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投稿日:2010/07/29(木) 02 04 53 私は律に依存しているのかもしれない。 律は優しいし、気遣いの人だから私はついつい甘えてしまう。 一緒にいると心地よくてたまらない。 律の前だとわがままになるんだ、私。 けれどそんな律は、いつも他人のことばかり気にかけている。 そのくせ自分のことは溜め込んで、誰にも気付かれないうちにじわじわと飲み込んでしまう。 たまにそれがうまくいかなくて爆発しちゃう時もあるけど、そんなになるまで本当の意味で頼ってくれない、甘えてくれないなんてやっぱり悲しい。 そうだ。 それならせめて、律を思いっきり甘えさせてあげよう。 「律」 そんなことを考えてから数日が経った。 今日は金曜日。 今は二人っきりの帰り道。 「んー?」 「今日さ、泊まりに来ないか」 「どうしたんだ急に?」 「来ないの?」 「ん。行く」 特別珍しいことでもない。律は小さく頷いて続けた。 「じゃあ私ちょっと荷物とってくるよ」 律の背中を見送ってから私は家に向かう。 軽く部屋を片付けて腰を下ろす。 律、早く来ないかな。 …今日は律をいっぱい甘えさせてやるんだ。 待っている間私はいろんなことを考えていた。 今日は二人で何をしようか。 何を観ようか。 何を聴こうか。 何を話そうか。 律を思いっきり甘えさせてやるっていう本来の目的も、いつの間にか忘れかけていた。 それにしても遅いなぁ。 また何かいたずらでも仕込んでるのかな。 「ふふっ…」 思わず口が緩んでしまう。 そんな時だった。 携帯のディスプレイが光る。律だ。 「もしもし、りつー?」 『あ、みおー…あのさぁ…』 「んん?」 『ごめん、今日行けなくなった…』 「え…なんで…?」 『急な用事でさ、いとこが帰って来ることになったから家族でばあちゃん家に行くことになったんだ。それも今から』 「あ、あぁ…」 『…ごめんな?』 「い、いや…律とは毎日顔合わせてる訳だしな!そんなに気にしないって」 『ほんとごめん…』 「だ、だから気にしないって!楽しんでこいよ、じゃあな!」 『あ、み』 ふぅ…ついつい勢いで切ってしまった。 楽しみにしてたんだけどな…。 浮かれていた分気が沈んでしまう。 「…ばかりつ」 悪いのは律じゃない。 だけど分かっていても口にでてしまう。 だめだな…私。 もう今日は何もやる気がでない。 さっさと寝てしまおう。 翌日、寝覚めは正直あまり良くなかった。 気分は沈んだままだ。 時間はもう11時過ぎ。 のろりと起き上がってご飯を食べに行く。 しかし家に人の気配がない。 おかしいな…。 そう思ってリビングを見回すと置き手紙を発見する。 …どうやら両親とも明日の昼過ぎまで帰らないらしい。 本当はその話は昨日するつもり、だったそうだ。 私は一緒に置いてあったご飯代をもってコンビニへ。 未だ何もやる気が起きないからカップ麺だけすすって、昼はベッドの上でぼーっと過ごしていた。 律は今頃楽しんでるんだろうな…。 律に会いたいな…。 なかなか働かない頭に浮かんでくるのは律のことばかりだった。 そして夜。 私はサンドウィッチだけ口にして相変わらず無気力に過ごしていた。 誰もいない家はやはり寂しい。 …寂しい。 それでも時間だけは過ぎていく。 睡眠時間だけは無駄にとっていたから眠くはなかったのだが、あと1時間もすれば日が変わる。 私は電気を消して横になった。 「…おやすみなさい」 誰に言う訳でもなく、小さく呟いた。 …と、そうは言ったものの、やはりしばらくは眠れそうにない。 仕方がないので音楽を聴くことにした。 私達のライブがはいったテープを再生する。 …ほんと、ライブだといい感じなんだよなぁ。 ここ、今度フィル入れてみようかな。 律、また走ってるよ。 あれこれ考えていると、思わず顔が綻んでいた。 久しぶりに笑ったような気がする。 早く月曜にならないかな。 早くみんなに会いたい。 早く律に会いたい。 やがてA面の再生が終わり、B面に切り替わる。 その時、不意に携帯が鳴り出した。 …律だ! 「もしもし」 『あ、澪。ごめん、寝てたか…?』 「いや、寝付けなかった所だよ。それでどうしたの。もう12時だよ」 『いや、実はさ、今ばあちゃん家から帰って来たんだ』 「随分早かったな…。近い距離でもないだろうに」 『うん、もともとあっちも急に来たからそんなに長居するつもりはなかったみたい。それで、だ…』 「うん」 明日の約束かな。私は少し胸を弾ませた。 『今から泊まりに行ってもいいかな…?』 「え!?」 思わぬ申し出につい声を上げてしまった。 『あ、やっぱ今からだと迷惑か。ごめんごめん』 律はさっきの嘆声を拒否と捉えてしまったようだ。 迷惑な訳があるか。 「そんなことないよ!りつ、早く来てよ!」 嬉しくなり、気持ちが高揚していくのが自分でも分かる。 『わ、わかったわかった。じゃあとりあえず玄関あけてくれないか?』 「え?あ、うん。分かった!」 私は小走りで家の電気を点けながら玄関の鍵を開ける。 すると――― 「ごめんなみおー?ほんとこんな時間に。電気点いてなかったからもう寝たと思ってたよ」 「いやー、私ってば愛されてる?」 あれからしばらく、私たちは部屋に落ち着いていた。 「みおちゅわんってば『りつ、りつぅ~!』なんて言いながら熱ぅ~い抱擁を…」 「あ、あれは!違っ…わないけど…!」カアァ 「そうかぁ、そんなに私が恋しかったかー」ニヤニヤ 「だ、だから…そう!家に誰もいなくて少し心細くなってただけなんだあれは!」 「顔真っ赤にして反論しても説得力ないわよん♪」 「~!ばかりつ!!」ゴチッ 「いでっ」 …悔しいが律の言ったことはほぼ事実だ。 あのあと、つまり律が玄関に現れた後の話になる。 『ごめんなみおー?ほんとこんな時間に。電気点いてなかったからもう寝たと思ってたよ』 『り、りつぅ…』フルフルッ 『非常識かなとも思ったんだけどさ、約束ほっぽらかしたままってのも気持ち悪いし…。埋め合わせ?って訳でもないんだけど』 『うぅ…』ジワッ 『あ、ほらそれにさ!昨日電話した時みお最後ちょっと変だったから…もしかして私求められてる!?な~んて…わぷっ!』 『りつ、りつぅ!!』ガシッ 『み、みおー?ど、どうした?』カアァ 『りつぅ…!』ぎゅうぅぅ 『ちょ、ちょっと苦しい…か…も…』 …そんな感じで今に至る。 「ほ、ほら!もう寝るぞ。遅いんだから」 「いたた…機嫌なおせよ、みーおー」 「ふんっ…」 「わーるかったよ、ごめんごめん」 「………」 …やっぱり律は優しい。理不尽に怒って意地張ってるのは私の方だっていうのに。 「…んーと、とりあえず布団借りるぞー?」 反応のない私を困ったような笑顔で見ながら、律が来客用の布団に手をかける 。 そんな律の顔を見た私は… 「…だ、だめ!!」 つい声を上げていた。 「え、布団すらもだめって…なんだぁ?そんなに怒ってるのかー?」 「い、いや、違う!そうじゃなくて…」 少しの間。 心臓の音がいつもより速く、はっきりときこえてきた。 「一緒のベッドじゃなきゃだめだ!!」 「………へ?」 沈黙。律が目を丸くしてこちらを見ている。 普段の私なら絶対に言わないであろう言葉。 それを叫んだんだ。無理もない。 だんだんといたたまれない気持ちになってくる。 頼むから何か言ってくれ。そうじゃないと私… 「………ぅぁ」ジワッ こんなこと言うんじゃなかったかな…。 恥ずかしさや後悔やらで涙腺が緩んでいく。 「み、みお!?わかったから、一緒に寝よう、な?」 「……グスン」コクッ なんか…情けないな私。 当初の目的とは裏腹に、律に迷惑かけちゃってる。 「ちょっと狭いかも」 「…ごめん」 「いいよ、気にしないから。にしてもあの澪が『一緒のベッドじゃなきゃだめだ!』なんてなぁ」ニヤニヤ 「…ぅ」ジワッ 「あ、あぁほら悪かったから。な?」ナデナデ 「…うん」ギュッ その後、私と律は一緒のベッドで横になっている。 完全に私のわがままを通す形だ。 そして今甘えているのも私。 律じゃない。 「でもみおー、本当に今日はどうしたんだー?」ナデナデ 律があやすように言う。 律の傍は…律は、本当に心地いいな…。 「…本当はさ」 「ん?」ナデナデ 律を甘えさせてやりたいなって。 私はそこで言葉に紡ぐのをやめる。 「うん?本当は…?」 私はまっすぐ律を見つめる。 そして会話に気を取られて、律が私をなでる手を止めた一瞬。 その一瞬に。 「わふっ」 律を抱き寄せた。 「み、みおー?」 律が少し調子の外れた声を出す。 「ふふっ…」 私はと言うと、そんな律の頭を撫で続けている。 「なんか…その、は、恥ずかしいよ…」 律がか細い声で呟く。 暗がりなのが残念だ。 今の律、多分すごくかわいい顔しているんだろうな。 「誰もいないよ?」 私は少しいじわるを言ってやる。 「~!」 律は言葉にならない声を出す。 そして― 「…じゃあ、その、今、だけ…」 律が私に抱き着いた。 翌朝、気がつくと私は一人だった。 体を起こし、ぼんやりとした頭で部屋を見渡すも律の姿はどこにもない。 昨日はあのあと、律を抱きしめ、律に抱きしめられるかたちでそのまま寝てしまった。 それがあまりにも充たされた気持ちだったから、今のぽっかりとした気持ちとの落差に私は 「…ぅぐ、グズッ、ヒグッ、ぅぇぇぁあ」 思わず、泣いてしまった…。 「みーおー、ご飯できたぞー…澪?」 ドアが開いて、エプロン姿の律が私を呼ぶ。 よかった。律、ちゃんと居てくれた。 そんな安堵が押し寄せるも、涙やら嗚咽やらは止まってくれない。 「みお」 泣いている私をみて一瞬戸惑ったかのように見えた律は、とても優しい声で私を呼んだ。 私は涙を隠そうと律に背を向ける。 ふわり、と私を包む柔らかい感触。 律はそのまま、何も言わない。 「私、は…」 なぜだろう。 嗚咽を抑えて、自然と私は話し始めていた。 「律、と、一緒、がいい」 「ずっと、一緒、がいいっ…」 たったそれだけ話して、私はまた泣き出してしまった。 律はやはり何も言わずに、私を包み続けた。 しばらくした後、ようやく私は泣き止む。 律は私から体をそっと離して言った。 「ご飯、食べよっか」 振り返った私は応える。 「…うん」 そして私に背を向けて部屋から出ていく瞬間、律は小さな声で呟いたんだ。 「私は澪とずっと一緒だから」 私は律に依存しているのかもしれない。 そんなことを考えていた。 けどそれは間違っていた。 単純な話だったんだ。 私は律に、恋している。 おわり 最後の二行が好き -- アクティブ (2012-02-10 12 55 26) うわぁ…めっちゃいい感じだぁ… -- 名無しさん (2012-12-15 16 59 55) 名前 コメント
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紬の「ポッキーゲームしましょう」の提案を受けて始まった競技も、 律と澪のチームを残すのみとなった。 始めに純と梓がチャレンジして、残り1cmの記録。 続く唯と憂のチームが残り5mmで、今の所1位である。 「舐めてたね。もっといけば良かった」 残念そうに口にした純に、梓は悔しさを隠して言葉を返す。 「でも、最下位は免れると思うよ。 澪先輩シャイだから」 「あはは、でも憂がトップかー」 「姉妹だからしょうがないよ」 視線を移せば、 既に唯は優勝を確信しているのか胸を張って鼻息を荒げている。 「ふんすっ」 そんな余裕の態度を示す唯に、律が声を荒げる。 「おまっ。見てろよ、必ず勝ってやるからな」 けれども、梓には強がりにしか見えない。 澪の羞恥心が邪魔をする、そう踏んでいたのだ。 そしてその読みは、 ポッキーへと伸ばした律の手を澪が抑えた事によって確信へと変わる。 (って、試合すら放棄か。 澪先輩、ちょっと度胸無さ過ぎだよ) 拍子抜けすら覚える澪の姿に、律も業を煮やしたように抗議の声を発した。 「おい、澪。ポッキー取らないと」 けれどもその抗議の声は、すぐに塞がれる事になる。 「要らないだろ?」 その声と共に、澪の唇が律の唇を塞いでしまったのだから。 「っ」 律は絶句と共に頬を染めて、顔を逸らしてしまった。 何も言葉を発する事のできない律に変わって、 澪が高らかに勝ちを宣告する。 「私達の優勝でいいな?」 梓はあまりにも鮮やかな澪の口付けに見惚れてしまっていて、 反応する事すら暫し忘れて呆けた。 「い、いや。まだだもんっ。 澪ちゃんとりっちゃん、ポッキー使ってないもんね。 反則だよ、ポッキーゲームなんだから」 唯が澪と律の優勝に異議を唱える声で、梓は正気を取り戻した。 (ああ、そうか。確かにあの二人がやったのはポッキーゲームじゃない。 でも……私、純の事好きだけど人前でキスはできないよ。 澪先輩の事侮ってた。完敗なんだよ、唯先輩) 梓は既に負けを認めていた。 けれども唯は食い下がる。 「だから、優勝は私と憂。だよね?ムギちゃん」 「分かったよ、唯。このポッキーを使えばいいんだろ?」 「今更遅いよ。さっきので反則で失格だし」 「さっきのは、ただキスしただけ。 ポッキーゲームとは無関係って事で。 なら、反則にはならないよな?」 唯の反論を軽くいなすと、 澪はポッキーを一本全て口に含んで咀嚼した。 「って、澪ちゃん、ルール分かってる? 二人でポッキー食べなきゃ意味無いんだよ?」 澪は唯を無視して、律の顎に手を当てた。 そして、律の唇に再び自身の唇を重ねた。 (えっ?) 梓は二人の口の動きから、何をしているのかが分かった。 唯も分かったらしく、絶句したきり黙りこんで二人を見つめていた。 澪は口腔にある咀嚼したポッキーを、 律の口腔へと移しているのだ。 受ける律の頬は朱を更に増し、瞳は蕩けたように虚空に漂っている。 律の喉が嚥下の音を鳴らしたタイミングで、澪は唇を解放した。 糸を引いて唇が離れた後、 呆けている律を抱きかかえた澪が唯に尋ねた。 「これで文句は無いな?」 唯の顎が下がった。 それは、肯定を示す仕草だった。 「ゆ、優勝は澪ちゃんとりっちゃんのチーム、ね……」 澪と律の優勝を宣告する紬の呂律は乱れていた。 (無理もない。それほどまでに、ディープな瞬間だった。 百合大好きなムギ先輩がうろたえてしまう程に) 梓とて、衝撃的な瞬間を目の当たりにして心が震えているのだ。 「で、でも澪ちゃん。澪ちゃんって、恥ずかしがり屋さんだよね? なのに、何で、そんな芸当できるの?」 言葉を失っていた唯ではあったが、回復は早いらしい。 もう問いを放てるまでに立ち直っていた。 「律の事では堂々としていたいからさ」 そう言い切った澪が浮かべる表情の凛々しさに、 梓は暫し見惚れていた。 「あ、優勝……おめでとうございます」 祝辞の言葉が遅れる程に。 <FIN> 澪がちょいイケメンすぎるけどイイ...すごくイイ!! -- 名無しさん (2012-01-06 01 43 44) 澪格好良いな、確かに男前すぎるが -- 名無しさん (2012-04-07 01 17 42) 何言ってんだイケメン澪良いじゃないっすかぁ -- 名無しさん (2012-07-29 01 28 52) キャラ崩壊は勘弁してほしいっす -- 名無しさん (2012-08-16 11 51 39) 名前 コメント
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投稿日:2010/11/14(日) 23 14 29 饅頭怖いという落語をご存知だろうか。 かいつまんで言うと、『饅頭が怖い』と言いふらすことで自分に嫌がらせをしようとする人達から大好きな饅頭をせしめる話だ。 そんな話もあったな、とたまたま読んでいた本を眺めながら私は考えていました。 すると突然ひらめいたのです。 えー、その前にまず私自身の話を少々。 私は現在高校生という身分であり、そんな私には一人の幼なじみがいます。 名を田井中律。 カチューシャがトレードマークの笑顔はじける元気いっぱい、そしてたまらなくキュートな女の子です。 彼女の魅力は語り尽くすことができません。 僅かばかりの例を挙げるとするなら、まず自分のことより他人が喜ぶことを優先するようなとってもいい子であるということ。 おちゃらけて自分のことを美少女なんて言ってても、まぁ本当に美少女なんですが、人から褒められると「そんなことはない」などと謙遜をしてしまう謙虚な女の子であるということ。 先程トレードマークと言ったカチューシャは実は彼女を悪い虫からすこしでも守るためのものであり、外すとそこらのモデルではたちうちできない程の美貌を呈してしまうということ。 「細かいことは苦手だ」などと言いながら、料理や裁縫など微妙なさじ加減や繊細さがが要求される家事を見事にこなしてしまう家庭的な乙女であるということ。 そうそう乙女。 実は彼女は私の所属する部活の中でも、いや学校全体の中でも一番と言っていい程乙女なんです。 そんな彼女に幼い頃から接している私が惹かれるのは時間の問題でした。 小学校高学年の時です。 彼女といると胸が高鳴り、彼女が他の子と仲良くしているのを見ると胸がずきずきしてとても嫌な気持ちになることに気づきました。 中学生の時です。 周りの子たちが恋愛に興味を持ち出したことで教室などでは自然とそういう会話が増えていました。 そんな中で私も男の子に呼び出される機会が何度かありましたが、私にとってその子たちは怖いものでしかなく、そんな怯える私を慰めてくれるのはいつも彼女でした。 そして明るい性格の彼女は男女共に人気があり、ある日男の子から告白されている彼女の姿を偶然目にした時は涙が止まりませんでした。 彼女は結局断ったようですがその時私は気づいたのです。 私は彼女に恋していると。 そして現在に至ります。 彼女とは現在唯一無二の親友です。 でも私はもう我慢したくありません。 彼女が部活の仲間と過剰ともとれるスキンシップを交えて戯れる姿も、水面下で結成された彼女のファンクラブの隊員たちの眼差しも、ただ私の心を痛め付けるだけなのです。 でもそれさえも、彼女との関係を親友以上のものとすることで容認していけるような気がするのです。 ここで本題に戻ります。 彼女との関係を親友以上の、つまり、こ、ここ恋人にするためには、彼女をより私に近づけなければなりません。 そこで先程のひらめきです。 彼女は私にいたずらをしたり、からかったりということをよくしてきます。 無論そこには悪意などなく、私もそれを甘んじているのですが、そこに着目したのです。 怖いものが苦手な私にホラーものをちょいちょいあてがってくる彼女。 ならば私が「律怖い」と言えば彼女は私にべったりとひっついてくれるのではないでしょうか。 そうなれば後は頑張れる気がします。 善は急げ。 早速明日実行に移したいと思います。 ――――― ――――― 律「みーお、ほらこれプレゼント♪」 澪「ん…きゃあああ!!」 そう言って彼女が差し出してきたのはおもちゃの蛇。 …はっきり言って本当に怖かったけど、ここで私の頭の中に一つの考えが浮かびました。 計画を実行するなら今しかない、と。 そこで私は早速それを実行します。 澪「いやぁぁぁぁ!」 律「ご、ごめんごめん、そこまで驚くとは思って」スッ 澪「ひぃっ!こ、来ないで!」ビクッ 律「…え?」 唯「? 澪ちゃん、どうしたの?」 澪「怖いよ…!律も怖い!」 律「…!!!」 紬「み、澪ちゃん、りっちゃんはふざけただけで」 澪「でも律はいつも私を怖がらせる!!そんな律は怖いよ!!!」 これで大丈夫なはず…? 律「ご、ごめん…なさい」ダッ 梓「あっ、律先輩!」 あれ、律…? …結局その日彼女は部室へ戻っては来ませんでした。 私は彼女の置いていった荷物を届けようとしたのですが、気をつかわれて他の友人が届けてくれることになりました。 失敗、しちゃったな…。 明日私はきっちりと彼女に事情を話し、小細工なしにアタックしようと決めました。 でもそれがそんなに甘くないということは私はその時知りませんでした。 ――――― ――――― 翌朝、いつも彼女と待ち合わせている場所に彼女は来ませんでした。 誤解を解くまでは仕方ないのかな、そう思い、私は一人で学校へ向かいました。 今日あったらきっちり話そう。 そして真っ正面からぶつかろう。 そう思うと、なんだかいつもより重い足も少しはましになりました。 そして私は教室に着きました。 彼女の席に目をやると、彼女は既に来ていました。 でもいつもの元気はないようで、突っ伏したまま動く気配がありません。 私は勇気を出して声をかけます。 澪「り、律。あの」 律「澪…?おはよう。…ごめんな?」 澪「う、ううん。それで、あの…」 沈黙が続きます。 私が続く言葉を紡ぐだけでいいはずなのに、私にはそれができませんでした。 幼なじみだからこそ分かるのです。 彼女の雰囲気が、私を受け入れてくれていない。 そのうち予鈴が鳴り、私は何も言えないまま席に戻りました。 こんなことは初めてでした。 ――――― ――――― 彼女との会話がないまま、部活の時間になりました。 始め少し雰囲気はぎくしゃくしていたけれど、彼女が必死に場の空気を和ませようとしてくれて、さらにそれに友人たちがうまく乗っかってくれたおかげで、さほど苦しいものではありませんでした。 しかし、彼女との会話はやはりほとんどありませんでした。 だから私は、少しでも会話の糸口を探します。 澪「あ、り、律。そこのカップ、ちょっと取ってくれないか?」 律「え? あ、…このカップでいい?」 瞬間、目が合います。 彼女と目が合うのも久しぶりで、私に声をかけられた途端に元気のなくなってしまった彼女を見ると、私は自分が本当にとんでもないことを言ってしまったんだなと今更に気づき、自然と涙ぐんでしまいました。 澪「あ、うん。…ありがと」 律「…ん。…無理しなくていいよ」 私の目に浮かんだ涙が彼女にさらなる誤解を与えてしまったのでしょうか。 そう言って暗い笑顔をみせて私から視線を外す彼女を見ていると、もう以前のように恋人はおろか親友でさえもいられないのではないかと思えてきました。 そして私はそれ以上、彼女に言葉をかけることができませんでした。 ――――― ――――― 部活が終了し、帰り道。 そこには彼女と二人きりになる道があります。 そしてそれはおそらく、現在の状況において二人きりで話すことのできる唯一の機会。 もう私にはここしかなかったのです。 なかったのですが…私には何も言えませんでした。 こんなに暗い彼女の姿は見たことがありませんでした。 言葉もなく、俯き加減で、足だけは動いて。 そして別れ際… 律「じゃあ…」 澪「あ、律…うん、あの」 律「…うん?」 澪「い、…いつも通りが、いいよ」 律「あ…えっと、うん。…うん」 澪「…じゃあね。明日、朝もちゃんと来てね」 律「…わかった。それじゃあな、澪」 声が震えていたのは自分でも分かりました。 しかし少しだけ、元気を取り戻したように見えた彼女をみると、そんなことはどうでもよくなりました。 ――――― ――――― そして次の日。 彼女は珍しく私よりも早く、私を待っていてくれていました。 嬉しくなって小走りで駆け寄り、あいさつを交わします。 でもやはりぎこちなさは残っていて、そんな中でも少しずつ今までへと戻っていこうと会話を続けます。 そしてその日、部活が終わる頃にはすっかりいつも通りになっていました。 …多分、他人からみれば。 再び二人きりの帰り道になり、それから別れた彼女の後ろ姿を眺めて思うことは一つでした。 今までの関係に戻れる日は本当に来るのかな…? ――――― ――――― あの日の帰り道に抱いた疑問はもっともなものだったようで。 あれから一週間以上過ぎて私と彼女との関係ははたから見ると完璧に修復したようでも、実際は今までになかった壁を隔てたものでした。 私は彼女に遠慮されている。 彼女と歩き、彼女と話し、彼女と笑う。 その度にそんな現実が私に突き付けられました。 気のおけない唯一の人。 そんな関係は無くなってしまい、多分もう本当の意味で親友ではないんだろうなと、私は思わざるを得なかったのです。 そんな日々の中で、私の中ではついに何かが崩れ去ってしまいました。 ――――― ――――― 律「今日はいっぱい練習したなー。さすがに疲れた…」 澪「うん…」 律「でも、ま、新曲もなんとかなりそうだし」 澪「うん…」 律「…澪?」 澪「………」 律「どした?疲れちゃったか?もう別れ道…」 澪「………」グスッ 律「え…?」 澪「……り、つ」ポロポロ 澪「りつ、りつ、りつ…!」ギュッ 律「ど、どうしたんだよ澪…」 澪「りつ…ぇぐっ、りつ、りつぅ…!」ギュウウ 律「………」 律「ほら、送ってってやるから」ポンポン 澪「っぁ、…ぅぁあ」ボロボロ ――――― ――――― 律「…ほら、着いたぞ」 澪「…ぇぐ、う、う、ん…」グズッ 律「………」 律「じゃあ私は帰るから…」 澪「! …ぁ、ま、待って…」グスッ 澪「お願い、だから、一緒に、いて」グスッ 律「え…? …ん、わかった」 ――――― ――――― 律「澪の部屋も久しぶりだなー。…っていってもそれどころじゃない、か」チラッ 澪「………」グスッ 律「…なぁ、その…なんで泣いてるんだ?」 澪「………」 律「理由だけでもきかせてくれるとありがたいんだけど…」 澪「…お願い、りつ」グスッ 律「うん…?」 澪「嫌、いに、なら、ない、で…!」ポロポロ 律「え、な、なんで急にそんなこと」 澪「だって、だって…!りつ、私に、遠慮してばっかりで…!」グスッ 律「…! それは…」 澪「ごめ、ん…ほんとは、ぇぐっ、私のせいって分かってるのに…!」 律「………」 澪「…嘘、だから…!」グスッ 律「え…?」 澪「りつが、こわい、なんて思っ、たことなんて、ない、から…!」グスッ 律「! …じゃあ、…なんでそんなこと言ったんだよ…」 澪「…それは…」 律「…本気で…ショックだったんだからな」グスッ 澪「ぁ…ご、ごめん、なさい…、ごめんな、さい…!」ボロボロ 律「………」スン 律「…とりあえず落ち着いてくれよ、な?」ギュッ 澪「…ぅん」コクコク ――――― ――――― 律「落ち着いたか?」 澪「うん…ありがとう律」 律「話せるか?」 澪「うん、あのね…」 律「………」 澪「り、律にあんなこと言ったのは…」 律「うん」 澪「ほんとは、律に、もっと、構ってもらいたくて…」 律「…? えっと、どうしてそうなるんだ…?」 澪「『饅頭怖い』」 律「…!」 澪「そうすれば、普段私をからかってくる律なら私をもっと構ってくれるかもって…」 律「………」 澪「…でもごめん、律があんな風になっちゃうとは思わなくて」ポロポロ 律「ぁ…」 澪「最低だな、私。律は私が本当に嫌がることは絶対しないのに。ちゃんと私のこと考えてくれてるのに、それを…」ボロボロ 律「みお…」ギュッ 澪「ごめん、ごめんな律…!」ボロボロ 律「もういいから…気にしてないから」ギュウ 澪「ううん。…ちゃんと、最後まで、言わなきゃ、だめだよ」グスッ 澪「………」スゥ 澪「…あのね、りつ、私が、こんなことしようと思ったのは」 律「うん…」 澪「私がりつのこと、一人の女の子として…」 そうして私はついに想いを伝えたのです。 結果? まぁいいじゃありませんか。 日記なんて、自分が少しでも忘れそうなことだけ書き留めていればいいんです。 …私は絶対忘れないと思いますから。 じゃあ日記、おしまい。 ――――――― ――――― ―― ― 澪「………」パタン 律「…ん…ぅ…。…みおー?」 澪「あ、ごめん律、起こしちゃったか?」 律「ううん…。何してたの…?」 澪「日記、書いてたんだよ」 律「へぇ…どんなこと書いたの?」 澪「…分かってるくせに」 律「あ…あはは…」 澪「んっ…もう遅いし、私ももう寝るかな…」 律「あ…ちょっと詰めなきゃ…」ムクッ パサッ 律「あ…」 澪「!」 律「わ、私も服、着なきゃ」 ガシッ 澪「明日が休日でよかったよ…」 律「え、さっきもうさんざ…んむぅ」 澪「律が悪いんだからな」 おわり よいオチ!笑 -- 名無しさん (2012-10-28 20 14 55) 名前 コメント
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投稿日:2010/09/25(土) 00 28 50 特に用事はなかったし、拒否権もなさそうだったので渋々ながら律の家に行ってみる。 けれども、ついてみれば部屋に連れていかれただけで何も無い。……用事があったんじゃないのか? 仕方が無いので、暫く勝手に過ごすことにする。 あたりを見回すと放置してある雑誌が目に入った。 雑誌は5冊ほどが乱雑とも綺麗とも言いがたい状態で置いてあり、なんとなく右から二番目を手に取る。 表紙を見ると、音楽系の雑誌しかないと思っていたのにまさかのファッション誌。 少し驚いて他のも確認してみると残りの4冊は全部音楽系の雑誌だった。 ま、まぁ律だってこう言うのは読むよなあ。 「なぁ、澪」 「なんだ?」 表紙をめくるのとほぼ同時に、律が声をかけてきた。 折角雑誌を読み始めようとしたところだったのに……なんとなく出鼻をくじかれた気分だ。 とりあえず雑誌から顔をあげて律の方を見ると、カチューシャを外していて前髪がオデコを隠すように垂れていた。 「どうだ?」 どうもなにも、ちょっと印象が変わる。という以外言いようがない。 そもそも律がカチューシャを外した姿なんて、何度も泊まったり泊まられたりしているだけに、見慣れている。 だから、改まって聞かれても大した感想を言えるはずもなく。 「んー?……相変わらず、前髪長いな」 「なんだよそれ。……なんかもっとこう、あるだろー?」 「変じゃないぞ」 「……そっか」 私の返答に納得したのか、これ以上聞いても無駄だと思ったのか、律はそれ以上聞いてこないので雑誌に視線を落とす。 あれ。ぱらぱらと雑誌をめくってみると、軽い違和感。 よく見るとこの雑誌、今の髪をおろした律のような髪型の子が結構載ってる。 しかも、その髪型をした子らは揃いも揃って律があまり好んできないような可愛らしい服を着ている。 雑誌のモデルの子をさっきの律に頭の中で置き換えてみると、案外ぴったり似合った。 なんだか面白い遊びが見つかった気分になったので、しばらくそうして雑誌を眺めていた。 それにしても髪型が似てる人ばっかりだなんて、面白い偶然もあるものだ。 そう思いつつ、律の方を見てみると、いつの間にかカチューシャ姿に戻っていた。 「あれ、やめちゃったのか?」 「んー」 「変じゃなかったぞ?」 「似合う、とも言わなかったけどな」 律は少しだけ不機嫌そうな声でそう呟いた。心なしか不貞腐れたように頬をふくらませているようにも見える。 どうやら私の反応がお気に召さなかったようだ。……一体私にどんな反応を求めていたのか。 「もしかして、似合うっていって欲しかった?」 「そ、そんなんじゃねーやい」 少し、からかいの意を込めた視線を送りつつ言ってやった。 すると、律は私の視線から逃げるように外方を向いた。その顔は少し赤みがかっている。……どうやら照れているようだ。 これはもしかすると、何時も弄られている分を返すチャンスではなかろうか。 「可愛かったのになー。前髪をおろした律」 「はぁ!?」 「あの髪型で可愛い服とか着ちゃったりなんかしたら、女の私でもドキドキしちゃうなー」 「……な、何言っちゃってんのかなぁ、澪ちゃんは!」 少しわざとらしく言ってみると、律は異常なまでに反応した。 ここまで動揺する律は見たこと無いかもしれない。それくらい、あたふたしている。 先程よりも更に顔を赤らめ、動揺のせいか汗も滲んでいて、何時もの余裕なんて微塵も感じられない。 ……なんて面白いんだろう。こんな機会めったに無い。 いたずら心に火が付いた私は、どうしたらもっと面白い反応をしてくるか考える。 私の手元にあるのは、さっきまで見ていたファッション誌のみ。 そして、そのファッション誌には前髪をおろした律に似た髪型の子がいっぱい。 ……となれば。 「特に~こういう服なんか、似合っただろうに……なあ?」 わざとらしく律の方に見えるように雑誌を向ける。 そしてこの雑誌の中で、これ以上はないってくらい『可愛らしい服』を指差した。 我乍ら中々意地悪な気がする。なんたって、律はこういう服苦手…… 「本当か?」 「え?」 「本当に、それ似合うと思う?」 そう問いかけてくる律の瞳は真剣そのもの。それこそドラムを叩いている時でも中々お目にかかれないくらい。 「澪?」 「え、あ。……に、似合うと思うよ」 予想外の反応に、返答するのを忘れていた。 似合うと思ったのは本当だから、嘘は言っていない。言っていないんだけれども。 もっと違う反応を期待していただけに呆気に取られてしまう。 そんな私を気にする様子もなく、律はぶつぶつと何やら独り言を呟いている。 そして、「よしっ」と言う声と共に意を決したようにこちらを見る。 「な、なんだよ?」 「……良いって言うまで、入っちゃダメだからな。覗くのもだめだぞ」 そういう律に背中を押されつつ、私は部屋を追い出された。……ドアが閉まるのと同時にガチャリと鍵の音。 いくら私だって鍵を閉められたら覗くのも入るのも無理だぞ、律。 心のなかでツッコミを入れつつ、私は小さくため息を付いた。 「……一体、なんだっていうんだ」 はぁ、またしても手持ち無沙汰になってしまった。それに、喉も乾いた。 勝手に帰ったらきっと怒るよな、これ。でも暫くは中に入れてもらえないだろうしなあ。 ……よし、お茶でも拝借しよう。 そう思って律の部屋の前から離れ、台所に向かう。 台所に着くと先客がいた。……聡だ。 「よっ、聡」 「あ、来てたんだ」 「うん。……まぁ、ついさっき部屋から追い出されたんだけどな」 わざとらしく肩を落としてため息を付いてみせると、聡はアイツによく似た顔で「何したんだよ~」と笑った。 この姉弟は本当によく似ている。……それなのに、律が男になったらこうはならないと思うのは何故だろう。 「何もしてない。急に『良いって言うまで入っちゃダメ』とかいってさ」 「はは。ねーちゃんのマネ、似てない」 やかましい、律の真似をすることが目的じゃなくて話が伝わればいいんだからいいの。……ちょっと、自信あったんだけどな。 「まぁそういう訳だから、お茶でも貰っちゃおうと思って」 「お茶?コーラもあるよ。普通のだけど」 「いや、コーラは太るからダメ」 砂糖いっぱいなんだぞ、アレ。 ラベルを見たとき、驚くとかそういうレベルを遥かに超えていたものだ。 あんなもの飲んだ日には、体重計が怖くて乗れない。いや、今も怖くて中々乗れないけど。 聡からお茶を受け取り、適当な椅子に腰掛ける。あぁ、冷たくて美味しい。 それから少し、話の相手をしてもらうことにした。 私と聡で話す事といえば必然的に律の愚痴話になってしまう。 相変わらず律が引っ張りまわすだの、ゲームで勝てそうだったのに電源切られただの、またプロレス技の実験台にされただの。 ……一通り話したところで、お互い苦労しているなあという結論を導いてひと息つく。 「そういえば……良いって言うまでって言われたんなら、早いとこ戻ったほうがいいんじゃないの?」 それは私も思った。思ったけれども、理由の説明も無しに追い出されたんだ、少しくらいほっといたって良いと思う。 だいたい、何で呼び出してきたのかもわからないときたもんだ。まったく、何を考えてるのか、さっぱりわからない。 私は怒っているんだぞ、と意思表示をしてみせると聡は苦笑した。その時。 「みぃぃぃぃぃおぉぉぉぉぉ!どぉぉぉこぉぉぉだぁぁぁ!!」 暴走したさわ子先生並に凄まじい声。言い過ぎたかな、地獄の亡者くらい。 そんな恐ろしい声がドスドスと喧しい足音と共に近づいてくる。どどど、どうしよう。 怯えて慌てる私を余所に、聡は「ほら、鬼がきちゃったー」なんて笑ってコーラを口に含んでいた。 他人事だと思って。……ここにいたらそっちにまで被害がいくかもしれないってこと、わかってないな。 そうこうしているうちに、足音の主が台所までやってきた。 あぁもう仕方がない。相手は怒っていても律、おばけや幽霊みたいな怖いのじゃあないんだ、大丈夫だ私。 とりあえずなんとか、少しでも怒りを抑えてもらおう。そう思って、謝罪の言葉を述べるべく律の方みて、一時停止。 後ろで聡がコーラを盛大に吹く音が聞こえた。……ちゃんと拭いておけよ。 「良いって言っても全ッ然入ってこないからドア開けたらいねーし!」 ドタドタと床を踏みつけ叫んでいる、所謂地団駄というやつ。 そこまで怒りを主張してくれているとこ悪いんだけど。ごめん、ちょっと頭がついてかない。 なんせ、あの律が。さっきみたいに前髪をおろし、雑誌に載っていたような『可愛いらしい服』をきて現れたのだ。 しかも更に驚くべきことに、その服は私がからかう為に指さした服とほとんど同じ。 ん?今日は偶然が重なるな。っていうか、コレは夢なんじゃないだろうか、そうに違いない。 そう思って頬をつまんでみる。痛い、夢だ。…………違う、痛いんだから夢じゃない。 「聞いてるのか、澪!」 「う、ううん。聞いてない」 「おい!だいたいなあ」 聞いていられるわけがない。今までこんなことなかった。一体何が……明日は地球が滅亡するのか? しかし、このままにしておいたら危ない。律の家が。床が抜けちゃうんじゃないだろうか。 今もし床が抜けたら、私も一緒にどーんと……ひぃ、怖い。 って、恐怖に負けてる場合じゃないぞ、私。このままじゃ地球が滅亡する前に律の家が滅亡しちゃう。 聡もどうにかしろって目でこっち見てるし。ココは私が何とかしないといけないんだ。 …………よし。 「律、とりあえず落ち着け」 そう言って、律を抑える。真正面から抱きしめる形になってしまったが緊急事態だ、耐えろ私の羞恥心。 すると、家を破壊するんじゃないかというレベルで暴れていた律が、急におとなしくなった。 その隙に、少し後ろを見て聡に目配せをする。『今のうちに、逃げろ』そういう意味を込めて。 しっかり意図を察してくれたようで聡はそそくさと台所から出て行った。流石姉弟、律と同じく鋭くて良かった。 「……澪のばか」 「ごめん」 「私がどんな思いで……」 「凄い似合ってる。ドキドキするもん」 律が怖かったとか家が崩壊するかもっていう不安とかの分もあったんだけどこの際気にしない。 実際律、かわいいし。からかいのつもりで言ったんだけど、まさか本当にドキドキするとは。 あれ、ちょっとまて。律も私の背中に腕を回しているような。これって……だ、だき、抱き合って、ないか。 くっついているだけでも私にはこれ以上ないくらいハイレベルだというのに。 大体ここは台所だ、律の部屋とかでなく。いや、律の部屋でも恥ずかしいけど。 恥ずかしがりの私でなくたってこれは恥ずかしいはずだ。うん、きっとそう。 「と、とりあえず部屋戻ろう?」 「やだ」 まさかの拒否。……同意してくれると思ったのに。見事に期待を打ち砕かれた。 それどころか、律の腕に力がこもり更に密着する形になって、余計に恥ずかしい感じになってしまった。 只でさえ恥ずかしさで爆発寸前なんだ、これ以上は勘弁してくれ。 「え、あう……あ、あの……え、えっと?」 律の予想外の行動にあたふたする私を見上げ、律は口を開く。 「もうちょっと、このままがいい」 前髪を下ろしただけなら平気なのに。いっつも見てるのに。ドキドキなんてしないのに。 なんで、可愛らしい服きて、恥らいで顔を赤らめつつ上目遣いで、しおらしい感じに言ってくるんだよ。 お前は私をどうしたいの。いや、私にどうして欲しいの。 ぐるぐると色々な思考が頭の中を駆け巡り、次の瞬間パーンっとはじけた。 「も、もうむり」 「澪?」 わたし、よく頑張ったよね。 身体中の力が抜けて、律に寄りかかる形になる。もう、げんかい。 意識が飛んでいく直前、ふわりと甘い匂いが鼻をかすめる。 これは、律の匂いかな。 ……いいにおい。 口に出したかは分からないが、そう思ったのと同時に、私は気を失った。 おわる。 お前は私をどうしたいの。いや、私にどうして欲しいの。←わろたww -- 名無しさん (2012-01-05 21 00 53) りっちゃん女の子らしくしたら絶対みんなよりかわいーだろうに... -- 名無しさん (2012-01-05 21 01 27) 名前 コメント
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今年もやってきましたバレンタインデー。 もちろん私も愛する澪しゃんのために手作りチョコを用意したぜ。 私は料理関係はデキる女。これで澪は私に惚れなおすこと間違い なし!明日の朝あったらすぐに渡してやろう。 通学路。いつもの場所でさっそく澪と合流! 「おはよー澪!ほらバレンタインチョコだぞ」 「あっありがとう///」 おーおー顔赤くしちゃってかわいいなあ。 「あれ~澪ちゃんお顔が真っ赤でちゅよ~」 「うっうるさいばか」 「まあそんな照れんなって。ほら澪からのチョコは?」 「そっそんなのあるわけないだろ」 おーおー照れちゃって。これは渡すのが恥ずかしいパターンだな。 そのくらいわかってるよん。そんなんで怒る私じゃない。あとで そっと渡してくれればいいや。 「とっところで律、お前教科書いつも机に入れっぱなしだろ」 おーおー、照れて露骨に話題を変えてきたな。まあ乗ってやるか。 「あーそうだな。めんどくせーし」 「たまにはちゃんともって帰れ。今日はちゃんと鞄に入れろよ」 「あーはいはいわかりましたよ」 「わっわかればいいんだ。ちゃんとやれよ。」 まったく話題の変え方が下手だな~。そんなとこもかわいいけど。 放課後、部活では当然みんなでチョコを交換することになった。 「今日はチョコケーキよ」 ムギが嬉しそうにチョコケーキと紅茶を用意してくれる。 「私もチョコつくってきたよ~。憂と一緒につくったんだ~」 …それって多分絶対ほとんど全部憂ちゃんがつくったんだろ… 「私もチョコつくってきました」 さすがは梓。手作りチョコはもう慣れたもんか。 「すまん、私は市販のだ」 まー澪はあんまりこういうの得意じゃないからなー 「ほら律にも」 「おうあんがとー」 まあみんなの前だからな。きっとあとで私用のをくれるんだろうな。 そんじゃあ私のも出しますか。 「よーし、私からも手作りチョコだ。」 「りっちゃんの手作りチョコすごい手がこんでるわね」 「こっこんなのりっちゃんのキャラじゃないよ」 「律先輩が手作りチョコ…ぷっとかいえないデキですね」 ふっふっふ、もっと私を褒め讃えるがいい。 みんなで楽しくチョコを食べてちょこっと練習した帰り道。 ここでも澪はまだチョコを渡してこない。おかしいなあ。 「じゃあ律、また明日な」 「あっああ」 家の前であっさり別れてしまった…おかしいなあ。 ほんとに私へのバレンタインチョコないわけ? 「おはよう律」 今日も澪はいたって普通だ。おかしいなあ。 「なっなあ律、どうだった?」 「え?何が?」 「何がって…」 私がバレンタインチョコもらえなくてどう思ったかでも聞いてる のか?いやまさかな。私が頭に?マークを浮かべていると 「んもう。もういいよ」 なぜか澪が拗ねだしてさっさと先にいってしまった。 なんだよもう。拗ねたいのは私の方だよ。 その次の日も澪は一日機嫌が悪かった。わけわからん。 日曜日。一人で部屋で雑誌を読んでると携帯がなった。澪かな? 「もしもしりっちゃん。課題のプリント終わった?」 唯だった。課題のプリントってなんだっけ。 「明日提出の英語のだよ~」 そういえばそんなのあった気がする。確か鞄に入れっぱなしだった ような…。私は鞄を開けてみる。ああなんかプリントがあるや。 「鞄に入れっぱなしでいまのいままで忘れてた」 「あはは、それでこそりっちゃんだね」 「で、このプリントがどうかしたのか?」 「あーうん、終わってたら教えてもらおうと思ったんだけど」 「それは無理だな」 「それでこそりっちゃんだよね。電話した私がバカだったよ」 「うるせー。まあ反論できないけど」 そのあと5分くらい唯と無駄話をして電話をきった。 「はーすっかり忘れてた。失礼なこといわれたけど唯に感謝だな」 ひとりつぶやいてプリントを取り出す………あれ? 鞄の中にプリントの他にも見慣れない箱のようなものが… 包みを丁寧に解いて中身を取り出すと… 「チョコレート…」 え…いや…これってまさか…。チョコの箱に折りたたんだ紙も… 『律へ いつもありがとう。恥ずかしがりがなおらない私のことだから きっと素直には渡せないだろうから鞄にいれとくな。それと、 律が見たがってた映画のチケットが手に入ったから今度の休み にでも一緒に行こう。大好きだよ律。すっと一緒にいような 澪』 手紙に挟まれていたチケットが一枚、床に落ちた。 やばい…やばいやばいやばい。やばいよこれ…。 「たまにはちゃんともって帰れ。今日はちゃんと鞄に入れろよ」 澪の言葉が頭の中にフラッシュバックする。あれは照れ隠しで話題 変えたんじゃなくて澪からのヒントだったんだ。多分、澪は学校で 私がトイレいった隙かなんかに鞄にこれを入れたに違いない。 私は部屋を飛び出した。 バタン! 「澪!!」 「わっ!りっ律?ノックくらいしろよ」 「ごっごめん澪!」 「何が?」 「あっあの私!かっ鞄!ぜっ全然見てなくて!あの、その!」 「…しらない」 澪は頬を膨らませてそっぽをむいてしまう。 「ほんとごめん!私が悪かった!澪許して!」 「そうじゃないだろ」 澪はこっちを向いてくれたけど表情はますます厳しくなる。 「え?え?」 さらに混乱する私を見て澪はかなしそうな表情になって 「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないんだよ…」 ああ、そうかそうだよな。バレンタインチョコを贈る意味… 「ありがとう澪。本当に嬉しかった」 「……」 そして、あの手紙… 「私も澪とあの映画見に行きたい」 「……うん」 伝えなきゃいけないのはごめんって気持ちじゃないよな 「私も澪が大好きだ。一生一緒にいたい、てかいてくれ」 「……ばーか」 やっと笑ってくれた。うれしいな。自然に体が動いて澪の唇に… うん、これはバレンタインチョコなんかよりずっと甘くて… 映画館からの帰り道、どちらからともなく手をつないでゆっくり 歩く。こころもおててもあったかい。 「いやー全然チョコにきづかなかった。ごめんなみおー」 「もういいって。考えてみれば私も悪かったよ。わかりにくかったな」 「でもあの手紙はうれしかったぞー。澪の情熱と愛情がほとばし」 「わーわーいうなー!!」 「ありがとみお」 「ん。ところで律、どうだった?」 「え?何が?」 「何がってその…チョコだよ。いちおう手作りなんだけど」 あーそういうことか。でもな、うん、 「まだ食ってないからわかんないや」 あん時は食べてる場合じゃなかったからな。 「てか、チョコのことは今言われて思い出した。」 「…………」 あとでゆっくり味わわせてもらうことにしよってあれ? 澪が急につないでいた手を離したかと思うと早足で歩きだした。 「ちょっと待てよみおー」 「…………」スタスタスタ この後、三日間澪が口を聞いてくれなかったのはいうまでもなく、 お詫びの印?としていちごパフェを奢らされたのはまた別の話。 END 名前 コメント
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投稿日:2010/09/29(水) 12 42 08 本当に今日はついてない 目覚ましの故障、朝ごはん抜き、教科書を忘れたり、急な夕立.etc とりあえず今日は疲れた…少し夕飯まで眠ろう… 濡れた制服をハンガーに架けて床に落ちているパジャマを取ったその時 ズルッとパジャマの上にあったベースがバランスを崩し、タンスの金属製の取っ手に向かって倒れてしまった もしポッキリと折れてしまったら… 最悪の結果を防ぐため手を伸ばすが間に合わない! 『ガッ』 嫌な予感がした… とりあえず弾いてみるが支障は無いみたいだ。 しかし1cm近くの線傷が出来てしまっていた せっかく律が選んでくれたベースなのに…… ここはやはり律に打ち明けるべきか… ──打ち明けた場合── 律「買ってから1ヶ月も経ってないのに…大事にしてくれると思ったのに……澪となんか絶交だーっ!」 ──打ち明けなかった場合── 律「こんな事を私に隠してたなんて……澪となんか(ry 両方ともバッドエンドしか思い浮かばない…どうするか…… しばらく悩んだ後謝るまでの期間を開けるよりマシだろうと思いベースを持ち律の家へ向かう ピーンポーン ピーーンポーン 聡「どちらさまですか?」 澪「澪だ…」 聡「お姉ちゃんならもうすぐ帰ってくると思うので部屋で待っててください」 澪「わかった……」 凄く気が重い…このベースの購入を決めた時の律の笑顔を思い出すと…つらい… しばらくすると律が帰ってきた 律「たっだいまーっ!早速マキから借りてきた漫画でも読むか?」 澪「い、いや聞いて欲しいことがあるんだ…実は……グスッ…実は…ウッ…グス」 律「急にどうしたんだ?落ち着けよ」 澪「実は律が選んでくれたベースに傷が…傷が…傷が…グスッ」 律「どこだよ?」 澪「ここだよ…ここ!」 律「(まさかこの小さい傷か?)ああ、これか。よしちょっと待ってろ。」 律は自分のバックからペンケースを探しているようだ 私は俯いて泣いていたため音だけでそう思っていた カリッ カリッ カッカリッ さっきから明らかに擬音がおかしい…顔を上げると律が持っていたのはコンパスだった…まさか……! 律「じゃ~ん!傷が嫌ならメッセージに変えるまでよっ!」 傷があった場所には「I LOVE りつ」の文字が…… 澪「あっ!なにするんだよ律!これじゃあ恥ずかしくってみんなの前で使えないだろ!」ボカッ 律「いった~っ!じゃあ私もスティックに書いちゃおかしらん♪でっかく赤い字で「澪命」とか…これでおあいこですわよね~♪」 澪「や、やめろーっ!それも恥ずかしいからやめてくれ!」 梅雨になると今でも鮮明に思い出す 今はマジックで隠しちゃったけど指を通して伝わって来る 名前 コメント
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「あれ、今日澪ちゃんは?」 教室に一人で入ってきた私に、唯がそう尋ねてきた。 私はさっきから自分でもそれが気になってばかりいるので、その質問は正直堪える。 なるべく平静を装って、何の気なしに私は返事をした。 「ああ、今日は休み。なんか熱っぽいんだとかで、今病院に行ってるよ」 私は唯を通り抜けて自分の席に向かった。 乗り気になれず力も入らない体のまま席に着き、机に突っ伏す。 目を腕に押し当てているので視界は真っ暗になった。 少しして、頭上から唯の声が降ってくる。 「りっちゃん眠いの?」 「いや、私はただ気分が乗らないだけー」 「ふうん……やっぱり澪ちゃんがいないからかあ」 ギク。 私は顔を起こして、ニヤニヤしている唯に否定の言葉を返した。 「ち、ちげーよ。えーと、昨日寝てなくてさ」 「つまり、昨日の夜澪ちゃんが体調が悪いことをりっちゃんに知らせていて。 だから心配であんまり寝れなかったわけね」 横からムギが入ってきた。うふふ、という不敵な笑みも含んでいる。 またさっきみたく強く否定しようと思ったけど、言葉に詰まってしまった。 あれやこれや迷っているうちに、唯が人差し指を立ててにんまりした。 「まありっちゃんなら仕方ない。今日はそっとしとくねー」 「今日は部活なしにしましょう? りっちゃんだって、すぐに澪ちゃんのところへ行きたいわよね」 二人は目を合わせてそう言った。 ありがたいと言えばありがたかった。 実は先ほどまで、澪の家にいてちょっとだけ話をしてきたところだった。 熱でぐったりしていた澪は、申し訳ないけど可愛いかった。 しかしそれを差し引いても、澪が体調を崩しているというのは私にとっちゃ一大事。 そんな澪を置いて学校に来てしまったのだから、そりゃ澪が気になって仕方ない。 誰かと話してたって、多分すぐに澪のことに気が向いちゃうんだろうな。 だから唯の言うように、今日は私をそっとしておいてくれるのが一番だった。 それに、部活だってやりたい気分でもない。 一人欠けてるだけでなんかなあ……ってなるのに、澪ならなおさらだ。 放課後は授業が終わったらさっさと抜けて澪の家に行く気でいるし。 ムギの提案は、もしなければ私から提案するところだった。 「じゃあ、今日の部活は無しってことで……悪いな、なんか」 「いいよー。じゃああずにゃんには私が伝えとくね」 梓には唯が伝えるようだった。 なんか申し訳ないけど、でもやっぱり澪が心配だからそうしたかった。 放課後はダッシュだな。澪の熱が落ち着いてるといいけど……。 ■ 私はベッドの上で、布団に肩までスッポリ入ったまま、時計を見つめた。 ……学校は今、昼休憩か。 昼休憩だから、メールを送っても大丈夫かな。 私は携帯電話を手にとって、さっき行った病院の検査の結果やらを打ち込んで律に送る。 送信しました、という画面が出ると同時に、私は溜め息を吐いて枕に顔を埋めた。 私は火照ったように熱い頬と、ぼんやりする頭のまま考える。 今頃皆は――……律は、私の事なんか忘れて楽しく皆とお弁当なんだろうなあ。 わかってるのに、ズキズキし始めた。 体は確かに熱くて、風邪や熱の特徴的な底気味の悪い感覚が湧いて出てくる。 だけどそれ以上に、私の頭の浮かぶ映像だけが体中を締め付けていたのだ。 (……律) 私がいなくても、律は皆といつものようにお弁当を囲む。 私がいなくても、律は皆といつものように授業を受けて。 授業の合間の休み時間には、皆と楽しくお喋りするんだ……。 私は自分の額に手を当てた。 熱さまシートは貼られてるのに、無性に指先に熱を感じる。 力の入らない体に悔しさや情けなさまで痛感した。 天井を見つめながら、溜め息を吐くだけの時間が過ぎる。 「……律」 もう、律の名前を呼ぶだけしかできなかった。 私が昨日の夜中、律に熱があるとメールしたら、律は今日の朝すぐに来てくれた。 大丈夫かって優しく話しかけてくれたり、ご飯も食べさせてくれた。 だけどやっぱり律は学校があるので、そのあと惜しみながらも律は行ってしまった。 本当はずっと傍にいてほしかったけど、私はそれも言えなくて。 強がって『学校行けよ』なんて言いながら、笑って律を送り出したのだった。 本当は、行って欲しくなんかなかったのにな。 だけど、一緒にいてと言ったとして、それは律にも迷惑だったに違いない。 これでよかったんだよ。私は休んで、律は学校に行く。それが普通だろ……。 と、思い込めば思い込むほど、胸は痛いのだった。 頭に、律が私を差し置いて皆と一緒に学校で楽しく過ごしてる姿がチラつくんだ。 行けよと言ったの、私はもしかして後悔しているのかもしれない。 かもじゃなくて、実際してるんだ。 律に傍にいて欲しかった。学校に行って欲しくなんかなかったんだ。 ……でも、それは言うべき言葉じゃない。律は元気だから。 私のわがままで欠席扱いにさせることなんてできないから。 でも……。 「りつぅ……」 私はほとんど無意識に、指で内股をまさぐった。 熱を帯びているから呼吸が荒いのも自分でわかる。 でも、それだけが理由じゃない。 頭から、律の顔が、声が、離れていかない。 それを私は思い浮かべながら――。 やめようやめようって、思ってるけど。 それでも私はやめられなくて。指先でそこをいたずらした。 徐々に湿ってくるのも感じるし、自分の声が微かに漏れ始めているのもわかった。 唇を噛み締めて、声を堪えてみるのに、それは無駄なことだった。 自分の指なのに、自由が利かない。 「んっ……っ……」 よくないこと、なのに。 私は指でそこを弄りながら、とうとうもう片方の手を胸に伸ばしてしまっていた。 「り、つっ……あっ……」 もうあとちょっとしたら終わろう。 あと、ちょっと……。 あと、ちょっと……。 終わろう終わろうって、思うのに。 火照って熱い顔と、ぼんやりしてはっきりしない頭と、心に浮かぶ律の顔が。 行為を終えさせてくれなかった。 「……っ、あ……」 さっき律に送ったメールは、嘘だ。 大丈夫なんかじゃない。 大丈夫じゃないから、こんなことしてる……。 ■ 唯とムギ、そして私の三人で食事を取っていた。 いつもは四人でお弁当を囲んでいるのだけど、澪がいないだけでこんなにも広いなんて。 それは澪の身長のことじゃなくて、私にとっての澪の存在の大きさを物語っていた。 もしかしたら、そういう寂しさみたいなのも表情に出てしまっていたかもしれない。 ときどき唯とムギが心配そうに私を見てくるのも気になった。 その度に、私は取り繕ってばかりいる。 そんな最中、唯が切り出した。 「澪ちゃんから何かメールが来てるかもしれないよ?」 「そ、そうだな……」 私はポケットから携帯を取り出した。 案の定メールが来ていて、それはどう考えても澪からだった。 中途半端に緊張しつつも、すぐに開いて、文面を読む。 簡潔な文章だった。 『風邪だった。でも心配すんなよ。大丈夫だから』 私はしばらく硬直して、画面を見つめていた。 心配すんなよって、馬鹿か。無理に決まってんだろ。 大丈夫だからって。 大丈夫なわけないだろ。 私が大丈夫じゃない。 「……ごめん、私今日早退するわ」 それからすっと立ち上がって、二人を見下ろしながら言った。 二人は一瞬だけ驚いたような表情をしたけど、すぐに目を細めて笑ってくれた。 「うん。早く行ってあげてね」とムギがふわふわした顔で言う。 「先生には、りっちゃんは調子が悪くて帰りましたって言っとくねー」と唯がピースした。 私は二人に感謝して、食べかけの弁当を早々に片づける。 自分の席に帰って鞄に弁当を押しこみ、鞄を掴んで教室から飛び出した。 ■ 私はとっくに果てていて、息切れしながらベッドに伸びていた。 余計に体が熱くなって、妙に不安になる虚無感と切なさが胸に押し寄せてきたのだった。 だからやめとけばよかったのに、結局最後までやっちゃうなんて。 それから、大分時間が経った。 動悸も落ち着いて、呼吸もだんだん穏やかになってくる。 でも、やっぱりぼんやりした頭はそのままだった。 熱はまだまだあるみたいだな……。 枕の横に投げっぱなしていた携帯電話を手に取る。 律から返事がないかなと思って、ちょっとだけ期待していた。 でも、なかった。 新着メールの表示はなく、朝のメールのやり取りの名残があるだけだった。 いいよ別にメールなんか、返してくれなくても……。 休憩時間に携帯見なくたって構わない。律が私なんかをほっといたって……。 いいんだ別に。そんなのなんとも。 でも。 本当は寂しいよ、律……。 「りつ……」 「呼んだ?」 私がまったく覇気もなく名前を呼ぶと同時に、ガチャリとドアが開いた。 そこから、一部始終を聞いていたかのようにニヤついた律が顔を出したのだった。 「り、律……っ!?」 私はガバリと飛び起きたけど、名前を呼ぶだけに留まってしまう。 当たり前だ。ここに律がいるなんてありえない。 律はベッドの脇までやってきた。優しい瞳で訊いてくる。 「調子はどうよ」 「……メール、見たのか?」 「見た。第一見てなきゃこんな一目散に走って帰ってこねーって」 時計を見ると、昼休憩はすでに終わりを告げている時刻になっていた。 普段なら、午後の授業を受けている時間だし、律もそうしていると思ったのに。 だけど、律は今私の目の前にいる。 「な、なななんで帰ってきたんだよ」 「なんでかわかんない?」 「……」 私は布団を手繰りよせて、口元を隠した。 律の顔を見つめてたら、よくわかんないぐらいにまた体が熱くなってきたのだ。 それは風邪だからとか、熱だとか、そういうのとは違う高揚感。 「べ、別に帰ってくるほどのことじゃ、ないだろ……?」 やっぱり私は、皮肉っぽく返してしまうのだった。 本当は、すごく嬉しいのに。 面と向かってお礼なんか、恥ずかしくて仕方ない。 「ママさん忙しいから、きっとお昼帰ってこないんだろうなって思ってさ。 だから澪もお腹空かせてるかもと思ってダッシュで帰ってきたんだよ」 「な、なんだよそれ」 「それに、やっぱり澪が風邪なのに授業なんか受けてられるかってんだ」 じゃあ、なんか作ってくると言って律は立ちあがった。 紺色のブレザーを脱いでキッチンへ抜けていく。 私は体を起こしたまま、ほっこりした気分に浸っていた。 (な、なんであんな恥ずかしいこと真顔で言えるんだよ……) 言われた私の方が恥ずかしくなってきた。 ただでさえ熱っぽいのに、これ以上体温上げないでくれ……。 ■ さすがに自分でも格好付けすぎた。 調理台に立って、おかゆを作りながらさっきまでの自分の行動を振り返る。 全部本心なのだけど、澪の熱がさらに上がっていないか心配だ。 恥ずかしがり屋なんだから、私の発言に照れちゃってたりして。 澪がお腹空かせてるだろうから、なんてさっきは言ったけど。 実際風邪とか熱のある時って全然お腹空かないよな……。 むしろあまり量を食べたくなかったりするもんなあ。 となるとおかゆだけ? いやそれもなんだか味気ないぞ。 体調が悪い時は、消化のいいものとビタミンCだったっけか。 だとしたらなんだろうな……果物系の何かを用意した方がいいのかも。 私は冷蔵庫を開けてみた。かろうじてりんごがあった。 勝手に使っていいかわからないけど使わせてもらうか。 澪の家のキッチンは使い慣れていた。 それから、りんごも切って。 あとはおかゆの完成を待つだけだ。 そんな時だった。 「律ー……」 「えっ、う、うわっ!」 私の視界の左右から腕が伸びてきて、私の首回りを締めあげた。 声をあげてしまったけど、これは締めあげたというよりかは……。 抱き締められてる。 澪の胸が背中に当たって、一瞬ドキッした。 私はよくわからない展開にどぎまぎしながら、声を出す。 「あのー、澪しゃん?」 「うるさい」 「いやいや、まだ何も言ってないけど」 「別に……いいから、続けろ」 続けろって……おかゆ作りをか? いやもう、あとはじっとおかゆの加減を見とくだけなんだけど……。 つまりまったくは手は動かさないということ。 私は澪に抱きつかれたまま、棒立ちになった。 澪の顔は私の首の左後ろにすぐあるようで、荒い息が色っぽくうなじに降りかかっていた。 私をホールドして離さない澪の両腕。 私は知らず知らず、澪の手に自分の手を重ねていた。 「――寂しかったの?」 私は尋ねた。 「……訊かなくても、わかってるくせに」 「違いない」 「……わかってるなら今日――」 澪は何かを思い出したように、ピタリと声を途切らせてしまった。 今日。 その先、澪が何を言おうとしていたか私にはわかってしまっていた。 だけど澪は、きっと私のためを思って言葉を紡がなかったんだと思う。 「……やっぱり、なんでもない」 「なんでもなくはないだろー? いいよ、今日は澪ん家に泊まる」 「は、はあ? なんでまだ言ってないのに――っ」 まだって……やっぱりさっき飲みこんだ言葉はそれだったのかな。 最初から澪の家には泊まる気だったんだけどね。 「それに、泊まっちゃダメだろ」 「なんで?」 「だって、律に風邪移っちゃうし……」 澪の萎んでいく声が、可愛らしかった。 「じゃあ澪は、帰ってほしいの?」 かまかけた。 こんなにも甘い声で、抱きついてくる澪の気持ちなんてわかりきってる。 でも、澪の言葉で答えを聞いてみたかった。 「そ、それは……」 「それは?」 「……帰ってほしくない」 「だろ? だから泊まるよ。安心しろって」 「で、でも律に移ったりしたら……」 「大丈夫。こんなこともあろうかと、先月辺りに予防接種を受けてるんだ」 「それでも、かからないとは言い切れないだろ」 澪は、私に帰ってほしくないけど、風邪を移すのは申し訳ないと思ってるようだった。 やっぱり澪は、私のためにさっきの言葉を飲みこんでくれたんだな……。 でも、私はやっぱり……澪と一緒にいたいから。 そのために、ここまで帰ってきたんだから。 「私、別に風邪になってもいいぞ」 「……いや良くはないだろ」 「だって、澪が看病に来てくれるし」 冗談じゃないけど、冗談で受け取ったならそれでも構わない。 それでも、今まで私が風邪をひいた時は、いつも澪が看病に来てくれたから。 だから、たまには風邪もいいかもと思っちゃったりしたこともある。 「それに、私に移して澪が治るなら、それでもいいし」 むしろそっちの方が、いいんじゃないのかな。 澪が元気になってくれれば、私がちょっとくらい大変な思いしてもいいや。 澪の顔は見えないけど、きっと真っ赤になってると思う。 そんな私も、実は結構顔が熱いから。 少しの沈黙の後、澪の私を抱きしめる力が強くなった。 「馬鹿律……」 「澪?」 「……今日の私は、欲求不満なんだ」 澪が荒い息で突拍子もなくそんなことを言うもんだから、ドキッとした。 よ、欲求って……こりゃ澪しゃん相当まいってるぞ。 私が言葉を促すまでもなく、澪は続けた。 「今日、一人でしちゃったんだからな……律のこと考えながら」 最近ご無沙汰だったからなあ。 「それなのに、そんなこと言われたら余計に……」 「……」 「だから、こんな気持ちにさせた責任取れよな……」 私は思わず笑ってしまった。 澪から頼まれると調子狂うけど、でも、そんな澪がやっぱり愛おしい。 拒むこともはぐらかすこともせず、私は答えた。 「へいへい。一生付き合うよ。澪の気持ちに」 それは、別にえっちな意味だけじゃなくて。 澪の――そして私の、お互いへの想いのことでもある。 「……りつぅ」 「おいほら、みーお。そろそろ離れないと、おかゆ食べれないぞ?」 「嫌だ。このままがいい」 「あははーそりゃ嬉しゅうございます……じゃなくて、食わないとさ」 「律を食べる」 「それはまた後でな! ほら、部屋戻るぞ」 やれやれ。熱っぽくて情緒不安定だとここまで甘えん坊になるんだもんなあ。 でも、そんな澪を見るのも初めてじゃないし。やっぱり澪は澪だ。 そんな澪と、ずっと一緒にいたいから。 澪のためだったら、私は学校だって途中で投げ出して来てやるよ。 それにやっぱり心配だから、早く治せよな。 また一緒に、元気に学校行こうぜ澪! ■終■ 名前 コメント
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投稿日:2010/11/17(火) 01 35 31 「……澪?」 せっかくの祭りだってのに澪が機嫌なおしてくれなくて、悔しくなって ちょっと俯いたら澪を見失ってしまった。 「なんだよ…」 あんなに怒ることないじゃないか。埋め合わせに一生懸命射的でぬいぐるみ 取ってあげて、何度も呼びかけて…大体、あの時だって私の誘いを断ったの は澪じゃないか。でも… 「あーあ、澪のやつ一人になって大丈夫なのかよ」 私が悪いんでもいいから一緒にもっとお祭り楽しみたかったな 「一人で先に帰っちゃおうかな。澪は今頃一人で震えてるかな」 でも… そんなことできるわけない。 「それとも澪は美人さんだからナン…」 あれ?そこまで考えて違和感。 いつもならナンパされて震える澪を想像するのになんでか今日に限って ナンパにのって男と並んで歩く澪が頭に浮かぶ 「…ははっ。ないない」 そう。それはありえない。私の澪だもん、それくらいわかる。 でも… 「なんだよ…これ」 澪と誰かが一緒に楽しそうに歩く姿が頭から離れない。なんでこんなこと 想像してるのかもわからない。すごく胸のあたりがもやもやする。 「澪も…こんな気持ちだったのかな…私とム…」 違う。それは違う。私はムギと遊んでたんだ。知らない男、ましてナンパ ヤローなんかじゃない。そんなやつとムギを一緒にするなんてムギに失礼だ! でも… じゃあ、ムギとなら?ムギと澪が私をほっといて二人で仲良くしてたら? こんなこと…前にもあった。和と… 「澪ーーーーーっ!!」 私は駆け出していた。 「みーーーおーーーっ!!」 胸がもやもやする 「みおーーーっ!!どこだーーーっ!」 くそっ!走りづらい。浴衣なんて着てこなきゃ…でも澪が褒めてくれた。 「みぃおーーーーっ!みぃーーーおーーーーっ!」 回りの人が何事かとこちらを見る。浴衣で全力疾走だ。裾がはだけて パンツ見えてるかもな。 知ったことか。 「澪ーーーーーっ!」 なんでもいい。今はとにかく澪に逢いたい。そしてこのもやもやが 晴れるまでいろんなことを伝えたい! 「……律?」 やっぱりいない。はぐれちゃったのかな。それとも怒って帰っちゃったかな。 でも… 「それも仕方ないよな」 ぬいぐるみをくれて、一生懸命機嫌をとってくれて、それでも不貞腐れてた 私。律は私とこのお祭りにくるのをとても楽しみにしてくれていた。 それなのにそれをブチ壊しにしてしまった私… でも…… 「どうしてこんなことしちゃたのかな…」 必死に呼びかけても無視する私を見て、律ちょっと悲しそうだったな。 大体にしてあの時だって、私が律の誘いを断ったから律とムギが二人で遊ぶ ことになったのに。 今回ばかりは律が悪いんじゃないのに。 でも…… どうしても嫌だったんだ。私の知らないところで律が私以外の人と 楽しそうにしてるのは。ムギは大切な友達だ。でもイヤなんだ。 こんなの間違ってるってわかってる。 律は私のことが好きだ。疑ってなんかない。信じてるけど… 「私ばかり妬いちゃってみっとも…」 もうなおったーーーーーっ! 不意にあの時のことが思い出される。 律との行き違いがあってケンカしちゃって、でもお互いがどれだけかけがえ のない存在なのかを再認識させてくれたあの出来事。 やきもち妬くのは私だけじゃなくて、律はいつでも私を支えてくれて、でも そんな律にも弱っちゃう時があってそんな時支えるのは他の誰でもない私で。 「律を探さなくちゃ」 どうして忘れちゃうんだろう。こんな大事なこと。 「そう遠くにはいってないよな」 行くわけない。律が私をおいて帰るなんてあるわけないじゃないか 「とりあえず来た道を戻るか」 好きだから忘れちゃうんだろう。好きだから嫉妬しちゃうんだ。 とにかく律に会おう。まずは謝って、それから気持ちの全てを伝えよう。 「みぃぃぃぃぃーーーーーーーおぉぉぉぉぉぉーーーーっ!」 その時、大好きな声が聞こえた。 「りぃぃぃぃぃつぅぅぅぅぅぅ!!」 普段なら人前でこんな大声出すのは恥ずかしい。 でも今は…そんなこと関係あるか 「ゼェゼェゼェみぃゼェおっゼェ」 息を切らした律。トレードマークのオデコには汗が光り、汗で 浴衣が体に張り付いてしまっている律。 本当に必死になって私を探してくれていたのがわかる。 それだけで私は泣きそうになる。でも、今は泣いてはだめだ。 祭りの喧騒とは少し離れた神社の境内で私達は肩をよせあい体育座り。 ようやく呼吸も落ち着いてきた。 「澪…ごめんな」 「私も…ごめん…」 言葉が続かない。あんなに話したいこと、伝えたいことがあったのに… 「ははっいいたいことたくさんあったけど忘れた!」 「奇遇だな。私もだ。なんか言葉が出てこない。」 「ほんとにごめんな」 「何が悪いかわかってるのか?」 「わかるよ。澪のことだからな」 そっと手が触れる。 「ほんとにごめんな」 「何が悪いかわかってるのか?」 「ああ、律のことだからな。律はわかりづらいやつだけど」 「なんだよそれ」 「でも私はきっとずっと律のことわかってる」 「そっか…あんがと!」 お互いの顔がちかづく 祭りの締めくくりの花火が上がる中、祭りの喧騒からは取り残された私たち。 花火の光りが映し出す私達のシルエットは本当に二人で一人だった。 花火が終わってしばらく経つ。もうほとんどの人は帰ったらしく祭りの 喧騒はもう聞こえない。それでも私達は帰る気にはなれず、ずっと境内に 座っていた。会話は特になかったけれどいろんな事が伝わった気がした。 私達はこれからもやきもち妬いたり、ケンカしたり、気持ちがすれ違う こともあるだろう。 でも… 今までがあったから、そして今日があったから心がはぐれてしまうことは もう絶対にないだろう。 来年は二人でおもしろおかしくお祭りを過ごせたらいいな おまけ 「そろそろ帰るか!」 そういって律が立ち上がる。 「ちょっ律!浴衣!」 律の浴衣が派手にはだけている。 「ああ!さっき全力疾走してたからな。パンツ見られたかも♪」 「………」 そういえばそうだな。さっきなんて汗で浴衣が体にピットリ張り付いてたし… 「ほら、律。浴衣なおしてあげるからこっちきて境内の中入ろう」 「え?浴衣なおすだけならここでいいだろ。」 「これ以上誰かに律のそんな姿見られたくない」 「でもそんな都合よく、境内の鍵が開いてるわけ…って開いてる!?」 二人で境内の中に入る。誰にも見られないようにしっかり扉を閉める。 「澪…怖くない?」 「ああ、大丈夫。」 普段ならこんな暗がりの中じゃ震えちゃうだろう私も今は平気。 なんたって漏れてくる月明かりに照らされた律がこんなにもかわいいの だから… 「あのー澪しゃん…」 「何でしょうか律さん?」 「浴衣が調っていくようには見えないのですが…」 それはそうだ。こんな状況で律のこんな姿を見て浴衣を直すなんてできる わけない。 「…律が悪いんだからな…」 「…今日は澪も悪いだろ」 「そうだな」 「ふふっ」 「それに…」 「ああ、こんな都合よく鍵がかかってない…」 「「境内が悪いんだからなっ!」」 どんなことがあってもずっと一緒だよ律。 ばーか、あたりまえだー!! おしまい 境内ナイスw -- 名無しさん (2012-01-04 02 50 50) これ大変素晴らしいと思います -- 名無しさん (2012-07-29 20 06 28) 名前 コメント
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479 名前 名無しさん@お腹いっぱい。  Mail sage 投稿日 2009/07/05(日) 13 06 43 ID cMjMwT0O 「はぁ…良い卒業式だったな」 「それにしても…律は、ひっく…泣かないのか?」 「…バカだなぁ澪。私が泣いてたら軽音部の部長は務まらないぞ!」 「軽音部…私たち、もう引退したんだよね…うぅ…」 「あ、そうだけど…って、お前ら泣くなって」 「うぐぅ…りっちゃん……ひっぐ…だっでぇえ…」 「でも私たち軽音部は不滅だぞ!また暇な時はいつでも会えるんだから、な?」 「うん…りっちゃん隊員、御武運をぉぉ…!」 「りっちゃん…またお菓子、用意しとくからね…」 「律先輩、これからも頑張ってくださいね!」 「うん…その時はまた、みんなで練習しような!」 「バイバーイ!」」 その後 律と澪は二人でそれぞれの家に向かっている 「なぁ律、お前これからもドラム続けてくれるよな?」 「…?何言ってんだよ澪、決まり切った事じゃんかよー」 「でも、私と律しか同じ学校じゃないし…また私たち軽音部が揃うのは中々難しいかもって思ってさ…」 「それは…」 「ふっ、でも律が言ったとおりまたいつでも会えるし、その時は桜ケ丘高校軽音部に戻れるから…」 「…うん」 「じゃあこれから入学準備とかで色々忙しいと思うけど頑張ろうな!」 「…うん。じゃあまたな、澪」 「……待って、澪」 「え?」 「私…もっとみんなと練習したかったんだ」 「律…」 「たしかにティータイムで練習しなかった時もあったけど…その時間も楽しかった。 私…今すぐにでもタイムマシン使って過去に戻りたい…唯、紬、梓、さわちゃん、澪がいるあの部室に… …でも無理だよね…ひっく…もう戻れないんだよな…うっ…ぐ…」 「大丈夫だよ」 「ぇ…」 「私が、いるから」 「み…おぉ…うっ…ひぐっ…うぁぁぁあああ!!!」 「律に寂しい思いなんて、させない」 「うっ…あぁぁあああ!!!」 出典 【けいおん!】田井中律は蛇口T可愛い35【ドラム】 このSSの感想をどうぞ 名前 コメント すべてのコメントを見る
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「‥んー」 「お。起きたかー?」 私はキッチンに現れた一人の幼女に声を掛けた。 「‥おきたー」 幼女は寝ぼけ眼で、キッチンで鍋を振るう私に答えた。 「じゃ、ママも起こしてきな」 私が声を掛けると 「わかったー」 幼女は、寝室へ消えた。 「ママー。あさだよぉー」 寝室から、幼女の声が聞こえてきた。 「んぁ‥」 寝起きの声が、微かに聞こえた。 朝食を作る私の元へ、幼女と一人の女性が歩み寄ってきた。 「‥おはよ‥」 「ママ、おきたー」 目を擦りながら現れたのは、私の愛妻、澪。 幼女は、私と澪の愛娘、理緒。 「おはよー。顔洗ってきな?」 「んん‥」 私の言葉に、澪は寝ぼけ眼のままで洗面所に向かった。 「‥りつー」 理緒が、足元から声を掛けた。 「んー?」 私が調理しつつ返事をすると 「テレビ、つける?」 理緒はお決まりの台詞を述べた。 「あぁ、おねがい。危ないから、あっちいってな」 私も、お決まりの台詞を返した。 「わかったー」 理緒は、素直にリビングへ向かった。 程無くして、澪が洗面所からキッチンを経由してリビングへ向かう。 そのタイミングに合わせ、私は朝食の調理を済ませる。 リビングのテーブルを囲み 『いただきまーす!!』 「いただきます」 我が家の一日は、始まる。 人類とは恐ろしいモノで。 「同性同士の婚姻関係」までも成立させていた。 更には、体外受精とか無しに「同性間での子供の誕生」をも実現させた。 神のシナリオからの盛大な脱走だな、と思ったけど。 実際、成立しちゃってるから、仕方無い。 私達夫婦(って言うのか?よくわかんないけど)も、その恩恵を受けて子供を授かったのだった。 可愛い可愛い愛娘は、今年で四歳になる。 「ママ、いってらっしゃーい!」 可愛い愛娘、理緒が手を振ると 「ふふっ。いってきます」 ちゅっ 澪は理緒に行って来ます、のキスをした。 「えへへー」 理緒はいつものように照れた。 「今日は、遅くなるのか?」 「いや、定時で帰れると思う」 「わかった」 ちゅっ 私は澪に行ってらっしゃい、のキスをした。 パンツスーツ姿の澪は手を振って笑顔を残し、出勤した。 私はキッチンへ戻り、朝御飯の後片付けに入った。 「早く保育園の準備しろよー」 テレビ、テレビ、とリビングに走る理緒に声を掛けた。 「はぁーい」 生返事気味に声が返って来た。 ちゃちゃっと後片付けを済ませ、理緒を保育園へ送る。 私も澪も、私立がどうとかの拘りは無かったので、近所の保育園に決めた。 通い始めはビービー泣いていた理緒も、もうすっかり慣れ 「りつー!いってらっしゃーい!」 保育園の柵越しに声を掛けて、私を見送るようになった。 子供は、一日ずつ成長するから、面白い。 私は、手を振り保育園を後にする。 一旦帰宅して家事を済ませ、近所の洋食屋のバイトに向かう。 当初は専業主婦も悪くないかなー、なんて思ったが。 やっぱり澪も稼いでるんだし、なんかしなきゃなって思い、バイトを始めた。 料理が得意な私にとって、洋食屋での厨房のバイトは楽しかった。店の皆ともすぐ仲良くなったし。 調理しながら「今夜も美味しい晩御飯作るぞー!!」とか息巻いたり。 ディナータイムの前のアイドルタイムで、私は勤務終了。 保育園に理緒を迎えに行くのだ。 「りっちゃーん、お疲れ様ー」 保育園に着くと、保母さんの一人が出迎えた。 「りつー!かえるぞー!」 理緒が元気良く門から飛び出した。 「待て!急に飛び出すな!!」 私は理緒の首根っこを掴んだ。 「きゃっ!!」 誰かにそっくりな声で理緒は急停止した。 「あ、そうそう」 保母さんに声を掛けられた。 私は理緒を解放して手をしっかり握りつつ 「ん?」 保母さんの方に向き直った。 「理緒ちゃん、おやつの時間にアイス食べ過ぎちゃって‥」 お腹、こわしちゃうかも。と、眉をハの字にしながら保母さんは笑った。 「そうですか…」 呆れつつ、私は理緒を睨んだ。 「理緒‥?」 「つーん」 理緒は誰かにそっくりなカオでそっぽを向いた。 「‥まぁ、今の時間で大丈夫だから、何ともないと思うけど。一応、頭に入れといてほしいなって」 「あぁ。ありがと」 私は保母さんに礼を言い 「じゃ、また明日!」 保育園を後にした。 「りおちゃんじゃーねー!」 居残っている子供たちが理緒に声を掛けた。 「じゃーねー!!」 手を振って応える理緒。 この調子なら、大丈夫かな…と思いつつ。私は理緒の手を引きマンションに帰った。 「さーて、と‥」 私はキッチンで今夜の晩御飯の献立を思案していた。 すると ~♪ 携帯にメールが届いた。澪からの、仕事が定時で終了した旨のメールだった。 よーし、と私は腕まくりをした。 「‥」 ‥が、すぐ様子がおかしい事に気付いた。 リビングの、様子だ。 「…」 いつもなら理緒がレコーダーに撮っといたプリキュアやらをガン見してる時間なのだが。 ‥リビングが、静かだった。 「‥理緒ー?」 私がリビングに向かうと 「‥んー?」 理緒は、ソファで絵本を読んでいた。それはそれは珍しい事だった。 ‥私は、察した。 「理緒」 「なに?」 私はソファに歩み寄り 「‥おなか、痛いんだろ?」 理緒の頭を撫でた。 「…」 理緒は、無言で答えた。何も言わない時は、図星の時だ。 「‥まったく」 私は理緒の隣に座った。 理緒はすぐに私の膝に寝転がり、身を縮めた。 「‥りつ」 「ん?」 「おなかいたい…」 ちいさな、ちいさな声で白状した。おやつの時間のアイスの食べ過ぎが、今響いたらしい。 「ちょっと寝てな‥」 私は、理緒のおなかをさすった。 「いたいのいたいのー、とんでけー」 「…」 理緒は、無言で痛みに耐えているようだった。 一応、理緒の様子を澪にメールした。 メールを送信してから、晩御飯どうしよう、と思い出した。 …とりあえず、苦しむ理緒を寝かしつける事に専念した。やっぱ心配だし。 私と澪の髪を足して2で割ったような焦茶色の髪を撫でた。 見下ろす幼い横顔は、嫁の幼い頃にそっくりだった。 すー‥ すー‥ やがて、理緒の寝息が聞こえてきた。 「‥やれやれ」 私は理緒にタオルケットを掛け、晩御飯の準備を急ごうとした。 すると 「ただいまっ!!」 澪が勢い良く帰って来た。まぁ、心配になって急いで来たんだろう。 「しっ。さっき寝かしつけた所だから」 私は人差し指を立て、澪を制した。 「‥大丈夫、なのか?」 「‥多分。痛がってはいたけど、そのまま寝たから‥」 私は状況を説明して 「‥でさ、澪」 「ん?」 「晩御飯、作ってないんだわ…」 ポリポリ、と頭を掻いた。 「あぁ、そっか‥」 澪は、理緒に手を掛けてて晩御飯どころじゃなかった事を、すぐに理解した。 「‥出前、取ろっか?」 澪の提案に 「そうだな。そうすっか」 私は、たまにはイイか、と乗った。 「いつものそば屋さんのそば、食べたいな」 最近食べてないし、と澪は、希望を言いつつ理緒の元へ向かった。 「オッケー」 私は、冷蔵庫にマグネットで貼ってあったメニューを手に、リビングに向かった。 「‥気持ち良さそうに、寝てるな‥」 澪が、理緒の頭を撫でていた。 「あぁ‥」 私は、理緒を澪と挟む形で座り、テーブルにメニューを広げた。 「私、鴨せいろ食べたい」 澪はメニューを眺めて、即決した。 「りょーかい。じゃ、私はとろろ大盛りにするかな」 「大盛り?」 「うん。どーせ、食べてる途中で理緒、起きるし」 「そっか」 「じゃ、電話してくるわ」 「うん」 私は席を外し出前を注文して、メニューを冷蔵庫に戻し、リビングに戻った。 「‥理緒、まだ寝てる?」 「あぁ」 澪は、また理緒の頭を撫でた。 理緒は気持ち良さそうに、身体を捩った。 「ふふっ‥」 澪は、とても優しい笑顔を理緒に向けた。 愛娘を愛でる、母親の顔だった。 「理緒も、大きくなったよなー」 私は理緒の寝顔を眺めながら座った。 「ホントに‥ね」 澪はまた理緒の頭を撫でて、片方の手で私の手を握った。 「あぁ‥」 私は手を握って応えた。 私と、澪と、娘の理緒。家族、三人。 好き好きーって言ってばっかの高校時代もあったし。 二人の関係を現実的に考えた大学時代もあった。 …まさか、家族になって。子供も授かるなんて、思っても見なかった。 私も澪も、おそらく同じ事を考え、同じ事を思い。理緒の寝顔を眺めていた。 間もなく出前が届き。 案の定、食べてる最中に理緒が目覚め、私のとろろそばを一緒に食べて。 澪の優しい笑顔に見守られながら、どっちの量が多いだ少ないだでケンカになり。 食べ終わって、母娘三人でお風呂に入って。 浴室でまーた私と理緒がケンカになり。澪は優しい笑顔で見守って。 私と理緒は、ケンカ疲れで布団に入るなり、速攻で寝に入った。 …が、私はなんだかんだで大人なので。ぼんやりしながらも、起きていた。 布団には私、理緒、澪の順で川の字に並んで寝ていた。 「律‥」 「ん‥?」 澪は、左手を伸ばして私の右手を握り 「次は、理緒が起きてる時に一緒に頼もうな」 そば、と言って笑った。 「‥そうだな!」 私は、寝ぼけ眼で精一杯応えた。 「‥じゃ、また明日」 澪は私の今にも寝そうな顔を見て、笑った。 「あぁ…」 私は澪の手の温もりに包まれながら、落ちた。 我が家の一日が、終わる。 名前 コメント