約 2,621,352 件
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/43.html
「良いわよ。受けて立とうじゃない」 心の中でガッツポーズを取る。途中、御坂さんが誘導に乗らないのではとヒヤヒヤしたが、どうやらうまく行ったようだ。 我ながら卑怯だとは思う。 御坂さんの良心につけこんで、御坂さんが知っているあたしを人質にして、御坂さんの嫉妬心を煽って。 それでも、あたしは取り戻したかった。初春が、あたしの近くに居てくれる生活を。 女の嫉妬って怖いなぁ、なんてどこか他人事のように考えつつ、あたしは能力を使い続ける。 「どっからでもかかって来なさい!」 そう言って御坂さんは腰を低くする。来るならまず電撃だろうと思っていたが、どうやら近接戦闘を挑むつもりらしい。このままでは手順が狂う。 あたしは声を張り上げた。 「御坂さん、楽しそうですね!」 「何言ってるの? 腹立たしくて仕方ないわよ」 「でも御坂さん笑ってるじゃないですか」 「笑ってなんか・・・」 そこまで言って、御坂さんも気付いたようだ。 自分の顔が楽しそうにしていることに。 「種明かし二つ目! 実は御坂さんの周りに笑気ガスが撒いてありまーす」 それを聞いてからの御坂さんの行動は早かった。 笑ったまま驚くという器用な顔をした後、息を止めて後ろに跳び退さる。 笑気ガスは高圧下でないと効果がない。だから、御坂さんがここまで来た直後から、少しずつあたしの能力で御坂さんの顔の周辺だけ気圧を高くしてあった。きっと耳が変な感じになっていることだろう。 笑気ガスを撒いたのは、その麻酔作用で御坂さんの判断力を鈍らせるためだ。 そのために、わざわざ御坂さんをここまで誘導したのだ。河原なら色々なものを砂利の中に埋めやすい。御坂さんの足元にも笑気ガスが充填されたボンベを埋めてある。 御坂さんが動いている間に、足元の砂利を一掴み。それを御坂さん目掛けて投げつける。 あたしの手を離れた砂利は、あたしが空力使い(エアロハンド)で作った空気の吹き出し口が生み出す推進力で加速する。事前に試しておいたところ、全力を出したときの威力はコンクリートの壁にめり込んでしまうくらい。 着地した御坂さんが状況に気付いて、横っ飛びに礫をかわす。避けきれなかった礫が常盤台の制服の袖の端を荒く切り裂いた。一つの礫の攻撃力はそこまででもないけれど、砂利を投げつけているだけだから攻撃範囲は広い。 「!?」 避け切れると思っていたのか、御坂さんが驚いた顔をする。しかしすでに電撃を放つ準備ができているのか、体のまわりで青白い火花が散っていた。 「やるようだけど、絶対に初春さんは渡さないっ!」 雄叫びひとつ。 目の前で火花が閃いた。 でも、あたしに電撃は届いていない。 「くっ!」 御坂さんが放電をやめて悔しそうな声を出す。 あたしと御坂さんの間には、ビニールがとれて骨だけになったビニール傘がある。少し傾けて地面に刺してあるこれが避雷針になっていた。 その位置からの電撃は通用しないと知るや、御坂さんは地中の砂鉄を磁力でかき集めて剣を作り出す。そのまま剣を構えて、あたしの方へと走り寄る。 砂利を投げて加速させるが、砂鉄剣が蛇のようにうねって、すべての石粒を一瞬で削りあげて粉々にしてしまった。 ネットなどからかき集めた御坂さんの目撃情報から、攻撃のバリエーションは大体把握している。が、威力や詳細はやはり実物を見ないとよく解らない。さすがは超能力者、この程度ではびくともしない。 御坂さんとの距離はおよそ10メートル。もう何歩か踏み込まれれば剣が届いてしまうし、その前に避雷針よりこちら側に来られてしまったら電撃が飛んで来るだろう。 あたしは掌を軽く叩き、御坂さんの方へ向けた。自分の手から吹き出す風で、最初から浮いていたあたしの体が動き出す。 「!!」 御坂さんが驚いた顔をする。ガスの効果が薄れて来たのか、そろそろ顔から笑みが消えて来た。もう今日だけで何回泡をふかせただろうか。超能力者を手玉にとっているという実感が、少しだけあたしを嬉しくさせる。 空力使いで立ったまま宙に浮くには、靴の底を触らなくてはいけない。戦闘中にそんな行動をとれば能力が割れていた場合に何をするのかが丸わかりだし、第一隙を作りすぎる。 それを防ぐため、御坂さんをここにおびき出す前から、あたしはずっと地面から数センチ離れて浮いていた。それを隠すため、空缶を集めて足元を隠していたのだ。 御坂さんが走るより早く、あたしは御坂さんから遠ざかる。 なおもあたしを追う御坂さんは砂鉄剣を伸ばそうとして、しかし、ためらい、止めた。 しめた。御坂さんは、ちゃんとこの戦いをわかっている。 御坂さんは始めからたくさんのハンデを背負うことになっていた。 まず、あたしに向かってレールガンを射ったり、剣で斬りつけたりはできない。例えば、友達だから云々は抜きにしても、御坂さんがあたしを傷つけて戦闘不能にしたとする。 あたしがボロボロになってしまっては、いくら超能力者とはいえ風紀委員や警備員が黙っていないし、初春にも軽蔑される。 だから御坂さんのあたしに対する攻撃手段は、電撃による気絶を狙うか、酸素の電気分解でオゾンを出して、その毒性であたしがひっくり返るのを待つかのどちらかくらいしかない。 後者が通用しないのはあたしの能力が空力使いだとわかった時点でわかっているだろうから、実質、御坂さんの攻撃は電撃しかない。 それに、長引けば自動的にあたしの勝ちが決まる。 御坂さんには教えていないが、じきにこの場所に初春が向かい始めるはずなのだ。戦闘前に御坂さんがこの場所を初春たちに教えていれば話は簡単だったのだが、保険をかけて来て正解だった。 初春が白井さんと一緒にあたしの家まで来ていることは、上空から見て確認してある。自宅周辺に何か目ぼしいものがなければ、おそらくあたしの部屋に空間移動で入ってくる。 そして初春のことだから、あたしのパソコンの中も調べるだろう。デスクトップにおいてある『初春へ』というテキストファイルに気づかないはずもない。そして読めば、書かれている場所、すなわちここへ来る。 そのとき初春と白井さんが見るのは、あたし目掛けて電撃を放つ御坂さんと、逃げながら手当たり次第に物を投げつけているあたし。止めに来た初春にあたしが泣きつけば完璧だ。初春と御坂さんの関係が悪くなるのは避けられない。 だから、あたしは電撃を食らわないようにしていれば良いのだ。その代わり、食らってしまえば戦闘不能は間違い無いが。 しかし、これらは試合に負けたときでも勝負に勝てるようにかけておいた保険だ。 何としても、御坂さんに勝つ。 あたしが御坂さんを下して初めて、あたしは初春の背中を守ることができるのだから。 足から出している風を更に強くして、砂を巻き上げる。目を守るために御坂さんが目を細めた。 手と足の向きを変えて、避雷針を回り込むように動く。視界が悪いからかワンテンポ遅れて気付いた御坂さんが、あたしの意図にきづいて避雷針を真っ二つに切り裂いてしまった。直後、御坂さんの周辺でバチバチと音がし始める。 まずい。まだこのタイミングじゃない。まだまだ手の内は隠しておきたい。 足元に撒いてあった、あらかじめ触れて風の吹き出し口を作っておいた空缶から、とにかく全力で風を出す。突然、さっきまであたしがいた所からガチャガチャ音がし始めたからか、御坂さんが驚いてそちらを振り向いた。 砂埃で、何が起きているのかはわからないはずだ。流石に今の状態で20個を超える吹き出し口を細かく制御することなんてできないけれど、運が良ければひとつくらいは御坂さんの所まで飛んで行くかもしれない。 今の内に出来るだけ御坂さんから距離をとって・・・ そう思った矢先、御坂さんが砂埃を突っ切って、真っ直ぐこちらへ向かって来た。 「目を封じたくらいで周りが分からなくなるほど、私はヤワじゃないわよ!」 「目を封じたくらいで周りが分からなくなるほど、私はヤワじゃないわよ!」 佐天さんの足元にあった空缶が動き出したときは何か仕掛けてあるんじゃないのか、と心配になったが、それらがただ風を吹き出しているだけだとわかった時点で、先に佐天さんを叩くことにした。 視界が悪くとも、私の体が常に放っている電磁波がレーダーの役割を果たしているから、目を瞑っていても物にぶつからずに歩くことはできる。 当然、佐天さんの居場所もわかっていた。遠くから電撃を放つのは手加減が難しいので、後遺症も残さず綺麗に気絶するように至近距離から電撃を浴びせるべく、佐天さんに走り寄る。 まずは軽い電気ショックで佐天さんの動きを止める。その隙に距離を詰めて、正確に威力を調節した電撃をお見舞いする。あとは黒子と初春さんを呼んで事情を説明すれば良い。 私は佐天さんの言葉を、『私が佐天さんに勝てれば、私を初春さんの恋人として認める』と解釈したが、それが間違っていなければ万事丸く収まるはずだ。 この砂塵の中で自分の姿を見つけられたことに、はたまた目をほとんど閉じた私に周りの状況がわかっていることに驚いているのか、佐天さんは驚愕の表情を浮かべて私から距離をとり出す。 逃がさないっ! 「きゃうっ」 私が放った電撃が佐天さんを直撃した。静電気が強くなった程度の電圧だから、気を失ったりすることはない。集中出来なくなって能力が途切れたのか、後ろ向きにホバリングしていた佐天さんが結構な速度で背中から転げる。 数メートルの距離はあっという間に縮まった。もう大丈夫、ここからなら正確に加減した電撃が放てる。 勝利を確信してスピードを落とす。前髪のあたりで火花が散った。 地面に転がった佐天さんがこちらを睨みながら上体を起こす。手のひらを擦りむいたのか、うっすらと血が滲んでいた。 これ以上不意打ちを食らってはたまらない。さっさと終わらせるべく、私は電撃を解き放った。しかし、 「っ!?」 またしてもやられた。 再び電撃は届かない。いや、届いていたが通用していなかった。 「あ、あたしの能力って、触れば有効なんですよねぇ?・・・」 電撃は確かに佐天さんに届いていた。なのに佐天さんは気絶していない。 痛みをこらえる顔をして佐天さんは立ち上がる。 「な、何で・・・?」 「触った物からなら何でも、御坂さんの電撃が通ってくる空間に出来る空気のイオンの塊にだって風を出して動かせる・・・ イオンや電子が動かなきゃ、御坂さんの電撃だって電流が弱くなって人体に与える影響が少なくなりますからね・・・代わりに電圧が上がるから痛みはすごくなりますけど」 言いながら拳を握って、佐天さんが立ち上がった。痛みで自分に鞭を振るうかのように。 そういう仕掛けか。なら。 「だったら、直に電流流せば済む話でしょうが!」 周りの空気を電気抵抗器に使っているなら、空気を通して攻撃しなければ良い。遠隔攻撃できるというのが私の能力の利点だったはずなのに、こうもその利点を活かせないとは。 休みかけていた足に再び叱咤する。 残り5メートル。 佐天さんは、飛ばないとスピードを出して移動出来ない。走っては私から逃げきれない。 鬼ごっこでは、佐天さんは私に敵わない。私の有利に、かわりは無い。 そう思ったとき。 佐天さんが、握っていた何かを投げてきた。 拳よりひと回り小さい、しかし先ほどの砂利よりかははるかに大きな石を一つ。石は空力使いの力を受けて、普通の投擲では考えられない速度で飛び来る。 「?!」 とっさに握っていた砂鉄の剣を解体し、礫の進路にヤスリとしてばらまく。これだけ大きく速い物になると、やすり切るのに距離が必要だ。 だから長く砂鉄をまいてしまった。直後に響く、石が削れていく音と佐天さんの短い悲鳴。 「ぎゃっ!」 石がただの粉塵になって私の後ろへ流れていく。 佐天さんの服の右肩が破け、擦り傷が無数に赤い筋を作っていた。つぅ、とたれた滴が新しい流れを作る。 赤く滲むその血を見て、頭に上っていた血の気がいっぺんに失せた。 やってしまった、と思った。 醜い衝動に突き動かされていた自分が顕になる。初春さんを取られたくないという独占欲と、佐天さんに対する嫉妬心。その欲望に沿って行動してしまった結果がこれだ。 一方で、初春さんにどう言い訳するかを考えている自分が居た。言い訳なんて、僚艦に門限を破ったときくらいにしか考えた事も無かったのに。 佐天さんの怪我、自分の欲望、そして、未だ消せない言い訳がましい自分の心に戸惑っていたからか。佐天さんが私の鼻先を触るまで、私は目の前まで歩み寄られていたことに気づかなかった。 「御坂さんは、優しすぎるんですよ」 声にハッとして我を取り戻す。 「初春の為なら死んだって良いって思ってるあたしに、友情とか初春の好感度を考えて手加減してる御坂さんが勝てるはずないじゃないですか?」 言われた途端、私の肺から空気が抜けた。 窒息で苦しむ私の目の前で、佐天さんが嬉しそうな、勝ち誇ったような、それでいて悲しそうに目を伏せた笑みを薄く浮かべていた。 「全てを持ってる太陽に、何も持ってない北風が勝つ方法、わかります?」 初春さんに告白したときの事が頭に浮かんだ。どうやら告白の内容まで聞かれていたらしい。 電撃を浴びせようとして、残った酸素を演算に持っていかれて更に苦しくなる。脚がくずおれ、地べたに座り込む。次第に視界が霞んでくる・・・ 「雲を呼んで、太陽から花を隠せば良いんですよ」 「雲を呼んで、太陽から花を隠せば良いんですよ」 雲を呼ぶ、幻想御手を含め有りものを全て使うということが、御坂さんの基準で卑怯なのだとはわかっている。 それでもあたしは止まらない。止まれない。ここまで来たら、もう後戻りは出来ない。 あたしは御坂さんの鼻に風の吹き出しを作って、そこから吹き出す風で鼻のあたりの気圧を下げ、御坂さんの肺に空気が入らないようにした。 そろそろ御坂さんの顔が青くなってくる。 御坂さんだってみすみす死にたくないだろうから、もうこれ以上動かないだろう。動けばそれだけ酸素が必要になる。 あたしは御坂さんに向き直って尋ねた。 「どうします? 降参しますか? それともしませんか?」 御坂さんは微かに、でもすぐに首を横に振った。 悔しい、と、そう思った。強く噛み締めた奥歯から嫌な音がする。 その時、遠くから愛しい声がした。 「佐天さん!?」 後ろを向けば、川にかかる大きめの橋の上に初春と白井さん居た。白井さんが初春を触ると、次の瞬間にはあたしの目の前に、泣きじゃくる初春と、難しそうな顔をした白井さんが現れる。 「佐天さん!」 初春は涙で目を腫らして、その上鼻もつまらせてグジュグジュになった声をしていた。そんな状態でも、フラフラと初春があたしに歩み寄る。ちょっと嬉しくなった。 そんな今、あたしが言うべき言葉は一つ。まだ確定事項ではないが、限りなく確実に訪れる結果なら言った者勝ちだ。 「初春、あたし勝ったよ!」 言った直後、弱々しい衝撃とともにあたしの顔が右を向いていた。 何が起きたのかわからなかった。いや違う。わかってはいたのに、わかりたくなかっただけだった。 初春のビンタが、あたしの顔の向きを変えていた。 それだけの事を飲み込むのに、たっぷり1分はかかったような気がする。 能力に集中出来なくなってたからか、気付けば御坂さんの咳き込む音が聞こえるようになっていた。 「お姉さま!! ・・・いけませんわ、酸欠を起こしていますの。初春、わたくしは酸素ボンベをとって来ますから、お姉さまと佐天さんを」 「は、はい! 御坂さん! 御坂さん、しっかりしてください!」 白井さんが空間移動で消えた後、初春が倒れていた御坂さんの上体を抱え上げる。不器用に息をする度、青ざめた御坂さんの顔に次第に赤味が戻っていく。 それから御坂さんの呼吸が整うまで、初春は御坂さんの名前を呼び続けていた。そして、 「う、初春、さん・・・」 御坂さんの声を聞いて、初めて初春が表情を緩める。 「良かった・・・本当に良かったです・・・」 それを聞いて、あたしが感じたのは大きな疎外感だった。 あたしは? ねえ初春、初春はあたしにそんな顔してくれてないよ。 そんな風に優しく抱きかかえられたり、傷の手当もしてくれてないよ? 肩のこれ、御坂さんにやられたんだよ でもあたしは負けなかった、勝ったよ。 書庫(バンク)の上では無能力者のあたしが、超能力者の御坂さんに勝ったんだよ? なのにさ、なのに何で・・・ 何で御坂さんを介抱して、そんな嬉しそうな涙流すの・・・? 新しく流れ出すそれを見たとき、あたしは今なら竜巻だって起こせるんじゃないかと本気で思った。 この都市(まち)も壊滅させられる、憎いものも、自分も、愛しいものも全て吹き飛ばして粉々にできる。そんな気がした。 でも結局、そんな瞬間は訪れなかった。 突然表情を険しくした初春が、子気味の良い音を立てて御坂さんの頬を平手で打ったからだ。 御坂さんも、あたしも目を丸くした。 「どうして・・・どうして二人とも私の知らないところで、喧嘩して傷つけあうんですか?!」 初春が、空に向かって叫んでいた。 思わずあたしは頬をつねる。痛い。 「悪いのは私なのに、何で佐天さんと御坂さんが傷つかなくちゃいけないんですか!! 傷つけあわなくちゃいけないんですか?! なんとなくだけどわかってたんです、二人の私を見る目が他の人を見る目と違う事! それに気づいてたのに、私は何もしなかった! 成り行きにまかせて、二人からアプローチがあることを期待しちゃってたから!」 あたしも御坂さんも、呆然と初春の告白を聞くことしかできなかった。 誰に向けてともわからない独白。 「だから、御坂さんから告白されたとき嬉しくなっちゃって、その場でOKしちゃって、舞い上がってたんです。 そしたら佐天さんが突然学校に来なくなっちゃって、佐天さんの家に行っても誰もいなかったし、すぐに、私が原因で何か起こったんだって、思ったのに、何もしなくて・・・」 初春が鼻をすすりながらあたしの方を向く。 泣き腫らした目の周りが、なんだか痛々しい。 「佐天さんのメッセージを読んだとき、私、初めて自分が何をしたのかに気付いたんです」 初春はポツポツと語り出す。 あたしの家の周りに点在していたえぐれたコンクリートやブロックを見つけて、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと不安になったこと。 あたしが残したメッセージを読んで、あたしが幻想御手を使ったのを知ったこと。 あたしが空を飛んで移動していたから、街の監視カメラにあたしが映っていなかったこと。 あたしが御坂さんに対向心を燃やしていた理由がわかったこと。 あたしが御坂さんを襲撃して、初春の恋人の座を奪おうとしているのを知ったこと。 あたしのネットのアクセス履歴から、あたしが御坂さんと本気で戦うつもりでいるのがわかったこと。 結局、初春が全ての元凶であったこと。 「私が全部いけないんです!! わかってたのに止めようとしなかった、出来なかった訳でもないのに何もしなかった私がっ!!」 顔をくしゃくしゃにした初春が、一際大きく鼻をすすった。 「だから、今度は私のこと叩いてください。こんな心の弱い私のことを・・・さっきの分、倍にして、いえ、それ以上にして返してください。私が受けるべき罰を、ちゃんと、受けさせてください・・・」 そう言って初春が歯を食いしばる。御坂さんが困惑顏で初春さんを見上げた。 初春にそう言われたら、あたしがとるべき行動は一つだ。 初春に近寄ったあたしは、左手を初春に振るった。小さく、乾いた音が響いた。 「これはさっきのお返しじゃないから」 「・・・え?」 「あたし、許せないだけだから」 「ちょ、ちょっと佐天さん?!」 御坂さんが睨んでくる。そんな視線はあたしの知ったことじゃない。 「いくら初春でも、初春のこと悪く言うの許せないだけだから」 初春がキョトンとした顔をする。対して、御坂さんは安心したように、そして多少呆れ混じりで息をついた。 「初春は初春が思ってるよりずっと強いもん。こうしてあたしたちの事止めにきてくれたし。そうやって責任被ろうとしちゃうし」 「そうそう、虚空爆破事件のときの初春さんだって頼もしかったよ。正義感に溢れてて、とっても格好良かった。私、そんな初春さんに惚れちゃったんだと思う」 御坂さんも初春に微笑みかける。ちょっとムッとなったが、顔には出さないでおこう。 「御坂さん・・・佐天さん・・・うっ、ううっ・・・」 また初春が泣き出してしまった。 でもきっと、その涙はさっき流してた涙と違う。 そんな初春を見ていたら、初春の膝からこちらを見上げている御坂さんと目が会った。御坂さんはバツの悪そうな顔でこちらを見る。あたしもきっと、そんな顔をしてるんだろう。なんだか顔がうまく動かない。 そんな不安を吹き飛ばしたくて、努めて明るく言い放つ。 「さぁーって、あたしたちはきちんと責任取りますか。ねぇ、御坂さん」 「・・・うん、そうね」 あたしの言葉に御坂さんが肯く。御坂さんは体を起こし、初春の頭を撫でた。 「風紀委員に出頭するわ。・・・能力者同士の喧嘩はご法度だもんね」 「・・・はい」 「で、出頭の前に初春さんとは別れる。こんなんじゃ、初春さんの恋人失格だし」 「そ、そんなこと無いですっ! だって・・・だって・・・」 「だって? 初春さんのせいじゃないし」 困ったように御坂さんが言う。 初春は一瞬ハッとした顔をすると、すぐに顔を俯けてしまった。 「・・・一方的で、ごめんね」 「御坂さん・・・」 「じゃあ・・・佐天さん」 なおも泣き続ける初春を置いて御坂さんは立ち上がり、あたしの方へと向き直る。 「傷・・・ごめんね」 言われて自分の肩を見遣る。まだ痛むが、滲んだ血はかさぶたになりかけていた。 「別に良いですよ、風紀委員支給の特製傷薬があれば跡は残らないですから、それさえもらえれば。・・・結局あたしの作戦も失敗だったなぁー。流石『超能力者』って感じでしたよ、御坂さん」 「佐天さんこそ、すごい戦略家だったじゃない。すっかり挑発に乗せられちゃったし。私にとって不利な状況ばっかりだったし。最後は負けちゃったし。 それに佐天さん、幻想御手使って能力を得たにしては、ずいぶんレベル高くなかった? 強能力者(レベル3)くらいあるんじゃないかと思うんだけど・・・」 「それだけはきっと御坂さんのお陰ですよ」 「え?」 「死に物狂いで練習しましたから。御坂さんみたいに、努力で勝ち上がった実例が目の前にあったから、あたしにも出来るって思えたんです。どっちかって言うと、『あいつに出来て、あたしに出来ないはずが無い』って感じでしたけど」 「・・・そっか」 御坂さんが眼を伏せる。多分、御坂さんもあたしと同じ気持ちなんだろう。 大きな後悔の中に、小さな安堵が見える。そんな感じ。 しばらくして顔を上げた御坂さんは、あたしに微笑みかけた。 「一緒に行く?」 もう断る理由は無いだろう。 「そうしましょう」 「じゃあそこでタクシーでも拾いましょうか。177支部までちょっと距離あるし」 黒子が居れば楽なんだけどねー、と呟きながら御坂さんが歩みを進める。と、突然御坂さんの上に現れた影が、御坂さんに抱きついた。 「お呼びになりましたか、お姉さまっ!! って、あれ、お姉さまもう復活してらしたんですの? 折角酸素ボンベも持ってきましたけれどもここはやはり人工呼吸を試みて、どさくさに紛れて熱いペーゼを差し上げようと思っていましたのに・・・」 「要らん! そんなサービスは風紀委員にもアンタにも期待してないからっ!!」 「つれないですわね・・・キスで目覚めるお姉さまとか素敵ではありませんこと?」 確か御坂さんと白井さんが話してたのは、こんな内容の事だったと思う。 なぜ『確か』なのかと言うと、その時くらいから、眠りに落ちて行くような、体から意識が剥がれて行くような、そんな感覚がして、その後の記憶が残っていないからだ。 でも、最後に見聞きしたことははっきり覚えている。 なぜか曇り始めた空をバックに初春があたしの顔を覗き込んでいて、 「佐天さん、佐天さん、しっかりしてください! 佐天さん!!」 って言いながらあたしを揺さぶっていたことだ。 幻想猛獣(AIMバースト)を倒した後、初春さんは佐天さんが入院している病院へ飛んで行った。 なんだか複雑な気持ちになりつつも、私と黒子はその後を追う。 今でも自分の気持ちに整理はついていない。相変わらず初春さんのことは好きだし、佐天さんに対する嫉妬心もある。 人間の気持ちがそんなにすっぱり整理できるはずもないけれど、やっぱり初春さんのためにも覚悟を決めた方が良いだろう。とは思っていたのに。 ぼやっと考える間もなく、すぐに病院へ着いてしまった。 私が屋上に着いて最初に見た光景は、先に着いていた初春さんが佐天さんにスカートを捲られて、いつも通りの悲鳴を上げているところ。 「たっだいまー!!」 「ひあぁぁぁ?!」 ああ、戻ったんだ。と思った。 初春さんは見ての通り。 きっとあの佐天さんは、今まで通りのムードメーカーな佐天さんで、私を殺してでも初春さんを奪おうともしないだろう。 じゃあ、私は・・・? 私も元通りになるべき・・・なのかな。 そう思うと、目頭が熱くなった。 が風紀委員に出頭する前に、初春さんとは恋人の関係を解消した。あんなことになってしまった以上、のうのうと初春さんの隣に居座ることなんて出来なかったから。 結局、佐天さんも私も固法先輩の「喧嘩? そんな些事にかまってる余裕なんてないわ! ただでさえ幻想御手事件でてんてこ舞いなのに!」の三言でお咎め無しになってしまったが・・・ あの時は迷わなかったのに。また今になって初春さんの事が恋しくなってる。 付き合ってる間、一度のデートにも出かけられなかったけれど、『初春さんと付き合っている』という事実だけで私は胸が一杯だった。 でも、あの時にはもう戻れない。 結局、それより前の自分に、みんなとの関係に戻りたいし、戻らなければいけないのだ。 でも、心の中に諦めの悪い私が居た。忌まわしいはずの騒動が恋しく思えるような、今までの私なら絶対に許せないような、そんな私が。 どうしたら、良いんだろう・・・? 「御坂さん、助けてもらってどうも・・・って、あれ? どうしたんですか? 泣きそうな顔してますけど」 気がつくと、目の前に佐天さんが居た。 「え、べ、別にそんなこと・・・ないって」 「嘘は良くないですよ、御坂さん。乙女の悩みなら涙子にお任せ! スバリ、御坂さんのお悩みは初春の事でしょう?」 「・・・よくわかったわね。けど、どうして?」 「御坂さんも磨いてみると良いですよ、女の感」 「あはは、なるほど。じゃあ今度磨いてみようかな」 初春さんと黒子は少し離れたところで風紀委員の報告書をどう纏めるか話し合っている。それを確認してから、佐天さんに胸の中の澱を打ち明けた。 「何だか、私だけ元通りになれないな、って思っちゃってさ」 眼を向けた先には、いつも通り仕事の時の顔をした初春さんと黒子がいる。佐天さんだって今まで通りに私に接してくれた。 でも私だけ、元通りになれない。いや、戻りたくないんだ。 「佐天さんとあんな喧嘩して、初春さんにも心配かけちゃって。でももう二人とも立ち直ってる。私が元に戻らないと、本当の意味で騒動が終わらないような気がして・・・ でも、戻りたくない、なんて考えてる。・・・我侭だよね、私。初春さんと同じところには居られないはずなのに、それなのに、まだ初春さんの事求めて」 「・・・戻りたい、んですか?」 「うん。またみんなで遊びに行って、買い物に行って、美味しいもの食べて、パジャマパーティーして、それで笑いあえるような、そんな時に戻りたい。でも、短かったけど、佐天さんと喧嘩してでも、初春さんと付き合っても居たかった」 だんだん顔が下を向く。いよいよ涙が零れてきそうだったから。 「だったら答えは一つじゃないですか」 「えっ?」 佐天さんの声に顔を上げる。目に入ったのは、寂しそうな顔をした佐天さん。 「時間は戻らないんですよ。元通りになんて、タイムマシンでも無い限り戻れません」 あたしが集めた都市伝説の中には、学園都市のどこかでタイムマシンが作られてる、なんてのもありますけどね、と言いながら佐天さんは首を振った。 顔を上げていたからだろうか。とうとう頬を伝って涙が落ちた。 肺から空気が抜けていく。喉を震わせながら出て行く空気が、どこか嗚咽のような音を作っていた。 こんな声、黒子に聞かれでもしたら大変だ。なぜ泣いているのかと詰問されてしまう。初春さんに聞かれるのはもっと嫌だった。こんな今でも、初春さんの前では太陽で居たかったから。 声が漏れないように、口を抑える。でもその格好が必死に泣き声を押し殺しているようで、私も今その通りの事をしていることに気がついて。 雨でもないのにパタパタと雨音がする。 「やっぱり御坂さん、どうしても初春と一緒に居たいんですね」 佐天さんの言葉が私の胸に突き刺さる。 「そうよ・・・初春さんと、一緒に居たい・・・まだ二人でデートも、行ってなかったんだから・・・」 ともすれば号泣してしまいそうになるのをこらえる。 「あたしには、そんなに初春が大好きなのに前の関係に・・・恋人同士じゃなかったころに戻るなんて無理そうに見えますけど」 佐天さんが呟く。 その通りだ。戻りたくないのに・・・戻れるはずもないのに・・・ 「それに、元通りじゃないのは御坂さんだけじゃないです」 「・・・へ?」 「あたしだって元通りじゃないですよ? 初春の事諦めてないですし。まあ、もう御坂さんと正面きって戦う事はないと思いますけど」 佐天さんが自分の手を空にかざす。 心なしか、私の目には佐天さんも泣きたがっているように写った。 「でも」 そんな感情を押し殺すようにして、佐天さんが表情を改める。いつもの、前を向いて歩いている佐天さんの笑顔だ。 「どうせ戻れないなら、このまま行っちゃいません?」 「・・・この、まま?」 「あたしも御坂さんも初春が大好き。それで良いじゃないですか。御坂さんはもうちゃんと責任も果たしたんですから、初春の隣に戻っても良いと思いますよ。AIMバースト倒して幻想御手事件も解決したんですから」 佐天さんの話を聞いている間、私はどうしても動く事ができなかった。 ただただ涙を流すだけ。 でもその涙が汚れを落としていくかのように、私の世界は、色を取り戻し始めた。 手の甲で涙を拭い、私も笑顔になる。 「佐天さんだって、きちんと償ったんじゃない? 意識不明って言ったら、普通重体だもん。十分、責任とったと思う」 「御坂さん・・・あはは、何かむず痒いですねー、こういうの」 「そう?」 「御坂さんは慣れっ子なんですよ。人から感謝される事たくさんあるでしょう?」 「そ、そうでもないけど」 心に安堵が広がって行く。 やっぱり私は良い友人を持ったようだ。 こぼれ出たため息が、夏の風に溶けて、晴れた空へと消えて行く。 「元通りじゃなくて、良いんだね」 「あたしはそう思いますよ。誰がどう言おうと、これがあたしの自分だけの現実(パーソナルリアリティ)ですから」 「ははは、佐天さんは強いわね」 本当にたいした物だと思う。 腰に手を当てて胸を張る佐天さんに、私は改めて言葉をかける。 「ありがとう、佐天さん。お陰で救われた気がする・・・それと、改めてごめんね。怪我させちゃって」 「え? いやいやいや、あたし別にたいした事してないですし! ・・・あ、あとさっき言いそびれたったんであたしからも。 助けてくれて、ありがとうございました。それから・・・ごめんなさい。その・・・色々と・・・」 「別に良いわよ。もう済んだ事だし、私も無神経な事相談しちゃってたしね。ここはお互い様ってことで、ひとつ」 「はい、じゃあそれでひとつ」 ほつれた糸をより直すように。傷口にかさぶたが出来るように。雨が降れば虹ができるように。 元には戻らない関係でも、もっと進んだ関係になる。 どちらからともなく、クスリと笑いが漏れた。二人の間を飛び交う笑い声は共振して、次第に大きくなって行く。 今は初春さんの隣に居なくても、しばらくはこれで良いかな。と、そう思った。 佐天さんが運んできた雨雲が降らせた雨で、とびきり綺麗な虹をかけてやるんだから。 「さぁて、じゃあそろそろもう一人にも責任とってもらいましょうかね。ね、御坂さん」 「へ? もう一人って・・・誰?」 「決まってるじゃないですかぁ」 イヒヒと笑いながら、佐天さんは黒子と話し込んでいる初春さんの後ろに素早く回り込む。そして、 「この花にたわわな実が成るのはいつの事かな?」 「きゃあぁぁぁぁ!?」 う、初春さんの胸を掴みにかかった。 自分も黒子にやられた事があるからわかるけれど、あれは不意にやられると尋常じゃないほどびっくりする。 案の定、初春さんは黒子の目を点にさせる悲鳴を上げた。 「んな、な、な、何するんですか、佐天さぁん!!」 「んー、新たな親睦の深め方を考えたから試してみようと思って」 「いつものセクハラがレベルアップしただけじゃないですか!? こんなので親睦が深まると思ったら大間違いですっ!」 「ちょ、ちょっとお姉さま。幻想御手にはこんな後遺症がありますの・・・? 木山晴美は何か言っていませんでした?」 「いや多分幻想御手とは関係無いと思う・・・」 半泣きになった初春さんが、佐天さんをポカポカ殴っている。不謹慎だけれどその姿が可愛くて、止める気が起こらない。 そんな初春さんの威力の無い拳を受けながら、しれっと佐天さんは言い放った。 「じゃあ、あたしと付き合えば親睦深まる?」 「そもそも佐天さんは・・・・・・へ?」 え? 「親睦深めるためにあたしと付き合っちゃおうよ。うん、それが良いよね」 「な、なに勝手に一人で頷いてるんですか?! 私の意見は無視ですか?」 「えー、初春はあたしと付き合うの嫌なの?」 「え、いや、そういう訳じゃ・・・」 あれ、ひょっとしてこの流れは・・・ 「だぁー、もう煮え切らないなぁ初春は! あたしを惚れさせた責任とって、あたしと付き合いなさい!!」 「え、ええぇ?!」 そうきたか! 私は佐天さんの前に回り込んで、初春さんに身を乗り出す。 「それなら私だって! 初春さん、もう一回付き合って!」 「あ、ちょっと! 御坂さんはもう経験あるじゃないですか! ずるいですよ!」 「抜け駆けしようとした佐天さんには言われたくないわっ!」 「ぬぐぅ・・・えーい、初春っ! どっち? どっちなの?!」 「え、えと、そんな言われても・・・」 「あー、御坂さんがあんまりしつこいから初春困ってますよ?」 「佐天さんでしょ、今の!? 初春さん、どっち?」 「当然あたしだよね?」 「あ、こら誘導禁止! お願い、答えて初春さん!」 「う、うーん、じゃ、じゃあ・・・」 『じゃあ?!』 初春さんの審判が下るのを待つ。初春さんの顔が真っ赤になっている。 そして、 「ふ、二人とも・・・って言うんじゃダメですか・・・?」 佐天さんと二人して顔を見合わせるのだった。 本当に、この都市は退屈しない。 そこには、空を染める夕焼けと同じ色をした初春さんの顔が、私と同じように目を点にした佐天さんの顔が、萱の外になっているのが寂しそうな黒子の顔が。 まだ、初春さんを巡る一連の騒動は終わりそうになかった。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3565.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン) 第2部 第13話 第三章(1) 8月16日(日) 午前5時 時刻は5時だが、日はまだ上っていない。明るくなり始めたくらいだ。 夏至から2月弱が経過し、明らかに夏は終わりつつある。 あれほどうるさかった、セミの大合唱も、アブラゼミやクマゼミから ヒグラシやツクツクボウシへ移行し、音量が明らかに低下している。 普通の学生なら今頃はそろそろ宿題が気になるころだろう。長い夏休み ももう終わり、眠りこけている当麻をみつつ、私は思う。 今まで、当麻は宿題はどうしていたのかな?今日も町をふらふら歩き、たまたま 出会った不幸な女の子を手助けして、最終日まで放置していたのかな。 やらないからわからない、わからないからやらない、その悪循環を繰り返して いたんだろうな。たぶん。始業式は担任の先生にこってり絞られ、補習 に追いまくられ、主体的に勉強なんてしたことないんだろうな。 でも・・もう私はそんなことはさせない。それに今年はちゃんと当麻は 宿題をやり切った。人は変われる。私はそう信じる。当麻にはそれを 成し遂げる力がある。 「やっぱりさっさと終えてよかった・・」私は独り言を言う。 終わらせたからこそ、こころおきなく海外へ行ける。 私は窓から視線を当麻へ移す。 いつものように、当麻は眠りこけ、いまだ熟睡モードを脱していない。 いつも4時間とか5時間睡眠の私と違い、基本当麻は7時間眠る。 結婚すればこの辺のすれ違いで問題が発生しやしないか心配になる。 だけど、そうゆうひとつひとつの違いを認識し、譲り合い夫婦として 生きていく。上手くいかないこともいっぱいあるだろう。 だけど、お互いを知り、お互いを支えあい、互いをかけがえがない ものとして尊敬しあえる関係を築きたい。そう思う。 それにもう自分は当麻に依存し始めている。 当麻不在の間、大事な朝食をコンビニ弁当で済ました自分。 よーく考えてみると、何が入っているか分かりもしない、食品添加物満載の コンビニ弁当はまずかった。味だけでなく体にもよくない。 改めて毎朝、キッチとした朝食をとる、当たり前の重要性をさとる。 当麻の作ってくれる愛情あふれる美味しい朝食。それを楽しみにする自分。 もう当麻なしの自分なんてありえないんだな。改めて認識する。 私の為に彼をもう傷ひとつ付けたくない。 だから・・私は変わらなければならない。魔術を知らないことを言い訳にしない。 何があっても上条当麻が最優先だ。そう心を決める。 ・・・・・・・・ AM7 30 食事を終え、食器洗浄機へ食器を放り込み、当麻と出張の打ち合わせをする。 「当麻、もう一度確認するけど体は大丈夫?無理は禁物。別に私だけでいいのよ?」 「美琴・・なんでも抱え込んで自分で解決しようとするのはお前の悪いクセだぞ」 「でも・・私はもう当麻が傷つくのはみたくない。当麻を守るためなら不殺の信念 なんて最悪捨てても構わない。今回は学園都市外でも公務だから、少々の無理 でも外交官特権が使えるから最悪殺すだけよ。」 「美琴、俺のことなら気にする必要はないぞ。男が婚約者を守るのは当然の事 だろう、学園都市1位と婚約する以上そのくらいは覚悟はしている。 お互いにお互いの背中を守り合う。」 「わかったわ。じゃ作戦を説明するわね。」 ・・・・・・・(中略)・・・ 「米国政府の複数の要人を短時間に掌握する手腕から見て学園都市の基準でいえば 食蜂クラスまたはそれ以上の魔術師が関与している。」 「はあ?つまり魔術師が米国を乗っ取るというのか?」 「いえ魔術師だけでないわ。大富豪が絡んでいる。」 「大富豪?」 「ええ、オーレイ・ブルシェイクという世界一のね」 当麻は美琴の信じがたい話を黙って聞いている。 美琴がしゃべる以上なんかの根拠があるはずだからだ。 「オーレイ・ブルシェイクはメディアとネットの帝王でそこを起点に実質的に 米国を支配する世界一の大富豪よ 総資産は米国の国家予算約3兆ドルを超えると 言われている」 「美琴 でもそんな米国を支配する帝王がなんでいまさら国家転覆なんてしょうもない 真似を?彼女はもうすべてを手にいれているわけじゃない。今更これ以上を望む 必要があるのか?」 「彼女は、学園都市の真似をして学芸都市をつくり、超能力研究をしていた。だけど 結局上手くいかず、最近では魔術師と接触している。」 「はあ?米国は学園都市よりだろ。なんで学園都市を裏切って魔術師なんかと手を結ぶ?」 「私のせいかもね。超荷電粒子砲の実験の影響だろうね。このままでは学園都市に 米国は勝てない。それで超能力研究をひそかに進めたがうまくいかない。だから魔術に 手をだした。そんなとこじゃない?最終的には米国を魔術国家に変えるつもり じゃないかな? 」 「それは美琴の空想じゃないよな?」 「根拠のある合理的な推論といいたいけど、証拠はあるわよ」 「え?」 「私のまえに隠せる情報なんてないわよ。アメリカ政府のセキュリティなんてざるよ」 「じゃ・・」 「ええ天井の所在地も、関与している魔術師も、彼女らのやりたいことも おおよそわかっている」 「なら統括理事会へ報告すれば仕事は終わりじゃ」 「国家主権の問題よ、米国の要請なしに何かをやれば内政干渉になる」 「だから、私は大統領に事実を知らせそれを事実と認識させる必要がある」 「手段はあるのか?」 「大統領と食蜂に会ってもらうわ。私のメッセージを伝えてもらう」 「そのあとはどうする?」 「後は米国の内政問題だけど、たぶんなんとかなると思う」 「UKデモはどうする?」 「今回はあくまで訪英後という指示なんだから、デモはデモで実施するわ」 「わかった。」 美琴は、以前宗教関係者の資金洗浄を調べたときに米国の大富豪、 オーレイ・ブルーシェイクが「グレムリン」と呼ばれる魔術結社に 多額の資金援助を行っている事実をつかんでいた。 だが、米国が科学側の大勢力であり、彼女をつぶせば、 米国が金融恐慌になるリスクがあり 敢えてその事実を暴露しなかった。 だが米国政府がある程度協力するなら話は別だ。 必要ならば彼女の巨悪をFBIなり米国内国 歳入庁(日本でいえば国税庁)へ暴露してあげよう。 「当麻、私たちはアメリカ国民じゃないからできることに 限りがあるわよ それだけは忘れずに行動しましょ」 「ああ」 ・・・・・・・・・・ 8月17日 月曜日 14:00(現地時間9時) シベリア北部 航空機内 私たち2人は、学園都市の外交官パスポートを使用し出国手続を簡単に済ませ、 すでにシベリア上空高度20000Mを秒速1650M(マッハ5)で西へ進んでいる。 今回は、婚后航空のご厚意で来春正式投入予定の200人乗りの超音速ジェットをお借りし ほとんど、プライベートジェット感覚で利用する。 この超音速機はコンコルドを上回るマッハ5で学園都市とロンドン・ヒースロー空港 を2時間20分で飛行できる。名目は試験飛行だが、はっきり言って友人の好意というのが 実際の話だろう。 まあこの辺が常盤台卒のメリットだな。私はそう思う。 通常の学校ではこんな話ありえないだろう。 友人が財閥令嬢とか政財界の要人令嬢とか。 そのコネで、マル秘の航空機の試験飛行なんて 名目で婚約旅行ができる。 美琴は、常盤台の中でも突出した存在で、しかもファンが多い。 目立つことを嫌う美琴にとって、在学中はファンは 煩わしい存在だったが、社会人になると、 人脈という財産のありがたみを感じる。 人脈とは持つ者にとっては空気みたいなものだが 持たざるものにとってはいかなる財産にも勝る。 ふふ・・まあおかけで、気楽に旅もできるしね。 それに当麻には世界のてっぺんを味わってもらいたい。 美琴がファーストクラスの座席で体を横たえながら、 隣席の当麻の手を握る。 当麻は初めての海外旅行で風景がもの珍しいのか、 窓の外の広漠なシベリアの原生林を じっと眺めている。 そろそろ ロシアも終わりか・・ 美琴は時計を眺め、後30分でロンドンへ到着することを確認する。 (さあ・・UKね。)美琴は心の中でつぶやく。 世界の金融の中心地のひとつにして、魔術が裏で支配する老大国 興味深いわ。インデックスに会うまで知りもしなかった魔術 その中心地のひとつロンドンへ科学の最高峰が足を踏み入れるのだから。 降下を初めて20分私たちの乗せた超音速機はロンドン時間 AM6:30 ロンドン ヒースロー空港へ無事着陸する。 世界でも最大級の発着人員を誇るヒースローは、早朝にも関わらず様々な人種ですでに込み合っている。ターバンを巻いたシク教徒、スカーフをすっぽりかぶったムスリムの女性、長いひげが特徴のユダヤ教徒、世界中のあらゆる人種がそこにいるような錯覚を覚える。 私と当麻は外交官パスポートの威力でほとんどノーチェックでVIP専用口を通過する。 黒キャブにのり約1時間 早朝のロンドン中心部へ到着する。私は料金80ポンドを支払い トラファルガー広場でタクシーを降り当麻に叫ぶ 「さあ当麻観光するわよ。」 私は、当麻の腕を連れまわし、観光ガイドに沿って歩き始める。 「まずバッキンガム宮殿でもいこう」 ・・・・・ ロンドン時間 8月19日(水)13時 ロンドン・ヒースロー空港 国内線カウンター ほぼ丸3日 本当に遊んだ。 子供のころから能力開発・学習に明け暮れた自分にとって丸々3日遊び通しなんて 生まれて初めての経験だ。 当然、テンションも高くなる。気がつけば朝から晩までほとんど当麻を引きずりましていた。 ロンドンとその近郊の観光ガイドに掲載されている、主だった場所はほとんど遊びまくった。 ケンジントン、バッキンガム、ウエストミンスター寺院、オペラハウス、動物園、博物館 美術館・特に夕暮れのテムズ川クルーズは最高に美しかった。 国会議事堂・セントポール大聖堂・ロンドン塔 夕暮れにたたずむロンドンの シルエットが絵画のようにラインを形成し、その絶景が脳に刻み込まれる。 テムズ川にかかるいくつもの橋も2人で歩いた。特に当麻と一緒に 手をつないで渡ったミレニアムブリッジ。晴天の少ないロンドンで奇跡的に晴れ渡り、 2人の門出を祝福するように陽光が降り注ぐ。 ふふまるで新婚さんみたいな気分だわ。そうよね。これは婚約旅行だから 昨日は予定を変更し、イギリス清教のステイル・神裂・インデックスの3名と居酒屋で一 晩中語り明かしたのもいい思い出だ。当麻の幻想殺しや聖人の話で盛り上がる。 時間は短くとも共通の危機を乗り切った体験は、しっかりと脳に刻み込まれるのか しれない。友情は付き合いの長さではなく付き合いの濃さが大事だとも思う。 ロンドンの3日間の非日常は多くの記憶を刻み付け、私と当麻の共通の記憶 として積み重なる。 だが幸せな時間ほど早く過ぎ去り、あっという間に終わりが来る。 私は気持ちを切り替え、すぐに仕事モードへ切り替える。 そして、私は心の中でつぶやく、さあ仕事よ。 ロンドンからマンチャスターはわずか1時間で到着し、空港からホテルへ向かう。 明日は能力開発デモ。まあ実際には息抜きだが、一応は学園都市を代表して行う 正式なデモンストレーションである以上、業務として行う必要がある。 19時から主催者のよる歓迎レセップションに出席し、社交儀礼という やつを業務として行う。あらかじめロンドンで購入したフォーマルを 2人で着替え、出席する。ひとつひとつはたわいのない会話だが、質問の チョイス、質問への対応力、服装のセンス、時計などのアクセサリーの選択、酒に 飲まれない素質、どんな突っ込みにも笑顔で返す精神力と頭の回転力。 ある意味そこは弾丸が飛び交わない上流階級の戦場といえる。 そこへ当麻に出席してもらうかどうか迷ったが婚約者なので出席させる。 幸い、当麻は日本語しか会話できないので 私が通訳で少々の粗相はごまかせたのがある意味幸いだった。 なんとかぼろは出さずに済んだ。 (まあ・・上流階級の作法はそのうち覚えてもらうわ。) 私も当麻ほどではないが、堅苦しい場はさほど好きでもないので 意外にくたびれはてる。 部屋へ掛けこみ、すぐに休みたい。そんな怠惰な心に支配される。 私は精神的に疲れ果てた体をベットに横たえ、当麻にささやきかける。 「当麻、疲れたわ・・今日は慰めてね」 もう正直当麻依存症になってしまった、疲れた果てた心を当麻に癒してほしい。 今晩も当麻にしっかり慰めてもらいたい。 いくら付き合いが深まろうとも、ちゃんと手をつなぎ、お互いの体温 ニオイ、呼吸を感じ合って生きて行きたい。 「当麻今日もしっかり抱いてね」 「ああ はじめようか」 2人はベットへ入りもはや日課になりつつある、夜の営みをはじめる。 旅行先という非日常の感覚が、理性というブレークを外し、時間を忘れて お互いをむさぼる。 翌日は仕事だというのに、そんなことはもはやおかまいなく、本能が求める ものを、本能に従って貪りつくし、時間を忘れ没頭する。 学園都市にとって約30ある協力機関は、学園都市と各国政府をつなぐ窓口の 役割を果たす。学園都市が科学世界の中心地たりえるのも、主要な大国に存在する協力機関 を通じて科学技術とその成果を提供し、その果実たる知的財産所有権使用対価を回収する 仕組みが出来上がっているからだ。 その技術の根本に位置する、能力者と先端兵器の見本市は、協力機関の学園都市に対して の先端技術を開示しないという批判をそらす目的がある。 だから、私のようなレベル5が能力開発の成果を披露するというショーを行うことは それなりの意味があるのだ。 レベル5でも能力開発デモの依頼は私に集中しがちだ。もちろん私が可憐な美少女で 見栄えがいいという話は別として、能力が表面的には分かりやすいこともあるだろう。 今は電磁場・原子・陽子の操作を1000兆kwの莫大な出力で自在に行うという化け物 じみた能力だが、もとは電気というわかりやすい素材を扱う能力者なので、説明がしやすい という話でもある。 だが最大の理由は私の性格が、温厚で常識人の範疇にとどまるからだろう。 私は、初対面に人に「きさくで話やすい人ですね」言われる。これはその裏に 高飛車で高慢ちきで人格が破綻したレベル5の割にはという意味を含んでいる。 外で円滑なコミュニケーションを交わし、行事ごとを成功させるには相当な 常識がいる。いわゆる安全パイとか広告塔と揶揄させるのも、外部を安心 させるには悪くない話だろうと私は思っている。 まあ、しょぼくない程度で、ある程度見栄えのする演技をすればいいやと 適当に考える。 8月20日(木)現地時間 16時 マンチェスター近郊 協力機関内デモ会場 美琴はデモが終わった会場で破壊された何台もの戦車や無人ヘリを眺めその会場で 撤去作業が終わるのを待つ当麻をみつけ、手を振る。 「当麻、デモどうだった?」 「いや・・美琴がすごいのはよく知っているけど、あらためてものすごいな」 「ありがとう。でもちょっともの足りないかな」 「いやいや観客は満足でしょう。約1000名の武装した群衆を、電撃で気絶させ、戦車の 滑空砲の砲撃を何十発を受けても無傷であることを見せ、対空ミサイルを電子線 で粉砕。ヘリからばらまかれた小型爆弾を電撃で粉砕。砂鉄の剣、鋼材乱打、 超電磁砲で何台もの戦車を粉砕。プラズマブレイドで無人ヘリを真っ二つ。結構楽 しめたよ。それに磁力で戦車を数m持ち上げてひっくり返したり、大技も見せてもらいました。あのカマキリマシンをレーザー掃射で一撃で沈めた時は鳥肌もんでしょ。」 「デモは難しいわね。あんまり手の内は見せられないし、ある程度観客を満足させなきゃないし。まあ今はこんなもんかな。」 「美琴はこうゆうの慣れているのか?」 「ええ、まあ一応学園都市の顔だから、依頼はあるわよ。7月上旬にはロシアへ行ったしね。」 「はあ・・こうゆうとこが違うよな。格差を感じますよ」 「ふふ まあいいじゃないの、当麻の力は見せないほうが、いいんだからさ」 パワードスーツや戦車や無人兵器の残骸は回収され、職員も撤収を終える。 「じゃ・・撤収作業も終わったようだし、ホテルへ戻りましょうか?」 美琴は、当麻を促しホテルへ戻る。 やや広めの浴槽へお湯を注ぎ入浴の準備を始める。 「当麻いい?」 「ああ、できしだいな」 美琴は、炭酸水を冷蔵庫から出し、グラスに注ぐ。 氷で割りきんきんに 冷やす。その炭酸水を一気に流し込む。 そこへ突然アニソンのような着信がなり、 美琴はスマート・フォンの着信を確認する。 メールの内容を確認する。 「当麻、明日ロンドンで人に会うわ」 「誰?」 「ローズライン・クラックハルト アメリカ合衆国の大統領補佐官よ」 「それは・・つまり」 「ええ大統領が私と会うかどうか決める人よ」 「そうか・・」 「ええ。まあ気楽にいきましょ。米国の運命なんて最悪どうでもいいでしょ」 「でも・・魔術は」 「私には、米国の運命より当麻の命がよっぽど大事、 ダメならダメでそんなのは 統括理事長が考えればイイ。 私たちは自分ができることをやろう」 「入浴しよう 当麻」 「ああいいぞ」 「明日から忙しくなる。だから今日くらいゆっくり2人で風呂入ろう」 「抱いてもいいか?」 「正直お願いしたいくらいだわ」 「じゃ」 さほど広くはない浴槽2人で入ればいろいろやばい。 だけど、今は私は少しでも当麻に触れていたい。 少しでも当麻と手をつなぎたい。 明日からはどうなるか予想もつかないのだから。 続く 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン)
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/28.html
「う~ん………」 初春と付き合い始めてから二週間経つけど、喧嘩もしてないしうまくやっている。 最初は女の子同士で付き合うなんて不安だった。それどころか付き合うっていうのが初めてだしね、あたし。 それでも結局はなんとかなるってもので、実際は付き合いだしてもなにかが突然変わるわけじゃなかった。 いつものように一緒に帰って、寄り道して、白井さんや御坂さんとファミレスでダベって……。 問題なんて一つもなく、このまま幸せな毎日が続いてくんだなって思ってた。 でも問題はあったんだ……あたしに。 「……我慢できない」 付き合って「すぐ」は変わらなかった――本当に変わったのは三日後から。 その日は翌日が休みだったから、あたしの家に泊まろうって話になった。 別に何かしてやろうなんて考えてなかった。もうキスはしてたから、ただイチャイチャして過ごそうって、そう思ってた。 けどベッドで隣に腰掛けてる初春が、可愛い仕草で可愛いことばっかり言うから、なんか変な気分になって……。 初春を押し倒しちゃったの。 これも本当は押し倒そうとしたんじゃなくて、いつもより激しいキスをしようって思っただけなんだけど。 つい力が入っちゃって……初春はほとんど抵抗しないでベッドに仰向けになった。 あたしを見上げる初春の表情とか、胸元から少しだけ見える鎖骨とか、なにもかも扇情的だった。 それからはただ勢いだけ……なにすればいいかなんて全然知らなかったけど、とにかく初春の体を味わいたかった。 能力のせいなのかわかんないけど、初春って凄い体温高くて、抱きしめてるだけで気持ちイイの。 もちろんそれだけで終わるわけなかったんだけどね。 結局、思いつく限りのことはした。正直、テンパってたからうまくできた自信はないなぁ……。 でも初春は一回も嫌がったりしなくて(不安そうにはしてたけど)、全部受け入れてくれた。 終わった後に「私、ジャッジメントなのに……うぅ……」とか言ってたけど、まあそれはそれってことで。 本当の問題はそれから……。 たまにどっちかの家に泊まって、イチャイチャしてるうちにそういうことに発展する――これが普通、だと思う。 けどあたしは違った。あたしは初春のことが毎日欲しくなった。 初春が可愛いこと言う度に、初春を抱きしめて、初春の全てを奪ってやりたい衝動に駆られた。 それでいつも欲望に負けて、初春を押し倒してそのまま事に及んじゃうの。 そんなことを一週間くらい続けて、さすがにあたしもマズイなぁって思ってきた。 だって初春は絶対に断らないから……次の日に学校があろとジャッジメントの仕事が入ってようと。 そんな初春の優しさに甘えちゃってた部分もあるし、最初はあんま深く考えてなかった。 でも白井さんから「最近初春が仕事中もずっと眠そうにしていますの」って聞いて………。 間違いなくあたしのせいです。 初春が一人前のジャッジメントになるために頑張ってるのは知ってる。 そんな初春の邪魔になるようなことはしたくない。 だから、それからは自重しよう、我慢しようってずっと自分に言い聞かせてる。言い聞かせてるんだけど……。 「えへへ~涙子さん、今日も泊まっていいですかぁ?」 「……もっちろん!むしろ飾利が来なかったら悲しくて泣いちゃうかも!」 「じゃあ絶対に行きますね!それで今夜も……♪」 やっぱり我慢できそうにないんだよね。 あっ!言い忘れてたけど、あたしたちはもうお互いを名前呼びしてます。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/73.html
目覚めは最低の気分だった。 大汗をかいていて、指先の震えが全く止まらなかった。まるで風邪でも引いたみたいだった。 布団の中、パジャマの上から激しく鼓動する心臓を押さえつけ、必死に言い聞かせる。 悪夢。ただの悪い夢。 いくら言い聞かせても両手の震えは止まらないし、心臓もやはり激しく動き続ける。 悪夢とそういい切れたらどんなに良かっただろう。 でもそれは確かに自分が体験したことだった。 どんな言葉を重ねても、自分が犯した罪は消えなかった。 消して良いはずが、なかった。 そう、消してはいけない。忘れては、いけないのだ。 幻想御手。 木山春生が開発した、一時的ではあるがレベルが上がる夢のような代物。 そして…夢のように脆いものだった。 都市伝説の中でも面白そうだと初春や白井さん、御坂さんに紹介して、 くだらない、面白い、あったら良いなあ、なんて。そんな会話でもう幻想御手の話題は終わったはずだった。 でも白井さんたちの言動から本物らしいとわかって。 気になって探してみたけど見つからず、やっぱり噂かと思いかけて、ふと発見した隠しページ。 悪いことをしているんだという自覚はなかった。 だってただ単純に初春やみんなに自慢したかったから。私はあの都市伝説の幻想御手を発見したんだぞ。って。 でも、自慢しようと思ったその瞬間。使用者は保護なんて聞かされて。 あの瞬間まで私は何も悪いことはしていなかった。 だから、持ってますといっても何の問題もなかったはずなのに、口に出来なかった。 とにかく心が弱かった。 能力もない弱い自分が嫌で、それでも何とか納得してたはずだったのに。 白井さんが戦ってるのに何も出来ない現実は、普段から感じていた能力者と無能力者の壁を強く意識させた。 同じ中学一年生で、同じ女の子で。 なのにこんなに違ってて。 強い壁を意識した途端、その壁を簡単に乗り越えられる道具が手元にあるんだ。という事実が頭にこびりついて離れなかった。 ダメだ。ズルは良くないと必死に振り払おうとしたときに、友人の口からその話題が飛び出て。 次の瞬間私は、持っているんだと、喋ってしまった。 あの時、心が強ければ。 いくらそう思ってもいまさら過去は変えられやしない。 後悔するのは悪くない。それを未来につなげられるのなら素晴らしいことだ。 でも、後ろばかり振り返ったって、前にはちっとも進めやしない。 だから、だから。自分のしでかしたことを全て受け入れて前に進もうと思ってるのに、そう思ってるのに、 あのときの後悔が、苦しさが、悲しさが、毎晩毎晩夢の中に出て足を引っ張ってくる。 アケミが倒れた瞬間が、私の弱さが友達を巻き添えにしたその瞬間が、何度も何度もリピートされる。 それを見るたび前に進めなくなる。 苦しくて息が詰まった。 相談のために初春にかけた電話。現実では出てくれたのに、夢の中ではずっとコールしている状態のまま。 初春が私のことを励ましてくれるはずなのに。 何で出てくれないの? コールの回数が増えていくたび、床にこぼれる涙の勢いは加速していく。 もう、愛想、尽かされちゃったのかな。 それとも、 本当は、初春は電話に出てくれなくて、事件は解決しないまま、私は、 ずっと都合のいい夢を見てるんだろうか。 そう思う瞬間、毎度目が覚める。 これが現実なんだ。そう理解しているはずなのに、夢を見るたびどちらが現実だか分からなくなる。 何時もは布団の中で丸まってじっとしていれば、だんだんとこっちが現実なんだってはっきりしてくるけど。 今日は全く安心できない。 本当に今は現実なんだろうか。 周りの闇が濃くなった気がした。 部屋の沈黙に押しつぶされそうになる。 何時も真夜中まで騒がしい暴走族はどうした。 なんで誰も騒いでいないんだ。誰でも良いから騒いでよ。 ただひたすらに目を閉じて、騒いでくれと願い続ける。 光、音、何でも良いからこの状況を、真っ暗で何の音もしないこの状況を変えてよ。 頼むからっ…。 ……っ、初春っ。 ピロリンッ 目を開けると、暗闇の中で枕もとの携帯が点滅し、気の抜ける音を立てていた。 未だ震える手で恐る恐る携帯を掴み、開いた。 一通のメールが来ていた。 20xx/x/xx 00 29 From 初春飾利 件名 明日のことなんですけど・・・ こんな時間にすいません 連絡忘れてました 明日というか今日、 白井さんたちと遊ぶことに なってるんですよ 佐天さん予定大丈夫ですか? 「…初春」 手は未だに震えていたけど、心臓も早鐘のように鳴っていて不安で押しつぶされそうだけど、 音が鳴ったし、明かりもついた。 私は世界で独りぼっちになってるわけじゃないんだよね? 初春の声が聞きたかった。 ゆっくりと夢と同じように、あの時と同じように電話をかける。 プルルルル、プルルルル、プルルルル…… 3回、4回とコールの回数が進むうちに、軽くなった不安がまた押し寄せてきた。 出ないんじゃないか。まだこれは悪夢の続きなんじゃ。 これが現実だと確かめるように握り締めた携帯は、頼りなかった。 9回目のコールでもうだめだ、これは夢の続きなんだと思い、携帯を握る手の力が緩んだ。 ゆっくりと布団の上に落ちていく携帯。 もうこんなのどうだっていいや。 メールはきっと夢が期待を誘うために見せているものなんだ。 ここも悪夢の続きなんだ。 さあ、早く。夢よ、終わってくれ。 布団の上で壁にもたれかかり俯いて、再び目を閉じた。 『―佐天さんどうしたんですか?』 驚きのあまり壁に頭を打ちつけた。 諦めていた携帯はコールを続け、悪夢とは違う結末を見せてくれた。 『おーい、聞いてますか?』 「あ、き、聞いてるよ!」 慌て携帯を手に取り、返事をした。 手の震えは止まっていた。 『なんだ聞いてるんなら返事してくださいよ』 「ごめんごめん。…でも、何ですぐに出なかったのかな?」 夢の中で一度も聞けなかった初春の声を耳に、再び壁にもたれかかる。 思いっきりぶつけた後頭部が丁度壁に当たって地味に痛い。 『いや、飲み物を注ぎに行こうと思いまして。携帯を机の上に放置してました』 「おい!」 『あはは、すみません』 「全くもう、初春は。はははっ…っ」 初春のとぼけっぷりに笑って涙が出てしまった。 何時もならすぐ止まるはずの涙は次から次へと頬を伝い、零れ落ちていく。 『…どうかしたんですか?電話なんて』 「グスッ、いや、起きたところで初春からのメールが来て、目が覚めちゃったから何となく」 『……何で泣いてるんですか?』 「さっき思いっきり頭打っちゃってさー。あはは、ドジだよねえ」 『そうですか・・・』 初春は暫く黙り込んでしまった。 その間も私の涙は全く止まらない。 何で止まらないんだろう。 もう頭もあんまり痛くないのに。怖くも、なくなってきたのに。 『佐天さん。私、今支部に居るんですよ』 「へえ」 『支部で仮眠とろうと思ってたんですが、目が覚めちゃったので佐天さんの家にお邪魔しますね』 「へえ……ええ!?」 『良いですよね?』 「まあ、いいけど」 『じゃあ、今から行くんで。思いっきり騒ぎましょうね!』 「ちょ、近所迷惑」 やけにテンション高く騒ぐ初春に思わず突っ込みを入れる。 それを無視するかのように初春の言葉はまだ続く。 『…思いっきり騒ぎましょうね!嫌なこと全部忘れちゃうくらい!』 思わず目を見開いた。 一瞬の後、思わず笑顔になった。 「うん、そう…だね」 『じゃ、お菓子適当に買ってそっち行きますから!』 「うん」 『じゃあ、待っててください!』 「初春」 『はい?』 つくづくとぼけた返答するなあと思って、ただ今の気持ちを伝えた。 「ありがとう」 『はい!』 元気のいい返事の後、通話は切られた。 ばたりと布団に倒れこみ、真っ暗な天井を見上げてお菓子の準備しなくちゃなあとか飲み物あったかなーとか考えて、最後にこう思った。 「そっか、嬉しくても、安心しても、涙って止まんなくなるんだなあ」 涙は未だに止まらなかった。 「あはは、これじゃ本当に涙子だ」 ピンポーンという音と共に、佐天さーんという声が響いた。 「はーい」 部屋の電気をつけて、パジャマの袖で思いっきり涙を拭いながら玄関に向かい、最高の笑顔で扉を開けた。 「こんばんは、初春!」 「こんばんは、佐天さん!」 息を切らして赤い顔の初春と、泣きはらして真っ赤な目の私の声が重なって、 近所迷惑な真夜中のパジャマパーティーが幕を開けた。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/52.html
ふっと目を覚ますと、額に乗る何かに気づき、そして視界の隅に人影を捕らえ、 黒子はゆっくりと顔を人影の方向へ向けた。 ぱさり、と額から何かが落ち、それが濡れたタオルだと言う事に気がつく。 「おねえ、さま…?」 先輩であり、ルームメイトであり、そして愛してやまない美琴の姿がそこにあった。 同室なのだからそこにいる事は変では無い。 しかし、美琴は黒子のベッドの横に椅子を並べ、ほんのり明るい読書灯の明かりの元、本を片手に座っていた。 外はまだ暗い、と言う事は今は夜であり普通なら寝ている時間であるのだが、 何故美琴がそんな行動を取っているのか黒子には判断がつかなかった。 「あ、目が覚めた?気分はどう?」 黒子の呼びかけに気づいた美琴は、読みかけの本を机に置くと 少し安心したかのような口調で黒子の顔を覗き込んだ。 「わたくし…どうかしましたでしょうか?」 気分はどうか、と問われる事に心当たりが無い。 自分の知らない間に何かしでかしてしまったのか、黒子は少々不安になった。 「どうもこうも無いわよ。夜中に何か魘されてると思ったら、呼吸は荒いし触ってみれば凄い熱だし」 自覚無いの?といわんばかりに美琴はしょうがないわね、とため息を付いた。 言われてみれば、何となく身体がだるく、熱いような寒気がするような何とも言え無い不快感がある。 どうやら自分の不調のせいで、美琴を起こしてしまったようだ。そして… 「お姉さま、もしかしてずっと…看ていて下さったのですか?」 額に乗るタオル、美琴の読みかけの本。 あれは確か昨日から読み始めたと言っていた本だ。 それがかなりページが進んでいるところを見ると、読みながらずっと自分の様子を 看ていてくれたのだろう。 「んーまあね、何か起きたら眠れなくなったし」 少々照れ笑いをしながら、落ちたタオルを拾い氷水で冷やすと再び黒子の額に乗せる。 「そんな事より、何か飲む?熱がある時は水分取って汗かいたほうがいいし」 「いえ、お姉さまのお手を煩わせる訳にはいきません。自分でやりますわ」 「何言ってんの。こんな時位素直に頼りなさいよ、”お姉さま”を」 ね、と軽くウィンクをすると、黒子は熱のせいなのかそれとも別の理由からか、 火照った顔をますます赤くして、小さく「申し訳ありません」と言うと布団を鼻まで引き上げた。 「あと、こういう時は”申し訳ありません”じゃないでしょ?」 「…ありがとうございます」 うんうん、と満足そうに頷くと、美琴はちょっと待っててと告げ部屋から出ると 暫くしてスポーツドリンクを手に戻ってきた。 「はい、こういう時は水よりこう言うのを飲んだほうがいいわよ」 起き上がる黒子を支え、美琴は飲みやすいようにストローを挿したペットボトルを差し出した。 「あとこれ、薬もらって来たから。飲んだらまたゆっくり休むのよ」 「…お姉さま」 「ん?」 「おかあさまみたいですわ」 あれこれと世話をしてくれる美琴に、申し訳無いやら嬉しいやらで、 しかし子供に接する母のようで、黒子はつい可笑しくてふふっと笑う。 「そんな事言う元気があるなら大丈夫ね」 美琴もつられて笑った。 「うーん、37.5度か。まだまだね」 昨晩の高熱からはいくぶん下がったものの、翌朝黒子は完全には復活せず、 食事もきちんと取っていない為少々だるそうであった。 「ま、今日は休日だし。ゆっくり休むには丁度良いわね」 食堂から自分の朝食と、黒子用の果物や食事を運んできた美琴は 検温を終えると、カーテンを開け、再びベッドの横に座り食事を摂り始めた。 黒子も上半身を起こし、ぽつぽつと果物を摘んではいるが 美琴がつきっきりでいてくれる事に今は嬉しさよりも申し訳なさが一杯だった。 「わたくしはもう大丈夫ですから…お姉さまはお休みになって下さいませ。昨晩もあまり寝ていないのでは?」 「こんな辛そうなアンタを差し置いて、グースカ寝てられる訳ないでしょ?」 バカね、と美琴は人差し指で黒子の額をツンとつつく。 「病人は治すことが一番大事なんだから。そんな事考え無いの」 「しかしせっかくのお休みも潰れてしまっては」 「休みなんか、また来るんだから大丈夫よ。今は黒子の体調が大事」 そこまで言われると、黒子も何も言えず大人しく美琴の言う通りにするしかなかった。 そんな黒子の様子を見て、美琴も何か思ったようで。 「まあ、申し訳無いと思うなら…治ったら次の休みの時にでも1日買い物に付き合ってもらおうかな。 あ、もちろんお昼とデザートは黒子の奢りよ?」 「それは…つまりデートのお誘いと言う事で宜しいのでしょうか?」 「さあね、私は休日返上の償いと言ったまでだから。どう捕らえるかは黒子の勝手」 そう言うと、美琴はふいと背中を向け、朝食の残りを食べ始める。 ほんのりと美琴の耳が赤くなっている事に黒子は気づいたが、そこは敢えて触れ無い事にした。 「…分かりましたわ。それでは黒子のとっておきスペシャルプランで一日お付き合いさせて頂きます」 くすくすと笑う黒子に、美琴も再び身体を黒子の方に向け、二人で笑いあった。 暫くすると薬が効いたのか、黒子は再び眠りについた。 昨晩のように魘される事無く、穏かな表情の黒子を見ながら美琴は優しく黒子の髪を撫でる。 その表情は黒子の言う通り子供を見守る母のようであるかもしれないし、 愛しい者を見守る視線にも見える。 「ほんと、いつも素直じゃないんだから…ま、私も人の事言えないか」 何度もゆっくりと、黒子の柔らかい髪を撫でながら先ほどのやり取りを思い出し、 美琴は一人で笑った。 「スペシャルプラン、楽しみだけどまたヘンな事したら何時もどおりお仕置きだからね」 そう呟くと、美琴は上半身を黒子に近づけ、そっと自分の唇を黒子のそれに重ねた。 おしまい。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3959.html
【種別】 組織 【初出】 とある科学の超電磁砲 第131話 【解説】 沙淡扇が率いている派閥。 当時の「常盤台三大派閥」のひとつであり、 それまで最大派閥だった支倉派閥や水鏡派閥を抜き、 作中本編時系列の一年前(美琴が入学した当時)の時点で全校生徒の23%を占めた最大の派閥。 特徴は慈善事業。 「有力者の責務」という理念の下、砂漠を買収、緑化するなどのボランティアを行っている。 派閥員達も奉仕精神に溢れるメンバー揃いで、人望と実力を兼ね備えており、 ここ最近常盤台中学の評判が際立っているのは沙派閥のお陰とされる。 一方で食蜂の分析によれば、派閥員の大半は「能力も勉強も気の毒な感じの子」で「パッとしない子ばっか」。 自身が常盤台では「ありふれた秀才」程度でしかないことを知って挫折した生徒たちにとって、 沙派閥は慈善事業を通じて他人から感謝され、心の救いを得るための「緊急避難先」として機能しているらしい。 帆風に言わせれば、救う側・救われる側の両方が幸せな「ウィンウィンの関係」。 こうした事情もあってか、沙本人曰く、新人の勧誘はしない方針だが、何故か員数が増えていたのだという。 登場するキャラクターの所属派閥を表すための作劇上の都合か、 沙派閥の生徒は原則的に、グラデーションやスクリーントーンを用いない、 黒塗りの暗色系(一例として沙は黒髪)の髪色で表現されている。 【メンバー】 沙淡扇(代表・2年生) 欧陽茜(未編集)(1年生) 林麗華(未編集)(2年生) リリー(2年生) 学年は本編時系列の一年前当時。
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/90.html
【 ウイ ハル スイッチ 】 ~9スレ413氏~ ミイラとりが、……なんだっけ。 まあとにかくそういうことなのです。 ねえ初春、あたし謝るから。 だからお願いだから正気に戻って。 念じてみるけど効果はなさそうだったりする。 さて当の初春は綺麗に馬乗りを決めている、あたしに。 見下ろす瞳はあたしと視線ガチンコだ。 目じゃなくて瞳と言ったのはもう瞳としか言いようがなかったからだ。 濡れて、きらきらと光って、落ち着かなく揺れてるけど絶対視線を外さない その目はほんと瞳っていうちょっとミーハーな字を使う以外にない気がする。 はふはふと呼吸も荒くてほっぺも赤いし身体も汗ばんでる。 なんで分かるかっていうと制服ごしでも触れてる部分がすんごい熱いしじっとり湿ってるからだ。 あーあ無理しちゃってうちの初春はカワイイなあ。 じゃない。 よろしくないこの状況は。 なんていうの? スイッチ入ったっていうの? いやスイッチって何さ。中学一年生が生意気に。 ていうか初春あんた生理まだなんじゃないの? じゃない。 とにかくよろしくない。 ミイラとりが、なんだっけ。謝るから正気に戻って。 事のいきさつは簡単と言うか単純、悪いのはおおむねあたしだったりする。 ちょっと調子に乗りすぎた。すこぅし人が多すぎた。 おまけにその日のパンツはクマちゃんだった。 脱兎のごとく駆け出した初春、びえええと変な泣き声が聞こえるけどよく分からない。 足ならあたしのほうがよっぽど速いから普通はすぐに追い付くはずなんだけど その日の初春はジンジョーじゃなかった! あっという間に寮に駆け込まれてまあ鍵かける余裕がなかったらしいのがラッキー、 ローファーぶん投げて追いかけたあたしはさあ袋のネズミじゃーとちょっと油断した。 ゆらっと初春が変な動きをしたかと思うと、 次の瞬間後頭部にひっどい衝撃が来てあたしは床の上でした。 43kgのタックルあなどれないね。 ていうか反撃来ると思ってませんでした正直。 「さ、佐天さんなんか、さてんさんなんか……っ!」 初春はあたしのセーラーをぎゅうっとつかんで声を絞り出して、 でも涙目がだいぶ可愛い。でもセーラー皺になりそうやばい。 言葉の先があるのかと思ったら口をちょっとぱくぱくさせた後黙ってしまったから、 あたしもほんとやめとけば良かったんだけど煽ってしまった。 「佐天さんなんか、どうしてくれんの?」 絶句。 っていう以外の言葉はこの場合もやっぱり見当たらなかった。 ぴしって音が聞こえそうなくらい初春はハッキリ固まった。 「……あ、」 一声漏らして、視線が、上下。 それから。 いやあたしも反省はしてるんですけど。 一旦下に落ちた初春の視線が再びあたしの目をとらえたとき、 何か知らない初春になっていた。 濡れた瞳と荒い呼吸。 真っ赤な頬と、汗ばんだ肌。 スイッチですか。 謝るから正気に戻って。 季節は夏。 逆光になった初春の身体はそりゃもうまぶしかった。 「……、…」 は、と初春が息。 瞳は濡れたまま、でも見開かれて。 息と同時にぐいと上体を倒したから、鼻と鼻が触れそうになる。 「さてんさん」 初春の声があたしの名前を呼ぶ、息がかかる、熱い。 何か甘いような匂いがむわっとたちこめた気がする。 「さてんさ、」 近い、声は、耳をくすぐる。 きっと初春の動悸はすごいだろうと思ったのは、 首筋に触れた初春の指にその震えを感じたからだ。 そこであたしがうっかり言ってしまった言葉、 「ね、……どうしてくれるの」 なんか別のやり方があった。 いつもの初春に涙目で叩かれてそれで終わりにする出口があったはず。 でもそれをしなかったのは、 なんでか初春に負けないくらいの動悸が正常な思考を邪魔したからだった。 「……」 沈黙。 しているばかりでもいられないのでしょうがなく口を開く。 「……ほらさあ、アレでしょ」 初春は答えない。 「ちょっと行きすぎたオシオキなわけでしょ、 まあ百回を越えるスカートめくりの報復としてはしょうがないっていうか」 初春は答えない。 なに。 なにこれ。 なんであたしがフォローしてんの逆じゃないの。 まあ煽ったけど。確かに煽ったんだけど。 でもあそこまでは何とでも言い訳できるじゃん? そのあと初春がしたことは言い訳きかないじゃん? あれもしかしてあたしからしたのかな。えまさかそうなの? いやちょっと待って記憶が……ええ? さっきまで周りに充満していた、 まるであっためたゼリーみたいに 熱くてぬるりとした空気はどこかへ霧散してしまっていた。 初春はさっきから黙りこくってしまって顔もあげない。 どうしよう。 どうしよう。 いっそ全部夢だったら楽なんだけどな。 触れたその瞬間の、身体が飛び散りそうなほどの熱。 それが気持ち良かったんなんて絶対に言えないけど。 ねえ初春、あやまるから。 だから早く正気に戻って。 あたし喉渇いたからさ、一緒にかき氷、食べに行こうよ。 【fin】 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3572.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン) 第2部 第18話 第三章(6) 8月27日 (木) 5時 久々に表面上は平穏な日々が戻り、規則正しいいつも生活が戻った。 いつもどおり朝5時に起きて、散歩を始める。 そう・・表面上は何にも変わらない。拾いたくもない電磁波とか、思念とか 溢れんばかりの情報を意識からシャットアウトしているから。 でも・・そろそろ動こう。自分から。必要な情報は有り余るほどあるんだから。 「当麻おはよう」 「美琴おはよう。いつも早いな。散歩はどうだ。」 「一緒に歩く?でもだいぶ日の出が遅くなってつまんないわ」 「もう秋だな。」 「ええ・・どう宿題さっさと終えて正解でしょう?今日も慌てなくて済む」 「ああ そうだな食事するか?」 「ありがとう。」 いつもと同じ、みそ汁の香りの漂う香ばしい食事。塩鮭のやわらかい塩味がアクセント をつける。ごはんが進み、しっかり噛まずに5分ほどで食べ終えてしまう。 私達は食器洗浄機へ食器を運びスイッチを回す。 「本当おいしいわ」 「お粗末様でした」 「で美琴体調はどうだ。封印解除後は」 「ふふ・・もっと人外へなるかと思ったけど、以外に普通でびっくりしているわ」 「そうか・・まあもう・」 「そうね。もともと人外みたいなもんだったし今更ね。だけど、そろそろ動き出すかな」 「へ?」 「関係各位へ表見訪問よ まず10時に窓のないビルね」 「へ?まだ早くないか。」 「いいのよ。どうせ、いつかはいかなきゃないし」 (まあ 再確認にしかすぎないけどね。お互い) ・・・・・・・・・・ 10時 窓のないビル 本来なら上条当麻は窓のないビルへ入場することはできない。 テレポータの案内人なしには、侵入する事はかなわない窓のないビル。 だが上条当麻はテレポータ同伴では移動できない。 だから侵入できないはずだった。 だが、絶対能力者の端くれになり、プラズマ操作の延長として零次元の 極点を使いこなせるようになった私にとって、 もはや距離や空間はなんの意味ももたない。 (まあ、絶対能力者になった目的の一つは距離と空間の克服よね。) 「当麻、初めてよね。統括理事長にご対面するのは」 「ああ・・美琴。一応聞くけどアポはとっているよな」 「ええ、心配?そこまで無鉄砲じゃないわよ。じゃいこう」 窓のないビルまでの約5kmの空間を瞬間で移動し、1cm未満の誤差で 到着する。 「ついたわよ」 「ああ」 「美琴ここか?なんか倉庫か工場みたいな雑然とした部屋だけど」 「ええそうよ。あのビーカで生命維持活動を行っている人が 統括理事長アレイスターよ」 私は当麻のものおじしない姿勢に改めて感心する。 「久しぶりだな。御坂美琴。」 「おかげ様で、封印を解くことができました」 「もう案内人も不要か。出世したな・・君も。で今日は用件はそれだけか?」 感情もあるかどうかわからない、人間アレイスターはビーカーの中で薄ら笑いのような 表情をする。本来なら案内人なしに侵入できる存在はとてつもないイレギュラーな はずだが、なんら気にした様子もない。 「上条当麻の件で報告があります」 「は?」 水槽の中で表情ははっきりしないが、あれほど、飄々していたアレイスターは少し興味ぶかそうに 話を聞いている。 「当麻を私のものにします」 「止めはしないが、無謀な話だな。リスクは承知しているはずだが」 「プランの大幅な短縮になるかと思いますが」 「もう少し君は理性的で、合理的な人物かと思っていたが」 私はジャブを放つ。効果は多分たいしたことはないが。 「ふふ・・娘さんは残念なことでしたね」 水槽の中でアレイスタの表情が若干曇ったような気もしたが瞬間的に元に戻った。 「ハア・・ああそうか私の記録を読んだか」 「ええ、だから手を結びましょう。」 「正気か。相手は・・・」 「魔神達・・ええ・・・規格外の力を持ち、いるだけでこの世界が壊れる存在」 私はさらにジャブを放つ。今度こそ少しは効果があるだろう。 「A.A.Aの空白部門は解読しました」 それまで飄々と小娘のざれ事を聞くように不愛想な手術服の「人間」が 少し表情を変える。 「アレは・・別に・・君の管轄じゃないが」 「そうですか・・・じゃ管理がずさんだったんですね」 私は、切り札の効き目を確かめるように念を押す。 (ふふ・・当麻はびっくりしているわね) 「何が希望だ」 「当麻と私の婚約を認めていただければ何もありません」 基本的には表情がないはずの、緑衣の「人間」が苦虫をかみつぶした顔をする。 「プランは変えようがない」 「465回も修正されたようですが、変更はないと?」 人間の声音がらしくもなく少々荒々しくなる。 「どうせわかっているだろう。プランの最終目的が変えようがないなんて」 私はさらにとどめを刺す。どうせ傲慢なアレイスターだ、少々きつく言わないと効果 なんかないだろう。 「プランが上条当麻の承諾を得ていれば・・ですが。実際はどうですか? 実際の話当麻はプランなど知りません。それに彼の仕組まれた不幸は?」 当麻の顔色がどんどん悪くなる。自分の知らないところで勝手に 運命がもてあそばれていたこ気が付かされた彼の心中は穏やかではないだろう。 だけど、自分の運命は自分で切り開くしかない。それに彼には誰にもない力がある。 今はまだ早いけど、この目のまえの男をぶち殺すのもそう遠くはないだろう。 アレイスタは、当麻の怒りには気がつかないふりをしているのか冗長な話を続ける。 「遺伝や才能や、運命なんて自分の意思で左右できるのかね?」 私はアレイスターのくどい話に飽きてきたので、当麻に話をふる。 「当麻、アレイスター閣下は当麻の意思なんて関係なく、自分の人形になれといいたい らしいけどどうする?」 「それは、ごめんだな。」 表情がないはずのアレイスターの表情が歪み始めるのを私は見逃さない。 私はさらにダメ押しをする。 「そうよね。この人の操り人形なんてごめんよね」 「ああ・・・・そうだな。」 「当麻・・もうこんな学園都市でない?」 「ああ?」 「はっきり言って上条当麻に学園都市はなんかメリットある?」 「うーん・・正直微妙だな」 「当麻はこの水槽の人にとっては大事なようだけど、 その割には待遇よくないわよね」 「レベル0で奨学金は雀の涙。そのくせプランの中核で本人がしらないところで その右手のみが都合よくつかわれる。都合いいわよね。」 アレイスターが激怒し始める。ラスボスなはずなのに沸点の低さに驚かされる。 きっと苦言する人も対等な立場で助言する人もいないんだろうなと 妙に同情する。 「まったく、当麻・・・この水槽の人怒ったみたいよ」 「え?」 「当麻、プランしりたい?」 「美琴・・今朝言ったけど。今はイイ。他人がどう考えようが、俺は俺の 考える通りするから。もちろん美琴が大事だ」 「ありがとう。」 (長居は無用ね。そろそろいいか。情報が正しいことはわかったし) 「アレイスター、上条当麻はアンタではなく私を選びました。素直に事実を受け 入れてください。ではさようなら」 私は、それだけ言い上条当麻を連れて空間ごと窓のないビルを立ち去った。 ・・・・・・・・・ 当麻は、若干呆然としかし少し怒ったような顔で私を見つめる。 「美琴俺はどうしたらいい」 「ふふ・・一緒に考えよう。だけど当麻が思っているほど不幸じゃないわよ」 「ああそうだな。」 「いつまでも一緒よ」 私はなんの妨害も受けず、自宅へおそらくは0.01秒未満で移動する。 5kmなんて距離になんの意味もない。 空間移動というのは麻薬のように便利な能力だ。 正直、これが使えるならもう超荷電粒子砲なんていらない。 窓のないビルもイエローケーキの放射性廃棄物何万トンも送付された日 には使いようもない。 私はアレイスターの居城の意外な脆弱性におどろかされる。 あの結標は4.5トン転移できた。 もし彼女が窓のないビル内へ核弾頭を転送したらどうなっていたんだろう? 彼女が神の右席と呼ばれるローマ正教最高の魔術師と結託したら。 私は彼の立場で考えてみる。魔神や、世界中の魔術師に命を狙われ、水槽の 中で生存を保つ彼の立場は決して安泰じゃない。 (ふふ・・彼もおちおちしてられないわね。) アレイスターを支えているには復讐。それもかって卑称だった自分が受けた屈辱 への恨みと嫉みだ。 私は、入手した知識と評判から自分なりにアレイスター像をプロファイルする。 アレイスターの復讐は子供じみている。やることも目的も。そんなプランに 振り回されるのは正直ごめんだ。だけど、彼の執念が、彼の神への恨みがこの街を作り、 科学万能の世界を作りつつある。70億人類の多くは十字教徒も含め 直接・間接に彼の作り出した科学の恩恵を受けている。 私なんか傍目から見れば彼の作った世界で最上層の受益者だ。 富、名声、能力一般市民ではありえないほどの、地位を得ているのも 正直アレイスターのおかげだろう。だから単純に敵として切り捨てるのは 少なくとも損だ。 少なくとも彼には今のところ上条当麻を保護する理由はあるのだから、敵ではない。 いらなくなればポイ捨てだろうけど、今は味方にできる。 だけどいまひとつ思考がまとまらない。なまじ知りすぎたがゆえにどうも思考が まとまらない。力技で少々無理ならどうでもなる自負もあり選択肢を絞れない。 だけど・・・こうゆうときに原点に返ろう。 うだうだ悩んでもしょうがない。本人に聞いてみよう。 「当麻 アレイスターはどうだった」 「あんまり性格はよくねえな・・でも哀れなやつだな」 「え?そう?」 「誰にも本音がいえねえし、友達もいねえ、つまんねえやつだ」 「さすがね・・一発で見抜くなんて。でも学園都市幹部には独裁として恐れられて いるのよ。私は対面するのは3度目だけど、 1回目と2回目は恐怖で足が震えていたわよ」 「美琴がね・・信じられねえな。でも今日はずいぶん言いたいこと言っていたじゃない」 「当麻のおかげよ。アンタはアレイスターのお気に入りなのよ。私と違ってね。」 「お気に入りの割には待遇はよくねえな・・」 「ふふ・・彼はツンデレさんかもね。好きな人ほどわざと冷たくする。」 しゃべり終わった後美琴は態度を改め、表情を変える。 「たぶん、これから学園都市にいろいろ起こる。当麻もイレギュラー、私もイレギュラー ただの男女の交わりというわけにはいかない。妨害もあるし、互いに命も狙われる。 それでもいい?やめるなら今のうちよ?」 「美琴・・わかりきったことを。アレイスターの差し出した手をお互いに跳ねのけた 時点で、ルビコン川は越えたんだよ」 「さすがね・・当麻は全部わかっていたのね。頼もしいわ。」 私は当麻の表情にいつも違う強い意志の力を感じ、安堵と安心を感じる。 一人では到底太刀打ちできない、独裁者でもなんとかなりそうな気がするのが 不思議だ。上条当麻には、周りの人間を安心させる能力がある。 そんな彼でも不安に思うのだろうか、私に質問をする。 「でもどうする。相手は独裁者だぞ、美琴だけじゃ太刀打ちできないだろう?」 「別に私だけが、なんかする必要ある?」 「え?」 「敵の敵は味方。敵の味方を減らし、敵を増やす」 「それは・・」 「まず一方通行及び木原幻生と和解しましょ」 「はあ?美琴の敵だろう。アイツらは?」 「だから仲良くする必要があるのよ。行くわよ」 私はpcから位置情報をcm単位でダウンロードし、演算を終え、まるで最近 覚えたゲームのように、楽しんで空間移動を実行する。 便利すぎる能力は人を堕落させるわね。。つくづく。 一方通行は保釈後、私の手配したマンションに潜伏している。 学校に所属しない彼は、実験終了後は居場所もなく、 なおかつ、預金口座は凍結され、実験の失敗と 操車場破壊で生じた8兆円の借金を負わされている。 このままいけば暗部直行、アレイスターの奴隷確定。 だけど・・いやだから使い道がある。 倒産した会社は格安で買える。人間も同じだ。 落ちた偶像はサルベージできる。 「ひさしぶりね。相変わらず悪人づらが似合うわね。この学区のアンダーラインは 無効化しているから盗聴の恐れはないわ。好き勝手にしゃべっていいわよ」 「勝者は余裕だなア、で今日はなんお用だア?美琴ちゃん」 「単刀直入に言う。手を組みましょう」 「はア、正気か・・俺の現状を知っているのか?」 「ええ・・器物損壊と殺人未遂で刑事訴追中の犯罪者。 落ちた偶像、8兆円の借金まみれの 破産者」 「はっきり言われるとつれえなア。でそんな俺に完全無欠の1位サマが手を組むと?」 「ええ。私と当麻に力を貸して」 「はア・・まアいいけど。どうせ敵はアレイスターだろう。」 「ええ・・プランのかなめの当麻はアレイスターに理由もあかされずすりつぶされようと していた・」 突然当麻が私の会話に口を挟む 「美琴俺にまかせてくれ」 「一方通行・・俺は、お前を・・美琴のクローンを1万人殺したテメエをゆるせねえ だけど、美琴からレベル5に関するドロドロとした話しを聞かされ、てめえの事情 も多少は理解できる。だけど・・テメエは美琴のようにクローンの実験を断る 力も、その力をなぜこの街を変えることになぜつかえねえんだ。てめえには 力もある。才能もある。テメエはありあまる、誰もがうらやむ力と才能 を今度こそまっとなことにつかえねえか」 「三下・・ああそうだなア。だけど・・俺はもう終わりだ。借金は簡単には返せねエ 罪も消えねエ。終わりなんだよオ。」 当麻は幻想殺しで消せない8兆円という借金の現実に打ちのめされる。 異能にはジョーカのような力を持つ彼も現実の借金にはなすすべがない。 だが、彼の婚約者は現実の世界でもチート級に有能だったのを彼は失念していた。 彼のチートな婚約者は目の玉の飛び出る提案を行う。 「一方通行、借金ならアンタが力を貸すなら私が代位弁済するわよ」 「美琴・・いいのか。」 「当麻いいのよ。金なんて。稼げばいいのよ。」 「一方通行・・力を貸して。私と当麻はこのままでは反逆者で最悪暗部送りよ。だけど アンタが力を貸してくれれば、アレイスターも簡単には手だしできないわ」 「俺なんかで本当にいいのかア・・」 「アンタしかいないのよ。お願い力を貸して」 私は、生まれて初めて、床にひざまづき土下座をする。愛する当麻のためならなんでも する。その覚悟が私の背中を押す。 「まア、あの不遜なアレイスターに一泡吹かせられれば、気分はわるかアネエなア」 「いいのね。」 「可愛い美琴ちゃんのたのみだ。契約成立だ」 「ありがとう。すぐに統括理事会へ8兆円振り込むわ」 私は契約事項を記載した契約書を鞄から取り出し、一方通行にサインを 要求する。 「さすがア・・レベル5のただ一人の法律家兼商売人だなア。契約書ねエ 食えねえなア」 「返済は無期限、無利子。いわゆる出世払いよ。期待しないでまっているわ」 「今の俺に選択肢はなさそうだな。」 「ええ。。8兆円分は稼いでもらうわよ」 一方通行にサインさせ、私は書類を鞄へ収納する。 さあ当麻次は幻生先生よ。 私は、下の階にかくまっている木原幻生の居宅へ向かう。 ・・・・・・・・・・・・ 私は、仕事を終え、自宅へ戻る。今日は、有意義な1日だった。 病みつきになりつつある瞬間移動で自宅へ帰る。 (便利すぎる。運動不足になるなこれ) 「当麻ただいま」 「美琴お疲れ」 「今日はありがとう」 「いや・・結局美琴の金がなければどうもならなかった」 「金なんて大事だけど相対的には小さい問題よ。本人を説得できたこそ やっと金で解決できるのよ」 「そうか」 「美琴、俺たちどうなるんだろうな」 「まあなんとかなるでしょ手は打ったからさ・・アレイスターが 簡単には手をだせない状況さえ作れば御の字よ」 「それに・・まあ私にまかせなさい。それじゃ・・風呂でも一緒に入ろうか」 「美琴がこんな甘えん坊なんて、誰もしらねえだろうな」 「ふふ・・こんな姿をみせるのは当麻だけよ、じゃ・・ダーリン」 私は当麻の背中へ飛びつき本能のままに甘える。 だけど・・もうすぐ雌雄を決する日がくる。そんな気がした。 続く 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン)
https://w.atwiki.jp/railgun-yuri/pages/83.html
【 ~あったか初春、おしゃべり佐天さん ~】 ~8スレ 935さん 940さん合作~ 【chapter-1 初春-side】 佐天さんの家にお泊りした日の夜。 彼女はいつものように、あたりまえのように背後から私の体を抱きしめてきた。 「ん~~、やっぱういはるあったかいなぁ…。ねえ、毎晩いっしょに寝てよういはるー。最近さむいんだよぉー。」 などと言いながらぐりぐりと私の首元あたりに顔を押しつけてくる。 ……息がかかってくすぐったいですよ、佐天さん…。 「ひと冬ずっと湯たんぽ代わりはちょっと……」 されるがままになりながらも、ちょっとした文句を口にしてみる。 毎回こうやって拘束されるこっちの身にもなってください。くすぐったいし、身動き取れなくて寝苦しいんですよ? えぇーなんでーいいじゃーん、いやですよ、などとしばらくやりとりしていたが、段々と彼女の声が小さくなっていき、そのうち後ろから穏やかな寝息が聞こえてきた。 「……寝ちゃいましたか?佐天さん…。」 彼女の寝息の規則正しいリズムにつられて、私も眠りに落ちそうになったけれど、その前に、と自分の体の前に回された彼女の手を、そっと握りしめた。 …眠っている間に、彼女の体温が下がってしまわないように…。 くすぐったいし、身動きが取れないし、寝苦しいけど、 ……そんな寝心地も、たまには悪くないかな…。 ずっと背中に感じていたぬくもりが離れていく感覚がして、ふと目が覚めた。 なんだかやたら寒いなぁ、と思いながら寝ぼけ眼で枕元の時計を確認すると、まだ深夜と言える時間帯。 何故こんなに冷えるのかと隣を確認してみれば、掛け布団を完全に足元に押しやってしまった佐天さんが、大の字で寝ていた。 ………う~~ん……。 いつもそんな寝相だから寒いんじゃないですか?佐天さん…。お腹見えちゃってますし…。 「……もう、ほんとにしょうがないですねぇ…、佐天さんは…」 と苦笑しつつ彼女に布団を掛け直し、自分ももう一度眠るついでに、少し冷えはじめた彼女の体に抱きついた。 ……別に、佐天さんの湯たんぽ代わりのつもりはないですけど……、 …………くっついてないと、……私も寒いじゃないですか…………。 それに、いつまた佐天さんがお布団蹴飛ばしちゃうかわからないですし、こうして押さえてないといけないんですよ。 あと身動き取れない寝苦しさを、少しは佐天さんにも味わってもらわないと。 誰に届くわけでもないけれど、そんな言い訳で自分を納得させ、あとはただ、再び襲ってきたぬくもりと睡魔に身を委ねた。 【chapter-2 佐天さん-side】 朝。 さっきまでふわりと軽かった体が少しずつ重くなっていって、夢から覚めたことに気づいた。 すぐに目を開ける気にならなかったので、そのまま耳を澄ませる。 初春はまだ寝ているのか、耳元ですやすやと寝息をたてている。…あーそっか、昨日抱きしめたまま寝ちゃったんだっけ。 …? そこでふと、今の体勢に疑問が湧いたので、初春を起こさないように、少しだけ体を動かす。 …んー、これは…形勢逆転されたか? 一応目でも確かめてみたが、初春の腕が仰向けに寝ているあたしを包んで、反対の腰のあたりで組まれているようだ。 …なるほど、これはいいものだ。 そういえば、初春に一方的にこんな風にされたことってあんまり無かったなぁ… 知り合って以来の事を色々思い出している間に手足にゆっくりと感覚が戻って来て、 抱きしめられている事をより確かに感じる。 …なんかちょっと、くすぐったいなぁ。 初春のおかげで、今のあたしがいる。 御坂さんや白井さんと出会わせてくれたのも、…あの時あたしを助けてくれたのも。 この回された細い腕がどれだけ優しくて強いのか、あたしは知っている。 空いている方の腕をそっと浮かせて、ゆっくりと初春の手をさすった。 ありがとね、…幸せだ。 「…ん…」 おっと、起こしちゃったか? もうちょっとこれでもいいんだけどな。 手を止め、静かに様子を窺う。 …一瞬、あたしを抱きしめていた腕に力が入った。 「……あ…さてんさん、…おはようございます…」 …寝起きの初春は本当に可愛い。 ここまで来ると直視出来ないや。こっちが恥ずかしくなる。 「んー、おはよー初春ー」 上を向いたまま、わざと気の抜けた返事を返す。 「ふぁい……ぁ」 残念、状況に気づいたらしい。さっと両腕を引っ込めてしまった。 「…ぁ、朝ご飯、何にします?白井さん達と約束がありまふから、…ふぁ…軽い方がいいですかね」 向こう向いてふらつきながら立ち上がって、伸びなんかしちゃって。全く、素直じゃないなぁ。 「えー初春ー、もうちょっと寝てようよー。ほらほら~、あたしの胸に飛び込んでおいで~」 「結構ですっ!」 ――――――――― 「って事が今朝あったんですよー」 昼からいつものファミレスで御坂さん達と落ち合って、初春が泊まりに来た話をしていた。 「もー佐天さん、前から起きてたなら起こして欲しかったです」 初春が少々むくれながらストローをくわえる。 「佐天さんが羨ましいですわ。お姉様とはせっかく同室ですのに、相変わらず連れませんの」 「黒子がいっつもヘンな事ばっかして来るからでしょうが」 「ほう、私がその"ヘンな事"さえしなければよろしいんですの?」 「…そりゃあ、まだまだ晩は冷え込むし…」 「分かりました。この黒子、お姉様の為に今日はおとなしくしていますの。ですからお姉様っ!女に二言はありませんわね?」 「あーはいはい、分かったわよ…」 「…お姉様ぁ~っ」 ぐぃーむ。 いつものように御坂さんが飛びつく白井さんを押しやる。 「ほら、おとなしくするって言ってたんじゃ無かったっけ?…ったく…何が『お姉様の為』よ。…ていうか、…えーと…ほら、まず初春さんってあったかそうだし」 「そうなんですよ!もう本当にあったかくって。でしかも目が覚めたらそれですよ、可愛くって可愛くって」 「そんな大声で言わないで下さいよ、他の席に聞こえるじゃないですかぁ」 「おっと、ゴメンゴメン」 …自分でも誇張し過ぎの感はある。 でもこのメンバーで話していると、どうにも口が勝手に動いてしまうのだ。 一対一で初春と居る時は、ここまで言えないんだけど、という線まで時々越えてしまって。 「…で、ご飯食べてる時も顔真っ赤にしながらそのことスルーしようとするんですよ」 「だって、…何言っていいか分からないじゃないですか!」 それで、時々初春をご機嫌斜めにしてしまう。…なんでかなぁ、このクセ、ある程度はあたしも直したいんだけど。 ――――――――― 夕方。 白井さんは鼻歌でも歌い出しそうな顔で御坂さんと帰っていった。 「んー、さっ、帰ろっか初春」 明日も学校は休みなので、初春にはもう一泊してもらうことにした。 別に初春も反対しなかったけど…どうにも不機嫌そうだ。いつにも増してちょっと喋り過ぎたな、今日は。ちょっと反省。 「…佐天さん、よくそんなにぺらぺら喋れますよね」 うっ。 「あー、自分でもやりすぎたなーと思う時はあるんだけどね」 「…ちょっとは直した方がいいですよ、佐天さん。そんなんじゃ、もし…」 「…もし私に好きな人が出来ても、…佐天さん、には、話せそうに、…ないですね、…なんか言いふらされそうです」 …なかなかグサッとくるねぇ。 「へぇ、初春に好きな人かぁ。いつできるんだろうねー」 「そりゃずっとこうやって一緒にいれば、…いつかは私に好きな人もできますよ」 …好きな人か。 こうやって軽口叩いてる間にも、そんな人が初春の前に現れるのかも知れない。 …何やってんだろ、あたし。 最近聞いた音楽の事、学校の事、友達の事、…初春の事。喋ってる時はすっごく楽しいのに。 その後は、何故か少し寂しくて。 「初春が恋ねー、想像つかないなー」 つきたくない、のかも知れない。 「なんですかその言い方は。ほら、秘めた想い、とかいうじゃないですか、…きっと私なら、佐天さんみたいに何でも喋ったりしないと思います」 秘めた、想い。か。 面白い事、嬉しい事。人に話さなかったら、どうなるんだろう。 頭の中で、誰にも話していない事を探す。 「んー…」 「あ、別にそこまで悩まなくてもいいですよ。ちょっと気をつけて欲しかっただけですから…」 …目の前にいた。 多分、多分だけど…あたしは人に話している以上に、会話で表現できる範囲を越えて、…初春が好きだ。 「…佐天さん?」 やっぱり初春は可愛い。 「…反省、しておりますっ。……よし、今日は晩ご飯何にしようか初春ー」 で、あたしはこういう時に限って、何も言えやしない。 「もう、佐天さん調子いいですねー」 あぁ、なんか恥ずかしいなぁ。 …そう、人に言わないと、ハズい。 自分の中で『秘めた想い』とやらがグルグル回って、すっごい幸せなんだけど、同時に恥ずかしくって頭がパンクしそうで。 つい大仰に人に話しちゃって、後で物足りなくなる。 そっか、これか。 …やっと分かった。 なるほど、人に話して恥ずかしがっている初春を見るのも悪くはないけど、 これはきっと、すごく勿体ない。 ――――――――― 多分深夜。 「ーくしゅん」 くしゃみをして目が覚めた。 あの後とりあえず初春の機嫌は直ったようで、謝りながらも昨日と同じように初春を抱きしめて寝て、で… 「…寒」 寝相悪いな、あたし。 こんなに寒いのにどうして布団を蹴り込んだりできるんだろう。 初春は眠った時と同じ位置で縮こまっている。 初春も寒そうだな、悪いことしたな。 とりあえず、足元の布団を取ろうと起き上がる、 と。 「…さてんさん…」 「ん?…ごめん、起こした?寒かったよね」 「またふとんとばしたんですか?…かぜひいちゃダメですよ…」 布団を敷き直してもぐり込むと、初春がしがみついてきて 「もう、ほんとうに…しかたのないひとです」 ふわりと、抱きしめられた。 …昨日もこうだったのか。 …暖かい。幸せ。 恥ずかしくてたまらない。 …でも、この幸せは、絶対はなしたくないかな。 だから口を結んで、あたしは初春をぎゅっと抱きしめ返した。 おわり 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3090.html
【種別】 物質 【元ネタ】 Wikipedia-ヒドラジン 【初出】 とある科学の超電磁砲SS 通称『初春飾利SS』 【解説】 衛星を運んだりするロケットの打ち上げ時に使われる液体燃料。 爆発力が大きく、有毒。気化したヒドラジンを吸い込めばのどから肺まで爛れてしまう。 そのため扱いにはとても注意が必要である。 学園都市でも扱える学区が限られており、もっぱら第一〇学区でしか取り扱われていない。 その危険性は学園都市でも議論されており、金星探査コンテストのロケットの打ち上げが活発になった際にワイドショーで騒がれた。 八月一日、衛星ひこぼしⅡ号の追加実験棟モジュールに一五〇〇キロ注入され第二三学区に運ばれる途中、 運んでいた将軍がハイジャックされ、数万人規模の被害を発生させるところだった。 この件は初春や警備員の尽力によって、被害を未然に防いだ。 なお犯人の目的は第三学区の国際会議場での学園都市統括理事会と世界七ヶ国の首脳陣による公式会談だったようで、 その会場にヒドラジンを撒き散らそうとしていた模様。 九月十一日、金星探査コンテスト用の打ち上げロケットにある姿勢制御用補助ブースターの一つに注入されていたところをウレアパディー(未編集)に襲撃される。 上条らと対峙したウレアパディーがブラフマーアストラで運搬車両を損傷させ、中身のヒドラジンを辺りに撒くが、 インデックスの知識を用いたステイルの魔術で毒性を消され、事なきを得る。 余談だが注入されていたロケットの本当の目的はエンデュミオンを建造するための資材を運ぶことであった。