約 1,155,476 件
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1072.html
「ふとしたことで~告白~」 あの後、風邪を拗らせて本格的に熱を出した私は、土日の連休を挟んで、一週間近くも学校を休む事になってしまった。 …でも、私にとってはそっちの方が良かったのかもしれない。 ――あんたとはもう絶交よ――。 こんな事を言われた以上、私はかがみに合わす顔が見つからなかった。 ちゃんと謝れば許してくれるかもしれない…。 そんな考えも、あの時のかがみを見ていれば、あの事を本気で怒っていて、簡単にそれを水に流してくれるとは思えないのは分かっている。 何より、仮にかがみが私の謝罪を受け入れてくれたとして、私達はそれまでのような友情関係に戻れるのだろうか? …ありえない。 どれだけ関係の修復に奔走したとしても、私がかがみのファーストキスを奪ってしまったという事実は一生消えない。 その上、もう私があんな暴走をしないなんて保障はどこにもない。 もしも、また同じような過ちを繰り返してしまえば、今度こそ私達の関係は終わる。完全に断絶してしまうだろう。 いっその事、このまま私のこの想いをかがみに伝えてしまおうかとさえ考える。 …でも、それも出来ない。 彼という存在が居る以上、私の恋が成就する可能性はゼロに違いない。 挙句の果てには、私が同性愛者だという事を知ったかがみや周りの人達が、好奇や侮蔑の視線で私を見るようになるかもしれない…。 …じゃあ、私はどうしたら良いんだよ…。 これじゃあ、何をしたってバッドエンド一直線じゃないか…。 そうなって当然の間違いを犯したのだから、自業自得でしかないのに…。 覆水盆に返らず。 そんなことわざの意味を改めて噛み締めても、私の後悔は消えてくれはしなかった。 § 月曜日。 風邪もすっかり完治してしまった私は、いよいよ学校に行く事になる。 でも、まだ私はかがみに会いたくない。 会ってしまえば、その瞬間に何もかもが終わってしまう気がして仕方が無かったのだ。 だから、いつも通りの時間に家を出たのにも関わらず、私は乗る電車をわざと一本遅らせた。 そして、朝のHRが終わる寸前に教室の中へ駆け込んで、私が遅刻した事に対する黒井先生の軽いお説教に平謝りしながら、無事に自分の席に着いたのだった。 HRが終わると、つかさが私の席に近づいて来た。 自然と自分の表情が強張っていくのが分かる。 「こなちゃん、風邪の方は治ったの?」 「え…。あ、うん。もう完全復活だよ」 「そうなんだ、ちゃんと治って良かったね~。土日にお見舞いに行こうかと思ってたんだけど、お姉ちゃんはデートだったし、私は金曜日に英語の宿題がどっさりと出ちゃって、それをやるだけで連休が終わっちゃって、行く事が出来なかったんだよ~。だから、ごめんね」 「う、うん。ま、まぁ、その頃にはほぼ完治してたから、お見舞いに来て貰う程でも無かったんだけどね…」 このつかさの様子を見ると、どうやらかがみはあの事を誰にも告げていないようだ…。 私はそれに気付いて、少し安堵する。 …って、英語の宿題!? 「つ、つかさ、英語の宿題って何が出たの?」 「えっ? いつも出てくる、次の授業で出てくる英単語の語訳と、その単語をそれぞれ10回ずつ書いて練習するプリントを貰ったんだけど…。机の中に入ってない?」 慌てて机の中を穿り出すと、それらしきプリントが出てきた。 そして、その提出日は今日の二時間目…。 一時間目は先生の目を誤魔化しながら、単語10回ずつを光速の勢いで書けば、ギリギリいけそうだけど、英単語の訳は誰かに見せてもらわないと明らかにマニア移送(←敢えて誤変換)にない。 あの先生、提出物に物凄く煩くて、一枚でも提出が遅れると無茶苦茶評点を下げられるんだよね…。 「うわぁ~、どうしよ~」 思わず、頭を抱え込む私。 「あっ、それならお姉ちゃんのを見せて貰えば良いよ。お姉ちゃんも同じ宿題が出て今日が提出だけど、お姉ちゃんのクラスは英語の授業が午後からだし、今回は事情が事情だし、ちゃんと貸してくれる筈だよ~?」 確かに、風邪で休んでたという大義名分があるから、普段のかがみなら、「もう、仕方ないわね…」と愚痴を言いながらもプリントを貸してくれる事だろう。 ……でも、今は――。 「つかさ…。悪いんだけど、つかさのプリントを見せてくれないかな…?」 「へっ?」 私がそう言うと、つかさはとても驚いた表情を見せた。 「私のは多分間違いが多いと思うから、お姉ちゃんのを借りた方が…」 「い、いや、あの……もう授業も始まっちゃうし、わざわざ隣のクラスに行ってかがみに事情を説明する時間も今は勿体無いというか、なんというか…」 「そっか…。じゃあ、私のプリントを持ってくるね」 「う、うん。ありがとう…」 一旦自分の席に戻っていくつかさの姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。 …ただ、こうやって、つかさが事情を知らない事に付け込んで、私とかがみの関係に亀裂が入った事を時間稼ぎのように誤魔化そうとしている私自身が、この上なく情けなかった。 ……その後も私は何かと理由を付けて、かがみとの接触を拒み続けた。 朝は遅刻ギリギリの時間に教室に駆け込み、休み時間はかがみがやって来そうな気配がするとトイレに逃げ込んで授業が始まるまで時間を稼ぐ。放課後は用事があるからと告げて急いで帰る。 かがみの方も、きっと私に会いたくないのだろう。 昼休みは自分のクラスで食事をするようになったし、つかさに用事があれば、わざわざメールをして呼び出すようになった。 そんなルーチン・ワークで一日をやり過ごし、学校を出ると、今日も何とか誤魔化し切れた事に安堵する。 …自分でも最低な人間だと思う。 だけど、こうでもしないと、私は一瞬にしてこの大好きだった日常を失ってしまうのだ。 いくら誤魔化しても、もうこの日常にかがみは戻って来ないのに。 そして、その日常も、崩壊は最早時間の問題でしかないのに――。 § その日の放課後も、私はつかさに一緒に帰れないという断りを入れて、急いで学校を離れようとしていた。 「ごめん、つかさ! 私、今日もちょっと急用があって一緒に帰れな――」 「待って、こなちゃん」 その日、私は初めてつかさに呼び止められた。 「…な、なにかな?」 「…話したい事があるんだけど、良いかな?」 「で、でも、私、もう時間が――」 「かがみさんなら、今日はここに来ませんよ」 「っ!?」 私の背後にはみゆきさんの姿があった。 「…ここじゃ話せないから、屋上までついて来てもらって良いかな?」 「……」 これで全てが終わっちゃうんだな……。 観念した私は、静かにそれに頷いた。 § ゲームやアニメでは良く出てくる風景だけれど、このご時世に屋上を自由に出入り出来る学校は、ウチの学校を除いては早々無いと思う。 そんな場所で、私はこれまでに無いほど真剣な面持ちの二人の少女と対峙していた。 「…で、話ってなに?」 「うん。話っていうのはね、こなちゃんとお姉ちゃんの事なんだ」 この瞬間、私の中にあった、もしかしたら予想とは全く違う話題を振ってくるかも…という淡い期待すらも消えてなくなった。 「ここ最近、お姉ちゃんもこなちゃんもお互いの事を避けてるみたいだったから、喧嘩でもしちゃったのかなって思って、お姉ちゃんにこなちゃんと何があったのか聞いたの」 「……」 「…最初は、何も話してくれなかったけど、何度も聞いてる内にやっと昨日になって、お姉ちゃんが事情を全部を話してくれたんだ」 「…そう、だったんだ…」 淡々と話すつかさに、私は掠れた声でそう返答する事しか出来なかった。 「お姉ちゃんね、ファーストキスは好きな人とロマンチックに交わしたいってずっと前から願ってたんだ。…恥ずかしがりやさんだから、ハッキリとその事を口にはしていなかったけど、私には分かるんだよ」 双子の姉妹だからだろうか、つかさの言葉には、その事実に間違いは無いという自信が感じられた。 「お姉ちゃん、キスされた事に凄くショックを受けてた。私にその時の事を話してくれた時も、ずっと悲しそうな表情をして最後まで話してくれたんだ」 「……」 私があの日から知る事の出来なかったかがみの様子をつかさの口から聞かされる。 キスした事に対する罪悪感と、明らかに私が拒絶されている事に対する悲しさとで、胸が張り裂けそうになる。 「……私ね、お姉ちゃんの事が大好きなんだ。双子の妹として生まれてきた事を誇りに思ってる。だから――」 ニュアンスは違うとはいえ、つかさの「好き」という言葉に私の心臓はビクリと跳ね上がった。 「――だから、お姉ちゃんの事を傷つける人は、例え友達でも許す事が出来ないんだよ」 普段は温和な性格のつかさだからこそ、その放たれた言葉がどんな鋭利な刃物よりも私の心に深く突き刺さる。 「…ホントは、こなちゃんとお姉ちゃんの事だから、どんな喧嘩をしても、すぐに仲直りしてくれるって信じてた。でも、一週間以上経ってもこなちゃんはお姉ちゃんに謝りもしない。どうして謝ろうとしないの?」 つかさの表情からは、端から見れば表立った感情は感じ取れない。 だけど、私には――あの時、外国人に道を聞かれ、当惑していたつかさを勘違いで救い出して以降ずっと友達を続けてきた私には、それが手に取るように良く分かる。 私に向けられた感情が、私がかがみを傷つけた事に対する憎しみと、私がつかさの信頼を裏切った事への悲しみだけしかないという事を……。 私の瞳から、抑えきれなくなった感情が流れ出しそうになる。 ここで泣いたら卑怯じゃないか。 悪い事をしたのは私の方なのに……。 「……黙ってても、何も分からないよ」 何も答えられない私に対して、つかさの語気が徐々に強まっていく。 でも、私は自分の意思を伝える事が出来ずに居た。 この抑え切れない感情を、なんとか抑え付けるのに精一杯で――。 皆と一緒に居る事が出来た幸せを失いたくなくて――。 「こなちゃん!」 「好きなんだよっ! かがみの事が!!」 つかさの怒りが臨界点を超えたその瞬間、私はとうとう崩壊のスイッチを押してしまった。 「…へっ?」 「…こなたさん?」 二人とも、私の口からそんな答えが返ってくるとは考えてもいなかったのだろう、心の底から驚いた表情を私に見せている。 …でも、私が今までずっと溜め込んできた想いは、もう止まらなかった。 「…ずっと、ずっと前から好きだった。何度もかがみに告白したいって思って、その度に諦めてた……私達は女同士だから。それに、私がその想いを告げる事で、今の関係――かがみや、つかさやみゆきさんと一緒に過ごす関係が壊れてしまうんじゃないかと思って、そうなるのが怖くて、ずっと気持ちを隠してた。その内に、私は親友としてかがみの傍に居られればそれで良いって思うようになった。…でも、そんな時にあの人が私達の前に現れて、あっという間にかがみを奪っていって、私達と過ごす時間がどんどん減っていって……。それが本当に悔しくて、悔しくて…。それでも必死に耐えようとした。でも、無理だったんだよ! 好きな人が自分の目の前で他の誰かに奪われて行く様子なんて、見たくなんか無かったんだよっ!!」 私の瞳からたくさんの涙が落ちていく。 人前で涙を見せるのは、何年ぶりだろう。 それでも私は溢れ出す感情を、言葉にして紡ぎ続ける。 「今日までずっと後悔してたんだよ。かがみを不幸にしてしまった自分自身に。私がかがみに恋愛感情なんか抱いちゃったから…私がこんなキモイ感情を持っちゃったからっ!! こんな感情、持たなければ良かったのに…。私なんか、存在しなければ良かったのに…!!」 立ってる事も出来なくなって、私はその場に崩れ落ちた。 そこから先は、もう喋る事も出来なくなって、私の嗚咽だけが屋上に響き渡る。 つかさ達の様子を確認する気力すら、最早残っていなかった。 ……でも、もういいや。 何もかもが終わってしまった。 永遠に続くと思っていた関係なのに、ふとしたことで全てが壊れてなくなってしまった。 そして、その原因を作ったのは、全て私のせいだ……。 § どのくらいそうして居ただろうか。 暴走した感情が、再び抑制出来る程に落ち着きを取り戻すと同時に、私は再び立ち上がる。 その間も二人はずっと、私の目の前に佇んでいる。 私は二人の顔が見るのが――拒絶され、軽蔑の目で見られる事が怖くて、顔を灰色のコンクリートに伏せたまま目を瞑った。 過ちを犯した事に対する罰を受けなければならない。 私はその体勢のままで、二人の言葉を待った。 「…こなちゃん、ごめん…」 私の耳に最初に飛び込んできたのは、私に対する罵声でも拒絶の声でもなく、つかさの涙の交じった謝罪の言葉だった。 「えっ?」 驚いた私は、目を開いて視線をつかさに向ける。 つかさは、涙を零しながら、私に謝っていた。 「…私、ずっと勘違いしてた…。お姉ちゃんとけんちゃんが付き合い始める事で、みんなが幸せになれると思ってた…。不幸になる人なんて誰もいないって思ってた……。でも、私は、私の大切な友達を苦しめてた…。ごめん、こなちゃん。本当に…ごめん…なさい……」 そのつかさの様子を見て、今度は私が狼狽する。 「な、なんでつかさが私に謝ってんの? 悪い事をしたのは私なのに。女なのに同じ女の人を好きになっちゃった私が悪いのに…」 「…確かに、こなたさんがかがみさんにキスした事自体は、許される事ではないかもしれません」 泣いたままで、喋れなくなってしまったつかさに代わって、ようやくみゆきさんが口を開き始める。 「…ですが、こなたさんがかがみさんに恋愛感情を抱くという事に関しては、私自身は決して悪いとは思いません。同性愛に偏見を持っている人は確かに少なくはありません。しかし、実際に同性の人を愛してしまう人は存在するのですから、周囲の偏見だけでその人達の権利を蔑ろにするのは私は間違っていると思います。そして、それ以上に――」 そこまで言って、みゆきさんは意図したかのように一度言葉を止める。 「…それ以上に?」 私がみゆきさんの方を向いて、続きを促すと、みゆきさんは穏やかな微笑みを向けて私にこう告げた。 「――友達じゃないですか。私達は。誰かが幸せを感じれば、それを皆で分かち合い、誰かが悩みを抱えれば、それを皆で分かち合い、解決出来るように惜しみのない支援を送る…。それが友達という関係なんだと、私は思っていますよ」 みゆきさんの言葉に続けて、つかさも涙を堪えながら口を開く。 「…私も、こなちゃんの願いを叶える事はもう出来ないかもしれない…。でも、これからもずっとこなちゃん達と一緒に居たいよ……」 「…あ…あ…」 私の瞳からまた涙が溢れ出して来る。 だけど、今度は嬉し泣きだ。 「みんな…ありがとう…ありがとう…」 既に薄暗くなった屋上で、私は泣きじゃくりながらも、精一杯の声でずっと二人にそう伝え続けた。 喪失したものへ コメントフォーム 名前 コメント (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-06-21 16 00 06) 信じられねぇ…優しいな。 いい友達じゃねえか -- 名無しさん (2009-06-01 02 14 03) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/423.html
それは遠い日の記憶。小学生の時…かな? 私の脳裏に響くのは、妹の泣き声だった。 『うわぁぁん!ひっぐ…』 校庭の砂場で何人かの男子に囲まれて、つかさは一人泣いていた。 ある男子の笑っている顔が見えて、私はすぐに奴らが犯人だと分かった。 『こらー!誰よ、つかさを泣かせたのは!!』 『お姉、ちゃん……』 私はその集団に駆け寄り、男子達に掴み掛かろうと躍起になった。 『ヤバイ、かがみが来たぞ!逃げるぞっ!!』 男の子達それに反応して四方に散らばる。私は逃がすまいとそのうちの一人は必死に追い掛けた。 『待ちなさいっ!』 『うるせー!この男女っ』『な、なんですって!!』 つかさを虐めたこともだけど、それ以上に男女という言葉に妙に反応してしまい、私の頭の中は爆発寸前だった。 『凶暴かがみめ!そんなんじゃ誰も怖がって近寄って来ないぞー!』 『なっ…』 …誰も近寄ってこない。 たかが小学生のじゃれ合いかもしれないけど、その言葉は私の心を深く傷付けた。 『……るさいわね…』 『は?』 『うるさい!余計なお世話よっ!!』 私の怒鳴り声を聞いた男子は、怯えた様子で走り去って行った。その後ろ姿を呆然と見送った私は、すぐにつかさの方へ駆け寄り、震える身体をそっと抱きしめてあげる。 『大丈夫だった?つかさ』『うん…』 『全くあいつらは…』 『ごめんなさい。お姉ちゃんにまで迷惑かけて…』 つかさは鼻をグスグス言わせながら、何度も何度も謝ってきた。その頭を優しく撫でながら、私は言った。 『いいの、気にしなくて。私はもう…慣れたから』 私はいつだって強かった。幼稚園の時も、小学生の時も、中学生の時も…泣いた記憶はほとんど無い。 周りからはキツイ性格とか一匹狼だなんて呼ばれて、皆から恐い女だと思われていた。周りの目を気にしていないワケじゃない。けどそれでも構わなかった。私は強くならないと…。 姉という立場もあるが、それ以前に自分自身の自立の為に強くなることを…私は選んだ。 人に頼らず、自分の力で生きていくことが大切だと。甘えを捨てて威厳を持ち、何事にも優れているべき存在でなければと考える。 有能な人間と言う肩書きの裏に隠されていた努力を見せることもなく、私は世間の人々が望む“良い子”を立派に演じていた。 …これでいいんだ。これが私の生きていく糧になる。…そんな考え、所詮は只の自己満足に過ぎないのに。 本当は強くなんてない…。もっと他人に甘えていたかった。本当の私に気付いて欲しかった。誰かの手を掴みたかった。 だけど…私の思いも虚しく、世間の目は厳しかった。 そんな中、私は一筋の光を見付けた。どんな概念にも捕われること無く、本当の自分でいられる場所。 …それがこなたの存在だった。 ―――。 「かがみはやっぱりツンデレだね、可愛い可愛い」 「うっさい。お前に言われると真剣に腹が立つ…」 「うはー!顔を赤くして反論するかがみ萌えー」 「い、いちいち変な反応をするなっ!」 私はこなたと暗い夜道を歩く。その手は固く繋がれており、彼女の存在をより近くに感じさせてくれる。 私とこなたは…いわゆる恋人関係にある。 同性の恋愛に関して偏見を抱いていた私は、こんな関係になる気などなかった。いつまでも変わらない友達関係でいるつもりだった。 でも…私にとってこなたはそれ以上に値する人で、最終的には自分の方がこなたに依存していることに気付いた。いけないと考えながらも、私は自分の気持ちを抑えられなかった。 こなたは私に色々なことを教えてくれた。 その中でも特に気付かされたことは…人の弱さ。 人は独りでは生きていくことが出来ない生き物。 誰かと支え合って生きていくものなんだと…。 前まで私なら鼻で笑っていたかもしれない。 あぁ…ダメだよね。昔のことなんて考えちゃいけない。私は変われたんだ…こなたに出会えて。ねぇ、そうでしょ? 「ねぇ、こなた」 「んー、どしたの?」 「こなたは…何で私と一緒にいてくれるの?」 「…え?」 こなたが驚きの声を上げた後、しばらく沈黙が続いた。いきなりワケの分からない質問をされて、すぐに答えられるハズがない。 いつの間にか離されている手は、どこか寂しさを感じる。 「かがみ、その質問の意図は何かな?」 こなたの疑問はとても的確なものだった。正直、私の質問に明確な意図なんて何も無かった。 敢えて言うなら、昔の回想浸って不安になった心を…癒したかった。 「…分からないの」 「そっか…」 こなたは小さな唸り声を上げた後、真面目な顔で私を見る。真っ直ぐに届くこなたの視線が、私の何かを擽る。 「私には、かがみが必要」「………ホントに?」 「もちろんだよ。かがみだって…私がいないと困るでしょ?」 「………うん」 何ともむず痒い言葉だったけど、本当のことだったから素直に頷く。でもまだ足りない。不安は私の頭の中をグルグル巡る。 「でも私みたいな性格じゃ、きっと知らない間に人を傷付けてる…」 「………」 「こなただって…酷いこと言われて傷付いて、迷惑に感じてるよね?」 こなたはその言葉に瞳を大きく開く。 …怒ったのかな?きっと、そうだよね。今更こんなこと話されたらさ。 「でもさ、そーゆーことを考えてる…かがみ自身も傷付いてるじゃない?」 「ぁ…」 こなたの意外な言葉に、私は呆気に取られる。 いつだってそう。こなたは誰か一人だけを咎めたりはしない。 「それであいこになっているでしょ?」 「………そう、なの?」 こなたは力強く頷くと、いつものほのぼのとした表情に戻っていた。そして右手の人差し指をピンと立てる。 「人は何でも分け合って生きてるんだよ。喜びも悲しみも…。かがみの痛みは私の痛みになるし、かがみの喜びは私の喜びになる」 「こなた…」 「分かったかな、かがみん?」 「………うんっ」 目頭が熱くなる。私の中の不安は涙となって、頬を流れた。こなたはその涙をそっと拭う。 「かがみは何も心配しなくていいよ。私がついてるから…」 私の強さや弱さ、全てを包んでくれる光が此処にある。それはきっと、二人の未来を明るく照らしてくれる。私はそう信じている。 「あ…かがみ。一緒にいる理由ね、必要なら…教えてあげるよ」 そして今日も、私はこなたに教えられる。 こなたは暖かい微笑みを携えながら、私に手を差し出した。 「気まぐれなキツネが、本当は寂しがり屋のウサギさんに恋をしたまで…だよ」 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-08 14 59 24)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/46.html
「ねぇ、かがみぃ~」 「うわっ、ど、どうしたのよ、突然っ!」 廊下を歩いてると、突然こなたに、後ろから飛び付かれて思わずドキッとする私。 「にひひ、驚いたかね、かがみ。背後にも気を付けないと、だめじゃん。いつ敵に襲われるかわからないよ~?」 ニヤリと笑いながら、回した手を離さず、顔をこっちに向けている。 「またゲームの話かぁ?そんなこと、現実であるわけないでしょ」 「い~や、わからないよ?かがみは可愛いからね~、いつ野獣化した男子に襲われるか……」 「ば、バカ!そんなことあるわけないわよ!」 「あれぇ~?もしかして、想像してる?」 「するかッ!!」 そう言って、思わず呆れてため息をつく。 「ねぇかがみ~、今日は昼はこっちに来るの?」 こなたの声が、いつもの感じに戻る。 「うん、行く予定よ。そんなの、わざわざ確認する必要ないでしょ」 「良いじゃん、ちょっと聞きたかっただけ~」 まったく……。相変わらず変ね、コイツは……。 まぁ、確かに最近、日下部や峰岸と食べる時もあるけど、 ほとんどそっちに行ってるじゃない。 それに、そういう時は事前に私が一声かけるし……。 「んじゃ、みんなで待ってるね~」 いつものこなたの顔でそう言って、こなたは私から離れた。 「はいはい、お昼まで後一時間あるんだから、授業ちゃんと受けなさいよ」 「いつでもバッチリだよっ!」 「そーゆーのは、人にノート借りなくなってから言いなさいよね」 「うわ、かがみ様、痛いところついてくるね~……」 こなたがそう、言いにくそうに言った時、 次の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。 「やば、急がなきゃ!」 「もう、アンタがしがみついてくるからよ!」 私がそう言うと、こなたは気にした素振りもなく、 「とんずら~!」 と、走り出した。 「も~!自分だけいくな~~!」 私も文句を言いながら、急いで自分の教室まで戻った。 授業が終わり、やっとお昼の時間。 それは、学校にいる間で、数少ない、クラスの違いを感じないでいられる時間。 その時間を少しでも親友達と長く過ごしたい。 表には出さないけど、やっぱりみんなといられる時が、最高に楽しいからね……。 ま、こんなこと言った暁には、こなたに何を言われることやら……。 「あ、お姉ちゃん~」 「かがみ、遅い~~」 「かがみさん、いらっしゃいませ」 「ごめんね、お待たせ。ちょっと長引いちゃってさ~」 私はみんなに謝る。 「かがみさんのせいではありませんよ」 「そだよ、お姉ちゃん。仕方ないって」 みゆきとつかさがそう言ってくれたが、こなたは一人、 「抜け出してくれば良かったのに~」 とかバカみたいなことを言っている。 「小学生じゃあるまいし、そんなことできるわけないでしょ」 私がこうやって律儀に突っ込むから、図に乗るのかなぁ……。はぁ。 「ま、いいや。食べよ食べよ~」 みんな、お弁当を開けないで待っててくれたみたいね。 そんなちょっとした気遣いが、嬉しい。 そう感じてる私だった。 「も~、こなたのせいでさっきの授業、危なかったわよ………」 「ごめんごめん」 お弁当を食べ初めて、早速こなたに文句を言う。 「どうしたの?」 「こなたに、前の休み時間に捕まってさ、身動き出来なくて、 危うく遅刻になるとこだったのよ」 「そ、それは大変でしたね、かがみさん」 みゆきが労いの言葉をくれてるけど、当の本人は大して悪びれた様子もない。 「ま、間に合ったから、良いじゃん~?」 「良くないわよ!」 「まぁまぁ、お姉ちゃん、それくらいにしてあげなよ」 つかさはそう宥めてくるけど、事実、後十数秒遅かったら、 本当に遅刻をつけられるとこだったんだから、 これくらい文句言わせてもらわないとね。 「むぅ、かがみんよ、俺の嫁なんだから、それくらいちゃんと許容しなきゃ!」 「誰がアンタの嫁よ!まったく、バカも休み休み言いなさいよね」 「うわ、酷いなぁ」 こなたが口を尖らすけれど、それはもういつものこと。 「えっ!?お姉ちゃんってこなちゃんのお嫁さんだったの!?」 つかさがワンテンポ遅れて驚く。 「だから、違うって言ってるじゃない!」 双子の妹にまで突っ込まなきゃいけないんだから、私も楽じゃないわ……。 そう思っていると、以外なところからも以外な言葉が出る。 「でも、お二人とも、お似合いですよ?」 「み、みゆきまで、何言ってるのよ!」 「おお!かがみん、これならきっと私達の未来は明るいね! 結婚式はお互いが選んだ料理を交換して食べあうっていう連邦形式のがいいなぁ…… かがみんが何を私のために用意してくれるのか楽しみだ~。 あ、つかさとみゆきさん、仲人として、ウェディングサポートの抽選の登録お願いするね~」 「勝手に話進めるな!第一、何よ、その抽選って!またゲームかっ!」 「さすがかがみん!ちゃんと分かってるね☆それでこそ俺の嫁」 「だから勝手にわけわからんこと言うなーーッ!」 こんな、わけのわからない会話だけど―――― 私にとって、最高に楽しい時間―――。 いつからだろうか……? こなたのことばかりを、考えるようになったのは。 今日だって、ほとんどこなたのことばっかり考えていたきがする。 いつからだろうか……? こなたの事を考えると、顔を見ると、話をしていると、落ち着かなくなったのは……。 今日のお昼だってあんな話をした後、こなたの顔をまともに見れなかった。 と言っても、時々、本当に時々だし、いつものように接せられてるし、 これといって困ったこともないから、あまり気にしないけれど……。 私は夜、ベッドの中でそんなことをふっと思っていた。 でも、この気持ちが何なのか、未だにわからない。 多分、保護者的な気持ち……なのかな……? 今まで生きてきて、こんな感情になったことがないからわからないけど……。 多分、手話のかかる子どもを世話する母親の感覚なんだろうな、と勝手に思う。 ま、何でもいっか……。 丁度身体も温まってきたし、明日も授業あるから、ちゃんと寝とかなきゃ。 もし寝坊なんかしたら、つかさの事いえなくなっちゃうしね。 そう思って目を瞑った暗闇にうつる、あいつの顔。 はあ、なんて小さなため息をつく私。 私はまだ知らない。 今日という日が眠れない夜を過ごすことと、自分の心を―――。 うつるもの2へ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-01 08 21 27)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/695.html
「むう・・・」 「どした柊―?また体重が増えたのか?」 私はできる限り目を鋭くして日下部を睨みつける。ひっ、と小動物の様に峰岸のもとへ。 手元にある1枚の紙。健康診断表よりも、電気代請求書よりも今の私には酷な物だ。 全く情けないにもほどがある。こんな紙切れ1枚ごときに悩まされるとは。 整列した数字を、アルファベットが統率し私を寄ってたかっていじめている。 いい度胸だ。破り捨ててやろうか?そんな考えも一瞬だけ。捨てられない理由がある。 「どうしたの?柊ちゃん。良かったら相談に乗るよ?」 まるで菩薩の様な峰岸の笑顔。ああ、なんだか癒される。後ろで私を馬鹿にしたような顔の日下部が本当に馬鹿みたいだ。 「うん・・・えっとね・・・」 「かがみ様―!」 なんてタイミングが悪いんだろう。せかせかと私の近くに歩み寄る悩みの種。その名も。 「泉こなた、やりましたっ!見てください、かがみ様。9月の模試、E判定からC判定になりました!」 おぉ、と日下部、峰岸から感嘆の声。その前に私の呼び名に突っ込んでほしい。 「すごいわ泉ちゃん。目覚ましい成長ね。」 「やるじゃねーかチビッ子のくせに・・・アタシだってやれば・・・」 「ふふ、甘いなみさきち。やっているとやればには天と地ほどの差があるのだよ。」 今度は私が感嘆する番。こいつからこんな言葉が出るとは。 今までのこなたから出た言葉なら驚かない。むしろ溜息をつきながら突っ込みを入れる。 だけど今、この私たちが悩みながら生きる現実にいるこなたの口から出ているから私は突っ込まない。 本当にこいつは、泉こなたは力強く歩いている。迷わず、立ち止まらず。 「・・・様?」 背が伸びた、体重が増えた、筋肉がついた。そんなレベルの成長じゃない。 猛勉強を始めて成績が伸びたのは勿論だけど、そういう意味での成長でもない。 「・・みん?」 強いて言うなら人として成長した、そんな感じだと思う。 「うりゃー!くらえかがみん!」 「ひゃあっ!こ、こら!どこ触ってんのよ!?」 「・・・かがみ様ったら私が傍にいるのに他の人のこと考えていらっしゃるんだもの。」 前言撤回したくなる。やはりこのバカは根本的には変わってない。断言できる。 ざわざわと賑やかになる教室。勿論話のネタはこなたが原因なわけで。 「そ、そんな関係だったのか・・・柊ぃ・・・」 「恋愛の形は様々よ?みさちゃん一緒に応援しよ?」 「ち、違うわよ!!このバカ!あんたもなんか言いなさいよ!!」 こんな毎日、こんな日常。普通の人から見たらどうなんでしょうか? 私?私の答えは簡単。楽しいに決まっている。慣れても慣れない楽しさ。そんな感覚。 でもそんな単純に世界は回ってないんだよね。 そんな哲学者みたいなことを、笑っているこなたを見ながら考えていた。 ☆☆☆☆ ザワザワと賑やかな夕暮れ時の喧噪。道行く人々の足音。ざわつく私の心。 それらとは対照的な空。紅色に染まり、幻想的で、穏やかな光景。 目を閉じてみると分かる秋の空気。少し冷たくて、澄んでいて。 溶けてしまいたい。この空に、この空気に。でもそんな事は不可能。不可能だから願うのかもしれない。 ドン。不意に鈍い衝撃を受け、私の体は地面に崩れる。 「いたっ・・・」 私にぶつかったスーツ姿の男性は私を気にかけることもなく、歩き去ってゆく。 アパートまでの帰り道に通るこの商店街。行きかう人々は数知れず。ボーっとしていた私が悪かった。でも。 「何よもう・・・謝るくらい、してもいいじゃない・・・」 ふと思う。あのサラリーマンにとって、私は、柊かがみはこの行きかう人々の何分の1なのだろう。 出会ってきた、関わってきた人の何分の1なのだろう。 商店街をみる。美しく紅。でもどこか無機質で、どこか機械的で。それを感じさせるのはきっと数え切れないほどの人々だ。 少し、酔った。すれ違う、溢れる人々とちっぽけな自分を意識したからだろうな。 深呼吸をした。そしてまた私はアパートへ歩き出す。無機質な、機械的な世界に溶けてゆく。 「もしもし・・・はい・・・・」 「あはははは!マジでー!?」 「でさ、あいつがうざくってさー・・・」 拒みたくても入ってくる音。この世界を奏でるこの音が、私の思いを加速させる。 「あーもう・・・やだ・・・」 どうしてこんなにちっぽけなんだろう。足掻いても足掻いても、ちっぽけな私。 鞄から1枚の紙切れを出す。数字とアルファベットの羅列。私に悩みを植え付けたモノ。 7、8、9月と変わらない、むしろ下がり気味の数値。救いなのはかろうじて維持しているBの文字。 努力しても形にならない私に、私は憤りを感じていた。こんなちっぽけな数値と文字達に振り回され、自分を見失いそうな私に、怒りを感じていた。 でも、私自身に感じる感情と同じ、それ以上の何かを感じていた。よく自分でも分からない何かを。 ふと気がつくとあの世界から外れた見慣れた私のアパート。夕焼けに映えていた。 荒波立てていた私の心が落ち着いてゆく。不思議だ。いや単純だ私は。 コツコツと階段を昇りながら想像する。 『やふーかがみん、あそぼーよー!』 『このアニメ見てよー。すごく面白いからさ。』 ふふ。自然に笑みがこぼれる。全くあいつは。そんな事を考えながら、ドアを開ける。 「ただい・・・」 ああ、そうか。机に向かっているこなたを見て、何かが分かった気がする。 それは切なさ。いつかこなたが。 「あ、おかえりかがみ。今丁度休憩にしようと思ってたんだ。」 こなたがどこかに行ってしまいそうで。 私が行けないような高みに行ってしまいそうで。 ☆☆☆☆ 決して今までこなたを卑下して見ていたわけじゃない。ただ強く思い込んでいただけ。 人間が、雪は白いものだと、空は蒼いものだと、海は青いものだと信じている様なもの。 でもそれらは何故そう思われているのか、と考え込んでみる。 解答。それはそう見えるからである。己の目で見たものを己の脳に刻みつけ、確信しているからなのだ。 でも真実は?目で見えるものが全てなら、食の偽造やら、汚職行為やらなんて問題にすら上がらないよね。 もしかしたら真実は真逆だったり。雪は黒で、空は紅で、海は赤色かもしれない。 そんなことありえないよ。そんな事が言えるやつは私がその考えを正してやりたい。 出来ることなら2か月のこなたと、今のこなたを見せてやりたい。そんでもって目が飛び出るという古典的なリアクションを見せて欲しい。 決してこなたを卑下しているわけではない。ううん、むしろ尊敬すらしている。 だからこそ、今の私は私じゃないんだ。 「・・・はあ・・・」 目の前にいるしょぼくれた私が霞んでゆく。そして完全に見えなくなる。 ずっと、対等でいたと思っていた。私の唯一、こなたを補っていけるものが勉強。 2年前、同居する時、私は互いに足りないものを補って生活しようと言った。 でも補ってもらっていたのは、私ばっかりだった。 こなたは掃除も、洗濯も、料理も何でもできた。唯一の弱点が早起きと勉強だけ。 実際にはもっと弱点があるはず。でも私には眩しすぎて、粗探しする程、目が開けられなかった。 「・・・ふう・・・」 口から出た温かいため息のせいで、またしょぼくれた私が顔を出した。 今の私は全然眩しくない。ボロボロと砂山が削れるように、私が崩れてゆく。 『かがみ、私と一緒に住んでくれて、傍にいてくれてありがとう』 この世がもっと単純だったらいいのに。そんな下らないことを考える。 この言葉は、真実なのだろうか。 馬鹿みたいだ。大切な、無くしたくない人の言葉を疑うなんて。 「・・・もう・・・」 ばしゃ、と勢いよく水を目の前に映るしょぼくれた私にかける。すると。 「かがみ、お背中流しに参りました。」 そう。何を隠そう此処はお風呂場。風呂場で悩みこむ私ははたから見たら滑稽だろうな。 鏡に映った私も、そしてわけのわからないセリフを吐く悩みの種ももちろん、裸なわけで。 「・・・どこから突っ込めばいい?」 「んー私がスク水じゃないところからかな?」 ☆☆☆☆ 「いやね、かがみ疲れてそうだからさ。それに裸の付き合いも大事だよ?」 「だからってさー・・・は、恥ずかしいわよ・・・ってどこ触ってんのよ!?」 「手が滑った。」 「真顔でいうな!てゆうかそんなお約束いらんわ!」 実際、こんな状況になるなんて微塵も思っておりませんでした。さすがこなたさん。 驚きと呆れのあまり、小馬鹿にする言葉すら出ません。 「ったくもー・・・」 「まぁよいではないか。はっはっはー。」 はっはっはー、じゃない。こっちは死ぬほど恥ずかしい。 「それにしてもかがみの胸は結構あ・・・」 「う、うるさーい!!それ以上言うと・・・」 「それ以上言うと?」 「っ・・・さ、さっさと出ちゃうわよ・・・」 「・・・」 「な、何よ!?」 「・・・素で可愛いなかがみん・・・ずーるーいー!」 「うううるさぁーい!」 駄々っ子のような、甘える子供のようなこなたの表情。なにかが溶けてゆくような感覚。 やっぱり、補ってもらっているのは、依存しているのは私の方だ。 助けていたつもりがいつの間にか、助けられていて。 必要とされたかったのがいつの間にか、必要としていて。 隣にいたつもりが、いつの間にか、遠くにいて。 きっと、勉強も私に教えてもらう必要もなくなるだろうな。勿論、私がまだ眠そうなこなたを起こす必要もなくなる。 そしたら、もう、ここに私の居場所は無くなる。こなたの隣は私の特等席じゃなくなる。 もっと凄い女の子かな。もしかしたらカッコイイ男の人かも。 「くらえかがみ!」 「ひゃっ!ははは・・・くすぐったいよ、ん・・あははは!」 ここがお風呂でよかった。こなたとじゃれ合えていてよかった。涙が、ばれないから。 「ね、かがみ?」 「・・・ん?何、こなた?」 最初見たときは、私の涙のせいで幻覚が見えたのかと思った。 何度か瞬きをして、これは幻覚でも何でもない、現実、真実なんだと分かった。 「ありがとね、かがみ。」 こなたの目の端には、涙があった。 ☆☆☆☆ 「かがみのおかげで、私は・・・なんていうか、成長できた、と思う。 もし2年前、同居しよってかがみが誘ってくれなかったら、今の私はないよ。 ここまで、勉強を頑張ろうなんて思わなかったし。」 世の中がもっと単純ならいいのに。こなたの言葉が理解しにくい。 頭の中になにかノイズがかかっているみたい。大切なこと、伝えてくれているのに。でも。 「今は、アニメよりも、ゲームよりも、一人の時間よりも、大切なものがある。 無くしたくなくて、必要で、隣にいてほしい存在があるんだ。 そんなことも胸を張って言えるよ。ちょっとエロゲの主人公みたいだけど。」 何だろうこの感覚。不思議だ。頭がぼーっとする。湯あたりではない。 こなたの言葉を理解できない。でも、こなたの意思は理解できる。本当に不思議だ。 「ね、かがみ、2回目はないからよく聞いてね。」 もう分かる。言わなくても分かるよ。 もしかしたら、私は空になっているのかもしれない。 水蒸気、酸素、二酸化炭素、命、想いが溶けるあの空に。 なりたいと思えるからなれるのかもしれない。単純だなこの世界は。 だったら、なりたいものがあるんだ。空よりもなりたいものがあるんだ。 「――――。」 私は戻ってゆく。空から複雑で、混沌として、難しい人間に。 こなたは笑ってる。無邪気で、凛としていて、少し恥ずかしそうな美しい笑顔。さっきの涙は水滴だったのかな?ううん。いまはそんなこと、どうでもいい。 目の前にある笑顔が全てだから。この瞬間、人間でよかったと思ったんだ。 やっぱり人間はちっぽけじゃない。だって。 こんなに笑顔が美しいから。たった60憶分の1でも美しい輝きだから。 笑顔一つで、崩れかけた人間を救えるから。 大したことない日常でも、他人を強くさせられるから。 「湯冷めする前にでようか、かがみ。」 「そだね。」 「んーお風呂っていいね。」 「めんどくさがりが何をいうか。」 「かがみの裸が見れ・・・」 「もういい・・・」 ふと鏡が目に入った。かがみには自分でもビックリするような綺麗な自分。 私はなりたい。雨に負けても、風にも負けても、数字の羅列に挫けてもいい。 ただ、こなたの隣にいれるような人間になりたい。そしてこなたと同じ言葉を言いたい。 『無くしたくなくて、必要で、隣にいてほしい存在がある。それが貴女。 これからもずっと一緒にいてください。ずっと、ずっと。』 そのために、今は試験と戦おう。柊かがみ。頑張ります。まっすぐひたすらに。 11話 Correct answerへ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b 人任せだが有志殿よ、いつか漫画にしてくれ -- 名無しさん (2023-01-04 21 41 41) 支え合い助け合ってこそ「人」というモノなんでしょうね。 ましてや相思相愛な二人ですもの。 不安も苦しみも一人では背負いきれなくても2人なら半分づつ持ち合えばいい。 急ぐ必要も焦る必要もないでしょう。 こなたもかがみも例え相手を追いこしてもまた再び列び合える様にお互いを待ち続けることが出来るのですから。 良作を有り難う御座いました。 -- こなかがは正義ッ (2009-04-14 02 10 12) 正にスバラシキセカイ!GJ! これを第二期として放送して欲しいわー -- 名無しさん (2009-04-12 07 47 15) ひだまりと、らき☆すたを足した感じですね -- 名無しさん (2008-12-24 23 08 01) こなたとかがみの感情がうまく表現されていて素晴らしかったです。 続き気になりますww -- 名無しさん (2008-10-21 00 57 24) 頑張れかがみ、あと一歩で大人だよ。 柄にもなく、そんな事を思ってしまった。 それにしても表現捻りに捻るよなぁ。そこだけチト気になった。 最近の流行かな? -- 名無しさん (2008-07-15 22 08 21) 挫折しているかがみがこなたによってまた立ち上がるこの 一連の描写には、とても引き込まれるものがありました。 本当にすばらしいです。 -- 名無しさん (2008-07-14 01 27 04)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/623.html
ザアッ……一陣の風が、吹き抜けた。 今はもう花を散らし、新緑を芽吹かせた桜並木を、私とこなたは、歩く。 私がこなたの手を引いて、こなたは私に手を引かれて。 ふと、桜を見上げた。桜の葉、その碧は、こなたの碧。葉を透かして見える空の蒼は、こなたの蒼。 陵桜学園には、一本だけ、名前のついた桜の樹がある。 ――星桜の樹。 名前の由来は、知らない。 何でここに来たのかも、分からない。 でも、そんな事はどうでも良かった。こなたと、朝の僅かな時間、こうやって、一緒に、いられるのだから。 星桜の樹の前に、2人で並んだ。手は、繋いだまま。 また、風が吹いた。私から、こなたに向かって、流れる風。 トクン……トクン……こなたと一緒にいる事で、高鳴ってしまっている私の心音も、こなたへと、流れているのだろうか。 そう思うと、いても立ってもいられない。 急かされて、いるのだろうか。 私は、こなたから手を離すと、前に出て、桜の樹を背後にこなたと向かい合った。 「こな――」 こなたが、少し、首を振る。 焦らないで……微笑みが、語っていた。 息を、一つ、二つ……よし! 「こなた」 今度は、止められなかった。こなたは落ち着いて、微笑んでいた。 「何? かがみ」 「えっと……随分、待たせちゃった、わね」 「言いたい事。かがみが本当に言いたい事、見つかったんでしょ?」 「うん……ゴメンね、本当に、待たせた」 「気にしないでいいよ。かがみが言いたい事。本当のかがみを、私は受け止めたいから。どんなに時間が掛かっても」 こなた……やっぱり、アンタって、凄いよ。 私をこんなに嬉しくしてくれる、私をこんなに楽しくしてくれる、今だって、私を、その小さな体で包み込もうと、してくれてるよね。 「ありがと、こなた」 「うん……」 2人で、ふと、空を見上げた。真っ青な、雲一つ無い、快晴。 「こなた……」 「うん……?」 落ち着け、落ち着け。でも、ドクドクと早鐘のように打つ心臓が、痛い! 気持ちが、加速しそう!! こなたの顔へと、視線を戻した。 ハッとした。 いつだったか、紅い、黄昏の世界で見つめた、見惚れた、笑顔が、そこにあった。 スッと、体中から力が抜けた。気持ちを縛る焦りも、鎖だった緊張も、解きほぐれていった。 こなたに、微笑み返した。 「……好き」 「……え?」 「こなたの事が、大好き」 たった、それだけの、告白。 でも、それが、私の本当に言いたい事。 その時、呆然としていたこなたの顔が、一気に紅くなった。 ボッと擬音が聞こえるんじゃないかというくらい、それはもう、見事なまでに、真っ赤になった。 こなたは、俯いて、肩を震わせている。 「えと……それが、かがみの、言いたい、事?」 「そ、そうよ? 悪い?」 「えと、えと、え~……悪くないよ。うん。全然。でも、えっと……」 さっきまでの落ち着きぶりはどこへやら、妙に歯切れが悪くなったこなたは、時折私を見上げては、視線が会うと、慌てて、視線を落とす。そんな事を、繰り返した。 もしかして……。 「こなた、照れてる?」 「! ~~~っ!!」 これ以上紅く成り様が無い、と思っていたのに。まるで湯気でも噴出しそうな勢いのこなたに、つい、笑みが零れてしまう。 「クスッ……」 「う~、笑うな~」 「だって、まさか、こなたが、こんなに照れるなんて」 「だっ……~~っ、あ~、もうっ」 頬を膨らませて、横を向いたこなた。でも、その頬は、やっぱり紅くて。 私は、そんなこなたの表情を見れるのが、嬉しくて。 「私は本気、だよ。こなた」 「かがみ……」 「恋なのかもしれないし、友情なのかもしれない。分からない。でもね、こなたが好きって気持ちは、確かに私の中に、あるんだ」 「……」 「こなた。ありがとう」 「え、な、何が?」 「私、ずっと、この気持ちに振り回されてきた。焦って、周りが見えなくなって、でもこなたは、そんな私に気がついてくれたよね。 焦らないでって、言ってくれたよね。 信じてって、言ってくれたよね。 いつでも、見ていてくれたよね」 私がそう言うと、こなたはお腹の前辺りで両手を組みながらもじもじとして、 「だって、かがみが、心配、だったんだもん。かがみには笑っていて欲しかったし、私を頼って欲しかったし、何より……私も、かがみが、好きだから」 ちょっと唇を尖らせて、言った。 「ありがとう、こなた」 「……うん」 桜の樹に凭れて、2人で、肩を並べた。 触れ合った所から伝わる体温が、心地良くて。 これ以上無いほど、安心できた。 「ねえ、こなた」 「な~に」 「今日、何の日か、覚えてる?」 「……なんだっけ?」 ガクっとした。コイツは……さっきみたいに、私を包み込んでくれる大きな存在だと思えば、妙に抜けていて。 クスッと笑いながら、こなたの頬を突付く。ぷにっとして、柔らかかった。 「アンタの誕生日でしょ?」 「? え、あ、あ~あ~、そだね~」 「そだね~、じゃないわよ。全く。ハイこれ」 差し出したのは、ずっと前に用意したプレゼント。紅い包装紙で装飾した、小さな包み。 受け取ったこなたの顔は、また、うっすらと色づいていた。 「あ、ありがと……開けていい?」 ニヤッとした。 「ダメ」 「え~!」 「家に帰ってからにしなさい」 「そんな~、ひどいよかがみ様」 「かがみ様はやめんか。アンタ、前に全プレの楽しみ方、言ってたでしょ?」 急な話題の転換についていけず、キョトンとするこなた。 「一度で二度おいしい。もう一個、あげるプレゼントがあるんだから、今は、そっちを楽しんで」 そう言って、私は、髪を留めていたリボンを解いた。パサ、と広がる私の菫。手にしているのは紅いリボン。 それを、こうやって、結んで。 「小指、出して」 「こう?」 小指に巻いて……私の小指にも。 「出来上がり」 「ちょ、かがみ!?」 私達を結ぶ、紅いリボン……ううん、紅い糸。 「気に入らない?」 こなたが赤面するのは、今日で何度目だろう? この顔が見られただけでも、この瞬間を迎える価値はある。 紅く染まったこなたは、ポソリと一言、 「気に入った」 呟いた。 「良かった」 キーンコーン……予鈴だ。そろそろ授業が始まっちゃう。 私とこなたは、繋がったまま、立ち上がる。 この時間が終わることに、寂しさを覚えていた。 何か、まだ、何か、こなたと、この時間を……。 そう思ったら、体が、勝手に動いていた。 こなたの膝裏に左腕を、腰に右腕を廻す。そうして、持ち上げた。所謂、お姫様抱っこ。 「うぉっ!?」 そのまま、校舎に向かって、歩き出す。 「か、かがみ、誰かに見られちゃうよ!?」 「構わないわよ」 「え?」 「だって、私はアンタのことが好き、なんだからね」 「……も~、今日のかがみ、反則だよぉ」 ふふっ、と笑って返す。 そうして、こなたの耳元に、唇を、近づけた。 5月28日。 ――ハッピーバースデー。こなた。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!泣( ;∀;)b -- 名無しさん (2023-03-11 10 44 31) この作品の、こなた視点も読んでみたいですね! -- クローバー (2013-02-20 21 25 53) ハッピーバースデー -- 名無しさん (2010-08-13 18 36 39) すごい、文章すっごい上手い… -- 名無しさん (2009-04-26 18 02 53) な、なぜか涙が… -- こて (2009-01-30 09 01 31) かがみが自分の気持ちや感情に振り回されて、葛藤したり苦しんだりと、前半は読んでいる自分までも、もどかしい気持ちになりました! 最終的には2人の気持ちが通じ合って、読んでいた自分もうれしくなりました! -- チハヤ (2008-09-11 12 05 59) GJでした -- 名無しさん (2008-05-29 00 08 04) 赤くなって照れるこなたがかわいい!!w毎日ほんとうにおつかれさまでした!とても心理描写が丁寧で心惹かれる作品にGJです。おもしろかったです。 -- 名無しさん (2008-05-29 00 06 35)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1101.html
H5-912氏 『Crazy☆Rendezvous ~クレイジー・ランデブー~』 H5-860氏 こなたの必修科目 mono氏 贈り物 父親として 愛する人と(登校編) 愛する人と(授業編) 優先順位 掛け値なしの(↑の続編) 序列(↑の続編) とても大きな存在(↑の続編) 日常のなかの特別 こころのきょり いのち、つながり【かがみの誕生日記念】 その先にあるのは 終わりも始まりもない-New! 向坂氏 何気ない日々:梅雨晴れ “イメージと現実”(何気ない日々:梅雨の空と四人の気持ちの続編) 何気ない日々:梅雨晴れのち夕立“二人の気持ち” 何気ない日々:想い流るる前日“互いに違う答え” 何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意”-New! 何気ない日々:想い流るる日“ウサギはキツネに キツネはウサギに 恋をする” 何気ない日々:想い通う時“親と子” 春の陽光、桜舞い散る記憶無き思い出の場所で【第2回こなかがコンペ参加作品】 貴女と私の世界【こなかがコンペ参加作品】 今宵の七夕に笹の葉は無くとも ある夏休みの日常の風景(↑の続編)-New! エンジ氏 サクライロノキセツ【第2回こなかがコンペ参加作品】 切ない気持ち お姉ちゃんを観察!!-お昼休み-(お姉ちゃんを観察!!-午前-の続編) 甘えたい 一人ぼっちは嫌だから お姉ちゃんを観察!!-これも愛の形 愛し尽くせぬヒロインであれ(グラップラー刃牙ネタ)-New! 10-79氏 11話 Correct answer(同居人シリーズ10話 for meの続き) 最終話 Daily life(同居人シリーズ完結)-New! H4-53氏 てろてろ こなかがノベルゲーム-New! はな☆びん-New! H3-525氏 愚痴 意思にて漱ぐ 遠いあなたとお花見を【第2回こなかがコンペ参加作品】 ルームサーチに気をつけて【エイプリルフールネタ】 厳禁 擦れ違いのその後に【こなかがコンペ参加作品】-New! H2-209氏 無題(H2-209氏)(仮)3(無題(H2-209氏)(仮)2のこなた視点後編) 無題(H2-209氏)(仮)4(↑のかがみ視点) 二人なら……【こなかがコンペ参加作品】-New! カローラ ◆cKDLcxC5HE氏 誰も居なくなった浜辺に【こなかがコンペ参加作品】-New! H5-254氏 桜吹雪 最後の挨拶(シリアス) 婦警こなた・スピード違反の出会い編 婦警こなた・駐車違反はハッテン場編 古ぼけた佇まいの雑貨屋の話【こなかがコンペ参加作品】-New! 1-166氏 手紙【こなかがコンペ参加作品】-New! 18-817氏 小さな恋の話シリーズセンシティヴィティ レミニセンス-New! 向坂氏・H4-53氏 ダイエットよりも大切なこと-New! H5-455氏 ジャスト・コミュニケーション-New! j氏 殺人考察【第2回こなかがコンペ参加作品】 ひとり、ふたり (後編) 脅迫ゲーム 拝啓 柊かがみさま-New! H4-863氏 レイニー・デイ・ブルー(小さな勇気の続編) 悠久の時を願うように(レイニー・デイ・ブルーの続編) 届けられない言葉(悠久の時を願うようにの続編)-New! yo-ko氏 いふ☆すた EpisodeⅣ~大地はやさしく受けとめる~ 中盤(いふ☆すた EpisodeⅣ~大地はやさしく受けとめる~の続編)(シリアス・二次設定) いふ☆すた EpisodeⅣ~大地はやさしく受けとめる~ 後半(シリアス・二次設定) いふ☆すた EpisodeⅤ~ココロに降る雨がその大地を潤す~(シリアス・二次設定) いふ☆すた Episode LAST ~やがてその実は大樹となる~(シリアス・鬱展開注意) いふ☆すた エピローグ ~今はまだ、小さな芽生え~ 手を繋ごう! 日下月陰 ~ヒノシタノ ツキノカゲデ~ 『 花火 』 Any time (ウィークリーな彼女の続編)-New! H4-419氏 コーヒーブレイク/キャラメル・ラテ 賢者の石-New! 12-570氏 『弾けた日常』その3(『弾けた日常』その2の続編)-New! H1-52氏 桜の刹那【第2回こなかがコンペ参加作品】-New! Juno氏 You Know You re Right -Cherry Brandy Mix-【第2回こなかがコンペ参加作品】 Fields of Gold (前編)-New! Fields of Gold (後編) 別館107号氏 前略 母上様(独自設定 注意)前編、前略 母上様(独自設定 注意)後編◆注意!お読みになる前に 二つの結婚宣言(独自設定 注意)(加筆訂正版)◆注意!お読みになる前に-New! 20-760氏 この甘さに思いを込めて(「守る」という事シリーズの延長作品) この甘さに思いを込めて(2) この甘さに思いを込めて(完結) 1-500氏 リミテッド エイト-New!
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1106.html
何気ない日々:梅雨晴れ “イメージと現実” 事前打ち合わせをしなかった私が悪いんだけど。つかさもみゆきも予定入りかぁ。何の予定があるのかは聞かなかったけど、出かける予定があるというなら仕方ないわね。 ないとは思うのだけれど、もしかして、みゆきが私に気を使って・・・いや、だとしたらつかさまで用事というのはおかしいわよね。 しかし、こなたと二人で行くのは、どうなんだろう。こなたとしてはそれでいいのだろうか、そんな気持ちと二人が予定入りという事を伝える為に私は今受話器を握っている。 「と、いうわけなんだけど、どうする?こなた」 こなたはなんか小声で、ぶつぶつ言ってたけど、何て言っているのか聞こえない。 「ねぇ、どうする、こなた。明日やっぱりやめる・・・?」 それから少ししてからやっと返事が返ってきた。 「んー、つかさやみゆきさんにはおめでとうって祝ってもらったし、かがみが私と二人で嫌なら、やめてもいいよ?まぁ、どっちにしろ、私は明日映画を見に外には行くけどネー」 嫌なわけ・・・ないじゃない。ただ、気持ちが抑えられなくなって、想いの丈を口にしてしまったらと、不安を感じるだけ。 「あんたも何だかんだで用事があるのねぇ」 「かがみが一緒に映画を見てくれるなら、うれしいんだけどねー」 こなたが見たいと言った映画は、最近CMでやっている特撮物だった。映画といえば、私も見たいのがあったわね。 でも、こなたはたぶん一緒に見てくれないだろうなぁ。 「それは構わないけど、私も見たいのあるからそれにも付き合ってくれる?」 絶対にえー、かがみが見たいのってアレでしょう?あぁいう恋愛物は私にはちょっと・・・という返事が返ってくると思ったのだけれど。 「うん、いいよ。終わったら起こしてくれるなら」 「寝る気満々か・・・それだと、こなたに悪いわね。・・・そうね、明日は全部、私がだすわ」 「へっ?いや、そこまでして頂かなくとも・・・」 「いいじゃない、誕生日を祝うのが遅れたお詫びよ。それに明日からレディースサービスデイだから、いつもより安いし、気にしなくていいわよ」 「んー・・・じゃぁ、ゴチになります、かがみ様」 「かがみ様言うのはやめい!」 「デレていても、突っ込みの鋭さは変わらないかがみ萌えー。いやーデレ分補給がはかどりなぁ」 「デレとか言うな!・・・じゃ、明日は、ちょっと集合時間早めましょ。九時に何時もの場所で。遅刻しないようにね」 「何か、かがみの声が何時もよりこー・・・あぁ、無し、今の無し!じゃ、明日は命に代えましても、泉こなた、九時にあの場所へ向かいます!じゃにー」 「な、何よ、気になるじゃな・・・って切りやがった」 私の声が何だって言うのよ・・・なんか変だったかしら。お金はおろしておいたから問題ないわね。 まだ外から雨音が聞こえる。小雨にはなっているが、明日止むとは限らない。私の声、何かやっぱり変だったかしら。 明日、私は大丈夫だろうか。こなたと二人きりだ・・・気持ちが暴走したらこなたに嫌われるかもしれない。 でも、私は今日の帰り道。雨音の中で決意を固めたはずだ。もし、こなたに嫌われても気持ち悪がられても、それを受け入れることを。 だから、きっと大丈夫、大丈夫なのよ。 何故だか急に怖くなって、溢れてしまった涙を止めるために私は、座っていたベッドに横になって枕に顔を押し付けた。 私には、想いが二つあった。こなたは自分の事を何時だったかノンケだと言った。だから、こなたに相応しい・・・そうね、ちゃんとした気の優しくて、しっかりした男の人が現れて、二人は恋に落ちて私の想いは胸に秘めたまま・・・。 それは、私にとっては、胸を引き裂かれるような状況に違いない。それでも、私と同じ想いをこなたが私に感じるよりはいい。 あの小さな体躯をしていながら私達の中では一番元気なあいつが世間から浴びせられる氷よりも冷たい視線や異形の者を見るような視線等で傷つけたくはなかった。 だけど、私はこの想いが成就することも望んでいる。たとえ世間が認めなくても、味方が少なくても、こなたと共にいたくて。ただ二人、傍で寄り添って気持ちの通じ合った時間を共有したい願望もあった。 そしてその願望が、私達に勘違いな亀裂を入れてしまう事を、私はまだ知らなかった。 ◆ かがみからの電話をやや強引に切って、受話器の子機を戻して、ベッドに突っ伏した。危うく妙な事を言いそうだった。顔が熱い、みゆきさんもつかさもいないとは・・・。 もしかして、つかさはみゆきさんに相談したのかな。つかさが、こういう計略というか策略というか、気遣いというか、そういう事を考えるのは、ちょっと思い浮かべづらい。という事は、私の気持ちは、みゆきさんにも知られてしまっているというわけで・・・そう思うと、胸がこそばゆくって恥ずかしい。そして、ちょっと不安だね。もしかしたら、気持ちを知ったから明日“用事”になってしまったのかもしれない・・・ってそれだと、つかさが来ない説明がつかないか。 ここは多少楽天的に考えたとして、みゆきさんも私がそういう想いを持っている事を受け入れたと考えるべきかもしれない。電話をかけて確認したいけど、怖くて不安でできそうにないなぁ。 そんな不安を感じていても、私の頬は火照ったままだ。電話越しに聞こえた、かがみの声が何時もと違ってすごく優しく聞こえた時があって、胸が熱くなってしまった。 明日、大丈夫だろうか。何時も通りでいられるかな。まだ、まだ、大丈夫だよね?目を閉じて、心の中で、少し怯えている自分の気持ちに問いかける。今にも、爆発しそうだけど、明日くらい大丈夫、そう信じるしかなかった。 明日、気持ちが弾けて、かがみに嫌われる事になっても、私はそれを受け入れる、覚悟を決めよう。そんな気持ちを胸において、目を閉じたとき・・・私の前には鏡に映ったようにそっくりな私がいて、その私が“私らしくない事”を饒舌に語るのを聞いている夢を見た。 人は自分が好きなモノに対して勝手な憧れや虚像といったステータスを書き加え付けるんだ。 例えば、私。かがみは絶対に私と同じ想いにならない、そう信じている。それは、今も変わらないし、そうであってほしいと願う気持ちもある。これは、私がかがみに望む勝手な虚像の一つ。この虚像に含まれているのは、かがみへの裏切りの緩和かもしれない。拒絶されて、完全に嫌われてしまえば、消えてなくなってしまう不安的要素を含んだ虚像。それで、心を深く切り込まれたような思いをしても、傷は時間が少しずつ痛みを和らげてくれる。決して完全に治るわけじゃないけれど、それでも痛みは永遠に続くわけじゃない。 でも、その気持ちというか虚像って奴は、コインやカードの様に平面じゃないんだ、立体的なんだよね。少し視点をずらして、斜めにしてみると、かがみに同じ想いを持っていてほしいと願う気持ちもあるんだ。これはきっとかがみへの願望。かがみが私を好きでいてくれるという“現実にはありえない事を望んでいる”私の強い願望なんだ。 だから、戸惑ってしまう、悩んでしまう。何より、立体的な気持ちを表と裏が違うコインのように思ってしまう事。確かに、“私と同じ想いであってほしくない”という気持ちと“同じ想いであってほしい”という気持ちは表と裏のように見える。けれど、斜めにしてみると、その二つの気持ちは必ずしも表と裏に描かれていると考えるのは、難しい。そう、まだ他にも気持ちや虚像、そして願望があるから。 私はかがみが好きで堪らない。 でも、好きで堪らないだけで、付き合いたいのか、ただ好きで想いが繋がらない未来がやって来ても受け入れていけるのか、絶望して、絶交して、気持ち悪がられる位ならいっそ・・・と、そういう風に思ってしまうのか。虚像や願望なんて物は、そうやって形作られていくから、ある意味では、六面あるサイコロで表してしまいたいけれど、とても数が足りないかもしれないネ。 こんな風にきっちりと考えられなかった私は、まだその時が来る瞬間まで、その気持ちはコインの裏と表のような単純な物だって信じている。いや、もしかしたら、裏と表すら考えられていないのかもしれない。 みゆきさんなら、きっと気がつけたかもしれない。でもさ、私は、そこまで頭がよくなかったんだ。勉強ができるとか出来ないとかそういう意味じゃなくて・・・ネ。 そして、この決めたはずの覚悟がコインの裏と表のように単純であり、如何に脆く、何より、覚悟という言葉の重みを私自身が理解しきっていなかったという事を知るんだ。あの、別れ際に。 ◆ 「う~ん、羊のゆきちゃんもふもふ、ウサギのお姉ちゃんふわふわ、狐のこなちゃ・・・えへへっ」 一体どういう夢を見ているのかしら。というか、私をウサギと言わないででくれ、頼む、恥ずかしいから。 「つーかーさぁ!起きないと、出かけるんでしょ。支度する時間無くなっちゃうわよ?」 いつもなら、この役目は母の役目で、慣れている母でさえつかさを起こすのは大変なのだから、私にだって十分に大変だ。 「あれ~、お姉ちゃん~耳がないよ~?」 ほとんど目の開いていない糸目で私のほうを見て、つかさが呟く。起きてないな、確かに今は、髪をセットしていないからストレートだけど、そもそも、あれは耳じゃなくて髪だから!と突っ込んでも、「耳だよ、お姉ちゃん~」と言って、また夢の中に戻ってしまうつかさ。 「えへへっ」 凄く楽しそうな笑顔で寝てる。起こすのを躊躇させるような幸せな雰囲気がつかさを中心に広がっているようで、何だかこれ以上揺さぶるのは気が引けてしまうのだけど、起こしてほしいと頼まれているし、誰かと約束をしているなら相手のことも考えて起こさねば。 つかさの状態を起こして、首がガクガクと揺れるほど強く揺する。 「んんん・・・あ~~、お姉ちゃん・・・おはよう~」 や、やっと起きた。昨日の夜、うっかり落として目覚まし時計を壊してしまったとはいえ、もう少し起きる努力をしてもらいたいものね、全く。 でも、こういうマイペースな所がつかさの良い所、私には無い所なんだけどね。長所と言い切れはしないけれど、決して短所ではないと思う・・・起きる努力さえしてくれれば。 「二度寝したら遅刻するわよ?約束してるんでしょ」 「あ、うん。起こしてくれてありがと、お姉ちゃん」 つかさはにっこりと微笑んでから、大きく伸びをして大きな欠伸をしていた。朝ご飯につれて降りたほうが良さそうね。このまま、放って降りたら二度寝する。賭けてもいいわ。 朝ご飯を食べてお互いに身だしなみを整える。つかさは、この間、枕を変えたばかりで寝癖が酷かった。だから、まだ時間に余裕はお互いにあったので、彼女の髪を梳いていた。目を粒って心地良さそうな笑顔を浮かべるつかさ。どうして、つかさはそんなに素直に心の内側を出せるのだろう。もちろん、出していない部分もあるだろうけれど、感情表現、喜怒哀楽でいえば、私なんかよりもずっと出せている。 「お姉ちゃんに髪を梳いてもらうの、もう何年ぶりかなぁ」 「そんなでもないわよ、ほら中学の頃は良く梳いてあげてたじゃない」 「でも、中学の最初の頃までだったからやっぱり、結構たってるよ」 お湯で温めた布巾を寝癖の酷い場所に当てて、櫛で髪を梳く。寝癖を上手く直せないのはつかさの要領が悪いのもある。意外とすぐに直るのだ、彼女の髪は。 「ありがとう、お姉ちゃん。後は自分で出来るよ」 「そ、じゃぁ、私は・・・」 鏡に映った自分の姿を見る限り寝癖はなさそうだ。そんな事を確認していると、母が入ってきた。寝癖直しに母の鏡台を借りたから当然なのだけど。 「つかさ、ちょっとお母さん、かがみと話があるの」 「それは私がいたらダメなのかな?お母さん」 「そうね、できれば二人で話がしたいわね」 「うん、わかったよ、お姉ちゃんありがとね」 母のどこと無く凄みのある微笑がつかさを部屋から脱兎のごとく追い払った。そして、私は、立ったまま唖然として固まっていた。 母は、部屋の鍵を閉める。何の話なのか、見当というより答えその物がわかっていた。 「かがみ、約束の時間まで、まだ大丈夫かしら?」 時計を見るとまだ十分に余裕があった。そして母の目は、時間が無いなら遅れるだろう有無を伝えろというような表情だった。微笑みを崩しているわけではないのだけれど、そんな目をしていた。 「かがみ、話があるの。まだ、お父さんとも相談して結論を出すことが出来ていないのだけれど・・」 「・・・聞きたくない」 私は耳を塞いだ。耳を塞いだまま、ドアを背に立っている母と対峙した。聞きたくなかった。否定の言葉など。どうせ、こなたが否定するんだ。それまで、私は傷つきたくなかった。その後なら好きに傷つけてくれて構わないのだ。こなたに否定される前に傷ついてしまったら、笑って、こんな私でも友達でいてくれる?なんて聞けないから。否定された時点で壊れてしまうから。もうひび割れた鏡の私をこれ以上壊さないで。 「かがみ、聞きなさい」 両手を爪が食い込むほど強く掴まれて、耳から引き剥がされる。あぁ、私は割れてしまう。割れたらどうなってしまうのだろう。 「お母さん、何が言いたいのか・・・わかってるわ。でも今は、私を壊さないで。どうせ、好きになった相手に否定されるのはわかっているんだから、お願い。私を割らないで」 両手を掴まれて、私はその言葉を口にする以外に抵抗する手段も無くて、あぁ、私はやっぱりここで、粉々に割られてしまうんだろうな、そう思った。だからなのか、母の目はとても冷たく見えた。 「かがみ、お母さんは、かがみが誰を好きになってもいいと思うの。そこの部分で、お父さんと上手く話が纏まっていないけれど、でもかがみを否定したりはしないわ」 全ては錯覚だったのか、私の体からは力が抜け、座り込んでうなだれる様に崩れる。 ―否定はしない。誰を好きになってもいい。 「お母さんは、かがみの味方でいるからね。それだけ言いたかったの。つかさを追い出したから不安にさせたかもしれないけれど、つかさがまだ知らないのなら、二人のほうがいいでしょう。だからね、お母さんはずっとかがみの味方」 優しい抱擁。母は、私の味方でいてくれる。今の私の気持ちを受け入れてくれる。どうして、母が私の想いをしているのかまで頭が回らなかった。ただすがりついて一言だけ。 「本当に?」 「本当に」 このやり取りは酷く短く感じたのだが、私が母にすがり付いて泣いてしまった為に、時間ぎりぎりになってしまった。 こなたは、もう来ているだろうか。待たせていたら悪いな、そんな事を思いながら家を出て私は、駆け出した。 ◆ 目を覚ますと、私は時計を見て悲鳴を上げる。準備時間を入れても、かなりぎりぎりだ。寝癖は幸い、何時ものアンテナみたいな奴だけだった。これはどうやっても直らない。癖っ毛というか、もう私の頭の一部分みたいになってる。中学のときに一回切った事はあるけど、同じように伸びてきたから、切ったら直るというわけでもないらしい。 何を来て行こう。別にデートってわけじゃない、わけじゃないんだけど・・・。何だか少し緊張してる。心臓も起きてまだそんなに時間が立っていないのに大きな鼓動がうるさい位。私って、こんなに女の子っぽい所が存在していたんだね。これで相手が男の人だったら悩む事は無かったかな?・・・いや、きっと、それはそれで悩んでただろうね。 結局何時ものラフな格好に、青いバルーンニット帽を被るだけにいたった。いやー、コスプレっぽい衣装はバイト先で貰った事もあるからあるんだけど、可愛らしい服ってのは、私のクローゼットには存在しないらしい。ゆーちゃんに借りようかとも思ったけど、想像すると何だかそれも凄く似合わない。わたしにゃー可愛いって言葉が似合わないんだね、悲しいけどそれが現実って奴さぁ。 何て哀愁を背中に漂わせながらため息をつく。居間に下りるとコーヒーを飲んでいるお父さんに出くわした。ちょっと不安げな、曖昧な笑顔を浮かべていた。 「どしたの、お父さん」 何時もならこんな事は聞かないのに、そんな時間も無いのに・・・今日は、何故だか聞いてしまった。 「いや、別に何というわけじゃないんだが、こなたがかがみちゃんにどんなイメージを描いているのか、少し気になってな。イメージと現実は意外と違うものだからなぁ」 かなたは見事にイメージ通りだったが、何て呟いてコーヒーを口にしていた。時間ギリギリだと思ったけど、まだ余裕はあった。お洒落という言葉に無縁だったからこそかも知れないが、何だかそこは悲しくなるから考えるの止めよ。 「お父さん、私にもコーヒーお願いー」 「ミルクありの砂糖無しだったな」 私が席に着くと、コーヒーが前に置かれる。それを一口飲んで、味に違和感を感じた。あれ、うちで何時も買ってるコーヒーのメーカーの味ってこれだったっけ? 「どうした、こなた?コーヒーなんかマジマジと見つめて」 「いや、何か何時もと味が違うなって思ってさー?」 「あぁ、此間、福引で当てたんだよ。はずれのポケットティッシュよりマシだが、何時もとメーカーが違ってたんだ。まぁ、まだ三本はこれだから、そこは我慢してくれよ。もったいないしな。んーまぁなんだ・・・こなた、それがイメージっていうものだぞ。もちろん、コーヒーと人間は違うが、イメージや思っていた姿、想像していた虚像と違うという意味なんかで言えば、“思っていたのと味が違う”というのは、ある意味で同じ事なんだ」 お父さんの言っていることは大体わかる。コーヒーの味も、かがみへの思い込みも同じだって事。わかってるんだ、かがみが私を好きになるはず無いなんて事。だから、そんな事を言わなくても覚悟はある程度しているつもりだし、私はこの想いを伝えるかどうかを、まだ決めていなかった。 「わかってるよ、深く期待しすぎないほうが良いってことでしょ。かがみが私を好きになる確率なんて、ありえない事ぐらいわかってるって」 「いや、そういう事ではなくてだな・・・長くなりそうだし、出かける前の話でもないな、またにしよう」 「はは、それまで私に聞く気が残ってたらねー」 私は、コーヒーを飲み干して、笑い飛ばしてしまったけれど、本当は・・・。 そう、本当の意味でお父さんの言葉を理解していなかったんだ。心は、コインの裏と表じゃないって、かがみが私を好きになる確率が無いって言うのは、裏と表の考えですらなかったんだ。確率なんかで人の心は考えられるわけじゃない。だから、せめてコインの表と裏の可能性分位、考えておくべきだったと思う。 かがみが、私を好きでいるという可能性を。 ◆ 私は、待ち合わせ場所に着いたときに面食らった。あのアンテナみたいな癖っ毛が無いと普段はわからないあいつ。服装は何時もと同じだけど、髪と同じ色の青い帽子が良く似合っていた。 「オ、オッス、こなたー。私の方が遅れちゃったみたいね」 確かバルーンニットって帽子だったっけ、良く似合っている。それを軽めに被って、あの癖っ毛が少し帽子から顔を出している。 「おはよう、かがみ。かがみより早く着いてしまうとはもう少しゆっくりするべきだったかのー」 私も、もう少し何かアクセントを考えたほうが良かったかしら。でも、デートというわけじゃないし、せいぜい私がしてきたのは、此間塗っていた、薄い桜色のリップくらいだ。季節の変わり目が少し過ぎたあたりから唇がかさついてしまうから。 「いや、時間的には少し早いくらいだから、わざわざ後れて来んでもいいだろ」 大丈夫。母にすがって泣いてしまったけれど、私は何時も通りをこなせている。 「そこは、かがみにツン期を迎えて貰うために必要な時間なのだよ」 「いや、意味がわからん」 ノーテンキは何時もと変わらないのにお互い少し緊張しているような緊迫感があった。どこか互いのリズムが合わない気がする。 そんな風に感じたのは私だけだったのかもしれない。とりあえず、私達はまず最初にこなたの見たい特撮物の映画を見るために映画館へと向かった。 「いやー熱い戦いだったねぇ。もう手に汗握る熱いオーラが凄くって」」 「いや・・・私は凄い熱気で疲れたわ。なんというか、あれって前にあんたのバイト先にいった時にあったような人達とか、つれていかれたコミックマーケットとかにいたような、熱気のある人が集まる映画だったのな・・・」 こなたは頬を高揚させながら、映画のシーンについて熱く語っている。私は、パンフを見ながら何とか内容に付いていけた感じだった。ちなみに、宣言通りこの映画のチケット代は私が出した。ちょっと度肝を抜かれて疲れたが、隣で元気良く語りはしゃぐこなたの姿を見ていると、一緒に映画を見て良かったと思える。 私は何時、この想いを口にすればいいのだろうか。実はプレゼントはもう用意してある。あんな風に距離をおく期間がなければ、私もちゃんとこいつにプレゼントを渡せたのだ。最も、喜ぶかどうかはわからない。そして、今は・・・渡す事が怖い。あの時は何気なく買った物だった、でも、今は気持ちが違うから。想いが違うから、渡すことに躊躇してしまう。 「じゃぁ、次はかがみが言ってた方の映画に行こうか、今度は私が出すよ」 「その前にお昼にしましょ。それに、そっちは私が個人的に見たい映画だし、あんたは寝る予定なんでしょ?そっちも私が出すわよ」 「いやいや、それは流石に悪いって」 頬の高揚したこなた。まだ興奮冷め切らないという感じなのかな。こいつにはやっぱり、私なんかが余計なことを言うより、一緒にはしゃげる様な相手が相応しいんじゃないだろうか。それならこのシルバーのハートが付いたチョーカーではない違う物を、あげた方がいいのかもしれない。そうね、今の映画のグッズとか・・・ね? 「こなた、誕生日プレゼント。ここのグッズにする?」 「へっ、あー・・・でも、もう用意してあるんでしょ。つかさと一緒に買ったって聞いたよ?」 つかさの奴、余計な事を喋ったな。変に勘違いされないと良いんだけど・・・ね。これで私の想いがばれてしまわなければいいなと思う。 お昼は、映画館内にあるマックで軽めに済ませることにした。お昼の代金も私が出そうと言ったのだけれど、顔を真っ赤にしたこなたに断られてしまった。どうして、お昼の代金で真っ赤になるのだろう。そんな反応をされたらまるでデートの様で私も気恥ずかしくなってしまう。 「んー、眠気もばっちり。では、かがみが見たい映画をやってるホールに行こうか」 「その前にチケット買いなおさないとダメでしょうがっ」 そんな何時も通のやり取りをしながら、やっぱりどこかリズムがずれたような違和感。何でだろうか、わからない。 「かがみー。終わったら起こしてねー」 ニット帽を少し深めに被って寝る準備万端ってか。見たかった映画だが席は空き放題だった。 どこにでもあるような恋愛モノで、主人公やヒロインが苦難を乗り越えながら互いの思いを遂げていく陳腐なストーリー。今時流行らないのも当然だろう、それでも私はこなたとこの映画を見たかった。原作を見る前は、隣で眠っている、こいつに想いを馳せる様な事になるとは思わなかった。叶わぬ恋というならばせめて、この映画だけは一緒に見たかったのだけれど、その願いも叶わないらしい。 本当に眠っているのだろうか、映画の中盤に差し掛かった時、私はこなたの手に自分の手を重ねた。起こさぬ様にそっと。気づかれてはいけない、嫌われてしまうから。 ◆ 本当は眠れなかった。ニット帽に作った僅かな隙間からずっと映画を見ていた。かがみの見たかったものを私も見たかったから。でも、本当に陳腐なストーリーで、どこにでもあるような恋愛モノのストーリーで、とても退屈だけど、とても羨ましい光景だった。 映画の中盤で重ねられた、とても遠慮がちな手。それはとても熱くて、何故かがみが私の手にその手を重ねたのかわからなかった。起きている事を気取られないようにしなければ。もう、映画どころではなかった・・・赤くなった耳もニット帽の中に入れていたから気づかれないと思う。気づかれたら、きっと嫌われてしまう。 かがみが手を重ねたのは、ただ映画につられてそうしてしまっただけなんだと、そうとしか思えなくて。ううん、そう以外には思いたくなかったのかもしれない。 やはり、私の考えは一方通行で、それはかがみも同じなのかもしれない。お互いコインに表と裏くらいの気持ちは感があっていたほうが良かったんだ。 そして斜めから見るともっと違う想いもあった事を考えて置くべきだったんだと想う。 「・・・なた、こなた。起きなさい、終わったわよ」 すぐに返事はしない。起きていた事を気取られないように。私が返事を返したのは、かがみが三度目の呼びかけをした時だった。 「ふあぁっ、熟睡してしまったよ。かがみんや、楽しめたかね?」 「そうね、あんたが一緒に見てくれないから映画の話は出来ないけど、個人的にはとても好きな作品だったわ」 「そっか、そりゃぁ良かったねぇ」 これからどうしようかと、話ながら映画館を出る。特に行く場所も決まらなかったので、近くにあった公園で二人ホットミルクティを飲む事になった。 「パンフあるし、かがみが映画の話をしても相槌くらい打てるよ」 「別に無理しなくても良いわよ」 「いやいや、せっかくだし・・・この最後のシーンとかどうだったのさ?」 「口で説明するのは難しいわね。でも、今時にしては古めかしいけれど、とてもいいシーンだったわよ。雪が舞う中で、抱きしめあって、想いを耳元で囁きあう。ありえないストーリーなのに、何故か現実味を感じさせるストーリーだったわ」 「ふーん、そうなんだ。かがみは乙女ですなぁ」 それなのに誰もかがみフラグをたてることが出来ないなんて何てうちの学校の男子は鈍感なんだろうねぇ、そう呟くと、かがみは酷く曖昧な表情を浮かべていた。 「・・・もしかして好きな人とかいるの?」 そう聞くとなんだか泣きそうな苦笑い。いるのかな、好きな人・・・。 「そうそう、これ、私からのプレゼント。ちょっと動かないでね、私も一回くらいつけてくれている所を見たいからさ」 ◆ 「かがみ、顔近いよ」 こなたが言う様に顔は近い。だから、そっとずらした。一度で良いから、こなたがこのチョーカーをつけている姿を見たかった。きっとつけてはくれないだろうから・・・埃を被ってしまう前に一度だけでいいの。 このまま、想いを告げてしまおうか。さっき見た映画の最後のシーンはまさにこんな感じで、耳元で囁くように愛の言葉を口にする。 「ねぇ、こなた。さっきの映画の最後はね、こういう風に言って終わるのよ」 「へっ?」 チョーカーをつけ終わったあと、私はそのまま背中に手を回してこなたを抱きしめる。震えが伝わってきた。きっとあまりのイレギュラーな行動に畏怖を感じたのかもしれない。このまま、言葉を続けたらきっと嫌われるだろうな。 それでも、告げたいと想う。今のままではダメだから、親友という言葉で想いの蓋を縛っても、容易に突き破って溢れてしまう。 「あの、えっと、かがみ。ちょっと・・・」 抱きしめている。背中に手を回して、最初で最後の抱擁。全てが壊れてしまうであろう前の最後の抱擁。でも言わなければ、私はもうヒビだらけの鏡だから、想いがヒビの間から漏れてしまう。 「私は貴女のこ・・・」 最後まで言葉を口にする前に、私は思いっきり突き飛ばされた。突き飛ばされた時の鈍い衝撃と、しりもちを着いた所為だろうか、胸と腰が痛かったが、それを気にする余裕は無かった。 突き飛ばされたことに気がついたのももっと後だ。気持ちを暴走させすぎたんだ、あれほど注意しなければいけないと想っていたのに。 「か、かがみは!かがみはそんな事を私に言わない、言わないんだよ」 何で泣いてるのよ。何で泣きながらそんな事を叫ぶのよ。 「私が、私が、知っているかがみはそんなこと言わない、言わないんだよぉ」 こなたは涙を零しながら、何度も、かがみはそんな事は言わない、そんなのかがみじゃない、と繰り返していた。そして、呆けたまま、その姿を眺めることしか出来ない私を一瞥すると、 「・・・ごめん。ごめんなさい、かがみ」 そう呟く様に言って、そのまま私をおいて、走り去ってしまった。 「・・・こなた」 ようやく言葉が出たのは、こなたの姿が見えなくなった後。ごめんなさいって、何よ。あんたが謝る事無いじゃない、悪かったのは私なんだから。 「こなた、ごめんね・・・」 頬を熱い涙が流れるのと同時に土砂降りの雨が降ってきた。夕立だろうか、でも丁度良かったかも知れない。こなたは少なくとも濡れてはいない、あいつが走っていった方向は駅で、私は、雨でこの涙を隠せるのだから。声さえ上げなければ、幾ら泣いても誰も気がつかない。 あぁ、冗談だって謝ればまだ間に合うだろうか。携帯をポケットから取り出してディスプレイを開いて、そこで止まってしまった。拒絶されるのが怖くて、冗談じゃもうすまないのでは無いかと怖くて。 「きっと、私がこんな気持ちを持ってしまった事への罰・・・なのよね?私は、悪い事をしたんだわ」 誰が返事をくれるわけではない。雨の中、携帯を開いて呆然と立ち尽くした私を、容赦なく雨が叩きつける様に降り注ぐ。 人の気持ちはコインの表と裏なんだと、私は思う。好きか嫌いか何だって。でも、じゃぁ、告げても叶わぬ想いは、どっち側に描かれているんだろう。 雨が心地よかった。私の流しても流しきれぬ罪をほんの僅かでも流してくれる気がして。 -雨音の響く中私は、考える。貴女は、私を嫌いになったかな -雨に打たれながら、想いを口にしようとした自分の罪を心の中で謝罪し続ける 「こなた・・・ねぇ、私を許してくれるかしら」 私は許しを請う様に呟いて、携帯をポケットに収めてフラフラと歩き始めた。どこへ向かっているのか自分でも良くわからなくて、それでも雨はどこか心地よくて。 頬を流れる熱い涙はすぐに冷たい雨で冷やされて、それでも涙は溢れ続けて、嗚咽をこらえる事もできなくて、また、公園の中で崩れ落ちた。 何気ない日々:梅雨晴れのち夕立“二人の気持ち”へ コメントフォーム 名前 コメント (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-08-16 09 03 00) 別の意味で手に汗を握る展開‥‥この作品の二人にも、映画みたいなハッピーエンドを迎えてほしいですね。 -- 名無しさん (2009-03-06 00 28 46) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/359.html
小ネタ『ビビッと来ました』 パチッ! 「痛っ!」 「つかささん、静電気ですか?」 「そうなの、ゆきちゃん。 私、静電気が溜まりやすい体質みたいで……」 「昔からそうなのよね、つかさは」 「えへへ……」 「実は私もそうなのだよ~」 「こなちゃんも?」 「かがみ、試しに触ってみてよ」 「やあよ、そう言って私に電気が流れたりとか……」 バリバリバリバリ! 『ひあう!?』 「だ、大丈夫、こなちゃん!?」 「かがみさん、大丈夫ですか!?」 『…………』 「良かった、大丈夫そうだね~」 「心配しましたよ、お二人共」 『私達、結婚するから』 『ええええええぇぇぇぇぇぇ!?』 「いや、かがみは私の嫁だし」 「これはもう、こなたと結婚せざるを得ないわね」 「お、お姉ちゃん達、変になってるよ!?」 「変じゃないよ、これは一万年と二千年前から決まっていた事だよ?」 「それに、一億と二千年後も愛してるしね」 「泉さん、かがみさん、正気に戻って下さい!」 「私達は正気だよ。 正気だから今からハネムーンの予約するんだ」 「挙式だったらうちの神社で挙げてもいいのよ、こなた?」 「おお、かがみ! ナイスアイディア!」 『…………』 「ゆきちゃん……」 「触りません」 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!笑 -- 名無しさん (2023-01-05 15 03 11) !!?(*1)))))) -- 名無しさん (2014-05-14 21 05 54) 何コレw -- 名無しさん (2013-05-03 10 26 37) これはいい静電気 -- 名無しさん (2009-11-20 02 50 36)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/250.html
「おーっすこなた。何見てるの?」 「ロボットアニメだよん」 「へぇー。あんたロボット物好きなの?」 「まあねー。かがみんも一緒に見よう見よう」 「まあ、ちょっと興味あるかも」 「なんだこの狙ったようなドジっ子っぷりは…」 「アニメに真面目に突っ込んだら負けだよ、かがみん。にしても、いきなりパンモロはだめだよね~」 「なんで?嬉しいもんなんじゃないの?」 「甘いよかがみん!チラリズムというものを理解してない!」 「いや、理解できなくていいわ…」 「…こなた。これってロボットアニメよね?」 「うん、そだよー」 「なんだかマリみてみたいな雰囲気なんだけど…」 「キャッチフレーズが『伝記! 百合! メカアクション!』だからね~」 「ごった煮すぎないかそれは…」 「そこはほら、介錯だから!」 「それは…深く考えるなってことなのか…?」 「そういえば百合物で年齢が同じって珍しいよねー」 「あんたそんなに百合物に詳しいのか…? まぁ、百合といえば、『お姉さまー!』って感じよねー」 「あ、でもお嬢様が平凡な女の子を気に入るってう点では似ているか」 「うわ、なんかくさいことを」 「ロボアニメの男は熱くないと」 「そうまが主人公?」 「普通のロボアニメなら、そだねー」 「?」 「ひめこはちかねが大好きなのね」 「普通のロボアニメなら、ひめこもちかねも、そうまが好きって設定になってるね」 「…これは普通のロホアニメじゃないのか…?」 「ちょ…いきなり別アニメかと思ったわ」 「OPが無かったから、テレビでたまたま見た人はびっくりしただろうね~」 「ロボキタコレ!」 「これはかっこいいのか…?」 「…」 「…」 「ちかね…なぜ馬なんだ」 「そこはほら、介錯だから」 「ああそうかい…」 「ひめことちかねは巫女なのね」 「伝記の部分の設定だね。ちょっと自分と重ねたりしてる?かがみん」 「べ、別に…」 「Nice catch.」 「体張ってるわね、ちかね…って顔赤くなってる!」 「つまりはガチだね! ガチ!」 「ふぅん、こんなのがテレビで流れる時代なのね」 「キスキスキス!」 「うわ、マジかよ!私がそうまだったら納得行かねぇ!!」 「これがこのアニメの醍醐味だよ、かがみん。まぁ、やっぱり1話は超展開だなー」 「ギャグアニメだろ…これ。…結局、そうまとひめこがくっつくんでしょ?」 「気になる?気になる?」 「え、ま、まぁ。ちょっとだけだけどね」 「もう、素直じゃないんだからー。DVD貸したげるよー」 「そう言うなら…借りていくわ」 「やあかがみん。DVDどうだった?」 「こなた…」 「かがみ…? あの…その、手に持ってるのは巫女装束…?」 「こなたが好きなの。こなたの瞳が好き。春の銀河のように煌く瞳が。春の陽射しのような やさしい眼差しが好き。こなたの髪が好き。そよ風に閃くシルクのようなさらさらの髪が好き。 元気なアホ毛も好き。こなたの唇」 「えっ、ちょ…」 「こんなままごとは、もううんざり!」 「アッー!」 「かがみ様…私、どうしたらいいのかな」 コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-21 22 53 48) 感動したぜ!ウィィ! -- 武藤敬司と石原良純 (2010-01-10 23 10 14)
https://w.atwiki.jp/kagakyon/pages/702.html
P.M.7 00。家のインターホンが鳴った。 「こんばんは、柊かがみです……ってアンタと妹だけだったわね。かがみよ。開けて」 ドアホンからきっちりした声が聞こえてくる。名乗った通りかがみだ。 「おう、ちょっと待ってくれ。」 俺はそう言うとドアホンを切って、すぐさま玄関に向かい扉を開けた。 「おぅ、すまんな。」 「いいわよ別に。」 「あーかがみんだー!」 妹が後ろから俺の脇を潜ってかがみの元へ向かう。 「おっ妹ちゃんじゃない。相変わらず元気そうね」 左手にスーパーの袋を持っている為、右手で妹の頭を撫でるかがみ。 黒のオーバーニーに肌色のミニスカ。薄着のシャツの上にパーカー付きの上着だ。 なんとも似合ってる。 「綺麗、だな。」 フッと笑って言ってやった。 「な、何言ってるのよ。私が綺麗なワケないじゃない。」 「着こなしてる、って言った方が良かったのか?」 「それも変わらないでしょ。でもまぁ、うん、ありがと。」 目線を外しながら…少々顔が赤いか?かがみは言う。 「かがみんどーしたのー?熱ー?」 「ん、別に。そんな事ないわ。大丈夫よ。」 かがみは、妹の心配を撥ね退ける。本当に大丈夫なのかね。 おっと、流石に女子に荷物持ちを託すワケにもいかねぇな。 「かがみ、それ材料か?わざわざ買って来てくれたのか。ありがとうな」 右手でかがみの左手にあるビニールの持ち手に触れ、受け渡される。 「もしキョンのところにある材料で足りなかったら嫌だからね。もう買っちゃおうと思って。」 中々重い。流石は こなた称 で男勝りのかがみだ。 「……キョン、あんた私のコトそう思って……?」 …もしかして俺 「喋ってたわよ。……気をつけなさいよ。」 無言の重圧を浴びてしまった。すまんかがみ。悪気は無いんだ。 「と、とりあえず、家に入れよ。疲れただろ、こんな重いモン持って。」 「あ、そうね。お邪魔します。」 「まぁまぁ狭いトコロだけどどうぞー♪」 妹よ、そういう発言は自分が 下る 時にする発言だ。事実ではあるが。 おっと、言い忘れていた。 何故かがみがウチの家に来たかと言うと、晩飯を作りに来てくれたからだ。 更に今日は俺の両親がいないからだ。かがみが買ってくれたのはその材料である。 学校で談笑の中でその事を呟くと、かがみが率先して「じゃあ私がキョンの家の晩御飯作ってあげるわ。」と言い出したのがきっかけ。 今日は何をデリバリーしようと考えていた俺としては有難い限りだ。拒まず俺は感謝した。 そして、「じゃあ夜7時に行くわね」と言って終わった。そして、ぴったり来た。 かがみのコトだ。家の前で7時まで待ってたんじゃないのか…? 「あまり、期待はしないでね?」 ボーッとしてたからかがみの声で我に返った。 期待しない、ってそんなワケないじゃないか。かがみの晩飯だ。貴重なモンだ。 「バカ、本当に期待しないでよ。しょーもないものよ」 それでもまともに晩飯作れない俺から見れば充分だぞ。 「ん…ありがと。」 さっと台所に向かって行ってしまった。 おっと、そういや台所放置してたな。 「すまん、かがみ。ちょっと待っててくれ。台所汚いままだ。」 俺は、金魚のフンのように台所に向かう。 「アンタ…客人が来てるのにそれはないでしょ。」 溜息吐かれた。ご尤もだ。 「悪い。ちょっとリビングにでも行っててくれ。5分あれば終わる。」 「いいわよ、5分くらいなら買い出した材料纏めておくわ。」 「…本当にスマン」 「いいって。」 兎に角、俺はかがみのエプロンすがt……否!手料理を食う為に手早く台所掃除に取り掛かった。 同時進行でかがみが後ろで屈みながらビニール袋から材料を取り出す。 流石に後ろで「人参とー…」とか甘ったるい声で囁くかのように呟かれていると気になる。 皿を磨いてる時は後ろを向かせて貰った。誰にも許可は取ってはないが。 かがみが床に材料を置いていく。 人参に―…玉葱。それにウィンナーとキャベツにピーマン。それに豚肉か。 「かがみ、何を作ってくれるんだ?」 古泉のようなスマイルでかがみに聞いてみた。 「んー…野菜炒め。後味噌汁とか………」 作業で忙しいのか質問を受け流すような返答の仕方だった。 野菜炒めか。実にシンプルで申し分無い。 「あ゛っ!」 かがみが飛び上がった。 「どうした?」 「………もしかして今、私晩ご飯のメニュー言った?」 ん、言ったぞ。それがどうした。 「………ん、何でもない……」 そうよねいずれ解るんだし…、とかなにやら後から独り言言ってたがどうしたんだろうか。 「あ、そんくらいやってくれればいいわよ。ありがと。」 その30秒後、俺は後ろも向かずに皿洗いしてた横からぬっとかがみが顔を出してきた。 「エプロンとか、ある?」 ああ、それならお袋ので良かったら。 台所の壁にかけてある質素というか、紺系のラインが入ったエプロンをかがみに渡す。 「ありがと」 かがみは慣れた手つきでエプロンを着用して、紐を後ろで留める。 「ん、それじゃあいいわよ。宿題でもしときなさい。」 と、冷たくあしらって来た。 しかし、それではかがみに頼んだのではなく 使って る。そんな感覚になっちまう。 「いや、手伝わせてくれ。やって貰ってばっかじゃ何か罪悪感に苛まれる。」 「そう?私はいいんだけど。言い出しっぺだし。手伝ってくれるなら―…材料切るの手伝って。 了解した。イエッサー。 「 Yes,sir. は男に使う言葉よ。女になら Yes,ma am だったと思うけど……意識して使ってるんじゃ…ないでしょうね?」 む、それは知らなかった。すまん。 ていうか、包丁向けないでくれ、な?さっき 男勝り って言ったからって… 「キョーン~?もう1度言ってくれるかしらー?」 自重する。すまん。今度一切言わない。誓う。誓約書でも書こうか。 「そこまでしなくていいわよ。」 あっさり機嫌を戻した。嫌われてるわけじゃなさそうだ。 とりあえず俺はもう1本包丁を取り出し、かがみが半分に切った人参を切っていった。千切りっていうのか? 「とりあえずはこんなもんか。」 5,6分もすると全ての材料は原型を留めず炒められるだけの存在になってしまった。 「……にしてもかがみ、大丈夫か?」 因みにかがみは、というと。 「う、うん…。」 目に涙を浮かべて苦しんでいた。 泣かせた奴は誰だ?俺じゃないぞ。人じゃないぞ。 そう、解ってたかも知れないが玉葱だ。 人参を切り終えた後、俺はかがみにウィンナーを切るように命じられた。 その時に、かがみは玉葱を切っていたのだ。 俺は淡々とウィンナーを3mm程度に切っていた。 すると、横から鼻を啜る音が聞こえて来た。 周辺視野でかがみの方を見ると、包丁を持たないかがみ右手がかがみの顔に何度も行っていた。 不思議に思い、直接見ると、涙が頬を伝っていた。 「お、おいかがみ…どうしたんだ?」 聞かなくても玉葱切ってる時点で何となく予想はついたんだが。 「う……大丈夫……」 とは、言葉では強がっていたが、目は相当染みて痛いのだろう。だんだん右手が顔に行く回数が増える。 「ほら、目痛いなら顔洗って少し離れとけ。回復してからまた働いてくれよ。」 タオルを渡し、水道の栓を捻って水を出してやる。かがみは水を汲み、顔を何回も洗う。 「ご…ゴメン……それじゃちょっと……」 「おう、やっといてやる。」 つーわけで現在に至る。 「ありがと……っていうか恥ずかしいトコロを…」 「気にするな。こなた的に言わせて貰うと 萌え要素 じゃないのか?」 「うっ煩いな!」 タオルをペシッと投げつけてきた。 「もう、要らないんだな。」 顔についたタオルを剥がす。 「……大丈夫よ…ありがと。」 「それじゃ、この後はかがみシェフにお任せ致しますどうぞ~」 と言い残し、俺はタオルを持って台所を出た。 「そこまでいいもの作れないって何度……はぁ。」 かがみはそう言うと黙々と調理を始めた。 「お、いい匂いするな。」 ソースでいい具合に焼けた肉と野菜の匂いが香る。 おおよそ3分後、俺は戻って来た。 その間何をしていたかというと、タオルを洗濯籠に持って行くついでに洗濯物洗ってた。 ずっと台所にいても邪魔だろうしな。 んで、洗濯機にかけてる間戻って来てるワケだ。 「ちょっと焼き過ぎたかも知れないけどね…」 アハハ、と笑いながらかがみはフライパンを片手で持ち上げ調理箸で具を混ぜる。 「ちょっとだけ、食べる?」 フライパンをコンロに置き、火を止め、箸で肉を挟み俺の前に持って来る。 「はい、あ~ん」 有無を言わさず、にっこりと笑ってくる。畜生、断れないじゃないか。断る気もないが。 言われるがまま、俺は口を開き、箸ごと肉を入れる。 「…は…あつっ!~~~ん、美味い。」 「ほんとっ!?」 「嘘で言うかよ。いい具合に味が出来てるぞ。」 味付けのコショウやソースが上手に絡まってる。飯が進みそうだ。 「…あ、ご飯炊いてないや…」 忘れてた。かがみに頼りっ放しだったからやっちまった。 「やっといたわよ。3合でよかった?」 なんというかがみ。俺に出来ないコトをやってのけるそこにシビれるあこgゴンッ 「何言ってんのよ。」 顔を赤くしてグーパンしてきた…いっつ… そんなやりとりしてると、フライパンの横にある鍋が沸騰し始めた。 「あっ、キョン!ざるに入れた玉葱持ってきて!」 味噌汁作ってたのか。盲点だった。 叩かれた部分を擦りながら玉葱をかがみのトコロへ持って行く。 「んじゃあ、お湯が跳ねないように入れといてー」 と言い残し、俺の家の冷蔵庫から味噌を持って来た。 「流石に我が家の味噌とかあるからね。高いし。貰うわよ。」 どうぞ。かがみは味噌をスプーンでおたまに少量掬う。 グツグツと玉葱入り湯が更に熱される。 「そろそろかしら。」 そう言うと、味噌の入ったおたまで茹でられた湯を掬い、箸で溶いていく。 溶いて、もう1度湯に入れる。繰り返された。 繰り返される度に玉葱しか入ってない透明色の湯は、オレンジより濃い色の 味噌汁 になった。 さらにしばらく置いてから、かがみはおたまで味噌汁を掬い、小さい皿に乗せて味噌汁を味見した。 「んー……濃い、のかなぁ…わからないわね…」 1回掬っただけの味噌汁を口の中で賞味し捲ってるのだろう。困った顔をしている。 「…ねぇキョン。このくらいでいいのかしら?」 同じ皿に今度は俺の分を入れて渡して来る。 皿に口を付けて、次は冷ましながらゆっくりと、飲んだ。 ……正直俺にもよくわからんわけだが。かがみでわからんのに俺にわかるか?わかる筈も無し。 「……こんなもんじゃないか?俺もわからん。」 「んーそっかー。んじゃあこんなもんで。」 カチッとガスを止める。味噌汁が沸騰しなくなる。 「んじゃあ、お皿取ってちょうだい。入れるから。あ、お椀とね。」 とりあえず7時半もとっくに回ってるので、俺は手早く真っ白な花がポイントされてる皿とお椀とガラスのコップ3セットを取り出す。 かがみは出来上がった料理をテキパキと皿に入れてるので、俺は味噌汁を注いだ。 「キョン、余るから少し多めにしてるわよ。」 構わんが。それにしてもかがみの皿に盛られた量…少なくないか? 「そ、そんなことないわよ?」 少し声が裏返ってるぞ。 「気のせいよ。」 そうか?まぁいいんだが。 …ははぁん、さてはダイエッtぐわっ! 「気・の・せ・い・ね?」 ニッコリ笑顔だが、怒りマークを頭につけてるかのような表情で、脇腹殴って来やがった… 「は、はい…、それじゃ俺は皿をテーブルに配って行かせて頂きます……」 「よろしく♪私はちょっとトイレに行って来るわ。」 そういってかがみはエプロンを壁に丁寧に掛け直し、台所を後にした。 その間に俺は脇腹から発する痛みを抑え込みながら、皿とお椀とコップをテーブルに置いていく。 ちょっとやりきった感になっていると、白色が夕飯に足りないコトを思い出す。 「おっと、飯だ飯。」 すっかり忘れてたぜ。 俺はすぐさま純白のお椀を食器棚から取り出し、ちゃちゃっと入れてテーブルへと行く。 「ありがと。」 「わーいばんごはーん♪」 ご飯入れてる間にかがみと妹は既に椅子に座っていたようだ。 ご飯を入れたお椀を3ヶ所に置いて、俺はかがみと妹の向かい側に座った。 「それじゃ」 かがみが音頭を取る。 「いっただっきまーす!」 俺のゆっくりした声を掻き消して妹が乗ってしまった。まぁいいか。 箸をとってご飯の椀を手に取り食おうとしたらかがみが手を動かさず、妹の顔を見ていた。 「どうしt……」 心配になって言おうとしたがなんとなく、解った。 俺も子供の頃に母さんから料理を教わったコトがある。 夏休みの宿題か何かで強制的に晩飯一食の調理だった。 母親に教えられながらも、洗う、切る、炒めるまで全てやった。 その後、家族が揃ってる中で晩飯を食った。 その時、俺は多分今のかがみみたいなコトをしていただろう。いや、していたに違いない。 妹も箸を取って、玉葱と人参を挟んで口に、入れ、た。 昔の俺も、今のかがみも求めたモノは1つだけだ 「おいしー!」 そうだ、その一言だ。 かがみはほっと溜め息を吐いて、やっと箸を手にした。 「…? キョン、どうしたの?ニヤけてると気持ち悪いわよ。」 言われて気付いた。ニヤけてたのか。 ソースを口につけて笑う妹を無視して、俺も食事に入った。 俺は淡々と、さっき試食した野菜炒めの味を食した。やはり白飯がよく進むな。 食事中は、かがみと妹でお互いの学校の話をしていた。 ああ、こうなって妹の学校生活を聞くともう1度小学生に戻ってみたいもんだ。 妹は逆のようだ。高校生になって俺達みたいに自由になりたいらしい。 だがな、妹よ。真の自由は小学生までなんだぞ。 俺はそのコトをじっくり諭してやりながらご飯2杯目にありついた。 因みに、その諭した結果は皆無だ。 「ごっちそーさまー!」 「ご馳走様でした。」 「ごちそーさん。」 3人ともしっかり食い残し無く食べきれたところで晩餐会は終わった。 ピーマン嫌いの妹がピーマンまでも空にしていたコトには驚いた。 「あ、下味っていうの?ちょっとピーマンの風味消してみたのよ。」 皿洗いしながらかがみは解説してくれた。 どうやら、ピーマンを他の野菜より小さく切って、後は塩コショウやら何やらでやってみたらしい。 しかし、かがみ。失礼だが、見直したぞ。料理もしっかり出来たんだな。 笑って褒めてやると、かがみは皿をスポンジで擦りながら後頭部を向けて来る。 「…………つかさが教えてくれたんだけどね。」 正直だ。だが、教えてくれただけだろ。 「まぁ、そうだけど。」 「調理したのはかがみだし、そのピーマンのやつもお前がやったんだ。それは充分かがみの力だ。自信持てよ。」 「あ、ありがと…、あ、はい。皿。」 目を見て言ってやると顔を赤らめていた。 それから皿を洗い終えるまで、かがみは終始無言だった。 心成しか、耳が赤かった。 「んじゃ、そろそろ帰るわね。」 時刻は8時半。楽しい時はあっという間に過ぎるな。 かがみは、1人で先々と玄関に足を進ませる。 「お、ちょっと待て。こんな暗い中じゃ危ないだろ。送ってやるよ。」 「別にいいわよ?そこまで気使わなくても。」 「いや、使わせてくれよ。晩飯作ってくれたのもあるし。」 「あ、んじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。ありがと。」 ちゃちゃっと俺は携帯をジーパンのポケットに入れて、靴を履く。 「えー、かがみん帰っちゃうのー?」 妹がリビングから出て来た。 「うん、ごめんね。また来るから。」 「約束だよっ!」 妹は、足に合わないハズの俺のサンダルを履くと俺を追い越してかがみと指切りげんまんをする。 「うん、来るわ。今度はハルヒ達と一緒にトランプとかしましょ。」 妹の顔が晴れやかになる。かがみは保育園の先生に向いてるのかもな。 「お待たせ。んじゃあ妹は留守番頼むな。」 かがみと俺は、自転車と一緒に並び歩く。 「はーい、またねーかがみーん!」 近所迷惑おばさんになりかけるかのような大声で妹はかがみを見送った。俺はオマケだ。解ってるさ。 自転車に跨り、走らせた。 「かがみって可愛いところあるよな。」 唐突にこんなコトを言ってしまった。 さっきの妹の顔を見て、評価を待ってるのを思い出したからだ。 「へっ、きゅ、急に何よ//」 「いや、ふと思っただけだ。いちいち照れると噛むところとか、な。」 「う、煩いな……///」 もしかしたら自転車に乗ってなかったらまた殴られてたかもな。 何故か爽やかに笑えてしまった。 しばしの沈黙。今日の飯のコトを振り返っていた。 「あ、そうだ。なぁかがみ」 大事な疑問点が抜けていた。 「何よ」 振り向いてくれたは良いが、急につっけんどんだな。 「調理する前にさ、俺が 晩飯何だ? って聞いただろ?」 「うん?…ああ、聞いたわね。」 「あの時、 野菜炒めと味噌汁 って答えてから何か後悔してなかったか?」 「後悔…?」 顔を前に戻して、かがみは数秒の間考えていた。 「………あ~~~~…」 思い出してくれたようだ。 「あれ、何で後悔したんだ?教えてほしいんだが。」 「………笑わないでよ?」 多分な。 「料理する前からそんな質素なモノを作るって言ったら、嫌、だと、思った、から……」 唖然とした。 「………はっ、はははは。アハハハハハ!」 「だから笑うなって言ってるでしょうが!///」 もう、何とも言えないぞ。笑いが止まらん。 「アハハハ!か、かがみ。俺はマトモに作ってくれたモンに対して文句なんて言えないぞ。立場も無いしな。 友人が作ってくれたなら尚更だ。有難く頂くし、今日の晩飯も充分美味かったさ! 自信持てよ、かがみ。自分で嫌悪してるだけだぞ。」 「ほ…ほんと?」 「ああ、本当だ。別に不満なんて一欠片も無かったさ。」 寧ろ、マジで不満出すやつは俺がシメるさ。かがみの飯は美味い!異論は認めん。 「な、だからさ。自信持て。」 「う、うん。キョン、ありがと!」 今日一番の笑顔を見せてくれた。晴天の下ならもっと映えてたんだろうな。勿体無い。 ピロリロリ、ピロリロリ。 携帯が鳴った。俺のでは無い。っつーことは 「あ、私だ。ゴメン。」 かがみだった。 人通りも車通りもほとんど無い、街灯の下で自転車を止めて、かがみは携帯を見つめる。 「えーっと、メールの番号は――っと…あ、お姉ちゃんからだ。」 かがみのぼやきを聞きながら、俺は街灯の近くを飛んでる羽虫をただ何となく見ていると。 「あ~~~~っ!!!」 先程の見送る妹の声に負けず劣らず。かがみが大声を出した。 まだそこまで暗くなくてよかった。周囲の家にあまり反応は無い。 「か、かがみ。どうした?」 「ごめんキョン!早く帰らないと!ちゃんと帰れたらメールするから!それじゃ!!」 「あ、おう。」 早口でそう言うと、かがみは自転車の出せる最高速でシャーッと帰っていった。 「…どした?」 街灯の下、独り虚しく自転車に乗ってるのも気分が良いものじゃない。俺はすぐ帰った。 「ふぃー、只今。」 家に帰って、まだ夕飯の匂いが残っているコトを実感する。 「おっかえりー!お風呂入ってよー!」 麦茶を飲む為に、リビング経由で台所へ行くと、バスタオル頭に妹がソファにいた。 「りょーかいー」 流し返事。 食器棚から新たなコップを取り出して、冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを出して注ぐ。 タッタタンタ!タンタタッタタッタタンタタンターン。 聞き慣れた携帯の音が鳴る。俺のか。 携帯を見ると、かがみから到着メールだった。 『今日はありがと。急いで帰ってゴメンね。』と届いた。 「 ま・た・く・い・た・い・ぜ っと。」 『感謝するのはコッチだ。こんな機会があったらまた食いたいぜ。』と返して、俺は風呂に入って、床に就いた。 次の日、いつもと何ら変わらぬ感じでかがみとは教室で会った。 いつものメンツで昼飯食ってると、かがみとつかさの弁当が何となく力入ってた。 「今日はおねーちゃんが作るって言い出してね。1つ食べてみる?」 えへへ、と笑いながらつかさが自分の弁当から卵焼きを俺に渡してくれた。口に運ぶ。 「ん、美味い。」 それだけ言った。 その時、みんなの視線は一時的な評論家の俺に言ってたが、かがみの表情が嬉しそうだったのは見逃さなかった。 ――アフターディナー―― P.M.8 45 「ぜぇぜぇ……只今。」 私は、帰って来た。急いで帰って来た。肩で呼吸してた。 「あ、お姉ちゃんお帰りー」 つかさが笑顔で迎えに来てくれたが……、 「つ・か・さ?」 「え、何、お姉ちゃんどーした…ふぇぇぇえ…」 怒りが溜まりつつある私は、つかさの頬を横に抓ってやる。 「あんた、ねぇ…まぁた余計なコトを……」 「へっ、ほひかひて、はつりほへーひゃんひ…」(へっ、もしかして、まつりおねーちゃんに…) そのもしかして、よ。 「あーお帰りー。楽しかったー?」 ニヤニヤ顔でメール送信者、まつりお姉ちゃんが迎えに、来た。 「言っとくけど、違うからね!」 「な、に、がー?私何も言ってないよー?」 お姉ちゃんのニヤニヤが止まらない。正直腹立つ。 「このメールは何よ!!」 つかさから手を離して、携帯を突き出す。 メール内容はこうだった。 『いつまでカレシのトコロにいるのー?(ニヤニヤ顔 もしかして お泊り かなー?(ニヤニヤ顔×2』 「えっ、あー、私今さっきまで寝てたから、寝てる間に打ったんじゃないかなー」 引用符まで使ってる文章がどうやって寝ながら打てるのかしらねぇ…。 拳がふるふると震えてる。 「ご、ごめんお姉ちゃん……」 「こなたの家に行ってる、でいいじゃないの……」 「そう言ったんだけど、こなちゃんから電話かかってきちゃってバレちゃった…」 「ウソはつくもんじゃないわね♪」 「うっさい!」 まつりお姉ちゃんはニヤニヤこそ落ち着いてるけど、まだ笑ってた。 「まぁまぁ、つかさがいるトコロで何だし、私の部屋で説教してよー」 「…もういいわよ。疲れた。」 急に脱力感が襲って来た。気疲れかしら? 「あら?珍しい。いつも説教して疲れてるのに。」 「気分じゃなくなったわ。さっきまで衝動的だったし。ちゃっちゃと寝るわ…オヤスミ。」 「あ、うん、おやすみ。」 まつりお姉ちゃんはあっさりと私を見送ってくれた。 部屋に戻ると、私は何をするもなく、携帯をベッドに投げて、私自身もベッドに身投げする。 「……あ、キョンにメールしなくちゃ。」 ピピピ、と寝惚けた頭でメールする。 『今日はありがと。急いで帰ってゴメンね。』と。 送信してから気付いた。絵文字も何も無かったら淡白過ぎる。 上手く頭が回らない。 「そうだ、明日の授業の用意……」 今の私はよくある幽霊かも知れない。 ゆっくりと立ち上がって、学校鞄に明日の授業の用意を入れる。 「こんなもんか…」 ピロリロリ、ピロリロリ。 携帯が鳴った。 「はいはーい」 携帯に返事をする。 送信者は…キョンだった。 「えっと…なに?『感謝するのはコッチだ。機会があったらまた食いたいぜ。』か……」 携帯を待受画面に戻して折り畳み、枕元に置く。 「本当にあんなものでよかったのかしら……でも、嬉しそうだったな……うん。いいか。」 キョンが喜んでくれた。 その妹ちゃんも喜んでくれた。 私が作った料理を。下手だけども。 「……ありがと。」 天井に言葉をぶつけて、私は目蓋を閉じた。