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投稿日:2010/09/11(土) 02 13 04 最近、澪がおかしい。 ――― 「りーつぅー」ギュッ 「…おはよう、澪」 「えへへ、今日も律はかわいいなぁ」ギュー 「そりゃどうも、ところで澪」 「んー?」ギュー 「そろそろ離してくれないか?」 「やだ」ギュー 「このままだと学校行けないだろー?」 「やだ」ギュー 「馬鹿なこと言ってないで」 「やだ」ギュー 「………」ナデナデ 「…まったく、仕方がないな、律は」パッ 「いや私じゃなくて澪が」 「そんなことより律、準備は終わってる?早く着替えて朝食とらなきゃ」 「…あぁ、分かってる」 「うん、じゃあ早く」 「………」 「………」ジー 「………」 「………」ジー 「澪さん」 「なに?」ジー 「着替えたいんだけど」 「うん、早くしなよ」ジー 「あ、でも着替え自体はゆっくりでもいいよ。少しは時間に余裕あるし」ジー 「そうじゃなくて」 「なんだよ、どうしたっていうんだ」ジー 「ちょっと部屋から出てくれないか?」 「何年一緒だと思ってるんだ?恥ずかしがる間柄でもないだろ」ジー 「じゃあなんで凝視してくんの…」 「自意識過剰、だろ?…ま、まぁ律ほどのかわいさならそうなるのも…し、仕方ないって…わかるけど、さ?///」カァァ 「…うん、そうだな。とは言えそのままでいると律がいつか恥かくかもしれないし、今のうちに視線に慣れておく訓練も必要かな」 「だ、だから律!私の目なんか気にせず早く着替えを」 「着替え終わったから顔洗ってご飯たべてくる」 「ぁ…うぅぅぅ」グスン 「泣くなよ…」 ――― こんな感じだ。 ちなみに今のはもはや日常風景と化した私の部屋での朝の一場面。 かわいい幼なじみが毎朝起こしに来る、なんて人によってはたまらなかったりするんだろうけど…うーん。 まぁなんて言うかさ、二人っきりの時なら別に私は構わないんだよ。 最初はこんな澪の様子も私の部屋ぐらいでしか見られなかったしさ。 ただ、なぁ…。 ――― 「~♪」ギュッ 「みおー?さすがに学校まで手を繋いでいくのはちょっと…」 「なんだ。いつもは人のことからかうくせに、律こそ恥ずかしがり屋じゃないか」 「いや、なんかそれはズレてるような…」 「寝言言ってないで、ほら行くぞ」グイッ 「わっ、急に引っ張るな!っていうか離せ!」 「ふふ、照れてる律かぁいいなぁ」ギュッ 「ひ、人の話を聞けー!」 ――― 「結局教室まで手を離してもらえなかったでござる」 「朝からいいもの見せてもらいました」ツヤツヤ 「アツアツだね!」 「なっ…冷やかすなよ、恥ずかしいだろ///」 「どの口がいうんだよ…。大体、なんでお手々繋いで登校しなきゃいけないんだ!小学生かっ」 「まあまあ、落ち着いて?りっちゃん」 「いや、だって靴箱で靴はきかえた後までもだぞ!?なんか皆の視線が集まってたし…なんかよからぬ悪寒もしたし!」 「澪ちゃんファンクラブ大活躍だね!」 「活躍じゃねー!!」 「り、律…!」 「ん?」 「その…そんなに嫌、だったのか…?私は、てっきり、照れ隠しで嫌がってるふりしてるだけだと思ったんだけど」ウルウル 「へ?みおー?」 「ご、ごめん…!本当に嫌だったんだな…。ごめん…なさい。ぅ、う゛ぇぁぁ」ボロボロ 「わっ、え、あっ、その、別に嫌なわけじゃないぞー!ただ、うんアレだ。澪の言う通り恥ずかしくて!だから照れ隠し!な!?」 「ぅぅ…」グスン 「だ、大体私が澪を嫌がる訳無いだろー!?そうじゃなきゃ今の今まで一緒にやって来てないし!…だ、だからさ、もう泣き止めって…。本当に嫌なことなんてないし怒ってもないんだから、な?」 「……りつ!」ガバッ 「わぷっ」 「りぃつぅぅぅ」スリスリ 「澪…まったく」ナデナデ 「…結局泣かせちゃった」 「いいのよ唯ちゃん。そっとしておきましょう?」 「うん、それにしてもクラス中の視線が痛いねムギちゃん」 「気にしちゃダメよ。今を楽しむの。目に焼き付けるの。脳に刻み込むの。わかった?」 「私は別にいいや」 ――― それ以来、なぜか私は毎日澪と手を繋いで登校している。 あぁ、本当に嫌って訳じゃない。 むしろ… いや、それで…うん、もちろん部活中も。 ――― 「えっと、律先輩」 「あぁ、うん」 「いや、うんじゃなくて。私は今後一体どうすればいいんでしょうか」 「うん…なんていうかさ、ごめん。部長として謝っておく」 「………」スースー 「ほら、澪、おーきーろ」ユサユサ 「ん……りつぅ…」スースー 「練習…」 ――― ちなみにこの時は澪がソファーで擦り寄って来て、そのまま寝てしまったパターンだ。 しかもなぜか膝枕。 その後部活が終わるまで澪が起きることはなく、部活終了後は部長である私が一人最後まで残ってなんとか起こし、連れ帰った。 あと、ムギはその日完璧な笑顔を崩さなかった。 ――― 「なぁーみおー」 「ん?」 「最近どうしたんだよ」 「何が」 「いや、なんていうかさ、その…私にべったりっていうかさ…」 「へ!?え、そ、そうか?」 「うん」 「きき気のせいだろ、気のせい!」 「…そうかぁ?」 「うん、そうだ気のせいだよ。…だ、だって私はまだまだ物足りないし…///」ゴニョゴニョ 「ん?」 「ほ、ほら!馬鹿なこと言ってないで早く帰るぞ!」ギュッ 「わっ!だから急に引っ張るなって」 ――― …まぁなんていうかさ、人間の適応力ってのは侮れないもんで。 澪が私にべったりになって1ヶ月もする頃には周りにとってはそれが普通の光景になっていたみたいだ。 ――― 「なぁ律、この曲のここちょっと聴いてみてよ!あとこのお菓子すごくおいしいよ!ほら、口開けて!」 「わ、わかったから少し落ち着け」 「今日も幸せです」ツヤツヤ 「ムギちゃん最近肌綺麗になったね」 「あの、練習は…」 「あずにゃん、一旦お茶でも飲もうよ、ね?」 「でも…」 「いつもみたいにりっちゃんが澪ちゃん説得するまで待とう?」 「…そうですね、それしかありませんよね…」 「あーずにゃん!元気注入~!!」ギュウゥ 「きゃっ!…もう、私は元から元気ですよ」 「うふふ」 「あ、そうだった。律、実は今日家に親がいないんだ。少し不安だからさ…泊まりに来てくれない…?」 「唐突だな…いいけど」 「あ、ありがとー!」ギュウゥ 「ぅおっ。まったく…」 「幸せすぎてこわいわぁ」ポワポワ ――― しかし本当にどうしたっていうんだ澪は。 なにかあったのか? なにか隠してるのか? 澪の様子が変わってから今まで何度も聞き出そうとしたけど、その度にはぐらかされてきた。 一歩進んで追及することもできたのだろうけど、なんだか複雑な表情を浮かべてそっぽを向いてしまう澪にそれは酷な気がしてそこまではしなかった。 でも今日は久々の澪の家でのお泊り。 …そろそろ本当の所が知りたい。 ――― 「あ、そうだ。ご飯はどうする?」 「んー、澪はどうするつもりだったんだ?」 「私はスーパーでお弁当買う予定だったんだけど」 「弁当かぁ。 …よし、じゃあ私がなんかつくるよ。材料買いに行くか」 「え、本当!?」パァァ 「何がいい?大概のものならなんとかなるよん♪」 「あ、じゃあ…肉じゃが!」 「ん。じゃあ行きますか」 「うん! …ふふっ」 「どうしたー?そんなに私の手料理が嬉しいかー?」ニヤニヤ 「ああ!すっごく嬉しい!」 「お…おう」 ――― 「あの…澪さん」 「なんだ律?さん付けなんてらしくないじゃないか」 「そうだな。ところでなんでこの家には箸が一組しかないんでしょうか」 「実はうち、全員My箸使っててさ。エコってやつだよ。それで、パパもママも自分の持ってっちゃったんだよ」 「前泊まりに来た時にはたくさんあったぞ」 「気のせいだ。だから律、この箸を二人で使うしかないんだよ」 「なるほどな。私割り箸買ってくる」 「ま、待って律!それじゃエコにならない!」 「そうだな、じゃあ私はエコのために帰って食べる」 「ぁ…」ジワッ 「え」 「ご、ごめんなさい…!お願いだから帰らないでよぉ…りつぅ…」グスッ 「じ、冗談だって!何も泣くことないだろ…?」 「ぅぅ…だってりつ帰るって…」 「あーもう、帰らないから!な?」ナデナデ 「んぅ…ありがと」 「帰らないから、箸出してくれないか?」 「うん…ちょっと待ってて」 ――― 「ごちそうさま」 「お粗末さま」 「おいしかったよ律」 「ん」 「洗いものは私がやっておくから」 「いいよ、ついでだから私がやっとく。澪はお風呂にでも入ってて」 「!だ、ダメだ!!」バンッ 「ぅおわ!急にどうした」 「その…半分ずつ洗おう!」 「一緒に台所で、ってか?かえって効率悪くないか?」 「いいんだ、とにかく二人でやってしまおう」 ――― 「ふぅ、終わったな」 「あぁ。…律」 「なに」 「お風呂、一緒に入ろう?」 「子供かっ」 「いいじゃないか、たまにはさ」 「…狭いんじゃないか?」 「私たちなら大丈夫!」 「その自信はどこから」 「入ろう?ね?りつ」ユサユサ 「うーん」 「きっと楽しいよ!入ろ!」 「でもなぁ」 「入ろうよ…りつぅ」 「…はいはい」 「! じゃあ早く行こう!」 「あんまりはしゃぐと転ぶぞー?」 ――― 「かゆいとことかない?」ワシャワシャ 「んーん、気持ちいい」 「よかった。それにしても律の髪は洗いやすくていいなぁ。私は長いから大変で」 「大変でも、似合ってるからいいじゃん。黒のロングが似合うのは美人さんならではっていうしさ。私は似合わなさそうだもんなぁ」 「やっぱりイメージってのがあるんだろうな。でも私は…律はどんな髪型でも、か、かわいいと思う///」 「あ、…ありがと」カァァ ――― チャポン 「ふぅ…やっぱ二人だと狭いな」 「でも入れたぞ」 「そうだな」クスッ 「………」 「………」 「………」 「…なぁ、澪」 「うん?」 「そろそろ聞かせてもらってもいいだろ?」 「何を?」 「何って、澪ここ最近少し変だったろ。その理由だよ」 「変?変だった?」 「変だよ。…私になんだかべったり、って感じで」 「…気のせいじゃないか?」 「それこないだも言ったよな。毎回聞く度に似たような感じで。でも今回は逃げられないぞ」 「………」 「なぁ、教えてくれよ。何かあったのか?不安なことでもあるのか?悩みとかあるんなら直接言ってくれよ。…私たち親友だろ?もっと、頼ってよ…」 「…わかった。ちゃんと話すよ。その前に律、こっち来て、私に背中預けてよ」 「向き合ったままでいいだろ…?」 「やっぱり不安でさ、目を見ながら言い切る自信がない…」 「…わかった。これでいい?」 「うん。ごめんねりつ…」ギュッ 「わわっ、あててるのよ現象が」 「ふふっ」 「………」 「…律」 「…うん」 「律は私の親友、なんだよね?」 「当たり前だろ?私たちは幼なじみで一番の親友だ」 「ありがとう。…でもね律、私ダメなんだ」 「ダメってなんだよ」 「親友じゃダメなんだよ」 「それは…どういう」 「………」 「え…な、なぁ澪、私何かしたか」 「………」 「そ、そりゃ確かにからかい過ぎたかなとは思うこともあったけど、そんなに嫌だったのか?」 「………」 「お願いだから何か言ってよ…。私のこと、本当は嫌いになっちゃったのか…?」ジワッ 「…そうじゃない」ギュウ 「え…じゃあなんで」 「私が律のこと嫌いになるわけないだろ?私は嫌いな相手を家に泊めて、お風呂で抱きしめるようなことできないよ」 「みお…」 「逆なんだ。律が…私のこと嫌いになるかもしれない」 「え?なんで、そんなことあるはずないだろ」 「…私のこと、気持ち悪いと思うかもしれない。いや、きっとそう思う。それからもう親友じゃいられなくなって、お互い知らない人同士みたいになっちゃうかもしれない」 「………」 「それでもちゃんと聞いてくれる?…りつ」 「…うん」 「…ありがとう」 「………」スゥッ 「…私は!律のことが好きだ!友達じゃなくて、普通なら異性に抱くような意味で好きだ!」 「……!」 「…わかってるよ、私は変だ。だから、この気持ちを無かったことにしようとした。律に異様にひっついてたのも全部そのためだった」 「律にべったりになって、これはただじゃれ合いたいだけの子供みたいな気持ちだったんだって思い込んだり!律に熱を上げる自分を客観視して気持ち悪いって思い込んだり!」 「できることなら吹っ切ってしまいたかった!でも…できなかったんだよ…!」 「………」 「律に触れるごとに、律に寄り添うごとに、やっぱり好きなんだって思い知らされて…!」 「でもそれは絶対変なんだ…、おかしいんだよ…!」 「…だからりつ…」 「……っ」ドクン 「…私のこと、嫌いになって…?」 「私のこと気持ち悪いって言って、私のこと蔑んで、一生私のこと避けて」 「お願いだから、今すぐ私の腕を払いのけて、私から逃げ出して…!」 「………」 「りつ、お願い…」グズッ 「………」 「お願い、だからぁ…」ボロボロ 「………」 「…澪は私に、澪のこと嫌いになって欲しいのか?」 「…うん、そうだよ…。嫌いになって、私のこと突き放して…」 「澪。澪は、それでいいんだな…?」 「…うん」 「…わかった」 「…あ、ははっ…」グスッ 「………」 「澪、手どけてくれよ」 「あ…ごめんなさい。あんなこと、言って、勝手に、グスッ、抱き、しめたまま、なんて、ずるい、よね、本当、気持ち、悪いよね」 「…ごめんな澪」 「悪いのは、全部、私、だから、謝ら、ないで」グスッ …スゥッ 「ばいばい、りっちゃん」 ――― 思いもよらぬ形で私の疑問は晴らされた。 ここ一ヶ月の澪の行動全てにも納得がいった。 澪は苦しんでいたんだ。…私のせいで。 それは、できることなら助けてあげたかったよ。 でも私が澪を助けてあげることなんて、最初からできなかったんだ。 そして多分これからもずっと、澪は心のどこかに苦しみを抱き続けて生きていくんだろう。 そんな澪にしてあげられる最後のこと。 それはしっかりと私たち二人の関係を終わらせることだけだ。 私は膝を抱えてうずくまる澪に向き合った。 澪は少し顔を上げて、まるで光のない目を私に向ける。 そして私は最後の言葉を 「ばいばい、みおちゃん」 ――くちづけと共に。 ――― 「…っ 離して…」 「嫌だ」 「お願い…!」 「嫌だよ」 「なんで…よ…」 「仕返し」 「…! ご、ごめんなさい」 「なんで謝るんだよ」 「だ、だって、私がり…あなたのことを、勝手に…好きになって…、それで散々振り回して、そのせいで、あなたに嫌な思いをさせて、怒らせたちゃったから」 「私はそんなこと気にしてない」 「でも…仕返しって…」 「…!本当にわかってないんだな…!」 「な、何が…」 「…私は、私が怒ってるのは!お前が私の気持ち全部を無視して勝手に話を終わらせたことについてだ!」 「なんで自分のことばっかりなんだよ!なんで私の気持ちは汲んでくれないんだよ!」 「大体、一ヶ月もあんな状態が続いて!普通なら気味悪がって少し距離を置こうだとか考えるだろう!」 「それで私がお前と距離を置いたかよ!接し方をかえたりしたかよ!そうしなかったのはなんでだかわかってるのかよ!」ポロポロ 「あ…」 「好き、なんだよ…?私だって澪と同じ気持ちで…それが知られたら、嫌われるなんて思って、それを、抑え込んでさ…!」 「だから、仕返しだ。澪は私に嫌われたいって言ったけど、そんなの知らない…」 「私は勝手に澪のこと好きになる」 「嫌いになんかなってやんない」 「親友としての関係は終わっちゃったけど、澪はおかしいって言ったけど、そんなの、知らない。私は、新しい関係が欲しい…!」 「…ぁ…」 「だから澪、こっから先はちゃんと私と向き合って聞いてくれ」 「…うん」 「私は、澪のことが好きだ。大好きだ。だから澪…私の恋人になってくれ」 「……っ」 「…これから先、絶対不幸になるよ?」 「私にとっては澪といられなくなる方が不幸だ」 「皆から変な目でみられて、居場所がなくなるかもしれない」 「その時は私たちが一緒になれる所をさがそう。それが見つからない時は無人島でも探して暮らせばいい」 「そんなこと、できる訳ないよ…」 「わかんないだろ。なんせ私たちなんだから」 「なんだよそれ、ばか…ばかりつ」 「うん」 「ばか…ばか、ばか、ばか」 「うん」 「……っ」グスッ 「…りつ、大好きだ!」 「私の全部をあげるから、律の全部をちょうだい…!」 「うん。…ぅん」ポロポロ 「嫌だって言っても、私はもう絶対に律から離れないから…!」 「うん、絶対だぞ…!ぅああぁぁぁ」ボロボロ 「…泣き虫」グスッ 「だって、だって…!それに、み、おも、人の、こと、言えない、だろ?」グスン 「あ…ふふ」 「エグッ…えへへ」 「…それにしても、ちょっと温まりすぎたかな」 「でも、本当、に、よかった」グスッ 「…うん。ほら律、涙拭いて?」 「…スンッ」ゴシゴシ 「もう、大丈夫?」 「…ん。大丈夫」 「じゃあ、あがろっか」 「そう、だな。でもその前に」 「え?ぁ…」 ――終わりと始まりは、澪の味。 おわり いちゃいちゃしてるなぁと思ってたら泣ける話だったでござる。 -- 名無しさん (2010-11-20 23 30 18) 萌え&感動とか卑怯だお・・・良作乙!! -- 名無しさん (2010-11-21 22 36 42) な、なんだこの萌えパワーは・・・ -- 名無しさん (2011-08-14 18 17 02) なにこれ泣いた -- 名無しさん (2011-08-14 20 24 14) 良い話しだー!!(ただし二人は全裸です) -- 名無しさん (2012-11-13 10 30 40) 名前 コメント
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投稿日:2010/09/26(日) 16 28 21 香りのいい紅茶を楽しみながら、特に何をするということもなく、 私たちはいつもの放課後を過ごしていた。 仮にも軽音部という看板を掲げている以上、差し迫った目標が無くとも練習するのが 当然なのだけれど、お茶の合間に気が向いたら練習という毎日に、 いつの間にか身体が慣れてしまっている。特に今日は、普段から率先して練習に励む梓が、 クラスの用事か何かで、まだ部室に顔を見せていない。つまり、だらけた雰囲気に 歯止めを掛ける人間がいないのだ。故に、常にフリーダムな律や唯はもちろん、 それを諫める役目などとっくに放棄したムギと私までもが、楽器にさわりもせず、 各自思い思いに時間を費やしている、というわけだ。 律は持ってきた雑誌を読むのに夢中らしい。唯はといえば、鏡や手帳やその他の小物を、 出したり片付けたり並べたりぶちまけたり、私には意味不明に見える作業に没頭していて、 部室の中はそこそこ静かだ。私は、ちょうど書きかけの詞があったことを思い出し、 今のうちに書けるなら書いておこうと、取り出したノートを広げている。 なんとなく書けそうな気はするものの、ぴったりのフレーズを探しきれずに ひとり悶々としてきた頃、お茶のお代わりの準備にムギが席を立った。その動きにつられたのか、 手を止めて入り口の方を見ていた唯が呟く。 「あずにゃん遅いね。今日はもう来ないのかなあ?」 「そのうち来るだろ? ああ見えても、お茶とお菓子大好き人間だからな、梓は」 雑誌から顔も上げずに返答する律に、「それはそうだけど」と曖昧に微笑みながら、 唯は頬杖を突いた。あ、なんか浮かびそう。イメージ通りの言葉の欠片が、 すぐそこまで降りてきてる。私は、気合いを入れ直すべく、カップに残った紅茶を飲み干そうとした。 と、そのとき、おもむろに私の方を見て、唯が言ったのだ。 「ねえ澪ちゃん、――恋ってどういうものなの?」 「ぶーーーーっ!!」 口に含んだ紅茶も、手が届きそうだった詞の欠片も、すべてが一瞬にして飛び散った。 私の正面にいた律は、「きたねーな、おい」と、呆れて自分の顔にかかった紅茶を拭っている。 ごめん律、悪気は無かったんだ。 「で、どうしたんだ唯、いきなり。澪に恋愛相談でもしたいのか?」 律が話を向けると、小首を傾げて唯は、 「んー、だって澪ちゃん、かわいい詞とかいっぱい書いてるでしょ? その澪ちゃんを、 恋愛のエクスポートと見込んで、相談したいことがあるんだー」 エクスポートって何だエクスポートって。それを言うならエキスパートだろ、輸出してどうする。 「ていうか、唯、確認なんだけど」 ようやく、お茶と歌詞の噴出ショックから立ち直った私は言った。 「もしかして私をからかうために聞いてるのか? それとも本気で?」 「からかうつもりなんかないよ? 私の周りにいる人では、澪ちゃんが 1番恋愛関係に詳しそうだから、いろいろ聞いてみたかったんだけど……」 そこで律が、余計な茶々を入れてきた。 「唯、おまえ全然わかってないなあ。澪はこう見えても、恋愛経験なんかないんだぞ? だから、相談しても参考になる答えなんか返ってこないぞ?」 何を知った風な口を利いているのか、いつものことながら呆れてしまう。 律だって、恋愛経験なんか今までないくせに。 「唯、律の言うことなんか真に受けるなよ?」 軽く律を睨んだあと、私は唯に向き直り、 「場所変えるか? ここじゃ、誰とは言わないが邪魔が入りそうだからな」 有効なアドバイスができるかどうかはともかく、もし唯が真剣に何かを相談したいのなら、 こちらも真剣に応えないと失礼だ。それに、恋愛話に関するなら尚更、ここではやりにくい。 ちょうどムギが戻ってきたので、唯と話があるからと簡単に事情を告げ、ついでに、 律が邪魔しに来ないよう見張り役もいっしょに頼む。ふたつ返事で引き受けてくれたムギに 感謝しつつ、私たちはゆっくり話せる場所を求めて部室を出た。 実は律よりもムギの方が興味津々な顔をしていたという事実には、気付かなかったことにしておこう。 ■ 帰宅部組が残っているかと思ったけれど、3年2組の教室は無人だった。 内緒の話をするには好都合だ。 唯は自分の席に、その前の和の席に私が座り、取りあえず話を聞く体勢を取る。 「で、唯はどういうことを知りたいんだ? もしかして、……誰かに恋した、とか?」 「うーん、それがわかんないから澪ちゃんに聞きたかったんだよぅ」 迷子の子供のような情けない顔をしている唯がおかしくて、私はつい吹き出しそうになる。 なるほど。つまり、誰か気になる人が現れたのだが、それが恋と呼べる感情かどうか わからない、というところか。おいしいものとかわいいものが大好きで、 年令相応の浮いた話なんて唯には無縁だと思っていただけに、驚くというよりは 感慨の方が大きい。そうか、唯も立派に成長したんだ。 「そうだなあ。初めのうちは、恋かどうかなんて意識する必要ないんじゃないか? 私の場合は、その人に対する『好き』がどんどん大きくなっていったあとで、 ああこれが恋なんだ、恋に違いない、って思ったけどな」 「あ、やっぱり!」 頼りなさげな顔から瞬時に花が咲いたような笑顔に変わった唯が、身を乗り出して私に迫った。 「さっきりっちゃんが、澪ちゃんは恋愛経験ないって言ってたけど、ちゃんとあるんだよね?」 「そりゃあもちろん――」 ある、と言いかけて止まる。私がその人に抱く感情は、私自身は恋と信じて疑わないのだけれど、 世間一般の基準から見れば大きくずれている。だから語尾は曖昧になる。 「と、とにかく今は唯のことだろ」 わざとらしいのは承知の上で、私は話を元に戻した。 「唯自身はどうしたいんだ? その人を好きなことは確かなんだろ?」 「うん、好き。大好きだよ。笑顔とか仕草とか見てるだけで、すっごく食べちゃいたいくらい」 「食べたい……のか?」 まさか唯、人肉に興味があったのか? 神様、さっき「唯も立派に成長したんだ」と思ったことは 撤回します……。 「それとねえ、ずっと抱きついたり頬ずりしていたい、かな?」 「聞いてると、なんだかペットに対する愛情みたいだな」 「ペットかあ。うん、そうだね。強がったりもするけど、実は淋しがり屋な猫みたいな子なんだもん」 その人のことを思い浮かべているのか、唯は、見てる方が幸せになれそうな顔で笑っている。 「けど、猫をかわいがるのと恋とは、ちょっと違うんじゃないか?」 「じゃあ澪ちゃんは、好きな人のことどんな風に思ってたりするの?」 「私か? 私は、そうだなあ……」 目を閉じてその人のことを考えてみる。いつも適当で、強引だったり 子供みたいなところもあったりするけど、私のことは常に気に掛けていてくれる。 私の先に立ったり後押ししたり、憎らしいくらいに私のことがわかっている、 それでいて押しつけがましいわけでもない。 「何かをしてあげたいとかしてほしいとか、全然思わないわけじゃないけど……、 そばにいてくれるだけで満足かな」 「うんうん、それわかるよ。私も、いつもそばにいたいと思うなあ。 いるべき場所にその子がいないだけで不安になっちゃったりするし」 「その人といっしょなら、無理に構えたり虚勢を張ったりする必要なんかないんだ。 何ていうか……そう、私を肯定してくれるんだ、どんなときも。月並みな言い方だけど、 その人がいなかったら今の私はないと思ってるよ」 扉を開くことをためらう私に、世界は怖くなんかないと教えてくれた。 音楽も、音楽を通じて知り合った仲間も、その人の存在なくしては巡り会えなかった。 「だから、いつになるかわからないけど、次は私がその人の役に立てたらいいなって―― いやいやいや、だから、私のことはどうでもいいだろ」 気が付けば、語りすぎた私の顔を、にやにやしながら唯は見ている。 「いいなあ。大人の恋って感じだね、澪ちゃん」 「ち、違うだろ、今は唯の話をするのが目的なんだから。唯は、何かしてあげたいとか 思ったりするのか?」 「私? んー、何ができるかなんて考えたことなかったし、恋かどうかもわかんないのに 偉そうなことは言えないけど……」 虚空を見上げて数秒、唯の笑顔は子供っぽいものから緩やかに変化し、 思い浮かべているであろう人に向かって、愛おしむような視線を向ける。 「私は、壁になりたい、かな。好きな子にはいつでも笑っててほしいから、すぐ近くで、 その子を悲しませるものを跳ね飛ばすような壁になれたらいいな」 一瞬、唯の顔や手足が生えた壁が、「ふんすっ!」と鼻息荒く向かい風に立ち向かう姿を 想像してしまった。そんなシュールな絵も似合う反面、独特の感性で表現される唯の想いは、 春のように柔らかく暖かで、包み込まれる人を幸せにするに違いない。 ――唯、それは紛れもなく恋だよ。 「ねえねえ澪ちゃん、結局、私の『好き』は恋だと思う? 違うかなあ?」 「その答えは、唯のすぐ目の前にあるよ」 私は、既に決まっている私なりの回答を敢えて口にはしなかった。 他人に言われるより、自分で気付いた方がいいに決まってる。 「目の前……」 比喩表現を真面目に受けたのか単なるボケか、唯は視界のごく近いところを 凝視している。そして、さらりと言うのだ。 「澪ちゃんも、想いが通じるといいね」 「……」 私は1度も、自分の恋が片想いだなんて言ってないのに、しっかり唯にはバレているらしい。 まったく、唯の洞察力にはいつも敵わない。 「唯はまず自分のことに専念しろ。……私は、一方通行のままでいいよ」 告白なんてするつもりない。基本的に私を肯定してくれる人だから、想いを伝えても 完全に拒絶することはないだろう。逆に、そんな人だからこそ、私をあからさまに拒絶できずに 思い悩むという、苦しい立場に追いやってしまうだろう。私の大事な人を、 そんな目に遭わせるわけにはいかないのだ。 「澪ちゃん人気あるんだしさあ、片想いなんてもったいないよ? ていうか、 澪ちゃんが好きだってこと、その人もう気付いてるんじゃないのかなあ」 「まさか。いくら余計なとこだけ鋭い律でも、さすがに気付いてな――」 あ。……ちょっと待て。ナニヲイッタノ、ワタシ? 慌てて口を押さえたがもう遅い。 聞こえてしまっただろうか、ごまかすかしらばっくれるか。耳鳴りがしそうなくらい 頭に血が上ったまま恐る恐る唯の方を窺うと、満面の笑みで私を待ち受ける瞳に捉えられた。 「ゆ……い? なんか聞こえたか……?」 「はいっ、しっかりと聞こえましたー」 ……マズい。これは最高にマズい。背筋やこめかみやいろんなところを、 冷や汗が流れていく。 「頼む、唯、律には言わないでくれ。いや、律じゃなくても、誰にも言わないでくれっ」 「別にいいよ? そだよね、どうせなら自分の口でちゃんと言いたいもんね」 「そうじゃなくてっ!」 きょとんとした顔の唯を前に、言いたいこと、言わないといけないことが頭の中で整理できない。 「と、とにかく、律は関係ないんだ。あ、いや、関係ないっていうのは、私が一方的に想ってるだけで、 律はそういう趣味じゃないってことだぞ。だっておかしいだろ、同性が好きだなんて。 律はそんなんじゃないぞ、断じて。私がおかしいだけだからな?」 「澪ちゃん、落ち着いて」 「律に知られたらダメなんだ。今までどおりの友達ではいられなくなるし、もしかしたら、 律までみんなに変な目で見られるかもしれない。だから、頼む――」 「落ち着いてってば」 パニックのスパイラルに巻き込まれた私とは対照的に、唯は緩やかな動作で私の手を握る。 「大丈夫だよ、澪ちゃん。誰にも言わない。約束するよ?」 「……ホントか?」 「うん。それにね、――私も同じだから」 1度、更に力を込めて私の手をギュッと握り、 「そろそろ部室戻ろっか? あんまり遅いと、りっちゃんたち心配するよね」 唯は、私の不安も何もかも包み込むような穏やかな笑みで、私の手を引いて立ち上がった。 ■ 私たちが部室に戻ると、遅れていた梓は既にギターを抱えて練習に励んでいた。 唯を見るなり、「自分だけが練習しないならまだしも、澪先輩まで巻き込んで……」と、 少々ご立腹のようだ。まあ、その程度のお叱りで唯が動じるはずもないが。 唯が誰にも言わないと約束してくれた以上、私はそれを信じるしかないけれど、 そこはやっぱり気になるのが当然で、ベースを持っても練習に身が入らない。 そんな私の様子を見てとったのか、普段よりは早めの時刻に、律が「今日はもう解散!」の号令を発し、 部活終了となった。 ベースを片付けながらも、ついつい唯を気にしてしまう。律にバレては困るのはもちろん、 唯自身も私のことを異常者だと思ったかもしれない。 「あ……れ?」 ふと、さっきは自分がパニクっていたせいで聞き流したやり取りを思い出した。 確か唯は、「私も同じ」だと言ってなかったか? あれはどういう意味だ? 「ほれ、帰るぞ澪」 軽く後頭部を叩かれ我に返った。見れば私以外のみんなは帰り支度を済ませている。 「う、うん。ごめんごめん」 慌てて手早く片付けを済ませ、みんなを追うように私も部室を後にした。 とりとめのない話をしながら歩くみんなから遅れること数歩、私は無言で考えていた。 唯は、私の恋する相手が律だとバレて慌てていたときに言ったのだ。 「私も同じ」だと。ということは、まさか唯も律のことを? 「いやいやいや、それは違うだろ」 そうじゃないとすれば、唯の好きな相手も同性、女の子だということか? そういえば唯は、「実は淋しがり屋な猫みたいな子」と言っていた。今になって考えれば、 その表現は女の子に対する形容である方が無理がない。 では、やはり……そうなのか? 前を行く唯の、華奢な後ろ姿を見つめた。日頃から悩みなんて無さそうな顔をしているのに、 唯は唯なりに、いろいろなものに立ち向かって生きてるのかもしれない。 ――もちろん、実際には何も考えてないという可能性もあるけれど。 いつもの信号で、私たち5人は二手に分かれた。 「また明日なー」 「はい、お疲れ様でした」 明るく手を振る唯たちを見送り、律と私は再び歩き出す。 「で、唯の恋愛相談はうまくいったのか?」 前置きなしに、律が言った。唯と私が部室に戻ってもその話題に触れてこなかったから、 忘れてるんだとばかり思っていたのに、敵はしっかり覚えていたらしい。 「しっかしあの唯がなあ。まあ高3にもなれば色気づいても無理ないか」 「おまえ、おもしろがってるのか真面目に心配してるのか、どっちなんだ?」 「それはもちろん、おもしろがってますわよ?」 口ではいい加減なことを言ってるくせに、いざというときには頼りになる律だから、 唯の恋も実は応援したいのだろう。 「……あ」 しかし、厄介なことがひとつ。もし唯の好きな相手が同性だと知ったら、 それでも律は変わりなく唯のことを応援するだろうか? 嫌ったり仲間はずれにまでは しないにせよ、偏見を持たずに唯を見守ってくれるだろうか? 心持ち足取りが重くなった私は、律の後ろ姿を見つめて歩いた。律なら大丈夫だと思うけれど、 冷静に考えれば、大丈夫と言い切る確証なんてどこにもないのだ。 「澪、どしたー? 唯の相談相手で疲れたのか?」 遅れ気味の歩調に気付いたのか、律は振り向いてこちらを見る。しばらく無言で、 私も律の顔を見つめた。さりげなく私を気に掛けてくれるから、 不安なときはいつも律に頼ってしまうんだ、私は。 「なあ律」 「んー?」 「あのさ、……唯のことなんだけど」 律がどういう反応を見せるか怖くて、私は視線を逸らして言った。 「もし――もし唯の好きな相手が、ホントは好きになっちゃいけない人でも、 律は反対しないか? 唯のこと信じて応援してやれるか?」 「は? なに言ってんだ?」 「だから、唯の相手がどんな人間でも、律は唯を否定したりしないか?」 我ながらわかりにくいと思うけれど、洗いざらい真実をぶちまけるわけにいかず、 結果として質問のピントが曖昧だ。それでも、私は律にすがりたかったのだ。唯を否定しないでと。 そして――これは言ってから気付いたのだが――唯と同じく同性を好きになった私を否定しないでと。 しばらく不得要領な表情で私を見ていた律は、ふっと柔らかな微笑みを見せた後、 勢いよく笑い飛ばした。 「なーにバカなこと言ってんだよ。ほれ、行くぞ」 私の肩をポンポンと叩き、続く動作でそのまま私の手を握る。 「否定なんかするわけねーし? 危なっかしいことばっかしてるけど、ああ見えても唯は、 間違ったことはしないってわかってるさ。それに、相手の方だって十分しっかりしてるしな」 「……そっか」 律に手を引かれ、私もゆっくりと歩き出した。そっか。聞くまでもなかった。 人一倍みんなのことを見てる律が、仲間を否定するわけなんてないんだ。 と、引っ掛かる台詞が律の口から出たことが気になった。 「あれ? 律、唯の相手が誰だか、唯から聞いてるのか?」 「ん? いや、唯からは聞いてないけどな。んなもん、誰でも知ってるだろ? 知らないのは澪と、あとは相手本人だけじゃねーのか?」 え……。そんなに知ってて当然の秘密だったのか? もしかして知らない私がおかしいのか? 「じゃあムギも知ってるのか?」 「そりゃあ知ってるだろうな」 「梓も?」 「あ……?」 虚を突かれたような表情で、律の足が止まる。そして思い切り吹き出して言った。 「あー、梓は知らねーだろな、うん」 何がおかしくてたまらないのか不明だけれど、律は笑いをこらえるのに必死だ。 「なんだ律、『誰でも知ってる』なんて大げさなこと言ったくせに、 梓だって知らないんじゃないか」 「ごめんごめん、まあとにかく、澪が思ってるよりずっと、実はみんな恋をしてるってことさ」 「意味がわからん。っていうか無理にいい話系に持って行こうとしてるだろ?」 私は、呆れた風を装いながら、律の横顔を見た。命短し恋せよ乙女というけれど、 確かに命と比べたら、恋が成就するまでの時間は果てしなく長い。そしてもちろん、 成就するとは限らない。 ――ま、しょうがないか。好きになったのは私の勝手だからな。 取りあえず今は、横に並んで歩けるだけ歩いていこう。それではダメだと自覚したときに初めて、 私の恋は恋と呼べるものになるのかもしれない。 -終- 澪が本当に律の事が好きだっていうのが凄く伝わってきた… -- 名無しさん (2010-12-15 00 36 50) 名前 コメント
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今日は大好きなあいつの誕生日! というわけで、ちょっとしたプレゼントをもってそいつんちに突入したわけだ 「みーおー!」 「ん。どうした?」 どうした?って!まさか忘れてるわけじゃあるまいなー 「これだよ、これこれ!」 これ見よがしに綺麗に包装された箱を見せてやると 「え?なんだそれ」 なんてごまかそうとしちゃってる けど、顔が真っ赤で口調も覚束なくなって・・・ 照れてるのがバレバレなんだなこれ。わかりやすい子でちゅね そんなこんなで澪の部屋にお邪魔して プレゼントを見せてやることにした。 「ほい!じゃあ開けていいぞ」 「うん。その前にお茶入れてくるな」 「何いってんだ!今日は澪の誕生日だぞー!私が入れてくる!」 「そうか?」 澪の家で私がお茶入れるってのもなんか変だけどな。 二人分お茶を用意したらまた澪の部屋に戻り、プレゼント発表のコーナーに戻る 「そいじゃーこのプレゼントをー」 「ちょっと待て・・・律」 「なんだ?」 「んと・・・こっちおいで。」 言われたとおり澪に近づくと、あろうことか私を抱きかかえ膝の上に置きやがった! 私は子供か! 「おいー!なんだー、なにすんだよー!」 「えっとね・・・今日はなんか、律がほしい気分。」 な、なにを言い出すか!自分じゃわからないけど 顔が真っ赤になるような感覚に襲われる 「困るってそんな・・・プレゼント用意したのに」 「ごめんごめん、それじゃ開けて?」 「え?」 「お前を抱きかかえてるから両手ふさがってるの。だから開けて?」 なんだろうこれ・・・澪にあげるプレゼントを、澪の膝の上で私が開けるって 私がもらっちゃったみたいでいささか恥ずかしい。 仕方ないのでそのまま箱の中身 澪の最近はまってるアーティストのアルバム、ピック3枚、んでもって安物だけどペアリングを渡してやった 「結構気の利いたプレゼントだなぁ」 「その鼻にかかる言い方、すなおじゃないねぇ」 「なんだよ?すっごく嬉しいぞ!」 そういって私を抱きしめる手を強めた。 なんというか・・・今日の澪おかしいというか・・・誕生日で舞い上がってるのか? 機嫌良すぎる感じがする 「そうだ、パパが買ってきたケーキ、律も一緒に食べよ!」 「え、いいのかー」 「うん!結構あって三人じゃ食べきれないから!あ、それじゃ・・・」 「このペアリングも付けて・・・律も付けてるか?」 「お、おう!ほれ!」 「おー!これでおそろいだな!じゃ、早く下いこ!」 そういって私の手を引き部屋を後にする・・・ やっぱりおかしいけど、たまにはこういう澪を見てるのも楽しいかな。 彼女が一つ大人になっても、その子供のような笑顔をいつまでも見ていられる 私はきっと幸せ者なんだろーな -------------------------------- 澪ママ「パパ?このケーキちょっとお酒入ってない?」 澪パパ「そういえば確かに・・・弱い人は酔っ払っちゃうかもしれないな。」 澪ママ「澪ちゃん大丈夫かしら」 澪パパ「はは、酔っ払ったってりっちゃんがいるじゃないか。」 澪ママ「それもそうね。うふふ」 おわり 名前 コメント
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8月21日。今日は私の誕生日。 みんなが澪の部屋でパーティーを開いてくれてお開きになった後、私は澪の部屋でみんながくれたプレゼントを眺めていた。 「りつー」 私の後ろで寝転がってるはずの澪の声がする。 「りつってさー」 「んー?」 「私に会えてよかった?」 なんだ?ノロケか?それともめんどくさい病か? ちらりと振り返ると顔をうつぶせにしてる。どうやら後者らしい。 「どゆこと?」 「私は律に会えて本当に、心からよかったと思ってる。神様が私にくれた、最高のプレゼントだって思う」 「律に会えなかったら、人見知りで内向きで、本ばっかり読んでて、外にもほとんど出ない暗い子になったと思う」 「そうか?」 「律のおかげで180度人生を変えられたんだ。ありがとう」 なんともむずがゆい。どう反応したらいいのか分からなくて黙ってると、 「でも」 と続いた。 「律は、私に出会えてよかった?」 とりあえず全部聞こうと思って、黙っておく。 「律は小さなころから明るくて、元気で、友達がいっぱい居て。ムードメーカーで。誰にでも話しかけられて、かっこよかった」 「人を惹きつける力があって、一緒にいたらとても楽しくて。私もすごく楽しくて・・・・・・。 でも、私はそんな律に、何をしてあげられたのかな」 「私が側に居なかったら、違う出会いがあったんじゃないかとか」 「私のせいで・・・我慢したこともあったんじゃないかって」 そこまで言ったところで泣き出した。 やれやれ。ホントめんどくさい。まあ、そこが大好きなんだけど。 「忘れたのかー?好きな子にちょっかい出したって。私から澪に近づいて言ったんだから澪は何にも悪くないじゃん」 「明るくて元気があるのは認めるけどさ、それは澪が側に居てくれたからだし。澪がいなかったらみんなとバンド組めなかったんだぞ?」 「それに、ほら。勉強とか。めっちゃ澪に頼ってたし。受験勉強だって自分のことそっちのけで教えてくれただろ。おかげで一緒の大学行けたんだ。澪には感謝してる。なっ?澪のおかげで私の人生いい事尽くめじゃん?」 澪の背中をさすってやると小さく震えた。 「澪を不安にさせたことは謝る。でも、澪だってそうだぞ?いつも私ばっかり・・・」 そこまで言って気がついた。もしかして・・・。 「もしかして、澪のほうから言ってくれなかったり、シてくれなかったのも・・・・・・」 「・・・・・・律の足手まといになりたくなかった」 マジかよ。別れること考えてたなんて・・・。最低な誕生日だ。 「ちょっと、ほら。起きろ!」 嫌がる澪を無理やり座らせてこちらを向かせる。 「私は澪の側に居たい。誰よりも好きだって言い切れるし守りたいし。それが私の本音だし、夢であって、何を捨てても叶えたいって思ってる。 でも、それが一方通行だったらどうしようもないよ。叶いっこないんだから。 気持ちを聞かせてよ。澪は私のためだったら、私と別れてもいいって思ってるの?」 「ちがう」 大きな瞳からぽろぽろ涙をこぼしながら首を振った。 「ちがうよ。私も律と一緒に居たい。いつまでも、いつまでも。毎晩、そう願って眠ってた。でも、怖かった。ずっと怖かった。女の子同士だもん。もう私たちも大学生だよ?いつまでも社会の目を背けていられるわけにはいかないってわかってる。唯たちが認めてくれても世間はそうじゃないよ。私のせいで律が傷つくかもしれないなんて耐えられないよ」 「耐えられる!」 澪の目を見て叫んだ。必死だった。驚いた彼女の瞳から涙がパッ飛び散った 「澪が側に居てくれたら耐えられる。私を信じろ」 そのまま澪を思いっきり抱き寄せた。いつの間にか汗だくで、彼女の体はすごく熱かった。 「世間知らずの私だけど、この気持ちは絶対に変わらない。澪が好きだ。本気だ。」 届いてよ。一番伝えたい想い、もっと早く伝えなきゃいけなかった想いなんだよ。何度でも言ってやる。 どうして、今日澪がこんなこと言い出したのか、今わかった。 今までのズルズルした関係を清算して、ゼロから考えたかったんだと思う。 文字通り、生まれ変わるかのような。未来に向けて。 背中に手が回った。 「すき・・・大好き、だよ。律。生まれてきてくれて、本当にありがとう」 キスしてるときよりもシてるときよりも、本当の意味で今この瞬間、澪とひとつになれた気がした。 神様。ありがとう。最高のプレゼントをありがとう。 名前 コメント
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「はー…なにやってんだろ」 もう今日だけで数え切れないほどのため息と、繰り返す罪悪感。 今週立て続けに自分の凡ミスのせいで仕事が回らなくなった。 せっかくの週末を喜ぶ気力もなく、来週明け早々取引先に頭を下げに行かないといけない。 「学生時代に戻りたいなぁ」 勉強しなかったら自分に降りかかってきただけなのに、今は職場のみんなと取引先、さらに向こうに広がるお客様にまで広がる、プレッシャー。 アパートに帰る間に一人また一人と同じような背中の会社員たちと別れてく。 いつの間にかすっかり体に馴染んだスーツからぶら下がる鞄には、持ち帰った仕事。片手にはせめてもの慰めで買ったケーキ。 ダメだダメだ。 アパートの階段を登る直前、気合いを入れなおす。家には笑顔で帰るんだ。 「ただいまっ」 「おっかえりー!」 エプロン姿の律がいそいそと迎えてくれて、靴を脱いでる間にかばんを持ってくれた。 「お疲れ様。お風呂温めなおしてくるから休んでて」 「うん」 顔に出さないようにしてたけど、やっぱり律にはバレちゃう。今は律の出来立てのご飯よりも、心を切り替える時間が欲しかった。 湯船に浸かりながら盛大に大きな息を吐きながら、週明けの段取りを考える。これ以上職場の仲間の足を引っ張っちゃダメだ。自分で何とかしないとな。 上司に叱られて、同僚に励まされて…。 ポツッ 誰にも見られてない環境になった途端急に溢れてきた。 浸かっている湯船よりも熱い涙が、頬を伝って落ちていく。 律に聞かれないよう湯船にお湯を足しながら、心の整理をする。 がんばらないと。律のためにも。 誓ったんだ。律が側にいるならがんばれるって。 鏡で目が赤くなってないことを確認して時計を見ると、もう少しで日付が変わる時刻になっていた。今日最後のつもりで大きく息をついてキッチンに戻る。 テーブルに律が突っ伏して寝むたそうにしていた。 「…おっ出てきた」 と、立ち上がってコンロの火をつけようとする。 「いいよいいよ、自分でするよ」 「すぐにできるから」 と、冷蔵庫からタッパーを取り出してくる。 「…先に寝てて良かったのに」 「まだ食べてないもん」 絶句する私にニコッと振り返る。 「澪、ひとりでご飯食べるのさびしいだろ?」 この時、私に起こった感情をどう表現したらいいのかわからない。 どんな慰めや励ましよりも律の言ってくれたその一言が、私の胸をいっぱいにして、涙が止まらなくなった。そんな私を、律がぎゅっと抱きしめてくれた。 「みーおっ。だいじょうぶだよ」 律が愛おしい。おそらく今日始めてかもしれない笑顔を浮かべて私は頷いた。 終 澪には律が必要で律にも澪が必要なんだよねー -- 名無しさん (2012-10-28 16 06 14) 名前 コメント
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投稿日:2010/11/03(水) 16 40 59 律が風邪をひいた。 「今日の練習どうします?」 人一倍、元気で明るい律。 だけど、その実アイツは身体が弱い。 「りっちゃんいないとつまんなーい」 「じゃあ、今日はお休みにした方がいいかしら。澪ちゃんもあんな状態だし」 「今日は澪ちゃん、心ここにあらず! って感じだったもんね」 「唯先輩、その言葉の意味分かって言ってますか?」 「失礼な。それぐらい私にだって分かるもん!」 特に、こんな寒い日。 どこか、心がセンチメンタルになるような、こんな日。 「……結局、中止になっちゃったな」 『澪ちゃん、これりっちゃんに持っていってあげてね』 ―――えっ。みんな来ないのか? 『律先輩にとっての一番の元気の源は澪先輩ですから』 『それに、みんなで行ったらりっちゃんも落ち着けないだろうし』 『澪ちゃん、りっちゃんによろしくー!』 そういえば、一人で帰るのは久しぶりだな。 いつも隣に喧しい奴がいたからな。 そんなことを考えているうちに、目の前には田井中家。 勝手知ったる第二の私の家。そう言っても過言ではないだろう。 けど、親しき仲にも礼儀あり。 お邪魔しまーす。と、一言。 「あれ、澪姉」 「よ、聡。早いな。部活は休みか?」 「ああ、今日は父さん遅いからさ。姉ちゃんの看病をしようと思ってサボってきた」 「そうか。お姉ちゃん思いだな。聡」 「いや……まあ、あんなんでもたった一人の姉ちゃんだしな!」 聡のこういうところはよく姉の律と良く似ている。 正面からの素直な褒め言葉には弱いのだ。 ふふ、何だか微笑ましいよな。 「けど、澪姉が来てくれたなら大丈夫だね。俺、今からでも部活行ってくるよ!」 「ああ。いってらっしゃい」 少しドタバタと忙しなく部活へ行く準備をする聡。 それだけ、部活が好きなんだな、というのが伝わってくる。 でも、そんな部活をサボってでも看病をしようとした聡は、 本当に姉のことが好きなんだろうな。 トントントン……。 階段を静かに上がって、律の部屋の目の前まで来た時。 『みおー?』 どこか気だるそうな、そんな声が聞こえた。 「超能力者か」 「分かるよぉ。澪の足音は」 「……このやり取り、一年前にもやったよな」 「んー?忘れた」 「おい」 まだ体調が本調子じゃないせいか、重たそうな瞼を半開きにしながら、 疲れの抜けていない表情をしていた。 「よく寝れたか?」 「……いや、少しも寝れなかった」 ……そんなことだろうと思ったよ。 それから少し、他愛のない話をした。 「みんな心配してたぞ」 「ん、そっか。悪いことしたな」 「だから、しっかり寝て早く治せよ。今日、泊まってってやるから」 「……みおー?」 「ん?」 「へへ、呼んだだけ」 「りつ、」 「なに?」 「呼んだだけ」 「……へへへ、そっか」 「そうなの」 「……なあ、澪?」 「何だ?」 「……キス、して」 い、いきなり何を! 「あ、風邪移っちゃうかもだから、今のなし! 忘れてくれ!」 「……」 「み、みお? んっ…」 「これでいいか?」 「お…おう。ばかみお…」 リクエストに応えてやったのに、馬鹿と何だ、馬鹿とは。 わ、私だって恥ずかしいんだぞ。ばかりつ。 「さ、キスしてやったんだから少し寝なさい」 「へへ、澪、お母さんみたい」 「……馬鹿なこと言ってないで寝ろ」 「はーい、澪お母さん」 「ばか」 「ん、ちょっと寝るわ」 「そうか、おやすみ」 「おやすみー」 数分もしないうちに、すうすうと静かな寝息。 くしゃ、とカチューシャのない前髪を撫でる。 甘えたい時には、甘えて、寂しい時には、私を頼ってくれよ。 りつ、そこがお前の悪い癖だ。自分の弱いところは見せない。 起きたら、少し叱ってやらなきゃな。 「………ん…、み、お」 寝言、か。 ったく、ばかりつ。 さて、夕食の準備でもしますか。 ……あ、そうそう、言い忘れてたよ。 律―――。 「あいしてる」 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/mioritsu/pages/483.html
木の板と、羽の先の木の実がぶつかる音。 小さな公園で、私と澪は羽つきをしている。 現在、12月。 軽く部屋の掃除をしていた。流石の私も、部屋の片付け位はする。 押入に色々詰め込んでいたら、古臭い箱が見つかった。 見覚えがあるような無いようなその箱を開けたら、中身は羽子板と羽根。 眺めていたらやりたくなったもんだから、携帯電話に手を伸ばした。 「羽つきをしよう!」 『急になんだよ……っていうかまだお正月じゃないんだけど』 分かってないなー澪は。 私は、今、羽つきがしたいんだ! 「掃除してたら出てきた!やろう!」 『あのなぁ。……掃除は終わったのか?』 「澪が羽つきやってくれたら掃除の続きする!」 『…………分かった』 電話の向こうで『やれやれ』という声と共にため息。 断ってもいいだろうに律儀に付き合ってくれるのが澪のイイトコ。にへへ。 「んじゃ、すぐそこの公園集合な!」 『はいはい』 電話を切って、出かける準備。 部屋は掃除する前より凄いことになってるけど気にしない。 今は『公園で澪と羽つきをやる』これが最重要事項。 お、そうだ。……羽つきっていえば、やっぱアレは必要だよな。ふふふ。 羽子板、羽根、そしてアレを持って私は家を飛び出した。 「遅いぞ、律」 「澪が速いんだよ」 公園に着くと澪のほうが先に着いていた。 カバンから羽子板を取り出すと、澪が呟いた。 「へぇ、懐かしいなぁこれ」 「あれ。澪は見たことあったっけ」 「お前な……小学生の時にやっただろ」 「そだっけ」 言われてみれば、そんなこともあった気がする。 「たしかあの時は、私が勝って律の額にウサギのマークを……」 ……思い出した! バカとか書かれたほうがマシってくらい可愛らしい落書きをされまくったんだ。 何故、忘れていた私。あの屈辱を。 「ぃよっし!!小学生の頃の恨み、今ここで晴らしてくれる!」 「忘れてたくせに。……いいぞ、今度も私が勝つ」 「にゃにおう!……あ、もちろん負けたら墨で落書きのバツゲームな」 「えっ」 「羽つきつったらコレだろ!」 そう言いながらカバンの中から筆と墨を取り出す。 とたんに澪の顔が青ざめた。流石に持ってきてないと思ったんだろう。 残念でした!へっへーん。 「おやおやぁ?怖気付いたのかな澪ちゅわん」 「んなっ!そんなわけないだろ!……今度は額に何を書いてやろうかな!」 澪は負けず嫌いだから、煽れば簡単に引っかかるから面白い。 さぁて、準備は整った。 「いざ」 「「勝負!」」 久しぶりにやってみたけど、結構簡単にできるもんだ。 「よっと。……律、上手いな」 「澪もな!っと」 勝負とか言いながらお互いに取りやすいところへ打ち合っている。 だって、なんか打ち合うの楽しいんだもん。 このままずーっとやってたい。そんなふうに思っていた。 「隙あり!」 「あっ!澪、お前っ!」 裏切りやがったー!! 私の左斜め下を狙い綺麗に打ち付ける澪。やりやがったなコノヤロウ。 …………とどけ! 「あ」 澪が小さく呟いた。 「へっへっへ、私の勝ちだな!」 私が打ち返せると思っていなかった澪は、油断して羽子板を構えていなかった。 結果、私の打ち返した羽根は澪の足元に転がっている。 「ばぁつげぇーむ!」 「い、いやああああ!」 筆と墨を手にして叫ぶ私と、逃げようとする澪。 おやおや裏切っておいてそれはいけませんなぁ澪さんや。 「先に仕掛けてきたのは澪だろ~?」 「……わかったよ、さっさとやればいいだろ!」 澪は案外あっさりと観念して近くのベンチに座った。そういうところは潔いなと思う。 さぁ、なんて書いて差し上げましょうかねぇ。うへへ。 ニヤニヤしながら澪のいるベンチへ近寄り、向かい合う形になる。 澪は、目をぎゅっと瞑り、恥ずかしさから若干頬が赤らんでいる。 ……なんか。まるで、キスでも待ってるって顔。 澪の頤をつかみ、少し上を向かせる。 一瞬、澪はビクリと震えたけど、そのまま目は瞑ったまま。 しばらくそのままどうしようか考えていると、痺れを切らした澪が呟く。 「は、はやくしろっ」 今から落書きされるって思ってんだろうなあ。 私も最初はそのツモリだったんだけどなあ。 でもこれは絶対澪が悪いと思うんだよなあ。 うん、絶対澪が悪いな、私は悪くない。 結局、澪の顔に落書きがされることはなかった。 代わりに、私の頬に真っ赤なモミジ。おーいてぇ。いいじゃんちょっとくらいさぁ。 「外ではダメってアレほどっ!」 「だって澪ちゅわんが早くしろってオネダリするからぁ」 「なっ!ちがっ!ばか!!」 おわる。 ヒューヒュー -- アクティブ (2012-03-06 04 57 16) 名前 コメント
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投稿日:2010/11/23(火) 11 23 17 律「みおーお昼ごはん何食べたい?」 澪「律がつくってくれるならなんでもいい」 律「何でもいいが一番困るんだよなあ」 澪「でも…」 律「ん?」 澪「デザートは…パイナップルで…」 律「おっお昼ごはんつくってくる////」 11月23日いい夫妻の日11 23秋山家のそんなひと時 澪「りーつ」 律「わっなんだよ澪!今料理してんだから邪魔するな」 澪「えい」 律「わっカチューシャとるな!料理しづらいだろ!」 澪「いーからいーから。ほらパイナップル~」 律「人の髪で遊ぶな~」 澪「いいだろ。律だっていつも私の髪で遊ぶじゃないか」 律「そっそれは澪の髪が大好きだから…」 澪「ありがとところで律、さっき、デザートで勘違いしただろ?」 律「えっ」 澪「こないだもらったパイン缶のこといったんだけどな~」 律「むー」 澪「むっつりつ~」 律「…澪のカレーだけ激辛にしてやる」 澪「えっごめん律、許して」 律「しらーん」 澪「ほんとうはさっきの勘違いじゃなかったりして」 律「/////////」 11月23日11時澪分秋山家台所でのそんなひととき 澪「あのー律さん?」 律「なんでしょうか澪さん」 澪「なんで私のカレーだけ色が違うんでしょうか?」 律「秋山律特製カレーだからな」 澪「ルーが真っ赤なんですけど…」 律「りっちゃん特製スパイス入りだからな。澪への燃える愛情のごとく!」 澪「普通でいいです。替えてもらえませんか?」 律「えっ…みお…私のカレー食べてくれないの…?」 澪「くっ、卑怯だぞ律」 律「聞こえませーん」 澪「食べればいいんだろ!食べれば!…ぱくっ…あれ?普通においしい…」 律「だろー。私が澪にそんな意地悪するわけないじゃん」 澪「いつもするだろ」 律「さっ、それ食べたらでかけようぜ」 澪「ごまかすな。まったく。で?どこ行くんだ?」 律「まずは楽器屋だな。それからゲーセン行こうぜ」 澪「変わりばえしないな。」 律「いーじゃんいーじゃん。安上がりだし、楽しいだろ」 澪「お前と一緒だからな。ついでに帰りに夕飯の買い物もするか」 律「もー澪しゃんたら。まだお昼ごはん食べてるとこなのにもう夕飯の 話なんて、食べることばっかり。そんなんだから体じ」 ガツン 澪「いーからさっさと食べて出かけるぞ!」 律「…はい」 11月23日毎日がいい夫妻の日の秋山家でのそんなひととき それではみなさんもよいいい夫妻の日をお過ごしください。 名前 コメント
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投稿日:2010/09/26(日) 23 44 03 澪はああ見えて甘えるということをしない。 いや、一見するとクールな彼女だから甘えるという行為は似合わない気もするが 実際は怖がりだし気の弱いとこがあって、そんな中身を知っているからこそ意外に思えるのだ。 それは恋人同士であってもかわらない。 澪は私に甘えてこないし、だいたい私から澪にくっついていくのがパターン化している。 私はというと(自分で言うのもなんだが)人懐っこいしスキンシップも多いほうだ。 もともと甘え上手なのかもしれないが、 こと澪に関しては、風邪を引いて迷惑をかけた一件以来素直に気持ちを伝えられるようになった。 たいして澪は、私が手を握ったら握り返す、私が抱き締めたら同じように腕を回してくれるくせに 自分から抱き締めてくれたことはない。 それがなんだか面白くなくて、なので最近は一緒にいても余計にモヤモヤするばかりだ。 それでも今日も結局一緒にいるんだけど。 澪はベッドを背もたれに、なにやら熱心に雑誌を読んでいる。 私はそんな澪をベッドの上から観察していたけれど、澪はそれに気付いていないようだ。 真剣な後ろ頭がかわいいぞー澪ー。 しかしいつまでも構ってくれないのは悔しいので、ポンポンと澪の後頭部を軽く撫でてみた。 「なんだよぉ」 澪が雑誌を閉じてこちらを向く。 さて、モヤモヤを晴らすには本人に直接ぶつけてしまうのが一番だろう。 「澪しゃんに話がある!」 「そんな大声出さなくても聞こえるよ…」 これは自分に言い聞かせてるのだよ、澪しゃん。こんな話、改めてするのは恥ずかしいんだから。 「まあまあ、ちょっとここに座りなさい」 そう言って私の隣に座るよううながす。 澪はハイハイと私の態度にも慣れた調子で返事をしながらベッドに座った。 「で、話ってなんだ?」 「え、いや~澪ってさ…」 「?なんだよ」 「いや、澪ってさ、甘えてこないよなって」 澪は露骨に何言ってんだこいつって表情を浮かべる。 こっちは真剣に悩んでいるというのに。 「なんか手ぇ繋ぐのも、くっつくのも、いつも私からだし…」 「澪から甘えてきたことってないなって思ってさ」 私はそれだけ言うと澪からの返事を待った。 しばらくの沈黙のあと、澪は口を開いた。 「…でも律が抱きついてきたら私だって応えてるし」 「そうじゃなくて、私は澪から甘えてきてほしいの!」 「えー」 澪は困ったように眉を八の字に下げて、笑った。 このモヤモヤの原因は、私ばかりが澪を求めているように感じることにあるのだ。 本当は、澪は私を必要としていないんじゃないかという不安感。 「私は、律が甘えてきてくれるだけで嬉しいよ」 澪が言う。 そうじゃない。私はただ純粋に澪が私を求めてくれているという明確な形がほしい。 「ねえ。澪はさ、私といて甘えたいなーって思うこと、ないの?」 「ぅ、ないことはないけど…」 言葉を濁す澪に更に自分の気持ちを吐露する。 「なんか私ばっかりが好きみたいでさ、空回ってるみたいじゃん」 言いたいこと言ってしまうと幾分心が軽くなった。 澪は私の言葉を聞いて、返事に困っているようだ。 「私だって律のこと、…だ、抱き締めたいって思うこと…あるよ」 俯いて澪が言う。 思わず「じゃあ抱き締めてよ」と言いそうになったが、さすがに恥ずかしい台詞すぎたのでやめた。 「じゃーなんで」 「だ、だって恥ずかしいし!」 抱きつくのが恥ずかしいなら私はどうすりゃいいんだ。 こうなったら私だって恥ずかしいが言うしかない。 「だーかーらー!わっ私だって澪にぎゅーってされたいんだってば」 布団をバシバシ叩きながら言う。もう私の顔は赤くなってるんだろう。 私の言葉にぱっと顔を上げた澪の表情は意外なものだった。 「…あに笑ってんだよ」 「フフッ、だって可愛いなあって」 澪は緩んだ頬を手で押さえているが全然隠しきれていない。 今度はこっちが俯く番になってしまった。 澪の顔を見れなくてただ布団を見つめているとベッドのスプリングがギシリと鳴った。 ふわりと澪の匂いがした。 ギュっと腕に圧力が掛かって、澪の温もりを感じてやっと抱き締められたんだと気付く。 「…不安にさせてごめんな」 耳元でボソボソ喋るもんだから、やたらと澪の声が艶っぽく感じる。 抱き合っていると言い表わしようのない幸福感に満たされた。 胸の奧が熱くなって私からも澪の背中に腕を伸ばした。 「抱きつくのって、すっげー気持ち良いっしょ?」 「うん…意外と恥ずかしくないな」 澪がフフと息を漏らす。 またぎゅうっと抱きしめられたので、もう澪に体重を預けることにした。 澪の胸に頭を押しつけるようにしてくっつく。結局、私が澪に甘えてるような形になってしまった。 でも今日は澪からだったからいいやって事にしとこう。 「ねえ、律」 「んー?」 「…好きだよ」 !?素直に行動すると、色々と大胆になるのだろうか。 とりあえず今は甘んじてこの状況を満喫しよう。 おわり 名前 コメント
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今年も、もう終わりか。 今年も唯の家で、皆でコタツに入ってトランプをしていた。 梓とムギと唯はうさ耳を付けていて、私と澪は何も付けていない。 こんないつも通り、例年通りのことが今日も起こっている。 そして、ババ抜きだ。 毎年カウントダウンまでのこの数時間は、トランプをしている私たち。 大富豪、七並べ、神経衰弱。さまざまな遊びをした。 結局残りの三十分、最終決戦はババ抜きとなったのだ。 「うわっ、またババだあー!」 「唯先輩そういうのは言ったらダメですよ」 「へっ? なんで?」 「ポーカーフェイスって言ってね、表情を崩さないのよ。 そうすれば、次の人はあんまり危機感を感じないでしょう?」 「つまり、ムギちゃんが急に顔を怖くさせたらババがあるってこと? で、澪ちゃんは気をつけなきゃいけなくなるよね」 「そう。そういう風に相手にばれちゃうから、言ったり表情に出したらダメなの」 「なるほどねー」 ちなみに順番は、唯→梓→ムギ→澪→私→唯…と続いていく。 さっきまで私はババを持っていたのだけど、唯がさらっていった。 私はポーカーフェイスだとしても、笑ってしまった。 で。 ババ抜きは続いて。 私と澪が残った。 ■ 時刻は二十三時五十分。 私と澪は、お互いに睨み合う。 「律……今年もあと十分しかないからな。さっさと終わらせようか」 「私を舐めるなよ。ババ抜きの達人とは私のことだ」 「捏造するな。じゃ、私からだな」 実は、私はババを持っていない。ということはババは澪が持っている。 澪はこういう局面だと滅多に表情は崩さない。 緊張すると慌てる澪だけど、いかんせん今澪は追い詰められている。 なぜなら。 負けたらうさ耳の刑だからだ。 ちなみに梓とムギと唯が全員それを付けているのは、負けたからである。 神経衰弱は唯が、大富豪はムギが、七並べは梓がそれぞれ負けた。 つまりここまでずっと私と澪は勝ち続けてきたのである。 昔からこういうトランプは二人でよくやったもんだしなあ。 だから澪はうさ耳を付けたくない一身でやっている。 つまりリスクがあるので追い詰められているから強いのだ。 くっそー、簡単に表情を崩さないし視線も泳がない。 しばらく一進一退だった。 私がババを引く。澪がにやける。私は背中の後ろで混ぜて澪に向ける。 澪が今度はババを引く。私がにやける。澪は背中で以下略。 こんな風にババを引いては戻ったり、ババじゃなくとも数字が揃わなかったり。 そのままずっとやっていた。おい、時間がねえぞ。 「なかなか決まりませんね……ふああ」 「二人ともトランプ強かったもんねー……ふああ」 「さすがりっちゃんと澪ちゃんね――ふああ」 三人がそう漏らした。だって澪強いんだし。 澪が表情を崩すのは、私がババを引いた時の勝ち誇った顔のみ。 それ以外は、ずっとどこを見ているのかわからないという感じだ。 どうにかして、澪の表情を崩せないかなあ。 ――澪の表情か。 表情を崩すのは、澪が集中を切らさなきゃダメだ。 その方法は、私が一番よく知っていた。 「澪ー」 「なんだよ」 「好きだよ、澪」 「ぶっ!」 澪が吹いた。 そして震えながら下を向いてしまう。 よしきた。さっきまでかなり集中していた澪を崩したぞ。 これで少しは表情が変わりやすくなったり、綻びが出るかも! 澪はトランプを持っていない方の手で口元押さえて顔を上げた。 顔はもうこれ以上ないというくらい真っ赤であった。 「ば、馬鹿……お、お前は、突然、な――」 「だってー、言いたかったんだしー」 「は、早く引けよ馬鹿律……!」 「へいへい」 きた! 今、澪は微かに一番左端を見た。ほんの一瞬だけど見逃さなかったぞ。 私はかなりの自信を持って、左端ではないカードを引き抜いた。 よし、ダイヤの3! これで! あと一枚になった。 つまり、これを澪が引けば――。 澪は、真っ赤な顔で悔しそうに、それを引いた。 「あっがりー!」 「あ、お前! さっきの、私の集中を切らすためだったんだな!?」 「へへっ、私の方が一枚上手だったなー」 「ず、ずるいぞ律。あ、あんなの卑怯だろ……」 「澪の集中切らす言葉なんていくらでも知ってんだよ」 勝ったー! 別に罰ゲームが怖いとか、そういうのはなかった。 ただ漠然と澪に勝ちたいなーって気持ちがあったからスッキリした。 うーん、と背伸びする。澪はがっくり項垂れている。 横で付けっぱなしのテレビでカウントダウンが始まっていた。 「おっ、いよいよだな」 振り向くと、唯と梓、ムギの三人は思いっきり寝ていた。 「ってまた寝てるし!」 私と澪の戦いに途中から何も口出ししないので、予想はできてたけど。 でも、やっぱりいざって時にこうやってのんびりなのが軽音部らしいかな。 私は寝ている三人を見つめながら、笑った。 視線を戻す。 横で下を向いている澪。 ちょっと卑怯すぎたかなやっぱり……。 私は澪の肩に触れて、やれやれと思いつつ声をかけた。 「澪ー、悪かったって。ほら、もう来年になっ――」 言葉を言い終える前に、澪が私に抱きついた。 勢いがついていて、私は思いっきり後ろに倒され、背中を打つ。 これは、押し倒された、のか? 倒れて上を向いている私。四つんばいで見下ろす澪。 その表情は、不服そうだけど、まだ真っ赤に染まっていた。 微妙に、泣いているようにも見えた。 「――律」 「……な、なんだよ」 「さっきの言葉……私の集中を切らすためだけの言葉、なのか?」 『好きだよ、澪』 「――」 澪が私の言葉で驚いたり、恥ずかしがったり、照れてくれたり。 そんな風な反応をしてくれる言葉なんて、限られてるから。 「そのためだけ、なわけないだろ」 私は右手で澪の頬に触れた。 熱かった。 「ずるい……好きだ、なんて言われたら、どうしたって律には勝てない」 「それを知ってて言ったんだよ。私に好きって言われたら――。 私がそう言えば、澪は簡単に恥ずかしがって痺れちゃうんだからさ」 今までだってそうだった。 想いを伝えれば。好きだといえば、愛してるといえば。 澪は簡単に顔を真っ赤にさせて、何も言えなくなって、照れて。 「律が――律が悪いんだからな」 「ああ……悪かったよ」 「好きだよ、律」 「もう何回も言われてるから、そうそう照れないぞ私は」 「馬鹿律……」 澪は笑った。 そして、そのままキスをする。 舌を絡ませ始めたのと同時に、テレビが叫んだ。 『あけましておめでとうございまーす!』 ■ 行為を終えたら、一時半だった。 二人で声を上げまくったり喘ぎまくったりしてしまった……。 というか澪がまさかあそこまで暴走するなんて。 よく三人が起きなかったもんだ。 「ったく、澪激しすぎだろ」 「律が悪いんだぞ。あんなこと言ってその気にさせたから」 「……でも、まあ、いっか」 私と澪はしっかり服を着て、コタツに入る。 ほかの三人の寝息。起こさないようにしなきゃな。 唯と梓とムギが、寄り添って寝ていた。 「……」 「律?」 いいよな。別に。 「澪」 まだ火照ったように顔が赤い澪。 私もドキドキしながら、告げた。 「その……い、一緒に、寝ないか?」 澪は、キョトンとする。 でもさっきよりは冷静に、笑った。 「いいよ。律は甘えん坊だな」 「う、うるせ」 澪は自分のところから一旦出ると、私の隣に入った。 コタツの布団は少しだけ短いけど、十分暖かかった。 私たちは寄り添うように寝転んで、見つめ合う。 「あけましておめでとう、澪」 「あけましておめでとう、律」 もう一回だけ、キスをして。 新しい一年を祝った。 「今年もよろしく」――! ホントに寝てたのか? 約一名鼻血だしてなかったか? お二人さんよ。 -- 名無しさん (2012-07-18 23 26 03) 出してたと思うよ〜絶対っ -- 名無しさん (2012-07-19 11 11 54) 名前 コメント