約 4,494,259 件
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/1967.html
「ふたば系ゆっくりいじめ 941 命だけは・・・/コメントログ」 素晴らしいゆっくりぷれいすをみつけてよかったね!! -- 2010-08-02 01 02 37 この鬼意惨は一本筋の通った人間ですね 他者を殺すと言えば本来は冗談では済まされない、それだけ殺すとは重い言葉だと言う良い話でした -- 2010-08-02 03 24 57 説得力のあるいい話だった -- 2010-08-05 14 14 34 まりさのその後希望。 -- 2010-08-28 10 25 40 殺す側は同時に殺される可能性をウンタラカンタラってやつですね -- 2010-09-12 00 08 38 良い説得力だ。これで初投稿…お見事! -- 2010-11-27 17 42 54 外敵は来ない、餌はもらえる、面倒な子育てなんかしなくてもいい 最高のゆっくりぷれいすで死ぬまでゆっくりしていってね!! -- 2010-12-04 13 00 55 さいっこう気持がすぅーーっとします。まりさ、れいむ、ざまあww -- 2010-12-11 20 50 34 じわじわと苦しめるゆ虐は最高だぜ! -- 2011-09-04 10 14 52 れみりゃもこないしえさもちゃんとむーしゃむーしゃできるさいっこうのゆっくりプレイスだね!よかったね!まりさ -- 2014-03-24 21 45 16 うんうんを排出する場所がないならいつか与えたご飯で箱の質量をオーバーしそうなんだが -- 2014-06-05 19 29 44 まりさは永遠とゆっくりできるね -- 2015-07-31 16 49 55 Foo↑気持ちい~ -- 2017-11-21 22 54 04 「これゾン」のユーの言葉を思い出した。 「簡単に死ねなんて言わないで!」 爪の垢を煎じて飲ませたいってこういうときに言うんだろうか? -- 2018-01-11 18 05 47
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/461.html
ゆっくり見ていってね 7KB ※選ばれしゆっくりの番外編です。新種ゆっくり誕生秘話の後の話でもあります。 ※ゆっくりちるのの生態(後編)はもうしばらくお待ちください。。 ※駄文、稚拙な表現注意。 ※俺設定注意 ※うすたネタ注意 ゆっくりみていってね 「くー。明日からどうやって暮らせばいいんだ。」 そうつぶやきながら田舎のあぜ道を歩く人影がひとつ。 俺の名前は・・・フリーターお兄さんとでも呼んでくれ。 と言っても今は失業者お兄さんなわけだが。 先ほど勤めていたラーメン屋をクビになってしまったからだ。 くっ、俺は悪くない。俺は悪くないんや。 ただ俺はストレスがたまるとラーメンを人の頭にぶちまけるくせがあるだけなんや。 むかつく客に「そぉい!!」と言いながらラーメンぶちまけただけなんや。 と意味も無く関西弁になりながらとぼとぼ歩く俺。ほんと明日からどうしよう。もう貯金もほとんどない。 道端に札束でも落ちてないかと見回すが当然そんなものはあるはずもない。 はー。とりあえず兄貴のところいってめしおごってもらうか。できれば金も貸してほしい。 「ゆっくりみていってね!!」 あー。ゆっくり。ゆっくり。悪いが今はゆっくりの相手をしている気分じゃないんだよ。 そう思いながら通り過ぎる。 「ゆっくりみていってね!!」 あーうるさいな。なにがゆっくりみていってね、だ。こちとら明日からの生活で頭がいっぱい・・・。 ん!?ゆっくりみていってね!?ゆっくりしていってねじゃなくて? 慌てて後ろを振り返る。そこに奴はいた。 生首のような体。銀髪の髪。銀縁の丸めがね。 なんだ!?こいつ!?こんなゆっくり見たこと無いぞ!? そう驚きふためく俺に 「こーりんのすてきなおどうぐたちゆっくりみていってね!!」 とのたまうなぞのゆっくり。 おどうぐ!? よく見るとなぞのゆっくりの前にはござが敷いてあり、そこにはガラクタが乱雑におかれている。 「こーりんどうにあるすてきなおどうぐたち、ゆっくりかっていってね。かわなきゃいっしょうのそんだよ。」 そう言い、きりっとするなぞのゆっくり。 うぜぇ。おもにありもしないイケメンオーラを出そうとしているところがうぜぇ。 そう思い立ち去ろうとしたが、ふと昔兄貴が言っていたことを思い出した。 ゆっくりには露天商売まがいのことをする品種がいる。 売ってある商品は大抵ガラクタだが、中にはどこから手に入れたのか驚くような高価な品がまざっていることがある。 確かに兄貴はそう言っていた。ゆとりのゆっくり研究員をやっていたこともある兄貴のいうことだ。間違いない。 貧乏を脱出するチャンスだ!! そう思うと今までガラクタにしか見えていなかったこいつらがお宝に見えてくるから不思議だ。 「おい。」 「ゆっ!?」 「この商品はいくらだ?」 「ゆっ、ぜんぶあまあまとこうかんだよ。さんじゅうねんにいちどのさーびすでーだよ。」 あまあま?つまり甘いものか。確か昨日サービスでもらった飴があったはず。あわててポケットを探る。 あった!! 「ゆっ!!あまあま!それとならどれでもひとつこうかんしていいよ。」 くっ、ひとつだけかよ。これは絶対にはずせない。 そう思いござにあるガラクタたちに目を通す。 せみの抜け殻、ビー球、ただの丸い石とおままごとレベルの物から、古めかしい小さな仏像や、青く光る石をあいらったブローチのような高価なにおいのする品までまさに玉石混合だ。 「ん!?なんだ。この八角形の鉄のかたまりは?」 「それは、みにはっけろだよ。」 「ミニハッケロ!?なんだそりゃ!?」 「もってるといろいろべんりだよ。げんそうきょうのまりさがもっているのとおなじやつだしね。」 ゲンソウキョウ?なんだそりゃ?まりさってあの黒いぼうしをかぶったゆっくりのことか? そんなものよりこっちだ。 俺は小さな仏像とブローチを前に考え込んだ。 どっちだ?どっちが高価な品なんだ? この仏像、まえになん○も鑑定団で似たようなの見たことあるきがする。たしかあれは数百万はしたよな・・・。 いやそれをいったらこのブローチも歴史を感じさせる。飾りも本物の宝石に見えてきたし。 くっ、わからん。 いっそのことどちらも買うか? あまあまはどこかから買ってくればいいんだし。 いや、だめだ。ここは田舎のあぜ道。近くにコンビニはおろか、ひとっこひとりいない。 ひとっ走り買いにいくにしても時間がかかる。それまでこの店がある保障は無い。 こうなれば最後の手段だ。 「うおおおおお!!!!」 俺はゆっくりのめがねをうばい、 「ゆっ!?かえしてね!こーりんのいんてりじぇんすなめがねさんかえしてね」 「そぉい」 月までとどけこーりんのめがねとばかりにぶん投げた。 「こーりんのだんでぃなめがねさんまってぇぇぇぇぇ!!」 ゆっくりにとって飾りは命の次に大切なもの。当然泣きながらめがねの飛んでいったほうへ探しにいく。 小動物をいじめてるようで気が引けるがしょうがない。 この隙にブローチと仏像をつかみ帰らせてもらうとしよう。 さすがにかわいそうなんでキャンディはここに置いていくとするか。どうせいらんし。 しかしこいつら換金したら何に使おうかな。とりあえず油苦理飯店の高級ゆっくり中華を食べに行こう。 前からいってみたかったんだよなぁ。 1時間後 森の中にこーりんはいた。レンズにひびが入り、フレームの曲がっためがねをかけて。 飛んでいっためがねは幸い見つかったものの、地面におちたショックでレンズにひびが入り、フレームも曲がってしまった。 「ゆう・・・。こーりん、いけめんじゃなくなっちゃったよ・・・」 がっくりするこーりんだが、ひとつだけいいこともあった。 あまあまが手にはいったことである。あのあとこーりんどーに戻ったところ、なぜか店先においてあったのである。 めがねさんが壊れたのは残念だが、せめてあまあまを食べて元気をだそう。 そう思い、あまあまをほうばろうとするこーりん。 しかし、ない。たしかにそこに置いたのに!? 「ゆゆっ!!?あまあまさん、ゆうだなかみかくしにあわないでてきてね!!」 そう言い、当たりを見回すこーりん。そして見つけた。 あまあまをくわえ逃げていくゆっくりまりさの姿を。 「まってね!!こーりんのあまあまさんかえじでねぇぇぇ!!」 「ゆっへっへ。しぬまでかりていくだけだぜ」 そういうとまりさはゆっくりらしからぬスピードではねていった。 後にはむせび泣くこーりんが残された。 どうやら幻想郷でも現代日本でもこーりんはまりさに搾取される運命らしい・・・。 所かわってここは郊外の安アパート。フリーターおにいさんの兄、店員おにいさん(元研究おにいさん)の住むアパートである。 「でっ、どちらも偽物だった、と」 「そのとおりだよ、ちくしょー!!ほんとなら油苦理飯で優雅なディナーのはずだったのに・・・」 そう言いながらカップめんをすするフリーターおにいさん。 あの後スキップしながら古道具屋へブローチと仏像を持ち込んだものの、どちらも安物であると判明。 怒りのあまり、途中で物乞いをしているリボンのちぎれたれいむを蹴飛ばしてしまった。 当然、油苦理飯など行けず、店員おにいさんの出してくれたカップめんが夕食となった。 「馬鹿だなぁ。僕なら確実に儲けることができたのに。」 「どうやってだよ!!あのなかにはガラクタしかなかったんだぞ!!」 「そうじゃなくてそのゆっくりをゆっくりショップに売ればよかったんだよ」 「えっ・・・」 「これを見て。」 そう言い、分厚いカタログを出す店員おにいさん。タイトルに「ゆっくり大全集 09年度版」と書いてある。 その中の1ページを開き、フリーターおにいさんへ見せる。 「これがいったいどうしたん・・・いぃっ!!?」 そのページには確かに昼に見たゆっくりの写真が載っていた。 名前はゆっくりこーりん。希少度S、そしてショップ買い取り価格・・・・100万以上!!!? 「希少度がSなら100万以上の買い取り価格がつくゆっくりは多いよ。なかにはいくら金を積んでも手にはいらない奴もいるしね。 僕の店に持ってきてくれればよかったのに・・・」 「そ・・」 「こーりんなら、婦人層に人気があるから200万以上でもいけたかもな。」 「そ・・・・」 「そ?なんだい?」 「そぉい!!!」 フリーターおにいさんが店員おにいさんの頭にラーメンをぶちまけ、兄弟げんかが始まるのはこれから10秒後のことであった・・・。 by長月 今日の希少種 ゆっくりこーりん 希少度 S 古道具屋のまねごとをするゆっくり。どこに店を出すかはわからない。 店のことをこーりんどうと呼び、古道具を並べてあまあまや食料などと交換する。 基本的にあるのはガラクタだが、中には貴重な品や幻想郷のマジックアイテムも売っている。 どこから貴少品を手に入れるかは不明で、一説によるとスキマ妖怪が関係しているらしい。 あとがき やはり希少種ネタはいいですね。もっと絵でもSSでも希少種ネタがふえればいいのに。 今まで書いた作品 ふたば系ゆっくりいじめ 176 ゆっくりちるのの生態(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 185 選ばれしゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 196 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 長月の作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る こーりん飼いたい( ^-^)ノ -- 2016-01-29 17 26 58 フリーターお兄さん馬鹿すぎる -- 2015-02-26 10 13 51 古道具屋さんごっこか……かわいいな -- 2015-01-31 13 59 34 希少種サイコー! -- 2014-11-10 16 22 51 ああ、なんで現実にゆっくりが存在しないんだろ -- 2014-11-09 14 32 37 こーりんは雄しかいないんだな -- 2014-07-31 13 43 38 さりげなくトンデモアイテムが混じっているのだが -- 2013-09-25 22 52 52 こーりんかわいいよこーりん(≧∇≦) -- 2013-07-21 11 42 31 ミニはっけろは危ないんじゃないか?汗 兄さん最悪な奴だな、ラーメンを人にかけるなんて、傷害罪に問われちゃうよ(*1))) -- 2012-12-19 11 27 02 現実にもゆっくりいたらいいのにな・・・w -- 2012-11-05 15 27 08 こーりん欲しいな -- 2012-02-19 20 46 10 実際にゆっくりがいたら、「こーまかん」とか「ちれーでん」とか作りたいよな。 基本種でもちぇん、ぱちゅり、みょんなんかはゲスでも可愛いし。 -- 2011-11-09 02 15 33 「そぉい!」お兄さん充分ワルだよww -- 2011-08-23 15 54 31 ミニはっけろ・・・幻想郷の魔理沙はどうしてるんだろうか -- 2010-12-10 17 00 50 飼いたくなるな -- 2010-09-29 21 45 11 ↓きもいこと言うな -- 2010-09-22 23 45 23 原作キャラの劣化コピーみたいな習性を持つゆっくりは楽しいね。 ところでこーりんにもまむまむはあるのだろうか? -- 2010-08-18 21 42 19
https://w.atwiki.jp/akatonbo/pages/882.html
ほとばしる胃液 作詞/32スレ134 リバースじゃなくてVOMIT 外人さんに笑われた やばい今日ちょっと飲みすぎた 触らないでね 出てきてしまう 甘酸っぱ苦い思い出が 胃液と共に還って来る 汚いなんて言わないでおくれ ぶっちゃけ俺が一番きつい ほとばしる胃液 振りまいて あの子の引きつる笑顔に泣いた ほとばしる胃液 ぶちまけて 飲みすぎないと誓ったの これで何度なんだろう
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/33.html
anko1934 ゆっくり退化していってね!1 anko1964 ゆっくり退化していってね!2 anko2020 ゆっくり退化していってね!3 anko2346 ゆっくり退化していってね!4 anko2347 ゆっくり退化していってね!5 anko2450 ゆっくり退化していってね!6 anko2451 ゆっくり退化していってね!7
https://w.atwiki.jp/peropero/pages/35.html
カスミ/その他 カスミ/その他キャラ分析 勝利台詞(%は残り体力)レイヴン シルヴィス アヤ カミール カスミ セレス ハーディ クレスティス アローニア カケル マラク キャラ分析 この世界で唯一の普通人 カミール以外との関係としてハーディがあるが、いまだ詳細は不明 言動は特別戦闘狂というわけでもなさそう。常識人とも取れる 勝利台詞(%は残り体力) レイヴン 100-75% 「……で。『死蝕』とやらは、いつ見せてくれるワケ?」 「悪いけどさ……、遅すぎて止まって見えるよ、アンタ」 75-50% 「肩慣らしには丁度良いわね。で……これからが本番なんでしょ?」 「ん~……、こんな戦いじゃ、熱くなれないわね……」 50-25% 「確かに、腕は立つようだけど。でも、まだまだボディがお留守よ」 25-0% 「人を褒めるのはあんま得意じゃないケド、あんた強いわね……」 「なるほど?カミールがあんたにこだわるのも判る気がするわ」 シルヴィス 100-75% 「その歳で若白髪とはねぇ。手品師って、儲からないのね」 「あたしの正義から言わせて貰えば、アンタの白髪の方がよっぽど罪よ」 75-50% 「勝手に法の代行者気取るのは良いけど、鬱陶しいからあたしには関わらないで」 「遠くからちまちまと、うざったい!今度やったら、泣かすわよ!」 50-25% 「ねえ、アンタ……生きてて楽しい?」 「悪いんだけど、その目やめてくんない?不幸の値札見てるみたいで、吐き気がするわ」 25-0% 「強いのはよぉく判ったわ。けど、ちまちました戦いはお断りよ」 「信念に値段なんてないのよ。そこんとこ良く考えるのね……」 アヤ 100-75% 「……なんか、後味悪いわね……。もっと、さっぱり戦りたいんだけどな」 「弱いもの虐めは趣味じゃないんだけど……、これは、不可抗力よね?」 75-50% 「そのよく解らない力、何なの?弾けるわ、降ってくるわ、吹き出してくるわ……」 「……えーと。次、行くから」 50-25% 「実は、ちょっとだけ爽快だったり……、してなかった?」 「あんたが望まないなら、二度と戦わないに越したことはないわけ。……じゃあね」 25-0% 「本気で殺しにかかってこられてたら、かなりヤバかったのかもね……」 「止めたがってるように見えたけどさ……、本当に、止めようとしてたわけ?」 カミール 100-75% 「あんた、本気でバカ?どうにもなんない実力差も判んないとはね!」 「あんたのオツムでも解るように言うならば……、『あんた、弱すぎ』」 75-50% 「気合ばかり空回りして、全然技にキレがないわよ」 「あんた、人としてはダメダメだけど、サンドバッグとしては優秀ね」 50-25% 「あたしに寄るな、触るな、近づくな!」 「自慢の顔がザクロになる前に帰りなさい」 25-0% 「紙一重の差も、真剣勝負じゃ決定的な差よ。そこんトコ、理解した?」 「……あんた、手加減……ううん、なんでもないわ……」 カスミ 100-75% 「すごいすごーい、よくがんばったわねー。……ナメてんじゃないわよ、アンタ」 「せっかく真似するならさ、せめてもっと頑張ってよね。……つまんない」 75-50% 「な~んだ、張り合いのない……。期待して損した」 「……出直しておいで」 50-25% 「ん~、良い感じではあるんだけど……、もう一歩、ってところね」 「ふ~ん、なかなかやるわね。じゃあ、もう一頑張り、行ってみる?」 25-0% 「ここまで上手くコピーするなんて、やるわね。素直に感心したわ」 「あ、危ないわね……。同じ顔に負けるわけには行かないものね、さすがに……」 セレス 100-75% 「……まさか、今ので全力だった……、なんて言わないでしょうね?」 「どんな技も、当たらなければ意味が無いのよ。お解りかしら?」 75-50% 「もうちょっと、腕を磨いてから出直してくるんだね」 「アンタの負け。ま、やる前から、結果は見えてたけどね」 50-25% 「ふ~ん……なかなか面白かったわよ。また今度相手してね」 「歴史が違うのよ」 25-0% 「いい線行ってたけど……、ツメが甘かったみたいね」 「まあ、剣も魔導も無くても頑張れるってコトで。……こんなもんでどう?」 ハーディ 100-75% 「数撃っても当たらない下手な鉄砲じゃ、勝負にもならないってコト」 「そんな物に頼ってるから、動きが緩慢になるのよ」 75-50% 「これで……、少しはあたしも、母さんに近づけたのかな」 「あんたも人の親なら、フラフラしてないで彼女に会ってあげたら?」 50-25% 「一人で抱え込んでいれば、いつかは消えるとでも思ってるわけ? そんなの、欺瞞よ」 「今更、恨み言連ねたってどうしようもないって解ってるけど……、それでも……」 25-0% 「まったく、どいつもこいつも……。バッカみたい……」 「青河流の血は絶えてないわ。……その身に染みて、よく解ったでしょ」 クレスティス 100-75% 「……弱っ」 「……ふん、退屈させてくれるわね」 75-50% 「な~んか、戦ったって気分にならないわね……」 「法院のトップも大したことありませんでした、マル……と。……はあ、やってらんないわ」 50-25% 「魔導が強いのは判ったけどさ……、少しは自分で戦ったら?」 「……、こんなもんか。複雑……」 25-0% 「しつこい奴は嫌われるよ」 「火や雷を出せても、勝てないんじゃあね。じゃ、サヨナラ」 アローニア 100-75% 「ずいぶんとお上品だこと。ま、その結果がそのザマなわけね」 「法院に仕えるのがそんなに楽しいのかねぇ。あたしには理解できないな」 75-50% 「仕事熱心ねえ。法院って、何がそんなに魅力なの?お給金?職場環境?福利厚生?」 「キレイな顔に蹴り入れちゃって悪いけどさ、覚悟の上ってことで勘弁してよ」 50-25% 「ふ~ん、人並み以上には鍛えてるってワケね。……あ、一応皮肉だからね、コレ」 「あ~~~、苛つくな~、その宝石……!」 25-0% 「綺麗な顔して、やることがえげつないってぇの……。まったく、腹立つわ」 「火に雷に水に氷に……。ちょっと、やりすぎなんじゃない?」 カケル 100-75% 「なによ……やる気無いなら、そう言ってよね」 「これだけ弱いなら、せめて煙草吸うのはやめて、マジメにやって欲しいもんだけどね」 75-50% 「ゆとりが無いってゆーか、遊びが無いってゆーか。何か、悩みでもあるの?」 「はい、終了~。じゃっ」 50-25% 「間合いがつかみにくいなぁ……。変わった戦い方するのね」 「目ん玉ギラつかせちゃって、怖いなぁ。もっと、楽しくやりゃあ良いのに。ねえ?」 25-0% 「……ソレ、切り裂く武器に見えるんだけど。なんか、裂傷よりも打ち身の方が多いような……」 「結構、楽しかったわ。また戦ってよね?」 マラク 100-75% 「こんな程度でも、上位魔族って扱いなのね……。 もっと上には上がいるもんだと思ってたんだけどな」 75-50% 「んー。私の力、上級魔族にも通用するって思っていいのかね」 50-25% 「次から次へと、高いところから物投げてきて……! おちょくられてる気分だわ!」 25-0% 「え~、物を投げないでください。……ったく、鬱陶しいのよ!」
https://w.atwiki.jp/20161115/pages/102.html
風が吹き、草木が優しく囁く。 そんな緑溢れる大地をゆったりと散策する少女二人。 一人は、可憐な容姿と纏うバラがファンシーな色気を醸し出しており、もう一人は赤髪に長袖のパーカー、ホットパンツとどこかボーイッシュな雰囲気を醸し出している。 傍目からは、少女二人と自然の調和というひとつの絵でも描きたくなる衝動に駆られるほどに見栄えする光景に見えなくもない。 それに反して会話はひどく物騒なものではあるが。 「佐倉杏子。あなたは北で戦ったと言っていましたがなぜ中央を目指すのですか?」 「あいつもそれなりに怪我をしてたし、あんな派手な騒ぎがあったところに留まるとは思えない。なら、どうせなら他にも人が集まりそうな中央から潰していった方が得ってわけさ」 「なるほど。一理ありますね」 とまあ、こんな具合である。 それもそのはず。なんせ彼女たちはその可憐な容姿とは裏腹に、自分たちよりも非力であろう『人間』を狩りに行こうとしているのだから。 一人は新たなる戦いの為に。一人は生きる為に。少女二人はこれよりその道を朱に染めんと進む。 「ん」 ピクリ、とクラムベリーの耳が動く。 クラムベリーが捉えたのは、足音と話し声。 間違いない。参加者を捕捉したのだ。 「どうやら近くに参加者がいるようですね。こちらに向かっているようです」 「あんたの魔法でわかるんだっけか。このまま歩いてればいいか?」 「ええ。数分もあれば姿が見えると思います」 場所は森。まだ太陽が昇りきっておらず薄暗がりのため中までは認識できないが、距離もさほど遠くはないため来訪者の判明も時間の問題だ。 「何人だ」 「二人...いえ、足音はひとつ...話し声もしているのでこちらに気がついている様子もないのですが...」 足跡が聞こえないとなれば、片方は背負われているのか。 なんにせよ構わない。『人間』であれば狩るだけだ 二人は、速さを抑えることなく堂々と歩む。 片や来訪者に期待を寄せ、片や己の襲撃のパターンを脳裏に張り巡らせ。 ほどなくして、二人は来訪者に遭遇する。 来訪者は、二人の存在を認識したところでようやく止まり、杏子もまたそんな来訪者の正体に小さくため息をついた。 「さ、佐倉杏子...!」 「悪い、クラムベリー。いまは手をださないでくれ。一応あたしの知り合いだ」 来訪者は、杏子もよく知る魔法少女、美樹さやかだった。 ☆ 「さやか、あのハンペン顔はよかったのか?」 「...仕方ないよ。ああも炎を吐かれたら近づきようがないし」 アリスと別れたさやかは、まどか達の探索に時間を割いていた。 できれば、ワイアルドから助けてくれたモズグスの力になりたいとは思っていたが、炎の勢いが存外強力であり、近づくことすら敵わない状況であったため、断念せざるをえなかった。 それでも、炎の下手人が敵方であるワイアルドなら多少無茶をしてでも加勢したかもしれないが、撒いたのはモズグスその人。 さやか達を近づけまいとしているのか、それほど周りが見えない人なのか...少なくとも、遭遇時に抱いた好印象はかなり薄まっていた。 それも、さやかが加勢を諦めた理由のひとつである。 (とにかく、いまはまどかを探さなきゃ...) ほどなくして、さやかと隊長は二つの人影を確認。距離が近づくにつれ、その正体も認識する。 一人は知らない女性だったが、もう一人はさやかの知り合い、佐倉杏子だった。 「あんた、その恰好...!」 さやかは、土煙で汚れた杏子の服を見て警戒心を高める。 理由はわからないが、彼女も誰かと交戦したのだと。 「ナリはあんたが言えたことじゃないだろ。あんたこそその様はどうしたんだよ」 かくいうさやか自身も、いや、杏子と比べれば明らかにさやかの方が傷つき薄汚れている。 全身に刻まれた擦り傷、ところどころが破れた衣類、乾いてはいるもののこびり付いている血。 さやかの知り合いでなければ、警戒しない方がおかしいレベルの惨状である。 「待つんじゃ、ワシらは殺し合いには乗っておらん!」 ひょこ、とさやかの背から顔を出し、隊長が制止の声を挙げる。 しかし、さやかはともかく杏子は最初から戦闘の構えとってはいなかった。 「こんな状況だ。戦いのひとつがあってもおかしくないさ。...そんな弱そうな爺さんを連れてるあたり、本当にあんたは殺し合いには乗ってないみたいだな」 「誰が弱そうな爺じゃ!ワシはこう見えても雅様の誇り高きしんえ」 「...乗ってないよ。そういうあんたはどうなのさ」 「遮るな!」 「あたしか?あたしは―――」 『あー、ごきげんようおめーら』 杏子の声をかき消すように、天より声が鳴り響いた。 「な、なによこれ!?」 「おそらく、参加者に現状を報せるための定期的な連絡でしょう」 「なんじゃお前は」 「森の音楽家クラムベリーです。いまは佐倉杏子と行動を共にしています」 「ど、どうも...」 杏子とは対照的に割りと礼儀正しく挨拶をしてきたクラムベリーに思わずあっけにとられながらも、彼女の佇まいから、もしかしたら杏子は杏子で殺し合いを止めるためにクラムベリーと共に行動していたのかなと頭の片隅に思い浮かべる。 が、そんな想いもすぐに塗りつぶされる。 『最後に脱落者だ。これから放送毎に死んだ奴らを読み上げてく』 「――――!」 脱落者。即ち、この約6時間ほどで死んだものたち。 これから呼ばれる一人の親友の名に腹を括り、未だ行方の知れぬ親友たちが呼ばれるかもしれない緊張で、さやかと隊長はごくりと唾を飲み込んだ。 そんな緊張の面持ちの二人とは対照的に、クラムベリーも杏子もさして変わらない佇まいで放送に耳を傾けていた。 『今回の放送までに死んだのは』 ドクン、とさやかの心臓が跳ねる。 『薬師寺天膳、志筑仁美』 呼ばれた。覚悟していたぶんの痛みが、さやかの心臓を締め付けた。 『南京子。一方通行』 呼ばれない。呼ばれない。 『ありくん』 呼ばれない。 『巴マミ』 呼ばれ――― それ以降の情報は、さやかの耳から全て零れ落ちていった。 気がついたときには、もう放送は終わっていた。 「おい、さやか大丈夫か」 「マミ、さんが」 隊長の呼びかけも耳から通り抜けて行き、ようやく彼女の名前を口に出せたかと思えば、抑えきれない震えがさやかを襲う。 なんで死んだ。なんで死んだ。なんで死んだ。 頭の中はそればかりで、悲しみ悼むべき涙も出やしない。本当に生き返ったのかという疑問も遥か彼方に飛んでいってしまった。 なんで死んだ。誰が殺した。誰が殺した。誰が 「殺したのは『人間』ですよ」 まるでさやかの脳内を読み取ったかのようにポツリと呟いたのはクラムベリー。 今まで微笑を携えていた彼女の顔も、その一瞬だけは確かに険しいものとなっていた。 「あんた、マミさんのことを知ってるの?」 「はい。わずかではあるものの、実に充実した時間を過ごさせていただきました」 「なら、教えて...マミさんになにがあったの!?」 「構いませんよ。ですがその前に...」 クラムベリーはそこで言葉を切り、北―――下北沢近辺の方角に視線を向け静止する。 「また参加者か?」 「ええ。人数は二人、それもかなり無用心に、堂々とこちらに向かってきています」 「さっきの放送を聞いた上でそれなら、よほどの馬鹿か、腕に自信があるのか」 納得しているかのように話す二人にさやかと隊長は困惑する。 「え、えっと...」 「私の能力ですよ。詳しくは教えませんが、歩いてくる者くらいは判別できます」 「なら逃げんのか?お前たちもワシらと同じ赤首輪じゃろう」 「こっちに真っ直ぐ向かってくるならここで待ってればいいだろ。変に隠れる必要もない」 堂々と佇む杏子とクラムベリーに倣い、来訪者の現れるであろう方角に目を凝らすさやかと隊長。 ほどなくして、さやか達の耳にも微かな足音が届き、来訪者の輪郭もおぼろげながら浮かび上がってきた。 そして、その姿が明確になり、さやかの背に凍りつくような怖気が走る。 さやかがその肉眼で捉えたのは二人の異様な男。 一人は一糸纏わぬ、文字通り全裸にランドセルという冒涜的な格好でスキップをする筋肉質な青年。 もう一人は白髪にタキシードの、どこかヴィジュアルバンドのような服装の男。 一目で異物だとわかる前者はともかく、後者は服装だけなら若干時代錯誤を感じる程度のものだろう。 だが、白髪の男がなによりも異様だったのは、口元を覆う赤黒い血液。 なにより、その手に持つだれかの残骸が、男の異様さと異常さを際立たせていた。 白髪の男は、四人のもとへたどり着くなり、ニイと口角を吊り上げた。 「これはこれは大層なお出迎えではないか」 眼前の男の放つ醜悪な気と異様さに、さやかは思わず変身し剣を構える。 「み、雅様!」 そんな彼女の背から隊長の声が響き渡る。 雅。その名は、確かに隊長から聞いていたものだ。 「雅様、ご無事でなによりです」 「ハッ、お前か」 目の前の男の異様さに気がついていないはずがないだろうに、朗らかに話しかける隊長に、さやかは困惑してしまう。 「た、隊長...?」 「よかったなさやか。これでもう安泰だ。こんなに早い段階で雅様と合流できるなど、なんて運がいい」 「いや、それよりも、その...」 隊長が嫌々媚を売ってるとは思えない。 なのに、たとえ信頼のおける者だとしても、眼の前の惨状を見てなぜ平気でいられるのか。 なぜ、いまが彼にとって当然とでもいうかのように平然としていられるのか。 さやかの中では、そんな隊長への複雑な感情が滲み始めていた。 「...何者だ、あんた」 いまの雅の姿を見れば、流石に杏子も警戒心を露にし、いまにも槍を突きつけんばかりに睨みをきかせる。 「ぼくひで」 だが答えたのはひでだった。 「あんたじゃねえよ。いや、あんたもわけがわからねえけどさ。...で、改めて聞かせてもらうけど、あんた何者だ」 「私の名は雅。吸血鬼の王だ」 吸血鬼。その単語に、杏子は思わず鼻で笑ってしまう。 別に彼を馬鹿にしたわけではないのだが、教会の出であるため、吸血鬼のような怪物の創作話はそれなりに馴染みのあるものだった。 雅がそれを名乗ったものだからつい噴出してしまったのだ。 「それで、その吸血鬼様がなんのようだ?」 「なに。血の匂いがしたのでね。どんな輩がきたのか見に来ただけだ」 「そうかい」 パァッ、と光が身体を包み、杏子の服が魔法少女のものに変わる。 その光景に、突きつけられる槍と殺意に雅は一切の動揺もなく笑みを深める。 「早まるな。なにも今すぐ戦りあおうというわけではない。私は珍しいものには目がなくてな。この機会に赤首輪の人外とは話をしてみたいと思っている」 「話、ねえ。どうするクラムベリー」 「構いませんよ。興味があるのは私も同じですから」 「だ、そうだ。あたしも構わないよ」 雅に全く物怖じせずに言葉を交わす杏子とクラムベリー。 そんな二人を見てさやかは戸惑うも、話だけなら、と遅れて了承する。 「おっと、忘れるところだった」 雅はひょいと右手に持った腕の形をした残骸を掲げ、口が耳元まで裂けるほど開き。 ガブッ。 血を撒き散らしながらバリバリと豪快な音を立てて噛み砕いた。 一連の流れとその際のご満悦な表情を見て、ドン引きしつつさやかは思った。 こいつとは絶対に相容れない、と。 ☆ 数分後。 情報交換の場を設けた5人の赤首輪たちは身を隠すこともなく、その場で輪となって。 「ぽかぽかして気持ちいいのら」 その輪から外れて、ひではひとりご満悦な表情を浮かべつつ日向ぼっこを始め、気持ちよかったのかそのまま寝息を立てて昼寝を始めてしまった。 「雅様。あれは新しい邪鬼ですか?」 「いや、拾っただけだ。私にもよくわからん...さて、ひでのことはともかくだ」 雅はジロリと一同を見回し、笑みを浮かべる。 「揃いも揃って幼い女とは。まさか貴様たち、暁美ほむらと同じ魔法少女ではあるまいな」 "魔法少女"と"暁美ほむら"の単語に、杏子の目つきは鋭くなり、さやかの心臓がドキリと跳ね上がる。 「あんた、あいつと会ったのか」 「つい先ほどまでは共に行動していたのだがな。結局牙を剥いてきたので返り討ちにしてやったよ。その証拠に奴隷の印も刻んでやった。...仲間だったか?」 「別に仲間じゃないさ」 嫌らしく笑みを浮かべる雅に対し、杏子は依然変わらず。 しかし、彼女の醸し出す空気が変わっていたのは誰もが感じ取っていた。 「おっと、恐い恐い。あんまり恐いからつい手を出してしまいそうだ」 「下らない茶番は止めな。殺されたいなら別だけどさ」 「コラッ、雅様になんて大それた口を!さやか、友達ならなんとかいってやれ!」 「ごめん、隊長。あたしから見てもあいつを止める気にはならないよ」 さやかは決してほむらと仲が良いわけではないし、むしろ警戒しているほどだ。 しかし、だからといって痛めつけたことを嬉々として語る男に肩入れをしようとは思わないし、それに苛立つ杏子の方がまともだとも思っている。 だから、ここで杏子が雅を殴り飛ばしたとしても止める言葉は持てないだろう。 「佐倉杏子の言う通りですね。私たちは茶番を楽しむ為に留まっているわけではありません」 そんな空気の中、険悪な空気を醸す二人に割って入ったのはクラムベリーだった。 「私には目的があります。確かに赤首輪の人外には興味がありますが、だからといって無駄なお喋りに時間を費やしたくはありません」 「ほう。そこまで急ぐ目的とはなんだ?」 「この場における、『人間』の排除。その後に赤首輪の参加者だけで闘争を繰り広げ決着をつけることです」 クラムベリーの宣言に、さやかは息を呑む。 『人間』の撲滅。それだけでなく、赤首輪の参加者間で脱出するための協力ではなく、赤首輪同士での戦い。 今まで大人しかった彼女からそんな物騒な言葉を聞かされたのだ。予想外にもほどがあり、驚愕するばかりで怒ることすらできなかった。 「弱者がロクに戦いもせず、疲弊した強者を屠る...これほどつまらないことはないでしょう。あんな不愉快な想いは二度と味わいたくないのですよ」 「奇遇だな。私も人間は嫌いでね。無意味に恐れ、無意味に嫌う。そんな愚かな生き物たちには心底呆れ果ててしまったよ」 クラムベリーだけでなく、雅もまた人間の抹殺を宣言する。 (そんな...こいつらを放っておいたら、まどかが...!) さやかの背を冷や汗が伝う。 もしもこの二人を放っておき、まどかが遭遇してしまえば。 考えるまでもない。ただでさえ争いを嫌うまどかだ。為すすべもなく殺されてしまう。 (そんなの嫌だ...) さやかの手に自然と力が込められる。 この二人はここで止めなければまどかが被害を被るかもしれない。 クラムベリーも雅もその実力は未知数だ。おそらく一人で挑んでも勝てはしないだろう。 だが、二人なら。この場にいるもう一人の魔法少女、佐倉杏子と組めば勝機はあるかもしれない。 (杏子...!) もとは、皆の幸せを願っていた彼女なら。共に、目の前の悪鬼たちと戦ってくれるかもしれない。 さやかは期待と懇願を込めて視線を投げかけた。 その先には 「いいこと言うじゃん、あんた」 かつて戦った時に見せたものよりも邪悪な笑みがそこにあった。 「大した力も信念も無いくせに、自分と違えば足を引っ張ることしか考えない。あたしもそんな奴等は大嫌いさ」 「ハッ。ならば、お前たちの目的は私と同じということか」 「ああ。あんな奴等を護るなんざ死んでもゴメンだね。さっさと殺すなり結界に放り込んで魔女の餌にするなりした方が世のためさ」 言ってのけた。 杏子もまた、嘘偽りなく『人間を狩る』ことを宣言した。 「な、なに言ってるのさ杏子!」 さやかは思わず叫んでしまう。 彼女は確かに利己的な魔法少女だ。 けれど、それにはそう為らざるをえない過去があり、冷徹なだけでもなかった。 実際、彼女は傍にいたまどかを攻撃するような素振りも見せなかったし、直接人間を魔女の結界に放り込んでいたとも聞いていない。 それを杏子は『する』と言ったのだ。さやかが反射的に声をあげても仕方のないことだろう。 「なに言ってるもクソもない。前にも言ったはずだろ、あたしはあたしの為だけに魔法を使うって」 「でも、あんたは...!」 「知ったような口を利いてんじゃねえよ。あんたがあたしのなにを知ってるのさ」 さやかはグッ、と言葉を詰まらせる。 杏子の過去は確かに彼女の一面だが、それが彼女の全てであるはずがないし、この殺し合いが始まってからの彼女のこともまだ知らない。 果たして彼女は、過去の経験から人間を殺すほど嫌いだったのか、それともこの殺し合いで嫌いになってしまったのか。 もしも後者だとしたらそれは何故? ―――殺したのは『人間』ですよ ふとクラムベリーの言葉が脳裏を過ぎる。 巴マミを殺したのは『人間』だった。 それをクラムベリーが知るのは、マミが殺された場面を彼女が知っているからだ。 そんな彼女と杏子は共に行動していた。 となれば。 (まさか―――) 「青髪の娘。貴様は、『人間』を護るということでいいんだな?」 さやかが解に辿り着くのとほぼ同時、雅の問いかけが被せられ、思考の停止を余儀なくされる。 かつての魔法少女の真実を知る前なら、躊躇わず感情のままに肯定することが出来ただろう。 けれど、さやかもまた知っている。 この世には救いたくない人間なんていくらでもいる。 自分に尽くしてくれる女を消耗品の道具としてしか見ない男や、仁美を殺した少年、そしてあの巴マミを殺した者。 彼らの影が、さやかに躊躇いを喚起させる。 「あ、あたしは...」 言い淀む。 この四面楚歌から逃れるためなら、他の三人と同様に人間の撲滅を宣戦すればいい。 嘘でも真でもそう同意してしまえばそれだけで済む話だ。 けれども、いつも自分を気遣ってくれた親友が、こんな狂宴においても友情に殉じてくれた親友の影が、嘘をつくことすら押し止めてくれる。 「ハッ。まあいいがな」 さやかの返答を待たずして、雅は目を瞑り薄ら笑いを浮かべる。 「貴様が人間を護ろうが狩ろうが、私が楽しめるならば構わない。せっかくの機会だ。明以外にも楽しませてくれる者がいれば歓迎しよう」 雅の意外な言動に、さやかはキョトンとしてしまう。 てっきり、自分に反する者はすべからく排除するつもりだと思っていたが、彼の言動を要約すればそういうつもりでもないらしい。 であれば、最悪三対一の構図になりかねない現状、退くべきかもしれない。 「ただ」 その微かな気の緩みを突いたかのように。 「自衛できるほどの力も持たん輩であれば別だがな」 雅のブーメランはさやか目掛けて投擲された。 「なっ!?」 あまりにも唐突な襲撃に、さやかは反射的に構えていた剣を盾にする。 甲高く鳴り響く金属音。 その衝撃に、踏ん張る為の力すら込められていなかったさやかの足はたたらを踏み数歩の後退と共に勢いよく尻餅をついてしまう。 「くあっ」 「どうした?貴様はそんなものか?」 戻ってきたブーメランをパシ、と掴み、雅はゆったりと歩を進める。 「そうならば貴様は不合格といわざるをえんな。他の参加者に食われる前に私が糧にしてやろう」 「ッ...のぉっ!」 飛び退き体勢を立て直すさやか。 雅は、ブーメランを持つ腕を振り上げ再び投擲し、さやかへの追撃を―――しなかった。 放たれた方向は左。目標は―――クラムベリー。 顔を傾け躱されたブーメランは、空を旋回し再び雅の手元に戻る。 「なんのつもりですか?」 「なに、ただのテストだよ。果たして貴様らが私に従うに値する強さがあるかどうかのな。いまのをかわせたあたり、そこの娘よりは素質がありそうだ」 「わかりやすい解説に感謝します」 上から目線の物言いに対しても、クラムベリーは不快感を顔に出さない。 どころか、浮かべていた微笑は崩れ、凶悪さすら醸し出す笑みへと変わる。 「お返しに私も試させて頂きましょうか。あなたが、巴マミのように私の闘争に足る存在であるかを」 タンッ、と跳躍し、雅との距離を詰めると同時、腹部に放たれるクラムベリーの拳。 雅は躱す素振りすら見せず、防御すらとらず、迫る拳をまともに受け、後方に吹き飛ばされた。 「み、雅様ァァァァ!!」 響く隊長の叫びも空しく、パラパラと砂粒が舞い降りる。 「その程度ですか?あなたこそ、口の割には実力不足の言葉が似合いそうですが」 「これは手厳しい。ならば、貴様の不満を打ち消す程度には頑張らねばな」 立ち上がり、口元を伝う血を拭い、ブーメランで切り掛かる雅。 振り下ろされる凶器に対し、クラムベリーは素手で立ち向かう。 ブーメランと盾のように翳された左腕はカキン、と音を鈍く響かせる。 クラムベリーは、右の拳を固め、雅目掛けて振るおうとするも、その雅の姿は確認できず。 僅かにブーメランへと意識が向いた刹那で何処へ消えたのか。 その解を出す前に、クラムベリーの右拳は、背後にまわっていた雅へと振るわれた。 パァン、と小気味良い音と共に鮮血が舞い、雅の上体がよろめいた。 「ぐがっ」 堪らず呻く雅に放たれるは、クラムベリーの後ろ回し蹴り。 無防備な胸板に振るわれたソレは、再び雅を後方に吹き飛ばし地面を舐めさせる。 「ッ!」 同時、拳に走る痛み。 見れば、叩き込んだ拳の皮が千切られ、中の肉が露出し血が流れ出していた。 「フム。なかなか美味いじゃないか」 もごもごと口を動かす雅を見て、クラムベリーは理解する。 拳を叩き込んだあの瞬間、雅に皮を食い破られたのだと。 (面白い) クラムベリーの笑みは愉悦に染まる。 やはり戦いは同等の力で行われるのが最良だ。 眼前の男は自分の望む闘争に相応しい存在であるようだ。 もっと味わいたい。もっと拳を重ねあいたい。今すぐにでもあの男を蹂躙したい。 (けれど、私はひとつの闘争で満足はしたくない) 湧き上がる闘争の衝動を抑え、クラムベリーはフゥ、と一息をつく。 (す、すごい...) 「5秒」 眼前の攻防の激しさに呆気にとられていたさやかに、クラムベリーは囁くように語りかける。 「あなたが起き上がるまでにかかった時間です。巴マミは本気でない時でも3秒以内には立ち上がっていましたよ」 「あんた...?」 「巴マミは美しく、気高く、強い魔法少女でした。あなたはまだ未熟です。いま喰らったところで甲斐がない。その実が熟す時を心待ちにしています」 自分の言いたいことを告げるだけ告げると、クラムベリーは駆け出し、雅もまたそれを迎え撃つ。 互いの力量は既に測ったのだ。互いに、ここで仕留めるつもりもないのだが、クラムベリーは巴マミとの、雅はぬらりひょんとの戦いでの消化不良感を満たさずにいられなかった。 「まったく...勝手に盛り上がっちゃってさ」 闘争という名のじゃれあいを遠目で眺めつつ、呆れたようにため息をつく杏子。 杏子にとって闘争など合理的に進め、さっさと片付けるべきものである。 いまの段階で雅にもクラムベリーにも争う理由などないというのに、ああも徒に体力を消耗する気がしれない。 (まあ、あのぶんじゃ気が済んだら終わるだろ) あほくさ、と杏子は退屈そうに欠伸をする。 「...それで、あんたはどうするのさ」 ジロリ、と視線をさやかに移し、雅に代わり杏子が問いかけなおす。 「あんたの友達が人間で、ここに連れて来られてるのは知ってる。あいつらはどうかは知らないが、あたしはわざわざあいつまで狩るつもりはないよ」 「!」 「なに意外そうな顔してるのさ。あたしは自分のためだけに戦うって言っただろ。あんたの友達なんて殺すつもりも護るつもりもないさ。 それに、クラムベリーはともかく雅はあたしも気に入らない。ここで殺しはしないが、精精、同盟だけ結んで一緒に行動はしないだろうね」 杏子はまどかを殺すつもりがない。 それだけで、さやかの葛藤は薄らいでいく。 そもそもの話、葛藤の大半がまどかの存在なのだ。 彼女の安全が確保されていれば、この会場の『人間』を排除することに反論する意義も薄くなる。 同盟するにしても、雅とクラムベリーはともかく、杏子ならまだ信頼はおける。 ならば、杏子と同盟を組み、『人間』を排除しマミと仁美の仇をとることこそが最善の道なのではないだろうか。 (でも...) けれど、もしも他の『人間』がもっとまともな者が多かったら。そのまともな者がまどかと親しい関係になっていれば。 自分としてはその人も助けたい。この殺し合いが終わってもまどかと共に一緒にいてほしい。 だが、彼らは違う。たとえ同盟者の友人であっても躊躇いなく殺すだろう。 彼らは良し悪しに関わらず、『人間』が嫌いなのだから。 彼らに同行し、いざというときにだけ止めるという芸当も、実力に差がある自分にはできまい。 唯一自分の味方をしてくれそうな隊長も、雅がいればあちらについてしまうことも考えれば、この選択肢は茨の道となるのは想像に難くない。 (あたしは...どうしたい?あたしは...) 【G-6/一日目/朝】 【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】 [状態] 疲労(大)、全身打撲(再生中)、出血(極大、再生中)、イカ臭い。お昼ね中。 [装備] ? [道具] 三叉槍 [思考・行動] 基本方針 虐待してくる相手は殺す 0:雅についていく 1:このおじさんおかしい...(小声)、でも好き 【雅@彼岸島】 [状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、頭部出血(再生中)、疲労(大)、弾丸が幾つか身体の中に入っている。 [装備]:鉄製ブーメラン [道具]:不明支給品0~1 [思考・行動] 基本方針:この状況を愉しむ。 0:バトルロワイアルのスリルを愉しむ 1:主催者に興味はあるが、もしも会えたら奴等から主催の権利を奪い殺し合いに放り込んで楽しみたい。 2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない 3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。 4:あのMURとかいう男はよくわからん。 5:丸太の剣士(ガッツ)、暁美ほむらに期待。楽しませて欲しい。 6:ひとまずクラムベリーとの『テスト』で欲求不満を解消する。 ※参戦時期は日本本土出発前です。 ※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。 ※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました ※首輪が爆発すれば死ぬことを認識しました。 ※ぬらりひょんの残骸を捕食しましたが、身体に変化はありません。 【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】 [状態]疲労(中~大)、全身及び腹部にダメージ(中~大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り、右拳損傷(戦いにあまり支障なし) [装備]なし [道具]基本支給品、ランダム支給品1~2 巴マミの赤首輪(使用済み) [行動方針] 基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。 0 ひとまず雅との『テスト』で欲求不満を解消する。 1:杏子と組む。共に行動するかは状況によって考える。 2 一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。 3 ハードゴア・アリスは惜しかったか… 4 巴マミの顔を忘れない。 5 佐山流美は見つけ次第殺す。 【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:疲労(中)、雅への不快感 [装備]: [道具]:基本支給品、不明支給品0~1、鮫島精二のホッケーマスク@彼岸島 [思考・行動] 基本方針:どんな手段を使ってでも生き残る。そのためには殺人も厭わない。 0:さやかの返答を聞く。答えにいっては一緒に行動してやるかもしれない。 1:クラムベリーと協定し『人間』を狩る。共に行動するかは状況によって考える。 2:鹿目まどか、暁美ほむらを探すつもりはない。 ※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。 ※魔法少女の魔女化を知りましたが精神的には影響はありません。 【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意、モズグスへの警戒心(中) [装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢 [道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1~2 [思考・行動] 基本方針:危険人物を排除する。 1:人間を狩るか、狩らないか... 2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。 3:マミさん... ※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。 ※スノーホワイトが自分とは別の種の魔法少女であることを聞きました。 ※朧・陽炎の名前を聞きました。 ※マミが死んだ理由をなんとなく察しました。 【隊長@彼岸島】 [状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)、頭部に火傷 [装備]: [道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢 [思考・行動] 基本方針:明か雅様を探す。 0:雅様と会えた! 1:明とも会えたら嬉しい。 2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。 ※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。 ※朧・陽炎の名前を聞きました。 時系列順で読む Back 涙 Next I wanna be...(前編) 投下順で読む Back 涙 Next I wanna be...(前編) 誰の心にも秘められた想いがあって 美樹さやか アルピニスタ 隊長 TOP OF THE WORLD(前編) 雅 ひで Anima mala/Credens justitiam 森の音楽家クラムベリー 佐倉杏子
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2380.html
『ゆっくり退化していってね!4』 36KB 観察 考証 番い 野良ゆ 赤ゆ 都会 現代 独自設定 退化 段ボールの巣の中で、まりさとれいむの子どもたちは親の帰りを待っていた。 「おとうしゃん……ゆっくちちてにゃいではやくかえってきてにぇ」 「ゆぅ……いっぱい、ごはんしゃんとってきてほちいにぇ」 「おかあしゃんがいないとさびちいのじぇ………ゆっくちできにゃいのじぇ」 「おそとであそびちゃいにぇ………。みんにゃでたのちくゆっくちちたいにぇ………」 お互いの薄汚れた頬をくっつけ、赤ゆっくりたちは悲しそうにタオルの中で丸くなる。 ほかに何もすることがない。 外は危険な光で満ちあふれ、とても遊ぶ場所にはならない。 ならば巣でゆっくりできるかというと、そうではない。 タオルは生ゴミの汁を吸い、すえた悪臭を放っている。 巣のすぐ外に捨てられたうんうんの悪臭が、ここまで漂ってくる。 先日の雨で、段ボールの屋根と床はじっとりと濡れ、不快な湿り気を帯びている。 とてもゆっくりと親の帰りを待てる状況ではない。 「おねえしゃん……ゆっくちちたいよにぇ………」 次女まりさが長女れいむにそう言うと、れいむも応じた。 「ゆぅん…まりちゃも?れいみゅ……もうじゅっとじゅっと……ゆっくちちてにゃいよ…………」 長女れいむの言うことは本当だった。 赤ゆっくりたちは、自分たちが最後に心の底からゆっくりできたのがいつなのか思い出せない。 過去を振り返っても、毒の草とまずいゴミ、そして恐ろしい日光ばかり思い出してしまう。 長女れいむが同意したので、次女まりさはさらに愚痴る。 「いちゅもごはんしゃんは……ごみしゃんなのじぇ。くちゃくてきたなくて……まりしゃ、あんこしゃんをはいちゃったのじぇ…………」 四女の中で一番食いしん坊の次女まりさにとって、食事が生ゴミというのが最もゆっくりできない。 以前はおなかいっぱい雑草と虫をむーしゃむーしゃし、腹が膨れ上がるまで食べたものだ。 食事のメニューが変わっても、まりさの食い意地は変わらない。 臭くて汚い生ゴミでもなるべく多く食べようとし、結果として次女まりさは餡子を吐いた。 「おそとはきょわいよぉ………。おひしゃまにあたるとじゅーってほっぺがやけて、しゅごくいちゃくてあちゅいよぉ……」 長女れいむの不満は外に出られないことだった。 今まで、長女れいむは子どもたちのリーダーだった。 お外を探検しに行くときは、れいむは先頭に立って妹たちを導いた。 河川敷の草むらを四匹で冒険するときは、自分が姉であることをとても誇りにしていた。 だが、今は外に出るのは乞食に行くときくらいであり、ほとんどの時間は巣の中でじっとしていなければならない。 あの恐ろしい日光を浴びたときの激痛は忘れがたい。 「ゆっくちぃ……ゆっくちちたいよぉ………おとうしゃんとおかあしゃんと、おねえしゃんたちといっちょにゆっくちちたいよぉ………」 次女れいむも、今の境遇に嘆く二匹の輪に加わって涙を流し始めた。 しかし、この湿っぽいなれ合いに加わらないものがいた。 長女まりさである。 「ゆぅん!そんにゃことにゃいよ!まりしゃたち、いっぱいゆっくちできてりゅよ!」 「おねえしゃん……?」 「おとうしゃんはおいちいびすけっとしゃんをにんげんしゃんからもらってきてくれたよ!おいちくてしゅごくゆっくちできたよ!」 長女まりさは負の連鎖に陥っている妹と姉の思考を一喝し、楽しいことを思い出させた。 親まりさの持ってきてくれたビスケット。 カリカリとした歯ごたえと、ほんのりと舌に感じる甘さ。 生ゴミとはかけはなれた、ゆっくりしたおいしさだった。 「ゆぅ……」 考え込む三匹。 さらに長女まりさは楽しいことを思いつく。 「おかあしゃんはいちゅもやさしいよ!まりしゃたちにしゅーりしゅーりして、あんこしゃんがほんわかしゅるよ!ぺーりょぺーりょしてくれりゅよ!」 「ゆっ………」 「おそとであそべにゃくても、おうちでみんなゆっくちいっしょだよ!たのちいよにぇ!ゆっくちできてりゅよにぇ!」 長女まりさは、苦境にあっても明るく振る舞おうとした。 それは報われる。 「ゆ……そうなのじぇ!まりちゃたち、しゅごくゆっくちできてたのじぇ!」 まずは言い出しっぺの次女まりさが、涙を拭って笑顔になった。 自分が言い出したくせに、いい気なものである。 「ゆ~ん!そうだにぇ!れいみゅはゆっくちちたゆっくちだったにぇ!」 続いて長女れいむが泣きやんだ。 やや固いが笑顔になって妹たちにすりすりする。 「ゆっくち!ゆ~ん!れいみゅゆっくちちてきたよ!ゆっくち~!」 最後に次女れいむの顔に笑顔が戻った。 全員が明るい顔になれば、辛い状況でもゆっくりできる。 今お互いをゆっくりさせてあげられることは、すりすりすることだけだ。 せめて、それだけでもしてあげたい。 「しゅーりしゅーりだよ!しゅーりしゅーりでゆっくちできりゅよ!」 「しゅーりしゅーり!」 「ゆっくち~♪」 「ゆっくちなのじぇ~♪」 四匹の赤ゆっくりは巣の中で、楽しそうにお歌を歌いながらすーりすーりを繰り返していた。 いきなり巣の外で、ガサッと音がする。 「ゆぴっ!」 「ゆぴゃっ!」 突然の大きな音に、次女二匹は悲鳴を上げて硬直する。 れいむはもみあげを、まりさはお下げを逆立てていることから、相当びっくりしたらしい。 「にゃ……にゃんな…の?だれか……いりゅの?」 こわごわ長女まりさが外をうかがう。 長女れいむは小刻みに震えながら、空気の匂いをかぐ。 両親の餡子があったかくなるような匂いではない。 「おとうしゃん……じゃ…にゃいよ………にゃんだか、へんなにおいがしゅるよ………」 「きょわいよぉぉぉぉ…………」 次女れいむが長女れいむの陰に隠れる。 のっそりと、匂いの主が姿を現した。 ボサボサの不潔な体毛と、毛のない尾。 小動物でありながら、全身から獰猛な気配を放っている。 じろりと、その動物は巣で縮こまる赤ゆっくりたちをにらみつけた。 まだ若いドブネズミだ。 「ね……ねずみしゃんだあああああああああああ!」 「ゆんやああああああああ!」 「ねずみしゃんはゆっくちちてにゃいよおおおお!」 「れいみゅきょわいいいい!」 一斉に赤ゆっくりたちは、下半身から細く絞りこまれたしーしーを噴射して飛び上がった。 しーしーは止まらない。 あまりの恐怖に、赤ゆっくりたちの下半身は意に添わず失禁を続ける。 自分たちがしーしーを垂れ流していることさえも気づかず、赤ゆっくりたちは絶叫するだけだ。 ドブネズミは何かをくわえていた。 新しい獲物を見つけたからか、それを口から離す。 地面に落ちたそれは、まだ震えていた。 「ゆー………ゆー…………ゆっ…………ゆぁ…………ゆーぅ…………」 赤ゆっくりたちは、恐怖によって覚醒した意識でそれが何かをはっきりと理解した。 うめきながらこちらに這ってこようとしている。 片方の目玉はない。 もみあげは両方とも引きちぎられ、餡子が漏れている。 口からは自分の痛みと、助けてほしいという願いが一緒にうめき声としてあらわれている。 それは体を半分食べられながら、まだ生きていた赤れいむだった。 「「「「ゆっんびゃああああああああああああああああああああっっっ」」」」 生まれて始めてみるスプラッター映像に、赤ゆっくりたちは声が枯れるほど叫んだ。 驚異的に運がいいことに、四匹はドブネズミのランチになる運命は免れた。 「おぢびぢゃあああああああああああん!」 「ねずみさんはがえれええええええええ!」 まさにそのとき、カラスやハトの襲撃をかいくぐって両親が帰ってきたのだ。 まりさとれいむは最後の力を振り絞って、愛しい子どもたちを狙うドブネズミに飛びかかる。 幸運だったのは、ドブネズミはすでに赤れいむの家族を惨殺した後だったので、ほぼ満腹だったことだ。 もしも本気になれば、まりさの家族はあっさりと餡子と饅頭皮の物体に変わっていたことだろう。 ドブネズミはわめきながら突進するれいむとまりさを一瞥すると、素早く赤ゆっくりをくわえて姿を消した。 「おとうしゃああああああん!」 「おかあしゃああああああん!」 「まりちゃきょわかったのじぇええええええええええ!」 「ちーちーもらちちゃったよおおおおおおおおおおお!」 危険が過ぎ去ったことを理解し、赤ちゃんゆっくりたちは泣きながら両親に飛び込む。 生まれて始めて、「永遠にゆっくりするかもしれない」と思った。 死ぬかもしれない状況に直面することが、これほど恐いとは思わなかった。 「だいじょうぶだよ!だいじょうぶだからね!もうだいじょうぶだよ!ゆっくりできるよ!」 「ぺーろぺーろ!ぺーろぺーろ!ほら、おかあさんだよ!もうみんなあんしんだよ!」 まりさとれいむは顔中を口にしてわんわん泣く子どもたちを、何とかして落ち着かせようと努力する。 まりさは何度も何度も、「もう大丈夫だよ」と言い聞かせる。 れいむは一匹ずつ、心を込めると同時に急いでぺろぺろしてあげる。 「ゆっくちしちゃい!ゆっくちしちゃい!ゆっくりしちゃいしちゃいしちゃいしちゃいいいいいいいいいい!」 「ゆっくちできにゃいよおおおおおおおおおおおお!れいみゅゆっくちできにゃいいいいいいいいいいいい!」 「きょわいよおお!れいみゅしゅごくきょわいよお!きょわい!きょわい!きょわいきょわいいいいいいい!」 「ゆっくちできにゃい!ゆっくちちたいのにできにゃい!にゃんで!にゃんで!にゃんでにゃんでええええ!」 今までは、ちょっと痛い思いをしたりして泣いても、まりさが優しく呼びかけ、れいむがぺろぺろしてあげればすぐに泣きやんだ。 笑顔の絶えない一家だった。 けれども、今までとは桁が違う恐怖を味わった子どもたちは泣くのをやめられない。 引きつけを起こしたのか、四匹は巣で転げ回り、タオルに噛みつき、両親の顔に自分の顔をこすりつけて泣きわめく。 しーしーだけでなく、下痢気味のうんうんまでもがまき散らされる。 二匹は子どもたちの味わった恐怖がどれほどひどかったのかを理解し、心が痛んだ。 自分たちの味わった地獄と同じくらい恐ろしい思いを、おちびちゃんたちは味わったのだ。 「だいじょうぶだよ…。みんなだいじょうぶ……。まりさのだいじなおちびちゃんだよ……。だいすきだよ…………。だからゆっくりしようね…………」 「おかあさんがおちびちゃんたちをどんなことがあってもまもるからね……ゆっくりしていいよ……いっぱいゆっくりしようね…………」 まりさとれいむは届かないと分かっていながら、懸命に赤ちゃんゆっくりたちに呼びかける。 すりすりしても、ぺろぺろしても子どもたちは涙が止まらない。 我が子が苦しむのを見るのは、まりさにとって非常に辛いものだった。 家族が壊れていく。 あらゆるものからまりさたちは邪険にされ、ゆっくりできなくなっていく。 (まりさたちがなにをしたの?まりさたちがどんなわるいことをしたの?まりさたちはゆっくりしたいだけだよ。なのにどうしてみんないじわるなの?) まりさは誰かに問いかけた。 問いかけずにはいられなかった。 こんなことが許されるはずはない。ゆっくりできなくなるなんてことがあるあずがない。 そう思っていても、まりさの目の前の現実は何も変わることはなかった。 *** ゆっくりたちにとって嵐のような二週間が過ぎた。 ゆっくりたちの歴史の中で、これほど悲惨な十四日間はなかったのではないだろうか。 今まで食べていた草や昆虫はもう食べられない。 日光を浴びただけで体が焼ける。 見逃していてくれたカラスやネズミやネコは、恐ろしい天敵になった。 人間たちもこの変化に驚いている。 さすがに、ゆっくりの集団を襲う大量のカラスはインパクトがありすぎた。 市民からも「そろそろ我が街でもゆっくりの駆除をするべきではないか」という意見が寄せられてきたらしい。 今まで飼いゆっくりとそれなりに共存できていた野良だったが、ここに来て駆除という選択肢が姿を現し始めた。 あのカラスが飼いゆっくりを襲ったら。 もし人間の赤ん坊や幼児が巻き込まれたら。 次第に人々の目は、ゆっくりを危険なものとして見始めた。 俺はあのインタビューの後から、なぜかA主任の助手のようなことをしている。 「報酬あるから、ちょっと手伝って」とメールが来たのに応じて、カラスに食われそうになっていた一匹のれいむを研究所に届けたのが始まりだ。 A主任は、なぜゆっくりが突然鳥たちに襲われるようになったのか知りたかったようだ。 俺が届けたその日に、あっという間にれいむは解剖された。 『予想通りの結果だ。ドスまりさのゆっくりオーラがゆっくりではない人間に効果があるように、中枢餡が放つ超音波は他の生物に影響を与えていた。 これまで市販のネコ除けのようにゆっくりを動物から遠ざけていた超音波は、今となっては逆転している。 ゆっくりがいることを動物に知らせ、それを捕食させるようにし向けているかのようだ。寄生虫でもいるのか? カタツムリを中間宿主とするレウコクロリディウムについて知ってるかな。でも餡子にそんなものはいない。ウイルス?違う?何だこれは』 夜になってA主任から興奮気味のメールが届いたことからして間違いないだろう。 気になってそのレウコクロリディウムとかいうのをネットで調べてみたら、速効でグロ映像にぶち当たって鬱になったのは言うまでもない。 カタツムリの目玉が気持ち悪いイモムシみたいになってにょきにょき動いている映像は、どう見てもホラー映画のモンスターだ。 なんでも、この寄生虫は鳥の体内に移動するためにカタツムリを乗っ取り、鳥に食べられやすい場所に移動したり触角をイモムシみたいにするらしい。 生態からしてホラー映画に出ておかしくない。 A主任によると、ゆっくりはもともと中枢餡から人間に聞こえない超音波を出して、他の動物を遠ざけているらしい。 だから、あんなにか弱い饅頭生物でも野生で生きていけたのか。 でも、今カラスに襲われているゆっくりはその機能を失っている。 失ったどころか、逆に襲って下さいと言わんばかりに自分たちの存在を鳥たちに教えているのだ。 もしかしたら、自分たちを美味しい餌だとアピールまでしているかもしれない。 めちゃくちゃな話だ。 どの生物が、自分から殺されるように進化するだろうか。 逆に退化としても、もともと中枢餡は他の動物に襲われやすい信号を発していたが、進化の末に動物を遠ざける機能になっていたとでも言うのだろうか。 いくらゆっくりが思い込みの生物だとしてもおかしすぎる。 さらにA主任は俺に頼み事をしてきた。 今度は「この街のゆっくりの数を調べて欲しい」というものだった。 言われるがままに、俺はその日から一日中街を回ってゆっくりの数を研究員たちと一緒に数え続けた。 いったいA主任はどういうつもりなんだろうか。 データを報告してから、しばらくの間A主任から短いメールが断続して届けられた。 『この街のゆっくりの個体群密度は非常に高い。高すぎではないが、後一歩で高すぎる状態になる』 『野生のゆっくりが駆除される原因→数が増えすぎて人里の野菜を襲うから→結果的に間引きになる』 『ゆっくりに遺伝餡があることは知ってるよね。まだ全部が解明されていないけど』 『ゆっくりを生物として見ないで細胞として見ろというのか?』 『野生のゆっくりは行ったこともない加工場を恐れる。これはゆっくりが深層意識を共有しているという説がある』 『違う違う。中枢餡からの超音波で会話しているんだよ。「かこうじょはこわいよおお」という断末魔の悲鳴を聞いているんだ』 『どっちでもいいや。とにかく、これでこの街の野良ゆっくりが対象になったことは説明できる』 『飼いゆっくりと野良ゆっくりの間の溝は、やがて通常種と希少種の間の溝に匹敵する深さになるに違いない』 『出産制限をしない群れは指数関数的に子孫を増やしてあっという間に飽和状態になる』 『ゆっくりは個体群密度の上昇に危機感を抱かない。むしろ増えれば増えるほどゆっくりできると思いこんでいる。餌が枯渇するその瞬間まで』 『ガイアがゆっくりに囁いている。いや違う。ガイアじゃない』 相当A主任は研究に没頭しているようだ。 俺のケータイをツイッター代わりにしているんじゃないのか、この人? 日を追うに従ってA主任のメールは意味不明になっていく。 最後のガイアなんて、ゆっくりと何の関係もないと思うんだが。 『2001年7月12日付の○○新聞を見た?』 こんなまともなメールも届いた。 言われるがまま、俺は図書館で資料を漁ってみる。 そこにはこんな見出しと記事が掲載されていた。 「F市のN川にゆっくりが大量投棄?」 読み進めてみると、県境に位置するF市を流れるN川河畔に、前日から大量のゆっくりの飾りが流れ着いていると書いてある。 F市はN川の上流に位置する隣県のM市が、ゆっくり駆除の名目で川に投棄したのだとして、しっかり抗議すると息巻いていた。 M市という名前と、この日付には見覚えがあった。 たしかM市は、ゆっくりんピースが「全国初の完全ゆっくり保護市」を一方的に標榜して大々的な野良ゆっくりの保護を行った市のはずだ。 市民の無関心をいいことに、善人気取りのゆっくりんピースは野良ゆっくりに餌付けをし、段ボールハウスを作り、公園をゆっくりのコロニーに変えた。 家の花壇を食い荒らしたゆっくりを殺しただけで、その家に抗議のビラが届けられたという話も聞いたことがある。 さぞかし、甘やかされた野良ゆっくりたちは子どもを次々に産んで増殖したことだろう。 この街を上回る量のゆっくりが道路を闊歩する様子を、俺は想像した。 何とドスまりささえ、市のど真ん中で誕生していた。 市のゆっくりすべてを群れのメンバーとしたドスと、ゆっくりんピースのメンバーが嬉しそうに写っている写真はあちこちで公表されていた。 M市がゆっくりを駆除するはずがない。あそこの市長はゆっくりんピースから支援されていたはずだ。 騒動の結末を知りたくて俺はさらに調べたが、その結果に唖然とした。 M市そしてゆっくりんピースからの、F市の抗議に対する回答はなされていなかった。 M市のゆっくりんピース支部長が、児童買春の疑いで逮捕された記事が代わりに載っていただけだ。 そこから先はネットの出番だ。 データを漁ると、次々と流言飛語が出てくる。 「ゆっくりんピースの支部が置かれていたビルは暴力団の所有していた物件だった」 「支部長は暴力団から寄付金を受け取っていた」 「ゆっくりんピースの幹部たちは寄付金を流用して風俗に通っていた」 「加工場の陰謀でドスは暗殺された」 「児童買春じゃないよ!ゆうかにゃんだからノープロブレムだよ!どぼじでわがらにゃいのおおおおお!」 口さがないものたちは針小棒大に、どうでもいいことを吹聴する。 ゆっくりんピースは都合が悪くなったため、口を閉じてM市から逃げるように撤退した。 M市の市長本人はゆっくりに関心がなかったらしく、F市の抗議に何かした記録はない。 そのため、F市に流れ着いた大量のゆっくりの飾りが何だったのかは分からずじまいだった。 『君は齧歯類に死生観があると思うかい?ネズミが自分で死のうとするわけないじゃないか!』 完全に俺のケータイをツイッターと勘違いしているメールを最後に、A主任からの連絡は途絶えた。 俺は、A主任が何を考えているのか完璧に分からなくなった。 俺はゆっくりを生物学的にどうこう言える立場じゃないし、A主任が正しくても間違っていても別にいいと思ってる。 日陰で縮こまる、やせ細ったゆっくりたちを俺は録画していく。 怯えきった顔ばかりだ。 排気ガスとゴミで汚れて萎びかけた饅頭となったゆっくりたちは、一匹残らずゆっくりしていない。 生きるためのあらゆる手段が、退化によってことごとくふさがれたゆっくりたちだ。 「おにいさん……ごはんをください…………れいむたちに……ごはんをめぐんでください…………」 「まりさは…なんでもたべます…………。きたないなまごみを………まりさにたべさせてください………」 ずりずりと這って、れいむとまりさの番が俺に近づいてきた。 俺は日なたにいるから、一定の距離以上は近づけない。 乾燥して潤いのなくなった白玉の目が、俺を最後の希望として見つめている。 衰弱しきったゆっくりたち。 もうじき死ぬだろう。 「まってください……まってください………おねがいです………おねがいです…………」 「ゆっくりさせてください………ほんのちょっとでいいんです……ゆっくりしたいんです………」 俺はその顔をアップで撮ってから、脇をすり抜けて歩き出した。 蚊のような哀願が後ろから聞こえてきたが、どうせすぐに死ぬ。 助けるだけ無駄だし、飢えた野良をいちいち助けていたら俺は三日以内に破産する自信がある。 ゆっくりにこだわっている限り、野良ゆっくりは幸せになることはないだろう。 だが、野良ゆっくりから最大の幸福であるゆっくりすることを捨てさせることは不可能だ。 「じゃあ、野良ゆっくりは絶対幸せになれないじゃないか」 俺は自分の至った結論にぞっとした。 ゆっくりに生まれなくて本当によかった。 もし死んで、来世でゆっくりに生まれ変わったらと思うとぞっとする。 こんな歩く死亡フラグに前世の記憶を残して生まれたら、その場で頭かち割って死んでやる。 「おねがいじまず!おねがいじまず!ありずのがわいいおぢびぢゃんをだれががっでぐだざい!どっでもどがいはでず!ゆっぐりじでまず!」 貸店舗の前で、一匹の野良ありすが顔を涙とよだれでぐしゃぐしゃにして通行人に訴えている。 きっと、赤ありすか子ありすが度重なる心労と飢餓で死にかけていることだろう。 せめて子どもだけでも助けてほしいと、ありすは人間に懇願している。 「おねえざん!ゆっぐりじだおぢびぢゃんをみでぐだざい!ぎっどぎにいりまず!ずごぐゆっぐりでず!」 ありすは一人のOLの前に立ちはだかってわめいた。 彼女は無視して通り過ぎる。 熱意は伝わるのだが、あまりにもありすの懇願は一方的だ。 ただ「おぢびぢゃんをがっでぐだざぁい!」と叫ぶだけなら、餌をたかっているのと大差なく扱われて当然である。 「おにいざんだぢ!おねがいでず!ありずのいっじょうのおねがいでず!ありずのおぢびじゃんをもぢがえっでぐだざい!ごのどおりでず!」 ありすはあきらめなかった。 今度はちょっとガラの悪そうな若者三人組に土下座する。 泣きながら顔をアスファルトにぶつける姿を目にして、若者たちはげらげら笑ってありすをからかった。 「おいおいおいおい!何言ってんだよゆっくりの癖によお」 「一生のお願いです、だってよ。どーせ毎日そんなこと言ってんだろ?あぁ?」 「ぢがいまず!ぢがいまず!ぢがいまずうううううううう!いっじょうのおねがいでず!ありずのいっじょうのおねがいなんでずううううう!」 「ハイハイ。お前が何回土下座したって無駄なの。興味ねーから」 口は悪いが、若者たちの言っていることには一理ある。 ゆっくりが「いっしょうのおねがいです」と言ってきたところで信じられるだろうか。 昨日のことさえ忘れるゆっくりの言うことは当てにならない。 「お前の餓鬼なんか飼って俺らに得あんの?ねーだろ常識的に考えて」 「ありまず!ありまず!いっばいありまず!」 「だってよ。おいF、飼ってやれよぉ」 もしかしたら飼ってくれるかも、とありすの目が輝く。 F、と呼ばれた若者は慌てて否定した。 「はぁ?冗談きついって。なんで俺が飼わなきゃなんねーわけ?」 「おぢびぢゃんがいっじょだどゆっぐりでぎまず!どっでもどがいはでず!じあわぜーになりまず!だがらがっでぐだざいいいいいいい!」 急に、それまで意地悪そうに笑っていたFの顔が不機嫌なものになった。 「馬鹿抜かしてんじゃねーよ。そんなにゆっくりできて都会派で幸せだったらさあ、何で母親のお前がゆっくりしてなくて都会派じゃなくて不幸せなんだよ」 「ゆ?ゆゆう?ゆぶぶぶううううううううう!?」 ありすは無様な声を上げてぴたりとお願いを止めた。 正論である。 子どもを飼ってゆっくりできるなら、今子どもを抱えているありすがゆっくりしているはずだ。 現実は一目瞭然である。 涙とよだれでべたべたに汚れ、血走った目とぼさぼさの金髪のありすがゆっくりしているはずがない。 「あはははははっ!Fってばすっげー頭冴えてるって。マジ天才」 「ははっ!はははっ!固まってんよこいつ。どーせ図星なんだろ」 言い返すことができず、ぶるぶる震えながら硬直するありすを、残る二人はこれでもかとあざける。 「あーあー、嫌なもん見ちまった。行こうぜ」 「ああ。俺は家族を大切にしない奴は大っ嫌いなんだよ。じゃあな」 軽蔑の視線をありすに浴びせてから、Fは先を行く二人に追いつこうと足を早める。 取り残されたありすは、もくろみがおじゃんになったことを理解して絶叫した。 「ゆがあああああ!まっでぐだざい!まっで!まっでまっでまっでえええええええええええ!」 俺はありすに近づいた。 ちょっとこのありすの子どもに興味がわいたからだ。 どうせ死にかけた赤ありすだろうが、必死な親ありすと瀕死の赤ありすという組み合わせはいい被写体になる。 都会の野良ゆっくりを象徴する姿だからだ。 「おにいざん!すでぎでどがいはなおにいざん!おにいざんはがわいいおぢびぢゃんをがっでぐれまずよね!ぐれまずよねええええ!?」 ありすは懲りずに、俺を見つけるとぼよんぼよんと跳ねてきた。 動きからして不気味なゆっくりになっている。 「とりあえず、その子どもはどこにいるんだ」 俺の言葉に、ありすは長い舌を口から振り回し、がばっと天を仰いで叫んだ。 「どがいばあああああああああああ!どがいばっ!どがいばっ!ありがどうございまず!ありずはじあわぜええええええでず!」 俺はありすの子どもを飼う気など毛頭ない。あるはずがない。 ただ、子どもを見るだけだ。 ありすにとって、子どもに興味を示してくれた人間は俺が最初のようだ。 「ごっぢでず!ごっぢにがわいいおぢびぢゃんがいまず!ゆっぐりみでがらがっでぐだざい!」 ありすが俺を案内した先は、汚い路地裏にあるポリバケツの裏だった。 不潔な野良ゆっくりのすみかとしては、テンプレのような場所だ。 近づくにつれて、何だか妙な声が聞こえてきた。 「ぎっ……………ゆびょ………………びゃびゅ………………」 「びぇー………………ゆぶ………………ぱぶぃ………………」 ゆっくりの声らしいが、気持ち悪い声で鳴くものだ。 子ゆっくりの喋り方ではないし、赤ゆっくりの舌足らずな口調とも違う。 耳にするだけで不快になってくる。 「おちびちゃんたち!ままがかえってきたわよ!それにすてきなおにいさんもいっしょよ!」 ありすは先ほどまでの濁りきった声とは裏腹に、ごく普通の親ゆっくりのような顔と声で巣に呼びかける。 反応はない。不気味なうなり声が聞こえてくるだけだ。 「もう、おちびちゃんったらてれやさんね!でもすごくとかいはよ!」 ありすの場違いな物言いの後に、ようやく子どもたちは姿を現した。 びょんびょんと体を不規則に揺らせて、二匹の赤ゆっくりがポリバケツの裏から飛び出してきた。 二匹は出てくるなり、壊れたおもちゃのようにあらぬ方向を勝手に跳ね回る。 「ゆぎぇーびべーぢょ!べべゆびゃーびぇばーびゃ!」 「びびっぢぇ!ぢぇびー!ゆばーぎゅばー!」 俺は耳を疑った。 目の前には二匹のゆっくりがいる。 ゆっくりの口から、その音は聞こえたはずだ。 だが、俺はこんなに奇怪なゆっくりの声を聞くのは初めてだった。 「おちびちゃん!そっちはあぶないわよ!ほら、ちゃんとごあいさつしましょう?おにいさん、ゆっくりしていってねっていいましょうね」 ありすは白々しいまでに、ゆっくりした母ありすの役を演じている。 ありすには分かっているに違いない。 人間がこれを見て、ゆっくりした楽しい気分になることが絶対ないことを。 知っていてなお、ありすは図々しくそ知らぬ顔をする。 「ゆげっぐぐっぐ!ぎぇぢぇゆびー!ゆっぎぢ!ゆっぎぢ!ゆぎぇー!」 「ぢぇぱ!ぢぇゆばぁ!ゆーびぢゅー!ぶびーっ!ぶゆびぃいいいいい!」 ありすの二匹の子ゆっくりは異常なゆっくりだった。 かろうじて、一匹はれいむ、一匹はありすだと分かる。 いびつで所々が変に出っ張った体をしている。 壊れたバネのように、跳躍の仕方はでたらめでまっすぐ進まない。 饅頭皮のてっぺんに、雑草のような黒と金の髪がくっついている。 ありすの方はカチューシャらしきものがついているだけだが、れいむはリボン以外に貧相なもみあげのようなものをぐるぐると振り回している。 何よりも異常なのはその顔だった。 異様に大きな両目は白目の割に黒目がありえないほど小さく、右目と左目は別々の方向を見ている。 小さな口はだらしなく開かれ、細い舌と不揃いの歯がむき出しだ。 「おにいさん!すてきなおにいさんとであえてありすはしあわせよ!とかいはなおちびちゃんたちをおねがいね!いっぱいしあわせーにしてあげてね!」 ありすは一部始終を目にしていたはずだ。 親であるからには、二匹がどんな存在か分かっているはずだ。 しかし、ありすは俺に二匹を飼うように言ってきた。 二匹の異常を無視し、俺に押しつけようとしてきた。 「どうしたの?やくそくしたでしょ?おちびちゃんをかってくれるんでしょ!おにいさんとかわいいおちびちゃんでとかいはになってね!」 ありすはさらに畳みかける。 何でもいいから、俺にこいつらを渡そうという気が手に取るように伝わってくる。 優しくてゆっくりした母親の顔をしながら、内心は何としてでもお荷物をやっかい払いしたくて仕方がないのだ。 「いつ、俺が約束したんだ」 「ゆぅう!?」 「いつ、俺がお前の子どもを飼うなんて約束したんだ。俺は、どんな子どもか見たいっていっただけだ」 俺の発言は当然だろう。 俺は「子どもを見せてくれ」と言っただけで、「飼う」なんて一言も言っていない。 勝手に俺が子どもを引き取ると思い込んでいたありすは納得しなかった。 ありすはショックを受けた様子で固まっていたが、すぐに顔中を口にして口汚く叫ぶ。 「う……うぞだああああああああ!ぞんなのうぞだ!やぐぞくじだ!やぐぞくじだあ!おぢびぢゃんをひぎどるっでやぐぞくじだああああああ! ごごまでぎだのに!おぢびぢゃんみたのに!なんでいまざらがわないっでいうんだああああああ!うぞづぎにんげんがああああああああああああ!」 ありすは今までの取り繕った母ありすの顔から、下品なゲスありすの顔に豹変した。 俺はもう冷めていた。 ばかばかしいゆっくりの芝居につきあわされた気分だ。 さっさと写真だけ撮って帰ろう。 「そこまで言うんだったらそうなんだろうな。お前の思い込みだけどな」 「はやぐ!はやぐ!はやぐじろおおおおおおおお!おぢびぢゃんをひぎどれ!がえ!がえ!がえがえがえ!がえええええええええ!」 「嫌だね。うちはペット禁止なんだ。それに、野良なんて飼ってもいいことないって決まってるんだ」 俺がなによりも嫌だったのはありすの態度だ。 浅知恵というべきか腹黒いと言うべきか、とにかく気に食わない。 「ごんなおぢびぢゃんなんがありずはぞだでられまぜん!がわりにおにいざんがぞだででぐだざい!」と言われた方がよほどよかった。 ありすも子育てに苦労しているんだ、という気持ちは理解できたからだ。 このありすがしたことは違う。 異常なゆっくりを「ゆっくりしてとかいはでしあわせーになれるおちびちゃん」と偽って、俺を連れてきたのだ。 本当は追い出したくてたまらないのに、表向きは「立派な母ありす」を演じて善良ぶるその性根の悪さ。 しかも、化けの皮がはがれればただわめくだけ。 子どもを捨てられる機会を失ったことで、ありすは逆ギレした。 「いながもののぐぞがああああああああああ!じねええええ!ありずにぎだいざぜでおいでうらぎっだぐぞじじいはじねええええええええええ!」 俺は飛びかかったありすにカウンターで蹴りを食らわせた。 「ゆぎゃびぃっ!」 ありすは壁に激突し、ごろごろと日なたに転がり出た。 たちまちありすの体が日光で焼かれる。 「あがああああああああ!いだいっ!いだい!いだいいだいいだいいいいいいいいいいい!」 向こうでじたばたともがくありすを無視し、俺はデジカメで異常なゆっくりたちを撮影した。 れいむもありすも、親が痛めつけられているのにまったく関心を払わない。 「びょびりぃぃぃぃぃいいいいい!」 いきなりれいむの方が目玉をぐるぐる回しながら、奇声とともにあにゃるからもりもりと排泄し始めた。 「びげげげっっ!ゆぐぐぶぢぇっ!」」 ありすの取った行動は異常だった。 盛り上がっていく餡子のうんうんに顔を突っ込むと、やはり奇声とともにうんうんを食べ始めたのだ。 「ゆぢぇー!ぢぇぇえええええ!ぢぇぶううううう!」 「ゆぐぢぇ!ゆぐぢぇーぢぇ!ばびぇっぢりばびっ!」 排泄を終えると、れいむも一緒になってうんうんを頬張っている。 おそらく二匹は口に入るものなら何でも食べるのだろう。 うんうんを平気で食べる様子を見れば、ゆっくりが嫌がる腐ったゴミでも食べるのが想像できる。 ありすとは裏腹に、異常な二匹は弱っているようには見えない。 そもそも、どうしてありすは二匹を捨てなかったのだろうか。 親の愛情からか?たぶん違うだろう。 きっと、ありすは子どもを捨てたり殺したりすることで「とかいはなははおや」でなくなることが嫌だったのだ。 たぶん、他のゆっくりから「ありすはゆっくりできないおちびちゃんをそだててえらいね」と言われたのだろう。 もしかしたら「おかあさんのありすはすごくとかいはだよ」とまで言われたのかもしれない。 ありすは周りの評価を失いたくなかったのだ。 二匹を捨てたり殺したりして、「とかいは」と呼ばれなくなるのは避けたかったのだ。 自分で殺せば死臭が付くし、謀殺してもどこでほかのゆっくりが見ているか分からない。 人間に飼われてしまえば、都会派のままでいられる。 何としてでても、人間に押しつけなくてはいけない。 俺は数枚写真を撮ると、きびすを返して路地裏から出ていった。 もう、ありすたちには用はない。 後ろで正気に返ったありすが叫んでいた。 「ああああああああ!ごべんなざい!ひどいごどいっでごべんなざい!ありずはおがじぐなっでまじだ!ゆっぐりじでながっだんでず!」 さっきまでのことは許してくれ、と言っている。 どうでもいい。 俺が振り返らないからか、ありすの声はどんどんでかくなり、上擦っていく。 「ゆっぐりいいいいいいいい!いがないでぐだざい!だずげでぐだざい!ありずはゆっぐりじでないんでず!ゆっぐりじだいのに! ゆっぐりじだい!ゆっぐりじだい!ぜんぜんゆっぐりでぎない!ゆっぐりなんでない!どごにもない!どごにもないいいいいいい! あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙ん゙!ひどい!おがじい!ごんなのおがじい!ゆっぐり!ゆっぐり!ほじい!ゆっぐりほじい! ゆっぐりがほじいよおおおおおおおおおおおお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」 結局ありすの本当の願いは、自分がゆっくりしたいことであって子どもを飼ってもらうことではなかったのだ。 ゆっくりがほしい、とありすはわめき続けている。 どれだけ望んでも、もうゆっくりたちにゆっくりする方法は見つからないだろう。 *** 悪臭で満ちた側溝の中で、れいむは目を覚ました。 「ゆっくり……あさだよ。おはよう…。ゆっくりしていって……ね………」 弱々しいれいむの声は、後ろに行くに従ってさらに小さなものになる。 それは独り言であり、れいむに応えるゆっくりなどどこにもいないからだ。 れいむの隣に、番だったありすの死体がある。 野良として生き抜いたありすの体は、ややしぼんでいてもいまだにれいむより二回りは大きい。 あちこちにかじられた痕跡があり、カビの生えた中身は五分の一ほどしか残っていない。 ありすの死体はあちこちに乾いたカスタードをこびりつかせ、ぴくりとも動かない。 「ありすぅ…ゆっくりしようね……ねえ、ゆっくりしていってね………ゆっくりしようよ」 れいむは死臭の塊となったありすにすりすりした。 自分のリボンと髪に死臭が染みつくのもおかまいなしだ。 もう、そんなものを嫌がる精神はとっくの昔に死んでいる。 「おちびちゃん…………」 れいむの目が動き、自分の後ろにあった三つの残骸を見る。 仲良く並んでいるのは、三つの干涸らびた饅頭だ。 ありすが一匹。れいむが二匹。 どの赤ゆっくりも、餓死したのが表情ですぐに分かる。 三匹の赤ゆっくりの顔は、干涸らびてはいるが苦悶で歪みきっていた。 最後の瞬間までゆっくりできないで、苦しみながら死んだのがよく見て取れる。 飢えて死んだ子どもたちをよそに、れいむだけはのうのうと生き延びた。 日光に追われ、ありすとれいむの家族が逃げ込んだのはこの側溝だった。 環境の変化に慣れる暇もなく、ありすはカラスに襲われて中枢餡に傷を負い、れいむの看護も空しく死んだ。 残されたれいむは、元飼いゆっくりだったこともあって餌を見つける才能はゼロだった。 飢えた子どもたちが泣き叫び、れいむはそれをどうすることもできずに見ていることしかできない。 人間に餌をたかることさえろくにできないれいむが行った最終手段は、番の死体を食らうことだった。 死んだありすの皮を食い破り、中の酸っぱいカスタードをずるずると啜った。 空腹のれいむは叫ぶ。 「じぇ!じぇ!じぁ!じあわじぇええええええへへへへへっっっ!」 うまかった。かつて飼いゆっくりだった時に食べたどんなあまあまよりも甘くて美味しかった。 涙を流してゆっくりできない自分に嫌悪しながら、れいむは久しぶりに満腹になった。 生きてゆっくりするためだ。れいむはありすの死体を食べるように、子どもたちに勧めた。 子どもたちは一匹残らず、それを拒否した。 「やじゃぁ……おかあしゃん…たべりゅのやじゃぁ…………」 「ゆっくちできにゃいよぉ………しょんなの…たべちゃくにゃい…………」 「おかあしゃん…おかちいよぉ……。どうちて…おかあしゃん…たべちぇへいきにゃの?」 子どもたちにとっては、死してなおありすはお母さんだった(まりさとは違い、ありすもれいむもどちらも「おかあさん」である)。 それを空腹になったからといって、食べることはできなかった。 どんなに勧めても、泣いてお願いしても、子どもたちは頑として死体を食べなかった。 口移しでカスタードを食べさせようとしたが、子どもたちは固く口を閉じて首を振る。 れいむの目の前で、三匹のおちびちゃんは苦しみながら衰弱していった。 れいむが死ぬのが恐くて番の死体をくちゃくちゃと噛み砕く横で、子どもたちは徹底的に苦しんで息絶えた。 残ったのは、無能なれいむだけである。 「みんな…いなくなっちゃったよ………。れいむ……ひとりぼっちだよ………」 罪悪感がれいむを苦しめる。 どんなにゆっくりしていた日々を思い出そうとしても、必ずありすが子どもたちを引き連れて妄想の中に乱入するのだ。 ありすは変わり果てた顔で、れいむの所業を罵る。 干涸らびた子どもたちは、じっとその様子をゆっくりできない顔で見つめる。 「れいむは……ゆっくりしてないよ…………。ゆっくりなんか…なくなっちゃったよ…………」 誰からも相手にされず、誰からも罰せられることもないれいむは、捨て鉢になって日なたに這い出した。 もうどうでもよかった。 死ぬのが恐くて番の死体を食べてまでして生きようとしたが、ゆっくりできない今となっては生きる意味もない。 「あ゙ぁぁあ゙…………!あづい……!あづいよぉぉおお……」 他の生物にとっては恵みとなる日光は、ゆっくり限定で苦痛の洗礼となる。 饅頭皮がまんべんなく炙られる痛みに、れいむは身を震わせた。 これが現実だ。 ゆっくりには苦痛に満ちたゆん生しか残されていない。 逃げ場はない。 「れいむは………ゆっくりしたいよぉ…………」 叶わぬ願いをれいむは口にする。 「でも……ゆっくりなんか、どこにもないよ………」 れいむは目を開けた。 直射日光はれいむの目を焼き、たちまち視界が異常な白に塗り潰されていく。 あまりの痛みに、自分が涙を流していることさえ分からない。 「ゆっくりしたい……ゆっくりしたい……ゆっくりしたい……ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり……ゆっくりいいいいい!!」 言葉を忘れ、れいむは唾を飛ばしてゆっくりと叫び続ける。 それしか、れいむには残っていない。 れいむは、ほかの言葉がもう思いつかなかった。 「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぐり!…………ゆっくちぃいいいいいいいい!!」 れいむの声のトーンが突然跳ね上がり、口調が赤ゆっくりのような舌足らずなものになる。 声を出していたれいむの顔が変わる。 両目から感情がなくなり、顔が痴呆のようになる。 れいむは非ゆっくり症を発症したのだ。 ゆっくりできないゆっくりがストレスのあまり発症する病気を、ついにれいむは発症した。 「ゆっくち!ゆっくち!ゆっくち!ゆっくち!ゆっくちゆっくちゆっくちゆっくちいいいいいい!!」 れいむは自分の異常に気づいた。 だが、もうそれを表現することができない。 もはやれいむにできるのは「ゆっくち!」と叫びながら出鱈目に跳ねることのみだ。 あちこちから、同様の叫びが聞こえてきた。 ゆっくりできないゆっくりなど、この街に掃いて捨てるほどいる。 それらが一斉に非ゆっくり症を発症したらどうなるだろうか。 「ゆっぐぢいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」 俺は叫び声で目が覚めた。 作業中にいつの間にか寝てしまったようだ。 「うわっ!……なっ!なんだ!なんだあ!?」 飛び起きるとキーボードがよだれで濡れている。 「ゆっくち!ゆっくち!ゆっくちぃ!」 「ゆっくちぃ!ゆっくちぃ!ゆっくちぃいいいいい!」 「ゆっぐぢ!ゆっぐぢ!ゆっぐぢゆっぐぢゆっぐぢゆっぐぢぢぢぢぢぢっ!」 とりあえずパソコンをシャットダウンし、俺は窓のカーテンを引いた。 外では不気味に跳ね回りながら、三匹のゆっくりが叫んでいた。 見事にれいむ、まりさ、ありすの三種類がそろっている。 「ゆっくちぃ!ゆっくち!ゆっくち!ゆっくちゆっくち!ゆっくちいいいいいいいい!」 俺に気づいたのか、れいむがぴょんぴょん跳ねて窓際に立つ俺に近づいてきた。 だが、れいむの口からテンプレ通りの飯をたかる言葉が聞こえてこない。 代わりにひたすら「ゆっくち!」とれいむは叫ぶ。 叫ぶ度に苦しいらしく、れいむは目をぎょろぎょろと動かして苦痛を訴える。 「非ゆっくり症……か?」 あまり見たことはないが、ゆっくりしかかからない特殊な病気だということくらいは俺も知っている。 多大なストレスを長期的に感じたゆっくりがかかり、発症すると「ゆっくち!」と赤ゆっくりのような声で昼夜を問わず叫び続ける。 最終的に衰弱死するまで「ゆっくち!」は止まらず、理性さえも失って狂ゆになるらしい。 「ゆっぐぢ!ゆっぐぢ!ゆぐぢ!ゆぐぢ!ゆぐぢ!」 「ゆぢいいいいいい!ゆぢい!ゆぢい!ゆっぢいいいいい!」 「ゆっくち……ゆっくち……ゆっくち……ゆっ…く…ち…」 「ゆっっっっぐぢいいいいいい!ゆっぐぢ!ゆっぐぢ!ゆっぐぢ!ゆっぐぢいい!」 外に出てみると、道路には既に何匹かのゆっくりが姿を現していた。 時刻は朝の七時。朝の遅いゆっくりにしてはずいぶんと早起きだ。 しかし、一匹残らずそのゆっくりは非ゆっくり症を発症していた。 発狂したかのように唾を飛ばしてわめくもの。 虚ろな目でぼそぼそと呟くもの。 涙を流しながら訴えるように叫ぶもの。 耳を澄ませば聞こえてくる。 街のあちこちから沸き上がる「ゆっくち!ゆっくち!」「ゆっくちぃいい!」というゆっくりの叫び声が。 食性、日光、捕食者、ありとあらゆる方法で自然はゆっくりをゆっくりさせなくなった。 この八方塞がりの状況は、ゆっくりにとってものすごいストレスなのだろう。 今までは、辛い状況でも耐えることができた。ゆっくりは何だかんだ言って野生動物だからだ。 けれども、ゆっくりは退化してしまった。もう、野生動物として生き抜く力を失ってしまった。 そういう風に考えることもできる。 生きることそれ自体がストレスの中、非ゆっくり症を発症してもおかしくない。 こうしちゃいられない。 俺は家に駆け戻った。 公園に行こう。あそこなら沢山ゆっくりがいる。どんなゆっくりの姿が写真に撮れるだろうか。 (続く)
https://w.atwiki.jp/83452/pages/7200.html
憂「」ジー 和「・・・」モグモグ 憂「」ジー 和「・・・」モグモグ 憂「」ジー 和「・・・ねぇ、憂?」 憂「何?」 和「そんなに見られてると食べ辛いわ。それと何より、憂も食べなさい」 憂「だって、和ちゃんが美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて」 和「憂も一緒に食事してくれたら、私はもっと美味しくいただけるわ」 憂「そうだね、じゃ私も・・・あ、和ちゃん」 和「何かしら?」 憂「あーん」 和「」 和「はい?もう憂ってば・・・」 憂「あーん!」 和「・・・はい、憂の作った特製唐揚げよ」 憂「んっ!美味しい!美味しいよ、和ちゃん!」モグモグ 和「作ったのは、憂だけどね」 憂「和ちゃんが食べさせてくれたからだよー」 和「はいはい」 憂「はい、じゃあ次は私ね。ほら、あーんして?」 和「・・・何言っても無駄よね。あ、あーん」 憂「はい!」 和「ありがと・・・」モグモグ 憂「美味しいー?」 和「・・・当然よ」 憂「美味しかったね」 和「公共の場所でこんなことやるなんて、途中から私は恥ずかしくて仕方なかったわ」 憂「でも道行く人も微笑ましそうに見てたよ?」 和「まぁ他にやってるカップルも居たけど・・・それにスキンシップと言えばそう見えなくもないとは思うわ」 憂「次はどこに行くの?」 和「私、服を見に行きたいんだけど」 憂「じゃあそうしよう!」 和「ここならいいかな」 憂「可愛い感じのが多いね」 和「さて、私もぬいぐるみを受け取ったし駄目とは言わせないわよ?」 憂「え?」 和「ここには、憂の服を買いに来たの」 憂「私!?」 和「そうよ、憂っていつもパンツルックじゃない?」 憂「あーうん、そうだね」 和「だから私は、憂のスカートとかワンピース姿が見たいのよ」 憂「わ、私はそういうのいいよ!」 和「良くない!私が見たいの!」 憂「えー・・・」 和「今日私が買ったの、次のデートに着てきてね」 憂「あっ!もう既に選び始めてる!?」 和「何だかんだ言って憂が私のお願いを断る訳が無いもの」 和「これ良いわね、きっと憂に似合うわ」 憂「えー、こういう如何にも可愛らしい感じのワンピースはお姉ちゃんとかが似合うのであって私は・・・」 和「貴方達、そっくりじゃない。ほら、つべこべ言わず試着しなさい」 憂「うぅー、和ちゃんが強引だよー・・・」 和「着替えたー?」 憂「うん、着替えたけど・・・」 和「じゃ、開けるわよ」シャー 憂「ど、どう?似合ってる、かな・・・?」 和「・・・」 憂「和ちゃん・・・?」 和「いい!すごく可愛いわ、憂!」 憂「本当?」 和「本当よ、次のデートはこれ着てきなさいね」 憂「・・・うん、和ちゃんに選んでもらえたのが嬉しいから、そうするよ」 和「納得してもらえて良かったわ、じゃあ会計しちゃいましょう。また着替えちゃって」 憂「はーい」 和「憂に似合うのが見つかって、良かったわ」 憂「ありがとう和ちゃん、結構高かったのに・・・」 和「お互い様よ、私も嬉しかったしね」 憂「・・・そうだね。お互い好きだから、いいんだよね」 和「そういうことよ。あとは、澪に美味しいケーキ屋さん教えてもらったからそこに行かない?」 憂「うん、じゃあそこに行こうよ」 憂「あ、本当に美味しい」 和「本当ね、流石澪達御用達だわ」 憂「達?」 和「律と一緒によく来るらしいわ」 憂「あ、そういうことなんだ・・・じゃあ、そのうちお二人に会うかもしれないね」 和「うん・・・そのことなんだけど」 憂「何?」 和「澪達には私達のこと、話してもいいかしら?」 憂「いいと思うよ、軽音部の皆さんは信用できるもん」 和「まぁ、本人達もそうだしね」 憂「それに、梓ちゃんと純ちゃんはもう知ってるの」 和「そうだったの?」 憂「うん、そもそも純ちゃんが私に行けって言ってくれてね・・・」 和「そうなのね・・・まぁ憂が信用してる子達なら大丈夫でしょう」 憂「うん」 和「・・・」 憂「・・・」 和「あっという間ね・・・」 憂「そうだね、もう夕方だもんね・・・」 和「憂と一緒だと、こんなに時間の流れって早いものなのね」 憂「私もびっくりだよ」 和「・・・ふふ、それじゃそろそろ帰りましょうか。今日は、遅くなるって言ってないしね」 憂「うん・・・そうしよっか」 憂「・・・何か」 和「・・・うん」 憂「名残おしいね」 和「そうね」 憂「でも、またすぐにでも逢えるもんね」 和「そうね、毎日だって逢えるわ。お互いがそれを望めば、いつだってね」 憂「うん!そうだね!」 和「あっという間に、平沢家ね」 憂「そうだね」 憂「ねぇ、和ちゃ・・・」 チュッ 和「さよならのキス・・・違ったかしら?」 憂「・・・うん、違うよ。『さよなら』じゃなくて、『またね』だもん」 和「そうね・・・その方がいいわね」 憂「でしょ?・・・じゃあね!和ちゃん!またね!」 和「うん、またね。唯によろしくね」 こうして、私達の初めてのデートは終わりました。 不思議だな。 私はこんなにも和ちゃんが好きで、これ以上好きになんてなれないと思ってたのに。 こうやって和ちゃんと逢う度に、もっともっと、どんどん和ちゃんのことが好きになっていっちゃうよ。 でも、それでいいんだよね?和ちゃんもきっと、同じ気持ちなんだから― ―翌月曜日 憂「でねー、和ちゃんったらねー」ニコニコ 純「あはは、もうすっかりラブラブなんだね。本当上手くいって良かったよ」 梓「すっかりバカップルだね、甘々すぎて砂吐くよ」ザー 憂「えへへ?そう?」ニコニコ 純「梓の砂にも、全く動じてないね」 梓「幸せすぎて気にならないんじゃない?羨ましいことだよね」ザー 憂「うん、私本当に幸せだよー・・・純ちゃんが背中を押してくれたおかげ、本当にありがとう」 純「いえいえ、どういたしまして。私も憂が笑ってる方が嬉しいもんね」 梓「・・・」ザー 憂「・・・ねぇ、梓ちゃん?」 梓「何?」ザー 憂「梓ちゃんも、純ちゃんに相談に乗ってもらったら?」 梓「!」ザ… 純「え?何なに?梓も好きな人居るの?」 梓「ちょ、ちょっと!憂!」 憂「ね?そうしなよ」 純「そうだそうだ、水臭いぞー私にも応援させろー」 憂「ほら、純ちゃんも乗り気だよ?」 梓「別にいい!はい、この話は終わり!」 純「えー・・・」 憂「ふふ・・・」 純「ねー梓ー」 梓「何?」 純「・・・私って、口軽そうで信用できない?」 梓「な、何で!?そんなこと言ってないじゃん!」 純「んー・・・憂には相談してる感じなのに、私には全然教えてくれないからさー」 純「ちょっとショックだよねー」 梓「・・・純」 純「あはは、いいよいいよ。無理矢理聞き出すのはよくないし、気にしないで。むしろ変なこと言ってごめんね」 梓「・・・私、好きな人が、居る」 純「あ、無理しなくていいってば」 梓「ううん、私意地張ってた。純に、相談に乗って欲しいんだ」 純「・・・わかった、純ちゃんに任せておきなさい!」 梓「うん、上手くいったらその人と水族館とか一緒に見に行きたいなー、なんて考えてるんだよね」 純「何か、梓らしいね」 梓「はは、そうかな?・・・その人ってさ、すごく自分勝手に見えるんだけどね」 梓「実は周りのこと誰より気にかけてて、友達思いですごく優しい人なんだよね」 純「・・・うん(まさか、律先輩?それは相手が悪すぎだよ梓ー)」 梓「最初は自分勝手な奴だと思って苦手だったんだけど、そういうところを見てるうちに、気付いたら好きになってたんだ」 純「そう、なんだ(うーん、この場合はどうしよう・・・)」 梓「だからさ、純」 純「何?(あんまり無茶はするなよ、梓ー・・・)」 梓「今度の土日にでも、私と一緒に水族館・・・行かない?」 純「・・・んん?えっ!?」 梓「・・・///」 純「(わ、私のことだったの!?あぁ頬を赤らめてる梓可愛いなー、ってそうじゃなくて・・・!)」 純「(私は梓のことどう思ってる!?梓って小さくて可愛くてその癖生意気だけど、そこがまた可愛かったり・・・)」 純「(・・・って、私も和先輩と同じじゃん!人の相談に乗るとか言っておいて自分のことすら見えてなかったよ!)」 梓「・・・駄目、かな?」 純「だ、駄目じゃないよ!いい!行こう、梓!」 梓「本当!?」 純「本当!絶対!」 梓「よ、良かった・・・私楽しみにしてるね、純!」ニコッ 純「・・・梓の笑顔、超可愛い」ダキッ 梓「わっ!?き、急に何するのよ!」 純「む、何だよー。憂のお姉さんは良くて私は駄目なのかよー」 梓「だ、だって・・・!唯先輩とはそういう感情は無くてあくまでスキンシップだけど、純は違うもん!」 純「やばい、梓超可愛いじゃすまないや。言葉では表現できない可愛さだね梓は」ギュッ 梓「じゅ、純・・・///」 純「お?大人しくなったな?」 梓「・・・本音を言えば、嬉しいに決まってるじゃん」 純「へへへ、そっかそっかー。・・・安心しなよ、今度からは私が一杯抱きしめてあげるよ」 梓「うん、ありがとう・・・純」 律「で?書類の書き忘れも無いのに、話がしたいからティータイムに混ぜてくれって、どういう風の吹き回しだ?」 澪「別に構わないけど、和からこういう誘いって珍しいよな」 紬「そうよね、何故か唯ちゃんもすごく乗り気だし。一体何を隠してるの?」 唯「へへへーさぁ和ちゃん、どうぞ!」 和「私と憂、付き合うことになったから。それだけ言っておきたかったのよ」 律「おぉ!マジで!?」 澪「ひょっとして、先週の憂ちゃんがどうって話って・・・」 和「そう、私絡みよ。貴女達にも気を使わせちゃったし、言っておいた方が今後何かと楽だしね」 紬「そうだったのね・・・!和ちゃん、おめでとう!」ボタボタボタ 和「ムギ、鼻血出てる」 紬「あら、ごめんなさい。でも気にしないでもいいわよ?」ボタボタボタ 和「それにしても、律と澪が付き合い出した時もそうだったけど、よく鼻血出すわね」 澪「ちょ、ちょっと和!」 律「別にいいじゃんか、私達が誰よりラブラブなのは周知の事実だろ~?」 澪「まぁ、そうだけど・・・///」 紬「あぁ・・・やっぱり王道ね。それはともかく・・・ だって、素晴らしいじゃない」ボタボタボタ 和「自分も唯と付き合ってるでしょうに・・・それでもそういうものなの?」 唯「えへへー」 紬「それとはまた別じゃない、私と唯ちゃんもそうだし、りっちゃんと澪ちゃんもそうだけど」ボタボタ 紬「皆それぞれ、出会いも違うし、お付き合いすることになったきっかけも違う、その後どうしていくかも違うと思うわ」ボタボタ 紬「けど、そこには一つだけ共通の事実があるの。『愛する二人の気持ちが通じ合った』っていう事実」ボタボタ 紬「それはきっと、二人にとってこの世のどんなことより素晴らしいことだと思う」ボタボタ 紬「だから私はそうやって誰かと誰かが結ばれたら、嬉しくて鼻血も出ちゃうのよ」ボタボタ 唯「ムギちゃんは優しいねー」 紬「ありがとう、唯ちゃん」ボタ… 和「鼻血さえ出さなきゃ、いいこと言ってると想うんだけどね・・・まぁとにかく、祝福ありがとう」 唯紬律澪「どういたしまして」 和「―という訳で、皆に祝福してもらえたわ」 憂「私も、嬉しいよ」 和「そうよね、私達は良い友人を持ったものだわ」 そして、何より― 憂が、私の隣に居てくれるんだもの。 和「ねぇ、憂?」 憂「何?和ちゃん」 和「改めて、言いたいことがあるの」 憂「うん、何かな?」 和「今まで待たせた分、今後は憂のこと大事にしていくわ」 和「私も、憂のことが大好きだからね」 fin 戻る
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/1873.html
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇ 12月中旬某日 「間に合わせますから……お願いですからあと少しだけ待ってください……締め切りまで待ってください……………ハッ」 ~間に合うかもしれないパチェさん~ 「しまったわ……うっかり寝ていたようね…………」 紅魔館にある大図書館の一室にて、 魔女パチュリー・ノーレッジは冷や汗を浮かべながら呟いた。 すぐさま壁に立てかけている時計を見ると10分も寝てしまったようだとわかり、思わず呻き声が漏れる。 不眠不休で執筆していたしわ寄せとして居眠りをしてしまったらしい。 「まさかここまで切羽詰るとはね……泣き言を言う暇さえも無くなるなんて……」 このような事態となったことには複雑な事情があった。 年末に人間の里で開かれる個人製作の本や小道具を扱ったお祭りにて、パチュリーは自作のグリモワールを出品しようと考えていた。 彼女がこれまで書物を読み学んできた魔法や儀式の実践方法(主にサバト)を漫画形式でわかりやすくまとめ、即売会会場にやってくる歴戦の大魔法使い達も満足できるように、というコンセプトで描かれたものだ。 いや、『描かれた』という言い方はまだ正しくない。 何故ならば未だ執筆中であり、先行きの見えない状況であるからだ。 「疲れた……原稿がぜんぜん進まない……やり直しはやっぱりきついわ…………」 こうなってしまった原因はパソコンという外の世界の式神にある。 骨董品屋に流れ着いたものを妖怪の山の河童が修理・改良し、本来必要な電力というエネルギーを必要とせずに動作させることが出来るようにした一品。 作業効率が高まるかと思って導入したことが完全に裏目に出た。 「何でパソコンってあんなに壊れやすいのよ……」 HDDとやらの故障によってこれまでの作業がパー。 データも何もぶっ飛んで、それどころかパソコン自体動かなくなる始末。しょうがないので紙とペンを使いひたすら書き殴る他無い。 やり直しを余儀なくされ、ほぼ無休で執筆を続けた紅魔館メンバー。 開始当初は6人いたそれも一人また一人と過労と睡眠不足によって倒れ、今残っているのは小悪魔とパチュリーのみ。 このままでは印刷所に間に合うどころか原稿の完成ですら危うい。 「小悪魔、原稿進んでる? 小悪魔~。…………小悪魔ったらこの修羅場にどこ行ったの?」 パチュリーが寝惚け眼を擦りながら室内を見回す。 アシスタントである小悪魔の姿が見当たらない。トイレにでも行ったのだろうか? そういえば小悪魔も一週間で合計休憩時間が3分という状況でよく頑張ってくれていた。 ちょっとばかし働かせすぎたけど、十数秒のトイレ休憩ぐらいなら大目に見よう。 そんなことをパチュリーは考えながら、小悪魔の作業がどのぐらい進んだのか、彼女が座っていたあたりまで歩く。 すると小悪魔が先ほどまで作業していた机の上に何か書いてある。なんだろうと覗き込む。 『労働組合に訴えてやる』 ご丁寧に血文字で書かれていた。どうやら魔界に逃げ還ったようだ。 「はい再召喚そしておかえりィィィ小悪魔ァァァァァ!! さぁこれから楽しいタノシイ『趣味』の漫画描きの始まりダヨォォォ!!」 「やだああああああああああ!! 私もう寝たいの~! 両目をつぶりたいの~!!!」 呼び戻された小悪魔の顔は絶望で染まっていた。 ちなみに趣味の漫画描きは仕事ではないので労働基準法に触れない。 毎日毎日24時間ぶっ続けで絵を描き続けても趣味ならばしょうがない。 「ルーラ! テレポ! 煙玉! こあぁぁぁぁ! 助けて大魔王様!! この魔女からは逃げられないぃぃ!」 「はい小悪魔、アナタのGペンと鉛筆とカッターと筆はこれよ♪ 四刀流ねすごいわかっこいいわ~♪」 「もう無理です間に合いませんよ! 冊子で誤魔化すしかないですよ~!!」 「そんなみみっちぃこと出来るわけないじゃない! ねぇ小悪魔、何が不満なの? 休憩したいのなら片目ずつ交互に瞑らせる許可をあげてるじゃない。右脳と左脳を交互に休ませてあげてるわよね。睡眠ってようは脳の休息でしょ」 【忙しい人必見! 眠らなくても仕事が出来る裏技!!】 ①右目だけを瞑り、左脳を休めつつ仕事 ②左目だけを瞑り、右脳を休めつつ仕事 ③①~②繰り返し 「ほぉら、全然問題ないでしょ♪」 「体を休めてないですよ体を! 不満どころじゃねぇですよ! 大体脳なんて下等な器管に頼らない私達悪魔にとっては、睡眠っていうのは脳の休息じゃなくて体と心の休息なんです!」 「ウルセェこの脳なし! 黙ってこっちにきなさいよああもうこのやりとりで2分過ぎたぁぁぁ!」 本来だったらこうして揉めている時間でさえも惜しい。パチュリーは必死の形相で小悪魔を誘う。 「いいから早く戻ってきなゲッホゲホゲホ!」 先ほどまでまくしたてるように喋っていたツケがやってきたのか、決壊したダムのように咳が止まらなくなるパチュリー。 そしてそんな隙を小悪魔が見逃すはずが無い。 「今だ!! こああああああああ!」 「ゲホガホッ! しま、った! ゲホッ!」 パチュリーが発作を起こし吐血したために拘束作用が弱まった。 小悪魔は召喚用の魔方陣を滅茶苦茶にかき回してすぐさま脱出。 パチュリーが連れ戻そうとしたときにはすでに遅し。魔界に帰ってしまった。 「クソッ逃げやがったあの小娘! 鬼! 悪魔! ゲホゲホッ! ま、間に合わなくってもいいの!?」 パチュリーは親指の爪をガリガリと噛みながらイラつきを露にする。 再召喚は出来るのだろうが、冷静になった頭で考えてみると小悪魔を呼び戻したところで揉めて時間を浪費することになるだろう。 今はそんな時間も惜しい。諦める他ない。 「小悪魔め……アンタは今執筆中の本に出てくる女の子のモデルにしてやるわ…………とりあえず生やしてやるゲホッゲホッ」 今後の方針が決まったことは嬉しいが、必要な人員が欠けてしまった事が頭を悩ます。 ストレスのせいか、喘息だけでなく頭痛までする。 「ゴホッガホッ、あぁ……どうしよう…………」 最後の戦力であった小悪魔がいなくなったせいで残るはパチュリーのみ。 その事実を前に、ストレスと疲労によって体調が芳しくないことが絡み合ってパチュリーを不安にさせる。 アシスタントが欲しい、労働力が欲しい、一人では間に合わない。 「……そういえば妖精が寝ている間に本を作ってくれるって話が外の世界の童話にあったわね。ハッ、そんな都合のいい話あるわけないっての。ここの妖精メイド達は仕事すら満足に出来ないしやる気は無いわで遊んでばかり――」 その独り言がパチュリーの脳内を駆け巡った。 「妖精……妖精……小人…………ゴーレム………………そうか!」 光明が見えた。 これほど重要なことを何故忘れていたのだろう、余裕がないときは大事なものを見落とすものだと思いつつも、パチュリーはこの危機的な状況を打開する方法が閃いた。 「私にはアシスタントを作る魔法が使えたじゃない!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇ 「えぇと、泥……はちょっと足りないわね。しょうがない、捏ねて形を変えることができるからお正月の餅つき用の餅米を合挽きに代用して…………」 以前、パチュリーと魔理沙は図書館の本を巡って幻想郷の少女達を象った小型の泥人形――ゴーレムたちを用いて激闘を繰り広げたことがある。 もっとも最近の魔理沙はそのような小細工を行なう事もなくなって自らの体で直接図書館に侵入してくるために、 パチュリーもそれに応じて低級なゴーレム達は制作しなくなっていたため、すっかり忘れていた。 「まさかあのときのゴーレム作りの経験がこんなところで活きるなんてね……魔理沙、それに関しては感謝するわ」 ゴーレム達は単純な命令しか受け付けず、複雑な行動が取れないがアシスタントくらいは出来るだろう。 それだけでも効率が全然違う。 「よし、泥――じゃなくて餅人形のベースとなる体は出来た。あとは知能を与える触媒として髪の毛ね」 パチュリーは部屋に落ちている紅魔館の住人の髪の毛を拾っていく。 執筆活動の手伝いをしていた彼女達の髪の毛を手に入れることは容易かった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇ ゴーレムの材料であり触媒でもある餅と紅魔館の住人の髪の毛を載せた魔法陣。 それに向かってパチュリーは呪文を唱える。 はやる気持ちを押さえ、けれども出来る限りの高速で。 儀式を始める前、パチュリーは心の中でアシスタントを作るのに時間をかけるくらいならその時間を執筆に当てたほうがいいのかもしれないと少しばかりの躊躇があったが、 目の前で繰り広げられる餅の変化を見ているとその躊躇も吹っ飛んでしまった。 呪文が進むと共に魔法陣からは煙が立ち上り、餅がシュウシュウと音を立てながら形を変えていく。 もうすぐだ、もうすぐ完成する。パチュリーはその手ごたえに昂揚感を得る。 そしてパチュリーが呪文を終えたそのとき、バフンと煙が立ち上り、魔法陣を覆い隠した。 「キタキタキタァー! さぁ来い私の愛しい愛しい奴隷達!」 パチュリーが煙の中にいるであろう自らの下僕達を呼び起こした。 けれども煙の中からは何の反応もない。一体どうしたのであろうかと一瞬不安になる。 しかしパチュリーはあせることはないと思い直し、アシスタントとなるゴーレム達が出揃った後の事を妄想する。 きっと自分が眠っている間に作業を全て終えてしまうに違いない。 なにせ自分が作ったゴーレムなのだ。それはそれは優秀なものになるだろう。 けれど、パチュリーのそれはあまりにも楽観的かつ甘い考えだった。 煙が晴れゴーレム達の姿が露になったそのとき、彼女は膝を落とし絶望した。 「失敗だ……」 レミリア、フランドール、咲夜、美鈴、小悪魔、パチュリー。 確かに顔つきこそ紅魔館の住人達の面影があった。 けれど、その者たちは持っていなかった。 Gペンでペンいれをする右手も―― 鉛筆で下書きをする左手も―― カッターでトーンを削る右足も―― 筆でベタ塗りをする左足も―― それどころか―― 「人の形を……していない…………」 『『『『『ゆっくりしていってね!』』』』』『うー♪』 「オワタ」 ぷにぷに、むにむに、もちもち。 そんなファンシーな擬音を生じさせながらじゃれあう、紅魔館の面々の顔を持ったゴーレム達。 いや、ゴーレムなどという剛健な存在を連想するような響きとはかけはなれた物体がそこにはいた。 その姿を現すならば饅頭顔、生首、一頭身。 ようするに首から下、正確には顔から下が無く、その顔さえも弾力性のあるタイプのスライムを連想させる柔らかさを持った6体――いや6頭――はたまた6匹のナマモノ達だった。 『ゆっくりしたけっかがこれだよ!』『ゆっくりしなくてもこれだよ!』『ゆ~♪』『zzz(サクッ)』『ねるなみすず』『う~♪』 「私の……私の時間が…………」 パチュリーは目の前が真っ暗になった。 どうやら泥ではなく餅を使ったことに問題があったらしく、増してや体調が普段よりも優れない状態で作った。 そのためにクオリティが下がるのも無理のないことだった。 「あぁ……せめて、せめて頭だけじゃなくて、マドハンドみたいに手だけだったらよかったのに…………」 『げんじつがつらかったらにげてもいいの』『しかしまわりこまれてしまった!』『げらげらげら』 「うざっ」 『なんでうちらてがないの!』『しんりのとびらをひらいたよ!』『もっていかれたあああ!』『てをあわせるだけでれんきんじゅつができるようになったよ!』『しまった! てがない!』『う~♪』 「…………ハァ」 ため息も出ようものだ。せっかく時間をかけて作り上げたゴーレムが失敗。 制作にかけた時間は戻ってこないで、さらにこのゴーレム達はアシスタントとして用いることは難しそうだ。 まさに骨折り損のくたびれもうけ。 『ゆっくりしていってね!』『ゆっくりしていってね!』『ゆっくりしていってよー!』『ゆっくりしろ!』『ゆっくりしね!』『う~♪』 パチュリーは頭を抱えながら、椅子にもたれ掛かるように力なく腰を下ろした。 その横でゴーレム――ゆっくりゆっくり五月蝿いからゆっくりと仮称するが、そのゆっくり達を見て絶望した。 「駄目だ、絶対こいつらじゃ仕事になんない。何でこんなことになっちゃったのよ……」 頭を抱えて涙目になるパチュリー。そんなパチュリーの姿を見たゆっくり達。 ゆっくり達は円陣を組んで何かを話し合い、再度パチュリーに向き合った。 皆が皆眉をキリリと吊り上げ何かを決意したかのような表情だ。 『ごしゅじん~』『ゆっくりみていってね』 「何よどうしたのよ?」 パチュリーの特徴を持ったゆっくり。 ゆっくりパチュリーとでも言うべきか、その物体は一応は主人を認識しているようだ。 そしてゆっくり達は互いに何か示し合わせたかのように頷いたかとおもえば、 な、なんとゆっくり達が……! ゆっくり達がどんどん重なっていく。 『『『『『かがみもち!』』』』』『うー♪』 「私に年越しを意識させんなぁぁぁ!」 『だめだったよ!』『おしょうがつはゆっくりできるのにね』『かわいくってごめんねー』 ゆっくり達はイヤアーと片目をウィンクしながら申し訳なさそうに見えない顔で反省した後、 再び重なっていき―― 『『『『『トーテムポール!』』』』』『うー☆』 「同じだろうグハアァァァ!」 ゆっくり達は二度パチュリーに対してネタが受けなかったためか、少しばかり俯いた。 それも当然、パチュリーからしてみたらこのような物体に構っている暇なんて無い。 しっしと追い払おうとするが、ゆっくり達の様子がおかしい。 ジタバタ、ウネウネ。ゆっくり達は何故か離れない。 『『『『『やべ、くっついた!』』』』』『う~……』 「何やっとるか餅どもゲハァ!」 パチュリーは律儀につっこみを続けるあまり吐血。 あぁ私って長く生きられないなぁと思いつつ、薄れ行く意識の中で三途の川が見えてきたパチュリー。 よく見るとスカーレット姉妹と美鈴がバタフライで三途の川を逆走している。 吸血鬼って本当は泳げるんだ、スゲェ! 『あきた!』『とって!』『むああんむあふああん』『う~……う~……』 「あ~! うざったい! 外してやるから黙りなさいよ!」 くっついているゆっくり達を無理矢理外す。 柔らかくて癖になりそうな触感だと思ったことにパチュリーは若干の悔しさを感じた。 『とれた!』『じゆうだ!』『あんがと!』『かんしゃ!』 「ど~いたしまして……ケホッ……」 パチュリーは疲れた。突然変異を起こした魔法生物ほどタチの悪い存在は無いと痛感する。 寝惚けて作った自分が一番悪いんだろうなと自嘲するが、そうなるまでに自分が肉体的にも精神的にも追い込まれていたのだと改めて感じた。 自分は満身創痍。頼りになる労働力はない。締め切りは迫っている。 それらの重い事実を改めて実感し、体の奥から力が抜けていくのがわかった。 そして心が弱くなったとき、思い出したくも無いあのときの記憶が蘇る。 ――うそ! 嘘よ! こんなのってアリ!? 何でパソコンが動かないの!?―― ――う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん! わだじの、げんこ……う! わたじ……だぢの―― 心細いとは、このような気持ちを言うのだろうか。 ――寝ちゃ駄目よフラン……寝たら死ぬわ……―― ――眠い……眠い…………いつもシェスタばかりしているツケが…………―― ――咲夜さん、能力の使いすぎですよ。もう休んでくださ――咲夜さん!? 誰か、誰か担荷を!―― 自暴自棄になるとはこういうことなのだろうか。 ――もう無理ですよ間に合いませんよ―― そして、全てがどうでもよくなった。 「あ~もう、やめよやめ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『ゆ?』と、ゆっくり達が何があったのかと目を合わせる。 パチュリーはそのまま独り言を続ける。 「どうせ間に合わないし作っても出来の悪いものしか完成しないだろうし――」 『ごしゅじん~どしたん?』 「もうどうでもいいや。本当は間に合うはずだったけど、事故があったんだからしょうがないわ。そうよね私悪くないもん」 パチュリーはその場にごろんと寝転がり、ふて腐れる。 「私一人だけで頑張って、馬鹿みたい」 彼女は全てを諦め、緩慢なる破滅を選んだ。 そしてそんなパチュリーの持つ雰囲気を感じ取らずに擦り寄るナマモノが6つ。 まるで年端もゆかない子供達が新しい友人を歓迎するかのように。 『ごしゅじんもゆっくりするの~?』『やっとそのきになったんだね!』 「ゆっくりだろうがさっくりだろうがどっちでもいいわよ。あ~もう知ったこっちゃ無い。私知らな~い」 『なかまがふえるよ!』『やったねたえちゃん』 「勝手にしなさい。もうあんた達見てると羨ましくてしょうがないわ。気楽でなんも考えてなさそうだし」 『じゃあなかまにいれたげるね♪』『ゆ~♪』 ゆっくり達はパチュリーの両手両脚のそばに散った。 そしてパチュリーの手足に頬を擦り付ける。もっちりとした柔らかさに加え、微妙に温かくって心地よい。 「きゃっ、ちょ、ちょっとあんた達くすぐったいわよ」 『むきゅ~♪』『こぁ~♪』『じゃおん♪』『ゆ~♪』『う~♪』『う~♪』 「悪い気はしないけど、何かこそばゆいわね――ん? あんた達何大口を開けてるのよ?」 『とりあえずねー』『りょうてりょうあしをー』『ざくざくきりおとしてー』『だるまにしてー』 「やめんか一頭身共!」 『『『『『だめ?』』』』』『う~?』 「駄目に決まってるでしょうが! ゲホッゲホッ」 『ゆっくりできるのに……』『ゆっくりするにはてあしはいらないのさ』『ただあたまだけあればいい』 『ないすぼーど♪』『う~♪』 「こいつら人畜無害そうな顔してとんでもない奴らね……」 『おもったんだけど』『なにさ』『くびをきればすぐだよね!』『そっか!』『あたまいいね♪』『あたましかないけどね♪』 「納得してんじゃないわよ生首共。いい加減に黙らないとあんた達に足を生やしてタンスの角に小指ぶつけさせまくるわよ」 『ざんねんだね!』『むねんだよ!』 パチュリーはもう反応をすることさえも疲れてきた。パチュリーはゆっくり達を振り払い、ゴロンと寝転がりゆっくり達に背を向ける。 そんなパチュリーを見て、ゆっくり達は母を怒らせてしまったのか不安になった子供のような様子でおずおずと心配そうに顔を覗き込んだ。 『ごしゅじん~』『う~』 「なによ。私は今から眠るんだから静かにしなさいよ」 『なんでごしゅじんはゆっくりしないの?』『さっきからゆっくりしてないね!』『いまもゆっくりできてないよ!』 「………………」 『おしえてー』『ゆっくりきかせていってね!!』 「…………私が眠くなるまでの間よ。眠くなったらすぐに話は打ち切るから」 「ことの始まりは本当に普通。人里で年末に即売会があると小耳に挟んで、ちょっぴり興味があったから応募しただけ。会場に足を運ぶ気も無かったし、適当に薄い冊子を作って後は代役に売りに行ってもらおうかと思ってたの。だけど――」 ――パチェったら即売会に参加するの!? 面白そうじゃない私もやるわ!―― ――私もやる~♪ 面白そ~♪ いいでしょお姉様♪―― ――私もいいですか? 門番なためか外勤ばかりなんで、たまにはデスクワークもやってみたいなって―― ――陵辱系なら得意ですわ―― ――どれどれ…………咲夜さん、マニアックすぎるどころじゃないですよこれ…………―― ――これは確実に発禁になりますよね…………―― ――ふふん、美鈴も小悪魔も大袈裟ね。そんなまさか(パラパラパラ)アグネ○早く来てくれー!!―― ――お姉様、ア○ネスは召喚獣じゃないのよ(パラパラパラ)助けて○グネス~~!!―― ――咲夜、貴方一人で描くと暴走の恐れがあるから、描く時は時を止める程度の能力の使用は禁止ね―― 「――ってな感じで一気に賑やかになったわけ。そうなると当然規模も大きくなるわけで――」 ――紅茶とお茶請けをお持ちしましたわ。少し休憩してはどうでしょうか?―― ――やたー♪ 咲夜大好き~♪―― ――ねぇパチェ、休憩前に言っておきたいんだけどここのシーンあるでしょ? このドロワーズの書き込みが甘いんじゃないの?―― ――お嬢様、なんだかノリノリですね―― ――美鈴、私のことはチーフって呼びなさい。いいわねチーフよ―― ――お姉様ったらまた外の世界の漫画の影響受けてる~―― ――でしたら私は編集長で。素晴らしい雑誌を作って見せますわ―― ――咲夜さん、出版社ごと発禁になりますよ―― ――むぅ…………―― ――あははっ、咲夜さん拗ねないでくださいよ~―― 「――とまぁ、皆で一緒にワイワイと描いてた。忙しかったけど悪い気はしなかったわ」 それは今となっては決して戻らないであろう楽しかった思い出。懐かしくて懐かしくてどうしようもない。 そしてその話を聞いたゆっくり達はというと目を輝かせている。 「どうしたのよ?」 『おもしろそー』『ちょっとやってみるね!』『ゆ~♪』 「あ、コラ。勝手に紙とペンを使うんじゃないわよ」 ペンを口で咥え、使っていない紙に向かって絵を描くゆっくり達。 どうやら好奇心旺盛な奴らのようで、人の話を聞いて真似しようとしているらしい。 ミミズが這いずり回ったような線はお絵かきと呼ぶことすらはばかられるが、その姿はとても楽しそうだった。 「見てると何か複雑な気持ちになるわね」 ゴーレムは大なり小なりそのモデルとなった人妖の性質を持つ。 今回のゆっくりと名づけた突然変異のゴーレム達は特に情緒が発達している。 そんなゆっくり達は、モデルとなった紅魔館の住人の「楽しく頑張っていた頃の思い出」を強く受け継いだのかもしれない。 「そうそう、丁度あんな感じだったわ」 ゆっくりレミリアはとても楽しそうだ。一番楽しんでいたノリのいいレミィのことが思い返される。 ゆっくりフランは意外にも上手い。レミィに褒められるとすごく嬉しそうにはしゃぐところが妹様みたい。 ゆっくり美鈴は常に眠そうだ。その代わり器用で姉妹への面倒見もいい。 ゆっくり咲夜はサポート係だ。秘めたるポテンシャルを持つがために援護に回った咲夜のように、常に皆が全力を出せるように細かい仕事をやり続ける。 ゆっくり小悪魔は不器用だ。だけどそれを補うかのように一生懸命に頑張っていた。こき使っていたのはちょっと申し訳なく思う。 そして、ゆっくりパチュリーはむっつりとした顔をしながら作業していた。 自分は傍から見たらあのような顔をしていたのかと苦笑する。 気になったので傍によってみる。 「アンタ、楽しい?」 『それなり~』 「素直になりなさいよ」 「…………ねぇ」 『どーしたのさごしゅじん』 「アンタ達に聞くのもおかしな話だけど、私って今から頑張れば間に合うかな?」 『『『『『『むり♪』』』』』』 「満面の笑みで言ってるんじゃないわよ! それとレミィみたいな奴、アンタ喋れるんじゃないの!」 『う~?』 「しらばっくれてんじゃないの。――まぁ、アンタ達がどう言おうと諦める気はないけどね」 『さっきはあきらめるとかいってたよ!』 「やっぱなし。私達が苦しんでる一方で、アンタ達だけ楽しそうにしてるのはなんか癪だし」 『ひねくれてるね!』 ゆっくり達はケラケラと笑う。口元が半開きになった妙に腹たたしい笑い方だが、どこか愛嬌がある。 『ごじゅじん~』 「何よ」 『ゆっくりをあいするこころをわすれないでね』 「忘れないでって、それ以前に愛してるなんて言ったことはないし――それに今は修羅場だから無理。ゆっくりしてる暇なんて無いわ」 『おーまいごっど』 「だけど――やらなきゃいけないこと全部が終わったら思い出すわよ」 『ぐらっちぇ!』 ゆっくり達の姿を見ていて思う、紅魔館の面々での作業はパチュリーが描こうと言い出さなかったらありえなかった。 それに締め切りなんてなくても本なんていくらでも自分達で描けるが、どうせだったら皆に見て欲しい。 この自己満足の塊のような、私達の思い出のアルバムを。 ――そうだ、みんなで即売会に参加してみるのも面白いかもね~―― ――お嬢様ったらそう言いつつも面倒ごとは私達に押し付けるんですから。どうせ会計は私達にやらせるんでしょう―― ――私コスプレってやつやりたいな~♪―― ――でしたら私がコーディネイトして差し上げましょう―― ――咲夜さん、目が血走ってますよ―― ――そういえばさ~―― ――パチェは参加してみたい? それとも描ければそれで満足?―― ――…………そうね―― ――私は―― 「さて、私もこれからみんなをしょっ引きに行こうかしら」 『『『『『『ゆっくりがんばっていってね!』』』』』』 「そうそう。ひとつ聞きたかったんだけど」 「ここってどこかしら? 私達が作業していた部屋じゃないわよね」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「ん……」 顔に感じる冷たく固い机の感触と、肩に感じる温かく柔らかい毛布の感触。 パチュリーはぼんやりとした頭で現在の状況を推理する。 その意味することはワトソンですらホームズの助けを借りずに理解出来るほどに簡単なものだ。 「夢……だったの……?」 先ほどまでの賑やかで五月蝿くて暢気で陽気なナマモノ達は夢幻の存在だったのだろうか。 「だとしたら、これは一体……?」 机の上には、あの半開きの妙に腹の立つ顔で固まったままのゆっくり達。まるでゼンマイが切れたブリキのおもちゃのように動く様子が無い。 そしてゆっくり達のすぐ傍には、ゆっくり達が描いていた線を載せた紙があった。 相変わらずグチャグチャとしていて、何を描いたかわからない。 だがしかしこれらが先ほどのゆっくり達とのやりとりが現実であった出来事だと証明する証拠にはならない。 パチュリーのゴーレムは普通これほどすぐに動かなくなったりしない。最初から動いていなかったということも考えられる。 またゆっくり達が描いていた線に関する説明はもっと単純だ。パチュリーが寝惚けて紙に描いたという可能性がある。 結局のところゆっくり達とのやりとりや夢だったのか、それとも現実だったのか、それはわからなかった。 ハッキリしていることは、数時間経過しているということと、だるさが残りながらも体力が回復しているということだった。 「………………………………」 パチュリーは眼前のゆっくり達の動かない姿を見て、脳裏にゆっくり達の動き回っていた頃の姿を浮かべる。 思わず笑いがこぼれる。夢にしても実際あったことにしても、奇妙にもほどがある存在だった。 そして気が付く。自然に笑うことが出来るほどの余裕が自分に生まれていた事を。 「よし、ギリギリだけどこれから頑張るかな」 まずはみんなを無理矢理連れ戻しにいこう。嫌がられようが死に掛けていようがかまうものか。 全てが終わった後、仲間はずれにしたことに対して文句を言われるよりはましだ。 そしてやるだけやってみよう。気力だけは充実している。 ◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ガリガリガリガリガリガリガリガリ。 「あ~まさか復活してから即原稿を描かされるなんてね。いくら吸血鬼がアンデットとはいえ扱いが酷いわよ。三途の川は冷たかったわ~」 「ほんとだよねお姉様~。いたいけな吸血鬼をこんな目に会わすなんて~キャハハハハ。あ~なんか私今テンション高いすっごくテンション高い。今だったらずっと寝ないでも大丈夫な気がする」 「フラン、気を抜いたら駄目よ。ちょっとでも気を抜いたらガクンと眠気が襲ってくるわ」 「へ~気をつけないと。それにしても、飽きっぽいお姉様がよくこんな辛いことを投げ出さないでいるね~」 「あら、吸血鬼が飽きっぽかったら何百年も毎日毎日血なんて飲めないわよ。吸血鬼はこの世で一番根気溢れる種族なの」 「へ~495年吸血鬼やってるけど初めて聞いた」 「そうね、例えるなら人間達は栄養があるからって500年間毎日3食欠かさず青汁を飲んだりするの? しないわよね? どんな人間でも100年くらいで飽きちゃうでしょ?」 「なるほどね~。人間って飽きっぽい生き物なんだねぇぇぇそれに比べて吸血鬼って凄いなぁァァ」 「そうよねそうよねぇぇぇ」 ガリガリガリガリガリガリガリガリ。 レミリアとフランドールが原稿に筆を走らせて、その隣で美鈴が昼寝を求めながらベタを塗り、すぐ横で咲夜がトーンを削る。 「眠い……眠い……眠い……眠い……シェスタしたい…………」 「美鈴しっかりしなさい。寝たら殺すわ」 「普通そこは『寝たら死ぬわ』ですよ咲夜さん!? 何でそんなに殺る気満々なんですか!?」 美鈴の眠気がバッと醒める。殺気とは眠気と酔いを醒ます一番の特効薬だ。 「背水の陣よ。貴方は追い込まれることで力を発揮するタイプだから」 「咲夜さんってば私の事を追い込むっていうか追い詰めてるじゃないですか!?」 「ちなみに背水の陣とはいうけど、貴方の場合後にあるのは川じゃなくて崖ね。場所は千尋の谷」 「そんなライオンか何かじゃあるまいし!?」 「よく言うじゃない、獅子は我が子を千尋の谷に叩き落とすって。厳しい親ライオンならではの野性味溢れる愛情なのよ」 「『叩き落す』じゃなくて『突き落とす』ですよ! 親ライオンってば殺意満点です!」 「『クックック、これであの邪魔なライオンの血筋は途絶えた。もう俺を止められる者はいない』」 「ライオンキングで似たようなシーンありましたよ!?」 そんな二人が冗談を言い合えるのは元気な証拠だ。たとえそれが瀕死の状態での空元気でも、元気は元気。 冗談を言うことが気力の充実につながり、残り少ない体力を補うのだ。 そしてその更に隣では、つい先ほど無理矢理連れ戻された小悪魔に対して、パチュリーが道具を差し出している。 「はい小悪魔、アナタのGペンと鉛筆とカッターと筆はこれよ」 「………………………………………………………………」 小悪魔が逃げ出したことについては無理もなかった。前回逃げ出した直前は紅魔館の皆が倒れて精神的に折れそうになった状態で、魔界の悪魔達でさえも過酷さのあまり逃げ出すような修羅場。 そんな状況に一度は追い込んで、更にまた地獄に舞い戻らせるのは鬼畜の如き所業に違いない。 けれど、パチュリーはそれでも小悪魔を連れてきた。 前回本当に体力も精神もギリギリになるまで描き続けてくれた小悪魔。そんな彼女と原稿完成の瞬間の喜びを分かち合えないのは御免であった。 そんな我侭で自己中心的な考えをしていることをしている自分を自嘲する。 「…………パチュリー様ったら、本当に悪魔使いが荒いですね」 小悪魔は怒っているとも泣いているとも笑っているとも言える複雑な表情で道具を受け取った。 「………………逃げてごめんなさい」 「気にしてないわよ、ほらさっさと仕事しなさい。それとこっちも悪かったわね」 あの時ギリギリまで手伝ってくれてありがとう。一番言いたかった一言が喉でつっかえてしまった。 彼女達は円状のテーブルを囲みながら作業をする。 一人だったら60分掛かる仕事も、2人だったら30分で済む。6人ならば10分だ。 実際にはそれほど単純ではないが、気力の充実した者達が必死に頑張れば不可能ではない。 けれども遅れていたという事実は変わりない。これから先は今まで以上の地獄となる。文字通り血反吐を吐きながら描き続けることになるであろう。 体力と気力が枯れ尽きても。 「咲夜」 「はい」 「熱いコーヒーを頼むわ」 「かしこまりました、今ここに用意しております」 「ありがとう、さすがね」 パチュリーは熱いコーヒーをぐぃっと煽る。苦い。けれども目が冴えてくる。 「まぁゴーレムに仕事を全部やらせようとした私が甘かったのかもしれないけど」 パチュリーは帽子を脱ぎ、その長い髪を紐で一括りにまとめる。髪が作業の邪魔をしないために。 「目的と手段を間違えていたら世話ないわね」 パチュリーはそのふわふわとしたローブを脱ぎ捨てる。少しでも手足を動かしやすくするために。 「自分達の本を作る。だから絶対に作り上げる。間に合わせる」 パチュリーはふわっと宙に浮いたかと思うと、右手に万年筆を、左手に鉛筆を、右足にカッターを、左足に筆を持った。 七曜の魔女パチュリー・ノーレッジ。 先ほどまでは体力が落ちていたが故に出来なかった、彼女の持つあらゆる属性の魔法を組み合わせ同時に操る技術を今こそ活用する時だった。 右手はGペンでペン入れを行ない―― 左手は鉛筆で下書きをして―― 右足はカッターでトーンを削り続け―― 左足は筆でベタ塗りをやり続ける―― 「キシャアアアアアアアアアアアアア!!!」 両手両脚が蜘蛛のようにシャカシャカと蠕き、四肢を蛸のようにクネクネと躍らせる。 エクソシストという外の世界の映画で背面返りのままベッドを降りてきた悪霊のような姿勢だ 「私達もパチェに続くわよ!」 「「「「おう!」」」」 パチュリーに続き少女達が両手足に文房具を持って宙に浮き、同じ姿勢を取って金切り声を上げながら漫画を描き、6体の背面返りがベッド上で踊る。 6人で6分の1、更に両手両脚を使うことで更に4分の1、掛け合わせることで24分の1。 女達は丸一日掛かる仕事を1時間で終わらせる。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 悪魔の住む屋敷、紅魔館。 「う~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」 その一室にて一生懸命に執筆し続ける少女達。 「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハアァァァァァァ!!!!」 彼女達は円卓を囲んで必死の形相で描き続ける。 「あちょおおおおおおおおおおおおお!」 汗だくになり、目は涙を浮かべ、指先からは血をにじませながら。 「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」 考えてることは皆同じ、絶対に間に合わせる。 「こぁ~~くまくまくまくまくまくまぁ!!」 そして長い長い余生でいつの日か、このような馬鹿があった日のことを思い出そうと。 「ゴホガホゲハガハグハゲハァゴハアァァァァァァ!!!」 そんな円卓の中央に位置するは、彼女達を一頭身にディフォルメしたかのような物体。 ミミズの這いずり回ったような線が引かれた紙を囲み、ペンが口元に差し込まれている。 まるで、皆で楽しそうに絵を描いているかのようだった。 脳を休める方法を思わず試しそうになってしまったレポート中の自分。 休まるかぁ!!! ああ、ゆっくりしたい……もちもちぷにぷにしたい…… -- 名無しさん (2010-01-31 00 59 13) アグネスのくだりで爆笑したw 咲夜さん普段どんだけ自重してないんすか。 -- 名無しさん (2010-02-07 03 58 50) ちょwwwwwwwwwww PADIOwwwwwwwwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2013-05-02 22 10 46) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/5278.html
「なぜ・・・何故そんなこというの!!」 いきなり豹変した私の態度に驚きを隠せない唯。 「唯の気持ちは分かってる!好きだなんて言わないで!余計・・・惨めになるじゃない・・・」 唯に向かって一気に私の気持ちを捲くし立てると抑えていた感情が爆発して涙が溢れた。 脅してるからって唯がそこまでする必要はないのに、嘘で言われるくらいなら嫌いだと言われた方がマシだわ・・・。 「のどかちゃん・・・」 「触らないで!」 唯の手を払いのける、自分でも支離滅裂なのは分かっているでも抑えきれない。 ぎゅっっ! 不意に唯が私を抱きしめた。 「さわらな・・・」 「嫌わないで!!」 えっ!? 嫌わないでって・・・。 嫌っているのは唯でしょ、ひどいことをしてる私に・・・。 「嫌わないで、許してくれるなら私なんでもするから。だから私のことを嫌わないで!!」 顔を上げると顔中をぐしゃぐしゃにして泣く唯の顔が目の前にあった。 どうして私が唯を嫌いになるの・・・そんなことありえないのに。 「ごめんね・・・私が突き飛ばしたから、だから・・・怒ったんだよね、私の事嫌いになっちゃったんだよね」 鼻をすすりながらたどたどしく唯が話す。 「びっ・・・びっくりして手が動いちゃったの、すごくうれしかったの・・・に・・・でもそれで私が和・・・ちゃんを傷つけたから・・・ それに私が好きって言ったからおこ・・・怒ったんだよね迷惑なのは分かってるけど・・・もう好きって言わないから、 私に出来ることなら何でもするから嫌わないで!・・・ううん、私の事は嫌ってもいいから死んじゃいやだ!お願い!のどかちゃん・・・」 私はやっと理解した、『勘違い』それもまるっきり逆の!! 唯が好きだと言ってくれたのは本当だったんだ、勝手に勘違いして思い込んで・・・。 そんな勘違いした私に言われた「嫌い」って言葉と「死ぬ」って言葉を唯は信じてしまっていたんだ・・・。 「唯・・・ごめんね、本当にごめんね!」 ぎゅっと唯を抱きしめる。 「・・・のどかちゃん?」 「嫌いになんてなってないよ全部私の勘違いだからごめんね唯!・・・嫌いって言ったのも死ぬって言ったのも全部嘘なの!」 「・・・嘘?」 「うん、私が勝手に唯に拒絶されたと思い込んでただけなの。それで、その・・・それが悔しくて嘘をついちゃったの・・・ごめんなさい」 ぽろぽろと涙が溢れる、そんな私の頭を唯が優しく撫でてくれた。 「ううん、私が悪いの。和ちゃんは何にも悪くないの!」 「唯・・・」 「私が和ちゃんを傷つけたから、だから私が悪いの!和ちゃんは悪くないの!」 「唯・・・ありがとう、ごめんね大好きだよ」 「私も、あっ・・・の、のどかちゃん・・・好きって言っても怒らない?」 「うん、唯から好きって聞きたい、いっぱいいっぱい聞きたい!」 「えへへ、私も和ちゃんが好き!だーいすき!」 ぎゅうっ。 私の勘違いで大きなまわり道をしてしまったが、今やっと唯と一つになれた事がうれしかった。 「唯、本当にごめんね、ひどいことして。痛かったでしょ?」 「ううん・・・私もごめんね、痛くてびっくりして泣いちゃったりして、でも和ちゃんだからうれしかったの、本当だよ。それに・・・んと・・・ちい・・・欲・・・」 「ん?なぁに、聞こえない?」 「その・・・和ちゃんに触られてるとすごく気持ちいいの・・・だからまたして欲しいの・・・」 顔を真っ赤にしながら私を恥ずかしそうに見つめてきた。 そのまま唇を重ね、その日はくたくたになるほど愛し合った。 3日目- 昨日の疲れはあったけれどいつもより早めの時間に学校に着く、昨日サボって帰った分の雑務があるからだ。 「和さん」 下駄箱で憂ちゃんに呼び止められ、真剣な表情で人気がないところへ促された・・・もしかして。 「和さん・・・」 まさか唯・・・。 「お姉ちゃんをよろしくお願いします!!」 ぺこりと頭を下げる憂ちゃん・・・えぇ!? 「あの・・・憂ちゃん・・・」 「お姉ちゃんから全部聞きました」 ゆいー!あーーーっ・・・。 「でも、和さんだから許すんですよ!それに次にお姉ちゃんを泣かしたら・・・絶対許さないですよ?」 目が怖い・・・この子絶対本気だ・・・。 「うん、これからは絶対唯を泣かせたりしません、約束します!」 憂ちゃんは、私の返事を聞いて納得してくれたのかクスッと笑った。 「でも、よかった。お姉ちゃんずっと和さんのこと好きだったから」 「えっ?」 「お姉ちゃんから聞かなかったんですか?幼稚園のころからずーっと好きだったって」 ええっー! 「私なんて、和さんのお嫁さんになる!って何度聞かされたことか・・・」 そんな事、私は言われた事ない・・・いや、そう言えば子供のころ何度かお嫁さんにしてねって言われた覚えが・・・。 「あれって本気だったんだ・・・」 「もぅ、和さんだってお姉ちゃんの性格十分知ってるでしょ?」 ちょっとふくれっつらで指摘された。 確かに、あの子は思った事をそのまま口にするから・・・。 「!」 「どうしました?」 唯にそっくりのキョトンとした仕草で聞いてくる。 「憂ちゃんがきてるってことは、唯ももうきてるの!?」 「ええ、今日は朝練だからって・・・」 憂ちゃんの返事もそこそこに音楽準備室を目指す。 バタン!! 息を切らせて軽音部の部室の扉をくぐると・・・。 「おっ、唯!だんな様のお迎えだぞ!」 ニヤニヤとからかうように(間違いなくからかってるけど)話しかける律・・・。 「和ちゃんおめでとう~」 満面の笑みを湛えて祝福する紬・・・。 「そっ、その・・・おめでとう・・・」 何故か真っ赤になっている澪・・・。 「えっと・・・そ・・・その、お幸せに!」 こちらも真っ赤な顔の梓ちゃん・・・。 「えへへ~」 唯がテレつつも私の腕にしがみついてきた。 「ゆ・・・唯・・・」 「なぁに?和ちゃん?」 「だっ、誰にどこまで話した!?」 「えっと、まだ憂と律ちゃん、澪ちゃん、紬ちゃん、あずにゃんだけだよ」 どうして?って顔をしながら答える唯。 「でっ、ど・・・どこまで?」 そう聞いておきながら、真っ赤な顔でテレテレしまくる唯と四人の顔を見て私はすべてを悟っていた。 「ゆいーーー!!もう他の人に絶対喋っちゃだめだからね!!」 「えーーーっ!クラスのみんなにお祝いして貰おうと思ってたのにぃ!」 「お願い!それだけはお願いだから勘弁して!!」 真っ赤な顔だらけの中で、一番真っ赤な顔をして叫ぶ私だった。 【エピローグ】 私が恐れていた最悪の事態はなんとか回避された。 唯は約束通り憂ちゃんと軽音部メンバー以外に私達の関係を話すことはなく、私もやっと日常の日々を取り戻していた。 ただ、日常といっても今までの空虚な日常ではなく私の横には唯が居てくれた。 それに心強い仲間も出来た。 「でっ、ど・・・どこまで?」 そう聞いておきながら、真っ赤な顔でテレテレしまくる唯と四人の顔を見て私はすべてを悟っていた。 「ゆいーーー!!もう他の人に絶対喋っちゃだめだからね!!」 「えーーーっ!クラスのみんなにお祝いして貰おうと思ってたのにぃ!」 「お願い!それだけはお願いだから勘弁して!!」 真っ赤な顔で懇願する私に渋々といった感じで唯は了承した。 「まぁ、なんにしても良かったよな」 「うん、良かったね唯、和!」 「先輩、良かったですね!」 「うふふ、おしあわせに!」 軽音部のメンバーが再度お祝いの言葉をくれた。 「えへへ、ありがと~」 「みんな、ありがとう」 唯と二人で感謝の言葉を返した。 本当に感謝していた、普通ならこんなに暖かい反応は返ってこないだろう。 軽音部のメンバーと憂ちゃんに、もう一度心の中で感謝した。 「そっかーでもこれから先は二人に見せ付けられることになるのか・・・」 別に見せ付けるつもりはないが・・・多分そうなってしまうのかな。 今でさえうれしそうに唯が私の腕に絡まっているし・・・。 「うふふ、うらやましい限りね」 そう言う紬だが羨ましそうに見ている風には見えず、どちらかと言うと鑑賞されてるような気がする・・・。 「悔しいからこっちも見せ付けてやろうぜ、澪」 そう言った瞬間、律は隣に座る澪を引き寄せて・・・。 「んんっ!?」 もがく澪を押さえ込んで長々と唇を重ねる律。 「あらあらまぁまぁ♪」 うれしそうにそれを眺める紬。 ゴクリ。 両手で顔を覆ってはいるが、ちゃっかり指の隙間からのぞいて興味津々といった感じで眺める梓ちゃん。 「ねぇーねぇー、和ちゃん。私もしたくなっちゃった・・・」 「だっ、だめ・・・ここじゃ」 「えーっ、したいの・・・」 頬を高揚させ上目遣いに見てくる唯に欲求を抑えられなくなりそうだったがかろうじて我慢した。 「だめだって。・・・その・・・あとでしてあげるから、ねっ?」 最後は唯にだけ聞こえるように耳元でささやく。 「んっ、ちゅくっ・・・んふっ・・・」 澪は次第に抵抗をやめてぐったりとしてきた。 「ぷはっ・・・ってことで私たちのほうが先輩だからな!」 唇を離し、一息ついて律が自慢げに言い放った。 唇が離れたあとも、心ここにあらずといった感じだった澪の顔が徐々に紅く染まっていく。 「りっ・・・律!みんなのまえでその・・・するなんて、それにあれほど言っちゃダメだって!!」 「いーじゃん、唯達だって言ったんだし、ずっと黙ってるのって嘘ついてるみたいで嫌だったしさぁ・・・」 「そっ、それはそうだけど・・・でもはずかしい・・・じゃないか・・・」 「それで、それで!二人はいつからお付き合いしてたの!」 フンッ!と鼻息まで聞こえそうな勢いで紬が二人に詰め寄った。 「いや~、実は中学のときから」 若干照れた感じだが自慢げに律が話す。 「そっ、それでもちろんキスだけの関係じゃないわよね!」 紬の好奇心は留まるところを知らないようだ。 「それはもちろ・・・ムグゥ!?」 「わぁっっ!それ以上しゃべるなーー!」 両手で律の口を塞ぐ澪、もう遅い気もするけれど・・・。 「うふふふっ」 どんな妄想をしているのか、一人微笑む紬を見てこの子にだけは恋愛相談をしてはいけないと思った。 その後は、ところかまわず抱きついてくる唯の行動に当初は周りにバレてしまうのではないかと危惧していたが、唯の今までの性格や行動のためか気にしているのは私だけのようだった。 つまり、私たちの関係はこの上なく良好であり幸せな日々を送っている。 これからも色々な事があるだろう、楽しい事も辛い事も。 ただ、信頼できる仲間達が居てくれるから大丈夫だ、何があってもこの先ずっと唯と二人で進んでいく事を改めて心に誓った。 END- 戻る おまけ