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こんにちは、中野梓です。 今回は二期放映間近、ということで番組宣伝のための映像を撮ることになったんですけど。 どういうわけか、唯先輩が私に抱きつくシーンが満場一致で採決されてしまったんです。 「な、なんでそうなるんですか!」 信じられないことにこんなとんでもない決定を前にして、抗議の声を上げたのが私だけという体たらくですよ。 「えー、いーじゃん、あずにゃん~カメラの前でもべたべたしようよ~」 ええい、唯先輩は黙っていてください! 律先輩!部長として何か言うことはないんですか! 「んー、まあいいんじゃね?まさにいつもの私たちって感じだしさ」 それはまあ確かに日々ここで繰り広げられてる光景ではありますけど。 だからといってわざわざそれをピックアップしてしまえばそれこそ四六時中私は唯先輩にハグされてると認識されちゃうじゃないですか。 唯先輩のあだ名がハグ魔人になってもいいんですか。 と言うわけで澪先輩!澪先輩なら! 「私も律に賛成かな。監督からも日常を象徴するシーンをセレクトしろって言われてたし。演奏シーンが一つもないって言うのは問題だけど」 そうですよ!演奏シーンが一個も無いのは問題です!スタンバイしてるとこだけじゃないですか。まあ、雰囲気は出てますけど。 と言うかこの唯先輩のナレーションだと、私たち軽音部じゃなくてティータイム部みたいですよ! そこまでわかっていながら、なんで私と唯先輩のシーンをカットしようという方向に思考が働かないんですか! ムギ先輩は…… 「唯ちゃん、いつもよりずっと派手にハグしちゃっていいわよ。そうね、梓ちゃんを行かせちゃうくらいしちゃっていいわ」 「うん、がんばる!」 ムギ先輩に聞こうと思った私が間違いでした。と言うかなんですか、その吹き込みは。 唯先輩も変に張り切らないでください。私をどこに行かせようって言うんですか! 「ま、そういうわけで賛成4反対1で可決ってことで行くか」 「そうだな」 「そうね」 「うん!」 ちょ、何で取りまとめに入ってるんですか!何でこういうときだけ部長っぽく振舞うんですか律先輩は! 数の暴力ですよ!訴えますよ!どこに訴えればいいのかさっぱりわかりませんけど! 「あずにゃーん!えへへ、またカメラの前でハグできるよ~」 ああもう唯先輩、これからそのハグシーンを撮るって言うのに何で抱きついてくるんですか! 「練習だよ、練習!」 「うそです、絶対抱きつきたいからだけですよね」 「へへ~、あずにゃん可愛いからね~いい子いい子」 更になでなでまで……反則ですよ、それ。気持ちいいから許しますけど。 やっぱり唯先輩にハグされると、ぽかぽかして気持ちいいですから。 仕方ないですね、もう少しこのままでいさせてあげます。 「おーい、いちゃいちゃしてないでそろそろ準備しろよ?」 「いつまで抱き合ってるつもりなんだ、二人とも」 はっ、もうこんな時間じゃないですか。と言うかいきなり撮影ですか、リハとかないんですか! 「いや、お前らが恍惚としている間に終わったし」 「よかったわよ、二人とも」 いや、声かけてくださいよ!というか何がよかったんですか、ムギ先輩! 「ほら、いいから早く準備しろよ。ナレーションは後で撮るから、唯はいつもどおりに梓に抱きついてくれればいい。梓もいつもどおりに唯に抱きつかれる。いいな?」 いや、よくありません!よくありませんけど、もう抗議してる時間は無いですね……もう。 渋々ですからね、喜んで抱き付かれるシーンを受け入れたわけじゃないですからね。 「あずにゃん、頑張ろうね!」 まあ、頑張りますけど。そんな素敵な笑顔向けられたら、そうするしかないですけど。 「じゃあ、準備OKってことで。すみません、お願いします!」 律先輩がスタッフに合図を送って、いよいよ撮影開始。 それぞれ指定された場所について、カウントを聞く。 まあ、シーン的にはハグ真っ最中から入るわけだから、唯先輩といえば今か今かととびっきりの笑顔で私の目の前でそわそわわくわくしてるんですけど。 この人絶対今から撮影って意識無いよ……ハグできて嬉しいなーくらいしかないんだろうなぁ…… まあ、そのシーンを今から電波に乗せて全国に発信しようと言う私は憂鬱でしかないわけですが。 ――別に、唯先輩からのハグが嫌いってわけじゃないんですけどね。 って、何言ってるんだろ。ああもう、今のは無しです。唯先輩に聞かれたら、また調子に乗るに決まってますから。 はあ、割り切らないとですね。これは仕事ですし。私情を挟むのはよくないです。 まあ、私の相方はそんなの欠片も気にしてないよなんて、嬉しそうな瞳で私を見つめているわけですが。 そうこうしているうちに、カウントは0に近付いていきます。これが0になってしまえば、カメラは回りだして、その前で先輩はぎゅっと私に抱きつく段取りです。 確かに――それ自体は律先輩や澪先輩の言うとおり、いつもの私たちのシーンのはずなんですけど。 くるりと見渡せば、いつもの音楽準備室は門外漢の私にはさっぱりわからない機材に囲まれて、いつもの私たちの光景じゃないです。 先輩たちも――唯先輩を除いて――どこか緊張した面持ちだし。やっぱりどこかいつもとは違います。 やはり、なんかダメだと思います。別に、そう、さっき言ったとおり唯先輩にハグされるのが嫌ってわけじゃなくて。 ただそれを番組宣伝の道具として使われるのが嫌って言うか――本編のシーンとしてなら、流れとしてですから、別にかまわないんですけど。 もっと純粋に、ぎゅうっと抱きしめられるその感触を、ぬくもりを、匂いを味わうもの、味わいあうものだと思うんです。 私にとって唯先輩からのハグは、そんな特別なものであって、いつの間にかそうなってて、だからこういうのは――なんか嫌です。 「ゆいせんぱ……」 やっぱり止めてもらおう、そう思って唯先輩に話しかけようと顔を向けると―― 「へ?」 既に唯先輩の顔は、私の鼻先まで近付いていました。 きょとんとその目が丸くなるのが見える。おそらくそれは先輩にとっても不慮の事態で、だから前進方向のベクトルを止めようと踏ん張ってくれたけど。 思い切りハグしようとしていた先輩の勢いはそれくらいでは止まらなくて、ただちょっと緩やかになっただけ。 それで、唯先輩に真っ直ぐ顔を向けた私と、はじめからこちらへ真っ直ぐ顔を向けていた唯先輩は、ふわりと本当にやわらかくぶつかることになりました。 それは本当にやわらかくて、暖かくて、私が想像していたよりもずっと甘くて――とろけてしまいそうです。いや、実際にこれは、とろけてるんでしょうね。 半拍遅れて、予定通り動かされていた先輩の手が私の背中に回されたときに、ようやく私の意識は戻ってくれました。 って、何してるんですか、唯先輩! 声を出そうにも、唇が塞がれているから声になりません。そう、私の唇は文字通りふさがれてます。その、唯先輩の唇で。 逆に言えば、私の唇が唯先輩の唇を塞いでいるともいえるんですけど。 私の記憶にいまだかつて無い距離に見える唯先輩の瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗で――じゃなくて、びっくりの文字に埋め尽くされていて。 おそらくは何か言おうともごもごと口を動かして入るんですけど、私と同様に声にならないでいるみたいです。 離れればいい、なんてそんな当たり前のことを思いつかないほどに。そりゃそうですよ、だって。ただハグするだけのはずだったのに。 私と先輩はその―― キスしちゃって――るんです、から。 って……カメラ、カメラ回ってますよね? いやホント、ボーっとしている場合じゃないです。唯先輩、ほらはなれましょう! え?な、なんでこれはこれでいいじゃん、的な眼差しに変わってるんですか。口がふさがってるからって、瞳で会話しないでください! ダメですよ!ハグだけならまだしも……先輩とのファーストキスがこんなところでなんて……今なら事故です!ノーカンにできますから! 「んー……んむっ」 なんで更にディープにするんで……すかっ! うぅ、ダメですって、ば。そんなにされると、もう何も考えられなくなるじゃないですか…… ギブ、ギブです、唯先輩。もう……や、そんなに強く抱きしめられると……アウト、ですよ。 本当にダメになっちゃいます。 押しのければいいはずなのに、気づけば唯先輩の背中に手を回してしまってるくらいに。 離れてください、じゃなくて、もっとしてくださいって、そう言ってしまいたくなってるくらいに。 ああでもきっと、先輩の瞳に移る私の瞳は、きっとそう先輩に伝えちゃってるんだろうな。 ――もう。 ええ、いいですよ、唯先輩。 どこにでも連れて行っちゃってください。 なんだかんだ言いましたけど、やっぱり。先輩こうされるのは嫌じゃないですし。カメラの前、って言うのはやっぱり気にはなりますけど。 だけどそれでもいいって思えるくらいに、やはり唯先輩のこと、好きですから。 「もちろん、撮り直しですよね?」 「え?」 え?じゃありませんよ!なんでそこで何いってるのこの子、なんて目で見られないといけないんですか! 律先輩や澪先輩からも何か、って何で同じ目してるんですか!……あ、ムギ先輩にははじめから期待してないからいいです。 まさかこれも私たちの日常、なんて言い出すつもりじゃないでしょうね。 言っときますけど、いくらなんでも音楽室でこんなことに及んだ覚えは無いですよ! そりゃ、先輩の部屋とか、プライベートなら結構いちゃいちゃしたりはしてましたけど……でも、キスは初めてでしたし! ちょ、はいはいごちそうさま、ってどこに行くんですか! 次の撮影って……いや、だからこれのリテイクを……ああもう、聞いてくださいよ! (終わり) 十割中、九割が見るな。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 16 24 47 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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唯「ふー。テレビ見て雑誌読んで…あきるなぁ」 女「平沢さん」 唯「あ、えーと、尾奈さん」 女「無事でしたか。ひどいことしますね、政府の奴ら」 唯「え、政府?」 女「はい。奴らは政府のエージェントなんですよ。国家機密を知った私たちを精神病者に仕立て上げてここに死ぬまで監禁するつもりなのです。 私もふとしたことが切っ掛けでこの日本という国家を揺るがすほどの秘密を知ってしまいそれを誰かに知らせようと最大限の努力をしたところ 彼らの手にかかってこのように監禁されてしまったのです。しかし私はこのような状況に置かれても希望は捨てていませんし断じて捨てるわけ にはいきません。私は精神病者という屈辱的な社会的レッテルを貼られたにも関わらず決して諦めずに彼らと日夜戦っているのです」 唯「……」 女「……」 唯「えっ?」 女「平沢さんがいきなり裸になったのも、職員の中に潜んでいる我々の連絡員へのメッセージだったんでしょう」 唯「えっ、いや違うよ?私は」 女「隠さなくてもいいのです」 唯「いや私はロック」 女「隠すなよお!!」 ダンッ! 唯「っ!」 びくっ 女「はぁっ、はぁ、はぁ…っ」 唯「お…尾奈さん?」 女「……仲間に対しても秘密を守り通す…なるほど、優秀だ」 唯「は、はぁ…」 唯(やだなあ、この人キチガイだ) 女「あなたのような仲間がいて心強く思います…それでは」 唯「さよならー」 ひらひら 唯「……帰りたいなぁ」 紬「みんなでお見舞いにいかない?」 澪「えっ…唯のか?」 紬「ええ!」 律「うーん、唯がいるのって……精神病院だろ?」 梓「律先輩っ!」 律「だ、だってさあ…」 紬「律ちゃんが嫌だと思うのはわからないでもないわ…」 律「だったら…」 紬「じゃあ!そんなに嫌だと思うところにいる唯ちゃんはどうなるの!?」 律「あっ…」 紬「こんな時だから…私たちが支えてあげなきゃ」 律「…そうか……そうだよな!」 澪「ああ。行くか!」 梓「はいっ!」 男「ぶつぶつぶつ」 女「ぶつぶつぶつ」 かがみ「ぶつぶつぶつ」 ハルヒ「ぶつぶつぶつ」 唯「よく見るとキチガイのひとがたくさんいるなあ…」 唯「はぁ。早く帰りたい…」 唯「私、なんでこんなとこにいるんだろう…」 看護婦「平沢さーん、平沢唯さん。面会のかたが見えてるわよ」 唯「えっ、ほんと?」 紬「唯ちゃん!」 梓「先輩!」 澪「唯!」 律「唯っ!」 唯「みんな…みんなぁ!」 紬「唯ちゃん、大丈夫だった?元気にしてた?」 唯「ムギちゃん…もうやだよう、私もうここやだぁ」 ぐすぐす 紬「唯ちゃん……」 唯「うちに帰りたいよぅ、憂が作ったご飯食べたいよぅ」 ぐすぐす 律「唯……」 唯「みんなと一緒に……練習したいよ」 ぐすっ 梓「先輩……」 澪「でも…病気が治るまではやっぱり…」 唯「病気ってなに!?みんなの前で裸になるのがそんなに悪いことなの?」 紬「……唯ちゃん…」 紬「唯ちゃん……私ね」 唯「えっ?」 紬「ほんとは……ボーボーなのよ?」 唯「ムギ…ちゃん」 紬「退院したら見せてあげるから、がんばって…ね?」 唯「ムギちゃん……」 紬「もう絶対手入れしない!伸ばしっぱなしにするわ!だから…っ!」 ぽろぽろぽろ 唯「……うんっ!私、がんばるよ!ムギちゃん…だから、泣かないで!」 澪「わ、私だって実はボーボーだよ!」 律「あたしだって!!」 唯「りっちゃん…澪ちゃん…!」 梓「私もボーボーですから!唯先輩!」 唯「あずにゃん…」 梓「唯先輩…」 唯「…あずにゃんはツルツルじゃなきゃだめー!」 じたばた 梓「ああっ、ごめんなさい!剃ります!わたし剃りますから!!」 律「よかったな、唯」 唯「うん…わたし、みんなと友達になれてよかった!」 ニコッ 澪「キュン!ま、まあ唯はちょっとロックの解釈を間違っただけだからさ。病気ってわけじゃないんだから」 紬「そうよ。ちゃんとしてればすぐに退院できるはずよ」 梓「みんなで待ってますから。唯先輩のこと…」 唯「みんな…みんな…!」 『そうは…いかんなぁ?』 唯「!?」 澪「だれだ?」 精神科医「クックックッ」 唯「先生!?」 律「な、なんでだよ!」 精神科医「政府の秘密を知ったものを…この施設から出すわけにはいかんと言っとるのだ!」 紬「なんですって!?」 バリバリ 梓「わあっ!先生の体がっ!」 澪「ば、ばけものだあ!」 ガクガク 唯「そ、そんな…尾奈さんの話は…本当に!?」 紬「政府に立てつく者を隔離する施設…まさか本当に存在していたなんて…っ!」 怪人「ゲララララァ!平沢唯!お前は一生この施設から出ることはできんのだァ!」 唯「そ、そんな!なんで!なんで私なの!?」 紬「ごめんなさい…」 律「おい早く逃げろ!逃げるんだよぉお!!」 澪「か、鍵がぁ!鍵があかないい!」 ガチャガチャガチャ 梓「夢……これは夢?」 怪人「ゲララララ!誰もここから逃げることはできなぁぁい!!」 澪「ひいぃぃぃぃぃぃいいい!!…はうっ」 ぱたり 紬「…唯ちゃん!」 唯「ムギちゃん!はやく逃げて!」 紬「変身よ」 唯「はい?」 3
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唯「ふっふ~♪」 唯「パーティー盛り上がったね」 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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二月中旬はまだ寒さが厳しい時期。 今朝も霜が降りてたくらい冷え込んだけど、私達学生は学校へ行かなくてはならないのだ。 なるべく厚着をしているものの、寒いからやや猫背気味になってしまう。 ただでさえ猫っぽいと言われているのに…これじゃホントに猫だよ… そんな寒さに耐えながら学校への道を一人歩いていくと、突然後ろから衝撃を受けた。 唯「あ~ずにゃんっ!!」 梓「うわあっ! って! えっ? ゆ、唯先輩?」 そこに居たのは唯先輩だった。 もっともこんな風に抱きついてくるのは唯先輩くらいしか私は知らないんだけど。 それにしても珍しい。 基本的に私と唯先輩は登校時間が違うから、朝はほとんど会う事はないのだ。 でも朝から唯先輩に会えるなんて、今日はついてるかも。 唯「おっはよ~あずにゃん!今日も寒いねぇ~」 梓「おはようございます 唯先輩! 今日は早いですね、日直か何かですか?」 唯「あ~…うん、そんなところかな?」 なんとなく唯先輩がおどおどしてるし、顔が赤い気がする。 唯「あ、あずにゃん、ほいっ!」 すると唯先輩は鞄の中から可愛らしくラッピングされた小箱を取り出し、 私の前に差し出してきた。 梓「え? なんですか?」 唯「ハッピーバレンタインだよ、あずにゃん!」 私の手にその可愛い小箱を乗せながら先輩は笑顔でそう言った。 梓「えっ! わ、私に…ですか?」 唯「うん!」 梓「あ、ありがとうございます! とっても嬉しいです!」 唯「よかった~♪」 梓「あ、でも私…準備してなくって…その…」 唯「あ、いいよいいよ、私が勝手にやったことだから気にしないで!」 梓「す、すいません…」 唯「あっ 私急ぐんだった! じゃあまた後でね~」 梓「あ…」 そういって唯先輩は小走りで駆けて行ってしまった。 一緒に登校出来ると思ったんだけど、急いでいるみたいだから仕方ないか… 手の上の先輩からのバレンタインチョコを見つめ、今日が2/14だと改めて知った。 そう今日は2/14 世間ではヴァレンタインデーだ。 でも私はバレンタインの準備を何もしていなかったりする。 一応、お世話になっている先輩方や親友に配るくらいは…と考えたんだけど、 渡す時の事を考えるとどうにも気恥かしくて、悩んでいるうちに当日を迎えてしまったのだ。 我ながら情けない… 私だってチョコを渡したい相手はいる。 その人とは多分私の友人関係の中で一番仲良くって、 一緒にいるととても温かくて心地よくて… いつも抱きしめられて、口では嫌がっているけど、本当は嬉しくって… 誰よりも優しく、誰よりも私を可愛がってくれる…そんな先輩… 唯先輩の事が、私は大好きだった。 ホントの事を言うと今日だってチョコを渡したい。 愛情をたくさん込めた手作りチョコを渡して、唯先輩との距離をもっともっと近づけたい。 でもなまじ仲がいい分、改まってチョコを渡すとなると照れくさいってもんじゃない。 それに私達はそんな事をしなくても、ずっと一緒に居られる… 漠然とだけどそんな気がしているのも、チョコを渡せない理由になっている。 だけど、ハッキリしない関係でいいのかな…と悩んでいるのも事実だ。 じゃあせめて先輩方全員にって事で”友チョコ”を渡すとか? ううん…それはそれで納得できない。 まったく…ほんとめんどくさい性格だよね、私って… でも、唯先輩は私にチョコを渡してくれた。 心が躍るくらいに嬉しいことには間違いない。だけど… 梓「…でもこれ… みんなに配る ”友チョコ” …なんだよね…」 分かってる。 これが私だけの特別なチョコじゃない事くらい。 唯先輩はみんなに分け隔てないから、これもいわば ”友チョコ” の類なんだろう。 …そう思うと少しだけ寂しく思ってしまう。 最低だな、私… 大好きな唯先輩から貰えたチョコにケチをつけるなんて… だいたい自分では、その ”友チョコ” すら準備していないというのに… 嬉しさと少しの寂しさを抱えながら学校に到着する。 さすがはバレンタインデー当日。女子高といえどもやっぱり女の子のお祭りだ。 チョコの甘い香りがあたりに立ちこめており、少々胸焼けしそう。 友達同士で交換するのはもちろん、憧れの先輩に渡したり、中には本気で本命チョコを渡す子だっている。 女の子同士…別に私はそんなこと気にはしない。 だって、私も同じなんだ……だけど、私とその子には決定的な違いがあった。 私には渡す…前に進もうとする”勇気”が足りなかったのだ… 教室では憂から手の込んだチョコを貰った。 純の場合、後輩が先輩方にチョコを配るのがジャズ研の恒例儀式となっているらしく、 大量にまとめ買いしたチョコの余りを私と憂にくれた。 さすがに私だけ何もないのは心苦しかったので 梓「こんどパフェでも奢るからね」 二人に約束をする事で今回は許してもらう事となった。 そんなこんなで、一日中、周りからはチョコの話しが尽きないまま放課後を迎えた。 純「じゃあ私、ジャズ研行くね~」 純はこれから先輩方へのチョコ祭りで大変そうだ。 憂「じゃあまた明日ね、純ちゃん、梓ちゃん」 憂は部活に入っていないのでそのまま帰路に就く。 私は部室への道を急いだ。 廊下を抜け階段をあがり、部室となっている音楽準備室にたどり着く。 深呼吸を一つしてから、いささか立てつけの悪くなった扉を押しあける。 梓「こんにちわ~」 唯「あ、あずにゃんだ~! まってたんだよぉ~!!」 梓「ひゃっ! 唯先輩っ!///」 私を目にした唯先輩が、満面の笑顔で駆けて来る。 そしてそのままの勢いで私に抱きついた。 嬉しい…でも、恥ずかしいし、そして喜んでいる姿を他の先輩方に見られるのは癪だ。 だからお決まりの文句を言おうとしたのだが、今朝の出来事を思い出し、 せめてものお礼になればと思い、今回はおとなしく抱きつかれることにする。 梓「もう…す、少し…だけですから…ね?///」 うわぁ…恥ずかしいよぉ~ 私多分、顔真っ赤だよ… そんな私の気持ちを知らずに、唯先輩はさらに笑顔を増す。 唯「あ、あ、あっずにゃ~ん! かわいい!かわいいっ!かわいいよぉ~!!」 さらにギューッと抱きしめられた上に頬ずりまでしてくださったからには、もうたまらない。 オーバーヒートという言葉がピッタリのごとく、私はのぼせてしまいそうだった。 澪「おーい、唯、その辺にしといてやれ 梓、ぐったりしちゃってるぞ~」 唯「はっ! あ、あずにゃん、ごめんね!」 梓「い、いえ、大丈夫です///」 それからはいつものティータイムが始まった。 ううん、今日はいつもとは違った。 ムギ先輩の持ってきた本日のお菓子は何と、ベルギー王室御用達と言われる超の付く高級チョコだし、 澪先輩は、ファンクラブの子から貰ったチョコを大量に抱えていたからだ。 澪先輩のチョコを頂く事はさすがに遠慮し、ムギ先輩の用意して下さった高級チョコを 恐る恐る頂いた。 …うん、おいしいすぎです。 唯「ムギちゃん、すっごいおいしいよ、これ!」 律「さすが至高の一品!ゆっくり味わって食べないともったいないぞ!」 澪「そういいながら一気に食うなよ、律!」 いくらすごいチョコだからといっても容赦しないのが我が軽音部。高級チョコがどんどんなくなっていく。 かく言う私も負けじと食べてたのはいうまでもない。 すると、美味しいチョコを食べて満足していた唯先輩が身を乗り出して言った。 唯「こんな美味しいチョコの後だとなんか出しにくいけど~」 (…そうだよね、やぱり皆さんにも用意してあるんだよね…) 私には唯先輩がこれからするであろう事がわかった。 今朝私にくれたバレンタインチョコと同じものをこれからみんなに配るんだろう。 あれはやっぱり”友チョコ”だったんだと思い知らされると、やはり少しだけ滅入った。 でもなんとか嫌な気分を払拭し、唯先輩を見やる。 唯「実は私も…バレンタインのチョコを持ってきたのです!」 フンス!を息を荒げる唯先輩。 律「ほ、本当か、唯!?」 唯先輩は長椅子に鞄と一緒に置いてあった紙袋を掴んで戻ってくると、 机の上にドサッとぶちまけた。 紬「ゆ、唯ちゃん! これは!?」 唯「うん、チロルチョコだよ! いろんな味をたくさん買ってみました!」 あ、あれ…? そう、机の上にぶちまけられたのは、コンビニにも売っている四角いチョコレート。 見間違えるはずもなくチロルチョコ…確かに大量のチロルチョコだった。 紬「こ…これがチロルチョコなのね!」 律「って、唯、どんだけ買って来てんだよ!」 澪「あ、私、この味好きなんだよな! もらっていい?」 唯「おー、澪ちゃん、お目が高い! それ美味しいよね~」 澪「だよな!だよな!」 唯「みんなで適当に持って行っていいからね!」 みなさんは色とりどりのチロルに目を輝かせながら、好きなチョコを選んでいく。 私は一人、事態を飲み込めていないまま、呆然としていた。 (唯先輩の友チョコって、チロルなの? じゃあ今朝のは一体… あれ? 一体何がどうなってんの?) 唯「あ、あずにゃんも遠慮しないで取ってっていいよ~」 そう声をかけられ、質問をぶつけようと唯先輩を見る。 梓「あ、ゆ、唯せんぱ…」 私が質問をし始めると同時に、唇に人差し指を当てて ”し~” のポーズをとった。 (今は言わないで…って事なんですね?) 唯先輩の意図が伝わり頷くと、唯先輩は舌をぺろッとだし、おどけて見せた。 その姿があまりにも可愛らしく、ドキドキしたのは言うまでも無い。 大量のチロルを何だかんだで皆さんで分け合い、持ち帰ることになった。 今日はこんな調子だったため練習なんて出来るはずもなく、 ひたすら飲み食いした挙句解散となった。 また私も今日は無理だと最初から諦めていたからいいんだけどね… そうして部活は終わり、帰路に着く。 三人の先輩とわかれ、最後は唯先輩と二人きりで並んで歩く。 もう聞いてもいいかな… 梓「あの、唯先輩…ちょっとお聞きしたいんですけど…」 唯「あ、うん、今朝のチョコのこと…だよね?」 梓「はい…私、あのチョコはてっきり”友チョコ”だと思っていたんです でも部室で出したチロルが”友チョコ”ですよね?」 唯「うん、そうだよ」 梓「…じゃあ、今朝のは…あの、やっぱり…///」 うわ…顔が熱い。胸がドキドキしてきた。 唯「うん、そうゆう意味のチョコだよ、あずにゃん」 梓「そうゆう意味…」 唯「私の本気の…手作りの”本命チョコ”だよ!」 梓「ほ、ほんとに…わ、私に…ですか?」 唯「うん…私、あずにゃんの事が好きだよ? ホントの本気で、あずにゃんが大好き!」 梓「っ!」 信じられなかった。 まさか唯先輩から”本命チョコ”をもらえるなんて… 梓「ううっ…ゆい、せんぱい…ぐすっ…」 唯「あ、あずにゃん どうしたの? 急になきだして…」 梓「す、すいません、私……ううっ…」 唯「ご、ごめんねあずにゃん…困らせちゃったかな…」 梓「ちが…ぐすっ…ちがうんです…うれしくって…うれしっ…」 唯「あずにゃん…」 梓「ゆっ…せんぱっ…うれしっ…よぉ~…ふえぇぇぇぇ~っ…」 感極まって泣き出した私は、唯先輩に思い切り抱きついた。 そんな私を優しく撫でながら唯先輩はゆっくりと語りかけてくれた。 唯「ほんとのこと言うとね… チョコを渡して告白なんて事、最初はする積もりなかったんだ… 私とあずにゃんって、そんな告白とかしなくっても、ずっと一緒に居るような気がしてたから… …でもね…」 梓「…」 唯「でも…このままあやふやな関係をずっと続けて行って本当にいいのかな?って思ったの ハッキリしない関係だといつかお互いの気持ちも離れて言ってしまう気がしてすごく心配になったの… だから私、絶対気持ちを伝えようって、そう思ったんだ」 ただただ驚くしかなかった。 私が漠然と思っていたことを、唯先輩も同じように思っていてくれたことに… だけど、同じように悩んだ結果はまったく逆。躊躇した私と、行動を起こした先輩。 いつも手を引いてくれるのは唯先輩のほうだったってことだ。 梓「わ、わたしも…私も同じ気持ちでした…」 唯「え…?」 梓「私も、何もしないでもずっと唯先輩と居られるって思ってたんです… でも本当にこのままでいいの…って思ってもいたんです でも…一緒に居られる今の心地よさに気持ちをごまかしてしまって…」 唯「あずにゃん」 梓「でも唯先輩はそんな私にお手本を見せてくれました」 唯先輩は私たちが一緒に居られる為の方法を… 絶えず一歩先を進む先輩として、後輩の私にしっかりと道しるべを示してくれた。 梓「唯先輩! 今度は私の番ですね!」 私は唯先輩の手をつかむと、いきなり駆け出した。 唯「ちょ、あずにゃん! どうしたの?いきなり走り出して!?」 梓「いいから、ついてきてください!」 そうやって唯先輩を連れてきたのは、帰りによく寄るコンビニだった。 唯「…へ? ここ?」 梓「はい、ここです! すいません、ちょっとだけ待っていてもらえますか?」 唯先輩を外に待たせ、私はコンビニに入りお目当てのものを見つける。 それを数個手に取り、レジで会計を済ませ、唯先輩の下へと戻ってきた。 梓「お待たせしました」 唯「あずにゃん、何買ったの?」 梓「ふふっ、それはもうちょっと後で教えますよ」 クスッと微笑み、今度は公園へ立ち寄った。 ベンチに唯先輩と並んで腰掛ける。 梓「唯先輩…えと…お、お返事をしたいと思います///」 唯「あ…うん、聞かせてほしい…かな///」 私も唯先輩も顔が真っ赤だ。 ここで ”私も好きです” というのはまだ簡単だ。 でもそれじゃダメ。 そうじゃないんだって、気づいたんだ。 だって今日はバレンタインデー。 好きな人へは本命の”チョコ”を渡さないといけないよね? 先ほどコンビニで買ったのはチロルチョコ。 その一つの包装紙を剥きながら唯先輩へ話かける。 梓「えと、唯せんぱい…これ、チロルチョコです さっき買ったんです」 唯「あ、うん、そうだね、チロルだね…でもなんで?」 梓「知ってましたか先輩、このチロル、新しい味なんですよ?」 唯「え?そなの? でも、それ、普通のじゃ…」 梓「ちがいますよ…そ、その… ”あずさ味” なんです!///」 そう言い私はチロルチョコを自分の口に咥え、そのまま唯先輩の唇へ押し付ける。 唯「んぐっ! んー…///」 梓「むぐ…んっんっ///」 唯「あむ…んっ…っぷはっ…///」 梓「はぁ…はぁ… おいしかったですか?唯先輩?」 唯「…うん…食べたことの無い味だったよ…クセになりそうな刺激の強い味だった」 梓「…ハッピーバレンタイン…私も…私も唯先輩の事が…大好きです!」 私からも勇気を持って一歩先へ踏み出すことが出来た。 もう大丈夫。 二人ともが同じ想いを胸に抱いて、そのための努力を惜しまなければ、 私達はずっとずっと一緒に居る事が出来る。 そうですよね?唯先輩♪ 唯「クスッ…もっと ”あずさ味” 食べたいな…」 梓「ふふっ まだまだありますからね…唯せんぱい…」 ちゅっ♪ FIN. 私も食べたい! 新発売!チロルチョコのあずさ味! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 15 40 09 甘いね -- (名無しさん) 2014-04-23 20 45 39 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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りっちゃん→父、ムギ→母、澪さん→キモヲタな兄、あずにゃん→シスコンな姉、唯ちゃん→みんなのアイドル的な妹とかいうキャストがお送りするホームドラマがなんか浮かんだ -- (名無しさん) 2010-10-10 00 56 19
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池沼唯SS 連載中作品 池沼唯は、放っておきたい一匹豚 (その2) New! 完結作品 短編 唯「どら〇え!」 世界の終わった後で 池沼追放令 池沼唯の欲しいモノ 池沼唯の出生 憂はいらない子 唯の短い一生 池沼唯のトイレ 中編 失踪 失踪(真相) 失踪(真相 その2) 失踪(真相 その3) 失踪(真相 その4) 大ブブブー事件 (その2) 唯「おたんじょうび!」 (その2) 池沼唯のサイドビジネス (その2) 池沼唯のハロウィン (その2) (その3) (その4) 練り歩く池沼唯 (その2) 4-2=2 一人ぼっち (その2) (その3) 池沼唯を臓器売買 (その2) 長編 セレブの池沼唯 (その2) (その3) (その4) (その5) (その6) (その7) 池沼唯とムギの恋 (その2) (その3) (その4) (その5) (その6) 池沼唯とリベンジ (その2) (その3) (その4) (その5) (その6) (その7) 池沼唯の海水浴 (その2) (その3) (その4) (その5) (その6) (その7) (その8) (その9) (その10) (その11) (その12) (その13) (その14) (その15) (その16) カウンター 今日 - 昨日 -
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唯「ねえ、純ちゃん」 純「なんですか?」 唯「私とあずにゃんって付き合ってるんだよね」 純「わざわざ私を呼び出したのは惚気話をするためですかそうですか……帰っていいですか?」 唯「もー真面目な話なんだよ!」 純「ただでさえ梓から惚気られてるのに、その相手からわざわざ呼び出されてまで惚気られる私の精神的苦痛も比較的真面目な話なんですけどね」 唯「難しい単語を使ってもダメだよ!ちゃんと聞く!」 純「はあ、まあ聞きますけど……というか難しい単語なんて使ったかな」カンジガオオイトダメナノカ 唯「純ちゃんって、メールに絵文字使うよね」 純「はあ……まあ人並みには。象形文字か!というレベルには使いませんけど」 唯「仲のいい相手にメール送るときは使うよね?」 純「そうですねー……逆に、目上の人にはあまり使わないようにしますけど」 唯「純ちゃんって、そういうところ結構真面目だっけ……でも私へのメールには結構使ってない?」 純「それは唯先輩だからですね」 唯「それっていい意味かな、悪い意味かな?」ムム 純「その辺りは秘密ということで……まあ、そろそろ本題に行ってください」ダッセンデス 唯「あ、そだね。えっとね、あずにゃんからのメールなんだけど……純ちゃんってあずにゃんからメール来るよね?」 純「はあ、まあ一応友達その二らしいですから、梓にとっての私は」 唯「二号さんだね」 純「誰ですか、先輩にそんな言葉教えたの。で、それがどーかしたんですか?」 唯「絵文字とか使ってあるよね?」 純「へ?あ、ええまあ、それなりに使ってありますけど……」 唯「やっぱ、そうだよねえ……はあ……」 純「?」 唯「あずにゃんね、私にメールくれるとき、一回も絵文字使ってくれたことないんだ」 純「そうなんですか?」 唯「……これって、あずにゃんは私のこと仲良しって思ってくれてないってことだよね」 純「……は?いやそんなことないとおもいますけど。梓って結構先輩後輩の関係気にする方ですから、その辺りの礼儀の話じゃないですか」 唯「つまり、あずにゃんにとっての私は、まだ先輩って程度なのかな……」 純「というか、唯先輩って意外とそういうの気にするんですね」 唯「恋する乙女は繊細なんだよ。胸が痛むことが増えた気がするよ。だけどその分あずにゃんのこと想ってるって気付くんだよ」 純「さりげなく惚気ないでください」 唯「冬の日Ver.だね」フンス 純「まあ、考えすぎだと思いますけどね。というか、あれで只の先輩としか思ってないよ?と言われても逆に困ります。梓は唯先輩のこと大好きですよ」 唯「そうかなあ……」ムー 純「そうですよ。ちなみに最後に来たメールってどんなのでした?」マアシンパイナイトオモイマスケド 唯「えっとね……あ、ついさっきメール来てたみたい……えっとね」ミセテアゲルヨ 純「あ、見てもいいんですか?えっと……どれどれ」 梓『唯先輩、用事はまだかかりそうですか。一人は寂しいです。美味しいご飯作ってますから、早く帰ってきてくださいね。愛してます、唯先輩』ラヴニャン! 純「……」 唯「ほら見てよ!絵文字ひとつも無いよ!やっぱりあずにゃん……」ホラホラ 純「唯先輩すみません、一発殴らせてください」バクハツシチャウヨ? 確かに絵文字は無いな…… -- (柚愛) 2011-03-03 13 11 59 絵文字は無いな…w -- (名無しさん) 2011-04-13 23 00 50 唯と純は意外に気が合いそうだよな。しかし唯と仲良くなれば、純は二人がかりでのろけ話を聞かされることになるのかw -- (名無しさん) 2011-10-19 22 08 23 なぐりたい気持ちわかる… -- (名無しさん) 2012-08-09 21 39 04 ないけど内容はいいね -- (あずにゃんラブ) 2013-01-10 06 46 00 殴ってぉk -- (名無しさん) 2013-01-24 22 30 13 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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唯「このきんつば美味しぃねー」モグモグ 梓「和菓子に紅茶って意外と合いますねー」モグモグ 澪「うっ……」 紬「澪ちゃん、どうかした?」 澪「な、なんでもないよ」 紬「そう? それならいいけど」 この際だからはっきり言ってしまおう。 ムギは性格が悪い。 今だって、私にだけ苦い紅茶をいれておいて、白々しいやりとりをする。 二ヶ月ほど前、私は律に告白した。 しかしあっさり断られてしまった。 「澪のことは大切だと思ってるけど、女の子に恋愛感情は持てない」という簡潔な返答。 告白することを軽音部のみんなに伝えていたから、振られたことも周知の事実になってしまった。 そこまではいい。 だけどその一ヶ月後、律の机で自慰をしているのをムギに見られてしまったのだ。 それからというもの、私はムギの言いなりだ。 「いい加減にりっちゃんのことは諦めて私を見て」というのがムギの言い分だ。 自慰をしているのを見られた後、私は首根っこを捕まれ、ムギにキスされた。 ムギのことを恋愛対象として見たことはなかったけど、好きだと言われて悪い気はしなかった。 だけど、それからというもの、私が律のことを考えている度、意地悪をするようになった。 今回の紅茶だってそのひとつだ。 私が律を見てぼーっとしてたから、こんな苦い紅茶をいれたのだ。 紬「じゃじゃーん。今日はもうひとつお菓子をもってきました?」 唯「なになにー?」 紬「とらやのどら焼きなの?」 あっ、私が前に食べたいって言ってやつだ……。 律「……うん。皮がもっちりしてて、餡もしっかりしてて普通に美味いな」 梓「ええ、正統派どら焼きって感じがします」 澪「……美味しい」 このようにムギは私が食べたいといってものを学校に持ってくるようになった。 お客さんからもらったものではなく、自分で買ったものだろう。 正直、ちょっと嬉しい。 唯「なにこれおいし~。ムギちゃん大好き」 紬「///」 あっ、唯に大好きと言われて照れてる……。 帰り道のこと。 紬「嫉妬してくれたの?」 澪「そんなんじゃない」 紬「なぁんだ……」 澪「でも不公平じゃないか」 紬「じゃあ、今度から唯ちゃんに『大好き』って言われても照れないようにするね」 澪「……」 なんだこれ。 これじゃあまるで私がムギに嫉妬してるみたいじゃないか。 ……面白くない。 紬「ごめんね」 澪「なんでムギが謝るんだ」 紬「なんとなく、かな」 澪「はぁ……」 紬「ねぇ、澪ちゃん。今日はどうする?」 最近、部活が終わってからムギと遊びに行く事が多い。 こうやってムギが誘ってくるからだけど、提案についつい乗ってしまう私もいる。 澪「今日は……」 財布の中にボーリングの半額券があるのを思い出す。 そういえばムギ、ボーリングやってみたいって言ってたっけ……。 澪「ボーリングなんてどうだ?」 紬「ボーリング!!?」 澪「うん。どうかな」 紬「行く行く! 澪ちゃん大好き!!」 澪「じゃあ行こうか」 紬「うんっ!」 ムギは性格が悪い。その考えを訂正するつもりはない。 だけど、嫌いにはなれない。 ボーリング場はお客さんでいっぱいで、店員さんに20分待ってくださいと言われた。 だけど実際には40分も待つことになったんだ。 でも退屈はしなかった。ムギがいたおかげだ。 ムギはとても上手に私の話を聞いてくれる。 こういうところは律と全然違うんだ。 私は、律に対してなかなか素直になれないんだけど、ムギに対しては素直になれる。 梓や和と話してる時に近いかもしれない。 でも、それとも、少しだけ違う気がする。 梓や和は対等な友達って感じだけど、ムギはなんと言えばいいのかな……そう、ママみたいな感じがする。 何を話しても大丈夫、そんな気がするんだ。 紬「澪ちゃん?」 澪「……」 紬「澪ちゃん!!」 澪「ど、どうかした?」 紬「考え込んでたみたいだったから」 澪「ちょっと考え事をしてたんだ」 紬「そう。それならいいけど……」 澪「……律のことを考えてたとは思わないんだ?」 ちょっとだけムギに意地悪がしてみたくて、こんな言葉が飛び出した。 だけど、やっぱりムギは私より上手だった。 紬「う?ん。私のこと考えてたんじゃない?」 澪「えっ」 紬「そんな気がしたの~」 澪「……実はそうなんだ」 紬「本当に私のこと考えてくれてたんだ」 澪「うん。ムギってママみたいだなって」 紬「お母さん? 私が?」 澪「うん。ムギにはなんでも話せる気がするんだ」 紬「……そっか」 澪「……ムギ?」 ちょっとムギが寂しそうな顔をした気がした。 理由を聞こうと思ったら、店員さんに遮られてしまった。 やっとレーンが空いたみたいだ。 澪「ムギははじめてなんだよな。じゃあ、まずは私が投げるよ」 紬「澪ちゃんがんばって?」 澪「それっ」 投げたボールはピンに向かってまっすぐ向かっていき――ピンをなぎ倒した。 紬「一本だけ残っちゃった」 澪「じゃあ二投目」 紬「すごい、あたった!!」 澪「よしっ、スペアだ」 紬「スペア?」 澪「二回投げて全部のピンを倒すこと、一回で倒すと――」 紬「あっ、それ知ってる! ストライクね!!」 澪「うん、そうだよ」 紬「次は私の番でいいのかな?」 澪「うん」 紬「えいっ」 ムギの投げたボールは勢い良く転がっていき、端っこのピンを倒した。 紬「これはどうなのかしら?」 澪「二本倒れたみたいだな。初めてならこんなもんじゃないか」 紬「そう? じゃあもう一回行くね」 澪「がんばれ」 紬「えいっ!!」 ボールは勢い良く転がっていった。……斜めに。 もちろんガーターになってしまう。 紬「澪ちゃん……」 澪「まぁ、初めてだからなぁ」 紬「どうすればいいのかな」 澪「うーん。ちょっと私の投げ方を見てくれる?」 紬「うん」 私はボールを投げる。狙い通りの場所にボールは転がり、見事ストライクになった。 紬「凄い凄い!!」 澪「ああ、上手くいったよ。で、見ててくれた?」 紬「うん。投げる前に腕を後ろに大きく振ってたね」 紬「ちゃんと見ると、澪ちゃんすっごくかっこよかったよ」 澪「そ、そうかな」 紬「うん」 澪「じゃあ、見ててあげるからムギ、投げてみてよ」 ムギは私の真似をして、大きく後ろに腕を振り上げてボールを投げた。 しかし、またガーター。 紬「……あれっ」 澪「うーん」 紬「やっぱりいきなり上手にはならないのかな」 澪「いや、ムギのフォームはまだ悪いところがあるんだ」 紬「えっ」 澪「手を振り上げる時、ボールが放たれてから当たるまでのコースを想像するんだ」 澪「ムギの場合、振り上げる線と、投げる線が一致してない」 私は説明した後、エア投球をしてみせた。 ムギも真似をする。 紬「こんな感じかな」 澪「うん。ムギは力が強いから、どうしても強引に手の力で投げにいっちゃうんだと思う」 紬「そうかも」 澪「そこをぐっと堪えると良くなると思うよ」 紬「えいっ!!」 ムギが投げる。 私の言ったことをきちんと守ったおかげで、フォームはとても綺麗だ。 ボールはほぼ真っすぐ進み、6本のピンを倒した。 紬「やったわ! 澪ちゃん! 沢山倒れた!!」 澪「あぁ、上手くいったな」 ムギは子供のようにはしゃぐ。 あまりにも純粋に喜んでくれるから、こっちまで楽しい気分になってしまう。 澪「じゃあ次は私の番だな……」 ムギに教えてる手前上手く投げたかったところだ。 だけど、リリースする瞬間手元が狂い、ボールはあらぬ方向へ……。 澪「ガーター……」 紬「ど、どんまいです!」 澪「はぁ……かっこわるい」 紬「だけど投げてる時の澪ちゃんはかっこいいよ」 ムギが必死にフォローしてくれる。 こういうとき、愛されてるなって感じる。 正直、悪い気はしない。 それから色々あって帰り道のこと。 紬「あとちょっとで100点に届いたのに」 澪「でも初めてで92点なら凄いと思うよ」 紬「そうなの?」 澪「あぁ」 紬「そう言う澪ちゃんは122点もとっちゃったね」 澪「まぁまぁかな」 紬「師匠と呼ばせてください!!」 澪「大袈裟だよ。まぁムギは力が強いし、ちゃんと練習すればすぐに上手くなると思うよ」 紬「そうかな」 澪「そうだよ。また今度一緒にいこ」 紬「また今度、か……」 澪「ムギ?」 紬「ねぇ澪ちゃん、今日何の日か知ってる?」 澪「えっ」 ムギの思わせぶりな態度に私は考えを巡らせる。 まさかムギの誕生日……はこの前過ぎたし、ムギと出会ってから一年……でもないし。 あっ……! 紬「気づいたみたいね」 澪「あぁ、ムギにキスされてから一ヶ月か」 紬「うん。私が無理やり澪ちゃんにキスしてから一ヶ月」 澪「もうそんなに経つんだな」 紬「私ね、決めてたの」 澪「何を?」 紬「一ヶ月頑張って澪ちゃんを振り向かせられなかったらすっぱり諦めようって」 紬「澪ちゃんを縛り続けるのはやめようって」 紬「私ね、分からなくなっちゃったの」 紬「澪ちゃんは相変わらず部活の時間はりっちゃんのことばかり考えてるし」 紬「私のことは相変わらず恋愛対象外みたいだし」 紬「でも、私と遊んでるときの澪ちゃんは結構楽しそうだし」 紬「この恋をどうするべきなのか、自分じゃ分からないの」 澪「ムギ……」 紬「だから澪ちゃんに決めてもらいたいなって」 紬「このまま澪ちゃんのことを好きでいていいか、諦めるべきか」 紬「もちろん諦めたくなんてないけど……」 紬「澪ちゃんが諦めずにりっちゃんにアタックするつもりなら、私は邪魔になるだけだと思うから」 澪「……」 ムギの告白に私はしばらく沈黙した。 ちょっと意外だった。 ムギはもっと恋愛に対して飄々としてて、不安や悩みとは無縁な存在だと思ってた。 彼女が私に弱みを見せたのはこれが初めてかもしれない。 私の言葉を怯えるような目で待ち続けるムギはとても小さく見えて、 ちょっとかわいいな、と思ってしまった。 私は勿体つけてから、こう言った。 澪「ムギにキスされてから面白くないことも沢山あった」 紬「……っ」 澪「でもさ、面白くないことも沢山あるけど」 澪「それでも楽しいのほうが勝ってる」 紬「本当?」 澪「あぁ、本当だ」 澪「だからムギは……いや、私がこんなこと言うのも変か」 紬「うんう。言って欲しい」 澪「……そうだな。私のこと好きでいてくれていいよ」 その言葉を聞いてムギの顔がぱぁと明るくなった。 さっきまでの不安そうな顔はどこへやら。 満面の笑顔にかわってしまった。 そして一言。 紬「澪ちゃん、大好き!!」 この時私は、ムギと付き合ってしまうのも悪くないかもしれないと思っていた。 律は振り向いてくれそうにないし、ムギと一緒の時間はとても楽しかったから。 しかしそんな甘い考えは次の日の朝、粉々に砕かれることになる。 最低かつ最高の形で。 発端は下駄箱。 登校中に偶然ムギと出会った私は、一緒に学校に来たんだ。 そして、私の下駄箱から一通の手紙が見つかった。 ただのファンレターだと思ったんだ。 だから、ムギが読みたいと言ったので、読ませてあげることにした。 ムギは最初楽しそうな顔で封を開いたけど、だんだん顔から感情が消えていったんだ。 「澪ちゃん、これ」と言って私に手紙を返してくれたときには、真っ青な顔をしていた。 文面はとても簡潔。 「放課後、屋上で待ってる。律」 私は授業中しきりに律とムギの様子を確認した。 律は平常運転だ。 ムギはほとんど感情を表に出さない。 たぶん意図的に隠しているのだろう。 律の呼び出しについて、私は様々な可能性を考えた。 悩みの相談だとか、そういう可能性も捨て切れない。 でも、普通に考えれば、ごく普通に考えれば、告白だと思う。 告白されたことで、恋愛対象じゃなかった人が恋愛対象になる。 少女漫画によくある展開。 最近の律を思い出す。 そんな素振りなんて全く見せたことなかったのに……。 必死に私に対する感情を押し殺している律を想像すると、ますます律のことが愛おしくなった。 でも、律の告白を受ける前に私はやらなきゃいけないことがある。 だから放課後、律に会う前にムギを部室に呼び出した。 2
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次の日 音楽室 澪「この通りだ!許してくれ律!」 律「お、おい!なんだよ澪!頭あげろって!!」 澪「昨日の私はどうかしてたよ!平民どもを見下すなんて!本当にごめん!」 律「わかったから!わかったから頭あげてくれ!」 澪「許してくれるのか・・?」 律「もちろんだよ。あたしら親友じゃないかよ!」 澪「律・・・ありがとう・・・」 律「それに私はしってたんだぞ?お前がベース置いていった時からきっと帰ってくるって!」 澪(あ、忘れてたよベース・・・) 律「まぁ、これからも変わらずによろしくな」 澪「もちろんだよ。」 唯「これでけいおん部も元通りだねー!」 梓「唯先輩・・・実はそれが元通りじゃないんです・・・」 唯「えっどういうこと?」 梓「じつは・・・ムギ先輩ー!出てきてください、ムギ先輩ー!」 ムギ「は、はじめまして・・・」 唯「は・・・」 澪「はじめまして・・・?」 律「実はムギが記憶喪失になってしまったんだよ・・・」 ムギ「・・・」 唯「そんな・・・私のこと覚えてないの!?」 ムギ「コクリ」 澪「私は!?私の存在感なら忘れたくても忘れられるわけが・・・」 ムギ「すみません・・・」 唯「そんな・・・来週から修学旅行なのに・・・こんな状態ってかわいそうすぎるよ・・・」 澪「キーボードは!?弾けるのか!?」 律「キーボードは弾けたよ。基本は日常生活には支障は無い。」 澪「よかった・・・ムギのキーボードが欠けたらHTTじゃなくなるしな・・・」 澪「修学旅行までに治るといいな」 ムギ「ありがとうございます。」 唯「無理しちゃ駄目だよ?病人なんだから・・・」 そして部活終了後 唯「帰るかー!」 澪「あ、ごめん。私と律はちょっと残るからさ、先にかえっててくれ」 律(え・・・///) 梓「わかりました。」 唯「じゃあムギちゃんは私たちが送ってくね!」 ガチャ 律「な、なんだよ・・・いきなり残るなんて聞いてないぞっ?」 澪「私昨日からずっと律に悪いことしちゃったなって思っててさ・・・」 律「だ、だからあれはもういいって!!許したからさ!!」 澪「私律を傷つけちゃって・・・どうやって責任取ろうか・・・ずっと考えてて・・・」 律「せ、責任なんて!!何言ってんだよ!友達だろ?」 澪「だったら、私のほんのちょっとの気持ちを受け取ってほしいんだ。」 律(え・・・///) 澪「受け取ってくれるか?」 律「気持ちって・・・なんだよ・・・?それによる!!」 ぎゅっ 澪がそっと律の手を握る 律「澪・・・///」 澪「・・・ありがとう。受け取ってくれて。」 律の手には1枚の小切手が握られていた。 律「なんだこれ・・・」 律(紙?ラブレターでもなさそうだし・・・) 澪「私のほんの気持ちだ!」エヘン 小切手「¥30,000,000」 律「・・・」 澪「大好きだよ、律。」 律「お前・・・」 澪「ん?」 律「やっぱりまったく反省してないな・・・土下座の時から平民どもとかいったりおかしいとは思ってたけど・・・」 澪「な、何言ってんだよ律・・・そ、そうか!足らなかったんだな!だ、大丈夫!こうやって0を一つ足せば・・・ああぁぁ!!『,』がズレたぁぁ!!」 律「だいたいベース忘れてく時点で軽音楽に未練ないの見え見えなのに・・・」 律「なんで戻って来たんだよ?」 澪「み、みんなでけいおん部・・・やりたくて・・・」ウルウル 律「おうおう。これからは履歴書の特技の欄に“嘘泣き”って書けるなぁ澪ちゃん!」 澪「・・・」 澪「ギロ…」 律「ひっ」 澪「まったく・・・友達だと思ってたのにさ・・・」 澪は手にある小切手をビリビリと破り捨てた。 澪「どうしても仲良くできないのか?」 律「ああ、無理だね。」 澪「ムギがあんな状態なのに・・・友達の事もう少し考えたらどうだ!」 律「答えはさっき言ったぞ。こんな成金ごめんだね!」 澪「・・・」 澪「成金だとォ・・・?」ギロ 律「ひっ」 澪「お前・・・私に向かって成金だと・・・」 律「じ、実際そうだろ!宝くじ当てただけじゃねえか!!」 澪「大富豪の私に向かってどの口がそんな事をほざきやがったアアアア!?」 澪「この私が土下座までしてっていうのに!つけあがるな!私の傷ついた心を返せ!」 澪「謝罪しろ謝罪!!」 律「お前ちょっとおかしいだろ!?怒りを通り越して心配になってきたぞ・・・」 澪「平民のくせに私をキチ呼ばわりするなあああ!!」 律「お、おちつけ澪!別にキチ呼ばわりなんかしてないって!」 澪「したじゃないか・・・私をキチ扱いした目で見たじゃないか・・・」 律「きのせい!それは気の所為だ!まずは落ちつけ!な?」 澪「はぁ・・・はぁ・・・」 律「お前は大金を手にしておかしくなってるだけだ。だからまず冷静になってくれ。」 澪「おい、今私のこと池沼だって思っただろ。」 律「思ってないから!それに池沼は唯一人で十分d」 ガララ 唯「・・・」 律「唯!?」 唯「りっちゃん・・・今何の話をしてたのかな?」 律「えっと・・・その・・・」 カチッ 『思ってないから!それに池沼は唯一人で十分d』 カチッ 律「ボイスレコーダーだって・・・?澪、お前なんてもの持ち歩いてんだよ・・・」 澪「私会話を24時間記録してるんだ。」 律「なんだよそれ・・・完全に人間不信じゃんかよ・・・」 澪「あ、私は唯の悪口言ってないぞ。こいつで証明できる。1億賭ける」 唯「やっぱり私の悪口言ってたんだね、りっちゃん・・・」 律「えっと唯、これは誤解なんだ!言葉のあやというか・・・」 唯「なにが言葉のあやだよ!りっちゃん私の事池沼だって思ってたんだ!」 律「いや、ち、違・・・」 澪「違くないだろ。いい加減認めろよ、律。」 律「澪・・・」 唯「・・・」 律「唯!信じてくれ!私お前のこと本当に友達だって思ってるんだよ!?」 澪「“思ってた”の間違いじゃないの?」 律「澪ォ・・・」ギリッ 澪「なんだよその目は。」 律「一回信じた私が馬鹿だったよ。お前はもう完全に芯まで腐っちまってたみたいだな・・・!」 澪「ほざけ、平民が!」 唯「もうけいおん部もおしまいだね・・・人間関係ぐっちゃぐちゃだよ・・・」 澪「一部の狂った奴のせいでな。」 律「あぁ、それに関しては同感だな・・・!痛ぇっ!」 唯「あずにゃんがかわいそうだよ・・・」 律「それにも同感だな・・・!痛ぇぇ!!」 そして、修学旅行の日がやってきました! 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/05/04(火) 21 23 14.73 ID Gnyi7ZPWO 律は何を痛がってるんだ? 57 指を踏まれてます。 6
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あずにゃんへ 今度の夏祭り、久しぶりに軽音部の皆で行くって約束でしたが、何でも、澪ちゃんがどうしてもりっちゃんと二人で行きたいと言ってるらしくて、集合は三人になりました。二人は今おアツいから、許してあげてね。 昨日唯先輩から送られてきた一通のメール。その最下に書かれていた待ち合わせ場所を三度反芻して、私は家を出ました。今日がその夏祭り当日。先輩方が卒業して以来、初めての再会です。夏休みの間はずっとこっちにいてくれるからいつでも会えるとはいえ、それでも再開初日というのは嬉しいような気恥ずかしいような、不思議な気分です。 夕方六時のチャイムが鳴る頃には、青空に赤い影がぼんやり滲んで、じいじいと耳をつんざくような蝉時雨も、まるで川の流れのように滑らかな音色になる、そんな時期になりました。 風も僅かながらそよそよと穏やかに流れていて、心地良い暑さが夏の終わりを、ぼんやりと連想させました。 川を越え信号を渡り歩くことおよそ十分。曲がり角を抜けた所、遠目に先輩たちの姿を確かめることが出来ました。 「あっ、おーい! あずにゃーん!」そう私が気付くや否や、唯先輩も私に気付いたらしく、こちらを向いて、手を広げながら駆け寄ってきました。 あぁ、懐かしいなぁ。唯先輩はいつも私と会えば、真っ先に駆け寄って抱き着いてきていました。しかし、今日の問屋は高めの為替。何故なら唯先輩と私の距離は、遠目と言うほどに離れているわけで…… 「これだけ離れてて、かわせないわけがないです!」 とはいえ、今身体をズラすにはいささかタイミングが早すぎて、もうちょっと近づかせないことには、唯先輩が対応できてしまいます。もうちょっと近づいてもらわないと。もうちょっと、もうちょっと…… 「梓ちゃん、久しぶりね~」 「わっ!?」 突然背後から話しかけられ、思わず後ろを振り向きました。声の通り、そこにはムギ先輩がいました。しかし、一体いつから背後に……? 「もう、ビックリしましたよムギ先輩」 「あらあら、ごめんなさい」 「……あの、どうして少し距離を置くんですか?」 「だってここがベストスポットだもの」 「ベスト……?」 言ってる意味はすぐに分かりました。 「あずにゃん久しぶり~! ずっと会いたかったよ!」 「うにゃあっ!?」 いつの間に距離を埋めた唯先輩が、後ろから思いっ切り抱き着いてきたのですから。 「半年ぶりのあずにゃん分だ~! お肌のモチモチもあったかさも変わんないねえ」 「や、やめてください唯先輩ぃ!」 そうやって言う唯先輩も、やっぱり半年前と何も変わらない。でも半年の月日が流れていたことは確かなだけに、すっかり免疫の無くなった私の心臓は、途端にばくばくと早鐘を打ちだしまして…… 「ム、ムギ先輩、助けてくださ」 「半年ぶりの唯梓分……! あぁ、どんどん癒されていくわ!」 「それどころじゃないご様子で……」 結局、これまでの空いた穴を埋めるように、私は唯先輩に思う存分味わされたのでした。 「もう。頬ずりまでしたんですから、人前でくっつくのはダメですよ」 「えぇ~。あずにゃんは手厳しいなぁ……」 唯先輩がそう不服そうに呟くのを、隣でムギ先輩が慰めていました。 ……後ろを歩いているお陰で、離れた後でも足が震えてるのはバレてない、と思いたいです。 「それにしても、あずにゃんが何も変わってなくて良かったよ~。反応は前より可愛くなってたけど」 「う、うるさいです。……でも、唯先輩もムギ先輩も、お変わりないようで良かったです」 「あ、でもねあずにゃん。ムギちゃんは大学生になってからたくさんバイト始めたんだよ」 「え、そうなんですか!?」 ムギ先輩を見ると、そうなのよ~とこくんと頷き、 「社会勉強をしたくてね。レジ打ちとか古本屋さんの棚整理とか、色々始めたのよ」 「いくつも掛け持ちしてるんですか、スゴいですムギ先輩!」 「褒めてもお茶は出ないわよ~」 スゴいと言われて、ムギ先輩はとても嬉しそうでした。お金に不自由なんてしないのに、自ら進んで働くなんて、ムギ先輩は人がよく出来ています。 「後ね、澪ちゃんとりっちゃんは別のサークルにも入ったんだよ。二人とも同じ『しいた』同好会なんだって」 「……角度同好会とは、かなりマニアックな集まりですね」 「ぷぷっ。あずにゃん、知ったかぶっちゃダメだよ~」 ムカッ。確かにダメ元で言いましたけど……。 唯先輩は得意気に続けます。 「あずにゃん、『しいた』っていうのはね、この詩のどんな所がいいかを調べたり、実際に作って見せ合いっこする所なんだよ」 「……唯先輩、その同好会、『しいた』じゃなくて、『しいか』だったりしません?」 「ほぇ?」 ムギ先輩の方を見ると、うんうんと二度首肯してくれました。 「……ま、この位すぐピンときますよ。先輩とは違って」 「あずにゃんが見下した! しどい… …」 「自業自得じゃないですか」 唯先輩がよよ、と泣き崩れるフリをしました。 「しかし、澪先輩はともかく、律先輩もそこに入ったんですね。意外っていうか……」 そう言うと、二人は示し合わせたかのように顔を見合わせて、ふふふと意味深に笑いました。 「何かあったんですか?」 「うふふ、そこにも健気なドラマがあるのよ。初めは澪ちゃんが、もっと詩の勉強をしたいってそのサークルに入ったのだけど、それを律ちゃんが聞いたら、その日の内に律ちゃんも入っちゃったの。『澪のポエムが暴走したらマズい』とか『人見知りが暴走して気まずくなった時の為に』って言ってたけど……」 「りっちゃんも素直じゃないよねぇ。二人のことはちゅーの一件で皆知ってるのに」 ねー、とまたまた示し合わせたように、二人が言いました。 「あの、私だけ話がついていけてないんですけど……」 そう言うと、二人の動きがぎくっと静止しました。 「あ、あれ、あずにゃん、何も知らない?」 「思い当たる節はありませんけど……」 「そ、そういえば、梓ちゃんはあの場にいなかったわね」 「澪ちゃんの寮に遊びに行った時のことだもんね。どうしよ……」 「他の人には絶対言うなって言われてるけど、でも梓ちゃんだし別に……」 何をひそひそ話してるんだろう……? そう思っていると、どこからともなく古典風な笛や太鼓の乾いた音色が聞こえてきました。きっとお神輿が担がれ始めたのでしょう。 「お祭り、始まったみたいですね 「あ、ほ、ほんとだっ! 早く行こうよっ、ね、ねね!」 「そ、そうね。私も久しぶりだし、ちょっとでも長く見ていたいわ!」 「ささ、早く行こあずにゃん!」 「そこまで急かさなくても……」 結局さっきの話題は何だったんだろう、と少し気になりはしましたが、程なく気にならなくなりました。 私だってお祭り前の訳ない興奮を覚えないはずはなく、殊に二人の先輩と再会して懐かしさの渦中にいたのもあって、一刻も早く屋台の群れに入りたい気持ちの方が勝りました。ひょっとしたら、この中で一番私が、今日というこの日を楽しみにしていたのかもしれません。 夕方のふわふわした暖かさが街へ溶け出したからでしょうか、薄灰色だった雲は目を射差すような橙色に染まり、その日光と盆提灯、屋台からこぼれた白色蛍光が混ざり合って、その光景はまるで夢や思い出の一シーンのように、全景がぼんやり滲んだ、とても幻想的な風景でした。 「あずにゃん、たい焼き食べる?」 「ありがとうございま……って、いつの間にそんなに買ったんですか!?」 気付けば唯先輩は持てるだけの食べ物を買ったという風体で、さながら食べ物の着ぐるみをまとっているかのようになっていました。 「まま、好きなの選んでよ。たこ焼きたい焼きさいきょう焼き、フライドポテトにスーパーポテトもあるよ」 「豊富ですね……」 最後のは商標的に訴えられたりしないでしょうか? 「じゃあ、たい焼きを一つ」 「あいまいど! お嬢ちゃん可愛いからタダね!」 「誰ですか」 そう言って受け取った一尾のたい焼き。紙ごしでも伝わる温かさは、屋台から貰った出来上がりも同然の温もりでした。 ……もしかして、私が食べると思って、最後に買ってくれたのかな……? 「はむっ……。いつもより甘い気がします」 「ほんと? 買ってよかったぁ」 食べているのは私なのに、まるで自分事のように喜ぶのを見て、思わず私も笑ってしまいました。 たい焼きを食べ終わる頃には、唯先輩の手元にはりんごあめしか残っていませんでした。食べている最中にムギ先輩にも譲っていたのですが、それにしたって尋常じゃないスピードです。 「あずにゃん、そんなにじーっと見てどうしたの?」 「一瞬で食べ物が消えてたらじーっと見たくもなります」 そう言っても唯先輩は依然、小首を傾げて、自分の口元手元に目線をやっていました。 「あっ、分かった! りんごあめも食べたいんだ。欲しがりさんめ~」 見当違いもいいとこです。 「しょうがないなぁ~。はい」 「……はい?」 「私のアメあげるよあずにゃん。二人で分けっこしよ?」 「なっ…………!?」 とっさに私へ差し出しているアメに目を落としました。形はあまり崩れていませんが、反対側の輪郭はもうしなっと曲がり、所々が濡れて妖しい光を放っていました。いや、この濡れてるのって、もしかしなくても……! 「い、いらないです! 唯先輩の分が減っちゃうじゃないですか!」 「気にしないよ~。寧ろ食べきれるか不安だったから、あずにゃんに食べてもらえたらありがたいなぁ」 拒むどころか、大義名分が出来てしまいました。 ど、どうしよう……。でも唯先輩が困ってるって言うなら、助けてあげるべきだよね……? そう、これはあくまで人助けなんです。あくまで唯先輩を助けるために…… 「あ、ムギちゃん。リンゴあめ食べる?」 「いいの? じゃあお言葉に甘えて~」 「あっ……」 悩んでいる間に、あめはムギ先輩の口に入っていき…… 「はい、あずにゃん」 そうしてムギ先輩を経てから渡されたリンゴあめは、何の躊躇いもなく食べることが出来ました。感謝の気持ち半分、勿体ないことをされた気持ち半分で、私はムギ先輩を見つめました。 「たくさん食べたし次は遊ぼうよ!」 「もう、ちょっとは休みましょうよ」 「ダメだよ~。お祭りは無駄なく遊ばないと」 ふんすと鼻を鳴らして、唯先輩はゲームの屋台がある左の小路へと入っていきました。 「もう、唯先輩は相変わらずですね」 「そうねぇ。でも、梓ちゃんがいるから、っていうのもあると思うわ」 「私?」 ムギ先輩は頷きました。 「唯ちゃん、梓ちゃんと会えるのをすごく楽しみにしてたもの。久しぶりにあずにゃんに会える! って事あるごとに言ってたのよ」 「……どうせ、ひっつく相手がいなくて寂しがってただけですよ」 「うふふ、そうね」 そう言うと、雑踏の前から唯先輩の呼ぶ声が聞こえました。 「あずにゃんムギちゃん、人で溢れちゃってるよー……」 唯先輩が退いてきた先では、隙間も無いほどの人の群れ。ちょうど近くで神輿の掛け声が聞こえるので、きっとそのせいでごった返してしまっているのでしょう。 「これを抜けるのは大変そうね……」 人混みを一目見て、ムギ先輩はそう呟きました。 「う……」 自然、前に進む足が固まってしまいます。どうしよう。もしはぐれちゃったら、二度と唯先輩と会えないような……。折角、折角また会えたのに…… あーずーにゃん」 ふわっと、手に温もりが重なったような気がして、見ると唯先輩が、私の右手をすっぽりと包んでいました。 「これならはぐれないかなぁ、って思って……。ダメだったかな」 そう言って唯先輩ははにかむように笑いました。さっきの不安なんて霞にしてしまうような、優しい、照れくさそうな笑顔。固まった身体が徐々にほぐれていく気がしました。 「……私と会いたがってた、って聞きましたから。特別です」 そう言って、より一層手を握る力を強めました。 「えへへ、ありがとあずにゃん。あずにゃんは優しいね」 「……優しいもんですか」 「優しいよ~っ」 ……どうせ鋭いなら、私の不甲斐ない気持ちも、見抜いてくれたらいいのにな。 「じゃ、行くよ。離れないようにしっかり握っててね」 私はそっと頷いて、それを合図にゆっくりと歩き始めます。もう一つの手で唯先輩の手を掴もうか少し迷って、その手で後ろ髪の片尾をふいと払いました。 「ふぅ、どうにか抜け出せましたね」 「はぐれなくて良かったぁ……。でもムギちゃん、ごめんね、繋ぐ手の余りがなくって」 「大丈夫よ。私には百合の磁力があるもの。二人とは絶対に離れないわ」 「? 綺麗な磁力だねぇ」 人混みを脱した直後だと言うのに、ムギ先輩の呼吸も表情も、一切崩れていませんでした。 「あっ、ムギ~! 唯と梓も!」 一息ついた所で景色が開けると、偶然にも、眼前に律先輩が現れました。 「なんだ、結局放課後ティータイムは一つに集まる運命なんだな」 「運命だなんてっ……。りっちゃんロマンティック~」 「はは、澪の癖があたしにも移っちゃったみたい……」 律先輩は照れ笑いをして頭をかきました。 「そういえば澪ちゃんは?」 「あぁ、澪なら……」 そこで言葉を切り、後ろの方を指さします。澪先輩は、屋台をじっと睨んだまま、何かを投げるようなポージングで固まっていました。実際何かを手に持っているようで、それは…… 「あれ、輪投げですか?」 「そっ。だるま落としの方が簡単だって言ったのに、だるまが落ちんのは演技が悪いって聞かなくて」 そう言ってる内に、澪先輩がさっと手首をスナップさせました。輪っかは手を離れ、屋台の陰に隠れその所在は知れぬ所となりましたが、澪先輩の強張った表情が解けたと思うと次にはがっくりとうなだれて、 「外したな」 「外したね」 「そんなに欲しい物があったのかしら」 「財布と電話を出さないでくださいムギ先輩」 やがて澪先輩が、がっくりとしたままこちらへ来ました。 「律ぅ……輪っかは完全に入ってなくちゃダメだってぇ……」 「あー、私もそれで神のカード貰えなかったなぁ」 帰って来た澪先輩は、律先輩の肩にしがみついてそうぼやきます。一方の律先輩はそんな澪先輩の頭を優しく叩いてあげていて……あれ、あれ。 「あの二人、あんなに距離近かったですっけ……」 「……隠すつもりもないみたいだし、もう言った方がいいよね」 「そうねぇ。あのね梓ちゃん、今二人はアツアツなのよ~」 「アツアツ? まぁあれだけ近かったら暑そうですけど……って、唯先輩! なんでそんな可愛いものを慈しむような目で見るんですか!?」 「いや~あずにゃんは初いのぉ、純粋だのぉ。そのまま大人にならないでおくんなまし~」 「だから何キャラなんですかってば」 「もうすぐ花火だって! 折角だから五人で見ようぜ!」 澪のお礼参りと行くか~! という鶴の一声で始まった屋台巡りも一通り堪能した後、またまた律先輩の鶴の一声で、花火の見える場所まで移動することになりました。前列の唯先輩達の会話を手持ちぶさたに聞いていたら、 「ぶつ、ぶつ……」 「み、澪先輩……?」 一緒に後ろを歩いていた澪先輩が心なしか、いや明らかにどんよりした様相で歩いていました。 「あぁ、梓。いや、皆とこうしてまた集まれたのは嬉しいんだけど、今年こそ律と二人で夏祭りに行こうって意気込んでたから、ちょっと複雑な気持ちで……」 苦笑いをする澪先輩の気持ちが何となく分かるような気がしました。それと同時に、とても意外な気がしました。 私の知る澪先輩は、こうやって心にひっかかるような、何となく分かる微妙な気持ちを、自然な会話の流れで口に出来るような人ではなかったはずです。 「澪先輩は、大学生になってから変わりましたね」 「そ、そうかな?」 「そうですよ」ふとさっきのやり取りを思い出して、「特に律先輩関係は、前よりずっと積極的じゃないですか。何かあったんですか?」 「!? べ、別に何もない! 何もないぞ!」 慌てて手を振って否定する澪先輩でしたが、何か思い直したように、照れくさそうに頬をかきました。 「……いや、うん。あった。ほんとは。」 「ですよね! 澪先輩と律先輩、今までの幼馴染って感じよりもっと深い関係になってるような……」 「わーっ! それ以上はダメだぁ!!」 澪先輩は真っ赤になって私の口を押えました。 「……というより、十年一緒にいた今までが変わらなさすぎたんだよ」 紅潮しきった頬を掌で押えて、澪先輩は続けます。 「でも勢いとはいえ、変えるきっかけが出来た。そのチャンスを逃したくなくてさ、もう少し自然に近づいてみよう、素直になれるよう頑張ってみようって思って」 最近までは凄く恥ずかしかったけどね。とおずおず付け加えます。 「……皆、新しい環境になって、変わっているんですね」 そう呟いた時、お祭りの人混みに飛び込む前にした近況報告をふと思い出しました。 ムギ先輩も律先輩も、澪先輩も変わっていく。成長。それを喜ぶのは至極当然な感情であるはずなのに、皆が私の知らない所で変わっていく。それがとても寂しくてしょうがない。 いつか皆、葉桜が紅く染まっていくように、私の知らない先輩達となってしまうのでしょうか。あの優しくてほんわかと温かい唯先輩も、もしかしたらきっと……嫌。そんなの、絶対嫌だ……! 身体が震えそうになっていることに気付いて、私は慌てて考えを薙ぎ払いました。よそう、こんなのただの気の迷いだ。一人で考えるから変な穴にハマるんだ。私と澪先輩はよく似ている。変わりたいと思えるきっかけを訊けたら、きっとこんなモヤモヤもすぐ晴れてくれる。 「……澪先輩」そう思うが早いか、言葉のまとまらない内に、私は澪先輩の名前を呼んでいました。 「? どうした?」 「あの、みお、澪先輩は……」 それから先の言葉が舌をつかず、澪先輩は首を傾げて私の言葉を待ちます。 「あの、澪先輩はどうして……!」 何でもいいから何か言ってしまおう。後で補足を入れたらいい、そう思い声を出しました。が、 「おーい! 着いたよーっ」 そう決心した瞬間、唯先輩が大きな声で私たちに呼びかけました。 「ラッキー! ちょうど橋の端っこになったぞー!」 「りっちゃん、それは寒いよ……」 「わざと言ったんじゃないやい」 そう言う内に、前を歩いていた先輩達の歩みが止まりました。ちょうど、何の妨げもなく花火を一望できる場所です。 「ごめん梓、何か言った?」澪先輩が再び私に尋ねます。 「…………花火なら、二人きりで見られるんじゃないですか?」 「……! そうだなっ。おーい、律~!」 クールなイメージと相反して、うきうきと音の出そうなステップで律先輩の元へ向かって行きました。 「言わなくてよかった……」折角コンプレックスを払拭しようと頑張ってるのに、私の気の迷いで足を止まらせては申し訳が立ちません。自分の悩みを人に丸投げなんてしては、解決なんて夢のまた夢です。 「……チャンス、かぁ」 その一語が、余計な重みを持ってのしかかってくるような気がしました。 もし私に変わるチャンスが訪れても、それを受け入れることが出来るだろうか。 ……ただ一人変わらずにいてくれている唯先輩にも、もしその日が訪れたら、私は笑って見送らなければならないのだろうか…… 「あーずにゃん」 「わっ」 物憂げに星を見ていたら、空っぽになっていた右隣に、いつの間にか唯先輩がやってきていました。 「良かったぁ。一人で見に行っちゃうのかと思ったよ」 「そんなことしませんよ。花火は誰かと見た方が良いに決まってます」 「そうだよね。私もあずにゃんと見る花火が、一番綺麗に見える気がするよ」 「わ、私は別に唯先輩と、とは言ってないです!」 心を見透かされたような気がして、一瞬ヒヤっとしました。お神輿近くの時といい、唯先輩はその時の気持ちをズバッと見透かしてくるくせに、それがどんな意味を持っているかには酷く鈍感なのがズルいです。いっそそこまでバレてくれたら……なんていうのは贅沢な話だよね。 二人とも無言のまま、花火は刻一刻と迫っていきます。心の中で手持ちぶさたを言い訳に、唯先輩の横顔を眺めました。 「……唯先輩は変わりませんね」 「えぇ~そうかなぁ。私、大学生になったんだよ?」 「じゃあ何か変わったんですか?」 「えーっと……アイスを三口で食べれるようになった」 「あ、それはちょっとスゴいかも……」 憎まれ口を叩きながら、内心ほっとしている自分がいました。 「……あずにゃん、がっかりした?」 唯先輩が不安げに私の方を覗き見ました。 「……何言ってるんですか。唯先輩はその方が良いです。唯先輩は、大学生になっても、ずっとそのままの方が良いです」 つとめて明るいイントネーションで呟いたつもりでしたが、自信はありません。 「あずにゃんがそう言ってくれるなら嬉しいよ」 唯先輩はほっとため息をついて笑いました。 「私さ、ちょっと不安だったんだ。ムギちゃんはバイトを始めて、りっちゃんも澪ちゃんも他にやりたいことを一緒に始めて、私だけ何もかも高校生のままで、それでいいのかな、って。でも、あずにゃんがそのままで良いって言ってくれるのなら、それだけで安心だよ」 「唯先輩……」 それでも、少ししょんぼりしている唯先輩を見ていたら、いてもたってもいられませんでした。 「……きっと唯先輩はまだチャンスが来てないだけです。前に進みたいと思う、その気持ち一つだけで十分素晴らしいです!」 少なくとも、時間に背中を押されて、ただ転ばないように前へ足を出しているだけの私なんかより、ずっと、ずっと…… 「……あずにゃん、ありがとっ!」 「ぎゃふっ!?」 ぎゅっとまた抱き締められました。さっきは確かめる余裕が無かったけど、唯先輩から伝わるのは懐かしい温かさ。とても幸せな、だけど何故か切ない温もりでした。 「もう、離してくださいってばぁ」 「ダメだよあずにゃ~ん。花火が始まるまでだよっ」 そう言うや否や、どこかのスピーカーからざらざらした女の人の声が、後五分で花火が上がることを告げに来ました。 「あずにゃん、もうすぐ花火が上がるって!」 パッと唯先輩の身体が離れました。 「……始まるまでって言ったのに」 「? 何か言った?」 「な、何も言ってないです!」 ほとんど無意識にそう呟いていました。……参ったなぁ。本当に唯先輩への耐性が無くなっちゃったみたい。 花火のしらせはやがて群衆のざわめきに変わり、それが最高潮になった瞬間、一つの大きな花にまとまり、ドンとお腹に響く音と共に空へ打ち上げられました。赤や黄色、緑や青、めいめいの花が咲いては消え、でも夜空を空白のままにしないよう、次々連なって昇っていきました。 時には二つの輪が半分以上重なり合い、混じって派手な円模様と、多色混合の彩り豊かな火花が散り、かと思えば次の瞬間、二輪はどんどん離れて行き、ついには壁でも出来てしまったかのように、妙な距離が出来てしまいました。 あぁ、もっと近づけたなら鮮やかな景色になるのに。寄せては返す花火の距離がもどかしくて、もっと、もっと右に行けたなら……。と思いながら、くい、くいと身体を右に傾けていたら、こつん、と右手が何かにぶつかってしまいました。何が当たったんだろうと右を向いた時、唯先輩と目が合いました。 「あっ、ごめんなさい唯先輩」邪魔をしちゃったな、とすぐ悟りました。 そう言うと、唯先輩はくしゃっと顔を崩して、さりげなく、まるでさっきからそこにあったかのように、自分の左手を、私の右手の中へ滑り込ませていきました。 「これなら邪魔にならないよっ」 無垢な笑顔で私にそう言いました。 私は返事代わりに、うつむくように頷いただけでした。 それでも唯先輩は満足げに笑って、再び夜空に目をやりました。私もつられて顔を上げると、右腕にとん、と唯先輩の肩がもたれかかってきました。 「あずにゃん」 そう呼びかけられなかったら、私はまた横を向いて、何をしてるんですか!? なんて身構えたかもしれません。ただ、そんないつも通りを過ごすには、唯先輩の仕草が、私に語りかける、真剣な響き故に小さくなってしまった声が、それが私にしか聞こえない奇跡みたいな状況が、あまりに特別過ぎました。 「……どうしましたか、唯先輩」 空を見上げたままそう尋ねました。 「あずにゃん、私、やりたいことを見つけたよ」 ほら、こうして良かった。その一言に思わず強張った横顔は、花火が昇る今ならきっと、唯先輩に見えていないでしょう。 「私、ここに戻って来て、あずにゃんとこうやって一緒に夏祭りを楽しんで、ちょっと分かった気がするんだ。変わらなかったのは、やりたいことをもう既に見つけてるからじゃないのかな、って。でもそれを始める引き金が、まだ私に無かっただけなんじゃないかのかなって。あずにゃん。私はもっとギターをやりたい! 放課後ティータイムとしてだけじゃなくて、もっと、もっと!」 どどどん、と一段大きな音がしました。でも、その花火がどれだけ立派だったのか、私は知る由もありませんでした。だって…… 「だからあずにゃん! 大学生になったら、私と二人で、一緒にギターをしてください!」 その瞬間、唯先輩は私の手を両手に包んで、まるで告白まがいなことを大真面目に言うのですから…… 「な、なな、何をいきなり言うんですかぁ!?」 突然の途方もない誘いを受け入れられる度量も無く、とうとう我慢できず悪い癖が出てしまいました。でも、 「…………唯、先輩……」 慌てふためいた拍子に揺れた身体も、唯先輩にがっちりと包まれた右手だけは微動だにしませんでした。 「あずにゃん、お願い……」 真剣だけど、どこか甘えんぼで哀れっぽい口ぶりと表情。こんな顔されて、私にどうこう出来るはずなんてないわけで…… 「……もう、唯先輩は勝手です。私の都合なんて知らんぷりであずにゃんあずにゃん、って……」 「あぅ……」 唯先輩の両手がびくっと引っ込んだ気がしました。違う、こんなのが私の気持ちじゃないのに……。唯先輩が勝手なら、私だってよっぽどワガママだ。 ……でも、同じワガママなら、背伸びでも屈みでもして唯先輩と目線を合わせることだって出来るはずだ。 私は息を一つ吸って、言いました。 「……半年です」 「ほえ?」 「私の受験が終わって、唯先輩と同じ大学に入って、その時にも唯先輩の気持ちが変わらないなら、また誘ってください。……私の気持ちは、絶対に変わりませんから」 唯先輩の顔に、パッと笑顔の花が咲きました。 「あずにゃん、ありがと~!」 唯先輩がまた抱き着きました。 「ゆ、唯先輩、こんなに人がいる所でっ……」 「だいじょーぶ、皆花火に夢中で見てないよ」 「……もう」 それもそうだなぁ、って納得してしまった私は、余程重症なのでしょう。 変わること、先に進むこと。それはまだどうしようもなく怖い。大切な物がふいになってしまう位なら、ずっと今のままで居続けていたい。 でも、これでまた四年の間は先輩の背中を追いかけていられる。答えは唯先輩と一緒に見つけていこう。見た事のない世界をたくさん見せてくれた、この人とならきっと見つけ出せる。 もしその道程で何かが変わってしまっても、その目の前に変わらず唯先輩がいてくれるのなら、大事な物は、そのままでいてくれる。そうに決まってる。 三度、私は空を見上げました。花火は終盤に差しかかったのか、間髪入れず次々打ち上がり空に咲き乱れて行きます。色とりどりの、輪郭がぼやけた花が空高く咲き乱れ、その下では菜種色の炎が控えめな花を咲かせ、水面にたゆたう葉のようにはらはらと花弁を散らしていくのでした。そこに無粋な余白など、どこにもありはしませんでした。 夏が終われば、何かが変わる。そんな移ろう季節の真ん中は、全てが鮮やかに輝いていました。 あとがき ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。 読みづらい文章だったらごめんなさい。これが今のところの、文章力の限界です。 次に投稿する時は、もっと文章力や見せ方を向上させてきます。 再度、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました! そしてあずにゃん、お誕生日おめでとう! 戻る