約 1,619,762 件
https://w.atwiki.jp/akatonbo/pages/1559.html
そんな思い出 作詞/45スレ247 彼に会ったのは ぬるい空気 沈殿する国 うだつ上がらない 退屈な毎日 マージャン牌 かき混ぜ 呑むほどに 甘くなる手 俺はニンマリしたものだったよ 彼に会ったのは 時の流れ あわただしい国 久々に呑もう 彼からのテレフォン 相変わらず 何かに 追われるよう グラス空けて 俺は正直 不安だったよ 白い壁に囲まれ もうダメだと笑った 差し入れなら 落語がいいな 三途の川を 笑って渡れるさ 白い布に包まれ もう彼は笑わない 持っていった 落語聞いたか 三途の川を 笑って渡れたか 彼に会ったのは ぬるい空気が沈殿する国 うだつ上がらない 退屈な毎日 あの頃が 一番 輝いていた毎日
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/3214.html
このページはこちらに移転しました そんな思い出 作詞/45スレ247 彼に会ったのは ぬるい空気 沈殿する国 うだつ上がらない 退屈な毎日 マージャン牌 かき混ぜ 呑むほどに 甘くなる手 俺はニンマリしたものだったよ 彼に会ったのは 時の流れ あわただしい国 久々に呑もう 彼からのテレフォン 相変わらず 何かに 追われるよう グラス空けて 俺は正直 不安だったよ 白い壁に囲まれ もうダメだと笑った 差し入れなら 落語がいいな 三途の川を 笑って渡れるさ 白い布に包まれ もう彼は笑わない 持っていった 落語聞いたか 三途の川を 笑って渡れたか 彼に会ったのは ぬるい空気が沈殿する国 うだつ上がらない 退屈な毎日 あの頃が 一番 輝いていた毎日 (このページは旧wikiから転載されました)
https://w.atwiki.jp/1548908-tf5/pages/300.html
鬼柳京介:不満足な毎日(パートナーデッキ) 攻略 ※チェック・50待ち 合計40枚+04枚 上級01枚 インフェルニティ・デストロイヤー 下級15枚 インフェルニティ・ガーディアン×2 インフェルニティ・デーモン×2(お気に入り) インフェルニティ・ネクロマンサー×2 インフェルニティ・ビースト インフェルニティ・ビートル×3(お気に入り) インフェルニティ・ミラージュ×2 インフェルニティ・リベンジャー×2 インフェルニティ・リローダー 魔法11枚 インフェルニティガン×2(D)(お気に入り) 大嵐 サイクロン ZERO-MAX×2(D) ダーク・バースト 手札抹殺(D) ハリケーン 無の煉獄×2 罠13枚 威風堂々×2 インフェルニティ・インフェルノ×2(お気に入り) インフェルニティ・フォース インフェルニティ・ブレイク×2 転生の予言 ヒーローズルール2×2 魔宮の賄賂×2 リビングデッドの呼び声 エクストラ04枚 インフェルニティ・デス・ドラゴン×2(お気に入り) ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン×2(お気に入り)
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/11767.html
このページはこちらに移転しました hypoな毎日 作詞/464スレ70 家にかえって 座り込んで もう動けない ご飯作れない 毛布にくるまって hypo テレビを眺めて hypo 生きてる?って よく訊かれんだ 死んではないけど 生きてもないよ ジャケット着たまま hypo マフラー巻いたまま hypo
https://w.atwiki.jp/kyogokurowa/pages/171.html
◇ 会場内の中央に位置する山中。 陽光遮る深緑の中を歩む鬼が二人。 無惨と麗奈は、先の騒動の後、真っ直ぐに遺跡へと向かっていた。 基本的には、木漏れ日すら差し込まない薄暗い山林の中だというのに、万が一に備えて、無惨は番傘をさして日光を浴びぬよう徹底している。 麗奈のおかげで、日光を克服できているという仮説を立ててはいるが、確証がない以上は用心するに越したことはない。 鬼舞辻無惨は、それほどまでに疑り深く、こと自分という存在の存続に関しては、徹底的なほど慎重なのである。 「……。」 傍を歩く麗奈は、光を失った瞳のまま、ただひたすらに無惨に同行する。 彼女の中にあるのは、無惨に対する圧倒的な恐怖のみ。 逃げ出そうと思うなら、頭を吹き飛ばされた鈴仙、肉塊としたオスカーの姿が途端にフラッシュバックし、彼女を踏みとどまらせる。 今はただ無惨の機嫌を損なわないよう振る舞うしか道はないのである。 そんな二人が歩を進めていくこと数刻―――。 バチバチと枯れ枝を踏み抜く音が、南の方向から聴こえてくるかと思うと、人影が二つ此方に近づいていることに気付いた。 「つ、月彦さ――」 「黙れ」 「っ!?」 声を掛けてきた麗奈を一言で黙らせ、無惨は接近する二つの人影を凝視。 さて、どうするか……と無惨は思考する。 その気になれば、先制攻撃を仕掛けるのも訳ではないが、こればかりは、相手の出方次第である。病院や墓地近辺で交戦した連中の追手や、問答無用で襲い掛かってくるもの、邪魔をしてくるものであれば、早急に処分する。 仮に、敵意が見られない場合は、再び集団に融けこむための足掛かりとさせてもらうのも悪くはない。 すぐにでも背中から触手を射出できるよう身構えつつ、様子をうかがうと、接近する二つの影はようやくその姿を明らかにした。 「ああ、警戒しなくても良いですよ、こちらは殺し合いには乗っていないですから」 両手を高く挙げ、声を発してきたのは黒の短髪の青年。 黒いコートに身を包みつつ、如何にもこちらには敵意はありませんよといったポーズを取って近づいてくる。 そしてその隣に立つのは、麗奈と同じ年頃の少女。お下げ髪を揺らしつつ、怯えたような眼差しで無惨を見つめている。 「初めまして、俺は折原臨也と言います。 こっちは水口茉莉絵ちゃん、彼女とは数時間前に出会ったばかりですが、こうやって一緒に行動させてもらっています」 「あ、あの……水口茉莉絵です。 名簿にはなぜか私のゲームのハンドルネーム『ウィキッド』で記載されています。 よろしくお願いします……」 臨也に促されるように、茉莉絵はペコリとお辞儀をする。 和やかに挨拶をしてくる二人に対し、無惨も強張った表情を緩め、人間社会に融け込む『月彦』としての表情を繕ってみせる。 「安心しました、こんな事態ですからね……。 良からぬことをしでかす輩であれば、どのように対処すればいいのか考えてしまいました。 私は富岡義勇。慣れ親しんだものには『月彦』と通称で呼ばせております。 どうぞ私のことも『月彦』と呼んでください。 そして、こちらが―――」 『月彦』が麗奈に視線を向けると、ビクリと肩を震わせつつも、彼女は一歩前に出て自己紹介を始めた。 「こ、高坂麗奈です……。」 「月彦さんに、麗奈さんですか……。よろしくお願いいします」 そんな二人の様子をじっくりと観察しながら、臨也は笑みを浮かべる。 ―――不快だ。 無惨が、臨也に対して感じた第一印象はそれに尽きる。 敵意は感じない。しかし、その視線はどことなく此方を値踏みするかのような印象を受け、無惨は苛立ちを覚える。 だが、それでも今後のことを見据えたうえで、今は堪えるべきだと自制するのであった。 ◇ 「そうか、お前も死んだのか……」 大規模な戦闘が勃発したと一目で分かる、荒れに荒れ果てた森林地帯。 ロクロウは、ゴミのように地面に放り出されている血肉の塊の前で声を漏らした。 原型を保っていないそれが、元々自分達と敵対していた一等退魔士だったと気付けたのは、彼が生前着込んでいた聖寮の服が、血肉の中に紛れていたからであろう。 近くには、少女と思わしき首無し死体も転がっている。 恐らくは同じ者によって葬り去られたのであろう。 「殺った奴は、マギルゥを殺った奴と同じか、或いは―――」 病院を出発して遺跡を向かっていたロクロウは、道中で『闘争』の匂いをかぎつける。 しかし、辿り着いた先に、彼が求める『闘争』は既になく、惨たらしい爪痕のみがそこに取り残されていた。 下手人の心当たりは二人。垣根から聞かされたマギルゥを殺したという触手を操る怪物に、数時間前に刃を交えた角のような髪をした赤目の少年。 見聞きした情報から察するに、彼らがこちらに来て、他の参加者に襲い掛かってもおかしくはない。 「まぁ、柄ではないが、お前達の仇取ってやっても良いぜ」 ロクロウは、不敵な笑みを零しながら、二つの亡骸に語りかける。 彼は、夜叉の業魔。義憤に燃えるような漢ではない。 ただ純粋に、これだけの災害を引き起こす者との死合を行いたいという欲求が、ロクロウの胸の内にあった。 だが結果として、下手人との死合いの末、討ち取ることがあれば、その副産物として、この二人の鎮魂歌になり得るだろう。 「おっと…とにかく今はオシュトルの旦那のところに行かないとな」 いかんいかんと、寄り道をしている自分に気付いたロクロウは頭を振って踵を返し、オシュトル達が待っているであろう、遺跡の方角へと歩を進めていくのであった。 ◇ 「成る程……それは災難でしたね」 「ええ、Stork君とは上手くやっていけると思っていたのですが、残念ですよ」 溜息をつきながら、臨也は項垂れる。 今現在、臨也達一行は森の中を進みつつ、互いの情報を交換し合っていた。 臨也が、『月彦』達に話した内容はこうだ。 ―――ゲーム開始後、テレビ局でμと関わりを持つ「オスティナートの楽士」の一人Storkと出会う。 ―――その後、Storkとともに刑務所を経て、紅魔館付近でカナメという負傷した青年を発見。 ―――カナメ曰く、殺し合いに乗った金髪の青年に襲撃され、彼の仲間である二人の少女は今尚追われているとのこと。 ―――臨也は、カナメの介抱をStorkに任せて、少女たちの探索へと向かう。 ―――そこで、カナメの仲間の一人と思われる少女の焼死体を確認。更に付近の川で、意識を失っている水口茉莉絵を発見し、これを介抱。 ―――その後、Stork達を探すも合流に至らず、第二回放送で、Storkの名前が呼ばれてしまい、今に至る、と。 「でもまあ、俺なんかよりも月彦さんたちの方がもっと悲惨ですよ。 亡くなったお知り合いの皆さんの件については、心中お察します」 「お気遣い痛み入ります。」 投げかけられた同情の言葉に対し、『月彦』は頭を下げる。 心からの謝意というよりは、どことなく社交辞令的な淡白な反応だったが、臨也はそんな『月彦』の様子を黙って観察する。 ちなみに、『月彦』が臨也たちに提示した経緯は、次の通り―――。 ―――二人のスタート地点は、「高千穂リゾート」であり、そこではヴァイオレット・エヴァ―ガーデンとブローノ・ブチャラティら、他二人の参加者もいた。 ―――四人は話し合いの結果、『月彦』と麗奈組、ブチャラティとヴァイオレット組の二手に分かれ『北宇治高等学校』で合流する手筈となった。 ―――しかし、学校を目指す際中、電車の脱線を知った『月彦』達は方針を転換し、山方面へと向かう。 ―――その後テミスの放送により、麗奈は部活の先輩二人の死を知り、また道中の病院で『月彦』の使用人である累の遺体を発見した。 ―――その後、失意の最中、二人は墓地付近にて戦闘の痕跡らしきものと、参加者と思わしき二人の遺体を目撃し、今に至る、と。 「―――しかし、『月彦』さんが、冷静な方で良かったですよ」 「……はい……?」 唐突な臨也の発言に、『月彦』は顔を上げ、眉を顰める。 そんな彼に構わず、臨也は言葉を続ける。 「だってそうでしょう? 普通なら、身内が殺された上に、二つの惨殺死体を目撃したというなら、取り乱して然るべきですからね。 だけど、貴方ときたら、身内の分も含めて、冷静に遺体から首輪を回収するときている。 いやぁ、常人では中々出来ない芸当だと思いますよ」 「……私が、血も涙もない冷血漢とでも言いたいのでしょうか?」 「まさか!俺は褒めているんですよ。 貴方のような頼りになる大人が、側にいてくれているのだから、麗奈ちゃんも安心だろうなってね」 そう言って、臨也は麗奈の方へと視線を向けると、ビクリと麗奈は身体を震わせる。 その様子に目を細めた臨也は、未だ表情曇らせる『月彦』の方へと向き直る。 「しかし、最初の放送で発表された脱落者は13名か……。どうやら、俺達の予想以上に殺し合いに乗った連中は、多いかもしれませんね……。 『月彦』さんの使用人の累君を殺した奴も含めて、ね。」 情報交換の折に『月彦』に教えてもらった、第一回放送での死亡者情報を振り返りながら、臨也は呟く。 ちなみに、放送を聞きそびれた理由としては「丁度放送の死亡者発表に差し掛かった時に、川で流されている茉莉絵を発見し、人命救助を優先として放送を聞く余裕がなかった」と説明してある。 茉莉絵も気を失っていたのだから、当然聞きそびれており、二人とも第一回放送の死亡者情報が欠落していたということになっている。 「ええ、幸いなことに我々はまだ乗った側の人間に遭遇はしておりませんが、墓地近郊での遺体を鑑みるに、下手人は付近に潜んでいる可能性も否めません。 警戒するに越したことはないでしょう。」 「それは怖いですね。まあ俺の方もまだ乗った側の人間には出会ってはいないのですが……。 ああっ、そう言えば―――」 と、ここで臨也は思い出したかのように、背後を振り返ると、それまで蚊帳の外にいた茉莉絵に声をかける。 「茉莉絵ちゃんはさぁ、遭遇していたはずだよね……殺し合いに乗った殺人鬼と。 どんな奴だったか、『月彦』さん達にも説明してくれないかい? どんな凶悪な人間が、君と君の仲間を襲ったのかをさ。」 「……っ!」 瞬間、茉莉絵は目を見開くも、臨也は意に介さずねっとりとした視線で、彼女を見つめ続ける。 そんな彼に対し、茉莉絵が口を開く前に、『月彦』が割って入る。 「折原さん、少し不躾では……? 彼女も怖い思いをしてきたというのに―――」 「いえ……良いんですよ、『月彦』さん。 折原さんが無神経で、デリカシーのない、最低なろくでなしなのは今に始まったことではないので……。 お話ししますよ、私が何を体験してきたのかを……」 臨也に対して毒を吐きながら、こほんと咳払いをする茉莉絵。 「酷い言い草だなぁ」と肩をすくめる臨也を他所に、彼女は語り出す。 ―――ゲーム開始当初、茉莉絵は婦警の弓原紗季と行動を共にしていたことを。 ―――しかし、道中でドレッドヘアの危険人物・王と遭遇。紗季は彼に殺され、茉莉絵は命からがら逃げたということを。 ―――その後、逃げ込んだ会場内の施設『紅魔館』で、王と因縁のある青年カナメと霧雨魔理沙と出会うも、『紅魔館』も炎を自在に操る金髪の青年に襲撃され、茉莉絵は魔理沙に連れられ逃走したことを ―――しかし、逃走虚しく、金髪の青年に追い付かれ、魔理沙は殺害されてしまい、自分も追い詰められた末、崖から転落したということを。 時折、目に涙を滲ませながら、震える声で語った茉莉絵。 大袈裟に語るのではなく、あくまで淡々と事実だけを、弱弱しく話すその姿は、現実を粛々と受け止めた上で、それを乗り越えようとする悲壮な覚悟と、生真面目な少女の危うさを感じさせるものであった。 「……それは……大変でしたね……。 辛かったでしょうに……。」 その甲斐あってか、『月彦』も麗奈も気の毒そうな表情を浮かべ、労わるような言葉をかける。 そんな労りの言葉に、茉莉絵は涙を拭いながら、 「ありがとうございます……。でも、私は大丈夫ですから。」 と、弱弱しい笑みを返した――― (……あーうぜえええええええ!! 何だよ、このクソみてえな茶番はよぉおおおお!!) のであったが、水口茉莉絵ことウィキッドは、内心では激しい苛立ちを覚えていた。 『月彦』から掛けられた反吐が出るような薄っぺらい同情の言葉も、麗奈から向けられる憐みの眼差しも、何もかもが気に食わない。 そもそも、こんな奴ら最初から信用なんかしていない。 『月彦』は、このゲームが始まってから、麗奈を護ることに尽力していると言っているが、明らかに麗奈は挙動不審で『月彦』に対して、怯えている節がある。 同年代ということもあり、近づきやすいかと思って、麗奈に声を掛けても、彼女は常に『月彦』の顔を窺っているきらいがある。 何か弱みを握られているか、もしくは脅されているのではないだろうか。 この『月彦』という男は、どうにもきな臭いし、裏があるように思える。 そんなことは臨也だって察しているだろう。 だからこそ、彼と臨也のやり取りは、狐と狸の化かし合いのようにしか見えず、まどろっこしくて仕方がなかった。 そして、何より―――。 「改めて聞くと、本当に災難続きだったね、茉莉絵ちゃん。 まぁでも、崖から落ちた後に、俺に発見されたのは、不幸中の幸いってやつだよね。 いやぁ茉莉絵ちゃんだけでも無事で良かったよ」 (黙れボケカスクソ死ね!!) 折原臨也に対する怒りと苛立ちで腸が煮えくり返りそうであった。 全てを悟り、全て承知したうえで、敢えて知らない振りをして、白々しい態度を取っているのだからタチが悪い。 わざわざ茉莉絵の口から『月彦』達に経緯を説明するよう促してきたのは、茉莉絵がどんな反応をするのか、どんな作り話をしてやり過ごすのかを観察したかったのだろう。 茉莉絵が話をしている時の臨也は、真摯な表情を張り付けつつも、その実、瞳には子供のような好奇心を孕み、茉莉絵の表情を捉え続けていた。 それはある意味では純粋であり、ある意味において、酷く邪悪なものであると言えた。 「―――とまぁ、茉莉絵ちゃんの話した、王とかいうドレッドヘアの男と、炎を操る金髪の男は要注意だね。 あっ、そうそう……金髪といえば、シズちゃん……平和島静雄っていう金髪のバーテンダーにも気を付けたほうが良いよ。 あいつは、目につく人間を片っ端から襲い掛かる獣みたいな男だからさ。もしかしたら、既に何人もの参加者があいつに殴り殺されているかもしれない。 俺達人間にとっては害悪極まりない存在だよ。」 「そうですか、それは気を付けないといけませんね。 でも害悪といえば、折原さんも負けていないと思いますよ。 特に人を不快にさせるという点に関しては、右に出るものはいないと思います」 いつもの優等生モードで、ニコリと笑いながら、臨也への嫌悪感を顕にする茉莉絵。 「やれやれ、命の恩人に対して、酷い言いようだなぁ、茉莉絵ちゃんは……」 「助けてもらったことには感謝しています。でも折原さんは最低な人間だと思います。」 『月彦』達とのやり取りで、茉莉絵は改めて思い知った。 折原臨也という男は、害虫―――例えるならノミ蟲のような存在であると。 先の約定通り、『月彦』達との情報交換の際に、彼は茉莉絵の不利になるような情報を―――例えば、「茉莉絵がμに楽曲を提供する『オスティナートの楽士』の一員である」といった情報は、一切口外しなかった。だが同時に、茉莉絵の立場が有利になるような供述もせず、中立の立場から茉莉絵の言動の観察に徹していた。 これがこの男の性分であると割り切ってしまえば、それで済む話ではある。 しかし、だからといって、今後「君が焦る反応が見たかった」とほざいて、いつ梯子を外しにくるか分からない。 だからこそ、ノミ蟲が血を吸い尽くして、去っていく前に潰しておくに越したことはない。 用済みになった瞬間に、殺すに限る。 「―――折原さんは、茉莉絵さんに何かされましたか? 酷く嫌われているようですが……」 「さぁ…? ―――ああっ…、もしかして、ずぶ濡れになった服を乾かすため、勝手に脱がしてしまったことを根に持ってるいるかもしれませんね。 いやぁ、悪かったね、茉莉絵ちゃん。俺としたことが、年頃の女の子に対しての配慮が足りなかったよ」 「アハハハハハ……。折原さんは、いつになったら死んでくれるんですかぁ?」 表面上は、優等生モードで、愛想の良い笑顔を取り繕う茉莉絵。 しかし、積もり積もっている臨也への苛立ちと嫌悪だけは、包み隠さず表に出していくことにする。せめてもの、ささやかな抵抗と憂さ晴らしとして。 『月彦』と麗奈が若干困惑しているようにも見えるが、関係ない。 臨也も含めて、最終的には全員殺すつもりなのだから。 ◇ 『大いなる遺跡』のコンピュータルーム内。 無数の端末が並べられているその一角で、オシュトルとアリアは、眼前のディスプレイに映し出されている情報を確認している。 「ふむ……。容易く奴らのサーバに潜り込むことは出来たが、どうにも『緊急解除コード』に関する情報は見当たらないな……」 オシュトルは、サーバ側へのハッキングに成功し、サーバに置かれている情報を物色してはいるものの、用意されているのはホームページの更新の方法や運用マニュアルなど、採るに足らない情報ばかりで、目当ての首輪の解除に関する情報は今のところ確認できていない。 また、このシステム自体は完全に切り離されているものであり、ハッキングしたサーバを踏み台にしての別システムへのアクセスは出来ないようになっているようだ。 「空振り、なのかしら……?」 画面を覗き込むアリアも、状況が芳しくないことを悟る。 もしここで解除コードの情報を手に入れることが出来ていたならば、この殺し合いの打破にも大きく前進することが出来たのだが、流石にそこまで都合の良い展開にはなってくれないらしい。 「妨害行為もなかったことから、主催者は、某達のこの行動も織り込み済みってところのようだ……。 閲覧されても問題ないものだったと考えれば、あの杜撰なセキュリティも納得できるが―――」 とここで、オシュトルの手は止まる。 サーバ内の情報を読み漁っていく中で、その深層部にて「report」と名付けられた気になるディレクトリを目にしたからだ。 「……これは……?」 すかさず、そのディレクトリにアクセスをする。 するとそこには、1つの文書ファイルが保存されていた。 そしてその内容は―――。 「……これは、どう解釈すれば良いのかしら……」 「察するに、今この会場で起こっていることが纏められてあるようだ。 ここに記されている一部の参加者に、某も心当たりがある」 文書をスクロールさせながら、オシュトルとアリアは目を見合わせる。 結論として、そこに首輪に関する情報の記載はなかった。しかし、無視することの出来ない内容がそこにはあったのだ。 「―――へぇ…、君達が何を見たのか、俺も興味があるなぁ。」 「「っ!?」」 不意に部屋の入り口付近から聞こえた声に、オシュトルとアリアは驚き振り返る。 文書の内容に釘付けにされ、周囲への警戒を怠っていた二人は、第三者の接近を許す結果となってしまった。 「誰よ、あんた達」 部屋の扉付近に立っていたのは、黒コートに黒髪短髪の男。 アリアの睨みにも臆することなく、不敵な笑みを浮かべている。 また彼の背後には、三人の男女が控えている。何れもアリアとオシュトルにとっては、見ない顔であった。 「ここに来る途中、開けっ放しで放置されている大きな門があったから、多分先客がいるだろうな、とは予想していたけど、ビンゴだね。 俺は折原臨也。しがない情報屋ってやつさ。 後ろにいる三人は、右から『月彦』さん、高坂麗奈ちゃん、水口茉莉絵ちゃん―――皆、殺し合いには乗っていないから、安心していいよ。」 飄々とした態度で自己紹介する臨也。 彼に促される形で、『月彦』達も、軽く会釈をする。 「―――あんたが折原臨也ね、成程、噂通りの人間っぽいわね……」 新羅から事前に聞かされていたことを思い返しつつ、臨也の全身を舐めるように観察するアリア。 確かに、見るからに胡散臭そうで男だと感じる。 それに、どことなく危険な香りも漂ってくる―――武偵としての嗅覚がそう告げる。 「おや? 俺のことを知っているってことは、誰か俺の知り合いと会ったようだね。」 「あんたの友達だという闇医者からのタレコミよ。あんたの事『ちょっと癖のある変人の類』って言ってたわ。それにそこの二人についても、ヴァイオレットから話は聞いているわ」 「ヴァイオレットさんと、会ったんですか?」 ヴァイオレットの名前を聞いて、麗奈がアリアに問いかける。 「ええ、そうよ。さっき話した闇医者と一緒に、今は別の部屋で待機しているわ」 「ああ、新羅の奴もここにいるのか……。 ったく……、俺のことを話すなら、少しは好意的に紹介してくれたら良いのに、『変人』ときたか。 お前の方がよっぽど変人だろうに、友達甲斐のない奴め……―――まあ、いいや。」 溜息を吐きながらも、直ぐに気持ちを切り替えて、臨也はオシュトルとアリアの方に向き直る。 「情報交換といこうじゃないか。 君達が何を見知ったのか、聞かせて貰えないだろうか」 愉快そうな調子で提案してくる臨也。 オシュトルとアリアとしても断る理由もなく、新たに遭遇した四人の参加者に、自分達が目にした情報を開示するのであった――。 ◇ ―――箱庭で観測された『覚醒』事象について――― この度の箱庭での実験は、16の異なる世界線から総勢75名の参加者を選出し、厳粛なる監視の下、執り行われている。 各参加者の行動については逐次観察されているが、実験の最中、非常に興味深い変遷を遂げた参加者を複数人確認している。 当該レポートは、これらの参加者を「覚醒者」として定義の上、個体識別番号を割り当て、その覚醒の経緯について、簡易的にまとめている。 ■最初に観測された覚醒について 最初の覚醒は、当実験が始まって間もなく発生した。 覚醒者『001』は、眼前で親しき友人を別の参加者の手により殺害される。更に『001』自身も、友人を殺害した同じ参加者に銃撃される。 しかし、この時に使用された銃は、世界線Aで『特殊能力付加装置』として、用いられていた遺物。撃ち抜いた対象の霊力を操作し、"増幅"する装置。 『001』が選出された世界線Kは、霊力、魔力はおろか戦争とは無縁の世界。基本的に上述の霊力増幅の向上は見込めない。 しかしながら、ここで思いがけない偶発的な事態が発生した。 装置から放たれた弾丸は、『001』の胸元ポケットに忍ばせていた支給品である『魔石』を撃ち抜いた。 撃ち抜かれた『魔石』から溢れた魔力は、『001』の中に染み込み、更に装置から放たれた弾丸によって、その力を増幅させた。 『001』はその瞬間、世界線Kでは本来持ち得ない筈の『氷を自在に操る』異能を身につけ、襲撃者に反撃。襲撃者は負傷し、撤退を余儀なくされる。 尚、この襲撃者についても後述の痣による覚醒が観測され、覚醒者『005』となる。 ■二度目の覚醒について 本実験における二度目の覚醒は、複数の参加者間で観測された。 第一回放送前、世界線Eの鬼狩りの剣士『002』は、世界線Bの仮面の者(アクルトゥルカ)との死闘の末に、『痣』を発現。 世界線Eの鬼狩りの剣士達は、この『痣』を発現させると、戦闘力を大幅に上昇させることが可能となる。 事前に得た情報によれば、『痣』を発現させる条件は次の三つ。 ①体温が三十九度以上になること。 ②心拍数が二百を超えること。 ③揺らがぬ強い感情を抱くこと。 また、この『痣』については、1人が発現すると、それに共鳴するように、周囲の人間にも伝搬すると云う。 『002』は、仮面の者(アクルトゥルカ)相手に奮戦するも死亡。 『002』に勝利した仮面の者(アクルトゥルカ)も、第一回放送後に、世界線Lの陰陽師との戦闘において、『痣』を発現―――覚醒者『003』となる。 『003』は『痣』による身体能力の向上、そして仮面(アクルカ)の力で、陰陽師を追い詰めるも、今度は陰陽師が『痣』を発現し、覚醒者『004』となる。 『003』と『004』の戦闘は、『004』が勝利し『003』は死亡。 しかしその後、同じく『痣』を発現した覚醒者『005』が、『004』を殺害する。 『005』は世界線Hから選出された参加者であり、『痣』の発現により、『005』の繰り出すカタルシスエフェクトも強化されている。 尚、『痣』の発現は身体能力が著しく向上させる代償として、寿命が著しく縮むとされている。『005』においては、既に『痣』発現者の寿命を超過しているため、この実験下において、どれだけ長生きできるか、という項目にも焦点が当てられるかもしれない。 ■三度目の覚醒について 本実験における三度目の覚醒は、世界線Kの参加者と世界線Eの参加者の二人組に発生した。 第一回放送によって、二人の知り合いが死亡したことを知った『006』は、『死別』というトラウマをきっかけに、無意識的にμの歌声に感化されデジヘッド化。 そして鬱屈した感情を晴らすため、トランペットを演奏する。 デジヘッドの力は、周囲の者の精神に多少なりとも影響を与えると見立てられており、『006』の演奏をきっかけとして、『007』もデジヘッド化する。 『007』は鬼の首魁であり、太陽光が弱点であったが、デジヘッド化を契機として、太陽光を浴びても消滅するようなことは無くなった。 これは、『006』がデジヘッド化に伴い発現した能力で、無自覚に自身から一定範囲(距離は定かではない)内にいるデジヘッド及び、それに近しい能力を持つ者に対して回復を行うように見受けられる。 したがって『007』においては、本来備わっている鬼としての回復能力が飛躍的に向上しており、太陽光を受けても再生能力がそれを上回っている。 『006』と『007』はデジヘッドとして相互に干渉し合っているため、この状態が維持されている。仮に両者がある程度離れることがあれば、この『覚醒』は解除されると推測される。 その後、『006』と『007』は、『001』を含む三人組の参加者と遭遇。 『007』は、『001』以外の二人の参加者を無力化(内一名は殺害)し、『001』は戦場を離脱する。 さらに、一連の戦闘の中で、『007』は『006』に鬼の血を付与し、鬼化させている。 鬼化した『006』は食人衝動に駆られ、瀕死の『001』の仲間を捕食している。 尚、『006』については、鬼化した後もデジヘッドとしての回復能力も継続して発動しており、『006』自身についてもその効果により、太陽光を受けても死滅しないと推測される。 また、この『006』の回復能力については、現在のところ『006』と『007』以外には効力を発揮していない。 ■四度目の覚醒について 四度目の覚醒は、世界線Aの喰魔『008』の身に起こった。 世界線Aの別の時系列から選出された参加者及び、世界線Bの仮面の者(アクルトゥルカ)との戦闘の折、同行する世界線Jのレベル5能力者の砲撃を、業魔手で吸収した『008』は、世界線Jの能力者達が用いる演算方式を取り込む。 その後、激しい戦闘の末、窮地に陥った『008』は、取り込んだ演算方式と巡りめぐる思考の末に、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を見出し、世界線Jでいうところのレベル6能力者として覚醒を果たす。 覚醒した『008』の能力の出力は絶大なもので、仮面の者(アクルトゥルカ)が展開した障壁をも粉砕した。 強力無比な覚醒者の誕生を目の当たりにしたが、強制的な異界法則の行使は、『008』の本来の存在のそのものにも影響を及ぼすと考えられ、『008』そのものが別の「ナニカ」に置き換わる危険性を孕んでいるとも言える。 何れにせよ、『008』周りの動向については、より一層の観察と注視が推奨される。 ◇ オシュトルがハッキングしたシステムに保管されていた文書には、この殺し合いにおいて、観測された『覚醒』の事象について、それに至るまでの関係者の経緯などが簡潔に綴られていた。 文書の内容に何か思うところがあったのか、『月彦』、茉莉絵、麗奈の三人は、文書に目を通した後、それぞれ小難しい顔を浮かべていた。 「―――これってさぁ、誰に向けての『報告書』なんだろうね?」 沈黙が支配する空間の中、臨也だけは、口角を吊り上げながら、一同に疑問を呈した。 「―――と申されると?」 オシュトルが聞き返すと、臨也は相槌を打ちながら、言葉を続ける。 「これが会場で行われている殺し合いで発生した出来事を纏めているのは分かるんだけどさ。 報告書っていうのは、基本的に『いつ』『どこで』『誰が』とか、そういった情報を簡潔にまとめ上げて然るべきだ。 だけど、このレポートには、その辺りの肝心な情報がボカされていたり、意図的に省かれている部分が多いよね。 仮に運営の連中が、組織内で『実験』とやらの成果を記録するために、レポートを書き上げているのであれば、そこらへんはしっかりと記すべきだと俺は思うんだよね」 臨也からの指摘に、オシュトルも同意せざるをえなかった。 実験の成果物として報告書として纏めるのであれば、少なくとも名簿に載せてある参加者の名前を明記したうえで、時刻と、どのエリアで『覚醒』とやらが発生したのかを淡々と記せば良いはず。 しかし、この『レポート』には、『仮面の者(アクルトゥルカ)』など一部の参加者しか知り得ないような情報を織り交ぜた上で、敢えて不明瞭にしている箇所が多々見受けられた。 オシュトルらヤマトの住人が、『仮面の者(アクルトゥルカ)』という存在を把握しているのを鑑みるに、ここで記されているそれぞれの『世界線』とやらの参加者達が、情報を出し合えば、不明瞭な部分の答え合わせにはなりえる。 それはつまり―――。 「このレポートとやらは、我々参加者が閲覧することを想定して、我々に向けて用意されたものということか……」 「さしずめ、頑張ってハッキングを行なった人へのご褒美といったところかな? まぁ情報は不完全だけど、うまく解明できれば一部の参加者の動向も把握できるだろうから、強力なアドバンテージになるのは間違いないだろうからね。 『この情報を以って、上手く勝ち進んでください』っていう主催者からのエールってやつ?」 肩をすくめながら饒舌に語る臨也。 まるでパズルに没頭する子供のように、愉快そうな表情を浮かべている。 「とことん舐めてくれてるわね、運営の連中……」 臨也の推理に、アリアは唇を噛み締めながら呟いた。 運営の虚を突き、ゲームの根本をひっくり返せればと期待はしていたが、結局のところ、連中の掌の上で踊っていたということになる。 悔しい思いはあるが、現状ではどうすることもできない。 「後は、ゲームの核心に迫りたい俺達に対して、ご褒美の一環として、一つの回答を突きつけているとも読み取れるよね。 この殺し合いは、『覚醒者』とやらを生み出す目的の『実験』だとか、ね。 世界線Aだと、Bだとか色々考察していく余地はあるんだろうけど、まぁ詳細は新羅とヴァイオレットさんが揃ってから突き詰めていこうか。ああ、そう言えば―――」 ふと思い出したように、臨也は話題を変えた。 「運営がよこしてくれた情報と言えばさ、アリアちゃんが分解してくれたこの首輪に書かれている文面も気になるところだよね。」 机の上に置かれている解体済みの首輪を手に取り、それを眺めながら、臨也は言葉を続ける。 「これは、Stork君っていうμと面識のある参加者から聞いた話だけど、μが創り出した『メビウス』っていうのは仮想世界であって、彼女は、現実世界から招いた者に仮初の身体を与えて生活をさせていたらしい。 そこに、NPCとかいう人間もどきを作製して紛れ込ませて、人間社会ごっこを楽しんでいたようだ」 「―――何が言いたいの?」 「いやね、ほら。Stork君の話が事実だとすれば、この首輪に書かれている『仮想世界』、そして俺達が『作られた存在』っていう部分は、彼女が能力を行使すれば、可能だという話さ。 『メビウス』では都市一つと、それに相応する住人が存在していたと聞いているし、75人分の人間もどきのデータを作製することなんて訳ないじゃんないかな?」 臨也は口端を歪ませながら、一同の反応を窺う。 オシュトルとアリアは、苦汁を嘗めた表情を浮かべていた。 『月彦』は、より一層険しい表情を滲ませている 茉莉絵は、そもそも臨也と視線すら合わせようとせず、俯いたまま。 そして、麗奈はというと、アメジスト色の瞳に、不安の色を灯し、震える声で臨也へと尋ねた。 「……折原さんは、その話を信じるんですか? 私達が紛い物であると……」 「今のところは、半信半疑かな。連中が俺たちを混乱させる目的で、ブラフを流している線もなくはないし、もう少し情報が欲しいところだね。 まあ何にせよ、仮にこの殺し合いをエンターテインメントとして観察している連中がいれば、『自分たちが偽物であるかもしれない』という可能性を突きつけられたときに、どういう反応をするのかっていうのも見世物としては中々の趣だと思うけど―――」 「臨也殿―――」 オシュトルが、臨也の言葉を制する。 これ以上、一同の不安を煽るような発言を続けさせてはおけないと判断したのだろう。 事実、臨也の言葉を受けて、麗奈は激しく動揺しているように見えた。 「今この場で、そのことを論じても意味はない。 仮に我らが造り出された『偽り』だったとしても、今ここに在る我らそれぞれに意思があり、信念がある。 我らに宿るそれらは紛うことなき『本物』であると、某は思う」 「殊勝な心掛けだね、オシュトルさん。 それじゃあさ……仮に自分が歪曲された『偽物』だったと知っても、オシュトルさんは、オシュトルさんであることを貫くつもりかい?」 「…………。」 瞬間、オシュトルは心の臓を鷲掴みにされる感覚に陥った。 その問いかけは、図らずも、オシュトルのこれまでの在り方そのものに重なったからだ。 脳裏に過るのは、自身に仮面を託した親友の姿―――。 あの日から、本当の自分を殺して、偽りの仮面を被り続けてきた。 「某は、たとえ自身が『偽り』であったとしても、己を貫き通す。 それが、我が使命なれば……」 ハクは死んだ。もういない。 ここにいるのは、『偽物』のヤマト右近衛大将。 だがそれでも、自分はオシュトルで在り続けないといけない。 親友(とも)の想いを受け継いだのだから。 「うん、いい答えだ。オシュトルさんの覚悟、実に人間らしくて素晴らしいよ。 貴方とは、上手くやれそうだよ」 「―――お手柔らかに頼む……」 臨也は、オシュトルの返答に満足したのか、「うんうん」と上機嫌に肯く。 そんな臨也に対し、オシュトルは冷静な口調で返すが、その心中では―――。 (わざわざ、こちらの芯を揺さぶるような質問をぶつける…試しているのか…? 掴み所のない男だ……) 臨也に対して今後どのように接していくべきか、図りかねていた。 しかし、そんなオシュトルの胸中などいざ知らず、臨也の興味の対象は、他の人物へと移っていた。 「どうやら不安にさせちゃったみたいだね。ごめんよ、麗奈ちゃん」 「……いえ、私は……」 麗奈はビクリと肩を震わせながら、顔を伏せた。 「でも安心すると良い。オシュトルさんの言う通り、例えどんな真実が待ち受けていようとも、俺達は俺達でしかない。 他の誰でもなく、此処に在るのは、俺達なんだ。 だから、麗奈ちゃんも、自分自身の足下を見失わないようにしてね」 励ますように肩をポンと叩き、臨也は笑顔を向けるが、麗奈は俯いたままだった。 「本当に折原さんはデリカシーの欠片もない人ですね。余計なことばかり言って。 高坂さん、大丈夫ですか?」 茉莉絵は、臨也の手をバチンとはねのけて、麗奈を気遣う。 臨也はというと、赤くなった手をさすりながら、「おやおや」と呟きながら、そんな二人のやり取りに目を細めた。 『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』 第二回放送が始まったのは、そんな時であった。 ◇ ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンは、指を動かし続ける。 新羅(クライアント)の口から発せられる、愛しきヒトへの止めどない想い―――それを手紙という形で書き綴っていく。 機械仕掛けの義手が、タイプライターを打ちこむ都度、軽快な打刻音が倉庫内に響いていく。 ヴァイオレットは、想いを綴る。 人と人とを繋ぐ言葉を紡いでいく。 彼女は自動書記人形―――人の心を汲み取り、言葉として書き起こし、それを届ける存在だ。 元々は、「愛してる」を知りたくて、彼女は自動書記人形になることを望んだ。 そして様々な「想い」に触れてきた彼女は、学んだ―――。 人には届けたい想いがある。 届かなくてもいい想いなんてない、と。 だからこそ、彼女はこうして新羅の「愛している」を手紙として綴り続ける。 新羅と彼の愛する人が再会できるように。 きっと、無事に想いを伝えられるように。と願いながら……。 『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』 どことなく声が響き、彼女と新羅は執筆を中断し、天を見上げた。 第二回放送である。運営の女テミスは、相変わらずの調子で語り始める。 まずは、禁止エリアの発表。幸いなことに自分たちがいるエリアが禁止エリアに指定されることはなく、二人はひとまず安堵する。 しかし、本当に重要なのは次のパートだ。 『次は、お待ちかねの死亡者の発表といきましょうか。』 自分たちの預かり知らぬ場所で、一体何人の人間が命を落としたのか……。 麗奈や『月彦』、ブチャラティ、ロクロウ、早苗は無事なのか……? そんな一抹の不安を抱えつつ、彼女は耳を傾ける。 『【マリア・キャンベル】、【王】、【セルティ・ストゥルルソン】――― その瞬間、何かが音を立てて、崩れたような感覚に見舞われた。 彼女は息を呑み、傍らに佇んでいた彼を振り返ると―――。 『世界』を失った青年の姿が、そこにはあった。 ◇ テミスによる第二回放送が終わり、μの歌声が木霊するコンピュータルーム内にて。 六人の参加者の間には、鉛のように重苦しい空気が漂っていた。 (ミカヅチ……、お前も逝ったのか……) オシュトルは、目を瞑り、死亡者として発表された戦友の姿を思い浮かべる。 今でこそ陣営は違えど、彼もまた『オシュトル』や『ハク』の友人であったことには変わらない。 愚直なほどに忠義に厚く、ヤマトにその身命を捧げる彼は、殺し合いに乗ったと人伝えに聞いている。 (―――お前は、お前の信念を貫き通して、逝ったんだな……) 第一回放送から、第二回放送までに脱落した仮面の者(アクルトゥルカ)は、ミカヅチただ一人。 であれば、先程閲覧したレポートに書かれていた覚醒者『003』とは、ミカヅチのことだろう。 レポートには、彼が『痣』なるものを発現させ、その戦力を大幅に向上させ、奮戦した旨記載されていた。 そして、その『痣』なるものの発現の条件の一つは、こう記載されていた。 揺らがぬ強い感情を抱くこと、と。 オシュトルは彼の死に際に立ち会った訳ではない。 されど、彼が、護りたいもののために、限界を越え―――。 その命散らすまで戦い抜いたことは、容易に想像できた。 (全てが終わったら、またウコンたちと酒盛りをしよう。 悪いがそれまでは、そっちで暫く待っといてくれ) そう心の中で語りかけると、オシュトルはゆっくりと目を開き、一同を見回す。 皆が皆、沈黙を貫いている中、小刻みに小さな身体を揺らすものが一人。 「……アリア殿、大事ないか?……」 「……最悪の気分よ……」 アリアは俯いたまま、唇を噛み締め、拳を握りしめている。 高千穂麗とは、特別親しい間柄というわけではなかった。 しかし、あかりを通じて交流する機会は少なくなかったし、同じ武偵として、共にこの殺し合いを打破したいと思っていた。 だからこそ、彼女の脱落は、彼女にとって、とても悔く辛いものであった。 それからもう一つ―――。 先の放送によって、アリアの中では、大きな懸念事項が生まれていた。 そして、それはオシュトルも察していた。 「だけど、今は新羅のことが心配ね……」 セルティ・ストゥルルソンの脱落―――。 新羅が彼女のことをどれだけ愛しているのかは、普段の彼の言動からも明らかであった。 愛する者の喪失―――、それが彼に何を齎すかは定かではない。 しかし、それが、ろくでもないことを引き起こすであろうということだけは、確信に近い予感があった。 「うむ……まずはヴァイオレット殿と新羅殿の元へと参ろう」 と、そこで、オシュトルはチラリと、彼の友人へと視線を向けた。 月彦と麗奈、茉莉絵はそれぞれ重苦しい表情を顔に張り付けながら、オシュトルとアリアの会話に耳を傾けていたが、臨也だけはいつの間にか明後日の方向を向いていて、その表情は窺い知ることはできなかった。 何にせよ彼の協力は必要だ、とオシュトルが臨也に声を掛けようとしたその瞬間―――。 ド ゴ ン !! まるで大砲が炸裂したかのような衝撃音が鳴り響いた。 音の発生源は恐らく、新羅とヴァイオレットがいるはずの倉庫……。 その瞬間、チィッという舌打ち音が、未だ表情窺えぬ男から発せられたような気がした。 ◇ 「そうか、セルティは死んじゃったのか……」 テミスから彼女の名前が告げられた後の、新羅の第一声はそれだった。 感情のない声で呟き、特に泣いたり、怒ったりするような様子も見せず、天を仰いだまま、フラフラと歩き出した。 「……新羅様―――」 今の彼にとっては、ヴァイオレットの気遣う声も、天から降り注ぐμの歌声も、ただのノイズでしかない。 フラフラとした足取りで、しかし真っ直ぐに倉庫の中で跪き制止する巨人の元へと辿り着く。 「……っ!? 新羅様っ!!」 新羅が何をするか察したヴァイオレットは、地を蹴り、彼の元へと駆ける。 しかし、コックピットへと乗り込もうとする新羅の元へは、後一歩届かず。 彼女がアヴ・カムゥの肩口に着地した瞬間には、彼の姿は巨人の内部へと消えていく、古の兵器は稼働。 その巨腕を乱暴に払うと、ヴァイオレットの身体は呆気なく吹き飛ばされてしまった。 「……っ!!」 「ごめんね、ヴァイオレットちゃん。僕はこっち側に鞍替えすることにするよ」 空中でくるりと反転し、地面に着地し見上げてくるヴァイオレットに、新羅はあっけらかんとそう告げる。 「『どうして?』なんて野暮な事は聞かないでね? ヴァイオレットちゃんも分かってるでしょ?」 振り返ってみれば、『世界』そのものを失った青年が、最終的に行き着く先など、想像するのは難しくなかった。 それでも、ヴァイオレットが新羅のアヴ・カムゥ搭乗に対して、反応が遅れてしまったのは、新羅が、思考を切り替える時間があまりにも早かったからというのと、彼女が取るべき行動の整理に時間を掛けてしまったことにあった。 ヴァイオレットは、手紙の代筆作業を通じ、新羅のセルティに対する途方もない『想い』に触れてしまった。だからこそ、セルティの死が告知された際に、どのように新羅に接すべきかという困惑と迷いがあったのだ。そして、それが致命的な隙を生んでしまった。 「僕は優勝して、セルティを取り戻す」 「……ですが、それは……」 新羅の決意に対し、ヴァイオレットは言い返そうとするが、言葉が続かなかった。 彼女は知っているから、痛感しているから。 大事な人と会えなくなる辛さを―――。 悩めるヴァイオレット目掛けて、巨人の腕から大剣が勢いよく振り下ろされる。 身に染みついている自己防衛本能に促されるまま、彼女は後方に飛び退き、これを躱す。 凄まじい衝撃音とともに、遺跡の床は大きな亀裂が入る。 「ヴァイオレットちゃんは、元軍人だったよね? 流石にすばしっこいね、凄い身のこなしだ。 『後悔先に立たず』とはよく言ったもんだね、こうなるんだったら、もっと、ちゃんとこれの訓練しておくべきだったよ」 はははと、無機質な声とともに、斬撃が風に乗り、唸りを上げる。 そこには、一切の感情が込められていない。 新羅はヴァイオレットに特別恨みがあるわけではない。 憎しみもない、怒りもない。 ただ純粋に「セルティに再会したい」という想いを原動力として、まるで事務仕事をこなすかのように、眼前の少女の命を摘もうとする。 そんな悪意のない殺意が、乱雑に振り回され、ヴァイオレットに襲い掛かる。 ヴァイオレットは、苦汁を嘗めた表情を浮かべながら、これを回避。 一転して反撃に転じるべく、手斧を構え、アヴ・カムゥの足元へと潜り込む。 狙うは脚部の破壊---勢いそのまま手斧を叩き込むが、ガキン!という金属音が鳴り響くだけ。アヴ・カムゥの装甲には傷一つ付かない。 続けて二撃三撃と繰り出すものの、結果は同じ。 ならば狙いを変えて関節部―――。ここならば装甲は覆われていないため、攻撃は通るはず。 関節部を目掛けて、手斧を振るうヴァイオレット。 「――させないよ……」 しかし、その狙いは読まれていた。 該当箇所に刃が到達するその前に、アヴ・カムゥは蹴りを繰り出し、ヴァイオレットの華奢な身体を吹き飛ばした。 「……カハッ!!」 大砲でも直撃されたかのような威力に、肺の中の空気が全て吐き出されるような感覚を覚えつつ、ヴァイオレットは宙を舞う。 なんとか空中で体勢を立て直し、着地をするも、巨剣が彼女を両断すべく差し迫る。 間一髪、横に飛び退いてこれをやり過ごすも、巨人はその体躯に似合わぬ速度で追撃を仕掛けてくる。 ズドン!ズドン! ズドン!ズドン! 凄まじい衝撃音が遺跡中に響き続ける。 倉庫の中は、穴だらけ。瓦礫まみれ。 ズドン!ズドン! ズドン!ズドン! そんな破壊の跡を残しながら、アヴ・カムゥは執拗にヴァイオレットを追い回す。 ヴァイオレットは、一撃必殺の凶剣を紙一重で避け続ける。己が身体に染み付く戦闘経験と超人的な身体能力を以って。 「すばしっこいね、ヴァイオレットちゃん……。 こっちとしては、後がつかえているから、早めに終わらせたいんだけど、さ」 「……ッ!!」 後がつかえている――その言葉の意味は明らかだ。 新羅はヴァイオレットを殺した後に、コンピュータルームにいるオシュトルとアリアの元へと赴き、二人を殺害するつもりなのである。 「……させません!」 ―――もう誰も「いつか、きっと」を失ってほしくない。 ヴァイオレットは唇を噛み締めると、振り払われた大剣の一撃を躱す。 そして、超人的な反応速度で身を翻すと、その腕の関節部分に手斧を渾身の力で叩きつけた。 グサリと、肉を突き刺すような感触。 「ぐっ!?」 アヴ・カムゥ―――。否、新羅の口から、初めて漏れる苦悶の声。 アヴ・カムゥが受けたダメージはそのまま搭乗者にも同調される。 新羅もまた、自身の腕関節に肉を貫かれる灼熱の痛みを味わったのである。 初めて感じる神経伝達の痛み―――それにより、これまで休むことなく暴れ回っていたアヴ・カムゥの動きは静止する。 ヴァイオレットにとっては、千載一遇の好機。 彼女は素早く手斧を引き抜くと、今度は巨人の脚関節部分に向けて駆け出す ―――が。 轟ッ!! この程度の痛みでは、彼の“愛”は止まらない。止まるはずがない。 一瞬だけ静止していたアヴ・カムゥはその活動を再開。 負傷していない方の腕を稼働させ、迫るヴァイオレットに拳を振り下ろした。 「っあ……!?」 咄嵯に回避行動を取るヴァイオレットだったが、完全とはいかない。 巨人の豪腕によって、彼女の身体は吹き飛ばされ、後方の壁へと激しく打ち付けられ、その口からは血反吐を零す。 消し飛びそうになった意識を、必死になって繋ぎ止め、ヴァイオレットは立ち上がろうとするも、アヴ・カムウは大剣を掲げ、とどめを刺しに駆けてくる。 (……少佐……!!) 差し迫る死を目前にして、ヴァイオレットの脳裏に浮かんだのは、彼女に名前と「愛してる」をくれた人の後ろ姿。 ヴァイオレットは無意識のうちに、首に下げているエメラルドのブローチをぎゅっと握りしめた。 ―――刹那。 パァンッ!!!と、銃声が空間に木霊すると、ヴァイオレットにトドメを刺さんとしていた巨人は、片膝を屈した。 「……っ!?」 「そこまでよ、岸谷新羅!! これ以上の暴挙は、私が許さない!!」 膝を屈したのも束の間、アヴ・カムゥはすぐに起き上がると、背後を振り返る。 そこには拳銃片手に、アブ・カムゥを睨みつける、アリアの姿があった。 黒光りする銃口からは、硝煙が立ち昇っている。 その様子から、新羅は、今しがた膝関節に生じた灼熱は、アリアによって撃ち抜かれたものによると認識した。 「ヴァイオレット殿、此方へ!!」 「……オシュトル様……」 アヴ・カムゥとアリアが対峙している間に、オシュトルはヴァイオレットの元へと駆け寄り、彼女に肩を貸す。 ちなみに、アリアが今所持している拳銃は元々彼の支給品であった。 この倉庫に向かう途中、適材適所ということで、オシュトルはアリアにそれを託している。 「アリアちゃんに、オシュトルさんか……。 二人が来る前に、ヴァイオレットちゃんは片付けたかったんだけどなぁ」 アリアによって撃ち抜かれた膝の調子を試すように、屈伸をしながら、新羅は尚も無機質な声で呟く。 「こんな馬鹿なことを仕出かしたのは、セルティさんの為ね……?」 「うん、そうだよ」 「あんたがどれだけセルティさんの事を大事に思っていたかは知っているわ……、嫌という程聞かされたから……。 優しい人だってことも知ってる……だからこそ自分を蘇らせるために、あんたが殺人者になったって事を知ったら彼女は―――」 「無駄だよ、アリアちゃん―――」 懸命に説得を試みようとするアリアの言葉は、彼女の背後から現れた一人の男によって遮られる。 「君の言葉は決して、新羅に届かない」 折原臨也は、コートの両ポケットに手を突っ込んだまま、淡々と告げる。 「新羅にとっては、セルティと共にあることが絶対なんだよ。 逆にセルティ以外の人間に対しては、皆等しく無関心―――興味がない。 だからこそ、セルティと一緒にいる為には、他人を騙すことも、傷つけることも、殺すことも厭わないんだよね。 もっと性質(たち)が悪いことに、必要があれば、セルティにすら嘘を吐くし、傷つけるんだよ、新羅は。まったく、とんだ人格者破綻者だよ」 「っ!? 折原臨也っ!! あんたは―――」 説得を諦めろと諭してくる臨也に、アリアは激昂する。 しかし、臨也はそんな彼女を他所に、ズカズカと前進し、アヴ・カムゥの眼前に歩み寄る。 「やぁ臨也、まさか、こんなところで君と再会するとは思っていなかったよ」 「いつから、お前はロボットアニメの住人になったんだ、新羅?」 見上げる臨也。見下ろす新羅。 両者の間に流れる空気は、どことなく気安さを感じさせるものであったが、臨也がいつものように余裕ぶった笑みを浮かべることはない。 能面のように感情が読み取れない顔つきで、新羅を見上げ―――。 新羅もまたアヴ・カムゥ越し―――外からは表情窺い知れない状態にて、対峙するのであった。 ◇ 高坂麗奈は、ひたすらに混乱と恐怖の中で怯えていた。 その元凶は間違いなく、彼女の傍にいる『月彦』にあり、彼に対する絶対的恐怖により、麗奈は彼に服従せざるを得ない状況にある。 誰か助けて!と声高らかに叫びたい。 だけどそれは許されない―――。 今は元通りになっているけれども、一本ずつ折られた手の指の痛みが。 そして、壮絶な死に顔を晒したあげく、顔面を吹き飛ばされた少女の最期が。 恐怖という形で、彼女の身体に染みつき刻みこまれているから。 故に、臨也と茉莉絵の二人と出会った時も大人しくしていた。 だが、そこで麗奈は、自分の身体に刻まれた異変を改めて思い知らされる事になる。 食 べ た い 臨也と茉莉絵を見ていると無性に、そんな衝動に襲われてしまう事に……。 『月彦』に血を与えられ、鬼にされてから、身体が渇望しているのである。 人間の血肉を喰らいたいと―――。 その歪められてしまった本能を、必死に抑え込んだ。 事前に『月彦』に、「余計なことをするな、ただ私に従え」と釘を刺されていた手前、勝手な行動をするわけにもいかない。 そんな『月彦』に対する恐怖と、人間だったころの理性を以って、彼女は耐え続けた。 遺跡に到着後、オシュトルとアリアと対面した際も、彼女は思った。 食 べ た い と。 全身に流れる血潮が、植え付けられた本能が、そう訴えてくるのだ。 だからこそ、グッと堪える。 ―――我慢だ、我慢しないと……。 そう自分に言い聞かせながら、麗奈は皆と共に、オシュトルが発見したというレポートを閲覧する。 そして、その掲載内容から、主催者は、自分に覚醒者『006』という番号を割り当てていること、自分の身に何があったのかということを悟る。 『デジヘッド化』というものは良く分からないが、その発現を契機に、鬼の首魁である『007』こと『月彦』は、本来は弱点であるはずの太陽光を克服したということらしい。 自分が『月彦』に殺されずに、生かされているのは、ここに理由があると悟ると同時に、麗奈は改めて、自覚する。 ―――私は、本当に化け物になってしまったんだ……。 と。 ゾワリと、絶望が全身に駆け巡るが、それでも何とか自我を保つ。 飢えと渇きも増々ひどくなってくる。だけど耐える。 全てをかなぐり捨てて、思いっきり叫びたい。だけど耐える。 耐える。 耐える。 耐える。 ―――いつか、きっと、滝先生に振り向いてもらえるまで。 ―――私が私である限り、私は……私の心だけは『高坂麗奈』であり続けなければ、ならないのだから。 そのように心で反芻しながら、麗奈はひたすら耐えた。 そんな中、臨也は、麗奈達にとある可能性を示唆してきた。 自分たちはμで作られたデータであり、偽物にすぎない可能性があると。 ―――本当にそうだったら、ここにいる自分に滝先生が振り向いてくれることなんて絶対にない。 ―――だとすると、今ここで必死に頑張って、抗って、苦しんでいる自分はどうなる? ―――絶望のドン底に陥っても、これっぽちない希望にしがみついている自分は一体なんなんだ? そんな不安と激情を押し殺して、麗奈は臨也に問いかけた。 本当に自分たちは紛い物なのか、と。 もしかすると、ここで自分の存在を全否定されて、止めをさしてもらって楽になってしまいたいという、ある種の救いを望んでいたのかもしれない。 しかし、臨也からの口からは明瞭な答えが出ることはなく、最後には「『高坂麗奈』で在り続けろ」と唆してきた。 グサリと、心が抉られたような気がした。 勿論、麗奈の現状を知る由もない臨也からすれば、悪意のない、ただの鼓舞のつもりで言ってきただけかもしれない。 しかし、それは麗奈にとって、「もっともっと生き地獄を味わえ」と傷口に塩を塗られるような言葉であった。 その後、第二回放送が終わると、遺跡内部に凄まじい破壊音が鳴り響いた。 聞けば、別部屋で待機している参加者の恋人が、放送でその名前を告げられたと、オシュトルとアリアは、言った。 そして、その参加者は今、ヴァイオレットと一緒にいて、今の衝撃音は、恐らくは……とバツが悪そうに、一同に説明する。 オシュトル達は、切羽詰まった様子でヴァイオレット達の元へ向かおうとした。 先程までは饒舌だった臨也も、事の重大さを悟ったのか不気味なほど静かになり、彼らに帯同することになった。 だから、麗奈も、その後に続こうとする。 ―――そうだ、ここにはヴァイオレットさんがいる…… 麗奈にとって、ヴァイオレットはこの殺し合いが始まって最初に出会った人間。真摯に自分の想いにも触れてくれた、紛れもない善側の人間、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されている麗奈にとっては、唯一の心の拠り所とも言えるかもしれない。 彼女と再会することで、自分の窮状が少しでも好転するのかもしれないかという、根拠のない期待が彼女を突き動かそうとする―――。 「いえ、我々はここで待機しましょう」 が、それも『月彦』が手で制してきて、止められてしまう。 「な、何で―――」 思わず、声を荒げそうになるが、途端に『月彦』が目を細めて、睨みつけてくる。 「……っ」 その眼光に射抜かれて、麗奈は恐怖のあまり黙ってしまう。 ―――怖い。この人に逆らうのが、何よりも、怖い。 「アリアさん達と違い、我々はただの一般人で、戦う術を知りません。 いたずらに加勢しても、皆さんの足手纏いになるだけです。 であれば、私と麗奈さん、それに……茉莉絵さんあたりはここに残っておいた方が賢明でしょう」 そのように言って、『月彦』はオシュトル達、そして、茉莉絵に視線を送る。 オシュトル達は頷き、茉莉絵も少しだけ考えた素振りをしてから、同意を示したのであった。 「―――あのぉ……高坂さん、大丈夫ですか? 先程から、顔色が優れないご様子ですが……」 オシュトル、アリア、臨也の三人の背中を見送った後、コンピュータルームに取り残されたのは、『月彦』、茉莉絵、麗奈の三人。 そんな中、ふと、茉莉絵が心配そうに麗奈の顔を覗き込んできた。 頼りの綱のヴァイオレットとの再会も絶たれてしまった手前、麗奈は動揺を隠すこともできずにいた。 「あ、ああ、うん、平気……。ちょっと疲れているだけだから……。気にしないで……」 ---駄目、これ以上私に近づかないで 辛うじて笑顔を取り繕おうとするが、上手く笑えたかどうか分からない。 そんな彼女の心境を知ってか知らずか、茉莉絵は更に距離を詰めてくる。 「高坂さん、ヴァイオレットさん達が心配なんですよね……。 私も同じ気持ちなのですが……折原さんはともかく、オシュトルさんとアリアさんは、とても強い人たちだと思います。きっと無事に帰ってきてくれますよ……。 だから、元気を出してください。ね?」 そう優しく語り掛けながら、麗奈の手を握ってくる。 その瞬間、麗奈は反射的にビクッと身体を震わせる。 ―――駄目、お願いだから、もうやめてよ。そうしないと……。 麗奈の心は既に限界を迎えていた。 自制心はもはや崩壊寸前。懸命に抑え込んでいた衝動が、今にも爆発してしまいそうになっていたのだ。 食 べ た い 目の前にいる少女を喰らい尽くしたいという欲求が溢れ出してくる。 鬼としての本能が、抑えきれないくらいに膨れ上がってくる。 その感情に負けないように必死に堪える。 だが、その均衡も長くは保たなかった。 「高坂さ---うぐっ!?」 次の瞬間、麗奈は無意識のうちに茉莉絵を抱き寄せると、その左肩に喰らい付いたのである。 ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ……。 鬼特有の発達した咬合力で、肉を噛み千切り咀躙する音が周囲に響き渡る。 「い、痛いっ!こ、高坂さ―――ひぎぃっ!」 麗奈は、まるで何かに取り憑かれたかのように、無我夢中で、茉莉絵の肩の肉を貪り、血を啜っていた。 ---ああ、美味しい 血肉が喉を通る度に、全身に活力が沸いていくような感覚を覚える。 それと同時に、今まで感じたことの無い高揚感に包まれる。 もっと味わいたい。もっと飲みたい。 もっと、もっともっと……。 そんな欲望が全身を支配する。 そして、次なる部位へと狙いを定めるべく、麗奈は茉莉絵の首筋に牙を立てようとした。 が、その瞬間---。 ヒュン! と風を切る音が轟いたかと思うと、ベチャリと肉が飛び散る音ともに、麗奈の身体は壁に叩きつけられて、床に倒れ伏していた。 一瞬何が起こったのか分からず、呆然としていたが、顔を上げるとそこには肩から触手を生やし、麗奈を睨みつける『月彦』の姿があった。 「……愚図が……。誰が食事を許可した? 私は勝手な行動をするなと言ったはずだ……。 それすら理解できないか?無能が……」 『月彦』が蔑むような目つきで見下ろしながら、麗奈に言い放つ。 ポトリポトリと、麗奈は、自分の頭から何かが滴り落ちるのを感じる。 それは麗奈の脳髄の一部。『月彦』が放った一撃により、麗奈は顔面左上部を吹き飛ばされたのである。 「……ぁ……ぅ……ぁ……っ……!!」 激痛と共に意識が覚醒する。 今の麗奈は鬼。例え頭を吹き飛ばされたとしても再生はする。 事実、欠損した頭部は再生し始めている。 それでも痛みとショックで涙が流れ、全身が震える。 そんな彼女に、『月彦』は「大人しくしていろ」と言い放ち、茉莉絵の方へと視線を向ける。 「ハァハァ……、正体現しやがったなぁ……糞共が……っ!!」 「ふん……そういうお前も姿を偽っていたと見えるが―――」 齧られた部位を手で抑え、肩で息をしながら、茉莉絵はいつのまにかその姿を変貌させていた。 そこにいるのは、お下げを靡かせた、殺し合いの場に似つかわない真面目な少女ではない。 髪はボサボサで、着込んだ制服も無駄に開けさせた『魔女』の姿がそこにはあった。 しかし、そんな茉莉絵の変貌に、『月彦』は一切動じる様子もない。 「私としては、お前の正体、お前が何を企んでいるなど、一切興味がない。 早々に実験体になってもらおう」 「何訳わかんねえこと、ほざいてやが―――!?」 『魔女』が『月彦』に飛び掛かるより先に、『月彦』は機先を制した。 目にも止まらぬ速さで動き、彼女の背後に回り込んだのである。 回避行動を取ろうとした茉莉絵だったが、それよりも先に『月彦』は彼女の首根っこを掴むと、その首筋に指を突き刺した。 ズブリ 「――あぐぅっ!!? てめえ、何をっ……!?」 「言ったはずだ、実験体になってもらうと……。お前にはこれから私の血を流し込む」 「ふざけん……あぐうっ!?」 茉莉絵が抵抗しようとするが、それを許さず、『月彦』は彼女の体内に自分の血液を送り込んでいく。 それに伴い、ビクリビクリと彼女の身体は激しく痙攣し始める。 そして数十秒ほど経過した後、『月彦』が手を離すと、茉莉絵はドサリとその場に倒れた。意識を失ってはいるものの、まだ痙攣を続けている。 そんな彼女の髪を引っ張り上げ、その身体を引き摺り、『月彦』は、未だ部屋の隅で縮こまる麗奈の元へとやって来る。 「……ぁ……ぅ……!」 弱弱しく怯える麗奈に、『月彦』は有無を言わせぬ口調で、告げる。 「―――移動する。私について来い」 それだけ言うと、『月彦』は茉莉絵を引きずりながら、コンピュータルームを出て行く。 麗奈はというと、黙って彼の後を追うことしかできなかった。 ◇ 破壊の痕跡際立つ倉庫内。 ヴァイオレットが、オシュトルが、アリアが、固唾を飲んで見守る中で、臨也と新羅の二人は対峙する。 お互いを「友人」と認める二人の間に、割り込む無粋な者はいない。 それを許せないという空気が漂っているからだ。 先程まで臨也を非難していたアリアですら、その空気を察し、口を噤んでいる。 「静雄がさ―――」 「はあ? 何でいきなりシズちゃんの名前が出てくるんだよ?」 天敵の名前を出されて、途端に眉を潜ませる臨也。 そんな彼に構わず、新羅は「まあ聞いてよ。」と話を続ける。 「静雄がさ、昔僕に言ったんだ―――。 もしも僕が『愛する人』のために人殺しをするような極悪人になったら、『俺がその女の代わりに空高くぶっ飛ばしてやるから安心しろ』ってさ」 「……それを俺に言って、新羅はどうしたいんだ?……」 「いやさぁ、折原君だったらどうするのか?って思ってさ。 現に君は今、セルティのために殺し合いに乗った僕の前にいるし」 「何だそんな事か―――。」 やれやれといった感じで肩をすくめると、臨也は呆れた表情のまま新羅に告げる。 「俺は何もしないよ、ただ見届けるだけだ。」 人間の人格というのは、周囲の環境に影響を受けながら形成されていると言われている。 周囲の環境―――それは一般的には、身近な人間「家族」や「友人」が該当されるが、折原臨也の人格に多大な影響を及ぼしたという点において、新羅は間違いなく、臨也の「友人」という括りにカテゴライズされるだろう。 しかし、二人の関係は、静雄が新羅に示したような「お前が間違った方向に進んだなら、ぶん殴ってでも更正させてやる」といった青春劇のような熱いものはない。 だからこそ、臨也は冷え切った口調で答える。 「先にセルティが死ぬことがあれば、新羅がそっち側に行くのは、分かり切っていたことだ。 新羅がそれを曲げることは万に一つもあり得ないだろ? ならば、俺は、せいぜいそれを見届けさせてもらうだけさ」 折原臨也は、人間を愛している。 様々な事象に直面したときに、人間がどんな反応をするのか、どんな行動をするのか、その果てにどのような末路を辿るのか、興味が尽きない。 だが、今回の新羅が選択した行動については、臨也にとっては全く予定調和の出来事であり、面白みの欠片も感じることはなかった。 ネタバレされている物語を見て、ワクワクできるかといえば、そうではないのと同じだ。 だから、この新羅の行動に関して、臨也が抱く感想は、「ああ、やっぱりね」という程度のものであった。 「うんうん、折原君らしいね。じゃあさ、見届けるついでに、僕に殺されてくれるのかい?」 「それは御免だね、俺はまだまだやりたいことがあるし……少なくとも、こんなつまらない場面で死にたくないからね。 ここにいる皆と一緒に抵抗はさせてもらうさ」 観察の対象として、今の新羅はこれっぽちも面白くない。 だが、彼の周囲の人間……アリア、オシュトル、ヴァイオレットが、殺し合いに乗った新羅を前に、どのような行動を取るかについては興味がある―――そういう大義名分で自分を納得させ、臨也はこの場所に来ていた。 「そうかい、じゃあこれから、僕たちは殺し合うことになるんだね」 「そういうことになるな」 「臨也」 穏やかな声が、巨人の中から発せられた。 「……なんだい?」 聞き返す臨也。 新羅はやはり穏やかな声で、その言葉を口にする。 「……じゃあね」 それが、「友人」として送られる最後の言葉。別れの言葉。 「……。」 瞬間―――。臨也は、自分の内より“何か”が込み上げてくる感覚を覚えた。 だが、それも束の間、能面の表情を保ち、一言だけ返す。 「ああ、さよならだ」 別れの挨拶を皮切りにして、殺意は芽吹き――。 全てを抹殺すべく――。 巨人は動き出すのであった。 【E-4/大いなる父の遺跡・倉庫内/日中/一日目】 【岸谷新羅@デュラララ!!】 [状態]:健康、アヴ・カムゥ搭乗中 [服装]:白衣 [装備]:まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2 [道具]:基本支給品一色、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0~1 [思考] 基本:優勝して、セルティと一緒に帰る 0:優勝するために、まずは臨也達を殺す 1:目につく参加者を殺していく、セルティは怒るだろうなぁ…… 2:ヴァイオレットちゃんを殺したら、書きかけの手紙だけはもらっておこうかな 3;アヴ・カムゥの操縦にはもう少し慣れたい 4:桜川君の人体とブチャラティの『スタンド』に興味。ちょっと検査してみたい 5:ジオルド、流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒 [備考] ※ 九郎、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。 ※ アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。 ※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 ※ オシュトル、ヴァイオレットと知り合いの情報を交換をしました。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ アヴ・カムゥの基本操縦は出来るようになりました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:疲労(中)、全身強打、言いようのない不快な気分 [服装]:普段の服装(濡れている) [装備]: [道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数6/10)、不明支給品0〜2 [思考] 基本:人間を観察する。 0:目の前の状況に対処。新羅を見届ける。 1:『レポート』の内容は整理したいね 2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る 3:茉莉絵ちゃんを『観察』する。彼女が振りまくであろう悪意に『人間』がどのような反応をするのか、そして彼女がどのような顛末を迎えるのか、非常に興味深い 4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だなぁ 5:平和島静雄はこの機に殺す。 6:『月彦』さんと麗奈ちゃんを『観察』する。何を隠しているんだろうね。 7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。 8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 何が目的なんだろうね? 9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。 [備考] ※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。 ※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。 ※ Storkと知り合いについて情報交換しました。 ※ Storkの擬態能力について把握しました ※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。 ※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。 【神崎・H・アリア@緋弾のアリアAA】 [状態]:疲労(中) [服装]:武偵高の制服 [装備]:竜馬の武器だらけマント@新ゲッターロボ、IMI デザートイーグル@現実 [道具]:不明支給品0~2、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0~2)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 北宇治高等学校職員室の鍵 [思考] 基本:武偵としてこの事件を解決する。 0:新羅を止める。殺人は絶対に認めないわ 1:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る 2:遺跡探索の後、静雄との合流を目指して北上。最終的には池袋駅でブチャラティ達と合流する。 3:あかり、高千穂、志乃、ジョルノ、カナメ、シュカ、レイン、キースの知り合いを探す。 4:佐々木志乃が気がかり……何やってんのよ……。 5:流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒 6:フレンダに合流したら、問い詰める 7:『ブチャラティ』が二人……? [備考] ※ 参戦時期は少なくとも高千穂リゾート経験後です。 ※ 九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。 ※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 ※ 新羅から罪歌についての概要を知りました。 ※ オシュトル、ヴァイオレットと知り合いの情報を交換をしました。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。 【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】 [状態]:健康、疲労(小)、強い覚悟 [服装]:普段の服装 [装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃 [道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達) [思考] 基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する 0:目の前の状況に対処。最悪、新羅の殺害も辞さない。 1:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る 2:『レポート』の内容は整理しておきたい 3:クオン、ムネチカとも合流しておきたい 4:マロロ、ヴライを警戒 5:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探しておきたい。 6:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない 7:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。 8:誰かに伝えたい『想い』か……。 [備考] ※ 帝都決戦前からの参戦となります ※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換をしました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】 [状態]:健康、全身ダメージ(中) [服装]:普段の服装 [装備]:手斧@現地調達品 [道具]:不明支給品0~2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ) [思考] 基本:いつか、きっとを失わせない 0:目の前の状況に対処。新羅様……。 1:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。 2:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う 3:手紙を望む者がいれば代筆する。 4:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。 5:ブチャラティ様が二人……? [備考] ※参戦時期は11話以降です。 ※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換をしました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ◇ 苛立ち、疑念、不信。 遺跡に到着してからというもの、『月彦』こと鬼舞辻無惨の胸中は、そういった負の感情が溢れ返っていた。 道中出会った臨也が、何かと馴れ馴れしい口調で、こちらを探るような言葉を向けてきたことも、彼の機嫌を損ねる一因とはなっていたが、そこはまだ我慢できる範疇だ。 しかし……。 (下女どもめが……!! 一体誰を測ろうとしているのか、弁えているのか……!!) ビキビキ―――。 思い返すだけでも、額に青筋が浮かびあがる。 主催者側が用意したとされる『レポート』の内容は、彼にとって許し難いものであった。 あの主催の女どもは、限りなく完璧に近い存在である自分を、あろうことか実験動物のように番号を割り振り、飼育日記でもつけるかのように見下し、観察しようとしているのだ。 これほどの屈辱は、彼の長きに渡る生命活動において味わったことがない。 臨也達は、自分達が主催者によって創られた存在の可能性について、言及していたが関係ない。 無惨にとっては、今ここにいる自らの存在こそが絶対であり真実なのだから。 (ただでは殺さない…然るべき粛清を貴様らにくれてやる……) 憤怒の形相を浮かべながら、無惨は遺跡の出口へと歩を進める。 彼に髪を掴まれ、ボロ人形の様に引き摺られているのは、水口茉莉絵……又の名をウィキッド。意識を失い、されるがままの状態である。 その後ろを麗奈がおずおずとついてきている。 やがて、遺跡を出て、開けた森へと差し掛かったところで―――。 「……うっ……てめぇ……!!」 無惨に引き摺られていたウィキッドが、意識を取り戻した。 「目を覚ましたか、小娘」 怒りに満ちた眼光を向けるウィキッドに対して、無惨は意にも介さず、彼女の肩口を検分。 麗奈によって、食いちぎられたはずの部位は何事もなかったかの様に再生していた。 「ふむ……そこの無能に喰われた傷は癒えている。 素体の完成というわけか」 無惨の言葉通り、水口茉莉絵ことウィキッドは生まれ変わっていた。 高坂麗奈と同様に、混入された『鬼の王』の血に見事適応し、人智を超えた存在『鬼』へと変異したのである。 しかし、何故鬼を増やすことに消極的だった無惨が、ウィキッドを鬼にしたのだろうか? それは、先にも無惨が言った通り、実験体の確保―――これに尽きる。 先のレポートの記載によれば、無惨と麗奈は鬼でありながらも、デジヘッド化に伴い、麗奈の発現した回復能力により、太陽光によるダメージを克服できているとされており、自らの身に起きた異変を完全に把握するためには、この『デジヘッド化』とやらが何なのかを洗い出していく必要があると、無惨は認識している。 しかし、その前に彼は、レポートの信憑性について改めて確信を得たかった。 既に無惨自身が実際に陽を浴びて、ダメージを受けていなかったことを鑑みるに、一見筋は通っているかのように見える。 だが、しかし。 ―――もしも、この殺し合いの会場で、参加者を照らしているあの陽光が偽物だとしたら?―――そもそも、最初から通常の鬼を死滅させるに足りない代物だとしたら? レポートに記載されている内容の前提は大きく崩れ、その信憑性は疑わしいものになる。 鬼舞辻無惨は、こと自分という存在にまつわる事柄に関しては、極めて慎重だ。 それでいて、参加者間に不信と混乱を煽るために運営側が意図的に虚偽の情報を流している可能性を臨也が示唆していたのもあってか、彼はレポートの内容に大きな不信と疑念を抱いていた。 だからこその検証。だからこその実験。 ―――この会場でも、太陽光を浴びると鬼は死滅する。 この大前提の確信を得るために、遺跡内で騒動が起こった際、『月彦』は尤もらしい進言を行い、彼女を連中から分断―――そして、新たな鬼を誕生させた。 忠実なる眷属としてではなく、使い捨ての実験体として。 全ては彼の描いた筋書き通りに、事は進み―――。 残すところは、この脆弱な生贄を陽光のもとに晒して、死滅するかどうかを確認するのみ。 「こんの――「黙れ」 ジタバタもがこうとするウィキッドの身体を、宙に放り投げると、背中から生やした触手を射出。 風を切る音とともに、その身体を串刺しにする。 「ぐっ……ああぁああっ!?」 絶叫。 血反吐をまき散らしながら、悲痛な叫び声をあげるウィキッド。 空中で串刺し状態のまま身を捩る彼女に対して、無惨は冷たい視線を浴びせながら、さらに数本の触手を伸ばして、彼女の四肢を貫かんとする―――。 「ざっけんじゃねえええぞッーーー!!」 だが、そう易々と攻撃を許さんとばかりに、ウィキッドは爆弾を顕現させると、それを無惨目掛けて投げつけた。 ドゴォン!! 爆発。 爆風が巻き起こり、周囲の木々が大きく揺れ動く。 「忌々しい……!!」 ウィキッドを拘束していた触手と、射出された触手は、爆炎によって爆ぜる。 苛立ちを募らせる無惨。 ある程度の抵抗は予想していたが、まさか異能による爆撃は想定外であった。 一方で、ウィキッドは地面に着地すると、すかさず次の攻撃へ転じるべく、腕を振るう――。 「ハァハァ……お前、私の身体に何しやがったぁああああ!?」 無数の爆弾を次々に投擲しながら、ウィキッドは吼える。 彼女も自身の身体の異変に気付いていた。 無惨に貫かれはずの傷口は、いつの間にか塞がっており、それどころか全身に力がみなぎってくる。 それはまるで、何かの細胞が増殖し、身体が作り替えられているかのような感覚。 そして、身体の奥底から湧いてくる強烈な飢餓感―――。 「てめぇが……てめぇが私をこんな風にしやがったんだろぉがあああああ!!!」 怒りと憎悪に満ちた表情を浮かべながら、ウィキッドは爆弾を次々投げつけていく。 まるで空襲のように、止めどない爆音が鳴り響き、辺り一帯が吹き飛んでいく。 魔女による爆炎は無惨にも及び、彼の身体の一部を吹き飛ばす。無論、鬼の王は、この程度の攻撃では死ぬはずがない。 欠損した部位はすぐに再生し、何事もなかったかの様に無惨は爆炎から遠ざかる。 「図に乗るなよっ、実験動物風情がぁ……!!」 悪態をつきながら、触手を以って反撃に転じる無惨。 しかし、ウィキッドは鬼化によって過剰強化された知覚を以って反応。これを爆撃を以って吹き飛ばす。 一見すると無惨にはダメージはない。しかし、ウィキッドと交戦を続ける中で、無惨の立ち振る舞いからは余裕が消えていく。 身体能力が飛躍的に向上したとはいえ、『魔女』のそれは、鬼の王に到底及ばない。無惨がその気になれば、一瞬で彼女を絶命させられるだろう。 にもかかわらず、無惨はそれを行わない。折角確保した実験素体を無碍にするわけにはいかないからだ。故に力を加減する、力余って貴重な素体を失わないためにも。 そして、無惨が攻めあぐねるのには、もう一つの理由がある。 それは―――。 (―――何だ、この女の攻撃は……) ただ爆炎に飲まれて、身体を吹き飛ばされ、焼かれるだけであれば、無惨にとっては脅威たり得ない。 威力だけであれば、産屋敷邸で喰らったあの爆撃よりもはるかに劣る。 しかし、ウィキッドの繰り出す爆撃には物理的なものではない、何か別の性質が付与されていた。攻撃を受けるたびに生じる、異質な痛み――。 それは、無惨がこれまで味わったことのない未知の苦痛であり、彼を混乱させるに足るものであった。 「おらぁッ、とっと死ねよ!!」 無惨の攻勢が緩まった隙を見て、ウィキッドの攻撃は更に苛烈なものへとなっていく。 当人達があずかり知らぬところではあるが、彼女の攻撃が無惨にもたらすものは、肉体的な損傷だけでなく、精神的な動揺を誘発させるものであった。 それは、無惨がデジヘッド化しているが故の現象―――。 μが構築したメビウスで繰り広げられる戦いは、基本的に物理干渉が発生しない、精神世界における闘争である。 『帰宅部』及び『オスティナートの楽士』の繰り出す攻撃は、元来はこの精神干渉の原則に則ったものであり、精神世界に身を投じていない者には通じず、この殺し合いの場において、メビウス以外の参加者に対しては有効打とは成り得ない。 故に、カタルシスエフェクト及び楽士の能力に対しては、主催者の計らいで、物理干渉の性質を帯びるよう調整されている。 だが、これはあくまでも付加処置であり、元来の精神干渉の性質が取り除かれたことを意味しない。 仮に、『帰宅部』や『オスティナートの楽士』以外に、メビウスの法則に則るような存在が現れることがあれば、その人物に対する攻撃は、物理面・精神面の双方から有効なものと成り得る。 故に、メビウスの法則に準ずるデジヘッドとなった無惨には、ウィキッドによる精神攻撃は有効に機能しているのだ。 「チィッ……!」 不可解な攻撃の影響により、無惨の脚が鈍る。 そして、ウィキッドの放つ爆弾を回避しきれず、無惨はその身に被弾する。 肉体はすぐに再生する、しかし、その度に走る精神への苦痛で、顔を歪める。 「きゃはははははッ!!さっきまでの威勢はどうしたんだよォオオッ!!」 『魔女』にとって、他人の不幸は蜜の味。 無惨の苦悶の表情を目にし、ウィキッドは狂喜乱舞。 彼の苦々しい顔を見るたび、愉悦と優越感に浸りながら、更に爆撃を叩き込もうとする。 しかし――。 「調子に―――」 プツン! 無惨の中で何かが切れた。 「乗るな、小娘ぇえええええええええッーーー!!」 堪忍袋の緒が切れたか。 無惨は怒号と共に、これまでとは比較にならないほどの速度で触手を射出。 「……あっ?―――」 瞬間、無数の触手がウィキッドの腕を、脚を、腹を、胸を――全身を貫いた。 「ガハッ……」 『魔女』は吐血。 無惨の触手は、ウィキッドの身体に突き刺さったまま、その動きを止める。 「はぁ……はぁ……」 無惨は肩を大きく上下させ、呼吸を整える。 もう一本の触手はウィキッドの眼前で静止しており、彼女の頭部を破壊するまでは至らなかった。 貴重な素体を無駄に殺さないため、無惨はギリギリのところで思い留まったのだった。 「ぐっ……ああぁっ……!?」 口から大量の血が溢れ出し、苦痛に顔を歪めるウィキッド。 しかし、その眼光は死んでいない。 無惨を射抜くような視線を浴びせながら、その手に爆弾を顕現させる。 「殺してやるよ……テメェだけは……絶対にぃいい!!」 「無駄だ」 無惨の触手が振われると、爆弾握るウィキッドの手は弾け飛んだ。 「ッ……!?」 「不愉快だ、何故私がお前の様な下賤な輩に時間を割かねばならない?」 「て……めえ……!!」 ウィキッドを肩から触手で貫いたまま、無惨はゆっくりと彼女の身体を運んでいく。 ウィキッドも、どうにかともがくが、脱出は叶わず。 「私の血に適合し、鬼になった者は人間を超越した力を手に入れことになる。 だが、その反面、致命的な弱点も露呈する―――」 「な、にを……ほざいて……」 苦しそうに声を漏らすウィキッドだが、無惨が彼女の言葉に耳を傾けることはない。 やがて、木漏れ日照らす場所の前へと辿り着くと、彼女の身体を陽光の下へゴミの様に放り投げた。 ウィキッドは無様に地面を転がった後、うつ伏せの状態で陽光に晒される。 「その弱点こそ、太陽光だ。貴様は精々苦しみながら死んでいけ」 これでウィキッドが死滅すれば、あのレポートの信憑性を得られる―――。 そこから先の行動方針についても、大方定まる―――。 処刑宣告とともに、無惨はウィキッドの最期の瞬間を、見届けようとする。 「……そうか、つまりは……あんたらが……あのレポートに載っていたデジヘッドってことか……」 「―――な、に……?」 目を見開く無惨。 太陽光に晒されても、ウィキッドの身体が塵芥となって消滅することはなかったのである。 傷だらけの身体で、ウィキッドは無惨の元へと地を這う。 その顔に、獰猛な笑みを張り付けて―――。 「どうやら……あんたの目論みは失敗したみたいだな……。 見てみろよ、私はまだ生きてる……」 鬼化したウィキッドが、太陽光を浴びても死滅しなかった理由―――。 それは、無惨の後方に控える高坂麗奈―――彼女の存在にある。 デジヘッド化に伴い彼女が発現させた回復能力は、同じくデジヘッド化した無惨に効力を発揮し、彼の回復能力を向上させ、太陽克服へと繋がった。 この回復能力は、無惨のみあらず、彼女の周辺一帯に展開されるが、全ての参加者が回復の恩恵を受けられる訳ではない。 回復効果は、精神干渉を経てから、肉体へと還元されるようになっている。 つまりは、デジヘッド化した無惨のように、まずはメビウスの法則に準じた媒介―――精神干渉の効果を享受するための環境が必要となる。 であれば、『オスティナートの楽士』の能力(精神干渉の力)を行使するウィキッドも例外とはならない。 彼女は楽士の能力を発現することで、意図せずして、麗奈の回復能力の恩恵を得ていたのである。 「……どういうことだ……」 しかし、無惨はそのような事実を知る由もない。 ――何故、死なない? ――奴は確かに鬼になったはず ――では、なぜ死なない? あの太陽光は贋作で、鬼を死に至らしめないということか? ――だとすれば、あの『レポート』とやらは運営の女狐どもによる罠か? ――私が太陽光を克服したというのは見せかけか? ――それとも、この娘も太陽を克服したというのか? ――まさか、竈門禰󠄀豆子のように、太陽を克服した個体だとでも言うのか? ――馬鹿な…そんな都合良く、太陽を克服する個体が生まれるものか! 混乱する無惨。 次々と疑問が浮かんでは消えていく。 そんな無惨の思考を遮るように、ウィキッドは言葉を紡いでく。 「きゃはははははっ、ざまあみろバーカ!! 私のこと『実験体』とか吐かして、勝手に見下してたけどさぁ、お前『デジヘッド』じゃん!! 良い歳こいて、自分の感情もコントロールできない洗脳人形に陥るとか、ダサすぎて鳥肌立つわぁ〜!!」 「―――っ!?」 瞬間、無惨は理解した。 この女は『デジヘッド』とやらを知る環境に身を置いていたのだと―――。 そして推測する―――鬼化したこの女が太陽光を浴びてなお、生き長らえているのも、その影響によるものであると――。 ならば話は簡単だ。 刹那。 無惨は無数の触手を放ち、地べたを這いずるウィキッドの四肢を切断する。 「があぁあッ……!?」 達磨状態になって、激痛に呻くウィキッド。 そんな彼女に、無惨は冷たく言い放つ。 「―――話せ。『デジヘッド』とは何だ?」 どちらにしろ、この女は殺す。 だがその前に、何としてでも、この女から『デジヘッド』の情報を聞き出す――。 それが今の無惨にとって、最優先事項であった。 「知っていることを全て話せ、洗いざらい全てを……。 これ以上痛い目に遭いたくなければな」 それだけ告げると触手をウィキッドの身体目掛けて、ハンマーの様に振り下ろす。 グチャリ グチャリ グチャリ 肉が弾け、骨が砕ける音が、森の中に木霊する。 無惨は、何度も触手を叩きつけ、ウィキッドの身体を破壊する。 だが、ウィキッドはというと―――。 「……きゃはははははははっ、誰が話すかよ、ワカメ頭ァッ!!」 全身から伝う激痛も何のその。 潰され、切断された身体を再生させながら、口角を吊り上げるウィキッド。 ギラついた眼差しで、無惨と、そしてその後方で、案山子のように棒立ちしている麗奈を睨みつける。 「殺してやる……!!お前ら、二人とも殺してやるからなぁ!!」 まさに不屈の殺意。 執念めいた怨恨の言葉を口にするウィキッドに、麗奈は思わず後退る。 一方、無惨はというと、全く動じる様子もない。 不快な害虫を見る様な眼差しで、ウィキッドを冷ややかに見下しつつ。 再生中の彼女の身体を再度破壊せんと、触手を振り上げた。 ――その時だった。 「―――おいおい、弱い者いじめは感心しねえな……」 二人の間に、一つの影が飛来し、両者を隔てる。 「「――っ!?」」 ザ ン ッ !! 影は勢いそのままに、無惨の触手を切り裂いた。 「――何だ、貴様は……?」 ビキビキビキ 顔面に青筋を立てながら、無惨は即座に攻撃の主へと視線を向ける。 そこに居たのは――。 「いやなに、通りすがりの"業魔"だ」 闘争の匂いに誘われ、現れた一人の漢。 その手に持つは、銀色に輝く双剣。 新たに見つけた獲物を相手に、不敵な笑みを浮かべ―――。 ロクロウ・ランゲツは戦場に降りたつのであった。 【E-4/大いなる父の遺跡・入り口付近/日中/一日目】 【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】 [状態]:健康、頬に裂傷、疲労(中)、全身ダメージ(中)、反省、感傷、無惨への興味 [服装]:いつもの服装 [装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア [道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル [思考] 基本:シグレ及び主催者の打倒 0: 目の前の男(無惨)に強い興味。 1: 手に入れた首輪を『大いなる父の遺跡』にいるオシュトルの元へ届ける 2: シグレを見つけ、倒す。 3: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが…… 4: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ 5: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが… 6: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る 7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ…… 8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。 [備考] ※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。 ※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。 【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】 [状態]:鬼化、楽士の姿、両手両足欠損(再生中)、身体に無数の傷(再生中)、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち、麗奈の回復スキルにより回復力大幅向上 [服装]:いつもの制服 [装備]: [道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 [思考] 基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ 0:目の前の状況への対処。 1:無惨と麗奈は絶対殺す。 2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。 3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。 4:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。 5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる 6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。 7:私を鬼にしただぁ?ふざけんなよ、ワカメ頭が。 [備考] ※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。 ※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。 ※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。 ※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。 【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】 [状態]:疲労(中)、月彦の姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力大幅向上 [服装]:ペイズリー柄の着物 [装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品) [道具]:不明支給品1~3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪 [思考] 基本:生き残る。手段は問わない 0:目の前の男に対処。私の邪魔をするな。 1:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。 2:私は……太陽を克服したのか……? 3:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。 4:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。 5:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。 6:もっと日の光が当たらない場所を探したい。 7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。 8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。 9:垣根、みぞれは殺しておきたいが、執着するほどではない。 [備考] ※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。 ※『月彦』を名乗っています。 ※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。 ※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。 ※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。 ※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。 ※デジヘッド化しましたが、無惨自身が麗奈のように何かしらの特殊スキルを発動できるかについては、次回以降の書き手様にお任せいたします。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。 【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】 [状態]:デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、鬼化、食人衝動(中)、回復スキル『アフィクションエクスタシー』発動中(無自覚)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 [服装]:制服 [装備]: [道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル [思考] 基本:殺し合いからの脱出??? 0:状況に対処。月彦さんに付いていくしかない? 1:今ここにいる私は偽物……? 2:水口さんが怖い 3:ヴァイオレットさんに会いたい 4:部の皆との合流??? 5:久美子が心配??? 6:みぞれ先輩は私を見捨てた……? 7:誰か……助けて…… [備考] ※参戦時期は全国出場決定後です。 ※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。 ※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。 ※腕は切断されましたが、鬼化の影響で再生しております。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。 前話 次話 Revive or Die Again(後編) 投下順 龍は吼え、影は潜む 前話 キャラクター 次話 絶対絶望少女 折原臨也 狂騒曲の終末に 絶対絶望少女 ウィキッド 狂騒曲の終末に 崩壊序曲 鬼舞辻無惨 狂騒曲の終末に 崩壊序曲 高坂麗奈 狂騒曲の終末に 最後に笑うは ロクロウ・ランゲツ 狂騒曲の終末に 例えようのない、この想いは 神崎・H・アリア 狂騒曲の終末に 例えようのない、この想いは オシュトル 狂騒曲の終末に 例えようのない、この想いは 岸谷新羅 狂騒曲の終末に 例えようのない、この想いは ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン 狂騒曲の終末に
https://w.atwiki.jp/hanedeji/pages/9.html
CRポパイST 機種データ 大当たり確率 1/99.4 (高確率時 1/9.9) メーカー サミー ラウンド 4R10C 賞球 4 13 15 時短 100or20回 導入開始 2004年6月 等価ボーダー (参考値) 18.0 リンク 公式サイト P-WORLD
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/553.html
22 名前:フットボール狂騒曲72・燃えるチーム投稿日:03/09/28 05 02 ID ??? このネタは前スレからの続きです。 30近い男の哀しくまるまった背中を見せられては、さすがのジュドーやガロードもビデオ を返すほかないと思った。もとより他人の傷口に塩を塗りこむような真似はしない二人である。 『罪と罰(以下略)』を受け取ったハヤトはそそくさと帰ろうとする。それ以外にはすることも なければできることもないだろう。 ハヤト「じゃ、じゃあな。みんな、決勝戦も頑張ってくれよ」 アムロ「ああ、手伝ってくれて助かったよ、ハヤト。……今度、飯でもおごらせてくれ」 おごらずにはいられない何かがお前の背中にあったから、とまではもちろんアムロも言わない。 同じことが自分の身に起こったら、長年の付き合いであるくせっ毛もロランのようにサラサラの 直毛&きしめんになってしまうほどのショックだろうと思えるアムロだった。 フラン「えーと、それじゃあ、そろそろ私の用件にうつらせてもらってもいいかしら」 ハヤトの退室後、サッカー大会の話題に戻そうとするフランの提案に、一同も気を取り直して 応じることにした。アムロがチームを代表してフランの質問に答える形で取材は進む。 フラン「逆転して勝てた理由はチームワークということですね」 アムロ「まあ、そういうことかな。みんなよく頑張ってくれたし」 というアムロの答えに、周囲の兄弟から無難だな、当たり障りないしね、といった声があがる。 さっきから何か答えるたびにずっとこの調子だ。アムロはやりづらさに苦笑するしかない。 フラン「それで、もう一方の準決勝は4-0で<ラインフォード・ユナイテッドFC>、グエン卿 のチームが勝ったわけですけど……」 フランがそこまで言ったところでロッカールームにざわめきが満ちた。<FCギム・ギンガナム> の面々は、先ほどのごたごたのせいでまだもうひとつの試合の結果を知らされていなかったのだ。 アムロ「勝ってくるだろうとは思っていたけど……4-0とはね」 シーブック「なんとぉ、準決勝まで圧勝かよ」 コウ「とんでもない強さだな……」 さすがに驚きや戸惑いを隠せない兄弟たち。しかし、一回戦終了後のように気圧されていても 始まらない。 ギム「ふん、だからなんだというのである。小生たちとて3-1で勝ったわ」 ドモン「ああ、そうだ。これからはそういう気持ちが大事になるぞ」 強気なギンガナムの言葉に、勝負を知るドモンが同調する。頼もしい二人の姿が沈みかけた部屋の 空気を跳ね返す反発力を兄弟たちに与えた。みな口々にやる気を口にしだす。 ガロード「へへ、逆に俺たちの力を思い知らせてやろうぜ!」 ソシエ「そうよ。コテンパンのギタギタのメタメタのズタボロのグシャングシャンにしてやるんだから」 ロラン「お嬢さん、相手はどういう状態になっちゃうんですか、それ」 ソシエ「ロラン、あんたは闘争心が足りないのよ。僕に任せてくださいぐらい言いなさいよね」 ウッソ「なら僕に任せてくださいよ! 必ず期待にこたえて見せますから」 試合後の興奮も蘇って、湧き上がる熱気がロッカールームを包む。それじゃあ自信ありということ でいいですよね、と訊くフランに、アムロも胸を張って答えた。 アムロ「ええ。充分に勝てると思っていますよ」 実際に勝てるかどうかなどはこの際二の次だ。決勝を控えてこう言えないようでは、もはやその 時点で勝負ありなのだろう。チームメイトの熱を感じながら、アムロはそう思っていた。 続く 28 名前:フットボール狂騒曲73・終わらないそれぞれの明日へ投稿日:03/09/29 04 58 ID ??? いっぽうその頃、フロスト兄弟は<ASジャムル・フィン>のロッカールームから出て、帰宅の途に つく所であった。試合に敗れた後、二人は他のメンバーとはろくに会話もせず目もあわせず、さっさ と2試合分の出場給である10万円を受け取る。しかし、それが双方にとって最もよい別れ方なので あろう。 オルバ「優勝すれば賞金の20万円分をいただけるとこだったのにね、兄さん」 出場給15万円にその20万円を加えて、合わせて35万円を得ることがフロスト兄弟の目的だった。 だが今手元にあるのは、その3分の1にも満たない。 シャギア「これでは先月分の家賃しか払えん。先月の分を払うことで今月の分を待ってもらうしかないな」 オルバ「切ないね、兄さん」 優秀な人間であるはずの自分たちがアパートの家賃さえ満足に払えない。オルバは溜め息をつくのを とめられなかった。 シャギア「嘆くな、オルバよ。我々はいずれ何らかの方法で身を立て、名を成し、我らを追い出した ニュータイプ研究所の連中を見返してやるのだ。必ずできる。我らこそ真のニュータイプ なのだからな」 オルバ「わかっているさ、兄さん。そのためにもまずは食費と光熱費を切り詰めなくてはね」 弟の言葉にシャギアは頷き、二人は共に歩き出した。いつか世の中を見返してやるために。 そんなフロスト兄弟の会話を偶然に聞いていた者がいる。ガンダム兄弟の切り盛り役、ロランだ。 ロランはトイレに行こうとした拍子にフロスト兄弟を発見。つい盗み聞いてしまったのである。 ロラン「なんだか他人事とは思えない……」 フロスト兄弟からは死角になっている廊下の曲がり角の先でロランは呟いた。これまでフロスト兄弟 が試合で見せた審判を欺くプレイに対してひそかに憤りを感じていたロランだったが、切り詰め、と いう自分の身になじみきった単語が彼らの口から漏れたとたん、怒りなど萎えてしまった。 人それぞれに色んな事情があるんだな。そんな思いをしみじみ噛み締めるロラン17歳。 ジャムルの3Dのリーダー、ダニーは敗因について考えていた。チーム。ひとつの単語が、ダニーの 頭から離れない。団結力の差が出たか。ダニーは心中に呟く。他のどの要素よりもそこで負けていた。 サッカーは接戦になればなるほど、チームの団結力がものをいうようになる。これは単にチームワーク の大切さを説くために作られた訓辞ではない。歴史に刻まれてきた事実である。かつて西ドイツという 国が最強を誇った。西ドイツと同じ技術や体力をもつ他国が無かったわけではない。にもかかわらず 西ドイツに勝つということはまず出来なかった。ある著名なサッカー選手はこう言ったものだ。 「サッカーはシンプルなスポーツだ。11対11で戦い、そして最後にはドイツ人が勝つ」 チーム一丸となって勝利へ邁進することにかけては西ドイツに勝る国は存在しなかった。彼らの伝説 は「ゲルマン魂」という単語と共に、旧世紀ではなくなった今にさえ語り継がれている。 チーム一丸。<ASジャムル・フィン>がフロスト兄弟を加入させたことによって失ったものだ。 相互の不信や疑念が彼らが本当の意味でチームとなることを許さなかった。ダニーは敗北した今、その ことを思い知らされていた。相手の<FCギム・ギンガナム>に敗れた理由は突き詰めれば戦術でも なければましてや運の良し悪しでもない。チームであったほうが勝ち、なかったほうが敗れたのだ。 また、一から出直しだ。ダニーは一番の仲間であるデルとデューンに目をやりながら、そう思った。 29 名前:フットボール狂騒曲74・兄弟家のヒロイン(1)投稿日:03/09/29 04 59 ID ??? ソシエとリリーナを送って、兄弟たちが家の前についた頃にはもう10時を回っていた。しかし なぜか誰もいないはずの家に明かりがついている。 ロラン「あれ、電気消し忘れたかな。ん、なんだかいい匂いが……」 誰かが食事を作っているのか、食べ物のいい匂いが漂ってくる。それもどうやら兄弟の家からの ようだ。 ドモン「泥棒が盗みに入ったらメシ作っているわけないぞ……それにしてもすきっ腹にこの匂いは きくな」 アムロ「一体どうなっているんだ?」 ギム「もし間抜けな不届き者だとしたら、小生が手打ちにしてくれるわ」 釈然としない気分で自分たちの家の前に立つ兄弟たち。アムロは自分の家にも関わらず、なんとなく インターフォンを押してしまった。と、家の中から声がして、誰かが玄関のほうに出てきたようだ。 「お帰りなさい。今、カギを開けますね」 キラ「お、女の人の声がした。今の声……どっかで聞いたことがある……?」 戸惑う兄弟たちの前でからからと音を立てて引き戸が開く。そして姿を見せたその女性は、 ジュドー「ア、アイナさん!? どういうことよ、これ?」 扉が開いたと同時に姿を見せたその女性はシローの彼女、アイナだった。兄弟たちは全員驚きに目を 見開く。そんな兄弟たちにアイナは少し早口で説明しだした。 アイナ「シローから電話があったんです。夜勤の自分に変わって兄弟の皆さんを迎えてやってくれない かって。それで鍵を受け取ってあがらせていただいたんです」 アムロ「ああ、そういうことでしたか。それにしてもシローの奴……そんなこと頼むなんて、まったく」 アイナ「いえ、気にしないでください。私、嬉しかったんです。こんなことなかなか任せてもらえる ものでもないでしょうし」 ロラン「じゃあ、この匂いもアイナさんが料理を作っていたからなんですか?」 アイナ「はい。皆さんおなかをすかして帰っていらっしゃるだろうと思いまして。キッチン、勝手に 使わせてもらってしまいました」 エプロン姿で微笑むアイナに、ロランは慌てて気にしないでくださいと答えた。いまだ玄関で固まっ ている兄弟たちをアイナがリビングへと招く。自分の家だというのに、兄弟たちはまるで客のように アイナの後にぞろぞろと続いた。 コウ「いや、なんかドキドキするなあ。自分の家じゃないみたいだ」 そう言いながらリビングに入ると、目の前には数々の豪勢な手料理が並んでいる。試合の後で当然 すきっ腹を抱えている兄弟たちにはもうたまらない。アルがテーブルに駆け寄る。 アル「すごいや! もう僕おなかぺこぺこでさぁ……」 他の兄弟もアイナの心遣いに感無量だ。湯気をあげる手料理。胸にジンとくる光景である。 ウッソ「アイナさんの手料理が食べられるなんて、僕、僕、サッカーやってきて良かったですよ」 カミーユ「アイナさん……なんだろう、フォウやファとは違った温かさを感じる……」 こんなときも相変わらずのウッソとカミーユに、ドモンは憮然として椅子に座りこむ。 ドモン「まったくお前ら……兄貴の彼女なんだぞ。アイナさん、とりあえずご飯」 アムロ「お前の態度が一番問題だろうが!」 アムロのスリッパ突っ込みがスパンとドモンの頭に炸裂した。 30 名前:フットボール狂騒曲75・兄弟家のヒロイン(2)投稿日:03/09/29 05 01 ID ??? ドモンがどつかれたところで全員がテーブルに着き、食事が始まった。味のほうも文句のつけようが ないほど素晴らしい。多少まずくたって気にならないほどに腹の減っていた兄弟たちはガツガツと料理 を平らげていく。みんな食べることに忙しく、会話などまったくない。結局瞬く間に全ての料理が兄弟 とギンガナム、シッキネンの腹におさまってしまった。 ちょうど料理を食べつくしたところにアイナがお茶を注いで現れた。自分の前に置いていかれる 湯飲みを前に、もはや兄弟たちには感謝の言葉もない。さすがのギンガナムも、 ギム「ご婦人、このギム・ギンガナム、お心遣い痛み入ること至極である」 と丁寧に礼を言うほどだ。隣のシッキネンも、御大将についてきて良かったと心から実感する。 そんなふうに準決勝の疲れをアイナによって癒された兄弟たちは、食事が終わるとすぐさまベッド に直行して眠りについてしまった。ギンガナムとシッキネンも満足してどこぞへ帰っていく。 アイナは夜勤明けのシローが帰ってくるまで、兄弟家のリビングで読書でもして待つことにした。 続く 補足です。 28で偉そうに書いてしまいましたが、西ドイツ代表のことは後にビデオや雑誌で知りました。 世代的に西ドイツが存在した時代にはまるっきり子供だったもので。幼稚園から小学低。 当然、書いた内容は色んな読み物などからの受け売りです。 著名なサッカー選手はリネカーです。元イングランド代表、86年WCの得点王。スペインの FCバルセロナでプレイしていたことがあったと思います。晩年、日本にも来ました。もう まともにプレイできなかったようですけど。 上記のサッカーに関する内容に間違いがあったら申し訳ありません。 そしてなにより、ロナ○ドみたいに有名選手の名前を○つきでネタに使っているくせに、 『罪と罰』やサッカー西ドイツ代表は旧世紀という過去のものとして扱っているという矛盾 がネタのなかにあるんですが、大目に見てくだされば幸いです。 46 名前:フットボール狂騒曲76・愛は二人だけの世界の果てに投稿日:03/09/30 03 40 ID ??? 一夜明けた兄弟家の朝食は、夜勤を終え帰宅したシローとアイナの愛にあふれていた。もちろん その愛に包まれているのは当の二人だけであり、周囲との間には越えがたい壁が存在している。 アイナ「はい、シロー。あ~ん、なんて言ってみたりして」 シロー「やめろよアイナ。みんな見てるって」 といいつつも口を開けてアイナにご飯を食べさせてもらうシロー。周りの兄弟の冷たい視線など おかまいなしだ。 シロー「やっぱりアイナに食べさせてもらうとおいしいなあ。一味も二味も違うよ」 アイナ「もう、シローったら。ロラン君が作ったんだもの、もとからおいしいのよ」 イチャつく二人の姿に、バカップルがぁと無言でドモンの怒りが燃える。昨日のあのアイナさん はどこにいってしまったんですかと泣きそうなウッソの隣では、兄弟一短気なカミーユがもう限界 だと震える。兄弟12人+ギム&シッキネンで総勢14人テーブル返しいくか? とジュドーが全員 を見回すが、ロランが食器が割れちゃいますと目で訴える。決勝に向け、選手同士のアイコンタクト は完璧だ。 結局朝食が終わるまでシローとアイナ愛の劇場は続き、他の者たちは朝から多大な精神的消耗を 強いられることとなった。やがて出勤及び登校時刻になり、アイナも自らの職場に向かおうとする。 送ってくよとEz-8を出そうとするシローの背中に、他の兄弟は、狭いコクピットで二人きりか おめでてーなと皮肉な視線を投げかけるが、アイナが昨日夕食を作ってくれた恩をないがしろには しない。兄弟たちそれぞれがアイナに、こちらは悪意なしの礼を述べた。 アイナ「いいえ、どういたしまして。皆さん食べっぷりがよくて、作った私も嬉しかったです」 昨夜の女神の笑みを浮かべるアイナ。その隣でシローがうん、うんと頷くが明らかに邪魔だ。兄弟 たちはアイナを笑顔で見送りながら、できればシローがいないときに来てくださいと皆一様に思って いた。 47 名前:フットボール狂騒曲77・ライバルが呼ぶ対決投稿日:03/09/30 03 42 ID ??? 朝からそんなことがあったうえに昨日は試合だったため、学校に通っている兄弟たちは共通して 授業を睡眠時間にあてていた。甘い教師なら事情が知れているため見逃してもらえるが、厳しい人 ならそうはいかない。ジュドーなどはハマーンに居眠りを見咎められ、次の授業が始まっても二人 きりの説教タイムに突入するはめになってしまった。ひとりだけこってり絞られたジュドーは昼食 の時間に愚痴をこぼす。 ジュドー「ハマーンのやつ、俺に何のうらみがあるんだよ。マンツーマンでずーっと延々一時間説教 ってどうなってんのよ。なんか俺、関係ないハマーンの身の上話聞かされたし」 イーノ「相変わらずハマーン先生に愛されてるね、ジュドーは」 ジュドー「愛されてるなんて勘弁してくれよ、イーノ。一方的もいいとこだぜ」 愚痴の聞き役はイーノ・アッバーブだ。少し気が弱く優しい性格をしており、ジュドーの仲間内 では大抵こういう役まわりになる。ジュドーの一番の友人だということもある。ビーチャやモンド はジュドーへの対抗意識がやや強いし、ルーとエルは女だ。ジュドーは男女わけ隔てなく接する ほうだがやはり男同士のようにはいかない。明るく人気者のジュドーとおっとりして控えめなイーノ は典型的な名コンビだった。 そこにルーとエルがいつものように他愛もない言い合いをしながら合流し、ビーチャとモンドが ジュドーがしかられたことをからかいながら加わる。これでジュドー組が勢ぞろい。ビーチャが話題 になっているサッカー大会の新聞記事を叩きつけながらいきなり息巻く。 ビーチャ「ジュドー、地域面から社会面に記事がレベルアップしたからって調子に乗るなよな。お前の おかげじゃないんだからよ」 大会の記事は地域面ではなく社会面に載っていた。これは街の小さなサッカー大会になぜか有名人 が多数参加しているからである。ギンガナム家の当主ギム、ラインフォード家の御曹司グエン、大学 ラグビーの花形であるガトー、そしてボクシング地球圏統一チャンピオンであるチボデー・クロケット。 特にチボデーは2ヶ月後にタイトルマッチを控えているにも関わらず、サッカーのキーパーなんか をしているということで、挑戦者がそれこそビーチャの比ではないほどの憤懣(ふんまん)を紙面上に ぶちまけていた。これには、まあ怒るのも無理ないなとジュドーも思う。 それから2時間後、日課のロードワークと基礎トレーニングをこなしたドモンもシャワーあがり に新聞を広げていた。チボデーは、なぜサッカー大会なんかに参加しているのかという記者の質問 にこう答えていた。 「どんな形の勝負だろうとかまわない。俺には倒さなければならない奴がいるからさ」 チボデーがこんな言葉を贈る男が他にいるだろうか。今、寝転がりながら記事を読んでいるドモン 以外に。ドモンはライバルの挑戦状に眉を寄せながら、左手で尻を掻いた。 48 名前:フットボール狂騒曲78・震える心投稿日:03/09/30 03 44 ID ??? チボデーの言葉を受けてドモンは、昨日ハヤトが多大な犠牲と共に渡してくれた試合のビデオを リビングで再生した。まだ他のチームメイトは誰も見ていない。 画面に映し出されたマンチェ○ター・ユナイテッドのような真っ赤なユニフォームを着ているのが、 チボデーがGKをやっている<ラインフォード・ユナイテッド>だ。チボデー自身は白いキーパー シャツとハーフパンツを着ていた。この試合、チボデーは無失点に抑えている。一回戦もだ。チボデー はまだ一点のゴールも許していない。 ドモンは途中細かく早送りしながらビデオを見る。試合全体は今日のミーティングで改めて見る ことになるだろうし、とにかくチボデーのプレイだけが見たいのだ。無失点に抑えたということで ドモンは<ラインフォード・ユナイテッド>自体の守備力が高いのだと思っていた。しかしそれは 正しい意見とは言い難かった。CBコンビのラカンとシロッコは個々の能力は高いが連携のミスが 何度かあり、失点の危機を招いていた。しかしその度にチボデーが驚異的な反応を見せてチームを 救う。 何度かチボデーのプレイを見たところでドモンはビデオを停めた。全て見る必要はない。チボデー の実力は充分にわかった。体が震えている。自分と同じく素質だけだろうが、やはり物凄い。 考えてみればボクシングというものは反射神経はもちろん、フットワークがものをいう。当たり前 だがパンチを当てるのもかわすのも足の運びあってこそだ。格闘技とはいかに自分に有利な間合い で戦うかが重要であるが、ボクシングは攻撃方法はパンチのみ、攻撃範囲は相手の上半身のみという 極めて限られた条件のもとで戦う。そのため他のどんな格闘技より細かく繊細な間合いの奪い合いが 行われるのだ。チボデーはそのボクシングで頂点に立った男。ことフットワークに関してはドモン たちシャッフル同盟でも及ぶものはいない。チボデーは自分の最大の武器をこの短期間で見事に サッカーに応用していた。もちろん他の要素、集中力や勘といったことに関してもチボデーに死角 はない。優勝に向けとんでもない強敵が立ちふさがっている。 ドモン「チボデー……こいつから、点を取れるのか……」 ここまでドモンも数々の好セーブでチームを救ってきた。その自負はある。しかし二試合とも失点 していることもまた事実。ドモンの胸に敗北の恐怖が湧き上がる。跳ね返せ。そうドモンは念じるが ますます恐怖は広がっていく。鍛錬を怠ったのか。兄弟との平和な日々は自分の精神から戦う牙を 抜き去ってしまったのか。震えながらドモンは自らを叱咤するがどうしようもない。 家にはドモンひとりきりだ。他に誰もいない。ロランは買い物にいっている。そのことを頭のうち で確認すると、ドモンは電話にすがりより、レインの番号を押した。なにか考えがあるわけではない。 ドモンはただ、レインの声が聞きたかった。 続く チボデーがスーパーなキーパーである理由はいつもどおり強引です。あいつ、パンチ パンチまたパンチって感じだったような記憶があるしなあ。Gガンはわかりやすさが肝だし。 49 名前:フットボール狂騒曲79・立てドモン! 嵐を呼ぶ猛特訓(1)投稿日:03/09/30 04 34 ID ??? ドモンからの電話を受けたレインはできる限りすぐに来てくれた。いったいどうしたの、と訊く レインの声に、ドモンは心底ほっとするものを感じた。 と、そこにタイミング悪くロランが買い物から帰ってきた。ここでは話せない。ドモンはレインに 挨拶するロランにすこし歩いてくるといった。 ドモン「すこしレインと外出する。夕方の練習にはきちんと出るから心配するな」 ロラン「はい。わかりました」 さわやかな笑顔のロランに送り出され、ドモンとレインは兄弟家を出た。 やや歩き、街のある公園のベンチに腰を下ろしたドモンとレイン。ドモンはレインに対して飾らず 正直に自らの不安を打ち明けた。 ドモン「レイン……それで、それで俺はお前にただ会いたくて……」 レイン「ドモン……」 二人の手がそっと触れ合うかという瞬間、いきなりの大音声が静かな公園の空気を割った。 「だからぁお前はぁアホなのだぁああああ!」 響く絶叫。この声を聞き間違える二人ではない。慌てて周囲を見回すと、いた。やや離れた木の 頂点に常人ならざる雰囲気を纏ったあの人が。 ドモン「し、ししょおぉ」 東方不敗「答えよ、ドモン! 流派東方不敗は!」 ドモン「王者の風よ! はぁあ!」 反射的に応じたドモンに衝撃が走る。がっくりと膝をつき地面に崩れるドモン。師はさらに畳み掛ける。 東方不敗「王者たるものが恐怖におののくとは何事かぁ! そしてぇ、貴様の手に浮かびあがるその 紋章はなんだぁ!」 ドモン「キ、キングオブハートォ」 東方不敗「今一度重ねて言うぞ! ドモン! 王たるものが戦いを恐れるとは貴様ぁ」 そこまで叫び東方不敗は天に飛翔し、さらに飛びながら叫ぶ。 東方不敗「その性根、叩き直してくれるわぁ!」 二人の目の前に着地した東方不敗マスターアジアのその左右にはいつのまにか、どこから持ってきた のか、東方不敗と同じ大きさの二つのズタ袋が鎮座している。師がそれを手刀で切り裂くと、中から 大量の小石が流れ出た。 東方不敗「立てぃ、ドモン! 今一度、己を鍛え上げるのだ!」 ドモン「は、はい! 師匠! お願いいたします!」 師の呼びかけにドモンはさっと立ちあがり、構えをとる。目に格闘家のギラりとした輝きが蘇って いた。東方不敗は頷くと、左右の山から小石を両の手に握った。 レイン「こ、こんな街中の公園でいったい何を始める気なの?」 東方不敗「これからわしがおまえに投げる石、その全てを受け止めてみせよ! さすればドモン! 貴様は万夫不当にして天下無双のゴールキーパーよ!」 ドモン「は! 必ずや成し遂げてみせます!」 街の一角にある何のへんてつもない公園。そこに今、熱き師弟の風が吹く。 113 名前:フットボール狂騒曲79・立てドモン! 嵐を呼ぶ猛特訓(2)投稿日:03/10/12 06 37 ID ??? またちょっと間が開いてしまいました。49からの続きです レイン「石を受け止める……?」 ドモン「そういうことだ。レイン、危ないからお前は離れていろ」 レインが自分たちから距離をとったのを確認して、東方不敗とドモンの特訓は始まった。 東方不敗「ゆくぞ、ドモォオン!」 ドモン「はい、師匠ぉお!」 東方不敗の両腕がしなり、左右の手から小石が強烈な勢いかつ間断なく放たれる。15メートルほど 離れて師と向き合うドモンがそれを目にも留まらぬ動きで受け止め続ける。距離をとって二人の特訓を みつめるレインに、通常の生活ではありえない感覚が走った。 レイン「こ、これは……音が遅れて聞こえてくるの?」 とすれば、東方不敗の投げる石は音速を超えているということになる。まさか、と思いレインは意識 を集中しなおした。しかし先ほどと同じ感覚が繰り返されるだけ。やはりマスターアジアの手から 放たれる石は、音速の壁を突き破ってドモンを襲っているのだ。それをドモンは受け止め続けている。 だが全てを手で受けきれるわけではない。体に当たっている石もある。 レイン「なんて壮絶な特訓……ところで、これってサッカーに関係あるの?」 レインの言葉などよそにドモンと東方不敗の特訓は熱を増し、加速する。 東方不敗「ぬぅううううううう」 ドモン「うぉおおおおおおお」 受けて、受けて、受ける。手で足りなければ、体で止める。音速を超えて迫る石の弾幕。ドモンが 一瞬たりとも集中を切らせば大怪我は免れないだろう。意識して軌道を捉えているからこそ、石が 体にぶつかっても問題ないのだ。だがそこで、予期せぬアクシデントが起こった。 ドモンの右脇を受けそこなった石が抜け、公園の先の道をちょうど通りかかった少年へ一直線に 突っ込んでいく。 ドモン「しまったぁああ」 レイン「危ない!」 「オウ! デンジャァアア」 その声が聞こえる頃には、すでに少年の前に一人の男が身を投げ出して、少年を庇っていた。その男 の周囲になぜか沸き立つ砂煙。握り締めた拳の中には石がその力を殺されて眠っているのだろう。 やがて煙が晴れて男の姿が明らかになった。 レイン「あ、あなたは……」 間違いない。エルヴィス・プレ○リーを勘違いしたとしか思えない服装。お前アメリカ人じゃねー だろ、とつっこまれるためかのようなあの叫び。そして類まれなる身体能力。振り返ったドモンも、 男の姿をはっきりと双眸にとらえていた。 ドモン「チボデー・クロケット……」 チボデー「よお、ジャパニーズ。ちょっとは気をつけな」 スマイルと共にチボデーはドモンに石を投げてよこした。受け取るドモンは対照的に険しい顔の ままだ。 ドモン「何しに来た。チボデー」 チボデー「ふっ、別にお前の特訓をスパイしていたわけじゃないぜ。知ってのとおり、俺もお前と同じ コンペティションに出ていてね。練習場にいく途中だったのさ」 答えながらチボデーは自らが救った少年の頭をなでた。少年は何が起こったのかまったくわかって いないようで、すこし戸惑いながら行ってしまった。チボデーはドモンの奥にいるマスターアジアに視線 を移す。 東方不敗「見られたところで問題のあることでもない。それよりもドモン、今の不手際は貴様の未熟 ゆえ。折よくチボデーが通りかかったからいいようなものを、そうでなければどうなって いたか。未熟千万! このうつけ者がぁ!」 背後からの強烈な怒気に、ドモンもはっとして振り返り、恥じ入るように体を振るわせた。 ドモン「し、師匠、もう一度お願いします!」 東方不敗「うむ。では改めて、ゆくぞ! ドモォオオオン」 114 名前:フットボール狂騒曲79・立てドモン! 嵐を呼ぶ猛特訓(3)投稿日:03/10/12 06 41 ID ??? 再び始まった特訓はますます過酷さを増しているようにレインの目に映る。 レイン「こんなことをして、試合に差し支えないかしら」 チボデー「さあな。そいつはあいつ次第だ」 不安からぽそりと口にした言葉は、いつのまにか隣に来ていたチボデーに聞かれたようだ。 レイン「チボデー、私にはわからないわ。この特訓が、どうサッカーに役立つのか」 チボデー「……そうかい、お嬢さん……はっきり言って、こんなことをしてもゴールキーパーとして のスキルは上がらないぜ。石をぶつけることでキーパーの実力がアップするんなら、今頃 世界中のキーパーは石を喰らってアザだらけさ」 レイン「じゃ、じゃあいったい何のためにこんな危険なことを?」 チボデー「さあな、あり得るとしたら……この特訓をやりきったことで自信をつける、とそういうこと かもな」 そこまで言うと「じゃあな」と映画の中のカウボーイみたいな仕草をして、チボデーは去っていった。 レイン「自信……マスターアジアは、ドモンに自信が欠けていると思ったということ? でも、ここで 怪我をしてしまったら元も子もないわ……」 レインの心配をよそに、東方不敗はドモンに向けて次々と必殺の一撃を放つ。 東方不敗「なっちゃあいない! 本当になっちゃいないぞ、ドモンッ!」 「そこまでか! 貴様の力などそこまでのものにすぎんのかぁ! 足を踏ん張り、膝をやわらかくせんかぁ! そんなことでは蹴球の大会ひとつ制せんぞ! このバカ弟子がぁああああ!! 」 ドモンもそれを受けて、もはや音速の2倍のスピードもあろうかという石の暴風に立ち向う。 ドモン「とぅおりゃああああああああぁ」 しかし、厳しい攻めに徐々にドモンは体力を失っていく。そして、ついにひとつの石がドモンの頭を 直撃した。額から血を流し、膝をついて、さらに腰が落ち、ドモンは座り込んでしまった。 レイン「ド、ドモォオン」 ドモン「大丈夫だ……レイン、下がっていろと言っただろ」 かけ寄ろうとするレインを制して、ドモンは立ち上がろうとする。だが足に力が入らないのか、膝を ついたままなかなか立ち上がれない。もちろんのこと、東方不敗はそんなドモンにさえ容赦ない。 東方不敗「何をしておる! 自ら膝をつくなど、勝負を捨てた者のすることぞぉおお! さあ、立て! 立ってみせいぃいい!」 レイン「もうやめてぇええ」 立ち上がれないドモンに投げつけられる今までよりもさらに厳しい一撃。そのあまりのスピードに レインには身を挺してドモンをかばうこともできない。だが、ドモンはつかんだ。師の心に応えて。 ドモン「キングオブハートの名に賭けてぇええ!」 紋章の光る手の中で、しゅぅううと石が断末魔の声をあげた。二人の漢は笑みを交わす。 そして続く特訓。もはや投げられる石は光速に迫っているかもしれない。レインはそっと身を引いた。 もう自分の入る余地などないのだ。哀しい。そんな思いが、知らぬ間にレインの心に棲んだ。 レインが見守る中、特訓はついに終わった。ぼろぼろになった体で、ドモンはしっかりと両の足で 大地を踏みしめていた。頷く東方不敗が、ドモンの立つ地面を見て笑う。 東方不敗「ふははははは、それでこそわが弟子よ!」 ドモンの周囲には石が規則的に並んでいた。離れたところから見るとわかる。石の並びでアメリカ 国旗を描いているのだ。あの石の驟雨の中で、それだけのことをやってのけたのだ。 レイン「ドモンなりの、ライバルへの敬意かしら」 微笑むレイン。笑いあうドモンと東方不敗。拍手と歓声を贈るいつのまにかできていたギャラリー。 東方不敗「では、ワシはいくぞ。ドモン、今のお前ならどんな達人が相手でも決して負けることはある まい! 自分を信じるのだ! ならば、最後に!」 師と弟子「流派 東方不敗は 王者の風よ 全新系裂 天破侠乱 見よ 東方は赤く燃えている 」 時は夕刻。太陽が西の空を赤く染めていた。斜陽の橙の陽射しが、レインのほほを染めた。去り 行く師の後姿に、ドモンはさっと頭を下げた。そのドモンの姿が自信に輝いているのを、レインは静かな 気持ちでみつめていた。ギャラリーのひとりであった画家の卵は、急いでそのレインの表情をスケッチ ブックに刻み込もうとした。 続く 162 名前:フットボール狂騒曲82・新たなる対戦相手投稿日:03/10/19 04 58 ID ??? 『大会を制するのは、個人能力の<ラインフォード・ユナイテッドFC>か、組織力の<FCギム・ ギンガナム>か』 市のサッカー大会に関する記事はその一文で締められていた。試合翌日の軽めの練習を終えた<FC ギム・ギンガナム>の面々は、ロッカールームにひしめきあって、決勝の相手をビデオで研究しよう としていた。もちろんその中には、師との特訓を乗り越えたドモンの姿もある。ボロボロの姿で現れた ドモンに、兄弟たちは色々なことを思ったが、もはや詳しく聞きはしない。アムロがただ一言、「試合 翌日に無茶な真似はするな」と一応言っておいただけだ。 アムロ「じゃあ再生するぞ。見せてもらおうか、グエン卿のチームの実力とやらを! ……いや、なに、 ちょっと言ってみたかっただけだ」 アムロがデッキをテープに入れる。画面に映し出された赤いユニフォームのチームがグエンたちだ。 青いユニフォームが敗れ去ったほうのチームだろう。 シロー「フォーメーションはこんな感じか」 FWガトー FWマシュマー MFギュネイ MFジェリド MFゼクス MFグエン DFクロノクル DFカクリコン DFシロッコ DFラカン GKチボデー 画面の中の試合は前半の半分を経過したが、まだ得点の動きは無い。<ラインフォード・ユナイテッド> はとにかく選手同士の連携が悪く、ディフェンスはすきだらけでオフェンスはちぐはぐなのだ。よほど の強敵と思っていた兄弟たちとしては、拍子抜けのプレイがテレビの中で続く。 ジュドー「グエン卿のチームってバランス悪いな~、というかそういう問題じゃないね、こりゃ」 シーブック「ギュネイもジェリドも自分が目立とうと必死で、すぐスタンドプレーに走るし……」 カミーユ「ガトーとマシュマーはよくポジションがかぶるし、お互いにパス出さない……」 コウ「FW2人は強引でもとにかく自分がシュートにいくんだな。しかし全然息が合わないぞ、この 二人……」 ガロード「あ、また抜かれた。ディフェンスはまともに守る気あるのかよ」 ギム「ふふ、小生に大量得点の予感ありだ」 お粗末なプレイの連続でも失点しないのはGKのチボデーが好セーブを連発しているからだが、その チボデーもDFとの連携はあまりよくない。結局前半は両チーム得点なしで終了した。 ウッソ「どういうこと? この試合は4-0でグエン卿のチームが勝つはずなのに」 アル「こんなんでどうやって後半だけで4点も入れたのかなあ……」 ドモン「俺が早送りしながら見たのはここまでだが……」 キラ「個々のプレイは上手いけど、それが全然つながらないからね。キーパーは凄いけど」 ロラン「後半はマシュマーさんに代わってシャアさんが入ってきましたね。偽名だけど」 低調な<ラインフォード・ユナイテッド>に首を傾げる<FCギム・ギンガナム>だったが、そんな 疑念は後半のプレイを見た後、衝撃的に氷解した。 キラ「そ、そんな……たった一人入っただけで……」 シロー「完全に違うチームだ……これがシャア・アズナブルの力なのか……だけど……」 アムロ「チーム全員の意識が違う。コンビネーションも抜群によくなっているし……」 シーブック「前の選手も守備に参加している……ああ、もう3点とって……」 カミーユ「そして4点目……この強さは、本物だ」 シッキネン「セリフを分割して担当してしまうほど、連中は強いのか」 テレビの中で猛威を振るう<ラインフォード・U>。その力は画面の外の兄弟たちにまで重圧を感じ させた。 163 名前:フットボール狂騒曲83・燃えつきるほどヒート投稿日:03/10/19 05 00 ID ??? 兄弟たちは敵のあまりの変わりように打ちのめされていた。前半の体たらくは、後半とのギャップ で自分たちにショックを与えるためかと思えるほどだ。 ソシエ「と、とりあえずわかることからまとめましょう。えと、この試合の4得点のうちわけはガトー が2得点で、エドワウことシャアが1点、それにゼクスが1点ね」 リリーナ「お兄様……いえ、ゼクス・マーキス。いったい何のためにわたくしたちの邪魔を。まあそれは ともかく、初戦の7点はガトー2点、マシュマー2点、シロッコ1点、ジェリド1点で相手の オウンゴールが1点ですね」 手元の資料をリリーナが読み上げる。コウが両手を握り合わせてつぶやいた。 コウ「ガトーは2試合連続で2ゴールか……さすがだな」 アムロ「結構色んな選手がまんべんなく得点しているんだな。どこからでも点が取れる、か」 ロラン「うちは2試合で全5得点。そのうち2点がギンガナムさんで、あとはジュドー、ウッソ、僕が 一点ずつですね」 ギム「チーム最多得点であるか。小生のこと、ギム・ザ・ストライカーと呼ぶかい」 ギムが親指を立ててニカッと白い歯をみせたが、キラをはじめ誰も相手にしない。 キラ「ガトーは4点とってるけどね。全部でこっちは5点、向こうは11点か。」 シーブック「失点はうちが2点で、向こうが0点だ……」 ますます部屋にたち込める重い空気。みなの肩がしょぼくれて落ちる中、一人の男が立ち上がった。 ドモン「がたがた言うな、震えるな、お前ら! いいか、やつらが何点とっていようとそれは俺たち 以外の相手からだろうが! あさっては俺が連中には一点もやらん!」 ずばっと言い切ったドモンにみなの視線が集まる。ドモンはなおも吼える。 ドモン「それに俺はここまで勝ち抜いたうちの得点力を信じている。相手がチボデーだろうと誰だろうと 絶対にゴールを奪えるはずだ! そうだろ、ギム・ザ・ストライカー!」 やや狭い部屋にエコーがかって響く声。ドモンの瞳は燃えている。部屋の空気が、変わってきていた。 ギム「ドモン……今の言葉、ぐっと来たぞ……小生の、武人の魂にな……」 男二人が握手を交わす。がっちりと。さらにソシエとガロードがその上に手を添えた。 ガロード「いっちょやってやろうぜ!」 ソシエ「気合と根性で何とかするのよ!」 アル「ぼ、僕だって何かやるよ!」 続々とドモンとギムの周りに集まる仲間たち。だがジュドーは頭を振りつつ肩をすくめた。 ジュドー「やれやれ。みんなバカじゃないの。こういうのは結局運だって、運」 そこまで言って言葉を区切ると、ジュドーも皆に手を重ねた。 ジュドー「でも運だけってんじゃあ、ちょっとつまらなすぎるよね」 シロー「ジュドー……カッコつけやがって……まったく……俺はアイナと添い遂げる!」 たぎる胸のうちを叫びながら、ひとり、またひとりと手を重ねてゆく。 ロラン「地球は戦争するところじゃないでしょぉおお!」 コウ「にんじんいらないよ!」 ウッソ「おかしいですよ! カテジナさん!」 リリーナ「早く私を殺しにいらっしゃぁああい!」 部屋の熱気は高まるばかりだ。 カミーユ「熱い、熱い展開だ……個人的にこういうのはきらいだし苦手だ。だけど、やるしかないのは 俺にだってわかる! うおお、お前は生きてちゃいけない人間なんだ!」 ついにカミーユまで参加し、ヒイロとキラも軽く口に笑みを浮かべて輪に加わった。 ヒイロ「お前を、殺す……!」 キラ「アスラン……」 全員がひとつの心でまとまったと見えたとき、ついにアムロがみんなに呼びかけた。 アムロ「昔な、『やれるとは言えない……でも、今はやるしかないんだ』と言った男がいたんだが…… 今の俺ならはっきり言い切れる。このチームなら、勝てる!」 アムロの言葉が終わると同時に、だれかが「監督……」と呟いた。監督ことアムロには分かっている。 具体的な対策が何一つできていないことが。勢いだけだ。だが、勢いすらないよりは良いのかもしれ ない。 178 名前:フットボール狂騒曲84・決戦前日(1)投稿日:03/10/23 21 43 ID ??? 一夜明けた翌日の金曜日。決勝は明日の土曜日に迫っている。兄弟たちは明日の試合に向けて、 それぞれの道を歩んでいた。 ――ジュドー 昼休み。校庭の片隅で古びてほうっておかれているゴールの前で、サッカーボールを足の裏に置いて、 ジュドーは仲間たちに重々しく―ふざけてそうしているのだが―告げた。 ジュドー「どうやら、お前らと一緒にこの一月修行してきたあの必殺技を出さなきゃならないらしい」 イーノ「必殺技って、あれは遊びじゃなかったの?」 イーノが聞き返す。口調こそふざけているものの、ジュドーは真剣なのだ。 ジュドー「ああ、遊びだった。でもけっこうできるようになってきたし、なにより次に戦うGKは並じゃ ない。あのシュートが必要なんだ。一日だけとはいえ、すこしでも上達しておきたい。頼む、 協力してくれ」 仲間の中でも特にビーチャに視線を向けたジュドーだったが、ビーチャは納得しない。 ビーチャ「けッ、どうせ目立ちたいだけだろ」 エル「ジュドーはビーチャとは違うわよ! あたしは協力するよ」 ルー「あたしもね。イーノは当然手伝うんでしょうけど、あんたたちはどうするの?」 相変わらずそっぽを向いているビーチャと違い、ルーにプレッシャーをかけられて、相棒のモンド は弱気になった。 モンド「う、手伝わないとまずい雰囲気。なあ、ビーチャ、や ら な い か ?」 ビーチャ「チッ、わかったよ。手伝えばいいんだろ。それとモンド、その妙な言いかたはやめろ」 エル「さっすがビーチャ、男前!」 ジュドー「サンキュー、みんな。よし、さっそく練習開始だ」 仲間の協力を獲得し、ジュドーはさっそく足元のボールと戯れ始めた。明日の試合はエースの俺に かかっているからな。青空を睨みつけ、ジュドーは心中に呟いた。 ――チボデー 正午をまわったばかりの気だるい陽射しが差し込む部屋で、チボデーはベッドに寝転び ながら右手を握り締めた。昨日、東方不敗の投げた石を受け止めた感触が蘇る。あの瞬間、 右手が吹き飛ぶかとも思える激痛が走った。ドモンたちの手前なんでもないふりをしたものの、 その衝撃は今も残っている。手にではない。心にだ。自分がようやく受け止めた一撃を、ドモン は連続で受け止め続けていた。 チボデー「ふっ、それでこそ俺のライバルだ、ドモン」 チボデーは右手を握っては開き、また握って開く。天井の扇風機が緩やかに回っている。 ――ジェリドとカミーユ シーブックと一緒のカミーユとカクリコンを連れたジェリド。二人が廊下ですれ違った瞬間、 緊張が両者の間にピンと走った。この大会でも直接対決に至った因縁の二人は、お互いの顔を 直視しながらも、言葉は交わさない。いつもなら神経質な犬のように吠えたけるジェリドが、今日 は無言のままだ。もちろんカミーユのほうから声をかけることもない。隣のシーブックがそっと カミーユに耳打ちする。 シーブック「いつもとは違うな。今までのジェリドじゃないぜ」 カミーユは無言で頷いた。明日の試合は自分の出来次第だ、という自覚がカミーユに拳をぎゅうっと 握らせる。4人の緊張状態はその後10秒ほど続き、最後まで無言のままに別れた。 179 名前:フットボール狂騒曲85・決戦前日(2)投稿日:03/10/23 21 45 ID ??? ――コウ アルビオン大学のラグビー部の部室、コウは絞られていた。もちろん相手はモンシア、ベイト、 アデルの先輩3人組であり、姿勢は正座である。このところサッカー大会にかまけてラグビー部を おろそかにしているということで、コウは先ほどからこの3人に説教されていた。 モンシア「てめえは、ちょっと監督の覚えがいいからって調子に乗りやがってよぉ」 コウ「べ、べつにそういうつもりじゃ……大会は明日まで、それで今日は最後の練習で……明日に 向けて……俺もやらなきゃならないことが……」 なんとかこの状況から抜け出て練習に参加したいコウだが、状況は悪化するばかりだ。 モンシア「うるせえ、黙って聞けってんだ!」 コウ「は、はい」 ベイト「別におれはお前なんざどうだっていいんだよ、モンシアと違ってな。ただ他のヤツに示しが つかねえだろうが。こうもサボられちゃよ」 コウ「はい」 アデル「どうも事情があるようですけど、他の一年生ともうまくいかなくなりますよ」 コウ「はい……」 コウとしてはただただ縮こまるしかない。もとより体育会系の掟として先輩に対する反論は許され ないが、くわえて今回は、たしかに部活よりサッカー大会を優先したコウが悪いのだ。 モンシア「サッカーなんざ軟弱者のスポーツに首突っ込みやがって。男はラグビーよ」 モンシアのこの何気ない一言で、話はあらぬ方向へ飛んだ。 アデル「そういえば、ジオ体(*注1)のガトーも同じサッカー大会に出てるらしいですね」 モンシア「なにぃ、あのアナベル・ガトーかぁ!?」 ベイト「あの野郎なに考えてんだろうな。ま、この坊主じゃ敵にもなれないだろうけどよ」 そう鼻で笑ってベイトがコウを上から見下した。モンシアも大口を開けて笑っている。さすがに コウも立ち上がった。 コウ「お、俺はガトーに負けませんよ。負けるわけにはいかないんです!」 大会ではガトーはセンターフォワードでコウはセンターバック。直接ぶつかり合うことになる。 しびれた足で無理やり身を乗り出すコウを、モンシアがさらに笑った。 モンシア「無理に決まってんだろうがぁ。ガトーとてめえじゃ体格が違う。度胸も違う」 アデル「経験も違いますね。ラグビーの経験ですが」 ベイト「というより、はっきり言えば役者が違う」 コウ「そ、それでも俺は、俺たちは勝ちますよ!」 負けじとコウが言い張ったときだった。女性の声がかん高く響いたのは。 「よく言ったさねぇ! それでこそ私の坊やだよ!」 コウ「こ、この声は……まさか……シーマさん!?」 モンシア「し、シーマって、理事長か!?」 注1 ジオ体=ジオン体育大学。ガトー率いるジオ体のラグビー部は強豪である。 180 名前:フットボール狂騒曲86・決戦前日(3)投稿日:03/10/23 21 48 ID ??? 部室の入り口を振り向いた4人の視線の先に、バァアアアンと姿を現したのはやはりアルビオン 大学理事長シーマだった。 シーマ「YES I AM! チッチッチッ」 人差し指をふりながらシーマはコウに近寄り、ほおをなでた。 シーマ「坊やがそうやって男らしくなるのを待ってたんだよ。さあ、早くおいで!」 コウは急な展開にぽけっと立ちすくんでしまった。シーマが腕を引っ張って、部室に横付けした車に 連れて行こうとする。 モンシア「おい、ちょっとまちな理事長さんよぉ! そいつにはまだまだ言ってやらなきゃならない ことがあるんだ」 シーマ「しつこい男は嫌われるもんだけどねぇ」 いじめたりないとばかりにコウをひきとめようとするモンシアを、シーマがにらみつけた。狐のような ギラりとした眼光にさすがのモンシアもひるんだが、続いたベイトは納得しない。 ベイト「理事長だろうがなんだろうが、部のことはあんたに関係ないだろうがよ」 モンシアとは違ってコウ個人のことなどどうでもいい。しかし、自分の縄張りを荒らされては黙って いられない。そんなベイトに、シーマは笑って擦り寄り、耳元でささやいた。 シーマ「そういうのはわかるし好きだけどね、あんたらの予算を減らすも増やすもあたし次第なんだ。 ボロボロのボール磨きたくないだろう? 坊やを行かせてやってくれないかねぇ」 シーマはベイトの胸をとん、とつつくと、相変わらず両者の間でキョロキョロしていたコウをささっと 自分の車に押しこんだ。 ベイト「く、くそ……あの女……」 アデル「勝負ありってとこですかね。理事長の権力を持ち出されては」 モンシア「ちきしょう……おい、なんだそのくまちゃんは?」 跳ね馬のエンブレムが光る高級車の運転席から、シーマはモンシアたちに一通の封筒を差し出した。 3人がその妙にファンシーな便箋に眉をしかめる。大排気量のエンジンならではの力強い鼓動を背に、 さっと有名ブランドのサングラスをかけながらシーマが3人に言った。 シーマ「ふふ、あんたたちにとって、いい知らせが入っているかもしれないよ。まあこれからも坊や をよろしくってことさ」 すっと体が沈む助手席のシートで、コウは頭を抱えた。さっきのようなことがあっては、これから ラグビー部で自分がどのような目に遭うのか、考えるだけで恐ろしい。 シーマ「どうしたんだい、頭なんか抱えちゃってさ」 わかっているだろうに、とコウは運転席のシーマを睨みつけて、溜め息をついた。 シーマ「大丈夫だよ。ちゃんと手はうったさ」 コウ「手はうった?」 さすがに運転中は前を向いたまま、シーマが答える。 シーマ「さっきあの子たちに渡した手紙にね、坊やがガトーのチームに勝ったら、予算を上げてやる からって書いといたよ。勝てば許してもらえるさ」 コウ「……勝たなきゃ駄目なんですか?」 シーマ「そりゃそうさ。勝ちもせずに得しようなんて甘ちゃんもいいとこじゃないか」 コウ「もし、勝っても許してもらえなかったら?」 シーマ「そうなったら、そのときはあたしが何とかしてあげるよ」 コウは再び頭を抱えた。勝つしかないようだ。そのためにはガトーをなんとか抑えなくてはならない。 いったいどうやって……。コウは声にならない呟きをもらした。 シーマ「なに情けない声出してんだい。なんなら、そこでなぐさめてあげようか?」 顔をあげたコウが見たのは、けばけばしい電飾とピンクの看板がまわるホテルだった。 コウ「けっ、結構です。これから練習だし、明日が試合ですし、ええ」 シーマ「じゃあ、今度は練習も試合もないときにこようか、坊や」 エンジンが一段と大きな声でいなないたそのとき、コウは真っ赤な顔でうつむいていた。 続く 203 名前:フットボール狂騒曲87・決戦前日(4)投稿日:03/10/27 02 55 ID ??? 会社の昼休み、アムロはサンドウィッチをほおばりながらコピーをミスした紙にペンを滑らした。 乱雑に書き散らしているのは明日の決勝に向けてのメモだ。くせっ毛をペンでかき回しながら、 ぼそぼそと呟く。 アムロ「あっちのほうが個人の能力は上……でも連携はこちらのほうがいいし、相手の弱い部分 をつければ……」 「お~い、アムロ、お客さんだ」 ドアのほうからの声に顔を上げたアムロが見たのは、意外な人物だった。 アムロ「セイラさん!」 セイラ「ちょっと時間よろしくて、アムロ?」 アムロ「え、ええ。昼休みですし」 久し振りに会った金髪さんの微笑みに、アムロは年甲斐もなくすこしドギマギして、緩んでいた ネクタイをくっと上げた。アストナージがひゅうと口笛を吹き、チェーンがジロリとこちらを睨む。 少々居心地の悪い思いをしながら、アムロはセイラに続いてオフィスを出た。 オフィスの入っているビルのすぐ近くにある、名前だけがすこし変わっている喫茶店「シャイアン」。 二人は窓際の席に座って、店おすすめのブレンドコーヒーを頼んだ。どこにでもあるような椅子に 座り、どこにでもあるようなテーブルを挟んで、とりとめのない世間話を適当にしたのち、運ばれて きたコーヒーの湯気に整った顔をくすぐられながら、セイラが切り出した。 セイラ「兄さんは、エドワウ・マスと名乗っているのね」 アムロ「え?」 セイラ「サッカーの大会のことよ。明日、決勝なんでしょう」 アムロ「あ、はい。……エドワウ・マスってどういうことなんです? マスってセイラさんと同じ名字 ですし。話したくなかったら別にいいんですけど……」 アムロは一応、セイラの顔色を探ってみた。セイラはちょっと目を伏せて、すこし首を振った。切れ長 の美しい瞳を彩る睫毛が、そっと優美に揺れる。 セイラ「私が話したくてこうしてもらったのよ。兄さんの本名はアムロも知っているでしょう」 アムロ「キャスバル・レム・ダイクン……」 そしてセイラはアルテイシア・ソム・ダイクンという名を持っている。あのジオン・ズム・ダイクンの子で あるこの兄妹が複雑な事情を抱えていることは、アムロも少なからず見知っていた。 セイラ「私たちにはエドワウとセイラ、という名前で一緒に暮らしていた時期があるの。ずっと昔よ。 私も兄さんも小学校に通っていたぐらいの頃。兄さんは本当に私の憧れだった。優しくて、 頭が良くて……」 アムロ「スポーツは万能。とくにサッカーは得意だった?」 アムロの言葉にセイラは静かに頷いた。この喫茶店「シャイアン」は格別とか優雅などという言葉 とは無縁の、ありふれた空間を提供する、それゆえに気軽な店なのだが、セイラのいるそのまわり だけはまったく趣が違っていた。 セイラ「兄さんは凄かった。FWをやっていて、試合がある日はいつもヒーローだったわ。得点をいくつ も決めてね。チームのユニフォームが赤かったから、『赤い彗星』なんて呼ばれてた。私は そんな兄さんに試合のあるたびについていって、声援を送っていたわ」 セイラは丁寧に、すこし微笑みながらゆっくりと話した。まるで大切にしまっていたオルゴールを久し振り にまわした時のように。その様子から、セイラがその頃の思い出をとても大切に思っていることがアムロ にも伝わってきた。アムロは先をせかさず、ただ黙って聞いていた。 セイラ「でも、兄さんは父にまつわる話を聞いて、そしてある時期がくると、サッカーをやめてしまった。 その後はいろいろあって……アムロのよく知っていることもね。そうして今に至った」 話を終えるとき、セイラは寂しそうに笑った。 204 名前:フットボール狂騒曲88・決戦前日(5)投稿日:03/10/27 02 59 ID ??? セイラの話がひと段落したのち、アムロはやや迷ってから訊いた。 アムロ「そのシャアが、どうして今になってわざわざエドワウと名乗ったんだろう。サッカーをする のはともかく、なぜ昔の名前で……」 セイラ「さあ、私には、今の兄さんはわからないわ。勝手でしょうけど、私はただ聞いてほしかった のよ。私も兄さんも、ある程度の事情も知っている人に、ね」 済まなそうに言うセイラに、アムロは首を振って微笑みかけた。 アムロ「いいんですよ。気にしないで下さい」 その言葉を聞くと、セイラは口元をほころばせて今までより明るい笑みを見せた。急な雰囲気の 変化にアムロはきょとんとしてしまった。 セイラ「変わったわね、アムロ。昔の、出会った頃のあなたなら、どうして僕にそんな話をしたんです、 とでも言って、怒ったのじゃなくて?」 アムロ「そうかもしれませんね。でもセイラさん、僕だって成長するというか、大人になるんですよ」 セイラ「それはそうね」 このタイミングを潮に、セイラは立ち上がった。 セイラ「ありがとう、アムロ。話を聞いてもらって、すこし気が楽になったわ。それじゃあ、また合い ましょう。決勝戦、頑張ってね」 アムロ「はい。こちらこそ久し振りにセイラさんに会えてよかった」 別れをかわして、去りゆくセイラの背に、アムロは最後に訊いてみた。 アムロ「あの、セイラさんは明日、シャアを見に行ったりはしないんですか?」 美しい金髪を揺らして振り返ったセイラは微笑んでいた。その笑みは、アムロにはどこか哀しそう に見えた。 セイラ「行ったとしても、失ってしまったものが明らかになるだけよ。思い出にわざわざ影を入れる こともないでしょう? わかって?」 アムロ「なんとなく……わかります。セイラさん、お元気で」 セイラのいなくなったテーブルで、アムロはひとり冷めたコーヒーを飲んだ。ほとんどいつもの 「シャイアン」の空気が戻ってきていたが、ふとアムロの鼻先に触れるセイラの香水の残り香が、 アムロにいつもと同じようにコーヒーを飲むことをさせなかった。アムロはそれがどこか嬉しくも あり、寂しくもある。妙な気持ちだけど嫌いじゃない、とアムロは自分に呟いた。 続く セイラとシャアの過去話はこのネタだけのものということで 214 名前:フットボール狂騒曲89・赤く輝く炎で(1)投稿日:03/10/30 05 44 ID ??? その日の夕方、最後の練習が行われた。練習は攻守とも連携の確認を中心とするものだ。アムロが <FCギム・ギンガナム>の相手に勝っている強みと考えたもの、明日の決勝に見出した活路、それ はチームとしての団結力だった。幸いなことに、ジュドーやキラが気を利かせて彼らの友人を連れて きてくれたおかげで11人のチームとしての練習もできた。特にキラの友人であるコーディネーター たちはその身体能力の高さゆえに、明日の決勝に向けた格好の練習相手になってくれた。そしてすべて のメニューを消化したのち、アムロは夜の闇のなかに自分たちだけを際立たせる照明の輝きの中、チーム 全体に締めの言葉を述べた。 アムロ「今日で練習も終わりだ。そして、明日が決勝。本番のそのまた本番だ。明日で全てがきまる。 この一ヶ月の意味、全てが。この中には、そのことを考えると怖くて仕方がないというもの もいるかもしれない。当然だ。あらゆる戦いには恐怖がつきものだからな。だが、それでも俺 は明日が来るのが待ち遠しい。なぜなら、明日は俺たちが勝利する日だからだ! 全力で戦って 勝利する、これほど心躍ることも他には無いだろう! それが、それが明日だ。俺たちは勝つ。 絶対に勝てる! 俺たちが勝利への意思を持ち続ければ!」 アムロは言い切った。チームの仲間たちを睨むように見回すと、始めはやや戸惑っていたような兄弟 たちの瞳が、今はどぎつい照明を反射したようにギラリと輝いている。 ロラン「勝てば、家計の問題も解決できます……!」 アムロ「そうだ、ロラン。俺たちは勝つためにやってきた。決してカッコつけるためにサッカーして きたんじゃあない。練習だって勝つために、勝つためにとやってきた。そういう練習は、必ず 勝利に近づいているものだ。届くはずだ。俺たちの手と足は、勝利に届く!」 いつものアムロからは決して出てこない熱い、熱い言葉。もはやアムロではないかのような。しかし、 そんなアムロの姿勢は、チームメイトの何かを、確かに揺さぶった。 シロー「アムロ兄さん、よく、よく言ってくれた。震えているぜ、体が、武者震いで……!」 ジュドー「決勝戦ほど勝たなきゃ意味の無いものもないしね」 ギム「勝利、それは武人の勲章。そして、勝利の無き武人は張子の虎よ」 キラ「それに、今日ここに来てくれた人たちみたいに、支えてくれた人たちのためにも、僕たちは勝た なければならないんだ」 215 名前:フットボール狂騒曲90・赤く輝く炎で(2)投稿日:03/10/30 05 47 ID ??? キラがにっこり笑ってそう言った瞬間、その場の空気がピシッと音を立てて、ひびが入ったかのよう になった。チームの全員が、ギロリとキラを睨んでいる。自分では上手く持っていけたと思っていた キラは、ただうろたえ、どうしてなんだと皆にせわしく視線を走らせた。そんなキラを、ドモンがカッと 一喝した。 ドモン「キラ、お前は何もわかっちゃいない! いいか、確かに支えてくれた人たちはいる。アムロ 兄さんやシロー兄さんは仕事のスケジュールで便宜をはかってもらっただろうし、俺も師匠と レインに世話になった。そして、今日はお前の友にも手を借りた。だが、だがなキラァ! 試合 でそういう人のためになんていうのは、せめて、せめて心の中の0.001パーセントだ! 百万歩譲ってな! そして自分のため、共に戦うチームメイトのためが99.999パーセントだ! 応援してくれたみんなのために、なんて言葉はな、勝った後のヒーローインタビューで言う言葉 なんだよ! 戦う前に、戦いの最中に心を割くものじゃあない、このバカががぁ!」 キラ「で、でも、声援を受けて、選手が頑張れる、ってことだって……」 ドモン「選手が声援に後押しされることはある! だが、それは声援を受けることによって、まだまだ 俺はやれると自分を鼓舞しているからだ! 必死で走る仲間の姿に、負けていられるか、と 思うからだ! いつかのどこかの誰かさんのためにやってるんじゃあない!」 キラ「そ、そうかもしれないけど……」 言いよどむキラは、連れてきた友人たちを助けを求めて振り返った。しかし、親友であるはずのおでこ 輝く友は大きな目を潤ませてこちらを見ているだけだ。 キラ「ちょ、ちょっと待ってよ、ただ僕は……」 ソシエ「いいこと言おうとしただけ、ってこと!? 違うのよ、あんたはそれが違うの!」 もの凄い剣幕でソシエがキラに叩き付けた。キラは、ソシエさん気合とか好きそうだもんな、とうろたえ、 でもリリーナさんなら今自分が感じている違和感をわかってくれるはず、と今度はリリーナに助けを 求める視線を送った。リリーナはキラに向かって微笑んだ。冷ややかな目で。 リリーナ「キラさんのことはわかります。あなたはわかったようなことをスマートな笑顔で言いたい のでしょう。それが格好のよいことだとでも思っているんでしょうね」 キラ「え? ぼ、僕はそんなつもりじゃないですよ!」 リリーナ「自覚がないのですね。では、はっきりと言わせていただきます。あなたの言葉はつまらない うえに薄っぺらいのです。あなたにはわたくしたちの心を揺さぶることはできません。真剣 になることを知らないあなたには……!」 キラ「僕は、僕は……」 キラはあんたが言うなよ、と言い返してやりたかったが、口が動かなかった。キラは完全に飲まれて いた。リリーナと、その後ろでリリーナに頷くチームメイトたちに。 キラ「……僕だけ、僕だけ仲間はずれか。僕が間違っているのか!」 カミーユ「そうだ! 今、この状況においては、お前が間違っている!」 216 名前:フットボール狂騒曲91・赤く輝く炎で(3)投稿日:03/10/30 05 50 ID ??? 厳しく言い放ったカミーユの言葉に、キラは打ちのめされ、力を失ってがっくりと膝をついた。よって たかって自分の言葉や考えを否定された衝撃が小さいわけがない。 キラ「なら、僕を見捨てればいいだろ。チームから、さ」 コウ「お前だってチームの一員だろうが! ニンジンみたいに要らない存在じゃないんだよ!」 ガロード「キラ兄にも俺たちと同じものが眠っているはずなんだ!」 シーブック「そしてそれが目覚めるのを待っている!」 アル「キラ兄ちゃん、立ちあがって!」 兄弟たちの強い励ましにも、キラは立ち上がれなかった。どうしても見つからないのだ。自分の中 にもあるという、何かが。 キラ「僕には、無理だよ……僕にはないんだ、みんなみたいには……」 キラの目から、涙がこぼれた。自分でもなぜ泣いたのかわからなかった。涙で曇る視界の中、キラは ドモンがあの必殺技のポーズをとったのを見た。 ドモン「……みんな! 俺に続いてくれ! なぜこうするのか、理由は、よく言えん!」 <FCギム・ギンガナム>の全員がドモンに応え、姿を同じくした。 「俺のこの手が真っ赤に燃える! 俺のこの手が真っ赤に燃える!! 勝利をつかめと轟き叫ぶ! 勝利をつかめと轟き叫ぶ!! 爆熱! 爆熱!! ゴッドフィンガァアアアア!!! 」 燃えている。ドモンとそれに続いたチーム全員の右手が燃えている。そんなはずはない、錯覚だと、 キラは涙を拭って見直してみたが、やはり、やはり燃えているのだ。 キラ「も、燃えている……!」 ドモン「見えるか、キラ! 見えるんだな!」 キラ「見える……見えるよ、ドモン兄さん、みんな。こ、こういう……こういうことだったんだね 僕は……コーチで、選手としてピッチには立てないのに、みんな、こんなに……」 キラは立ち上がり、あふれる涙とともに叫んだ。 キラ「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺! シャイニングフィンガァアア!」 キラの右手がまばゆい輝きを放った。仲間たちがそれに負けず輝いている瞳でみつめている。 ドモン「見事だ、キラ。お前の右手は確かに輝いているぞ!」 「みんな!」駆け寄るキラを、チームの皆が包みこむ。「キラァー!」 今、チームはひとつになった。 そして、キラの友人たちの思いもまたひとつだった。帰途、彼らは話し合った。キラとその兄弟との 付き合いを考え直さざるを得ない事態ではないのか、と。連中ときたら、右手を出し合って燃えている とか、輝いているとか、なんともなっていないはずなのにおかしなことを言い合っていた。完全にイって いたテンションもあるし、集団で麻薬でもやっているんじゃあないかという疑惑も浮上する。しかし、 結論としては、これからもキラと付き合っていこうということになった。 「キラはそんなことするヤツじゃない。みんな、友達を信じよう」 彼らのリーダー格である生え際の後退が続く少年が、スマートな笑顔でさわやかにそう言ったから。 続く いままでで一番めちゃくちゃな話になってしまいました。一応断わっておきますと、 みんなゴッドフィンガーやシャイニングフィンガーが使えるというわけではないです。 あと、すこし種のキャラを使いました。 222 名前:フットボール狂騒曲92・決勝の夜明け投稿日:03/11/01 03 45 ID ??? 月と星に美しく彩られた夜。ラインフォード家の御曹司グエンも、淡い明かりの灯るボストニア城の 私室で、夜空をひとり見上げていた。とっておきのワインの栓をあけ、グラスに注ぐ。官能的な赤が 磨き上げられた透明な器に踊った。この一杯は明日の勝利の前祝であり、彼の計画がここまでは 順調に進んだことへの祝杯でもある。 グエン「ローラ、いよいよ明日だね。君と私との麗しきひと時。緑の絨毯が舞台に、二人の野性的な 輪舞。待ちきれないとは言わない。やがて訪れる至福の瞬間を待つこの今も、また素晴らしい のだから。ああ、ローラ、ローラ、どうして君はローラなんだ。そしてどうしてこんなにも 私の心をかき乱すのだ、君だけが。胸に燃える野心さえかすんでしまいそうなほど……」 演劇調に綴られたグエンの想いは、ひとりきりの部屋にそっと響き、消えた。私としたことが柄にも ないことを、と呟き、ワインをすっと飲み下す。芳醇な香りが喉を下るなか、グエンは窓外に浮かぶ 下弦の月をじっとみつめた。まるで、彼のローラが輝く月の鏡にその姿を映したかのように。 土曜日。大会決勝戦の朝は、眩い朝日とともに明けた。雲ひとつない快晴。絶好のフットボール 日和である。 一家の母親役ロランは今日も誰よりも早くベッドから起きだした。ロランの頬はニコニコと緩んで いる。昨夜はいい夢を見た。憧れのディアナ様と二人、のんびりとした一日を過ごす、そんな夢だ。 夢の中でディアナ様はなんとひざまくらまでしてくれた。緑の草原、暖かな陽射し、青空をゆっくりと 流れる白い雲、心地よい風のふく涼しい木陰、そして暖かで柔らかな感触。目覚めて全てが幻だと 知った瞬間にはがっくりと肩を落としたものの、朝食の準備に取り掛かるロランの胸は緩やかに 弾んでいた。 朝8時、ウィークデーよりかなり遅めの朝食の時間にはいつもの土曜日と同じようにあの特撮番組 がテレビを占領する。ゲルマン忍法を使う忍者?シュバルツとヤーパン忍法をつかう忍者?ガウリ が悪に立ち向う『ツインニンジャー・スピリッツ』だ。今日は1時間スペシャルらしく、ネオドイツ のギャングがロシア奥地で作った麻薬をシベ鉄を使って運ぼうとするヤーパンのヤクザの悪行を打ち 砕く、といういつもより詰め込んだストーリーだった。 ドモン「シュバルツの奴も、生活費を稼ごうと大変だな。楽しんでやってそうだが……」 世間で有数の格闘家と騒がれようと、チボデーのボクシングのようにメジャーでもない格闘技を やっていると大変なものだ。もちろんボクシングとて稼げるのは頂点に立つほんの一部だけであるが。 シュバルツの場合は格闘家としての名誉にさほど興味がないのもあるかもしれない。 アル「でもシュバルツさん、この役以外出来ないと思うよ」 ドモン「まあ、奴は科学にも詳しいし、いざとなればどうとでも食っていけるんじゃないか」 画面の中ではそのシュバルツが、「ゲルマン忍法! 分身の術ぅ~!」のセリフとともにギャング 連中をかく乱してぶちのめし、ボォオオオンと、煙のような特殊効果とともに姿を消していた。 ギム「うむ、これは面白い。今度から毎週見ることにするのである」 シッキネン「御大将はもういい大人じゃないですか。これ、子供向け番組ですよ」 ギム「シッキネン、小生はいつになっても子供心を忘れない素敵な大人なのである」 カミーユ「お前の場合は大人になれてないだけだろ……」 カミーユのぼそりとした呟きはテレビからの「これぞヤーパン忍法、火炎車~!」の大音声にかき 消され、ギンガナムには聞こえなかったようだ。 その後、兄弟たちは軽い午前練習を行い、ここでソシエとリリーナが合流。しっかりと昼食を とった後、決勝戦の舞台となる市営スタジアムに移動した。ここまでは胸に緊張を抱えながらも、 できるだけ自然体に振舞ってきた兄弟たちだが、決戦の舞台への扉を前に、誰もが高鳴る鼓動 を自らの体のうちに刻んでいた。時刻は14時。15時のキックオフは1時間後に迫っている。 続く 特撮番組はシュバルツは説明不要として、ガウリ、ヤーパン、ヤーパン忍法、シベ鉄(シベリア鉄道) はキングゲイナーから。ガンダムではないですが、ここだけの小ネタ&トミーノ繋がりということで許して ください。 231 名前:フットボール狂騒曲93・戦いは何のために(1)投稿日:03/11/08 03 45 ID ??? ロッカールームに荷物を置いて一息入れると、兄弟たちは各々アップを行うために散っていった。 ジュドーとガロードが連れ立ってスタジアムの外周をジョギングをしていると、対戦相手である ジェリドとカクリコンのコンビ、それにジェリドの彼女であるマウアー・ファラオの姿が見えた。 ストレッチを行いながら何かを話している。ジュドーとガロードはさっと身を隠し、盗み聞きに 励むことで素早く同意した。 ジェリド「マウアー、見ていてくれよ。俺は今度こそカミーユを倒してみせる……!」 またそれかよ、とうんざりした表情で物陰のジュドーとガロードは肩をすくめる。 マウアー「ジェリド、カミーユにこだわりすぎないで。あなたはもっと大きなことが出来るはずよ。視野 を広く持つことが大事ではなくって?」 そうだ、そうだ、それがいい。ジュドーとガロードもこっそりマウアーに同意した。ところが、肝心の ジェリドは納得しなかった。 ジェリド「試合前にそんなことを言われても困る。それに、俺はカミーユを倒さないと一歩も前に 進めない男になっちまったんだ。あいつは、あいつは俺にとっての壁なんだ!」 それはお前の思い込みにすぎないだろこの粘着質、と二人は思った。 マウアー「そう。ならもう何も言わないわ。頑張ってね、ジェリド、カクリコン」 マウアーはジュドーとガロードの隠れている脇を通り過ぎ、観客席の方へと去っていった。二人は とりあえずもう少しジェリドたちの様子を伺うことにする。 ジェリド「マウアー……俺は勝つ、必ず」 マウアーの去っていったほうをみつめながら、ジェリドはぐっと拳を握った。ジェリドであるにも かかわらず、完全に主役モードである。 カクリコン「そういきり立つと逆にミスしちまうぞ」 ジェリド「そういうお前だって、賞金が必要だろうが。俺以上に気張ってるんじゃないのか」 カクリコンにも事情があるようだ。金が要るらしい。ジュドーとガロードは首をひねった。 カクリコン「ふん、お前みたいにたくさん髪があるやつには俺の気持ちはわかるまい。シャンプーする とな、抜け毛にビクビクすることになるんだぞ」 ジェリド「髪の毛ってのは抜けるように出来てるんだよ。あんまり気にするな」 カクリコン「お前は普通に生えてくるからそれでいいだろうが、俺は生やさなければならないんだ」 ジェリド「だから賞金でアーツネイチャー増毛コースか」 カクリコン「いつかお前にもわかる。アーツネイチャーが人類の希望だってことがな」 そう呟くとカクリコンは手鏡を取り出し、まるで光の反射で髪が抜けるのではというように、恐る 恐る神妙な顔つきで生え際をチェックした。盗み見ているジュドーたちは笑いをこらえるのに必死 である。 232 名前:フットボール狂騒曲94・戦いは何のために(2)投稿日:03/11/08 03 49 ID ??? しかし髪の毛が増えたカクリコンとはどういう容姿になるのだろうか。二人は想像してみた。ソフト モヒカンの2002年WCベッ○ムカクリコン。似合わない。ジョン・レ○ンな長髪カクリコン。似合わ ない。タモ○倶楽部ソラミミストのカクリコン。似合うとかそういう問題じゃない。 ガロード「全部駄目だろうが。他には無いのかよ、他には」 ジュドー「そうだな……身近な人間で探すか」 ロランふうカクリコン。気持ち悪い。ジェリドふうカクリコン。なんか違う。キエルふうカクリコン。 論外。ハマーンふうカクリコン。今までの中では意外といけるかもしれない。 ジュドー「結局駄目かなあ。やっぱりカクリコンは今のままのスタイルが……」 ガロード「いや、見つかったぞ! 有名人の、ブルース・ウィ○スふうカクリコン。似合うと思う」 ジュドー「ああ、そうか! じゃあニコ○ス・ケイジふうカクリコンもいけるな!」 カクリコン「ようは髪に危機が迫っているんだろうが!」 怒号にジュドーとガロードが振り向くと、そこには顔を真っ赤に染めたカクリコンと大笑いして いるジェリドの姿があった。どうやら調子に乗っているうちに大声を出していたようだ。 ジュドー「カ、カクリコン……いや、そのさ、悪気はなかったんだ……プッ、くくく」 カクリコン「生え際をみつめて笑うなあ!」 ガロード「いや、ほんとたまたまなんだって。悪かったよ、悪かったって。は、はひゃははは」 当然カッとなってジュドーたちに襲いかかろうとするカクリコンを、自分も肩をひくつかせながら ジェリドが抑える。 ジェリド「落ち着け、カクリコン。試合前に暴力沙汰はまずい。ふ、ふはは……って、おい貴様ら、 盗み聞きしてったってことは、俺とマウアーのやりとりもか?」 ジュドー「そりゃそうだけど、あんたとマウアーさんの仲はもう知ってるしね」 ガロード「とりたてて騒ぐこともないよな。ああ、羨ましいこって。俺もティファと……」 二人はそろって首を振った。ジェリドの恋の行方よりカクリコンの髪の行方だ。 ジェリド「ふん、カミーユに伝えておくんだな。今日こそ貴様が俺の前にひれ伏すんだと」 ガロード「そういうことは自分で言えよな」 すっかりいつもの調子に戻って偉そうに大口を叩くジェリドの横で、カクリコンは怒りと恥辱に肩 を震わせている。 ジュドー「あ、カクリコン。まあ、あんたの目的は秘密にしておくよ。こっそり少しずつ増やすんだろ」 カクリコン「本当だな」 ガロード「武士の情けってやつだ。髪の毛の悩みは深いって言うし、あんまり笑うのもなあ」 ジェリド「ところで、ジミヘン○リックスふうカクリコンはどうだ?」 話がまとまりかけたとき、ジェリドが唐突に言った。アフロかよ、とジュドーとガロードは吹き出す。 カクリコン「ジェリド、お前まで!」 ジュドー「いいね。ジェリドはエル○ィス・プレスリーなリーゼントだし」 ガロード「ジミ○ンのカクリコンと二人並べば完璧だ。アメリア大陸の二大スター参上だぜ。ぷっ」 ジェリド「ぼ、墓穴を掘ったか……」 続く わき道にそれてばっかりですが、この話の題材はサッカーです。多分。そろそろ 決勝戦を始めようと思っています。 239 名前:フットボール狂騒曲95・決戦の場所フィールドへ投稿日:03/11/16 23 05 ID ??? アムロ「これが今日の試合のスターティングメンバーだ」 FW:9ギンガナム MF:4カミーユ MF:10ジュドー MF:2シーブック MF:11ヒイロ MF:7ロラン DF:3ガロード DF:12:シッキネン DF:6シロー DF:5コウ GK:1ドモン フィールドに入る前のロッカールーム。すでに軽いアップを終え、ユニフォームに着替えた<FC ギム・ギンガナム>のメンバーたちに、監督でもあるアムロから先発の発表がなされた。と、即座に、 ウッソが質問を浴びせる。 ウッソ「どうして僕がスタメンから外れているんです!?」 これまでの2試合先発だったにも関わらず、決勝の大一番に外されたウッソの語気はやや荒い。 アムロ「お前は秘密兵器だ」 ウッソ「秘密兵器!? って、スラ○ダンクのノリでごまかさないで下さい!」 アムロ「言い換えれば、スーパーサブだ。お前の敏捷さを活かすために相手が疲れてきたところで 投入したいんだ。もともとお前は90分フルには走れない。なら、勝負どころで使いたい のさ」 ウッソ「そういうことなら……納得できます」 やや大人びた言い方で頷いたウッソからはなれたところで、ギンガナムがぼそりと呟いた。 ギム「勝負どころで使われるスーパーサブ……カッコイイかもしれん」 傍らのシッキネンが、ぽんと主君の肩を叩いた。御大将が言葉に騙されてどうするんですか、と。 アムロ「よし、じゃあそろそろフィールドにでるか」 アムロはぐるりと前に居並ぶチームメイトを見渡した。 アムロ「みんな、勝つぞ!」 おお! と怒号が部屋の空気を震わせた。気合十分。意気揚々と<FCギム・ギンガナム>は決戦の 舞台へと出陣した。 やや暗い地下道を抜けて、陽の照りつけるフィールドへ足を踏み入れる。鮮やかな緑の決闘場で この一ヶ月の意味が、賞金百万円の行方が、そして家計に苦しむ兄弟家の未来が決するのだ。 240 名前:フットボール狂騒曲96・決戦の場所フィールドへ(2)投稿日:03/11/16 23 07 ID ??? 試合前にピッチでボールを使った練習をする時間がすこしある。対戦相手の<ラインフォード・ ユナイテッド>はもう姿を現していた。グエン、ガトー、ジェリド、ゼクス、シロッコ、シャア……。 顔見知りばかりのそのチームが、兄弟たちを値踏みするようにみつめている。 フィールドに入った兄弟たちがまず最初にしたことは、スタンドにきょろきょろと目を走らせる ことだった。この試合を見にきてくれとそれぞれに声をかけたりしていたのである。 ――ガロード(ティファ……来てくれてる。ジャミルのおっさんも一緒か。まあ、そのほうが安全で いいよな。近頃は物騒だし、ティファはとんでもなく可愛いし……) ――カミーユ(フォウ、今日は最初から来てくれたのか。それにファもいる。あっちにいるのはサラと レコアさんか。シロッコの応援に来たんだな) ――コウ(来てるよ、シーマさんと先輩たち。勝たなきゃ、家計も危ないけど、俺も部に戻れない!) ――ジュドー(ビーチャ、モンド、イーノ、ルー、エル。お前たちとの特訓の成果、見せてやるからな) ――ウッソ(シャクティに、シュラクのお姉さんやマーベットさんまでいる。僕も結構人気あるな…… ってあれは、あれはカテジナさん! クロノクルさんの応援? 相変わらず綺麗で、怖い) ――シーブック(サムやドロシー、見にきたのか。やっぱりセシリーはいないな。店が忙しいものな) ――アムロ(セイラさんは来てないか。見に来ないって言ってたものな) 観客席に準決勝同様キエルやメシェーの姿を見つけて、ロランがフィールドに入ろうとすると、 「ロラン」 と、後ろから声がした。振り向くとソシエが何か言いたげにこちらをみつめている。 ロラン「なんです? ソシエお嬢さん」 ソシエ「そ、その、今日の試合、がんばりなさいよ」 ロラン「え、はい」 何を当たり前のことを、と呆けているロランの横では、シローが違うだろ、というように頭をふって いた。 ソシエ「だ、だからロラン、がんばってね」 ロラン「その、ソシエお嬢さんのためにも頑張ります。一緒に優勝しましょうね」 そう言ってにっこり笑うと、ロランは練習に参加しようと前を向きなおした。シローがロランの肩に 手を置いて呟いた。 シロー「ギリギリOKか、アウトか、どっちだろうな。全くお前は……」 ロラン「はい? ああ、さっきあっちのほうにアイナさんがいましたよ」 シロー「人のことはいいから。ま、そろそろ試合に集中するか……って、あれは!?」 シローの指差した先では、明らかに周りの観客とは色合いの違う集団が、スタンドの一角を占めて いた。その中に、ロランの知っている少女の姿があった。 ロラン「あの鈴の人、メリーベルさん?」 シロー「知ってるのか?」 ロラン「はい。ギンガナムさんの……あれ、ということは、あれ全部?」 ギム「そのとおりであ~る!」 ロランとシローの前にギンガナムが躍りでた。さっと後方の集団に手を上げる。すると管楽器が さっとあがり、映画『大脱走』のテーマを奏ではじめた。 ギム「メリーベル、スエッソンをはじめとした応援団、総勢100人! 我らの勝利のため声が嗄れる まで、体力尽きるまで応援する所存である!」 自慢げに大音声をあげるギンガナムを前に、ロランはひしひしと感じていた。ディアナ・ソレル様が ディアナカウンターを創設した理由を。 241 名前:フットボール狂騒曲97・決戦の場所フィールドへ(3)投稿日:03/11/16 23 11 ID ??? 試合会場に入ってきたとたんスタンドを見回してばかりいる<FCギム・ギンガナム>の面々を、 ガトーは気に入らなかった。勝負を前にして、何を気にするものがあろうか。 ガトー「ふん、このぶんではまともな勝負にはなるまい」 グエン「いえ、いざというときの彼らの集中力は馬鹿にできないものですよ」 隣のグエンが青い瞳を光らせながら言う。その目はどこを見ているのか。 グエン「それに……」 と、グエンがガトーに自分たち、<ラインフォード・ユナイテッド>のチームメイトたちを示す。 ――マシュマー(ハマーン様、来てくださったのですね。このマシュマー光栄の至り。勇気を出して お誘いしてよかった。見ていてください、あのバラにかけて私は……!) ――ギュネイ(クェス、どうせお前は大佐を見に来たんだろうが、今日、この試合で俺のほうが大佐 より凄いってことをわからせてやる) ――クロノクル(カテジナ……ここのところ私の立場がなくなってきているし、いいところを見せねば しかしやはり地球はほこりっぽい。マスクが欠かせんな。通気性は抜群だから競技に 問題はないが) ガトー「我々も同じか。情けない連中め」 グエン「まあ、いいではありませんか。やる気になっているようですし。もちろん私もね」 ゼクスは相手側のベンチにいる妹、リリーナを黙ってみつめていた。リリーナも沈黙のまま兄を じっと見据えている。ヒイロはそれを知りながらも、無言のまま黙々と練習に取り組む。 ドモンとチボデーもまた視線を交差させていた。しかし、こちらはリリーナとゼクスのように複雑 なことは何もない。ただ真っ直ぐに力をぶつけあってきた二人の、いつものやりとりである。 そんなふうなところもあったプレイヤーたちだが、試合開始が近づくにつれ、両チームの誰も観客 席や必要以上に相手へ目をやることがなくなり、試合にむけて練習に集中していく。 242 名前:フットボール狂騒曲98・決戦の場所フィールドへ(4)投稿日:03/11/16 23 13 ID ??? そしてついに試合開始時刻である15:00が訪れた。決勝だけは選手入場があり、両チームはもう フィールドに出ているのに、一度地下道に引っ込んでまた再入場するという滑稽なこととなった。 それでも正式な選手入場というものは身の引き締まるものなのか、入場曲である『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア MAIN TITLE』の流れる中、並んでフィールドに現われた両チームの選手の 姿は堂々たるものだった。スタンドの観客からも歓声が上がる。 整列した後、握手を交わしてスターティングメンバーの選手達はフィールドに散った。 <FCギム・ギンガナム> GK:1ドモン DF:5コウ DF:6シロー DF:12シッキネン DF:3ガロード MF:7ロラン MF:11ヒイロ MF:2シーブック MF:10ジュドー MF:4カミーユ FW:9ギンガナム ――――――――――――――――――――――――――― FW:9ガトー FW:13マシュマー MF:11ギュネイ MF:7ジェリド MF:10ゼクス MF:4グエン DF:3クロノクル DF:2カクリコン DF:6シロッコ DF:5ラカン GK:1チボデー <ラインフォード・ユナイテッドFC> 15:00をすこし回ったそのとき、キックオフの笛が鳴り響き、サッカー市民大会決勝戦、 <FCギム・ギンガナム>対<ラインフォード・ユナイテッドFC> の試合は始まった。 252 名前:フットボール狂騒曲99・ロングボールが巡る戦い投稿日:03/11/18 20 58 ID ??? 前半のキックオフは<ラインフォード・ユナイテッド>だ。まずはディフェンスラインにまでボールを 下げる。すぐさま、両チームの中盤が忙しく動き始めた。ボールをキープしていたシロッコは、その 中盤をすっ飛ばして前線にロングパスを出す。正確なボールがFWの9番ガトーに届き、ガトーは コウと競り合いながら後方のゼクスに頭でボールを落とした。と、そこをヒイロがスパリとカット。 こちらもまずはフリーのDFシローに戻す。シローの腕には白のユニフォームに青いキャプテン マークが輝く。 シロー「ロラン!」 シローはロランへとつなぐ。このロランを起点として前線にパスを繋ぐのが<FCギム・ギンガナム> の基本方針だ。しかし、ロランがボールを受けると同時に、グエンが体をよせて前を向かせまいと する。グエンの腕にも赤いユニフォームに黄色いキャプテンマークが映える。ピッタリとくっつく グエンのマークにロランは、囲まれる前にボールを後方のCBか、横のSBに流すしかない。 コウ「こっちだ!」 バックパスを受けたコウだが、敵FWからのプレッシャーにとにかく前に蹴りだすしかない。精度を 欠いたキックでは効果的な攻撃につながるわけもなく、簡単に<ラインフォード・U>にボールを 奪われてしまった。 兄弟たちもまた、中盤でのマークを厳しくしていこうと受けて立つ。そのため試合序盤は、お互い に中盤を省略して、ディフェンスラインから前線にロングフィードをだしあう形となった。 ここで、両チームの差がはっきりと出ることになる。まずひとつは身長差だ。<ラインフォード・ U>のほうがはるかに高さがある。空中戦では兄弟たちは簡単に競り負けてしまう。もちろん体を 当ててなんとかしようとしているのだが、勝負にならない。 さらにもうひとつはキックの精度の違いだ。フィードを出すのは兄弟たちならDFの誰か、相手は シロッコかクロノクルなのだが、シロッコたちのボールの方が正確なのである。おまけに<FCギム・ ギンガナム>のFWであるギンガナムはディフェンスをほとんどしない。 ジュドー「当れよ、ギム! 俺たちが行かなきゃしょうがないだろ!」 と同じく前にいるジュドーに怒鳴られても、申し訳程度に動くだけで相手に噛み付いていくことなど 絶対にありえないのだ。 前半4分<ラインフォード・U>は、シロッコからのロングフィードをマシュマーがシローに競り 勝って頭で落とした。走りこむガトーには横からコウがついていたが、ガトーはそれを強引に力で 吹き飛ばしてシュートを放つ。この強力な一撃はドモンがきっちりと正面で受け止める。これがこの 試合両チーム通じて始めてのシュートだった。 ガトー(正面で受け止められたか。横からのディフェンスでコースを限定されたからな) ドモン「よし、いくぞ!」 しかし、やはりまともなボールを前線に入れられないため、<FCギム・ギンガナム>はすぐに ボールを失い、今度はクロノクルのフィードから右サイドハーフのジェリドが中央に折り返して、 マシュマーが右足でシュート。シローがなんとか足に当てて防ぎ、ボールはゴールラインを割った。 コーナーキックだ。すなわち、身長の差が最も大きく影響するプレイである。 253 名前:フットボール狂騒曲100・フィールドの騎士?投稿日:03/11/18 21 00 ID ??? 右サイドからの<ラインフォード・U>のコーナーキック。キッカーは10番をつけたゼクスだ。 CBのシロッコやラカンも上がり、<FCギム・ギンガナム>のペナルティエリアにひしめく両軍 の選手たち。ゼクスの右足のキックがキーパーから離れる軌道を描いて迫る。ボールはマシュマー に正確に合わされている。身長に劣るマーカーのシローを軽々と上回り、マシュマーハヘディングで ボールを叩きつける。が、ドモンが鋭い反応を見せ、パンチングでボールを弾き出した。ボールは ペナルティエリア右前まで飛び、それをやや後方に控えていたギュネイが拾う。もらったとばかりに 右足を振り抜いてゴールを狙うギュネイ。しかしこれも素早く体勢を戻したドモンが横っ飛びでキャッチ。 連続の好セーブでピンチを切り抜ける。 ギュネイ「なんだと!?」 決定機を逃した驚きと忌々しさにギュネイが吐き捨てた。ドモンは少し間を置こうとボールを抱え 込む。と、そこにマシュマーが悠然と歩み寄ってきた。 何事か、とボールをぎゅっとつかんだままドモンが顔をしかめると、マシュマーは白い歯を見せて にっこりと笑いながら右手を差し出した。 マシュマー「青年、今のセービングは素晴らしかった。このマシュマーの相手にとって不足なし。良い 試合をしようではないか」 ドモンも右手を差し出してマシュマーと握手を交わした。強力をこめて。とたんに、マシュマーの 顔が苦痛に歪む。 マシュマー「ぐ、おお、この……礼儀知らずめ。い、痛い」 ドモン「握手やサインがいるんなら、試合が終わってからにしてくれ。つまり、お前が負けた後にな」 ニッと笑ってドモンはマシュマーに背を向け、前方へボールをスローイングした。 マシュマー「ええい、審判、これは非紳士的行為だ! あんな騎士道精神を持ち合わせていない者は 退場処分にしろ!」 わめくマシュマーだが、主審も想定外の事態だからか相手にしない。手を振って、ばかばかしいこと を言っているんじゃあないと返す。マシュマーは振り返ってドモンを睨みつけてきたが、いきなり頭 を振ると呟きだした。 マシュマー「いかんいかん。冷静になるのだ、マシュマー。ハマーン様の御前で見苦しい姿を見せる 訳にはいかないであろうが」 ドモンは、こいつは馬鹿か? それとも油断を誘うつもりか? と眉を寄せた。 254 名前:フットボール狂騒曲101・グエン奮戦投稿日:03/11/18 21 04 ID ??? 試合は<ラインフォード・U>有利に進んでいる。その原因はロランを抑えられているところに ある、とベンチに座るアムロは見ていた。 高さとディフェンスラインからのフィードの正確性に劣る<FCギム・ギンガナム>は放り込み あいでは不利だ。ならばパスを回して相手を崩したいところだが、前線と後方を繋ぐ役目をしている ロランが、グエンにピッタリとマンマークされて機能していない。攻撃の起点が完全につぶされて いる。もちろん他の選手がフォローに行くのだが、攻め手が後手後手に回っていては得点の匂いが するプレイなどできはしない。実際、これまでセンターフォワードのギンガナムと、その後ろに ポジションを取るジュドーにいい形でボールが入ったことは一度も無い。 アムロ「このままじゃまずいな。それにしても、まさかグエン卿があんなプレイをするとは……」 アムロは意外だった。華やかで洗練されたグエン卿が、とにかく相手に喰らいついて、ときには わざとファウルを犯してまでマーカーを離さない、そんな地味で泥臭い役割を自ら行うとは。 アムロ「うん? 喰らいついて、離さない……ロランを……」 まさか、とアムロはグエンへと視線を飛ばした。 アムロ「趣味か!?」 グエンががちりとロランに体を寄せて、動きの自由を奪う。そのグエンの表情には苦しさなど微塵 もない。むしろ口元を軽く緩ませて、楽しんでいる雰囲気すらある。いや、事実グエンは楽しんで いるのだった。 通常、グエンがロランにぴたりとくっつけば、すぐに邪魔者が現われる。それは兄弟たちの誰か だったり、ソシエだったり、理不尽な運命そのものだったりするわけだが、今回は違う。グエンは サッカーをしているだけだ。もちろん、ロランも。いくら二人が体を寄せあい、ぶつけ合い、もつれ あって倒れたとしても、それは全てプレイのうちだ。誰もグエンを止めるものはいない。グエンに とっては、ちょっとした天国である。汗に濡れたローラを力いっぱい抱きしめてもいいのだ。笛が 鳴るが。 グエン(ローラ、今日は君を離しはしない。ずっと私のそばにいてもらうよ!) これこそが、グエンが大会に参加した真の理由のひとつである。地域住民との交流など嘘八百だ。彼が 交流したいのは、想い人のローラ・ローラただ一人である。 だが、グエンは決して手を抜いてなどはいない。きっちりと<ラインフォード・U>のプレイヤー としての役割も果たしている。義理だ。これまで彼はチームメイトに嘘をついてきたわけだ。ローラと 心置きなくくっつきたいから、などという理由で他人がついてくるわけがないので、地域のためなど というお題目を掲げた。そして<ラインフォード・U>のメンバーたちは、それを信じてくれたか どうかはともかく、今、自分と共にプレイしてくれているのだ。ならば、グエンはその仲間たちの ために戦わねばならない義理がある。一人の男グエンとしての義務がある。ローラのために手心を 加えるなどということは、あってはならないのだ。 グエン(他人のためではない、自分の中にある意地のためだ。ローラ、私は男だ! だからたとえ君 といえども、やる!) 端正な顔に決意を漲らせ、グエンは彼のローラの足を、ガッと削った。 前半15分の時点で、<ラインフォード・U>は最初のコーナーキック後にも2本のシュートを 放っていた。対する<FCギム・ギンガナム>は、まだ一本のシュートも打ってはいない。 続く 267 名前:フットボール狂騒曲102・ジュドーの決意投稿日:03/11/30 05 46 ID ??? 前半の3分の1が経過したが、前線の選手はシュートにいくチャンスさえ回ってきていない。 こういうときプレイヤーは、ずるずると後ろに下がってきてボールをもらおうとする。というか、 とにかくボールに触りたいのだ。アムロもそれを危惧していたが、はたしてジュドーがロラン やヒイロと同じ位置まで下がってきた。 アムロ「駄目だ、それじゃ前線が薄くなる!」 ベンチでアムロが叫んだ。が、アムロの心配とは裏腹に<FCギム・ギンガナム>を取り巻く 状況は好転してきた。ジュドーが後ろに下がってパスを受けるようになったことで、相手もロラン のマークだけを強化しておくわけにもいかなくなり、結果、パスがスムーズに回り始めたのだ。 さらに、ジュドーは両サイドのカミーユとシーブックにボールが渡るなどすれば、一気に前へ走る。 下がってビルドアップに加わったうえに全速力で上がることにより、前線が薄くなることも避けようと いうプレイである。 アムロ「しかし、これは運動量が多すぎる。最後までは持たないぞ、ジュドー……」 14という年齢からすれば体格も体力もかなり恵まれているジュドーだが、これまでの90分フル出場 は上手くサボりつつなんとか、という面もあった。今のプレイを続ければ間違いなく途中でスタミナが 尽きてしまうだろう。 ジュドーもそれは自覚している。だが、今やらなければこのままなし崩しにやられてしまうだけだ。 そう思い、ジュドーは賭けに出たのだ。 ジュドー(俺はやるだけやって燃え尽きればいい! アムロ兄もウッソもベンチに控えてるんだ) カミーユが中に折り返したボールを、後方から駆け上がったジュドーがトラップしてシュート。 ゴールの枠を右に外れたが、ようやく<FCギム・ギンガナム>に初シュートが生まれた。 続く 早めに続きを書くといったくせに、もう10日以上も明けてしまい申し訳ありません。 とりあえず今はこれだけですが、必ず今日中に続きを貼ります。これは守ります。 270 名前:フットボール狂騒曲103・ジュドー、一撃!!投稿日:03/12/01 00 22 ID ??? ジュドーが後先考えずに飛ばし始めたのと同時に、<ラインフォード・ユナイテッド>は体力の 温存を考えて、プレッシングを控え目にしようとしていた。それがかみ合って、ジュドーの運動量 が中盤の支配権を<FCギム・ギンガナム>にもたらすか、という状況が生まれつつあった。 もちろん、<ラインフォード・ユナイテッド>とて指をくわえてそれを許すわけではない。中盤で パスを繋ぎ、最後にはゼクスがミドルシュート。だが、これもドモンが正面で受け止めた。ならば、と 後方からロングボールを放り込むが、こちらはシュートまでもいかない。これまでこの攻撃を繰り 返してきただけに、もはや単調になって、シローやコウなど兄弟たちの側も対応になれてきたので ある。 逆に<FCギム・ギンガナム>は、ジュドーの献身的な動きで攻撃のリズムが生まれつつあった。 そして前半25分、下がってきたジュドーからロラン、ロランから左サイドのシーブックとボール が渡った。反対側の右サイドハーフであるカミーユが中央に切れ込み、さらにペナルティエリア左へ 流れる。やや左サイドよりにポジションを取っていたFWのギンガナムが逆に右に流れる。二人の 軌道は交わり、クロスを描く。<ラインフォード・ユナイテッド>のセンターバック、ラカンとシロッコ がそれぞれカミーユとギムをマークしようと合わせて動いた。シーブックがボールを奪いに来た クロノクルと上手く間をとってクロスをあげようとする。ギンガナムかカミーユか、どちらだ? と シロッコとラカンの二人が体をぴたりとマーカーに寄せたとき、GKのチボデーが叫んだ。 チボデー「つられるな! 後ろだぁあ!」 後方からジュドーが駆け上がってきたのだ。シーブックからジュドーにパスが渡り、ジュドーは 無人のピッチ中央を突き進む。DFは間に合わない、自分が止めるしかない、とチボデーが飛び 出した。ジュドーは不敵なほど落ち着きはらい、すこしタイミングをおいた。そして、 ジュドー(ここだ!) と右足をふり抜いた。チボデーはその瞬間に飛び込み、シュートを止めようとした。が、 ――――ループシュートだと!? ボールはチボデーを小馬鹿にするように緩やかな弧を描いてゴールへ吸い込まれた。チボデーは無様 に棒立ちになりながら、それを振り返って見るしかなかった。決まった~! と少ない観客から歓声が あがり、ジュドーはその観客の中からビーチャ、モンド、エル、ルー、イーノたち仲間を探し出すと、ぐっと 右腕を突き上げて喜びを表した。このループシュートこそ、ジュドーが練習していた必殺技なのだ。 そのジュドーに、周囲からチームメイトが駆け寄る。 シーブック「おまえってやつは天才だな! はは!」 ジュドー「ナイスパス、シーブック。いや~、なんとなくできちゃうんだよね~。練習もしたし」 ギム「小生たちがスペースを作ってやったおかげだというのだ! 第一小生とてループシュートぐらい できるのであるからな」 その歓喜の声を聞きながら、チボデーは拳を震わせていた。この大会初の失点。屈辱を味わうのは、 これが初めてだ。 チボデー「ガッデム!」 感情もあらわに、ポストを蹴り上げる。 この試合、チボデーにはシュートを受けるということがこれまで無かった。キーパーは相手のシュート やクロスからゴールをセーブしてこそ、リズムに乗れる側面がある。その機会が一度も訪れていなかった ほどチームが押していたことが、チボデーにとっては災いしたのだ。 前半の半分をすぎたところで、スコアは1-0。ジュドーのゴールで序盤は押されていた<FCギム・ ギンガナム>が先制した。 続く 午前0時をすぎてしまいましたが、オマケしてください。 289 名前:フットボール狂騒曲104・守りのふたり投稿日:03/12/12 23 37 ID ??? FC<ギム・ギンガナム>はリードを奪った後、ジュドーを中心にパスを回して攻撃のリズムを 作り出す。フィールド中央で細かいパスを小気味良く繋ぎ、最後にギンガナムへとグラウンダーの 縦パスが通った。反転してシュートに持ち込もうというギム。が、ここはシロッコが上手く体を入れて、 ギムに仕事をさせなかった。もたついたギムからフォローに来たラカンがボールをカットし、前方へ 蹴りだす。精度を欠いたボールがラインを割った隙に、シロッコはギムの耳元で囁いた。 シロッコ「事故は2度も起きないものだ。期待しないほうがいい。」 先ほどの失点にも動揺したそぶりがない不敵な言葉。もはや貴様には何もさせない、というシロッコ の意思表示を受け、単純な回路で構成されているギンガナムの頭に、怒りと不快の電流が ピキンと走った。 ギム「ほう。今さっき失点したばかりのくせによく言う。記憶力に欠けているのであるか?」 シロッコ「ジュドー、やつは厄介だ。我々にはちょうど捕まえにくいところにポジションをとっている。 が、無理をして走りまわっているから長くはもたんし、やや後方へ下がることによってゴール から遠くなっているのもまた事実」 ギム「ふん、アホの言うことだな。前線にエースストライカーの小生がいればなんの問題も無い!」 シロッコ「前線に一人残るのが貴様だから、さ。まあ、どちらが愚かかはいずれわかることだ」 ギム「それはそうであるなあ。うむ、わからせてあげようではないか。お前がアホだということを」 ギンガナムは負けじと言い返した。シロッコはニヤリと不気味な笑みを浮かべて去っていった。 試合は、両チームがそれぞれの武器を生かして攻めあう展開となった。前半30分、兄弟たちは、 カミーユが左サイドから中央へとドリブルで切りこみ、そのままミドルシュート。ゴール左下の隅 を襲う素晴らしいシュートだったが、ラインフォードのGK、チボデーが横っ飛びで見事にかき出す。 続いてのコーナーキックもきっちりとキャッチしてゴールを守り、この試合前まで無失点だった意地 を見せた。<ラインフォード・ユナイテッド>もその2分後、再三のロングボールをマシュマーが頭で 落として、ガトーがシュートを放つ。だが、ライバルチボデーに負けるか、と兄弟たちのGKドモン が正面でがっちり受け止めた。それを見て、監督でもあるアムロはベンチで思わず感嘆の唸りをもら した。 アムロ「ドモンのやつ、今のプレイだけに限らず、今日は相手のシュートコースにきっちりと入って いる。一ヶ月の練習と少しの試合だけで……」 ドモンの持って生まれた才能が並外れたものであることを、あらためてアムロは感じていた。才能、 といえば、とさらにアムロは、もうひとりの弟へ頭をめぐらした。視線の先にはヒイロだ。守備的MF をやっているヒイロは、小柄ながら大人顔負けの運動量とあたりの強さで、確実に相手の攻撃を断ち きっている。危険を察知する能力にも優れていたようで、危ないところには必ず顔を出していた。 <ラインフォード・ユナイテッド>の放り込みが得点につながっていない理由のひとつは、ガトーと マシュマー、長身の二人がボールを落としても、落下点をいち早く察したヒイロが邪魔に入っている 場合が多いからだ。また、ヒイロが中盤でのパス回しの大きな障害であるからこそ、ラインフォード はロングフィードによる放り込みを選択せざるをえない。 アムロ「ディフェンスはドモンとヒイロが引っ張っているな」 高さで大きく劣るというハンデを抱えながら戦うのは、二人のうちどちらがかけても無理であろう。 チームのポジションを決めたときにこの二人を守備に回したのは間違っていなかった、とアムロは 胸のうちで密かに、しかし大きく頷いた。 290 名前:フットボール狂騒曲105・ヒイロフィールドに散る投稿日:03/12/12 23 41 ID ??? 前半も残り10分となった35分、またもカミーユが左サイドを破ってクロスをあげた。中央に待ち 構えていたギムがラカンとの競り合いを制し、後方から走りこんでくるジュドーに落とす。チャンスだ、 と観客や兄弟たちも色めきたったが、ラインフォードのCB、シロッコがさっとカットして、素早く 前方へパスを出した。ギンガナムを挑発するかのようなことを言ったシロッコだったが、ギンガナム を密着してマークしているわけではない。ギムへのマンマークを行っているのは、もうひとりのCB ラカンである。シロッコは後方にひとり余っていることもあれば、中盤の底に顔を出すこともあった。 シロッコのパスはゼクス、右SHのジェリドと渡った。ロングボールが多いためになかなかパスが 回ってこず、ジェリドはボールを触るのも久し振りだ。敵視しているカミーユが続けてこちらのサイド を破っている。負けてはいられない。ジェリドは、ボールを奪いにきたガロードにフェイントをかけて 抜き去ろうとした。上手く左右に揺さぶって、敵DFをかわした。そうジェリドが思ったと同時に、 ボールはあっけなく後ろに控えていたもうひとりの敵プレイヤーに奪われていた。ヒイロだ。抜け目 なく隙を狙っていたのである。そのヒイロのボールを奪った後の涼しい横顔を視界におさめた瞬間、 ジェリドはカッとなって我を忘れた。 ジェリド「こ、このぉ!」 斜め後ろから完全に足を狙ったタックルにいき、軸足を刈った。カミーユに負けたくない、という気持ち が焦りになり、焦りが功を奪われたという怒りになったのだ。強く響いた主審の笛にジェリドがはっとして 我を取り戻すと、左ひざを抱えて倒れ込んでいるヒイロがいた。困惑して見下ろしているジェリドと苦痛に 顔を歪めるヒイロの周りへ、慌てるように両チームの選手たちと主審が駆け寄ってくる。 カミーユ「ジェリド、お前みたいな奴がいるから! 修正してやる~!」 シーブック「落ち着けカミーユ! 殴ったら退場させられるぞ!」 頭に血が上ってジェリドにつかみかかろうとしたカミーユを、シーブックが後ろから抑えてなだめる。 ジェリドは目を剥いて応じた。 ジェリド「俺だってわざとやろうとしたわけじゃない!」 自分が悪いことはジェリドとて重々自覚しているが、カミーユ相手にはどんな形でさえ譲りたくない のだ。ガロードがジェリドの言葉に激昂する。 ガロード「おい、わざとじゃなけりゃ許されるって訳じゃないだろうがよ!」 ジェリド「そ、それはわかっている。ついカットなっちまって……悪かったな、坊主」 ヒイロは、ジェリドの一応の謝罪にも反応せずに、ただ左ひざをかばっていた。 シロー「ヒイロ、大丈夫か?」 ヒイロ「問題ない」 シローの問いかけにお決まりのセリフを返したものの、ヒイロの顔はわずかだがゆがんでいた。 291 名前:フットボール狂騒曲106・謎の覆面ドクター投稿日:03/12/12 23 44 ID ??? ジェリドには主審からイエローカードが出された。レッドでもいいだろ、とカミーユが主張するが、 それは聞き届けられない。さらに、ヒイロのためにドクターが呼ばれた。素早く担架と共にドクター が現われる。しかし、その瞬間敵味方全員があっけにとられてその男をみつめた。マスクをしている。 顔全体を覆う、黒赤黄色のドイツ国旗のようなマスクを。角も、ついていた。 ドモン「シュ、シュバルツ!?」 シュバルツ「甘いぞ、ドモン! 私はスポーツ医学にも通じているんだ!」 コウ「ど、どうしてシュバルツさんが?」 シュバルツ「昔から言うだろう、我がドイツの医学薬学は世界一ィィィ! と」 コウ「ごく、一部でね」 シュバルツ「まあ、医学といえばドイツ。ドイツといえばゲルマン忍者、ということだ」 ロラン「後半は絶対違う……あの、その角、近くで話していると、刺さるんじゃないかって怖いですね」 シュバルツ「まあ、ヒイロ君は私に任せろ! さあ、試合再開のためにピッチ外へ運び出さなくては」 ヒイロはピッチの外へと運び出された。そのヒイロの元へ<FCギム・ギンガナム>のベンチから リリーナとソシエとアルが駆けてくる。リリーナは、ヒイロの顔を覗き込むと、心配そうに訊いた。 リリーナ「ヒイロ、痛むのですか?」 ヒイロ「問題ない」 ヒイロは、それしか言わない。 シュバルツ「おそらく、タックルを受けたときに膝の靭帯にダメージを受けたのだろう」 体重のかかった軸足を、無防備な後ろからやられたのだから、たまらない。 アムロはベンチでウッソと共にアップを始めた。交代という選択肢もあったが、一応様子を見た のは、ヒイロがディフェンスの中心で絶対に代わりのいない選手だからだ。出れるのなら、という希望 を捨てきれないのである。 前半残り10分、<FCギム・ギンガナム>は一時的に10人で戦うこととなった。 続く ペースが遅くてすいません。頑張る、って言ってからますます遅くなってしまった。 302 名前:フットボール狂騒曲107・逆襲ラインフォード投稿日:03/12/21 04 33 ID ??? ディフェンスの核であるヒイロを欠き、10人になってしまった<FCギム・ギンガナム>へ、同点 にするチャンスだと、勇躍して<ラインフォード・ユナイテッド>が襲いかかる。 ヒイロが抜けたことによってゆるくなった中盤のディフェンスを切り裂いてパスが回り、ガトーへと 縦パスが通った。食らいつこうとするコウを弾き飛ばして、ガトーが猛然とゴールへ突進する。シロー がマシュマーへのマークを捨ててカバーに向かったが、一足早くガトーの右足が振りぬかれた。鋭い 一撃がゴール向かって右隅への軌道を描く。 ドモンの体がさっと左に弾け、左手がシュートの弾道を強引に断ち切る。弾いた。こぼれたボール を詰められたら、やられる。ドモンは覚悟していたが、もうひとりの敵FWであるマシュマーは、立ち 止まって手を広げ、フリーになった自分にパスをしろとアピールしていた。他の選手がやや離れた ところから突っ込んでくる。ドモンは素早くボールを抱え込んだ。 ガトーは頭にきた。こぼれ球を詰めようとマシュマーが走りこんでいれば、1点取れていたのだ。 ガトー「君もFWだろう! FWならば点を取るためにものを見ろ!」 マシュマー「私にパスを出しておけばよかったのだ。フリーだったのだぞ」 分が悪くとも、マシュマーは言いかえす。二人の相性は悪い。また後半にエドワウことシャアが投入 される場合、FW同士の交代となるとガトーかマシュマーのどちらかが下げられる。ゴールを奪い、 自分のほうが役に立つということを示さねばならない。その状況が両者の関係を悪化させていた。 マシュマー(今のプレイで私の評価に悪影響が出たかもしれん。準決勝では私が下げられているしな。 見に来ていただいたハマーン様の御前にて、無様な格好をさらすわけにはいかん。次こそは……) そのマシュマーにもチャンスが来た。シロッコからのロングフィードを受けた<ラインフォード・ ユナイテッド>左SHギュネイがシッキネンをかわして上げたクロスを、マシュマーが真ん中にフリー で待ち構える。長身を飛び上がらせ、マシュマーはヘディングシュートにいく。後方の選手たちが 得点を確信するなか、ボールはクロスバーを越えていった。 チボデー「や、やっちまいやがった」 思わず、ラインフォードのGKチボデーは呟いた。 マシュマーは、外したとわかった瞬間、天を仰ぎ、それからスタンドに哀願するような目を向けた。 彼の女王、ハマーン・カーンは怒ってはいなかった。がっかりしてもいなかった。あれは、ほっと安堵 した表情だ。マシュマーにはわかった。それほどはっきり顔に出していたわけではないが、誰よりも、 ハマーンの一挙一動に注目し、一喜一憂しているマシュマーである。わからないはずがない。なぜ、 ほっとしていたのか。 マシュマー「まさか、ハマーン様が応援しているのは私ではないのか? いや、そんな……」 マシュマーの不安とは全く関係なく、<ラインフォード・ユナイテッド>自体は再びゲームを支配 していた。 303 名前:フットボール狂騒曲108・守備崩壊投稿日:03/12/21 04 38 ID ??? ヒイロの不在が、<FCギム・ギンガナム>に重くのしかかっていた。ヒイロがいないのならば、 自分たち自身で何とかしなくてはならない。それは皆わかっている。だが、失点を怖れるあまりゴール 前に引きすぎて、そのせいで軽快にパスを回されていた。おまけに、引いているくせにマークが しっかりしておらず、マシュマーをフリーにしたり、ガトーに弾き飛ばされたりとまるっきり浮き足 だっている。ヒイロがいないということが、パニック状態を引き起こしていた。簡単なこと、当たり前 のことができなくなると、もう、まずい。 アムロ「落ち着け! 落ち着いて声をだせ! お互い声を出しあうんだ! マークを確認しろ!」 アムロは叫んだ。その後、親指の爪を噛んだ。アムロは迷っていた。ヒイロを待つか、それとも交代 してしまうか。自分の意図がはっきりしていないから、混乱を助長しているのかもしれない。そこまで わかりながらも、アムロは決断を下せない。アムロもまた、落ち着きを欠いていた。 守備だけではない。攻撃もうまくいかなかった。時間を稼ぐためにボールキープをしようとも、ギム は足もとの技術はなく、ポストプレーをしても、引きこもった守備のせいでパスを出すところが限ら れている。ジュドーもヒイロの代わりとかなり後ろに下がっていて、シーブックも守備にかかりきり。 カミーユに至っては、状況を理解せずに無理なドリブル突破を図って自滅していた。 完全に歯車のかみ合わなくなった兄弟たちを、<ラインフォード・ユナイテッド>が追い詰める。 左サイドをギュネイからクロノクルのパスで破ると、クロノクルがクロスを入れる。<FCギム・ ギンガナム>ペナルティエリア中央は、競り合いの末にシローがなんとか前方にボールを蹴りだすが、 中途半端な浮き球だ。それを拾ったラインフォードのゼクスがミドルシュートを放つ。このシュート は密集していた選手の壁に阻まれたが、セカンドボールを拾ったのは、ラインフォードCBシロッコ だった。CBでも、<FCギム・ギンガナム>の攻め手が欠けたぶん、リスクなくオーバーラップ できる。マークしている選手はいない。シロッコはゴールから30メートルのほぼ中央、フリーで ミドルシュートを放った。 眼前をごちゃつく敵味方の選手に視界を阻まれながらも、ドモンは体を横に倒し、何とかシュート を弾いた。シュートを打つ瞬間が見えなかったので、それが精一杯だった。クリア! 心中に叫び ながらボールを追ったドモンの目に飛び込んできたのは、ゴールに向かって振りぬかれんとする、 足だった。瞬間、とっさに飛びつこうとしても、体勢は崩れている。ほんの目の前で、ドモンは見ていた。 つかまなければならないボールが、この両腕に収まっているべきボールが、ゴールへと叩き込まれるのを。 「ぬぉおおおおおお!」 ガトーは、誰をはばかることなく、吼え、高らかに右拳を突き上げた。ゴールを奪った選手の、当然の 権利だ。 前半43分、試合はガトーのゴールで<ラインフォード・ユナイテッド>が追いつき、1-1の同点となった。 続く 311 名前:フットボール狂騒曲109・ドモンの声投稿日:03/12/23 17 09 ID ??? 前半残りわずか、というところで追いつかれた<FCギム・ギンガナム>。各選手たちの顔に背に、 色濃く失意の影が落ちた。「このままもう1点とるぞ!」という<ラインフォード・ユナイテッド>の 選手たちの声が響く中、下を向き、がっくりと肩を落とす者も少なくない。 ドモンは、さっと、ゴールの中に居座っていたボールを抱き上げた。そして、 ドモン「下を向くんじゃない! 落ち込んでいる暇なんざないだろうが! 顔を上げろ! 敵を見ろ! ここで頑張らないで、いつ頑張るってんだ!」 吼えた。怒声ともいえるありったけの大声に、皆がはっとして、反射的に顔を上げた。ドモンはその 際に、前方へボールを放った。 シローが顔を上げたとたん、ドモンからボールが飛んできた。慌ててそれを受けると同時に、自ら の腕に巻かれている青い腕章が、シローの目に入った。キャプテンマーク。俺は何のためにこいつを 着けているんだ。点を取られて一番辛いのは、キーパーのドモンなのだ。そのドモンが誰よりも早く チームメイトを励ました。 シロー(自分は、キャプテンじゃないか) シローはぎゅっと、唇を噛み締めた。胸を張って、大声で呼びかけた。 シロー「みんな、ここは大きいぞ! 前半は最低でも同点で折り返すんだ! 相手の勢いに呑まれるなよ!」 周りの仲間たちも、呼応していく。 コウ「よし、まずはマークの確認だ! 声出すぞ!」 手を叩きながらコウが言えば、 ロラン「無理に攻めないで、ボールをキープして時間を稼ごう!」 とロランも続ける。 <FCギム・ギンガナム>は声を掛けあった。ハーフタイムまで、持ちこたえる。はっきりとした 短期目標を定めたことが、動揺からの迅速な回復をもたらし、チーム全員の意思を統一した。 試合の流れそのものは、いまだ<ラインフォード・ユナイテッド>に傾いている。いくらまとまり を取り戻したところで、いきなり流れまでは変えられない。試合再開後も、ラインフォードが押し込む シーンが続く。 しかし、今までと違うのは、最後の一線で<FCギム・ギンガナム>が譲らなくなったことである。 センターでボールを受けようとするガトーやマシュマーに対して、コウやシローが常に警戒し、必死に 食らいついてマークする。 声も出ている。「落ち着け! 敵来てないよ!」 「いったん戻せ!」 「あたれ! あたっていけ!」 「飛び込んでいいよ! 後ろオーケーだ!」など飛びかう声の効果もあってか、浮ついたプレイも無い。 312 名前:フットボール狂騒曲110・前半の果て投稿日:03/12/23 17 19 ID ??? それでも、押しているのは<ラインフォード・ユナイテッド>だ。ジェリドの右からのクロスを、 マシュマーが頭で押しこもうと飛んだ。シローが上手くタイミングを合わせて、競り勝てないまでも、 マシュマーの体勢を崩してヘディングにいかせない。ボールは逆サイドに流れ、それを拾ったギュネイ が、地を這うパスを中央のエリアやや後ろに出し、走りこんだグエンがミドルシュート。コウが足を いっぱいに伸ばしてカットする。ロランが素早くこぼれ球をフォローし、とにかくも前に蹴りだした。 ロランのクリアボールは、偶然、前にいた右SHのシーブックに繋がった。勢いに乗って追加点を 取ってしまいたい<ラインフォード・ユナイテッド>は前がかりになっていた。守備に隙がある。 シーブックは、ディフェンスが整ってしまうまえに、早めのクロスボールをギンガナムの頭めがけて 打ちだした。高めに弧を描いたボールに、ギンガナムが走りこもうとする。ラインフォードのCBは、 シロッコは上がっており、ラカンは気を抜いていた。転がりこんできたチャンスに、ギンガナムは 文字通り飛びついていく。 望みは、あっけなく潰えた。チボデーがきっちりと飛び出し、パンチングでクロスを弾き出した のだ。慌てて戻ってきたシロッコが、ボールを拾った。と、切れ長の目を光らせ、一気に前線へと ロングフィードを出す。 すでに、前半はロスタイムに突入して2分ほどが経過していた。ヒイロの負傷があって、長めの ロスタイムになっている。最後のチャンス、とシロッコからのボールを受けるマシュマーに気合が入る。 同時に、ガトーへの対抗心とスタンドのハマーンの姿が、マシュマーの意識を駆け巡る。ようするに、 目の前のボールに集中していなかった。ささっと、シローがボールを掠め取る。 そこで、拍子抜けとシローも隙を作ってしまった。ワンテンポ遅く、パスを出そうとした。ガトーが 狙っていた。足を伸ばしてパスをカット。跳ね返ったボールが、<FCギム・ギンガナム>のペナルティ エリアでバウンドする。 とっさにマシュマーが反応してスライディングで押し込もうとする。だが一手早くドモンが飛び込み、 グラウンドにうつぶせになりながら、ボールを抱え込んだ。そのとき、突っ込んできたマシュマーの スパイクが、ドモンの右腕にまともに入ってしまった。笛が鳴り、マシュマーがキーパーチャージ の反則を取られた。 マシュマー「すまない。わざとではないのだ」 ドモン「わかっている。気にするな」 軽いやりとりの後、マシュマーはまたスタンドのハマーンを見上げた。やはり、ほっとしていた。 自分の活躍は望まれていないのか。マシュマーは、ハマーンの隣に座っているミネバの姿に目を移し ながら、 マシュマー(いっそ大会などに参加せず、あそこに座っていればよかった) とさえ思い、空回りの自分を嘆いた。 ドモンは、マシュマーにスパイクされた右腕を気にすることもなく、遅延行為で反則を取られない 限りで目一杯時間を稼いでから、試合を再開した。 その後、両チームともチャンスを作れないまま、1-1のスコアで前半は終了した。 アムロは結局、ヒイロを交代(か)えなかった。正確には、動くのを怖れて、決断を下せないまま、 前半を終えた。 続く 325 名前:フットボール狂騒曲111・ヒイロ戦場に帰る(1)投稿日:03/12/29 01 34 ID ??? 負傷のため、担架にのって一時的にフィールドを出ることになったヒイロは、そのまま医務室へと 運ばれていた。 負傷箇所の左ひざを冷やす応急処置を取りながら、今はドクターのシュバルツが言った。 シュバルツ「そう心配しなくてもいいぞ。きちんと治療をすれば、尾を引く怪我じゃあない」 ヒイロ「出られるのか?」 ヒイロは即座に聞き返した。その顔はもはや苦痛にゆがんではいない。いつもの、あの不自然なほど 無表情な顔だ。 シュバルツ「今から出るつもりか? ……うむ、それは……無理だ」 ヒイロ「無理? それほどの怪我じゃない」 シュバルツ「ヒイロ君、君の体は15という年齢からは考えられんほどに鍛え上げてある。少々、異常な ほどにな」 ヒイロ「何が言いたい?」 シュバルツ「君のような年のうちは、もっと体をいたわるべきだ。無理をして取り返しのつかないこと になってからでは遅い」 ヒイロ「今までもこんな怪我ぐらい何度もあった。問題はない」 二人のやりとりは、淡々とした声とリズムで続いていた。それがかえって、リリーナの不安を煽る。 不安。リリーナにとってのそれは、ヒイロが再び出場することだった。怪我を押してプレイするヒイロ を見たくない。交代して体を休めてほしい。リリーナの偽らざる気持ちだ。 リリーナ「ヒイロ、無茶はやめて」 リリーナはたまらずに二人の会話へ割って入った。声がやや高くなっていた。 ヒイロ「経験上、問題ないとわかっている」 リリーナ「そんな……でも」 言いかけたとき、バン! と勢い良く扉が開いて、試合の様子を見にいっていたソシエが飛び込んで きた。 ソシエ「追いつかれたわ。1-1の同点」 開口一番、ソシエは早口に言った。ヒイロはすぐさま訊く。 ヒイロ「俺は交代させられたのか?」 ソシエ「いいえ、してないわ。今の時点で変えていないってことは……」 その答えに、ヒイロは頷くと、立ち上がろうとした。ソシエは、困惑した表情を浮かべながら続けた。 ソシエ「でも、変えないでヒイロを待つ、ともアムロさん言ってないのよ。フィールドを見て、親指を 噛んでるだけで」 ソシエが困った顔をしたのは、アムロの思惑を測りかねたからだろう。それでも、ヒイロは復帰する ための準備を続ける。シュバルツが、ヒイロに向き直った。 シュバルツ「ヒイロ君、君の言うとおりだ。君の怪我は、今日はもうプレイできない、というほどには 重くない。だがフィールドに復帰して、走り回り、相手とぶつかり合って、膝に新たな 負担をかけ続ければ、君が予想しているよりはるかにひどい事態を招くこともあるのだぞ」 ヒイロ「それがどうした?」 シュバルツ「……君はまだ15だ。正常な成長を阻害することになるやもしれん。だから、私はあえて 症状を重く告げたのだ」 ヒイロ「無用な心配だ」 シュバルツはじっとヒイロの目を見つめていた。ヒイロも同じようにシュバルツを見ている。まるで 視線を外したほうが負け、とでもいうように。緊張した空気の中に、さらに駆け込んでくる者がいた。 兄弟の末っ子、アルだ。 アル「今前半が終わったよ。1-1の同点なんだ。それで、ヒイロ兄ちゃんは出られるの?」 ヒイロ「アル、俺は下げられていないんだな?」 ヒイロの確認に、アルは勢いこんで頷いた。ヒイロが復帰できるかどうか確かめるのが、アルがここに やってきた理由のようだ。 リリーナは、俄然出場への意欲を高めたヒイロの名を、厳しい口調で呼んだ。 リリーナ「ヒイロ!」 リリーナは決心した。なんとしてでもヒイロを止めるために。 326 名前:フットボール狂騒曲112・ヒイロ戦場に帰る(2)投稿日:03/12/29 01 38 ID ??? リリーナ「ヒイロ!」 その金属質の響きに、ヒイロは振り返った。リリーナの瞳に決意の色があった。 ヒイロ「なんだ? リリーナ」 リリーナはすっと息を吸い込むと、 リリーナ「ヒイロ、フィールドに復帰することは許しません。これは命令です!」 一息に言い切った。ヒイロは聞き返した。 ヒイロ「任務なのか?」 リリーナ「任務です。私があなたに与える、任務です」 任務という言葉は、ヒイロにとって重い。リリーナはそれを知りながら、言った。これはヒイロを 止めるための、最終手段なのだ。リリーナの瞳は、真っ直ぐにヒイロだけを見ている。顔は張り詰め、 肩は細かくふるえている。ヒイロもリリーナの顔をじっと見つめ返した。 沈黙が、部屋を埋めた。二人の真剣さ故か、シュバルツもソシエもアルも、一言も発さなかった。 やがてヒイロが口を開いた。 ヒイロ「リリーナ、俺は試合に出る」 リリーナ「……どうして? 兄弟の皆さんのほうが、先に任務を与えたから?」 ヒイロ「俺たちは勝たなければならない」 リリーナ「賞金のことなら、お金のことなら、他に何とかする方法があるはずでしょう。私も手伝います」 ヒイロ「金だけの問題じゃない」 リリーナ「あなたはもう十分頑張ったわ。後は、他の選手に託したって……」 ヒイロ「俺がいなければ勝てない。それに、リリーナ……」 一拍置いてから、ヒイロは静かに、諭すように言葉を続けた。 ヒイロ「リリーナ、俺は今まで任務のために動いてきた。いつも、いつもだ。お前からの任務。兄弟から の任務。たくさんの任務をこなしてきた。任務を遂行することが、俺の存在意義だったんだ。 でも今は、今は俺の意志で、誰にも預けることのない俺自身の意志で、プレイしたいんだ」 リリーナ「ヒイロ……」 リリーナの大きな瞳から、すっと涙がこぼれた。ヒイロは、綺麗だ、とひそかに思った。けれど、ヒイロ は自ら目をそらし、リリーナの瞳に背を向けた。 リリーナは、泣きたくはなかった。泣き落としなどする女だと思われたくなかった。なのに、ヒイロ が自分とは違うものを見ているとわかったとき、ヒイロが離れていくのがはっきりと感じられたその 瞬間、涙は勝手にこぼれてしまった。リリーナは、音もなく泣いた。 シュバルツがヒイロに近寄って、 シュバルツ「どうやら、君を止めるのは無理の一言、だな。出場するのなら、私がテーピングをしよう。 すこしでも負担を軽減できるはずだ」 ヒイロ「頼む」 医務室に、作業の音だけが響く。その音が途絶えたると、ヒイロは立ち上がり、アルとソシエに目を やって頷いた。行こう、という合図である。 ソシエとアルが先に部屋を出た。ヒイロは、ドアのところで立ち止まると、リリーナを振り返った。 ヒイロとリリーナの視線は何秒か交わった。ヒイロは、何も言わないまま去った。 リリーナは立ち尽くしたまま、ヒイロの去ったあとも廊下をみつめていた。シュバルツが、リリーナ の肩にそっと手を置いた。 続く 今回はいつもにまして大袈裟かつ突っ込みどころ満載の内容となりました。 334 名前:フットボール狂騒曲113・開く扉(1)投稿日:04/01/01 03 47 ID ??? ハーフタイム。<FCギム・ギンガナム>は、同点に追いつかれるかたちで迎えることとなった。 しかし、選手たちの顔は悲観に沈んではいない。落ち込んだり慌てたりしても、何の意味も無い ことは、準決勝の対<ASジャムル・フィン>戦ですでに学んでいる。そのことを気付かせてくれた リリーナは、今はヒイロについていてここにいないが。 監督のアムロは皆を眺め渡した。どの顔も、後半への意欲をはっきりたたえている。 アムロ「同点に追いつかれはしたが、試合はまだ同点。ここからが勝負だ。後半の方針を伝える」 シロー「ちょっと待った。はっきり聞いておきたいんだ。兄さん、ヒイロの代わりはどうするんだ?」 ペットボトルの清涼飲料水を口に含ませながらシローが訊いた。アムロは、決然と言った。 アムロ「ヒイロはやれる。すぐに交代を出さなかったのも、そのためだ」 後半は嘘である。アムロ自身、チーム全体と同様ややパニック気味で、決断が下せなかっただけだ。 だがそれを正直に言って何になるだろう。チームに無用の不信と混乱を招くだけだ。だからアムロは 嘘をついた。ここは、はったりで乗り切らねばならないと判断した。 ボロを出さないうちにと、アムロは畳み掛けて続けた。 アムロ「後半は、途中で俺とウッソが入る。交代の時期と下がるプレイヤーの選択は俺に任せてくれ」 候補は、シッキネンとジュドーだ。シッキネンは、今日は対面のギュネイにやられている場面が多い。 何より試合前から交代を意識しての起用だった。ジュドーは、誰よりも飛ばしていたのと、ヒイロが いなくなった後、苦手な守備に走り回ったせいで体力の消費が激しい。最後までピッチ に立って いるのは厳しいだろう。実際、ジュドーは誰よりも荒い息を吐いている。 アムロ「守備はマークをきっちりしていけ。相手にボールを持たれても、ラストパスやシュートの 際に、あきらめず最後まで食らいついて楽にさせるな。そうすれば失点は防げる」 いったんそこで言葉を切り、アムロはドモンに視線を据えた。 アムロ「うちのキーパーはドモンだ。絶対に何とかしてくれる」 ドモン「ああ、任せてくれていいぜ」 ドモンも睨み返すようにアムロを見て、頷いた。 二人にはわかっている。相手の攻撃力を考えれば、シュートまで持っていかれることが少なくない だろう。最後には、ドモンの個人能力にかかっているのだ。 アムロ「攻撃だが、もっとトップにボールを入れるんだ。ターゲットはギムだ。ギムはポストプレー で周りの選手に落とせ。ジュドー、特にお前はギムがパスを出せるところにいつでもいるんだ。 位置関係に気を使え。それと右サイドに起点がつくれたら、左のプレイヤーはギムを意識して 動け。左からなら、右が意識しろ。ギム・ギンガナム。あんたが攻めの中心だ」 ギム「うむ。小生はエースストライカーだからな。当然当然」 ギム・ギンガナム。自称チームのエースストライカー。前半シュート数、0。一本も無し。 アムロ「大丈夫だな」 ギム「もちろんである!」 アムロ「よし! 両サイドはもっと攻撃時に高い位置が取れるようにしろ。サイドは押し込むか押し 込まれるかだ。うちはサイドから点を取ってきた。お前らが目の前の奴らに勝てるかどうかに、 この試合がかかっているんだぞ!」 アムロがそこまで言ったときに、ロッカールームの扉が開いて、ヒイロたちが入ってきた。皆がいっせい に入り口を見る。ヒイロの左脚に巻かれた白いテーピングが、アムロの目にも飛び込む。 アムロ「ヒイロ、後半も走ってもらうぞ。いけるんだろう?」 様子を見にいかせたアルの答えを待たず、アムロは言った。先ほどのはったりがある以上、言うしかない。 ヒイロ「問題ない」 ヒイロは、一瞬の逡巡もなく、きっぱりと応えた。 アムロ「もし、駄目そうだと感じたら、やせ我慢せず、すぐに知らせるんだ。それがチームのためだ」 アムロは弟の脚が心配ないわけではない。ヒイロに自重を促しても無駄だろうから、チーム、という 言葉を持ち出した。それでも、兄としては失格かもしれない。 ヒイロ「了解」 またも即答したヒイロから、アムロはアル、ソシエと目を移していった。 アムロ「リリーナさんは? お前と一緒だっただろう?」 ヒイロ「……後で、くるだろう」 こちらの答えは、少々歯切れが悪かった。 アムロ「よし、みんなそろそろ時間だ。行こう。あと45分、勝って、ここに帰ってくるぞ!」 <FCギム・ギンガナム>は、後半への、最後の45分への扉を開いた。 335 名前:フットボール狂騒曲114・開く扉(2)投稿日:04/01/01 03 49 ID ??? <ラインフォード・ユナイテッドFC>は、追撃を加えることはならなかったものの、前半のうち に同点に追いついた。チーム全体の雰囲気は悪くなく、グエンも上機嫌だ。 グエン「後半も、この調子で行きましょう。ただし油断は禁物です。失点が示すようにね」 チボデー「あんなことは、もう2度とおこらねぇよ」 グエンの言葉が気に障ったか、チボデーが吐き捨てるように呟いた。 グエン「失礼。シャア、いえエドワウ・マス。あなたには後半の15分くらいから出てもらいます」 グエンは、今はエドワウ・マスである男へと話を振った。 シャア「ああ。了解したよ、御曹司」 グエン「ユニフォームを着ているときは、グエン、で構いませんよ」 ラインフォードのお坊ちゃんはやや憮然とした表情を見せた。シャアは、ガルマを思い出した。二人 の人柄が似ているというよりは、不自由なく、自然と周囲にちやほやされて育った人間に共通する ものを見た気がした。生まれや与えられた地位ではなく自分自身を見て欲しい。言葉にすればそんな ところだろうか。シャアは笑みを漏らした。生まれと自分を切り離して考えたがるところが、すでに お坊ちゃんなのだ。 試合とは関係のないことに、思いをはせる者がもう一人いた。マシュマーである。ただ彼はシャアの ように、人間観察をしているわけではない。同じく人を思ってはいたが。 マシュマー(ハマーン様、あなたは私が活躍することをお嫌いになるのですか。ハマーン様……) そればかりを、マシュマーは思っていた。 グエン「マシュマー? マシュマー・セロさん?」 呼びかける声に、マシュマーははっとして現実に揺り戻された。ここでやる気も無い、と見られたら、 マシュマーは終わりだ。何とか活躍して、シャアと交代させられることを避けねばならない。 マシュマー「わかっている。後半は私にボールを集めていくのだな」 グエン「いえ、もう時間なので、フィールドに向かいましょう」 マシュマー「そ、そうか」 マシュマーは最後にロッカールームを出た。そっとハマーンにもらった薔薇を取り出して、その芳香 に鼻腔を満たしてから、試合後半へ向けて、せめてもの活力を補充した。 336 名前:フットボール狂騒曲115・再会、ゼクスとリリーナ投稿日:04/01/01 03 52 ID ??? ゼクスがスタジアムの廊下を歩いていると、T字になった角の、医務室あたりのほうから、妹のリリーナ の姿が見えた。ゼクスがこの大会に参加したのは、リリーナの尊敬を取り戻すためだった。この頃の自分 ときたら、吉野家の店員だとか、宅急便の臨時手伝いだとか、さえないことばかりやっている。実は 今の仕事が嫌いなわけではないし、さほど不満があるわけでもない。けれど、難しい年頃の妹にすこし いい目で見られたい、という気持ちを満たしてくれる仕事ではないだろう。その点、スポーツでの活躍 は、市民大会の勝者というほどでも、好印象を与えるはず、とゼクスは考えたのだ。 ところがどうだろう。秘密にしておいて驚かせるはずが、妹はライバルチームに参加してしまい、今や 文句なしの敵である。ゼクス・マーキスは、ついていない。 ゼクスは迷っていた。無視するのもあれだし、かといって親しげに話しかけるのもうまくいくまい。 解決策を思いつかぬまま、仲間の列から抜け出して、とりあえず顔だけ伺ってみる。リリーナのほう は、まだ自分に気付いていない。 と、リリーナは何か様子が変だ。泣いたのか。自然とそう思った。ゼクスは異性にもてるほうだ。妹に は言えないけれど、何人か泣かせた女もいる。そういうときの、泣かせてしまったときの女性に、今の リリーナが重なって見えた。 そんなことを考えているうちに、リリーナのほうもゼクスに気付いたようだ。リリーナは、ゼクスを 見て、隠れ去りたいような仕草を見せた。 ゼクス「リ、リリーナ!」 ゼクスは呼びかけていた。 リリーナ「ミリアルドお兄様……」 ゼクス「……何かあったのか?」 リリーナ「別に。何もありません」 ゼクス「目が赤いぞ」 リリーナ「そう、でしょうか?」 ゼクス「……おかしなことを言って悪かったな。そろそろ後半が始まる。さらばだ、リリーナ」 要領を得ないまま、ゼクスは妹から離れようとした。 リリーナ「お兄様! ……お怪我には気を付けてください。相手チームであるわたくしが言うのも、 おかしいかもしれませんが……」 ゼクス「いや、気を付けよう。ありがとう、リリーナ」 ゼクスは再びピッチへ向けて歩き出した。胸の内が、すこし軽くなった。 両チームの選手がフィールドに姿を見せた。後半もそろそろ始まる。<FCギム・ギンガナム>は、 自軍ベンチ前に集まっていた。 アムロ「仕上げに、あれをやるか。リリーナさんがいないが」 ちょうどそのとき、リリーナがチームの元へと駆けてきた。 リリーナは自分でチームのマネージャーに志願したのだ。ヒイロの出場に反対だからといって、 途中で放り出すわけにはいかないし、リリーナ自身、今はチームと共にあるべきだという意志を強く 持っていた。 アムロ「これでそろったな」 <FCギム・ギンガナム>はチーム全員で円陣を組んだ。 アムロ「みんな、勝つぞ!」 「おお!」 兄弟たちはフィールドに散っていった。アムロとウッソ、アルとキラ、ソシエとリリーナは、各々の 立場でピッチへ入る選手たちを見送った。 その頃、競技場の入り口にひとりの女性が姿を見せた。歩きざますれちがった男は、女性の美しさ に、つい振り返った。鮮やかな金髪が、傾きはじめた陽に揺れていた。その後姿は、どこか哀しさを 感じさせるものに映った。 セイラ・マスは、昨日アムロと会った際、今日の試合を見る気は無い、と言った。兄の姿は見たくない、 とも言っていた。セイラは、来てしまった。 続く リリーナのゼクスへの呼び方って、「お兄様」でよかったのでしょうか。 Wは見たのに忘れてしまった。間違ってたら、勘弁してください。 354 名前:フットボール狂騒曲116・目覚める刃?投稿日:04/01/09 00 24 ID ??? 決勝戦後半は、両チームともお互いの出方を見るかのような、静かな滑り出しとなった。 <FCギム・ギンガナム>は、ヒイロの復帰もあって、前半最後に追いつかれたことを引きずらずに プレイできていると、アムロの目には映った。最初の一歩に躓かなかったことで、アムロは内心、ほっと 一息安堵の溜め息をついた。それだけ、実は不安を抱えていたのだ。 対する<ラインフォード・ユナイテッド>も、追いついたことに浮かれることなく、隙を見せない。 まずは探りあいか、そうアムロが思った瞬間だった。 ラインフォードのセンターハーフ、ゼクス・マーキスから左サイドのギュネイへパスが出た。そこから、 ギュネイはシッキネンを軽々と揺さぶって中央へ切れ込むと、そのままミドルシュート。このシュート はゴールの右に外れたが、兄弟たちは早くもラインフォードに先手を取られてしまった。 ゼクス・マーキス。ゲーム後半立ち上がりの主役に名乗りを上げたのは、この男だった。前半のゼクス は、体格で大きく有利であるにも関わらず、球際の争いでヒイロに譲るところがあった。だが、今は違う。 ヒイロにはるかに勝るリーチを活かして、ボールをヒイロから遠ざけつつキープし、スルーパスの出し どころを探している。 ゼクス(今までの私は自分の利点に気付いていなかった。気付いた今、もう貴様には負けん! ヒイロ!) ゼクスのキープで中盤にタメができる。焦れたディフェンスに穴が開くのを待ち、そこを突く。ゼクス は狙っている。近い位置での横パスを織り交ぜ、ゼクスはチャンスを待った。マシュマーが動き出す。 瞬間的にゼクスが反応し、スルーパスが<FCギム・ギンガナム>守備陣を縦に切り裂く。前半5分、 <ラインフォード・ユナイテッド>に決定的なチャンス到来。 ペナルティエリアやや右、走りこむマシュマーの元に、ぴたりとスルーパスが届けられた。汚名返上! と唸る右足。飛翔する強烈な一撃。そう、ボールは飛翔したのだ。クロスバーを越えて、スタンドに 飛んでいってしまった。 ゼクス「う、浮かせるな……マシュマー」 ゼクスがうめき、ジェリドがフンと鼻を鳴らした。 ジェリド「汚名挽回のチャンスだったが、馬鹿なやつだ」 カミーユ「( ´,_ゝ`)プッ」 ジェリド「何がおかしい、カミーユ!」 マシュマー・セロ、ジェリド・メサ、ともにきっちりと汚名挽回。 355 名前:フットボール狂騒曲117・サイド突破作戦投稿日:04/01/09 00 26 ID ??? マシュマーのシュートこそ外れたものの、このままやられてしまう、とスタンドで兄弟たちを応援 する者の頭に、前半の最後が蘇るかのような展開だった。少なくとも、ファ・ユイリィは思い出した。 ちぐはぐなチームと無謀なカミーユを。 <FCギム・ギンガナム>の攻撃は、アムロの指示通りにギムをターゲットにしていた。しかし、ギムへ のロングボールを放り込むと、敵センターバックのラカンが必ずギムに競りかける。こぼれるか、何とか ギムが競り勝っても、その次につなげない。もう一人のCBシロッコが上手くカバーしてしまうのだ。 シロッコに限らず、中央に集中したDFが簡単に放り込みを跳ね返してしまう。 後方からただ放り込んでもダメなら、サイドからだ。サイドを深くえぐってから中央に折り返せば、 敵DFも集中するわけにはいかないし、中央での守備も困難になり、今のように簡単にはクリアされ なくなる。アムロは声を飛ばした。 アムロ「サイドから行け! サイドに大きく開いてボールを受けろ!」 はからずも、フィールドの選手たちも同じ思惑であった。特にカミーユは、己の出番を待ちわびていた。 カミーユ(俺がやらなくちゃならないんだ) ボールを受けてすぐさま、カミーユはドリブルで仕掛けていく。追いすがってきたジェリド、カバー に来たグエンを続けざまにかわして、左サイドを駆け上がる。カクリコンをフェイントで揺さぶり、 中央のギムへ高いクロス。ギムとラカンの競り合いの末こぼれたボールはシロッコがクリアしたが、 ヒイロがボールを拾い、パスを受けたカミーユが再びクロス。今度はギムをおとりに、低い弾道で ジュドーに合わせた。 しかし、またもシロッコがパスカット。ボールを奪われた。 敵の攻撃をしのいだ<FCギム・ギンガナム>は、今度もカミーユへとボールを渡す。徹底して左 から攻めるのは、右サイドがギュネイに押されて下がり気味であるからだ。そしてそれ以上に、皆が カミーユに期待しているからでもある。 期待に応えるべく、カミーユは下がってきたジェリドとカクリコンのコンビをかく乱しつつボールを キープする。ジェリドとカクリコンの二人が、何度もやられるかと必死に食らいついてくる。 ジュドー「カミーユ! こっちだ!」 さすがに持ちすぎだ、とジュドーが声をかける。敵全体がカミーユのサイドに寄り、短いパスをカット しようといている。それこそ、カミーユの狙いだった。遊び飽きたおもちゃを投げ捨てるような無造作さ で、ジェリドとカクリコンを簡単に切り崩し、大きくサイドチェンジのパスを出した。 カミーユが左で敵をひきつけて、ぽっかりと開いた右サイドにシーブックが待ち受ける。トラップして 前方にボールを落とすと、素早く、守備の整わない中央ペナルティエリアに高いボールで折り返した。 しかし、そこでラインフォードのGK、チボデーが飛び出した。がっちりとハイボールをキャッチし、 目の前で残念がっているギンガナムに指を振る。 チボデー「いいプレイだったが、ワントラップの分、余計に時間がかかっているって教えておきな」 サイドチェンジのボールをそのまま、ダイレクトで中央へのクロスをあげるなど、プロでもない シーブックには不可能だ。サイドチェンジをきちっとトラップしただけでも大したものである。それ をわかったうえのチボデーの言葉だった。 ところがギンガナムは、大またでシーブックのところに飛んでいき、 ギム「サイドチェンジはトラップなどせずに直接上げろ。いいな、パン屋。無能は罪と知れ」 と偉そうに言い放った。シーブックの「できるわきゃねぇだろぉおお!」という怒りの反論がピッチに に響く。その声はベンチのアルとキラにもはっきり聞こえてきた。 アル「何を言ったんだろう、ギンガナムさん?」 キラ「さあ? あいつのことだからね。雷獣シュートでも狙ってるんじゃないか」 アル「雷獣シュートかあ。それは確かにできるわけないね。足くじくよ、あれは」 キラ「実は……コーディネイターならできるんだ。ディアッカが公園の芝えぐって怒られた」 試合後半は、静かに幕を開けるかと思ったのもつかの間、<ラインフォード・ユナイテッド>は CHのゼクス、<FCギム・ギンガナム>は左SHのカミーユを起点として敵ゴールに迫った。 続く 361 名前:フットボール狂騒曲118・サイドラインのふたり投稿日:04/01/12 02 51 ID ??? <ラインフォード・ユナイテッド>がゼクスを起点として、右サイドのギュネイからクロスを入れる。 両チームの選手がペナルティエリアで競り合った末に、こぼれたボールを、再び顔を出したゼクスが ミドルシュートにいく。その寸前、<FCギム・ギンガナム>のヒイロがボールをカットし、近い位置 にいるロランへ預ける。ロランから左サイドのカミーユ、カミーユから敵ペナルティエリア中央へ走る ギムに放り込まれる。ギムはハイボールのクロスを頭で後ろから交差して入ってきたジュドーに落とし、 敵DFの間隙を縫ってジュドーがエリア右45度からシュートした。ゴール左隅へ鋭く走ったこのシュート をラインフォードGKチボデーが弾き出し、CBのシロッコが素早くクリアする。 後半開始から10分が経過した。まだスコアに新たな動きは無い。 「良いカウンターだったが、こちらのキーパーもカカシではないよ」 両チームのベンチがある側のサイドライン際で、ニヤリと笑みを浮かべた男がいる。<ラインフォード・ ユナイテッド>の赤いユニフォームを着て18番を背負っているその男に、少し離れて並んでいる、白い ユニフォームの14番が話しかけた。 「シャア、大会に参加したり、偽名を使ったり、いったいどういうつもりなんだ」 シャア「アムロ、今の私はエドワウ・マスだ。それ以上でもそれ以下でもない。だが、こんなところで こんなかたちの争いをするとはな」 <ラインフォード・ユナイテッド>、<FCギム・ギンガナム>はともに交代を申請していた。エドワウ と名乗るシャアとアムロは、すでにそれぞれ準備を終えて、サイドラインの外側で交代のタイミングを 待っていた。 二人はそれ以上何も話さなかったし、お互いから目をそらしていた。しかし、他人が見てもはっきり とわかるほど、アムロはシャアを、シャアはアムロを意識してそこに居た。 ほどなくボールがラインを割り、選手交代のボードが掲げられた。ラインフォードは13番のFW マシュマーと同じFWの18番エドワウが交代。兄弟は右SBの12番シッキネンを下げて、14番の アムロが入る。 シッキネンとアムロを代えるのは、元々の予定でもあったし、シッキネンが対面のギュネイに やられ続けているからだ。右SHのシーブックがディフェンスのフォローまでせねばならず、攻撃に 移るのが遅くなりがちである。交代後はアムロが右SHに入り、シーブックが右SBに移る。交代 候補には運動量が落ちてきたジュドーも挙がっていたが、一瞬で得点に絡むこともあるプレイヤー なので、アムロは、今の時点ではジュドーをピッチに残すことにした。 シャアとマシュマーの交代も予定事項だったのだろう、とアムロは考えている。準決勝でもそうして いたし、マシュマーは全体の動きはともかく、一番大事なところでいまいちピリッとしていない。 もちろんマシュマー自身は交代に納得できないようだ。愕然として、首を振って、いかにもピッチを 去りがたいようにのろのろと歩いてくる。 アムロはシッキネンに「よく頑張ってくれた、あとはまかせてくれ」と声をかけて、軽くお互いの 体を叩き合った。横目で窺ったシャアとマシュマーにはそういうことはない。アムロの耳を、細々と したマシュマーの声がかすめた。 マシュマー「申し訳ございません、ハマーン様。ハマーン様、ああハマーン様、ハマーン様…… ええ~い! なぜ私が交代なのだ!」 いきなり叫んだ。シャアはそんなマシュマーに一瞥もくれない。ただ、己を待つ緑のステージに視線を 固めている。 前半12分、シャアとアムロは同時にフィールドへと足を踏み入れた。 スタンドのセイラ・マスは、複雑な心境で二人の選手の姿を見つめていた。赤と白のコントラストが、 斜めにさしかかる陽射しのなか、鮮やかなようにもかすんでいるようにも見えた。 続く 376 名前:フットボール狂騒曲119・新しい力投稿日:04/01/21 02 15 ID ??? シャアとアムロがそれぞれのチームに入った後、両チームの攻撃は対照的な形となっていった。 <ラインフォード・ユナイテッド>はCFガトーのパワーと体格、シャアとゼクスのテクニックを 活かして中央突破を図る。 ゼクスとシャアの二人を中心にした細かいパスの連続から、シャア、ガトー、再びシャアの ワンツーで敵ペナルティエリア中央前を破ってエリアに進入。敵DFが詰め寄る前にシャアは 素早く右足を振りぬく。ドモンが素晴らしい飛び出しでボールを胸に当て防ぐが、こぼれたボール にガトーが突進する。寸前でシローがゴールラインにボールを蹴りだし、コーナーキックに 命からがら逃避した。 ラインフォードから見て左のコーナーキック、キッカーはエドワウ・マス。ゴールに向かって 弧を描くキックが、兄弟たちを襲う。ターゲットはゼクス。ガトーたちにも負けない長身が頭で ボールを叩き込もうと跳躍するが、好きにはさせんとドモンがパンチングでクリアし、ルーズ ボールをジュドーが拾う。 先ほどのようにカウンターといきたかったが、素早くグエンが体を寄せて速攻を阻止する。ジュドー は仕方なく後ろにボールを返した。 <ラインフォード・ユナイテッド>が中央を直接突破にかかるのに対し、<FCギム・ギンガナム> はサイドから崩していく。右SHのアムロがボールをキープしているところをシーブックが後ろから 追い越し、 そのままハイボールのクロスをあげる。敵CBラカンが跳ね返す。クリアボールをロランが拾って 左SHのカミーユへ。スピードを活かしたドリブルでジェリドとカクリコンを置き去りにして左サイド を深くえぐると、グラウンダーのクロスをGKとDFの間に鋭く滑り込ませるが、ラインフォードの GKチボデーは読んでいたようで、ジュドーに通る前に足でカットし、素早くシロッコがそれを蹴り だす。ボールはサイドラインを割った。 アル「もうちょいだったのに。でも、今は互角の展開だね。カミーユ兄ちゃんのパスが通ってればさあ」 兄弟たちのベンチも手に汗握り、固唾を呑んでいた。アルはチャンスの応酬に興奮気味だ。 リリーナ「互角、なのでしょうか?」 対照的に、リリーナは不安げに呟いた。 アル「両方ともあと少しで点を取ってるとこだよ。うちはドモン兄ちゃんの好セーブに助けられたね」 ソシエ「エドワウとかいう奴のシュート、よく止めたって感じよね」 アル「やっぱりドモン兄ちゃんはスゴイよ」 キラ「シュートを止めた、か。そうなんだよね。そういうことなんだ」 キラもあまりいい顔をしていない。ソシエが問い詰める。 ソシエ「そういうことって、どういうことよ? あんたはっきりしゃべらない癖があるんだから」 キラ「今の攻撃、僕らはシュートを打ってないんだよ。そこまでいかせてもらえないんだ」 リリーナ「わたくしたちのシュートはジュドーさんがさっき打ったものだけですわ」 キラ「逆にこっちは何本も打たれている……互角とはいえない」 そんな会話を、ウッソは黙って聞いていた。会話が終わると同時に立ち上がり、アップを始める。 自分がなんとかしてみせる、とアルを除けば最年少の選手は胸のうちに強く呟く。 377 名前:フットボール狂騒曲120・ジェリド突撃(1)投稿日:04/01/21 02 16 ID ??? ジェリド・メサは完全にカミーユに圧倒されていた。<ラインフォード・ユナイテッド>という チームそのものはやや押し気味にゲームを進めていたが、後半に入ってから、ジェリドの担当する 右サイドからはほとんどチャンスをつくれていない。いや、そもそも前半だって敵に脅威を与えら れたかどうか。ジェリドは唇をかみ締めた。焦りが胸を焼く。 ラインフォードCHゼクスから、ジェリドへとパスが出る。ワンツーを期待してゼクスはボールを 受けようとするが、ジェリドは返さない。そのまま、マークに来たガロードとカミーユをドリブルで 抜き去ろうとする。足元でボールをこね回し、フェイントを入れる。しかし大した効果はなく、時間 をいたずらにかけただけだ。カクリコンが後ろからフォローに来たが、ジェリドはそれでもパスを 出さない。カミーユとガロードが協力してボールを奪い、前線のギンガナムへロングパスを出す。 シロッコがカットした。 カクリコン「ジェリド、独りよがりになっても仕方ないだろうが!」 ジェリド「そんなつもりはない。いらん心配すると、また生え際が後退するぞ」 ジェリドはカクリコンの忠告にも耳を貸さなかった。貸したくなかった。カミーユに勝つ。文句の つけようが、言い訳のしようがないほど完全に勝つ。そして敗者となったカミーユを傲然と見下す。 それがジェリドの望みだ。チームが勝っても、自分が負けていたら意味がない。 ジェリド「くそ……見てろよ、カミーユ」 再びボールを持った<ラインフォード・ユナイテッド>は、敵陣中央を細かいパスの連続で突破に かかる。今度はジェリドもボールをすぐ離してパス回しに加わる。そして頃合をみて右サイドから一気に 中央へ斜めに切り込んであがり、ボールをもらおうとした。エドワウがその動きを察して、ふわりと 浮いたボールをジェリドに合わせる。ジェリドはガトーやマシュマーにも負けぬ長身、ぐっとリーゼント の頭を振ってヘディングシュートにいく。外れた。まともにボールを捉えられず、見当はずれの方向に 飛んでゴールラインを割った。失望の空気がチームメイトに広がる。 単純に、ジェリドはヘディングが苦手だった。だからこれまで長身にもかかわらず、ヘディングで 当てにされたことはなかったのだ。苦手を承知のチャレンジだったが、無様な結果に終わった。ジェリド 芝を蹴り上げて、また唇を噛んだ。 カクリコン「落ち着け、ジェリド。いいか、俺が後ろから上がるから……」 ジェリド「カミーユに簡単に抜かれるお前に、そんな余裕があるのか? 助けなんて必要ない。俺はひとり でだってカミーユとあのガロードとかいうガキぐらいねじ伏せてみせる! お前はせいぜい これ以上やられて足を引っ張らないようにするんだな」 カクリコン「ジェリド、貴様……俺はお前のために言っているんだぞ! もう知るものか、好きにしろ!」 苛立ちをカクリコンにぶつけても、何にもならない。ジェリドとてわかっている。わかっているのに やってしまった。三度唇を噛むジェリドは、己の情けなさに怒りさえ覚えていた。 マウアーは観客席からすべて見ていた。今すぐにでもフィールドに駆けおりて、ジェリドを支えて やりたかった。しかしたとえできたとしても、それはしてはいけない。ジェリドは今、彼自身の言って いたとおり壁にぶつかっているのだ。カミーユというかたちでジェリド自身が具現化してしまった 壁に。その壁は作ってしまったジェリドが、やはり自分の力で乗り越えなくてはならない。マウアー にできることは、そしてすべきことは、ただここからジェリドを見ていることだ。 378 名前:フットボール狂騒曲121・ジェリド突撃(2)投稿日:04/01/21 02 32 ID ??? リスタートしたゲームは、ジェリドとは反対の、ラインフォードの左、<FCギム・ギンガナム>の 右サイドで主に展開していた。こちらにボールが来ることを警戒しながらも、ジェリドの脳裏は自分に 対する周囲の評価を勝手に引き出していた。 哀れみか、蔑み。マウアーやカクリコンといった一部を除けば、それがジェリドに向けられる目の ほとんどだった。望まぬ評価ばかりがジェリドに与えられた。あるものはカミーユに絡んでは中途半端 に負けるだけの男と哂い、あるものは負け癖がついてしまった下らない男と片付ける。いい笑いものと 馬鹿にして喧嘩を売ってきたやつもいる。すぐさま返り討ちにして泣きわめかせたが、ジェリドの自尊心 はますます傷つけられただけだった。鼻血を垂れ流しながら地面にひれ伏して許しを請う男のあまり の情けなさは、こんなやつにさえ侮られているのかといった思いを抱かせるのには十分だったのだ。 そんなときのジェリドの結論はいつも決まっていた。カミーユのせいだ、カミーユにさえ勝てばこんな 無様な思いをすることもないのだ、と。 ジェリドは勝てなかった。いつどんなことで挑んでも、あと一歩のところでカミーユに勝てなかった。 今も、負け続けていた。記憶の中から「負け犬」と呼ぶ声が聞こえる。 <FCギム・ギンガナム>は右から左へのサイドチェンジを図った。集中力を欠いたジェリドは 反応が遅れてしまった。しかし、怒りからか発憤したカクリコンがパスをカットし、カクリコンから グエン、グエンからゼクスへとボールが渡る。 フィールドのちょうど真ん中、センターサークルの付近で両チームは激しくボールを奪いあい、 競り合いの末、右サイドのジェリドへとボールがこぼれてきた。ジェリドは素早くドリブルで持ち上が ろうとするが、すぐさまガロードとカミーユがプレッシャーをかけにくる。二人に迫られて、ジェリドは ボールキープもおぼつかない。ゼクスたち中央へのパスコースは狙われている。このまま奪われるのだ。 ジェリドを弱気が手招きする。諦めて負けたほうが楽だろうさ。ほかの誰でもない、自分自身がジェリド に囁く。駄目なのか、やはり駄目なんだな。心が折れかけた、その時だった。 「ジェリド、こっちだぁ!」 カクリコンがオーバーラップをかけている。ジェリドやカミーユたちよりさらに外側を駆け上がって いく。自分を呼ぶ友の姿を認めた瞬間、ジェリドの中で無意識にスイッチが切り替わっていた。カミーユ とガロードに、カクリコンへと意識を奪われた隙が生まれている。ジェリドは二人の間に割って入る。 はっとした二人が挟み込んで防ごうとしてくるが、ジェリドは弾き返すように抜けた。カクリコンは カミーユたちの意識をひきつけるためのおとりになってくれたのだ。ジェリドにはわかった。追い すがるカミーユとガロードを吹き飛ばし、縦に突き進む。 ジェリドはカクリコンの助けなど要らないと吐き捨てた。苛立ちをぶつけさえした。それでも、 カクリコンはジェリドを助けてくれた。集中力を取り戻したジェリドは、はっきり言葉にして意識 しているわけではない。しかし精神に熱いものがあった。強い意思が生まれていた。このチャンスは 絶対に潰せない。敵の危険摘み取り役ヒイロがファウルも辞さぬ勢いで止めにきた。スパイクが左足 を削る。ジェリドはバランスを崩した。倒れるわけにいかない、体全体が叫ぶ。強引に体勢を立て直す。 前を転がるボールに追いつき、ピッチ中央を見る。敵のディフェンスをかいくぐり、自分に寄こせと訴える ように動く男がいた。18番、エドワウ。右サイドを深くえぐったジェリドと目が合う。狙いはキーパーと ディフェンダーの間を抜く、速く低いクロスだ。ボールをきっちりと視界にとらえ、ジェリドは右足を振りぬいた。 最高のクロスボールが、エドワウの元へと走った。 負け犬は吼えはしない。ただ陰口を言うがごとくうめくだけだ。鋭く唸るクロスボールは、ジェリドの 咆哮だった。 続く 昨日の夜10時ぐらいにようやく規制解除で書き込めるようになりました。 中途半端なとこで終わって申し訳ありません。水曜の夜から木曜の朝にかけてまでには、続きを貼れると思います。 374、乙です。自分としては観客は少ないつもりというか、少ないと書いてしまったんでそれでいくしかないんですが、そっちは 多いって書いちゃったし、違っててもそれはそれでいいですかね。ドワイトガ出てきたのがちょいと嬉しい。脇として少し 出てきて欲しいキャラなんで。 380 名前:フットボール狂騒曲122・必殺のシャア投稿日:04/01/21 23 27 ID ??? <FCギム・ギンガナム>の左サイド、シャアたちからすれば右サイドはジェリドが完全に崩した。 ジェリドがクロスをあげる瞬間、中央の敵DFの意識が、視線がそちらに奪われる。その機に、シャア は一気に加速して彼らの間から飛び出す。ジェリドからのクロスが速く低い弾道で届けられる。 ワンバウンドして、シャアの意図した場所と寸分たがわぬ位置へ跳ねる。ぴったりだ。タイミングも、 スピードも、何もかも。シャアは右足をクロスに合わせてインサイドキックで振り抜く。冷静に、的確に やってのけた。確信が右足内側から広がる。ボールは、必死の形相で飛びついてくる敵GKの手より 一瞬早く、ゴールへと飛びこんだ。 自らのシュートがネットを舞い躍らせるのを視界に収めたシャアは、口元を軽く緩めた。愕然として 自分を見ているゴールキーパーに背を向け、ゆっくりとセンターサークルへ向かって歩き出す。シャア は駆けつけるチームメイトたちに軽く手を振って答えた。 ジェリドはカクリコンとハイタッチを交わし、お互いの体をはたきあった。 カクリコン「やったな、ジェリド!」 ジェリド「見たかカクリコン、最高のクロスだったろうが! お前のおかげだ! お前があがって くれたから!」 喜びに沸く二人に、さっと声をかける者がいた。 シャア「ジェリド・メサ、いいクロスだった。これ以上ないほどにな」 こんなときも、エドワウことシャアは気取った嫌なやつだ。 ジェリド「あんたのそういうとこは気に入らんな。だが、よく決めてくれた」 シャア「私もFWだからな。あれを外すいわけにはいかないさ」 二人は軽い笑みをかわす。そこで、ジェリドはようやく大事なことに気がついた。隣のカクリコン を小突く。 ジェリド「おいカクリコン。このときじゃなくて、いつがあるっていうんだ」 カクリコンはにやりと笑った。意を察したようだ。二人はそろって、呆然としているカミーユに向き 直ると、あからさまに見下して馬鹿にした態度をとってやった。目をひん剥いて奥歯をかみしめている カミーユの姿が最高だ。 ドモンは、シャアの背中をいつまでも見つめていた。どこか気品さえ漂う落ち着いた背番号18は、 それがゆえに、鋭い切っ先をドモンの胸に突き立てていた。 もう一人、ずっとシャアを見ている選手がいた。アムロだ。 後半22分、<ラインフォード・ユナイテッド>は右サイドのジェリドのクロスをシャアが直接叩き こんで得点した。スコアは<ラインフォード・ユナイテッド>2-1<FCギム・ギンガナム>。兄弟 たちは逆転され、リードを許した。 続く 382 名前:フットボール狂騒曲123・フィールドは荒野投稿日:04/01/23 00 38 ID ??? ジェリドからシャアの得点を、観客席に座るものたちはそれぞれの立場で見つめていた。マウアー、 クェス、カテジナなどラインフォードの選手を応援するもの。ハマーンとミネバ。兄弟それぞれの友人 や恋人たち。ギンガナム応援団。そしてセイラ。フィールドに注がれる目は、明るいものも暗いものも、 困惑に揺れるものもある。 <FCギム・ギンガナム>にとって、状況は悪化するばかりだった。逆転で勢いに乗る<ラインフォード・ ユナイテッド>は、ボール支配率でも、チャンスをつくることにかけても、完全に兄弟たちを圧倒する。 <FCギム・ギンガナム>のディフェンスは、ゼクスの手の内で踊り、シャアにかき回され、ガトーに 弾き飛ばされる。おまけに、先ほどの活躍で自信をつけたジェリドが左サイドを蹂躙する。右サイドは シーブックの奮闘で抑えているものの、まさに焼け石に水であった。CBのシローもコウも、左SBの ガロードも黙ってやられているわけではない。必死に食らい突いていっても、それでも止められない のだ。ヒイロはゼクスとの体格差に苦しみ、ロランの運動量はグエンにハードマークを受け続けたせい で落ちてきていた。 唯一活躍と言っていい働きをしているのが、GKのドモンだ。失点に落ち込むことなく、ジェリドの ミドルシュートを受けとめ、ガトーのヘディングを寸前で阻止し、シャアのループシュートをギリギリ で弾いてポストにあて、跳ね返ったボールをいち早く抱え込むと、スライディングで詰めてきたゼクス と衝突しながらもボールをこぼさない。しかし、ドモンが獅子奮迅の働きを見せているということ自体が、 兄弟たちが追い詰められている何よりの証拠である。 ドモン「もっと集中して守れ! 特にシャアのマーク、なんでいつもフリーなんだあ!」 吼えた声は悲痛な色合いを帯びた。先ほどの失点のように、GKだけではどうにもならないときが あるのだ。敵の猛攻の中、ドモンは自らを頼むしかない辛さを必死で跳ね返していた。 オフェンスはより深刻な機能不全に陥っていた。ジュドーはもはやまともに動ける体力がなく、ギム は敵CBの前に後方へのポストプレイすら満足にさせてもらえない。カミーユはサイドを何度崩しても シュートにさえつながらないのにいらだち、無理やり中央に切り込もうとして誘い込まれたあげく、 ボールを奪われる。アムロもジュドーの代わりをしようと真ん中でプレイしたがった。 結果、意志の疎通もなく連携が悪いまま中央に密集している状態となり、シロッコを中心に結束を 高めているラインフォード守備陣の前に、いとも簡単に攻撃の芽を摘まれていた。 383 名前:フットボール狂騒曲124・嘘だと言ってよギーミィー投稿日:04/01/23 00 41 ID ??? そんな最悪のチーム状態を、アップにかかっているウッソを除けば、ベンチにいるものは黙って 見ているしかない。胸に込み上げる不安や悔しさを抑えて、フィールドに出ている選手たちを信じる しかないのだ。 ボールがサイドラインを大きく割り、ギンガナムがその隙にサイドライン際のペットボトルを取りに来た。 ごくごくと清涼イオン水を飲み干す際に、スタンドから罵声が飛んだ。 「カッコつけるだけでサッカーのへたくそなギム・ギンガナム! 私が代わりに出て盛り上げてやるよ!」 少女の声だ。ギンガナムが連れてきた応援団の一人、メリーベルが、鈴を揺らしてやけくそといった感じで 笑っている。まわりの応援団員も誰もとがめない。同じく主君のふがいなさに失望しているようだ。 アルは、「メリーベル、運河人以下の貴様を今日まで飼ってきてやったのに、よくもほざいたなあ!」と ペットボトルを叩きつけたギンガナムに駆け寄った。黙って見ていられなくなっていたのは、アルも同じ だった。 アル「ギンガナムさん、まだ大丈夫でしょ。これから逆転できるよね」 ギンガナムは答えなかった。アルは再度訊いた。 アル「なんで黙ってんのさ。いつものように強気なこと言いなよ」 ギム「……後ろからがしがしあたられて、足も背中も腰も痛いのである」 アル「だから?」 ギム「おまけに味方はあてにならんし、小生も本気を出せない可能性がなきにしもあらず」 アル「だからなんなのさ?」 ギンガナムはアルの顔を見ない。そっぽを向いて話している。ゲームはすでに再開していた。 ギム「……つまり、アル、期待をしないほうがいいということもだな」 「どういうことなんだギンガナム! お前やる気がないのか!?」 いきなり怒鳴り声が後ろから響いた。アルが振り返ると、いつのまにかキラが後ろに来ていた。顔を 真っ赤にしてギンガナムを睨みつけている。 ギム「何だ泣き虫小僧。出場資格がない奴は黙っていればいいのであるよ。何もできんくせに」 ギンガナムは苦々しい顔で吐き捨てた。キラがつかみかかるような勢いでかっと口を開く。 キラ「ギンガナム、お前には朝食を食べられたり、朝食を奪われたり、朝食を掠め取られたり、色々 あったけど、これほど頭にきたことは初めてだ!」 ギム「それがなんだ! 引くも押すもできない! このまま負けるのだろうさ」 ショックな言葉だった。アルはそんな言葉を聞くためにこうしているのではなかった。 アル「そんな……嘘だと言ってよギンガナムさん!」 アルはすがるように叫んでいた。後ろからキラが肩に手を置いた。なぐさめるように。 ギンガナムは背を向けて、のろのろとフィールドの中へ戻っていく。アルはその背中から目をそらした。 続く 387 名前:フットボール狂騒曲125・希望の灯は消さない投稿日:04/01/28 04 02 ID ??? <ラインフォード・ユナイテッド>の猛攻は今にも<FCギム・ギンガナム>の牙城を崩そうとし、 その堅守は兄弟たちの攻撃を全く受け付けない。 GKのチボデー、CBにシロッコ、CHゼクス、そしてCFのガトー。ラインフォードの中央のライン は、完全に兄弟たちを上回っていた。エドワウことシャアが神出鬼没にディフェンスをかき回せるのも、 センターラインの優位あってこそだ。 ボール支配率でもチャンスの数でも大きく押されている<FCギム・ギンガナム>が失点しないのは、 GKドモンの好パフォーマンスと、やられっぱなしとはいえ、ギリギリのところまで食らDFが食らい ついているからだ。しかしそれも大風の前の灯火にすぎない雰囲気が、スタジアム全体を包んでいた。 兄弟たちも、押され続ける中で、戦う意志をいつ失ってもおかしくない状況まで追い詰められていた。 知らぬ間に下を向いている自分がいる。今はまだ、前を向けと自分を鼓舞できるが、それもいつまで もつか。 後半28分、兄弟ベンチがようやくウッソとジュドーの交代を申請しようとしていたとき、ピッチの 中では、ヒイロがゼクスを倒してイエローカードをもらっていた。ファウルした位置はゴール手前23 メートルのピッチ中央付近。<ラインフォード・ユナイテッド>にとっては絶好の、<FCギム・ ギンガナム>にとっては最悪の位置である。それでもヒイロはファウルを犯すしかなかった。あそこ で足をかけなければ、ゼクスからガトーへ得点間違いなしのスルーパスが通っていただろう。 このフリーキックのキッカー候補としてボールの近くにいるのはゼクスとシャアだ。ドモンは周囲に 「集中しろ! マークはずすな!」と声を飛ばしながらも、二人をじっと見ていた。 ここで失点するわけにはいかない。1-3で二点差にされてしまえば、緊張感と集中力が途切れて しまう。そうなればあとは疲労に身を沈めて、試合終了の笛が鳴るまで無様にピッチをさまようだけ になる。 シャアがボールをセットし、自分に打たせろ、と言っているように見える。が、次の瞬間、ゼクスが さっとボールに近づくと右足を一閃し、直接ゴールを狙ってきた。ドモンはやや遅れながらも反応し、 横っ飛びでゴール左上を狙ったシュートをなんとか上に弾く。弾かれたボールはクロスバーに当り、 真正面に跳ね返った。 跳ね返りに後方からラインフォードのCFガトーが飛び込む。ダイビングヘッド。ドモンの体勢は 崩れている。絶体絶命のその時、ボールの横からクリアしようとこれも飛び込んできたDFがいる。 ガロード。 ガロードにはここしかなかった。攻めでは貢献できず、かといって守りでは自分の担当するサイドを 破られ続けたガロードは、ここだけは絶対になんとかして汚名返上しようと、決死の集中力で望んで いた。ガトーより一瞬早くボールに飛び込み、ヘディングでクリアする。 それがガロードの最後のプレイだった。クリア直後、ヘディングシュートに来ていたガトーはそのまま、 ガロードの側頭部へと突っ込んでいった。鈍い衝突音がして、二人の選手はペナルティエリア真ん中に 転がった。クリアボールがサイドラインを割る前に審判の笛が鳴り響いて、試合は止まった。 388 名前:フットボール狂騒曲126・胸に抱えて投稿日:04/01/28 04 04 ID ??? 両チームの選手が倒れている二人に駆け寄る。ガトーはすぐ立ち上がった。軽く前頭部を押さえて いるが、特に問題はなさそうだ。ガロードは立ち上がらなかった。 兄弟たちがガロードの周りに集まり、何が起こったのか確認しあう。目前で見ていたドモンが皆に 説明しだした。 ドモン「クロスバーに跳ね返ったボールに、ガトーとガロードが頭から突っ込んだんだ。ほんの一瞬 ガロードが早かったからクリアできたんだが、そのせいで、ガトーのヘディングが側頭部に 入っちまった。……あそこでガロードが飛び込んでくれなかったら、やられていただろうな」 シロー「体を張ってゴールを守ったんだ」 コウ「ガロードの奴、勇気と根性だけはあるからな」 シローとコウが口を真一文字に結んでガロードを見やる。ガロードのこめかみは皮膚が軽く裂けて、 血が一筋、赤い線を描いていた。ロランが心配そうに顔を覗き込む。 ロラン「ガロード、全然気がつきませんね」 ジュドー「とりあえず……揺さぶって、みるか? 気がつくかも、な」 ヒイロ「やめておいたほうがいい。頭部に強い衝撃を受けているんだぞ」 ジュドーの提案をヒイロが否定した。ジュドーは人一倍息切れが激しく、言葉が途切れている。 シュバルツ「ヒイロくんの言うとおりだ。頭を打っているときは、いたずらに揺さぶったりしてはいけない」 いきなり、ドクターのシュバルツがにゅっと顔を出した。シーブックの頬にマスクの角が刺さる。 アムロ「ガロードは大丈夫なんですか?」 アムロはガロードの隣に座り込んで具合を見ているシュバルツの顔を伺った。シュバルツは「うむ」と 縦に頷く。 シュバルツ「意識が戻ってないのが気がかりだが、おそらくは脳しんとうだろう。少ししたら気がつく と思う。安静にしていれば特別問題はないはずだ」 ドモン「本当かよ。意識がないんだぞ?」 シュバルツ「経験上の意見だがな。なによりドイツの医学は……」 カミーユ「そんなセリフ、途中でさえぎってやる!」 シュバルツは少し残念そうに肩をすくめると、ガロードを慎重に担架に乗せて運んでいった。 スタンドで事態を見守っていたティファは、担架で運ばれていくガロードを見て、ついにふらりと 倒れかかった。傍らのジャミルが素早く体を支える。 ティファ「ガロード……お守り、渡したのに……」 細々とした声が、震える唇から漏れた。ジャミルはすこしうるんだティファの目を見つめて、 ジャミル「ガロードの様子を見にいくか? 医務室に向かったのだろう。傍に居てやることぐらいは できるはずだ」 と訊いた。ティファは、瞳に力を取り戻して、こくんとあごを縦に動かした。 <FCギム・ギンガナム>は、この時間でウッソとジュドーを交代させるつもりだったが、ガロードが 負傷退場した結果、ウッソとガロードを交代させることになった。著しく運動量の落ちているジュドー が、結果としてフィールドに残る。状況はより不利になっていく。 それでも、兄弟たちの中に弱音を吐く者はもはやいなかった。ガロードがなんとか繋いでくれた勝利 への可能性を無駄にするわけにはいかない。その一点で、皆の心がまとまっていった。 アムロは一言、 「勝つぞ」 とチームメイトに呼びかけた。見渡した兄弟たちの目に、輝きのないものはひとつとしてない。敵に 圧倒され続けた中で失いかけていた闘志が、全員の胸に蘇っていた。 続く 420 名前:フットボール狂騒曲127・脱出投稿日:04/02/13 15 32 ID ??? 試合後半も3分の2を消化し、1-2で負けている<FCギム・ギンガナム>に残された時間は あと15分を切った。ガロードの抜けた穴を埋めるためカミーユが左SBに下がり、カミーユがいた 位置にアムロ、右SHにウッソが入る。 <FCギム・ギンガナム> FW:9ギンガナム MF:14アムロ MF:10ジュドー MF:8:ウッソ MF:11ヒイロ MF:7ロラン DF:4カミーユ DF:2シーブック DF:6シロー DF:5コウ GK:1ドモン 同点に追いつき逆転して勝利するための鍵を握るのは、なんといってもFWのギンガナムだ。ただ一人 のFWとして重責を託されながらも、これまで得点するどころかシュート一本すら放っていない。この 状態をギムとチームが打開できるかどうかが、勝敗を分けるはずだ。 ところが肝心のギンガナム本人はこれまで消極的なプレイを続け、敵CBシロッコやラカンに歯が たたなかった。今もウッソのあげたクロスを、シロッコに競り負けてクリアされたばかりだ。 シロッコ「きさまのようなワントップのなりぞこないは、粛清される運命なのだよ」 シロッコのギムへの嘲りが、アムロの耳にも届いた。FWの頼りない姿に、アムロは歯がゆさを隠せ なかった。 アムロ「なにやってんだ! ギンガナム! やる気がないならアルと変えるぞ!」 アル、か。ギンガナムはふうっと、体力の消耗ではない溜め息を吐いた。 ――ついには、アルのような子供の前で弱音を吐いてしまった。 先ほどからギンガナムは己の行動を悔いていた。悔いているだけでもあった。 ――小生はいったい何をやっているのだ。エースストライカーと大見得を切った挙句がこの体たらく。 己の情けなさを悔いはしても何もせず、ただピッチをさまようのみで。 使えない奴とだけ見ていたガロードは最後の最後で大仕事をした。ヒイロの左脚にはテーピングが 巻かれている。白いテーピングには色がついていた。芝がこすれた緑と黒ずんだ土の汚れ。 ――小生はいったい何をやった。我がポジションはFW。頑張って敵と戦いましたなど言い訳にも ならぬわ。なんだかんだ言おうとFWの存在証明はただひとつ、ゴールのみよ。 ならば、とギムはきっとゴールをにらみつけた。 ――やるのみ。決めるのみだ。これは所詮球けりの所詮小さな大会に過ぎない。過ぎないが、些細な ことであろうと、ギンガナム家の自分が市井のガキどもに闘争心で負けるわけにはいかん。戦うために 生まれ育つのが我がギンガナム家の人間。今のままでは小生は、先祖に顔向けできんではないか。 人はギムを哂うだろう。ギンガナム家の当主がこんなサッカーの大会に真剣になっていたと聞けば 当たり前だ。ギムも、ディアナやアグリッパが同じことをしていたら、鼻を鳴らして馬鹿にする。 だが、哂われるのもいい。ギムはそう思い、かはっと笑った。叫んだ。 ギム「小生にパスをよこせ! 忘れたか? 小生は2試合連続でゴールを決めているのだぞ!」 421 名前:フットボール狂騒曲128・ストライカーギンガナム投稿日:04/02/13 15 33 ID ??? よく言うぜ、というのが敵味方を問わずギムの叫びに対する反射的な意見だった。なにしろこれまで まったく自分の仕事をしていないのだ。 これまでギンガナムを押さえ込んでいたラカンははっきりとあざ笑った。近い位置にいたシロッコも ニヤリと見下した笑みを漏らす。 敵ならそれでいいだろうが、味方となればそうはいかない。半信半疑が本心でも、ギンガナムが 言葉どおりやってくれねば負けてしまうだろう。信じてみるしかない。 ヒイロががむしゃらにボールを追いかけてプレッシャーをかけたおかげで、ラインフォードのパスが 乱れ、シローがカットすることができた。ヒイロはガロードが退場して以来、以前にも増して鬼気迫る 勢いで敵に喰らいついていく。 思いは他のプレイヤーも同じだ。まして怪我人のヒイロにだけ頑張らせておくわけにはいかない、と 思う気持ちは、ガロードとヒイロの兄である者たちほど強くなる。シローからカミーユ、アムロと 左サイドを繋いで、真ん中のロランに流す。横からグエンが迫る中、 アムロ「ギムに出せ!」 というアムロの声を受けて、ロランはギンガナムへとダイレクトで縦のパスを出す。 このパスはギンガナムへの問いだ。アムロとロランだけでなくチーム全体の、先ほどギムが叫んだ 「パスをよこせ」という言葉の意味すること、点を取ってやるというギムの意思表示を、信じても いいんだなという問いである。 ギムはボールをすぐ右サイドから中央に入って来たウッソにはたく。同時にエリア右サイドに流れ、 ボールを受けようとする。ウッソはとっさに浮き球をギムに出した。グラウンダーではカットされて しまうのを感じ取った結果の非凡なパスは、ラカンの頭を越え、ギムの足元にきっちりと落ちてくる。 シロッコがギムの左から体を寄せてシュートを打たせまいとする。GKのチボデーも素早くゴールと ギムの間に入る。シュートコースは閉ざされている。 それでもギムは迷わず、シロッコにあたられながらも強引に右足を振りぬいた。強烈なシュートが チボデーの胸に跳ね返る。ペナルティエリア中央に飛んだこぼれ球を詰めさえすれば一点というところ だったが、ラインフォードDFのクロノクルにギリギリでクリアされてしまった。 あと一歩で得点にはならなかったが、ギムは確かにチームメイトの問いに答えた。小生に任せろ、 と。 続く 間隔が開いてしまってすいません。初めてインフルエンザってやつにかかってしまった。 566 名前:フットボール狂騒曲130・ゴール前の防壁投稿日:04/03/22 11 07 ID ??? 後半35分、<FCギム・ギンガナム>は中盤を支配していた。ほとんど兄弟たちがボールを保持し、 <ラインフォード・ユナイテッド>はガトーがカウンターで見せ場をつくったものの、あのチャンス 以外は兄弟たちの攻撃を跳ね返すのが精一杯という形だ。 後半40分、<FCギム・ギンガナム>は先ほどと同様にやはり圧倒的にボールを支配している。 ロランが左右にボールを散らし、ギムは大きな体を活かして後ろからのボールをポストプレイで周囲 に落とす。両サイドバックのカミーユとシーブックも体力の消耗を押してオーバーラップをかける。 センターバックの一方、シローも前線に上がって攻撃に厚みを加える。そして、スコア1-2は 動かない。むしろ時間が少なくなるにつれ、兄弟たちはシュートにいけなくなっていた。 <ラインフォード・ユナイテッド>の最終ラインが揺るがない。堅い。センターバックのラカンと シロッコはもちろん、両サイドバックのカクリコンとクロノクルも負けじと奮闘している。4人の ミッドフィルダーも的確に守備の隙間を埋める。何より最後に控えているゴールキーパーチボデー の恵まれた身体能力と反射神経の壁は安易には破れそうにない。 ギンガナムは先ほどの初シュート以来、健闘してはいるがいかんせん一人だけで点が獲れるタイプ の選手でははない。サポート役のジュドーは完全にスタミナ切れで話にならず、右サイドのウッソは がつがつと激しくあたられるとどうしても弱い。攻撃の起点になることが多いアムロ、カミーユの 左サイドも守備側のカクリコンとジェリドの踏ん張りの前に、決定的なチャンスを作り出すまでには 至らない。コーナーキックもフリーキックも得たが、得点にはつながらなかった。 アムロ「いけるぞ! ここで頑張らないでどうするんだお前ら!」 アムロの檄に、各選手が、おう! と返事をする。闘志は萎えていない。 ベンチで祈るように、というより実際祈りながらピッチ内をみつめるキラたちにはどこからか疑念が 忍び寄ってくる。 ――このまま、終わってしまうんじゃないか。攻めきれないまま。 キラは、気付けばくっと下唇を噛んでいた。傍らのアルも同じようにしている。キラはアルの肩に 手を置いて、 キラ「まだあと5分ぐらいある。ロスタイムだってね。まだ時間はあるんだ、まだ」 と、自らに言い聞かせるように言った。 567 名前:フットボール狂騒曲131・勝利への限界時間へ投稿日:04/03/22 11 12 ID ??? ギンガナムがラカンとの競り合いを制して後方からのロングボールを落とす。しかし、直後に起こる ことはまたしても敵のクリアだ。クリアボールを拾って左サイドから<FCギム・ギンガナム>が アムロ、カミーユと繋いで右サイドのウッソへとサイドチェンジのロングパスをだす。それも敵DF がヘディングでクリアする。時間がなくなっていく。 引いた相手に有効なのはミドルシュートだと、ロランが狙いにいく。グエンが横から体を寄せて 打たせまいとする。こぼれたボールをシロッコが前方に蹴りだした。コウを振り切ったガトーがとどめ の得点を狙いにいくが、ドモンがペナルティエリアから飛び出してヘディングでクリアした。 ドモン「カウンターにびびるなよ! こっちは引けないんだからな!」 あと2分で後半45分が終わろうとしていた。ドモンのクリアボールを受けたヒイロがギンガナム の頭めがけて放り込むが精度を欠き、シロッコがヘディングで跳ね返す。セカンドボールをアムロが 拾ってピッチの中央からミドルシュートを放つ。ゴール右へ外れていった。 アムロ「ちいっ!」 しかし、久々のシュートだった。シローが叫ぶ。 シロー「もう少しだぞ! あきらめるなよ、お前ら!」 ギム「当たり前であろうが。小生に放り込め、貴様ら! 競り勝てているというのだ、小生は!」 再びギンガナムへと兄弟はロングボールを放り込む。芸がないといえばないが、確かに今、有効な 攻撃手段となってきている。ラカンに体勢を崩されながらギンガナムは強引にヘディングシュート にいった。競り合いでボールがこぼれる。シローの目の前に。ややあせりながらシローが飛び込む。 シュートは枠内に飛んだが、急いたせいか勢いがなく、コースもチボデーの正面だった。 シロー「くそっ」 止められはしたがこれもシュートまでいけた。なにかが変わってきている。アムロも兄弟たちの誰も 感じていた。 敵も、辛いのか。ただ一点の差を守り倒すというのは簡単ではない。緊張がミスを生む。そこまでは いかなくとも動きを鈍らせるというのは、十分あり得る。 チボデー「落ち着いて冷静にやりやがれ! 足がすくんでる奴はいないだろうな!」 チボデーの叫びは<ラインフォード・ユナイテッド>の焦りを写しているようにアムロには聞こえた。 チャンスは訪れる。決定的なものが必ず。アムロにはそんな気がした。 後半も終了間際となり、ロスタイムがボードで表示された。3分。希望の持てる数字だ、とタッチライン ギリギリまで身を乗り出しているキラは考えることにした。 それでも兄弟たちの状況が必ずしも有利というわけではない。時間は確かにすぎていくのだ。斜陽に 照らされた掲示板の時計をスタジアムにいるあらゆる立場の人間がみつめた。針は後半45分を指して いた。ここから先はロスタイムである。 568 名前:フットボール狂騒曲132・残された時の中で投稿日:04/03/22 11 18 ID ??? 追いつかねばならない<FCギム・ギンガナム>は、最初にターゲットとしてボール保持者が見る のはギンガナムだ。ロングボールを入れられる状況なら、とにかくギンガナムの頭目掛けて放り込む。 先ほどからずっと同じだ。とにかくギンガナムに放り込み続けている。そしてそのたびに<ラインフォード・ ユナイテッド>のDF陣とGKのチボデーが自陣の危険な位置から跳ね返して遠ざける。ギンガナムは ラカンに競り勝っているが、その後が続かない。落としたボールをシュートに行く前に止められている。 それでもまた、ヒイロが、ロランがこの時間帯でもセカンドボールを拾うために走り、自分で、もしくは アムロやカミーユ、ウッソにパスし、彼らが放り込む。 ギムへ放り込まれたクロスをシロッコが頭で弾き返す。ラカンと二人でギムを挟み込んで、ようやく 潰してのクリアだ。高さというラインフォードのアドバンテージは、ことギンガナムに関しては、こちら が不利と認めねばならなくなっている。しかしだからといって恐れることはない。一対一ならともかく ラカンと二人でマークすれば、直接ゴールにシュートを打てる体勢にはさせずにすむし、ガトー一人を 前線に残して守備を固めていれば、いち早くこぼれたボールもクリアできる。このまま望みのない放り込み を続けさせて逃げ切る。俗人どもがただひとつの攻撃パターンにこだわっているだけであり、その愚かさ は恐るるに足りない。脅威でもなんでもない。シロッコはそう心中に繰り返した。 スタンドで見守る観客-といっても応援にきた両チームの友人知人が大半だが-は放り込みを続ける <FCギム・ギンガナム>の方針に疑問を覚えていた。先ほどまでは。 メリーベル「それじゃ無理だよ! すこしは頭使ったらどうなんだい!?」 スエッソン「こりゃだめだ。御大将もサッカーなんてやらずにケーキ大食い対決に出ればよかったのだ。 そうすれば俺が出て優勝なんて簡単だったのに」 メリーベル「うるさい! 半裸のくせに! セクハラだぞ」 <Fcギム・ギンガナム>の勝利をあきらめるものもいた。幼いミネバまでが、跳ね返され続ける 兄弟たちの攻撃を見て、傍らのハマーンに問うていた。 ミネバ「あれを繰り返しても、点は入らないのではないか、ハマーン?」 ハマーン「ミネバ様、と前園さんの言うとおりでありましょう。もっと他のパターンを考えるべきです」 ミネバ「前園さん?」 ハマーン「ヒデ、ラーメン食いに行くか? いじめ、かっこ悪い」 ミネバ「ハ、ハマーン? 悪いものでも食べたのか?」 ハマーン「……なんでもありません。失礼をいたしました」 今は、違ってきていた。何度も何度も跳ね返されて、それでも愚直とさえ言えるほどギンガナムの頭を 目掛けてロングボールを蹴りだす兄弟たちに、二人相手に競りかけるギンガナムに、観客は 知らず知らず 引き込まれていた。 ミネバ「ハマーン、シャアには悪いが、私は<FCギム・ギンガナム>に追いついてほしいぞ」 ハマーン「ミネバ様のお心はミネバ様のものです。あの男に遠慮することなどありません。……ええい、 ジュドー、この期に及んでもまだ動けんのか」 当然、ベンチにいる出場できないチームメイトたちはそれ以上だった。全員ベンチから身を乗り出して みつめている。もう何十分立ちっぱなしだろう。 ソシエ「ロラン! みんな! がんばるのよ! もうすこしなんだから!」 リリーナ「ヒイロ……あなたたちの選択は身を結ぶはずです……必ず」 アル「ギンガナムさん、あれは嘘だったんだよね。そうだって証明してよ」 キラ「アスラン……」 3人「おいそこ!」 だがロスタイムは無限にあるわけではないし、3分と表示したのに12分あるわけでもない。1分たち、 2分たち、いつ笛が吹かれようとおかしくない状況となっていった。 569 名前:フットボール狂騒曲133・強襲、時間限界点投稿日:04/03/22 11 22 ID ??? ロスタイムさえも残りわずか、またもギンガナムへのクロスをラインフォードが跳ね返したボールを、 またも兄弟たちが拾った。最後のチャンス。スタジアムの誰もがそう思った。今、笛が吹かれていても おかしくなかったのだ。 <FCギム・ギンガナム>のウッソが右サイドからクロスを狙う。仕掛けはばっちりだ。魚は餌に かかっている。中央とのアイコンタクトをとり、最後の最後という場面で13歳の少年は過たなかった。 冷静だった。正確なクロスがギンガナムではなく、シロー目掛けて鋭く唸る。 ずっとギンガナムだった。今回もそのはずだと、<ラインフォード・ユナイテッド>の選手たちは 勝手に思ってしまっていた。人数はいても、シローを放してしまっている。シローはフリーで飛ぶと、 ヘディングシュートを放った。手ごたえは抜群だ。 ――決まった! とゴールを見やるシローの目に飛び込んできたのは、敵GKチボデーがジャンプ一番、右への横っ飛びで シュートを弾く光景だった。瞬間の絶望と復活とがシローを駆け抜けた。シュートは止められたが、 ボールはまだ生きている。 左サイドのゴールラインを割ろうかというようにボールは跳ねる。いち早くそれを追う選手はまたも <FCギム・ギンガナム>のユニフォームを着ている。ジュドーだ。ほんのすこしだけたまった体力 を燃やして、猫のように弾けて追う。ラインを割らせてはならない。終わってしまう。右足を懸命に 伸ばしてボールを生かそうとする。ライン上から辛くもかき出す。 ――繋いでくれっ 思いは届いた。今度は左サイド深くのタッチライン際で、カミーユが拾ってくれた。詰めてきたカクリコン をいなし、後方のアムロへと繋ぐ。 アムロへはジェリドがあたってくる。余裕はない。パスをトラップせず、ダイレクトであげねばならない。 アムロはすばやく中央を一瞥した。目があった。その男は二人のDFにマークされながら、なおボール を欲していた。いや、ほんの少しだけだがマークに隙がある。 ――ギム! アムロは足元に目を戻し、右足を振りぬいた。ハイクロスの軌跡の先にいる、ギンガナムを 信じて。 アムロのクロスに合わせてギムは飛んだ。シローのヘディングの際に生じた混乱のおかげで、わずかに 動けるスペースが出来ていた。だがマークをはずしたわけではない。シロッコとラカンはギムを潰そうと、 二人がかりでギムの体を両側から挟み込むようにジャンプしてくる。ギムはぐっと首を伸ばしてヘディング にいく。体を両側から激しくぶつけられながら、それでもギムの頭はクロスボールを捕らえた。アムロは ぴったり合わせてくれていた。 570 名前:フットボール狂騒曲134・虹の果てには?投稿日:04/03/22 11 28 ID ??? アルは一心にみつめていた。ギンガナムの頭から打ち出されたボールが、すーっと虹のような弧を 描いて、決してキーパーの手の届かないところ、ゴール左すみに吸い込まれていくのを。 ゴールネットが、ゆれた。 アル「入った……」 ゴールを告げるレフェリーの笛がスタジアムに高く響く。 アル「入った。入った。入ったんだぁー!」 アルは両腕を突き上げた。キラが抱きついてくる。ソシエも、リリーナも。歓喜の輪が広がる。フィールド の中ではエースストライカーが皆に手荒い歓迎を受けていた。アルは、いやアルたちはそろった笑顔を わっと向けた。ギンガナムが、大げさに胸を張って答える。 ジュドー「いやー、しかし、すごい偶然も、あった、もんだ、なあ」 ジュドーの言葉に、ギンガナムは首を振って自慢げなため息をついた。 ギム「狙いどおりである。あのとき、小生の頭にゴールへのイメイジが自然と舞い降りてだなあ」 「はいはい」 とカミーユとシーブックも首を振って笑った。 ギム「まったくあれだな、小生に見えたのは限られたストライカーだけに見えるというターンXロードだな」 ガロード「そんなもん聞いたことねえよ!」 ガロードも呆れ気味だ。ギムはルーキーにものを教える監督のそぶりで、 ギム「愚か者め。いいか、XはターンしてもX。ゆえに不変の証。いつだって存在するゴールへの不変にして 普遍の道。それがターンXロードである!」 アムロ「嘘をつけ。嘘を」 ギム「嘘ではないぞナイスクロスのアムロ君。古くはゲ○ト・ミューラーやフ○ン・バステンがこのターンX ロードを……」 アムロ「もう十分だな。さあ、まだ追いついただけだ! 気を抜くなよ!」 ロラン「気を抜いた人は今日の夕ご飯も抜きですからねー!」 アムロ「ロラン! お前が抜きだ!」 ロラン「は、はい!」 皆、最後までギンガナムの与太話を聞かずに去っていった。しかし、胸のうちでは誰もが我らの ストライカーの重要性を噛み締めていた。少なくとも味の無くなったガムよりはずっと。 あのスーパーゴールが狙ったものなのか偶然の産物なのかはともかく、確かなことはギンガナムの 頭が同点ゴールを叩き出したということだ。後半ロスタイム、試合終了間際の同点劇でスコアは2-2。 試合再開直後、後半終了の笛がなり、<FCギム・ギンガナム>、<ラインフォード・ユナイテッド> 両者の対決はゴールデンゴール方式(Vゴール方式)の延長戦へと突入した。 続く link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ ガンダム一家 ギム・ギンガナム グエン・サード・ラインフォード フットボール狂騒曲 長編
https://w.atwiki.jp/nitendo/pages/11570.html
ポパイの英語遊び とは、【ファミリーコンピュータ】用のゲーム。 概要 ゲームシステム キャラクター ゲームモード 関連作品 コメント 概要 ポパイの英語遊び ふりがな ぽぱいのえいごあそび ハード 【ファミリーコンピュータ】 メディア 192キロビットロムカセット ジャンル 教育 発売元 任天堂 開発元 任天堂 プロデューサー 宮本茂 プレイ人数 1~2人 発売日 1983/11/22 (日本) 値段 4,500円(税別) 【ファミリーコンピュータ】向けに発売したゲーム。 『ポパイ』のキャラクターを使って制作された英語教育ゲーム。【ポパイ】のグラフィックを流用している。 ゲームシステム 英単語本作は500の英単語がプログラムされた教育ゲームである。モードによって若干ルールが異なるが、簡単な英単語を完成させて得点を稼いでいくというのは共通。操作は『ポパイ』と同じで、上下左右ボタンでの移動と、Aボタンの決定のみを使うという簡単なもの。なお、本作に使われている英単語は全て説明書に記載されている。 2人同時プレイ本作は「WORD CATCHER」のみ2人同時プレイが可能。2Pはブルート(ブルータス)を操作する。 キャラクター ポパイ オリーブ ブルート(ブルータス) スィーピー ゲームモード WORD PUZZLE A1人用。オリーブが出題する英単語のスペルを、アルファベットから選んで完成させる。日本語の意味がカタカナで表示されるというヒントもある。間違ったアルファベットを選ぶとスィーピーが左側に移動し、10回移動すると落ちてしまう。 WORD PUZZLE B1人用。「WORD PUZZLE A」と基本ルールは同じだが、日本語の意味が表示されない。 WORD CATCHER2人用。1Pはポパイ、2Pはブルート(ブルータス)を操作する。オリーブが放つアルファベットをキャッチしてカタカナで出題された英語のスペルを完成させる。このモードでは原則としてアルファベット4文字以内の単語しか出てこない。5個の英単語を完成させた方が勝利となる。 関連作品 【ポパイ】 コメント 名前 全てのコメントを見る?
https://w.atwiki.jp/sapporogamer/pages/32.html
ゲームインポパイ 住所 豊平区平岸5条9丁目 営業時間 10 00~24 00
https://w.atwiki.jp/koumeifcall/pages/36.html
打開 ゲーム名 打開日 打開した人 打開! ポパイの英語遊び 2012/4/8 孔明 打開条件