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「お母さん、今日は私の大切な人を連れてきたよ」 私は今こなたと二人で、かなたさんの墓前にいる 「彼方に告げる思い」 事の発端は、夏休みのある朝のこと。 こなたが突然、家に来ないかと誘ってきた。 当然断る理由も無く、いつも通りにOKの返事。 ちなみに、つかさはまだ夢の中。まあ、たまには二人きりでもいいわよね? その時までは普通にこなたの家で遊ぶのだろうと思っていたが、 家に着くなり開口一番、こなたはこう言った。 「一緒にお母さんのお墓参り行かない?」 見ると、こなたは既に外出する準備が整っている。 そうじろうさんも慌しそうに準備を進めていた。 「お父さん、遅いよ~。もう、かがみ来ちゃったじゃない」 「おお、悪い悪い! もうちょっと待っててくれ!」 「全く~……まあ、お父さんが準備できるまで 少し家の中でくつろいでてよ」 そう言われ、私はこなたの部屋に通された。 「こなた、これは一体どういうことなのよ……?」 「え? だから、かがみにもお墓参りに来て欲しいな、って」 「でも……その、折角家族だけになれる機会なのに、 私がいたら迷惑じゃ……」 「そんなことないよ。それに……」 「……?」 「私とかがみのこと、お母さんにきちんと報告したいから」 こちらを見つめながら、そう言い切るこなた。 こなたと恋人という関係になって既に数ヶ月。 確かにこのような機会は今まで無かった。 「……そうね。そういうことなら、私も一緒に行くわ」 「おーい、準備できたぞ~!」 廊下からそうじろうさんの声が響く。 「決まりだね。それじゃ行こっか!」 家の外では、そうじろうさんが車に乗ってスタンバイしていた。 「おはよう、かがみちゃん。暑い中、わざわざ済まないね~」 「いえ、こちらこそ急にすみません」 「急にって、こなたから何も聞いてなかったのかい?」 「いやー、かがみを驚かせようと思ってね~」 「まったく、毎度毎度こなたには驚かされるわよ……。 そういえば、ゆたかちゃんは?」 「ゆーちゃんは、ちょっと早めに実家に帰省中だよ。 だから今回は私達だけ」 「よし、それじゃ出発するか!」 およそ20分程で私達は町外れの霊園に到着。 こなた達の後に着き従うように進み、 やがて一つの墓の元に辿り着いた。 一通りお参りを済ませた後、こなたがそうじろうさんに切り出した。 「しばらく、かがみと二人だけになりたいんだけど」 「そうか。それじゃ、俺は10分後くらいに戻ってくるな」 そう言って、そうじろうさんは霊園の休憩所へと歩いて行った。 「さてと……お母さん、今日は私の大切な人を連れてきたよ」 こなたが語りかけるように話を続ける。 「私の嫁のかがみ。いや、夫かな?」 「おいおい、身も蓋も無い紹介だな……」 「とにかく、私の大事なパートナー。それも、一生モノのね。 今日はそのことを、二人で報告に来たんだ。 ……私達のこと、これからもずっと見守っててね?」 こなたが話し終わった所で、私も続く。 「改めて、柊かがみです。 その、こなたの……恋人、です……」 「恋人宣言に照れるかがみん萌え♪」 「恥ずかしい茶々入れるなっての! ……コホン。 前の結婚式の時もお願いしましたけど、 どうか私達のことずっと見守っていてください。 二人で精一杯頑張っていこうと思ってます」 一通り語り終えた私達は、再び目を閉じて墓に向かい合掌した。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(*´꒳`*)b -- 名無しさん (2023-01-03 20 46 48)
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柊かがみ T-01 「絶望の1日の、はじまり」 それは灰被りをステージへと導く魔法使いか、取り返しのつかない契約を迫る悪魔か、または奴隷戦士の為の調教師か。 西暦2007年11月10日の土曜日が24時間を終え、改装工事による休業日の初日――11月11日の日曜日を丁度迎えた瞬間、 ショッピングビル――ブランシェ(Branche’)の店内に存在する全てのモニターが光を点し、その中に映像を浮かび上がらせた。 状況を飲み込めず困惑したままであったかがみの目の前。 2階までが吹き抜けとなったフードコートの天井近くに設置された巨大モニターも他と変わらず同様で、 それを見上げる彼女をまるで見下ろすかの様にその中に一人の人物の姿が映し出される。 『……――ようこそ、挑戦者達よ』 そういった出だしで話を始めた男に取り立てるような際立った特徴は見られない。 よく見かけるようなスーツ姿の中年男性で、物腰や着ている高価そうなスーツを見るとどこかの会社役員なのか、 もしくは場所柄と彼の前に置かれたテーブルの上に載った雑多な物を見るに通信販売のセールスマンなのか、 ともかくとして……彼を見たかがみの第一印象はそんな感じであった。 『本日はこのリニューアルを目前とした複合ショッピングビル・ブランシェで執り行われる最後の宴に参加していただき、 まずは進行役と執行責任者である私――黒崎義裕より感謝の意を表させていただきます』 黒崎義裕と名乗った男は穏やかに一礼。 慣れているのだろうとそう思わせる貫禄のある所作を見せると、ぽかんとしているかがみに構うことなく話を次へと進めた。 『まずはこれを見られている方々に注意を述べさせてもらいます。 この放送は一度きりで決して繰り返しはしません。 あなた方の命運に関わることですので、どうかお聞き逃がしの無い様ご注意ください』 命運――その言葉を聞いてかがみは心の中にある漠然とした不安が形を持ち始めたことを意識しだした。 視線はそのままに片手を首輪に、そしてもう片手に首輪から垂れ下がった名札を握り、男の次の言葉を待つ。 見ている者の緊張の糸を絞るためか、少し長めの間を置き――そして男は事の説明を開始した。 『混乱されている方がほとんどだと思いますが、それも無理はありません。 このイベントの参加者はこちらが勝手に選び、そして拉致という方法で強引に連れてきたのですから――』 それを謝罪しますと、モニターの中で男は再び一礼。 拉致――意味は知っているがしかし自身の近くには無かった言葉にかがみの身体は凍りつく。 そして男が続けた、警察に通報しても無駄だということ、我々にはそういった権力と実行力が存在するという言葉に 自分が非日常の中に――しかもそれは本棚をどんどん浸食してゆくラノベの中で見られるような愉快なものでなく、 限りなくリアルで、犯罪や誘拐、監禁や人身売買といった、そんなあるとは知ってても決して自分には縁が無いだろうと そう思っていたそんなものに――巻き込まれてしまったのだと、冷えた心の奥底でそう実感してしまっていた。 『皆様のことを最初に”挑戦者”と呼称させていただきましたが、その通りに皆様にはあるゲームに挑戦していただきます』 そして男はそのゲームの名前を明らかにした。 囚われの身となった人間達が持てる全てを総動員し、死力を尽くして挑まなければならない命を賭けたゲーム。その名は―― ――バトル・ロワイアル ◆ ◆ ◆ 決して暖房が効きすぎているわけというでもないのに、かがみはセーラー服の下にじっとりとした汗を浮かべた。 バトル・ロワイアル――その言葉に含まれるひどく嫌なものを感じ取り、緊張に身体を強張らせる。 『この企画の趣旨を簡潔に言い表しますと――つまりは、殺し合い』 思い浮かべた予感が即座に現実となってしまったことにかがみは眩暈にも似た絶望を覚えた。 現実であることを肯定する事実と、これが現実ではないと否定したい願望が綯い交ぜになり、酩酊感と吐き気を覚える。 これがただのドッキリ企画だとそう思いたい。そうであるだろうと思えられる材料を見つけたいと考えるものの、 しかしこんな時に限っていやに冷静な自分の一部分がそんな淡い願望を次々と打ち砕いていた。 そして一縷の希望を――これが嘘だという言葉を期待して、かがみはモニターを見続ける。 『我々が招待させていただいたあなた方30名により、殺し合いをしてもらうという企画です。 勿論、何もなければあなた達はそんな馬鹿げたことはしないでしょう。 ですが、あなた達は我々の言葉に従うしかない。なぜならば――』 と、そこで言葉を区切りモニターの中の男は脇に立てられていた一体のマネキンを指差す。 真白なマネキンに服は着せられておらず、装着されているのは首輪のみ。男の指先はその銀色の首輪へと向けられていた。 1秒か2秒か……空白の時間が過ぎ、そしてその次の瞬間。マネキンの喉元が渇いた音と共に――破裂した。 『御覧のとおり、皆様に嵌めさせていただいたこの首輪には爆薬が仕掛けられております。 決して派手なものではありませんが、爆発すれば致命傷は免れ得ません。 我々の意にそぐわない行動を取ればこれは爆発しあなたの命を奪うと、そうご理解ください』 未だ薄く煙をあげるモニターの中の首輪を見て、かがみは自身の首輪に触れていた手を恐る恐る離した。 爆薬が仕掛けられていると知ると途端にその存在感が増し、重さも息苦しさもそれまで以上に強く感じられる。 まるで、もう首と胴体が離れているような、首輪により断絶されているような、そんな錯覚さえしていた。 『では、改めまして……ルールの説明を行わさせていただきたいと思います』 ◆ ◆ ◆ 『まず、第一にあなた方参加者30名により殺し合いをしてもらう――この中に禁じ手はありません。 己の命を守るためにどの様な手段を用いようとも、我々はそれを非難したりルール違反だと断ずることはありませんのでご安心を。 またこのゲームの最中に行われた行為におきましては一切法律で罰せられることがないことを予めお伝えしておきます。 このゲームが終了した後、例え何人殺害していようともあなたが警察に捕まることはありません。 その点は我々を信頼して、憂い無くゲームに集中していただくことを望みます。 では肝心のゲームの決着方法についてですが……、 次の午前0時を終了の時間と設定し、その時までに最後の一人となっているというのが勝利条件となります。 勝利者は例外なく一人のみ。 時間が来ても決着がついてない場合は全員失格とし、ドローゲームとして全員の首輪を爆破させていただくことになります。 24時間は決して長い時間ではありません。悠長に事を構え、醜態を晒す事のないようご注意ください。 そして、勝利者への待遇ですが……、 まず第一にそれ以降の安全と法律よりの保護は勿論、我々より賞金十億円を進呈させていただきます。 これも決して冗談ではありませんのでご安心ください。 また金銭の受け渡し方法につきましても――……』 十億円――と、些か現実味に欠ける金額に思考が停止しているかがみの前で、男はその譲渡手段について説明を続けていた。 海外の銀行口座を用意できるだとか、貴金属や証券、土地、権利、どこかの役員としての報酬――etc.etc. 世間や警察に目をつけられないためのカモフラージュの方法が多岐にわたって存在すると。 まるで、ビジネスマン同士の取り引きに居合わせたかのような――そんな場違いな感を抱き、そして同時に 粛々とそれを語る男の姿に、彼らにしてもこれは決して冗談や遊びではないのだと――彼女はそんな印象を受けていた。 『次に、皆様方に嵌めていただいている首輪について説明いたします。 先程御覧いただけましたように、その首輪には爆薬が仕掛けられておりこちらは任意にそれを爆破することができます。 また首輪を無理に外そうとしたりビルの外に出ようとすると、それを感じ取った首輪が自動で爆発するのでご注意ください。 他に、後で述べさせていただきます”禁止エリア”に踏み込むことでも首輪は爆発します。 ただしその場合においては、爆破までに30秒の猶予時間が設けられていますのでその間に退出すれば問題はありません。 そして、これは首輪について最も重要なことですが……、 首輪からぶら下がっている名前の書かれたタグ。これを引っ張って抜くことでも首輪は爆発します。 この場合におきましても爆破までには30秒の猶予がございますので、即座に挿し直せば問題はありません』 言い終わると、男は説明したとおりのことを新しいマネキンと首輪で実演してみせた。 首輪の喉元の下からぶら下がったタグを引き抜き、電子音によるカウントダウンが始まることを見せてみると 鎖の先についたプラグを首輪の元の位置に刺してそれを止め、そしてもう一度抜いて30秒経つと爆発することを証明する。 かがみはそれを見て、自身の首輪からぶら下がったタグをそっとセーラー服の中当ての中に仕舞い込んだ。 『では先程申し上げました禁止エリアについてですが……、 まずこのゲームを行う舞台。それがどこからどこまでなのかを説明させていただきます。 このショッピングビル・ブランシェの1階より4階までの、原則的にお客様が立ち入れる場所のみを舞台とします。 故に、基本的に従業員用の通路やバックヤードその他諸々は利用できません。 ただし店舗等のレジカウンターの中や飲食店の厨房の中などは制限してない場合もあります。 舞台とそうでない場所の境界には”KEEP OUT”のテープが張られていますのでそれを見てご判断下さい。 またエレベータも稼動していますが、これも1階から4階までにしか止まらないので留意をお願いします。 改めまして禁止エリアについてですが……、 時間切れによるドローゲームができるだけ起きないよう、舞台を狭くするために ゲーム開始より6時間経つ度、1階より順に1フロアずつそこを立ち入り禁止とさせていただきます。 またその際に起きましては館内放送にてそれをお伝えしますのでお聞き逃しの無いようご注意ください。 加えて、放送ではその段階でのゲームの進捗。生き残り人数や脱落者の発表を行うことを予めお知らせしておきます』 淡々と進むそれにかがみは空恐ろしいものを感じていた。 ただ粛々と説明を続けるだけの男には、なんら狂気も荒ぶったところも感じられない。 それがただ怖かった。まるで常識の通じない異国に迷い込んだような、自らの中に頼るものの無い不安感があった。 『それでは、もうすでに確認しておられる方もいらっしゃるでしょうが、近くに黒いデイパックがあることをご確認ください。 ……ありましたでしょうか? それはこちらより参加者の皆様にお配りした、ゲームを進めるに当たっての最低限の物資です。 その中には私の目の前に並べられている物と同じ物が収められています。 まずは、このゲームの舞台となるブランシェの1階から4階までの見取り図。 御覧になっていただければ解ると思いますが、配布したものには店内の案内板には見られない印を打ってあります。 これは”タグ交換所”の場所を示しており、あなたが誰かから得たタグを数に応じた武器と交換できる場所となっております。 つまりはゲームに対し積極的であることが有利に働くという仕組みですので、ぜひご活用ください。 次に全参加者の名前を記した名簿とメモ、筆記用具一式。 ゲームの進行途中で誰が脱落して誰が残っているのかなど、いついかなる時も情報は軽視できません。 こちらはそれらを扱うためにご活用ください。 名簿を見て気付かれたでしょうが、ほとんどの方には友人や家族など心当たりのある名前が見られるでしょう。 即座に殺しあわれても構いませんが、そういった見知った相手と手を組む、といったことも我々は禁じてはいません。 時に利用し合い、時に裏切る――それも先に述べました情報と同じくゲームの駆け引きの一つです。 また、今生の別れとなるのが惜しいという相手もおられるでしょうし、取り敢えずは知った人間を探すというのも悪くないと 私個人から皆様方にそうアドバイスさせていただきます。 そして、こちら側で時刻を合わせた腕時計が入っております。 すでに時計を持っておられる方には不要かも知れませんが、 ゲームに使用する時間はその時計の時刻を基準としていますので、自前の時計とズレがないか一度ご確認ください。 ……最後に、このゲームにおいて最も重要な相手を殺すための武器が入っております。 ですが、これは今までの物と違い一人一人異なる物を用意させていただきました。 例えばナイフであったり拳銃であったり、はたまたライフルであったり……という訳です。 これは有利不利によりゲームの戦略性を増すための施しであり、ゲームが始まればそれを実感していただけると思います。 ライフルなど、中には大きさの問題で鞄の中ではなく外に出ている場合もございますが、 その場合でも鞄の近くに置かれているはずなので忘れていかぬようご注意ください。 では、以上を持ちましてバトル・ロワイアルの説明を終了とさせていただきます。 もうすでにゲームは開始されておりますので、無為無念の死を遂げぬようそれぞれ全力でお取り組みください』 そして、最初がそうであったように全てのモニターは唐突に光を失った。 ノイズを映すことも無く、まるでずっとそうであったかのように、今のが幻だったかのように画面は真黒のまま。 まだ画面を見上げたままのかがみをぽつんと残し、止まることのない流れが今静かに滑り出す。 バトル・ロワイアルが始まる。 next⇒
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蝉が鳴き始めて数週間 いまだに鳴り止む気配を見せないそれは、ここ数日ラストスパートの如く大音量で夏の空に響いていた 「暑いわね」 「暑いね」 ここは私の部屋 隣にいるかがみが無言で何かを訴えてくる だから私も無言で諦めて、と返す きっかけは簡単 エアコンが壊れた 今朝方まで稼働していたソレはかがみが来る20分程前に完全に沈黙 今さら場所を変更して勉強する気にもなれず 私達はそのまま予定通り勉強を開始 しかしこの暑いなか集中力が続くわけもなく、開始から一時間で早々休憩という訳だ 「暑いわね」 「暑いね」 すぐ近くにあるかがみの顔を見上げる かがみは私ではなく窓の外、その瞳の色と同じ青い空を見ていた いつも見ているはずの横顔なのに その時私は何故だか 本当に何でだかわからないけど この夏が過ぎたら、この暑さが消えたら かがみまでいなくなってしまう気がして、怖くなった そんななか、グッと右手に圧力がかかる いつの間にかかがみはこちらを見ていた その顔は心配そうで、それでいて力強い笑顔 先程までの不安が嘘かのように思えた つられるように私も笑い返す 私は改めて、この人を選んで本当に良かったなと思った 「暑いね」 「そうね」 だから私は繋がっている右手に力を込める 今年も夏は過ぎていく 暑さもいずれは引いていく それでもこの手は離さないと それでもこの人は離さないと 澄んだ夏の空の下 私は誰に誓うでもなく 自分自身にそう誓った コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-05-22 02 27 27) 完全に沈黙…で吹いてしまったw -- 名無しさん (2009-11-26 08 41 01)
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12月24日───── 事の始まりは、終業式の後。 こなたたちのクラスで4人で談笑していたんだけど、こなたが 「今日、みんなでうちでクリスマスパーティしない?」 と突然言い出した。 クリスマスはバイトじゃなかったのかと聞いたけど、なんでも人手が足りて急遽休みなったらしい。 なんかいまいち不自然な理由な気はしたけど、 ともあれ、クリスマスをこなたとすごせるなんて、諦めてただけに嬉しかったから気にしないことに。 でもみんな、ってことはふたりっきりじゃないのかー。 ちょっとだけ残念、まぁみんなでわいわい過ごすのもいいか、なんて思ってたんだけど。 「ごめん、こなちゃん。今日はこのあと予定がはいちゃってて~」 「すみません、泉さん。私も今夜は先約がありまして」 あとの二人が申し訳なさそうに言う。 前からこなたが今日はバイトといっていたし、すでに予定を入れてしまったのだろう。 でも、みゆきは家族やみなみちゃん一家とパーティでもするのかもしれないけど、 つかさに今日何か用事があるなんて聞いてないぞ。 「そっかぁ。んじゃ、来るのはかがみだけだね」 私の返答を待つことなく強制参加のようだ。もとよりそのつもりだけど。 「それじゃ一度家に帰って、支度してからいくわ。どうせ泊まりでしょ」 つかさたちは不参加だけど、おじさんやゆたかちゃん達が居るだろうし、 どうせ皆で夜通しで遊ぶものだと思ってたし。 きわめて冷静に答えたつもりだったけど、嬉しかったのがちょっと顔にでてたかな。 なにかこなたの表情がニヤニヤしてた気がする。気のせいか? つかさとみゆきはいつにも増して生暖かい視線を送ってきてるし。 「お姉ちゃん、こなちゃん。お幸せにね~」 「素敵なイブをお過ごし下さいね」 なっ!? 「かがみん、顔真っ赤だよ~」 「う、うるさいっ!」 今振り返れば、つかさたちの発言も意味深だったなぁと思う。 そうしたわけでこなたの部屋。私はひとり待たされていた。 ───遅いなー、なにやってるんだろ。 家に帰り、支度をして……予め買っておいたこなたへのプレゼントも持って、泉宅へ。 こなたに部屋へ案内され、ジュースと茶菓子持ってくるから待っててといわれ早10分。 お茶菓子の用意にそんな時間かかるとは思えないし。 まさか今作ってる最中とかだったり。あいつの腕前ならお菓子の1つ2つ作るのはわけないだろうし。 だとしたらちょっと早く来すぎたかな。 そういえば、パーティをやるといった割にはゆたかちゃんもおじさんも 今日は出かけてて帰ってこないらしい。 おじさんはこんな日に原稿の打合せかよ、と涙して訴えてたそうな。 ゆたかちゃんは一年生の皆とみなみちゃんの家でパーティらしい。みゆき家とは一緒なのかな。 でもだとしたら、ゆたかちゃん経由でこなたも知ってそうだし、わざわざ誘わない気がするが……。 成実さんも旦那さんと過ごすらしいし。 って、ちょっとまて。てことは今日はずっとこなたとふたりっきり!? いや、その。二人っきりだったらいいのに、とは思ったけど。 泊まりで二人っきりなんて初めてだし。 こなたがニヤニヤしてた気がしたのはそのせいか。あいつは状況分かってたのか。 うぅ~~~~~。 落ち着け、おちつけー私。どっかの誰かのように心を落ち着かせようとする。 こんな状態こなたに見られたらまた何ていわれるかー。 余計なことを考えないようにあたりをきょろきょろ見回すとふと気づいた。 テーブルにひかれたクロスの上に、ベルが一つ。何でこんなものが……ジングルベルつながりか? 手にとってみる。こいつには見覚えがった。 確かこなたが、鳴らしたらメイドがきてくれるんじゃないかなー、とかいってたやつだ。 あいつらしいと言えばそうだけど、そんなわけないだろうに──── ……チリ~ン 軽く振ると、静かな部屋に鈴の音がひろがる。 綺麗な響きにちょっと心が落ち着くかも。なんて思っていたら…… 「お呼びですか、かがみお嬢様」 は? お嬢様? 声のほうをみてみると、こなたがいた────ただし、メイド服を着ていたが。 「おまっ、なんて格好してんだよ!?」 「なにって、メイドだよ。今日は一日かがみのメイドさんになってご奉仕するつもりだヨ」 「ご奉仕って……なんか悪いものでも食べたか?」 「ぶー、ひどいなぁ。心からかがみに尽くしてあげようと思ってるのに~。 っと、とりあえず、お茶菓子もってくるね」 「ってまだもって来てなかったんかい」 「かがみがいつになってもベル鳴らしてくれないからさー。メールで促そうかと思ったよ。 それとも早くお菓子が食べたかったですか、食いしん坊なお嬢様?」 「なんだとー!?」 「ほわぁっ!!」 お得意の猫口スタイルで、メイド口調でとても敬ってるとは思えん言葉をいい残して、 こなたは今度こそお茶菓子を取りに行った。 まったく、あいつの考えることはいつも斜め上だ。ていうか凝りすぎだ。 しかし、何の風の吹き回しだろうか。あいつから尽くすだなんて。 しばらくして、こなたは今度はちゃんとジュースとお茶菓子を持ってきた。 「今料理とケーキ仕上げてるとだから。適当にくつろいでていいよ。 あ、何かあったらソレで呼んでね~」 「あんた一人で準備するつもり? 私も何か手伝うわよ」 「いやいや、今日はかがみんは大事なお客様だから、なーんもしなくていいよ。 全部わたしにまかせたまへ。」 そういい残して台所に戻っていった。 普段なら「かがみが料理したらなべが大爆発しちゃうよー」とか言いつつも、 手伝わせてくれそうなものなのにな。 ────何もしなくていい、っていわれても一人じゃ退屈だよ…… 今日が私の誕生日とかならまだ分からなくも無いんだけど、 二人っきりとはいえ、クリスマスパーティなんだし、一緒に準備とかしたいんだけどなぁ。 こなた、本気で何もさせてくれないつもりらしい。 さっきもジュースのお代わりをもらいに台所行ったら、 「ちゃんとベルで呼んでくれなきゃー、ジュースはすぐ持ってくから」と、 追い立てられるように部屋に戻されそうになったし。 かといって、私を驚かせようと秘密の準備でもしてるわけでもないっぽい。 何か調子狂うなぁ。口調はいつもとあんま変わらないんだけど。 恋人同士になってからもあいつの態度はそれほど変わらなかった。 むしろ今まで以上に弄られる事が多くなった。私もいつものようにお返しする。 それは私たち自身が、恋人でもあり親友でもありつづける、ってことを望んだから。 あいつの気はよーく知ってるし、私の気持ちもあいつはよく分かってるから、普段はこれで十分。 "二人だけの時間"には恋人らしいことしてるし。 それだけに、今日みたいなこなたはちょっと珍しい。 いつもの"恋人の私"へしてくれる感じではないし、かといって"親友の私"への態度ともちょっと違うし。 単にメイドさんごっこでもしたいだけだろうか。 あまりに退屈すぎて、準備してると分かっていつつも、用も無くベルを鳴らす。 こなたが部屋にやってきて、ちょっと他愛も無い話をしてすぐもどる。 その度に、「やっぱ私も手伝う」といったけど、あいつは断固として拒否。 幾度となくそれを繰り返して、そしてまた。 ……チリ~ン 「どったのー、かがみ?」 「んー、特に何も無いけど」 「でもこれで5回目だよ。なんかしてほしいことあるんじゃないの? ほら、何でもいってよ。出来る事ならなんでもしてあげるから」 心から尽くしてくれるのは嬉しいけど、理由もいまいち分からないままじゃ。 こなたも嫌がらせでしてるわけじゃないのはわかってる。きっと何か思うところあってのことだろう。 でも、これは私の望む形じゃないから。 それにしたいことならいっぱいあるけど、してほしい事は──── 「それなら、メイドさんごっこはもう終わりにしてもらっていい……かな?」 できるだけ傷つけない言い方で。 「あはは。迷惑……、だったかな」 それでも、こなたの表情が一瞬にして曇る。 たまらず、 「迷惑じゃないわよ。……ほら、ここおいで」 座ってる私の足をぽんぽんと叩いてうながす。こいつだけの特等席だ。 すこし戸惑ってたけど、やがてこなたは私の上に座った。 体を私に預けてくるが、とっても軽い。 私も後ろから腕を回してぎゅっと抱きかかえてあげる。 こなたを拒絶したわけじゃないってこと、わかって欲しいから。 「かがみ、おこってない?」 「ううん、ぜんぜん」 ゆっくりとこなたの綺麗な青髪を手ですいてあげると、気持ちよさそうな顔してる。 よかった、安心してくれたみたい。悲しい顔したこなたなんて見たくないしね。 すこし落ち着いたところで、ずっと気になったことを聞いてみた。 「ねぇ、どうして急にこんなことしようと思ったの?」 「ん、日ごろ宿題とか勉強とかお世話になってるからさ。 かがみのためになんかしてあげられたらなぁと思って」 「だからって、メイドでご奉仕はないでしょうが。ふふ、でもあんたらしいわね」 こいつのことだから、今日のためにいろいろ準備とか無理したりしたんだろうな。 つかさたちに、ふたりっきりなれるように協力してもらってそうだし、 バイトにしても、仕事柄、今日は人の手が足りなくなることはあっても余るなんてことないだろうし、 何とか休み貰ったんだと思う。 でも、あえて聞かない。こいつにもプライドがあるだろう。 その分、こいつの気持ちにこたえてあげることにする。 「ありがと、こなた。そう思ってくれるだけで私は嬉しいわよ」 「かがみ……」 「でも、心から尽くす、っていうのは何でもかんでもしてあげればいいって事じゃないでしょ。 ほんとにして欲しいことしてあげなきゃ、ね」 「じゃぁさ、かがみ。あらためて、何かして欲しいことある?」 「そうね。一緒にパーティの準備して、一緒にクリスマスを祝って、それから────」 ちょっとだけ照れから口詰まったけど。もう大丈夫、さっきみたいに動揺はない。 「それから?」 「それから、恋人の聖夜をすごしましょ。ふたりっきりの」 「それだけでいいの?」 難しいこと考える必要はないよ、こなた。 「私がして欲しいことは、こなたがそばにいてくれること。それだけよ」 「かがみ……うん!」 「ふふ。それじゃ、早速はじめましょうかね。っと、その前に」 「ん?」 私は持ってきたプレゼントを取り出して、こなたの目の前にかざす。 あとで渡そうかと思ったけど、なんか今わたしくなっちゃったから。 こなたが手に取り、その小さな箱をあける。 「早めにだけど、こなたへ私からのプレゼント」 「綺麗なペンダントだね。ありがと、かがみ。 わたし、こういうのほとんど持ってないし、とっても嬉しいよ。 あぁ、でもどうしよ。わたしプレゼント用意してないや」 もしかして、私に一日尽くすのがそのつもりだった、のかな。 だったらちょっと悪いことしちゃったかなぁ。 「気にしなくていいわよ。こなたからは心のプレゼントもらったから」 「でも、それじゃわたしの気がすまないよ~。むむー何かいいものは」 辺りを見回してめぼしいものを探してるようだけど、流石に限定グッズとかは勘弁よ。 「ん~~~~~。そうだ!!」 と、こなたは立ち上がると、あのベルをもってきて私に手渡す。 「わたしからかがみへのプレゼント。これからもずっとかがみに心尽くすよ、ってことで。 ……なんちゃって。あとでちゃんとした物買ってわたすね」 こいつらしい、今できる最大限のプレゼント。 「ううん。これがいいよ。こなた、ありがとね」 「かがみ……えへへ。 寂しくなったらそれで呼んでくれたまへ~。そしたら、恋人としてかがみのとこいくから……ね」 こなたったら、真っ赤になっちゃって。でも、きっと私の顔も真っ赤だな。 「こなた……」 「かがみ……」 もう言葉はいらない。そっとこなたの唇にくちづけた。 このあとまってる、素敵な一夜を思いながら。 ……チリ~ン 幸せな私たちの、ジングルベル。 コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-31 07 56 54)
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冬の厳しい寒さに手がかじかみ、私は白い息を吹きかける。 新しい年、別れの年だった。 神社の境内で私が開いた手帳には、そっと挟んだ写真達。 気付いたら、こなたばかり集めていた。 私って馬鹿だな。 本当にそう思う。 友達に混じってはしゃぐこなたの姿── ──私だけのものならいいのに そんな風に思うなんて、本当に、私は馬鹿だ。 「お姉ちゃん?」 不意にかけられた声に、飛び上がりそうになる。 「おぅわっ?! つかさ、いつからここに?!」 「ついさっきだよー」 「いきなり声かけられたら、びっくりするじゃない!」 「へへ~、ごめん」 つかさは無邪気に笑う。悩みがなさそうでいいな、なんて思うのは、酷いかな? 今日は、初?詣の日だった。 実際には私達は巫女として初詣の日は働いていたので、三が日は過ぎている。 それでも、一緒に初詣がしたい、とこなたが私達に言ったのだ。 それだけで変に期待してしまう私は、やはりどうしようもなく愚かなのだった。 「こなちゃん達、おそいねー」 「まーたどうせ、ゲームで寝坊でしょ」 「でもお姉ちゃんさ~、どうしてこなちゃんの写真、そんなに集めてるの?」 「ぶほぅっ!?」 み、見られていた!? これはもう、こ、殺すしか……。 「お姉ちゃん!? 顔が怖いよ!?」 「……べ、別に集めてないわ。たまたま、あいつと一緒が多いから、そうなってるだけよ」 つかさにも、誰にも、自分の気持ちを知られる訳にはいかない。 私だけの秘密。 「ふ~ん、でもお姉ちゃん、ほんとこなちゃんのこと好きだよね~」 これは、いよいよ殺すしか……。 「目!? 目が怖い!? だってさっきもお姉ちゃん、こなちゃんの写真眺めてたから……」 「そ、そんなことないわよ!」 「お姉ちゃん、よくこなちゃんの話をするし……」 「そんなことない! この話、もうおしまい!」 無理に話を打ち切る。顔が熱い。 しかもそこへ、話題の主がやってきた。 「おーい、かがみん、つかさ~~」 こなたがこっちに向かって走ってきて、その背後にはみゆきの姿があった。 「お待たせ~」 「いや、予想よりは早いぞ。みゆきと一緒だし」 みゆきさんは、うふふ、と笑って私を見る。 「泉さん、かがみさんに早く会いたいと走ってしまわれて、少し汗をかいてしまいました」 「ちょ?! みゆきさん!?」 「なんだか羨ましいです。お二人は仲が良くて」 「も、もう、何してるのよこなた、恥ずかしいじゃない!」 本当は、嬉しい。 「みゆきさん、バラさないでよ~」 「うふふ、すいません。なんとなく漸く発言できたというか、今まで全く台詞が無かったというか、 私と二人きりよりかがみさんに会いたいとか酷いんじゃ? なんて全く思いませんが、バラしてしまいました。うふふ」 出番の無い人間に悲しみは尽きない……! 「「マジすいませんでした……!」」 出番ありまくりの私達は謝るしかなかった。 「いいんです、それより早くお参りしましょう。私、出番が増えますように、って神様にお願いするんです。うふふ」 切実過ぎる……! 私達四人は並んで神社に参拝し、賽銭を投げてお祈りする。 こなたは、何を願うのかな? そして、私は……。 「かがみんは、何をお願いするのカナ~~?」 「ちょ、ひっつくな! あんたこそ、何をお願いするのよ?」 「へへへ」 こなたは、にこっ、と笑った。 「これからも、みんなと一緒にいられますように、だよ!」 そういうこなたは真っ直ぐで、私は自分が嫌になる。 「受験とか祈っておかなくていいのかー?」 「うお?! 新年早々思い出したくないことをかがみが言ってくるよー!」 だって、私の願いは── ──こなたと一緒にいれますように、だから。 新しい年、別れの年が始まる。 新学期が始まる。 私達の高校三年間最後の季節。 私とこなたはまだ、ただの友達だった。 昼間に会えばふざけあい、軽口を叩き合う『親友』 それでいいんだ、って自分に言い聞かせようとしても、動揺する心は消えなくて。 こなた……。 目を瞑ると、こなたの姿が浮かぶ。 いつの間にか、ずけずけと私の心に踏み込んで、すっかり居座ってしまったあいつ。 気付けばこんなにも、好きになってた。 こなた…… どうしても声を聞きたくなると、受話器片手に理由考えて、無理矢理に電話してしまう。 「あ、こなたいますか?」 こなたの家に電話をかけると、ゆたかちゃんがこなたに電話を取り次いでくれる。 「お、どうしたんだい、かがみんや、最近よくかけてくるねー、私の声が恋しいかね?」 「んな訳あるか! 馬鹿!」 「いやいや、かがみんは意外と寂しがりやだからねえ、卒業も近いじゃん?」 「べ、別に、関係ないわよ」 「かがみんは可愛いねー」 「明日会ったら殴る」 私達はいつものように下らない話をする。 からかってくるこなたが辛くて、素直な気持ちをぶつけたくなって、でも、それは出来ない。 こなたはたぶん、私のことを友達としてしか、見ていないから……。 ねえ、こなた。 「かがみ?」 不意に訪れる沈黙。 私、こんなにこなたが好きなんだよ? 途切れる会話の中でこの気持ちに気付いてよ。 お願い。 私の胸が痛みで切り裂かれる前に。 「何でもない」 と私は笑った。 私とこなたは、まだ、親友の形から出る事が出来ない。 伝えたい言葉 たったひとつ 私はあの夜を無かった事に出来ない。 もう、自分の気持ちに気付いてしまったから。 こなたは、女の子同士とか、気持ち悪いのかな。 そういうケはないって言ってたこともある。 望みは絶望的で、私だけがこなたを好きで、どうしようもなくなっていく。 時間が、止まらない。 別々の進路を行く私達の時間はもうすぐ終わろうとしている。 だから私はこの気持ちを忘れなければいけないのだろう。 駆け足で過ぎていく時間の中で、こなたの姿が眩しく目に焼きつく。 どうしていいのか分からない。 私は時間においていかれないように走り出そうとする。 でもこなたへの想いが大きすぎて、私は、走り出す事が出来ない。 このままじゃ、卒業なんて無理だよ。 言わなきゃ後悔する? 言っても後悔する? 答えは、見えないままだ。 それでも、卒業の時は来る。 いつもの朝、制服に身を包んだ私は、結局、自分の想いを心の奥深くに沈める事にした。 女の子に告白されたって、きっと、こなたは困るもの。 だから、我慢するしかない。 「お姉ちゃーん、起きてるー?」 「いま行くー!」 私は今日、陵桜学園を卒業する。 時の流れの速さに逆らう事は誰にも出来ない。 いつもの通学路も、もう通る事のない道だと気付くと違って見える。 私の高校三年間は、不思議なくらい、こなたが傍に居た。 戻れない道、戻らない道。 「今日で卒業だね、お姉ちゃん」 「そうね……」 「楽しかったなー、高校生活」 色んな事があった。 でも、でもつかさの言う通りだった。 「うん、本当に楽しかった」 こなたがいて、私がいて、つかさがいて、みゆきがいた。 この三年間が本当に楽しい宝物だった事は、絶対絶対揺るがない。 きっと、永遠に忘れない。 夢みたいな時間。 「行こ、お姉ちゃん」 「うん……」 この道の先に、こなたが待っている。 私の高校生活を誰かに託すとしたら、それは、泉こなたしか居ない。 泉こなたに始まり、泉こなたに終わる、か。 何だか笑っちゃう。 私は、強く一歩を踏み出した。 卒業式は恙無く終了した。 長い長いその儀式の間、こなたはウトウトして先生に怒られたり、私達はただ黙々と今までの三年間をかみ締めてそこに居た。 貰った卒業証書は驚くほど軽いただの筒で、こなたはそれを引き抜いた時になる、ぽん、という軽い音で遊んでいた。 「私達の高校三年間、案外軽いね」 「そういうもんかもね」 紙一枚だけ入った、ただの筒。 たぶん、本当の卒業の証は、自分の内にしかないのだろう。 「終わっちゃった……か」 もう明日から、この校舎に来る必要は無い。 自分の教室で、桜庭先生の最後のHRを聞いて、それでお仕舞い。 でも私は何故か、立ち去りがたくて、暫くぼうっとしていた。 多分、私には、遣り残した事があるから。 でもそれは、永遠に遣り残すこと。 私の想像の中で、二人の女の子は想いを伝え合い、誰よりも愛し合い二人で居る。 現実では、ただの友達。 「こっちのクラスより、こなたのクラスに居た時間の方が長かったりしてね」 私は席を立ち、こなたのクラスに向かった。 多分もう、この時間なら誰もいない。 私だけが、ここで遣り残した事があったから。 そう思った。 教室の扉を開ける。 春の風の匂いがした。 開けられた窓から入る新緑の風。 長い長い髪がなびいた。 窓枠に腰かける少女がこちらを振り返り、照れたような笑みを浮かべる。 泉こなたが、まだ教室に残ってそこに居て、私を見ていた。 まるで、私とこなたに与えられた、最後の時間みたいに。 「あれ? かがみ、帰ってなかったんだ」 「あんたこそ……」 教室には、私達二人しか居なかった。 中に入って、思わず、鍵をかける。 この時間に、私達以外の誰も入って来れないように。 「なに? かがみ、感傷に浸っちゃった?」 「あんたは、どうなのよ」 「さすがの私も、制服着るのが最後だからねぇ、制服は萌えの固まりなのだよー」 「あんたはいつもそれだな」 軽口をたたきながらも、滲む心は隠せない。 こなたも、遣り残したこと、あるのかな? それが、それがもし、私とのことだったら、と夢見ずに居られない。 私は馬鹿だ。 「かがみんの、最後の制服姿GET!」 「あ、こら、何勝手に写メとってるのよ!」 携帯を取り上げようと、こなたに近づく。 すると、こなたがいきなり抱きついてきた。 「おおー、かがみんは柔らかいなー」 いつもなら、どこ触ってる、と怒って振り払う場面だった。 でも出来なかった。 いつも、いつも、こんな風にからかって。 私が、どんな気持ちだったか……。 「あれ? かがみん?」 私は、こなたを強く強く抱きしめかえした。 「え?え?」 最後の機会。 そう思うと私は、自分をコントロールできなくなっていく。 「覚えてる? こなた、あの、泊まった夜に、私とあんた、キス……したじゃない」 もう、引き返せなかった。 あふれ出した思いを、元に戻す事は、誰にも出来ないんだ。 「あれは……」 「ずっと! 忘れられなかった! なのにあんたは、いつもいつも、私をからかって! 私が、どんな気持ちでいたか、あんたには分かんないでしょ!? 好きになっちゃ駄目だって、ずっと、ずっと思ってたのに!」 ずっと、思ってた。 こなただけを、ずっと。 私達は光差す教室の床に倒れこむ。 「か、かがみ……」 「いつも、こなただけを見てた。一番近くで。優しくされるたびに切なくなって、冷たくされると、なきたくなって、気付いたら、私、こなたのこと……」 きっと私は、必死な顔をしているだろう。 でも押し倒されたこなたも、いつもは見せない焦った顔をしている。 私は、あふれ出した思いに押されるようにして。 こなたに口づけた。 こなたは、抵抗しなかった。 「好きなの、誰よりこなたが好きなの、卒業して、全部忘れようと思ってた。でも、あんたが、いつもみたいにからかうから、私……」 もう、こなたしか考えられない。 「かがみ……私だって、私だって!」 いきなり、こなたが私をはねのけ、押し倒した。 驚きに私は固まる。 「私だって、ずっとかがみが好きだった! どんなにからかっても、いつか彼氏が出来て、笑顔でかがみを見送らなきゃいけないんだって思ってた! あの夜、あんな風になっても、何かの間違いだって、そう思い込もうとしてたのに! かがみがそんな風に言ったら、私……! だって、だって女の子同士なんだよ!? みんなに、気持ち悪いって思われちゃう……」 私はこなたの眼を見た。 揺れる瞳。 私は、もう、迷わない。 「関係ないよ」 「え?」 「みんななんか関係ない。私にはこなたしかいないから……!!」 「かがみ……」 「こなた……」 そして私たちは、それが全く自然なことみたいにキスをした。 忘れることができないくらい優しく、そっと。 抱き合ったぬくもりが、強く強く私たちを包んでいたのを覚えている。 「かがみ……!」 もう、私たちは止まる事ができない。 求め合うのが自然な事みたいに、互いの体をまさぐり、服を脱がしていく。 「こなた……」 興奮に眩暈がして、私は何度も何度もこなたに口づけられながら、互いにその体を撫で、服を脱がしていく。 もう、戻ることはできない。どうしても、できない。 そして遂に互いに生まれたままの姿となった私たちは、互いに貪るように体を重ねた。 「かがみ……!」 「こなた……こなた!」 激しく、どこまでも落ちていくように私はこなたを求め、こなたもまた私を求めた。まるで二頭の獣になったように、私たちはただただ互いを求め合った。 互いの汗で濡れ合い、湿った音を隠しもせず欲情しあう私たちは、際限なく行為に没頭し、名前を呼び合い、口づけた。 そして遂に上り詰めるそのときに、痙攣するように互いに震えながら口づけあい、強く強く抱きしめあって私たちはその充実した幸福な感覚の中に落ちていった。 こうして、私達は、結ばれたのだ。 別々の大学に進学したけど、私達は変わらなかった。 今でもしょっちゅう会うし、仲も良い。 特にこなたに関してはその、恋人、同士だし。 「いやー、卒業すると何か終わっちゃう気がしてたけど、そうでもなかったねー」 「まあな、区切りがあると、変に焦っちゃうよな」 現実なんて、こんなものかも知れない。 「でもそのお陰で、こうしてかがみとラブラブ出来るよー」 「こら、ひっつくな!」 「えー、バカップルになろうよかがみー」 「い・や・よ、もう、油断するとすぐひっついてくるんだから」 いつものような私達。 少しだけ違うのは、もう私達の間にはいかなるひずみもなく、恋人という形に納まったこと。 きっと次にウサギの夢を見るとき、ウサギはキツネと結ばれ、いつまでもいつまでも末永く幸せに暮らすのだろう。 めでたし、めでたし。 だって、それが一番じゃないか? 「かがみ、新しいゲーセンがこんな所に!」 「もう、はしゃぐなよな」 「早く早く!」 私達は変わらない。 幾多の困難があっても、この先も、きっとずっと変わらない。 私はこなたの手を握り返して歩き出した。 今までよりも、ずっと素直な気持ちで。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(´༎ຶོρ༎ຶོ`)b -- 名無しさん (2023-08-24 02 06 44) かがみんこなたと逢い引きですね!この恋続くと良いですね -- かがみんラブ (2012-09-14 22 44 27) 結婚式には呼んでくれー!! -- 名無しさん (2010-06-26 07 56 40) 続きあったんですね! 幸せになれて良かったよー!! -- 名無しさん (2010-06-25 19 51 37) なんかユメにみたシーンでした! すごいドキドキでした!! -- プリン (2010-02-08 20 18 24) 教室のシーンで谷口が再生された俺は負け組 -- 名無しさん (2010-01-22 20 49 16) リリカルで良かったgj! -- 名無しさん (2010-01-10 04 05 37) 作者様、4作にわたる大作ありがとうございます! 涙が止まりませんでした。 -- 名無しさん (2010-01-07 00 52 01) やったーっ、2人に幸あれ。 作者様、ハッピーエンドで泣ける作品をありがとうございます。GJ -- kk (2010-01-05 00 30 30) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「……んむ……」 カーテンの隙間から太陽の光が射し込んできて、私は目を覚ました。 昨日は全然寝付けなかった。 頭の中が、かがみのことでいっぱいだった。 ――他に、好きな人が出来ちゃった……? ううん、そんなことない。 かがみは、言ってくれた。 私だけを好きでいてくれるって。 ――私に飽きちゃった? これもないって思いたい。 一昨日までは今までみたいでいてくれたし……。 考えたくないようなことが浮かんでは、それを必死に振り払った。 このままベッドにいたら、余計気分が重くなるかも……。 そう思った私はベッドから出て、ふとおもむろに時計を見た。 ――――!? 私は自分の目を疑った。 9:30。 つまるところ………。 遅刻じゃん!!! もってけ!(携帯のアラーム)なったっけ!? 近くにある携帯を開いても、画面は真っ暗なまま。 「電池切れてるし……。そう言えば昨日残り1つだったの忘れてた……」 って呑気に言ってる場合じゃなかった!! 携帯を机の上に戻して、すぐに制服に着替える。 「も~、なんでお父さんもゆーちゃんも起こしてくれないかな~……」 そう愚痴った瞬間、脳裏に浮かぶ昨日の会話。 『そうだお姉ちゃん、私明日朝早いんだ。お姉ちゃんにお弁当用意してもらうの悪いから、お昼は買っちゃうね』 『俺も明日は朝から夜まで出なんだ。こなた、大丈夫だと思うけど、朝寝坊するなよ』 そう言えばそんなこと言ってたっけ……。 かがみのことで頭いっぱいで、すっかり聞き流してたよ……。 ゆーちゃん、お父さん、ちゃんと言ってたのに文句言っちゃってごめん~~。 二人に心の中で謝りながら、私は家を飛び出した。 ☆ 「こなちゃん、おはよ~」 「おはよ、つかさ………ふぅ」 三時間目と四時間目の間の休み時間になんとか到着。 久しぶりにかなり走っちゃったなぁ……。 「今日はどうしたの?」 「寝坊しちゃってさ……」 「こなちゃんも寝坊するんだ。ちょっと意外~」 「そりゃするよ。つか………ごほん、何でもない」 『つかさほどじゃないけどネ』 そう言おうとして、やめた。 言葉が相手に、どんな効果をもたらすかわからない。 だから、冗談でもむやみやたらと人を傷つけかねないことは、言わないほうがいい。 ―――私はそれを、昨日学んだ。 「泉さん、おはようございます。欠席かと思いましたよ」 後ろからみゆきさんの声が聞こえて、振り返る。 「おはよう、みゆきさん」 「今日はどうされたのですか?」 ……正直に言えるわけないよね……。 昨日のことだって二人に伝えてないのに……。 もし伝えたら、二人に余計な心配や迷惑かけるに決まってる……。 それはつかさとみゆきさんに悪いしなぁ……。 とりあえずテキトーな言い訳でごまかしとこ……。 「いや~、寝坊しちゃったよ~。昨日遅くまでLv上げに勤しんじゃったから、つい」 「なるほど、泉さんらしいですね」 みゆきさんは柔らかい笑みを浮かべた。 「そう言えば泉さん、昨日――」 キーンコーンカーンコーン――。 みゆきさんの言葉を、チャイムが妨げた。 「チャイム、鳴っちゃいましたね……。また後にお伝えしますね」 そう言ってみゆきさんが席につくとすぐに先生が入ってきた。 ☆ 「ふぅ、なんとか座れた……」 久しぶりの学食。 笑顔で友達と話してる人たちばっかりで、私一人だけ場違いだなぁ……。 なんで私がこんなところに一人でいるのか。 それを説明するために、少し時間を遡る。 「あれ、こなちゃんどこいくの?」 お昼、席をたった私につかさが聞いてきた。 「ごめん、今朝はお弁当作れなかったし、買う暇もなかったから、ちょっと学食行ってくるね」 いつもなら多分チョココロネだったんだけど、買うのすっかり忘れてたからなぁ。 「そうなんだぁ。私のお弁当、半分あげようか?」 「いや、それは悪いよ」 迷惑はかけられない。私が悪いんだし、ちゃんと自分で責任とらないと。 「私は良いよ~?」 うう、つかさめ……。 遊びはここまでだ……!! 次はデカいのを一発お見舞いしてやんよ! 「私、朝も食べてなくてさ~。お昼はちゃんと食べたいんだよね」 これならつかさも言い返せまい! 「そっか~。それなら仕方ないね。気をつけて行ってきてね」 「外に出るわけでもないんだし、大丈夫だよ」 「あっ、そうだったね。つい、いつものくせで~」 「なるほどね~。それじゃお腹もすいたし混むと嫌だから……気をつけていってきま~す」 ―――そして今。 目の前にある醤油ラーメン。 そう言えば、前にかがみが頼んでたっけ……。 つかさもラーメン頼んだら麺がなくなっちゃったって言われて、結局つかさにあげてたなぁ。 かがみってわがままも言わないで、甘えさせてくれる優しさを持ってるよね……。 私のボケにもちゃんと突っ込んでくれるし……ね。 ―――――それに比べて、私は―――――。 好き勝手にボケて、突っ込まれることを期待してる……。 ―――私はわがままだ。 わかってる。そんなこと。 でも――――。 初めてのデート。 不安だった。怖かった。 【恋人】という関係になった今、私はかがみに何がしてあげるんだろう? どうすれば、かがみは楽しんでくれる?喜んでくれる? ――――わからない……。 もし、変なことを言って嫌われてしまったら……。 でも、このまま黙っていてもつまらないと思われちゃうし……。 ――――どうすればいいんだろ……。 ずっと悩んでいた。辛かった。 ―――でも、かがみはたった一言で私の不安を払ってくれた。 『バカ……。変わろうなんて思わなくていいのよ……』 夏の日が落ちた、暗い静かな公園。 ベンチに座ってる私だけしかいない。 そこでかがみは私に言ってくれた。 『私は……今のままのこなたが好き……』 買い物をしたあとに、2人で歩いているときに見つけた場所。 遊具は滑り台とブランコだけ。 そんな、こぢんまりとした公園の片隅にある、小さなベンチの上で。 かがみは、この上ない幸せを私にくれた。 それは、まるで短い物語詩。 それは、幸せを紡いだ譚歌。 ――――そんな、バラッドのような思い出。 なのに…………。 かがみ…………。 涙が零れ落ちる。 周りの知らない笑顔に水を差したくないし、私自身も見られたくない。 だから、私はそれを隠した。 私のことを気に留める人は誰一人いなかった―――。 ☆ 今日も私は独りで帰っていた。 遅刻した授業のプリントを受け取りにいかなきゃいけないから、とつかさには先に帰ってもらった。 みゆきさんは委員会の話し合いがあるみたいで、一緒には帰れないみたいだった。 『待ってようか?』 つかさは言ってくれた。 でも、私は首を横に振った。 『先生いるかわからないし、探すのに時間かかっちゃうかもしれないから』 かがみにもそう伝えて欲しいという旨も伝えた。 進学校である陵桜学園は、欠席した授業の分のプリントなどは自分で受け取りにいかなくちゃいけない。 いつもなら面倒に感じるこの作業も、今日ばかりはありがたかった。 念のため、プリントをもらった後も少し時間を潰して、私は帰路についた。 これなら、かがみに会うこともないはず。 ―――でも、私の心の奥底では違う感情が渦巻いていた。 辛い……。寂しい……。もう嫌だよ……。 でも、わかんないよ……。どうすれば……どうすればかがみとまた一緒にいれるんだろ……。 まだ一緒にいられるのかな……。その方法があるのかな……。 私はきっとかがみに嫌われている。鬱陶しく思われてる。 でも、かがみの口から直接聞きたくない……。 そしたら、【きっと】って言えなくなる。 そうなったら、私はどうなっちゃうかわからない……。 夜の時は必死に壁を作って嫌な考えから、私を護っていた。 でも、壁はもう崩れていた。 それは、あのベルリンの壁よりもあっけなく崩壊していった。 ―――もう私を護ってくれるものはなかった。 ううん、それは最初から間違っていたのかも―-―。 「泉さん」 突然後ろから声をかけられて、びくっとしながら私は振り返った。 「み、みゆきさん………?」 「委員会が終わって帰ろうとしたら、見慣れた後姿を見かけたので」 「そっか……」 そのまま私たちはしばらく黙って歩き続けた。 ふとみゆきさんのほうを盗み見ると、頬に手をあてたり頭を抱えたり首を振ったりと……なんか悩んでる?ようだった。 「あははは」 その姿が可愛くて、悪いと思いながらもつい笑ってしまった。 「あ、あれ、泉さん、どうかされました?」 みゆきさんが慌てたように聞いてくる。 「ご、ごめん、みゆきさんが悩んでる仕草がやけに可愛くて、つい」 「そ、そんな大げさでした……?」 みゆきさんは顔を真っ赤に染めていた。 「いやいや、流石は歩く萌え要素って感じだったねぇ~」 「はうぅ……」 さらに身体まで小さくするみゆきさん。 「そうゆうところとか、余計にね♪」 「は、恥ずかしいです……」 「ごめん、みゆきさん~」 みゆきさんが私よりも小さくなりそうだったので慌てて謝った。 「いえ、いいんです……もう……。……ところで泉さん」 「ん~、何?」 「久しぶりに笑ってくれましたね」 「あ…………そう…………だね」 言われて初めて気づいた。 久しぶり、と言っても実際は昨日の昼前から今日までの48時間にも満たない時間。 でも、私にとっては【久しぶり】という語句が当てはまるくらい、長い時間に感じられた。 「泉さん、その………何か、あったのですか?」 「え?」 みゆきさんは心配そうに、けど真面目に私に問いかける。 「………」 私は何も答えられなかった。 友達……いや、親友が真面目に聞いてるのにウソをつきたくない。 でも、本当のことを言っても心配をかけてしまいかねない。 その二つの板挟みで、私はどっちにも進めないでいた。 多分、みゆきさんも【何か】があったってのは分かってる。 だから黙秘は肯定と同じ。 それでも否定しないのは―――。 「言いたくないのであれば、無理には聞きません……」 「ごめん……」 みゆきさんの顔を見れず、俯く。 「ですが、私に何か出来ることがありましたら、ぜひ仰って下さいね」 「でも……」 「遠慮なさらないで下さい。私の知識がみなさんのお役にたてるなら、これほど嬉しいことはありません」 一見知識の量をひけらかすような言い方だけれども、みゆきさんの言葉には本当に私に協力してあげたい、という気持ちがひしと伝わってきた。 「ありがとう、みゆきさん……」 みゆきさんは天使や女神がいたらこんななんだろうな、というくらい優しく綺麗な笑顔を浮かべて言った。 「泉さんは、一人じゃありませんよ」 「…………」 私は、また何も返せなかった。 もしみゆきさんの意図していることが、私の思っている通りなら―――。 「つかささんがいらっしゃいます。微力ながら、私もいます。そして――」 みゆきさんはさっき以上に優しい、そして柔らかに笑む。 「なにより、かがみさんがいらっしゃるではありませんか」 みゆきさん……。 かがみは、きっと私のそばにいてくれてないよ……。 かがみがいるのは、高い厚い壁の遠い向こう……。 私の手の届かないところだよ……。 でも、そうとはみゆきさんに言えない。 みゆきさんに心配をかけたくない。 そしてそれ以上に、言ったことでかがみに鬱陶しく思われて、もっと嫌われるのを避けたかった。 「……そうだと………いいけどね………」 私はそんな、曖昧な返事をした。 「そうですよ。絶対です」 みゆきさんの笑顔は、言葉は、私には眩しすぎた――。 でも、それなのに―――。 「ありがとう―――」 自然と言葉がこぼれていた。 かがみの本当の気持ちはわからない。 でも、みゆきさんにそう言ってもらえて、私の心の闇が少し晴れるのを感じた―――。 ノゾムハダレガタメへ続く コメントフォーム 名前 コメント ( ̄ v  ̄)b -- 名無しさん (2023-01-07 14 10 33) みゆきさんの優しさに私が泣いた。 しかし、何と言うすれ違い。まさに試練ですね。 続きもwktkです。 -- 6-774 (2008-03-04 23 44 34)
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──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ── ──屋根までとんで、壊れて消えた── ねぇ、かがみ。 「何?」 この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない? 「アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね」 違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。 夢は儚い。私にはそう詠っているように聞こえちゃうな。 「…………」 ~シャボン玉~ 「ごめんくださぁい」 舌足らずな、小学生のような声が聞こえた。 こんな声を出して、なおかつ家にやって来るのはアイツしかいない。 「おーす。早かったわね」 泉こなた。私の親友、だ。 「いやぁ。かがみんに早く会いたくなっちゃって」 「な、何言ってんのよ!」 こなたの顔がニヤニヤと私を見ていた。 「あれあれ~。もしかしてかがみん、ドキッてしちゃった?」 うぅぅ。ドキドキするに決まっている。だって目の前で、大好きな、だけど親友のこなたがこんなにも嬉しいことを言ってくれているのだ。 「冗談はこの辺にして、つかさ居る?」 一気に、熱が冷めてしまった。 「……縁側に居るわよ」 ああ、自分でも嫌になる。こんなにも態度に出てしまうなんて。 勿論、つかさのことが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。でも私の好きな人の口から紡がれる、その三文字に嫉妬してしまう。 つかさが居なければ。そんなことを思ってしまう自分が恐ろしく、怨めしかった。 「そっか。いや、借してた漫画、また読みたくなっちゃってさ」 「そ、そうなんだ」 無理矢理、笑う。きっと、酷い顔をしているんだろうな。 だけど、こなたは造っているようには見えない、綺麗な顔で、笑うんだ。 「そうだ。読み終わったらかがみにも貸してあげるよ」 「私に理解できる内容ならね」 「その辺は大丈夫。つかさぐらいの一般人でも楽しめる仕様だよ」 そう言ってこなたはスタスタと廊下を歩いていった。縁側へ向かっているのだろう。 もうこの家のほとんどが、こなたにとって勝手知ったる場所なのだ。 遠くで、こんにちは。こなちゃん、と聞こえた気がした。 近くで、ギリ、と歯同士が擦れ合う音が聞こえた気がした。 つかさは、シャボン玉で遊んでいた。 年齢を考えれば若干クエスチョンマークが浮かんでしまうのだが、つかさだと違和感がないのはどうしてだろう。 近所でシャボン玉で遊んでいる子供を見て、自分もやりたくなったんだそうだ。つかさらしいな。 ついでに、シャボン液が安売りしていて、十個も買ってきたらしい。正直、そんなにあってどうするんだ。 でも、今つかさはこなたと何を話しているんだろう。つかさはこなの事を、どう思っているのだろう。 そして……こなたはつかさの事を、どう思っているのだろう。そんな事を考えてしまう。 手が、震える。そうであればどんなに良かったか。 結局震えているのは私の心だけで、手など全く震えていない。 私のこなたを想う気持ちは、この程度なのだと、自己嫌悪する。 眩暈がする。立っているのが辛くなり、冷蔵庫にもたれる格好になってしまった。 やけに、肌に冷たさを感じる。それとも、自分が熱いのだろうか。 はたと、思い出した。三人分のジュースを持っていこうとしていたんだった。 「そうそう、くさいんだよ」 「クサイよね」 こなたも、シャボン玉で遊んでいた。 「ジュース持ってきたわよ」 「でかした、かがみ!」 こなたが勢い良くお盆からコップをひったくった。 「有り難う、お姉ちゃん」 つかさは苦笑するようにして、こなたの隣に座った。 私もそう自然に振舞えたらいいのに。そう、理不尽な嫉妬を覚える。 「そだ、かがみもシャボン玉やろうよ」 「え、あ、な、何言ってんのよ!」 出来るはずがない。だって、そのプラスチックのストローは、一本しか、ないのだ。 それは必然的に、私とこなたの間接キスを意味する。 ──同時に私は気付いてしまった。つかさとは、したんだな。 「もしかしてかがみ。間接キスとか意識してるのかにゃぁ?」 「そんなわけ──」 ないじゃない。と立ち上がって抗議しようとしたが、最後まで台詞を言えなかった。 ゆっくりと、私の視界はブラックアウトした。 パタパタパタと、団扇が頭上で扇がれていた。 「かがみ? 気がついたの?」 「あ……うん」 思わず、しり込みする。 状況が掴めなかったのもそうだけど、こなたの顔がとても近かったからだ。 「かがみ、覚えてる? 倒れたんだよ」 びっくりしたんだから。熱もあったし。そう、こなたが続けた。 そっか。私、倒れたんだ。眩暈がするなぁとか思ったら……風邪でもひいたかな。 「──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ。屋根までとんで、壊れて消えた──」 突然、こたが歌い出した。 「ねぇ、かがみ」 何? 「この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない?」 アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね。 「違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。夢は儚い。 私にはそう詠っているように聞こえちゃうな」 …………。 「何でかな。もしかしたら、お母さんの事があるからなのかもしれないけど、私は昔から“永遠”に憧れてるんだ」 こなたの目が、遠くを見ているのは、お母さんの事を思い出しているからなのだろうか。 「だけどね、半分諦めてる。永遠なんて、ただの幻なんだって。かがみや……つかさや、みゆきさんと 永遠に笑って暮らすなんて、不可能なんだって」 どうして、気がつかなかったんだろう。この子は見た目どおり、こんなにも脆く、儚いのだと。 いつも明るく振舞っていたから? 違う。そんなのはただの言い訳だ。私が自分の責から逃れようとしているだけ。 それに、そう。今するべきことは、過去を悔やむことじゃなく、今を後悔しないように行動することだ。 「ちょっと待ってて!」 「え、ちょ、かがみ」 こなたの制止を振り切り、私は台所へ走った。 コイツは酷い勘違いをしている。それを私が正さなきゃいけない。否、私が、正したい。 どこにしまってあっただろうか。上の戸棚に──あった。後は、ベランダだ。 「こなた!」 「あ、何処行ったのか、心配したよ。てか、何持ってるの? たらいと、ハンガー?」 そう、私の両手には、たらいと、変形させて円を描くハンガーが大小二つ、握られていた。 つかさの買って来た、ありったけのシャボン液をたらいにぶちまける。 「何、してるの?」 私はこなたの質問に答えず、たらいに広がるシャボン液に、小さい方のハンガーをつけた。 そして、シャボン玉をつくる。 「…………?」 間髪いれずに、大きい方のハンガーにシャボン液をつけて、大きなシャボン玉を、つくる。 「あ」 二つのシャボン玉は、割れてしまう。失敗だ。 もう一度。もう一度、もう一度、もう一度……。 「ねえ、かがみ。何してるの?」 こなたがそう言った時だった。 「出来た!」 二つのシャボン玉が、片方を包含して、浮いていた。 それらは、運命共同体。どちらかが失われるとき、もう一方も消えてしまう。 そして、数秒を待たずして、壊れて……消えた。 「こなた、やっぱり“永遠”なんてない。私はそう思う」 こなたは俯き、それでもその足でしっかりと立って、私の次の言葉に耳を傾けている。 「だけど、今、一緒に居ることが出来る。大切なのは今、どうするかなんだよ。明日どうなっているか、 一年先にどうなのか。そんな事を心配していたらキリがない。だから、今を精一杯良い方向に生きるんだ」 こなたの頭が少しだけ、動く。 「今の二つのシャボン玉のように、私がこなたを包んで、二人で一緒に、いよう。今を二人で」 「かが、み……」 こなたの頬には、いつの間にか涙が流れていた。 私も、泣いていた。 ──ねぇ。かがみ── ──何?── ──私、かがみの事が、好き……です── ──私もだよ、こなた── コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-18 11 19 48) ☆☆☆☆☆ -- 名無しさん (2010-08-12 07 48 58) 最後ぐっときました -- マイケル (2009-08-17 02 53 54)
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【第14話 壊れた人形】 医者と看護師が駆けつけ、ただちに体温計をとりつける。 ───42度。 こなたは熱湯をかぶったように顔を真っ赤にして、ぐったりとして、視線が合わなくなっている。 医師は瞳孔を確認する。左右の大きさが揃っていないと叫ぶ。 意識がないまま、無菌状態を保つためのビニールテントのついた特殊なストレッチャーに乗せられ、大急ぎで検査室へ。 「脳炎か」 「肺も真っ白だ」 深夜の病院はどよめき、大騒ぎになった。病院中の医者を無制限に集める「ハリーコール」という院内放送が鳴り響く。 緊急施行されたCTスキャンの装置の丸い筒の中で異常な脳波がこなたに痙攣を起こさせる。喉まで差し込んだ酸素チューブが機械にぶつかり、パンパン……と不気味な音を立てつづける。 容態急変を受けてかけつけたかがみ、つかさやそうじろうたち。 そこで見たのは、壊れた空気人形だった。 こなたは喉に穴を開けられ、人工呼吸装置の半透明のパイプがつなげられていた。 装置の蛇腹のポンプがプシュー、プシューという音を立てて動くたびに、機械のように胸を膨らませてはしぼむ。 そこにいるのはもはやこなたではなかった。パイプで連結された人工呼吸装置の一部になっていた。 こなたはもう、ゴム風船の人形だった……。 「すでに瞳孔が開いています。ほぼ脳死状態です」 医師団一同は頭を下げ、暗い顔でためいきをついた。 脳波のグラフは平坦な線が続いていた。 検査画像には、頭蓋骨の中で炎症で腫れて今にも破裂しそうな脳が写っていた。 無菌室では空気中の病原体は殺せても、体内に潜んでいるものまでは殺せない。 そのウイルスが、骨髄で白血球が作られる前で免疫力がゼロなのを見計らい、抗生物質すらかわして、脳に炎症を起こした……。 このウイルスは健康な人でもたいてい持っている非常に弱いウイルスで、赤ちゃんの頃の授乳のときに母親から感染すると医者は説明した。 こなたの目は開いたままだった。澄んだ水のような紫の瞳に、かがみの顔が映っていた。 だが、もうその瞳は、かがみの存在を認識することはない。 たくさんの思い出も、ヲタな話題も、コミケも、つかさに隠れてキスをしたことも、宿題を見せてくれと頼んだことも、アニメイトで特典に喜んだことも ……そして病気になったことも、こなたの脳細胞から消え去ろうとしている。 泣いているつかさを抱きしめながら (……どうしても、連れて行くつもりね) かがみは天井の虚空を見つめて、心の中でつぶやいた。 翌日、滅多に出ない無菌室への入室許可が出た。 マスクとガウンをかぶり、面会者一人ずつ順番に入って、少しだけなら直接こなたに触れてもいいらしい。 そしてそれは、それほど時間が迫っているということを示していた。 かがみの番がきた。 かがみはゆっくりと静かに無菌室へ入る。ベッドの傍らに用意された椅子に座った。 「ねえ、こなた」 かがみはシーツ越しにこなたの体に手を当て、呼びかける。シーツは前に入ったそうじろうやゆい姉さんたちの涙でグッショリぬれている。 プシューッ、という人工呼吸装置の呼吸音が返事のように返ってきた。 「私達が、最初に出会った頃のこと覚えてる?」 ……プシューッ 「たしか、つかさの紹介だったわよね」かがみは懐かしそうな目になる。 ……プシューッ 「外人さんを不審者って……まったくどんな奴かと思ってた」 ……プシューッ 「私と出会う前のあんたって、本当は、どんなんだったの?ねえ、きっと、私がまだ知らないことががたくさんあったんだろうね」 ……プシューッ 「ねえ、神様は私に、あんたの18年のうちの最後のほうを少しだけくれたんだね」 ……プシューッ 「あんたのお母さんには最初のほうをくれたんだね。ね。これからの時間は、またお母さんのものみたいね」 ……プシューッ 「これから先は、また私が知らない時間になるのね。同じ運命になるって言ったけど、どうやらそれはちょっと思い違いみたいね」 ……プシューッ 「ね。こなた。無菌室へ入る前の約束をしていい? 今は、まだ、私にくれた時間だからいいよね?」 ……プシューッ こなたは気管に直接人工呼吸装置の管を繋がれており、顔の上には何もなかった。 騒がしい胸元にくらべ、唇は静寂の中にあった。 かがみは立ち上がり、天井の虚空を見あげた。 そしてこなたの顔の上に覆いかぶさり、────約束を果たした。 「脳の腫れが取れてきている……っ!」 医師団は検査画像を見て再び驚いていた。 「脳波も反射も正常に戻りつつある。まったく、研究段階の治療はなにが起こるかわからんなあ……いったいなんの薬剤が功を奏したのやら……」 院内はその話題で持ちきりだった。 無菌室の面会用廊下でつかさも驚いていた。「すごいね……お医者さんって。わたし絶対なる!」 またかがみと抱き合って涙を流していた。今度はうれし涙だった。 「私、絶対、琉球大学医学部に入るよ!」 「絶対に現役で入りなさいよ! さ、家へ帰って今日から毎日徹夜で頑張りなさい。現役生は最後まで伸びるって言うじゃない」 「私絶対イリオモテヤマネコと一緒に人体解剖するよ!」 かがみがこなたと口づけを交わした、そのとき。 神社の奥から探し出した最強の除霊札を小さくたたんだものを口移しでこっそり与えたのだ。 無菌室の片隅にいるはずのかなたに見られないように……。 まるで全部あきらめて、あたかも最後の別れをしているようなセリフをのたまいながら……。 かがみは勝ったと、久しぶりに笑顔になった。 そして同時に嬉しい結果がやってきた。 血液検査の結果、こなたはかがみと同じB型になったそうだ。 「さらに、白血球の数がゼロから500になりました。非常にゆっくりですが、新しい骨髄が働き始めているようです」と医者。 苦しかった日々の成果が見え始めた。 「おお、こなたが、こなたの目が開いた!!うわああああ!!あああああ」 そうじろうは狂ったように叫んだ。 廊下でオイオイ泣いているそうじろうの声を尻目にかがみは無菌室内への専用電話の受話器を上げ、コールを鳴らす。 こなたは仰向けのままゆっくりと手だけ動かして、無表情のまま枕もとの受話器を取って耳に当てる。 「……」 「こーなーた、起きなさい」 かがみは微笑みながら、トントンと窓を叩く。 「……」 「こーなーた、ほら、コミケの開場時間よ」 フフ、ともう一回窓を突っついた。 「……」 こなたはかがみの方にちらりと目を向けた。 「ほら、欲しがってた特典よー」 かがみはアニメイト大宮店で買ってきたクリアファイルの束をブルブル振って見せた。 「ところで、こなた、来期のアニメ何見るの?」 「……誰?」 第15話:別れへ続く コメントフォーム 名前 コメント やめてくれええええええ…! -- 名無しさん (2021-01-17 04 10 07) シリアス好きな自分にはたまらないけどハッピーエンドになると信じてます!!頑張って下さい!! -- 名無しさん (2008-10-03 20 26 51) ちょ・・ちょっとぉぉぉ!!!!! 何!?あの最後の言葉は? 誰?ってιιιι うわぁぁぁ!!!! -- チハヤ (2008-10-03 10 32 23) うわああああああああああ!!!!!? でもこなたん生き返った!!よかった!! -- 名無しさん (2008-10-03 03 25 03) ちょおおおぉぉぉおぉおっっ!!!!! 思いっきり叫んじゃいましたよぉおっ! -- 名無しさん (2008-10-02 23 30 21) 待てっ、逆に考えるんだ! 記憶がないということは、調教し放d(ry -- 名無しさん (2008-10-02 23 03 19) ある意味こなたは必ず帰ってくる!! 信じて続きを待ってます。 -- kk (2008-10-02 19 11 46) こなたああああああああああああああああああああ -- 名無しさん (2008-10-02 03 13 48) いやぁぁああこなたぁぁあ -- 名無しさん (2008-10-02 01 49 44) たのむから~~~~ -- 名無しさん (2008-10-02 01 16 10) いやああああああああああ -- 名無しさん (2008-10-01 23 00 46) うわああああああああああああああああ -- 名無しさん (2008-10-01 22 21 35)
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《邪神 かがみ(062)》 キャラクターカード 使用コスト0/発生コスト2/緑/AP10/DP10 【制服】 このカードが登場した場合、このターン、自分が次にプレイする「邪神 つるぎ」1枚は、使用コスト-2を得る。 (甘いのです、チョコだけに。) ささみさん@がんばらないで登場した緑色・【制服】を持つ邪神 かがみ。 登場した時に次にプレイする邪神 かがみの使用コストを2減らす効果を持つ。 邪神 かがみのコストを2減らせるので展開しやすくなる。 このカード自体はコスト0なので出しやすく、コスト消費を抑えやすい。 《月読 鎖々美(013)》《蝦怒川 情雨(026)》《邪神 つるぎ(042)》《邪神 たま(086)》とはサイクルをなし、対象が異なるだけで効果は全く同じ。 カードイラストは第1話「明日からがんばる」のワンシーン。フレーバーはその時のかがみのセリフ。 関連項目 《月読 鎖々美(013)》 《蝦怒川 情雨(026)》 《邪神 つるぎ(042)》 《邪神 たま(086)》 収録 ささみさん@がんばらない 01-062 編集
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こんな話を知っていますか? と不意にゆきちゃんがお話を始めた。 「あるところに、クマとキツネとウサギがいました。彼らはある時、行き倒れ ていた旅人を見つけて、その旅人を助けることを決めたんです。 クマはその力を活かして魚を取ってきました。キツネはその知恵を活かして 果物を取ってきました。けれど、無力なウサギは何も取ってくることが出来ず、 何も旅人に与えることができなかったんです……」 「そっ、それで、ウサギはどうしたの?」 何故ゆきちゃんがこんな話を始めたのかは分らない。けれど、私はウサギが どうしたのか気になった。 「つかささんは、どうしたと思います?」 けれど、ゆきちゃんは私の質問を質問で返してきた。 「えっ、えっ、その、あの……」 わからない。だから私は口ごもるしかなかった。 「……ウサギは火に飛び込んで、自分を食料として旅人に与えたんです」 ゆきちゃんは普段とは比べ物にならない低い声で、端的にそう言った。 「……ゆきちゃん……どうして、そんな話をするの?」 私の声は涙声になっていた。 私は最近様子がおかしいお姉ちゃんのことで悩んでいた。一生懸命考えたけ れど、どうしていいのか分らなかった。だから、ゆきちゃんの家にやって来て 相談した。 まだ大学入試が終わっていないから、こなちゃんには心配をかけられないし、 なによりゆきちゃんならきっと助けてくれると思ったから。 なのに、悩みを打ち明けるにつれてゆきちゃんからはいつものあたたかな笑 顔が消えていって、そして、突然こんな話を始めた。 涙が溢れてくる。どうしてこんな話をするのだろう。前に、こなちゃんがみ んなを動物に例えた話をゆきちゃんにも教えてあげた。だから、ゆきちゃんは 分っている。ウサギが誰のことを指しているのか。 「どうして、ゆきちゃん? どうして困っている私に、そんな意地悪な事を… …言うの?」 私は我慢ができなくなり、声を上げて泣きだしそうになったその時だった。 不意にあたたかなぬくもりに包まれたのは。 それは、私がゆきちゃんに抱きしめられたからだった。 「……ごめんなさい、つかささん」 「……ゆきちゃん?」 頭が混乱して、私は何がなんだか分らなかった。だから、ゆきちゃんの次の 言葉を待った。 「……私は、かがみさんが何を悩んでいるのか知っています。そして、その原 因の一端は……間違いなく私にあるんです……」 「えっ? ゆきちゃん、どういうこと?」 ますます混乱してそう尋ねると、ゆきちゃんの抱きしめる力が少しだけ強く なった。 「……つかささん、話を聞いてください。理解できないかもしれませんし、嫌 悪するかもしれません。けれど、力を貸してください。かがみさんを救うため に……」 「……お姉ちゃんを、救う?」 ゆきちゃんが何を言いたいのかはわからない。けれど私は、ゆきちゃんも私 と同じ様にお姉ちゃんのことで悩んでいたことがわかった。 「はい。その話を聞いて、私の事を嫌ってもかまいません。けれど、かがみさ んを先ほどの話のウサギに…しないために、どうか……力を…貸して…くださ い……」 顔を見上げた私の頬に、ゆきちゃんの瞳からあたたかなしずくが落ちてきた。 そして、ゆきちゃんは私を抱きしめたまま声を上げて泣き出してしまった。 困った私は、泣き止まないゆきちゃんを落ち着かせようと背中を優しく撫で た。 『「守る」という事』 「何が「守る」よ! そんなに軽々しく言える事じゃないでしょう!」 食後の一家の団欒は、私の怒声と共に終わりを告げてしまった。 「……なっ、なにむきになっているのよ、あんたは!」 まつり姉さんの言葉に、頭にのぼった血がすぅーっと引いていくのが分った。 そう、まつり姉さんの言うとおりだ。なんということはないテレビドラマの 一つのシーン。何事もまじめに取り組もうとはしない主人公が、恋人に涙なが らに引っ叩かれて改心し、君の事を一生守りつづけると告げるシーンが流れた だけ。 そして、まつり姉さんが、こんなこと言われてみたいと言っただけ。 ただ、私は一度引っ叩かれたぐらいで改心して、守り続けるなどと軽々しく 言うその主人公が好きになれなかった。だから、「そんなにぺらぺら「守る」 なんて事を言う男なんてろくなもんじゃないわよ」とつっかかってしまった。 そして言い争いをしているうちに、怒声を上げてしまった。ただそれだけ……。 「お姉ちゃん……」 「どうしたんだい、かがみ?」 つかさやお父さん、いのり姉さん達みんなが私を心配そうに見ていた。 「……ごめん。まだ入試のテンションが抜けないみたい……。今日はもう休む わ……」 いたたまれなくなり、私は皆にそう告げて立ち上がった。 「ごめん、つまらない事でむきになってた」 とまつり姉さんに謝りはしたけど、「まちなさい、かがみ!」という言葉を背 中に受けても、私は振り返ることなく自分の部屋に戻った。 部屋に戻るなり、私はそのままベッドに転がった。 「……だめだ。こんなことじゃ……」 そう声に出して自分を叱咤しても、何もする気になれない。 ふと何とはなしに視線を横にやると、枕元においてあった携帯電話が着信を 知らせていた。 携帯を開くとメールが1件来ていた。送信者はこなただ。 メールを開くと、 『いよいよ明後日が本番だよ! 大丈夫。かがみんへの愛のために、今度こそ 絶対合格するから! だからさ、とりあえず試験が終わったら私とデートして ね! 自分で決めた事とは言え、かがみ分が不足しているからさ』 いかにもあいつらしいメールだった。 「まったく、あいつは……」 私は苦笑するしかなかった。 私は何とか第一志望の大学に合格する事ができた。けれどこなたは第一志望 の大学に、私と同じ大学に合格する事はできなかった。 でも、こなたは本当に頑張ったと思う。3年生になってからだったとは言え、 今までアニメやゲームに費やしていた時間の全てを勉強につぎ込んで頑張った。 ただ私と同じ大学に行くために。……それだけを目標に。 私は返信メールに、気を抜かないで頑張る事と体調管理をしっかりする事を 自分でも細かすぎるだろうと思うくらい書き込んだ。そして最後に、『O,K よ』と書き込み、送信した。 すぐにメールが返ってきた。 『大丈夫だよ。心配性だな~、かがみんは。でもありがと。かがみんと楽しい デートをする妄想を糧にして頑張るよ』 そんなメールに、猫口で微笑むこなたの写真が添付されていた。 久しぶりに見るこなたの姿に、少しだけ気持ちが和らいだ。 第一志望がダメだったこなたは、第二志望校の試験勉強に集中するために、 試験が終わるまで私たちには会わないと決めてしまった。だから、もう2週間 近くこなたに会っていない。 「……気を抜かないで頑張れって、メールしたばかりじゃない」 寂しさに耐え切れず、電話をかけようとした自分に苦笑する。 携帯を閉じ、それをポンと枕元に放り投げて、私は天井を見上げた。 「……「守る」か……」 無意識に私の口からそんな言葉が漏れた。 そして沈黙。この部屋には私しかいないのだから、それは当然のこと。けれ ど私はその沈黙に耐えられなかった。 「私にできるのかな……ねぇ、こなた。私はあんたを守っていけるのかな?」 小声で、私はここにはいないこなたに尋ねた。 返事はない。 「ねぇ、答えてよ、こなた。かがみなら大丈夫だよって言ってよ」 返事はない。……残酷なまでの静寂だった。 「……当たり前じゃない。何を考えているのよ、私は……」 力なく苦笑する私の頬を涙が伝って行く。だめだ、と思っても止める事がで きない。 「……強くならないといけないのに。私が強くなって、こなたを守らないとい けないのに……」 そう、『愛しい』こなたを守るために、私は強くならなくちゃいけないんだ。 ……誰も助けてはくれないのだから……。 ★ ☆ ★ ☆ ★ あの時の私は自分の事ばかりで、ただ知っている知識を口にしただけだった んです。 あの人の事を思っての言葉ではありません。ただ拒絶をしただけなんです。 ……どれだけあの人は悩んだのでしょうか? 誰にも相談できない難題を抱 えて、たった一人で悩んだのでしょうか? そして、どれだけ悩んだ末に、私に……私なんかに相談を持ちかけたのでし ょうか? 相手の事をまるで考えない自己中心的な私の言葉を聞いて、あの人はどれだ け絶望したのでしょうか? 私はつかささんに全てを話しました。話しているうちに、あの人の、かがみ さんの心をどれだけ傷つける事を、そして追い詰める事を言ってしまったのか、 今更ながらに思い知らされて……自分の愚かさを再認識させられて……。 私は何度もつかささんに謝りました。「ごめんなさい、ごめんなさい」と何 度も。直接かがみさんには謝れないから。あわせる顔がないから。 ……いいえ、違いますね。私はかがみさんに会うのが怖いから、つかささん に謝って許してもらいたかったのだと思います。少しでも自分が楽になりたい から……。 「……大丈夫だよ、ゆきちゃん。私はゆきちゃんを嫌ったりしないよ」 優しい声。そして、私に向けられるつかささんの顔は笑顔でした。 つかささんは私の懺悔を聞いても、私に笑顔を向けてくれました。 私の思っていたとおりに……。 その笑顔で私は気持ちが楽になりました。 ズルイですよね? 私はつかささんが許してくれる確信がありました。 つかささんは優しいから、こんな私のことも許してくれると思っていました。 期待をしていました。 きっと、あの時のかがみさんも今の私と同じだったのだと思います。かけて ほしかったのは励ましの言葉。向けてほしかったのはあたたかな笑顔。 思い起こしてみると、『みゆき、あんたを親友だと思うから話すんだけど』 と、あの時かがみさんはそう前置きをしてから私に話してくれたんでした。 私を親友だと言ってくれたんです。私なら苦しみを和らげてくれると信じて くれていたはずです。なのに、それなのに私は……。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 大学入試を終えるまでは良かった。合格に向けて一心不乱に勉強をしていた 時は、余計な事を考えている暇はなかったから。 考えていた事といえば、合格後のこなたとの楽しいキャンパスライフ。広い 部屋を借りての共同生活。きっと楽しい日々だろうと私は胸を膨らませていた。 けれど現実は上手くはいかず、こなたは試験に落ちてしまった。 私もショックを受けたけれど、落ちた当人であるこなたの落胆は酷かった。 合格発表のあの日、ネットを利用して自分の不合格を知ったこなたは、私の 家にわざわざやってきて、私に謝った。 「……ごめん、かがみ。私、落ちちゃった……。でも、でもね、まだ第二志望 に合格すれば、かがみといっしょに居られるから。一緒の大学には行けなくて も……ほら、もともと学部が違ったら講義も別なのがほとんどだし……。 次こそ頑張るから。絶対に、絶対に合格するから」 涙を見せまいと無理に笑おうとするこなたを私は抱きしめた。 必死に涙を堪えているこなたがあまりにも痛々しくて、かける言葉が見つか らなくて……私は抱きしめる事しかできなかった。 その時、私の腕の中で嗚咽が漏れるのを我慢しながら泣いているこなたを見 て思った。これから先に何があろうと、私がこなたを「守る」のだと。私が守 っていかなければならないのだと。 こなたのこんな顔を見たくない。泣き顔や悲しい顔は見たくない。笑ってい てほしい。そう思ったから……。 こなたを落ち着かせてから、私は手始めにこなたの第二志望校の入試対策を 行おうと考えた。幸いな事に試験までは2週間以上余裕があったし、この1年 でこなたはしっかりと全ての科目の基礎を身に着けているのだから、あとはど うしても苦手な部分を潰していけば良いだけのはずだ、と。 しかし、その事を話すと、こなたは首を横に振った。 「気持ちはすごく嬉しいけど、大丈夫だよ、かがみ。それくらいの事なら私一 人でも大丈夫だから……」 「でも……」と私は食い下がったけれど、 「お願い、かがみ。私を信じて……」 そんなこなたの懇願に、同意せざるを得なかった。 「ありがとう、かがみ。かがみのおかげで元気が出てきたよ。愛の力は偉大だ よね~」 私の同意に、先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら、こなたは軽口を言 って笑った。いつものこなたの笑顔。私の大好きな笑顔だった。 「ばっ、バカ、そういう発言は自重しろ!」 「真っ赤になったかがみん萌え~」 いつもと同じ緊張感のないやり取りがとても嬉しかった。 だからその日は笑顔でいられた。笑顔でこなたと別れられた。幸せな気持ち でいられた。……だけど、それは長くは続かなかった。 合格発表から3日後。たった3日なのに、私はこなたに直接会う事ができな いことが寂しくて仕方がなかった。 予定をたくさん入れていた。まずは合格祝いに、こなたと二人で少し値のは るレストランで昼食を食べて、帰りはゲマズに行って買い物をする。随分とア ニメやマンガを絶っていたこなたは、目を輝かせて嬉しそうに商品の物色を始 める。私はそれを「やれやれ…」とか言いながら……。 「……しかたないわよね。こなただって我慢しているんだから」 こなたの事を「守る」と決めたのに、私の方が先にまいってしまった。こな たに会えないことが辛くて仕様がない。 「2週間とちょっとじゃない。すぐよ、すぐ」 そう自分を言い聞かせる。 試験が終わればいくらでも遊ぶ事ができる。そして春になれば、こなたとの 共同生活を始めるんだ。 2週間くらいあっという間に過ぎていく。寂しいけれど、私はこなたを信じ て待っていればいいんだ。 「でも、もし今度も駄目だったら……」 自分が発したその言葉に、私の体は凍りついた。気落ちしているから思考が ネガティブになっているだけだと思おうとしても、一度芽生えた不安は消えて はくれなかった。 「……大丈夫よ。もし駄目でも、私と一緒に暮らしながら予備校に通えば……」 支離滅裂な事を言っているのは自分が一番分かっていた。 仮にこなたが予備校に行く事になったら、私の両親もこなたのお父さんも共 同生活を認めてはくれないはずだ。当たり前だ。大学も勉強をする場に違いな いがある程度の自由はある。けれど予備校は試験に合格するためだけに行くと ころ。翌年の合格のために必死になって勉強をする場所だ。予備校の寮かな にかに入って、勉強するのが本来の姿だろう。認めてくれるはずがない。 不安な思いが膨らんでいく。こなたと離れ離れになるかもしれない。最低で も1年はこなたと離れ離れになる……。たった3日会えないだけで寂しくてた まらないのに。それが1年も続くと思うと……。 体が震えだした。怖い、怖くて仕方がない。 「そうだ、私も予備校に通えば……。もっと上の大学を目指すと言って……」 私の思考は、すでに最悪の事態が現実となる事を前提としていた。けれど私 はその事をおかしいと思うこともできなかった。 「……お父さんやお母さんたちがあんなに喜んでくれたのに、そんな事できる わけないじゃない」 それに、4人も子供がいる我が家の財政状況を考えると、そんな余計なお金 をかけられるはずがない。 その後も色々と浅知恵を出しては自分で否定する事を繰り返した。 ……八方塞だった。もしもこなたが試験に落ちてしまったら、何も手立ては ない事が分った。そして同時に自分がどれだけ無力なのかが分った。 「守れない。私はこなたを守れない……」 悔しくて涙がこみ上げてきた。私はこなたを守りたいのに。 「頑張らないと……」 私がどうにかしなければいけない。今のままでは何もできないから。もとも と私とこなたの関係は世間に認められるものではないのだから。 そう決意を固めようとした。それなのに、私のネガティブな思考は、 「守っていけるの? 私が……」 そうやってすぐに不安を増幅させる。 「私が守っていけるの? 世間の冷たい目から、こなたを守っていけるの?」 今後大学生活が終わっても、私はこなたとずっといっしょにいたい。一緒の 人生を歩んで行きたい。けれど、私は本当に守れるのだろうか……。 不安は広がっていき、私の心を侵していった。 それから何日かは何とか耐える事ができた。夜はほとんど眠れなかったけど、 頑張って普段の私でいようと努力した。けれど、 「お姉ちゃん、心配なのは分かるけど、こなちゃんならきっと大丈夫だよ」 ある時つかさにそう言われたから、私は普段どおりの私ではいられなかった ようだ。 その時はつかさに話をあわせて、「そうなのよ。一応友達だから、心配は心 配というか……」とか言っておいた。 「他に何か困っている事があるなら言ってね。私じゃ役に立たないかもしれな いけど……」 でも、つかさにそう言われてしまった。つかさは妙に鋭いところがあるから、 私が別の悩みを抱えているの感じ取ったのかもしれない。 ……その日までが精一杯だった。日が経つにつれて積もる不安は、私の精神 力の許容量を超えようとしていた。 一人で悩むのはもう限界だった。けれど一生懸命頑張っているこなたに余計 な心配を掛けたり、プレッシャーを与えたくないと思った。 つかさにもこんな事は相談できない。今まで秘密にしていた私とこなたの関 係を知ったら混乱してしまうだろうし、つかさは嘘をつくのが下手だから、誰 かに私たちの関係を漏らしてしまうかもしれない。 だから私は、信頼できる親友に相談する事にした。 そう、みゆきなら助けてくれると思ったから。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 相談したい事があるとかがみさんから連絡があり、私はお茶菓子と紅茶を用 意して待っていました。 かがみさんの家から私の家までは距離があるので、どこかで落ち合う事にし ませんかと提案したのですが、人目があると話しにくいことだからと断わられ ました。 私はかがみさんの相談したい事とは、泉さんの事だと推測していました。 私にもかがみさんは親しい友人として接してくれていますが、泉さんは別格 な存在だと分っていました。 私やつかささんといっしょに居るときも、かがみさんは泉さんに話を振る事 が一番多いんです。もちろん、私はそのことに不満なんてありません。むしろ お二人のあたたかなやり取りが大好きでした。 お二人は本当に仲が良くて、大学へ進んでからもいっしょにいたいと、同じ 大学への進学を決めたほどです。あいにくと、泉さんが残念な結果になってし まいましたが、近くの第二志望校への合格に向けて頑張っているはずです。 だからきっと、かがみさんの相談事というのは、泉さんの手助けをしたいと いう事だと思っていました。そして、そのような相談事であれば、微力ながら 喜んでお手伝いするつもりでした。 本当に私は、お二人の「大切な友人」へのあたたかな心遣いとやり取りが大 好きだったんです。 約束の時間どおりにかがみさんは我が家を訪ねて来られました。 部屋に案内し、お茶菓子と紅茶をお出ししました。そして、かがみさんは私 に相談事を話して下さいました。それは私の考えていたとおり、泉さんの事で した。 ……けれど、その内容は私の想像していたものとは次元が違っていました。 「……ごめん、今まで黙っていて。でも、真剣なの。私もこなたも……。だか ら、お願いみゆき、力を貸して。私一人じゃ、不安で仕様がなくて…どうした らいいのか分らないのよ……」 そうかがみさんが締めくくったことから、ようやく話が終わった事が分りま した。けれどあまりにも突飛な内容に、私は唖然とするしかありませんでした。 私は、かがみさんと泉さんは大切な友人、つまり「親友」だと思っていまし た。けれど、それは違うと、お二人は高校3年生の春から、恋人」なのだとい うのです。 「……同性愛…ですよ……」 困惑する私の思考は、言葉となって口から出てしまいました。 かがみさんは、「うん、分っている」と頷きました。 「……同性を愛する思考をお持ちの方がいらっしゃる事は知っていました。で すが……」 「あっ、その、やっぱり引くわよね……」 かがみさんが顔をうつむけて言いました。 同性愛者と呼ばれる方たちの事は知識としては知っていました。そして、そ のような方たちのことについて、私はそのような思考の方もいるんですね、と しか思っていませんでした。 けれど、私の友人がそのような思考を持った方だった事を知って、私は戸惑 い、正常な判断をする事ができませんでした。 何故かがみさんが、何故泉さんが……。ぐるぐると頭の中で何度も何故と問 い続けて……私はゆっくりと口を開きました。 「……同性愛というものの事例はいくつもあります。国によっては同性での婚 姻を認めるところもあるほどです……。けれど、それは少数の意見です。大半 の人間はその様な思考には否定的です……」 何故こんな事を言ってしまったのでしょう。けれど、私の口は止まりません でした。 「生物が生きてなすべき最大の事柄は、種の保存です。ですから、非生産的な そのような思考が多数派にはなりませんし、なってはいけないんです。 ……禁忌とされる事柄は、禁忌であるゆえに人の好奇心を刺激します。です から、性倒錯の事柄を題材にした娯楽も存在するのだと思います。……けれど、 それは虚構の中でしか許されないと……思います」 声は震えていましたが、私は淡々と一般論を話していました。 「……分って…いるわよ……」 かがみさんの震えた声を聞いても、やはり私の口は止まりませんでした。 「誰からも理解されない状況は、強いストレスになります。……そしてそのは け口になるのは、近くにいる存在か、自分自身だけです……。 お願いです……最悪の…事態になる前に……」 ダン! とテーブルを叩く音が響きました。 「……もうやめて……もうやめてよ! 分っているわよ、そんなこと! でも、 私は絶対にこなたを傷つけたりなんかしないわよ! 私が、私がこなたを守る んだから!」 涙を流しながら、そうかがみさんが叫びました。 けれど、私は涙声になりながら話を続けました。 「…無理です……それは、無理です。かがみさんは、泉さんを守りたいと仰っ ていました。ですが、「守る」ということは並大抵の苦労ではないと思います。 わずかの間……想い人に会えないだけでも精神的に追い詰められて、私に、 他の人にすがってしまうかがみさんが、お一人で泉さんを守る事は…できない と……思い…ま……す。お願い…ですから……いつもの、お二人で……いて… …下さ…い……」 自分の言葉で私はようやく理解しました。何故こんな事をかがみさんに言っ ていたのかを。 ……私のエゴだったんです。私は、大切な友人と過ごしたこの三年間の日々 を、何よりも大切な宝物だと思っていました。大好きだったんです。かがみさ んたちとの、掛け替えのない友人たちとの毎日が。 かがみさんと泉さんの関係を肯定してしまったら、私の大切な思い出が壊れ てしまうと思ったんです……。だから、否定したかったんです。拒絶したかっ たんです。高校生活が終わっても、何年経っても、私はずっとずっと大切な友 人でいたかったんです。だから、だから私は、私の思い出の中のかがみさんと 泉さんでいてほしかったんです。そんな事が出来るわけがないのに……。 私は泣き崩れました。ただ悲しくて、悲しくて……。 好き勝手な事を言って、我儘を言って、そしてただただ泣いている私を、か がみさんはどんな目で見ていたんでしょうか? 泣きじゃくる私の頭を不意に誰かが撫でました。この部屋にいるのは私とか がみさんだけなのですから、それが誰なのかは考えるまでもありませんでした。 「ごめん、バカな相談をしたわ……。みゆきはなにも悪くないから、泣かなく ていいよ。……私の事、嫌って。……私が全部悪いんだから。みゆきは悪くな いんだから。ねっ?」 かがみさんはとても優しい声でそう言って、弱々しく笑いました。 「みゆきに迷惑をかけたりしないから。最悪の事態になんてならないから。私 が強くなる。私が強くなってこなたを守るから。ごめんね、困らせて……」 かがみさんはそう言って部屋を出て行きました。 私はただ泣いていました。自分が何をしたのかも理解せずに。 私は最低な事をしてしまったんです。困って、苦しんで、どう仕様もない時 に、私を頼って来てくれた大切な友人を傷つけて、追い詰めたんです。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 「……私は、クマなのでしょうか?」 「えっ? ゆきちゃん、何を……」 心の中だけで呟くつもりだった言葉が口から漏れてしまいました。 私は言葉を続けました。 「私はあの時、ただ知識をひけらかしたんです。さも私の口にした言葉だけが 唯一の正論であるかのように言って。……私が言っている事が正しいと思わせ ることができれば、私の我儘を通せると考えたのだと思います……。 先ほどの話の中で、クマは簡単に魚を取って来たんですよね? なのに、無 力なウサギが困っているのを見ても、クマはウサギを助けませんでした。ただ、 自分の力を誇示したかったのだと思います。……自分だけが良ければいいと考 えていたのだと思います。私と同じよ…」 「違うよ!」 私の言葉をさえぎって、つかささんは大きな声で否定しました。 「ゆきちゃんは、クマさんなんかじゃないよ! ほわほわなヒツジさんだよ」 つかささんは真剣な顔でそんな事を言いました。けれど、すぐに顔を赤くし て……。 「えっと、その、胸大きいから、こなちゃんが言ってたとおりウシさんかもし れないけど……」 「えっ、あっ、すっ、すみません!」 私はずいぶんと長い間つかささんの顔を胸に抱いていた事に気づき、慌てて 体を離しました。 苦しくてさぞ不快だったでしょうに、つかささんはそんな体制のまま私の話 を聞いてくれていたんです。 顔を真っ赤にする私に、 「よかった。いつものゆきちゃんに戻ってくれて」 つかささんはそう言って輝かんばかりの笑顔を見せてくれました。 「ねぇ、ゆきちゃん。私は頭が良くないから、何が良い事で何が悪い事なのか は分らないけど、大丈夫だよ。お話とは違うよ。 だって、ウサギさんには優しいキツネさんがついているんだから」 つかささんの言葉の意味を私はすぐに理解しました。 「でもね、今、キツネさんは忙しいから、イヌさんとウシさんも力を貸してあ げないとダメだと思うんだ」 「……あの、ヒツジさんにしては頂けないでしょうか?」 私の要望に、つかささんは、あははっと無邪気に笑いました。 「私の方からお願いするね。お願い、ゆきちゃん。私に力を貸して。お姉ちゃ んを助けるために」 つかささんのその言葉に、私は「はい」と答えました。何度も、何度も。 こみ上げてきた涙でまたもや泣き崩れてしまった私を、今度はつかささんが 抱きしめてくれました。 「大丈夫。大丈夫だよ……」 そう言って、私の頭を撫でてくれるつかささんの手はとてもあたたかくて、 優しくて、私はいっそう涙がこみ上げてきて……。 つかささんは私が泣き止むまで、ずっと私を抱きしめてくれました。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 静かに目を開くと部屋の天井が目に入った。 どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。時計に目をやるともうお昼に なる時間だった。 「まったく、つかさじゃあるまいし……」 そういえば、最近ろくに寝てなかったから、そのツケがまわったのだろう。 久しぶりの睡眠で少しは体調が良くなっているはずなのだが、気だるい感じ がまったく抜けない。 「……まつり姉さんを怒らせて、お父さんやお母さんたちも嫌な気持ちにさせ て……。何をしているのよ、私は……」 昨日の夜の事を思い出し、私は嘆息する。 「これじゃあ、みゆきの言ってたとお……」 弱気な発言を何とか飲み込むと、私はパンパンと両手で顔を叩いて気合を入 れた。 「強くなる……。うん、私は強くなるんだ!」 昨日は失敗したけれど、頑張る。私は強くなる。泣いてばかりいられない。 そう決意した私は、とりあえず空腹を訴えるお腹を満たすために台所に向か う事にした。 「あら、かがみ。ようやく起きたの?」 台所に着くなりお母さんが声をかけてきた。けれど食卓には誰もいない。休 日のこの時間帯なら、いつもであれば誰か一人ぐらいはいるはずなのに。 「いのりやまつり達はみんな外に遊びに出かけたわよ。お父さんはもう少しし たら来ると思うわ」 キョロキョロしていた私に、昼食のおかずを並べながらお母さんがそう教え てくれた。 「そうなんだ。……あの、お母さん、昨日はごめんなさい。私……」 私は、昨日みんなを不快にさせた事を謝ろうとしたけど、 「謝らなくていいわよ。誰だって機嫌が良くない時はあるんだから。ほら、か がみ。顔を洗っていらっしゃい。すぐにお昼ご飯にするから」 お母さんはそう言って微笑んだ。 「うん。その、ありがと……。顔、洗ってくる」 どんな顔をすれば良いのか分からなくて、私は逃げるように洗面所に向かっ た。 それから顔を洗って食卓に戻ると、お父さんがいつもの席に座っていた。 「おや、かがみ、起きたのかい」 私が入ってきた事に気づくと、お父さんは笑顔で話しかけてきた。 「うん。つかさみたいな事しちゃった。…あっ、その、お父さん、昨日はごめ んなさい……」 「だから、かがみ。謝らなくても良いって言ったでしょ?」 お盆に三人分の茶碗を乗せたお母さんが代わって答える。 「そうだよ、かがみ。お父さんやお母さんは怒ってないよ。でも、まつりには 後で謝って置いたほうがいいんじゃないかな」 「まつりだってもう気にしていませんよ。ほら、朝、食べてないからお腹すい たでしょう? 座りなさい」 食卓の上には美味しそうな料理が並んでいる。私はお母さんに促されるまま 席に着いた。 「うん。いただきます……」 そう言って私は黙々と昼食を食べた。お父さんとお母さんもしばらく何も言 わずに食べていたけれど、 「……こなたちゃんのことよね?」 不意にお母さんがそう呟いた。 「…………」 私は料理に伸ばした手を止めて、箸と茶碗をテーブルに置いた。 「……一応友達だからさ、やっぱり心配は心配なのよね。あいつの事だから、 受験票を忘れたりしないかとか考えていたら、ちょっと不安というか……」 私は何とかいつもの調子で答えた。 「そう……。たしか、明日が試験日だったわね。きっと大丈夫よ、かがみ」 「そうだね。こなたちゃんも頑張っていたみたいだしね」 お母さんとお父さんが優しい言葉を掛けてくれる……。私は二人に同意しよ うとして……。 「あっ、あれ、どうして……」 私の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれだしていた。 「かがみ……」 「かがみ、どうしたの?」 私を心配するお父さんとお母さんの声。 「なっ、何でもない、大丈夫。大丈夫だか……」 何故だろう。涙が止まらない。堪えようとしても、ぜんぜん堪える事が出来 ない。 「かがみ!」 泣き止まない私をお母さんがぎゅっと抱きしめた。 「あっ、ああっ、うわぁぁぁっ~!」 まるでそれがスイッチだったかのように、火がついたみたいに私は泣き叫ん だ。 「大丈夫、大丈夫よ、かがみ……」 お母さんの優しい声。 「そうだよ、大丈夫だよ、かがみ……」 お父さんのあったかな声。 私の耳にはずっと二人の声が聞こえていた。 ……どれだけ泣いていたのか分らないけれど、私が泣き止むまで、お母さん、 そしてお父さんも私を抱きしめてくれていた。 「おちついた? かがみ……」 「何も心配要らないよ。お父さんたちがついているからね……」 ようやく泣き止んだ私に向けられる、二人の優しい笑顔。全てを受け入れて くれそうな笑顔。 お父さんとお母さんなら……きっと分ってくれる。そう思った。思いたかっ た。けれど……。 みゆきの顔が頭をよぎった。ショックを受けて泣き出してしまった、あの時 のみゆきの顔が……。 ……どうして、こんなに私は弱いんだろう。 みゆきが言っていたとおりだ。私はすぐに他の人にすがってしまう。 こんな私がこなたを守る事なんてできない……できるはずがない。 『誰からも理解されない状況は、強いストレスになります。……そしてそのは け口になるのは、近くにいる存在か、自分自身だけです……』 みゆきはそうも言っていた。 本当にみゆきの言うとおりだ。ただ、弱い私は周りの人たちばかりを困らせ てしまう。傷つけてしまう。 ……私はどうすれば良いのだろう。 私は、私は……こなたの側に居ないほうがいいの? 誰にも聞けないその問いを飲み込んで、私はまた泣き出してしまった。 「守る」という事・後編へ続く コメントフォーム 名前 コメント ( ; ; )b -- 名無しさん (2023-03-31 23 55 01) GJ ! このままだとあまりにもかがみが救われないので、ぜひ続きを 書いて欲しい -- 名無しさん (2008-06-12 21 49 45)