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#できちゃった結婚 ,#フジテレビ,#月9,#竹野内豊,#吉田紀子,#NETFLIX,#Hulu,#Amazonプライム,#dTV,#視聴率,#無料ドラマ amazonで探す @楽天で #できちゃった結婚 を探す! 月21フジ 2001.07.02~2001.09.10 15.7% wikipedia 前 ラブ・レボリューション 次 アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~ tudouは6本で完結 Hulu NETFLIX dTV PrimeVide U-NEXT TVer Paravi GYAO youtube検索 / Pandora検索 / dailymotion検索 / bilibili検索 1 2001/07/02 21.8% 2 2001/07/09 18.6% 3 2001/07/16 15.8% 4 2001/07/23 16.7% 5 2001/07/30 14.5% 6 2001/08/06 15.6% 7 2001/08/13 13.2% 8 2001/08/20 12.8% 9 2001/08/27 13.3% 10 2001/09/03 12.6% 11 君の幸せのために 2001/09/10 18.1%
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『できちゃった結婚』(できちゃったけっこん)は、フジテレビ系で2001年7月2日から9月10日まで毎週月曜日の21 00~21 54(初回は~22 09、日本時間)に放送されていた連続テレビドラマ。全11話。 あらすじ 主人公、平尾隆之介は真夏のビーチで知り合った小谷チヨから妊娠したことを告げられる。最初は困惑したががんばって育てようと決心する2人の前に、頑固なチヨの父親の一徹や隆之介の仕事状況の変化など様々な障害が立ちはだかるが、姉や友人たちの協力を受け、隆之介とチヨは結婚そして出産に向け奮起する。 キャスト 平尾隆之介 - 竹野内豊 小谷チヨ - 広末涼子 小谷亜紀 - 石田ゆり子 川口英太郎 - 阿部寛 有森みさと - 片瀬那奈 新庄巧 - 妻夫木聡 田中和正 - 酒井敏也 田中昌子 - 今井陽子 小谷淑子 - 高林由紀子 綾小路麗奈 - 井上佳子 白井 - 近藤芳正 山下 - おかやまはじめ 小松原修造 - 沢村一樹 平尾公子 - 木の実ナナ 小谷一徹 - 千葉真一
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できちゃった その1から ハル母 キョン君、いらっしゃい。ハルは部屋よ。「勝手にあがってきて」って言ってたわ。 キョン いつもすみません。お邪魔します。 キョン ……って、おい、ハルヒ? ハルヒ ん?……あ、キョン、おはよ。 キョン おはよって、もう昼だぞ。それと妊婦が床に寝るな。うつぶせで寝るな。腹出して寝るな。ったく、よいしょっと。 ハルヒ お、お姫様だっこ……って、もう終わり? キョン 終わりって、ベッドに運ぶだけだから、これで終わりだろ。 ハルヒ このまま町内を一周してみない? キョン しない。無駄に体を冷やすな。それより、なに散らかして寝てたんだ? ハルヒ あ、これ? 母さんの家事日記だって。もらったの。新妻と新米ママには参考になるだろうって。読みふけってるうちに寝ちゃったみたいね。 キョン ……おれには「ただの親父」腕章だったが。 ハルヒ なんか、言った? キョン いや。それよりすごい量だな。 ハルヒ 親父と結婚してからずっと、らしいからね。 キョン 途中から3年日記、それから5年日記形式になってるのか。 ハルヒ だんだん書くこともシンプルになってったみたい。あと、複年式の方が、去年とかおととしのを見れて、参考にしやすいんだって。去年の今日の献立はなんだったとか、そろそろカツオの初物が出てるかも、季節のものも分かるし。あと家族の体調の波とか、陥りがちな献立のパターンなんかにも気が付きやすいって。 キョン 日記ってただ書くだけじゃなくて、使えるもんなのか。お、このあたりでハルヒが生まれてるぞ。 ハルヒ そこら辺りは、看護婦さんとか親父とか手伝いに来ていたおばあちゃんを尋問して書いてたらしいわ。 キョン 尋問……。確かに根掘り葉掘り聞いて書いた感じだな。 ハルヒ 母さん、入院してたしね。書くことで一緒に居る、つながってるって感じたの、と言ってたわ。さびしいときは、ノートを抱きしめて眠ったりしたって。 キョン ……。体重とか体温とか便の色とか、書いてあるな。 ハルヒ へんなとこ読むな!……赤ん坊なんだからしょうがないでしょ! キョン ここらへんのは新しいな。これ、最近のノートか。 ハルヒ こ、こら、見るな!触るな! ……プライバシーってもんがあるでしょ。 キョン 蹴るなよ。ああ、すまん。そういうつもりはなかったんだが。……ハルヒが中学から高校の頃のか?……なぜ、胸に日記を抱えてあとずさる? ハルヒ あんた、やっぱり退場!ノート片付けるまで入ってくんな!! ハル母 ハルが中高の頃の日記? そうね、あの娘もどんどん変わっていった頃ね。 キョン いや、プライバシーと言われれば、確かにそうですし。 ハル母 それはあれね。キョン君をいつから男の子として意識したとか、どんなこと言われて一喜一憂したとか、わかるからじゃないかしら? キョン そんなことまで書いたんですか? ハル母 ふふ、母の日記は伊達じゃありません。 ハルヒ もう! 母さんも余計なこと言わないで。 (ギロッ)キョン、絶対見せないからね。 ハル母 お式のときにタイム・カプセルにでも入れて、10年後にみんなで開けるというのはどうかしら? ハルヒ (ギロッ)か・あ・さ・ん ハル母 まあ、怖い。 キョン 人の日記を見る趣味はない。さっきは悪かったな。 ハルヒ う、うん。あたしも、その、ちょっと悪かった。 キョン 会ったときのハルヒがどうだったとか、会ってからのおまえがどう変わったとかなら、俺だって全部覚えてる。俺が知ってる限りだけどな。それだけでもうお腹いっぱいって感じだ。 ハルヒ なによ、それ。ひとを食べ物みたいに。 キョン おまえを食べたわけじゃないだろ。時間とか、思い出とか、そういうのだよ。 ハルヒ あんたは獏(ばく)か。この先の方がずっとずーっと長いのに、もうお腹いっぱいでどうすんのよ。 キョン 獏が食べるのは悪夢だろ。俺が言ってるのは…… 親 父 食っただろぉ、ひとのむすめをぉぉぉ キョン 親父さん!? ハルヒ バカ親父、なんて時間に帰ってきてるのよ!? 太陽はまだ頭の上よ! 親 父 最近、勤労意欲が目っきり落ちてな。はっきり言って落ちこんでるんだ。 ハルヒ いままでが無駄にテンション高かったんだから、その反動よ。しっかり収支をあわせなさい! 親 父 そういうこと言ってるとな、毎日押しかけて、孫に悪い影響を与えちゃうぞ。でたらめな世界観を植えつけちゃうぞ。宇宙人と未来人と超能力者と遊びたがるような孫にしちゃうぞ。満員の甲子園球場に連れてって5万分の1の悲哀をトラウマにして刻み込んじゃうぞ。 キョン 親父さんに(負け惜しみ)怪人の自爆フラグが……。 ハルヒ あんたにはうちの敷居は一歩だってまたがせないわ! 親 父 子供産んでも、しばらくうちにいるんだろうが。……そうだ、キョン! キョン はい。 親 父 バカ娘には、もうなーんにも期待しとらん。せめておまえが自重しろ。 キョン はあ。 親 父 俺の目の黒いうちは、うちであんまりいちゃつくな。 ハルヒ そんな目は、今すぐ白く塗りつぶしてあげるわ! 親 父 立候補すら取り消されたダルマか! できちゃった その3へつづく
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できちゃった結婚の後、ただいま育休中の女性教師。 コンピューター室の中央におわしながら全生徒のパソコンを監視し、時に乗っ取ってしまう超能力はおなじみである。 男子からの性的な視線をも撥ね返す逞しいオーラをお持ちで、その厳しいお言葉にさらに燃えてしまうこともしばしば。 箴言 39!? へんたい メイン装備 化粧(防具)・・・女性が用いる仮面。男が過度にやると、掘られてしまうことがある。
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できちゃった その4から 「両親教室? 何だ、それは?」 「実質は父親教室みたいなものらしいんですが。いままで妊婦さん向けの母親教室は、どこの産婦人科でもやってたんですが、それだと父親になる側が、母親になる側と、知識にしろモチベーションにしろギャップが広がってしまうんで、両方が参加する教室を導入しているところが増えているみたいなんです。両親教室への参加が、立ち合い出産の条件になっているところも多くて」 「まあ、何も知らんバカを出産に立ち合わせても、騒ぐだけで役には立たんしな」 「あんたの場合、役に立たないどころか、追いだされたんでしょ?」 「バカ娘、それは正確とは言えん。母さんから『もう大丈夫』サインが出たんで、おとなしく退散したんだ。な、母さん」 「ええ。さすがにわたしもハルヒを生むのに集中したくって」 「ほら、見なさい。キョン、あたしたちは二の轍は踏まないで行くわよ」 「というわけで、親父さん、週に一回、仕事の方を抜けたいんですが」 「それはかまわんが。俺に着き合ってバイトに受験勉強、それに両親教室か? 学校の方もあんまり行けてないだろ。そっちは大丈夫なのか?」 「出席日数は計算してもらって、ぎりぎりのところで調整してます。結果が出てきたんで、まあ大目に見てもらえる余地が出てきたというか」 それについては、古泉の暗躍や長門の得意技もあるらしいのだが、詳しいことは気を使ってか、話してくれない。 一方、成績の方はと言えば、親父メソッドが脳に浸透してきたのか、まず学内テストが、ついで模擬テストの成績が、VTOL機(垂直離着陸機)の離陸のように、逆L字型に上昇し始めた。 自分で変化を自覚したのは、勉強のできる奴にとっては当たり前のことなのかもしれないが、メモも何もなくても、受けてきた試験問題を完全に再生できるようになったことだ。 問題文ごと暗唱する訓練が効いてきたのかも知れない。この能力が、受験勉強の後半以降、格段に記憶ものの効率を高めたのは言うまでもない。それまでは「これはさっき/昨日/前の模擬試験でやったやつよ!」と、よくハルヒに言われていたが、汚名返上の日も近い。いや、もう来ているかもしれん。 「でも、キョン、無理だったらいいんだからね。あんたがいるのは心強いけど、あたし、ふっきれたというか、ちょっと強くなったから」 「そうなのか?」 「うん。母さんにね、いろいろヒントもらったの」 「そうか」 「うん」 「でも、立ち合い出産は、俺のわがままでもあるから、なんとかやれるだけはやるつもりだ。それでいいか?」 「うん!」 ハルヒ母 ラマーズ法ってね、弛緩と呼吸がポイントなんだけど、わたしが習った古武術の呼吸法とか弛緩の考え方と結構似てるの。多分、これ以上、体に負担がかかると死んじゃうだろうし、お父さんが死ぬのはダメだってわざわざ頼みに来たものだから、無意識にそれをやってたみたいね。私、ハルヒを生んだとき、途中からほとんど無痛だったの。 ハルヒ母 護身術ってことで習ったんだけど、私ったら力は弱いし持久力もないし、逃げようたって走るとすぐ息が切れるから、そういう子にできるものと散々探したみたい。みつかった先生は、肺を半分切り取ったおじいさんでね、いつもゼイゼイいってるし、これなら大丈夫だろうということになってね。 そんな先生の武道だから、とにかく鍛えないの。むしろ体の力を抜くこと緊張をとることばっかり。それはそれは丁寧にやったわ。自分は抜いてるつもりでも、こことここの筋肉が緊張してますよ、という感じでね。すぐに全身の筋肉の名前、覚えちゃった。呼吸の仕方がその次。技みたいなものは、いくらも習わなかったわ。 でもおかげで、一通りバレエもできるようになったし、ピアノの運指はものすごく楽だったの、へんな癖がはじめから消えてるようなものだから。だから、先生の教えてくれたことは、少ない体力を上手に使う練習、体を楽に思いどおりに動かす練習なんだと、子供心に納得したの。だから今もすごく感謝してるわ。まさかお産のときまで役立つとは思わなかったけれど。 ハルヒ母 名前は覚えてないの。聞かないこと、調べないことが、教える条件のひとつだったみたい。ひょっとしたらすごい人だったのかもしれないわね。 ハルヒ母 ある日、心配した父がね、「あの、いつから術の方はお教えいただけるのですか?」と余計なことを聞いて、「もうやっておる」と先生が答えて、母さん試合みたいなことしなくちゃならなくなったの。父をうらんだけど、家にいる若い人たちが殴る係りになって、かわいそうだったわ。 先生が一言だけ、「あなたは耳がいいから、相手の呼吸をする音が聞こえるでしょう」といって、その後、すぐ試合ね。母さん、一応、そのうちのお嬢さんだから、みんな本気で殴れないわよね。でも確かに、息の音を聞いてると、相手がいつ動くか、どんな風に来るかが、よくわかったの。 あ、これなら、簡単によけられそうと思ってよけてたら、みんなが本気じゃないと父が怒ってね。ステッキか何かで殴りかかってきて、みんなに無茶言って、その上、娘を殴ろうなんて、母さんその時少し腹が立っちゃったから、よけるのは簡単だったけど、よけるときに少しトンと父を押したのね。 そしたら、ひっくりかえっちゃって、みんな大騒ぎ。母さんも、そこまでこっぴどくやるつもりはなかったから、必死であやまってね。あとで先生に、あの時私がしたのは何ですか、と聞いたら、 「人は攻撃するときには、バランスを失うことと引き換えに力を出すのです。その一番無防備な瞬間があなたには見えたのでしょう。捌きの中には、相手を倒す動きも含まれているのです。あと、すこしだけ技のようなものをお見せして、私がお教えすることはおしまいです。使わない方がいいが、今のあなたなら、ご覧になっておけば、何年か先になっても、ちゃんと役に立つでしょう」って。 実際に役に立ったのは、お父さんと知り合って、危ない目に会うようになってからだけど。 ハルヒ あんた、なにしたのよ? 親父 うーん。理由は忘れたが、30人くらいに囲まれてな、とりあえず手近なのから殴ってたんだが、疲れてくるし困ってたら、向こうから小さな女性が、大男たちをぽいぽい投げながら、モーゼが海を分けるみたいにならず者達を分けて、俺のところまで歩いてきた。もちろん母さんだ。そこで俺の顔にビンタ一発だ。パシンといい音がして、みんな動きを止めちまった。その後、俺は母さんに手首つかまれて、引きずられていった。 ハルヒ母 もうあんな立ちまわり、しませんよ。次は悪知恵でしのいでください。 親父 というわけで、10人以上は相手にしないと誓ってある。で、話の続きだ。母さんにおれが引っ張られてるのを見て、まだ俺を殴ろうとしたり、母さんを捕まえようとした奴もいたが、そんなのは、母さんがひとにらみで相手を凍らせてた。だから、おれが10人束になってもかなわんと思うぞ。 ハルヒ あんたみたいなのが10人もいたら、その方がたまんないわよ。 親父 なら、バース・コントロールはすることだ。どうもお前はまだまだ生みそうな気がする。隔世遺伝ってのもあるんだからな。俺みたいなのがほいほい生まれてきたら、どうするんだ? ハルヒ 全員、真人間にしてみせるわ。ご心配なく。 「キョン君、親父さんは?」 大量コピーを持って帰ってくると、親父さんの部屋のまえに、若い男女社員。 どういうわけか、親父さんの会社でも「キョン君」扱いだ。ただのバイトに「君」という敬称がつく理由は、親父さんによれば「あんな『人でなし』にこき使われているのに、文句のひとつもいわない人格が、高校生ながら尊敬を集めている」んだそうだ。俺はただ親子揃って荒い人づかい慣れているだけなんだが。 「さっきまでいたんですが、鍵は?」 「いや、ノックしても反応がなくて」 男性社員の方に、コピーの束をどさっと渡して、空いた手でドアのノブをまわす。鍵はかかってない。居留守だ、あるいは居眠りだ。 「キョン、ノックくらいしろよ。社会人の常識だ」 「ノックがあったら返事ぐらいしてあげてください。お二人が待ちぼうけをくらってました」 男性からコピーの山をうけとり、俺は自分の机に座った。 おやじさんは、言われちまった、といって肩をすくめてる。 「そりゃ、わるかった。で、何か用かい、お二人さん?」 「あの、『他の人には無理』なことなら、親父さん、いえ、涼宮さんは断らないと聞いてきたんです」 やれやれ、どうやら用件は、一筋縄では行かないような厄介ごとの解決らしい。現在の俺の雇い主、トラブル・メーカー兼トラブル・シューターを自認する、我らが親父はどんな妙手を(はたまた悪知恵を)見せてくれるのか。 「俺の見立てでは、どうやら色恋沙汰だ。キョン、おまえさんに任せる。得意だろ?」 「全然」 「おまえ、娘婿って立場、わかってるか?」 「親父さんは、婿には色恋沙汰の得意な奴がいいんですか?」 「いや、全然。むしろ逆」 「Q. E. D. (Quod Erat Demonstrandum かく示された;証明終了)」 「こらこら。俺たちは口先三寸で飯食ってるんだぞ。師匠を倒してどうする?」 「打ち返さないと、せっかく返しやすいロブをあげたのに、と怒るじゃないですか」 「そうだっけ?」 親父さんは心底不思議がって見せ、ようやく二人の社員の方に向き直った。 「ま、冗談はさておき、仕事でなんかトラブルか?」 「ええ、あ、はい」 「相手さんとやらかしちまったか?」 二人は何で分かるの?といった顔をしたが、その後大きくうなずいた。 「向こうのお家事情が苦しいのはわかるんですが」 「無理難題を吹っかけられた?」 「ええ」 「相手、どこだっけ?」 「○○市役所です」 「役人か。困ったもんだ」 「そもそも住民参加でやりたいと言ってきたのは、市の方なんですよ。それを今になって!」 どうやら腹に据えかねているのは女性の方で、男性の方は挟まれなくていいところに挟まって身動きが取れないといった様子のようだった。 「あー、ちょっと電話する。貸しのある奴が確か一人いてな」 親父さんは、何は口ずさむようにぶつぶついいながら、携帯のアドレス帳に見つかった「貸しのある奴」の一人を選んだ。 「……出やがった。ああ、俺だ。何度も言うようだが、俺は鈴宮じゃなくて涼宮だ。そう。『君が望む永遠』に出てくる方の。お前の携帯にもそう入力してやったろ?」 親父さん、それは名作ギャルゲーでウツゲーです。何気にやり込んでそうでこわいが、ネーミング問題はいろんな理由から黒歴史と化しているので、これ以上は追求しないぞ。 「うちの若い連中が、手を貸してる、ほら、何だっけ? ドブ川をせせらぎにする、とかいう奴だ、と。あれ、どこの担当だ?」 基本的に親父さんは一度覚えたことを忘れない。「何だっけ?」と聞くのは、未知の情報、単に知らないことを聞き出す時の常套句だ。 「××課? まだ、そんなもの、あったのか? △△が部長? 困ったぞ、貸しがありすぎて焦げ付くまでいってる奴だ。……じゃあ、あいつにな、5分後くらいに『親父』から電話があるぞ、って告げ口しといてくれ。5秒で済むだろ。てめえ、時給いくらだ? 頼んだぞ」 と、よくは分からないが、これにて一件落着といった顔で、親父さんは俺たち3人を見た。 「△△は、タヌキでムジナだ。机、派手にどついてたろ? 古いんだよ、あいつは。俺の名前、どこかでぶつぶつ言ってなかったか?」 「そういえば!」といったのは男性。 「ええ、それもあって、おやじ……涼宮さんに頼もうと」 といったのが女性社員の方だった。 「親父で構わんぞ。こいつだって、ここでもキョンだ」 「親父さんがそれしか使わないからでしょ」 「いい名前だな。今夜、どうだ?」 「悪いですが、ハルヒと約束がありますんで」 「つれないな、キョン。……おい、ほんとに5分待つと逃げるから、今すぐ電話しろ。どうせ、落としどころはもう考えてあんのさ。部外者怒鳴りつけて、内部まとめようって腹だ。2万年ほど古い手だ。もし、ぐずぐず言うようだったら、俺に替われ。貸したもの、全部今から回収にいくぞ、と言ってやる」 男性社員が電話し、そのなんとかいう部長を呼び出して、ぺこぺこしたり、笑ったり、まあ、向こうの話が大層長いのはそれだけでもよく分かったが、もめごともわだかまりも、とにかく解決してしまったのは、本当のようだった。 「無駄なことばっかりしやがって。だが、ともかく、一つ片付いたぞ、キョン。お前の英語を見てやろう。……過去問3周したって?」 「いや、今5回目に入ったところです」 「こんなに急に伸びるなら、志望校ふっかけて、ほんとに『ハルキョン桜』にすればよかったな」 「いや、ハルヒはしばらく実家を離れられないし、俺も1年も離れて暮らすのはごめんですから」 「面白みのない奴だ。あ?△△が、替われって? キョン、これでも読んで、ちょっと待ってろ」 親父さんが放り投げたでかい封筒の中には、英語の絵本が3冊入っていた。 電話を親父さんに替わった男性社員が、俺に話しかけてくる。 「すごいな、君の親父さんは」 いや、まだ、俺のじゃないです。というか、俺の、ってのは勘弁してもらいたいのが、偽らざる魂の叫びだろう。 「なんだか出来レースだったみたいだし、災難でしたね」 と話をそらせたい俺。 「いや、△△部長ってのは、やり手だが、荒っぽい人でね。当時、市長がぶち上げたあるプロジェクトの責任者になったんだが、独断専行が過ぎて役所でも孤立、地元住民とは全面対決、みたいなことになったんだ。それを解決したのが……」 男性社員と女性社員、それに俺は、それぞれ違った目で、電話にどなってる親父さんを見た。 「やれやれ。何度言えば分かる? おれは鈴宮じゃなくて涼宮だ。うちの若いもの、人前で恥かかせてくれたそうじゃないか。高くつくぞ。どっちがヤクザだ? まだに部下の書類、窓からこれ見よがしに捨ててるのか? 今は、ピンクの蛍光マーカーで修正してる? どっちにしろ、ろくな死に方しねえぞ。 いいや、これっきりだ。どのみち、しばらく日本を離れる。いーや、絶対にだ。衛星電話しか通じないところにいるから、税金じゃなくポケット・マネーでかけてきやがれ。じゃ切るぞ」 親父さんは携帯をポケットにねじ込み、二人の社員のお礼を聞き終え、どかっと来客用ソファに座り込んだ。 「だから日本は嫌なんだ。くだらない連中が気安く電話かけてきやがる。アフリカからだと、いまだに船メールが何ヶ月もかけて届くぞ。違うのは内容だ。『こんなことで困ったけれど、自分たちで工夫して、こんな風になんとか解決しました』みたいなことが書いてあるんだ。俺を便利屋か何かと思ってる連中全員に回覧してやりたいぞ。で、キョン、お前に渡したそれなんだが」 「絵本ですね。英語の」 「そうだ。そして商売道具さ。向こうじゃ暴力はやめて話し合いで解決しましょう、なんて絵本がわんさかあって、ガキの頃からそれを読んでくるんだ。だから暴力もオプション(選択肢)のひとつだとおもってやがる。犯罪は、暴力しかオプションをもたない下の連中の仕業だとさ。こっちでいう、しがらみや腹芸が、向こうじゃ方法と学問になってる。どっちもろくなもんじゃないがな。肉をたらふく食わないとやってられんぞ。昼間から、肉食いに行こうぜ、キョン」 「じゃあ外出中の札、出してきます」 「やれやれ、だ。人間関係で、しかも昔のそれで「仕事」するようになったら、お終いだぞ。何のアイデアもワクワクもない。殴りあった果てにできる友情も、キズ舐めあいながら飲む酒の楽しみも、だ。まあ、歳取ると体も無理が効かなくなるし、それしかできんようになるんだけどな。今いた兄ちゃんは、ハーバードのロー・スクールで、交渉学と紛争解決を学んだ修士号ホルダーだ。姉ちゃんの方も、なんか向こうで学位とってて、都市計画の技術士も持ってるらしいな。そして、持ちこんでくる話がガキの使いだ、とくる。このうえ家に帰れば、娘にいじめられるし」 「いや、そっちは自業自得の部分が大きい気が」 「言うようになったな、キョン」 「感謝してます」 「ガキ生まれたら、海外逃亡しようぜ。大学なんか慌てていくことないぞ。そうだ、いっそハルヒを乗っけて、機内で出産すれば、ガキは飛行機代タダになるぞ」 「予定日ちかくだと、医者を同伴しないと、そもそも飛行機に搭乗できないんです」 「なんだ、都市伝説なのに。調べたのか?」 「ええ、ハルヒが」 「嫌になるくらい、父と娘だな」 「嫌になるんですか?」 「突っ込むな。親父は今、浸ってるんだ、親娘(おやこ)の溝にな」 そうまでして埋めなくても、とはさすがに突っ込まない。突っ込めない。 「お前らを組ませたのは失敗だったかな。たいした強敵だ」 親父さんはニカッと笑った。 「さっきの兄ちゃんも姉ちゃんも、見所がないわけじゃないんだがなあ。俺がせっかちなのか?」 「ハルヒも、十人いれば十人とも、せっかちだと言いますよ」 「一旦、抜けたと思ったら、またハルヒ・トラップか。寄せがきびしいな。年寄りは敬って、少しは手を抜けよ、キョン。あと、もう少し、周囲(まわり)に心を開け」 「おれが、ですか?」 「他に、そんなマヌケなあだ名の奴がいるのか?」 「いや、あんまり言われたことがなくて、その、新鮮で」 「おまえさんの、似あわない忍耐力とか頑張りはな、人に言えない秘密を持っちまった人間が手に入れる類の奴だ。確かに人間は弱いしくだらないし信用ならないが、泣くほどじゃない。期待せずに待て。そのうち、なんか、いいことがある」 「いや、もう腹いっぱいなくらい、たくさんありました」 「じゃあ、これからも食いきれないほどある」 「楽しみにしてます」 「ふん。その時がきたら『泣きべそ』かかんようにな」 できちゃった その6へ
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できちゃった その2から 母子手帳がいつからもらえるか、ご存知だろうか。 正解は「妊娠がわかったら」すぐにでももらえる、である。 「そんなことも知らないで、父親になろうなんて、うかつすぎるわよ、バカキョン!」 うかつなことは認めるが、そういう「うっかり」ではないような気がするぞ、ハルヒ。 「どういうことよ?」 だいたい、母子手帳が妊娠がわかったらすぐにもらえる、なんてことを知ってる高校生なんていないと思うぞ。ハルヒ、お前は知ってたのか? 「あたりまえでしょ!」 うぐ。 「子供ができたらどうなるか、どんな準備をして何をしなきゃならないのか、知らないのはまだしも、知らないでも良いと思ってるのは許し難いわね。だったら、ちゃんと避妊しなさい!」 いや、それは、あれだろ、おまえが「生」の方が良いって言って……。 「あたしは知ってるからいいのよ」 ぐう。わかった。ちゃんと勉強する。 「よろしい。……いい、キョン? 育児は、入試みたいに全科目が1、2日の間に全部出題される試験じゃないの。子供の月齢に応じて、出る問題は決まってるのよ。1ヶ月の赤ちゃんの親は、1ヶ月の赤ちゃんに必要なことだけ集中すればいいわ。4ヶ月になったら、1ヶ月の赤ちゃんにしかおこらない病気のことなんか、忘れてもかまわないの。4ヶ月のときに、子供が3歳になったら何をすればいいか、心悩ます必要もないわ。だから、まずは順番と、いつが何が必要か、何を調べればいいかだけを知っておけば、とりあえず構わないという訳。はい、これ」 なんだ、この分厚い本は? 「全3巻だから、あと二冊あるわよ。とりあえず、目次だけでも覚えなさい。あと、「子供が生まれるまで」のところは、今からちゃんと読んどくこと。母さんたちが手伝ってくれるとはいえ、あたしたちの子供なんだからね」 帰り支度を済ませ、ハルヒに渡された本を持って階段を下りていくと、インターホンが鳴って、玄関のドアが開いた。涼宮家のゴッド・ダディのお帰りだ。 親父さん、お邪魔してます。 「よお、キョン。今日も気の毒だな」 親父さんに言われると、本当に心底凹みますよ。 「わるい、わるい。悪気はないんだ」 どっちなんですか? 「もう帰るのか? ハルヒとは別の部屋に布団敷いてやるから、ちょっとつきあえ。明日は土曜だろ」 いや、帰ると家に連絡したし、明日も早いんで。 「不思議探索って、そんなに胎教にいいのか?」 どうなんでしょうね? 「その本」 これですか? 「俺も読んだ」 親父さんも? 「うちは、母さんがハルヒを産んだ後、そのまま2年ほど入院したからな。俺は勘当の身で、母さんも実家と連絡を取ってなかったから、どっちの親にも頼る訳に行かなかったって訳だ。育児書の類いはみんな読んだし、あと『メルク・マニュアル』と『ネルソン小児科学』は暗記した。百科事典を読んで原爆を作る高校生みたいなおめでたさだが、最初はそれ以外の手も思いつかなくてな。つまるところ、あのバカ娘が、必要以上にバカな件について、俺には遺伝子以上の責任があるんだ」 「なによ、ひとを『失敗作』みたいに! あんたの悪影響なんか、とっくに払拭したわよ、このバカ親父!」 ちょっとまて、ハルヒ! おまえ、いま、すごく悪いことを考えてるだろ。階段の上からとび蹴りしようとか? 「さすが、キョンね。以心伝心とはこのことだわ。さあ、的(おやじ)が逃げないように、しっかりつかまえててちょうだい!」 おまえはこの、地下闘技場でもそこそこやっちまいそうな親父相手に、俺に素手で立ち向かえというのか。って、問題はそっちじゃない! 俺は、階段を2段飛ばしでかけあがり、ハルヒを抱き上げて行動不能にした。 「きゃあ、キョン、な、なにすんのよ!」 それはこっちのセリフだ! 飛んだり跳ねたりする妊婦がどこにいる? 自分と子供の体のことも考えろ! 「わ、わかったわよ……」 「おーい、ご両人。あつい情熱は分かったが、階段途中のお姫様だっこは、いろんな意味で危ないぞお……って聞いてないか」 だいたい、いつまで2階にいるんだよ? 危ないから1階の部屋と替われって、あれほど言っただろ。 「わ、わかってるわよ。……でも、いろいろ身の回りの物も置いてあるし、そう急には……」 親父さん、今日、泊まっていっていいですか? 「お、おう。そうしろ」 ハルヒ、今夜中にやっちまうぞ、1階への引っ越し。 「あ、あんたね。そんな急にできるわけ……」 とりあえず、なにから運ぶ? 指示しないと、全部持っていくぞ。 「あ、あんたねえ……」 「おーい、ハルヒ。そうなったら何言っても、無駄だぞ」 「ど、どうすんのよ?」 「やらせとくしかない。そのモードのキョンを止めるのは、無敵のコックK・C・ライバックを乗せた暴走特急を、親指を立てて止めるようなもんだ。……俺は1階の部屋を片付けてくる」 「こら、バカ親父、逃げる気? 今の責任とりなさーい!」 次の日の土曜日は快晴。絶好の不思議探索日和だが、くじの方はそうでもなかった。 「なるほど。それで最近、あなたの遅刻と罰金がめっきり少なくなった訳がわかりましたよ」 午前・午後とも、見事に野郎チームと女性軍チームに分かれた。何かの怒りにでも触れたのか? ずいぶん慣れたとはいえ、このイケメン超能力者と数時間、疲れる話をしながら町を歩くのは、結構忍耐と努力を必要とする。 「昨日は単純に片付けをはじめるのが遅かっただけだ。いつもハルヒの家を一緒に出てる訳じゃない。それにしても、ハルヒの奴、大丈夫なのか?夕べは結局ほとんど寝てないはずなんだが」 「寝てないのはあなたも同じでしょう。いや、なんというべきか、嫁煩悩の鏡のような方ですね。あのお二人がついていますから、心配は無用だと思いますが」 確かに朝比奈さんの慈母のような心遣いと、並み大抵以上の危険があってもなんとかしてくれるであろう長門がついていれば、ハルヒの安全は、スイス銀行最奥のシェルター内金庫の中よりも確実だろう。しかし、そろそろ無理に班分けしなくてもいいんじゃないかと俺は思うぞ。 「まあまあ。週に一度の息抜き、リフレッシュではないですか。すでに学校を休んでおられる涼宮さんにとっては、家族以外の人に会う貴重な機会ですよ」 「それはまあ、そうだが」 「涼宮さんは結局、休学の方を選ばれたのですね」 と古泉は笑顔を絶やさずに、感慨深げに言う。 「ああ。退学して大検、という選択肢もあったんだがな。あいつなりに、この学校には思い入れがあった、ってことなんだろう」 「ちゃんと卒業したい、という訳ですか。あなたと出会った場所ですしね」 「おまえらともだ。SOS団の団員、名誉顧問、準団員、クラスのみんな、全員だ」 「……。ところで、朝比奈さんの進路ですが、彼女はやはり白衣の天使を目指すそうですよ」 「それは……非常に楽しみだが、別の意味でちょっと怖いな」 「長門さんは、人体という有機体システムにいたく興味を持たれていまして、医学の道へ進むことを考えておられるようです」 「理系はまずいんじゃないのか? 歩くオーパーツになりかねんぞ」 「自重する、と言っておられました」 「……」 「あなたはどうされるんですか?」 「どうもこうもないが。……とりあえず浪人せずに大学へ行って、入ったら一旦休学だろうな。自主的な育児休暇だ。いくらハルヒでも育児と受験勉強の両立は大変だろうし、お義母さんたちにまかせっぱなしにもいかんだろう」 「父母そろって子育てですか。あたりまえのようで、なかなかありえない話ですね。それなら涼宮さんとまた同級になれますし」 「まあ、俺が受からんことには、どうにもなりようにない話だが」 いい加減、足もアタマもくたびれてきたところで、古泉はオープン・カフェのある店で休んでいこうと言い出した。俺の方も異論はない。むしろ渡りに船って奴だ。 「しかし、収まるところに収まってみると、改めてあなたがたの認知度というか人気がわかりましたよ。今回の件は、純粋に生物学的には当然のことであっても、今の日本社会の世間常識からすれば、必ずしも賞賛されるものではありませんからね。今や10代の出産を減らすことを政策目標にする国や社会もあるくらいです。なのに、我々の周辺では、喜ぶ人こそあれ、非難めいた声が生徒はおろか教職員の人たちからも聞かれませんから」 「俺たちは周囲に恵まれてる。過ぎるくらいにな。おまえらを含めてだが」 「長門さんが整理して目録を作ってくれていますが、毎日SOS団部室に届けられる多種多様な『安産のお守り』は、もう500じゃききませんからね。鶴屋さんが保管場所を提供してくれて幸いでした。さもないと、部室もどうなっていたことか」 「おまえの専門的には大変なことになってないのか?」 「涼宮さんの精神状態は、いま非常に安定していますよ。マタニティ・ブルーも育児ノイローゼも、あなたの努力を見ていると、大船にのった気持ちでよさそうですね」 「おれだって何もかもはじめてなんだ。どこにいくか、わからんぞ」 「あなたとなら、それもいいかもしれませんね」 「気持ち悪いこと言うな」 「これは失礼。言外の意味を込めたつもりはなかったのですが」 古泉はにこやかな表情をやわらげ肩をすくめた。 携帯が振動して着信を伝える。朝比奈さんからだ。 「あ、キョン君? 涼宮さん、眠っちゃいました。はい、いつもの公園です。長門さんがちゃんと、えーと、なんとかフィールドを張ってくれてますから、冷えたりはしないと思います」 「わかりました。すぐそっちへ行きますから。……ハルヒが眠っちまったらしい。今日はお開きだな」 「ええ。涼宮さんをおぶって帰られるのですか?」 「どこかでタクシーでも拾うさ。ひょっとすると、その必要もないかもしれんが」 「……なるほど。元祖親バカ、ということですか」 「……オヤジ・イヤーは地獄耳」 「うわ、親父さん」 「聞こえてるぞお、古泉」 「これはとんだ失言を。お許しください」 「おれのストーキングの技術も、まだまだな。キョンは欺けても、イケメン高校生には見破られるか」 「いやいや。彼が気付かないのは、接近してくる者に敵意や自分たちを害する志向が感じられないからですよ」 「で、バカ娘はどこで寝こけてるんだ?いつもの公園か?」 「ええ」 「車で来てるんだ。古泉も乗ってくか?」 「いえ、ぼくはここでお暇しましょう。みなさんにもそうお伝えください」 親父さんと俺は車に乗り、いつもの公園の入り口近くに乗りつけた。 ここで待っていると親父さんが言うので、ひとりでハルヒがいるベンチに向かうことにした。 公園の入り口からは、ちょうど夕日が沈んでいく方向にそのベンチはあった。そこでは、小さな朝比奈さんの肩に頭を預けて眠るハルヒがいた。長門は少し離れたところに立っていたが、多分なんとかフィールドを張っていてくれているんだろう。 「おい、ハルヒ。起きろ」 「ん? ……キョン? 何やってんの、あんた?」 「何って、迎えに来たんだ」 「……そう」 「朝比奈さん、すみませんでした。長門、ありがとな」 「いいですよ、そんな」 「私はかまわない」 「ハルヒ、親父さんが車でそこまで来てる。乗って帰れ」 「……あんたは?」 「ああ、ついていくぞ」 「……有希、みくるちゃん、キョンが来たから。今日はありがと」 「はい、じゃあこれで」 「さようなら」 俺がさっき来た方向へ向かう朝比奈さんと長門を見送りながら、ハルヒは座っている位置を、ほんの少しずらした。そこに座れ、ということらしい。 「ハルヒ?」 「座って」 「ああ」 「親父なら待たせとけばいいわ」 「ああ。……何の話だ?」 「え?」 「二人だけで話しときたいことがあるんだろ?いくら鈍くても、それくらい俺にもわかる」 「そう。……ねえ、あたしたち、未熟者かな?」 「まあ、そうだろうな」 「あたしたち、この子をちゃんと守ってやれるのかな?」 「ハルヒ……」 「ちょっとここで居眠りしたわ。そしたら夢の中で、お腹の中にいる子たちが話しかけて来たの」 「……」 「不安だって。そっちへ出ていきたくないって」 隣に座っているハルヒは、俺の手をぎゅっと握った。 「あんただから、強がりなしで言うわ。あたしも不安。不安でたまらない」 「寒くないか?」 返事を待たずに俺の上着をハルヒの肩にかけてやる。 「大丈夫。でも、ありがと」 「実を言うと、俺もだ」 「え?」 「不安でたまらん」 「不安な表情じゃないわよ、キョン」 とハルヒはくいっと顔を挙げて言った。 「あんた、なんだか知らないけど、少し笑ってるわ。いつもの困ったような笑顔だけど」 「そうか? 自分では気付かないもんだな」 「あんたは、そういうことばっかりだけどね」 「まあな」 「キョン、あんたも不安なの?」 「おれはな、ハルヒ」 これまでなかったほど自然に言葉が出た。 「おまえが、好きだ」 「あ、あた、あんた、どさくさにまぎれて、何言ってんのよ!」 ハルヒの反応は相変わらずで、それがおれに何かの力を与えてくれるんだろう。 「正直言って、何かできることがあるのかと言われればまるでないし、俺たち家族をどうやって食わしていけるか見通しだってない。俺たちの周りはどうにもお人よしの親切者ばかりで誰も言わないが、若すぎる、考え直せ、と誰彼なく言われたっておかしくないと思う。だけどな、ハルヒ」 沈みかけの太陽が、俺たちの足下から長い影をつくっていた。影の先は、たそがれに、そして夕闇に溶けていくように見えた。 「おまえのことが好きで、おまえと子供をどうやって守っていこう、どうやって暮らしていこう、って考えるから、不安になるんだ。だから、こういう気持ちも、おれは嫌いじゃないぞ」 ハルヒは、ほんの少しの間だけ、ぽかんとして、すぐに、いつものように形のいいまゆをつりあげ、こう言ってのけた。 「能天気な奴! いつものうるさいくらいの心配性はどこ行ったのよ?」 「心配すんな。しっかり取ってある」 「キョン、分かってんだろうけど、今のあんたみたいなのを『甲斐性なし』っていうのよ」 「ああ、そうだ。悪いか?」 「まあ、あたしも『すねかじり』だけどね。……二人して、さえない夫婦ね」 「だが夫婦には違いないぞ」 「まあ、最初から内実が伴うなんて期待してないわ」 ハルヒの指が、ビシッと至近距離で俺の顔を指す。 「道連れもいることだし、大船に乗った気持ちで行くわよ。船底に穴があいたら、あんたも汲み出すのよ、キョン!」 なんてたわいもなく小さな『大船』だろう。けれど、どれほど揺れようが、こいつとならなんとかなるだろうと、俺は心のどこかで信じることができた。 「遅い。迷子になっちまったかと思ったぞ」 公園を出ると、車の中には、ぶーたれる親父さんが一人。さすがに日が落ちるまで待たすのは悪かったよな。 「すみません」と謝る俺。 「なるわけないでしょ、バカ親父」と毒づくハルヒ。 「まあ、いい。いい男は待つことを知ってるんだ」 「言ってなさい」 親父さんは親父さんらしいことを言い、ハルヒはハルヒでそれを一言で切って捨てる。 「キョン、なに笑ってんのよ?」 「いや、親子だな、と思って」 「「どういう意味?」」 二人して迫るなよ。誰がどう見たって親子ですよ。 「返答によっちゃ」「ただじゃおかないわよ」 だったら何故セリフを割ってしゃべるんだ? できちゃった その4へ
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できちゃった その6(最終回)から 墜落事故から1年後、キョンに双子の娘、母さん、それにあたしは、カルフォルニア州バークレー市の地を踏んでいた。親父は仕事が忙しくて(ざまあみろ)日本に置いていかれることになった。 「なんて逆=単身赴任だ!」 「キョンをこき使って、サボってるから、こういう目に合うのよ」 「おまえなあ、どの口でいうんだ?」 「この口よ」 「アヒル口かよ。だいたいサボってないだろ。入院してただろ」 「その間もキョンはバイトしてたじゃないの!」 「そのかわりTOEFL&SAT対策にエッセイの添削、留学向け受験勉強をキョンとお前の二人分、見てやっただろ!」 「最後の方は、マサカドさんとアカザキさんに押しつけてたじゃない」 「直前には経験者の方がいいだろうと思ったんだ」 「お父さん、いい考えがあるわ」 「なんだ、母さん?」 「会社をやめて、アメリカで自分の会社をつくったらどうかしら」 「ナイス・アイデアだ、さすが母さん」 だが、会社の偉い人がひっきりなしに泣き落としに来て、この計画はアイデア倒れになった。 入院中、親父にはひっきりなしに来客があったが、マサカドさんとアカザキさんは、ほんとに仕事のことをキョンに相談しているようだった。親父の病室にいて、ケータイの電源を切っていると、親父が持ちこんだパソコンのスカイプに呼びだしのメッセージが入る。 「おい、キョン。二人組みからメッセージだ。話したいことがあるから、ケータイの電源を入れてくれ、とさ」 「ちょっと屋上へ行ってきます」 「20分は帰って来ないぞ」 「本来、親父の仕事じゃないの。キョンに押しつけて」 「おいおい。自分達で納得してなきゃ、鼻っ柱(プライド)の高い若造どもが、わざわざ高校生(ガキ)に相談を持ちこむもんか。俺よりキョンからの方が学ぶものが多いと、気付いたんだ」 「なによそれ?」 「ほんとにあいつの嫁かよ。いろいろあるがな。たとえば、あいつは、人を見下さないし、見上げもしない。たったそれだけのことが、どれだけのもんか、あいつらも思い知ったって訳だ。そこまで育てた俺は偉いぞ」 「あんたの話は誰もしてないわよ」 時折訪れる二人から、キョンの話を聞くのは楽しかった。 「極めつけはアレね。『ガキの使い』事件」 「そう、あれは胸がすっとしたな」 「それだけじゃなくて、あれで話がやっと前に進んだのよ」 「大地主の偏屈なじいさんが話し合いを止めてる難物だったんだ。土地持ちってのは、財産家だけど事業をしているわけじゃないから、意外と付き合いが狭くてね、土地の処分のことなんか相談できる相手がいない。強いて言えば、貯金がある信用金庫だったんだけど、そこでも何度か投資信託とか買って損して結果的にダマされるうちに、ますます偏狭で猜疑心の固まりみたいになってたんだ」 「だから偉い人、コンサルタント、いろんな人がいくけどみんなはね付けられてたの。そこにキョン君の登場」 「じいさんは激高して、『ガキの使い、とはようゆうたわ。ほんまにガキよこしよった!』と大荒れ」 「キョン君は落ちついたもので、おじいさんがぎゃーぎゃーわめき散らすのを全部聞き流して、息が切れたタイミングを見計らって」 「『はい。ご覧の通り、ガキの使いです。ですから、お話いただいたことは、すべてそのままお伝えします』」 「一瞬、居合わせたみんなが唖然よ。おじいさんまで『ほんまか? 今、わしがわめいたこと、そしたらどない伝えるねん?』って、もう一歩乗りだして、キョン君の顔を覗き込んでね」 「そこはキョン君、親父さんに鍛えられてるから、はしょらず過不足なく、おじいさんの『わめいたこと』を復元してみせて」 「『こりゃ、えらいガキの使いがきたわ。わし側の条件は、みんなこの人に伝えるよって、後の人はもう帰ってええで』」 「ぼくはあれで、親父さんがよく言う『わざわざ出向いて、負けて来い』の意味がわかったよ。親父さん、自分では絶対負けて見せないから(笑)」 「キョン君、こういう話しないの?」 「こら、アカザキ、デリカシーがないぞ」 「うーん、よく話はしてくれるけど、なんか失敗談ばっかりね。楽しそうに話すけど」 「それはやっぱり」 「うん、照れ屋さんね」 「ああ、キョンは俺とは逆のタイプだな。俺は自分のペースに相手をまき込むが、キョンは相手に合わせる、というか、つき合ってやる。おれがシャーマンなら、あいつはカウンセラーだ。理想を言えば、キョンのタイプがお得だ。相手の力を利用して投げるから省エネだ。本人は投げてるつもりもないんだろうけどな。 だが、この業界、まだまだ俺みたいなタイプが多い。自分は訓練を受けているプロだ、素人なんか簡単にひねれると思ってやがる。交渉と説得の区別がつかない奴までいる。だが、この世に素人なんかいない。誰だって、そいつが生きてる場所じゃプロフェッショナルだ。自分や家族の命や人生がかかってんだからな」 「いやー、親父さんは違うね。どこにいっても、あのとおりの親父さんなんだけど、それがどこでも、誰の前でもできる人なんていないよ」 「なんか、乗せると言うか、その気にさせるところなんか、天才的ね。うん、シャーマンというのは当たってるわ」 「3すくみで、掴みあいになりそうな話しあいがあってね。じっと黙って聞いているんだ。で、『だいたい分かった』と立ち上がって、そのまま机の上まであがって、机の上をすたすた前に歩き出して(笑)」 「『ひとつだけ、聞いていいか? あんたらの誇りはなんだ?』」 「みんなが唖然としてるうちに、あるグループのリーダーの前まで歩いてて、『あんたらは、どうだ? 命をかけて守りたいものはなんだ?』」 「リーダーはもごもご言うけど答えられなくて」 「うしろの方から野次が飛んでね、『あんたらが壊そうとしてる森よ!』。親父さんはうなずいて『ああ、そうだ。あんな風に話してくれ。次は誰だ? 誰が話す?』」 「ああいうのは、独壇場だね。人数が多いほど、親父さんは乗る。というか、何か乗り移る」 「ちょっと怖いくらいね。悪い人じゃなくて、よかったわ。世が世なら、天才的な扇情家(デマゴーグ)、独裁者になれるわ」 「?ん ああ、怒りだとか感情がとぐろ巻き出したら、そういうのはわざとやる。ヒッピー上がりの心理学者は、プロセス・ワークなんて大層な名前をつけてるけどな。でかいロックコンサートなんかじゃ、よくあった。宗教儀礼ってのは、元々そういう使われ方をしたんだ。集まって儀礼をやってるうちに感情が集団的に沸騰して、そこに神様が降りてきて、何が聖なるものか、何が正しいことかが、みんなの目の前で明らかになる。人類学じゃ古典的なトピックだ。ABCのBくらいに習うぞ」 留学先がマサカドさん推薦のハーバードでなく、アカザキさん推薦のバークレーになったのは、いろいろあったが、結局は「今更、寮になんて入れるか」ということに尽きた。アメリカでも良いお家の人が通う名門校は元々が全寮制が売りだったりするのだ。そこへいくと、バークレーは自由・自由・自由なところが売りだった。ちょっと自由すぎるきらいもあるけれど、あたしたちにはちょうどいいわね。 母さんは、初めて来た街なのに「ちょっと寄るところがあるから」と、あたしたちと分かれ、次に合流した時には、さっそく実家よりでかい一軒家を借りる手続きを済ませていた。 「あと銀行口座も開いたし、医療保険にも入ったわ」 「保険って?」 「だって、あなたたちのラブラブ具合だと、こっちにいるうちに何人生まれるか分からないもの。保険なしだと一回の出産で300万円くらいかかるの。保険に入っておくと9割まで保険金がおりるから、日本で生むのとそんなに変わらない費用になるわ。あと、バークレーって自然分娩が盛んでね、博士号を持ったスペシャリストなお産婆さんがいるから、おしゃべりしてる間に、日本より楽に生めると思うわ」 「母さん、そんなこと、いつのまに?」 「あら、母さんだって、ネットサーフィンぐらいするわよ。ハルの出産時期がもう半年遅かったら、こういうのもいいわね、と調べておいたの」 「そ、そうなの」 「あと、二人とも、明日は自動車免許を取りに行きましょう。こっちだと一人10ドル、時間も1時間ぐらいで取れるから」 「なに、それ?」 「筆記試験(3択)と実技試験(20〜30分町中を走るだけ)を受けるだけよ。もう10ドル払うと国際免許証にもできるから、日本でも使えるの。こっちは車がないと、何かと不便だし、母さんも取ってしまおうと思って」 涼宮家(うち)で、「生命力の親父、生活力の母さん」といわれるだけのことはあるわ。 街の東側に連なっているバークレー・ヒルズの方を向いて、キョンはバルコニーにある椅子に座っていた。ずっと続いてた慌ただしさから来る疲れせいか、それともそれが生来の性格なのか、ぼんやりして何か考え事でもしているみたいに見えた。 「キョン」 「ああ。こっち来て、座らないか」 もちろん異存はないわ。ふたりっきりなのも、ひさしぶりだしね。 「ハルナとハルキは?」 「すっかりおばあちゃん子ね。母さんにせがんで、英語の歌を歌わせてるわ」 「俺たち忙しくて、お義母さんに任せきりだもんな」 「母さんは、あたしのとき出来なかった《乳児の子育て》ができるんで、うれしくって仕方ないみたいだけど」 「それでもさ。……感謝してる」 「あたしだって、感謝してるわよ。……その、あんたにも」 キョンは、あたしが今どんな顔をしてるか、確かめようとでもするように顔を向けた。残念でした、泣いてないわよ。 「……どんな顔もきれいだけど、やっぱりハルヒは笑顔だよな」 「な、な、なに言ってんの、いきなり!」 「その笑顔なら、大丈夫だと思ってな」 「……あんたが何を話そうとしてるか、なんとなくだけど分かるわ、キョン。あたしにあった《力》のことでしょ?」 「ハルヒ……」 あいにくだけど、だてに嫁をやってる訳じゃないのよ、キョン。いつかの時よりも、いつよりも、今はあんたのことがわかる気がするの。あんたが、SOS団のみんなが、あたしにしてくれたこと、あたしをどんなに大切にしてくれたかってことも。 「あたしは、あたしに何ができたのか、そして何をしたのか、やっぱり知らなきゃなんないと思う。それが、あたしたちがみんなでいっしょにいた一番の理由なんだし。……でもね、でも、これだけは先に言わせて。あたしは、あたしの力のせいだろうとなんだろうと、あんたと親父が無事に帰って来て、すごくうれしかった。ううん、あんたと、みんなと出会えた、それだけで十分なくらい」 「十分なんて言うな、ハルヒ。おれはまだ足りないぞ。おまえだってそうだろ?」 キョンは言った。 「それと、おまえは何にもなくしちゃいないからな。ハルキとハルナがいる。お義母さんや親父さんがいる。おれだって。それに、おまえの突拍子もない想像力や、なんだってつきぬけていく行動力や、誰だって振り向かせずにはおかない魅力や、100ワットの笑顔だって、それに……」 「……みくるちゃんがね、最後にひとつだけ、って教えてくれたことがあるの。みんなと、そう遠くない将来、また会えるって。みくるちゃんや有希や古泉君とも……」 それは、あたしたちの誰かが、あるいは誰もが、とんでもない危機に陥るときなのかもしれない。だけど…… 「今度こそ、あたしをのけ者にしようたって、そうはいかないからね!」 「わかってるさ。ともあれ、第2幕のはじまりだ、ハルヒ」 「いいえ、第3幕よ。第1幕目は、あんたがジョン・スミスだなんてばかげた偽名を使ったときに始まったの」 「また、できちゃった、って何が?」 無理やり、こっちにくる仕事をつくった親父の来襲。予定どおりかえり撃ちにしてやったわ。 「あたしとキョンの子供に決まってんでしょ、バカ超親父! ちなみにまた双子よ。こっちで生まれてアメリカ市民権もあるから、大統領だって狙えるわ!」 「腹にガキがいない時間の方が短いじゃないか。ちょっとは家族計画とか考えろよ」 「そんなの、勢いでなんとかなるわよ!」 「キョン、こいつはダメだ。おまえが自重しろ」 「いや、なんというか、そういう生やさしいものでは」 「く、おまえまで悪魔に魂を売ったのか?」 「自分の娘つかまえて、誰が悪魔よ」 「お前、どの口で言う、おれを悪魔だなんだと言ってたのは誰だ?」 「あんた以外の全員よ」 「母さん、ダメだ。バカップルが単なるバカの夫婦になっちまった」 「まあ、幸せなら、それでいいじゃありませんか」 「こいつらは何が来たってそりゃ幸せだろう。エンドルフィン出まくりじゃないか」 「わたしたちも、ですよ。みんな元気でこうやって揃って、何よりじゃありませんか」 「さすが、母さん。人間ができてるな」 「そりゃ、お父さんと長年連れ添っていれば、ね」 「あいつら、まだ会って数年だろ。長年連れ添ったら、どうなるんだ?」 「『産めよ育てよ地に満ちよ』ですか?」 「地上はハルキョンだらけか?」
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できちゃった婚 今や、結婚する人の25%、約1/4はこの理由で結婚しているらしい。 私の場合も、できちゃったで書いたように当時同棲しており、突然できてしまった(もちろん身に覚えはありますが)。 そんなできちゃった婚で、やらなくてはならないことは、一番初めにまず謝る。ということ以外普通の結婚と同様である。但し、その期間が非常に短いということ。 私たちの場合も、できちゃった発覚から結婚式まで、約4ヶ月という短期間で行なった。 多くの場合、安全な結婚式を行なう機会は5ヶ月~7ヶ月だから同じくらいだろう。 その間、如何に効率よく進めるかがポイントである。ゆっくり、ゼクシーなんか読んでいる余裕はない。 できちゃった~結婚式までの概算スケジュール 婚約指輪選択 親の顔合わせ(結納) 結婚式決定 出席者 場所 費用 宴会内容 手伝い人決定 新婚旅行調整
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できちゃった その3から ハルヒ母 どうしたの、ハル? 部屋の隅で膝なんか抱えて。アンニュイな雰囲気が出てるわ。 ハルヒ そんなの出したくない。 ハルヒ母 体育座りは、確かに妊婦さんにはお勧めではないわね。キョン君はどうしたの? ハルヒ オヤジにとられた。 ハルヒ母 あらあら。 ハルヒ 「進路指導」なんだって。何やって将来食って行くつもりなんだ、とか、なんとか。 ハルヒ母 そんなの『ハルヒの嫁、ハルヒの嫁、ハルヒの嫁』でいいのにね。 ハルヒ いや、いきなり、そこまでは私も割り切れてないというか、切り込めてないというか。 ハルヒ母 どんな風に働くかなんて、何のために働くかがはっきりしないと決められないでしょ? ハルヒ むー、オヤジも母さんも「出たとこ勝負400戦全勝」だからいいけど。 ハルヒ母 誰だって負けることはあるわ。でも大人は多少ずるいから、途中で道を間違えても黙っていて、結果で正当化しちゃうだけ。ともあれ目的地に着いたでしょ、って。 オヤジ まあ、あんまり深刻になることないぞ。最後の最後には、第1志望から第3志望まで『ハルヒの嫁、ハルヒの嫁、ハルヒの嫁』というのもありだ。 キョン いや、その手はあいつに先に使われたんで。 オヤジ そうだったな。最後の手段は最後に使うもんだってのに。キョン、苦労かけるな。 キョン いや、それは苦労でも何でもないんですが。 オヤジ 主夫も立派な職業だぞ。というか、あいつの主夫がつとまりそうなのは、金のわらじを履いて探したって、めったに見つかりそうにない。 キョン まあ、ハルヒも働くでしょうし、家事は分担するつもりですが。 オヤジ あー、最初に言っとくけどな、キョン、自分に何が向いてるか、なんてところから出発すると、就活も人生も失敗するぞ。なんとなれば、そんなものはやってみんとわからんし、やりはじめたら向いていようがいまいが、やり切るしかないからだ。 キョン といっても、俺の場合、とりたてて特技があるわけじゃないし、成績も下から数えた方が早いし。あまり関心がなかったというか考えた事なかったんですけど「誰かを食わせていく」と考えたら、急に自分が頼りなく思えてきて。 オヤジ やれやれ。何ができる、こんな資格を持ってる、どんなスキル・セットがある、なんてのは人材とはいわん。何やらせても、つぶれないのが人材だ、無事これ名馬なり、だな。情勢なんてコロコロかわるし、3年後はおろか3ヵ月後の仕事だってどうなるかわからん。やれといわれたら、なんでもやる奴、なんとかやっちまえる奴がいいに決まってる。まあ、「やれ」と言う方も何をさせりゃいいのか、さっぱりわかってないのが多いからしょうがないけどな。 キョン はあ。 オヤジ まあ、成績の方は、ちょっと俺に考えがあるから任せておけ。いや、ハルヒの出産日からいくと、お前さんの受験の追い込み時期には、あいつは戦力にならんだろ。 キョン そういや、そうだ。予備校とか考えとかないと。 オヤジ だから、そっちは任せとけって。あとな、バイトの話だが、ちょっと迷ったんだがな……おまえ、おれの仕事、ちょっと手伝ってみるか? キョン 親父さんの? そういや、親父さんの今の仕事って聞いたことなかったですね。 オヤジ 仕事と言えるかどうかわからんけどな。給料の名義は、「総研」とは名ばかりの銀行系コンサルにフェローって肩書きで腰掛けなんだがな、ゼニにしてる稼業は、コンフリクト・リゾリューションとか、最近はご大層な名前がついてる。自己紹介の時はメディエーターか、無理に訳せば仲介者だ。 要は、もめごとのあるところに呼ばれていって、双方の言い分を聞いて、最終的に手打ちにできれば成功報酬というわけだ。アメリカじゃ、一応職業になってるがな。これとはちょっと違うが、日本でもADR( 裁判外紛争解決:Alternative Dispute Resolution)ってのを流行ろそうとしてるだろ。 キョン いや、全然知らなかったです。 オヤジ 前は公共工事とその反対派ってパターンが多かったな。ODAをやろうとして日本企業と現地の連中と国際環境保護団体とガチンコの三つどもえ、なんてのもよくやった。工事が遅れると何億って金が無駄になる、3年もめるところを半年で話がまとまれば、いくらかおれも儲けていいだろう? まあ昔は顔役だとかヤクザがやってた仕事だ。いろんな「おどし」が社会的に「高く付く」ようになってな、コストがいくらかかるかわかりやしない「話し合い」なんてのをやるはめになって、結局座礁してどうしようもなくなった時に、俺が呼ばれるのさ。両方と交渉して落としどころを見つけて、怪しい理屈と説得でそいつを両方に飲み込ませる。 キョン それって…… オヤジ おれが見るところ、非常におまえさん向きだ。まあ、俺とは全然別のタイプのメディエーターになるだろうけどな。弟子にとろうかと、一時、本気で考えたぞ。おまえがハルヒの彼氏じゃなきゃ、とっくにそうしてた。ただあいにく、これは相手さんの都合に合わせた仕事なんでな、定時に行って帰って来るってことにならない。家族サービスにはものすごく不向きだ。だが、おまえさんが手伝うっていうなら、おれの近くに常にいる訳だから「超・家庭教師」の時間を別に捻出する必要がなくなる。おまえさんも仕事ってものがどういうものか、少しは分かりもするだろう。よって一石三鳥だ。 オヤジ だが、欠点も3つある。嫁から子供から仕事まで、おまえさんをべったり涼宮家に取り込むことになっちまう。おまえさんの家からすればあまり面白くないかもしれない、これがひとつめ。あと、親父べったりとなって、バカ娘といちゃいちゃする時間が激減する、おれはいったい何のために生きてるんだと考えるようになるかもしれん。これがふたつめ。最後に、ふたつめとも関係するが、仕事をいっしょにやってるとお前さんは多分俺を尊敬するようになるだろう。一方でバカ娘の方は俺を全然尊敬していない、よってお前さんとバカ娘の間に何らかの行き違いが発生するかもしれん。みっつめ。 オヤジ ってな感じで、多くのメリットとデメリットを抱えていてな、さすがの親父も決めかねてるし、まだ誰とも相談できてない。……さてと、最初の仕事だな。誰になんと言って相談持ちかける? キョン ハルヒに。 オヤジ 王道だな。正面突破か。ちなみに俺なら母さんからまずアプローチする。外堀を埋める。 キョン いや、必要なら、そういう手も使います。 オヤジ おいおい。こっちは一応プロなんだぜ。これじゃ形無しだな。まあ、おまえさんのお手並み拝見といくか。 妊婦のハルヒはよく働いた。 週3日づつを、俺の家とハルヒの家で過ごし、両方の家で家事を手伝い、夜はバイトの翻訳をやったり、ハルヒの母さんからもらったノートや本を読んでいる。 (俺以外には)文句も愚痴の一つも言わず、その合間合間で居眠りをして帳尻を合わせているのか、母子ともに健康そのものだ。 「ハルヒ」 「何よ?」 「がんばってるな」 「学ばなきゃならないことがいっぱいよ。まあ、おかげでつまんないこと考えなくて済むわ」 「そうか。だが、あんまり根をつめるなよ」 「ありがと。で、あんたは大丈夫なの?」 「ああ。それでちょっと、話がある」 「いいニュースでしょうね?」 「それも俺次第らしいんだが。……親父さんの仕事をしばらく手伝いたい。バイトで助手というか雑用みたいなことをやる。バイト代はしっかりいただくが、実はもうひとつ、親父さんには頼もうっと思ってる。受験勉強のことだ」 「……そう」 「おまえの出産予定日はこの夏だ。どんなに早い推薦入試も、その後になる。夏休みは予備校の夏期講習にでも行こうかと考えてたんだが、渡りに船で、親父さんから提案があった」 「それが雑用助手と家庭教師のバーターって訳ね。あたしも夏休み以降、どうしようかと思ってたわ。多分、あんたにとっても、あたしにとっても、ベストの提案ね」 「そう思うか?」 「提案者が個人的に気に入らないだけ。というか、完全に自己嫌悪の部類だから放っておいて。普段、あれだけ悪態ついてても、いざという時、かなわないの。状況分析にしろ、提案できる内容にしろ、ね。悔しいったらありゃしない」 ハルヒが不機嫌にうつむくと、ノックがあった。 「親父ね。入って来ていいわよ」 「一応、俺の家なんだけどな」 「年頃の娘の部屋に入るのにノックするのはいい習慣よ。どうせ立ち聞きしてたんでしょ?」 「あいにく、最近そこまで耳がよくなくてな」 昔は、やってた、ってことですか、それ? 「仕事の方がモノになるか、本人がやりたがるかどうか、こればっかりは保証できん。だが、こいつの成績と受験については俺が責任を持つから安心しろ。今時点では、俺の方がこいつの成績を上げられる。だから今は勝ちを譲っとけ」 「そこまで放言する以上、覚悟はできてるんでしょうね」 「負けはないから、必要ないな」 「キョンが納得してる以上、あたしもどうこう言う気はないわ」 「仕事の都合で連れ回すから、会える時間は減るぞ」 「1日最低1時間の電話。砂漠の真ん中からでも、地球の裏側からでも。これが条件よ」 「やれやれ。せいぜい衛星電話がいらない範囲で働くか、キョン?」 親父さんの助手としての仕事は、最初は「荷物運び」だった。 というより、今の俺のレベルでは、それ以上やりようがないということなのだが。 メディエーターとして、双方の話を聞き、対案を提示するのが仕事の主だったところだが、今更驚くところではないのだが、親父さんは普段は、ほとんど何の資料も、話し合いを記録するものとしてはICレコーダーや筆記具すら持たずに、相手先を訪れる。つまり、あの脅威の記憶力を存分に発揮するのだが(少々、演出的にやってる向きもあるらしい)、助手が今現場で話し合われていることを理解できるように、資料を運び、次回に備えて記録を取るのが俺の仕事だった。ほとんど俺のために俺が汗水流しているようなもので、親父さんにとってのメリットが不明だが、とにかく毎日が、資料作り、会議、資料づくりの繰り返しで暮れていった。 「どうだ、すこしは慣れたか?」 「いや、全然です。周りのスピードにまず付いて行けないっていうか」 「そのわりには、記録の方は、まあまあ取れてるがな」 「そうですか?会議中は夢中で殴り書いてるだけですが」 「訳が分からないから書けるだけとにかく書く、という方がこの場合は正解だ。若い連中を記録係に連れて行ったこともあるんだけどな。あいつら、てんで手を動かしやがらない。自分なりに要点をスマートにまとめてるんだそうだ。翌朝、プリントアウトされた「会議要旨」とやらを貰うんだけどな、8割は俺が拾って欲しいところを落っことしてる。しょうがないから追記と修正を赤ペン先生しだしたら、えらく不評でな。近頃の若い連中はいろいろ資格やら学位やら持っていてなかなかの自信家で、赤ペン先生をやられると大層堪えるんだそうだ。若手の自信をつぶし続けるのもたまらんから、結局一人で動くようになったんだけどな。組織的には後継者が育たんとエライさんはおかんむりだ」 「はあ」 「なあ、キョン。日本でも田舎にいけば、今でも何百年分の村の伝承をそらで言えるじいさん・ばあさんがいるんだぜ。アジアやアフリカだけに限らん、文字を使わない文化なんかじゃ当たり前だ。そんな相手にICレコーダーを持って行く神経がわからん」 と、親父さんは大げさにため息をつく振りをして、げらげらと笑う。 「次のまで、ちょっと時間がある。英語だけでも、やっておくか?」 超・家庭教師の親父さんの授業は、こんな風に、仕事の合間に降ってくるようにして始まる。 おやじさんの教授法は古風かつスパルタで、たとえば英語だと、「聞いてろ」「読んでみろ」「訳せ」「覚えろ」といった具合である。 まず親父さんがどこからか選んできた、少々長めの英文を音読してくれる。俺は聞きながら、自分でも読めるように発音記号やら何やらを書き込んでいく。 次に俺が音読して、親父さんは俺が読むのを聞きながら英文にチェックを入れる。 さらに親父さんが入れたチェックや書きこみをみながらもう一度読み、最後に「じゃあ、頭から訳してみろ」となる。 できないところは横棒を引いて、とにかく最後まで訳す。 それがおわると、今度は親父さんが、口頭で英文の頭から訳していく。 俺はそれを聞きながら訳を修正する。 最後は仕上げとして、俺に頭から口で訳させる。親父さんはそれを聞きながら、訳文にさらにチェックを入れて、俺に返してよこす。終了。 あとは英文と訳文を次回までに暗唱できるよう覚えて来い、となる。 「はあ、そんなことやってんの?」 できるかぎり、涼宮の家には立ち寄る(実質は帰る)ことにしていたが、どうしても地方の現場まわりが増えてくると、電話か、ネットが使えればスカイプでハルヒと話すことになる。 「ああ。はじめはおれもよくわからんかったが、過去問や模擬試験を復習してみて納得した。どれも、ほとんど読み上げたことのある文章、親父さんが持って来た文章だ。どこをアレンジしてあるかまでわかる。親父さんが選んでもってくる英文は、みなそういうものだったらしい」 「ふーん。英語はいいけど、あんた、苦手の数学は? 学費抑えたいからって、国公立にしたんでしょ?」 ああ、今は涼宮の家に厄介になっているが、早晩、自分たちだけで生活をしていかなくてはならない。そのためには出て行く金は少ない方がいい。 「ふふふ、親父に死角は無い」 「こら。二人っきりの会話に参加してこないで!」 「せっかくネットが使える宿を探したんだぞ」 「人のダンナを、帰って来れないような遠方に連れ出してるんだから、当然よ」 「聞いたか、キョン。『ダンナ』だと。これは親父日記に書いとかないといかんな」 「くだらんこと言ってないで、立ち去りなさい!」 「こいつはアタマは悪くない。だが、そのことが自分で分かってない。加えて、学校の勉強に意味・意義を感じてない。平たく言えば、勉強嫌いだ」 「そんなことはわかってるわよ」 なにげにひどいこと言われているな。 「だから鍛え甲斐がある」 クルミを握って握力を鍛えるみたいに、簡単な計算問題を常にポケットに突っ込んでおいて、5分とか3分といった短時間で、時間を計ってやらされる。これも、仕事の合間に、スコールのように唐突にだ。 数学の勉強は、基本的には、親父さんお手製の問題集を(いったいこんなもの、いつ作る時間があるんだろう。ハルヒの時も思ったが、親父さんはさらに輪をかけてボリュームのあるものを持ってくる)、まず例題と解き方を、これも音読させ暗唱させられる。 例題を自分で解くのは、その後だ。 「答えを知ってからだと、誰でも分かるじゃないの?」 というハルヒの批判に、親父さんは軽く答える。 「それは数学ができる奴のセリフだ。たとえば英語ができない奴は、ほんの短いフレーズでも何度聞いても、なかなか覚えられない。そいつのアタマのワーキング・メモリがその手の情報処理に慣れてないからだ。同じことで、数学ができない奴は、解答をみせてもなかなか覚えられない。音読させてるのは、時間が無いからだが、数学的な情報を繰り返しワーキング・メモリにくぐらせてるんだ。こっちは英語ほど、効果が早く現れないがな」 「ふーん」 「むくれるな、バカ娘。おまえなりに、やれることはやってあるのは、いまのキョンを見ればよく分かる。ただ出来のいい奴は、できない奴がなぜできないのか、なかなか理解できん。それと、お前はこいつに典型的な同級生目線で、勉強を『教えよう』としただろ。出来のいい世話好きの同級生に勉強を教わるなんてのは萌え要素だが、厳しく言えば、そこそこのところで成績は頭打ちする。結果が出なくても二人の目的は『一緒に勉強する』時点で達しちまってるからだ。これは能力やモチベーションの問題とは違ってな」 「じゃあ親父がやるのはどうなのよ?」 「俺は上から目線でコイツを見る。やってるのは『わからないところを教える』んじゃない。『泳げないものを、泳げるように鍛える』、トレーニングと調教だ。つまり立場の違いから来るアプローチの差だ」 言いたいことは言い終えたらしく、親父さんは別室に消えた。ツインでいいところを、シングル2室をおさえてくれたのだ。親父さんの親心というべきか。 「それで、おまえの方はどうなんだ? 見る限り、元気そうだが」 「まあ、母子ともに健康よ。エコーもしたけど、やっぱり双子だって」 「いっぺんに二人か。幸せも2倍だ」 「ふう。あんたのその能天気ぶりには、時々救われるわ。……もっとも、あんたじゃなきゃ、生むどころじゃなかったろうけど」 「頑張ってるおまえを見てるとな、腹が座ってきた」 「今日は有希とみくるちゃんが来てくれたわ。ベビー服、作ってくれるんだって」 「そうか。よかったな、ハルヒ……ハルヒ?」 「……でも、一日でも、あんたと離れてるのは、正直つらい」 「すまん」 「あんたが謝ることじゃないわ。……あたしが贅沢者なのよ」 「悪いことじゃないぞ、ハルヒ」 「そうね。あんたがそう言うんだから、そう思って眠ることにする。おやすみ、キョン」 「ああ、おやすみ、ハルヒ」 ハルヒ 母さん、今いい? ハルヒ母 ええ、いいわよ。 ハルヒ ……ちょっと気分と言うか、機嫌が良くなくて。 ハルヒ母 うん。 ハルヒ 親父が一緒だし、ある意味、そっちは心配入らないって頭では分かってるの。 ハルヒ母 無事,キョン君が帰ってくるってことね? ハルヒ うん。それが分かってるのに、今、あいつがここにいないことが、すごく不安なの。そんなことくらいで不安になっちゃう自分もいや。しっかりしなきゃと思うんだけど、そうすると余計、自分がダメに思えてきて。 ハルヒ母 ……ねえ、ハル、不安になってもいいのよ。 ハルヒ 母さん……。 ハルヒ母 ついキョン君を探している自分に気付いて自己嫌悪してもいいの。 ハルヒ ……。 ハルヒ母 あなたは、どんなにつらくても泣き言なんて、言ったことなかったわね。そういう風に私たちが育ててしまったし、「しっかりしなさい」と言うことはなかったけど、無言で、態度でそう要求していたかもしれないわ。 ハルヒ ……。 ハルヒ母 ……ねえ、ハル。母さん、今とっても身勝手だけど、泣きじゃくるあなたを抱きながらね、『母親』ってものを堪能してるの。そんな風に素直に泣いてくれなければ、母さんも「不安でもいい」なんて言えなかっただろうし、言ってもあなたに届かなかったと思うの。素直に泣けるように成長したあなたと、それをいつも助けてくれた彼には、感謝しなくちゃね。 ハルヒ キョンのこと? ハルヒ母 もちろん。今のハル、キョン君に見せてあげたいくらい。もっともキョン君はとっくに知っているんでしょうけど。ハル、泣いている今のあなた、とてもきれいよ。 できちゃった その5へ
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親 父 できたって何が? ハルヒ 子供よ! 親 父 どこの?だれの? ハルヒ あたしとキョンの、に決まってるでしょ、バカ親父! 親 父 おまえらが最初にうちに来たのが×月×日だろ。ちょっと待て、計算が合わん。 ハル母 お父さん、それは計算が合わないというより、前提が少し違うと思うわ。 ハルヒ これからはあたしたちだって親なんだから、親ってだけで威張らないでよね。 親 父 母さん、こいつの言う理屈も変だと思わないか? ハル母 後で話しておくわ。本題に戻りましょう。 親 父 いいとも。で、おまえら、これからどうするんだ? ハルヒ 一人っ子だとさびしいから、男女同じ数がいいわね。あたしもがんばるから、あんたもがんばりなさい、キョン! 親 父 母さん、こいつ、大丈夫か? ハル母 お産は大変だから、ハイになる脳内物質が出るそうだけど。 親 父 おいおい、手に負えんぞ。キョン、おまえはどうなんだ? キョン ええ、ほんとに手がつけられなくて。 ハルヒ キョン、あんたはだまってなさい! 親 父 やれやれ、母さん。バカップルが、単なるバカのカップルになっちまった。 ハル母 まあ、おめでたいことですから。 親 父 まったく、めでたい連中だよ。 ハルヒ なによ、別に悪いことした訳じゃないわ! 親 父 ったく、「いいこと」ばっかりしやがって。 ハル母 お父さん、一度、二組に分かれませんか? 親 父 そうしてくれ。キョンと話もできん。 ハルヒ 母さん、あたし絶対に産むからね! ハル母 そうね。で、SOS団のみんなには言ったの? ハルヒ ……まだ。 ハル母 あらあら。 ハルヒ だって……。 ハル母 ハル、子供を産むのは大変な仕事よ。でも育てる方はもっと大変。母さんは、とくにいろんな人に助けてもらってあなたを育てたけれど、人は人の間で大きくなっていくの。みんながお祝いも言えないというのは、母さん感心しないわ。 ハルヒ うん……。 ハル母 ちっちゃいお式する?家族とSOS団のみんなで。近くの教会で式やって、あとはちょっとしたパーティね。 ハルヒ うん。 ハル母 あとは、赤ちゃんが産まれた後の生活ね。住むところはともかく、進学やめて働くとか、キョン君なら言いだしかねないわね。 ハルヒ そんなのダメよ! あいつ、バカなんだから、もっと勉強しないと。自分だけが責任とるとか、勘違いもはだはだしいわ! ハル母 ハルはどうするの? ハルヒ あたしは……。 ハル母 そういうことを、キョン君とちゃんと話し合ってね。わたしたちは力は貸せるけど、借りるあなたたちが方向を決めないと何もできないの。 ハルヒ うん。 ハル母 私からは、とりあえずこんなところかしら。キョン君がお父さんにいじめられてないか、見ていらっしゃい。 親 父 付き合うまでは随分かかったのに、付き合ってからはいやに早いじゃねえか。 キョン すいません。歯止めが無くなったというか、なんというか。 親 父 娘の色香に惑いやがって。 キョン すいません。 親 父 脛かじる身だろ、避妊くらいしろよ。 ハルヒ 大きなお世話よ! 親 父 おいおい、もう戻って来やがった。 ハルヒ 別に計算間違いじゃないわ。むしろ狙い打ちよ!というより、ほんとは絨毯爆撃よ! キョンが「なか」にいなかった日なんて数えるほどしかなかったもの。 親 父 何言ってんだ、こいつ? こんなの投下していいのか? 中学生だって読んでるんだぞ。 ハルヒ キョン、こっちの話はついたわよ! さっさと終わらせなさい! 親父、キョンをいじめるなら、あたしが相手よ。 親 父 まあ、いいや。おまえも座れ。くっつくな。空気読んで、ちょっとは離れろよ。 ハルヒ やだ。 親 父 やれやれ。こんな役回り、俺だって嫌なんだぞ。 ハルキョン ……。 親 父 でだ、おまえら高校生だろ。実際、どうしてくつもりだ? ハルキョン ……。 親 父 世間体みたいなのは、この際、うっちゃるにしてもだ。おまえらの高校、託児所があるほど進んでないだろ? ハルキョン ……。 親 父 おいおい、黙るなよ。なんだかおれがいじめてるみたいじゃないか。ハルヒからキョンに言いたいことはないのか? ハルヒ あるわ。キョン、あんたは大学に行きなさい。バイトとか就職とかお金の問題とかはとりあえず考えなくていいから。 キョン そういう訳にはいかんだろ。心配すんな。おまえともうひとりの食いぶちぐらい、なんとかなる。 ハルヒ あまい。カレーの王子さまもびっくりの大甘よ。いくら心がけが殊勝でもね、浮かばれるとはかぎらないのが現代社会なの。 キョン カレーの王子さまがでてきた時点でびっくりだ。ハルヒ、だったら、おまえはどうするつもりなんだ? ハルヒ しばらくは出産と育児を最優先するわ。それから、できるようになったときに、借りは返すわよ。だから当分の間、たくさんの人の手と助けを借りるつもり。迷惑もかけるし、厄介にもなるわ。もちろん、キョン、あんたのも含めてね。 キョン 学校はどうするんだ? ハルヒ 高校も育児休暇があればいいんだけどね。行けるだけは行って、お産近くなったら、後は休学でも中退でもどっちでもいいわよ。大検受けて入学資格ができたら、1年遅れであんたがいる大学に入るわ。これで完璧ね。 キョン ハルヒ、お前他にやりたいことはないのか? ハルヒ 何をいまさら。あたしがやりたいことはあんたの嫁になること、あんたと一緒に暮らすことよ。やってみて、他にもやりたいことが見つかったら、そのときやればいいわ。簡単なことじゃない。それより、あんたはしたいことないの? キョン ……特にないぞ。というか、言葉にすると、ほとんどお前と同じになる。 親 父 はあ。三者面談とか、おまえらどうやり過ごしたんだ? ハルヒ あたしはやり過ごしてなんかないわ。第1希望から第3希望まで、ぜんぶ「キョンの嫁」って書いたもの。 親 父 はー。キョン、おまえさんは? キョン はあ。偏差値的になんとかなりそうなレベルよりちょっと上の大学で、なんかつぶしが効きそうな学部を、適当に。 ハルヒ 困ったものね。 親 父 お前が言うな。 親 父 あー、おまえらにその気があるんならな、バイトくらいは紹介してやる。 親 父 ハルヒはとりあえず在宅な。スポーツ番組の字幕翻訳くらいなら、なんとかこなせるだろ。くれぐれも言っとくがスポーツのルールはつくるな、覚えろ。あとは、うちと、キョンのところの、家事手伝いな。今はとても嫁に出せるレベルじゃない。迷惑かけるだろうが仕込んでもらえ。ちゃんと二人で行って頼むんだぞ。 親 父 キョンには、そうだな、足と口を使うような仕事を探しとく。おまえさんは、なんのかんの言って、なんでもやっちまいそうだがな。 ハルヒ えらく評価が違うじゃないの。 親 父 ひいきはどっちもしてないぞ。タイプの違いってやつだ。たとえばハルヒに仕事を頼んだとする。おまえは「完璧」な、言いかえれば自分が満足できるレベルの成果を持ってこようとするだろ。一方、キョンに仕事を頼んだとする。こいつは今の状況や制約条件、無論使える時間やなにかも含めてだ、その状況の中で出せる、相手にとって一番ましな結果を持ってこようとするだろう。まあ、そういったことだ。 ハルヒ なんか納得いかないわ。 親 父 うちで言えば、母さんがハルヒのタイプ、俺がキョンのタイプだな。 ハルヒ ますます納得いかない。母さんの方はわかるけど。 親 父 なぜかというとだ、おれは本来自分が面白ければなんでもいい人間だが、母さん限定で相手の満足を考える。娘相手には地まるだしで対応する。うまれた時代が悪かったな。 ハルヒ ちっとも悪くないわ。キョンがいるもの。 親 父 やれやれ。ツンデレにそこまで切れられちゃ、お手上げだ。 ハル母 なるほど、家事を、ね。 ハルヒ うん。 ハル母 どっちかっていうと、うちの主婦はハルって感じがするけど。 ハルヒ 親父にはレベル低いって言われたわ。 ハル母 そうねえ。いま、「うちの主婦はハル」って言ったけど、じゃあ母さんは何だと思う? ハルヒ え? えーと、なんだろう? ハル母 母さんはね、女主人なの(笑)。 ハルヒ えーっ? ハル母 その違いは、ゆっくりとね。さて、家事といってもいろいろあるけれど、じゃあ、まずキョン君の好物でもつくりましょうか。 ハルヒ うん!それならね、@@でしょ、@@でしょ、@@でしょ、それから・・・ ハル母 ストップ。ハルは毎日キョン君のお弁当を作ってるでしょ? ハルヒ うん。 ハル母 最初は横から食べたり、キョン君のお母さんに教わったりして、作り方とか味付けとか覚えたのよね。 ハルヒ うん、そうよ。 ハル母 でも、それはハルヒの味じゃないわね。 ハルヒ え、でも。 ハル母 キョン君はやさしいから何作っても「おいしい」って言ってくれない? ハルヒ うん。でも食いつきが全然違うというか、本当に好きなものは食べているのを見れば分かるわ。 ハル母 そうね。……うちのお父さんは実家をケンカして飛び出してきたような人だから、最初ずっとね、母さん、お手本がなかったの。どうしたと思う? ハルヒ ……。 ハル母 ふたりで、うちの味を作ったのよ。母さんも一生懸命工夫したし、お父さんも脂肪肝になるくらい食べてくれた。お父さんも「まずい」って絶対言わない人だから、最初は苦労したわ。……レストランのシェフは、自分が絶対においしいと思うものを出すべきね。お客さんはわざわざその店を、そのシェフを選んでやって来て、お金を払ってくれるのだから。でも、私たちは、相手がおいしいと思うものを作りたいとは思わない? ハルヒ うん。 親 父 という訳で、おれはじじいになる。おまえが親父だぞ、キョン。 親 父 そうだ、これを渡しとこう。 腕章だった。バカ親父と書いてあって、バカのところを×で消して「ただの」と書き加えられている。 親 父 今日からお前のもんだ。 キョン そんなのいつ作ったんですか? 親 父 いまさっき。 キョン そっちのは? 親 父 ああ、俺用だ。 キョン 「超親父」と、真新しい腕章には書いてあった。 親 父 あの、じじい、では? キョン よくみろ。 「超親父」の上には小さな文字で「じじい」とふりがなが振ってあった。 できちゃった その2へつづく