約 3,257,973 件
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/1518.html
Miyuki-side ああ、そうでした……私は昨日つかささんのお部屋にお泊まりしたんですよね。 今日はたしか土曜日。学校はお休みでした。ゆっくりと上半身を起こし、時刻を確認します。 早朝6時半。つかささんは未だ眠りの中のようです。昨日の夜はあれだけ……疲れたのだから当然ですね。 昇りたての朝日が窓から差し込みます。リビングに降りればつかささんのご両親が朝食の準備でもしているのでしょう。 私はどうしましょう。二度寝というのも難しいですし……早起きもこういうときに困りますね。 「つかささん……」 小さな寝息を立てるつかささんにそっと近付き、その愛くるしい寝顔を確認します。 ああ……胸にズキューンときますね。小さなお口、キュートなお鼻、少しはれぼったい瞼……はれぼったい? (つかささん……泣いていたのでしょうか?) もしかして、昨日の、その……行為の最中に? 私の……私の名前を、呼びながら……。 思い出して、私は顔が熱くなるのを感じました。昨晩のつかささんの声、あれは私に向けられていたもの……。 本当は喜ぶべきことのはずなのですが、頭の中で整理が追いつきません。 (と、いうことは……私とつかささんは、その、両想いと考えてよろしいのでしょうか……) だとすれば私は、どのようにしてつかささんに想いを伝えればいいのでしょう。受け入れる気ならありますのに。 再びつかささんの寝顔に視線を移します。少しの力で壊れそうなくらい、小さくてか弱くて、いとおしいその寝顔。 胸の奥が強く締めつけられてたまらなくなり、私はため息をひとつ零しました。 なぜ、つかささんは泣いたのでしょうか。怖い夢を見た……ということはなさそうです。 お恥ずかしながら、私もつかささんのことを想っては、時折……ひとりでいたすようなこともあるのですが、 感極まってくると涙腺が緩むということは度々あります。しかし、瞼が腫れるほど泣く事はありません。 かがみさんがいないので、寂しさが抑えきれなかったのだとしたら……私は自分を呪うしかありません。 こんなに近くにいながら、つかささんが小さな胸に抱く寂しさを癒すことができなかったのですから。 (つかささん……私ならいつでもそばにいます。寂しがらせたりなんか、絶対にしません。約束します。 私じゃダメですか? つかささんのあの言葉が本当なら、私にあなたの寂しさを紛らわせてくれませんか?) もし、あのときのつかささんの言葉が……私のことを好きだと言ってくれたあの言葉が……。 勢いで出てしまっただけの言葉なら、寂しさのあまりに出ただけの言葉なら……。 私はそれでも構わないと思いました。つかささんの寂しさを、一緒に抱えてあげるだけの存在でもいいんです。 (苦しいです、つかささん) つかささんを包むシーツをつまんで、強く握りました。涙腺がまた緩くなってきたみたいです。 つかささんを起こさないように、その胸に顔を押し付けました。なぜか私まで寂しくなってきたみたいです。 (ごめんなさい、つかささん。私まで、つかささんに頼って寂しさを紛らわせようとしてしまっています) 愛する人が傍にいても、たまらなく寂しくなる事もあるようですね。シーツが私の涙を吸っていきます。 だとすれば……つかささんは私を想って泣いてくれたのでしょうか。あの言葉通りに私を好いてくれていたのなら、 今の私と同じ寂しさで泣いてくれていたのでしょうか。それは、私に都合のいい勘違いなのでしょうか……。 (こういうとき泉さんならどうするんでしょう。きっと、自分に正直に、愛しい人に甘えるんでしょうね。 かがみさんなら……できるだけ我慢して、ふとしたときに泉さんに思いっきり甘えてきそうですね。 お二人とも羨ましい限りです。私にも、それくらいの勇気や、行動力が、つかささんに対してあったなら……) そういえばあの二人、昨日はついに……なのでしょうか。私は二人に失礼だと思い、その考えを振り払います。 やがてシーツから顔を起こすと、私は少し残っていた涙を拭い、つかささんのお部屋から出ました。 リビングにいるつかささんのご両親に、何かお手伝いできることがあればと思ったのです。 つかささんの寝顔をいつまでも見ていると、切なさで潰れそうなので……。 * Tsukasa-side 「ふぇ……」 目を覚ました。枕もとの時計を見ると、朝の8時半だった。一瞬「遅刻!」と思ったけれど、そういえば土曜日。 それからゆっくりと昨日の記憶が戻ってきて、私はシーツを頭からかぶった。それからゆっくりと、ベッドの下を見る。 ゆきちゃんはいなかった。布団はしっかりとたたんであって、さすがは早起き……って私が遅いんだけど。 (やだな……起きたくない。いつまでも寝ていたかったのに……) それは、いつものように私がねぼすけだからじゃなかった。起きて、ゆきちゃんに会わせる顔がなかったから。 きっと昨日のあれは、全部ゆきちゃんに聞かれてた。はしたない声も、ずっと胸に秘めていた本当の気持ちも……。 そもそも、ゆきちゃんが隣にいるのにあんなことをしてしまった私のせいだ。ゆきちゃんに、イヤらしい女の子だと思われちゃったんだ。 ううん、思われたんじゃない。私はきっと、イヤらしい女の子なんだ。ゆきちゃんに嫌われても仕方ないようなことをしたんだから。 (……やだ) ゆきちゃんに嫌われても仕方ない? 本当に? 私の中で、仕方ないなんて言葉じゃ片付けられない事だった。 (……いやだよ、嫌われたくないよ。ゆきちゃんと離れるのなんて、絶対イヤだよ) たとえ私がゆきちゃんに想いを打ち明けて、それで二人が気まずくなる事があっても、離れ離れにはならないようにしてあげるって、 こなちゃんは電話で言っていたけど、こんなことで嫌われちゃったら、こなちゃんやお姉ちゃんがいくらフォローしても無理。 私だって、自分の事を考えてそんなことをされたら……驚くし、ちょっとイヤだなって思う。それが好きな人なら別だけど……。 (私、どうすればいいのかな……辛いよ、お姉ちゃん、こなちゃん、助けてよ……) もしも今顔を合わせたら、ゆきちゃんはどんな顔をするんだろう。ゆきちゃんは優しいから、そんなにイヤそうな顔はしないはず。 でも、戸惑ったような顔しちゃうんだろうな。それから私のことをちょっと避けるような感じで、口数も少なくなって……。 そんなことを考えるほどに、私は私を責めたい気持ちになった。人を叩いた事の無い私でも、もし目の前に私がいたらきっと叩いてる。 (ゆきちゃん、嫌いにならないで……たくさん謝るから、もう二度としないから、お願いだから……) 私はシーツに身体をくるんだまま、枕に顔を押しつけて、そんな言葉を唱えていた。ちゃんとゆきちゃんの前で、口にすればいいのに。 歯医者が怖いね、と何気ない話をすることも、もう無くなってしまうなんて私には耐えられなかったから……。 昨日の、私の髪を撫でたあの手が、ゆきちゃんが布団に入るあの音が、寝入り端で聞いた幻聴だったら、気のせいだったらよかったのに。 そんなことを考えてたら、ふと……ひとつの疑問が生まれた。 (どうしてゆきちゃんは……私の髪を撫でたの?) 隣であんなことを……しかも、自分のことを考えながらされたはずなのに、どうして私をあやすように、慰めるように、 あんなに優しい手つきで、私のことを撫でてくれたんだろう。私のことを、汚いとか思わなかった? 触るのもイヤだとか、考えてない? (私が疲れてるように見えたから、眠りやすいように撫でてくれたのかな……?) だとしたらゆきちゃんは、私のことを嫌いにならなかった? それとも、混乱してふいに出た行動? ゆきちゃんは優しいから? ますます私の頭の中はこんがらがって……でもそれは、ほんの少し希望を持たせてくれて、もしかしたらぬか喜びなのかもしれないけど。 (ゆきちゃんって、あのとき実は寝ぼけてました……とかじゃないよね) そんなことを考える余裕が、ようやく出てきた。あのとき頭を撫でられた、あの感触。傷付けないように優しく触れてくれたかのような。 好きだった。図々しいかもしれないけど、これからもああいう風に私のことを撫でてほしかった。叶わない願いなんだけど……。 (……逃げてちゃダメだよね) 私はシーツを脱いで、がばっと上半身を起こした。時刻は8時45分。あんまり寝ていると、ゆきちゃんが帰ってしまう。 (こんな大事な事まで、寝逃げに走っちゃダメだよね。……こなちゃんが応援してくれているんだから!) 嫌われるのは怖い。けど、いつまでも逃げていられるわけじゃないし、嫌われそうなら私も頑張って、ゆきちゃんの信頼を取り戻したい。 私って単純だと思った。ほんのちょっと嫌われていない可能性ができただけで、ここまで前向きになれちゃうなんて、笑っちゃうくらい。 (想いを伝えるのは難しいけど、こなちゃんだって、お姉ちゃんだって頑張ったんだよ? だったら今度は……私が頑張らなきゃ!) * Miyuki-side つかささんはまだ起きていないみたいです。つかささんのお母さんと一緒に朝食を作り、すでにみなさんお召し上がりになりました。 つかささんのお姉さん……いのりお姉さんが「起こしてくるよ」とは言ってくれましたが、昨日の事もあったので疲れてるだろうと思い、 いえ、まだ寝かせてあげてくださいとお願いしました。それまでの間に世間話などをして、時刻は8時50分を回りました。 「ゆ、ゆきちゃん、おはよー」 「えっ、あ……おはようございます、つかささん」 パジャマ姿のつかささんがリビングへと起きてきました。あまり起きぬけといった感じがしないのは気のせいでしょうか。 私はできるだけ自然な笑顔で返事を返しました。大丈夫、不安定なこの感情は、悟られてはいないみたいです。 「えへへ……ごめんね、ずっと寝ちゃってて」 「いえ、気になさらないでください。せっかくの休日ですしね」 「でも、ゆきちゃんが泊まりに来てるのに、なんだか悪いよ~……」 「そうよつかさ。みゆきちゃんなんか早起きしてご飯作るの手伝ってくれたんだからね。あなたもそのくらい、できるようにしなさい」 つかささんのお母さんが、呆れた顔で言いました。それから私に向かって「本当にごめんなさいねえ」と。 「うう~……自分でお弁当きちんと作ってるから、いいかなーって……」 「つかささん、料理はお上手ですからね」 「ゆきちゃん、ご飯作ってくれたの? お客さんなんだから、もっとゆっくりしてってもよかったのに……」 「いえいえ、他のお宅の台所を触れる機会もそんなにありませんし、むしろ楽しかったですよ」 「みゆきちゃん、お料理すごく上手で、今日なんかバルサミコ酢を使った……何かを作ってくれたのよ? レシピ教えてもらっちゃった」 「バルサミコ酢を使った……何かは割と簡単にできるので、忙しい朝型には最適ですね」 「うわぁ、楽しみだよ! ゆきちゃんの作ったバルサミコ酢を使った……何か!」 そんなに喜んでもらえると、私もお手伝いの甲斐があったというものです。昨日はつかささんのグラタンを堪能させていただきましたし。 「みゆきちゃんは本当に、物腰も柔らかくて、上品で、どこにお嫁に出しても恥ずかしくない女の子ね」 「そ、そんなことは……」 急に褒められてしまって、私は赤面したままかぶりを振りました。少しばかり褒め過ぎです……。 「本当、私に息子がいたらこんな子をお嫁にしたいくらい。この際娘でもいいからもらってくれないかしら。つかさとかいかが?」 「「えっ!!!!!」」 私とつかささんの声が見事にユニゾンしました。二人揃って頭のてっぺんまで真っ赤になって……。 「も、もう! お母さん変な事言わないでよ!」 「冗談に決まってるじゃないの」 「ううー……どんだけ~……」 私は返す言葉も無く、ふふふと笑っていました。冷静を装ってはいましたが、心臓はすでにはちきれんばかりの早鐘で……。 内心、『つかささんのお母さん公認!』とも思いましたが、そんなわけはなく……とりあえず、今だけは勝手に浮かれててもいいですよね? (つかささんは私の嫁……いえ、私はつかささんの嫁?) つかささんのお母さんは割と、お冗談がお好きなようです。柊家の台所に立って、いろんな知識を得る事もできました。 (これらは是非、『つかささん情報』に記入すべきですね) 私は「お手洗いお借りします」と告げると、トイレへと向かいました。トイレのドアを閉めると、メモ帳を取るためポケットに手を……。 ……何もありません。たしか今朝、パジャマから昨日のお洋服に着替えて、たしかポケットには常にメモ帳を入れるようにしていて……。 同時に、全身の血の気が引く音が聞こえ……たような気分になりました。先程よりもさらに早く、心臓がドクンドクンと鳴っています。 (……落とした? この家のどこかに、あのメモ帳を?) * Tsukasa-side ゆきちゃんの作ったバルサミコ酢を使った……何かはとても美味しかった。なんていうか、ゆきちゃんのように優しい味わいだった。 身はとても柔らかくて、でも歯ごたえがあって、味は甘からず、辛からず、さっぱりしながらコクが……って、よくわかんないや。 (朝からゆきちゃんの作ったご飯を食べられるなんて、幸せ~) 食卓には、私の分だけ朝食が並んでいた。みんなもう食べちゃってたみたい。私の目の前には、ゆきちゃんが座っている。 トイレを出たばかりのゆきちゃんは、なんだか浮かない顔をしていて、なにか落ち着かないようにそわそわ……。 お腹でも痛いのかな? 便秘気味だとか、月のものが始まっちゃったとか……それとも、私がゆきちゃんのお料理を食べているから? 「おいしいよ、ゆきちゃん♪」 「あ、ありがとうございます……」 「ゆきちゃん……お腹痛いの? なんだかずっとそわそわして……」 「あっ……いえ、なんでもありません。お気になさらないでください」 「……?」 ゆきちゃんはいつもの笑顔を私に返してくれた。 変なゆきちゃん。何かあったのかな……って思ったとき、私はすっかり頭から消え去っていた事を思い出した。 (もしかして、昨日の夜のこと……?) 私のお箸が止まった。ゆきちゃんはそのことを思い出して、私になんて言葉をかけてあげようか考えてるのかな? これは私の勘だから、あまりあてにはならないケド……ゆきちゃんは私が心配していたより、私のことを嫌ってないように思えた。 でもゆきちゃんはしっかりと、私が『好き』って言ったのを聞いてたんだよね。こんなにそわそわするのも無理無くて……。 それに気がつけば、食卓のあるリビングには二人きりで、お姉ちゃん二人は外出、お父さんは休日出勤、お母さんはお洗濯。 お互いに、どうしても意識しちゃうに決まってる。私は止めていたお箸を動かして、朝ご飯の残りをちょっと無理めに平らげた。 「ゆ、ゆきちゃん!」 「は、はい! ……なんでしょう?」 「あ、あのね……」 「は、はい……」 「……きょ、今日、お休みだし、どこかいこっか?」 違うのに~……私が言いたかったのかこんなことじゃなくて、昨日のことなのに。でも、時間はまだまだあるからいいよね? だけど私は、そこでゆきちゃんが断ってきたらどうしようかまでは予想してなかった。もしかしたら、ゆきちゃん帰っちゃうかも……。 「きょ、今日ですか? そうですね、お天気もいいですし……あっ、でも……」 「でも?」 「いえ、その……はい、あの、そうですね! あっ、でもつかささん、お勉強のほうは……」 「あっ! そっかぁ、そうだよね……」 そういえば昨日、してなかった。もうすぐテストも近いのに。それにしてもさすがゆきちゃん。私なんか完全に忘れちゃってたよ。 ……って、そうじゃないよね。一緒に遊ぼうって誘ったのを、流されたのかもしれないんだし……やっぱり避けられてるのかな。 「じゃあ、ゆきちゃんはおうちに帰ってお勉強しないといけないよね……」 「え、ええ……あ、いえ、そうですつかささん。よかったら一緒にお勉強しませんか?」 その言葉に、私はばっと顔を上げた。真っ暗な底無し沼に落ちているところを、急に引き上げられたような気持ち。 一緒に? ゆきちゃん、一緒にお勉強してくれるの? 私のこと、避けてないの? まだ一緒にいてもいいの? いてくれるの? 「で、でも、ゆきちゃんはいいの? 私、お勉強の足ひっぱっちゃうかもだし、それに……」 「いえ、お気になさらないでください。つかささんの教科書と筆記用具を貸していただければ、こちらでもできますし……」 「ありがと……ゆきちゃん、ありがとっ!」 天にも昇る気持ち。とりあえずゆきちゃんには嫌われてないってことがわかった。朝食、ゆっくり味わって食べればよかった。 あとは、タイミング。本当に大切な事を伝えるタイミングと、私の勇気だけ。 * Miyuki-side つかささん達にバレないように、私はしっかりと家中を凝視していました。どこかに、私のメモ帳が落ちているはずです。 あれをもし、つかささんに見られていたらと思うと……つかささんが嫌悪の表情で私を見つめるシーンが容易に想像できます。 せっかく両思いなのかも知れないとわかったのに、すべてが台無しになってしまいます。 運良くそれがつかささんではなく、つかささんのご家族の方に見られてしまったとしても……。 大事な家族がその友達に、しかも同性の友達に、ストーカーまがいのことをされているだなんて知られたら……。 「ゆきちゃん……お腹痛いの? なんだかずっとそわそわして……」 「あっ……いえ、なんでもありません。お気になさらないでください」 「……?」 どうやらだいぶ挙動不審になってしまっていたようです。つかささんでも気付いてしまうくらい(つかささん、ごめんなさい)、 私は動揺を隠しきれていないのでしょうか? つかささんはお箸を止めて、なんだか不安そうな顔をしていました。 おそらく、つかささんはメモ帳をまだ見ていないはずです。だとすれば、まだこの家のどこかにメモ帳は……。 つかささんは朝食を急いで食べると、私を外出に誘いました。お休みですし、それは当たり前の事なのかもしれません。 しかし、私はこの家を離れるわけには行きませんでした。迷惑な話かもしれませんが、アレを見つけるまでは……。 「いえ、その……はい、あの、そうですね! あっ、でもつかささん、お勉強のほうは……」 「あっ! そっかぁ、そうだよね……」 つかささんは露骨に落ち込んだ顔をしました。ああ、ごめんなさいつかささん。私もできればつかささんと遊びたいんですよ? こういうのをKYというのでしょうか、せっかくのお休みなんですから、ちょっとくらい一緒に遊んでもよかった筈です……。 「じゃあ、ゆきちゃんはおうちに帰ってお勉強しないといけないよね……」 「え、ええ……あ、いえ、そうですつかささん。よかったら一緒にお勉強しませんか?」 我ながら名案だと思いました。これなら、私は柊家にまだ居続けることができます。メモ帳を探す猶予が生まれます。 つかささんに断られたらどうしようかと思いましたが、「ありがと……ゆきちゃん、ありがとっ!」と素晴らしい笑顔で言われ、 私はあやうく昇天するところでした。愛らしいです、可愛すぎます。一緒に勉強できるのを、そこまで喜んでもらえるなんて。 もっとも私が、保身のために出した提案なのです。つかささん、ごめんなさい。でも私も一緒に勉強できて幸せです。 「じゃあ、私準備しちゃうね!」 「あ、私もお手伝いします」 「お勉強って苦手だけどね……ゆきちゃんと一緒ならきっと楽しいかも~」 「私もです。楽しすぎて、集中できないように気をつけないとですね」 私達はうふふあははと笑いあって……そのすごく和んでいる空気に対し、急に気恥ずかしくなりました。 今、二人揃ってちょっと恥ずかしい事を口にしていたような……いえ、単なる友達として、ですよね。でも両想いですし……。 万が一つかささんと私が結ばれることがあって……もしそうなったのなら、先程のような会話をいつものようにするのでしょうか。 お互いの何気ない言葉に笑い合って……それはあの昼食の時間のときとはまた違う空気があって、二人は頬を染めて……だばだば。 「私、数学でちょっとわからないところがあって……ゆきちゃん、よかったらちょっとだけ教えてもらえる?」 「ええ、わかる範囲でしたら……私も少し、英語のほうに不安がありまして……」 「う、それは助けてあげられないかも……」 ああ……つかささんつかささんつかさsんつつtかkkつかt……勉強があまりお得意でない所も可愛らしいです……。 私達はつかささんのお部屋に向かうと、テーブルと教科書、二人分のノートと筆記用具を用意しました。 「それでは、まずはつかささんが苦手なところを一緒に考えながら解いていきましょう」 「うん、よろしくお願いします、ゆきちゃん先生♪」 あ、だめです、血圧がアがってシんでしまいマス……。なんとか耐えきって、とりあえず勉強は始まりました。 そのほのぼのとした空気に少しばかりあやうく、メモ帳の存在を忘れるところでしたけれど……。 * Tsukasa-side お勉強をしている間、ゆきちゃんは何度かくらくらとしていたみたい。本当に大丈夫かな? ゆきちゃんは驚くほど教えるのが上手で、私もなんとかだけどついていけて、教え方の節々にゆきちゃんの優しさを感じた。 なにより、ゆきちゃんの声を聞きながらだと、どうしてもそれを聞きたくなるから、一つも聞き飛ばすことがないし、 ゆきちゃんの声をさらに聞きたくて、私は必要以上に何度も質問して……ゆきちゃんの迷惑になっていたかも。 「……それでここのBrsmks=dndk^120にこの公式を代入したようなフリをして、ここがこうなるわけです」 「あ、そっかぁ。う~ん……うん! 覚えた! ……と思う」 「つかささんはわからないところを中途半端にせずにきちんと質問していただくので、教えるほうも助かります」 「そうなの?」 「ええ、わからない部分を残したまま次に移ると、どうしても躓いてしまいますし」 えへへ……だって、ゆきちゃんの声、もっといっぱい聞きたいし……。 「ごめんね。ゆきちゃんのお勉強、全然はかどってなくて……」 「いえ、いいんですよ。私も復習のつもりでいますし、教える側に立つのも十分勉強になりますしね」 ゆきちゃんってば、やっぱり優しいよ~……『それに……つかささん……近付け……密着……』とか呟いてたけど……。 「次からはひとりでできる……と思う……」 「なにかわからないことがあったら、何でも聞いてくださいね」 じゃあ……ゆきちゃんの気持ちが知りたいな。そんなことを考えて、私はひとりで勝手に顔を真っ赤にした。 勉強も大事だけど、私には昨日の事を聞くことと、自分の気持ちを告白するっていう大事な仕事が残ってる。 告白って、今まで想像したことなんてなかったけど、もしもするんだったらロマンチックなところかなって思ってた。 自分の部屋で勉強中に……なんてことになっちゃうかもしれないなんて、全然思ってなかった。 せっかくゆきちゃんが教えてくれたんだから、きちんと勉強に集中しないといけないのに、いざ告白の事を考えていると、 どうしても心臓がバクバクいって、教科書の文字を追うことが出来なかった。ゆきちゃんはゆきちゃんで、まだそわそわしてる。 「ゆきちゃん……」 「はい、何ですか?」 「……ううん、なんでもない」 やっぱり何度決意を固めてみても、土壇場で尻すぼみになっちゃう。こなちゃんのエールを何度も頭の中で再生してみる。 今日の朝の反応や一緒に勉強してくれることから考えても、ゆきちゃんは私の想いを聞いても、嫌ってはくれないはず。 ……私の気持ちは昨日のうちにとっくにバレちゃってるんだけど……。 だから私は必要以上に怖がらずに、想いを打ち明けてもいいはず。ゆきちゃんは迷惑に思うかもしれないけど……。 それとも、もしかしたらゆきちゃんも、私のこと受け入れていいと思ってる? 私の勘違いとか、そうじゃなく? (ねぇ、ゆきちゃん。そうなの?) ゆきちゃんは聞こえるか聞こえないかの小さなため息をひとつ吐くと、ペンをノートに走らせていた。 座りっぱなしでお尻が痛い。何気なく座り方を帰ると、ポケットに何か感触がした。中に何か入ってるって、ようやく気付いた。 あ……そういえば昨日、ゆきちゃんのメモ帳拾ったんだっけ……たくさんの私が詰まった、ちょっと嬉しいメモ帳。 これ、ゆきちゃんに返さないとまずいよね。もしかしてさっきからそわそわしてたのも、これを探してたのかもしれないし。 「ね、これってゆきちゃんのだよね? 昨日拾っちゃって……遅れちゃったけど、返すね」 私はメモ帳をポケットから取り出すと、それを何気なくゆきちゃんの目の前に出した。 そのとき私は見ちゃったんだ……ゆきちゃんの顔が、一瞬で真っ青になっていくのを……。 * Miyuki-side 気がつけば私は……つかささんの手からメモ帳を強引に取り上げてました。 (どうして!? どうしてつかささんがこれを……!) そのメモ帳を隠すように、私はつかささんに背を向けてかがみこみ……全身から嫌な汗が吹き出るのを感じました。 つかささんが差し出したそれには、たしかに書いてありました。私の文字で、『つかささん情報』と。 (よりによってつかささんが……一番見られたくない人なのに……) 私はつかささんの顔を直視する事が出来ず、背を向けたままメモ帳を強く握りました。唇はふるふると震え……。 「あ、ゆきちゃん、その……」 「つ、つかささん……」 「う、はい……」 「その……中は覗きましたか?」 しばらく沈黙が流れて、つかささんは大きく頭を下げ、大声で答えました。 「ごめんなさいっ! いけないことだとは思ってたんだけど、私の名前が書いてあったから、我慢ができなくて……! すぐに返そうと思ってたんだけど、うっかり忘れちゃってて……ごめんね、軽蔑しちゃうよね、本当にごめんなさい!」 「ど、どこまで……」 「え?」 「どこまで見たんですか……」 「……たぶん、全部」 この家に来て、何度顔を赤くした事でしょう。しかし、今この瞬間が一番、私の顔が真っ赤になったのかもしれません。 見られてしまいました。よりによってつかささんに、一番知られたくない私の姿を、全て見られてしまいました。 (恥ずかしい……! つかささんに嫌われて……こんな私の本性を……つかささんはずっと知ってたなんて……!) もう何も考えられなくなりました。つかささんはきっと、私のことを気持ち悪いと思っていることでしょう。 このメモ帳をつかささんがいつ読んだのかはわかりませんが、朝からずっと私の前で、平気そうなフリをして……。 こういうときはきちんと、たとえ許してもらう事はなくても、相手の目を見て謝らなければいけません。 しかし私は、目から溢れる物を堪える事ができずに、つかささんに背を向けたまま口にする事しか出来ませんでした。 「つかささん、ごめんなさい! つかささんに黙って、こんな恐ろしい、気持ちの悪いことをしていてごめんなさい! 私、つかささんのことが好きで……つかささんのことを少しでも多く知りたくて、それでこんな出過ぎた真似を……! もう二度としませんから許してください! これは全部破いて捨てますから、嫌いになってもいいですから……!」 自分の知識欲を、生まれて初めて呪った瞬間でした。こんな風に生まれた自分を、殺してしまいたい気持ちになっています。 「ゆ、ゆきちゃん……」 つかささんはよろよろと近付くと、私の頭をそっと抱きかかえました。私の嗚咽に混じり、もうひとつのすすり泣く声……。 それでも私は顔を上げて、つかささんをきちんと見つめる事が出来ません。愛する人が、泣いているというのに……。 「お願い、ゆきちゃん、泣かないで……気持ち悪いだなんて思ってないよ、破ったりしなくてもいいから泣かないで……。 嫌いになったりしないから……ゆきちゃんの知られたくないこと、勝手に覗いちゃってごめんね。本当にごめんね」 「本当ですか? 嫌いになっちゃいませんか? 気持ち悪いって、思わないですか?」 「ホントだよ。だから泣かないで……私、あんなにたくさん私の事知られてるなんて思わなかったから驚いちゃったけど、 こんなに知ってくれて嬉しいって思っちゃった。あんなに私の事知りたいと思ってる人が、しかもゆきちゃんで……」 つかささんは優しすぎます。こんな私にも温かい言葉をかけてくれるだなんて。それだけで私は、赦しを得た気分になりました。 「そ、それにね……おあいこなんだよ? 私達」 「おあいこですか……?」 私はまだ顔を上げず、つかささんの胸に頭を預けたままでしたが、つかささんが小さく深呼吸したことはわかりました。 「ゆきちゃんも私の……は、恥ずかしいところ見ちゃったでしょ……?」 * Tsukasa-side 顔から火が出るくらい恥ずかしかった。だってもう知られちゃってるとはいえ、一人でしてたことを告白するんだもん……。 でも、私の大好きなゆきちゃんが、あのゆきちゃんが、泣きながら私に謝ってる。ゆきちゃんは何も悪くないのに。 ゆきちゃんは私のせいでたくさん恥ずかしい思いをしたのに。だから私も、恥ずかしい思いをしなくちゃいけないんだ。 「ゆきちゃん……昨日、見てたんだよね? 私が、その……ひ、ひとりでしてたところ」 「え……?」 ゆきちゃんがようやく顔を上げてくれた。眼鏡の奥の聡明な瞳は、今だけは強く潤んでいて、儚げに見えた。 「私がゆきちゃんの名前を呼んで……その……」 「わ、私が起きてたのを知ってたんですか……?」 「う、ううん! している間は知らなかったんだけど……ゆきちゃんが髪を撫でてくれたときに気付いちゃって……」 「あ……!」 ゆきちゃんは顔を真っ赤にしている。きっと私も同じはずだった。俯いたままスカートをぎゅっと握って、話し続ける。 「ゆきちゃんは寝ていると思ってたみたいだけど、私起きてて……それに、私がゆきちゃんのことを、その」 「つ、つかささん……」 「す、す……」 恥ずかしさはピークに達していた。たぶん、一人でしていたことを改めて告白した事より、ずっと恥ずかしい事だった。 『好き』の一言は私にとってすごく重く、勢いにまかせて言えてしまうかもって思ったけど、やっぱり怖くて。 「ゆきちゃんのこと、す……」 「つかささんっ!」 私は急に、強く抱き締められた。でも、全く苦しさや圧迫感を感じない、優しさと包容力に満ちた腕の強さで。 背中に回された、ゆきちゃんの両手。私のささやかな胸に押しつけられた、豊満で柔らかい感触。 「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。無理はしないで……続きは、私に言わせてください」 「ゆ、ゆきちゃ……」 「好きです、つかささん。世界中の誰よりも好きなんです。お願いですから、つかささんの全てを教えてください」 緊張が一瞬で全て解けていったのを感じた。やっぱりゆきちゃんの言葉が、私に一番の安心を与えてくれるんだ。 『好き』の一言は重い言葉だけど、好きな人から言われれば、とても嬉しい言葉で。私は胸の中に溢れる物を感じていた。 「ありがとう、ゆきちゃん……でも私、もう無理はしてないよ。今ならはっきりと言えちゃうんだから。 私も好きだよ、ゆきちゃん。ずっと言えなくてごめんね。ゆきちゃんに辛い思いをさせちゃって、ごめんね」 ゆきちゃんはさらに腕の力を強めて……ちょっと苦しいかな? 胸おっきいし。でも、全然イヤじゃない。 「どうしてなんでしょうね、私達は互いに想い合っていたはずですのに、ずいぶんすれ違っていました」 「あはは、おかしいね」 私達は落ち着くと、二人で並んで座ってベッドに背中をあずけたまま、勉強も忘れて寄り添い合っていた。 「ね、ゆきちゃん。聞きたい事があるんだけど……」 「はい、なんでしょう?」 「あのメモ帳、私以外の人の分もあるの?」 「あ……いえ、つかささんの分だけです。私が全てを知りたかった相手は、その、つかささんだけで……」 「私も。ゆきちゃんに、私のこともっとたくさん知ってほしいな。……だからね?」 私はゆきちゃんの目を、上目遣いでじっと見詰めた。それを口に出すにはすごく恥ずかしかったけど。 「ゆきちゃんのしたいように……私のことをたくさん調べてほしいな……?」 * みゆき×つかさ・後編 (2)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 良いです、ものすごく良い作品です! 2人の気持ちが、お互いを強く想う 気持ちが伝わってきます!!! -- チャムチロ (2012-09-17 22 05 59)
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/789.html
150 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 35 01 ID pVHuVLv8 〈1〉 今朝の朝食もいつもどおりだった。 3つのお皿に目玉焼きが3つとベーコンがそれぞれ2枚づつ、 付け合せのキャベツとトマト、薄っぺらな食パン3枚。 コーヒーと牛乳とオレンジジュース。 向かいの席の姉がトマトを皿の端へ除けていて、隣で妹がグチャグチャ目玉焼きの黄身をかき混ぜる。 繰り返す朝。 変わらない日常。 「もぅトモ、またネクタイが曲がってる」 不意にテーブルを飛び越えてくる手を咄嗟に払う。 「別にいいって言ってるだろ」 あからさまな失意の瞳。媚びる様な仕草。 見ていられなくて目を逸らす。 「ねぇ、きょうも『あされん』はないの?」 目玉焼きをやっつけた妹が袖を引っ張る。 先週末に大会が終わったばかりで、今週末まで朝練は無い。 「ないよ」 「じゃあ、きょうはいっしょにいく!!」 まだ箸を上手く使えない妹がフォークを天に突き上げる。 要するに幼稚園まで連れて行け、という事なのだろう。 「そっか、今日は紗耶を送ってくかな」 「じゃあ、私も……」 「姉さんは先に行っててよ」 付いて来ようとする姉を制すると、 「紗耶、あんまり遅いとお兄ちゃん先に出ちゃうぞ!!」 「まってぇ~」 急いで席を立ち、妹を急かして家を出る。 名残惜しそうな視線は……玄関で遮られた。 151 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 35 39 ID pVHuVLv8 〈2〉 別に、嫌いなわけじゃない。 ただ、知ってしまっただけだ。 姉が自分をどういう目で見ているか。 何気ない仕草に時折見え隠れする 粘りつくような、纏わり付くような、絡みつくような、熱い視線。 一度意識してしまうと途端にそれが息苦しくなった。 そして、何より恐ろしかった。 姉弟で好き合う事など考えられないし、それが何を意味しているかわからない年齢でもない。 諦めさせる。 そう決心してからはなるべく姉とは距離を置くようにしている。 多少冷たく接してでも距離を取って、風化するのを待つ。 それが姉に対して取っている唯一の対策。俺が姉に対してできる精一杯の努力。 「ぎゅう」 口で擬音を発しながら紗耶が手を握る。 「へへぇ……」 天真爛漫な笑顔。俺はこの笑顔に弱い。 妹の紗耶にはついつい甘くなってしまう。 歳の離れた妹なので、兄妹というよりも娘のような感覚で接している。 「ふん、ふふ~ん。ふん、ふふ~ん」 ご機嫌なのか、鼻歌を歌っている。 足元のおぼつかない、まだまだ発展途上の歩幅。 急ぎ過ぎないように、手を引いて歩いてゆく。 「紗耶ちゃん、今日はお兄ちゃんと一緒なんだ」 校門の前で園児達に挨拶をしていた先生が、こちらに声をかけてくる。 「うん」 「いいね。優しいお兄ちゃんで」 「うん」 妹の満面の笑顔。 透き通る様な無垢な返事がなんだか照れくさい。 「そういえば、聞きましたよこの前の大会!! 大活躍だったんですってね」 「ええ、まぁ……」 「目指せ、日本代表ですね!!」 息が詰まる。 どうしてそんなことを知っているのだろう。 「うふふ、紗耶ちゃんがいつも言ってますよ。『おにいちゃんは、だいひょーせんしゅになるんだ』って」 表情を読み取った紗耶の先生が笑う。 随分と間抜けな顔をしていたのだろう。褒められるのはどうにも苦手だ。 「それでは、紗耶をお願いします」 照れ隠しではないけれど、挨拶をしてこの場を離れる。 「ええ、いってらっしゃい」 「いってらっしゃ~~~い」 紗耶はこちらが見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。 152 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 37 36 ID pVHuVLv8 〈3〉 「ハァ~イ、トモちゃん」 放課後。 教室でぼんやりとしていると、耳元で囁かれた。 「誰が『トモちゃん』だよ? 気持ち悪いからやり直せ」 「おっす、幼稚園児の妹の世話を焼くように見せかけて実は三度の飯よりロリ好きの上級変質者」 「喧嘩売ってんのか?」 「にゃはは、今なら安くしとくよ」 彼女は宙(そら)。 一ヶ月前くらいに転校してきたばかりで、ちょっとした事件をきっかけに知り合った。 まだ日は浅いはずなのだが、妙に気が合う事もあってよくこうやって馬鹿をやっている。 性格とセンスは別として、容姿は悪くないと思う。 ダサイ丸メガネに三つ編みという、一昔前の『いいんちょ』スタイル。 それでも、整った顔立ちではあるので目を引く存在ではある。 ここ一ヶ月の間だけでも多少目端の利く複数の男子からお付き合いの申し込みをされているらしい。 本人曰く、『男もオシャレもめんどくさい』とのこと。 個人的には不思議と異性を感じさせない事もあって友人をさせてもらっている。 それに、なんとなく……いや、まぁ気のせいだろう…… 「ところで……ようじょのおにゃのこに欲情するって人としてどうなのよ? ペド野郎」 ベシッ!! 頭の方は優秀ではなさそうなので一発チョップをかましておく。 「いつつ……ところでさぁ、今日暇?」 「いや、部活あるの知ってるだろ?」 「部活なんてバーゲンの前では何の意味も無いわ」 「は? バーゲン?」 「なに? バーゲンを知らないの?」 そこで心底不思議そうな顔をされても困る。 むしろ、困っているのは俺の方だ。 「いや、知ってるけど俺に何の関係が?」 「荷物持ちに決まってるじゃない」 決まってる? 決まってるってなんだ? 「日頃鍛えた筋肉はこういうときに使わないでいつ使うのよ。 アンタの筋肉が私にこき使われる喜びに打ち震え涙するのが私には見えるわ!!」 「変なもん幻視すんな。どんだけ変態なんだよ俺の筋肉は」 そもそも筋肉の涙ってなんだ? 汗の事か? 「つーわけだから、アンタ今日は部活を休みなさい」 「いや、意味わかんないし」 ってゆうか、話の展開について行けてない。 153 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 38 20 ID pVHuVLv8 「お前が誘えば筋肉要員ぐらいすぐに集められるんじゃないの?」 こちらが乗り気にならない所為か宙は口を尖らせる。 「嫌よ。他の男なんて……めんどくさい」 まぁ、言い寄られたり、勘違いされたりするのは確かにめんどくさいのだろう。 その点で言えば俺は適任だと言える。 「同級生の女の子とデパートで買い物なんて、部活に明け暮れてるよりもよっぽど青春!! って感じじゃない」 「そりゃ、まぁ、確かに……一理ある」 一理はあるが……相手がねぇ……。 それに、なんだか奢らされそうな気もする。 「よし! 決まりね!!」 こちらがひるんだ隙に、首根っこを掴まれて強引に立ち上がらせられる。 「こらっ! ちょっと待て、まだ行くとは一言も……」 「まぁまぁ、まぁまぁ」 こちらの抗議など聞く耳持たず、背中を押されて教室の外まで押し出される。 「いや、だから……」 「良いではないか、良いではないか」 ずっとこんな調子で、そのまま玄関まで押し切られてしまう。 「待てって……」 「気にしない、気にしない」 そのまま、校門をすり抜けて…… 「だぁ~~~!! 少しは話を聞けよ!!」 「大丈夫、大丈夫!! オマエは虎になるのだぁ~!!」 気が付くと、そこはもう商店街だった。 154 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 38 47 ID pVHuVLv8 〈4〉 「よくこれだけ買えるもんだな」 両手には10袋分の大量の衣類と食料品。 中には男物の下着や洋服まで入っている。 宙曰く、兄弟の背格好が俺とほぼ同じということらしい。 そういう理由があるのなら先に言ってほしいものだ。 「お前って結構お嬢様だったりする?」 「わっかる~? 隠しても隠し切れない、この滲み出てしまうセレブオーラが」 お嬢様風に髪を掻き揚げる仕草が笑えるくらい様になっていない。 頭にくっついたエビがぴょこっと跳ねただけ。 これではせいぜい近所のお転婆娘といったところか。 「なに? 文句があるなら聞くけど」 「本当のお嬢様だったらバーゲンなんて行かな……」 「ごめん。よく聞こえない」 宙の笑顔。 けれどそれは、可愛いとかいう類のものではない。 「……いえ、何でもありません」 目で威圧して同意を求めるなよ。 「ま、今回は特別に種明かしをしてあげる」 エセお嬢様は庶民的財布をごそごそとあさる。 「これ」 そう言って宙が取り出したのは一枚の宝くじ。 好きな数字を選ぶタイプのものだ。 「まさか……当たってた?」 「ううん、まだ」 まだ。 その言葉を理解するまでに、深イイ話一回分の時間を要した。 「そっか……当たるといいな」 あまりに不憫で、それしか口にできなかった。 「何、その人を哀れむような視線は……」 「いや、強く生きろよ」 「何それ、わけわかんない」 他に声をかけることも出来ずに歩き出すと、自然と宙は隣について歩いてきた。 「ふん、ふふ~ん。ふん、ふふ~ん」 最近どこかで聞いた旋律、流行っている歌なのだろう。 「……っ!!」 不意にメロディが途切れた。 隣では宙が立ち止まっている。 ここ一ヶ月の間に一度も見せた事の無い厳しい表情で睨め付けている。 その視線の先、 「姉さん」 宙とは接点の無いはずの人物が佇んでいた。 155 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 39 19 ID pVHuVLv8 「トモ……部活はどうしたの?」 底冷えするような深い声。 何処か虚ろな瞳。 ありきたりな言葉の裏に在る、あからさまな敵意。 「駄目じゃない、こんなところでサボってたりしたら……」 姉さんがこちらに向かって歩みを進める。 ギクシャクした機械のような動き。 まるで姉さん自身が追い詰められているように、その風貌からは余裕が感じられない。 「いっしょに……帰ろ」 凍てついた空気を孕んだ真っ白な指先が迫ってくる。 下手に扱えば壊れてしまいそうな、危さを秘め隠した表情。 伸ばされた手を―――強く払った。 「俺が何処で、誰と、何をしていようと関係ないだろ!!」 「ひぅっ!」 妙なうめき声をあげて指を引っ込めると、姉さんはズルズルと後退る。 「なんで……なんで……なんで……なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで……!!」 絞りだすような声。 悲鳴のような反響がこの場を埋め尽くしている。 「その女の所為だ」 冷たい殺気。 たった一言から生まれたそれが、足場を凍らせる。 「―――その子はトモの何?」 友達だと言って通じるだろうか? 否。 一瞬、宙の表情を窺う。 刹那のやり取り、宙は力強く頷いていた。 「俺の……彼女だよ……」 その一言で、姉さんの表情が剥がれ落ちた。 「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」 鼓膜を引き裂くような悲鳴。 まるで鎖の軋む様な慟哭。 絶望の咆哮。 「今日はデートだったんだ」 「いやいやいやいやいやぁあああ!! いやだぁぁぁああああああああああああああああ!!」 金切り声を撒き散らし髪をガリガリと掻き毟りながら、膝を付く。 「二人でショッピングして……」 「ヤメテぇぇぇ!!、きぎぃたぐなぃぃぃい!!」 噴出す涙や涎、鼻水を拭いもせずに耳を塞いだまま髪を振り乱す。 「これから―――彼女の家に行くんだ」 ブツリ。 と、糸が切れたように姉さんは崩れ落ちる。 力なく佇む姿。 まるで憑き物でも落ちたかのようだ。 156 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 39 51 ID pVHuVLv8 なんだ、これ。 野次馬達が騒がしい。 冷やかし、影口、噂。 俺たちはその輪の中心に居る。 ここまでなるとは思ってなかった。 いい機会だと思って、弟に彼女ができたって嘘を伝えただけだ。 冷たく接して、引き離して、それにも少し疲れて。 だからさっさと決着をつけて、楽になりたかった。 それで―――こんな姉の姿を見る事になるなんて想像できなかった。 「キモチワルイ……」 どこかから声がした。 辺りを取り囲む大多数の意見、これが普通の反応だろう。 姉さんの反応は異常だ。 「狂ってる」 宙は蔑むように姉さんを見下ろしている。 どこか宙が姉さんに向ける感情は周りのそれとは異質なものに感じる。 憎悪。 そう表現するに値する瞳の奥に宿る、緋色の篝火。 「……トモ」 呻き声が聞こえる。 それは注意して聞かなければ、周囲の雑音に掻き消されてしまいそうなほどの小さな音。 「タスケテよぉ……トモぉ……」 相変らずの頼りない声。 それなのにこの耳には届く、哀れな嗚咽。 一瞬だけ、幼い頃の姉さんの姿が重なる。 泣き虫だけどいつも優しくて、何処か頼りない、姉の姿。 誘われるように一歩踏み出し…… ここで手を差し出してどうするつもりだ。 生まれた亀裂を塞ごうとでも思っているのだろうか? わからない。 わかっているのは自分の手では姉を幸せにする事ができないという事。 それなのに俺は手を伸ばそうとした。 押さえられそうに無い衝動に突き動かされて……。 愚かな行為だとわかっていても、救いたいと願ってしまう。 救えないのに、救いたい。と、 157 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 40 40 ID pVHuVLv8 でも、それは俺の役目ではないはずなんだ。 矛盾する心。 助けを求めるように、宙を窺う。 その瞳は―――俺を見ていた。 感情を映さない瞳。 怒りも軽蔑も落胆もなく。 ただ、現実として俺の答えを見守っている。 「ごめん」 そしてこれが、俺の答え。 俺には姉弟を捨てる覚悟はない。世間を敵に回す勇気も無い。 なにより、愛情のカタチが違う。 故に―――どんな道筋を通っても、結局ここが終着点になる。 だから、今ケリをつけた。 中途半端な慰めも残さないように、姉さんの恋心を殺した。 罪悪感は多少ある。 けれど、心に刺さっていた棘が抜けたような安堵を覚えている自分がいる。 「そっか……そうだよね……いつから……」 何処に向かっているかさえわからないぶつ切れの言葉。 伏せたままの横顔からは表情は読み取れない。 「うん……そうだね……そうすれば…………よかったんだね……わたし……」 泣き腫らした様なか細い声なのに、どこか微笑んでいるようにも聞こえる。 俺は声をかけられない。 瞳に灯る冷たい凶気、言葉に宿る仄暗い情念。 初めて、人間を恐いと感じた。 「待っててね……トモ」 そう残すとおぼつかない足取りで、そのままフラフラと立ち去ってゆく。 その後ろ姿からは足音すら聞こえない。 まるで影のように街並みに溶けていった。 「家まで送ってくれるんでしょ?」 「は?」 立ち竦んだままの動けない俺の横腹に宙が肘を入れる。 「さっき、言ってたじゃない」 さっき…… ああ、確かに言った。 「早く行こ、あんまり長居したくない」 苦虫を噛み潰したような顔で、歩き始める宙。 固まりつつあった膝を無理やり動かして追いかける。 「これが、始まりね」 追いつく寸前に耳を掠めた言葉。 その意味を俺は少しも理解できなかった。 158 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 41 09 ID pVHuVLv8 〈5〉 商店街からは少々離れた小高い丘の上。 宙の家は四階建てのマンションだった。 白を基調としたオシャレな外装、来客用のテラスには手の入った植物達、 駐車場に並ぶ高級外車、ロビーにはオートロックと正装した管理人。 ベランダの広さから一世帯当たりの部屋の作りが広く取られている事がわかる。 要するに高級マンション。 考えを改めなければならない。 宙さんはやっぱりお嬢様だ。 「ここでいいのか?」 「オッケー。良い筋トレになったでしょ?」 最上階の角部屋。 玄関で荷物を降ろすと踵を返す。 「それじゃあ、俺は帰るわ」 「ちょっと待った」 後ろからシャツの襟首を引っ張られて首が絞まる。 「お茶くらい出すから上がっていって」 返事も聞かずに……いや、正確には返事ができない状態のまま部屋に引っ張りこまれた。 無意識の内に靴を脱いでいた自分にはあっぱれをあげておこう。 「……何?」 圧迫から逃れた後、宙を睨んでやる。 「お前さぁ、ほんっっっとに人の話聞かないよな」 「うん、よく言われる」 皮肉を笑顔で返すと、宙はリビングへと俺を通す。 予想通りの広いリビングには必要最低限の家具。 宙に促されてソファに腰をかけると、具合の良い反発が返ってくる。 「くつろいでていいよ。こっちはお茶用意するから」 静かな家の様子からするとまだご両親や兄弟は帰ってきていないみたいだ。 同級生の女子の家。 しかも二人きり。 普段あらば多少の動悸の激しくなるような状況も、まだ先程の件の切り替えができていないのか実感が湧かない。 飾り気の無い部屋の様子も影響しているのだろう。 部屋に住み着く独特の空気、生活感の希薄さ。 そこで―――ふと、目に飛び込んできた違和感。 棚の上にポツンとたたずむ四角いガラスの板。 蛍光灯で白く反射するそれが妙に気になって席を立つ。 近付こうと歩を進めようとすると、慌てて戻ってきた宙に追い越されて道を阻まれる。 「これはダメ」 宙の後ろ手からパタンと音がする。 四角い板はどうやら写真立てだったらしく、宙はそれを見られないように伏せたらしい。 159 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 41 45 ID pVHuVLv8 「いいから座って」 宙は急須と湯飲みを机に並べる。 茶請けは商店街のお店で売っている蒸し饅頭。 こういうところの趣味は合う。 お互いに黙って、お茶を啜ると似たようなタイミングで一息つく。 「何も聞かないんだな、姉貴のこと」 茶請けに手を伸ばしながら、本題に切り込んだ。 「聞かなくたってわかるわよ」 あまり話題にも出したくないのか、そっぽを向いたまま宙も饅頭にかぶりついた。 「悪いな、なんか巻き込んじまったみたいで。そっちに被害が行かないようにこっちで手を打っておくから」 「別にいいわよ。貸しにしとくから」 二ヒヒ、と小悪魔みたいな笑顔。 「お手柔らかに頼むな」 手元にあった饅頭を一つ献上すると、宙は満足気な笑みを受かべる。 この笑顔には勝てないな、となんとなく思ってしまう。 「じゃあ、貸しついでにあともう一つ頼みたい事があるんだけど……」 「了解。でかい貸しだからコツコツ返すことにしましょう」 お互いに空になった湯飲みに茶を継ぎ足す。 お湯の量が足りなかったのか、湯飲みは半分程度しか満たされなかった。 「男手があるうちに『荷物』を運び込んでおきたいの」 「何処にあるんだ? その荷物って」 ずずっとお茶を飲み干して、宙は一言、 「実家」 『そんなに遠くないから』とだけ告げると簡単に片付けをして宙はマンションを出る。 追いかけるように扉を抜けて、先を歩く宙に並んだ。 160 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 42 14 ID pVHuVLv8 「そんなに遠くないのなら、実家から学校に通えばよかったんじゃねーの?」 「いろいろと事情があるの」 そう答える宙の表情は硬い。 他人のことを言えた状態でも無いが、宙の家にだって事情があるのだろう。 あまり深く詮索するのは躊躇われた。 影のある表情で『何も聞いてくれるな』と、宙の横顔が語っていたから。 「別に、勘違いとかしてないから」 沈黙の中、突然そんな言葉が宙の口から飛び出す。 主語が無いうえに話の脈絡が繋がっていない。 「何が?」 「は!? いや……そのぅ……」 なんとなく言いにくそうな顔をしているが、言ってもらわないことには始まらない。 「え~と……アレよ!! アレ!!」 恥ずかしいんだか怒ってるんだかよくわからない妙な視線を投げかけてくる。 「いや、わかんねぇし」 先に焦れたのは宙だった。 「あぁ~もう!! 彼女のくだりよ!! 彼女の!!」 逆ギレですか? というか、 「今更、話し合うほどの事でもないだろうに」 「え?」 「俺だってちゃんと心得てる」 「ちょ、ちょっと…待ってよ」 「そっちだって、同じこと考えてるんだろ」 「そんな……いきなり……」 「しばらく付き合ってるフリはしてもらう事になるかもしれないけど、あまり迷惑のかからないようにする」 「………………当たり前でしょ」 宙は口を尖らせ、歩みのペースを上げる。 追いつこうとこちらもペースを上げると宙もギアを一段上げて引き離しにかかる。 なんで不機嫌になってるんだ? 理由はわからないが、姫は御立腹らしい。 近くもなく、かといって遠いわけでもない微妙な距離感。 お互いに手探りのような緊張感。 近頃、急に長くなった陽が二人の距離を影で表していた。 「あ、そうそう……」 少し前を歩いていた宙が引き返してきて、背後に回る。 ゲシッ!! 無防備な尻にムエタイキックが突き刺さった。 「なんでケツを蹴るんだよ」 「自業自得」 「意味わかんねぇよ」 161 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 42 48 ID pVHuVLv8 〈6〉 角を数回曲がると見知った道に出る。 それもそのはず、ここは俺が学校に通う時の通学路そのものだ。 それを俺たちは逆行している。 見慣れた景色、見慣れた町並み。 昔、このあたりに居たのなら何処かで会っていたのかもしれない。 「ここ」 「ここ、って……これは……」 ありえない。 なんたってここは…… 「たしかこれだったかな?」 宙は幾つかの鍵が連なったキーホルダーから一つの鍵を選ぶと、鍵穴に差込む。 ガチャリ。 やや重いシリンダーの噛み合う音がして、開くはずの無い扉が開く。 「おい、ちょっと待てって!!」 静止を無視して宙は玄関へと足を踏み入れる。 それとほぼ同時にトテトテと軽い足音がこちらへと向かってきた。 「おかえりぃー……っておねえちゃん、だれ?」 迎えに来た少女と鉢合わせると宙は息を呑む。 紗耶と宙。 見詰め合う二人、やがて宙はそっと紗耶を抱きしめ母親のように優しく両腕で包む。 眼を丸くして驚く紗耶、その耳元で宙はそっと呟く。 「おねえちゃんは……あなたの味方だよ」 その一言で、くたりと力の抜けてしまった紗耶を宙は受け止める。 「お前、紗耶に何を……!!」 「大丈夫、眠ってるだけだから」 宙は紗耶を抱え上げると、俺の両腕に紗耶を返す。 紗耶は腕の中で穏やかな寝息を立てていた。 「説明しろよ」 「何を?」 「何で俺の家の鍵を持ってるのか? 紗那にいったい何をしたのか? ここにある荷物って何なのか? 全部説明しろ」 場合によってはただじゃおかない。 そういう威嚇を込めた言葉をぶつける。 宙は一瞬だけ物憂げな表情を浮かべると、すぐに元の表情を取り繕う。 「そういえば、私あんまり自分の事を話したこと無かったね」 そう語り始めると、宙は勝手に俺の『実家』に上がりこむ。 162 名無しさん@ピンキー sage 2009/06/30(火) 00 43 28 ID pVHuVLv8 ―――何かが腑に落ちない。 宙がこの家に足を踏み入れてから付きまとう、喉の奥につかえる違和感。 その手がかりさえ掴めない焦燥感。 そのくせ、致命的な何かを見落としていると胸の奥が騒ぎ立てている。 「私は三人兄弟の末っ子で、上の姉弟とは結構年が離れてたの。 私ってば小さい頃は人懐っこかったみたいで、兄からは結構可愛がってもらってたんだ。 姉には……あまり好かれてなかったみたいだけど」 宙は振り返らずに廊下を進み始める。 自然な足取り。 時折見せる仕草。 宙の明かした情報の断片がおぼろげだった違和感の正体を手繰り寄せ始める。 「私の両親は仕事が忙しい人でね、面倒は兄がよく見てくれてたの。 その所為かな、私は結構ブラコンに育っちゃって色々とお兄ちゃんに迷惑かけてたみたい。 赤ちゃんの頃なんかはお母さんのおっぱいと間違えてお兄ちゃんのおっぱいに噛み付いた事もあるんだって」 くすくすと笑いながらリビングに足を踏み入れた宙は、 壁紙にうっすらと残った落書きに指を滑らせて柔らかな表情を浮かべる。 「お兄ちゃんの背中をずっと追いかけてたなぁ。 年が離れてる所為もあって、私は追いかけるので精一杯だったけど―――お兄ちゃんは必ず待ってくれていた。 見守ってくれて、時には手を引いてくれた。本当に私を大事にしてくれた、優しい兄だった」 昔を懐かしむ声。 けれどそれは、もういない人を懐かしむかのような哀しい響き。 「そんな私の自慢のお兄ちゃんはね高校時代はサッカー部のエースで、トロフィーや賞状をいくつも持ってたの。 この地区では有名な選手だったらしいよ。そして……将来の夢は……」 「日本代表」 自然と言葉が漏れた。 知る人の少ない俺の夢。 誰もが持っているはずなのに、口にしてしまえば笑われてしまうような夢。 宙の知らないはずの夢。 そして、止まない胸騒ぎの正体。 宙は一瞬だけ驚いた表情の後、優しく微笑んだ。 「紗那は逆さにするとNASA。NASAといえば宇宙……だからソラ。安直でしょ?」 深い憂いを秘め隠した微笑み。 その瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。 夕日の差し込む窓際。 柔らかなオレンジ色の中で宙はメガネを外し、髪を束ねていた輪ゴムを解く。 「やっと、気付いてくれたね……お兄ちゃん」 そうやって宙は説明の半分を終わらせた。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/379.html
対象スレ 民主党ですが連立が纏まりません キーワード:シル子 730 名前: 【army 2649】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 01 59 53 神 ID ??? 718 ケイレイたん をー サークルの方でしたか。それはお疲れ様でした。人間誰しも趣味が関わると、人が変わりますからねえ。 というわけで、8Rの連隊長のイメージですが、電波を受信しました。 北斗の拳の「金色のファルコ」で、頭の両脇に牛の角が生えている、という感じで。 ちなみに、当然見上げるような大男で身長比狂ってね? みたいなむきむきガチムチマッチョで、エデの父親の忠臣の一人 だった、という感じで。でも、りっちゃんの古くからの知り合いという(w つまり8Rの兵隊も原哲夫氏ばりのガチムチマッチョ ということで(w さすがに魔族はほとんどいないでしょうが。 シル子 739 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 03 12 ID ??? 730 シル子 連隊従士長は、ウィグル獄長ですね、わかりますw 副官でもトキとか、レイじゃないと駄目、とwww アインツブルグ部隊が、ドルクス軍曹みたいな物静かなベテランだとしたら、 8Rは、ボリュームある自負ですねw 746 名前: 【army 2649】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 06 24 神 ID ??? 739 ケイレイたん シル子 うん(w でも一応学校の教官達なのよ? 士官も下士官も(w こんなのにしごかれるんだから、 そりゃ帝國軍の歩兵は強いわけです(w で、こういうのが指揮していたんですから、そりゃオークも 怖かったわけです(www 750 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 07 53 ID ??? 746 シル子 騎士XX、鑓が重いですか? って聞くムキムキガチムチの従士ですか>< そりゃー必死で鍛えますよwww 760 名前: 【army 2649】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 12 10 神 ID ??? 750 ケイレイたん シル子 うん、そう。しかも北斗の拳のあの悪役顔で影までついた顔で(w 主観的には生徒から見ると、身長二倍で体重10倍ありそうなガチムチマッチョが(www 766 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 14 19 ID ??? 760 シル子 もちろん、斧とか持ってるわけですよねw もちろん、正規の装備のはずなのに、なぜか非常に危なく感じるwww ラオウのかぶっている兜みたいなのをかぶっている訳ですが 角はガチ、とw 776 名前: 【army 2649】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 19 09 神 ID ??? 766 ケイレイたん シル子 http //www.nicovideo.jp/watch/sm8025785 うん(w ていうか、例の斧が、手斧にしか見えない、という(w 784 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 21 08 ID ??? 778 シル子 でも、その連中に囲まれて、あの笑みを見せながら普通に打ち合わせをし、 どうみても傅かれているようにしか見えないシル子も見えるのですが、どうしましょうw ていうか嫌な夏戦争www 788 名前: 【army 2649】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 24 06 神 ID ??? 784 ケイレイたん シル子 いや、それは正しいシル子の姿じゃないですか?(w 問題は、ルキ子の神経がいつまでもつか、ですが(w 男性恐怖症の彼女には、北斗の拳軍団に囲まれるというのは、かなりきつい体験かと思うわけで。 http //www.nicovideo.jp/watch/sm7830148 というと、これくらい格好良い夏戦争の方がよい、と?(w 794 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 28 58 ID ??? 788 シル子 ああ、なんという目から鼻へ抜けるwww 別部隊だから、大丈夫、と自分に言い聞かせているのに、 なぜか好かれてガチムチが寄って来るんですねw 旅団が陣地構築していると、7R、8Rが前に、 馬がいて、補給所要や水の所要が多い13Rは後方連絡線の近くにいるんでしょうが、 後方連絡線には8Rも平等に用事があるからw デジモン・キングカズマwww っていうか、敵のほうが進化してwww 803 名前: 【army 2650】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 32 02 神 ID ??? 794 ケイレイたん シル子 うん(w しかもトイトブルグの英雄ときたもんだ(w ルキ子の主観では、身長5mくらいに 見えても仕方が無いと思うの(w http //www.nicovideo.jp/watch/sm7853594 というわけで、やっぱりキングカズマは格好よいわ。 808 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 35 24 ID ??? 803 シル子 お嬢さん、と呼ばれてw ぞわわわわわわ、って全身粟立ったり、脂汗だらだらかいたりwww ひーって、逃げて帰ってきたら、 あとになって、もっとでかくて、もっと悪党面の従士長が、 「うちの連中がなにやら粗相をしたようで」ってwww そうそう、 後々、陣内家化したレオニダス家の誰かに、マル子は 「トイトブルグの英雄か」って言われてびっくりするんだろうなーと思っていたのです。 814 名前: 【army 2650】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 38 04 神 ID ??? 808 ケイレイたん シル子 うん(w 個人的にはものっそいほのぼのしちゃったんですけれど(w ルキ子かわいいよかわいいよルキ子(www で、マル子も、そう言われて「え、誰が?」と、聞き返すんでしょうねい。 822 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 42 20 ID ??? 814 シル子 逃げる様子は、ゆうきまさみ的野明で一つwww で、旅団レベルの戦術では、13Rの開拓した進路を、どんな風に利用するかってことになってくるので、 たぶん、13R先導の直後に、8R部隊が流し込まれる、みたいなことになっていて、 ものすごい殺気だったガチムチが、すごい殺気で行進してきて、 逃げる、とwむしろ逃げる、とw で、エロ狼は、13Rと8Rは相性がいいなあ、ってw 7Rは自ら果敢に動くので、そういう運用が標準になってww で、マル子は、おれ?って 世間の評価は変わったなあって>< キングキングキングカズマ 837 名前: 【army 2651】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 49 52 神 ID ??? 822 ケイレイたん シル子 うん(w 何気に皆顔つきとか変わっていて、西方ののんびりした地方出身の13Rからすると、同じ人間かよ! みたいな形相で突っ込んできて、どうみても敵より味方の方が怖いです、本当にありがとうございました。状態で、 逆に8Rに押し出される形で突進する羽目になって(www というわけで、マル子も、自分が自分で思っているのと全然違う評価が外で出来上がっていって、ああ、これが ルキ子が感じている違和感なんだなー とか、しみじみしてみたりして。うん、ちょっとほのぼの(w でも、ミスター・ブシドーにぼこぼこにされた自分、というのがあって、やっぱり英雄と言われてもなー みたいな。 851 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 02 56 00 ID ??? 837 シル子 で、夜営なんかも、13Rを8Rが防護する形になってるんですけどw 怖くてトイレに行けない、とw 焚き火が許可されていたりすると、どうみても人間を裁いて直火であぶって食ってるとしか思えない連中が 照り返しを受けて、なにやら楽しげにゲラゲラわらっていてwww マル子の評判はきっと、13Rの突進の先導をして、N機を屠ったらしいよー とか、M倍の敵に突っ込んだんだってー、 とか、確かにそういわれればそう言えないことも無いんだけど、 かなり違ってるだろう、みたいなw 彼としては、リスク計算して危なく無いようにやったつもりだからなー、ってw 褒められ所が違うんじゃないか、とw 862 名前: 【army 2651】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/09/09(水) 03 05 25 神 ID ??? 851 ケイレイたん シル子 うん、もうなんていうか、ルキ子がマル子に、怖いからトイレ一緒に行って、とか、言い出しかねないわけで(www というわけで、マル子のそこらへんの困惑って、戦後マレーの島田戦車隊長の自伝で書かれていたのと 似ているなあ、と。あの方もマレーの英雄として、内地で随分と英雄あつかいされて、困ったそうで。 自分としては、きちんと戦術的に判断しての行動であったものが、なんか物凄い大活躍したと報道されていて、 非常に困惑なさったそうで。 869 名前:∠(,,゚д゚)ケイレイ・トライアヌス ◆nbyvo04lz. [sage] 投稿日:2009/09/09(水) 03 13 22 ID ??? 862 シル子 でも立ちションなんすよw>おトイレww うひ♪>島田大隊長 『前』のトイトブルグの英雄は、どちらか言えば、八甲田山の生き残りみたいでしたからねw むしろなぜ褒めそびやかされているのか判らなくて困っていてwww 今の時系列の13Rでは 「あの人らしいぜ」「うわ、本当におにゃーの子じゃないか」「あれで100機だってー」 って話になってるんだと思うのですw とゆーわけで、すいません、今日はお休みさせていただきます。 蟹様に「ガチムチが近くにいる森の闇で何してるんだお前ら!」な夢がありますように(謎w 抽出レス数:18
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/636.html
扉をくぐると本当に暗やみで、誰もいないのではとの不安を持った。 だから、震える口で光を喚ぼうとした。 そっと、唇にやわらかい指が触れた。 息が止まる。 あの娘の口が紡ぐのは、俺とはうってかわって穏やかな音。 その余裕にわずかな嫉妬を抱くも、ほのかな光が灯るとともに吹き飛んだ。 あまりにも薄手のヴェールから垣間見えるのは、驚くほど滑らかな毛並み。 その橙色が、抱き締めた暖かさを否が応でも想像させる。 ほのかな光は影を一層際立て、陰影に体の流れを強調させながらも肝心要は楚々と隠している。 俺はもう理性が限界で、飛び掛かるぞ、という意味を込めて眼差しを投げた。 色欲一辺倒だった俺がその時はじめてあの娘の顔を見た。 目を伏せていた。ヒゲをひそやかに震わせていた。 首から下とは裏腹な、初々しさ。 つんっと立てた耳が何かを期待する見えて、俺は穏やかな気持ちになれた。 理性が勝利したのではなく、また別の感情が主導権を手に入れたのだ。 つたない褒め言葉に予想外に喜色をあらわにしてくれて、嬉しさがこみあげた。 と、同時にさっきまでの俺は本当に馬鹿だったと胸の内に苦笑する。 無毛の手のひらが、あの娘の被毛に触れる。 流れるように心地よく、逆立て撫でるとあの娘が声を漏らした。 ぎゅっと抱き締めた。勢いのまま寝床に傾れ込んだ。 手が体毛に沈み込み、指の肌と横腹の肌が触れ合う。 しなやかな感触。にじむ熱。 脈々とドキドキしてるのは、どちらだろうか。 たぶん、二人とも同じ気持ちだ。 あの娘の舌が喉元の毛を梳く。心地よさに喉を鳴らす。 あの娘もそれに満足するように喉を鳴らした。 戯れ合うように愛撫する。互いの吐息をわずかに荒げながら。 楽しげなようすに釣られて、光と闇の精が揺らめきはじめた。 ときおりの偶然が生み出す妖艶さに、ささやかな忘我。 軽く爪を立てた。甘い声があがった。 あの娘の瞳が悪戯に輝いた。のしかかられ、首元を強く噛まれる。 俺の喉から飛び出たのは、自分のものとは思えないほどの繊細な。 くすぐりながら、互いに爪立て牙立て傷つけ合う。 俺もあの娘も、痛みの中の甘やかさを必死に探っていた。 あの娘が爪を振るうたびに悦びをみせて、もっと傷をと言外にせびる。 そう、愛とは試練だ。 そして、愛とは一方的なものではいけない、と思う。 あの娘が、いいよ、と言った。 俺も、限界だった。 あの娘の視線が下がる。向かう先には、トゲ付の凶悪な。 あの娘の瞳に涙がにじむ。 我ながら顔を背けたくなるけれど、覚悟を決めなくてはいけない。 視線を絡ませ、決心を互いに確認する。確信する。 そして、突き入れた。収縮した。放出した。悲鳴が裂いた。 達成感と疲労感と罪悪感と快感がないまぜになったものに、俺はひたされた。 あとは、二人寝床に倒れて沈むように気を失った。 敷き布に、血がにじんでいた。 Q R18ですか? A アニマルプラネットもナショナルジオグラフィックもR18ではありません。つまりそういうことです。 Q トゲちんこ? A はい、トゲちんこです。猫は痛みで強制排卵して受精します。 交尾に時間をかけていられない野生空間において、ぬるい快感よりも手っとり早く鮮烈な痛覚が重宝されました。 じゃあ、文化を手に入れた猫人さんはトゲいらないんじゃね? と、言われたらそのとおりです。他の多くのssもトゲちんこ設定ではないでしょう。 しかし「猫人さん先天的ドM説」を捨てがたく、トゲちんこ設定を採用しました。 情熱的でとても艶かしく猫人を表現していました。トゲはやはり痛いのでしょうか -- (名無しさん) 2014-07-27 17 13 33 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/6083.html
スタスタスタスタ 澪(何だよっ 何だよっ)グスッ スタ スタ スタ ピタ 澪(なんで親友の幸せを祝ってやれないんだろうな) 澪(別に律が何をしようと律の勝手だろ 私なんかに言う必要なんかない) 澪(頭では分かっているのになんで駄目なんだろう) 澪(立ち直ったつもりだったのに、また後戻りしてる) スタ スタ スタスタ 澪(私が律に頼りっきりだったから律は今まで不自由だったんだ) ピピッ 澪(私は律の幸せを祝ってあげられてないんじゃない───時間を、自由を、幸せを奪ってる) スタッスタッスタッ タン 澪(何なのかわからないのは律じゃない、私だよ) 『まもなく、1番線に、上り電車が参ります 危ないですから、黄色い線の内側にお下がりください』 … カランコロン 店員「いらっしゃいませ」 律「うーむ、お あの端の席座ろーぜ」 男「はい!」 スタスタ キキッ ストン 店員「ご注文はお決まりでしょうか?」 律「私はレモンティー」 男「僕もレモンティーで」 店員「かしこまりました」 スタスタスタ 男「いやぁ、なかなか面白い映画でしたね!」グッ 律「だなー □△のシーンなんか興奮しちゃったぜ」ハハ 男「そこもよかったですね でも僕はやっぱり最後のあのシーンかな!!」 律「まさかあそこで来るとは思わなかったよな」 男「ですねー」 店員「お待たせいたしました レモンティーです」 ゴトン ゴトン 店員「ではごゆっくり」 律「のど渇いてたからうめーな」チュー 男「映画館だとポップコーンもあるので早々に飲み終わっちゃいますしね」チュー ゴクゴク カラン 律「その、さ 今日はありがとな 楽しかったよ」 男「と、とんでもない!誘ったのはこっちですし礼を言いたいのは僕の方ですよ」 男「律さん、今日は忙しい中、わざわざ私に付き合ってくれてありがとうございました」 律「わざわざだなんて…」 男「…」ニコッ 律「わかってたのか?」 男「…はい」コクッ 男「薄々感じてはいたんですよ どうも律さん、僕といる時ちょっと元気ないなーと」 男「あの放課後の日、思い切って誘ってみましたがどうにも僕じゃ律さんを楽しませる事はできなかったようだって」 律「わり、私そんなに態度に出てたかなー… 男は一生懸命私の為に行動してくれてたのによ」 男「そんな事無いですよ でもやっぱり、好きな人の事ぐらいわかってやれなくちゃ『男』とは言えないじゃないですか!」 律「ハハハ、お前いいヤツ過ぎるよ」 男「お褒めに預かり光栄です」フフッ 律「参ったわ」フウッ 律「そうさ 今日一緒に映画観に来たのはさ、ある事を言う為だったんだわ」 男「はい」ゴクリ 律「男はすごくいいヤツだしさ、真面目だし、真摯だし、まさに理想の男性って感じだ」 律「例えるなら白馬の王子様かな」 男「僕はそんなに大した人間じゃないですよ」 律「いーや!まさに完璧な男性だ!」ビシッ 律「でもさ、なんていうか大人なんだと思う」 律「私はまだまだガキんちょ、子供だからさ」 律「不相応なんだ、むしろ私の方が」 男「そんな事はないですよ 元気で素敵な女性ですよ」 律「へへへー 照れるぜぃ」ヘヘッ 男「だからこそ、律さんには元気でいてほしい」 律「相性の問題なんだと思う きっと私がもっと大人だったらさ、1発でホレてたと思うんだ」 男「ありがとう、その言葉で僕には十分過ぎる位です」ニコ 律「本当に、ごめんな」 男「いえいえ」 男「それじゃ、出ましょうか」 律「おう」 男「会計お願いしまーす」 カランコrン 店員「ありがとうございましたー」 スタスタ 男「今日は1日ありがとうございました」 律「私こそありがとな 有意義に過ごせたよ、ホントだぞー?」 男「ええ」フフッ 律「ん?どうした?」 男「いや、やっぱり元気な律さんは素敵だなと再認識しましたよ!」 律「はっ、反応に困るだろっ!」ビシッ 男「痛っ!」 プシュー キイイイイン ガタンゴトン ガタンゴトン 律「ふー わが町に戻ってきたー!」ノビノビ 男「今日、ここで僕はツッコミ損ねちゃったんですよね」 律「ああ、そうだったな」 律「男たるもの、些細な事でもしっかりと掬い取らないとダメだぞー?」 男「勉強になります!」 ピッポ ピピポッ♪ ピッポ ピピポッ♪ 男「…ふぅ!」 男「結局僕は振られちゃったわけですが、これからも友人として付き合ってくれますか?」スッ 律「ああ、勿論だ!」ガシッ 男「それでは 次会うときまでにツッコミの腕を上げておきます!」 律「おう!楽しみに待ってるぜ!」 律男「それじゃ!」 スタスタ 律(惜しい事したかなあ あんないい男いないよな) 律(でも、今はまだ馬鹿やってたいから) 律(澪と、唯とムギと梓と、まだ私はやって行きたいから) 律(いよっし、心入れ替えてあと1年間の高校生活、がんばるぞー!) 律(と、その前に 澪には謝っとかないとな) 律(まさか… 映画館のあの人は違う…よな) ピッピッ プルルルルル プルルルルル ガチャ 律「あ、澪?私だけど」 『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。』 律「あれっ やっぱどっかに出かけてんのかな」 律(仕方ない、夜にもう一度電話かけるか) … アオーン!オン!オン!オン! 澪(はあ… 結局途中で帰ってきちゃったな)ゴロゴロ 澪(チケット 無駄にしちゃったな) 澪(ママには映画見る前に具合悪くなっちゃって友達には悪いけど帰ってきちゃったと説明したけど) スッスッスッスッスッスッ トントン 澪ママ「夕飯食べられそう?」 澪「ごめん… 食欲無い」ボソッ 澪ママ「そう… 明日も日曜で休みだしぐっすり休んで治してね」 澪「うん」 スッスッスッスッスッスッ 澪(今ご飯なんてのど通り過ぎないよ…) 澪(家に戻って、1人になって考えてみたけど) 澪(考えれば考えるほど頭の中がグチャグチャになってくる) 澪(律は親友なのに、私は…) 澪(律は私のためにたくさんの事をしてきてくれたのに私は邪魔ばかり) 澪(ムギにあれだけ心配かけて励まされたのに… まだ逆戻り) 澪(唯や梓や和だって私が気がついてないだけできっと) 澪(押し潰されそうだよぅ 誰か…たす…けて…」スウ …… ガッチャン 律「ふぃー食った食った」 律「んじゃかけなおすか」パシッ ピッピッ プルルルルル プルルルルル ガチャッ 『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。』 律「あれー?もしかして澪のヤツ、電源切りっぱか?」 ピッ 律「ふー」ドサッ 律(今日は疲れたし、さっさと風呂入って寝ちゃうか) 律(澪には、明日家に電話してみっか) テッテッテッテッテッテッテ カッチャン 律「は~ いい湯だった」 律「よいしょっと」ボスッ 律(今日は色々あったなー 彼とデートへ行って…、食事して、映画観て、喫茶店でティー飲んで、それでー振ったと) 律(我ながら調子にノリ過ぎだよなー)ゴロ 律(あーもう私の前にゃ、いい男現れないんじゃねーか?) 律(一生の男運使い切った気がする それくらい真っ直ぐで、誠実で、いいヤツだったな) ゴロゴロ ドスン! 律「いって!」ムクッ 律(ああ、未練タラタラしい!私らしくないぞ!)ボスッ 律(私は今を選んだんだ!それだけだ!じゃあおやすみっ!!) … チュンチュンッ 澪「ん…」モゾッ 澪(もう朝か 体がダルい)ゴロ トットットットットットット コンコン 澪ママ「起きてる?」 澪「うん」 澪ママ「朝食食べられそう?」 澪「ちょっといいかな…」 澪ママ「そう… お腹空いたら言ってね おかゆ作ってあげるから」 澪「うん、ありがとうママ」 澪ママ「それじゃあゆっくり休んでなさい」 … 律「クー!ガー!」zzz ダッダッダッダッダッダッダ バンッ 律ママ「いい加減っ 起きなさいっ!」ポカッ 律「あいてっ!!」ガバッ 律「んだよー、疲れてるんだって」ヒリヒリ 律ママ「もうお昼過ぎよ?さっさと起きてご飯食べちゃいな!」 バタンッ 律(もう昼かよ 昨日の事がまるで嘘みたいだな) 律「(私ホントにあんないい人振ったのか…)ハハ、何様だっつーの!」ビシッ テッテッテッテッテッテッテ カッチャン 律「あー食ったー!」フイー 律(朝食抜いてたからついつい食べすぎちゃったぜ) 律「さて、と 澪んちに電話かけるとすっかなー」 パシッ ピッピッ プルルルルル プルルルルル ガチャッ 澪ママ「はい、秋山です」 律「あ、おばさん?田井中ですけどー」 澪ママ「あら律ちゃん、こんにちは」 律「今澪いますかー?」 澪ママ「あらごめんね、今具合悪いって寝込んじゃってるの」 律「そうなんですか…」 澪ママ「またぶり返しちゃったみたいで」 澪ママ「話あるなら一応呼んでみる?起きてるかもしれないし」 律「あ、いえ 無理させちゃ悪いんで」 澪ママ「そう じゃあ何か伝えておく事はあるかしら?」 律「では『お大事に、あと昨日は一緒に行けなくてごめん』と伝えておいてもらっていいですか?」 澪ママ「わかったわ~」 律「それじゃお願いします」 澪ママ「は~い」 ガチャッ 律「澪また具合悪いのかー 大丈夫かな」パタン 律(家に見舞いに… って寝込むくらい具合悪いみたいだし) 律(うるさい私が行っても迷惑かけるだけだよなー)ハア 律(仕方ねえ、澪に手伝って貰う訳にもいかないし宿題やっちゃうか) 律(あー、明日からまた学校か 休みもっと長けりゃいいのになー) 律(でも学校行けばみんなに会えるし、部活だってできるしな!) 律「いよっしゃー!宿題がんばるぜー!」ガッツポーズ 聡「姉ちゃんちょっとうるさい」 … 澪(はあー もうお昼時か) 澪(お腹減ったしママにおかゆ作ってもらおう) ヨタヨタ カッチャン ヨタヨタ 澪ママ「!」ハッ 澪「お腹減ったからおかゆ作ってくれる?」 澪ママ「あら、電話なり呼ぶなりしてくれれば私から行ったのに」 澪ママ「体にキテるのに動いちゃだめよ?」 澪「大丈夫…(だって体と言うよりか心の問題だから…)」キイッ ストン 澪ママ「ちょっと待っててね~」コトコト 澪「ごちそうさま」フウッ 澪ママ「はい」ニコニコ 澪「ありがとう それじゃまた部屋に戻ってるね」スクッ 澪ママ「ええ 1人で歩ける?」 澪「はは、子供じゃないんだからそれくらい大丈夫だよ」 ヨタヨタ 澪(外見はもう子供じゃないけど、中身はまだ子供なんだな、私は) 澪(あと1年で高校卒業だっていうのに) 澪(いつも誰かに頼ってばかりだ 自立なんてできるんだろうか) ヨタヨタ カッチャン 澪(明日は、学校か)ボスッ 澪(律と 私は律と会って、普通に接することができるんだろうか)ゴロン 澪(普通の女の子らしく、友達の幸せを祝ってあげる事はできるんだろうか) 澪(絶対無理だ…) 澪(でも明日休んだらみんなにまた迷惑をかけちゃうんだよな) 澪(流石に明日は休めない) 澪(決心しろ、私!おめでとう、律!) ウトウト 澪(何時までも── 子供じゃいられないんだ──) 澪「…」スー スー … チチチチッ チュンチュン 澪(朝か 学校行かなきゃな) カッチャン タッタッタッタッタッタッタ 澪「おはよう」 澪パパ「おはよう」 澪ママ「あらおはよう もう具合大丈夫なの?」 澪「うん、もう大丈夫」 澪パパ「無理はしないようにな」 澪パパ「お、もうこんな時間か いってきます」 澪「いってらっしゃい」 澪ママ「いってらっしゃい、あなた」 ガッチャン 澪「ふう、おいしい」パクパク ゴックン 澪「さて、私も行く準備しなきゃな」スッ 澪ママ「くれぐれも無理しすぎないようにね」 澪「うん」 タッタ 澪(歯磨きして) 澪(髪を直して、と)サラサラッ タッタッタッタッタッタッタ カッチャン 澪「忘れ物はないな、うん」ガサゴソ 澪(今日は、逃げずに律を迎えに行くぞ!) カッチャン タッタッタッタッタッタッタ 澪「それじゃいってきます」 澪ママ「いってらっしゃい 気をつけてね」 ガッチャン 7
https://w.atwiki.jp/25438/pages/2552.html
紬「酔っぱら唯ちゃん」 菫「わたしとお姉ちゃん」 菫「私とお姉ちゃんの日々」 紬「かくれんぼ」 ムギ「失われた時を求めて」 聡「初恋」 純「放課後の憂鬱」 澪「7日後の夜、または40夜の1夜目」 憂「証言者たち」 唯「ぷるしかー!」澪「Плушка?」 唯「わたしはギー太に恋してる!」 「名前を呼ぶ」 唯「澪ちゃんそれ変だよ」 菫「奥田四重奏」 紬「いつまでもそのテンポで」 唯「教師になっても」 和「前しか見えないのね、唯は」唯「うん」 紬「とりこ」 唯「みんなでえっちな小説を書こうよ!」 澪「無自覚ヒーロー」 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その9 その10 その11 戻る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/6081.html
ゾロゾロ ピタッ 律「さて、到着ー!」 唯「アイアイサー!」 梓「早くインターホン押しましょうよ」 律「そう急かすでない!」ポチッ ピンポーン 澪ママ「はい」 律「あ、田井中ですけどー お見舞いに来ましたー」 澪ママ「あらーごめんなさいね ちょうど今病院行ってて」 澪ママ「あがって待ってる?」 律「あ、今人数いて邪魔になっちゃうんで」 澪ママ「そう?じゃあ明日は行くように言っておくわね」 律「おねがいしまーす それじゃ」 プツッ 唯「りっちゃん、どうだった?」 律「今澪病院行ってていないってさー 私1人じゃないから邪魔になるんであがるのは断っといた」 梓「そうですか… それじゃ仕方ないですね」 唯「じゃあさっきの話の続きを!」 律「だーかーらっ さっき話した以上でもそれ以下でもねーって」 梓「なんか先輩イマイチテンション低くないですか?」 律「はあ?」 梓「初めての彼氏、そして放課後デート!それなのにやけに淡々としてるというか」 律「んな事ねーよ」 梓「あやしいです!」 律「いいからさっさと帰るぞ!」 ゾロゾロ アオーン!オン!オン!オン! … トボトボ 澪(あーあ 思ってたよりも遅くなっちゃったな…) 澪(木曜で平日なのにあんなに混んでるなんて) 澪(うう、寒い!まだ3月だもんな 年寄りが風邪ひくのも無理ないか) 澪(でもあんだけ待って貰った薬が頭痛止めじゃ損した気分だ…) 澪(薬局にでも寄ってバファ○ン買えばよかった) ガチャ 澪「ただいまー」 澪ママ「おかえりなさい」 澪ママ「そういえば律ちゃんとお友達がお見舞いに来てくれたのよ」 澪ママ「大人数だからってあがらずに帰っちゃったけど あとでお礼言っときなさい」 澪「うん 悪いことしちゃったな」 澪ママ「ご飯はどうする?」 澪「ご飯はいいや 明日に備えて寝ちゃう」 澪ママ「わかったわ」 タッタッタッタッタッタッタ カッチャン 澪「携帯はっと」ゴソゴソ パタッ 澪「そういえば病院行くからって電源切ってたんだっけ」ポチッ 澪「さて、と みんなにメールを」 ヴーン ヴーン ヴーン 澪「わっ 電源切ってたからセンターに溜まってたのか」 唯『澪ちゃんはやく元気になってねー!!』 梓『とても心配してます またはやく一緒に練習したいです!』 紬『澪ちゃん大丈夫?私にしてあげられる事はとても少ないけど… 何でも相談してね』 澪「唯… 梓… ムギ…」 律『お前がいないと調子狂うんだよ!だから明日は来いよ!絶対だぞ!!』 澪「りつぅ」ポロポロ 澪「グスッ みんなありがとう」 ピッピッッピッピッ 澪『ありがとな、唯 元気出たよ』 澪『迷惑かけてごめんな梓 明日は練習しよう』 澪『そんなに気負わないでくれ ムギにはすごく助けられてるからさ』 澪『ホントお前は私がいないとダメだな!明日は行けそうだよ』 澪「よし、と じゃあ明日に備えて寝よう」パチッ zzz zzz チュンチュンッ 澪「いってきます」 澪ママ「いってらっしゃい 気をつけてね」 ガッチャン 澪(やっぱり律に会うのはちょっと気まずいな…)スタスタ 澪(で、でも 律に会えない事自体の方がもっとつらい!)スタスタ 律「お!みーっお!おっはー!」タタッ 澪「!!」ドキッ 澪「お、おっす」 律「もう具合は大丈夫なのかー?」 澪「ああ、昨日病院で薬貰ってきたからな」 澪「あとさ、見舞いありがとな ちょうど病院行っててごめん」 律「きにすんなってー!私達けいおん部の友情は最強だぜー!!」ビシイッ 澪「朝からテンシュン高いな」ハハハ 律「んー」ジッ 澪「なっ、なんだよ」ヒキッ 律「いや、ここ最近元気なかったけどまだ本調子じゃないみたいだからさ」 律「まだいつもの澪じゃないなーって」 澪「そっ、そうか?」ドキッ 澪(やっぱりまだ心のつっかえが取れてないんだよな…) 澪(それに私が律にしてきた事への答えはでてないんだし…) 澪(律はこうやって明るく振る舞ってくれるし私といてくれる) 澪(でも本当は嫌なんじゃないのか?こんなすぐ暴力振るう女なんて) 澪(私は今回だって、律やムギ、みんなの好意に甘えてた) 澪(結局、何一つとして成長してないんだ…) 澪(あああ!どんどんネガティブな方向に考えちゃう!) 澪(律たす…け…)ハッ 澪「…」テクテク 律「…」ジローッ 律(なーんか暗いんだよなー) 律(ちっくしょー 私も澪やムギみたいに気の利く女だったらー) … ガラガラッ 紬「あ!澪ちゃん、りっちゃん!おはよう」 澪「心配かけたな、おはよう」 律「おっす!」 澪「唯は…」キョロキョロ 澪「やっぱまだ来てないか」ハハ 律「最近ギリギリばっかだもんな」ヒヒ 紬(よかった~ 澪ちゃん、元気になったみたい!)ホッ キーンコーンカーンコーン ドタドタドタドタ!ガラガラッ! 唯「セーッフ!!」ズザー 唯「あ!澪ちゃん!おはよー!」 律「もはやお約束だな…」 唯「澪ちゃん元気になったんだね!」 澪「心配かけて悪かったな、もう大丈夫だ」 唯「よかった~!全員揃ってこそ私達けいおん部だもんね!」 澪「ああ!」 キーンコーンカーンコーン 先生「これで授業は終わりです」 起立!礼!着席! ガラガラッ ピシャ 唯「今日も疲れた~!やっと放課後だよ~」ノビーッ 律「爆睡野郎が何を言うかっ!」ビシッ 唯「あいたー!」ドタッ 澪「昨日は休んじゃったからな 今日はがんばるぞ!」 紬「おー!」 ジャジャ、ジャジャ、ジャーン! 唯「うぃ~ 疲れた~」ドサッ 律「お疲れー(今回は月曜程じゃないけどけっこういい感じだな)」フウッ 紬「みんなお疲れ様~(澪ちゃん、立ち直れたみたいね!)」ニコッ 梓「合ってましたし復調してきましたね!」ビシッ 澪「休み明けだからいい運動になるな(数日前より気分楽になったな)」フキフキ ガチャン 澪「ただいま」 パタパタ 澪ママ「おかえりなさい」 澪ママ「あ、そうそう!友達から映画のチケット貰ったのよ~」スッ 澪「へえ 何時の?」 澪ママ「明日なんだけど… 昨日のお礼も兼ねてりっちゃん誘ってきたら?」 澪ママ「枚数2枚しかないからお友達全員の分はないけれど」 澪「いいよ、ママがパパと行ってきたら?」 澪ママ「それが私もパパも用事が入っちゃって」 澪「まあ明日は部活もないし…(どうしよう)」 澪ママ「気にせずいってらっしゃい」ススッ 澪「えっと、じゃあ貰っとく ありがとうママ」 澪ママ「いえいえ そろそろ夕飯だからね」パタパタ 澪「うん」 タッタッタッタッタッタッタ カッチャン 澪「ふうっ」ボスッ 澪(映画のペアチケットか) 澪(明日っていきなりすぎないか) 澪(まあせっかくママから貰ったんだし誘ってみるか) 澪「よいしょっと」パカッ ピッピッピッピッ プルルルルル プルルルルル … ガッチャン 律「今帰ったぞー」 ドタドタ 律ママ「馬鹿やってんじゃないの!」 律ママ「そういえば澪ちゃんどうだった?昨日休んだんでしょ?」 律「あー大丈夫 まだ本調子じゃないみたいだけど普通に元気だった」 律ママ「そう、よかったわ 晩御飯までもうちょっと待っててね」パタパタ 律「あいよっ」 テッテッテッテッテッテッテ カッチャン 律「あーづかれだー」 律「明日はいよいよ土曜日か…」 律「(明日の準備しなきゃな)よっと!」 ヴーン ヴーン ヴーン 律「ん 電話か」パシッ ピッ 律「もしもーし」 男「あ、男だけど」 律「お、おう」 男「明日はいよいよ映画ですね!楽しみで電話してしまいましたよ!」アハハ 律「ハハハ そうだな、明日は映画だ」 男「で、集合時間なんですけど、電車が11:47発なので11:40でいいですよね」 律「いいんじゃない じゃあその時間に駅の噴水前って事で」 男「はい!じゃあ楽しみにしてます」 律「おうよ じゃあ、また明日な」 男「それでは!」 ピッ コトン 律ママ「ごはんよー」 律「今行くー」 ガッチャン!テッテッテッテッテッテッテ … プルルルルル プルルルルル 澪「なかなか繋がらないな」 プルルルルル プルルルルル 澪「うーん」 ガチャッ 澪「おっ!律、わた」 オカケニナッタバンゴウハ、ゲンザイツウワチュウデス 澪「って通話中かい!」 ピッ ゴトン 澪ママ「みおー、ご飯できたわよー」 澪「はーい」 ガッチャン タッタッタッタッタッタッタ … 律「ふ~食った食った」ゲフッ 聡「ねえちゃん行儀わりー 彼氏できて女らしくなると思ったのに」 律「うっ、うるせーぞぉ!わたしゃ既に十分女らしいっつーの!」 聡「へへーんだ」 律「ったく!まあいい、ごちそうさまでした!」 律ママ「はいはい 明日遊びに行くなら勉強しときなさいよ」 律「へーい」 テッテッテッテッテッテッテ ガッチャン 律「ん?」 ピカピカッ ピカピカッ 律「携帯に着信か 男か?」 パカッ 律「み、澪!?何だろ?かけなおすかー」 ピッ プルルルルル プルルルルル … 澪「ごちそうさまー」 澪ママ「はい そういえばりっちゃん誘ったの?」カチャカチャ 澪「いや電話通話中だったからさ あとでかけなおすつもり」 澪ママ「そう ただ明日いきなりだからねえ… りっちゃんも用事入ってるかもね」ジャー 澪「だなー まあその時は仕方ないから別の誰か誘って行くよ」 澪「じゃっ、明日家空ける分勉強してくる」 澪ママ「がんばってね」 タッタッタッタッタッタッタ ガッチャン 澪「さて、60Pまで進めちゃうか」 ヴーン ヴーン ヴーン 澪「ん、電話だ」 パッ パカッ 澪「律か!かけなおしてきたんだな(予定空いてるのかな)」ドキッ ピッ 澪「もしもし」 プルルルルル プルルルルル ガチャッ 律「お!澪、どったの?」 澪「かけなおしてくれたのか」 律「まーな さっきはごめんごめん で、どったの?」 澪「それがさ、明日の事なんだけど」 律「!!」ドキッ 澪「ん?どうかしたか?」 律「いや、別にー」 澪「明日さ、予定空いてないかな?」 律「明日かー…」 澪「何か用事入ってるのか?なら無理強いはしないけど…(やっぱダメだったか?)」 律(うーん 言っとくべきかなあ… でも後々の事考えると…な) 律「わりっ!ちょっとした野暮用があってさ!明日は無理なんだ」 澪「そ、そうか」ズーン 律「ごめんって 明後日なら大丈夫だけど」アセッ 澪「いや、そこまでしなくてもいいさ 明日なんていきなりだもんな」 澪「無理言って悪かったよ」 律「そんな事ないって!私こそごめんなー」 澪「急に誘ったのは私の方だからさ 用件はそれだけ」 律「そっか じゃあまた月曜な!」 澪「うん、じゃあな」 ピッ 澪「はー やっぱダメだったか」 澪「仕方ない、他の人を誘おう!」 ピッピッ 澪「あ、唯?明日予定空いてないかな?」 唯「ごめーん!明日は久しぶりにお母さんとお父さんが帰ってくるから無理なんだよぉ」 澪「そ、そうか 残念だけど次の機会によろしく」 ピッ 澪「次は梓っ」 ピッピッ 澪「あ、梓?明日の予定空いてたりしない?」 梓「すいません先輩、明日明後日は家族で出かける予定がありまして…」 澪「そ、そうか… いきなりごめんな また今度」 ピッ 澪「うう」 5
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/227.html
届け、いつか(前編) ◆iDqvc5TpTI 『貴女の声は決して届く事はない。 いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。 貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。』 夢と現の境界で誰かの声を聞いた気がする。 夢を渡る力が混線でも起こしたのだろうか? ロザリーは実体のない世界で首を傾げる。 感応石を持ったまましてしまったオディオのロザリーへの独白が偶然ロザリーの力と相まって届いたのだということを彼女が知る由もない。 ただ、その言葉が自分のメッセージへの返答だということだけはおぼろげに察していた。 認めたくない言葉だった。 けれど安易に拒絶していい言葉だとも思えなかった。 その言葉には憐れみも、嘲りも、馬鹿にする響きも含まれていなかったからだ。 自分の言葉を受け、真摯に、心の底からこのメッセージを返してきてくれたのだとロザリーは受け取った。 そうなのかもしれませんね……。 ロザリーは俯く。 思い出すのは意識を失う前の記憶。 マリアベルから告げられた英雄の真実。 子どものように泣きじゃくり、憎しみを露わにする勇者。 ユーリルは勇者になんかなりたくなかったのではという想像。 もしそれが真実だとするならば。いや、紛れもなく真実なのだろう。なら。 手を取り合えると言った彼女自身が大切な恩人であるユーリルのことを理解できていなかったことになる。 メッセージが届かなかったのも当然ですね 自分にもできていないことを他人に求めたところで相手を納得させられないのは当然なのだ。 ロザリーは顔を上げる。 その顔に笑みは浮かんでいなかったが、しかし強い意志は宿ったままだった。 伝えたい心を伝えられない時にどうすればいいのか、ロザリーは既に答えを出していたではないか。 一つの言葉で伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。 理解できていなかったのなら、今度こそ真に手を取り合えるよう何度でもユーリルと語り合えばいい。 何度でも、何度でも、何度でも…… ▼ 夜天より声が降り注ぐ。 人の心を穿ち、地へと打ちつける言葉の弾丸。 誰かの、知己の、仲間の、友の訃報を告げる声。 ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は笑い、ある者は喜ぶその声が幸いとしてピサロの想い人の名前を呼ぶことはなかった。 だというのにピサロの様子は先ほどまでと何も変わらない。 凶刃を納めることなく雨に沿うかのように熱を奪われた青い顔を晒し、怒りのままにイスラ達と刃を交えていた。 ピサロは放送など聞いていなかった。 激しさを増した雨音が耳に届くことを妨げたからか。 天地を跋扈する稲妻の轟音により異界の魔王の声が打ち消されたからか。 否。 元より今のピサロにはただ一人を除いていかな声も届きようがなかった。 ああ、もしも、もしも本当に。 ロザリーが死んでいてオディオにより名前を呼ばれていたならば。 一瞬、たかが一瞬といえどもピサロは立ち止まったかもしれないのに。 どれだけ憎悪に狂おうとも、どれだけ怒りに飲み込まれようとも。 ピサロがその名前に反応しないことなどありえないのだから。 ――なんという皮肉 彼を凶行に駆りたてたのが愛するものの死ならば。 僅かな時なれど止め得たのも愛するものの死のみとは。 ――なんという滑稽 愛するものは存命ですぐ傍らに転がっているというのに。 ピサロは手を伸ばそうともしない。 ロザリーを愛した魔族『ピサロ』ならたとえそれが死骸でも手を伸ばそうとしたであろう。 だがここにいるのはデスピサロ。 人間を憎み、滅ぼす為に一度は愛するものの記憶すら捨て去った復讐の魔王。 雨などという生易しいものではない。 若き魔王の心の中では嵐が吹き荒び雷が荒れ狂っていた。 その雷は 「カ、カエル、まさかお前がロザリーを!?」 飛び込んできた言葉を引き金に開放されることとなる。 ▼ 戦況は膠着状況に陥っていた。 無力なアナスタシアを護るべく円陣を組んだブラッド達の一団を攻める側は切り崩すことができなかったのだ。 初期状況で北にユーリル、西にピサロ、南に魔王とカエル、東に逃げ場の無い建物と四方を完璧に囲っていたにも関わらず、だ。 さもありなん。 攻める側の四人はカエルと魔王を除いて協力関係ではなかった。 どころか互いが互いの敵でもあった。 潰し合ったのだ、守る側に攻め込みつつもこの四人は。 「貴様か、勇者っ! 貴様が、貴様がロザリーをっ!!」 ピサロからすればユーリルは勇者――ロザリーを殺した人間どもの守護者にして象徴だ。 真っ先に始末してやらなければ気が済まなかった。 彼に殺された直後からオディオに呼び出されたこともあり、ピサロがユーリルを敵視しない理由は一切なかった。 その勇者が他ならぬ人間を目の敵にして殺そうとしていることを疑問に思うだけの冷静さは残っていなかった。 「うるさい、うるさい、うるさい! 僕を勇者と呼ぶなっ! 消えろ、消えろ、魔王! 殺させろ、アナスタシアを殺させろおおおッ!!」 ユーリルからしてもピサロは憎むべき相手だった。 アナスタシアがユーリルの幸せな幻想を完膚なきまでに砕いた下手人なら、ピサロはユーリルの現実的な不幸の直接の元凶なのだ。 エビルプリーストに謀られたからという事実は言い訳にはならない。 人間を根絶やしにせんとした魔王にして、予言に詠われた地獄の帝王を継ぐもの。 勇者の対存在。こいつさえいなければユーリルは勇者としてではなくユーリルとして生きられたのに。 その魔王があろうことか邪魔をする。アナスタシアを、英雄を殺すことの邪魔をする。 ピサロにはそのつもりがなくともユーリルにはまるでアナスタシアが、シンシアが、世界そのものが。 勇者たれと、呪詛を吐き強いているようにしか思えなかった。 「チッ、正真正銘勇者の剣か。バリアが剥がされるとは」 冷静さを保っていたカエルと魔王は最初こそは上手く立ち回れていた。 ユーリルがアナスタシアのことしか目に入っていなかったこと。 ピサロが人間の姿ではないカエルと耳の形がエルフにも見えなくもない魔王を後回しにしたこと。 二つの幸運が重なって当初危険人物から狙われることのなかった二人は攻撃側に加勢した。 正しくは便乗した。 他の参加者を減らしてくれる殺し合いにのった人物と現時点で敵対するメリットはない。 逆に優勝への大きな壁となり得る大集団をここで潰しておくことは非情に有益なものだと踏んでのことだった。 しかしながら話はそう上手くはいってくれなかった。 豪雨を味方につけ蛙の本領発揮とばかりに獅子奮迅の活躍をするカエルに負けじと魔王もまた豪雨を利用することを考えた。 それがいけなかった。 よりにもよって魔王が選んだのはサンダガの呪文。 魔王にとっては単に雨に濡れた相手になら常日頃以上に雷呪文が効果を発揮するだろうと思っての選択で他意はなかった。 実際ピサロやユーリルの雷は上昇した通電効果もあって猛威を振るっていた。 しかし、ユーリルからすれば話は別だ。 よりにもよってよく聞けば『魔王』と呼ばれる男が『友達』が使っていたのと同系統の『雷』呪文をこともなげに扱ったのだ。 アナスタシアには遥かに劣れど、ユーリルの殺意を買うには十分過ぎて、 「これが、勇者だと? こんな、こんな殺意に凝り固まったものが! 認めん、俺は認めん!」 そのユーリルの姿もまたカエルの怒りを買うには十二分だった。 混戦だった。 守る側が防御に集中している中で殺す側は守る側と殺す側両方を敵に回して疲労していった。 それが守る側の思惑であるとも知らずに。 「すごいや。おじさんの目論見通り大分ピサロだっけ、銀髪の動きが鈍ってきたよ。 これならあいつを抜けて後ろの方で倒れているロザリーって人を起こしにいけるようになるのも時間の問題かな」 「ユーリルの方もじゃな。スリープいつでもいけるぞい?」 端からブラッド達は守り一徹の持久戦狙いであり、ユーリルとピサロを殺す気はなかった。 マリアベルの仲間の知り合いだと知ったブラッドが指示したのだ。 ピサロの誤解もいささか仕方がない状況だったことと。 アナスタシアが殺し合いに載っていたこともあり彼女を襲っていたからといってユーリルが悪だとは限らないこと。 甘いと抗議していたイスラもこの二つの理由と他大多数の賛成意見に渋々承知し作戦は決行された。 内容は以下の通りだ。 ピサロとユーリルを疲弊させきった後にマリアベルのスリープで眠らせ、残る二人を四人がかりで数の利で押し切る。 以上一文それだけだ。 いささかシンプルではあるが状況を鑑みるにベストなものではあった。 ピサロとユーリルは見るからに万全とは程遠い状態だった。 そんな身体で後先も考えずにあのペースで感情のままに暴れまわれば遠くないうちに倒れるだろう。 加えてこの豪雨。 生物が動くのに嫌でも必要な熱を奪う水に打たれっぱなしの状態では息切れするまでの時間も加速度的に早くなる。 そう推測した上でのブラッドの作戦は前述の潰しあいもあって大成功だった。 「時が来たら機を逃すな! アキラ、引き続きかく乱と回復を頼むッ!」 「任せな! あと一息ッ!」 そう、後一息。 傍目にはピサロとユーリルは限界まであと一息に思えた。 その一息が限りなく遠いものだったことを直後ブラッド達は思い知ることとなる。 「そこまでだ、魔王! リルカとルッカの仇、取らせてもら……ストレイボウさん!?」 新たに戦場へと踏み入れた二人組の人間、そのうちの一人ストレイボウをきっかけとして。 ▼ 座礁船への道すがらに戦場へと辿り着いた瞬間、ストレイボウはジョウイの静止も振り切り駆け出していた。 心配していた少女たちと言葉を届けたい友。 両方が一度に見つかり、しかも交戦しているとあればいてもたってはいられなかった。 だがその速度が現場に近づくにつれみるみると落ちていく。 ストレイボウは歩くことも忘れ、その衝撃的な光景に打たれるしかなかった。 降り止まぬ雷雨の中倒れ臥す一人の少女。 忘れるはずがない、ストレイボウに道を示してくれたあの心優しき少女だった。 そのすぐそばで戦いを繰り広げるカエルとマリアベル。 姿も形もないニノに女性のものだったと思われる誰とも判別できない無残な骸。 第二回放送で告げられたシュウとサンダウンの死。 それら断片が半日前の光景と重なりストレイボウの中で最悪の想像が鎌首をもたげる。 信じると決めた。 裏切らないと決めた。 けれど一度膨れ上がった疑念を抑えることはできなかった。 「カ、カエル、まさかお前がニノとロザリーを!?」 「ストレイボウ、俺は」 「あ……。お、俺は。すまない、すまないカエル!」 どこか悲しげなカエルの声に状況が状況とはいえ友を疑ってしまったことを恥じるがもう遅い。 その一言が転機となった。 なってしまった。 ぴたり、と。 それまでカエルのことなど気にもかけていなかったピサロが動きを止める。 「人間……今、貴様、誰の名前を呼んだ? そこのカエルがロザリーを殺しただと……?」 荒れ狂っていた寸前までとはうって変わって抑揚を感じられないその声がかえって恐ろしかった。 ぎぎぎぎぎ、と首を動かしたピサロの目がストレイボウのそれとかち合う。 煮えたぎる闇が凝り固まり形をなしたかのような瞳にに射られてストレイボウは立ち竦む。 カエル以上に今の彼は蛇に睨まれた蛙だった。 ▼ 一度目は偽りだった。 二度目は自身だった。 三度目は親友だった。 そして、四度。 否、五度、男は魔王と対峙する。 「答えろ、人間。そこのカエルが私のロザリーを殺したのかと聞いているッ!」 ストレイボウは押し黙るしかなかった。 自身がその答えを知らなかったからでもあるがそれ以上にピサロの表情から声に至るまで全てに表出している殺気が彼に沈黙を強いさせた。 殺される。 下手なことを言えば殺される。 カエルが、カエルがこの男に殺されてしまう! それは正しい判断だ。 ピサロは殺す。 何よりも優先してロザリーを害したものを殺す。 今この場に限ればロザリーは死んでもおらず、彼女を傷つけたのもユーリルであったがそんなことは関係ない。 既に一度、カエルはロザリーを死の淵まで追い詰めたのだ。 それだけでピサロがカエルを殺すに理由としてはお釣りがくるほどだった。 「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。両生類の分際が、私のロザリーをっ!」 ストレイボウの沈黙を肯定と取ったのだろう。 ピサロの中からはもはや勇者も有象無象の人間たちも消えていた。 有り余る憎悪の全てをカエルと、彼を庇うかのように黙り通した人間へと向けていた。 「お、落ち着いてくれ。あんたが誰かは知らないがまだそうと決まったわけじゃ」 「……」 自分の失言のせいで友が危機に陥いることを防ごうとしどろもどろになりながらも何とか声を出すストレイボウ。 無意識にピサロへの恐怖から逃れようという意図もあったのだろう、必死に舌を動かす彼とは対照的にカエルは口を閉ざしたままだ。 誤解こそ含まれてはいるがカエルがロザリーを殺そうとしたのは事実。 堕ちたとはいえど誇り高い彼には言い訳をする気などさらさらない。 「いいんだ、ストレイボウ」 「お、俺はこんなつもりじゃっ」 「分かっている。これは俺の身から出た錆だ」 ストレイボウにかけられた声からはカエルが本心からそう思っているということが伝わってくる。 それが余計に辛かった。 何を、何をやっているんだ、俺は!? 本当に何をやっているのだろう。 ストレイボウが後悔に沈む暇すらピサロは与えてはくれないというのに。 「異言はないようだな――よく、分かった。死ね」 ピサロの足元から幾条もの黒き魔腕が這い出でる。 瘴気を纏い、腐臭を漂わせ、悪鬼亡者がおぞましい雄叫びをあげる。 違う、あれは腕なんかじゃない。 ストレイボウは脳裏を侵した妄想から我に変える。 周囲の温度が上がっていた。 地獄の釜を思わせる金属臭が鼻腔をくすぐった。 なんだ、なんだこれは!? 答えはすぐに出た。 ビリビリと微弱な電流の先駆けを感じたのだ。 帯電していた。 ストレイボウだけではない。 カエルが。 ジョウイが、魔王が。 ピサロと彼らとの間に立ち塞がる壁たるユーリルが、アナスタシアが、ブラッドが、マリアベルが、イスラが。 電荷を帯びた空気の檻に閉じ込められ、その恐るべき光景を目に焼き付けられることとなった。 「ジゴ――」 魔界の王がもたらす熱量に耐え切れず、雨がことごとく蒸発し霧と化した。 次いで、その余りに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、大地が激しく鳴動した。 今やピサロの足元から立ち昇りきり、巨大な全長を誇示している黒き雷竜に怯えるかのように。 恐慌は伝染していく。 木々が黒一色に染まり崩れ去る。 集いの泉が干上がり湖底を晒す。 大気が揺らめき炎上し燃え上がる。 ……早々雷どころではない。 地獄だ。 地獄そのものが現世へと顕現していた! その地獄とは他の誰のものでもなくピサロのものだ。 愛する人を護れなかった後悔と、愛する人を奪われた怒りと、愛する人を奪った者達への憎しみと、 愛する人のいない世界で生きていかねばならぬ辛さと、愛する人のいない現実への嘆きが幾重にも幾重にも混ざり合った若き魔王の心象風景。 「――スパークッ!!」 その世界の君臨者、漆黒の雷竜が顎門を開く。 逆鱗に触れた者達に牙を穿ち立てる、それだけを王に誓い。 竜が蛇行を開始する。 一陣の矢となってカエルを、ストレイボウを、障害たる全ての敵を貫かんと。 虚無する激情が、解き放たれた。 「う、うわああああああああああああああああああああ!?」 夜の闇を更なる黒で汚しながら雷竜が迫る。 真っ直ぐ、真っ直ぐストレイボウとカエルの元へと向かって。 道中の雑物達を尾の一振るい、胴の一轢きで粉砕し文字通り雷そのものの鋭さをもって襲い来る。 ストレイボウは悲鳴を上げた。 彼自身が一流の魔法使いであるが故に分かってしまったジゴスパークの威力に。 あますことなく浴びせられたピサロからの憎悪の念に。 死ぬ、殺される、俺は、ここで!? この錯乱は彼が克服しきれていない心の弱さによるものだけではない。 霊魂として過ごした時間が彼から戦士としての心の持ちようを奪い去ってしまっていた。 考えてもみて欲しい。 ストレイボウは死後気も遠くなるような時間を過ごして来た。 その間彼の心を占めていたのは友を裏切ったことへの悔いと弱き自らへの嫌悪ばかり。 戦いのことなど考えたこともなかったのだ。 再び肉体を得て友をこの手で止められる日が来ることになるなど思いもしなかったのだから。 或いは、それもまた弱さか。 霊魂の身では何もできないと自ら動くことを捨てただただ後悔の泥沼に浸かることを選んだ報いか。 数えることなど叶わぬ時の流れはストレイボウのなけなしの強さを――死と隣り合わせである戦場に立つ強ささえ磨耗させてしまった。 新兵も同然なのだ、今のストレイボウは。 そのことに、生き返って以来今に至るまで一度もまともな戦闘をこなしてこなかった為気付けなかったのは何たる不幸か。 ストレイボウは考えられる限り最悪の形で気付かされることになった。 死した身で長きを過ごすうちに忘却してしまっていた死への恐怖と対面するという形で。 「ブ、ブラ、ブラックアビスゥウウウウ!」 「駄目だ、ストレイボウさん、それじゃ打ち消せない!」 なればこそのこの愚行。 カウンター前提の魔法をあろうことか迎撃に使ってしまうとは。 傍らのジョウイや雷竜の行軍に巻き込まれたマリアベル達のように自らの身を護ることを優先に魔法を盾にしておけばよかったものを。 そうすればダメージの軽減程度にはなったし、何よりも自らのちっぽけさを目の当たりにすることもなかったろうに。 一秒もかからなかった。 深淵の名を冠したストレイボウの全長ほどある――つまるところ雷竜の爪程度の大きさしかない三つの黒塊は。 ストレイボウが言うところの究極魔法は。 たかが深淵を覗いただけの存在が地獄を見てきた魔王に勝てるはずがないと言わんばかりに、あっけなく地獄の雷の前に消し飛んだ。 「――――――あ」 魔の王が怒りのままに際限なく魔力を込めて撃ち出した魔法がいかにして常人の魔法使いの手で破れようか? 古来より、魔王を倒せるのは勇者だけだと決まっている。 ストレイボウも嫌なほどそのことは知っているではないか。 「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」 この島にもう勇者はいない。 魔王に打ち勝てるものは一人が勇者であることを捨て、一人は魔王と手を組んだ。 ならば。 他に魔王に拮抗し得るものがいるとすれば、 「余計なことをしてくれたな、そこの人間……」 それは同じく魔王を名乗る者のだけだ。 「よせ、魔王。これは俺が撒いた種だ。手なら貸す、ストレイボウを責めるな」 「貴様の知り合いか? どうりで無様な姿がいつぞやの腰抜けに重なるわけだ。 フッ、思い出話は後回しにしておくか。手助けは不要だ。この程度、私ひとりでどうとにでもなる」 着弾間近の電撃を胡乱げに見つめ赤きマントを靡かせて魔王がカエルの前に出つつみっともなく腰を抜かした魔術師を嬲る。 しかしストレイボウには魔王が投げつけてくるどんな嘲りの言葉よりも。 「……お前がそういうのならそうなのだろうな」 カエルのその言葉が痛かった。 魔王のことを信用してはいなくとも信頼していることがありありと分かってしまったから。 「カエル……」 縋るように発した声はカエルに届くことはなかった。 より強き力を持つ言葉に打ち消されて。 「地獄の雷よ。貴様も聞け、黒い風の泣く声を」 風が、吹いた。 魔王に向かって風が吹いた。 魔王の前後左右を護るように現れ回転し出した四つの魔力スフィア。 それらは万物を吹き飛ばすのではなく、巻き込むことで風を発生させていた。 ごうごう、豪豪、業業。 風は渦巻くたびに本来透明のはずのそれが黒と白に染められていく。 この地に漂う無念や絶望を、希望や祈りすらも次々と己が糧として飲み込んで、空間ごと大気中のマナを食らっているのだ。 世界に満ちたマナは魔王へと供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。 絶対零度の風が吹き荒れるその世界はコキュートスのよう。 しかれば世界が凍結するのも道理。 「ダーク――」 風が、死んだ。 耳をつんざく悲痛な嘶きを最後に風が消失した。 風だけではない。色が、音が、匂いが消失した。 魔法陣が。 生命の力を奪い尽くした魔力スフィアが転じた魔方陣だけが。 地獄の浸食を妨げるかのように天と地に刻まれた白と黒の三角形の魔方陣だけが。 静止した灰色の世界を彩る結二つの色だった。 ジゴスパークがそうであったように。 全てが失われた寂しき世界こそが魔王の瞳に映る現世なのかもしれない。 「――マター」 現世を擬似的な冥界と化す禁術を完成させる呪文が響いた。 ▼ そこから先はアポカリプスの再現だった。 虚空にて、地獄と冥界が衝突する。 互いが互いに法則を上塗りしあい世界を書き換えていく侵し合い。 触れ合うたびに否定しあう存在の拒絶。 雷竜がのたうつ。全身をくねらせ、尾を振るい、爪牙を突き立て冥府の檻を震撼させる。 魔法陣が重なる。欠けた半身を補い六芒星に戻らんとして天地に横たわる雷を邪魔するなと圧壊していく。 見る間に地獄が罅割れ、冥界が砕かれ、竜が解け、魔法陣が崩れゆく。 時として数えるなら一秒にも満たない時間。 咲き誇った火花の数は計測不能。 世界が崩壊しているのだと言われたのなら誰もが間違いなく信じてしまうその光景は。 完膚なきまでに相殺しあった結果、始まりとは逆に、ひどく唐突に、何の予兆もなく、おぞましいほど静かに終焉を迎えた。 「……終わった、のか?」 誰かがようやっと呟いたのは思い出したかのように雨が再び降り出してからのことだった。 ▼ 時系列順で読む BACK△105 第三回定時放送Next▼106-2 届け、いつか(後編) 投下順で読む BACK△105 第三回定時放送Next▼106-2 届け、いつか(後編) 098-3 Throwing into the banquet アキラ 106-2 届け、いつか(後編) アナスタシア ロザリー ピサロ ユーリル イスラ カエル 魔王 ブラッド マリアベル 101 原罪のレクイエム ジョウイ ストレイボウ ▲
https://w.atwiki.jp/teampf/pages/315.html
Nの力の前に敗れるライトニング。そこに現れたライトレイはNに戦いを挑むのであった N「私のターンだぁ!私はモンスターをセット。カードを1枚セットしターンエンド」 ライトレイ「俺のターン。俺は手札からOKAサンダーを召喚。効果でOTOサンダー召喚。さらにONIサンダーを召喚。ONIサンダーは召喚に成功した時デッキから光属性・雷族・攻撃力1600以下のモンスターを手札に加える。俺はサンダードラゴンを手札に加える。そしてサンダードラゴンの効果発動。デッキから2体のサンダードラゴンを手札に!レベル4モンスター3体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!サンダースパークドラゴン!サンダースパークドラゴンの効果発動!ORUを3つ使い,モンスターを破壊する!」 N「ちぃ!」 ライトレイ「まだだぜ!融合の魔法カード発動!2体のサンダードラゴンを融合。天空より轟雷響かせ現れよ,双頭の雷龍!」 ツバメ「2体のモンスターの攻撃力の合計は5200」 十也「この攻撃が通ればライトレイの勝ちだ!」 ライトレイ「双頭の雷龍でダイレクトアタック!」 N LP4000→1200 十也「よし!」 ライトレイ「終わりだ!サンダースパークドラゴンでダイレクトアタック!」 Nにサンダースパークドラゴンの攻撃が炸裂する。煙に包まれるN ツバメ「やったの!?」 煙が晴れる。そして……Nは平然と立っていた ライトレイ「なに!」 N「なかなかに危なかったぞ。だが私はこのカードを発動していたぁ!罠カードコンフュージョンチャフ!1度のバトルフェイズ中に2回目の直接攻撃が宣言された時に発動!その相手モンスターは、直接攻撃した1体目の相手モンスターと戦闘しダメージ計算を行う」 ツバメ「つまりライトレイのモンスター同士でバトルをするということね」 ライトレイLP4000→3600 ライトレイ「くっ。俺のサンダースパークが!」 N「くっくっくっ!私に逆らうものは全て消去する!」 Nの仮面にヒビが入る 十也「あれは!?さっきの衝撃か!」 Nの仮面が割れる ツバメ「えっ!?そんな!」 十也「嘘だろ!」 ライトレイ「な、なんであんたが!」 N「どうした?なにをそんなに驚いている?」 Nの仮面の下の素顔。それは…… 十也「ネルティアさん!あなたがNだったのか!」 ネルティア「なにを当たり前のことを!この顔を見ればわかるだろうが!」 ライトレイ「じゃあ俺たちと一緒にいた時。俺たちのことを騙していたってわけかよ!」 ネルティア「ふん。新人類を使って世界をつくりかえるためだ!お前たちがどうだこうだと関係がない!」 ツバメ「あなたがあのネルティアなの?」 あまりに以前と違うネルティアの豹変っぷりに疑問を抱くツバメ ツバメ「もしかしてあなたはネルティアのクローンなんじゃ……」 ネルティア「このくそアマがぁ!なにをいっている!この私に向かって偽者だと!私はネルティア・ノーティン!世界の統率者になる女だぞ!口を慎め!」 十也「これがネルティアさんの本性だったのか……」 ツバメ「うかつだったわ。こんな奴の正体を見抜けなかったなんて」 ライトレイ「今はとりあえずこいつを倒すのが先決だ!」 ネルティア「私を倒すだと?身の程を知れ!私のターン!お前も弟と共に地獄に送ってやろう。私は魔法カードフォトン・サンクチュアリを発動。2体のトークンをリリース。いでよ!エンジェル07!」 ツバメ「きたわね!」 十也「奴の切り札!」 ライトレイ「だが俺のモンスターには攻撃力は届かないぜ!」 ネルティア「バカがぁ!私は永続魔法一族の結束を発動。墓地のモンスターと同じ種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする!」 エンジェル07 ATK2500→3300 ライトレイ「俺のモンスターの攻撃力を上回っただと!」 ネルティア「エンジェル07よ。奴を破壊しろ!」 エンジェル07 ATK3300 VS 双頭の雷龍 ATK2800 ライトレイLP3600→3100 ライトレイ「くっ!」 ツバメ「レイ!」 ライトレイ「大丈夫だ!このくらい!」 ネルティア「くっくっくっ!私は永続魔法進撃の帝王を発動。アドバンス召喚したモンスターはカード効果の対象にならず破壊されない」 ライトレイ「なに!」 十也「これじゃあ奴のエンジェル07は戦闘以外で倒すのは厳しいぞ!」 ネルティア「だが私のエンジェル07の攻撃力は3300。モンスターの効果も使えないお前がいつまでもつかなぁ?」 ライトレイ「ライトニングのためにも負けられない!俺のターン。俺の墓地に光属性モンスターが4体以上いるときライトレイ・ダイダロスは特殊召喚できる。さらに俺はライトレイ・グレファーを召喚!」 ネルティア「いくらモンスターを並べようが私のエンジェル07を倒すことは不可能だ!」 ライトレイ「いいや!どんなに弱い力でもそれをつなげれば脅威に打ち勝つことができる!」 ネルティア「なんだと?」 ライトレイ「これが俺たち兄弟の絆だ!魔法カードユニオンアタック!このターンライトレイグレファー以外のモンスターは攻撃ができなくなる代わりに自分のモンスターの攻撃力を全てライトレイグレファーに加える!」 ライトレイ・グレファーATK1700→4200 ツバメ「やったわ!攻撃力が上回った!」 ネルティア「なにぃ!」 ライトレイ「ライトレイ・グレファーでエンジェル07に攻撃!」 ネルティア「私のエンジェル07が……」 ライトレイ「この戦闘ではダメージを与えることはできない。ターンエンドだ」 ネルティア「くっ!私はモンスターをセットしターンエンド!」 ライトレイ「俺のターン!俺はライトレイディアボロスを特殊召喚。効果だ!墓地の光属性モンスターを除外することで相手のセットカードを確認し相手のデッキの1番上か下に戻す!」 ネルティア「なに!?私のマシュマロンをデッキにだと!」 ライトレイ「これでお前を護るモンスターはいない!」 十也「いっけー!ライトレイ!」 ライトレイ「ライトレイ・グレファーでダイレクトアタック!」 ネルティアLP1200→0 ネルティア「そんな……私がぁぁ!!」 ツバメ「やったわね!」 膝をつくネルティア ネルティア「私がまけた……そんなバカな世界の統率者になるはずの……私が…」 まるで生気のぬけた人形のようなネルティア ライトレイ「負けたとたんこの変わりようかよ」 十也「感情の起伏が激しい奴だ」 ウルズ「十也!」 十也「ウルズ!それにみんな!」 ウルズたちが合流する 結利「ネルティア!?なんで!」 アポロニウス「彼女がここにいるということは……」 ツバメ「えぇ。彼女がNよ」 ボルケーノ「なんだって!こいつがN!しかも女だったのか!」 ツバメ「さぁあなたには聞きたいことが山ほどあるわ。一緒にきてもらうわよ」 ネルティア「……」 結利「どうしちゃったの?ネルティア?」 十也「それが……」 十也が状況を説明しようとしたそのとき! ???「フフフ……彼女は私たちの中でも最弱……」 ???「旧人類ごときに負けるとは面汚しよ」 2人の人影がネルティアの後ろの方から近寄ってくる 十也「だれだ!」 現れた人物。以外それはなんと! アポロニウス「こいつらは!」 ツバメ「どういうことなの!?」 ボルケーノ「こいつと同じ顔だぞ!」 ネルティアだった。いや2人のネルティアが新たに現れたのである 結利「ネルティアが3人!?」 先ほどまで戦っていたネルティアが後ろを振り向く ネルティア「な、なんだお前たちは!?何故私と同じ顔をしている!これは一体……」 ???「どういうことなのかな?」 新たに現れたネルティアの後ろから仮面をつけた人物現れる。その仮面と格好はNのものとまったく同じだ ツバメ「なっ!Nと同じ格好!」 十也「どういうことだ!?」 ネルティア「なにがどうなっている!だれだお前は!何故Nの服と仮面を持っている!」 仮面の人物は答える N?「ネルティア~。まさか君が負けちゃうとはねぇ。本当に情けないよ。君は一番のお気に入りだったんだけどね」 ネルティア「なにを言っている!お前は……」 N?「君はまだ状況がわかっていないみたいだね。単刀直入に言おう。君は僕の人形だったのさ」 ネルティア「私が……人形…だと」 ボルケーノ「どういう意味だ?」 N?「言葉どおりさ。お前はハイ・ヒューマンの試験体だよ。自分がNだと思っていた哀れな人形さ」 ネルティア「う、嘘だ!私は人間だ!この世界を統率する……」 N?「しつこいねぇ。君は散々ウルズたちを壊れた人形扱いしていたけど、壊れた人形は君のほうだったんだよ!」 ネルティア「しょ、証拠はあるのか!私がにんぎょうだと!」 N?「うん。すぐわかるよ」 ネルティア「なに?」 ネルティアの体から黒い煙があふれる ネルティア「そ、そんな!」 アポロニウス「これは!」 ボルケーノ「アレジェーネたちと同じだ!」 N?「ハイ・ヒューマンは肉体をDEで構成されている。決闘により活性化する肉体。だが敗北はDEの肉体細胞の結合力が極端におちそのまま無に帰する。これがハイ・ヒューマンの特徴だよ。お前も知っているだろ?私がそういう記憶に造ったんだからね」 ネルティア「そ…んな私は……くそぉぉ……!」 ネルティアは霧散し消滅した ウルズ「お前が本物のNなのか?」 N?「そうだよといっても君たちに命令を下していたのはネルティアだけどね。僕がこうしてこの姿で舞台に出てきたのは始めてだね」 ツバメ「じゃああなたはネルティアに命令を与えて……」 N?「いいや。僕は何もしていないよ。僕はネルティアをつくっただけ。他の事は全部ネルティアが考えてやったことだよ」 アポロニウス「ならばソナタは一体何のためにこのようなことを?」 N?「そんなの面白そうだからだよ」 ライトレイ「はっ?なんだと?」 あまりに衝撃な答えに唖然とする一同 N?「だって答えがわかっている問題なんてつまらないでしょ」 十也「お前本気で言っているのか!お前のせいでどれだけの人々が犠牲になったと…」 N?「そんなのわかるわけないじゃん。それとも十也君は今まで決闘獣に殺された人の数をかぞえてたのかな?それはそれでドン引きだよ」 十也「ふざけやがって!」 N?「そもそもさぁ面白そうだからって理由でやっちゃいけないなんてことあるの?常識で道徳で倫理でちゃんと説明してくれよ」 ツバメ「異常だわ。こいつ」 ライトレイ「あぁ。とんでもないゲスやろうだ」 N?「ゲスやろう?あ~そんなに僕をいじめないでくれよ!興奮しちゃうだろ!」 ボルケーノ「なんなんだこいつ……」 ウルズ「だがこいつの技術力はヤバイ。ふざけた奴だがあなどれないぞ」 N?「そんなに警戒しないでよ。じゃあ警戒しないように仮面を外してあげよう」 仮面を脱ぐN アポロニウス「!?」 ツバメ「えっ!」 ボルケーノ「あんたは!」 ライトレイ「嘘……だろ」 結利「なんで!?」 ウルズ「お前が……Nだったのか!?」 十也「どういうことだよ……なんであんたなんだよ!」 N?「びっくりしちゃってどうしたんだい?これならみんな話しやすくなると思ったんだけど」 仮面の下の素顔。それは彼らのよく知る人物だった。 十也「ネオ!」 to be continued
https://w.atwiki.jp/konatsuka/pages/112.html
期末テストも終わって、私とつかさはいつものように二人で一緒に帰ってるところ。 かがみもみゆきさんもそれぞれ用事があるので私たちだけになったんだけど。 話題はクリスマスの予定になって。 「こなちゃんはクリスマスに何か予定あるの?」 「あー…ごめん、つかさ。私ちょうどその日バイトなんだよー」 「あう…そうなんだ」 「この日は特によくお客さんくるし、私だけ休むわけにはいかないんだ。本当ごめん」 そう。 商売柄、特にこういう時期にはお客さんがたくさんやってくる。 私ももうあの店で働いて長いし、結構それなりの役職に就かせてもらってるから、この肝 心なときに休むわけには行かないんだ。 …本当つかさには悪い、って思ってるよ。 「じゃあさ」 落ち込んでるかな、と思って隣のつかさを見上げたのと同時に。 「こなちゃんのお店、私も行っていい?」 Happy Merry Christmas,Sweet Lovers 大丈夫なのかな。 コミケの時のがトラウマになってるっぽいから、似たような人たちが集まる秋葉のコスプ レ喫茶なんかに、つかさ一人で行けるのかな。 まぁ、人口密度的にはあの時ほど酷くないけどね。 それに。 前にかがみとつかさとみゆきさんとでお店に来てくれた時も、いきなりカメコに写真撮ら れたらしいし。 しかも、今度はつかさ一人。 …心配だよ。果てしなく心配だよ。 でも。 「いつかみたいにかがみもみゆきさんも一緒に?」 と言おうと思ったけど。 大事なイヴの日に、恋人を置いてバイトするっていう負い目が先に立ってしまって。 いいよね、いいよね?なんて目キラキラさせながら見つめられたら。 結局言うに言えなくなっちゃったんだ。 つかさはいつもは天然でぽやぽやでお人よしなんだけど。 いざ、こうする、って決めた時は本当に押しが強い。 …毎度毎度押し負けてしまう私も私なんだけどさ。決して嫌じゃないけどね。 なんてうだうだ考えてる今この時は、これからお店に入る直前。 いけないいけない。 つかさが家のパーティ終わらせて店に来るまでは、きちんと働かないとね。 「…コナタ?」 「な、何?パティ」 「キョウはツカサとのDateはイイのですカ?」 「ん…つかさが来てくれるって」 「Oh!だからキョウのコナタはキもソゾロなのですネ?」 どこでそんな日本語覚えてくるのさパティ。 にしても、そんなに集中できてないのかな?私。 「キョウのコナタはヘンでス」 「ど、どうしてさ?」 「だって、Sweet loverにアエルというのに、ゼンゼンウレシソーじゃありまセン」 やっぱり、顔に出ていたんだろうか。ってか、その部分だけネイティヴ・イングリッシュ で言われるとものすごく恥ずかしいんだけど。 「Dance timeだって、コマカいところマチガエてました。そう…Anxietyでもあるのデス カ?」 「あ、あんざいえてー?」 「ソーリー、シンパイゴト、っていうイミでス。キユー、ともいいますネ」 「パティは鋭いね」 隠し事しててもしょうがないので、素直にうなずいておいた。 さすが、日本(のオタク)文化に惚れて来日しただけのことはあるよ。日本語が上手なこと も含めてね。 「ワタシとコナタのナカじゃありませんカ!ソーダンゴトがあるなら、イってクダサ イ!」 「わ…ちょ、ちょっとパティ?」 いつになく真剣な眼差しで、長身をかがめて私に視線を合わせて。 ってか…力になってくれるっぽいのはありがたいんだけど、聞く人が聞いたら誤解される 発言はやめてよ。 「コナタがMerancoryだと、ワタシも、ミンナもエイキョーされまス!シンパイゴトはサ キにカタヅけておくのが、Professionalとイウモノじゃないですカ!」 「わ、わかったよ…じゃあパティ?一つ頼まれてくれるかな?」 「オーケーデス!Titanicにノッたつもりでマカセなさイ!」 The Queen Elizabethでもイイですヨ、なんて付け加えてくれたけど。 パティ… 両方とも航海初日に沈んだ船だよそれ。 で。 私がパティに頼んだことは、単純なもの。 私がつかさを迎えに行く間、穴埋めして欲しい、ってこと。 つかさが来るのは、どう頑張っても閉店1時間前程度。 家でパーティを終えて、秋葉まで電車乗り継いだら、どうしてもそのくらいになってしま う。 私は、そのちょっとした間に抜けさせてもらう。 その間の店のことをパティと長門さんにお願いしておいたのだ。 勿論、仕事は休憩時間もそこそこに目一杯やったよ。 Interlude(つかさ視点) 「つかさ?本当についていかなくていいの?」 「大丈夫だよ~お姉ちゃん。前に一度行ってるから道はわかるし」 「あんたが一度で道覚えてるって言うのが信じられないわ」 「あう…それはちょっと酷い…」 だって、こなちゃんが勤めているお店だもん。 まっすぐたどり着きたいから、一生懸命に覚えたんだよ。 多少ゆきちゃんに助けてもらったりもしたけども… ちなみに、今日の事お姉ちゃん達に言ったら。 「こなたちゃんと一緒なら心配ないわよね。遠慮しないで楽しんできなさい」 「年頃の女の子が、こんな夜遅くに出るのは心配だが…気をつけて行ってくるんだよ」 と、お母さん、お父さん。 「つかさもやるわねぇ。イヴの晩にこなたちゃんと一緒なんて」 「あんまり夜中までやりすぎるんじゃないわよー。こなたちゃんもお仕事でお疲れなんだ からね」 「こら!まつり!下世話な事言わないの!」 何を期待してるんだろうお姉ちゃんたち。…想像つかないわけでもなく…いや、寧ろあわ よくば…なんて…あああー、想像しちゃったら凄いことになっちゃったよぉ! で。 理解ある家族に見送られて、最後はお姉ちゃん。 「頑張ってくるのよ」 「うん!」 何をだろう、なんて深く考えないで返事しちゃったけど。 行ってきまーす、って家を出る間際に。 妙にニヤニヤしてたお姉ちゃんが見えて。 …慌てて走って。 駅に着く頃には汗かいちゃったよ。…走ったから、というだけじゃない汗もだけど。 こなちゃん、今どうしてるのかな…お店、忙しいよね… でも、やっぱりイヴの夜だし会いたいよ。 Interlude out さて。 そろそろつかさが着く頃合かな。 お客さんの入りは…閉店間際だけどやっぱりこの日だからか、まだまだ盛り上がってる。 次のショータイムまでには戻らないとね。 「パティ」 接客から戻ってきたパティに、小声で呼びかける。 「オーケー。マカせといてくださイ」 何も言わないうちから、親指をぐっ、と立てて。 本当に頼もしい友人を持ったなぁ。私。 すぐ戻るよ、と言って店を出る間際。 何かパティが長門さんと話してるのが見えた。 「ワカってますネ?ナガト」 「…問題ない。私もその試みは非常に面白いと思う」 試み? 何を企んでるんだろう、パティ? まぁいいや。今迎えに行くからね。つかさ。 お店を出て、通りを一直線。 駅まで歩いても10分とかからない距離だ。 それを私は。 お店のサンタ衣装のまま、通りを走っていた。 「…こなちゃん?」 程なくして、あっさりとつかさを見つけた。 私の格好を見て、目を丸く見開いて。 「お仕事は?」 「ちょっとだけ、抜け出してきちゃった。つかさを迎えに行きたかったから」 「こなちゃん…」 「ふふ、ここでロマンティックに抱き合うのもいいけど…もう最後のショーまで時間がな いんだ。ドタバタして悪いけど、すぐ店に戻らなきゃ」 と、つかさに手を差し出して。 「うんっ」 つかさは、いつもの笑顔で、その手をしっかりと握ってくれた。 店に戻るまで、ずっとその手は離さなかった。 そして。 店の前に立つ。 「んじゃ、私は控えで準備してくるから、パティが出迎えてくれるはずだからそれまでゆ っくりしててよ」 と、ドアを開けた。 その瞬間。 パンッ!パパパンッ! 「うわわっ!」 きっと両手で数えても指が足りないほどの破裂音に出迎えられた。 面食らってる私とつかさに、 「Happy merry Christmas!Sweet Lovers! Surprise!!」 このネイティヴな英語…そんな流暢に英語を話す人間は、少なくともこの場には一人しか ありえない。 「「「「「「「「サプラーイズっ!!!」」」」」」」」 しかも。 いつの間にか、どうやって懐柔したのか、お店のお客さん全員がパティに習ってサプライ ズの大合唱だよ。 私、パティにそこまでしてくれって頼んだ覚えないんだけどな…って私が最後に聞いたア レか。 合点はいったが、言葉が出ない。 それはつかさも同じらしく、驚きのあまり固まってる。 そこへ。 「パトリシア・マーティンは、貴女のためにこのサプライズを短時間でお客全員に提案し た。…正しくは、貴女達のために。今夜、最後のショータイムは貴女達のためのもの。気 に掛ける必要はない」 長門さんの、端的な、それでいて詳細な説明に。 「ありがとう。長門さん」 先に言葉を返したのはつかさだった。 「…礼を言われるほどの事ではない。先ほども言った通り、これは貴女達へのお祝いであ り、日頃お世話になっている泉こなたへの思いも込められている」 つかさの無邪気そのものの笑顔に、長門さんもちょっとだけ赤くなってる。でもつかさは 私のだよ。 …ってか、私の方が物凄く赤面モノだよ。 パティめ~…こういう事だったのか… 「What's happened?コナタ?いつまでもスミっこにいたら、ハナシがススみません ヨ?」 こう言う時だけわざとらしく英語使わないのパティ。 「こなちゃん真っ赤だよ?」 「あう…じゃ、入ろうか、つかさ」 「うんっ」 店の中では、 「くぅ…こなたちゃん…」 「こんな可愛い子が恋人だって言うなら、いいさ…俺は潔く諦めるさ…」 なんて、お客さんの声が聞こえてきて。 あそこまで大々的にしなくってもよかったのに。嗚咽まで聞こえてきてるよ。 「Hi!ミナサン!このセーなるヨルにシメっぽいハナシはヤボというものデスヨ!キョウ はようこそ、ツカサ。ヘイテンまであとちょっとデスけど、タノしんでクダサイ。コナ ター!Let's show timeネ!」 勢いというか、パティの人徳というか。 さっきの余韻が覚めやらないまま、私はパティに最後のショータイムに出るべく、裏へ引 っ張られた。 閉店後。 お客さんがみんな帰って、後始末と掃除を終えて。 その間つかさを外で待たせてしまってて。 外寒いから店の中で待ってていいよ、と言ったんだけど。 「こなちゃん達の邪魔しちゃ悪いから」 って言われて店の階段で待っててもらってた。 「いかがでシタカ?ワタシのサプライズ・プレゼント」 「…まさかパティがそこまで策略家だったなんて知らなかったよ。私、パティの見方変わ ったかも」 「ツレナイですネ?おキにメしませんでしたカ?」 「…そんな事ないよ。つかさも喜んでくれたし」 「コナタはどうでしたカ?」 「…」 嬉しくない、なんて絶対にない。 でもお客さんまで巻き込まなくても、もうちょっとやり様があったんじゃないのか、なん てのは。 「ワタシ、コナタのコト、スキデス。でも、それはLoveではナく、Friendshipですヨ。だ から、コナタにヨロコんでホしくて、シュクフクしたかったのデス。ツカサと、コナタ を」 ちょっとやり方がアレだったけども。 それもパティなりに私達を応援してくれてるんだ、ってのがわかったから。 「…ありがと、パティ」 「Mm、そのコトバでワタシ、ムクワれましタ」 そんな満面の笑みで言われたら、もう返す言葉もないよね。 「お疲れ様ー」 「コナター、コンヤはおタノしみですネ?」 「パティ!…もう…」 店を出ると、すぐつかさが出迎えてくれた。 「お楽しみ?」 なんて小首傾げながら。 直後に思い当たる節でもあるのか、真っ赤になっちゃったけど。ってしっかりつかさに聞 こえちゃってるじゃないか。 「今夜は、来てくれてありがと、つかさ」 「ううん。私が無理言ってお邪魔しちゃったんだし」 「でもね」 最初はとっても心配だったけど。 つかさに会えて、とっても安心したんだ。 「嬉しかったよ」 「こなちゃん…」 安心したと同時に、終わってから何かしんみりきちゃって。 「私、ダメな彼女だよね。イヴだってのにつかさの事置いてバイトなんて」 「そんな事ない!仕事放り出さなかったこなちゃん、すっごい偉いと思うよ!それに…こ ういう仕事だ、っての知ってるから」 「ん…でもね。私パティ達にも世話かけちゃったんだよ。なのに、皆暖かくさっきみたい に祝福してくれてさ」 「こなちゃん」 私がさっきの反省してるところに。 急に暖かい何かに包まれた。 「みんな、こなちゃんのことが好きなんだよ」 だから。 あそこまでの事をしてくれたんだ、と。 さっきパティに言われた台詞をそっくりそのままのし付けられて。 「だから、そんな皆に祝福された私は、すっごい幸せ者だよ」 なんて。 つかさに抱きしめられてる、と気付いたのは、その言葉から数秒経ってからだなんて。 だから。 遅ればせながら、私もつかさの腰に腕を回して、ぎゅ、と抱きしめてやる。 「だから、湿っぽいお話はこれで終わり。パティちゃんも言ってたよね?そんなのは野暮 だって」 だって、今日はクリスマス・イヴなんだから。 恋人同士が、聖なる夜を祝福しあう日なんだから。 夜はこれから。 とことん楽しまないと、もったいないじゃない。 その認識は、私も同じ。 だから。 「あのね、つかさ」 「何?」 「今日、うちに泊まっていきなよ」 そう。 夜はまだまだ、終わらない――― ■作者別保管庫(4スレ目)に戻る コメントフォーム 名前 コメント