約 3,810,858 件
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/5776.html
Explorer~閉ざされた街 収録作品:デジタル・デビル物語 女神転生II[FC] 作曲者:増子司 概要 京浜第3シェルターや東京タワーなど東京における3Dエリアで流れるBGM。 「閉ざされた街」のタイトル通り街で流れるほかに、ダンジョンでも使用される。 重くダークな雰囲気を漂わせながらも疾走感のあるクールでスタイリッシュな曲。 拡張音源N106を使用したメインメロディーの音色は、ファミコンでありながらもさながらエレキギターの様。 『女神転生II』は後のシリーズでの基本コンセプトともなる、「悪魔が支配する荒廃した東京」が初めて登場した作品で、そうした東京の殺伐感や退廃感が表現された楽曲として人気が高い。 この曲は他のRPGの街曲のような、明るい雰囲気とはまったく違った一線を画したものがある。 それもそのはずで『女神転生II』では街の中でも悪魔が出る。いわば店などの施設があるダンジョンと同じである。 街の中でもいつ悪魔に襲われるか分からないため、こうしたスリリングな音楽が使われるのもうなずける。 サントラの『女神転生I・II 召喚盤・合体盤』のアレンジ曲が収録した『合体盤』には、米光亮氏がアレンジしたものが収録。 ギターソロによる追加パートが加えられているのが特徴である。 過去ランキング順位 第4回みんなで決めるゲーム音楽ベスト100 637位 みんなで決めるアトラス名曲ベスト100 9位 ファミコン名曲ベスト100 70位 第2回ファミコン名曲ベスト100 26位 みんなで決める町曲ベスト100 27位 みんなで決めるダンジョン曲ベスト100 191位 サウンドトラック 女神転生I・II 召喚盤・合体盤
https://w.atwiki.jp/ninten3ds/pages/2.html
任天堂 E3 2010情報 ニンテンドー3DS - Wikipedia 任天堂が新型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の発売日や価格などを発表へ - GIGAZINE ニンテンドー3DSのマジコン対策は完璧なものになる予定。- ライブドアブログ
https://w.atwiki.jp/mazikon/pages/12.html
Nintendo DS対応のマジコンです。 R4DS(Revolution for DS) - 一番有名&人気のマジコン。 M3さくら - 唯一の日本製マジコン。音楽&動画再生専用。 M3 Real - 高機能なM3系マジコン。非公式ファーム適用でROMプレイ可能。 n5 - R4の超劣化コピー品。SD破損多発。 DSTT - ある程度有名なDSマジコン。品質もまずまず、普通。 DSTT Advance R4-Ⅲ R4-Advance R4 SDHC M3 DS Simply N-Card DS FIRE LINK DSFlash2 DS Linker ExpressCARD F-Card MK5 N-Card Ultra FlashPass AceKard AceKard R.P.G AceKard2 CycloDS Evolution DSLink DSTT Fake DSTT DS-Xtreme EDGE EZ-Flash V iTouchDS M3DS Real MagicKey2/3 Mk-R6 NinjaPass X9TF Supercard DS(ONE)
https://w.atwiki.jp/ninten3ds/pages/3.html
任天堂 E3 2010情報 ニンテンドー3DS - Wikipedia 任天堂が新型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の発売日や価格などを発表へ - GIGAZINE ニンテンドー3DSのマジコン対策は完璧なものになる予定。- ライブドアブログ
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18250.html
「ごめんな、ムギ。 ちょっと気になっちゃった事があってさ、それで考え込んじゃっただけなんだよ。 心配掛けてごめんな……。 でも、私は大丈夫だぞ? きっとムギが見たのは私の恐い顔じゃなくて、珍しい凛々しい顔だったんだよ。 ……って、珍しいって言うなー!」 私が冗談交じりに言ってみせると、ムギは軽く笑ってくれた。 何はともあれ、笑ってくれた。 そりゃ曖昧な記憶の正体や、この世界の成り立ちも大事かもしれない。 でも、今はムギと一緒に居るんだ。 そっちの方が大切な事なんだ。 ムギを笑顔にさせてやる事こそが、今の私の最優先事項なんだから。 昨日、ロンドンに転移させられた直後、ムギは泣いていた。 泣きながら、叫んで、震えていた。 最後の学祭以来、初めて見せる……ってわけじゃないけど、久し振りのムギの涙。 唯や澪、私と違って、ムギが涙を見せる事はほとんど無い。 辛い時でもじっと耐えて、いつもニコニコしてくれるのがムギって奴なんだ。 ムギがニコニコしてくれるから、私は安心して泣く事が出来た。 だから……、ムギの涙を見るのは、自分が泣く事より辛かった。 何倍も胸が痛かった。 ムギを笑顔にさせたい。 笑わせてあげたい。 今も笑ってくれてはいるけど、心からの笑顔じゃないって事は分かる。 だから、心からの笑顔をムギに取り戻させてあげたいんだ……。 「じゃあ、他の階の倉庫も調べてみようぜ?」 出来る限りの笑顔を向けて、私は手に持ったロープを軽く引っ張った。 そのロープの端を握り締めながら、「うん」とムギが少しだけ笑う。 今私達がロープを持ってるのは、澪の案だ。 突然一陣の風が吹いたとしても、 ロープを持ってる人間は同じ場所に転移されるはずだって澪は言ってた。 昨日、梓が言った、自分の触れてる物は一緒に転移するはず、って説を採用したわけだ。 ロープで握り合ってる程度で本当に大丈夫なのかは分からない。 こんなの単なる気休めでしかない。 皆、そんなの分かってると思う。 だけど、気休めでも、縋れる物には縋っておきたいし、 四六時中手を繋ぎ合ってるわけにもいかないから、これが一番いい案のはずだった。 ちなみに今、澪は唯と梓と一緒にロンドンの街を探索してる。 唯が憂ちゃん達の事が気になって仕方が無いみたいだったから、その力になりたいんだ、って澪は言ってた。 私も一緒に行きたいって言ったんだけど、それは澪に断られた。 誰かが残っておいてくれた方が安心出来るって、前に私が澪達に言った言葉をそのまま返された。 そう言われて、私は素直に退いた。 澪の言う事は間違ってなかったし、ムギの傍に居たい気持ちもあったからだ。 唯や梓の事が気にならないと言ったら嘘になる。 でも、今は一番涙を見せたムギの傍に居たかった。 にしても、だ。 急に逞しい感じになったよな、澪は……。 和に説得されたからってのもあるんだろうけど、 この前、私と一緒に星座を見た日から、更に頼り甲斐が出て来た気がする。 完全に開き直ってるんだろうって思う。 どうしようもない……、どうにもならない状況……。 だからこそ、まっすぐに立ち向かっていける開き直り……。 凄い奴だな、って思う。 追い込まれてからが強いってのは、澪の凄い所だ。 土壇場に弱い私も、それに嘆かずに、どうにか澪みたいに頑張りたい。 「にしても、さ。 こんな形でまたロンドンに来ちゃうなんてなー。 ロンドンにまた来れた事自体は嬉しいんだけどさ……」 何となく、ムギに軽く話を振ってみる。 深刻な様子じゃなくて、あくまで軽い感じに。 まずはお気楽な思い出話から。 過去を思い出しながら、未来の事を考えていけるように。 ムギが複雑な表情でちょっと笑ってから、私の言葉に応じる。 「そうだね……。 私もまた皆でロンドンに来たかったんだけど、いくら何でも早過ぎだよね……。 それに……、次のロンドン旅行こそ、 私のキーボードも一緒に連れて行こうって思ってたのにな……」 「お、それは私に対する嫌味かい、琴吹紬くん。 私だって持って行けるもんなら、マイドラムを持って行きたかったっての。 でも、ギターやキーボードと違って、ドラムはかさばるからなー……」 「ご……、ごめんね、りっちゃん……! 私、そんなつもりじゃなくて……」 「いいよ、分かってるって。 ドラムってのはそういうもんだし、ドラマーになるのを選んだのも私なんだ。 楽器は運びにくくてかさばって演奏も一番疲れるのに、てんで目立たない……。 それがドラマーの辛い所よ……。 でも、好きでやってる事だからさ、その辺は後悔してないよ」 言って、私はムギの頭を撫でた。 普段、ムギは大人っぽいのに、色んな所で子供っぽい仕種を見せる事がある。 もしかしたら唯よりも天然で、子供っぽい所があるのかもって思うくらいだ。 どうも放っておけない……、そんな気にさせるんだよな、ムギは。 考えてみれば、この閉ざされた世界を一番怖がってるのはムギかもしれない。 最初こそ怖がってたけど、澪はこの世界には慣れて来たみたいだし、 唯も梓も怖がってると言うよりは、次に誰かを失う不安感の方が強いみたいだ。 私も怖いって言うより漠然とした不安があるくらいだしな。 その点、ムギは私が怪我した時の様子から見ても、この世界を一番怖がってると思う。 まあ、ムギの言ってる事は間違ってないけどな。 人は一人では生きていけない。 それは寂しさに耐え切れないからってのもあるけど、 自分一人で出来る事が限られてるからって意味でもある。 例えば前にムギが言ってた事だけど、私達の誰かが破傷風になったとする。 それだけでもう終わりだ。 破傷風の正確な治療が出来る人間なんて、私達五人の中に居るはずもない。 死ぬしかないんだ。ちょっとした重い病気に感染しただけで。 病気だけじゃない。怪我や事故……、下手すりゃ盲腸ですら死ぬ可能性が高いんだ。 ムギはそれを分かってるから、この世界を心の底から怖がってる。 だから、「もうやだ!」って泣き叫んだんだ……。 もう泣かせたくないって、心からそう思う。 私じゃ力不足だと思うけど、出来る限りはムギの不安を取り除いてやりたい。 多分、私に出来る事は、笑顔を見せてあげる事だけだろうけどさ……。 でも、出来る限りの事はやらなきゃな。 私は出来る限りの笑顔で微笑んで、もう一度ムギの頭を撫でた。 「ムギだってキーボードを選んだ事、後悔してないだろ? 私、好きだぞ、ムギのキーボードと作曲。 ムギのおかげで色んな曲が演奏出来たわけだし、私、すっげー感謝してるんだぜ?」 「そう……かな……。 私のキーボード……、皆の役に立ててたかな……。 でも、りっちゃんが喜んでくれてるなら、私も嬉しいな」 「何言ってんだよ、ムギ。 ムギが居なきゃ、誰が作曲するってんだよ。 少なくとも私と唯には無理だぞ? 澪と梓は出来るかもしれないけど、 多分、洋楽かぶれなテクニック重視の曲になりそうだしな。 テクニック系の曲が悪いわけじゃないけど、私はムギの曲が好きだな。 あ、澪の歌詞はまだ苦手だけどさ。これは澪には内緒な。 あの甘々の歌詞、未だに背中が痒くなるんだよなー。 ここだけの話、梓も結構背中が痒くなってるみたいだぞ?」 「そうなんだ。 りっちゃんがそう言ってくれるの、すっごく嬉しい。 ありがとう、りっちゃん……」 「へへっ、よせやい。 感謝してるのは私の方なんだからさ」 そうして、二人で笑う。 怖がりながら、不安に塗れながら、それでも向け合えられた笑顔。 こうして少しずつ笑い合えれば、この閉ざされた世界でも生きていけるはずだ。 残された五人で、生きていける。 そう思ってた。 ……そう思おうとしてた。 だけど、やっぱり無理があったのかもしれない。 それから、ムギの笑顔はすぐに消えた。 ムギが悪いわけじゃない。 私だ。 私の選択が悪かったんだ。 私の選んでしまった選択肢が、皆に不安を与えちゃったんだろう。 ムギは不安に満ち溢れた表情で、呟くみたいに言った。 「ねえ、りっちゃん……。 りっちゃんは最近、梓ちゃんと特に仲良しだよね……?」 最初、ムギが何を言い出したのか分からなかった。 私は頭を掻きながら、軽く頷いて応じる。 「そうか……? んー……、まあ、そうかもな……。 ムギ達を置いて、新しいユニットなんか組んじゃったわけだしな……。 それについてはごめんな、ムギ。 ムギ達に相談無しに勝手な事やっちゃってさ……」 「ううん、それはいいの。 梓ちゃん達、嬉しそうだったし、私もりっちゃんと同じ気持ちだもん。 梓ちゃんの事、大切にしたいもんね……。 でも……、でもね……。 りっちゃん、梓ちゃんと仲良しなのに、今日は一緒じゃなくてよかったの? 一緒に居るのが、私で……、よかったの……? もし……、もしね……、もしもまた風が吹いたら……」 あっ、と思った。 そこまで言われて、ムギの言おうとしてる事が鈍い私にもやっと分かった。 ムギは……。 そう……、ムギは……、自分でいいのかって、不安になってるんだ。 私の傍に居る資格が自分にあるのかって、不安になっちゃってるんだ。 ああ、ムギの何を分かった気で居たんだ、私は……。 私はムギと一緒に居たかった。 その気持ちに嘘は無い。 またあの一陣の風が吹いたら……。 そう思うと吐き気がするほど不安になるけど、ムギが傍に居てくれるなら耐えられると思う。 言うまでもなく、私はムギの事が大好きなんだ。 この世界にたった五人で残されちゃって、ムギを大切にしたいって気持ちは更に強くなって来た。 だから、ムギと二人で皆を待つ気にもなれた。 私が怪我をした時、あんなに私を心配してくれたムギだから……。 そんなムギだから、信じられたんだ……。 でも、私自身はムギにそこまで信じられてなかったのかもしれない。 信じさせてあげる事が出来なかったのかもしれない。 それは突飛な思い付きってわけじゃなくて、ずっと前から考えてた事でもあった。 ひょっとしたらムギは寂しがってるんじゃないかって。 私達五人の中で、不安に思ってるんじゃないかって。 ムギは控えめな性格の子だ。 初対面の時より積極的になっては来たけど、まだまだ遠慮しがちな事も結構ある。 一対一で話してる時でもそうなんだ。 軽音部五人が揃った時なんて、ムギは裏方に回って聞き上手に徹してくれてばかりだ。 奇数のグループは難しいって話を聞いた事があるけど、本当にそうなのかもしれない。 一人だけ余っちゃう事が多い、そんな寂しさを胸に抱いてたのかもしれない。 でも、ムギは裏方が好きなはずだ。 私達の給仕をしてくれた時のあの笑顔に嘘は無かったはずだ。 そう……思いたい。 だけど、裏方が好きだからって、 それに甘えてちゃいけなかったって今更になって思う。 ムギとはもっともっと話をすればよかったんだ。 二人きりの時でも、本音で話し合えばよかったんだ。 嘘を吐いてたわけじゃない。 ムギと一緒に居るのは楽しかったし、その時の私の笑顔にも嘘は無かったはずだ。 ただ……、ただ少し……、他の三人よりも気を遣って付き合ってた気はする。 勿論、ムギの事が苦手だったわけじゃないけど、 お嬢様っぽい性格の友達なんてほとんど居なかったから、手探りな感覚で付き合ってたのは確かだ。 唯、澪、梓はスキンシップ的な意味で何度か叩いた事はある。 特に梓相手の攻撃は最近かなり増えて来た気がする。 それはあいつの生意気さがどんどん増して来たからであって、他意は無い。 でも……、ムギの事を叩いた事は、憶えてる限り全然無かった。 一度か……、二度……、多分、そのくらい。 だから、ムギは去年くらい、私に言ったのかもしれない。 「私のこと、叩いてほしいのっ!」って……。 多分、他の皆と同じ様に扱ってほしくて……。 その時、私はすぐにムギを叩けなかった。 どう反応すりゃいいのか分かりにくい事を言われたから叩けたけど、それがなかったら叩けなかったと思う。 そういや……、「叩けない」って私が言った時のムギの表情は凄く寂しそうだったな……。 本当に今になって気付く。 ムギは……、寂しがってたんだ……。 多分、ムギ本人も深く自覚出来てないくらい、心の奥の方で……。 奇数のグループは難しい。 唯は梓と、私は澪と一緒に居る事が多かったから、 一人だけ残ってたムギの寂しさはどれくらいのものだったんだろう。 それは分からない。 寂しがる側の気持ちなんて、寂しくなかった側の人間が想像出来る事じゃない。 想像していい事じゃないって思う。 そんなの、逆に残酷じゃないか……。 だからこそ、私に出来る事はムギのその寂しさを振り払ってあげる事だけだと思う。 私は視線を落として不安そうにするムギの肩に手を伸ばしながら、口を開く。 「何を言ってるんだよ、ムギ。 最近一緒に居る時間が多かったってだけで、私は特別に梓と仲が良いってわけじゃないよ。 またあの風が吹くってのは考えたくない事だけどさ、 でもな……、私は一緒に居るのがムギでよかったって……」 思うよ、とは言えなかった。 口に出しながら、自分の言葉の嘘っぽさに嫌気が差したからだ。 言葉自体に嘘は無い。間違いなく、今の私の本心だ。 私はムギが傍に居てくれて、嬉しいんだ。 安心出来てるんだ。 だけど、思った。 そう思ってるのが本当でも、私のその言葉には説得力が無いって。 自分で……、そう自覚出来るんだ……。 今の私が何を言ったって、ムギの心には届けられない気がする。 いや、違うか……。 ムギは優しい子だから、私の気持ちを尊重してくれるかもしれない。 でも、それをやっちゃ駄目なんだ。 私の中のもう一人の私が、私自身を信じちゃいけないって忠告してる。 ムギを安心させるだって? 見捨てたくせに? 仲間の事を切り捨てたくせに? 頭の中で反響するみたいにそんな言葉が何度も響く。 その言葉手だけが頭の中にこびりついて離れない。 吐き気がするくらいだ。 思い出すのは、昨日の風で離れ離れになってしまった仲間達の顔だ。 こんな世界でも、真面目に私達の事を引っ張ってくれた和……。 思ってたよりも優しくて強くて甘えん坊だった憂ちゃん……。 無邪気さと明るい笑顔で私達に元気を分けてくれた純ちゃん……。 大切なバンドのメンバーだった。 掛け替えのない仲間達だった。 三人の事を思い出すと、胸が張り裂けて引き裂かれそうな気持ちになる。 泣き出してしまいそうになってくる。 大声で泣き叫びたい。 でも、同時にまた頭の中で反響が始まる。 絶対に私を逃がさないって言わんばかりに、響き続ける。 『見捨てたくせに?』、『仲間の事を切り捨てたくせに?』って、 私を雁字搦めに縛り付けるみたいに……。 反響が続く度に私は私自身の事すらも信じられなくなって来た。 私は……、ムギと一緒で本当に安心してるんだろうか? いやいや、私が安心してるのは確かだ。 ムギと一緒だと心が落ち着くんだ。 でも、その安心はムギと一緒だから感じられてる安心なのか? それとも、あの視線を感じなくて済むから安心してるだけなのか? 辛そうな表情で私を見つめる唯の視線を感じずに居られるから、 唯と一緒に居なくて済むから、それで安心出来てるだけなのか? 多分、私を非難なんてしないだろうムギだから、責任逃れでほっとしちゃってるだけなのか? もう……、分からない……。 自分で自分の事が何も分からなくなってた。 ただ頭の中で反響だけが続く。 そうだ。 私は、 見捨てたんだ。 残された皆を優先して、過去を切り捨てたんだ。 私はそういう人間なんだ……。 ムギの肩に置こうとした手は宙を彷徨って、結局何処に置く事も出来なかった。 どうにかムギと持っているロープだけは離さないように強く強く握ったけど……、 それはムギと一緒に居たいからだったのか、 単に一人ぼっちになりたくないからだったのか……。 それはもう、 分からなかった。 ◎ 結局、ムギとはそれから一言か二言しか喋る事が出来なかった。 ロープだけ握って、少しだけ懐かしいホテルの中を二人で調べる。 当たり前って言うのも嫌になるけど、ホテルの中には猫の子一匹居なかった。 まあ、その辺は諦めてた事だけど、他の所を調べてちょっとだけ分かった事がある。 分かった事の一つ目は、壁に掛かってたカレンダーが二月だったって事だ。 日本とは時差があるって言ったって、半年近くもの時差があるわけがない。 人が消えた瞬間……と言うより、この世界の時間設定は二月だって事なんだろう。 道理で少しだけ肌寒かったわけだ。 でも、夏服で過ごせないほど肌寒いってわけでもないんだよな。 どういう事なのかは分からないけど、 意外とこの世界の夢を見てる人間が寒いのが苦手ってだけなのかもしれない。 寒いのが苦手、で思い出すのは唯だけど、それだけで決めつけちゃっても仕方が無い。 大体、私だって寒いのは苦手だしな。 分かった事の二つ目は、食べ物が全然腐ってなかったって事だ。 それはつまり、この世界で流れてる時間が現実とは全然違ってるって事だろうな。 少なくとも私達は一ヶ月近くこの閉ざされた世界で過ごしてる。 それでも食べ物が腐ってないって事は、 やっぱりこの世界が私達の中の誰かが見てる夢か何かだって証明になりそうだ。 つい最近、新しい夢として作られた世界なんだろう、多分。 だから、季節もおかしいし、食べ物も新鮮な状態で保たれてる。 それがいい事なのか悪い事なのかは分からないけどさ。 そこでちょっとだけ私は考える。 ひょっとすると……、ロンドンに和達が来れなかったのは、 今まで和達がロンドンに来た事が無かったからかもしれない。 三人がロンドンの事をよく知らないからかもしれない。 勿論、深い確信があったわけじゃない。 単に何となくそう思っただけだったけど、何故かそれは間違ってない気がした。 それ以外に私達と和達の違いが見当たらないしな。 卒業旅行でロンドンに行った側と行ってない側……、私達の差は多分そこだ。 和達は今どうなってるんだろうか……。 もう二度と会えないとしても、せめて無事に元気で居てほしい。 私が考えちゃいけない事だろうし、虫の良過ぎる考えだとも思う。 だけど、せめて祈りたかった。 ライブをする事は出来なかったけど、同じバンドのメンバーだったんだから……。 35
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/2976.html
「どうだい? 『第三候補(サードプラン)』の様子は」 「上々だよ。肉体は完全に修復できた。能力も十二分に発揮できる筈だ」 「それにしても凄いね。あんな状態の人間を完全に修復するなんて」 「私が持つ技術だけでは到底不可能だったさ。私の技術は壊す事や痛めつける事を前提としているからね。延命措置ならば得意なのだが、まあこれだけの世界の技術が集結しているんだ。蘇生もできない訳がないだろう」 声が、聞こえていた。 何も見えず、身体も動かせない中で、声だけが聞こえる。 「正直、人類の技術力には末恐ろしさを感じるよ。このまま進歩を続けていけば、そう遠くない未来、人類は僕の母星をも上回る技術力を手に入れるだろうね」 「私としては君達の存在の方が恐ろしいさ。遥か遠い宇宙にて、宇宙の存命を目的に活動する生命体……ふ、本当に宇宙は、いや次元世界とは広いものだ」 子どものように高く純粋な色を含んでいながら、それでいて淡白な雰囲気を滲ませた声と、口調は丁寧であれど聞いているだけで理由もなく不快感を覚える声。 この声達は、一体何を話しているのだろうか。 思考が回らない。 重い。ただひたすらに頭が重い。 「それで『彼女』に行った細工はどうだった? 上手く作動しているのかな」 「今のところは支障なく作動しているね。充分に『集結』しているみたいだ」 「……『鍵』。この『第三候補(サードプラン)』や『もう一人の鍵』ならまだ分かるが、あんな何処にでもいそうな少女がそれだけの力を秘めているとはね」 虚ろに漂う思考の中で、声だけが耳に届く。 欠如した思考では、いや元通りの思考があったとしても理解不能な会話。 漠然として時の中で、二つの存在が言葉を交わす。 「彼女は特別さ。因果を重なり合わせた末の結果だからね、僕達からしてもイレギュラーな存在だよ」 「……駄目だね、どうしても臆病になってしまうよ。正直言うと、私は『彼女』の存在を消し去ってしまいたい。『彼女』はただの人間のくせに力を持ちすぎている」 「へえ、人類の進化系である君であっても恐怖の感情はあるんだね。これは興味深い情報だ」 「当然だよ。むしろ人間よりほんの少しだけ進化してしまったからこそ、恐れるのさ。進化の隣人である人間を滅ぼさねば、種としての確立はないからね。 君やネウロ、『彼』のような存在の方が、まだ親しみは持てる」 『第三候補(サードプラン)』 『彼女』 『彼』 『鍵』 『もう一つの鍵』 言葉としては聞き覚えのある、だがしかし真意の読めない言葉が流れていく。 「『彼』か。僕達からすれば『彼等』のような種族こそが脅威だよ。『門』を開き、別次元の世界からエネルギーを『持ってくる』、それこそ魔法のような力。エントロピーを完全に無視した存在だね」 「そのような存在こそを、君達は探し求めていたのではないのかな? 目減りする宇宙全体のエネルギーを補填してくれる存在じゃないか」 「君だって気づいてるんだろう? 『彼等』が生成した質量分のマイナスエネルギーが、ある一点に蓄積されている。しかも、そのマイナスエネルギーは『彼等』の種族が稼働すればする程、更に増加していくんだ。 蓄積され続けたマイナスエネルギーが爆発でもすれば、それこそ文字通り宇宙は吹き飛ぶよ」 宇宙のエネルギー。 宇宙が吹き飛ぶ。 一笑に値する冗談のようなスケールの話が、この声達を通すと何故だか真実味を帯びて聞こえた。 まどろみの中で、困惑が漂う。 声の主は何を目的としているのだろうか、と。 「余りに規模が大きすぎる。私には理解の及ばぬ話だね」 「そうなのかい? 君を見ていると、何だか全てを理解しているように感じるよ」 「買いかぶり過ぎだよ。私はそこまで万能じゃあない。所詮一度は人外の者に滅ぼされた身だ。過度の期待には答えかねるよ」 意識が闇へと吸い込まれていく。 二つの声も徐々に遠ざかっていく。 眠気を何倍にも強くしたような感覚に、抗う事ができない。 「さて、『保険』も用意した。『必要悪』にして『第二候補(スペアプラン)』である『彼』。そしてこの『第三候補(サードプラン)』。『計画』は滞りなく進行できる筈だ」 「後は『鍵たる二人』を接触させるだけだね」 「ああ、楽しみだ。全てを知ったその時『鍵達』がどんな反応をしめすのか、想像するだけで心が沸き立つよ」 片方の声はやはり平淡なもので、もう片方の声は吐き気を催す愉悦に満ちていた。 ふと、気付く。 意識が落ち掛けている事に自分は安堵をしている。 これ以上、この声達の会話を聞かなくて済むと、心の底から安堵している。 そんな安堵感の中で最後の最後に聞こえてきた言葉は、 「だから、君も精々頑張ってくれたまえ。『第三候補(サードプラン)』」 大した期待もこめられていない、嘲りと侮蔑の含まれた声であった。 逃げるように意識は更なる深淵を求めて沈んでいき、そして――― ◇ そして殺し合いが開始して十数分ばかりの時間が経過したその時、垣根帝督は薄暗い住宅街にてボンヤリと空を見上げていた。 垣根は無表情に記憶を遡る。 微睡みの中で聞こえてきた二つの声。 朦朧とした意識の中で聞いた事だからか、その内容については殆ど零れ落ちている。 だがそれでも、会話を聞いたという事実だけは記憶に刻まれていた。 会話を聞いている中で覚えた不快感も然り、だ。 「……チッ、どうなってやがる」 自分は、死んだ。 いや、殆ど死んだも同然の状態であった。 『超能力を吐き出すだけの塊』となり、停止した思考の中で身体が弄くられていく過程を見ていた。 延命の為にとグシャグシャとなった身体を更に切り開かれ、切り分けられた。 延命の為にと殆ど崩壊しかけていた頭蓋から脳を取り出され、切り分けられ、保管された。 性善説という概念を抹殺してしまいたくなるような、最高にふざけた光景だったように思う。 今にして思えば、自我を失っていた事が幸運に思える程だ。 人道も、倫理も存在しない狂気の現場であった。 まるで地獄のようであった。 「……くそっ」 垣根帝督は大きく舌打ちをして、空を見詰める視線を険しいものにした。 垣根の身体が僅かに震えていた。 小刻みに、だが震えは身体全体を支配する。 垣根を襲う感情は、恐怖であった。 暗部に生き、何十という人間を惨たらしくも殺害してきた学園都市第二位の怪物が、恐怖に身体を震わせる。 そんな有り得ない光景が、確かに深夜の住宅街にて広げられている。 「訳が分からねえぞ、おい」 思い出せば思い出す程、震えが強くなる。 生きながらにして身体を腑分けられるその記憶。 その記憶は学園都市・第二位としての矜持も、自尊心すらも、打ち砕いていた。 世界中の軍隊を相手取れる怪物を、恐怖に身体を震わせるただの少年へと貶める。 「どうしろってんだ」 ふと思い出す言葉。 思い出せた数少ないワードの中の一つ。 「どうしろってんだよ、おい……」 『第三候補(サードプラン)』。 自分など存在しないかのように交わされた言葉の中で、唯一自分へと向けられていた言葉。 かつての学園都市でも、近い言葉に位置づけられていた。 だからこそ印象強く、半ば気絶状態の意識の中でも記憶に残ったのだろう。 アイツ等はこの殺し合いの根幹を知っているのだろう。 この『バトルロワイアル』とやらの奥に潜む何らかの『計画』。 その『計画』の保険の保険として―――『第三候補(サードプラン)』として、自分は参戦させられた。 あんな状態だった身体を完全に修復させてまで、自分を殺し合いに参戦させたのだ。 だが、分からない。 自分は何を成す為に蘇生させられたのか、この殺し合いに於いて何をさせるつもりなのか、分からない。 分からないからこそ、垣根は混乱する。 地獄の記憶により脆弱となった精神には、ともすれば恐怖の念すら滑り込む。 「……ふざけやがって」 夜空から視線を外し、恐怖を振り切るように首を左右に振る。 それでも心に根付いた恐怖は、強引に怒りへと転化させる。 自分は学園都市の第二位。 そう簡単に利用されるような存在ではないし、やろうと思えばあの主催者陣だって容易く壊滅できる。 殺し合いを終わらせ学園都市へと帰還したら、お礼参りも兼ねてあの狂った街を粉砕してやろう。 統括理事会も、統括理事長も、あのクソったれな研究員達も、全員ぶち殺す。 自分にはそれができる。 そう、だから恐れる事はない。 恐れる事ないのだ。 「ああ、ムカついた。ムカついたぜ、この野郎」 垣根帝督は無人の住宅街を睨み付けて歩き出す。 心根に確かな恐怖を宿したまま、そしてその恐怖を決して認めようとせずに、学園都市の第二位が活動を始める。 そんな彼が、その男と遭遇したのは更に半々刻ほどが過ぎた時であった。 適当に歩き回った市街地にて、隙なく周囲を警戒している男を発見する。 垣根は道角にて身を隠しながら、男を観察していた。 身体のラインにぴったりと張り付いた、青色のライダースーツのような服を纏った男。 薄い褐色の肌と燈色の瞳。 癖っ毛に曲がる髪は首元にまで伸びている。 その風貌を見て、垣根の暗部としての勘が鮮明に告げていた。 この男は、若い見た目と反して荒事に慣れている。 それも生半可にではなく、相当なまでに、だ。 だが、その外見からして学生ではないだろう。 つまり、超能力の類は使えない。 垣根が有する学園都市第二位の超能力・『未元物質』にはどう足掻こうと敵う事はない。 まぁ、例え能力が使えたところで垣根と勝負になる訳がないのだが。 (さて、どうするか……) 垣根は思案する。 殺し合いに乗るか、乗らないか。 たった数十人ばかりの人間を殺害するなど、垣根からすれば欠伸が出る程に容易い事だ。 だが、こんな殺し合いに巻き込まれただけの哀れな人間を見逃すぐらいの恩情は、垣根だってまだ有している。 しかし、殺し合いに乗ってしまった方が手っ取り早く、面倒でない事もまた確かだ。 どうするべきかと、垣根は男を見据えたまま思考を回転させていく。 先の男達の会話も気になる。 腹立たしくも『第三候補(サードプラン)』と位置付けられた自分。 奴等の魂胆は分からずとも、利用されていると知っていながら言う事を聞くほど、垣根はお人好しではない。 奴等の思惑からは出来るだけ外れるように行動を取っていきたい。 殺し合いに乗るか否か。 どちらが正解なのかは分からない。 垣根は第二位の脳をフル回転させながら、分かる筈もない問題を必死に解こうとしていた。 そんな逡巡の垣根を置いて、事態は動き出す。 視界の中にいる男が何かに気が付いたかのように顔を上げ、垣根の方へと顔を向けたのだ。 気配は断っていた。物音もたててはいない。 あのタイミングでバレる要素は何もなかった筈だ。 だというのに、男はこちらに気が付いた。 いや、それどころか、こちらに近付いてさえくる。 (チッ、どうする) 思考の中に焦燥が混じり始めている事を、垣根は感じていた。 どう行動すれば、自分はあの会話の主達の裏をかけるのか。 殺し合いに乗ることが正解なのか、乗らないことが正解なのか。 分かる筈のない自問に身を焦がしながら、垣根は接近してくる男を見つめる。 そして、遂に男が垣根の隠れる道角へと到達する。 塀を背に思考する垣根と、歩み寄る男とは最早数メートルと離れていない。 手を伸ばせば届く距離に、男と垣根は接近し、 (……は?) そして男は、垣根へと視線を向ける事すらせずに、離れていった。 思わず垣根は、ポカンと口をだだ開きにした。 別段、男は垣根の存在に気が付いた訳ではなかったのだ。 確かに男は『何か』に気が付き、顔を上げた。 だが、それは垣根を発見したという訳ではない。 また別の『何か』が男の注意を惹き付け、その歩みを向けさせた。 右往左往と動揺していたのも、結局は垣根の一人相撲だったという訳だ。 大きく垣根の舌が鳴る。 その表情には明確な苛立ちが宿っていた。 (らしくねえことばかりじゃねえか、クソが) 心中で悪態を吐きながら、垣根は男の後を追って歩き出す。 深い考えはなく、ただの興味本位でしかなかった。 自分でさえも気付けなかった『何か』に気付いた男に、垣根帝督は興味をもった。 ただそれだけの事だ。 男は何かに吸い寄せられるように深夜の家並みを進んでいく。 垣根も気持ち距離を空けながら、男の後方を忍び歩いていく。 男が立ち止まったのは数分ばかりの歩行の後であった。 男は、住宅街に並ぶ民家の一つを前にして立ち止まった。 垣根からは周囲のものと何ら変わりない民家にしか見えないが、男にとっては何かが違うのだろう。 男はジッと家を見上げ、そして玄関を開けて、中へと入っていく。 垣根はその様子を見て、民家の裏側へと回り込んだ。 男が気付いた『何か』はこの民家内にあるのだろうが、バカ正直に後へ続けば流石に追跡がバレてしまう。 家の側面にある窓を覗き、垣根は室内の様子を観察する。 そこには、一人の怪我人と一人の少女がいた。 ◇ ソレスタルビーイングのガンダムマイスター刹那・F・セイエイは、急転した事態に混乱の極みへと叩き込まれていた。 人類の存亡を賭けた『対話』を果たす為、ダブルオークアンタを駆り、ELSの母星へと量子ワープを行った。 ELSが母星の位置は木星。 通常の航路を取れば年単位での期間が必要な距離も、ダブルオークアンタの力をもってすれば一瞬に短縮できる。 そこでELSと『対話』を行い、相互理解を深めていた……その最中であった。 なのに、気付けばこの殺し合いの場にいた。 クアンタからも降ろされ、宇宙空間にいた筈の自分が地面へと立っている。 何が起きたのか、刹那の理解が追従する事はない。 混乱の渦中に落とされた刹那は、それでも何とか冷静の思考を取り戻そうと努めた。 謎の老人から伝えられた『バトルロワイアル』という名のゲーム。 生き残る為には他の参加者を殺害し尽くさねばならない、人道という言葉からかけ離れた陰惨極まる殺し合い。 刹那は自身の内側にたぎるものを感じていた。 (変わらない……) 争いを見てきて、争いを無くそうとし、争いに生きてきた。 その末に緩やかなれど世界は変革されていった。 争いの無い世界へと、皆が皆で手を取り合える世界へと、少しずつ少しずつ変わっていった。 勿論、全ての争いが消失した訳ではない。 世界の各地では小規模な紛争が続けられているし、それを利用して自らの利益を手に入れようとする人間もいる。 だからソレスタルビーイングは存在し、誰にも知られぬ歴史の裏側で活動を続けてきた。 それでも確実に人々の心へ変革の光は灯されていき、その範囲は拡大していった。 そう思う。 そう信じている。 だからこそ、心の内側で騒ぎ立つものがある。 変革していった世界で、ELSという異種生命体の襲来により一致団結した世界で、そんな世界でも、このような事を執行する人間がいる。 (変わらないのか……人の心は……) 苛立ちと、そして虚しさが宿る。 世界とは、人の心とは、変わらないのか。 ELSの襲来、人類の滅亡という障害を乗り越えて尚も、変わらない者がいる。 その事実は刹那へと苛立ちと、そして苛立ちを遥かに超える虚しさを与えていた。 「なら、俺は―――」 刹那の瞳に、刹那の身体に、力が籠もる。 この殺し合いを、このバトルロワイアルを、止める。 ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、刹那・F・セイエイとして、自分は動く。 それが自分の成すべき事、成さねばならぬ事だ。 「―――破壊する……俺は、この歪みを破壊する」 デイバックの中にあった拳銃を装備し、刹那は暗闇の中を歩き出す。 最初期の場は暗闇の森林であった。 刹那は周囲を警戒しながら道無き道を進み、人を探し始める。 だが、十分二十分と経過せど、人の姿は発見できない。 焦りが募り始めてくるが、こればかりはどうしようもなかった。 ただ五感と足に任せて会場を踏破していくしかない。 森林を抜け、住宅街に差し掛かる。 人の気配も灯りの一つもない住宅街は、言いようのない重圧を刹那へと与えていた。 周囲を見回しながら道を進むも、やはり人の気配はない。 音もなく、静かな静かな世界であった。 「―――ッ!?」 その時だった。 市街地の探索を始めて十数分ばかりの時間が経過したその時の事だ。 声が、聞こえた。 どうしてこうなったの、と。 怖いよ、と。 助けてよ、と。 声が、聞こえた。 まるで脳内に直接語り掛けられているような声であった。 (これは……) 近い感覚を上げるとすれば脳量子波による共感と同調。 だが、その感覚は今まで経験したそれとは異なる、あちら側から語りかけてくるだけの、まるで一方通行の共感であった。 頭蓋に直接語りかけてくる声は、悲壮と悲痛と絶望に満ちている。 刹那は―――純粋種のイノベイターたる男は頭蓋に響いた声に顔を上げ、振り返った。 そして、声のする方角へ引き寄せられるように、歩みを始めた。 声はまるで泣いているかのようであった。 いや、実際に泣いているのかもしれない。 この声の主はイノベイターと成りうる可能性を持っているのだろうか。 だからこそ、この殺し合いに呼ばれてしまったのか。 もしかしたら、この殺し合いはイノベイターに対する忌避感を有する者が開催したのではないか。 止めどなく溢れる考えに包まれながら、刹那は足を早めていく。 数分後、刹那は一軒の民家を前に立ち止まっていた。 何の変哲もない、灯りも灯っていないただの民家。 刹那は躊躇う事無く家内へと侵入していく。 侵入し、そして発見した。 六畳ほどの和室にて寝かされている男と、その枕元にて男を庇うように両手を広げている少女を。 刹那は発見した。 発見し、理解する。 あの声の主は、この少女なのだろうと。 理解し、口を開いた。 「落ち着け。俺は殺し合いには乗っていない」 拳銃をデイバックへと収め、戦意はないと伝える為に両手を頭上へと上げ、言葉を紡ぐ。 紡いだ言葉に、少女は一瞬の当惑を浮かべ、安堵感に脱力した。 ほどけた緊張に身体を弛緩させ、少しの間を開けてしゃくりを上げる。 少女は声を押し殺すようにして、涙を流し始めた。 ◇ そして、そんな少女の泣き声を、垣根帝督は民家の裏庭にて聞いていた。 どっちらけだ―――正直に今の垣根の気持ちを表すならばこうであった。 男の追跡の果てに何が待ってるのかと思いきや、どっからどう見てもただの学生でしかない少女に、満身創痍の怪我人だ。 あそこまで身構えていたのがアホらしくなる。 滑稽とも言えた。 あんな暗部のあの字も知らないようなガキを集めて殺し合い? 第二位の力を、あんなガキや能力者でもない男を数十人ばかり殺害する為に使え? 馬鹿らしい。 ああ、馬鹿らしい。 深く考えるのは止めだ。 俺は好きなようにやらせてもらう。 せっかく掴んだ二度目の生なのだ。 『第三候補(サードプラン)』だろうと何だろうと、関係ない。 俺は俺だ。 垣根帝督として好きなように行動し、お前等を、学園都市をぶっ潰す。 それだけだ。 垣根帝督が歩き出す。 玄関口から家内へと入り、啜り泣きが聞こえる部屋へと惑いなく向かっていき、入室した。 一斉に此方を見つめてくる二つの視線。 涙目の少女は恐怖感を前面に押し出し、少女に寄り添うように膝を折る青年は警戒を前面に押し出す。 青年は淀みない動作でデイバックから拳銃を取り出し、垣根へと銃口を突き付けた。 「俺は垣根帝督。俺も殺し合いには乗ってねえ」 彼は接触した。 大それた理由などない。 ただの気紛れに従って、垣根は一軒の民家にて集結した集団と接触した。 もう誰の思い通りにも動かない。 学園都市の暗部としてではない。 学園都市の『第二候補(スペアプラン)』としてでも、奴等の『計画』の『第三候補(サードプラン)』としてでもない。 『未元物質』垣根帝督として、自分の好きなように動かせて貰う。 だから殺し合いには乗らない。 その上で、奴等も、学園都市も、ぶちのめす。 それが、垣根帝督の意志であった。 「まぁ、よろしく頼む」 涙目の少女はポカンと間抜け面でこちらを見ている。 薄褐色肌の少年は未だ警戒と当惑をない交ぜにした表情でこちらを見ている。 垣根は両手を上げて、警戒心を解くように、それでいて小馬鹿にするような笑みを浮かべた。 【一日目/深夜/G-8・住宅街・民家】 【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 基本:自分の好きなように行動する。殺し合いには乗らない 1:とりあえず目の前の男達と行動してみる 2:首輪も外しといた方が良いか 3:『第三候補(サードプラン)』……何の事だ? [備考] ※『能力を吐きだすだけの塊』となった後からの参戦です 【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-】 [状態]健康 [装備]ダッチのリボルバー@ブラックラグーン [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2 [思考] 基本:『バトルロワイアル』に介入し、殺し合いを止める 1:眼前の少女と情報を交換する。少年についてはまだ警戒を解かない 2:殺し合いに乗っている者がいれば止める 3:首輪の解除法を考える 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いには乗らない 0:こ、この人は……? 1:相川の治療。 2:相川と行動し、皆を探す。 3:ほむらちゃん、どうして……? 4:何だったんだろ、さっきの胸の痛み…… 【相川始@仮面ライダー剣】 [状態]腹部、胸部、左足にダメージ大(治癒中)、ジョーカー化への欲求(極少)、気絶中 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ラウズカード(ハートの2)@仮面ライダー剣、ランダム支給品×1~3 [思考] 基本:殺し合いを止める。兵藤の元へ行き、兵藤をぶっ殺す 0:気絶中 1:まどかと共に、他の参加者とまどかの友達を探す 2:ラウズカードの確保 3:橘達とも合流する 4:剣崎……。 ※原作終了後から参加させられています ◇ ―――そして、『悪意』の定向進化を果たした男と宇宙の存命を目的と掲げる異種生命体は、そんな三人の様子を、暗闇に映し出されたモニターを通して見つめていた。 「予定通り『鍵の二人』が接触。おまけに『第三候補(サードプラン)』も合流だ。君はここまで予想していたのかい、シックス」 「まさか、幾ら何でも、ここまで上手く事が転がるとは思っていなかったさ。幸運というものだよ、インキュベーター」 男は、暗闇の中でお気に入りの椅子に腰掛け、膝に白色の犬のような生き物を乗せて、モニターを見つめる。 表情には愉悦があった。 まるで全ての結末を知っているかのような、その行く末の悲劇を知っているかのような、そんな歪んだ笑顔。 深い深い愉悦と、そして不快感を振りまく笑顔で、その光景を見る。 「さて、後は見守るだけだ。彼等が『第一候補(メインプラン)』を発見できるのか、そして『彼女』の仕掛けがしっかりと機能するのかを、ね」 男は膝上の動物を優しく撫でながらモニターを見据え、ゆっくりと口を開いた。 男は思う。 希望の果てに待つだろう結末。 その結末を知った時、彼等はどのような反応をしめすのか。 その反応はどんなに面白いものなのだろうか。 どれほど我が脳髄の欲求を満たしてくれるのか。 思いながら、知らずに口を歪ませる。 歪な歪な笑顔で、男はモニター上の『バトルロワイアル』を観戦していた。 モニター内の世界では、夜空が更なる深淵をもって参加者を包み込んでいく。 長い長い『バトルロワイアル』はまだ始まったばかりであった―――、 Back 友達ができるよ、やったねマミちゃん 時系列順で読む Next 絶望【シアワセ】 Back 友達ができるよ、やったねマミちゃん 投下順で読む Next 絶望【シアワセ】 敗者の刑 シックス Next もう誰にも頼らない キュゥべえ Next GAME START 垣根帝督 Next GAME START 刹那・F・セイエイ Next もう誰にも頼らない 鹿目まどか Next もう誰にも頼らない 相川始 Next
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18259.html
私がそれを伝えるより先に、唯がもう一度言った。 唯が言う必要ない言葉を、また言ったんだ。 「ごめん……ね……」 「どうして……、どうして謝るんだよ、唯……」 「だってだって……、りっちゃんが捨てた物なのに、 りっちゃんが……ちゃんと考えて捨てた物なのに、私が拾っちゃって……ごめん……。 でも……、でもね……、りっちゃんには……、捨ててほしくなかったんだ……。 私の我儘だけど……、りっちゃんに思い出を大切にしてほしかった……から……。 我儘な事言って……、ごめん……ね……」 思わず息を呑んだ。 ああ……、何だよ……、何て事だよ……。 唯は思い出を大切にする。私は未来に進む。 二人のその想いは違ってるようで同じだったって事に、何で私は気付かなかったんだ。 私は未来を、皆の未来を守りたかった。 同じ様に唯は思い出を……、自分だけじゃなくて、皆の思い出を守りたかったんだ……。 過去を捨てようとした私の思い出まで……。 馬鹿だ。唯は本当に馬鹿だ。 私なんかのためにこんなに満身創痍の状態にまでなって……。 死にかけてるんだぞ、おまえ……。 私は捨てようとしてたのに……。 過去と思い出を捨てようと思ってたのに……。 何て……、何て馬鹿な奴なんだ……。 そして……、それに気付けなかった私が一番馬鹿だ……! 「ごめん……。ごめん……ね……」 また唯が謝る。 辛そうに、苦しそうに、悲しそうに謝る。 もうやめてくれ、唯。 おまえは謝らなくていい。もう謝らなくていい。 むしろ責めてくれ。 こんな結局自分の事しか考えられなかった私を、 思い出を捨てる事で唯達も捨てる事になりそうだった私を責めてくれよ……! 「もういいよ、唯……。 謝るなよ、もう……、謝らないでくれよ……。 ピックの事は私も怒ってない……。だから……」 私が言うと唯が苦しそうに首を振った。 ピックの事以外に謝りたい事がある……。 そんな素振りに見えた。 「ううん、私……、謝らなきゃ……。 皆に謝らなきゃ……、いけないんだ……。 だって……、私ね……、気付いちゃったんだ……。 ずっとベッドに寝ててね……、皆に看病されてて……、 何だか思い出して来たんだ……。 私……、確か……、風邪になる前から、皆にずっと……」 それ以上の唯の言葉は聞けなかった。 急激に唯が苦しみ始めたからだ。 痙攣してるみたいに身体を震わせ始めて、呼吸も荒くなって、 本当に辛そうに……、苦しそうに……。 「唯……? おい、唯! しっかりしろ! おい……!」 「うぅ……、だいじょ……はぁはぁ……ぶ……」 「大丈夫なわけがあるか! 今、澪達を呼びに……!」 瞬間、私の中で一つの記憶が甦った。 夢か……、妄想か……、現実か……。 とにかく私の中に唐突に溢れ出すように記憶が湧き上がって来る。 思い出すのは今と同じ様に病室のベッドに横たわる唯の姿。 ベッドの上で沢山のコードに繋がれた唯の姿……。 辛そうに唯の姿を見下ろす憂ちゃんと和。 遠巻きに三人を見つめる私と澪とムギと梓……。 何だ? この記憶は何だ? どうしてこんな記憶が私の中にある? 私達は一陣の風でこの閉ざされた世界に迷い込んだけど、 こんな状態になった事は一度も無かったはずだ。 無かったはずなんだ……! でも、違う、と私の中のもう一人の私が考える。 曖昧だった記憶が少しずつ辻褄を合わせてまた甦ってくる。 そうだよ……。 あの一陣の風が吹いた日……、やっぱり私達は間違いなくライブをやったんだ。 菫ちゃんと奥田さんって子も紹介されて、わかばガールズのライブも聴いたんだ。 帰り道、さわちゃんも一緒に学校から帰ってて、 その途中で私達は……、私達は何かがあって大怪我をして、 その時に強い風が吹いて、でも、その風はただ吹いただけで……、 それで……、それで唯は……。 今みたいにベッドの上に……。 突然の記憶の渦に巻き込まれて、息が出来なくなる。 これ……か……? こういう事だったのか……? 私は……、私達は……、だから、失いたくなかったのか? 失う事が怖くて仕方が無かったのか? 失いたくなくて、傍に居たくて……、それでこの世界に逃げ込んだのか? 目眩がしてしまいそうだ。 いや、実際に目眩がしてる。 唐突な真実を受け止めきれない。 でも、そんな事よりも、今は……、今は、そう……。 私の目に写るのはベッドの上で苦しむ唯。 熱に苦しみ、不安や、辛さや、悲しさや、色んな物に追い詰められている唯の姿。 残りほんの少し悪い方に転んでしまったら、 すぐにでも死んでしまう可能性がある唯の姿だ。 死に瀕している唯……。 この世界が何なのかはっきり分かったわけじゃない。 沢山の事を思い出しては来たけど、まだまだ分からない事だらけだ。 でも、一つだけはっきりしてる事がある。 私は失いたくなかった。 大切な仲間をを失いたくなかった。 失いそうになって、失いたくなかったから、何が何でも傍に居ようと思った。 どうしても傍に居たかった。 そうやって私はこの世界に辿り着いたはずなのに、 私はまた大切な仲間を失いそうになってしまっている。 しかも、今回は唐突に訪れた事故や事件じゃなく、 紛れもなく私の責任で、仲間を失いそうになってしまってるんだ。 今、唯が苦しんでるのは、完全無欠に私の責任なんだから。 吐き気がした。 目眩や動悸や窒息しそうな息苦しさや、多くの苦しみが私を襲う気がした。 でも、そんなの自業自得だし、唯の方がその何倍も苦しんでるんだ。 私の苦しさなんて、自業自得どころか自己満足レベルの勝手な症状だ。 そんなの……、気にしてるわけにはいかない。 ……って、何やってるんだよ、私は! 私には何も出来ない。 唯の治療をする事どころか、唯を安心させてやる事すらもきっと出来ない。 私はもう……、唯を苦しめる存在でしかないんだ……。 だからこそ……。 だからこそ、せめて唯が安心出来る仲間くらいは、私が呼びにいかないと……! 私は「ちょっと待ってろ!」って唯に言ってから、 唯に背中を向けて駆け出そうとしたけど、その私の右手は誰かに強く掴まれた。 考えるまでもなく、当然、私の右手を掴んだのは唯だった。 唯は病人とは思えないほど強い力で、私の右手を掴んでいた。 私は自分が動揺するのを感じながら、私の手を掴んでる唯に視線を向けた。 驚いた。 相当苦しいはずなのに、40℃以上の熱があるくせに、 唯がいつの間にか身体を起こしていて、まっすぐな強い視線で私を見つめていたからだ。 「お……、おい、放せって……! 私じゃ看病も治療もしてやれそうにないし、だから……!」 唯の存在感に気圧されそうになる自分に気付きながらも、私はどうにか唯に言った。 せめて、私に出来る最後の事くらいはやらなきゃ、 それくらいは出来なきゃ、もう、私は……。 だけど、唯は強い視線のままで首を横に振った。 息も絶え絶えながら、私に言葉を伝えようと口を開いて喋り始めた。 「でも……、ね……。 私……、りっちゃんに聞いて……ほしい事が……あるんだ……。 はぁ……、ずっと前……から気付いてたんだけど……、 怖くて……、皆に嫌われちゃうのが……嫌で……、 言い出せなかったんだ……よね……。 私……、私ね……、きっと……」 「いいから喋るなって! おまえ、自分がどういう状態なのか分かって……」 「聞いてったら!」 唯の大きな声が部屋の中に響く。 真剣で、強い意志のこもった唯の叫び……。 それだけで、私は唯に対して何も言い返せなくなる。 涙が溢れ出しそうになる。 自分が情けなくなったからでもあるけど、唯の強い気持ちを感じ取れた気がするからでもある。 唯は……、覚悟している。 覚悟して、決心しているんだ。 そんな強い想いを持った唯を止める事なんて……、私には出来ない……。 私は俯きそうになりながら、 それでも、どうにかそれを食い止めて、唯の顔に視線を向けた。 唯の奴は……、息を切らしながらも、嬉しそうに微笑んでくれていた。 「ごめんね……、大きな声出しちゃって……。 でもね……、聞いてほしいんだ……。 私の考えを……、聞いてほしいんだよね……。 りっちゃん……さ。 この世界……、閉ざされた世界……だっけ? 確か和ちゃんが……、そう呼んでたような気がするけど……、 まあ……、それはいっか……。 とにかくこの世界が……、誰かの夢の中じゃないかって……、思ってるんだよね……? 私も……、そうだ……と思うんだよね。 音の響き方が違う……気がするし……、普通の世界とは何か違う気もするしね……。 最初にそうじゃないかって思い始めたのは……、澪ちゃんに訊かれた時から……なんだ。 あの公園の……、大きな樹……。 「律が落ちて骨折した事あるんだけど、あの公園にそんな大きな樹があるの知ってるか?」 ……って、澪ちゃんとお喋りしてた時に……、訊かれたんだ……」 あの樹……。 小さな頃、私が落ちた事があって、 この世界では何故か存在してないらしくて、 実際に確認に行った時にも、存在を確認出来なかったあの樹の事だ。 何故か、生き物が消えた後に存在しなくなった樹。 澪は唯にその樹の事を訊ねた。 別に唯を狙い打っての質問じゃないだろう。 誰か憶えてない人間が居ないかと思って、質問してみたんだろう。 それが何かの手掛かりになるんじゃないかと思って……。 唯が続ける。 困ったように微笑みながら、静かに。 「私ね……、その樹の事、知らなかった……。 ううん、多分ね……、忘れてたんだと思う……。 後で気になってね……、憂や純ちゃん達にも訊いてみたんだけど、 私以外の皆は憶えてるみたいだったんだよね……。 あははっ……、私だけ記憶力が無くて恥ずかしい……ね……」 唯が何を言おうとしているのかは、もう完全に私にも分かった。 私だって、思ってなくはなかったんだ。 この中途半端に再現された世界は私達の中の誰かの夢じゃないかってずっと思ってた。 この世界に居る私達の人格はともかくとしても、 世界全体は誰かの意志が創り上げた夢のような存在のはずなんだ。 でも、それ以上の事は考えないようにしてた。 分かってどうなるものとも思えなかったし、犯人捜しをするみたいで怖かった。 誰かの責任にしたくなかった。 何より自分の夢かもしれないって思いたくもなかった。 それで……、私はずっと問題を棚に上げてた……。 でも、私と同じ様に、やっぱり皆もこの世界について考えてた。 皆も何も考えてないわけじゃない。 事態を前進させるために、必死に色々考えてたんだ……。 ああ、そうだ。 もう……、目を逸らすのはやめよう。 勇気を出して、ちょっと情報をまとめれば分かる事だ。 そうだ。この世界はきっと夢なんだろう。 私達の意識が少しは影響してるかもしれないけど、 誰かの夢が大部分を構成してると考えて間違い無い。 なら、この世界の根本となった夢は誰の夢なのか? まず憂ちゃん、純ちゃん、和ではありえない。 三人は今この世界に存在しないし、和の場合は特にタイムカプセルの件もある。 生徒会で埋めたらしいタイムカプセル……。 それがこの世界に無かった理由は、和以外の皆がタイムカプセルの事を知らなかったからだろう。 知らない以上、タイムカプセルの再現なんて出来るはずもない。 残されたのはロンドンに転移させられた私達五人だ。 この世界がロンドンを再現出来てるのは、卒業旅行でロンドンに来たからだろう。 ロンドンだけはどうやったって和達には再現出来るはずもない。 その点から考えても、この世界は和達三人の夢ではないはずだ。 残った五人の中でこの世界の夢を見てる可能性が一番高いのは誰か? まず梓ではありえない。 理由は元唯の席に入っていた私と唯の落書きだ。 私達と同じクラスじゃない後輩の梓が落書きを知っているはずがない。 憂ちゃん辺りから話で聞いていたとしても、落書きがどんな内容かまでは知らないはずだ。 残る中では澪とムギでもありえない。 理由はサザンクロスこと南十字星の位置だ。 ロンドンに転移させられる前の日本……、星空には何故か南十字星があった。 星が好きなメルヘンな澪と優等生のムギは南十字星が日本で見えない事を知ってる。 そんな不自然な点を世界に再現するだろうか? 日本でも見たかったからそこだけ捏造した、 って考える事も出来るけど、真面目な二人だけにそういう事はしなさそうな気がする。 例えそれがただの夢でも、だ。 残るは私と唯になる。 直接聞いた事は無いけど、唯は南十字星が日本で見えないって事は知らなかったはずだ。 私も知らなかったわけだし、唯もそう星に興味があるようには思えない。 ここまでは私も絞ってた。 ロンドンに転移させられた頃には、目星を私達二人に絞ってた。 それ以上は怖くて出来なかった。 犯人を見つけたくなかったし、自分がこの夢を見てる本人だなんて、思いたくもなかった。 すごく……、怖かった……。 だけど、もう分かった。 さっきの唯の言葉で分かったんだ。 私はあの公園の樹の事を憶えてる。はっきりと憶えてる。 あの樹は辛くて楽しい私の思い出のある樹なんだ。 例え夢の中でだって、あの樹を忘れるもんか。 他の何を再現出来てなくたって、あの樹だけは忘れないと思う。 つまり……、この世界の根本になった夢を見ているのは……。 私は静かに唯に視線を向ける。 責めるわけじゃない。疑うわけでもない。 ただ静かに唯を見つめる。 私の考えを分かってくれたようで、唯はまた困ったように笑いながら言った。 「ごめん……ね……」 何度も聞いた唯の謝罪の言葉。 二重三重の意味が込められていた唯の『ごめん』……。 そういう……事だったんだよな……。 唯に何て言えばいいのか分らない。 私はそもそもこの夢を見てる誰かを知りたいわけじゃなかった。 この世界から脱け出せれば、それでよかった。 知りたくなかった。 知ってしまえば、誰かを責める事になるから。 きっと弱い私は誰かを……、唯を責めてしまうから……。 でも、それは結局逃げていただけだったのかもしれない。 誰からも責められない事で、唯はずっと罪悪感を一人で背負ってたんだ。 私が……、逃げていたからだ……。 私は何とか口を開く。 唯に少しでも私の気持ちを伝えるために。 何を言えるかは分からないけど、とにかく何かを伝えるために。 だけど、それより先に唯が言った。 聞きたくなかった決意を口にした。 「皆に……、迷惑掛けて……ごめんね……。 でも、大丈夫……だから……。 大丈夫……になりそう……だよ? この世界は……多分、ううん、きっと、私の夢……。 だからね……、もうすぐ元に戻るはず……だよ? 皆も……元の世界に……、戻れるはず……。 私が居なくなっ……たら……ね。 私がね……、 死んだら」 死んだら。 唯のその言葉には聞いてて辛くなる杭くらいの決意が込められていた。 覚悟が決められた言葉だった。 唯は覚悟してるんだ、自分が死ぬ事を。 自分が死んで、この世界から私達を解放する事を。 言うまでもない事だけど、この世界が唯の夢だって確定したわけじゃない。 色々考えてはみたけど、結局は全部仮定なんだ。 唯の夢である可能性が高いってだけで、それ以上でもそれ以下でもない。 唯が死ねばその夢が覚めるのかもしれないけど、 そんな物の試しみたいな理由で唯が死んだって何の意味も無い。 唯が死ぬ必要なんて無い。 死なせてたまるか。 でも、そんな事は唯だって分かってるだろう。 分かってて、言ってるんだと思う。 自分は今の所死ぬ必要は無い。 でも、必要となったら、死ぬ事になったって構わないって思ってるんだ。 私達をこの閉ざされた世界から解放させるためなら、 自分の命だって惜しくないって思ってるんだ。 そんな事させるか。 そんな事させてたまるか。 私はこの世界から早く脱け出したかった。 元の世界に戻りたかった。 でも、それはこんな意味ででじゃない。 皆で一緒に戻って、皆と一緒にまた笑い合えるために、この世界から脱け出したかったんだ。 また皆で演奏したかったんだ……。 唯が犠牲になって、唯無しで演奏して、どうなるってんだよ……。 そんなの……、そんなの嫌だよ……。 「やめろよ、唯……。 死ぬなんて、そんな事言うなよ……。 おまえに死なれたら、私は……、私は……」 まっすぐな視線を崩さない唯の表情を見ながら、私はどうにか呟く、 強く強く痛む胸と戦いながら、消え入りそうな声で呟く。 呟きながら、本当は分かってた。 唯は簡単に生き死にの問題を口にする奴じゃない。 唯は色んな物を大切にして、ちょっとした物でも失うと悲しむ奴だ。 大切な物が分かってる奴なんだ。 そんな唯が大切な自分の命を犠牲にする話をするだなんて、とても……辛い。 勿論、唯にその決意をさせてしまった原因の一端は私にあった。 唯の体調を崩させてしまったのは私だ。 過去を、思い出を抱えながら生きる自信が無かった私の責任だ。 私は捨てようと思った。ピックと一緒に思い出を捨てなきゃ、生きていける自信が無かった。 失ってしまった皆、和達の事を思い出すと、 辛くて、悲しくて、動き出せなくなくなりそうだった。 だから、私は屋上からピックを投げ捨てたんだ。 でも、唯はそれを嫌がったんだ。 自分だけじゃなくて、私達全員の思い出を大切にする奴だから、 私の捨てようとした過去や思い出や想いまで拾い集めて来てくれたんだ。 満身創痍の状態になってまで。 死を意識するくらい、こんなに体調を崩してまで……。 44
https://w.atwiki.jp/tetrismonster/pages/40.html
第7話 閉ざされし心 火属性モンスターが登場。しかし、水属性で偏らせると7-3のアースホブゴブリンに足をすくわれることも? クエスト一覧 洞窟は謎を抱える 消費スタミナ 7 バトル数 34 獲得経験地 100 Gold 2700 バトル 出現モンスター 備考 1 ファイアーバウ ファイアーサボン 2 ファイアーウー ファイアーマッシュ 34 ファイアーホブゴブリン ボス 不安と焦燥 消費スタミナ 7 バトル数 34 獲得経験地 100 Gold 2700 バトル 出現モンスター 備考 1 ファイアーペンペン ファイアーキングペンペン 2 ファイアーゴブリン ファイアーゴブリン 34 ファイアーバウ ボス それでも歩き続ける 消費スタミナ 7 バトル数 34 獲得経験地 100 Gold 2675 バトル 出現モンスター 備考 1 ファイアーホブゴブリン アースホブゴブリン 2 ファイアーバウ ファイアーバウ 34 ファイアードラコ ボス 王子を探して 消費スタミナ 9 バトル数 56 獲得経験地 200 Gold 3900 バトル 出現モンスター 備考 1 ファイアーキングアルッカ ファイアーマッシュ 2 ファイアーキングペンペン ファイアーゼリー 3 ファイアーホブゴブリン ウォーターホブゴブリン どちらかのパターンが出現 風の女神 4 ファイアーマンドラ ファイアードラコ 56 ウィザード ボス このページの意見、情報提供、反論、感想などあればコメントどうぞ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18249.html
「憂達を探そうよ、りっちゃん! 憂なんだし、和ちゃんだって傍に居るし、純ちゃんもきっと寂しがってるよっ? 早く……っ! ね? 早く見つけてあげなきゃ、三人とも可哀想だよ……っ! 大丈夫……、大丈夫だよ……、大丈夫だから……。 ちょっと離れた所で、憂達が絶対待ってるんだから、だからね……っ!」 らしくなく声を張り上げて、唯が食い下がる。 食い下がりたい唯の気持ちは分かる。 同時に唯が心の奥底ではやっぱり今の状況を理解してるのも分かる。 『大丈夫』と口にしながら、唯の不安そうな素振りは全然変わらない。 いや、むしろ『大丈夫』と口にする度に、表情を歪め、辛そうな様子に変わっていってた。 唯も分かってるんだ。 この閉ざされた世界には……、 少なくとも私達の手の届く範囲には、 憂ちゃんも純ちゃんも和も存在してない事に。 それでも三人を探すべきだったのかもしれない。 時間を決めて、決められた時間まで精一杯三人の姿を探すべきだったのかもしれない。 そうすれば、誰か一人くらいは見つけられたかもしれない。 だけど……。 探し出したら、絶対にきりがなくなる。 大切な仲間達なんだ。 いくら探したって、探し足りるって事は無いだろう。 探し始めたら最後、私自身だって三人を探すのを途中で引き上げられるとは思えない。 冷たい考えだって思うけど、私は居なくなった仲間達よりも残された仲間達を大切にしたかった。 私は天秤に掛けたんだ。 消えた仲間達と残された仲間達を。 ほんの少し片方に傾いた……だけなら、まだ救いがあったかもしれない。 でも、私の中の天秤は、物凄い勢いで残された仲間達の方に傾いていた。 過去に目を向けられない。過去に目を向けたくない。 せめてこれからの事、未来の事に目を向けていたいから、私は唯に言ったんだ。 「唯……。 憂ちゃんでも、和でも……、無理なものは無理なんだ……。 何でも出来そうなあの二人だって……、こんな状況、どうにか出来るかよ……。 傍に居るはずだって信じたいけど……、でも、多分、三人はもう……。 だから……、これ以上の事を、私に言わせないでくれ……!」 私の言葉は聞こえて、理解も出来てたはずだ。 でも、唯は嫌だと言わんばかりに、涙を散らしながら顔を横に振った。 私だって……。 私だって嫌だよ……。嫌に決まってる……! でも、私はそれ以上に残ったおまえ達を失いたくないんだ! 痛いほどに唇を噛み締める。 気が付けば鉄の味が口の中に広がってた。 どうも強く噛み過ぎて、唇の何処かを切ってしまったらしい。 痛みは感じなかった。 唇の痛みに感けてる暇なんてなかった。 唇の痛みより、胸の痛みの方が何倍も痛かった。 最初から、私達の会話はいつまで経っても平行線だって事は分かってた。 唯は何もかもを大切にする奴だから……。 いちばんがいっぱいある奴だから……。 何かを切り捨てる事なんて出来ない奴なんだって、私だって知ってる。 一番好きな物を一つに絞り切れない……、 そんな唯が大好きだけど、今だけは駄目なんだ。 今は何かを選ばなきゃいけない時なんだ。 不意に澪が立ち上がって、ムギの手を引いて唯の方に歩き出した。 それから唯の手を握り、諭すみたいに優しい声で話し始める。 「なあ、唯……。 憂ちゃん達、探そう? それなら、おまえも納得するだろ……?」 「おい、みっ……」 私がその言葉を止めようとした瞬間、澪は優しい視線を私に向けた。 『私に任せてくれ』って言ってるみたいに見えた。 私の幼馴染みの澪がそう言うんなら、任せるしかない。 澪はいつだって私の傍で、私の考えを尊重する答えを出してくれた。 だったら、任せるしかないじゃないか……。 唯が澪の突然の申し出に戸惑った表情を見せる。 自分が無茶な事を言ってた事は自覚してたみたいで、不安そうに呟き始める。 「い、いいの、澪ちゃん……? 私……、憂達の事、探してもいいの……? 探して……いいの……?」 「勿論だよ、唯……。 憂ちゃんも純ちゃんも和も大切な仲間じゃないか。 見捨てる事なんて、出来ないだろ……。 探そう、私達に出来る限りは……。 でもな……」 「でも……?」 「探すのは前に泊まったホテルまでの道中だけだ。 見た感じ、この近辺に三人は居ないみたいだ。 だったら何処に居るかはともかく、こことは違う遠い場所に居るんだろうな。 幸い……って言うのも変だけど、ここからホテルまでは結構な距離があるよな? その道中、三人をじっくり探しながら進むんだよ。 ホテルに到着しちゃったら、今日の捜索はおしまい。 それなら……どうだ?」 いい案だな、と私は思った。 それなら私の考えと唯の想い、両方を尊重出来る。 こんな状態で澪は冷静だよな……。 冷静な判断が出来てる。 いや……、違うか。 澪の肩は私達と同じく少し震えてるみたいだった。 震えてるけど、怖いけど、勇気を出してるんだ。 大体、五人で取り残される前から、澪はずっと怯えて追い込まれてたんだ。 自宅の部屋にしばらく閉じこもるくらい、逃げ回ってたんだ。 逃げ回って、追い込まれてたからこそ、今一番強く振る舞えてるんだろう。 すぐに追い込まれるけど、追い込まれてからが強い。 それが澪の強さで魅力なんだろうな……。 私の方は……、駄目だな……。 普段強がってても、逆境やアクシデントにはてんで弱い。 予想外の事が起こっちゃうと、全然動きだせなくなっちゃうんだよな……。 何やってんだよ、いざという時に役に立たない部長の私……。 「私は……、それでいいと思うよ……。 りっちゃんも……、それでいい……?」 唯が不安そうな視線を私に向けて訊ねる。 自分が我儘を言ってたのを自覚してただけに、 その我儘が少しでも通りそうになった事が逆に不安に思えて来たんだろう。 だけど、我儘を言ってるのは私も同じだった。 二人とも、大切な物が別々だっただけなんだ。 唯は過去を選択して。 私は未来を選択して。 澪が現在を選択してくれて。 多分、そういう事なんだ……。 私は申し訳ない気分になりながら、どうにか絞り出すように言った。 「ああ……、それくらいなら……、私もいいと思う……。 私だって……、憂ちゃん達の事は気にな……」 それ以上は言えなかった。 憂ちゃん達の事が気になってるのは本当だ。 絶対に嘘じゃない。 でも、憂ちゃん達より、残された皆を選んだのも本当で……。 憂ちゃんと純ちゃんと和を切り捨てたのも本当で……。 そんな私が憂ちゃん達を気に掛けてるなんて、言っちゃいけないと思ったんだ。 「ムギも……、それでいいか……?」 澪が涙の止まらないムギに訊ねる。 ムギは涙こそ止まらなかったけど、澪の言葉に頷いた。 ムギだってこのままじゃいけないんだって事は分かってるんだろう。 ただどうしたらいいのか分からないだけで。 「じゃあ……、早速行こう、皆。 場所が関係してるのかは分からないけど、 ずっとここに居るのは、また何処かに飛ばされちゃいそうでちょっと不安だしな……」 澪が表情を歪めながら呟く。 確かにそうだ。 飛ばされるかどうはともかく、忌まわしい出来事が起こった場所には違いない。 今の所は出来る限り早く離れたい気分が私にもある。 不意に梓が何故か明るい声を出した。 「それなら先輩方、私、一ついい事を思い付いたんですけど……」 「な、何だよ……」 場違いな梓の明るい声に気圧されながら、私は絞り出すみたいに訊ねてみる。 すると、急に梓が私の左手を握ってから、続けた。 「皆さん、手を繋ぎませんか?」 「どうしてだ?」 「もう……、律先輩は分かってませんね。 転移……、あ、今は私達がロンドンに来てしまった現象をそう呼びますけど、 また転移が起こった時にも皆で手を繋いでおけば、大丈夫じゃないかって思うんです。 少なくとも、私達がまたバラバラに何処かに転移させられる事は無いって思うんですよ」 「……わけが分からないんだが」 「よく考えて下さいよ、もーっ! あの転移が人間の身体だけに作用する現象なら、 今の私達は真っ裸でロンドンに飛ばされる事になってたはずだと思いませんか? でも、私達は今真っ裸じゃありません。 と、いう事はですね……」 そこまで言われてやっと気付いた。 ゲームやってる時とかによく思う事だ。 人体に作用する転移装置なのに、何で服とか持ち物も一緒に移動してるんだよ、ってやつだな。 そういう時の辻褄合わせは、大人の事情以外では、 その人が触れてる物も一緒に移動出来るんだっていう設定がお約束だよな。 んな馬鹿な、と思わなくもないけど、今の私達の状況がまさしくそれだった。 だったら、その真偽はともかく、梓の言う事にも一理あるのかもしれない。 「なるほどな……。 身体に触れてる物も一緒に飛ばされちゃうって事か。 だったら、皆で手を繋いでおけば安心だよな……。 おっし……、皆で手を繋ごうぜ!」 皆に分かりやすく説明してから、私は歩いてムギの左手を握った。 梓の案に納得したわけじゃない。 気休めみたいなものだった。 だけど、気休めでも何でも、今は縋りたかった。 少なくとも梓はその案を信じてるみたいだし、梓の気が楽になるんなら、それもいいはずだ。 五人で手を繋ぎ、とりあえず私達は歩き始める。 ゆっくりと時間を掛けて、憂ちゃん達を探しながらホテルに向かった。 分かっていた事だけど、道中、憂ちゃん達の姿は全く見つからなかった。 それどころか誰の姿も、生き物の姿も見当たらない。 やっぱりこのロンドンに居るのは私達五人だけなんだろう。 名残惜しい表情を浮かべながらも、唯もとりあえずはホテルで休む事に納得してくれた。 これから……、私達は一体どうなるんだろう……? 皆と手を離し、皆で同室のベッドに五人で横たわりながら私は考える。 今日は休むとして、明日からはどうしたらいいんだろう。 憂ちゃん達の姿を探すべきなんだろうか。 それとも、日本に帰る手段を探すべきなのか。 いやいや、むしろロンドンでの永住を決心するべきか……? 分からない……。 考える事が多過ぎて答えがまとまらなかった。 と。 「……痛?」 ベッドに横たわって少し落ち着けたせいか、私は急に左手に痛みを感じた。 誰にも気付かれないように左手を広げて視線を向けてみる。 何だ、これ? と思った。 いつの間にか私の左手は何かに圧迫されたみたいに真っ赤になっていた。 どうしてこんな事に……? あっ、そうか。 また澪が怯えて私の手を強く握ったんだな……。 あいつ、昔、肝試しした時に痛いくらい私の手を握ってたしなあ……。 ……って、違う。 さっきまで私は澪と手を繋いでない。 私が手を繋いだのはムギと梓で、私の左手を握ってたのは確か……。 ◎ 「どう? 食べられそう?」 私の後ろで冷蔵庫の中を覗き込みながら、ムギが私に訊ねた。 私は頭を軽く掻いて、冷蔵庫の中に入っていた野菜を一つ手に取りながら答える。 「普段、賞味期限の表示に頼っちゃってるからなあ……。 正直、判断は難しいんだけど、この野菜を見る限り……」 「見る限り?」 「食べられそうだよ。 いや、違うか……。 余裕で食べられる鮮度だ。新鮮その物って感じだな」 「そうなんだ……」 喜んでいい事なのか微妙そうにムギが呟く。 私だって微妙な気分だった。 そりゃ食糧に困らなさそうなのは助かる。 でも、この現象は何だろうなって思う。 電源の入ってない冷蔵庫に入ってたとは言え、 夏場に一ヶ月近く放置していた野菜がこんなに瑞々しく新鮮に残るもんか? いやいや、燻製や缶詰じゃあるまいし、そんな事があるもんか。 大体、季節自体がおかしい気がする。 昨日、ホテルに向かいながら感じてた事だけど、妙に肌寒いんだよな。 少なくとも、夏場の服装で耐えられる気温じゃなかった。 それどころじゃなかったから昨日はそこまでは気にならなかったけど、 少し落ち着いて考えてみると、やっぱりかなり寒い気がする。 ロンドンは日本より北の方だからって考える事も出来るけど、それにしても秋口にしては寒過ぎる。 少なくとも九月中頃の気温じゃないと思う。 だから、何となく、思う。 このロンドンは誰かの思い出の中のロンドンなんじゃないかって。 このロンドンに転移(梓の言葉を借りてみるけど)する前から、 澪も和も疑ってた事だけど、やっぱりこの世界は誰かの記憶の中の世界なんだろうな。 唯の机の中に私からの手紙が入ってた事もその証拠になるだろうし、 考えてみりゃ和のタイムカプセルが見つからなかった事と、 あの公園の樹が影も形も存在してなかったって事からも余計に疑惑が深まる。 まるで誰かの思い出みたいな、中途半端に再現された世界だよな……。 そして……、多分だけど、 それはロンドンに転移した私達五人の中の誰かの思い出なんだろう。 色んな事を勘違いしてた私だけど、これだけは間違ってないと思う。 そもそもロンドンに来た事があるのは私達五人だけなんだしな。 妙に肌寒いのも、冬のロンドンにしか来た事が無いからかもしれない。 もしかすると。和達がロンドンに転移されなかったのも、 あの三人がロンドンに来た事が無かったからかもしれない。 勿論、完全な推測なんだけど、少なくとも私はそう思ってる。 私達の思い出……、私達の夢か……。 少なくとも私の夢じゃない……って思いたい所だけど、自信は無い。 大学生になってから、私はらしくなく色んな事を考えるようになってた。 これから本気で音楽の道を進むのか、 進むにしてもこの四人でデビューを目指していいのか、 私から始めた軽音部の活動をこれからも皆に押し付けていいものなのか……。 それに、また梓を含めた五人で演奏したい。 でも、部長として頑張る梓の邪魔はしたくない。 昔を思い出すなんて私らしくないって思いながら、 それでも楽しかった高校生活に思いを馳せる事が多くなってて……。 この世界がそんな私の逃避が生み出した世界だって誰かに言われてしまったら、正直な話、否定は出来ない。 それは私に限った話じゃない。 澪だって、ムギだって、唯だって、大学生になってから色んな事を考えるようになってた。 本気で自分達の未来について目を向け始めた。 そんな感じになるまで、私は知らなかったんだよな。 未来に目を向けるって事は、過去にも目を向けなきゃいけないって事だったんだって。 そうして、皆、高校生の頃の事を思い出す事が多くなってたんだと思う。 梓……はどうだろう? この約一ヶ月、梓と一緒に居て分かったんだけど、 梓も私達と部活をやってた時の事をかなり懐かしく思ってくれてるみたいだった。 妙に私に駄目出しや突っ込みが多かった気もするけど、それも昔が懐かしかったからじゃないかな。 本当はもっと私達に甘えたい。 でも、新部長として、甘えるわけにはいかない。 そんな矛盾した気持ちが梓を妙に厳しく振る舞わせてたのかもな。 となると、この世界は私達五人の中の誰の思い出の世界でもおかしくないよな。 誰の世界でもおかしくない……んだけど、でも、ちょっと待てよ? この世界が出来たきっかけは何なんだ? 昔を思い出すくらい、誰だってやる事だ。 それこそ私達なんかよりずっと昔の事ばかり考えて生きる人だって沢山居るはずだ。 なのに、この閉ざされた世界に迷い込んだのは私達だけだってのは、いくら何でも変だ。 そこまで過去を懐かしんでた覚えは無いぞ。 つまり、何かのきっかけで、この世界が生み出されたはずなんだ。 こんな世界を作り上げちゃうくらい、衝撃的なきっかけがあったはずなんだよ。 つっても、なあ……。 きっかけらしい事なんかあったか? 始まりからして、あの夏休みの日に強い風に吹かれたって始まりだしなあ。 それにしても、あの強風はびっくりしたよな。 そうそう。 さわちゃんとあの子も眼鏡を落としそうになってたし、ムギも菫ちゃんを支えてあげてて……。 ……? あの子って誰だ? 眼鏡掛けたあの子……、軽音部なのにパソコン担当のあの子……。 私はどうしてその子の事を思い出した? そもそもあの風が吹いた時、さわちゃんは部室で待ってたはずじゃ……? 何だ……? 記憶が曖昧だ。思い出がはっきりしない。 何かが違ってるって私の中の何かが叫んでる。 何が違ってるのかは分からない。 でも、きっと何かが違ってて、それは多分、この世界にも関係する事で……。 「りっちゃん!」 不意にムギに肩を叩かれ、思考が現実に戻る。 途端、考えていたはずの重要な何かは、何処かに飛んで行ってしまった。 いや、重要な事だったのかもしれないけど、今はそれよりも大切な事がある。 今はムギと一緒に二人でホテルの中を探索する時なんだ。 私は深呼吸してから、冷蔵庫を閉めて立ち上がて微笑んでみせる。 「ごめんごめん、何かぼーっとしてたよ。 それにしても、どうしたんだ、ムギ? 何かあったのか?」 私が笑顔で訊ねると、ムギが心配そうな表情で首を横に振った。 「ううん、何かあったってわけじゃないんだけど……。 でも、りっちゃん……、今ね、恐い顔してたよ?」 「恐い顔……?」 「うん。とっても恐い顔……」 また不安な表情でムギが言う。 ムギがそう言うんなら、きっとそうなんだろう。 私は軽く自分の頬を叩いてから、もう一度ムギに笑い掛けた。 34
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18252.html
そういや、それも気になってた事だ。 さっき私は妙な事を言ったつもりはないのに、何故か梓は嬉しそうに微笑んでいた。 その理由が分からない。 普段ふざけてる時ならともかく、今回ばかりは笑える所は無かったはずなんだが……。 私が首を傾げていると、梓が少し肩をすくめながら、頬を少し赤く染めて続けた。 肩をすくめて頬を染めるなんて、 何だか矛盾した行動のように見えるけど、多分、その二つが両立出来る理由があるんだろう。 「気付いてなかったんですか? 律先輩、さっき唯先輩の事、 「皆のために一生懸命になり過ぎるのはあいつのいい所だけど」って言ってましたよね?」 「……言ったな。ああ、確かに言った気がする。 それがどうしたんだよ?」 「それ、唯先輩だけじゃなくて、律先輩もですよ? ご自分じゃ気付いてないかもしれませんけど」 「えっ……」 思わず言葉に詰まった。 私が皆のために一生懸命になり過ぎてる? そりゃ何度か言われた事はあるけど、自分でそう思った事は一度も無い。 私はただ、皆で笑って遊びたいだけで……。 私は自分の顔が熱くなるのを感じる。 自分の言った言葉がそのまま自分に返って来るなんて、そんなに恥ずかしい事無いじゃんか……。 梓はその私の表情に気付いてないのか、いや、多分気付いててそのまま言葉を続ける。 「それに「ずっとそんな調子じゃ、あっという間に疲れちゃう」って所もですね。 律先輩、頑張り過ぎだと思います。 今だけじゃありません。 今回の風が吹く前、学校に住んでた時もですよ。 律先輩、ほうかごガールズでの活動以外に家事も頑張って下さってましたし、 私達の練習を秘密にするために、澪先輩達と会議もしててくれたみたいじゃないですか。 頑張り過ぎですよ、律先輩……。 私達も嬉しいですけど、そんなに頑張り過ぎちゃ潰れちゃいますよ……。 だから……」 「でも……、でも、私は……。 私は私達が生きていくために、憂ちゃん達を……!」 言った後で後悔した。 言ってしまった、と思った。 言わなきゃいけない事だったけど、まだもう少し後で言うべき事だった。 少なくとも、こんな精神状態で言っちゃう事じゃない。 もっと梓の辛い気持ちを知ってから、それを受け止めてから、謝りたかったのに……! って……、謝る……? 私は謝りたかったのか? 自分の選択の是非の判断より何より先に、自分のした事を謝りたかったのか? 自分で自分の気持ちが分からなくなった。 自分の事なのに、自分の気持ちが遠くにあり過ぎて理解出来ない。 と。 笑顔を真剣な表情に変えて、梓が私の両手を胸の前に持って来て握った。 包み込むように握ってから言ってくれた。 「頑張らないで下さい、とは言いません。 皆、頑張ってるんです。 唯先輩も、澪先輩も、ムギ先輩も、……私だって。 でも、頑張り過ぎないで下さいよ……。 頑張り過ぎて、潰れてしまう律先輩なんて、見たくないです。 見たくないんですよ……」 「だけど、私は和を……。 おまえの親友まで……」 「私……、律先輩の選択が間違ってたとは思ってません。 昨日、律先輩が選んでくれた道は、最善だったって……、私、思います。 純達の事を考えると悲しいし、辛いですけど、でも……。 それでよかったんだと……、思います……」 意外な言葉だった。 梓がそこまで考えてくれているなんて思わなかった。 私の選択肢は最善だったんだろうか? 勿論、最善だと思ったから昨日はそうしたわけだけど、 今日になって不安と喪失感が増して来たのも確かだったんだ。 自分の選んだ道に自信が持てなくなってしまったんだ。 だから、凄く……、凄く怖かったんだ……。 私は三人を見捨てたんじゃないかって。 見殺しにしちゃったんじゃないか……って……。 私が三人を殺……し……。 考えるだけで震えが止まらない。 梓の目の前だってのに、色んな感情が混じっちゃって頭痛や吐き気が私を襲って……。 でも、その震えは梓が私の手を強く握る事で止めてくれた。 まっすぐな視線と、まっすぐな言葉で止めてくれたんだ。 「律先輩が選んだ事……、後悔しないでほしいんですよ……。 それを信じた澪先輩達のためにも、私のためにも……。 唯先輩も……、律先輩の事を悪く言ってませんでしたよ? 「昨日はりっちゃんに迷惑掛けちゃったね」って言ってました。 だから……、私のお願いを聞くって意味でも、後悔はしないでほしいんです……。 純、憂、和先輩じゃなくて、皆で生きていく事を選んだんですから。 律先輩も、私も……、それを選んだんですから……!」 後悔をしちゃいけない。 前に進まなきゃいけない。 私はそれを選んだ。 皆にそれを選んでもらった。 だったら……、迷ってちゃ、駄目なんだよな……。 残された物を……、残された仲間を……、全力で守らなきゃいけないんだ……。 それがきっと私のしなきゃいけない事なんだ……! 私はまっすぐに梓に視線を向ける。 真正面から見つめ合う。 そして、私の手を握ってくれていた梓の手を離してもらうと、 梓の頭を抱えて、あくまで日焼けが痛まないように私の胸の中に軽く飛び込ませる。 軽く梓の肩に手を置いて、なけなしの力を振り絞って言ってみせる。 「ああ……、分かったよ、梓……。 やってやる……。やってやりたい……って思う。 私が選んだんだもんな。 弱音なんか吐いてても、どうしようもないよな。 そんな事してる方が、和、憂ちゃん、純ちゃんに悪いよな……。 ……守るよ、絶対。 何があったって、おまえ達だけは絶対に守ってやる……。 それだけが私が和達に出来るたった一つの事なんだな……!」 「……はいっ! でも、無理だけはしないで下さいよ? 私だって、皆さんを守りたいんですからね!」 私の胸の中で梓が頷いて言った。 守ろう、と思った。 せめて残された四人だけは全力で守らなきゃ、消えてしまった三人に申し訳なさ過ぎる。 ムギだって、唯だって、澪だって、梓だって、私がこの身に代えても守るんだ。 選んだ道を貫いて、前に進む事だけが私に出来る事なんだ。 もう……、迷っちゃいけないんだ……! そうやって、私はその使命感に持てた。 使命感を持たせてくれたのが嬉しかった。 梓は私の選択肢を最善だと言ってくれた。 その道を進む事こそが私に出来る事なんだって自覚させてくれた。 今言うのも変だけど、私は幸せだった。 驚くくらい成長した梓に支えられて、一緒に歩いていけるのが。 同じ道を進んでいけるのが、幸せで泣き出したいくらいに。 きっと梓と一緒なら、これからも突き進んでいけるはずだ。 安心。 だけど、同時に不安感。 梓と一緒に居るのは幸せだ。 梓と一緒に居れば、どんな困難でも笑顔で乗り越えていけそうな気だってする。 何だって乗り越えられる。 それは私だけが感じてる事じゃない。 梓だってそう感じてるんだって、私には確信出来る。 梓と……、皆と一緒に居る。 その気持ちとその想いとその願いには嘘は無い。 ずっと皆と一緒に居たい。 また一陣の風が吹いたって、皆で一緒に居てみせる。 そのために私達は前に進むんだ! なのに……。 どうして私はその事に不安を感じちゃうんだろう……。 こんなに幸せなのに、こんなに安心出来てるのに、どうして……。 ◎ 食糧と調理器具、あとカチューシャを何個か鞄に詰めて、私と梓は帰路に着いた。 最初の頃は店から何かを取って行くのに罪悪感があったはずなのに、 今じゃ何の躊躇いもなく手に取って、簡単に持ち帰れるようになって来た。 正直、自分のこの変化はよろしくないなって思う。 まあ、仕方が無いっちゃ仕方が無いんだけどさ。 もしこの世界が夢じゃなくて現実で、 人の姿が戻って来たら、その時は何も言わずにレジにお金を置いて店から出て行こう……。 うん……、他に説明しようも無いし……。 人の姿と言えば、この世界について、梓が興味深い事を言っていた。 今日の午前、唯が言った事らしいんだけど、 唯はこの世界が現実の世界じゃなくて、誰かの夢なんじゃないかって話をしてたらしい。 私は唯とその話をした事は無い。 この世界が誰かの夢だって疑ってるのは、私と澪と和だけのはずだ。 和は唯にはそれを伝えてないみたいだったし、 澪も私以外にそんな曖昧な話をする事は無いはずだ。 となると、唯は自分の力だけでその推論に辿り着いたってわけか? 唯ってそんなに物事を深く考える奴だったっけ? 私がそう考えてるのが丸分かりだったんだろう。 梓が苦笑しながら私の疑問に答えてくれた。 唯が言うには、この世界は今まで生き物が存在していた世界とは音が違うらしい。 反響……、空気の振動……、音波……、とにかく、音。 上手く説明出来ないけど、その音が全然違うんだそうだ。 絶対音感を持ってるからなのか、 人と違う感性を持ってるからなのか、唯はその違和感に気付いてるんだそうだ。 澪辺りの言葉なら笑っちゃう所だけど、唯の言葉なら無視は出来ない。 唯には間違いなく人と違う感性と耳を持ってる。 その唯が言うんだから、この閉ざされた世界の音は元の世界と全然違うんだろう。 それが何を意味するのか? 当然だけど、この世界が生き物が消えたってだけの世界なら、音の質その物が変わる事なんて無い。 それでも、音の質が現実には変わってる、 って事は、世界自体が元の世界とは全然違ってるって事になるよな。 だから、唯はこの世界が現実の世界じゃないって気付いたんだろう。 その正体が夢か、妄想か、仮想世界なのかはともかくとして、 この世界は単に生き物の姿が消えたってだけの世界じゃないのは確かなんだ。 それが何を意味してるのかは、私にはまだ分からない。 大体、この閉ざされた世界の謎が解けた所で、元の世界に戻れるかどうかも分かってないしな。 でも、私達と全く違う方向性から唯は一つの仮定を組み立てた……。 凄いな、と思う。 当然だけど、私が考えてるのと同じ様に、唯だって考えてる。 誰だって、これからの自分達がマシになるように、精一杯考えてる。 私と梓は未来に向かって突き進んでいく事を考えた。 唯とムギは過去を大切にする事を考えてると思う。 そして、澪は現在、自分に出来る事を精一杯やるって事を考えてる。 選択肢はバラバラだ。 だけど、皆、幸せになるために生きてる事だけは間違いない。 唯達の選択肢は大切にしたいと思う。 私は私達の生き方を強要したいとは考えてない。 そんな事はしちゃいけない。 でも、私は私の生き方を貫く。 誰に何を言われたって、それがこれからに大切な事だって思うから。 ホテルの部屋に戻った時、残っていた三人は私達を笑顔で迎えてくれた。 勿論、完全な笑顔じゃない。 不安や怯えの色も大きい曖昧な笑顔。 だけど、とにもかくにも、私達は笑顔だった。 これからどうなるのか、どう出来るのかは分からなくて、不安ばかりだ。 でも、笑う事だけはやめちゃいけない。 それだけは確かなはずだ。 そうして笑顔のままで居たかったけど、 それより先に私は真面目な顔になって、唯とムギに謝った。 泣いている二人を慰められなかった事。 気を回してあげられなかった事。 和、憂ちゃん、純ちゃんよりも、残された皆を大切にしてしまった事。 色んな事を謝った。謝らなきゃ前に進めないと思った。 これから前に進むために、それはしなきゃいけない事だった。 皆を守り切るために……。 唯達から責められるのを覚悟してたけど、二人とも私を責めなかった。 悲しそうな表情だったけど、二人で頷いてくれた。 色々悩んで、納得いかない事も多いはずだけど、私の想いを感じ取ってくれたんだと思う。 部員に恵まれてるよな、私は……。 こんな私なのに……。 唯達が責めなかった代わりに、澪が私を責める事になった。 いや、責めるってのは言い過ぎか。 諭す……って感じで、澪は苦笑しながら私の頭を軽く小突いた。 「そういう言葉を昨日言えてれば、立派な部長だったんだけどな」って。 それは確かにそうだった。 私は昨日、この想いを正直に皆の前で伝えるべきだったんだ。 突然の事に動揺してるくらいだったら、まっすぐに答えを届けりゃよかったんだ。 そうすれば、唯とムギをこんなに悲しませる事も無かったんだから……。 でも、とりあえずは、どうにか私の想いを皆に届けられた。 梓に後押ししてもらって、何とか前に進む事が出来た。 この世界で生きていく事も、これで出来る……はずだ。 結局、唯達が憂ちゃん達を捜す事を、私は止めなかった。 この世界で生きていくための準備だけ優先してくれれば、 後は各自の自由に過ごすべきだってのも、私の正直な気持ちだった。 私は皆を守るための準備をする。 何の問題も無く生きていけるために、出来る限りの準備をしておく。 唯やムギは消えてしまった三人を捜す。 梓と澪も自分に出来る何かをするだろう。 てんでバラバラだけど、それが私の選んだ道なんだ。 でこぼこな私達が、上手く噛み合って生きてくってのはそういう事だと思う。 そうして、私達はどうにか笑顔になった。 誰からともなく、手を繋ぎ、皆の体温を感じ合った。 強く強く、皆と一緒に居られる事を感じる。 せめて残されたこの五人だけはずっと一緒に居たい。 居るんだ、何が起こったって……。 皆でずっと一緒に居る事。 それが私が一番やりたい事なんだ。 何があったって、絶対に……。 私はそう思ってた。 心の底からそう思ってたんだ。 梓と話をして以来、どんどん膨らむ不安からずっと目を逸らしながら。 皆と離れ離れになる事だけは絶対にしちゃいけないんだって思いながら。 多分……、偽りの笑顔を浮かべて。 ◎ 「ロンドンってやっぱり日本より寒いね」 少しだけ厚着をしたムギと一緒に、私はロンドンの街に繰り出していた。 ホテルに置いてあった誰かの自転車を借りて、肩を並べて二人で走る。 ちなみにロープが絡まないよう気を付けてゆっくり走ってる。 ロンドンに転移して三日、事態は何も変わってなかった。 まあ、変わりようが無いとも言うけど。 生き物が居ない事以外、ロンドンの街には何の変哲も無いわけだしな。 結局、私達に出来るのは今日もロンドンの街を探索して回る事だけだ。 「確かにちょっと寒いかもなー。 冬ってほど寒いわけじゃないけどさ。 半袖だと寒い、長袖だと暑い。ぴったりなのは七分袖ってか? あー、中途半端でイライラするよなー!」 私が軽く叫ぶとムギが楽しそうに笑った。 理由はどうであれ、ムギの笑顔が見られるのは嬉しい。 私が自分の想いを皆に告げて以来、私は意識してムギと一緒に行動するようになっていた。 これまでムギを不安させちゃってたのは、私が原因なんだ。 その不安をどうにか少しでも和らげてあげたかった。 ムギを不安させてたってのは、ロンドンに来てからって話じゃない。 日本で人が消えてからって話でもない。 もっともっと前……、ムギと出会ってから、私はムギを不安させてたんだと思う。 出会ってから、ムギは変わったと思う。 最初は取っつきにくかったけど、そんなムギも今じゃ人懐っこい可愛らしい子になった。 どっちがムギの本当の姿なのかは分かんないけど、いい方に変わったんだって私は思いたい。 とにかく、そうして、ムギは私達の大切な仲間になった。 大切な仲間になったけど、まだまだ私の想いが足りなかった気がする。 ムギは控え目で、私達がはしゃいでるのを楽しそうに見てる子だけど、 たまには私達と一緒にはしゃぎたい事も多かったんだと思う。 でも、性格からそれも上手く出来なくて、 一人だけ自分が残されてるんじゃないかって思ってしまった事も、一度や二度じゃないはずだ。 だから、少しでもムギの傍に居ようって思った。 不安を振り払ってあげられるかは分からない。 ただ、ムギだって私達の大切な仲間なんだって事は、どうにか伝えたかったんだ。 ムギは今、笑ってくれてる。 不安の色も混ざってる笑顔だけど、笑ってくれてる。 とりあえず、今はそれでいい。 でも、最終的には不安が一つも無い笑顔を浮かべさせてあげたい。 「あっ……、ほら、りっちゃん、見て見て!」 不意にムギが自転車を停めて、顔を上げて視線を向ける。 私も自転車を停め、ムギの視線を辿ってみる。 ムギの視線の先には、回転寿司屋があった。 複雑で単純な事情から、私達が演奏する事になったあの回転寿司屋だ。 色んな意味で懐かしい……。 何であんな事になったんだろうな、あの時……。 つか、澪も英語で何言ってるのか分かってるんだったら、 どうにかあのデカい店員さんに説明してくれりゃいいのに……。 まあ、もういい思い出だけどな。 そういや、本当はマキちゃん達が演奏やるんだったんだよな。 あの時は深く考えなかったけど、マキちゃん、英語出来るって事か? スゲーな……。 ワールドワイドだぜ、ラブクライシス……。 「大変だったよなー、あの時……」 苦笑しながらムギに言うと、ムギも困った顔して笑った。 でも、楽しそうな笑顔でもあった。 「そうだね……、大変だったよね……。 でも、私は楽しかったな……。 りっちゃんは楽しくなかった……?」 「私か? うん……、私も楽しかった……かな?」 「ふふっ、どうして疑問系なの?」 「いや、楽しかったんだけどさー……、 もう一度あの雰囲気で演奏しろってのは勘弁なんだよなー……。 怖かったもん、あのデカい店員さん……。 勿論、それ以外は楽しかったんだけどな」 私が肩をすくめると、ムギが口元に手を当ててまた笑った。 釣られて私も一緒になって笑う。 うん、楽しかったよな、あの時は……。 思い出すと楽しくてつい笑っちゃうよ。 37