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ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。 うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。 「お父さん、これは?」 「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」 それは、その子の五歳の誕生日のこと。 かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。 テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。 そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。 「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」 「大切にするのよ」 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。 その時が、来るまでは―――― 『幸せの赤い翼――――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――――』 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。 「えっ? 今、なにか言った?」 「どうしたの? ラブ」 「なにも聞こえないわ」 「わたしも、なにも聞こえなかったよ」 「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」 「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」 「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」 「いや~、それを言われると……」 明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。 美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。 それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。 「せつなの準備は進んでるの?」 「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」 「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」 「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」 「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」 「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」 「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」 「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」 「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」 「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」 「はぁ~い」 出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一端家に帰ることにする。 「それじゃ、また後でね」 「夕方、ラブちゃん家に伺うね」 「うんっ! 待ってるね~」 「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」 「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」 「パジャマパーティー?」 「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」 「ええっ? 一体なんのことなの」 「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」 「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」 不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。 じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。 せつなが横から覗き込む。 「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」 「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」 「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」 「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」 「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」 「ええっ~」 二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。 大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。 手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。 「いらっしゃい、美希、ブッキー」 「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」 「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」 「今夜一晩、よろしくお願いします」 「どうぞ、ゆっくりしていってね」 ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。 突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。 ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。 「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」 「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」 一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。 「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」 「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」 「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」 ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。 「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」 「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」 「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」 「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」 それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。 このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。 「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」 「オーケー、何でも手伝うわ」 「わたし、自信ない……」 「美希は料理するのね?」 「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」 「完璧って口にしないところが、ポイントよね」 「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」 「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」 「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」 「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」 調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。 ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。 「いっただきま~す!」 『いただきます』 祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。 祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。 「おかわり~」 「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」 「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」 「どれほど投げる気なのよ……」 「でも、せつなも思ったより食べるのね」 「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」 「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」 「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」 「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」 「もう、からかわないで!」 賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。 バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。 現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。 販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく―――― ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。 また、詳しいことが判り次第―――― ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。 わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。 「ともかく、様子を見に行こう!」 『ええ!!!』 四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。 家の外は、酷い有様だった。 家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。 街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。 建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。 何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。 街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。 「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」 「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」 とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。 その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。 「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」 「ひどいっ。こんなこと、許せない!」 「子供たちから、不幸を集めるなんて……」 「心配しないで、私が――――。ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」 せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。 とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。 男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。 せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。 先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。 ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。 「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」 「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」 「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」 「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」 「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」 「どういうこと?」 「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」 「確かに、沈黙したままね」 クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。 「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」 「今のは、アタシも聞こえたわ」 「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」 「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」 「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」 「ラブ、気をつけて!」 「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」 ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。 クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。 そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。 ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。 かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。 「ウサピョン!」 「ウサピョンって?」 「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」 「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」 「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」 「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」 「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」 美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。 「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」 心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。 もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。 「それで、あなたはどうして無事なの?」 「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」 「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」 「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」 ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。 おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。 トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。 「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」 「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」 「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」 「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」 「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」 せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、返って怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。 美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。 「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」 「そうね、覚悟を決めましょう!」 「取り戻そう、わたしたちの手で」 「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」 「うん、まかせて」 「おもちゃの国へ!」 アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。 おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。 よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。 早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。 「ここが――――おもちゃの国?」 「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」 「どこも、とっても可愛い!」 「キュア~」 積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。 床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。 和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。 どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで―――― それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。 「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」 「ごめん、そうだった」 「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」 「タルトがそれを言う?」 「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」 「そんなことまで知っとるんかいな……」 ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。 異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。 噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。 「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」 「それが、あたしにもよくわからないの」 「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」 「そうね」 「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」 街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。 一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし―――― 「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」 「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」 「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」 「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」 「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」 「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」 「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」 「待って! ブッキー」 祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。 動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単調直入にトイマジンについて質問する。 人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。 ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。 それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。 「誰も……いなくなっちゃった」 「ワンちゃんも逃げちゃったね」 「違う――――もう、既に囲まれてるわ」 ザッ、ザッ、ザッ 規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。 その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき―――― やがて姿を現す、無数の人形の群れ。 それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。 ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。 おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった 百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。 「はは……じょ、冗談よ、ね?」 「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」 口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。 轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。 顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。 帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。 「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」 「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」 「――――反抗の意思とみなす」 隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。 ドン! ドン! ドン! 「きゃっ!」 「危ないっ!」 せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。 「ラブっ!」 「ラブちゃん! せつなちゃん!」 「よくも……、やってくれたわね」 美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。 美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。 「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」 「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」 「待って!!」 隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。 「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」 「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」 「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」 ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。 「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」 「何をされるかわからないよ?」 「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」 「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」 「ついて来い」 幸いにも、拘束するつもりはないようだった。 おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。 おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。 新-558へ
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御子柴邸へ! 左手の親指の爪の下辺りに、歪んだ“m”の字のように見える傷。そして中指の腹の部分には、赤黒く斜めに走る線のような傷。 丁寧に洗った二つの傷を新しい絆創膏で覆って、祈里は静かにため息をついた。 (健人君・・・やっぱり何か隠しているのかな。) 夕方、せつなが挙げた不審な点を、ひとつひとつ思い返す。考えれば考えるほど、彼女の指摘は的を射ているように思われた。 祈里は他の三人と違って、健人が警備員たちを引き連れて街を闊歩していた様子を見ていない。だから、その話をラブから聞いた時にはどうにもイメージが湧かなかったのだが、昼間、喫茶店で健人に会って、確かにその様子が普段と明らかに違うと感じた。 二度目のため息をついて、昨日みんなに見せたあの船上パーティーの招待状に、もう一度目をやる。 昨年の秋、健人に招待され、ドレスまでプレゼントされて、気乗りがしないまま仕方なく出かけた船上パーティー。慣れない華やかな場所でコチコチに緊張したものの、健人もやはり不安を抱えているのだと知って、祈里はようやく少し落ち着くことが出来た。 その後、ウエスターが船にソレワターセを憑依させたため、キュアパインに変身したのだが、健人はパインと動物たちと一緒に、必死で戦ってくれた。「みんなで力を合わせるんだ!」と動物たちに叫んだあの声は、今でもはっきりと覚えている。 (でも、今日の健人君は、力を合わせるっていうより、みんなの力を断って、一人で頑張ってるっていうか・・・何だかいつもの健人君じゃないみたいだった。あんな顔、今まで見たことあったかなぁ。) そう心の中で呟いた時、不意に何かが引っかかった。 (・・・今まで見たことあった・・・?まるでいつもの健人君じゃないみたい・・・?) 深く濁った水の底から何かがプカリと浮かび上がってくるような、そんな感覚。思わず目の前の封筒を、もう一度見つめる。 ――えっ?この封筒なら見たことがあるぞ。 昨日、この封筒をみんなに見せた時、隼人がそんなことを言っていなかったか? 確かにあの船上パーティーの時、ウエスターはその場に現れたが、それは船をソレワターセにするために、パーティーに潜り込んだのだと思っていた。だが、この封筒を見たことがあるということは、実はウエスターは、あの船上パーティーに正式に招待されていたのかもしれない。 でも――だとしたら、一体誰に? そして、今日の健人の、一瞬も自分たちと目を合わせようとしなかった、一見堂々としているのに、少しも落ち着きのなかった姿を思い出す。 まるで自分の周りに高い壁を作って、そこから抜け出せなくなっているような、あの姿――それは、ついこの間の自分の姿ではなかったか? 深い悲しみの底で、心が硬く冷たく閉ざされ、その悲しい現実だけでなく、誰の言葉も、誰の想いも受け取れなくなってしまった――何だか自分が自分じゃないみたいだった、あの時の気持ち。 (そう。まるで突然起こった不幸が、どんどん自分の内側に入り込んでくるみたいな・・・えっ?) あともう少し。もう少しのところに、何か答えのようなものがある気がする。 祈里は逸る気持ちを抑え、机の前に座った。スタンドを点け、ノートを広げてペンを手に持つ。何となく、こうやって腰を据えれば、何かが見つかるような気がしたから。 ナケワメーケのコアである黄色いダイヤを、ノーザに渡したウエスター。 そのウエスターが招待された、御子柴家の船上パーティー。 今頃になって現れた、黄色いダイヤを付けたナケワメーケ。 そのナケワメーケの残骸に触れて、不幸に陥った自分。 その時の自分と同じような雰囲気を持つ、御子柴家の一人息子・健人の様子――。 (・・・まさか、そんな!) 祈里は愕然とした表情で、ポロリとペンを取り落した。 あまりにも突拍子もない考えだと思う。でも、それならつじつまが合うんじゃないか、という気もした。いずれにせよ、少しでも可能性があるなら、確かめないわけにはいかないだろう。 壁にかかった時計を見る。もう早いとは言えない時間だが、まだ寝てはいないかな、と思えるくらいの時間――。 祈里は少しためらってから、意を決したように、リンクルンに手を伸ばした。 イエローハートの証明 ( 第8話:御子柴邸へ! ) その電話がかかって来た時、せつなはパジャマ姿で、自分の部屋のベッドにラブと並んで腰かけ、とりとめのない話をしているところだった。 せつながこの部屋で暮らしていた頃は、ベランダで、あるいはどちらかの部屋で、よくこうやって肩を並べて他愛もないおしゃべりに興じたものだ。その時は、部屋で話すときは大抵ラブの部屋でだったのだが、今回の帰省中は、ラブがせつなの部屋にやって来ることの方が多かった。 突然鳴り出したリンクルンに黄色い光が点滅するのを見て、せつなが少し心配そうに眉をひそめる。 こんな時間に、祈里から電話とは珍しい。何か悪い知らせでなければ良いが・・・そう思いながら電話に出ると、普段より硬い祈里の声が耳に飛び込んできた。 「もしもし、せつなちゃん?ごめんね。こんな時間に悪いんだけど、隼人さんと連絡取れないかな。」 「一体どしたの?」 電話の向こうで、祈里が、あのね・・・と言って口ごもる。 「ちょっと気になることがあって・・・。何か証拠があるわけじゃないし、ただの思い過ごしかもしれないんだけど。」 「ちょっと待って。ここにラブもいるから、二人で一緒に聞いてもいい?」 せつながそう言って、リンクルンをラブに渡す。耳の良いせつなは、こんな肩が触れ合うような距離なら、隣りにいるラブの受話器から漏れる祈里の言葉を聞き取るくらい、わけはない。 ラブも心得たもので、うん、と真剣な顔で頷くと、リンクルンを挟んで頬と頬とがくっつきそうなくらい、せつなの方ににじり寄って来た。 あまりの近さに、せつなが少し顔を赤らめてから、それでもラブとの距離はそのままに、じっと耳をそばだてる。 「いいよ、ブッキー。話して。」 ラブの声を合図に、祈里は考え考え、話し始めた。 「あのね。昨日みんなに招待状を見せた、去年の秋の船上パーティーなんだけど・・・。あの時、隼人さんがパーティーに招待されていたのか、もしそうだとしたら、誰に招待されたのか、それが訊きたいの。」 電話の向こうが、一瞬、しんと静まってから、再びラブの声がした。 「でもさぁ、ブッキー。あの時、隼人・・・ウエスターは、船をソレワターセにしたでしょう?招待されたんじゃなくて、船に忍び込んだんじゃないのかなぁ。」 「わたしも最初はそう思っていたんだけど、隼人さん、昨日、あの招待状を見たことがあるって言ってたでしょ?忍び込んだんなら、招待状なんて見てないはずよ。ということは、やっぱり正式に船に乗ったんじゃないかと思うの。」 「うーん・・・でも、ウエスターって御子柴家と何か関わりがあったの?何もないのに招待されるなんて、ヘンだよね。」 「ううん、もしかしたら、ヘンじゃないのかもしれないわ。」 ふいに、ラブの声の向こうから、低くて小さな声が聞こえた。ゴソゴソという音の後に、電話の主がせつなに替わる。 「ブッキー。ひょっとして、ウエスターが船上パーティーに招待されたのは、何かの代償だったんじゃないか――そう思ってるんじゃない?」 「だいしょう?」 今度はラブの声が遠い。せつなが、ラブと祈里、両方に話しているような調子で言葉を繋ぐ。 「見返り、っていうことよ。あの頃のラビリンスでは、それが当たり前だった。何かを手に入れるためには、引き換えに、必ず何か代償が必要だったの。 そして、船上パーティーの招待状と引き換えに渡されたのが・・・」 「ええ。ひょっとして、あのダイヤは御子柴家の誰かに渡されたんじゃないかって・・・そう、思ってしまったものだから。」 えーっ!?というラブの叫び声が、電話口から離れているのに、耳に痛いようなボリュームで聞こえた。 ☆ すぐに隼人に連絡を取ることにして、祈里との電話を一旦切る。そして、せつなは机の引き出しの中から、携帯電話によく似た小さな機械を取り出した。 異空間通信機。ここへ帰って来る前にサウラーに渡されたもので、同じものを隼人も瞬も持っている。ラビリンスと四つ葉町という異世界間でも通話ができる、ラビリンスの超科学の結晶。それは同じ世界に居る同士の場合でも、勿論通話が可能だった。 隼人の番号を呼び出してコールするが、電源が切られているとのメッセージが流れる。不審に思いながら瞬にかけてみると、今度はワンコールで、押し殺したような低い声が聞こえた。 「やぁ、どうしたんだい?」 「ちょっと隼人に訊きたいことがあるんだけど、通信機の電源が入っていないみたいなの。瞬、あなた今、隼人と一緒?」 せつなの問いに、電話の相手が軽いため息をついたのが聞こえた。 「一緒に居ることは居るけどね、彼は今、電話には出られないよ。ちょっと取り込んでいてね。」 「取り込んでるって、こんな時間に一体何を・・・」 そう言いかけて、せつなが不意に押し黙る。電話の向こうからかすかに聞こえた、ある音が気になったのだ。 「ねぇ、瞬。あなた今、どこにいるの?」 「どこって、四つ葉町公園に決まってるだろ。」 「本当に?今、何かおかしな雑音が聞こえたみたいだったけど。」 「ああ、隼人が今、こんな時間からドーナツを揚げていてね、その油の音だろう。取り込んでいるっていうのは、そのことだよ。全く、こんな時間からいい迷惑だ。」 瞬の声には少しの揺らぎもなく、平静そのものだ。 せつなは、そう、と低い声で呟くと、じゃあ明日の朝かけ直す、と早口で瞬に言った。 あっさりと電話を切ったせつなに、ラブが心配そうに問いかける。 「隼人さんとは、話が出来なかったの?瞬さん、何だって?」 「ラブ・・・。あの二人は、どうやらもう二人だけでどこかに向かっているようだわ。きっと健人君の家よ。」 せつなの、一見淡々とした――しかし深い悲しみに満ちた声音に、ラブは息を呑んで彼女を見つめた。 ☆ 「電話、イースからだったのか?」 「ああ。幸か不幸か、君が通信機の電源を切っていたせいでね。」 瞬――いや、今は白い闘衣に身を包んだサウラーの、少し恨みがましい口調に、ウエスターは前を向いたまま、すまん、と呟いた。 「まあ、それはいいさ。しかしマズい時にかかって来たな。彼女のことだ、もう僕らの行動には、きっと気が付いているよ。」 「お前が上手く話してくれたんじゃないのか。」 「そのつもりだったんだが・・・さっき、閉店しようとしている飲食店の前を通ったろ?あれが失敗だった。」 せつなの耳が捉えたのは、四つ葉町で一番遅くまで開いているレストランのシャッターが閉まる音だったのだ。確かに公園に居ては、この音はまず耳に入らない。 咄嗟に、せつなにとっても馴染みが無いであろう音を引き合いに出したのだが、あれでごまかされる彼女ではないはずだ。 そう。二人はせつなが睨んだ通り、いつもの公園に居るわけでは無かった。既に人気のなくなった四つ葉町商店街を、御子柴邸に向かってひた走っていたのである。 「全く。君が彼女たちに黙って一人で決着をつけようなんて、らしくないことをするからだよ。」 「仕方ないだろう?今回のことは、まだ分からないことが多すぎる。これからどんな危険が待っているか知れないんだ。そんなことに、今はもう普通の少女の力しか持っていないあいつらを、巻き込みわけにはいかないじゃないか。それに・・・これは元々、俺が撒いた種だ。」 ウエスターが、真っ直ぐ前を向いたまま、低い声で言う。 ノーザに渡したダイヤのことをすっかり忘れていたのは、あのダイヤが既に使われたものと思い込んでいたためだった。世界中のおもちゃが子供たちの手から消えた、と聞いた時、ノーザさんはやっぱりやることがデカいと、密かに感心したのを覚えている。 だが、昨日あの招待状を見たとき、かつてノーザから同じものを手渡されたことを思い出して、ウエスターは――隼人は微かな疑念を抱いた。 「ウエスター君。人質作戦って言葉、あなた知ってるかしら・・・。」 そう言って楽しそうな笑みを浮かべながら、ノーザがあの封筒と、新しいソレワターセの実とを差し出してきたあの日――あれはウエスターがノーザのために黄色いダイヤを召喚した、ほんの少し後のことだったのだ。 ひょっとして、あのダイヤは使われずに残っているんじゃないか――その疑念を、カオルちゃんに背中を押されて確かめてみると、やはりダイヤは使われていないことが分かった。 (あの封筒がダイヤの代償だったのだとしたら、ダイヤはまだこの世界・・・おそらく御子柴家に――。) どうして今まで気付かなかったのだろう。自分のうかつさにまた腹が立って来て、ウエスターはグッと奥歯を噛みしめる。そして、隣りを走る白い影に、ちらりと目をやった。 「お前も付いて来なくていいんだぞ、サウラー。」 「ほぉ。これまた、いつも仲間仲間ってうるさい君らしくない発言だね。」 「言っただろう。今回のことは、俺の・・・」 「君だけの責任じゃないさ。僕だって、近くに居たのにそんなことにまるで気付かなかったんだからね。」 独り言のような低い声でそう言ってから、サウラーが我に返ったように、わざとらしく肩をすくめる。 「心配しなくても、僕は僕の興味で向かっているだけだよ。僕の探索にも引っかからない方法で、あのダイヤがどうやって保管されていたのか、見てみたくてね。」 そう言ってニヤリと笑う仲間の顔から、ウエスターはぷいと顔をそむけた。 「勝手にしろ。イースたちが来る前に終わらせるぞ。」 「ああ、そう願いたいね。」 あの屋敷に何が待っていようとも、ダイヤを見つけ出して処分する。もう二度と、この世界に不幸をばらまくことが無いように――。 二人の走るスピードが、ぐんと上がる。この長い通りを抜ければ、住宅街。御子柴邸は、その一番奥まったところにあった。 ☆ せつなの話を聞いて、ラブはすっくと立ち上がった。 「行こう、せつな。すぐにブッキーに電話して。あたしは美希に・・・」 「ちょっと待って、ラブ。行くって、御子柴家へ?」 慌てて制するせつなに、力強く頷くラブ。 「でも・・・あの二人はきっと、御子柴家にこっそり忍び込んでダイヤを探すつもりよ?今の私たちに、あの二人についていく力なんて無いわ。」 「分かってる。それでも、二人だけで行かせるわけにはいかないよ!」 きっぱりとそう言い切ってから、ラブは表情を和らげて、せつなの顔を覗き込んだ。 「ねえ、せつな。確かにあたしたちは、隼人さんたちと同じことは出来ないよ。でも、隼人さんたちには無理でも、あたしたちだから出来ることだって、あるじゃない。」 「私たちだから・・・出来ること?」 不思議そうに小首を傾げるせつなに、ラブはニコリと笑って、今度は優しく頷いた。 「健人君と隼人さんたちは、お互いのことをよく知らないよね。でもあたしたちは、健人君とも、隼人さんや瞬さんとも友達でしょ?だから、あたしたちが一緒に居た方が、みんな話がしやすいはずだよ!」 こんな夜遅くに押しかけて、話し合いも何もないんじゃ・・・と言いかけて、せつなは口をつぐむ。 ラブが言っているのは、そういうことではないのだろう。 友達同士を争わせたくない。その場に居て、両方が幸せな結末となるように、少しでも力になりたい――ラブの想いは、きっとそういうことだ。 自分だって、健人の様子がおかしいのは気になるし、何より隼人と瞬の二人が心配だ。確かに二人とも、この世界の人間が及びもつかないような力を持っているけれど、その力に任せて御子柴家に忍び込み、ナケワメーケのコアとなるダイヤを排除する――今回の事件がそれだけで済む単純なものとは、せつなにはどうも思えないのだ。 とはいえ、ここでみんなが乗り込めば、今度はみんなが危険な目に遭うおそれが、十分にある。 せつなは、上目づかいにラブの顔を見て、おずおずと言った。 「ねえ、ラブ。仲裁役っていうだけなら、何も四人で行かなくても・・・」 「せつな、忘れたの?あたしたちは、いつだって四人。四人一緒なら、出来ないことなんて無いよ!それに、健人君も、隼人さんと瞬さんも、あたしたちみ~んなの友達でしょ?」 ラブが、一言一言を噛みしめるようにそう言って、もう一度せつなの顔を覗き込む。 その目は、強くてあたたかな光をいっぱいに湛えていた。かつては受け止めることも、真っ直ぐに見ることすらも出来なかった光――そして、これまでどんな時もせつなを励まし、導いてくれた光。 (ラブは変わらないわね。あの頃から、少しも。) かつてのように目をそらすことなく、真っ直ぐに、愛おしそうにラブの顔を見つめて、せつなは少し照れ臭そうな笑顔で、しっかりと頷いた。 「・・・分かったわ。みんなで、行きましょう。」 ☆ 洋服に着替え、二人で一階に下りる。リビングのドアの隙間からはまだ明かりが漏れていて、テレビの音と、あゆみと圭太郎の話し声がかすかに聞こえていた。 ひとつ大きく深呼吸してから、ラブがドアを開ける。 「お父さん、お母さん。」 「あら、ラブ、せっちゃん。どうしたの?こんな時間に。」 あゆみが台所から出てきて、驚いた顔で二人の姿を見つめる。二人の真剣な顔つきを見て、圭太郎もテレビを消してこちらにやって来た。 「あたしたち、これから行かなくちゃいけないところがあるの。帰りは凄く遅い時間になっちゃうと思うけど・・・でも、どうしても行かなきゃいけないの。だから、行ってきます!」 「ちょっと待ちなさい、ラブ。一体どこへ行くって言うのよ。」 「それは・・・」 口籠もるラブの後を、せつなが引き取る。 「ごめんなさい、今は言えないの。でも、そんなに遠くじゃないから心配しないで。」 「どうしても、今行きたいのか?もう夜も遅いし、明日の朝になってからの方が・・・」 「ごめんなさい。今じゃなきゃダメなの。」 心配そうに二人の顔を見比べる圭太郎に、今度はラブが頭を下げる。 あゆみは、圭太郎とそっと顔を見合わせ、小さくため息をついてから、改めて二人の娘たちに向き直った。 「どこに行くのか、何をするのか。それは、今は言えないって言うのね?分かったわ。じゃあ、二人がこれから何のために出かけるのか、それを教えてちょうだい。」 「何の・・・ために?」 ラブがきょとんとしてオウム返しに呟き、せつなは不安そうな眼差しであゆみを見つめる。 あゆみは、ええ、と頷くと、いつになく真剣な声音で言葉を続けた。 「二人とも、こんな夜遅くから出かけて親に心配かけると思ったから、こうして言いに来たんでしょう?だったら、わたしたちがあなたたちを信じて送り出せるように、言えることは、ちゃんと言いなさい。 何のために行きたいのか――そしてどうしたいのか。親として、それだけは聞かせてもらいます。」 きっぱりとそう言い切って、あゆみは二人の答えを待つ。 圭太郎は、娘たちを静かに見つめたまま、そんなあゆみの肩に、そっと手を置いた。 「それは、健・・・えーっと、友達のためだよ!あたしたち、今すぐ友達を助けに行きたいの。ねっ、せつな。」 「ええ。私、そのために精一杯頑張るわ!」 ラブが叫ぶように答え、せつなが力強く頷く。 だが、あゆみはそれを聞いて、一瞬だけ心配そうに眉をひそめた。そしてすぐに真剣な表情に戻って、さらに畳みかける。 「そう、友達のため・・・。それだけなの?」 「えっ?」 ラブとせつなが、揃って声を上げる。 「お母さん、何言ってるの?それだけじゃ、いけないの?」 ラブが、驚きと不満が入り交じった表情で、あゆみに詰め寄った。が、あゆみは少しも動じない。 「こんな遅い時間から、わざわざパジャマを洋服に着替えて、お母さんにお小言を貰って・・・。それでも友達のためだから仕方が無い、我慢して行かなきゃって、そう思ってるっていうこと?」 「ちょっとお母さん!そんな意地悪な言い方しなくたっていいじゃん!」 ラブが、なおもあゆみに詰め寄ろうとした、その時。 「いいえ、我慢なんかじゃないわ。」 低く、柔らかく、でも凛として揺るぎのない声が、リビングに響いた。 せつなが、真っ直ぐにあゆみを見つめてから、そっと目を閉じる。少しの間そうしてから、ゆっくりと言葉を押し出した。 「私たちが・・・私が、みんなと一緒に友達を助けたいの。一人で抱え込んだり、無理して頑張ったりしている友達のそばに行って、一人じゃないって、そう伝えたいの。それは私たちにしか出来ないし、私がやりたいことだから。」 そう言って静かに目を開けたせつなは、あゆみを見つめて声を震わせながら、それでもはっきりと言った。 「だから――行かせて、お母さん。」 今、やっと分かった。ウエスターとサウラーが、過ちの精算のために二人だけで御子柴邸へ向かったと知った時、なぜあんなに悲しいと思ったのか。 彼らの気持ちは、手に取るように理解できたはずだった。自分が蒔いてしまった不幸の種は、自分で刈り取らなければ、という想い。たとえ自分はどうなっても、仲間を巻き込みたくない、という願い。その気持ちは、あの時、一人で不幸のゲージを壊しに行ったときの自分の気持ちそのものだったからだ。 それなのに、今は二人の決意を知って、言いようのない悲しみを覚える。 仲間だなんて少しも思っていなかった、出し抜くべき同僚としての出会いも、プリキュアとラビリンスとして激しく敵対した過去も、関係ない。いや、そんな過去があってやっと仲間になれた彼らだからこそ、ラブや美希や祈里と同じように、一緒に笑っていたい――その想いが、心に強く湧き上がってくる。それが、自分の幸せな未来だと思える。 (みんなも――ラブや美希やブッキーも、あの時、こんな気持ちでいてくれたのかしら・・・。) 目を瞑ると、底抜けに明るくあたたかな、ラブの笑顔が浮かんだ。悪戯っぽくパチリとウィンクしている美希。おっとりと優しい口調で話す祈里。 四つ葉町を離れてから、何度も何度も脳裏に思い描いた、仲間たちの姿――。 こういう時、決まって自分の姿はそこには無い。自分は自分の目には映らないのだから、それが当然だ、とずっと思っていた。 でも、今は何だかいつもと少し違った。相変わらず自分の姿は見えないけれど、仲間たちがとても近くに感じられる。全員が、せつなにあたたかな笑顔を向け、楽しそうにウィンクしてみせ、嬉しそうに話しかけてくる。 おまけに、せつなに向かって得意げにドーナツを差し出すウエスターと、そんな彼に肩をすくめてから、せつなにニヤリと笑いかけるサウラーの姿まで浮かんできた。 (そう・・・。今まで私は、みんなの未来は描けても、そこに自分の姿を描けていなかったのね。) 健人やウエスターやサウラーを助けたいのは、彼らみんなと笑い合える、そんな未来を作りたいから。そういう未来に、自分も居たいから。 そして、その未来に自分が居ることが、仲間たちの幸せでもあるんだって、今はっきり、そう信じられた。 あゆみが、せつなの顔を見つめて、やっと表情を緩める。 優しさに満ちた、そして、心配そうな表情になるのを必死で抑えているような、そんな笑顔で、あゆみはせつなに頷いて見せた。 「行きなさい、せっちゃん。お父さんもお母さんも、ここで精一杯応援してるわ。」 「お母さん・・・ありがとう!」 涙声でやっとそれだけ言うせつなを、あゆみがしっかりと抱き締める。そして、同じように潤んだ瞳でせつなを見つめるラブを、もう片方の手で抱き寄せた。 「ラブも、しっかりね。お友達を助けて、必ずみんなで帰ってらっしゃい。」 「うん、任せといて!」 ラブは、あゆみの腕の中で、明るく声を張り上げる。 「二人とも、気を付けて行くんだぞ。」 圭太郎があゆみの後ろから、右手をラブの、左手をせつなの肩に置いて、深く静かな声で言った。 「はい!!」 娘たちが声を揃えて返事をするのを聞いて、あゆみと圭太郎がそっと手を離す。 きりりと表情を引き締め、外に飛び出す二人の後ろ姿を、父と母は、祈りを込めて見守った。 ☆ 表通りに出てみると、商店街はもうどの店もシャッターを下ろしていた。闇に慣れない目に、夜の街がなお一層ガランと寂しげに感じられる。 「せつな、こっち!」 「ええ、わかってる!」 ささやき合いながら、住宅街の方に向かって駆け出そうとする二人。と、その時、不意に横合いから、一筋の眩しい光の線が走った。続いて光を追うようにして、大きな影が現れ、二人の行く手を遮る。 色まではよく分からないが、見慣れた形の大きな車。そして、その窓から二人に手を振っていたのは――。 「美希たん!ブッキー!それに・・・カオルちゃん!」 思わず叫んだラブに、車の中の三人が揃って人差し指を唇に当てた。 いつもはドーナツ・スタンドになっているはずの後部座席に座った祈里がドアを開け、カオルちゃんが運転席からこちらを振り返る。 「乗りな、お嬢ちゃんたち。」 「カオルちゃん、ありがとう!でも・・・どうして?」 「話は後。急いでるんだろ?」 「はい。助かります!」 ラブとせつなが急いで祈里の隣りに乗り込む。美希と祈里も、ラブとせつなから電話をもらって駆け出したところで、車に乗せてもらったらしい。 カオルちゃんは、夜なのに相変わらずのサングラスを押し上げ、いつもののんびりとした口調で言った。 「それじゃ、ちょーっと飛ばすから、しっかり捕まっててね~。」 次の瞬間、夜の四つ葉町商店街を、音速のドーナツ・ワゴンが駆け抜けた――。 ☆ その頃、御子柴邸では、健人が屋敷の長い廊下を歩いていた。思い詰めたような、何か意を決したような、そんな顔つきだ。 普段はほとんど使われない、裏庭へと通じるドアを開け、人目を気にしながら外に出る。 小さな星が夜空に瞬いて、そんな健人を見下ろしている。が、健人は懐中電灯の淡い光を頼りに足元ばかりを気にしながら、ただ一人、ある場所を目指して進んでいた。 ~第8話・終~ 地下に眠るものへ
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ねぎぼうの140文字SS【15】 1.ラブせつで『手繰り寄せた糸の先』/ねぎぼう 四つ葉町中を駆け回る。 もう一度その手をとるまでは……。 夕暮れになっても見つからず途方に暮れる。 それでも見えない糸口を手繰り続けた。 ―― 行くあても帰る場所もなく途方に暮れていた。 信じていた光も遠く閉ざされていく様に感じられた。 でも本当の光は…… ――手繰り寄せた糸の先にあった光。 2.ラブせつで『愛してる、って言ったら満足?』/ねぎぼう 「愛してる、って言ったら満足?」 (この世界の人間など……) 「そうだったらあたし本当に嬉しいよ!だってせつなが大好きだもん!」 まさかラブの背中にはまだあの羽根が? 「でも、せつなにもきっと大切な人がいるから……だから、言わなくてもいいよ」 そんな『天使』に目を背けるしかなかった。 3.ラブせつで【いつもとは逆の立場で / 吐息まじりに】/ねぎぼう 「新井白石が行った政治改革は何?」 「え~っと、しょ、しょ、『聖徳太子』!?」 「よく覚えていたね。でも、正解は『正徳の治』だよ」 「あ、そうなのね……」 せつなに勉強を教えるラブ、いつもとは逆の立場の二人だった。 吐息まじりに「はあ……歴史って難しいのね」 (せつなもたまにボケるなあ……) 4.ラブせつで『隣の人』/ねぎぼう 隣の人はその肩にもたれて気持ちよさげに眠っていた。 (起こすのも可哀想だけど、このままじゃ風邪をひくわ) せつなは毛布をかき集めてラブにかけると、頭を膝枕する。 そして自分は壁にもたれ掛かった。 「眠れなかったわね」 でも、この温もりがずっと続いてくれるなら……眠れないことも悪くない。 5.ラブせつで『ご機嫌取りも楽しみのひとつ』/ねぎぼう 「今日もそのペンダントでお出掛けかい?ご機嫌取りも楽しみのひとつのようだね」 「馬鹿なことを。私はメビウス様のお役に立つことを成しとげる。ただそれだけだ」 「ほう。ならそのタートルネックの服はなんだい?」 「こ、これは……作戦のひとつだ」 部屋ではウエスターが鼻血を噴いて倒れていた。 6.ラブせつで『愛に近い執着』/ねぎぼう 「まあいい、これでいつでもあの子に近づける」 「まあいい、次はあの子の変身アイテムを奪ってやる」 「まあいい、次は……」 “イースさん、まさに愛に近い執着ってやつですか?” 「ふん、愛などと虫酸が走る。そもそもこんなものがあるからいけないのだ、こうしてやる!」 「せつな~!」 「ラブぅ」 7.ラブせつで【 特別なフリをして 】 42話のイメージで/ねぎぼう 「ニンジン代わりに食べて、お願い!」 「もう、今日だけよ」 特別なフリをして、私の皿にニンジンのソテーを移させる。 「明日はちゃんと食べなきゃね、ラブ」 「明日もニンジン?」 「いいわね、ラザニアに入れちゃいましょう!」 「お母さん!?」 そうだ、明日から私は…… 「お母さん、肩もませて」 8.ラブせつで『本当、だったり。』/ねぎぼう 「せつなの占い、ぜんぜんデタラメなんかじゃなかったよ」 (占いはデタラメ、だったり……時には本当、だったり。 時々は本当らしいことも混ぜたほうが騙すのに効果があるから) 「占いは当たるかも当たらないも本人しだいよ」 (どんなに騙しても……全部本当のことのなるのだから。羨ましいくらい) 9.ラブせつで『新婚ごっこ』/ねぎぼう 「ただいま!」 「おかえり」 帰ってきて、そこにせつながいるのはとっても幸せ。 でももう少し欲張ってもいいよね? 「『アレ』でお出迎えして欲しいなあ」 「もう、ラブったら」 そう、『新婚ごっこ』でね。 「お風呂にする?ご飯にする?それとも……わ・た・し?」 せつな、顔が紅いよ? 勿論答えは…… 10.ラブせつで『どうせ嘘なんでしょう?』/ねぎぼう 「どうせ嘘なんでしょう? ウエスター。貴方の下手な嘘はもういいわ」 「ウエスターの言っているのは……嘘じゃないんだ、イース」 「サウラーまで!?」 「キュアピーチが……解放記念公園で踊っているんだ、今!」 せつなが窓から公園の方向に目をこらすと、観衆の取り囲む中央に確かにいた。 「ラブ!」 ※崩壊したメビウスタワーの跡地が公園になっていそう、ということで。
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翼をもがれた鳥 第3話――夢のまた夢―― 少女は歩く。 ゆらゆらと木漏れ日の降り注ぐ、静かな森の中を。 美しい黒髪を揺らしながら。物憂げな瞳で遠くを見つめて。 森は好きじゃなかった。一人でいることを、ひしひしと感じるから。 街に出たとたんに、辺りに満ちる喧騒。 威勢のいい掛け声や、楽しそうな談笑に囲まれる。 街は好きじゃなかった。自分だけ、独りでいることを実感するから。 目的の場所に着いて、ようやく一息つく。 朝の柔らかな日差し。広々とした空間。まばらに見かける人の姿。 公園は好きじゃなかった。ひとりでいる人なんて、ほとんど見かけないから。 でも――ここには。 四つ葉町公園の野外広場。そこに、目指す人物が居た。 桃園ラブ。少女のただ一人の友達。 笑顔は好きじゃなかった。決して、自分には向けられることがないから。 だけど、ラブだけは違った。 どんなに皆に振りまいていても、自分の姿を見つけたら、きっと、 一番輝いた笑顔で振り向いてくれるから。 日課となった公園の散歩。ダンスの練習の見学。 でも……その日に見かけた光景は、なぜかいつもと違っていた。 『翼をもがれた鳥――夢のまた夢――』 ミユキと呼ばれるコーチ。そして、桃園ラブ、蒼乃美希、山吹祈里。 四人とも揃っているのに、なぜか一向に練習を開始しようとしない。 なにやら、誰かを探しているようにも見えた。 少女――東 せつなは、怪訝に思い、近づいて様子をうかがうことにした。 「いたっ! せつなっ!」 「遅刻よ、せつな。連絡くらいしなさいよね」 「せつなちゃん、何かあったの? 大丈夫?」 「えっ? 一体何なの?」 「さあ、みんなレッスン始めるわよ。ほら、せつなちゃんも急いで支度する!」 (遅刻? レッスン? それに、せつなちゃんって一体……) 公園のトイレに押し込まれて、ジャージに着替えさせられる。あまりの強引さに、何の抵抗もできずに言いなりになってしまった。 横一列に並ばされる。ダンスミュージックがスピーカーから流れ出し、ダンスが始まる。 (ちょっと待って! 意味がわからない。どうして私がダンスなんて! やったこともない。できるわけないわ!) そう言いかけた言葉を、ミユキと呼ばれる女性の眼光がさえぎった。 力ある視線。期待と信頼と、そして強制。「やりなさい!」そう言っているようだった。 音楽が始まっているのに、一人だけ踊ろうとしないせつなに気がつき、全員が動きを止める。 叱られる! そう思って身構えた。ちょいどいい、言い返してこの場を離れよう。茶番に付き合わされるのはまっぴらだと思った。 しかし、せつなに向けられたのは抗議ではなく、心配と思いやりの言葉だった。 「大丈夫だよ、せつな。わかるところだけでいいから、あたしたちに合わせてみて」 「ラブに合わせたら下手になるわよ? アタシに合わせたら完璧よ! な~んて」 「いきなりごめんね。まずは踊る楽しさを知ってもらおうって、ラブちゃんが」 ラブがせつなの手を取って励ます。それだけなら理解は出来る。でも、青乃美希と山吹祈里まで、どうして? 祈里はせつなの腕に軽く抱きついてきた。後ろに立った美希の手が肩に乗せられる。 長い髪がせつなのほほをくすぐり、形容できない素敵な匂いに包まれた。 この二人は――ラブの親友で仲間。 自分のことは疑っていた。怪訝に思って、警戒していたはず。何かの罠なのだろうか? 「さあ! もう一度始めからよ。せつなちゃんもいいわね!」 『はいっ!!!!』 命令慣れした声。決して強い語調ではないのに、つられてせつなまで返事をしてしまった。 毒を食らわば~なんて諺を思い出した。わからないことから逃げ出すのは誇りが許さない。開き直って様子を探ることにした。 ダンスはいつも見ていた。 もちろん、偵察のためだ。他意はない。あるはずがない。 音楽はいつもと同じもの。振り付けは頭に入っている。ミユキと呼ばれる女性の叱咤の声も、何度も聞いてきた。 大事なのは呼吸を合わせること。全員で動きを一致させること。確かにそう言っていたはず。 目付けと呼ばれる戦闘技術を駆使する。視野を扇状に広げていき、左右に立つ美希と祈里をなんとか視界に入れることができた。 始めは、動きについていくがやっとだった。音楽なんて耳に入れる余裕もなかった。しかし、やがて気がつく。 本来、姿など見えるはずのない四人を繋ぐ唯一の共通の情報、それが音楽であることに。 生演奏ではない録音テープは、毎回寸分の狂いもなく一定のリズムを刻む。そこに動きを落とし込んで行けばいいのだと。 ミユキにしても、初心者であるせつなにいきなり一緒に躍らせる気はなかった。デタラメでいいから、とにかく一度踊る楽しさを体感させるのが目的だった。 しかし、音楽を鳴らして数分でミユキの目つきが変わる。 コンマ数秒遅れてはいるものの、信じられないことにせつなの振り付けは全て正確だった。 細かい動きにぎこちなさはあるものの、動きもどんどんキレが良くなっていく。 曲が三週目を回る頃には、遅れていたリズムまでもが他の三人と一致していた。 (これは――なに?) ダンスの動きに徐々に身体が慣れていき、リズムに意識を大きく割かなくても踊れるようになった。 その頃から、これまで経験したことのない気持ちが胸に湧き起こり、全身に広がっていく。 訓練や戦闘ではない汗。無意味で効率の悪い運動。 こんなものが――なぜ? 気持ちいいと……感じた。楽しいと……感じた。嬉しいと……感じた。 ミユキの口からレッスンの終了が告げられる。それを、がっかりしながら聞いている自分に驚いた。 終わるのが惜しいと感じた。ずっと、ずっと、もっと踊り続けていたいと感じた。 「お疲れさま、せつなっ! すっごかったよ」 「ホント、びっくりしたわよ。内緒で特訓してたんじゃないでしょうね?」 「せつなちゃんなら出来るって、わたし、信じてた。でも、思ってた以上だったよ」 口々に賞賛の言葉を浴びせられる。お世辞ではない、心からの喜びの声。 美希と祈里から伝わってくる、信頼と好意に動揺する。 何があったのか、未だに理解できない。それ以上に、そのことを嬉しいと感じている自分がもっと理解できなかった。 「お見事よ、せつなちゃん。これで次のダンス大会の目処はついたわね。これからの練習は厳しくなるから覚悟してね」 『はいっ! ありがとうございました』 (去っていくミユキに、自然と頭を下げてしまった。何をやっているのだろうか? 私は……) 「よーし! 四つ葉になった新生クローバーで、今度こそ優勝ゲットだよ!」 「「「お~~~!!!」」」 小さな声。控えめに挙げた拳。でも、確かに参加してしまった。そのことに気がついて顔を赤らめる。 様子をうかがうと、優しそうな目でラブと美希と祈里が自分を見つめていた。 くすぐったくて、居心地が悪くなって帰ろうと思った。しかし、先手を打たれてしまった。 「そうだ! せつなのクローバー加入のお祝いに、ドーナツパーティーしようよ!」 「いいわね、やりましょう!」 「賛成!」 「待って! 私は入るなんて一言も……」 右手と左手を、それぞれラブと美希に引っ張られる。背中を祈里に押される。何を言っても聞いてもらえない。 もう――なるようになれと、せつなは諦めた。 不思議と、口元はほころんでいた。 陽もずいぶん高く上り、日差しがきつくなる。 カオルちゃんのお店のパラソルを広げてテーブルについた。ラブがドーナツと飲み物を買いに走った。 ラブの居ない場所で、美希と祈里と同じ時間を過ごす。たった数分でも、緊張で何時間にも長く感じられた。 でも、二人は何気なく話しかけてくる。嬉しそうに、楽しそうに、好意に満ちた表情で。 もう、罠とは思えなかった。とにかく一生懸命に返事をした。 「お待たせ! お昼だからかな、混んでて時間かかっちゃったよ」 「お帰り、ラブ。ありがとう!」 「ラブちゃん、おつかれさま」 「ありがとう……」 せつなは、カラフルなトッピングのドーナツを口に運んだ。とても甘くて、運動した後の疲れた身体に染み渡る気がした。 そして、渡されたオレンジジュースを口にしようとした時、美希の手が差し出された。 「そのドーナツは特に甘いから、ウーロン茶の方が合うわよ」 「えっ? でも、これは美希のドリンク……」 最後まで言わないうちに、ストローを口に入れられた。びっくりしながらも一口飲んだ。美希が優しく微笑んだ。 「いいな~美希たん、せつなと間接キスだね。あたしのも飲む?」 「もう、ラブちゃんのはせつなちゃんと同じオレンジジュースでしょ」 「そっか、あはは」 何が起きているのか、全然わからない。このままではラチがあかない。そう思って、せつなは思い切って尋ねた。 「どうして、美希と祈里は私に優しくするの?」 「どうしてって、お友達だからよ」 「うん、もっと仲良くなりたいからよ」 答えになってなかった。どうしてそう思えるのかを知りたかったのだ。 そして、ラブがとんでもないことを言い出した。 「いっそ、呼び方を変えてみようよ、せつな。美希たんとブッキーって! さあ、言って!」 「えっ、ちょっと待って、言えるわけないでしょ」 「大丈夫! 恥ずかしいのは最初だけだから」 「――美希……た……。――無理よ! 私、帰る!」 「まあまあ、せつな。アタシは美希でいいわよ。ブッキーなら言えるんじゃない?」 「無理しなくていいよ。でも、そう呼んでくれたら嬉しいかも」 ラブに引っ掻き回されたせいだろうか、その後は少し肩の力を抜いて美希と祈里とも話せるようになった。 馴れ合うことに抵抗はあったが、気まずいのはもっと嫌だった。 彼女たちのことを知って損はない。そう自分に言い聞かせて積極的に会話に混じった。 「それで、美希はモデル、祈……ブッキーは獣医になりたいんでしょ。ダンスしてていいの?」 「もちろん、最終的にはアタシはトップモデルになるわ。でも、ダンスは本気でやるつもりよ」 「わたしも、獣医ってそんなに急がないから、勉強は続けながらも、みんなとダンスもしてみたいの」 「せつなちゃんは、やっぱり占い師さんなの?」 「そっか、占い師だったわね。でも、それじゃ夢がもう叶っちゃってるじゃない」 「占いは仕事よ。なりたいとも、楽しいとも思ってないわ」 彼女たちの話を聞きださなくてはならない。自分のことを話しても意味はない。 なのに――自然に口が滑り出す。 他人の不幸を聞き出すための調査でしかなかった占い。実は、それなりに楽しいこともあったんだと話していく内に気がついた。 何より――ラブと出会うことが出来た。 生まれて初めて、好意を向けられることの喜びを知ることが出来た。 「ダンサーになろうよ、せつなっ! 歌って踊れる占い師。全然ありだって!」 「そうね。それって、凄く素敵かも」 「せつなちゃんスタイルいいし、綺麗だし、神秘的だし、人気出ると思う」 「私は……ダンサーなんて……」 「ねえ、せつな。前に聞いたよね。せつなの幸せは何?」 「えっ?」 「良かったら、一緒にダンサーになろうよ! 美希たんとブッキーとは、いつか別の道に分かれるけど。せつなとなら――ずっと一緒に……だめ、かな?」 真剣な表情で、まっすぐにラブの瞳がせつなの瞳を見つめる。言葉だけではなく、わずかなサインも見逃すまいとするかのように。 心を直接ラブに掴まれたような衝撃を受けた。激しく鼓動が高鳴る。 もし――本当にそんなことができたら――どんなに……。 胸のペンダントをそっと手繰り寄せた。 緑色にきらめく四つ葉のクローバーのペンダント。 ラブとせつなを繋ぐ親友の証。せつなの幸せを願い、送られた幸せの元。 「ラブ――私……。私は……」 形にならない気持ちを伝えようと懸命に言葉を探す。 勇気を振り絞るべく、固く、固く、ペンダントを握りしめた。 そして―― 砕け散った。 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」 イースはベッドから飛び起きた。荒い呼吸を懸命に整える。全身が汗だくだった。 まだ薄暗い、早朝と言っていいくらいの時間なのだろう。 身体のあちこちが痛かった。でも、疲れは随分取れていたように思えた。 イースの姿で眠ってしまっていたことに気がつく。身体に負担のかかるこの姿よりは、解除してから休むべきだった。 布団も被らず、ベッドを斜めに使い、片足を半分はみ出すようにして寝ていた。我ながらみっともないと反省する。 (今のは――夢?) 砕けたペンダントは? 手を開いて確かめる。そこにあったのはペンダントではなく、ウエスターから奪ったダイヤだった。 足元が崩れ、落下するような感覚に襲われる。 胸が締め付けられ、ぽっかりと心に穴が開くような感傷に包まれる。 知っている。これは――喪失感。 「ふふふ……はははは――」 何に、ショックを受けていると言うのだ。 全て――自分のやったことではないか。 わざわざラブの目の前でペンダントを砕いたのも。 ラブを倒すために、ウエスターのダイヤを自分のものにしたのも。 全て――自分が決めて行ったことではないか。 もう――認めよう。 自分は……自分の中に芽生えたせつなの人格は、ラブに憧れていたことを。 ラブに友情を感じ、ラブをうらやましいと感じ、ともに歩みたいと感じていたことを。 今見た夢こそが、自分の願望なのだろう。 いや――違う! 自分の中に芽生えた、東せつなという少女の願望。 せつなとは夢。 この世界に深く関わり、ラブと親しくなりすぎたために生まれた夢。 今の夢は、イースの夢の人格である、せつなが見た夢なのだろう。 “夢のまた夢” それは、この世界の諺で、決して叶わない願望を意味するという。 構うものか! もともと違う世界の、自分には関わりの無いことなのだから。 「我が名はイース! ラビリンス総統メビウス様が下僕!!」 さようなら……ラブ。 そして、さようなら。 ――東 せつな。 イースは最後の決戦に挑むべく、静かに部屋を発った。 第4話 翼をもがれた鳥――そして飛べない現実を知る(前編)――へ続く
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ねぎぼうの140文字SS【25】 1.ももゆりで【いじられて / うわごとのように】/ねぎぼう ももかの肩口に額を預け、 「しばらくこうしてて、いい?」 承諾するようにゆりの背中を撫でると、安心して顔を押し付ける。 ゆりはただ髪をいじられ、ももかの胸で安らぎのひととき。 「……ロン」 くぐもってはっきりとは聴こえないが、うわごとのように繰り返されるのは、名前? でも今はこのまま…… 2.[競作2015]あかね(&みゆき)「大切になった場所」/ねぎぼう みゆき、そない泣きそうな顔せんといて。 ホンマはな、最初ここ来たときめっちゃ大阪帰りたかってん。 ナントカしちゃってさーとか、絶対あかんわ思てた。 でもな、自分と友達になって、プリキュア一緒にやって…… 大阪の高校に誘われて行きます言うてんけど、こない行くのが辛なる思てなかったわ。 3.[競作2015]いおな&ひめ(&まりあ)「大切なお姉ちゃん」/ねぎぼう 「『お姉ちゃん、朝よ!』 『もう少しこのまま寝かせてムニャムニャ……』 『もう、お姉ちゃんったら!』 ……なあんていいかもって思ってなぁい、いおな?」 「そ、そんなこと……あるかしら」 「まりあさんって、寝起き悪いんだ?」 「たまーによ! 普段はびっしり朝稽古なんだから、勘違いしないで!」 4.ラブせつで【唇を重ねたまま / 無自覚な色気】/ねぎぼう 「いいよ、せつなだから」 その身を預けたラブと唇を重ねたまま、 せつなはラブに桃色の戦士のヴィジョンを見る。 (無自覚な色気を撒き散らかす、そんなお前を見ていると無性にイライラする! 女の色気に命を賭した戦士のまでも? リンクルンさえ奪ってしまえば、私の記憶の中だけに封じておけるのに) 5.[競作2015]ラブ&せつな「大切だから、大切なのに」/ねぎぼう あたしはせつなのほっとした顔が好き。 「お帰りなさい」ってお出迎えしたときの 「お家に帰ってきたんだ」って顔。 あたしはせつなの困った顔がすき。 「もうラビリンスに帰っちゃうの?」ってきいたときの、 本当はもう少しいたいという顔。 そんな困った顔をみてほっとしているあたしの顔は…… 嫌い。 6.まこりつで【押し倒して / イイ子にしててね】/ねぎぼう 誰もいないロッカールームに貴女と二人。 何故か傍にあの子がいない。 「今日は、ひとり?」 寂しそうな瞳。 耳に翼の生えた強欲の化身はもう眠りについた筈なのに…… 気がつけば押し倒していた。 「イイ子にしててね」 自分勝手に思いを遂げようとしておきながら、 貴女にそれを求めるなんて虫のいい話だわ。 7.[競作2015]ラブ&せつな 「大切な夢だって、わかってる」/ねぎぼう 別れの辛さがラブの心を軋ませていた。 「わかってる。せつなの見つけた夢だもん。 でも、痛いよ。胸の奥が痛いよ」 せつなはラブの胸に手を当てて、おまじない。 「いたいの、いたいの、とんでいけ」 不思議と痛みが和らぐ。 「ありがとう、せつな。皆、このおまじない知ってるの?」 「うん、何故かね」 8.[競作2015]ラブ(&せつな)「大切な人がいない夜」/ねぎぼう あゆみは遅番のため、圭太郎と二人での夕ごはん。 「ちゃんと食べてるかなあ」 「……大丈夫さ」 あゆみもいたら、1つ空いたテーブルに もっと心が押し潰されそうになっていたかもしれない。 あゆみへの作りおきに添えるメモ。 『お母さん おつかれさま ラブ せ』 書きかけて 「やだ、あたし……」 ※せつながラビリンスに旅立ったその晩の桃園家の食卓での一幕 9.ラブせつで【 おやすみ 】/ねぎぼう 特訓のことでせつなと気まずいままだけど、 帰るのはやっぱり同じ家。 今日の夕ごはんはせつなの当番だし、ここで…… 「せつな、何か手伝おうか」 「……」 結局最後まで気まずいまま、 部屋の前で「明日も寝坊しないこと」 それだけ言われてバタン! おやすみ、って言葉も言わせてもらえないなんてね…… 10.ラブせつで『黙って泣きやがれ』/ねぎぼう プリキュアウィークリーでは秘蔵VTRとして、 キュアラブリーと誠司との闘いが映されていた。 「うっわーん、めぐみー」 「ぐすっ、ラブとあの時やりあったときを思い出すわ……」 (泣くのは勝手だが、ちょっとは黙って泣きやがれ、なあんていえないよなあ……) (あの星にカメラ入ったのかな?)
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「不確かな未来・後編」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY カウンターに二つ並んだスツール。 そこに腰掛けると、ラブの胃袋がキュウ…と情けない音を出す。 ラブはお腹ペコペコな事に今更ながら気が付いた。 「い…いただき、ます。」 「ハイ、どうぞ。」 (あ………) オムレツを一口。口に入れたまま、思わずピタリと止まってしまった。 「どしたの?」 「……おんなじ、味だ。」 家で食べる、お母さんや自分が作るオムレツ。 柔らかさも、塩加減も、バターの香りもまったく同じ。 「ああ……。そりゃあ。」 同じ人に教わったんだし。 サラリと当然の事実を告げる口調で呟き、また涼しい顔で食事を続ける「せつな」。 並んだお揃いの食器。お客様用、ではなく使い慣れた感じの普段の物。 マグカップの色は赤とピンク。他の物にもさり気無く同じ色使いのポイント。 本当にここが近い未来で、隣の彼女がせつなだとしたら。 (これって、そう言うコト……?) ここは少なくとも桃園の家ではない。 ラビリンス、と言う雰囲気でもない。 2DKくらいのこじんまりとしたマンションのような。 周りを見ると、寝室と同じく殺風景なくらい必要最低限の物しか置いてない。 でも、そこには確かに生活の温かさが漂っている。 良く見れば至るところに住人の気配を感じる。 昨日今日暮らし始めた訳ではない、住み慣れた巣。 「ん?ああ、ラブの部屋ならあっちよ?」 キョロキョロと落ち着き無く視線をさ迷わせるラブに、拍子抜けするくらい アッサリとラブが聞きたくて聞けなかった事柄の答えが落っこちてきた。 思わずガクッとなりそうになるのを何とか堪える。 それに、聞きたい事はそのまた一本先であるからして。 でも、まあ。 今朝の彼女の反応から鑑みるに、たぶん、恐らく、きっと、そう言う事なんだろう。 人間、不思議なものでお腹が満足すると自然に胆まで座る。 今の状況は良く分からない。はっきり言ってまったく理解出来ないが、一つ決めた。 今、自分の隣にいる人はせつなだ。と信じる。 だったら、分からない事はせつなに聞けばいい。 これが夢でも現実でも奇跡でも、兎に角せつなを信じない事には 自分にはどうしようもないのだから。 なので、取り敢えずさっきから気になっていた事を聞いてみた。 「あの、ですね…。」 「はい。なあに?」 「何で、そんなに落ち着いてるんですか?」 そうなのだ。それが不思議で仕方がなかった。 自分とせつなは同い年。 なら当然一緒に暮らしているらしい「ラブ」もとっくに大人のはず。 それなのに、当のせつなは慌てた様子を見せたのは寝起きの一瞬だけ? その後の一連の流れは御覧の通り。 せつなは、何か知ってるんだろうか。 この、とても現実では有り得ない、しかし現実としか思えないこの状態を。 「夢でも見てるのかもね。」 「いやいや、それは……」 これまたアッサリと身も蓋も無い事をおっしゃる。 「まあ、これは冗談として…」 「今の状況が冗談だと思うんだけど。」 「確かにね。」 愉しげな様子さえ見せる彼女に、ラブは頬を膨らませる。 これでも真面目に聞いてるんだけど。 「私にも、よく分からないんだけど……」 ちょっと、しばらく聞いてくれるかしら? ニッコリと微笑まれ、ラブの脳はまた崩れかけた。 この笑顔は反則だろう。逆らえる人がいるとは思えない。 「私もね、昔とても不思議な夢を見た事があるの。」 ちょうど、今のあなたくらいの頃に、ね。 「私、その頃ラビリンスにいたの。」 大好きな人と離れてね。一人で暮らしてた。 自分で決めた事だったし、仲間もいたし、特に戻ったばかりの頃は 寝る間も無いくらい忙しくって。 寂しさなんて感じてる暇ないだろうって自分で思ってたのよ。 甘かったわね。私すっかり寂しがり屋になってた。 どんなに忙しくたって、寝る間も無くたって寂しいものは寂しいのよ。 本当に辛くてね、後悔なんてしないって、いずれ帰るんだから それまで精一杯頑張ろうって思ってたんだけど……。 やっぱり一人の部屋に戻ると泣いちゃうの。大好きな人に会いたくて。 「戻ってどれくらい経った時だったかしら。辛いなりに何とかやってた頃よ……」 ある朝、目が覚めるとね。隣に人が寝てたの。 びっくりなんてものじゃなかったわ。 ラビリンスのセキュリティって凄いのよ?元管理国家をナメないでね。 まかり間違っても、住人の許可無しに部屋に、それも寝室に外部から 侵入出来るなんて有り得ないの。 しかも私、かなり…それなりの部屋に住んでたしね。 テレポートでもしない限り不可能なのよ。 「でも、そんな事考える余裕なんてふっ飛んじゃったわ。」 その人の顔みたら、ね。 そっくりだったの。私の大切な人に。 会いたくて会いたくて、仕方なかった人に。 でも、絶対に本人じゃないはずなのよ。 どうしていいか分からなくて固まってたら、その人が目を覚ましてね。 「『おはよう、せつな。今何時?』ですって。」 その人、ラブは…22才だって言ってた。 ラブは最初、驚いてたけどね。しばらく考え込んで……、『コレだったのか!』って。 こっちには何が何だか分からないんだけど。妙に一人で納得してるのよ。 「で、私の言いたい事、分かるかしら?」 分かる。と、言いたい所だが如何せん頭の出来にはこれっぽっちも 自信のないラブだ。感覚的に理解はしたが、説明しろと求められたら 絶対に無理だ。 それよりも。 大好きな人。 大切な人。 会いたくて会いたくて、仕方なかった人。 繰り返されるその言葉に、ラブの心に内側からぽっと灯がともる。 ニヤニヤと赤面しながら困惑した表情をすると言う、 相当器用な顔面の使い方をするラブ。 せつなは気にするでもなくポンポン、とラブの頭を撫でる。 「いいのよ。何となく…で。」 私にだって説明なんか出来ないわ。 「じゃあ、それでその…22才のラブはその後…」 「うん。その日1日いて翌朝目が覚めたらいなくなってた。」 ふにゃり、と力が抜けた。 じゃあ、自分も一晩眠れば元に戻ると言う事だろうか。 「多分、そうなんでしょうねぇ…。」 「そんな、他人事みたいに。」 だってどうしようもないんだし。 と、せつなは遠くを見てわざとらしい溜め息をつく。 確かに、その通りなんだが…。 (ま、ジタバタしたって仕方ないか。) 取り敢えず、これが夢でもなんでもいい。 ただ待つだけしかないと決まれば、後はせめて好奇心を満たさせて貰おう。 未来を覗けるなんて、人並み以上に奇跡を経験したラブにだって プラチナクラスの奇跡に違いない。 「駄目よ。」 ワクワクし出した途端に、せつなのいつもの冷静な声。 「あなたの事は何も教えてはあげられないわよ。」 「どうしてっ?!」 「当たり前でしょ?」 既に情報得すぎてるくらいよ。 あなたの未来は、あなたがこれから作るの。 私が教えたら、それをなぞって生きて行くの? そんなの詰まらないでしょ? 自分で掴み取る。それがあなたの未来なんだから。 「私だって何も聞かなかったわよ。それに……」 一番知りたかった事は、分かっちゃったし。 ああ、そうなんだ。 せつなも、今のあたしと同じ事が気になってたんだ。 ラブの胸がほんのりと温もりで満たされる。 大人になったせつなには、大人のラブが当たり前に隣にいる。 はっきりと、この部屋がそう言ってる。 それでもおずおずと、これだけはやはり聞いておきたいから。 「……ラブと、せつなは一緒に暮らして…る?」 「ええ、そうよ。」 「それで、その…ですね。今の二人の…何と言いますか、……」 大人の女性に直接的な単語を含む質問をするのは、何だか非常に居心地が悪い。 しかしながら気の利いた婉曲な言い回しが出来るほど頭の回転は良くない。 「察して頂けませんか…」と言わんばかりにモゴモゴと歯切れの悪いラブ。 「……あのね…、」 「はい。」 「ベッド、広かったでしょ?」 「ーーー!!」 「つまり、そう言う事。」 ラブが自分の部屋で寝る事なんて、滅多にないわよ。 そっぽを向いて軽く唇を尖らせている。 真っ白だった頬が心無しか、さっきよりも健康的な色に上気している。 ああ、やっぱり大人になってもそう言う事は恥ずかしいんだ。 それに…… (……やっぱり、せつななんだ。) 照れ屋で意地っ張りで。それを隠そうとして全然隠せてない。 きっと今でも大人のラブは恥ずかしがるせつなが見たくて、時々意地悪して。 泣かれたり、叱られたり、拗ねられたり。 そして、必死に謝って許してもらったりしてるんだろう。 以前と変わらない二人のままで。 隣の部屋で一緒に暮らしてた頃と。 ベランダからお互いの部屋へ忍び込み、息を潜めて抱き合っていた頃と。 大人のせつなとの時間はゆったりと過ぎて行った。 狭いけど使い勝手の良いキッチン。並んでお皿を洗った。 色んな話をした。自分達の未来の話がタブーなら会話に詰まるかと思ったが、 案外、話題には困らない物だ。 考えてみれば当たり前かも知れない。相手はせつななんだから。 普通に、せつなに話すように話せばいい。 学校での事。友達の面白い話。両親の様子。いくらでもある。 「ラブ。今、幸せ?」 「うん!毎日、楽しいよ……でも……」 少し、言葉に詰まる。その先は、言わなくても分かるだろうから。 「そうね……、ごめんね。」 今のせつなにとっては済んだ過去。 既に、少し遠くなりかけてる思い出なのかも知れない。 でもラブにとっては…… まだ、このまま続くであろう生の現実。 寂しくて、会いたくて、抱き締め合いたいのに、叶わない。 どんな未来が待っていても、大人のせつながどんなに素敵な人でも……。 今…ラブが会いたいのは、14才の自分と同じ時間を生きているせつななのだから。 「あのね、聞いてもいいかな?」 「何?ラブ。」 「今、話したりする?あたしと…って言うか、大人のラブと……」 離れていた時間の事。どんな気持ちでいたのか。 どんな風に過ごしてたのか。 二人の間では、もう笑い話になっているのだろうか。 「あんな事もあったよね……」 そう、笑顔で話題に出来る思い出に。 「しょっちゅうよ。」 「そうなの?」 「うん。随分、恨み事聞かされてるわよ。」 私だって寂しかったのに。酷いわよね。 愛しいものを見つめる眼差しで、せつなが表情をくつろげる。 ふざけながら、どれだけ寂しかったか競い合っているのだろうか。 そして、きっと。 「まあ、今は幸せだから。」そう話は結ばれる。 (えっ…と、やっぱ一緒に寝るの…かな?) 夜になり、先に風呂を借りたラブ。 今朝着ていたパジャマもいつの間に洗濯したのか、家とは違う 洗剤の匂いがしている。 (良い匂いだな、コレ。) 何の香りだろう? パジャマの衿元を引っ張り、鼻に引っ掛けるようにクンクンと匂いをかぐ。 これも二人の生活の匂いなのかな?なんて考えながら。 「お待たせ。じゃ、寝ましょうか。」 寝室に入って来たせつなを見て、ラブは少しばかり……いや、かなりガッカリした。 またあの色っぽい姿が拝めるかと密かに期待していたらしい。 しかしながら、せつなはパジャマを上下ともしっかり着込んでいた。 ラブの瞳に落胆の色を見たせつなが首を傾げる。 「……?」 「いえ……、別に…。」 「………!」 「あのね、それこそ察してくれる?」 メッ!と、たしなめられ、今度はラブが首を傾げかけ……、ハタとその理由に 思い至った。 つまりは、そう言う事があった時の特別仕様…と言う事か。 失礼しました。 「もう!ほら、さっさと入って!」 「いや、でも……」 そうなのだ。今朝とは事情が違う。 最初から眠っていて、気が付いたらここにいたのと、 改めてここで一から眠るのでは緊張感も心構えも違うのだ。 「別に変な事はしないわよ?」 「いえ!そう言う事では!」 真っ赤になってプルプル首を振るラブを、せつながベッドに引っ張り込む。 腕枕の要領で頭を抱えながら、コツンと額を寄せる。 「何も考えないで…。これは夢よ。」 大丈夫。ちゃんと眠れるわ。 そう言って髪を撫でてくれるせつなから、ラブのパジャマと同じ匂い。 「そうそう、忘れてた。」 「え?ちょっ!?何!!」 「大丈夫、じっとして。何もしないから。」 そう言いながら、ラブのパジャマのボタンを外し、胸の谷間に せつなが顔を埋める。 ぷるん、とした唇が吸い付く感触が何度か繰り返される。 これは何もしていない内に入るのだろうか。 「ふふ…、お土産。」 「???」 「はい。改めてお休みなさい。」 彼女の唇が触れた場所が熱を孕んで疼いている。顔も目も耳も火を吹きそうだ。 眠りなさい、と言いながらなんて事をするんだろう。 早鐘を打つ心臓。視界がぼやけてくる。 「ごめん……。」 真っ赤な顔で瞳を潤ませているラブを、せつなは申し訳なさそうに抱き寄せる。 「ごめんね。意地悪するつもりじゃなかったの。」 白く長い指が優しく髪を梳いていく。 ごめん、そう囁きながら瞼の雫を吸い取ってくれた。 額に、もう一度瞼に、両の頬に胸元に感じたのと同じ感触。 甘やかな刺激に、ラブの体からうっとりと力が抜ける。 無意識に軽く唇を尖らせ、次の触れ合いを待っていた。 しかし、しばらくしても期待した感触は降りて来ない。 その代わりに、きゅっと人差し指で唇を押さえられた。 「ダァメ…。」 目を開けると、いたずらっ子のような上目遣い。 せつなが、ちょっぴり意地悪する時の微かな艶を帯びた瞳。 「ここは、特別な場所だから。」 「……自分からしてきた癖に……。」 「そ。だから、ここまでね。」 「勝手だなぁ……。」 「大人なんてそんなものよ?」 クスクスと笑い合う。 せつなは拗ねた振りをするラブを胸に抱き込む。 こんなにドキドキしてたら眠れるはずがない。そう思っていたのに。 ラブは、揺り籠に揺られるように意識を遠退かせてゆく。 「お休み、ラブ。」 遠くに聞こえる声。 目が覚めれば、これは夢になってしまうんだろうか。 それとも、覚えている事すら無いんだろうか。 忘れたくない…。 ……… ………………… 「……………。」 ラブは寝惚け眼でベッドに体を起こした。 いつもの朝。自分の部屋。自分のベッド。 いつもと何も変わらない朝。 リンクルンの日付を確認する。やっぱりいつも通り。 1日経っている訳でも、時間が進んでいる様子もない。 ぼんやりとした頭に、次第に像が結ばれて行く。 「……ゆ、め…?」 大人になったせつな。 お揃いの食器。 二人の暮らす、シンプルな…でも、ぬくもりのある部屋。 信じられないくらい、リアルな夢だった。 (せつな、すっごい美人になってたなぁ……) あれが自分の理想の未来なんだろうか。 まだ鮮明に全身に残る幸せな夢の余韻に、ラブの頬はだらしないくらいに 緩んだままだ。 (しかし、久しぶりにいい夢見たなぁ~……) ちょっぴり元気出たかも。 そう思い、うー…ん、と伸びをする。 ふわり……と、体を包み込む匂い。 「!!!」 自分を抱き締め、その匂いを確かめる。 昨日とは、違う匂い。 夢でかいだ…、あの、二人の部屋と同じ匂い。 (まさか……ね……) パジャマの胸元を覗き込む。 すると、昨日までは無かったはずのもの。 胸の谷間の真ん中に、四つ丸く並んだ小さな痣。 まるで、赤い四つ葉のクローバー。 より鮮やかに、ラブの中に蘇る。 彼女の作ってくれた食事の味。 滑らかな肌とひんやりとした洗い髪の感触。 熱い火照りを残す、唇の跡。 「お土産……か。」 夢じゃない。 いつか、あなたも返してね。14歳のせつなに。 あなたが大人になって、一人泣いているせつなに出会ったら。 抱き締めて、キスしてあげて。 大丈夫だよって。一人じゃないって。未来は繋がってるって。 涙だって、笑って話せる思い出に出来るのだから。 「分かったよ…、せつな…」 あたしも、同じように返せばいいんだね。 せつなの胸に、赤いクローバーの印を。 そう、遠くない未来への約束に。 離れてしまったあたし達に起こった、奇跡のようなプレゼント。
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【逝く夏とともに】/恵千果◆EeRc0idolE 夏休み最後の日曜日、せつなとラブは、美希とともに祈里の家にお呼ばれしていた。 「ヤッホー、ブッキー」 「お邪魔しまーす」 「ブッキー、こんにちは」 「いらっしゃい!」 笑顔の祈里が、元気いっぱいに出迎えた。 身につけているのは、彼女をいちばん美しく見せる色。 爽やかなライムグリーンのブラウスに、レースをあしらったクリームイエローのミニスカートを合わせていた。 その装いはまるで、駆け抜けようとしている夏を惜しむ花の精のような、そんな儚さをたたえている。 彼女は今日、みんなを精一杯もてなそうと張り切っていた。 昨日から父や母を手伝い、余念なく準備をしていたのだ。 みんな、喜んでくれるかな?ふふっ。 みんなの驚いた顔を思い浮かべると、自然と浮足立ってくる。 今にもはしゃぎ出しそうな祈里を見て、お客の3人は口々に言う。 「ブッキー、今日の服とっても可愛いね!」 「ほんとね」 「おめかしして、スキップまでしちゃって、何かいいことでもあった?」 「いやだなー、何にもないよ。ただ皆と楽しく過ごしたいだけだってば」 話しながら4人が辿り着いたのは、山吹家の裏庭。 その真ん中に鎮座しているのは、若草色の装置だ。それを初めて見たせつなには、ミニサイズの滑り台に見える。 「キャー!やったー!」 「おじ様の手作り、久しぶりね!」 その装置を見たラブと美希は、喜びの悲鳴をあげている。 わけがわからずポカンとしているせつなの背中を、祈里がそっと押した。 「せつなちゃん、こっちこっち」 促されるままに装置に近づく。 縦に割った竹を幾つか組み合わせ、傾斜をつけている。 一番下にはザルの乗ったバケツが置かれていた。 「これは……なあに?」 尋ねるせつなに、祈里はウインクを返した。 「見てて。始まるよ!」 竹の滑り台の一番高いところから、祈里の母・尚子が何か白いものを置いた。 水が白い塊を押し流していく。 いつの間にか箸と器を持ったラブと美希が、争うように奪い合う。 「アタシの勝ちぃ!」 「ズルイよ美希たん!」 「まあまあラブちゃん、まだまだ沢山流すわよ」 尚子が笑う。美希も、ラブも笑う。それを見て、せつなも笑った。 そんなせつなに箸と器を渡しながら、祈里が教えてくれる。 「流し素麺、っていうんだよ。子供の頃、夏になるとよくここでしてたの」 「お素麺を流しているだけなのに、何だかすごく楽しいのね」 微笑むせつなの視線の先には、素麺バトルを繰り広げるラブと美希の姿。 「また美希たん!もおおっ!あたしも食べたいのにー!」 「悔しかったら取ってみなさい」 「むー!次こそ負けないよ!トリャー!」 ラブの箸先が素麺を捕らえようとした瞬間、真っ赤な塗り箸につかまれた素麺が宙を舞った。 「わたしの勝ちね」 口の端だけを引き上げて笑うせつなに、その場の者たちは気圧されたように静まり返る。 一瞬見せた婀娜っぽい微笑は、どことなく銀髪だった頃の面影にも似て。 「ず、ズルイよせつなー!!」 ラブの叫びなどものともせず、せつなは素麺をもぐもぐと頬張ると、ニッコリと微笑んだ。 「おいし!」 そこからは、皆で笑いながら沢山食べた。 ラブと美希は子供の頃と同じ笑顔で、せつなは心から楽しそうに。 祈里は感謝した。皆でこうして楽しい時を過ごせることに……このありふれた幸せに。 ――――ありがとう。
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ラブ・ルピア 火 アンコモン 4 4000 ファイアー・バード ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、次の自分のターンの始めまで、相手がクリーチャーを選ぶ時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーを選ぶことはできない。(ただし、攻撃またはブロックしてもよい。) みんな、大好きだッピ❤❤❤❤❤❤❤ ―ラブ・ルピア 作者:影虎 収録 蘇生編 第一弾 (リヴァイヴ・ブレイブス) 名前 コメント
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【読書の秋~背徳のため息~】/恵千果◆EeRc0idolE 秋の夜更け。せつなは今夜もベッドにもぐりこんで読書。 この世界には本がある。本を読めば、いつの時代だってどこの世界にだって行ける。 せつなにはそれがとっても不思議だった。だって、ラビリンスには本はあっても、面白い物語なんてなかったから。 何冊も読んでいくうちに本に様々なジャンルがあることを知ったせつなは、図書館の本のようなおとなしいものでは飽き足らなくなっていた。 ラブの父が居間に放っていた本を部屋に持ち込んだせつなは、未知なるジャンルに自ら手を伸ばそうとしていた。 ベッドの中でおもむろに頁をめくる。 何これ…しとどに濡らし、ですって。どうして濡れたりするの? まぐわうって何かしら…淫豆って?分からない言葉ばかり。 せつなは人と人とが睦みあう場面や女性が自ら慰める場面を描いた本を読みながら、次第に身体を熱くさせてゆく。 人って皆、こんなことをしているの?ラブや美希や…あのブッキーも?信じられない。だけど…わたしも、してみたい。ほんの少しだけなら… 好奇心に駆られたせつなは、自らの中心に指を差し込んでみる。 下着の中は信じられないほどに熱く、粘っこい液体が溢れている。 これが“濡れる”ってことなんだ。じゃあわたしにも“淫豆”があるの?そこを擦ると… せつなが蜜を絡めた指で、屹立した突起を前後に揺さぶると、あまりの衝撃に思わず声をあげそうになる。 なんだか下半身が蕩けるみたい。この気持ち佳さ、病みつきになりそうだわ。あともう一回だけ… 指を器用に動かすと、さっきとは比べものにならない快感がせつなを襲った。 なんだか…はあっ、他のことを何にも、考えられなくなっちゃう…んんっ…んあっ、頭が真っ白になる…ああ気持ちいい… はあっ!なんか来る!あ!あ!これが“イク”ってこと?ああっ!ラブ!ラブぅ! それから毎晩、ラブを思いながら甘美なひと時を過ごす習慣のついたせつな。 彼女にとってそれは、背徳感に支配された、やめることのできない時間。 了
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らふすけっち【登録タグ 2009年 NexTone管理曲 VOCALOID ら 奏音69 巡音ルカ 曲 曲ら】 作詞:奏音69 作曲:奏音69 編曲:奏音69 唄:巡音ルカ 曲紹介 曲名:『ラブスケッチ』 歌詞 朝寝坊して 不機嫌モード 「こんなハズじゃなかったの」 そんな日々がいつまで続くの? 今の私は焦げたパンみたい 黒く塗りつぶされてて ストロベリージャムさえ塗れないわ I lost the dream when it was young 夢のために生きてたいのに それならもう 新しい靴履いて 最初の一歩を踏み出そう I can draw the future 泣きたい 逃げたい そんな君の心の色を 新しいレイヤーに描き出してみよう 下手でも変でも構わない そしてくるくる歩き出そう I'm a love sketcher 晴れた日はオレンジのブーツに履き替えて 雨の日はピンクの傘で街を歩けば ほら 七色のステキなメロディが生まれるから 「情けないって解ってはいるのに心のどこかで甘えてる?」 そんなつもりじゃないわ 本当なの 「明日も明後日もその繰り返しで結局口先だけじゃない?」 不透明度はもう80%ね I lost the dream when it was young コピー&ペーストな日々? それならもう 色相を変えて 彩度もいっぱい上げてみよう I can draw the future 見せたい 言いたい 今私の心の色を 500px×500pxの白に描き出してみるよ 気の利いたコトは言えないけど 話くらいは聞いてあげる I'm a love sketcher テクスチャで笑顔を取り繕ってみても フィルタで泣顔を重ね隠してみても 変わらないもの 素顔の線画はぼかさないでね 寂しい夜はこの歌を口ずさんでみてよ 焦げたパンすらも輝かせる愛のブラシ ペンは軽く握るだけなの そしてくるくるくるくる歩き出せ! あの日から随分と時は経ったけれど 「今更……」なんて答えは忘れ去ってしまおう 思い立ったらスタートラインを描けばいいんだ その夢もまた描き出そう いつまで経っても忘れないから 埃かぶってても色褪せない想いを コメント ぼからん26位おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ -- 名無しさん (2009-10-03 18 00 00) この曲好きだ。定期的に聞いてる。 -- 名無しさん (2009-10-04 21 14 22) 歌もよい。PVも良い。 -- 名無しさん (2009-10-20 23 44 49) これはいい曲! -- 名無しさん (2009-12-30 12 50 57) すごい素敵♪ -- 名無しさん (2010-09-28 22 10 38) いい曲、もっと評価されるべき -- 名無しさん (2011-10-27 23 54 24) この曲大好きー 前向きになれる^^ -- 翡翠 (2011-11-15 22 41 56) サビも良いし、もっと伸びていいと思う! -- 名無しさん (2011-12-04 11 37 55) 私的脳内ミリオン神曲!伸びてないのが逆に嬉しいw -- 名無しさん (2012-09-16 11 04 40) 愛してます -- 名無しさん (2013-06-28 21 57 34) 曲説明?は書かないのか? -- 名無しさん (2013-06-28 23 05 58) とうとう私のなかで一番聴いたボカロ曲になりました。大好きです。 -- 偉大な曲 (2013-08-25 21 40 12) この曲を聴いている時は常に、生きてる中で最も楽しい気持ちになります。出会えて良かった。 -- 奏音69さんありがとう (2013-11-13 14 42 36) 名前 コメント