約 2,975,947 件
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/117.html
第一部 第十五話『眠れない二日間』⑦ 〈二十一時二十一分 綺璃斗〉 「【喫茶「白桜雪」】のミルフィーユはウマかったな」 「そうですね」 教導隊が出している喫茶店から出たカリムたちは至福そうな表情で歩行者天国を歩いていた。 外食をする人たちが多いのか、はたまた既に参拝へ行く予定なのか、外には大勢の人が歩いている。 向こうから歩いてくる人たちを避ける様に歩きながらアキは訊ねる。 「次はどこに行くか?」 「この時刻なら至高の遺産がレストランになっているらしいから、そこで良いだろ~。そこの雰囲気の方がカリムに合っているかもしれないからな~」 夕食について話し合う二人にカリムは少しおどおどしながらも割り込もうとする。 「あっ。あの……」 「他にカリムが気になっている店があれば、そこでもいいんだぞ。心配するなぁ~。私はお金を余り使わないからたんまりとある。どんどん言いたまえ~」 「教導時に破壊した物の修理費が経費で落ちなかったら、財布が極寒地獄と化していたけどな」 ぽつりと口にこぼすアキ。 「何をぉ~!」 アキの一言が癇に障ったアサギは怒り出す。 怒りの余り、専用デバイスである『雷皇麒』か『雷鮫』を抜くのではないだろうか。 「本当の事じゃねぇか」 茶色いスラックスのポケットに両手を突っ込みながらにやりと笑うアキ。 民間人の密集する歩行者天国で戦闘が開始されそうな雰囲気を醸し出す二人の間にカリムが割り込んだ。 「私はホットドックとかが良いです。私にとっては何を食べたかというより、二人と何を食べたかの方が重要ですから」 「カリム……」 その一言で熱くなった頭が冷えたアサギは武器に伸ばしていた手を戻す。 「なら、陸士部隊の「冬天市場」か自然環境保護隊の「闇鍋屋」になりそうだな」 少し黒くなって見える空を怪訝そうに見上げながらアキは、カリムの要望に沿った物を出す店の名前をピックアップする。 「じゃあ、そこに行こうじゃないかぁ~」 そう言ったアサギは隣にいるカリムの手を何気なく握る。その仕草はとても自然であった。 アサギが何気なく手を握って来た事に驚くカリムであったが、微笑みながら頷いた。 「……はい」 カリムと手を繋いだアサギは大きく手を振りながら歩き、アキはそんな二人の後ろから眺めていた。 「そろそろ陸士の部隊が屋台を出している位置だな」 アキが前方で楽しそうに歩いている二人にそう言ったその時の事だった。 少し先にある建物の影から少女がよろけながら出てきた。 身体から煙の様な物が噴き出ている。 咄嗟にカリムはアサギの手を振り払い、歩行者天国に倒れた少女に駆け寄る。 「はあ……はっ………か…がふぅっ……」 少女の吐息から吐き出さる吐息は荒々しくてとても痛々しい。 「かふ…………」 いきなり喀血する少女。アスファルトに落ちたその血は異様に黒かった。 そして喉を痛めるのではないかと思えるくらい大きな声で少女は絶叫する。 「あがっ……あっ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 周囲の悪意や煩悩が黒い靄となって少女の身体を飲み込み、渦を巻きながら新たなる姿をとる。 レキとの戦闘時は石像のような姿であったが、今度は西洋甲冑を装備した騎士のような姿であった。 身長が三メートルぐらいありそうな漆黒の騎士は拳を振り上げ、カリムを強引に叩き潰さんと振り下ろす。 カリムは恐怖で瞼をぎゅっと閉じる。目の前にいる恐怖を拒絶するかのように。 地面を砕くような威力を孕んだ騎士の拳が振り下ろされる。しかしカリムに衝撃が来る事はなかった。 少しおどおどしながらもカリムは瞼を開く。瞼を開くとアキの顔が間近にあった。 いつの間にかアキの腕の中にいたカリムは突然の事に状況判断が出来なくなり、頬を紅潮させながらも目を白黒させる。 カリムを横抱きにしながらもアキは器用に携帯電話を操作し、友好のある陸士部隊の部隊長宛てに電話をかける。 約三十秒ぐらい時間が経過してから相手が電話に出た。 [おぅ。アキか……どうした] 電話の相手は陸士一〇八部隊の部隊長であるゲンヤ・ナカジマ三等陸佐であった。 「えっと……少々申し訳ないですが、交通規制を引いて貰えませんか? ナカジマ三佐」 騎士と鎬を削りあうアサギを軽く一瞥してからアキはゲンヤに頼み込む。 電話の向こうからゲンヤが楽しそうな声で笑う。 [てめぇがそう言うなんて珍しいな] 「いや~。資質のある子が暴走したんで……今、アサギが対応しているんですよ……」 そう言ってアキはため息をつきながらも、飛んできた槍を蹴り飛ばす。 ため息の意味が分かると同時に修理費の文字が思い浮かんだゲンヤもため息をつきながら言った。 [……分かった。他の奴らにも連絡を回してやる。お願いだから、公共物を破壊するなよ] 「無理」 アサギか騎士のどちらかが道路を砕いた事によって飛んできたアスファルトの破片を展開した結界で防ぎながら即答する。 […絶対、通行人に怪我を負わせるな。それ以外は……この際、目をつぶってやる] 軽く間を置いてから疲れた様な声で言うゲンヤ。電話の向こうで頭を抱えている様が頭に浮かぶようだ。 「りょ~かいっと」 「篠鷹アキ戦技教導官」 ゲンヤと電話を終わらせたアキは甚平を着た局員に声をかけられた。きっとその格好で警邏に出させられていたのだろう。 「カリム・グラシア中将を安全区域までお願いします。規制範囲はココから半径二十五mのプラスマイナス五m以内で」 通信が終わるまでずっと待っていたと思われる局員にカリムを引き渡し、アキは二人に背を向けて歩いていく。 「了解いたしました。皆さん! 今からココは戦場になります。危険回避の為に避難して下さい!」 局員の言葉に周囲で見ていた通行人たちは蜘蛛の子を散らす様に走り出す。 「グラシア中将。私たちも……」 カリムの安全を確保する為に局員も離れようとするが、カリムはその場から離れようとしない。 「アキさんっ!」 被害をこうむらない様に避難しようとする人ごみに押されそうになりながらもカリムはアキの方を向いて叫ぶ。 「大丈夫です。アサギと自分が……負けると思いますか?」 「……いいえ」 騎士の飛ばして来たトゲを野太刀で打ち据えるアサギを見たカリムは一瞬でも友人を信じられなかった事が恥ずかしいらしく目を伏せる。 そんなカリムにアキは軽く苦笑する。 「じゃあ、待ってて下さい。ちゃんと迎えに行きますから」 出来るだけ被害を出さないように戦うアサギと今も結界を展開してカリムたちを守っているアキの背中を見つめながらカリムは懇願するかのように言った。 「……負けないで下さいね」 「ヤーヴォール」 アキはカリムたちに背中を向けたまま、そう答えた。 安心したカリムは顔を戻し、局員に背を押されながら他の人と共に避難する。 しばらくしてから展開していた結界を解除し、アキは苦笑する。 「楽しそうだな。私たちの姫さんは何て言ってたんだ? 全部吐き出したまえ」 いつの間にかアキの隣に立っていたアサギがニヤニヤしながら訊ねる。 「『負けないで下さい』だってさ」 「そりゃあ、負けられないな」 飛んでくるトゲを魔力球で相殺しながらアサギは笑う。 「どっちが前衛?」 前面に重力の壁を発生させる事で飛んでくるトゲを落とすアキにアサギは答える。 「愚問だなぁ。制圧の類いはお前の十八番ではないか」 「りょ~かい。アサギっ!」 首にかけていたゴーグルをつけるアキ。前方に展開した重力の壁を解除すると同時に重力制御魔法で周囲の重力を下げ、地を強く踏み込む事で初速を高める。そして質量に変換した魔力を纏わせる事で更にスピードを上げた。 弾丸の如きスピードを得たアキは両手の先に漆黒の魔力球を生み出す。 騎士も迎撃する為に靄《モヤ》を終息させてナイフを作り出そうとする。 しかしその隙にアキは騎士の懐へ入り込み、黒球のついた左の拳で騎士の腹部を突く。 質量を上乗せされた拳を叩き込まれた騎士の装甲はメキメキという音を立てながらひしゃげた。 その一撃で意識が飛んだのか、ナイフの形を取っていた靄が霧散する。 更にその隙を狙ってアキは右の拳をすくい上げ、騎士の胸部に叩き込む。 重量を秘めた黒球のついた拳を叩き込まれた騎士はズドンという鈍い音と共に上へ殴り飛ばされる。 アサギは騎士を指差して呟く。 「紫雷の猟狐《フォックスハウンド》」 その言葉が空間に紡がれて溶けた瞬間、アサギの周りに狐が何匹も出現する。 「狩りの時間だ《セット&イグニッション》」 アサギの一言を合図に周囲で待機していた狐が紫電を放ちながら騎士へ様々な方向から攻めにかかる。 騎士は咄嗟に靄を集めて厚い壁を作り出し、アサギの飛ばして来た狐たちに備える。 ガリガリという音を立てながら狐たちは壁を削っていき、壁を突破した最後の数匹は騎士の装甲に突き刺さって爆発する。 人差し指と中指を騎士に向けたアキは黒の雫《シュヴァルツトロプツェン》と呟き、詠唱を破棄して魔法を発動。 指先に魔力が集束し、小さな黒球が形成される。 「さっさとくたばれ《グゥーテ ナハト》♪」 黒い奇跡を描きながら黒球は機関銃の様に撃ち出され、騎士の右腕を貫通する。 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 甲冑の中から少女らしき声がくぐもって聞こえてきた。 「女の子の腕に貫通痕を作るのは胸が痛むなぁ~」 騎士の右腕に出来た貫通痕から黒い靄が血の様に噴き出す様を眺めながら楽しそうに笑うアキ。 「でも仕事だからなぁ~。黒き断頭台《シュナイデン シュヴァルツシルト》」 落下してくる騎士に止めを刺すように魔力が集束して出来た刃が叩き落される。 本来なら重量で強引に物体を切断する魔法であるが、流石に人体を切断する訳には行かない。 威力は道路に軽くめり込む程度まで軽減されていているのだが、グシャっという耳障りな音と共に騎士は地面にめり込んだ。 「ひとまず鎮圧完了?」 「そんな訳無いだろ~。馬鹿めぇ~」 気楽なアキの呟きにアサギは武装を解除せずに突っ込みを入れた。 二人によって一方的にやられっぱなしであった騎士は周囲に漂う煩悩などを吸収しながら立ち上がる。 「まだまだ大丈夫なようだな」 「あぁ、戦り甲斐があるではないか」 鎧を修復し、身体も十mぐらいまで肥大した騎士を見上げながら呟くアキとアサギ。 「本体の位置は分かっているのか?」 「アサギこそ」 騎士を見上げながら楽しそうな笑みを浮かべるアサギに、アキは両手の指を鳴らしながら返す。 「今夜は陸士部隊の奴らが優しいなぁ。交通規制だけじゃなくて、ご丁寧に結界まで張ってくれているぞ」 「あいつが壊れるまで思う存分、戦っても良いという事だろ~」 騎士を見ながらニヤリと笑う二人。獣のように歯を剥き、新しい玩具を貰った子供のように目をキラキラさせている。 その二人から放たれる気配に騎士もわずかに退いたように見えた。 雷皇麒を納刀したアサギと左手に超重力を孕んだ黒球を生み出したアキが動いたほとんど同時。 二人を潰さんと、高密度の靄で作った大剣を叩きつける。 しかしアサギはその攻撃を回避し、大剣の刃を駆け上がる。 騎士の顔面に右の拳を叩きつけると同時にアサギは楽しそうに魔法の銘を紡ぐ。 「スタン…クレイモア♪」 アサギの右拳から高圧電流に変換された魔力がスタンガンのように弾けた次の瞬間には爆発音と共に騎士の頭が弾け飛んだ。 反撃の隙を与えない為か、擬似的に作り出した無重力空間で瞬間移動と言っても過言ではないスピードまで加速したアキが騎士に突っ込んできた。 「必殺っ! ディバイぃぃぃぃぃン……」 銃弾如きスピートまで加速した状態で腰を捻ると同時に右肘を軽く引き、騎士の装甲めがけて突きを叩き込む。 超重力を孕んだ右拳の魔力球が騎士の装甲を突き破り、右腕がめり込んだ。 「おろしがねぇぇぇぇぇっ!」 騎士の装甲にめり込んだ程度でその勢いは納まらず、道路のアスファルトと騎士の装甲をガリガリと削りながらも前に進み、アスファルトの破片と靄を撒き散らす。 更にアキは開いた左拳の先に重力球を展開し、再び強烈な一撃を騎士の胸部に叩き込んだ。 地面に叩きつけられ、大きくバウンドしたところで重力と質量を利用して瞬間移動したアキの追撃が騎士に突き刺さった。 弾き飛ばされた騎士であったが、陸士部隊の展開した結界に背中を叩きつけられることで止まり、そのままその場に倒れ込んだ。 凄く満足げな顔をするアキの隣に立ったアサギは淡々とした口調でツッコミを入れる。 「アキ……その技。使うのは止めといた方が良いと思うぞ」 「ん? 何でだ?」 周囲に漂う黒い靄が騎士に集まるのを眺めながらアキは適当な返事を返す。 「スバル・ナカジマ一等陸士が泣くから」 「そうか」 立ち上がった騎士を一瞥したアサギは楽しそうに笑う。 靄によって新しい姿を得た騎士が二人の方に歩み寄ってきた。その姿は禍々しく、凶悪でなっていた。 まるで相手に畏怖を与え、心に恐怖を植えつけるように。 「はっ。戦意を失わせようとする気なのか知らんが……甘いなぁ~。ブリッツ・リヒト……シュトライヒェン」 片目が紅く染まり、片目が黒く染まったアサギが楽しそうに笑いながら抜刀する。 魔法の発動と轟音はほぼ同時。紫電を纏った野太刀が勢い良く抜刀された野太刀が煌めいた。 光となった雷皇麒の刃が腹部から騎士の身体を分かち、腹部から下を焼き尽くした。その切り口はまるで定規を当てたのごとく綺麗な一文字。 「恐怖心を与える事による戦意喪失は良いアイディアだけど……悪いね。俺たち…こっちが壊れちゃっているから。黒き断頭台《シュナイデン シュヴァルツシルト》」 魔力が集束する事で発生した巨大な断頭台が騎士の両肩に落ち、両肩を重量で強引に切断する。 腹部から下の部分と両腕を失った騎士にアサギはニヤリと笑いながら呟く。 「ダルマの出来上がりだな……」 隙を見せたアサギを睨みながら、口から黒い槍を勢いよく吐き出す。 「星喰らう暴食者《エッセン・シュヴァルツシルト》」 アサギの前に躍り出たアキが手を合わせて魔法を発動。開かれた手の間から黒い球体が出現し、飛んできた騎士の槍を飲み込む。 「あぶねっ……」 間一髪で騎士の攻撃からアサギを守ったアキは冷や汗をかきながら息を吐き出す。 青筋をぴくぴくさせながら笑みを浮かべているアサギはアキを呼ぶ。 「何だ?」 アサギの口から出たのは一言のみ。 「犯《や》れ」 「ええっ!」 ろくでもない命令をされたアキはギョッとする。 しかし妙に嬉しそうなアキにアサギはため息をつきながら補足説明をした。 「別に青姦……路上プレイしろと言っているわけではないぞ」 「ちょっ! 言い繕っても意味は同じだからっ!」 ツッコミを入れるアキにアサギはいつの間にか納刀していた雷皇麒の鞘でその喉に突きを入れた。 「ちょっと黙りたまえ」 「い…イエズ……ザー……」 咳き込みながら頷くアキ。 「アレを使うから時間稼ぎをしてくれたまえ~。アキなら、動きながら準備は出来るだろう?」 「まぁ……な。でも、何で犯《や》れって言ったんだ?」 アサギに騎士の黒い槍を飲み込んだ球体を渡し、指を鳴らしながら訊ねるアキ。アサギはのんびりと答える。 「人外でもノンケでも食べるんだろ~?」 「それは朱乃さんだけですから!」 アサギの口から出た意味の分からない理論に焦る余り、アキの口調がいつの間にか敬語になる。 息を吹きかけるようにアサギはアキの耳元で囁く。 「……ご褒美ですよっ♪」 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 悲鳴の様な叫び声を上げながらアキは周囲の悪意を吸収して身体を修復する騎士に突っ込む。 騎士は突っ込んでくるアキを迎撃する為に身体を修復しながらも靄を槍に変えて発射する。 アキの身体に槍が突き刺さるが、全く動じずにニヤリと笑って魔法を発動した。 「スタぁーライトっ《星》!」 周囲の上空に漆黒の球体が幾つも精製されて配置された。 騎士は身体を修復し終えると、発射する槍の数を増やす。 身体に槍が突き刺さりながらもアキは笑みを崩さすに魔法を完成させる。 「フォーリンッ《堕ちつ》……ダウンっ《日》!」 上空に浮いていた漆黒の球体が一気に落とされる。 落ちた球体は地面にクレーターを作り、球体を喰らった騎士はいきなりかけられた重みで膝をつく。 「流石、高町教導官の対SLB用として編み出した魔法だな……」 自身が編み出した魔法の一つによって膝を突いた騎士を見ながら呟くアキ。 その言葉が挑発に聞こえた騎士はアキを睨みながら身体を少しずつ持ち上げていく。 「マジっ!?」 「アキが時間稼ぎをしてくれている事だし、手早く完成しないとなぁ……」 アサギは雷鮫に球体を装填。電気へ変換された魔力を注ぎ込み、銃身に小さいが強力な磁場を作り出す。 漆黒の球体は銃身の中で急速に回転し始め、ひし形のような長細い物体へと姿を変える。 「アサギっ! 早くしろっ! 押し切られるぞ」 「……OKだっ!」 その言葉を合図にアキは騎士から退き、〈スターライトフォーリングダウン《星堕ちつ日》〉を解除する。 「抉り穿ち抜く《ストレイト》……」 アサギの前に超重力に変換された魔力の壁が出来上がる。 「神威《ディヴァインド》!」 超重力の壁に向けてアサギは作り出した磁場の中にいる物体を解き放つ。 弾が纏った電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって、針のような形をした球体が加速して発射される。 超重力の空間でスピードが微かに落ちたが、勢いを失って落ちることなくそのままその空間を抜けて騎士へと迫る。 咄嗟に騎士は靄を限界まで使って分厚い壁を形成する。 超重力の空間を突き抜けた一撃は空気摩擦で白銀の閃光に変わる。その解き放たれた一閃は空気を押し出し、発射時に立ち込める粉塵すら吹き飛ばす。 発生した衝撃波が分厚い靄の壁を少しだけ吹き飛ばし、一閃は壁を穿ち抜いて騎士の身体を貫かんと突き進む。 「……ちっ」 アサギはわざとらしく舌打ちをする。 二人の放った〈抉り穿ち抜く神威《ストレイトディヴァインド》〉は騎士の装甲に接触するギリギリで止まってしまう。 騎士は二人の攻撃を封じた歓喜に身を震わせながら展開していた壁を靄に還元して攻撃を叩き込もうとした時。 騎士が見たのは、凄く嬉しそうな笑顔を浮かべる二人の姿。 獰猛な肉食獣のように歯を剥き、新しい玩具を貰った純粋無垢な子供のように目をキラキラさせている。 「あぁ……本当に残念だ」 アサギはニヤリと笑いながら騎士に言った。 立てた人差し指と中指を騎士に向けながらアキは、魔法の銘を紡ぐ事で発動させる。 「喰らいつけ―――黒の暴君《テュラン・シュヴァルツシルト》」 その言葉に従うようにアキの周囲に漆黒の球体が幾つも精製される。 精製した球体が泡を立てながら膨らみ、漆黒の鮫を生み出す。 「喰い散らかせ―――白銀の雷鮫《グラトニー・ヴァイス》」 直後、魔力がアサギの身体からほとばしる。 魔力は放電に似た現象を起こし、まるでイルミネーションのように周囲で雷球が作られる。複数の雷球が多数の雷球となって分離し、遂には無数の雷球を生む。 雷球は空中で回転し、雷球は紫電を纏う白い鮫となる。 「破軍!」 「抜砦!」 「「破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》!!」」 アサギとアキは腕を横に大きく振り抜いて怒鳴ったのを合図に、白と黒の鮫は鋭い牙を見せつけるように大きく口を開けて騎士へと迫る。 白銀の鮫は纏った雷をほとばしらせながら弾丸のように突っ込み、漆黒の鮫はその身を跳躍させて自重で相手を潰しにかかる。 騎士も二人の〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉から身を守るために再び靄を集めて壁を展開。今回は白と黒の鮫を破壊する為に巨大なとげが無数に生えていた。 しかし鮫たちはその身がトゲで突き刺さって霧散しようとも、機関銃から撃ち出される銃弾の様に特攻を行う。 その身を滅ぼしながらもトゲの生えた壁を穿ち抜き、粉砕し、破壊していく白と黒の鮫たちの姿は消える前に一際輝くろうそくの炎の様にある種の儚さと命の輝きを感じさせた。 黒い靄となった悪意や煩悩が陸士部隊が張った結界を透過して騎士に集束し、装甲と展開されている壁が徐々に凶悪な姿に変わりながらも分厚くなっていく。 それでもアサギとアキが放つ〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉は二人の魔力を貪りながら、騎士が壁を強化するのを上回る速度と物量で壁を削り取って行く。 遂には展開されただけではなく騎士の装甲まで抉り取り、最終的には核となっていた少女が地面に叩きつけられた。 アキは少女が逃げないように重力結界で押さえつける。 数分後に結界は解除され、陸士部隊の局員が走ってきた。 「和泉アサギ教導官。篠鷹アキ教導官。お疲れ様でした。護送は私たちが行います」 「ん……悪いね」 少女に局員が駆け寄ってきた事を確認したアキは重力結界を解除する。 その瞬間、少女が自身を包み込むように球体を形成。全方位に巨大なトゲを出して近づいてきた局員をひるませる。 局員をひるませた少女は球体を靄に戻して羽に変え、そのまま空に飛び立ってしまった。 アキは黒っぽい空を見上げながらアサギに尋ねる。 「なぁ、逃がしたのは俺の責任になるかな?」 「……ならんだろ」 〈二十一時四十五分 幽霧〉 ヴィアフが抜けた緊急時に仕事をした事と、人の入りが少し収まったという二つの理由で幽霧は休憩を貰っていた。 休憩時間を誰かと一緒に出かけるという事が無い幽霧は次の仕事先へ向かおうと裏口の扉を開ける。 「こんばんは」 「雫先生……」 そこにいたのは開発部主任の雫・鏡月だった。 何故かいつものように男物スーツを着た上に白衣を羽織っている。 驚く幽霧に雫は微笑みながら言った。 「デートしましょうか」 〈二十二時一分 無限書庫〉 雫と幽霧は転送ポートを通って無限書庫に向かっていた。 何故か雫の片手には茶色の大きな紙袋が抱えられていた。 無限書庫に入る為に必要な最後の扉を二人は潜り抜ける。 中では大晦日に関わらず無限書庫で仕事をしていた司書たちの目が既に死んでおり、いたる所で過労によって気絶した司書がぷかぷかと浮いていた。 「夜分遅くに失礼します。差し入れに来ました」 雫の一言によって司書たちの目に光るが宿る。その目つきはまるで獲物を見つけた肉食獣のようでもあった。 「首都防衛部隊が出店している中華飯店『覇道軒』の翔龍饅頭です」 目をギラギラとさせた司書たちが微笑む雫へと群がる。 雫は饅頭を手に入れようとやって来る司書たちに配る前に、首都防衛部隊とプリントされた長方形の箱を幽霧に手渡す。 「これを司書長と司書長補佐に渡して置いて下さい」 言われるままに幽霧はその箱を持って、司書長であるユーノ・スクライアと司書長補佐の久世ノインシュヴァンを探すために下へゆっくりと降下した。 飢えた司書に追いかけられつつも二人を発見する幽霧。そして目の前に広がる光景に絶句する。 「あら、霞。久しぶりね」 「や……やぁ。幽霧霞三等陸士と会うのは久しぶりだね」 作業用のテーブルと椅子が無重力空間に固定された状態で置かれており、二人はそこで作業をしていた。問題はユーノの姿であった。 胴体から足までが鎖や捕縛魔法《バインド》で椅子に縛り付けられてきた。 ノインの足元には専用デバイスである棺型デバイス『グレイヴ・オブ・クラウン』が浮いており、重厚そうな装飾がなされた棺の隙間からおびただしい数の鎖が覗いていた。 「えっと……雫先生から翔龍饅頭の差し入れです」 趣味は人それぞれなのだと割り切った幽霧はテーブルに首都防衛部隊と書かれた長方形の箱をテーブルの置く。 無重力だからか、箱はテーブルの上でふよふよと浮いていた。 「まあ、ココで休憩しましょう。ただし……」 ノインの休憩と言う言葉に目をキラキラさせるユーノ。 そこでノインはユーノに釘を刺す。 「司書長の外出は十二時間後ですからね?」 「うん……分かってるよ」 凄く残念そうにうなだれるユーノに首を傾げる幽霧。 箱から翔龍饅頭を取り出したノインはかじりながら詳細を説明する。 「司書全員で外出時間を決めたのに、このユーノ・スクライア司書長様は教導部隊の高町なのは一等空尉さんのウェイトレス姿の画像を見た瞬間、ナニカが切れたかのように逃げ出すから強引にでも椅子に縛り付けて仕事をさせているの」 「……なるほど」 ろくでもないユーノの執着心に若干ひきながらもノインの説明に納得する幽霧。 箱の翔龍饅頭に手を伸ばしつつ、文句を言うようにユーノは呻き始める。 「饅頭……取れないんだけど」 「それでも鎖と私の分のバインドは外しませんからね」 凄く爽やかな笑顔で言うノイン。拘束を緩めるどころか鎖とバインドの数を増やして更に締め上げる。 「の……ノインシュヴァン司書長補佐? 僕は最近のレン・ジオレンス陸曹長や弥刀餅二等空士みたいにマゾじゃないんだけど……」 「……どうぞ」 幽霧は箱から翔龍饅頭を取り出し、下に敷かれていた髪を外してユーノに差し出す。 「ありがとう」 そう言ってユーノは幽霧が差し出した翔龍饅頭をかじる。その瞬間、ノインが凍りついた。 ある意味で生命の危機に気づいていないユーノは美味しそうに差し出された翔龍饅頭をほおばる。 そして饅頭がなくなると、ユーノはその味が移っていると思っているかのごとく幽霧の指をしゃぶり始めた。 「ひゃうっ!」 まさか指をしゃぶられると思ってみなかった幽霧は女の子のような声を上げた。 指先には多くの神経が通っているだけに、何かが背筋を這い上がってくるような寒気と同時に軽い虚脱感に襲われる。 口から指を抜いたユーノは少し虚脱したような顔をする幽霧を見ながら楽しそうに笑いながら話す。 「幽霧三等陸士の指って……長くて細いんだね」 少し照れ臭そうに頬を掻きながらユーノは更に付け加える。 「それに柔らかくて……良い匂いがしたし……」 微かに頬を朱に染める幽霧。 ノインはその冷ややかな青の瞳を半目にして、あくまで冷静に命令を下す。 「汝。その鋼鉄の腕を持って我が領域へ招待せよ」 ガリガリという音を立てながらユーノを束縛する鎖が動き出す。 自身を棺の中に飲み込もうとする鎖にユーノはギョッとするが、抵抗する事は出来ずに飲み込まれる。 「ノインっ……!」 「流石にプライベートの話を易々と聞かせる程、私は尻軽の女ではないわ。長月さんも言っているでしょう? 『弱みを見せた女は漬け込まれる』って」 各部署から求められている報告データをまとめながらノインは淡々と答えた。 あいかわらず冷静沈着なノインに幽霧は苦笑いするかのように口元を微かに歪める。 彼女はそこで作業をしている手を止め、幽霧の方に向いてゆっくりと手を伸ばす。 「……貴方の口から、雫先生という言葉を聞くのは久しぶりね」 そう言ってノインは幽霧の頬に触れ、顎の線をなぞる様に優しく撫でる。 「長月さんたちと一線を引こうと、家を出た貴方にしては珍しいわね……霞」 「前の癖が出ただけです」 淡々とした幽霧の言葉に少しだけ残念そうな顔でノインはその手を放す。 「変わらないわね。霞」 「そう言う貴女もですよ。ノインシュヴァン」 無表情な幽霧の顔は彼女の方に向いているが、目はどこを見ているのか全く判断がつかない。 「幽霧。そろそろ行きましょうか」 二人の会話に割り込むように頭上から雫の声が響く。 「それじゃあ、失礼します。久世ノインシュヴァン司書長補佐」 ノインに別れを告げた幽霧はそのまま上に上昇して行った。 幽霧が去った後もノインは作業に戻らず、自身の手の平を見つめていた。 そこには幽霧の体温と触れたときの感触が微かに残っていた。 ノインは無言でその手を胸に当ててぎゅっと抱きしめながら瞼を閉じる。 それはまるで何かを祈っているかのように。 しかしノインがその心中で何を願っているか誰にも分からない。 『グレイヴ・オブ・クラウン』の蓋が微かに動き、小さな呟きが漏れ出た。 「難儀だね……あの幽霧霞三等陸士も。そして……君も」 〈二十二時三十五分 屋台「和み鍋」】〉 「はぁ……」 エリオは冷たくなった手に息を吐きかける。 しかし温かくなったのはほんの一瞬ですぐに冷たくなってしまう。 寒そうにするエリオにミラたちは心配そうに声をかける。 「エリオ。寒かったら、もう撤収しても良いよ? ほら、キャロとルーテシアも」 三人ともスカートが短いメイド服であるだけに足が冷えないか、ミラは心配のようだ。 「だっ…だだだ、大丈夫です」 「……大丈夫です」 心配そうな顔をするミラに大丈夫だと言う二人だが、身体は寒さで微かに震えている。 「それよりも……メイド服から別の服に着替えちゃ駄目ですか?」 「駄目」 迷う事もせずに即答するミラにエリオは肩を落とす。 「こんばんは」 そこで男物の黒いスーツの上に白衣を羽織った雫が声をかける。 「あっ。いらっしゃいませ! 雫さん。ご注文はどうしますか?」 「私はヒツジ汁で」 「じゃあ、自分は具沢山の優しいシチューで」 雫とミラの会話に割り込んだ存在にエリオは驚く。 そこにいたのはエリオが片想いに似た感情を抱いている幽霧だった。 何故か濃紺のワンピースの上にフリルのついたエプロンを付け、頭にはフリルのカチューシャがきちんとつけられている。 スカートの下からフリルのついた白いぺチコートがちらりと見えた。 「こんばんは」 「あっ! あぅ…こんばんはです」 仕事用の笑顔で挨拶をする幽霧にエリオは慌てて頭を下げる。 「雫さん。ヒツジ汁だお」 顔を真っ赤にしているエリオとそれをぼんやりと眺める幽霧の脇で、ヒツジは雫に熱々のヒツジ汁の入った発泡スチロールのおわんを手渡す。 「ほら、エリオ。幽霧君にシチュー渡す」 「あっ! はいっ!」 ミラの耳打ちでエリオは我に返り、寒さと緊張で手を震わせながらも熱している寸胴鍋に入ったシチューを発泡スチロールに移す。 手の平は発泡スチロールから伝わるシチューの熱で痺れ、身体は寒さで痺れに似た感覚を感じながらもエリオは幽霧に『具沢山の優しいシチュー』を手渡す。 「どっ……どうぞ」 熱いシチューを持っているはずなのに、幽霧が触れたエリオの手はとても冷たかった。 「雫さん。ちょっとシチューを持っててくれませんか?」 いきなり言ったにもかかわらず、幽霧の意図を悟った雫は微笑みながらシチューを受け取る。 そして一緒にアルフィトルテも連れて行く。 「エリオ・モンディアル二等陸士。両手を出してくれませんか?」 長机をはさんで向かいにいる幽霧の意図が分からなかったが、エリオは言われた通りに両手を差し出す。 幽霧は差し出してきたエリオの両手を自身の両手で包み込む。 周囲の寒さで毛穴が開き、敏感になったエリオの手が幽霧の柔らかくて仄かに温かい手の感触を鋭敏に感じ取る。 片想いを抱いていた幽霧によっていきなり両手を握られた驚きと羞恥でエリオの心臓は大きく跳ね、鼓動の速度が一瞬でトップスピードに切り替わった。 心臓の動く速度が早くなった事で血行も良くなり、幽霧の手に包まれた両手どころか身体まで熱くなっていく。 「まだぬるいですね」 血行が早くなる事でほとんど興奮状態になっているエリオに止めを刺すかのように幽霧は包み込んだ手に息を吐きかける。 温かくて柔らかい幽霧の手に包まれた両手に吐き掛けられた幽霧のあたたかい吐息にエリオはこそばがゆさを感じた。同時に殺意混じりの視線が背後に突き刺さっているのを感じた。 壊れたロボットのようにギチギチと音を立てながらゆっくりと後ろを振り向くエリオ。 そこには今にもヴォルテールや白天王を召喚しそうなキャロとルーテシアが半目でじっと睨みつけてきていた。 幽霧が手を放した瞬間、エリオは二人によってリンチされるかもしれない状況。 「これであったかくなりましたね」 いつもなら気づくはずなのに、幽霧はこのすさまじい状況に気づかずに微笑みながらその両手を離す。 寒さで霜焼けになりかけていたエリオの手はさっきとうって変わり、興奮と羞恥によって発生した熱で真っ赤になっていた。 エリオの手を包んでいた幽霧の手が離れたのを見計らい、キャロはエリオを押し退ける。 「幽霧おねえさん。私もお願いしますっ!」 上目遣いで頼み込んでくるキャロとルーテシアに幽霧は苦笑する。 「はいはい……」 苦笑しながらも幽霧はキャロの差し出してきた両手を両手でぎゅっと包み込む。 「ふぁ…おねえさんの手……柔らかくてあたたかいよぉ……」 恍惚とさせながら幸せそうな顔をするキャロ。幽霧もキャロの幸せそうな顔に笑みをこぼす。 十分に温まった所で幽霧はキャロの両手を離す。 そして嬉しそうな顔をするキャロを羨ましそうに見るルーテシアに声をかける。 「ルーテシアさんも?」 「……うん」 頬を赤らめながら小さな頷き、ルーテシアは両手を差し出す。 幽霧はまるで主の手を取る騎士のようにルーテシアの両手を手の上に乗せ、もう片方の手で被せる事で両手をゆっくりと包み込んだ。 「……あったかい…」 幸せそうにルーテシアがそう呟いた途端、近くでフラッシュが焚かれる。 幽霧はルーテシアの手にかぶせていた手を退けて、フラッシュが焚かれた方を見る。 カメラを取っただろうと思われる青年は片手でカメラを構えながらも片手でジェスチャーを取りながら言う。 「どうぞ。続けて下さい…」 「手を温めあう姉妹メイド萌えっ!」 「というか、あれは幽霧三姉妹次女の朧さん!?」 「いや、あれ……ミラージュじゃないのか」 周囲で色々と囁かれている中、幽霧は何事も無かったかのようにルーテシアの両手を包み込んで温める。 恥ずかしいのか、包み込んだルーテシアの手に熱が帯びていく。 安心させようと思ったのか、幽霧はルーテシアの耳元に顔を寄せて囁く。 「大丈夫」 「……うん」 真っ白な頬に朱を混じらせながらルーテシアは小さく頷いた。 湯気が出るんじゃないかと思えるくらい温かくなった所で幽霧はルーテシアの手を放す。 「ありがとう」 囁くような小さな声でルーテシアは幽霧に礼を言う。 「どういたしまして。それでは、しつれいします」 そう言って幽霧は少し離れた場所でヒツジ汁を食べている雫とアルフィトルテの方へ歩いていく。 「ご苦労様です」 雫は微笑みながら幽霧を出迎えた。 「幽霧は相変わらず、年下には甘いんですね」 「そうでしょうか?」 過去に似た事をアサギに言われた事がある事を思い出した幽霧は不思議そうに首を傾げる。 「ええ。貴方は年下に甘すぎます」 微笑みながら言う雫に幽霧は何も言えなくなってしまう。 「そういえば、自分が頼んだ具沢山の優しいシチューはどうなったのでしょうか?」 「ごめんなさい。幽霧がルーテシアさんの手を温めている間にアルフィトルテがお腹をすかせていたので食べさせてしまいました」 「はぁ、そうでしたか」 別にアルフィトルテはデバイスであるから食事が必要というわけではない。 しかし人間の少女と同じ姿を取っている為に人間の習性というものにひきづられるらしい。 そして食事で取った物を稼動するためのエネルギーや魔力に変換しているので無駄というわけではない。 約二ヶ月の生活で幽霧も知っているので、アルフィトルテが自身の頼んだシチューを食べた事について怒ってはいなかった。 「じゃあ、そろそろ行きましょうか」 雫はそう言って発泡スチロールを近くのゴミ箱に捨て、アルフィトルテは幽霧の手をぎゅっと握る。 「ママの手……少し冷たくなっちゃったね」 「そう?」 アルフィトルテは握った幽霧の手をもう片方の手で包み込みながら純粋無垢な笑顔で言った。 「冷たくなったママの手はアルフィトルテがあっためてあげるね」
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/179.html
第一部 〈零時五十五分 はやて〉 時空管理局陸士部隊捜査課が出店している【甘味処『華鳥風月』】。 その暖簾をくぐって、藍色の色無地を着た二人の局員が店内から出てきた。 一人は捜査課を率いる若き女性の部隊長。八神はやて二等陸佐。 もう一人は主に彼女の秘書をしているリインフォース・ツヴァイ空曹長。 二人は少し遅めの息抜きを行う為に外へ出てきたのだ。 痺れさせるような外の冷気が店内の熱気で火照った身体を冷やし、たるみかけた心を改めて引き締め直してくれた。 割と空気が澄んでいるからきっと、星が良く見えるだろう。 口から真っ白な息を吐き出しながらはやてはリインに言う。 「そういやぁ……リイン」 いきなり掛けられたはやての声にリインは小さく首を傾げる。 「何ですか? はやてちゃん」 「あけましておめでとう」 ちょっと遅れてしもうたけどなと、おかしそうに含み笑いするはやて。 ほんの数分だけポカンとするリインであったが、それが新年の挨拶だと気づくと口元をほころばせて笑った。 それはまるで太陽のように明るい笑顔であった。 「えへへっ…今年もよろしくですっ! はやてちゃん」 「ああ、よろしくや」 リインの笑顔にはやては唇をほころばせ、綺麗な笑顔を浮かべるはやて。 そして【甘味処『華鳥風月』】の軒下からぼんやりと空を見上げる。 夜の空は靄のような黒い物に覆われ、星一つも見えなくなっていた。 隣でリインがはやての袖を摘みながら少し怯えたような声を上げる。 「はやてちゃん…リイン、何か嫌な感じがするですぅ……」 「……あたしもや」 はやてはあの黒い靄を見ていると妙に心がかき乱されるような感じがした。 この世界の存在そのものに絶望し、滅茶苦茶に壊してしまいたいという衝動に襲われるようであった。 ある種の誘惑に、はやては激しくかぶりを振る事でそれを思考の外に振り払う。 その時、はやての脳裏に浮かんでいたのは―――冬の空に消えてしまった、銀髪赤眼の少女。 あらゆる魔法がそこに蒐集されている古代遺失物。『夜天の書』の管理を行う為に生み出された人格。 はやての側に付き従い、共に歩むべきはずだった祝福の風。 ―――『夜天の王に祝福をもたらす風』リインフォース。 今、はやての隣にいるリインの姉に当たる存在であった。 彼女は歪まされた『夜天の書』の防御プログラム、『闇の書の闇』がもう二度と復活しないように、管理人格である自らの存在も一緒に消滅させた。 はやてはその光景を今でも忘れない。それはまるで数秒前にあった事のように覚えている。 灰色の雲から舞い落ちる粉雪。展開されたベルカ式の魔法陣。周囲には自身を主と呼ぶ騎士達。その左右には友人であり、戦友である少女たち。中央には銀色の長い髪が印象的な少女。 泥まみれになり、芋虫のように無様な格好ではいつくばりながらも彼女を求めて名を呼び続けた自分。 涙や泥で顔がグチャグチャになった自分の頬に触れ、ぎこちなく浮かんだ彼女の精一杯の笑顔。 空から雨のように降り注ぐ雪に溶けていくように消滅していく彼女。 そして―――あの雪の日に泥だらけになって立てた一つの誓い。 『夜天の王』夜神はやては黒き靄によって穢れた夜の空を見ながら思ふ。 彼女の存在を犠牲にして残されたこの世界の価値は生贄となった者に値しているのだろうか―――と。 もしかしたら、全ての存在は『世界』や『神』と形容する存在にもてあそばれているのかもしれない。 中途半端に幸せという物を与えられ、愛しき存在などをあっさりと奪い取られてしまう。 そんな醜くも穢れきった価値無き世界など滅んでしまえば良いのではないだろうか――― 再び、はやてはかぶりを振る。今度こそ世界の終焉を望む思考を振り払う為に。 世界に終焉の鐘を撃とうとした悲しき超古代融合騎―――『第六世代 亜人魔神器《リラダンデバイス》』。 『長距離広範囲戦術殲滅式《ヴァイスヴェルト》』を操る少女。 ナタネ・ナターリエ・ヴァイスヴェルトと相対したのは誰でもない、はやてとリインであった。 その戦いの果てで、友人である戦友である高町なのはは言った。 この世界にも幾万の想いが在り、時には触れ合ったりぶつかりあったするけど――― ―――その中の幾つかは何処で繋がり、その想いを伝えるように続いている もしかしたら、それが――― ―――この世界にある価値の一つかもしれない……と だから、はやてとリインも『夜天の王に祝福をもたらす風《リインフォース》』の想いをこの世界に続けさせる為に歩き続ける事にした。 この醜くも穢れきった価値無き世界が、本当は綺麗で少しだけ優しい世界かも知れない事を伝えるために。 「そろそろ中に入ろか。寒くなってきたわ」 はやては両手をゴシゴシと擦り合わせながら呟く。 「はいですっ! はやてちゃん」 〈一時 神無月神薙〉 「神薙さん、神薙さん。起きて下さい」 「ん~?」 とあるビルの一室。ベッドで眠る女性を揺り起こそうとする黒髪の少女。 少女は邪魔にならないように黒い髪を後ろで一つにまとめ、鳥居の紋様らしき赤い刺繍の入ったエプロンを付けていた。 部屋の外から漂う和風ダシの良い匂いからして、調理をしている途中で女性を起こしに来たのだろう。 絹のように滑らかな黒髪をベッドに広げ、白襦袢の合間から雪のように白い肌を晒しながら眠る女性の姿は一種の造形美を感じさせた。 美術家が見たら喜び勇んで、絵画や像などの作品を造るだろう しかし神薙と呼ばれた女性は寝返りを打つだけで全く起きようとしない。 軽くため息をつき、頬を朱に染めながら少女は神薙は顔を寄せる。 その頬は火照っているかのように赤く、目は微かに潤んでいる少女からは妙に官能的な雰囲気が醸し出されていた。 少女が神薙の寝ているベッドに手をつく。スプリングの入ったマットと年季の入ったベッドがギシっと軋むような音を立てる。 「ん~。むぅ…」 しかし耳元で軋むような音がしても馴れているのか、神薙は一向に目を覚まそうとしない。 果実のように瑞々しい少女の唇が神薙の唇―――ではなく、耳に近づいていく。 そして少女は口付けをするかのような距離にまで唇を近づけ、神薙の耳元で囁いた。 「……ヤらないか?」 「むしろ、おねがいしますっ!」 わずかに熱を帯びた少女の言葉に神薙は目をカッと開いて身体を起こす。 周囲を見回し始める神薙。起きたとは言え、まだ寝ぼけているようだ。 そんな神薙に少女は笑みをこぼしながら挨拶をする。 「ふふっ……明けましておめでとう御座います。神薙さん」 「うん。今年もよろしく―――マドカちゃん」 神薙は嘘の言葉で安眠を邪魔された事に不貞腐れているのか、少し言葉の響きに刺々しさがあった。 明らかに不機嫌そうな顔をしている神薙にマドカは少し困ったような顔をする。 「一時過ぎに初詣へ行くから起こして欲しいと言ったのは神薙さんじゃないですか」 「あっ、そうだったぁ……ごめん。忘れてた」 徐々に意識が覚醒してきた事によって寝る前に言った事を思い出し、神薙はバツが悪そうな顔をする。 マドカはそんな神薙に微笑みかける。それはまるで愛しい子供を見る母親のよう。 年齢は神薙の方が上であるので、それはとてもちぐはぐな感じであった。 エプロンの紐を解きながらマドカは神薙に言った。 「火を止めてくるので、それまでに着替えて下さいね」 「ん……分かったぁ…りょ~かい……」 上げた手を軽く振りながら返す神薙にマドカはクスリと笑う。 そしてマドカは調理したままであろう台所へと小走りで走って行った。 カツカツと靴底で床を叩く音が遠ざかっていくのを聞きながら神薙は部屋の窓を開け、入り込んだ冷たい外気で身体を微かに震わせながらものんびりと空を見上げる。 こんな寒い日ならば澄んで見えそうな空は黒くて濃い靄が掛かり、紺色のピロードの上に散らばる宝石のように綺麗な星の光すらも遮っていた。 下からは阿鼻叫喚が聞こえ、いろんな臭いが入り混じった臭気が上ってくる。 そんな空を見上げながら神薙は楽しそう声で独り言を呟いた。 「狂気まみれの殺し合い《カルネヴァニーレ》の鐘は鳴らされた―――という事かな?」 口元にも楽しげな笑みが浮かび、目にはある種の狂気が入り混じっている。 まるで思いついた悪戯を実行する機会を待っている子供のようであった。 しかし悦楽という狂気に彩られた神薙の呟きに答える声は無かった。 神薙は寒さから来る身震いか高揚から来る武者震いか分からないが、その身体をブルリと震わせる。 そしてマドカと初詣に向かう為に白襦袢を脱ぎ、外出用の服装に着替え始めた。 〈一時十九分 【中華『覇道軒』】〉 たった一人の対象を拘束―――および撃墜。 その為に様々な局員が投入され、返り討ちにあったり逃走を許してしまったりしているその裏――― 豪勢な料理を食べて新年を祝いたいと考える者が多いのか、管理局の局員が出している店の中は初詣を終えた客でごった返していた。 首都防衛部隊が出店している中華飯店―――【中華『覇道軒』】もその一つであった。 「お待たせした。麻婆茄子と麻婆豆腐だ」 注文された料理を届けに行くシグナム。そこのテーブルにいた男と子供はシグナムの胸を食い入るように凝視する。 シグナムはその男と子供の視線が凄く恥ずかしかったが我慢し、笑顔を浮かべて耐えた。 男とその子供がシグナムを食い入るように見つめているのには着ている服装にあった。 シグナムの着ているユニフォームは白いインナーに紅いエプロンドレス。足首まである紅いスカートには片方だけ太ももの付け根の位置までスリットが入っていた。 そのスリットから黒いガーターストとオーバーニーソックス。そして黒い下着が動いた時にチラリと見えるようになっている。 女性専用のユニフォームは胸元と足を強調するようなデザインで作られている為、年齢問わず男性の目を釘付けにしていた。 きっと目を皿にしながら女性局員の動く様を追っている男性客たちは注文した料理の味など分かっていないであろう。 ほとんど視姦されながらホールで仕事をさせられる女性局員は溜まった物ではない。 男は鼻の下を伸ばしながらシグナムのロングスカートに入ったスリットを注視している。 「何見てんの!」 しまいには隣にいた妻が男に平手打ちし、呆然とする男を罵倒する。 子供は目の前で男を平手打ちした母親から目をそらしながらほとんど涙目で麻婆豆腐を食べている。 涙目になっているのはきっと、頼んだ麻婆豆腐が辛かったと言うだけではない事は間違いない。 シグナムは苦笑いを浮かべながら、修羅場と化したテーブルから離れる。 そして他の局員はどうしているのか見るために何気なく周囲を見渡す。 「お待たせしました。杏仁豆腐です」 目に留まったのは、中年の女性たちのいるテーブルに杏仁豆腐を出しに行った男性局員。 首都防衛部隊の中で策士と謳われる局員―――葵葉鷹斗一等空尉であった。 女性たちは鷹斗の凛々しい顔に見惚れ、感嘆の声を漏らす。 「ありがとうね。あら。いい男前」 「ありがとうございます」 笑みを全く崩す事無く、鷹斗は女性たちに杏仁豆腐を出す。 しかし女性たちの視線は杏仁豆腐ではなく鷹斗の方に向いている。 流石、首都防衛部隊に所属する局員たちから『女殺し』と噂されているのは伊達ではない。 「出来れば、名前を聞いて宜しいかしら?」 その笑顔のとりこになったのか、頬を微かに染めた女性の一人が尋ねる。 嫌な顔もせずに鷹斗は顔に微笑みを浮かべながら答えた。 「葵葉鷹斗と言います」 「あら。男前は名前も格好良いのね」 そう言って、女性たちは笑う。 「お褒めいただき、光栄です」 鷹斗は女性たちに向かってニヤリと笑う。その笑みには肉食獣のようなワイルドさがあった。 その光景をぼんやりと見ていたシグナムは思った。 嗚呼、また鷹斗という『女殺し』が張った巣にまた獲物が引っかかってしまったと。 というか首都防衛部隊で命を賭けて戦うより、ホストクラブで女性を悦ばせている方が似合いそうだと。 シグナムがそんな事を考えながら立ち止まっている所に鷹斗が声を掛けて来た。 「恥ずかしいとは言え、仕事を疎かにするのはどうなのでしょうか? シグナム二等空尉」 「すまない。ちょっと考え事をしていたんだ」 少し苦し紛れであるかもしれないが、鷹斗にそう答えるシグナム。 鷹斗も、そうですかと返しただけこれ以上は問い詰めてくる事は無かった。 杏仁豆腐を食べている女性たちを眺めながら鷹斗の手腕を思い返したシグナムは鷹斗をからかうように率直な感想を口に出した。 「相変わらず、良い落としっぷりだな」 シグナムの言葉に鷹斗は悪戯を思いついた子供のようにニヤリと笑う。 そして軽くシグナムの穿いているスカートの視線を落とした。 「シグナム二等空尉たちが稼いでいるのと比べたら、微々たる物です」 スリットから見える太ももに突き刺さった鷹斗の視線とその言葉で何を言いたいのか分かったシグナムは顔を真っ赤にする。 ユニフォームのスリットによる色気仕掛け染みた方法によって集客が出来、急速に売り上げを伸ばしているのだと鷹斗は暗に言っているのだ。 それは一見、女性局員の恥を忍んだ頑張りを褒めていると聞こえるが―――。 シグナムに男性客たちの舐め回すような視線を思い出させる事が目的であった。 意外と鷹斗は周囲に『女殺し』やら『腹黒策士』と茶化されるのが気に入らないようだ。 これ以上、余計な事を口にしたら、確実にいらない事を突っ込まれるだろうと判断したシグナムはそのまま閉口する。 鷹斗はその閉口を何か考えているのだと察したらしく、シグナムに訊ねた。 「もしかして、えゆ三等空尉の事ですか?」 「まぁ……な」 さっきは咄嗟に答えたものの、暴走している魔導師の拘束及び撃墜の任務に駆り出されたえゆ三等空尉が気にならないわけではない。 遠巻きに見ていた民間人の話や搬送されて行ったスバルの事を聞くと、やはり大丈夫なのか流石のシグナムも心配になってしまう。 戦技教導隊の戦闘狂で有名な和泉・篠鷹ペアから逃げおおせ、民間会社に所属している魔導師と引き分け、特別救助隊のスバルと時空管理局第二十一特殊編隊の局員を返り討ち。 そして今は航空武装隊の一等空士、とある陸士部隊の一等陸士、首都防衛部隊のえゆという共同戦線で対象を交戦中。 戦歴から見れば、並大抵の局員が束になって掛かっても逆に返り討ちにされる程の相手であると判断できる。 シグナムの独断でランク付けするならば、魔導師ランクはAA相当であろう。 本気で戦うと街が一つ消し飛びかねないAAAランクと戦闘までは行かないとしても、ほとんど急造のスリーマンセルで勝てるだろうか。 どんどん悪い方向に思考が動いていくシグナム。 そんなシグナムに微笑みながら鷹斗は言った。 「きっと、えゆなら大丈夫ですよ」 鷹斗の口から出た名前にシグナムは驚きで顔がピクリと動く。 目の前にいる葵葉鷹斗一等空尉は誰に対しても階級を付けて呼ぶ事を忘れない模範的な局員だとシグナムは同僚から聞かされていた。 そんな鷹斗がまさか、えゆ三等空尉を呼び捨てで呼ぶとは思ってもみなかった。 予想外の事に驚いているシグナムに鷹斗は更に笑みを深める。 「えゆと自分は訓練校で同期でしたから。少し体を良く言うと―――」 シグナムの前で少し考えるような素振りを取ってみせる鷹斗。 良い謳い文句を思いついたらしく、鷹斗は楽しげに微笑みながらシグナムに言った。 「葵葉鷹斗一等空尉とえゆ三等空尉は同期の桜―――ってやつです」 心の底からえゆを信用しているのだなと、シグナムは微笑んでいる鷹斗を身ながら思った。 えゆは同じ部署の同僚であるが、シグナムはそこまで信用する事は出来ていなかった。 これも長年の付き合いという縁がなせる業なのだろう。 そこでシグナムの脳裏に浮かんだのは、過去に出会った何組かの仲間たちの姿。 『エースオブエース』と謳われる高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。 『ストライカーズ』にならんと修練を続けているスバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 そしてシグナムが主と慕う八神はやてとその従者たる存在であるリインフォース・ツヴァイ。 最初の一組が出会ったきっかけはとある古代遺失物を巡っての闘争。 若い一組は陸士訓練校からの腐れ縁。 最後の一組は雪の舞うとある冬の日の喪失から始まった。 出会いの形や付き合い方はそれぞれであるが、根本にある物は共通している。 それは―――お互いを信じ、お互いに自身の全てを預けあう事。 きっと、鷹斗とえゆも三組と似たような物があるのだろう。 「やはり、お前には敵わないな。葵葉鷹斗一等空尉《フライハイヴィント》」 「―――お褒めの言葉として、ありがたくいただきます。シグナム二等空尉《ベルカヴァレリエ》」 ポツリとシグナムが口に出した言葉に鷹斗は目を薄く細めながらそう答えた。 「お前ら……突っ立ってないで仕事しろ。オーダーが溜まるだろうが」 餃子定食と北京ダックを運ぶ寒天がシグナムと鷹斗に言った。 忙しいからであろうか。紡ぎだされる言葉の中に殺意らしき物が入り混じっていた。 「あっ! はい」 「了解だ」 鷹斗とシグナムは足早と厨房へ走っていった。 〈一時十八分 幽霧〉 交戦した対象によって腹部に穴をあけられたスバルを医務局に送った帰り道。 幽霧とアルフィトルテ。そして雫は警邏中の陸士部隊の局員と共に歩いていた。 何とか無事に元旦を迎えた人々の気分は高揚しているのか、歩行者天国や出店している屋台が賑わっていた。 そんな熱気を感じられる喧騒の中で幽霧は呟いた。 「スバル・ナカジマ一等陸士が大事に至らなくて良かったですね」 「ひとまずご苦労様。幽霧」 [幽霧。お前には感謝しているよ] リアルタイムで指示を受けられるように雫が展開したウィンドウの向こうにいたゲンヤが幽霧に礼を言う。 約二時間前に民間会社に所属する魔導師のこっとんと交戦中の対象と接触したスバルが彼女の代わりに対象と交戦。 善戦はしたのだが、対象が最後に詰めを誤ったスバルの腹部に槍を突き刺して逃走。 このままだと、スバルが出血多量で死亡する危険性があった。 そこでゲンヤに救援を頼まれた幽霧と雫が現場に到着。 幽霧の〈其は石眼の魔女《アイギス》〉によって腹部の貫通痕を強引に塞がれ、スバルは医務局に搬送された。 担当の医務官の話だと、腹部の傷がふさがれなかったら交戦した現場で死んでいてもおかしくないらしい。 ゲンヤにとって、ある意味で幽霧はスバルの命の恩人と言ってもおかしくない。 しかし幽霧は何事も無かったかのように淡々と答えた。 「自分はただ、ナカジマ一等陸士の傷を塞いだだけです。大事に至らなかったのは本人の生命力による物です」 まるで感謝される理由が無いかのような幽霧の物言いにゲンヤは苦笑いを浮かべる。 きっとゲンヤは幽霧が感謝の言葉に対して、そう返してくるのは分かっていたけど本当にそう返してくると思わなかったのであろう。 苦笑いを浮かべながらゲンヤは幽霧に言った。 「なぁ、俺の部隊に来ねぇか? 陸曹として迎えてやるぞ」 第108陸士部隊へ陸曹としてスカウトする。 それは諜報部では三等陸士の幽霧にとっては破格の条件。 「嬉しい申し出ではありますが……丁重にお断りしておきます」 勧誘の言葉に対して即答する幽霧。その言葉には全く迷いは無かった。 「そうか……」 即答で断られたゲンヤは少し残念そうだ。 しかしそこで易々と退く事は無く、ニヤリと口元を歪ませながら幽霧に言う。 「気が変わったら何時でも言え。骨は折れるが、長月と徹底抗戦してやる」 「……考えておきます」 妙に粘り強く勧誘してくるゲンヤに幽霧は軽くため息をつく。 そして何気なく空を見上げる。黒い煙らしき物に覆われた空は街頭の強い光に照らされようとも、黒い靄に覆われたその空はとても暗く感じた。 同時に幽霧は心が騒ぐのを感じた。胸の中で何かドロドロとした物が動き始める。身体も今すぐに動き出したくなるような衝動に駆られる。 「……幽霧?」 身体が小刻みに震え始めた幽霧に雫は不思議そうな顔で声をかける。 その凛と澄んだ雫の声で幽霧は我に返った。 いつのまにかウィンドウの向かいにいるゲンヤや二人と一緒にいる陸士部隊の局員も訝しげな表情で幽霧を見ていた。 「えっと…すみません……なんか変な感じがして」 「……そうですか」 雫に変な所を見られて、少し恥ずかしくなった幽霧はその気持ちを紛らわせるために再び空を見上げた。 少し上で緑色っぽい魔法陣がいきなり展開されたかと思うと、虹色っぽい光が発せられる。 遥か上空では何者かが戦闘を行っているようだ。 そのまま幽霧は戦況を見るためにその場に立ち止まる。 立ち止まってしまった幽霧に気づいていない雫と局員は前方へと歩いて行く。 「ママ?」 一緒に立ち止まったのは良いが、意味の分からないアルフィトルテは小さく首を傾げながら幽霧を見上げる。 数秒ぐらい経過しただろうか。緑っぽい光がゆっくりと幽霧たちの方へ落ちて来た。 「……」 「幽霧?」 しばらく歩いてからやっと幽霧がいないことに気づいたのだろう。 目を細めながら立ち止まり、再び空を見上げる幽霧に雫は再び声をかける。 しかし今度はすぐに幽霧は雫に対して返事が返す。 「すみません。ちょっとそこで止まっていて貰えますか?」 瞬時に顔を戻した幽霧はアルフィトルテの名を呼ぶ。 アルフィトルテはその声に従って、自身の身体を光の粒子に分解。 その粒子は幽霧の手に集まり、人型から拳銃型へと姿を変える。 幽霧は近づいてくる緑の点に向かって銃口を向け、そのまま引き金を引いた。 空中で重力制御魔法が幾重にも展開され、緑の点が近づいてくる速度も幾分か遅くなる。 端から見ると意味の分からない幽霧の行動に局員は首を傾げる。 雫は幽霧が『アルフィトルテ』の銃口を空に向けて撃った所でそれに気づき、口元を緩めながらそれを見守っていた。 しばらくすると近づいてくるのは緑の点ではなく、男性局員である事が分かってきた。 空から人間が落下してきた事に気づいた局員はギョッとする。 しかし幽霧は表情を変えずに、アルフィトルテを人間形態に戻す。 拳銃の形が崩れて再び光の粒子となり、集まった粒子が幽霧の隣で再び人間の形を取る。 幽霧は落下してくる男性局員をキャッチするために腕を前に伸ばす。 同時に灰色の魔法陣が幽霧の足元に展開される。 落ちてきた勢いで幾分かよろめいたが、幽霧はどうにか落下してきた人間を腕の中に収めた。 「……」 [うへぇ……] その光景を見た局員は絶句し、雫の展開したウィンドウの向こうで見ていたゲンヤは変な声を上げた。 何故ならば、その光景は明らかに落下してきた局員が幽霧に横抱き―――お姫様抱っこされているような状態であったからだ。 男が男にお姫様抱っこされている光景はとても情けない。しかもそれを女顔で有名な幽霧にされているのだから更に情けなく見えた。 口から出ている涎が情けなさに拍車をかけている。今は気絶しているから良いが、気がついた時にその状態のままだったら悶死するかもしれないと局員とゲンヤはぼんやりと同じ事を考えた。 腕の中で気絶している男性局員の顔とダラリと下がったその手に握られた日本刀型デバイスから、幽霧は自身の記憶をたどる。 「航空武装隊の……ミヤモト…一等空士…?」 「ああ、航空武装隊所属のミヤモト一等空士と日本刀型デバイス『鈴音』ですね」 ―――頭に血がのぼると空気が読めないので有名の、と口元に笑みを浮かべながら小さく付け加える雫。 その言葉を間近で聞いたゲンヤと局員は背筋に寒気が走った。 「う~ん」 ミヤモトは身じろぎをし、ゆっくりと瞼を開く。 「大丈夫ですか?」 お姫様抱っこをした状態で幽霧はミヤモトに訊ねる。 きっと女の子に抱っこされていると思ったのだろう。幽霧の顔を間近に見たミヤモトの頬が赤く染まった。 「[……うわぁ…]」 雫の隣で声を上げるゲンヤと陸士部隊の局員。その目は既に乾いていた。 周囲に気づかずに見惚れているミヤモトに呆れると同時に、無意識で隠れファンを生み出しつつある幽霧の今後が心配になってしまった。 「……?」 ずっと自身の顔を見つめてくるミヤモトに幽霧は首を傾げる。 ちょうどその時だった。ミヤモトの首から刺青のような黒い物が登り、顔の片面だけを埋め尽くしていく。それと同時に片目だけ黒目と白目が反転する。 「ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォっヴぉヴぉヴおぉぉぉぉぉぉっ!」 奇声を上げたミヤモトの身体は大きく飛び跳ね、幽霧の腕の中から抜け出す。 空中で身体を回転させ、手に『鈴音』を握った状態でミヤモトは猫のように四つん這いで着地。獣のような唸り声を上げながらゆっくりと身体を起こす。 今のミヤモトは明らかに知性で動く人間ではなく、本能で動く獣のようであった。 口から涎をたらし、身体を左右に揺らしながら幽霧の方に迫ってくる。 「鏡月主任。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐……お聞きしたい事があるのですが」 「何ですか?」 [……どうした?] 幽霧は手に魔力を集中させながら、雫とゲンヤに訊ねた。 「この場合……正当防衛って認められるでしょうか?」 「ええ、大丈夫です。問題は全くありません」 [大丈夫だろう。俺が責任を取ってやる] 一瞬の迷いも無く即答する雫とゲンヤ。 きっと二人も今のミヤモトは異常だと思ったのだろう。 もしかしたら、それとは別に何か思うところがあったのかもしれないが。 奇声を上げながらその手に握っている『鈴音』を振るミヤモト。 「れう~! れぇうぅぅぅぅぅぅ!!」 『鈴音』から放たれた衝撃波が幽霧へと襲い掛かる。 しかし幽霧は命の危険性すらあるのに、表情一つ変えない。 「幽霧三等陸士!」 [―――っ! 幽霧っ!] 雫のそばで幽霧を見ていた局員とゲンヤが叫ぶ。 衝撃波が衝突する直前で、幽霧の身体がかすかに震えた。 それと同時に幽霧の姿がいきなり消えてしまう。 衝突すべき対象を失った衝撃波は周囲の空気に溶けていくように消える。 目の前で起きた現象はまるでその者に名付けられた名前を体現しているかのようであった。 幽霊の様に不気味に。霧の様に希薄に。霞の様に儚く、その身を消す。 「!?」 予想だにしなかった光景にゲンヤたちはおろか、幽霧と対峙していたミヤモトですら驚いていた。 「歩法―――『虚跳』」 賑やかな歩行者天国に凛とした声が静かに響き渡る。 その言葉を言い終わる頃には幽霧がミヤモトの胸部に右手を押し付けていた。 感情が読み取れない幽霧の無機質な瞳に本能的な何かが警鐘を鳴らしたのか、ミヤモトは足元に浅葱色の魔法陣を展開。 幽霧はミヤモトの身体に触れながら魔法を発動。 「汝、罪を犯す事なかれ。」 そのフレーズでミヤモトから発せられた魔力を遮断。 展開された魔法陣がゆっくりと消えていく。 「汝の身体に杭を打ち、枷を持って汝を縛らん」 代わりに灰色の魔法陣が展開され、魔力で構築された帯がミヤモトに巻きつく。 ミヤモトはその帯を外そうと足掻くが、魔法陣から出てきたおびただしい数の帯が絡み付いていく。 そして幽霧は最後のフレーズを紡ぐ事によって魔法を完成させる。 「咎人を拘束する衣となれ―――咎人の拘束衣《バインディングクロウス》」 ミヤモトの身体に巻きついた帯が魔法の完成に従って、拘束衣を作り上げる。 両腕は後ろに回された状態で拘束され、両足をくっつけた状態でおびただしい数の帯で雁字搦めにされる。 目は帯で強制的に目隠しされ、口には魔力で構成されたボールギャグがはめられた。 〈咎人の拘束衣《バインディングクロウス》〉が発動された後、その場にあったのは発動者である幽霧と――― SMちっくな格好で拘束されたミヤモトの姿であった。 流石のそれには周囲で見ていた人たちも絶句するしかなかった。 「……すみません」 「はっ! はいぃ!」 幽霧に声をかけられた局員は、自身も〈咎人の拘束衣《バインディングクロウス》〉でミヤモトと同じ事をされると思ったのだろう。冷や汗を流しながら変な声を上げて敬礼する。 局員の奇妙な行動に首を傾げながら幽霧は訊ねた。 「航空武装隊って、何処で出店していましたっけ?」 瞬時に答えないとまずいと思ったのか、局員はしどろもどろになりながらも答える。 「えっと……航空武装隊は確か…おせち料理バイキングでしたっけ?」 [……何かシュールじゃないか? それ] 意味が分からない出店内容にゲンヤは呆れ返りながらも突っ込みを入れる。 「それじゃあ、行きましょうか」 「このまま運ぶんですか!?」 かなりイタい格好をするミヤモトをそのまま運ぼうとする幽霧に局員は突っ込みを入れる。 局員はこの格好のままで運ぶのはミヤモトが可愛そうだと想い、目隠しとボールギャグを解除させるために入れたツッコミであった。 しかし幽霧は別の意味に取ったのだろう。拘束衣で縛り付けたミヤモトを下ろし、近くで屋台を出していた局員の方に走っていく。 そしてしばらく会話してから、何かを持って戻ってきた。 なんとそれは、重い物を運ぶために使われる台車であった。 幽霧はその台車にミヤモトを乗せる。 「それじゃあ、行きましょうか」 何も知らない民間人はミヤモトの格好が物珍しいのか、通り過ぎる際にもチラチラと見たり持っている携帯デバイスで写真を撮影し始めている。 このままだと集まった野次馬で、移動するどころの話ではなくなるだろう。 雫に助け舟を出そうと視線を向けるが、何故か静かな殺気を放ちながら微笑みを浮かべている。下手したら大変な事にもなりかねない勢いだ。 この状態で、その局員とゲンヤが出来る事は――― ―――イタい格好と化しているミヤモトを同情して、手を合わせてあげる事だけであった。 〈一時二十九分 えゆ〉 ミヤモトが対象に撃墜され、幽霧の発動させた〈咎人の拘束衣《バインディングクロウス》〉でイタい格好にさせられている間も、えゆとオウルは対象と徹底抗戦していた。 「爆砕分裂後、多角砲撃《クイックシルバー》」 対象に狙いを定め、十分な魔力を溜め込んだところでえゆは矢を離す。 青い矢は光の尾を空に焼き付けながら対象の方へと翔け登っていく。 対象は靄を集束させて数箇所から槍を射出。青い矢を破壊しに掛かる。 えゆの矢は対象の槍によって砕かれたが、破片が周囲の魔力を集束。 十分な魔力を喰らった破片は青い光線となって、多角度から対象に襲い掛かる。 迫り来る青い光線に対して、少女の口がゆっくりと動く。 「……罪の雨《シュルトレーゲン》」 その口から紡ぎだされた銘によって黒い靄は無数の細い針となって豪雨のように勢い良く射出され、襲い掛かってきた青い光線を強引に消していく。 しかし数発は〈罪の雨《シュルトレーゲン》〉を潜り抜け、対象の身体に突き刺さる。 光線は〈掌握支配《コンプレクティ・リアクト》〉で吸収される事無く、対象の身体に穴を開けていく。 数分前までは〈掌握支配《コンプレクティ・リアクト》〉で魔法を吸収されて終わりであったが、ミヤモトが撃墜される直前に零距離で打ち込んだ〈歌姫の楽園《ローレライガーデン》〉によって起こった変調で対象はそれを使用する事が出来なくなったようだ。 しかしそれでも対象の持つ能力は健在で、身体を破壊していっても周囲の靄によって片っ端から修復されていってしまう。 「咎人達に滅びの鉄槌を。神の使徒よ集え。世界を革変する御柱となれ。降りよ……聖なる王に祝福を与えし神」 対象の前方に黒ずんだ虹色の魔法陣が展開され、周囲から魔力と黒い靄を集束させていく。 巨大な魔法陣と対象の口から紡がれた魔法の呪文によって、また対象の〈クライス・クリストス〉が来ると分かったえゆは再び矢を引き、軌道操作魔法によって矢に特殊なプログラムを組み込んでおく。 「―――クライス・クリストス」 微かに黒ずんだ虹色の奔流が集束式砲撃魔法となって迫ってくる中、えゆは引いていた矢を解き放つ。 「吸収後。五秒後に爆破《クイックシルバー》」 対象の〈クライス・クリストス〉とえゆの矢が真正面から衝突。 二人の間に虹色の魔力球が出来上がり、そのまま爆発する。 えゆはこの爆破から身を守るために屋上で瞬時に結界を展開し、それが壊れて吹き飛ばされないように身体を丸める。 方向性を失った虹色の魔力が周囲の物体を削っているらしく、ガリガリという音と一緒に粉塵が舞うのを肌で感じ取った。 その時、えゆから離れた位置で対象の狙撃を行っていたオウルから念話が入る。 [えゆ三等空尉。大丈夫ですか?] 「こっちは大丈夫。そっちは?」 丸めていた身体を起こして前を確認するえゆ。 魔力爆発をモロに喰らったらしく、対象の所々が欠落していた。 しかし爆風で飛んでいった靄を集める事で、ゆっくりでありながらも身体を修復していく。 [……準備完了です] そこで切り札の準備を完了させたオウルからの返事。 身体を修復できる対象に畳み掛けるなら、間違いなく今がチャンスであろう。 疲労を訴える頭でそう考えたえゆはオウルに命令を下す。 「今すぐ発動して」 [了解] オウルがえゆの命令に返事を返すと同時に準備を得た魔法を発動。 [蒼穹の彼方より来たれ、燃え盛る火聖の大剣。穿て―――交差する緋《クロスフレア》] 銘を告げられるのと対象の身体が修復を終えるのはほとんど同時だった。 対象の周囲に琥珀色の魔法陣が展開され、多方面から棒状の銃弾が射出される。 その銃弾を回避しようと動く対象であるが、高速で多方向から撃たれているために回避できない。 撒き散らされた靄すら吹き飛ばされながら、対象の身体は〈交差する緋《クロスフレア》〉で抉り取られていく。 ほとんど戦局はオウルたちの方が優勢であったが、えゆは『千早』に魔法の矢をつがえた状態で新たなる魔法を発動する。 「八ツノ首ヲ持ツ大蛇ヲ封ゼシ羽。此ノ矢ニ顕現セン」 足元に八重の円が展開され、そこから蛇の形をした魔力が出て来た。 その魔力はえゆの引いている矢に巻きつき、より強い光を放ち始める。 えゆの魔力で出来た八匹の蛇が矢に巻きついた時には足元にあった八重の円は消え、青い矢は眩しいくらいの光を放っていた。 オウルの〈交差する緋《クロスフレア》〉の発動時間が切れると同時に、えゆはその矢を離した。 「―――天乃羽張《アマノハバリ》」 青い矢は既に身体が穴だらけであった対象の心臓辺りに突き刺さり、首から下を全て消し飛ばす。 首だけになった対象はそのまま下へ落下していった。 「ふぅ……」 そこでえゆは『千早』を屋上の地面に落とし、軽くため息をついた。 [えゆ三等空尉] ちょうどそこで戦技教導隊で戦略分析官をしているステイ・クラウゼヴィッツから念話による連絡が入る。 「何でしょうか? ステイ戦略分析官」 [対象に撃墜されたミヤモト一等空士だが、ちょうど下で歩いていた局員に回収されたようです] ステイの言葉に、えゆは安堵のため息を漏らす。 死んでてもおかしくないと思っていたが、どうにか生き延びたらしい。 これは一人欠ける事が無かったと言えるだろう。 [そっちはどうですか?] 「撃墜はしたのですが……」 えゆは少し歯切れが悪い口調でステイに報告する。 「逃げられたかもしれません」
https://w.atwiki.jp/ddr_dp/pages/1337.html
折れないハート(踊) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE その他 折れないハート 高取ヒデアキ 2013 踊8 190 228 / 11 Ver.Aにて2016/05/30削除 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 51 39 14 25 4 楽譜面(4) / 踊譜面(8) / 激譜面(11) / 鬼譜面(-) 属性 渡り、リズム難 プレイ動画 https //www.youtube.com/watch?v=_FoHWZxeIKs (x?.?, オプション不明、1 50~) 解説 4分はそれなりに渡らせてくるが、8分が2連止まりのリズム難。スコア難だが、踊8としてはかなり控えめ 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ddrdp/pages/1496.html
折れないハート(踊) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE その他 折れないハート 高取ヒデアキ 2013 踊8 190 228 / 11 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 51 39 14 25 4 楽譜面(4) / 踊譜面(8) / 激譜面(11) / 鬼譜面(-) 属性 解説 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ddrdp/pages/1497.html
折れないハート(楽) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE その他 折れないハート 高取ヒデアキ 2013 楽4 190 129 / 10 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 29 31 1 23 0 楽譜面(4) / 踊譜面(8) / 激譜面(11) / 鬼譜面(-) 属性 解説 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/1492.html
うーん。 さて、あの続きを書こうかなっておもった時、 ギィと音がした。 母さんかなぁと思って「はいっていいよ」と言ったが、返事は無い。 おかしいなと思い、開けたが誰もいない。母さんを呼ぶと下の階から返事が聞こえる。 「いや、なんでもないよ。」と言って部屋に戻った。 閉めきってなかったから風で開いたのだろう。 そう思って扉を閉め、布団を敷こうとすると ねぇ、早くあの話の続き、書いてくれないかしら… と女性の声が聞こえた。 驚いて辺りを見ると誰もいない。 早く書かないと… ワタシアナタニナニスルノカワカラナイワ… 聞き終わった途端空気が重くなった。疲れもドッとでた。だから、その見えない女性に対して、 「今は疲れたから無理だ。休んでから書こう」と言った。 すると一瞬の内に重苦しい空気は吹き飛び、いつもの、呑気な雰囲気に戻っていた。 「はぁ、さっさと寝て続きを書こう。」そう思いつつ、夢の世界へ逃避した。 オチナシ 作家さんに対して病み嫁はどんな行動をするのかなぁって思ったら出来たネタ。 女性が誰なのか。 誰でしょうねぇご想像におまかせします。
https://w.atwiki.jp/2conan/pages/45.html
黒の組織に勤めてるんだが、俺はもう限界かもしれない(358) 348 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 41 56 今年の冬は特に仕事なかったな 349 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 43 56 去年の夏は米花町辺りで上の人たちが動いたそうだが おいら達にはそれらの情報がない 350 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 44 56 俺らってわけもわからず狩り出されること多いよな 実際全国にどんだけ支部があるのか末端じゃ教えてくれないし 351 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 47 56 なんだかアメリカの方にも支部があるって聞いたけど、俺は転勤したくないな ってか英語しゃべれないし 北海道辺りへ転勤したいな 352 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 49 56 まあこれからの季節、あんな暑苦しいカッコで出歩きたくないからなあ うちのボスもよく考えてほしいよ 353 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 51 56 そういやうちのボスってどこに住んでてどんな人か、いまだに教わってないな 354 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 53 56 なんだかそれはトップシークレットで、上の方の人でも知ってるのはごく一部だけ らしい 上の方の人はお酒の名前がついてたな 355 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 54 56 うちの支部だと確かウォッカさんて名前を聞いたことがある 356 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 56 56 ああ、あの人は何だかいっつも仕事でポカをしながらお咎めなしで有名らしい なんでも凄腕の人の相方をやっているそうだけど、その人もやっぱり(ry 357 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 58 56 その凄腕の人って確かジンさんていったような気がする すげーロン毛で大柄だから目立って仕事に差し支えると思うんだが 358 :ブラック名無しさん:2010/05/06(木) 22 59 56 ちょっとでもミスしようもんなら直ぐにズドンてやられるそうだから 目え付けられたらやだな 「トントン」あ、誰か来た
https://w.atwiki.jp/galgerowa/pages/108.html
もう戻れない優しい日々 ◆3Dh54So5os 涼宮遙はご機嫌だった。 見つけることすら出来ないと思っていた『マヤウルのおくりもの』が今この手の中にある。 探し物が見つかったとき、それもどれだけ探しても中々見つけられなかったものを手に入れられたときの喜びは一入だ。 快く譲ってくれたあの子には本当に感謝してもしきれないくらいだ。 その上、孝之もさっきの子がここにつれて来てくれるという。 今日はなんて良い日なのだろう。 『マヤウルのおくりもの』がここにあって、孝之も来てくれる。これ以上幸せな日が今まであっただろうか? これはきっと神様からのプレゼントに違いない。 遙は背後の大樹に背を預ける。その状態から見上げた空にぽっかり浮かぶ月と輝く星々はとても綺麗で……。 ロマンチックな景色は遙の心をときめかせた。 「孝之くん、早く来ないかなぁ……」 デートの待ち合わせの時のように胸が高鳴る。 孝之がここに来たらまずなんて声をかけようか? そんな考えばかりが頭の中を駆け巡る。 今の遙には自身の身体のことや現在地についてなど全く眼中に無かった。 ただただ孝之がここに来た後のことに思いを馳せていた。 それも仕方のないことなのかもしれない。 この場にいたのは『3年間の昏睡状態から目覚めた』涼宮遙ではなく、『高校3年当時の恋する乙女』の涼宮遙だったのだから……。 (孝之くんが来るまでどうしよう? 『マヤウルのおくりもの』を読む? うぅん、それは孝之くんが来るまで待ってよう。孝之くんが来たらそのときは二人で一緒に……) そんなことを考えながらやがて遙は深いまどろみの中に落ちていった……。 ◇ ◆ ◇ 「……くっ、詰めであんなミスするなんて……お姉のこと言えた義理ありませんね」 園崎詩音は先刻の闘いにおける自身の行動を省みながらそう呟いた。 ベレッタ2丁と暗視ゴーグルという余りにも恵まれた装備だった上、あの女――つぐみが大した反撃を仕掛けてこなかった事も重なって、 自身に気に緩みが生じたのは否定できない。 その結果、致命的な隙を作り、あんな失態を演じる結果になってしまった。 あの時はつぐみがそのまま逃亡を図ったから良かったものの、更に何かしらの武器を隠し持っていたら確実に返り討ちに遭っていただろう。 頭に血が上ってつぐみへの呪咀の言葉を吐いていた時は深く考えられなかったが、 落ち着いて今思い返してみるとかなりヤバい状況だった事に気が付き、詩音は背筋が冷たくなるのを感じずにはいられなかった。 生きて帰るにはさっきのような失態は二度と許されない。 慎重且つ冷静な判断を下さなければならない。とりあえず当面の問題は……。 「これからはどうしましょうかね……まさかこんなところにずっといるわけにはいかないし……」 呟きながら詩音は次の行く先をシミュレートする。 少なくともあの女の行った方向だけは避けなくてはならない。 あの女が他の参加者と合流したら絶対私の事を洩らすに決まっている。 手の内もばれている上、徒党を組まれたら勝ち目はない。 (じゃああの女が逃げた方向は?) 戦術的転進と称してここまで真直ぐ逃げてきたが、一行に森を抜ける様子はない。 まともな目印もないことから断定は出来ないが、山頂の方角を見るに現在地はこのC-4エリアだろう。 現在地と元来た方角から推測すると、先の戦闘ポイントは隣のB-4エリア内ではないだろうか? つぐみがスタンドグレネード以外の武器を持っていなかったのは止めをささなかったことからも明白。 普通に考えれば他の武器を求めて新市街方面に向かった公算が高い。つまり、北か西……。 今、新市街に抜けるのは危険と見るべきだろう。 かと言って大半が森に覆われた島の南部に今すぐ行く気は起きてこない。 「ここは様子見に撤しますか……ん?」 と、その時、詩音の視界の片隅に何かきらりと光るものが草影から顔をのぞかせているのが映った。 (誰かがあそこにいる?) 隠れているつもりなら余りにも御粗末だが、用心に越したことはない。 相手から見えないようさり気なくベレッタを構えつつ、詩音はちらと視線を送り、光沢の元を探る。 (あれか……) 見えたのは手押し車か車椅子らしき物体。が、それの持ち主と思われる人の気配はない。 否、よく耳を澄ませてみれば微かに寝息らしき音が聞こえてくる。 今の状況を考えるとこんなところで寝れる奴がいるとは思えない。 むしろ油断させるための罠と考えるのが妥当だが…… (確認してみる価値はありそうですね) 罠なら罠でいい、その時はベレッタで返り討ちにするまでだ。 詩音は足音を立てないように茂みに近付き、僅かな隙間からそっと覗き込んだ。 そこにいたのは一人の少女だった。 膝の上に絵本を載せ、大樹に寄り掛かりながら心地よさそうな寝息をたてて、その少女は眠っていた。 まるで陽なたぼっこをしながらそのまま寝付いてしまった子供のような、あどけない姿。 本来なら微笑ましい光景なのかもしれないが、まずありえないと断定した展開だった為に完全に毒気を抜かれてしまった。 「……いるんですねぇ、こういうの……お姉並み……いえ、それ以上に空気読めてませ…………」 言いかけて詩音は気がついた。その余りにも病的な体格に……。 よく見れば、辺りにはディバッグの他に薬と思われる錠剤の入ったビンなども散乱している。そして、例の車椅子。 (誰だか知りませんが、かなりの重病人のようですね……) さらに言えば寝顔を見る限り現状を理解しているのかどうかすら危ういように思える。これはもう空気を読めないとか、そういうレベルではない。 普通の人間ならこんな娘まで参加させた主催の鷹野に対する怒りを抱いたり、少女の境遇に同情したりするところなのだろう。 だがしかし、詩音の考えはそれらとは全く異なっていた。 「これなら、手間はかかりませんね」 詩音は口元に笑みを浮べると、ベレッタの銃口をその少女――涼宮遙に向けた。 相手は眠っているのだから反撃も無ければ、悲鳴をあげることもない。 銃弾だって1発もあれば十分だろう。今ここで引き金を引けば、それで終わるのだ。ああ、なんて楽なのだろう。 「……」 でも何か違う気がする。寝込みを襲って一撃というのは極めて有効だと頭では分かっているが、どうもしっくりこない。 ムカつくぐらい安眠している少女を今すぐ叩き起こして、少しずつ痛めつけながらたっぷりと恐怖を味あわせ、 その表情が絶望に染まる様を愉しみながら嬲り殺しにする。そういうのの方が性に合っている気がする。 だが、ここは拷問道具には事欠かない園崎本家ではないし、反撃も出来ない病人に時間を割く余裕はない。 スピーディーに蹴りをつけるならこのまま夢の世界の中にいてもらった方が都合がいい。 「それじゃあお姉さん、おやすみなさい……って、そういえばもう寝てるのか」 嘲笑うような表情を浮べながら詩音が引き金にかけた指に力をこめた、その時だった。その言葉とともに遙のがわずかに身動きしたのは……。 「……ん……たかゆき…くん……だいすき……」 (!?) 次の瞬間、辺りに一発の銃声が響き渡った。 ◇ ◆ ◇ 彼女の不幸は何所にあったのだろうか? 現状をまるで理解できなかったこと? こんなところで寝てしまったばっかりに詩音に見つかったこと? 否、それはたいした不幸ではない。あのまま順調に事が進んだのなら、遙は幸せな夢の中にいたまま、 地獄のような現状について知ることもなく、一撃で天に召されていたはずだ。 だが、その一撃を遙は回避してしまった。脳天を貫くはずだったその一撃を……。 銃声と耳を銃弾が僅かに掠めた事により遙は幸せな夢から引き摺り下ろされ、地獄の前に放り出されてしまったのだ。 「……ん?……あれ?」 銃声により(といっても遙自身その音が銃声だとは知らなかったが)遙は目を覚ました。 どうやら孝之を待っている間に眠ってしまっていたらしい。 寝起きでまだうっすらとしか見えない視界に誰かが立っていることに気がついたのはその直後だった。 「……孝之くん?」 だが、目の前ににいたのは孝之でもさっきの心優しき少女でもなかった。 そこにいたのは少女の皮をかぶった一匹の鬼。 「私にしては珍しく一撃であの世に送ってあげようとおもったのに……病人の分際で見事にコケにしてくれちゃいましたね……」 寝起き直後の上、余りにも突然の展開、遙には訳が分からなかった。 この少女が何者なのかも、なぜここまで憎悪に満ちた顔をこちらに向けているかも、言っている言葉の意味も……。 ただ本能的にこの少女――園崎詩音に対して恐怖を感じ取った遙は後ずさろうとして……出来なかった。 振り返った先にあったのは先程まで寄り掛かっていた大樹。 夜空を見上げる一等席や心地よい眠りを与えてくれた大樹が、障害物となって遙の前に立ちふさがっていた。 「余所見なんかしてる暇、あるんですか?」 「!?」 詩音の声に遙が再び振り返るより早く、右肩に焼けるような熱い感覚が走る。と、同時に衝撃で遙の身体は木の幹に叩きつけられていた。 もろにぶつけた背中の痛みを感じる前に、肩の焼けるような感覚が堪え難い激痛に変わる。 「いやあぁっ……ん!?……むぐぅ!?」 あまりの痛みに悲鳴をあげかけた遙の口に詩音は本来、食糧として支給された菓子パンを押し込んだ。 「んんっ!?……むうっ!?」 遙の決して大きいとは言えない口はビニールの包装に包まれたままのパンで完全に塞がれてしまった。 これでは悲鳴はおろかまともに声を出すことすら出来ない。 パン入り袋を取ろうと遙は無傷の左手を動かす。が、それを見逃す程詩音は甘くなかった。 「おっと、動いちゃダメでしょ、お姉さん!」 詩音は動かしかけた遙の左手を掴むと、遙の上に圧し掛かった。 それと、同時に銃口を押しつけられ、遙は恐怖のあまり震え上がる。 「あらあら、そんなに震えちゃって、別に人食い族じゃあるまいし、とって食いはしませんよ」 そんなことを言われたって銃を突き付けられた状態では到底信じられない。 このまま為すすべもなく殺されてしまうのではないか? 遙がそう思ったその時だった。詩音がその言葉を遙に投げ掛けたのは……。 「死ぬのは嫌ですか? 生き延びたいですか?」 普通なら何を当たり前のことを……と、言いたくなる質問だが、今の遙には生を掴み取るための唯一の光明のように思えた。 光明をチャンスにし、そしてこの地獄からの脱出に繋げるため遙は必死に首を縦に振る。 「ん~、そうですねぇ……私もそんな冷血人間じゃありませんし……分かりました。見逃しましょう」 微笑みながら詩音が言った言葉に遙は心底安堵した。良かった。助かった。 緊張が一気に解け、強ばっていた全身から力が抜けていく……。 その直後だった、詩音の表情が天使の微笑みから悪魔の嘲笑に変わったのは……。 「……なぁんちゃって、やっぱりだめぇぇぇぇぇっっ!!!」 「!!!」 そのおぞましき声に遙が再び身体を強ばらせるより早く、詩音は引き金を立て続けに引いた。 ◇ ◆ ◇ 涼宮遙は生きていた。 純白のパジャマを自らの血で紅く染め、全身傷だらけの血塗れになり、起き上がることすらままならない状態たが、それでもまだ生きていた。 何発の銃弾を撃ち込まれたのかは分からない。 初撃の右肩を手初めに両足と腰の脇を撃たれたのは確実だが、それ以降は痛みが激しすぎてよく覚えていない。 最低5発は撃たれたはずだが、それでもまだ生きているのは運が良いと言えよう。 全身から死んでしまうのではないかと思える程の激痛に耐えず襲われる状況は決して幸運とは言えないが……。 「うわっ、大して使えるものありませんね。こりゃ……」 遙にしこたま銃弾を撃ち込んだ詩音は遙のディバックを漁っている最中だ。 もう遙の事など眼中にもないらしい。 逃げるなら今のうちなのだろうが、もともと足を満足に動かせなかった身である。 しかも足と肩に銃撃を受けた今の状況では這う事すら出来ない。 口に押し込まれていたパンはいつの間にか外れていたが、声をあげる余力も気力も遙には残されていなかった。 と、その時、遙の視界にあるものが映った。 「……『マヤウルのおくりもの』……?」 おそらく、最初に撃たれて倒れた時に膝から落ちたのだろう。草むらに埋もれるようにそれはそこにあった。 まわりの雑草が盾代わりとなったのか土埃が多少付いている以外、泥も血飛沫も付いていなかった。 遙は全身の痛みすら忘れて『マヤウルのおくりもの』に右手を伸ばす。 撃ち抜かれた右肩が悲鳴を上げるが遙は手を伸ばし続けた。 ようやく手に入れた『マヤウルのおくりもの』 孝之が来たら二人で読もうと決めていた『マヤウルのおくりもの』 それだけは手放したくなかった。手元に置いておきたかった。だから遙は必死になって手を伸ばした。 ゆっくりだがじりじりと遙の手が近づいていく……。 あと10センチ…… 「ん~やっぱり使えるのはこの果物ナイフ位ですかねぇ……」 あと5センチ…… 「あんまりいい収穫とは言えませんがよしとしましょう」 あと3センチ…… 「さて、それじゃあ……」 あと1センチ…… 「やった……届い……」 「死んでください」 刹那、背後から詩音の声と共に軽い音が聞こえ……遙の意識は消失した。 遙の伸ばした手が再び『マヤウルのおくりもの』に触れることは、無かった。 ◇ ◆ ◇ 「う~ん、やっぱりこういうときは銃ってやり難いですね。ワザと急所を外すのもそうですけど、無駄弾が多すぎで……」 ベレッタのマガジンを交換しながら詩音は誰にとも無く呟くと、遙の屍には目もくれずその場を後にした。 【C-4 森/1日目 黎明】 【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に祭】 【装備:ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1,10/15+1】 【所持品:支給品一式、予備マガジン×9 果物ナイフ 暗視ゴーグル】 【状態:やや疲労 視力低下中】 【思考・行動】 1 ゲームに乗って元の世界に帰る。特につぐみは絶対に殺してやる。 2 身を休ませる場所を探す。 3 圭一達部活メンバーは殺したくないが邪魔をするのであれば殺す。 【涼宮遙@君が望む永遠 死亡】 [残り58人] 【備考】 薬及び車椅子、『マヤウルのおくりもの』は死体の傍に放置されています。 035 星空の辻 投下順に読む 037 兄と妹 035 星空の辻 時系列順に読む 037 兄と妹 002 STRANGE ENCOUNTER 園崎詩音 055 猟人は鬼と獅子 008 あねぇができました 涼宮遙
https://w.atwiki.jp/ddrdp/pages/1495.html
折れないハート(激) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE その他 折れないハート 高取ヒデアキ 2013 激11 190 290 / 11 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 66 47 27 35 15 楽譜面(4) / 踊譜面(8) / 激譜面(11) / 鬼譜面(-) 属性 解説 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) SP同様逆詐称、足9でも違和感無い -- 名無しさん (2013-09-22 12 26 43) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/mus213/pages/81.html
前 > Lv1 なんとなく、そわそわしている。 いつもなら黙々と茶を入れたり本を読んでいて静かにしている私は、落ち着きのない様子で居間をうろうろしている。 ダイブが終わってからというもの、ずっとこんな状態だ。もやもやした感情が、頭の中をぐるぐる巡っていた。 そんな様子を見ながら、ネルは晩御飯を作っている。 「姉さん、何か気になることがあるのか?」 何度目かも分からない問い。落ち着きを取り戻していないのは、ネルも同じだった。 だけど、彼の声は私には聞こえていなかった。いや、聞く余裕がなかったのかもしれない。 暫くして諦めたのか、ネルは晩御飯の調理に気を向けた。 今日のメインはくるるく団子のスープ。一口大に切った野菜と、くるるくの実をすり潰したものをこねて丸めて作った団子を、出汁をとったスープに入れて煮込んでいく。 稍もすればそれは完成し、食卓に晩御飯が並べる。いつもであれば読んでいる本を閉じて片付ける動作が入るのだが、今夜はそれがない。 ネルの「いただきます」の合図とともに食事は始まった。 顔も合わせずに黙々と食べ、器の中身もなくなってきた頃だった。 「……ネ、ネル、あのね……」 ようやく、口から出てきた言葉。 その続きを話そうとして、ネルの様子が少し変なことに気付いた。 「......やっと、姉さんの方から声をかけてくれたね」 聞こえてきたのは、呟くような小さい声。 その意図が掴めず、頭の上に疑問符を浮かべる。 「......ネル?」 「ああ、ごめん。続き、言ってごらん?」 ネルにそう促され、再び話し出そうとしたが、少し前まで考えていた言葉が出て来ない。 どうやら、この短い間に忘れてしまったらしい。 「……ううん。言いたいこと、分からなくなっちゃったみたい......」 だから、そう告白した。 「大事なことを思い出したような気がするけど……やっぱり上手く言葉に言い表せないの」 「無理に思い出そうとする必要はないさ。思い出した時に話してくれればいい」 「……うん」 しばし、沈黙の帳が降りる。居た堪れなくなったのか、ネルは食卓の片付けを始める。私もそれを手伝おうとしたが、ネルに断られてしまう。 いつもは気にもならない時間が、今日はとても長く感じられる。 その空気を払う役は、やはりネルになった。私には、まだ遠い。 「あのさ、姉さん」 片付けを終えたネルは佇まいを直し、真剣な眼差しで話し出した。 「僕は姉さんのこと、信じているよ。だから、姉さんも僕のことを信じてほしいんだ」 「うん。私も……ネルのこと、ちゃんと信じるね」 相手を受け入れ、信じる。それを再認識した。 気付けば、夜も遅い。 それぞれのやるべきことを終え、二人はそれぞれの部屋に分かれた。 ーー会話に弾みがあったからか、興奮していたのかもしれない。 良い方向に変化が現れている証……なのだろう。 事故以前のように話が出来るようになるのは当分先になるだろうが、それでもゆっくり焦らずに解かしていけばいい。 次のダイブのことは、またその時に考えよう。 前 > Lv1 ストーリー > 双星の協奏曲 > アフターダイブ 慣れない感覚