約 1,207,297 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/266.html
第9話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。父の日のプレゼント――』 夕食後の一時。 家族四人が揃う団欒の時間。 今夜は圭太郎が早く帰ってきた。最近は遅いことが多かった。 そして、なぜかずっとそわそわしてる様子に見えた。 やがて思いたったように部屋に戻り、なにやらたくさんの荷物を抱えて戻ってきた。 ラブがせつなの手をつかんで逃げ出すように二階に上がろうとして――呼び止められた。 「お~い、ラブ。ちょっと頼みがあるんだが」 「えぇ~やだよ、おとうさん。どうせまたカツラの実験台なんでしょ」 「実験台は酷いな。モデルと言ってくれないか」 「やっぱりそうじゃない。もう髪も洗っちゃったのに」 「おとうさん、私でよかったら……」 『帰ってきたせっちゃん――父の日のプレゼント――』 結局、ラブとせつなの二人でモデルを務めることになった。 圭太郎はカツラメーカーに勤めている。本来の業務は販促活動だが、自らも積極的に開発に携わることも多い。 また開発から上がってきた製品も、実際に色々試して、自作と同じくらいにまで知り尽くしてからでなければ販売しようとしなかった。 効率よりも真心を優先させる。血のつながりは無くても、職人の鑑と言われた源じいさんの認めた婿である所以だ。 「だからってあたしたちで試さなくても……。会社にも専属のモデルさんとか居るんじゃ」 「まあそうなんだが。じっくり試したいし、忌憚のない意見を聞けるのも家族だからこそだ」 もっとも一人娘に生まれたラブにはいい迷惑だった。ラブも女の子、必要以上に髪の毛をいじられるのは嫌う。 繰り返し試着させられていくうちに、すっかりカツラが嫌いになっていた。 「こんなに長いのを着けるのね。私の髪が邪魔にならないかしら」 「これはオールウィッグというファッション用のカツラなんだ。このくらいの長さなら大丈夫だ」 圭太郎は手際よくせつなの前髪をまとめてピンでとめる。ネットと呼ばれるゴム網の中に、髪の毛を綺麗に収めていく。前髪の付け根にウィッグの中心を持ってきて位置を整えて完成だ。 ラブの髪は少し長いので、軽く束ねてから巻くようにしてネットの中に収めた。 「凄い――これが私なんて信じられない。まるで変身ね」 「せつな、すっごく綺麗だよ。あたしもこんなのなら嫌いじゃないかも」 今回は若い女性を対象にしたファッションウィッグということもあり、また、せつなと一緒ということもあって、すっかりラブも上機嫌になっていた。 ラブは黒髪のストレートのロング。せつなはプリンセスと名付けられた豪華なブロンドのカールだ。 ラブには落ち着いた雰囲気が備わり、せつなは明るく煌びやかな印象に変わる。 セット開始からわずかに数分。一瞬で別人に変わる様子はまるで魔法のようであり、変身と呼ぶにふさわしかった。 「そうだ。普通おしゃれと言えばメイクとファッションを思い浮かべるだろうが、一番変わるのは髪形なんだ」 二人の娘の好反応に気を良くした圭太郎が自慢げに語る。 その後もいくつものウィッグを次々に付け替えていく。それぞれに、つけ心地・軽さ・通気性・安定感などの装着感をまとめていった。 そして、これが最後と言って取り出した二つのウィッグ。それぞれラブとせつなに付けていく。 お仕事ではなく、圭太郎が個人的趣味で作り上げたものだ。もちろん販売も視野に入れてはいるけれど。 「これは――ラブ?」 「うわぁ、せつなだ!」 せつなが付けたのは、オーカーのセミロング。つまり髪を下ろしたラブの髪型と色だ。 ラブが付けたのは、黒髪のミディアムレイヤー。同じくせつなの髪だった。 もともと背格好の似ている二人のこと。本当に入れ替わったみたいに見える。変わったのは髪の毛だけなのに……。 改めてカツラの凄さを思い知った。 全ての試着が終わり、二人の髪を解いて戻す圭太郎。そして、カツラへの想いを熱く語る。 髪は年齢性別を問わず、おしゃれの最重要ポイントであること。 人は誰にでも変身願望があり、それを満たしてくれるものであること。 容姿は心の持ち方に大きな影響を与えるってこと。だから、髪を豊かにすることは、心を豊かにするんだってこと。 せつなは感心した顔で、ラブは穏やかな表情で圭太郎の話を聞いた。 ラブも恥ずかしいから嫌がっているだけで、本心ではとっくに圭太郎の仕事と情熱を見直していた。 「お疲れ様、せつな。疲れなかった?」 「平気よ。なんだか楽しかったわ」 「ならいいけど。おとうさんてばせつなも一緒だったからか、凄い張り切ってたし」 「ふふ、他人のために熱くなったり夢を語ったり、ラブの性格はおとうさん譲りなのね」 「え~~あたしはおかあさん似だよ」 「容姿はそうね。でも、おかあさんは静かな人よ」 「それって、あたしがうるさいみたいじゃ……」 今夜は遅くなったのでと、宿題だけすませてそれぞれの部屋に戻った。 せつなは手にしたものを指で梳いた。とても軽くて、すべすべしてて、触るだけで気持ちいい。 カツラのことをもっとよく知って欲しい。そう言って貸してくれたラブの髪形のウィッグだった。 そっと頭に乗せてみる。おかあさんとラブと同じ色の髪。遺伝と呼ばれる親子の絆。繋がれていく命の証。 一瞬浮かんだ、うらやましいって気持ちを慌てて掻き消した。 今、こうして家族に迎えてもらってる。愛してもらえてる。これ以上、何を望むというのだろう。 気持ちを切り替えて机に向かう。 今夜はたくさんおとうさんと一緒に居られた。色んな表情に出会えた。それをスケッチブックに描いていく。 父の日が近い。そのプレゼントに似顔絵を送るつもりだった。 “おとうさん” 行き場のなかった私を――素性の知れない私を――おかあさんと一緒に優しく迎えてくれた人。 今座ってる椅子だって、使ってる机だって、おとうさんが作ってくれたものだ。 着ているパジャマも履いてるスリッパも、このノートだって……。おとうさんが働いて、買ってくれたものだ。 計り知れない恩があるのに、何度お礼を言えたのだろう。何をしてあげられたのだろう。 向かい合って話した時間の、どれだけ少ないことだろう。 似顔絵を描こうと思って、ショックを受けた。 おかあさんの顔なら、一瞬で細かいところまで全て思い浮かべられる。すらすらと描けた。 でも、おとうさんの顔を描こうとして――想像してみて―― 自分が――情けなくなった。許せないとすら思った。 今夜のデッサンは三枚。一枚にかかる時間がずいぶん短くなってきた。様になってきたように思う。 厚くなってきた似顔絵のデッサン。一枚目から比べると大きな進歩が見て取れる。でも――まだだ。 今夜、垣間見たもの。穏やかな中に秘められた情熱。優しさの中に秘められた強い意志。 それを絵の中に込めたかった。 「おはよう、せつな。今日は父の日だね」 「ええ、プレゼントを買いに行くのよね」 今月は無駄使いをしなかった。コツコツとお駄賃も貯めた。 一緒に相談して決めた。毎日使ってもらえるものがいいって。 ブランドっていうらしい。少し高めの赤いネクタイで、ラブと二人で一本だけ買えた。 (子の愛)の花言葉を持つ百合の花を一緒に添えることにした。 「せつなはおとうさんの似顔絵も描いてるんだよね。完成した?」 「もう少しってところよ。ラブも描いたら良かったのに」 「う~ん――あたしは絵は苦手だし、なんかおとうさんに渡すのは恥ずかしいから」 「私も恥ずかしいわ。でも、今日伝えられなかったら、ずっとそのままだと思うから」 日ごろの感謝の気持ち。ありがとうって気持ち。そして――大好きだって気持ち。 おかあさんに伝える機会ならいくらでもある。 一緒にお買い物をしたり、お料理を作ったり。相談することも多いし、されることも。 二人っきりの時間も取れるし、抱きしめられたことも一度や二度じゃない。 おとうさんには――その機会がない。 異性だから? 仕事で毎日遅いから? お互いに恥ずかしがり屋だから? いくつかの言い訳が思い浮かぶ。だけど、それを理由にただ一方的に甘えているだけでいいとも思えなかった。 愛情は――変わらない。 ラブと私の、おとうさんに対する想いも。 おとうさんの、ラブと私に対する想いも。 おかあさんに対するものと、何も変わりはしないってこと。 「ねえ、ラブ。本当にこれでいいのかしら?」 「これでって?」 「ネクタイと百合の花。そして似顔絵。これでちゃんと大切なことを伝えられるのかって」 ラブは大丈夫だよって、笑ってた。絶対的な信頼。日頃ベタベタはしていなくても、心の底ではしっかりと繋がっている絆。 でも、自分にそんなものがあるのかはわからなかったし、それに甘える気にもならなかった。 おかあさんに相談することにした。 「そうね。本当に伝えたい気持ちがあるのなら、やっぱり言葉にするのが一番じゃないかしら」 日ごろの感謝の気持ち。ありがとうって気持ち。そして――大好きだって気持ち。 これを――言葉にする? 口に出して伝える? 想像しただけで顔が真っ赤になる。できるとも思えなかった。でも―― 言葉にしなければ伝わらない想いがある。それは……ずっと絵を描いてきた今のせつなには痛いほどよくわかった。 もうじき、おとうさんの帰る時間だ。「忙しいって言っても、今日くらい休めばいいのに」と、ラブが口をとがらせる。せっかくの日曜日で、しかも祝日なのにって。やるべきことがあるのに休みを優先させるって考えは、私はまだ持つことができない。でも、大切な人に休んでほしいって気持ちは、よくわかるようになっていた。 せめてもと、今夜はおとうさんの好物でフルコースのご馳走を作ることになった。おかあさんが中心になって調理に取りかかる。ラブと私もお手伝いをした。 こんな時、娘がいてよかったと思うわ。とおかあさんも上機嫌だ。 そんな中、急に雨が降り始めた。六月ももう下旬。梅雨の真っ只中であり、珍しいことではないのだけど。 「大変。今日は降らないって言ってたのに。お父さん、今日に限って傘忘れちゃってるのよ。ラブ、せっちゃん。ここはもういいからお願いできないかしら」 「ごめん。あたし、ハンバーグだけは自分で焼いちゃいたいの。せつな一人にお願いしちゃっていいかな?」 「わかったわ。行ってくる」 ハンバーグなんて帰ってきてから焼いても十分間に合うのに。疑問に思ったが気にしないことにした。 まだ少し時間がある。部屋に戻って身支度を整えているうちに、この間のウィッグが目に入った。 ちょっとだけ、いたずら心が芽生える。 おとうさんとしばらく二人きり。きっと弾まない会話。多分気まずい時間。それを埋める助けになるかもしれない。 歩き慣れた商店街の大通り、ちょっとクセのある黄土色の髪を揺らしながら歩く。 おそば屋さんにパン屋さん。見知った人が気付かず通り過ぎるのが面白かった。 駅に着いた頃には、すっかり雨は止んでいた。また降るかもしれない。かまわず待つことにした。 「おかえりなさい。おとうさん」 「えっ? せっちゃんか」 「ええ、一瞬ラブに見えたでしょ。がっかりした?」 「何を言うんだ。驚いたけど、凄く嬉しいよ」 顔を見た瞬間に駆け寄ってしまった。ウィッグで変装していることを忘れていた。ちょっと惜しかったと思う。 それでも十分、おとうさんの反応は面白くて話も弾んだ。 歩きながら話す。びっくりさせようと思ったこと。そして――髪の色だけでも血の繋がりが持てたみたいで嬉しかったこと。 家族が似ていること。きっと当たり前なこと。それは素晴らしいことに思えた。 「カツラは素晴らしいものだ――が、今夜はいらないな」 「きゃっ!」 おとうさんがウィッグとネットを一瞬で外した。もちろん簡単に出来ることじゃない。 「ラブは性格は僕。容姿はお母さん似だな。せっちゃんはその反対だ。黒髪も僕譲りだ」 「えっ? 私は……違うわ。誰にも似てないし、似るはずもないわ」 「似るんだ。家族は似ていくんだ。僕もおとうさんに似ていると言われたよ」 (おめえとは血のつながりはねえが、おめえは俺によく似ている) 源じいさんが圭太郎に語った言葉。ずっと忘れられない、最高の誉め言葉。 その想いを聞いて胸がつまる。 家族に迎えられたことで、一緒に暮らすことで、私もこの家の温かさや優しさを受け継げるのかもしれない。 もう家のすぐ前まで来ていた。二人きりで居られる時間が終わる。みんなの前では恥ずかしい、だから――今しかない! 一歩先に進んだおとうさんの手をつかんで引き止めた。 ゴツゴツした手。厳しい仕事を続けてきた手。家族みんなを守ってきた手。 両手で包んで言葉を紡ごうとした。 いつもありがとう、おとうさん。大好きって。 「どうしたんだい? せっちゃん」 「ううん――なんでもない。今日は父の日よ。おとうさん、いつもありがとう」 なんとかそれだけ言えた。最後の一言は伝えられなかった。 きっと――ラブが作ってくれたチャンスだったのに。 玄関に入るとおかあさんとラブが迎えてくれた。 それから。 みんなでご馳走を食べて。ラブと私で選んだネクタイと百合の花をプレゼントした。 いつも通りの明るい家庭。楽しそうなみんなの表情。つられて弾む私の心。 そして、いつも以上に嬉しそうなおとうさんの笑顔。 まだ渡せていない、最後のプレゼント。私にできる精一杯の気持ち。 部屋に戻って、似顔絵を手に取る。ずいぶん迷った二枚の絵。 楽しそうな笑顔と、仕事をしている凛々しい表情。 私は二枚目の絵を手に取った。 きっと、これがおとうさんの本当の顔。家族を守り、他人を思いやり、夢を追い求める男の顔。 表に大きくメッセージを書き込んだ。「おとうさん、いつもありがとう」って。 そして、裏に小さな小さな字で書き込んだ。気が付いてもらえないかもしれないけれど。 “おとうさん大好き”
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1187.html
美しかった紅葉も、その多くは散り、落ち葉を攫う風の冷たさが身に染みる。 空も、どことなく薄暗くて――街から色彩が失われる季節。 それを跳ね除けようとでもいうのだろうか、商店街は赤を基調とした華やかな装飾を纏う。 外路地にはイルミネーションの明かりが灯り、民家にはクリスマスリースやポインセチアの花が飾られる。 そんなお祭りムードに乗せられて、カオルちゃんのドーナツカフェでテーブルを囲む四人。ラブは調子に乗って、デタラメな歌を口ずさむ。 今夜はイブで、明日はクリスマスだ。昨年はラビリンスとの戦いのため、みんなで祝うことができなかった。 そこで、「今年こそは!」と、兼ねてより計画していた、クリスマスパーティーの最終打ち合わせを行っていたのだった。 「真っ赤なお尻の、トナカイさんは~♪」 「ちょっと、ラブったら、それじゃおサルさんでしょ? お鼻よ」 「あははっ、そうだっけ?」 「まったく、せつなに教わってどうするのよ……」 「ラブちゃんらしい。でも、本物のトナカイさんのお鼻は黒いのよ」 祈里も楽しそうに笑い、いかにも獣医の卵らしい解説を付け加える。 「それじゃ、どうして歌では赤いことになってるの?」 「それがよくわかってないの。ただ、そのトナカイさんは、赤い鼻のせいで仲間外れにされてたんだって」 「ひど~い! そんなのあんまりだよっ!」 せつなが不思議そうな顔で質問する。彼女がこの世界に来て、一年と半年が過ぎようとしていた。これでも随分と一般常識を身に付けたのだが、祈里の知識には及ぶべくもない。 祈里が伝承を思い出しながら続きを話そうとすると、興奮したラブが身を乗り出して抗議してきた。 「落ち着いてラブちゃん、あくまで言い伝えだから。でも、その子の鼻が明かりになるからって、サンタさんに誘われたそうよ」 「最後は、幸せになれたのね? 良かった」 「それでサンタさんの服も赤いのかしら? 赤と言えばせつなの色。幸せの色って感じよね!」 「美希たん、いいこと言う!」 どんな話題になっても、廻り回って、せつなを気遣う言葉になる。彼女は苦笑しつつも、そんなみんなの気持ちを嬉しく感じていた。 今回のパーティーだって、クリスマスを初めて祝う、せつなのために企画されたものに違いなかった。 『たいへん! せつなが消えちゃった!? ~子供の頃のクリスマス~(起の章)』 「あ~、でも楽しみだなぁ~。せつなは、サンタさんに何をお願いするの?」 「えっ? サンタさんにお願いって?」 「ちょっと、ラブ!」 「ラブちゃん!」 突然、とんでもないことを言い出すラブに、せつなはキョトンとして聞き返す。 美希と祈里もビックリしていたが、ラブはそしらぬ顔で続ける。 「クリスマスにはサンタさんがやってきて、プレゼントをくれるんだよ」 「それは、本当はお父さんやお母さんの扮装なんでしょ? この世界の風習なのよね」 せつなは大真面目で答える。クリスマスプレゼントは、子供たちが一年で一番楽しみにしているイベントだ。 いわば大いなる幸せであり、興味が無いはずがなかった。 「あっちゃー、やっぱり知ってたか……」 「当然でしょ? 子供じゃないんだから」 せつなの返事に、ラブはあからさまにガッカリした表情を浮かべる。 「そうかなぁ~、あたしなんて一昨年まで信じてたのに」 「ラブ、さすがにそれは……」 「そんな人いないと思う……」 呆れ顔の美希と祈里は、せつなと顔を見合わせて一斉に吹き出す。「え~っ」と不満そうにしていたラブも、すぐに一緒になって笑った。 もし、せつなが信じてくれたら、自分がサンタになってプレゼントする気だったんだろう。 「でも、どうしていつかバレるのに、サンタのフリなんてするのかしら?」 「そりゃあ、子供の喜ぶ顔が見たいからじゃ……」 「そうだけど、そのままご両親が渡しても、同じように喜ぶと思って」 せつなの素朴な疑問に、美希が自信なさそうに答える。そんなこと、考えたこともなかったからだ。 彼女は、それでも納得がいかない様子だった。わざわざプレゼントを渡すのに、他人に、しかも架空の人物に成りすます理由がわからない。 「夢を持って欲しいからじゃないかなぁ?」 「子供がサンタクロースを信じたら、何かいい事でもあるの?」 「いい子しかプレゼントをもらえないって話だし、、躾の一環なのかしら? でも、そんな風に考えたくないわね……」 「あたしね、それ、一昨年にお父さんに聞いたことがあるんだ」 それは、ラブが中学一年生の時の、クリスマス・イブの夜だった。 中学校に入って、ラブも女の子の自覚が出てきたのか、部屋に鍵をかけて寝るようになっていた。 コッソリ忍び込もうとした圭太郎は、扉から入るのを諦めて、ベランダから窓を外して侵入を試みた。上手く外せたものの、外から冷たい風が吹き込んで―― 「それで目を覚ましたラブは、本物のサンタだと思い込んで抱きついて、おじさんのカツラが外れたというわけね」 「オチまであるなんて……」 美希と祈里が、その時の様子を想像してクスクスと笑い出す。せつなはその後のことが気になるのか、黙って聞いていた。 「うん。それでショックだったのもあって、どうしてそんなことをするのか、お父さんに聞いたの」 「なんて言ってたの?」 せつなは気になって、ラブに話の続きを催促する。ラブは頷いて、圭太郎の言葉を思い出す。 プレゼントを手に入れるためには、お金を払って購入する必要がある。だから普通は親が用意する。だけど、親が子を愛して贈り物をするのは当然のこと。 家族でもなく、友達でもない他人が、プレゼントを贈ってくれる。そんな、無償の愛が世の中にはあることを、信じて育って欲しいからだと。 いつかは、必ずバレる時が来る。だけど―― 「不思議な出来事や、無償の愛を信じた子は、きっと優しい子に育つ、か。おじさん、いいこと言うわね」 「確かにラブちゃん、人一倍優しいよね」 「ラブだけじゃないわ」 「「「えっ?」」」 「そうやって、たくさんの愛情に包まれて育つから、この街の人はみんな優しいのね。その頃の私は、他人を出し抜いて、メビウス様に認められることだけを考えていたわ」 「せつな……」 胸の内を晒すように、せつなは寂しそうにつぶやいた。 さっき聞いた、赤い鼻のトナカイのことを思い出す。周囲と違う存在は、仲間として受け入れられない。それは、トナカイも人間も同じだろう。 もちろん、ラブたちが自分を仲間外れにすることはないだろう。だけど、トナカイがサンタクロースの側に新しい居場所を見つけたように、自分にも、他に相応しい居場所があるのかもしれないと。 いつの間にか、みんなの表情が曇っているのに気が付いて、せつなは慌てて笑顔を作る。 元よりそんな過去は承知で、だからこそ、これまでの分まで楽しんでもらおうと、企画してくれたクリスマスパーティーではないか……。 迂闊な発言を後悔して、せつなは、なんとか他の話題に切り替えようと頭をひねる。 そんな重い空気を、横から会話に割り込んできた大男が吹き飛ばした。 「そういうことなら、うってつけの物があるぞ?」 「うっ……ウエスター!?」 金色の髪を持つ、筋肉質で大柄な体格の美青年。一年前にラビリンスに帰還した、ここには居るはずのない人物。 それは――ウエスターのもう一つの姿、西隼人であった。 「いつ、この街に来ていたの? もしかして、ラビリンスに何かあったの!?」 せつなは、ウエスターとサウラーの厚意で、彼らにラビリンスのことを任せて四つ葉町に帰ってきている。 もし、不測の事態が起これば、彼女もイースとして故郷に戻らねばならない立場にあった。 「そうじゃない。実はサウラーに用事を頼まれてな、種子島まで行ってきたんだ。今はその帰りだ」 「そんなところに、何があるの?」 美希が不審に思って尋ねる。放蕩癖のある彼だが、その真剣な表情を見れば、バカンスに行ってたわけじゃないことはわかる。 ウエスターは、手にした水槽を見せた。そこには一体の、直径一センチほどの小さなクラゲが入っていた。 「可愛いっ!」 「可愛くないっ!」 「で、このクラゲがなんだっていうの?」 祈里のつぶやきに激しくツッコミながら、美希が気持ち悪そうに尋ねる。 タコに限らず、この手の軟体生物は得意ではない。 「こいつはベニクラゲと言ってな、全パラレルで唯一、『不老不死』の能力を持つ生き物なんだ。こいつを研究して不老――とまでは行かんが、長寿の薬を作ろうとしているらしい」 「感心しないわね、ウエスター。サウラーが言い出したの? そんな命をいじる研究より、もっと学ばなければならないことがあるはずよ!」 「そう言うな。やっとラビリンスが解放されたんだ。なのに、先の短い老人はあまりにも気の毒だろう? 際限なく使うつもりはない」 危険な研究かと警戒するせつなに、ウエスターはそこまでの効力は無いと説明する。 人間とクラゲでは、遺伝子の塩基配列が違いすぎる。よほど上手くいっても、十年か二十年、寿命を延ばせるだけらしい。もちろん、失敗すればただの美容薬だ。 「ねえねえ、それで、さっき隼人さんが言ってた、うってつけの物ってのは?」 「フフフ、それはな――こうするのだっ!」 “スイッチ・オーバー” 「ホホエミーナ! 我に力を!」 “ホホエミーナ~! ニッコニコ~!” いきなり西隼人がスイッチオーバーを行うと、懐から黄色いダイヤを取り出して、水槽に突き刺した。 出現する――超巨大クラゲ。ニコニコと明るく笑っているのが、余計に不気味であった。 カオルちゃんのお店のお客さんはもちろん、広場にいた住人たちも慌てて逃げまどう。「困るのよね~」と、カオルちゃんは冷静にボヤいていた。 「ホホエミーナ、やれ!」 「ニッコニコ~」 ホホエミーナは、せつなを触手で捕らえて自分の方に引き寄せる。彼女も抵抗しようとするが、生身でどうにかなる相手でもない。 ラブたちは、とっさに腰のリンクルンを探る。――が、今の彼女たちが持つのは、普通の携帯電話だった。 リンクルンは、タルトがスウィーツ王国に持ち帰っていたのだった。 「クッ、ウエスター! あなた、どういうつもり!?」 「なに、子供に戻りたいみたいだったからな、協力してやろうというのだ。心配するな、取って食おうってわけじゃない」 ホホエミーナの触手の先が、せつなに向けられる。ほんの一瞬、チクリとした痛みが腕に走った。 それを見届けて、ウエスターはホホエミーナを元の姿に戻した。 「痛っ! 何をしたの? ウエスター!」 「さあな? 後のお楽しみだ。俺からのクリスマスプレゼントだと思ってくれ」 「ふざけないでっ!」 怒りの形相で睨むせつなを、ウエスターは気にした風もなく受け流す。 そして、背を向けて立ち去った。 「一体、なんだったの?」 「さあ……」 「まあ被害は無くて、良かった……よね?」 ラブ、美希、祈里が、離れて行く彼の後ろ姿を、ポカンと眺めながらつぶやく。 せつなの顔色が良くないように見えたので、四人はパーティーの打ち合わせを中断して家に帰ることにした。 コポコポとポットが沸騰する。ラブは温めたティーカップに、数種類の葉っぱを入れて湯を注いでいく。 以前、美希からもらったハーブティーセット。普段はあまり口にしないのだが―― (せつな、大丈夫かなぁ? まさか隼人さんが、酷いことするとは思えないけど……) あの後、せつなは気分が優れないからと、部屋に篭ってしまっていた。 もっとも、ウエスターの行動は不可解だったが、せつなに危害を加えたと思っているわけではない。 以前の彼ならともかく、今は、共にメビウスと戦った仲間である。それに、せつなの気持ちに配慮して、四つ葉町に帰してくれた恩人でもあった。 コンコンと、ラブは控え目にせつなの部屋のドアを叩く。 しかし、返事は無かった。 「せつな、ハーブティーを淹れてきたの。気分がスッキリするんだって」 カチャリ、とドアが少しだけ開かれる。しかし、せつなが顔を見せることはなかった。 「せつな、どうしたの? 具合悪いの?」 明らかに様子がおかしい。ラブは不安を感じて、もう一度問いかける。 「うるさいっ! 入れ!」 「えっ? ……」 聞こえてきたのは、確かにせつなの声。でも、口調がどう考えてもおかしかった。これでは、まるで―― それに、なんだか子供っぽい、かんだかい声にも聞こえた。 ラブは大きく深呼吸して、せつなの部屋に足を踏み入れる。 ドアの先に居たのは、つややかな黒髪と、真っ白な肌の、可愛らしい小さな少女。 いや、顔立ちは整っているが、可愛くはないかもしれない。鋭い目付きでラブを値踏みするように見つめる、幼い子の姿があった。 「あの……せつなは? それに、あなたは一体?」 「せつな、だと? そんな者はここにはいない!」 なんだか、前に、どこかで聞いたことのあるセリフだな……と思いつつも、ラブは少女の次の言葉を待つ。 「わが名はイース。ラビリンス総統、メビウスさまのしもべだ!」 小学生だとしたら、きっと低学年だろう。 幼い女の子は、精一杯の威厳を見せようと、大きく胸を張って左手を伸ばす。 それは、可愛らしくも滑稽な動きだった。大抵の者が見れば、「かわいぃ~」と抱き付きたくなるくらいに愛らしい姿だった。 しかし、当のラブにそんな余裕は無かった。 ガチャンとティーカップを落とし、零れた中身はカーペットに染み込んでいく。 少女の顔立ちに宿る、確かな面影。そして何より、見覚えのある、大きすぎて裾の余ったぶかぶかのお洋服。 その女の子は……確かにラブの親友で、仲間で、家族でもある、“東せつな”その人であった。 新2-431へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1155.html
「この子はインフィニティじゃない。シフォンよ!!!!」 ウエスターとサウラーを睨みつける、プリキュア四人の声が揃う。当のシフォンはキョトンとした表情で、ピーチの腕の中から、去っていく二人の後ろ姿を見送った。 「良かったなぁ、シフォン。一時はどうなることかと思ったで。」 タルトが満面の笑みで駆け寄って来る。その後ろから静かに歩いてくる姿を見て、シフォンがその瞳をキラキラと輝かせた。 「ぱぁぴぃ~!」 「え・・・今、なんて言うたぁ?シフォン。」 タルトが驚いて立ち止まる。ピーチたちも揃って顔を見合わせたとき、ぎゃっ!という小さな悲鳴と、珍しく少し慌てた声が聞こえてきた。 「な、なんじゃ、シフォン。ようその呼び方、お、覚えとったのぉ。」 やって来たティラミス長老は、これまた珍しいことに少し赤い顔をして、長い眉毛だけでなく、心なしか目尻まで垂れ下がっている。 「ぱぁぴぃぃ~!」 再び嬉しそうに声を上げて、長老の腕の中に飛び込んでいくシフォンを見ながら、ピーチは怪訝そうな顔で、タルトに問いかけた。 「ねぇタルト。パピーって、長老さんの名前?」 「ちゃう。長老の名前は、ティラミスや。」 かぶりを振るタルトに、そうだよね、と呟いて、ピーチは今度は仲間たちの顔を見回す。 「じゃあパピーって、どういう意味?」 「まさか、子犬・・・じゃないよね。」 パインが長老の方を気にしながら、小首を傾げる。 「長老さん、犬っていうより、明らかに鳥に見えるわ。」 大真面目に答えるパッションを制してから、ベリーがエヘンと胸を張った。 「パピーってね、確かに英語なら子犬だけど、フランス語で、おじいちゃんっていう意味よ。」 「さっすがベリーはん・・・って、長老!シフォンに自分のこと、そないにハイカラな名前で言うとったんでっか?」 タルトの脳裏に、「ほぉらシフォン。パピーやぞぉ。」と言いながら、長老がガラガラを振っている絵が浮かぶ。それを打ち消すように、まだ少し赤い顔の長老が、コホンと咳払いした。 「いやなぁ、パパでは少し照れ臭いし、おじいちゃんと言うのも、ワシのキャラに合わんじゃろう?それでシフォンには、ワシのことはパピーと、そう教えとったんや。」 あっけにとられて声も出ない四人の少女に、長老はいつもの調子で、パチリとウィンクする。 「どうじゃ、パピーの方がワシに似合うて、なかなかシブいやろ?」 「ガクッ。パピーの、一体どこがシブいんやぁぁ!!」 「そうか・・・。すまん。若気の至りや。」 「ちがっ・・・う~、否定しにくいやないかぁ!」 長老とタルトの掛け合いに、ピーチがたまらず、ぶっと吹き出す。それはあっという間に四人の間に伝染して、その場は笑いの渦となった。 シフォンは、みんなの笑顔をひとりひとり見渡してから、キュア~!と一声、実に嬉しそうな声を上げた。 四つ葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode10:宴のあとに その日、桃園家に最後の緊張が走ったのは、もう夜になってからだった。 コロッケパーティーもお開きとなり、お客さんも皆帰って、家族だけでリビングでくつろいでいたときのことだ。 「おーい、タルト。タルトぉ!」 二階から、突如長老の大声が聞こえてきたのだ。ラブもせつなも、その足下にいたタルトも、思わずギクリと顔を上げた。 「ん?どうかしたの?ラブ、せっちゃん。」 あゆみが不思議そうに、二人の顔を覗き込む。圭太郎はと言えば、テレビのバラエティ番組を見ながら、わはは・・・と呑気そうに笑っている。 そんな二人の様子を見て、せつなは密かに安心した。どうやら長老は、姿を見えなくできるだけではなくて、声も、特定の人にしか聞こえないようにできるらしい。 しかし、ホッとしたのも束の間、次に聞こえてきた長老の言葉に、三人は別の意味でギクリとして、腰を浮かせた。 「タルト。悪いんやけど、急いでクローバーボックスを持って来てくれへんか?」 タルトが弾かれたように部屋を飛び出す。ラブは思わず、天井に目をやった。シフォンは今、二階のラブの部屋で、長老に遊んでもらっているはずだ。 (まさか、シフォンがまたインフィニティに!?) 「お、お母さん。あたしたち、ちょっと宿題を思い出したからっ!」 言うが早いか、ラブとせつなも二階へと駆け上がった。 部屋に入ってみると、長老は、もうクローバーボックスのハンドルを回し始めていた。ゆったりとした優しい音色が、部屋の中に漂っている。 「長老さん!シフォンは?」 叫ぶようにそう尋ねたラブに、長老は空いている左手を、自分の嘴に直角に当ててみせた。人差し指は立てられないものの、どうやら「静かにしろ」と言っているらしい。 シフォンは実に嬉しそうな、安心しきった表情で、ラブのベッドに横たわっていた。額の四つ葉のマークがぼぉっとピンク色に色づき、その目は気持ち良さそうに閉じられている。きっとすぐにでも、寝息を立て始めるだろう。 「良かった・・・。シフォンがまた、インフィニティになったのかと思った。」 ラブは長老の隣りに座って、ホッと胸を撫で下ろした。せつなも安心したように、その隣りに腰を下ろす。 長老は、ゆっくりとハンドルを回しながら、いつもの飄々とした口調で言った。 「シフォンを寝かせるのんは久しぶりやから、前みたいに子守唄で寝かしつけたろ、と思うてな。うちにおった頃は、毎晩こうやって寝かしてたんや。」 「じゃあその頃は、クローバーボックスの曲は、この子守唄だったんですね?」 せつながシフォンの顔を見ながら、小声で長老に問いかける。 ラブとせつなにとって、この曲は、今日初めて聴いた曲だ。異世界を彷徨っていたシフォンを呼び戻したときまでは、クローバーボックスは別の曲を奏でていたのだから。 「うーむ、なんや知らんけど、普段はいろんな曲が流れとったなぁ。どうやらそのときのシフォンの状態で、曲が変化するみたいじゃった。せやけど、寝かしつけるときは必ず、この曲になっとったな。」 「やっぱり、ただのオルゴールじゃないわけね。」 感心したように呟くせつなの向こう側から、タルトが不満そうな顔を覗かせる。 「せやけど長老。ただ寝かしつけたい、ってだけやったら、何も二階から大声で呼ばんでもええやないですか。クローバーボックスを持って来い、言うから、ワイはてっきり、シフォンがまたインフィニティになったもんやと・・・」 「そりゃすまんかったの、タルト。せやけどクローバーボックスは、何もシフォンをインフィニティから元に戻すためだけに使うもんやないやろ?」 長老のその言葉に、ラブはハッとしたように、顔を上げた。 「そっか。そうですよね!」 「ん?何が“そう”なんや?」 のんびりとした口調に似合わず、案外鋭い目つきの長老に、ラブは勢い込んで言葉を続ける。 「今日あんなことがあったから、あたし、クローバーボックスって、シフォンを元に戻すためのアイテムだって、思いかけてた。 でも元々は、シフォンがすくすくと成長するように――シフォンの幸せのために、一緒にスウィーツ王国にやって来たんですよね!」 「・・・そうね。ラブの言う通りだわ。」 じっとラブの言葉に耳を傾けていたせつなが、生真面目な顔で小さく頷く。 「ふむ。」 長老は、シフォンが寝入ったのを確認してから、ハンドルを回す手を止めて、ラブとせつなの方に向き直った。 「クローバーボックスはな、確かにただのオルゴールやない。何と言うても、伝説のクローバーボックスや。まだまだワシらの知らん、たくさんの秘密があるはずなんや。」 厳かな長老の声に、ラブはゴクリと唾を飲み込み、せつなは真っ直ぐに、長老の目を見つめる。 「せやけどな。」 長老はそこで言葉を切って、もう一度、すやすやと眠るシフォンの顔を覗き込んだ。 「今、あんさんが言うた事――シフォンの幸せを願うアイテムや、ちゅう事こそが、クローバーボックスの力の源であるはずや。そのことをよう覚えといてな、お嬢さんがた。」 「はい。」 声を揃えてしっかりと頷くラブとせつなを見つめる長老の目は、今は何だか優しい、穏やかな光を湛えていた。 ☆ その日の夜遅い時間。既にベッドに入って寝ようとしていたせつなの部屋のドアを、ラブが遠慮深げにノックした。 「長老さんが、シフォンと一緒にあたしのベッドで眠っちゃってさ。せつな、悪いんだけど、今夜は一緒に寝てもいい?」 枕を抱えて、上目遣いでそう言うラブを、せつなは笑顔で招き入れた。 小さなベッドに、二人で潜り込む。息がかかるほど近い距離で向き合って、どちらからともなく、フフッと笑いが漏れた。 「何だか、私が初めてこの家に来たときみたいね。」 せつなが微笑みながら言う。 「ホントだ。じゃあ今日は、あのときのお返しだね。」 ラブがそう言って、せつなに微笑み返した。 あのときは、この部屋はまだせつなの部屋になっていなくて、それで二人でラブのベッドで眠ったのだ。 早いもので、あれからもう二カ月が経つ。そう言えばあのときは、せつなとこんなにくっついて寝てはいなかったなと、ラブはあの日の、せつなの寂しげな笑顔を思い出す。 「そうだ、せつな。今日はありがとう。」 「え?」 突然お礼を言うラブに、せつなは不思議そうに小首をかしげた。 「数学の時間のこと。あたしが当てられそうだったから、代わりに答えてくれたんでしょ?パーティーのとき、大輔から聞いたんだ。」 「ああ。」 せつなが納得したという表情で、ううん、と首を横に振る。そして少し目を伏せると、低く静かな声で言った。 「今日はみんな、学校どころじゃなかったものね。私も今日初めて、放課後になるのが凄く待ち遠しかった・・・。」 そこまで言うと、せつなの顔がグニャリと歪んだ。 慌てて下を向いて、表情を隠す。でも、至近距離にいるラブには、肩の震えと、必死で嗚咽を堪えている息づかいが伝わって来る。 「せつな。」 ラブは、ゆっくりとせつなの肩に手をかけてから、そのままギュッと、その細い身体を抱き締めた。 「お疲れ様。今日は一日、長かったね。」 せつなの震えが、ラブの腕の中で大きくなる。 まさか、インフィニティがシフォンだなんて、思いもよらなかった。探していたものが何かすら知らず、ただ命じられるがままに、人々から不幸を集めていた自分。あまりにも愚かだったと後悔している自分の行為を、せつなは今日ほど、激しく悔いたことは無い。 でも、泣くことも詫びることも、自分には許されないと思っていた。だから、ただひたすらにシフォンを探し、精一杯戦った。シフォンが元に戻ったときは、仲間たちと共に心から喜び、一生懸命コロッケを作って、みんなとパーティーを楽しんだ。 それでいいと思っていた。後悔したって、何も始まらないのだから。拭い切れないこの思いは、心の奥底に閉じ込めて、ただこれからを精一杯がんばろうと、自分に言い聞かせていた。 それなのに――凍らせたはずの自責の念は、まるでラブのぬくもりに溶かされたかのように胸を満たし、両目から一気に溢れ出した。 「ごめん・・・なさい、ラブ。私・・・私が・・・」 「せつな、もういいの。もう、いいんだよ。」 ラブは、せつなの涙と震えが治まるまで、そう繰り返しながら、優しくせつなの背中を撫で続けた。 どれくらいの間、そうしていただろう。 「ねえ、せつな。」 涙が止まって、少し照れ臭そうに顔を上げたせつなに、ラブは静かに語りかける。その目にも、うっすらと涙があった。ラブにとっても、今日はまるで先の見えない、長い長い一日だったのだ。 「もしインフィニティが現れても、それをラビリンスに渡さなければいいって、あたし、昨日そう言ったよね。」 「ええ。」 せつなも涙に濡れた目で、ラブの顔を見つめて微かに頷く。 「シフォンがインフィニティだってこと、まだ信じられないけどさ。でも、知らないものを守るんじゃなくて、シフォンを守るためだったら、あたしたち、何だか十倍も百倍も、頑張れそうな気がしない?」 そう言って、ラブはせつなの顔を覗き込む。 「だって、シフォンはあたしたちの大切な友達で、家族だもの。絶対に守りたい、大切な大切なものだもんね。」 ラブの瞳に、強い意志の光が輝く。それを見て、せつなの瞳にもまた、光が宿った。 「そうね。インフィニティだから守るんじゃない。私たちは、シフォンを守るのよね。」 「うん。だって、あたしたちにとって、シフォンはシフォンなんだから。」 「ええ。」 しっかりと頷くせつなの手を、ラブは強く握りしめる。 「さぁ、そうと決まったら、明日からまた楽しいこと、たっくさんやろうね!不幸のゲージのせいで、シフォンがインフィニティになるんだったらさ、その分あたしたちが、いーっぱい楽しいこと、シフォンに教えてあげようよ。ね?」 ニコリと笑うラブの顔が、今日は何だか、いつもに増してあゆみに似て見える。せつなはそう思いながら、決意を込めた言葉を、力強くラブに告げた。 「ええ。私、精一杯がんばるわ。」 ☆ 翌日の土曜日は、まるで秋の空を絵に描いたような、雲ひとつない天気となった。 「長老~!ここがワイの兄弟がやっとる、めっちゃ旨いドーナツの店でっせ。」 タルトが勝手知ったる他人の店とばかりに、ドーナツカフェのテーブルに、ぴょんと跳び乗る。 「タルトちゃん、声大きいよ。他の人に聞かれたら、どうするの?」 祈里が、言葉の割におっとりとした口調でそう言いながら、タルトを隠すようにテーブルに着く。 「まぁ今のところ、お客さんはアタシたちだけみたいだけどね。」 美希がそう言って、いつものドーナツセットを注文する。ラブとせつなも、それぞれシフォンと長老をテーブルの上に降ろして、席に着いた。 「今日はいつもと違うんだから、気を付けてよ?タルト。長老さんは、カオルちゃんには見えないんだからね。」 「わかっとるがな。」 小声で念を押すラブに、タルトが軽い調子で言い返す。 長老がスウィーツ王国に帰る前に、どうしても出来たてのドーナツを食べてもらいたい。タルトがそう言って、まだお客さんの少ない午前中を狙って、みんなでドーナツカフェにやって来たというわけだった。 「それにしても、スウィーツ王国っていうくらいなのに、どうしてドーナツが無いんですか?」 声をひそめて問いかける祈里に、長老はあっさりと即答する。 「そりゃあ、全パラレルワールドのスウィーツがあったりしたら、困るからや。」 「え?どうして困るんですか?」 「うーん、スウィーツ王国が、スウィーツで埋もれちゃうから・・・とか?」 「いや、ラブちゃん。別に飾っておくわけじゃないんだから・・・。」 祈里とラブがボソボソと言い合うのを軽く流して、長老は実に事も無げに言ってのけた。 「そりゃあ、今日みたいな楽しみが無くなるからに決まっとるやろ?新しい世界に出向いて、見たことも食べたことも無いスウィーツを食べる。これぞ旅の醍醐味っちゅうもんじゃ。それが無くなってしもうたら、実につまらんからの。」 「なんか重々しく言ってるけど・・・そんな軽い理由なんですか?」 力なく突っ込む美希に、長老はニヤリと笑って、オレンジジュースをズズッと啜った。 「はい。ご注文通り、出来たてだよ~ん。」 カオルちゃんが歌うようにそう言いながら、ドーナツを持ってやって来る。 「うわぁ、ありがとう、カオルちゃん。」 ラブが目を輝かせてお礼を言ったとき、シフォンが両手を振りながら、嬉しそうに叫んだ。 「ぱぁぴぃ~!」 「わわわ、シフォン!それ、言うたらあかんて。」 タルトが慌ててシフォンを抑え込む。 「ん?パピーって、オジサンのこと?やっぱり子犬みたいに、つぶらな瞳だからかな。」 ニタリと笑って自分の鼻を指差すカオルちゃんに、今度はラブたちがうろたえた。 「い、いやぁ、カオルちゃんのことじゃないよ!」 「シフォンは最近、おしゃべりする言葉が凄く増えてきたから・・・」 「時々、関係ない言葉をしゃべったりするのよね。」 ラブ、美希、祈里が口々にそう言って、あはは~と取って付けたように笑う。 苦笑いでそれを見守っていたせつなだったが、ふとテーブルの上に目をやって、ギクッと首を縮めた。その視線に気付いたタルトが、振り返って、わっ!と飛び上がる。 そこには、長老が満面の笑みを浮かべ、両手にドーナツを持って、夢中で頬張っている姿があった。この光景は、おそらくカオルちゃんの目には、宙に浮いたドーナツが、ひとりでに減って行っているように見えるだろう。 せつなは咄嗟に長老を抱え上げると、「ごめんなさい!」と早口で呟きながら、素早くテーブルの下に押し込んだ。 「あれ?兄弟。そんなところにアイス置いといたら、溶けちゃうよ?」 「へ?」 ホッとしたのもつかの間、カオルちゃんの何気ない一言に、またもや全員が、顔を引きつらせる。 テーブルの上にあるのは、長老のステッキ。ご丁寧に、ドーナツの皿の中に放り出されている。持ち主の手を離れたせいで、カオルちゃんにも見えてしまっているらしい。そこに取り付けられたアイスクリームの飾りは、言われてみれば確かに本物と間違えるくらい、よく出来ていた。 「出来たてドーナツは、ハートの中までアツ~いからね。この熱をナメたらいけないよ~ん。あ、舐めるのはアイスの方か。グハッ!」 「ち、違うんや、兄弟。これはただのイミテーションで・・・って、なんで次から次へとこうなるんやぁ!」 タルトの絶叫が、ドーナツカフェに響く。せつながチラリとテーブルの下を覗くと、長老はもうすっかりドーナツを食べ終えていて、せつなに向かって、パチリとウィンクしてみせた。 せつなはクスリと笑って、もう一度テーブルの上に目をやる。まるで百面相のようなみんなの顔を、キョロキョロと楽しそうに見回していたシフォンが、せつなの顔を見て、キュア~!と嬉しそうに叫んだ。 ~終~ 新2-242へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/291.html
翼をもがれた鳥 第4話――そして飛べない現実を知る(前編)―― いつからだろうか? そこで暮らすと、幸せになれると信じられてきた街。 人々の笑顔と、優しさと、思いやりの集う所。それが四つ葉町。 そのシンボルたる、クローバータウンストリート。 夏の昼下がり、強い日差しを優しく遮る街路樹。 恋人、夫婦、親子連れでショッピングを楽しむ人たち。 友達とはしゃぎながらウィンドウショッピングを楽しむ学生たち。 木陰のベンチで語らう老人たち。 決して強引には勧めず、お客さんの立場になって親身に相談に乗ってくれるお店の人たち。 笑顔の連鎖。幸せの輪に連なった人々。 その輪の中に、一人取り残された少女がいた。 年頃は十代前半。儚さと鋭利さを併せ持った清楚な顔立ち。 月の光を想わせるような、透き通る白い肌。肩までかかる、綺麗なミディアムレイヤーの黒髪。 背丈は、人々の中にあっては小柄。しかし、小顔と均整の取れた体形のため、小さい印象を与えなかった。 およそ少女として、これ以上を求めることの出来ないほどの完璧な造形。未完成な年頃ゆえの妖精のような美しさ。 しかし、街行く人々の目に止まり、関心を引くことはほとんどなかった。 少女の持つ刃物のような不可侵の気品が、興味本位の若者を寄せ付けない。 何の感情も映さぬ暗い瞳が、彼女と視線を合わすことすら許そうとしなかった。 喜びもなく、怒りもなく、無関心ですらない。 氷の彫像のような表情が、少女の存在を異なる空間に切り離しているかのようだった。 (四つ葉町のことなら、あたしにまかせて。子供の頃からずっとここで暮らしてきたんだ) 少女――東 せつなは、桃園ラブの言葉を思い出した。 ちょうどこの辺りだったはず。 自分とラブが、初めて街で会った場所。 想いごと奴の存在を断ち切るならば――思い出の場所こそ相応しい。 “スイッチ・オーバー” 少女の両手が胸の前で合わさり、左右に広げられる。 全身の細胞が入れ替わる。心が切り替わる。表から裏に。正から負に。光から闇に。 湧き上がる戦意。こみ上げる破壊の欲求。そう――これこそが自分の本当の姿だと言い聞かせる。 氷のような少女の表情に、猛々しき闘志が宿る。暗い色の瞳が怒りに赤く燃える。 雪のような肢体は、漆黒の闘衣に覆われ、しなやかな髪は月の雫に濡れたような白銀の輝きを宿す。 平穏な日常の中に、突然舞い降りた破壊の女神。残酷なまでの美しさ。 圧倒的な存在感を放ちつつ、人々に幸せの終わりを宣言する。 “我が名はイース! ラビリンス総統メビウス様が下僕!!” 「愚かな人間どもよ、不幸を嘆くことしかできない弱き者たちよ。お前たちに我が占いを授けよう」 懐から、拳二つ分くらいの大きさの水晶球を取り出す。 占いの水晶球。この街に来て最初に手に入れた、幸せをもたらすためのアイテム。 「お前たちには、これから大いなる災いが降りかかるだろう」 “ナケワメーケ! 我に仕えよ!!” 上空高く放り投げられた占いの水晶球に、真紅に輝くダイヤが突き刺さる。 科学と神秘の融合。 コントロールコアが対象物の成分を分析し、分裂増殖を繰り返す。 成分だけではない、蓄積された物質としての記録。残留思念までもが力に変換されていく。 一瞬の後に現れる、半透明の巨人。水晶で構築されたゴーレム。 体長は十メートルほどで、ナケワメーケとしては巨大な部類ではない。しかし、細身でありながら力強いフォルム。 人間の体形に限りなく近いその姿には、これまでにない知性と俊敏性を感じさせた。 キラキラと太陽光を乱反射する体表は、まるで金剛石のようだった。額にはダイヤが変化した宝玉が輝く。 そして、胸には大きな水晶球がその存在を主張していた。 “クリスタル・ゲージング” (水晶占い)を意味する咆哮を上げながら、ナケワメーケが豪腕を振るう。 一撃で街路樹の一本を圧し折り、歩道に大きな亀裂を入れる。 折れた大木を振り回し、商店街の一部を薙ぎ払う。 近くに居たトラックの運転手が、車を置いて逃げ出す。そのトラックを別の車に投げつける。 爆発音と共に、破片が弾丸のように飛び散り、周囲を混乱に陥れる。 それぞれのガソリンに引火して炎上する。その炎を恐れるように、人々は悲鳴を上げながら散り散りに逃げていった。 「燃やせ! 奴の大切な場所を燃やし、奴の怒りに火をつけろ! これが最後の決戦の狼煙だ!!」 イースの悲鳴にも似た怒号が、もはや人気のなくなった戦地に響き渡った。 『翼をもがれた鳥――そして飛べない現実を知る(前編)――』 蒼乃美希がジョギングを終えて自宅に戻る。 六キロもの距離を走り終えてきたにも関わらず、大きく息は乱れていない。 早朝の涼しい時間に日課のトレーニングを済ませる。時間と努力の大切さを誰よりも知っている子だった。 昨日の今日。あんなことがあった後。 でも、 だからこそ、自分を甘やかしたくなかった。 いつ、何が起こっても万全のコンディションで対応できるように。 どんなことになったとしても、決して後悔だけは残さないように。 完璧を口ぐせにしている彼女だからこそ、本当は完璧なんて存在しないことも、誰よりも知っていた。 だからこそ、常にそれを目指し努力し続ける。 この後に、受け入れられない現実が訪れたとしても、決して後悔だけは残さないように。 だから、厳しくしてきた。時には心を鬼にしてでも。 自分自身にも、大切な家族にも。 身体の弱い弟にも、かけがえの無い親友にも。 後悔ほど、不幸なことなんてないと知っていたから。 大切な人たちと、ずっとずっと、笑いあって生きていきたかったから。 「ただいま――って、ブッキー?」 「お邪魔してるね、美希ちゃん」 家の扉を開けた先に待っていたのは、昨日の夜に別れたばかりの幼馴染、山吹祈里だった。 「お待たせ、レモンティーとクッキーしかないけど」 「ありがとう、美希ちゃん」 シャワーだけ浴びてから、簡単にお茶の用意をしてもてなした。 プライドの高い美希が、何の身支度もせずに素顔を晒すのは祈里とラブの二人だけだ。 祈里の方も、あまり誉められた状態ではなかった。例えるなら、しおれた花のよう。目が腫れぼったく、肌に張りが無い。 もともと、タンポポのような可憐な少女だった。美希のような華やかさはないが、しっかりとお日様に向いて花を咲かせる可愛い子だった。 おしゃれはしていても、ちゃんとお化粧はしていても、美希の目は誤魔化せない。 多分、寝不足なのだろう。ラブが心配で泣いていたのかもしれない。不安で、一人じゃいられなくなって会いに来たのだろう。 ラブのようにせつなを信じることもできず、疑っていたのに告げることもできず。成す術もないまま最悪の事態を迎えてしまった。 自責が余計に祈里を追い詰めるのだろう。それは美希も同じだった。 「ラブには、メールしたの?」 「うん、でも返事は来ないの」 そうだろうと思った。だから、美希は連絡を取らなかったのだ。 ラブはまだ、答えを見つけられていないのだろう。どうすればいいのか、どうしたらせつなを救えるのか。 でも、叱咤する必要はないように思えた。 もうラブは前を向いている。たとえ躓き、転んで立ち止まることはあっても、一度走り出したら決してゴールまで歩みを止める子じゃない。 ただ、自分たちも手をこまねいてそれを見ているわけにはいかなかった。 昨日、ラブは確かに言ったのだ。「あたしの全てをかけて止める」って。 きっと、ラブは本当に全てを賭けるだろう。身も――心も――命すらも―― それだけは、なんとしても止めなければならなかった。 「ねえ、美希ちゃん。どうして、せつなさんはあんなに……苦しそうなのに、メビウスに従うのかな?」 「そうね、洗脳って感じじゃなかった。ちゃんと、自分のしていることがわかっているようだった」 人に強迫観念を植え付けて、手駒として自在に操り戦争に狩り出す。そんな悪魔のような手段があることは聞いている。 この世界よりも科学技術が進んでいるラビリンスなら、それは簡単なことだろう。 でも、人の自由意志を奪うことはメリットだけではない。自由な発想、臨機応変な判断力、そうした戦士として必要な物まで失ってしまうのだ。 一介の兵士ならともかく、ラビリンスの四大幹部にそのような処置をしているとは考えられなかった。 何より、イースには強烈な意思の輝きがあった。怒りや悲しみや苦悩も感じられた。 「本で読んだことがあるの。命の危険を感じるほどの虐待を受けて育った子は、かえって深く親を愛するようになることがあるって」 「美希ちゃんて……そんな怖い本も読むんだ」 「こんな時に茶化さないの!」 「ごめん」 「虐待はともかくね、生まれた時から自由を奪われて、尽くし捧げることでしか何も得られないような環境で育ったんだとしたら……」 「それって! タルトちゃんが言ってたのと同じ」 「うん、そうよ。だとしたら、メビウスの意思が全て! そう思う人間になってしまっても無理はないわ」 人は、どんな環境にも適応しようとする。生きていくために、命を繋ぐために。 しかし、それは自己防衛本能の顕現に過ぎない。そんなものは愛情でもなければ忠誠心でもない。 「どうしたら、助けてあげられるのかな?」 「抵抗するだろうけど、無理やり束縛の影響下から引きずり出して、自分が自由であることをわからせてあげるしかないわ」 相手は無力な少女ではない。凄まじい戦闘力を持つ、異世界の軍事国家の幹部なのだ。一筋縄で行くとは思えなかった。 それでもやるしかない。イースの戦闘能力を根こそぎ剃り落として、場合によっては拘束する。 希望はある。イースは、せつなは確かにラブに心を開きつつある。 ならば、自分たちはラブに出来ないことをするだけだ。 それが、せつなを深く傷つけ、痛めつけることになるとしても! 「辛い戦いになるかもしれないけど、ラブのため、そしてせつなのためにも。やるわよ、ブッキー!」 「うん! きっと最後は上手くいくって、私、信じてる」 その時、地響きが起こり、外から騒がしい声が聞こえてきた。 そんなに遠くない。すぐに火の手が上がり、煙の匂いまでもが開け放たれた窓から入り込んできた。 「美希ちゃん……街が――燃えてる!」 「行くわよ! ブッキー!」 頷いて、すぐに二人は駆け出した。彼女たちもまた、幾多の戦いを潜り抜けてきた戦士だった。 桃園ラブは、トボトボと街の中をさまよい歩いていた。 ふと、既視感にとらわれる。(こんなこと、前にもあったっけ?)と。 考えて、おかしくなって少し笑った。前どころか、つい昨日の同じ時間のことだった。 この辺りで、こんな風に、どうしていいかわからなくて歩いてたっけ……。 「何が……いけなかったんだろう」 わざと言葉に出してつぶやいてみた。 カオルちゃんに教えてもらった、気付かせてもらったヒント。 “罪を憎んで人を憎まず” 自分にとって、せつながイースであったとしても、何も気持ちは変わらない。 ただ、悪いことはやめさせなくっちゃ。そんなことしてたら、絶対にせつなも幸せになれないから。 間違ってることをしてるなら、止めなっくちゃ。友達だからこそ、放ってはおけない。 ラビリンスを抜けてもらう。イースであることをやめてもらう。 そして、せつなはあたしが守るんだ。そして、幸せになってもらうんだ。 きっと、今からでもやり直せるよ。そう伝えたかった。 せつなに教えてあげたかった。 せつなを取り戻したかった。 せつなを……あれ? なにか――引っかかる気がした。 大事な――何かを忘れているような気がした。 馬鹿だ――あたしは――馬鹿だ。 やっと……わかった。 あたしの声が届かなかったのなんて、当たり前だ。 どうして――こんな簡単なことに、気がつかなかったんだろう。 どうして――こんな大事なことを、考えてあげなかったんだろう。 あたしは――自分の気持ちを押し付けることしか考えてなかった。 せつなはあたしの友達なんだから、あたしもせつなの友達でなきゃいけないのに……。 自分だけ高いところから、許してあげるなんて気持ちでいたんだ。 せつなの苦しみを聞いてあげなかった。 せつなの悩みを知ろうとしなかった。 どうして、こんな酷いことをするの? なんて、口ばっかりで。 それじゃ責めてるだけじゃない……。 本当に、どうしてそんなことをしたのかを、わかってあげようとしなかった。 馬鹿だ――あたしは――馬鹿だ。 せつなが悩んでいることなんて、とっくに知っていたのに。 せつなが苦しんでいることなんて、痛いほどわかっていたのに。 せつなには居たんだろうか? 悩みを聞いてくれる――友達が。 苦しみを理解してくれる――友達が。 せつなが寂しそうな顔をしていた時だって、 ここに居るから会いにきてねって、それだけで、 あたしは、どうして寂しいのかを聞いてあげなかった。 せつなはいつも一人で居ることが多いからって、 わかっていながら一人にしておいたのはあたしじゃない! 何が――友達だよ……。 会いたい――もう一度――せつなに会いたいよ。 突然、地震のような地響きが起こる。 足元が揺れる。悲鳴のような叫び声があちこちから聞こえてくる。 そして、爆音! 視界の先に赤い炎が舞い踊る。 その先に見えるのは巨人? ナケワメーケ! 距離にして数百メートル! せつなであって欲しいような、せつなであって欲しくないような。 ラブは複雑な気持ちのまま、逃げ惑う人々の波をかいくぐって戦地目指して駆け出した。 第5話 翼をもがれた鳥――そして飛べない現実を知る(後編)――へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1447.html
『紫陽花とクローバー』/夏希◆JIBDaXNP.g 梅雨の中休み。天の貯水にも限りがあるのだろうか。雨に洗われた空は、高く、高く、鮮やかな青色に澄み渡る。 たっぷりの水で潤った草花が、纏った水滴に光を閉じ込めてキラキラと輝きを放つ。 晴れの陽射しに誘われて、散歩に出かけたせつなが足を止める。視界を埋め尽くす花々。思わずため息が零れ、独り言が口を付いて出た。 桜色、紫色、青色、そして可憐なる白。重なり合い、交じり合い、幻想的な美しさが広がる。 紫陽花――七変化と詠われる、梅雨に咲く不思議な花。四つ葉町公園の遊歩道に連なる紫陽花コーナーだった。 「きれい……なんだか、一人で見てるのがもったいないくらい」 「せつな……ちゃん? やっぱり。おはよう!」 「おはよう! ブッキーもお散歩? ――のようね」 「うん、わたしは主にワンちゃん達のだけど」 せつなの願いが通じたのだろうか、この感動を分かち合うに相応しい友が通りがかった。今、一番会いたかった友達の一人だ。 祈里の足元には黒と白の小さな子犬。久しぶりのお散歩がよほど嬉しいのか、互いにじゃれあってクルクルと回る。 花と土の匂いが気になるのか、花壇に入ろうとしては湿った草に阻まれる。 犬は嗅覚で景色を楽しむという。その分だけ鼻は敏感で、濡れるのを嫌うのだろう。 わんわんと威嚇するが、相手が植物ではどうにもならない。結局あきらめて今度はせつなにじゃれついた。 「こら、ダメよ。せつなちゃんのお洋服がよごれちゃう」 「平気よブッキー。こうして懐いてもらえるのって、なんだか嬉しいわ」 かつて、もう一つの名で呼ばれていた頃は、動物なんて寄り付きもしなかった。 今は小鳥すら恐れず近寄ってくる。自分が変われた証のような気がして、優しくなれたような気がして―― 「見て、せつなちゃん。カタツムリさんたちも嬉しそうにお散歩してる」 「ほんと、こんなに元気に動くものなのね。でも、……くすっ」 「どうしたの?」 「ごめんなさい。ブッキーはカタツムリにまでさん付けするのね」 「うん。命に優劣なんてないと思うし」 「そうね。私はそんなことにすら気が付かずに生きてきたのね」 滑って落ちたのだろうか? せつなは地べたに転がったカタツムリを見つける。そっと拾い上げて葉の上に乗せた。 そんな様子を目にして、紫陽花の美しさに引き寄せられるようにやってきた女性が声をかける。 「おはよう! 祈里ちゃん、せつなちゃん、仲良くお散歩?」 「ミユキさん、おはようございます!」 「びっくり! ミユキさんとも会えるなんて」 ジャージ姿と首にかけたスポーツタオル。何をしていたか聞くまでもないジョギングスタイル。 驚くべきはその身体能力だった。自宅から公園までかなりの距離を駆けてきたはずなのに、呼吸に一切の乱れを感じさせない。 動から静への速やかなるシフト。ミユキが瞳を輝かせて花々を愛でる。楽しげに観賞する様子は、まるで始めから紫陽花を観に来たかのようだった。 「わぁ~! 綺麗な紫陽花ね。カタツムリ君も嬉しそう」 「ミユキ……さんは君付けなんですね?」 「あ、そうね。なんとなく男の子みたいな気がして」 「そうじゃなくて……」 「あ、女の子だったの?」 「だからそうじゃなくて……。というか、わたしにもカタツムリの雄雌の区別は付きません」 「ブッキー……論点がずれてる」 「わたし以外にもカタツムリに敬称付ける人がいるんだなって、驚いたんです」 「全ての命に心があるって思うことにしているの。紫陽花だってさん付けしたいくらいよ」 「紫陽花は女の子なんだ……」 「そうね、どうしてかしら?」 「くすっ、くすくす」 本気で思案するミユキの様子がおかしくて、思わずせつなは笑ってしまう。 つられるように、祈里とミユキも一緒に。 ラブと美希を足して二で割ったような感じの人と思っていたけど、祈里に似ているところもあるのかもしれない。 普段はコーチと教え子として接しているからか、親しい仲にもどこか緊張感があって遠い存在に思える。 だから、肩を寄せ合って談笑できるこの時間が嬉しかった。 「そういえば、今日はラブちゃんと美希ちゃんはどうしたの?」 「美希ちゃんはもうじき来ると思います。朝のジョギングのコースだから」 「ラブもきっと。部屋に私がいないと知ったら――」 びっくりして飛んでくると思う。そう言いかけたせつなの言葉を遮るように、ラブと美希の声が飛んでくる。 美希は、軽やかな足取りと爽やかな声で。ラブは、よろけた足取りで肩で息をしながら。 「おはようございます、ミユキさん!」 「朝から、はあはあ、ミユキさんに、はあはあ、会えてラッキーです!」 起こしてくれたらいいのに、とラブがせつなをジト目で見る。起きないラブが悪いのよ、とせつなは知らん顔。 実は部屋を覗いたのだけど、気持ち良さそうに寝ていたので声をかけられなかったのだ。 「揃っちゃったわね。みんな動きやすい格好だし、良かったら一曲踊らない?」 「コーチしてもらえるんですか?」 「そうじゃなくて、わたしも一緒に踊りたいの。気持ちのいい朝だから」 ミユキがダンシングポッドをジャージのポケットから取り出した。花壇の横の広場に設置する。 いつ、どんな時でも、ミユキはダンスの準備を欠かすことがない。 「今朝はわたしもクローバーの一員よ。思いっきり楽しんじゃいましょう!」 『はいっ!!!!』 鮮やかに咲き誇る花々と、傍らで息づくカタツムリや小動物たち。駆け回る二匹の子犬。 言葉を話さぬ観客の前で、少女たちは舞い――踊る。 紫陽花とクローバー。どちらがより美しいかと競うかのように―― 命の輝きを、照らし合うかのように――
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/480.html
「来月のパジャマパーティーなんだけどね。」 「クリスマスイブでしょ?ちゃんとアタシ、スケジュール空けといたわよ。」 「わたしも平気だよ。病院もお休みだし。」 「クリスマス…。私、すっごく楽しみだわ!」 「でね~。あたし、こんなの用意してみたの!」 「ラブちゃん!内緒だって言ったのに…。もぅ、気が早いんだから。」 「何……コレ…」 「帽子?大きな袋もあるけど。」 「せつなはこっち。美希たんはこっちね。」 「私?どして?」 「なーーーーーーーんでアタシがトナカイになんなくちゃいけないのよ!!!」 「せつなの大好きな色ってなーんだ?」 「赤…だけど。」 「せつなちゃん。悪いんだけど…、そのキュアパッションに…」 「お願いせつな!ちょっとだけでイイから!」 両手を合わせて懇願する二人にちょっと戸惑い気味のせつな。 「あなたたち…、アタシはほったらかしなワケ!?」 「いやいや、んな事ないよ美希たん。買ってきたのが大きかっただけだよ。」 「美希ちゃんお願い。わたし、信じてる。」 「美希が着替えるなら私も精一杯がんばるわ!」 (どう考えてもおかしくない?この現状…。) 少し不満気な様子の美希。とは言え祈里からのお願い、はたまたせつなからも 条件を突き付けられ、とても逃げれる雰囲気でもなく…。 「わ、わかったわよ!完璧に着こなしてみせるんだから!」 「わはー!ありがと美希たん!じゃせつなもお願いね。」 「わかった!」 ―――チェィィィンジ・プリキュアッ!――― (パッションサンタ…。 「ねえ…ラブ?今日はこの姿で…」 的な。) すっかり脳内はHな事で頭がパンパンなご様子のラブ。 一方… (すっごく恥ずかしいんですケド…) せつなの変身に比べて、明らかに地味な〝変身〟の美希。 思わず本音がぽろりとこぼれる。 「トナカイなんてあたし…」 「かわいいよ美希ちゃん。なでなで」 「どうせトナカイの方に興味あるんでしょ!」 「美希ちゃんの方…」 祈里の〝本音〟が聞けてすっかりご満悦の美希。 が、しかし。準備が出来た二人を見つめてみると、明らかなミスマッチで。 こらえ切れずに吹き出してしまうラブと祈里。 (秘密の企画ってこう言う事だったの…。ラブの仕業なのね。…哀れな美希…) もちろん、熱いお説教が美希からラブにされたのは言うまでもなく。 祈里の仲裁が無ければ来月のパジャマパーティーも中止になっていたはずで。 「来月楽しみにしてるよ。ラブちゃんせつなちゃん、またね。」 「うん!絶対来てね!」 「さようならブッキー。美希も似合ってたわよ。くすっ」 「せーつーなー!!!」 ~その日の夜~ 桃園家にせつなが最初に来た冬くらい、 サンタクロースを信じさせてもいいのかな…。 朝起きたら枕元にプレゼントが…なんて素敵サプライズも考えたりして。 でも、中学生じゃもう無理かなぁ? いや!んな事ないよ、絶対。 「サンタさんはいつ来てくれるのかしら!」とかワクワクして 眠れなくなって、せつな徹夜しそうだし。 「もし…、本当に居たとしても…私の所には来てくれるかしら…」 なーんて、俯いちゃうのも良いんじゃない? そんな時こそ!あたしが100円貯金貯めて買ったプレゼントを 夜中にこっそり置きに来るわけだ。 (我ながらイイハナシダナー) バレたらウルウル、 バレなくてもキラキラのせつなが拝めちゃう。 「……ラブ?」 「(ギクリ)せ、せつな……起きてた……の」 「あら?ラブ、その手に持ってるのって、もしかして……」 「(バレた?ど、どうしよう……)ええっと、これはね、あのね」 「あ、もしかして……」 (!) 「サンタさんって、ラブのことだったのね!」 (えっ……そっちなの?) というわけで、バレても問題ないんだよん。 やっぱりせつなは、私の大切なお嫁さんなのだー! 「いい加減脱がせてよ…」 「いやいやいやーん。わたしだけのトナカイさんなんだもん!」 (やっぱりアタシじゃないのね…) 「そんなに脱がせて欲しかったの?じゃあ脱がせてあげる」 「祈里…」 「!!…美希ちゃん、トナカイさんの下って…裸だったのね」 「早く祈里に脱がせてほしくて…」 「美希ちゃん可愛い…」 ~END~
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/701.html
明日は日曜日。今夜はちょっとだけ夜更かしして、せつなと映画を見ることにした。 「これはね、アメリカ人の女の子がダンサーになるまでの半生を描いた映画なんだよ。 せつなと一緒に見たかったんだ」 「ニューヨーク、ダンスの本場ブロードウェイのお話ね。本で読んだことがあるわ」 せつなも嬉しそう。DVDをわくわくしながら挿入する。 『あ、だめっ、やめて! 無理、嫌っ。やだ、そうじゃないの、ほんとはやめちゃ、嫌っ!』 絡み合う肢体。若い女性同士が求め合う姿はとても淫靡で、そして美しかった。 「………………………………」 「………………………………」 一瞬何が起こったのかわからなかった。2人とも硬直しちゃって、しばらく呆然と画面を見て た。 やがてせつなが、がばっと立ち上がって二階に駆け上がっちゃって。ようやくあたしもテレビ のスイッチを切った。 タイトルは無地。何かの間違いで混入したんだろう……。 コンコン 「せつな、いいかな? さっきはゴメンね。びっくりしたよね」 「ううん。私こそ勝手に上がって来ちゃってごめんなさい」 そう言ってドアを開けてくれたせつなの顔はまだ赤かった。 「驚いたけど、嫌じゃなかったわ。でも、女の人同士でもあんなことするのね。男の人とじゃ ないと、その――赤ちゃん、できないんでしょ?」 上目使いであたしの顔を覗き込むようにして話してくる。ショックが大きくないことに安心し た。 「そうだね、でも愛し合うのに性別はないのかも。赤ちゃんを作るためだけじゃないみたいだ よ。お互いが好きって気持ちを伝え合うために、一つになろうとするんだって」 「それが、愛し合うってことなのね」 恥ずかしいけど、素晴らしいことなのかもしれない。そう言ってせつなは告白した。 「私は人と触れたことがあまりないの。手を握ってくれたのも、抱きしめてくれたのもラブが 初めてよ。それが、とても嬉しくて気持ちよかったの。だから、好きな人と肌を合わせること ができたら――」 それはどんなに素敵なことなんだろうって。いじらしくて純粋な思いに胸を打たれる。 そっと、せつなの手にあたしの手を近づけてみた。触れるか触れないかの微妙な距離。 せつなの方から指を絡めてきた。熱い手と潤んだ瞳。思い切って口にする。 「ね、せつな。もし、もしだよっ! 良かったら、あたしと――その――してみる?」 せつなはびっくりして目をまん丸に開いてこちらを見てる。 あちゃ~しまった。引かれたかな。 「ごめん、あたしとなんて嫌だよね。ほんと、どうかしてる。忘れて!」 手を合わせて、ごめんなさいって頭を下げる。 開かれた目が艶を帯びて潤む。せつなはあたしの手を解いて頬に押し当てた。 「嫌じゃないわ、ラブ。私はラブとなら――。ラブとしかしたくないもの」 ――プチン――パサ――シュル―― お互いに背を向けて、服を一枚づつゆっくり脱いでいく。 言葉もない。何て言っていいかわからない。 最後の一枚を脱ぐのは、本当に物凄く勇気がいった。 「不思議ね。一緒にお風呂に入ったこともあるのに、こんなに緊張するなんて」 せつなの声が震えている。両手で体を懸命に隠してる。あたしも同じようにした。恥ずかしい。 期待と不安がせめぎ合い、震えが止まらない。 「え、と、よろしくおねがいします」 「ラブ――よろしくおねがいします」 二人で同じこと言って、そして吹きだした。でも、おかげで少しリラックスできたみたい。 胸を隠すように覆う、せつなの手を取って抱き寄せる。お互いの裸身が露になる。 「せつな。キス、するよ」 「うん……」 そっと唇を重ねる。ふっくらと柔らかい感触。せつなの甘い髪の匂いが鼻をくすぐる。 うっとりとした表情、潤んだ瞳がとても色っぽかった。あたしもこんな顔になってるのかな。 恥ずかしくなって、照れ隠しに言葉を探した。 「お互い、ファーストキスだよね」 「うん――。普通、こんな形でしないわよね」 「裸でベッドでなんて、そんな人居ないよね」 おかしくなって二人で少し笑ってから、また唇を求めた。 重ねてはすぐ離れ、それを繰り返す。そのほうがより唇の柔らかさを感じられた。やがて、そ れも物足りなくなる。 唇の奥の湿った感覚。それを求めて唇を、舌を割り込ませようとした。せつなは歯を閉じて拒 もうとした。 それなら――。 空いた左手でせつなの胸をそっと撫でた。ぞくっと、せつなの体が震えて叫び声をあげる。 その瞬間に舌を滑らせた。 「んっ、んん、ん~」 せつなの細い舌先を探り当てる。舌と舌が触れ合った時、あたしの体にも電流が走る。 (なに、これっ、気持ちいい) ただこれだけのことが、こんなに気持ちいいなんて思わなかった。 味なんてあるわけないのに、甘い。頭がとけてしまいそうになるくらい、せつなの舌は甘かっ た。 夢中になって、息をするのも忘れてキスをした。絡ませあった。長い時間のあと、荒い呼吸が 静かな部屋に響き渡る。 せつなを抱き寄せてベッドに倒れこんだ。 せつなの肌。せつなの髪。せつなの布団。胸いっぱいにせつなの空気を吸い込んだ。 髪の匂いが特に好き。シャンプーの香りなんてとっくに飛んでる。せつな本来の匂いは、例え るなら花のよう。 髪に顔を埋めると目の前に耳たぶがあった。そっと咥える。 「あっ!」 ビクン! せつなの体が跳ねる。圧し掛かってるあたしの体まで、一瞬浮いたような気がした。 感じてる? そう思ったら、もっと反応が見たくなった。 反対の耳たぶを指でなぞりながら、舌を耳の中に挿入していく。腕の中で声をあげながら跳ね るせつなが可愛くて仕方がなかった。 一息ついてせつなを見る。涙浮かべて、恨みがましい目でこっちを見てる。 ――ごめんなさい、やりすぎました。 でも、もっとせつなを喜ばせてあげたい。ううん、それは嘘。せつなの声が聞きたい。 あたしの手で反応するせつなを見たくてたまらない。 欲望なのか、いたずら心なのか、なんなのかわからない衝動に突き動かされる。 せつなの胸に指をかけた。下から上に、天辺近くまで来たらその中心を避けて円を書くように。そして、 また下に。左手は合間に少し力を入れて揉みしだく。同時に出来るほど器用じゃないけど。 突起を避けるようにやんわりと愛撫する。 じれったい快感の波に襲われてるのだろう。ゆっくりと体をくねらせて悶えていった。 眉間にしわを寄せ、荒い呼吸で苦しさを訴える。 ころあいを見計らって頂点を咥える。今度は右手の指で軽くつまみ、こねて、弾く。 「やっ、んっ、やぁぁ、やだ、ラブ、辛い。辛いわ」 足をばたつかせ必死に逃げようとする。肩を押さえ込んで無理やり続けた。どうしてだろう、 止まらない、やめたくない。 「ラブ、やめてっ。もういい、おかしくなる、おかしくなるわ」 両手であたしの顔を押さえて、涙の浮かんだ目で抗議される。 「……ごめん、せつな。なんか止まらなくなっちゃて、怒らないで」 しゅんとして、落ち込んだあたしの髪を、そっとせつなは撫でてきた。 「ごめんなさい、ラブ。いざとなったら怖くなっちゃって。今度はちゃんと我慢するから。 ラブのしたいようにして」 せつなの膝辺りから内股へ、そして秘部に向けてゆっくりと撫であげる。ビクビクッと痙攣し ながら、せつなは上に上に逃げようとする。指が割れ目にかかる。 「あぁっ! ん~っっ、んんん」 懸命にせつなは声を殺そうとしてる。白く細い指が凄い力でシーツを掴み、引っ張る。 「そっか、せつな。自分でしたことも無いんだね。ここはね――」 しばらくぴったりと固く閉じた割れ目を往復した後、すっと指を立てて潜りこみ第一関節まで を挿入する。 「嫌っ」 バンッ!! 凄い勢いでせつなの体が跳ね上がった。 「待って、せつな。我慢するんでしょ。あたしを信じて。きっと良くなるから」 小刻みに指をちょっとだけ入れては出す。前後左右に動かしながら、不規則に刺激を与えた。 「ん、ん、ん~~、ん、んん、う~~、むぅ~~」 今度は枕を顔に押し付けて、声を出さないように必死で耐えている。そして、ついに女の子の 核に手を伸ばした。 ビクッ、ビクビクビク、ビクン! これまでと全く違う激しい反応。唐突な乱れ方は、意志を介してのものではないのだろう。 恐怖が快楽を飲み込み、苦悶の表情を浮かべる。 「だめッ…やめてっラブ、こんな……無理っ。嫌よ、駄目だってば……。 あっ、あっ、やっ、やだっ、やぁ」 喘ぎはやがて嗚咽に変わり、ついにせつなは泣き出した。 「ひっく、ひっく……、えっ、えっ、えっ……」 すすり泣く声に意識を取り戻す。あ、あたし、どうして。何をやってたんだろう……。 夢中になっていた。熱に突き動かされるように、せつなを責めていた。 いかせてあげたかった。でもまだ未開発のせつなにいきなりは無理だったのかもしれない。 「ごめん。ごめんね、せつな。虐めてるつもりじゃなかったの。この後に来る気持ちよさを教 えてあげたくて。いきなりは無理だったよね。ごめんね」 背を向けて、体を丸くして泣き続けるせつなを後から抱きしめた。激しい後悔が襲う。 (ほんと、何やってたんだろう。せつなは快楽が欲しかったんじゃない。肌を合せたかっただ けなのに) もうしないから、許して。そう言って謝り続けたら、せつなのほうからあたしの胸に頭を預け てきた。 「ごめん――なさい、ラブ。私、初めてだから怖くて……。我慢、できなくて――期待に応え てあげられなかった。私のほうこそごめんなさい」 「うん、今日はもうやめとこう。このまま朝まで寝ちゃおうか」 足を絡ませて、頭をくっつけるよにして抱き合った。ぽかぽかにあったまったお互いの体の熱 さが心地いい。 頬を摺り寄せる。指を絡ませあう。出来る限りの方法で密着する。 せつなが安心した声で話しかけてくる。 「ねえ、ラブ。私はラブが好き。今、とっても幸せなの」 「あたしもだよ。せつな。今日はごめんね。ゆっくり、一緒に幸せゲットしようね」 甘い香りとやめらかな肌。温かい体温と控えめな吐息。また一つ仲良くなれた充実感につつま れて、疲れた体を休めるべくゆるやかな眠りに付いた。 避2-41へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/725.html
せつなと体を重ねてから一週間が経った。あれからは一度も機会が無く、別々に寝ている。 何か避けられているようで悲しかった。 「ねえ、せつな、今夜なんだけど」 「ごっ、ごめんなさい。ブッキーに借りてる本、明日までに返さなきゃいけなくて」 毎日こんな感じ。幸せって言ってくれたのにな。もしかして本当に嫌われちゃったの……。 あんなことしなきゃ良かった。後悔に胸が締め付けられる。 この日、あたしは初めて「おやすみなさい」って言わなかった。 次の日からさらにおかしくなった。 学校に行くにも少し距離を離して歩いて。会話もあたりさわりのないものしかしなくて。 夕ご飯後に、せつなはあたしの部屋に遊びに来なくなった。 そんな日が三日続いた晩のことだった。 コンコン 「ラブ、起きてる?」 「せつな、こんな時間にどうしたの?」 もうじき日付の変わる時間、おとうさんたちもとっくに寝ているはず。 部屋の中に入れようとするあたしの手を取って、静かに首を振った。謝罪の言葉を口にする。 ――ごめんなさい。 「ラブ……ごめんなさい。ごめんなさい。私、怖くなってきて、ずっとラブのこと避けていた の」 精一杯の勇気を振り絞った告白であったのだろう。せつなの体は小刻みに震えていた。 悪いのはあたしなのに。酷いことをしたのに。 久しぶりの心の通った会話に、あたしの目頭も熱くなる。 「あたしこそ、ごめん、せつな。もう……もうしないから、嫌いにならないで」 ――違うっ! とっさに叫び、大きく首を振って否定した。 「違う、違うのラブ。嫌だったからじゃないの」 せつなは自分の震える肩を抱きながら話してくれた。 「悔しかった。私がラブを拒絶してしまったことが許せなかったの。また……また拒んじゃう んじゃないかって思ったら、もう、怖くて――」 それは後悔。自分への失望。繰り返すことの恐怖。避けていたんじゃない、合わせる顔が無か ったんだと。 せつなはあたしを嫌ったんじゃなかった。あたしの愛撫を拒んだ自分を嫌っていたんだ。 きっと真面目なせつなは、どんな目にあっても、あたしのすることなら全て受け入れる覚悟だ ったんだろう。 ごめん、ごめん、せつな。謝りながらせつなを強く抱きしめた。柔らかい髪を優しく撫でた。 花束を抱えた時のような香りが鼻をくすぐる。 せつなの体の震えが、少しづつ収まってくるのが感じられた。 「怖くて逃げるのと拒むのとは違うよ。ごめんね、せつな。あたし、せつなの気持ち全然考え てなかった」 あの時の気持ちを思い出す。せつなに喜びを教えてあげたかった。でも、それだけじゃない何 かに付き動かされた。 あれは、何だったんだろう。 「ね、せつな。今度はせつながやってみない? あたしに触れて、あたしを責めて、感じさせ てみない?」 「私が――――ラブを?――――私に……できるかしら」 そう言って考え込んでしまう。 上手くできなくてもいいから、やってみよう。そう耳元で囁いた。 そしたらせつなも、きっとあの時のあたしの気持ちがわかると思うんだ。 せつなの真っ白な体があたしの上にかぶさってくる。そっと二の腕に触れただけでぞくっとし た。 潤いがあって、そして信じられないくらいすべすべで滑らかな肌。うっとりして見つめる。 細くてしなやかな指があたしの頬を撫でた。柔らかくて弾力のある唇が近づいてくる。 強くも無く、弱くもない、絶妙な加減であたしの口を塞ぐ。 こぼれるせつなの吐息は、甘くて好い匂いがした。 少し、困ったような顔をしてあたしを見つめてくる。しばらく逡巡した後、躊躇いがちに舌を 差し入れてきた。 せつなの舌を軽く咥えるような形で味わう。 そっとあたしの口に差し入れて、戻して、また入れての繰り返し。この前と逆の状態。 これがまた、信じられないくらい気持ちよかった。 やめないで、やめないで、もっと続けて! 頭の中が溶けてしまいそうになるくらいの快感に 溺れる。 長く熱い口付けで、体中がすっかり敏感になっていた。耳元にせつなの熱い吐息がかかる。背 筋が震える。 「ひゃっ! あっ、んぅ」 細い舌が耳の中に挿入される。頭の中を直接舐められているような感覚が襲う。こんなに…… 効くんだ。 せつなはまた舌の出し入れを繰り返した。 この前のあたしの動きを、そのまま順になぞる事にしてるみたいだ。 せつなの舌に翻弄されながら、あたしは耐え続けた。終わった頃には、すっかり疲れてぐった りした。 せつなの指がお腹を撫で上げながら胸に伸びる。ぞくぞくするくすぐったさに悶えながら快感 を待つ。 胸に到達して、ゆっくり揉みあげてくる。 ――――あれ、こんなもんなんだ? 期待したほどの快楽は訪れなかった。じわっと広がる心地よさはあるけれど。 『あっ!!』 その指がついに乳首に触れた、そこから垂直に頭と足首に向けて電流が走る。 生まれて初めて感じる強烈な刺激。 突然訪れる激しい快楽。 自分でする時の数倍の感覚が襲い掛かる。 せつなも気がついたのだろう。左の乳首を軽く咥えて上下に動いてきた。指が繊細に右の乳首 を刺激する。 「ん~~っっ――つぅ――くぅ」 胸を中心に苦しさにも似た快楽が広がる。あたしの目に涙が浮かぶ。頭を振るたびに飛び散っ ていく。 ――せつな、もう、そのくらいにして……。 こんな部分的な快楽じゃいくら気持ちよくてもイケない。辛い、切ない気持ちのほうが強かっ た。 荒れる呼吸を整えて、やっとせつなの顔を見上げた。心配そうな表情であたしを見つめている。 「ごめんなさい、ラブ。加減がわからなくて。大丈夫?」 「大丈夫だよ、やさしくしてくれてるよ。ありがとう、せつな」 せつなの潤んだ瞳の中に確かな情熱があった。呼吸も心なしか荒れている。あたしの時と同じ だ。 じゃ、いくわね。軽く微笑んでから、せつなはあたしのお腹にキスをした。 「わはっ、きゃはっ、ちょっ、せつな、まって、くっくっくっ、あはは、やだやだっ!」 せつなの唇が、舌が、あたしのおへそやわき腹にかけてくすぐるように這い回る。柔らかく、 優しく、労るように、味わうように。 あまりにもくすぐったくて、気持ちよくて、気が狂いそうになる。 これは、あたしはやってない。せつなの独創だ。 嬉しいような、悔しいような、変な気持ちになる。 「ラブ、いいわね?」 せつなの表情が真剣なものに変わる。しなやかな指が膝の辺りに添えられる。 あの時のせつなのように、枕にしがみついて訪れる快楽に耐える準備をした。 意を決したせつなの指が、ふとももから性器目指して撫で上げる。 ――ゾゾゾゾゾ―― 背筋が震える。まだ秘部に到達もしていないのに反応して蜜が溢れ出す。 「っぅぅ――――」 体をよじって手の動きから逃げようとしてしまう。しかし、容赦なく愛撫の手は割れ目に届き 刺激した。 「あっ、きゃ、わっ、つぅ、んん~~」 ――ツプリ せつなの指があたしの中に挿入された。 「ぃやぁっ!」 体が意志に関係なく大きく跳ねる。ぞっとするほどの感覚、次に来る波に備えて体に力を入れ る。 しかし、次はやってこなかった。 「大丈夫? ラブ」 心配そうな、優しい声で話しかけてくる。ほっとしたような、でも、残念な気持ちのほうが強 かった。 荒い息、震える声を抑えて言葉を返した。早く、早く続きが欲しい。 「平気だよ、せつな。恥ずかしいけどイク感覚見ていて欲しいんだ。続けて、大丈夫だから」 ――ニュル、クチョ、チュプ 「くぅ、んん、うぅ~~」 再び再開される秘部への愛撫。そして、せつなの指がその上のほう、女の子の核に触れる。 『あぁっ!!』 ――ビクッ 「あっ、あっ、ああっ。あ、あ、あ、あ」 十分に備えていたのに、体が跳ね回る。せつなの指がその周囲をめくる。そして小さく露出し たところで、直接軽くつまんだ。人差し指で軽く円を書くようにこすりあげる。 ――ビクッ、ビクビク、ビクン、ビクン 「んんっ~~~~~~」 もはや、声にもならない。苦痛をともなう激しい快楽。 やめて!やめないで!どうして欲しいのかわからない。一点に集束された快楽は、おかしくな ると同時に、飛びそうになる意識を目覚めさせる。 イクことも叶わない。鮮明な意識の中で送り込まれる快楽と苦悶。ただただじっと耐える。 自分でならここまで感じない。そして、ここでもイケる。 イクとは快楽の波に乗って絶頂に上り詰めること。心と体の準備に刺激を合せて、一番良い時 に波に乗る。 しかし、せつなの、人の指の刺激は自分に合せてはくれない。自分のリズムにない動きで数倍 の刺激が与えられる。イキかけたら緩み、気を抜いたら快楽が襲い掛かる。 特に、せつなの場合は快楽と苦悶の区別が付かないのだろう。昂ぶるたびに休みが入れられる。 想像を絶する快楽とお預けの繰り返しに気が狂いそうになる。 「せ……せつな。指、ここに、奥まで、お、お願ぃ」 せつなの指が第二間接まで潜ったところで手を掴む。これ以上はあたしも入れたことが無い。 「そっ、そこっ。そこをゆっくり触って」 Gスポットと呼ばれる場所。せつなは、少しザラつく感覚を指先で敏感に捉えて、柔らかく指 を動かした。 淫核とは違う、性器全体を同時に愛撫されているような、広い範囲の快楽がラブの全身を満た していく。 「うぅ、ううぅ……いぃ、せつなぁ、くぅ、くぅぅ、いく、いく、くぅぅ――――」 せつなの首にしがみつく。意識が真っ白になり、光に包まれ、やがて静かな暗闇に堕ちる。 しがみついたまま全身が震える。腰がビクンビクンと意志に反して痙攣する。 膣の入り口がぎゅっと締まり、緩み、また締まる。その都度、せつなの指を締め付ける。 それが数回繰り返された。 イッたことは何度もある。でも……これは――――。 体中の何もかもが言うことを聞かない。言葉に出来ない満足感と疲労感。充実した幸せな気持 ちに包まれる。 今まで一人で感じてきた快楽は何だったのかと思う。 「ラブ、大丈夫? しっかりして! ごめんなさい、私よくわからなくて……」 びっくりして、硬直していたせつなが我に返った。泣きそうな顔であたしに抱きついてきて揺 する。 「大丈夫だよ、せつな。これがイクってことなの。驚いたよね。凄く気持ちよくて、満たされ た状態なの」 余韻の残る体がせつなの温もりを求めた。抱き寄せてせつなの胸に顔を埋めた。髪をそっと撫 でてくれる指の動きが気持ちいい。 「ね、せつなはどう感じた?」 「よくわからないの。ドキドキして、緊張して。でもなんだか、わくわくして嬉しくもあった わ」 自分の指で、口で、ラブが動く。喘ぐ。悶える。跳ねる。 体を、感覚を共有してるような、繋がって一つになったような、不思議な感覚。 「そう、これが体を重ねるってことなのね」 「そうだね。本当は、一緒にイケたらもっと凄いと思うんだ」 「一緒に?」 「うん、そういうやり方もあるらしいよ。調べておくね」 あたしはせつなにもう一度キスをした。 クールダウン、今夜はここまで。もう怖がらせたりはしない。焦る必要も無い。 そう自分に言い聞かせる。 「ラブ、私も頑張る。今、ラブが感じたものを知りたい。一緒に感じたいわ」 「うん、今度はせつなの番だよ。ううん、一緒に感じよう。きっとこれも幸せの一つだから」 だから一緒にゲットしようね、せつな。 10-252へ
https://w.atwiki.jp/llss_ss/
ラブライブ!スーパースター!!SSアンテナ@Wikiへようこそ ここでは下記に投稿されたラブライブ!スーパースター!!のSSのURLを掲載しています 自他問わず、お気に入りのSSを気軽に掲載していってください URL元 ラブライブ!@5ch掲示板 SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPService掲示板 ラブライブ!ss総合【転載禁止】 ニュース速報(VIP)@5ちゃんねる ラブライブ!板@したらば ラブライブ!板★2 μ’s中心のSSはこちら! ラブライブ!SSアンテナ@Wiki Aqours中心のSSはこちら! ラブライブ!サンシャイン!!SSアンテナ@Wiki 虹ヶ咲中心のSSはこちら! ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会SSアンテナ@Wiki 蓮ノ空中心のSSはこちら! Link!Like!ラブライブ!SSアンテナ@Wiki SS検索 and or 検索について 単語の頭に^をつけると各ページに登録されたタグを検索できます。 例 ^澁谷かのん タグについて よく使われるタグは以下の通り カップリング系 カップリングは以下の表のようになっています。検索の助けにしてください かのくぅ かのちぃ かのすみ かのれん かのきな かのめい かのしき かのなつ かのウィ かのとま ちさくぅ クゥすみ クゥれん きなくぅ クゥメイ クゥしき クゥなつ クゥマル クゥとま ちさすみ ちされん ちさきな メイちさ しきちさ ちさなつ ちさウィ ちさとま すみれん きなすみ すみメイ しきすみ すみなつ ウィすみ とますみ きなれん メイれん しきれん れんなつ マルれん とまれん きなめい きなしき きななつ きなウィ とまきな しきメイ メイなつ メイマル メイとま しきなつ ウィしき しきとま ウィなつ とまなつ とまマル ハーレム かのハー くぅハー ちさハー すみハー れんハー きなハー メイハー しきハー なつハー ウィハー とまハー トリオ・ユニット ジャンル コメディ シリアス 鬱 パロディ R-18 友情 恋愛 エロ ふたなり 安価 感動 群像劇 ほのぼの ホラー ミステリ となっています SS雑談・オススメスレ(現行) SS総合 作成スレ SSwiki管理スレ どこにまとめればいいのかわからなかったり何か質問があればこちらへ 有志製作のWiki作成支援ツール Wiki_tool.zip
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/573.html
「タッハぁ~!すごい人だったねぇ!」 時刻は午前1時をとっくに過ぎた。 それなのに町も家の中も明かりとざわめきに溢れている。 「大晦日」から「元旦」に切り替わる瞬間。一年が新しく生まれ変わる。 家族で「初詣」に行く道すがら、お父さんが教えてくれた。 夜中にみんなでお出掛けなんて初めて。 私もラブもお母さんに「風邪引かないように!」とマフラーやら ストールやらでぐるぐる巻きにされた。 神社に着くと驚くほどの人人人! 「これも日本の伝統美!!」と、ラブが鼻を膨らませて威張っていた。 「ふぅ!やっと落ち着いたねぇ。」 ラブはモコモコした防寒着を脱いで、フリースとミニスカートで 私の部屋でくつろいでいる。 クリスマスもそうだったけど、「お正月」と言うのもまた特別な行事らしい。 ラブ曰く、何でも頭に「初」か、語尾に「始め」を付けるとお正月っぽい言葉になる。 現に昔からたくさんの言葉があるらしい、「初日の出」「初笑い」「書き初め」… まだあったはずだけど。 「せーつなぁ!」 ちょいちょい、とラブが手招きして自分の隣に来るように促す。 「あっ!コラ…っ!」 途端に首筋に顔を埋め、セーターの中に手を突っ込んでくる。 「んっ、もう……!お母さん達、まだ起きてるのよ…?」 「んー?ハイハイ、だから声出さないでねー……」 「あっ…、だから!そうじゃなくて……」 パチンとフロントホックのブラが外される。 最近、やっと気が付いた。ラブは下着を買う時やたらこのタイプを薦める。 後ろに手を回すより便利だから、と言っているが…… (絶対、このためよね……) 「……ーっひぁ!」 まだ冷たさの残る指で乳首を摘まみ上げられ、せつなはビクッと 体を跳ねさせる。 指の冷たさと反比例するように、体はどんどん火照っていく。 尖り立った乳首を弾かれ続けると、足の間がむずむずしてくる。 「ひめはじめ、ひめはじめ……」 ラブは耳たぶを甘く噛みながら、謎の呪文を呟く。 「……んっ!…え、何?」 「あのねぇ、年が明けてからの初エッチ。『ひめはじめ』って言うの。」 だから、コレもお正月行事の一つなんだってば。 ラブはそう言いながら、セーターを捲り上げる。 乳首に吸い付き、熱い舌を絡ませる。 「あっ…ん!またそんな、適当な事……」 「……ホントだってばぁ…。何なら後で調べてみてよ…。」 ラブが力の抜けたせつなから素早く下着を脱がせた。 膝を開かせながら、内腿に指を滑らせる。 ここまで来ると口では抵抗しても、もうせつなは逆らうのを諦めている。 「ね……、ホントに、ダメ。お母さん達が…んんっ、んっ…!」 「うん、そんなに時間掛けないから…、一緒に…。ね?」 一緒に、イッちゃおうか……? ラブはせつなの手を自分のスカートの中に導く。 ひんやりとした太ももを辿り、対照的に熱をたぎらせた秘部に指先が触れる。 (ラブと……一緒に…) せつなもラブの下着を引き下ろし、フリースの中に手をもぐり込ませる。 小ぶりだが弾力のある乳房を揉みしだき、下は厚い粘膜に指を 飲み込ませていった。 「はふっ!ーーっン、ふぅ…んっ!」 ラブは嬌声をせつなの乳首に強く吸い付く事で抑える。 乳房に顔を押し付け、歯を立てながら先端を舌先でつつく。 指にまとわり付く秘肉を引き剥がしながら、乱暴なほと強く中を掻き回した。 せつなが歯を食いしばり、仰け反る。 (あぁっ…、ダメ、このままじゃ…!) 込み上げる快感に、胸を喘がせながらやっとの思いで口を開く。 「ーーラブっ、…キス、して……!このままじゃ…っ!」 声を抑えるなんて無理。お願いだから、口を塞いで。 情欲に潤みきったラブの瞳と視線がぶつかる。 噛み付くように唇にしゃぶりつき、舌を吸い合う。 唾液に濡れた乳首がすうすうする。ラブがそれを指に絡めるように 大きく乳房を捏ね回していった。 せつなもお返し、とばかりにラブの乳首をつねり上げる。 ギリギリ、 我慢できるくらいの強さに。 ほんの少し、快感が上回るくらいの力加減で。 「はあっ…はぁっ……んぅぅ…、ふっ…ぅ…ん…」 塞ぎ合った唇の間から漏れる吐息が抱いた、隠しきれない快楽。 淫らに濡れた音と興奮した息遣いが、しんとした部屋に響き渡る。 外は雪がちらつくほど寒いのに、額の生え際にしっとりと汗が浮かぶ。 気持ちいい…、止められない。 早く逝きたい、でも、この時が永遠に続いて欲しい。 (もう、そろそろイカなきゃ……) ラブが合図のように、せつなの膨れた陰核を弾く。 せつなも震えながら、器用にくるりとラブの突起の包皮をめくる。 お互いの一番気持ちいいところを容赦なく責め立てる。 ラブは優しく表面を磨きあげるように。 せつなは軽く摘まんでしごくように。 体が細かく痙攣し、中が小刻みに強く収縮を始める。 (あぁっーー!もうっ、……!!) (もう少し、もう少しだけーーっ!!) 「あふっ!……っくぅーーっっ!!」 せつなが大きく痙攣し、白い喉を反らせた。 ラブはせつなの胸に顔を擦り付け、叫ぶのを堪える。 二人は抱き締め合いながら、爆発し、駆け巡る快感に酔いしれた。 下着を脱ぎ、胸元をはだけた睦み合う為に最低限に乱した衣服。 それが却って羞恥と興奮を刺激し、我を忘れて乱れてしまった。 上気した頬と潤んだ瞳のまま、二人は熱っぽい額を寄せる。 「………何だか、恥ずかしい。」 「うん……、あたしも。」 軽く唇をついばみ合いながら、クスクスと照れ笑いが漏れた。 せつながぐったりと横たわる。 無防備に緩んだ膝、まだとろりと濡れた瞳。 うっとりと情事の余韻を味わうしどけない姿に、ラブの中に 愛しさが込み上げる。 「あの……、ラブ…。」 「ん?なぁに?」 少し汗ばんだ前髪を撫で付けながら、額から輪郭をなぞるように キスを落としていく。 「今年も、よろしくお願いします……。」 はにかんだ、せつなの微笑み。覚えたての台詞を初めて使ってみる。 使い方、間違ってないかしら? 「こちらこそ!」 そう、ラブは力いっぱいせつなを抱き締める。