約 1,207,080 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/116.html
あたしとせつなは、家族4人でのささやかなパーティの後、 せつながあたしにプレゼントしてくれた、アカルン使用券を使って、 クリスマスイブの夜、クローバータウンストリートが一望できる丘へ出かけた。 丘の上から見渡した四つ葉町は、家々にはクリスマスイルミネーションが施され、 冬の冷たいけど澄んだ夜空の下に広がった夜景は、まるで宝石箱のように、いろんな色彩の光が煌めく。 クリスマスイブである今夜は、街全体がおめかししているかのようだ。 それに、クリスマスイブという特別な時間に、いつもは外出できない夜の遅くにこうやって出かけて、 しかも、隣にせつながいる。それだけで、すごく楽しい。 冷気が肌を痛いくらいに突き刺すけど、冬の澄んだ空気が清々しく、寒いけど来て良かったと思った。 来て良かったねと、せつなに同意を求めようと、せつなの方を向くと、 何か思いつめたように、クローバータウンストリートの方を見ている。 なんだか、声をかけるのが憚れるような、そんな雰囲気に、 「月が綺麗・・・です・・よね?あははは・・・」 なんて、意味のないことを呟いてしまったけど、せつなは聞いていなかったみたいだ。 月といえば、この間、せつなに内緒で行った図書館で読んだ竹取物語を思い出す。 竹取物語は、竹取の翁に拾われたかぐや姫が美しく成長して、その噂を聞いた貴公子や帝の求婚を受けるけど、 最後は求婚を断って、結局、元いた月の世界に帰ってしまうというお話。 確か、かぐや姫が月へ帰る時、天人が持ってきた天の羽衣を着ると、翁達のことも忘れてしまうんだよね。 インフィニティになったシフォンがあたし達のことを忘れてしまうように、せつながイースに戻らないとも、限らない。 イースに戻らないとしても、せつなの意思とは関係なく、あたしの前から消えてしまわないとも。 せつなは元々、あたし達の世界の人間とは違って、異世界から来ているのだから、 ずっとあたしと一緒にいるなんて保証は、どこにもない。 今夜の月は、半月。満月の時よりは弱い光だけど、街を見守るよう優しく照らしている。 満月の夜、かぐや姫は月へ昇っていくのだけど、今夜は十五夜じゃない。その事実が嬉しい。 無言で街を眺めているせつなの方を見ると、せつなの肩が震えているのに気づいた。 今は12月の終わり。普段着にコートを羽織っただけだから、確かに寒い。 あたしは腕をそっと、せつなの肩に回した。 その時、気付いた。せつなは寒いから、震えているんじゃない。 あたしにはただ綺麗なだけの光、だけど、せつなには違った意味を持つんだって思った。 都会の何万ドルの夜景とかいうような煌びやかなものとは違って光が少ないけれど、 あの一つ一つの光の下では、あたし達プリキュアが守ってきた人々がいる。 あたし達が守った、もしかしたら消えていたかもしれない、幸せの光。 ラビリンスが、イースが、奪おうとしていた、幸せの光。 「・・・せつなも守ってきたんだよ、この街を。だからこんなに幸せが満ち溢れている・・・」 「それに・・・せつなも消えないよね・・」 何か言った?と言いたげな、せつなの顔を見て、 「ううん、なんでもない。寒くなってきたね。もう帰ろう」 「うん」 そして、あたし達は赤い光に包まれた。 アカルンがあたし達を送った先は、あたしの部屋。 暖房は消して出かけたから、寒いだろうとは覚悟していたけど、外にいるのと変わらない。 自分のコートを脱いで、エアコンのスイッチを入れようとした時、 せつながドアを開けてあたしの部屋から出て行こうとするのが見えた。 せつなが行ってしまう。 せつなは単に、自分の部屋に行ってコートを置いてきて、 あたしの部屋に戻ってくるつもりだったのかもしれない。 だけど今、行かせてはいけないと思った。 ドアに手をかけようとしたせつなの手を強引に引っ張ったので、 腕に抱えていたコートが落ちたけれどそれには構わず、抵抗しないのをいいことに、 せつなの両手を掴んで上にもってきて、ドアの前で万歳をするような形で留め置く。 海外ドラマや何かで、警官が犯人を逮捕する時に、ホールドアップってしているような感じ。 「手を動かすと、お父さんやお母さんが起きてしまうよ・・・」 あたしはずるい。 お父さんやお母さんの名前を出せば、せつなが動けない事を知っているのに、 それでも、わざわざ口にして、せつなを言葉で縛り付けるなんて。 捕まえた犯人の身体検査をするように、丹念に身体に触れていく。 あたしの手は掴んでいたせつなの手を離れ、腕から腋を通り横腹を過ぎて、下半身の方へ。 唇は身体には触れてはいないけど、せつなの肩に顎をのせているから、あたしの息は感じているはず。 くすぐったいだろうけど、せつなは金縛りに遭ったように、微動だにしない。 手が届く一番下、膝の裏側まで到達すると、今度は上の方へと。 指の先に引っ掛かったスカートの裾を捲り上げながら、露わになった肌を手のひら全体で執拗に撫で上げて、 手だけじゃなく、唇を目の前にある首筋に這わせる。時折、触れるだけでなく、吸ったり舐めたりして。 自分の髪質とは違うサラサラで艶があるせつなの髪は大好きだけど、今は纏わりついてくる髪を掻き分けながら。 押し殺した声が聞こえる。快感から出る喘ぎ声ではなく、苦痛の呻きのような・・・ せつなの横顔を見れば、眉間にしわを寄せて何かに堪えているかのように、苦悶の表情を浮かべている。 身体を離してせつなを見ると、スカートは肌蹴けて、下着は辛うじて太腿の所で引っ掛かっている。 セーターは背中の半ばまで捲られて、ブラはホックが外されて肩ひもだけでぶら下がっている状態。 ドアの音を立てないようにと、指が白くなるまでぎゅっと手を握りしめている。 力が入りすぎたため、自分では指が開かせることができないみたいで、 指を一本一本伸ばして、固く握られた拳を開かせると、血が滲み出てきそうな程の深い爪痕。 手のひらに残る三日月型の爪痕を見て、あたしは後悔した。 せつなが感じていなかった訳じゃないし、乱暴にした訳じゃない。 だけど、今まで不幸だったせつなを、決して傷つけてはいけないと思った。 身体はどこまでも白く、闇夜に浮かぶ月のよう。 髪は漆黒の闇に溶け込んで、唇は何もつけていないはずなのに、夜目でも鮮やかな紅。 窓から差し込む仄かな月明かりでも、睫毛の一本一本が見えるほど近い。 時間が止まったような静寂の中で、唯一時の流れを感じることができるのは、あたしやせつなの白い吐息だけ。 キスまであと30センチという所で、じっと見つめていたせいで、 恥ずかしいのかそれとも、拗ねてしまったのかどちらか分からないけど、せつなは顔を背けてしまう。 横を向いたせつなの唇の端に、そっと口付ける。触れるだけのキス。 唇が離れる直前に、舌を伸ばして口角を軽く舐める。次に続くキスを予感させるように。 できればこのままずっと見ていたかったけれど、 上腕だけで上体を支えている今の不安定な状態では辛いので、 少しずつせつなに体を預けながら、素肌と素肌が触れ合う場所を徐々に広げていく。 お互いの体温を肌で感じ、素肌の滑らかな感触を味わう。 涙が出そうになるくらい安心感があるのに、一方では、ダンスをしている時以上に、胸がどきどきする。 せつなと出逢って、初めて味わった感覚。 抱き合うというのなら、美希たんやブッキーとも、嬉しい事があった時とかに、 抱き合ったことなんて何度もある。尤も、その時は、お互い裸ではなかった訳だけど。 美希たんやブッキーだったら、こんな風には絶対に感じない、と断言できると思う。 美希たんとブッキーは大切で、大好きなあたしの友達だけど、 多分、せつなに対する好きは、美希たん達とは違う種類の、好き。 さっきの続き、唇の端から再開して、細かなキスを重ねて、真ん中に近づけていく。 ちょうど、お互いの唇がぴったり合わさる所に到達した所で舌を伸ばして、 上唇と下唇の合わせ目をなぞっていくと、隙間が少し開いて、あたしを受け入れてくれる。 あたしとせつなの吐息が混じり合い、あたし達の間からどちらの息か分からない白い靄が立ち昇る。 あたしの舌はせつなの舌と触れ合い、逃げるようなせつなの舌を追いかけ、奥へ、もっと奥へ。 舌が触れ合う度、角砂糖が熱さで溶けて甘みが増していくみたいに、甘さの密度が濃くなる。 せつなもあたしと同じように、甘く感じているのだろうか。 唇を一旦離してせつなを見ると、頬が上気していて瞳は切なげで、 なんだか、答えの一つを見つけたような気がして、嬉しくなった。 キスは継続して、手を下へ滑らせる。二つの柔らかな感触と、三つの固い感触と。 固い方の真ん中、クローバーのペンダントはあたしとせつなの間で熱くなっている。 二つの柔らかな膨らみを手のひらに収め、頂きを抓んで優しく擦る。 二つの固い方を指で弾くと、あたしの指の動きに合わせて、せつなの呼吸が乱れる。 あたしとせつなの身長はあまり変わらない。 なのに、あたしより胸は大きいよね。しかも、以前より大きくなっている気がする。 身長は関係ないのかな・・・美希たんは身長が高いけど・・・・だし、ブッキーは・・・。 胸の大きい人は運動をする時に邪魔だって聞いたことがあるし、 ダンスをする上では、小さい方がいいのかもしれないけれど。 このような状況下で美希たんやブッキーを思い出すのは、 美希たん達にも、せつなにも悪い気がして、目の前のことに集中する。 手を胸から、更に下の方へと。 せつなの太腿を持ちあげ、開いたせつなの身体の間に、あたしは身を埋める。 上体をせつなの身体に密着させ、唇をせつなの唇に寄せていく。 せつなの身体と完全に重なったところで、あたしは身体を上下に動かす。 始めはゆっくり、だんだんと速く。 動きが激しくなってくると、唇は的を外れ、せつなの唇を捉える事が難しくなるけど、 できるだけ長く、触れ合うように。 せつなの身体の震えを全身で受け止め、絶頂を迎えたせつなを全力で抱きしめた。 再び静寂の時が来て、あたしは猛烈な睡魔に襲われた。 薄れていく意識の中、せつながあたしの手を握るのを感じた。 次に気がついた時、時計を見ると、お母さん達が起きてくるには少し早い時間。 まだ、日の出前の時間なのに、外は明るい。 カーテンを開くと、家々の屋根や道路には雪が積もっている。 「ホワイトクリスマスだ」 「ホワイトクリスマス?」 「うん。雪が降ったクリスマスは、ホワイトクリスマスって言うんだ」 「そういえば、さ、昨日はあたしが行きたい所に行ったでしょ」 うんうんというように、何度もうなづくせつなに、 「せつなはどこに行きたい?今日は、せつなの行きたい所に行こう」 正直に言って、ラブのそばならどこでもいい、という答えを期待して聞いたんだけど。 「美希から聞いた可愛いアクセがある雑貨屋さんと、ブッキーに勧められた本を借りに図書館に行きたいし、 パン屋さんの新作のパン、美味しかったからまた食べたいし、駄菓子屋さんに行って、それから・・・・」 「ストップ、ストップ」 あたしが止めなきゃ、延々続きそうな勢い。 「それじゃあ、最初は、パン屋さんだね」 「パン屋さん、こんな早くにしているの?」 「せつなは知らない?朝一番の焼き立てのパンが美味しいんだよ」 ううん知らないという風に、勢いよく首を横に振るせつなに、 「それでは、今日は私が、四つ葉町をご案内いたしましょう」 映画なんかで王子様がするみたいに、足を交差して右手を上から斜め下に振りおろして、 そのまま深々とお辞儀をすると、せつなの顔に笑みがこぼれた。 せつなの笑顔が見れて、本当に良かった。 「じゃあ、全部廻るには早く行かなきゃ。さあ早く着替えよう」 「うん」 クリスマスが初めてのせつなに、お父さんやお母さんがプレゼントを用意してくれているだろう。 お父さんやお母さんのプレゼントも、すごく嬉しい。 だけど、大好きな人の笑顔が、あたしにとって、一番嬉しいクリスマスプレゼント。 了 ~おまけ ドアの前からベッドの間に~ 覆いかぶさるように、私の背中に密着していたラブの身体が離れていく。 首筋から頬に当たっていた唇の熱さも、全身を覆っていた手の温もりも、消えていく。 ラブの身体が離れたので、体勢を整えようとするけど、 少しでも動けば、バランスを崩して倒れそうで、動けない。 倒れるのはいいけど、大きな音が出てお母さん達を起こしてしまうのは、とても怖い。 動けない私をラブが見かねて、私の身体を回転させてドアの反対側に向かせて、 握りしめている私の拳を、指一本一本丁寧に、開かせてくれる。 「せつな、ごめん」 余りにも意外なラブの言葉に、私は驚く。 「ラブが、私に謝る事なんて、あるの?」 「だって、あたし、せつなを傷つけた!」 「ラブが・・・私を・・・?」 ラブの目の前で自分から脱ぐのは恥ずかしいけれど、今夜の月の光は弱い。 腕や足に纏わりつく下着や服を脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になって、ラブの前に立つ。 「ラブ、見て。私の身体のどこか、傷ついている?」 死を覚悟していたキュアピーチとの決戦の時でさえ、 あなたの拳が私の身体を傷つけることはなかった。 あなたの手の温もりが私の凍てついた心を溶かしてくれた事、 そして、その事が私にとって、どんなに嬉しい事であったのかを、あなたは知らない。 「でも・・・あたし・・・」 私の手を取り手のひらを開かせる。そこにできた爪痕。 こんなの、傷じゃない。痛くなんて全然ない。 私の手に口付け、爪痕の形をラブが舌でなぞっていく。 動物が怪我をした時、傷口を舐めて癒すのだと、ブッキーから聞いたことがある。 自分の手に他人の身体が触れる機会は多い。 特にダンスをしている時なんかは、倒れた人を起こしたり自分が起こされたりして、 ラブだけじゃなく、美希達とも触れ合うことがある。 だけど、これは違う。 最初はくすぐったいだけ、でもだんだん、身体の奥が熱くなってきて。 身体を捩って私の手からラブの唇を離し、肩を叩いて、屈んでいたラブの身体を立たせる。 向い合い、目の前にあるラブの両頬を両手で押さえて、私の唇をラブの唇に重ねる。 戸惑っているからか強張っている身体を抱きしめ、ラブの首に私の腕を巻き付ける。 ラブの身体の緊張が緩んで、私を受け入れてくれたのを感じて、嬉しくなる。 キスをしたまま少しずつ移動して、ベッドの端までラブを導き、 ラブの身体を引き寄せながら、背中から倒れていくと、ラブが首に腕を回して支えてくれる。 お互いの息が顔にかかる程、もしかしたら、鼓動が聞こえそうな程、ラブに近い。 昔の私だったら、こんな近くに他人を存在させることを許しただろうか。 でも今は、もっともっとラブに近づきたい。 できれば、ラブと私が、一つになってしまいたい。そうしたら、ラブと離れることはない。 私の唇の近く、ラブの耳元に熱い吐息とともに囁く。 もっと一つに、溶けあうために。 「ねえ、ラブ・・・私一人だけ、裸なの・・・・恥ずかしい」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/711.html
「チョコレート・ダウン」5 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 掛け布団のそれぞれ反対側から、二人の上半身が現れた。 最初ラブは、掛け布団の端を引っぱり上げて胸を隠そうとしたが ――― 正面からのせつなの視線に恥じらいつつも、それを下ろした。せつなも同様。 電気は点けていないが、掛け布団の下と違って、カーテンの隙間から夜の街の光が忍び込んでくる。そのため、お互いの裸身がうっすらと瞳に映る。 「せつなのほうが綺麗だね」 「そう? 私よりも、ラブのほうが少し胸大きいじゃない」 「あっ、さわってしっかり確かめてたんだ」 たわいのない会話をベッドの上で交わしながら、掛け布団の下に隠した、見られるのも触られるのも恥ずかしすぎてたまらない場所を、二人が足とお尻を動かして近づけてゆく。 「こら、ラブが右足を上げてどうするのよ?」 「えー、じゃあこっち?」 「あっ! ちょ・・・ちょっとコラ、ラブ、早く足をどけて。どこ触ってるのっ?」 「わ、わざとじゃないよっ。全然見えないから ――― やだ、これ、姿勢が・・・後ろに倒れそうっ」 「もおっ。ラブ、ほら、手を出して」 せつなの右手が、差し出されたラブの左手を掴んで、引っ張り合うような形で互いの姿勢を安定させる。 少女たちが距離を縮めるにつれてモコモコと盛り上がる掛け布団の下で、結婚させたかった場所が無事にくっついた。二人がそれぞれ空いているほうの手を後ろにつき、腰を動かして密着具合を調整。 「ヌルヌル・・・してるよね?」 そう言ったラブの顔が恥ずかしさで真っ赤になる。濡れた肉の軟らかい接触 ――― せつなと何度も交わした熱いキスを思い出す。 「いい? 私の赤ちゃんが欲しいって思いながら腰を動かして。そうすれば、ちゃんと最後まで気持ちよくなれるから」 言ってから、心の中で、多分・・・と付け加えた。実際、せつな自身もよく解っていない。けれど、ラブに気持ちよくなってほしい。ラブによろこんでもらいたい。 愛し合うための蜜を分泌しすぎてベットリと汚れた処女の秘所肉が、二人の腰使いによって軟らかにこすり合わされる。すぐに甘美な痺れが湧き上がってきた。愛蜜を潤滑油代わりにして接触している部分だけではなく、その奥 ――― 少女たちの無垢な膣も。 「ん・・・ん゛っ、すごいよ、これ・・・・・・すごく気持ちいい」 赤ちゃんを求めるための腰の動きで、せつなの敏感すぎる性感帯をゆっくりと責めてゆく。結婚させた処女の部分の奥深くに『ぞくうぅぅっ!』と妖しい痺れが走る。気持ちよすぎて腰全体が溶けてしまいそうだった。 まだ繋がっている手を強く握りしめて ――― せつなもゆっくりとしたペースで腰を使う。あくまでラブの腰の振り方を受けとめて、それに合わせるように。 「ラブ、ゆっくり・・・・・・ゆっくりでいいから。んっ、そう、そのリズム」 端麗な表情(カオ)が、悩ましげな雰囲気を醸す。眉間にうっすらと刻まれたシワのせいかもしれない。まるで秘所肉の内側 ――― 濡れそぼった媚粘膜に淫らになる薬を塗りたくられたみたいに、甘美な興奮が止まらない。 「ラブと一緒に・・・・・・妊娠したい」 「うん、あたしたち、いい夫婦になれるよ」 「もうなってるみたいなものでしょ」 せつながぐいっと腰をねじりこむように動かして、さらに深く、二人の処女の部分を密着させる。愛蜜でぬかるんだ処女の秘貝のスジ同士で、くちゅくちゅと淫靡なキスを交わさせる。 「ああっ!」とカラダに電気が走ったような声をラブが上げて、一瞬、繋いだ手からチカラが抜けかけた。それでもせつなの赤ちゃんが ――― 同性同士だから無理とかそういう理屈は関係なく、ただ欲しいと心で思うままに、ギュッとせつなの手を握り直し、腰をさっきよりも強く動かす。 「ああっ、そうっ! ラブ、腰を・・・。そうっ、ん゛っ、いい・・・そのまま動かして・・・・・・」 掛け布団に視線を落としたせつなが、その下で交わる二人の下半身を想像して熱く喘いだ。 感情まかせになりつつあるラブの腰使いだが、その強引さも愛しさで包み込んでしまえば、何よりも甘美な責めとなって、せつなの秘所を快感でとろかしてしまう。 ぶるっ ――― 。 「だいじょうぶよ、ラブ、そのまま・・・来て・・・・・・。そう、いつでもいいわ。一緒に・・・・・・」 「せつなっ、せつなっ、あたし・・・もうっ・・・・・・」 「だいじょうぶ、だいじょうぶだからっ」 すっかり快感に負けて、ただ感情のままに腰を揺すってくるラブ。そんな彼女が愛しすぎて、せつなの感情の昂りも止まらない。 ぶるっ ――― ぶるっ ――― 。 ぶるるっ ――― 。 二人の裸身が一緒に何度も痙攣する。掛け布団の下で繋がった下半身は、まだお互いの処女の秘所肉をこすり合わせて激しく快感をむさぼっていた。 「ラブ、もういいわっ、ラブっ・・・、ラブッッ!」 「せつな・・・・・・あ゛あああああっ、ンッ・・・ああっ! あああ・・・・・・あああぁぁぁ・・・・・・」 生まれて初めて体験した、快感の波が腰から突き上げてくるような感覚。意識が消えてしまいそうで怖かった。 荒く呼吸を乱す二人の少女が、どちらからともなく両手を伸ばして、相手の身体を強く抱き寄せた。掛け布団の下でもまた、結婚させられた部分がくっついたまま甘美な幸せを、激しい愛の行為の余韻として味わっていた。 呼吸が少し鎮まると、ラブもせつなもお互いのキスを求めた。 くちづけのたびに甘い音を鳴らして、まるでハネムーン気分。 「ラブは・・・・・・私が、もっと硬い女だって思ってたでしょ? ふふっ、まさか私とこんな激しい事するなんて想像できた?」 笑いながら首を横に振るラブのくちびるに、愛しさをこめたキスを送ってから続ける。 「今日、ラブがくれたチョコレートと同じよ。最初は硬くても、愛情っていう舌で丁寧に舐めてやれば柔らかく溶ける。そして、その硬さに閉じ込められていた甘さが、ラブを気持ちよく酔わせる」 ――― ここでラブはようやく気付いた。 自分を見つめるせつなのまなざし。自分の心がまたざわめいてしまうのを感じた。 もっと、この身体中全部をせつなと結婚させたい。 「いいの・・・?」 「ええ。今の私は、まだラブの舌の上」 くすっ、と甘い微笑みで誘惑を仕掛ける。 「もう一度、私を美味しく食べて」 (おわり)
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/165.html
「心の居場所」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY まだ甘い匂いの漂うリビング。 今年のバレンタインデーは日曜日。桃園家では蒼乃家、山吹家合同の チョコレートパーティーが開かれた。 前日から各種デザートやチョコレート、お父さん達の為のオードブルの 準備に大忙し。 みんながそれぞれに手土産を持って集まる。 甘いお菓子に舌鼓を打ちながらお喋りが弾む。笑顔と笑い声が弾ける。 でも、みんな本当は分かってる。これはせつなのお別れパーティー。 勿論、今日明日に急に会えなくなる訳ではない。 でも、こんな風にみんな集まってワイワイガヤガヤするのは これで当分は無理だろう。 もうすぐ。春が来る前に、せつなはラビリンスに戻る。 特に誰かが言い出した訳ではない。 お泊まり会を兼ねたパジャマパーティー。庭でやったコロッケパーティー。 その時のせつなの輝く笑顔。楽し気に紅潮した頬。 わざわざお別れ会、なんて言うのは湿っぽくなりそうだから。 だから、みんなで楽しく。美味しい物を食べて。他愛ない冗談を言い合って。 一つでも沢山の笑顔の宝石がせつなの胸に溜まるように。 少しでも多く、宝物をラビリンスに持って帰れるように。 色んな料理やお菓子があるのに、せつなはチョコレートフォンデュに 張り付いてた。特に苺が気に入ったみたいだ。 まるで難しい専門書でも読むような真剣な顔で一心不乱に モグモグと口を動かすせつな。 みんなが苦笑いで見つめているのにも気付かない。 「せつなちゃん、これもどうぞ。」 「アタシのもあげる。」 「苺はぜーんぶせつなのだね!」 他の人も次々にせつなのお皿に苺を盛って行く。あっという間に山盛り。 せつなは真っ赤になってオロオロしてた。 意外に食いしん坊なとこがバレて恥ずかしいのと、純粋に 山盛り苺が嬉しいのとで。 結局、その小山のような苺をせつなは全部平らげた。 楽しかった。笑顔も幸せも溢れてた。 温かくて、くすぐったくて。あっという間に時間が過ぎる。 でも、みんなわざと気付かない振り。 時折、せつなの顔に過る寂しさの色。 まるで春の陽射しの中に、ふと吹き抜ける冬の名残のような身を切る哀しみ。 それを覆い隠すように、笑い声を被せ大袈裟にはしゃいで見せる。 そうしないと、泣いてしまうから。 午後にはお開き。みんなで後片付け。 キッチンで押し合いへし合いしながらお皿洗い。 みんなで一緒ならお手伝いだって楽しい。一時、一時が大切。 噛み締めるように、時が過ぎる。 後片付けも順調に進む。だんだん人が少なくなる。 キッチンにはもう、ラブとせつなだけ。 カチャカチャと言う、お皿を片付ける音だけが響く。 このところ、ずっとそうだ。二人きりになると、途端に沈黙に支配される。 そうしないと………。 行かないで………… 行きたくない…………… 何度も何度も話し合った。 話せば話すほど、せつなのラビリンスへの帰還は固い決定事項となっていった。 ラブには分かっていた。せつながその事を口に出す。 その時点で、せつなの中ではもう決断は揺るぎ無いものになっている事を。 結局、大切な事を一人で決めてしまう性格はそのまんま。 せつなは、そう言う子。 「わぁ!お母さん、綺麗。」 せつなの感嘆の声が上がり、そちらを見ると着飾ったあゆみの姿。 普段は薄化粧に質素な服装のあゆみが綺麗に化粧をし、 華やかなワンピースを着ている。 「うふふ、ちょっと若作りだったかしら?」 「そんな事ない。とっても素敵。」 「うんうん!お父さん惚れ直しちゃうね!」 なんだか照れちゃう。 そう少女のように頬を染めて微笑む母の可愛らしい姿に、 自然と娘達の頬も緩む。 これから圭太郎とデートなのだ。映画を見て、食事。その後は少し飲んで来るらしい。 ついさっきまで同じ家にいたのにデート気分を盛り上げる為、 わざわざ時間差で出掛けて待ち合わせすると言う念の入れようだ。 「じゃ、行ってくるわね。折角の日曜日にごめんなさいね。」 「へーきだよ!子供じゃないんだからさ。」 「うんと楽しんで来てね。」 あゆみは小さな子供にする様に、ラブとせつなの頬を撫でる。 愛しそうに、目を細め。 出掛けるもう一つの理由。ラブとせつなに二人きりの時間を与える為。 空元気のラブ。それを見て見ない振りのせつな。 まだ二人の間で…ラブの中で決着が付いてないのが分かってるから。 仕方ないと諦め、「せつながいなくなる」事実を丸飲みし、 それがつっかえて胸と喉を塞いでいる。 どうしてやる事も出来ないから。 自分で、噛み砕いて飲み下すしか無い事だから。 美希と祈里はタルトとシフォンを連れて帰ってくれた。 たぶん今日は、夜まで二人きりになれる、最後の日。 「いってらっしゃい!」 明るい声で見送る。 そして、また…沈黙。 「………ーー!」 リビングに戻ろうとするせつなを、ラブが後ろから抱き締める。 せつなは、何も言わない。ただ身を任せ、微かに震える。 ラブも、何も言えない。悪いのは、自分だから。 辛さにかまけて、せつなを傷付けたから。悲しませたから。 「ラビリンスに戻る」、せつなにそう告げられてから、ラブはせつなに 指一本、触れられなくなった。 毎日のように抱き合っていたのに。 1日に何度も交わしたキス。 飽きる事なく、数えきれない夜を溶け合ってきた。 恐かった。触れ合ってしまえば、別れが余計に辛くなる気がした。 もうこれ以上の痛みは耐えられない。 それなら、友達に戻った方がマシなんじゃないか。 ただの、一つ屋根の下に住む家族。 我慢して、距離を置いて、そうすれば傷口もいずれ乾く。 別れる頃には、きっと瘡蓋がキレイに剥がれてくれる。 傷痕が残ったって、血を流し続けるよりはきっと苦しくない。 だから…… 「ごめん…なさい………」 「………どして……?」 あからさまな拒絶に、せつなはどれ程傷付いただろう。 無為に過ぎて行く時間。 誰よりも、時を惜しんで過ごしたいのはラブとの時間だったのに。 せつなは変わらない、なんて呆れる資格なんて無かった。 自分こそ、独りよがりな哀しみに酔ってせつなを置いてけぼりにしていた。 「………ごめんなさい。」 「…謝らないで。」 せつなの手のひらが、そっとラブの手に重ねられる。 コツン、と頭を寄せ、目を閉じる。 「……あたしって、馬鹿だよね。」 「……そうね。」 「…否定してくれないんだ…?」 「だって……、馬鹿なんだもの…。」 「……うん…………」 「私が、辛くないとでも思った…?」 きゅ…と力を込める。 何も言い返せない。さすがに、怒ってる……。 そう感じてラブは居たたまれなくなる。 貴重な時間を拗ねて無駄にしてしまった後悔。 誰よりも大切なせつなを、自分のせいで悲しませた。 どうすれば、いいんだろう。 「やっぱり、分かってないでしょ?」 「……?」 「怒ってなんか…ないわ。…………悲しい、だけ。」 「………。」 「ラブを……、悲しませてる…。それが悲しいの。」 「…ーーっ!」 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 どうして、……あたしは…! 「あたし…ダメだ……ね。」 せつなの事になると、ただでさえ出来が良いとは言えない頭の働きが ますます鈍くさくなるみたい。 「仕方無いわね………。」 でも……、そんなラブが…… 「好きよ。」 じわりじわりと胸に痛みが滲みる。 擦り傷を舐めて貰うような、ヒリヒリして…少し肌が粟立つような感覚。 「許してくれる?」 「ちゃんと、してくれたらね。」 「……?」 「だって…今日は女の子が愛の告白する日なんでしょ?」 ああ、そうか。今日はバレンタインだったんだ。 「どんな風に、すればいいかな……?」 「自分で考えてよ。」 「ヤダ…。もう失敗したくないもん。」 せつなの望む通りに。何でもするから。 「……………。」 「………………。」 多分、望んでいる事は同じ。 でも…せつなから、せつなの口から言って欲しい。 我が儘かな? 散々、身勝手に振り回しておいて。 この際、最後のついで……って、おかしい? せつなに、あたしを欲しがってもらいたいって思うのは。 「何でも、言う事聞いてくれるの……?」 「お約束いたします。」 「…ラブには、もう分かってると思うんだけど?」 「……言わなきゃ聞かない。」 「何だか…結局、私が損してる気がするんだけど。」 「いいの。だって、いっつもあたしばっか欲しがってるじゃん。」 そんな事ないのに。 いや、あるのかな?欲しがる暇がなかったのかも。 いつだって、ラブから求めてくれてたから。 息をするのも忘れるくらい。 ラブに、溺れさせてくれてたから………。 「………あの、ね……」 「うん………」 「やっぱり、言わなきゃ…ダメ?」 「どー……しても、嫌ならいいけど。」 ここでダメって言ってくれたら逆らえるのに。 多分、わざとやってる訳じゃない。 ラブは、本当に嫌な事は強要しないから。 却って言う事聞かなきゃならない気になるのよね。 本当に、ラブは分かってるのかしら? どれくらい、自分が愛されてるか。 いつもいつも、欲しくて堪らないのは私の方だったのよ? 「……抱いて、欲しいの。」 「……せつなのエッチ……。」 「そうよ?知らなかったの?」 ラブが、そうさせた癖に。 「うんと……、たくさん……。」 「……うん。」 「私が……泣いても、やめないで……。」 「それが……せつなの欲しい、告白?」 「そう……。」 ラブからしか、欲しくない。 腕をほどき、向かい合う。 せつなは、恥ずかしがって俯くかと思ってた。 でも…… 真っ直ぐ、目を見てくれた。 今にも泣き出しそうな顔に、切ない微笑みを浮かべながら。 すうっ…と、胸の奥底まで届く眼差し。 どんな言葉よりも、はっきり伝えてくる。 こんなにも、愛してくれてる事を。 何度も、抱き合ったせつなの部屋。 見つめ合いながら、ゆっくりと衣服を落としていく。 露になっていく肌に指を滑らせ、生まれたままの姿で横たわる。 吐息を溶け合わせるような口づけ。 素肌を重ね、お互いの温もりを移し合う。 淡雪を融かすように、白磁の肢体に全身を馴染ませる。 唇から漏れる息が熱を帯びる。 指を、唇を、舌を、余す事なく隅々まで這わせる。 せつなの蕩けたすすり泣きにラブの細胞の一つ一つまでもが 歓喜と愛しさに戦慄く。 淡く桜色に染まり、しっとりと濡れたしどけない体。 ラブの名を呼び、重なり繋がった体を感電したかのように 跳ねさせる。 「あたし、やっとわかった。」 息も絶え絶えに、ラブにしがみ付くせつなを抱き締めながらラブが囁く。 「なんで、あんなに辛かったのか……」 「……ラ…ブ?」 「せつなが、ラビリンスに帰る…って、そう思うのがいけなかったんだ。」 潤んだ瞳で、胸を喘がせているせつなに戸惑いの色。 「せつなは、あたしのもの………」 闇色の髪を掻き上げ、額からキスを刻んでいく。 頬、首筋、鎖骨、柔らかく盛り上がった双丘。 恥じらうように色づく、頂の蕾にも。 滑らかに窪んだ腹部。それから爪先に口付け、今度はそこから膝、腿へ。 そして、快楽に打ち震える艶やかに濡れそぼった花芯へと。 ラブの唇を覚え込ませるよう、深く深く愛撫を染み込ませる。 「せつなは、帰るんじゃないよ?」 ラビリンスに、貸してあげるだけなんだから。 ほんの一時、腕の中からいなくなるだけ。 せつなの居場所はここ。 他のどこでもない。どんなに遠くに行っても帰って来るのは あたしの腕の中なんだからね。 幾度目かの絶頂に身をさざ波立たせながら、せつながクスリと笑みを溢す。 「……?……せつな?」 「…まったく、もう……」 呆れたような苦笑い。 「今頃分かったの?」 ラブの頭を胸に掻き抱きながら、せつなが諭す口調で囁く。 「当たり前じゃない。ここが、私の居場所だなんて。」 「……あたしって、やっぱりバカ?」 「そうかもね。」 お互いの温もりに体を預け、クスクスと笑い合う。 本当に馬鹿みたいだ。まるでこの世の終わりみたいな気分でいたなんて。 「それならそうと、早く言ってよ。」 「まさかそんな当たり前の事、言わなきゃ分からないなんて思わないわよ。」 「やっぱりあたしが悪いの?」 「そうよ。ホントに、馬鹿みたい……」 ぴったりと体の隙間を埋めるように身を寄せ合う。 一時の別れ、そんな台詞は気休めにしかならない事は分かってる。 それでも、言い聞かせるように囁き合う。 お互いに。自分自身に……。 あなたは私のもの。 私はあなたのもの。 「私ってモノだったの?」 「そう。頭のてっぺんから爪先まで、ぜぇんぶ。髪の毛一本まで、あたしの!」 何の意味もない睦言。 でも、繰り返し重ねる言葉は心に緩やかに凪をもたらしてくれる。 どこにいたって、あなただけのわたしだから。 「好きよ。」 「大好きだよ。」 あいしてる。 その台詞はまだ大切にとっておこう。 また、あなたの元に戻って来られるその日まで。 だから、許して下さい。 あなたの腕を、ほんの一時空にしてしまう事を。 今、ここにいる私だけが本当の私なのだから。 ラせ1-44は、後日談(R18:閲覧注意)
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1334.html
「つなぎ」のレシピ/一六◆6/pMjwqUTk 美希が涙ぐみながら切ったタマネギを、ひき肉と一緒にフライパンで炒め、塩コショウで味をととのえる。 次にラブと祈里にも手伝ってもらって、茹でたジャガイモの皮をむき、半分をマッシャーで潰して、半分を賽の目に切る。 こうして下準備が出来た材料を全てボウルに入れたら、よく混ぜ合わせて――。 初めて教わる、コロッケの作り方。あゆみの説明にひとつひとつ頷きながら調理を進めていたせつなは、そこで調理台の上のある物に目を留めて、パッと顔をほころばせた。 「コロッケにもパン粉を使うんですね。“つなぎ”って言うんだって、この前ラブに教わったわ」 それは、せつながラブから料理そのものを初めて教わったときのこと。 メニューは当然のようにラブが得意なハンバーグだったのだが、その時ラブは、ハンバーグの材料を入れたボウルの中に、牛乳で湿らせたパン粉を加えてこう言ったのだ。 「パン粉の役目はね、“つなぎ”って言うの。ひき肉とタマネギがバラバラにならないようにひとつにまとめて、ふっくら美味しくする、大切な役目なんだよ」 その言葉を思い出して、きっとこのボウルにもパン粉を入れるんだろうな、と思ったせつなだったが、あゆみは微笑みながら、ゆっくりとかぶりを振った。 「パン粉は、つなぎに使うだけとは限らないのよ、せっちゃん。コロッケでは、パン粉は衣にするの」 「ころも?」 またひとつ、聞き慣れない言葉にせつなが小首を傾げる。 「ええ。コロッケの表面の、カリカリッとした部分ね。あれを作っているのはパン粉なの。そして、パン粉と中の具材とのつなぎに使うのは~……」 そう言いながら、あゆみは楽し気な、少し芝居がかった様子で、卵と小麦粉を取り出した。 ボウルの中身を適度な大きさに丸めて、小判型に成形する。その表面に薄く小麦粉をまぶし、溶き卵を絡ませてから、それを“つなぎ”にして、しっかりとパン粉を付けていく。 そうして出来上がったものを、そろりと高温の油の中へ――。 「せっちゃんに言われて気が付いたけど、お料理って、食材のいろんな顔が見えるところも楽しいわよね」 緊張気味な表情で、しかしとても手際よくコロッケを揚げるせつなを見ながら、あゆみがそう語りかける。そして、せつながまた少し不思議そうな顔になったのを見て、きれいに揚がったコロッケを指差した。 「パン粉も、ホラ、ハンバーグとは全然違う顔になったでしょう? ある時は“つなぎ”になったり、またある時はつないでもらったり。何だか、わたしたちと一緒よね」 あゆみがもう一度ゆったりと微笑んだとき、玄関の方から大きな声が聞こえた。 「こんばんは~!」 「お父さん、お母さん!」 祈里の両親の山吹夫妻が、リビングに姿を現す。 「んふふ~、わたしが呼んだの。どうせなら大勢の方が、楽しいじゃない?」 「さっすがお母さん。分かってるぅ!」 得意げに胸を張るあゆみに、グッと親指を立てて見せてから、ラブはせつなに向かって悪戯っぽくこう囁いた。 「お母さんも、今日は“つなぎ”の役目だねっ」 せつなが少し赤い顔で、こくんと頷く。 明日はコロッケの作り方を教えてもらえる――昨日はそれが本当に楽しみで、ラビリンスに明日を奪われた時は、ただそんな明日を取り戻したくて。 それがこんなに大勢の人たちが集まる、素敵なパーティーになるなんて。 ラブのツインテールの向こうで、あゆみが山吹夫妻と笑い合っている。やがてゲストたちも一緒になって、庭の一角にテーブルと椅子を並べ始めた。人数が多くなったので、立食のガーデンパーティーにしようというのだろう。 せつなは、出来上がったコロッケをお皿に並べると、まだ少し赤い顔をして、キラキラとした瞳であゆみの横顔を見つめた。 ☆ タマネギをひき肉と一緒にフライパンで炒め、塩コショウ、そしてカレー粉で味をととのえる。 次に茹でたジャガイモの皮をむき、半分をマッシャーで潰して、半分を賽の目に切る。 こうして下準備が出来た材料と、“ある物”をボウルに入れたら、よく混ぜ合わせて――。 「せやけど、さすがにその二つを“つなぐ”っちゅうんは難しいんとちゃいまっか? コロッケの外側と中身をつなぐよりも、ハードル高いで」 少々呆れた様子で腕組みするタルトに、せつなが生真面目な顔で頷く。 「そうね。でも、私も“つなぎ”の役、やってみたいの。お母さんみたいに上手く出来なくても、人と物なら、何とかつなげられないかな、って」 そしたらいつか、人と人だって――そう小さく呟くせつなの声は耳に入らなかったのか、タルトはニヤリと笑ってせつなの顔を覗き込んだ。 「それ、ホンマに成功したら、ある意味あゆみはんより凄いでぇ、パッションはん」 「そんなこと……。でも、失敗しても大丈夫よ。普通のコロッケもちゃんと作るから。もしもラブが全然食べられなかったら、可哀想だもの」 「ハァ……キビシイんだか優しいんだか、わからんわ」 腰に手を当ててハァッとため息をつくタルトに、せつながクスリと笑う。 今日はあゆみがパートの遅番で、ラブとせつなが夕食当番。メニューはすっかりせつなの得意料理になったコロッケだ。 ラブはせつなの手伝いに回るはずだったのだが、ソースが切れていたから買って来て、とせつなに頼まれて、もう一度スーパーへ出掛けていた。 ボウルの中身を適度な大きさに丸めて、小判型に成形。その表面に薄く小麦粉をまぶし、溶き卵を絡ませてから、しっかりとパン粉を付けて――。 「よし。後は揚げるだけね」 せつながそう呟いた時。 「ただいまぁ!」 「ただいま~」 玄関から、ラブとあゆみの声が聞こえた。 「スーパーを出たところで、お母さんとばったり会っちゃってさ。ハイ、せつな。ソース買ってきたよ」 そう言って買い物袋をテーブルの上に置いたラブが、ひくひくと鼻をうごめかせる。 「この匂い……」 「何?」 内心ギクリとして振り返ったせつなに、ラブはぱぁっと輝くような笑顔を見せた。 「カレーコロッケかぁ! せつな、やるじゃん。新作食べるの、超楽しみ!」 「え、ええ……」 チクリと胸の痛みを覚えて、せつながラブから顔をそむけ、コロッケを油の中に投入し始める。 だが、続いて聞こえたラブの声に、慌てて顔を上げた。 「じゃああたしは、流しにある物、先に洗っちゃうね」 「え……ちょ、ちょっと待って!」 流しに置いてあるのは、コロッケの材料を混ぜたボウルと、タマネギやジャガイモを切ったまな板。それから、目にも鮮やかなニンジンの擦り下ろしが、わずかにくっついているおろし金――。 「ん? せつな、どうかした?」 「いや、あの……」 心底不思議そうにこちらを見つめるラブの表情に、ついに耐えられなくなったせつなが「ごめんなさい!」と口にしようとした、まさにその時。 「せっちゃん、油から目を離したら危ないわよ。もうコロッケ揚がりそうだから、ラブは先にお皿の用意してくれる?」 台所に入って来たあゆみが、二人の後ろからテキパキと指図をした。 「はぁい」 ラブが素直に食器棚へと向かう。それを見届けてから、あゆみは流しにチラリと目をやって、パチリとせつなにウィンクして見せた。 「お母さん、どうして……?」 今日の秘密の計画――コロッケにニンジンの擦り下ろしを混ぜて、匂いを消すためにカレーコロッケにしてラブに食べてもらおう、という計画は、あゆみにも言っていなかったはず。それなのに……。 ポカンとこちらを見つめるせつなに、あゆみがニコリと笑いかける。 「せっちゃんのあんな困った顔を見たら、何かあるな、って思うじゃない? そう思ったら、わたしだってせっちゃんの応援したいもの。上手く行って、良かったわ」 そう言って、あゆみはせつなの耳元に口を寄せた。 「きっと、せっちゃんの作戦も上手く行くわよ」 囁くと同時にせつなの傍を離れ、何でもないような顔でテーブルの準備を始めるあゆみ。でもその“何でもないような”素振りが、いかにもわざとらしくて、そして嬉しそうで――。 思わずクスリと笑ってから、せつなは心の中で呟く。 (やっぱり、お母さんには敵わないわ……) 「ただいまぁ。おーっ! いい匂いだなぁ」 折良く帰って来た圭太郎が、リビングに入るや否や、歓声を上げる。 「お帰りなさい、お父さん」 せつなはラブと元気に声を揃えてから、きれいなキツネ色に揚がったコロッケの油を切って、慎重な手つきで盛り付けを始めた。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/517.html
ポッキーゲーム/一六◆6/pMjwqUTk 「ねえねえ。トランプ終わったら、今日は変わったものでゲームしようよ!」 パジャマパーティーで集まった四人が、ラブの部屋で賑やかにババ抜きをしていたとき。ラブが赤い箱を右手に持って軽く振りながら、満面の笑みで言った。 「ちょっとラブ~。アタシたちでポッキーゲームやろうって言うんじゃ……」 「ピンポ~ン! 学校で、由美に教えてもらったんだ。美希たんは知ってたんだね。面白そうだから、やってみようよ!」 ひと目で展開を察して軽く止めようとした美希は、ラブの無邪気すぎる答えを聞いて絶句した。 周りを見れば、祈里は何だか赤い顔をして下を向いているし、せつなに至っては、不思議そうな顔でラブとポッキーの箱を見比べている。 (全く……。それなら言い出しっぺにやってもらおうじゃないの) 密かにそう思った美希だったが、次に聞こえてきたラブの声に、再び息を呑んだ。 「じゃあさ、美希たん。やり方知ってるんなら、最初にあたしたちでお手本見せてあげようよ!」 「な、ななな何言ってんのよ!!」 思わずそう叫んでしまってから、ハッとする。おそるおそる辺りを伺うと、ぽかんとしたラブとせつなと、やっぱり赤い顔をして下を向いている祈里……。 「ほ、ほら、ラブとアタシのゲームが同じかどうかわからないし、ルールが違ったりするかもしれないでしょ? だから、まずはラブがやってるところを見せて貰うわ」 「そぉお? じゃあ、せつな、やってみよっか」 「わかったわ、ラブ」 せつなが何の疑いも無く立ち上がる。そしてラブの説明を聞いて、素直にポッキーの端をくわえた。 「いい? 先に口を離した方が負けだからね」 そう言って、ラブも反対側の端を口に含む。すっかり諦めた美希が、よういドン!と号令をかけた。 ラブとせつなが、両端からポッキーを食べ進む。せつなは黙々とポッキーをかじりながら、心の中で首をかしげた。 (これ……最後まで食べ進んだら、ラブとぶつかっちゃうと思うんだけど。そしたら、勝ち負けはどうなるのかしら) 不思議に思いながら、目の前にあるラブの顔を見て、思わずドキリとする。 当然だけど、顔の全体が視界に収まりきれないほどに、ラブの顔が間近にあったから。 そして、子供みたいにもぐもぐと口を動かしてポッキーをかじっているラブの顔が、あまりにも……あまりにも可愛かったから。 (あ、いけない!) ラブの顔に見とれて、思わずせつなの口からポッキーが離れる。が、それに気付いた瞬間、せつなは右手の人差し指で素早くポッキーを押さえて再び口に咥えると、何食わぬ顔で指を離した。 その間、わずか0.2秒。しかし、この上なく至近距離にいるラブは、そんなわずかな動きも見逃さない。 「やったー! あたしの勝ち!」 ラブが大喜びでそう叫ぶと、美希が冷静な声で言った。 「ハイ、ラブの負けね」 「え~、なんで!?」 「だって、ラブの方が先に口を離したじゃない。ほら、見なさいよ」 言われて目をやると、せつなは短くなったポッキーを口にくわえたまま、上気した顔で、きょとんとこちらを眺めている。 「ええ~! せつな、口離さなかった? おっかしいなぁ。あたしの見間違えかなぁ」 頻りと首を傾げるラブの目の前で、せつなはまだ赤い頬のまま、もそもそとポッキーの残りを平らげた。 その夜。 恒例の枕投げをして、みんなで晩ご飯を作って食べて片付けて、お風呂……は緊急事態により残念なことになったけど、とにかくみんなでもう一度、ラブの部屋に集まったとき。 クローゼットの中から、ラブを呼ぶ声。現れたのは、ラブが小さい頃大切にしていた、ぬいぐるみのウサぴょんだった。 「私はずっとこのクローゼットの中で、ラブたちの話を聞いてたの。だから、みんなのことは何でも知ってる。勿論、さっきポッキーゲームでせつながズルしたってことも」 ウサぴょん……恐ろしいウサギ! ~おわり~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/506.html
Witness ~目撃者~/一六◆6/pMjwqUTk 悲しみと喜び。絶望と希望。苦悩と癒し。不幸と幸せ。 それらは単に、相反するものではない。 苦悩が幸せの始まりになったり、悲しみをきっかけに希望が訪れたりすることもある。 それに気付けた今だから、私は語ることが出来たんだろう。 かつては思い出したくもないと思っていた、私の過ちの記憶。 でも実は、大切な絆へと繋がっていた、私たちの始まりの記憶を。 Witness ~目撃者~ あの最終決戦から、早いもので1年半の年月が流れた。四ツ葉町のところどころに残っていたラビリンス襲撃の跡も、今ではかなり修復され、目立たなくなっている。 夏休み真っ盛りの四ツ葉町公園。じりじりと照りつける太陽に負けず、セミたちがその短い生を、これでもかと響かせる。 「はーい美希たん、お待たせ!カオルちゃんのドーナツ、久しぶりでしょ~!」 「ラブ、いくらなんでも買い過ぎよ!いったい何人で食べる気なのよっ!」 「ラブちゃん、昔っから、嬉しいと見境なくなっちゃうのよね。」 「見境がないのは、ドーナツのことだからじゃない?」 ラブたち4人は、久しぶりにドーナツカフェに集まっていた。本格的にモデルの仕事を始めた美希の休みと、年に数回、桃園家に戻ってくるせつなの予定がやっと合ったのだ。そうでなくても、ラブたちももう高校生。最近は、ミユキの後押しで少しずつダンサーとしての活動を始めたラブも、進学校で勉強に忙しい祈里も、以前のように頻繁に会うことは出来なくなっていた。それでも・・・。 「美希、ラブから聞いたわよ。このところ、海外ロケで忙しいんですって?」 「うーん、忙しいってほどでもないんだけどね。今度、10代のモデル数人で写真集を出す企画があって、それに運よく選ばれたもんだから。」 「凄いじゃない。一歩一歩、夢に近づいているのね。」 「あたし、たっくさん買って、クローバータウンストリートのみんなに配りまくるんだ~。だから美希たん、サインよろしくねっ!」 「たくさんって言っても、ラブの100円玉貯金じゃ、アテにならないでしょ?」 相変わらず全力ではしゃぐラブ。そんな彼女を呆れた口調でたしなめながら、嬉しそうに笑っているせつな。少し赤く染まった頬を隠すように、澄ました顔でストローをくわえる美希。 久しぶりに会ったのに、少しも変わらない仲間たち。その様子をニコニコと眺めていた祈里が、ほぅっと小さくため息をついた。 「美希ちゃんは凄いなぁ。」 「何よ、ブッキー。どうしたの?」 「だって、モデルさんのお仕事って、いろんな人と、いろんなところへ行かなくちゃならないでしょ?初めて会った人と、何日も一緒に過ごしたりもするんでしょ?わたしには、絶対に無理。」 祈里は、ポツポツと話し始める。 獣医になりたい彼女は、そのためにどの大学を目指すか、既に考え始めている。今のところ、彼女の理想に最も合った環境にあると思えるのが、父の母校でもある地方国立の獣医学部だ。 広々とした敷地。伸び伸びと暮らす、様々な種類の動物たち。そんな環境で勉強出来たら、どんなに楽しいだろう。 「でも・・・」 祈里の顔は、そこで俯いてしまう。 でも、その大学に通うには、住み慣れた家を離れなければならない。生まれ育った四ツ葉町を離れ、両親や、ラブたち気心の知れた友人たちとも離れることになる。 独り暮らしに憧れる友人は、祈里の周りにも結構多い。でも、彼女は怖かった。誰も知らない土地で、一から新しい友達を作り、暮らしていかなくてはならないことが。 そんなことを言ったら、夢を真摯に追いかけている仲間たちに、笑われるかもしれない。でも・・・。 (わたし・・・自信ないよぉ。) しばらく気にしていなかった、引っ込み思案の自分が前面に出て来ているのを、祈里は感じていた。 「大丈夫だよ、ブッキー。ブッキーは優しいから、誰とでもすぐ仲良しになれるって。」 ラブがすぐに祈里の気持ちを察して、明るく声をかける。 「まだ先の話なんだから、ゆっくり考えればいいじゃない。でもね、ブッキー。」 そう言って、美希がいたずらっぽくウィンクをする。 「人間だって、立派な動物よ?そう考えれば、ブッキーの得意分野でしょ?」 「そうだよね、美希たん!えーっと、えーっと、ホモ・・・ホモ・サスペンス!」 「どこのホラー映画よ、ラブ・・・。それを言うなら、ホモ・サピエンスでしょっ!」 幼馴染のいつもの掛け合いに、ようやく祈里の頬も緩む。 「ありがとう。ラブちゃん、美希ちゃん。わたし、やっぱり弱虫よね。プリキュアになって、ダンスを始めて、自分が少しずつでも変わっていけたって、そう思ってた。でも、プリキュアじゃなくなったら、元の弱虫のわたしに戻っちゃったのかな。もっと強くならなくちゃ、ダメね。」 そう言って弱々しく笑う彼女に、すぐ隣りから、少し低くて優しい声がかかった。 「ブッキーは弱虫なんかじゃないわ。それどころか、とっても勇気のある女の子よ。プリキュアになる前からね。」 (・・・え?) ラブが、美希が、そして当の祈里が目を丸くしたのは、そう言ったのが誰あろう、せつなだったから。 せつなと初めて会ったとき、美希も祈里も、もうプリキュアだった。そしてそのことを、勿論せつなも知っている。 (それなのに・・・何故?) 「あーっ、わかった!せつな、あのときだねっ?」 口を開こうとしたせつなを遮ったのは、ラブの大声。得意満面なその顔を見て、せつなはニッコリと微笑む。そして少し目を伏せながら、静かに祈里に語りかける。 「ブッキー。あなたはまだ自分がプリキュアになるなんて知らないときに、ナケワメーケになったラッキーに、駆け寄ってきたでしょう?」 「・・・あ。」 祈里の脳裏に甦る光景。 河原で暴れまわるラッキーに挑むピーチとベリー。そして・・・あの時、橋の上からこちらを見下ろしていたのは・・・かつてのせつなの姿である、ラビリンスの幹部・イース。 「私、あの時ほど驚いたことは無かったわ。だって、ごく普通の女の子が、いきなりナケワメーケに駆け寄ってきて、しかも説得し始めたんですもの。暴れちゃダメ、私にはわかる、助けて欲しいんでしょう?って・・・。一瞬、コントロールも忘れちゃったわよ。」 でも、そのすぐ後に危険な目に遭わせちゃったわね。せつなの心から申し訳なさそうな口調に、笑ってかぶりを振る祈里。そう、あの直後にナケワメーケに襲われて、キルンが祈里の携帯に飛び込み、彼女はキュアパインとして覚醒したのだ。 「ナケワメーケを説得したのって、おそらく後にも先にも、ブッキーだけだと思うわ。あんな勇気が出せるんだもの。ブッキーは絶対に、弱虫なんかじゃない。プリキュアにならなくても、最初からね。」 だから、自信を持って。そう言って、まっすぐに自分を見つめるせつなに、祈里は目を潤ませる。 イースだった頃のことを、せつなは今まで、滅多に語ることはなかった。それは、せつなにとっては罪の記憶。思い出すだけで痛みを伴う、せつなの心の傷だったから。それがわかっているから、祈里たちも、彼女にその頃のことを尋ねたりはしなかった。でも今、彼女は自分を励ますために、自らあの時のことを語ってくれたのだ。 そして祈里も思い出す。自分を信じよう、そう心に誓って河原を駆け戻ってきた、あの時の気持ちを。キュアパイン誕生のきっかけとなった、あの決意を。 だから彼女は、今日一番の笑顔を、傍らに座る親友に返した。 「ありがとう!せつなちゃん。」 祈里の言葉に、くすぐったそうに笑うせつなを見ながら、美希は不思議な気持ちになる。かつて、あのイースだったとはとても思えないような、彼女の優しい眼差し。でもその口から語られたのは、紛れもないイースの記憶で・・・。イースの中に、確かにせつなが居たことを、美希は改めて実感する。 そして、心から嬉しく思う。イースだった頃の自分のことを、こんなに穏やかに語れるほど、彼女が自分を許せるようになったということを。 勿論、そんなことを口に出して言える美希ではない。だから、口から出た言葉は。 「へ~え。せつな、そんなに驚いてたんだ。」 「え、ええ。」 「そうは見えなかったわよ、あの時は。」 美希の大きな瞳に覗きこまれて、せつなの頬が一瞬で真っ赤になる。が、そこはせつなも負けてはいない。 「ホントに見てたの?ベリーもピーチも、ただ唖然として、ブッキーだけを見つめてるように見えたけど。」 「そ、そりゃあ仕方ないじゃない!まさか、あんなタイミングでブッキーが来るなんて思わな・・・あ。」 「ぷっ」 「うふふ」 「あははは」 「もうっ!・・・ふふふっ」 四ツ葉町公園に、クローバーの笑い声が響いた。 その夜。 桃園家のベランダに立ち、せつなは空を見上げていた。昼間の暑さは和らぎ、今は心地よい夜風が髪を揺らしている。中天には、少しぼやけた満月。ラビリンスでは見ることのできない月が、明るく夜空を照らしている。 (ヘンね・・・。) 昼間のことを思い出しながら、せつなは心の中でつぶやく。 最近になってやっと、イースだった頃の自分とも、きちんと向き合えるようになってきた。だからあの時のことも、語ることが出来たんだろう。 生まれ変わって、何も知らない世界に放り込まれたせつなには、祈里の不安は痛いほどわかった。でも、その不安を乗り越えた先にあるものの、素晴らしさを知っているから・・・そして、それを教えてくれた1人は紛れもなく彼女だから、祈里を勇気付けたかった。祈里に、自分が知っている彼女の勇気を、思い出してほしかった。 だから、気後れする心を押さえて、敢えてあの時の話をしたのだけれど。 (まさか、あんな気持ちになるなんて・・・。) フッと小さく微笑んだとき、隣りの部屋のガラス戸が、カラリと開いた。 「あ、せつな。やっぱりここに居た。」 せつなの隣りにやってきたラブは、ベランダの手摺りにもたれ、輝くような笑顔を見せる。 「ブッキー、きっと、すっごく嬉しかったと思うよ、せつなの話。」 「そうかしら。」 「うん!あたしも、あの時のせつなの気持ちが聞けて、嬉しかった。きっと、美希たんもそうだと思うよ。」 「そんなこと言われたら、恥ずかしいわ。」 せつなは顔を赤らめる。そして少しの沈黙の後で、 「でも、私も嬉しかったわ。」 ポツリとつぶやいた。 「ねぇ、ラブ。以前、私に言ってくれたわよね。辛い思いは、いつか喜びに変えられる、って。ホントね。」 そう言って、せつなは一番の親友に笑いかける。 「私ね。ブッキーにあの時の話をしようって決めたとき、話すのが少し怖かったの。話すのが・・・もっと辛いだろうと思ってた。だって、あの時も私は沢山の人たちを酷い目に遭わせたし、そのことを、今でもはっきりと覚えているから。確かに、胸の痛みはあったわ。でも・・・なんだか不思議なんだけど、話してて、とても・・・懐かしかった。」 せつなの目が少し潤んでいるのに、ラブは気付く。 「私、思い出なんて、イースだった頃の自分には無いって、そう思ってた。生まれ変わって、この町に来て、お父さんやお母さんと出会って、ラブたちと一緒に過ごしてからの時間が、私の大切な時間の全てだと思ってた。でも、違ったのね。」 ラッキーに語りかける祈里の、胸の前でギュッと握られた両手。ピーチとベリーの、完全にシンクロした華麗な動き。突如現れた黄色い閃光。戦士と呼ぶにはあまりにも可憐な、でもその瞳に強い輝きを宿した、パインの姿・・・。 あの時は、忌々しく思っていたはずだ。それなのに、今鮮明に思い出される景色はとても愛おしく、温かく胸の中に映し出され、喉元までこみ上げて来て、少しだけ苦しい。 これは、懐かしさ。私は、イースだったあの時の情景にも、懐かしさを覚えている。きっとそれは、大切な仲間になった彼女たちの姿が、そこにあるから。大切な仲間たちの、始まりの記憶。いや、様々な困難を乗り越えて絆を育んだ、私たちの始まりの記憶だから。それに気付いて、自分はなんて幸せなのだろうと、せつなは思った。 「ね、ラブ。」 「ん?」 「やっぱり、ラブが最初に気が付いたわね。私が、何の話をしようとしているか。」 「ああ、そのこと。だって、せつながプリキュアになる前のブッキーに会ったのって、あのときしかないよなーって。そりゃ、あたしが知らないところで会ってたのかも、とも思ったけどさ。でも、それなら今まで話が出なかったのがおかしいし。」 「ありがと。ラブはいつだって、私のこと、全部信じてくれてるのよね。」 「えへへ・・・」 良かった、と思いながら、ラブは笑う。 イースだった頃のせつなも、せつなはせつな。ラブはずっと、そう言い続けてきた。本当に、そう思っているから。だからこそ、ラブにはすぐにわかったのだ。せつなが、祈里にあの時の話をしようとしているのが。 せつなが過去の自分を、イースだった頃の自分を、全て否定するのは嫌だった。過去の自分を否定しているのに、その罪だけを自分の罪として、苦しんでいるのを見るのは辛かった。だって、あの頃のせつなも精一杯生きていたことを、ラブは知っているから。 だから、せつながあの時のことを懐かしいと思えたことが、ラブにはとても嬉しくて・・・その嬉しさが、今まで訊きたくて訊けなかった、「あの時」のことを尋ねさせた。 「ねぇ、せつな。ひとつ訊いてもいい?」 「何?」 「あのさ。美希たんが初めてキュアベリーになったときも、せつなはあの場に居たよね?」 「ええ、居たわ。」 「じゃあさ。・・・あたしが、初めてキュアピーチになったときも、せつなは側に居てくれたの?」 「え?」 「あ、いやー、確かにあの後、しゃべった記憶は何となくあるんだけどさ。ほら、あの時は、そのー、半分ピルンに操られてるみたいだったっていうか、自分が自分じゃないみたいだったっていうか・・・。だから、正直、一体どういう状況だったんだか、よくわからなくてさ。美希たんがベリーになったときも、ブッキーがパインになったときも、あたしは割と側にいたけど、あたしのときは2人とも居なかったから、ちょっと寂しかったっていうか・・・。あの時はどうだったんだろうって、思ったりしてさ。」 わざとせつなの方を見ず、少し上気した顔で、月を眺めて一気にしゃべるラブ。その横顔がなんだか幼く見えて、せつなは思わずクスッと笑ってしまう。 「ラブったら、何照れてんのよ。」 「いっ!照れてなんか・・・」 「居たわよ、私は。ちゃんと見てたわ。」 「ホント?」 「私も、あの時が初めてだったんだけどね、ナケワメーケを呼び出したのは。ラブが、スタンドマイクを持ってナケワメーケに向かって行ったとき、ああ、やっぱりこの子が現れたな、って思った。」 「え!?なんで?」 「あの前日だったかしら。占い館で初めて会ったでしょ?私たち。あの時に、なんか予感があったのよね。この子と私は、長い付き合いになりそうだな、って。」 意味が全然違うけど、実際そうなったわよね。そう呟きながら、今度はせつなが月を見上げる。 「スモークの中から、ピーチが現れたときにね。正直言って、なんて綺麗な戦士なんだろう、って思ったわ。格好だけじゃなくて、戦ってる姿がとても綺麗で、途中から、これは戦いなんだろうか?って思ったの。ヘンな言い方だけど、なんだか、ナケワメーケが喜んでピーチに倒されたみたいに見えて、凄く不思議だった。」 今のせつなには、その不思議さのわけがわかる。 荒ぶる力を、受け止め、鎮め、そして癒す。相手を倒すのではなく、あるべき姿へと浄化する。それが、プリキュアの戦いのプロセス。大切なものを守る力。その力に、かつて彼女も救われ、やがて自らその力を受け入れて、他者へと向けられる存在になった。そう、今隣りで微笑む、友のお陰で。 「えへへ・・・せつなぁ、照れるよぉ!」 いきなり横から抱きついてきたラブを、せつなは辛うじて受け止める。 「ちょっと、何よラブ、いきなり。」 「ゴメンゴメン。でもさ。」 ラブはせつなに抱きついたまま、目を輝かせて言う。 「せつな、気付いてた?あたしたち、プリキュア4人全員の誕生に、居合わせたんだよ。みんなの大事な瞬間を、ちゃんとこの目で見られた。それってさ、凄く、幸せなことだと思わない?」 「そうね。そう思う、ホントに。」 今また新たに湧き上がる、不思議な懐かしさを快く思いながら、せつなは頷く。 プリキュアのリーダー・キュアピーチと、ラビリンスの幹部・イース。敵対する立場で、同じ光景を見ていた2人。でも今2人の胸に去来する景色は、きっと同じ温かさを伴ったもの。そう思える自分が、とても嬉しい。 「あたしさ。今日、せつなとブッキーを見ていて、思ったんだ。」 ラブは、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「思い出は過去のものだけど、それを大事に覚えていれば、誰かが悩んだり、迷ったりしたとき、その思い出の中にある大事な気持ちを、伝えることが出来るんだな、って。 だから、今までの思い出も、これから作る思い出も、大切に、大切にしていこうって。」 「そうね。私も、大切にしていきたい。」 自分もまた、仲間たちに、本当の気持ちに気付かせてもらったことがあった。 美希が皆を叱咤し、祈里が励まし、ラブが笑顔で語りかけるのを、何度も見てきた。 そして、それはきっと、これからも変わらない。 「あれ?せつな。顔、真っ赤だよ?」 「・・・。」 「ひょっとして、照れてる?」 「・・・自分だって、照れてたくせに!」 「え?そうだっけ?」 「もう知らないっ!ラブなんか。」 「えーっ!ちょっと、せつなぁ!」 これから先、私たちひとりひとりが、必ず出会っていくもの。 不安や戸惑い。悲しみや、苦悩。 それらを一緒に、受け止める。癒すことなんて、出来ないかもしれない。 でも、親友のあるべき姿、本来の輝きを、ほら、ここにあるよと差し出すことはできる。 愛を、希望を、祈りを込めて。心から、幸せを願って。 きっとそれが、これからも続いていく、私たち4人の絆。 それぞれの道を歩んでいても、私たちはいつも、これからも。 互いが互いの、目撃者。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/522.html
Eas to Eas 第3章 受け継がれる宿命 「せつな! どうしたの!?」 あの時の自分達が頭を過り、飛んで駆け寄ると、せつながすっくと立ち上がり、 「お帰り、ラブ!今日はカレーよ。ニンジンもしっかり食べて貰うわよ」 「え? は、はい……って、せつな、今倒れていたんじゃ……?」 「気のせいよ。 ちょっと帰るのが遅くなったけど、今日のカレーは私が作るわ。手伝ってね」 家に入るとせつなはいつもように素早く着替え、夕御飯のカレー作りに取りかかった。 「あたしが見たのは何だったんだろう?」 疑念の残るラブであったが、普段と変わらぬキビキビしたせつなの動きを見るにつれ、 先ずはカレーへのニンジン投入を阻止するのが先決と考えた。 「せつなー!ニンジンは勘弁してー」 「だーめ、今日はちゃんと食べて貰うわ」 「そんなぁ……」 * 時を同じくして、撤退後暫くは人目のつかぬ場所にて倒れていたイースも立ち上がった。 ナキサケーベのカードにより体中に巡らされた触手の棘による傷口はすべて塞がっていた。痛みはまだ残っていたものの、今のイースにいつまでも倒れ伏していることは許されないことであった。 「カードはあともう一度だけか……あの時もう少しであいつの息の根を止めることが出来た。これが完全体でない弱さか……」 いくらでも替わりのいるとはされていたが、ラビリンス国民すべてがイースになれるというわけではなかった。 それは痛みに耐え、ダメージをあとに引きずらない強さをもつこと。 インフィニティ争奪のための戦いに要求されるのはスピード。 もし他者に先を越されて確保されては元も子もない。 そこでダメージを負っても直ぐに戦線復帰出来る回復力が要求された。 こればかりは与えることができるものではなく、かつてのせつなも今のイースも これらが所要の水準にあることにより、戦士の受け皿たりえたのである。 「あと一枚……これで必ずあいつを倒す……でないと私は……」 戻る場所のないイースは与えられた記憶を頼りに、夜営の準備を進めた。 この時期寒さはないものの、明かり替わりの火に集まる虫は多く、それはラビリンスに育ったイースにとっては見慣れぬものであった。 「この世界には小さな生き物が多いものだな……」 中には炎に飛び込んでいく虫がいる。 「炎に飛び込んでいけば命を落とすだろうに……どして?」 その様子をクラインは本国でモニタリングしていた。 「カードは残り一つ。早く使ってゲージを貯めていただきます。 管理できなくなりつつある貴女をメビウス様はもうお見切りです……」 * 「せっちゃーん、もうお風呂に入っちゃってー」 「ええ、ありがとうございます。おばさま」 桃園家で暮らすようになって以来、せつなはラブ達に入浴時等で裸体を見られるのを 固く拒んでいた。 ラブが一度風呂に入るのを覗きかけた時には、せつなは激怒し、その晩は一言も 口をきかなかったことがあった。 それに痛く堪えたラブは以降あえて覗こうとはしなかった。 とは言え、今日台所にいるときに一瞬だけ見せた苦痛の表情をラブは見逃してはいなかった。 「せつなの身にきっと何かがあったんだ」 脱衣場をちらりと覗き見ると、身体中傷だらけのせつながいた。 たまらずラブは脱衣場に飛び込んだ。 「せつな、その傷どうしたの!? 大変だよ、お母さー……」 あわてて母親を呼ぼうとするのを、せつなは止めた。その目は怒りのものではなく、哀願であった。 「やめて、ラブ。この事はおばさまには言わないで!」 「そんな!ひどい傷じゃない!?」 「お願い!」 「でも……うん、後で本当のこと話してね」 「……わかったわ」 「ラブー、せっちゃーん、どうしたのー?」 何も知らないあゆみが声をかける。 「せつな、ゴキブリでもみたのかな?」 ラブはあくまでとぼける。 「おかしいわねえ、最近はゴキブリなんて出ないようにちゃんと掃除してるんだけどねえ」 「さあ、なんだったんだろうねえ……」 その夜、真実を訊くためラブはせつなの部屋に向かった。 シフォンのことはタルトに見ておいてくれることを頼んでいた。 「今夜はシフォンをお願い、タルト!」 「しようがおまへんなあ……ピーチはん、パッションはんと何かあんのん?」 「女の子なんだからいろいろあるの!」 「せつな、入るね」 部屋は整然としており、机や家具も丁寧に遣われていることが感じられた一方で、せつなの色にまだ染まりきっていない部屋の雰囲気を感じた。 「ラブ、さっきはごめんなさい」 「せつな、本当のことを言ってくれるって約束だったよね。あの傷は何?」 せつなはやおらパジャマを脱ぎ始めた。 同性の目から見ても眩しく映る白く美しい裸体には…… 「えっ!?」 せつなの身体中にあったはずの傷はもうなかった。その代わりに傷の治った跡が無数にあった。 「さっきあたしが見た傷は?」 「私の傷の回復力は、この世界の人間のものとは違うの」 「せつなはもうイースじゃない、よね?」 「キュアパッションとして生まれ変わってからは、少し傷が治るのが遅くなったわ」 せつなの身体に見入っていたラブをせつなは再び服を着ながらたしなめた。 「ラブ、そんなに私の身体を見ないで……」 「ごめん…… 傷が治っても傷跡は消えないんだ…… だから、あたし達に見られることを 嫌がっていたんだね」 「こんな身体を知られることで、おばさまにも皆にも懼れられることが怖かったの……」 せつなの着替えは普段から素早く、普通の人がその裸体を見ることなどは不可能であったが、入浴時にはさすがに長く裸でいなければならない。そうなると、傷跡だらけの身体を見られることになる。ダンス合宿のときも、せつなはみんなと浴場に行くのを固辞し、自身は素早くシャワーを浴びただけであった。 「せつな、だいじょうぶだよ。正直驚くかもしれないけど、せつなのこと受け入れてくれることには変わりないよ。それにしてもあの傷…… まさか、今日せつな一人で戦ったの? 何で?」 「私は皆を巻き込みたくなかった。私だけを付け狙うあの子との戦いには……」 「どんなことがあってもあたし達は仲間なんだよ? 一人で背負うことはないんだよ?」 「そうね…… 一人じゃなかった…… イースを背負うこともね」 「え?イースは昔のせつなのことじゃないの?」 「イースはね、戦いの中で命が尽きるたびに交換されてきたの……」 「どういうこと?」 「メビウスは傷の回復力の早い国民を選んで、能力と……心も植えつけてきたの。 私もかつてそうしてイースになった。そして、あの子も……」 「あの子もせつなと同じようになるということ?」 「あの子は今日ナキサケーベを使ったの。あと一回使うことになったらその時は……」 ラブには疑問があった。プリキュアの防御力というのは半端なものではなく、例え敵に叩きつけられたりなどしたときに痛みを受けることはあっても、生身の身体に傷がつくことは防いでくれるようになっている。だからこそ傷が職業生命に響くことになるモデルの美希も懸念なく戦えるのである。 「プリキュアに変身して戦っていたのに、あの傷は何?」 「ナキサケーベを倒すためにはああするしかなかったの」 せつなは、ある意味プリキュアとしての「禁じ手」を使った。 ナキサケーベに反撃を試みた時に自らの防御力を封印し、すべてを攻撃に割り振ったのであった。 無論ナキサケーベもキュアパッションの反撃をただ甘んじて受けているわけではない。捨て身のパッションハープ弾を放っている間も反撃を続け、いわば丸裸同然のせつなの身体にダメージを刻みつけていたのである。 「私はイースの宿命を止めてみせる。あの子が、イースが罪を重ねることは許さない。命に代えてでも……」 ラブはせつなを抱き締めた。 「そんなことしなくていいんだよ。プリキュアの戦いは罪滅ぼしじゃない。 大切な人たちを……そして自分を守る。ただそれだけでいいんだよ。 もしもせつながそれを許せないなら、あたしが全てをかけてせつなを守ってあげるから」 「ラブ……」 「それがイースの宿命というなら皆で止めるよ。せつなにはせつなの明日があるように、 その子の明日のためにも」 もし今度あの子が出撃すれば、最後のカードを使うに違いない。プリキュアはナキサケーベに負けるわけにはいかない。そしてナキサケーベを退けたときには、あの子にもクラインの手紙が来る。 「ラブのその目、あの時と同じね」 「へっ?何が?」 「『プリキュアもダンスも両方とも…… それ以上手に入れて見せるよ!!』って言ったでしょ?あの頃は、言うに事欠いて何無茶苦茶なことを……と思ってた。でも今なら、ラブが言うのだからそうなんだって思えてきたの」 「はは、そうだね……」 「今夜は一緒に……いてくれる?」 「うん」 * その頃、タルトは 「ふあ~あ。ピーチはん、遅いなあ……まあ、シフォンよお寝てるからええけど、 久しぶりにゲームしてこましたろ」 Eas to Eas 第4章 変化の始まりへ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/57.html
始まりは嵐の夜に(後編) 風がビリビリとガラスを震わせ、大粒の雨が忙しなく窓を叩く。 耳の奥でごうごうと響く海鳴り。 何故こんなに耳元で大きく響くのか、とぼんやり考えるせつなはふと気が付いた。 これは海鳴りではなく、二人の体を流れる血潮の音なのだ、と。 「あぁぁ…っ、ラブ、ラブっ…!!」 「ごめん。ごめんね、せつな…」 閉じた幼い肉体を無理やり抉じ開けられ、その中を食い荒らされる。 熱く、柔らかく、蕩けるような甘い苦痛と、逃げたしたくなるような鋭く突き刺さる快楽。 痛み、快感、未知の刺激に押し流されまいとせつなは必死にラブにしがみ付く。 目も頭も使い物にならないほど霞んでいた。 それでも手探りでお互いの滑らかな肢体をまさぐり続ける。 柔らかく乳房が潰れ合い、興奮に充血した蕾への快感に、 どちらからとも付かない甘い悲鳴が上がる。 「あっ、あっ、あっ、あっ、やっ…ラブっ!離れないで……」 「待ってね…せつな、すぐだから……」 重ね合っていた肌を離され、せつなはラブに縋り付く。 体を起こしたラブはより深く感じ合う為にお互いの一番奥を絡みつかせて来た。 ぬるり、と舐め合うような感触に裸身の全てが総毛立つ。 繋がった場所を軽く前後させただけでガクガクと腰が砕けそうだった。 「ーーーーッッ!……んぅ…はっ、あん…っ」 身を捩り、悶えるせつなを押さえ込み、ラブはゆるゆると腰を使う。 現実味が無いほど整った、人形のように端正なせつなの顔。 今は涙に歪み、時折惚けたような表情さえ見せている。 爛れた愛欲には無縁だった清らかな体にはラブの欲望の残滓が淫らな模様を描いている。 初めて知る感覚。快感と呼ぶには激し過ぎ、苦痛と呼ぶには甘過ぎる。 見えない力で腰の奥から揺さぶられるような浮遊感。 まるで体がゆるく固めたゼリーになってしまったようだった。 達する。と言う言葉も知らぬまま、せつなの意識は何度も火花を散らし、 その明かりが消える間もなく新たな火種がくべられてゆく。 やがてその光はだんだん大きくなり、せつなも、ラブも部屋全体まで飲み込むほどに膨れ上がる。 目の眩むような熱と目映さに呼吸すら忘れそうになり。 そして、それは弾け、砕け散りながら暗闇に吸い込まれてゆく。 苦痛さえ甘美な嵐の中、せつなの意識は幾度となく波間へ投げ出され、 やがて温かな水底へ沈み込んで行った。 しとしとと密やかに囁く雨音の中でせつなは目を覚ました。 唸るような風は成りを潜め、時折サワサワと静かに濡れた木々を揺らしている。 ふと心細さを感じ、せつなは自分を抱き締める。 傍らで温もりを分け合っていたはずの半身はどこへ行ったのだろう。 一糸纏わぬ姿で眠ったはずなのに、今は余り肌触りが良いとは言えない パジャマの上だけを身につけていた。 (……ラブ…どこ…?) 不安に胸が締め付けられる。 ベッドにはまだ二人分の体温が残っている。 一人切りの寝覚めがこんなにも居心地が悪いなんて思った事はなかった。 まるで、夕べの事はすべて夢。そう言われているようで。 「あっ、せつなぁ、起きたの?」 不安と心細さに泣きたくなっていたところへラブがひょっこり顔を覗かせた。 屈託のない晴れやかな笑顔。歌うように弾む朗らかな声。 いつものラブだ。 躊躇いがちに掠れた声でもなく。 嵐を飲み込んだように戦慄く瞳でもない。 いつもの、元気な可愛いラブ。 「まだ外暗いよ。もっと寝てても良いのに。あっ、今お風呂入れてるからね。」 ニコニコと細められた目。愛らしく口角を上げた唇。まるで、何事も無かったような。 せつなの胸の奥がぎゅっと引き絞られる。 昨日とは逆。今度はせつながラブの目を見られない。 力無く目を伏せ、視線を落とす。 その瞳に飛び込んで来るのは自分の素肌。 白い肌を彩る鮮やかな花弁。ずきりと痛む体の中。 細胞のすべてが叫んでいる。 夢などではない、と。 でも、ラブは。 ラブは、無かった事にしてしまいたいのだろうか。 突如舞い降りた偶然に嘘を被せ、嵐に身を委ねる言い訳にした。 一夜限りの。一夜限りだからこそ、飛び込む事の出来た嵐だったのだろうか。 パジャマの襟を握り締め、滲みそうになる涙を堪える。 求められたのは夢の中の事だったのだ。 ずっと続く夢などありはしない。 これでいい。もう温もりは体の一部として溶け込んでいるのだから。 この温かさを抱いて生きて行けばいい。それで何一つ、失うものもない。 これ以上の幸せは夢見る事すらおこがましい。 泣いてはいけない。ラブが笑っているのだから。 ラブがそう決めたなら…… 「せつな。何考えてるの?」 「……別に、何も…」 「ウソ。」 隣に座り、体を寄せてくる。 首筋にラブの唇の気配。うなじをくすぐる吐息に体の奥のこごった澱が溶け出す。 昨日までは知らなかった感覚。 せつなは自分の体に棲みついた欲望におののいた。 暴れ狂うような嵐の記憶。 心が宥めようとしても体が叫んでいる。 もう、無理だと。 こんな物を抱えて、一人で生きて行けるはずがない。 「あのね。どうしてそうなるかなあ。」 自分自身を抱き締めたまま硬く身を縮めているせつなにラブは呆れたように溜め息をつく。 子供をあやす仕草で頭を撫でられ、せつなは恐る恐る顔を上げた。 覗き込んでくる瞳。その奥にあるのは、慈しみ、この上なく大切な物を愛しむ凪いだ海。 力が、抜けた。強張っていたのは数分にも満たないだろう。 それなのに魔法が解けるように緊張から解き放たれた心と体はぐずぐずと奇妙な音を立てて崩れる。 「困った癖だと思うんだよねぇ。」 首に腕を回し、泣きじゃくり始めたせつなをよしよしと宥めながらラブは呟く。 「……何が、よ…。どして、何でも分かってるって顔してるのよ…」 ほんの少し強がる余裕が出てきたせつな。 まだがっしりとしがみ付いたままの姿では迫力も何もあったものではない。 格好悪いと思いつつも、耳に滑り込むラブの声が心地好すぎて離れる気になれない。 「いっつも咄嗟に考えるのは一番嫌な事。」 一番悲しい事。 一番辛い事。 一番起こって欲しくない事。 せつなが、一番考えたくないような結果。 いつも真っ先にそれを考える。 期待しないように、癖になってる。 最初から何も持たなければ失う物など無いから。 手に入れ、胸に取り込んだ後に毟り取られるのは痛すぎるから。 「ごめんね。こんなに早く目を覚ますと思わなくてさ。」 一人ぼっちで目を覚ますなんて寂しかったよね。 不安にさせちゃったんだよね。 ずっと抱き締めてれば良かった。 心の中を撫でられながら、せつなはラブの胸で甘える。 こんなにも心を覗かせていたのかと恥ずかしくなりながらも。 いつからこんなに無防備になってしまったのか。 少し前までは考えを読まれるなんて屈辱でしかなかったのに。 安堵に少し緩んだせつなの腕をほどき、顎に指を掛ける。 濡れた睫毛にまだたっぷりと潤んだ瞳。 ラブは未だに信じられない面持ちで、手に入れたばかりの恋人を見つめる。 涙に潤んだせつなは、まるで朝露を含んだ大輪の花のようだ。と、 柄にもなく照れくさい形容を思い付く。 せつなは世界で一番綺麗。昨日までずっとそう思って来たけど、今日は昨日の何倍も綺麗に見える。 この調子で行ったら、一週間もすれば宇宙の単位を超えてしまいそうだ。 そんな馬鹿馬鹿しい事を真剣に考えているのが、なぜか可笑しいとは感じない。 「これが恋は盲目ってヤツなのかなぁ…」 「…?…なにが?」 「笑うから言わない。」 「笑うも何も意味が分からないんだけど…」 「…せつなが可愛すぎてどうしようって意味だよ…」 「ーーー!」 カアッと一瞬で頬を朱に染め上げたせつなが思わず顔を背けようと身を捩る。 そこへ、ふんわりと唇を被せるような柔らかい口付け。 始まりの、息せき切って噛み付き合うような拙い口付けとは違う。 お互いを求める事を誓い合った者同士の、ゆったりと甘い秘め事。 ベッドに倒れ込み、それぞれの指で相手の輪郭を辿ってゆく。 そこにある肉体の質感を確かめるように。 温もりにうっとりと酔い痴れながら、ラブは一人胸に忍ばせていた思いを反芻する。 本当は、せつなの不安は間違っていなかった。 これっきりにしよう。そう思い、抱いたのだから。 一晩だけ。思い切り、気の狂うほど愛して、求め合って。 泣いて、泣かせて、一つになるまで蕩け果てて。 気の済むまで抱き合ったら。朝になったらすべて忘れよう。忘れて、友達に戻る。 心行くまで想いを遂げれば、きっときっぱり諦められる。 そう出来ると思ってしまった。 「………無理に、決まってる……」 「…………ラブ……?」 「好きだよ、せつな…」 「…私も…好き。好きよ……」 好き。好きだよ。好きよ。大好き。 離れられる訳がない。 こうなる事は分かっていたはずだ。 だから、壁一枚隔てた場所にいながら手すら握らなかったのに。 不意にふれあう指先にさえ、我を忘れそうなほどお互いを欲していた。 一度向き合い、その瞳にお互いの想いを映し合ってしまえば…。 触れるのを堪えられるはずはなかった。 触れ合ってしまえば、より深く求め合う事を止められない。 求め合ってしまえば、もう、戻る道は消え失せてしまう。 分かりきっていた。 それなのに、降って湧いた偶然を知らぬ振りなんて出来なかった。 神様が落としてくれたかのような奇跡に、あらがう術などあるはずがない。 気の触れそうなほどにもがいていた想いが、たった一晩の夢で終わる。 そんなあり得ない誘惑を囁く愚かな魔物に捕まってしまった。 「…っあ、ーっあぁ…ラ…ブ…んっ、つっ…」 「…ごめん、ごめんね…」 ごめんね、せつな。 夜明けまでもう少し。 一晩中貪り尽くしながら、欲望を刻んだ体。 もう一度愛でるように味わいながら、ラブはせつなに何度も謝る。 ごめんね。あたし、本当は諦めようとしてた。想いを捨てようとしてた。 でも無理だったよ。せつなから離れるなんて。 せつなが、他の誰かのものになる。そんなの、考えただけでおかしくなりそうなのに。 せつなは、それでも丸ごと全部受け入れようとしてくれてたんだよね。 何も言わずに着いてきて、それで、あたしが何かしてもしなくても…黙って… 黙ってあたしの好きに出来るように。 きっとせつなにはあたしが何考えてるかなんてお見通しだったよね。 だから、起きてすぐあたしを見て辛くなったんだよね。 辛くて、笑おうとしても笑えなくて。 せつな、あたしすごく嬉しかった。 だって、いつものせつななら絶対笑うのに。辛くても、悲しくても、自分の気持ちより いつでもあたしを優先しようとしてたでしょ? でも…せつな、泣きそうになってた。 あたしと離れたくないんだ、って。 それが分かって、あたし叫びそうなくらい嬉しかったんだ。 だから 許してね、せつな。 ほんの一瞬でも、一度繋いだ手を離そうとしてしまった事を。 でもね。嵐の中で抱き合いながら、あたし覚悟決めたから。 ううん、覚悟じゃなくて…当たり前の事を確認しただけかな。 もうぜったいに離さない。せつなが嫌だって言ったって逃がさない。 ずっとずっと、数えきれないくらいの夜明けをせつなと過ごす。 それ以外の生き方なんていらないから。 せつな。あたし、この事はせつなに言わないよ。 黙ってあたしのすべてを、せつなを捨てようとした事まで受け止めてくれたせつなに 負担に思って欲しくないからね。 あたしがせつなの為に何かを犠牲にしてるなんて感じて欲しくないから。 だから、これから囁くのはこれだけ。 貴女だけを愛していきます。 ずっと感じていて欲しいから。 いじらしいほど一途にラブの存在を求めてくる腕。 瑞々しい肌をお互いの自由にさせながら、これを無かった事に出来るなんて 驕っていた自分は底無しの愚か者だと思った。 逃げられない。逃がさない。 手を繋いだ瞬間から運命は決まっていたのに。 乱れた呼吸を静めながら、ぴったりと肌を寄せ合う。 もう風も雨も止み、夜も明けているだろう。 どれほど溶け合ってもまだまだ足りる気がしない。 白らんでいく空が少し恨めしい気さえする。 いくらなんでも、もう帰る支度をしなければならない。 分かっていても、あと少しだけ。そう、未練がましくぐずぐずと 汗ばんだ肌を押し付けあっていた。 「…せつな、どうしたの……?」 無心に体を絡め合っていたせつなが、ふと窓に視線を移す。 そのまま魅入られたように窓を見つめ、呟く。 「…見て。ラブ、すごい……」 「……?」 言われるままに、せつなの瞳の先を追う。 そして、息を飲んだ。 ベッドから滑り降り窓を開ける。 雨の名残を含んだ湿った風が髪を梳きながら通り抜けて行った。 そこにあるのは嵐の余韻を残しながらも、晴天へと向かってゆく朝焼けの空だった。 まだ雲は灰白く霞み、海は波高く白い飛沫を空に投げ付けている。 しかし、生まれたての太陽を胸に抱いた雲はその腕の隙間から幾筋もの光を溢し、 その輝きは空を不規則な銀色に煌めかせている。 海はその光の帯を求めるが如く、低く高く波を差し伸べていた。 飛び散るしぶきは煌めきを潜り抜けると耀く小さな宝石となって また海へと溶け込んで行く。 天高く突き抜けるような晴れやかな青空ではない。 どこまでも続く澄みわたった紺碧の海でもない。 しかしそれは紛れもなく、蒼穹へと続くであろう、嵐の後の奇跡。 嵐の晴天の間。ほんの一時にしか巡り会えない神々しいまでの一幅の絵のようだった。 二人でなら。 光の割合を刻々と増やしてゆく空に心を奪われながら、ラブは考える。 二人でなら、この奇跡の空のように歩いて行ける。 青空がなくても。嵐の海でも。ずっと手を繋いで。 奇跡の空を潜り抜けた二人なら。 いつか必ず誰も見たことのないような美しい景色に辿り着ける。 そう、心から思えるから。 最初から、悩み、迷う必要など何もないではないか。 ただ、目の前の奇跡を信じればいいだけなのだ。 曇りを祓う陽光の笑顔でラブはせつなに向き合う。 「帰ろっか。お家に。」 もう、ひっそりと手を繋ぐような事はしなくてもいい。 一つに溶け合った心と体は、いつでもすぐそばにあるのだから。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/518.html
錦繍/一六◆6/pMjwqUTk (モミジ狩りって、モミジの葉っぱを集めるって意味じゃないのね) ラブとあゆみに付いて細い坂道を上りながら、せつなは心の中で呟いた。 家族でキノコ狩りに行ったの、とクラスメイトの由美が話していたのは、先週のこと。獲物が動物じゃなくて植物などを採集するときにも「狩り」と言うのだと知ったのは、そのときだ。 四つ葉町から少し離れたこの丘陵は、せつなには初めての場所だった。丘の斜面は雑木林になっていて、木々はそれぞれの秋の色に染まっている。 「きれいでしょ? せつな。ンフフ~、あのねぇ、この丘のてっぺんまで上がるとね……」 「ラブったら! それ以上言っちゃ駄目よ。せっちゃんをびっくりさせるんでしょう?」 キラキラした目で嬉しそうにせつなを振り返るラブを、あゆみがやんわりとたしなめる。せつなは怪訝そうな、でも期待に満ちた眼差しで、二人の顔を交互に見やる。一番後ろからのんびりと歩いてきた圭太郎は、そんな三人の様子を、ニコニコと見守った。 今日は勤労感謝の日で、学校はお休み。圭太郎の発案で、四人はお弁当を持って、この丘陵にピクニックにやって来たのだった。 (占い館があった森より、ここはずいぶん明るいのね) 物珍しそうに木々を眺めながら歩いてきたせつなが、さっと差し込んだ日の光の眩しさに、思わず額の前に手を翳す。その顔が、フッと柔らかくほどけるように笑顔になった。ちょうど頭の上にあったモミジの枝が、せつなとハイタッチでもするかのように、小さな赤い掌を振っている。 「ああ、このモミジは特に色がいいなぁ。見事な赤だ」 すぐ後ろから聞こえる、圭太郎の穏やかな声。せつなは振り向いて笑顔を返してから、挙げていた手を静かに下ろした。 「ねえ、お父さん」 「なんだい? せっちゃん」 柔らかく包み込んでくれるような声に励まされて、せつなはここへ来てからずっと感じていた想いを、思い切って口に出してみる。 「紅葉って凄く綺麗だけど、これが終われば、木の葉は全部落ちてしまうんでしょう? そう思うと、何だか寂しい気がするんだけど……」 「そうだな」 圭太郎がせつなの顔を見て、静かに頷く。そして不意に悪戯っぽくニヤリと笑うと、ガサガサと落ち葉を踏んで、林の中に分け入った。 「こっちに来てごらん、せっちゃん」 一本の木の下にしゃがみ込んだ圭太郎が、せつなに向かって手招きする。不思議そうな顔でやって来るせつなを待ってから、圭太郎は足元の落ち葉を、そっと掻き分けた。 しばらくすると、表面の落ち葉とは違う、少し湿って黒ずんだ葉が現れる。 「これは、去年の落ち葉だな」 「去年の?」 「ああ。去年の落ち葉の下には、一昨年の落ち葉。その下には、その前の年の落ち葉。そのまた下には、何があると思う?」 「……?」 不思議そうに小首を傾げるせつなを、圭太郎は柔らかな光を湛えた目で、静かに見つめる。 「土だよ。栄養がたっぷり詰まった、真っ黒な土だ。落ち葉はね、冬の寒さから木の根を守りながら、地面に住む虫たちによって、何年もかかって、豊かな土になるんだよ。その栄養で、木はまた新しい芽を出して、たくさんの葉を茂らせる。そうやって、自然は何ひとつ無駄にしないで、幸せを繋いでいくんだ」 「幸せを、繋ぐ……」 噛みしめるように呟くせつなに、圭太郎は力強く頷いてみせる。そして少しおどけた調子で、こう言った。 「そうだ。落ち葉のご馳走が食べられて、虫たちも喜ぶ。きれいな花や若葉や、こ~んな見事な紅葉が見られて、僕たちも喜ぶ。それに当然、木も喜ぶ。みんなで幸せ、グッドだよ~! ってね」 圭太郎がズボンの落ち葉を払って立ち上がり、得意そうな顔で、せつなに右手を差し出す。 (お父さん、それを言うなら、幸せゲット、でしょ?) そう口に出して言うのは恥ずかしくて、せつなはただクスッと笑って圭太郎の手を取り、立ち上がった。 二人でまた落ち葉を踏みながら、元の道へと戻る。ラブとあゆみは、坂の少し上の方で立ち止まっていた。どうやら薄くて柔らかなモミジの落ち葉を、日に透かして遊んでいるらしい。 「この木たちに比べれば、僕なんか、まだまだだなぁ!」 突然、圭太郎の声に熱がこもったのを感じて、せつなが目をパチクリさせる。 「ああ、ごめんな、せっちゃん。つい、仕事のことを考えちゃってね。軽くて、涼しくて、水にも強くて、被っている人が幸せになれるような最高のカツラを作りたいって頑張っているけど……それだけじゃない、地球にも優しいカツラを作りたいって思ってるんだ。いつか、必ずね」 まるで少年のようにキラキラと光る目をして、圭太郎がまた、ニヤリと笑う。 (お父さんって、お仕事の話になると、何だかダンスの話をしているラブそっくりになるのね) せつなはしばらくの間、黙って自分が踏みしめる落ち葉の音を聞いていたが、やがて意を決したように、顔を上げた。 「お父さん」 「ん?」 「私……お父さんならきっと、作れると思うわ」 言ってしまってから、モミジにも負けないくらいの真っ赤な顔で俯くせつな。その頭に、圭太郎はそっと手を置いて、ポンポンと二回、優しく叩く。 「ありがとう、せっちゃん。そうさ。まだまだ、挑戦はこれからだからな」 やっぱり熱く言い切る圭太郎の顔を、せつなはそろりと上目遣いに見上げて、うん、と恥ずかしそうに頷いた。 やがて、坂道も終わりに差し掛かった。少し先で待っていたラブとあゆみも一緒に最後の急勾配を上りきると、目の前がぽっかりと開ける。そこに広がる景色に、せつなは思わず息を飲んだ。 眼下に見えるのは、コンクリートで囲まれた小さな湖だった。水力発電のための人工湖だと、圭太郎が説明してくれる。その湖の向こう側に見える山肌は、まさに自然が描き上げた、一枚の絵だった。 黄色に、褐色。朱色に、深い赤。そしてところどころに見える、渋みを増した緑――。 まるで空の巨人が、山というキャンバスに、気まぐれに絵具を落としたかのよう。様々な色彩が主張し合い、でも不思議と調和を保って引き立て合っているその姿を、小さな湖面がくっきりと映し出す。 まさに山と湖とが一体となった光景が、燦然たる輝きを持って迫って来る。 「きれいだね。せつなに見せたかったんだ、この景色」 声も出せず、ただ景色を食い入るように見つめているせつなの腕に、ラブが嬉しそうに腕を絡めた。せつながやっと呪縛から解かれたように、深々と息を吐き出す。 「う~ん、まさに錦繍だな」 「きんしゅう?」 まだ夢見心地の顔で、圭太郎の言葉をオウム返しに呟くせつなに、あゆみと圭太郎が、揃ってニコリと笑った。 「まるで豪華な錦みたいに、色鮮やかで美しいってことよ」 「ああ。本当はこっちが本家で、錦の方が真似したんだと思うけどね」 笑顔で説明してくれる二人の顔を交互に眺めてから、せつなはやっと笑顔になって、もう一度自然の錦を見つめる。 ふと、新たな疑問が泡のように心に浮かび上がった。 「ねえ、お父さん」 優しい視線を返す圭太郎の顔を見つめて、せつなはもう一度心にある問いを投げかける。 「私たちは、こんな景色が見られてとっても幸せだけど、紅葉って木にとっては、一体どんな良いことがあるの?」 「あら。そう言えば、そんなこと知らないわね」 「ホントだ。ねえ、お父さん。知ってる?」 あゆみとラブにも期待に満ちた眼差しを向けられて、圭太郎は困った顔で頭を掻く。 「うーん、それはね。実はまだ、ハッキリとは分かっていないらしいんだ」 「あ、そうなの」 「へぇ、そうなんだ」 少し残念そうなせつなと、意外そうに目を見開くラブ。そんな二人を見つめて、圭太郎の声が、また熱を帯びる。 「でも、これだけは言えるぞ。まだ人間には分かっていなくても、もちろん木にとっても何かきっと、とっても素敵なことがあるのさ。自然の営みに、無駄なことなんてひとつも無いんだから!」 「う、うん……」 気圧されたように頷くラブと、それを聞いて嬉しそうに微笑むせつな。圭太郎は大真面目な顔で、最後のダメを押す。 「ほら、ラブがいつも言ってるだろう? みんなで幸せ、グッドだよ~! ってね」 「お父さぁん、ゲットでしょう? もう、肝心なところで間違えるんだから」 苦笑いをするあゆみの隣りで、せつながクスクスと笑い出す。それを見て、ラブもあゆみも、そして圭太郎も、一斉に笑顔になった。 「さあ、この景色を見ながら、お弁当にしようよ!」 ラブが、再び目をキラキラさせて三人の顔を見渡す。その言葉を聞いて、せつなも嬉しそうに頷いた。 二人が下げているお弁当の中身――それは、ラブとせつなの特製ちらし寿司だった。 薄く切った酢蓮根に、甘辛く煮た椎茸、焼いてほぐした秋鮭の身。ラブが色良く焼き上げ、せつなが糸のように細く切った錦糸卵。彩りに、さっと湯がいて食べやすく切ったホウレンソウ……は、今日は可哀そうだから小松菜を使って、酢飯の上に鮮やかに盛り付けたもの。 あゆみが母から教わったものを、ラブに教えてくれた料理だと言う。 (ラブはきっと、この景色を思い浮かべながら作ったのね。お父さんとお母さん、どんな顔するかしら) せつながそう思いながら、もう一度湖の向こうを眺めたとき、得意げなラブの声が、耳に飛び込んできた。 「今日のお弁当は、あたしとせつなが愛情パワー全開で作ったからねっ! お父さんもお母さんも、開けてびっくりだよ~。あのね、すっごく綺麗な……」 「ちょっと、ラブ! 駄目よ、全部しゃべっちゃ。お父さんとお母さんを、びっくりさせるんでしょう?」 せつなに睨まれて、ラブが慌てて口をつぐむ。それぞれがまるで違う色を持っているのに、何故か双子のような二人の娘。その輝きに、圭太郎とあゆみはそっと目と目を見交わして、幸せそうに笑った。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/616.html
「everybody PASSION!」/Mitchell Carroll ラブ「せつな、いくらドーナツ美味しいからって、そんなに慌てて食べたらむせるよ。」 せつな「ふふふ、大丈夫よ。ウッ!」 ラブ「ほらー、だから言ったじゃん。大丈夫?」 せつな「んー!んー!(左手で胸を叩く)」 美希「屋良...」 ラブと祈里「えっ?」 美希「な、なんでもないっ!」 おしまい