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監視彼女 (「偽装彼女」シリーズ) 「サキさぁん、そんな風におっぱいデカく見えるブラってない?」 入店した俺の第一声に、その豊かな乳房を揺らしつつ出迎えてくれた顔なじみのランジ ェリーショップの店長はこおりついた。 「…営業妨害で通報して良い?」 「ごめんなさいごめんなさい。でも今客居ないから許してください」 深々と頭を下げつつ反省の見られない俺のセリフに、別の店員がクスッと笑った。 年上に年下にと、お互いに守備範囲外なので、俺が何度も彼女を変えて連れて来てもサ キさんとは良い関係を保てている。 「久しぶりに来たと思ったら、何言いだすのよ」 「いやー、ほら、前連れて来たのがさぁ」 「ユカちゃん!?」 いわゆる「エロカッコいい」彼女の目がギラッとしたのは気のせいだろうか。 「いや、今日は来てないです」 「なんだ……で、男性お一人様が何か用?」 サッと髪をかき上げた手を下ろし、肩を落とすサキさん。ガバッと開いたニットから、 ぱよよんぽよんな胸が半分見えてる。 彼女の言う「ユカちゃん」だって男性お一人様なのだが、以前来店した黒髪セーラーの 美少女が、俺の同級生であるイケメン優等生がノーパン女装した姿だとは夢にも思ってな いようだ。 「だから、あいつの下着探しに来たんだけど」 「いらっしゃいませ!何をお探しですか!?」 にわかに瞳を輝かせるサキさんには、この界隈の女子高生に「サキ姉」と慕われる姐御 ぶりは微塵もない。ろくに会話もしてないくせに、奴は何という破壊力なんだ。 「んでさ、あいつ胸ちっちゃいじゃん?それ気にしてるみたいだから何か良いのないかな あって」 「シンちゃんが勝負下着以外を買いに来たどころか、女の子のことを気にかけるだなんて …」 ゴージャスな付け爪した手で器用に涙を拭く真似をしてみせるが、聞いてるだろうか? 「サキさんこーゆー下着詳しいだろうから、底上げ以外で何か良さげなの知らない?」 「お姉さんに!お姉さんの胸にユカちゃんの胸はまかせなさい!」 「あの、ブラだけで良いです」 鼻息荒く自らの胸を叩くサキさんと、ぱよんぽよんと弾む巨乳。須藤つぶれるだろ、絶 対。 「ていうか、なんで張本人のユカちゃんじゃなくてアンタが来るのよ?」 不満そうにグロスでツヤツヤした唇を尖らすサキさんに、何と言って誤魔化すべきか。 「前回の罪悪感でまた勃起しちゃうし、あなたの胸にドキドキしちゃうので無理です」と はとても言えない。 「あー、その、家が厳しいみたいで、あんまこーゆートコに慣れてないみたい」 「なんでそんなお嬢様がお前と付き合ってるんだ」と彼女の心の声が聞こえてきそうだ が、まあ良しとする。 「残念ねえ…ユカちゃん家はココから遠いの?もし来てくれたら、ユカちゃんにその…ピ ッタリなのを探してあげられたりとかできるのに」 俺が入店してから、何度もあいつの名前を出してるんだろうか、サキさんは。 女装して買いに来た挙句、試着室で射精してしまいビビりまくりだった須藤がよっぽど お気に召したようだが…この人彼氏居るはずだよな、すげー車乗ったゴ○ゴっぽいおっさ ん。 「…サキさん、女の子はあーゆータイプが好みなの?」 素朴な俺の疑問に対し、大げさなほどにキョドるサキさん。 「べっ、別に一緒に試着室入って『胸の成長のためにも、ちゃんと採寸しなくっちゃね』 『そんな…サキさんみたいなおっぱい大きい人に見られちゃうなんて、わたし恥ずかしい ですぅ…っ!』『何言ってるのよ…ほら、こんなにぷるんとして可愛いじゃない…あら、 ごめんなさい』『きゃん!や、やだぁっ!』とか、あわよくばスーパー銭湯誘って女同士 裸のお付き合いで、『ほらユカちゃん、お姉さんが揉んでおっきくしてあ・げ・る』『あ ん…サキさん、わたしとっても恥ずかしい、恥ずかしいけど…ああっ!』なんて考えてな いから!」 他人の彼女(設定上は)に、なんて妄想かましちゃってるんだこの人は。あと、後半の は完全にエロ親父の思考です。俺もまんま同じこと言ってたが。 言葉も出ない俺と、妖しく悶えるサキさんに、店員が静かにアドバイスした。 「店長、フロントホックなら寄せて上げる分水増しされますよね?」 「あ、そうそうそれなら自前ので十分谷間を作れるんじゃない!?」 寄せて上げるモノがちょっとないんですが。 「んじゃそれのちょっと大きいのちょうだい」 「大きいの?まだ高校生なら、あんま詰め込んでも形悪くなるんじゃない?」 「まあちょっと目ぇつぶってあげてよ…俺の知り合いが巨乳ばっかでさあ、『慎吾クンが 恥ずかしくないような女の子になりたいの!』って、一生懸命なんだよ」 口から出まかせの俺のセリフに、わなわなと肩と乳を震わせるサキさん。今度はどんな 世迷い言を口走ってくれるのか。 「あ…あたしなら絶対『そんなキミのおっぱいを愛でたいんだ』って言うのに!」 「うんうん、ちゃんと伝えとくから。『貧乳萌えのおねーさんが居るから自信持て』って」 レズ疑惑な巨乳店長のサービスはあきらめて、店員がいくつか持って来てくれたブラシ ョーツセットを吟味することにした。 「ほとんどが後ろで留めるので…前留めはこれだけです」 たしかに、たまにその時の彼女が着けてたのは知ってたが、店で見るのは初めてだ。身 体が硬くて自分で後ろのホックが留められない奴には、最初っからこれにしといた方が良 かったのかもしれない。 平気な顔して女物の下着の品定めをする俺に面食らったように、店員が見てくる。前回 はもっと挙動不審な美少女(男)が来たんですよ、お姉さん。 「んじゃあ、コレで」 白地に緑や赤で小花模様が刺繍されたのに決めた。そして、AAからどどーんとCカッ プに増量。 「お客様、その…パッドはよろしいですか?」 財布を出す俺に、言いにくそうに店員が尋ねる。 「あ、中身はもうあるんで、大丈夫でっす」 兄貴名義で先日通販購入したブツを思い浮かべ、俺は満面の笑みで答えた。 яяя 女向けのオナニー道具を、まさか男に買ってやるとは思ってもみなかったと、届いた時 は部屋で商品を取り出しつつ感慨にふけった。 「本物そっくりな形と感触によるバストアップ効果と、たまらない吸着力によるフェロ モン効果で意中の彼をメロメロに!プリティメロン」は言ってみればヌー○ラの肉厚版っ て感じの、胸パッド型大人のオモチャだ。 乳頭のないお椀形の擬似乳房は特殊シリコンだかなんだかで絶妙な弾力があり、肌に触 れる面はそこがささやかな膨らみだろうと洗濯板だろうとぴったりフィットするようにプ ヨプヨしている。 従来の吸盤型の乳首責めオモチャと違うのは、その手触りの良さとリアルさに相手も楽 しめ、ニセ乳を動かされる度に揉みしだかれているような感触が装着した本人にも伝わる というところらしい。カレもアタシも大満足☆ってやつか。 売り文句の書かれたパッケだけを丁寧にはがし、専用ケースだけに入れた状態で見せら れた奴は首を傾げ、その直後に真っ赤になった。 「今日だけおっぱい大きくなろうね~」 「な…なに馬鹿なこと言って…っひゃあ!?」 立ち上がってしまう前に奴を仰向けに床に押さえつけ、背中に差し入れた手でブラを外 してしまう。 俺の部屋に来るなり下着を残してストリップショーを強要された奴は、すでに乳首を勃 たせてしまっていた。 「はーい、動かないでね~」 「やめっ…あ……っ」 ブラを引き上げ胸板を撫でられて、奴のペニスが反応しているのが薄いショーツ越しに 足に伝わってくる。左右の向きを確認して、ケースから取り出した左乳房を奴の胸板にく っつけた。 「ひぅっ!?つ、冷たっ…!」 「はいはい、すぐあったまるからね~」 暴れる奴の股間を膝でグリグリしてやりながら、右側も慎重に貼りつける。垂れすぎず 上すぎず、自然な上向き美乳がチンコ付き美少女の上半身に出現した。 「はい、できあがり~」 すんなりした二の腕を掴んで起こしてやると、あきれたように溜め息をつく。 「…ったく、いきなり何出すのかと思ったら……っ…え?」 ふるん、と揺れるそれに早くも肌を吸われたのか、困ったように俺を見上げた。大人の オモチャ…それも女用のオナニー道具なんて奴の知識にはないようで、馬鹿馬鹿しい変な モノに反応してしまう自分に戸惑いを隠せてない。 「うん?どしたん?」 「いや…な、何でもない…」 気付かないふりで無邪気に尋ねる俺に「なんかビンビン感じちゃうんだけど、これ何な の?」とは聞けないのか、奴は頬を赤らめつつ首を振った。俺の視線に慌てて胸の上に押 しやられていたブラを下ろすのだが、CどころかDくらいありそうな擬似乳房が納まるわ けがなく、下乳をさらして頼りなく浮いてしまう。 「あらら、ブラに入りきらないみたいだねぇ~」 「じゃ…じゃあコレ、取って良い?」 「大丈夫!それに似合う服も用意してあるから!」 さっそくブラの中に手を突っ込んだ奴の前に、真新しい下着とグレーのセーターにクリ ーム色のキャミ、焦げ茶のショートパンツを放る。少しの沈黙の後、渋々奴は手を出した。 「そのブラなら一人で着けられるだろ?」 今まで手にしたのとは違う形に戸惑いを見せたが、半裸で俺に胸を突き出して背中のホ ックと格闘した挙句「エッチなわたしにブラジャーを着せてください」とおねだりさせら れずに済むと分かると、ホッとしたような顔をする。 しかし上半身裸になって新しいブラの肩紐を通したところで、須藤は再び俺の目を気に し始めた。 大きな乳房…というかモノを押し込まねばならないので、両脇ずつ軽く支えなければな らない。奴が手に力を入れると、リアルにふるふるするシリコンを伝って密着した肌に刺 激が伝わる。 「…ん……っん…はぁ」 ちょっと息が上がってるのは、俺の前で着替えてるせいだけではないだろう。「プリテ ィメロン」とやらの威力はなかなかのようだ。「メロン」って「メロンみたいな乳」って 意味なのか、「エログッズでメロメロ」って意味なのか、どっちなんだろう? どうでも良いことを考える俺の前で、正座した足も崩れへたり込みながら彼はどうにか こうにか前のホックを留めた。 「うっわー、ボインボイン」 自分の物でもないくせに恥ずかしげに俯いてしまう須藤。白い肌に対しブラから覗く乳 房が不自然なテラコッタなのを無視すれば、華奢な肩や腰に対し挑発的な胸という、かな り反則なボディラインの美少女がそこにあった。 「じゃあ次はこれな」 「っ……うん…」 むぎゅうっと柔らかく胸を締めつける感触に眉をひそめつつ、何でもないようなふりを してキャミを受け取る須藤。本当は身じろぎする度にない乳を揉みしだかれ大変なことに なってるんだろう。薄桃のショーツの前が、スカート脱がせた時よりも盛り上がってる気 がするが、俺はあえて気付かないふりだ。 渡した白いキャミソールは、鎖骨の真下あたりまでコットンのレースが被さる重ね着用 のもの。見えない部分は身体にフィットするよう薄くシンプルなデザインだが、ストラッ プやデコルテには細かな刺繍がたっぷり施されている。 ストラップとは別に肩に付いているホルターネックの飾り紐を残して奴が裾を下ろすと、 胸元がぱつんとした「女の子」の下着姿になった。 「後ろ結んでやるよ」 「要らないっ!」と逃げられてしまう前に奴の背後に回り込み、セミロングの黒髪をか き上げてやる。あらわになった白いうなじに息を吹きかけると、ほっそりした肩がブルリ と震えた。 「ゃ…やだ、早く……」 「うん?早く可愛いの着たいの?」 服を脱いだり寝かされたりして少し乱れた髪を梳いてから、紐に巻き込まないよう両側 に流す。浮き上がった左右の鎖骨をからかうようになぞってやってから、飾り紐を首の後 ろで結んでやった。下向いたりすることも考えて、きつすぎないところで可愛くリボン結 び。 「はい、バンザイして~」 「……?はい」 何の疑いもなく両腕を上げた奴の脇から、キャミを押し上げるたわわな胸をわし掴みに した。 「ひゃうっ!?な、何す…っ!あ……っぁ」 服の上から触る分には何の問題ない…というか、かなりリアルな弾み具合だ。もにゅも にゅと両手で揉みあげると、肌やすでに勃起していた乳首を引っ張られるのか俺の胸に密 着した須藤の身体が震える。 「ほら、自分でも触ってみ。ホンモノっぽくね?」 抗うように俺の手に重ねてきた両手を逆に掴み、自分の乳房に押し当てる。技術大国日 本万歳と叫びたくなるようなシリコンのやわっこさに、手のひらで覆った奴のしなやかな 手がビクンとした。 「…本当の女の子みたいですねぇ~」 奴の手の上から、今度はゆっくりと円を描くように揉みあげる。 「……ぅ…んんっ……ん!…」 堪えるように下を向いた奴の耳たぶを唇で噛むと、むき出しの腿がもぞ、と動いた。 「……あれ?なんか染みちゃってない?」 後ろから奴の肩越しにショーツを覗くと、キャミとは違うモノでぱつんぱつんになった そこの色がちょっと変わっていた。パステルピンクの頂点に、ちょっと濃いピンクの水玉。 「く…くすぐったかったから…っ」 「くすぐったいって、このパッドが?感じちゃった?」 「!…ちがっ……」 これの本来の用途を知らない彼は、こんな「道具」なんかに快感を見出だしてしまう自 分の身体を認めたくないようだ。正直に言えば教えてやらなくもないのに…まぁ外しては やらないけど。 必死に頭の中に萎えネタを駆け巡らせているだろう奴から、俺は身を離した。 「じゃあなおさら着替えなくっちゃね。オソロのパンティー汚すなよ」 気を使って後ろを向いてやる気配のない俺に悔しそうに唇を噛みしめつつ、悩ましい巨 乳キャミ姿の優等生は同級生の見ている前で脱いだショーツで濡れたペニスを拭う。こい つの剃毛フルチン姿なんかを知ってるのは他人では俺だけだろうと思うと、素晴らしく愉 快な気分になった。 まだ興奮冷めやらない様子ではあったが、ブラと同じ白地に乙女な刺繍飾りのショーツ に足を通し、スエードみたいな手触りのショートパンツを引き上げる。 グレーのセーターを手に取り広げると、案の定どこから着るのか迷ってたので思わず笑 ってしまった。赤くなった目元でキッと睨みつけてくるが、身構えた拍子にプルルンと揺 れる乳房に再び膝を擦り合わせる。 「分かんないなら手伝おっか?」 「だ、大丈夫…」 熱っぽい息をつき、あきらめたように袖を通す。今までなかった双丘に引っかかるセー ターに四苦八苦しながら裾を下ろし、胸元で編み上げになったピンクのサテンリボンを結 んで、どうにか奴は着替えを済ませた。 こないだサキさんが着てたみたいなオフタートルのニットは、両肩からぎりぎり滑り落 ちるか落ちないかといったデザイン。落ち着かないのかしきりに肩口を引き上げるが、盛 り上がった胸やほっそりしたウエストを強調する身頃に対し袖はかなりゆったりしている ので、奴の細い腕にすぐ遊んでしまう。 ふだん着せてるのはピンクだのフリルだのリボンだのと可愛らしさを前面に押し出した モノなのだが、今日は胸があるので極めて大人しめな色合いにした。俺の見立て通り、身 体の線を見せつけるデザインの割に下品さのない、見た目だけは清楚な奴にふさわしい「 女の子」ができあがる。 「かーわいい、ユカちゃん」 言って、ぴったりとしたセーターの上から形の良い乳房をぷにぷにつつくと、恥ずかし そうに身をよじらせて逃げようとした。 「ぃやあ……っ!」 この触感と過敏反応では、そうと知らなきゃ俺でも偽物とは分からないだろう。正直安 い買い物ではなかったが、ここまでで十分元は取れそうだ。 「…じゃあ、ちょっとお出かけしよっか?」 「ん、ぁ…………え?」 胸板への刺激に喘いでいた奴の顔が固まる。気付かないふりで、俺はにっこり笑ってう なずいた。 「せっかく可愛いカッコしたんだから、ユカちゃんと一緒に外行きたいなあ、俺」 「あの……こ、この、まま?」 「何か問題でもある?」 あくまで疑問形ではあるが、奴に決定権がないことは二人とも…奴自身が熟知している。 「………ない、です…」 そんなわけで、誰もが羨む美乳彼女を連れて家を出た。 яяя 電車に乗って、以前行ったのとはまた別のカラオケボックスへ。 腕を組んだ奴とドアをくぐると、二組五人ばかしが会計だか案内待ちでフロアに居た。 カップルと、中坊の三人連れ。 受付で名前を書いてから、俺のダウンジャケットにピンクのマフラーを巻いた須藤の頬 が上気しているのに今さら気付いたようなふりで声をかける。 「暖房暑い?上着脱げよ」 そのせいではないことや、上体を動かせばかえって辛い目に遭うことは分かりきってい るだろうに、腕を離し優しい彼氏の顔で俺に言われて渋々うなずいた。 本人的にはたかが「ただの胸パッド」で自分が感じてしまうとは、俺は夢にも思ってい ない設定なのだろう。わざと奴の胸に触れた腕を揺すったり動かしたりする度に、不自然 に息を詰めつつも一言も発さなかったのだ。 自分自身の羞恥心が災いして、さらなる責め苦を味わってしまう相手が哀れで哀れで… 非常に楽しい。 のろのろとマフラーを外し黒いジャケットを脱ぐと、奴の可愛らしい顔に、こちらをチ ラ見していた男が目を見張るのが分かった。うっわ超うけるわ。 まあ大人しそうな顔して上着脱いだらぽよんぽよんの乳が出てきちゃったら、凝視しち ゃうのが男の性だろう。おまけに色白キャシャリンな美少女とくれば、それこそそれなん てエロゲ?なステータスだ。 彼女に訝しい目で見られ、慌ててつつも未練がましく男が店を出て行く。しかし今度は 中坊ズがチラ見してきた。顔から先に見た奴も胸から先に見た奴も、結局は奴に釘付け。 当の本人はといえば、俺と並んでソファにかけたはいいが上着を前に抱えてはそれにた わむ乳房が、横に置いてもぷるるんぷるんするそれと周りの目が気になる。ガキの不躾な 視線に奴が気付かないわけがない。 結局彼は膝下ロングブーツまで生足の腿に上着を置き、両手をその上に乗せた。足の冷 たさは和らいだだろうが、今までなかった膨らみに勝手が違うのか、肘を曲げたり伸ばし たりと落ち着きがない。その度に編み上げリボンが窮屈そうな、はち切れそうなニセ乳が たゆんたゆんした。 「わぁ…」と丸聞こえの感嘆の声をあげる彼らに負けないよう、つとめて無神経に須藤 の顔を覗き込んだ。 「…ブラ、小さいんじゃね?」 「……っ!…」 「可愛い巨乳お姉さん」に夢中になってたガキどもの目がそこに集中したのか、視線を さまよわせ結局俺を睨みつける。カッと赤らめた目元と潤んだ瞳は、羞恥のためだけでは ない。 「な、なに言って…っ」 「プリティメロン」の吸着力はなかなかのようで、絞り出す声は上擦り掠れていた。真 っ最中ん時の喘ぎみたい。 もう少し楽しみたい気もしたが、部屋に案内された中坊に続き受付から名前を呼ばれた ので、ビクンと肩を震わせる奴の腕を引き立ち上がった。 яяя 「お二人様」にあてがわれたのは、逆L字型にソファが置かれた縦長の個室だった。 さりげなく室内を見回して、ちょうど角っこの短辺側に俺が座り、長辺側に奴を座らせ る。受付のカウンターからチラ見したものを思い出し、位置を微調整。こんなもんだろ。 薄暗い室内で皓々と光るテレビ画面には、CMでアイドルグループが歌って踊っている。 あ、あの左から二番目のって、こないだ女子が「須藤クンにちょっと似てるかも」と騒い でたイケメンじゃないか? インタビュアーの女に爽やかな笑顔で接する彼と、黙って入室時に店員に運ばれたジュ ースを飲む奴と見比べてみる。 うーん…どうだかなって感じ。 画面の中の男はたしかに美形だが、形の良い上唇はやや薄くビロビロしている。それに 対して、ストローを咥える赤い唇は程良い厚みがあり、胸とは違う次元でプリプリッとし ていた。 極めつけはちょくちょく耳にする芸能ニュース。「須藤クン似」のイケメン君は女には 良い顔するがメンバーに対してはそうでもないのか、しょっちゅう掴み合いになっただの 大御所に苦言を呈されて逆ギレしただの、良い噂を聞かない。対してこいつは、この女装 趣味とマゾっ気さえなければ老若男女問わず頼りにされ尊敬されている、眉目秀麗文武両 道品行方正なでき過ぎ君だ。 アイドルの彼がハウス栽培農薬王子様なら、こいつは路地モノ天然王子様ってとこか。 満足感に浸る俺を、ジュースを置きつつうさん臭げに見やる須藤。せっかく心の中で褒 めてやったのに、なんて恩知らずなんだ。 「…どうしたの?『こんな近くで改めて見ると、村瀬クンってカッコいい…濡れちゃうぅ っ!』?」 「そんな口がきけるおめでたさに、ある意味感動する」 顔をそむけ冷たく吐き捨てる天然女装王子。その拍子にぷるるんと揺れる、セーターに 包まれた乳房。 「ダメだなぁユカちゃん。こーんな可愛いおっぱいでそんなこと言っちゃうなんて」 「ひゃ、んっ……やめ……っ!?」 指を立てツンツンつつくと慌てて逃げようとしたので、肩に右腕を回し引き寄せた。 「ちょっと世間話でもしよっか?」 顔を近付けて耳に息を吹きかけると、性感帯である胸を長時間刺激され敏感になってい た身体から力が抜ける。 「っん……な、何、だよ…?」 「お前、オナニーする時って手コキ?」 「………どこの世間の話だよ」 すっごい軽蔑したような目で見られ、モロ感状態の奴の様子に興奮してきていた俺の息 子がくじけそうになる。 「…まあそれでさ、女ってチンコないからさ、代わりに色々お道具使って楽しむんだって」 「………」 突然何を言いだすのかと首を傾げる須藤。間近でポヨンと弾む美乳。 「お前も知ってそうなバイブとローターの他にさ、どんなのがあると思う?」 俺の言葉にそれを思い浮かべたのか頬を染める美少女。こんな清純派になお責め苦を与 えちゃう自分の罪深さに、俺大興奮。 「……たとえば、自分の代わりにおっぱい可愛がってくれるオモチャとか」 「………?」 俺にじっと見つめられ、戸惑いつつも不思議そうに俺の顔を見てくる。見つめ合う男女 (設定上)。 狭い室内にしばし沈黙が訪れ、優等生の賢いおつむがフル回転しているのが分かった。 そして、 「!なっ……」 肩を抱かれたままではあるが、弾かれたように奴は俺から身を離した。 「うわ、何だよ?」 「じゃ…じゃあコレ、も?」 セーターをパツンパツンに押し上げるそれをおずおずと指差し、尋ねてくる。ようやく 気付きましたか。 「おっぱいプルンプルンされて、気持ちよかったでしょ?」 「……っ!?」 かあーっと耳まで真っ赤になる黒髪美少女。今なら胸もチンコも付いてきます。 ニヤニヤする俺にすべてを悟ったのか、ふるふると擬似乳房と肩を震わせながら須藤は 下を向いた。 「さ…最低、だ……っ」 その「最低」って、分かってて気付かないフリをしていた俺に対してかな?それとも「 ただの胸パッド」ではありえないだろう刺激に反応しちゃったのは、モロ感なカラダのせ いだと思っちゃってた自分自身に対してかな?まあ十中八九前者だろうが。 「…もうそこまで言われちゃうと、非常に申し上げにくいのですが」 「なんだよ……今度は何する気だ…?」 虚勢を張る必要がないと分かったので、たゆんと乳房が揺れる度に唇を震わせながら睨 んでくる。 「いや、俺は何もしてないんだけど」 言って、細い肩に回した右腕を曲げ、ぱよんとした擬似乳房を弾いた。 「ひぁっ!?」 ぷるぷるるんという感触はダイレクトに自前の胸へ伝わるらしい。偽物とは思えないほ ど派手な悲鳴があがった。 「ココさぁ、評判なんだよ」 「ひゃ、ぅ………っ何、が…?」 もにゅもにゅと揉みながら続けると、喘ぎつつも先を促す須藤。 「フロントに丸見えなの」 「…………はあ?」 「…さりげな~く、俺の斜め上見てみ?」 素直に目だけを動かした奴の顔が強張る。無事防犯カメラを捉えたらしい。 「なっ…な、何考えてるんだお前!?」 ここは「やだぁ、○○が見てるぅ」「見せつけてやろうぜフヒヒッ」という会話を楽し みたかったのだが、優等生にはそんな応用力はなかった。○○には月でもマリア様でもご 自由に。 位置的に奴の顔や上半身は見えるが、そこから下は俺の身体で見えない…はず。ちょっ と暑いが、念のため上着は脱がないでおこう。 「友達の友達がココでバイトしてたみたいでさぁ、フロントのモニターから丸見えなんだ って」 陶酔しきってデュエット歌う夫婦とか、本番行くんじゃないかってくらい熱烈なスキン シップ交わすカップルとか、どこまで本当かは知らないが地元では結構有名らしい。 「じょっ…冗談じゃない!俺はそんな、み…見せたりする趣味はない!」 「今さら何言ってんだよ。お前これまで俺にどんなカッコさらしてきたよ?」 引きはがそうとしてくる奴の頬をつつき顎へと滑らせる。この仲睦まじい光景を、ちゃ んと盗み見てもらえてるだろうか。 「ば、バレたら……ぁ…」 「んー、だから上手くやろうねってことで」 「うまくって……や、ぁ…っ!」 逃げようとする奴のショートパンツの裾から左手を差し込む。 「この、おっぱいおっきな女の子のままで、気持ち良くなろうね?」 「っ…あ……やだ、ぁ…んっ…」 右手で細い顎を上向けさせながらショーツの縁をなぞると、目の前で紅唇を震わせ息を ついた。中へ指を入れようとすると、慌てて膝を閉じてくる。 「だ…ダメ!こんな……こんな、とこで…」 「『こんなとこで』、ノーパンでビンビンだったくせに」 「…っ!……や、だぁ……っ」 俺の胸を押していた両手で耳をふさぎ、いやいやと首を振る。ショートパンツから抜い た左手で太腿を撫でながら、奴の豊満な胸のリボンを引っ張った。 一番上で蝶結びにしていたそれがほどけると、編み上げられている胸元がほんの少し楽 になる。しかしそこが動く度に愛撫されるような刺激を与えられる彼にしてみれば、これ は甘やかな拷問でしかない。 「……っぅ………」 力の抜けた膝を割り、左足のロングブーツに手をかけた。 ファスナーを引き下げると、チェックの透かし編みの薄いハイソに包まれた細いふくら はぎが覗く。利き手は乳房を撫でているのでなかなかうまくいかないが、どうにかブーツ から嫌味なくらい長い足を引き抜けた。 「はぁ~い、ちょっと上げてねぇ~」 左足をソファに上げさせ、片足だけM字開脚。暗い室内にも白くするんとした内腿が、 付け根ぎりぎりまであらわになった。 「っ…やだ、見え……っ…」 「見えない見えない」 擦りガラスのドアの向こう側を気にする須藤を「変に動く方が覗かれちゃうよ」と牽制 する。その間に俺の右手は奴のセーターの裾から中へと入り込んでいた。 「…っひゃ!?あ、ちょっと……ひ、ぅ…っ」 くびれたウエストを親指でくすぐり、引き締まった腹を胸に向かって撫でてやってから 、自宅でしたようにキャミの上から右胸を掴み上げる。セーターに俺の指が浮き上がって いて、その動きがはっきりと分かって卑猥。超エロい。 「つくづくリアル。すっげーリアルなんだけど」 「ぁ…っあ、やめろ……っ馬鹿!」 言うに事欠いて馬鹿ときましたか。 この手触りの素晴らしさを知ってもらうため、左の内腿を撫でまわしていた手で須藤の 左手首を掴む。華奢な腕は必死に振りほどこうとするが、抱え込まれているのとキャミの 脇をつつかれるのとで力が思うように入らないようだ。 「もっかい自分で触ってみろよ、ほら」 「っいらない!や…いや…っ!」 グレーのセーターを形良く押し上げるそこに、本人の手をぐっと押さえつけた。 「あ…ん、んっ……っく……」 手のひらを柔らかく押し返すそこが、下の自分の胸に刺激を伝える。俺ん家でそうした 時と違い、用途を知ってしまったから余計に感じちゃうみたいだ。 「ほらほら、女の子みたいっしょ?」 「っぅ……知るかよ…っ」 覗き込む俺から顔をそむける須藤。首痛くならないのかな。 まあこんな下世話なセリフに、これだけ恥ずかしがってくれるから楽しいんだけど…っ て、 「…あ、もしかして本物触ったことないとか?」 「………」 黙ってはいるが、俺にされるがまま自らの乳房を揉む指が強張る。 「須藤くぅ~ん?」 も一度覗き込むと、さらにぐぐーっと反対側を向かれる。ホルターネックの紐が飾る、 きれいな首筋。 「あらららら。図星でしたかぁ~?」 「お…お前と一緒にするな!」 「そっかそっか、清らかなカラダのままこーゆー趣味に目覚めちゃったんだ」 意に介さず「こーゆー」ってとこで両胸を(片方は奴の手越しではあるが)揉みあげる と、身を竦ませつつも健気に反抗してきた。 「さ、最低だ!ほんとに……ほんとに最低だっ!」 いわれもないことでなじられるのはごめんだが、こんだけの美少女になら金払ってでも 罵られたい男が腐るほど居るだろう。 「そんな『最低』さんに感じちゃってるのは、どこのどなたですかねぇ~?」 レディコミかBLに出てくるような、「ちょっとキチクなカレ☆」なセリフを吐きなが ら奴の左手を自由にしてやる。聞くのはウザいが、言うのはすげー楽しいわ、これ。新発 見。てゆーか、ちょっと鬼畜って、どう「ちょっと」なんだろうか? 「そうだよねぇ、ユカちゃん自分のおっぱいがこんだけ可愛いんだから、他の子のなんて どうでも良いよねえ?」 「…あ、あ……ひゃ、やめ…っ!」 いったん胸から手を離し、今度はキャミの裾から肌へと直接手を突っ込む。ソファには したなく立てた左膝がビクリと震えた。 室内の効きすぎな暖房と興奮とで汗ばんだ身体を撫でる。びくんと奴が身震いする度に、 俺の目の前の双丘が跳ねた。 「胸が弾ぅ~むわぁ~♪」 耳元に歌いかけると「マジ死ね、氏ねじゃなくて死ね」ってまなざしを向けられる。だ けど涙が出ちゃう、気持ち良いんだもんっ。 「……っん…ん、ぁ…だめ…ぇ…っ」 俺の手がブラに到達すると、弱々しく肘を掴んできた。気にせず貴重な「下着に収まり きらない乳」をブラの上からふにふにする。 「あんっ!………っ」 谷間から直接シリコンに指をかけると、思いの外高い声があがった。慌てて両手で口を ふさぐが、もう遅い。 「やっだ。カワイー声出しちゃって」 「っ………し、知らない……っ!」 真っ赤になって首を横に振るが、デコルテに息を吹きかけると押さえた手の向こうから 小さな声がもれる。 「もっといっぱい気持ち良くなろうねぇ~」と笑いかけて、俺は真ん中のホックを外し た。途端にぽよよんと弾む胸。柔らかいそれとキャミに挟まれてきゅうきゅうになる俺の 手。 「……っふ………ぅ…っ…」 「ほらほら、楽になったでしょ~?」 「や……ぁ、あっ…は、はずしてっ!取って…んんっ!」 肌とは異なるゴムだかビニールっぽさはあるが、指に吸いつくようなシリコンを両手で 揉みあげ、こねまわす。その度に、電流でも走ったかのように腕の中の身体が跳ね悶えた。 「こんなに感じてるみたいなのに…どうして?」 「……え?」 俺が無視すると思っていたのか、ワンテンポ遅れて聞き返してくる。 「コレ、気持ち良くない?てゆーか、キモいのに演技しちゃってくれてたの?」 ちょっと悲しそうな声で尋ね、ゆっくり大きく円を描くように揉むと、モゾモゾとソフ ァにかけた腰をくねらせ、奴が唇を震わせた。 「ひゃ…ん、ぅ……そんなん、じゃ…っあ…」 あちゃちゃー、やっぱり正直に来ちゃったよこの人。やっぱりこいつ、根っからのマゾ っ娘(男)だ。 「じゃあ、気持ち良いの?」 「…ん……あ、き……気持ちぃ…です……っん!」 清く正しい女装っ子の乳房を下から手のひらで持ち上げ、手を離す。タプタプっと弾む 様子がセーターの上からもよく分かった。 「気持ち良いのに、なんで外して欲しいなんて言うのかなぁ?」 小首傾げて顔を合わせると、羞じらうように睫毛を伏せつつ赤い唇を動かす。 「ん………で、でちゃう、から…っ……」 羞恥に口ごもりながらも射精しそうなことを告白した奴に、俺はニッコリ笑いかけた。 「よく言えたねぇ、ユカちゃん」 左手を出して、汗で額に貼り付いた前髪を払ってやる。そのまま優しく頭を撫でてやる と、不穏な動きをする右手に眉をひそめつつも彼はホッとしたような顔をした。 「でもダメ。取ってあげない」 ちょっと掬い上げてどん底へ。きれいな面はどっちも絵になるなあ。こいつは「最低」 と言ってたが、俺の気分は最高だ。 「そ……な、だって」 「だって俺、財布しか持ってきてないから、ソレ取っても隠せないもん」 二人ともバッグなんて持ってないので、むき出しで持つにはどう考えても怪しいこれを 隠す方法がない。まあ言い訳だけども。 しばし呆然としていた須藤だったが、賢い頭はわりかし早くに復活した。 「じゃ、じゃあなおさらだ!もう出よう、早く帰ろう!」 「いんや。ちゃんと後始末はすっから、遠慮なくイっちゃって良いよ」 これで「はい、そうですか」とドピュドピュする恥知らずなら問題ないのだが、淫乱だ けど人一倍恥ずかしがり屋さんな奴には余計にプレッシャーみたいだ。 「…で、できるか!……そんな…ひと、の前なんかでっ……」 「お前、どんだけ俺にイき顔見せつけちゃってんの?」 俺のセリフに動揺しつつも、堪えるように唇を噛みしめる優等生。俺も胸が弾ぅ~むわ ぁ~! 「あーあと、?せっかく防音なんだから、いっぱい可愛い声聞かせてねえ?」 「っ………」 黙り込む優等生。胸がしぼぉ~むわぁ~。俺の。 「……マイク取ってきていい?」 「待っ…!…や、やめて……っぅん、ぁ…」 慌てて口を開けるが、都合よくよがり声が出るわけでもなく唇が震えるだけ。もともと アンアン叫ぶタイプじゃないみたいだから、演技することもできないみたいだ。 「無理しなくって良いから、気持ち良いとこになったら教えなよ?…ユカちゃん?」 「!………は…はぃ……っ」 俺の猫撫で声に身震いしつつ答える須藤。なんて失礼なんだ。 しかし俺はどう考えても言いがかりな器の欠けにケチをつけてきた客にも頭を下げるく らい心が広いので、気を取り直して胸責めを続けることにする。 片手に収まりそうで収まらない乳房をムギュムギュ握ると、奴の手が服の上から控え目 に押さえてきた。 「…ぁ、あっ……そ、それっ!…それダメぇ…っ…」 「ダメ?ダメんなっちゃうくらい気持ち良いん?」 「いいっ…きもちぃ、です……あ、あ………もっと…っ!?」 思わず口走ってしまった言葉に慌てて唇をふさごうとした奴の左手を、俺の左手が掴み あげる。 「…俺は両手ふさがっちゃってるから、『もっと』はユカちゃんにお願いしようかな?」 「……やだ、ぁ……っ…!」 奴の手をセーターやキャミの裾に差し入れ、手付かずだった左乳房を触らせる。 「ほら、こうしてギュッギュするのが良いんだろ?自分でもやってみろよ」 「……っは………ぁ…」 俺が右手と一緒に包み込んだ左手も動かすと、立てられた膝が内股に寄せられた。密着 した身体からは暖房以外からくる熱や高鳴る鼓動とともに、奴の興奮が嫌というほど伝わ ってくる。 自分から指を動かすのを待ってから、俺は引き抜いた左手を再びショートパンツの中に 滑り込ませた。 「…っひぁ、あ、あんっ!……っ」 じっとり湿ったショーツの中に押し込められたペニスは、今にも達しそうなほど熱を持 ち、ヒクヒクと震えている。ちょっと触ったらほぼ胸だけでイけちゃいそうだ。 テーブルからジュースと一緒に置かれたペーパーナプキンを両方取り片手で広げる。六 分の一に畳まれていたそれを四分の一にして、濡れたショーツとペニスの間に滑り込ませ た。 こんだけグショグショなら変わらない気もするが、一応約束は守っといてやろう…今後 言うこときかせるためにも。 「おまたせ。良いよ、イっちゃいな?」 優しく耳に吹き込むと、それにすらビクビクしながらも奴は緩く首を振ってしまう。 「ぁ……いや、いや…」 「どうして?気持ち良いんだろ?セーエキいっぱい出しちゃえよ」 いっぱい出されても困るが、ここはゲタを履かせとこう。 「ほら、どっちも触ってやるから」 シリコンにめり込むほど乳房を揉む指に力をこめ、包んだ亀頭をグリグリ刺激する。自 らの左胸を包む奴の手は動きを止めてしまっていたが、右手はせわしなく上下して…すが るように俺の右手を、セーターの上から掴んできた。 「ぃあ、あ…だめ、あ……っ!」 胸を揉みしたがれながら下着の中、俺の手に射精する少女の顔は平常の楚々としたそれ からは想像もつかないほど淫らでだらしなく…それでもやっぱり恥ずかしそうなところが 可愛らしかった。 яяя くってりした身体を支えてやりながら、下着の中に白濁を受け止めた紙ナプキンを滑り 込ませ汚れが広がらないようにする。 相手はすっかり存在を忘れていたであろうカメラの位置を気にしながらブラを留めてや り、リボンを結んだセーターを下ろしてやる頃には、ずっと上げたままだった左足を自分 でブーツに突っ込むくらいには回復していた。 「歩ける?」 「……グチュグチュする」 ブーツのファスナーを引き上げる俺にも、その青臭さはよく分かる。せめて今が乾燥し た冬であることを、日本と俺に感謝しろ。 「トイレ行って、そん中の捨ててよーく拭け。あと中から紙タオルかウェットティッシュ 何枚か持ってこいよ」 カピカピの左手を示すと熱の引いてきた頬をまた染めてうなずいたが、困ったように俺 を見てきた。 「………あの」 「うん?なんか問題でも?」 「…その、この…中のって、流せるかな?」 下着の中の紙ってことだろうか。 「女子トイレなんだから、個室ん中にゴミ箱あるだろ?それに捨てろよ」 「………」 本来使わないところに、よりにもよって精液まみれのブツを入れることに抵抗があるの だろうか?女子トイレに入ってる時点で、そんな倫理観捨てちまえよって言いたいが。 「あのさ、汚物入れの中身や匂いをいちいちチェックする店員なんて、そっちのがヤバい だろ?そんなこと気にする暇があったらパンティーそれ以上グチャグチャんなる前に、さ っさと行きなさい」 理詰めで攻めた方が、優等生は動くみたいだということが分かった。 яяя 奴が言われたことをこなして戻るまでに、終了前の確認内線が入った。きれいな方の手 で受話器を取りつつ、「見た?どうだった?」と聞くか聞くまいか非常に葛藤。聞かなか ったけど。 こいつとカラオケボックスに入るのは二度目だったが、またしても一曲も歌わないまま 部屋を出ることとなった。 今度は人が居なかったので、巻いたマフラーを垂らした須藤の胸の辺りをやけに凝視す る店員にすぐに会計を頼むことができた。恥ずかしいのか早く出たいのか出入り口側に立 った彼は、言われた通り俺と腕を組みつつもそっぽを向いている。 店員が預かり金額を言ったところで自動ドアが開き、途端にガヤガヤとやかましくなっ た。見れば俺らとタメくらいの男子高校生五人で、詰め襟のラインに見覚えがあった。学 区的には俺やこいつの出身中学にまたがってる私立高。 「知り合い居る?」 冗談で耳打ちすると、そちら側を向いていた須藤の肩が硬直し、 「……どしたん?」 掴んでた俺の腕の反対、店の奥側に移動し、下を向く。 「………いた」 マジですか。 俺にぴったりくっつく奴の本心なんざ知らない店員が、「甘えんぼの彼女」を気にしつ つ釣りを返したところで、その高校生集団がどっとカウンターに押し寄せた。 ぐぐいっ! 「五人っ!学割歌い放題でっ!」 ああそっか、そうすれば時間気にしなくて良かったんだぁと思う俺は、財布を掴んだま ま胸に奴の顔をうずめられていた。ハグですね。俺の背に両腕を回して身体を密着させる 、これはいわゆるハグってやつですね、須藤君? 「……」 入店時の中坊ほどではないが、突然の熱愛シーンに奴のおそらく同級生含む若者たちも 、プルプル揺れる美乳に見とれてた店員も思わず注目。 顔を見せたくないのか俺に抱きついたまま、ずーるずーると移動する美少女。されるが まま自動ドアへと向かう俺。見えてないのにすごいなあ。 「…胸当たってんだけど」 「うるさい黙れっ」 押し殺した声で言いながら、ぎゅううっと俺の身体に回した腕に力をこめる。体力測定 は男子の標準値だったはずなので、当然痛い。 仕方なく財布をパンツのケツに突っ込んでから相手の両肩に手を置くと、やっぱり小さ な声がする。 「いいか?このまま出ろよ?もし離したら…ええと、ぶつ!ぶつから絶対!」 喧嘩沙汰とは無縁そうなふにふにの拳が、俺の背で固められるのがわかった。痛そうだ なあ、棒読み。 「あの、それじゃあどうも」 頭ぶつけないよう後ろに手をつっぱりつつ言うと、慌てて店員は業務に戻り、歌い放題 予定の彼らも生徒手帳を提示しだした。 「…どったの?たぐっちゃん」 ピクリと細い肩が震えたので、さりげなく彼らを見る。ドリンクメニューを持った茶髪 が、それに目を向けないスポーツ刈りに呼びかけたみたいだ。 「いや…女の子の方、なんかどっかで見たような気がしたんだけど」 ほうほう、こいつが元同級生か。旧交を温められなくって、さぞかし残念だろう。人気 者は困るね。 「はぁ?…あんなんと知り合いだったら、俺らと映画なんか観ねーだろ」 「だよなあ、知らない子だった」 馬鹿笑いする彼らはもう他人の女には興味をなくしたようで、あーでもないこーでもな いとドリンクを注文しだした。 自動ドアをくぐり、暖房恋しい往来へ。 「…お店出ました。中の奴らは見てませんが、通行人の注目の的です」 店内とは恐らく別の意味で、須藤の肩が震えた。 「…っ悪かったな」 カッコ良いセリフとともに、ぱっと身を翻し俺と距離を置こうとして…慣れないブーツ のヒールに派手にコけ、その先の通行人に激突する。思わず差し出された手がその美乳に ジャストミートするという、双方ドッキリアクシデント付きだ。 正直腹筋切れそうなほど笑いを堪えているのだが、爆笑してる場合ではない。 奴がぶつかった男の、巨乳美少女とのフラグをへし折らなければならないからだ。 (おしまい) 【おまけ】 風邪予防なのか何なのか、外から帰ったらとりあえずうがい手洗いというのが優等生の 習慣らしい。 須藤の脱いだ女物のロングブーツを、どうしたら姉貴のと混ざることなく玄関で保管で きるか悩む俺にダウンジャケットを押しつけると、彼は先に洗面所へ行ってしまった。 あの、俺今んとこ家主なんですが。 水音を聞きつつ、とりあえずブーツには古新聞丸めたのを突っ込んで、ダウンと俺の上 着は部屋に放っといた。後で何とかしよう。 蛇口を閉める音がしたので使おうと奴の居る洗面所に入りかけ、半開きの扉の前で足を 止める。 キャミを合わせたオフショルダーのセーターに、白く長い足を見せつけるようなショー トパンツ姿の美少女…それも今は挑発的な上向きバストを持つ女装優等生が、目の前の鏡 に向かっていた。 顔に汚れでもついたのかな?とも思ったが、服越しにもプリンとした尻を突き出すよう にして姿見に映る自身を見つめるやつは微動だにしない。 …見入っちゃってる? そりゃもう、洗面台に手をついて身を乗り出すようにしてじーっと見ていた。 改めて模範生たる彼の倒錯したご趣味を実感しつつこっそり観察していると、奴は飽き たのか鏡から離れた。 もう入ろうかとも思ったが、今度は腰から映る自分の素敵バディをご鑑賞なさっている みたい。どんだけですか? もはやオチャ根性丸出しで、それでも奴に気付かれないよう注意しながら見ていると、 奴の視線が下方に動いた。鏡面に映るのと交互に見てるのは…胸、で良いのかな? きゅっと小さな口を引き結び、奴は白い右手をゆっくりと持ち上げた。 そろ~りと持ち上げられたそれは、セーターを悩ましく持ち上げる双丘へと向かう。そ して、やっぱり慎重すぎるほどの速度で、自身の右乳房に触れた。 ああ、焦れったいけどそれがイイ! 下の胸板に伝わる刺激に、わずかに赤い唇がほころぶ。ぷよん、と押し返す感触の本物 っぽさは、値段と俺の折り紙付きだ。 マジというか神妙な顔をしてしばらくぷにぷにして、何をうかがってるのか上目遣いに 鏡を見る。映るのは、もう片方の手も自身の乳房へと運ぶ黒髪美少女今ならチンコ付き。 可愛らしい「女の子」になる自分の姿が、同級生である俺にさんざんいじめられてもイ きまくっちゃうくらい大好きな女装っ子は、それをさらに魅力的にしてくれている美乳が たいそうお気に召しているようだ。 「…それ、気に入った?」 とっても前衛的な悲鳴をあげてくれた巨乳優等生(男)をどう料理してやるか考えながら、 俺は改めて技術大国に生まれたことに感謝した。 (おしまい) 【おまけ2】 さんざん楽しんだ「プリティーメロン」を外す前に一つだけお願いがあるのだと俺に頭 を下げられ、優等生は困った顔をした。 「こ……これ以上何する気…?」 黙って立ち上がり部屋を出て行く俺を、不安げに追う須藤。身じろぎする度に吸い付き 振動を与える擬似乳房に、慣れることなく小さく喘いだ。 「ちょっと待ってな」 階段の踊り場に奴を残し、一階まで下りる。そして、 「……?」 しゃがみ込んだ俺に首を傾げる巨乳っ娘(男)を見上げた。外ではずっと腕を組んでい たので、初めて離れた低い位置から見ることになる。 「ああ、この角度だとおっぱいでユカちゃんのお顔が見えないっ!」 「馬鹿かっ!?」 俺の意図が伝わったのか途端に機嫌が悪くなる。勘が良いのも考えものだ。 「うん、バカでいいからさ、そっからちょっと下りてきてよ」 「はあ?何言って…」 「お願いっ!」 「………もう……っ…」 ためいきをつきつつも、ノーと言えない日本の優等生は言われた通りにしてくれた。 たんたんたん、と細い足がステアダウンする度に、ぱゆんぱゆんぱゆんとセーターに包 まれたそこが跳ねる。 ああ、もうちょっと我が家の天井が高かったらもう数段分楽しめたのにっ! 「っ……な…何が望みだよ…」 乳房に揉みしだかれた胸板をかばうようにしゃがみ込み、潤んだ瞳が睨み上げてくる。 「ええと、あと二、三回上り下りしてくれる元気ない?」 「俺は昇降運動しに来たんじゃないっ!」 女装エッチするためですよね。 しかし、俺だって譲れないものはある。それは奴に対しての絶対的立場と、崇高にして 普遍的なる男の浪漫だ。 「おっぱいはね、皆の希望を乗せて上下だけでなく左右斜めにも揺れるんだっ☆」 「知るかっ!」 あれほど喜んでくれたのに、彼はその場でその胸ごと服を脱ぎ捨ててしまった。 (おしまい)
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彼女の夢 「私は毎日あの人に会いに往くの 私以外には誰も来なくなったけどいいわ 私は貴方が好きなのだから…」 私達の楽園 → 其処は私達がいる世界 辺境の村には二人の恋人 → 其処には私達が 朝焼けが照らす道...朝日が私達を導く… 貴方の眠る場所...愛が私を焦れさせる… 「嗚呼...私の愛しい――」 僕達の楽園 → 其処は僕達がいる世界 辺境の村には二人の思い人 → 其処には僕達が 彼女の濡れた道...愛が僕達を導く… 君の眠る秘所...望が僕を焦らせる… 「嗚呼…僕の愛しい――」 「私は幸せよ...こんなにも優しい彼が一緒に居てくれるから… 嗚呼...私は彼ともっと一緒にいたい...どうすればいいのかしら… そうダ...彼はワタシノモノニナッテモラオウ…!」 私の楽園 → 其処は貴方がいる世界 荒れ果てた野には一つの石 → 其処には貴方が 夕焼けが照らす道...夕日が私を導く… 貴方の眠る墓所...腐臭が私を遠ざける… 「ネェ...貴方ハ変ワッテシマッタノ?」 私の楽園 → 其処はワタシのいない世界 辺境の村には一人の娘 → 其処にはワタシが 月光が照らす道...月が私を導く… 貴方の眠る墓所...思い出が私を急がせる… 「ネェ...私ハ変ワッテシマッタノ?」 「とある辺境の村でとても奇怪な出来事が起きた… それは一人の男に始まり...男の家族...友人...強いては村人ほぼ全員が殺されてしまったという… 我々は...その奇怪な事件の真相を知る為辺境の村へと出向いた…」 緋色に染まる道...血が我々を導く… 彼女のいる場所...危機が我々を急がせる… 世界の楽園 → 其処はワタシのいない世界 朽ち果てた大地にはたくさんの石 → 其処には私達が 「我々は...唯一生き残っていた『彼女』が村人を殺したのだと悟った… 彼女の眼は恐ろしく...数多の戦争を生き抜いた武士までもが恐怖した… 我々が到着した頃には既に...彼女は...コワレテいたのだ… 悲しげな表情(カオ)をした彼女は言った…」 「アナタタチモ――オナジナノ?」 「ワタシハマイニチアノヒトニアエルノ コナクナッタ人タチモそこにハイタワ 私はイマ...とても幸セよ……」
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夢想彼女 (「偽装彼女」シリーズ) 昔から、男女問わず「カッコいい」と言われるのが嫌だった。 幼いのもあって、それがなぜなのかまでは分からなかったが、とにかくその言葉を自分 を対象としてかけられる度に心に引っかかり、澱のように胸の奥底に溜まっていったのだ。 もちろんそんな不満を表に出すことは好ましくないと分かっていたから、いつも自分は 生来の整った顔を崩さない程度のはにかみ笑いを浮かべ、やんわりと否定する。 そうしてずっと嫌われることなく、輪から外れることなくここまできたのだ。 γγγ 花嫁と同じ、白いセーラー服を着ていた。 「ゆうちゃん、可愛い」 共働きの親に代わって、自分の面倒を見てくれたのは主に父方の叔母だった。 祖父母が早くに事故死し、ずっと寂しかった家が母親が来たおかげで明るくなったのだ と、涙もろい叔母は何度も自分に話してくれた。 母親は自分も高校生の時に父親を亡くしていたのと、兄弟が居なかったせいか、当時ま だ学生の義妹が不憫な以上に可愛かったのだろう。 時に夫に息子を預けてまで共に居たその可愛がりようと、叔母の懐きようはいわゆる嫁 と小姑ではなく、並んでいれば実の姉妹のように息子の自分からも見受けられるほどだっ た。 「ゆうちゃんは女の子みたいに可愛いねぇ」 被服系の専門に通っていた叔母は趣味や課題に自分の服をいくつも作ってくれ、時には 兄嫁が許すのを良いことに女児用の服まで自分に着せ替えさせていた。 自分はといえば、人見知りに加え叔母に甘えてばかりだったので、彼女の作ってくれる 白や水色、ピンクのふわふわした服も喜んで着ていた。 実際外を歩けば誰もが褒めてくれるなりほほ笑みを投げかけてくれたし、鏡の前に立て ば自分は絵本の中のお姫様のような気分になれた。 「可愛い」、「可愛いわね」といった言葉にどっぷり漬かり、現に小学校に上がって髪 を短くしても、女子と間違われてばかりいたのだ。 さすがにランドセルを背負う頃には女児服を着せられることはなかったが、可愛らしい フードの付いたシャツだの、ポンポンの付いた上着だのを彼女が作る度にはしゃぎ、仮縫 いのまま外に出ようとしてたしなめられていた記憶がある。 γγγ しかしそんな日々は、叔母の結婚により終わりを告げた。 国際結婚で相手がどこかの国を拠点に起業するらしく、そのそばで自分の夢を叶えるこ とに希望を抱きつつも、兄である自分の父親よりも母親や自分と別れることに彼女は涙した。 そして「最後に私の服を着て、お祝いしてね」と、自分も結婚の準備で忙しい中、甥へ 最後のプレゼントを作った。 それは、花嫁と同じ真っ白なセーラー服だった。式場でひときわ目を引くようにと、当 時服飾メーカーに勤めていた彼女は同僚や上司のコネを使って、自分の気に入った材料探 しに奔走したという。 もちろん下は半ズボンだったが、水色のリボンでラインの入れたセーラーカラーは、そ の場でクルリと回ると軽やかになびき、幼い自分は鼻高々だった。新郎よりも叔母のそば にいる方が多かったかもしれない。 「よく似合ってるわ、とても可愛いわよ」 「これは可愛らしいお子さんだ」 思えば、幼い自分が最後にかけられた女性的な賛辞はこの時だったかもしれない。 叔母が家を出て以来、それまで自分を取り巻いていた世界は変わった。 小学校の中学年にもなれば、身体が変わらずともそれなりに男女を意識し始める。奇し くもちょうどそんな時期に、無条件に自分の容姿を「可愛い」と称賛してくれる存在も、 自分を飾るものも成長につれなくなった。 もちろん両親は少ないはずの時間をやりくりして息子に愛情をかけてくれたが、自分が 欲しかったものとは何かが違った。息子を女の子として扱うなど、ありえないことだから 無理もない。 「豊クン、カッコいい!」 「須藤はクラスで一番女の子にモテるんだってさ」 ませた子供の発言に大人は苦笑し、自分はその言葉に引っかかりを感じつつも、誰の機 嫌も損ねないよう何も言わずにほほ笑むことにした。 一人っ子なのもありあまり突っ込んだ付き合いをしなかったのも、男女から羨望のまな ざしと、嫌がらせを受けない程度の嫉妬を集めていたのだと思う。 γγγ 「カッコいい」という言葉に違和感を覚える理由をはっきりと自覚したのは、四年生の 秋だった。 当時クラスの誰も彼もが習い事だの塾だのにいくつも通っていて、自身が空いた時間に 趣味程度のピアノを教えるくらいだった母親も、成績に不安はなかったが息子が孤立しな いようにと級友が多く行く個人塾に通わせ始めた。 自分はといえば、別に行きたくはなかったが親の言うことに間違いはないので、良いと も嫌とも言わずに級友の背を追って駅前のそのビルへと入った。 塾の講師はいかにも体育会系だったような、壮年の男性だった。 今思うと、幼女趣味というよりも単に女児への接し方が分からなかったのだろう。泣か せてしまわないように、悪い噂を流されないようにと女子に対しては慎重すぎるほどに彼 は「優しい先生」として振る舞った。 逆に男子にはそういった気遣いは一切せずに、感情を込めずにただ提出してきた課題を 添削し、必要があれば間違いを指摘して「あとは自分で考えろ」と突き返すだけ。課題を 怠ければ、怒られていない自分まで怯えるような怒鳴り声で叱責した。 それまで出会った教師は厳しくとも甘くとも、自分を含め男女の区別はつけていなかっ たように感じていたので、対象によって態度が変わるその講師は、ひどく恐ろしい存在と して自分に刷り込まれた。 「須藤クンはいっぱいマルもらってるね!うらやましいなあ」 「すごいね」や「カッコいい」等と自分に笑いかける相手の方が、何もしなくても講師 に優しくしてもらえる彼女らの方がよっぽどうらやましかった。 「僕も、僕だって可愛がってもらえるはずなのに!」 声に出しはしなかったが、自分の凡ミスを冷ややかに指摘される度に、同じ箇所を何度 も間違える女子が優しく指導されるのを見る度に、問題を解きつつも頭の中はその思いで いっぱいだった。 表向きには塾にも講師にも問題はなかったが、その学年が終わる頃ついに耐えきれず、 ある日の夕食後に親に頭を下げた。 「家で勉強を頑張るから、もう塾には行きたくない」 めったに物をねだらない息子の涙ながらの訴えに、両親は黙ってうなずき、母親は「ご めんね」と優しく抱きしめてくれた。 γγγ 中学に進学し、あいかわらず自分の容姿や成績をもてはやしてくれる女子らはいたが、 当然ながら「女の子」として扱ってくれる存在はいなかった。 日々の課題や任された委員会の仕事に忙殺されて、そんなコンプレックスを忘れかけて いた頃、契機がおとずれた。 その時質問で職員室に入ったのに、課題の未提出者に催促してくれと教師に頼まれ、自 分は顔には出さないがあまり良い気分ではなかった。 「お前が言うと女子の頑張りが違うんだ」と冗談混じりのセリフに少し釈然としない思 いを抱きつつ、教室に戻る。 入った途端、休み時間とはいえうんざりするような喧騒が耳に飛び込んできた。 「うっわすっげうわーっ!」 「もう、あいつらマジ嫌なんだけどー」 部屋の真ん中に固まり何かを見ている男子らと、それを遠巻きにして呆れつつも興味津 々といった表情の女子たち。 次の授業が始まったら、少し時間をもらおうと決め席に戻ろうとした自分を、輪の中央 に居た一人が呼び止めた。 「あ、おーい須藤須藤!」 「田口、お前だけじゃないけど理科Bの課題、先生が出せって」 「あー、ごめんそれはまた今度!それよりさぁ、」 「おい、やめとけよ」 生真面目な自分が眉をひそめ教師に告げ口することを懸念したのか、別のクラスメイト がたしなめるが、 「大丈夫だよ!須藤良い奴だもん!…でさ、女教師モノ興味ある?」 「教師…?」 うなずきも断りもせず首を傾げる自分に業を煮やしたのか、小学校から同じクラスだっ た彼は手にしていた雑誌を広げ、中のページを見せてきた。 そこにあったのは、異常にスカート丈の短いスーツ姿の女が、学ランの少年(今思うと 青年だろう)の前にひざまずいている写真だった。 学ランは教室(と思われる)の椅子に座り、女の引き裂けたブラウスの中からこぼれる 豊かな乳房を、靴を履いたままのその足でたわませている。 「なっ…何見てるんだよ!」 「うわ須藤赤くなってるよ」 「かっわいー!」 「やだ、須藤クンにそんなの見せないでよー!」 こんな開かれた場所で、そんなモノを見せられたという羞恥に赤らむ自分の顔を見て彼 らは、そして周囲は笑った。 もちろんそれは嘲笑ではなく、予想通りの反応にからかうといった類のものではあった が、恥ずかしい思いをしている自分を皆が見ているという状況に、なぜだかひどく興奮し た。 そして写真を見せられた時、一瞬学ランではなく辱められている女の方に自身を重ねて しまった自分に戸惑った。 お堅い黒スーツのスカートを足の付け根まで捲り上げ、彼女は設定的に教え子であろう 学ランにかしずいていた。 それだけなら硬質な印象を与えるだろう黒縁の眼鏡の奥から学ランを見上げる、隷属す る者の瞳に、屈辱を与えられてなおモノ欲しげに薄く開いた唇に、わけもなく嫉妬してい る自分が居た。 (…嫉妬……?) 「分かったから先生来るまでにちゃんと隠せよ。後みんな課題出せ課題」 反感を買わない程度に呆れた声で場を収めつつも自分の感情に困惑し、同時に小学生の 頃のトラウマが沸き上がるのを必死に抑えながら、不可解な気持ちの正体を探り心を鎮め るために、あることを計画した。 γγγ その月は土曜日も両親は仕事で、日中は自分一人が家に残っていた。 普段は宿題の後ぶらぶらと本屋に行ったり、気が向けば中古ゲームを買ってきたりとし ていたのだが、その日だけは先約があった。 別に休みに自宅にどれだけ居ようと構わないのに、これからやることを思い緊張しなが らハウスキーパーが掃除を終え出て行くのを見送った。 彼らが忘れ物をしてないか確認してから、入らなくなって久しい部屋へと向かう。 開けた扉は少女趣味なプレートのかかる、人だけが居なくなって何年も変わらない叔母 の部屋のもの。 「別に客間もあるんだから、あの子がいつ帰っても良いようにしときましょう」と、義 妹の実の兄である夫にきっぱりと宣言し、母親が家具もそのままに掃除だけをさせている のだ。 それでも生活臭のないせいでわずかにほこりっぽい絨毯を、自分の足はそろりと踏みし めた。 その懐かしさと、今や連絡もろくに取れない叔母への恋しさに涙すら出そうになったが、 そんな感傷に浸るためにこうして入ったのではない。 「お邪魔します」 間抜けなセリフとともに、クローゼットの戸を開く。目当ての物はすぐに見つかった。 それは、叔母が高校生の時着ていたという制服だった。 自分が着たそれより少しだけ色のあせた、白いセーラー服。紺色の襟には三本白いライ ンが入っていて、赤いスカーフとともにその学年を表すのだと、聞いた覚えがある。 スカートをかけたハンガーから外し、手に取る。久しぶりに間近で見るセーラーカラー と、クローゼットと防虫剤の匂いに混じってかすかに残る叔母の懐かしい香りに、鼓動が 早まった。 そっと持ち上げ、胸の前に合わせてみる。 若い頃から彼女は背が高かったのだろう、小柄な自分は十分この身を収めることができ そうだ。 部屋着のポロシャツを脱ぎ、スカーフとファスナーを緩めたセーラー服の上をかぶる。 布や脇腹の皮膚を挟まないよう、クローゼットに付いた鏡を見ながらファスナーを閉め 直し、どこか知らない校章の付いたループにスカーフを留める。 いい年して母親の剃刀で十分処理できる薄いひげや体毛も、合宿先の大浴場ではないこ の場では、自身の背を押す材料でしかなかった。 着ていたジーパンや靴下を脱ぎ、女学生服に一番違和感がなさそうだと、自室から持っ て来たハイソックスを穿き、凹凸のないふくらはぎを包んだ。 冬の間防寒のためにズボンの下にあったこれを、今日は見せるために身に着けるのだと 思うと指が震えた。 多数の生徒に着られることを想定しているためかスカートのウエストは緩く、腰骨でど うにか一番細いところが引っかかる感じだった。細身の叔母もきっと今の自分のように、 ホックを留めても落ちてしまいそうなスカートに手を焼いたのだろうか。 せいぜい上半身しか映せないクローゼットの鏡を見ないようにしてその場を離れ、部屋 の隅に置かれた大きなスタンドミラーの前に立つ。 叔母が高校生になった時、祖父母がプレゼントしてくれたのだというその姿見は、縁や 裏側に凝った彫刻が施されていて、自分も幼い頃叔母の服を着てその前に立つ度に、おと ぎ話に出てくる鏡みたいだと思ったものだった。 震える両手を叱咤しながら、ほこり除けにかけられていた布を取り去った。 「……ぁ………」 かすれた喘ぎは、紛れもなく歓喜に満ちたものだった。 少し大きな制服に身を包む女生徒が、その中に居た。 かすかに震える膝が触れ、折り目正しいプリーツスカートがひらりと揺れる。それすら もそれを着ているのだという、自分を喜ばせるもの以外の何物でもなかった。 倒錯した昂揚を、薔薇色に染まった頬は如実に現していた。 苦労しながらほんの少し口角を持ち上げると、まるで着慣れない制服に緊張しながらも はにかむ新入生のようだ。清潔感のあるショートカットが、やせっぽちの身体や強張る笑 顔を幼いものに見せている。 『ゆうちゃんは可愛いねえ』 『よく頑張ったね』 『おりこうさんだねえ』 少年の自分には向けられなかったかつての講師の言葉が、少女の姿形をした今の自分に は与えられる価値がある。 自分には可愛がられる、愛される根拠があるんだ!だってほら、セーラー服もスカート も、赤いスカーフだってこんなに似合っているじゃないか! 両親の帰宅に間に合う時間になるまで飽くことなく自分の姿に見入り、アラームの音に 驚いてようやく自分が長時間姿見の前に立っていたことに気付いた。 未練がましくゆっくり着替えていたら、自分の性器が勃起していた。淫らに熱を持ちヒ クヒクと脈打つそれに、自分のものながら困惑する。 性欲に乏しいと思っていた自分の、紛れもない悦楽の萌芽を見つけ、ここで初めて、ほ んの少しだけ罪悪感を覚えた。 γγγ 叔母が結婚した時とは別の意味で、自分の世界は変わった。 学業に支障のない範囲で、自宅で一人の時間さえできればセーラー服をまとい、鏡の中 の自分の姿や立ち居振る舞いの「女性としての」違和感を減らしていく努力をした。 今までたいして気を使わなかった肌の手入れを、「年頃だから、身だしなみに気を使い だしたのね」と周囲に怪しまれない程度に始めた。その影では、母親や同級生の女子の仕 草やネットで情報収集し、ほんの少しずつ母親の化粧品を使いこなせるよう、容貌に合っ たメイクを覚えるようにした。 髪を伸ばしだしたのも、周囲には「セットが楽だから」と「真面目な須藤クンの意外な 一面」を垣間見せることで誤魔化し、その影では鏡の中の少女がより女性らしくなってい くことに酔った。 ジャージや大きなコートを着て校外活動なり街を歩けば、声をかけてくる同年代や年上 の男に苦笑しながら首を振り、愕然とされる度に笑う周囲に覚られないよう満足感に浸っ ていた。 秋波を投げかける女性では満たされない。頬を染め身を乗り出してくる、自分の見た目 を性愛の対象としてくれる同性の視線が欲しかった。 自分は同性愛者なのかとも思ったが、試しにそういったモノをネットで漁り見てみても 逞しい肉体や精悍な顔を見て食指は動かされなかったし、肛門に性器を突き入れる画像は 最後まで見ることができなかった。 あくまで女の姿をした、魅力的な女性として扱われる自分に興奮するということが分か り、自身に呆れつつも安心した。 これならばれない限り、他の誰も、自分さえも傷つけることなくこの秘密の遊戯を楽し むことができるからだ。 うまくやる自信はあった。どういうわけか中身まで要領良く生んでもらったおかげで、 短い人生であの塾時代以外に挫折した経験は一度もない。 「きみ、可愛いね」 「彼氏待ち?もし良かったら…」 「すみません、ちょっと時間ある?」 「えっ!?男なの?」 「須藤…さん、でいいのかな?」 「ちくしょう、だまされた!」 困ったようにはにかみ、周囲にとりなしてもらう。「まいったな」等と言いつつも、胸 の内では達成感にあふれていた。 γγγ スカートの中、下着の下にまで手を伸ばし、みずからを慰めるようになったのはいつか らだろう。 雑誌や画面の中の女性でなく、女の格好をした自身に欲情するという自分の悪趣味さに 負い目を感じつつも、その後ろめたさがかえって気分を盛り上げた。 「は……っ…あふ………っ」 大きな鏡の前で下着を下ろし、セーラー服の上下を着たまま屹立した性器を一心に擦る。 セミロングの黒髪を汗で頬に貼り付けて、汚さないようにとスカートの裾を咥え、みず からの男性器を扱く少女というその異様な姿を、鏡面は偽りなく映し出していた。 「ぁ……あ…ごめんなさい……っ!」 妄想の中で自分はたいてい誰かに罵られ、その相手に許しを乞うていた。 それは学校で自分に頼りつつも気安く笑いかけてきた級友であったり、自分の発言に眼 鏡の奥の目を細めた厳格な教師であったり、果ては自分に憧憬のまなざしを向けた女生徒 であったりした。 『すました顔しているくせに、そうやって女の格好して…気持ち悪い』 『目をかけてやったのに、どうしようもない変態だ』 『うわぁ、幻滅…』 色事に乏しい自分の語彙では、この程度で自身を責めるのが精一杯だ。 「可愛がられたい」という願いがどういうわけか歪み、こうして自分を苛み辱める事を 求める。これはきっと、あの時見せられた写真のせいなのだろう。 「あぁ……そう、そうなの…」 教科書の朗読にはともかく、演説には向かないと評された声で、衣装にふさわしい、女 のような口上を紡ぐ。 「ゆるして…お願い、出ちゃ、う……っ」 居もしない誰かに媚びを売るような色に自分で怖気が走るが、同時に今まで味わったこ ともないような興奮を覚えた。 当時から目に焼き付いて離れない、辱められてなお教え子を求め、被虐に酔いしれる女 の顔を思い浮かべ、空いた手でセーラー服の上から胸をさする。 うっすら筋肉がのっているだけの、つまらない胸板。写真のように踏みつけられたり、 ネットで見た画像のように乱暴に揉みしだかれてみたらどんな感触だろう?どんな気持ち になるのだろう? 分かるはずもないが、それでも下着を着けていない素肌に服越しに触れると、自分の手 ではなく誰かに撫でられているようで、ゾクゾクとした。 あれらに出ていた女性ほど大きくはないが、乳房よりはそれに近い乳頭に布地が擦れる と、ピリッとした甘い痺れが背筋を這い上がる。性器を扱くのとはまた違った刺激を、夢 中になって求めた。 「…ぁ…もうだめ、あ……ぁ…っ!」 甘やかな夢想に耽りながら、今日もまた汚らわしい欲望を放った。 (おしまい) おまけ 某月某日。 須藤に『無双』で野球拳しようと言ったら、マジ切れでコントローラーぶつけてきた上 に泣きながら出て行ってしまった。 白衣の天使ルックのまま、どこで着替えたんだろう? 「純白の思い出を汚すなぁ!」とか、マジわけ分かんないし。 (ほんとにおしまい)
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このページはこちらに移転しました 僕と彼女 作詞/一(にのまえ) セックスの後のギラついた汗も拭わず 彼女は煙いと笑いながら僕の腕に包(くる)まった 僕は煙草を深く吸い深く吐いて煙で遊んでいた キスして欲しいとせがむ君に 煙草の火を消しクチズケすると 彼女は煙草臭いと言って笑った 幸せな一時に君にキス 溶ける程にキスして 僕等溶けて交じり合った 外は静かで救急車のサイレンだけが鳴り響き 今この部屋は僕等だけの空間だった 二人はきっと通じ合っていた 繋がっていた 彼女はセックスの後いつもキスをせがむんだ 幸せな一時に君にキス 溶ける程にキスして 僕等溶けて交じり合った 交じり合った 溶けて交じり合った 外は静かにサイレンが鳴り響き (このページは旧wikiから転載されました)
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通話彼女 (「偽装彼女」シリーズ・短編) 『……寝とけよ』 それが昨日から学校休んでるクラスメイトに対する、優等生の第一声だった。 「あーあー、今週のデート中止になったからって、ユカちゃん冷た~い」 温くなって粘着力の弱まった冷え○タを剥がし、潜り込んだベッド脇のゴミ箱に落とす。 それと同時進行で、午前授業の後まっすぐ帰っただろう相手をなじったのだが、彼の反応 は冷たいものだった。 『期末近いんだからさっさと治せ。お大事に、以上』 「うん、もうほとんど良くなったんだけど、ユカちゃんに『看護しちゃうゾ☆』って言っ てもらいたくって電話しました」 『……切って良い?』 雲行きが怪しくなったので、俺は必死で自分の境遇をアピールする。 「だって今俺一人っきりなんだけど!弱ってるのにそんなこと言われちゃ、さみしくって 死んじゃうっ!肺炎んなっちゃう!」 『それだけ滑らかに話せるならその心配はないだろ』と一蹴しつつも、病人相手に一方 的に電話を切るなんて冷たい真似はできないみたいだ。それは好都合。 「というわけで、ユカちゃんに看病してもらいたいのですが」 『断る。風邪もらいに行く気は毛頭ない』 毎週女装エッチしには来るくせに。 「ご機嫌斜めですねぇ…もしかして一週間たまった分、もう一人でやっちゃった系?」 『っ…そんなわけ、ないだろ……!』 今ちょっと詰まってませんでしたか? 「そっか。じゃあちょっとお着替えしてもらおうかなあ…どうせ今普段着だろ?」 『はあ!?』 「せっかくだからナースっぽく、白い下着着て欲しいなっ!あったでしょ?ブラもパンテ ィーもオソロでリボン付いたやつっ!」 買い揃えたそれらを思い浮かべながら言うと、しばしの沈黙。 『………ふざけるな』 うわぁ、お顔が見えない分ハスキーボイスがとっても怖い。 たしかに怖くはあるが、敵ではないので俺はわざとらしく溜め息をついた。 「あぁ…俺今病み上がりで手元が不如意だからさ、うっかりアドレス間違えてお前じゃな い人にお前の大事な大事な画像送っちゃいそう」 『…っ!』 ガタンッと、椅子から転がり落ちるような音がする。冷静沈着頭脳明晰な須藤君にある まじき動揺っぷりだ。 『……き、着るからっ!着ます!…白で、白で良いんだろ!?』 「あ、そう?そんだけ乗り気なら上にスリップも着て、鏡の前行って欲しいな。無料通話 少ないからさっさとしてね」 言うだけ言って携帯を枕に乗せると、俺はリビングまで降りて冷え○タの新しい袋を取 ってきた。奴の性格的に俺からの応答がなければ、自分から言い出した以上命令をこなし てくれるだろう。 枕元に置きっぱのエ○アンを飲んでから、フィルムを剥がしてプルプルのジェルを額に くっつける……気持ち良い。 うっとりしながら再びベッドに寝っ転がり、掛け布団を肩まで引き上げてから悠々と携 帯を掴んだ。 「……用意できましたかぁ~?」 『…き……きた……』 あらら、もう屈辱たっぷりな声出しちゃって。 「鏡見える?」 『……見える…』 「んじゃあ分かるよね。何を着ましたか?上から順に答えてください」 『っ…お前が、さっき言った通りだよ……!』 「えぇ~?だって電話だし、本当にユカちゃんがそうしてくれたか見えないから分かんな いもん。答えてくださぁ~い!」 『…元気じゃないか』 「ああ、熱で手元がっ」 『っし、白っ!白いの着てるっ!』 清純派で攻めてくれてることを宣言してくれた相手に、さらに問いかける。 「白いの?白い…ナニを着てんの?」 気分はイタ電話野郎だ。しどろもどろと、俺が流した言葉を繰り返す須藤。 『…す……スリ…プ、と………その、ブ……ジャー……』 「あとは?」 『…………した、を…』 下着もチンコも「下」だなんて、お前はどこの処女だ。 「下を?どうしてんの?まさかパイパン気持ちいいからってスッポンポン?」 『ちがっ……ぱ…………ぱんつ、はいてる…』 短いセリフを、上擦った声でどうにかこうにか絞り出した。 「ふぅん…その可愛い可愛いおぱんちゅは、今そっから見えてますかぁ?」 思いっきり馬鹿にしたように尋ねると、悔しげに唇を噛むのが分かった。 『……隠れて、る………』 「そう。じゃあちょっとそのまま膝立ちになって、スリップの裾上げてってよ」 「ゆっくりね」と注文をつけたところで、もう一つ思いついたので追加。 「…俺にも分かるように、今どこまで見えてるか中継してね」 『なっ………何言って……』 「何って、たとえばパンティーのエッチなお山が見えてますとか、おへそ見えましたとか」 『…………』 ためらう「女の子」の背中を、俺は優しく押してやることにした。 「……あー、熱で目まいが」 『ぁ…足っ!…見え、てる……その、下着、も………出た…』 鏡の前、片手で携帯を耳に当てながらスリップを捲り上げていく少女の…それもショー ツの前にありえない隆起のある、そんな美少女の姿を思い浮かべる。それこそ熱でもある んじゃないかってくらい頬を赤く染めて、自分の痴態に見入ってしまっていることだろう。 「んんー、ごめんねぇ。一生懸命言ってくれてるのに、直接見てあげられなくってー」 『っ……よく、言うよ………ぅ、上まで、いった…』 「上?上って、どこまで?」 『どこまでって、その……むね、のとこ……』 ごにょごにょと言葉を濁すが、許すわけがない。 「胸って?白ブラ見えてんの?」 『……はい…』 「つまりユカちゃんは、一人っきりで鏡に可愛いブラとパンティーを見せつけちゃってるんですか?」 『………は……ぃ……』 自らの意思でそんな格好をしていることを、馬鹿正直に実感させられたのか、蚊のなく ような声が返ってくる。 「…じゃあ今度は、そのままパンティー下ろしてごらん?膝まででいっから」 当然ながら「はい分かりました」という色良い返事はもらえない。 先程のように急かすのも悪くないが、同じ手を使うのは芸がないので趣向を変えてみる。 「そうだねぇ…ユカちゃんから可愛いお股がよっく見えるように、スリップを口で押さえ てから、やってもらえるかな?」 「っ…わ、わかった!わかりました……っ!」 黙っていれば恥辱が重なるだけだと察知したのか、今度は慌てて同意してきた。 違いに無言のまま、奴の衣擦れの音だけがする。携帯を持ちながら、片手でたどたどし くスリップやショーツを掴んでいる想像が膨らむので、これはこれで楽しい。 『っふ………ぅ……っ』 くぐもった吐息は、多分言われた通りスリップの裾を咥えているからだろう。ワンピの 時寒そうだからと着せてたのだが、思わぬ便利アイテムになった。 すらりとした腿に絡みつき、丸まっているのだろう可愛らしいショーツの前は、はたし て濡れているのかいないのか。 「ひ……ひやひたっ…」 何言ってんのか分からないが、すでに泣きそうな声なので突っ込まないでやろう。 清楚な黒髪美少女が、白い下着を自ら引き上げて、その滑らかな肌を、ブラを身に着け た胸板や剃毛ペニスを鏡面にさらしている…なかなか絵になるじゃないか。 「……はい、口放していいよ~」 『…っふは………ぁ…』 息を詰めていたのかしばらく相手が呼吸を整えるのを待ってやってから、俺は口を開い た。 「……で、どうなってる?」 『どうって……』 「可愛いスリップが、なんか変なモノで上がってませんかあ?」 『………っ!?…っそ、そんなこと……』 あらら、黙っちゃった。 「…どうなの?なんともないのか……勃っちゃってんのか」 ノーパンスリップ姿で鏡の中の自分と向き合う優等生は、はたして何を考えているのだ ろう? 「………ユカ?」 『…った……たってる、たってます……!』 震える声を耳に心地よく迎え、俺は目を閉じる。第三世代ケータイは相手のかすかな息 遣いが切羽詰まったものになってるのまで、それはもう忠実に伝えてくれていた。 やっぱこいつ、根っからの変態だ。こんな、いくらでも誤魔化しようのある命令に従っ てしまっただけでなく、あまつさえ勃起してしまったことすら俺に伝えているのだ。 快哉を叫びたくなるのをどうにか堪え、俺は気のない声を作る。 「……あっそ。じゃあ俺、疲れちゃったんで失礼!電話ありがとっ」 『え!?あ、あの…ちょっと!?……』 慌てふためく相手の声が聞こえるが、ためらうことなく電源ボタンを押し通話終了。 はじめはあれほど嫌悪丸出しな声だったくせに、最後にはすっかり引き止めるようなも のになっていたことに一人笑いだしてしまいそうだ。 疼く身体を持て余しているだろう相手を想像して、俺は気分良くもう一眠りすることに した。 (おしまい)
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彼女の周囲 徳田秋声 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)彼女《かのぢよ》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)一|番《ばん》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#地付き] /\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号) (例)いろ/\ 濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」 彼女《かのぢよ》の姉《あね》だといふ人《ひと》が、或《あ》る日《ひ》突然《とつぜん》竹村《たけむら》を訪《たづ》ねて来《き》た。 竹村《たけむら》には思《おも》ひがけない事《こと》であつたが、しかし彼女《かのぢよ》に若《も》し姉《あね》とか兄《あに》とかいふ近親《きんしん》の人《ひと》があるなら、その誰《たれ》かゞ彼《かれ》を訪《たづ》ねてくるのに不思議《ふしぎ》はない筈《はず》であつた。それほど「彼女《かのぢよ》」は不幸《ふかう》な位置《ゐち》に立《た》たせられてゐた。 彼女《かのぢよ》といふのは、竹村《たけむら》の若《わか》い友人《いうじん》大久保《おほくぼ》の細君《さいくん》奈美子《なみこ》のことであつた。或《ある》ひは世間《せけん》で言《い》ふ内縁《ないえん》の妻《つま》と言《い》つた方《ほう》が適当《てきたう》かも知《し》れなかつたが、大久保《おほくぼ》の話《はな》すところによると、奈美子《なみこ》は彼《かれ》の作品《さくひん》の愛読者《あいどくしや》の一人《ひとり》で、また彼《かれ》の憧憬《どうけい》する若《わか》い女性《ぢよせい》の一人《ひとり》であつたところから、手紙《てがみ》の往復《わうふく》によつて、さうした恋愛《れんあい》が成立《せいりつ》したらしいのであつた。竹村《たけむら》はその事《こと》について、その当時《たうじ》別《べつ》に批評《ひひやう》がましい意見《いけん》をもたうとは思《おも》はなかつたけれど、ずつと後《のち》になつて振返《ふりかへ》つてみると、彼女《かのぢよ》は彼《かれ》の作品《さくひん》と実際《じつさい》の手紙《てがみ》によつて、不運《ふうん》にも彼《かれ》に誘惑《いうわく》された気《き》の毒《どく》な女《をんな》だとも思《おも》へるのであつたが、しかし恋愛《れんあい》の成立《せいりつ》については、彼《かれ》も詳《くは》しい事《こと》は知《し》らなかつた。 但《たゞ》し同棲後《どうせいご》の彼女《かのぢよ》は、決《けつ》して幸福《かうふく》ではなかつた。恐《おそ》らく彼女《かのぢよ》もさう云《い》ふ運命《うんめい》を掴《つか》まうと思《おも》つて、彼《かれ》のところへ来《き》たのではなかつたであらう。彼《かれ》の作品《さくひん》と彼《かれ》の盛名《せいめい》と彼《かれ》の手紙《てがみ》、乃至《ないし》は写真《しやしん》のやうなものから想像《さうざう》された年少作家《ねんせうさくか》大久保《おほくぼ》が、何《ど》んなに美《うつく》しい幻影《げんえい》と憧憬心《あこがれごころ》の多《おほ》い彼女《かのぢよ》の情熱《じやうねつ》を唆《そゝ》つたかは、竹村《たけむら》にも大凡《おほよ》そ想像《さうざう》ができるのであつた。勿論《もちろん》大久保《おほくぼ》にも詩人《しじん》らしい空想《くうさう》があつた。若《わか》い女性《ぢよせい》に対《たい》して、純《じゆん》な感情《かんじやう》ももつてゐたから、誘惑《いうわく》と言《い》ふのは当《あた》らないかも知《し》れなかつたけれど、色々《いろ/\》の条件《でうけん》と、同棲生活《どうせいせいくわつ》の結果《けつくわ》から見《み》ると、彼《かれ》の本能《ほんのう》が、一人《ひとり》のその若《わか》い女性《ぢよせい》にさういふ風《ふう》に働《はた》らきかけて行《い》つたのは事実《じじつ》であつた。 一|番《ばん》「彼女《かのぢよ》」を不幸《ふこう》にしたことは、彼《かれ》の性格《せいかく》が普通社会人《ふつうしやくわいじん》として適当《てきとう》な平衡《へいかう》を保《たも》つてゐないことであつた。無論《むろん》こんな仕事《しごと》へ入《はい》つてくる人《ひと》のなかには、性格《せいかく》の平衡《へいかう》と調和《てうわ》の取《と》れない人《ひと》も偶《たま》にはあつた。世間《せけん》から見《み》ては、病的《びやうてき》な頭脳《づのう》や狂人《きちがひ》じみた気質《きしつ》の人《ひと》もないことはなかつた。竹村自身《たけむらじしん》にしたところで、この点《てん》では、余《あま》り自信《じしん》のもてる方《はう》ではなかつた。勿論《もちろん》彼《かれ》の仲間《なかま》だけが特《こと》にさうだとは言《い》へなかつた。見渡《みわた》したところ、人間《にんげん》は皆《みん》な一《ひと》つ/\の不完全《ふくわんぜん》な砕片《かけら》であるのに、不思議《ふしぎ》はない筈《はず》であつた。 しかし大久保《おほくぼ》の場合《ばあひ》は、その欠陥《けつかん》が少《すこ》し目《め》に立《た》ちすぎた。彼《かれ》は或《あ》る意味《いみ》では誇大妄想狂《こだいまうさうきやう》であつたが、或《あ》る意味《いみ》ではまた病的天才《びやうてきてんさい》とでも言《い》ふべき種類《しゆるゐ》のものであつた。病理学者《びやうりがくしや》や心理学者《しんりがくしや》でない竹村《たけむら》には、組織立《そしきだ》つてそれを説明《せつめい》することは困難《こんなん》であつたが、とにかく奈美子《なみこ》に対《たい》してふるまうた彼《かれ》の色々《いろ/\》の行為《かうゐ》だけでは、彼《かれ》もまた一|種《しゆ》の変態性慾者《へんたいせいよくしや》だと思《おも》はれた。 竹村《たけむら》が初《はじ》めて奈美子《なみこ》を見《み》たのは、ちやうど三月《みつき》ほど前《まへ》の秋《あき》の頃《ころ》であつた。彼《かれ》はしばらく奈美子《なみこ》と同棲《どうせい》してゐた郷里《きやうり》の世帯《しよたい》をたゝんで、外国《ぐわいこく》へわたる準備《じゆんび》を整《とゝの》へるために、その時《とき》二人《ふたり》で上京《じやうきやう》して、竹村《たけむら》の近《ちか》くに宿《やど》を取《と》つてゐた。彼《かれ》は何《かん》となくいら/\してゐた。彼《かれ》は最初《さいしよ》に博《はく》し得《え》た人気《にんき》が、その頃《ころ》やゝ下火《したび》になりかけてゐるのに気《き》がついてゐた。彼《かれ》の処女作《しよぢよさく》が市場《しぢやう》に出《で》たとき、まだ年《とし》の少《すくな》いこの天才《てんさい》の出現《しゆつげん》に驚《おどろ》かされて、集《あつ》まつて来《き》た多《おほ》くの青年《せいねん》も、そろ/\彼《かれ》の実質《じつしつ》が疑《うたが》はれて来《き》たやうに、二人《ふたり》去《さ》り三|人《にん》離《はな》れして、輝《かゞや》かしかつた彼《かれ》の文壇的運命《ぶんだんてきうんめい》が、漸《やうや》くかげりかけようとしてゐたところで、彼《かれ》もちよつと行《ゆ》きづまつた形《かたち》であつた。彼《かれ》はじつとしてゐられなかつた。失《うしな》はれようとする人気《にんき》を取返《とりか》へさうとして、彼《かれ》は更《さ》らに世界的《せかいてき》に自己《じこ》を宣伝《せんでん》して、圧倒的《あつたうてき》に名声《めいせい》を盛返《もりか》へさうと考《かんが》へた。 「三|年《ね》ばかりあちらで学校《がくかう》へ入《はい》りたまへ。そしてみつちり勉強《べんきやう》して来《き》た方《はう》がいゝね。」竹村《たけむら》はさう言《い》つて、作家《さくか》としてよりも、寧《むし》ろもつと広《ひろ》い意味《いみ》の修業《しゆげふ》を彼《かれ》に要望《えうばう》した。政治学《せいぢがく》とか社会学《しやくわいがく》とか、さう言《い》つた意味《いみ》での修養《しうやう》が、むしろ彼《かれ》に新《あたら》しい広《ひろ》い道《みち》を開《ひら》いてくれるだらうと思《おも》つた。彼《かれ》の特異《とくい》な恋愛病《れんあいびやう》が、作品《さくひん》の重《おも》なる要素《えうそ》であることが、後《のち》になつて竹村《たけむら》にもわかつた。余《あま》り大《おほ》きかつた文壇的名声《ぶんだんてきめいせい》に囚《とら》はれてゐたことも分明《はつきり》して来《き》た。勿論《もちろん》学窓《がくそう》などに落着《おちつ》いてはゐられなかつた。事《こと》によると、彼《かれ》は世間《せけん》が思《おも》つてゐるほど、経済的《けいざいてき》に恵《めぐ》まれてゐなかつたのかも知《し》れなかつた。そしてその方《はう》が寧《むし》ろより多《おほ》く、彼《かれ》をあせらせてゐたかも知《し》れなかつた。 「僕《ぼく》はね竹村氏《たけむらし》、決《けつ》して悲観《ひくわん》して洋行《やうかう》するんぢやないんですよ。」彼《かれ》は弁護《べんご》した。 「誰某《たれそれ》の輩《はい》が、行詰《ゆきづま》つた果《は》てに、箔《はく》をつけに行《ゆ》くのと、同《おな》じだと思《おも》はれると、大変《たいへん》な間違《まちが》ひなんだ。」 一|緒《しよ》に飯《めし》なぞ食《た》べると、彼《かれ》はいつでも心《こゝろ》の空虚《くうきよ》を訴《うつた》へるやうな調子《てうし》でありながら、さう言《い》つて寂《さび》しい顔《かほ》に興奮《こうふん》の色《いろ》を浮《うか》べてゐた。 奈美子《なみこ》は普通《ふつう》の学校出《がくかうで》の文学好《ぶんがくず》きな女《をんな》であつた。大久保《おほくぼ》から見《み》せられた彼女《かのぢよ》の手紙《てがみ》によると、彼女《かのぢよ》がしをらしくも彼《かれ》の愛《あい》に縋《すが》らうとしてゐる気持《きもち》が、偽《いつは》りなく露出《ろしゆつ》してゐたが、今《いま》彼《かれ》につれられて目《め》の前《まへ》に現《あら》はれた彼女《かのぢよ》を見《み》ると、まるで狂暴《きやうばう》な鷲《わし》の前《まへ》にすゑられた小鳥《ことり》のやうに、おとなしく小《ちひ》さくなつてゐた。ふとした拍子《ひやうし》に、縁側《ゑんがは》の障子《しやうじ》の硝子戸《ガラスど》こしに見《み》えた竹村《たけむら》の幼児《えうじ》に、奈美子《なみこ》はふと微笑《ほゝゑ》みかけた。 大久保《おほくぼ》はちらとそれを見《み》ると、いきなり険悪《けんあく》な目《め》をして、「ちよツ」と苛々《いら/\》しげに舌《した》うちしながら、拳《こぶし》をかためて、彼女《かのぢよ》の鼻梁《はなばしら》を火《ひ》が出《で》たかと思《おも》ふほど撲《なぐ》りつけた。奈美子《なみこ》は目《め》を潤《うる》ませて、悲《かな》しげにうつむいた。 「何《なん》だつてそんな真似《まね》をするんだ。」竹村《たけむら》はたしなめた。 大久保《おほくぼ》は冷笑《あざわら》つた。 「こいつがいけないんだ。こんなものは是《これ》で沢山《たくさん》だ。」 竹村《たけむら》は呆《あき》れてしまつた。彼《かれ》は郷里《きやうり》の新聞《しんぶん》で、大久保《おほくぼ》が奈美子《なみこ》を虐待《ぎやくたい》して、警察《けいさつ》を煩《わづら》はしたなぞの噂《うはさ》を耳《みゝ》にしてゐたが、それも強《あなが》ち新聞記者《しんぶんきしや》の誇張《こちやう》でもなかつたやうに思《おも》へた。 その後《ご》大久保《おほくぼ》の言《い》ふところによると、彼女《かのぢよ》はその兄《あに》と肉的関係《にくてきくわんけい》があるといふのであつた。そしてその因果《いんぐわ》な報《むく》いを彼《かれ》のところへ持込《もちこ》んで来《き》たといふのであつたが、竹村《たけむら》には信《しん》じられなかつた。彼《かれ》はその姉《あね》の訪問《はうもん》によつて、その身柄《みがら》や教養《けうやう》の程度《ていど》を、ほゞ推察《すゐさつ》することが出来《でき》た。 今《いま》竹村《たけむら》はその姉《あね》に初《はじ》めて逢《あ》つたのであつた。 姉《あね》は小柄《こがら》の、美《うつく》しい愛《あい》らしい体《からだ》と顔《かほ》の持主《もちぬし》であつた。嫻《みやび》やかな落着《おちつ》いた態度《たいど》や言語《げんご》が、地方《ちはう》の物持《ものもち》の深窓《しんそう》に人《ひと》となつた処女《しよぢよ》らしい感《かん》じを、竹村《たけむら》に与《あた》へた。趣味《しゆみ》の高雅《かうが》な、服装《ふくさう》だけでも、十|分《ぶん》それが証明《しようめい》された。その妹《いもうと》の奈美子《なみこ》が、何《ど》うして大久保《おほくぼ》のところへ身《み》を寄《よ》せるやうになつたかは、何《ど》う考《かんか》へてみても、竹村《たけむら》にはわからなかつた。奈美子《なみこ》にいくらか暗《くら》い影《かげ》があるやうにも思《おも》へたが、また全《まつた》く純真《じゆんしん》であるやうにも思《おも》へた。 「あいつは己《おれ》の財産《ざいさん》に惹着《ひきつ》けられてゐるんだ。」大久保《おほくぼ》はいつかさう言《い》つてゐたけれど、竹村《たけむら》には其意味《そのいみ》が全然不可解《ぜんぜんふかかい》であつた。 「大久保《おほくぼ》のことを、少《すこ》し先生《せんせい》にお伺《うかが》ひしたいと存《ぞん》じまして、お邪魔《じやま》に出《で》ましてございますが、先生《せんせい》には何《なに》もかもお解《わか》りでせうと思《おも》ひますけれど。」姉《あね》はさう云《い》ふ風《ふう》に言《い》ふのであつた。 「まあ、大概《たいがい》のことは判《わか》つてゐるつもりですが、貴女《あなた》の側《がは》からなら、大久保《おほくぼ》の生活《せいくわつ》がいつそ詳《くは》しく判《わか》つてゐる筈《はず》ぢやないですか。」 彼女《かのぢよ》の口《くち》の利《き》き方《かた》は、少《すこ》し内気《うちき》すぎるほど弱々《よわ/\》しかつた。そしてそれについて、別《べつ》にはつきりした返事《へんじ》を与《あた》へなかつたが、わざと遠慮《ゑんりよ》してゐるやうにも見《み》えた。 「私《わたくし》にも説明《せつめい》のしやうがないんです。聞《き》くところでは、宿《やど》でも問題《もんだい》になつてゐるらしいんです。この頃《ころ》外《そと》へ出《で》れば、きつと連《つ》れてあるいてゐますが、宿《やど》でも少《すこ》しも目《め》を放《はな》さないやうです。虐待《ぎやくたい》はずゐぶん酷《ひど》いやうです。或晩《あるばん》なぞ、鉄瓶《てつびん》の煮湯《にえゆ》をぶつかけて、首《くび》のあたりへ火焦《やけど》をさしたんでせう。さすがに驚《おどろ》いて、私《わたし》のところへやつて来《き》たんです。打《ぶ》つたり蹴《け》つたりするのは、始終《しじう》のことでせう。私《わたし》も言《い》つても見《み》ましたけれど、頭脳《あたま》が普通《ふつう》ぢやないやうです。お兄《あに》さんもお有《あ》りのやうですか、何《ど》うしてあれを傍観《ばうくわん》してゐらつしやるのかと、寧《むし》ろ不思議《ふしぎ》に思《おも》つてゐるくらゐです。」 「それも考《かんが》へてをりますけれど、あんな方《かた》ですから、問題《もんだい》にするには、表沙汰《おもてざた》にするより外《ほか》ございません。さうすれば自然《しぜん》あの方《かた》のお名前《なまへ》にも傷《きず》のつくことでございますから、船《ふね》にお乗《の》りになるまで、我慢《がまん》してゐた方《はう》が、双方《さうはう》の利益《りえき》だらうと、兄《あに》もさう申《まう》しますものですから。」 竹村《たけむら》はその温順《おとな》しさと寛容《くわんよう》なのに面喰《めんくら》はされてしまつた。彼女《かのぢよ》の軟《やはら》かで洗練《せんれん》された調子《てうし》から受取《うけと》られる感情《かんじやう》で見《み》ると、しかし其《そ》の考《かんが》へ方《かた》が、極《きは》めて自然《しぜん》に見《み》えるのであつた。 「まさかあれ以上《いじやう》兇暴《きようばう》な真似《まね》もできないでせうと思《おも》ひますが……。」 「さうですか。貴方《あなな》がたがさう云《い》ふ目《め》で見《み》てゐられるとすれば、大久保《おほくぼ》に取《と》つても幸福《かうふく》です。お妹《いもうと》さんがじつと我慢《がまん》してゐられるのも、なか/\だと思《おも》ひますね。」 「妹《いもうと》も一|度《ど》逃《に》げだしたんですけれど、やつぱり掴《つか》まつてしまひました。ちやうど大森《おほもり》の鉱泉宿《くわうせんやど》へつれられて行《い》つたときのことでした。あの人《ひと》が一《ひ》と足先《あしさ》きへお風呂《ふろ》に行《い》つた隙《すき》を見《み》て、足袋跣足《たびはだし》で飛出《とびだ》したんださうでございますの。それで駈出《かけだ》して、車《くるま》でステーションまで来《き》て、私《わたくし》のところへ逃《に》げこんでまゐりました。その時《とき》もずゐぶん酷《ひど》い目《め》にあはされたらしうございます。妹《いもうと》も自分《じぶん》のした事《こと》でございますから、余《あま》り露骨《ろこつ》には申《まう》しませんですけれど、駈《か》けこんでまゐりました時《とき》の、顔《かほ》の色《いろ》といふのはございませんでした。息《いき》も切《き》れさうに弱《よわ》つてをりました。お話《はなし》は後《あと》でするから、少《すこ》し寝《ね》かしてくれと申《まう》しますので、そつとしておきました。 すると間《ま》もなく大久保《おほくぼ》が自動車《じどうしや》で乗《の》りつけてまゐつたんでございますの。いきなりづか/\と上《あが》り込《こ》みまして、妹《いもうと》も引起《ひきおこ》して、まあ何《なん》とか彼《か》とか言《い》つて、また連《つ》れ出《だ》してしまひまして……。何《なに》しろちよつとの隙《すき》も与《あた》へませんものですから。或《あ》る時《とき》は、警察《けいさつ》へ飛込《とびこ》んでもみたさうですけれど、大久保《おほくぼ》さんの仰《おつし》やることか、やはり真実《しんじつ》らしく聞《きこ》えたものでせうか、その時《とき》も連《つ》れ戻《もど》されてしまひました。」 「何《なに》しろ腕力《わんりよく》があるから敵《かな》ひませんね。それに兇器《きようき》ももつてゐるやうです。洋行《やうかう》するときの護身用《ごしんよう》にと買《か》つたものです。一|緒《しよ》にあるいてゐると、途中《とちう》時々《とき/″\》ぬかれるんでね。あの目《め》も無気味《ぶきみ》です。宅《たく》へくれば、お妹《いもうと》さんは大抵《たいてい》の場合《ばあひ》、玄関外《げんくわんそと》に立《た》たしておくやうです。家内《かない》もいくらかお話《はなし》を伺《うかゞ》つてるさうですが、うつかりした事《こと》を言《い》へば、祟《たゝ》りがおそろしいんでせう、余《あま》り口《くち》は利《き》かれないさうで。」 竹村《たけむら》もそれ以上《いじやう》聞《き》きも詰《なじ》りもしたくなかつた。彼女《かのぢよ》も大抵《たいてい》様子《やうす》がわかつたらしかつた。 大久保《おほくぼ》が出発《しゆつぱつ》してから間《ま》もなく、彼女《かのぢよ》がまたやつて来《き》た。その顔《かほ》は目《め》に立《た》つて明《あか》るくなつてゐた。話《はなし》も前《まへ》よりははき/\してゐた。 竹村《たけむら》は大久保《おほくぼ》が出発前《しゆつぱつぜん》に奈美子《なみこ》をつれこんでゐた下町《したまち》の旅館《りよくわん》で――それにも多少《たせう》の宣伝的意味《せんでんてきいみ》があつたが、そこで或《あ》る夜《よ》なかに、鞘《さや》ごと短刀《たんたう》で奈美子《なみこ》の脊中《せなか》を打《う》つたなぞの話《はなし》を、その時《とき》彼女《かのぢよ》から聞《き》いた。鞘《さや》が割《わ》れて、刃《は》が肉《にく》を切《き》つたといふのであつた。 「幸《さいは》ひ大《たい》したことはございませんでしたけれど。」彼女《かのぢよ》は内輪《うちわ》に話《はな》すのであつた。 大久保《おほくぼ》が、奈美子《なみこ》の美《うつく》しい髪《かみ》を、剃刀《かみそり》や鋏《はさみ》でぢよき/\根元《ねもと》から全《まつた》く切《き》り取《と》つてしまつたことは、大分《だいぶ》たつてから知《し》つた。奈美子《なみこ》は白《しろ》い布《きれ》で頭《あたま》をくる/\捲《ま》いて、寂《さび》しい彼《かれ》の送別《そうべつ》の席《せき》につれ出《だ》されて、別室《べつしつ》に待《ま》たされてゐたことなぞも、仲間《なかま》の話柄《わへい》に残《のこ》された。 竹村《たけむら》はその時《とき》姉《あね》なる彼女《かのぢよ》の身《み》のうへを、少《すこ》しきいてみた。彼女《かのぢよ》は東京《とうきやう》の親類《しんるゐ》に身《み》を寄《よ》せて、女学校《ぢよがくかう》を出《で》てから、語学《ごがく》か音楽《おんがく》かを研究《けんきう》してゐるらしかつた。大久保《おほくぼ》がベヱトベンのシムホニーなぞのレコードを買《か》つたのも、奈美子《なみこ》が音楽好《おんがくず》きだからであつた。 竹村《たけむら》は一|年《ねん》たつかたゝないうちに、大久保《おほくぼ》の帰《かへ》つて来《き》たのに失望《しつばう》したが、大久保《おほくぼ》の帰朝《きてう》の寂《さび》しかつたことも、少《すく》なからず彼《かれ》を傷《いた》ましめた。大久保《おほくぼ》は出発前《しゆつぱつぜん》よりも一|層《そう》あせつてゐたが、先《ま》づ訪《おとづ》れたのは、やはり竹村《たけむら》であつた。彼《かれ》はロンドン仕立《じたて》の脊広《せびろ》を着《き》こんでゐただけで、一|年前《ねんまへ》の彼《かれ》と少《すこ》しも変《かは》つたところはなかつた。しかし彼《かれ》の言葉《ことば》には傾聴《けいちやう》すべき事《こと》も少《すくな》くはなかつた。 驚《おどろ》いたことには、虎《とら》の子《こ》のやうに大切《たいせつ》にしてゐるウェルスの手紙《てがみ》など入《い》れた折鞄《をりかばん》のなかから、黒髪《くろかみ》の一《ひ》と束《たば》と短刀《たんたう》とが、紙《かみ》にくるんで、紐《ひも》で結《いは》へられたまゝ、竹村《たけむら》の前《まへ》に引出《ひきだ》されたことであつた。 「何《なん》だい、そんな物《もの》まで持《も》ちあるいてゐたのか。」 「これも今《いま》となつてみれば、何《な》んでもない。船《ふね》から海《うみ》へ棄《す》てようかと思《おも》つたけれど、到頭《たうとう》また日本《にほん》へ持《も》つて帰《かへ》つた。」 大久保《おほくぼ》はさう言《い》つて、笑《わら》つてゐた。 竹村《たけむら》と奈美子《なみこ》との交渉《かうせふ》もそれきりであつた。一|度《ど》遊《あそ》びに来《く》るやうにと、竹村《たけむら》はくれ/″\も勧《すゝ》められた。そして田舎《ゐなか》へ帰《かへ》つてから、慇懃《いんぎん》な礼状《れいじやう》も受取《うけと》つたのであつたが、無精《ぶしやう》な竹村《たけむら》は返事《へんじ》を出《だ》しそびれて、それ限《き》りになつてしまつた。 「とにかくあの人達《ひとたち》の仕方《しかた》は賢《かしこ》かつた。」彼《かれ》は時々《とき/″\》思《おも》つた。大久保《おほくぼ》のやうな稚気《ちき》の多《おほ》い狂人《きちがひ》を相手取《あいてど》ることに、何《なん》の意味《いみ》のあらう筈《はず》もなかつた。[#地付き](大正14[#「14」は縦中横]年7月「婦人の国」) 底本:「徳田秋聲全集第15巻」八木書店 1999(平成11)年3月18日初版発行 底本の親本:「婦人の国」 1925(大正14)年7月 初出:「婦人の国」 1925(大正14)年7月 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
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僕と彼女 作詞/一(にのまえ) セックスの後のギラついた汗も拭わず 彼女は煙いと笑いながら僕の腕に包(くる)まった 僕は煙草を深く吸い深く吐いて煙で遊んでいた キスして欲しいとせがむ君に 煙草の火を消しクチズケすると 彼女は煙草臭いと言って笑った 幸せな一時に君にキス 溶ける程にキスして 僕等溶けて交じり合った 外は静かで救急車のサイレンだけが鳴り響き 今この部屋は僕等だけの空間だった 二人はきっと通じ合っていた 繋がっていた 彼女はセックスの後いつもキスをせがむんだ 幸せな一時に君にキス 溶ける程にキスして 僕等溶けて交じり合った 交じり合った 溶けて交じり合った 外は静かにサイレンが鳴り響き
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さびし野の功績 {リンク先は、ネタバレを含みます }; エクスプローラー 功績 報酬 達成条件 さびし野の要塞 公正+1 指定された9つの名所を探し出す ガルス・アガルウェンの探索 自信+1 指定された6つの名所を探し出す グリムフェンズ 自信+1 指定された2つの名所を探し出す 風見が丘での探索 知恵+1 指定された4つの名所を探し出す ロア 功績 報酬 達成条件 名声 功績 報酬 達成条件 孤独な旅の物語 博愛+1 さびし野でのクエストを完了する(累積15件) 孤独な旅の物語(上級) 同情+1 さびし野でのクエストを完了する(累積30件) 孤独な旅の物語(最終) 理想+2 さびし野でのクエストを完了する(累積45件) スレイヤー 功績 報酬 達成条件 オークを屠る者 称号:さびし野の王者 さびし野のオークを倒す(60体) オークを屠る者(上級) 勇気+1 さびし野のオークを倒す(120体) ガウント・マンを屠る者 称号:死者の敵 さびし野のガウント・マンを倒す(40体) ガウント・マンを屠る者(上級) 慈悲+1 さびし野のガウント・マンを倒す(80体) クモを屠る者 称号:蜘蛛の禍 さびし野の蜘蛛を倒す(60体) クモを屠る者 名誉+1 さびし野の蜘蛛を倒す(120体) ゴブリンを屠る者 称号:ゴブリン斬りの さびし野のゴブリンを倒す(60体) ゴブリンを屠る者(上級) 勇気+1 さびし野のゴブリンを倒す(120体) ボグ・ルーカーを屠る者 称号:沼地の狩人 さびし野のボグ・ルーカーを倒す(60体) ボグ・ルーカーを屠る者 誠実+1 さびし野のボグ・ルーカーを倒す(120体) ワーグを屠る者 称号:ワーグ狩りの さびし野のワーグを倒す(60体) ワーグを屠る者(上級) 不屈+1 さびし野のワーグを倒す(120体)
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会食彼女 (「偽装彼女」シリーズ・短編) 学生街のファミレスは安くて美味い。 奥のボックス席に向かい合わせに座り、俺がステーキののったハヤシライスを、相手は マグロのづけ丼を注文。ほっそりした清純派美少女がデート中に頼むモノではないが、現 役男子高校生は腹が減るのだ。 割に合わないドリンクバーはスルーし、代わりにシーザーサラダの大皿をシェアして食 べる。 白いハイネックや真新しいえんじ色のワンピースを汚さないようにか元々お行儀が良い のか、嫌味がない程度のテーブルマナーで須藤はドレッシングのかかったレタスを取って いく。ベーコンもクルトンも半分こ。 俺も腹が減っていたのでそれなりに食べながらではあったが、初めて見る奴の食事風景 を楽しんだ。大人しそうな見た目でも中身は年相応に食欲旺盛。白いドレッシングが赤い プルプルの唇に付いて、エロいなあと思ってたら舌先で舐めてしまった。 フォークを口に運ぶ手つきは危なげないどっかのお嬢様そのものなのに、食べる量はや っぱり同級生の野郎だった。 愛想のないウェイトレスも気にせずに、運ばれてきた料理をモリモリ食べる。トロ盛り もメニューにあったので「マグロ好きなの?」と聞くと、「一番食べやすい」と短く返し セットの味噌汁を音をたてずに啜った。シジミは美容に良さそうだ。 俺の食べるデミソと半溶けチーズが絶妙なハヤシライスもなかなかだが、上にのった肉 が特に美味かったので丼と少し交換する。ニンニクだか玉葱だかのソースが絡まってて、 噛むと肉汁がジュワッとして、ステーキだけでも美味い。奴の食べてた飯盛も、甘すぎず しょっぱすぎない醤油だれが染みてて飽きがこない感じ。 もりもり平らげてデザートを注文。どうせあとで俺の部屋でレシート付き合わせて割り 勘するので、お互い食欲のおもむくままだ。 「美味かったー」「うん」と空の皿を見送り、俺のパフェが来たあたりで色気のなさに ようやく気付く。これじゃあ部活帰りのスポーツ少年だ。 締めは洋風なのか、自分の注文したホットケーキを待つ須藤に声をかけた。 「来るまで食べる?ほれ、イチゴあーん」 「…要らない」 首を振って水を含み、厨房を気にする優等生。エロい意味じゃなく落ち着きない様子は なかなかレアな気がする。 「今焼いてんだろうから、一緒に食いながら待ちゃ良いじゃん」 「一人で勝手に食べてろよ」 俺にはうるさそうに吐き捨てて、出てきたウェイトレスを目で追う。仏頂面の女の手元 を凝視してから期待が外れたような顔をした。残念、別のテーブルのだったみたい。 「…ホットケーキ好きなん?」 なんとなく聞いてみただけなのにピクリと肩を震わせて、見向きもしなかった俺にゆっ くり向き直る。気にしてないよぅ、単にちょっと見てみただけだものー、とその仕草で超 アピール。わざとらしすぎだ。 「いや、そんな…それほどでも、ないけど」 「じゃあこのパフェと交換して良い?」 「………」 「…好きなの?」 あきらめたように首肯する女装イケメン君。別に気にするほどのことでもないと思うの だが、ウキウキしてたのが俺にバレて悔しいみたいだ。 そんな顔して、俺がつつかないわけがない。 「へぇ~」 アイスの層を終えてパイ生地にスプーンを差す。コーンフレークだと裏切られた感がある んだけど、こっちのサクサクは食べごたえがあってかなり嬉しい。 「ユカちゃんはホットケーキが好きなんだぁ?可愛いですねえ~」 「っ…お、お前だってそんなん食べてるじゃないか!」 人目を気にして、押し殺した声で反論してくる。赤いヘアピンでセミロングのサイドを 留めてるから、赤らんだ目の縁がよく分かった。 「いっつもツンツンしてるのに、フワフワのケーキが好きだなんて、ユカちゃんってば面 白いなあ。今度ケーキバイキング行こっか?」 「別にケーキ全般が好きなんじゃない!ホットケーキ!」 「おまたせしました」 素敵なタイミングで店長っぽいおっさんが、自ら宣言した少女の前に湯気のたつ皿を置 いた。ご立腹だった奴は途端に俯き、小さな声で「ありがとうございます」と言う。 「ごゆっくりどうぞ」 その愛想の良さを店員に分けてやってくれと言いたくなるような笑顔で、おっさんは伝 票を置いて離れて行った。 「食べないの?ずっと待ってたのに」 「…うるさい」 しばらく下を向いてたが、生クリームとストロベリーソースをパイのかけらと混ぜなが ら見ていると、おもむろに白い手がナイフとフォークをそれぞれ掴んだ。 二段重ねの厚いホットケーキに、バナナとイチゴが生クリームとチョコシロップに飾ら れのっかっている。下段には何も塗られてないのか、メイプルシロップの小さなポット付 きだ。 コテコテしたのよりシンプルなのが好きみたいで、大きな皿の中で慎重に上段をずらし、 何も付いてない生地を一口分切る。そういえば、普通のホットケーキはメニューになかっ たかもしれない。 きつね色に焼き上がった湯気をたてるそれを、軽く息を吹きかけてから食べる。キスす るみたいにすぼめられた小さな唇が開かれ、ぱくりとケーキを含んだ。 もぐもぐ、ゴクン。向かいの俺を気にして無表情を装ってはいるが、皿の上を見つめる 奴の顔は意中の相手に薔薇の花束をもらった少女のようだ。なまじ顔が良いから、無駄に 背景を描き込むことができる。 黙々と食べ進める奴を見ながら俺はパフェを完食。水を飲んでから、上段を果物をのせ たまま品良く切り分ける相手に再び声をかけた。 「一口もらって良い?」 「………は?」 うわ怖い。なんか怖い。お楽しみを邪魔された奴の背景から点描や花柄トーンは消え、 社会の底辺でも見るような目で俺を射る。彼女のこんなまなざしなんて初めてっ! 「だって、ユカちゃんてばすんごい嬉しそうに食べてんだもん。下のが好きみたいだから 、俺は上のでいっから」 「……仕方ないな」 奴が折れたのは、絶対セリフの後半部分のせいだと思う。 「あ、違う違う」 テーブルのペーパーナプキンでフォークを拭い、ナイフとそろえて皿と共に差し出そう としてきた奴を制止する。 「食べさせてよ」 「…はぁ?」 いよいよ彼女、いや彼の目つきは厳しくなった。 「お前、気は確かか?そんな…は、恥ずかしい真似できるか!」 押し殺した声で冷たいことを言うので、俺は大げさに溜め息をついてみせる。 「あーあー、ユカちゃんこないだアイス食べた時は『食べさせて』って甘えんぼさんだっ たくせに、俺にはしてくれないんだ?覚えてる?こないだ『あーん』ってさぁ…」 「わ、わかったから!わかったから声大きい!」 カウンター席の客に興味本位に振り返られてるのに気付き、慌てて皿を引き寄せた。先 ほど切り分けたのにたっぷりクリームとイチゴをのせてくれる。 そろりと掬い上げ、俺の口元へ。離れているので中腰になって身を乗り出してきた。ソ ファでなければ、裾の短いワンピの中が丸見えだったろう。 「……ほ、ほら。早く食べろよっ」 羞恥にフォークを持つ指も、その下に添えた手も震わせながら黒髪美少女は促す。 「俺がやってあげたの覚えてる?同じみたくしてよ」 「………そ」 「……忘れたんなら再現してやるけど」 「ぁ……っあーん!ほら、あーん!」 「そんなのできるか」と紡ぎかけた唇を震わせながら、奴は憎い相手に甘いホットケー キを差し出した。 「はい、あー…」 チョコシロップの染み込んだ生地に食らいつき、咀嚼する。舌でつぶせるイチゴの酸っ ぱさがクリームの甘みとマッチしていて、なるほどたしかに美味い。ほんのちょっぴり塩 味のあるホットケーキ独特の風味が、とってもノスタルジーだ。 差し向かう相手は、白い頬を上気させた黒髪美少女。カウンター席の横を通れば誰もが 注視してきた、そんな誰もが羨む「女の子」に恋人ごっこをさせている。 学校ではクールな王子様の須藤豊が、女装して同級生の野郎とファミレスデートだなん て、誰が知ってるというのだろう? 恥ずかしさに先程までの満足感もすっかり吹っ飛んでるっぽい相手に、俺はニッコリ笑 って「ごちそうさま」と言う。 「…んじゃあ今度は、バナナんとこが食べたいなあ?」 腹が減ってたからこの配置で座ったのだが、なかなか悪い選択じゃなかったみたいだ。 (おしまい)
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彼女に幸せを 【投稿日 2006/03/09】 カテゴリー-荻ちゅ関連 結局私は何も手に入れられなかった。 あの男は去った。私の目論見どおり。 でも荻上は帰ってこなかった。 かつては信頼と愛情に満ちていた目にこもるのは不信とおびえ。 それはそうだろう。 彼女を裏切ったのは、彼女を利用したのは、間違いなくこの私なのだから。 あの男にした事には一片の後悔も無い。 そうされて然るべき事をあの男はやったのだ。 悔いがあるとすれば、それはあの男の器量を見誤ったこと。 秘密を自分の内に閉じ込められず、無様にも親にすがりつき、逃げ出してしまった小さな男。 そして問題を内輪で片付けられず、公にしてしまうその親。 よく出来た親子と言うべきだろう。 彼女には一片の非もない。道具に非などあるわけが無い。 責められるべきは私。 だけど名乗り出る気など毛頭ない。 私にも守るべき立場がある。 それにこれは彼女への罰とも言える。 おびえるがいい。疑うがいい。苦しむがいい。 そして気付け。お前の味方は私だけだ。 今日も荻上はヘッドホンで耳をふさぎ、ノートに向かっている。 だが私は知っている。彼女が常に聞き耳を立てていることを。 臆病な彼女には周りから孤立して生きることはできないのだ。 そんな彼女を観察しながら、くだらない会話をする。 「…ホモ上…」 どこかのバカの声がする。苛つく。彼女の事を何も知らない奴が彼女を語るな。 「だれだ、今言った奴!!」 立ち上がって怒鳴る。誰よりも自分が驚いている。これは私のとるべき態度ではない。 彼女が立ち上がり、教室を飛び出す。追いかける。追いかけながら後悔する。 これではだめだ。これでは私が彼女を追い詰めてしまう。 後ろを振り返る。まだ誰もついてこない。役立たずども。 再び彼女を追いかける。見失うわけにはいかない。 …ようやく彼女の行く先の見当がついた。屋上だ。 『なんとかと煙は高いところが好き』なんて言葉を思い出し、軽く笑う。 私から逃げきれるつもりなのか? 屋上への扉にたどり着く。呼吸を整える。落ち着いて、慎重にやるのだ。 ノブに手をかけると、後ろから声がする。 ああ、文芸部で妙に私に懐いている奴だ。酷く息を切らしている。 この方が余計な事を言われずにすむと思い、そのまま屋上に出る。 彼女はフェンスにしがみついて外を眺めている。 胸が高鳴る。直接話し掛けるのは久しぶりなのだ。 「荻上さん、大丈夫?」 優しく声を掛ける。もういいだろう。彼女を許そう。彼女は十分苦しんだ。 彼女がゆっくり振り返る。私は優しく微笑みかける。泣いていたのか彼女の目が赤い。 私はゆっくりと近づく。彼女はおびえている。さあ、戻ってきなさい。 私はゆっくりと近づく。彼女はおびえている。優しく受け止めてあげる。 私はゆっくりと近づく。彼女はおびえている。そしてまた仲良くしましょう? 「荻上!!」 あと数歩、というところで隣の馬鹿が大声を出す。 彼女は体を震わせると、叫びながらフェンスをよじ登る。 駆け寄る。 大丈夫、間に合う。 そして 彼女がフェンスのふちに足を掛けた時 私の指が 彼女の背中を 押した。 …すぐ下に大きな木が立っていた事もあって、彼女は軽傷で済んだ。 そうして私と彼女との絆は切れた。 彼女は部をやめ、卒業するまで私と一言も口を利かず、私と違う高校に進学した。 卒業式の日、私は馬鹿を呼び出して犯した。 馬鹿は泣き叫んだが、知ったことか。お前が悪いのだ。 お前さえいなければ私は荻上を取り戻せたのだ。 馬鹿は醜かった。荻上は可愛かった。 馬鹿は馬鹿だった。荻上は賢かった。 馬鹿の声は耳障りだった。荻上の声は心地よかった。 私はいつの間にか泣いていた。馬鹿が私を抱きしめて言う。 「大丈夫。私はずっとあなたの傍にいるから…」 ふざけるな。私が欲しいのはお前じゃない。お前など荻上の足元にも及ぶものか。 私は小説を書くことをやめた。 自分で見ても不出来な作品を絶賛されては、書き続けることなどできなかった。(馬鹿のせいだ) それでも「ヤオイ」とやらから離れられなかった。 それが荻上と残した唯一のものだったから。 馬鹿はどこまでも私にくっついてきた。高校にも大学にも。 そして私たちは今東京にいる。 馬鹿がコミフェスに行きたいとごねたからだ。 見て回る。 私は買う気などない。冷やかしだ。馬鹿は一人ではしゃいでいる。 そして見つけた。 彼女だ。間違いない。 鼓動が早くなる。 足を踏み出そうとして肩に手がかかる。振り返ると馬鹿が不安げに私を見ていた。 生意気な馬鹿め。あとでお仕置きだ。 鼓動が静まる。私は一息つくと改めて彼女の元へ歩き出す。 「荻上…?」 声を掛ける。彼女が固まる。 隣で馬鹿が必要以上にはしゃぐ。うるさいだまれ。 「あ!これ荻上の本?スゴー!」 我ながらわざとらしい。 「まだ描いてたんだー」 うれしい。彼女がやめていなかった事が。私の見立てが間違っていなかったことが。 「買う買う!500円?」 「いーよ、あげる」 懐かしい彼女の声が心地よく響く。 「え、いーの?」「うん」「あんがと!」 ただこれだけのやりとりが楽しい。 隣の男に気付く。特徴のない、優しさだけが売りのような男。 「彼氏?」「違う!」「フーン」 否定する彼女。嘘つき。私を騙せると思ってるの? 「ま、いいや。同人誌あんがと」「ほんだら元気で。バーイ」 彼女から離れる。平然と。いつもどおりに。 馬鹿が傍に擦り寄る。 なぜか今だけは突き放す気になれなかった。 彼女は変わっていなかった。 昔と同じように頼りない男に捕まっている。 そしてまた放り出されるのだ。 それを繰り返して不幸になっていくのだろう。 彼女はバカだ。 そして私はもっとバカだ。 彼女が好きで 彼女と一緒に居たくて 彼女を幸せにしたくて 彼女を不幸にした。 たぶん二度と彼女に会う事はないのだろう。 今の私には全てを捨ててまで彼女を救おうとすることは出来ない。 だからせめて信じてもいない神様に祈ろう。 彼女の幸せを。