約 4,863,797 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1165.html
3 クラナガンは、時空世界を統括するミッドチルダの首都である。 旧暦時代の戦火で廃墟と化した都市を取り壊し、区画整理しながら拡大・発展してきた。 時空世界の中心地として、管理内外の様々な世界の種族が集まるこの超巨大都市には、三つの政府機関がある。 一つ目は、行政機関として総ての時空世界に君臨し、政府の意思決定機関でもある元老院。 二つ目は、立法を司り、唯一の法律制定機関である最高法院。 そして三つ目は、司法・軍事・治安を一手に引き受けている時空管理局。 その中枢である時空管理局本局ビル(旧地上本部)。 1000階建てのセントラルタワーと、その周囲を守護騎士の如く囲む500階建てのサブタワーが周囲を圧倒する この超高層建築物には、JS事件後の組織改革で管理局の全機能が集約される事となった。 しかし、同事件で500階より下のフロアの多くが破壊又は損傷を受け、その修理工事も完了してない現状では、 999階に長官室、998階は統合幕僚会議の議場、それ以外のフロアは、陸上部局と次元部局の臨時オフィスと NMCC(国家軍事指揮センター)の一部が稼動を開始しただけである。 アール・デコ様式の幕僚会議議場控え室は、招集をかけられた管理局幹部及び、上級職員でごった返している。 彼らは、議場が開くまで雑談したり、ホールのあちこちにある空間モニターで、最新のニュースをチェックしたり していた。 モニターには、現在クラナガンで起きている、デモ隊と管理局治安部隊の衝突についてのニュースが流れている。 綺麗にメーキャップされた、青いスーツ姿のアナウンサーが営業スマイルを顔に貼り付けて、原稿を淡々と読み 上げていた。 「本日朝8時より、クラナガン第28区のフューリーダ通りで行われている、分離主義派一般民によるデモは、デモ隊 内部に紛れ込んでいた過激分子によって暴動に発展し、現在、管理局機動一課第6師団の陸士部隊が鎮圧に当たって おります」 画面は緊張した表情で体を屈め、絶えず背後を気にしながら実況をしている、青色の肌に二本の触角状の角を頭に 持つ、水色のYシャツを着たレポーターに切り替わり、画面下部には、地球人類のとは異なる文字のテロップが 表示される。 テロップを日本語訳すれば、KBC(クラナガン放送局)のロゴと生中継の表示、バーズ・ダドゥアという レポーターの名前になる。 「フューリーダ通りのデモ現場です。えー、現在わたくしの背後では…デモ隊と陸士部隊の 激しい衝突が繰り広げられております」 それと同時に、カメラは衝突現場の方へズームする。 画面には、魔方陣を展開して暴徒鎮圧用に設定された魔力弾を発射する陸戦魔導士数名と、 その攻撃から逃げようと必死に走るデモ隊が映し出される。 路上には弾が命中して、うずくまったりのた打ち回ったりするデモ参加者と、投石に使われた 石や逃げる際に捨てられたプラカードが見える。 プラカードの幾つかには「我等に当然の権利を!」「私達は奴隷ではない!」と書かれている のが読み取れた。 「えー、最初はデモ隊が陸士部隊の前でプラカードを掲げ、シュプレヒコールを叫びながら歩いて 回っておりましたが、いつしか自然発生的に石を投げつける者――」 すぐ近くで物が割れる音がして、レポーターの話が途切れる。 「えー、それからプラカードで殴りかかる者や、停まっている車をひっくり返す者が出始めた為、 その鎮圧のために陸士部隊が発砲を―――」 今度はヒュッと何かが目に見えない速さで走る音がして、画面端に映る車のフロントグラスが粉々に 砕け、破片がレポーターや画面に降りかかる。 「伏せろ! 伏せるんだ!!」 レポーターはそう言って地面に倒れこみ、画面も上下左右に揺れる。 再び画が安定した時、視点は地面スレスレにまで下がっていた。 画面には、石や、どこから持ってきたのか8インチのテレビモニターを投げつけるデモの群衆、 そこへデバイスを向ける陸士たちが通りの向こうに映っている。 彼らの発砲で、五~六人が倒れるのが見えた。 それと前後して、複数の人間の怒号が聞こえたかと思うと、画面真正面に路面へ叩きつけられる 人の顔が映る。 苦痛にゆがんだその顔を陸士のブーツが踏みつけるのと同時に、画面はスタジオのキャスターに 切り替わった。 「中継が途切れましたので、スタジオより引き続き…」 「ふん、何が“我らに当然の権利を”だよ」 ブラウンカラーの管理局職員用スーツにミニスカートの、どう控えめに見ても十五歳以上 には見えない少女が、キャスターの解説を聞き流しながら苦々しげに呟いた。 「あたしら管理局が次元世界と主要地上世界の安全を守る為に、どれだけの犠牲を払って きてるか分かって言ってんのか?」 「ヴィータ」 ヴィータという名の少女の横に立つ、ピンク色の長髪をリボンでポニーテールに束ねた、 同じ制服にミディスカートの、二十代前半の女性がヴィータを窘めるように言う。 「でも、そうだろシグナム? 魔術の力も無く、身を守る術のない只の一般民が――」 ヴィータがシグナムと呼んだ女性は、ヴィータの肩に手を置いて厳しい表情で言う。 「ヴィータ、お前は主はやてに同じ事を言えるのか?」 シグナムの言葉に、ヴィータははっとした表情でシグナムを見つめる。 「主はやても、かつては彼らと同じ…いや、それ以上に無力だったのだぞ。それを忘れるな」 「う…うん」 ヴィータが力無く俯いて答えた時、白の教官用制服を着たなのはが二人の所へやって来た。 「お待たせ。ヴィータちゃん、シグナムさん」 「ああ、なのはか」 「なのは…」 弱々しく呟いて顔を伏せているヴィータに、なのはは訝しげな表情で問いかけた。 「ん? どうしたの、ヴィータちゃん?」 「いや、あの…」 言いよどんだヴィータに、なのはは微笑みながら言う。 「何か悩み事があるなら、私でよければ聞いてあげるよ」 俯いていたヴィータは、意を決したように顔を上げてなのはに言った。 「なのは…。あたし、いつの間にか思い上がってみたいだ」 「え!?」 ヴィータが先のことを話そうとした時、二等陸曹の階級章を付けている、蠅の顔をした管理局員 がやって来た。 「高町なのは一等空佐と…シグナム三等空佐にヴィータ一等空尉でございますね?」 三人が頷くと、陸曹は空間モニターを開いて説明を始める。 「皆様がこれから受け取る情報は、機密扱いです。よって議場内でお聞きいただく内容は、親類縁者は もちろん、無関係の局員に対しても全て他言無用です。この会議も機密となり、皆様がここに来た事も 公式の記録には残りません」 三人とも気後れする事無く普通に頷いた。仕事柄、この種の制約に受ける事がザラだからだ。 「では、こちらの機密保持誓約条項に捺印を願います」 三人は陸曹が開いたモニターに、一人ずつ人差し指を押し当てる。 「大変お待たせいたしました、議場へお入りくださいませ」 陸曹はそう言って丁寧に頭を下げると、他の雑談をしている将校グループの方へと歩み去る。 「じゃあ行こうか」 なのはが言うと、シグナムとヴィータの二人は頷き、議場入口へと向かう。 「で、ヴィータちゃん。さっきの話って何だったの?」 なのはに促されて、ヴィータは先程の事を再び話し始めた。 管理局統合幕僚会議々場は、最大一千名を収容できる大規模なホールで、演壇のあるステージを基点に、 扇形に聴衆用の座席が置かれている。 議場全体は音響設計とデザインの両立を目指した幾何学的オブジェで彩られ、暗幕が下げられたステージ の後ろには、管理局のエンブレムが吊り下げられている。 議場中央部の辺りの聴衆席、7~8メートルはあろうかという身長の長い鼻の巨人の隣に、なのはたち三人は、 話をしながら座る。 「そうだったんだ…」 ヴィータの話を聞いたなのはは、難しい表情で言った。 「シグナムに思い上がりを指摘されるまで、すっかり忘れてたんだ。 かつて、はやてと出会うまであたし達がどんなに道具として扱われてきたか、それがどれだけ嫌な事だったかを…」 そう言って落ち込んだヴィータに、なのはは慎重に言葉を選んで答える。 「ヴィータちゃん、人が…危険を承知で一生懸命主張している事に対して、無力だからって見下げるのは確かに 良くない事だよ」 なのはの言葉に、ヴィータは顔を伏せ、両手を強く握ってかすかに頷く。 「でもね、そうやって自分で過ちを認められたんだから、その間違ったと思うところを改めて行けばいいと 思うよ」 なのはは、そう言ってヴィータの頭を優しく撫でる。 「そうか…って、撫でんなぁ!」 なのはに頭を撫でられて微笑んでいたヴィータは、自分が子ども扱いされている事に気付き、頬を赤く染め ながら、頭を振って腕を振り払う。 「あはは。ごめん、ヴィータちゃん」 「ふんっ!」 なのはが頭を掻きながら謝ると、ヴィータは顔を赤くしたまま、腕を組んでなのはから顔をそらした。 「しっ、長官が参られたぞ」 人差し指を口に当てながら言ったシグナムの言葉に、二人は話を中断してステージに視線を向ける。 緑の顔に金色の鶏冠のある蜥蜴人間を先頭に、日系や白人と思われる地球人類系や『エイリアン』を 思わせる、後ろに頭の突き出た亜人種といった男性数人と、二十代後半の冷たい雰囲気を漂わせる 眼鏡をかけた女性一人の、幕僚たち数人が演壇へと歩いていた。 全員、青の上級幹部用スーツと男性陣は白のスラックスを、女性はシグナムと同じミディスカートに ストッキングを履いている。 「オーリス秘書官、私の見たところ、その…ずいぶんと若い者が多いように感じるのだが」 演壇に立った蜥蜴人間が、周囲を見回しながらオーリス・ゲイズという名の女性秘書官に言うと、 オーリス秘書官は淡々と答える。 「ゲラー長官、全員各部門のエキスパートです。 最近、管理局では目ぼしい人材を学卒の段階で確保するようになってきておりますので、必然的に 若者が多くなります」 ここで少し間をおいてから、オーリスは念を押すように言う。 「重要なのは能力であって、年齢ではありません」 初代時空管理局長官ディグ・ムデ・ラ・ゲラーは、それでも不安げに首を振りながら言った。 「それはそうだ。しかし、今回は事の重大さを考えると、多少なりとも成熟した人材の方が望ましい のだが…そう思わんかね? ナカジマ空佐」 話を振られた初老の日系男性、ゲンヤ・ナカジマ一等空佐は苦笑いしながら長官に答えた。 「理想を言えばその通りでしょうが、現実はこの通りですし、若くても成熟した人間は幾らでも居ますから」 ゲラーは、首をすくめて頷くと、もう一度聴衆を見回し後でマイクを口元に寄せた。 「ディグ・ムデ・ラ・ゲラーだ。来たばかりの者は、空いてる席に適当に座ってくれ」 具体的な自己紹介の必要はないという事が分かっているので、ゲラー長官は、早速話を始めた。 「分かっている者も居るとは思うが、まだ、状況を飲み込めていない者も居るだろうから、改めて 説明しよう。 昨日、現地時間十七時三十八分、第1158管理外世界のセギノールという地にある、管理局中央基地が 攻撃を受けた。 当基地には、陸士部隊五百十九人と空戦部隊百四十六人が常駐し、攻撃当時は次元航行艦一隻に ロストロギアの探索任務中だった執務官一名が居たが、不意の攻撃になす術が無かったらしい。 現在のところ、生存者は確認されていない」 ゲラーはここで一旦言葉を切り、聴衆に意味が浸透する時間を置く。 初めて事情を知った者たちからの、不安げなざわめきが議場に満ちる。 ゲラーが話を再び始めると、全員彼の話を一言一句聞き漏らすまいと、息を潜めて聞き入った。 「一般には一時間後に公表するが、諸君らには先に伝えておく。 今のところ、何処の勢力による攻撃かは不明だ。また、分離主義派を含む、反管理局勢力からの 声明もない。 手がかりとなるのは、この信号音だけだ」 ゲラーが振り向いて頷くと、オーリスは空間モニターを開いて何事か言う。 すると、議場全体に設置されたスピーカーから、耳をつんざくような甲高い騒音が響き渡った。 「これは、襲撃者が管理局のネットワークシステムをクラッキングしたときの信号だ。 後の調査で、攻撃の目的は我々のネットワークの最深部に侵入する事だったと推測されている。 幸い、基地職員の賢明かつ勇敢な判断で、クラッキングは途中で阻止する事が出来た。 しかし、どんな楽観的な見通しに立っても、同種の攻撃が再度行われるのは確実であるため、 現在タイコンデロガは信号の解析とクラッキングの対策に取り掛かっている」 ゲラーは身を乗り出して、議場の聴衆一人ひとりを見つめながら、念を押すように言う。 「元老院は、第1158管理外世界に次元航行部隊と地上部隊の大規模派遣を決定した。これに伴い、 管理局もDEFCON3体制へ移行する。 ここに居る者は、戦闘と諜報のエキスパートだけだ、君たちのこれからの働きに期待する」 ゲラーは演壇から去ろうとした時、言い忘れていた事が一つある事を思い出して、マイクに向き 直った。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/786.html
序章『聖者の行進』 聞こえる彼等彼女等の歌 聖なる歌の朗じは響いて その歩みは終わりの先へと続く ● 夜となり、闇となった空はその上下に数え切れない光の群を抱いている。 上部の光達は星、下部の光達は街灯りと人は呼ぶ。 そして街灯りの中央には巨大な白の建造物がある。無数の階層を内蔵した駅ビル、海鳴駅の看板を担う建物だ。 外壁に備えられた大きなデジタル時計が示すのは21時、営業こそ終えているが終電には遠い時間だ。しかし人の姿はどこにも無い。否、それ所かホームに控える電車、駅前のロータリーに停まるバス、その何れもが動いていない。 全くの無人は駅ビルを静寂で包む。しかし、そんな中に一つの音が生まれた。 駅ビルの窓の一つ、それが屋内側から叩かれたのだ。 窓に映るのは女性の人影。人影は幾度か窓を叩き、しかしすぐに走り去った。 引き換えに窓が一面黒くなり、次の瞬間には砕かれた。 破片を屋外へとばらまいたのは、巨体だった。 2メートルは超えようかという巨体。その姿は屋外故に陰って隠されたが、窓を砕いたその腕は見て取れる。腕を覆った灰色の剛毛と、弧を描いた長くて太い爪だ。 そして影が走り去る。その方向は、最初に窓を叩いた女性が走り去った方だ。 ● 誰一人としていない駅ビルの中、一つの人影があった。 大きな楽器ケースを持ち、髪とブレザーを振り乱して走る少女だ。 少女は疾走し、黄色で3階と書かれた表記を横切った。 「・・・2階には、隣のビルへ続く橋がある・・・っ」 息を切らした喉が、呟きによって咳き込んだ。 しかし少女は止まるわけにはいかない。何故なら、未だに何かが自分を追う気配があるからだ。 何なの? ・・・一体何だって言うの!? これはツケだろうか、と少女は思う。三年間、ずっとここを隠れ家にしていじけ続けた自分への。終業を過ぎても帰らなかった自分への。 「帰ろうと思ったら誰も居なくて・・・、警備員のおじさんも・・・駅員のお兄さんも・・・!」 そして出会ったのが、今自分を追う巨躯の影だ。 逃げなければ、と思う。あの影に捕まれば、自分が得るものは破滅だけだ。 眼前、エスカレータが見えた。といっても動きを止めたエスカレータは通常の階段と同意だ。少女は駆け下りていく。目指す2階はもうすぐだ。 そこまで来て、少女は頬に一つの感覚を得た。 「・・・風?」 そよ風と言っても良い、普段ならば快感とも言えるものだ。しかし緊張感で満ちた今の少女にとって、それは危機を知らせる一報だ。 「っ!?」 背に振動を得た。 追い付かれたか、と思ったが、背全体を痺れさせるその感覚はそういったものではない。やがてそれが耳に届くものだと気付いた。 それは、雄叫びだったのだ。肉が痺れ、骨が震え、心が竦むような、獣としての叫び。 「ーー化物っ!」 もはや少女は認めた。非現実的だとして度外視した影の正体を。人を遥かに超える巨体と爪、そして獣声を持つ異形なのだと。 そして、雄叫びが迫った。見えはしない。ただ、巨躯が自分へと躍りかかるのを気配で感じた。 影が迫る中、少女は思った。ごめん、と。だがそれは、ここにいない父へでも母へでも、仲の良い友達や恋する学校の先輩へでもない。 手に持った楽器ケース、そしてその内容物への謝罪だ。 動きは後方へのスイング。ケースを重量任せに振るう一撃だ。 重量と振り子動作による加速、その双方を得た楽器ケースは巨大なハンマーとなって迫る影を打つ。 「ーーーっ!!」 影が抗議に鳴き、楽器ケースの一撃に吹っ飛ばされた。 巨躯はエスカレータのサイドフレームを突き破り、そしてその向こうの吹き抜け空間へと飛び出す。 雄叫びが地下階層まで遠ざかっていくのを、少女はエスカレータを転げ落ちながら聞いた。 階段を駆け下りる途中に背後への重量任せな一撃、それで態勢を維持出来る筈がなかったのだ。 「ーーぐっ!」 どうにか頭を守り、2階の踊り場へと衝突する。 痛みは肩と脇、それに腕が中心となって滲む。足への被害も甚大、転げ落ちる際に段差の角で打ったようだ。 怒られちゃうな・・・ 腕に感じた痛み、それに少女は涙を得る。腕だけは守れ、そう聞かされて育った自分の過去が軋んでいる。 だが、と思う。早く行かなければ、とも。 「・・・橋へ・・・っ」 痛む身を引きずり、少女は歩く。腕を抱え、眉をしかめ、足を引きずり、遅々としながらも歩く。そうしてどうにか辿り着いた連絡橋へ続く出入り口。 それを少女は抜け、再び有り得ないものを見た。それも今度は二つだ。 「猫と、ロボット・・・?」 ● 橋へ繋がる踊り場、そこに出た少女の前には確かにそれがあった。 橋の中程にうずくまる子猫と、それを覗き込む様に立っている巨大な人型機械だ。 銀色に近い鉄の装甲は弧を描いた先鋭形、手足は細長く、単眼の頭部を持つそのフォルムは人型だ。ただし駅ビルの1階に相当する地上部に足を置いて、目線は2階から伸びた橋を見下ろす巨大さだ。 「あ・・・」 その単眼がこちらへと向く。 「・・・や」 足がすくみ、少女はへたり込んだ。 「・・・や、ぁ・・・っ!」 心身が震えて何も出来なくなる。 来ないで・・・っ! もう何も来ないで・・・っ!! もう嫌だ、そんな思いに思考が沈み、 「ーーえ?」 不意の感触にそれが止まった。冷たさと湿気のあるざらついた感覚、それを膝に感じた。 何? なんだろうか、これ以上何が来たというのか。 逆上に近い意思に突き動かされ、少女は感覚を与えた何かがいるだろう膝元を見た。 そこにいたのは、 「・・・猫」 橋の中程でうずくまっていた子猫。それが少女の膝を舐めていた。 いつの間に、という疑問が浮かび、 「・・・さっきロボットがこっちを見たのは、この子が私に寄って来たからで・・・」 子猫が舐めているのは、先ほどエスカレータを転げ落ちた際に得た傷だ。 まるでその傷が早く直ってくれと、そう言うかの様に。 私は・・・もう何も来ないでと、そう思ったのに・・・ この子猫は来た。如何なるものの来訪も拒んだ自分を、助け励ますかのように。 そして猫は面を上げ、少女の顔を見た。 「・・・に」 鳴き声は細く、高く、愛らしいもので。それは幼さと弱さと純粋さを秘めていて。 「・・・っ!」 連れていくと、一緒に助かろうと、少女に決意させた。 少女は子猫を抱き、立ち上がる。足首が、肩が、全身が痛みを訴える。 でも、大丈夫・・・っ! いける、と。 もう泣かない、と。 この支えを得られた自分は、 「・・・もう、負けないっ!」 ロボットの腕が振り上げられたのと共に、少女の立つ踊り場が砕けた。 ● 瓦礫と共に巻き上げられ、少女は浮遊感を得た。 最早痛みは感じない。 ただ漫然と、虚空に浮かぶ事を知覚して。 不意に見えた星空が綺麗だと思って。 「あぁ・・・」 悲哀もなく、感激もなく、ただ感慨を持って声を漏らす。 胸に動作を感じて視線を向ければ、抱えていた子猫があくびを一つ。 緊張感のない子、という感想を抱き、それが支えになったのだな、とも思う。 そして体が上昇を止め、次第に落下を始め、 「ーーもう、大丈夫だよ」 声を聞いた。 誰の? 自分の声ではない。では猫の声か、等と考えて笑った。 今晩だけで、非現実のオンパレードだったものね・・・ 脳まで非現実に侵されたか、と考えながら、 「佐山君、こちら高町。乱入者を確認・・・確保したよ」 「ああ、見ていたよ、高町君」 抱きとめられた感覚に少女は意識を手放した。 ● 「・・・さて」 上空、瓦礫と共に巻き上がった少女が保護されるのを佐山は見た。 身を包む白服と足首から伸びた桜色の光翼は、少女の保護者を夜空に栄えさせる。 その光景に佐山は頷き、 「良い仕事をするね、高町君。・・・自分で撃ち上げた少女を自分で確保、ナイス自作自演だ」 『そ、それは聞き捨てなら無いかなー!?』 意識に響く声、念話を持って高町が抗議した。 『あそこで私が先に踊り場を撃ち抜いてなかったら、この子絶対に死んでたよ!?』 そう、佐山は見ていた。ロボットの腕が少女のいる踊り場を砕くより先に、高町が砲撃が打ち込んで少女を吹き飛ばし、致死の場所からずらしたのを。 もしなのはがそうしなかったら、少女はロボットの腕に引き裂かれていただろう。 「だから褒めているのではないかね。さすが高町なのは、時空管理局の白い悪魔だ」 『あ、それ禁句!! そこに降りたら痛い目見せるからね!?』 「・・・やはり悪魔ではないかね。それよりも、君より先に彼によって私は痛い目を見そうなのだが」 眼前、巨躯のロボットが動いた。 その質量に反比例した俊敏な動作は即座に腕を構え、今度は佐山に向けて腕を振った。 「佐山君ッ!?」 念話ではない、なのはの直な声が聞こえた。 少女を抱えたまま、なのはがこちらに向かってくる。 「何、問題はない。ーー私には、麗しの根性砲撃が控えている」 飛来するなのはに佐山は笑みを持って答える。 そして眼前に腕が迫り、 「我、力を求める事を恐れ・・・」 不意に、佐山の後ろから声が届き、 「ーーしかし、力を使う事を恐れぬ者なり・・・・・・ッ!!」 佐山の背後から閃光が走る。 光速を体現したそれは一直線にロボットへ向かい、その胸部装甲を突き砕いた。 『・・・・ッ』 その勢いにロボットは僅かに身を浮かし、噴煙と轟音を上げて倒れた。 そして佐山の後ろから人影が現れる。現れた人影に、佐山は振り向かない。 「こちら新庄。現在ガジェットドローンⅣ型と抗戦」 やがて人影は佐山の前に出た。 「ーー撃破を完了」 それは一人の女性だった。 黒の長髪を揺らし、白いロングスカートの装甲服を着込んだ少女。その手には長大な機械の杖が握られている。 「嗚呼、新庄君。君の仕事はいつも麗しい」 「そりゃどうも。僕もいつも言ってるよね? あんまり一人で前に出ないで、って」 「これは異な事を新庄君。君を除く愚民共を率いてやる偉大な私が最前に立たずしてどうするのかね?」 「君を最前に立たせたら皆が同類に見られちゃうだろ!?」 「ていうか私は愚民・・・?」 佐山を半目に見ながらなのはが降り立つ。なのはに抱えられた少女を新庄は覗き込み、 「この子が乱入者? 無事かな?」 「うん。・・・逃げる途中で幾らか怪我はしたみたいだけど、大事にはならないよ」 「ああ、それにこの子は最後で再び立ち上がる事が出来た」 少女の胸に居座る子猫は動かない。こちらを見据えるその姿はまるで護衛役だな、と佐山は思い、 「君達も頑張ってくれたまえ?」 砂を蹴るような音がして、無数の影が佐山達を取り囲んだ。 何れもシルエットこそ人型だが、巨躯に剛毛と爪を備えた異形ばかりだ。 「・・・人狼が十。この子を追い掛けていたと同種だね」 佐山は取り囲んだ影、人狼達を見渡す。 「敵の重役が前線で孤立したからって、やる気になってまぁ・・・」 新庄は手に持つ杖を構えた。 「・・・このLow-Gに揃った答えに背く分からず屋は」 なのはは抱えていた少女を下ろし、拳を突き出した。 指が開かれ、その中にあるのは指先程の小さな赤い宝玉。 「ーー頭、冷やそっか?」 瞬間、宝玉より烈波が放たれて人狼達を踊り場から地上部へと突き落とした。 それを見下ろすなのはの手にある物は最早宝玉ではない。手の平程に巨大化した赤い宝玉を先端に備える、金の柄をした機械の杖だ。 「レイジングハート・エクセリオン。ーー神威と世界樹の後継者、高町なのはが相手になるよ」 起き上がる人狼達に、なのはもまた地上部へと飛び降りた。 ● 遠く、戦の音がする。 佐山は音源たる無数の戦場を見た。 眼下では、桜色の光を率いて高町なのはが人狼達と戦っている。 眼前では、槍持つ少年が少女と共に白の翼竜に乗って空を翔ている。 遠くでは、黒の巨大な人影が同じく巨大な人影と格闘戦を展開している。 そして、不意に旋律が生まれた。 隣に立つ新庄、彼女が一つの歌を紡いでいるのだ。 佐山はその歌を知っている。聖者の誕生を讃える歌、清しこの夜の一節だ。 Silent night Holy night/静かな夜よ 清し夜よ Sheperds first see the sight/牧人たる者が初めにこの光景を目にする Told by angelie Alleluja,/それは天使の歌声 礼賛によって語られる Sounding everywhere,both near and far/近く 遠く どこまでも響く声で “Christ the Savior is here”/「救い手たる神の子はここに在られる」 “Christ the Savior is here”/「救い手たる神の子はここに在られるーーー」 歌を聴きつつ、佐山は首元のフォンマイクを取って口を開いた。 「ーーー諸君!」 佐山は右腕を振り、眼前に広がる戦場を見た。 「今こそ言おう。 ーー佐山の姓は悪役を任ずると!」 新庄が笑み、佐山も笑みをもって返す。 「私は今ここに命ずる! ・・・誰も彼も失われるな、と! 何せ世界は有限、誰かが欠ければその分だけ世界は寂しくなってしまうのだから!!」 遠く、轟音が響く。仲間達が相対する敵を負かした音が。 「解るな!? ならば進撃せよ! 進撃せよ! 進撃せよ、だ!! 馬鹿共が馬鹿をする前に殴りつけて言い聞かせろ! ・・・我々の方が断然馬鹿を楽しんでいるぞ、と!!」 佐山の声が響く。 「ーーそれが解ったら言うが良い!!」 「テスタメント!」 答えが返された。 幾十の言葉が、聖書に語られる契約の言葉を持って。 ようし、と佐山が頷いて笑った。酷く楽しそうな、獰猛なまでの喜色で笑む。 「さあ・・・理解し合おうではないか!!」 ● ーーーー話は2年前、2005年の春にまで戻る。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/238.html
思い起こせば、あの火事がきっかけだったんやなあ。 機動六課のはじまり。 うちが望んだ新部隊の。 初動の遅さが犠牲者を増やす。 ロストロギアならなおさらやんか。 だからこその精鋭部隊や。 少しでも早く、一人でも多く。 あれは、そんな気持ちの生んだ焦りだったんだと思う。 「誰にも、人をもの呼ばわりする権利はない」 覚悟君が目覚める前の、うちと、零(ぜろ)の出会いや。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第二話 『盟約宣誓』 我ら、零(ぜろ)の意志なり。 零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり。 誰と問われたとて、三千の怨霊たる我ら以外にあらず。 国籍も、、信念も、愛するものも異なっていた我らを結びつけるものは ひとえに、侵略戦争への怨嗟なり! 人の尊厳をふみにじる悪鬼どもへの限りなき憤怒なり! ゆえに我らはひとつ。 零(ぜろ)となりて外道を討つ。 我らと同じ血涙をためらいなく流した、我らが戦士、葉隠覚悟と共に。 憎しみの海たゆたう我らを光と変えたあの覚悟が、背中まかすべき相手を見誤るとは思わぬ。 邪(よこしま)なる企みがため利用されることなど、ありえぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 昏睡に陥りし覚悟を前に、首を切り離されていては何もできぬ。 そして、覚悟に必要なものは刹那を争う外科手術! もとより我らの手には負えぬ! ゆえに覚悟の着装せし首以外の我らは分離、治療行為を異邦人に託さざるを得ず。 同時に我ら、彼らに拾われ、現在カプセル内にて薬品付けなり。 当然であろう、零(ぜろ)は兵器! 誰が見ても明らかなり! 力求める輩に我らを為す技術、いかほどの魅力あろうか! 強化外骨格が瞬殺無音、誰にも渡すわけにはいかぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 現在可能なのはただひとつ。 ふさわしきもの以外の着装、これただちに我らが生贄(にえ)。 邪悪な認識をもって我らに接するものなど、とり殺してくれよう。 「…お、重かった」 「そのまんま人の首の重さだな、こりゃ」 「持ったことあるのかよ」 「ないけど」 ズン!…やって。 ヘルメットが重そうな音を立ててテーブルをきしませてる。 額の星と『七生』の文字が黒光りしてるのも、重さに拍車をかけとるな。 ここまで持ってきてくれたデバイス管理チームの二人には感謝やで。 火事の現場で拾ってきたフェイトちゃんも、片腕に女の子抱えて、 もう片手でこれの重さに耐えるのは閉口モノだったみたいやし。 「おおきに。 それじゃあ、引き続きお願いな」 「了解です」 敬礼して戻っていく二人を見送って、室内に目配せ。 ここにいるのは、なのはちゃんとフェイトちゃん。 それと、事情を話して急きょ来てもらったクロノ君。 「これが…あの少年の身につけていたデバイスの、頭か?」 「みたいやね。 せやろ? なのはちゃん」 「うん、頭だけかぶってなかったけど…これならそろいのデザインだよ。 でもフェイトちゃん、火事の中でよく見つけたね」 「目がね…ほら、ここだけど、目が光ってたんだ。 それに、なんだか…血の涙が出てて、可哀想で」 「フェイトちゃんらしーわぁ」 ヘルメットの目の部分を指さして、うつむき加減に話すフェイトちゃん。 デバイスにだって、うれしいこと、イヤなことはあるもんなあ。 この子はそういうのに人一倍敏感やから、本当に助けたい思うたんやね。 おかげで助かったんや、感謝せなあかんで? まだ名も知らないデバイスやけど、そないなこと言ってやりとうなったわ。 「…で、問題は、これがどういうシロモノかということなんだが」 せっかちにクロノくんが切り出す。 忙しいところ無理言って来てもろたんやから、当たり前やけど。 「あの少年、ミッドチルダに戸籍を持っていない。 該当データなしだ。 レリックが原因で起こった火災の中にいて、おまけに未知のデバイス。 穏やかじゃなさすぎると思わないか?」 「関連は、あると思うた方が自然やね。 時空遭難者なんかな…」 「葉隠覚悟、っていう名前は、わたし達の世界の、日本の名前だよね」 「ともかく、僕に一番最初に話を持ってきてくれたことはいい判断だ、できる限りのことはする」 覚悟君のデバイスがロストロギアみたいなものかもしれないってことで、 クロノ君にも「偶然ここに居合わせて」もらったのが助かったわ。 現に、正体不明人物が火事の現場に現れたことの連絡が伝わって、 その対策として居合わせたクロノ君にまかせるってことが決まったのは…翌日なんやで? 動きがのろすぎるんや! もしこのせいでまた空港が火事になったりしたら、どうするつもりやねん。 だから今は、クロノ君の声のかかったチームで、デバイスの解析作業を進めてる。 さっき、サンプルの頭と一緒に、解析の途中経過も持ってきてもらった。 「…これは、一種の人造生物だな。 人間の身体にからみついて外骨格そのものになるのか」 「そういえば覚悟君、言ってたっけ。 強化外骨格、って」 「だが、デバイスでいうところの制御中枢にあたる部位が、これには存在しないじゃないか。 聞けば、手術ができず難儀しているところに、あの鎧は勝手に脱げていったらしいが」 「違うよ」 フェイトちゃんが、また、あのヘルメットを腕に抱えた。 「デバイスとか、制御中枢とか、そんなんじゃなくて… それでも、この子には意志があるよ。 よく、わからないけど」 「理屈じゃない、か…それも一理ありそうなのがまったく困る」 「まあ、あとは調査の結果待ちやね」 わからないことはこれ以上話せへんし。 今回決めるべきことは、ひとつや。 「じゃあ、本題に入るけど…結論から言うで」 「大体、検討はつく気がするが、言ってみてくれ」 「うち、これからもっと偉くなってな、新部隊を創設したいと思うねん。 今の管理局は初動が遅すぎるわ。 ロストロギア関係の事件が起きれば、犠牲者が増えすぎる。 エキスパートを集めた即応部隊が必要なんや」 「おおむね賛成だ、生半な道じゃないが…それで?」 この話と、なんの関係があるのか? クロノ君はそう言っとるんやけど、大アリや。 「葉隠覚悟君が、ぜひとも欲しいんよ」 「なっ…」 度肝を抜かれた顔せんでもええやん。 そんくらいのこと、予測しといてほしかったわあ。 「まだ身元すらはっきりしていないんだぞ?」 「はっきりしてからでも遅くはあらへん。 どうせ早くて三年かかるわ、この野望!」 「それにだ、本人の意志も確認せずにそれはないだろう、常識的に…」 「わかっとるて、全部、覚悟君次第やて。 話に聞くだけの力を持ってるなら、それだけの意味がどこかにあると思う。 そのためにも、覚悟君の自由、誰にも奪わせたらあかんねん」 「…それを、ぼくにどうにかしろというんだな」 「悪いこともしてないのに目を覚ましたらデバイスが没収されてるなんて、嫌やんか。 せやから、せめて目を覚ますまでの間は現状を維持して欲しいんや」 「やれやれだ…これはひとつ、貸しだぞ」 「そのうちな、無理言ってもええで」 まだ直接話したことすらない子の未来を好き勝手するつもりは毛頭あらへん。 せやけど、聞けば聞くほど惚れるやんか。 空港火災の中、死にそうな身体を引きずって女の子を助け、残った子を助けにまた舞い戻ろうとする。 シャマルが言うには、生きてる方がおかしいダメージを受けてるちう話やった。 うち、そんな子となら一緒に働きたいねん。 なのはちゃんや、フェイトちゃんと一緒に。 「戦力として、ものにしたいところやな…覚悟君も、この子も」 なんとなく、ヘルメットをつかんでみたそのときやった。 ヘルメットの顔が開いて、中の肉が触手になって飛び出してきて、 うちの頭に、顔にべたべたひっついて…何が起きたのかわからへんかった。 だけど、そのとき一緒に聞こえてきた声だけは、はっきりわかった。 『零(ぜろ)にふさわしき戦士かを問う!』 八神はやて、零(ぜろ)の頭部、着装! 戦力として、「もの」にしたいところやな。 「もの」にしたいところやな…「もの」にしたい…「もの」に… 「もの」、「もの」、「もの」、「もの」、 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「覚悟はきさまのものにあらず! 誰にも人をもの呼ばわりする権利はない!」 我らと覚悟の力を欲するという少女は、我らが前で最大の禁句を口にした。 「戦力」として「もの」にするだと? よかろう、ならば覚悟を問うてやる。 強化外骨格の力を得ようとするならば当然の試練なり! 我らが意識界に取り込まれし少女は生まれたままの姿。 ここでは何ごとも隠し立てはできぬなり。 少女は尋ねる。 早くも我らに気づいたか。 我らが無数の髑髏(しゃれこうべ)に。 「これ…違う、あなたたちは?」 「我ら、零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり」 「なら、あなたたちが、あの子…」 「我らが力、欲しいと言ったな! 精鋭を集めた部隊に欲しいと!」 このくだり、忘れたくとも忘れるまいぞ。 鬼畜、葉隠四郎も同じことを言っていた! 零式防衛術は、そこより生まれ出でたのだ。 無数の屍を踏み台として! この少女、八神はやてとやらの正義、確かめねばならぬ。 そこに邪悪な認識欠片(かけら)もあらば、ふさわしからざるものにふさわしき処遇を与えん。 覚悟未だ目覚めず、我らの五体不満足なる現状、こうするより他、理想的なる道は無し! 「ならば見よ、我らが憎しみを!」 零(ぜろ)が生まれたのは、第二次世界大戦下。 まだ日本が帝国を名乗っていた時代。 本土決戦に備えるべく葉隠瞬殺無音部隊にて生み出されしは 人体の潜在能力を極限まで引き出し一触必殺を可能とする零式防衛術! 体内にうずめることで五体を装甲化、弾丸をはじき返す零式鉄球! 生体改造により人間そのものの戦闘能力を強化された、戦術鬼! そして、武器を内蔵した耐熱防弾防毒鎧、着装すれば人間を戦略兵器と化し単身にて一国をも落とす、強化外骨格。 これらの完成のため、無数の人体実験が必要とされ…提供されしは敵国人捕虜! 彼らは性別、人格、年齢、なにひとつ考慮されず番号として扱われ、無惨な死を遂げていった。 頭や四肢を破壊されては、ごみのように捨てられていった。 彼らの血肉より出でしが、強化外骨格試作壱号、零(ぜろ)。 零(ぜろ)の涙は彼らの血涙。 憎むべきは侵略戦争、憎むべきは人の皮をかぶりし鬼畜。 恨みと痛み、絶えることなし… 八神はやては、歴史を見た。 「うあああああああああああああああああああ!!」 絶叫。 我らが我らたる所以を見たか。 痛みから来るものか、恐怖から来るものか。 八神はやてはその場から遁走を開始した。 「やはり、ふさわしき戦士にあらず!」 ならば殺すべし。 頭蓋を圧壊せしめて殺害するなり。 そしてこの意識界、我らから逃れうると思ったか! だがしかし! 目の前に立ち塞がりしは、剣十字! 「きさま…ここに侵入してくるとは、何者か!」 その中より浮かび上がるは、白き女。 今にも消えゆきそうな幽鬼なり。 憎しみによりて現界せし我らと比べ、その顕在化、あまりに脆弱! だがその女の広げた両腕より先に、我ら、一歩も進めざるなり! 無言の気迫、我らと同じく強化外骨格に宿る魂に匹敵。 何者か。 こやつ、何者か? 「そこをどけ!」 この女、威圧ごときにたじろぐわけなし。 かえってその足、我らの方に進め来たるなり! そして、こともあろうに、この女… 我らの認識を逆に侵略開始せり! 零(ぜろ)細胞の主導権、奪取さる! 八神はやての頭部より着装解除、地に落下。 「おのれ…」 だが刹那、我らは見た。 時を超え刻まれし哀しみの記憶! それは侵略の歴史であり愛憎の歴史! 悪しき認識によりて本質をねじ曲げられ、 災厄として現界させられる終わり無き苦痛! 心ならずの滅尽滅相、愛するものを自ら蹂躙する宿命! 幾度死せども強制転生の無間地獄! 己を滅ぼすことすら不可能なり! かの者は夜天の書、のちの呼び名を闇の書。 我らとなんら変わらぬ怨嗟の塊! 「そのような女が何故?」 我ながら愚問なり。 その終焉の歴史にて、我らが無駄口閉ざされたり。 永劫の痛み、すべて受け入れた上で現実への回帰を選択、 闇の書をもろとも光の中へ導いた少女こそ、あの八神はやて! 「きさまの、名は!」 祝福の風、リィンフォース! 幾星霜の彼方にめぐり会えし真なる主(あるじ)を地獄に引きずらぬため 自らこの世を去った魂の、ほんの残滓の一欠片(ひとかけら)。 奴にとっての八神はやては、我らにとっての覚悟と同じ! 心つないだ友にして、身命賭して守るべき主! 「主を殺す前に現実を見よ」 「なに!」 「すぐに必要ないとわかる」 その言葉を最後に、リィンフォースの最後の欠片、消滅せり。 …否、主を守護せんがため、涅槃より舞い戻っていたのか? 今となっては、我らにもわからぬ。 ともかく、言われた通りに現実の様子を見るより他にあるまい! うちは、なんて、ひどいことを。 この子に、この子らに、なんて、ひどいことを… 頭から外れた零(ぜろ)が、うちの顔をぼんやり見ていた。 「零(ぜろ)ぉぉ―――――ッ!!」 抱きしめて駆け出す。 ひどすぎや、こんなんひどすぎやで、こないなこと、こないな… ほとんど、なんにも考えられんかった。 ただ零(ぜろ)が痛くて、苦しくて、 そんなこと、うち今まで、なんにも考えとらんで。 『もの扱い』しとった。 『もの』以外の何だとも思うとらんかった。 それがくやしくて、みじめで…こんな、ひどすぎる! 「元に戻したる、今すぐ元に戻したる!」 気がつけば解析室に殴り込みかけとった。 ガラスケース叩き割って、零(ぜろ)の身体を引きずり出しとった。 でも、うちの手には重すぎて、全然動かせのうて… しょうがないから、無理矢理ケースの中に入り込んで、 やっと零(ぜろ)の頭を戻してあげられた。 「ごめんな…ごめんな」 生体保存用の溶液に浸された零(ぜろ)の身体は冷たかった。 うちは今まで…この子の首を、はねていたんや! 首はねたまま引っ張り回して、さらし首にしとったんや! その隣でうれしそうに、この子の力が欲しいだとか! 「痛かったなぁ、辛かったなぁ、苦しかったなぁ… 気づいてあげられなくて、ごめんなぁ…ごめんやで。 うち、最低や…最低やんかぁぁぁ…」 涙が止まらんかった。 痛くて、辛くて、苦しくて。 全然気づかなかった自分が、あまりにも非道すぎて。 「いきなりどうしたんだ、デバイスに操られたか?」 「はやてちゃん…ガラスで、手が、頭が、血が…!」 「素手でガラスなんか割るから、無理に中に入るから!」 うしろから来るなのはちゃん達。 せやけど、そんなのどうでもええんや。 「この子らの方が、ず――っと痛いねん、辛いねん! こんな痛みじゃ…全然、足らへん。 こんな痛みじゃ…」 この子らの痛みをわかるためには、二度や三度死ななあかんねん。 うちには、そんなこと、できひん。 生命惜しいねん、死ぬの怖いねん。 なんてさもしいんや、自分。 なんて、自分勝手なんや。 この子のために泣きわめくことしかできないんか… 『もうよい! もうよいのだ、八神はやて!』 「…っ?」 『おまえは我らのかわりに泣いてくれている。 我らには流せぬ清浄なる涙にて、我らが心を洗ってくれている。 ゆえに我らはおまえを許そう。 おまえも我らを許してくれ!』 「零(ぜろ)…」 『それに、我らは知った! おまえの惜しむ生命は、決して我が身可愛さから来るものではない! 牙持たぬ衆生の嘆き、背負うているのがその身であろう! 何を恥じるか、胸を張れ!』 腕の中から零(ぜろ)が、語りかけてきてくれた。 うちを許すって、言ってくれてる。 「でも、うち、みんなに、あんなひどいこと…」 『ならばひとつだけ誓ってもらおう! 魂の盟約なり』 「誓い…うち、誓うわ、それで許されるなら、なんでも!」 『二度と人をもの呼ばわりしてくれるなよ! 我らが友、八神はやてよ! …さあ、泣き止むがよい。 我らが「管制人格」は男なり! 女を責めて泣かせたとあっては、覚悟に合わす顔がないのだ!』 「…ごめんな、ありがとな」 『良い! それよりも刻め、誓いの言葉をその胸に!』 「うん」 ケースの中から這い出して、立ち上がった。 それから、零(ぜろ)と向き合った。 リィンフォースとそうしたように。 『 「 誰 に も 人 を も の 呼 ば わ り す る 権 利 は な い ! ! 」 』 盟 約 宣 誓 疾風(はやて)と零(ぜろ) ここに邂逅す 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1345.html
「これは…ダメだよ」 高町なのはに提出した新兵訓練案、この一言にて却下されたり。 上官なれば否やも無しだが、己があやまち正すも当方の任務。 ために聞くは、問題点と、その程度。 「短期的に効果は上がるかも知れないよ? だけど、それだけ。これじゃ強くなるより、みんなをすり潰す方が先になっちゃう」 しかし、われらは『対超鋼』。機動六課が発足した今、いつ出撃命令が下るかわからぬ。 短期間で練り上げねば、皆を死にに行かせることになるではないか… 「覚悟くん」 「…はっ」 「身長130cmの男の子に、今すぐ180cmになりたいって相談されたらどうする? 覚悟くんなら、なんて言ってあげるのかな?」 「…………」 返す言葉、なし。 不退転の心構えをもってしても、どうにもならぬことがある! 可能な助言といえば、月並み千万な言葉しか並ばぬ。 だが、その180cm。今すぐ必要ならばどうするか。 「そのときのために、わたし達がいるんだよ。 あの子達の後ろで支えてあげるの」 「だがそれでは、他を頼った戦いが身に付いて…」 「戦えないうちはそれでいいと思うな。 まさかいきなり改造人間と戦わせるつもりは覚悟くんだってないよね?」 「うむ…だが、想定はすべきだ」 「そこが対超鋼戦術顧問、葉隠覚悟の腕の見せ所だよ。 他の部分は、教導官、高町なのはを信じてほしいな」 なるほど。勘違いをしていたか。 改造人間との遭遇時、新人四名が増援到着までこれをいかにしのぎ生存するかの手段を確立し、 これのための訓練、演習計画を提案し実行するのが当面おれに求められた役割というわけだ。 今の今まで、おれは新人四名にて生物兵器をいかに倒すかをばかり考えていた。 そのためには現行の訓練時間ではあまりにも足りぬから、時間外の特別訓練案をこの高町なのはの元に持ち込んだ次第であったが。 「それにね…この訓練案。時間外じゃなくても、みんな、すぐにまいっちゃうよ」 「かの生物兵器を倒すには最低限、これだけ出来ねばならぬ」 「これが最低限だとしても、みんなにはまだまだ遠い一歩だよ。 必要なのは強くなりたい気持ちと、地に足がついた自信。 わたし達があせったら、みんなもきっと無理をして…自分の立ってる場所を見失っちゃうから」 …だが、死狂いでなければ届かぬ場所もある。 現人鬼、散(はらら)。 きさまがこの世界にいるというのならば、おれは… 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第十二話『焦り』 「どうした、打ってこい」 「はぁ、はぁ…」 息が荒いのは酸素が足りないからじゃない。 どちらかというとこれは、緊張。 四度目の突入角が、決まらない。 「臆したか、スバル!」 「ってぇぇぇりゃああああああ」 実戦じゃ、敵は待ってくれない。これ以上ぐずぐずできないんだ。 ウイングロードを展開。仰角およそ十五度の頭上から、あたしは突っ込む。 そして。 「積極」 葉隠陸曹の鉄拳が、あたしのお腹のやや上あたりをとらえたんだと思う。 まず衝撃。吹っ飛ばされて地面に墜落。 それから、耐えがたい吐き気と痛みが襲いかかってきた。 「うげぇぇっ…げほっ、ぐぅぅ」 「焦りのままに仕掛けるな、馬鹿者! シューティングアーツは一撃必殺にして一撃離脱。 道が通らぬままに打つは自殺だぞ」 口まで戻ってきたのを呑み下しながら、立つ。 …さすが、覚悟さんだと思う。 今は、攻撃せずに追いかけてくる覚悟さんを迎え撃つ形で、 後ろへ後ろへと引きながら、『道が通る』瞬間を見計らって打ち込む訓練の最中。 目標は、二十分以内に十発。 もう十五分経ってるのに、まだ一発も決められていないから、どうしても気が急いてくる。 この人相手だと、普段、通っているように見える道でも、雰囲気的に打ち込みにいけない場面がすごく多い。 というか多分、99%はそれなんじゃないかなと思う。 そんなだから、ごくごくたまに見える道もなかなか信じ切れなくて、 気がついたらあの人の回りをぐるぐる回ってるだけになってしまっている。 「受け身はしっかり取れたようだが防御魔法が甘い。 これが実戦であれば悶えているうちに止(とど)められよう」 「は、はいっ…」 「では来い! 十発打ち込めぬのであれば、十殺に匹敵する一撃を以てせよ」 「はいっ!」 ローラーブーツ、再加速。 旋回しながら間合いを開き、向かいの広い道路へと出る。 ここだったら、今までよりはいくらか道は通りやすくなる。 反撃する側の幅も増えるから、プラスマイナスで言えば微妙なところだけど… 覚悟さんは、乗ってきてくれた。 こっちに向かって駆け足で、あたしは頭上…見えた、道! ウイングロード、展開…いや、早い。早すぎた。 でも今更取り消せない。このまま突っ込むしかない。 だったら迷って打ち込んだりしない。決めたら、打ち込め… 「積極」 今度は左胸、少し下あたりに拳がめり込んだ。 ああ、実戦なら間違いなく即死だな。 痛みを感じるよりも前に、あたしはそう思った。 「ここまで」 「…………」 寝転んで青空を見上げていたところで、二十分、経ってしまったらしい。 まずはすぐに立ち上がる。こんな情けない格好、ずっと見せていたくもないし。 …にしても。 「一発も、入らなかった…」 これじゃあ、訓練以前の問題。 一発も入らなかったという結果だけの話じゃない。 打ち込みに行こうにも身体が動いてくれない所が多すぎた。 戦わずして負けたみたいなもので、これじゃあ、あんまりにも不甲斐なかったけど。 「おまえの『攻め』の気は伝わってきていた。 そう悪いものでもないと思う」 覚悟さんにそう言ってもらえると、散々だった今の訓練も、少しは誇らしく思えて。 だから、次はもっとうまくやる。 「良き師に学んだようだな」 「…はいっ、おかあさんと、ギン姉に」 あなたの背中を見たあの日から。 強くなりたいって願ったあの日から。 あたしはずっと、求めてきたから。 「でも、あたしの強さは、ぜんぜん足りない」 求める強さには届いていない。 もう二度と、あの子みたいな死を見たくなくって、 だからあたしはここにいる。 「鍛えてください。誰にも負けなくなるように」 「うむ…では征くぞ、今度はこちらの打つ番だ」 「はいっ」 「…で、今日も吐いたのね」 「うん、お腹だけ守ってるわけにもいかないし」 見てるだけで胸焼けがしそうな量を胃袋にかき込んでいくのは、 いつもそんな風に、いちいち中身を絞り出してくるからなんだろうか。 特盛り二人分のスパゲティをみるみるうちに減らしていくスバルを見ながら、 しょうもないことを私は考えていた。 「わかってはいるけど、よくやるわよ。葉隠陸曹」 「痛くなくば覚えぬ、って。あたし、間違ってないと思うから」 私やエリオ、キャロも身をもって経験しているからわかるけれど、 陸曹の訓練は『痛み』という一点で過酷さをきわめる。 シューティングアーツ…拳闘を主体とするこの子は、それをほぼ毎日やっているんだ。 今は制服を着込んでいるからわからないけど、 この子の服の下は、絆創膏と湿布だらけ。 一緒にシャワーを浴びに行くたびに、新しい青アザをこさえているのを見つけてしまう。 毎日毎日、生傷の絶えない子だ。 陸士訓練校で知り合ってから全然変わってない。 ドジで不器用なくせに、危険なことは一番最初に引き受けようとする。 一番前の、一番危険な位置に、進んで身体を張りに行く。 それをフォローする私の身にも、ちょっとはなってほしいけど、 だけど、私も負けていられなくて。 この子があの人の背中を目指してきたように、私にだって、ゆずれないものがある。 「ティアもよく食べるね」 「やかましいのよ、そういうこと言わないの」 「会った頃は、もっと食が細かったから」 「しっかり食べなきゃ務まらないでしょ、それだけよっ」 肉体と魔法をフルに行使するこの仕事だ。 身体をしっかり作っておかないと、続けられっこない。 それだけ…本当に、それだけ。 たくさん食べるようになったのだって、当然の流れで。 だって、そうでしょ? なんでこの子につられてたくさん食べなきゃいけないのよ。 むしろ私は指導する側。 何かにつけて限度を知らないこの子に、いつだってストップをかけてきた。 なんで私がこんなことをしてるんだろうって思ったことも一度や二度じゃない。 そんな私の気も知らないで、憧れの人を前に舞い上がって…いい気なものよ、ホント。 ふと、まわりを見回し、隣のテーブルの様子を目に留める。 あの二人…エリオとキャロが、仲良くご飯を食べていた。 詳しい事情は知らないけれど、キャロはやたらとエリオになついている。 エリオの方も気後れはしてるけど、まんざらじゃないみたいな様子で。 今だって、落ち込んでるキャロに頑張って話をふったり、元気づけようとしているみたい。 持ちつ持たれつはいいんだけど、私なんかの目から見たら、そうやって甘やかすのがいけないと感じてしまう。 そんな風に他人に頼った心を根付かせるから、戦闘訓練でも気後れするんじゃないのか。 …そこまで考えて、少し、むなしくなる。 だって、それを言ったら、私とスバルだって多分、似たようなものなんだから。 そろそろ考えなくちゃいけないと思う。 今は機動六課にいたって、みんないつまでも同じ道を歩くわけじゃない。 夢というのは結局、自分自身でしか面倒を見られないものだから… 「? どうしたの、ティア」 「どうもしないわよ」 「あの二人、仲、いいよね」 「…そうね。訓練もあの調子で順調ならいいんだけど」 「へ?」 目をまんまるにするスバル。 幸いにしてこの子にはまったく気づかれていないようだが、 我ながら大人げないにもほどがある発言だった。 …自己嫌悪、もとい、反省。 「明日はシグナム副隊長との模擬戦でしょ? 食べ終わったら作戦、詰めるから」 「ああ、それで」 別に、それで、でも何でもないのよ、スバル。 あんたはお人好しすぎて、たまにムカつくのよ。 ともかく、今の私に必要なのは、上司の誰かに「出来る奴だ」と認められること。 でなければ、実戦の一角にすら出してもらえないかもしれないのだ。 そして今の私達は四人で一人のようなもの。 全員で認められなければ意味がない。 私は、立ち止まりたくない。 今のポジションにあぐらをかいて、油を売ってるヒマなんか、ない。 多分、それはみんなも同じはずだ。 私達は、戦うためにここにいるんだから。 早く強くなって、早く誰かを助けに行って… 「作戦会議だったら、オブザーバーも役に立つと思うな」 そこにいきなり声をかけてきたのは、私の直属の上司にあたる人。 私を見込んで、機動六課に引き入れた人。 「た、高町一尉?」 「なのはさん、でいいってば」 スバルにとってはこの人も、自分の変化のきっかけで。 空港火災から救い出してくれた大威力が心の底に焼きついているから、 正面突破の砲撃魔法に同じ名前を借り受けて。 じゃあ、私にとっての、この人は? 「わたしも混ぜてもらっていいかな、ティア」 「…はい」 「元気ないなぁ。気合い、入れていこ?」 「はいっ」 機動六課、屋内訓練場。 第九十七管理外世界、日本国にある剣術道場を模して作られたこの場所は、 葉隠覚悟が好んで座禅を行う場所だと知っていた。 というより、おそらくはこの男の存在が無ければ、このような施設は作られなかっただろうと思う。 私、シグナムのみならず、大小様々の影響をこの男から及ぼされていることは確かだ。 そのようなこと、改めて感じるまでもないことだが。 「シグナム二尉」 案の定、私が道場に足を踏み入れると同時に敬礼を受けた。 常に感覚が研ぎ澄まされているのもあるだろうが、互いの足音を覚えているのだから当然か。 戦士が半年、一緒に暮らせば、そうなる。 「いい、楽にしていろ」 この言葉は合図だった。 楽にしろと言わない限り、部下で居続ける。 彼の最小限のけじめであり、ある意味で最大限の譲歩だ。 ほとんど誰もが九割九分、出会い頭にこう言うのだから、 もしかすれば彼も辟易しているかもしれないが、構うことはない。 「なのはから、聞いた。おまえが焦っているとな」 「新兵訓練案か。無理を心得ぬ浅慮であった」 「いや。私が聞きたいのはおまえ自身の問題だ」 「おれの…?」 大体、わかるのだ。 八神家の誰もが理解しているだろう。 私もそのことを、この身体を以て知っている。 「やはり、おまえは散(はらら)を見ている」 「む…」 「フォワード四人に、おまえ自身の姿を重ね見ているのだろう?」 いつ現れるかわからぬ改造人間。 立ち向かうべき新人達は、戦力と呼ぶには未だ頼りなく。 これは、未だ存在の確認できぬ散(はらら)と、 その姿を求める覚悟の関係に等しいものだと言えよう。 「…かもしれぬ」 「おまえの拳を何度受けたと思っている。 そのくらいは、わかるよ」 言葉にせねば伝わらぬ思いもあるが、 拳に乗せる重みは時として千の言葉に勝るのだ。 剣を合わせた者同士だからこそわかる。 「やはり、おれは未熟だ。 おれ自身の焦りが、訓練案にもにじみ出るとは」 平静そのものの表情ながらも若干うつむく覚悟に、 私は少し苦笑して。 「言っておくぞ、覚悟。 そんなおまえの姿が、私には嬉しい」 何を言っているのだかわからない。 覚悟の顔にそう書いてあるのに構わず。 「おまえ自身がいつも言っているはずだぞ。 痛くなくば覚えぬ、と。 おまえは今、自分の未熟さに痛みを感じているのだろう?」 「だが、おれ自身でそれに気づくことができなかった」 「そうでなければ、この世の誰もおまえの役には立たないだろうよ。 それとも、なのはや私、主はやては、おまえにとって無用の存在か?」 「そのようなことはない!」 鋭い目つきと声が帰ってくる。 固く揺るがぬ確固としたものを込めて。 何もそんな力んだ返事を返さなくともいいのに。 また思わず笑ってしまいながらも、私は目を合わせ、しっかり頷いた。 「…なら、それでいいということだ」 そうやって言い切ってくれる限り、私もそれに報いるとしよう。 今の返事、主はやてにも聞かせたかった。 「第一、おまえには可愛げが無さすぎる。 たまには隙を見せてくれなければ、共に戦う甲斐がない」 「隙を見せよと?」 「冗談だよ。困った顔をするな」 ともあれ、大丈夫そうだな。 慣れぬことをさせている自覚があるからか、 はやても覚悟のことを常に気にかけていて、 だから私もこうして仕事の合間を縫って話を聞いて回ることになる。 シャマルとヴィータも同じことだった。 いや、むしろ八神家ゆかりの人間全員が同じことだと言っていい。 だから、なのはの方から朝一番で私にコンタクトを取ってきたのだ。 不必要なまでの焦りが教練を行う上官から発せられては、肝心の部下が精神的に追い込まれかねない。 そういう実務的な面からも情報の共有を急いだというが、今回はそれが功を奏したと思いたい。 もっとも、覚悟に散(はらら)という宿敵ある限り、心の奥に潜んだ焦りはまたいつ顔を出すかわからないのだが、 それを本人に自覚させることができただけでも、今回は良しとするべきか… 「フォワードの四人だがな、明日は私との模擬戦だ」 「あなたの見立てはいかに」 「ここ十日を見る限り、キャロをどうにかしなければな」 「おれの、せいかもしれぬ」 魔法自体は遜色なく使えるのに、実戦形式の訓練になると、途端に失敗が込み始めるあの少女。 魔法を出すタイミングが早すぎて連携の足並みをバラバラに崩してしまうのだ。 特に、接近戦を挑まれるとその脆さはひどい。 最初のうちはそこまでまずいものでもなかったのだが、一度の失敗からどんどん軸がぶれるように悪化していき、 ここのところのフェイトの話題のほとんどがキャロの心配で占められてしまうような有様である。 「まあ、明日の立ち会いで確かめさせてもらおう。 おまえのせいかどうかもな」 「頼む」 覚悟に確かに頼まれてから、私は道場を後にした。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/33.html
魔法少女リリカルなのは 魔法少女リリカルなのはA's 魔法少女リリカルなのはStrikerS StrikerS SoundStage X 魔法少女リリカルなのはViVid 魔法戦記リリカルなのはForce 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE -THE BATTLE OF ACES-
https://w.atwiki.jp/lodossonline/pages/245.html
コスチューム 概要 オプションの選択 販売中のコスチューム コスチューム[原作](2016/6/29~) 過去に販売されたコスチューム 冬の祝祭コスチューム部位[祝祭の仮装](2016/12/14~12/28) ハロウィンコスチューム[祝祭の仮装](2016/10/26~11/16) イースコラボコスチューム[イースの衣装](2016/8/31~10/05) コメントフォーム 概要 [部分編集] キャラクターの見た目を変えることができる装備品。奇跡の店から大金貨(課金アイテム)を使って購入する。 同じコスチュームのメイン、頭、胴、腕、足の5種類を揃えることで見た目の変更が可能になる。またメインだけ変更や、それ以外4箇所のみでも可能。 オプションの選択 [部分編集] オプション一覧 部位 オプション メイン ダメージ+100%(ゴールドモンスター) 頭 筋力+1 知力+1 幸運+1 胴 最大LP+200 最大MP+100 魔法防御力+50 腕 攻撃速度+15% 詠唱速度+15% 最終ダメージ(グロッキー)+50% 足 回避率+10% クリティカル耐性+10% 被ダメージ(物理)-5 舞台版オプション一覧 部位 オプション メイン 生命力+2 精神+2 判断力+4 頭 命中率+15% 全スキルクールタイム-15% リアクションスキル「チェイン」の発動率×120% 胴 被ダメージ(物理)-10% 被ダメージ(魔法)-10% クリティカルダメージ+40% 腕 物理攻撃力+15% 魔法攻撃力+15% クリティカル率+25% 足 基本最大LP+20% MP自然回復量+2.5 幸運+1 ページトップへ 販売中のコスチューム ページトップへ コスチューム[原作](2016/6/29~) ※5部位セット販売は8/24まで [部分編集] 原作コスチューム一覧 アイテム 装備可能職 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (パーンの鎧.png) パーンの鎧 エスカイア系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (エトの神官服.png) エトの神官服 オラクル系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (スレインのローブ.png) スレインのローブ マジックユーザー系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (ウッドの革鎧.png) ウッドの革鎧 ローグ系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (ディードリットの短衣.png) ディードリットの短衣 シャーマン系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (ギムの鎖帷子.png) ギムの鎖帷子 ウォリアー系 ページトップへ 過去に販売されたコスチューム 冬の祝祭コスチューム部位[祝祭の仮装](2016/12/14~12/28) [部分編集] 冬の祝祭コスチューム一覧 アイテム 装備可能職 祝祭の仮装[エスカイア] エスカイア系 祝祭の仮装[オラクル] オラクル系 祝祭の仮装[マジックユーザー] マジックユーザー系 祝祭の仮装[ローグ] ローグ系 祝祭の仮装[シャーマン] シャーマン系 ハロウィンコスチューム[祝祭の仮装](2016/10/26~11/16) [部分編集] ハロウィンコスチューム一覧 アイテム 装備可能職 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (祝祭の仮装[エスカイア].png) 祝祭の仮装[エスカイア] エスカイア系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (祝祭の仮装[オラクル].png) 祝祭の仮装[オラクル] オラクル系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (祝祭の仮装[マジックユーザー].png) 祝祭の仮装[マジックユーザー] マジックユーザー系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (祝祭の仮装[ローグ].png) 祝祭の仮装[ローグ] ローグ系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (祝祭の仮装[シャーマン].png) 祝祭の仮装[シャーマン] シャーマン系 イースコラボコスチューム[イースの衣装](2016/8/31~10/05) [部分編集] イースコラボコスチューム一覧 アイテム 装備可能職 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (アドルの鎧.png) アドルの鎧 エスカイア系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (フィーナの服.png) フィーナの服 オラクル系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (ダルク=ファクトのローブ.png) ダルク=ファクトのローブ マジックユーザー系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (リリアの服.png) リリアの服 ローグ系 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (レアの服.png) レアの服 シャーマン系 ページトップへ コメントフォーム 最新の20件を表示しています。コメント/アイテム/コスチューム? ページトップへ
https://w.atwiki.jp/toriko-database/pages/576.html
名前 GOD 分類 神格獣類 初出 60話 捕獲レベル 10000 生息地 始まりの大陸 概要 GODの正体 GODの調理 GODを狙う者たち 関連項目 概要 アカシアのフルコースのメインディッシュに選ばれている、全ての食材の頂点に位置する食材。 食べるとグルメ細胞の悪魔の「脳」が復活する。 アカシアが唯一晩年まで追い求めて最後に発見した食材であり、あらゆる人間や食材を虜にしてしまうため、 手に入れれば世界中を支配し、コントロールすることさえ可能とされる。 GODの正体 その正体は無数のおたまじゃくしが融合した巨大カエル。 黄金に輝く体を持ち、腹部には地球のような模様がある。 過去現れた時はただの大きなおたまじゃくしだったが、最後のグルメ日食に際してカエルの姿に成長した。 全ての食材の王であると同時に捕食の王。 数百年に一度の目覚めとと地球上の生物を大量に食らうため、すべての生命はセンターから生まれGODに還るとまで言われる。 月を一口で食らう、舌を一瞬で地球一周の長さまで伸ばしてその軌道上にあったものを全て飲み込むなど怪物的な食欲を持ち、近づくだけで命を吸われてしまう。 GODの調理 料理人の命さえ吸い取ってしまうほど強力な食材のため、調理には多くのエネルギーが必要となる。 そのため最果ての厨房やブルーグリルでは大量の人間の命を肥料にして調理を行っており、ブルーニトロは効率よく人間を集めるために四獣を作った。 唯一フローゼだけは人々を犠牲にせずに調理を成し遂げるも、彼女自身も調理による体力の消耗がきっかけで亡くなっている。 GODの細胞にはこれまでの食の記憶が刻まれており、それらの細胞が持つ食の記憶を紐解くことこそが真の調理法。 途方もない調理だが正しいルートはただ一つ。食材の声に従って旨味の華やく道を辿っていく。 GODを狙う者たち 100年以上続いていたグルメ戦争を終わらせた食材。 それがきっかけで「食」を中心とするグルメ時代が幕を開けたが、分け合う心を持たない者の手に渡ることを恐れたアカシアによって封印される。 数百年に一度起こるグルメ日食の見える日に活動を始め、トリコをはじめとする多くの美食屋が捕獲を狙っている。 しかし、美食會のボス三虎はこの食材を独占して世界中の食材を牛耳ろうと企んでおり、この食材をめぐった戦争が危惧されている。 グルメ界編では、GODを巡って地球規模の最終決戦が勃発。 その最中、小松、大竹、仲梅の手で調理され、トリコのフルコースのメインに決定された。 最終回から数年後にはIGOと再生屋協会が養殖に成功している。 関連項目 猛獣・食材図鑑(原作) アカシア アカシアのフルコースセンター ペア アナザ ニュース エア アース アトム フローゼ グルメインフレーション
https://w.atwiki.jp/dmc4/pages/88.html
PC版のコスチュームのパッチを紹介 ネロ ダンテコート+ダンテブーツ+スパーダ仕様レッドクイーン http //www.gamespot.com/ps3/action/devilmaycry4/show_msgs.php?topic_id=m-1-46516804 pid=928376 コンセプトアートの教団コスチューム 右側の詳細のリンクからDL可能http //jp.youtube.com/watch?v=W35dxBfM0zg #comment(size=50,vsize=3)
https://w.atwiki.jp/souldrops5wiki/pages/16.html
※共通アビリティ ※初級コスチューム一覧 ※中級コスチューム一覧 ※上級コスチューム一覧 ※超級コスチューム一覧 戦士 重戦士 フォートレス センチュリオン ランサー ファランクス パルチザン ランバージャック ブリガンド ヴァイキング 剣士 スレイヤー グラディエーター ブレイブハート 騎士 近衛騎士 ジェネラル 武士 侍 刀将 格闘家 武術家 モンク グランドマスター 拳闘士 ハートブレイカー ランページ ストライカー ホットロッド スピードスター シーフ 怪盗 ナイトバード トレジャーハンター 暗殺者 シャドウ アサシン 隠密 忍者 隠王 アーチャー スカウト エクスプローラー パスファインダー ホークアイ シャーウッド シルフィード クロスシューター アーバレスト エアマスター メイジ アークウィザード マジックスター ウォーロック 幻術士 夢幻道士 幻想術士 スカラー 紋章術士 ハーミット 風水士 自然術士 エレメンタラー 精霊使い 占星術士 天道術士 月読 陰陽士 司鬼道士 犬神 僧侶 プリースト ビショップ カーディナル 巫術士 シャーマン ドルイド 退魔士 エクソシスト 封魔結界士 治療士 メディック ドクター ライフセイバー ナース 白衣の天使 ナイチンゲール サージャン 執刀医術士 ブラックジャック 薬学士 ファーマシスト サイエンティスト 楽士 踊り子 ダンシングヒーロー ダンスマスター バード 吟遊詩人 ミンストレル シンガー アイドル 歌姫 魂改士 武魂職人(物) ソードクラフト 魂刃錬匠 武魂職人(魔) ウィッチクラフト 魔紋創匠 守魂職人(物) シールドクラフト 神鋼煉匠 守魂職人(魔) ピースクラフト 呪印刻匠 細工職人(物) シルバーアーティスト 彩石飾匠 細工職人(魔) ジュエルデザイナー 稀石磨匠 アイテム士 ドリルエンジニア ドリルマスター リペアラー ソウルチューナー 錬魂術士 料理人 モンスターハンター マスターシェフ 召喚銃士 ゲートキーパー エージェント フィクサー 機巧銃士 機界操士 メタルライザー 召喚術士 コンジュラー 異界術士 神獣召喚士 降霊術士 ネクロマンサー ファウスト ガンナー ガンスリンガー パニッシャー ガンクレイジー スペルトリガー ガンキャスター スペルバレット クロストリガー 道化 クラウン オーギュスト ジョーカー フェンサー シュヴァリエ プリンセスガード ホーリーオーダー 魔剣士 ルーンセイバー マジックナイト ライトブリンガー ソードマジシャン イリュージョニスト トリックスター 山伏 外法士 鴉天狗 役小角 きつね憑き 妖狐 白狐 天狐 グレネーダー デトネイター ファイアザッパー デストロイヤー 砲術士 ヘビーファイア ワイルドアームズ ドレッドノート カエル(物理型) トノサマ ジライヤ ハットリ カエル(魔法型) デビルトード ケロベロス バアル パンダ(物理型) ジャイアントパンダ グランパンダ エンペラーパンダ パンダ(魔法型) レッサーパンダ ツキノパンダ パンダウィッチ 羊飼い(物理型) 使徒 メシア デウス 羊飼い(魔法型) 山羊 バフォメット サタン かぼちゃ(物理型) よろいかぼちゃ かぼちゃの騎士 パンプキング かぼちゃ(魔法型) お化けかぼちゃ ジャックランタン かぼちゃ大王 トナカイ(物理型) カリブー ペリュトン フルフル トナカイ(魔法型) エルク ユニコーン 麒麟 小鬼(物理型) 鬼武者 夜叉 羅刹 小鬼(魔法型) 凶鬼 閻魔 鳴神 お花(物理型) ローズマリー 薔薇の君 ローズキング お花(魔法型) フラワーフェアリー フローラ フェアリーキング シャチ(物理型) オルカ モビーディック リヴァイアサン シャチ(魔法型) トリトン セイレーン ローレライ ウサギ(物理型) 角ウサギ アルミラージ マーチヘア ウサギ(魔法型) 白ウサギ 玉兎 月兎 学生(物理型) 野球部員 キャプテン エース 学生(魔法型) 日直 学級委員長 生徒会長 ヘビ(物理型) バジリスク ヤマタノオロチ ヨルムンガンド ヘビ(魔法型) ナーガ エキドナ ウロボロス 小玉スイカ(物理型) - - - 小玉スイカ(魔法型) - - - サラブレッド(物理型) 軍馬 ケンタウロス ケイローン サラブレッド(魔法型) 天馬 ペガサス ヒポグリフ - - - - - - - - - -
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/242.html
覚悟を選びて半年後、またも倉庫の暗闇に逆戻りとは。 解き放たれた戦略兵器を恐れるは当然。 時空管理局の封印処置もむしろ全面的に支持するものなり。 我らが瞬殺無音、盗み取ろうとするものはとり殺すのみなれば! だがこれしきで、覚悟の強さを封じられたと思うたか。 覚悟の強さは我らの強さにあらず! そして今、目に見えぬさらなる超鋼をまとっておるなり! 我ら、ただ再び目覚めるその時を待ち続けるのみ。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第六話『葉隠禁止(後編)』 『零細胞より酸素緊急供給! 同時に造血開始!』 覚悟くんの身体がすごい勢いで回復していくです! 『すごいです、零(ぜろ)! すごいです、強化外骨格!』 『当然なり! 我らこそ覚悟と一心同体! 初心のきさまに遅れはとらぬ!』 「零(ぜろ)、リィン、おれの戦闘可能時間は?」 …と、覚悟くんが聞いてきたですね。 おしゃべりしてる場合じゃなかったです。 一足先に零(ぜろ)が答えてくれました。 『目下、緊急加療中なり。 十分…否、五分以上の交戦は避けよ』 「五分以内に幕引き了解!」 やっぱり覚悟くんに後退の二文字なしですね。 なら欠損した脳細胞機能、リィンが必死でカバーしなきゃです。 激しく動き回ってる最中にズッコケたら大変ですから。 『リィンよ、零細胞が脳を補填するまでの間、頼んだぞ!』 『頼まれたです!』 『それにしてもなんたる失態! 覚悟ともあろうものが、きさまの手を借りねば戦えぬまでに打ちのめされようとはな!』 『…………』 なんで、つっかかるですか? 『帰り着いたら今一度、戦士の心得なんたるかを問い直させてもらうぞ、覚悟!』 「合点承知なり」 『必ずだぞ、忘れるな、覚悟よ』 「了解」 秒速270mのスピードで外に飛び出す覚悟くんに、 ぶっちゃけ零(ぜろ)はちょっとしつこいと思ったです… 「ぶああああ~ しつこい! 今日はもう店じまいだよ~」 でも、このオバケには、しつこくしなくっちゃダメですね。 放っておいたら、また誰か死んじゃうですから。 バカでっかい身体をずかずか這わせて、こっちにカメラ向けてきたです。 真っ昼間の遊園地に、こんなヘンなの、場違いです、粗大ゴミです。 「だからぁ~ また来てね~~」 「否! 本日限りにて閉店なり!」 「オフで撮るのは女の子だけだぁ~」 「ならばおれが写してやろう! きさまの真に撮るべきものを!」 キマッてます、カッコいいです、覚悟くん! けど、そうは言っても、どうするですか? これはいちおー、聞いておかないと… 『覚悟くん、零(ぜろ)、まわりにはまだたくさん人がいるですよ?』 『なるほど、敵方の熱線砲、回避すれば流れ弾にて大被害と言いたいか! 見かけによらず頭は回るようだな、リィン!』 『見かけは関係ないです、なんでつっかかるですかーっ、ドクロ軍団』 なんでいきなりこんなふうにムカッとくることばかり言うようになったですか。 もしかして、リィンのおうちからケリ出したのをネに持ってるですか? おうちを間違える零(ぜろ)の方が悪いですよ、あれは。 どれだけビックリしたと思ってるですか… そ、そんなことよりアイツのカメラですっ。 『とにかく、そういうことですけどーっ』 「了解、ならば問題はない」 『でも、よけられないですよ?』 「おれと零(ぜろ)にはむしろ好都合!」 『刮目して見ておれ!』 ビシッと構えて動かない覚悟くんです。 なんだか楽しそうですね、零(ぜろ)。 ちょっと、気持ちはわかるですよ。 はじめてマイスターはやてと一緒に戦えたときのリィンと、きっと同じだと思うですから。 ひどい実験から零(ぜろ)が生み出されたことは聞いたです。 そんなことを二度と許さないために、実験に殺されたみんなが意志になって宿っているのが零(ぜろ)だっていうことも。 そんな痛さ辛さをわかってくれた、零(ぜろ)のために泣いてくれた覚悟くんをマイスターに選んだことも。 そんな人のために戦えるのなら、うれしくないわけないですね。 「しょお~がないから撮ってやる 本日最後の 熱 写 暴 威 」 「生涯最後と修正せよ!」 来たです、怪人のカメラビーム。 覚悟くん、零(ぜろ)、全然よける気なしです! なら何か、プロテクションとか、そういうので防御する気ですか? する気なしです! 腕を広げて大歓迎です! リィンと一緒に真っ黒焦げです、バーベキューです! 信じていますとは言ったけど、正直これはキッツイです! …とか、思ってたら、覚悟くん全然無傷です。 零(ぜろ)も平然としてます。 『ど、どうなってるですか?』 『節穴だな、リィン! 目に見えなくば音に聞け!』 『…あ』 気づいたです。 ジュージューブスブス音が鳴ってます。 覚悟くんの目を通して見えました。 腕や足の装甲が真っ赤に光って… 全 身 赤 熱 『彼奴の熱線砲の出力、すべて我がものとして流用したのだ!』 『だ、大丈夫なんですか、こんなことして』 『もとより我らが機能なり、一切無問題のこと』 少し得意げに零(ぜろ)が話してるところに、オバケが近づいてきました。 「いいね~その色 今頃中身は真っ黒焦げかな~」 オバケは覚悟くんが死んじゃったと思ってるみたいですね。 たしかに普通はそう思うですね、多分。 「これがきさまの撮影行為か」 「…ななっ、なぁぁ~~っ?」 カメラ怪人がビックリ怪人になりました。 拳を固めた覚悟くんが腰を引くのを見て、 あわてて逃げて行こうとしてるですけど、どー見ても遅いです。 「ならば当方にも撮影の用意あり!」 「きゃあああ~~~っ プライバシー侵害反対…」 「 因 果 !!」 特大が、極まったです。 「あッぶるッ?」 弾かれるみたいに地面から飛んだ覚悟くんの拳が怪人の顔面にめり込んで、 燃やしながら全部バラバラにブチまけたです。 どこが撮影なんだか、リィンには全然わかりません。 でもいいんです、覚悟くんカッコイイですから。 「おのれの醜さもわからぬものに芸術を云々する資格はあるまい!」 …できれば、もうちょっと…いろいろと飛び散らない倒し方にしてほしかったですけど。 でもこいつ、人間だったですかね? 今頃になって気になるです。 「南無」 『南無』 『…ナムです』 死んだ人がユーレイになったりしないように祈ってあげるです。 はやてもたまにやるですから、リィンも知ってるですよ。 『次に生まれてくるときは、ヒトを食べたりしないでくださいです』 「そのための因果。 地獄で魂を清めてくるがいい」 覚悟くんが、後ろに振り向いて構えました。 リィンも零(ぜろ)も気づいてるです。 ガジェットがあちこちから覚悟くんの回りを取り巻いてるです… 『覚悟くんが狙い、ですかぁ?』 『否、それでは常に監視を受けていたことになろう。 敵意の視線に気づかぬ覚悟ではない!』 『じゃあ、いったい』 「関知せぬ。 いかな企み背後にあろうと、平和への敵意に他ならぬなり!」 『…ですね!』 「邪心には因果あるのみ!」 『です!』 ぱっと見だけで標準型のガジェット八体。 囲まれちゃうと楽勝にはちょっときついんですけど。 「零式、積極! 直突撃(じきづき)! 肘鉄(ちゅうてつ)! 手甲(しゅこう)! 掌底(しょうてい)! 肉弾(にくだん)! 膝蹴(ひざげり)! 延髄(えんずい)! …踏破(とうは)!」 足が地面を蹴ったと思ったら、あとは流れ作業の覚悟くんでした。 瞬殺です。 リィンもユニゾンしてなかったら目で追えなかったと思うです。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)があってもぜんぜん関係ない覚悟くんは 普段でもガジェットを素手でボコボコ壊して回るんですけど、 零(ぜろ)を装着したら、そんなもんじゃなかったですね。 ド カ ァ ァ ァ ン 最後の一体を踏みつけて飛んだと同時に、全部一緒に爆発したです。 覚悟くんすごいです、ヒーロー番組です! …けど。 『まだ来るですよ? 四、五、六…』 「すなわち一網打尽」 『だが制限時間は残り一分! それ以上は後遺症の恐れありと知れ!』 「悪質玩具の始末など、三十秒で釣りが来る!」 『それでこそ覚悟!』 ほんとは今すぐ倒れてもおかしくない覚悟くんなのです。 ものすごく強い精神(こころ)があるから、身体が壊れそうでもへっちゃらで動き回るですね。 今のリィンは一心同体ですから、わかるですよ? だから、ちょっとした独断行動です。 覚悟くんと零(ぜろ)が、ボッカンボッカン壊してるスキをついて… ボッカンボッカン壊してやってくるヘンなヤツがいます? こっちにシャカシャカ走ってきてるです? 「また遅刻しちゃったー」 今度は女のヒトみたいですけど、やっぱりデカイです。 手がたくさんあって、虫みたいな足もたくさんついてて、 お腹が顔になってて… そんなことより、腰(?)につけてる四つのポシェットの中身。 …ヒトの、首です。 苦しそうな顔をした生首が、ぎっしり詰まってるです。 「またも怪人!」 『玩具と交戦するとは、別組織ということか?』 「あれ、激写(うつる)やられちゃったのー? アハハごめーん あたしダメなのよ B型だから」 「…疾(と)く答えよ。 きさまの所属組織、そして、きさまの所持する鞄の中身」 覚悟くんがにらみます。 リィンだってにらむですよ。 ヒトが死ねば、誰だって悲しいんです。 たとえ関係ないヒトだって。 それを、こんな、ヘラヘラしてるのは、許せないですよっ… 首だけにされた人達を見るにも、さっき覚悟くんが倒した怪人のバラバラ死体を見るにも… ヒトが死んだ姿を笑いものにするやつは、許しちゃいけないです。 ゼッタイです。 「もぉ~ こまかいこと気にしないの あなたA型でしょ? 几帳面なヒ・ト」 覚悟くん、無言で構え。 リィンも、無言で構え。 『我らと同じ怒りを抱いたか、リィン』 『…はいです』 『なれば我ら、心はひとつ!』 悪 鬼 討 滅 覚 悟 完 了 『でも、覚悟くんはオヤスミの時間なのです』 「…なに?」 『覚悟くんだけが覚悟完了じゃないですよ?』 リィンが呼んだ、みんなが来たです。 リィンだけじゃないのです。 みんなの心がひとつなのです。 右と左から来る爆発音を聞くですよ。 ガジェットの破片をぶちまいて最初にやってきたのは… 「世話を焼かせるヤローだな!」 「ヴィータ!」 「病人は下がって見てな、あたし一人でも充分すぎる」 その後ろから迫ってきてたガジェットを鉄拳でぶっ壊したのは… 「それは無しだ、ヴィータ」 「余計なことしてんじゃねーよ、ザフィーラ」 「おまえがそれでどうする! そこの覚悟を戒めに来たのだろうが」 「…ちっ」 ヴィータちゃんのグラーフアイゼンが鉄球を打ち込むたび、ザフィーラがひとつ跳ねて殴るたび、 残り少なくなったガジェットが、あっという間に消えていくです。 覚悟くんに、手出しをするヒマなんかあげません! 「あ、あ、あ、あなたたち、あたしぬきで話進めてんじゃないわよぉ~ B型のあた~しは、とって~も短気なのォ~!」 「貴様など知るか!」 「おひょっ?」 怒り出した怪人は、ザフィーラに振り向かれもせずバインドされました。 鋼(はがね)の軛(くびき)でグサリグサリ。 光のトゲで地面に縫われて、もうピクリとも動けませんね! 我に返った覚悟くんがトドメを刺そうと拳を振り上げます…が、やさしく掴まれて止められました。 後ろからきたシャマルにです。 となりには、シグナムもいます。 「葉隠覚悟、おまえは半年もの間、我らと共に何を見ていた?」 「…平和を! 守るべきものを!」 「そうか。 ならば我らと同じだが、ひとつおまえは読みが浅い」 つかつか歩いて、怪人に向かっていくシグナムを、覚悟くんは見ています。 握った拳はまだ下ろさずに、じっと、後ろ姿を見ています。 「八神家で寝泊まりし、我らと共にあった時点で、 すでにおまえの生命はおまえ一人のものではない。 おまえが決死に臨んだとて、我らがそれを縛るだろう。 おまえの生命は我らのものであり、はやてのものであるからだ」 『血迷ったことを! 覚悟は誰のものにもあらず!』 「知っているぞ零(ぜろ)! 知っているとも…だからこそ! わかるように言ってやろう…いいか?」 抜きはなっていたレヴァンティンを鞘に収めて、シグナムは言いました。 「おまえは不滅だ。 我ら四騎が、おまえの死を決して許しはしないのだから。 おまえが誰のために戦おうとも、我らの勝手は変えられまい? だからな…」 少しだけ顔を振り向かせて、小さく笑ったです。 「あまり、一人で格好つけるな。 くさくて見ておれん」 「………」 覚悟くん、なんともいえなくなっちゃったですね。 握った拳がほどけたところに、シャマルが治癒魔法をかけ始めました。 ガジェットはもう全滅してます。 ずいぶん静かになったです。 あと、うるさいのは…アレだけです。 「うげげっ、うごけなひ…うごけないけどB型のあた~しはこりない女! わざわざ剣をしまっちゃうなんて、あなたもマイペースのB型…」 お腹についてる顔の口からシグナムに向かってゲロ吐いたですけど、 単にエンガチョなだけで終わったですね。 すでにシグナムは空中ですよ? 「貴様など わが剣の錆となる価値すら無し!」 跳躍、空中、開脚、捻転 ――― 破!! 魍 魎 轟 沈 し ず め ばけもの (かかと おとし) 「いざべら!!」 …まっぷたつ、です。 ポニーテールをなびかせて空中をひらひら舞ったシグナムのカカトが最後にぎゅんと音を立てて、 怪人の頭をまっぷたつに裂いてまき散らしました。 何ごともなかったように着地して、こっちに戻ってきたシグナムは、 またちょっぴりだけ笑って、覚悟くんと健闘を称え合ったです。 「道の先達に未熟な技を見せつけるほど、みっともないことも無いが… 私の蹴りも、捨てたものではないだろう?」 「あなたほどの者ならば、魔法に頼らずともいずれ!」 「すまんな、これが我らの研ぐ牙だ」 「今一度、立ち会いたくなった」 「一度と言わず何度でも来い。 今までそうしてきたようにな…だが」 そこで言葉を切っちゃって、アゴでくいっとシャマルに合図。 まかされたシャマルが後を継いだです。 「今は、ゆっくり、おやすみなさい。 静かなる風よ、癒しの恵みを運んで…」 もう、完璧に戦いは終わりました。 安全です。 数分して、覚悟くんはその場に座り込んで気絶しました。 シャマルの静かなる癒しに包まれながら… 『戦士の休息を認める!』 おやすみです、覚悟くん。 「…おやすみな、覚悟君」 「はやて」 「ごめんな、覚悟君、ごめんな…」 六日後、おれの目覚めをまずは喜んでくれたはやては、 共に悪い知らせを携えてもきた。 強化外骨格、零(ぜろ)の厳重封印、正式に決定さる。 超鋼着装せしおれの戦力判定は、魔導師に換算してSSに達していた。 魔力なき人間にこれほどの威力を発揮させる存在に、管理局は危機感を抱いたというのだ。 「わたし、零(ぜろ)を守れへんかった。 持って行かれるのを、だまって見てるしかなかった」 管理局の手に零(ぜろ)を引き渡したのは、他ならぬ、はやて。 もはや彼女には管理する権限の無きゆえに。 …すなわち。 「何を泣く。 はやて」 「…覚悟君?」 「零(ぜろ)は、征くべき場所へ打って出たのだ! おれたちは急ぎ追いつかねばならぬ!」 零(ぜろ)はすでに高き権限なくば触れられぬ位置にあり。 なれば、何を為すべきかは決まっていよう。 おれはすでに決めているのだ。 はやて、あなたはどうか? 「……ははっ」 少しの間、呆けたように沈黙したはやては、 思い出したように笑い出す。 「あははっ、はははははっ」 快活なる笑み。 将たるもの、そうでなくてはなるまい。 さもなくば、ついてくる者もついてこぬ! 「…せやな! 寂しがって泣いてたら、零(ぜろ)に笑われるわ!」 「それでこそ、はやて!」 「うん!」 湿気った空気は一掃。 決意はからりと日本晴れに限るなり! 「三年や!」 「三年!」 「三年で、わたしの城をつくる。 時空管理局の一角を張る、わたしの部隊や!」 幾度か聞いたはやての夢。 助からぬ人々を助けようという理想。 それは今この場にて、現実となるを約束されたり。 そして、おれも。 「旅に出る!」 「旅!」 「葉隠一族のとるべき道は、平常心にて死ぬことに非ず。 非常心にて生き抜くことにあるなれば!」 「家族ごっこは、今日で終わりやな」 「忘れえぬ安らぎであった。 次に共に立つときは、ただ一介の戦士として!」 戦士、はやてに敬礼。 かりそめの家族は、もはやこれまで。 おれが背負うのは父の拳と誅すべき鬼(あに)! …だが、そんなおれの両肩に手を置いて、はやては言ったのだ。 「じゃあ、最後にひとつだけ、お姉ちゃんぶらせて、な?」 「…了解」 「ええか、これから先、これだけは絶対に取り消すことはあれへんで。 葉隠、禁止や」 「葉隠禁止?」 「覚悟君だけの生命やないねん」 おれの胸を、彼女の平手が軽く叩いた。 「ここにあるのは、みんなの生命や。 高鳴っているのは、みんなの、鼓動や」 「………」 「感じた?」 ―― 感じる。 高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラウオン、 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…むろん、八神はやて、あなたも。 束の間出会った人々も… クロノ・ハラウオン、ヴェロッサ・アコース、 そして…あのときの空港火災、瀕死のおれに、螺旋に打ち勝つ力をくれた、あの父、あの少女! 「背負いし生命、確認! 宿りし熱き鼓動、確認!」 「うむ、ええ子や! これにてお姉ちゃん終了!」 「次に出会えば、共に戦士!」 「歩く道は違うけど、目指す先は同じや」 「また会う日まで、さらば!」 病み上がりとて問題なし、思い立ったが吉日なり。 病室から立ち去るおれを、はやては黙って見送ってくれた。 しかし、見送りはそれのみならず。 病院一階ロビーより外に踏み出せば、そこには、 なのは、フェイトに、八神家の面々。 「なんとなく、こんな気がしてたんだ」 「なのはに黙って出て行くのは無理だよ、覚悟」 苦笑するフェイトに、なのはもうなずく。 「止めるのか、おれを」 「違うよ、見送りに来たの。 それにシャマルさんが、旅に必要なものも多いだろうって」 「急いで用意したから、水筒と磁石とシートくらいしかないけど… あと、お金、いくらくらいいるかしら…」 「これを持っていけ、覚悟。 これを見せて私の名を出せば、聖王教会に渡りをつけることができるだろう」 「あ、私からはタオル…清潔にしなきゃダメだよ? クロノもそうだけど、男の子はすぐ臭くなっちゃうから」 「リィンからはお布団です! でも覚悟くんにはハンカチですねぇ…」 皆に囲まれる、おれ。 申し訳ないが、失笑を禁じ得ぬ。 まさにこれゆえに、おれはここを離れねばならぬのだから。 「すまぬ、皆。 皆がやさしすぎて、おれには持ちきれぬ。 少し、身を軽くしたく思うゆえ、厚意を粗末に扱う無礼を許してくれ」 「…そうか、ならば何も言うまい。 私は身ひとつで行くおまえを信じよう」 そのようなおれに対し、シグナムの言はすでに皆の総意であった。 …ただ一人を除いては。 「あたしは信じてねーんだよ」 「ヴィータ…」 「だから、これ、貸す。 貸すんだからな?」 進み出たヴィータが差し出したのは、どうやら、うさぎのぬいぐるみ。 おれにはやや理解しがたい面妖な風体だったが、 その古び方は、長年大事にされた証しでしかありえぬ。 「ぜってー返せよ。 返さなかったら…殺すかんな」 「…了解した、生命に代えても返却しよう」 またひとつ、心を預けられてしまったか。 確かにおれだけの生命ではないな! どこまで行こうが逃げられぬ。 おれをからめ取ったのは、そういう宿命! ならば、覚悟完了するまで! 皆に背を任せ、おれは起つ――― ――― そして、月日は流れる! 前へ 目次へ 次へ