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「おとうさん、おかあさん、そしてラブ、美希、ブッキー。今まで本当にありがとう。 短い間だったけど、私はここで過ごしたことを一生忘れない。そして、精一杯頑張ってくるわ」 せつながラビリンスに旅立ってから半年が過ぎた。 大切な仲間、家族。共に追いかけた夢と戦いの日々。ずっと続くと思ってた賑やかな毎日。 それらを思い出に変えて、それぞれの道を歩みだす。その先により大きな幸せが待っていると 信じて。 ラブの生活にも変化が現れた。 目覚ましが鳴るのを待つまでもなく早朝に目覚める。 軽いランニングと早朝のダンスレッスン。学校の授業にも身が入り、成績も見る見る上がって いった。 帰宅したら、すぐにレッスン。夕方まで汗を流したら、残りの時間は勉強に費やした。 心身ともに充実した日々、少なくとも周りにはそう見えていたはずだった。 日が沈みかけた公園の中央。ラブは一人で音楽を鳴らしながらダンスレッスンに励んでいた。 自分は忙しくてあまり練習を見てあげられない。一人で続けるには限界があるから、どこかに 所属しなさい。 ミユキの勧めにも首を振り、一人で練習を続けた。ずっと、ただひたすらにーーーー。 「こんなところに呼んでどうしたの、ブッキー」 しばらくぶりに四ツ葉町に戻ってきていた美希にブッキーが連絡を取った。ラブの練習風景を 指差す。 「やっぱり、一人で続けているのね」 美希が悲しそうに目を伏せた。せつなが帰還したのがきっかけとは言え、直接クローバーの解 散に繋がったのは自分がモデルの道に進むと宣言したからだった。 「うん、美希ちゃんはどう思う? 確かにラブちゃんは頑張ってる。でも、わたしには何だか、 自分を傷つけてるようにも見えるの」 ラブちゃんはよく笑う。もしかしたら以前よりもっと。だけど、この笑顔はなんだか違う気が する。そう語った。 「わたし、もう一度ダンスしようかな……。 獣医の勉強もあるけど、それほど切羽詰ってるわけじゃないし」 美希がブッキーの肩をそっと抱き寄せる。視線を交わしてから、そっと首を振った。 「気持ちはわかるけど、それは多分ラブのためにはならない。ラブはきっと、自分がダンスを する意味を探しているんだと思うの」 アタシには、ラブは自分自身と対話しているように見える。そう美希は語った。 「美希たん、ブッキー、来てたんだ。声かけてくれたらいいのに」 ラブが練習を終えてこちらに走ってきた。 「頑張ってるみたいね、ラブ」 「うん、美希たんこそ、パリでモデルとか凄いよ。こんなに早く夢が叶っちゃうなんてね」 まだまだよ、美希はそう答えながら、何か言おうとするブッキーに視線を送って押し留めた。 「せつな、今頃どうしてるかな。 タルトとシフォン、元気にしてるかな。ちゃんと食べてるかな」 遠い目で夕日を見ながら、ポツリと語った。普段あまり口にはしなくなった名前。二人と再会 したことで我慢できなくなったんだろう。 ――ピカッ―― 後で何かが光った気がした。ラブ達が振り返る。 「お呼びでっか、ピーチはん。パインはんに、ベリーはんも、お久しぶりやなあ」 「キュアキュア。らぶ、みき、いのり。だいすきー」 えーーーー? えぇーーーー? 「タ、タルト! シフォン! どうして!?」 飛び込んでくるシフォンをラブが抱きとめる。美希とブッキーも慌てて駆け寄った。 「いつ来たの? どうして」 「もしかして、何かあったの?」 驚きから喜び、そして不安と次々に表情を変化させる二人にタルトが笑って答える。 「ちゃうちゃう。スイーツ王国で遊んでる時にな、ワイがピーチはん達のこと思い出して名前 口にしてしもたんや。そしたらシフォンが急に泣き出してな。気が付いたらこの街に来とった ちゅうわけや」 メビウス戦後、シフォンの能力は随分安定してきたらしい。今では自由に異世界間を転移する ことも出来るらしい。その力はアカルン以上だそうだ。 「ほんまは、よその世界に首突っ込んだらアカンて長老から釘さされてるんやけどな。内緒や で」 思わぬ再会に喜び、会話も弾む。ラブにも久しぶりに、心から溢れる笑顔が戻った。 「ねえ、シフォンちゃん。ひょっとして、ラビリンスにも行ける?」 ブッキーが両手を合わせて祈るように尋ねた。ラブの瞳が揺れる。美希が身を乗り出した。 3人とも聞くタイミングを計っていたのだ。 「キュアキュア」 「行けるらしいで、早速行きましょか」 「うん」 『ええ』 「キュアキュアプリプ~~」 光に包まれ、瞬きもする間もなくラビリンスの地に降り立った。 「シフォン、本当に凄い。確かにアカルン以上ね」 美希が驚きの声を上げる。 アカルンですら、異世界クラスの移動ともなると数分の時間を必要とするのだ。 きょろきょろしてる二人を他所に、美希は慎重に周囲を探った。これは不法侵入だ。 強度と歩きやすさと見渡しの良さ。実用だけを目的とされた、一切の飾りもデザイン性も無い 無骨な通路。 少し先の扉のプレートに目が行く。そこに書かれた文字。 ――SE・TSU・NA―― 「せつなっ」 三人は駆け寄りドアを見つめる。深呼吸する。高まる鼓動を静めながら、そっとドアをノック した。 「はい、どなた?」 細いうなじに美しい黒髪、真っ白な肌、やや小柄で美しいスタイル。儚げで寂しそうな表情。 見慣れない服、ラビリンスのもの。少し痩せた? 髪も伸びたかな? でもその姿は間違いよ うも無く。 ――せつな 何度も夢にまで見た。 ――せつなっ 会いたかった、ずっと我慢してた。 ――せつなぁ 少しづつ、現実感が戻ってくる。これは夢じゃない。 「せつなっ」 ラブはせつなに飛びついた。 「ラブ? どうして」 何の心の準備もしていないせつなは戸惑った。抱きしめられながらも呆然としている。 やがて落ち着いたのか、徐々に表情が柔らかくなって、嬉しそうに頬を寄せた。 「そうだったの、シフォンが…… おとうさんとおかあさんは元気?」 三人にお茶を入れながら穏やかに話すせつな。やっぱり痩せたように見える。無理をしてるの かもしれない。 ラブは部屋を見渡す。机には大量の書類とディスクらしきものが散らばっている。よほど忙し いのだろう。 少なくともラブは、部屋を散らかしたせつなを見たことが無かった。 机以外は綺麗だ。綺麗というか、散らかるようなものが何も無い。まるで生活感の無い空間。 見ていて悲しくなってくる。 唯一の私物と言えそうな物。それは質素な写真立てに入った一枚の写真。別れの前の記念写真 だ。 「ねえ、ラブ、美希、ブッキー、タルト、シフォン。こんなこと言いにくいんだけど、 お茶を飲んだら、このまま帰って欲しいの。そして、もう来ないで欲しいの」 ガチャン!! ラブがカップを落としそうになった。言ってる意味がわからない、と言いたげに口を広げるが 言葉にならない。 「せつなちゃん、何を……」 「せつなっ、自分が今、何を言ったかわかってるの!」 いち早く立ち直った二人が抗議する。 「ごめんなさい、ひどい事を言ってるのはわかってるわ。 でも、私はあの時、もう会わない覚悟でラビリンスに戻ったの。だから……」 「見損なったわ、せつな。帰りましょう、ラブ、ブッキー、いくわよ」 悲しそうに目を伏せるせつなを置いて、呆然としてるラブと困惑したままのブッキーを引きず るように部屋を出た。 「キュアキュアプリプ~」 同じく元気の無いシフォンが転移する。 「一体、パッションはん、どないしてもたんや。全然らしくなかったで」 「わたしも信じられない。せつなちゃんが、わたしたちに、ラブちゃんにあんなこと言うなん て」 「キュアァ」 未だに一言も口がきけないで居るラブを横目で見ながらつぶやく。 「ラビリンスに帰って、また昔のせつなに戻っちゃったのかもしれないわね」 「美希ちゃん!」 続きは言わせないとばかりにブッキーが叫ぶ。美希がしまったとばかりに俯く。 「本当は、そんなこと全然思ってないんでしょ」 「もう、いいよ、ブッキー。 美希たんはあたしが悪いこと考えないように、代わりに怒ってくれてるんだよね。 でも、こんなことなら、会いになんて行かなきゃよかった……」 そう言ったっきり、ラブは座り込んで動かなくなってしまった。 美希はブッキーを見つめる。頷くのを確認した後、静かにその場を離れた。 瞳に、決意の色をたたえて。 9-584へ
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第1話 堕天使の罠 (これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 第2話 暗闇の入り口へ続く
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赤い翼の輪舞曲 第1話――ラビリンスからの誘い―― 弾けるような加速によって、瞳に映る景色が溶けていく。太陽の光も、星々の輝きも、全てが一つに交じり合う。 ラビリンスを発った一行は、数多の世界を渡り、故郷へと帰還する。 混沌の闇を越えて、光の門を潜り抜ける。その先には、七色に彩られた不思議な空間が広がる。 世界を繋ぐ奇跡の花、プリズムフラワーの力が作り出す虹の回廊。 ホホエミーナの、純白の翼が力強く羽ばたく。 再び、真っ白な光に包まれる。あまりの眩しさに目を閉じる。一呼吸してから、そっとまぶたを持ち上げた。 大好きな街、四つ葉町の公園の景色が映る。瞳が潤み、わずかに視界が歪む。 冬の夜の、澄んだ空気が胸いっぱいに広がる。 大気の綺麗な世界なら、他にもあった。景観の美しい世界なら、他にもあった。 でも、心が安らぐようで、それでいてときめくような、こんな不思議な気持ちにさせられる場所はここしかない。 「帰って――来たね。せつなっ!」 「ええ!」 「お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ……」 「早く帰って、安心させてあげなきゃね」 全力で走っているのに、意地悪なくらいにゆっくりと景色が流れる。 早く――早く――帰りたい。 不思議だと思う。自分の故郷はラビリンスで、ここは異世界のはずなのに。 どうして、帰るなんて言葉が出て来るんだろう。どうして、こんなにも心が弾むんだろう。 やがて見えてくる、優しい肌色の壁に、ピンクの屋根。赤い色のひさし。 手入れの行き届いた広めの庭。二階には、植物を這わせてあるバルコニー。大きくはないけれど、温かみを感じさせる家。 ノックなんて必要ない。だって、自分の家なんだから。 もどかしい気持ちをぶつけるように、やや乱暴にドアを開ける。 パタパタと、転がるように出て来る二人。たまらなく会いたかった、大切な家族だった。 「ただいま」 「ただいま、おかあさん……」 「お帰りなさい。せっちゃん、ラブ」 手を引いて、抱き寄せられる。温かい胸。優しい匂い。 泣いているのに、涙声で震えているのに、こぼれるように明るい笑顔。 必ず帰ってこいと言ってくれた。必ず帰ってくると約束した。なにものにも変えがたい、せつなの大切な居場所だった。 『赤い翼の輪舞曲――ラビリンスからの誘い――』 テーブルの上に、所狭しとご馳走が並ぶ。突然の帰宅だったはず。あり合わせの食材で、急遽作ったとは思えない。 あゆみの自慢のラザニアや、圭太郎が作ったと思われる肉じゃがもあった。 二人がいつお腹を空かせて帰ってきてもいいようにって、冷蔵庫はいっぱいにしてあったらしい。 見ていたラブとせつなもじっとしていられなくなって、それぞれが得意とするハンバーグとコロッケを作り上げる。 「うーん。これ、どうしよう?」 「確かに、ちょっと作りすぎちゃったわねぇ」 「大丈夫よ。私、精一杯頑張るわ!」 「じゃ、あたしも負けないよ~」 「それでは、せっちゃんとラブが、無事に帰ってきたことを祝って!」 「私たちの、自慢の娘たちを称えて!」 「「「「乾杯~!!」」」」 夕ご飯を食べながら、ラブはラビリンスでの出来事をあゆみと圭太郎に話して聞かせる。 せつなはラブに相槌を打ちながら、あまり過激な表現をして二人を心配させないように目を光らせていた。 ラブが力を入れて話したのは、ラビリンスの人々の暮らしや彼らとの交流について。 ドーナツが大評判だったこと。陰から力を貸してくれた人たちがいたこと。みんなの応援を翼に変えて戦ったこと。 彼らなら、きっと素敵な国が作れるだろうってことだった。 あゆみは驚いて目を丸くしたり、優しく微笑んで見せたり。話の展開があまりに現実離れしていたので、全ては理解できていないようだった。 それでも、二人が精一杯頑張ってきたんだってこと。これでやっと、本当の平和が訪れたんだってことは、ちゃんとわかってくれた。 「ラブ、せっちゃん、今回は特別に許します。でも、本当は親に心配かけるのはいけないことなのよ。以後、危ないことはしないこと。いいわね!」 「はぁ~い!」 「はい……」 元気に手を挙げるラブに対し、せつなは歯切れの悪い返事をする。 そんなせつなを、あゆみは心配そうに見つめる。 「せっちゃん? もう、どこにも行かないのよね?」 「えっ? ええ……。うん、大丈夫よ」 考え事をしていたせつなは、あゆみの問いかけに慌ててそう答える。 首を振って、バツが悪そうに笑顔を作る。 しかし、大丈夫と言っただけで、その先の言葉が続くことはなかった。 せつなには、この幸せが長くは続かないであろうことが、なんとなく感じられるのだった。 帰還から数日後。公園で、せつなはウエスターとサウラーと待ち合わせをしていた。 二人とも、この世界の人間の姿である西隼人と南瞬として現れる。 もう三人の間には、以前のようなわだかまりはない。 しかし、ラビリンスの幹部仲間であった頃のような関係とも違い、なんとなく気まずさを覚える。 「それで、私に話って何?」 「ああ、それなんだがな、イース」 「私をイースとは呼ばないで! 少なくとも、ここでは」 「スマン、せつなと呼ばせてもらおうか。単刀直入に言おう。俺たちと一緒に、ラビリンスに戻らないか?」 隼人と瞬は、今はラビリンスに生活の拠点を置いていた。 そこでライフラインの復旧作業に協力しながら、四つ葉町を中心に、各パラレルの様子を見て回っているらしい。 「私たちで、ラビリンスを導こうってわけ?」 「いや、僕たちはそこまで傲慢じゃない。もちろん協力は惜しまないつもりだけどね」 「そうとも、せっかく自由になったんだ。俺たちがあれこれ決めてちゃ、意味ないからな」 「だったら――」 「なぁ、イ……せつな。俺たちも、昔のように三人で仲良くやらないか?」 「冗談でしょ? 私は、あなたたちと仲良くしたことなんてないわ」 せつなは、話は終わったと言わんばかりに、踵を返して立ち去ろうとする。その行く手を瞬が遮った。 「この世界で、もう君がすべき事はないはずだ。僕たちは、もともと招かれざる客だということを忘れたのかい?」 「俺には難しいことはわからん。だが、俺たちはラビリンス人だ。役目が終われば帰る。それが自然だ」 「何の役目よ!」と、一瞬せつなはムッとする。自分たちに課せられた使命は、この街の人々の不幸のエネルギーの収集だった。 ハッキリ言ってしまえば、ラビリンスはこの世界に対して迷惑しかかけていない。 しかし、だからこそ、招かれざる客と表現した瞬の言葉には、逆らえない響きがあった。 「少し考えさせて。二週間後にダンス大会の決勝戦があるの。返事は、その時にさせてもらうわ」 そう言って、せつなは今度こそその場を離れた。そのまま公園の奥にある、石造りのステージへと向かう。 今日はダンスレッスンを再開する日だった。別行動をとっていたラブたちも、そろそろ到着している頃だろう。ミユキさんが来るまでには、準備運動を済ませておきたい。 自分のせいで延期になってしまった、クローバーの夢の舞台。今度こそ、何があっても成功させたかった。 パンキングから、ハンド・ウェーブ。波を意識したモーションが続く。その流れがせつなの所で止まってしまう。 普段の完璧な演技からは、考えられないようなミスだった。 気を取り直してもう一度。今度はしっかりと繋がった。しかし、その次のコンビネーションでまた外してしまう。 「ストップ! 今日はここまでよ」 ミユキがレッスンの終了を告げる。全国大会の決勝戦の日程が決まったこともあり、練習は相当にハードなものだった。 ふ~っと息を吐いて、その場に座り込むラブと美希と祈里。これでも予選を突破したユニットだ。もう十分に技術は伴っている。 後は、徹底的な反復練習を重ねて、本番でのミスのリスクを減らしていくしかない。 ミユキはそんな三人ではなく、一人立ったままのせつなと向かい合う。息は荒いものの、体力の地力が違うのか、せつなにはまだ余裕があるようだった。 「せつなちゃん、今日はどうしたの? 全然ダンスに集中できてなかったわ」 「すみません。次までには、必ず合わせられるように練習します」 「戦いが終わったばかりで疲れてるのはわかるけど、またとないチャンスなの。しっかりね」 「はいっ!」 普段なら、教え子の悩みや迷いには、人一倍敏感なミユキだった。しかし、最後の戦いが終わった安堵感のためか、そこまで気が回ることはなかった。 せつなも、すぐに表情を引き締める。ダンス大会における意気込みは、他の三人よりも強いくらいだった。 「ねえ、せつな。もしかして、何か考え事をしてたんじゃない?」 「やっぱりそう見えるよね、美希たん。大丈夫? せつな」 「ごめんなさい」 「怒ってるんじゃないよ、せつなちゃん。ただ、何かあったのなら、わたしたちには話してほしいから……」 ミユキはたまたま調子が悪いのだと判断したが、他のメンバーの目は誤魔化せなかった。 ラブたちには、ラビリンスでの戦いが、単純に勝利として喜べるものではないことがわかっていたからだ。 しばらく迷ってから、ためらいがちにせつなは口を開く。 「みんなは――ダンス大会で優勝できたとしたら、その後はどうするの?」 「もちろん、プロデビューだよね!」 「どうかな。モデルと両立できる範囲でなら、ダンスは続けたいと思うけど」 「わたしも美希ちゃんと同じ。プロになるかはわからないけど、みんなとダンスは続けたいと思ってる」 「うん、そうだね。美希たんとブッキーには、夢があるもんね。でもさ、せつなはずっと一緒だよね!」 「ええ、そうね……」 ふと、既視感に捉われる。こんなやり取りが、前にもあったような気がした。 それは現実ではなくて、ラビリンスのイースだった頃に見た夢。 あの時は、答えようとして、幸せの素に力を入れて――そのまま砕け散ってしまった。そこで夢から覚めた。 今のせつなは、夢の中にいるわけではない。ここは現実なのだ。小さいけれど、確かな実体を持ったペンダントを握り締める。 四つ葉の一葉となった、小さな小さなペンダント。その一枚きりの葉っぱは、この先のせつなの運命を暗示しているかのように感じられた。 コンコンと、ラブの部屋が控えめにノックされる。 部屋の主は留守だった。タルトがジャンプしてドアノブを回す。 廊下で待っていたのはせつなだった。タルトしか居ないのを確認した上で、ラブの部屋に入る。 「パッションはん。ピーチはんと料理しとったんやなかったんか? シフォンもリビングにおったし、ここはわいだけやで」 「わかってる。タルトとお話がしたかったの。今、いいかしら?」 「なんや、珍しいこともあるもんやなぁ。まっ、遠慮せんとくつろいでや!」 自分の部屋のように言うタルトの様子に、思わずクスッと笑みがこぼれる。リラックスして、話が切り出しやすくなった。 「あなたに聞きたいことがあったの。タルトは、このままずっとここで暮らすつもりなの?」 「まさか、そんなわけあるかいな。わいはスウィーツ王国の王子なんやで。それに、ここはそもそも妖精の住む世界やないからな」 タルトはダンス大会を見届けたら、シフォンを連れてスウィーツ王国に帰るつもりだと言う。 帰る日を延ばしているのは、自分もラブたちの夢の行方を見届けたいから。そして、大会前に帰ることで、みんなの心を乱したくないからだった。 「まあ、隠してるわけやないんや。けど、湿っぽいのは苦手やし、シフォンを泣かせとうはないやろ。せやから、このことは内緒やで」 「それって、つまり……隠してるってことになるんじゃない?」 「聞かれたら答えるんやから、隠してるんと違うでぇ。あ、そや。リンクルンとクローバーボックス、持って帰るように長老から言われてるんや。せやから、変身するなら今の内やで」 「そう。ラブたちは、普通の女の子に戻るのね……」 「パッションはんもおんなじやんか。もう、プリキュアに変身できんようになるんやで?」 「私は、イースになれるもの。普通の女の子とは言えないわ」 タルトが言うには、リンクルンを回収するのは、それがプリキュアの掟の一つだかららしい。 プリキュアであることを、他人に明かさないこと。平和な世界に、プリキュアの力を残さないこと。 タルトは理由までは判っていないようだったが、これらはきっと、プリキュアとなった少女たちの日常を守るための決まりなのだろう。 人を超える力を持つことは、人を超える義務と責任を負うことでもある。プリキュアの力を残したままで、ラブたちがダンサーやモデルや獣医になれるとは思えなかった。 「なるほど。わいは長老に指示されただけやけど、そうかもしれへんな。現にわいの正体がバレそうになって、大騒ぎになったこともあったしな」 異世界の住人であるタルトが、このまま四つ葉町に留まるのは、お互いにとって決して良いことではない。 どんなに隠したところで、いつかは誰かの目に留まる。この世界に妖精はいない。四つ葉町に限らず、この世界は人間が暮らす世界なのだ。 まして超能力を持つシフォンは、どれほど奇異の目を向けられることだろう。多感な幼児であるシフォンにとって、教育のためにも良いはずがなかった。 自分はどうなのだろう? とせつなは考える。せつなは既に桃園家の家族だ。いなくなれば、間違いなくあゆみたちは悲しむだろう。 せつなが留まることは、家族の幸せになる。それはメリットと考えてもいい。でも……。 『日常が戻る』 本当の意味で、四つ葉町は本来の姿を取り戻す。ラビリンスの襲撃を受ける前の、平凡だけど、あたたかくて穏やかな日々が戻ってくる。 そんな中で、イースの力を宿したせつなが残ることは、どういう意味を持つのか。 何か、大きな危険が迫った時の備えにはなるだろう。それは逆に言えば、この街を、桃園家を、危険に巻き込むことを意味していた。 それに、せつながこの世界に留まれば、ラビリンスや他のパラレルとのパイプも、完全には切れないだろう。 メビウスが滅んだとはいえ、未だに高い文明を誇るラビリンスや、独自の超能力で、個人単位の異世界間移動すら可能とするスウィーツ王国。 そんな特殊な国々に比べて、未発達であるがゆえに平和でもある四つ葉町。この世界を、そっと静かにしておくためには……。 「私も、居ない方がいいのかもしれない」 離れていても、心は繋がっている。私たちは、いつだって四人。 そんな言葉を、心の中でそっとつぶやく。 チクリと胸が痛む。別れは絆を断つことではない。ただ、会いたい人に、会えなくなってしまうだけ。 この街の人たちと、一緒に幸せになると誓った。だけど、それはこの街の人たちと、一緒にいることが幸せだという意味ではないはずだ。 (ラビリンスに戻ろう。ダンス大会が終わったら、結果がどうなろうとも……) せつなはタルトにだけ決意を伝えて、そのまま自分の部屋に戻った。 そこから先の、その日の出来事は何も記憶に残らなかった。料理の味も、自分がどんな表情をしていたのかすらも……。 そして、ついにダンス大会の日が訪れた。 赤い翼の輪舞曲――新たなる戦い(前編)――へ続く
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ラブ「今日は町内会の餅つき大会!みんなでお餅を丸めるお手伝いをするんだよっ。」 美希「とほほ・・・。誰よ、こんなときに晴れ着着て行こうなんて言いだしたのは・・・。」 祈里「美希ちゃんは、その姿もキリッとしててカッコいいと思う。」 美希「あ・・・りがと、ブッキー。」 せつな「これも、日本の伝統美なの?」 美希「そうね、伝統・・・は伝統かもしれないわね。」 カオルちゃん「いやぁ、晴れ着姿にたすき掛けか、イカすね、お嬢ちゃんたち!」 ラブ「ありがとう、カオルちゃん!」 美希「はぁ~。」 ――そして、餅つきが始まりました。 せつな「ラブ、大変よっ!四つ葉町にも魔人が現れたわ!」 美希「わぁぁっ、せつな、あれは違うのよ。リンクルン仕舞って!」 ラブ「見て見て、せつな。ああやってお餅をつくんだよっ。おじさんたち、手際よくてカッコいい! あ、カオルちゃんがつくんだ。カオルちゃぁん!カッコいいよぉ!」 カオルちゃん「サンキュー!言ったろ?おじさん、餅はついても嘘はつかないって。」 美希「それ・・・今言うことじゃないから。」 せつな「え?あれが、お雑煮に入ってたようなお餅になるの?」 祈里「そう。もち米を蒸かして、ああやって臼に入れて、杵でつくのが昔ながらのやり方なの。」 せつな「へぇ。二人一組で作るのね。」 祈里「そう。お餅が杵にくっつかないように手水をする人がいてね・・・え、ミユキさん!?ナナさん、レイカさんも!」 ミユキ「みんな見てて!餅つきもダンスと一緒、二人の呼吸を合わせるのが大事なのよ。それ、よいしょ!よいしょ!」 魚政の主人「トリニティが餅つきするたぁ、新年から縁起がいいや。いよっ!近頃の女の子はパワフルだね!」 タルト「ミユキはん・・・あんさんは、掛け声だけかいな。」 ――ひと臼つき上がりました。 魚政の主人「ほい、つき上がったよ。よろしくな~。」 駄菓子屋のおばあちゃん「あんたたち、餅を丸めるなんてしたことないだろ。ほら、こうやって水を手に付けて・・・」 ラブ「ふむふむ・・・あっついっ!!」 祈里「ラブちゃん、大丈夫?」 駄菓子屋のおばあちゃん「そりゃ熱いさ。ほら、素早く千切って餅取り粉の上に置いて行くんだよ。」 美希「何だか難しそう・・・。」 駄菓子屋のおばあちゃん「難しいことなんかあるかね。しょうがない、お手本見せてやるよ。・・・ほら、やってみな。」 ラブ「ダメだぁ。ねばねばしてるから、よけい熱いよぉ。」 せつな「しょうがないわね。貸して。」 祈里「・・・せつなちゃん、凄い!」 ラブ「うわぁ、見る見るうちにお餅の塊が並んでいくよ!」 美希「しかも、完璧に同じ大きさね。」 駄菓子屋のおばあちゃん「・・・・・・。ふん、こんなもんだね。」 魚政の主人「ばあさん、正月早々、相変わらず素直じゃねえなぁ。恐れ入りましたって、顔に書いてあるぜ?」 ――さあ、お餅を丸めましょう。 美希「こんなものかしら・・・。見て、きれいな丸い形。」 祈里「ふふっ、結構ハマるかも。楽しい。」 美希「なんかこの大きさと形って、何かを連想させるわね・・・。」 祈里「ヤダ、美希ちゃん、どこ見てるの?」 美希「ちっ、違うわよ!ラ、ラブは出来た?」 ラブ「うーん・・・出来た・・・かな?」 美希「・・・クローバーだからって、ハートマーク作ってどうするの。」 ラブ「違うよ、美希たん。うまく丸にならないんだよぉ。」 せつな「ねぇラブ、やっぱり桃園家では、元日に食べたみたいに、こういう四角いお餅にするの?」 美希「うわっ、せつな、これどうやって丸めたの?いや、これ、丸めたって言うか・・・」 魚政の主人「おうっ、もう伸し餅も作ったのかい?あれ?一切れだけ??」 ――出来上がり~。みんなで試食です。 ラブ「ん~、美味しい~!!」 せつな「ホント。それに、いろんな味付けがあって楽しいわ!」 祈里「つき立てって、こんなに柔らかいのね。」 美希「危ない危ない。食べ過ぎちゃいそうだから、気を付けないと。」 ラブ「今年もクローバーと、クローバータウンストリートのみんなで、幸せゲットだよ~!」 ~おわり~
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センチメンタルラブ BASIC MEDIUM HARD Level 2 5 8 Objects - - - BPM 138 TIME - Artist みみめめMIMI Version plus(みみめめMIMI PACK) 動画 攻略 名前 コメント ※攻略の際は、文頭に[BASIC] [MEDIUM] [HARD] [SPECIAL] のいずれかを置くと、どの譜面に関する情報かが分かりやすいです。 コメント(感想など) 名前 コメント ↑攻略と無関係の曲に対するコメントはこちらでお願いします。あまりにもかけ離れた内容は削除される場合があります。
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「日本を訪れていた、めくるめく王国ご一家が、本日帰国の途に就きました。」 夕食の後片付けをしていたせつなは、テレビから聞こえてきた声に、顔を上げた。画面には、たくさんの見送りの人々に囲まれた国王と王妃、それに二人の間でニコニコと手を振るジェフリー王子の姿が映っている。 「今回の滞在は比較的長く、ご一家は日本を満喫された模様です。 中でもジェフリー王子は、その流暢な日本語のみならず、綿あめや輪投げといった日本の庶民文化にも通じているなど、その日本通ぶりで我々を驚かせ、喜ばせてくれました。 何と言っても、その愛らしい笑顔に魅了された人は、数知れません。」 各地を巡ったときの、ジェフリーの映像が流される。縁日らしき場所で、綿あめを口にする姿。小学校の子供たちと、サッカーをする姿。そのあどけない、そして心から嬉しそうな笑顔を見て、せつなも自然に頬が緩んだ。 「やっぱり可愛いよねぇ、ジェフリーは。ねっ、せつな。」 隣りにやってきたラブが、そう言ってせつなの顔を覗きこむ。その妙にニヤニヤとした楽しそうな視線から、せつなはプイと顔をそむけた。 「私は、別に。」 「あれ~?せつな、何だか赤くなってない?」 「なっ、そんなこと・・・」 「ホントに可愛いわね~、この王子様。見ているこっちまで幸せになっちゃうわ。」 あゆみの言葉に、せつなは慌ててラブに言い返す言葉を飲み込む。同時に、あゆみがあのときの祈里と全く同じ台詞を言っているのに気付いて、可笑しくなった。 クスリと笑って、もう一度テレビに目をやる。場面はまさに帰国直前、国王の顔を見上げてひとつ頷き、特別機の機内へと入っていくジェフリーの姿だ。 (あれ?何だか・・・。) 一瞬の後に消えた、ジェフリーの映像。が、その消える間際の彼の姿に、何だか以前会ったときとは違う何かを感じて、せつなは小さく首を傾げた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode6:タルト、またまた危機一髪!?(前編) その事件の始まりに、最初に気付いたのは祈里だった。いや、正確には、このところ祈里が毎朝散歩に連れていく、三匹の小型犬だった。 朝早く、病院の夜間通用口にもなっている横手の狭い扉から外に出たとき、一足先に外に出た三匹が、いつになくキャンキャンと騒ぎ立てたのだ。何事かと顔を上げると、その場から足早に立ち去るジーンズの片足が、かろうじて祈里の目に留まった。 三匹が、祈里の顔を見上げて物言いたげにクゥンと鼻を鳴らす。周りに人の気配が無いことを確認してから、祈里はその場にしゃがみ込んで、三匹と視線を合わせる。 「なぁに?何かわたしに、伝えたいことがあるの?」 優しい声でそう問いかける彼女の肩の上に、キルンがポン、とその姿を現した。 ☆ その次に気付いたのは、ラブとせつなだった。ダンスレッスンに向かう途中、二人は顔なじみの花屋のお姉さんに呼び止められたのだ。 「ラブちゃん、せつなちゃん。今日、おたくのフェレットのことを訊きに来た人がいたわよ。あのペットスクープの騒ぎ、まだ続いてるの?」 心配そうに尋ねられ、ラブとせつなは顔を見合わせる。タルトがスクープされてしまった事件は、もう一週間も前のこと。アニマル吉田はちゃんと約束を守ってくれて、あれからタルトの周りは、至って静かだった。 「そう。何も無いのなら、良かったわ。ちょっとしつこかったから、気になってたの。勿論、ラブちゃんたちが飼い主だなんて言ってないわよ。」 「それって、マスコミの人ですか?」 ラブの問いに、お姉さんは切り花のバケツの水を替える手を止めて、少し考えた。 「う~ん、マスコミの人には見えなかったけど。膝のところが破れたジーパンに、Tシャツ姿で・・・それと、何だかゆっくり喋る人だったわ。」 記憶を辿ってそう教えてくれたお姉さんに、ありがとう、とお礼を言いながら、二人の頭の中は、疑問符で一杯だった。 ☆ 「えぇっ!?ブッキーの病院がぁ?」 「怪しい男に見張られている、ですって?」 「どういうこと?」 ラブ、美希、せつなの三人に詰め寄られて、祈里は困ったように、視線を足元に落とす。 「理由はわからないけど、ワンちゃんたちがもう三日連続で、病院の周りをうろうろしている男の人を見た、って言ってるの。 お父さんに話して、警察にも連絡したんだけど、ただウロウロしているってだけじゃ、警察もなかなか動いてくれないらしくて・・・。」 祈里の言葉に、三人はそれぞれ険しい顔で考え込んだ。 急に静かになったせいか、蝉の声が辺りを包むように響き渡る。四人がいるのは、四つ葉町公園の石造りのベンチ。これからダンスの朝練なのだが、その前に祈里が、今朝犬たちから聞いたことを全員に話したのだった。 「まさか・・・あのペットスクープ絡みってことは、ないよね?」 ラブの言葉に、美希が目を丸くする。 「え・・・?だって吉田さん、家族に喜んでもらえるペットスクープを目指す、って言ってたじゃない。」 「いやぁ、そうなんだけどさぁ。・・・実はあたしとせつなも、ここへ来る途中、ちょっとヘンな話を聞いたんだ。」 ラブの説明を聞いて、美希の顔はより一層険しく、祈里の顔は、より一層心配そうになる。 「とにかく、朝練が終わったらブッキーの家に行ってみましょう。何か分かるかもしれないわ。」 せつなの言葉に、三人ともしっかりと頷いた。 やって来た三人を部屋に招き入れ、祈里は勉強机が面している窓を開ける。そこからなら、病院の横手――今朝男が立っていた、夜間通用口の辺りを見渡せた。 「あの辺りに立って、病院の中を覗いていたらしいの。」 「あそこから覗いたら、何が見えるの?」 「入院している動物さんたちの、ケージが並んでいるんだけど。」 「ってことは・・・もしもペットスクープ絡みだとしたら、あそこにタルトがいると思って?」 美希が眉をひそめる。そのとき、 「あ。誰か来たわ。」 ずっと窓の外に目をやっていたせつなが、冷静な声で言った。 四人で窓からそっと外を窺う。祈里の言った通り、夜間通用口の隣りにある窓から、男が一人、建物の中を覗き込んでいた。 白い半袖のTシャツに、ジーンズ姿。それでも暑いのか、しきりに額の汗を拭っている。どうやらまだ若い男のようだ。 「ブッキー、あの人?」 ラブの問いかけに、祈里は自信なさそうに首をひねる。 「うーん、今朝は、ジーンズがちらっと見えただけだから・・・。」 「少なくとも、ラビリンスではないみたいね。」 少しホッとした様子で呟くせつな。反対に、ラブはいつになく真面目な顔で、男の姿をじっと見つめた。 「ねえ、せつな。花屋さんが言ってたのって、膝が破れたジーパンにTシャツ姿、だったよね?」 「なるほど・・・。同じ人かもしれないわね。」 せつなが厳しい表情になる。 「でも、上でも向いてくれなきゃ、顔がはっきりとはわからないわね。」 美希がそう言って溜息をついたとき、男が苛立たしげに左手を上げて、ガシガシと頭を掻きむしった。 美希が、あ、と小さく声を上げる。 「あの腕時計・・・。」 「腕時計?」 せつなが不思議そうに美希の顔を見てから、もう一度男を見やる。男の左手首には、ビニールのてかてかした青いベルトが巻かれていて、それには確かに小さな文字盤が付いている。まるで子供がしているような、いかにも安っぽい腕時計だ。 「あの時計、どこかで見た気がするんだけど・・・。どこだったかしら。」 ラブが美希と一緒に、うーん、と考え込む。 「えーっと・・・モデルさんの衣装で、付けたことがあるとか?」 「いくらなんでも、あんな・・・って言い方は失礼よね。でも、現場で見たわけじゃないわ。」 「じゃあ街中で、誰かが付けているのを見たとか?」 「ごめんなさい、思い出せないわ。でも、どこかで見たのよね・・・。」 美希に続いて、ラブと祈里もガックリと肩を落とした。 「ねえ、ラブ。お花屋さんは、ゆっくり喋る人だった、って言ってたわよね。」 せつなが男から目を離さずに、ラブに話しかける。 「うん、そうだったね。」 「その割に、あの人ずいぶんイライラしているみたい。何かを急いで手に入れたくて、焦っているようにも見えるわ。」 「それが・・・タルト?」 ラブが不安そうにそう言ったとき、美希が鋭く囁いた。 「あ、ほら。動くわよ。」 男が相変わらず髪をくしゃくしゃと掻き乱しながら、くるりと向きを変えた。そのまま表通りの方へ、スタスタと歩いていく。 「追いかけよう!」 言うが早いか部屋を飛び出すラブに、せつな、美希、祈里が続く。だが、四人が表へ出たときには男の姿は既に無く、辺りをいくら探しても、見つけることはできなかった。 ☆ ラブたちが不審な男を探していた、その少し後のこと。 当のタルトは、四つ葉町公園の一角で、ガックリと肩を落としていた。近くに浮かんでいるシフォンが、その様子を不思議そうに見つめている。 「なんやぁ。カオルはん、店休んでんのかいな~。今日一日ドーナツが食べられんやなんて、ホンマ殺生やで~!」 楽しみにしていたドーナツカフェのワゴンはどこにも見当たらず、公園がやたらと広く感じられる。仕方なく、タルトは元来た道をトボトボと戻り始めた。 「ピーチはんもパッションはんも、毎日ダンス、ダンスでワイにかもうてくれへんし。つか、二人のアイス食べてもうてから、なんやワイに冷たい気ぃがするんやけど。自業自得っちゅうヤツなんかなぁ。」 誰もいないのを幸い、ぶつぶつと独り言を言うタルト。と、突然その顔が引きつった。いつの間にか何者かが、目の前に立ちふさがっていたのだ。 「わわわわ・・・な、なんやぁ?」 目の前には、紺色の長い棒のようなものが二本。視線を少し上げてみると、破れ目から膝小僧が覗いている。さらに上へと目を走らせると、そこにあるのはこちらを覗き込んでいる男の、満面の笑み・・・。 「どわっ!」 思わずしゃべってしまったことに気付いて、タルトは慌てて口を押さえる。同時に、大勢の人間によってたかって・・・それも笑顔で追いかけられた、あのときの恐怖がよみがえってきた。 急いでシフォンを背中に乗せると、四つ足になって走り出す。笑顔の主は、何事か叫んだかと思うと、彼の後を追って走り出した。その予想以上に素早い動きに、うなじの毛がピーンと逆立つような緊張感が、タルトを襲う。 (うわぁ、堪忍したってぇな~!) ところが、公園を出たところで後ろから聞こえてきた言葉に、タルトは思わずずっこけそうになった。 「待ってぇ、そこのナマモノ!言葉しゃべるのか?お前、幸せになれるナマモノか?ちょっと、待て~!」 (ナマモノやない!イキモノやがな。セイブツでもええけど、ナマモノは無いで。あんさん、漢字の読み方、間違うとるで!) 声には出せないので、心の中でツッコミを入れる。気を取り直して足を速めようとするタルトに、声はなおも追いすがった。 「幸せのナマモノ~!お願いです。俺様、みんな幸せにしたい。タイムリミットまでに、どうかお願い。一緒に、来ヤガレ!」 (丁寧なんか乱暴なんか、そもそも何言うてるんか、さっぱりわからへん!でも・・・ワイがしゃべっても、この人、それには動じひんみたいやなぁ。) タルトは意を決してくるりと後ろを向いた。そして、まだ少し距離がある男に呼びかけようと、息を吸い込む。 その時、急に男の動きが止まった。怯えたように辺りを見回すと、最初に目に付いたらしい脇道に飛び込む。そして男はタルトを置き去りにして、一目散に走り去ってしまった。 「・・・なんやぁ?あれ。」 「キュア~?」 目をパチクリさせるタルトとシフォンの鼻先を、自転車に乗ったお巡りさんが、のんびりと行き過ぎていった。 ☆ そして、そこには実は、もうひとり。 公園のベンチで昼寝をしていた西隼人は、ドタバタと何かが走り回る物音に、たまらず目を開けた。足音だけでなく、彼が大嫌いなあの言葉までもが、何度も聞こえてきたような気がする。 「ううむ・・・。この世界の人間どもは、なんてしつこいのだ。よし!今度こそ、そいつを捕らえてモフモフ・・・いや、不幸のゲージ、上げさせてもらうぞ!」 叫ぶと同時にベンチから跳ね起きる。タッと地面に降り立った隼人の目の前には、真夏の午後の強い日射しと、ざわざわと揺れる濃い緑。 「スイッチ!って、あれ・・・だぁれも居ねぇ・・・。」 彼の呟きをあざ笑うかのように、ツクツクボウシが高らかな声を響かせ始めた。 ☆ 疲れ切ったタルトが、シフォンを連れて桃園家に戻ってきたとき、謎の男の捜索に行き詰った四人も、ラブの部屋に集まっていた。 「タルト!良かったぁ、無事に帰ってきて。大変なんだよっ!」 「ピーチはん!ちょっと聞いてぇな。今日は大変やったんやぁ!」 我先に話を進めようとするラブとタルト。せつながラブを、美希がタルトを押しとどめ、祈里が両方の話を整理して、ようやく全ての話が繋がった。とは言っても、分かったことと言えば、どうやらみんな同じ男に振り回されていたらしいということと、男の狙いはやっぱりタルトらしいということ、その二つだけだ。 「それにしても、タルトのことを『幸せの生き物』だなんて、どこからそんな話が出てきたのよ。」 美希が不思議そうに首をひねる。ペットスクープで騒がれたのは、おへそが無い、ということだけで、そんな迷信じみた話が出てきた覚えは無かった。 「ほら、あのとき商店街にビラが撒かれたでしょ?どうもあれを見た人たちが、そんなことを言い出したみたいよ。」 「それでウエスターが、ナケワメーケでタルトを狙ったりしたわけね。」 祈里の言葉に、せつながやっと納得がいったというように、小さな声で呟く。 「じゃあ、あの人もその話を信じて、タルトを狙ってるってこと?本気でそんなこと信じるかなぁ。」 怪訝そうな表情のラブに、祈里が静かに首を振った。 「珍しい動物が、幸福の象徴になるのはよくあることなの。有名なところでは、昔から、白い蛇はとても縁起がいい、なんて言われてるわ。」 「へぇ~!」 「だからぁ、ワイは動物やない。可愛い可愛い妖精さんやぁ!その上、蛇と一緒にするやなんて・・・。」 不満そうなタルトの呟きは、祈里の話を感心して聞いている三人には、残念ながら届かなかった。 「それで、これからどうする?このままじゃ、タルトが危険よね。」 美希が眉をひそめて、三人を見回す。しかし、タルトは尻尾をゆらゆらと左右に振りながら、のんびりとした調子で言った。 「せやけど、アイツ、そないに悪いヤツには見えへんかったで。なんやワイのこと、誤解しとるようやったけどな。せやから、ちゃんと話して誤解さえ解ければ・・・」 「なに呑気なこと言ってんのよ!」 バン、と机を叩いて立ち上がったラブの剣幕に、タルトは思わず縮こまる。その身体がふいに抱き上げられたかと思うと、うるんだ大きな瞳に、至近距離から覗き込まれた。 「狙われてるのは、タルトなんだよ?ホントにわかってんの?タルトが・・・あたしたちの大切な家族が、また危ない目に遭ったら、あたし・・・。」 そこまで言うと、ラブは耐え切れなくなったように、タルトをぎゅっと抱きしめた。 「あたし、この前タルトが病院から居なくなったとき、すっごく心配したんだからね。あんな思い、もうしたくないよ。」 「ピーチはん・・・。」 早くも泣きそうになっているタルトの頭を、せつながちょんと指で小突く。 「そうよ。だから今度ばかりは、心配かけないでよね、タルト。」 「ここまで言われちゃ仕方ないわね、タルト。今度こそ大人しくしてなさい。」 「そうそう。またラブちゃんとせつなちゃんに追いかけられても、助けてあげないんだから。」 「みんなぁ・・・。」 美希と祈里も加わって、タルトの涙腺は、あっという間に崩壊した。 ☆ 次の日の午後。 二日ぶりに店を開けたカオルちゃんは、近付いてくる人影を見て、あれ?と意外そうな声を上げた。 「いらっしゃい。珍しいね、お嬢ちゃん一人?」 「ええ。でも、多分みんなともまた後で来ます。今は、タルトの分を買いに来たの。」 少しはにかんだ笑みを浮かべたせつなが、静かに店の前に立った。 タルトの好みを知り尽くしているカオルちゃんが、ドーナツを手際良く紙袋に詰めていく。 「へぇ。兄弟がそんなに大人しくしてるなんて、珍しいことがダブルで来たね。グハッ!」 話を聞いて、相変わらず軽~い口調で返すカオルちゃんに、せつなは苦笑する。が、 「まぁ、それだけ心配されてるんじゃ、仕方ないか。兄弟は幸せモンだよねぇ~。」 そう言って笑うカオルちゃんを見て、何やら考え込んでしまった。 あれから四人で相談した結果、せつなたちは、やっぱりあの男を探すことにした。もしかしたらタルトの言う通り、ちゃんと話せば誤解が解けるかもしれない。それでタルトを追いかけるのをやめてくれれば、それが一番いい。そう思ったからだ。 ただし、タルトはこれには加わらず、シフォンと留守番していること。そして、もし誰かが彼を見つけたら、必ず他の三人に連絡して、四人揃ってから声をかけること。この二つを必ず守ろうと、約束した。 あゆみと圭太郎にも、タルトを探し回っている人物がいるらしいと告げた。これには、二人に心配をかけるだけなのではないかと、せつなは最初、反対した。だがラブは明るく笑って、 「タルトはうちの家族だもん。お父さんやお母さんに話すのは、当然だよ。」 と言い切った――。 「あの。」 せつなが思い切った様子で、カオルちゃんに声をかける。 「心配されるって、幸せなことなんですか?私には、大切な人を苦しめるだけなんじゃないかって思えるんですけど。」 カオルちゃんは、ポカンとした顔でせつなを見てから、やがてその口元を、わずかにほころばせた。 「う~ん、そうだなぁ。心配ってのは苦しいし、長くて重い心配ってのも、世の中には五万とあるだろうけどね~。」 空を仰いでそう呟いてから、彼はせつなに向き直る。 「お嬢ちゃんさ。この前兄弟が騒ぎに巻き込まれたとき、心配した、って言ってたよね。あのとき、どんな気持ちだった?」 え・・・と目をパチパチさせてから、せつなはうつむいて、あのときの自分の気持ちを思い出す。 「とっても不安で、ドキドキして、タルトの具合が良くならなかったらどうしよう、具合の悪いタルトがもしも見つからなかったらどうしようって、そんなことばっかり考えて・・・。」 「それから?兄弟が見つかって、どう思った?」 「お腹も大したことないってわかって、無事に見つかって。凄くホッとして、安心して・・・。」 「うんうん。その、元気で無事でいる兄弟の姿、心配してる間、頭に浮かばなかった?きっとこういう姿でいてくれるって、そういう祈るような気持ち、なかった?」 「あ。」 せつながわずかに顔を上げる。その様子を見て、カオルちゃんは口元に小さく笑みを浮かべた。 「不思議だよね~。毎日元気でいるのがあったり前の人が、たま~に具合悪くなったりするとさ。また元気になったとき、それがあったり前なのに、妙に嬉しかったり、ありがたかったりするんだよね~。」 カオルちゃんはそう言いながら、トントンと袋の中のドーナツを落ち着かせる。そして袋の口を真っ直ぐに二回折り曲げると、折り目をしごいた右手の人差し指を、そのまま袋の右の角に載せた。続いて左手の人差し指を、左の角に載せる。 「こっちが最悪で、こっちが最高だとしたらさ。誰だって、この間のどこかにいるんだよね。」 カオルちゃんが、左手の人差し指で袋の左の角をつつく。 「こっちの、最悪の怖さにばっかり目が行っちまうのが『心配』ってヤツでさ。でもほら、こっち。」 今度は右の人差し指で反対側の角を叩いて、カオルちゃんは言葉を続ける。 「こっちの、最高・・・は難しいかもしんないけど、いいときの相手を知ってるから、心配も出来るのよ。いつかこっちの、いい状況になれるに違いない、いや、今はもう「いいとき」になってるかもしれないって、そんな希望があるからさ。 そもそも最悪しかないって完全に思ってたら、心配したくたって、出来ないもんね~。」 そこでニヤリと笑って、カオルちゃんはもう一度、袋の折り目を左から右に向かって丁寧にしごいた。 「そんな風に、いいときの――最高の自分を思い描いてくれる人がいたら、苦しめて申し訳ないって気持ちと一緒にさ。嬉しくて、ありがたくて、何とかそんな自分になれるように頑張ろうって、オジサン思うな~。」 真剣な顔で頷くせつなの耳に、あのときのラブの声がよみがえる。 ――せつなを独り置いて行けないよ。あたしだって、せつなが心配なんだからぁ。 あのとき・・・ドームで倒れたせつなを、医務室で介抱してくれたときの、ラブの言葉。ラブが思い描いてくれた「いいとき」は、あのときは偽りのものでしかなかった。 今はどうなんだろう。ラブは自分のどんな姿を、「いいとき」の自分と思ってくれているんだろう。そして今の自分は、そんな姿に少しでも、近付くことができているんだろうか。 「お嬢ちゃん。」 黙り込んだせつなに、カオルちゃんはまた能天気な声で話しかける。 「最悪にばっかり目が行っちまうのが『心配』って言ったろ?じゃあさ、最高にばっかり・・・時には、最高の最高、もーっと向こうにまで目が行っちまうのは、何だと思う?」 「え・・・?」 困った顔をするせつなにもう一度ニヤッと笑って、カオルちゃんは袋の左の角を三角に折る。 「じゃ、これは宿題な。ヘンなたとえに使っちまったから、最悪の角はまぁるくしとくから。あ、これ三角か。グハッ!」 ドーナツの袋と宿題と、それから何だかぬくもりまで一緒に手渡されたような気がして、せつなは少し照れ臭そうな笑顔で言った。 「ありがとう・・・カオルさん。」 途端にカオルちゃんの眉毛が、情けないくらいにカタッと下がる。 「お嬢ちゃん、カオルさんはやめてよ~。オジサンのコードネームは、カオルちゃん。そこんとこ、よろしく!」 ぐっと親指を立てる男を、「カオルちゃん」と呼び直すのは恥ずかしくて、せつなは真っ赤な顔でぺコンとお辞儀をすると、早足でドーナツカフェを後にした。 四つ葉町商店街に差し掛かると、向こうからラブが駆けてきた。今は四人それぞれ手分けして、昨日の男を探していたのだ。 「せつな~!何か手掛かり見つかった?あ、ドーナツ!嬉しいなぁ。あたしのために買ってきてくれるなんて、感激だよぉ!」 一気にまくしたてるラブに、せつなは悪戯っぽく笑って、ドーナツの袋をさっと背中に隠す。 「だ~め、これはタルトの。一日中家に居て退屈してると思うから、せめておやつに、ね。」 「そっか。そうだよね。タルト、きっと大喜びするよ。」 その言葉を聞いてふっと真面目な表情になったラブは、しかし次の瞬間、甘えるような上目遣いでせつなを見た。 「でもさぁ、こんな大きな袋ってことは、何個もあるよね?じゃあじゃあ、一個だけ~」 「ダメ!」 せつながきっぱりとそう言ったとき、ドーン、という破壊音が、辺りに響いた。 「何の音!?」 二人の空気が、一瞬で張り詰める。 「こっち!」 ドーナツの袋を抱えて駆け出すせつなに、ラブも続いた。 天使の像の方向に、盛大な土煙が見える。ドーン、ドーンという破壊音も、近付いてくる。やがて建物の陰から現れたものを見て、ラブとせつなは凍りついた。 淡いグレーの身体に、太くて長い尻尾。水色の襟飾りは、今は何だか刺々しいものに変化している。 「・・・な、なんでっ!?」 「・・・まさか、そんな!?」 呆然とする二人に、その生物・・・いや、怪物は、 「ナケワメーケ!!」 辺りを揺るがすほどの咆哮を上げた。 ~前編・終~ 新2-064へ
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耳に心地好く響くせつなの声。 それは、まるで心を内側から羽毛で撫でられているよう。 美希を優しいと言うせつな。 たぶん、面と向かって美希をそんな風に評したのは せつなが初めてではないかと思った。 優しく無い、とは今までも思われてはいないとは思う。 しかし、それは美希を表す単語としては、必ずしも上位にある言葉ではない。 上に来るのは、しっかりしてる、大人びてる、気が強い。 親しい相手には、案外抜けてる、なんて言われる事もある。 しかし、情には厚い方だと自分で思っていたりもするが、 『優しい』なんて丸く柔らかいイメージは持たれていない。 他ならぬ、美希自身がそう振る舞って来たのだから。 そんな言葉が似合うのは、いつもふんわりとした微笑みを浮かべている祈里。 いつもお節介なくらいに他人の為に走り回っているラブだ。 美希の役回りは叱ったり励ましたり。 どちらかと言えば喝を入れてしょげた相手を奮い起たせる方だ。 上手くは行かない時もあったけれど。 「アタシは優しくなんかない。せつなはあんまり優しくされた事ないから、 アタシなんかでも優しく見えるだけよ」 「…それも随分な言い方よね。私の感じ方なんて当てにならない?」 「でもっ、それは、せつなの見方が変わっただけでしょ? アタシのやった事は何も変わってない!」 「それのどこがいけないの?」 「だって!そんなのっ……」 「美希だってそうでしょ?」 「……?!」 「私だって、変わってないわ。美希の見方が変わっただけ」 「…………」 「今の私を見てるから、昔の私も引っくるめて、親友だって言ってくれる。違う?」 「…じゃあ、せつなは?なんでアタシを親友だって言うの? アタシ、せつなにそんなに好かれるような事、した?」 言ってて気が付いた。 本当にそうだ。自分は、親友だと言いながらせつなの為に何かした事があっただろうか。 口だけだ。一人にはしないなんて。 いつだって、せつなの為に必死になっていたのはラブだけだ。 自分はラブに引きずられていただけ。 ラブがこんなにも想ってるんだから、そう、美希はラブの為に走り回っていただけ。 せつなの為では無かった。 それを思うと、たとえ傷付け汚しても、剥き出しの想いをぶつけた 祈里の方が真摯にせつなに向き合っていたようにすら感じる。 結局、自分の事しか考えて無かった。 居心地の良かった棲みかを追われる事に脅えていただけだった。 これ以上せつなに傷付いて欲しくない、そう言いながら、 四人でいるのを望んでいるのは自分自身だとせつなの口から聞かされ、 その事に膝が砕け、崩れ落ちたくなるくらいに安堵していた。 「今、こうして、一緒にいてくれてるわ」 止めどなく溢れる美希の涙を指先で拭いながら、せつなは一語一語を はっきりと句切るように美希に告げる。 「自分が辛い時に、一緒にいる相手に私を選んでくれた。 そんな風に感じるのって自惚れてるかしら…?」 「………せつな…」 「いつだって、美希は必死に考えてくれてた。どうすれば、みんなが 笑って過ごせるのか。勝手にしろってそっぽを向く事だって出来たのに」 半ば呆然とせつなを見つめる。 せつなの中の美希はどんな姿なのか、未だに美希には掴めない。 だけど、優しい、と言う評価に少しだけ意地悪を言ってみたくなった。 今まで美希に付いてまわった評価では、優しい、と言うのはあまり記憶に無いから。 「ねえ、せつな。せつなは知らないかもだけど、こっちの世界では 『優しい』って、結構ビミョーな評価なのよ?」 「どう言う意味?」 「あのね、毒にも薬にもならないって言うか、いい人だけど 他に魅力が無いって言うか…」 「…………」 「なんて言うの?他に誉め言葉が思い浮かばない時に使う、 ある意味便利で無難な言葉だったり、酷い時だと優柔不断を 紙一重でマイルドにした感じ?…」 「………こちらの言葉の使い方って複雑なのね……」 せつなは呆れたようにため息をつき、改めて真っ直ぐに美希に向き合う。 至近距離で見つめ合っても、およそ欠点など見つけられない完璧な笑顔。 美希はぼうっとしたまま、今の自分はかなり間抜けな顔を晒しているのに、 そんなに可愛く微笑むなんて不公平だ、などと緊張感の無い事を 思わず考えてしまった。 「いい?美希は優しいわ。少なくとも、私はこれから先、美希以外の人に 『優しい』って言う表現は使いたくない」 「………」 「そのくらい、美希は優しい人だって思ってる」 同じくらい、寂しがり屋だとも思ったけど。 そう言いながら、美希の濡れた頬に唇を寄せた。 もう、駄目だ………。 美希はせつなにしがみ付き、声を上げて泣いた。 物心付いてから、声が枯れそうな程、こんなにも泣いた記憶は無いくらい 大きな声で泣いた。 せつなの言う、優しい人。それがどんな意味合いを持つのか。 美希はせつなに意識して優しくした覚えは無かった。 ただ日々せつなを見つめ、共に過ごす内に芽生えた愛しさを 隠す事はしなかっただけだ。 ラブはせつなに出逢った瞬間から、抗い難い運命の様な物を感じたのだろう。 祈里は自分でも気が付かない内にせつなに魅入られ、堕ちて行った。 自分はどうだったのだろう。 最初は、ラブの後をちょこちょこと控え目について行くだけだったせつな。 少しずれた世間知らずな言動や、それとは裏腹な時には突拍子も無い程の行動力。 空気は読まない、お愛想代わりの世間話すら出来ない。 美希は手のかかる妹分がまた一人増えたようなつもりでいた。 それがいつの間にか、こちらが頼る場面すら増えてきた。 妹扱いしようにも、せつなの方が美希を『お姉さん』とは微塵も感じていない。 それが最初は居心地が悪くて、でも不思議と嫌ではなくて。 せつな相手には何も飾る必要がない。 と、言うより、飾った所でせつなは美希が気取っていようがすましていようが、 逆に子供のように拗ねたりしても気にもしない。 いつしか、せつなとは一番目線が近いような気すらして、 それがなんだか嬉しかった。 美希の脳裏にふとした思いつきが浮かぶ。 試してみてもいいだろうか。しかし、単なる思いつきで頼むのも失礼な気もする。 それに、物は試し…が変な方向に転がったら。 凄まじい勢いで色んな思いが駆け巡る。 もう、せつなには何でも言えるし、せつなも何を美希が言っても 驚かないだろう。 ここまでさらけ出してしまったら、もう取り繕う箇所は殆んど無い。 しゃくり上げる胸を落ち着かせ、何とか息を整える。 大きく深呼吸して、下手をしたら多大な誤解を招き兼ねない一言を口にした。 「ねえ、せつな……キスしても、いい…?」 ようやく涙が落ち着いて、やっと口に出した言葉がこれだ。 さすがにまともに顔を見る勇気は持てなかった。 せつなも咄嗟に反応を返せないのか、無言のまま。 「いいかな…?」 おずおずと顔を上げ、上目使いに何とか視線を合わせる。 せつなは、しばらく美希の表情を窺った後、驚くでも茶化すでもなく、コクリと頷いた。 目を閉じ、軽く顎を上げる。 美希の口付けを待っているのだ、と理解し、自分で言っておきながら 美希は微かにたじろぐ。 ゴクリと喉を鳴らし、何とか手の震えを抑え、せつなの肩に両手を添える。 濡れた唇が軽く触れる。 ビリッと電気が走り、髪の毛も含めて全身の毛が逆立った気がした。 信じられないくらいの柔らかさ。心臓が跳ね上がる。 そして少し躊躇った後、しっかりと唇を押し付ける。 蕩けそうな感触。 こんなに柔らかいものに触れたのは生まれて初めてだと思った。 どこまでが自分の唇で、どこまでがせつなの唇なのか分からなくなる。 頭の芯が熱い。 逃げ出したいような、いつまでもこうしていたいような。 そして、物凄くドキドキしているのに、やっぱり『違う』と感じる。 この鼓動は胸の高鳴りとは別物だと、頭のどこかが言っている。 早鐘を打つ胸は、緊張と、こんな事をしてせつなにどう思われるだろう、 と言う不安。 少なくとも、もっと先に進みたい、もっと触れたくてもどかしい。 そんな欲望は微塵も涌いて来ない。 甘い匂いと柔らかな感触には、うっとりといつまでも 酔い痴れてしまいそうな心地好さはある。 でも、それだけだ。 「……どう、だった…?」 触れていたのは、ほんの数秒だろう。 それでも、唇を離すまでは時間が止まっているようだった。 温もりと柔らかさがすっと遠退くのが名残惜しいような、 ホッとしたような。 離れた瞬間から夢か幻だと言われても信じそうなくらい、 一瞬にして現実感がどこかへ行ってしまった。 「…しょっぱいわ……」 「あのねぇ…」 ペロリと唇を舐めたせつなが呟くように漏らす。 「美希、涙で顔中ベタベタなんだもの…」 「色気のカケラも無い感想ね……」 「美希に色気なんか感じてどうするのよ」 ぷっ…、と二人同時に吹き出した。 そのまま額をくっ付け、笑い合う。 「よかった……」 「何が…?」 「せつなにドキドキしちゃったら、どうしようかと思ったわ…」 「何よ、それ。実験?」 「そーよ、実験。やっぱりアタシには無理だわ」 「そんな事の為にわざわざ唇奪ったの?」 「何よ、奪ったって。合意の上じゃない、人聞きの悪い」 クスクスと笑いながら囁き合う。 馬鹿馬鹿しい、けれど、真剣な実験。 二人はこれからも親友。何があっても。 大好きで大切だけど、閉じ込めて一人占めしたいなんて思わない。一人占めしている誰かに嫉妬もしない。 だって、想い合う場所が違うから。 運命の人でも、欠けた魂の片割れでもない。 だけど、かけがえの無い、一番の友達。 「美希が好きよ。大好き。何度でも言うわ」 「…せつな」 「ラブみたいには想えない。それに、ラブと美希を比べたら… 比べたくなんかないし、比べちゃいけないんだろうけど、 やっぱり比べたら、私はラブが大切って答える」 「………うん」 「それでも、やっぱり美希の事が大好き。大好きで、美希にも、私を好きでいて欲しい…」 「うん……」 それでいい。ううん、それがいい。 美希も、せつなから欲しいのは、ラブに向けているような愛情ではない。 それがはっきり分かったから。 出逢った瞬間、恋に落ちる。何もかも振り捨ててでも、たった一人の 人を求めずにはいられない。 そんな相手に巡り会える人なんて滅多にいないのだから。 多くの恋人達は、いくつもの出合いと別れを繰返し、結ばれた後も、 本当に自分の相手はこの人なんだろうか…? そんな不安を抱えているのも珍しくはないのだろう。 永遠の愛を誓った後でさえ、気持ちが変わる。 美希の両親がそうだったように。 せつなの中の美希。せつなの親友。誰よりも優しい人。 それが本当に自分の姿なのか。 たぶん、せつなにとって美希がどう思うかはあまり関係ないのだ。 ただ、せつなは今目の前にいる美希を抱き締めてくれている。 初めて出来た、無二の親友として。 人によって、その心に住み着く人間の姿は違う。 しかし、その人そのものは何も変わらない。 月が日々姿を変え、満ち欠けしても、月である事が変わらないように。 月は太陽の光を受けて輝くだけの、冷たい石。 近くで見れば、命の影すら無いクレーターだらけの暗い塊。 しかし、人が月を思い浮かべる時、それは夜空に輝く豊かな光を湛えた姿だろう。 月が自分はただの石くれだと言ったところで、地表から眺める者の瞳には 眩い程に美しく、魅惑的に映っている。 それは、月が自分では輝けない事実を知っていても変わらない。 そんな事は、見上げる月の美しさを損ねるものではないと分かっている。 「美希、一つだけ聞かせて…」 「なあに?」 「……私に、会えて良かったと思う…?」 「…せつな」 「私、ほんの少しでも、美希の幸せの一部になれてる?」 「せつなは……?」 「………?」 「せつなはどうなの?アタシに会えて良かった?」 「当たり前じゃない!」 「だったら、そんな事聞くまでもないわよ!」 途端に、せつなはくしゃっと顔を歪めた。 その顔を見て美希は密かに安堵する。 ああ、やっぱり。せつなだって不安だったんだ。 美希の気持ちを受け止めようと、精一杯頑張ってくれてたんだ。 今度は美希がせつなの頭を胸に抱き込む。 あやすように髪を撫で、体を揺する。 「あなたに出会えてよかったわ」 本当に、本当に。 色んな事があって、これからもまだまだ色んな事が起こるだろう。 だけど、もう自分を嫌いにはならずに済みそうな気がしていた。 今までも、たった今も、出来る限りの事をやってきたと思うから。 せつなに、美希は優しい人だと言ってもらえた。 それで、自分のしてきた事は無駄では無かったと感じられたから。 「アタシ、このままでいいわよね。今のまんまのアタシで」 「うん…。このままの、美希でいて欲しいわ…」 「そうね。これから、変わる事もあるかも知れないけど、 中身はいつだってアタシのままよね」 「ええ……」 たぶん、次に祈里とラブに合うとき、二人は気まずい思いをしてるだろう。 だから、アタシから笑おう。 そうすれば、きっと二人もぎこちなくても笑顔を返してくれる。 アタシは変わらない。 祈里とラブの中のアタシだって、きっと変わってない。 ほんの幼い頃、三人並んで手を繋いでいたあの頃と変わらない自分達が まだ胸の中にいるはずだから。 そこにせつなが加わったって、幼馴染みの絆は変わらない。 そう、信じよう。 そして、せつなの温もりを抱き締めながら、改めて思う。 この子はかけがえの無い親友なんだと。 幼い頃を知らなくても、育った世界が違っても。 ラブや祈里にも話せない事も打ち明けられる、特別な存在だと。 結局、回り道しただけで行き着く場所は同じだった。 その回り道は辛くて、先が見えなくて、それでも、今まで知らなかった 様々な道を教えてくれた気がする。 大切な人は、やはり大切だった。失う事も、別れ別れになる事も考えられない。 そんな当たり前の、それでいて忘れてしまいがちな事実を確認できたから。 そして、せつなもきっとそうなのだと思いたかった。 ラブと祈里とせつな、この三人にしか分からない想い。それぞれの胸の内。 それを美希は窺い知る事は出来ない。 せつなが幼馴染み三人の歴史には過去に遡って入れないと知っているように。 だけどそれは、異なる二つの世界があり、お互いに重ならない訳ではない。 より大きな世界となって、美希もせつなもそこにいる。 その世界はこれからもどんどん変化し、広くなったり狭くなったり、 境界線がはっきりしたり、曖昧になったり。 そして行き来出来る場所がどれほど増えても、決して踏み込めない 場所があるだけだ。 満月の裏側が暗闇であるように。 そして、その暗闇は隠すものでも、怯えるものでも無く、当たり前に存在するものなのだ。 静かな闇は穏やかな安らぎを与えてくれるから。 黒ブキ38へ
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背中に柔らかい感触と温もり。 そして素肌を滑る指先を感じて、美希は微睡みから引き戻された。 (……ん…?……な、に?) ビクッと震えが走り、乳首を刺激されている事に気が付いた。 もう片方の手は既に下着の中に潜り込み、やわやわと 薄い茂みをまさぐっている。 まだ半分夢の世界にいた美希は一気に覚醒する。 (やだ…!祈里ったら何考えてるのよ!) 上のベッドにはラブとせつながいるのに……! 何となく恒例となってきているパジャマパーティー。今夜は桃園家。 ラブの部屋でラブとせつなはベッドに、美希と祈里はその下に 布団を敷いて寝ていた。 今まで何度かこう言うお泊まり会はしているが、こんな事をしてくるのは 初めてだった。 「………ん………ふっ………ぅ…んっ……」 (……ーーっ!……せつな?) 上から漏れ聞こえる湿った息遣い。 耳を澄ますと微かに響く濡れた場所を掻き回す音と、 シーツを引っ掻くような衣擦れの音。 「……せつな、声出しちゃダメ…。」 宥めるようなラブの声は、抑え切れない興奮に甘く掠れている。 恐らく必死に声を噛み殺しているだろうせつなの様子を 楽しんでいるのが、ありありと感じ取れた。 (ーーっあん!やだぁ……。) 上の二人に気を取られている隙に、祈里の指は美希の奥まで 忍び込んでいた。 柔らかな秘肉をかき分け、指に蜜を絡め取る。 熱く疼く突起を探り出すと、押し潰すように圧迫しながら 指の腹を擦り付けてくる。 (あっ!あっ!そんなにされたら…!) 乳首と陰核を同じリズムで捏ね回され、快感が出口を求めて 美希の全身を這い回る。 せつなのように、僅かな吐息を漏らす事も許されない。 ほんの少しでも息を漏らせばバレてしまう。 美希は歯を喰い縛り、全身の筋肉に力を入れ、 愉悦に跳ね上がりそうになる体を押さえていた。 「……ほら、せつな、足閉じないの。だから逝けないんでしょ?」 「……っ!……ふぅ…っ!」 「…イカなきゃ、終わらないよ……?」 ラブの声と共に、美希の耳元に祈里の昂った吐息が漏れるのを感じた。 美希の乳首と秘所を弄ぶ指使いが激しくなる。 体の中で膨れ上がる快楽に美希は目を霞ませる。 やがて、キシッ…キシッと鳴っていたベッドの軋む音が止まり、 熱の籠った空気が揺れる。 せつなが、達してしまったのを感じた。 その気配を祈里も読み取ったのか、激しさを増していた 愛撫の手を一端止め、ラブ達の様子を息を殺して窺っている。 ドクドクと体中を駆け回っていた血液が足の間に集まってきた。 美希は疼く体を持て余しそうになりながら、じっと堪える。 しばらくすると、ラブはせつなを促し部屋を出て行った。 覚束ない足取りでラブに支えられながらせつなが付いて行く。 「……どうやら、続きはせつなちゃんの部屋でするみたいね……。」 祈里は美希をコロンと仰向けにして、髪を撫でる。 「美希ちゃん、えらかったねぇ。イイコイイコ…。」 「…祈里ぃ…。」 じっと、声を立てずに耐えた美希を労るように、額から 頬に唇を這わせる。 「頑張った子にはご褒美あげないと、ね?」 美希は自分から下着を脱ぎ、大きく足を開く。 体に燠火のように燻る情欲は、もうとうに限界を迎えている。 早く、滅茶苦茶にして欲しい。もう、我慢なんて出来ない。 「もう…美希ちゃんったら。お行儀悪いよ?」 少し意地悪い祈里の物言いに頬を染めながらも、美希は逆らわない。 僅かな羞恥は快楽へのスパイスにしかならない事を、もう身に染みて 教え込まれてしまったから。 「あんまり大きな声出しちゃダメだからね。」 「あっ!はぁああっ、ああんっ!」 美希の足の間に顔を埋める。 熱く滑らかな舌が、敏感な場所を余す事なく容赦なく責め立てる。 隣の部屋でも、多分同じ事が行われてる。 せつなも抑えていた恥じらいをかなぐり捨て、思う存分ラブに 泣かされているのだろう。 さっき、漏れ聞いた切な気な吐息が美希の耳に甦る。官能に咽び泣くせつなの姿を思い浮かべ、 美希はいつも以上に貪欲に昂るのを自覚した。 今夜は見も世もなく、祈里を求めて乱れてしまいたい。 祈里も、きっと同じ事を望んでるはず。 美希は、自ら祈里の頭を押さえ付けるように腰をくねらせた。 短い夜を、少しでも長く楽しむために。 11-23はラブせつsideとなりますが18禁につき閲覧注意
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「ほらよっ、イース。焼き立てだ、美味いぞ」 「また四ツ葉町に行ってたのね。あの街はそっとしておいてと言ったはずよ!」 「遊びに行くくらいはいいだろう。おまえこそ会いに行かなくていいのか」 「ダメ……よ。私はもう十分過ぎるものをもらってきたわ。今、自分を甘やかすのは 誰のためにもならないと思う」 「……実はな、口止めされていたんだが。ラブって子な、大きな事故に遭ったんだ」 「なんですって!」 「かなりの重症らしい。心配かけるからお前には言わないでと頼まれた」 「……嘘……嘘よっ! くっ」 ホホエミーナ! 我に仕えよっ! 待っていて、ラブ。すぐに行くから! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ラブっ、ラブっ、どこなの? 家に行けば手がかりくらいはあるはず。 ――バンッ 「おかあさん、おとうさん、誰かっ、誰か、ラブのところに連れて行って!」 「その声っ! せつな? せつななのっ?」 「え、ラブ? どうして、重体じゃないの? 大きな事故にあったって……」 「あたしは事故になんてあってないよ。それよりも……おかえり、せつな。夢じゃ……ないよね?」 「苦しいわ、ラブ、本当に無事なのね……良かった」 ――パタパタパタ、ドタドタドタ 「せっちゃん? 本当にせっちゃんなのね」 「せっちゃんが帰ってきたって本当か!」 「おとうさん、おかあさんーーーーただいま」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「そうだったの。きっとその隼人って方は、せっちゃんを家に帰してあげたかったのね」 「はい、多分そうだと思う。でも……あんな悪質な嘘をつくなんて」 「あのね、せつな。今日は四月一日、エイプリルフールって言ってね、嘘をついてもいい日なんだよ。 隼人さんは多分、そのことを知ってたんじゃないかな」 「そんな日があったなんて……でも……」 「ね、せつな。あたしも今から嘘をつくね」 せつなが居なくなって、毎日寂しいの。 ご飯が美味しくなくて、学校やダンスもつまらなく感じて。 楽しみで仕方なかった明日の訪れが、全然わくわくしなくなっちゃったの。 せつなが居ないだけで、こんなに世界から輝きが失われるなんて思わなかった。 こんな気持ちになるのならーーーー引き止めればよかった。 行かせるんじゃ……無かった。 「なんてね、嘘だよ。全然そんなこと思ってないから心配しなくていいよ。 あたしは平気だよ。もうすっかり慣れちゃったし、だから忘れてくれてもいいんだから……」 「ごめんなさい……ラブ。寂しいのは私だけだと思ってた。だから私が我慢すればいいんだって、そう思ってた。 これからはーーーーなるべく会いにくるようにするわ」 「ほんとっ? それは本当なの? せつなっ」 「なんてね、どうかしら。自分で考えなさい」 「ちょっと、それひどいよ、せつなぁ」 「ふふ、エイプリルフールって素敵な日ね、ラブ」 「そうだね、せつな。あたしも今年から好きになれそうだよ」
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かまくらの中で。 「はい、お餅焼けたよ!熱いから気をつけて」 「ブッキー、お醤油取って」 「はいどうぞ。海苔もあるわよ」 「七輪ってあったかいのね。知らなかった……」 「美希ちゃんかけすぎよ!」 「いいの。いただきまーす。熱っ!」 「んもー、だから言ったのに」 「美希ちゃん見せて!」 「らいろうぶ、らいろうぶ……」 「いいから早く見せて!」 「真っ赤なはんてんは幸せの証……」 「ぶつぶつ言ってないでせつなも食べよ?」 「大変!唇の端っこが赤くなってるわ!すぐに冷やさないと!」 「ホ・・・ホントに大丈夫だから・・・。」 「ちょっと待ってて!」 そう言うが早いか、壁の雪を削って集め、美希の火傷した箇所に押し当てるブッキー。 「ちょっ、そんな事したらブッキーの手が冷えちゃうじゃないの!」 「大丈夫・・・。美希ちゃんのためだったら私、どんな事でも・・・。」 「ブッキー・・・。」 「あ~あ、二人の世界に行っちゃったよ・・・。 仕方が無い、もう一個かまくら作ってそっちに移動しようか。せつな。」 「もぐもぐ・・・(そうね・・・。)」 ラブせつ二人、かまくら内でしばらくキャッキャウフフしまくり、疲れて少し会話が途切れた時に せつなから、ぽつりと。 「ねえ、ラブ」 「え?」 「思ったんだけど・・・ここなら、今、誰にも見られないわね・・・」 「・・・・・え?・・・え?・・・・・ぇええぇぇーーーー?!?!? せ、せせせ、せつなそれってどういう・・・・$*&%”@~~****!」 「こういう・・・」 「!!!!!!!」 「ラブ・・・。」 「(はっ、はわわわわ、せつなの手が、顔がこっちに、はわ、はわわ~・・・)」 「こういう・・・。」 「!!!!!~~っ、はわわ、はわはわはわ!」 「ほ~ら、こんなに変な顔~、うふふ、うふふふふ。」 「・・・はわっ!、せ、せつな酷いよ~、いきなり口に指突っ込んで変顔させるなんて~。」 「あははは、ゴメンなさい、ちょっと空気重かったから、うふふふ。 (あ、危ないとこだったわ。咄嗟にふざけて誤魔化したけど、一瞬本気でラブの唇を奪いそうに)」 「もーせつなったらー(笑) (なーんだ焦って損しちゃった。てっきりせつなからキスでも されるのかと・・・あたしったらヘンな期待し過ぎ~、せつなにバレなくて良かったよ!)」 ラブ「へっくちん!」 せつな「くしゅん」 美希「へくち」 祈里「くしゅっ」 タルト「そりゃそーやで。」 シフォン「きゅあ?」 アズキーナ「は、恥ずかしい…」 あゆみ「これ飲んであたたまりなさい、みんな」 せつな「甘い香りがする.....」 ラブ「ココア?ちょっと違うかなー」 祈里「うん。ちょっと違うかも」 美希「おばさま、完璧すぎですよ」 あゆみ「さっすが美希ちゃん!」 ラブ「ん?」 せつな「???」 祈里「あっ!なるほどね」 美希「ブッキーならわかると思ったケド」 ―――ホットチョコレート――― あゆみ(いつまでも仲良くねっ♪) 「もう食べれないや」 「私も…」 「ブッキー。それは来月の話でしょ!」 「ごめんなさい。でも次焼けちゃった…」 山盛りのクッキー。普段料理のしないブッキーはただひたすら焼まくるのでしたw 圭太郎「だったら僕が食べちゃうよ~」 ラブ「とぉ!」 せつな「おとうさん!!」 美希「おじさま…。見損ないました…」 祈里「あれれれれ???」 あゆみ「いいのよ。あとでたっぷり叱っておくから、ね♪」 那由他「だったら私が食べようかしら」 せつな「お、お前は!」 あゆみ「あらいらっしゃい」 ラ美ブ「えぇぇぇぇ!?」