約 1,207,353 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/680.html
せつなちゃんがラビリンスへ帰って数日が過ぎた。 始めは、ラブが放心状態になってるんじゃないかって心配だった。 けれどそんなことは取り越し苦労だったみたい。 以前と同様、ラブは毎日忙しく過ごしている。 ミユキさんにダンスレッスンを受けたり、幼なじみの蒼乃美希さんや山吹祈里さんたちと遊んだり、時には補習授業を受けたり。 素敵な笑顔を見せてくれるラブ。いつものラブがそこに居る、そう思っていた。 だけど、ふと気づいた。あれ以来ラブは、せつなちゃんのことを全然口に出さなくなっている。 不自然なくらいに。 日曜日。公園の芝生でお弁当を食べた後、ラブとわたしはひなたぼっこ。 会話が途切れた拍子に、ラブの笑顔が曇る。 「ねぇ、ラブ……元気?」 「なあに由美、あたしはいつも元気だよ!」 ラブはいつもの笑顔を見せた。だけどそれが、慌てて笑顔を作ったように見えて。 「うん、わかってる。でも……時々ね、泣きそうな顔してるんだもん」 「たはー! ……そっか。由美にもわかっちゃったか」 こりゃまいったなぁと言いながら、ラブは頭を掻いた。 「もしかして、蒼乃さんや山吹さんにも同じこと言われた?」 「ん。幼なじみだからね。すぐにわかっちゃったみたい。……由美にも心配かけてごめんね」 「そんなの!わたしだってラブの親友なんだもん。心配くらいさせてよ」 「……ありがとう」 「――――寂しいんだよね、せつなちゃんがいなくて」 「ん……なんだろうな。うまく言えないんだけど、心にね、ぽっかり穴が空いたみたいなんだ。 あたしの一部が何処かに行っちゃったみたいで……」 ラブは寂しそうに微笑んだ。 「ね。ラブ、無理しなくてもいいんだよ」 「え?」 「寂しくて悲しくて泣きたい時は、素直に泣けばいいの。 わたし思うの。辛い時の涙は、辛い気持ちから出来てるんだ、って。 涙を流すのは、きっと、自分の中の寂しさや悲しさを減らすためなんだよ」 俯いたラブ。肩を微かに震わせ、嗚咽した。泣き顔は見せたくないのかも知れない。 わたしは黙って、ラブの肩を抱きしめた。しばらくラブの背中を、ぽんぽん、と優しく叩き続けた。 どのくらい抱き合っていたのだろう。 ラブが離れ、わたしに笑顔を向けた。目は泣き腫らし、赤くなっていたけれど、その笑顔はどこかすっきりしていた。 「あたしね、せつながラビリンスに帰るの、頭ではわかってたの。 でも、心ではわかっていなかった。離ればなれになるなんて本当は認めたくなかったの」 ラブは青空を見上げて、ゆっくりと丁寧に話す。 それはまるで、異国の空の下にいる誰かに語りかけているよう。 「いざ、せつなが居なくなったら、少しずつ実感がわいてきてさ。 宿題でわかんないとこがあったら、無意識にせつなの部屋に聞きに行ったりね。あ、そっか。帰っちゃったんだ、って。 居るのが当たり前で。居ないなんて、嘘みたいで。 だけど、由美に言われて、泣いたら少しすっきりした。それで、思ったんだ。 もう二度と会えないわけじゃない。会いたいって気持ちを持ち続けてさえいれば、絶対また会えるんだって。 そうだよね、せつな」 ええ、そうよラブ。 遠くの空から、せつなちゃんの優しい声が聞こえたような気がした。 「きっと今ごろ、せつなちゃんもこの空を見上げているかもね」 「うん、そうだね……」 ふいに、向こうの空から、大きな翼の生き物が現れた。 その生き物は、大きな翼を羽ばたかせ、どんどんこちらに近づいてくる。 「ラブ!見てあれ!なんだろ!?」 その生き物は、青空の上を旋回しながら、叫んだ。 「あんたが桃園ラブ?」 「え!?――――うん!あたしがラブだよ!」 驚きながらも答えたラブに、その生き物は何か小さな箱を落とした。 慌てて小箱をキャッチするラブに、その生き物は言った。 「確かに渡したロプー」 ばさっばさっばさっ。 生き物は大きな羽音を立てて、また元来た方向へ去ってゆく。 「今の、一体何だったんだろ……」 わたしの呟きには、返答せず、ラブは掌の中の赤い小箱を見つめ続けている。 小箱には薄桃色のリボンがかかり、真っ白なカードがついていた。カードの表には、「大好きなラブへ」と書かれている。 恐る恐るカードを開くラブ。読みながら、ラブの瞳には涙が盛り上がり、こぼれ落ちてゆく。 読み終えたラブは、頬に伝わり落ちた涙を、握り拳でぬぐった。 「それ……せつなちゃんからでしょ」 「うん。バレンタインチョコレートだって。あたしはすっかり忘れてたっていうのにさ。やっぱせつなはしっかりしてるよ」 「何て書いてあったの?」 「早くラブに会えますように、って」 「――――良かったね」 良かった。本当に良かった。 親友の心からの嬉し涙。嬉しい時の涙は、周りの人にも嬉しさが伝わってくる。その温かな波動が、わたしにも。 「由美まで……泣いてるし!」 アハハ。ラブが笑う。わたしも泣きながら笑う。 大丈夫。離れていても、せつなちゃんとラブはこんなにも繋がっている。 「せつなーーーっ、聞こえるーーーっ? あたし、待ってるからーーーっ。 せつなに会えるの、ずっとずっと、待ってるからねーーーっ」 ラブは目を閉じて、耳に手を当てて、まるでせつなちゃんの声に耳を澄ませているみたい。 小春日和の陽射しに立つラブ。 その陽に透ける淡い髪を、一陣の風が優しく撫でていったのだった。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/52.html
第4話 想いの外側 (私、何か悪かったのかしら………) せつなは練習着のままベッドに腰掛け、ため息を付く。 時計を見て更にため息。ダンスレッスンの後、予定もないのに こんなに早く帰宅するなんて初めてかも知れない。 いつもなら皆とお喋りして、ドーナツ食べて……。 時間なんていくらあっても足りないくらいなのに。 今日の美希と祈里はおかしかった。 まだ付き合いの長いとは言えない自分にもはっきり分かるくらい。 せつな以上に不自然さを感じてるはずのラブは何も言わない。 せつなを促して早々に家路についた。 美希はいつもと変わらない。いつもより上機嫌なくらい。 それこそがおかしかった。 祈里の覇気の無い態度。少ない口数。 何か言いたげに美希を窺っているのが分かるのに、 美希はわざと知らん顔してた。 いや、知らん顔はしてない。祈里にもちゃんと話掛けてた。 でも………。 (ブッキー、何かを待ってたみたいだった。) 美希の受け答えが、明らかに期待と違ったのだろう。 祈里は美希と言葉を交わすごとに睫毛を伏せ、瞳を陰らせていった。 会話自体はごく普通の雑談、だと思う。 美希が祈里を買い物に誘い、祈里は都合が付かない、と断る。 それだけだった、はず。 「ねぇ、ブッキー。この後はどうする?買い物行ける?」 まだ返事聞いてなかったわよね? 美希は屈託のない笑顔で話しかける。 「……あ、……ごめんなさい。今日は……」 祈里は上目遣いに美希を窺いながら、言葉を濁す。 「ああ、都合悪い?最近忙しいのね。」 「…あ……」 祈里の言葉を最後まで聞かず、美希はせつなに話しかける。 祈里がすがるような視線を送っているのに。 「ね、せつな、この間の店!ブッキーに似合いそうなニット、あったじゃない? あれ、見に行こうって言ってたの。すごく可愛かったわよね。」 「え?あ?うん。」 「あれ、せつながブッキーに絶対似合うって言ってたやつ。 まだ残ってるかしら?」 「さぁ、どうかしら……。」 「せつなはこの後どうするの?ブッキーが無理なら予定空いちゃった。 また買い物でも行かない?」 「ダメだよ、美希たん。あたしとせつなは用事あるんだから。」 「なに?アタシも混ぜてよ。一人じゃつまんないじゃない。」 「家族で出掛けるんだよ。遊びに行くんじゃないし。」 なぁんだ。と、美希はつまらなそうに唇を尖らせていた。 勿論、そんな予定なんて無い。 私、ちょっとおろおろしてたと思う。 ああ言う時、どうしていいかわからない。 ただ、ブッキーが私に話しかける美希を曇った目で見ていたのは分かったから。 ラブが助け船を出してくれた。 あのままじゃ、私きっと変な事言ってたと思う。 今までラブ達3人の事、単純に羨ましいと思ってた。 物心付く前からお互いを知ってて、家族ぐるみの付き合いで。 家族も友達もいなかった私には、ただ眩しくて。 でも付き合いの長い友達って、ただ単に仲良しなだけじゃ済まない 何かがあるのかしら。 (難しいものね……) 胸の奥が石を飲み込んだように固くなる。 本当は祈里に嫌われているのだろうか? チラリと頭を掠めただけなのに、涙が滲みそうになる。 祈里は優しい。祈里のお陰でクローバーに溶け込む勇気が持てた。 今でも自分に見せてくれた親しみは本物だったと信じてる。 それでも… 祈里は、自分が美希と親しくするのを歓迎してない。それだけは分かる。 (どして……?) 「あのー……、せつなさん……」 いつになったら、あたしの存在に気付いて貰えるんでしょうか? ベッドの足元に座ったラブが苦笑いで見上げている。 そうだ、ずっとラブここにいたんだっけ。 「ごめん……。」 ま、いいや。ラブはそう言って私の後ろに回り込んだ。 私の肩に顎を乗せ、お腹の前で指を組んで抱き抱えるように密着してくる。 「せつなのせいじゃないよ。」 「私、別に……。」 「でも、原因探してたでしょ?」 「………………。」 あの二人の事はラブが一番よく分かってる。 そのラブが静観してるんだから、自分なんかに出来る事はないんだろう。 それでも、考えだすと止まらない。 ほんの少しでも自分にも原因があったら。 自分のせいでクローバーがおかしくなってしまったら。 目の前が暗くなるほど怖い。 それなら、自分が消えてしまう方がずっと気が楽。 こんな事ラブに言ったら怒られるから絶対に言わないけど。 「ブッキー、おかしかったね……。美希たんも。」 「……うん。」 「ねぇ、せつな。あたしの事、好き?」 こんな時に何でそんな事を聞くんだろう? そう思いながらも、耳が熱くなってきた。 「……好き、よ?」 「じゃあ、美希たんとブッキーは?」 「??好きよ。」 当たり前じゃない。だから今だって悩んでるのに。 「せつなはあたしの恋人だよね?あたしの事、好きだから一緒にいてくれてる。」 「??そう、だけど……」 「じゃあ、何であたし以外の人を好きって言うの?」 「ラブ…。何、言ってるのよ?」 真剣に訳が分からない。からかわれてるんだろうか。 「答えてよ。せつなはあたしの恋人で、あたしが好き。 それなのに、何で美希たんやブッキーを好きって言うの?」 「……だって…。どして?そんな事言うの?あの二人は友達だもの。 ラブとは意味が違うじゃない。」 「そう!それが原因。」 「……?」 「ブッキーがおかしかった原因だよ。それが。」 どう言う意味?私とラブは恋人……で、美希と祈里とは親友。 どちらもとても大切な人。 それに、美希と祈里だってそうなのよね? だって、美希は本当に祈里を大事にしてるもの。 ついからかいたくなるくらい。 私が祈里の事でからかうと、美希はすぐに拗ねた振りをする。 頬を染めて、プイっとそっぽ向いたり。慌てて話を逸らそうとしたり。 いつもおすましでお姉さんぶってる美希が、まるで 小さな子供みたいに可愛いの。 「ブッキーはねぇ、あれでけっっっこうワガママなんだよねぇ。」 まぁ、美希たん絡み限定だけど。 美希たんにとって、いつでも自分が一番でないと嫌なんだ。 恋人とか、友達とか、関係ないの。 「まぁ、自分でもあんまり分かってないんじゃないかな。自分の気持ち。」 「ラブには……分かるの?」 「たぶんね。」 羨ましいんだよ。 ラブはそう言う。「羨ましい」その感情は理解出来る。 昔、イースだった頃にラブに抱いた気持ち。 そんな感情を自分が持つ事自体を認めたくなかった。 屈辱感すら覚え、自分をこんな惨めな気分にさせる存在に 憎しみをたぎらせた。 もし、寿命を切られる事がなかったら「幸せ」を夢見、その最中にいる人間を羨むなど 頑として認めなかっただろう。 すべてが裏返しになった瞬間の事はよく覚えてる。 「羨ましいと思った」そう、口に出しても不思議と恥ずかしくも悔しくもなかった。 目の前が開け、縮こまっていた胸の中がすうっと外に広がって行くような気分。 「清々しい」、そう言った気がする。 でも、分からないのは祈里がなぜ「羨ましい」なんて思うのか。 可愛らしくて、頭も良くて。あんなに大切に想ってくれる美希のような存在が側にいて。 およそ、人の羨む要素をこれでもかと持ってるのは祈里の方だと思うのだけど。 「人の気持ちってさ。不思議だよね。完璧に見えてる人でも本人は 全然満足してなかったり、誰もが欲しがるような物を持ってる人が、 本人はそんな物まったく必要ないと思ってたり……」 たぶんそうなんだ。せつなにもない?そう言う事。 ラブに体を預けるように、力を抜く。 暖かくていい気持ち。飲み込んでいた塊が、少しずつ軟らかくなっていく。 「たださ、これだけは確かだよ。」 「……?」 「ブッキーは、せつなの事、大好きだよ。」 親友だもんね。 そう言ってぎゅっと抱いてる腕に力を込めてくれた。 やっぱり、ラブにはお見通しなんだ。 いつも、私が一番欲しいものをくれる。自分でも、気付かないくらい 無意識に欲しがってるものを。 「……うん」 ちょっと泣きたいような気分だったけど、ラブを見てニッコリ笑ってみた。 きっとラブは私が泣くより、笑顔の方が喜ぶと思ったから。 「やあっと、笑った!」 すべすべの頬を擦り寄せられるのは、くすぐったいけど気持ちがいい。 祈里と話してみたら駄目かしら? ラブはこう言う時、きっと黙って見守るのよね。 きっと大丈夫!って信じて。 (ラブは、そっとしておく事に決めたのよね…?でも……私は……) ちょっとだけ、お節介やいてみようかと思った。 時には、強引にに踏み込む事も必要なんじゃないかと思うから。 ラブが私をラビリンスから取り戻そうとしてくれたみたいに。 はっきり言って私は言葉で伝えるのが苦手だし、下手くそなのは分かってる。 きっと、ブッキーはびっくりして、……ひょっとしたら傷付けてしまうかも。 それでも、精一杯伝えようと頑張ればブッキーなら許してくれるって 思うのは思い上がりかしら? ブッキーに伝えたい。 心は繋がるって。誰かを想う気持ちは、黙っていてもきっと相手に伝わってる。 でも、言葉にすればもっと深く繋がって、もっと強く結び付くんだって。 私は、みんなにそう教えて貰ったから。 第5話 伝わる想い、伝える想いへ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1134.html
「まったく~。連休だっていうのに、テレビが壊れちゃうなんてさぁ。」 口をとがらせるラブを、あゆみが呆れた顔でたしなめる。 「ラブったら。折角せっちゃんが帰って来てるっていうのに、テレビ見てるヒマなんか無いでしょう?」 「それはそうだけど・・・せつなに見せたい番組だって、あったのに。」 まだブツブツ文句を言うラブに、せつなはクスリと笑う。 「気持ちは嬉しいけど、私はテレビを見るより、みんなと沢山おしゃべりがしたいわ。」 「そら見なさい。」 得意満面、といったあゆみの声に、せつなも圭太郎も、そしてむくれていたラブも、一緒になって笑った。 こちらの世界のゴールデンウィークに合わせて、せつなは桃園家に帰省している。 ラビリンスに戻って、一年と数カ月。最初の頃は、全くと言っていいほど帰ることはなかったけれど、最近のせつなは、休みの日にはなるべく、ここ四つ葉町の桃園家で過ごすことにしていた。 桃源まで、東へ五分・後日談 ~柱の傷~ 修理のために、テレビを電器屋さんに持って行ってもらったせいで、何だかリビングが少し広く見える。せっかくだからと、普段は入れないテレビ台の後ろ側に回ってモップを掛けていたせつなは、ふと部屋の隅の柱に目をやって、あれ?と思った。 「お母さん。この柱、ずいぶん傷が付いているのね。」 今までこの角度から見たことがなかったので、気付かなかったのだろう。四角い柱の、こちらを向いている面の右端に、真横に走る何本もの傷が見える。目盛りのよう、と言ったら不均等だけど、下の方から一本ずつ、間隔をあけて付いている。刃物で付けられたものらしいが、もう古いものらしく、傷の表面は、少し黒ずんでいた。 「ああ、これね。」 あゆみがせつなの見ているものに気付いて、懐かしそうに頬を緩める。 「昔はこの柱、お父さん・・・ラブとせっちゃんにとってはおじいちゃんの、仕事部屋の柱でね。子供の日には、毎年この柱で、背くらべをしたの。」 「・・・せいくらべ?」 聞き慣れない単語に小首を傾げるせつなに、あゆみは微笑みながら頷いてみせた。 「そう。子供の日の歌に、そういう歌詞があってね。私は一人っ子だから、正確には、誰かと背を比べたわけじゃないんだけど。」 そう言って、あゆみは柱に背中を付けて立つと、頭の上に、ペタンと掌を置いてみせた。 「こうやって、毎年、柱に身長を刻んでいくの。去年からどれだけ背が伸びたか、まぁ一種の成長記録よね。おじいちゃんの、毎年の楽しみだったわ。」 「へぇ。」 せつなは柱に顔を近づけて、その傷の一本一本をつぶさに眺める。こんなに背が小さな頃があったのか、と思うほど低い位置にも、傷はあった。 “おじいちゃん”――源吉の顔を、せつなは思い出す。 そう、あれは一年半くらい前のこと。ひょんなことから過去の世界に飛ばされてしまったせつなは、わずか一日足らずだったが、彼の仕事場で、一緒のときを過ごしたのだ。 あのときの源吉の、優しい眼差しと穏やかな声を思い起こしながら、せつなは真っ直ぐで滑らかな切り口を、そっと指でなぞった。 「そう言えば、あたしもおじいちゃんに測ってもらったことあったよねぇ・・・あ!確かこっち側のが、あたしのじゃなかったっけ。」 せつなの後ろから顔を覗かせたラブがそう言って、今せつなが触れているのと反対側に付いている傷を指差した。 柱の右端には、せつなやラブの背丈くらいのところまで、十本以上の傷があるのだが、同じ面の左端には、下の方に四本だけ、傷が付けられている。 「そうそう。こっちの一番上のが、ラブが四歳のときの背丈ね。」 あゆみが懐かしそうな目をして、丁度せつなの腰辺りの高さに付けられた傷をなでた。 「ラブも一人っ子だったけど、ラブは、子供の頃の私と背くらべしてたのよね。同じ歳の私の背丈の傷を見て、あたしの方が高い!なぁんて、大喜びしてたわ。」 小さなラブの得意げな顔が容易に想像できて、せつなはフフッと笑う。当のラブは、そうだっけ~、と頭を掻いてから、笑顔でせつなに向き直った。 「ねぇ、せつな。今年の子供の日には、あたしたち二人で背くらべしようよ!」 「え?いいけど、たぶん引き分けじゃないかしら。」 「測ってみなくちゃわからないじゃん。ねぇ、いいでしょ?お母さん。」 「はいはい。きっとおじいちゃんも、ニコニコ笑って見ててくれるわね。」 あゆみはそう言って、自分も嬉しそうに、ニコリと笑った。 ☆ 数日後にやってきた子供の日には、家族みんなで、ちまきを作った。 柱の傷を見つけた日に、背くらべの話から、あゆみの子供の頃の話になった。そして、子供の日には、源吉が毎年ちまきを食べるのを楽しみにしていたと聞いて、せつなが作ってみたいと言い出したのだ。 竹の葉を三角に折り曲げてジョウゴのような形にしたら、中にもち米と具を入れて、それに葉の残りの部分をかぶせて巻いていくのだが・・・。 「う~ん・・・出来た・・・かな?」 「ラブったら、詰め過ぎよ。それじゃご飯がこぼれちゃうじゃない。」 まん丸に膨れ上がったラブの竹の葉を見て、せつなが苦笑する。 「たはは~、難しいよぉ。」 「せっちゃんは上手ね。あとはタコ糸で結べば、出来上がりよ。」 「フフ。料理のことでラブに勝てるなんて、初めてね。」 「もぉ~、せつなぁ!」 意外にも器用だったのが、圭太郎だった。美しい三角形を作るのにこだわりながら、せっせと包み上げていく。結局、ラブは最後まで四苦八苦していたけれど、四人がかりで包んだので、全てのもち米と具がなくなるのにそう時間はかからなかった。あとはセイロで蒸せば、ちまきの完成だ。 「蒸してる間に、ラブとせっちゃんは背くらべをしたらどうだい?」 圭太郎がそう言いながら、青いエプロンを外す。 「そうね。歌では“ちまき食べ食べ”って歌ってるけど、食べながらより、今の方がいいわよね。」 セイロの加減を見ながら、あゆみが微笑んだ。 「そうしようか、せつな。じゃあお父さん、測って~。」 「よぉし、ちょっと待ってるんだぞ。」 そう言って、一旦自分の部屋に戻った圭太郎が持って来たものを見て、せつなは思わず息をのんだ。 竹製の大きな物差しと一緒に、圭太郎の手に握られていたもの。それは、いかにも使い込まれた様子の小刀だった。同じものだと言う自信は無いけれど、せつなが過去の世界で、源吉の手伝いをしたときに使った小刀と、同じ形のものだ。 せつなの視線に気付いた圭太郎が、小刀の鞘を取ってみせる。 「ずいぶん年代物だろう?これ、お義父さんが使っていたものなんだ。形見に、僕が貰ってね。やっぱり背くらべのときは、これを使わなくっちゃあ。」 圭太郎はそう言って、ラブとせつなを柱の前に連れていく。 まずはラブが柱を背にして立つと、圭太郎は物差しを頭の上に当てて位置を決めてから、ラブをどかせて、その位置に小刀で傷を付けた。 「お義父さん。ラブは四歳のときと比べて、こ~んなに大きくなりましたよ。」 「お父さんってば。そんなちっちゃい頃と比べたら、当り前でしょ~。」 口では憎まれ口を叩きながら、ラブは少し恥ずかしそうな、そして何だか嬉しそうな目をしている。 「あはは、そうだな~。じゃあ、次はせっちゃんだよ。」 柱に背中を付けて、真っ直ぐ前を向いて立つ。同じようにして身長を測ったことはあるけれど、家族の前で、こんな風に真面目な顔で直立するのは、何だか少し恥ずかしい。 「・・・はい、いいぞ。お義父さん、せっちゃんも、この二年で大きくなりましたよ。これからも、見ていて下さいね。」 柱の一面の、右端にある古い傷と、左端にある新しい傷。そして真ん中に、それらと並んでもうひとつ、圭太郎が新しい傷を丁寧に刻むのを、せつなは胸を熱くしながら、じっと見つめる。 ――悩んで、苦しんで、それでも前へ進もうとあがくのが、まっとうに生きてくってことだ。 あのときの源吉の声が、聞こえたような気がした。 私も少しは、前へ進めているんだろうか。いつだって今のことに精一杯なのはあの頃と同じで、振り返る余裕なんて、とても無い。 でも、こうやって私を見守ってくれる人たちがいる。ラブやお母さんの小さい頃と同じように、今の私をここに刻むことで、その先を見つめてくれる家族がいる。 そして、その家族の後ろに、源吉のあたたかな眼差しが、せつなには確かに感じられた。 「う~ん、やっぱり引き分けかなぁ。いや、ほんの少~し、あたしの方が・・・」 「何言ってるの。引き分けよ。」 キッパリと言い放つせつなに、ラブが、え~っ、と声を上げたとき、 「みんな~、ちまきが蒸し上がったわよ~。」 あゆみの声と一緒に、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。 「はーい。」 せつなはラブと声を揃えて返事をすると、湯気の立つ台所へと、いそいそと足を向けた。 ~終~
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/422.html
ラブ「…」クネクネ ラブはビリーズ〇ートキャンプの動きみたいな事をしている。 美希「何やってるのよ……ラブ…」 ラブ「あれ?知らない? 巨人の脇〇だよ。」クネクネ 美希「……野球なのね…」 せつな「それよりも、オマリーよ。」 美希「…」 祈里「また野球なのね…」 ラブ「いや、脇〇でしょ。」 せつな「いいえ、オマリーよ。」 美希「また野球の話で討論してるわね…… ブッキー、あの二人どうにかしてよ。」 祈里「ラブちゃん…せつなちゃん」 ラブ「何?」 せつな「?」 祈里「やっぱり八〇樫よ!バスター打法の!」 … ラブ「脇〇だよ!」 せつな「いいや、オマリ〇よ!」 祈里「時代は八〇樫よ!!」 美希「ダメだこりゃ……」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/852.html
140文字SS:プリキュア&プリキュア【2】 1.ハピネスチャージ&スマイル「りぼん達ってどう見ても アレだよね」/ドキドキ猫キュア みゆき「本物のお姫様だなんてすごーい☆」 ひめ「そんな事、あるけど♪」 りぼん「まったくひめは(呆れ)」 なお「天道虫~><」 れいか「すいません、なおは昔から虫が苦手で」 りぼん「はあ・・・」 何も言えないりぼんだった。 2.スイート&S☆S「動物の勘」/ドキドキ猫キュア その時、俺は感じた。身の危険を・・・ パンパカパンに遊びに来てた奏「猫・・・」ウズウズ ハミィ・エレン「コロネさんの肉球が!!」 響「ちょ!?人様の猫は駄目だって~」 奏「><ハア~」 咲「何事!?」 アコ「禁断症状よ」 3.ラブせつ(ハピネス32話リンク)で『一番厄介な存在』/ねぎぼう 「あまずっぱーって俺達の台詞をパクっているぞ、イース!」 「うるさいわよ」 「テレビは黙って観るものだよ」 地球のTV番組を見る3人。 (あんな子がいると一番厄介な存在になるわね。それにしても神様も黙認って何?) ふと一人の野球少年のことが頭に浮かんだ。 (まあ、あの子なら心配いらないわ) 4.フレッシュ&???「フレプリ6話?」/ドキドキ猫キュア 南「もっとなけ、もっとわめけ(笑)」 ?「全部あんたの仕業ななのね(怒)」 ?「ハンバーグカレーをよくも!!」 ?「倒すことけってーい」 4人「Yes!」 ラブ達「あれ?」 南「プリキュア・・・何人いるというんだ・・・」 5.ハピネスチャージ&???「情報不足」/ドキドキ猫キュア オレスキー「ハハハ!たまには別の町を襲うのだ♪いけチョイアーク!」 チョイアーク達「チョイ~><」 オレスキー「こんな明らかにひ弱そうな女子高生一人に何を手間取っているのだ!!」 ゆり「次はあなたが相手かしら?(真顔)」 6.ラブせつで『ちょっと黙って』(withスマイル)/ねぎぼう やよいから借りてきたという『太陽マン』のDVDをラブと一緒に観てたら、もううるさくって…… 太陽マンと敵の女幹部とのまさかの雰囲気なシーンにまで騒ぐものだから 「ちょっと黙ってなさい!」 って『強行手段』に出たわ。 そしたら、最近はラブ・ロマンス観ててもうるさくするの。 もう、馬鹿…… 7.ハピネスチャージ&???「ラブリーの場合」/ドキドキ猫キュア ラブリースーパーパーンチ! ラブリースーパービーム! ラブリースーパーライジングソード! ハニー「ラブリーすごーい♪」 プリンセス「私達の出番はないわね」 フォーチュン「自力で動けるものなのアレって・・・」 ロボラブリー「気合いで余裕」 8.ラブせつで『全部全部、君のせい』(○○とコラボ)/ねぎぼう 「全部全部全部、君のせいだね」 「そんなこと俺に言われても知らんダースの犬、なんてな」 「少しは少しは少しは反省したまえ」 (ふん、サウラーもまた変な作戦で失敗したようだな。さて、今日こそリンクルンを……) ―― 「せつなー、待たせた?」 「ううん、そんなこと、ありえな~い!(何!?)」 9.ハピネスチャージ&ドキドキ!「これは説教待ったなし」/ドキドキ猫キュア りぼん「ひめったらこんなに残して!」 ひめ「だってそれマズイもん」 りぼん「食べないのに買うなんて・・・」 ひめ「わたしはカードが欲しかったの~!お菓子はオマケよ(笑)」 エース「ほほう?(怒)」 ヒメルダ終了のお知らせ 10.「これは説教待ったなし」続きの話!?/140文字SSスレ142様 (5分間なんとか逃げ回れば) ♪ニン・ニン・ニンジャ かわルンルン! 「さらばじゃ、ドロン!」 「逃がしはしませんわ!エースショット、ばきゅ~ん!」 「あ、体が動かない」 「そもそもお菓子というのは……」 (もうそろそろ5分) 「話は終わっていませんわ!」 亜久里に戻ってもお説教は延々と続く。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/92.html
Tears of the clover:episode.2 小さな頃から、いつもふたりを追いかけていた気がする。 ラブちゃんと美希ちゃん。 私にとって、ふたりは憧れのひとだ。 全くタイプは違うけど、ふたりはいつも私を守ってくれる王子様みたいな存在だった。 けれどいつの頃からか、ラブちゃんにはせつなちゃんという親友が出来て、親友以上の関係になって…。 そんなふたりの姿に触発された訳じゃないけれど、美希ちゃんと私はふたりで会う機会が自然に増えて、いつのまにか私は美希ちゃんに恋心を抱くようになっていた。 先月くらいだろうか。 私は自分の気持ちを、恋の先輩としてラブちゃんに相談してみたんだけれど、その頃くらいから少しずつ、ラブちゃんの態度がおかしくなっていった。 せつなちゃんと付き合い出してからぱったりと途絶えていたメールが増え、内容は「恋愛相談に乗るから会おう」というもの。 実際に会えば、美希ちゃんの話には上の空で、紅潮した頬で、穴が開きそうなほど私ばかり見つめる。 ラブちゃん、ヘンだよ。 ラブちゃんはせつなちゃんが好きなんだよね? 私は美希ちゃんが好き。 好きなはず。 なのに。私もヘンになってきちゃったみたい… ラブちゃんは私と会っている時には、せつなちゃんの話はしない。 逆に、私は美希ちゃんの話ばかりする。 ラブちゃんが何か言い出しそうで怖いから、聞いていなくても話しつづける。 美希ちゃんって大人っぽいわよね、憧れちゃう。 美希ちゃんって香水つけてていい匂いがする、素敵だなぁ。 美希ちゃんが… 美希ちゃんが… そんな私のくちびるは、突如ラブちゃんのくちびるに塞がれた。 抵抗も抗議もしなかった。 いつかはこうなるだろうと、何となくわかっていた。 むしろ、こうなることを心のどこかで望んでいた。 嬉しいのに、何故だか哀しい。 私はラブちゃんが好き。例えラブちゃんが誰を好きでも。 瞳を閉じると、ぽろり、と一粒の涙がこぼれた。 【蒼い炎】へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/145.html
…どうして、彼女なんだろう……。 始めは気が付かなかった。いつも視線の先に彼女がいる。 ふと気が付くと彼女の事ばかり考えている。 どうすれば喜んでもらえるか。どうすればもっと笑顔が見られるか。 どうすれば、もっとわたしを見てもらえるのか……。 ずっと、そんな事ばかり考えている自分が少し不思議だった。 だから必死に理由を考えた。 彼女はこちらの世界を何も知らない。すべてを失い独りきりになってしまった彼女。 仲間なんだから、友達なんだから、心配するのは当たり前。 彼女にはわたし達仲間しかいないんだから。もっともっと仲良くならきゃ。 心配して当然よね? それはとっても納得の行く理由でわたしをホッとさせる。 何もおかしくないよね?気になって当たり前よね?そうに決まってる。 でも、気付いてしまった。 わたしが彼女を見つめている、それを刺すような視線で 射抜かれている事に。 その瞬間、すべてが分かった。 わたしは初めて人を好きになった。 人を好きになるって不思議。自分が恋してる筈なのに、自分で相手を選べないなんて。 気付く筈がない。相手が同い年の女の子だなんて。 気が付かないから、気持ちが止められない。 だから、自覚した時にはもう手遅れ。 恋の神様はとんでもなく意地悪。 突然、初恋に落としておきながら、その相手は絶対に手に入らない人だなんて。 だって見れば分かる。彼女の眼にはたった一人しか映ってない。 彼女は、せつなちゃんは、ラブちゃんしか見ていない。 恋の神様はとんでもなく残酷。 初恋は実らないって言うから、文句を言うのはお門違いかも知れない。 でも自覚した途端に失恋決定なんて、ちょっとあんまりだと思うの。 そして次に感じたのが、ラブちゃんに対する信じられないくらいの苛立ち。 どうして、そんな目でわたしを見るの?もしかして分かってないの? せつなちゃんはとっくにラブちゃんのものじゃない。 あんなに近くでせつなちゃん見てる癖に!信じられない! 無性に腹が立った。今までラブちゃんに、いいえ、誰に対してでもこんな 苛立ちを覚えた事なんてなかった。 わたしがどんな欲しくても手に入らないモノをとっくに手に入れてる癖に、 その事に気付きもせず、こちらに嫉妬を向けてくる。 ラブちゃんにこんな面があったなんて。ついでにわたしにも。 ほんの少し、意地悪したくなったの。 ラブちゃんの視線に気付かない振りをする。 わざとせつなちゃんの体に触れ、二人で出掛ける約束を取り付ける。 ラブちゃんには解らない様な本の話をする。 こちらの事を勉強したいって言うせつなちゃんに、色々本を薦めたのはわたし。 元々すごく頭が良いんだろうな。砂が水を吸い込むようにって こう言う事なんだと思った。 せつなちゃんは勉強熱心で、好奇心旺盛で、今ではわたしの方が 教えて貰う事もあるくらい。 せつなちゃんは馴れ馴れしいくらい親しげなわたしの態度にも、 嬉しそうに可愛い笑顔を向けてくれる。 ふざけて抱き付いたりしても、「なあに、ブッキー?」なんて警戒心の欠片もない。 わたしはその夜、せつなちゃんの甘い香りと感触に一晩中眠れなかったくらいなのに。 せつなちゃんの笑顔に触れる度、どんどん心が削られて行く。 見る度に幸せになれた筈の笑顔が、どんどん苦い痛みを打ち込んでくる。 だって、それは友達だから見せる笑顔。それ以上でも、それ以下でもない。 でも、もし彼女がわたしの気持ちを、いいえ、わたしの中に渦巻く欲望を知れば…… それすらも得られなくなる。 このままじゃ何もかも失ってしまう。大好きな人も、親友も、自分の心さえも。 恋心を隠して友達として側にいる。それが一番だと思ってた。 手に入らない。諦められない。でも失いたくない。 こんなに苦しいなんて知らなかったから。 そしてせつなちゃんを想うのと同じくらい、ラブちゃんの気持ちが痛い。 だって分かるから。ラブちゃんがどんな気持ちでいるか。 いつも元気いっぱいで天真爛漫なラブちゃん。引っ込み思案なわたしには ラブちゃんは憧れだった。 太陽の様な笑顔はいつも眩しくて、どんな時でも周りを明るく照らしてくれる。 ラブちゃんが大丈夫って言えば、どんな事でも大丈夫。 ラブちゃんが頑張ろうって言えば、辛くても踏ん張れる。 ラブちゃんはいつも自分の事は後回し。人の為に笑って泣いて。 周りの人の笑顔が自分の幸せ。 そのラブちゃんが、初めて身勝手なまでの独占欲を見せて執着している。 『あたしのなんだから!』『誰にも渡さないから!』 その瞳が、そう叫んでる。 物心つく前から一緒にいたんだから、分かる。 あんなふうに、ラブちゃんが我が儘とも言える欲望を剥き出しにするなんて、 もうこの先ないんじゃないかな。 一生に一度の我が儘を、血を吐くような思いで叫んでる。 『お願いブッキー、…諦めて。』 少し前まではいくらでも涙が出た。 せつなちゃんとの何気ないやり取りが嬉しくて。 叶わない想いが辛くて。 ラブちゃんの視線が痛くて。 親友にそんな思いをさせている事が恐くて。 自分のどろどろした心が穢い物に思えて。 でも、今は何を思っても涙は出ない。 どんなに胸が締め付けられても、心が悲鳴をあげても、 出てくるのは焼け付くような溜め息ばかり。 わたしは、決めた。壊れてしまうのを恐れて自分を磨り減らすより…… 自分で、いえ、せつなちゃんに終わらせてもらおう。 せつなちゃんがラブちゃんを裏切る事は、あり得ない。 だから、告白して、叶う筈のない頼み事をして、 ……思い切り、振ってもらえばいい。 せつなちゃんは、ショック受けちゃうかな。泣いちゃうかな。 でも、いいよね?せつなちゃんにはラブちゃんがいるから。 きっとラブちゃんが慰めてくれる。 「せつなちゃんが、好きなの……友達としてじゃなく……。」 そう言った瞬間、今すぐ世界が崩壊しても構わない。本気でそう思ってしまった。 魂が抜けて行くのが見えるみたい。それくらい全身の気力を振り絞った。 言わなきゃ良かった。でも言わないと、わたしがどうにかなっちゃいそうで。 いやいや、もうとっくにどうにかなってるのかも。 でないと、できるはずがない。女の子同士で、しかも親友の恋人に告白なんて……。 せつなちゃんは新しいプリキュアの仲間。新しいクローバーのメンバー。 そして親友の、…ラブちゃんの大事な大事な人。 散々悩んで、決死の覚悟で臨んだのに、言葉が口から離れた瞬間から 後悔で身が縮み上がる。 せつなちゃんの顔が見られない。その顔にどんな表情が浮かんでいるのか、 恐くて 確認出来ない。 暫くたっても何も言わないせつなちゃんに、恐る恐る、顔を上げる。 その時彼女の顔に浮かんでいたのは、驚きでも、軽蔑でも、嫌悪でも、哀しみでもなく… わたしが怖れていた、どんな否定的な表情でもなかった。 ただただ、恐ろしいほどに真剣な、真摯な顔。こちらが怯みそうなほどに。 「それで、ブッキー。あなたはどうしたいの?」 その言葉には揶揄するような響きも、こちらへの侮蔑も感じられない。 ひたすら誠実に、相手の気持ちに向き合おうとする真っ直ぐな視線。 「私は、あなたの気持ちには応えられない。…それは、わかってるんでしょう?」 せつなちゃんの視線に射竦められる。 もっと動揺されると思ってた。驚いて、おろおろして、 もしかしたら泣いてしまうんじゃないかって。 けど、目の前にいるせつなちゃんには、そんな弱さは微塵も感じられない。 どんなものからも絶対に逃げ出さない、毅然とした姿がそこにあった。 「ラブちゃんが……好きなのよね…。」 そう言うと、せつなちゃんの眼がふっと柔らかくなった。 「分かってるの……わたしなんか入り込む隙間はないって…、でもね、でも…」 「ありがとう。」 「…!?」 「ありがとう。私を好きって言ってくれて。」 穏やかに、微笑みさえ浮かべて彼女は言う。 「ブッキーが、好きになってくれて……私は嬉しいわ。」 「……せつなちゃん…。」 多分、わたしは呆然としてたんだと思う。だってあまりにも予想外な言葉だったから。 悲しい顔で拒否される。ブッキーは大切な友達だと諭される。 このどちらかしかないと思ってた。 間違っても、『ありがとう』や『嬉しい』なんてどんな形でも言われるなんて 想像の埒外だ。 「…せつなちゃん、ワケ、分かんないよ。…わたし、振られたんだよね…?」 「そう…かしら。正直な気持ちなんだけど…。ブッキーは大切な人だから。」 「友達として…でしょ?」 「……うーん。ちょっと、ちがうかな。」 じゃあ、何なの?私の戸惑いが伝わったのか、せつなちゃんもちょっと 考え込むような顔をする。 「……水……かな……。」 「…水……?」 そう、と彼女は頷く。 水がなければ人は生きていけないでしょ? いくら太陽が照らしても水がなければどんな生き物も死んでしまう。 だから、あなたは私にとっては水なの。 そう言ってわたしを見つめるせつなちゃん。正直よくわからない。 はぐらかされてるような気もしなくはない。 でも彼女は大真面目な顔で。 その顔を見てたら何だか少し可笑しくなってきた。 まさかこの場面で笑える自分がいるとは思いもしなくて…。 「じゃあ、わたしがいないとせつなちゃんは死んじゃうの?」 「死んじゃうかも知れないわね。」 「わたしが水ならラブちゃんは太陽?」 そう聞くとせつなちゃんは嬉しそうに、にっこり笑う。 その笑顔があんまり可愛くて、ちょっぴり意地悪な質問をしてみる。 「じゃあ、太陽が無くなったら?」 水がなければ死んでしまう。それなら太陽が無くなればどうなるの? 「…あのね、世界が滅ぶの。」 相変わらず大真面目にせつなちゃんは答える。 死んでしまうのと、世界が滅ぶの、どう違うのか。 同じように思う。でも全然違う気もする。 分かるのは、せつなちゃんにとっては全然別物だって言う事。 「その時は…せつなちゃん、どうするの?」 「どうもしないわよ。世界が滅ぶんだもの。それで、おしまい。」 さらっと言ってるけど、内容はとんでもないよ。せつなちゃん。 でも、何となくわかった。せつなちゃんのすべてはラブちゃんがいることで始まってる。 だから太陽が無くなり、世界が滅んでしまえば、死すら意味がなくなる。 辛い事も悲しい事も、恐怖さえもどうでもいいこと。 でも、言ってる事はのめり込み過ぎで怖くなるくらいの筈なのに、 思わず口に出てしまった言葉は… 「……いいなぁ、ラブちゃん。」 そう思ってしまった。羨ましいって。 こんなにも誰かに想われるってどんな気持ちなんだろう? 「そう?ちょっと気持ち悪くない?入れ込み過ぎでしょ?」 「…それ、ものすごいノロケてるよ。せつなちゃん。」 ラブは大変だと思うわよ、なんて相変わらずせつなちゃんは真面目顔のままで うんうんと頷いている。 「そっかあ…」 そっか、そうなんだよね。始めから分かってたのに。 わたしが好きになったのは、ラブちゃんが大好きなせつなちゃん。 もし、ラブちゃんではなくわたしを選ぶようなら…それはわたしが好きになったせつなちゃんじゃないのかも知れない。 (でも、水だって相当大事よね。なんせ、無いと絶対に死んじゃうんだし。) 例えそれが、太陽があってこそのものだったとしても。 わたしは彼女の世界になくてはならないものなんだもの。 「私ね、欲張りになることにしたの。大事なものは一つもなくしたくない。 だから……だから、ブッキーにも側にいて欲しい。ずっと…今までみたいに。」 「…わたしが、側にいるのが辛いって言っても?」 「そう!」 「わたしが泣いても?」 「そう!」 「勝手ね。せつなちゃん。」 「何とでも言って!」 せつなちゃんは少し怒ったような顔をして……、あぁ、分かっちゃった。 ずっと泣きたいの堪えてるんだ。 わたしは俯いて肩を震わせてしまった。どうしよう、堪えられないかも… あぁっ、せつなちゃんが泣きそう!まずい! …ぷっ…クスクス! 良かった、笑えた!せつなちゃん、ほっとしてる。 「…もうっ、ブッキーったら…。」 「クスクス…っごめん、だってせつなちゃん、何だかラブちゃんに似てきたんだもの。」 せつなちゃんは小さな子供みたいにほっぺを膨らませて赤くなってる。 可愛いなぁ、もう。やっぱり大好き。 だからもう、いいや…。 「うん、いいよ。」 「……??」 「側にいてあげる。」 「……ホントに…?」 「うん、わたし達は親友。そうよね。」 「……いいの?」 「ダメって言ったら諦めるの?」 「絶対にイヤ!」 そこは即答なのね。あらら、何だかせつなちゃんふにゃふにゃになってる。 実は物凄く力入ってたんだろうな。わたしもだけど。 言っちゃおうかな。でも言ったら、またせつなちゃん困っちゃうかな。 でも、これだけは最初から決めてたんだし…。 「あのね、それでね…一つだけ、お願い聞いてくれないかな。」 最後にこれだけ。これでこの恋は絶対におしまいにするから。お願い。 ずっとずっと、してみたかった事なの。絶対にせつなちゃんでなきゃ、嫌なの。だから、お願いします。 「キス……したいな。」 言っちゃった……。 ああ、また顔上げられなくなってきた。なんでこんなにうじうじしてるんだろう。 もっと潔くなりたいのに。 「…わかったわ。」 「?!!!」 「私から、させてくれる?」 俯いたわたしの顔をせつなちゃんがそっと両手で挟む。 小さな手。細い指。 せつなちゃんの気配が近づいてくる。 わたしは目を閉じてゆっくり顔を上げる。 ふわり…と、前髪がはらわれ、額に柔らかい感触。 違う…、思わず目を開け、そう言おうとする… すぐ目の前にせつなちゃんの顔。ドキッとした。なんて綺麗なんだろう。 わたしの好きな人は、本当に本当に綺麗な人。 黙って…そう言うように、せつなちゃんは微笑んで唇に人差し指を立てる。 もう一度、額に。次に閉じた瞼に。頬に。 触れた場所からせつなちゃんがふわふわ染み込んでくる。 渇いた胸の奥から温もりが泉のように溢れ、指先まで潤していく。 そして、最後に唇の両端に口付けたのち、唇同士が重なるように押し付けられる。 更にゆっくり、角度を変えて何度も重なって…唇が離れて行く。 全身でせつなちゃんの息遣いを感じる。 思わず、ほぅ…と息が漏れる。 その時、僅かに開いたわたしの唇にもう一度強く唇が押し当てられ、 唇よりも更に柔らかく熱いものが滑り込んでくる。 それはわたしの口の中を戯れるようになぞり、ほんの一瞬、舌先を絡め取っていった。 甘美、と言うのはこういう感覚なのだろう。 痺れるように甘く、震えるくらいに切ない感触。 「さようなら、祈里。」 吐息のような彼女の声が耳朶をくすぐり、全身を包んでいた柔らかな気配が 遠ざかっていく。 (ありがとう。)そう言おうと思ってたのに。 声が出ない。体が動かない。呼吸すら忘れてしまったかのよう。 少しでも長く、彼女のすべてを刻み付けておきたくて。 いつしか、全身を満たしていた潤いが瞼から零れ、頬を濡らしている。 もう、一生泣く事なんかないんじゃないかと思ってたのに。 どれくらい経ったのだろう。 漸く息をつき、目を開けるともうそこにせつなちゃんの姿はなかった。 夢だったの…?そんな気さえするくらい体も頭もクラクラしてる。 視線の先に、トレイに乗ったままの汗をかいたグラスが二つ。 確かに彼女はここにいた。 大きく深呼吸して… 「悪く…ないと…思うのよね。」 声に出してそう呟いてみる。 初恋の終わり方としては、悪くないんじゃないかって気がするの。 好きで好きで、どうにかなってしまうんじゃないかって思うくらい 好きな人に決死の覚悟で告白して。振られて。 でも最後に大好きな人は震えるくらい甘い、恋人同士のキスをくれた。 初恋は実らないって言う。でも、そうじゃなかった。 わたしの初恋は実らなかったんじゃない。ただ終わっただけ。 だって、あの瞬間だけ、あの人は確かにわたしの恋人になってくれたんだから。 恋の神様はそんなに残酷じゃない。 こんな初恋をくれたんだから。それに…… わたしはきっとまた、誰かを好きになれる。今度は、わたしだけを見てくれる人を。 ラブちゃんとせつなちゃんみたいに、お互いでなきゃダメって人に。 わたしは大丈夫。 明日から、また笑顔になれるはず。 それに、わたしは、きっともっと素敵な恋に巡り会える。 そう、わたし信じてる。 3-126はおまけだよ。読んでみてね
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/468.html
夜も更けた、桃園家。 自分の部屋のベッドの中で、せつなはゆっくりと目を開けた。 「……んん」 まぶたを半分だけ開けた状態で、ゆっくりと身を起こすと、 まだまどろみの中にいるような、緩慢な動作で右、左と振り向き周囲を窺う。 「……」 そして、目当てのものが机の上にあることに気が付くと、 もぞもぞとベッドから這い出したのだった。 「……?」 ラブは、違和感に気づいて目を覚ました。 後ろから何かにしがみ付かれているような感覚。 (もしかして……) それが、ほんのりとした温かみを持っていることを感じ取り、その正体を察知。 横向きにしていた体をゆっくりと180度回して、その「何か」の方に向き直る。 「……あ、やっぱり」 ラブの予想通り、そこにいたのは赤いパジャマ姿のせつなだった。 そしてその傍らには、彼女の持ち物である赤いリンクルンが アカルンが刺さった状態で置かれている。 音を立てて起こさないように、というせつななりの配慮なのか、 わざわざ隣の部屋からテレポートして来たようだ。 しかも、ベッドの布団の中、それもラブが寝ている位置の真横に 直接テレポートするというかなり精度の高い瞬間移動をこなしている。 「……全く、この娘は」 一緒に寝たいならそう言えばいいのに、そう思い、ラブはやれやれと溜息。 (そんな素直じゃないところも可愛いんだけどね……っと) そして、自らの手を広げると、せつなの体を包み込むように抱きしめる。 あたしだってせつなが来てくれて嬉しいんだぞ、という気持ちを込めて。 「……」 せつなの目が再び開かれる。 今度も半分だけ開かれたまぶたの中で、やや焦点の合わない目が 自分の状況を確認しようとする。 「……!」 目に映りこんだ映像が頭の中で形となり、せつなに伝える。 今、目の前にいるのは、彼女にとってとても愛しい人であるということ。 そして、体に伝わる感覚が、その人に抱きしめられているということを伝えてくる。 それを理解したせつなの顔に浮かぶのは、至福の笑み。 「……んぅ~」 目の前にある愛しい人の頬に自らの頬を擦りよせる。 そうすれば、心の中の嬉しい気持ち、相手を愛おしく思う気持ちを 相手に伝える事が出来るのではないか、まるでそう思っているかのように。 何度も何度も繰り返す。 「……ん」 やがて、その行為に満足したのか、相手に頬を擦り付けたまま、再び眠りに付こうとする。 「……?」 しかし、せつなは何かに気づいたかのように、ふと動きを止める。 その心によぎるのは、何かが足りない、という違和感。 「……!」 しばし思いを巡らせ、それが何なのかに気が付いた彼女は、 先程から傍らに置かれたままの「それ」にゆっくりと手を伸ばすのだった。 暫くして、部屋の中に赤い光が一回、二回と満ちては消える。 その光がもたらしたのは、せつなが望んだもの。 「……ん」 周囲を見渡し、満足気に頷くと、今度こそ眠りにつくのだった。 「……で、これは一体どういうこと?」 自分のベッドの上の状況が理解出来ず、困惑するラブ。 朝になって、目を覚ました彼女が見たものは、 両脇で眠っているパジャマ姿の美希と祈里だった。 その光景に軽く思考停止しかけたラブだったが、 自分の体の上にのしかかっているものの存在に気づいて、状況を理解する。 「多分……ていうかこの娘の仕業だよね、やっぱり」 いつの間にかうつ伏せになっていたラブの胸元。 そこには、それを枕変わりにしているせつながいた。 「……すぅ……すぅ」 彼女は、ラブの胸に顔をうずめ、体を重ね合わせるようにして眠っている。 その右手は隣の美希の、また左手は反対側の祈里の腕に絡められている。 大切な人、かけがえの無い仲間達に囲まれているせつなの顔に浮かぶのは 何かをやり遂げたかのような満足気な笑み。 (……もしかして、またパジャマパーティーがやりたっかった、とか?) 先日、久しぶりに桃園家で行われたパジャマパーティーのことを思い出すラブ。 初参加だったせつなが、やることの一つ一つに目を輝かせて喜び、 終始楽しそうにしていた事は良く覚えている。 またみんなと一緒にやりたい、とせつなが思ったとしても不思議は無い。 (だとしてもこれはちょっとやりすぎでしょ!まったく……) これは流石に後で言い聞かせておかないと、とラブは思う。 同時に、早めに次のパジャマパーティーをやってあげよう、とも。 そうすれば、こういう困った事態を引き起こすことも無くなるだろうから。 「さて……まずはこの状態をなんとかしないとね。 で、まずは誰から起こしたらいいんだか……」 とりあえずは後の事より目の前の事態の収拾。 それを思い、一人頭を抱えるラブだった。 「なるほど、状況はわかったわ。だけど……」 「……それって、せつなちゃんを起こすしかないんじゃないの?」 結局、美希と祈里を起こす事にしたラブ。 巻き込まれた者同士で話をした方が早そうだから、と判断したからだ。 「いやあ……それはわかってるんだけどさあ……だけど……」 「ラブ、今日が平日だってこと忘れてない? 貴方達はともかく、アタシとブッキーはせつなに送り返して貰わないと 学校にも行けないのよ?」 何故か言葉を濁すラブに、美希がもっともな点を指摘する。 時計を見ると、まだ余裕が無いわけでもない時間だが、 ラブとせつなとは通う学校も通学路も異なる二人のことを考えると 問題の解決に時間を掛けていられないだろう。 「うーん……」 それでも、ラブの態度は煮え切らない。 (あたしだって……それくらいはわかってるよ。でも……) 目の前にあるせつなの顔を見る。 「……んう」 身じろぎと共に、その眠っている顔の表情が変化する。 出てきたのは、頬を緩ませた無邪気な笑顔。 (わはーっ!……か、可愛いっ!!) その爆発的な輝きを持った笑顔の前に、ラブが一瞬で陥落する。 「ゴメン美希タン、あたしにはこのせつなの笑顔を奪う事なんて出来ない。 ……あたしも付き合うから、みんなで一緒に遅刻しよう」 「いやいやいやいや、それわけ判らないから」 頬が緩むどころか、完全に惚けきった顔でせつなを見つめるラブ。 ダメだこの子は、アタシがなんとかしないと。 魅了状態からの回復が期待できそうもないラブを見限り、 美希が心を鬼にして行動に出ようとした刹那。 「んふふふふふふ~」 嬉しそうな声と共に、せつなが美希に絡めていた腕を引っ張った。 「わわっ、せつなっ!」 不意を衝かれた行動に、美希はせつなのなすがままに引き寄せられる。 それによって、美希の顔の至近距離に、ラブを陥落させた笑顔が配置されることになる。 (うわ……これは確かに……可愛いっ! いやいや、気をしっかり持てアタシの心! ここでラブと同じ道を辿った日には遅刻確定よ!) その圧倒的な破壊力の前に、顔を赤らめながらも必死で平静を保とうとする美希。 しかし。 運命とは常に無情なもの。 そんな彼女に、意外な方面からの伏兵が襲ってきた。 「美希ちゃん、顔真っ赤だね。 ……そんなに見惚れるくらい、せつなちゃんのこと可愛いって思ってるのかな?」 何かに例えるなら、真冬の極北に吹きすさぶブリザード。 そんな声が、せつなの笑顔の後方から聞こえてきた。 「……え?」 効果音をつけるなら、ガ行の二番目の擬音。 そんなぎこちない動作で首を回し、美希はその声のした方を見る。 「ねえ美希ちゃん、今すぐに話をしたいんだけど、ちょっとだけいい?」 声の主である山吹祈里は、返答を待たずして立ち上がると、 ベッドから降りて美希の背中の真後ろまで移動。 せつなちゃんごめんね、と美希に絡ませていた方の腕もほどくと、 目標を諸手でがっちりとホールドする。 「さ、行きましょ」 「……あの、ブッキー……怒ってる……?」 極寒の声色で言葉を紡ぐ祈里に、美希は恐る恐る尋ねる。 「ううん、怒ってないわよ。 ……やだなあ美希ちゃん、ちょっとお話しようねって言ってるだけだってば」 受け答えは普通。 目も、口元も笑っている。美希がよく知っている天使のような笑顔の祈里。 ―――ただ、声色だけがどこまでも冷たい。 「あ、ラブちゃん、ちょっとベランダ借りるわね」 先程から惚けたままのラブに一応声を掛けると、 祈里は美希を引きずって移動を開始する。 「え?ベランダって……、ちょっとブッキー、 今の季節にパジャマでベランダはまずいでしょ! ……ちょっと、ブッキーってば!」 美希の必死の抗議も虚しく、ベランダに続く窓が開かれて――― ――そして、閉じた。 「ラブ~、せっちゃ~ん、そろそろ時間よ、起きなさーい!」 部屋の外、階段の下から聞こえてくるあゆみの声。 それを耳にして、せつなは意識を覚醒させた。 (……あれ?お母さんの声?) いつもならこうして呼ばれる前に起きて、ラブを起こしに行く。 その為の目覚ましをセットしている筈なのに今日は鳴った記憶が無い。 違和感を覚えつつも、せつなは上体を起こして、ゆっくりと目を開く。 「……」 その目の中に飛び込んできた光景。 自分がラブの部屋の中にいるという事実。 惚けた表情でこちらを見つめているラブ。 ラブの背中越しに見える窓の外で、パジャマ姿で正座している美希と、 その前で仁王立ちしている祈里。 その全てがせつなの頭の中で一つの形となり、 彼女の口からの言葉となって紡ぎだされる。 首を傾げる行為と共に発せられた一つの言葉。それは。 「……………………どして?」 後で聞いてみたら、せつなはその日の夜の事を何一つ覚えてませんでしたとさ。 <おしまい>
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1689.html
かおすの140文字SS【30】 1.トロプリ小咄 考え過ぎじゃない?/かおす 「ねー前から聞こうと思ってたんだけどー、ヤラネーダって何をやらないの?」 「お化粧?」 「お金じゃないかな」 「仕事でしょ」 「勉強かなー。あ、チョンギーレ」 「あ?俺が知るかよ」 「教えてやらねーだ」 「ちげーよ」 「まさか《今》」 「今ヤラネーダ..まさに後回しね」 「そーだったのか」 2.はぐっと小咄 シャウトするのはまだ早いです/かおす 「えみる、来年の春映画がなくなるそうです」 「聞いたのです!」 「秋映画は再来年、20周年アニバーサリーの前夜祭でしょうか?」 「それでは来年のプリキュアがおろそかになるのです」 「案外、来年は全チームの続編が..」 「毎週ですか?」 「それもアリかと」 「ぎゅいーんとソウルが...」 3.はぐっと小咄 ハロウィン/かおす 「ハロウィンなのです! るーるー!トリックオアトリート!」 「とりーとおあとりーと」 「はい?」 「トリートorトリート」 「それ、どっかおかしくないですか?」 「全部おかしです」 「いとをかしですね」 「あはれと言って下さい(笑)」 4.トロプリ小咄 70人越えのアニバーサリー/かおす 「今プリキュアって70人くらいいるでしょー?」 「まなつ、一度に全員映画に出るのは無理。たぶん」 「だったら1年かけて全員紹介すればいいじゃない」 「それでも1話に2人は紹介しないと」 「毎回10本立てなら楽勝よ」 「映画プリキュア初の前後編かなー」 「いーねー!」 「鬼が笑ってる」 5.5で小咄 みんなで悩もうアニバーサリー/かおす 「こまち、何悩んでいるの?」 「かれん…実は主人公が70人いるお話を考えてるんだけど…」 「70人~? 登場人物がじゃなくてー?」 「登場人物全体となると…サブの妖精達だけでも…」 「そりゃむちゃですよー」 「他に脇役もいるんですよねー」 「2時間あっても変身だけで終わっちゃうわね」 6.ハトプリ小咄 無理があるんじゃないんでしょうか/かおす 「うっきゃー、間に合うかなー 普段着とー、パーティーシーンとー」 「えりか、一体何を…」 「いやね、再来年に迫ったアニバーサリーに向けて、みんなの衣装をさー」 「今からですか?」 「だって来年にはもう制作に入るんだからー」 「そうだね、衣装合わせに振り付けに…」 「70人で踊るの?」 7.スマプリ小咄 20thアニバーサリーロボ/かおす 「70人いれば、頭に10人、胴体に20人、手足にそれぞれ10人ずつ、超巨大合体ロボが作れます!」 「やよいー、1体にしなくっていーんじゃない」 「またロボット...」 「じゃあ、チームそれぞれが所有するとして、マックスハートロボからー」 「作画が死にます」 「熱血勝負だー」 「あかんて」 8.スイプリ小咄 20thアニバーサリーミュージック/かおす 「さー、久しぶりに晴れの舞台だー!」 「響、みんなで練習?」 「音楽チームでラストの演奏! コレをやんなきゃ女がすたる!」 「あたしは三味線でもいいかな」 「エレン、まじー?」 「バイオリンのチームもいるし」 「あ、ドラムがいない」 「じゃあ来年は太鼓のプリキュア!」 「それはないって」 9.フレプリ小咄 20thアニバーサリーダンス/かおす 「さてとー、今度はどんなダンスかなー」 「楽しみねラブ。でも、70人となると」 「スリラーね」 「せつなさん、それありかなー」 「さもなくば盆踊りかしら」 「美希たん、それは…うーんアリのよーな」 「スリラーだと、ざっざっざで演台から落ちるわね」 「スリラーなの?」 10.トロプリ小咄 らすぼす/かおす 「うおおー なぜだー まさかー これがよくあるラスボスの最後。でも後回しの魔女の場合、この局面で 明日にするわ おそらく永遠におわらない」 「そうかなー、今できることをすれば..」 「時間軸が違う。堂々巡り」 「だからくるるんなんだ~」 「違うわよ」 「もう明日にしよう」 「なぜだー!」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1106.html
あたしとせつなは、家族4人でのささやかなパーティの後、 せつながあたしにプレゼントしてくれた、アカルン使用券を使って、 クリスマスイブの夜、クローバータウンストリートが一望できる丘へ出かけた。 丘の上から見渡した四つ葉町は、家々にはクリスマスイルミネーションが施され、 冬の冷たいけど澄んだ夜空の下に広がった夜景は、まるで宝石箱のように、いろんな色彩の光が煌めく。 クリスマスイブである今夜は、街全体がおめかししているかのようだ。 それに、クリスマスイブという特別な時間に、いつもは外出できない夜の遅くにこうやって出かけて、 しかも、隣にせつながいる。それだけで、すごく楽しい。 冷気が肌を痛いくらいに突き刺すけど、冬の澄んだ空気が清々しく、寒いけど来て良かったと思った。 来て良かったねと、せつなに同意を求めようと、せつなの方を向くと、 何か思いつめたように、クローバータウンストリートの方を見ている。 なんだか、声をかけるのが憚れるような、そんな雰囲気に、 「月が綺麗・・・です・・よね?あははは・・・」 なんて、意味のないことを呟いてしまったけど、せつなは聞いていなかったみたいだ。 月といえば、この間、せつなに内緒で行った図書館で読んだ竹取物語を思い出す。 竹取物語は、竹取の翁に拾われたかぐや姫が美しく成長して、その噂を聞いた貴公子や帝の求婚を受けるけど、 最後は求婚を断って、結局、元いた月の世界に帰ってしまうというお話。 確か、かぐや姫が月へ帰る時、天人が持ってきた天の羽衣を着ると、翁達のことも忘れてしまうんだよね。 インフィニティになったシフォンがあたし達のことを忘れてしまうように、せつながイースに戻らないとも、限らない。 イースに戻らないとしても、せつなの意思とは関係なく、あたしの前から消えてしまわないとも。 せつなは元々、あたし達の世界の人間とは違って、異世界から来ているのだから、 ずっとあたしと一緒にいるなんて保証は、どこにもない。 今夜の月は、半月。満月の時よりは弱い光だけど、街を見守るよう優しく照らしている。 満月の夜、かぐや姫は月へ昇っていくのだけど、今夜は十五夜じゃない。その事実が嬉しい。 無言で街を眺めているせつなの方を見ると、せつなの肩が震えているのに気づいた。 今は12月の終わり。普段着にコートを羽織っただけだから、確かに寒い。 あたしは腕をそっと、せつなの肩に回した。 その時、気付いた。せつなは寒いから、震えているんじゃない。 あたしにはただ綺麗なだけの光、だけど、せつなには違った意味を持つんだって思った。 都会の何万ドルの夜景とかいうような煌びやかなものとは違って光が少ないけれど、 あの一つ一つの光の下では、あたし達プリキュアが守ってきた人々がいる。 あたし達が守った、もしかしたら消えていたかもしれない、幸せの光。 ラビリンスが、イースが、奪おうとしていた、幸せの光。 「・・・せつなも守ってきたんだよ、この街を。だからこんなに幸せが満ち溢れている・・・」 「それに・・・せつなも消えないよね・・」 何か言った?と言いたげな、せつなの顔を見て、 「ううん、なんでもない。寒くなってきたね。もう帰ろう」 「うん」 そして、あたし達は赤い光に包まれた。 アカルンがあたし達を送った先は、あたしの部屋。 暖房は消して出かけたから、寒いだろうとは覚悟していたけど、外にいるのと変わらない。 自分のコートを脱いで、エアコンのスイッチを入れようとした時、 せつながドアを開けてあたしの部屋から出て行こうとするのが見えた。 せつなが行ってしまう。 せつなは単に、自分の部屋に行ってコートを置いてきて、 あたしの部屋に戻ってくるつもりだったのかもしれない。 だけど今、行かせてはいけないと思った。 ドアに手をかけようとしたせつなの手を強引に引っ張ったので、 腕に抱えていたコートが落ちたけれどそれには構わず、抵抗しないのをいいことに、 せつなの両手を掴んで上にもってきて、ドアの前で万歳をするような形で留め置く。 海外ドラマや何かで、警官が犯人を逮捕する時に、ホールドアップってしているような感じ。 「手を動かすと、お父さんやお母さんが起きてしまうよ・・・」 あたしはずるい。 お父さんやお母さんの名前を出せば、せつなが動けない事を知っているのに、 それでも、わざわざ口にして、せつなを言葉で縛り付けるなんて。 捕まえた犯人の身体検査をするように、丹念に身体に触れていく。 あたしの手は掴んでいたせつなの手を離れ、腕から腋を通り横腹を過ぎて、下半身の方へ。 唇は身体には触れてはいないけど、せつなの肩に顎をのせているから、あたしの息は感じているはず。 くすぐったいだろうけど、せつなは金縛りに遭ったように、微動だにしない。 手が届く一番下、膝の裏側まで到達すると、今度は上の方へと。 指の先に引っ掛かったスカートの裾を捲り上げながら、露わになった肌を手のひら全体で執拗に撫で上げて、 手だけじゃなく、唇を目の前にある首筋に這わせる。時折、触れるだけでなく、吸ったり舐めたりして。 自分の髪質とは違うサラサラで艶があるせつなの髪は大好きだけど、今は纏わりついてくる髪を掻き分けながら。 押し殺した声が聞こえる。快感から出る喘ぎ声ではなく、苦痛の呻きのような・・・ せつなの横顔を見れば、眉間にしわを寄せて何かに堪えているかのように、苦悶の表情を浮かべている。 身体を離してせつなを見ると、スカートは肌蹴けて、下着は辛うじて太腿の所で引っ掛かっている。 セーターは背中の半ばまで捲られて、ブラはホックが外されて肩ひもだけでぶら下がっている状態。 ドアの音を立てないようにと、指が白くなるまでぎゅっと手を握りしめている。 力が入りすぎたため、自分では指が開かせることができないみたいで、 指を一本一本伸ばして、固く握られた拳を開かせると、血が滲み出てきそうな程の深い爪痕。 手のひらに残る三日月型の爪痕を見て、あたしは後悔した。 せつなが感じていなかった訳じゃないし、乱暴にした訳じゃない。 だけど、今まで不幸だったせつなを、決して傷つけてはいけないと思った。 身体はどこまでも白く、闇夜に浮かぶ月のよう。 髪は漆黒の闇に溶け込んで、唇は何もつけていないはずなのに、夜目でも鮮やかな紅。 窓から差し込む仄かな月明かりでも、睫毛の一本一本が見えるほど近い。 時間が止まったような静寂の中で、唯一時の流れを感じることができるのは、あたしやせつなの白い吐息だけ。 キスまであと30センチという所で、じっと見つめていたせいで、 恥ずかしいのかそれとも、拗ねてしまったのかどちらか分からないけど、せつなは顔を背けてしまう。 横を向いたせつなの唇の端に、そっと口付ける。触れるだけのキス。 唇が離れる直前に、舌を伸ばして口角を軽く舐める。次に続くキスを予感させるように。 できればこのままずっと見ていたかったけれど、 上腕だけで上体を支えている今の不安定な状態では辛いので、 少しずつせつなに体を預けながら、素肌と素肌が触れ合う場所を徐々に広げていく。 お互いの体温を肌で感じ、素肌の滑らかな感触を味わう。 涙が出そうになるくらい安心感があるのに、一方では、ダンスをしている時以上に、胸がどきどきする。 せつなと出逢って、初めて味わった感覚。 抱き合うというのなら、美希たんやブッキーとも、嬉しい事があった時とかに、 抱き合ったことなんて何度もある。尤も、その時は、お互い裸ではなかった訳だけど。 美希たんやブッキーだったら、こんな風には絶対に感じない、と断言できると思う。 美希たんとブッキーは大切で、大好きなあたしの友達だけど、 多分、せつなに対する好きは、美希たん達とは違う種類の、好き。 さっきの続き、唇の端から再開して、細かなキスを重ねて、真ん中に近づけていく。 ちょうど、お互いの唇がぴったり合わさる所に到達した所で舌を伸ばして、 上唇と下唇の合わせ目をなぞっていくと、隙間が少し開いて、あたしを受け入れてくれる。 あたしとせつなの吐息が混じり合い、あたし達の間からどちらの息か分からない白い靄が立ち昇る。 あたしの舌はせつなの舌と触れ合い、逃げるようなせつなの舌を追いかけ、奥へ、もっと奥へ。 舌が触れ合う度、角砂糖が熱さで溶けて甘みが増していくみたいに、甘さの密度が濃くなる。 せつなもあたしと同じように、甘く感じているのだろうか。 唇を一旦離してせつなを見ると、頬が上気していて瞳は切なげで、 なんだか、答えの一つを見つけたような気がして、嬉しくなった。 キスは継続して、手を下へ滑らせる。二つの柔らかな感触と、三つの固い感触と。 固い方の真ん中、クローバーのペンダントはあたしとせつなの間で熱くなっている。 二つの柔らかな膨らみを手のひらに収め、頂きを抓んで優しく擦る。 二つの固い方を指で弾くと、あたしの指の動きに合わせて、せつなの呼吸が乱れる。 あたしとせつなの身長はあまり変わらない。 なのに、あたしより胸は大きいよね。しかも、以前より大きくなっている気がする。 身長は関係ないのかな・・・美希たんは身長が高いけど・・・・だし、ブッキーは・・・。 胸の大きい人は運動をする時に邪魔だって聞いたことがあるし、 ダンスをする上では、小さい方がいいのかもしれないけれど。 このような状況下で美希たんやブッキーを思い出すのは、 美希たん達にも、せつなにも悪い気がして、目の前のことに集中する。 手を胸から、更に下の方へと。 せつなの太腿を持ちあげ、開いたせつなの身体の間に、あたしは身を埋める。 上体をせつなの身体に密着させ、唇をせつなの唇に寄せていく。 せつなの身体と完全に重なったところで、あたしは身体を上下に動かす。 始めはゆっくり、だんだんと速く。 動きが激しくなってくると、唇は的を外れ、せつなの唇を捉える事が難しくなるけど、 できるだけ長く、触れ合うように。 せつなの身体の震えを全身で受け止め、絶頂を迎えたせつなを全力で抱きしめた。 再び静寂の時が来て、あたしは猛烈な睡魔に襲われた。 薄れていく意識の中、せつながあたしの手を握るのを感じた。 次に気がついた時、時計を見ると、お母さん達が起きてくるには少し早い時間。 まだ、日の出前の時間なのに、外は明るい。 カーテンを開くと、家々の屋根や道路には雪が積もっている。 「ホワイトクリスマスだ」 「ホワイトクリスマス?」 「うん。雪が降ったクリスマスは、ホワイトクリスマスって言うんだ」 「そういえば、さ、昨日はあたしが行きたい所に行ったでしょ」 うんうんというように、何度もうなづくせつなに、 「せつなはどこに行きたい?今日は、せつなの行きたい所に行こう」 正直に言って、ラブのそばならどこでもいい、という答えを期待して聞いたんだけど。 「美希から聞いた可愛いアクセがある雑貨屋さんと、ブッキーに勧められた本を借りに図書館に行きたいし、 パン屋さんの新作のパン、美味しかったからまた食べたいし、駄菓子屋さんに行って、それから・・・・」 「ストップ、ストップ」 あたしが止めなきゃ、延々続きそうな勢い。 「それじゃあ、最初は、パン屋さんだね」 「パン屋さん、こんな早くにしているの?」 「せつなは知らない?朝一番の焼き立てのパンが美味しいんだよ」 ううん知らないという風に、勢いよく首を横に振るせつなに、 「それでは、今日は私が、四つ葉町をご案内いたしましょう」 映画なんかで王子様がするみたいに、足を交差して右手を上から斜め下に振りおろして、 そのまま深々とお辞儀をすると、せつなの顔に笑みがこぼれた。 せつなの笑顔が見れて、本当に良かった。 「じゃあ、全部廻るには早く行かなきゃ。さあ早く着替えよう」 「うん」 クリスマスが初めてのせつなに、お父さんやお母さんがプレゼントを用意してくれているだろう。 お父さんやお母さんのプレゼントも、すごく嬉しい。 だけど、大好きな人の笑顔が、あたしにとって、一番嬉しいクリスマスプレゼント。 了 ~おまけ ドアの前からベッドの間に~ 覆いかぶさるように、私の背中に密着していたラブの身体が離れていく。 首筋から頬に当たっていた唇の熱さも、全身を覆っていた手の温もりも、消えていく。 ラブの身体が離れたので、体勢を整えようとするけど、 少しでも動けば、バランスを崩して倒れそうで、動けない。 倒れるのはいいけど、大きな音が出てお母さん達を起こしてしまうのは、とても怖い。 動けない私をラブが見かねて、私の身体を回転させてドアの反対側に向かせて、 握りしめている私の拳を、指一本一本丁寧に、開かせてくれる。 「せつな、ごめん」 余りにも意外なラブの言葉に、私は驚く。 「ラブが、私に謝る事なんて、あるの?」 「だって、あたし、せつなを傷つけた!」 「ラブが・・・私を・・・?」 ラブの目の前で自分から脱ぐのは恥ずかしいけれど、今夜の月の光は弱い。 腕や足に纏わりつく下着や服を脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になって、ラブの前に立つ。 「ラブ、見て。私の身体のどこか、傷ついている?」 死を覚悟していたキュアピーチとの決戦の時でさえ、 あなたの拳が私の身体を傷つけることはなかった。 あなたの手の温もりが私の凍てついた心を溶かしてくれた事、 そして、その事が私にとって、どんなに嬉しい事であったのかを、あなたは知らない。 「でも・・・あたし・・・」 私の手を取り手のひらを開かせる。そこにできた爪痕。 こんなの、傷じゃない。痛くなんて全然ない。 私の手に口付け、爪痕の形をラブが舌でなぞっていく。 動物が怪我をした時、傷口を舐めて癒すのだと、ブッキーから聞いたことがある。 自分の手に他人の身体が触れる機会は多い。 特にダンスをしている時なんかは、倒れた人を起こしたり自分が起こされたりして、 ラブだけじゃなく、美希達とも触れ合うことがある。 だけど、これは違う。 最初はくすぐったいだけ、でもだんだん、身体の奥が熱くなってきて。 身体を捩って私の手からラブの唇を離し、肩を叩いて、屈んでいたラブの身体を立たせる。 向い合い、目の前にあるラブの両頬を両手で押さえて、私の唇をラブの唇に重ねる。 戸惑っているからか強張っている身体を抱きしめ、ラブの首に私の腕を巻き付ける。 ラブの身体の緊張が緩んで、私を受け入れてくれたのを感じて、嬉しくなる。 キスをしたまま少しずつ移動して、ベッドの端までラブを導き、 ラブの身体を引き寄せながら、背中から倒れていくと、ラブが首に腕を回して支えてくれる。 お互いの息が顔にかかる程、もしかしたら、鼓動が聞こえそうな程、ラブに近い。 昔の私だったら、こんな近くに他人を存在させることを許しただろうか。 でも今は、もっともっとラブに近づきたい。 できれば、ラブと私が、一つになってしまいたい。そうしたら、ラブと離れることはない。 私の唇の近く、ラブの耳元に熱い吐息とともに囁く。 もっと一つに、溶けあうために。 「ねえ、ラブ・・・私一人だけ、裸なの・・・・恥ずかしい」