約 1,207,331 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/431.html
【ある秋の出来事】/恵千果◆EeRc0idolE 「美希ちゃん、今度のお休み予定ある?」 幼なじみの少女である山吹祈里が、受話器の向こうから聞いた。 彼女の方から誘ってくるなんて、珍しいこともあるものだ。 そう考えていて、返事をするのが遅れた美希に対し、念を押すように祈里が繰り返す。 「もしも予定が無いんなら……お買物に付き合ってくれない?」 「いいけど……何が買いたいの?」 「ちょっと……ね。じゃあ今度の日曜日、10時に美希ちゃん家に行くから」 ツー。ツー。 切れた電話の音を聞きながら、美希は思う。 言えないような買物を、どうしてアタシと? 祈里の意図がわからなくて不安になり、美希は考え込んだ。 少し前までなら、祈里の考えることなら手に取るようにわかってたのに。 それが、近頃はどうだ。まるでわからないときてる。 美希は自嘲気味に笑った。わからなくて当たり前か。だってアタシたち、他人なんだもん。 だけど、なんだかおかしな気持ちになるのはどうしてだろう。 まるで、心にぽっかりと大きな穴が空いたみたいな――――そう考えて、美希は首を横に振った。らしくない、こんなの。 もう一度、何かを振り払うようにふるふると首を横に振ると、美希はベッドから立ち上がりシャワーを浴びるために自室を出た。 電話を切った祈里は、まだ受話器を握ったままだった。 何気なさを装ったつもりだったが、美希に怪しまれただろうか。 いつも誘われるまで待っている受身な祈里が、自分から誘うなんて変に思われなかっただろうか。 本当は買いたいものなんて何も無い。 けれど、どうしても逢いたかった。逢って、直接告げたいことがあった。 ラブやせつなが一緒にいては、言えないようなことだから。 だから、どんな理由を作ってでも、ふたりっきりで逢えれば良かったのだ。 お願い、神様。もしもあなたがいるなら、どうか願いを叶えて。 今度こそ。 今度こそ美希ちゃんに、好きって言えますように。 日曜日。 美希の家の玄関前には、明るい橙色のワンピースを着た祈里が立っていた。 その姿はまるで、匂い立つように咲く可憐な金木犀。みずみずしさにあふれたその装いは、愛らしくて彼女に似つかわしいものだ。 しかし祈里にすれば、これでも精一杯めかし込んで落ち着いた雰囲気を演出したつもりだった。 少しは大人っぽく見えるかな?美希ちゃんに合わせられてるといいんだけど……。 祈里が不安げにチャイムを押し、間もなくドアが開く。 そこに現れ祈里を迎え入れたのは美希ではなく、もうひとりの幼なじみ、桃園ラブだった。 「ごめんね、ブッキー。ラブが急に来て、アタシたちがこれから買物に行くって話したら、ラブも行きたいって言うのよ」 「だってー。せつな、図書館に行っちゃって暇なんだもん」 「だいたいラブはいっつも急なのよ!」 「いいじゃんいいじゃん!で、どこ行く?あたし行きたいショップあるんだよねー」 「ったくもう!しょうがないんだから」 通された美希の部屋。 強引なラブに苦笑いしながらも、美希はどことなく嬉しそうだ。 もしかして、私とふたりっきりよりも、ラブちゃんがいる方が嬉しいのかな。美希ちゃんって、ラブちゃんのことが好きだったりして……。 美希の笑顔をぼんやりと眺めながら、祈里の心にはそんなことばかりが浮かんでは消えていく。 ラブちゃんもラブちゃんよ。よりによって、どうして今日なの?ひどいよ……。 後ろ向きなことばかりが頭をもたげ、涙が両の瞳に盛り上がり、美希とラブのじゃれあう姿がぼやけて見えない。 私、なんてイヤな子なんだろう。ラブちゃんに嫉妬するなんて。 ――――嫌い。こんな自分、大嫌い!! 「帰る」 一言そう呟くと、祈里は立ち上がり、ふたりに涙を見られないように急いで部屋を飛び出した。 「えっ!?ちょっと待ってよブッキー、何なの!?」 背中に美希の声が響くけれど、待てるはずない。こんな醜い自分を見せられるわけがない。 心臓が早鐘のように乱れ打つまで走って走って走り続けて、気がついたら公園まで来ていた。 脚が痛い。いつもよりヒールの高いサンダルで駆けたせいだ。それも美希に合わせるためだった。 「私、馬鹿みたい……」 少しでも美希に近づきたくて、大人っぽく飾り立てた自分がひどくみっともなく思えた。 最初から無理だったのよ、告白なんて……。そんな思いで胸がつまる。 祈里は両手で顔を覆い、声を押し殺して泣いた。 どんなに悲しい時でも人間疲れるまで泣くと、案外すっきりするものだ。 泣くだけ泣いて少し落ち着いた祈里は、しばらく休んで帰ろうと階段状になっている場所に腰を下ろした。 祈里が座ったのは、すり鉢状の造りになっている円形野外ステージの、一番下の席だった。 少し前から気づいていたのだが、ショルダーバッグの中でリンクルンが鳴っている。多分、美希かラブだろう。 祈里は耳を塞いで、鳴り止むのをじっと待った。 結局、お昼過ぎになってもリンクルンが鳴り止むことはなく、祈里は電源をオフにするしかなかった。 もう……帰ろう……。こんなところにひとりでいたって仕方ない。 のろのろと立ち上がった祈里の肩を、誰かがポン、とたたいた。 振り返るとそこには、心配そうな表情のせつながいた。 せつなは黙って祈里の横に座る。祈里もまた、せつなに合わせるように再び座り込む。 せつなは何も言わない。重苦しい沈黙が祈里の肩にのしかかる。 何かあったのかと聞かれた方がずっと楽なのに。 やがて静寂に耐え切れなくなり、とうとう祈里が口を開いた。 「いつから……いたの?」 「ブッキーが泣いてた時から、かな」 「――――なんで何も聞かないの?」 「聞いてほしいの?」 「そういうわけじゃ……」 「じゃあ、聞かないわ」 「もうお昼過ぎよ。帰らなくていいの?」 「ブッキーこそ、お腹空かないの?」 「わ、私のことはいいよ……」 「じゃあ、わたしも帰らない」 万事こんな調子で、まるでらちが明かない。 困った祈里は、とうとう事情を打ち明けてしまった。 それを聞いても、せつなには今ひとつ飲み込めないようだ。 「どして?ラブの目の前では美希に好きって言えないの?」 「そ、それはだって……は、恥ずかしいもん……」 「わたしはラブも美希もブッキーもみんな大好き。恥ずかしくなんかないわ」 「せつなちゃんの“好き”はみんな同じなの?ラブちゃんだけは特別でしょう?」 祈里が聞くと、せつなは顔を赤らめた。どうやら図星のようだ。 「私の美希ちゃんへの気持ちもそう。特別な“好き”なの」 「ラブがいたから、恥ずかしくて好きって言えなくて、だから悲しくなったの?」 「それだけじゃない。私……ラブちゃんにやきもち妬いてた」 美希が好きなのはラブかも知れない。それならそれで、仕方ないことなのに。 美希に好きだと言えないのは自分に勇気がないせいなのに、ラブのせいにしようとしてた。 プリキュアになったことで、昔の引っ込み思案な自分を少しでも変えられたと思ってた。 けれどそれは、間違いだった。 ほんの少しも変われてなどいない自分。それに気づいて呆然とする。 思わずせつなに抱き着き、祈里は泣きながら叫んだ。 「私、変わりたい!変わりたいの!ラブちゃんみたいに素直になりたい。素直になって、美希ちゃんに好きって言いたい!そばにいたいって言いたいよ……」 「ブッキー……」 「変わる必要なんてないわ」 ふたりの頭上から、怒ったような美希の声が降ってくる。 祈里たちは驚いて、階段の上の方に仁王立ちした美希を見上げる。 「いつアタシがブッキーに変わってほしいって言ったの?受身で、引っ込み思案で、やきもち妬きで、そんなブッキーが……そのままのブッキーがアタシは好きなの!」 「美希……」 「美希ちゃん……」 そう言い切った美希の顔は、羞恥で真っ赤になっていた。 まるで熟れたトマトのように赤い頬のまま、美希は祈里の方へと近づこうと、階段を降り始めた。 しかし、恥ずかしさからか、脚が震えて上手く動かない。 脚がもつれた美希はバランスを崩し、そのまま倒れると思われた、その瞬間。 倒れそうになった美希を矢のような早さで抱きとめたのは、他でもなく、祈里だ。 「あ、ありがと……」 「美希ちゃんの馬鹿!危ないでしょ!!」 祈里は怒る。大切な美希が危険な目に合うことなど許せないから。 祈里が本気で怒ってくれることが、今の美希には嬉しかった。 「アタシ、やっとわかった」 「何が?」 「アタシ、だめなの。完璧なんかじゃない。ブッキーがいないアタシなんて全然完璧じゃない」 「美希ちゃん……」 「だから……そばにいてよ……」 やっと気づくことができた祈里への気持ち。そして、互いを想い合っていたことにも。 素直な気持ちを口にする美希に対し、祈里は嬉しさの余りあまのじゃくに答えてしまう。 「はいはい。仕方ないなあ美希ちゃんは」 「何よ、その嫌々な言い方は!」 「ウ・ソ・よ。ホントはね、大、大、だーい好き」 ちゅっ。 「!!!」 「えへっ」 「アタシのファースト・キス……」 「奪っちゃった」 「ブッキーって結構大胆よね……」 「知らなかったの?」 「全然知らなかったわよ」 「じゃあこれからいっぱい教えてあげる。美希ちゃんの知らない私を、いっぱいいっぱい」 見つめ合い、誘うように開かれた互いのくちびるを近づけて、重ね合わせた。 とろけるような心地のセカンド・キスを脳裡に刻み込む。 もう離さない。離れない。 木陰では、遠巻きにふたりを見ていたラブとせつなが笑い合った。 「やれやれ、まったく見てらんないよね」 「聞いたわよ。そもそもラブがお邪魔虫だったらしいじゃない?」 「だってせつなが図書館ばっかし行くから悪いんだよ?」 「本にヤキモチ妬いたってしょうがないでしょ?」 そう言うと、せつなはラブにもたれた。甘えるせつなを抱き寄せ、ラブは胸の中のせつなにそっとくちづける。 離れられない恋人たちが、ここにも、また。 クローバータウンの秋の昼下がりは、柔らかな陽射しを浴びながら語らう恋人たちの愛で出来ていた。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/678.html
「はい、おとうさん、これっ」 特に手をかけたチョコレートを渡した後、じゃれつくように圭太郎に甘えるラブ。 ある日を境に、ラブ、いや桃園家の家族の言葉や表情や仕草は大げさなものになっていた。 ――まるで足りない何かを埋めようとするかのように 窓辺に座って部屋を見渡した。 「こんなに広かったかなあ」 少し前まで、シフォンが居て、タルトが居て。 (らぁぶぅ) (あぁ、シフォン、それさわったらあかんて!) 「シフォンとタルトにもチョコレートあげたかったな」 あ、でもスイーツ王国だもん。いっぱい周りにお菓子あるもんね。 毎日、せつなと遅くまでずっとこの部屋でお話してたっけ。 (ねぇ、ラブ、そろそろ寝ないと明日起きられないわよ) 「せつなはどうしてるかな」 せつな、あたし元気だよ。 毎日とっても楽しいんだ。 今日はね、バレンタインデーって日なんだよ。 大好きな人にチョコレートをあげて想いを伝えるの。 由美に、美希たんは……会えなくて。ブッキーに、カオルちゃんに、 ミユキさんに……も会えなくて。おとうさんにさっきあげてきたんだ。 本当はね、せつなにあげたかったんだ。一番心がこもった大きいの。 さっきね、せつなの部屋に置いてきたんだよ。 おっきく、せつな大好きって書いてあるの。 大丈夫、あたしは寂しくないよ。 「おやすみ、せつな」 畳のベッドに横になる。その時、鏡台が光を放ちだした。 ――えっ 何かが出てくる。 赤い包装紙に包まれた小さな箱。 赤いチューリップみたいな形の見たことのない鉢植え。 ――これって となりの部屋に走った。 やっぱり……無い。あたしが置いたチョコレート。 せつな? せつななの? せつなだよねっ!? 「せつな、どこっ! せつな! せつな」 居ない。ベランダにもどこにも。 部屋に戻って包みを開けてみた。 「私も大好きよ。ラブ」 ただ、それだけが書かれていた。 涙が溢れてくる…… やっぱり、せつなだったんだね。 ――赤いチューリップの花言葉 それは「愛の告白」―― ありがとう、せつな。きっと、すぐに、また会えるよね。 競-486はせつな視点で
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/706.html
目が覚めた。 時計を見る。 真夜中。 ラブの唇が、近づく 夢を見ていた。 胸が高鳴ったまま、 引く気配が無い。 ラブは、もう 眠ってしまったかしら。 ラブの体温を、 感じたい。 ラブの側に、 行きたい。 ラブの、ところへ... 突然、景色が 変わった。 アカルンが勘違いしたのか、 気を利かせてくれたのか。 ラブの部屋は、 真っ暗。 布団を、頭から 被っている。 眠っているようだ。 違う。 もぞもぞと、動いている。 私が来たことにも、 気づいていない。 気配を殺し、 耳をすませる。 布が擦れる音。 吐息。 「んっ...んっ...」 時々混じる、声。 何をしているのか、 解ってきた。 ひとりで、慰めている。 聞いてはいけないものを、 聞いた気がする。 戻らなきゃ。 「...つな...」 体が硬直した。 「んっ...せつな...」 私の体が、 びくんと跳ねた。 私を想いながら、 してるの? 吐息が、 だんだん荒くなる。 「はぁ...あっ...せつな...せつな...」 下腹部が、熱くなる。 うるおう、感覚。 息が、詰まりそうになる。 口の中が、乾く。 「せつな...ああっ...せつな...!」 布団が大きく上下し、 その波が、だんだん緩くなる。 「はっ...!」 詰まっていた息が、 出てしまった。 「ひゃっ!」 布団がはねのけられ、 ラブと目があった。 布団の中から出てきた 猛烈な熱気が、部屋を満たす。 「せつな...何で?」 胸をはだけた、パジャマの上。 足首まで降りた、パジャマの下。 「ごめんなさい...私... 来るつもり無かったけど...」 「見てたの...?」 「...聞いてた」 「せつな...手...」 言われて、気がついた。 私の右手が、パジャマの下に 入り込んでいた。 いつの間にか、私も 自分で触れていた。 手を、引き抜く。 街灯の光が、 少しだけ入る部屋。 濡れた指先が、 光を反射している。 ラブが、微笑む。 「せつなも...同じなんだね」 ラブが体を起こし、 私に向かって、足を開く。 「ほら...あたしの...」 ラブが、 自分で拡げる。 滴る蜜が、光を反射する。 「あたし...まだ足りないよ...」 ラブの指先が蜜をすくい、 上にある突起に塗り拡げる。 ラブの吐息が、 また激しくなる。 「ねぇ...せつなのも...見せて」 部屋の熱気と、 ラブの吐息。 正気でいられるわけが、 なかった。 ラブのベッドに、 のぼる。 パジャマと下着を脱ぎ、 ラブに向かって、足を開く。 自分で、拡げる。 「はぁっ...せつなも...すごいよ」 体が、ゾクゾクと震える。 私のそこも、 歓喜するように震える。 左手の指で、 そこを舐る。 右手で、パジャマの ボタンを外す。 尖りきった先端が、 愛撫を求めるように飛び出す。 指で、円を描くように触れる。 「んぅっ...!」 思わず、声が漏れる。 「あはっ...そうするのが好きなんだ...」 「いや...言わないで...」 しているラブを、見る。 している私を、ラブに見られる。 ふたつの吐息が、重なってきた。 「ラブ...ラブ...私...!」 「せつな...あたし、またっ...!」 ふたりの腰が、不規則にうごめき、 大きく跳ねる。 声にならない声が、重なる。 頭の中が、真っ白。 恥ずかしいはずなのに、 それ以上に、体が求めている。 止まらなかった。 ラブを押し倒し、 反対向きにのしかかる。 「はぁっ...せつな...積極的っ...」 また体が震え、 滴るのが、解る。 腰を落とし、押しつける。 ラブも唇を押しつけ、 激しく吸い付いてくる。 私も、ラブの泉に 顔を埋める。 舌でかき回し、 吸い合う。 夢中で、貪り合う。 お互いの腰をしっかりと抱き留め、 何度も、何度も達した。 空が白みかかっていた。 向き合って、寝転がる。 汗にまみれ、乱れた髪を 梳き合う。 「ふたりの方が、ずっといい...」 「そうね...」 次の夜までは、姉妹のような、 双子のような、友達。 私たちは、友達に戻る前に、 息が苦しくなるくらい、唇を押しつけ合った。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1174.html
(モミジ狩りって、モミジの葉っぱを集めるって意味じゃないのね。) ラブとあゆみに付いて細い坂道を上りながら、せつなは心の中で呟いた。 家族でキノコ狩りに行ったの、とクラスメイトの由美が話していたのは、先週のこと。獲物が動物じゃなくて植物などを採集するときにも「狩り」と言うのだと知ったのは、そのときだ。 四つ葉町から少し離れたこの丘陵は、せつなには初めての場所だった。丘の斜面は雑木林になっていて、木々はそれぞれの秋の色に染まっている。 「きれいでしょ?せつな。ンフフ~、あのねぇ、この丘のてっぺんまで上がるとね・・・」 「ラブったら!それ以上言っちゃ駄目よ。せっちゃんをびっくりさせるんでしょう?」 キラキラした目で嬉しそうにせつなを振り返るラブを、あゆみがやんわりとたしなめる。せつなは怪訝そうな、でも期待に満ちた眼差しで、二人の顔を交互に見やる。一番後ろからのんびりと歩いてきた圭太郎は、そんな三人の様子を、ニコニコと見守った。 今日は勤労感謝の日で、学校はお休み。圭太郎の発案で、四人はお弁当を持って、この丘陵にピクニックにやって来たのだった。 (占い館があった森より、ここはずいぶん明るいのね。) 物珍しそうに木々を眺めながら歩いてきたせつなが、さっと差し込んだ日の光の眩しさに、思わず額の前に手を翳す。その顔が、フッと柔らかくほどけるように笑顔になった。ちょうど頭の上にあったモミジの枝が、せつなとハイタッチでもするかのように、小さな赤い掌を振っている。 「ああ、このモミジは特に色がいいなぁ。見事な赤だ。」 すぐ後ろから聞こえる、圭太郎の穏やかな声。せつなは振り向いて笑顔を返してから、挙げていた手を静かに下ろした。 「ねえ、お父さん。」 「なんだい?せっちゃん。」 柔らかく包み込んでくれるような声に励まされて、せつなはここへ来てからずっと感じていた想いを、思い切って口に出してみる。 「紅葉って凄く綺麗だけど、これが終われば、木の葉は全部落ちてしまうんでしょう?そう思うと、何だか寂しい気がするんだけど・・・。」 「そうだな。」 圭太郎がせつなの顔を見て、静かに頷く。そして不意に悪戯っぽくニヤリと笑うと、ガサガサと落ち葉を踏んで、林の中に分け入った。 「こっちに来てごらん、せっちゃん。」 一本の木の下にしゃがみ込んだ圭太郎が、せつなに向かって手招きする。不思議そうな顔でやって来るせつなを待ってから、圭太郎は足元の落ち葉を、そっと掻き分けた。 しばらくすると、表面の落ち葉とは違う、少し湿って黒ずんだ葉が現れる。 「これは、去年の落ち葉だな。」 「去年の?」 「ああ。去年の落ち葉の下には、一昨年の落ち葉。その下には、その前の年の落ち葉。そのまた下には、何があると思う?」 「・・・・・・?」 不思議そうに小首を傾げるせつなを、圭太郎は柔らかな光を湛えた目で、静かに見つめる。 「土だよ。栄養がたっぷり詰まった、真っ黒な土だ。落ち葉はね、冬の寒さから木の根を守りながら、地面に住む虫たちによって、何年もかかって、豊かな土になるんだよ。 その栄養で、木はまた新しい芽を出して、たくさんの葉を茂らせる。そうやって、自然は何ひとつ無駄にしないで、幸せを繋いでいくんだ。」 「幸せを、繋ぐ・・・。」 噛みしめるように呟くせつなに、圭太郎は力強く頷いてみせる。そして少しおどけた調子で、こう言った。 「そうだ。落ち葉のご馳走が食べられて、虫たちも喜ぶ。きれいな花や若葉や、こ~んな見事な紅葉が見られて、僕たちも喜ぶ。それに当然、木も喜ぶ。みんなで幸せ、グッドだよ~、ってね。」 圭太郎はズボンの落ち葉を払って立ち上がり、得意そうな顔で、せつなに右手を差し出す。 (お父さん、それを言うなら、幸せゲット、でしょ?) そう口に出して言うのは恥ずかしくて、せつなはただクスッと笑って、圭太郎の手を取り、立ち上がった。 二人でまた落ち葉を踏みながら、元の道へと戻る。ラブとあゆみは、坂の少し上の方で立ち止まっていた。どうやら薄くて柔らかなモミジの落ち葉を、日に透かして遊んでいるらしい。 「この木たちに比べれば、僕なんか、まだまだだなぁ!」 突然、圭太郎の声に熱がこもったのを感じて、せつなが目をパチクリさせる。 「ああ、ごめんな、せっちゃん。つい、仕事のことを考えちゃってね。 軽くて、涼しくて、水にも強くて、被っている人が幸せになれるような、最高のカツラを作りたいって頑張っているけど、それだけじゃない、地球にも優しいカツラを作りたいって思ってるんだ。いつか、必ずね。」 まるで少年のようにキラキラと光る目をして、圭太郎がまた、ニヤリと笑う。 (お父さんって、お仕事の話になると、何だかダンスの話をしているラブそっくりになるのね。) せつなはしばらくの間、黙って自分が踏みしめる落ち葉の音を聞いていたが、やがて意を決したように、顔を上げた。 「お父さん。」 「ん?」 「私・・・お父さんならきっと、作れると思うわ。」 言ってしまってから、モミジにも負けないくらいの真っ赤な顔で俯くせつな。その頭に、圭太郎はそっと手を置いて、ポンポンと二回、優しく叩く。 「ありがとう、せっちゃん。そうさ。まだまだ、挑戦はこれからだからな。」 やっぱり熱く言い切る圭太郎の顔を、せつなはそろりと上目遣いに見上げて、うん、と恥ずかしそうに頷いた。 やがて、坂道も終わりに差し掛かった。少し先で待っていたラブとあゆみも一緒に、最後の急勾配を上りきると、目の前がぽっかりと開ける。そこに広がる景色に、せつなは思わず息を飲んだ。 眼下に見えるのは、コンクリートで囲まれた小さな湖だった。水力発電のための人工湖だと、圭太郎が説明してくれる。その湖の向こう側に見える山肌は、まさに自然が描き上げた、一枚の絵だった。 黄色に、褐色。朱色に、深い赤。そしてところどころに見える、渋みを増した緑――。 まるで空の巨人が、山というキャンバスに、気まぐれに絵具を落としたかのよう。様々な色彩が主張し合い、でも不思議と調和を保って引き立て合っているその姿を、小さな湖面がくっきりと映し出す。 まさに山と湖とが一体となった光景が、燦然たる輝きを持って迫って来る。 「きれいだね。せつなに見せたかったんだ、この景色。」 声も出せず、ただ景色を食い入るように見つめているせつなの腕に、ラブが嬉しそうに腕を絡めた。せつながやっと呪縛から解かれたように、深々と息を吐き出す。 「う~ん、まさに錦繍だな。」 「きんしゅう?」 まだ夢見心地の顔で、圭太郎の言葉をオウム返しに呟くせつなに、あゆみと圭太郎が、揃ってニコリと笑った。 「まるで豪華な錦みたいに、色鮮やかで美しいってことよ。」 「ああ。本当はこっちが本家で、錦の方が真似したんだと思うけどね。」 笑顔で説明してくれる二人の顔を交互に眺めてから、せつなはやっと笑顔になって、もう一度自然の錦を見つめる。 ふと、新たな疑問が泡のように心に浮かび上がった。 「ねえ、お父さん。」 優しい視線を返す圭太郎の顔を見つめて、せつなはもう一度心にある問いを投げかける。 「私たちは、こんな景色が見られてとっても幸せだけど、紅葉って、木にとっては、一体どんな良いことがあるの?」 「あら。そう言えば、そんなこと知らないわね。」 「ホントだ。ねえ、お父さん。知ってる?」 あゆみとラブにも期待に満ちた眼差しを向けられて、圭太郎は困った顔で頭を掻く。 「うーん、それはね。実はまだ、ハッキリとは分かっていないらしいんだ。」 「あ、そうなの・・・。」 「へぇ、そうなんだ・・・。」 少し残念そうなせつなと、意外そうに目を見開くラブ。そんな二人を見つめて、圭太郎の声が、また熱を帯びる。 「でも、これだけは言えるぞ。まだ人間には分かっていなくても、もちろん木にとっても、きっと何かとっても素敵なことがあるのさ。自然の営みに、無駄なことなんてひとつも無いんだから!」 「う、うん。」 気圧されたように頷くラブと、それを聞いて嬉しそうに微笑むせつな。圭太郎は大真面目な顔で、最後のダメを押す。 「ほら、ラブがいつも言ってるだろう?みんなで幸せ、グッドだよ~、ってね。」 「お父さぁん、ゲットでしょう?もう、肝心なところで間違えるんだから。」 苦笑いをするあゆみの隣りで、せつながクスクスと笑い出す。それを見て、ラブもあゆみも、そして圭太郎も、一斉に笑顔になった。 「さあ、この景色を見ながら、お弁当にしようよ!」 ラブが、再び目をキラキラさせて、三人の顔を見渡す。その言葉を聞いて、せつなも嬉しそうに頷いた。 二人が下げているお弁当の中身――それは、ラブとせつなの特製ちらし寿司だった。 薄く切った酢蓮根に、甘辛く煮た椎茸、焼いてほぐした秋鮭の身。ラブが色良く焼き上げ、せつなが糸のように細く切った錦糸卵。彩りに、さっと湯がいて食べやすく切ったホウレンソウ・・・は、今日は可哀そうだから小松菜を使って、酢飯の上に鮮やかに盛り付けたもの。 あゆみが母から教わったものを、ラブに教えてくれた料理だと言う。 (ラブはきっと、この景色を思い浮かべながら作ったのね。お父さんとお母さん、どんな顔するかしら。) せつながそう思いながら、もう一度湖の向こうを眺めたとき、得意げなラブの声が、耳に飛び込んできた。 「今日のお弁当は、あたしとせつなが愛情パワー全開で作ったからねっ!お父さんもお母さんも、開けてびっくりだよ~。あのね、すっごく綺麗な・・・」 「ちょっと、ラブ!駄目よ、全部しゃべっちゃ。お父さんとお母さんを、びっくりさせるんでしょう?」 せつなに睨まれて、ラブが慌てて口をつぐむ。それぞれがまるで違う色を持っているのに、何故か双子のような二人の娘。その輝きに、圭太郎とあゆみはそっと目と目を見交わして、幸せそうに笑った。 ~終~
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1012.html
【6月21日】 『待ってなどいないよ』 サウラー「雨は静かで良い。ウエスターも静かにしてくれればいいのに……」 サウラー「今日は静かだね、出かけているのか」 サウラー「もう夕方なのに帰ってこないね、心配なんてするわけないが」 サウラー「今日は静かだね、読書がはかどるよ」 サウラー(早く帰ってこないかな……) 【6月22日】 『期待されてるような気がして』 ラブ 「今日はおとうさんの作ったカツラのモデルになるの! 可愛いカツラなら良いけどなぁ……」 圭太郎「まずは、これとこれからだ」 ラブ 「これはまた立派なアフロ……。こっちは勇ましいチョンマゲ……ってなんでよっ!!」 圭太郎「いや、お約束というか、ラブが喜ぶかと思って……」 ラブ 「喜ぶわけないから!」 せつな「くくくっ、くっくっくっ……」 圭太郎「ほら、せっちゃんは喜んでるじゃないか」 ラブ 「馬鹿にされてるだけだから……」 圭太郎「せっちゃんにはこっちだ。流行のファッションウィッグだ」 ラブ 「だから、なんでよ!」 【6月23日】 『雨の日のしっかり屋さん』 タルト「カタツムリって、なんや、のんびりしとって可愛いなぁ」 祈里 「お天気なのに頭を出しているでしょ、きっと明日は雨よ」 タルト「カタツムリが天気当てるんかいな?」 祈里 「うん、反対に殻に閉じこもっていたら翌日は晴れると言われてるの」 タルト「大人しいようで色々考えとるんやなあ」 せつな「誰かさんとは反対ね」 タルト「ほっといてぇな!」 【6月24日】 『美希の一番輝く瞬間』 美希 「可愛い傘を見つけたの。雨の季節だっておしゃれは完璧よ!」 ラブ 「ホントだ! 美希たんすごく似合ってるよ」 祈里 「傘の合間からチラッと見える美希ちゃんの美貌、見惚れちゃう」 美希 「もう! 誉めすぎよ」 せつな「私はおしゃれはよくわからないけど、美希の嬉しそうな笑顔は大好きよ」 【6月25日】 『十倍の美味しさ』 カオルちゃん「雨の日はドーナツをサービスしちゃうよ。美味さ十倍ね! ぐはっ」 タルト「十倍って、またそんな大嘘ついて……」 女の子「じゅうばいのドーナツひとつください」 カオルちゃん「お嬢ちゃん、家族は何人いるの?」 女の子「よにん!」 カオルちゃん「はい。じゃあ、これはサービス」 女の子「よっつも! いいの?」 カオルちゃん「みんなで食べれば美味しさは十倍だよ。これはホントのホント」 女の子「うんっ! ありがとう!」 タルト「カオルはんが天使っちゅうのも、ホントのホントかもしれへんなあ……」 【6月26日】 『天然?』 祈里 「雨が降ると、カタツムリさんたちが嬉しそうにお散歩するわ」 せつな「ブッキーはカタツムリにまでさん付けするのね」 祈里 「うん。命に優劣なんてないと思うし」 ミユキ「おはよう! 祈里ちゃん、せつなちゃん、仲良くお散歩?」 祈・せ『おはようございます!』 ミユキ「わぁ~綺麗な紫陽花ね。カタツムリ君も嬉しそう!」 祈・せ(ミユキさんもだ……っていうか君付けなんだ……) 【6月27日】 『大の仲良しです』 キュアベリー「響け! 希望のリズム! キュアスティック・ベリーソード!!」 せつな「これが幻のアイテム、ベリーソードねっ!」 美希 「幻じゃないってば!」 祈里 「ちょっと出番少なかったよね」 美希 「ブッキーまで言う!?」 ラブ 「おとりに使ったこともあったね」 せつな「もしかして……ブルンと仲悪いの?」 美希 「悪くない!」 【6月28日】 『たまには甘えたくて』 ラブ 「雨が降るのはいいんだけど、あたし、雷だけは苦手なんだよね~」 せつな「それで私の部屋に逃げてきたってわけね……。ラブにも恐いものあるのね」 ラブ 「そりゃあるよ。他にも勉強とかニンジンとか……」 せつな「それは恐いんじゃなくて苦手なものでしょ、まったく」 ラブ 「たはは、そうとも言う――――って、きゃあああ!!」 せつな「はいはい、今夜は一緒に寝ましょ。可愛いラブの一面が見れてよかったわ」 【6月29日】 『楽しい気持ちを忘れない』 ミユキ「雨の日は家でのんびり、音楽を聞いて過ごすのが好きなの」 ラブ 「やっぱりすごい! いつどんな時もダンスを忘れないんですね」 ミユキ「そうじゃないのよ、ただ好きなだけよ」 美希 「ただ好きなだけ。それが成功の秘訣なんでしょうか?」 ミユキ「どうかしらね。でも、常に楽しみ方を工夫する気持ちは大切よ」 四人 『ハイッ!!』 【6月30日】 『あ~した天気にな~あれ』 せつな「雨が止むように、てるてる坊主を作って窓に飾ったわ」 ラブ 「せつなも雨はいやなんだ」 せつな「それもあるけど、一度作ってみたかったの」 ラブ 「そっか、ラビリンスでは天気まで決まってたんだ」 せつな「便利なんだけどね、空を見て一喜一憂するのも悪くないものよ」 新-151へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/72.html
「ちょっとラブ、もうお湯沸いてるわよ?!」 「は~い。・・・ブッキー、そっちタマネギ切ったぁ?」 「ごめん、今やってるー。せつなちゃん、サラダは大丈夫?」 「今、精一杯キャベツ刻んでるわ」 今日は、ラブちゃんのお家で、お泊り会。 ご両親もお出かけなんで、わたし達4人でお夕飯の準備をしてるところ。 メニューは、カレーライスと、サラダ。 わたしはカレーに入れるお野菜を切る当番なんだけど。うー、タマネギが目にしみる・・・。 ・・・・・・でも、これくらい我慢しないと。 みんな一緒とはいえ、せつなちゃんと一晩過ごすことができるんだもの。 もう一週間も前から、今日という日が来るのを夢にまで見たんだし・・・・・・。 それに!ご、ご飯の後にはみ、みんなでおおおおお風呂入ることになってるし・・・・・・。 一気にわたしの頭の中には邪な妄想が広がる・・・・・・。 (ブッキー、背中流してあげるわ。こっち来て) (せせせせつなちゃん!い、いいって、それくらい自分でやるから!) (?何を恥ずかしがってるの?・・・ほら、次は前を洗ってあげるから、あたしの方を向く!) (いや~!いくらこっちの世界の常識に疎くても、やり過ぎだよ~!!) 「・・・・・・ブッキー・・・お腹空いてるからって、はしたないんじゃないの?・・・よだれ出てるわよ」 「・・・・・・は!え!?ゴメンゴメン!」 美希ちゃんにたしなめられ、現実に戻るわたし。せつなちゃんにだらしない子だって思われちゃう・・・。 「―――――痛っ・・・!」 その時、せつなちゃんが小さな呻きを漏らした。 見ると、包丁を離し、右手で左手の指を押さえている。 「せせせせつなちゃん!指切ったの?!ちょ、ちょっと待って―――」 慌てたわたしは、咄嗟にいつも持っている救急セットを取り出そうと、バッグに手を伸ばす。 「―――――せつなっ!手出してっ!!」 わたしの行動よりも早く、ラブちゃんがせつなちゃんの元へ駆け寄る。 彼女はせつなちゃんの左手を掴むと、躊躇うことなく、怪我している指を口に含んだ。 「―――――――!!」 その一連の動きから、目を離せなくなった。 「・・・・・・・・・」 「・・・ラ、ラブ・・・そ、そんなとこ・・・な、舐めたら・・・き、汚いわ・・・」 せつなちゃんが、顔を赤くして、ラブちゃんを止めようとする。 でも、ラブちゃんはそんな制止も聞かず、指を口から離そうとしない。 それは、甘くて淫靡な、恋人同士のキスに見えた。 ラブちゃんの口元からする、ぴちゃ、ぴちゃ、という水音のような響き。 その度にせつなちゃんは押し殺した喘ぎを漏らし、背を反らす。 バッグに手を入れたまま、わたしは固まっていた。 目を逸らしたいのに、逸らせない。 ・・・・・・嫌だ・・・こんなの見たくない・・・・・・。 一瞬、ラブちゃんとわたしの目が合う。 「―――――!」 その目が、嘲笑っているように、感じた。 高価な玩具を、手に入らない子に自慢している子供のような目―――。 ―――これはあたしだけのモノよ?羨ましいでしょう? ・・・彼女は、わたしに、そう言っているのだ。 ―――永い一瞬が、過ぎた。 ゆっくり、別れを惜しむように、唾液の糸を引きながら、ラブちゃんが口を離す。 「ンぅっ!・・・・・・ラ、ラブぅ・・・・・・」 「・・・・・・こっちの世界では指を切ったら、こうするんだよ、せつな・・・・・・」 頬を染め、息を荒げているせつなちゃんに、ラブちゃんは優しく、ふしだらに微笑みかける。 「・・・・・・ブッキー、バンソーコー、ちょうだい。」 「――――――え?!あ、あ、うん!」 その声に我に返ったわたしは、ラブちゃんにバンソーコーを渡す。 彼女は、可愛がっているお人形にリボンでも結ぶように、それをせつなちゃんの指に巻きつける。 ・・・わたしは、魂の抜けた案山子みたいに、その光景を見つめる事しか出来なかった。 「ちょっとブッキー、あなたもどっか怪我したの?」 「・・・え?」 「・・・・・・もう、涙浮かべてるじゃないの!」 美希ちゃんに言われるまで、気付かなかった。 「や、やだ。タ、タマネギ切ってたから・・・い、イタタタ・・・・」 ゴシゴシ、っと目をこする。 ・・・・・・本当に痛いのは、目なんかじゃないのに。 目を開けたとき、再びラブちゃんと視線が絡む。 ――――せつなで遊んでいいのは、あたしだけなの。あなたの手は決して届かない・・・・。 長い夜は、まだ始まったばかりだった。 了 分岐します。あなたはどちらの美希を選ぶ? 2-257テーマは〝イライラ〟 避-128テーマは〝嘘〟
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/835.html
アカルンを起動したせつなが、祈里を連れて来た場所。 そこは海だった。 優しく打ち寄せる波が、夕焼けに紅く染められていく。水平線には今にも陽が落ちようとしていた。 せつなは心の中で呟く。 美希、疑ぐった上に置き去りにしちゃってごめんなさい。ラブ、私たちのことを考えてくれてあんな嘘を……。ふたりとも、ありがとう。 「ここは……?」 祈里はキョロキョロと廻りを見渡すと、せつなに向き直した。 「覚えてる?一年くらい前に来た場所よ。 私にとって、とてもとても大切なところよ」 せつなは祈里を見つめながら、話し始める。 「あの日、あなたはあたしに優しくしてくれた。笑ってくれた。一緒に踊ってくれた。 あの時から、私の胸の中には……ずっと、あなたがいた」 「せつなちゃん……」 「ほんとうはね、あなたを連れてきて、ここで言うつもりだったの――――私の本心を。さっきの場所じゃなく」 少しでも時間があればここに来て、何度も何度も練習していた言葉。 せつなはそれを頭に思い浮かべる。 ずっと胸に抱いていた思いを、今、余すことなく祈里に伝えたい。 「祈里、あなたがいてくれれば、私どんなことだってできるわ。 逆に、あなたがそばにいなかったら……そう考えるとすごく怖くなる。 それだけ私にはあなたが必要なの。だから……これからも、ずっと一緒にいてほしい」 祈里は喉元に手をあてた。胸が痛いくらいに熱い。 嗚咽が込み上げ、息ができない。何も言えないことが、こんなにももどかしくて、心苦しいなんて。 「わ、わたし……」 しゃくり上げて涙で瞳を濡らしている祈里を見ていれば、せつなには彼女の言いたいことがすぐに理解できた。 「イエスなら、ただうなずいてくれればそれでいいわ」 祈里は慌ててうなずく。真ん丸に見開かれた大きな目に、せつなが映り込んでいる。 せつなは不思議だった。想い出の場所で、祈里の瞳に映る自分をこうして見つめている。 そうして、目の前にいる祈里もまた、せつなの瞳に映る自分を、恥じらいながら見つめていた。 誰もいない波打際で、ふたりの少女の影が、ゆっくりと近づいていき、やがて重なり合った。 初めて触れるくちびるの柔らかさに戸惑いながらも、ふたりはこれ以上ないくらいの幸せに包み込まれていた。 くちびるが離れても、身体は離れることはなく、まだ互いを強く求めるかのように抱きしめ合ったままのふたり。 「嘘みたい……。これって、夢じゃないよね? わたし、ずっと、せつなちゃんとこうなりたいって願ってた。 あんまり強く望みすぎて、わたし今、夢見てるんじゃないのかな」 今ようやくせつなの心を実感しながらも、やはりどこか信じられない祈里はせつなを見上げた。 その拍子に瞳に溜まっていた涙が、ひとすじこぼれ落ち、それをせつなが細い指で優しくぬぐう。 「まったくもう。私の一世一代の告白を夢にしちゃうなんて、困ったお姫様ね。 いったいどうすれば信じてくれるの?」 「……もう一度……」 「え?」 祈里は消え入りそうな小声で、心の底から欲しいものをねだる。 「もう一度、キスしてく」 最後まで言わせずに、せつなは祈里のくちびるをついばんだ。 甘い口づけを落としながら、祈里の柔らかい身体を、きつくきつく、かき抱く。 そうされていると、どこかに跳んでいってしまいそうな感覚になり、祈里は思わず、せつなの背中に両腕をまわし力を込めた。 「これで信じてくれた?」 熔けそうに熱いくちびるをようやく離すと、せつなは悪戯っ子のような笑顔で言った。 「ああっ!せつなちゃん、信じるから離さないで、お願い……立てないよ」 せつなの背中にしがみつこうとするが、まわした腕に力が入らない。 祈里の身体からは、力がすっかり抜けてしまっている。 よろめきそうになる祈里を、微笑みながら支え直すと、せつなは三度(みたび)、口づけた。 最後のキスは、愛しさを込めてゆっくりと、とろけるように。 「はい、今日の分はこれでおしまい。続きはまた今度ね。 さあ、帰りましょう。私たちの街へ」 「……うん!」 まだ熱をおびたままの祈里の頬を、心地良い潮風が穏やかに冷ましてゆく。 この場所を去ることは寂しいが、またふたりで来ればいい。 それに、例えどこに行こうと、せつなはそばにいてくれる。心からそう感じられる 。 これから待ち受けているであろう、せつなとの数多の日々を思うと、祈里の胸の高鳴りはおさまりそうもなかった。 一方、先程の公園のベンチでは、ラブが美希の膝上に座り、そのほっそりとした美しい首に腕を廻していた。 「美希、重くない?」 「平気よ。ラブだから平気なの」 「嬉しい……」 美希の胸に顔を埋めて、ラブは彼女の香りを胸いっぱいに吸い込む。 爽やかで清々しくて、それでいて、少しだけ頭の芯が痺れるような、彼女だけの香り。 その香りが放つ魔力に惑わされっぱなしのラブに、美希は妖艶に微笑みかける。 「ラブ……こっち向いて……」 胸元の恋人に、何度目になるのかわからないキスを求めようとした矢先、美希の目の前に紅い閃光が現れて、消えた。 光の消えた場所にはせつなと祈里が、満足そうな表情を浮かべて立っている。 だが、せつなはすぐに美希とラブの姿態を見とがめて言った。 「こら!いつまでもいちゃいちゃしてないの。さ、帰るわよラブ」 「えー!帰ってくるの早いよせつなー!お願い、もうちょっとだけ」 「お母さんが心配するから駄目」 「そんなー」 ガックリと肩を落とすラブの頭を、美希の手がいい子いい子と慰めた。 そんな3人を見て、祈里はとても愉快そうに笑った。 ひとしきり笑い終えると、3人にいとまを告げる。 「せつなちゃん、今日はどうもありがとう!――――とっても嬉しかったよ」 「どういたしまして。私も嬉しかったわ」 「美希ちゃんとラブちゃんもありがとう。また、ね!」 ぴょんぴょんと跳ねるように軽やかな足取りで家路につく祈里を、眩しそうに見送っているせつな。 それは、祈里の姿が見えなくなるまで続いた。 そんなせつなをからかうように、美希とラブはニヤニヤしながら矢継ぎ早に質問をする。 「ねぇ、上手くいった?」 「何のこと?」 「キスくらいはしたんでしょ?」 「さあ、どうかしら」 せつなは薄く笑いながら、するりとかわすようにはぐらかしてゆく。 とても言えないわ。もったいなくて。 それに、誰かに話してしまうと、夢になってしまうような気がするから。 あの波打際で口づけた祈里が、泡になって消えてしまうような気がして……。 だから、決めた。誰にも言わない秘密にすると。 胸の一番奥にある鍵のかかる綺麗な箱。 せつなはその中に、海辺での出来事を人知れずしまい込んだ。 その鍵を持っているのは、この世にたったひとり。せつなが愛してやまない少女だけ。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/728.html
せつな「これがお雛様ね、桃の花も素敵。ひな祭りって綺麗ね」 あゆみ「ラブのは桃色。せっちゃんのお雛様は赤い衣にしたのよ。 お雛様はね、自分の災厄を変わりに引き受けてくれるの」 ラブ「ひな祭りはね、女の子のお祝いの日なんだよ」 圭太郎「お父さんは寂しいなあ」 せつな「おとうさん、白酒どうぞ、散らし寿司とお吸い物は私とラブで作ったのよ」 圭太郎「お父さんは幸せだなあ」 あゆみ「まあ、どっちなのよ、お父さんたら。 でも、このお吸い物、はまぐりの出汁が効いてて美味しいわね」 せつな「どうしてはまぐりを使うの?」 あゆみ「二枚貝はね、対の貝殻しか絶対に合わないの。 相性の良い相手とめぐり会えますようにって祈りをこめて食べるのよ」 ラブ「あたしたちはもうめぐり会えてるもんね、せつなっ」 せつな「私とラブはぴったり合うわ。初めて会った時からそう思ってた」 あゆみ「そういう意味じゃないんだけど、あななたちらしくていいわね」 ラブ(ごにょごにょ)「今晩、あたしたちで貝合わせしようか?」 スパーン! せつな「良い話を台無しにしないで!」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/522.html
クローバーの四人はダンスレッスンの後、シャワーを浴びて着替え中。 ミユキが手配してくれたスタジオはシャワーは二つしかない。 まずせつなと祈里。今はラブと美希が使っている。 そして、ロッカールームでの事。 「ねえ。せつなちゃん、ちょっといい?」 むにゅっ!! 「へ?ちょっ!!ーー何っ?!」 むにゅっ!むにゅっ!むにゅっ! 祈里がせつなの胸をブラの上から無遠慮なまでに揉みしだく。 今にもブラの中まで手を突っ込みそうな勢いだ。 「ちょっ、ちょっと!ブッキー!!」 「やっぱり!」 「何がっ!?」 「感触がね!全然違うのっ!」 「…………は?」 祈里は両手でせつなの胸を鷲掴みにしながら、キリッとばかりに顔を上げる。 「前から思ってたのね。せつなちゃんのおっぱいってさ、 こう、おっきいんだけどプルンとした感じって言うの? なんかね、わたしとは違うなぁって! どこがどうって上手く言えないんだけどさ……」 軽く興奮気味にまくし立てる祈里。 要するに、触って見たかった…と言う事らしい。 「……そ、そんなに違う?」 胸なんて、大きさ以外そんなに違いなんてあるものなの? 「違うんだって!ほら、わたしの触って見て!」 「…う、うん。じゃあ…。」 何でこんな事に?と思わないでもなかったが、取り敢えず 祈里のパステルイエローのブラに包まれた膨らみに手を伸ばす。 (でも、ホント大きいわよね。私も結構ある方みたいだけど、これはすごいわ……) ふにっ! 「あっ!」 「ね?」 「……うん。すごく、柔らかい…。」 「そーなの。せつなちゃんのおっぱいはさ、 柔らかいけどみっちり詰まってるって言うか…。 弾力があるんだよね。」 「ブッキーは…、何かふわふわしてる。」 「つきたてのお餅みたいだよ。せつなちゃんのおっぱい。 モチモチしててあったかい……。」 「これ、何だろう……?あっ!」 せつなはこの間ラブと食べたシフォンケーキを思い出した。 ふんわり柔らかいのにコシのある感触がそっくりだ。 「はぁ~。なるほど。わたしはスポンジ系。せつなちゃんはお餅系って訳ね。」 「ね、美希は?わざわざ私の触りに来るって事は、 美希もブッキーみたいな感じ?」 「そーなの。だいぶちっちゃいけど。ラブちゃんは?」 「ラブも私と同じ系統かしら。でも最近あんまり触ると痛がるのよ。 芯があるって言うか、この頃急に大きくなってきたのよね。」 「カップいくつ?美希ちゃんはAだけど。」 「Aってほとんどペッタンコじゃないの?」 「それがそーでもないの。アレはアレでなかなか……」 「ちょっと………ブッキー……」 「…………せつな……」 シャワーから帰って来たラブと美希が目にしたのは、 半裸でお互いの胸をまさぐり合う自分達の恋人の姿。 この子達は一体何を……。 思考停止しかけている二人のを見て、きょとんとするせつなと祈里。 そしてせつなは急に目をキラキラと輝かせて美希に迫って来た。 その顔に浮かんでいるのは純真な好奇心。 しかし、美希にはそんな事は理解出来るはずもなく…。 「美希!ちょっといい?」 言うが早いか、せつなは美希のTシャツを捲り上げ、その小ぶりな乳房を 手のひらで包み込む。 「!!ちょーーーっ!ちょっ!ちょっ!何なのよ?!」 「……ブッキー、ブラの上からじゃ分からないわ…。」 「あー…。美希ちゃん、ちっちゃいから……。 あっ、ラブちゃん、いい?」 祈里は地蔵の様に固まっているラブの胸元に、遠慮なく手を突っ込む。 「ふぇっ!?ーーー何何何何?」 「ホント!せつなちゃん系?ぷりぷりしてる!」 「ちょっと、ブッキー!イタイイタイ!!」 ゴツン!!!と鈍い音がして、せつなと祈里は頭を抱えてうずくまった。 ゲンコツを落とされたのだ。 「………つまり、胸の触り心地について研究し合っていた、と?」 「…ハイ。」 「その通りです。」 「まあまあ、美希たん。何も変なコトしてたワケじゃないんだし……」 「じゅーーっぶん、変でしょっ?!」 せつなと祈里は美希の前に正座させられ、ラブは美希の剣幕にヒッ!と 首を竦める。 (しかも、何?ブラの上からじゃ分からないって!) 「あー、でもさ美希たん。あたしもちょーっと興味あるかな~?なんて?」 「はあ?」 「イヤ、美希たんは気にならない? ねぇ、そんなに違った?」 ラブがせつな、祈里に話を振るとコクコクコク!と二人が頷く。 「何よ、触りたいワケ?ブッキーの。」 「ホラ、美希たんもせつな触っていいからさ!」 「ちょっと、ラブ!何勝手に……」 「「黙んなさい!」」 ラブと美希は目配せして、せーの!とばかりに目の前の二人に手を伸ばす。 「わはっ!何コレ?」 「あんっ!ラブちゃん、くすぐったい!」 「ちょっと美希!ブラの中まで触んないで!!」 「せつながブラの上からじゃ分からないって言ったんじゃない!」 「それは大きさのせいでしょっ?!」 そして、引きつった声が少女達の狂乱を遮った。 「………あなた達……何やってるの……?」 ほとんど下着だけの姿で息も荒く胸を触り合う四人の後輩を前に、 立ち尽くすしかないミユキ。 そんなミユキを見て、四人の小悪魔は申し合わせた訳でもないのに 同時にニヤリと口角を上げる。 「ミユキさぁん。ちょっといいですかあ?」 語尾にハートを付けたラブが代表でミユキに魔の手を伸ばす。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/80.html
「……なに………やってんの…?」 祈里はベッドに仰向けたまま、ラブはその下に尻餅を付いたまま嵐の後の凪のような 気だるさに身を任せていた時だった。 突然聞こえた呆然とした声に祈里とラブは飛び上がる。 ドアを開けて立ち尽くしているもう一人の幼馴染み。美希は信じられない物を見た衝撃に端正な顔を引きつらせていた。 思わず跳ね起きた祈里の乱れた胸元に美希の目が見開かれる。 ラブは中途半端に腰を浮かせ、その視線は慌ただしく宙を泳ぐ。 とっさに説得力のある言い訳が出る筈もなく二人は酸欠の金魚よろしく青ざめて口をパクパクさせるだけだった。 「何、やってんのよ…!」 美希のまなじりがつり上がり、握りしめた拳が震える。ゆらりと揺らめく焔が細い体を包んでいる。 「やっ…!違う、違うんだよ!」 「美希ちゃん、わたしが悪いのっ!ラブちゃんは何も…っ!」 「未遂…って言うか!まだ最後まではって言うか…その…」 「ちょっ、ラブちゃん!何言ってるの?!」 「いや、だからね!結局何もおかしな事にはね…」 「……だからっ!何がよっ!!」 震える美希の声にラブと祈里は思わず目を閉じ首を竦める。 叱られる。怒られる。ひょっとしたらひっぱたかれるか拳骨を落とされるか。 じ…っと身を固くし、来るべき衝撃に備えていた二人。 しかし暫くしても覚悟していた痛みはやって来ない。 「………もう…やだ………」 耳を通り抜けた弱々しい声。 訝しさを感じたラブと祈里恐る恐る目を開ける。 「…もお…やだ…。嫌よ。何なの……?何なのよ…これは…。ヤダ…ヤダよ。もうイヤ!……っ!」 ぺたんと座り込み、肩を落とす美希の姿。 さっきまでつり上がっていた目尻が下がり、瞼に膨れた雫が大粒の涙となって零れ落ちる。 両手の甲を瞼を当て、シクシクと泣き始める。 激昂するでも、怒りを抑えるでも無く、体の芯を砕かれてしまったように。 ひっくひっくと胸を上下させ、苛められた幼子のようなか細い声で泣きじゃくる美希。 長い付き合いの中、美希の泣き顔を見るのは初めてではない。 しかし、これは…… ラブと祈里は言葉が出ない。 心を折ってへたり込んでしまった美希なんて見た事が無かったから。 そして美希にそんな姿を晒させてしまったのは自分達の考え無しな行動なのだ。 怒鳴られて叩き倒された方が遥かにマシだった。 「…美希……」 「…美希ちゃん………」 声も掛けられず、触れる事も出来ずにおろおろと狼狽えるしかなかった二人はやっとの思いで名前を呼ぶ。 ピクリと美希の肩の震えが止まり、緩んでいた唇がきゅっと引き締まった。 涙を拭い、長く息をつく美希をただ身動ぎもせずに待っているしかなかった。 「………帰る。」 抑揚の無い口調でぼそっと呟くと美希はそのまま部屋を出て行こうとした。 「あっ…!待って、待ってよ美希たんっ、話聞いて!それに…せつなにはこの事は…」 言わないで欲しい。 そう懇願しながら腕を掴んで来たラブを美希は汚ない物に触れたかのように邪険に振り払った。 その瞬間の美希の瞳に宿った色。 幼馴染みの視線に滲む隠す気すらない冷えた侮蔑。 ラブはその視線に心臓を射抜かれ、よろめきながら後退る。 「せつなに言うな、ですって?馬鹿にしないでくれる?」 それに何を話すって言うのよ。 吐き捨てるように美希は言葉を投げつける。 「それはこっちの台詞よ。あんた達こそ分かってるの?言える訳ないじゃない!」 「…それは、そうだよ。言えないよ、こんなの。」 「ごめんなさい、美希ちゃん。わたし、これ以上せつなちゃんを傷付けたりは…」 項垂れる二人を見る美希の瞳はますます温度を下げて行った。 形良い唇を皮肉な角度に捻り、視線と同じくらい冷たい声を放つ。 「どうだかね。分かりゃしないわよ。あんた達にまともな判断力なんて残ってんの?」 ついさっきまでの痛々しい様子をかなぐり捨てた美希は女王の傲慢さを覗かせながら 棘の絡まる言葉を紡ぐ。 「いいじゃない。全部ぶちまけなさいよ。せつななら赦してくれるでしょ?」 「美希たん…っ!」 「どうせ黙ってなんかいられないわよ。罪悪感に耐えられずに。 どうにもならない事を我慢する気なんて最初からないんでしょ?」 ふん。と、顎を上げ祈里の姿をねめつける。 慌ててはだけた襟元を掻き合わせる祈里に軽く舌打ちさえしてみせた。 「あんた達はもう分かってんのよ。分かって甘えてる。せつなには何をしても良いと思ってんのよ。」 「そんな、美希ちゃん…。」 「違う!そんな事って…っ!」 「違わないわよ。」 せつなはどんなに痛め付けられても逃げなかった。 どんなに手酷く裏切っても赦してくれた。 だからせつなには何をしても大丈夫。せつなは四人でいる事を望んでる。 だから… 「せつなは赦してくれるわよ。自分が傷付くのには呆れるくらい無頓着なんだもの。」 でもアタシは許さないから。 「これ以上せつなに荷物を背負わせるような真似、しないわよね。」 あんた達が何考えてこんな真似してるかなんて聞きたくもないわ。 ただ、秘密にするならそれは墓場まで持って行きなさい。 お願いだからもうこれ以上失望させないで。 そんな呟きをため息と共に美希は置いて言った。 ドアが閉まり、階段を降りて行く音がする。 ラブと祈里の胸には美希の瞳と声が深く食い込み、爪を立てている。 それは血管を通して全身に巡り、体の内側から自分達の愚かさを責め立てているのを感じた。 「………どうしよう……わたし、どうしたら……」 祈里は唇まで色を無くし全身を戦慄かせていた。ラブは頭を掻き毟り、血の滲むほど爪を立てる。 「どうしようもないね……あたし達。」 「……うん…。」 「馬鹿過ぎる。あり得ないくらい、馬鹿……。」 「…ラブちゃんの所為じゃない…。」 「あああ、もうっ…!」 ラブは床に突っ伏し、額を擦り付ける。どうしてこんなに頭が悪いのか。 どうしようもない。馬鹿。あり得ない。そんな軽い言葉しか出て来ない。 違うのだ。美希に見せてしまった光景はそんな紙のように薄っぺらい言葉で表すべきじゃない。 美希のか細い泣き声が耳にこびり付いている。瞼の裏に涙を溜めた瞳がちらつく。 自分達の行為が食い荒らした美希の心。 ラブと祈里の居場所は美希の居場所でもある。 自分達の感情だけでめちゃめちゃに踏み荒らしていい訳があるはずない。 美希がどれほどその居場所を愛し、守ろうとしていたか。 ずっと見て来たのに。 美希が必死に繋ぎ止めていてくれてたのに。 四人がバラバラにならないように。 祈里が輪の中に居続けられるように。 ラブとせつなが安心して手を繋いでいられるように。 それなのに。 目の前に突き付けられるまで自覚していなかった。 美希を軽んじていた事に。 黒ブキ31へ