約 1,516,217 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2540.html
放課後の掃除当番に当たってしまった俺は、かなり遅れて部室へと向かっている。 ハルヒは先行くわねとの言葉を残して消えてしまった。 おとなしく部室に行くのか、それともどこかほっつき歩いているのかもしれん。 部室棟への渡り廊下を歩けば、新鮮な風が心地いい。 軽く喉の渇きを覚えたものの、部室に行けば朝比奈さんがいれてくれるお茶が楽しめるだろう。ペットボトルのような無粋なものは不要だ。 早いもので4月も中旬だ。 佐々木や橘はまったく音沙汰がない。一体何をやってるのかはわからんが、できればあと100年ほどでいいから、おとなしくしていてほしいもんだと思う。 部室の扉を開けると、団長席に座ったハルヒの姿が見えた。うっかり飲み物を零した幼稚園児のような笑顔を浮かべた。 「あれ?みんなは?」 ハルヒは肩をすくめて話し出した。 「古泉くんはなんかバイトが忙しくて、みくるちゃんは風邪でお休み。有希はとなりで遊んでるわ」 「そうか」俺は長テーブルにカバンを置き、定位置におかれているパイプ椅子を引いて腰掛けた。 「そうなの。とりあえずあんたとあたしだけってことね」 ハルヒは頬杖をつき、ついでにため息までついてから、そう言った。 そのまま見つめ合うこと数秒。話す言葉も見つからずに、二人同時に視線を逸らせてしまった。 ハルヒを見るのがなんとなく恥ずかしいのは何故だ。部室に二人しかいないからか。時間遡行までして、ハルヒの想いを知り、自分の想いに気づいたからなのか。 そこまで考えが届くと、とたんに恥ずかしさが倍増し、喉の渇きも増してしまうのは、本能のなせる業なんだろうか? 「お茶、飲むか」 俺はハルヒの返事も聞かずに立ち上がり、冷蔵庫に向かった。 確か冷蔵庫にペットボトルのウーロン茶があったはずだ。 冷蔵庫のドアを掴んだところで、ハルヒと手が触れた。お互い驚いて、手を引っ込めてしまう。 「お茶ぐらい入れたげるからさ、座ってなよ」ハルヒは視線をうつむき気味にしながら言う。 「あ、いや、おまえこそ座ってろよ」俺はハルヒの手元を見ながら言う。 お互いに立ち尽くし、相手の出方を伺っている。 「じゃ、こうしようよ。あたしが湯飲みを準備するから、キョンがそれにお茶を入れるの」 「そ、そうだな」口の中がねばつくようだ。「それがいいな」 なにがいいのか自分でも分からないままに、冷蔵庫を勢いよく開け、ペットボトルを見つけた。まだ半分ウーロン茶が残っている。 ハルヒは俺と自分の湯飲みをなぜか自分の机に置いてから、俺を振り返った。 俺はペットボトルを冷蔵庫から取り出した。ボトルキャップを外して、冷蔵庫の上に置いた。 俺はペットボトルを手に団長机まで歩み寄ると、まずハルヒの湯飲みを取り上げてウーロン茶を注いだ。 ハルヒに湯飲みを渡した。ほんの少しだけ指が触れて、あやうく湯飲みをおとしそうになるが、すんでのところで悲劇は防げた。 ハルヒは深いため息をつき、たったまま湯飲みに口をつけた。つややかな唇が、湯飲みに触れるのを、ぼんやり見つめてしまう。 「やだ。なに見てるのよ?」ハルヒは視線を合わせようとせず、小声でささやくように言う。 声が照れていた。 「あ、すまん」あわてて背を向け、自分の湯飲みにウーロン茶を注ぎ入れた。 そのままの態勢で、立ったままウーロン茶を飲んだ。味なんてしねえ。超純水だといわれればそう信じてしまうほどにな。 客観的に考えれば、お互いにお互いを意識しすぎている状態だ。以前はもっと気軽にやってたじゃないか。どうしたってんだ? 気恥ずかしさが先に立って体が動かない。 なるほど、初恋がうまくいかないってのはこういうことなのかと得心したが、いまさら後の祭りだ。 ついさっき起きた崩落で、引き返すルートが断たれた登山家のような心境になるな。いろいろ装備は不十分で、雲行きも怪しい。それでも前に進むしかねえ。 もっともハルヒもそう思っていればの話か。またはそう思わせることができるのか、だな。 まあハルヒにも苦手分野があったのかと思わなくもないね。 「そこ、座りたいんだけど」遠慮しているかのようなハルヒの声に我に返った。もうどうしようもないね。俺は肩を落として、自分の定位置に戻った。 ハルヒが冷蔵庫にペットボトルを戻すのを見て、落胆する思いで一杯だ。 まったく、これまでは平気だったじゃねえか。それこそハルヒとなら一つのコップで、お茶飲むことさえ気にもしなかった。 ハルヒが女で、俺が男なんて意識の外だった。それが告白騒動で意識するようになっちまった。特別教育を受けたばかりの小学生じゃあるまいにな。 席に戻ったものの、なにもする気になれないな。カバンの中に、読みかけのマンガ雑誌があり、携帯電話には清水の舞台から飛び降りる覚悟で入手したRPGが収まっている。 が、どれにも触手が伸びない。ほんの少し居心地の悪さを感じながら、長門蔵書を眺めるぐらいしかできない。 「ため息、多いんじゃない?」ハルヒが遠慮しがちに声を掛けてきた。「どうかしたの?」 言われるまで気がつかなかった。 「あ……いや、ちと息がつまるようでな」 「そう……ね」ハルヒは小首をかしげながら言う。「どうしたのかしらね、あたしたち。すっごく恥ずかしいのはなんでだろ」 そしてハルヒは小さなため息をひとつついた。視線は机の上に落ちている。 「ああ。どうもな」 「こんなんじゃなかったのにね」ハルヒは、肺の中の空気をすべて吐き出すような長いため息をついた「なんで?」 「おまえもため息だらけだな」 ハルヒは、クスクスと笑った。 「お互い様ね」 すっと緊張が抜けて行くような感覚を味わう。ハルヒもそうだったのか、いつもの顔に戻って、俺を見つめている。 「初めてづくしでなんにもわかんないな」ハルヒは両手を机の上において、その上に顎を乗せた。俺を見つめる瞳は銀河系をひとつまるまる収めたように輝いている。 「ハルヒにも苦手分野があったとは思わなかったぜ」 「なんのこと?」キョトンとした顔でハルヒがたずねる。 「恋愛系は苦手分野じゃねえか?」 ハルヒは俺をにらみながら、口をとがらせた。 「あんたのせいでしょ。どんだけ悩んだと思ってんのよ。まったく、人の気も知らないで、何回あたしが枕を濡らしたか知ってる?」 「そんなことがあったのか? そりゃすまん。いや、まさかそんなに思い悩んでいたなんて知らずに」 だが、ハルヒはにっこりとほほ笑んだ。罠にかかったイタズラキツネを見下ろす猟師のような表情を浮かべている。 「嘘よ」ハルヒは弾けるような声で言った。「バーカ」 「ったく」完全にやられた。ああ、クリーンヒットを認めてやるよ。いいパンチだ。「やられたぜ」 「ふふん、このあたしが泣くなんて思うの? そんな必要がどこにあるってのよ。この涼宮ハルヒがよ? どーやってあんたから告白させてやろうか、それを考えてただけよ。 遊びに誘いまくれば、それとなーく空気読むかと思ってたら、遊びには乗るけど、普通に楽しく遊んで終わり。小学生が公園で遊んでるのと同じじゃない」 ハルヒはがばっと体を起こして、何を思ったか椅子の上に立ち上がった。 そしてびしっと音をたてて、俺を指さした。 「あんたがねぇ、もうちょっと空気読んで、あたしに告白してれば済んだ話なのよ。それとなくきっかけ作っても、全部スルーじゃない。何度スルーくらって、メゲそうになったと思ってんのよ。 そのくせ、あたしがわがまま言っても、なんだかんだ言いながらも付き合うし。ホント、訳わかんない」 「すまんな」としか言いようがねえよ。 「それだけじゃなくて、有希とはなんか変な信頼関係あるみたいだし、みくるちゃんにはでれでれするは、おまけに妹ちゃんの友達まで手を広げて。 あの佐々木って変な女まで出てくるし。 無自覚なドンファンっぷりに呆れかえる毎日よ。 あんたね、そういう無防備な優しさはね、女の子を泣かせるのよ? ホント、あの佐々木も裏で実は泣いてたんじゃないの?」 「んなこたねえと思うがなぁ」 「どーだか。中三にもなって好意もなしに、一緒に塾通いなんてするわけないじゃない。絶対噂になるし、好意がなけりゃ無理よ。 そういう女の敵を野放しにしとくことは出来ないの。第二第三の佐々木が現れる前に、あたしがあんたの首に縄つけとくことにしたの。 これはね、あたしがあんたのことどう思ってるなんて、小さな問題じゃないの。逆にあたしはこの身を投げ出して、これ以上の被害拡大を防ごうと立ち上がったのよ」 「おい、論点がズレて」 「なによ、『論点がズレて』って。ずれちゃいないわよ。いい事?あんたがあたしに『好きだ』とか『愛してる』とか『もうおまえなしにはいられない』なんて言えば、それで済む話じゃない。違う? そりゃ、あたしは恋愛は精神病の一種だと思っているわ。いまでもね。 それはそれとして、あんたがあたしのこと好きだって言うなら、あたしだって少しぐらい考慮するわよ。 それをラブコメマンガじゃあるまいし、だらだらだらだらあたしの気も知らないで、延々引っ張ったのは、あんたでしょう?」 さらに論点がずれたが、もはや突っ込みを入れるような状態じゃねえ。 ハルヒは有頂天になって、演説を続ける気のようだし、突っ込みを入れれば入れるほど、単に火に油を注ぐだけだ。 「それは済まなかった」 「いい? あんたとあたしは普通のカップルじゃないの。あんたをね、野放しにしとくと被害者が増えるばかりなの。そう、あたしはあんたの首に縄つけておくために、カップルになってやるのよ。 分かった?分かったのなら、はいといいなさい?」 「はい」なんか新興宗教にでも入団した気分だぜ。 「素直でよろしい」ハルヒは腕を組み、大きくうなずいた。「その素直さがほしかったわね、最初から」 「最初から?」どういう意味なのか分からず、思わず聞き返した。「いつのころからだ?」 「最初からは最初からに決まってんでしょうがぁ!」ハルヒはなぜか顔を赤らめながら、吠えるように言った。「乙女心だけじゃなくて、日本語も分からないの?」 「そ、そうか」 「とにかく、カップルになった以上、まずひとつやることがあるわ」 ハルヒは椅子から降りた。団長席の横に回って、腰に手を当てた。なにが不満なのか、怒ったような表情を浮かべている。 「こっちにきなさい」 有無を言わせぬせりふに、仕方なく立ち上がった。なにをするつもりなのだろうか。キスしろとか言い出すんじゃねえだろうな? この神聖なる部室を穢す不届き者には、天罰が下るぞ。 ハルヒが使っている甘いシャンプーの香りを感じるまで近寄った。 満足げにハルヒが見上げた。あどけない笑顔を浮かべている。大きな瞳が潤んでいるのは気のせいじゃないだろうな。 「いつ覚えたのよ」ハルヒはすこし視線を反らせながら言った。 「なにが、だ?」 「腰に手を回してるじゃない」 おや? 言われてみれば、ハルヒの腰に俺の右手が回っているではないか。おかしい、これは実に驚くべき現象だな。 「ばか」ハルヒは俺の肩に手を置いた。「いやらしい」 「んー谷口がこうすると女の子が安心すると言っててな。無意識のうちにそれが実行されたんだな」 「ふん、何言ってんのよ。バカみたい」 ハルヒはすこしだけ唇を尖らせた。リップでもつけているのか、うるおいたっぷりの唇に目が釘付けになる。 「なに見てるの?」ハルヒは体を俺に押しつけながら言う。柔らかい感触に思わず堅くなるね。 「ハルヒの唇」 「ほんと、男っていやらしいんだから」 体を押し付けているおまえはどうなんだと思いながら、ハルヒの瞳に封じ込まれた銀河系に、果たして我らが太陽系第三惑星は含まれているのか探しはじめた。 「なんか言いなさいよ……」ハルヒは深いため息をつきながら、瞳を閉じた。 この部室で男女が体を必要以上に密着させた状況で何を言えというのだろうか。 まあ言うことなんて、ひとつしかないんだがな。 「好きだ、ハルヒ」 ハルヒはバカと唇を動かさずに言った。ような気がする。唇が近づくにつれ、やはりこちらも目を閉じなければならないのだろうか。 俺も初めてなもんで、勝手が分からないのさ。少なくともこの世界ではな。 目を閉じて、ハルヒの柔らかい唇を感じた。かすかにイチゴの香りがする。昼に食ったのか、それともリップの香りか。 そんなことでも考えていなければ、暴走しそうだぜ。 ハルヒが軽く声を上げたような気がするが、聞かなかったことにしないと理性がもちそうにない。頼むからこれ以上の刺激は勘弁してくれよな。 ハルヒの右手は強く俺の肩をつかんでいる。左手が俺の背中に回り、俺の上着を強く握り締めているようだ。 唇を放したが、光るものが唇をつないだ。ハルヒはそのまま顔を俺の胸にうずめ、深いため息を一つついた。 腰に回していた手で、ハルヒのつややかな黒髪に触れた。そのまま撫でれば撫でるほど、いとおしさが増していくようだ。 こんなことを部室でするなんて思いもよらなかったが、まあ天罰も下らずに済んで良かったぜ。 ハルヒが顔を上げ微笑んだ瞬間、思いもよらぬ声がかかった。 「終わった?」長門の声だった。 恐る恐る声のする方向に首を向けながら、ハルヒと体を離した。 いまさらどう言いつくろうことも出来ないが、抱き合ったままはさすがにまずいだろう? 長門は、お取り込み中なのでおとなしく順番をまっていただけというような表情を浮かべている。 「ゆ、有希、なんでノックとかしないのよ」 すこし乱れた制服をあちこちひっぱりつつ、ハルヒが言った。 「した。聞こえなかった?」 「き、聞こえなかった…」ハルヒが俯きながら答えた。 「あちらでの作業が終了したため、戻ってきた」長門は淡々した口調で説明し、そのまま本棚で適当な本を一冊取り出し、いつもの椅子に腰掛けた。 「そ、そう」 俺は絶句したまま、長門を見つめていることしか出来ない。 長門は本を開いたが、ふと思いついたように部室の扉を指さした。 「もし続きがしたいのであれば、外で」 そしてページをめくりながら、長門は言葉を続けた。 「暑苦しいのは勘弁」 これには俺もハルヒも言葉がなく、俯くことしか出来なかった。 おわり
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/355.html
松坂さとうとの通話を終えてすぐのことだ。 しょうこは自室のベッドにぐったりと倒れ込んだ。 可能性の器とか呼ばれていてもしょうこの中身は年相応のありふれた少女である。 二度と会えないと思っていた友人との再会。 そこでしょうこはなけなしの勇気を絞り出して頑張った。 通話が終わって気が抜けたらしいしょうこは申し訳なさそうな声でこう言った。 『あ〜……ごめん、アーチャー。ちょっとだけ休んでもいい?』 勿論ダメだと言う理由はない。 別に状況が切迫しているわけでもないのだ。 休みたい時は休んでいい。 キミが眠っている間は、ボクがちゃんと気を張っておくから。 そう伝えるとしょうこはへにゃりと力なく笑った。 『ん…じゃあ、お言葉に甘えるね。私、これ、ちょっともうダメだわ……』 それからすぐにすうすうと寝息を立て始めた辺り、余程気疲れしたらしい。 いや……張り詰めていた糸が切れたというべきか。 それを軟弱だと責めるGVではない。 さっきのしょうこの頑張りを見ていれば、そんな言葉は口が裂けても出てこない筈だ。 “……今は静かに寝かせてあげよう。休める内に休んでおくべきだ” 憑き物が落ちたような穏やかな寝顔。 GVはしょうこが点け忘れていた冷房のスイッチを押すと、踵を返して彼女の部屋を出た。 “この先、こうしてゆっくり眠れる機会がどれだけあるか分からないんだから” だから今はゆっくり休ませてやろう。 その間自分は、サーヴァントとしてやるべきことをする。 霊体化して飛騨家の門前に立ったGV。 次の瞬間彼が始めたのは、思考と思案だった。 “……マスターは松坂さとうのことを大切に想っている。その気持ちを蔑ろにするつもりはない” さとうとしょうこの間にあったことはGVも聞いていた。 GVに言わせれば、松坂さとうはこの世界でも依然変わらず危険人物だ。 自分のマスターである飛騨しょうこを一度とはいえ殺した女。 必要とあらば友人だろうと構わず殺せる人物。 しょうこには悪いが、そんな人間のことを信用しろと言われても難しい。 “けどもしも松坂さとうがマスターを裏切ろうとする素振りを見せたなら……その時は、ボクが手を汚そう” その時は、GVの独断で松坂さとうを殺す。 しょうこの意思はあえて確認しない。 彼女が罪と後悔を背負わなくて済むように、自分が全ての咎を被る。 一度目の邂逅が終わった時点でGVはそう心に決めていた。 尤も、あくまでもしもの時の話ではある。 それに……出来ればGVは、しょうこからさとうを奪いたくなかった。 マスターから聞いた松坂さとうの"愛"。 それを肯定するのも否定するのもサーヴァントである自分の役割ではない。 GVは自分が悠久に続く人類史からこぼれ落ちた一滴でしかないことを自覚している。 しかししょうこはさとうが死んだら泣くだろう。 どんな形での別れであれ、あの心優しい小鳥はきっと泣く。 GVは小鳥の涙を見たくなかった。 願わくば二人がお別れをするのは最後の最後……この世界がどちらかの願いに溶ける瞬間であってほしいと思う。 時間が流れていく。 こうしている間も、この空の続くどこかで戦いが起こっているのだろう。 もしかしたらもう脱落者だって出ているかもしれない。 本戦がどれだけ激しいものになるのかは未知の領域だが、決して生易しいものにはならないだろうことだけは分かった。 いつの間にか電信柱から伸びる影は四時を示している。 季節柄日が沈むにはまだ早いが、もう夕方と言っていい時間帯だ。 “……少し索敵でもしておくかな。マスターが眠っている以上、戦闘はするべきじゃないだろうけど” 一時とはいえ肩の荷を下ろして眠れているしょうこを起こしたくはない。 かと言ってこのまま棒立ちで彼女の起床を待つのは賢い時間の使い方とは言えないだろう。 しょうこの身の安全に関わらない程度で索敵と調査を進める。 その方針を固めたGVが、飛騨家の門前から一歩踏み出した――瞬間。 “……ッ!?” 実体化すらしていないにも関わらず、全身の毛が総毛立つような感覚に襲われた。 それはあまりにも巨きかった。 そしてあまりにも凄絶だった。 いつからそこにいたのか。 何故自分はこの巨大な何かの存在に気付かなかったのか。 GVは、いくつもの場数を踏んでこの地に立っている。 その彼ですら我を忘れて戦慄するほどの圧倒的な武威の気配。 固唾を呑み、意識を張り詰めさせる。 そんなGVを嘲笑うように虚空から重々しい声が響いた。 「――居るだろう。出てこいよ、サーヴァント」 「こっちのセリフだ、サーヴァント。姿を現せ」 声に応えて実体化する。 それと同時に声の主も、遥か上空で実体化を果たした。 もう一度言う。遥か上空でだ。 「……!」 思わず息を呑む。 戦慄と驚愕の二つがGVの脳裏を埋め尽くした。 上空、目算にして百メートルほどだろうか。 そこで……巨大な魔力反応を隠そうともせず四方に放ちながら、青い龍がとぐろを巻いていた。 「……場所を変えようと言っても、聞く耳はなさそうだな」 こんな噂話を耳にしたことがあった。 予選期間中、東京都内で時折起きた爆発事故。 それが起こった時には決まって、青く巨大な龍の目撃談が殺到したという。 メディアでは単なる集団ヒステリーだろうと片付けられていたが…… 「予選の内から随分好き勝手暴れていたな。どれだけ犠牲が出たか分かっているのか」 全長を正確に測ったなら、一体何百メートルになるのか分からない。 それほどの巨体を見上げながらもGVの声は凛と鋭く張っていた。 「それで大将首を十六個取れた。死んだ奴らも報われるだろう」 「理解した。彼らの命を薪にして願いを叶えようとしている身で言えたことではないが……お前は、いてはいけない存在だ」 「ウォロロロロ…! 止そうぜ眠てェ偽善を吐き出すのは。興が削げちまう」 「言っただろう。ボクに言えたことではないと」 GVは聖杯を求めて此処に立っている。 彼は勝ち残ったらこの世界を踏み台にしてしまう存在だ。 それだけはどんな綺麗事で取り繕っても変わらない。 それなのにGVは、自身の出した犠牲を嘲笑う龍の一言一言に義憤の念を感じてしまう。 さもそれは最愛の歌姫と別れる前……いや。 英霊の座に登り詰める前の"彼(GV)"のように。 「お前を非道と罵る資格は……ボクにはない」 生前の彼ならどうしていただろうか。 お前の身勝手は断じて許せないと吠えていたかもしれない。 でも今のGVにはその資格はとうになく。 だから熱い言葉の代わりに――彼の象徴である蒼い雷霆をバチ、バチと虚空へ灯す。 「ならばどうする。出来損ないの英雄がこのおれに勝てると?」 「勝つさ。何故ならボクは、英雄なんかじゃないから」 見据えるは遥か高みの青龍。 対峙しているだけで分かる。 これは怪物だ。GVが今までに戦ったどの敵よりも恐らく強い。 「ボクは英雄でも何でもない、ただ一筋の雷霆だ」 「龍(おれ)を射落とすとでも言うつもりか? たかだか雷が」 龍の身体が天空を背に鳴動する。 それだけで押し寄せてくる突風と豪風。 それに髪を揺らしながらもGVは動じない。 その無言を、龍は肯定と受け取った。 「――ウォロロロロロロロ! ……ならやってみろよ、小僧ォ!」 龍を中心として拡散する覇気と風。 この戦いは自分の死地にすらなるかもしれない。 覚悟を胸に、それすらも電力に変えてGVは立つ。 名乗りと共に、天の青龍へとGVは地を蹴った。 ◆ ◆ ◆ 何時間くらい寝ていただろう。 何か懐かしい夢を見ていた気がする。 そんなしょうこを現実へと帰還させたのはGVからの念話だった。 彼らしからぬ、聞いたこともないような切羽詰まった声。 “敵襲だ、マスター! すぐに起きて、家の裏口から逃げるんだ!” 困惑したし混乱した。 しかししょうこにもそれが異常事態であるというのは分かった。 これまで既に二組の敵を倒しているGVがこれだけ余裕のない声で警告しているのだ。 “ボクも必ず追いかける。だから今は、早く……!” どういうわけかこの場に現れたという敵は、きっと恐ろしく強いのだろう。 そうでなければあのアーチャーがこうまで急かすとは考えにくい。 幸い服は着替えていない。 すぐさま寝室を出て、玄関口から靴だけ取って裏口を使い家を飛び出した。 その瞬間しょうこの耳に入ってきたのは、風の音と何かが崩れる音。 そして、大勢の人の悲鳴だった。 “どんな戦いしてんのよ…此処、住宅街の真ん中よ……!?” GVは聖杯戦争に否定的な思想を持つサーヴァントではない。 ただ、彼の根っこの部分は決して悪人のそれではないことをしょうこは知っていた。 その彼が進んで人を巻き込む場所で戦いを始めるとは考えにくい。 であれば必然、敵がそういうことを顧みない相手なのだろうという結論に達した。 振り向いている暇があるなら逃げるべきだ。 頭ではそう分かっていても、振り向いてしまった。 いや……見上げてしまったという方が正しいか。 「な…な、なあっ……!?」 ――腰を抜かすかと思った。 サーヴァントがぶっ飛んだ連中ばかりだというのは知っている。 そのしょうこでもそれほど驚いてしまうような怪物の姿が、空に浮かんでいた。 青く巨大な一匹の龍。 暴風を撒き散らしながら君臨するそれに、見慣れた蒼い雷霆が向かっていくのが見えた。 “な、によ…あの化け物……!” 目に見える龍のステータスは冗談じみている。 特に筋力と耐久が異常だった。 あんなものと戦って本当に勝てるのか。 いや、GVが自分でさえ抱くような危機感を持っていない筈はない。 彼ならば分かるはずだ。 あれと正面から戦って勝とうと思うならば、こちらも相応の犠牲を払うことが大前提になってしまうことくらい。 「何やってんだ嬢ちゃん! 早く逃げろよ、巻き込まれちまうぞ!」 「あああああっ、もう! どうなってんのよ此処最近の東京は!」 「死にたくねえ、死にたくねえ! あんなバケモンの巻き添え食ってたまるかよ!」 恐怖に怯えて逃げ惑う住民達に押されて、しょうこも止めていた足を再び動かす。 念話で状況を確認することも考えたが、それが彼の妨げになってしまうのではないかと考えると躊躇われた。 大丈夫、彼ならきっと大丈夫……! そう自分に言い聞かせながら。 しょうこは走り、走り――鼓膜が使い物にならなくなるほどの爆音を聞いた。 ◆ ◆ ◆ “マスターはもうこの場を離れてる。出来れば、この住宅地を戦闘に巻き込むことはしたくなかったが……” GVに抜かりはない。 戦闘になると確信した瞬間に念話を飛ばしてしょうこを起こし、端的に事情を伝えて自宅から退避させた。 場所の悪さを理由にして撤退へ移るのが利口な選択だったように思える。 だがGVがそうしなかったのには勿論理由があった。 “この龍は話の通じる相手じゃない。かと言って事情を伝えて見逃してくれるようにも見えない” 最悪、有無を言わさずこの一帯を吹き飛ばされる可能性だって大いにあった。 そんな状況ではしょうこに逃げるよう言い含めるだけで精一杯だった。 胸を刺す罪悪感と後ろめたさを纏う雷の熱で消し飛ばす。 “……出来れば此処で倒したいが――” 思案するGVの視線の先で龍が動く。 最初に放たれた攻撃は、しかし初撃の規模ではなかった。 「"壊風"」 龍のあぎとが大きく開かれた。 その瞬間、そこから無数の真空波が解き放たれたのだ。 それに触れた建造物は、まるで巨大な斧や鉈で一閃されたように切り崩される。 巻き込まれれば、当然ひとたまりもあるまい。 “分の悪い戦いだ。けど……!” 研ぎ澄ませ第七波動(セブンス)。 意識は常に最大の集中を維持する。 GVは絶望をしない。 暗闇を照らす雷霆の彼がそれを知る時は即ち、その存在の終わりに等しい。 「向かってくるか!? 天を統べる龍に!」 「当然だ……すぐ地に叩き落としてやる!」 電磁結界(カゲロウ)。 それがGVの進軍を、反逆を後押しする。 魔力消費を代償に避け損ねた鎌鼬を無効化しつつ、まさに雷霆の如く天へと駆けた。 地から天に駆ける雷という不条理が、しかし此処でだけはれっきとした理屈として成立していた。 先ずGVが行った攻撃は避雷針(ダート)による射撃だった。 避雷針ナーガ。如何なる巨体であろうと貫通する一矢。 しかしそれは、青龍に一滴の血を流させることすら叶わなかった。 「ウォロロロロ! そんな豆鉄砲でおれの肉体(カラダ)を貫けると思ったか!」 GVは歯噛みすると同時に分析する。 頭抜けた耐久度。 そしてナーガの貫通力をして傷一つ負わせられない圧倒的な基礎性能。 “肉体そのものが宝具に昇華されている……そういうタイプのサーヴァントか!” まさしく神話の悪竜そのものだった。 巨体が嘶くだけで英霊さえ吹き飛ばす突風が舞う。 それに紛れ潜んでいる致死級の鎌鼬は、直撃すれば雷撃鱗の防御でさえ防ぎ切れるかどうか。 ブービートラップのように死線が張り巡らされた空――GVの敵はそこにいる。 「迸れ、蒼き雷霆よ! 傲慢な龍を撃ち落とす遠雷となれ!」 閃く雷光は反逆の導―― 轟く雷吼は血潮の証―― ――貫く雷撃こそは万物の理。 第一宝具の真名解放が第七波動の急速な躍動を引き起こす。 スペシャルスキル展開。GVを起点に空へと這った雷霆は鎖の形をしていた。 「VOLTIC CHAIN(ヴォルティックチェーン)!」 龍の目が驚愕に見開かれる。 全長数百メートルに達する彼の巨体を、GVの生み出した鎖は同じく規格外の長尺で絡め取っていた。 ヴォルティックチェーンは視界の全ての敵を同時に攻撃するスキル。 敵がどれだけ大きかろうと、蒼き雷霆の鎖はそれを逃さない。 「ォォオオオオオオオオ……!?」 龍の呻き声が大きく響く。 効いている、その手応えを得られただけで十分だった。 願わくばこのまま押し切れれば最高だが、そこまでの高望みはしない。 “此処で削れるだけ削ってやる……!” 惜しみなく波動を注ぎ込んで火力の底上げを図る。 どの程度通じているのかは未知数だが、効いているなら好都合。 驕った悪竜をやれるだけ痛め付けて次に繋ぐ。 雷光に包まれて上空の龍は激しく瞬いた。 超新星の爆発を思わせる、神々しくすらある光――その中から。 「"熱息(ボロブレス)"」 地の底から響くような声がした。 GVほどの実力者ですら背筋を粟立たせ、破滅のイメージを頭に浮かべる破局の気配。 急いで防御に集中する構えを取ったGVの姿が次の瞬間かき消えた。 彼が移動したのではない。 相対的に豆粒ほどの大きさに見えるそのシルエットが、業火によって塗り潰されたのだ。 竜の吐息(ドラゴンブレス)。 竜種が持つ最強の武装である破壊。 それがGVを襲った灼熱の火球の正体だ。 一撃で城を、山を吹き飛ばす大火力のブレス攻撃。 ヴォルティックチェーンへの返礼としては十分すぎる炎だった。 しかし、熱息の火球は内側から弾けた。 亀裂状に出現した雷が、龍の吐いた火を花火玉のように爆ぜさせたのだ。 そして火球の残滓を彗星の尾のように引きながらホバリング機動で龍に迫るのは――GV。 「なかなかいい雷だった。ゼウスの野郎を思い出したぜ」 「その様で言われても、嫌味にしか聞こえないな」 「素直に受け取れよ。誇っていいぜ……この聖杯戦争で痛みを感じたのは初めてだ」 十六体もの英霊を斃しておいてこの発言。 虚仮威しのハッタリと片付けるには、この龍は強すぎた。 GVが渾身のスペシャルスキルで灼いた筈の体は軽く表面が焦げた程度。 そんな怪物にこう言われたなら、信じるしかないだろう。 「さあ次は何をする? 撃ってこいよ小僧。出し惜しみしてんなら……」 龍のアギトが大きく開く。 そこに熱が収束していくのが分かって、GVは歯噛みした。 “……このままじゃジリ貧だ。ボクも攻撃に転じなければ” 一撃目の熱息は初見であったこともあり、防御態勢を整えて受けるのが精一杯だった。 だがその代償は大きかった。 雷撃鱗で凌ぎ切れる限界を超えた火力がGVの肌を焼き、少なくないダメージを負わされた。 龍は今、聖杯戦争で初めて敵から痛みを与えられたと笑ったが。 GVもまた、この世界で受けたダメージの中では今のが最大だった。 雷撃鱗だから何とか凌げたが、電磁結界のみで当たっていたなら最悪五体のどこかが吹き飛んでいたかもしれない。 「消し飛ばすぞ…!? "熱息"!」 ――煌くは雷纏いし聖剣。 ――蒼雷の暴虐よ敵を貫け。 押し寄せる炎の吐息を見据えながら、魔力の消費を度外視してスペシャルスキルを再度使う。 英霊になった今のGVは生前ほどSP(スキルポイント)に縛られてはいない。 しかしその分別なエネルギーリソースの消費を要求される。それが魔力だ。 しょうこに負担をかけるのは忍びなかったが、この戦いはどう締め括るにせよ出し惜しみしていられるものではない。 「SPARK CALIBUR(スパークカリバー)――!」 熱息の火球が雷撃の剣に両断される。 その勢いは死なぬまま龍の玉体に肉薄した。 “避雷針じゃ通らない。だが出力を上げていけば、奴の耐久も超えられないわけじゃない” 最低保障のラインとしては少し高すぎるが。 スペシャルスキルに分類される攻撃であれば、通じるようだ。 そしてヴォルティックチェーンは面での範囲攻撃だった。 それで倒せなかったなら、では点で貫くアプローチはどうか。 「貫き穿つ。受けてみろ、悪竜――!」 「青二才が! "龍巻(たつまき)"――!」 空中でとぐろを巻く龍。 その円を解放すると同時に、驚異的な威力の竜巻が溢れ出した。 そこに突っ込んでいくGVとその雷剣。 二つの強大なエネルギーが零距離で衝突した瞬間、世界が爆ぜた。 そう錯覚するほどの巨大な衝撃波が住宅地の上空で炸裂して……数秒。 世界から、音が消えた。 ◆ ◆ ◆ 既に住民達は逃げ惑っている。 もしかするとその中には、家に帰ろうとしたしょうこの親もいたのかもしれない。 だとすれば申し訳ないことをしたと思いながら、GVは口元の血を拭う。 額からも血を流し、全身に傷を負いながらも二本の足で立つGV。 誰が見ても分かる満身創痍、這々の体だ。 そんな彼の前方に一つの巨大な影が立っていた。 いつしか空の龍は消えている。 しかしあの龍が放っていた覇気と闘気は、影の主に確かに引き継がれており。 その事実が、GVの見据える鬼と先の龍が同じ英霊なのだと物語っていた。 「効いたぜ」 「噓を吐け」 頭から生えた巨大な角。 人間の限界を確実に超えた身長。 岩山がそのまま人の形を結んだような堅牢な肉体。 龍の鱗を思わせる紋様と長い髭に龍形態の名残が見える。 彼の胴体には出血の痕跡が窺えたが、逆に言えばただ血が出ているだけだ。 注いだ魔力と失った余力には決して見合わない戦果だった。 「腐るなよ。おれは世辞は言わねえんだ」 最強という二文字をGVは思い浮かべた。 GVが今までに戦ってきた敵と目の前の鬼とを単純に比べることは出来ない。 だがただ単純に、"最も強い"のは誰かという観点で測ったなら。 間違いなく今目の前にいるこの鬼こそがそうだと認めざるを得なかった。 “クードスの蓄積はまだ不十分だ。もう、退くしかないか……” こいつを倒すには最低でもクードスを最大まで蓄積させなければ話にならない。 それがGVの見立てだった。 クードスの最大蓄積を条件として解放出来るGVの最大攻撃……グロリアスストライザー。 それがあって初めて倒せるかどうかの話になる相手だったが、今はまだその手を頼れない。 理由は、シンプルにクードスの蓄積が不十分だからだ。 ヴォルティックチェーンにスパークカリバー、二つのスペシャルスキルを連続で放ってもこの程度の傷しか与えられなかった相手だ。 このまま意地になって戦い続けても、GVが鬼の首を獲れる可能性はごくごく低い。 そうなるともう、撤退以外の選択肢はなかった。 何よりタチの悪いことに……鬼の姿になったこいつは、龍だった頃よりもずっと強大な存在に感じられた。 まるでそれは、さっきまで戦っていたあの龍形態が相手の実力を測るための小手調べだったとでもいうようで。 「お前のクラスは何だ」 「……教える義理がない」 「お前、おれの部下になれよ」 そうすれば殺さないでおいてやる。 そう言って鬼は不敵に笑った。 「別に聖杯を諦めろって言うわけじゃねェ。他の連中を全部叩き潰した後で、またおれに挑めばいいだけだ」 悪い話じゃねえと思うだろ? ニヤリと口元を歪め、誘う鬼。 その巨体を睨むGVの目は鋭い。 蒼き雷霆、彼の象徴。 それによく似た鋭い光がそこにはあった。 「断るなら、今此処で殺す」 鬼は金棒を持っていた。 宝具ではないようだがサーヴァントの武装である。 ましてそれを使うのはこの怪物なのだ。 あれでただ殴り付けるだけでも十分に致死級の威力があるに違いない。 「おれのマスターはその気になれば戦場にも立てる"力"を持ってるが……お前のマスターと来たら顔一つ見せねェな。同情するぜ、腰抜けのマスターを持つと大変だろう」 鬼が金棒を持っていない方の手をGVの方へと伸ばす。 身長差があるので成立はしないが、それはまるで握手を求めるような仕草だった。 「望むならこっちで替えを用意してやってもいい。どうだ?」 「笑わせるな」 その勧誘にGVが返した答えはにべもない一蹴だった。 鬼は無言だ。 それをいいことにGVは話す。 「マスターに恵まれていないのはお前の方だ。同情するよ、鬼。お前のマスターはそんなことも教えてくれないんだな」 「お前の価値観なんぞ聞いた覚えはねェな」 GVの痩身に襲いかかる圧力が数段強まる。 鬼が一歩、二歩と前に歩くだけで地響きが鳴る。 彼の眼光とGVの眼光とが二対の稲妻として交差した。 「確かに、ボクのマスターに戦う力はない。悩み、迷い、そうやってしか進めない普通の人間だ」 「無能だな。そんな奴を庇って何になる? お前ほどの能力者が」 「人間を侮るな。ボクのマスターは……お前のような戦いが上手いだけの愚か者よりずっと強い」 鬼の言葉に間違いはない。 GVのマスターは弱いのだ。 何故なら普通の人間だから。 戦いだとか殺し合いだとか、そういう世界にはてんで似つかわしくない子供だ。 とてもではないがGVと目前の鬼の戦闘に立ち会うなど出来ないようなひ弱な少女。 しかし、他の誰が彼女のことを雑魚と無能と謗ろうと。 GVはいつでもどんな時でもそれに毅然と否を返せる。 GVは知っているからだ。 彼女が……しょうこが持つ、"弱さ"という名の"強さ"を。 苦しみ、のたうち、迷いながらも自分の思いを貫こうとする姿の美しさを。 「思い上がるな、怪物。ボクの守るべき小鳥は……お前に見下されるほど弱くない!」 「そうかよ。なら死ね、小僧」 鬼が金棒を腰の位置で構えた。 奴の誘いを蹴る判断は、とてもじゃないが合理的なものではない。 しかし愚かな選択と罵られても構わない。 その時は甘んじて受け入れよう。 どれほど愚かでも、阿呆でも、あの少女を見捨ててこの男の部下になるなんて選択は下せなかった。 「"雷鳴八卦"」 GVの詠唱よりも早く紡がれる一声。 鬼の姿が視界から消えた。 それは見切れなかったということの証拠であり、故にGVは鬼の一撃を直撃という形で受け止めるしかない。 されどGVは諦めない。 先手を取られた痛恨を甘んじて受け止めながらも雷撃鱗を鳴動させ、鬼の一撃を受け止め切れた場合にすぐさま切り返せるよう準備する。 一撃与えて、そして撤退する。 そのために全意識を集中させる。 姿を消した鬼がGVの目前に現れるまでコンマ一秒の十数分の一。 そして、次の瞬間が訪れるまでの一瞬の内に異変が起きた。 GVの姿が、突如としてこの場から消失したのだ。 「……あ?」 苛立たしげな鬼の声をしかしGVはもう聞いていない。 鬼の声が届くよりも遥かに早く、彼の耳を叩いた声があったからだ。 サーヴァントの身では絶対に抗うことの出来ない命令(こえ)が。 “令呪を以って命ずる――私と一緒に逃げて、アーチャー……!” その声を聞いた時GVが浮かべた表情は苦笑だった。 マスターに救われる情けなさに対する自嘲が半分。 もう半分は、"彼女"がマスターでよかったという安堵の念だ。 令呪による命令は時に空間移動をすら可能とする。 どれほど怪物じみたサーヴァントでも、空間を飛び越える速度に比肩して追いかけるのは不可能だ。 「逃げやがったか。つまらねえ……」 残された鬼はただ一人、不機嫌そうに金棒を振るう。 しかしそれだけで、飛騨しょうこの自宅はただの瓦礫の山と化した。 とはいえ一応理由がないわけではない。 この聖杯戦争において、多くの場合マスターの動静は自身の社会ロールに依存する。 皮下のようなタイプは例外中の例外なのだ。 地位にも能力にも恵まれていないマスターに対してなら、こうして帰る家を失くしておくだけでも十分な損害になる。 ……まあ、八つ当たりの意味合いが完全にゼロかといえばそんなことはなかったが。 “だがなかなかに愉しめた……これなら"本戦"には期待してもよさそうだな” GVの雷撃は、カイドウにも確かにダメージを与えていた。 予選の間に蹴散らされた十六体は誰もそれを成し遂げられなかったのにも関わらずだ。 本戦が始まって最初の戦いで、敵はカイドウに痛みの味を思い出させてくれた。 此処からの戦いは今までの退屈なものとは明らかに違う。 その確信が得られただけでも、カイドウにとって今回の巡遊は大満足の結果となった。 「ウォロロロロロロロ…! 今回は逃げられたが、顔は覚えたからな……! このおれに唾を吐いて逃げられると思うんじゃねェぞ……!?」 龍に姿を変え、そして霊体化。 住宅街一つを恐怖のどん底に落としたことには何の関心も示さずに、ライダー……百獣のカイドウは去っていく。 巡遊は終わりだ。 骨のあるサーヴァントに出会えたおかげで酔いも冷めた。 皮下のもとに帰り、今後について話し合うなりするとしよう。 彼の名はカイドウ。 四皇、"百獣のカイドウ"。 クラスはライダー。 龍に化ける最強の鬼。 その暴力はいつだとて理不尽、いつだとて最強。 彼が去った後の住宅街には、気まぐれな暴力の残骸だけがただただ無残に残されていた。 【板橋区・住宅街/一日目・夕方】 【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】 [状態]:ほろ酔い(酔い:10%/戦ったことで冷め気味)、全身にダメージ(小)、腹部に火傷(小)、いずれも回復中 [装備]:金棒 [道具]: [所持金]: [思考・状況] 基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。 1:一旦病院に戻る。 2:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。 3:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。 4:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。 [備考] ※皮下医院地下の空間を基点に『鬼ヶ島』内で潜伏しています。 ※飛騨しょうこの自宅がある住宅街の一部に壊滅的な被害が出ました。 ※飛騨しょうこの自宅は崩壊しました。しょうこの家族は不在だったので無事です。 ◆ ◆ ◆ 「ごめん…ごめん、アーチャー……! 私、我慢出来なくて……!」 GVに抱えられながら爆心地となった住宅街を離れていくしょうこ。 その目からは大粒の涙がぼろぼろ溢れ出していた。 彼女の右手の令呪は数を一画減らしている。 三度限りの絶対命令権を……時に今回のような不条理をも可能にする大切な令呪を、しょうこは一つ失ってしまったのだ。 「分かったの、あなたが危ないことになってるって…! 私、アーチャーのことを信じられなかった! もしかしたらって、考えちゃった……!」 GVはしょうこにこう言った。 後で必ず追いかけるからと、そう言った。 その言葉をしょうこは信じられなかった。 もしかしたらと心をよぎった不安に勝てなくて、令呪を使ってしまった。 そんな彼女を抱いて走るGVの姿は惨憺たるものだったが…… 彼の顔に浮かぶのは、少女を安心させるための微笑だった。 「謝らないで。キミは、何も悪いことなんかしていない」 「でも……!」 「むしろキミは正しい決断を下した。あまりにも分が悪いから退くつもりだったけど、キミが令呪を使わなかったら……逃げ切れずに殺されていたかもしれない」 しょうこを慰めるための方便ではない。 あの龍であり鬼であるサーヴァントはそれくらい異常な強さだった。 そして……危険な男であった。 この聖杯戦争を勝ちたいと思うなら彼との戦闘は避けて通れないと、GVをしてそう確信するほど。 「だからお礼を言わせてほしい。ありがとう、マスター。キミのおかげで助かった」 「……ずるいって、そんなこと言うの」 とにかく命は助かった。 命運は繋がった。 だが、今の戦いで被った損害は甚大なものだ。 GVが受けたダメージについてはまだいい。 かなり手痛い傷を負わされたが、GVは自己回復のスキルを所有している。 魔力の供給が微量とはいえ自動的に為されるのだから傷の回復も他のサーヴァントに比べれば大分容易だ。 しかしもうあの家には帰れないだろう。 その旨をしょうこに伝えると、彼女は泣き腫らした顔で苦笑いをした。 「……アーチャー、私の家の前で戦ってたもんね」 「あれだけ派手に戦ったんだ、他のマスターの目や耳に触れる機会もあるだろう。それにこれはボクの予想だけど、キミの家は多分壊されてしまったと思う」 あの鬼はGVのマスターが戦う力のない一般人であることに気付いていた。 たかが家といっても、しょうこのような一般人には替えの利かない貴重な拠点である。 GVが敵の立場だったなら確実に壊しているだろうし、あの鬼もきっとそうしたに違いないと彼は考えていた。 「どうしよ、これから」 カイドウの襲撃に関してはしょうこもGVも悪くない。 全ての巡り合わせが悪かったのだ。 巡遊に出ていたカイドウが偶然この住宅街に近付き、サーヴァントの魔力の残滓に気付いた。 あの場でGVが呼びかけを黙殺していたとしても、その時は無差別な攻撃による炙り出しが始まっていただろう。 天災に遭ったようなものとそう割り切るしかない不運だった。 “って言っても、私の知り合いなんて一人しかいないんだけどさ……” 頼れる相手なんて一人しか思いつかない。 しかししょうこが彼女を頼ったとして、当の彼女はそれを受け入れてくれるだろうか。 ……分からない。 それにもしも受け入れられなかった時のことを思うと怖くて怖くて仕方なかった。 ポケットの中の携帯電話を小さく握り締める手は、哀れに震えていた。 【板橋区・住宅街近辺→移動中/一日目・夕方】 【飛騨しょうこ@ハッピーシュガーライフ】 [状態]:魔力消費(中)、焦燥(大) [令呪]:残り2画 [装備]:なし [道具]:鞄 [所持金]:1万円程度 [思考・状況] 基本方針:さとうを信じたい。あさひくんにお礼を言いたい。そのためにも、諦められない。 1:さとうを頼る? ……どうしよう。 [備考] ※松坂さとうと連絡先を交換しました。 【アーチャー(ガンヴォルト(オルタ))@蒼き雷霆ガンヴォルト爪】 [状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、いずれも回復中、クードス蓄積(現在3騎分)、令呪『私と一緒に逃げて』 [装備]:ダートリーダー [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:彼女“シアン”の声を、もう一度聞きたい。 1:マスターを支え続ける。 2:ライダー(カイドウ)への非常に強い危機感。 3:松坂さとうがマスターに牙を剥いた時はこの手で殺す。……なるべくやりたくない。 [備考] ※予選期間中にキャスター(童磨)と交戦しています。また予選期間中に童磨を含む2騎との交戦(OP『SWEET HURT』参照)を経験したことでクードスが蓄積されています。 時系列順 Back I will./I may mimic. Next 霽れを待つ 投下順 Back ZONE/ALONE(前編) Next 愚者たちのエンドロール ←Back Character name Next→ 025 深海のリトルクライ 飛騨しょうこ 052 ガラテアの螺旋 アーチャー(ガンヴォルト(オルタ)) 030 龍穴にて ライダー(カイドウ) 051 オペレーション・ドクター〜包囲せよイルミネーションスターズ〜
https://w.atwiki.jp/animesongs/pages/3154.html
おおきく振りかぶって 〜夏の大会編〜 チュール 思想電車 チュール「思想電車」(Amazon) 発売元・販売元 Ki/oon Records 発売日 2010.06.09 価格 1165円(税抜き) 内容 思想電車 歌:チュール それが大人ってもんなのか 歌:チュール ママのうた 歌:チュール 備考 ワイドキャップ:
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/52.html
栞――(死因) ◆EchanS1zhg 【0】 名前が無いこと。存在が嘘であること。 生きていることを証明できるのはどちらなのだろう。それとも、それは不可能なことなのだろうか。 【1】 情報の小路。または思索の遊歩道。もしくは発見の迷路。はたまた英知の集積回路などと例えるべきか。 そんな場所に一人の少女の姿があった。 水色の襟が大きめのセーラー服の上に紺のカーディガン。 体躯は小柄で、襟と同色のスカートの裾からのぞく足は積もったばかりの雪の様に白い。 色素の薄い髪の毛はボブカット……より少し長め。オシャレで、というよりかは無頓着ゆえにといった感じ。 目も鼻も唇も小さく、しかし整っていて人形の様に、もしくは人間ではないかの様にも見える。 胸には小さな手で抱いた分厚いハードカバーの本。顔には決して伊達ではない大きめの眼鏡。 簡単に言い表せば、地味系の文学少女。そういう雰囲気と印象を持った少女。 その少女の名前は長門有希と言った。 長門有希は恐る恐るといった感じに、一歩一歩と薄闇の中を静かに静かに歩いている。 彼女の左右には乱雑に本が積み込まれた天井まで届く高い本棚が立ち、空気の中には埃と僅かな黴の匂い。 明かりは頼りない非常灯のみで、通路の隅に本を積み上げられた台車などを見ればここは書庫かと思われた。 彼女にとって本とは何よりも馴染みが深い。 学内唯一の文芸部部員で、放課後は部室で本を読み、時には図書館に足を運び本を読んだり借りたり。 ともかくとして本に囲まれるのは慣れっこだ。平時であればここは彼女にとってなんら恐れを抱く場所ではなかった。 だがしかし、眼鏡の中の瞳は潤み、唇は僅かに振るえ、足取りはフラフラと頼りない。 ”只の文学少女”でしかなく、人よりいっそう気弱で臆病な彼女にとって、現状は極めて不安を煽る最悪の環境だった。 決して頭は悪くない。だから狐面の男が言ったことの意味を彼女は正しく把握している。 ゆえに、”何の取り得もない”自分がここでどのような結末を迎えるのか、そんなことも容易に想像できた。 何時、暗がりの中から何者かが出てきて自分に暴力を振るい、そして殺して、しまうのか。 それが怖くて、怖くて、怖くて、怖くて、怖くて怖すぎて、そして怖くて、どうしようも怖くて仕方がない。 硬い床に足音を立てる度に心臓が跳ね上がり、角を一つ曲がるたびに不安で心臓が押し潰されそうになる。 しかし彼女は塞ぎ込むことはせず、ゆっくりで危なっかしくであったが一歩一歩と薄闇の中を進んでゆく。 少しの後、キィと音を立てて彼女は書庫より脱し、長くはない廊下をまたおっかなびっくりと進み、また扉を潜った。 そこは広々とした図書館のフロア。 相変わらず明かりは非常灯だけであったが、大きな窓から月明かりが差し込んでいて比べれば随分と明るい。 柔らかい絨毯の上を何歩か踏み、広さと明るさに幾分か安堵を覚えると彼女はほっと小さく、本当に小さく溜息をついた。 そして先ほどまでよりかは軽い足取りでもう少し明るい場所に出ようとした時―― プリーズ・フリーズ ホールドアップ 「動 か な い で、 手 を 挙 げ る」 ――本棚の影より現れた彼女より更に小さな少女に、銃を、銃口を突きつけられた。 【2】 突然現れた少女の手には年式の古そうな一丁の拳銃が握られ、それは長門有希へと向けられている。 小さな、小学生かもしくは中学生かぐらいにしか見えない子供がそれを構える姿は酷くアンバランスだったが、 あどけなさの残る顔が浮かべているのは真剣のそれで、長門有希は彼女の言葉が、態度が嘘だとは思わなかった。 「……ひぁ、……ひ、ひ――」 「勝手に喋っても撃ちますから」 言葉が耳に届き脳がそれを理解する。 けれども身体に言うことを聞かせるには時間が足らず、喉が震え、悲鳴が漏れ――と、長門有希は咄嗟に口に手を当てて塞ぐ。 悲鳴を上げずには済んだ。なので撃たれずに済んだ。……けど、両手をそれに使ったから抱いていた本が、落ちていた。 トンと軽い音を立てて絨毯の上で跳ね、ぱららと空中で頁を捲り、もう一度跳ねて銃を持った少女の足元へ。 「あ、……あ!」 何を思ったのか、長門有希は転がる本を追った。 撃たれることよりも、何よりもそれが大事と言った風に、まるで本に引っ張られているかの様に前のめりに走る。 「……え? ちょ、ちょっと……!」 逆に、銃を構えていた少女は本を避けた。 まるでそれが爆弾か何かだと思ったのか、ゴキブリが走りこんできた時みたいな風に慌てて飛び退る。 「うきゃあっ!」 両者ともに、慌てすぎていて、運動神経はよくもなく、ゆえに細い足は縺れ、たたらを踏んで、無様に――転倒。 長門有希は頭から本棚に突っ込み、もう一方の少女は雑誌が詰まったラックを巻き添えに盛大にこける。 図書館ではお静かに。そんな注意書きを一切無視して、静寂だった空間に派手な音が響いた。 一拍子遅れて、最後にカラカラとそんな音。 長門有希の目の前に転がってきた、少女の持っていた銃は、銃は銃でもただの水鉄砲だった。 【3】 「……どうも、ごめんなさいでした」 「う、うん……」 シリアスから”一転”。 緊張の糸はぶっつりと音を立てて切れ、二人の少女は暗がりから明かりを点けたカウンターの中へと場所を移していた。 「姫ちゃんは、紫木一姫というです。呼ぶ時は、姫ちゃんって呼んでほしいですよ」 名前を聞いて、長門有希は名簿の上を視線でなぞる。 しかし二度三度と繰り返してもそこに紫木一姫という名前は発見できなかった。 「そうなのですよね。どうしてかはわかりませんが、姫ちゃんの名前はそこには載っていません……」 でもでも嘘なんかついてませんからね! と、紫木一姫はパタパタと手を振る。 その姿がずいぶんと愛らしく、長門有希も特に疑ったりはしない。 ただ、名簿に載っていない参加者の意味は自分達で考えろという、狐面の男の言葉を思い出していた。 「ゆきりんさんは、鞄の中にどんな武器が入ってたですか?」 いつの間にかにあだ名がついている。 それに少し戸惑い、またなんだか嬉しく思いながら長門有希はずっと抱いていた一冊の本をカウンターの上に置いた。 「……”これ”ですか?」 「うん」 ちょっと角が傷んでいるその本は一見すればただのSF小説でしかなく、よーく見てもその通りでしかなかった。 ハードカバーなので、それで叩けば最低限鈍器の役割を果たしてくれそうではあるが武器としてははずれの部類だろう。 しかも、彼女に与えられていたのはその一冊限りだった。鞄を検めなおしても他に武器っぽいものは無い。 「姫ちゃんからひとつ質問です。 どうしてその本。そんなに大事そうにしてますか? 本でよければここにいくらでもあるのに」 言って、紫木一姫はぐるりと周りを見渡す。 そこにはまさに、本・本・本だ。図書館なのだから当たり前だが、簡単には数え切れないほどの本がずらりと揃っている。 同じ本でも武器にするならもっと有用そうな重そうなのも棚の中には並んでいた。 「あれなんか頭にぶつければガツーンと痛いと思うんですけれどもねー。 姫ちゃんの場合。本を読んだだけでも頭がガツンガツンと痛むんで、触りたくもありませんが」 よほど本を読むのが苦手なのか紫木一姫は首をふるふると振る。 長門有希にとって本を読むことはもはや生活の一部であって苦痛などはそこに存在しなかったが、 しかしそんなことをここで話しても仕方が無いので、彼女は与えられた本を大事にしていた理由を素直に明らかにした。 「”私”の本だから……」 「……? ……えーと、それは元々ゆきりんさんが持っていた本だった、ということですか?」 長門有希は小さく頷いてそれを肯定する。 正確に言えば、それは彼女の所属する文芸部の本棚にあった本なのだが、彼女は口下手ゆえにそこまでは語らない。 「どーして、わかります? 同じ本でも別の人のかもかもですよ?」 「私の”栞”が挟まっていた、から」 言って、長門有希は一枚の栞を本の中から抜き出す。 ファンシーな花柄の、いかにも少女趣味といった感じのかわいらしい栞だ。 「……まぁいいですけど。ところで姫ちゃんは、さっきの水鉄砲とこれが入ってました」 自分の本が鞄に入っていたという偶然(?)には特に疑問がないのか、紫木一姫はその話題を打ち切り 今度は自分の鞄の中に入っていた武器を長門有希へと見せた。 それ――彼女の小さな手に握られるナイフを見て、長門有希は息を飲む。 「こっちは本物です。 しかも、このグリップの部分に秘密があってですね……ここを押すと、刃の脇から銃弾が飛び出すんですよ。 鉄砲とナイフの”シェルブリット”ですね」 それを言うなら”ハイブリット”じゃないかなと、長門有希は心の中だけで思う。 無口系文学少女(眼鏡付)の彼女にツッコミ属性は備わっていない。故にそれが心の中だけで止まるのは仕方ない。 しかし、思い浮かんだ疑問に関しては彼女は素直にそれを尋ねてみた。 「どうして、そっちを使わなかったの?」 「え? ……ああ、それは脅かすだけだったらナイフより銃じゃないですか。 姫ちゃん元々殺す気はありませんでしたし、そもそも刃物も銃も上手じゃないですから一緒なのですよ」 なるほどと長門有希は頷く。確かに見せかけだけならば拳銃の方が効果的だろう。 紫木一姫の小さな体躯のことを考えればナイフを持っていたとしても、さして脅威には思えないかもしれない。 少なくとも、逃げるという選択肢は浮かんでくるはずだ。 「あの、先ほどのこと怒ってますか? 姫ちゃん見ての通りおちこぼれですし、もうああやって”生き物狂い”にでもならないとって……」 ”死に物狂い”と心の中で訂正しつつ長門有希はゆるゆると首を振る。 ついさっきまでは彼女も恐怖で心を一杯にしていたのだ。 もし武器があったならば、目の前でしゅんとうなだれる子の様に自分が生き残る為にそれを振りかざしていた可能性もある。 「ありがとうございます! ゆきりんさんの心は”梅”のように広いですね!」 沈んだ表情から一転、紫木一姫はぱぁっと明るく笑う。 その無垢で花の様な笑顔につられて長門有希も表情を崩し、互いに優しく微笑みあい場がふわりと和んだ。 ついでに、”梅”は”海”の間違いだった。音も字も似ているけれども、意味は全然違う。 「それでですね。姫ちゃんは情報収集しようとしていたんですよ」 「……情報?」 「はい。突発的な緊急事態に陥ったらまずは状況を把握するために情報収集しろってのは耳に”梢”でしたので」 随分と器用な間違え方(○蛸 ×梢)に、もしかしてわざとなのだろうかと長門有希は思う。 それはさておき、情報収集をするというのはその通りだと彼女も同意した。 それを脅し取ろうというのは常時なら許されるものではないが、この状況なら仕方が無いとも思える。 「姫ちゃんは”師匠”のために行動したいのですけれども、ゆきりんさんはどうなんです?」 「……”師匠”?」 「あ。違います。師匠は師匠でも師匠違いです。名簿に師匠って載ってる方じゃなくて、こっち」 と言って、紫木一姫は長門有希が広げていた名簿の”いーちゃん”と記された部分を指差した。 「姫ちゃんの師匠なので師匠なのです。こっちの師匠は知らない人なので師匠違いの師匠ですね。 ちなみに姫ちゃんは今何回”師匠”って言ったでしょうか?」 「11回」 「………………ごめんなさい。姫ちゃん自分で数えていませんでした。 と、ともかくですね。ゆきりんさんはそういう大切な人っていたりしませんか?」 そう問われ、今度は長門有希が名簿の一点を指す。 そこに記されていたのは”朝倉涼子”という名前で、長門有希は彼女のことを少しだけ紫木一姫に話した。 「ふーん。同じマンションに住んでるお友達ですか。姫ちゃんと師匠も同じアパートに住んでるですよ。 じゃあゆきりんさんは、その”朝から旅行”さんの為に何をするんです?」 え? と、長門有希の口から声が漏れた。 それは親友の名前を間違われたことに対するリアクションではなく、質問そのものが予想外のものだったからだ。 何かをする。なんてことは全然考えていなかった。むしろ何もせずに死んでしまうだろうと思っていたぐらいだ。 「姫ちゃんは師匠のためになんでもする覚悟ですよ? 人間を殺さない方がいい。それはわかっていますけど、非常事態ですから仕方ありません。 師匠の命に比べたら、たかだか59人程度の命は姫ちゃんにとってはどうでもいいものなのですよ。 姫ちゃん自身も一度は死んだも同然の身なのです。だとすれば恩返しのために命を差し出すことすら惜しくは無いです」 目の前の自分よりも幼く見える少女が捲くし立てる様に長門有希は気圧され硬直する。 これがただの子供っぽいオーバーな表現であれば苦笑する程度だが、しかし彼女の眼に浮かぶ闇がそれを否定していた。 できるかできないかは不明だが、この子は本気だと長門有希は確信する。 「最後の最後は椅子の取り合いですけれども、目的が近ければ途中までは協力できると思うのですよ。 こうして打ち解けたのも”緑”なのですし……姫ちゃんとご一緒しませんか?」 ”縁”と”緑”の字は確かに似ている。だが、今はそんなことはどうでもいい。 長門有希は考える。自分に何ができるのか。朝倉涼子の為に何ができるのか。文芸部に戻るために何ができるのか。 そして、まだ名前も知らない”彼”にもう一度会うには何をすればいいのか。 「………………………………………………ここから、逃げる、方法を探せば」 「0点です。 おちこぼれの姫ちゃんでもわかるですよ。それって全然答えになってないです。 ただの保留。いえ、保留以下の停滞です。停滞以下の思考放棄です。生きることの放棄です。 できもしないことを、自分でもできもしないって思ったまま言うのは詐欺以下です。非道い裏切り行為です」 失望しました。と言って紫木一姫は”ソレ”を手に取った。 鉄砲が仕込んであるピストルナイフ――ではなく、カウンターの上のテープ台にはまっていた”セロテープ”を。 長門有希にはそれがどういった使われ方をするのは想像できなかった。 しかし―― 「とりあえず、死んでおいてください。生きていて師匠の足手まといなんかになられたら困りますから」 ――殺されてしまうということだけは、はっきりとどうしようもないぐらいに確信していた。 そして、それは一瞬。 ビュルゥビュルゥと、空気を引っ掻くような音が鳴り響いたと思った次の瞬間にガクンと吊り上げられるような衝撃。 そして気付けば宙を待っていた――いや、自分の首が飛んだのだと、床の上でバラバラになる自分の身体を見て理解し、 最期に、カウンターの上に置かれたままのあの本を見て、何かを思い、そして、意識は、途絶えた――…… 【4】 「……とりあえずは一人。ですか」 ”セロテープで長門有希を輪切りにした”紫木一姫は先ほどまでとは真逆の暗鬱な表情でぽつりと零した。 血塗れのテープを捨て、そして床に零れた血を踏まないように気をつけながらそこをそっと離れてゆく。 明かりから離れ、再び闇の中を行く紫木一姫。 17歳という年齢からは信じられないほどの小さな体躯。幼いままの顔。ツーテールには大きな黄色いリボン。 彼女が纏うは、名門女子進学校にして上流階級専門学校――澄百合学園指定の漆黒のセーラー服。 その実態は、四神一鏡専属傭兵養成学校――通称、首吊高校(クビツリハイスクール) そしてかつてはそこに所属し、高等部2年でありながらすでに断トツの戦闘力を有し、”ジグザグ”と呼ばれたのが彼女である。 彼女の有する戦闘技術。端的に言えばそれは”糸使い”。その技術の名前を”曲絃糸(きょくげんし)”という。 「名簿に名前がないってことは、師匠は姫ちゃんがいることにまだ気付いてませんよね。 じゃあ、見つかって怒られる前にいっぱいいっぱい殺しておくですよ」 世界最強に届くその技術を彼女は恋する男性のために、少女の心で少女の様に、繊細に精密に秘密裏に振るう。 「とりあえずは”糸”を探さないとですね。”糸”がないと姫ちゃんただの子供ですし」 ジグザク遣いの曲絃師。もう終わっている彼女の、闇雲なジグザグの物語が今から始まる――…… 【D-2/図書館/一日目・深夜】 【紫木一姫@戯言シリーズ】 [状態]:健康 [装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ [道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) [思考・状況] 1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。 2:糸。または糸状のものを探す。 [備考] 登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 【澄百合学園の制服@戯言シリーズ】 澄百合学園指定の漆黒のセーラー服。 上はダブルボタン。下はプリーツスカート。大きめのタイは黄色。足元は黒のハイソックスに同色のローファー。 【シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅】 シュバルツという男性が鉄砲ごっこの時に使っていた水鉄砲。 ぬ? 【ナイフピストル@キノの旅】 キノが所持しているナイフの一つ。刃渡り15センチほどで全長26センチ。 円筒形のグリップの中に鉄砲が仕込まれており、鍔の所にあるトリガーを引くことで4発まで発射できる。 レーザーポインタ付。モデルとなっているのは”87式ナイフピストル”。 【5】 貸し出しカウンターの上に置かれたままとなった一冊のSF小説。 その脇からのぞく一枚の栞。その片面には明朝体で以下のような言葉が記されていた。 『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』 これが、この物語の中で意味を持つ伏線《フラグ》なのか、それとも無意味な冗句《ユーモア》なのか、それは不明である。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】 ※ 長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱の登場時期は涼宮ハルヒの消失よりでした。 ※ 図書館の貸し出しカウンターのそばに長門有希のバラバラ死体と彼女の荷物が残されています。 デイパック、支給品一式、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱 【ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱】 キョンが始めて文芸部部室に入った時、長門有希が読んでいた本。 またその後、彼女が彼に貸した本でもある。 【長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱】 ハイペリオン(小説)に挟んである長門有希の栞。 ファンシーな花柄模様で片面には彼女からキョンに向けてのメッセージが記されている。 投下順に読む 前:二人の選択 次:酔っ払いの話 時系列順に読む 前:二人の選択 次:酔っ払いの話 長門有希 死亡 紫木一姫 次:ドラゴンズ・ウィル
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/11188.html
GF/W38-017 カード名:我らが大将 鈴河凜乃 カテゴリ:キャラ 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:6000 ソウル:1 特徴:《ガール》? 【永】 このカードは相手の効果に選ばれない。 【永】 応援 このカードの前のあなたのレベル3以上のキャラすべてに、パワーを+2000。 じゃ~ん、どう、これ? 大将の刺繍~ 案外よく出来てると思わないかにゃ~? レアリティ:U レベル3以上限定の2000応援。最近めっきり新規で登場しなくなっていたレベル2以上限定応援の亜種といったところだろうか。 早出ししたレベル3を守るにあたってはレベル応援以上の効果を発揮するが、それ以外のサブアタッカーには全く効果がない。 また、早出しに失敗してしまうと、レベル2では仕事がなくなってしまう。そういう意味では、デッキ色の統一さえすれば比較的安定して早出し出来る背水の陣 玉井麗巳との相性は悪くない。 他にも、相手リバースが必要なレベル3のパワー底上げのためにレベル3から出すのもいい。 なお、パッと見では気づきにくく非常にややこしい上、ネオスタンでデッキを組む分には全く気にする必要がないことだが、名前は「凜乃」であり「凛乃」ではない。 スタン構築で「凛」?ネームのシナジーを受けようとしても、漢字が違うため対象にならないので注意。
https://w.atwiki.jp/tpc-document/pages/133.html
『神への冒涜』七人目「獅子アダモフ / Haste makes Mistakes」 俺たちをこんな目に遭わせた憎き研究者どもに思い知らせてやる――! デテンを騙してまんまと自由を手にした失敗作たちは、復讐を誓ってこの研究所の上層を目指して一気に駆け上がる。 まずは頭を討つ。お偉いさんは最上階にいるのが相場だ、とはこの”解放軍”を率いる筆頭、獅子アダモフの言だ。 「やつらめ、目にもの見せてやる!!」 しかし、どうも様子がおかしい。 研究所内はいつも静かだが、今日はいつもに増して静かだ。 これは普通の静けさじゃない。地下牢に隔離されていたとはいえ、そんなことに気がつかないほど感覚が鈍ってしまってはいない。 空気が冷え切っている。凍りついてしまったと言ってもいい。そこにはある種の違和感のようなものが感じられた。 先頭を走っていたアダモフたちが足を止める。 それにつられるように後続の獣たちも立ち止まった。 「なんだか様子がおかしいようだね。これは一体どういうことだい……?」 メルがふと言葉を漏らした。 「ただおねんねしてるってだけじゃあなさそうだぜ。これは……血の臭いだ」 その言葉にテオが返す。 「よくはわからないけど、どうやら”先客”がいるようだねぇ。血の臭いだけじゃない。テオ、あんたと似たような臭いがするよ」 「へぇ…そいつはまた。そのお客さんがおれたちにとって敵じゃなきゃいいんだがな」 獣たちは周囲を警戒しながら、さっきまでとは対照的にとても慎重に歩を進めていく。 地下一階。 目の前に見えてきたのは西側のエレベータ。そして、その前に一面に広がる血の池と、その池の中に転がっている異様な肉塊だ。 肉塊からは今もなお不気味な液体が悪臭を放ちながらどろどろと流れ出し続けている。 その肉塊とは言うまでもなく、かつてジェームスだったものだ。もちろん、アダモフたちはジェームスのことなど知らない。 「ははぁ、臭いのモトはこいつだね。……これはまた酷い有様だよ。誰かは知らないけどかわいそうに」 隔離フロアには失敗作のキメラやゾンビたちも近くの牢に閉じ込められていた。 皮肉な話ではあるが、そういったものに見慣れてしまったメルたちは、このおぞましい肉の塊を目前にしてもアマンダのように嘔吐感などを催すことはなかった。 しかし、生理的な嫌悪感は例え見慣れていたとしても決してなくなることはない。 ある者は絶句し、ある者は思わず涙を流し、ある者はせめてこの犠牲者が安らかに眠ってくれるようにと祈りを捧げる。 「こいつぁひでぇ…」 「研究者ドモメ。アイツラコソ人間ジャネエ、悪魔ダ…」 「もしかしたら私もこうなってたかもしれないのか…」 「おで生きテる。まダ救いある、おでたち。でもこイツにはない…」 解放軍を得も言われない重い空気が覆う。とくにゾンビたちの間でそれは顕著だった。 デテンのときのように、食料だ! 肉だ! などと不謹慎なことを言いだせる者は誰もいなかった。 しばしの沈黙。 そして沈黙は次第に悲しみに変わり、さらに怒りに変わった。 「許せねえ…。あいつら血も涙もねえんだ! 実験台がどうなろうと何とも思わねえんだ!!」 「傲慢な科学者どもめ…! 自分たちが神にでもなったつもりか? これは神への冒涜だ! 私はかつて神父だった。こんな所業を神が許されるはずがない!!」 「おいらは神は信じちゃいねぇけど、おいらたちと同じように実験台にされちまった仲間がこうして無残にも死に姿を晒させられてるのを見逃してなんかおけないぜ!!」 獣たち、キメラたち、ゾンビたちは口々に叫ぶ。喚く。咆える。 怒り、悲しみ、その他諸々のどす黒い感情が渦巻いてうねりとなり場の空気を支配する。 復讐だ。殺せ、引き裂け、八つ裂きニシロ。愚カナ科学者ドモハ皆殺シダ。死ヨリモ重イ苦痛ヲ――! もう誰が何を言っているかさえ理解できない。言葉にならない思いを叫びに変えて、悲鳴とも咆哮ともつかない声を失敗作たちは口々に上げた。 とうとう我慢しきれずにあたりかまわず、壁や床を殴り出す者。果ては隣にいる仲間に噛み付く者さえも現れる始末。 辛うじて人としての意識を保っているとはいえ、それはとても不安定なものだった。一歩間違えば、すぐにでもあの被検体Yのように暴走しかねない者もいた。 そんな中でただ押し黙って一人騒ぎが収まるのを待つ者がいた。 獅子アダモフだ。 アダモフはただ冷静に目の前の肉塊を睨みつけている。 しかしとうとう我慢の限界に達したのか、獅子は騒ぎ暴れる仲間たちに一喝する。 「いい加減にしないか!!」 獅子の咆哮が響き渡る。研究所内はすぐに再び静まり返った。 「うろたえるんじゃない! 俺たちの目的はなんだ。ただ怒りに任せて暴れまわることか。えぇ!? 違うだろう!! 悪いのはこの研究を指揮したやつらだ。頭の腐ったやつらだ! そんなやつらがいるせいで、俺たちはこんな姿に変えられてしまった。やつらが憎い。憎いのはわかる。怒りがこみ上げてくるのもよくわかる!! だが、こんなばらばらの状態で何ができる!? できないんだよ。何もできやしないんだよ!!」 獅子はさらに咆えた。力いっぱいに咆えた。 「俺はあんたらに教えてもらったんだ。仲間で力を合わせることがいかに大きな力を生むか…。いかにそれが大事なことかを!!」 アダモフはかつての地下牢に放り込まれたばかりの頃のことを思い出していた。 今でこそ、この研究所での研究は煮詰まっている状態だったので地下牢へ送られてくる失敗作の数は多いものではなかったが、今よりも研究がはかどっていた頃は毎日のように隔離フロアへ失敗作が連れられてきていた。 多くの仲間たちが、新たな失敗作が放り込まれるために牢の入り口が開くその瞬間を狙って脱出を計ったものだ。しかし、これまでに脱出に成功したものは皆無だった。 自分の牢が開かれれば、失敗作たちは誰もが我先にと牢の入り口に殺到し、互いに争い蹴落とし合い、そしてその隙に次々と研究員に非適応薬を撃ち込まれて処分されていったのだった。 そんな不毛な様子をアダモフはいくつも見てきた。 自分の牢が開かれたことも何度かあった。そのときも同じことが起こった。アダモフはそんな様子をただぼんやりと見ているだけだった。 どうせ脱出したって殺されるだけだ。ましてやこの姿なのだ。 もし街に突然獅子が現れたらどうなる? 当然、捕獲されて処分されるだけだ。 ではこのまま大人しくこの地下牢にいればどうなる? いずれ処分の日が訪れて結局は処分されるだけだ。 アダモフは悲観的だった。すべてに絶望していた。 どうせ死ぬ運命でしかない。下手に暴れればそれが早くなるだけのこと。 だから俺はじっとしている。抵抗したって無駄だ。ただ疲れるだけなのだ。 だったら、俺はもう何もしたくない。天国からでも地獄からでも、どっちでもかまわない。あの世からお迎えが来てこんな薄汚い地下牢から俺を救い出してくれるその日までは、俺はもう何もしないし、何も考えない。 抵抗しても無駄。無駄無駄無駄。すべてが無駄。 どう足掻いたところで運命は変わらない。 ならば、大人しくその運命を受け入れてしまうのが最もラクなのだ。 死ぬことでしか救われない報われない浮かばれない。それならば、俺はそれを受け入れよう。 他人のことなどどうでもいい。自分のことすらどうでもいい。何もかもがどうでもいい……。 そんなことを思いながら檻の片隅で獅子は、毎日のように処分されていく仲間たちをばかばかしいとも思いながら、死んだような目でぼんやりと眺めるだけの日々を送っていた。 たまに思い出したように地下フロアを管理する研究員が檻の中へ”餌”を投げ込みに来る。 もちろん、十分な量などあるわけがない。失敗作たちはたちまちそのわずかな”餌”に殺到し互いに争い合うのだ。誰もが生きるのに必死だった。ただアダモフだけを除いては。 アダモフはその”餌”に全く関心を持たなかった。時に愚かに、時に哀れに思いながらその”餌”を奪い合う他の失敗作たちを眺めるだけだ。 どうせ死ぬしかないのだ。ならば、そんなに生に執着して一体何になるというのか。 無駄だ。すべては無駄なのだ。 そんなことをして無駄に苦痛を増やすぐらいなら、こうしてただ静かに死を待つほうがずっといい。こうして待っているだけでお迎えがやってきてくれるのだから、それほどラクなことはない。 研究員がただ漫然と失敗作たちを生かしているはずはない。与えられる”餌”の量が少ないところをみるとそこまで真剣ではなさそうだが、もしまだ生きていたらいずれ別の実験材料にでもしてやろう程度のことは考えていそうだ。 それならやはり俺は死を待つことを選ぶ。 抵抗するだけ無駄。処分されるだけだ。 生き長らえても無駄。またやつらのオモチャにされるだけだ。 だから俺はこのまま餓死してやるつもりだ。 やつらの手にかかって死ぬのは癪だ。やつらのオモチャにされて死ぬのも悔しい。だから餓死してやる。 失敗作が一匹死んだところでやつらは惜しくも何ともないだろう。どうせまたどこかから別の実験台をさらってくるだけだ。 だが、やつらに殺されるぐらいなら自ら死んだほうがずっとましだ。だから俺は死を待つのだ……。 あるいはそれがアダモフなりの抵抗なのかもしれなかった。 アダモフはどんどん痩せてやつれて衰弱していった。もちろん、そんなアダモフを気にかけるような者もいるはずがなかった。 ある日、アダモフの檻にまた新たな失敗作が連れ込まれた。 脱走を計った失敗作たちがまた何匹も処分された。アダモフはいつものことだと気にも留めなかった。 ここから出せと威勢よく騒いでいた二匹の新入りたちも次第に静かになって行った。 「ああ、あたしたちこれからどうしたらいいんだい……。もうこんなの……いやだよ……」 新入りの一匹が悲しそうに啼いた。 「ばか、諦めんじゃねえ! おまえがそんなだと、おれまで暗い気分になっちまう。まだ何かチャンスがあるはずだ! 絶対に諦めるな。諦めたら終わりだろ!!」 もう一匹の新入りがそれを励ます。そして、その新入りはアダモフを見るなり言った。 「ほら、見ろ。あいつなんて……なんて憐れなんだ。諦めたらおまえもああなっちまうぞ。いいのか? いいわけないだろ、なぁメル!?」 「て、テオ…! そんなこと言うんじゃないよ。し、失礼じゃないか」 アダモフは二匹のそんなやりとりを関心なくぼんやりと眺めていた。 すると、女のほうの新入りがアダモフに近づいてきて声をかけた。 「あ、あの…。さっきはごめんなさいね…。うちの人、悪気があったわけじゃないんだよ。その……ちょっと気が動転してて……ごめんなさい」 「……別に。気にしてない」 アダモフは興味がなさそうにそっぽを向いて返した。 その様子を機嫌を損ねてしまったと勘違いしたのだろうか、メルは続けてアダモフに話しかける。 「あんた、ずいぶん辛そうだね…。その、さっきの埋め合わせってわけじゃないけど……何か助けがいるならいつでもあたしたちに声かけてよ。できることなら手を貸すからさ」 アダモフは何も答えない。 「おい、そんなやつほっとけよ…。それよりもこれからどうするのか考えねぇと」 「あんたは黙ってな! ホントすまないね、空気の読めない亭主で…。あたしはメル。あっちはテオ。あんたは?」 しばらく沈黙を守っていたアダモフだったが、メルがいつまでも顔を見つめ続けているので仕方なく名乗ることにした。 「…………アダモフ」 「そうかい、アダモフ。あんたはなんか他のやつらとは違う感じだねぇ。あんたなら信用できるかもしれない…」 「変わらないさ。……いや、他のやつらのほうがもっとましかもしれないぜ。だって俺は…」 「テオ、こっち来なよ! さっそくここから逃げ出す作戦を考えるよ! 3人で!!」 それはまさか俺も入っているのかとめんどくさそうに思うアダモフだったが、どうせ死を待つまで退屈なことには違いがなかったので、その余興になんとなくつき合ってやることにするのだった。 こうして檻の片隅の仲間が増えた。 ただぼんやりと過ごすだけの毎日は、このメルとテオと自分でこの研究所から脱出する作戦を考えるものに変わった。 もちろんアダモフは本気ではなかった。本当に脱出できるなどとは端から思ってなどいない。ただ相槌を打つだけだ。 作戦会議は主にメルが発案してはテオがそれを反論し、テオが発案してはメルがそれを切り捨てるような流れだった。結局、いつまで経ってもこれと言った作戦はできなかった。 ある日、また別の新入りの失敗作がこの檻に連れられてきた。アダモフたち以外の失敗作はこの機会を逃すものかとこぞって脱走を試み、そしてまた互いに足を引っ張り合った。 新入りを連れてきた研究員は呆れたようにため息をつきながら、非適応薬を装填した麻酔銃を構えて数発それを撃つ。 檻の入り口へとひしめき合う失敗作たちは次々と倒れていった。そして、その失敗作たちから狙いが逸れた流れ弾が一発。その射線上にはアダモフの姿があった。 痩せ細り衰弱し切っていたアダモフには到底それを避けることなどできない。 「まあいいさ…。やつらに殺されるのは気に入らないが、これでようやく俺もこの苦痛から解放されるんだ……」 否、アダモフにはそれを避けるつもりさえなかった。アダモフはそのまま死ぬつもりだった。しかし…… 「アダモフ! 危ねぇ!!」 衝撃。 痩せて軽くなっていたアダモフの身体はいとも簡単に弾き飛ばされ、檻の角のほうに転がった。 「あ、あんた! 大丈夫かい!? アダモフも!!」 メルが心配そうに言った。テオは平気そうな様子でそれに返す。 「あんなもん当たりゃしねえよ。それよりアダモフ! おまえは無事か!?」 どうやら流れ弾に気がついたテオが咄嗟に体当たりをして、アダモフをその射線上から逃がしたらしい。結果として、アダモフもテオも非適応薬を受けて倒れることはなかった。 アダモフは驚いていた。 今まで、誰も他人のために身体を張るような者などここにはいなかった。誰もが自分が助かることだけを考えていた。 だがテオは違った。失敗作たちにとって非適応薬は劇薬も同然、少しでもかすれば拒絶反応を起こしてすぐに死んでしまう。にもかかわらず、テオは己の身を危険に晒しながらもアダモフを救ったのだ。 「どうして……」 アダモフは呆然とテオの姿を眺めていた。しかし、それはかつてのただぼんやりと様子を眺めていた頃のものとは意味が違っていた。 「良かった、生きてるな。当然じゃないか、おれたちは仲間だろう? 一緒にここを出ようと約束したじゃねぇかよ」 「そうだよ。あたしたち3人でここから出るんだ! 生きて! ……ね。言ったじゃないか、できることなら手を貸すってさ」 「……なぜだ?」 アダモフは静かに呟いた。 「うん?」 「どうしてあんたたちは俺を助けるんだ? 俺なんか助けたところで何の得にもなりやしない。それにどうしてそんなに希望を失わずにいられるんだ。もし脱出できたとしてもこんな姿だ。もうまともに生活することだってできやしないのに…」 メルとテオはきょとんとして顔を見合わせた。そして、笑いながらこう返した。 「あはははは! どうしたんだいアダモフ、頭でも打った? 今日はやけに気弱じゃないのさ。まぁ、そんなに痩せてちゃ元気もでないか! テオ、次の”餌”が来たらアダモフの分も獲ってきてやりなよ。この弱りっぷりだ。きっとなかなか競争に勝てなくて落ち込んじゃってるんだよ」 「ああ、他のやつら容赦ねぇからなぁ。任せときな。一番良いのを獲ってきてやるぜ!」 テオは二つ返事で答えた。 「アダモフ、当然じゃないか。それとも何か理由がないと誰かを助けちゃだめだとでも言うのかい? それに脱出した後のことを今から考えたって仕方ないさ。だってまだあたしらは脱出できてないんだから。それこそ獲らぬタヌキのなんとやらだね。それは脱出してから考えようよ。でなきゃ、いつまで経っても何もできやしないよ」 「そうさ、助け合うことは大事だぜ。なんせ敵はこの研究所の科学者全員だからな。それに研究を指揮してるやつもいるだろう。そんなところに一人でぶつかっていって何ができるってんだ? 多勢に無勢。だったら、こっちも数で勝負しねぇとな。仲間は一人でも多いほうが心強い! おれたちはおまえの力が必要なんだよ!」 衝撃を受けた。まるで世界がひっくり返ったかのようだった。 アダモフはこれまでいつも独りで生きてきたのだ。彼にとって『仲間』などあり得ないものだった。 とても貧しい家庭に生まれ、さらに幼い頃に両親も家も失ったアダモフは盗みで己の命をつないできた。 当然、他人には嫌われる。お尋ね者にもなった。 頼れるものなどいない。自分の腕だけが頼り。失敗したときが死ぬときだ。 そして彼は失敗を犯してしまった。 たまたま盗みに入ったところがこの研究所だった。そして運悪く研究員に見つかってしまったアダモフは拘束され、薬品を嗅がされて意識を失い、気がついたときにはもうこの檻の住人だった。 あまりに静かだったので油断したのだ。それに表向きにはここは廃病棟。ここに人がいるなどとは思ってもみなかった。 もう使われていない金になりそうな機械でも拾えないかと考えていた。誰もいないだろうと踏んで、ロクに確認もせずに忍びこんでしまった。迂闊だったのだ。 目を覚ませば檻の中。 初めはしょっ引かれたのかとも思った。しかし、そうではないことにアダモフはすぐに気がつく。 やけに暗い室内。にもかかわらず、どういうことなのか室内の様子はよく視えた。 室内は奇妙な臭いが充満していた。腐ったような臭い。獣の臭い。嗅いだ事のない不快な臭い。 その臭いのひとつは自分から発されていることに気がつく。不思議に思って試しに腕の臭いでも嗅いでみようかとしたところで新たな違和感に気がつく。 「な、なんだこの手は…。お、俺は一体!?」 慌てて己の全身を確認する。どこまでもどこまでも毛で覆われている。 背筋を冷たいものがぞわぞわと昇ってくるような感覚。毛が逆立つ。足腰にはまるで力が入らない。そして、さらにその後ろはピーンと張ったかのように強張っている。 ……後ろ? なんだ、その後ろって。それ以上後ろに何があるというのか。 薄々予想はついた。だが、それを確かめずにはいられない。この目で確認してそんなものはなくて、さっきまで見たものも実は目の錯覚か幻覚で、すべては夢だったのだと信じたかった。 しかしそれは叶わない。 振り返るとそこには……先端にふさふさとした毛を生やした尾が不機嫌そうに揺れていた。 その尾に意識を集中する。右へ動けと念じると右へ。左へと思えば左へ。それは自分の思ったように動いた。紛れもなくそれは自分自身の身体の一部だった。 驚いて思わず立ち上がって檻の低い天井に頭をぶつけそうになった。しかし、それは絶対にあり得ない。 なぜなら、既に彼は二本足で立ち上がることすらできない身体になってしまったからだ。その事実が虚しく宙を切って、再び床に押し付けられる前足によってこの目の前に突き付けらている。 ああ、これは今までの罪の報いなのか―― かつて人間だった獅子は絶望し、過去を悔い、そしてすべてを諦めてしまった。 そんな彼を救ってくれるような仲間はいるはずもなかった。 ……そんな仲間が今は二人もいる。生まれて初めての奇跡だった。 「俺は……助けられていいのか? 俺は仲間を頼っていいのか……?」 思わずそう呟いていた。 「なーに言ってんだい。あたりまえじゃないの!」 「おれも、おまえなら信用できると思ってる。だからもちろんおまえもおれたちを頼ってくれていいんだぜ」 メルもテオもそれが当然であるかのように答えた。 獅子は生まれて初めての光を見た。この闇の中で見つけた、仄かで明るくて温かい光だった。 光を見つけて生きる気力を取り戻した獅子は、仲間たちの助けを受け入れて少しずつ元気になっていった。 自分のどこにこれほどの前向きな気持ちがあったのだろう。それはアダモフ自身の予想を遥かに超えて、気がついたときには地下牢にいる失敗作たちのほとんどが自分たちの仲間になっていた。これはアダモフ自身が勧誘していったものだ。 これにはメルも驚いていた。まさかあの互いに争い合っていた失敗作たちをまとめ上げてしまうなんて、ただものではないと称賛した。 三人寄れば文殊の知恵とは言うが、今やそれ以上の頭がここに集った。 脱出するための作戦として様々な案が飛び交った。初めにメルの発した案が、他の一人の一言でより洗練されていき、また別の一人の声でさらに磨きを増していく。そしてとうとう作戦は完成した。 最後にメルは確信した。 「なるほど…。いける…! これならいけるよ! きっとうまくいく!!」 テオもそれに同意だった。 「ああ、これならきっとうまくいく。あとはチャンスを窺うだけだな」 誰もそれを否定する者はいなかった。 その作戦を実行するリーダーに仲間たちをまとめ上げたアダモフが選ばれるのもおかしなことではなかった。 初めは自分なんか……と謙遜していたアダモフだったが、仲間たちに励まされ、持ち上げられていくうちに満更でもないように思うようになった。 そして何も知らないデテンが地下牢を訪れたとき、とうとう作戦は実行されたのだった。 「俺はあんたらに教えてもらったんだ。仲間で力を合わせることがいかに大きな力を生むか…。いかにそれが大事なことかを!!」 静まり返った研究所にアダモフの声が響き渡る。 既にそこには我を忘れて嘆き哀しみ暴れていた者たちの姿はない。 「個々の力じゃ研究員たちには適わない。多勢に無勢だってテオが言ってたもんな。だからこっちも数で挑まなけりゃならないんだ。ばらばらじゃだめだ! 俺たちは力をひとつに合わせなければならないんだ! そうでなければ俺たちに勝利はない!!」 誰もがその言葉を静かに、真摯に受け止めていた。 「だから……頼む。俺たちと共に戦うと誓ってついてきてくれたみんなにもう一度だけ頼みたい。どうか俺たちに力を貸してくれ。そして、力を合わせてくれないか。ばらばらじゃない、ひとつの力だ。力をひとつにするんだ!」 「アダモフ、あんた……」 「こんどは逆におれたちが教えられることになるとはね…。こいつはうっかりしてたぜ」 仲間たちは口々にすまなかった、目が覚めたというようなことを声に出した。 改めてそれを確認したことで解放軍は再び……いや、以前よりも増してその結束を固めたのだった。 「わかった。おれたちはもう自分勝手な真似はしないと約束する。これからはすべてアダモフの指示に従う。それでいいな、おまえら!?」 テオが仲間たちに確認する。 仲間たちはそろって咆えた。もちろん、その意味するところは言葉を以って語らずとも明確だった。 「テオ…。それにメル、みんなも。ありがとうな……! みんなのおかげで俺は今こうしていられるんだ。とくにメル。あんたが俺に声をかけていなかったら今ごろ俺は死を選んでいただろうよ。だから、あんたには本当に感謝している。あんたには命を救われたんだからな」 獅子は深く頭を下げた。 「ちょ、ちょっとちょっとぉ?! な、なにさ。急にそんな……あ、あたしは別にそんな大したことなんか…。て、照れるじゃないのさ。そんな改まって礼を言われるほどのもんじゃないよ、あたしは」 「おいおい、アダモフさんよ。おれの嫁さんに向かってそいつぁ……少し妬いちまったじゃねぇかよ。そういうのは戦いが終わってからにしてくんな。じゃないとおれの士気が下がっちまうぜ。勢いが落ちちまう前に一気にカタをつけに言ってやろうぜ。敵も待ちくたびれちまうぞ」 メルもテオも心からアダモフをリーダーとして認めていた。 今さら誰も文句など言うはずがない。誰もがアダモフを解放軍の将として認めていた。 「わかった。だったら敢えてもう礼は言わねえよ。勝とう、この戦いに! そしてその戦果を以って俺からの礼とさせてもらう。足を止めてしまってすまなかったな。改めて……行くぞ! 責任者の血を以ってこの愚かな研究を終わらせてやろう!!」 「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」 もう何度目かわからない咆哮。 解放軍の心は既にひとつになっていた。 目的を再確認した解放軍はエレベータ横の階段を勢いよく駆け上がって行った。 研究所一階へ。 エイドの研究室前を通りかかる。 もう何も言わないエイドの頭や、頭のないアマンダの身体がそこには転がっている。 一行はそこから二人の遺品であるライフルや散らばった資料を入手した。そこにはこの研究所の見取り図もあった。 それによるとアダモフの予想通り責任者はここより上階、3階の管理区画にいることがわかった。 ライフルはまだ両手が変化しておらず自由になっている仲間に持たせることにした。 さらに八神が落としていったと思われる非適応薬装填済みの麻酔銃も手に入れた。非適応薬のことはかつて処分されていった失敗作たちを観察していたアダモフがよく知っている。 デテンが持ってきていた麻酔銃や予備の薬も回収して持ち運んでいたので非適応薬のことはすぐにわかった。 何かの役に立つかもしれないし、こちらが確保することで敵の武器を減らせることも考えて、これも持っていくことにしたのだった。 その場に八神の姿はなかった。跡形もなく喰らい尽くされてしまったのか、それとも……。 研究所内を駆け抜けさらに進む。 壁は抉られ、血は飛び散り、研究者の亡骸はあちこちに転がっている。やはり先客がいるのは確からしい。 研究所入口に辿り着く。 扉は壊され開かれている。今なら難なくここから逃げ出すことができるだろう。 どれだけぶりの外の光だろう。いつの間にか暮れていた陽は再び顔を出し始め、研究所の外からは朝陽が顔を覗かせている。 「逃げたい者がいるなら好きにしてもらっていい。俺はそれを止めないし咎めたりもしない」 アダモフは仲間たちに再確認するが、もはや今すぐ逃げ出して自分だけ助かろうと思うものはいなかった。 仲間たちは口々に言った。 自分は最後まで共に戦うと。やつらへの復讐を果たして気持ちよく共に脱出しようと。 もしかしたらまだ元の姿に戻れる可能性があるかもしれないと信じている者もいた。憎き研究者にひと泡吹かせてやらなければ気が済まない者もいた。そして、将として慕うアダモフの力になりたくて協力を願う者もいた。 意図は様々だったが、誰もが最後まで共に戦うことを誓った。 誰もがアダモフを信頼し、そして誰もが勝利を確信していた。 「後悔するなよ。わかった、行くぞ! 目的は3階、管理区画の研究責――」 そのときアダモフの身体はぐらりと傾いた。 言葉は遮られ、獅子の身体は乱暴に横倒しになる。 大柄なその体躯が打ち倒された音が研究所内に……いや、あるいは仲間たちの心に反響する。 あまりにも突然のことで何が起こったのかわからなかった。 目の前には驚いた表情のままで、まるでそのまま時間が止まってしまったかのようなアダモフが横たわっている。その身体には一本の麻酔銃から放たれた注射器が刺さっている。 そこで初めて気がついたのだ。 アダモフは死んだ。 あっけなく死んだ。 殺されてしまった! しかし一体誰の手によって? 混乱する仲間たちに追い打ちをかけるかのように、拡声器を通したそれは無慈悲にも言い放たれたのだ。 『我々は制圧部隊だ! 無駄な抵抗は止めて、直ちに投降せよ!!』 To be continued... 神への冒涜8
https://w.atwiki.jp/lov3-4flavour/pages/29.html
カード一覧 アリス (3.0) 使い魔名 使い魔名 参考 フレーバーテキスト アリス (3.0) 「〈赤の女王〉からあなたを助け出した時 “あの子の夢”はバラバラになってしまったわ。だから私は あの夢をもう一度繋ぎ直さなきゃいけないの。それが〈夢の管理人〉である私の仕事なんだもの」そしてアリスは手を差し出してこう言いました。「その為に、まずは散らばってしまった“皆”を探さなきゃいけないわ。それを あなたにも一緒に手伝ってほしいの。」“もう一人のアリス”は 頬を染めてプイと顔を背けました。 ───『スカーレットテイル』その1 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆
https://w.atwiki.jp/nikuq-niuniu/pages/890.html
大事なお得意様 依頼主 :レドレント・ローズ(ウルダハ:ザル回廊 X14-Y13) 受注条件:裁縫師レベル15~ 概要 :裁縫師ギルドのレドレント・ローズは冒険者に仕事を与えたいようだ。 レドレント・ローズ 「いらっしゃい、 ちょうどいいところに来たわね。 今日はあなたにぴったりの仕事があるの。 いつも裁縫師ギルドに注文をしてくれる お得意様にちょっとしたプレゼントをしたいの。 私がお金を出すから、 何が欲しいか聞き出して作ってくれない? お得意様の名前は「ワワルッカ」よ。 彼は採掘師ギルドのあたりにいると思うわ。 大事なお客様だから失礼のないようにしてね。」 ワワルッカと話す ワワルッカ 「俺がワワルッカだけど、裁縫師がどうかしたのか? ああ・・・・・・レドレント・ローズさんのお使いか! 実は採掘現場では採掘師が グローブやスカーフを大量に消費するんだ。 俺が面倒を見てる鉱山で必要なものを まとめて裁縫師ギルドに注文してるうちに いつのまにやらお得意さんってことになっててさ。 彼が俺にプレゼント? そんなに気を遣わなくてもいいのになあ。 うーん、今欲しいものといったら 「コットンシェパードスロップ」と「コットンスカーフ」かな。 今使ってるのに穴があいてきちゃったから どうしようかと思ってたところなんだ。 とびきり丈夫なやつを頼むぞ!」 レドレント・ローズに依頼品を納品 ワワルッカ 「とびきり丈夫な「コットンシェパードスロップ」と 「コットンスカーフ」を頼むぜ。」 レドレント・ローズ 「ワワルッカちゃんのためのお洋服はできた? どうせ、丈夫なものを作って! とか言ってるんでしょうね。」 (コットンスカーフとコットンシェパードスロップを渡す) レドレント・ローズ 「「コットンシェパードスロップ」と「コットンスカーフ」ね。 ワワルッカちゃん、 せっかくだから着てみてちょうだい。」 ワワルッカ 「うん、肌触りもいいし、動きやすい。 なにより丈夫そうだ。 おかげで仕事がはかどるよ、 ありがとうな。」 レドレント・ローズ 「とっても似合ってるわ、ワワルッカちゃん。 でも・・・・・・たまには作業着以外も着てみない? ワワルッカちゃんのためなら、 とびきりのお洋服を縫ってあげるわよ。」 ワワルッカ 「あっはっは。 おしゃれな服を作ったところで、 見せる相手がいないんじゃ意味がないだろ。 恋人でもできたらいいなあとは思うけど 俺みたいなガサツな男にほれる女なんかいないしな。 とにかく服、ありがとう。 またグローブを注文させてもらうぜ。」 レドレント・ローズ 「しょうがない子ねえ。 お洋服でワワルッカちゃんの魅力を引き出したら 好きにならない女の子なんていないと思うのに。ねえ?」
https://w.atwiki.jp/zohar/pages/19.html
ミザレオ 大事なもの Zohar Eldridge Elel Sobek 血なまぐさいブガードの牙 ねじ曲がったトカゲの爪 ○ ○ ○ 脱皮しかけたペイストの皮 ○ Amhuluk 鋭いアプカルの嘴 ○ ○ 切り刻まれた死鳥の羽 ○ 血染めのコウモリの毛 Cirein-croin 美しいオロボンの肝 ○ 破けたポロッゴの帽子 ○
https://w.atwiki.jp/sisineko2008/pages/15.html
クランでの練習プログラム! ※ Gunzでは一人一人違い戦い方があります、そして練習方法も様々です、正解も間違いもありません、ここではマスターとメンバーが考えた、悪魔でもこのクランでの最善と思われる練習方法、順番を乗せています。 今現在公式サイトにも乗っているけれど、技をどんどんと覚えていく人が増えています しかしマスターは技を覚えることで強くなる、というよりも基礎ができて、技の使い方を知って! それからそれを使えるようになり技を覚えることが強い人、ということになるとおもいます。 ですから公式や様々な方法と違うじゃないか!といわれても、マスターが最善と考えて。 実際その方法でしっかりと強くなった人がいることを備えて、技は基礎と使い方とスキルがそろってからできてこそ「技が使える」としています。 必ずこの方法で覚えろというわけではないですが、このクランではこの方法で育成をしていますので、ご了承ください。 次にあげるのは序盤で覚えるたとえ、人によって覚えるものは変わってきます 基本はゲーム内で教えるので、こんなものがある程度の参考にしてください バタフライステップ ジャンプ→ダッシュ→スラッシュ→ガード 初歩的なKSだが、大事な技である 柱を回るようにやるサークルBSの練習などもある マッシブコンボ ガードしてから→マッシブストライク→銃にして撃つ これも初歩的なコンボ、しかしうまくいけば一撃必殺なので 重要なコンボである 1ダッシュの距離 敵との距離を一定に保ち、ペースをつかむ方法 覚えると相手を動きを読めるようになっていく このように技をゲーム内でどんどんと教えていく、次にあげるのは スタイルの大体的な種類である SG+SG 近距離RSスタイル 近距離では最強を誇り、APを削りまくる 人気のスタイルである SG+RV 近距離から遠距離まで。 全面的に強く、これもまた人気の高いスタイル ある程度のAIMを必要とする SG+SMG 近距離中距離 AIMがなくてもできるので初心者にはぴったりのスタイル 狙いをあえてあいまいにすることで、当てる能力をアップさせる RV+RV 遠距離タイプ かなりのAIMを必要とするが、相当の強さを誇る エイマーはこれが大事である AR+SG 近距離、遠距離タイプ 重さが軽い連射を組み合わせた 初心者に対応するスタイル 使用者は以外と多い その他数十種類のスタイルが現在する。 VS30 マスターやほかの誰かのTDMexで30戦サバイバル勝負をする 勝った回数を競ったり、毎日することで実力を数字で表すことができる 大会なども開く 今現在マスターに勝利した人は0人である 即死シュミレーター マスターと戦うのだが、大ダメージを与えるかわりにマスターが挑発をする 挑発された=攻撃されたというイメージもち、隙をなくすための動作である 基本的に教えることはゲーム内でマスターがどんどん教えるので、サイトには 数%程度のプログラムを表記しておきます 気が向いたら増やしますが・・