にとって、こんな状況はさして珍しくないのだろう。 大きな賭は慣れっこなのだ。 「出やがった、なぁっ!?」 「が、ガキンチョだぁ!?」 対するウィッツ達は未知の魔導師の登場に驚愕し、同時に落胆した。 ガジェットを撃破した魔導師がこんな子供という事実に。 特にシグナムとウィッツは久々に実戦で魔導師と手合わせ出来ると踏んでいただけに、落胆の具合も半端ではなかった。 ロアビィとヴィータに関しては呆れ果てて物も言えない。 目の前がそんな状態になっているとは露知らず、ガロードは一世一代の賭け始めた。 「もし攻撃したら恐ろしい事になるぞ! いいか、よーく聞けよ! このデバイスにはなぁ、おっそろしい魔法が記録されてるんだぞ!!」 「ほぉ……それは興味深いな」 かかった! シグナムの呟きを耳にしたとき、ガロードはそう確信したという。 残念な事に、その言葉に含まれていた大きな皮肉の意を全く理解せずに。 妙な自信をつけたガロードは更に続ける。 「だから! それを使われたくなかったら大人しく……」 『Rifle bullet』 『Grenade launcher』 「ん?」 不意に、デバイスの音声が響いた。 ガロードが音声の発生源を見ると、ウィッツとロアビィが自分に向けてデバイスの銃口を見せている事に気がつく。 銃口にはそれぞれ魔法陣が展開されていた。 ……まさか。 冷や汗が頬を伝った瞬間、光の銃弾と高密度魔力弾がガロードを襲った。 「おわああぁっ!? ととっ!?」 急に仰け反った為バランスを崩し、そのまま岩の横へと倒れ込むガロード。 それが幸いし、ウィッツのライフルバレット、ロアビィの放ったグレネードランチャーを奇跡的に避けることが出来た。 が、代わりに左半身が硬い地面に直撃。 少し高さがあった事も手伝い、鈍痛がガロードの体を駆け巡る。 「馬鹿か! んな見え透いた嘘が通じるワケねぇだろ!!」 「嘘はイケないなぁ、嘘は!」 くだらない嘘を聞かされ怒りが増し、今にもガロードを撃ち殺さん勢いで怒鳴るウィッツ。 続くロアビィも言葉こそは軽いが、強い呆れが聞いて取れる。 「く、くそぅ……なんでバレたんだ?」 バレていないとでも思ったのか。 ウィッツ達は痛む脇腹をさすりながら立ち上がるガロードに冷めた視線を向けた。 ……人を騙すにはそれなりの材料とシチュエーションが必要になる。 今回ガロードには、相手に秘密兵器を持っていると思い込ませるだけ材料の不足していた。 更に騙す側が冷静さを忘れてしまっていたのだから、この結果は至極当然と言えるだろう。 一世一代の賭け、早くも終了である。 それでもガロードは立ち上がり、GXの刃先をウィッツ達に向けた。 飽くまでも対抗する気らしい。 「ったく……さっさと伸して船に連れ帰っちまおうぜ。ガキの相手なんかしてられっか」 「待てよ」 「あぁ?」 痺れを切らしたウィッツがエアマスターの銃口を再びガロードに向けようとした時、その行動を止める人物が現れた。 邪魔をされたウィッツは露骨に嫌そうな顔で止めさせた人物を睨み付ける。 意外にもそれは、普段血の気の多いヴィータであった。 ウィッツの睨みにも全く動じることなく、寧ろ睨み返している。 「相手はまだ子供だ。んな目くじら立てなくても、話し合いでどうにかなんだろ。ここはあたしが説得してやる」 エアマスターの銃口を無理やり下ろさせると、ヴィータはウィッツを押し退け一歩前へ出た。 ウィッツは不満に顔を歪めていたが、言い争うのも面倒だと早々に諦める。 因みに、「お前も子供だろ」と思ったのはここだけの秘密だ。 「ヴィータにしては珍しいな。高町なのはに触発されたか?」 「るせぇ」 シグナムの嫌味を流しつつ、ヴィータはグラーフアイゼンを待機フォルムへと変形させた。 実際、ヴィータは『高町なのはの一件』以来確実に大人の対応が出来るようになってきている。 『話し合いの場には武器を持ち込まない』という10年前の自分の言葉を律儀に守っているのも、その影響なのだろう。 発端はともかく、シグナムはヴィータがこの数年で変わってきた事を、将として内心嬉しく思っていた。 「おい、お前」 「な、なんだよ!?」 ガロードはGXの魔力刃を見せつけ、急に声をかけてきたヴィータを威嚇する。 だが彼女は全く気にした様子もなく、涼しい顔で言葉を続けた。 「誘拐、並びにデバイスの窃盗。これだけでも結構な罪だ。普通だったら即逮捕、だな。だけどな、おまえが浚った少女をこっちに渡せば、お前にはまだ弁護の余地ってやつがある。武装を解除して素直に」 投降しろ、とヴィータは言おうとしていた。 ――この後数分間押し問答を繰り返し、最後には自首させる。 どうしても話し合いに応じない場合にのみ、なのは流で『お話する』―― それがヴィータの考えだった。 しかし、それはガロードの爆弾とも言える発言の前に脆くも崩れ去ったのだった。 「うるせえっ! 『チビ』の癖に難しい事ゴチャゴチャ言いやがって! 『ガキ』はお家に帰ってお人形遊びでもしてろよっ!!」 ブツンッ。 ガロードが言い放った刹那。 その場に、張り詰めた糸が、千切れたような音が響いた。 直後、先程まで涼しい顔をしていた筈のヴィータの様子が急変。 腕が微弱に痙攣し、額には血管が浮き出る。 目もつり上がり、まるで鬼の形相かと見紛う程だ。 そして何より、怒りの対象であるガロードだけでなく、無関係のウィッツやロアビィまでもが鳥肌を感じる程の、炎のように赤い殺気を全身に漲らせていた。 「お前ら、引っ込んでろよ……」 腹の底から絞り出したような低い声で後ろの三人を威圧するヴィータ。 既に彼女の手にはハンマーフォルムとなったグラーフアイゼンが握られている。 そして次の瞬間。 「こいつはあたしがぶっっっっ殺す!!!」 阿修羅と化したヴィータがガロードに突撃した。 話し合いを持ち掛けた方がこれでは、もう話し合いも何もあったものではない。 後ろで傍観していたシグナムは、己の考えを直ちに訂正したという。 やはりヴィータはヴィータか……と。 一方、急に襲われたガロードはヴィータを迎えうち、激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 「くっ……!」 「うぉおりゃあああ!!」 ヴィータのとてつもない気迫に押されて行くガロード。 グラーフアイゼンとGXの刃の交差部からは激しい火花が飛び散っていた。 ――このままじゃやられるっ! 危機感を覚えたガロードは全力を持ってグラーフアイゼンを押し返す。 しかしヴィータが後退する気配は微塵もない。 寧ろヴィータの力は増していき、ガロードの方が更に押し返されていた。 それに気づいたガロードはとっさに分が悪いと判断。 押し返すのではなく受け流そうとGXの刃を傾ける。 「うおっ!?」 これは思いの外うまく行った。 真正面に膨大な力が掛かっていたグラーフアイゼンが魔力刃の上を滑るように振り下ろさる。 そのままガロードの体ギリギリを素通りし、地面に小さなクレーターを作った。 ヴィータもグラーフアイゼンと共に大きく前へ仰け反り、大きな隙が生じる。 チャンス到来だ。 ガロードはがら空きになったヴィータの背にGXを振り下ろした。 だがヴィータもこのまま黙ってはいない。 地面を抉って無理やりグラーフアイゼンを引っ張り出し、柄でGXの刃を防ぐ。 「なっ!?」 「ヌルいんだよっ!!」 ヴィータの力技に驚愕し目を見開くガロード。 その瞬間今度はガロードに隙が生まれた。 ヴィータの鋭い目線がそれを捉える。 GXをガロードごと押し返すとグラーフアイゼンを大きく振りかぶった。 「しまっ……!!」 「おらあああああああ!!」 「飛龍一閃!」 鉄槌の一撃がガロードを襲うかと思われたその時。 二人を紫の光龍が襲った。 光龍を素早く視界の端に認めたヴィータはその場から後ろへ跳躍し難なく交わす。 しかし反応が遅れたガロードは直撃こそ免れたが、衝撃波をまともに受けた。 吹き飛ばされ、背中から地面に滑り落ちる。 そのままティファの隠れている岩陰まで砂埃を上げながら引き擦られていった。 「引っ込んでろっつっただろ!!」 今のでヴィータの怒りの矛先が変わったのか、彼女は魔法が飛んできた方を睨みつける。 視線の先にはシグナムが涼しい顔で立っており、愛機であるレヴァンティンを鞘に納めていた。 「お前こそ熱くなりすぎた。我々の任務は飽くまでティファ・アディールの保護。このままお前が暴れれば、近くに隠れているであろう彼女にも危険が及ぶぞ」 「ちぇ! わぁってるよ!」 シグナムの忠告をすんなりと受け入れたものの、やはり怒りの熱(ほとぼり)は冷めないらしい。 つまらなそうに吐き捨て、グラーフアイゼンを肩に担いだ。 吹き飛ばされたガロードはというと、シグナムがヴィータに説教をしているうちに岩陰のティファの下へ戻っていた。 ヴィータの怒りが籠もった攻撃を受けた手は、デバイド越しだったというのに未だに少し痺れている。 ガロードは手を強く振って痺れを紛らわし、同時にヴィータを戒めるシグナムの言葉にしっかりと耳を傾けていた。 そしてシグナムの説教が終わった直後、新たな策がガロードの頭に閃く。 (そ、そうか、あいつらティファを狙ってるんだっけ。それじゃあ……) なんとかこの場を切り抜けるため、ガロードはティファに向き直った。 一方、ヴィータの暴走により蚊帳の外へ追いやられたウィッツとロアビィは、ティファが隠れている岩陰のすぐ側まで近付いていた。 既にティファを視認しており、今にでも確保出来る程の距離だ。 (しっかし、シグナムさんも策士だねぇ。ヴィータちゃんの暴走餌にして、その隙に俺達が目標を確保しろってんだから。出来る女って、俺好みかも) (そうかよ。……そろそろ行くぜ、あのガキ戻って来やがった) (おっ、それはちょっと不味いね。じゃ、1、2の3で行こうか?) (ガキか。まぁいい……1) (2の……) ――3っ! 念話をそこで切り、ウィッツとロアビィはガロード達へと襲いかかる。 いや、襲いかかろうとした。 「っ! 待て!」 「何ぃ!?」 ロアビィが声を張り上げウィッツを引き止めた。 ウィッツも目の前の光景に思わず目を見開く。 なんと、再び岩の上へと躍り出たガロードがティファの首に魔力刃を突きつけているのだ。 驚いたのはウィッツ達の反対側にいるシグナム達も同じで、絶句したまま動けないでいる。 「これでどぉ? 撃てるもんなら撃ってみる!?」 「このヤロっ!」 「おおっと動かない。この子に傷がついちゃってもいいわけ?」 「くっ!」 ティファの首に突きつけられた魔力刃を強調するようにちらつかせ、ガロードは強気の態度でヴィータを脅す。 頭に血が上っていたヴィータも、今度ばかりは迂闊に手が出せないでいた。 そしてヴィータの反応を目の当たりにしたガロードは、今度こそ自分が優位に立ったことを確信し、更に畳み掛けるように言葉を続ける。 「やっぱ撃てないよねぇ? なんたって、あんた達の狙いはこの子なんだから! 少しでも下手なことしたら、どうなるか分かってるよね?」 「ちぃっ! 卑怯なマネを!」 「なかなかやるじゃない」 「ハートのエースはこっちが握ってるって事、お忘れなく!」 『Reflector wing』 シグナム達四人にただならぬ緊張感が漂う中、ガロードの背に銀色に輝く『X』を象った魔力の翼が現れる。 するとどうだろう。 ガロードの体がティファと共に二、三センチ程地面から浮き上がった。 「じゃあね!」 シグナム達に軽くウインクし、ガロードはティファを抱えたまま岩の上から飛び上がった。 そのまま地面に着地し、ホバリングのように地面から少し浮いて一目散に森へ疾走する。 スピードはなかなか速く、滑走した後に砂埃を巻き上げていった。 しかし、それを黙って見つめている程ウィッツの気は長くはない。 「あの餓鬼っ! 馬鹿にしくさって!!」 「待てっ!」 エアマスターの銃口を向け今度こそガロードを狙撃しようとした時、今度はその行動をシグナムによって制止させられた。 「何回も何回も止めんじゃねぇっ!!」 「今攻撃すればティファ・アディールにも確実に当たるぞ!」 「っ! ……くそっ!!」 いい加減に嫌気がさしたウィッツは激情し、シグナムに食ってかかる。 だがシグナムの尤もな意見の前に、ウィッツの怒りはまたも不発に終わった。 溜まった鬱憤をぶつけるように足下の小石を思い切り蹴飛ばす。 そうこうしている内にガロードの姿は既に無くなり、舞い上がった砂埃だけが虚しく漂っていた。 その光景に溜め息をつき、ロアビィはウィッツに話し掛ける。 「俺は一度フリーデンに戻るよ。契約がある間はデバイスのメンテとかタダだし。あそこの技師、腕いいんだよね」 「俺も一服するぜ。……ったくよぉ、一休みしないと腹の虫が収まらねぇ!」 「あたしもだ!」 内から湧き上がる殺意を隠そうともせず、ウィッツとヴィータはフリーデンへ向かって飛び立った。 そんな二人に呆れたのか、シグナムは小さな溜め息をつくと同じくフリーデンへと飛び立つ。 ロアビィはその後を追うように、足に装備したローラー型デバイスで地面を疾走していった。 その頃、上手くシグナム達を撒いたガロードはすぐさま魔力刃を消し、抱えていたティファを降ろた。 辺りの安全をしっかり確認し、バリアジャケットを解除する。 青白い光がガロードを包み、一瞬の内に元の赤いジャケット姿へと戻った。 そしてティファへと向き直り、すこし不安げな表情で彼女の顔を見る。 「……ごめんな、怖くなかったか?」 首に傷がついていないか確認し、心底済まなそうに謝るガロード。 それ対し、ティファは口元を緩ませ仄かに微笑む。 「信じて、いたから」 ティファのこの一言に、ガロードの心が一気に軽くなる。 不安は安心へと変わり、こそばゆい気持ちにティファを直視できなくなる。 「……うん」 照れくさそうに頬を掻きながら、ガロードもティファに微笑み返した。 人質にしたのだから流石にティファも自分に不信感を抱いたのではと不安に思っていたガロードだったが、それはいらない心配だったようだ。 そんな和やかな雰囲気の中、二人を茂みの中から見つめる人影が一つ。 鋭く光るその視線は、ガロードの手にしているGXに注がれていた。 (へへへっ……こりゃ、久々に透き通った酒にありつけるぜ) AFTER WAR LYRICAL NANOHA XtrikerS- 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/akisuteno/pages/71.html
高町なのは NO タイトル 登場人物 000 始まり 荻野千尋、前原圭一、グレイス・オコナー、伊藤誠、高町なのは 014 翼を失くした白い鳥 高町なのは フェイト・T・ハラオウン NO タイトル 登場人物 011 黄色い因縁 オズマ・リー、フェイト・T・ハラオウン、安藤美雷 八神はやて NO タイトル 登場人物 スバル・ナカジマ NO タイトル 登場人物 009 刃の向かう道 高町恭弥、スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター NO タイトル 登場人物 エリオ・モンディアル NO タイトル 登場人物 キャロ・ル・ルシエ NO タイトル 登場人物
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3315.html
マクロスなのは 第7話『計画』←この前の話 『マクロスなのは』第7話その2 「ど、どうして止めるんですか!?」 なのはが珍しく声を荒げる。 「これ以上聞くのは勧められない。・・・・・・きっと君は後悔する」 「構いません!お願いします!」 なのはの懇願にレジアスは彼女に再度答えが変わらない事を確認すると、再生を押した。 沈黙 ただ爆音が響く時間が10秒ほど続くと、微かな声がした。 『・・・・・・ぃゃ、いやだよ!わたしまだ死にたくない!なのはちゃん、誰かお願い、助けて!私にはまだやりたいことがたくさん残ってるの!私には、私にはぁぁぁーーーーー!!』 恐らく最終防衛ラインであった全方位バリアを破られたのだろう。直後ガラスが割れるような音とスピーカーを割らんとする程の断末魔の悲鳴が部屋を包んだ。 そこで今度こそ再生が終わった。 しかしアルトはなのはの顔を窺うことができなかった。彼女はそれほどの負のオーラを放っていた。 「さて、君はガジェットとの戦闘に慣れている。その見解から聞かせてほしい」 「・・・・・・はい、なんでしょうか?」 なのはが顔を上げ気丈に振る舞う。目に涙を溜めて・・・・・・ 「シングルAランクの空戦魔導士部隊1編隊(3人)と、ガジェットⅡ型の10機編隊が会敵した場合、どうなると思うか?」 「適切に対応すれば十分ガジェットの撃破は可能であるはずです」 なのはのセリフに自信がこもる。 彼女は教導という仕事にはまったく妥協を許さず、しっかりした人材を育てることを誇りとしていた。それは短期の教導をしてもらった俺やフォワードの新人達だけではなく、以前からそうであったはずだ。 彼女の自信はそうした自負と誇りを背景に確立されたもののようだった。 しかしその自信も現実の前には脆かった。 「ではAランクをリーダーに置き、大多数のB,Cランクの魔導士で形成されている現状の部隊ではどうだ?」 「それは・・・・・・」 なのはは口を濁す。 彼女が担当したのは彼女が確立した戦法が使いこなせる最低クラスAの魔導士に限定されていた。しかしクラスAのリンカーコア保有者はキャリア組といわれるようにエリートに分類され、その数は極めて少ない。 なのは自身そうした背景を十二分に知っていたのでそれに対応するべく彼らにできうる限りのことを教えていた。だが相手が予想を超えて強大であった場合、その被害は恐ろしいものになることは不可避であった。 「すみません・・・・・・」 なのははもう俯いて喋れなくなっていた。 「甘いよ、高町空尉。これが現実だ」 映り変わったディスプレイには予想される1年後の損耗率が表示される。 〝Aランク 25% Bランク 50% Cランク 75%〟 なのはは遂に堪えきれず泣き出し、その数字が的外れでないことを表した。アルトは彼女の背中をさすりながら呟く。 「これほど逼迫していたのか・・・・・・」 この損耗率ならばまだ殉職者が12人〝しか〟いないというレベルだ。なぜならもし、Aランク1人、Bランク4人、Cランク5人で1部隊の場合、最悪半数以上が帰還できない。 アルトの驚愕に、レジアスは追い討ちをかける。 「加えて、先ほど六課から報告があった。君達は確か、今回の戦闘で新型空戦ガジェットと遭遇したそうだね?」 アルトは背筋から血の気が引くのを感じた。あいつら―――――「ゴースト」は能力リミッター付きとはいえ、最精鋭たる六課が苦戦した。つまり彼ら、現状の空戦魔導士部隊が会敵した場合など、考えるまでもなかった。 (*) 今、応接室にはアルトとなのはの2人しかいない。それはレジアスが 「高町君が落ち着くまで我々はフェニックスを見に行ってこよう」 と言って田所を伴い、部屋を出ていったからだ。 あれから15分。なのははまだ嗚咽を漏らしながら涙を流している。 無理もないことだった。彼女が友人をどれほど大切にしているかをアルトはよく知っている。 そんな彼女がそういう友人の無惨な死を知らされ、今後も死者は増えるというのだ。その心中、察するに重かった。 アルトは根気よく彼女が落ち着くよう努力したところ、だんだん嗚咽が少なくなってきた。 そしてなのはは訥々と喋り始めた。 「・・・・・・栞とはね、教導隊の同期だったからよく話したの。生い立ちとか、夢とか。その時の私はみんなを守れる気でいたの。・・・・・・でも結局私は、自分の見えてる範囲の人達しか・・・・・・いや、誰も救えてなかったんだ・・・・・・大切な友達だって・・・・・・ほんとダメダメだよね。私なんて・・・・・・」 普段の彼女、エース・オブ・エース『高町なのは』からは想像できない弱音の数々。それは彼女がいままで1人でため込んでいたものだ。 幼少期から受け継がれているこの、悩みを1人でため込んで処理しようとする悪い癖はいまだに彼女を束縛していた。 「・・・・・・俺は、そうは思わない」 アルトは立ち上がると、俯くなのはに昔話を始める。 「あれは、フロンティア船団がバジュラに初めて襲われた時だった―――――」 ―――――――――― 燃え上がる市街地。 コンサートを開いた歌手(シェリル・ノーム)に、混乱への対応をしないでそそくさと逃げようとしている事に対する文句を言いに行ったアルトは、彼女のボディガードによって気絶させられていた。 「くそ!統合軍はなにをやってやがる!」 地面に叩きつけられた痛みでガンガンする頭を上げ、野外を見渡すと、その赤い圧倒的な存在があった。 よくみれば防衛出動したらしい統合軍のベアトリーチェ(8輪の装甲偵察車。偵察車とあるが、実際には105mm速射砲塔を搭載しているため従来の戦車のように運用される)があちらで数両大破している。そして目の前の怪物(バジュラ)には被弾したらしき弾痕があった。 つまり統合軍は必死に戦ったが、敵が圧倒的だった。 そういうことなのだろう。 逃げられないアルトは統合軍の質の低下を招いた、時の政府に悪態をつき、後ずさる。 「いやぁぁーっ」 場違いな悲鳴がしたのはその時だった。驚いてそこを見ると、先ほど道案内した緑色の髪をした少女だった。ビルの壁面に追い詰められ、腰を抜かしている。 なお悪いことに怪物は彼女に興味を持ったらしく、そちらへと方向を変えた。 (どうする・・・・・・俺は・・・・・・!) 逃げるなら絶好のチャンスだ。今怪物の意識は完全にそれている。しかし――――― (見捨てるのか!?) 怯え、すくみ、ただ恐怖するしかない少女を。 だが助けるにも今のEXギアでは、彼女を助けて2人で離陸するだけの推力はなかった。 怪物の頭らしき物に付いた無数の目が、妖しく光る。しかし次の瞬間、その頭を曳光弾混じりの機関砲弾が殴打した。それを行ったのは純白に赤黒ラインの映えるVF-25Fだった。 『さっさと逃げろ坊主!仕事の邪魔だ!』 そのバルキリーのパイロットのものであろう割れた声がEXギアの無線を介して届く。 VF-25Fはガウォーク形態に可変するとバジュラを抑え込んだ。 だがアルトは言われた事と正反対の行動に出ていた。先ほどの少女に向かって全速力で走り出したのだ。 しかし、怪物の爪が抑え込んでいたVF-25Fのコックピットを襲い、キャノピーを大破させた。 『負けてたまるかよ!』 パイロットは自衛用のリニアライフルを1挺担ぎ、EXギアで飛翔する。パイロットにもアルトの意図がわかっていたのだろう。彼女から数十メートルも離れていなかった怪物を、1区角先まで誘導する。 『やらせるかよ・・・・・・!ここは俺たちの船、フロンティアなんだからよぅ!!』 彼はそう叫んでリニアライフルで4.5mmケースレス弾を怪物に叩き込む。しかし、VF-25Fの50ミリ超級の機関砲すら効かない相手には全く効果がない。 「やめろ!死んじまうぞ!」 アルトは叫ぶが、パイロットは 『・・・うるせぇ!坊主、早くお嬢ちゃん連れて逃げるんだよ!』 と、まったく取り合わなかった。 ―――――――――― 「それでパイロットさんはどうなったの?」 なのはが先を促す。 「あの後、バジュラがパイロット―――――ギリアムを掴んで―――――」 アルトが広げた手を閉じ、強く握る動作をする。それを見たなのはは痛々しい顔をして背けた。 「だがな、彼は最後の最後まで撃つのをやめなかった。多分彼は守ろうとしたんだ。悪態をつくことしか出来なかった俺や、怯えることしかできなかったランカを。だから俺は周りの人間・・・・・・いや、目の前の人間を守ろうとするだけでも尊いと思うんだ。そうでなければ、あのVF-25を遺してくれたギリアムに、なんと言えばいいかわからない・・・・・・」 悲しそうに握りこぶしを振るわせて語るアルト。その時なのはの脳裏に2週間前の光景がフラッシュバックした。 それはVF-25の魔導兵器への改装が終わって、ついでに塗装も変えるか?という話になった時のことだ。 アルトはSMSの国籍表示マークはともかく、その純白に赤黒ラインの塗装を断固として譲らなかった。 今思えば、彼の3代目VF-25にも引き継がれたこの塗装は、アルトに掛けられたカース(呪い)なのだ。ギリアムを初めとする散っていった者の意志を継ぎ、人々を守るための・・・・・・ 「・・・・・・ありがとう、アルトくん。おかげで元気が出てきた!でも、今日はみっともない所ばっかり見られちゃったな~」 テヘへ、という笑顔はいつもの彼女のものだった。 その時、計ったかのようにドアが開き、レジアス達が入って来た。 (*) 「それでは続きに入ろうか。この損耗率に憂いた我々は、低ランク魔導士でも運用可能な装備の開発に着手した。今回リニアレール攻防戦でその実用性を示した新型デバイスもこれに当たる。これは陸士達の装備だが、空戦魔導士の装備を考えた結果出たのがバルキリーだ」 ホロディスプレイにバルキリーを使うことの有用性を箇条書きにしたものが示される。 MMリアクター(擬似リンカーコア)の導入でリンカーコア出力がクラスCならBへ。クラスBならAへ。クラスAならSという超絶的な火力になる。(事実、クラスAAのアルトのガンポッドから撃ち出される最大出力時の魔力砲撃は、シングルS+の威力を有している) 全体的に魔導士ランクが低くできるため、管理局の規定にある『1部隊が持ちうる魔導士ランクの限界』がほぼ無視できる。 非魔力資質保有者を整備員や生産工として大量雇用し、非魔力資質保有者の就職氷河期に歯止めをかける。 ファイター形態は速度が速い(音速以上)ため、即時展開性が向上し、素早い対応ができる。 局員の生存性の向上。 それらを見る限り悪いことはないように思えた。 「これらの理由からバルキリーの制作は決定された。わかってくれたか?」 2人は異論なく頷いた。 「我々はこのように公表するつもりだ。あと、彼女の遺言も・・・・・・。これで世論はわかってくれるだろうか?」 レジアスが2人に再び問う。 「レジアス中将の考えは間違ってないと思います。だからみんなにも―――――栞にもきっとわかってもらえると思います」 なのはの同意にレジアスは 「ありがとう」 と礼を言いい、田所に報告を続けるよう促した。 (*) 田所の報告が終わり、4人で修正点などを協議して一段落したのは昼の12時だった。 「そろそろ私は本部に戻らなければならない。田所所長、バルキリーの開発を急いでくれ」 レジアスは立ち上がると、田所に向かい合って小さく頭を下げる。 「承りました」 そしてレジアスはアルト達を振り返ると、深く頭を下げ 「ミッドチルダをよろしく頼む」 と言い残し退出して行った。 アルト達はまだ、彼の言葉の裏に隠された重さには気づいていなかった。 田所は深呼吸をすると、アルト達に向き直って言う。 「さて、アルト君や高町君ももうお昼だろう? 食堂に行くか?」 田所の提案に2人は頷く。そして 「考えて見れば俺はまだ朝飯前じゃないか!」 と悪態をついたアルトに、なのはと田所は一様に笑う。 「じゃあ行こうか。ああ、アルト君。昨日君が作ってくれた料理だがね、料理長にも食わせたらいたく気に入ったらしくてね。作り方を教えて欲しいと言っていたんだ」 昨日の料理とは、田所と談笑する時に、小腹が空いたアルトが作ったつまみだった。 「え?アルトくん、料理上手なんだ。私も食べたいなぁ~」 なのはが上目遣いに見てくる。アルトは胸を叩き、宣言する。 「いいだろう、みんな俺にまかせとけ!」 「やったぁ!」 ―――――さっきの重い雰囲気はどこへやら。 2人は田所を加え、食堂へと向かった。 (*) 食堂には、昨日のコンサートの熱気は完全になく、閑散としていた。 やはり研究職。昼の12時と言えど、机や実験施設からなかなか動けるものではないようだ。 そして全員で厨房に行くわけにも行かないので、なのはと田所は席で待つことになった。 (*) 「え?この肉使うの?」 まだ若い料理長はアルトの手際の良さに感心しながら訊く。 アルトの作ったつまみとは唐揚げだった。しかし彼が手に取ったのはミンチになった牛肉。そのため怪訝に思ったのだろう。 「そう、ここがポイントなんだ」 そう言ってアルトはもったいぶりながらその秘密の具材を料理長に示す。 「それは・・・・・・!?」 彼は絶句する。 アルトの手に乗ったもの、それは豆腐だった。 <作り方は家業秘密により伏せます> 「すごい!食感が、肉のそれと同じだ!それどころか柔らかくて美味しい!」 料理長は歓喜しながら、2個目を口に運んだ。 (*) 結局料理長に10個以上持っていかれたが、材料費がかからないため大量生産に向いたこの唐揚げ団子はその程度では減らなかった。 (ちょっと作りすぎたな・・・・・・) しかし、結果としてアルトの反省は無用なものとなった。 (*) なのは達の座っていた席の周りになぜか20人以上の人が集まり、黒山のひとだかりになっている。 研究員かとも思ったが、着ている服は技研の正装である白衣やツナギではなく、地上部隊の茶色い制服だ。 そこからは会話が聞こえてくる。話しているのはなのはと、制服を着た少女だ。 内容から察するに、空戦のアドバイスのようだ。 制服を着た少女が彼女1人しかいないためか、その存在感は群を抜いている。 年の頃は15,6だろうか。幼さを残す顔立ちのなかで、大きな目を見開き、頬を赤く染めている。特に大きな赤いリボンで後ろに結わえた黒髪は、まるで川のせせらぎのような清らかな印象を与えた。 「よう、アルト姫」 なのはの対面に座っていたミシェルがこちらに気づいて片手を挙げる。その一言に周囲の顔がアルトに集中し、一様に納得した顔になった。 「・・・・・・なんだよ?」 舞台で聴衆に見つめられることには慣れていたが、この違った雰囲気に気圧される。 「あぁ、アルトくん。この子達がバルキリーパイロット候補の1期生なんだって」 なのはの説明に、生徒一同はアルトに敬礼した。 とっさに答礼しようとして両手がふさがっている事に気づく。仕方なく苦笑しながら両手を差し出したなのはに皿を渡し、ようやく答礼した。 「ミシェル教官からお話は聞き及んでおります」 生徒のリーダーらしき25歳くらいの青年がアルトに言う。その言葉には敬意の念があるが、何かのスパイスが効いている。 「おい、ミシェル。コイツらになにを話した?」 「・・・・・・さあ、ね」 イタズラっぽい笑み。 (コイツ、いったいなにを吹き込みやがった・・・・・・!) アルトは胸の内で悪態をついた。 (*) 結局スパイスの中身はわからなかったが、山と積まれた唐揚げはアルト達や昼飯前の生徒達の胃袋に消えるのに時間はかからなかった。 そうして昼食を済ませると、田所からある提案がなされた。 「今日はうちのパイロットの卵の授業を見学するのはどうだろう?」 その提案は、生徒達の大賛成という空気に流され、2人はそれを飲む形になった。 つづく ―――――――――― 次回予告 1期生達の訓練を見学することになったアルトとなのは。 しかしそこにはマクロス・ギャラクシー出身と名乗る者が・・・ 果たして彼は敵か?味方か? 次回マクロスなのは、第8話『新たな翼たち』 管理局の白い悪魔が今降臨する! ―――――――――― シレンヤ氏 第8話へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3306.html
マクロスなのは 第2話「襲撃」その1←この前の話 『マクロスなのは』第2話その2 (*) 30分後 アルトはガウォーク形態のVF-25を、超低空で飛行させながら郊外へと向かわせていた。 管理局の広報担当者曰く、 「例えあなた達の物でも、質量兵器を管理局本部ビルの前に置くのは体面もあり困ります。だから受け入れ先が見つかるまで、郊外の施設中隊のヘリ格納庫に移動してください」 との事であった。 また、今後VF-25は機体自体がシール(封印)されるか、武装が全て撤去されてしまうそうである。 「しかし、魔法の世界とはなぁ・・・・・・」 簡易的な検査によると、俺とランカにもクラスオーバーA相当のリンカーコアが存在することが確認されていて、この世界でも十分やっていけることがわかっていた。 (EXギアなしで空を飛べるのか・・・・・・) この青い空を風を切って飛ぶ自分の姿を想像して内心ほくそえんでいると、レーダーに映る多数の小さな機影を発見した。 そちらの方向をみると、人間ほどの大きさの全翼機、魚でいうエイのような形をした航空機がいた。数は60機ほど。それらは綺麗な編隊を組んで飛んでいた。 (管理局のゴースト(無人機)か?) そんなことを考えるうちにそれらは急降下し、レーザー様のものを撃ち始めた。 (なに・・・・・・?) 驚愕しつつもモニターで彼らの行方を追う。着弾地点はどうやら学校だ。どう見てもそこは軍事基地には見えないし、下で逃げ惑う子供は小学生程度にしか見えなかった。 そこでは警備の者が散発的な対空射撃を行っているが、当たらないのかそれらはびくともしない。 そのゴーストは後に『ガジェットⅡ型』と呼ばれる機体で、速い上にAMFとシールドを展開しているので全く歯が立たないのだ。 防衛側は徐々にそのレーザーに倒れていく。建物に当たってもなんともないところを見ると非殺傷設定のようだが、それは子供に当たれば後遺症を残すに十分だろう。なぜなら彼らはバリアジャケットと呼ばれる装甲服を着ていないからだ。その程度のことははやてやなのは達からこの世界のこととして説明されていた。 いますぐ反転して救援しに行きたい衝動にかられるが、はやて達から厳重に質量兵器(VF-25)の使用禁止命令を受けていたため、あと1歩を踏み出せずにいた。 その時、視点がそのある一点に止まった。運動場の端の小屋からみんなのいる校舎に逃げ込もうとしたのだろう。子供が1人、運動場の真ん中を走りながら横切っていた。 (バ、バカ野郎!小屋にいれば安全なのに!) もちろん思いは届かない。 また、更に悪い事に彼は転んでしまった。それに興味を持ったのか、数機のゴースト(ガジェット)達が子供へと向かい、撃ち始める。 そこに1人の警備員が校舎から駆けつけた。彼は全方位バリア(魔力障壁)を張って子供を庇う。 しかし、ゴースト達は執拗だった。何発も何発もレーザーを撃ち込む。それは無人機が行うのに殺意すら感じられる。 その猛攻は遂にバリアを破り、レーザーが子供に覆い被さった彼の身を焦がす。 その光景はかつてフロンティアを襲った第2形態のバジュラの大群が、そこを蹂躙する光景をまざまざと蘇らせた。それと同時に、恋人を守って宇宙に吸い出されていった親友であり戦友であった者の姿が、その警備員と重なった。 瞬間、彼の中で何かが切れた。 45度傾いていた左手のスラストレバー(エンジン出力調整レバー)をさらに倒して真横に。 するとガウォーク形態だったVF-25は即座にファイター形態に可変した。続いて空力特性を悪くする翼下のフォールドスピーカーをパージ、スラストレバーを押し出しA/B(アフターバーナー)を点火。後ろから蹴られたかのように一気に増速する。しかしその手はコックピット前面の多目的ディスプレイを操作し続け、全ての兵装のプロテクトを解除していく。 多目的ディスプレイに映る兵装モニターが緑色の〝SAFETY(セーフティ)〟の文字から赤い〝ARM(アクティブ)〟という文字に変化する。 そして現場への到着と同時にさっきの2人とゴーストの間をわざと飛び、フレア(赤外線誘導型ミサイル回避用の高熱源体)を数発撒き散らした。 すると、予想通り危険度の優先順位を再設定したゴースト達は、こちらを追ってきた。その数は総数の半分程度にすぎないが、2人が逃げ込むには十分な隙を与えたはずだ。バックミラーで2人の退避を横目で確認すると、一路、海を目指す。 (こんなとこに墜とせるかよ) 下は住宅地。ゴーストが墜ちたらその被害は計り知れない。また、VF-25の装備するFASTパックの追加武装であるマイクロミサイル型HMM(ハイ・マニューバ・ミサイル)は、対バジュラ用のMDE(マイクロ・ディメンション・イーター)弾頭を搭載している。 バジュラの反乱に備えて改良と生産の続くこの弾頭は1発、1発が超小型のブラックホール爆弾のようなものだ。そんなものが万が一外れて民家に当たったら・・・・・・と思うと背筋が寒くなる。 幸い海までは10キロなく、すぐに眼下は青く染まった。 「ここなら・・・・・・!」 呟くと、押し出していたスラストレバーをフルリバースして簡易ガウォーク形態(噴射ノズルのついた足を展開するだけで、腕を省略した形態)に可変して足を前に振り出し、強烈な逆噴射を行う。それによって、従来の戦闘機のエアブレーキとは比較にならない加速度で減速、さらにバックした。 対してVF-25を全力で追っていたゴースト達は当然そんな機構などなく、勢い余って通り過ぎていった。 その航跡を目で追いながらミサイルのスイッチに指をかけると、ゴースト達を流し見る。するとそれに連れてコンピューターが敵にマルチロックオンを掛けていった。そして数にして10強の敵をロックオンレティクルに収めたのを確認した。 「アタァークッ!!」 掛け声と同時に、VF-25のエア・インテーク(吸気口)上に装備されたミサイルランチャーの装甲カバーが〝ガパッ〟と開く。 それと同時に内部のHMMが飛翔していった。 音速を遥かに超える戦闘機やバジュラに対抗する為に作られたこのミサイルは、内蔵するAI(人工知能)によって回避行動をしつつ1機につき3発ずつ、着実に命中した。 炸裂と同時に30もの紫色の異空間が出現し、空間をえぐりとっていく・・・・・・ あっという間に10数機の友軍を失ったゴーストだが、学校からやってきた分隊との合流を果たすと再び向かってきた。 これにはさすがに焦った。 VF-25は単体としてミサイルを搭載していないが、ブースター以外パージしていなかったFASTパックの追加武装によって肩部に38発のマイクロミサイルを搭載している。こちらの圧倒的な力を見せて撤退に追い込もうと思って、その数の4分の3強にも上るミサイルを一斉に使う大盤振る舞いをしたのだが、相手は損害をまったく恐れていなかったようだ。 また、MDE弾頭はお世辞にも安全とは言い難い。大気圏内で空間を抉り取れば、そこにあった大気は当然消滅する。すると気流がめちゃくちゃになり飛行を妨害する。 炸裂と同時に放射される大量のフォールド波の奔流も人体に悪影響を及ぼさないという保障はない。 それらを勘案して残ったミサイルの斉射を見送ると、兵装をチェックする。 「ガンポッドとビーム機銃、あと格闘でしのぐしかないか・・・・・・」 VF-25は再加速して敵に対峙した。 (*) 5分後 残る敵の4分の1を撃破したが、ガンポッドの残弾はすずめの涙となっていた。 撃破した敵に比べて弾の消費が多いのは、ここが大気圏であるせいだった。普段無重力で、ほぼ真空である宇宙での戦闘に慣れているためその修正に多くの弾を割(さ)いてしまったのだ。 また、敵もこちらが完全無欠の質量兵器だとわかったのだろう。エネルギーを防御力に転換するアドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)にかかる負荷が先ほどから大きくなっていて、構造維持のキャパシティ確保を脅かしている。これは相手の攻撃が殺傷(物理破壊)設定になったという事だろう。 そして転換装甲にエネルギーを回したため、両エア・インテークの隣(バトロイド時は腰)に装備された2基の『マウラーROVー25改 25mm荷電粒子ビーム機銃』、2門の頭部対空レーザー砲『マウラーROVー127C 12.7mmビーム機銃』も打ち止めだ。 脚部の装甲兼用のコンフォーマルタンクに入った推進剤もこの戦闘機動を続けるには残り少ない。通常飛行なら無尽蔵に存在する空気を圧縮膨張させて推進剤にすれば十分だが、通常の推進剤を使えば推進力は空気に比べて約6割アップする。またVF-25の各所に装備された高機動スラスターを作動させるにも推進剤は必要だ。自らを数倍する敵にあたるには推進剤に頼る他に選択肢はない。 しかし、ガンポッドに残る弾同様、推進剤はほとんどなくなってしまっていた。 「おっと!」 敵の激突覚悟の特攻攻撃に、ファイター形態のまま可変ノズル基部に装備されたスラストリバーサを吹かして急減速。そのままバトロイドに可変して肩すかしを食らったゴーストに射角を調整すると、『ハワード GU-17V ガンポッド』を一斉射。装填されていた対バジュラ用58mmMDE弾で大穴を空けて撃墜した。 しかしその機動でほとんど空中に止まってしまったことにより、ゴースト達は集中砲火を浴びせようと反転してくる。だがそれを甘んじて受け入れるほど馬鹿ではない。 即座にガウォークへと可変していたVF-25はその場から滑るように急速に離れ、こちらの動きについて来れなかったらしい1機のゴーストをバトロイドに可変してマニュピレーターで鷲掴みにする。 そして真後ろからこちらを追尾してきた3機のゴーストに向き直ると、フリスビーのように投げてやった。 金属同士がぶつかり合う鈍い激突音。 3機は密集していたため即席フリスビーは見事ゴースト達の追尾を阻止していた。続いて止まったそれらをガンポッドで照準、スリーショットバースト(3点射。3発だけ連続で撃つ事)を行う。しかし58mmMDE弾の狭い炸裂範囲に4機全機を見事に巻き込んでこれを海の藻屑とした。 だがその戦果に満足することなくすぐにファイターへ可変し、位置を変えた。次の瞬間にはその場所を敵の集中砲火が覆った 周囲を警戒しつつガンポッドに残る残弾を確認。 (もう持たないな・・・・・・) さきほどのフリスビー戦法も拳やコンバットナイフを用いた肉弾戦も加速や制動の多いせいで推進剤を大量に消費する。かといってガンポッドは残り1秒ぐらい全力で斉射すれば無くなるほど弾が欠乏していた。 (残った推進剤を全部注ぎ込んで一気に戦線離脱するしかないか・・・・・・) と思い始めた時、陸の方から飛んでくるものがあった。目を凝らすと、人が音符のような杖を持ち、編隊を組んで空を飛んでいる。ようやく管理局の空戦魔導士のご登場らしい。 「ほんとに新・統合軍みたいに遅いやつらだ」 フロンティアのそれを思い出して呟く。そしてそれゆえに内心気が気でなかった。空戦魔導士部隊を擁する地上部隊は新・統合軍とは似た苦境であるという。そして統合軍はバジュラに手も足も出なかった。だからどうしても彼らが統合軍と重なって見えて、 「あいつらにゴーストが落とせるのか?」 と心配になった。 その結果はすぐ出た。 ゴーストに対して魔力ビーム(砲撃)による攻撃が行われるが、AMFによって出力を下げられ決定打にならない。そこで魔導士達は2人1組になって1機に同時に着弾させる事によって初めて撃墜することに成功した。なるほど、その技量はなかなかのものだ。しかし、いかんせん数が足りなかった。 速度もゴーストの方が速く、5~6機撃墜したあとその機動力で連携を崩され、逃げ惑うばかりになった。 「・・・・・・やっぱりか」 仕方なく虎の子のミサイル8発を、彼らの後退を援護するように全弾発射。必要なくなったミサイルランチャーをパージする。 この援護によって魔導士のほとんどが敵の追尾を逃れたが、1人だけ孤立してしまった魔導士の少女がいた。 彼女は他の魔導士のように飛ばず、足元に道を展開しつつその上を走るように移動する方法をとっていた。 また、敵を撃破するときも魔力弾や魔力ビームでなく、直接殴って撃破するという珍しい戦い方をしていた。それゆえ1人でも撃破率は高かったが、移動方法は効率が悪く、MDE弾頭の起こした気流の激変に煽られて逃げ遅れたらしい。 周囲は彼女を助けようと援護するが、彼女は周囲の敵の数に翻弄されて動けなかった。 (*) 彼女の名はスバル・ナカジマといい、今回の出撃は有志だった。なぜなら通常スクランブルするはずだった空戦魔導士達はさっきまで労働争議をやっていて、疲労のため使い物にならなかったからだ。 彼女は『ミッドチルダ防衛アカデミー』と呼ばれる管理局員を養成する学校の3年生である。 防衛アカデミーの推薦を獲得した彼女は、最後の実習地として『本局第1試験中隊』と仮称で呼ばれているはやての部隊を彼女の親友と共に志願していた。と言っても教官からは難しいかもしれない。期待しないでくれ。と言われていたが・・・・・・ まだ実績もない、難しいと言われる部隊であることに級友たちが敬遠する中、彼女がそこを強く志望した理由は簡単だった。それはガイドブックの教官の欄に、彼女の尊敬する「高町なのは」の名があったからだ。 (最後にもう1度、なのはさんに会いたかったなぁ・・・・・・) 時折ベルカ式魔力障壁を越えてくるレーザーに身体を焼かれる痛み。それは徐々に彼女の気力を奪っていき、観念しかけていた。 しかしその時、ノイズ混じりの念話が入った。 『(させるか!)』 どこだと思い発信源を辿ると、こちらを援護してくれていた質量兵器からだった。それは機関砲を乱射しながらこちらに突撃してくる。そして自分のすぐ隣を擦過していった。 よく見れば、質量兵器はその間にいた航空型魔導兵器を全て蹴散らしていて、そこにはぽっかりと切り開かれた道があった。 (チャンス!) 即座に自身の移動魔法『ウィングロード』を開けてもらったその包囲の穴に高速展開し、その上をインラインスケート型の簡易ストレージデバイスで駆け抜けていく。 しかし、そこに1機の航空型魔導兵器が体勢を立て直し、立ち塞がる。 (ここで止められてたまるか!!) カートリッジを2発ロード。その間もレーザーが身を焼いたが、かまわず最高速で走りながら篭手型のデバイスを着けた右腕を振りかぶる。 「一撃、必倒!ディバイィン、バスタァァーーーーー!!」 右腕から発射されたゼロ距離の魔力砲撃は、粗いながらも強靭な破壊力を見せ、シールドを貫通。それを粉砕した。 その後抜け出るまでの包囲の穴の保持は友軍と、いつの間にかロボットに変形した質量兵器がやってくれたらしい。 それ以上詳しい事は分からなかった。なぜなら抜け出すと同時にさっきとは違う念話が入ったからだ。 『(総員直ちに射軸上から退避してください)』 それは聞き覚えのある声だった。同時に出現したホロディスプレイの射軸線を頼りに発信源を辿ると、地上の海岸線だった。果たしてそこには巨大な魔力球が集束されつつある。それはオーバーSランクレベルの魔力砲撃を示唆していた。瞬間、誰もが射軸上から逃げ出す。 自身も友軍に肩を貸されて退避しつつ、あの魔力球に不思議な懐かしさを覚えていた。桜色の魔力光。あの声。そしてSランクの魔導士。それらは1本につながった。 「(あれは、)なのはさんだ!」 その名を叫ぶのと、なのはが発砲するのは同時だった。 空を切り裂く一条の桜色の光は、あやまたずガジェット達に突き刺ささった。そしてそれらの展開するシールドを易々と貫き、その3分の1を一瞬で叩き落とした。 スバルはそれを神を見るかのように見つめ、次の瞬間にはやってきた傷の痛みと安心感で意識を喪失した。 (*) 少し離れたところで、ガウォークに可変してそれを眺めていたアルトは驚愕した。 ガンポッドに残る全弾を注ぎ込んで管理局の魔導士を助け、機体の通信システムのプロテクトをスルーして出現したホロディスプレイの退避要請に従って退避してみればこのビーム砲撃だ。 VF-25のセンサーによると、VF-27『ルシファー』の重量子ビーム砲と比べても、見劣りしない数値を叩き出していた。 (いったいどんな兵器だ?) そう思い、モニターで発砲地点の倍率をあげる。するとそこには、自身の特徴的な杖から大量の煙を出し、構えを解いた高町なのは一等空尉の姿があった。しかし彼女の顔は先ほどまでランカと談笑していた少女の顔ではなく、歴戦の戦士の顔がそこにあった。 (*) その後残るゴーストの掃討は彼女の参加で拍子抜けするほどあっけなく終わった。 (*) 気づくと私は寝かされていた。全身が痛みに悶えるが、なんとか目を開けてみる。はたして視界には青い空。どうやらまだ外らしい。しかし素手で触った寝床の感触は布だった。 そして見回してみると、ここは海岸で自分は救急車に乗るために担架に乗せられていたようだ。というような状況把握がどうでもよくなるような光景があった。 「なのはさん・・・?」 おもわず救助隊員に簡単に負傷場所と理由を説明していたらしい彼女の名を呼んでしまった。 「ん? 大丈夫だった?」 なのははこちらの意識が戻ったことに気づいて、こちらへやってきた。それだけで全身の痛みを忘れてしまうほどパニックに陥ってしまった。 私がなのはを尊敬し、憧れる理由。それは6年前の事故がきっかけだった。 その日デパートに家族と出かけていたが、運悪くはぐれ、これまた運悪く火災にまかれてしまったのだ。 この時まだ幼かった私を救助に来たのが、当時出世街道を順調に登っていたエース。高町なのは二等空尉だった。 記憶に残る彼女の姿は凛々しく、カッコよくて、それ以来なのはに憧れ続けた。 私はクラスAのリンカーコアを持っており、成績も主席、次席クラスと、極めて優秀だったため、再三再四 「次元宇宙で働かないか?」 と本局の誘いが来た。しかしそれを全て断り、わざわざミッドチルダを守る道を選んでいた。それは陸士部隊の部隊長である父や、同じく陸士部隊に籍を置く姉の影響もあったが、同じぐらいに大きくなのはの存在があった。 それほど自分の人生を大きく左右した憧れの人が目の前にいる。 パニックに陥るには十分な理由だった。 『は、はい!いえ、あの、高町教導官・・・・・・一等空尉!』 痛みを忘れたといってもやはり無理に動けば痛いもので、上体を起すことが精一杯。しかもその痛みとパニックでなのはに関する知識がこんがらがり、状況に合わない「教導官」という役職が出てしまった。 しかし彼女はそんな小さなことを関しないかのように答える。 「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから。・・・・・・6年ぶりかな?大きくなったね。スバル」 「!! えっと・・・あの、あの・・・」 「うん。また会えて嬉しいよ」 その笑顔を伴ったセリフと、頭に置いてくれた手は反則的なまでのスピードで私の心に深く染み渡った。おかげで涙腺が瞬時に決壊。止まらなくなってしまった。 そんな私をなのはは、救急車に担架と共に搬入し、担架の横にある席に座りながらながら根気よく落ち着くのを待ってくれていた。 (*) 海岸にはなのはの要請した救急車が待機している。そこには先ほどの傷の酷かった魔導士の少女が担架に乗せられて救急車に搬入された。 しかしなかなか搬送されない。様子を見に行こうにもガウォーク形態で着陸するVF-25の周りには先ほどの空戦魔導士部隊が質量兵器使用でこちらを警戒するように配備されているため動けない。それでも理由を知りたくなったアルトは、高感度指向性マイクを照準した。 すると少女の声に混じり、なのはの声が聞こえてきた。 ―――――――――― 『私のこと、覚えててくれたんだ』 『あの・・・覚えてるって言うか・・・・・・あたし、ずっと、なのはさんに憧れてて・・・・・・』 『嬉しいなぁ。バスター見て、ちょっとびっくりしたんだよ』 『んあっ!』 〝ガタッ〟という、その救急車を大きく揺らすほどの彼女の驚きは、 「なんだ元気そうじゃないか」 と、彼女を心配していたらしい周囲の魔導士達に笑顔をよんだ。 『す、すみません。勝手に・・・・・・』 『うふふ。いいよ、そんなの』 『え、でも、その・・・・・・』 『まぁ、確かに独学で使うには少し危ないかな。これから〝私が見ていてあげられる〟から、一緒に頑張っていこうね』 『はい!・・・・・・え!?』 『ふふ。隊員さん、この子の搬送、よろしくお願いします』 『了解しました』 ―――――――――― なのはを降ろした救急車は一路、病院へと走っていった。 (*) その後、VF-25に関する事情がなのはの口からその場の空戦魔導士部隊の隊長に説明された。 そしてなのはが責任を持ってVF-25を格納庫までエスコート・・・・・・と言えば聞こえがいい。しかしそれは見かけだけだが、機体をバインドする強制連行になった。 これは 「『質量兵器は禁止』という主張を堅持するための体面的なものだろう」 と、たかをくくっていたアルトはその後質量兵器、とくにD(ディメンション・次元)兵器の使用について(「次元震が起こったらどうするんや!」とかで)はやてから恐ろしいお叱りを受ける事になるが、それはまた別の話である。 (*) 現場から少し離れたビルの屋上には、事件のすべてを見ていた1人の人影があった。 「またあの子達?まったく恐ろしい程の悪運ね」 彼女は普段のキャリアウーマン風の緑色のスーツに身を包み、呟く。 いつもならここで遠いい所から見ている〝彼ら〟が茶々を入れる所だが、今彼女は時空どころか次元おも通り越してしまっている。そのため、いかがフォールドクォーツを使用した精神リンクと言えど繋がらなかった。 「まぁ、その方が面白いわ。健闘を祈るわね。フロンティアと、ミッドチルダの皆さん」 転送魔法が行使される。そして彼女、グレイス・オコナーのいた痕跡を何一つ残す事なく、いずこかへ消え去った。 次回予告 踏み出した歩み。 彼らを待つものとは――――― 次回マクロスなのは、第3話『設立、機動六課』 ミッドの空に、彼らは何を描くのだろうか? シレンヤ氏 第3話へ