約 1,207,352 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/443.html
「天然」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 色々あった1日。夕暮れの町を浴衣姿の少女が4人、肩を並べて歩いている。 ハプニングも多かったけど、終わり良ければ全て良し。 夏の思い出としては中々悪くない1日だよね。 止まる事のないお喋りに花を咲かせてると、ふと川縁の柵から身を乗り出し 困った様子の数人の子供達が目に入った。 「どうしたの?」 祈里が声を掛ける。聞けば、縁日で買ったひよこの入った籠を ふざけあっているうちに川へ落としてしまったらしい。 4人も柵から覗くと、土手の下を流れる川の中ほどに流木が 枝を突き出していて、丁度上手い具合に籠が引っ掛かっている。 幸いひよこも濡れてはいないようだ。 いつもなら土手を下りて川に入れば難なく取れるが、今日は数日前まで 降り続いた雨で水嵩がかなりましている。 普段は流れも緩やかで子供の遊び場にもなっている場所だが 今は大人の膝下くらいの深さはあるはずだ。 泣きそうになっている子供達を見て、何とかしてやりたいと思うが 何しろこちらも浴衣。いつもの軽装なら、任せとけ!とばかりに 胸を叩くだろうラブも手立てが思い浮かばず困り顔。誰か人を呼ぼうにも籠は 枝のほんの先に引っ掛かっているだけなので、風でも吹けば あっという間に落ちてしまうだろう。 助けを呼ぶ間持つだろうか…。 「ちょっと!せつな?!」 ラブの祈里の思考は美希の悲鳴によって破られた。 「!!!」 「!!!」 「ん?」 せつなは浴衣の裾をぴらっと捲り上げ、白い太ももの半ばまであらわにしている。 そして端をはだけないよう帯の上部にぎゅぎゅっと押し込むと、 下駄も脱いで、よいしょ!とばかりに柵を跨いで土手を降りて行った。 せつなは不安定な足元を苦にする様子もなくするすると土手を降りて行く。 せつなの目的が分かった子供達も口々に声援を送る。「おねえちゃん、気を付けてー!」 「頑張ってー!」 せつなはザブザブと水に入ると、ヒョイッと籠を取り、子供達に手を振って見せた。 その後口々にお礼を言う子供達を見送ると、祈里は少し頬を染めながら 「せつなちゃん、これ…。」 とタオルを差し出した。 「あ、ありがとう。いいの?」 「うん、早く拭いて。浴衣下ろせないでしょ?」 せつなはタオルを受け取ろうとしたが、そこで 「ちょーっと待った!」と美希にタオルを取り上げられた。 「もう!そんな格好で屈んだら見えちゃうでしょ!あたしが拭いたげるから!」 でも、とせつながもじもじするも美希は返事も聞かずせつなの前にしゃがみ ごしごしと足を拭く。 「ほら、肩に掴まって足上げて!ブッキー、ちょっとタオル汚れるけどゴメン。」 そう言って足の裏の砂を払い、下駄も履かせてやる。 祈里は気にしないで、とおっとり笑い、これまで何の役にも立ってないラブは ポーッと頬をピンクに染め、目の前の光景に釘付けになっている。 せつなは美希と祈里に申し訳なさそうにおろおろしている。 その後、家路に付いた面々だが胸中は様々である。 「私、何かまずかったのかしら?何だか美希は怖いし、ラブとブッキーは ぼんやりしてるし。精一杯頑張ったつもりなんだけど…。」 「せつなちゃん、すごいなぁ。運動神経もいいんだ。 それと、ブルーのパンツがチラッと見えた気がしたんだけど。 後で美希ちゃんにせつなちゃん今日のパンツ何色だったか聞いてみよう。」 「はぁ、ダメだわこの子。全く持って分かっちゃいないわ。 取り敢えず一から"女の心得"ってものを叩き込まないと! 危なっかしくてみてられないわ。」 「わはーっ!せつなの生足ゲットだよー!写メ撮っとけばよかった! いやいや、むしろムービー? うちに帰ったらもう一回やってって頼んじゃおうかなー? ついでに帯くるくる~ってやつも!だっはー!鼻血でるか!」 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/240.html
赤い翼の輪舞曲 第20話――最終話 帰るべき場所―― チッ、チッ、チッ、 耳元で、小鳥のさえずりが聞こえる。 サワサワとそよ風が吹いて、森の葉が揺れる。 穏やかな陽気の、春の昼下がり。太陽がわずかにオレンジ色を帯びて、西の空に傾いている。 こちらの世界が、まだ冬だった四つ葉町とは季節が違っていたことに、せつなは今になってようやく気が付いた。 激しかった一日が、無事に終わりを告げようとしている。 せつなは爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んで、もうじき別れる、この世界の優しい自然の調べに耳を傾ける。 あれから数時間――街は大騒ぎだった。 ボロボロになった広場や道路。そして、いくつもの建物。街が元の様相を取り戻すには、それなりの月日がかかることだろう。 メイジャーランドの住人たちは、メフィストとアフロディテ、それに三銃士たちの働きによって、次々と帰還しつつある。あの国を立て直すのも、並大抵のことではないだろう。 それでも―― 双方の世界が得た交流と絆は、きっといつか、そんな被害の何倍もの恩恵を伴って、みんなを幸せへと導くに違いない。 今のせつなには、そう信じることができるのだった。 『赤い翼の輪舞曲――最終話 帰るべき場所――』 「どうしたの? せつな。こんなところでポツンとして」 「そうよ。一人でしょんぼりしてると、こっちまで楽しくなくなっちゃうじゃない」 「響、奏。相変わらず、ハッキリと言うのね。私はしょんぼりしてるんじゃなくて、ちょっと考え事をしていたのよ」 何日か泊まって行けと勧める響たちの誘いを断って、せつなたちはすぐに元の世界に帰ることを望んだ。 もともと、外泊の準備など何もしていないのだ。きっと、おとうさんやおかあさんたちは、死に物狂いで自分たちを探していることだろう。 「え~っ、ズル~イ! あたしたちは必死になって探し回ってたのに、せつなったらケーキなんて食べてたんだ!」 「そうニャ! ハミィだってメイジャーランドに行ってたから、カップケーキ食べ損なったんだニャ!」 「あんさんらの頭ん中は、オヤツのことばっかりかいな……」 「ピィー! ピィー!」 「そうだそうだって……」 「もう! ピーちゃんはみんなの分まで食べてたでしょ?」 少し離れた所から、ラブとハミィの不満そうな声が聞こえてくる。 タルトがツッコミ、ピーちゃんが更にボケる。エレンとアコが呆れて、美希と祈里は楽しそうに笑う。シフォンは、ピルンが出したカップケーキを食べるのに忙しいようだった。 ラブ、美希、祈里は、こちらの世界に来たばかりで、これまでの経緯をほとんど知らない。 せつながこの世界に来てからのこと。それ以前の響たちの戦いや、ピーちゃんのことなんかを、色々と詳しく聞いているらしい。 「響たちこそ、大丈夫なの? プリキュアのこと、街中の人にバレちゃったんでしょ?」 「あ~、うん。表向きは災害とか、集団幻覚だとか、適当な言い訳をつけて誤魔化してくれるみたいなの。パパが心配いらないって笑ってたし」 「でも、これからはもっと、加音町とメイジャーランドの行き来が盛んになると思うわ」 「それは素敵ね」 せつなが静かに微笑む。その顔を見て、奏が心配そうに口を開いた。 せつなの悩み。せつなの夢。どうしても確かめておきたかった。今を逃せば、またいつ会えるかもわからないのだ。 「せつなは、答えが見つかったの?」 「答えって?」 「ほら、前に言ったでしょ? せつなは、どうやってラビリンスを幸せにするつもりなの、って」 「あぁ……」 せつなは納得したように頷いて、そのまま口をつぐむ。先ほどの続きとばかりに思索に耽り、ここ数日の出来事に想いを馳せる。 奏が言っているのは、ラッキースプーンの厨房での会話のことだった。 あの時、自分はラビリンスを、四つ葉町のような笑顔と幸せに溢れる国にしたいと言った。 それが自分の夢なんだと思った。でも、たとえそれが本当の夢であったとしても―― (じゃあ、みんなの幸せってなに?) 奏の言葉が、脳裏に蘇る。 自分は、まるで己の目に映る四つ葉町を、唯一絶対の幸せであるかのように考えていたんじゃないのか? この世界で見てきた、加音町やメイジャーランドの住人たち。彼らの幸せの在り方は、四つ葉町とはまた違っていたように思う。 共通するのは、みんなが自分の意思で、自由に生きているということ。自由であることが幸せなんだとしたら、それは一体、何をするための自由なんだろう? (私は、手段こそ夢だと思うな。響が好きなのはケーキだけじゃないし、響を笑顔にする方法なら他にもたくさんあると思う。でも、私は自分の焼くケーキで笑顔になってもらいたいの) 自分は、間違っていたのかもしれない。どれほどみんなの幸せを願おうと、自分が描いた幸せは、自分が夢見る幸せでしかない。 人はひとりひとり違うから、それぞれの人生があるのだから。 だとしたら―― ラビリンスが得た自由とは、「みんなが自分だけの幸せ」を、追い求めるための自由なんじゃないのか? 光が見えてくる。答えは、すぐそこにある気がした。 イースとしてではなく、キュアパッションとしてでもなく、東せつなとして、自分がやらなければならないことは―― せつなは、奏と響の顔を見つめて、少し照れ臭そうに笑う。そして、口を開きかけた瞬間、目の前が真っ暗になる。 「だーれだっ!」 「きゃ! もう、ラブったら! 今、大事なことを考えてたのに!」 突然後ろから、ラブが目隠しついでに抱きついてくる。 全く――誰だも何も、ないものだと思う。自分に一切の警戒を抱かせずに、背後を取れるのはラブしかいない。 ごめ~ん……としょぼくれるラブに、せつなはクスリと笑った後、真剣な表情で向き合った。 「まぁいいわ。私のこれからのことを考えていたんだけど、今、ハッキリと答えが出たから」 「えっ! なになに? わたしにも聞かせて、せつな!」 「私も聞きたい。このまま別れたら、心配で仕方ないもの」 ラブに続いて、響と奏も身を乗り出して聞き入る。せつなは想いを整理するかのように、ポツポツと語り始めた。 「この世界に来る前、四つ葉町の広場で、ラブはこう言ったわよね?」 (うん、そうだね。美希たんとブッキーには、夢があるもんね。でもさ、せつなはずっと一緒だよね!) 「本当を言うと、私はダンスを辞めてラビリンスに戻るつもりだったの。あの国を、四つ葉町のような幸せな世界にしようって」 「そう――なんだ……。うん、そうじゃないかって、思ってたんだ」 「聞いて! でも、やっぱり私、四つ葉町に残ることにする。私ね、この世界に来て、元の世界に帰りたいって思った。そして、その世界はラビリンスじゃなかったの」 「えっ? それって……」 「それに、フュージョンと戦ってわかったことがあるの。幸せは、一人一人が、自分で見つけていくものなんだって。 みんなを笑顔にする方法なら、きっとたくさんあると思う。でも、私はラブと一緒にダンスを踊って、みんなに笑顔になってもらいたい」 「じゃあ! じゃあ、本当に!?」 「ええ! 私はラブと一緒に、プロのダンサーになるわ。団おじさまにも負けないくらいの、“本物”になってみせる。そして、いつかラビリンスにこの喜びを伝えたいの」 無数にある幸せのカタチの中の、その一つとして―― と、せつなは締めくくった。 「それなら、帰ったらさっそく練習ね!」 「ダンス大会決勝戦は、また延期になっちゃったみたいだけど」 「美希っ!? ブッキーも! いいの? クローバーは解散するんじゃ……」 「ノンノン! 完璧なアタシが、優勝もしないで投げ出すワケないでしょ?」 「わたしも一緒にやらせて。ラブちゃんとせつなちゃんなら、きっと夢が叶うって信じてる」 「また……クローバーでダンスが踊れるんだね? やったぁ~、幸せゲットだよ!」 いつの間にか話を聞いていた、美希と祈里が会話に加わる。 ダンスユニット・クローバーの活動再開――それが、四人のとびきりの笑顔と共に決定した。 「おめでとう、せつな。素敵な答えね! なんだか安心しちゃった」 「わたしも、四つ葉町に行ってみたいな。そこでピアノを弾いてみたい。クローバーのダンスを観てみたい。いつか――必ず!」 「ええ、約束しましょう! 世界は交わり、人は繋がり、そこから音楽は生まれるのよね。だったら――!」 「ここで決めなきゃ、女がすたる!」 「精一杯、頑張るわ!」 せつなと響は、決めゼリフを言い合ってクスリと笑う。 遠い遠い世界だから、簡単には会えないかもしれない。でも、これっきりにするつもりなんてない。 いつか二つの次元が交わって、助け合って、より大きな幸せを導くと信じたいから。 「ところで、エレンとアコは?」 響が、この場に居ない二人の名前を口にする。 「私なら、ここよ」 「ホラッ、奏太も早く。またしばらく会えなくなっちゃうのよ?」 二人はせつなたちとの別れが近いことを感じて、奏太を探しに行ってくれていたようだった。 アコに手を引っ張られ、エレンに肩を押されるようにしてやって来た奏太は、せつなに向かって、大事そうに握りしめていた右手を開いた。 掌の上にあったのは、銀の鎖が付いた、緑色の小さなハート型のペンダント。あの日、せつなが奏太の机の上に置き去りにした、幸せの素だった。 「せつな姉ちゃん。恥ずかしいから会うのやめようかと思ったんだけど、これ、返してなかったからさ」 「奏太君……。それは、あなたにあげたつもりだったのよ」 「無理すんなよ。大事な物だってことくらい、見ればわかるって」 「ありがとう。私は他に、あなたにあげられるようなものが何もないけれど……」 「なら、今度会う時は、俺がとっておきのプレゼントを用意するよ。だから、さよならは言わないぜ!」 「ええ、約束ね。こんな歌が、私たちの世界にはあるの。指切りげんまん、嘘ついたら~」 「針千本、の~ます! だろ? 俺たちの世界にもあるよ。じゃ、元気でな!」 奏太はそれだけ言うと、せつなに背を向けて走り去った。その頬から、幾滴かのしずくを振り落としながら。 せつなも、クルリとみんなから背を向ける。同じように頬を濡らすものが流れたのかどうかを、確かめられた者はいなかったけれど。 「アカルン、帰りましょう! 私たちの街――四つ葉町の広場へ!」 弾けるような加速によって、瞳に映る景色が溶けていく。太陽の光も、星々の輝きも、全てが一つに交じり合う。 加音町を発った一行は、数多の世界を渡り、故郷へと帰還する。 混沌の闇を越えて、光の門を潜り抜ける。その先には、七色に彩られた不思議な空間が広がる。 世界を繋ぐ奇跡の花、プリズムフラワーの力が作り出す虹の回廊。果てしない道のりを、アカルンの力で一気に翔け抜ける。 再び、真っ白な光に包まれる。あまりの眩しさに目を閉じる。一呼吸してから、そっとまぶたを持ち上げた。 大好きな街、四つ葉町の公園の景色が映る。瞳が潤み、わずかに視界が歪む。 冬の夜の、澄んだ空気が胸いっぱいに広がる。 大気の綺麗な世界なら、他にもあった。景観の美しい世界なら、他にもあった。 でも、心が安らぐようで、それでいてときめくような、こんな不思議な気持ちにさせられる場所はここしかない。 「帰って――来たね。せつなっ!」 「ええ!」 「お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ……」 「早く帰って、安心させてあげなきゃね」 全力で走っているのに、意地悪なくらいにゆっくりと景色が流れる。 早く――早く――帰りたい。 やがて見えてくる、優しい肌色の壁に、ピンクの屋根。赤い色のひさし。 手入れの行き届いた広めの庭。二階には、植物を這わせてあるバルコニー。大きくはないけれど、温かみを感じさせる家。 ノックなんて必要ない。だって、自分の家なんだから。 もどかしい気持ちをぶつけるように、やや乱暴にドアを開ける。 パタパタと、転がるように出て来る二人。たまらなく会いたかった、大切な家族だった。 「それで、なんであんたたちがこの世界で暮らしてるのよ!?」 ダンスレッスンの帰り、せつなたちがカオルちゃんのドーナツカフェで休憩していた時のこと。 彼女たちのドーナツを運んできたのは、あろうことかウエスターだった。 「なぜって、そりゃあ、カオルちゃんに弟子入りしたからに決まってるじゃないか」 いかにも、「当然だろ?」と言わんばかりに、ウエスターは不思議そうな顔をする。 あれだけ、自分をラビリンスに誘ったのは何だったのか? せつなの肩が怒りでワナワナと震えだす。 「答えになってないわ、ウエスター! あなたラビリンスに帰ったんじゃなかったの? どうしてドーナツ揚げてるのよ?」 「ああ、あれから色々考えたんだが、幸せなんて、結局人それぞれだからな。俺は美味いドーナツを作れるようになって、あいつらに食わせてやりたくなったんだ」 「………………」 「落ち着いて、せつな。口調がイースになってるわよ?」 見かねた美希が口を挟む。せつなはもう、二の句も告げない有様だった。 自分が遥か遠い異世界、いや異次元の加音町にまで行って、命がけでフュージョンと戦って得た教訓を、いともあっさりと……。 なんとか気持ちを持ち直して、今のやり取りの間、ひたすら沈黙を守っていたもう一人の方に向き直る。 「余計に疲れそうだけど、一応聞かせて……。サウラーは、どうしてここに居るの?」 「僕かい? 僕は、個性のないラビリンスに、この世界のファッションを学んで広めようかと思ってね」 「続きはアタシが説明するわ。この人、ママの美容院でアルバイトしてるの。しかも……しかもよ!? いきなりアタシの所属する事務所に、アタシと同じモデルとしてスカウトされちゃったの!」 「違うよ。いいかい? 君は読者モデル、僕は専属モデルだ。一緒にされては困るね」 「キィ――ッ! これなのよ、腹が立つでしょ!?」 「美希こそ、言葉使いが壊れてるわよ。落ち付いて……」 それでも彼らは、週に一度はラビリンスに戻っているらしい。ただし、政治や統治に、一定の距離を置くことにしたのだとか。 同じように、ラビリンスで訓練を受けていた一部の者は、各パラレルに散って失われた文化を学んでいるらしい。 もっとも、せつなの目には、二人は自分のために楽しんでやってるようにしか見えなかったのだが……。 それはそれで、きっと正しいことなのだろう。 「そうだっ! 今夜、あたしの家でせつなの『お帰り』パーティーをやるの。良かったら、隼人さんと瞬さんも来ない?」 「うん、賑やかな方が楽しいもんね」 「アタシは構わないわよ。どーせ、ママが誘うだろうし……」 ラブは気にした風もなく、自宅のパーティーに二人を誘う。まるで知り合いがこの街に留まってくれたのを、喜んでいるかのようだった。 祈里もニコニコと笑って、ラブの提案に賛成する。美希は諦めたという風を装って、それでも賛同の意を表した。 せつなはやれやれといった感じで、ため息を一つ吐く。しかし、その表情はどことなく嬉しそうだった。 「ラッキー! お祭りは大好物だ。ぜひ行かせてもらおう。俺の特製ドーナツを持って行くぞ!」 「僕も寄らせてもらうよ。ウエスター君の焦げたドーナツはいらないけどね」 「よかった! せつなの焼いた、とっておきのカップケーキもあるんだよ!」 「奏から教わったっていう、アレね?」 「わたしも楽しみ」 「ええ! 気合のレシピ、見せてあげるわ!」 せつなは自信たっぷりにそう言って、幸せそうに微笑んだ。 ~~ La fin ~~
https://w.atwiki.jp/llss_ss/pages/536.html
元スレURL 安価でちぃマルSS 概要 安価でちぃマル短編集 タグ ^嵐千砂都 ^ウィーン・マルガレーテ ^安価 ^ほのぼの 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/709.html
せつなちゃん。 せつなちゃんがいなくなって、早いもので、もうすぐ一ヵ月が経とうとしてる。 ラブちゃんは、今日も元気に、精一杯、頑張ってるよ。 息吹 「おはよう、美希タン、ブッキー!!」 「おはよう、ラブ」 「おはよう」 いつものように、朝の待ち合わせ。途中まで一緒に学校に向かう、わたし達三人。 「おはよう、皆」 「おはよーございまーす」 「うぃっす。今日も元気だな、ラブちゃん!!」 「あはは。おっはよーございまーっす」 ずっとこの街で、この商店街で暮らしているから、皆、家族のようにわたし達に接してくれる。中でもラブちゃんは、 皆の人気者。色んな人に挨拶をして回って、笑顔を振りまいている。 「ホント、ラブって人気者ね」 呆れたように、でも、暖かい目で美希ちゃんが言う。ラブちゃんは、それに答えるように笑って、 「美希タン程じゃないよ。見たよ、昨日出た雑誌。すっごくカッコ良かった!!」 「ふふん、そりゃあたし、完璧だもの!!」 髪をかきあげる仕草も様になる、そんな美希ちゃんの姿に、わたしとラブちゃんは顔を見合わせて笑う。 素敵な友達を持てて、わたし、幸せだなぁ。 「じゃあ、また放課後にね」 「うん。美希タン、まったねー」 「行ってらっしゃい」 美希ちゃんとは駅の前で別れる。電車で一駅程の所に、美希ちゃんの通う学校はあるから。 「けど、考えてみたら、アタシ達ってすごいよね」 「なにが?」 「だってさ、読者モデルの幼馴染を持ってる子なんて、そんなにいないよ?」 美希タンには、精一杯、頑張って欲しいなぁ。言いながら歩くラブちゃんの言葉に、わたしは笑って頷いた。 もしも、他の人が言ってたなら、少し嫌味というか、鼻にかけたところを感じてしまったかもしれないその台詞も、 ラブちゃんが言うとそう聞こえないから不思議だ。 頑張って欲しい、その台詞も、心からの言葉だとわかる。 ラブちゃんは、いつだって人のことを考えてる。その姿が、人を動かす。そこには、自分に得だから、という気持ちが 無い。 例えば、美希ちゃんのことだってそうだ。美希ちゃんが有名になっても、自分はそんな有名人の友達だ、と自慢する ようなことを、ラブちゃんはしない。頑張ってと願うのも、そうして美希ちゃんが夢を叶えることを純粋に願っているからだ。 ラブちゃんの口癖。幸せゲットだよ。 本当は、ラブちゃん以外の人が幸せになっても、ラブちゃんの得になることは無い。 他人の幸せを見て、微笑ましい気持ちになったとしても、それは、本当に自分が幸せになったというのとは違う。 けれどラブちゃんは、他人の幸せを見て、自分の幸せだと感じられることが出来る。 それはとても素敵なこと。 「今頃、どうしてるかな」 「え?」 「せつなだよ。ラビリンスに帰って、元気にしてるかなって」 そう。素敵なこと。 けれど。 「せつなちゃんがいなくなって、ラブちゃん――――寂しい?」 「そりゃもちろん、ね」 ラブちゃんは笑う。その台詞に、嘘は無いだろう、きっと。 少し、その表情に、影が落ちるから。 「けどね」 「――――」 「せつなは、ラビリンスの皆を幸せにする為に行ったんだから――――アタシが寂しいなんて、言ってられないかな」 ラブちゃんは、他人の幸せを見て、自分の幸せだと感じられることが出来る。 じゃあ、ラブちゃんの幸せは? ラブちゃん自身の、本当の幸せって? ダンスの振り付け。無意識に自分の隣に、四人目の彼女を探してるよね。 カオルちゃんのカフェのテーブル、四つ椅子のついた席に座るのが当たり前になってる。 登校の時や、下校の時。わたし達と別れて一人になった瞬間、寂しそうな顔になってるの、気付いてた? 思い出してるんだよね、ラブちゃん。 せつなちゃんのことを。 前は、一緒に家まで帰ってたんだものね。 急にいなくなったから、慣れてないんだよね。 今でもまだ、せつなちゃんがいない隣に違和感を感じてるんだよね。 でも――――でもね、ラブちゃん。 もしも。もしもだよ。 ラブちゃんが行かないで、って言ったら。 せつなちゃんは、ラビリンスに行かなかったんじゃないかな? 「それは違うよ、ブッキー」 わたしの問いかけに、驚いた顔をして見せた後、ラブちゃんは首を横に振った。 「せつなって、頑固だからさ。自分で決めたら、曲げたりしないよ。だから、アタシが何を言ったって」 「ホントにそう思う?」 立ち止まって、わたしは言う。 ラブちゃんは数歩遅れてから足を止め、背中の鞄を担ぎ直した後、肩越しにわずかに振り返り、そして、 「思うよ」 そう言った。 けれどその声は、どこか硬くて。わたしに目を向けてなくて。 いつものラブちゃんの、声じゃなくて。 「――――――――――――」 わたしは何も言わず、黙ってラブちゃんを見る。手に持つ鞄の取っ手を、ギュッと握りしめながら。 ラブちゃんは。 そんなわたしを置いて、歩み出そうとして。 うなだれる。 「ブッキー」 「なぁに、ラブちゃん」 「アタシが言ったら、せつなは行かなかったって――――本気で、そう思う?」 「うん。思うよ」 「……自惚れていいのかな、アタシ」 「うん。自惚れていいと思う」 そっか。そう言ったラブちゃんの声は、嬉しそうだけど、少し湿っぽくて。 やっぱりいつものラブちゃんじゃないようで。 「でもね、でも――――やっぱり、言えないよ、ブッキー」 振り返ったラブちゃんの笑顔に、わたしは息を飲む。 涙を必死に我慢した、笑顔。 「だってね、桃園ラブは、そういう子だもの――――せつなの知ってる、桃園ラブは」 「……ラブちゃん」 「そんな我がままで、せつなの夢を止めちゃうようなことをするような子を、せつなは――――」 好きになってくれないよ。 ラブちゃんは、言って、俯いた。 歩道の石畳の上に、輝く一粒の雫が落ちるのが、見えた。 「そんなこと――――」 ないよ。そう、言ってみたけれど。 「なくないよ」 ラブちゃんは、すぐにそれを否定する。 「そんなことない。せつなちゃんは、ラブちゃんが何を言ったって、ラブちゃんのことが好きだよ」 「うん、かもしれない――――けど」 アタシが耐えられないんだ。 「――――何に?」 「引き留めたことで、せつなが後悔することが」 夢を諦めさせ、側にいさせたとしても―――― 「それこそ違うよ、ラブちゃん」 「――――」 「せつなちゃんが後悔するんじゃない。ラブちゃんが、後悔するんでしょ」 「…………うん」 多分、せつなは何も言わない。 でも、アタシは多分、その向こうに、せつなの夢の息吹を見てしまう。 きっといつまでも消えることがない、アタシが途切れさせてしまった夢の欠片を。 それをアタシは―――― 「きっとずっと、引きずっちゃうよ」 わたしは、佇む。 目の前の女の子は、わたしの幼馴染。 でも、わたしが思っていた以上に、大人で、強くて。 けれど、とても脆くて。 こんなに傷ついている彼女を見るのも。 こんなにも弱々しい彼女を見るのも。 初めてじゃない。幼馴染だから、これまでにだって――――けれど。 こんなに苦しそうな彼女は、初めてだ。 らしくない、と思う。でも――――それも、ラブちゃん、なんだよね。 友達想いで、誰かの幸せを自分の幸せに出来る、ラブちゃん。 でも、自分の幸せと、他人の幸せを秤にかけたら、他人の幸せを優先させる。 たとえそれで、自分が苦しくても――――辛くても。 それもラブちゃん。 わたしの幼馴染。 わたしの大好きな、幼馴染。 結局。 わたしは初めて、学校をさぼった。 何も言わなくなったラブちゃんの手を引いて、公園に行った。 カオルちゃんのカフェに行くと、驚いた顔をした後、何も聞かずに椅子を勧めてくれ、ドーナツとコーヒーを出してくれた。 わたし達の間に、言葉は無かった。 ただ、二人で空を眺めた。 白い雲を、目で追いかけ続けた。 せつなちゃん。 ラブちゃんは、頑張ってるよ。 精一杯、『元気なラブちゃん』を、頑張ってるよ。 だからね、せつなちゃん。 早く、せつなちゃんの夢を叶えてね。 そして、ラブちゃんの夢を叶えてあげて。 元気で明るくて。 でも、不器用で、臆病な、わたしの大事な友達の夢を。 どうか。一日でも早く。 きっとその日は、遠くないって。 わたし。信じてる。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/994.html
悲しみと喜び。絶望と希望。苦悩と癒し。不幸と幸せ。 それらは単に、相反するものではない。 苦悩が幸せの始まりになったり、悲しみをきっかけに希望が訪れたりすることもある。 それに気付けた今だから、私は語ることが出来たんだろう。 かつては思い出したくもないと思っていた、私の過ちの記憶。 でも実は、大切な絆へと繋がっていた、私たちの始まりの記憶を。 Witness ~目撃者~ あの最終決戦から、早いもので1年半の年月が流れた。四ツ葉町のところどころに残っていたラビリンス襲撃の跡も、今ではかなり修復され、目立たなくなっている。 夏休み真っ盛りの四ツ葉公園。じりじりと照りつける太陽に負けず、セミたちがその短い生を、これでもかと響かせる。 「はーい美希たん、お待たせ!カオルちゃんのドーナツ、久しぶりでしょ~!」 「ラブ、いくらなんでも買い過ぎよ!いったい何人で食べる気なのよっ!」 「ラブちゃん、昔っから、嬉しいと見境なくなっちゃうのよね。」 「見境がないのは、ドーナツのことだからじゃない?」 ラブたち4人は、久しぶりにドーナツカフェに集まっていた。本格的にモデルの仕事を始めた美希の休みと、年に数回、桃園家に戻ってくるせつなの予定がやっと合ったのだ。そうでなくても、ラブたちももう高校生。最近は、ミユキの後押しで少しずつダンサーとしての活動を始めたラブも、進学校で勉強に忙しい祈里も、以前のように頻繁に会うことは出来なくなっていた。それでも・・・。 「美希、ラブから聞いたわよ。このところ、海外ロケで忙しいんですって?」 「うーん、忙しいってほどでもないんだけどね。今度、10代のモデル数人で写真集を出す企画があって、それに運よく選ばれたもんだから。」 「凄いじゃない。一歩一歩、夢に近づいているのね。」 「あたし、たっくさん買って、クローバータウンストリートのみんなに配りまくるんだ~。だから美希たん、サインよろしくねっ!」 「たくさんって言っても、ラブの100円玉貯金じゃ、アテにならないでしょ?」 相変わらず全力ではしゃぐラブ。そんな彼女を呆れた口調でたしなめながら、嬉しそうに笑っているせつな。少し赤く染まった頬を隠すように、澄ました顔でストローをくわえる美希。 久しぶりに会ったのに、少しも変わらない仲間たち。その様子をニコニコと眺めていた祈里が、ほぅっと小さくため息をついた。 「美希ちゃんは凄いなぁ。」 「何よ、ブッキー。どうしたの?」 「だって、モデルさんのお仕事って、いろんな人と、いろんなところへ行かなくちゃならないでしょ?初めて会った人と、何日も一緒に過ごしたりもするんでしょ?わたしには、絶対に無理。」 祈里は、ポツポツと話し始める。 獣医になりたい彼女は、そのためにどの大学を目指すか、既に考え始めている。今のところ、彼女の理想に最も合った環境にあると思えるのが、父の母校でもある地方国立の獣医学部だ。 広々とした敷地。伸び伸びと暮らす、様々な種類の動物たち。そんな環境で勉強出来たら、どんなに楽しいだろう。 「でも・・・」 祈里の顔は、そこで俯いてしまう。 でも、その大学に通うには、住み慣れた家を離れなければならない。生まれ育った四ツ葉町を離れ、両親や、ラブたち気心の知れた友人たちとも離れることになる。 独り暮らしに憧れる友人は、祈里の周りにも結構多い。でも、彼女は怖かった。誰も知らない土地で、一から新しい友達を作り、暮らしていかなくてはならないことが。 そんなことを言ったら、夢を真摯に追いかけている仲間たちに、笑われるかもしれない。でも・・・。 (わたし・・・自信ないよぉ。) しばらく気にしていなかった、引っ込み思案の自分が前面に出て来ているのを、祈里は感じていた。 「大丈夫だよ、ブッキー。ブッキーは優しいから、誰とでもすぐ仲良しになれるって。」 ラブがすぐに祈里の気持ちを察して、明るく声をかける。 「まだ先の話なんだから、ゆっくり考えればいいじゃない。でもね、ブッキー。」 そう言って、美希がいたずらっぽくウィンクをする。 「人間だって、立派な動物よ?そう考えれば、ブッキーの得意分野でしょ?」 「そうだよね、美希たん!えーっと、えーっと、ホモ・・・ホモ・サスペンス!」 「どこのホラー映画よ、ラブ・・・。それを言うなら、ホモ・サピエンスでしょっ!」 幼馴染のいつもの掛け合いに、ようやく祈里の頬も緩む。 「ありがとう。ラブちゃん、美希ちゃん。わたし、やっぱり弱虫よね。プリキュアになって、ダンスを始めて、自分が少しずつでも変わっていけたって、そう思ってた。でも、プリキュアじゃなくなったら、元の弱虫のわたしに戻っちゃったのかな。もっと強くならなくちゃ、ダメね。」 そう言って弱々しく笑う彼女に、すぐ隣りから、少し低くて優しい声がかかった。 「ブッキーは弱虫なんかじゃないわ。それどころか、とっても勇気のある女の子よ。プリキュアになる前からね。」 (・・・え?) ラブが、美希が、そして当の祈里が目を丸くしたのは、そう言ったのが誰あろう、せつなだったから。 せつなと初めて会ったとき、美希も祈里も、もうプリキュアだった。そしてそのことを、勿論せつなも知っている。 (それなのに・・・何故?) 「あーっ、わかった!せつな、あのときだねっ?」 口を開こうとしたせつなを遮ったのは、ラブの大声。得意満面なその顔を見て、せつなはニッコリと微笑む。そして少し目を伏せながら、静かに祈里に語りかける。 「ブッキー。あなたはまだ自分がプリキュアになるなんて知らないときに、ナケワメーケになったラッキーに、駆け寄ってきたでしょう?」 「・・・あ。」 祈里の脳裏に甦る光景。 河原で暴れまわるラッキーに挑むピーチとベリー。そして・・・あの時、橋の上からこちらを見下ろしていたのは・・・かつてのせつなの姿である、ラビリンスの幹部・イース。 「私、あの時ほど驚いたことは無かったわ。だって、ごく普通の女の子が、いきなりナケワメーケに駆け寄ってきて、しかも説得し始めたんですもの。暴れちゃダメ、私にはわかる、助けて欲しいんでしょう?って・・・。一瞬、コントロールも忘れちゃったわよ。」 でも、そのすぐ後に危険な目に遭わせちゃったわね。せつなの心から申し訳なさそうな口調に、笑ってかぶりを振る祈里。そう、あの直後にナケワメーケに襲われて、キルンが祈里の携帯に飛び込み、彼女はキュアパインとして覚醒したのだ。 「ナケワメーケを説得したのって、おそらく後にも先にも、ブッキーだけだと思うわ。あんな勇気が出せるんだもの。ブッキーは絶対に、弱虫なんかじゃない。プリキュアにならなくても、最初からね。」 だから、自信を持って。そう言って、まっすぐに自分を見つめるせつなに、祈里は目を潤ませる。 イースだった頃のことを、せつなは今まで、滅多に語ることはなかった。それは、せつなにとっては罪の記憶。思い出すだけで痛みを伴う、せつなの心の傷だったから。それがわかっているから、祈里たちも、彼女にその頃のことを尋ねたりはしなかった。でも今、彼女は自分を励ますために、自らあの時のことを語ってくれたのだ。 そして祈里も思い出す。自分を信じよう、そう心に誓って河原を駆け戻ってきた、あの時の気持ちを。キュアパイン誕生のきっかけとなった、あの決意を。 だから彼女は、今日一番の笑顔を、傍らに座る親友に返した。 「ありがとう!せつなちゃん。」 祈里の言葉に、くすぐったそうに笑うせつなを見ながら、美希は不思議な気持ちになる。かつて、あのイースだったとはとても思えないような、彼女の優しい眼差し。でもその口から語られたのは、紛れもないイースの記憶で・・・。イースの中に、確かにせつなが居たことを、美希は改めて実感する。 そして、心から嬉しく思う。イースだった頃の自分のことを、こんなに穏やかに語れるほど、彼女が自分を許せるようになったということを。 勿論、そんなことを口に出して言える美希ではない。だから、口から出た言葉は。 「へ~え。せつな、そんなに驚いてたんだ。」 「え、ええ。」 「そうは見えなかったわよ、あの時は。」 美希の大きな瞳に覗きこまれて、せつなの頬が一瞬で真っ赤になる。が、そこはせつなも負けてはいない。 「ホントに見てたの?ベリーもピーチも、ただ唖然として、ブッキーだけを見つめてるように見えたけど。」 「そ、そりゃあ仕方ないじゃない!まさか、あんなタイミングでブッキーが来るなんて思わな・・・あ。」 「ぷっ」 「うふふ」 「あははは」 「もうっ!・・・ふふふっ」 四ツ葉公園に、クローバーの笑い声が響いた。 その夜。 桃園家のベランダに立ち、せつなは空を見上げていた。昼間の暑さは和らぎ、今は心地よい夜風が髪を揺らしている。中天には、少しぼやけた満月。ラビリンスでは見ることのできない月が、明るく夜空を照らしている。 (ヘンね・・・。) 昼間のことを思い出しながら、せつなは心の中でつぶやく。 最近になってやっと、イースだった頃の自分とも、きちんと向き合えるようになってきた。だからあの時のことも、語ることが出来たんだろう。 生まれ変わって、何も知らない世界に放り込まれたせつなには、祈里の不安は痛いほどわかった。でも、その不安を乗り越えた先にあるものの、素晴らしさを知っているから・・・そして、それを教えてくれた1人は紛れもなく彼女だから、祈里を勇気付けたかった。祈里に、自分が知っている彼女の勇気を、思い出してほしかった。 だから、気後れする心を押さえて、敢えてあの時の話をしたのだけれど。 (まさか、あんな気持ちになるなんて・・・。) フッと小さく微笑んだとき、隣りの部屋のガラス戸が、カラリと開いた。 「あ、せつな。やっぱりここに居た。」 せつなの隣りにやってきたラブは、ベランダの手摺りにもたれ、輝くような笑顔を見せる。 「ブッキー、きっと、すっごく嬉しかったと思うよ、せつなの話。」 「そうかしら。」 「うん!あたしも、あの時のせつなの気持ちが聞けて、嬉しかった。きっと、美希たんもそうだと思うよ。」 「そんなこと言われたら、恥ずかしいわ。」 せつなは顔を赤らめる。そして少しの沈黙の後で、 「でも、私も嬉しかったわ。」 ポツリとつぶやいた。 「ねぇ、ラブ。以前、私に言ってくれたわよね。辛い思いは、いつか喜びに変えられる、って。ホントね。」 そう言って、せつなは一番の親友に笑いかける。 「私ね。ブッキーにあの時の話をしようって決めたとき、話すのが少し怖かったの。話すのが・・・もっと辛いだろうと思ってた。だって、あの時も私は沢山の人たちを酷い目に遭わせたし、そのことを、今でもはっきりと覚えているから。確かに、胸の痛みはあったわ。でも・・・なんだか不思議なんだけど、話してて、とても・・・懐かしかった。」 せつなの目が少し潤んでいるのに、ラブは気付く。 「私、思い出なんて、イースだった頃の自分には無いって、そう思ってた。生まれ変わって、この町に来て、お父さんやお母さんと出会って、ラブたちと一緒に過ごしてからの時間が、私の大切な時間の全てだと思ってた。でも、違ったのね。」 ラッキーに語りかける祈里の、胸の前でギュッと握られた両手。ピーチとベリーの、完全にシンクロした華麗な動き。突如現れた黄色い閃光。戦士と呼ぶにはあまりにも可憐な、でもその瞳に強い輝きを宿した、パインの姿・・・。 あの時は、忌々しく思っていたはずだ。それなのに、今鮮明に思い出される景色はとても愛おしく、温かく胸の中に映し出され、喉元までこみ上げて来て、少しだけ苦しい。 これは、懐かしさ。私は、イースだったあの時の情景にも、懐かしさを覚えている。きっとそれは、大切な仲間になった彼女たちの姿が、そこにあるから。大切な仲間たちの、始まりの記憶。いや、様々な困難を乗り越えて絆を育んだ、私たちの始まりの記憶だから。それに気付いて、自分はなんて幸せなのだろうと、せつなは思った。 「ね、ラブ。」 「ん?」 「やっぱり、ラブが最初に気が付いたわね。私が、何の話をしようとしているか。」 「ああ、そのこと。だって、せつながプリキュアになる前のブッキーに会ったのって、あのときしかないよなーって。そりゃ、あたしが知らないところで会ってたのかも、とも思ったけどさ。でも、それなら今まで話が出なかったのがおかしいし。」 「ありがと。ラブはいつだって、私のこと、全部信じてくれてるのよね。」 「えへへ・・・」 良かった、と思いながら、ラブは笑う。 イースだった頃のせつなも、せつなはせつな。ラブはずっと、そう言い続けてきた。本当に、そう思っているから。だからこそ、ラブにはすぐにわかったのだ。せつなが、祈里にあの時の話をしようとしているのが。 せつなが過去の自分を、イースだった頃の自分を、全て否定するのは嫌だった。過去の自分を否定しているのに、その罪だけを自分の罪として、苦しんでいるのを見るのは辛かった。だって、あの頃のせつなも精一杯生きていたことを、ラブは知っているから。 だから、せつながあの時のことを懐かしいと思えたことが、ラブにはとても嬉しくて・・・その嬉しさが、今まで訊きたくて訊けなかった、「あの時」のことを尋ねさせた。 「ねぇ、せつな。ひとつ訊いてもいい?」 「何?」 「あのさ。美希たんが初めてキュアベリーになったときも、せつなはあの場に居たよね?」 「ええ、居たわ。」 「じゃあさ。・・・あたしが、初めてキュアピーチになったときも、せつなは側に居てくれたの?」 「え?」 「あ、いやー、確かにあの後、しゃべった記憶は何となくあるんだけどさ。ほら、あの時は、そのー、半分ピルンに操られてるみたいだったっていうか、自分が自分じゃないみたいだったっていうか・・・。だから、正直、一体どういう状況だったんだか、よくわからなくてさ。美希たんがベリーになったときも、ブッキーがパインになったときも、あたしは割と側にいたけど、あたしのときは2人とも居なかったから、ちょっと寂しかったっていうか・・・。あの時はどうだったんだろうって、思ったりしてさ。」 わざとせつなの方を見ず、少し上気した顔で、月を眺めて一気にしゃべるラブ。その横顔がなんだか幼く見えて、せつなは思わずクスッと笑ってしまう。 「ラブったら、何照れてんのよ。」 「いっ!照れてなんか・・・」 「居たわよ、私は。ちゃんと見てたわ。」 「ホント?」 「私も、あの時が初めてだったんだけどね、ナケワメーケを呼び出したのは。ラブが、スタンドマイクを持ってナケワメーケに向かって行ったとき、ああ、やっぱりこの子が現れたな、って思った。」 「え!?なんで?」 「あの前日だったかしら。占い館で初めて会ったでしょ?私たち。あの時に、なんか予感があったのよね。この子と私は、長い付き合いになりそうだな、って。」 意味が全然違うけど、実際そうなったわよね。そう呟きながら、今度はせつなが月を見上げる。 「スモークの中から、ピーチが現れたときにね。正直言って、なんて綺麗な戦士なんだろう、って思ったわ。格好だけじゃなくて、戦ってる姿がとても綺麗で、途中から、これは戦いなんだろうか?って思ったの。ヘンな言い方だけど、なんだか、ナケワメーケが喜んでピーチに倒されたみたいに見えて、凄く不思議だった。」 今のせつなには、その不思議さのわけがわかる。 荒ぶる力を、受け止め、鎮め、そして癒す。相手を倒すのではなく、あるべき姿へと浄化する。それが、プリキュアの戦いのプロセス。大切なものを守る力。その力に、かつて彼女も救われ、やがて自らその力を受け入れて、他者へと向けられる存在になった。そう、今隣りで微笑む、友のお陰で。 「えへへ・・・せつなぁ、照れるよぉ!」 いきなり横から抱きついてきたラブを、せつなは辛うじて受け止める。 「ちょっと、何よラブ、いきなり。」 「ゴメンゴメン。でもさ。」 ラブはせつなに抱きついたまま、目を輝かせて言う。 「せつな、気付いてた?あたしたち、プリキュア4人全員の誕生に、居合わせたんだよ。みんなの大事な瞬間を、ちゃんとこの目で見られた。それってさ、凄く、幸せなことだと思わない?」 「そうね。そう思う、ホントに。」 今また新たに湧き上がる、不思議な懐かしさを快く思いながら、せつなは頷く。 プリキュアのリーダー・キュアピーチと、ラビリンスの幹部・イース。敵対する立場で、同じ光景を見ていた2人。でも今2人の胸に去来する景色は、きっと同じ温かさを伴ったもの。そう思える自分が、とても嬉しい。 「あたしさ。今日、せつなとブッキーを見ていて、思ったんだ。」 ラブは、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「思い出は過去のものだけど、それを大事に覚えていれば、誰かが悩んだり、迷ったりしたとき、その思い出の中にある大事な気持ちを、伝えることが出来るんだな、って。 だから、今までの思い出も、これから作る思い出も、大切に、大切にしていこうって。」 「そうね。私も、大切にしていきたい。」 自分もまた、仲間たちに、本当の気持ちに気付かせてもらったことがあった。 美希が皆を叱咤し、祈里が励まし、ラブが笑顔で語りかけるのを、何度も見てきた。 そして、それはきっと、これからも変わらない。 「あれ?せつな。顔、真っ赤だよ?」 「・・・。」 「ひょっとして、照れてる?」 「・・・自分だって、照れてたくせに!」 「え?そうだっけ?」 「もう知らないっ!ラブなんか。」 「えーっ!ちょっと、せつなぁ!」 これから先、私たちひとりひとりが、必ず出会っていくもの。 不安や戸惑い。悲しみや、苦悩。 それらを一緒に、受け止める。癒すことなんて、出来ないかもしれない。 でも、親友のあるべき姿、本来の輝きを、ほら、ここにあるよと差し出すことはできる。 愛を、希望を、祈りを込めて。心から、幸せを願って。 きっとそれが、これからも続いていく、私たち4人の絆。 それぞれの道を歩んでいても、私たちはいつも、これからも。 互いが互いの、目撃者。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/332.html
第1話 堕天使の罠 (これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 第2話 暗闇の入り口へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/237.html
「せつなちゃん、大丈夫?」 「……う、うん、なんとか」 あれからしばらくして、ようやく立ち直ったせつな。 とはいえ、先ほどのやりとりを聞かれた恥ずかしさもあって 心配して声を掛けてきた祈里への返答もぎこちない。 「はい、これ、買ってきたお茶。これ飲んで落ち着いて」 「うん、ありがと、ブッキー」 祈里が差し出すペットボトルを受け取るせつな。 それを飲む前に、真っ赤に染まった自分の頬に当ててみる。 中のお茶に冷やされたペットボトルの冷たさが心地良い。 おかげで、火照った心が落ち着いたような気もする。 「全く、見られるのが嫌なら最初から人目につくところでいちゃつかないの!」 「……うう、そこは反省するわ」 「あたしは全然気にしないのになーっ!」 「ひゃあっ!」 ……気がしたのだが、ラブが横から抱きついてきたので体温心拍数共に再上昇。 「……ラ、ラブ、流石に二人が見てるんだし、こういうことは……」 「いーじゃんせつな、もう二人にも見られちゃったんだし、 むしろ遠慮する必要なくなったよね、わはーーっ!」 反省した手前、一応ラブを止めようとするせつなだったが、 既にラブの自制心という名のブレーキには欠陥が生じていたらしかった。 (もう、ラブったら、私は恥ずかしいからって言ってるのに……) そう思い、こうなったら美希か祈里に何とかしてもらおうと 二人に助けを求めようとしたせつなを襲う違和感。 ギュッ ラブの反対方向からも誰かに抱きつかれる感覚。 「なるほど、これがせつなの抱き心地なわけね」 「み、美希?!」 今しがた、助けを求めようとした本人である美希が、そこにいた。 「な、何してるの?」 「いやー、ラブがそこまでハマる抱きごごちってどんなもんかなーって、あたしも興味あって」 「興味持たなくていいわよ!」 せつなの抗議を美希は聞こえないフリ。 「んー、柔らかくて、暖かく、匂いもいい。 何よりも冷たいけどすべすべしてて、きめ細かいこのお肌の感触が……完璧ね!」 「さっすが美希タン、わかってるねーっ!」 勝手に論評まで始める始末である。 美希は普段どちらかというとラブを止める役に回ることが多いのだが 時々、二人揃って悪ノリに走ることもある。 この辺は幼馴染ならではの阿吽の呼吸のなせる技ではあるのだが。 標的にされるほうは溜まったものではない。 「ねえ、ラブちゃん、美希ちゃん」 救いの手は別の方向から来た。 そうだ、まだブッキーがいる。 ブッキーならラブ達を止めてくれるかもしれない。 期待を込めた視線を祈里に送るせつな。 今なら彼女の背中に天使の羽だって見えるかもしれない。 「せつなちゃんを抱きしめるのって、そんなに気持ち良いの?」 興味深々と言った表情を浮かべて聞く祈里の姿。 「……ブッキー」 天使の羽は、気のせいだったらしい。 「そりゃもう!すっごく気持ち良いんだよ!」 「だからブッキーも遠慮せずに、ほら」 そう言って怪しい笑みを浮かべ、祈里に向かってオイデオイデと手招きするラブと美希。 「そうなんだ……じゃあ私も」 それに応じるようにフラフラと近づいて来る祈里。 本で読んだ、幽霊が生者を手招きして仲間に入れようとする、という話を ふと思い出したせつなだったが、首を振ってそれを頭から追い出すと 目の前の現実をどうにかすることに集中する。 「ね、ねえブッキー、お願いだから、止めてくれない?」 しかしそんなせつなの懇願も、祈里には届かない。 「せつなちゃん……ごめんね、私も、やってみたいの……えいっ」 そう言いながら祈里が狙い定めた場所は、せつなの腿の上。 そこに頭を載せながら、ゴロンと寝る姿勢。 「あら、膝枕とは、やるわね、ブッキー」 「ああっブッキーずるい!それあたしもやったことない!」 「えへへ……ここしか空いてなかったから……」 そう言ってペロっと舌を出してみせる祈里。 「はあ……確かにせつなちゃんの匂い、良い匂い……」 「でしょでしょ、あたしはいつでもせつなの匂いで幸せゲットだよっ!」 「これはハマるわね、今度こういうアロマ作ってみようかしら」 最早三者三様に好き放題やり放題の有様。 「あのね……三人とも、本当に、もう許して……」 このままではいけない。 また恥ずかしさで、頭がショートしてしまう。 そう思い、精一杯頑張って訴えてみるせつなだったが 「「「だーーーーーーーーーーーめっ!」」」 笑顔と共に即効で却下された。 「ねえねえブッキー、あたしの後であたしの場所と交換しよ?」 「ダメよラブ、あなたはいつもせつなと一緒なんだからちょっとは遠慮しなさい、 次代わるのはあたしよ」 「ええーーっ、美希タンそれはずるいよっ!あたしもせつなに膝枕されたいっ!」 「ゴメンね二人とも、私ここが一番好きだから……今日はダメ」 「「ええーーーーっ!ブッキーずるいっ!!」」 「三人とも、いい加減にしてーーーーーーーーーーーーーっ!」 せつなにとっての試練の時間はまだまだ始まったばかりのようだ。 それから数刻の後。 せつなと、それを囲む三人の姿。 しかし、そこには先ほどまでの喧騒はない。 聞こえてくるのは三つの規則正しい呼吸音。 ラブ、美希、祈里の三人がそれぞれの姿勢でせつなに抱きついたまま、すう、すうと立てている寝息の音だ。 あの後、それぞれ思い思いにせつなを堪能した後、いつの間にか寝入っていたのだ。 (全くもう……) 唯一その音を出していないのは、中心にいるせつな。 三人を起こしてしまわないように、心の中で呟く。 (……すっごく恥ずかしかったんだからね) しかし言葉とは裏腹に、せつなの顔には柔和な笑み。 それは多分、三人のことを感じられているから。 ラブの、美希の、祈里の、体の柔らかさ、暖かさ、匂い、 そしてその中にある、せつなのことを思う、優しさ。 それらを感じることが出来ているような気がするから。 (……だから、すっごく幸せな気分、かな?) そう思うせつなもだんだんと微睡みの中。 自分を包む三つの幸せに身を委ねたまま、意識を手放していくのだった。 「お嬢ちゃん達、おっまたせ~すっかり遅くなっちゃってゴメンよ~ なんせ久々の新作だけに、芯をサクっとさせるのが大変だったんだよね ドーナツに芯はないけど、グハッ!」 やっと出来上がったドーナツを持ってカオルちゃんが丘にあらわれたのは、それから更に後。 紙袋を片手に4人のところまでやってきたのだが。 「あらら……みんな寝てらあ」 そこには、穏やかな、安心しきった表情で寝息を立てているせつなと そのせつなを左右から抱きしめるラブと、美希と、腿を枕にする祈里と せつなを中心に、思い思いの姿勢で眠る少女達の姿があった。 「ま、いーや、ドーナツ、ここに置いとくよ」 そう小声で言うと、紙袋を置いて、立ち去ろうとするカオルちゃん。 しかしその途中でふと何か思いついたように立ち止まり、四人の方を振り返る。 「お嬢ちゃん達、そうしているとまるでさ……四つ葉のクローバーみたいだねえ」 誰に言うとでもなく、そう呟く。 そんな彼のサングラスの奥に、優しい光が湛えられていたのは一瞬で。 「……いっけねえ、オジさんつい臭いこと言っちゃったよ。 まあ、オジさんの靴下はもっと臭いけどね、グハッ!」 いつものカオルちゃんに戻ると、丘を去っていった。 四つ葉町の町外れにある小高い丘の上。 一面にシロツメクサが咲き乱れる草原に、今はすっかり人気はなく。 あるのはただ、幸せのもと。 寄り添うようにして眠る、四つ葉のクローバーの化身だけ。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1018.html
「美希」 来ると思ってた。 あたしがそう言うと、きっとせつなはきょとんと首を傾げるだろう。 だからあたしは何も言わずに振り向いた。 せつなは不思議そうな表情で、あたしを見詰めていた。 「せつな」 「なにしてるの、こんなところで。風邪、引くわ」 「平気よ」 あたしはそう言って小さく笑うと、せつなの腕を引いた。 油断していたのか、せつなは容易くあたしの腕の中。 「美希」と戸惑ったような声がして、せつなはもがいた。 けれどそれは表面上だけで、本気であたしの腕から逃れたいわけじゃないはずだ。 その証拠に、せつなはすぐにもがくのをやめた。 「どうしたの、美希。眠れないの」 静かな声が訊ねる。せつなの表情は見えない。 もっとも、後ろから抱き締めていなくても暗くて見えなかっただろうけど。 「わかんないの、せつな」「わかんない?」 「そう、いつも完璧なはずのあたしがね。……よくわかんないの」 夏休みを利用してラブやブッキーを含め四人で旅行しようという話になった。 旅行と言ってもあたしたちはまだ中学生で大した遠出は出来ないので、 ラブの家(ここでもう既に旅行じゃない)に泊まることになった。 結局いつものお泊まり会のようなものだけど、夏休みということで それなりにテンションが上がり楽しかった。楽しかったけれど、あたしはここしばらく ずっと抱えていた悩み事のようなものが引っかかって、うまく笑えていなかったように思う。 ラブとせつなの部屋が繋がるバルコニー。 ラブの部屋ではその部屋の主とブッキーが眠っているだろう。 あたしは無理を言ってせつなと同じ部屋にしてもらった。どれもこれも悩み事を解決するためにだ。 あたしはいつでも完璧でいたいから。それなのに一緒の部屋にいるとその悩み事はますます大きくなっていくだけだった。 「ねえ、美希」 「うん?」 せつなを抱く腕の力を強くしたまま黙り込んだあたしに、せつなはふと思い出したようにあたしを呼んだ。 なに、と訊ねると、せつなはその細くて白い指を夜空へと向けた。真ん丸な、お月様。 「……きれいね」 「……そうね」 せつなはきっと今、微笑んでいるのだろう。 あたしは突然、そんなせつなをからかいたくなった。 「月がきれいって英語でなんていうか知ってる?」 「あなたを愛してる」 でしょ? せつなが振り向いた。月の光に照らされた微笑むせつなはとてもきれいだと思った。 「英語で、って言ったのに」 「それを日本語に直したらそうなるんでしょ」 「誰が教えたのよ。まあラブだろうけど」 ため息。ロマンチックな雰囲気になるかと思ったが違ったみたいだ。 せつなは再び前を向くと、あたしの胸にもたれ掛かってきた。 「美希は」 「え?」 「美希は月がきれい、言ってくれないの」 手に、やわらかな感触。せつながあたしの手を握ってくれている。 あたしは……。そう言いかけてやめた。あたしの悩み事。 もしかして、あたしのせつなへの気持ちは冷めてしまったんじゃないかということ。 よくよく考えれば、せつなはあたしのことを好きでいてくれているのか不安だったことでもある。 だから、今のせつなの言葉でそんな悩み事は吹っ飛んでしまった。 せつなはあたしが好きだと言ってくれるしあたしだって。 「せつながもっともっと好きにならせてくれないと言ってあげない」 けれど、いつでも完璧でいたいあたしはもう二度とそんなバカげたことを考えなくていいように、 せつなの愛の言葉を胸に刻むことにした。 終わり
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/286.html
せつな「ラブって大輔の事好きなの?」 ラブ「え?急にどうしたの?」 祈里「あ、あの、私も気になるな…」 ラブ「ブッキーまで…。友達としてなら好きだけど、彼氏とかそんなんじゃないよ」 せつな「良かった…これからも精一杯頑張れるわ!」 祈里「私、信じてた!」 ラブ「そういうせつなとブッキーはどうなの?せつなはラビリンスの二人と、ブッキーは御子柴君とは?」 せつな「やめてよ。虫酸が走るわ」 祈里「誰それ?」 美希「あれ?どうしてあたしには聞かないの?」 ラブ「だって・・・ねぇ?」 祈里「美希ちゃんは和ちゃんと・・・」 せつな「そ、そうだったんだ・・・禁断の関係なのね」 美希「な、なんだ。みんな分かってるじゃない!」 美希(言えない・・・和希とは何でもないなんて、今更言えない・・・ッ!)
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/776.html
少し強めの日差し。 街路樹の緑もいっそう色を濃くする。 熱気を掃うように一陣の風が吹きぬける。 せつなは片手でスカートを、もう片手で帽子を飛ばないように押さえた。 のどかな土曜日のお昼過ぎ。 せつなはラブと商店街のスーパーにお買い物に出かけていた。 「みんなでおうちでゆうごはん~」 「ちょっと、ラブったら。恥ずかしいから街中で歌うのはやめて!」 ラブは、にははと笑いながら商店街の人達に手を振って応えた。 「楽しいと、自然に歌いたくなるんだよ」 (もう……理由を聞いてるんじゃないのよ) そう思いながらも、せつなもつい口ずさみそうになり顔を赤らめる。 今日はおかあさんが残業で遅くなる日。 ラブとせつなの食事当番の日。 美味しい料理でもてなそうと、おかあさんが勤めるスーパーにやってきた。 「トマトが実れば、医者が青くなるんだって」 ラブが果肉の大きなトマトを手の上で転がす。 キュウリ・ナス・ピーマン。オクラ・ニガウリ・モロヘイヤ。 みずみずしい夏野菜が美しく並ぶ。 「ことわざね、わかってるわよ。旬の野菜は大事よね」 せつながあきらめたような顔でピーマンを買い物カゴに入れた。 ふと、足を止める。目に映るのは黄色いポップ。 「ニンジンが、特売なのね」 「いや、ニンジンは昨日食べたばかりっていうか、その……」 せつなが無言でラブを見つめる。 「うっ……わかりました。なんてね。全然平気だよ、せつな。だって……」 せつなが居ない食卓。そんなところで食べるハンバーグより、せつなが作ってくれたニンジン 料理食べるほうがずっと楽しいもの。 「もう。そんなこと言われたら買えなくなるじゃない。わかったわよ、栄養は他のもので補い ましょう」 「えっ! ほんと? やったね」 「なんてね、冗談よ。作ってあげるからしっかり食べてね」 せつなは容赦なく買い物カゴに徳用袋の人参を放り込んだ。 ラブの悲鳴を無視しながら思う。 私も……どんなご馳走よりも、ラブと食べるご飯の方が美味しいと。 おかあさんを見つけた。ファイルを持って豆腐とにらめっこしてる。 「「おかあさ~ん」」 嬉しそうにラブとせつなが駆け寄る。あゆみも笑顔で自慢の二人の娘を迎えた。 「何しているの? おかあさん」 「ああ、これはね」 発注台帳と言うのよ。と関心を持ったせつなに説明する。 一品ごとに細かく書かれた数字の羅列。前年の販売数。先週の数。気温ごとの誤差。 「より新鮮なものを、売り切れの無いようにするために頑張ってるのね?」 「その通り! 全てはみんなの幸せのために、ね」 あゆみがパチリとウィンクする。 広い通路。読みやすい大きさの字。背が低くても届く陳列棚。 やさしさは至る所に溢れている。 店内放送でレジに呼ばれたあゆみに別れを告げ、買い物を続けた。 「苦手なものもちゃんと食べるのよ」 そう言い残したおかあさんに応えて、ラブが思い付きを提案する。 「せつなっ、勝負しようよ!」 お互いに苦手な食材を使って一品づつ調理する。判定はもちろんおかあさん。 「料理なら負けないよ~!」 「私が上達してないとでも思ってるの!」 しばらく睨みあって、そして笑う。今夜も楽しくなりそうだった。 夕飯の下ごしらえを済ませてから、いよいよ本番。 ピンクと赤のお揃いの可愛いエプロンをつけて腕まくり。 二人とも自信たっぷりだ。 ラブはフライパンにごま油を入れて、何やら炒めだした。 短冊に切ったピーマンを後から加えて更にじっくり焼いていく。 せつなはおろし金を引っ張りだした。 ボールにサラダオイル、砂糖、玉子、シナモン、アーモンド、塩、すりおろした人参を入れ、 全部一緒にする。 水で溶いた小麦粉と一緒に練りこんでいく。 互いに苦手な食材で作りあってるのに、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。 既に勝負は始まっていた。 「「「「いただきま~す」」」」 いつも通りに美味しいラブのハンバーグ。今夜は大きさは小さめ。 そして出てきたのが――。 「これは、ピーマンの炒め物?」 砂糖と醤油で味つけて乾燥させた、たっぷりの鰹節。 カリカリに焼いたちりめんじゃこと刻んだうす揚げ。 両面をこんがり炒めた短冊状のピーマン。 「美味しい……」 苦手なはずのせつなの箸もどんどん進む。特有の青臭さと苦味をあまり感じなかった。 「これは……ビールが欲しくなるなあ」 「はいはい、ちゃんと用意してあるわよ」 あゆみが冷蔵庫から出してきて栓を開ける。せつながグラスを用意した。 ラブが勝ち誇った顔をする。 「まだまだ、勝負はこれからよ」 食後の紅茶の時間になる。今回せつなが作ったのはデザートだった。 「私の料理はこれ。たっぷりのニンジンを使ったキャロットケーキよ」 こげ茶色のバウンドケーキ。表面はホイップクリームで飾られている。 「うわっ――せつな、これ、凄く美味しい」 「ほんと――やわらかい味って言うのかしら」 「上品なお菓子だね。せっちゃんにぴったりだ」 砂糖を使いすぎず、ニンジンが持つ自然な甘みを引き出す。 柔らかい生地に仕込まれた、砕いたアーモンドの舌触りが楽しい。 少しパサつくところを、ホイップクリームが上手に補っていた。 紅茶もいつもより美味しく感じられる。 「う~ん。おかわり!」 ラブが一番に食べ終わった。 一人ひとつよ。そう言ってせつなが笑う。つられておとうさん、おかあさんも。 「さあ、判定よ」 あゆみが立ち上がる。ラブをせつなは息を呑んで待った。 「今日のところは――両方美味しいので引き分けよ」 「「えぇ~~~!」」 「それじゃこうしましょう! 勝ち負けは次の対決で決めるの。 次は……そうね。ほうれんそう料理よ」 「おかあさん、それズルイ」 「いいわ。私、精一杯頑張る」 「だって……わたしも苦手食材克服したいんですもの」 「夏場に無理に食べなくても……」 圭太郎はそう言いながらも嬉しそうだ。僕は苦手なものがないからなあ、とぼやいていた。 ラブが再び歌いだす。 「みんなでおうちでゆうごはん~」 今度はせつなも一緒に、みんなで一緒に歌いだす。 四つ葉になった桃園家に響き渡る。 それは――――幸せの歌。 避2-142へ