約 693,610 件
https://w.atwiki.jp/akatonbo/pages/2204.html
アスタリスクラブ 作詞/54スレ49 切ないラブソング聴きながら 指に残る過去をなぞってく 身体に染み付いた香りに 胸の奥が炎を灯(とも)す 洗濯したベッドのシーツに そっと残る跡はまだ赤い 繊維に染み付いた思い出に 耳の奥はうずくだけ 出会った頃は 友達だった いつも一緒に 笑い合ってた 気づけば恋や愛を超えた 関係になってたのに ホタルの尻が灯るみたいに 二人求め合ったよね 熱を帯びた月のスピードで ツき合った夜もあった ホタルの尻が消えるみたいに 果てるそんな日もあった ツかれた後に飲むアルコールで 夢の中へ落ちていく Boys Love... My Lover Boy... Good Bye Boy... My Love Is End... YARANAIKA STORY...
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/362.html
秋の夜更け。せつなは今夜もベッドにもぐりこんで読書。 この世界には本がある。本を読めば、いつの時代だってどこの世界にだって行ける。 せつなにはそれがとっても不思議だった。だって、ラビリンスには本はあっても、面白い物語なんてなかったから。 何冊も読んでいくうちに本に様々なジャンルがあることを知ったせつなは、図書館の本のようなおとなしいものでは飽き足らなくなっていた。 ラブの父が居間に放っていた本を部屋に持ち込んだせつなは、未知なるジャンルに自ら手を伸ばそうとしていた。 ベッドの中でおもむろに頁をめくる。 何これ…しとどに濡らし、ですって。どうして濡れたりするの? まぐわうって何かしら…淫豆って?分からない言葉ばかり。 せつなは人と人とが睦みあう場面や女性が自ら慰める場面を描いた本を読みながら、次第に身体を熱くさせてゆく。 人って皆、こんなことをしているの?ラブや美希や…あのブッキーも?信じられない。だけど…わたしも、してみたい。ほんの少しだけなら… 好奇心に駆られたせつなは、自らの中心に指を差し込んでみる。 下着の中は信じられないほどに熱く、粘っこい液体が溢れている。 これが“濡れる”ってことなんだ。じゃあわたしにも“淫豆”があるの?そこを擦ると… せつなが蜜を絡めた指で、屹立した突起を前後に揺さぶると、あまりの衝撃に思わず声をあげそうになる。 なんだか下半身が蕩けるみたい。この気持ち佳さ、病みつきになりそうだわ。あともう一回だけ… 指を器用に動かすと、さっきとは比べものにならない快感がせつなを襲った。 なんだか…はあっ、他のことを何にも、考えられなくなっちゃう…んんっ…んあっ、頭が真っ白になる…ああ気持ちいい… はあっ!なんか来る!あ!あ!これが“イク”ってこと?ああっ!ラブ!ラブぅ! それから毎晩、ラブを思いながら甘美なひと時を過ごす習慣のついたせつな。 彼女にとってそれは、背徳感に支配された、やめることのできない時間。 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/60.html
(これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 黒ブキ11へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/158.html
(これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 3-268へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/262.html
第5話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を誘う。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。ラビリンスでは馴染んだ光景。 違うのは表情。そして、繋がり。 家族、友達、恋人同士。 笑顔と興奮と感動。 そこにある――幸せ。 「どうしたの、せつな。驚いちゃった? 休日の遊園地だもの、このくらい当然よ」 「もし、調子悪いなら言ってね。色々お薬もあるから」 「ごめんなさい、平気よ。みんな楽しそうね」 心配そうな美希とブッキーに笑顔を返す。せつなにとって初めての遊園地だった。 「お待たせ! チケット買ってきたよ。今日は一日フリーパスなんだから」 「そうこなくっちゃ!」 「うん、楽しみ!」 「私もたくさん乗ってみたいわ」 せつなは期待に胸を膨らませる。それは、幾度か経験のあるラブたちも同じ。 せつなと乗れる。せつなと遊べる。新鮮な喜びを分かち合える。それが何より楽しみだった。 入場門をくぐる。 一歩先はおとぎの国。人を楽しませるためだけに存在する空間。幸せの集う場所。 「さあ、行こう!」 ラブにつられるように、四人はいっせいに駆け出した。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 「私、あれに乗ってみたい!」 せつなが指さしたのはメリーゴーランド。 優しい光と、楽しい音楽。可愛い動物達に乗って回転に身をまかせる。誰に振ったかわからない手を見つけて、せつなは手を振り返した。 「とほほ、この歳で乗ることになるなんて」 「まあまあ、このポニー、家で預かってる子にお鼻が似てるし」 「知らないわよ、そんなの」 「恥ずかしくないよ、美希たん。あたしは今でも好きだよ」 次はコーヒーカップ。 緩やかな螺旋を描きつつ、高速で回転する。――いや、高速なのは一重にラブのせいだ。 せつなは平然と、美希と祈里は抱きあって悲鳴を上げていた。 「いっくよ~」 「ちょっと、ラブ、早すぎよ!」 「ラブちゃん目が回る」 「複雑な動きね。サイクロイド曲線になっているのね」 「だから……知らないわよ」 そして……観覧車で休憩。 コトコトコト、ゆっくりと上昇していく。室内は冷房が効いていて快適だ。 ラブは案内図を見ながらせつなとコースを確認する。美希と祈里は……。 「う~~気持ち悪い。酔った……」 「はい、美希ちゃん。乗り物酔いのお薬、先に飲んでおけばよかったね」 そう言う祈里も、青い顔をしながら薬を飲み込んだ。 そして、ジェットコースター! 最近リニューアルされた目玉アトラクションだ。 ゴンゴンゴン。ゆっくりした上昇から一気に急降下する。自由落下に迫る下降速度は、人体の感覚を狂わせ混乱に陥れる。 水平回転、宙返り、垂直ループ。バンク角度と高低差がついた急カーブ。次々に襲いかかる恐怖に乗客は絶叫する。 「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」」 みんなも叫んだ。ラブは笑顔で、美希とブッキーは目を閉じて。 せつなはそんな様子を、不思議そうに見ていた。 「どうしたの、せつな? 楽しくなかった?」 「楽しくないわよ、アタシは死ぬかと思った」 「うん、怖かったよ~~」 「どうして……。――ううん、なんでもない」 乗り物は疲れたので、お化け屋敷に入ることにした。 このお化け屋敷は、本格派と評判も高い。 ラブはせつなと。美希は祈里とそれぞれペアを組んだ。 「きゃぁぁ! せつな、あれ! あれ!」 「落ち着いて、作り物よ。そっちはただの水蒸気よ」 「いゃぁぁぁぁぁ!」 「大丈夫よ、美希ちゃん。この子たちは可愛いよ」 なんとか出口にたどり着いた。 「なんか色々疲れた……」 「わたしは楽しかった!」 「あたしもすっごく楽しい。せつなは? あれ……せつな?」 「ねえ、ラブ。どうして……わざわざ恐怖を与えるような物を作るのかしら。ジェットコースターにしてもそう。スピード感を楽しみたいにしては、度が過ぎていたわ」 不満、と言うほどでもない。ただ、何か釈然としないとせつなは語った。 実際、出口から出てくる子供たちの中には、恐怖で泣いている子も少なくなかった。 そして、そんなものほど人気が高いのも納得がいかなかった。 「えっと、なんて言うんだろう? 怖いから楽しいというか」 「叫ぶのが気持ちいいのかな?」 「勇気を試すのよ……多分」 ラブたちの説明も、どれも満足のいくものではなかった。 (この世界で育っていない私には、理解できないのかもしれない) なんとなく寂しい気持ちになる。 「えーん、えーん。おにいちゃん。ぱぱ~、まま~」 小さな女の子が泣いていた。迷子らしい。ラブたちは駆け寄った。 「どうしたの?」 ラブはしゃがんで事情を尋ねる。祈里はハンカチを取り出して涙を拭う。 美希は係員を呼びに走った。 手際のよい行動に、せつなは目を丸くする。自分は何もできなかった。 少し考えて、アイスクリームを買うことにした。甘いものを食べれば、少しは気持ちが落ち着くかもしれない。 「はい、どうぞ」 お姉さんたちに囲まれ、優しくしてもらって安心したのだろう。お礼を言って女の子は食べ始めた。 そのまま、しばらく話し相手になった。両親とはぐれて兄妹だけになったこと。そのお兄さんともはぐれてしまったこと。 話していて恐怖を思い出したのか、また泣き出しそうになる。大丈夫よ、そう言ってせつなは抱きしめた。 遊びにきて、怖い思いをする。残念なことだと思う。 「あっ! ぱぱ~、まま~、おにいちゃん~」 女の子が、迎えに来た家族を見つけて駆け寄った。抱きついて号泣する。そして、すぐに満面の笑顔を取り戻した。 その子のご両親が丁寧にお礼を言う。 別れ際、その笑顔を見て思う。それは――今日見たどんな笑顔よりも輝いていると。 でも、どうして……。 そう考えて、思い至る。あの子の心を満たすもの。それは――安心。 はぐれるという不幸を体験したことで、普段感じていない、家族と一緒にいられる幸せを実感したんだ。 幸せと不幸は隣り合わせ。幸せを求めることは、ただ不幸を否定して遠ざけることではないのかもしれない。 だったら……。 ジェットコースターもお化け屋敷も、同じなのかもしれない。 安全に恐怖を体験することで、無事帰還する安心と喜びを得るためのアトラクション。 やっぱり……この世界の全ては優しさに満ちている。せつなは嬉しくなった。 「ラブ~美希~ブッキー~! 私、もう一度ジェットコースターに乗りたいわ。行きましょう!」 「うん、行こう。せつなっ」 「「えぇぇぇ――!!」」 せつなとラブは、それぞれ嫌がる美希と祈里の手を取って駆け出した。 「ねえ、ラブ。私はあまり恐怖は感じないの。だから、みんなほどさっきは楽しめなかった」 幼い頃からの訓練の繰り返し。その中にはGの耐性訓練も含まれていた。 「でも、今度は楽しんでみせる。精一杯、大声で叫んでやるんだから!」 そう言って笑うせつなの表情は――やっぱり今日一番に輝いていた。 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を導く。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。繋がり、共感し、分かち合う喜び。 思いやりに満ちた施設と催し物。 家族、友達、恋人同士。 緊張と恐怖と安堵。 そして思い出す――幸せ。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/232.html
『氷解~again』/黒ブキ◆lg0Ts41PPY せつなとあたしはおでこをくっつけ合って、少し、笑った。 何て事しちゃったんだろう、と言う大きな後悔。大好きな人と 気持ちが通じあった、大きな喜び。 いろいろな思いが渦巻き、泣きたいような、笑いたいような不思議な気持ち。 「…ごめんね。」 もう一度、あたしは謝る。どんなに謝っても足りないのは分かってる。 でもそれしか言えないから。 「…うん。でも、もうこんな乱暴なのはやめてね。」 結構、辛かったんだから。と少し冗談めかして、せつなは含羞む。 「やだ、私…。」 「…わはー……。」 せつなは今更ながら自分のはしたない姿に気付いたように 服の前を掻き合わせ羞恥に耳まで真っ赤にしている。 パリッとしていたワンピースは見る影もなくくしゃくしゃで、 汗やその他諸々で汚れて、かなり悲惨な状態だ。 (わはー…、何かせつな、すんごいえっちぃんですけど。 いや、ひん剥いたのはあたしなんすけどね…。) 「どうしよう、これ。」 血の染みが付いたワンピースを摘まんで少し途方に暮れる。 買って貰ったばかりの服を汚してしまったのを気に病んでいるらしい。 「あー、だいじょぶだよ。これコットンだし。すぐに洗ってアイロン掛ければ!」 洗ったげるよ!貸して。と服を引っ張ろうとするラブに、 「あっ、やん!」 裾を押さえて抵抗する。 下、何も着てないんだから!と赤い顔で上目遣いに少し睨まれ ラブの顔も負けず劣らず赤くなる。 ついさっきまで、あーんな事やこーんな事をされてたのに 何を今更…と言う気がしなくもないが、どうやらそう言うものでもないらしい。 「…シャワー、浴びて来てもいいかな。」 そりゃそうだよね。恐らく身体中エライ事になってるんだから。 そりゃあ早くさっぱりしたいだろう。 「そだね!お湯、もう張ってあるから!ゆっくり入ってきなよ!」 そう言った途端、くしゅん!ラブがくしゃみをした。 考えなくてもラブも巻いていたバスタオルはとっくに落ちて、すっぽんぽんだ。 ある意味せつなより恥ずかしい。 クスリ、とせつなが笑い、 「じゃあ、一緒に入っちゃおうか?」 「!!ふぇ?!」 先に行くね。ぱさっ、とラブの頭に落ちてたバスタオルを掛けて、せつなは バスルームに向かった。 (一緒にって、一緒にって…?!) ラブは先ほどのせつなの言葉を反芻する。 『もう、こんな乱暴なのはやめてね。』 って事は、乱暴にしなきゃオッケー!って事すかね?! かぁっ!と全身が熱くなり、心臓が口から飛び出しそうにバックンバックン 脈打っている。 今こそ真の勝負の時!ラブの本能がそう告げていた。 大好きな人と(無理矢理ではあるが)体の関係を持ち、(順番が逆だが)気持ちを 確かめ合い、(普通はこれが最初だろうが)告白もした。 (これで二人は両想い!晴れてラブラブ恋人同士…!) のはず。 しかし、問題が一つ。 せつなは今回の事がラブが慣れない深刻な悩みに耽った挙げ句の暴走。 つまりは非日常、普通ならあり得ないイレギュラーな出来事と捉えて いないか、と言う事だ。 それは困る。大いに困る。トチ狂って暴挙に出てしまったが、 ラブとしては、ここまでやったからには付き合い始めの恋人らしく 日常的にあんなコトやこんなコト……できなきゃ意味がないのだ。 (それに、えっちは気持ち良くなきゃ! このままじゃ、えっちがトラウマになっちゃうかも!! そんなのせつなの為にも絶対良くない!!!) そのトラウマを植え付けたのは間違いなく自分なのだから 『責任取らなきゃ!』 ラブはいつものポジティブシンキングを取り戻しつつあった。 (ようし!!) ラブの体に闘志がみなぎる。 (待ってて!せつな!!女のヨロコビ、ゲットだよ!!!) 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/508.html
雲の名前/一六◆6/pMjwqUTk 「わっ!せつな、どうしたの?」 いつものように玄関を飛び出したラブは、そこに突っ立っているせつなの背中に、危うくぶつかりそうになった。 「ラブ。今日の空、なんだか不思議よ。海みたいに青くって、ほら、白い波まで立っているみたい。」 新学期が始まって一週間。二人の頭の上にあるのは、いつの間にか夏のベールを脱いだ、高く澄んだ空の青。ちょうど見上げた辺りに、まるで薄い反物を広げたような、雲の模様が見える。 「ああ、うろこ雲だね。」 「うろこ雲?」 首をかしげるせつなに、ラブはニコリと笑って説明する。 「うん。なんかさ、魚のうろこみたいに見えるでしょ?あれはね、秋によく見える雲なんだよ。」 「そう。なんだか本当に、大きな魚が空を泳いでいるみたいね。」 感心したようにそう言って歩き始めるせつなの腕を、ひんやりとした空気がなでる。ここ二、三日で、朝晩がめっきり涼しくなってきた。 「ラブ~!」 「せつなちゃん!」 商店街を歩いていると、向こうから美希と祈里がやってきた。 「おはよう。」 「おはよう、美希たん、ブッキー。」 「なんだか急に秋らしくなったわね。見て。すっごくキレイなひつじ雲。」 美希が蒼い髪をふわりとなびかせて、空を仰ぐ。 「ひつじ雲?」 再び首をかしげるせつなに美希が指差したのは、さっきラブと見た、あの雲の波。 「あの雲、うろこ雲って言うんじゃないの?」 「ああ、そんな呼び方もあったっけ。でも、ほら見て。雲の模様が、ひつじの群れみたいに見えるでしょ?」 「そう言われれば、小さいひつじたちにも見えるわね。なんだかのんびりと、草でも食べているみたい。」 素直にそう言ってせつなが頬を緩めると、 「え~、美希たん。あんな細かい雲でも、ひつじ雲って言うの?ひつじ雲は、もっとひとつひとつの雲が大きいときに言うんだと思ってたよぉ。」 ラブがちょっとだけ不満顔。 「そう?でも、アタシにはひつじに見えるわよ?うろこにしては、大きいじゃない。」 美希も少しだけムキになって、言い募る。 「もう、二人とも・・・。ねぇ、ブッキーは?あの雲、うろこ雲なの?それとも、ひつじ雲?」 困ったせつなが思わず祈里に助けを求めると、彼女は上目づかいにせつなを見つめて、これまた少しだけ、いたずらっぽく笑った。 「えーと、あの雲は、いわし雲かな。」 「え~!今度は、いわし?」 「そんな呼び方、あった?」 「ブッキー、ずるいよぉ。」 仲間たち三人に詰め寄られ、祈里は首をすくめて、再びいたずらっぽく笑う。 「いわし雲って言う呼び方はね、いわしの群れに似てるから、っていう説もあるけど、ああいう雲が出ると、いわしが大漁だからなんだって。」 「やったー、今日は大漁だぁ!って。あたしたち、漁師さんじゃないし!」 「ブッキー・・・相変わらず、いろんなことに詳しいのね。」 「あれ?わたし、褒められてるの?呆れられてるの?」 朝からテンション全開のラブ。大袈裟にため息をつく美希。きょとんと小首をかしげる祈里。そんな三人の様子に、せつなが思わず、クスクスと笑いだす。それにつられて、結局全員、顔を見合わせて、ひとしきり笑った。 「雲ひとつとってみても、いろんな名前があるのね。なんだか・・・ロマンチックね。」 少しはにかみながらそう言うせつなに、美希があたたかな目を向ける。 「秋は特に、空も雲もキレイだからね。昔の人も、いろんなインスピレーションが湧いちゃったんじゃない?」 「そうだね。あと、雲を波に喩えて、白波とか、波雲っていう素敵な言い方もあるみたい。」 「えーっ!それホント?ブッキー。」 再び始まった祈里のウンチク話に、ラブが突然嬉しそうに大声を上げる。 「せつなっ!この雲見て、せつなと同じように感じた人が、昔の人の中にも居たんだね!」 一瞬ぽかんとしたせつなが、ラブの言葉の意味を悟って、その頬をみるみるうちに朱に染める。 「美希たん、ブッキー。あのね、今朝、せつなが空を見上げて、空に白い波が立ってるみたいって、そう言ったんだよ。」 「もうっ、ラブったら。そんなこと、大きな声で言わないでよ。」 真っ赤になってうろたえるせつなの肩を、祈里がやさしく叩いて、空を指差した。 「あ、ほら、せつなちゃん。さっきのいわし雲が、少しずつ繋がって、ホントの波みたいになってきたよ。」 見上げる彼女たちの目の前で、空がその模様を変えていく。千切れた雲が縦に繋がって、波のような、段々畑のような、新たな顔を見せる。 空に広がる白い波は、なぜかいつもより、空を、より青く、突き抜けるように高く、どこまでも広く感じさせて・・・。 (なんだか今日は、いいことがありそう。) 口には出さないけれど、四人とも、同じことを考えていたのだった。 まだ緑の濃い街路樹の梢を、風がやわらかく、さわさわと揺する。四ツ葉町の美しい秋は、まだまだ始まったばかりだ。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/241.html
幸せの赤い翼 第1話――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)―― ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。 うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。 「お父さん、これは?」 「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」 それは、その子の五歳の誕生日のこと。 かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。 テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。 そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。 「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」 「大切にするのよ」 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。 その時が、来るまでは―― 『幸せの赤い翼――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――』 ラブ――ラブ――ラブ―― ラブ――ラブ―― 誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。 「えっ? 今、なにか言った?」 「どうしたの? ラブ」 「なにも聞こえないわ」 「わたしも、なにも聞こえなかったよ」 「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」 「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」 「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」 「いや~、それを言われると……」 明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。 美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。 それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。 「せつなの準備は進んでるの?」 「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」 「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」 「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」 「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」 「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」 「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」 「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」 「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」 「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」 「はぁ~い」 出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一旦家に帰ることにする。 「それじゃ、また後でね」 「夕方、ラブちゃん家に伺うね」 「うんっ! 待ってるね~」 「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」 「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」 「パジャマパーティー?」 「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」 「ええっ? 一体なんのことなの」 「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」 「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」 不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。 じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。 せつなが横から覗き込む。 「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」 「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」 「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」 「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」 「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」 「ええっ~」 二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。 大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。 手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。 「いらっしゃい、美希、ブッキー」 「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」 「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」 「今夜一晩、よろしくお願いします」 「どうぞ、ゆっくりしていってね」 ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。 突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。 ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。 「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」 「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」 一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。 「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」 「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」 「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」 ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。 「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」 「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」 「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」 「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」 それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。 このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。 「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」 「オーケー、何でも手伝うわ」 「わたし、自信ない……」 「美希は料理するのね?」 「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」 「完璧って口にしないところが、ポイントよね」 「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」 「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」 「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」 「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」 調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。 ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。 「いっただきま~す!」 『いただきます』 祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。 祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。 「おかわり~」 「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」 「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」 「どれほど投げる気なのよ……」 「でも、せつなも思ったより食べるのね」 「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」 「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」 「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」 「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」 「もう、からかわないで!」 賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。 バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。 現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。 販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく―― ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。 また、詳しいことが判り次第―― ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。 わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。 「ともかく、様子を見に行こう!」 『ええ!!!』 四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。 家の外は、酷い有様だった。 家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。 街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。 建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。 何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。 街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。 「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」 「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」 とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。 その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。 「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」 「ひどいっ。こんなこと、許せない!」 「子供たちから、不幸を集めるなんて……」 「心配しないで、私が――ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」 せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。 とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。 男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。 せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。 先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。 ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。 「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」 「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」 「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」 「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」 「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」 「どういうこと?」 「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」 「確かに、沈黙したままね」 クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。 「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」 ラブ――ラブ――ラブ―― ラブ――ラブ―― 「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」 「今のは、アタシも聞こえたわ」 「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」 「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」 「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」 「ラブ、気をつけて!」 「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」 ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。 クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。 そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。 ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。 かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。 「ウサピョン!」 「ウサピョンって?」 「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」 「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」 「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」 「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」 「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」 美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。 「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」 心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。 もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。 「それで、あなたはどうして無事なの?」 「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」 「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」 「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」 ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。 おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。 トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。 「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」 「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」 「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」 「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」 「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」 せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、かえって怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。 美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。 「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」 「そうね、覚悟を決めましょう!」 「取り戻そう、わたしたちの手で」 「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」 「うん、まかせて」 「おもちゃの国へ!」 アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。 おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。 よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。 早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。 「ここが――おもちゃの国?」 「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」 「どこも、とっても可愛い!」 「キュア~」 積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。 床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。 和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。 どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで―― それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。 「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」 「ごめん、そうだった」 「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」 「タルトがそれを言う?」 「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」 「そんなことまで知っとるんかいな……」 ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。 異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。 噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。 「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」 「それが、あたしにもよくわからないの」 「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」 「そうね」 「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」 街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。 一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし―― 「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」 「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」 「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」 「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」 「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」 「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」 「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」 「待って! ブッキー」 祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。 動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単刀直入にトイマジンについて質問する。 人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。 ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。 それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。 「誰も……いなくなっちゃった」 「ワンちゃんも逃げちゃったね」 「違う――もう、既に囲まれてるわ」 ザッ、ザッ、ザッ 規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。 その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき―― やがて姿を現す、無数の人形の群れ。 それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。 ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。 おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった 百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。 「はは……じょ、冗談よ、ね?」 「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」 口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。 轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。 顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。 帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。 「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」 「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」 「――反抗の意思とみなす」 隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。 ドン! ドン! ドン! 「きゃっ!」 「危ないっ!」 せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。 「ラブっ!」 「ラブちゃん! せつなちゃん!」 「よくも……、やってくれたわね」 美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。 美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。 「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」 「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」 「待って!!」 隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。 「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」 「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」 「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」 ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。 「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」 「何をされるかわからないよ?」 「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」 「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」 「ついて来い」 幸いにも、拘束するつもりはないようだった。 おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。 おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。 第2話 幸せの赤い翼――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(国王さまとの邂逅)――へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/948.html
ねぎぼうの140文字SS【15】 1.ラブせつで『手繰り寄せた糸の先』/ねぎぼう 四つ葉町中を駆け回る。 もう一度その手をとるまでは……。 夕暮れになっても見つからず途方に暮れる。 それでも見えない糸口を手繰り続けた。 ―― 行くあても帰る場所もなく途方に暮れていた。 信じていた光も遠く閉ざされていく様に感じられた。 でも本当の光は…… ――手繰り寄せた糸の先にあった光。 2.ラブせつで『愛してる、って言ったら満足?』/ねぎぼう 「愛してる、って言ったら満足?」 (この世界の人間など……) 「そうだったらあたし本当に嬉しいよ!だってせつなが大好きだもん!」 まさかラブの背中にはまだあの羽根が? 「でも、せつなにもきっと大切な人がいるから……だから、言わなくてもいいよ」 そんな『天使』に目を背けるしかなかった。 3.ラブせつで【いつもとは逆の立場で / 吐息まじりに】/ねぎぼう 「新井白石が行った政治改革は何?」 「え~っと、しょ、しょ、『聖徳太子』!?」 「よく覚えていたね。でも、正解は『正徳の治』だよ」 「あ、そうなのね……」 せつなに勉強を教えるラブ、いつもとは逆の立場の二人だった。 吐息まじりに「はあ……歴史って難しいのね」 (せつなもたまにボケるなあ……) 4.ラブせつで『隣の人』/ねぎぼう 隣の人はその肩にもたれて気持ちよさげに眠っていた。 (起こすのも可哀想だけど、このままじゃ風邪をひくわ) せつなは毛布をかき集めてラブにかけると、頭を膝枕する。 そして自分は壁にもたれ掛かった。 「眠れなかったわね」 でも、この温もりがずっと続いてくれるなら……眠れないことも悪くない。 5.ラブせつで『ご機嫌取りも楽しみのひとつ』/ねぎぼう 「今日もそのペンダントでお出掛けかい?ご機嫌取りも楽しみのひとつのようだね」 「馬鹿なことを。私はメビウス様のお役に立つことを成しとげる。ただそれだけだ」 「ほう。ならそのタートルネックの服はなんだい?」 「こ、これは……作戦のひとつだ」 部屋ではウエスターが鼻血を噴いて倒れていた。 6.ラブせつで『愛に近い執着』/ねぎぼう 「まあいい、これでいつでもあの子に近づける」 「まあいい、次はあの子の変身アイテムを奪ってやる」 「まあいい、次は……」 “イースさん、まさに愛に近い執着ってやつですか?” 「ふん、愛などと虫酸が走る。そもそもこんなものがあるからいけないのだ、こうしてやる!」 「せつな~!」 「ラブぅ」 7.ラブせつで【 特別なフリをして 】 42話のイメージで/ねぎぼう 「ニンジン代わりに食べて、お願い!」 「もう、今日だけよ」 特別なフリをして、私の皿にニンジンのソテーを移させる。 「明日はちゃんと食べなきゃね、ラブ」 「明日もニンジン?」 「いいわね、ラザニアに入れちゃいましょう!」 「お母さん!?」 そうだ、明日から私は…… 「お母さん、肩もませて」 8.ラブせつで『本当、だったり。』/ねぎぼう 「せつなの占い、ぜんぜんデタラメなんかじゃなかったよ」 (占いはデタラメ、だったり……時には本当、だったり。 時々は本当らしいことも混ぜたほうが騙すのに効果があるから) 「占いは当たるかも当たらないも本人しだいよ」 (どんなに騙しても……全部本当のことのなるのだから。羨ましいくらい) 9.ラブせつで『新婚ごっこ』/ねぎぼう 「ただいま!」 「おかえり」 帰ってきて、そこにせつながいるのはとっても幸せ。 でももう少し欲張ってもいいよね? 「『アレ』でお出迎えして欲しいなあ」 「もう、ラブったら」 そう、『新婚ごっこ』でね。 「お風呂にする?ご飯にする?それとも……わ・た・し?」 せつな、顔が紅いよ? 勿論答えは…… 10.ラブせつで『どうせ嘘なんでしょう?』/ねぎぼう 「どうせ嘘なんでしょう? ウエスター。貴方の下手な嘘はもういいわ」 「ウエスターの言っているのは……嘘じゃないんだ、イース」 「サウラーまで!?」 「キュアピーチが……解放記念公園で踊っているんだ、今!」 せつなが窓から公園の方向に目をこらすと、観衆の取り囲む中央に確かにいた。 「ラブ!」 ※崩壊したメビウスタワーの跡地が公園になっていそう、ということで。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1072.html
ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。 うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。 「お父さん、これは?」 「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」 それは、その子の五歳の誕生日のこと。 かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。 テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。 そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。 「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」 「大切にするのよ」 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。 その時が、来るまでは―――― 『幸せの赤い翼――――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――――』 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。 「えっ? 今、なにか言った?」 「どうしたの? ラブ」 「なにも聞こえないわ」 「わたしも、なにも聞こえなかったよ」 「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」 「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」 「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」 「いや~、それを言われると……」 明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。 美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。 それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。 「せつなの準備は進んでるの?」 「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」 「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」 「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」 「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」 「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」 「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」 「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」 「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」 「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」 「はぁ~い」 出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一端家に帰ることにする。 「それじゃ、また後でね」 「夕方、ラブちゃん家に伺うね」 「うんっ! 待ってるね~」 「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」 「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」 「パジャマパーティー?」 「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」 「ええっ? 一体なんのことなの」 「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」 「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」 不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。 じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。 せつなが横から覗き込む。 「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」 「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」 「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」 「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」 「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」 「ええっ~」 二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。 大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。 手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。 「いらっしゃい、美希、ブッキー」 「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」 「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」 「今夜一晩、よろしくお願いします」 「どうぞ、ゆっくりしていってね」 ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。 突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。 ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。 「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」 「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」 一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。 「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」 「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」 「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」 ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。 「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」 「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」 「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」 「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」 それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。 このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。 「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」 「オーケー、何でも手伝うわ」 「わたし、自信ない……」 「美希は料理するのね?」 「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」 「完璧って口にしないところが、ポイントよね」 「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」 「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」 「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」 「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」 調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。 ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。 「いっただきま~す!」 『いただきます』 祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。 祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。 「おかわり~」 「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」 「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」 「どれほど投げる気なのよ……」 「でも、せつなも思ったより食べるのね」 「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」 「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」 「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」 「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」 「もう、からかわないで!」 賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。 バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。 現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。 販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく―――― ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。 また、詳しいことが判り次第―――― ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。 わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。 「ともかく、様子を見に行こう!」 『ええ!!!』 四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。 家の外は、酷い有様だった。 家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。 街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。 建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。 何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。 街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。 「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」 「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」 とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。 その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。 「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」 「ひどいっ。こんなこと、許せない!」 「子供たちから、不幸を集めるなんて……」 「心配しないで、私が――――。ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」 せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。 とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。 男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。 せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。 先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。 ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。 「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」 「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」 「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」 「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」 「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」 「どういうこと?」 「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」 「確かに、沈黙したままね」 クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。 「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」 「今のは、アタシも聞こえたわ」 「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」 「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」 「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」 「ラブ、気をつけて!」 「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」 ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。 クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。 そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。 ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。 かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。 「ウサピョン!」 「ウサピョンって?」 「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」 「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」 「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」 「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」 「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」 美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。 「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」 心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。 もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。 「それで、あなたはどうして無事なの?」 「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」 「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」 「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」 ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。 おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。 トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。 「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」 「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」 「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」 「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」 「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」 せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、返って怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。 美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。 「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」 「そうね、覚悟を決めましょう!」 「取り戻そう、わたしたちの手で」 「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」 「うん、まかせて」 「おもちゃの国へ!」 アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。 おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。 よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。 早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。 「ここが――――おもちゃの国?」 「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」 「どこも、とっても可愛い!」 「キュア~」 積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。 床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。 和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。 どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで―――― それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。 「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」 「ごめん、そうだった」 「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」 「タルトがそれを言う?」 「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」 「そんなことまで知っとるんかいな……」 ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。 異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。 噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。 「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」 「それが、あたしにもよくわからないの」 「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」 「そうね」 「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」 街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。 一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし―――― 「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」 「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」 「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」 「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」 「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」 「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」 「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」 「待って! ブッキー」 祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。 動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単調直入にトイマジンについて質問する。 人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。 ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。 それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。 「誰も……いなくなっちゃった」 「ワンちゃんも逃げちゃったね」 「違う――――もう、既に囲まれてるわ」 ザッ、ザッ、ザッ 規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。 その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき―――― やがて姿を現す、無数の人形の群れ。 それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。 ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。 おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった 百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。 「はは……じょ、冗談よ、ね?」 「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」 口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。 轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。 顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。 帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。 「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」 「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」 「――――反抗の意思とみなす」 隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。 ドン! ドン! ドン! 「きゃっ!」 「危ないっ!」 せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。 「ラブっ!」 「ラブちゃん! せつなちゃん!」 「よくも……、やってくれたわね」 美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。 美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。 「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」 「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」 「待って!!」 隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。 「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」 「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」 「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」 ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。 「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」 「何をされるかわからないよ?」 「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」 「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」 「ついて来い」 幸いにも、拘束するつもりはないようだった。 おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。 おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。 新-558へ