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魔法少女ニニンがなのは伝 「音速丸襲来!!」 魔法の使えるごくごく普通の小学3年生、高町なのは彼女はある日親友であるフェイトにこんな事を言った。 「ねえフェイトちゃん。召喚魔法ってした事ある?」 「召喚魔法? 知ってはいるけどしたことないな。でもどうしてそんな事を?」 「ユーノ君が知ってるって言うから、ちょっと試してみようと思ったんだけど。フェイトちゃんも一緒に手伝ってくれない?」 「面白そうだね、良いよ。でも何を召喚するの?」 「えへへー実はフェニックスを召喚してみようと思ってるんだ」 そんなこんなでなのははユーノとフェイトの助けを借りアースラで召喚魔法を行い高位の召喚獣の召喚を試みる事となった。 「リリカル、マジカル、フェニックス召喚!」 なのはとフェイトが魔力を注ぎ、円形の魔法陣に魔力が溢れ爆音と共に煙が立ちこめた。 「あれ…もしかして失敗?」 フェニックスが召喚できればそれは相当な大きさの筈なのだが立ち込める煙にはそんな影はない、代わりに妙に味のある濃い~声が響いた。 「呼ばれて飛び出てアンポンタン!! ハッスルハッスル音速丸ううううう!!!!(若本)」 「音速丸さん、あんまり叫ばないで下さいよ。音速丸さんの声でまた空間が歪んだじゃないですか」 「そうですよ音速丸さん、今アニメが良いところなんですから…あれ? なんで我々こんな所に?」 煙の中から現れたのは羽のある丸っこい黄色い物体と忍者みたいな格好の人だった。 「これは一体?…」 「この人達が召喚獣?…」 突然、丸っこい物体と忍者が現れて呆然とするなのはとフェイト。 「音速丸さん! 突然見知らぬ所に来たと思ったらツインテールの美少女が目の前に!!」 「しかも二人ともステッキらしき物を持っている様子…これはもしや魔法少女的な何かでは!?」 「落ち着けお前ら~。ここで慌てれば確実に死亡フラグ確定!! 俺がまずファーストコンタクトを試みるずらああああ!!!!(若本)」 音速丸と呼ばれた丸っこいのはフヨフヨとなのは達の所に飛んで来た。 「きゅ~んきゅ♪ きゅ~んきゅ♪(若本)」 「きゃっ この子人懐っこいよフェイトちゃん」 「それに意外と可愛いね、なのは」 音速丸は鳴き声(?)を上げながらなのはとフェイトに近づき擦り寄って顔を舐めたりしだした。 「音速丸さんがカワイイ系の動物キャラのマネして美少女にセクハラしてるぞ!!」 「ズルイっすよ音速丸さん! 俺たちにもおすそ分けしてください~」 「黙れ~い!! このクルピラ野郎共が~!! 美少女と美女は俺のモノとハムラビ法典に書いてあんだよ~~!!(若本)」 なのはとフェイトにくっつく音速丸に不満の声を上げる忍者達、その忍者達に音速丸は本性を曝け出して吼えた。 「うわっ! なんかベリーメロンっぽい声だよフェイトちゃん」 「私はどっちかって言うとアナゴ的なものを感じるな」 そして落ち着いた所で音速丸たちの自己紹介が始まった。 「初めましてお嬢さんがた~俺の名は音速丸、第108銀河大統領にして、今年度抱かれたい男ナンバー1だ。ぶるううあああああ!!!!(若本)」 「ホントですか!?」 「なのは大統領ってなにか特別なおもてなしした方が良いのかな?」 「なのはちゃんフェイトちゃんそれ嘘だから。音速丸さん純真な子供に嘘を言って混乱させないで下さい。ところで僕の名前はサスケって…」 「あ~、こいつらは忍者その1、2、3でいいからよ(若本)」 「ひどいっすよ音速丸さん! 他の奴はともかく俺は名前があるんですよ!」 「サスケさん! 声がキング・オブ・ハートだからって調子に乗ってるんじゃないですか!?」 「五月蝿いぞ雑種!」 「うわ! 逆ギレのうえ王様モード(by fate/stay night)だよ」 ヒートアップする音速丸と忍者3人になのはとフェイトは苦笑いするしかなかった、そんな所にはやて達、八神家一行がやって来て音速丸のハチャメチャのギアを上げた。 「うわっ! なんやこのハチャメチャな空気は…っていうか何で忍者さんがこんな所におるん?」 「ピコピコピーン! おっぱいレーダーに反応ありいいい!!(若本)」 音速丸はそう叫ぶと八神家一…いやアースラ一の巨乳であるシグナムに(その胸に)飛び込んだ。 「うわっ! なんだこの丸っこいのは!?」 「おっぱ~い! おっぱ~い! おっぱあああああい!!!!(若本)」 「ひゃっ! 服の中に潜り込むな!」 音速丸は“おっぱい”と連呼しながらシグナムの服の中に入ろうとその丸いボディで暴れまわる。 「音速丸さんずるいっすよ~!」 「そうです俺たちにもおっぱい分けてください!」 「馬鹿野郎がああああ!! この世のおっぱいは全て俺のものだってこの前国会で決まったろうが!! ぶるううああああ!!(若本)」 「なんかこの丸っこい子、セルみたいな声やな」 「あたしはブリタニア皇帝だと思うな」 「私はメカ沢さんの声に聞こえますよ、はやてちゃん」 シグナムにセクハラを続ける音速丸に八神家の皆は音速丸を見て各々に感想を言った、そして音速丸のセクハラはレヴァンティンの一撃で終わる事となった。 続かない。 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第21話『サジタリウス小隊の出張』←この前の話 『マクロスなのは』第22話「ティアナの疑心」 六課にサジタリウス小隊が来てから2週間。ティアナ・ランスターは不安に苛まれていた。 なのはの〝個人的都合〟がサジタリウス小隊のさくらに対するプライベート訓練であると知ったからだ。 無論彼女はそれだけで怒るような狭い心の持ち主ではない。 そしてさくらに対してもまた、敵意を持っているわけでもない。 それどころか戦法が似ているため、ティアナはさくらに「地上における射撃戦」を。逆にさくらは一撃必殺である「魔力砲撃による狙撃」を教えたり、果ては部屋に招待して泊まり会を開くほどに馬が合った。 そんなティアナが不安に思うこと、それはさくらの技量向上のスピードが異様に早いことだった。 年齢も階級も2つ~3つ上であることは確かだが、それ以上の何かがあるような気がしてならなかった。 そこでティアナは朝早く起き出し、訓練を覗くことにした。 (*) 0530時 宿舎 そこの玄関では、一通り身支度したティアナが訓練場に向かって走っていた。 (やっば・・・・・・30分も過ぎちゃってる・・・・・・) ティアナはその身の不覚を恨んだ。 朝起きると、すでにさくらから聞いていた開始時刻、5時を回っていたのだ。 そして彼女にはもう1つ不覚があった。それは───── 「ねぇティア、さくら先輩頑張ってるかな?」 背後を走る青い髪にハチマキを着けた相棒が聞いてきた。 彼女の相棒であるスバルは、今回朝が早いため起こさないつもりだった。しかし寝坊に慌てたティアナは、起き上がった際に頭を二段ベッドの上の段にぶつけ、そこで寝ていた彼女を起こしてしまっていた。 ティアナは走る速度が鈍らないようにしながら振り向く。 「たぶんね。でもいいの? あんた、昨日遅く寝てなかった?」 ティアナの脳裏に、家族に手紙を書くため机に向かっていたスバルの姿がフラッシュバックする。 しかしスバルはかぶりを振った。 「ううん。私の体は2~3日寝なくても通常行動には何の問題もないように〝できてる〟から全然大丈夫ぅ~。それに、ここまで来て引き返せないよ」 「ま、そうよね」 そうこうするうちに訓練場に到着した。しかしなのはにも、さくらにさえ見学しに行くことを言っていないため隠れて見ることになる。 茂みに隠れ、模擬戦をやっているらしいなのは逹を見つけたスバルが一言。 「実戦さながらだね・・・・・・」 彼女の言う通り、訓練場を超低空で浮かぶなのはとさくらの2人は、中距離で撃ち合い激戦を繰り広げていた。 ────────── さくらのカートリッジ弾がなのは目掛けて発砲される。 なのははそれを数発迎撃するが、数が多いため魔力障壁とシールド型PPBを併用して幾重にも張り巡らす。 そうして着弾したカートリッジは1番外側にあった魔力障壁に着弾し、そこで爆発した。 爆発は一瞬にして障壁を破り、内部のもう1枚を破るが、外から3枚目に展開されたシールド型PPBに完全にブロックされた。 いわゆる〝スペースド・アーマー〟の原理を応用したシールド展開術だ。 最近アップデートされたカートリッジ弾は、成形炸薬型と触発または遅発砲弾型、そして空中炸裂型の3種類のモードの選択が可能だ。 成形炸薬型は装甲を高温高圧のジェットで溶かし、内部の乗員(主に装甲車の)を殺傷する質量兵器の成形炸薬(HEAT)弾と同様に、炎熱変換のジェットでそれを行う。 〝スペースド・アーマー〟は、主に装甲車に使われる機構で、対成形炸薬装甲として有名だ。 高温高圧のジェットは最初の1枚目で最大の威力を発揮する。そのため1枚目と2枚目の間の空間を設けることにより、ジェットを減衰、無力化するのだ。 さくらの発射したのはホログラム弾だが、ホログラムによってこの現象が精密に再現されている。 しかし残念ながらこの現象は1秒に満たない間に起こるので、ティアナ逹にはなのはがシールドを2枚犠牲にして身を守ったとしか認識できなかった。 なのははシールドを解除すると、その機動力を生かしてローリングするように次弾を回避して同時に反撃に転じる。 放たれた10を超える大量の魔力誘導弾。1発1発に〝撃墜〟という揺るがぬ意思のこもった誘導弾は鋭い機動でさくらに迫る。 さくらはEXギアからチャフとフレア。ライフルからは魔力弾を連続発射して後方から迫るそれらを撃ち落とす。輝く光弾に数発の誘導弾が吸い寄せられ、無益に自爆した。 その間もなのはから次々と畳みこむように放たれる誘導弾。その数は最初から数えて40は超えているだろう。 さくらは迎撃を続けながらも健気に牽制射撃を織り混ぜ、ようやく空中炸裂設定のカートリッジ弾の弾幕で作った散弾でなのはに回避の時間を作らせることに成功する。 しかし稼げた時間はコンマ5秒に満たない。 それでもさくらはなのはから無理やりもぎ取った隙を突いて、したたかに生成していたらしいハイマニューバ誘導弾で応戦した。 ────────── ティアナはその模擬戦を見ながら息を飲んだ。 いつも自分達がやっている模擬戦のほとんどが、例え難しくともクリアが可能なように作られたゲームに感じられる程の息つかせぬ攻防。 これほど内容が密ならば、短い内に技量が格段に向上するのもわかる気がする。 しかし同時に、ある疑問が頭をもたげた。 (どうしてなのはさんは私達にゆっくりと基本ばかり教えるんだろう・・・・・・?) 確かに4人もいるため、多少ゆっくりになることがあるかもしれない。しかし最近では個々の訓練になって手が足りないというわけではないはずだ。 またなのはの教導は、ティアナのアカデミーの教官曰く、 「期間は短いが、テンポよく、スピーディー。内容がしっかりしており、エースの名に恥じぬ教導」 と絶賛していた。 つまりなのはは極めて短時間で新人を1人前まで叩き上げられるということになる。 しかし自分は教導が始まって5カ月が経ったというのに、強くなった〝実感が〟持てずにいた。 そしてそのことが、彼女は1つの結論を導き出させてしまった。 「なのはさんは・・・・・・私達に手を抜いてる・・・・・・」 「え?」 スバルがキョトンとした顔で振り返る。 そんな彼女にティアナは自分の結論を並びたてた。 スバルはそれを静かに聞いていたが、どうも懐疑的だったようだ。 しかしこちらの言い分も理解できると見え、折衷案を提案してきた。 「じゃあ、今度の定期模擬戦で、なのはさんに勝っちゃうってのはどうかな?」 スバルの言う定期模擬戦とは、数ある模擬戦の中で唯一日程の決まった模擬戦の事だ。 基本演習の合間に行われる模擬戦は〝抜き打ち〟が常道だが、普段忙しいフェイトが参加するため、やむを得ずスケジュールとして組み込まれていた。 この模擬戦は、今目前で行われている2人の模擬戦に負けず劣らずハードであり、形式は分隊ごとに分隊長vs新人2人で行われる。ちなみに新人の目標は隊長に一撃を与えることだ。 この5カ月で4度行われたが、スターズの2人は3度完璧に押さえ込まれ、4度目で初めて時間切れという引き分けに持ち込んでいた。 なのはによると、訓練の進度に応じて難度を上げているため、引き分けられれば十分合格だという。 確かにこれに勝てば、彼女の驚きは大であろう。 「面白そうね。でも訓練どうりやると引き分けちゃうから、何か秘策を考えなきゃ」 2人はその後、時間が許すまでその場で対策を考えた。 (*) 12時間後 ティアナとスバルの2人は通常の訓練を終え、宿舎の反対側にある雑木林に集まっていた。 「ティアは何か思いついた? 私は全然~」 早くも投げ出した相棒に不敵な笑顔を見せてみる。 「大丈夫、ばっちりよ」 サムズアップ(握った拳から親指を上に突き出す動作)して見せると、スバルは 「さっすがティア!」 と囃し立てた。 「じゃあ作戦を話すわよ。まず、通常のクロスシフトAを装うの」 クロスシフトとは、2人の戦術の名前だ。 ティアナの射撃で敵を釘付けし、スバルが接近戦で止めを刺す方法がA。その逆のBの2種類がある。 「私は最初にクロスファイアで誘導弾をばらまいて姿をくらますから、あんたはなのはさんを、まるでこっちが本命であるように見せかけて釘付けにして。そのあと私が砲撃する」 「え? ティア、砲撃はまだ時間がかかるから無理だって─────」 そう言うスバルのおでこを軽く指で弾く。 「バーカ、フェイク(幻影)に決まってるでしょ。第一、私の砲撃が歴戦のなのはさんの魔力障壁を貫けるわけない。引き分けならそれでも良いけど、私達は勝たなきゃいけないの。だから私は─────」 ティアナはカード型になったクロスミラージュを起動、2発ロードする。 果たしてそこには銃剣を着けた一丁拳銃の姿があった。 ティアナが接近戦という発想がなかったスバルが絶句する中、話を続ける。 「これならシールドを切り裂いて一撃を与えることぐらいは、できるはずよ」 スバルも驚くとうり、なのはも想定していないはずだ。訓練では射撃と指揮が主な内容で、接近戦など習ってない。 失敗すれば一網打尽だが、成功すれば見返りは大きい。 ティアナは作戦に確かな手応えを持って、特別訓練に臨んだ。 (*) その後1週間、通常の訓練の合間を縫ってスバルと新戦術〝クロスシフトC〟の訓練に明け暮れた。 内容は主にティアナの近接戦闘の訓練と、上空に止まるであろうなのはへの隠密接近である。 近接戦闘についてはスバルは臨時教官として適役であり問題はなかったが、接近方法に難があることがわかった。 空を飛べない2人はスバルのウィングロードが〝空〟への唯一の足場であり、スバル自身はマッハキャリバーのおかげで約90度の斜面を余裕で登る事ができる。 しかし己の足で走るしかないティアナにはスバルの使用する急斜面のウィングロードは使えない。 しかしティアナに合わせるという客観的に見て極めて特殊で無駄な機動はなのはに作戦が感ずかれる可能性があり、訓練は困難を極めた。 そこは結局 『どうせ1発勝負なんだから』 というティアナの一言により、なのはの上空を通るウィングロードを敷き、そこにクロスミラージュのアンカーを打ち込んで一気に上がる案が採用されることになった。 (*) 模擬戦前日の夜 2人は特訓による最終調整を終え、明日に備えての余念がなかった。 いつもはデバイスの自己修繕機能やクリーニングキットによる整備、1回で終わらせるところだが、今回はオーバーホールして1部品ごとに磨いていた。 2100時 オーバーホールを始めて1時間が経ったこの時、2人の部屋に訪問者がやってきた。 〝ピンポーン〟というインターホンに、ティアナはトリガープル(引き金)を磨く手を休め 「開いてますよ」 と訪問者に呼び掛けた。 「失礼します。うわ・・・・・・なんだか凄いことになってますね・・・・・・」 入ってきて目を白黒させたのは、さくらだった。 確かに部品数の比較的少ないティアナはともかく、可動部が多いため必然的に部品数も多いスバルのデバイスの部品が、床一面に広げられている光景は驚くに値するだろう。 「こんばんわ~さくら先輩」 マッハキャリバーのローラー部を組み立て、油を挿すスバルが手許から目を離さずに挨拶する。 「こんばんは。明日の準備ですか?」 さくらの質問にティアナが頷き、作業に戻る。 「そうですか・・・・・・じゃあ、邪魔しちゃ悪いですね。私の教導期間はもう終わりましたから、また明日にでも〝これ〟やりましょうね」 さくらはトランプをシャッフルする手真似をする。 「は~い。待ってますよぅ~」 スバルの返事を聞くと、さくらは出ていった。 さくらが持っていた冊子には、2人とも気づかなかった。 この時もし、もっとさくらと話を続けていたら、この先の未来は違ったかもしれない。 (*) さくらはロビーに着くと、ソファーに座り、何度も読み返したその冊子を再び開いた。 それは20ページほどで、訓練終了とともになのはから 「今後の参考に」 と貰ったものだった。 そこにはこの3週間の訓練記録や今後の「近・中距離機動砲撃戦術」の発展予想。短い今回の訓練期間で抜けきれなかったクセの解消方法や、この戦術のバルキリーへの転換に関するアイデアやアドバイスなどのあれこれが書いてある。 しかもこれらは全てなのはの経験に基づいて書かれており、とてもデータベース化して〝量産〟されたどこにでもあるような対策集とは違う、思いやりがあった。 なぜならどれも自分の特性に合わせてわざわざ新たに書いてくれたものらしく、彼女の砲撃のように正確に的を射ている。 そんな目から鱗の冊子の最後にはこう〝手書き〟で書かれていた。 ────────── 3週間の訓練ご苦労様 さくらちゃんはこの3週間よく頑張ったと思います。 戦術はテクニックさえ身につければできるものではなく、基本の習得が最低条件です。だから少し厳しかったかもしれないけど、よく着いてきてくれました。ありがとう。 でも1つ、謝らせてね。 演技でも意地悪な態度を取ってごめんなさい。本当はうちの4人みたいにゆっくり、優しく教えてあげたかったのだけど、出来なくてごめん。 これからも空を守る友達でいてね。 私はさくらちゃんと一緒に空を飛べる時を楽しみに待ってます。 高町なのは Dear my friend 工藤さくらちゃんへ ────────── さくらは読み返すうちに何度も込み上げる嬉しさに身震いした。 (やっぱりなのはさんはいい人だった!だってずっと私を見ていてくれたんだもの!) こうしてなのはの教導の卒業生から構成された俗に言う〝なのは軍団〟の名簿にまた1人、その名が加えられた。 そこに宿舎内に併設された大浴場から出てきたのか、マイ桶にタオル等を入れて持つ、アルトと天城が現れた。 「よう、さくらちゃん。どうだい、訓練の方は?」 なんにも知らない天城が聞く。彼はこの3週間、アルトとの模擬戦と小隊としての任務(スクランブル待機など)に徹していた。 そのためこの3週間で20数回あった敵出現の報の内、小規模だった15回は天城と基地航空隊のCAP任務部隊のみでケリをつけていた。 この働きのおかげで、六課の4人やさくらの訓練を中止しなくてもよくなり、大変感謝されていた。 「はい、今日終わりましたよ。とてもいい経験ができました。これも支えて下さった天城さんやアルト隊長のおかげです。本当にありがとうございました」 アルトは深々と頭を下げるさくらから、机に広げられている冊子に視線を移す。 「お、早速読んでるみたいだな」 さくらは顔を上げて 「はい!」 と頷くと、冊子を手に取り胸に抱く。 「もう感動しちゃって・・・・・・まさかここまで私のために考えてくれているなんて!」 「だから言っただろ。諦めずに頑張ることだって」 「はい!アルト隊長のお言葉があったればこそです!」 シンパシーで通じ合っている2人はともかく、天城にはなんのことかわからず首を捻るが、2人は構わず話を続けていった。 「それにしてもアルト隊長の言う通りですね。ティアナさん達が羨ましいです」 なんでもさくらは冊子を受け取った後、なのはから六課の4人の分を見せてもらったという。 なのはによると、4人の教導がちょうど半年になるため、明日の模擬戦終了時に渡すらしい。 「ページ数は同じ20ページぐらいだったんですけど、内容の密度がすごいんです!よく入ったなぁ~ってぐらい」 「・・・・・・そういえば、俺も20ページ前後だったな。何かこだわりがあるのか?」 「はい、なのはさんによると───── ────────── 2時間前 六課隊舎3階 中央オフィス ズラリとコンピューター端末が並ぶ中、さくらとなのはは通常勤務時間外で他には誰もいないこの部屋に来ていた。 なぜならなのはに明日4人に配ろうと思っているという冊子の添削の助言を求められたためだ。 さくらはまだ電子情報の文書をスクロールしていく。 「・・・・・・あの、なのはさん、どうして20ページに収めようとするんですか?この内容だと50ページぐらい使った方が無難だと思うんですが・・・・・・」 さくらは〝極めて〟よくまとまった文書を批評する。さくらの目には、この内容を記載するのに、A4用紙12枚(表紙、背表紙で2枚)は余りに少なく映った。 文字が小さくて多い、俗に言う〝マイクロフィルム〟のようだ。というわけではない。 図は効果的に使っているし、紙一面文字がびっしりというわけでも、文章の構成が下手というわけでもない。 たださくらには、行間からにじみ出る〝文字にならない声〟が聞こえて仕方ないのだ。 つまり、なのはの言いたいことがまだあるような気がしてならないのだ。 この寸評に、なのはは頭を掻いて 「う~ん、そうなんだけどね。今まで教導してきたみんなにこういうのをを渡してるんだけど、だいたいこれぐらいじゃないと実戦で活用しきれないんだよねぇ・・・・・・」 と困った顔。 どうやらこの20ページというのは経験則に基づいた数字らしい。 確かに貰った方も、多すぎて覚えきれなければ扱いきれないことになる。 ならばまとめた方が覚えやすいかもしれない。それに彼らにはまだ半年の教導期間があるのだ。 (覚える時間がそんなにないティアナさん逹にはちょうどいい分量なのかもしれないな) さくらは思い直し、文書に目を戻した。 ────────── 「なるほどな。あいつらしい理由だ」 思い返すと、アルトの冊子も確かに要点のよくまとまった構成で、重要事項を後で思い出すのに苦労した覚えがなかった。 「はい。それに時間が長かったせいか内容がよく練ってあって・・・・・・ちょっと、妬いちゃいますね」 さくらがいたずらっ子のような笑顔を作る。 「そうだな。あいつらに、なのはの優しさが伝わってるといいんだが・・・・・・」 アルトの呟きにさくらも 「そうですね・・・・・・」 としみじみ頷いた。 (*) ティアナが目を開けるといつもの天井が見えた。 〝二段ベッドの上の段〟という名の天井は、ティアナの現(うつつ)への帰還に気づいたのか、ガタガタ揺れる。 「おはよ~、ティ~ア~」 顔を横に向け、天井の端から伸びる逆さの相棒の顔を意識のはっきりしない頭で数十秒眺める。するとやっと脳の言語中枢がアクセス状態になり、相棒の言った言葉の意味が、頭の中で固まる。 「・・・・・・おはよう。あんた、顔真っ赤よ」 「それはティアがなかなか返事してくれないからぁ~!」 彼女はそう言って頭を上に引っ込めた。 ティアナは起き上がろうとして、自らの右手が枕の下に入っていることに気づいた。 「・・・・・・あれ?」 引っ張ってみたが抜けない。 だが彼女の朦朧とした頭は〝なぜか?〟という問いを考えることを放棄し、枕に乗った頭を浮かせて抜くことに専念した。 すると、ゆっくり動き出した。 〝スーッ〟というシーツと枕を摩擦する音と共に出てきたのは縛ってあるのではないか?と、疑いたくなる程しっかりと握られた拳銃形態のクロスミラージュだった。 確か昨日、ベッドの中で目視による最終点検をしていたうちにウトウトしてそのまま眠ってしまったらしい。 初陣でゴーストを前に、クロスミラージュを落としてしまったことに悔しい思いがあった。そのため寝ながらも体の一部のように握り続けていられたのはこれまでの訓練の賜物だろうか? ともかく、それを見て始めてティアナの意識は覚醒した。 (そうだ。今日はXデーだったわね) ティアナはムクリと起き上がると、頬を叩いて気合いを入れ直し、洗面台へと向かった。 (*) 「―――――はい、それでは今月の定期模擬戦、行ってみようか!」 「はい!」 市街地になった戦場(訓練場)は今、ティアナとスバル、そしてなのはしかいない。 ライトニング分隊とヴィータは遠方のビルから観戦していた。 「それでね、今日はEXギアのアルトくんが参加しま~す」 なのはの一言に唖然とする2人。それを尻目にアルトがなにくわぬ顔で参上した。 「よぅ、俺も混ぜてもらうぜ」 「何で、何でですか!?」 「安心しろ。俺は直接、戦闘には関与しない。ただ、今日はホログラムの調子が悪いだろ?」 頷く2人。今日はアルトの言う通り、静止物の具現化は問題ないのだが、ホログラム製の模擬弾などの高速移動物の映りが劣悪だった。 そのため午前、午後の訓練は共に予備の実弾(魔力が封入されている実戦用のカートリッジ弾)で行われていた。 「それでスバルが殴り合う分にはいつも通りなんだが、なのはもティアナも非殺傷設定で戦うことになる。だからもしもの時の保険だそうだ」 アルトはEXギアを着けながら器用に肩を竦めて見せた。 以前にも記述したように、非殺傷設定と言えどAランクを越えるリンカーコア保有者の砲撃は危険なのだ。 なのはの〝AA〟級の砲撃をもし、シールド等で減衰せず直撃を受けた場合、被弾場所には2度の魔力火傷を負うことになる。 魔力火傷は全身に3度で致死レベルなため、死にはしないが危険と言わざるをえない。 そこでアルトは負傷の場合の緊急搬送などの保険と言うことらしかった。 とりあえず彼の戦力外通知に安心した2人は 「バリアジャケットに着替えて」 というなのはの指示通りにすると、相棒とアイコンタクトした。 アルトが空中に飛び上がると全ての準備が整う。 ジリジリと夏の暑い日射しがホログラムのアスファルトを、建物を、そして生身のティアナ達を熱する。 「それではよーい、始め!」 (*) ヴィータやフェイト、ライトニングの2人にアルトのおまけとして来たさくらは、ビルの中から観戦していた。 ホログラムとは便利なもので、本物と同じように太陽からの赤外線を完全にシャットアウト。また冷房がつくためバリアジャケットをしていなくともずいぶん涼しかった。 そして今そこでは模擬戦の様子が手に取るようにわかった。 「・・・・・・お、クロスシフトだな」 ヴィータがホロディスプレイに映るティアナ達を見て呟く。 『クロスファイヤー、シュート!』 その名の通り両腕をクロスして放たれた大量の誘導弾は上空に居座るなのはへと殺到する。 「・・・・・なんだ? このへなちょこな機動は?」 「コントロールはいいみたいだけど・・・・・・」 ヴィータとフェイトが首を捻る。 それらは『とりあえず数だけでも揃えてみました』とでも言って、当たるかどうかを度外視して放たれているように思えた。 「たぶんなのはさんの回避行動を抑制するのが目的ではないでしょうか」 「・・・・・・まぁ、そうか」 さくらの推測は妥当だった。これがスバルが要のクロスシフトAであるなら、なのはの回避機動の制御は必須であり、納得できる。 しかし───── (こんな露骨な作戦をアイツがなのは相手にやるのか) ヴィータは引っ掛かるものを感じながらもなのはに対して本当に強行突破し、弾かれたスバルを眺める内、 (新人ならそんなもんか) と疑念を打ち切った。 (*) 「こらスバル、ダメだよ!そんな危ない機動!」 弾かれ飛んでいったスバルを、口で追い打ちする。 「すみません!でも、ちゃんと防ぎますから!」 彼女はそう返すと戦闘機動を再開した。 背後から風を切る音。それに任せて見もせずに後方から来た誘導弾をひょいと回避する。 そうして今まで存在を忘れていたもう1人の敵戦力を思い出した。 (ティアナは?) 首を回して周囲を見渡すと、左目の視界の一点が一瞬真っ赤に染まった。 残像による視界不良はすぐに回復し、ビルの屋上から伸びる赤い一条の光線が目に入った。 その先にはこちらをレーザー照準し、見慣れないターゲットゲージで狙うティアナの姿があった。 (砲撃!) 長距離スナイピングはさくらの十八番であり、彼女がそれを教えたかも・・・いや、教えるよう〝仕組んだ〟のだから使ってくるだろう。さくらの訓練を認めたのもその目的を達成するためでもあったからだ。 (ちょっと失敗だけど・・・・・・うん、まぁ合格かな) レーザー照準によるロックは正確だが、こちらに発見されるリスクを増やし、事実こちらが発見できたので失敗だ。 だがティアナなら通常のデバイス補正でも十分当たるだろうし、その場合不意討ちなので十分勝算がある。 ティアナ達は私のシールドを絶対破れない聖壁のように思っているようだが、実はそうじゃない。 2.5ランクダウンした私は、すでに成長したスバルの攻撃を受け止めるのに精一杯で、続く砲撃を受け止めるなんてとてもじゃないけどできない。 だから今回の模擬戦は自信が付くように〝普通に頑張れば十分自分に一撃を与えることができる〟ような戦力配分がなされていた。 そして絶妙なタイミングでスバルが再び迫る。 私はティアナを見なかったことにすると、スバルに相対した。 こちらが放つ誘導弾を、スバルは機動と迎撃で乗り切り殴りかかって来る。 「うぉりぁぁぁ!」 打たれたその腕は轟音とスパークと共にシールドに当たり、進攻を止めた。 (さぁ、今だよ!) なのはは待ったが、なかなか撃って来なかった。 (*) こうして、彼女の思いを他所に、ティアナ達の作戦が最終段階を迎えた。 (*) ティアナは幻影を連続続行にすると、自身に光学迷彩とクロスミラージュのOT『アクティブ・ステルス・システム』を作動。隠れていたビルの1階から出る。 あれほど 『ティアナ・ランスターここにあり!』 とわざわざレーザーポインターで示したのに、〝気づいてもらえない〟とは。 自分がここにいないという引き付けが十分でないかもしれないが、予想通りの場所でスバルと相対している今が好機だ。 ティアナはアンカーを2人の相対している上空のウィングロードに打ち込み、巻き上げて急速に上昇していく。 まもなく幻影は解除されるだろうが問題ない。何しろあの幻影に気づいていないのだから。 そしてついに2人を通り越して最高点へ。 ティアナは右手のアンカーを頼りに天井(ウィングロード)に足を着くと、左手のクロスミラージュを2発ロード。魔力刃を展開する。 激突した2人は1歩もその場を動かない。 ティアナは自らを言い聞かせるように呟く。 「バリアを抜いて、一撃!」 最終目標地点をロックオン! ティアナは意を決し、アンカーを解除すると同時に天井を蹴った。 この日、白い悪魔は確かに降臨したという・・・・・・ To be continue ・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 「あら、もう完成させたの?」 グレイスは変更リストに載った『ユダ・システム』の一行にそう呟いた。 次回マクロスなのは第23話「ガジェットⅡ型改」 「幸運を」 ―――――――――― シレンヤ氏 第23話へ
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唐突な襲撃。 自分よりも幼い襲撃者になのはは戸惑う。 何故、自分を襲うのか? 理由は? 真意は? 不意打ちの攻撃と共に現れたヴィータの攻撃をかろうじて防ぎ、襲撃の理由を問うなのはだったが、ヴィータは有無を言わせずに攻撃を続けた。 「教えてくれなきゃ、分からないってば! 話を聞いて!」 「話なんてする必要ねぇぇえーーーッ!!」 まさに問答無用。 なのはの呼びかけを意に介さないヴィータは返答の代わりに攻撃を繰り出す。 かろうじてシールドで受け止め、数メートル吹き飛ばされたなのはは―――。 「……そう」 "ド ド ド ド ド ド ド……" (……うっ!? な、なんだコイツ……急に、何か『凄み』が……!) ゆっくりと立ち上がるなのはの雰囲気が一変した事を、ヴィータは敏感に感じ取った。 地の底から湧き上がるような、奇妙な重圧感を放ちながらなのはがヴィータを見据える。その瞳から迷いは消え失せていた。 背筋を思いっきり反らした、物理的に不可能と思えるようなポーズで佇み、なのはは静かにヴィータを指差す。 「あなた……覚悟して来てる人……なんだよね。 人の話を聞かずに一方的に襲おうとするって事は、逆にやられても言い訳を聞いてもらえないかもしれないという危険を常に覚悟して来ている人ってわけだよね……?」 "ド ド ド ド ド ド ド……" 「う、うるせーッ! カートリッジ・ロード!!」 無力な少女から怪物へと変貌を遂げたような、なのはの変わりように圧されながらも、ヴィータは竦んでしまう自分自身を叱責して自らのデバイスに命じた。 グラーフアイゼンがラケーテンフォームへと変形し、魔力ジェットの噴射によって加速し始めた。 ロケットのような推進力を得たアイゼンは、ヴィータ自身を支点として回転を開始する。 なのは、その様子を冷静に見極めていた。 (『回転』だッ、『回転』の運動エネルギーを利用して威力を高めているッ! 遠心力の理論でハンマーの先端に生じる圧倒的破壊力は、まさに歯車的魔力の小宇宙!!) 「ラケーテン……ッ!!」 恐るべき回転の力! しかし、なのははそんな驚異的パワーを前にして……逆に思いっきり喜んだのだッ! 「それが『いい』のッ! その『回転』が『いい』んじゃない!」 「―――ハンマァ……あぐっ! 何ィ!!?」 回転しながらなのはに向かって突撃しようとしたヴィータは、突如全身を襲った激痛に、そして同時にアイゼンにかかった強い力に、攻撃の不発を余儀なくされた。 ヴィータの必殺攻撃を強制停止させたモノの正体! ソレは―――! 意外ッ! それはチェーンバインドッ!! グラーフアイゼンの先端にいつの間にか取り付けられた鎖状のバインドが、回転によってヴィータの体に巻き絡まり、回転の運動を利用して全身を強く締め付けていたのだ。 それはまさに、複雑に絡みついた釣糸とリール! 「こ、こんなモンいつの間に……ッ!?」 「最初の一撃を受けた時なの。チェーンバインドはユーノ君の得意技なんだけど……上手くいってやれやれ一安心といったところだね」 「う……ッ!」 自滅の形で身動きの取れなくなってしまったヴィータに対して、デバイスを構え、完全に戦闘形態を取ったなのはがゆっくりと目の前まで近づいて来ていた。 なのはの周囲には、すでに魔法によって具現したディバインシューターの魔力弾が四つ、発射台に設置されたミサイルのように待機していた。 「さっきの『カートリッジ』っていうヤツ? すごかったね……魔力が跳ね上がった。あれを使えば、こんなバインドすぐに解けちゃう……」 「……」 ヴィータを横目で流し見るなのはは、一見無防備に見えて凄まじい集中力を発揮している。 仕掛けるタイミングを、ヴィータは図りかねていた。 「そのバインドを解除するのに何秒かかるかな? 3秒、4秒? 外したと同時に『ディバインバスター』をテメーにたたきこむの! かかってきて! 西部劇のガンマン風に言うと『ぬきな! どっちが素早いか試してみようぜ』というやつなの」 「野郎……ッ! アイゼンッ!!」 激情に火のついたヴィータ。待ち構えるなのはの前で、カートリッジをロードし、爆発的に高まった魔力でバインドを引き千切り、そのままグラーフアイゼンを振り上げた。 その瞬間まで、なのはきっちりと待っていた。そして―――! 「ラケーテン・ハンマー!!」 「オラァッ!!」 一閃。 加速に入った筈のグラーフアイゼンを紙一重で回避し、逆にディバインシューターの弾丸が一発、カウンターとなってヴィータの腹に突き刺さった! 「ごはぁ……ッ!?」 「最初に、言ったよね……『覚悟』はいい? わたしは、出来ている」 バリアジャケットの防御力を削り取った弾丸は、なのはの操作するまま元の位置へと戻る。それと入れ替わるように別のディバインシューターが発射される。それが終われば、入れ替わりに次が。叩き込んで、再び次へ。次へ。次へ! もはやそれは、四方から連射される機関砲。怒涛のラッシュ! 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」 一発ではバリアジャケットを貫けない魔力弾も連続して打ち込めば、徐々にジャケットの防御を削っていく。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアーーーッ!!!」 津波のように押し寄せる魔力弾の超ラッシュ。 ヴィータの悲鳴は爆発音と打撃音の中に埋もれていった。 「SHHOOOOOOOOTTT―――ッ!!!」 「ぐがぁあああああああーーーっ!!」 駄目押しのバスターが直撃し、ズタボロになったヴィータは『ドグシャァアアアッ』と高速でぶっ飛び、ビルに激突していった。 窓を突き破り、幾つもの壁を突き破って、ようやく停止した時、ヴィータの姿はすでに瓦礫の中に埋もれていた。 ―――決着ゥッ! リリカルなのはA s 第一話、完!! 「やれやれなの……」 バ―――――z______ン! 撃退成功! 騎士名―ヴィータ デバイス名―グラーフアイゼン (重傷。しかし、再起『可』能) to be continued……> 「……トモダチ」 ちなみに登場タイミングを逃したフェイトは数分後に普通に合流した。 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第25話『先遣隊』←この前の話 『マクロスなのは』第26話「メディカル・プライム」 八神はやては部隊長室で、今後の六課の運用について思索をめぐらせていた。 脳内会議の議題に上がっているのはカリムの預言の事だ。 設立から半年。六課はその任務を忠実に果たし、今に至る。現状に不満はない。しかし不安要素はあった。それは『〝事〟が、六課の存続する内に起こるのか』という問題だ。 六課はテスト部隊扱いのため、あと半年足らずで解体される。1年という期間は何もテキトーに決めた期間ではない。聖王教会と本局の対策本部が議論の末導き出したギリギリのラインだ。 今より短い場合の問題は言わずもがなだが、逆に長いとそれはそれで問題がある。今でこそガジェットの出現から出動数が多く、各部隊からの信頼も厚い六課だが、当時は必要性の認識が薄かったため本局でさえ設立には渋ったのだ。それは予算の問題のみならず、当時対立関係にあった地上部隊が黙っていない。という意見もあったからだ。しかしこの問題は『地上部隊のトップであるレジアス中将が賛同した』というイレギュラーな、しかし嬉しい出来事から片づいている。 だがもう1つ問題が上げられていた。それは六課への過剰な戦力集中だ。地上部隊20万人の内、4万人は事務・補給・支援局員である。 そして残る16万人を数える空戦魔導士部隊や陸士部隊である純戦闘局員の内10人ほどしかいないSランク魔導士を八神はやて、高町なのは、ヴィータ、シグナムと4人も六課に出向させている。 このランクの持ち主は『北海道方面隊など6つある地方方面部隊、5個師団(2万7千人)に1人いるかいないか』という希少な戦力であり、本局ですら少ないSランク魔導士のこれほどの集中投入は極めて思い切った人事だった。 そのため『気持ちは分かるが、そう長くは留めて置けない』というのが周囲の本音だった。 仮に1年後に同じような部隊を本局主導で再編する場合を考えても、地上部隊を頼れない分、生み出されるであろう戦力の低下は憂慮すべき問題であった。 そこで『何か妙案がないだろうか?』と思考をめぐらせていたはやてだったが、その思索は打ちきられることになった。 空中に画面が浮かび、電話の呼び出し音が締め切った室内の空気を震わす。画面の開いた場所は左隣の人形が使うような小さなデスクだ。本来なら補佐官であるリインが受けるはずだが、今ここにいないことは承知済み。右の掌を空中にかざして軽く右に滑らせると、その動作を読み取った部屋が汎用ホロディスプレイを出現させる。この部屋だと電灯のスイッチなどの操作を行うものだが、こんな時のために電話もその機能に加えている。おかげで次のコールが鳴る前に通話ボタン触れることができた。 「はい。機動六課の八神二佐です」 サウンドオンリーの回線だったが、 直接外部から電話がかかることはなく、地上部隊のオペレーターを経由したルートが普通だ。しかし聞こえてきた声はオペレーターの声ではなく、レジアスのものだった。 『はやて君か。いきなりで悪いが1330時頃にこちらに来てほしい』 「え? ほんとにいきなりやなぁ・・・・・・もちろん何か買ってくれるんよね?」 はやての冗談にレジアスは電話の向こうで豪快に笑う。 『なるほどな。グレアムのヤツがそうやって「部下がいじめてくる」と嬉しそうに嘆いていた意味がようやくわかったよ』 レジアスのセリフに、はやては「バレてたか」と苦笑いする。 グレアムは以前本局の提督を勤めていた人物で、当時足が悪く両親のいなかったはやての、いわゆるあしながおじさんであった。 またはやて自身、『闇の書事件』の責任を取って自主退職するまでのほんの1年だけ彼の元に嘱託魔導士として配属されており、当時同事件で主犯者扱いされていたはやてが管理局に慣れるよう手を尽くしてくれていた。 彼女を学費面での援助によってミッドチルダ防衛アカデミーに入学させてくれたのも、管理局で風当たりの悪かった当時の身の振り方を教えてくれたのも彼だった。 閑話休題。 『・・・・・・まぁ、実際買ったのだがな。きっと君も驚くだろう』 「え、いったいなんなのや?」 『ああ、─────だ』 レジアスが口にしたその名は、確かにはやてが驚くに十分値するものだった。その後はやては2つ返事で了解し、身支度のために席を後にした。 (*) 同日 1200時 訓練場 午前中に行われた抜き打ちの模擬戦になんとか勝利した六課の新人4人は、一時の休憩に身を任せ、地面に座り込んでいた。そこへなのはにヴィータ、そしてフェイトを加えた教官陣がやってきた。 「はい。今朝の訓練と模擬戦も無事終了。お疲れ様。・・・・・・でね、実は何気に今日の模擬戦がデバイスリミッター1段階クリアの見極めテストだったんだけど・・・・・・どうでした?」 一同の視線が集まるなか、後ろのフェイトとヴィータに振る。 「合格」 「まぁ、そうだな」 2人とも好意的な判断。そしてなのはは───── 「私も、みんないい線行ってると思うし、じゃあこれにて1段目のリミッター解除を認めます」 その知らせを耳にした4人は〝やったぁ!〟とうれしさのあまり座り込んでいた地面から跳ね上がる。 「お、元気そうじゃないか。それじゃこのまま昼飯抜きで訓練すっか」 ヴィータのセリフに4人の子ヒツジは青ざめ、一様に首を横に振った。 彼ら新人にとって唯一の平安といっても過言ではない食事の時間は絶対不可侵の聖域であり、守らねばならぬ最終防衛ラインだった。 「も~、ヴィータちゃんったら」 なのはに言われヴィータは 「冗談だよ」 と、猫を前にしたハムスターのような目をした4人に言ってやる。 しかし彼女の目が〝本気(マジ)〟だったことを書き添えておこう。 落ち着きを取り戻した4人にフェイトが指示を続ける。 「隊舎に戻ったらまず、シャーリーにデバイスを預けてね。昼食が終わる頃にはデバイスも準備出来てると思うから、受け取って各自しっかりマニュアルを読み下しておくこと」 それにヴィータの補足が付く。 「〝明日〟からはセカンドモードを基本にして訓練すっからな」 しかしその補足を聞いた4人は、自分達が間違っていると思ったのか空を仰ぐ。真上に輝く真夏の太陽は、まだ時刻が正午であることを知らせていた。 「〝明日〟ですか?」 「そうだよ。みんなのデバイスの1段目リミッター解除を機会に、私とヴィータ教官のデバイスも全面整備(フルチェック)とアップデートをすることになったの。だから今日の午後の訓練はお休み。町にでも行って、遊んでくるといいよ」 なのはのセリフに、4人は先ほどを数倍する大声で、喜びの雄叫びを上げた。 (*) 同時刻 フロンティア航空基地 第7格納庫 「あと30分で出撃だ。しっかり頼むぞ」 愛機であるVF-25を引っ掻き回している整備員達に檄を飛ばす。 彼らはそれぞれの仕事をこなしながらも 「「ウースッ」」 と、まるで体育会系のような返事を返す。そして点検項目を並べたチェックボードを効率よく埋めて、整備のために開けたパネルやスポイラーを定位置に戻していった。 そんな中、こちらへと1人の整備員がやってきた。しかし他の整備員と違ってそのツナギはあまり機械油に汚れていないように見える。どうやら新人らしい。 「どうした?」 「はい、アルト一尉。恐縮ですが、モード2のバトロイドのモーション・マネージメント比は今までの1.50倍で良いでしょうか?先ほど戦闘のデータを見る機会があったのですが、自分の見立てではあと0.04増やした方が動かしやすいように思います」 幾分か緊張した様子の新人に言われて初めて思い出す。そう言えば確かに前回戦闘の最中、そのような違和感を覚えたような気がする。もっともSMSへの先行配備の段階から乗っているVF-25という機体なので多少の誤差など十分カバーできるが、修正するに越したことはなかった。 「よく気付いたな。そうしてくれ」 答えを聞いた新人は満面の笑みを作って 「はい!」 という返事とともに敬礼し、再びバルキリーに繋がれたコントロールパネルに返り咲いた。そこで航空隊設立当初からVF-25のアビオニクスを任せている担当者が 「やっぱり言ってよかったじゃねぇーか」 と、入力する新人の肩をたたく。 「俺達でもコイツのことは完全には把握してないんだ。だからこれからも新人とか専門外とか関係なしにどんどん聞いてくれよ!」 「はい!・・・・・・じゃ先輩、さっそくひとついいですか?」 「おう、なんだ?」 「明日地元から彼女が来てくれるんです!それでクラナガンでデートしたいと思うんですが、どこかいいスポット無いですか?」 「え・・・・・・彼女とデート?あ・・・・・・いや、俺はそういうのよくわからなくて・・・・・・その・・・・・・だな」 こういう事象に対しては知識がないのか大いに困っているようだ。そこへ彼の同期がデートと言う単語を聞きつけたのか機体越しに呼びかけてきた。 「どうしたんだよシュミット?お前俺たちと違ってモテるだろ?意地悪しないでデートスポットの一つや二つ教えてやれよ!」 「そういうわけじゃねぇんだよ加藤!」 「じゃあなんだよ?」 「だって・・・・・・なぁ?」 困ったように言うシュミットに安全ヘルメットを外してポニーテールの長髪を垂らした新人が 「ふふふ」 と蠱惑的に微笑んだ。 (*) その後彼女は 「キマシタワー!」 と叫びながらやってきた女性局員や、 「なになに?諸橋(その新人)に〝彼女〟がいるって!?」 とVF-25の整備を終えて集まった整備員集団に囲まれていた。しかしその顔触れはアビオニクス担当者であるシュミット、そして新人を含めて全員自分と同年代ぐらいだった。別に特殊な趣向を持った人間がそう、というわけではない。この航空隊に所属する整備員はほとんど同年代なのだ。 これはこのミッドチルダでOT・OTMという新技術に、最も早く順応したのが彼らのような若者であることの証左であった。 もっとも教養としての現代の技術はともかく、OTMはゼロスタートであったおかげで3カ月前まで整備の質はあまり良くなかった。それが第25未確認世界でも最新鋭機であったVF-25なら尚更だ。 しかし最近ではアビオニクスを整備するシュミットのような人材が育ってきてくれたおかげでなんとか乗り手である自分や、たまに技研から出張してくる田所所長などに頼らなくても良いぐらいの水準に到達していた。 しばらく馴れ初め話を語る諸橋とデートスポットの位置について真剣に話し始めた彼らの様子を遠巻きに眺めていたが、整備が終わった彼らとは違い、自分の仕事は目前に差し迫っている。名残惜しいが列機を見回ることにした。 まずはVF-25の対面で整備が急がれている天城のVF-1B『ワルキューレ』だ。 純ミッドチルダ製であるこの機体は、製作委任企業であるミッドチルダのメーカー『三菱ボーイング社』の技術者が、わざわざ整備方法を懇切丁寧に講義していた。そのため比較的整備水準は初期の頃から高かったようだ。 現在パイロットである天城はコックピットに収まり、ラダー等の最終点検に余念がなかった。 まるで魚のヒレのように〝ヒョコ、ヒョコ〟と垂直尾翼や主翼に付けられている動翼であるエルロンが稼動する。 「あ、隊長」 こちらに気づいた天城は立ち上がると、タラップ(はしご)も使わずコックピットから飛び降りる。 コックピットから床まで3メートルほどあり、生身なら体が拒否するところだが、その身に纏ったEXギアが金属の接触音とともに彼の着地をアシストした。 「今日のCAP任務が8時間ってのは本当っすか?」 「そうだ。今日はだましだまし使ってきた機体の総点検らしいからな。六課にいて一番稼働率が少なかった俺たちで時間調整するんだと」 「・・・・・・ああ、そうですか」 気落ちした表情に続いて小声で 「俺は六課でも出撃率100%だったのに・・・・・・」 という天城の嘆きにも似た呟きが聞こえたが、どうしようもないので 「まぁ、頑張れ」 と肩を叩いてその場を離れた。 次にVF-1Bの隣りに駐機するさくらのVF-11G『サンダーホーク』に視線を移す。 こちらは元の世界でも整備性が高い機体なので、性能に比べて整備が容易になっている。そのためかこちらにはもう整備員の姿はなく、さくら自身が最終点検を行っていた。 サーボモーターなどを使い、電子制御で機体の操縦制御を行う形式であるデジタル・フライバイ・ワイヤの両翼の動翼に、順番に軽く体重を乗せて動かない事を確認する。 そして次に『NO STEP(乗るな)』という表示に注意しながら上に昇ると、整備用パネルが開いていたり、スパナなど整備員の忘れ物がないか確認していく。 よほど集中しているのかアルトが見ていることには気づいていないようだった。しばらくその手際眺めていると、後ろから声をかけられた。 相手はVF-25を整備していた整備員だ。どうやらようやく全ての点検・整備が終わったらしい。 アルトはもう一度点検を続けるさくらを流し見ると、自らの愛機の元へ歩き出した。 (*) 1330時 機動六課 正門 そこにはヴァイスのものだという、このご時世には珍しい内燃機関の一種である、ロータリーエンジン式のバイクに跨がって六課を後にしようとしているティアナ達と、見送るなのはがいた。 「気をつけて行ってきてね」 「は~い、いってきま~す!」 なのはの見送りに後部座席に座るスバルが返事を返すと、ティアナは右手に握るアクセルをひねった。 石油ではなく水素を燃料とするそれは電気自動車や燃料電池車の擬似エンジン音だけでは再現できない振動やエンジン音を轟かせて出発する。そして狼の遠吠えのようなエキゾーストノートを振り撒きながら海岸に続く連絡橋を爆走していった。 なのはは背後の扉が開く気配に振り返る。するとそこには地上部隊の礼服に袖を通したはやての姿があった。 「あれ? はやてちゃんもお出かけ?」 「そうや。ちょっとレジアス中将に呼ばれてな。ウチがおらん間、六課をよろしく」 「は!お任せください!八神部隊長」 わざと仰々(ぎょうぎょう)しく敬礼するなのはに、 「似合えへんなぁ」 とはやてが吹き出すと、なのはもつられて笑った。 その後はやてはヴァイスのヘリに乗って北の空に消えていった。 (*) その後ライトニングの2人を見送ったフェイトと合流したなのはは、 「(フェイトの)車の鍵を貸してくれ」 というシグナムに出くわしていた。 「シグナムも外出ですか?」 フェイトがポケットから鍵を取り出し、シグナムの手に置きながら聞く。 「ああ。主はやての前任地だった第108陸士部隊のナカジマ三佐が、こちらの合同捜査の要請を受けてくれてな。その打ち合わせだ」 「あ、捜査周りの事なら私も行った方が─────」 しかしフェイトの申し出は 「準備はこちらの仕事だ」 とやんわり断られた。 「お前は指揮官で、私はお前の副官なんだぞ」 そう言われてはフェイトに反論の余地はない。 「うん・・・・・・ありがとうございます─────でいいんでしょうか?」 「ふ、好きにしろ」 そう言ってシグナムは駐車場の方へ歩いていった。 なのははそんな2人を見て、『知らない人が見たらどっちが上官なのかわかるのかな?』と思ったという。 (*) その後デスクワークをしなければならないというフェイトと別れ、なのはは六課隊舎内にあるデバイス用の整備施設に到着した。 「あ、なのはさん」 画面に向かっていたシャーリーが振り返って迎え、その隣にいたヴィータも 「遅かったじゃねーか」 といつかのように婉曲語法で自分を迎えた。 「ごめん、ごめん。それでどう?上手く行ってる?」 なのはは言いながらシャーリーの取り組んでいる画面を後ろから覗き見る。 自らのデバイス『レイジングハート(・エクセリオン)』は昼飯前からシャーリーに預けられており、アップデートは開始されているはずだった。 「はい、あと2時間ぐらいでアップデートは終わる予定です」 プログラムを構築したシャーリーの見立てにミスはない。ディスプレイに表示された終了予定時間は1時間以下だったが、こういう終了時間は信用できないのが世の常。それを証明するように次の瞬間には3時間になったり30分となった。 ヴィータの方も似たり寄ったりで、プログラムのアップデート率をみる限り、自分の1時間後ぐらいに終わるだろう。 しかしなのはは画面を眺めるうちにあることに気づいた。 自分とヴィータだけでなく、まだもう1つデバイスのアップデート作業が進行しており、もう間もなく終わりそうなことに。 検査兼整備用の容器に入った待機状態のそのデバイスは〝ブレスレット型〟だった。 「ねぇシャーリー、あのデバ─────」 デバイスは誰の?とは問えなかった。その前に持ち主がドアの向こうから現れたからだ。 「あ、なのはさん、お久しぶりです!」 地上部隊の茶色い制服に身を包み、ニコリと嬉しそうに挨拶する緑の髪した少女、ランカ・リーがそこにいた。 (*) ランカは本局の要請で無期限の長期出張に出ていた。 行き先は〝戦場〟だ。 第6管理外世界と呼ばれる次元世界で行われていた戦争は、人対人の戦争ではなく、対異星人との戦争だった。 本来管理局は非魔法文明である管理外の世界には干渉しないのが基本方針だったが、その世界の住人は管理局のもう1つの任務に抵触した。 それは〝次元宇宙の秩序の維持〟だ。 彼らは70年程前に次元航行を独自に成功させ、巡回中だった時空管理局と遭遇したのだ。 運の良いことに極めて友好的で技術も優秀な人種であったことから、1年経たないうちに管理局の理念に賛同した彼らと同盟を結ぶに至った。 以後管理局は次元航行船の建造の約8割をその世界に依存しており、管理局の重要な拠点だった。 しかし2ヶ月前、その世界で戦争が勃発した。 その異星人は我々人間と同じく〝炭素〟ベースの知性体(以下「オリオン」)であったが、彼らは突然太陽系に入ると先制攻撃を仕掛けてきたのだ。 当然管理局に友好的だったその惑星(以下「ブリリアント」)の住人は必死に応戦する。 管理局との規定により魔導兵器縛りだったが兵器の技術レベルではなんとか拮抗。戦力は圧倒的に劣っていた。しかしブリリアント側にはある〝技術〟があった。 次元航行技術だ。 この技術は実は超空間航法『フォールド』と全く同じ技術で、第25未確認世界(マクロス世界)とオリオンの住人達は知らなかったが、空間移動より次元移動に使う方が簡単だった。 この技術によってオリオン側の先制攻撃と戦力のメリットを塗り潰し、比較的戦いを有利にすすめた。 しかし所詮防衛戦でしかなく、オリオン側の恒星系の位置がわからないため、戦いは長期化の様相を呈していた。 だが捕虜などからオリオンの情報がわかるにつれて、戦争の必要がないことがブリリアント側にはわかってきた。 彼らの戦争目的は侵略ではなく〝自己防衛〟だという。 何でも彼らの住む惑星オリオンからたった数百光年という近距離にあったため、 「ベリリアン星の住人が攻めてくる!」 という集団妄想に駆られたらしい。 それというのもブリリアント側が全く気にしていなかった、それどころか最近までまったく観測すらしていなかったものが原因であった。それは次元航行に突入する際に発生してしまう短く超微弱なフォールド波だ。 これを次元航行発明から70年間完全に垂れ流しつつけ、これを受信したオリオンが盛大に勘違いした。 彼らにはまだフォールド技術は理論段階で、空間跳躍以外の使用法を全く思いつかなかった。そのため管理局に造船を任されてどんどん新鋭艦を次元宇宙に進宙させていったブリリアントの行為は、オリオン側にとって奇怪に映った。船を造ってどんどんフォールドするのはわかる。宇宙開発というものだとわかるからだ。しかし恒星外にフォールドアウトするでもなく、ただため込んでいるようにしか見えないその行為は、オリオンの住人にとって艦隊戦力の備蓄と思われてしまったのだ。 そう勘違いしてしまったオリオンは半世紀の月日をかけてフォールド航法を理論から実用に昇華させて、のべ一万隻もの宇宙艦隊を整備。そして今、万全の準備をして先制攻撃に臨んだようだった。 しかし実のところ彼らのことはまったく知らなかったし、『協調と平和』を旨とするブリリアントは知ったところで侵略するような野心もない。 そこで和平交渉のためにまず戦闘を止めようと考えたブリリアントは、次元宇宙で〝超時空シンデレラ〟とも〝戦争ブレイカー〟とも呼ばれるランカ・リーの貸出しを要請したのだ。 管理局としても戦争による新鋭次元航行船建造の大幅な停滞は困るし、70年来の大切な盟友を助けたいという思いがあった。 こうして1ヶ月前、六課に対し最優先でランカの出張を要請したのだ。 六課やアルトは危険地帯へのランカの出張に渋ったが、ランカの強い思いから根負けしていた。 こうして第6管理外世界に出張したランカは、本局の次元航行船10隻からなる特務艦隊と航宙艦約100隻から成るブリリアント旗艦艦隊に守られながら局地戦をほぼ全て歌で〝制〟して行ったという。 確かなのはが最後に見た関連ニュースは「全オリオン艦隊の内、50%がブリリアント側に着いた」というものだった。 そのランカがここにいるということは───── 「戦争は終わったの!?」 ランカは頷くと続ける。 「みんないい人達なんだよ。ただ誤解があっただけなんだ」 そう笑顔で語る少女は、とても恒星間戦争を止めた人物には思えぬほど無邪気であった。 (*) 1424時 クラナガン地下 そこは戦前は半径10キロメートルに渡って巨大な地下都市があり、戦時中は避難民が入った巨大な地下シェルターだった。 一時は全区画にわたって放棄されていたが、今では歴代のミッドチルダ政府の尽力によって大規模な地下街が再建されている。 しかしその全てに手が届いたわけではない。一部の老朽化や破壊の激しい区画は完全に放棄され、そうでなくともただのトンネルとして利用されていた。 そこを1台の大型トラックが下って(クラナガンから出る方向)いた。 そのトラックのコンテナには『クロネコムサシの特急便』のロゴとイメージキャラクターがペイントされ、暗いトンネル内をヘッドライトを頼りに走って行く。 運転手はミッドチルダ国際空港近くの輸送業者の新人で、この道は彼の先輩から教わったものだ。 地上のクラナガンに繋がる道はどこも渋滞であり、拙速を旨とする彼ら輸送業者はこの廃棄区画を開拓したのだった。 しかし残念ながら路面状態はよくない。 その運転手はトラックの優秀なサスペンションでも吸収できなかった予想以上の縦揺れに驚く。 「いかんな・・・積み荷が揺れちまうじゃねぇか」 彼はシフトレバーについたつまみを操作すると、ヘッドライトをハイビームにする。 すると少しは視認範囲が広かった。しかし───── (しっかし、いつ来ても廃棄区画は気味悪りぃな・・・・・・) 右も左も後ろにも他の車は見えない。それが彼に昨日見た映画を思い出させた。 それはベルカ(位置は第97管理外世界でアメリカ合衆国)の〝ハリーウッド〟で撮影された映画で、タイトルは「エイリアン」だ。 ストーリーは時空管理局の次元航行船が、新らたに発見された世界の調査のために調査隊を派遣する所から始まる。 そこには現代の技術レベルを持った町があったが、人の姿がない。調査が進むにつれてこの惑星の住人が、ある惑星外生命体の餌食になっていたことがわかった。 しかしその時には遅かった。 魔法の使用を妨害するフィールドを展開する敵に対し、調査隊には腕利きの武装隊が随伴していたが、また1人、ま1人と漆黒のエイリアンの餌食になっていく。 また、次元航行技術があったらしいこの世界は、厳重に隔離されていたが次元空間へのゲートが開きっぱなしだった。 このままではエイリアン達がこちらの世界に来てしまう。 何とか現地の質量兵器を駆使して次元航行船に逃げ延びたオーバーSランクの女性執務官リプリーと、1人の調査隊所属の科学者の2人は、艦船搭載型の大量破壊魔導兵器であるアルカンシェルによるエイリアンの殲滅を進言。そのエイリアンの危険性は認められ、それは決行される。 大気圏内で炸裂したアルカンシェルは汚染された町をクレーターに変え、船は次元空間に戻った。 しかしリプリー達が乗ってきた小型挺には小さな繭が─────! という身の毛もよだつ結末だ。 さて、問題のシーンは物語の終盤。先の生き残った2人と、3人の武装隊員が現地調達した軽トラで、小型挺への脱出を試みた時だった。 その名も無き(劇中ではあったと思うがいちいち覚えていない)武装隊員はこのようなだれもいない地下の道を走っていた。 しかし賢しいエイリアン達は天井に潜んでいた! ノコノコやってきた軽トラに飛び乗った〝奴ら〟は2人の武装隊員の断末魔の悲鳴とともに運転席を制圧。危険を感じ取ったリプリー達3人は荷台から飛び降りた─────というシーンだった。 (・・・・・あれ、俺って名も無き犠牲者その1じゃね─────) 彼の背筋に冷たいものが走る。 「ま、まさかな。そうだよ、杉田先輩だって10年以上この道を使ってたんだし、前にも先輩と1回通ったじゃないか」 わざと声を出して自らを勇気づける。 そして彼はラジオを点けると局を選ぶ。すると特徴的なBGMと共にCMが聞こえてきた。 『─────毎日アクセルを踏み、毎日ブレーキを踏み、毎日荷物を積み降ろす。・・・あなたのためのフルモデルチェンジ。新型〝ERUF(エルフ)〟登場─────!』 彼はそれを聞きながらそのBGMを歌い出す。 「いぃつ~までも、いぃつぅ~までも~、走れ走れ!ふふふ~のトラックぅ~」 それを歌うと何故か恐怖も飛んでいった。 (やっぱこの曲はいいねぇ~。でも─────) 彼はこのトラックのフロントにあるシンボルマークを思って少し申し訳なく思った。 そこには『ISUDU』ではなく、『NITINO』のマークがあったりする。 (どっちが悪いってわけでもないんだが・・・・・・) 彼はそう思いながらも歌い続けた。 「ど~こぅ~までも、どこぅまでも~、走れ走れ! ISUDUのトラック─────」 (*) 5分後 『そろそろクラナガン外辺部かな』と思った彼は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム。全地球無線測定システム)で位置を確認する。その時、一瞬サイドミラーが光を捉えた。 「?」 再び確認するがなにもない。 (勘弁してくれよ・・・・・・映画のせいで敏感になってるんだな・・・・・・) 彼はそう結論を出すと運転に意識を集中する。しかし今度はコンテナの方から無理に引き裂かれているのか、それを構成する金属が悲鳴のような悲鳴を上げる。 「ちょ・・・・・・マジで・・・・・・」 積み荷は食料品や医療品などで勝手に動くものは積んでいないはずだ。 (ということは・・・・・・!) 彼の頭に映画のシーンがフラッシュバック!あの武装隊員の断末魔の悲鳴が頭に響く。 (落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け─────!!) 彼はもはやパニック寸前だ。しかし無慈悲にもその時は訪れた。 一瞬静かになり、彼が振り返えろうと決意した瞬間───── 耳をつんざく轟音と眩いまでの黄色い閃光が閃光手榴弾のように彼の視界を奪った。 すでに冷静さを欠いていた彼は驚きのあまりハンドル操作を誤り、トラックを横転させてしまった。 (*) 横転事故より15分後、トラックに搭載されていた緊急救難信号を受信した救急隊が現場に急行していた。 「・・・・・・おい、あれか?」 救急車を運転する救急隊員が助手席に座ってGPSを操作する同僚に聞く。 「ああ、そうらしい。しかし、こんな薄気味悪い場所で事故らんでも・・・・・・」 「こんな場所だからだろ。・・・・・・運転席に付けるぞ」 救急車は横転したトラックの本体─────牽引車近くに横づけする。 「大丈夫ですか!?」 ドアを開けて助手席の同僚がトラックに呼びかけるが返事はない。車を離れているのだろうか? 後ろではもう1人の同僚が救急車の後部ハッチを開けて、懐中電灯でトラックを照らす。 どういう訳かコンテナだけがひどく損傷していたが、運転席付近は無傷だ。シートベルトさえしていれば助かりそうだが───── いた! エアバックで気絶しているらしい。トラックの左側を下に横転しているため、宙吊りになったまま項垂れている。 外に出た同僚2人はデバイスで超音波を発生させてフロントガラスを1秒足らずで割ると、センサーで彼の状態を調べる。 「・・・・・・大丈夫だ。バイタル安定、骨も折れてない」 2人は運転手を事故車両から引き離していく。 その間に運転席に残っていた彼は、どうも妙な事故なため、無線で1番近い治安隊に事故調査隊の派遣の旨を伝えた。 (*) 20分後 「通報を受け派遣されました第108陸士部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」 『地上部隊 第108陸士部隊』と書かれたメガ・クルーザーのHMV(ハイ・モビリティ・ヴィークル。高機動車)に乗ってきたのは3人で、内2人は白衣を着、もう1人は挨拶をした地上部隊の茶色い制服を着た1人の女性隊員だった。整備されていないこの地下空間は世間では犯罪者の温床にもなっていると言われていることから、治安隊の代わりに陸士部隊の調査隊として派遣されたとのことだった。 「この事故はただの横転事故と聞きましたが・・・・・・」 「はい。それが事故状況がどうも奇妙でして、それほど大きな衝撃でもないはずなのにコンテナだけが吹き飛んでいて・・・・・・」 確かに救急車のヘッドライトに照らされたコンテナは、原型を止めないほどにひどく損傷していた。 「運転手の方(かた)は?」 ギンガの質問に救急隊員は困った顔をする。 「・・・・・・それが運転手も混乱していまして・・・・・・お会いになりますか?」 「できるならお願いします」 ギンガは同乗者の2人に現場検証を頼むと、運転手が手当てを受けているという救急車に入った。 「本当なんだよ!あの〝エイリアン〟が出たんだ!!」 そう手当てしながら困った顔をする救急隊員に喚く運転手に、ギンガは〝ギョッ〟とする。 (そうかぁ、あの映画を見た人かぁ・・・・・・) 彼女は彼に、一気に親近感を覚えた。 彼女も実は1年ほど前にその映画を劇場でみていた。人には言えないが、その後1ヶ月ぐらい1人で真っ暗な部屋に入る時には、デバイスをその腕に待機させねば安心できなかった。 「すみません、そのエイリアンのお話をお聞かせ下さい。私はそのために管理局から派遣されました」 「なんだって!・・・・・・それじゃあの映画は!?」 思わせぶりに頷いてやると運転手の口はようやく軽くなり、やっと事故の状況が判明した。 (*) 「コンテナが勝手に爆発ねぇ・・・・・・」 救急車から出たギンガが腕組みして考える。 地面に散らばる積み荷は食料品などで爆発するような物はないし、クロネコムサシの本社から預かったそのトラックの輸送物リストもほとんどが医療品や食料品と書いてある。 しかし本当にエイリアンが来たなどということはあるまい。 鑑みるにこれはテロで郵便爆弾の誤爆という可能性があるが、どこかの政府系機関に届ける予定の荷物は───── 「・・・・・・あれ?」 ギンガの目がリストの一項目で止まる。 (これがベルカのボストンで?) 内容物は、輸入品としては珍しくないとうもろこし。しかしベルカの比較的北にあるボストンでは寒すぎて生産していない。 ビニールハウスという手もあるが、最近赤道付近の地価は安く、補助金も出るためそんなところで作るメリットはない。 それどころかボストンでは10年前からあるベンチャー企業の進出が進んでおり、農業をやるような場所はもう残っていないはずだった。 (確かその企業がやっているのは医療用のクローン技術─────) そこまで考えた時、一緒に来た調査隊員の自分を呼ぶ声が耳に入った。 「はーい。今行きます!」 ギンガはリストを小脇に添えると声の主の元へ走る。 「どう─────」 どうしました?と問うまでもなかった。 彼は顔を上げると〝それ〟をライトで照して見せる。 そこには他の積み荷と違って無粋な金属の塊『ガジェットⅠ型』の大破した姿があった。 「他にもこんな物が」 少し離れていたもう1人が、床に転がっているそれを指先でトントンと叩いて見せる。 「それは・・・・・・生体ポット!?」 ギンガは目を疑うことしかできなかった。 (*) 『君はいったい何をやっているのかね!?管理局に感づかれたらどうする!』 画面の中で怒鳴る背広を着た中年男にスカリエッティは涼しい顔をして答える。 「〝あれ〟が本物かどうか試しただけですよ。それに、管理局など恐るるに足らない」 その軽い態度に更に熱が入ったのかまた怒鳴ろうとした中年男だが、画面の奥の人物に制される。 『しかし社長!』 中年男は社長と呼ぶ30代ぐらいの若い人物に異議を唱えようとするが、彼の鋭い視線だけで黙らされてしまった。 社長は中年男が席に座るのを確認すると、今度は彼自ら詰問し始めた。 『スカリエッティ君、我々はもうかれこれ7年間君の研究のために優秀な魔導士達の遺伝子データを提供してきた。だが我々が君に嘘をついた事があるか?』 「いいえ。おかげさまで研究は順調に進んでますよ」 『なら今後、このような事は無いようにしてくれたまえ。・・・・・・それと〝あの子〟の確保は後回しでも構わないが、一緒に送った3つのレリックの内〝12番〟は必ず回収したまえ。あれがなければこの計画は失敗だ』 「仰せのままに」 スカリエッティの同意に社長は通信リンクを切った。 画面に『LAN』という通信会社の社名が浮かぶ。この回線はミッドチルダから太平洋を横断し、ベルカの大地まで繋がった長大な有線回線だ。 現在ミッドチルダ電信電話株式会社(M T T)に市場で敗れたこの会社はもうなく、海底ケーブルは表向き放棄されている。しかし海底ケーブルというローテクさ故に注目されず、盗聴も困難なため、水面下で動く者達の機密回線にはもってこいだった。 「またスポンサーを怒らせたの?」 いつものように気配なく彼女はスカリエッティの背後に現れた。 「まぁね。しかし必要なことさ。それに、彼らには〝あれ〟の重要さがわかっていない」 スカリエッティは肩を大仰に竦めると首を振った。 「そう・・・・・・。まぁ、私はあなたの副業には干渉しないけど、せいぜい頑張ってね」 グレイスは微笑むと退室していった。 「・・・・・・ウーノ」 スカリエッティの呼びかけに、彼の背後に通信ディスプレイが立ち上がり、彼の秘書を映し出す。 「はい」 「あれは本物だったか?」 「確定はできませんが、恐らく本物でしょう。」 スカリエッティはその答えに陶酔したように 「すばらしい・・・・・・」 とコメントすると、〝それ〟の追跡を依頼した。 (*) 『ベルカ自治領 マサチューセッ〝チュ〟州 ボストン』 その地域は最近発展してきた医療科学系企業『メディカル・プライム』が席巻していた。 この企業はミッドチルダでは禁止されている「クローン技術」を用いて、要請を受けた本人のクローンの臓器を作っている。無論これは移植のためだ。 この『クローン臓器移植法』は、移植時の拒絶反応が全くないことから定評があった。 しかし従来の全身のクローン体から、移植のため一部を取り出すという行為はクローン体を殺す事を意味し、倫理上の問題があった。 そこでこのベンチャー企業は必要な臓器を必要なだけ、ある程度〝瞬時に〟クローン化する技術を開発し、これを武器に発展してきていた。 社名の「メディカル・プライム」も「最上級の医療を!」という熱い思いを込めて付けられたもので、お金さえあれば〝パーツ〟の交換で脳を含めた若返りすら可能だった。 現在、その企業内では深夜に関わらず、上級幹部達が緊急会議の名目で集っていた。 ある幹部が通信終了と同時に口を開く。 「全く、あの男の腹の内は読めん」 それに対し、スカリエッティに怒鳴っていた中年男が彼に怒鳴る。 「なにを言っている!やつなど野心丸見えじゃないか!だから犯罪者と手を組むことには反対だったのだ!」 「・・・しかしあいつにしかこの計画は遂行できないだろうな」 5,6人の幹部達が思い思いに意見をぶつける。今までこの議論が何度重ねられたことか。しかしやっぱり最後の結論は決まっている。 「諸君、すでに賽(さい)は投げられたのだ。この計画にスカリエッティを巻き込んだことを議論しても仕方がない。それに管理局には非常用の鈴が着いている。〝不本意だが〟もしもの時は彼女に揉み消してもらおう。我々はスカリエッティを監視しつつ、ベルカの誇りである〝あの船〟の浮上を待てばよいのだ。あの船さえあれば、ミッドの言いなりになってしまったこの国の国民達も、目が覚めるはずだ!」 社長の熱を含んだスピーチに幹部は静かに聞き入る。そして社長は立ち上がると、会議室に飾られた今は無きベルカ国の国旗に向き直り、掛け声を上げる。 「偉大なるベルカに、栄光あれ!」 「「栄光あれ!!」」 幹部達も立ち上がり、彼に続いた。 ―――――――――― 次回予告 地下より現れた謎の少女 同時に始まったガジェット・ゴースト連合の一大攻勢 彼らは無事クラナガンを守りきることができるのか? 次回、マクロスなのは第27話「大防空戦」 「サジタリウス小隊、交戦!」 ―――――――――― シレンヤ氏 次
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ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。 スバル「いよいよ今日から、私の新しい生活が始まる。今までは転校ばっかりで友達できなかったけど、今度こそきっといい友達を見つけるんだ。目指すは友達百人!」 どーーーーん 時空管理局 古代遺物管理部 機動六課(通称・八神家) スバル「……怪しい……」 リィンフォースⅡ「今日から皆の仲間になるナカジマさんです」 スバル「ス、スバル・ナカジマです。宜しく」 リィンフォースⅡ「あーっ…ナカジマさん、何しろ急な転入だったから、悪いんですけど暫くあの席にいてくれませんか?」 →→→→ スバル「あ、はい。わかりました」 クラスメイト「Σ」 彼女の席だ……折角忘れかけてたのに…… スバル「ど、どうしたんだろう皆……うわぁぁ!」 ヴァイス「ふふっ…驚いたかい? 高町さんが描いたのさ。その席に本来座っている筈のね」 スバル「た、高町…さん…?」 ヴァイス「そう、彼女は……いや! もう止そうこんな話!」 スバル「まだ何も言ってない!」 あんたセクシーじゃ、あ~ん……死ぬな~おじいちゃ~ん…もうお酒は止めなはれ スバル「こ、この歌は?」 クラスメイト「た、高町だ…。高町が帰ってきた…」 なのは「おはよーぅ!」 ガビーーン クラスメイト「なんてこった…。帰ってきやがった…。折角普通の部隊に戻れたのに。また変態部隊呼ばわりされるんだわ…」 スバル「あ、あの人が高町さん…」 なのは「…ん? 誰なの君はコンチクショ─ーーーーッ!!」 スバル「え? あ、あ、あの!」 シャリオ「あの、彼女は今日転校してきたナカジマさん…」 なのは「え? 転校生? 何だ、それならそうと言ってくれたら! 私はてっきりザフィーラ…あ、いや(ゲフンゲフン)、失礼! 何でもないよ(ゲフンゲフン)」 スバル「ザフィーラって何? ザフィーラって何──!?」 なのは「私は高町なのはなの。宜しくね!」 スバル「こ、こちらこそ宜しく…」 なのは「私の席の事は気にしないでね! どうにでもなるから!」 キュピーン スバル「あ、ありがとう…。(なーんだ、いい人だ)」 ズーーーーーン スバル「ち、違う…何か違うよね!?」 なのは「うん…? 淫獣の落書き! そうだったんだね、君もユーノマニア!!」 スバル「ん?」 なのは「ウォンチュウ!」 スバル「うわぁ…何か知らないけど、思いっきり気に入られてる…」 はやてー……はやーて……はやてー…… なのは「何だか君とはうまくやっていけそうだね。ね! ナカジマさん」 スバル「そ、そうですね…」 パカッ ズーーーーーン! スバル「な、何ーーーーー!? お、お昼ご飯がゆで卵一個? そんなので足りるの?」 なのは「あー満腹…」 スバル「滅茶苦茶不満そう──!! あ、あの…よかったら半分どうですか…?」 なのは「え!? 悪いよ、でも本当にいいの!? やったぁナカジマさん! 君って親切だね! うん、凄く美味しいよ! こんなに美味しいご飯を食べたのって3ヶ月振りかな! 3ヶ月間ろくなもの食べてなかったから! 兎に角この3ヶ月間は色んなことがあったっけ! 何しろ3ヶ月間だから! うん、3ヶ月間は長いよ!」 スバル「は、話したがってる…。嫌だなぁ…気が進まない…。でも…仕方無いよね…。な、何してたんですか、この3ヶ月間」 なのは「え、何なの急に! 3ヶ月間!? そればっかりは言えないね」 スバル「チクショー!」 なのは「でもしょうがない…君には特別に教えてあげる。実は、ある秘密の修行をしていたの」 スバル「修行?」 なのは「そう。ミッドチルダ式、古代ベルカ式、近代ベルカ式…私は色んな魔術体系を習得したけど、どれも私の求めていたものとは違っていたの。だけど、3ヶ月前のあの日、遂に見つけたんだよ…。それがセクシーコマンドー式…」 スバル「セクシーコマンドー式……コマンドー式……コマンドー式……」 なのは「そこで出来たのが、この服なの──!!」 ズキューーーーン スバル「何もわからなーい!」 なのは「君には本当にお世話になったから、ニックネームの一つでも考えなきゃね」 スバル「えぁっ!? いいよそんなのもう考えてる…」 なのは「う~ん…。高橋名人か、デコ助野郎かな」 スバル「ど、どっちも嫌だけど、高橋名人だけは絶っっ対に嫌だ!」 なのは「よーし今日から君は高橋「ああああああ! デコ助野郎がいいな! デコ助野郎が気に入りました!」え、そう? じゃあデコ助野郎」 ズキューーーーン アリア「久し振りだねぇ、なのは」 ロッテ「もう来ないかと思ってたわよ」 なのは「やぁ。勇者王に盟主王。闇の書事件でお世話になった人達だよ。色々暗躍してたんだけど結局は弟子のクロノ君に捕まって退場させられてね。 今じゃその責任で前線から外されて、局内の不良債権驀進中のお二人さんだよ。それを何時までも根に持ってね、しつこく突っ掛かってくるの」 アリア「いい根性してるわね」 ロッテ「こっちは二人いるのよ?」 なのは「何人来ようと、セクシーコマンドー式は無敵よ!」 ロッテ「舐めんじゃないわよ!」 バキィッ! スバル「た、高町さん!」 なのは「ぐふぅ…! な、中々やるね…。貴方のパンチを食らって倒れなかったのは、私が初めてだよ」 アリア「…何?」 なのは「遊びは終わりだよ…。そろそろ本気でいかせてもらうから! はぁぁぁぁぁぁ…」 ジィィィィィ…スルッ スバル「うわぁっ…」 なのは「どうしたの? もしかして怖気づいた?」 ロッテ「舐めんじゃないよ!」アリア「死になさい!」 なのは「ふん!」 スバル「な、何だ!」 なのは「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ ロッテ「な、何なのあの動き!?」アリア「気持ち悪ぅ!」 なのは「今よ! 必殺、スターライトブレイカー!!」 ズキューーーーン ドサドサ…ッ なのは「これが、セクシーコマンドー式よ」 スバル「す、凄い砲撃魔法…これがセクシーコマンドー式…」 なのは「青いねデコ助野郎。あれはただの魔法。セクシーコマンドー式の極意は攻撃に非ず。あのヒヨコ走りがセクシーコマンドー式なの!」 スバル「ええええええええ!?」 なのは「いいかいデコ助野郎、どんなに強い相手でも、こちらから隙を作ってしまえば幾らでも倒せるって事だよ」 スバル「(だからって制服のスカート下ろすなんて…この人は羞恥心が無いのか?)た、確かに…。これは凄い魔術体系なのかもしれない…。すごい…すごいよ! なのはさん!」 きゅっ、きゅっ……ゴロッ スバル「フェレット────!?」 なのは「フゥッ! いい淫獣描いた♪」 デコ助野郎が、なのはの本当の恐ろしさを理解するのは、まだまだ先の事であった 目次へ 次へ
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その一撃は唐突だった。 『予測』不能ッ、『防御』も不能ッ! 完全に不意を突いて、その一撃は用心深いなのはの懐に直撃した。 今、SLBの為の魔力を終息し終え、発射寸前という臨界状態のなのはの胸から、何者かの手が『生えている』―――ッ!! "ドッバアァアアアア―――z_____ッ!!" 「なッ……ぁ、ぁああ……ッ!!?」 突如、何の前触れもなく自身の体の内側から走った衝撃に視線を降ろせば、何者かの腕が胸から突き出ていた。 肉体を突き破って出てきたものではない。しかし、この手は確かになのはの内部を貫いて出現しているッ! そして、その手のひらの中には、なのはの魔力の源である『リンカーコア』があった。 貫いていたのは『肉体』ではなく『魔力的器官』だ。 「な……なのはァアアアアーーーッ!!」 ある種凄惨な光景に、それを見てしまったフェイトが悲壮な叫びを上げた。 しかし、助けに行きたくとも、シグナムがそれを許さない。 「う……あ、あ、ぁあああ……っ」 全身を襲う脱力感と内臓に直接触れられているような激痛を感じながら、なのはは思考を回転させた。 SLBは……『撃てる』! 依然、魔力は集束中! だが、自身の魔力が猛烈な勢いで減少している。『行動』しなければ、今動けるうちにッ! すぐにでも気絶してしまいそうな、断末魔の一瞬! なのはの精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んだ。 普通の魔導師は追い詰められ、魔力が減少すればリンカーコアを庇って逃げようとばかり考える。 だが、なのはは違った! 逆に! 『な、何……この子!?』 遠く離れたビルの屋上から、なのはのリンカーコアをデバイス『クラールヴィント』によって掴んでいたシャマルも、その変化に気付いた。 「レイジング……ハート、『バインド』……ッ!!」 なのはは自らの心臓とも言うべきコアを握り締めた敵の腕を、逆にバインドで自らの体ごと縛り付けて、固定したのだ! 「馬鹿な、正気か……っ?」 「なのは、なんて事を……!」 それと見たシグナムとフェイトも戦闘を中止するほどの、驚愕の判断だった。 自分のリンカーコアを握る相手の腕を、逆に『固定』する。普通の者はそんな判断は下さない。 実際に、なのはも一人で戦っていたのなら、こんな無茶はしなかっただろう。まず、ダメージを最小に押さえる事を考える。 しかしッ、なのはは本能で理解していた。 感覚で分かる。魔力が吸い上げられる感覚、この手は自分の魔力を『吸収』している! (これは……『この攻撃』はマズイッ! 魔力弾とか結界とか、そういう魔法攻撃じゃなく、この全く違う『攻撃』は危険だ……ッ!) 敵を倒す為の手段ならば、コアを捉えた時に全ては決している。 だが、敵はコアを潰すのではなく吸収する事を選んだ。 その行為にどういう『目的』があるのかは分からない。しかし、魔力を『奪う』という手段が、計り知れない『大きな目的』に直結しているのだと、なのはは直感した。 この『敵』、この『目的』を放置しておくのは危険だ。ここで倒しておかなければならない―――ッ! なのはは、己の直感に従って、そう判断したのだった。 「目標、変更……既に、『位置』は掴んでいるの……ッ!」 『……! い、いけない!!』 レイジングハートの砲口が向きを変える。 シャマルは我に返った。あの少女は、自分を捉えている。自分は既に狙われている、と! 「スター……ライト……ッ」 「シャマル!」 冷静に動けたのはザフィーラだけだった。 アルフとユーノを弾き飛ばし、全速力でシャマルの元へ駆けつける。 「ブレイカァァァーッ!!」 次の瞬間、桃色の閃光が一直線に空間を切り裂いた。 『シャマル、無事か!?』 『……ええ、なんとか。寸前でザフィーラが防御してくれたわ』 『だが、逸らすので精一杯だった。おまけに、俺もダメージを受けた。とんでもない威力だ、片腕が動かん』 爆光の後、すぐさま念話を飛ばしたシグナムの心に仲間の声が返ってくる。 シグナムは安堵した。 ヴィータの消息も不明な今、これ以上仲間を失うのは御免だった。 そして今、もう一つの意味でも安堵していた。 なのはは、SLBを放つと同時に、力尽きて倒れ伏していた。 「さすがに、無茶をしすぎたようだな。だが……正直冷や汗をかいたぞ。恐ろしい発想と度胸を持った魔導師だ」 「な、なのはぁ~……」 一方のフェイトはシグナムとは全く正反対の心境だった。 「わ……私、どうすれば……? な、なのはが……嘘だ!」 「……どうやら、あの魔導師がいなければ本当に何も出来ないようだな」 未だ戦える状態にありながら、既に戦意喪失してうろたえるしかないフェイトを冷めた目で一瞥し、シグナムはレヴァンティンを構えた。 予想外の事態はあったが、魔力は十分に手に入れた。あとはヴィータを回収して、増援が来る前にここから逃走するだけだ。 「ザフィーラとヴィータの容態も気になる。さっさと済ませるか……消えろ!」 目の前にシグナムが迫っても、もはや震えることしか出来ないフェイトに向かって無慈悲に剣を振り上げる。 ―――しかし、突如下方から閃光が飛来し、シグナムは反射的にそれを回避した。 「何……っ!?」 「……え?」 フェイトから離れたシグナムを、更に別の閃光が襲う。 桃色の光を放つ魔力弾。それが四つ、ミサイルのように自在に軌道を変えて、シグナムに襲い掛かっていた。 それはッ、間違いなくなのはが持つ魔力の光! 彼女の魔法『ディバインシューター』だったッ!! 「な……」 フェイトは目を見開いて、魔力弾の飛来した方向に視線を走らせた。 「ディバイン……シュー……ター……」 「なのはァアァァァ―――ッ!!」 起き上がる事も出来ないほど衰弱した体で、しかしなのはは半ば無意識に魔法を使い続けていた。 朦朧とする意識で操作されているとは思えないような正確さと、獣のような獰猛さで、ディバインシューターは逃げ回るシグナムに追い縋っていく。 「うっ、ううっ……。本当に、その通りだったんだね……なのは」 フェイトは、ボロボロになりながらも戦うなのはの姿に溢れる涙を堪えきれず、震える声で呟いた。 脳裏に、かつてなのはと戦った時の事が思い出される。 あの時、なのはの示した『覚悟』が。その時、なのはが言葉にした『覚悟』が。 「『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しないと』私に言った事は!」 海上での戦い。事実上、なのはとの最後の戦いになったあの時、彼女の叫んだ言葉が鮮明に浮かんでくる。 その言葉は、あるいは冷酷な響きを持っているのかもしれなかった。 ―――しかし、同時にフェイトは別の言葉も思い出していた! なのはが、厳しさだけではなく、途方もない優しさを抱えている事を実感した時の言葉も! 全ての出来事が終わり、一旦のの別れとなった、二人で会ったあの時の事―――。 「これから、もうしばらくお別れになっちゃうね……なのは」 「……うん」 「私ね、なのはと友達に……なりたいな」 「……」 必死に言葉を紡ごうとするフェイトの様子に、なのははチラリと一瞥を向けただけだった。 「でも、私、友達になりたくても、どうすればいいかわからない……。だから、教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれ―――」 「ねえ、フェイトちゃん。さっきからうるさいよ 『友達になりたい』『友達になりたい』ってさァ~~」 「え……」 無言のなのはに不安になり、捲くし立てるように喋っていたフェイトは、突然遮ったなのはの突き放すような言葉に凍りついた。 恐る恐る顔を上げれば、なのはは戦った時のような強い視線で自分を見つめている。 その強すぎる意志の瞳を、フェイトは睨まれているのだと感じた。 「どういうつもりなの、フェイトちゃん。そういう言葉は私達の世界にはないんだよ……。そんな、弱虫の使う言葉はね……」 「ご、ごめんなさい……っ!」 なのはの強い口調に、フェイトは絶望的な気持ちになりながら俯いた。 拒絶されたのだと、考えた途端に涙が溢れてくる。 友達になりたいなどと、なんておこがましい考えだったのか。フェイトは自分が分不相応な領域に踏み込んでしまったのだと感じた。 ……だが、そんな弱気な考えに沈んでいくフェイトを意に介さず、なのはは告げた。 「ごめんなさい……もう友達なんて欲張りな事言わないから……っ」 「『友達になりたい』……そんな言葉は使う必要がないんだよ。 なぜなら、わたしや、わたしの親しい人達は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を抱き締めて、もうすでに終わっているからなの―――」 そして、なのはは泣きじゃくるフェイトを強く抱き締めた。 「え、なのは……?」 「『友達になりたい』と心の中で思ったのなら、その時スデに絆は結ばれているんだよ」 そう言って笑ったなのはは、やはり、いつもの幼い少女の顔ではなかったが―――フェイトの全てを包み込むような、黄金の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。 「な、なのはァァ~……ううッ」 「フェイトちゃんもそうなるよね、わたしたちの友達なら……。わかる? わたしの言ってる事……ね?」 「う……うん! わかったよ、なのは」 「『友達だ』なら使ってもいいッ!」 今度は嬉しさで泣きじゃくるフェイトの体を抱き締めた、小さいけれど大きく、暖かいなのはの腕を、今でもはっきり覚えている―――。 「―――わかったよ、なのは! なのはの覚悟が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ そして、フェイトは変貌していた。 その『面がまえ』は、10年も修羅場を潜り抜けてきたような『凄み』と『冷静さ』を感じさせる。それは、はっきりと『成長』だった。 もう、プレシアの影を追い続ける泣き虫のママッ子(マンモーニ)なフェイトはいなくなったのだ! 「『友達になりたい』と思った時は、なのはッ!」 『<Scythe form> Setup!』 フェイトの戦いの意思に呼応し、バルディッシュがフォームを変化する。 「―――すでに私達は絆で結ばれているんだね」 かつてない速度で飛翔する。 本来の戦闘スタイルを取り戻したフェイトは、かつてなのはと戦った時と同等……いやかつて以上のスピードでシグナムに肉薄した。 レヴァンティンの刃と、バルディッシュの光刃が激突する。 「何、この気迫……! さっきとはまるで別人だ!?」 『シグナム、聞こえる? ザフィーラとヴィータを連れて逃げたいんだけど、ダメなの! まだ私の腕は固定されているみたいなのよ!!』 眼前に迫るフェイトと聞こえてきたシャマルの念話に、歴戦のシグナムをして冷たい戦慄が走り抜けた。 「やるの……フェイトちゃん。わたしは……あなたを、見、守って……いる、よ……」 ―――もはや半ば気を失いながら、魔法を行使し、且つ自分の命を鎖にして敵を捉える続ける少女の覚悟。 ―――僅か時間で、臆病な弱者から戦士へと変化した目の前の少女の成長。 シグナムは自らの体験している出来事が、まったく未踏の領域にある事を理解した。 苦境には何度も立たされた。命がけの戦いにも挑んだ。 だが、今自分が目にしているものは、それらとは全く種類が違う『脅威』だ―――! 「何者だ……お前達は!?」 「なのはが選んだ……『撃退』じゃなく『撃破』! アナタたちはここで倒すッ! 私はフェイト・テスタロッサ! 高町なのはの『友達だ』―――ッ!!」 バ―――――z______ン! リリカルなのはA s 第二話、完! 戦闘―――続行中!! ヴィータ―気絶中。 シャマル―拘束中。 ザフィーラ―負傷。なのはのバインドを解除作業中。 アルフ、ユーノ―負傷、気絶中。 なのは―昏睡状態。しかし、魔法は依然継続中。 to be continued……> 前へ 目次へ 次へ
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「よかったぁ……今、どこ?」 『2番目の中継ポートです。 あと10分くらいでそっちに戻れますから。』 「うん、了解。」 あれから、数日が過ぎた。 なのは・フェイト・ユーノ・アルフの四人は、時空管理局本局を訪れていた。 検査の結果、なのはのリンカーコアは完全回復。 さらに、レイジングハートとバルディッシュも修復完了。 これでようやく、元通りに魔法が使えるようになった。 エイミィはほっと一息つくが……その時だった。 ハラオウン家全体に、警報音が鳴り響いた。 リンディ達三人はとっさに対応にでる。 「エイミィさん、何があったんですか!!」 「都市部上空で、捜索指定のうち三人を確認したって。 今、結界で閉じ込めて武装局員が当たってる!!」 『リンディ提督、指示をお願いします!!』 「相手は強敵よ。 交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を!!」 『はい!!』 「現地には、執務官とミライさんを向かわせます!!」 リンディの言葉を聞き、ミライとクロノは無言でうなずき合った。 その後、二人はマンションのベランダに出る。 現場はここからかなり近い……エイミィに転送ゲートを開いてもらわなくても、すぐに向かう事が出来る。 クロノはS2Uを取り出し、ミライはメビウスブレスを出現させる。 「S2U!!」 「メビウゥゥゥゥゥスッ!!」 戦闘へと向け、二人がその姿を変えた。 ミライはメビウスへと変身し、クロノはバリアジャケットを身に纏っている。 現場はここからまっすぐ……最大速度でいけば、1分もかからない。 二人は真っ直ぐに、飛んで向かっていった。 「エイミィ、相手は三人って言ってたけど……誰が来ているか分かるか?」 『赤い服の女の子と、使い魔っぽい蒼い狼。 それと……ウルトラマンダイナ。』 「ダイナ……!!」 「分かった……ダイナは、ミライさんに任せます。 残りの二人は、僕と現地の職員とで相手します!!」 「はい!!」 「よし……エイミィ、現場に着いた。 戦闘を開始する!!」 二人が結界内部へと入った クロノはメビウスと別れ、上空へと飛び上がる。 目標は下方―――武装局員に取り囲まれている三人。 ヴィータ、ザフィーラ、ウルトラマンダイナ。 クロノはすぐに全員へと念話を送り、その場から離れるよう指示を出した。 直後、彼の周囲に魔力が集まり……無数の剣を形成した。 ここで三人もこれに気付くが、既に攻撃の準備は整っていた。 クロノはS2Uを振り下ろし、攻撃を仕掛ける。 「上から……!?」 「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト……いけぇっ!!」 無数の剣が、三人へと豪雨の如く降り注いでくる。 とっさにザフィーラが二人の前へと出て、防御障壁を展開する。 並の魔道師ならば、障壁諸共串刺しにして終わらせることが出来る威力の術。 だが、彼等は全員がAAランクは越えているであろう凄腕。 果たして、どれだけの攻撃が通ってくれたか…… 「くっ……」 「ザフィーラ、大丈夫か!!」 「気にするな。 この程度でどうとなるほど、柔では……ない!!」 障壁を突破できたのは、たった三発の剣のみ。 その三発は、ザフィーラの腕へと突き刺さっていたのだが…… ザフィーラが腕に力を込めると、剣はすぐに砕け散った。 与えられたダメージは、皆無に等しかったのだ。 「!! 気をつけろ、下から来るぞ!!」 「セヤァァッ!!」 「メビウス……俺がいく!!」 三人の真下から、メビウスが迫ってくる。 とっさにダイナが飛び出し、彼へと向かっていった。 両者の繰り出した拳が、激しくぶつかり合う。 力はやはり、ダイナの方が上。 ならばと、メビウスはもう片方の腕でその手首を掴み、ダイナを地面へ向けて投げ飛ばした。 「うおっとぉ!!」 ダイナは激突寸前で、ギリギリ静止。 すぐにメビウスへと向き直り、光弾を発射した。 メビウスも同様に攻撃を放ってそれを打ち落とす。 「アス……ダイナ、大丈夫か!!」 「ああ、何とか……!?」 その時だった。 近くのビルの屋上から、閃光が走った。 増援―――どちら側のかは、分からないが―――がきた。 時空管理局側か、それともヴォルケンリッター側か。 現れたのは…… 「レイジングハート!!」 「バルディッシュ!!」 「セーット……」 「アーップ!!」 現れたのは、こちらの世界へと戻ってきたなのは達だった。 二人は自分のデバイスを起動させ、戦いに介入しようとする。 だが……起動させてみて、二人はある違和感に気付いた。 レイジングハートもバルディッシュも、どこかが違う……破損前と、変わっている。 「これって……?」 『二人とも、落ち着いて聞いて!! レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの!!』 「新しいシステム……?」 『その子たちが望んだの、自分の意思で、自分の想いで!! 呼んであげて、その子達の新しい名前を!!』 「Condition all green, Get set」 「Standby, ready」 なのはとフェイトは、すぐに全てを理解した。 先の戦いで敗れて、最も悔しかったのは彼等だったのだ。 だから、彼等は新たな力を手にした……自分達には無くて、敵にはあるあのシステムを。 その心に答えるべく、二人はその新たな名前を呼ぶ。 「レイジングハート・エクセリオン!!」 「バルディッシュ・アサルト!!」 「Drive ignition」 二人の身に、バリアジャケットが纏われる。 そして、新たなシステムを内包したデバイスが、その手に携わられた。 ヴィータ達は一目見て、デバイスが新たになった事を悟る。 自分達と同じ……カートリッジロードシステムが、彼女達のデバイスには積まれている。 「あいつら……!!」 「待って、私達はあなた達と戦いに来たわけじゃない。 まずは、話を聞かせて!!」 「闇の書の完成を目指してる理由を……!!」 二人は戦う姿勢を見せたヴィータ達へと、説得を試みた。 だが、当然ながらそれに応じようとはしない。 寧ろその逆……徹底抗戦の姿勢を見せている。 やむを得ないか……二人は、デバイスを構えた。 しかし、その瞬間だった……結界が破壊され、何者かが外部から突入してきた。 ヴォルケンリッター烈火の将―――シグナム。 「シグナム!!」 「すまん、遅くなった……大丈夫か?」 「ああ……!!」 「ユーノ君、クロノ君、手は出さないで!! 私、あの子と1対1だから!!」 「アルフ、私も……」 「ああ……あたしも、あいつにちょいと話がある。」 各々が、己の相手と向き合った。 なのははヴィータと、フェイトはシグナムと、アルフはザフィーラと。 メビウスとダイナも、既に決まっている相手と向き直った。 一切の邪魔は許されない……完全な一対一である。 「……ダイナ。 僕達が勝ったら、話を聞かせてもらうぞ……!!」 「望むところだ……やれるもんならやってみろ!!」 二人が同時に飛び出した。 それを合図に、他の者達も一斉に戦闘を開始する。 ダイナは大きく振り被り、メビウスへと拳を叩き込んだ。 防御越しでも、十分な破壊力がある一撃。 やはり、真正面からまともにぶつかり合うのは不利……ならば、パワー以外の面で挑むのみ。 メビウスはいきなり、切り札の一つを切った。 メビウスブレスから出現する、光の剣―――メビュームブレード。 「セヤァァァッ!!」 「なっ!?」 紙一重で、ダイナはメビウスの一撃を避ける。 当たっていれば、恐らくかなりのダメージになっただろう。 まさかあんな武器を持っているなんて、予想外にも程があった。 人知を超えた光線技や超能力こそ確かにあるものの、ダイナにはメビウスの様な武器は無い。 リーチの差が大きすぎる……距離を離し、光線技メインで挑むしかない。 ダイナは手にエネルギーを収束させ、それを丸ノコ状に変えて投げつけた。 「いけぇっ!!」 ダイナが放った光のカッター―――ダイナスラッシュが、メビウスに迫る。 これに対してメビウスは、回避行動を取らず……真っ直ぐに、真正面から向かっていったのだ。 そして、メビュームブレードで受け止め……切り裂いた。 「斬られた……!?」 「ハァッ!!」 「くっ!!」 メビウスはダイナの目前まで迫り、剣を振り下ろす。 ダイナはとっさにバリアを張り、その一撃を受け止めた。 だが……数多くの怪獣を打ち倒してきたメビウス必殺の刃は、いつまでも受けきれる代物ではなかった。 バリアが砕け散り、ブレードの切っ先がダイナの胴体を掠める。 「ジュアァッ!?」 「セヤァッ!!」 更にメビウスは、追撃に移った。 すぐに腕を振り上げ、逆袈裟にダイナに切りかかる。 ダイナは空へと飛び上がり、これを回避した。 メ部ウスの剣は、一撃貰うだけでもかなりの威力がある。 ダイナは直感的に、その恐るべき事実を理解した。 だが……同時に、今のメビウスの欠点にも気付けた。 先程自分が距離を離したとき、彼はどうして光線を使って攻撃をせず、態々接近戦を仕掛けてきたのか。 その理由は一つしかない……使えなかったからだ。 今のメビウスには、剣による近接攻撃しか攻撃手段は無い。 攻撃するには、どうしても近づかざるを得ない……ならば。 (危険だが……手はある!!) 「なっ!?」 「ジュアァッ!!」 ダイナの体が光に包まれ、全身が赤色に変わる。 これこそが、ダイナが持つ能力―――タイプチェンジの力。 一回の戦闘で一度しか使えないという欠点こそあるものの、その力は大きい。 これまでのダイナは、標準的な能力のフラッシュタイプ。 今の赤いダイナは、強力なパワーを持つ肉弾戦特化タイプ―――ストロングタイプ。 メビウスは、いきなりダイナの姿が変わったことに驚きを隠せなかった。 それもその筈、戦いの最中で姿が変わるウルトラマンなど見たことが無い。 たった一人……自分自身を除いて。 (姿が変わった……僕と同じ……!?) メビウスはかつての戦いで、新たな力を手にいれた。 仲間との友情の証である赤いファイアーシンボルをその身に纏う、バーニングブレイブの力。 この状態となったメビウスの力は、平常時よりも上。 インペライザーやロベルガーといった強敵さえも、この力の御蔭で打ち破る事が出来た。 恐らく今のダイナは、自分と同じ……パワーアップをしているに違いない。 だが、恐れていては何も出来ない。 メビウスは勢いよく、ダイナにメビュームブレードを振り下ろす……が。 パシッ!! 「え……!?」 「取った……!!」 まさかの、真剣白羽取り。 メビュームブレードは、命中寸前でダイナに受け止められていたのだ。 そしてそのまま、ダイナは全力を込めて腕を振る。 結果……剣は、音を立てて見事にぶち折れた。 ストロングタイプとなったダイナの力に、メビュームブレードはうち負けたのだ。 「ジュァァッ!!」 ダイナが反撃に移る。 エネルギーを左拳に集め、白熱化させる。 そしてそれを、全力でメビウスの胴体に叩きつけた。 ストロングパンチ―――これまでの攻撃の比ではない破壊力を持つ、強烈な拳。 メビウスは大幅に吹っ飛ばされ、後方に立っているビルをぶち抜いた。 「ガハッ……!?」 「ウオオオオオォォォッ!!」 間髪いれず、ダイナが迫る。 ストロングタイプとなったダイナのパワーは、あまりに強大。 立場が逆転した……一撃をもらうだけで、かなりまずい事になる。 すぐに飛び上がってビルから脱出し、ダイナの攻撃を回避する。 だが……それに対し、ダイナは恐るべき反応を取ってきた。 「セヤッ!?」 「ジュアァァァァァッ!!」 ―――ウルトラマンが、街を壊してどうすんだよ!! ―――全然……何も守れてねぇじゃねぇかよ!! メビウスの脳裏を、かつての仲間からぶつけられた言葉が過ぎった。 彼は、地球での最初の戦いの際……敵の攻撃を防ぐ為、ビルを盾にするという行動を取ってしまった。 人間達を守るというのに、人間達の大切なものを壊しては意味が無い。 メビウスにとっては苦い思い出であり、そして戦う意味というものを学んだ、大切な戦いでもあった。 だからそれ以来、敵と戦う際にはなるべく周囲に被害を出さないようにしてきたのだが…… ダイナが取った行動は、それに大きく反するものであった。 あろう事か、その圧倒的パワーで……ビルを持ち上げたのだ。 無論、ダイナとて人々を守るために戦ってきたのだから、これぐらいの事は分かっている。 それにも関わらず、こんな掟破りの暴挙を取った理由……それは、ここが閉鎖結界の中だからである。 ここならば、建造物を破壊しても何ら問題ないからだった。 「まずい、この大きさ相手じゃ……!!」 相手がでかすぎる……回避が間に合わない。 ビルはメビウスごと地面に激突し、粉塵を上げた。 これならば、かなりのダメージがあるに違いない。 恐らくは、倒しきれた筈……そう思っていた、その矢先だった。 ビルをぶち破り、凄まじいスピードで何かが接近してきた。 それは、火の玉―――全身に炎を纏った、メビウスだった。 「ハァァァァァッ!!」 「なっ!?」 メビウスピンキック。 メビウスは地面に激突する寸前に、ビルへと全力で蹴りを叩き込んでいた。 そしてそのまま、高速回転し……メビウスピンキック状態でビルをぶち抜いてきたのだ。 炎を纏った強烈な蹴りが、ダイナの胴体に叩き込まれる。 今度は打って変わって、ダイナが吹っ飛ばされる番であった。 (っ……ビルをぶち抜いた!? まさか、あんな強引にくるなんて……!!) (危なかった……あと少し遅かったら、潰されてた!! あんなとんでもない攻撃をしてくるなんて……) (*1) 二人のウルトラマンは、相手の強さに息を呑んだ。 これまで、多くの怪獣や宇宙人等と戦ってきたが……その中でも間違いなく、最上級レベルだろう。 ここまでの状況は、両者共にほぼ互角。 どちらが倒されてもおかしくない……そんな状況であった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ベルカのシステムを積み込んだか……これで、五分五分か。」 結界の外。 黒尽くめの男は、眼前で繰り広げられている戦闘を目視していた。 戦力的にはヴォルケンリッターの圧倒的有利かと思われていたのが、そうもいかなくなった。 なのはとフェイトがカートリッジシステムを用いた為に、戦力差が一気に埋まってしまった。 このままでは、どちらが倒れるかは分からない。 ヴォルケンリッター達は、どうにかして結界を破壊出来ないかと考えている。 だが、一対一という状態に追い込まれたが為に、それは出来なかった。 最後の一人……同じく結界の外にいるシャマルでは、これだけの強度を持つ結界は、破壊できないだろう。 そうなると、彼女は奥の手―――闇の書を使用しての魔術を使わざるをえなくなる。 「まずいな、このままではページを……!?」 男がシャマルの方へと視線を向けた、その瞬間だった。 シャマルの背後に、S2Uを構えたクロノが現れた。 彼はその矛先をシャマルに突きつけている……シャマルが押さえられてしまった。 状況的にも実力的にも、彼女がこの状況から脱出する事は不可能である。 ここで彼女を捕まえられるのはまずい。 すぐさま黒尽くめの男は、介入しようとしたが……その瞬間だった。 ドゴォッ!! 「かはっ……!?」 「えっ……!?」 突然、クロノが隣のビルまで吹っ飛ばされた。 予期せぬ乱入者―――仮面の男の蹴りを、まともに受けたてしまったのだ。 黒尽くめの男は、それを見て笑う。 まさか、彼がこんな形でやってきてくれようとは。 これならば、話は別……やり様は幾らでもある。 一方仮面の男はというと、シャマルの持つ闇の書へとその視線を向けていた。 「あなたは……?」 「使え……闇の書の力を使って、結界を破壊しろ。」 「え、でもあれは……!!」 「使用して減ったページは、また増やせばいい。 仲間がやられてからでは遅い……!!」 仮面の男は、シャマルに闇の書を使用するよう言った。 完成前の闇の書を使う上での欠点。 それは、使用するごとにページを失うという点であった。 だが、今は状況が状況……その代償を覚悟の上で、術を使う以外に道は無い。 シャマルは男の言葉を受け、覚悟を決めた。 闇の書を発動させようとする……が。 「いや……ページを減らす必要は無い……!!」 それよりも早く、黒尽くめの男が動いた。 折角埋まったページを、こんな所で消費させるなんて馬鹿げている。 そんなことより、もっといい手がある……男は結界上空へと、手をかざした。 するとその直後……誰もが予想しえなかった、信じられない事態が起こった。 「行くがいい……ベロクロンよ!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ガッシャアァァァァァン!!! 「えっ!?」 突然上空から聞こえてきた破砕音に、誰もが動きを止めた。 例えるならば、窓ガラスを叩き割った様な音。 窓ガラス自体は、戦いの影響で周辺の建物のが何枚も砕け散っている。 だが……それが割れたのとは、決定的に違う要素があった。 音の大きさが、全員に聞こえるほどであったという点である。 皆が上空を眺める。 すると……信じられない光景が、そこにはあった。 「空が……!!」 「割れた……!?」 文字通りに、空が割れていたのだ。 割れた空の先からは、赤い異空間がその姿を覗かせている。 空間転移術とか、そんな類の術ではない。 これは……そんなレベルを超えている。 「何だよ、これ……?」 「……まさか、そんな……!!」 「メビウス……?」 ダイナは、メビウスの様子がおかしい事に気付いた。 異常事態を目にしたとはいえ、この驚き方は普通じゃない。 まさか、この現象の正体を知っているのではないだろうか。 すぐにダイナは、事態について問い質そうとするが……次の瞬間だった。 空の割れ目から、咆哮を轟かせ……巨大な生物が出現した。 全身に、まるで珊瑚の様な赤い突起物を生やした怪獣。 暗黒の悪魔が生み出した、超獣と呼ばれる生物の一匹―――ミサイル超獣ベロクロン。 メビウスはその姿を見て、言葉を失った。 嫌な予感が的中してしまった……あの悪魔がこの世界に来ている可能性は、勿論考えていた。 だが、それにしたって……復活するのが早すぎる。 「ヤプール……!!」 戻る 目次へ 次へ
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ターミナルの構内は通い慣れた者にとって少々うんざりするほど人で溢れかえっていたが、エリオの眼にはその盛況さがひどく新鮮に映った。 まだ親が同伴してもおかしくない歳で、一人の長旅を終えた興奮と緊張もあったのかもしれない。 「ルシエさーん! 管理局機動六課新隊員のルシエさーん、いらっしゃいませんかー?」 そんな人ごみの中を器用にすり抜けながら、エリオは声を発して周囲を見回っていく。 その姿は否応なく目立っていたが、それを気にしない程の素直さがエリオにはあった。少々世間知らずなところは、保護者のフェイトに似たのかもしれない。彼女が幼い自分そうであったように。 「ルシエさ……っ」 「はーい、わたしですー! すみません、遅くなりました!」 反応はすぐさまエスカレーターの方から返って来た。 エリオと比べても更に小柄な体には少々大きすぎるバッグを抱え、スーツ姿の人々が行き交う中でローブ姿という変わった格好をした少女が駆け足で降りてくる。 そのローブが何かの部族特有の物だということは、エリオにも察することが出来た。 ル・ルシエの民族衣装に身を包んだ少女はキャロ・ル・ルシエに間違いない。 「ルシエさんですね? ボクは……」 この広大なターミナルで思ったより手早く目的の人間を探し出せたことに安堵して、エリオが笑みを浮かべた瞬間、彼の視線の先で事故は起こった。 元々文明の栄えた出身地でない為か、動く階段に慣れていないキャロは駆け足であったこともあり、階段の途中で足を躓かせてしまったのだ。 軽い体重と抱えたバッグの重さで不安定だった重心のせいでキャロは容易くバランスを崩して体を宙に投げ出される。 このまま転倒すれば、大怪我は免れない。 その場の誰よりも事態を把握したエリオは反射的にデバイスを起動させた。 《Sonic Move》 腕時計の形状で待機モードになっていたストラーダが魔法を発動させる。 次の瞬間、時間と世界を置き去りにしてエリオは跳ねた。 彼の保護者であり、敬愛する師でもフェイトの得意とする高速移動魔法。彼女が高速飛行を行うのに対して、エリオは地面や壁面を跳ねるように移動するという特徴を持つ。 まさしく弾丸と化したエリオは、エスカレーターの手すりを小刻みに蹴りながら移動し、一瞬で空中のキャロをキャッチした。 そのまま上の階まで運び上げる。 魔法自体の発動、衝撃緩和による自分とキャロへの負担の相殺。 完璧な魔法だった。ただし、魔法だけは。 肉体に反映する魔法は、魔法行使以外に肉体の慣れも要求される。 上のフロアに上がりきって魔法を解除した瞬間、動から静への切りかわりに対応できずにエリオは空中でバランスを崩した。 (あ、まずい―――!) 失敗を察した時にはもう遅い。 辛うじて地面に着けた片足は、もちろん二人分の体重と勢いを殺すことも出来ず、たたらを踏むようにそのまま転倒へと向かう。 キャロが足を踏み外した瞬間からエリオが魔法を使った後まで、一瞬の出来事にもちろん周囲の人間は反応できない。 助けはなく、『せめてこの少女だけは』と無理に体を捻って自分が下敷きになるように努力したエリオは、次に襲ってくる衝撃に目を瞑り―――。 「おっと。見かけによらず、ガッツがあるな少年」 二人の体重を横合いから伸びた腕が軽々と支えた。 「あ、ありがとうございます」 「いいや。余計なお世話だったかもな、小さいナリだがナイトの資格は十分ってワケだ」 二人を助けた男は何故か楽しげにそう言った。 見上げた先にある整った顔と銀髪が印象強かったが、何より際立っていたのがその美しさを獰猛な獣のそれに変えている不敵な笑みだった。しかし、不快感を感じる表情ではない。むしろ、エリオは密かに憧れる男らしさを感じた。 そのまま片腕だけで、苦もなくエリオとキャロを抱え上げて立たせる。 改めて向かい合えば、年上の成人した男性とはいえ随分と高い身長に驚いた。 黒いハイネックの上に赤いレザーベストを着込み、更にその上から真紅のロングコートを羽織っている。眼に痛い程派手な格好なのに、その男は何の違和感もなく着こなしていた。 二人を支えた腕とは反対の肩に大きなギターケースをぶら下げているのも含めて、ミュージシャンなのだろうか? エリオは初めて接するタイプの大人の男を相手に緊張と憧れを感じる。 そんな少年の眼差しを全て分かっているとでも言うように、男はまた小さく笑った。 「Ah……少年。お姫様を守り切ったのは分かったから、そろそろ手を離した方がいいぜ。ヒーローが痴漢になったらしまらないだろ?」 「へ―――?」 言われて、エリオはようやく自分の手のひらに感じる柔らかい感触に気付いた。 未だにキャロを抱えたままの状態で、彼の手が置かれている位置は慎ましながらも自己主張する胸だった。 気付いた瞬間、猛烈な気まずさがエリオを襲う。 「……あ、すみません。いつまでもくっついたままで」 最悪張り倒されるか、と身構えていた男二人とは裏腹に、キャロはまるで気にした様子も見せずにやんわりとエリオから距離を取った。 「あ、ああ……いえ」 「あの、危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」 一方的に意識しているエリオが言葉を探す中、キャロは彼と、そんな二人の様子を面白そうに眺める男の二人に丁寧に頭を下げる。 幼いながらも礼節はしっかりとしてるらしい。そして、幼さ故に性的な羞恥心というのも足りないようだ。男は一人納得したように頷いていた。 不意にそんな三人の横で、投げ出されたバッグが蠢く。 内側からバッグをこじ開け、顔を出したのは珍しい竜の幼生体だった。爬虫類に似た見た目とは反する、可愛らしい鳴き声が響く。 「ああ、フリードもゴメンね。大丈夫だった?」 「竜の子供……?」 「ワオ、驚いたね。このトカゲがうっかり進化しちまったような奴はなんだ?」 エリオが純粋な珍しさから、男は初めて見る生き物に思わず生来の口の悪さを発揮して呟く。 ―――次の瞬間、フリードは幼い牙を獰猛に剥いて男に飛び掛った。 「あっ……!」 「フリード、何をっ!?」 「……OK、悪かったよ。そんなに怒るな、トカゲって言ったことは謝るさ」 幸いにも、間一髪男の手がフリードの首筋を掴んで動きを止めていた。 しかし、先ほどの愛らしい顔を一変させて獣となったフリードの唸り声は止まない。キャロが腕に抱え込み、なだめてもそれは収まらなかった。 「す、すみません。こんな事をする子じゃないんですけど……」 「いや、いいさ。第一印象が悪かったな、どうやら嫌われたらしい」 気にしていない、と笑いながら肩を竦める男だったが、キャロの方は疑念を拭えなかった。 フリードは人の会話を理解出来るほど賢い竜ではあるが、あの程度の言葉で逆上するほど気性の激しい性格ではないことは生まれてからの付き合いであるキャロには分かっている。 そして何より、初対面の相手に対してここまで敵意を持ち、何より警戒心を露わにしていることが不可解だった。まるで目の前の男を敵だと信じきっているようだ。 唸り続けるフリードを優しく抱き締め、キャロは改めて自分を助けてくれた男を見上げる。 危うく噛まれかけたことなど微塵も気にしていない笑みを向ける男が、悪い人でないことはよく分かる。 しかし―――同時に嗅ぎ慣れた<匂い>を、目の前の男から僅かに感じた。 「あの……」 「さて、お姫様の番犬に齧られないうちに退散するとするか」 キャロが抱いた疑念を尋ねようと口を開いたのを遮って、男はコートの裾を翻した。 ここは他人と他人がすれ違う場所。このささやかな出会いもその一つに過ぎないと言うように、立ち去る足に躊躇いはなく。 「じゃあな、少年。お姫様をちゃんとエスコートしてやれよ?」 「は、はいっ! ありがとうございました!」 振り返らず、手だけを軽く振る男にエリオが頭を下げていた。 印象的な出会いと鮮烈な姿が眼に焼き付いているのに、結局名前さえも分からなかった男。 その後姿を見送りながら、キャロは男から感じた違和感を頭の中で反芻していた。 それは懐かしく、いつも自分の傍に在り……痛みと苦しみと恐怖を与えてくる闇の匂い。 「あの人、どうして<悪魔>の匂いがするんだろう……?」 暗く淀んだ瞳で赤い背中を見つめ続ける憐れな主の呟きを、腕の中の竜だけが聞いていた。 魔法少女リリカルなのはStylish 第五話『Riot Force』 試験日からまだ実質一日も経っていない。 昼過ぎの空は相変わらず澄んだ青色が広がっていて、それを見上げるティアナの心の迷いを笑っているように思えた。なんとも憎々しい。 管理局の施設の庭は、働く者が建物の中にいるせいか、ほとんど人気はなかった。 芝生に寝転がったスバルと、その横に腰を降ろしたティアナ以外誰もいない。 「ティアー」 「ん?」 緊張に満ちた試験を終えた二人は、今やどちらともなく気の抜けた状態にあった。 ぼんやりと空を見上げるスバルと、手の中で古ぼけた玩具の銃を玩ぶティアナ。いずれも心ここにあらず、つい先ほど聞かされた会話について考えている。 「ティアは、どうする? ……新部隊の話」 「そうね……」 どちらとも取れない曖昧な返事が返ってくる。 しかし、付き合いの長いスバルにはティアナが悩んでいることが分かった。無意識に手の中の玩具をクルクル回して玩ぶ仕草は、ティアナが何かに迷っている時のサインだ。 「……その玩具、持ってきてたんだ?」 「うん。失くすと嫌なんだけど、今日は試験で緊張してたからね」 「そんな素振り、全然見せてくれなかったけどなぁ」 いつだって自分には滅多に弱みを見せないパートナーを見て、スバルは苦笑する。 ティアナが、その銃の玩具をいつも大切に仕舞っていることは知っていた。それが彼女の死んだ兄から貰った子供の頃のプレゼントだということも。 古ぼけた玩具に、ティアナの今を支える思い出と決意が詰まっているのだ。 『これを触っていると落ち着く』―――いつかそう言っていた。 それは今は亡き兄との絆だからなのか、あるいはそれが銃という点がもう一人の兄貴分を思い出させるからなのか、さすがにそこまでスバルには察する事は出来ない。 「執務官……お兄さんの夢を果たすには、有利な話だと思うけど?」 「そうね」 「悩んでる原因は、何?」 「……」 今度は返事がない。 しかし、二人が思い返していることは同じだった。 試験が終わり、彼女達にとって雲の上の存在である三人の魔導師との会合した、つい先ほどの話だ―――。 「とりあえず、二人の試験結果なんだけれど―――残念だけど、不合格となります」 高町なのは一等空尉の告げた結果に、身を乗り出していたスバルは大きな落胆を表し、ティアナはただ小さくため息を吐いた。 効果はバツグンだが、あまりいい眠気覚ましではない。 ―――試験終了と同時に極度の疲労で眠ってしまったティアナが眼を覚ました時、試験官のなのはとリインフォースⅡを含む、フェイトとはやての四人はすでに緊張でカチコチのスバルと共に待っていた。 管理局でも有名な看板魔導師三人に待ち構えられ、さすがに面食らったティアナだったが、着くなり泣き付いてきたスバルの情けない姿に緊張も萎えた。 だからこそ、この悪い知らせを思った以上に冷静に受け止められたのかもしれない。 「二人とも技術は問題なし。だけど、制限時間オーバーで不合格となります。ゴール前の映像記録で審議するほど微妙な差ではあったけど、その上でこの結果が試験官の共通見解……」 「評価できる点は多々あるですが、試験の合否を決める主な規定の一つなので、一秒以下であっても遅れは見逃せないんですー」 続くなのはの説明と申し訳なさそうなリインフォースⅡのフォローを、スバルはほとんど上の空で聞いていた。 意識はほとんど別の方向を向いている。隣に座る、ついさっき目覚めたばかりの自分のパートナーを、強い罪悪感と後ろめたさと共に。 ゴールと共に疲労で眠ってしまったティアナ。 全身全霊を賭けた結果がこれでは、あまりにも報われない。しかも、その原因が自分のミスにあるのだ。 これまで何度もティアナには迷惑をかけてきた。自分のミスをフォローし、気まずげに笑い、彼女がそれを呆れながらも許す―――そんな関係に、甘えた結果がこれだ。 「……ティア、ごめ」 「楽勝じゃない?」 謝ろうとしたスバルを遮ったティアナの声は本当に何気ないものだった。怒りも後悔もなく。 え? と顔を上げたスバルの眼に、本当にたまにしか見せないティアナの涼しげな微笑があった。 「合格までのラインが微妙な差だったんなら、今回の反省を踏まえた半年後の試験なんて楽勝じゃない?」 その笑みに、スバルを気遣うようなぎこちなさなど微塵もない。 突きつけられた不合格の敗北感も失望感も、全て笑い飛ばして、不敵に構える姿があった。 「後悔なんてしてないわ。自分が決めて、全力を出した結果だもの。あんたを見捨てて合格したとしても、それはきっとあの時のあたしの<全力>じゃない」 「ティア……」 「しっかりしてよね、ポジティブはあんたの数少ない長所でしょ」 「うん……! うんっ!」 やれやれと呆れたように肩を竦めるティアナの仕草が本当にいつも通りで、スバルは感極まったように何度も頷く。三人の上司の手前でなければ、そっぽを向くパートナーに飛びついて投げ飛ばされていたかもしれない。いつものように。 周囲の視線を忘れつつあるスバルと、状況を弁えているがゆえに恥ずかしさで死にそうになるティアナ。そんな二人を三つの視線が優しく見守っていた。 「KOOL……いや、クールやなぁ。私、こういう友情モノ大好きや。なのはちゃん、追加点あげちゃって!」 「いや、そんな仮装大賞みたいには出来ないよ……」 「はやてちゃん、軽いノリで違反しないでくださーい!」 「まあまあ」 何故か興奮気味のはやての言葉に、なのはが苦笑いをしながら答える。そのやりとりは仕事仲間というより、完全なマブダチだ。 管理局でも有名なこの魔導師三人の中でも一番裏表の違いがあるのは八神はやてだった。仕事とプライベートで人格が変わっているともっぱらの噂だ。 そんな軽いノリの雰囲気を、フェイトがお茶を濁す形で諌めた。 「アナタ達も、そんなに結論を急がないで。まだ試験官の話は終わってないよ」 「「え?」」 フェイトの言葉に、二人は思わずなのはを見た。 「さっき、リイン曹長も言ってたでしょ。評価できる点はあるって。 特に、最後まで仲間を見捨てなかった決意とそれをやり抜いた意志には、マニュアルの評価じゃなくて一人の魔導師として賞賛を送りたいかな」 「恐縮です」 まるで自分事のように微笑むなのはに対して、それでもティアナは普段どおりの自分を貫き、一見すると素っ気無い模範的返答を返した。 憧れの人に対してこれは失礼、と勝手に思ったスバルが慌てて奇妙なフォローを入れる。 「すみません、こう見えて照れてるんです」 「ナカジマ二等陸士、静粛にお願いします」 ティアナは『ちょっと黙ってろアホ』という言葉をオブラートに包み、デュクシッ! とスバルのわき腹を小突いて諌めた。 悶絶するスバルを微笑みでスルーし、なのはは言葉を続ける。 「それに加えて、十分に規定レベルを超える二人の魔力値や能力を考えると、次の試験まで半年間もCランク扱いにしておくのはかえって危ないかも―――というのが、私と試験官の結論です」 「ですぅ♪」 「え、それって……」 小さく頷き、なのはは二人分の書類と封筒を差し出した。 「これ、特別講習に参加する為の申請用紙と推薦状ね。これを持って、本局武装隊で三日間の特別講習を受ければ、四日目に再試験を受けられるから」 「あの……」 「さすがに半年の猶予はないけど……でも、十分『楽勝』だよね?」 「―――もちろんです!」 急な話の展開に若干呆然としていた二人は、ようやく状況を理解して喜色の表情を浮かべる。 悪戯っぽくウィンクをするなのはを真っ直ぐに見返し、ティアナは不敵に笑って見せたのだった。 「……さて、ほんなら今度はこっちの話を聞いてもらおうかな」 上司の前でなければ抱き合って喜ばんばかりのスバルと、静かに実感を噛み締めるティアナの対比を眺めていたはやてがやおら切り出した。 落ち着いた口調は変わらないが、その声には自然とティアナ達を緊張させる威圧感がある。 柔らかな物腰はそのままに、この場で最も地位の高い者としての威厳が現れていた。 人格が切り替わったと錯覚するようなはやての変化に、ティアナとスバルの口は閉じて背筋が自然と伸びた。 「話の順番が逆になってしもたけどな、これから話すことに四日後の試験の合否は関係あらへん。―――もちろん、『楽勝』やって信じとるけどな?」 引き締まった表情の中に微笑みも混ぜて、はやては話を続けた。 「詳しい説明は後回しにして……私は今、新鋭部隊に加える魔導師を探しとる。 少数精鋭とそれによる対次元犯罪への速効性を持った攻性の部隊や。スペシャルチームと言えば聞こえはええけど、実験的な意味合いが大きい。けど質はこれから決まる」 口元で手を組み、視線をティアナとスバルにそれぞれ送る。それだけの仕草で、二人の首筋に冷たいものが走った。 「スバル=ナカジマ二等陸士、それにティアナ=ランスター二等陸士」 「はい!」 「はい」 「私は、二人をその部隊のフォワードとして迎えたいと思う。試験中の二人をこの眼で見て、そう思った」 「……」 はやてが言葉を終えた後には重い沈黙が降りた。 突然突きつけられた重大な選択に戸惑い、悩む二人と、それを見据える四人が生んだ僅かな間だった。 「―――合格までは試験に集中したいやろ? 私への返事は、試験が済んでからってことにしとこうか」 「すみません、恐れ入ります!」 それまでの真面目な表情を消して破顔一笑し、悩む二人に助け舟を出すはやてにスバルは頭を下げた。 「……部隊の名前を、教えてもらえますか?」 一方で、思案顔のままのティアナが尋ねる。それは自分が産声を聞くことになるかもしれない新生部隊への純粋な興味からだ。 はやては頷き、その傍らのリインフォースⅡが誇らしげに答えた。 「部隊名は、時空管理局本局・遺失物管理部―――<機動六課>!」 「正直……迷ってるのよね」 珍しく気弱なティアナの呟きをスバルは黙って聞いていた。 ティアナの思慮深さは、スバルには共感できない。それを情けないと思うし、だが同時にそれで良いとも思う。 自分のパートナーはいつだって自力で悩みを抜け出してきた。ならば、自分は素直に聞き、素直に言うだけでいい。それがスバルなりのコンビとしての在り方だった。 「確かに、執務官になるのに参考に出来る人はいるし、経歴にハクも付くし、経験も積めるし……」 二人だけの為か、歯に衣着せぬ言い方で独白を続けるティアナ。利点ばかりを見つめる俗な考え方だと自嘲はするが、事実でもあった。 未だメンバー選抜も出来ていない実験部隊。 上官も、階級はともかく経歴においてはまだまだ若輩者扱いの魔導師しかいない。管理局上層部の大部分を占める老練な士官達の間では、苦い評価は避けられないだろう。 しかし、それを差し置いても圧倒的な知名度がこの部隊にはある。 新世代を担う若い魔導師の代表格とも言える<高町なのは><フェイト・T・ハラオウン>そして<八神はやて>のビッグネームが一つの部隊に終結しているのだ。 世間は、次元犯罪を含む世の不安に対して英雄を望む。そしてこの三人は、ミッドチルダにおいて間違いなくトップクラスのヒーローでありアイドルだった。 名目はどうあれ、事実上この部隊の評価は約束されたに等しい。 超エリートによって構成される次世代の武装魔導師部隊―――その一角を担うことが、どんな実績よりも大きく魔導師としての将来に貢献するかは考えるまでもなかった。 そして、それを含めて尚、ティアナは悩む。 「でも、遺失物管理部の機動課って言ったら、普通はエキスパートとか特殊能力持ちが勢ぞろいの栄えぬき部隊でしょ? あの日から、夢を追って、がむしゃらに走って、その中でいろいろなもの見つけて、背負って―――ここまで来て、それでいきなり見上げてた先に、届かない筈の高みが見えちゃってさ。実感湧かないっていうか……急に重く感じたのよね」 抽象的な表現ばかりの要領を得ない言葉だったが、スバルはティアナのその独白から一つだけ理解することが出来た。 「ティアはさ、きっと不安なんだね」 「……」 反論はなかった。素直に受け入れられないはずのスバルの言葉を、意外なほど自分でもすんなりと受け入れている。 そうだ、自分は不安だった。 ただ自分に自信が持てなくて不安だったのだ。 「いつも冷静で、わたしよりずっとしっかりしてて、どんなピンチの時も笑って見せちゃうティアだけどさ。自分に自信を持つことだけは苦手だよね。慎重な性格が、自分には疑り深く出ちゃう」 「……かもね」 自分でもよく分からない部分を、他人であるスバルに指摘されることに不快感はない。 それは、二人がコンビを組んで数年の間に築いてきた、形のない何かによるものだ。 「そんなティアに、わたし一言だけ言うね」 「うん」 単純な励ましならば簡単だった。背を押すだけなら単純だった。『そんなことないよ、ティアもちゃんと出来るって!』と、それだけで不安は消える。 だが、スバルは知っていた。ティアナの自分自身への厳しさと、それによって彼女が手にしてきた力と意志を。 彼女はこの手で自分を支えることを望んではいない。代わりに手を握って拳を作り、その背を守ることを望んだ。 甘えと信頼は違う。 今のスバルにその違いをハッキリと分けることはまだ出来ていないが―――しかし、今それを望むのならそうしよう。 「ティア……」 いつも彼女が自分に対して与える、激励ではなく叱責を。 彼女が進む為に、優しさではなく厳しさを―――スバルは一言に込めて告げた。 「このヘタレ」 そして、沈黙が、降りた。 「…………ご、ごめん。ちょっと言い方キツすぎた」 玩具の銃をクルクル回していた手がピタリと止まり、虚空を見据えたまま停止するティアナの様子に、一変して怯えるスバル。 「で、でもね、ティアも普段はこれくらい言うし、厳しい方がいいかなーって思って……」 「……」 「怒ってるよね? 何も言わないけど怒ってるよね? すごい静かな視線でわたしを見てるけど煮えくり返ってるよね?」 「……」 「ごめんなさい何か言って無言で迫らないで顔を近づけないでぇぇぇ!」 分かりやすい激昂の仕方ではない分不気味さに満ち溢れた威圧感を溢れ出させながら、ティアナは逃げ腰のスバルに持っていた玩具の銃を突きつける。 その仕草には殺気が滾り、これが本物の銃だったとしても躊躇しないのではないかと思えるほどだ。 「わ、わーい! 降参しまーす、撃たないでー……」 スバルは強張った笑みを浮かべ、両手を挙げた。 「……バン」 「え」 「バン! バン! バーン!」 「ご、ごめんなさい! 撃たないで、許してっ!」 「バンバンバンバンバァァーーーンッ!!」 「やっぱり怒ってるぅ~!」 半泣きで逃げ出すスバルを、壊れたように叫びまくりながら玩具を振り回してティアナが追いかける。 傍から見ればかなりおかしな光景。慌しく、騒がしく……しかし、先ほどの二人にはない一種の清々しさがそこにはあった。こんなバカをやる中に、不安はなく、悩みもない。 一見してはしゃいでいるように駆け回る二人の上で、抜けるような青空は変わらず広がり―――それは正しく、今のティアナの心を表していた。 そんな二人の様子を建物の上から見下ろす、窓越しの視線が二つ。 「……髪を二つに縛った眼つきとツッコミの鋭い娘は、皆ツンデレやなぁ」 「はやてちゃん、感慨深げに意味不明なこと言わないで……」 唐突に、誰にともなく呟くはやての言葉に思わず地元の親友を思い出し、冷や汗を流しながらなのははツッコんだ。 「いや、新人を見守る定位置やけど、お決まりの台詞言うのもなんか悔しいやん?」 「そ、そうなの?」 最近、このノリについていけない10年来の親友。 はやてが変わったのは、最近趣味になった映画鑑賞のせいだと思いたい。 「―――ま、あの二人は入隊確定かな?」 「まだ本人の意思は分からないけどね。新設の部隊はリスクもあるし」 「それを上回るメリットは用意したつもりや。あのスバルって娘はともかく、ティアナの方はその辺の勘定をきっちりするタイプやろ」 「気に入ったみたいだね?」 「今度コレクションのピースメーカーで、あのクルクルやってもらお」 そっちかよ。 なのははツッコミを自重し、ニヤニヤ笑うはやての発言をスルーした。 「部隊のメンバーは、新人があと二人だっけ?」 「フェイトちゃんが担当しとる方やな」 「そっちは?」 「今、別世界。シグナムに迎えに行ってもろとるよ」 もうこっちに向かってる頃かもしれない、と付け加えて、はやてはもう一度眼下を眺めた。 飽きもせず走り回るティアナとスバルの姿。視線を移せば、隣に立つ親友と、こちらに向かって駆けて来るもう一人の親友。そしてかけがえのない小さなパートナー。加えて、今この場にはいないが頼もしい騎士達。 思い返すと胸の内に湧き上がってくるものは、しかし少女であった頃の懐かしさや過去への感傷ではない。 私達はもう一度集った。 それは懐かしむ為ではなく、馴れ合う為ではなく―――かつてと同じで、しかし全く違う成長した一歩を踏み出す為。 あの時、まだ自らの足で歩けなかった自分を支えて共に進んでくれた仲間達を、今度は自らが先頭となって率いる為に。 まずは一歩――――。 進むとしよう。この八神はやてが望む高みを、その先に見る光景を、彼女達と共に眺めてみたいと思って積み重ねてきた年月がようやく始まるのだ。 それを野心と言えば、それまでだが……。 「刺激があるから人生は楽しい―――そうやろ?」 自分自身とこれから歩む未来に待つ何かに向けて、はやては不敵に微笑んだ。 「……ところで、なのはちゃん。部隊名の通称なんやけど<レツゴー三匹>と<シャッフル同盟>どっちがええ?」 「いや、通称とかどっちもいらないでしょ……」 その廃棄都市の一角には奇妙な空間が出来上がっていた。 普通の人間にはあ立ち入ることの出来ない結界によって封鎖された空間。深夜、その隔離された空間で戦闘が繰り広げられる。 『―――ヴィータちゃん、ザフィーラ。追い込んだわ。<ガジェットⅠ型>……そっちに三体!』 観測魔法を展開し、敵の動きを完全に把握したシャマルの支持に従い、二人の騎士が無人の街を駆ける。 ネズミ捕りの籠に飛び込んだ獲物は、鋼鉄の曲線ボディとセンサーの眼を持つ無人機械だった。夜の闇に紛れ、浮遊する三つの機影は路地裏へと逃げ込む。 しかし、そこには既に鋼をも切り裂く牙と爪を持つ獣が待ち構えていた。 「てぉああああああああああああぁぁーーーっ!!」 まさしく魔獣の咆哮が響き渡り、それに呼応するように地面から閃光の槍が隆起して低空を滑走していたガジェットを一体串刺しにした。 爆発四散する『仲間』を尻目に、無機質な敵は地上の脅威を逃れようと空高く上昇する。 「でぇぇーーーいっ!!」 もちろん、それすらも追い込まれた敵にとっては許されない。 上空で待ち構えていたヴィータが急降下し、漲る魔力を乗せたグラーフ・アイゼンを叩き込んだ。 接触する寸前、魔法を無効化させるAMFによってわずかな抵抗を感じるが、物理的攻撃力と何より瞬発的ではない『加え続ける威力』によって、それを打ち破ったハンマーがガジェットの機体をビルの壁まで吹き飛ばした。 これで二体。しかし、最後の一体は逃走を続ける。 「アイゼン!」 《Schwalbefliegen》 鉄球を打ち出す中距離魔法。AMFを考慮して、大型鉄球を放つ単発式の一撃を放つ。 大口径の弾丸は逃げるガジェットを正確に補足し、そのフィールドを貫いて見事撃破した。 「やったか」 「……シャマル、残りは?」 『残存反応なし。全部潰したわ』 確認を終えたヴィータとザフィーラが地上で合流する。 人の立ち入らない結界の中、戦闘の音は消え、夜の静寂が辺りを包んでいた。 「―――出現の頻度も数も、増えてきているな」 「ああ、動きも段々賢くなってきてる」 黒煙を上げるガジェットの残骸を見下ろし、二人は同じ危惧を抱く。今は小さな不安だが、これが徐々に大きさと数を増していくような嫌な予感を覚えた。戦士の予感は無視できない。 「我々はともかく、新人には厳しい相手だ。まったく、問題ばかり増える」 「この仕事で問題以外に増えるもんあるかよ? ちょっと前までバカな噂話だった、例の変な襲撃事件も増えてるらしいじゃねえか」 「被害も無視できんレベルになりつつあるらしいな。ガジェットとは違うらしいが……シャマル、何をしている?」 言葉を交わしながらも警戒はまだ怠らず、ザフィーラは何故かこちらに合流しようとしないシャマルに念話を送った。 築き上げた戦闘経験はどんなレーダーよりも正確に異常を察知して無意識に体を動かす。敵の全滅を知りながら、まだ力の抜けない体が何よりも雄弁に警告を発していた。 ―――まだ、終わってはいない。 『―――待って! 反応が出たわ、ガジェットじゃない!』 やはりか。 驚きはなく、ヴィータとザフィーラはどこか予知していたかのように戦闘体勢を取り直した。 『……何、この反応? 次元震? そんな馬鹿な……!』 「おい、シャマル! 敵の数は?」 『分からないわ……』 「はあ!? しっかりしろよ、じゃあどっから来るんだ?」 『分からないのよ! 二人の周辺で魔力波が起きてる、見たこともない動きだわ! 気をつけて、すぐ近くでいくつも集束し始めてる!』 久しく聞いていないシャマルの焦った声色を聞き、周囲に視線を走らせる。 その瞬間、二人はこの世ならざる光景を目撃した。 周囲の闇が凝固し、形となって現実に産み落とされる。それは比喩的な表現ではなく、まさしくそうとしか言い表せないような誕生の瞬間だった。 「なんだ……コイツら?」 何も無い空間から、滲み出るように無数の黒い獣が現れる。ヴィータとザフィーラにはソレが何であるのか分からなかったが、猿の体と犬の頭を合わせたような奇怪な姿が生物として真っ当な存在でないことは理解出来た。 いや、ともすれば幻覚と思ってしまいそうな頼りないおぼろげな輪郭を持つそいつらは酷く非現実的な印象を与えた。果たしてこいつらは『生きて』さえいるのか、それすらハッキリと分からない。 ただ一つだけ、この悪意の塊のような姿と不気味な眼光を持つ獣達が全て例外なく的であることだけは確信できた。 『転移魔法でもない、出現前の予兆さえなかったわ。結界だってあるのに……』 「謎の襲撃? なんだよ、噂をすればか」 「ああ、おそらくこれまでの襲撃事件の原因はこいつらだ」 管理局内で徐々に深刻化しつつある事件の噂を思い出し、ヴィータは納得したように頷いた。 敵の正体は不明だ。しかし、とりあえず一つだけ分かった。ならば、十分だ。あとはいつも通り。 「来いよ化け物、剥製にしてやる」 幼い少女の外見をした騎士は具現化した夜の闇に向け、歯を剥いて笑った。野獣が牙を剥く仕草と同じように。 挑みかかるその姿に向けて、一匹の獣が飛び掛る。 小柄な肉体に見合った身軽な動きで跳躍し、その牙と爪でヴィータを切り裂かんと迫った。 しかし、その動きは『身軽』ではあれど、決して『速い』ものではなかった。 「―――遅いぜ」 少なくとも、歴戦の騎士を相手取っては。 「この、単細胞の猿野郎がぁああーーーっ!!」 迎撃態勢を整え切っていたヴィータが全身を捻ってハンマーをフルスイング。その軌道に飛び込んだ愚かしい塊を壁まで殴り飛ばした。 肉の潰れる嫌な音が響き、獣の体が壁一面に『飛び散る』 だが一見グロテスクなその光景も、獣の体を構成する血肉に代わる黒い何かのせいで奇妙なものに映った。潰れた黒い塊となった獣の死体は、すぐに消滅して跡形もなくなる。 残された<レッドオーブ>と呼称される謎の石だけが浮いていた。そして、それもすぐに消えてなくなる。 「見た目だけだ、弱え!」 「いや……今度は一斉に来るぞ!!」 いつの間にか周囲を取り囲んでいた同種族の闇の獣が、ザフィーラの言葉を肯定するかのように、次々と無秩序に襲い掛かり始めた。 それをヴィータとザフィーラ、二人の騎士が汚れない意思と力で迎え撃つ。 名も知らぬ闇の獣達は、不気味な存在感とは裏腹に一体一体の力は強いものではなかった。 ヴィータのグラーフ・アイゼンが一騎当千とばかりに群がる敵を薙ぎ払い、ザフィーラの牙と爪は敵のそれを易々砕き、切り裂く。 パワーもスピードも、その矮小な闇の塊は劣っていた。 しかし、ただ一つ。周囲に満ちる闇を原材料としているかのように、数だけはまるで無尽蔵に湧き出てくる。路地裏の暗闇が敵を無数に生み落としていた。 「キリがない! シャマル、元は絶てんのか!?」 『そこら中がワケの分からない魔力反応だらけよ! 召喚魔法じゃない、人為的なものじゃないんだわ!』 「このまま敵が尽きるまで待てと言うのか!」 「上等だ! シャマル、結界はそのままで、絶対にこいつらを外に出すんじゃねえぞ! 夜明けまでぶっ飛ばし続けてやる!!」 夜そのものと戦っているように、無限に沸き続ける敵。その群れの中で真紅の力は暴れ狂った。 幼い顔立ちに炎の意志を宿した少女が、闇の獣を薙ぎ払う。 圧倒的な力の差に、無限の数を味方につけた獣達にも怯えのようなものが見え始めた。僅かな鈍りを見せた敵の動きを突いて、鋼の軛が放たれる。 闇を前にしても揺るがない騎士の力が闇を払い始めた。 ―――しかし、その時。 『―――っ!? 生体反応、近くに人がいるわ!』 「んなにぃ!?」 混乱する状況の把握に努めていたシャマルが、結界内に侵入した人間の反応を捉えて悲鳴を上げた。 応援を呼んでいないのだから魔導師ではない。察知した反応を解析してみても、それは間違いなく紛れ込んだ一般人に他ならなかった。 「このポイントに住人がいないことは下調べしてあったんだろ!?」 空間を操作する結界は微妙な均衡でなりたっている。魔力を持つ者が意図せず内部に入り込んでしまう危険性はあった。特に、このミッドチルダではより大きな可能性としてある。 だからこそ、ガジェットを追い込む場所を選び、そこは入念に調べてあったはずなのに。 歯噛みするヴィータの視界で敵の動きが変化する。何匹かが別の標的に向かって動き始めた。奴らも他の人間に気づいたのだ。 「先行した陸戦部隊は何してたんだよ!?」 『進入したのは子供よ! 居住権のない、廃棄都市に住む違法遊民だわ。だから……!』 「だから!?」 ザフィーラの援護を受け、舌打ちして駆け出したヴィータは先を走る数匹の獣と、その更に先で立ち竦む幼い少女の姿を見た。 「『だから』なんだ!?」 獣は、まるで自分達の目的が戦う事ではなく殺戮であると言わんばかりに、嬉々とした奇声を上げて少女に襲い掛かった。 少女、怯え竦んだまま逃げない。否。足が不自由なのか杖をついている。転んだ。逃げられない。 何故か脳裏にはやての姿が浮かんだ。満足に動けぬ者を蹂躙する悪意。そんなことは絶対に許せない! 「『だから』って―――命に変わりねぇだろぉがぁぁぁあああっ!!!」 純粋な怒りが爆発した。 咆哮と共に地面を蹴り砕き、地面を滑るように超低空で飛行する。そのまま駒のように回転し、少女に飛び掛る獣の群れの横腹へ遠心力の乗ったハンマーを叩き込んだ。 荒れ狂う嵐に飛び込んだに等しい暴力を受け、敵はズタズタに叩き潰されて周囲に飛び散る。 着地した足で地面を削って回転の余力を殺しながらヴィータは少女の安否を確認する。最初に飛び掛った敵の群れは一掃出来た。 しかし、敵には無限の数がある。すぐさま後続の獣が少女に駆け寄るのが見えた。 すぐさまその間に立ち塞がり、叩き伏せる。 振り下ろしたアイゼンの先端と地面の間で敵の頭が潰れる音が響き―――そしてその背後の影に隠れていたもう一匹が歯を剥いて襲い掛かるのを取れた時、すでに致命的な隙が出来ていた。 「ヴィータ!!」 ザフィーラの叫びが遠くで聞こえる。 援護は無し。回避行動も駄目だ、後ろで動けない少女がいる。シールドが間に合うか否かの刹那の間に、ヴィータは反射的に開かれた獣の口に腕を盾にして差し出し―――。 「―――Bingo」 顔の横からぬっと突き出た銃型デバイスから轟音と共に高密度の魔力弾が発射され、眼前まで迫っていた獣の頭を跡形も無く吹き飛ばした。 「誰だ!?」 答える代わりに、いつの間にかヴィータの背後に現れたその男はゆっくりと月明かりの下へ歩み出た。 怯える少女と警戒するヴィータを素通りし、目の前で待ち構える闇の獣の群れへ向けて無造作に歩を進めていく。この戦場の中で、一歩一歩が優雅とすら言える余裕のある足取りだった。 左手には先ほどの強力な魔力弾を放った銃型のデバイスが握られている。カートリッジシステムすら搭載してない簡易的なそれの性能を見る限り、あの威力は男の純粋な魔力が生み出したものだ。 右手に提げたギターケースと派手な真紅のロングコートが戦いの場で奇妙に浮いていた。端正な顔立ちに浮かぶ、周囲の闇を見据えて尚不敵に笑う表情も。 「……何者だ?」 駆けつけたザフィーラが周囲の敵に向けるものと同じ、いやそれ以上の警戒を露わに尋ねる。 この男が只者ではないことを、長年の勘が告げていた。 三つ巴の緊迫した空気の中、男は狼の姿をしたザフィーラの言葉に大げさに驚いて肩を竦めて見せる。 「ワオ、おしゃべりワンちゃん? コンクールに出てみたら? きっと優勝間違いなしだろうぜ」 「ふざけるな」 挑発交じりのからかう仕草を、ザフィーラは鋭く睨み付けた。 「私は、犬ではない。守護獣だ」 「そっちかよ。そんなことどうでもいいから、テメエ何者か答えろ」 どうでもいい発言に恨めしげな視線を向けるザフィーラを無視して、代わりにヴィータが問い詰めた。 「俺はただの仕事熱心な何でも屋さ。今日は目の前にいるクソどもを狩りに来た」 男は笑いながら答えた。その余裕たっぷりの態度が気に障る。 ヴィータが敵意を持って、自分を相手にしない男の横顔を睨み付けた。その時。 ―――ダァァァンテェェェェェ。 空耳か、とヴィータは思った。 だが、そうではない。 ―――ダァァァンテェェェェェ。 ―――ダァァァンテェェェェェ。 再び声が聞こえる。 その声が周囲でにわかに殺気立ち始めた獣達の発するものだと理解するのに時間が掛かった。 怨嗟にも似た濁った声色は、しかし確かに人語で名前のようなものを口々に叫んでいた。まるでその名の主を呪うように。 「……<ダンテ>?」 ヴィータは男の顔をもう一度見た。 男は―――ダンテは笑っていた。自分に向けられる憎しみと呪いの声を一身に受けて。 「見ろよ、熱烈な歓迎ぶりだ。こっちがどれだけ嫌がっても、奴らは強引にパーティーへ誘おうとしやがる」 「テメエ……一体何者なんだ?」 幾度目かの問いに、しかしダンテは冷たい微笑を返すだけだった。 そして、ダンテの視線が逸れた一瞬で、一匹の獣が耐え切れなくなったかのように跳躍した。真っ直ぐにダンテの首目掛けて襲い掛かる。 ヴィータとザフィーラはその光景を見守った。乱入してきた謎の男への警戒と、それ以外の曖昧な理由が助けることを拒んだのだ。 二つの視線と無数の悪意が向けられる中、ダンテは眼前にまで敵が迫る状況で悠長とも言える動きでギターケースの鍵を外し―――。 「がっつくなよ、ベイビー……」 開いたケースを盾にして爪の一撃を防ぎ、そこから『中身』を引きずり出して振り被った。 「すぐにキスしてやるぜ!」 風を切る鋭い音共に、閃光が一直線に頭上から地面へと伸びた。 その閃光の軌道にあったギターケースごと、獣の体は頭頂部から股下まで真っ二つに斬り裂かれる。二つになった塊が黒い血肉を撒き散らして、空中で消滅した。 振り下ろされたのは剣。それも長身のダンテと比較しても巨大な大剣だった。 悪魔の頭蓋を連想する不気味な装飾と肉厚の刀身を持つ、その剣の名は<リベリオン> 鉛色の刃が放つ凶悪な光と、たった今見せた絶大な威力に、ヴィータとザフィーラは息を呑む。 振り抜いた剣を改めて背負い、ダンテは相手を挑発してやまない、いつもの笑みを浮かべて周囲の闇を見渡した。 闇に蠢く者たちが一斉に騒ぎ立て始める。それはもはや言葉ではなく咆哮であり、そこに含むものは怒号でもあり恐怖でもあった。 「This party is getting crazy(イカれたパーティの始まりか)……」 夜の闇を嘲笑うかのような暗い情熱がダンテの瞳に宿る。 もう一挺のデバイスをガンホルダーから抜き出すと、自身に殺到する殺意を全て受け止めるように両手を広げた。 「―――Let s Rock!」 そして唐突に、両手から放たれた魔力の銃火を以ってダンテは<悪魔>との戦闘を開始した。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> ムシラ(DMC2に登場) 猿と犬をくっつけて失敗しちまったような造形をしたコイツらは、悪魔の餌食となった罪人の魂の悪意や欲望の残骸から生まれた低級な魔だ。 残忍さと醜悪な外見だけは悪魔らしいが、能力的にはやはり雑魚に違いない。 跳ね回るすばしっこさと壁に張り付くほどの身軽さはなかなかだが、まあ特色を挙げるとしてもそれくらいだ。 しかし、全ての低級悪魔に言えることだが、奴らは一体の質が薄い代わりによく似た同類を無数に持っていやがる。 二、三体ならともかく、大量に出た場合は並のハンターでも逃げることをおすすめするね。 だが、もし並じゃない奴なら、俺から言えることは一つだけだ。 『ビビることはない、クソどもを蹴散らしてやろうぜ?』 前へ 目次へ 次へ
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―――――私は勇者なんかじゃない。 偶然に世界の命運なんてのを託された、運が悪いだけの一般人さ。 私に任された仕事は、本当は私以上に適任の奴がいるはずなんだ。 例えば伝説の英雄とか、聖なる騎士とか、本当の勇者とか、な。 だが運の悪いことにそいつは現れない。 もしかしたら、はじめっからそんな奴はいないのかもしれない。 だから勇者のふりをするのさ。 強くもないのに、強がりながら。 空が燃えていた。 大地は裂け、炎が荒れ狂い、街を呑み込んでいく。 通りを駆け抜けるのは名状しがたい異形ども。 禍々しい鎧兜を纏った戦士達や、冒涜的な姿の怪物たち。 誰の眼にも明らかだ。 かねてより警告されていた通り『門』が開いたのだ。 そして彼らは『門』を通って、地の底より這い出た存在。 ――極めて古典的な名前で呼ぶならば、 『悪魔』 そう形容されて然るべきものであった。 多くの住民が家に閉じ篭って全てが終わるのを待ち、 或いは逃げるのに間に合わず、悪魔どもに無残にも殺されていく。 そんな中、ただ一つの目的を持って駆け抜けていく者がいた。 男だ。男が二人。 1人は様々な苦脳を秘めた厳しい面構えの、平凡な男。 身につけた衣服は僧侶か何かを思わせる、装飾の少ないそれだ。 目前に立ちはだかるのは、つい先ほどまで市民を貪り食っていた怪物ども。 その数は1匹や2匹ではない。あまりにも多すぎる。 「ダメだ、此方の道は奴らが多い! 回り道を――」 「そんな時間があるものか! マーティン、私が切り開く!」 その男――マーティンと呼ばれた男の脇を、一陣の風が擦り抜ける。 身を低くして一瞬にして通りを走り抜けたのは、まるで影のような男だった。 黒い鎖帷子を纏い、頭をすっぽりと外套で覆った彼は、手にした武器を振り抜く。 片刃の長剣――遥かな東方から伝来したと言われる、切れ味の鋭い代物である。 皇帝直属の親衛隊のみが携帯を許されるそれを持っているという事は、この影は親衛隊なのだろうか。 そう思う者がいるならば、あえて言おう。答えは断じて否だ。 護ることよりも殺すことに長けた剣、とでも呼ぶべきか。 およそ真っ当な剣術ではない。どれほどの敵を斬れば、このようになるのだろうか。 断じて、親衛隊などという組織に所属する者の剣技ではない。 凄まじい速さで縦横無尽に振るわれた刃が、次々に怪物どもの命を刈り取った。 彼らは男の攻撃を受けるまで、その存在に気付くことすら無かったのだろう。 あまりにも呆気なくバタバタと斃れ、屍を晒した。 だが、それで終わりではない。 終わりの筈がなかった。 騒ぎを聞きつけた鎧武者達が、具足を鳴らして迫り来る。 その数は遠目に見ただけでも――あまりにも膨大だ。 男は躊躇しない。 マーティンを背に庇い、悪鬼どもを睨みつけ、叫ぶ。 「行け、マーティン! ここは私に任せて、お前はアミュレットを神殿へッ!」 「しかし……ッ!」 「馬鹿者ッ! お前が死ねば其処で終わりだが、お前が神殿につけば此方の勝ちだ! 何も奴らを殲滅するわけではない。『門』が閉じるまでの間だ。 お前の鈍足でも、どうせ五分かそこらだろう。安心しろ。その程度ならば防ぎきってみせる」 マーティンの顔に迷いが浮かんだのは明らかだった。 それなりに長い付き合いだ。この人物の心根の優しさは、よく知っている。 だが、彼は影のような男を見やり、そして押し寄せてくる悪魔どもを見やり、 その全てに背を向けた。 「…………感謝する。アルゴニアンよ。君は、良き友だった」 「ああ。そうとも、マーティン」 「……」 「お前は良い友だった」 会話はそれで終わった。マーティンは走り去り、影は残る。 そうして影は外套の内側で薄く笑うと、それを跳ね除けた。 露になったのは人の頭ではない。似ても似つかぬ蜥蜴の其れだ。 アルゴニアン――辺境に多くが暮らし、帝国人から忌み嫌われる種族。 遥か昔には奴隷として使役された事もあるアルゴニアンだったが、 それでも尚、彼は人々が好きだった。 何よりも、あのマーティンという男は気に入っていた。 躊躇わずに命を賭け、こんな場所にまで付き合うほどには、だが。 刃を構える。 なぁに、不可能な事ではない。難しいことでもない。 このくらいの窮地ならば、過去に幾度となく乗り越えてきた。 「さあ来いデイドラどもッ! 生きてれば一度は死ぬものだッ!!」 アルゴニアンの挑発に対し、悪魔――デイドラの軍勢が雄たけびを上げた。 そして幾度と無く彼らの野望を打ち砕き、今この戦いに終止符を打とうとする男を滅ぼすため、 幾百ものデイドラがこの路地へ押し寄せ、そして―― ――――世界を光が包み込んだ。 ――五年後。 新暦68年 某月某日 日本 海鳴と呼ばれる土地。 深夜。時計の短針が十二を通り過ぎ、一を示す頃合。 喫茶店『翠屋』には多くの人物が集まり、そして眠っていた。 ある者はカウンターに突っ伏すようにして、 ある者はテーブルの下で丸くなり、 ある者は大きな犬にしがみついて。 『高町なのは復帰記念パーティ』 ようやく復帰した少女――彼らの大事な存在の帰還を祝うため、 殆ど朝から晩まで騒いだ結果が、これである。 「もう、みんな酷いなぁ……。好き勝手に騒いで、勝手に寝ちゃうんだもん」 「仕方ないよ、なのは。それだけ皆、なのはが帰ってくるのを待ってたんだから……」 「うん、それは……わかってるんだけど、ね」 今起きているのは、この二人。 主賓である高町なのは。 そして彼女の一番の親友であるフェイト・テスタロッサ・ハラウオン。 悪戯っぽく笑いあいながら、幸せそうに眠りこけている仲間達を見やる。 本当に幸せだ。 自分達には家族がいて、友達がいて、仲間がいて。 こうして何かにつけて祝って、騒いでくれる。 だが、それもしばらくは見納めだ。 「なのは、その――」 「もぅ、心配性だなあフェイトちゃんは! クロノ君もだけど……。 ひょっとして、お兄ちゃんに似た、とか?」 「なのはぁっ!」 にゃはは、と笑って誤魔化すなのはを、フェイトは怒りながらも心配そうに見つめた。 彼女がとてつもない大怪我をしたのは、一年前になる。 だが、一年もかけねば治らないほどの負傷だったのだ。 そして――まだリハビリを終えたばかりなのだから。 「私のことなら気にしなくて良いよ、フェイトちゃん。 もうすっかり元気だし、前みたいな無茶はもうしない。 それに――フェイトちゃんの執行官試験の方が大事なんだから!」 そう、執行官試験。 今まで二度受けて、フェイトは二回とも不合格になっている。 本人は頑なに否定するだろうが、なのはの事故が影響しているのは間違いない。 だが――……だからと言って、果たしてこのような事になっても良いのだろうか。 ―――――話は数日前、高町なのはが退院する、その直前にまで巻戻る。 退院準備の為、荷物を鞄に纏めていた彼女とフェイトの前に、クロノ・ハラウオンが現れたのだ。 勿論、彼にとって最も大切な目的は、友人であるなのはの退院を祝う事だったが、 それ以外にもう一つ、極めて重要な用件を抱えていた。 「「タムリエル?」」 「そう、第23管理外世界。現地の言葉で『タムリエル』と呼ばれている。 文明ランクは――地球やミッドチルダよりもだいぶ低い。中世クラスだろう。 ただ魔法に関しては正直想像がつかない。これまで、さして注目もされてなかったからね」 「これまで、って事は……今は注目されているの?」 ああ、とクロノは頷いた。 タムリエルは地球など他管理外世界と同様、次元宇宙に接触する技術を保持していない。 そう思われていたのだ。――これまでは。 「事件が起きたのは新暦63年。なのはやフェイトと逢う二年前だ。 タムリエルで大規模な次元震が確認された。 その規模は――恐らく、史上最大。 まず間違いなく『二つの世界が完全に繋がった』ような状態だった筈だ」 それほどの大事件でありながら、事件の詳細は確認されていない。 いや、できなかったのだ、とクロノは語った。 「次元震動が確認されてから一時間と経たず、それは消滅してしまったんだ。 単なる偶然なのか、或いは人為的なものなのか、まるで判らないまま。 そして、その後の調査も不可能だった。 結界……とでも言うのかな。外部からの干渉を遮断するバリアが張られていたのさ。 まあそんな事が可能な魔法技術があったなんて思いもよらなかったから、 管理局のこれまでの調査が如何に杜撰だったか、って問題にもなったけど、 とにかく、その世界への干渉は不可能だったんだ。ところが――三日前に、そのバリアが消滅した」 「それって……つまり、また同じ事が起こるかもしれないの、クロノ君?」 「ああ、そうだ。これは極めて重大な調査になる」 「でも、何で私と、なのはにその話を?」 「……つまり、なのは。君のSランク取得試験内容は『管理外世界タムリエルの調査』。 そして、フェイト。君の執行官資格試験もまた『管理外世界タムリエルの調査』なんだ」 ――魔法少女リリカルなのは The Elder Scrolls 始まります。 目次へ 次へ
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『マクロスなのは』「プロローグ」 銀河中心付近の小惑星帯。そこにはある大船団が潜伏していた。 巨大な小惑星の横には同じぐらい巨大な1隻の船が見える。それは全体がオレンジ色に塗装されており、多数の戦闘艦が周囲に展開していた。 かつてマクロスギャラクシーのメインランドと呼ばれたこの移民船。しかし今そこには人の営みが感じられず、運用する〝人〟はまるで機械の歯車のように働いていた。 その内部は密閉式ケミカルプラント船のため海は無く、地面は無骨な鉄の床が覆っている。 天井は初代マクロスからの伝統で空が映し出されているが、それすら工場群から吐き出されるスモッグによって曇っていた。 本来なら船団の環境維持部門の誰かが空気の清浄化を行うところだが、今そこは誰もいない。 なぜならギャラクシーの人の大部分が〝ある研究〟に回されていて、船団の環境維持など無視されているのだ。そしてその研究施設ではそれが大詰めを迎えていた・・・・・・ (*) ギャラクシー統合研究センター 「やっと見つけた」 センターにある個室のうちの1つに、妖艶な声がこだまする。 その声の主はマクロスフロンティア船団を壊滅の一歩手前にまで追い込んだ張本人、グレイス・オコナーだ。 彼女はフロンティアの遠隔リモート端末・・・・・いや、これは正しくない。意識をほぼ完全移行した自立クローンが撃破されたのと同時に、オリジナルとしてここ、ギャラクシーで蘇生を果たしていた。 そんな彼女が蘇生からずっと打ち込んできた研究の結果が目の前にあった。 彼女の表示するコンピューター画面には図式化された地球と、地球の軌道上まで伸びる破線で結ばれたフォールドゲートが写し出されている。 しかし、画面下に表示されているタイムゲージは2060年現在ではなく、2008年9月となっていた。この頃はまだ異星人との遭遇によって発生した第一次星間戦争は始まっておらず、統合戦争と呼ばれる人間同士の戦争があった。 それは来るべき異星人との対話に当たり、地球の国家を統合するという名目だったが、それに反対する国家群との戦いは長きに渡った。この年はその戦争の末期に当たる年だ。 「ようやく、あなたのお姉さんの行き先がわかりそうよ」 彼女は机に飾ってある写真立てにそう告げる。そこには科学の万能を信じる純粋な学者であった頃の自分と、同僚だったランシェ・メイ。そしてかつて地球に存在し 『マヤン』という島に住んでいた紫色の髪のおばあさんが写っていた。 グレイスはほの暗い笑みを浮かべるとそのおばあさんの名を呼ぶ。 その時、背後のドアが開いた。 「主任。ゲートの準備、整いました」 彼は無機的にそれだけ報告すると、踵を返し部屋から出ていく。 今、マクロス・ギャラクシーの乗員は軍から民に至るまで全てインプラントによって強力な精神操作がかけられており、自我のない存在にされていた。 グレイスは立ち上がって無造作に写真立てを掴み上げると、壁に向かって放り投げる。それは放物線を描いて無骨な鉄の壁に激突すると、ガラスの割れる音と共に床に四散した。 「遂に開く!プロトカルチャーへの道を!」 グレイスは笑うと、部屋から出ていった。 誰もいない部屋にデスクトップコンピューターの冷却ファンが静かに唸る。彼女の残した画面には、ある画像が表示されていた。その画像は地球の衛星からの写真らしく、端に月が写り込んでいる。しかしこれもタイムゲージは先の図と同じだった。そしてもっとも特徴的なことに、その時代存在すら知らなかったはずのフォールドゲートが写し出されており、それに入っていく地球製の機体があった。 その機体は不思議な青白い光の粒子に包まれており、まるで鳥のようなシルエットを描き出している。その中央に写る機種は普通のジェットエンジンのため宇宙に出られないはずの初代人型可変戦闘機VF-0『フェニックス』だった。 数秒後コンピューターはスタンバイモードに入り、その画面から光が消えうせた。 (*) 3ヶ月後 バジュラ本星突入作戦から1年が過ぎたバジュラ本星では、到達したフロンティア船団によって、着水したアイランド1を中心に着々と人の住むところを拡げていた。 現在では総人口の半数がアイランド1を離れ、近くの岸を中心に半径1キロに渡って都市を形成している。 初期に行われた検疫では、人類もゼントラーディも遭遇したことがない細菌は確認されておらず、比較的速い移住が行われている。 しかし、その星の生態系を壊す恐れからまだ農業などは行われていない。今はその影響を確かめるテストが行われているが、結果は上々であり、米などの栽培は十分可能であるとのことだった。 その惑星は船団の名称を継いで『フロンティア』となり、マクロスシティ(地球統合政府)からも30番目の開拓星として認可が来ていた。 (*) 首都『アイランドワン』美星学園 第2キャンパス そこは本家アイランド1にある破壊された美星学園のカタパルトの代わりに、航宙科の生徒の為に作られた施設である。 今そこでは1人の青年が通常重力下用にカスタムしたEXギアを着て、そこに敷設されたリニアカタパルトを発射体勢にしていた。 「風速、東に3メートル。気圧1012hPa(ヘクトパスカル)。インターフェース確認。昇降舵良好。エンジン推力は最大へ・・・・・・」 ぶつぶつと確認項目を消化していく。そして───── 「・・・よし!」 彼はカタパルトグリップを強く握ると、射出スイッチを押し込む。 カタパルトはEXギアもろとも彼を時速50キロメートルまで加速し、打ち出した。 彼は風に乗り、上昇を続ける。その昔船団内を翔(かけ)た様に。しかし当時とは違うことがある。0.75Gだった重力が今では1G弱であること、そして空に際限がないことだ。 船団では3000メートルも上がると、煩わしい警告と忌まわしい強化ガラスの壁があった。 現在の高度は6000メートル。 しかし気密ヘルメットのバイザーを介した彼の眼前には白い雲の海と、地平線まで伸びる青い空しかなかった。 彼の着用するEXギアは軍でも使われる多機能強化服(パワードスーツ)で、バルキリー(人型可変戦闘機の通称)でも使われる熱核タービンエンジンを備えている。 EXギアは、大気圏内では反応炉(核融合炉)で発生する莫大な熱で空気を圧縮膨張させて飛ぶため、理論上は無限の航続能力があった。 しかし調子に乗って飛び続けるとフロンティア中央政府の定める空域を軽々超えてしまうので、彼は数度旋回飛行するとアイランドワンへの帰路についた。 市街に到達して高度を落とすと、市内から人より一回り大きな緑色をした虫が飛んできた。第2形態のバジュラだ。 しかし以前「バジュラは危険。そいつらがいる限り、空は戦場になる!」と言っていたこの青年は何の対応もとらなかった。 果たしてバジュラは青年を襲うのだろうか? 答えは否だ。 それはじゃれるように彼の周囲を飛ぶと、平行して飛び始めた。 バジュラとは突入作戦以来共存関係にあり、完全に無害化していた。 それは新たな遊び相手を見つけたのか、市街地内に降りていく。 その市内にはたくさんの人の営みがあった。 道行く人々の笑顔と躍動。 ビルの建築に汗を流すゼントラーディ(巨人族)のおじさん。 民生用にデチューンされたデストロイド(人型陸戦兵器)の中で、昼食の弁当をかき込む土木会社の青年。 公園では数組のカップルが平和な時を過ごしており、その周りを子供達が走り回っている。 どうやらさっきのバジュラはその子供達の元に向かったらしい。子供達はバジュラを混ぜて鬼ごっこのようなものを始めた。 その子供達の保護者は以前の記憶が蘇るのか釈然としない面持ちだが、ゼントラーディ人全てが悪くないというのと同じ理屈でなんとかねじ伏せた。 相手を受け入れられるという姿勢は移民船に乗る上で必要な資質だ。 でなければ異星人に遭遇する度に戦争をすることになる。我々は殴り屋ではない。相手が友好的ならそれに越したことはないのだ。 それにバジュラは、ここ1年に渡る人間との生活によって、犬以上の個々の知能を持つことができるようになり、十分人の生活に馴染むことができた。 そして、街頭に浮かぶ大型のホロディスプレイからは歌声が聞こえてくる。この星への道を切り開き、バジュラとの和解をもたらした2人の歌姫の声が。 彼─────早乙女アルトはヘルメットの上から耳についたイヤリングを触ると、学園への帰路についた。