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•古来、鏡を研磨するために使用されていたのは水銀。江戸時代、富山県の氷見に集まっていた鏡研ぎ職人たちを民俗学者が調べたところでは、 水銀60gにシャリキンと呼ばれる細かい砂を23gの割合で混合した「練り」とよばれるものを鏡面に塗り付け、 これを朴の葉でこすっていたという(『日本民俗文化大系14 技術と民俗 下』小学館)。 数量 一つの墳墓から出土した鏡の数で最多は、現在のところ、福岡県糸島市の平原遺跡1号墳から出土した39面。 また、その中の4面は、直径46.5cm、重さ約8kgという超大型の内行花文鏡だった。 大陸では、鏡は通常化粧道具と認識されているため、副葬品として埋納される鏡は一面、 もしくは大きさ違いを二面という場合が多い。多数の鏡が副葬されることは大変稀。 例外として多数の鏡が発掘された例としては、中国広州市の西漢南越王墓(殉葬者のものと合わせて38面)、 朝鮮半島南端金海の良洞里古墳群の162号墳(10面)などがある。 大きさ 「八咫鏡」の「八咫」の長さには諸説あるが、『釈日本紀』は八咫を六四寸(196cm)と推定、 そしてこれが鏡の円周の長さを表わすと解釈して、鏡の直径二尺一寸三分(約64cm)と推定した。 『皇太神宮儀式帳』や『延喜式』に、八咫鏡を納めている容器の直径を一尺六寸三分(約49cm)としている。 考古学調査で発掘された鏡の中で大きいのは、福島県平原遺跡の方形周溝墓から出土した 直径46.5cmの超大型内行花文鏡。 『三代実録』869年(貞観十一年)の条に、大和国十市郡椋橋山(現在の奈良県桜井市)の 川岸が崩壊し、見つかった穴に「広さ一尺七寸」の鏡があった、という記事が載る。 これは唐尺換算で約51cmの超大型鏡にあたるという。 参考文献 『日本神話の考古学』森浩一 日本神話の考古学 (朝日文庫)
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いろんな人からチョコをもらいすぎて満腹状態になってしまったシン。 シン「くっ、こうなったら保健室にでも非難して…」 かがみ「そんな時間が与えられると思ってるの!!!」←無理やりチョコを食べさせようとするかがみ シン「かがみ!?だが、お菓子を食べ過ぎたその機動性(体型)では!」 かがみ「ナドレ!!」←何故か着ていたコートを脱ぐかがみ ガシッ!! シン「なっ何だ!?かがみにこんなスピードは…」 かがみ「私専用の上着『ヴァーチェ』…10kgの重りを着けることで常にダイエット効果を得ることができる。そしてこれが、2週間前からお菓子を禁止してきた私の真の力(体型)!!」 シン「!?」 かがみ「シン、私のチョコから逃げようとするなんて……万死に値するわ!」←シンに馬乗りになってチョコを食べさせようとする シン「うわぁああ~~!!?」 ???「ニヤリ」 ドスンッ!! シン「ぐえっ!?お、重い…」 かがみ「えっ!?そ、そんなバカな。体重管理は万全だったはず…いったい何が……ハッ!!」 つかさ『お姉ちゃん。ちゃんと味見した~?』 かがみ『へっ?チョコを溶かすだけだから、別に味は変わらないんじゃないの?』 つかさ『だめだよ~チョコを溶かす温度とかで味が全然変わっちゃうんだから~』 かがみ『そうなの?じゃあ、ちゃんと味見しないと(パクパク)』 つかさ『私の作ったチョコも味見してみてよ~』 かがみ『あっ、美味しいわね。私にも作り方教えてよ(モグモグ)』 つかさ『うん!いっぱい試してみよ~…』 かがみ「まさかつかさ、あの練習はわざと……」 シン「オモイ~ツライ~チョコガデル~」 今日の00を見て思いついたネタです。 やっぱりかがみはヴァーチyあsdkfじゃ;ksd;:lkj 前 戻る
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12月11日(日) BB-JUNGLE 作戦参加者 7名 Dr.大神 M60 / H K G36C / Beretta M93R カタナ M1A1 / STURM RUGAR Mk1 雪之丞 AK47 β-SPETSNAZ / FN P-90 マルコ M4A1 松虫 MP40 / Luger P-08 ゼル P-90TR 無名の人 Kar98K 5.Proof of Honor 九戦目 引き続きセミオート戦、いい加減トンプソン持っていった 無名の人と共に竹林を進み、前線に戦闘を任せてしばし傍観する 5分ほど空と小鳥を見てアハハハ、アハハハ、と和んでメルヒェンの世界に浸っていたが、さすがに攻めるか~とジワジワと進撃 前方にギュイン!ギュイン!と、明らかにカスタムしてますよ的なメカノイズさせて前方のどこかを攻め立てている味方兵がおり、 一時隠れた時にカタナの方を見、≪コイコイ、明日に向かって、ナンバー1ンンン!!グッ≫とジェスチャーしてきた これに≪どうだいボクの力こぶ、キミの瞳にバッチコーイ!≫とか適当に返してやろうかと思ったが、 よくよく考えてみるとあれは≪こっち来てくれ、あそこの陰に一人いる、OK!?≫の説が濃厚なので自粛した 危うくソッチ系の人だと思われるトコロだった しかし悲しいかな、”あそこの陰”というのがどこなのかカタナには微塵もわからなかったので、 正面に一つしか無いこの竹林でよく見かけるスノコ状の障害物目がけて適当にベシ、ベシと撃ち込む しかし今回、なぜか欠片もHOPの利かないので砲丸投げのごとく角度をつけて撃ち込むが、だんだん悲しくなってきた 突撃して強引に射程圏内に捕らえようかなーとか思っていたら、 さっきのアグレッシヴな(カタナの身勝手な解釈だが)ジェスチャーをしてきた味方兵が 匍匐で接近しようとしてたので、彼に任せた方が確実だなぁと一生懸命援護をベシベシ 暫く撃っていたら、障害物の陰にいた敵兵が昇天、一応カタナも撃ってはいたがMr.アグレッシヴが倒したのは確認するまでもないだろう ヒットはしていないものの、ナイスアシストに満足・・・しきれず、残弾数も少ないのでフラッグめざして進む かなり堂々と歩いていたのでもしかしたら幽霊と間違われていたのかもしれないけれども、味方にも敵にも出会わなかった そろそろフラッグかな?というあたりでようやく味方兵を一人発見 彼もフラッグ行くように思えたので、角度を変えて時間差で突撃できる位置にカタナも移動・・・ したところで味方兵はフラッグとは別方向の開けた戦場の方へ行ってしまった 一人でブッシュに潜んでジワジワ進んでいると、フラッグが見えたが、 カタナのいる位置とは別方向のフラッグ付近で別の味方兵が消滅する音が聞こえた こりゃー防衛がいるな・・・さっきあと3分コールが掛かったからもうじきタイムオーバー、だがどうしようか 己の体内時計に自信が無いので突撃のタイミングも掴めず様子を見ていると 終了?見たいな声が聞こえて敵兵がフラッグ付近に無防備に歩いてきた こいつを倒してフラッグ突撃じゃああああああ!とベシベシベシベシ撃つも、濃いブッシュに潜んでいたせいでなかなか届かず 敵兵が反撃しようとしてきたあたりで今度こそ正真正銘のタイムオーバーとなってしまった、無念 いつの間にか別れていた無名の人は、木の枝を敵の構えている銃と思って見合って時間切れという、大自然との闘いをしていたそうな 十戦目 セミ戦4回目、セミはもういいっつの臭がプンプンしているが、それは言わないのがオトナの世界 お互いに近い位置からのスタートということで開戦が早い 密林の王者たるカタナは日に当たると溶けてしまうので当然の如く森林を通り竹林へバキバキ進む ・・・そして気付けば天空からの観戦者となっていた セーフティに面した開けた戦場、マルコと松虫が味方兵達と共に仁義無き戦いをしていた 味方の援護射撃に合わせ、緑色のよくわからん貯水タンクみたいなところまで行ったところで脱落者が出てしまう つい先程一人殺ったマルコであった 「はぁ…はぁ…軍曹、自分は…ここまででありんす…ご武運を…(ガクッ)」 「寝るな!寝たら貴様はウジ虫だ、起きろマルコォォォォ!!(バキッバキッ:マルコを殴る音)」 血の涙を流しながら弔い合戦じゃあああ、とばかりに飛び出していった松虫が見事フラッグをゲットしたそうな(ちょうど見てなかった) 現場では、松虫がフラッグのホーンを何度叩いても鳴らなかったので狼狽していたところ、背後より味方兵が 「フラッグとりました、終了、終了でーす!」 とコールしてくれていた・・・だけでなく ホーンを後ろから手を伸ばしてプァーと鳴らしてくれたそうな これを受けて、松虫が大層悔しがったというのは、また別のお話 6.Successive Attack 十一戦目 さすがここはゲーム数が多い そろそろラストだから弾数無制限かな?と思ったがそうではなかった 何から何までSPLASHと全く同じというワケではなさそうだ フル戦に戻り、さっきの近いスタート位置からの開始であった そろそろ最後なんだし、開けた戦場でカタナも頑張ってみるかー、といつもの癖で竹林に行きかけた足をセーフティから丸見えの戦場へ向ける すぐ手前にいた雪之丞と松虫がカタナを視界に収めた瞬間 「カタナ、合図で前の障害物へ行け!」 オゥイエー、だがちょっと待てって、これって死にに行くようなモノじゃねぇか 「援護してやるから早く!」 それを早く言わんかぃ、崖から飛び降りろというようにしか聞こえなかったがようやく納得し、合図を待つ 「3,2,1…」 ダララララ ガガガガガガン バババババッ ベベベベベシ 凄まじい銃撃音の中、前方にあるSPLASHお馴染みの巨大木製ボビンの障害物にしゃがみ体勢のまま走り背を合わせるように突撃 勢いがつきすぎて障害物を倒して蜂の巣になりそうだったがどうにかこらえて、敵陣方向へ一掃射 「よーし、どんどんいくぞー、もう一回!」 「ちょっ!!!待っ!!コラ!!マグチェンジさせ!!!」 焦りまくりだったが言いたい事は伝わったようだ これと同じような事を3度ほど繰り返し、最後の緑色のタンクまで辿り着いた・・・ 瞬間に隣にあった小屋の裏に潜んでいた敵兵に狙い撃たれ、カタナは下半身が吹き飛び苦しみ苦しみ、苦しみ抜いて自縛霊となった 後々話を聞くに、カタナの取り付いた位置が悪かったそうな 実は援護組の中に会長もおり、G36Cをぶっ放していたのであるが、 バッテリー切れだか弾詰まりだかで発射できなくなってG36Cをはたいていたとか 「ガッデム」とか言って(それは嘘) 更にカタナを殺した敵兵と正反対の位置にゼルもいたようで、 それに気付いてなかったカタナは竹林側から撃たれやしないかと心配で気が気ではなかった その後、小屋に突撃した松虫はカタナを殺した兵士に小屋の壁の上から撃たれ、銃をぶっ放しながら倒れて大往生した だがやられっぱなしではなく、その敵兵を雪之丞が隙を見て討ち果たしたとのこと チームメイトの仇は討つのが我等が掟なり! 地獄の車窓から 「「てッ、敵だァァ~~~~ッッ!!」」 ンッン~、非常に躍動感のある一枚ですねェェェェ 二人ともカモフラがカモフラしてる一枚 やっぱり迷彩って溶け込むのね、と思ったカタナであった 「3,2,1…」で進撃中(雪之丞サイド) すっご~くわかりにくいが、左側に低姿勢でいるのはマルコではなかろうか ピクセルカモ着てる人ってそうそういないからマルコ説が濃厚 「3,2,1…」で進撃中(松虫サイド)} 実はこれは「覇極道ゥゥゥ!!」と叫びながら スライドタックルしているのだ(c)WORLD HEROS2 このサイト内でいい絵がとれている銃No.1ではないかと言われているβスペツナズがここでも一歩リード この段階ではそこそこ隠れている雪之丞と無名の人 だが、この後に衝撃の事実が明らかにッッ! 現ドイツと旧ドイツ対決の火蓋が切って落とされる! 十二戦目 大分薄暗くなってきており、これがラストゲームだということであったが、 毎度毎度帰るのが遅い我々は参加せずに帰り支度をするメンバーもチラホラ ということでカタナも観戦しながら片付けをしていた さっきとは逆方向へ攻めていたのだが、マルコが突っ込んだ拍子に体勢を崩して木のようなものに手をついて身体をビクッとさせていた んー、手でも痛かったんかなー?と見ていたら、軍手をとってくれとセーフティのカタナに向かって言ってきたので、ブン投げた が、貧弱なカタナの力では届かず・・・というか、近くまで寄って投げりゃ良かったと思いながら見ていたら、 会長が掃射しながら滑るように軍手をかっさらい、マルコへパスした 別にヒットを奪ったワケではないが会長ナイスパス、と心の中で拍手 実はマルコ、この時に手をついた時に錆びた鉄釘が掌に刺さって流血モノの怪我をしてしまっていた 陸自ーズ(勝手に命名)に囲まれて メンバー達だけでなく、同チームの兵士達と共に 即席連携を組むのもサバゲの楽しみの一つ 会長の両サイドにいるグラディウスのオプション達陸自ーズが 本職かどうかは置いといて (割と近くに駐屯地がある)、この写真の見るべき点は 会長ではなく下の人の六四式であるのは言うまでもない(コラ) 今回、新フィールド・新メンバー・新装備と、新しい物ずくめであったので色々と不安であったが、 各自新たな発見があったり無かったりなんじゃないだろうか ゲーム数が多いので凸凹より無茶もできたように思える反面、凸凹慣れした感覚だとうまく戦えないという点もあった 広いフィールドと狭いフィールド、それぞれに応じた戦い方を覚える必要があるかなー、と 今回の戦果 Dr.大神 殺戮数0 新入メンバーに負けぬよう、急いで感覚を取り戻していきましょう カタナ 殺戮数3 出オチ野郎の汚名は免れた成績だが、良くもなく悪くもなく 雪之丞 殺戮数2 そこまでKill数に反映されてないが、身体能力の高さを生かして今後の更なる活躍を期待 マルコ 殺戮数3 ブランクからか、全盛期程の活躍は見られず・・・メンテして銃と共に復活してくれ! 松虫 殺戮数2(4?) フラッグゲット1 初電動のMP40は期待通りの活躍を見せてくれたか、フラッグゲットの勲章をGET ゼル 殺戮数4(6?) 初参戦にして殺戮キング、今後が楽しみな将来有望兵士 無名の人 殺戮数0 観測手は己だ、スナイパーは敵を見つける目を養うと良いかと
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事件! 王女と盗賊……そして青銅 その③ 三十メイルはあろうかという土のゴーレム。 その手にルイズが掴まっているという事態に承太郎とギーシュは遭遇した。 このゴーレムは何なのか、目的は何なのか、メイジはどこにいるのか。 疑問はあったがルイズは今にも絞め殺さようとしている最中であり、迷っている時間もためらっている暇も無く承太郎は即断した。 ルイズは承太郎の『腕』の力を知ってはいたが、『腕』だけでこの巨大なゴーレムに太刀打ちできるとは思っていなかった。 「ジョータロー! 無理よ、あんたは逃げ――えっ!?」 地面がめり込むほどの勢いをつけて、承太郎は跳び上がった。 一瞬でゴーレムの腕の高さまで来ると『腕』を出してルイズを握る指を殴る。 「オォォォラァッ!!」 ボゴンと音を立てて指が粉砕し、承太郎はルイズを『腕』で引っ張り出す。 そしてルイズを生身の肉体でしっかりと抱きしめると、地面に着地すべく飛び降りる。 だがゴーレムが足を振り上げて二人を狙う。 空中では動きが取れないため、咄嗟に『腕』を身体の前でクロスさせて防御する。 強烈な衝撃により承太郎とルイズは塔の外壁に吹っ飛ばされた。 「スタープラチナ!」 ゴーレムの蹴りを防いだように壁への衝突を『腕』で防ぎ、壁の表面をずり落ちる。 「ジョータロー! ルイズ!」 慌ててギーシュが駆け寄ってくると、承太郎はギーシュの目を見、抱いていたルイズをギーシュに向けて突き出した。 「ルイズを連れて逃げろ」 「どうする気だ、ジョータロー!」 「奴が何者かは知らねーが、このまま放っておく訳にもいくまい」 「無茶だ! いくら君でも――」 再び承太郎は人間とは思えない速度と高さの跳躍をしてゴーレムに迫った。 承太郎の本当の実力がどの程度のものなのか知らないギーシュは、不安と希望を同時に抱いていた。 だが、自分より前に出てルイズが杖を構えている事には不安を通り越して危機感を抱いた。 「何をする気だルイズ! 奴を挑発するな!」 「うるさい! 目の前に賊がいるっていうのに、逃げる訳にはいかないわ!」 「ジョータローが逃げろと言ったろう!?」 ギーシュがルイズの右腕を掴むと、頬に平手が飛んだ。 「邪魔をしないで!」 怒りのこもった言葉にギーシュは口ごもってしまい、 その間にルイズは杖をゴーレムに向けてファイヤーボールを唱えた。 ゴーレムは巨大だった。あまりの質量を前に、承太郎はメイジ狙いの戦法を選ぶ。 どんなにゴーレムが強かろうと、メイジは生身の人間。 ようするに巨大な土人形のスタンドを操るスタンド使いと戦うようなものだ。 ルイズを助けた時のようにスタープラチナの足で跳躍し、一直線にフーケ本体へ。 だがフーケは承太郎を近づけまいとゴーレムの腕を振るわせる。 しかし遅い! 手が承太郎を捉える前に、承太郎がフーケを捉える! そうなろうとしたまさにその瞬間! 轟音ッ! ルイズの魔法が狙いを外れ、塔の外壁で爆発を起こしたのだ! 「ぬうっ……!」 「えっ!?」 突然のアクシデンド。承太郎もフーケも爆風から身を守らねばならなかった。 ここで空中にいた承太郎と、ゴーレムの肩にいたフーケの差が生まれる。 フーケはゴーレムの身体にしがみつき、かがんでいればよかった。 だが承太郎は爆風によりバランスを崩し、爆煙で視界をふさがれてしまった。 「オラオラオラオラオラッ!」 爆煙の中スタープラチナの拳がうなるが、爆発のショックでゴーレムが傾いたせいで、拳の狙いがそれ空を切ってしまった。 「くっ、何が起きて……えっ? 宝物庫の壁が……!」 フーケは承太郎の攻撃から逃れられた事と、宝物庫の壁に今の爆発でヒビが入った事、この二点に気づいた。 ニンマリとフーケは笑い、さっそくヒビの入った壁をゴーレムのパンチで粉砕する! さらなる轟音が鳴り響き、承太郎やルイズ達の頭上に瓦礫が降り注ぐ。 「うわっ、あ……!」 ギーシュは身をすくめ、瓦礫が自分に当たらない事を祈った。 だが『自分に当たりませんように』と願いながら見上げてみれば、人の頭くらいの大きさの瓦礫がこちらに――目の前のルイズの頭目掛けて落ちてきていた。 「ルイズ! 危ない!」 咄嗟にルイズを突き飛ばした直後、ギーシュは背中に強い衝撃を受けて転倒した。 視界がガクンと揺れ、それでもピンクの髪は目立ち、ルイズがどこにいるかは解った。 「うっ……ギーシュ? ギーシュ!」 ルイズが慌てて振り返る。ギーシュはうつぶせに倒れたまま動かない。 最悪の予感がルイズの脳裏をよぎった。 だがすぐにギーシュは顔を上げ、薔薇の杖を掲げ、花びらを舞わせた。 「えっ?」 ワルキューレが七体ルイズの前に出現し、スピアを構えた。 フーケは宝物庫に飛び込みながら、承太郎を危険視し、狙いのお宝を盗み出すまでの間の時間稼ぎをすべく、すでに行動を起こしていた。 ピンクの髪はよく目立つ。 すぐに狙いをつけてゴーレムの足で踏みつけようとした、だが一体のワルキューレがルイズを担いで逃げ出す。 「なっ、何するのよ! 放して!」 ワルキューレを操っているのがギーシュであったため、ルイズは激昂して抵抗した。 そうこうしてるルイズの後ろで、もう一体のワルキューレが何とか逃れ、残り六体のワルキューレはいっぺんにゴーレムに踏み潰された。 ルイズを担いだワルキューレは、地響きによって転倒しルイズをその場に放り出してしまう。 「キャアッ!」 地面を転がって、ルイズはギーシュのすぐ隣に仰向けになって倒れ込んだ。 「ううっ……」 ルイズの視界の中、土ぼこりで汚れきったギーシュがよろけながら立ち上がる。 「ルイズ。君は『薔薇になぜ棘があるのか』知っているかい?」 こんな時に何の話を、とルイズは心の中で毒づく。 薔薇の造花、己の杖を構えながらギーシュは高らかに言った。 「それは『女の子を守るため』さ!」 ルイズを助けようとしたため被害から逃れたワルキューレが、ゴーレムの足にスピアを突き刺す。 だがゴーレムは何て事ないといった風に足を上げてブンブンと左右に振り、まるで虫けらのようにワルキューレを振り飛ばした。 ギーシュが一度に出せるワルキューレは七体、もうワルキューレは出せない。 それでもギーシュは一歩踏み出し、ルイズとゴーレムの間に立つ。 「何やってんのよ! 殺されるわよ!?」 「ルイズ、どうしよう。もう魔法を使うどころか、立ってるのがやっとだ……」 「ギーシュ!」 ルイズは立ち上がり、杖を構えた。もう一度、失敗でもいいから爆発を起こしてやる。 今度は狙いを外さない。 狙いは、今にも自分達を蹴り飛ばそうと振り上げられているゴーレムの左足。 だが詠唱する暇が無い、と思い知らされる速度で左足が迫ってきた。 あまりの巨大さに、一発食らえば中庭の外まで吹っ飛ばされてお陀仏だと瞬間的に理解する。 死ぬ。死んでしまう。 ルイズもギーシュもそう確信し、死の恐怖に心を震わせながら、瞳は、瞳は確かに『それ』を見ていた。 圧倒的質量を持って迫る『死』という存在の前に回りこんだ『黒い影』を。 黒い帽子、黒い髪、黒い服、黒いズボン。 空条承太郎! 195サントある承太郎の身長だが、それに匹敵するゴーレムの爪先。 土のゴーレムといえどこの速度この質量、受け切る事などできるはずがない! 承太郎の学ランが、強烈な風圧を受けてはためいた。 「オオオオオオッ!」 身動きの取れないルイズとギーシュを背後に、圧倒的破壊力を持つゴーレムの左足を前に、承太郎は吼えた。 その声は闘志に燃え、ルイズとギーシュの恐怖を吹き飛ばす! 「オラァッ!」 バゴンッ! 承太郎の右腕から出た『右腕』がゴーレムの爪先の先端を吹っ飛ばす。 「オラァッ!」 ドゴンッ! 承太郎の左腕から出た『左腕』がゴーレムの爪先をさらにえぐる。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」 左右の拳が残像を残すほどの速さで猛烈なラッシュを繰り出す! その一発一発がギーシュのワルキューレを容赦なく粉砕する威力! 鉄よりも脆い土のゴーレムは強烈なラッシュに、爪先から踵まで真っ二つに粉砕する。 左右を通り抜ける巨大なゴーレムの足の迫力にルイズとギーシュは驚きながらも、それ以上に承太郎の『腕』の力強さに驚嘆する。 そしてついに三十メイルあるゴーレムが尻餅をついて倒れ、地響きを起こした。 三人を囲うように舞う土ぼこりの中、承太郎は学帽を深くかぶり直しながら、こちらを振り向いて『終わった』と言わんばかりの態度を取った。 「やれやれだぜ」 承太郎の口癖。それはまさに『勝利宣言』のようにルイズとギーシュは感じられた。 「た、助かったぁ~……」 安堵のため気が抜けてしまい、ギーシュは情けない声を上げてその場にへたり込んだ。 土と冷や汗でよごれ、瓦礫で負傷し、ボロボロになってしまったギーシュ。 とても『薔薇』とは呼べないその姿を見つつ、承太郎は静かに声をかけた。 「……ギーシュ。おめーが奴に立ち向かわなければ……間に合わなかった」 「は、はは……もう二度と、こんなのはゴメンだよ……」 疲れたような口調ではあったが、表情はやり遂げた男だけが見せる頼もしさがあった。 そんな彼を見て、ルイズは震える唇をギュッと閉じる。 ――最低最悪の侮辱をしたギーシュが、命懸けで自分を守ってくれた。 それだけは揺ぎ無い事実であり、彼の勇気を賞賛し、感謝せねばならないものだった。 だが、感謝の言葉が出てこない。 つまらない意地を張っているのか、ギーシュを認めたくないのか、何も言えない。 正真正銘命を救ってくれた承太郎に対してもルイズは同じような気持ちだった。 自分が何とかしようと魔法を使ったら、失敗して、承太郎の足を引っ張ってしまった。 そしてギーシュに助けられ、承太郎に助けられる自分。 『こうでありたいという自分』と現実のギャップが痛々しく小さな胸を絞めつける。 「ところでギーシュ、メイジがゴーレムを操れる『射程距離』はどの程度だ?」 「メイジの技量にもよるから正確には言えないけど、 あのゴーレムを操った奴はまだ近くにいると思う……」 「となると……塔の中か?」 ゴゴゴゴゴゴ……。 ポッカリと穴の空いた塔の外壁を睨みつけた承太郎は、そちらに向かって跳ぼうとする。 しかし視界の端で起きた変化に視線を向ける。 丁度土のゴーレムの足が修復完了した瞬間だった。 「何ッ……!?」 ゴーレムは即座に立ち上がると、再び塔の外壁に手を伸ばし、手のひらの上に人影が飛び移る。 ニヤリ、とフードをかぶったそいつの唇が笑うのを承太郎はスタープラチナの目で捉えた。 その笑み、まるで「足手まといのお世話ご苦労様」と言わんばかりに嫌味たっぷり。 「野郎ッ……!」 一気にゴーレムの手に跳び移って本体を叩こうかとも思った承太郎だが、今はルイズとギーシュという怪我人を抱えてしまっている。 下手に動けば、またこの二人を狙われるだろう。迂闊には動けない。 そんな承太郎をあざ笑うように、フーケはゴーレムを動かした。 学院の外へ向けて。 承太郎が追いかけようとすると、頭上に青い影が見えた。 タバサのシルフィードだ。 ようやく品評会会場の連中が騒ぎに気づき、機動力のあるタバサが一番に駆けつけたらしい。 タバサはシルフィードに乗って空中からフーケを追跡する。 承太郎も走って追いかけようとしたが、さすがに三十メイルのゴーレムとは歩幅が違いすぎた。 後ろからゾロゾロと学院関係者や警備の連中も駆けつけてきたので、スタープラチナの足で跳躍を繰り返して追う姿を見せる訳にもいかない。 「やれやれ……あのゴーレム、一部の特性がザ・フールに似ているらしい。 土と砂の違いか。奴を追うのはどうやらあのドラゴンに任せるしかねーようだな」 しかし、学院から離れた位置でゴーレムは崩れ去り、その場にフーケの姿は無かった。 その旨をタバサから報告されたオールド・オスマンはどうしたものかと悩むのだった。 そして宝物庫に残された書置きから、盗賊は土くれのフーケだと判明。 こうしてこの事件は一時の小休止を得る。 盗賊、土くれのフーケによる『破壊の杖』の盗難と逃亡。 アンリエッタが品評会を観覧しに来たため、学院の警備を王女に割いてしまった責任。 このふたつが今後解決せねばならない問題である。 ルイズは宝を守れず賊を逃がした事をアンリエッタに詫びたが、アンリエッタは警備を割かせた自分にこそ責任があり、 王宮に報告しなければならない事を伝え……ルイズの心は痛んだ。 最悪、アンリエッタの責任問題になりかねない。 不幸中の幸いというか、ゴーレムに握り潰されそうになったルイズの負傷は軽く、特に治療しなくても少し休んだ程度で普通に動き回れるようにはなった。 だが青銅のギーシュの負傷は重く、ルイズをかばって複数の瓦礫に当たったのか、打撲だけでなく一部の骨にヒビも入っていたようであり、衛兵が駆けつけると安堵したのかすぐ気を失い、水のメイジによる治療を受けねばならなかった。 おかげでルイズはまだギーシュに何も言えないでいるが、自分の気持ちの整理もついていないので、話せる状態でもきっと何も話せなかったろう。 そして翌朝――土くれのフーケと遭遇したルイズと、追跡を試みたタバサが、オールド・オスマンに学院長室へ呼び出された。
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ひなとさん (@hntxx) 絵師さん一覧 / コヒメさんBDのときのやつ... で、これがバレンタインのときにコヒメさん以下略
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作品紹介ページ 設定紹介バナナな人 +まだ秘密ー♪ 「むにゃ……ふにゅ……」 実に気持ちよさそうな寝顔だ。 肩から提げていた通学カバンをそっと床に下ろして、僕はその顔に注目した。知らない顔だ。そもそも部屋の主に何も言わずベッドを支配するような知り合いはいない。知り合いの数自体が少ないけれど。 突然の来訪者は誰なのか、確かめる必要がある。そう思いゆっくりとベッドに近づいていく。 僕のベッドは低反発な素材の表面で、内部にはスプリングが入っている。ちょっと座り込んだだけでギッ、というスプリングの沈み込んだ音がする。このベッドの素材に文句はないが、いつも思う。スプリングの音はやたらと耳に響いてウザったらしい。 僕がベッドに座ったことで例の支配者は起きるかなとも思ったが、予想に反してそいつは実に幸福な睡眠をしているらしい。 バカみたいに鼻ちょうちんまで膨らませているし。 さて、本来の調査に入ろう。気になったところから観察することにする。 まず、女の子だ。 顔の見た目、頬のぷにっと感、体格、腕の質感、どれをとってもこれは女の子だろう。 調べている間、特に起床する気配はない。やはりと思うが、この女の子は鈍感なんだろう。 髪の毛は金色で短めだ。ただし、少し余っている部分を後ろで縛っている。少しボサっとした様子も見受けられる。きちんと整えていないのかもしれない。 そんな髪の毛を主張させるかのように重量感のある黒い服装も、なんというか寒そうな服装だ。首から肩にかけて肌が見えているし、足もふくらはぎまでしか覆っていない。いくら春だと言っても今年の気温はまだ少し肌寒いことも多い。思うに女子という生き物はなぜあのように足を露出できるのだろうかと問いたい。夏以外はたいてい長袖の僕にはわからない事情でもあるんだろうか。 「すぴー……」 今はこの女の子について調べているんだった。 しかし、どうしようか。 「……羽」 女の子の頭部、そして背中に気にしてほしいと言わんばかりの黒い羽がついていることについて。 無視するか。さっきからあえて説明から外していたのも気にしたくなかったからだし。だがしかし。 「こういうときは、ネットか」 ベッドからいったん離れてデスクに向かうと、コンピューターの電源を入れて、数秒待ち、それからインターネットを開いた。検索エンジンには当然「悪魔」と打ち込んで。 「……やっぱりか」 出てきた画像群と、ベッドの上の女の子を見比べてみる。特に違いはなかった。ということは、この女の子は悪魔ということだ。よし、ある程度調べられたな。 「本物なんだろうか」 当然、本物なら、という確証が必要だ。しかしそれならば手っ取り早いであろう方法がある。触って調べるのが一番早い。 再びベッドに戻った僕は、他の部位には目もくれずその羽の部位をこれまたやんわりと触った。 「ん、ぅ」と、触ったり撫でたりするごとに女の子は声を出した。どうやらガチの本物だ。しかし逆に興味が湧いてくるというものじゃないだろうか。すなわち、どうやって生えているか。 僕にしては珍しく、鼻息を荒げながら横向きに寝ているその女の子に覆い被さり。興奮も冷め遣らぬままに僕はその調査対象の生え際を調べようとした。が、どうも興奮のために手が落ち着かず、誤ってその根元を乱暴に握り締める形になってしまったのだった。 「ひみゃあああああああああああああああああああああっ!?」 どうやら、失敗したようだ。 僕としたことが、らしくないミスをしたものだ。家には僕だけだし別にいいか。 「ひ、あ、あ、あんた……アンタ……」 僕の下ですやすやとバカみたいに睡眠していた女の子は、今では急速な勢いでその皮膚の色を変化させている。眠っていたかと思えば赤くなっているし。思うに人というのは忙しい生きも 「いやああああああああああああああああ!」 「うご」 ドン、と僕の体を突き飛ばすと、開いていた窓からバサーと音を立てて飛び立って、すでに暗くなりつつある空へ消えていってしまった。 ベッドの上から転げ落ちてしまって結構な勢いで背中を打ち付けた僕は、少々痛みを感じながらも立ち上がり、女の子の消えた空を見つめる。 「…………寝るか」 もともと寝るつもりだったのが、色々と時間がかかってしまった。まぁ、眠れるのならなんでもいいだろう。しかしあの来訪者、もしや道に迷っていたのだろうか。もしそうなら次回は別の家でもぐりこんでもらいたい。居眠り飛行をしていたために迷い込んだというのも無くはないが。今はどうだっていい。 軋むベッドの音を感じ取りながら、大きく呼吸してみた。 かいだことのない匂いが、やはり僕の知らない誰かであると、改めて知覚させるのであった。 眠い。そう思い、目を閉じた。全身にかかっていた緊張が空気中に溶け込んで、雲散するような感覚。僕の脳もそれに合わせて一時的な活動休止に入ろうとしていた。神経細胞が瞬間的に吸い上げられようとしているまさにそのとき、インターホンの無情な響きが家中に染み渡った。 「誰だ……」 誰だ、とは言ったがこの家に訪れる人物など高が知れているものだ。宅配便や新聞の人でないなら十中八九、今インターホンを鳴らしたのは彼女だ。引き抜かれそうだった脳神経を無理やり呼び込むとベッドから起き上がり一階のリビングに向かう。 一回目のインターホンが鳴ってからしばらく静かだったが、僕がリビングについたころに狙ったように二度目が鳴り出した。こいつは早々に出てやらないと面倒だな。そんなわけでさっさとインターホンのスイッチを押した。これで向こう側の人間の声が聞こえるようになる。 「どなたですか?」 「宮久地です、おすそわけにきたのですが……」 ほら彼女だ。というか、彼女以外にこの家に用のある人間など固有名詞ではいないだろうと思う。父親関連の友人が尋ねてくるなんて話もないし。 用も分かったので、僕はインターホンのスイッチを切るとそのまま玄関に足を運ぶのだった。玄関のロックを外して、扉を開けると、そこには彼女――宮久地芹奈が少し大きいお鍋を持って立っているのだった。 「なんだ、やっぱり春樹君じゃないですかー丁寧に出たのに損しましたー」 「僕は君に安眠を妨害されたんだけどね。毎度毎度おすそ分けとはほんとご苦労なことで」 そういいながら彼女を玄関の中に招き入れて扉を閉めた。というのも、外は寒いわけだし、いつまでもお鍋を持たせたままと言うのも流石にどうかとは思うからだ。 この宮久地芹奈という人間は、いわゆるお隣でことあるごとに僕の家にやってきてはこういうことをする。僕のカンだと彼女がたとえ隣に住んでいなかったとしてもこういうことをしに来る人間であろうと百パーセント読んでいるが。 「春樹君、一人でした?」 「そうといえばそうだね。父親は仕事だけど、母親は良く分からないし」 ついさっきまで悪魔の女の子がいたわけだけど。 「それより、さっさとその鍋を僕に預けたらどうだ? 重いだろうし」 「あ、うん、それもそうですね。 それじゃ渡して――え」 音としては、それは空白だった。 そして次の瞬間には大質量の物体が石のタイルにぶつかった衝撃が耳に届いたのだった。状況としては、宮久地が手渡そうとしたお鍋を落とした。ただそれだけのことだが、それだけのことにこめられた意味は何か大きいものであるということに僕は薄々気がついていた。 「宮久地?」 「は、春樹君……な、なぜそれが、君に」 それ、と言われてもいまいち把握できないが、彼女が指差した肩を指で弄ってみると、例の、悪魔の女の子の、羽がくっついていたのだった。 「これは、羽だね。だから何なのか僕には分からないけど」 「ご、ごまかさないでください! つまり、春樹君は会ったんですよね?」 さて、ココに着てさらに訳の分からないことに宮久地まで訳の分からない世界の人間だったようだ。しかしおかしいな。宮久地と僕はそれなりに長く顔を合わせてきたはずだが、そんな訳の分からない世界の人間の怪しさなんて感じなかったのに。 「……というか、ついさっきまでいたよ」 「そ、そうだったのですか!? もう、マリアは何しているんですかー!」 「そして今僕が気になっているのはマリアとやらより、君のことだよ」 ここまで普通じゃないアピールしといて、普通であるということが通るわけがないのだから。 「え、あ、ううう……それはそうですよね」 なぜか両手を組んでもじもじとしているが、僕には関係ない。さっさと真相を教えてもらいたいだけなのだが。 と、ここで何かを決めたように僕の方を向き直る。 「そ、それじゃ今から公園に来てくれません……ですか?」 「行くのはいいけど言葉が妙なことになってるよ。というか盛大に割ったお鍋はどうするの?」 「それだったらもう直ってるから、気にしないでいいですからね!」 確かに、足元で割れていたはずのお鍋が玄関の横の靴を入れる棚の上で威風を放っていた。これは、ますますもって宮久地が普通でなくなってきたな。まぁいいけど。 「じゃあ、行こうか」 そう言って僕ら二人は太陽も沈んでいる中、公園へと歩き出していた。 そういえば、僕の睡眠はどこへ行ったのだろう。まぁいいか。 「それじゃ、話します」 「どうぞ」 時刻は既に午後七時を過ぎている。だから、いかに天下の公園とはいえ、人の気配など感じられないほどに、周辺は暗闇に包まれていた。今、僕らの上を照らしているのは公園の街灯ばかりの、本当に微笑ましいくらいの明かり。 「その、私は、人間じゃないんです」 「そうなんだ」 「驚かないの?」 「いや、既にそういう予感はあったし。この世に悪魔がいることもさっき調べたからね」 まぁ、インターネットで検索掛けただけのレベルだけど。 「つまり、その、私……天使なんです!」 「へぇ、天使」 悪魔がいるくらいだし、対になる存在くらいいるのは普通か。 「あの、驚かないの?」 「いや、悪魔がいるなら天使がいるのは普通だと思うんだけど、変かな」 「ええと、変じゃないんですけど……あれ? うーん……」 宮久地はさっきからなにをそんなに悩んでいるんだろう。僕が悪魔や天使を受け入れることがそんなに変だろうか。大体悪魔を目の前で見たのだから信じるも信じないも無いと思うわけだが。 「とにかく、証明しますね! 公園に来たのもそのためでもありますし!」 そういうと宮久地は、両の手を胸のところで組むと、何事かを一言二言呟いた。そうすると、彼女の体がうっすらと発光し始めていることに僕は気がついた。 宮久地の体は、いや、体だけでない、服装も既に違っているし、何よりも僕が知っている宮久地は黒髪だったはずなのに今の彼女は銀色がかった白髪へと一瞬で染まっているのだ。そしてなにより、そんな彼女の頭の少し上で、すばらしい光沢をしているリングがぽっかり浮いている。さらには、さっきの女の子のように宮久地にも翼が生えている。違うのは、その翼がとてもふわりとした白い翼だということだ。 「宮久地……」 「やっぱり、驚きますよね。 こんな体にいきなりなっちゃったら……って、春樹君!?」 彼女の言葉を聞く前から僕は行動を開始していた。まず頭髪だ。なんていっても急に変わる髪の毛なんて見たことも聞いたこともない。さて、宮久地の髪には何度か触ったことがあるような無いような気がするがそんなことは関係ない。なんていったってこのリング。どういう理由で頭上に浮いているのか。そもそもこれは何でできているのか、気になることは多い。とりあえず手触りを確認してみた。 「あ、ああああ、ちょっ、ふやあ、春樹くん!?」 宮久地がなんか言っているが無視しよう。このまま調査を続けさせてもらう。服装の変化もすごく興味深い。今まで着ていたはずのセーターらしき服がこれまた瞬間的に何の素材でできているのかもわからないものになっているのだから。首周り、肩、脇と触っていくが、この手触りは今までに感じたことがない。おそらく、これも人間の世界にはないものでできているからこそなんだろう。 そして、やっぱりこの翼だ。あの女の子にもどういうわけかあったが宮久地の場合、突如として現れたわけだからな。こいつはもう気にするなというほうがおかしい。そんなわけで現在わさわさと僕はその翼を触っているわけだ。 「あっ、あっ、春樹、く、ん……!」 「すごいな宮久地、変わろうと思うだけでこれだけの変化をするなんて」 「待ってくだ、さ……そんな風に触っては……ひゃあ!」 それにしてもふさふさだ。あの悪魔の女の子の翼はもう少し硬い印象があったけど、やはり天使というだけあってその羽ひとつひとつがとてもやわらかい。その先端から根元のところまで。根元、つまり生え際にあたる部分はさらにすごい、血流のような温かな脈動だって感じられる。見た目がいかにこの世界の常識から外れているといえども根本的なところではあまり違いはないということのだろうか。 「い、いいかげんにしてください!!」 「うご」 と、僕はあの悪魔の女の子から突き飛ばされたように、またしても吹き飛ばされてしまった。やれやれ、僕は調べていただけなのに、やはり人というのは思うに忙しすぎる生き物じゃないかと思う。あ、しかし宮久地は人間じゃなくて天使か。 「はぁ……はぁ……と、とにかく、これで私が天使であるとわかりましたね?」 「げふ……あ、ああ、十分すぎるほどに理解できたよ」 「そうでしょうねーあんなにべたべた触ればわかってくださいますよねー」 さて、宮久地が何を言っているのか僕にはよくわからないがそんなことよりも、宮久地が天子って言うことの話は本題ではなかったはずなのだが。 「それより、もう一つ話があるんじゃなかったかな。 確か、マリアだったか」 「ああ、そうでした。 春樹君が今日会ったはずの悪魔の女の子についてお話しないといけませんね」 そういいながら、宮久地は頭のリングや背中をやたらと手で直しながら、僕に話し始めた。それにしても、翼を直すのはなんとなく髪の毛の感覚でわかるのだが、あのリングを直すのは何か意味があるんだろうか。あれの位置くらい念じたりすることでどうにかならないものだろうか。 「それで、もしも人違いだったら怖いのでもう一度、あの羽見せてくれませんか?」 「どうぞ」 僕は、ズボンの右ポケットから例の黒い悪魔の羽を取り出すと、宮久地に渡した。宮久地はそれを何度かくるくると回したりひらひらとさせたりすると、うん、と一回首を縦に振ると僕に返してきた。 「やっぱり、あのマリアのものでした……」 「ふうん、そうなんだ」 そもそも、マリアって誰なんだ。というか、悪魔にしてはずいぶんと優しそうな名前だなと僕は思った。 「それで、マリアというのは私のお友達なんですよ。この世界にくる前はそれなりに遊んでいました」 それなり、という部分が若干気になるが、まぁ許容範囲だろう。 「それで君は一足先にこの世界にやってきて、何らかの仕事をしていた。しかし、あるときになって彼女もこの世界にやってきて、それで出会ったのがこの僕だった。 そうだろう」 「……は、はい。 まさしくそうなんですけど……えーと、あれー?」 導き出される推理を言っただけなのに。いったい何をそんなに困ることがあるというのだろう。それとも彼女はこの僕が数十分にわたってうーんうーん、と頭でもひねっていろとでもいいたいのだろうか。 「うーん……まぁ、いいことにします。じゃないと私が保てません!」 と、彼女がやけに誇らしげに上に向かって宣言しているわけだが。さっぱりわからない。 「君の言いたいことがよくわからないけど、大体これで合っているんだろう?」 「ええと、はい確かにそうですー……それで、今後のことなんですが」 「今後?」 今後、と言われても特に思いつくこともないのだが。宮久地が勝手にミスをして自分が天使だとバラしたのだから、彼女が悩むことはあれども僕が悩むことはないと思うのだが。 「マリアのことですから、たぶん、春樹君にこれからちょくちょく付いて回ると思うんですよ」 「……本当に?」 「はい……」 なんということだ。また彼女を調べられるのか。 いや、そんなことより僕の睡眠がとられてしまうことのほうが問題だろうか。うん、これは悩みどころだ。そして死活問題だ。車でいうならガソリンがガソリンスタンドまで持つだろうかというくらいの問題で死活問題だ。 「悪魔というのは、人間を悪い道に引き込もうとするのが元来の仕事ですから、だから春樹君を悪い道に誘うためにマリアが追っかけてくるかなーと……」 「ふうん、悪魔の仕事か。 大体予想通りだな」 というか、インターネットに書いてあった。 「それで、大方天使の仕事って言うのは人を良い方向へと導いてやるんだろう」 「あ、あたりです……」 それもインターネットに書いてあったことだが。 「つまり、君がこの世界にいるのは役目を果たすため、か。 ずいぶんとご苦労なことだなと僕は思うよ」 「……そういうつもりでいいことをしてるつもりは」 「まぁ、いいんじゃないかな。 天使という役割があるわけだし、何も悪いことではないと思うし」 「ち、違うんです! わ、私が春樹君におすそわけをしたりするのは、その……」 と、そこまでいうと、彼女は言葉をとめて、そのまま黙りこくってしまった。何がどう違うのか、僕にはよくわからないが。まぁ彼女が違うというなら違うんだろう。何かが。 「まぁ、いいよ。 話はわかったし、帰ろうか」 「……はい」 僕が公園の出口に向かって歩き出すと宮久地も後ろをついてきた。その足取りは、どこか重たげだったのが気になったが、今は家への道を歩くことに集中することにした。 後ろを歩く彼女の姿はもう、いつもどおりの"宮久地芹奈"だった。 真っ暗闇の帰り道を、二人でぶらぶらと歩いていると、背後から宮久地の声が聞こえた。 「あの、春樹君」 「なんだい」 「……私のこと、どう思ってますか」 「どうって……」 毎度毎度、おすそ分けを持ってくる変わり者の隣人だと思っているわけだが。 「昔からこうやって過ごしてきた、幼馴染、そう思ってませんか?」 「そうかもしれないな」 「……違うんですよ」 「違う?」 僕はここではじめて、彼女の方へと振り返った。そこには、スカートのすそをぷるぷると震えながら掴んで、涙を浮かべながら話し掛けてくる彼女がいた。 「春樹君が知ってる私の記憶は、みんな私がこの世界にやってくるときに植え付けた偽りの記憶っ。 だから、私はあなたと幼馴染でもなんでもないんですよっ!」 そして、彼女は泣き出した。時々しゃっくりを混ぜながら、むせび泣いていた。 思い返してみれば、僕は宮久地との直接的かつ具体的な記憶はないかもしれない。しかし。 「確かに、君と僕は幼馴染ではないかもしれない」 「……ひっ、ふぇ……?」 「けれど、君が僕にいつもおすそ分けをしてくれたことは、偽りじゃないだろう」 「あ……」 ぽかんと、口を開ける彼女を横目に、僕はもう一度帰り道へと向き直った。 「帰るぞ」 「……はい!」 心なしか、二度目の彼女の足取りは、最初よりも軽かったような気がした。 「ふむ、眠いな」 悪魔の女の子が家で眠っていた、その翌日。実に普通の一日だった。 起床するときも、学校に登校するときも、授業を受けているときも、下校するときも、何らおかしいことなどなく。まぁ強いていうと宮久地がるんるん笑顔で僕に弁当を渡したくらいで特に何もなかったわけだが。その際に数人の男子から睨まれていた気がするがそれもどうでもいい。 そんなわけで僕は睡眠を楽しもうとベッドに潜りこんでいる真っ最中なのだった。 「やっぱり、眠っているときが一番幸福な気がする――」 そうして、僕は目を閉じた。そう、目は閉じた。 次に響いたのは無機質なインターホンの音なんかではなく、トラックが衝突したようなそんな爆発的な破壊音だった。 音の原因は明らかに一階からのものだったので、僕は落ちかけていた意識を無理やりに覚醒させられた状態でその原因を確かめることにした。 そこにあったのは、惨状だった。 階段から下りて、右の方にはリビングとキッチン。そして左には玄関があるわけだが、目の前に見えているのはなぜか玄関の扉だった。様々なものを巻き込んできたらしく、一部の靴はリビングのテーブルにまで飛んでいる始末だ。 ここでようやく僕は玄関の方を見た。そこには、これらの惨状を生み出した張本人がすごい仁王立ちをしてこちらを睨みつけていた。 「せ」 「せ?」 「責任を取りなさいよぉぉぉぉっ!!」 「……は?」 前略、家族へ。僕は唐突に悪魔の女の子から責任を取れと言われたのですがどうすればよいのでしょうか。 「あれだけ弄繰り回しといて、アンタは……アンタはぁぁ!!」 追伸、おまけに靴入れの上にあった花瓶まで投げつけられたのですが僕には良く分かりません。 「……ええと、とりあえず君はなんなんだい?」 「フフフ、良くぞ聞いたわ! そう、私こそ後に七大悪魔に名を連ねるであろうマリアントワージュ・セロディアス――」 「やっぱりあなただったんですね、マリア」 「ふぇえ!? セリナぁ!?」 壮大な自己紹介。続いて訪れたのは僕の隣人宮久地芹奈だった。二人が以前友達だった、というのは本当か分からないが、これで少なくとも顔見知りであることは間違いないだろう。 それにしても、やけにうろたえているな。ええと、名前は確かマリアだったか。さっきまで高らかに名前を叫んでいたはずなのに今では汗すら浮かんでいる。 「それにしても、今でもあの妙な口上を使っているんですね」 「な、なによぉ、いいじゃないのよ私がどんな風に自分の名前を名乗っていたとしても!」 「ええ、そうですね。 ただし、その名前が本当の名前なら、ですけど」 「うぐぅ!」 どうやら、さっき名乗ったマリアントワージュ・セロディアスなんちゃらというのは偽名だったらしい。すでに宮久地が正しているので証明も何もないが、宮久地の指摘を聞いてからマリアの汗の量が増加したので間違いないだろう。 そんなことより、僕にはもっと大事なことがある。 「それで、マリアだったか」 「マリアントワージュ・セロディアス! マリアって言うのはやめて」 「じゃあ、セロディアス。 君に聞きたいことがあるんだけど」 「な、何よ」 「僕の家は誰が直してくれるんだ?」 「知らないわよそんなの! 聞くならもうちょっとマシなこと聞きなさい!」 やれやれ、どうやら僕の家の玄関が吹き飛んでリビングがグチャグチャになっていることは彼女にとっては取るに足らないことのようだ。どうも、彼女以外の物は通行に邪魔であっても障害物以下の評価しかもらえないらしい。 「ごめんなさい、春樹君。 あとで私が直しておきますから」 ほう、これだけの破壊でも直せるとは、天使って便利だな。四日前に書けなくなったボールペンも直してもらえないだろうか。 「ちょっとセリナ、こんな奴の家なんて直す必要ないわよ?」 「でも、だって、私は天使だから。 それに……」 そこまでいうと僕の方をちらっと見た。いったい何だっていうんだ。 「と、とにかくこんなことやめて今までどおりに仲良くしよう?」 宮久地が右手を差し出す。しかしその右手が握られることはなかった。 「ふざけないでよ……」 「え?」 「そうやって天使、天使って、そんなんだからセリナもオヤジも!!」 「きゃあ!」 怒りの色を見せたマリアが宮久地を突き飛ばす。いきなりのことに対処できなかったらしく宮久地は靴入れに思いっきり背中をぶつけるとそのままうずくまってしまった。音からして結構な勢いでぶつかったんじゃないかと思う。 「……池田春樹!」 「うん?」 「あんたは私がぜえったいに悪の道に堕としてやるんだから! 首を洗って待ってなさい!」 というと、すでに扉のなくなった玄関から彼女は出て行った。 とりあえず、吹き飛ばされた宮久地のそばに僕は歩み寄った。 「大丈夫か?」 「は、はいなんとか……少しだけ痛いですけど」 「そうか……うんと、少し待ってて」 「え?」 ええと、確か階段の下の小さいスペースに救急箱が置いてあった気がしたんだけど。買いだめのトイレットペーパーや非常食を押しのけると、その奥にちゃんと救急箱があった。とりあえず救急箱から消毒液とガーゼを取り出すと宮久地のそばに戻る。 「見せて」 「え、いえそんな、このくらい……」 「いいから、背中を見せて」 彼女は数秒の間、考え込むように下を向いていた。けれど、僕の言葉に押されたのか首をこくりと縦に振ると、服をまくって怪我をした個所を僕に見せてくれた。いくら天使といえども、怪我をしないというわけではないみたいだ。ぶつけたところが、少しだけ青くなっていた。 「やっぱり、少し打ち身になっているな」 「は、はあ……そうですか」 「それに、体温も少し高いように思えるけど、風邪でも引いた?」 「い、いえ! それは、ち、違うんです!」 何が違うのか僕にはよくわからないが、彼女が違うというならそれは違うのだろう。たぶん。 僕は消毒液を怪我した場所に塗りこむと、そこにガーゼを貼った。確か打ち身をしているなら冷やす必要があったはずなんだけど。 「あとは冷やせばいいと思うけど、氷でも取って」 「あの、春樹君……私は、もう大丈夫ですから」 「けど、処置は完全じゃないよ」 「いえ、いいんです。 あとは自分で治癒できますから」 服を戻して立ち上がると、ゆっくりとこちらを向いた。顔を伏せているためよく見えないがやっぱり少し赤い気がする。 「その前に、春樹君のお家、直しますね。 ご家族が帰ってきたら大変ですから」 そうすると宮久地は両手を組んで、僕には決してわからない言葉で、昨日の公園の時みたいに呪文を唱え始めた。それはまるで、呪文というよりは一つの歌を歌うかのような、そんな美麗さを含んだきれいな言葉だった。 周辺が一段と輝いて、それが僕の目の許容量を超えたと思った次の瞬間には、荒々しく吹き飛んでいた扉はきちんと玄関に付いていた。それだけじゃない。粉砕されかけていた靴入れは以前と何も変わらない状態になっているし悲惨なことになっていたリビングの方もこれまたマリアがやってくる前の状態にきっちりと元に戻っていた。 僕がこれらの一連の変化に驚愕していると、背後から扉の開く音が聞こえた。それは、宮久地が扉に手をかけたからだった。 「…………ありがとう」 それだけいうと、そのまま彼女は帰ってしまった。 後に残ったのは、僕が救急箱を引っ張り出したという、その事実しか残っていなかった。 「首を洗って待っていろ、か」 次の日、僕は学校の屋上にいた。なぜか、と問われても特に答えようがない。なぜならここにいるのは僕の気まぐれでしかないからだ。ちなみに、時間なら今ごろはきっと五時間目でも始めているころだろう。なぜ授業に出ないのか。それならまだ答えようがある。理由は簡単だ。あの悪魔の女の子、マリアが気になるからだ。 首を洗って待っていろ、などと言うくらいだから、学校で授業を受けているときに例のごとくバサーッと現れてくれるんじゃないかと思い一時間目から窓をチラチラしていたが結局現れなかった。おまけに教師からはとてもにこやかな表情でチョークを投げつけられるし、なんて痛い一日だろう。少しだけ期待していた分、心も痛い。 「あー、見つけた!」 心の中で浮かべれば何とやらだ。頭で考えただけで現れてくれるなんて、それだったら一時間目から来てくれたっていいんじゃないだろうか。 「どうも。 名前はマリアだっけ?」 「マリアントワージュ・セロディアス。 言っておくけど、三度目はないわよ」 鉄柵の向こうから、思い切りにらまれた。ちなみに、現在僕がいるのは飛び降り防止用の鉄柵のすぐそばだ。だから、必然的にマリアがいる場所は鉄柵の向こう側、つまり空中ということになる。 しかし不思議なのはマリアとほぼ同じか、少し小さい程度の大きさの翼でなぜ飛ぶことができるのだろうということだ。ゆったりとバッサバッサとはためく黒い翼。やはり悪魔や天使にはまだまだ理解のできないことが多いみたいだ。 「それで、セロディアス。 どうして早いうちに僕に会いに来なかったんだ?」 こっちは今朝からずっと意識していたのにどういうことだ。僕がベッドから起き上がるときも朝食を食べるときも着替えをするときも歯を磨くときも宮久地といっしょに学校へ通学するときもホームルームが始まったときも授業が行われているときも宮久地からお弁当を渡されたときも昼食を食べているときも僕は気にしていたというのに、これじゃ拍子抜けもいいところだ。 「だって、その、アレよ」 「……あれって何だ」 「ア、アレはあれよ! 悪い!?」 「いや、あれって言われても僕にはわからないし」 「ムグググ……な、何よ! だって恥ずかしかったんだもんっ!」 頭から煙でも出てくるんじゃないかっていうほどに顔が真っ赤なんだが、大丈夫なんだろうか。なんか微妙にふらふらしてるし、この子も風邪でも引いてるんじゃないか。 「恥ずかしい?」 「ぜんぜん知らない人ばっかりいると恥ずかしいの! しょうがないでしょ!?」 何がどう仕方ないことなのか僕にはわからないが、思うに人を悪の道に誘惑しなければならない立場としてそれは致命的な弱点なんじゃないかと思えるんだけど。 「そうなのか」 「そうなの! 私がそうって言うんだからそうなの!」 「ふうん、ところでずっと気になっていたんだけど」 「何よ」 「責任って何のことなの?」 「ぶほぉ!」 疑問をぶつけただけなのにすごい勢いで口から色々飛んだんだけど。とりあえずツバがかかって気になる。 「な、なななななななな!?」 「何を驚いてるのかわからないけど、君が言いだしたことだよ」 「それは、その、責任は責任よ!」 「いや、何に対しての責任なのかが知りたいんだけど、僕は何かしたかい?」 「何かって、あんただってそりゃ……あうう……!」 また赤くなったぞ。本当に、僕が何をしたっていうんだ。思い当たるのは彼女を調べたことくらいだけど、変なことは何もしてないはずだけどな。 「と、とにかくあんたはさっさと悪の道に堕落すればいいの!」 結局答える気はないらしい。また理解できないリストが増えそうだ。それにしてもさっきから彼女が言う悪の道っていったいどういうことなんだろう。 「それで、僕をどうやって悪の道とやらに引きずり込む気なんだい」 「…………えっと」 なんかいきなり考え出したぞ。僕はてっきり悪いことへの魅力でも語って自発的にそうさせるものだとばかり思っていたんだけど。 「あーもう、こうなったら実力行使!」 「うぐっ」 ありのままに今起こったことを話すと、鉄柵の向かいにいたはずのマリアが飛び上がって僕に向かってきたなと思っていたら屋上の壁に押さえつけられていた。 「悪いことしないなら、殺すわよ?」 彼女の左手に首根っこを握られていることで、僕は満足に動くこともできやしない。さらに、いつの間にやらマリアの右手にはバカみたいにでかい三又の槍が握られているし。というか、悪いことしないと殺すってなかなか聞かない言葉だな。 「うく……かはッ……」 「フフン。 やっぱり悪魔はこうでなくっちゃね。 心地良いわ」 しかしこれ、意外とマズいかも、しれない。呼吸をふさがれているからだんだん思考もまともに、考えられなく…… 「ほら、早くイエスって答えなさいよ。 今なら下僕程度で勘弁してやらないこともないわ」 いや、こたえたいのは山々だけど、首が、ふさがって、答えが……うあ…… 「あ、が……」 「下僕じゃ満足できないのかしら? じゃあ執事ならどう? 今だったら私専属の執事にでも」 「いいかげんにしなさいマリア!」 「ひゃう!?」 そのとき、屋上で一つの怒声が悪魔の少女に向けて放たれた。聞き間違えるわけも無い。その声は明らかに宮久地のものだった。声に驚いたのか僕の首からその手は離されていた。今のうちに呼吸はさせてもらおう。
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絶望と救い、そして憎悪 (前編) ◆S71MbhUMlM 時計の針は、進む。 望む、望まないに関わらず進み続ける。 人類が、…いや世界そのものが存在している限り揺るぐことの無い事実。 故に、『その』時は必ず訪れる事となる。 望む、望まないに関わらず、だ。 ただ、強いて言うなら、『その』時を望んでいる人間など、恐らく一人も居ないという事だろう。 …彼には、覚悟があった。 強さがあった。 知性が、理性があった。 だが、彼には足りていない物があった。 それは、何であろう? 言葉にすると、やはり、覚悟ということになるのだろうか…? 最も、彼だけを責める事は出来ない。 少なくとも、数時間前の彼ならば、恐らくは異なった筈だ。 同じ様に打ちひしがれ、叩きのめされて、消沈したとしても、己を律する事は出来ていた…筈だ。 だが、今の彼は、 ひと時とは言え安らぎと安堵を得てしまった彼には、同じように己を律する事は出来なかった。 棗、鈴 文字に記せばたったの二文字。 言の葉に乗せればたった五句の短い単語。 されどこの時において、語句の長さなどは意味を持たない。 重要なのは、その言葉の持つ『意味』であろうか。 その単語は沈黙を呼び、悲哀を誘う。 齎されるのは絶望であり、訪れるのは無力感であろうか。 いずれの感情にせよ、確か事が一つある。 その単語が読み上げられる事を望んでいたものなど、一人として存在していなかった。 それだけは、純然たる事実であった。 世界が、凍る。 僅かに動けば、粉々に砕けてしまいかねない程に。 G-6エリアのカジノ。 殺し会いというこの場においてはあまり相応しくない建物の内部には二人の人間がいた。 それほど、その空間を満たしている空気は、張り詰めていた。 その場に居るのは二人の人間。 棗恭介とトルティニタ・フィーネ。 多くの偽りと矛盾とを自覚しながらも抱え続ける二人。 今、その二人には動きは無い。 あるのは沈黙。 それだけであった。 双方の心に満たされるのは悔恨、嘆き、無力、憤りと様々ではあったが、それでも、 それ故に、その場の空気は動く事は無い。 心のあまりの重さに、動けない。 動くことなど、出来はしない。 ……そうして、数刻の沈黙の後、漸くその場所に時が刻まれ始めることになる。 人の身には、悲しみでさえ永遠ではないのだから。 ◇ 「…ちく、しょう」 絞りだす、ように、声が出た。 意味なんて無い。 鈴が、死んだ。 信じたくなんて、無い。 誰が信じてなんかやるものか。 ああ、そうだ、俺は信じない。 あの生意気で 兄を敬わないで やんちゃで 少し人見知りして 猫に好かれてて 可愛くて ……大切な、妹、が、 …………死んだ? そんな事、信じられる筈が無い。 鈴はまだ生きている。 兄が信じてやらずに、誰が信じるっていうんだ。 ああ、そうだ。 鈴は死んでなんかいない。 俺の、 俺たちの大切な仲間が、 俺たちの思いの全てを背負った二人の片割れが、 死ぬはずが無い。 そう、 …………そう、思えたのなら、どんなに楽なんだろうな。 そう、…どんなに否定しても、頭は理解している。 鈴は、 俺の『妹』は、 俺たちの大切な『仲間』は、…死んだんだ。 疑いようの無い事実。 疑いたいのに、疑えない事実。 認めたくないのに、認めなければいけない事柄。 俺たちの全ては……ここに半ば潰えた。 認めるしか、無い、現実。 ああ、そうだ、認めよう。 だが、認めたから何だっていうんだ? 事実は事実だ。 だからって、納得なんて出来る筈が無い。 何でだ? 何で鈴は死んだ? 死ななければ、ならなかったんだ? ……ココロが、全身が悲鳴を上げている。 悲哀に、身体がバラバラになりそうになる。 指先がチリチリする。 口の中はカラカラだ。 目の奥が熱いんだ。 何もかもを捨てて、叫び出したくなる。 ………………けれど、それが何になる? 地面を空き毟って何とかなるなら爪が剥がれるまで掻き毟ろう。 慟哭の声を上げて事実が変わるのなら、声が枯れて血が代わりに流れても嘆き続けよう。 涙を流せば鈴が生き返るのであれば、体中の水分が流れ出て、この身が枯れ果てても泣き続けよう。 そう、ここで俺が嘆いても、何の意味も無い。 何にも、起きてなんかくれやしない。 既に定まった運命を、覆す事は出来ないのだから。 だから、俺がするべきはそんな事なんかじゃない。 まだ、理樹が居るんだ。 元々、二人が帰れないという可能性も考慮してはいたんだ。 もしもの時に、しなければならない決断を、する必要が無くなった。 だから、もう考えるな。 今俺がするべきなのは、鈴の死を嘆いて無為に過ごすことじゃあない。 ……さしあたっては、放送だ。 放送とは、情報だ。 死者の人数の増減、性別や能力、少しでもヒントになるかもしれない。 禁止エリアの位置や、主催者達会話の内に、見え隠れする心情が見えてくるかもしれない。 だから、全てが克明に思い出せるうちに、少しでも多くの情報を記憶し、記録し、情報を集めなければならない。 ああ、そうだ、俺には泣いている暇なんて無い、無いんだ。 だから… 「放して、…くれ」 俺の顔を覆う、柔らかな感触に、声を掛ける。 暖かくて、それだけでココロが安らぐ、安らいでしまう。 小さなその身体でもって、懸命に俺を抱きしめる少女、トルタへと。 「……ダメ」 返されるのは、拒絶。 その声は、僅かにかすれている。 腕で頭を抱えられているので見えないけど、多分その大きな瞳には一杯に涙が溜まっているのかもしれない。 「……ダメだよ、恭介」 何故、君が嘆く? 君の探し人は、無事だっただろ。 だから、さあ、考察を始めよう、何も、気にする必要なんて無いんだ。 「……ダメ。 ……何がダメなのか、上手く言えない、けど、兎に角…ダメ」 声の震えは、少しずつ大きなものになっている 少しずつ、かすれて、涙声になっていく。 時たま、喉からしゃくりあげる音が響いてくる。 「悲しい時は…ちゃんと悲しまないと……。 泣きたい時は……ちゃんと泣かないと…ダメだよ……」 泣きたい時? 泣いているのは君じゃないか。 俺には泣く理由は、泣いている暇は無いよ。 「離して……くれ」 ああ、だから離してくれ。 俺は悲しいけど、それでも泣くわけには行かないんだ。 だから離してくれ、でないと、 「……大丈夫…………だから…」 今にも、泣き出してしまいそうになるから。 トルタの胸の温かさに、甘えていたくなってしまう。 幼い子供みたいに、泣きじゃくってしまいそうになる。 「………………」 答えは、なかった。 ただ、俺の頭に廻されている腕の力が強くなっただけ。 トルタの柔らかい胸の感触が頭に伝わり、心臓の鼓動が聞こえてくる。 「………………」 何も、言えなかった。 言おうと言う気力が、湧き上がらない。 ただ、今はこの暖かさが、安らぎが、心地良かった。 「…………なあ、トルタ…」 しばらく、……二分は経っていないと思う…後、 ようやく、声が出た。 「…うん」 答えるトルタの声は、何処までも優しい。 まるで歌うかのような音色に満ちている。 「鈴は……もう、居ないんだよな」 「……うん」 搾り出すように言った俺の言葉に、トルタの声にもまた悲しい響きが混じる。 いや、あるいはそれは元々混じっていたのかもしれない。 「もう……何処、にも……居ない、ん、だょ、なぁ……」 「…………うん」 声が、霞む。 自分が、抑えられなくなる。 「もう……あぇないんだょ……なあ……」 「…………ぅん……うん!」 トルタの声も、また霞みだす。 でも、それももう考えられない。 「…………ぅ……ぉ……」 「……………………っ!」 「う、わあああああああああああああああああああああああ!!!」 叫んだ。 身も世もなく叫んだ。 女の子の胸の中で泣くなんて情けないというか そもそも人前で泣くなんてこと事態が非常に恥ずかしいなんて事も考えずに兎に角泣いた。 何も、考えたくは無かった。 ただ、今は泣いていたかった。 そして、トルタの胸の温もりが、暖かかった。 ◇ 「あああああああああああああああああああああああ!!!」 泣いている。 あの恭介が。 出会った時からしっかりしていて頼りがいがあって強かったあの恭介が。 ……でも、これは必要な事なんだと思う。 悲しいなら、泣くべきだ。 その為に、人は泣けるのだから。 あんなに痛々しい恭介は、見たくなかった。 放って、おけなかった。 …だから、抱きしめた。 何をすればいいのか解らなかったけど、他に思いつかなかったから。 痛んだ足で恭介の側に移動するの事も、苦にはならなかった。 どうして、だろう? 悲しかったのかもしれないし、頼って欲しかったのかもしれない。 痛々しかったのかもしれないし、苦しかったのかもしれない。 兎に角、見ていられなかった。 ……そうして、恭介に触れて、彼の体の震えを感じた。 それだけで、彼がどんなに苦しんでいるのかが、理解出来た。 …ううん、理解は出来ない。 ただ、私が思うより遥かに苦しんでいた事だけは判った。 ……涙が、零れそうになった。 恭介の、強さが、悲しさが、とても辛かった。 苦しくても、泣けない人が悲しかった。 悲しさを捻じ曲げてしまった人を、知っていたから。 「……大丈夫…………だから…」 思いだすと、僅かに赤面しそうなる。 思わずとは言え、恭介を抱きしめた事が。 …まあ、今も抱きしめ続けているのだけど… ごく普通に、男の子に抱きついた事が、今になって僅かに恥ずかしくなってくる。 ……そして、恭介がその事を受け入れてくれた事が…余計に頭を熱くさせてた…。 あの時、世界が止まったように思った。 五分? 十分? 或いはもっと長い時間? ううん、時間なんてどうでもいい。 とにかく長い時間、ずっと、恭介の事を抱きしめていた。 ……その後の恭介は、思い出したく無い。 思い出すと、また涙が零れてしまいそうだから。 あの時、私も思わず泣いてしまった。 恭介の姿が、声が、余りに悲しかったから。 ……未だに、恭介は泣き続けている。 でも、泣けたのなら大丈夫。 悲しいって、ちゃんと感じているのだから。 だから、恭介は多分大丈夫。 うん、でも、 …………私、怖いよぅ。 私自身が、怖い。 何だろう、何故か、私ホッとしてる。 今、恭介は凄く、悲しんでいる。 とっても、苦しんでる。 うん、 でも、 私の事を、必要としてくれている。 それが、凄く、嬉しい。 そう、 『恭介の妹が死んだことの悲しさ』よりも、 『クリスが無事だった事の嬉しさ』よりも、 今、恭介が、『私に』涙を、弱さを見せてくれている事が、必要とされている事が、とっても、嬉しい。 ……怖いよ、 人が死んでいるのに、それは恭介の妹だっていうのに、 私、悲しくない。 悲しさなんかよりも、 嬉しさで、心が満たされかかってる。 クリスが生きていてくれている事じゃあなくて、 今、恭介が誰よりも私の事を頼ってくれている事が、 凄く、 …凄く、 ……嬉しい。 私の胸の中で、泣いている事が、涙を見せてくれている事が、凄く嬉しい。 おかしいよ? でも ……『 』な人に、必要とされていることが、 私を頼ってくれている事が…すごく、嬉しい。 ……おかしいよ、 私が流した涙は恭介の為、恭介の姿が悲しかったから。 そう、その筈なのに。 ココロは、こんなにも満たされているなんて まるで、歓喜の涙を流しているように思えてしまう私が、凄く、 …………怖い ◇ 流すだけ流して、何とか流すものはなくなった。 勿論、まだ幾らだって腹の中に溜まっているものはある。 だが、それでもあふれ出すほどでは無い。 自分の中に、溜め込んでおける、 俺が自分を制する事が出来るだけの量だ。 考えれば、また溢れてしまいそうになる。 だから、違う事を考えよう。 「もう…大丈夫だ、トルタ」 「……うん」 少し、涙の残る声で、トルタが答えた。 そうして、俺から離れようとして、「あっ」と少しふら付いた。 反射的にトルタの事を掴んで、そこで、彼女の足の傷が目に入る。 そう、本来トルタは歩くのにも多少の困難を要する状態なのだ。 そんな状態の彼女に、あんな事をさせてしまうなんて、少し、気恥ずかしくなる。 「…………」 僅かに覗く生足を見て赤面している事に、別の恥ずかしさを覚えて、顔を上げて、 胸の辺りの濡れた跡を見て、再び気恥ずかしさを覚えてしまう。 (…ああ、格好悪いな、俺) こんなにも可細い、怪我を負った女の子の胸の中で泣いてしまうとは。 なんというか、赤面してしまいそうだ。 皆に知られたら、からかいのネタにされてしまう。 皆……という単語が再び胸に鈍痛を呼び起こすが…今度は泣かない。 二回も泣いてしまったとあれば、リトルバスターズのリーダーの座も危うくなる。 (よしっ! ならとりあえずこれからは筋肉バスターズと名を改めてだ!) (えっ~~その名前はあんまり~お菓子バスターズで) (ぜったいにいやだ) (……話が纏まりませんね、宮沢さんがおやりになれば……) (いや…掛け持ちの上に部長は断る) (やりたくない人にやらせなきゃいーじゃん! てなわけで私) (私がやってもいいがな……その場合は……ふふふ、おっと鼻血が…) (わふっ!? あ、あの井ノ原さんでもいいと思いますっ!) (恭介が居ないと纏まる気がしないなぁ……) (とりあえず元凶のグッピーは私が始末しておきますのでご安心を) (……何かリーダーの座は大丈夫な気がするな…) 何処かから電波が混じった気がしたけど気のせいだろう。 もう戻らない、余りに平和なやりとりが懐かしいけど… でもまあとにかくそんなに何回も男が涙を見せるべきじゃあ無い。 そうして、さらに顔を上に上げて、 ……やけに、近い、所に、トルタの、顔が、あった。 ああ、そういえば、俺今トルタのわき腹と肩を掴んで立たせているのだっけ。 幼い雰囲気を残す可愛い顔が、今は僅かに朱にそまっている。 顔に浮かんでいるのは、僅かな驚きと、戸惑いだろうか。 瞳には何処か潤みを滲ませて、俺の顔が映しだされている。 ……その事が、何故かやけに嬉しかった… と、ここまで考えて、今の自分達の体制に気が付く。 ……やけに、近い。 のだが、何故かその距離があまり近いようには感じられないような気もしたが…… それでも、離れようとして、 突如響く、“ガチャッ”という音。 「は! わわわわわわわわわわわわわわわわわま、間違えました御免なさーーい!!」 「落ち着け! 別に汝は間違えてはおらん!」 「……まあ、気持ちはすっごーく良く判る」 「あう! ああああアルちゃんも双七君も見ちゃダメだってば!! す、すいませんお邪魔しましたー! ご、ごゆっくりー」 「ええい落ち着かんか汝! 単に男は肉欲獣だというだけであろうが!」 「……すいませんその言い方だと俺も含まれるので勘弁してください」 すっかり存在を忘れていた双七と、見知らぬ少女が二人、そこには居た。 ◇ 「……葛ちゃん…まで…」 「…………桂……」 放送によって告げられる事実。 浅間サクヤの死に続き、またも告げられる残酷な運命。 それは、羽藤桂の心を打ちのめす。 経見塚で出会った親しきものたちのうち、既に二人、この島で命を落とした事になる。 「…………ぅ…」 元より涙もろい桂は、悲しみの涙を流す。 だが、アルはそれを止めようとはしなかった。 短い付き合いではあるが、桂の心の強さは知っていたから。 泣くべき時は泣いて、でもその後には笑うことができると、理解し始めていたが故。 ……ただし、それは傷が消えた事を意味するわけでは無い。 傷は残り続ける、そうして、時たま火傷のようにその身を苛む。 故に、 「忘れるでないぞ……」 「……ぇ?」 「その、若杉葛が死んだのは、汝のせいではない。 汝が、悔い続ける事ではない」 「…………!」 「じゃが、それでも後悔することは止められぬ。 だから、忘れるな。 己と共にあった者達のことを、忘れるな。 そのもの達との、思いを心に刻め、そうして、歩き続けるのだ…」 アル・アジフは、世界最強の魔道書は、そのように生きてきた。 己が力の未熟故に死なせてしまったマスター達の事を、覚えている。 彼らの思いが無駄ではなかったことを、知っている。 だからこそ、彼女は今ここにあるのだから。 「…………ぅん」 涙を拭きもせず、桂はうなずく。 無論、すぐにそのような強さが身につく筈も無い。 だが、 だが、それでも、 羽藤桂には、前に進むだけの足はある。 「……尾花ちゃん…探さないと…」 「……そうじゃな」 あの賢い幼狐ならば、おそらくは葛の死すらも理解できているはずだ。 今どこで何をしているのかは分からないが、それでも探さなくてはならない。 探して、何をするのか? それは、桂自身にも分からない。 ただ、あって、まずは傷つけたことを謝って…そうして一緒に泣こう。 そんなことを、桂は考えていた。 前向きとも、後ろ向きとも取れる考えではあるが、それでも桂自身の思考は前に向かっていた。 そう、おそらくはもう大丈夫。 少なくとも、自らの命を絶つような事は、もう、あるまい。 ……その確信は、数分後、いささか元気のよすぎる形で適う事になる。 雑居ビルを出て、数分後。 アルと桂は、とりあえず先ほど尾花と分かれた地点へ、もう一度戻って見ることにした。 ほかに手がかりも無い事ではあるし、犯人は現場に戻るというヤツである。 「……でも本当に良いの? 鈴ちゃんの友達って人の所に行かなくて」 「汝は…なぜ今まで生贄にされてないのかが不思議なくらいじゃな。 あんな怪しさ抜群な相手のところになど行けるか」 「う……でも、鈴ちゃんがあそこで死んだっていうなら、お墓くらい」 「待ち伏せされるのが堰の山じゃな」 歩きながら、放送の前に交わした電話について話し合う二人。 直前まで会話していた棗鈴がいきなり電話を切り、そしてその後に電話にでた人間が言うには、鈴は死んだという。 その時に出た男の言葉は、いまいちどうも信用できないと、アルは言う。 そうして、話ながら歩く桂たちの耳に届いたのは、あたりに響くカッポカッポという謎の音 その不思議な音の方向に思わず目を向けたアルと桂が見たものとは! …来週に続く。(続きません) ……馬に乗った少年の姿であった。 おもわず、硬直する二人。 そして、なぜか硬直している馬上の少年。 まず、桂からすれば馬を直にみるなど初めてである。 思わず、興奮するのも無理はないだろう。 一方のアルは、馬など何度もみているが、さすがにこの近代に馬にまたがって移動する人間などお目にかかった事は無い。 そうして、やはり硬直したまま…正確に言えば、桂の姿を捉えた時から、微動だにしない双七。 「は、は、白馬に乗った王子様だよ!! ど、どうしようアルちゃん!? わ、私にはサクヤさんっていう貞淑を誓った人がー!」 「落ち着かんか汝! あれはどう見ても王子などという顔では無い! 良いところ姫にかしずく小間使いと言ったところだ!」 「お、お、お姫様!? この島の何処かにお姫様がいて私はその人に見初められた未亡人なの!?」 「だから落ち着けというに! たとえじゃたとえ! というか気が早すぎるぞ汝は! ついでにそちの頭の中には真っ当な男女関係は存在せんのか!?」 「そ、そんな事ないよー、て、ていうか、だ、男女関係ってアルちゃんにはまだ早すぎるよー!」 「何度も言っているが汝より年上だ! 外見年齢だけが全てと思うでない!」 姦しい、という表現が似合うほどよくしゃべる二人。 基本的に精神年齢が近いせいか、止める相手がいないとどうにも止まらない。 そして、 「……あ、あのー……俺、喋ってもいいでしょうか?」 哀れな男の意見など、当然のごとく流された。 「うー……で、でも長く生きててサクヤさんはあんなにバイーンなのにアルちゃんは…」 「それ以上言ったら汝の血を一滴残らず吸うぞ」 「ひゃう!? あ、あああの何でもないよ!」 「ふむ、だがそろそろ昼食時ではあることだしここは一度」 「あ、あの私今貧血気味だからレバーとかお肉…よりはお魚の方が良いけど…」 「うむ、決まらぬのなら決定という事にするかの」 「ひゃ、ひゃう!? あ、アルちゃん、それだと私お腹減ったままだよ!?」 「良いではないか良いではないか、減るものでも無いであろう」 「へ、減るよ! 思いっきり減るよ! ゲージで見れるよ!」 「別にゲージがゼロになっても汝は平気であろう。 だから遠慮なく……」 「んっ! やっ! ちょやめ!」 いきなり目前で開始されたパヤパヤに、思わず見入ってしまう双七。 彼を責めるなかれ、男性としての本能がそうさせるのだ。 この誘惑に耐え切れる男などそう多くは……この島には結構多いかもしれないが……居ない。 「……………………」 「そして何をジロジロ見ておるかそこのたわけは!」 「ゲフッ! 俺!?」 アルの手から放たれた不可視の衝撃が双七のあごにヒットする。 その一撃は容易く双七の意識を削り取り、安らかな世界へと導く。 そうして、落ちていく瞬間、 (ゴッド……俺何か悪いことしましたか……?) 思わず、神に問いかけていた。 “ヒンッ”と、スターブライトが肯定するように一声嘶いた。 ◇ そうして、紆余曲折の末に双七はアルと桂をつれて戻ってきて、先ほどの場面に戻るというわけだ。 あそこまで無防備な危険人物もいまい、とか動物に好かれる人は悪くないなどの理由もあったが、 やはり最も重要なのは、双七が九鬼耀鋼の知り合いであった事だろう。 「……笑いたいなら、笑え。 ……というか、笑ってくれ…」 だが、誰も笑わなかった。 気まずいシーンを見られたトルタと恭介は顔を赤らめながら沈黙を守っており、 双七が目を覚ましたときから、桂は何やらフラフラしており、アルは何やらツヤツヤしている。 あの短い時間に何があったのか。 そもそも気絶しているにしては時間が短すぎるあたり、間の記憶を脳が消去したのかもしれないが、真相は闇のなか(※省略)である。 ◇ 「鈴ちゃんの、お兄さん?」 桂は声を上げた。 恭介とトルタが、桂の事を千羽烏月経由で聞いていたために、自己紹介はわりとスムーズに行った。 烏月は、殺し合いに乗ってはいるものの(このことは桂には秘密)、それ故に信用における人物である。 その烏月の言、そして彼女の振る舞いから、桂はおおよそ殺し合いとは無縁の人物であると、恭介は判断した。 そうして、桂自身はお人よしなうえにのんびり屋な為、わりと簡単にお互いの協力は決まった。 そして情報交換となり、桂は驚きの声を上げることになる。 少し前に喋った少女の知り合いと、こんなに早く遭遇できるとは思っていなかったのである。 「…鈴を、知っているの…か?」 無意識の内に、桂に近寄る恭介。 そのあまりの勢いに、桂は怯み、トルタは何故だか頬を膨らませるが、恭介は構わない。 せめて、鈴の過ごした軌跡をしっておきたかったというのがある。 「し、知っているって程知っている訳じゃあないけど…少し電話でお話しただけ…」 その勢いに負け、桂は答える。 …彼女は気付かない、自身が取り返しの付かない方向に話を進めようとしている事を。 「……電話?」 「あ、うん、この携帯で…鈴ちゃんが私の携帯を持っていたみたいで…」 恭介の問いに、ポケットにしまってあった携帯を取り出す桂。 先ほどそれなりに話をしたが、未だに電池は三個、電波は多少悪いらしく二本であるが、ちゃんと機能している。 それを見て、多少の落胆を覚える恭介。 結局、鈴の元気な姿を見た訳では無いのだ。 だが、それでも… 「最後に喋った時、鈴は…元気だったか?」 元気であったのなら、最後まで鈴で在り続けていてくれたのなら、 そう、思い、問いかける。 ……問いかけて、しまう。 「え…その……あの……」 突然、それまで淀みなく話していた桂が言いよどむ。 その表情には、何かを隠すような雰囲気。 「……?」 考える。 今までの桂の行動から、淀みなく嘘が付ける人間ではない。 故に、言いよどんでいるのは、何か不都合な…桂にとってではない…出来事があるという事だ。 この場合、その話を聞いて最も不都合なのは…間違いなく恭介だ。 では、何か? 恐らく、最後に苦しんでいたと言うような内容ではない。 積極的に殺し合いに乗っていたというような物でも無い。 それならば、恐らく彼女の口調はもっと重いものでなければ成らない筈だ。 ……では、何が? 「まさか……」 鈴が死んだというなら…鈴の持ち物はどうなった? ティトゥスが死んで、彼の持ち物は今恭介達の手にある。 ならば…… 「鈴を殺した相手を……知っているのか!?」 詰め寄る。 思わず服に掴みかかってしまうが、今の恭介には気にならない。 鈴の死という事自体は、何とか受け入れた。 だが、それとコレとは話が別だ。 鈴を殺した相手は、誰なのか? ソレを、桂は知っているのか? 僅かに目を潤ませる桂に構わず、更に問いかけようとした恭介だが、 「お、落ち着けって棗!」 双七に、引き剥がされる。 元より鍛え抜かれた彼ではあるが、それでもその時の力は尋常ではなかった。 いとも容易く、恭介を桂から引き剥がしたのだから。 恭介の離れた桂の腕にアルがしがみつき、 恭介の袖をトルタの手が掴む。 そうして、ようやく…… 「……ごめんな」 彼は、表面上の冷静さを取り戻す。 僅かにざわめいていた場に落ち着きが戻り… 「よい、わらわが言おう」 アル・アジフが、桂を庇うように言った。 ◇ (おかしい…よな?) 何故、出会ったばかりで何の縁も無い相手の事が、こんなに…気になるのだろう? 一人、双七は悩み続けていた。 放送が終わり、カジノの中に入ろうとした双七が目にしたのは、思いっきり硬質な雰囲気の部屋であった。 思わず、入る事も忘れて、再びのんびりしていた彼であったが、少ししてスターブライトの嘶き。 彼女の反応に訝しげになりながらもまたがり、 そうして、町を歩いていた二人に出会い、双七は、息を呑んだ。 最初に出会った時、アルと桂のやり取りにも無論目を奪われたが、それ以上に双七は桂から目が離せなかった。 彼女の全身から漂ってくる匂い? 香り? 濃い血の混じった香りが、たまらなく、魅力的に感じて仕方が無い。 服に、肌にこびり付いている血が、凄く、勿体無い、美味しそう、舐めとりた…… (な、何を考えてるんだ…俺!?) 混乱する思考の故に、双七は彼女達のやり取りに対して、大きな反応を返せなかったのだ。 (まあ双七ではどの道無理だった気もするが) そうして気を失い、目覚めて、九鬼の知り合いであるという彼女達の言葉を信じ、カジノへと戻って来たのだ。 決して、桂と離れるのがイヤだったわけではない、と双七は心に言い聞かせていたが……。 そうして、話し合いの最中でも、双七は事あるごとに桂の事が気になっていた。 彼女の一挙手一投足から、目が話せない。 恭介が詰め寄った時、思わず本気の力を出してしまった。 (何だろう? あの子を、モノにしたい? ……いや、何か違うだろそれ、でもなんというかそのいや何だ兎に角…) 何と言うか、渇く? 餓える? いや、何だろう、兎に角、あの子が… とても、芳醇で、滋養に満ちた、真っ赤な果汁を滴らせる果実であるかのような… その、滴る果汁で存分に喉を潤したい。 その、芳醇な蜜を腹いっぱいに味わいたい。 その、チのように真っ赤な液体に酔いつぶれてしまいたい。 「…………!」 ゴツンと、自分の頭を一度殴る。 痛かった。 手加減しないで殴ったから無っ茶苦茶痛かった。 思わず蹲ってしまいそうになるくらい。 見れば、目の前の四人とも、変な人を見る目で双七の事を見ている。 「…………」 何か、えらく理不尽な目にあっている気もするが…まあ変態と思われるよりは変な人の方が……すいません、どっちもイヤですハイ。 ◇ 149 THE GAMEM@STER (後編) 投下順 150 絶望と救い、そして憎悪 (後編) 149 THE GAMEM@STER (後編) 時系列順 133 満ちる季節の足音を(後編) 棗恭介 133 満ちる季節の足音を(後編) トルティニタ・フィーネ 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 吾妻玲二(ツヴァイ) 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 アル・アジフ 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 羽藤桂 142 生きて、生きて、どんな時でも 如月双七
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事件! 王女と盗賊……そして青銅 その③ 三十メイルはあろうかという土のゴーレム。 その手にルイズが掴まっているという事態に承太郎とギーシュは遭遇した。 このゴーレムは何なのか、目的は何なのか、メイジはどこにいるのか。 疑問はあったがルイズは今にも絞め殺さようとしている最中であり、迷っている時間もためらっている暇も無く承太郎は即断した。 ルイズは承太郎の『腕』の力を知ってはいたが、『腕』だけでこの巨大なゴーレムに太刀打ちできるとは思っていなかった。 「ジョータロー! 無理よ、あんたは逃げ――えっ!?」 地面がめり込むほどの勢いをつけて、承太郎は跳び上がった。 一瞬でゴーレムの腕の高さまで来ると『腕』を出してルイズを握る指を殴る。 「オォォォラァッ!!」 ボゴンと音を立てて指が粉砕し、承太郎はルイズを『腕』で引っ張り出す。 そしてルイズを生身の肉体でしっかりと抱きしめると、地面に着地すべく飛び降りる。 だがゴーレムが足を振り上げて二人を狙う。 空中では動きが取れないため、咄嗟に『腕』を身体の前でクロスさせて防御する。 強烈な衝撃により承太郎とルイズは塔の外壁に吹っ飛ばされた。 「スタープラチナ!」 ゴーレムの蹴りを防いだように壁への衝突を『腕』で防ぎ、壁の表面をずり落ちる。 「ジョータロー! ルイズ!」 慌ててギーシュが駆け寄ってくると、承太郎はギーシュの目を見、抱いていたルイズをギーシュに向けて突き出した。 「ルイズを連れて逃げろ」 「どうする気だ、ジョータロー!」 「奴が何者かは知らねーが、このまま放っておく訳にもいくまい」 「無茶だ! いくら君でも――」 再び承太郎は人間とは思えない速度と高さの跳躍をしてゴーレムに迫った。 承太郎の本当の実力がどの程度のものなのか知らないギーシュは、不安と希望を同時に抱いていた。 だが、自分より前に出てルイズが杖を構えている事には不安を通り越して危機感を抱いた。 「何をする気だルイズ! 奴を挑発するな!」 「うるさい! 目の前に賊がいるっていうのに、逃げる訳にはいかないわ!」 「ジョータローが逃げろと言ったろう!?」 ギーシュがルイズの右腕を掴むと、頬に平手が飛んだ。 「邪魔をしないで!」 怒りのこもった言葉にギーシュは口ごもってしまい、 その間にルイズは杖をゴーレムに向けてファイヤーボールを唱えた。 ゴーレムは巨大だった。あまりの質量を前に、承太郎はメイジ狙いの戦法を選ぶ。 どんなにゴーレムが強かろうと、メイジは生身の人間。 ようするに巨大な土人形のスタンドを操るスタンド使いと戦うようなものだ。 ルイズを助けた時のようにスタープラチナの足で跳躍し、一直線にフーケ本体へ。 だがフーケは承太郎を近づけまいとゴーレムの腕を振るわせる。 しかし遅い! 手が承太郎を捉える前に、承太郎がフーケを捉える! そうなろうとしたまさにその瞬間! 轟音ッ! ルイズの魔法が狙いを外れ、塔の外壁で爆発を起こしたのだ! 「ぬうっ……!」 「えっ!?」 突然のアクシデンド。承太郎もフーケも爆風から身を守らねばならなかった。 ここで空中にいた承太郎と、ゴーレムの肩にいたフーケの差が生まれる。 フーケはゴーレムの身体にしがみつき、かがんでいればよかった。 だが承太郎は爆風によりバランスを崩し、爆煙で視界をふさがれてしまった。 「オラオラオラオラオラッ!」 爆煙の中スタープラチナの拳がうなるが、爆発のショックでゴーレムが傾いたせいで、拳の狙いがそれ空を切ってしまった。 「くっ、何が起きて……えっ? 宝物庫の壁が……!」 フーケは承太郎の攻撃から逃れられた事と、宝物庫の壁に今の爆発でヒビが入った事、この二点に気づいた。 ニンマリとフーケは笑い、さっそくヒビの入った壁をゴーレムのパンチで粉砕する! さらなる轟音が鳴り響き、承太郎やルイズ達の頭上に瓦礫が降り注ぐ。 「うわっ、あ……!」 ギーシュは身をすくめ、瓦礫が自分に当たらない事を祈った。 だが『自分に当たりませんように』と願いながら見上げてみれば、人の頭くらいの大きさの瓦礫がこちらに――目の前のルイズの頭目掛けて落ちてきていた。 「ルイズ! 危ない!」 咄嗟にルイズを突き飛ばした直後、ギーシュは背中に強い衝撃を受けて転倒した。 視界がガクンと揺れ、それでもピンクの髪は目立ち、ルイズがどこにいるかは解った。 「うっ……ギーシュ? ギーシュ!」 ルイズが慌てて振り返る。ギーシュはうつぶせに倒れたまま動かない。 最悪の予感がルイズの脳裏をよぎった。 だがすぐにギーシュは顔を上げ、薔薇の杖を掲げ、花びらを舞わせた。 「えっ?」 ワルキューレが七体ルイズの前に出現し、スピアを構えた。 フーケは宝物庫に飛び込みながら、承太郎を危険視し、狙いのお宝を盗み出すまでの間の時間稼ぎをすべく、すでに行動を起こしていた。 ピンクの髪はよく目立つ。 すぐに狙いをつけてゴーレムの足で踏みつけようとした、だが一体のワルキューレがルイズを担いで逃げ出す。 「なっ、何するのよ! 放して!」 ワルキューレを操っているのがギーシュであったため、ルイズは激昂して抵抗した。 そうこうしてるルイズの後ろで、もう一体のワルキューレが何とか逃れ、残り六体のワルキューレはいっぺんにゴーレムに踏み潰された。 ルイズを担いだワルキューレは、地響きによって転倒しルイズをその場に放り出してしまう。 「キャアッ!」 地面を転がって、ルイズはギーシュのすぐ隣に仰向けになって倒れ込んだ。 「ううっ……」 ルイズの視界の中、土ぼこりで汚れきったギーシュがよろけながら立ち上がる。 「ルイズ。君は『薔薇になぜ棘があるのか』知っているかい?」 こんな時に何の話を、とルイズは心の中で毒づく。 薔薇の造花、己の杖を構えながらギーシュは高らかに言った。 「それは『女の子を守るため』さ!」 ルイズを助けようとしたため被害から逃れたワルキューレが、ゴーレムの足にスピアを突き刺す。 だがゴーレムは何て事ないといった風に足を上げてブンブンと左右に振り、まるで虫けらのようにワルキューレを振り飛ばした。 ギーシュが一度に出せるワルキューレは七体、もうワルキューレは出せない。 それでもギーシュは一歩踏み出し、ルイズとゴーレムの間に立つ。 「何やってんのよ! 殺されるわよ!?」 「ルイズ、どうしよう。もう魔法を使うどころか、立ってるのがやっとだ……」 「ギーシュ!」 ルイズは立ち上がり、杖を構えた。もう一度、失敗でもいいから爆発を起こしてやる。 今度は狙いを外さない。 狙いは、今にも自分達を蹴り飛ばそうと振り上げられているゴーレムの左足。 だが詠唱する暇が無い、と思い知らされる速度で左足が迫ってきた。 あまりの巨大さに、一発食らえば中庭の外まで吹っ飛ばされてお陀仏だと瞬間的に理解する。 死ぬ。死んでしまう。 ルイズもギーシュもそう確信し、死の恐怖に心を震わせながら、瞳は、瞳は確かに『それ』を見ていた。 圧倒的質量を持って迫る『死』という存在の前に回りこんだ『黒い影』を。 黒い帽子、黒い髪、黒い服、黒いズボン。 空条承太郎! 195サントある承太郎の身長だが、それに匹敵するゴーレムの爪先。 土のゴーレムといえどこの速度この質量、受け切る事などできるはずがない! 承太郎の学ランが、強烈な風圧を受けてはためいた。 「オオオオオオッ!」 身動きの取れないルイズとギーシュを背後に、圧倒的破壊力を持つゴーレムの左足を前に、承太郎は吼えた。 その声は闘志に燃え、ルイズとギーシュの恐怖を吹き飛ばす! 「オラァッ!」 バゴンッ! 承太郎の右腕から出た『右腕』がゴーレムの爪先の先端を吹っ飛ばす。 「オラァッ!」 ドゴンッ! 承太郎の左腕から出た『左腕』がゴーレムの爪先をさらにえぐる。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」 左右の拳が残像を残すほどの速さで猛烈なラッシュを繰り出す! その一発一発がギーシュのワルキューレを容赦なく粉砕する威力! 鉄よりも脆い土のゴーレムは強烈なラッシュに、爪先から踵まで真っ二つに粉砕する。 左右を通り抜ける巨大なゴーレムの足の迫力にルイズとギーシュは驚きながらも、それ以上に承太郎の『腕』の力強さに驚嘆する。 そしてついに三十メイルあるゴーレムが尻餅をついて倒れ、地響きを起こした。 三人を囲うように舞う土ぼこりの中、承太郎は学帽を深くかぶり直しながら、こちらを振り向いて『終わった』と言わんばかりの態度を取った。 「やれやれだぜ」 承太郎の口癖。それはまさに『勝利宣言』のようにルイズとギーシュは感じられた。 「た、助かったぁ~……」 安堵のため気が抜けてしまい、ギーシュは情けない声を上げてその場にへたり込んだ。 土と冷や汗でよごれ、瓦礫で負傷し、ボロボロになってしまったギーシュ。 とても『薔薇』とは呼べないその姿を見つつ、承太郎は静かに声をかけた。 「……ギーシュ。おめーが奴に立ち向かわなければ……間に合わなかった」 「は、はは……もう二度と、こんなのはゴメンだよ……」 疲れたような口調ではあったが、表情はやり遂げた男だけが見せる頼もしさがあった。 そんな彼を見て、ルイズは震える唇をギュッと閉じる。 ――最低最悪の侮辱をしたギーシュが、命懸けで自分を守ってくれた。 それだけは揺ぎ無い事実であり、彼の勇気を賞賛し、感謝せねばならないものだった。 だが、感謝の言葉が出てこない。 つまらない意地を張っているのか、ギーシュを認めたくないのか、何も言えない。 正真正銘命を救ってくれた承太郎に対してもルイズは同じような気持ちだった。 自分が何とかしようと魔法を使ったら、失敗して、承太郎の足を引っ張ってしまった。 そしてギーシュに助けられ、承太郎に助けられる自分。 『こうでありたいという自分』と現実のギャップが痛々しく小さな胸を絞めつける。 「ところでギーシュ、メイジがゴーレムを操れる『射程距離』はどの程度だ?」 「メイジの技量にもよるから正確には言えないけど、 あのゴーレムを操った奴はまだ近くにいると思う……」 「となると……塔の中か?」 ゴゴゴゴゴゴ……。 ポッカリと穴の空いた塔の外壁を睨みつけた承太郎は、そちらに向かって跳ぼうとする。 しかし視界の端で起きた変化に視線を向ける。 丁度土のゴーレムの足が修復完了した瞬間だった。 「何ッ……!?」 ゴーレムは即座に立ち上がると、再び塔の外壁に手を伸ばし、手のひらの上に人影が飛び移る。 ニヤリ、とフードをかぶったそいつの唇が笑うのを承太郎はスタープラチナの目で捉えた。 その笑み、まるで「足手まといのお世話ご苦労様」と言わんばかりに嫌味たっぷり。 「野郎ッ……!」 一気にゴーレムの手に跳び移って本体を叩こうかとも思った承太郎だが、今はルイズとギーシュという怪我人を抱えてしまっている。 下手に動けば、またこの二人を狙われるだろう。迂闊には動けない。 そんな承太郎をあざ笑うように、フーケはゴーレムを動かした。 学院の外へ向けて。 承太郎が追いかけようとすると、頭上に青い影が見えた。 タバサのシルフィードだ。 ようやく品評会会場の連中が騒ぎに気づき、機動力のあるタバサが一番に駆けつけたらしい。 タバサはシルフィードに乗って空中からフーケを追跡する。 承太郎も走って追いかけようとしたが、さすがに三十メイルのゴーレムとは歩幅が違いすぎた。 後ろからゾロゾロと学院関係者や警備の連中も駆けつけてきたので、スタープラチナの足で跳躍を繰り返して追う姿を見せる訳にもいかない。 「やれやれ……あのゴーレム、一部の特性がザ・フールに似ているらしい。 土と砂の違いか。奴を追うのはどうやらあのドラゴンに任せるしかねーようだな」 しかし、学院から離れた位置でゴーレムは崩れ去り、その場にフーケの姿は無かった。 その旨をタバサから報告されたオールド・オスマンはどうしたものかと悩むのだった。 そして宝物庫に残された書置きから、盗賊は土くれのフーケだと判明。 こうしてこの事件は一時の小休止を得る。 盗賊、土くれのフーケによる『破壊の杖』の盗難と逃亡。 アンリエッタが品評会を観覧しに来たため、学院の警備を王女に割いてしまった責任。 このふたつが今後解決せねばならない問題である。 ルイズは宝を守れず賊を逃がした事をアンリエッタに詫びたが、アンリエッタは警備を割かせた自分にこそ責任があり、 王宮に報告しなければならない事を伝え……ルイズの心は痛んだ。 最悪、アンリエッタの責任問題になりかねない。 不幸中の幸いというか、ゴーレムに握り潰されそうになったルイズの負傷は軽く、特に治療しなくても少し休んだ程度で普通に動き回れるようにはなった。 だが青銅のギーシュの負傷は重く、ルイズをかばって複数の瓦礫に当たったのか、打撲だけでなく一部の骨にヒビも入っていたようであり、衛兵が駆けつけると安堵したのかすぐ気を失い、水のメイジによる治療を受けねばならなかった。 おかげでルイズはまだギーシュに何も言えないでいるが、自分の気持ちの整理もついていないので、話せる状態でもきっと何も話せなかったろう。 そして翌朝――土くれのフーケと遭遇したルイズと、追跡を試みたタバサが、オールド・オスマンに学院長室へ呼び出された。
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本書のねらいは、幅広いアイディアを提案し、更なる検討や議論へとつなげるためのものである。従って、我々は可能な限り、読者が最も入手しやすいであろう最新版の著作を使うように心がけた。場合によっては、これはアンソロジーや翻訳といった形をとっている。例えば、カント『判断力批判Critique of Judgement』からの引用は、le Huray and Day社から出版されている素晴らしいコレクション『18世紀、19世紀初期の音楽と美学Music and Aesthetics in Eighteen and Early Nineteenth Centuries』の中の翻訳に基づいたものである(le Huray and Day 1981参照)。この本は、絶版であるにもかかわらず、音楽図書館では、カント全集に比べ探し出せそうであろう。そしてこれが他の全集や関連のある概念へと導く最初のきっかけとなれば幸いである。 文献目録は、著者-日付方式を使用した。しかし、出版年を括弧書きで著者名抜きで言及している場合は、参照システムの一部を作ることでなく、歴史上の位置付けを示すことを意図している。例えば作曲家や哲学者といった歴史的に有名な人物の生没年は、人名索引に載せた。また相互に参照できる項目はボールド体で示した。 上から5行目、『判断力批判・・・』の後、「引用すは」って所は何か落ちてますよね。それから、第2段落「しかし、出版年を・・・ためである。」の文は、「しかし、出版年を括弧書きで、著者名抜きで言及している場合は、参照システムの・・・意図している。」とした方が良いかと。 -- Nemoto (2007-11-10 16 59 50) ご指摘の箇所、修正しました。ありがとう!只今、新国がコマが多くて、作業が遅れてていて、ごめんなさい。 -- ono (2007-11-16 00 20 45) 名前 コメント
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