約 1,207,078 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/89.html
何度かリンクルンに着信があった。でもラブは出ようとはしなかった。 着信音からせつなからだと分かっているはずなのに。 しばらくすると、今度はメールが来た。そこでようやくラブはリンクルンを手に取る。 画面を見ながら動こうとしないラブ。 その表情からは心の内を窺い見るのは無理だった。 「ラブ…ちゃん…?」 おずおずと声を掛ける。 このタイミングで来たせつなからの連絡が、祈里に無関係だとは思えなかったから。 「ん、せつなからだよ…」 「…うん」 それは分かっている。 でも、内容をこちらから尋ねてみてもいいものなのか。 それが躊躇われた。 「せつな、今日は美希たんのとこに泊まるんだってさ」 美希が、誘ったんだろうか…。 祈里の心臓が僅かにきゅっと締め付けられた。 そして、そんな風に考える自分に少し狼狽えた。 「なに考えたか当ててみようか?」 「…え?」 美希ちゃん、せつなちゃんにわたしとラブちゃんの事話すのかな…? 「そう、考えた。違う?」 今度は傍目にも分かるほど、祈里の体はビクリと震え、顔は青ざめていった。 自分でもほとんど無意識の浅ましい心の動きを悟られてしまった事に対する、恐怖感にも似た気持ち。 また、軽蔑されてしまう。 震え出しそうな体を抑え、俯く。 美希とせつなに謝ろう。 そう決心した舌の根も乾かぬ内に。 反射的に保身に走ろうとしてしまう卑しい心の動き。目眩がしそうなくらい情けなかった。 「そんな死にそうな顔しなくてもいいよ」 ラブは苦笑い、と言うより自嘲するような声と口調でリンクルンをしまう。 どうやら今すぐ返信する気はないらしい。 「あたしも咄嗟にそう思っちゃったんだから…」 「ラブちゃん…」 「やんなっちゃうよね。謝ろうとか言っときながらさ」 あーあ…。 そう、溜め息をつきながらラブは祈里のベッドにごろりと転がる。 美希は秘密にするなら墓場まで持って行け、と言った。 これ以上せつなを傷付けたら許さない、とも。 それならば美希がせつなに不用意な事を言うはずがない。 それなのに、当の自分はどうだ。 電話一つに情けないくらいに狼狽えている。 メールにどんな返信をしたらいいのかすら分からない。 「ブッキー、嘘つくのって難しいね…」 「……ラブちゃん?」 「ちょっと、違うか。嘘は簡単につけちゃう。でも…嘘をつき通すのが難しいのかな」 どうして嘘をついてしまうんだろう。 どうして秘密を抱えてしまうんだろう。 苦しくなってくるのは分かってるのに。 嘘をつくのは簡単。嘘をついた事を謝るのも、そんなに難しい事じゃない。 謝ってしまえば、許してもらえるかも知れない。 もし許してもらえなくても、嘘を抱え続ける苦しさからは解放される。 でも、一度ついた嘘を貫き通すのは難しい。 そして、その嘘の存在その物を隠すのはもっと難しい。 特に、暴かれれば相手も自分も傷を負うような、後ろ暗い秘密なら尚更だ。 もし、さっきの電話に出たとしてもいつも通りに話すのは無理だと思った。 喋り方。声のトーン。会話の間。相づちのタイミング。 きっと、せつなはいつもと違う何かを感じ取ってしまう。 それが何かは分からなくても、せつなに言えない秘密がある事を。 せつななら、もし嘘の存在に気づいてもラブがそれを隠したがっているのなら、 無理に聞き出そうとはしない。 嘘の存在その物を気づかれたくないとラブが思っているのを察したのなら、 黙って茶番だと分かっていても素知らぬ顔で付き合ってくれるだろう。 そして、ラブが秘密を持て余してどうしようもなくなったら、きっとせつなは 自分の方から聞き出してくれる。 ラブを解放する為に。 たとえ、自分が苦しみ傷付く事になろうとも。 そして、それに甘えてしまうだろうラブ自身がありありと想像できた。 ベッドの上でラブは硬く身を縮め、心の中で自分を罵倒する。 自ら毒を煽ったのは自分だ。 こんなに苦しいなんて思わなかった、なんてどれだけ馬鹿げた言いぐさだろう。 苦痛に耐えかねて吐き出した所でいつまで経っても苦しさは残る。 だってその毒が産まれたのは自分の胸の中なのだから。 吐いた毒は喉を焼き、そして周りをも侵す。 それならせめて、吐き出さずに自分の内に留めておくしかないではないか。 たぶん、美希の言っていた、「秘密を墓場まで持って行く」と言うのはそう言う事なのだ。 せつなを守りたい。幸せにしたい。いつも笑顔でいて欲しい。 そして出来れば、いつもその隣にいたい。 望む事はそれだけなのに。 いつもいつも、自分の弱さが邪魔をする。 「ラブちゃんは、せつなちゃんを信じてるんだね…」 「ブッキー…?」 「いつだって、せつなちゃんはラブちゃんの笑顔を守ろうとする…」 「…?」 「ラブちゃんは、それを知ってる。だから…」 だから、ラブちゃんが苦しむ事がせつなちゃんを一番悲しませるって分かってるから… ラブちゃんは、そんなに自分を責めるんだよね。 祈里は小さな拳を握り締め、くしゃりと顔を歪める。 「ずっと、そうだったよ…。せつなちゃん、ずっと…」 「……ブッキー…?」 「わたしが、せつなちゃんを…どんなに苦しめようとしたって、メチャクチャにしようとしたって…」 「…………」 「考えてるのは、ラブちゃんの事だけ」 ああ、駄目だ。 やっぱり、無理なんだ。 たった一人の相手としてせつなに愛される。それは諦めていた。 だからせめて、ただの友達以外になりたくて。 傷つけても、憎まれても、どれくらいせつなを想っているか、それを分かって欲しくて。 でも結局、やった事は手に入らない玩具を欲しがって駄々を捏ねる子供と同じだった。 それよりもっとタチの悪い、取り返しのつかない愚かしさだった。 それなのに、まだこんな気持ちになる。 やっぱり、まだラブが羨ましい。 ラブは息をするようにせつなとの結び付きの深さを醸し出す。 決して自慢する訳でも、絆をひけらかす訳でもなく。 心の一番の特等席が埋まっている事を。 いつでも真っ先に考えるのがお互いの事なのだと。 「ごめん、ラブちゃん…分かってるよ。馬鹿な事言ってるの…」 「…ブッキー」 「こんな事しでかして、まだ諦められないとか…自分でも最低だと思うよ」 「…………」 「……ごめんなさい。ラブちゃんに言う事じゃないよね」 「ううん。いいよ」 「…ラブちゃん?」 「いいんだ。当たり前だと思うし…」 叶わないと分かっていたって、好きになった気持ちはどこかへ消えるはずはない。 謝ったって、諦めると決めたって、たとえ自分自身がどこかへ消えてしまったとしても。 きっと気持ちはどこかに残る。 諦めたって、好きなものは好き。 結ばれないと分かっていたって好きになってしまった。 相手を苦しめるだけだと知りながら、想いを抑えられなかった。 誰も幸せにはなれないのに、祈里がせつなを愛する事を止められなかった。 そして、せつなが祈里の想いに応えられないのも、せつなの所為ではないのだから。 犯した罪はどれほど悔いても償っても無くなりはしない。 しかし、人が誰かを愛する事は罪ではない。 その相手を愛せない事が罪ではないように。 諦めて想いが冷めるのなら、誰も泣かずに済むのに。 どうして、色も形も匂いも手触りも何も無い、目にも見えない心に体まで支配されてしまうんだろう。 「ねぇ、ラブちゃん。運命の赤い糸って、あるじゃない?」 「…うん…?」 「きっと、繋がってるのはラブちゃんとせつなちゃんみたいな人達なんだろうね」 産まれた世界も、育った環境も何もかも違うのに。女の子同士で、敵として出会ったのに。 どんな立場で、どんな出会い方をしても、必ず恋に落ちてお互いを求めずにはいられない。 何度生まれ変わっても、探し求めずにはいられない、たった一人の相手。 「わたしにも、繋がった人がいるのかな…」 「……どう、なんだろうね」 間の抜けた返答だ、と思いながらもラブは言葉を探しあぐねた。 少し前なら、こんな風に拗れてしまう前になら、迷いも無くこう答えられただろう。 (大丈夫だよ!ブッキーだって絶対に運命の人に会えるよ!) 祈里を励ますつもりで。 祈里にも幸せになって欲しい。 自分とせつなが出会えたように、きっと祈里にも愛し合える相手が現れる。 そう、心から信じて。 でも、今は違う。 祈里が運命の人なんて望んでいないのは分かっているから。 「赤い糸がみんなに結ばれてるのなら、どうして違う人に繋がってるって分かってる人を 好きになったりするんだろうね」 「こんなにたくさん人がいるんだもん。 きっとこんがらがったり、途中で切れたりする事もあるんじゃないかな…」 身も蓋もないラブの言い様に、祈里はクスリと笑う。 恋敵でもあり、裏切った相手でもあるラブが一番自分の気持ちを理解してくれている。 皮肉なようで、理にかなっているようで。 同じ相手を好きになってしまった者同士だからこそ、なんだろうか。 立てた膝に顔を埋めて、ラブに小指を立てて見せる。 「神様が結び忘れちゃった人も、いてもおかしくないよね」 「それは無いんじゃない?神様なんだし」 「でも、人を好きになった事が無いって人もいると思うの」 「……」 「もしそうなら、誰かを好きになれる人はラッキーなのかも」 「ラッキーなのかなぁ。辛い事も多いよね」 「うん。でもやっぱり、出会わなければ良かったとは絶対に思わないでしょ?」 「…そうだね」 どこかにいるかも知れない、祈里の運命の人。 その人に出会ったら、せつなに感じた以上の想いを持つようになるんだろうか。 その人も、自分を愛してくれるんだろうか。 もしそうなら、出会いたくない、と祈里は思った。 誰かを好きになる気持ちは止められない。それを身を持って知ってしまった。 出会えば必ず心惹かれ合い、求め合う。逆らう事の出来ない相手。 そんなのは嫌だ、と思った。 せつな以外に心を動かす自分なんて見たくない。 これ以上の想いがあるなんて受け入れたくなかった。 馬鹿馬鹿しくても、子供じみてても、単なる執着だと言われても、 せつなだけが特別なんだと思いたかった。 「ブッキーが……」 「……?」 「ブッキーが、自分にも、運命の人がいるんだって、思えるようになってくれたら…嬉しいな」 「………」 「せつなを忘れるんじゃなくて、無かった事にするんじゃなくてさ…それでも、誰かを好きになって欲しい」 「ラブちゃん、お人好し過ぎだよ…」 「違うよ。そんなんじゃないよ。分かってるでしょ?」 「………………」 「ごめんね。せつなだけは、駄目なんだ…」 祈里に幸せな恋をして欲しい。 誰かに心から愛されて、喜びを感じて欲しい。 祈里が望む事なら何でも叶えてあげたい。 自分に出来る事なら何でもするし、差し出せるものは何でも差し出す。 せつなへの想いを手放す、それ以外の事なら何でも。 それは本当。祈里が好きだから。 でも同じくらい、自分が楽になりたいから。 祈里に大切な人が出来れば、きっと心から祝福出来る。 この胸に巣食った苦しさから、開放される。 飲み込む事も吐き出す事も出来ない、苦く辛い毒の塊。 それでも祈里が幸せになってくれさえすれば、ただの過去の事に出来ると思うから。 ラブはせつなへの想いを断ち切る事なんて出来ない。 離れる事も、手を放す事も無理。 それを嫌と言うほど思い知らされたから。 自分がそうなら、きっと祈里も似たような思いを抱えている。 そんな祈里に違う幸せを探せなんて言うのは、酷なのだろう。 それでも、ラブは望まずにはいられない。 みんなが、傷をこれ以上広げずに癒していく道があるのではないかと。 そんなラブの気持ちを知ってか知らずか、膝に顔を埋めたまま、泣いているのか笑っているのか 分からない少し震えた声で祈里は囁く。 「やっぱり、お人好しだよ。ラブちゃんは。わたしには謝るなって言う癖に」 「…ごめん」 「だから、駄目だよ。ラブちゃんは謝っちゃ。わたし、知ってるから…」 「…何?」 「ラブちゃん、自分でも言ってたじゃない。わたしの事、好きって…」 「…………」 「ありがとう。嫌いにならないでくれて…。わたしも、ラブちゃんが大好き」 ラブは知っている。 ラブが何を言った所で、その言葉は祈里を切り裂く刃になる。 せつなとラブが並んでいる。 見つめ合い、肩を寄せ合い、同じ方向へ歩んでゆく。 その姿を目にする度、祈里はいつまでも胸を引き絞られる事になる。 四人でいる限りそれはずっと続くのだから。 そしてそれは、祈里自身が望んだ罰なのだから。 祈里の罪を分かっていながら、その裏切りに血を吐くような思いを味わっても、それでも… ラブは祈里の辛さに思いを馳せてしまうのだろう。 せつなの中に、たった一人しか入れない場所を独占してしまった。 祈里を蹴落としてその場所を手に入れた訳では無い。 きっと、最初から自分が収まるべき場所なんだ、とどれほど言い聞かせても 拭えない罪悪感。 そして、知りたくもなかったほんの少しの優越感。 せつなに出会うまで知らなかった、どんなにかけがえの無い親友でも分かち合えないものがあるのだと言う事。 それほど大切な相手を傷付け汚されたのに、まだ祈里も大切なままだと言う事。 せつなの側にいたい。 ラブと、祈里と親友のままでいたい。 それなら、ずっと痛みを抱えていくしかない。 「ねぇ、ブッキー。あたしも今日泊まっちゃダメ?」 「ここに…?」 「…うん」 「無理しなくてもいいよ」 「無理じゃないよ!…ダメ、かな?」 「うん、駄目」 「……どうして?」 祈里は顔を上げ、真っ直ぐにラブを見つめた。 自分からこんなにしっかりとラブに向き合うのは初めてだった。 真正面から見返してくるラブの真摯な瞳に、ぎゅっと胸が押し潰される。 もう一度、ちゃんと親友に戻りたい。その為に、側にいたい。 多分、ラブなりの決意を込めた言葉なのだろう。 でも、これだけは、はっきり言わなくてはいけないと思った。 ラブのいるべき場所はここではない、と。 「帰って。それで、せつなちゃんを『おかえり』って迎えてあげなきゃ」 「ブッキー……」 「せつなちゃんが帰るのは、ラブちゃんのところでしょう?」 ラブちゃんがいなくてどうするの。 祈里の瞳は涙に潤んでも、逸らされる事はなかった。 せつなが帰るのはラブのところ。 そう、初めてはっきりと言葉にした。 そう口に出す事でけじめを付けようと思った。 もう迷いは無い。 自分がせつなを愛している事は、ラブにもせつなにも何の関係も無い。 ただ、自分一人の想いなのだから。 その想いが幸せなものでも、辛く苦しいものでも、祈里だけが感じていればいい。 せつなはラブに愛され、ラブを愛して幸せになる。 それを近くで見ていればいいのだ。 やっと、前にせつなの言っていた言葉が胸の中にすとんと落ちて来た。 その上で、自分が幸せになれるのかはまだ分からない。 ただ一つ一つ、気付いた事をやっていこう。 こうして、もう一度自分を受け入れようとしてくれるラブに応えたい。 ずっと見返りも求めずに優しさを注いでくれた美希に、心から感謝したい。 身勝手な想いをぶつけて、身も心も傷付けながら、それでも許しと償いの機会を与えてくれたせつな。 彼女が望んでくれるのなら、全身全霊で応えなければならない。 せつなの側で、親友のまま、新たな道を見つける為に。 ラブは視線だけで頷き、立ち上がる。 「…そうだね。そうするよ」 祈里は自分とせつなを運命の赤い糸で結ばれた相手だと言ってくれた。 祈里の覚悟が決まったのなら、もう揺らぐ訳にはいかない。 せつなが帰ってくる。その場所に必ずいなければならない。 これからずっと共にある為に。 せつなだけではなく、祈里も、美希も、みんなが自分の居場所を確かめているのだから。 ラブは微笑んで、祈里の部屋を後にする。 赤い糸の先にいる、愛しい相手を手繰り寄せるために。 祈里がいつか、その小指の先に想いを馳せるようになれる日が来ることを願いながら。 続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/360.html
第29話 赤い糸の先 何度かリンクルンに着信があった。でもラブは出ようとはしなかった。 着信音からせつなからだと分かっているはずなのに。 しばらくすると、今度はメールが来た。そこでようやくラブはリンクルンを手に取る。 画面を見ながら動こうとしないラブ。 その表情からは心の内を窺い見るのは無理だった。 「ラブ…ちゃん…?」 おずおずと声を掛ける。 このタイミングで来たせつなからの連絡が、祈里に無関係だとは思えなかったから。 「ん、せつなからだよ…」 「…うん」 それは分かっている。 でも、内容をこちらから尋ねてみてもいいものなのか。 それが躊躇われた。 「せつな、今日は美希たんのとこに泊まるんだってさ」 美希が、誘ったんだろうか…。 祈里の心臓が僅かにきゅっと締め付けられた。 そして、そんな風に考える自分に少し狼狽えた。 「なに考えたか当ててみようか?」 「…え?」 美希ちゃん、せつなちゃんにわたしとラブちゃんの事話すのかな…? 「そう、考えた。違う?」 今度は傍目にも分かるほど、祈里の体はビクリと震え、顔は青ざめていった。 自分でもほとんど無意識の浅ましい心の動きを悟られてしまった事に対する、恐怖感にも似た気持ち。 また、軽蔑されてしまう。 震え出しそうな体を抑え、俯く。 美希とせつなに謝ろう。 そう決心した舌の根も乾かぬ内に。 反射的に保身に走ろうとしてしまう卑しい心の動き。目眩がしそうなくらい情けなかった。 「そんな死にそうな顔しなくてもいいよ」 ラブは苦笑い、と言うより自嘲するような声と口調でリンクルンをしまう。 どうやら今すぐ返信する気はないらしい。 「あたしも咄嗟にそう思っちゃったんだから…」 「ラブちゃん…」 「やんなっちゃうよね。謝ろうとか言っときながらさ」 あーあ…。 そう、溜め息をつきながらラブは祈里のベッドにごろりと転がる。 美希は秘密にするなら墓場まで持って行け、と言った。 これ以上せつなを傷付けたら許さない、とも。 それならば美希がせつなに不用意な事を言うはずがない。 それなのに、当の自分はどうだ。 電話一つに情けないくらいに狼狽えている。 メールにどんな返信をしたらいいのかすら分からない。 「ブッキー、嘘つくのって難しいね…」 「……ラブちゃん?」 「ちょっと、違うか。嘘は簡単につけちゃう。でも…嘘をつき通すのが難しいのかな」 どうして嘘をついてしまうんだろう。 どうして秘密を抱えてしまうんだろう。 苦しくなってくるのは分かってるのに。 嘘をつくのは簡単。嘘をついた事を謝るのも、そんなに難しい事じゃない。 謝ってしまえば、許してもらえるかも知れない。 もし許してもらえなくても、嘘を抱え続ける苦しさからは解放される。 でも、一度ついた嘘を貫き通すのは難しい。 そして、その嘘の存在その物を隠すのはもっと難しい。 特に、暴かれれば相手も自分も傷を負うような、後ろ暗い秘密なら尚更だ。 もし、さっきの電話に出たとしてもいつも通りに話すのは無理だと思った。 喋り方。声のトーン。会話の間。相づちのタイミング。 きっと、せつなはいつもと違う何かを感じ取ってしまう。 それが何かは分からなくても、せつなに言えない秘密がある事を。 せつななら、もし嘘の存在に気づいてもラブがそれを隠したがっているのなら、 無理に聞き出そうとはしない。 嘘の存在その物を気づかれたくないとラブが思っているのを察したのなら、 黙って茶番だと分かっていても素知らぬ顔で付き合ってくれるだろう。 そして、ラブが秘密を持て余してどうしようもなくなったら、きっとせつなは 自分の方から聞き出してくれる。 ラブを解放する為に。 たとえ、自分が苦しみ傷付く事になろうとも。 そして、それに甘えてしまうだろうラブ自身がありありと想像できた。 ベッドの上でラブは硬く身を縮め、心の中で自分を罵倒する。 自ら毒を煽ったのは自分だ。 こんなに苦しいなんて思わなかった、なんてどれだけ馬鹿げた言いぐさだろう。 苦痛に耐えかねて吐き出した所でいつまで経っても苦しさは残る。 だってその毒が産まれたのは自分の胸の中なのだから。 吐いた毒は喉を焼き、そして周りをも侵す。 それならせめて、吐き出さずに自分の内に留めておくしかないではないか。 たぶん、美希の言っていた、「秘密を墓場まで持って行く」と言うのはそう言う事なのだ。 せつなを守りたい。幸せにしたい。いつも笑顔でいて欲しい。 そして出来れば、いつもその隣にいたい。 望む事はそれだけなのに。 いつもいつも、自分の弱さが邪魔をする。 「ラブちゃんは、せつなちゃんを信じてるんだね…」 「ブッキー…?」 「いつだって、せつなちゃんはラブちゃんの笑顔を守ろうとする…」 「…?」 「ラブちゃんは、それを知ってる。だから…」 だから、ラブちゃんが苦しむ事がせつなちゃんを一番悲しませるって分かってるから… ラブちゃんは、そんなに自分を責めるんだよね。 祈里は小さな拳を握り締め、くしゃりと顔を歪める。 「ずっと、そうだったよ…。せつなちゃん、ずっと…」 「……ブッキー…?」 「わたしが、せつなちゃんを…どんなに苦しめようとしたって、メチャクチャにしようとしたって…」 「…………」 「考えてるのは、ラブちゃんの事だけ」 ああ、駄目だ。 やっぱり、無理なんだ。 たった一人の相手としてせつなに愛される。それは諦めていた。 だからせめて、ただの友達以外になりたくて。 傷つけても、憎まれても、どれくらいせつなを想っているか、それを分かって欲しくて。 でも結局、やった事は手に入らない玩具を欲しがって駄々を捏ねる子供と同じだった。 それよりもっとタチの悪い、取り返しのつかない愚かしさだった。 それなのに、まだこんな気持ちになる。 やっぱり、まだラブが羨ましい。 ラブは息をするようにせつなとの結び付きの深さを醸し出す。 決して自慢する訳でも、絆をひけらかす訳でもなく。 心の一番の特等席が埋まっている事を。 いつでも真っ先に考えるのがお互いの事なのだと。 「ごめん、ラブちゃん…分かってるよ。馬鹿な事言ってるの…」 「…ブッキー」 「こんな事しでかして、まだ諦められないとか…自分でも最低だと思うよ」 「…………」 「……ごめんなさい。ラブちゃんに言う事じゃないよね」 「ううん。いいよ」 「…ラブちゃん?」 「いいんだ。当たり前だと思うし…」 叶わないと分かっていたって、好きになった気持ちはどこかへ消えるはずはない。 謝ったって、諦めると決めたって、たとえ自分自身がどこかへ消えてしまったとしても。 きっと気持ちはどこかに残る。 諦めたって、好きなものは好き。 結ばれないと分かっていたって好きになってしまった。 相手を苦しめるだけだと知りながら、想いを抑えられなかった。 誰も幸せにはなれないのに、祈里がせつなを愛する事を止められなかった。 そして、せつなが祈里の想いに応えられないのも、せつなの所為ではないのだから。 犯した罪はどれほど悔いても償っても無くなりはしない。 しかし、人が誰かを愛する事は罪ではない。 その相手を愛せない事が罪ではないように。 諦めて想いが冷めるのなら、誰も泣かずに済むのに。 どうして、色も形も匂いも手触りも何も無い、目にも見えない心に体まで支配されてしまうんだろう。 「ねぇ、ラブちゃん。運命の赤い糸って、あるじゃない?」 「…うん…?」 「きっと、繋がってるのはラブちゃんとせつなちゃんみたいな人達なんだろうね」 産まれた世界も、育った環境も何もかも違うのに。女の子同士で、敵として出会ったのに。 どんな立場で、どんな出会い方をしても、必ず恋に落ちてお互いを求めずにはいられない。 何度生まれ変わっても、探し求めずにはいられない、たった一人の相手。 「わたしにも、繋がった人がいるのかな…」 「……どう、なんだろうね」 間の抜けた返答だ、と思いながらもラブは言葉を探しあぐねた。 少し前なら、こんな風に拗れてしまう前になら、迷いも無くこう答えられただろう。 (大丈夫だよ!ブッキーだって絶対に運命の人に会えるよ!) 祈里を励ますつもりで。 祈里にも幸せになって欲しい。 自分とせつなが出会えたように、きっと祈里にも愛し合える相手が現れる。 そう、心から信じて。 でも、今は違う。 祈里が運命の人なんて望んでいないのは分かっているから。 「赤い糸がみんなに結ばれてるのなら、どうして違う人に繋がってるって分かってる人を 好きになったりするんだろうね」 「こんなにたくさん人がいるんだもん。 きっとこんがらがったり、途中で切れたりする事もあるんじゃないかな…」 身も蓋もないラブの言い様に、祈里はクスリと笑う。 恋敵でもあり、裏切った相手でもあるラブが一番自分の気持ちを理解してくれている。 皮肉なようで、理にかなっているようで。 同じ相手を好きになってしまった者同士だからこそ、なんだろうか。 立てた膝に顔を埋めて、ラブに小指を立てて見せる。 「神様が結び忘れちゃった人も、いてもおかしくないよね」 「それは無いんじゃない?神様なんだし」 「でも、人を好きになった事が無いって人もいると思うの」 「……」 「もしそうなら、誰かを好きになれる人はラッキーなのかも」 「ラッキーなのかなぁ。辛い事も多いよね」 「うん。でもやっぱり、出会わなければ良かったとは絶対に思わないでしょ?」 「…そうだね」 どこかにいるかも知れない、祈里の運命の人。 その人に出会ったら、せつなに感じた以上の想いを持つようになるんだろうか。 その人も、自分を愛してくれるんだろうか。 もしそうなら、出会いたくない、と祈里は思った。 誰かを好きになる気持ちは止められない。それを身を持って知ってしまった。 出会えば必ず心惹かれ合い、求め合う。逆らう事の出来ない相手。 そんなのは嫌だ、と思った。 せつな以外に心を動かす自分なんて見たくない。 これ以上の想いがあるなんて受け入れたくなかった。 馬鹿馬鹿しくても、子供じみてても、単なる執着だと言われても、 せつなだけが特別なんだと思いたかった。 「ブッキーが……」 「……?」 「ブッキーが、自分にも、運命の人がいるんだって、思えるようになってくれたら…嬉しいな」 「………」 「せつなを忘れるんじゃなくて、無かった事にするんじゃなくてさ…それでも、誰かを好きになって欲しい」 「ラブちゃん、お人好し過ぎだよ…」 「違うよ。そんなんじゃないよ。分かってるでしょ?」 「………………」 「ごめんね。せつなだけは、駄目なんだ…」 祈里に幸せな恋をして欲しい。 誰かに心から愛されて、喜びを感じて欲しい。 祈里が望む事なら何でも叶えてあげたい。 自分に出来る事なら何でもするし、差し出せるものは何でも差し出す。 せつなへの想いを手放す、それ以外の事なら何でも。 それは本当。祈里が好きだから。 でも同じくらい、自分が楽になりたいから。 祈里に大切な人が出来れば、きっと心から祝福出来る。 この胸に巣食った苦しさから、開放される。 飲み込む事も吐き出す事も出来ない、苦く辛い毒の塊。 それでも祈里が幸せになってくれさえすれば、ただの過去の事に出来ると思うから。 ラブはせつなへの想いを断ち切る事なんて出来ない。 離れる事も、手を放す事も無理。 それを嫌と言うほど思い知らされたから。 自分がそうなら、きっと祈里も似たような思いを抱えている。 そんな祈里に違う幸せを探せなんて言うのは、酷なのだろう。 それでも、ラブは望まずにはいられない。 みんなが、傷をこれ以上広げずに癒していく道があるのではないかと。 そんなラブの気持ちを知ってか知らずか、膝に顔を埋めたまま、泣いているのか笑っているのか 分からない少し震えた声で祈里は囁く。 「やっぱり、お人好しだよ。ラブちゃんは。わたしには謝るなって言う癖に」 「…ごめん」 「だから、駄目だよ。ラブちゃんは謝っちゃ。わたし、知ってるから…」 「…何?」 「ラブちゃん、自分でも言ってたじゃない。わたしの事、好きって…」 「…………」 「ありがとう。嫌いにならないでくれて…。わたしも、ラブちゃんが大好き」 ラブは知っている。 ラブが何を言った所で、その言葉は祈里を切り裂く刃になる。 せつなとラブが並んでいる。 見つめ合い、肩を寄せ合い、同じ方向へ歩んでゆく。 その姿を目にする度、祈里はいつまでも胸を引き絞られる事になる。 四人でいる限りそれはずっと続くのだから。 そしてそれは、祈里自身が望んだ罰なのだから。 祈里の罪を分かっていながら、その裏切りに血を吐くような思いを味わっても、それでも… ラブは祈里の辛さに思いを馳せてしまうのだろう。 せつなの中に、たった一人しか入れない場所を独占してしまった。 祈里を蹴落としてその場所を手に入れた訳では無い。 きっと、最初から自分が収まるべき場所なんだ、とどれほど言い聞かせても 拭えない罪悪感。 そして、知りたくもなかったほんの少しの優越感。 せつなに出会うまで知らなかった、どんなにかけがえの無い親友でも分かち合えないものがあるのだと言う事。 それほど大切な相手を傷付け汚されたのに、まだ祈里も大切なままだと言う事。 せつなの側にいたい。 ラブと、祈里と親友のままでいたい。 それなら、ずっと痛みを抱えていくしかない。 「ねぇ、ブッキー。あたしも今日泊まっちゃダメ?」 「ここに…?」 「…うん」 「無理しなくてもいいよ」 「無理じゃないよ!…ダメ、かな?」 「うん、駄目」 「……どうして?」 祈里は顔を上げ、真っ直ぐにラブを見つめた。 自分からこんなにしっかりとラブに向き合うのは初めてだった。 真正面から見返してくるラブの真摯な瞳に、ぎゅっと胸が押し潰される。 もう一度、ちゃんと親友に戻りたい。その為に、側にいたい。 多分、ラブなりの決意を込めた言葉なのだろう。 でも、これだけは、はっきり言わなくてはいけないと思った。 ラブのいるべき場所はここではない、と。 「帰って。それで、せつなちゃんを『おかえり』って迎えてあげなきゃ」 「ブッキー……」 「せつなちゃんが帰るのは、ラブちゃんのところでしょう?」 ラブちゃんがいなくてどうするの。 祈里の瞳は涙に潤んでも、逸らされる事はなかった。 せつなが帰るのはラブのところ。 そう、初めてはっきりと言葉にした。 そう口に出す事でけじめを付けようと思った。 もう迷いは無い。 自分がせつなを愛している事は、ラブにもせつなにも何の関係も無い。 ただ、自分一人の想いなのだから。 その想いが幸せなものでも、辛く苦しいものでも、祈里だけが感じていればいい。 せつなはラブに愛され、ラブを愛して幸せになる。 それを近くで見ていればいいのだ。 やっと、前にせつなの言っていた言葉が胸の中にすとんと落ちて来た。 その上で、自分が幸せになれるのかはまだ分からない。 ただ一つ一つ、気付いた事をやっていこう。 こうして、もう一度自分を受け入れようとしてくれるラブに応えたい。 ずっと見返りも求めずに優しさを注いでくれた美希に、心から感謝したい。 身勝手な想いをぶつけて、身も心も傷付けながら、それでも許しと償いの機会を与えてくれたせつな。 彼女が望んでくれるのなら、全身全霊で応えなければならない。 せつなの側で、親友のまま、新たな道を見つける為に。 ラブは視線だけで頷き、立ち上がる。 「…そうだね。そうするよ」 祈里は自分とせつなを運命の赤い糸で結ばれた相手だと言ってくれた。 祈里の覚悟が決まったのなら、もう揺らぐ訳にはいかない。 せつなが帰ってくる。その場所に必ずいなければならない。 これからずっと共にある為に。 せつなだけではなく、祈里も、美希も、みんなが自分の居場所を確かめているのだから。 ラブは微笑んで、祈里の部屋を後にする。 赤い糸の先にいる、愛しい相手を手繰り寄せるために。 祈里がいつか、その小指の先に想いを馳せるようになれる日が来ることを願いながら。 第30話それは、魔法の言葉へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/56.html
「せつなとラブ 互いを思い合う心」 せつなが目を開けると、そこは灰色の世界でした。 青い色の空もなく、白い色の雲もない、 ただコンクリートのビルが立ち並んでいるだけの、寂しい世界。 けれども、そこはせつなにとっては見覚えのある場所なのでした。 せつな「ここは?・・・まさか―――」 そう、そこはせつなの故郷、ラビリンス。そしてその中枢部。メビウスが居る場所でした。 せつなが呆然としながら立っていると、目の前に見知った影が現れました。 「・・-ス・・・・イース」 せつな「その声は、メビウス"様"!」 メビウス「イース、私は今怒りに震えている。その理由はお前が一番分かるはずだ。 なぜ我らを裏切った。」 せつな「それは・・・」 メビウス「お前を腹心の部下にまで取り立ててやった恩を忘れた、というのではあるまいな。」 せつな「・・・感謝しています」 メビウス「お前達は私に管理されることにより相応の生を生きる。争いのない平穏な人生をな。 だが他の世界では争いの絶えない所がほとんどだ。他の世界にもラビリンスのやり方を広めなければならぬ。」 せつな「・・・・・・・」 メビウス「あの世界の人間のFUKOを集めるのはその礎。これは必要な犠牲なのだよ。それが何故わからぬのだ!」 メビウスが怒った口調になると、地面からつる状のものが現れ、せつなの体をとりまきました。 それらは、苦痛を与えながらメビウスと同じようにせつなを責め続けます。「裏切り者、裏切り者」と。 せつな「やめて、やめてくださいメビウス様!」 メビウス「・・・・・・・」 メビウスは何も言わずに消え去っていきました。 せつな「ウウッ・・・・クッ・・・」 せつなはとうとう涙をこらえきれなくなってしまいました。 せつな(メビウス様・・・・メビウス様・・・・・・) 誰もいない世界の中で、涙が滴る音だけが木霊していました。 「・・・つな・・・・せ・・な・・・・せつな!」 せつな「―――ハッ!」 せつなが目を開けると、そこはラビリンスではなく、自分の部屋でした。 せつなは自分が夢を見ていたことに気付いたのでした。 ラブ「ごめんね、勝手に入って来ちゃって。でもせつな、すごくうなされてるみたいだったから。」 せつな「そう、ありがとうラブ。でももう大丈夫よ、安心して。」 ラブ「心配だよ。だってせつなの手、震えてるじゃない!」 せつなはその言葉に驚いて、自分の左手を見つめました。 ラブの言う通り、はっきりと分かるほど自分の手は震えていたのです。 せつなは夢の中の出来事を思い出し、怖くなってしまいました。 ラブ「それにすっごい汗かいてる。ちょっと待ってて、今タオルとってくるから。」 ラブはそう言うと、部屋を出て行きました。 せつな(私はラビリンスを捨てた。メビウス様の目的のために人々を悲しませることだって、今は間違ってると思ってる。) せつな(なのに、どうしてメビウス様のことでこんなにも切なくなってしまうの?どうしてメビウス様に許してほしいって思ってしまうの?) せつなはまた泣き出してしまいました。 不意に、せつなの目に布が触りました。ラブです。 ラブは何も言わずにせつなの涙を拭いてあげるのでした。 せつなが顔を上げると、ラブは緩やかにほほえみ返してくれます。優しく、暖かく、自分を包み込むような、そんな笑顔で。 せつなは自然とその笑顔に吸い寄せられて、自分の唇をラブのそれに重ねてしまうのでした――。 ラブ「―――――!」 あまりに突然すぎて、ラブは一瞬何が起こったのかよく分かりませんでした。 こんなことをされるのは、初めてのことだったのですから。それも女の子に。 唇が合わさっていた数秒の間が、ラブにはまるで時が止まっていたかのように長く感じられました。 せつな(え?私、何してるの?) せつなは正気に戻ったかのように、唇をはなして、申し訳なさそうに言いました。 せつな「ご、ごめんなさいラブ。」 ラブ「い、いやあ別に謝るようなことじゃあ・・・」 せつな「・・・・・」 ラブ「・・・・・」 二人の間に、これまで感じたことのないような沈黙が流れてしまいました。 もう3分は経ったでしょうか。 とうとうラブは、この間に我慢できなくなってしまいました。 ラブ「じゃ、じゃあタオルここに置いておくから、あ、汗拭いてぐっすり寝なよ。おやすみ~」 そう言って、ラブはせつなの部屋を後にしました。 せつな(私、なんであんなことしちゃったんだろう) せつな(ぶしつけに、あんなこと・・・あんな) せつなは自分のしたことを思うと、恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまいました。 あのときの、ラブの唇。ラブの温もり。 さっきは何も考えられなかったのですが、今ははっきりと思い出すことができます。 キスなんて女の子同士ですべきことではないのに、せつなはなんだかほのかな心地になりました。 けれど、そのことがせつなの気持ちを余計に複雑にしたのでした。 せつな(私、どうしたんだろう。変よね、こんなの。) せつな(それにラブにこんなことして。嫌われて当然ね。) せつなはさっきよりもずっと悲しくなりました。「ラブに嫌われた」、そう思うと途端に涙があふれ出してしまいました。 自分のベッドに戻っても、ラブはせつなのことが気になってしかたありませんでした。 ラブ(キスされちゃった・・・せつなに、されちゃった。おかしいよね、こんなの・・・) ラブ(だけどせつな、悲しそうだった。唇、震えてた。 あたし、気づいてたのに。どうしてせつなを避けちゃったんだろう) ラブはせつなを一人にしたことを後悔しました。けれど、もう一度せつなの部屋に行く勇気はでませんでした。 ラブ(もう一度行っても、どんな顔して会えばいいんだろう。なんて言えばいいんだろう。 あたし・・・わかんないよ) ラブは苦しくなって、なかなか眠ることができませんでした。 あゆみ「ラブ、もう起きなさい。何時だと思ってるの!」 1階からあゆみの声がして、ラブは閉じていた瞼を開けました。ぼうっとした目で時計を見ると、もう11時前でした。 ラブ「もうこんな時間・・・」 タルト「ピーチはん、夏休みだからってそないに寝てばっかやとあかんで。」 ラブ「うん・・・分かってる・・・・・・」 タルト「もしかして、お疲れなんか?昨日は特にそんな様子やなかったみたいやけど。」 シフォン「プリプー・・・」 ラブ「ありがとう。なんでもないから、心配しないで。」 あゆみ「早くしないと、朝ご飯が昼ご飯になっちゃうわよ」 ラブ「はーい」 心配そうなタルトとシフォンを尻目に、ラブは部屋を出て行きました。 ラブは、1階に下りていく途中、せつなの部屋のドアが少し開いていることに気付きました。 ラブはドキっとしましたが、ただ通りすぎるのも気がかりになって恐る恐る部屋の様子を覗きこみました。 けれどせつなは中にいませんでした。部屋は主を失って、静かになっていました。 ラブ「下かな」 今度は1階に下りるのが怖くなってしまいました。 ラブが尻ごみして部屋に戻ろうとすると、あゆみの大きな声が聞こえます。 あゆみ「ラブ、まだなの?いい加減にしなさい!」 ラブ「はぁ~い」 ラブは観念した様子で、トボトボ歩いていきました。 あゆみ「もうこんなものしかないけど、食べちゃいなさい」 そう言って、あゆみはご飯と余りものらしい簡単な惣菜をテーブルに置きます。 ラブは辺りを見回しましたが、せつなはどこにも居ませんでした。 ラブ「ねえお母さん、せつなは?」 あゆみ「せつなちゃんなら、1時間くらい前に出て行ったわよ。お昼までに帰ってくるのかしら。」 ラブ「そう・・・」 ラブ(せつな・・・) ラブは少しほっとしましたが、出て行ったせつなを思うと胸が切なくなるのでした。 その頃、せつなは四葉町の郊外にある丘で、一人たたずんでいました。 明るい夏晴れでさっぱりした天気でしたが、せつなは薄暗い表情を浮かべているのでした。 せつな(ラブにキスしたあの時、私は確かにメビウス様のことを考えていた。 メビウス様に見てほしかった、愛されたかったと。) せつな(もしかして、私はメビウス様の代わりが欲しいだけなんだろうか。 メビウス様からもらえなかったものを、ラブからもらいたいのだろうか。 だとしたら、私は・・・) そんなせつなを、近くの森からじっと見つめる男の人がいました。サウラーです。 サウラーは辺りに誰もいないことを確認すると、ゆっくりとせつなに近づいていきました。 サウラー「やあイース、ご機嫌よう。 今日は一人なんだね。それは都合がよかった。」 せつな「お前は・・・サウラー!」 サウラー「おっと、そんなに気構えないでくれ。今日は闘いに来たわけじゃないんだ。」 せつな「だったら、何故」 サウラー「・・・メビウス様は、君が大人しくラビリンスに戻るなら、君を許すと仰っている。」 せつな「――――!」 サウラー「僕個人としては気に入らないが、君ももう馬鹿なことはやめるんだな。 今日来たのは、それを伝えるためだけさ。それじゃあね。」 せつな「ま、待て!」 せつなの言葉も聞かず、サウラーは森に消えていきました。 せつなは、困った気持になりました。 メビウスはラブたちプリキュアにとって憎むべき敵には違いないはずなのに、 「メビウス様が許してくれる。」その言葉を聞いたとき、一瞬嬉しいと思ったからなのです。 せつな(やっぱり私は、メビウス様のことを憎めない。こんな気持ちでラブ達と一緒に戦うなんて、できない。) せつな(私、どうしたらいいの) せつなはその場にうずくまってしまいました。 空が夕日で赤く染まる頃、ラブは公園で人を待っていました。 せつなのことでどうしたらいいか分からず、信頼できる人に相談しようと考えたのです。 ミユキ「ラブちゃんごめーん、待った?」 ラブ「いいえ、全然。すみません、お仕事で忙しいのに無理にお願いしてしまって。」 ミユキ「いいのよ別に。それより、相談って何?」 ラブ「実は・・・」 ラブは昨日起こったことを話しました。 女の子の友達にキスされたこと。すごくドキドキしたこと。けれど、その友達は何かに悩んでいて、すごく辛そうだったこと。 その友達を助けたいこと。なのに、自分はどうすればいいのか分からないこと・・・ なんだか苦しくなって、ラブは途中から自分が何をしゃべっているのかさえも分からなくなってしまいました。 そんなラブが感情を吐き出すのを、ミユキは神妙な面持ちで見つめていました。 とうとうラブは言葉を続けることができず、押し黙ってしまいました。 ミユキ(困ったわね・・・) ミユキは考えました。確かに、その友達を助けてあげることも大切かもしれません。実際に、ラブはそれを望んでいます。 けれども、そのことが本当にラブにとっていいのかどうか、分からなかったのです。 キスなんて女の子同士でするようなことじゃないということは、ラブよりもずっとよく知っていたのですから。 ミユキは考え込んだ末、ついに重い口を開けました。 ミユキ「ねえラブちゃん、その友達のこと、好き?」 ラブ「え?は、はい」 ミユキ「でもその『好き』って気持ちってさ、ラブちゃんの中ではわりと曖昧なんじゃないかな?」 ラブ「それって、どういうことですか?」 ミユキ「その子の悩みは聞いてあげないと分からないかもしれない。 だけど、相手に対する自分の気持ちが不安定なままじゃあ、悩みを聞いてあげても十分力になれないと思うの。 自分がその子とどうしたいのか、何をしてあげたいのか、よく考えて。その子にも、伝えてあげてよ。 ・・・もしかしたらその子にとって少し辛いことになるかもしれない。けれど、その子にとってもそれは必要なことだと思うわ。」 ラブ「そんなこと、あたしできないよ・・・」 ミユキ「その子のこと、助けたいんでしょ?だったらそう言いなよ。 その子だって、きっと不安なんだよ。」 ミユキ「どうしてもうまくいかなかったらまた私が相談に乗ってあげる。だから元気出して。 もうすぐ夜になるし、今日はもう帰った方がいいわ。また明日会いましょう。」 ラブ「はい、ありがとうございました。」 ミユキは手を振りながら、帰っていきました。 ラブ(あたしの気持ち、かあ・・・) ラブ(ミユキさん、何であんなこと言ったんだろう) 相談してみたものの結局答えを見つけることはできず、ラブは途方に暮れてしまいました。 それからほどなくして、ラブは家に戻ってきました。 ラブ「ただいま・・・」 あゆみ「あらラブ。遅かったわね。」 ラブ「まあね。」 あゆみ「そういえば、せつなちゃん知らない?あの子まだ帰ってきてないのよ。どうしたのかしら?」 ラブ「知らない・・・」 あゆみ「あらそう?困ったわね。夕飯までに帰ってくるといいけど。」 あゆみはそうぼやきながら奥へ戻っていきます。 ラブ(せつな、こんな遅くまでどこ行ってるんだろう。 よっぽど辛い悩みだったのかな。あたしのせいで、一人で思い詰めてるのかな。) ラブはうつむき加減になりながら自分の部屋に戻っていきました。 ラブが部屋に戻ると、少し前にせつなと撮った写真が目に飛び込んできました。 ラブ(この頃は、ラビリンスのことも吹っ切れてよく笑ってたんだよね。 でも、そんな簡単にはいかないのかな) せつなとラビリンス。そのことを考えていると、ラブはせつながイースだった頃のことを思い出すのでした。 ラブ(思えばせつなって元々私達の敵だったんだよね。 最初は気づいてなかったし、今のせつなが明るいから忘れそうになっちゃうけど、 あの頃のせつなはどんな気持ちだったんだろう。) ラブ(悪いことをしていたせつな。 幸せを憎んでいたせつな。 けれど、誰より幸せを求めていたせつな。 あたしの言葉に応えてくれたせつな。 そして、自分の横で笑ってる、せつな。) せつなとの日々に思いを馳せると、せつなの色んな顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていきます。 ラブ(せつな・・・せつな・・・せつな・・・・・) 知らないうちに涙がこぼれていました。 桃園家への帰り道。 せつなはある決心をしていました。 せつな(私は、もうこんな気持ちじゃラブと一緒にはいられない。 それに私は元々過去を捨てた人間。ラブの家にいつまでも迷惑をかけるわけにもいかない) せつなは、ラブの家を出ていこうと考えていたのです。 その後どうするかという当てはありませんでしたが、今のせつなにはそれ以外の選択肢が思いつきませんでした。 せつな(それにラブにだって、嫌われちゃったしね・・・) せつながため息をつくと、カラスの鳴き声が嫌に大きく聞こえました。 せつなは鳴き声のする方を見上げましたが、カラスはすぐに遠くの方に飛び去っていくのでした。 せつな(帰ったら、言わなきゃ。ラブに。 ・・・でも、帰りたく、ない。) 歩幅は次第に小さくなっていきました。 せつな「ただいま」 あゆみ「せつなちゃん、やっと帰ったのね。お昼にも帰ってこないし、心配したわよ。」 せつな「すいません、図書館で本を読んでたら、夢中になっちゃって。」 あゆみ「それならいいけど。今度からは一言連絡してよ。」 せつな「ごめんんさい。 あの、ラブはどこに?」 あゆみ「ラブなら部屋にいると思うわ。そうそう、今夜は晩御飯カレーだから、期待しててね」 あゆみは鼻歌混じりに台所に戻っていきました。 せつな(思わず嘘ついちゃった。・・・あの人にも、言わなきゃ。) せつな(行くあてもない自分を家に置いてくれて、家族のように見てくれて。 でも結局、何も返せなかった。ごめんなさいって、言わなきゃ。) せつなはしばらく玄関に立ち尽くしていました。 ラブの部屋の前まで来ても、せつなはなかなか入っていけませんでした。 今まで以上に怖くなって、ノックする手が胸で止まっていたのです。 そんなせつながどぎまぎしていると、ドアがそっと開きました。 ラブ「せつな!今日一日どこ行ってたの?心配したよー」 せつなは狐につままれたようなような気がしました。てっきり自分のことを嫌ってしまったかと思ったラブが、笑顔で自分を迎え入れてくれたのです。 けれど、自分がこれから話すことを思うとあまり嬉しい気分にはなれませんでした。 せつな「ちょっと、ね。 それより、ラブに話したいことがあるの。」 ラブ「え、なになに?入りなよ。」 ラブに促され、せつなは部屋に入っていきました。そして、改めてラブと向かい合いました。 ラブ「話したいことって、なに?」 せつな「あのね、ラブ、あのね・・・」 せつな「私、もうあなたと――」 せつな「――ン、ンン!」 その時でした。ラブはせつなを抱きしめ、自分の口でせつなの口を塞いだのです。 せつな「ウンー!」 せつなは咄嗟にラブを自分から離そうとしましたが、ラブがあんまり力をこめたものですから、 逃れることができませんでした。 ラブ「・・・・・・・」 ラブは少し唇を離したかと思うと、顔の角度を変えてもう一度せつなの唇をとらえます。 せつなはなす術がなく動けませんでした。ですが、ラブの唇が優しくて、次第に身を任せてしまうのでした。 5分くらい経ったでしょうか。ラブはゆっくりと口を離すと、つぶやくように言いました。 ラブ「言わないで。そこから先は、言わないで。」 せつな「でも、私・・・」 ラブ「せつな、あたしに嫌われちゃったとか思ってるでしょ」 せつな「!」 ラブ「そんなわけ、ないじゃない」 ラブ「昨日はごめん。あたし、せつなが悩んでたこと分かってたのに、あんな風にしかできなくて。 不安だったよね。苦しかったよね。」 ラブ「でも、もういいよ。あたしが全部受け止めてあげるから。せつなの全部、もらってあげるから。」 せつな「ラブ・・・」 ラブ「だから、だからさ、一人で悩まないでよ。相談してよ。 せつなが苦しんでるのを見てるだけなんて、私、耐えられないんだから・・・」 そう言うと、ラブはさっきしたよりも強くせつなを抱きしめました。 せつな(ラブ・・・) ラブの優しさ。ラブの温もり。 こんなものはラビリンスに居たころには想像もできませんでした。 しかも、それは昨日の夜、そばにいてくれた時にせつなが感じたモノと少しも変っていなかったのです。 せつな(ラブ・・・・・・) せつなは、自分のラブに対する気持ちがメビウスに対するそれとまったく違うことに気付きました。 そして、それは自分に対するラブの気持ちと同じだということも―――。 せつな「ラブ・・・ラブ・・・グスッ、ヒック」 せつな「私・・・私、ラブと離れたくない!ずっと、ずっと一緒に、いたい!」 せつな「でも、捨てられないの。忘れようとしても、忘れられない人がいるの。 こんなんじゃ、私・・・私・・・」 ラブ「・・・捨てることないよ」 せつな「え?」 ラブ「自分の気持ちなんて、捨てられないよ。 でも、自分とまわりを変えていくことはできる。それは、せつなが一番よくわかってるじゃない。」 ラブ「皆で助けにいこう、その人を。四人なら、きっとできるよ。」 せつな「ラブ・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」 2人は見つめあい、もう一度キスをしました。 それは、今までで一番甘いキスなのでした。 ラブ「せつな、約束して。ずっと一緒にいるって。もう、出て行こうとしたりしないって。」 ラブの朗らかな問いかけに、せつなも精一杯の笑顔で答えます。 せつな「ええ、約束する!」 そしてその夜、二人はお互いのことを深く確かめ合ったのでした。 おしまい おまけ 今日は体育祭。借り物競走に出場するせつな。 せつな(さあて、何が書いてあるのかしら) 折られた紙を広げると、そこには見覚えのある字で「2年 桃園ラブ」と書いてあった。 せつな(これって…) せつなが辺りを見回すと、自分に向かって大きく手を振るラブの姿。 せつな(もう、ラブったら…) せつなが恥ずかしい友人の方に近づくと、その子は嬉しそうにせつなの手をとった。 ラブ「行こう、せつな」 せつな「もう。これ、あなたの仕業ね」 ラブ「えー?なんのことー?」 せつな「とぼけたって、無駄なんだから」 ラブ「エヘヘー、バレちゃったか」 せつな「あれだけ分かりやすかったら、当然よ」 らぶ「アハハハハ…///」 せつな「フフ…///」 二人は手をつないで笑いながら、ゴールテープを破るのだった。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/592.html
四葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode15:星空にあるもの 「うぅ、寒いっ!」 新聞を取りに行ったラブが、そう叫びながらリビングに駆け込む。圭太郎に新聞を手渡し、その足でそろりと台所に侵入。そして、スープをよそっているせつなに後ろから近付くと、その頬を両手で挟んだ。 「うわっ、冷たい!」 せつなが驚きの声を上げる。狙い通りの反応に、ラブは、んふふ~、と得意げに笑った。 「せつなのほっぺた、あったか~い。」 「ちょっと、ラブ!いい加減に手を離してよ。」 両手が塞がっているせつなは、困った顔でラブのされるがままだ。圭太郎は新聞を広げながら、そんな二人の様子を楽しそうに見守っている。 「今朝は特別に寒いなぁ。新聞も、よぉく冷えてるよ。」 「あら、じゃあ今日はみんな、マフラーと手袋、忘れないようにね。ほら、ラブ。ご飯にするわよ。」 あゆみのお陰でやっとラブから解放されたせつなは、ニヤニヤと笑うその顔を軽く睨んでから、食卓に着いた。 「いただきま~す。」 みんな一斉に、スープをひと口。いつもの桃園家の、朝の風景だ。 「何だか急に寒くなったわねぇ。そろそろ冬物のコート、買いに行かなくちゃね、せっちゃん。」 食べながらそう語りかけたあゆみが、しばらくして不思議そうに顔を上げる。いつもなら、すぐに返って来る嬉しそうな声が、一向に聞こえてこないためだ。 テーブルの向こうで、せつなはスープのとろりとした表面を、何だか難しい顔つきで、じっと見つめていた。 「・・・せつな?」 トーストをかじっていたラブも、せつなの様子に気付いて心配そうに声をかける。その声に、せつなはハッとしたように顔を上げた。 「あ・・・ごめんなさい。」 照れ臭そうにラブに微笑んでから、せつながその笑顔をあゆみに向ける。 「お母さん。」 「なぁに?」 「今度、このスープの作り方教えて。凄く美味しい。」 そう言いながら、本当に美味しそうにスープを飲むせつなを見て、あゆみの表情が、フッと緩んだ。 「ええ、お安い御用よ。そうだ、今度はこれにニンジンをたっぷり入れてみましょうか。そしたら、もっと甘みが出るわ。」 「うん、それがいいわ。」 悪戯っぽくウィンクするあゆみに、せつなもクスリと笑って頷く。 「お、お母さん!今の通りのレシピでいいからっ。せつな、今ので十分、じゅ~ぶん美味しいよね?ねっ?」 慌てるラブに、食卓が笑い声に包まれる。 「さぁ、二人とも急ぎなさい。早く食べないと遅刻するわよ。」 あゆみは、クスクスと笑うせつなを愛おしそうに見つめてから、食後の果物を準備しようと、いそいそと台所に向かった。 四つ葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode15:星空にあるもの 「こらぁ、シフォン!ドーナツで遊んだらあかんて。」 「キュア~!」 四つ葉町公園の石造りのベンチの上を、タルトがシフォンを追って駆け回る。ドーナツを三つ宙に浮かせて車輪のようにコロコロと走らせながら、シフォンは嬉しそうに、自分も文字通り宙返りでその後ろを進んでいた。 「シフォンちゃん、ホントに元気そう。もうすっかり元通りね。」 「うん!今度はのびのびとお散歩が出来るから、またシフォンを連れてどっか行こうよ!」 ペアを組んでストレッチをしている祈里とラブが、華やいだ声で言い合う。これからいつものダンスレッスン。ミユキが来るのを待ちながらの準備運動だ。 「もう。ラブもブッキーも、あんまり気を抜かないでよ。戦いはまだ決着したわけじゃないのよ?」 美希が、隣で黙々と屈伸運動をしているせつなをチラリと見てから、そう言って口を尖らせた。 「わかってるわ、美希ちゃん。でも少なくとも、シフォンちゃんはもうインフィニティになることは無くなったんだし。」 「そうだよ。そのことだけでも喜ばなくっちゃあ。ねっ、せつな。」 「えっ?・・・ええ、そうね。」 弾んだ声で呼びかけたラブが、せつなの歯切れの悪さに、一気に不安そうな顔になる。 「ねぇ、せつな。やっぱり何かあった?今朝から様子がヘンだよ?」 「え?今朝から?」 美希がわずかに眉根を寄せて、小さく呟いた。祈里も胸の前でギュッと手を組み合わせて、せつなの顔を覗き込む。 せつなは、自分を見つめる三人の視線に、少し戸惑ったように目を泳がせてから、今朝と同じ、照れたような笑みを浮かべた。 「ごめん、ちょっと考え事してただけ。本当に何でもないの。」 「ホントに?」 詰め寄るラブと、その後ろでやっぱり不安そうに自分を見つめる美希と祈里。そんな仲間たちの様子に、せつなは苦笑する。 無理もない。つい先日、不幸のゲージを壊そうと単身敵地に乗り込んで、大いに心配をかけたばかりだ。みんながせつなの様子に敏感に反応するのは、当然のことだろう。 (でも・・・。) 胸の中に抱えている疑問と不安を、このままみんなに伝えても良いものか。無邪気にはしゃぐシフォンと、その様子を心から喜んでいるラブたちを見ると、今の何も分からない段階で、それを口に出すことはためらわれた。 「ええ。この前のことは、反省してるわ。もうあんな無茶はしないから、心配しないで。」 三人の目を交互に見つめて、静かに言葉を発する。 「ホントだね?」 「本当よ。」 しっかりと頷いたせつなに、ラブがやっと笑顔になったとき、公園の入り口に、ミユキが姿を現した。 「みんな~、準備はいい?じゃあ今日のレッスン、始めるわよっ!」 「はいっ。よろしくお願いします!」 四人の引き締まった声に続いて、ダンシング・ポッドから、いつもの軽快な音楽が流れ始めた。 ☆ その翌日、学校から帰るや否や、せつなはラブの部屋のドアをノックした。 「タルト、居るの?入るわよ。」 押し殺した声でそう言って、ドアを開ける。部屋の中には、バツの悪そうな顔でこちらを窺うタルトと、その手元を興味深げに覗き込んでいるシフォンの姿があった。どうやらタルトは、久しぶりにゲームに興じていたらしい。 せつなは、そんなタルトの様子にはお構いなしに、後ろ手にドアを閉めると、タルトの前にきちんと正座した。 「タルト、お願いがあるんだけど。」 「どっ、どないしたんや?パッションはん。」 せつなの真剣な態度と表情に気圧されたように、タルトが及び腰で答える。が、せつなの次の言葉を聞いて、その表情は、せつなに負けず劣らず真剣なものに変わった。 「私、スウィーツ王国の長老さんに会って、どうしても訊きたいことがあるの。訊いたらすぐに帰るから、シフォンと一緒に来てくれないかしら。」 「それは、ピーチはんたちに黙って、っちゅうことかいな。」 いつになく厳しいタルトの声。やはり彼の反応も、以前とは違って見える。 「ラブが帰るまでには、ちゃんと戻るわ。今日は補習だって言ってたから、もうしばらく帰って来ないの。念のため、三人でちょっと出かけるってメモを残しておいても・・・」 「せやったらもう少し待って、ピーチはんと一緒に行ったらええやないか。」 咎めるようなタルトの視線から、せつなはそっと目を逸らす。タルトが渋るのは、予想していたことだった。だから本当は一人で行きたかったのだが、この前のことがあったばかりだ。タルトとシフォンが一緒なら、万が一出かけたことがラブたちに知れても、それほど心配されないだろう。 それに、ラビリンスの次の出方が分からない今、シフォンの周りにプリキュアが誰も居ない時間は、出来る限り作りたくなかった。今日は放課後、美希がモデルの仕事、祈里が病院のお手伝いで、二人には頼れない状況なのだ。 せつなは少し考えてから、再び真剣な眼差しでタルトを見つめた。 「あのね、タルト。私には、シフォンが本当にもう二度とインフィニティにならないのか、よく分からないの。」 「それは・・・」 何と言っていいか分からない様子のタルトを前に、せつなは少し俯き加減になる。 「不幸のゲージが満タンになれば、インフィニティが現れる――メビウスから確かにそう聞いていたわ。でも、前に長老さんが言っていた言葉を思い出すとね。不幸のゲージだけが、シフォンがインフィニティになるきっかけじゃ無いんじゃないかって、そんな気もするの。」 無限メモリー・インフィニティこそが、シフォンのもうひとつの姿――ティラミス長老は、確かにそう言っていた。ということは、不幸のゲージを壊したからと言って、その事実に変わりは無いのではないか。 勿論、インフィニティになるきっかけを取り除いたのだから、これは大きな進歩だ。しかし、ラビリンスも知らない、インフィニティを発動させるきっかけが他にも存在するとしたら。今のシフォンの幸せは、みんなの喜びは、束の間のものだということになりはしないのか。 そもそもシフォンにとって、インフィニティとはどういう存在なのだろうか――せつながここ数日考え続けている、二つの大きな疑問のうちのひとつが、これだった。 もうひとつは、言うなれば当然の心配事だ。不幸のゲージを失い、インフィニティ発動のすべを失ったラビリンスが、この後どう仕掛けてくるのか、ということ。最近は、四つ葉町でウエスターやサウラーを見かけることすらほとんどない。かと言って、一度発せられた命令が取り下げられることなど、ラビリンスではあり得ない。それだけに、この静けさは不気味と言って良かった。 勿論、長老に会ってもこの二つめの疑問と不安は何も解消されない。それでも、インフィニティについては、もしかしたらもっと詳しい情報が聞けるかもしれないと、せつなは思っていた。 「そないな大事なことやったら、なおさらピーチはんたちに・・・」 「・・・言えないわよ。」 「え?」 「みんな、シフォンが元に戻って、あんなに喜んでいるんだもの。こんな不確かなことで、みんなに余計な心配、させたくはないわ。それに、結局何も分からないかもしれないし。」 「そやかて・・・」 なおも言い募ろうとするタルトに、せつなは正座したまま、深々と頭を下げる。 「お願い!何か分かったら、みんなにはちゃんと伝えるわ。たとえシフォンがこれからもインフィニティになるかもしれないって分かっても、今度は隠さないでちゃんと伝えるから。」 「うーん・・・。」 とうとうタルトは、根負けしたように頷いた。 「ほな、せっかくやから、長老へのお土産にドーナツ買うてくるわ。五分・・・いや、十分で戻ってくるさかい、ちょっと待っとってや。」 決意の眼差しで立ち上がったかと思うと、そう言って駆け出していくタルトを、せつなは苦笑いで見送る。 (何だかんだ言っても、タルトも呑気ね・・・。) 大きな前進の後に訪れた、束の間の平穏な時――だからこそ、怖いのだ。 しかし、それから十分と少し経った頃、せつなは、呑気なのは実は自分の方だったと思い知らされることになった。 階段をバタバタと駆け上がってくる、タルトより遥かに大きな足音が聞こえてきたからだ。 「せつなっ!」 部屋のドアをバタンと開けて飛び込んできたのは、肩で息をしているラブだった。どうやら学校から走って帰って来たらしい。 「ラブ、今日は補習だったんじゃ・・・」 「せつなのことが心配で、超特急で終わらせたらさ、校門を出たところでタルトにばったり会って。 もう!シフォンのことを訊きに行くなら、あたしも行くよ!あたしだって、シフォンが心配なんだよ?」 両手を腰に当てて、ラブはせつなの顔を覗き込む。その強い光を宿した眼差しから、せつなは目をそらし、視線を落とした。 「だって、長老さんに訊いても何も分からないかもしれないし、それに・・・」 「もしまだインフィニティになるかもって言われたら、あたしたちが心配すると思ったんでしょ? 心配してもいいの!心配するのも、安心するのも、何も分からなくてガッカリするのも、四人一緒の方がいいじゃん。ね?」 「え?四人って・・・」 思わず顔を上げたせつなの耳に、階下から、また新たな足音が聞こえてくる。 「もう、ラブ!現場にいるときは、電話じゃなくてメールにしてって言ってるでしょ?」 「遅くなってごめんね、ラブちゃん。せつなちゃん、まだ居るよね?」 開けっ放しのドアから顔を覗かせたのは、ラブと同じように息を切らせた美希と祈里だった。 「二人とも・・・どうして?」 驚くせつなに、二人はちらりと顔を見合わせる。 「ラブちゃんから電話を貰ってね。だから、お父さんに頼んで抜けてきちゃった。わたしもシフォンちゃんのこと、気になるもの。」 「アタシは、今日は完璧だったから撮影が早く終わったの。大体、一人で長老に話を聞いてこようなんて、ズルいわよ?せつな。」 あっけにとられて二人を見つめるせつなの肩を、ラブが満面の笑みで、ぽんと叩く。そのとき、ドアのそばに立っている祈里の陰に隠れるようにして、タルトがそろりと部屋に入って来た。 「パッションはん、すんまへん。ピーチはんに見つかってもうた。お蔭でドーナツ、買いに行かれへんかったわ。」 「タルトったら・・・。カオルちゃんのお店と学校とは、反対方向じゃない。」 せつながそう言いながら、ひょいとタルトを抱き上げる。 「あわわ・・・バレてますのん?」 慌てるタルトをじっと見つめてから、せつなはニコリと笑った。 「私の負けね。タルト、ありがとう。」 ☆ それから三十分ほど後。 桃園家の二階の一室が、再び赤い光に包まれる。クローバーの四人とタルトとシフォンが、スウィーツ王国からせつなの部屋へと戻ってきた。 「結局、これと言って目新しい情報は無かったわね。」 美希が大袈裟にため息をついてから、笑顔で仲間たちを見まわす。ラブも祈里も、そしてせつなも、何だかサバサバとした顔つきで、頷き合った。 「そないなこと訊かれても、ワシにも分からん。」 全員を部屋に招き入れ、紅茶をご馳走しながら長老が言った一言は、せつなが密かに恐れていた言葉だった。 「ワシが知っとるんは、シフォンのもうひとつの姿がインフィニティや、っちゅうことと、それが覚醒したきっかけが不幸のゲージやったこと。王家の予言の書に書かれた言葉。それから、今目の前にいるシフォン。それだけや。」 長老は、相変わらず飄々とした口調でそう言って、紅茶をズズッと啜る。ひょっとして、それだけで追い返されるのかと皆が思ったとき、タルトがテーブルの上に身を乗り出した。 「なんやぁ!それだけやったら、ワイらとちーっとも変わらんやないかい!」 ストレートに食ってかかるタルトに、珍しく長老の声が大きくなる。 「当たり前やがな。あんさんらには、もう全てを明かしとるんやで。人が苦労して調べたもんを、それだけとはなんや!」 「そない言うてもやな~!」 タルトが思わず椅子の上に立ち上がりそうになったとき。 「けんか、ダ~メ~!」 今まで部屋の中を我が物顔に飛び回っていたシフォンが、泣きそうな顔で飛んできた。テーブルの真ん中にぺたんとお尻を付けて座ると、長老とタルトを、目をウルウルさせて見比べる。 それを見て、長老は吊り上がっていた太い眉毛をカタッと下げると、シフォンを抱きかかえた。 「おお、シフォン、悪かったのぉ。大丈夫や、ワシらは喧嘩しとるわけやないでぇ。これはな、単なるコミュニケーションや。な、タルト。」 「こみみけーしょ?」 シフォンがまだ不安げに、キュア~?と首をかしげる。 「そ・・・そや。喧嘩やない。」 仕方なく、渋々頷くタルト。それを見て、シフォンがやっと笑顔になった。 「それにしても、喧嘩なんてよぉ知っとったのぉ、シフォン。ひょっとして、お嬢さんたちのコミュニケーションも、目撃したことがあるんかのぉ。」 長老の言葉に、四人は苦笑いをしながら、横目でチラチラとお互いの顔を窺う。長老は、そんな彼女たちにニヤリと笑いかけてから、真面目くさった顔で、こう言ったのだった。 「なぁ、お嬢さんがた。ガッカリさせてすまなんだが、インフィニティの謎は手ごわい。今はこれが精一杯や。けどな、これだけは自信を持って言えるで。 シフォンは決して、災いなんかやない。ワシらの宝や。毎日いろんなものを見聞きして、喜びや悲しみを思う存分経験して、それをぐんぐん吸収しながら育っとる、大事な宝や。 せやから、その笑顔を何としてでも守る。それぞれが、それぞれの方法でな。ワシらに出来るんは、それだけやと思うんや。」 「確かに、今すぐに安心できるような話は何ひとつ聞けなかったけど・・・でもわたし、なんか勇気が湧いちゃった。」 祈里がそう言って、両手の指を組み合わせる。 「そうね。アタシたちは今まで通り、シフォンを全力で愛して、全力で守るだけよね。」 美希がそれに答えて、パチリと片目をつぶる。 「あ、そっか!」 ラブが突然、パンと手を叩いた。 「ねえ。占い館でノーザの霧に飲み込まれたとき、あたしたち、シフォンの声のお蔭で助かったじゃない? シフォンは前にあたしたちが口喧嘩してるところを見てたからさ。それで、あたしたちがお互いに戦っていることに、気付いたんじゃないかな。」 「あ・・・だからタルトちゃんと一緒に、飛び込んできてくれたのね!」 祈里が、腕の中にいるタルトの顔を覗き込む。 「なるほど。じゃあアタシたちの喧嘩も、無駄じゃなかったってことね、せつな。」 「ちょっと、美希。なんで私だけに向かってそれを言うのよ。」 せつなは美希にむくれてみせてから、フッと小さく笑った。 「でも・・・そうね。私も、少し分かった気がする。幸せって、楽しいことだけで出来ているわけじゃないのね。もしかしたらどんな経験にも、無駄なことって、ひとつも無いのかもしれない。」 最後は自分に言い聞かせるように呟くせつなを、ラブ、美希、祈里が静かに見つめる。その視線に気付いて、せつなも少し上気した顔を上げた。 四人の視線はゆっくりと絡まって、やがてそれぞれの、柔らかな笑みとなった。 ☆ その夜、せつなはベランダに出て、空を眺めていた。 目が慣れてくると、実に多くの星たちが夜空を彩っているのが分かる。 故郷のラビリンスでは、決して見ることのなかった小さな光――。 (空が暗いから、小さな星の光でも、こんなにはっきりと見えるのね。) 冷たくなった両手に、はぁ~っと息を吹きかけると、白いもやがあっけなく闇の中に消える。 ふいに、昨日のラブの悪戯を思い出して、頬に両手を押し当ててみた。その途端、隣の部屋のガラス戸がカラリと開いて、せつなは思わず両手を背中に回した。 「何してるの~?せつな。」 「べ、別に。」 (私ったら、まるで悪いことでもしてたみたいじゃない・・・。) 恥ずかしさに、せつなの頬が赤くなる。が、辺りの暗さが幸いしたのか、ラブはそれには気付かない様子で、せつなの姿を嬉しそうに眺めた。 「寒いから、あたしも何か上に着て来ようっと。」 ラブが歌うようにそう言って、部屋の中に引っ込む。それを見届けてから、せつなはそっと胸に手をやって、柔らかいコートの感触を確かめた。 真っ白なファーが付いた、ベージュ色のダッフルコート。あゆみが若い頃に着ていたものだという。 「これ、もう私にはデザインが若すぎるから、せっちゃん、もし良かったら着てくれないかしら。」 夕ご飯の後に、あゆみがそう言って、せつなにコートを試着させてくれたのだ。ぴったりね、と微笑むあゆみに、せつなは震える声で、ありがとう、と言うのがやっとだった。 「やっぱりこれくらい着ておけば、外に出ても寒くないねっ。」 ピンク色の厚めのパーカーを着て、再びベランダに出てきたラブが、嬉しそうにせつなの隣に立つ。 「ええ、凄くあったかい・・・。外がこんなに寒いから、あったかいのが嬉しく思えるのよね。」 せつなは、ラブにニコリと笑いかけてから、もう一度、小さな空の光に目をやった。 「私ね、ラブ。さっき、長老さんに言われて気付いたの。 この町に来て、毎日が凄くあったかくて、楽しくて・・・こういう経験が幸せって言うんだって、そう思ってた。でも、辛かったり、悲しかったり、誰かと喧嘩したり、怖いものに怯えたり・・・そういうこともまた、幸せに繋がる大切な経験なのね。」 暗い夜空に、仲間たちの顔が次々と浮かぶ。 おもちゃの国で、ウサピョンを捨てたと自分を責めて、立ち尽くしていたラブ。 失敗の言い訳を一切しないで、懸命にクローバーボックスを探していた美希。 戦いのとき、自分が足を引っ張るのが怖いと、俯きながら告白した祈里。 自分の弱さや失敗や悩みを乗り越えようと、精一杯頑張る姿が愛おしくて、心配でたまらなくなったり、少しでも応援したくて駆け回ったり。自分もそんな風に思いながら、仲間たちの中に居られるのが、この町で知った、せつなの幸せのひとつだ。 以前、美希の怖いものを聞いたとき、それを知って嬉しいと思った自分は意地が悪いのか、悩んで美希に尋ねたことを思い出す。 今なら、あのときの嬉しさの理由が、少し分かるような気がした。あのとき自分は、美希に、弱いところも見せられる仲間として、信頼して貰える喜びを知ったんだろう。 もしもみんなが、いつも強くて完璧で揺るぎない存在だったら、決して味わうことの出来ない気持ちだったに違いない。 そして自分のことも、仲間たちは当たり前のように心配してくれる。それはやっぱり、心苦しいことだと思う。 でもあのとき――暗く冷たい不幸のゲージの前で、一人じゃない、とみんなが言ってくれたとき、こんな私でも、みんなの大切な仲間なんだと、そう感じた。私もみんなの力を借りて立ち上がっていいんだと、そう思えた。 「ねぇ、ラブ。」 せつなが、ちょっと悪戯っぽい目でラブの顔を見てから、両手の人差し指を、二十センチくらい離してベランダの手摺に載せた。 「前に、カオルちゃんに出題されたクイズなんだけどね。」 「カオルちゃんに?」 訝しがるラブに笑顔で頷いて、せつなは左手の人差し指で手摺を軽く叩く。 「こっちが最悪の状態で、こっちが最高の状態。誰もがみんな、この間のどこかにいるとしてね。こっちの、最悪の怖さにばっかり目が行くのが、『心配』なんですって。」 「ああ・・・何となく、分かる・・・かな?」 辛うじて頷くラブに、せつなは今度は右手の人差し指で手摺を叩いて見せる。 「それで、ここからが問題なんだけど。じゃあ、こっちの最高にばっかり・・・時には、最高のもっと向こうにまで目が行くのって、何だと思う?」 「うーん・・・それ、難しすぎるよぉ、せつな。」 あまりにもあっさりと降参するラブに、せつなが呆れた顔になる。 「ちょっと、ラブ。少しは考えたの?」 「う、うん。考えるにはぁ、考えたよ。でもさ、やっぱり最悪か最高か、どっちかばっかりを見るって、難しいよぉ。」 「・・・え?」 ポカンとするせつなの手に、ラブが自分の手を重ねる。そして、エイッ、と子供じみた気合いを入れて、その手を手摺から外した。そのまま両手で、せつなの両手を包み込む。 「だって、昨日は最悪でも、今日は最高になったりするじゃん。だから、最悪でも、最高でもさ。せつなはせつなだし、あたしはあたしだよ。美希たんもブッキーも、タルトもシフォンも、みーんな。ねっ?そう思わない?」 あっけにとられていたせつなが、クスリと笑う。 「えっ?あたし、なんか変なこと言った?」 「ううん。やっぱり、今日は私の負けみたい。」 怪訝そうに首を傾げるラブに、少し目を潤ませて微笑んでから、せつなは三度、空に目を向ける。 星空にあるものは、空だけでも、星だけでもなかった。濃紺の闇と、小さな光のコントラスト。その無限の広がりが、この町の幸せを静かに祈ってくれていると、せつなは今、確かに信じた。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/536.html
カテゴリー名【長編&連作シリーズ】 SABI(フレッシュ 全11話・完結 R18あり) カテゴリー名【フレッシュ:ラブとせつな】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 ラせ2-26 「月の下」ラブver SABI 一緒に学校に行って、ダンスレッスンに行って、同じ家に帰って。お互いの毎日で、もう知らないことなんかほとんど無いくらいなのに、毎晩ベランダでおしゃべりして。それでもせつなが、喜んで話を聞いてくれるのが嬉しくて。そんなある夜……。 ラせ2-27 「月の下」せつなver. SABI ベランダで楽しそうに話すラブの横顔は、本当に楽しそうで、聞いているこっちまで楽しくなる。思えばラビリンスに居た頃は、こんな風に誰かとおしゃべりすることなんて無かった――。青白い月の下、過去を思い出して震えるせつなに、ラブが優しく寄り添って……。 ラせ2-28 「ゆうだち」 SABI ラブとつまらない喧嘩をした。意地を張ってずっと口をきかずにいたら、ますます素直じゃいられなくなって、心にどんどん黒雲が湧き上がって。そんなとき、空が私の心を映したみたいに、急に荒れ模様になって……。 ラせ2-29 「不安定」 SABI ラブの帰宅が待ち遠しくて、でも帰ったら帰ったで・・・。具合が悪いと尚更に、乙女の心は浮き沈み。最後に保管庫限定のオマケが付いてます♪ ラせ2-30 「夢で逢えたら」 SABI 「眠れないの」それは単なる言い訳なのに、そのまま信じないでよ、ラブ。でも、もしかしたら夢の中で……。 ラせ2-31 「甘い生活」 SABI せつながラブのために精一杯作った、甘口のカレーとは?う~ん、甘すぎるのは、どうやらカレーだけではなさそうな……。 ラせ2-32 「続・甘い生活」 SABI ラせ2-31続き。せつながラブのために精一杯作ったカレー、第二弾!その秘伝(!?)の隠し味、せっちゃん一体誰から教わったの? ラせ2-33 「苦薬も恋人にかかれば甘し」 SABI 具合が悪い。何も食べたくない。でも、せっかくせつなが作ってくれたから……。え~、この薬はヤダ、苦いんだもん。え?ちょっと、せつな?な……何するの~!? ラせ2-34 「頬を濡らすは君のぬくもり」 SABI R18 あなたの声が、私を孤独の夢から掬い上げる。あなたの温もりと心地よい重みが、心と体を溶かしていく……。そう、あなたとの繋がりが、私に深い深い安堵をくれる。 ラせ2-35 「雨中に秘める」 SABI R18 風がこれ見よがしにカーテンを揺らす。風は私の中からも抑えきれずに吹き上がる。ああ雨よ、どうか降り止まないで。二人の秘めたる幸せが、悪戯な風に邪魔されないように。 カテゴリー名【フレッシュ:美希と祈里】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 美祈9 「いらない力」 SABI 四人で来るつもりが、訳あって美希と祈里の二人で動物園。しかしさらなるハプニングが待ち受けていて……。二人手を繋いで歩けば、言葉は無くても気持ちは通じる。キルン、どうやら今は、出番は無いわね。 美祈10 「夢現」 SABI あなたの指先が、わたしに触れているのは……夢? あなたの顔が、わたしの顔の隣にあるのは……現? そしてあなたの唇が、ゆっくりと……わたしの…… 美祈11 「水族館デートは危険が一杯? 美希ブキVer.」 SABI 夏でも日焼けせずあの子が喜ぶ完璧なデート場所。最後に残る問題は・・・。精一杯、もとい、一杯一杯の美希たん奮闘記!最後にほんのり甘~いオマケ付きです。他CP12は美希&せつなVer. カテゴリー名【フレッシュ:その他カップリング(サブキャラ含む)】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 他CP12 「水族館デートは危険が一杯? 美希せつVer.」 SABI 美希&せつな せつなの初体験の感動を、二人で分かち合えたら素敵よね。でもその為には・・・。完璧すぎる美希たんと、精一杯なせっちゃんの、ちょっとズレてる甘甘珍道中!美祈11は美希&祈里Ver. カテゴリー名【フレッシュ:複数キャラクター】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 複数15 「明日へと繋ぐ力」 SABI クリスマスに、せつなちゃんから貰ったプレゼント。そのお蔭で訪れた、世界有数の動物園。聞こえてくる動物さんたちの声は、日本の動物さんたちと同じ。だけどその声を聞いて、わたしは……。 複数16 「甘いものは別腹」 SABI ○○喧嘩は犬も食わないって言葉の意味が、アタシよぉくわかったわ。カオルちゃん!こんな甘すぎる話の口直しに、甘~いドーナツひとつちょうだい! カテゴリー名【フレッシュ:SSS(小ネタ、独白、掌編等)】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 SSS10 「黎明」 SABI 音も光も無い夜が明け、ラビリンスに朝が来る。そう、メビウス様直々のご命令により、異世界へと向かう旅立ちの朝――。イース視点での、フレッシュプリキュア!前日譚。 SSS11 「解けない思い」 SABI 最近、ラブちゃんとせつなちゃんが一緒にいるところを見ると、胸が痛くなる。原因は分かってるの。でも……。この想いに気付いて欲しい。気付かれたくない。心を決められないまま、祈里はバレンタインの町をさ迷って……。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/585.html
せつなの苦手なもの/ねぎぼう 「せつなちゃんは何でも美味しそうに食べるわね」 「おばさまの料理って本当に美味しいんですもの」 桃園家で暮らすことになったせつなはあゆみの台所仕事を手伝い始めた。 日々の食事にも幸せを見つけたせつなにとって、料理ができるプロセスに関わることも幸せなことだった。 「せつなちゃん、サラダの野菜を出しておいて」 「はい、おばさま!」 その中にはニンジンやピーマンもあった。 (これはラブが苦手なニンジンかしら……でも、おばさまが作る料理ですもの、大丈夫だわ) その日の夕食。 せつなは野菜サラダに入っていたピーマンを口にした。 (え?苦い!) ラビリンス本国にいた頃の無味乾燥な食事でも苦い食べ物はなく、本能的に不快な味覚であった。 外世界潜入時のチュートリングで初めてその感覚を知るとともに「苦いものは毒物の畏れあり」と教わっていた。 (私、いけないものを出してしまったの?) 一方、圭太郎もあゆみも普通にこの緑の野菜を食べていた。 ラブもニンジンは案の定避けていたがそれ以外のものは普通に口にしていた。 これは食べるものであることには疑いない。 となるとせっかく作ってくれた料理を残すことなどあってはいけないことだ。 「精一杯、頑張るわ!」 残りのピーマンを口に入れ、飲み込んでいった。 他の料理は美味しくて、いつもの美味しそうに食べる顔はキープできていたつもりであった。 同じ頃、ニンジンを残していることをあゆみに指摘されたラブが苦しそうにニンジンを飲み込んでいた。 * あゆみは晩御飯の一品にピーマンの肉詰めを作ろうとしていた。 「せつなちゃん、ピーマン切っておいてね」 「はい、おばさま……」 この間食べてすごく苦くて困った野菜。 でも、あゆみが選んだ食材を嫌だなんていうわけにはいかない。 頼まれた通り、ピーマンを半分に切っておく。 「これでいいですか?」 「ありがとう、せつなちゃん」 食卓でのせつなはいつもより饒舌であったが、リビングでは物静かであった。 * その日の夕ご飯のメニューは酢豚。 「せっちゃん、野菜切っておいてね」 「あの、おばさま……何でもない」 すっかり包丁の使い方にも慣れて、ニンジン、ピーマン、玉ねぎなどを手早く乱切りにしておいた。ピーマンは3個手に取ったものの切ったのは2個。 あゆみは切った野菜を見て、 「野菜もう少し入れたほうがいいかしら?」 「ご、ごめんなさい…」 せつなは、ピーマンを2個程追加して乱切りにした。 その晩の食卓では、相変わらずラブはあゆみにお小言をもらいつつ残したニンジンを食べるはめになっていた。 せつなは心なしか食べ急いでいるようであった。 食事がすむと、少し疲れたといって自分の部屋に早く戻っていった。 * せつなは自分の部屋で一人膝を抱えていた。 (無意識とはいえ酢豚に入れるピーマンを少なくしようとしたのではないか?) (そんな自分が幸せのプリキュアだなんて……) (しかも少なくしようとしたのをおばさまに気付かれてしまった?) 一人思い悩む。 コン、コン! ラブがベランダからせつなを呼んでいた。 「ラブ、そんなところからどうしたの?」 「せつな!ベランダに出ておいでよ」 「私、今は……」 「外は気持ちいいよ」 ラブに強引に連れ出されたような恰好になったせつな。 何を話すでなく、しばらく夏の夜風に身を預ける。 「せつな……ピーマン苦手?」 「え?そんなことは……」 「ピーマンを食べている時だけは、ほんのちょっと無理してるね」 (ラブには全てわかっちゃうのね……) 「本当はアレ、食べたくないの…… でも、おばさまが作ってくれる料理を イヤだとは言いたくないの……」 「それにしてはピーマン多くなかった? 今日はせつなが野菜切ってたんでしょ?」 「え? おばさまはピーマンが少ないって言ったんじゃなかったの?」 「今日はお肉が特売でかなり入れたから、野菜も大目にしようと思ったんじゃ ないかな?」 せつなのなかで何か切れた。 「ラブ……私、あのとき入れるピーマンを減らそうとしてた……おばさまはそれを知って……」 家族の食卓というこの上ない幸せな場所に自分を迎えてくれた。 それだけにピーマンが苦手なことを知られることで余計な気遣いをさせたくなかった。 我慢ならいくらでもできる……今までも色々な痛みに耐えてきた。 そう思っていたところに出てきた心の隙のようなもの。 悔しさやら安心感やら色々な感情からか涙がこぼれた。 ラブはそんなせつなに胸を貸す。 「せつなってすごいね。苦手なものでもちゃんと入れられるんだもん……」 「そんな、私……」 「でもね、苦手なものをそんなに隠さなくてもいいんだよ」 「?」 「誰だって苦手なものはあるって……あたしだって自分が夕食当番の時は苦手なニンジン入れなくってお母さんに叱られちゃうし、お母さんだってホウレン草苦手だから。あんまりホウレン草をおかずに出さない」 ラブはイタズラっぽく笑う。 「でも、あたし、お母さんが大好きなことには変わりはないよ。お母さんもね、きっと同じだと思う。せつなのこともね……」 「おばさま……」 「せつなはさ、もっと自分に素直になっていいんだよ」 総統と呼ぶもののために痛みに耐えながら戦ってきたせつなを見てきた。 その末に一度は散華し、見つけた幸せを手にできなかった命。 もう誰のためにもに一人痛みをこらえて欲しくはない、それがラブの願い。 「だから、苦手なものは苦手って言ってもいいと思うんだ」 誰にも気付かれまいとして一人で苦しんだとしても、それが誰かの苦しみを呼ぶのでは何にもならないとせつなはラブに知らされた。 「今度おばさまにアレはちょっと減らしてって言ってみるわ」 「とはいっても、好き嫌いはダメってお母さんは言うけどね」 「それじゃ変わらないじゃない?」 呆れるせつなであったが、心の重石はとれたかのようであった。 「これからはせつなのピーマンはあたしが食べてあげるからさ、 ニンジン代わりに食べて」 「だーめ、ちゃんと食べなさい」 「たはは……」 駄目なところを見せることが時にはあってもいい。 この町で、桃園家で、せつなが見つけた一つの幸せ。
https://w.atwiki.jp/loveplus2ch/pages/19.html
注意 改造コードを使ってすべてのご当地ラブプラスを出した方は、プレゼントはご遠慮ください。 また、すれちがい通信で意図せず情報未確定のものを受け取った方も、それはプレゼントにしないよう配慮願います。 ご当地ラブプラスとは ご当地ラブプラス一覧 入手方法 すれちがい通信ができない人へ SP入手コマンド一覧 ARメーカー(仮)OO版(手動作成) Windowsアプリケーション(自動生成) FAQ コメント ご当地ラブプラスとは 日本全国各地にいる彼女たちのSDキャラ。地域ごとに彼女別3種+レア1種がいます。(一部地域をのぞく) Lv3のナレーションには、最後に一言つくものがあります。 ご当地ラブプラス一覧 都道府県 ノーマル レア Lv3一言の有無 北海道 アイヌ クリオネ(マナカ) 青森 りんご 津軽三味線(リンコ) 岩手 遠野河童 ざしきわらし(リンコ) レア 宮城 仙台七夕 伊達政宗(リンコ) 秋田 きりたんぽ なまはげ(ネネ) 山形 さくらんぼ 直江兼続(マナカ) 福島 喜多方ラーメン 赤べこ(ネネ) レア 茨城 納豆 水戸黄門(ネネ) 栃木 日光三猿 眠り猫(リンコ) 群馬 キャベツ ぶんぶく茶釜(ネネ) レア 埼玉 草加せんべい 雛人形(リンコ) 千葉 落花生 成田空港(ネネ) 東京 メイド江戸前寿司東京タワー 国技館(マナカ) レア 神奈川 横浜港 横浜中華街(ネネ) 新潟 お米 上杉謙信(リンコ) 富山 ホタルイカ 富山の薬売り(マナカ) 石川 兼六園 加賀人形(リンコ) 福井 越前ガニ 恐竜(ネネ) 山梨 ぶどう 武田信玄(マナカ) 長野 軽井沢ウェディング スキー場(リンコ) レア 岐阜 さるぼぼ 鵜飼(マナカ) 静岡 茶畑 うなぎ(マナカ) 愛知 シャチホコ 味噌カツ(ネネ) シャチコホコ凛子 三重 鈴鹿サーキット 真珠(リンコ) 滋賀 忍者 ビワコオオナマズ (マナカ) 忍者愛花 京都 舞妓新撰組 ぶぶづけ(リンコ) 舞妓愛花 大阪 たこやき 漫才(マナカ) 兵庫 甲子園 かばん(マナカ) 奈良 鹿 ソメイヨシノ(ネネ) 和歌山 梅干し 高野山(マナカ) 鳥取 鳥取砂丘 因幡の白兎(マナカ) レア 島根 出雲大社 大国主(マナカ) 岡山 桃太郎 鬼(ネネ) レア 広島 三本の矢と安芸の宮島 しゃもじ(マナカ) 山口 下関ふぐ シロヘビ(ネネ) 徳島 阿波踊り ウミガメ(ネネ) 香川 讃岐うどん キウイフルーツ(リンコ) 愛媛 ミカン マドンナ(ネネ) 高知 土佐犬 坂本竜馬(リンコ) 福岡 博多ラーメン 博多どんたく(ネネ) ラーメン凛子 佐賀 ムツゴロウ 吉野ヶ里遺跡(ネネ) 長崎 出島とカステラ ツシマヤマネコ(リンコ) 熊本 スイカ せんば山たぬき(ネネ) レア 大分 別府温泉 しいたけ(リンコ) 宮崎 マンゴー 地頭鶏(リンコ) 鹿児島 宇宙センター アマミノクロウサギ(マナカ) 沖縄 琉球衣装 シーサー(マナカ) チャーム くろうさマナカとらねこリンコあらいぐまネネ SP (ファミ通・ネネ) SP (電撃・マナカ) SP (ゲーマガ・リンコ) SP (TVBros.・リンコ) SP (月刊少年ライバル・マナカ) SP (月刊ヤングマガジン・ネネ) SP (別冊少年マガジン・リンコ) SP はぴかむりんこ (ラブプラス+公式ガイド・リンコ) 入手方法 出身地を設定したとき(1種) 名刺交換(相手がプレゼントに設定しているもの) 各地のDSステーション(引き継ぎサポート対応店と違う場合があります) 既に持っているものを貰った場合LVが上がり、最後まであがると解説を音声付きで彼女が読み上げます。(Lv1:拡大して見る Lv2:タッチアクション追加 LvMAX:解説音声読み追加) 他にも色んな条件で手に入るSP(スペシャル)が・・・? ご当地カプセルに挑戦できるのは初期状態で3回です。 DSステーションとの通信回数が増えたり、引き継ぎ時に彼女との親密度(称号)が高い彼氏は、最大5つまで増加。 1対1の彼女通信でもプレゼントして貰える(その場合はハートマーク)。 すれちがい通信ができない人へ すれちがい通信ができる箇所へ集合する為の掲示板があります。下記へ自分の行動予定、プレゼント予定を記載しておくと他の人が近辺に集まってくれるかもしれません。 2ch 2chに書き込めない方用 ※OFF会は板違いです、気をつけましょう SP入手コマンド一覧 全てご当地ギャラリー画面での操作になります。 SPをすれちがい通信で他の彼氏からプレゼントされた場合はアクションしませんが、自分で入力して入手したSPはアクションします。LvMAX(解説音声読み)は無し。 入手コマンドは、マウスでドラッグすると確認出来ます。 プレゼントとしてセットするのは記載元の発売日以降にしましょう。 名称 記載元 コマンド キャラ ファミ通 2010年7月8日号 LR同時押ししながら左、上、右、上、左、下、右、下、B、A ネネ 電撃G smagazine 2011年1月号 Lを押しながらB、A、右、右、左、左、上、下、上、下 マナカ ゲーマガ 2010年11月号 LR同時押しA、B、右、右、左、左、下、下、上、上 リンコ TVBros. 2010年6月26日号(全国5誌共通) Lを押しながらB、上、下、左、右、上、下、左、右、A リンコ 月刊少年ライバル 2010年8月号 LR同時押ししながらA、右、上、左、上、右、下、左、下、B マナカ 月刊ヤングマガジン 2010年11月号 Lを押しながらB、上、下、左、左、右、右、下、上、A ネネ 別冊少年マガジン 2010年11月号 LR同時押ししながら上、上、下、下、B、A、左、右、左、右 リンコ ラブプラス+公式ガイドブック 2010/8/30 Lを押しながら下、上、右、左、左、右、上、下、A、B リンコ ARメーカー(仮) OO版(手動作成) ラブプラスiM、iR、iN用のARマーカーを自作するためのOpenOffice用ファイルです。 Calcのオプションでグリッドを消すこと。 各シートのマーカーを4つ組み合わせて読むと何処かのご当地ラブプラスが出現するかも・・・? 全てのコードパターンが出たか確認出来ていない為、作成できないコードがある可能性があります。 2010/07/04 ARパターン追加 対象をファイルに保存 Windowsアプリケーション(自動生成) 作成ボタンを押すとランダムでARコードを生成します。 存在しないARコードが出る場合もあります。 全てのコードパターンが出たか確認出来ていない為、作成できないコードがある可能性があります。 2010/07/06 ソフト更新 Axfc Uploaderよりダウンロード FAQ Q.ご当地カプセルってマクドナルドの「マックでDS」で通信しても貰える? A.いいえ。ゲーム店や大手量販店やイトーヨーカドーなどに設置してあるDSステーションでしか貰えません。 こちらから検索してみてください。http //www.nintendo.co.jp/ds/ds_station/shop/ Q.PC+WEBカメラでご当地キャラのARを撮影したいんだけど? A.現在のところ、iPhoneのアプリのみ対応です。(カメラの付いていないiPod touch/iPadも対象外)他にアプリケーションも開発中との記載がとわのウォッチャーにあるので、公式ページの更新を待ってみよう。 コメント 結構ありますねー -- m@ririn (2010-06-26 07 00 18) 同じ相手と複数回名刺交換しても増えるみたい -- 名無しさん (2010-06-26 11 48 30) カプセルで貰った場合と名刺交換で貰った場合では、更新のところのマークが変わる模様。 -- 名無しさん (2010-06-26 15 49 01) DSを2台持ちの人は前回カプセルを引いたときのDSと違っている場合、内部時間のズレで「操作した」とみなされて挑戦回数回復の待ち時間をリセットされるので注意 -- 名無しさん (2010-06-26 17 45 50) 電撃→コマンド不明→マナカ -- 名無しさん (2010-06-27 15 38 54) ブロスのコマンドは全地区共通? -- 名無しさん (2010-06-27 20 58 25) 毎日茨城から千葉へ行ってるが誰ともすれ違わない… -- 名無しさん (2010-06-28 15 57 56) キャラクリックするとアクションしますね。 (2010-06-28 17 18 57) DS複数台持ちの場合、ステーション接続に使う本体を1つに決めておけば大丈夫(他の本体でゲーム本編を起動してもいいが、「ご当地カプセル」を選択してはいけない) (2010-06-29 09 11 05) ↑↑ Lv1:特になし Lv2:タッチアクション追加 LvMAX:解説音声読み追加 かと (2010-06-29 09 39 54) L+MサンタリンコのAR、「リンコのじゃないとダメ」といわれ反転させてみたら656リンコでた (2010-06-30 12 05 33) ↑25リンコだったorz (2010-06-30 12 09 03) 岩手→河童、ビギニ、 (2010-06-30 19 48 59) かわいいwかっぱ (2010-06-30 19 52 47) あれコマンド入力してもSPでてこないな (2010-07-01 02 00 59) うまく入力できないときは一度ギャラリー抜けてやり直すといい (2010-07-01 05 31 47) SPはパスや引き継ぎなど自分で入手(カプセルBマーク)するとタッチで反応するが、通信で人からもらった場合、通常のご当地と同じように2回受け取らないとタッチは反応しない。3回目以降は未確認 (2010-07-01 11 22 32) SPを所持した状態で、すれ違い通信で同SPを取得しても変化しない。 (2010-07-01 21 41 27) SPのLv3?を確認。すれ違いでもらった「とらねこリンコ」が、1回更新でタッチ発生(Lv2)。その後すれ違いでさらに更新された(Lv3)。ただ、Lv3とLv2との違いは不明。中途半端で申し訳ない (2010-07-04 20 40 50) チャーム、++からの新規で称号5で出現を確認。 (2010-07-07 16 21 01) 彼女通信の最後にも名刺交換ができるが、この際にご当地Lvを更新した場合、更新マークがハートマークになる。 (2010-07-08 03 12 41) 3人通信をすると全員の名刺のプレゼント欄がリセットされて交換ができなかった。通信後にセットし直さなければならない (2010-07-08 08 55 41) SP系は誰かからすれ違いで貰った瞬間からそのコマンドは反応しなくなるっぽいですねorzこの説明文ではこの意味まで読み取れない可能性もあるので注意書きとして書いた方がいいかもです。 (2010-07-11 02 04 05) 熱海ですれ違いやったらはぴかむりんこゲット SPの一番下 (2010-07-19 19 25 01) DSステーションでの入手って、その土地の種類しか貰えないの? (2010-07-20 09 33 21) ↑その通り。東京なら東京のみ、静岡なら静岡のみ (2010-07-21 20 49 11) ↑サンクス。日本全国ぶらり旅のフラグ立った。 (2010-07-21 22 32 12) 休日熱海行けば結構すれ違う。スタンプラリー場所とか。 (2010-07-21 23 25 45) 昨日、秋淀に行ったらはぴかむりんこを配ってたのが居た。それとこのゲームにも感染ってあるのかな?すれちがうと変なんだけど。 (2010-07-22 00 26 21) ↑変ってどこが変なの? (2010-07-23 17 56 47) 1度もらった事のあるSPに更新マークが付いた。 (2010-07-23 20 31 34) 私も秋葉ではぴかむりんこ受け取らされました・・・。SPはコマンド入手で統一したかったのに! (2010-07-24 03 11 25) SP受け取りたくないなら全コマンド公開されるまで自力ガチャだけにしてすれ違いやんなきゃいいじゃん (2010-07-25 00 28 59) なんかよく解ってない奴が多いがSPはコマンド入力で出すとLv2。すれ違いで貰うとLv1。別に変じゃないっていうか説明読め。書いてあるだろ (2010-07-26 13 10 20) SP配る奴の意味がわからない (2010-07-28 10 17 04) ↑「お前らが持ってないSP持ってるんだぜ」っていう厨二病 (2010-07-28 12 02 50) 少年ライバルのコマンド間違ってない? (2010-07-30 21 08 39) 電撃ゲームス見たけどコマンド無かった 上の電撃は多分Gsmagazineだと思われ (2010-08-04 13 04 51) はぴかむりんこは無印引継ぎのレアSPです。 (2010-08-04 14 53 45) ↑本当に無印引継ぎレアSPなら条件は?三人とも引き継げばいいってのは俺自身やったけど出てこなかった (2010-08-05 17 41 44) 秋淀のコロシアムに夜に沸いてくるWB隊はコンプしてるらしくまだ出し方のわからないSPもばらまいてます。要注意。 (2010-08-06 08 51 53) 8/14昼頃に秋葉うろついてたら、電撃とヤンマガ受け取らされた・・・ (2010-08-15 09 14 39) 愛知のリンコしゃちほこだけ読み上げ最後に名古屋弁が入る (2010-08-21 22 29 05) ↑3キャラ共に2つor3つは説明文以外にもセリフあり (2010-08-21 23 07 15) ↑1キャラにつき4ヶ所ありますね (2010-08-22 00 05 52) 引き継ぎではないけど、50回接続前くらいに回数が5回に増えた あと、土佐犬はリンコだけ小キック (2010-08-22 00 51 35) 近所にDSステーション無いから野暮用で出掛ける時にしかカプセル回せないんで試行回数少ないけど・・・これ、セーブに入ってる彼女によって出てくるキャラ偏るよな・・・リンコと寧々さんばっかりでマナカが全く出て来ない・・・セーブもリンコと寧々さんのみ (2010-08-24 18 13 39) 説明文以外no (2010-08-24 22 28 55) セーブデータにはマナカ(Lv7)とネネ(Lv5)が入っているが、その場合マナカの登場率が高く、ガチャ5回回して3回マナカとか普通。登場率はマナカ>>ネネ>リンコって所。実際リンコはあまり出て来ない・・・ (2010-08-24 22 46 46) ↑↑↑↑↑↑↑中の人の地元だから (2010-08-26 00 30 28) SPのファミ通ネネさんとゲーマガ凛子の間のSPって何かわかりますか?発生コマンドがあるなら教えてもらいたいです。 (2010-09-06 21 54 29) ↑電撃です。コマンドはまだ不明です。 (2010-09-10 21 55 54) 別冊少年マガジンはLR押しながら上上下下BA左右左右だった。電撃と月刊マガジンわかる方います?まだ不明かな。 (2010-10-08 18 56 24) 月刊ヤンマガ、L押しながらB上下左左右右下上Aでした。 (2010-10-13 14 31 15) パス教えてくれる人に毎度感謝 (2010-10-14 13 34 33) ご当地カプセルの各県キャラクターで左から順に「マナカ」「リンコ」「ネネ」「?(レアと言われているところ)」がありますが、「?」のキャラの入手方法を教えてください。見落としていたらごめんなさい。 (2010-11-02 02 45 51) ↑ http //www19.atwiki.jp/love_plus/pages/128.html ここに書いてあると思う (2010-11-03 12 24 48) ありがとうございます (2010-11-07 01 56 00) 最後の電撃のコマンドが発表された様ですが、どなたかお願いします。 (2010-11-26 16 16 33) L押しながら右右左左上下上下 (2010-12-02 20 11 08) 右右の前にBAがあった (2010-12-02 20 14 53) チャームってコマンドででます? (2010-12-02 21 24 39) チャームは禁書にコマンド載ってるね (2010-12-02 22 31 33) 昨日、今日と秋葉のDSステーション2ヶ所でガチャに挑戦したけど、20回位やっても全くつながりませんでした。もしかしてついに配信終了? (2011-01-11 02 35 46) 出張のついでに中部~関西でガチャやってるけどまだ配信してる DSステーションが不良を起こしてたのでは? (2011-01-26 00 16 42) レアのフラグはテーブルか何かで管理されてるのですかね? 岐阜の鵜飼マナカが25回やって1回も出ません (2011-01-26 00 20 14) ステーションの真正面でなるべく近く、それでも繋がらないこともあるよ。周囲の電磁波?とかに負けてる可能性あり。めげずに試せ (2011-01-28 00 06 32) どうでもいいけど、東京3種類はともかく、京都2種類ってのはなんでだろうな (2011-02-17 10 13 12) 任天堂本社が京都だから? (2011-02-28 15 07 11) 最早ニーズは皆無と思われますが、3DSステーションは旧DSステーションより通信が繋がり易いような気がします。(秋葉祖父にて確認) (2011-08-16 17 20 52) コメント
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1820.html
せつなとラブの上の空/一六◆6/pMjwqUTk 静まり返った教室に、チョークと黒板が擦れるカッカッカッ……という音だけが響く。 四つ葉中学校二年の数学の授業。みんな一心にノートを取っている中、いち早く鉛筆を置いたせつなは、隣の席のラブに少し心配そうな視線を向けた。 ラブも鉛筆を手にしてはいるものの、ノートのページは真っ白だ。それどころか、ラブは黒板の方を見てすらいない。頬杖をついて窓の外を眺め、何やら嬉しそうにニマニマと頬を緩めている。 (もう、ラブったら。授業に全然集中してないじゃない) ラブの肩をつついて注意しようと、せつなはそっと腕を伸ばす。だが肩に触れる寸前に、ハッとして手を引っ込めた。 「誰かぁ、この問題が解けるか~?」 板書を終えた先生が、そう言いながらこちらを振り返ったのだ。生徒たちをぐるりと見まわしてから、先生はラブに目を留め、呆れたように小さくため息をつく。 「よし。じゃあ、ももぞ……」 「先生! 私にやらせてください」 せつながすかさず手を挙げる。つい先日も、居なくなったシフォンを心配して気もそぞろだったラブを、せつながこうやって間一髪でフォローしたのだ。今日もそうするつもりだったのだが――何度も同じ手は通用しなかった。 「東は、次の応用問題を頼む。桃園! この問題、やってみろ」 「「え?」」 せつなとラブの声が揃う。そして次の瞬間、ラブは慌ててガタンと勢いよく立ち上がった。 「はい! わ、わわ、わかりません!」 「こら、解かずに即答するヤツがあるか」 先生の言葉に、教室から笑いが起きる。 「ここに書いてある例題と、同じ解き方だぞ? 授業をちゃんと聞いてたか?」 「ごめんなさい……」 すったもんだの末に何とか正解したラブは、宿題の上に教科書の練習問題を課題として追加され、トホホ……と肩を落として席に着いた。 ☆ 「どうしよ~。あんな量の宿題、絶対終わらないよぉ!」 放課後のドーナツ・カフェ。丸テーブルに突っ伏しているラブを、せつなが少し眉根を寄せた、困った顔で見守っている。美希は肩をすくめて呆れ顔。祈里は力のない苦笑いだ。 「授業も聞かずに、一体何やってたのよ」 美希にいつもの調子でツッコまれて、ラブがようやく顔を上げる。 「何もやってないよぉ。明日のパジャマパーティーが楽しみ過ぎて、あれもやろう、これもやろうって色々考えてたら、いつの間にか先生に名前呼ばれてて……」 「まさに上の空だった、ってワケね。まあ、楽しみなのはわかるけど」 美希が納得した顔で、ハァっと大袈裟にため息をつく。祈里も苦笑いの表情のまま、何度も小さく頷いて見せた。 明日は夕方から美希と祈里が桃園家に泊まりに来て、パジャマパーティーをすることになっている。パジャマパーティーという言葉を、せつなは今回初めて聞いたのだが、なんでも友達の家に泊まって、みんなで一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったり、パジャマ姿で部屋で遊んだりするものらしい。 (この世界には本当にイベントが多いけど……きっとパジャマパーティーも、とっても楽しいイベントなのね) 授業中のラブの様子に加え、二人の表情を見てせつながそう確信した時、祈里がニコニコと話しかけてきた。 「その点せつなちゃんは、何かに上の空だったりすること、なさそうだよね」 一瞬きょとんとしたせつなが、頭の中で、もう何度も熟読してほとんど暗記してしまった辞書のページをめくる。そして、今度はせつなが苦笑しながら、ゆっくりと首を横に振った。 「……ううん、そんなことないわ」 (上の空――他のことに心が奪われて、今必要なことに注意が向いていない様子――。あの時の私は、まさにそんな状態だったわ) 脳裏に浮かぶのは、この姿でラブに初めて会いに行った時のこと。せつなは変身アイテムを奪う目的で彼女に近付き、ずっとその機会を窺っていたのだが。 ――お願いっ! せつな、選んで。 ――せつなは、“これ”って思うのはどれ? 試しに“せーの”で、一緒に指差そう? ねっ、それならいいでしょう? そうしよう? そうして! 商店街の福引で“幸せのもと”を当てるのだというラブの言動に振り回されて、福引の結果に一喜一憂して、自分も“幸せのもと”が何なのか知りたいと思って……。 あのひと時だけは、変身アイテムを奪うという目的が、頭から完全に抜け落ちていた。そしてラブと会うたびにそんな時間が少しずつ積み重なって、そして――。 (今ならわかる。あの時に心を奪われた“他のこと”を考えてた時間の方が、実はとっても大切な時間だったのよね……) せつなはおもむろに立ち上がると、ラブの肩にポンと手を置いた。 「さあ、ラブ。帰って課題を済ませるわよ」 「えぇ~!? 今日じゅうに終わらせるの?」 「ええ。パジャマパーティーの間、ずっと勉強のことが気になっているのは嫌でしょ?」 「それはぁ、そうだけど……」 「大丈夫よ、私がちゃんと教えるから。私だってパジャマパーティー、何も心配しないで精一杯楽しみたいもの」 まだぐずぐずと座ったままでいたラブの顔が、その言葉を聞いてパァッと輝いた。 「ホントっ!? せつな、最後まで教えてくれる?」 「もちろん」 「よぉし。じゃああたし、頑張っちゃうよ!」 さっきまでの嘆きっぷりが嘘のように、ラブが勢いよく立ち上がる。 「頑張れ、ラブ」 「ファイト」 美希と祈里がラブにエールを送り、せつなもラブの顔を見つめてニコリと笑う。 四人の頭上には茜色の空が、雲を染めて美しく広がっていた。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/540.html
第30話 それは、魔法の言葉 ラブはぼんやりと部屋の窓から夜明け前の空を眺めていた。 なぜ朝日は夕焼けほど赤くはならないんだろう、でも確か朝焼けって言葉は聞いたことがある。 (朝焼けの日は天気が悪くなるとか何とか…) せつなに聞けばわかるかな。そんな意味も無いことをつらつらと考えながら こんな時間になってしまった。 夕飯の時間をかなり過ぎてから帰宅したために母にはかなり叱られた。 ちょうど、帰ってきた父に宥められ三人での夕飯になった。 一つポツンと空いた席。以前は当たり前だった光景。何でこんなに違和感があるんだろう。 ずっと一人っ子だったけど、ラブには一人で夕飯を食べた記憶がほとんどない。 母は働きながらもいつも夜はラブが一人にならないようにしてくれていた。 父が残業で遅くなって母と二人の時はあったけど、こんなにも一人足りない気分にはならない。 (どうしてだろう…) 考えながら、ふと思い付いたのは、両親は家族だから、と言う事だった。 父も母も、どんなに遠くに行ったって帰ってくるのは当たり前だった。 帰らないかも知れない、どこかへ消えてしまうかも知れない、そんな事は考えた事も無かった。 でも、せつなは違う。 家族になるつもりで迎え入れた。両親も実の娘の様にせつなに接してくれている。 でも、自分は違ったんだ、とラブは今更ながら自覚した。 せつなは家族じゃなかった。だから出ていったら、そのまま帰らないかも知れない。 せつなはどこにも居場所が無かった。 しかし、どこにも居場所が無いと言う事はどこにでも行けると言う事でもある。 保護してくれる存在もなければ、縛るものも無い。 例えラブがどれほど側にいて欲しいと願っても、せつなにその気が無くなれば どこにでも自由に行けるのだから。 実の姉妹なら喧嘩しようが仲違いしようが両親の庇護下にいる限り、家を出る事なんて出来ない。 (だから、あたしはせつなを家族にしたかったのかな…) せつなが、自分の背中に自由に羽ばたける翼がある事に気付く前に、 その足に枷を嵌めてしまいたかった。 ラブは膝に顔を埋め、長く長く息をつく。 どうしてだろう。自分はただせつなを好きなだけなはずなのに。 どうして、せつなを想う気持ちを言葉にしようとすると自分が卑怯者に なった様な気になるんだろう。 せつなをラビリンスから取り戻そうとしたのも、この家に住まわせたのも、 みんなせつなの為を思ってしたつもりだった。 せつなが好きで、幸せになって欲しくて。 そして、せつなの幸せの中に自分の存在もあってくれたら嬉しい。そんな風に感じていたつもりだった。 せつなの笑顔が自分に向けられている。それだけで幸せになれるはずだった。 でも、実際はどうだっただろう。 せつなは何回泣いたんだろう。 せつなを何回泣かせてしまったんだろう。 (自分の…事しか考えてなかった…ってコトなのかな) たぶん、せつなに聞けば、そんな事無いと言ってくれる。 自分は幸せだ、と。その幸せはラブのお陰なんだと。 でもラブはそんな言葉も素直には受け入れられないだろう。 ずっと心に引っ掛かっている負い目と言う名の棘。 ラブでなくても良かったのかも知れない、と言う不安。 もし祈里でも美希でも、せつなは同じように愛情を育てていったのではないだろうか、 そんな疑念が澄んだ泉の底に溜まった砂の様に沈んでいる。 ふとした拍子に掻き混ぜられた砂粒は透明な水を濁らせ、またゆっくりと沈んでゆく。 せつなと暮らし始めてから、何度そんな気分を味わったのだろう。 何度唇を重ねても、何度肌に証を刻んでも、いつかせつなが他の誰かをその瞳に映してしまうのではないか。 そんな埒も無い妄想に振り回されていた。 「…せつな………」 声に出して呟く。 途端に胸の中が甘酸っぱさで満ちる。 どうしてこんなに好きなんだろう。 結局、何をどう考えても行き着くのはそれだった。 自分でも理由なんて分からない。でも、好きになってしまった。 それこそ、祈里の言葉ではないが、神様が決めたとしか思えないくらいに。 会いたい。一分一秒だって離れていたくない。 せつなは物じゃない。せつなにだって自分の時間が必要。 早く帰ってきて。抱き締めさせて。 離れてたって大丈夫。だってせつなが帰ってくるのはここなんだから。 ラブは自分の体を抱き締め、思わず込み上げた笑いを堪える。 (ダメだ…あたし完全に頭おかしいよ) せつなを閉じ込めて独り占めしたい気持ちも本当。 せつなに色んな幸せを知って欲しいと言う気持ちも本当。 誰も見ず、自分だけを見つめて欲しい。自分の存在だけがせつなの唯一の幸せであって欲しい。 他の何も求めないでいて欲しい。 それも、本当。 馬鹿みたいだ。それじゃせつなはただのお人形さんになってしまうのに。 矛盾してる。自分だけを知って、ラブだけのせつなでいて欲しいのに、 沢山の選択肢の中から最良のモノとして選ばれた訳では無いのが不安だなんて。 だったら今は満足な状況なんじゃないのか。 祈里に愛され、求められながらも自分を選んでくれたのだから。 こんな事を考える自分自身にゾッとする。 どうしてこんなに中途半端なんだろう。 大人ぶってすべてを水に流す事も、子供の様に嫌だ嫌だ許せないと泣き喚く事も出来ない。 欲しい答えもすべき事も分かっているのに。 許すと言って楽になってしまいたい。 せつなにも、「祈里を許して」そう言ってしまいたい。 そうすれば、きっとすべてが終わるのに。 (……本当に…?) じゃあ、何が引っ掛かるのだろう。 償って欲しい訳ではない。それは祈里が自分で考える事だから。 謝って欲しい訳でも無い。だって祈里がせつなを好きになってしまったのは罪では無いから。 自分はこれからどうしたいのか。きっと、どうもしない。 今まで通り、ずっとせつなと手を繋いで行く。それだけ。 そして、美希や祈里ともずっと親友のままでいたい。 本当に、それだけが望む事なのに。 「せつな、せつな、せつなぁ……」 好きな人の名前は魔法の言葉だ、とラブは思う。 呪文の様にただ繰返し唱えていると、心の中の余計な濁りが澄んでゆくような気がするから。 グツグツと煮えたぎる胸の内がすぅっと凪いでゆく。 せつなに会いたい。顔を見て、声を聞いて、体に触れたい。 あの声で名前を呼んでもらえたら、きっとまた頑張れるから。 ラブはそっと家を抜け出す。 まだ夜も明けていないのだから、せつなもぐっすり眠っているだろうに。 それでも何となくじっとしていられなかった。 まだ寝静まった商店街。何をするでもなく、ぶらつく。 開店の早いパン屋さんや豆腐屋さんはもう仕込みに入っているだろうか。 朝食用に買えるかも知れない。押し掛けて行って見学させてもらったらダメかな。迷惑かな。 もし良いよって言われたら、今度せつなを連れて行こう。 きっとせつなはパンや豆腐が出来る所なんて見たことないだろうから。 って、あたしもないんだけどさ。 少し、幸せな気分になっている自分が可笑しくなる。 せつなと一緒にしたい事、見せたいものを思い付く。ただそれだけで。 単純にも程があるだろうに。 (…これで、いいんだよ、ね) この、ほんのり温かい小さな幸せを幾つも幾つも層の様に積み重ねて行きたい。 そうすれば、いつか堪え難い程の辛い記憶も重なった幸せの狭間で馴染んでいってくれるのかも知れない。 自分は考えるのに向いてない、とラブは思う。 向いてないのにあれこれ考えてしまうから馬鹿な事を言ったり仕出かしたりしてしまう。 考えるより先に行動する方が性にあっている。 まあ、その衝動に任せて行動した後で、本当にこれで良かったのかとまた悩んでいては世話は無いんだけど。 仕方ない。これが自分なんだ。 そして、せつなが好きになってくれたのも、こんな自分なんだろう。 馬鹿で、考え無しで、突っ走ったいいけどすぐにつまづいて転んでしまう。 でも、いつだって真剣だったはずだ。 だから…… 突っ走った結果が自分だけでなく、大切な人を傷付けてしまっても、ただ謝る事しか出来ない。 ただ、正直でいる事しか出来る事が思い付かない。 今はただ、せつなに会いたくて、抱き締めたくて。 でも、どんな顔していいのか分からなくて。 せつながどんな表情をしているのかも想像出来なくて。 (……え?………なんで?) 「ラブ、こんな時間にどうしたの?」 どうしてせつなが? まだ夜も明けていない、群青の空。 青く澄んだ空気に浮かび上がる、夜空の色の髪と月光で染めた白い肌。 ほんの少し首を傾げ、儚い程に柔らかな微笑みを浮かべている。 「……ラブ…?」 頬に触れて来るほっそりとしなやかな指は、滑らかな陶器の様に冷たく、 でも夜明け前の空気よりはほんのりと温かく。 思わず握り締めて自分の頬に押し当てる。 血の通う、生身の体。確かに、そこにいて、自分を見つめてくれている。 「…あの……」 「……?」 「…おかえり、なさい!」 せつな軽く目を見開いて、儚く淡い微笑みから、輝く様な笑顔を見せてくれた。 「ただいま、ラブ」 その、想いの名前へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/447.html
「クリスマスに雪は降るの?」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 12月に入ってからラブの落ち着きがない。 元から落ち着きなんてあるのか?と問われると反論のしようもないのだが、 いつもにも増して言動もオーバーリアクション気味だ。 まるで靴にバネでも仕掛けてあるのでは?と疑いたくなるくらい、 普通に歩いていても踵が地に付いてない。 「だって!!クリスマスなんだよ!!」 少し落ち着いたら?とせつなが呆れたり、苦笑いする度に ラブはそう答える。 全く答えになっていないのだが、それ以外に答えようがないらしい。 確かに言われてみれば落ち着かないのはラブだけではない。 美希や祈里、クラスの友人も何だかいつもより笑顔が増え、 お喋りしていても、いつの間にか話題はクリスマスの事になっている。 そして、気が付けば町全体がソワソワと浮き足立ち、赤と緑を基調とした 飾り物があちこちに顔を出している。 冬のはずなのに、雪をモチーフにした物も多いのに、町の気温が ほんわりと上がった気分にさえなる。 ラブはせつなにクリスマスを説明しようとしたが、今一つ要領を得ない。 「あのね、外国の神様が産まれた日なんだ!」 「サンタクロースって赤い服着たおじいさんがプレゼントくれるの!」 「その日はね、家族とか友達とパーティーしたりするんだよ!」 「ご馳走食べて、ケーキ食べて、プレゼント交換するの!」 「恋人同士の一大イベントなんだよ!」 ラブは息咳切って説明してくれるのだが、せつなには、 「?????」 な、様子だ。 外国の神様の誕生日なのに、プレゼント貰えるの、どして? サンタクロースって人が神様なの?え?違うの? 家族や友達と交換するプレゼントとサンタクロースがくれるプレゼントは 違うの? 家族と恋人とどっちと過ごすのが本当なの? そもそも何で外国の神様の誕生日に…… せつなとしては、ただ疑問に思った事を聞いただけなのだが、 ラブは疲れた顔で少し遠い目をして、 「……とにかく、そう言うモノなんだよ。せつな。」 「…………。」 結局、ラブにもこう言う事!とはっきり説明は出来ないらしい。 何でも、雰囲気とフィーリングだそうだ。 埒があかないので、自分で調べる事にしたせつなだが、調べる内に 奇しくもラブの説明はどれも間違いではない事が分かり苦笑を禁じ得なかった。 「確かに、外国の神様の誕生日で、サンタクロースがプレゼントをくれて、 家族や恋人と過ごす大切な日……、みたいね。」 特に、クリスマスに共に過ごす恋人がいない、と言うのは 妙齢の男女にとっては切実な問題らしい。 取り敢えず、この国においてクリスマスと言うのは、「サンタクロース」、 「プレゼント」、「クリスマスケーキ」と、いくつかの重要キーワードを 押さえていれば、それがその人なりのクリスマスで通用する…、 と、言う事…、らしい?違うかしら?……まあ、いいわ…。 (……プレゼント、どうしよう。) サンタクロースのプレゼントは良い子にしてれば、夜の内に枕元に 置いて行って貰える物で、大切な人やお世話になった人には 自分で考えた、心の籠った物を贈る……らしい。 ラブ、美希、祈里には当然用意する。お父さん、お母さんにも何か贈りたい。 出来ればタルトとシフォンにも……。 しかしながら、自由になるお金と言えば月に一度のお小遣い。 それにたまに貰える買い物のお釣とお手伝いのお駄賃。 到底5人+2匹に満足のいく贈り物が出来るかは……。 勿論、お金を掛けるだけがプレゼントではない、(この後、 両親へのプレゼントは金欠ラブからの申し出で、連名&ブッキー指導の元で手作りする事て解決した) のは分かってるのだが……。 (何か、私にしか出来なくて…尚且つ皆が喜んでくれそうなモノ……) ふと、せつなに閃くものがあった。 (……やって、やれない事は…ない?) 腰のポーチに下げたリンクルンから、アカルンを呼び出す。 「ねぇ、アカルン。どう思う?」 「キー?」 取り敢えず、やれるかどうかやってみよう。 クリスマスの事を調べている間に、何度も出てきた言葉。 『ホワイトクリスマス』、クリスマスに降る雪は特別なものらしい。 しかし、この国では特に雪の多い地域でない限り12月、それもクリスマス当日に 雪が降るなんて奇跡に近い。 (クリスマスに雪が降れば、皆喜んでくれるかしら?) もしそうなら、クリスマスに雪を降らせる事が出来たなら……。 家族や友達だけでなく、町の人みんなに喜んで貰えるかも知れない。 せつなはこの町で幸せになれた。それは勿論、ラブやみんなのお陰。 それに、この町の人すべてのお陰。せつながやって来たのが この町でなかったら、自分はこんなにも素直になれなかった。 こんなにも、幸せを受け入れられなかった。 そう思うから………。 せつなは手のひらの上で自分を見上げてくる、相棒の赤い妖精に微笑みかける。 「やってみましょうか?アカルン。」 「キィー!!」 そうと決まれば具体的に計画を練らないと。 まず、練習……と言ってもそこかしこでするわけにはいかない。 それに、そう何回も出来ないだろうし……。 当日の天気はどうなのかしら? 出来れば24日か25日が理想的だけど、無理そうなら23日…。 せつなはぐるぐると考えを廻らせる。 本番は一発勝負。失敗は許されない。 誰にも内緒で準備を進め、決行する……。 (当日まで、ラブにも気付かれないようにしないとね!) …… ………… ……………… 「せつなの様子がおかしい?」 こくり、とラブがジュースを啜りながら頷く。 ここはドーナツカフェ。ラブの他には美希と祈里。 もうすぐ冬休み、と言う放課後。いつものように集まってお喋り。 クリスマスパーティーの相談でもしようと思っていたのだが、せつなの姿はない。 用があるから後から行く、と一人でどこかへ行ってしまった。 「どんなふうに?」 「なんか、時々一人でニマニマしてるんだよね。それに、何だか寝不足みたいでさ。」 「寝不足?」 「そう。どうも夜中にアカルン使ってどっか行ってるみたい。」 「………。」 「………。」 「隠し事、してるみたいなんだよね。」 「せつなちゃんに聞いてみた?」 「それとなくは…。」 「せつな、なんて?」 「……キョドってた。でも、悪い事してるわけじゃないみたいなんだよね。 なんか、楽しそうだし。」 美希と祈里は顔を見合わせる。 せつながラブに隠し事。隠し事になってないみたいだが、珍しい。 まぁ、イース時代の事を考えればラブにバレバレな隠し方しかしてない様子 からして、大袈裟なものではないと思うが。 「まぁ、楽しそうなら気にするほどの事じゃないんじゃないの? せいぜいイタズラ仕掛けようとしてるとか?」 うーん、とラブが唸っている内にせつなが息を切らせて走って来るのが見えた。 「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」 息を整えながら、席に着くせつなに、ラブが微妙な視線を向ける。 「ねぇ、せつなちゃん。何かラブちゃんに隠し事してる?」 「!!!」 「!!!」 「!!!」 「ブッキー……、そんな豪速球のど真ん中ストライクを…。」 「うん、してるわよ?」 「!?」 「!?」 「!?えっ!何??何を?」 「そんなの、言えたら隠し事にならないと思うけど。」 確かにごもっとも。 せつなは、もう少し待ってね?すぐにわかるから。 と、意味有り気な微笑み。 そんな風に言われたら、これ以上は追求出来そうにない。 そんな訳で、その日はそのままパーティーの段取りを付けてお開きとなった。 「どうしたのかしらね、せつな。」 「ね、あんなせつなちゃん初めてかも。」 「あれじゃ、ラブも気になるわよねぇ。」 「でもせつなちゃん、すごく楽しそうだったね。」 美希と祈里は顔を見合わせながらクスクスと笑いを漏らした。 ラブには悪いが深刻ぶってるラブと、浮かれた感じのせつなとのギャップが 何だか可笑しくて。 ひょっとして、せつなはクリスマスに何か サプライズを用意してるのではないだろうか。 たぶん、いやきっとそうだろう。 また二人は微笑む。 せつなにとっては初めてのクリスマス。 準備も含めて楽しんでくれてる様子が嬉しくて。 「まぁ、すぐに分かるって本人も言ってるんだし。」 「そうだね。クリスマスのお楽しみが一つ増えたよね。」 25日。町はお祭り最後の夜に、何だかさわさわとざわめいていた。 公園には大きなクリスマスツリー。明日の朝には撤去 されてしまうので、 夜の公園は記念撮影したり、ドーナツ(カオルちゃん特製 クリスマススペシャルバージョン)片手にお茶したりする人で溢れかえっていた。 勿論、クローバーの4人も公園で待ち合わせ…のはずだが、 またせつなはラブを一人で行かせて自分は後から合流すると言う。 「9時丁度に空を見てくれる?」 と言う意味深な台詞を残して。 「まあったく!何しようってんだか。」 さすがのラブにもせつなが何かサプライズを用意しているのは予想出来た。 しかし、それが何なのか、全くもって見当も着かない。 「ま、それもあとちょっとか……。」 楽しみにしてるよ?せつな! 美希と祈里に合流し、せつなの伝言を伝える。 「何しようってのかしらね、あの子。」 「ラブちゃん、何か分かった?」 「それが、全然!あっ、もうそろそろ9時だよ!」 3人は揃って空を見上げる。 その時、チカッ!チカッ!と、遥か上空で赤い光が二回瞬いた。 「!!今、光ったよね?」 「ひょっとして、アカルン?」 「え?でも、なんで?どう言う意味?」 3人が訳も分からず囀ずっていると、頬を真っ赤にしたせつなが 走り寄って来た。 「みんな、お待たせ!」 「ねぇ、せつな!今光ったのアカルンだよね?」 「一体何なの?空の上にテレポートしたの?」 「ねぇ、せつなちゃん。そろそろ種明かししてよぅ。」 「しっ!ほらっ、空見てて!」 その時……… 「あっ!!!雪?」 「え?マジで?」 「ホントだ!雪、雪降ってきた!」 「えー?信じられない!ホワイトクリスマス?」 わぁっ!とあちこちから歓声が上がり、子供達が「雪だ!雪だ!」と はしゃぎ回る姿が見える。 その光景を見て、満足そうに頬を紅潮させるせつな。 呆然と降り注ぐ雪とせつなを交互に見つめる3人。 「……せつな。せつなの仕業だよね?」 「でも、一体どうやって……?」 「アカルンに天気を操る力なんてなかったよね…?」 せつなはニンマリと笑って、種明かし。 「あのね。アカルンで雪の塊と一緒にテレポートしてきて、空の上で ハピネスハリケーンで砕いたの。」 結構加減が難しかったのよ? あんまり細かく砕くと地上に降りる前に溶けちゃうし、かと言って 大き過ぎると危ないし…。 量もある程度欲しいから、溶ける分差し引いても、かなりの大きさだったし…… 「……って、どしたの?みんな。」 声も出ない3人に、せつなは小首を傾げる。 もしかして、気に入らなかった?せつなが不安になりかけた時、 ラブ、美希、祈里は弾けるように笑いだした。 「もーぅ!せつなってば、信じらんないよ!」 「アカルン有効利用し過ぎ!」 「色々想像したけど、その発想はなかったかも!」 3人はせつなをもみくちゃにして髪をくしゃくしゃにかき混ぜる。 「ちょっ!ちょっと!やめてよ!」 せつなはそういいながらも抵抗しない。 (喜んで貰えたの……かな?) その夜、四つ葉町に起きた異常気象。 ホワイトクリスマスにはしゃいだ人々は、公園を一歩出ると違和感に 首を傾げた。 そして、違和感の正体に気付くと唖然とした。 公園の外には、雪なんてひとひらも降っていなかったと言う事実に。 この事は、後々まで四つ葉町の不思議として語り継がれる事になる。 その奇跡の仕掛人は、赤いドレスの少女サンタ。そして、寄り添うのは トナカイではなく赤いハート型の小さな妖精。 真相を知っているのは、彼女達と固い絆で結ばれた3人の少女だけでしたとさ。