約 4,242,262 件
https://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/168.html
雪原に聳え立つ巨大な塔。 その頂上に置かれた白いオーブが光り輝き、雪の塔は制圧された。 「うーん。拍子抜け…というか興醒めネ」 頂に立つ男は落胆した表情で頬を掻く。 その頭や肩には雪が乗っている。 おそらくは長時間屋外にいたのだろう。 「まさカ誰一人塔を取りに来ないなんてネ」 このシャという男、最初に遭遇したけるぴーこと馬場堅介を殺害した後、スタートダッシュボーナスの期間中にもう1、2人殺しておきたいと思い参加者と接触しようとした…のだが。 姿を隠してみたり、逆に大声で叫んでみたり、大の字で寝転がってみたり、途中まで塔に登って上から眺めたり、少し塔から離れて探索してみたり、山に登ってみたり下りてみたり、中央エリアに渡る橋の前で仁王立ちしてみたり。 とまあ次なる獲物を求めてかなり頑張って動き回ったのだが、誰一人シャの前に現れることはなく、そうこうしている間にスタートダッシュボーナスが終わってしまったのだった。 「これだけ探して見つからナイとなるト、ココからはもう離れた方がいいだろうネ」 1時間以上近辺を探したが人っ子一人見つからない。おそらくこの辺りがスタート地点となった参加者自体が少ないのだろう。 それに中央や砂漠と比べればこのエリアはとにかく寒い。 仮に中央エリアで大規模な戦闘でも発生してくれればあるかもわからないが、こんな序盤では中央からわざわざ厳しい環境に流入してくることもないだろう。 となると雪の塔を制圧した今、もはやこのエリアにいても旨味はない。 中央エリアに移動すべきかとも考えたシャだったが、マップを見てあることに気づく。 「オヤ。砂の塔も制圧されたカ。」 雪の塔には支配者であるシャの名が記されている。 そしてその隣のエリアにある砂の塔。ここにも既に支配者の名が記されていた。 支配者の名はBrave Dragon。 先ほど出会ったけるぴーがリア友だと言っていたプレイヤーだ。 シャの口元が三日月のように歪む。 けるぴーとの戦いはそれなりに楽しめた。 彼のリア友だというのなら期待が持てる。 けるぴーからはBrave Dragonについて、脳筋プレイを好む人間で、FW3では大剣を抱えて敵陣に突撃してよく蜂の巣になると聞いている。 けるぴーとはまた違った戦いが楽しめるだろう。 「決まりだネ」 次なる目的はBrave Dragonとの交戦だ。 目標が雪の塔を制圧しにこちらに向かっている可能性もあるが、殺されたくない一心からどこかへ逃げ去ってしまっていることも考えられるし、案外彼が好戦的で砂の塔を制圧しに来る者を待ち伏せているかもしれない。 いずれにせよ己が向かうべきは砂の塔だ。 さあ――楽しくなってきた。 [A-5/雪の塔近くの雪原/1日目・黎明] [シャ] [パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C [ステータス]:健康 [アイテム]:不明支給品×3、タリスマン [GP]:100pt [プロセス] 基本行動方針:ゲームを楽しむ 1. Brave Dragonとの交戦 2.砂の塔の制圧 028.バイバイ、アイドル 投下順で読む 030.水を得た魚 時系列順で読む 縛りプレイヤー シャ Dragon Slayers
https://w.atwiki.jp/kanken/pages/48.html
彷 彿 徊 很 徇 徙 徨 徼 彷 総画:7画 字義:①さまよう。左に右にとあてどもなく歩き回る。「彷徨ホウコウ(さまよい歩く)」 ②「彷彿ホウフツ」とは、それらしいが、はっきりと見定められないこと。 また、よく似ていること。〈同義語〉髣髴。 音読:(ホウ) 訓読:(さまよ・う)(にかよ・う) 熟語:【彷徨】ホウコウ =方皇・旁皇。 ①さまよい歩く。 ②想像上の虫の名。へびに似ていて、頭が二つあり、五色の模様がある。 ▲このページのトップへ 彿 総画:7画 字義:「彷彿ホウフツ」とは、そうらしいがはっきりと見定めのつかないこと。 また、よく似ていること。 ▽彿は髴フツと同じで、ふっとかきけすように見えなくなること。 音読:(フツ) 訓読:(にかよ・う)(ほの・か) 熟語: ▲このページのトップへ 徊 総画:9画 字義:①めぐる。さまよう。ぐるぐると回り歩く。〈類義語〉廻カイめぐり歩く)。 ②「徊徊カイカイ」とは、先に進まず、同じ所を巡りさまようこと。 音読:(カイ) 訓読:(さまよ・う) 熟語:【低徊趣味】ていかいしゅみ ▲このページのトップへ 很 総画:9画 字義:①もとる。根を降ろしたようにかたくなで、いうとおり動かない。強情をはるさま。 「很戻コンレイ」 ②悪いほうに気が荒くて強い。「凶很キョウコン」 ③〔俗〕ひじょうに。▽今では形容詞を強めるだけで、たいして意味はない。 「很好ヘンハオ(とてもよい)」 音読:(コン) 訓読:(はなは・だ)(もと・る) 熟語: ▲このページのトップへ 徇 総画:9画 字義:①したがう。主となるものについて行く。〈同義語〉殉、循 ②めぐる。ひと回りする。一巡する。〈同義語〉巡 ③となえる。全部に命令を知らせる。布告や見せしめによって、全部に知らせる。 ④あまねし。全部に行き渡っている。 ⑤はやい。すばやい。▽瞬シュンに当てた用法。〈類義語〉迅。「徇斉ジュンセイ」 ⑥しむ。せしむ。そのままにさせる。▽なりゆきにしたがうことから。〈類義語〉使。 音読:(シュン)(ジュン) 訓読:(したが・う)(とな・える)(めぐ・る) 熟語: ▲このページのトップへ 徙 総画:11画 字義:うつる。うつす。ずれて動いて行く。場所をかえる。「遷徙センシ(うつる)」 音読:(シ) 訓読:(うつ・す)(うつ・る) 熟語:【曲突徙薪】きょくとつししん 【遷徙】センシ ある場所を抜け出て他の所へうつる。また、うつす。『遷移センイ』 ▲このページのトップへ 徨 総画:12画 字義:さまよう。目標を定めずどこまでも行く。あてもなく歩く。 〈同義語〉遑コウ。「彷徨ホウコウ」 音読:(コウ) 訓読:(さまよ・う) 熟語:【彷徨】ホウコウ =方皇・旁皇。 ①さまよい歩く。 ②想像上の虫の名。へびに似ていて、頭が二つあり、五色の模様がある。 ▲このページのトップへ 徼 総画:16画 字義:①もとめる。得られそうもないことを得たいと願う。むりにもとめる。 ②むりに…のふりをする。「悪徼以為智者=徼シテモッテ智ト為ス者ヲ悪ム」〔論語〕 ③うかがう。取り締まる。悪事を取り締まるために巡察する。見張りをおくとりで。国境。 「游徼ユウキョウ(巡察して回る)」「辺徼ヘンキョウ(国境の巡察。またそのとりで)」 ④出口をしぼって追いつめる。 ⑤むかえうつ。▽邀ヨウに当てた用法。「徼撃ヨウゲキ(=邀撃)」 ⑥こまかに微妙なところ。▽竅キョウ(小さな穴、微妙なところ)に当てた用法。 音読:(キョウ)(ギョウ)(ヨウ) 訓読:(くにざかい)(さえぎ・る)(さかい)(めぐ・る)(もと・める) 熟語:【厳塞要徼げ】んさいようきょう ▲このページのトップへ ⇒漢字辞典
https://w.atwiki.jp/daiseisenbura/pages/15.html
きほんそうさ板を開く スレッドを開く スレッドの更新をチェックする ログ について 書き込みをする スレッドを建てる
https://w.atwiki.jp/psemu/pages/259.html
ゲーム概要(wikipedia) 家にポチがやってきた ゲーム 家にポチがやってきた
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/1557.html
朝日、麗かな小鳥の囀りが木霊する。 「おい、おきろ。あさだぞ。」 渋みのある声が洞窟内に響き渡る。 「ん…おぉ、もう朝か。」 応える声も同じく渋い…。 それもそうだろう。二人、いや、一人と一匹の声は全く同じなのだから。 「ずいぶんふかくねむっていたようだな。」 コイツはゆっくりスネーク。 「ゆっくり」という生物らしく、訳あってコイツの住み家に居候させてもらっている。俺がこちらに来た時に生まれたらしい、俺から発現したゆっくりだ。 「あぁ、昨日は走り通しだったからな。流石に疲れた。」 「まだ「たいちょう」は「ばんぜん」ではないのだろう?あまりむちゃはできんぞ。」 「あぁ、分かっている。みすみす死ぬような真似はしないさ。」 「それならいい、さぁ、めしにしよう。」 そういうとゆっくりスネークは洞窟の奥から何かを引っ張り出した。 それを見たスネークは驚愕した。 「何だこれは……。」 「しらんのか?「かろりーめいとさん」だ。」 「お前等の世界にもカロリーメイトがあるのか…?」 「あるもなにも…。ほれ、そこをみてみろ。」 「………?……これは……!!」 ゆっくりスネークに促され、スネークが見た光景は彼の中の現実を遥かに超越した光景だった。 「カロリーメイトが……生えている……?」 普通に考えればカロリーメイトは生える物では無く購入する物、と言うのが常識である。 しかし、スネークの目の前ではカロリーブロックが茎の上に花弁の様に咲き、洞窟内に根を張っている…。 幻想卿…。此処は常識を超えた事が普通に起こる場所であると言う事を、彼は改めて思い知らされたのであった。 「全く、理解しがたい世界だな、此処は。」 「ふん、それがここ「げんそうきょう」だ。」 「ハハ、そうだったな。じゃあ、お言葉に甘えて頂くとするか。」 「えんりょはいらん、くってちからをつけるんだ。」 「すまん。」 「なに、きにするな。」 傭兵食事中………。 モーシャモーシャ… 「むーしゃむーしゃ…」 「美味過ぎる!!!!!!」 「さいこうだあぁぁ!!!!!」 一人と一匹の朝は賑やかに始まるのであった。 [おまけ:適度にゆっくりしていってね!!] 「しゃちょう!こんかいはやたらにみじかいね!!」 「仕方が無かろう霊夢君。作者も久しぶりすぎて勘が取り戻せんのだ。」 「でも「でばん」ができたからうれしいよ!!」 「うむ、前回は出番が少なかったからな。このおまけコーナーでの活躍を期待してるぞ。」 「ゆゆ~ん!まかせてね!!」 「さて、このコーナーには霊夢君を始め様々な人物ないしゆっくりをゲストとして呼ぶ予定なので宜しく頼むぞ!」 「ひとりじめはよくないもんね!!」 「そうだ、偉いぞ、霊夢君。」 「ゆふふん!もっといってね!!」 「さて、今回この様に短くなってしまった事を作者に変わりお詫びする。」 「ごめんね!つぎはもっとちゃんとかくよ!!」 「次回も是非読んで欲しい。」 「おねがいだよ!!」 「では、また会おう!」 「しゃちょう!それちがうひとのせりふだよ!!」 「まぁまぁ、いいじゃないか。」 勘が取り戻せず、この様になってしまいました。 申し訳御座いませんorz ゆっくり好きな新参者 カロリーメイトが自生するってwさすが幻想郷w -- 名無しさん (2009-08-09 10 59 53) さすがの幻想郷でもカロリーメイトは自生せんわw 咲き誇るカロリーメイトの描写が笑いを醸し出して困る -- 名無しさん (2009-08-09 11 54 23) カロリーブロックが咲き乱れる場所。 それが幻想卿ですw -- ゆっくり好きな新参者 (2009-08-09 16 04 39) 良いか!!幻想郷ではそくせきらーめんさんも自生しているがヤツらには要注意だ!! 大抵腐ってるから腹痛めるぞ!! -- 名無しさん (2009-08-12 14 18 45) そくせきらーめんさん……。 恐らく使わせてもらう事になりそうですw -- ゆっくり好きな新参者 (2009-09-17 05 11 23) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/preciousmemories/pages/6545.html
《いってきま~す!》 イベントカード 使用コスト0/発生コスト2/赤 [メイン/自分] 自分の『みなみけ』のキャラ1枚は、ターン終了時まで+30/+30を得る。このターン、そのキャラがアプローチに参加した場合、カードを1枚引く。 みなみけで登場した赤色のイベントカード。 自分の『みなみけ』キャラ1枚のAP・DPを30上昇させ、そのキャラがアプローチした時にデッキから1枚カードを引く効果を持つ。 『みなみけ』版《光のステージへ》。 コンバットトリックではないが、AP・DP+30と大幅な強化が可能。 さらにそのキャラがアプローチするだけで1枚ドローできるため、実質ノーコスト。 カードイラストはただいま第13話「ここだけの話はここだけで」のラストシーン。 関連項目 《光のステージへ》 収録 みなみけ ただいま 01-121 編集
https://w.atwiki.jp/majokkoxheroine/pages/66.html
第四話 『帰ってきた天然ママ』 「プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」 「へれへれ~! 成仏しちゃうわ~!」 「お、覚えてなさいよ、プリティサミー!!」 冒頭からいきなりで申し訳ないが、サミーの魔法でラブラブモンスターのゴースト女を蹴散らされ、ミサは撤退した。 「すごいよサミー、魔法を覚えてから向かうところ敵なしだね!」 「へへっ、おまかせっ!」 少し頭を傾けて小指を頬に当てるサミー。 この決めポーズもすっかり板についてきたようだ。 「ルンルン、絶好調~♪」 魔法の手帳を覗き込んでいる魎皇鬼は、とても上機嫌だ。 「リョーちゃん、何だか嬉しそうだね」 「うん、だってミサのおかげで、どんどん善行ポイントが溜まっていくんだもの。 悪の魔法少女の癖に全然強くないし、これからもどんどん出てきて欲しいな♪」 「……って、言われてるけど?」 実はまだ木陰に隠れていたミサと留魅耶。 ミサは魎皇鬼の言葉にショックを受けたようだ。 「あ、あんなウサちゃんにまで舐められるなんて……! くぅー……一時期は隆盛を極めたミサちゃまがこんな屈辱を受ける日々……。盛者必衰、マイトイズライトとはこのことなのね……」 いつミサが隆盛を極めたのかは知らないが、こうも現れるたびにやられっぱなしではウサ畜生に舐められるのも無理も無い。 「別に負けっぱなしでもいいじゃない。ミサはヒマ潰しがしたいだけなんだろ?」 留魅耶としては、これ以上ミサに面倒ごとを起こして欲しくない。 ミサの暴走をサミーが止める形になっている今がベターな状況だった。 「違うわよーーー!! ルーくん、ミサはね……た・の・し・く……ヒマ潰し、したーいのーーー!」 駄々っ子のように両手を振り回すミサ。 「エブリエブリー、負けに負けてユールーズを宣言され続けたところでぇ……。 楽しいわけが……ないっちゅーんじゃああああああああああっ!! 連勝記録も途切れるし、投入する100円玉にも限りがあるんじゃあああああい!!」 そうそう、彼女は魔法少女になってからはゲーセンに行ったり買い食いしたり等は一度もしていないので、 以来、無駄遣いをしてない彼女の財布は丸々と太っている。 これも魔法の力を得たことによるご利益と言えよう。 「はあっ……はあっ……」 激しすぎる憤慨のあまり、大声で叫んだり地面を踏みつけたり木に頭突きをしたりしてみたミサだが、 頭にコブが出来て息が切れて喉が渇いただけだった。 「飲む?」 「はあっ、はあっ……あ、サンキュー! 流石ルーくんは準備がいいわねぃ!」 留魅耶が差し出したオレンジジュースを、ミサはぐいっと飲み干した。 「っぷっはーっ、生き返るわこりゃ! 五臓六腑に……って、そりゃ流石にオヤジくさいか」 水分補給を済ませたミサは多少落ち着いたようだが、それでも怒りは晴れなかった。 「大体さー、それもこれもサミーが必殺技を覚えるからいけないのよ! あのスカチックバンパーとか何とかをサミーが修得したせいで、 ミサはアンニューイでモナムーな日常がデフォールトになっちゃったんだから!」 「人のせいにして思考停止って、ダメ人間の典型的パターンだよ」 「シャラップ!! ダメ人間の方がハッピーな人生を送れるのよ!」 自分がダメ人間だという自覚があるのなら、まぁいいか。 「もう、サミーをぶちのめすには適当にラブラブモンスターを何体作ったってダメね。ドカーンと一発、強烈なラブラブモンスターを一匹作り出さないと」 「強力なモンスターを作りたいなら、悪意の強い人間を探さないとダメだね。悪意が強ければ強いほど、それを変換したときの魔力も強くなるんだ」 「ふむふむ、悪意が強ければ強いほど魔力も強くなる、っと……」 ビン底メガネを装備し、みかん箱を机代わりにメモメモするミサ。 もちろんメモ用紙はチラシの裏だ。 「後は裏技として、元々魔力が強い人をミスティクスするって手もあるね。尤も、魔法を使える人がほとんどいない地球じゃそんな人は―――」 言いかけて、留魅耶はミサの瞳が自分をロックオンしていることに気付いた。 「……ねぇ、ルーくん♪」 「い、いやだ! 僕は絶対にやらないぞ!」 「まだ何も言ってないじゃない!」 「言ってなくても嫌な物は嫌だっ!!」 「むぅ~……」 ミサの目が、狩人の目になっていく。 「ならば力づくよ! コーリング―――」 「ま、待った!! 僕をラブラブモンスターにするよりもいい案があるよ!!」 「へ?」 留魅耶の言葉を聞き、ミサの手が止まる。 「いい案って何? 他に強いラブラブモンスターを作る手段があるの?」 「う、うん……ボクを使うよりは……」 留魅耶は心の中で謝りながら、ある人物の名前を挙げた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今日も悪の魔法少女を退治した砂沙美と魎皇鬼は、自宅に帰ってきた。 「ふう、今日はちょっと遅くなっちゃったね」 砂沙美の言うとおり、既に夜の7時近い。 急いで靴を脱ぎ、下駄箱にしまう。 「ボク、もうお腹ペコペコだよぉ……」 「ちょっと我慢して。急いで晩御飯作るから。……ん?」 砂沙美は、家の中の異変に気付いた。 既に食事の匂いがする……? 「あら、おかえりなさい砂沙美ちゃん」 奥の部屋から、エプロン姿の妙齢の女性が現れる。 長い青髪を後ろで縛っている、おっとりとした雰囲気の美人だ。 「まっ……」 砂沙美は思わず、手に持っていた靴を落とす。 「マ……………………ママーーーーーーっ!!」 砂沙美は、ママと呼んだ女性の胸に飛び込んだ。 「うふふ、ただいま砂沙美ちゃん。お仕事終わったから、これからしばらくは一緒にいられるわよ」 そう言って、その女性はふんわりと砂沙美に笑いかけた。 その女性の名は、萌田津名魅。 砂沙美をそのまま大きくしたような、彼女のお母さんだった。 萌田家の母子は、居間で食卓を囲んでいた。 早めに帰ってきた津名魅が二人分の食事を作っておいたのである。 「ねぇ、ママ。今回のお仕事はどうだったの?」 「途中で酸素ボンベを落として苦しかったけど、今回は頑張って三トウも落としたのよ」 「わぁ、ママすごーい!」 得体の知れない仕事の報告をする津名魅と、それを無邪気に喜ぶ砂沙美。 この母にしてあの砂沙美ありといった所だろうか。 何を隠そう、砂沙美に正義について教え込んだのも津名魅なのである。 「お父さんもしばらく帰ってきてないの?」 「うん、研究が忙しいみたい」 本筋にあまり関係ないので忘れてもらって構わないが、砂沙美の父親は高名な博士なのだ。 「天地くんとは最近会ってるの?」 「え、えへへ……もちろん!」 「そう、仲が良くてヤケちゃうわね」 「てへへっ……」 「美紗緒ちゃんは元気にしてるかしら?」 「うん、元気だよ。それに最近、なんだか明るくなった気がする」 「あらあら、何かいいことでもあったのかしらね」 盛り上がり続ける母子の会話。 そうして忘れ去られた存在が、とうとう不満気な声を上げた。 「ミャアン!」 「あら、この子……?」 津名魅はやっと魎皇鬼の存在に気付いたようだ。 さっきからずっと周囲を走り回っていたというのに、のんびりマイペースにもほどがある。 「ママ、この子は魎皇鬼って言うの」 「魎皇鬼ちゃん? 立派なお名前ねぇ」 魎皇鬼を抱きかかえて津名魅に見せる砂沙美。 津名魅は、魎皇鬼のことをじっと見る。 その瞳に見つめられると、魎皇鬼は何だか緊張した。 「見て、とっても可愛い猫ちゃ―――」 ガブリッ。 魎皇鬼が砂沙美の指に噛み付いた。 彼は自分が猫の姿をしていることを決して認めない。 「いっ……!! ……い、いや、可愛いウサちゃんでしょ!」 砂沙美は魎皇鬼を睨むが、彼は横を向いてしらんぷりだった。 まぁいい、文句を言うのは後だ。 まずは津名魅に魎皇鬼を飼う了承を取り付けなくてはならない。 「ねぇママー、この子、ウチで飼ってもいいよね?」 「ダ・メ♪」 ド ゴ ォ ー ン ! 表情も声色も変えずに津名魅が即答した為、砂沙美と魎皇鬼は吹き飛んでしまう。 ものの見事に見えない地雷を踏み抜いてしまったようだ。 「……ど、どうして!? ママ、動物は好きでしょ!?」 「ママはね、動物は大抵好きだけど、ウサギは嫌いなの」 あくまでにこやかに、しかしキッパリと言い切る津名魅。 その態度からは、本気なのか、冗談なのかすら全くおぼつかない。 だがどちらにしろ、何らかのリアクションを返さねば、この何とも言いがたい空気は打開できないだろう。 砂沙美は、覚悟を決めた。 「ご、ごめんママ、ウサちゃんってのは冗談! この子、ホントは猫なの! ほら、鳴き声だって!」 「ミャ、ミャアン!」 仕方なく、砂沙美の言葉に同調する魎皇鬼。 「なんだ、猫さんだったのね。それなら飼ってもいいわよ」 津名魅はあっさりと前言を覆し、魎皇鬼を飼うのを了承した。 「あ、ありがとうママ! 良かったね、リョーちゃん!」 「……ミャーン……」 めでたく正式に萌田家の一員となったが、どうにも納得がいかない魎皇鬼であった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― トントントントン……。 萌田家の台所に包丁の音が響く。 今日は土曜日。 今、砂沙美はママのおかえりパーティ用の料理を作っているのだ。 些細なことでもいちいちお祝いして盛り上がるのが萌田家の伝統であった。 ちなみにそのママは、今は買いだしに行っている。 「ねぇ、もっとニンジン入れてよニンジン! こんなんじゃ全然足りないよ!」 脇から覗き込んで注文をつける魎皇鬼。 「もー、りょーちゃんは黙っててよ!」 砂沙美が今作ってるのはクリームシチューだ。 ニンジンは既に6本も入っており、多すぎるぐらいなのだ。 これ以上入れたら、ニンジン入りシチューではなく、シチュー入りニンジンになってしまうではないか。 「他にニンジンクッキーやニンジンジュースも作ってるでしょ。もう十分じゃない」 「やだやだ、全然足りない! せっかくのお祝いの日ぐらい、もっとニンジンだらけにしてよ!」 「どーいう理屈よ?」 「ボクん家ではそれが伝統なんだい!」 「そーなの。でもここは砂沙美の家だから。郷に入っては郷に従ってもらいますからね」 「ウゥ~…………」 全身の毛を逆立てて不満の意を表す魎皇鬼だが、砂沙美は相手をせずに作業を続けた。 ピンポーン 「はーい!」 砂沙美は一旦火を止めて、玄関に出る。 せっかくのパーティなので、何人か招待客が居るのだ。その内の誰かだろう。 砂沙美が玄関のドアを開けると……。 「美紗緒ちゃん!」 「おはよう、砂沙美ちゃん」 そこには、満面の笑顔をたたえた彼女の親友、天野美紗緒が居た。 「ごめん、ちょっと早く来すぎちゃったかな?」 「いや、大丈夫だよ! 上がって上がって!」 「おじゃまします」 砂沙美に招かれて家に上がる美紗緒。 「砂沙美ちゃん、今日は招待ありがとう」 「ううん、こちらこそわざわざ来てくれてありがとう!」 「そんな……砂沙美ちゃんのお誘いを、断れるわけないもの……」 「えへへ……」 少々照れくさくなり、互いにちょっと頬を染める二人。 「じゃ、あたしは料理の続き作ってくるから待っててね」 「あ、ゴメンね、途中だったのに邪魔しちゃったんだ」 「ううん、大したことじゃないよ。こっちこそ待たせちゃってゴメンね」 そう言って、砂沙美は台所に戻った。 「ねぇ、お客さん呼ぶなんて聞いてないよ!」 台所で待っていた魎皇鬼は戻ってきた砂沙美に文句を言う。 「言ってなかったかもしれないけど……別に、リョーちゃんには関係ないでしょ?」 「あるよ! ボクのニンジンの取り分が減っちゃうだろ!」 あくまで彼にとって重要なのはニンジンで、他はどうでもいいらしい。 「はいはい、じゃあリョーちゃんの分は意識してニンジンをたっぷり入れてあげるから」 「……他の人の3倍は入れてよ?」 「はいはい、3倍ね」 まともに相手にする気も失せてきて、適当にあしらい始める砂沙美。 ペットと言うより、聞き分けの無い弟を相手にしている気分だ。 (……お姉ちゃんも、あたしが小さい時はこんな気持ちだったのかな?) 砂沙美には、7つ歳の離れた姉が居た。 今は海外留学をしているために家には居ないが、幼い頃は大分ワガママを言ってしまって困らせた記憶がある。 (今度お姉ちゃんに会ったら、子供の頃はワガママばっかり言っててゴメンって謝っておこう) 人の苦労は自分の身に降りかかって来て、初めて理解できるものだと、今更ながらに砂沙美は実感した。 ピンポーン 「あ、はーい!」 再びの来客だ。 砂沙美は玄関に走る。 ガチャ 「天地さん!」 美紗緒の次にやって来たのは、砂沙美の恋人・征木天地であった。 「おはよう砂沙美ちゃん。招待ありがとう」 天地はそう言いながら、砂沙美がエプロン姿なことに気付くとバツの悪そうな顔をする。 「ごめん、料理の邪魔だったかな?」 「とんでもない! どうぞ上がっててください!」 「それじゃあ、お邪魔します」 天地も家に上がっていく。 「あ、天地さん!」 「おっ、美紗緒ちゃんも招待されてたんだ」 和気藹々と談笑する彼らを他所に、不満のうなり声を上げる生物が居た。 魎皇鬼だ。 (ウゥ~……ボクのニンジン……) ただでさえ母である津名魅が帰ってきたことで、萌田家の料理は彼の独占ではなくなってしまったのだ。 こんなにどんどん人が増えては、自分の取り分はどれだけ減ってしまうというのか。 (ボクのニンジンは…………砂沙美ちゃんの料理は、ボクだけのものだ!!) その怒りにニンジン以外のものへの執着が混ざっていることは、まだ幼い魎皇鬼には自覚が出来なかった。 「津名魅さん、おかえりなさーい!」 パァンパァン! クラッカーが飛び散る。 「ありがとう、今日はみなさんも楽しんでいってくださいね」 そう言って、嬉しそうに微笑む津名魅。 あれからすぐに津名魅は買出しから帰ってきて、料理も完成した為、 めでたく『ママさんおかえりパーティ』は始まった。 「ママさん、これプレゼントです」 美紗緒は、包装紙に包まれた小さな箱を差し出す。 「えっ! そんな、美紗緒ちゃん……。こんな大騒ぎしたいだけのパーティでそんなもの貰っちゃ悪いよ!」 美紗緒の思わぬ気遣いに、当事者でもない砂沙美が大慌てをしている。 「うふふ……ありがとう、美紗緒ちゃん。嬉しいわ」 一方、津名魅はあっさりと受け取った。 「ママさんに何がいいか分からなかったので、お菓子にしてみました。お口に合えばいいんですけど……」 「あら、大丈夫よ。私は好き嫌いが無いから、何でも喜んでいただくわ」 「良かった!」 二人は顔を合わせて微笑む。 「うーん、美紗緒ちゃんに先を越されちゃったな」 そう言ったのは天地だ。 「俺も津名魅さんにプレゼントがあったんです。これをどうぞ」 天地は、美紗緒の物よりは多少大きい包みを津名魅に手渡す。 「中身は洗剤です。色気無いプレゼントですけど、長く使えるものがいいと思って」 「あらあら、天地さんもありがとう。私は幸せ者だわ」 そう言って、本当に幸せそうに笑う津名魅。 焦ってしまったのは砂沙美である。 (マ、マズい……何もプレゼントを用意してないのは砂沙美だけじゃん!) 本当はパーティ用の料理を作っただけで十分なのだが、それが当たり前だと思っている砂沙美の中では大したママ貢献にならないのである。 「まるで魔法にかけられたみたいねぇ、こんなにみなさんに幸せにしてもらえるなんて」 「……!」 津名魅が何気なく言った言葉に、砂沙美は反応した。 (こ、これだ! 魔法の力で何かをしてあげれば、十分にプレゼントになるはず!) 「あれ、砂沙美ちゃん何処か行くの?」 「ちょっとトイレ!」 立ち上がった自分に気付いた美紗緒にそれだけ言うと、砂沙美はニンジンクッキーをかじっている魎皇鬼を引っこ抜いて部屋を出る。 「な、何するんだよぉっ!」 「リョーちゃんお願い、魔法のバトン出して!」 食事を邪魔されてご立腹な魎皇鬼に、砂沙美は頭を下げる。 「……………………」 魎皇鬼は無言でバトンを取り出すと、砂沙美に叩きつけて居間に戻っていった。 一刻も早くニンジンかじりを再開したいのだ。 「よーし! プリティミューテーション! マジカルリコール!」 透過光に包まれて、砂沙美はプリティサミーに変身した。 居間に戻ってきた魎皇鬼だったが、ニンジンクッキーが食べられつくしてることに気付いてショックを受ける。 「この間の天地さん、かっこ良かったんですよー。強盗に勇敢に立ち向かったりなんかしちゃって」 「あらあら、天地くんらしいわね。でも無茶はいけないわ。もし天地くんが死んだら、勝仁さんが悲しむでしょう?」 「す、すみません……」 三人はおしゃべりに夢中で、魎皇鬼がうなり声を上げてるのにも気がつかない。 仕方なしに、魎皇鬼はニンジンジュースをちびちび舐めることで我慢をするのだった。 そんな中、あまり広くも無い居間に、ひらひらして非常に邪魔くさい振袖姿で飛び込んできた少女がいた。 「お祝いもパーティもサミーにおまかせ! プリティサミー、祝辞を届けに参上でぇす!」 「「プ、プリティサミー!!?」」 天地と美紗緒は同時に声を上げる。 「あら、みなさんのお知り合い?」 呆気に取られている二人をゆっくりと見渡す津名魅。 そんな彼女の前にサミーはずいと乗り出し、二人は目が合う。 「ママさん、始めまして! あたしは砂沙美ちゃんのお友達の、正義の魔法少女・プリティサミーです! 今日は、ママさんおかえりを祝してプレゼントを届けに来ました!」 「あらあら、魔法少女さんまでパーティに来てくださるなんて。砂沙美ちゃんの交友関係って広いのねぇ、羨ましいわ」 魔法少女という単語にも全く動じた風でもなく、笑顔で応対する津名魅。 やはり大物なのか、それともただの天然なのか、非常に判断に困る。 「それで、頂けるプレゼントとは何なのでしょう?」 「えっ! ……えーと、それはですね……」 勢いで飛び出してきた為、サミーは何も考えていなかった。 そもそも良く考えれば、自分はコケボン以外の魔法は使えないのだ。 「え、えーと……あの、その……」 目を泳がせるサミー。 ……すると、視界の端にコソコソとこの場を離れようとする美紗緒の姿が見えた。 「あれ、美紗緒……さん、何処に行くんですか?」 「!! ……ちょ……ちょっとトイレに……」 「あ、失礼しました。どーぞどーぞ」 呼び止められて狼狽した美紗緒だったが、何とか部屋を立ち去ることができた。 やはり『トイレ』は場を離れるための言い訳としては最強の呪文である。 「それで、サミーさんから頂けるプレゼントとは何かしら?」 「い、いやー、それは……」 サミーは魎皇鬼に流し目を送って助けを求めるが、機嫌の悪い彼は完全に知らんぷりだ。 (くぅー……もうこうなったら適当にコケボン撃って誤魔化すしかないや!) 投げやりな決意をするサミーだったが……。 ピンポーン 「あら、まだお友達が来る予定だったのかしら? サミーさん、ちょっと待っててくださいね」 津名魅は立ち上がると、サミーに軽く会釈をして部屋を出て行った。 ピンポーン ピンポンピンポーン 「はい、どちらさまですか?」 津名魅が玄関のドアを開けると……。 「グッドモーニング! ご無沙汰してるわねぃ、砂沙美ちゃんのママりん!」 読者には分かっていただろうが、ピクシィミサであった。 肩には留魅耶が乗っている。 見たかった番組があったのに無理やり連れて来られたので、少々不服そうだ。 「はて……あなたはどちらさまだったかしら?」 ご無沙汰と聞いて、知り合いかと思考を巡らす津名魅だが、当然、こんなエキセントリックな金髪少女の記憶などあるわけもない。 「あたーしの名前は、人呼んで破壊と混沌とカオスを愛する破壊の女神にして、 キュートでセクシーなみんなのアイドルという、要するに悪のミラクルラブリー魔法少女・ピクシィミサーッ!!」 老婆心だが、自己紹介は簡潔にお願いしたい。 無駄に長いと相手も覚えにくい上に、第一印象も悪いぞ。 「あらあら、あなたも魔法少女さんだったのね」 微笑む津名魅。 一歩間違えば(既に間違ってる?)ただの危ない人を前にしてもこの態度である。 この人が平静を失うのは、この世の終わりが来た時だけかもしれない。 「実はぁ、ミサったらお友達にお呼ばれしちゃってぇ~」 「あら……もしかして、サミーちゃんのお友達?」 「イエース! ザッツライっ!」 「ちがーーーーーーうっ!!!」 奥で話を聞いていたサミーが溜まらず飛び出してきた。 「だぁれがアンタの友達よ!」 「つれないわねぇ、同じ魔法少女同士じゃない」 「だったらもっと友好的な行動を取らんかいっ!」 「あらあら、友達同士は仲良くしないとダメよ」 いつも通りのいがみ合いを続ける魔法少女達と、何処かズレた仲裁を行う津名魅。 そんな彼女らの様子を、魎皇鬼がシチューのニンジンをしゃぶりながら見ていた。 (ウゥ~……!! ミサと留魅耶まで来たら、またボクの取り分が減っちゃうじゃないか!) 魎皇鬼のイラ立ちは、限界まで達していた。 一方、いがみ合いを続ける魔法少女達は……。 「とにかく、帰って! あんたなんかお呼びじゃないんだから!」 「ヤダ! ……って言ったら?」 「いつも通りの目に合わせてあげるわ!」 サミーはバトンを突きつける。 「ふっふっふ、そうこなくっちゃ! 実は今日のミサは、ちょっとしたタクティクスを備えてきたのよ!」 「タクティクス? オ○ガバトルのこと?」 「ゲーム脳のおこちゃまはゲラウトヒア! 行くわよ、コーリング・ミスティクス!!」 ミサがバトンを振り回して放った魔力は……玄関にいた魎皇鬼に命中した。 「ええっ!? リョーちゃんに!?」 光に包まれた魎皇鬼は、見る見る内にその影を肥大化させていく。 そうして現われたのは……。 「なのなの~! お腹いっぱい食べてなの~!」 「リョ、リョーちゃんが……ケーキになっちゃった!?」 頂上付近にキラキラお目目とお口のついた、特大の3段ケーキだった。 生クリームもたっぷりで、実に食べ応えがありそうだ。 ただしイチゴの代わりにニンジンが乗っているのが難点か。 「さぁ、暴食の悪意から生まれたケーキ女! サミーをコテンパンにするのよ!」 「サミー、あたしを食べて食べて~! なのなの~!」 ラブラブモンスターとなった魎皇鬼とは元の姿とはすっかり別人になってしまい、 声も某二等兵ではなく、はにゃ~んな人の物に変わってしまっている。 「サミー、サミー! あたしを食べて~! なのなの~!」 「どわわ~っ!!」 ケーキ女が飛び掛ってきたのを慌てて避けるサミー。 「……どうしてあたしを食べてくれないなの~……」 顔面(?)から地面に突っ込んだケーキ女は、土塗れの顔を起こして恨めしげな瞳を向ける。 「うぅっ……戦いにくいけど、やっぱり倒すしかないか……」 サミーはバトンに魔法の力を溜め始める。 「ちょっと痛いかもだけど、我慢してねリョーちゃん! プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」 放たれたハートの弾丸が、ケーキ女に向かっていく! だが……。 「バリアーなの~~~!」 「な、なんですとーーーっ!?」 ケーキ女は魔法のバリアを張り、コケティッシュボンバーを跳ね返したのだ。 「……って、どげげっ!? どっちに跳ね返してるのよー!?」 跳ね返ったコケボンは横で高みの見物を決め込んでいたミサに直撃したが、 必殺技を破られてしまったサミーはそれどころではなかった。 「くっ……このラブラブモンスター、強い……。まさかコケティッシュボンバーが破られるなんて……!」 元が魔法の国の住人である魎皇鬼なのだ。 その辺の一般人から生み出したラブラブモンスターとは、比べ物にならない強さで当たり前だ。 「今度はこっちの番なの~! ニンジンミサーイルなの~!」 「わわわっ!!」 ニンジンが四方八方からサミーに襲い掛かる。 何とか走り回って避け続けるサミーだが……。 「! マ……ママさん、危ないっ!!」 「あら?」 無我夢中で走り回っている内に、横でぼーっと戦いを眺めていた津名魅の前に来てしまったのだ。 しかしニンジンミサイルは容赦なく襲来する。 自分がこれを避けたら津名魅に当たってしまう! 「こ、こうなったらこっちもバリアー! ……って、出ないしぃ~!!」 とっさに魔法が使いこなせない己の未熟さ故に、あえなくニンジンミサイルが直撃したサミーは黒焦げになって吹き飛ぶ。 「あらあら、サミーちゃん大丈夫?」 「……な、なんとか……」 身体を張った甲斐あって、津名魅は無事であった。 サミーはその助けた津名魅に助け起こされる。 しかし、瀕死(?)のサミーにケーキ女は、ずいと迫る。 「さぁサミー……これからあたしと一つになるなの~。お腹が破裂するぐらい、サミーの中をあたしでいっぱいにしちゃうなのなの~!」 「あ、あががっ……ひゃ、ひゃへてっ!!」 「あらあら、サミーちゃんったら食いしんぼさんね」 無理やりサミーの口をこじ開け、ちぎった自分の身体を押し込み始めるケーキ女。 津名魅は傍からその様子をほほえましそうに見ている。 これが深刻な事態だとはこれっぽっちも思っていないようだ。 (あ、意外と美味しい! でもこんなに食べると太っちゃうかも……。 ……って、言ってる場合じゃなーーーい!! このままじゃ窒息して死んじゃう!!) いくらサミーがモガモガ暴れても、ケーキ女は微動だにすらしない。 このまま明日の朝刊に『正義の魔法少女、ケーキの食べすぎで窒息死!』……と書かれた記事が出回ってしまうのだろうか。 しかし、こういう時はやはりヒロイン補正で救世主が現われるものだ。 「やめろーーー!!」 異変を聞きつけて駆けつけた天地だ。 そのままの勢いで全力で身体ごとぶつかっていくが、ケーキ女はビクともせずにサミーに自分の身体を食わせ続けるばかりだ。 ならばと、天地はケーキ女に交渉を試みる。 「俺がサミーの代わりにおまえを食べる! だからサミーは開放してやってくれっ!!」 (て……天地兄ちゃん……!) サミーを救いたい一心で、天地は必死で懇願する。 流石に天地を無視できなくなったケーキ女は、敵意を込めた目で天地を睨む。 「……あなたになんかあたしを食べて欲しくないなの! これでも食らってろなの!」 「なにをっ……ガボォッ!?」 天地はあっという間に大量のニンジンミサイルを口に詰め込まれてしまう。 「それを全部食べきったら、あたしを食べる権利をあげてもいいなの! まぁあなた程度の胃袋じゃ、絶対にムリなのなの~!」 キャッキャと笑って、サミーに身体を食べさせるのを再開しようとするケーキ女だったが……。 「はぁ……はぁ……どうだ、食べきったぞ! これで俺がおまえを食べていいはずだ!」 驚いたケーキ女が振り向くと、そこには確かに顔を食べカス塗れにして腹を膨らませた天地が居た。 ニンジンミサイルの影も形も何処にも無い。全て彼のお腹の中だ。 「そ、そんな!? こんな一瞬であの量のニンジンを食べきったのなの!?」 「赤貧学生を舐めるな! いつでも腹ん中はスカスカだっ!」 「…………く…………くぅ~、なの~~~~!!!」 ケーキ女はジタバタ暴れると、キッと天地に向き直る。 「あなたのこと、ずっとずっと気に入らなかったなの!! サミーは、サミーは…………あたしだけのものなのっ!!」 ホイップクリームまで真っ赤にして、ケーキ女は怒りを爆発させる。 「こうなったら、何もかもぶっ壊してやるなのなのなのなのなの~~~!!!!」 四方八方、無差別に大量のニンジンミサイルを乱射し始めるケーキ女。 「わっ、わわっ、わわわわわわっ!!」 走り回って何とかミサイルを避け続けるサミー達。 そして、その中にはミサの姿も……。 「く、くおらっ、ミサっ!! アレあんたが作ったモンスターでしょ!! 何とかしなさいよ!!」 「し、知らないわよ!! ウサちゃん自身の魔力が自立して暴走しちゃってるから、もうあたしにはどうにも出来ないわ!!」 「わ、分かってたけど、この役立たず!!」 何とか暴走を止めようにも、魔法を使うことはおろか、このままではケーキ女に近づくことさえ…………って、あれ? 「ねぇ、ちょっと落ち着いてくださらない? ケーキさん」 いつの間にかケーキ女の側まで歩み寄っていた人物が居た。 津名魅である。 「ケーキさんじゃないなの!! ケーキ女なのっ!!」 「あら失礼……それで、ケーキ女さん。こうやって暴れてパーティを台無しにすることが、本当にあなたの望みなの?」 「なのっ……?」 津名魅の言葉に引き寄せられるものがあったのか、ケーキ女はいつの間にかニンジンミサイル攻撃を中断していた。 「私はね、せっかくのパーティなんだから、みなさんに楽しんでもらいたいと思うの。 砂沙美ちゃん、魎皇鬼ちゃん、美紗緒ちゃん、天地くん、サミーちゃん、ミサさん……。 そして、ケーキ女さん…………もちろん、あなたにも……ね?」 「なの……」 津名魅は自分さえもパーティの参加者とみなしていたのだ。 それを知り、ケーキ女の心に罪悪感が生まれ始める。 「それに……私自身も、このパーティを楽しみたいの。 でもね、ケーキ女さんも含めて、参加している人全員が楽しめなければ……。 例えどんな素敵なパーティでも……私はきっと、楽しい気持ちになれないと思うの」 「……………………」 二の句が告げられないケーキ女を見て、津名魅の心が彼女に伝わったのだと、その場に居た全員が理解した。 「……ね、おねがいケーキ女さん。私のために、一緒に楽しんでくれないかしら? 一応、これは私のためのパーティなんだもの……私のお願い、聞いて頂けるわよね?」 「な…………の…………」 ケーキ女はかぶりを振る。 自分の中の何かと葛藤しているのか。 そして……。 「サミー…………おねがい、なの…………」 ケーキ女はサミーに向き直り、無防備な姿を晒した。 サミーも彼女の気持ちを理解し、バトンに想いの力を込める。 「……行くよ、リョーちゃん! プリティー・コケティッシュ・ボンバー!!」 ハートの弾丸が、ケーキ女を貫く。 「サミー……ゴメンね…………なの……」 ケーキ女はサミーの魔法によって浄化され、後には魎皇鬼が倒れていた。 サミーは、そっと魎皇鬼を抱き上げる。 ミサは、一連の様子を困惑の瞳で見つめていた。 ラブラブモンスターが倒されたにもかかわらず、怒りや悔しさは沸いて来なかった。 何というか、得体の知れないむず痒さを感じるのみである。 「……ちっ、ここは砂沙美ちゃんのママりんの顔を立てて撤退してあげるわ! せいぜい砂沙美ちゃんのママりんに感謝するのね、プリティサミー!」 適当な言い訳をつけ、ミサは留魅耶と撤退していった。 「……サミー、お腹は大丈夫かい?」 サミーを心配して、天地が傍らにやってくる。 「そんな……天地さんの方こそ!」 「俺は大丈夫さ。胃袋の丈夫さには自信があるからね!」 そう言いながら、流石に腹を抱えている。 今にも吐きそうなのだろう。 「そ、それじゃあ、あたしもそろそろ帰りますんで……」 天地と会釈をして、その場を去ろうとするサミー。 「待って、サミーちゃん!」 呼び止めたのは、妙に神妙な顔をした津名魅だった。 「な、何ですか、ママさん……?」 「サミーちゃん、ずっと気になっていたのに言い出せなかったんだけど……」 思わせぶりな物言いにサミーはぎょっとする。 まさか、サミーの正体に気付いたのだろうか!? 「……あたしへのプレゼントは、結局どうなったのかしら?」 「あ……」 すっかり忘れていた。 とりあえずキョロキョロしてみるサミーだが、プレゼントが落ちているはずもない。 ならばと、サミーが取った行動は……! 「そ、それではみなさん、まった来週~~~!!」 例によって例のごとく、脱兎のように逃げ出すことだった。 津名魅は走り去るサミーの後姿を眺めつつ、何かを真剣に考えていたようだが……。 ふと、何かを思いついたように手を打つ。 「分かったわ! ケーキ女さんとの壮絶なアクションシーンを見せるのがプレゼントだったのね!」 津名魅は一人で納得して、ニコニコと上機嫌であった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あー、結局パーティを抜け出したままになっちゃったわね。まぁいっか」 何となくテレポートを使う気に慣れなかったミサは、歩いて家まで帰っていた。 「それにしてもやっぱり砂沙美ちゃんのママりんは流石ねぇ。 何にも考えてないように見えて、いつだってあっという間に争いごとを解決しちゃうんだもの」 「やっぱり……お母さんって、いいものだよな……」 留魅耶はジュライヘルムに居る母のことを想う。 もうそのことは考えるのはやめようと決めていたのに。 津名魅と留魅耶の母では全くタイプが違うのだが、それでも、留魅耶に不思議と母の面影を感じさせてくれた。 それが母親というものなのかもしれない……。 そんな留魅耶の郷愁に満ちた表情を見て、ミサはふと訊ねてしまう。 「……ルーくん……やっぱり、お母さんに会いたい?」 「そりゃあ……でも、それはもう捨てた望みだから……」 「…………分かるわ……だって、あたしも……」 「えっ?」 思わず振り向いた留魅耶は、悲しそうな目をしたミサを見た。 しかし、その表情は一瞬で塵と消える。 「……ノンノン、ダウナー系はミサには似合わないわ! さぁさルーくん! ミサを存分にユア・マザーと思ってくれていいのよ!」 「か、勘弁してくれよ……」 ぎゅーっとミサの胸元に抱きしめられる留魅耶だが、彼にとっては息が苦しいだけだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― パーティが終わり、天地も帰った後のこと。 砂沙美は、がっくりとうなだれた魎皇鬼を肩に乗せ、川原を歩いていた。 今は夕飯の買出しに向かっている途中だ。 「ゴメン、砂沙美ちゃん……ボクに隙があったばかりに、ミサにつけこまれたんだ……」 魎皇鬼はミサの魔法に操られ、サミーに襲い掛かったことを非常に悔いていた。 「気にすることないって。大した被害も無く、元に戻れたんだから別にいいじゃない」 「いや、ボクは砂沙美ちゃんに依存しすぎてたんだ……。 傍から応援さえしてれば勝手に敵を倒してくれるって思い込んで……。 ボクは…………サミーの…………正義の魔法少女のパートナーとして、失格だッ!!」 「……………………」 砂沙美はポリポリと頬をかく。 そういえば自分も、こんな風に落ち込んで姉と母を困らせたことがあった。 いくら慰めの言葉をかけてもらっても、歯牙にもかけずにずっと落ち込んだままだった。 当時は、自分から反省しているいい子のつもりで居たが……。 それが逆に姉と母に迷惑をかけてしまっていたことを、砂沙美は今になって思い知った。 「しょうがないなぁ……」 砂沙美は、こんな時に姉や母がどうやって自分の機嫌を取っていたのかを思い出す。 「……じゃあ、こうしよう。今日だけ、リョーちゃんの食べたい物だけで夕飯作ってあげる」 「えっ……ホ、ホントっ!?」 魎皇鬼はその言葉を聞いて、急激に目を輝かせ始める。 「うん、でも今日だけだからね」 「やったぁーーーーっ!!! じゃあニンジン炒めに、ニンジンスープに、ニンジンケーキに、ニンジン―――」 次々とニンジン塗れの料理の名前をあげつらう魎皇鬼。 その興奮ぶりは、つい直前まで失意の底にいた少年と同一人物とはとても思えない。 砂沙美は、迂闊な約束をしたことを少々後悔した。 「美味しい! どれもこれも全部、とっても美味しいよ、砂沙美ちゃん!」 「そう、それは良かった」 さっきのションボリぶりは何処へやら、 魎皇鬼はごきげんでいつまでも飽きずにニンジン料理を頬張っていた。 「毎日こうだったら嬉しいのになぁ!」 「……もぉー、リョーちゃんったら全然懲りてないんだから……」 ま、結果的にまたミサをやっつけて善行ポイントを溜められたのだ。 立派に正義の魔法少女として使命を果たせている。結果オーライだろう。 (ふふふ……正義を果たすって、やっぱり気持ちいいなぁ) 砂沙美は自分の行いによる達成感と充実感を噛み締める。 そんな砂沙美に、後ろからそっと近づいた津名魅が声をかける。 「砂沙美ちゃん、今日も立派に正義を果たせたみたいね」 「えっ!? な、なんのこと!?」 あまりに自分の脳内とシンクロすることを言われたので、砂沙美は慌ててしまった。 (ま、まさかママは、砂沙美がサミーだってことに気付いて……!?) そうして再び開いた津名魅の口から飛び出た言葉は……。 「だって、魎皇鬼ちゃんの為にいっぱいニンジンご飯を作ってあげたんでしょ?」 「…………は?」 砂沙美は、満面の笑顔でニンジンご飯を頬張ってる魎皇鬼を見る。 「どうして、リョーちゃんにご飯を作ってあげるのが正義なの?」 「あら、分からないの?」 「……………………」 砂沙美はもう一度、魎皇鬼を見る。 やっぱり、満面の笑顔だった。 「……ごめんママ、言いたいことが良く分からないや」 「あらあら、砂沙美ちゃんもまだまだ正義について勉強する必要があるみたいね」 くすくす、と津名魅は笑う。 「でも、今はそれでいいわ。無意識で正義を行えるっていうのも、それはそれでスゴイことだもの」 「……………………」 とりあえず、自分の正体がバレたわけではなさそうで安心したが、 いくら考えてみても、やはり砂沙美は津名魅の言いたいことが分からなかった。 砂沙美は再三、魎皇鬼を見つめてみる。 何度見ても、まぶしいぐらい満面の笑顔だった。 ~ 第五話に続く ~
https://w.atwiki.jp/touhoukeitai/pages/466.html
基本データ 説明 ずれたかんせいを もっているおひめさま。じつは げんそうきょうのけいさつかん。 タイプ ノーマル 特性 マイペース タマゴグループ ひとがたひとがた 種族値 HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早さ 合計 65 65 60 65 65 50 370 獲得努力値 HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早さ 2 0 0 0 0 0 分布 場所 階層 Lv 備考 なし その他の入手方法 なし 進化系統 ちびひめ ┗Lv20でことひめ ┗Lv40でEことひめ 育成例
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2791.html
843: 1 :2021/04/13(火) 18 31 40 ID QE9nDRzM 佳乃(よしの)は、瞳の少女だった。 「瞳のキレイな女の子ね」 初めて佳乃と会う人は、みんな決まってこう言った。 小さな顔の中に収まっている彼女の瞳は、いつも濡れたように黒く光っていて、人を惹き付ける怪しげな魔力を宿していた。対面すれば、花の蜜に吸い寄せられる蝶のように、自然と意識が持っていかれてしまい、瞳にとらわれすぎて会話の内容をほとんど記憶していないということすらまれにあった。 しかし、魔力とは言っても、ミステリアスな雰囲気などは全くなくて、むしろ人懐っこさを感じさせる爛々とした光だった。 なので、佳乃の周囲にはいつも人がいた。 公園に遊びに行けば、いつの間にか知らない子たちと鬼ごっこをしていたし、親戚の集まりでも子どもたちの中心にいることが多かった。 どちらかといえば内気で人見知りだった僕とは対称的に、彼女は小さな頃から、その社交的な性格を存分に発揮し、大人相手にも物怖じせず話しかけていった。愛嬌があって可愛がられやすかったので、よくお菓子などをもらっていたし、お年玉の金額も僕より高かった。 『素直で明るくて優しい子』 それが、僕のふたつ年の離れた妹である佳乃の、子どものころから一貫して変わらない世間での評価だった。 844: 1 :2021/04/13(火) 18 32 22 ID QE9nDRzM 僕と佳乃の関係性はどうだったのかというと、別に悪いものではなかった。いや、むしろ良い方だったろう。少なくとも、第三者から見れば、仲良しなきょうだいに映っていたことは間違いない。 実際、妹からは懐かれていた。 僕はこれっぽっちも記憶していないが、母に言わせれば、「それこそ赤ん坊のころから、お母さんよりもお兄ちゃんの方が好きだった」らしい。 佳乃がまだ自分の足で立つことすらできなかった年齢のころ、近くに僕の姿が見えないとすぐに泣き出してしまい、抱っこをしてなだめすかしても全然泣き止まず、僕の姿を認めてようやくおとなしくなったという。 「子守唄を歌ってあげるより、お兄ちゃんの隣に寝かせてあげた方がずっと効果があったわよ」 と、母はよく笑っていた。 たぶん、大げさに言っていたのだろう。まだ分別のつかない赤子が、兄の存在をしっかりと認識していたのかは怪しいし、仮に認識していたとしても、母親の腕の中よりも優先されるとは到底思えない。 眉唾物だと切って捨てるべきではあるが、あながち嘘とも言いきれないものがあった。 記憶が次第に色彩を持ち始める幼少期を振り返ってみると、たしかに、佳乃はいつも僕のそばにいた。 遊んでいる時も、ベッドで寝る時も、ごはんを食べる時も、幼少期のどの場面を切り取っても、その絵の中には必ず佳乃の姿があった。 幼稚園の迎えのバスに僕が乗り込む時、彼女が決まってべそをかいていたの思い返せば、母の話にもある程度は信ぴょう性があるといえよう。 兄の目から見ても、妹は思いやりのある子に映った。 自分の欲望を優先しがちな幼児のころから、兄にはとても尽してくれていた。 いつもテレビのチャンネルを譲ってくれたし、午後のおやつも分けてくれたし、男の子の遊びにもつきあってくれた。 845: 1 :2021/04/13(火) 18 33 02 ID QE9nDRzM 僕は、佳乃に訊いたことがある。 「本当は観たい番組があるんじゃないのか、お腹がいっぱいだなんて嘘じゃないのか、ヒーローごっこよりオママゴトがしたいんじゃないか」 佳乃は笑って、僕に答えた。 「そんなことないよ。ぜんぶね、わたしがそうしたいから、そうしているんだよ」 彼女の声には、暗に見返りを求めるようなずる賢い響きはなかったから、僕は鵜呑みにしてしまい、「本当のことを言っているんだな」と終わりにしてしまった。 深くは考えなかった。 彼女がとても寛容な心の持ち主だったのはわかりきっていたから。 佳乃の寛容さを示す、こんなエピソードがある。 彼女が幼稚園の年長になった時だったか。 ある日、僕は、佳乃の大切にしていたドールを誤って踏みつぶしてしまった。足の裏を通して伝わってきた確実な感触に、「ああ、やってしまったな」と苦々しく思ったのをおぼえている。プラスチック製の細い首は無残に折れてしまい、接着剤などで修復するのも困難な状態となっていた。 当然、佳乃はわんわんと大泣きした。 首のないドールの人形を抱え、「いたくしてごめんね」と謝り続けた。 ひたすら悲しんだ後にやってくるのは、いつだって怒りの感情だ。そして、怒りの矛先を向けるべき相手は、大切なものをめちゃくちゃにしてしまった兄だろう。 が、佳乃は最後まで僕を責めることはなかった。単に、ドールを失った悲しみに打ちひしがれていただけで、「お兄ちゃんのせいだ」とは一度も言わなかった。それどころか、落ち着きを取り戻すと、僕の足が傷ついていないか心配する優しさまで見せた。 846: 1 :2021/04/13(火) 18 33 36 ID QE9nDRzM 以上の出来事を鑑みれば、よくわかるだろう。 佳乃は良い子だ。 とても良い子だ。 だから……そんな良い子をきらいだとおもうのは間違っている。 普通、これだけ兄を慕ってくれている妹をきらうだなんてありえようか。 いや、ありえるはずがない……。 たしかに、冷えきった関係性のきょうだいというのは存在する。けれど、そういうきょうだいは、互いに敵対していたり、極度に無関心だったりすることが大半だ。つまり、原因となる種がなくしては、破綻には至らない。 佳乃を嫌いになる要素なんてひとつもなかった。なら、妹とは友好的な関係性を築く他考えられない。 なのに、なぜなのだろう。 僕は、彼女に対して複雑な感情を抱えていた。 強いて例えるなら……絡まりすぎてほどけなくなった電源コード、のどに刺さった骨、服の中に入り込んだ虫、気づかずに踏んだ水たまり、ぬるくなった牛乳、靴の中に入った小石。 ……いや、そのどれもが適当な例ではない。この感情を言語化するのは到底不可能なように思えた。赤子が自身の感情を伝える手段を十分に有していないように、この感情を伝え切るには、僕はあまりに未熟なのだろう。 だから、不本意ではあるが、『きらい』という言葉を用いるしかない。 僕は、佳乃がきらいだった。 太陽のように暖かな笑顔も、枝毛のない長く伸びた黒髪も、初雪をおもわせる真っ白な肌も、お兄ちゃんと呼びかける柔らかな声も。 ぜんぶ、ぜんぶ、きらいだった。 847: 1 :2021/04/13(火) 18 34 04 ID QE9nDRzM そして、何よりもあの瞳……。 みんなが褒め称える、宝石のように輝くあの瞳が、たまらなく嫌なのだった。何度、あの眼球をくりぬきたい衝動に襲われただろう。ふと視線を感じて振り向き、そこに佳乃の形のよい瞳があった時、僕は……僕は……。 いつからなのかはわからない。 それこそ、佳乃が生まれてから、ずっとなのかもしれない。 僕は生来、この説明不可能な感情に悩まされている。 もし、このマグマのように煮えたぎる『きらい』を素直に表すことが出来たのなら、ここまで苦しまずに済んだだろう。 だけど、僕には、兄は妹に優しくしなければならないという古風な価値観があった。 己を犠牲にしてでも妹を助けなくてはならない、とまではさすがにいかないが、『兄らしい生き方をする』というハードルが、他のきょうだいたちよりも高かったのは間違いないだろう。 だから、僕は内側からせりあがろうとする感情を乱暴に抑え込み、少なくとも表面上は良き兄としてふるまっていた。佳乃を怒鳴りつけたこともないし、手を上げたこともない。優しい妹にふさわしい、優しい兄としてあり続けた。 妹がきらいだという気持ちと、妹に優しくしなければならないという気持ち。 このせめぎあいの中で、関係性を築いていった。 けれど、押し付けたバネが、その力の分だけ反動力を持つように、いつまでもこの関係性が継続できるとは考えていなかった。 一度、ヒビが入ってしまえば、完全に修復することなんてできやしないのだ。 848: 1 :2021/04/13(火) 18 34 28 ID QE9nDRzM 僕が初めて、兄らしさを維持できなくなった出来事があった。 詳しい日時は忘れてしまったが、佳乃が小学校に入学してまだ日が浅いころ。 当時、彼女は日曜の朝に放映している魔法少女のアニメに夢中だった。 そのアニメの主人公が、腰まで届く長髪だったことに影響されて、「今日から、わたしも髪をのばす」と宣言して以降、髪を伸ばし始めていた。腰までには届かないものの、十分に長いといえる黒髪は、妹なりに気に入っていたようで、髪を櫛でとかすなど、日常的に手入れすることが多くなっていた。 跳ねっ返りのない、糸のように真っすぐな髪は、佳乃の特徴的な瞳に負けず劣らず、みんなの注目を引いた。 人に褒められても得意げになることがない妹の、数少ない自慢の種だったらしく、よく僕にもその評価を求めてきた。 「ねぇ、お兄ちゃんは、わたしの髪、どうおもう?」 身をよじらせながら、おずおずと訊いてくると、僕は決まって同じ笑顔をつくり、 「佳乃の髪は、きれいだよ」 と、答えていた。 そして、ニマニマと照れたような笑みを浮かべ、サッと自室へ戻ってしまうのがお決まりの流れだった。 僕は良き兄だった。 「そんなの、ぜんぜん興味ないよ」 とは、口が裂けても言わなかったからだ。 だから、僕はこの時までは良き兄だった。 849: 1 :2021/04/13(火) 18 34 56 ID QE9nDRzM 「お兄ちゃん!」 お風呂上りの佳乃が、じゃれて僕の背中におぶさってきた。 まだシャンプーの香りを残す長い黒髪が、さらりと僕の体に流れ込んでくる。 僕は、やめろよと苦笑しつつも、兄らしく妹とのじゃれあいに付き合ってあげた。 佳乃が、僕の耳元で、今日の学校の出来事を話し始める。 まだ小学校に入ったばかりの妹にとっては、学生生活の全てが新鮮らしく、やや興奮したような口調だった。 給食で好きなデザートが出たことや、ウサギ小屋のウサギに初めてエサをあげたこと、放課後、クラスメイトたちと鬼ごっこをしたことが、とても楽しかったと語った。 いつもの僕なら、「それはよかったね」と無難に相槌を打っていたはずだった。 けれど、それどころじゃなくなっていた。途中から、話が耳に入らなくなっていた。 僕の首をつたって胸元にまで流れ込んでくる黒髪が、異様なほどに気になってしまった。 まるで、その一本一本が個別的に生命を持っており、明確な意思をもって僕の首にからみついてくるような、えもいわれぬ想像に襲われた。 バカげたイメージだとは承知していたが、一度、思ってしまうと、もうダメだった。耳元で羽音がうろついている時のように、全身が粟立つのを覚えた。 僕の頭の中は、佳乃の髪のことでいっぱいになってしまい、あえぐような声が喉から漏れ始める。苦笑いを続けていた顔が徐々に崩れ始め、頬が痙攣を起こしたように小刻みにひきつく。 850: 1 :2021/04/13(火) 18 35 22 ID QE9nDRzM 何かに背中を押されるように、僕はポツリとつぶやいていた。 「その髪、ジャマじゃないのか」 おもっていたより、冷たい声だった。 対話する気のない、一方的にぶつけるような言葉に、佳乃は過敏に反応した。 パッと体を離し、僕と向かい合うような位置に座ると、おびえた小動物のように上目遣いでこちらをうかがってくる。 風呂上がりで血色の良いはずの顔は真っ青になり、落ち着きなく視線をさまよわせている。まるで、突如、異国に放り込まれてしまったような不安を感じさせる表情だった。途中、思い出したように口角を上げたが、それは笑顔と呼びうるものではなかった。 「お、お兄ちゃんは、ジャマだとおもうのかな……?」 僕の感情を推し量るような瞳とともに問いかけてくる。 「うん。僕は、うっとうしいとおもう」 なんの躊躇もなかった。 するりと飛び出してきた言葉が、ナイフと化して彼女の胸に突き刺さっていくのがわかった。 トドメを刺された佳乃が一気に転落していく様は、外見上に表れた。 なんとか吊り上げていた口角は下がり、眉はハの字に寄り、口元がわなわなと震え始める。幼い子が泣きわめく前兆だったが、すんでのところで堪えているのはいかにも彼女らしかった。 851: 1 :2021/04/13(火) 18 35 47 ID QE9nDRzM やってしまったな、とおもった。 辛うじて保持していた兄としての矜持に傷がついてしまったのが、子ども心ながらにわかった。 今からでも挽回する術があったかもしれないが、僕の胸は不思議なほどに凪いでおり、なんら呵責を感じていなかった。仮に佳乃が号泣していたとしても、今と変わらぬ平静さであったことは容易に予測できた。 そして、その事実に最も狼狽していたのは自分自身だった。 ……僕はなぜ、こんなにも冷静なんだ。 今まで苦労して積み上げてきた『兄らしさ』をこうも簡単に突き崩しておいて、他人事のように自分を客観視していることに驚いた。 たしかに、今まで妹に対しておもうことが何もなかったといえば嘘になる。だが、それにしたってあまりに血の通っていない態度ではないか。顔も知らない第三者と相対しているわけではなく、血の繋がったきょうだいだというのに……。 と、足元からじわりと侵食してきた当惑に意識が向いていたせいか、いつの間にか佳乃が目の前からいなくなっていることに気づかなかった。 どこに行ったのだろう。 辺りを見回していると、控えめにリビングのドアが開いた。 どうやら自室で髪型を直していたらしく、長い黒髪を器用にお団子状態にまとめあげた佳乃が現れた。 852: 1 :2021/04/13(火) 18 36 10 ID QE9nDRzM 不器用な笑みをつくって近くに寄ってきたが、それでも僕の表情が変わらないのが不安だったのか、泣きそうな顔をしてソワソワと体を揺らしていた。 「あら、どうしたの。その髪型」 続けて、風呂からあがったばかりで事情を知らない母が、「かわいくなったじゃないの」と手を合わせて喜んでいたが、妹の表情は晴れなかった。 僕は、先ほどの発言を訂正すべきだと強く感じていた。 お前をからかっていただけだよ、と笑いかけて、すべてを冗談のカゴの中に放り込んでしまうのが正解だとおもった。 だけど、できなかった。 正解はわかっているのに、答案用紙に何も書き込まない。 そんな愚行を犯しているのは嫌というほど理解しているのに、僕は動かなかった。動く気すらなかった。 妹を傷つける言葉を吐き出したというのに、なぜ……。 釈然としない、曖昧さからくる苛立ちで、おもわず舌打ちが飛び出そうになる。 そして何より――その苛立ちの全てを妹に押し付けようとしている自分自身に対して、最も苛立っていたのだった。 853: 1 :2021/04/13(火) 18 36 34 ID QE9nDRzM 結局、すべてを先送りにしてしまった。 就寝前、佳乃は「ごめんね、ごめんね」と何度も謝ってきたが、彼女自身、謝罪する理由は判然としていなかっただろう。 無理もない。僕自身だってわかっていないのだ。 だから寝たふりをして、謝罪には応えなかった。 暗闇の中、僕の顔を覗き込もうと佳乃が体を動かすのがわかった。だが、これ以上、不機嫌にさせたくなかったのか、途中で体を横にしてしまった。 まどろみはなかなか訪れなかった。 なので、僕は長い間、隣で眠る妹の体温を感じながら、腑に落ちない感情と戦わざるを得なかった。 翌日、睡眠不足による眠気で、脳内は霧がかかったようにぼやけていた。 登校してからずっとそんな調子だったので、体調不良のまま授業を受けざるを得ず、五時間目の途中、見かねた担任の教師に保健室へ行くよう促され、僕は級友たちのせせら笑いを背に受けながら退室する羽目となった。 足元をふらつかせながら保健室まで辿り着くと、養護教諭に「少し休めば良くなるはずです」と説明し、すぐにベッドに飛び込んだ。 しかし、真っ白いベッドは妙に固くて寝心地が悪く、僕は半分意識を保ったまま、中途半端な眠りについていた。 854: 1 :2021/04/13(火) 18 36 58 ID QE9nDRzM もし、今日がなんでもない日だったら、きっと最悪な一日だったと捉えていたかもしれない。 けれど、昨夜の佳乃とのやり取りを一時的に忘却できる利点を考えれば、この体調不良も決して悪いものだといえない。現に、今日はほとんど妹のことを考えずに済んでいる。 大丈夫……この後、家に帰れば、僕らはいつも通りになっている。仲の良いきょうだいに、戻っているはず……。 そんなことを考えているうちに、まぶたは重くなり、意識は落ちていった。 夕方、帰り道をひとりで歩く。 道路に標示されている『スクールゾーン』の文字の上を慎重になぞりながら進んでいく。普段はこんなことはしない。なんとなく、今日はゆっくりと時間をかけて帰宅したかった。 十分に休養をとったおかげか、気分はいくらか晴れやかになっていた。 今なら、フラットな気持ちで佳乃と接することができるだろう。昨日のことを、すべてチャラにできる言い訳はすでに考え付いていたし、彼女もそれを受け入れることはわかっていた。 855: 1 :2021/04/13(火) 18 37 18 ID QE9nDRzM つまり、すべて元通りになるのだ。 多少、脇道に逸れたものの、本道にさえ戻れれば仔細ない。反発することなんてほとんどなかったから、お互い混乱していたに過ぎない。そもそも、ふつうのきょうだいならば、この程度のいざこざは日常茶飯事だろう。 街灯に光が灯るころ、自宅に到着した。 ずいぶんと遅くなってしまったな、とおもいながら、カギを開けて中に入る。 子供部屋にランドセルを置き、乾いた喉をうるおそうとリビングへ向かう途中、 ……シャキリ、シャキリ、シャキリ。 刃物を擦り合わせるような音が、扉の向こうから聞こえてきた。 足を止め、ドアの中部に設けられたすりガラス越しに、中の様子を確認する。 モザイク状でわかりにくいうえに、電気がつけられていないので薄暗く、いまいち判別がつきにくい。差し込む夕陽のおかげで、ようやく小さなシルエットが認められた。 中に誰かいるらしい。 いや、考えるまでもなく、佳乃以外にありえない。 それならさっさとリビングに入ればいいのに、妙な心理的抵抗がドアノブを掴むことを拒否していた。手のひらがじんわりと汗ばみ、喉がさらに水分を失っていく。 856: 1 :2021/04/13(火) 18 37 42 ID QE9nDRzM ……シャキリ、シャキリ、シャキリ。 どの場所よりも長く過ごした自宅だというのに、まるで知らない人の家に無断で入ってしまったかのような緊張感があった。下腹部がキュッと締まるような感覚を覚え、あわや家を飛び出る寸前だった。 僕は、何をこわがっているのだ。 男の子のプライドというべきものが、無言で臆病な自分をなじってくる。 慣れ親しんだ自宅で怯えている事実が、急に気恥ずかしくなる。 何も取って食われるわけじゃない。この先にいるのは獰猛な肉食獣などではなく、まだ幼い子どもなのだ。幼子相手に恐れる男子がどこにいる。しかも、相手は生まれてからずっと一緒にいる妹だぞ。 決心がついた。 ズボンで手のひらをぬぐい、ドアノブをつかみ、音を立てないように押していく。 視界が徐々に開けていく。 まず目に入ったのは、リビングのフローリングに放射線状に散らばる黒い糸だった。 その中心に座る女の子は、ハサミを手に持って、自身の髪をなんでもないように淡々と切っていた。 ……シャキリ、シャキリ、シャキリ。 赤い夕陽も手伝って、まるで抽象的なアート作品のような佇まいとなっていたが、そこに込められているメッセージ性は何もない。 女の子は鏡すら見ず、ただ己の髪を短くすることだけを目的に、ゆっくりとハサミを入れていく。 857: 1 :2021/04/13(火) 18 38 02 ID QE9nDRzM ……シャキリ、シャキリ、シャキリ。 ためらいは感じられない。まるで藁半紙を切り刻んでいくような、無感動な手の動きだった。切られた髪は彼女の体をすべり、フローリングをすべり、円を大きくしていく。 こちらに背中を向けているので、彼女がどんな表情を����否、瞳をしているのかはわからない。いつものような、人を笑顔にさせる明るい光を宿しているのだろうか。それとも……。 ……シャキリ、シャキリ、シャキリ。 僕は、ドアの近くから動けないでいた。 声すらかけられずに呆然と立ち尽くしていた。 しばらく呼吸を忘れていたことに気づき、ヒュッと喉が開く音が、部屋の中に響く。 それに呼応するように、ハサミを動かす手が止まった。 女の子はハサミを置くと、ゆっくりと首と体を動かして、背後に視線を移していく。 不揃いな前髪の中からのぞく瞳――僕を見つめる黒い瞳は、驚くくらいに普段通りだった。 波紋ひとつない、鏡のように映る湖面を彷彿とさせる穏やかさが、容赦なく僕を包み込んでいく。 彼女は僕に声をかける前、頬に張り付いている糸くずに気づき、人差し指で払うと、 「お兄ちゃんのいうとおり、みじかいほうがジャマじゃなくていいね」 ようやく重い荷物をおろしたような、ホッとした表情が印象的だった。 僕は、何も答えることができず、阿呆のように立ち尽くしていた。 858: 1 :2021/04/13(火) 18 38 30 ID QE9nDRzM 夜になって、パートから帰ってきた母は変貌した佳乃を見て、キャッと小さな叫び声をあげた。 いじめを疑ったのだろう、母は執拗に髪が短くなった原因を訊ねたが、佳乃はへらりと笑い、 「髪をね、みじかくしたかったの」 と、無邪気に答えた。 それからすぐに、佳乃は母とともに美容室へ行って、長短の乱れた髪を整えてもらった。 けれど、当然のことであるが、一度切られた髪は元に戻らず、快活な少年みたいな姿になって帰ってきた。 母はしばらくの間、女の子らしさを失った佳乃の姿を嘆いていたが、肝心の本人はどこ吹く風だった。 その後、時間が経っていく中で、男子みたいに短かった髪が、ようやく女子らしい長さを取り戻していく。 が、それから先もずっと、佳乃はショートカットのままだった。 みんなが褒めていたロングヘアに戻ることは、一度もなかった。
https://w.atwiki.jp/abobo/pages/61.html
28話 帰ってきた犯罪者