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デスクライトに揺らめく2人が、視界とともに何もない黒へ飲まれていく。 どうしてだか、あの2人の背を見続けることより、この暗闇に安堵を覚えていた。 …多分、私はこの映像、夢の続きを見続けることが辛いのかもしれない。 《Interlude:優しさ》 『──あの、もしもーし?』 誰かの聴覚を通して黒電話の受話器から聞こえてくる声で、 私の意識は映像の中へ三度戻された。 そこは、前回と同じどこにでもあるような民家の廊下で。 かがみはそこにいた。 「あ、ごめんなさい…。つかさ、でしたよね?」 謝罪の後にもう一度用件を確認するかがみに、電話の相手は律儀に受け答えていた。 かがみは、受話器を置いてから家の中全体に届くように声を張り上げた。 「つかさー!友達から電話よ!」 「ん?今行くよぅ」 2階の部屋から聞こえるつかさの声を確認し、かがみは再度受話器を耳に当てた。 「もしもし?つかさ、今来るんでもうちょっと待ってください」 『はいー』 受話器から聞こえる音はノイズ混じりだけど、 間延びしたその声は、意識しかない私に懐かしさを感じさせた。 「つかさ、泉さんって人から電話よ」 「こなちゃん?」 出来ることなら、この夢を終わらせて今すぐにでも会いたい──泉こなた、その人の声だった。 どうしてすれ違いばかりの、この悲しみの色に満ちた夢にこなたが出てくるのだろうか。 私の中にその答えはない。 ひとり動揺している私を他所に、かがみは平然と手にある受話器をつかさへと手渡す。 「はい、私は部屋に戻って引越しの準備進めてるわ」 「うん、わかった。…電話終わったら、また手伝いにいくね」 そう言って受話器を受け取ったつかさは、少し寂しそうな顔をした。 「お姉ちゃん、お待たせ」 「別に待ってないわよ。電話終わったの?」 「うん、こなちゃんが明日暇だったら遊びに行こうってさ」 「そう」 つかさのほうを見もせず、相変わらずの冷たい返答を返したかがみは淡々と荷物をダンボールへと詰めていく。 2人の間にしばらく沈黙が流れて、辺りは気まずい雰囲気へと変化していった。 「…泉さんって人と本当に仲いいのね」 「え、あ、うん!3年間ずっと同じクラスだったしね。こなちゃん面白いから」 自分で作り出した空気に耐え切れなくなったであろうかがみは、ふてぶしくも自分から話題を振った。 一方、つかさは嬉しそうにその話題に乗っていった。 その姿は子犬のようで。 いつも素っ気無いかがみが自分に興味を示してくれたことが嬉しかったから、と言った感じだった。 「いいんじゃない?高校時代の友達は一生の友になるって言うしさ」 「…そう、だね」 「つかさに、そういう友達が出来てよかったわよ。私は明日から東京で1人暮らしだし」 「……お姉ちゃん」 “1人暮らし”という言葉が出た時点で、つかさの表情が一気に曇った。 車のエンジンの音が聞こえると、場面は外へと変わっていた。 家々の庭に植えられた梅の木がしっかりと色づいていて、香るはずもないのに春らしい空気を感じた。 車のエンジン音は、引っ越し業者の車のエンジン。 すでに荷物は積み終わってるらしく、業者の人が家主と挨拶を交わしていた。 その車の前には、かがみがいて。 そして、つかさがいた。 「…お姉ちゃん、あんまり無理しちゃだめだよ?」 「つかさだって…」 「…くすっ」 「………何よ?」 「なんでも、ないよ」 今までとは違って強い口調で説教をかますわけでもなく、言葉を濁すかがみにつかさは苦笑した。 ばつ悪そうに目を泳がせた後、かがみは左手をつかさの前に出し、つかさは不思議そうにその手を見つめていた。 「これ、渡しとくわ」 「ん?…これは?」 「もし…もしも何か辛い事があったり、寂しくなったら」 かがみの手からつかさの手へ。 「いつでも…うち、来てもいいから」 渡されたものは、菫色の鈴がついた鍵だった。 つかさは、笑いながら泣いていた。 Interlude :起点へ続く コメントフォーム 名前 コメント ( ; ; )b -- 名無しさん (2023-04-03 07 38 28)
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「かがみ~ん、一緒に『こなかが本』読もうよ~」「わ、わたしは別にそんなの読みたくないわよ…///」 -- 名無しさん (2008-10-09 00 51 33)
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体に倦怠感を感じる中、重い瞼を開く。 そこにはバスローブ姿のこなたが、私の隣で気持ちよさそうに眠っていた。 何でこなた、こんな格好しているんだろ。私も髪をほどいた状態でバスローブ着ているし。 しかもここ私の部屋でも、こなたの部屋でもない・・・どういうこと、これ? 現状を認識していない頭で部屋を見渡すと、テーブルの上にある ――東横イン 浅草千束 と書かれたタオルが視界に入ってきた。 えーなんだってーーー!!! 『Escapade ~Especially for you after episode~』 すーはー、すーはー・・・・・ まずは落ち着いて、昨日の記憶を振り返っていこう。 たしか酉の市を一通り巡って、こなたのガチャポンに付き合ってから また他を回り始めたのよね。そこまでは確実だわ、うん。 それから浅草方面へ歩き、途中見かけた全国チェーンの居酒屋に入ろうって ことになって、2人楽しく飲んで盛り上がって・・・ここから記憶が抜けている。 そして今は2人同じベッドの上、バスローブ姿で寄り添って寝ている。 何かやらかしたか、私・・・こなた相手に。 そう考え込んでいると、こなたが目を覚ました。 「おはよ~かがみ。かがみ昨日はすごかったね。」 「え・・」 「かがみん夜も突っ込みだったね。でも昼よりも優しさと慈しみがあふれ出ていて すごくよかったよ。」 「は・・ぁ」 ふだんとは明らかに違う、しおらしくしているこなたの発言を 鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で聞く私。 「私初めてが、かがみで良かった。愛しているよかがみ・・」 ボンっと私の顔が赤くなる。 えー!ホントにこなたと!!ウソ~!!! 「不器用なかがみの手の平が、私の背中で温かいよ。 かがみの優しさがすごく伝わってくる・・・。」 今軽く失礼な事を言われた気がしたが、それどころじゃない。 慌てて、こなたの背中に置いていた手を退ける。 「もう、そんな慌てなくてもいいのにかがみ。かがみと私は互いに裸で すべてをさらけ出して、抱きあった仲なんだし。」 ん・・・裸ですべてを?今の姿はバスローブ。その下は? ちょっとした違和感を感じた私は、自分のバスローブの下を覗いてみた。 下着は・・・付けている。 経験が無いから詳しいことは知らないが、酔ってコトを終えた後、 わざわざ下着を着けて、バスローブを羽織るだろうか? せいぜいバスローブだけを羽織るか?裸のままだろう。 ってことは、またこいつの悪戯か・・・今回はかなり悪質だがな。 「なあ、こなた。」 「な~に、かがみん。」 「あんたの言う裸で抱き合うって、下着をつけてのことを言うのか?」 「え・・・。(急にバツの悪い顔をする)」 「これあんたの悪戯だろ。正直に白状しな・・・」 握りこぶしを作り、ギロリと睨みつける。 「(普段のゆるい調子に戻り)いや~2人のお出かけの記念と思ってね。ダメ?」 「駄目に決まっているだろ。このバカ。」 (ごちん) 「あ~~」 「(腕を組み、仁王立ちで)どういうことか説明してもらいましょうか、こなたさん。」 「(ベッドの上で正座して)はい。かがみさん。」 ―――――数時間前 「あ~あ。かがみ寝ちゃったよ。これはホテル泊まるしかないな。」 そう呟き、近くにあったビジネスホテルのエントランスへと、かがみを担ぎながら 入って行った。 「いらっしゃいませ。」 受付には支配人クラスと思われる女性の方がおり、応対していた。 「すみません。ツインルームって空いていませんか。」 「・・・ねえ、お嬢ちゃん。今おぶっているのは、あなたのお姉ちゃんかな?」 「いえ違います。この子は同級生なんです、高校の。」 「(にこやかに)とりあえず、お嬢ちゃんのお名前とご家族の連絡先を教えてくれるかな? 今すぐ呼んであげるからね。」 「(軽くショックを受け)ホントに高校の同級生なんです。ちなみに今は大学生です。 これが私の大学の学生証と運転免許証です。」 受付でちょっとした誤解を受けたが、どうにか部屋に入る事が出来た。 部屋に入ってからは、気分が悪くなったかがみをお手洗いまで付き添い、 お手洗いから出てきた後は、ベッドに体を横向けにさせ寝かせた (こうするとこみあげてきたモノが喉に詰まらず安全。ゆい姉さんで実証済み)。 そしてベッドサイドには水と洗面器を用意し、落ち着くまで様子を見ていた。 しばらくして、う~う~と唸っていたかがみがすうすうと安らかな寝息を するようになり、ホッと一安心した。そこで改めて寝ているかがみを見つめる。 普段、虎かライオンの様なかがみ(中身はうさちゃん)が 小鹿のバンビの様に弱っている ・・・・・これは、美味しくないか? そう思うがいなや、この場に適切なかがみ弄りプランを瞬時で弾き出し、備え付きの バスローブを2つ取り出し、こみあげる笑いをこらえつつプランの準備を始めた・・。 「・・・という訳なんだよ、かがみん。」 「面倒を見てくれたことは有難いが・・・高校時代の風邪をひいた際のお見舞いのとき といい、どうしてあんたの親切は親切のままで終わってくれない? 余計なモノが付いてきてくれるかな~ホントに。」 「いやいや、普通に終わったらつまんないじゃん、私が!!」 「何であんたの楽しみの為に、私が踊らされなきゃいけないんだ。」 「まあまあ、お腹も空いただろうし、おにぎりとみそ汁を下の食堂から持ってきたから。 これ食べて落ち着いて。」 「(なんか釈然としないけど)分かったわよ、頂くわよ。お腹も空いたし。」 「はい、どぞどぞ~(流されやすいな~かがみん。ニヤニヤ)」 おにぎりを一口頂き、お味噌汁を飲み始めたら 「かがみん、バスローブを着て髪を下ろし、食事している今の姿、 一仕事終えた後のAV女優さんみたいだよ~。」 とのたまってきた。 「ぶっ。げほ、げほ、あんたね~。」 この女とは、こうやって振り回されながらこれからも過ごしてゆくんだろうな・・・ とこなたのアレな発言に噴き出し、ご飯粒とみそ汁が喉や気管に詰まり苦しむ中 そう思うのであった。 前作『Especially for you』へ コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-09-18 09 20 50) gj! ……エロパロスレだったらいくとこまでいってしまう感じだったろうなwww -- 名無しさん (2009-12-07 19 38 04) おお、つづきありがとうございます! GJ! -- 名無しさん (2009-12-07 01 01 40) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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【第18話 イケメンの恋人】 「ほら、まだゴールじゃないわよ!」 「も、もうダメです……」 かがみはこなたに廊下で歩行訓練をさせていた。壁際の手すりにしがみついたまま動けないこなた。 「もう、やめて……怪獣さん」 そのままへたり込む。 「トイレくらい行けないでどうするのよ!」 「無菌室の頃はお風呂もトイレも何でも手元にあってよかったのに……」 「ハイハイでもいいから前にすすみなさい!!」 「まるで幼児じゃん」 「文句言わずハイハイで進みなさい!腕や肩の筋肉だって弱ってるんだから」 かがみはパチパチと手拍子を叩く。 こなたはしかたなく四つんばいになりハイハイしはじめる。つかまり歩きでは到底これ以上いけないからだ。 「ハイ、ハイ、リズムに乗って。ほら、WCの看板が見えてるでしょ、あそこまで歩くのよ。それともここで漏らすつもり?」 とはっぱをかける。 こなたはゼイゼイ息をしながら、カタツムリのような速度でハイハイする。 「あ……無菌病棟への廊下だ」とこなた。 WCの手前で廊下が二つに分かれていた。奥に、あのとき二人が別れた無菌病棟の隔離扉が見える 「戻りたい……私、死ぬまであそこで暮らしたい」 こなたは遠い目で扉を見つめる。 「……誰にも邪魔されず、疲れずに、漫画読んでアニメ見てゲームして……そのまま死にたい……」 無菌病棟へと体を傾ける ふらついて横倒しになりそうになったこなたの背中にかがみはしがみついた。 「……!!」 磁石のようにこなたを後ろから抱きしめて話さないかがみ 「そっちは、違うでしょ!行くのはあっち!!!」 かがみはトイレのほうの廊下を指差した。 「行っちゃ、ダメ、なんだから……」 かがみは声が震えだして止まらなくなる。 「絶対……そっちは、ダメ……なんだから」 「……怪獣さん、ひょっとして泣いてるの?」 「な、べ、別に、泣いて、ないし!!……」 何度も涙をぬぐい鼻をすするかがみ。 「そ、それよりさっさと歩きなさいよ!まだゴールは先なんだから」 「怪獣さん、それってツンデレってやつ?」 「う、うるさいな」 「……あれ、なんか。胸の奥が、ほんわかと……ねえ怪獣さん、これがもしかして、萌えって言うの!?お父さんがよく言ってるんだけど!」 「うっ……そ、そう、なんかよく知らないけど……あとそれから、私のことを怪獣さんって呼ぶのは止めなさいよね」 「なんで?じゃあなんて呼べばいいの」 「ちゃんと私にも柊かがみって名前があるんだから。そうねえ……じゃあ……」 「?」 「かが……みん、って呼びなさい」 かがみはドキドキして頬を赤らめながら小声で呟いた。 「萌えない呼び方だねー」 なぜかグサリと来た。 「今の表情や仕草は萌えたけどねー。かがみんって馴れ馴れしすぎじゃん。怪獣さんにはふさわしくない。まるで恋人みたい」 「……」 ようやくトイレまで来る。 「て、手伝うわよ。そ、その、用足し……」 「いいよ……何照れてるの?女の子どうしなのに変だよ」 そ、そうよね……と返事し、かがみは個室のドアの外で待つ。 「ねえ、怪獣さん、さっきの『かがみん』って呼び名なんだけど」 ハイハイをして病室に戻りながらこなたはいった。 「な、なによ」 「恋人に、そう呼ばれてたの?」 「……あ、あう、……その」 「どんな人だったの?ねえ、かがみ」 「……」 「ねえ」 「そう、……恋人よ。ええ」 かがみは小さくうなずいた。 「へーどんな人?怪獣さんの恋人ならやっぱりモスラみたいな人かな?」 ね、ね、と、じっと見つめながら催促するこなたを止められず、かがみは伏し目がちにポツリ、ポツリ話し始める。 「まあ、ある意味、一般人が見たらまるで芋虫を見るような目つきになりそうな性格だったけど……」 「すごそうな人だねー」 「あんたのお父さんそっくりな性格だった」 「うわ……ヲタなの……キモイ……」 「ギャルゲにはまり出してる身で何を言うか!」 「で、その人、イケメン?」 「……ま、まあ、イケメンに、なるのかな?」 ヲタでイケメンか……うーむ、と考え込むこなた。「で、イケメンなところにほれたの?それともまさか、……よもやヲタなところにほれたの?」 「……よくわからない」 「??」 「でも、最初は普通の変人な友達だった。でも、最後は……全部好きになった」 「へー友達から恋人。よくあるパターンだね。クラスメートかなんか?キスした?」 「別のクラス。……つかさの紹介で知り合ったの。キスは……私からは、できなかった」 「ってことはヤれなかったんだね。フラグ立ててないから」 「……この世に生まれた瞬間にフラグを潰しちゃったからね」 「?」 「な、なんでもない」 「でも、まだきっとフラグは立つよ怪獣さん。どんな隠しルートがあるか分からないし」 「……死んじゃったから。そいつ」 「……」 「あんたと同じ病気でね。病室でアニメ見てゲームやりまくって、コミケ行きたい行きたいってさんざん言ってたくせに、最後は幽霊になって私に手を振ってるの。あはは、ほんと笑っちゃうわよね」 「……怪獣さん、ツンデレど真ん中だね。笑ってるのに涙でてるよ」 「まったく、あいつったら、いい年してお母さんと一緒にいるなんて。しかもあの世で。……まったく……まったく、もう」 「その人もお母さんいなかったの……ふーん、私と一緒だね」 こなたはハイハイを止め、少し目を伏せた。「どんな感じなんだろうね、お母さんっていうのは」 「……」 この子も、やはり、母親がなにかってのは知らない。 「……今まで隠してたけど。あんたにはお母さんがいるわよ」 「ほんと?生きてるの?どこ?」 「この私よ!!!!」かがみは自分の胸をバンと叩いた。 「そしてあんたは私とそのオタクなイケメンの娘!!!」 こなた育成計画を思いついてから、こう宣言することは決めていた。 血液型は一緒なんだから。 少なくとも、泉家よりはこの自分の方が近い血を持っている。 唖然呆然硬直自失するこなたが見ている。 「今日からお母さんと呼びなさい、いいわね」 同い年なのになんでお母さん?血のつながりは?高校生なのに堂々中だし!?お父さんって言ってるあのヲタク男は何者!? などというこなたの突っ込みに強引に反撃しながら、 「母親なんだから当然でしょ!!」と、その日からかがみはこなたの病室で暮らしはじめた。むろん受験勉強も当然そこでやる。 かがみは巨人の星ばりにギプスをつけてスパルタ猛特訓…… させる間もなく、こなたはあっというまに二本足で立って、ふらつきながらもなんとか歩けるようになった。 運動神経がよいので筋力アップも早いのだ。 「トイレくらい往復できるよ……」 「いいから、帰りはおんぶする」 こなたを背中に乗せるかがみ。 (もうちょっと手のかかる子でもいいじゃない……まったく) 「そういえばさ……怪獣さん」 「『お母さん』!!!」 「お、おおお母さん(汗)」 「なに?」 「コミケって何?イケメンのお父さんが好きだったんでしょ」 「そ、そうね……そ、その、素人が描いた同人誌を売るイベントよ」 「面白いの?なんか下手くそな漫画がいっぱい集まってそう」 ま、まあ、たしかに島中の多くのサークルがそうね…… 「そんな町内会館でひっそりやってそうなイベント、10人くらいしかこなさそうじゃない?なんで好きだったの?」 「町内会館どころじゃないわよ。60万人以上来る世界最大のイベントよ」 「へえー……マジ? 一体どこからそんなに人間が発生するんだろうね」 「ほら、ここから見えるビッグサイト。あそこを全部借り切ってやるのよ」 「……」 こなたは廊下の窓から見える逆三角を見つめた。 「……お母さんの好きな人が好きだったやつかあ……そんなにすごいんだ」 同人関係の話をしたと耳にしたそうじろうは嬉々として自宅からB5版の薄い本の束を大量に持ってきた。 「やっぱり素人が作ったショボイ本だね。パンフレットみたい。しかも聞いたこともない印刷会社」 ぺラペラと同人誌をうちわのようにあおぐこなた。 「これで500円?ぼったくりもいいところじゃん」 こなたは投げやりそうにページを開く 「キモッ!!あんた、いい年こいてこんなの見てるの?」 「頼むからそういわないでおくれよこなた……」 「著作権侵害じゃん」とこなたはドン引きした。 「しかもエッチだし……うわ、こんなことまで、おお……ほう……ふむふむ……」 3冊目を読む頃には、もうこなたの目の色が変わっているのが分かった。 「適応度早すぎ!!!!!!」 「漫画、アニメ、ゲームを経て、やっと同人までたどりついたか……こなた育成計画は順調だな」 かがみとそうじろうはウンウンよしよしとうなづいた。 「あとは、せめてこの数値さえよくなってくれれば……」医者から渡された検査結果を見てつぶやいた。 ───肝臓の数値が、急速に異常値だらけになっていた 第19話:コミケへ行こうへ続く コメントフォーム 名前 コメント
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『梅雨の夜』 暦の上で梅雨に入り、土砂降りの雨が私たちに降り注ぐ。 しかも突風のせいで傘が壊れ、ずぶ濡れで帰る羽目になった。 「何なんだよもう…降水確率30パーセントって言うから安心してたのに」 天気予報に不満を言う私。 「いや、0パーセントじゃないってことは、降るかも知れないってことだよ」 冷静に突っ込むこなた。 「…それはそうだけど、ここまで酷い天気になるなら、先に言って欲しいわ」 最終バスを逃してしまい、駅まで歩くことになった私たち。 教室でテスト勉強していたら、いつの間にか下校時間をとっくに過ぎてしまい、外は真っ暗になっていた。 見回りの先生には怒られるし、本当に最悪の一日だ。 「あーあ、テスト勉強、真面目に頑張ってるのになぁ…ちょっとくらい、いい事あってもいいんじゃないかしら」 「かがみん、世の中そんなに甘くないんだよ」 「…あんたに言われると無性に腹が立つ」 そうは言っても、この暗い夜道を一緒に歩いてくれる友達がいるのは心強い。 この辺にはコンビニもないので、一人っきりだったら、どれほど怖い思いをしていただろう。 「それにしても、駅までこんなに遠かったかしら?バスだと結構早いのに…」 「いつも中でしゃべってるから、早く感じるんじゃないの?」 「あぁ…そうかもね…」 しばらく歩くと、物置のような建物が見えてきた。農機具か何かを保管しているのだろう。 「ちょっと、あそこで雨宿りしない?」 「そだねー」 私たちは駆け足で軒下までたどり着いた。 「ここなら、しばらくはしのげそうね…」 「でも、いつまでもこうしちゃいられないね…」 こなたがポケットから携帯を取り出した。 「ちょっとうちに電話してみる」 「え、迎えに来てもらうの?」 「今日、ゆい姉さんが来てるかも知れない」 しばらく呼び出し音が聞こえた後、おじさんの声が聞こえてきた。 「あ、お父さん?私だけど…うん、今帰る途中でさ……うん、最終バス逃しちゃってさ……姉さん来てるの? ……あ、そうなんだ。じゃあ、お願いしてもいいかな?場所はね…」 パタン、と携帯を閉じた。 「大丈夫だよ。迎えに来てくれるってさ」 「なんか、悪いわね…気を遣わせちゃって」 「いいのいいの、今日はいっぱい勉強教えてもらったし」 こなたが笑う。 「今度の試験で赤点取ったら、追試だって言われてるし…」 「確かにそれは嫌ね…」 こなたは暗記が得意なのか、世界史の成績はいつも上位だが、他の科目はパッとしないのだ。 特に英語や理系の科目は、一夜漬けでどうにかなるものじゃない。 「あぁ…こんな事なら、一年のときからもうちょっと真面目にやっとけばよかったなぁ…」 「お、珍しく弱気じゃない」 「だってさ、追試でアニメやゲームの時間がさらに削られたら…私は禁断症状で苦しみぬくんだよ…」 「大げさなんだから…別に死ぬわけじゃないのに」 「いや、私にとっては栄養と一緒なんだよ。アニメやゲームのない暗黒世界に生きられるわけないんだよ」 「はいはい、じゃあ明日も頑張ろう。それから好きなだけ楽しめばいいわ」 「うぅ…ありがと。かがみん」 こなたが私に抱きついてきた。 「むにゃー…やわらかい…」 「こ、こら…変な事言うんじゃない」 「かがみぃ、寒いよー、しばらくこのままでいたーい」 「ちょ…誰かに見られたらどうするの?」 「風邪引いちゃうよ~~…」 「わ…わかったわよ」 「ねぇ…かがみ」 「ん?」 「ホント…いつもありがとう…感謝してる」 「どうしたのよ、いきなり…」 「私さ…かがみがいなかったら、途中で投げ出してたと思う…」 「え?」 「自分の勉強もやってるのに、私のために昔の教科書一つ一つチェックしてくれてさ、 わかりやすく教えてくれるのって、かがみだけだよ」 「でも、みゆきだって聞けば教えてくれるでしょ?」 「…そうだけどね…なんか、かがみのほうが気軽に聞けるって言うか…」 「それって、私はみゆきより下に見られてるってこと?」 ちょっと意地悪な質問をしてみた。 「違う…そうじゃない」 こなたが急に真顔になった。 「……かがみと一緒にいると、なんか気持ちが落ち着くって言うか… うまく言えないんだけど、他の友達には無いものがあるんだよ」 「え…?」 「かがみと一緒にいたいんだ…」 まっすぐに私を見つめて、こなたが言った。 「そ…そっか、頼りにされるのも悪くないわね…」 なぜだろう…心臓の動きが早くなっている。 (何なんだ一体…こなたってこんなこと言う奴だったか?) 「かがみん…」 「な…何?」 「今日は水色ですか…ふむ…」 「ば…ばかっ!恥ずかしいから見るな!!!」 下着が透けて見えていることに今更気づいた。 「いやぁ、かがみんって細いのに出てるところはしっかり出てるよね」 「品の無い事言うな!お前はスケベオヤジか!」 「女に生まれてよかったなぁ、こうしてかがみとイチャイチャ出来るし」 「う…うるさいっ、…こら、そんなとこ触るな!」 「あー…赤くなってるかがみんもかわいい~~」 こなたはやっぱりこなただ。 いつも明るい雰囲気を作ってくれるから、大変な勉強も乗り越えられそうだ。 「あぁ~、二の腕の感触…たまりませんなぁ…」 「だからやめろって言ってるだろ!」 「嫌がる顔もかわいいのぉ…むふふふふふ…」 「何なんだよもぉーーー!!!」 ただ、今は早く迎えが来てほしい。 こなた責めはそろそろ勘弁してほしいのだが。 (終) コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-18 07 43 12) 最後のツンデレ最高ッス!ニヤニヤが止まらないッス!! -- 名無しさん (2011-05-15 02 58 17)
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磨き上げられた清潔な病院の廊下からは、硬い、非人間的な感触がした。 どこでも清潔で、明るく、消毒の匂いがする廊下、人工的な空間。 冷たい音をたててを歩きながら、私は病気がちだったという母のことを、一瞬だけ想起した。 死んで行ったもの、死に行くものはいつだって美しい。 倒れた篝さんは無事なのか。 私は、人間が、私の母のようにあっさり死ぬことを知っている。昨日まで元気だったのに、急に……。 だが生きている私達ときたら、命を助ける消毒の匂いすら、嫌なものだと思ってしまう、やれやれ、だぜ。 篝さんが倒れて病院に運ばれた、という情報だけで、どんな病気なのか、何があったのか、私は知らない たどり着いた治療室の前には困り顔の初老の人が居て、篝さんの母親かと思いきや、その人はアパートの管理人だった。 「あなたは?」 「浅見篝の親友です」 「ごめんなさいね、浅見さんの手帳に書いてあった電話番号、貴方しかなかったから……」 そういえば、私は学校での篝さんを知らない。 「いきなりアパートで倒れてねえ、一緒に救急車に乗ったけれど、家族と連絡が取れないのよ。貴方、浅見さんのお友達よね? ご家族の連絡先は分かる?」 私は首を振り答えるしかなかった。 「残念ながら……」 篝さんのことを、私は余り知らない。 「困ったわね」 私達の間にきまずい沈黙が下りた。私は年の離れたアパート管理人と話すべき話題を持ち合わせていない。なんせおたくだから、一般的コミュニケーション能力など皆無なのだ。 「根を詰めて何かやってたけど、倒れちゃうなんてねえ……ご家族の連絡先も分からないし、若いのにこんな風で……あの子と、仲良くしてあげてね」 管理人さんは、まったくの他人である篝さんを哀れんでいるようだった。 礼儀正しい優しさ、私は管理人さんに好感を抱いた。 そこからは沈黙も気まずくはなくなり、やがて病室の扉が開き、出てきた篝さんは私を見て、ニッ、と笑った。 「来てたのか、いずみん」 「篝さん、心配しましたよ」 「大丈夫なんですか?」 篝さんが真剣な顔をした。 「聞いて驚くなよ、私の病気は──」 「過労だ」 篝さんが噴出すように笑う。 「いやー、びっくりしたの何の、サラリーマンでもないのに、まさかこの年で過労で倒れるとは思わなかったよ。こなかがのために倒れたとあったら、本望ではあるけどな!」 私がそんな事を言う篝さんに何も言えずに呆然としていると、いきなり管理人さんが立ち上がり、篝さんを怒鳴りつけたつけた。 「こんなお友達にまで心配させて、そんな事しか言えないの! 少しは、反省なさいな!」 管理人さんの声は静かな病院によく通り、清潔な床に反響した。篝さんはまったくの他人にいきなり叱られて、やや面食らったようだった。 でもすぐに真面目な顔になって、頭を下げてから篝さんは言った。 「心配かけてすいませんでした。泉も……。でも私は、これしかない、と思うことを今やってるから、やめないし、後悔しない。だから、倒れないようにだけは気をつけます、今後」 「だけって……」 「ほんと、悪いと思うけど、私にはこれしかないから」 篝さんにふざけた様子はない。 下げた頭をあげて見れば、そこにあるのはどこまでも真っ直ぐな眼だ。 管理人さんは、もうそれ以上は何も言わず、無事も確認できたので、仕事もあるので帰ると言った。 私たちに止める理由はない。 そして帰る前に、管理人さんは私に尋ねた。 「あの子、何にそんなに打ち込んでるの?」 私は、ssです、などとはとても言えなかった。 『レイディアント・シルバーガン』 病院の外に出ると、夜の風が私達を歓迎する。心底から冷える冬の夜の風だ。そんなに歓迎するなよ、人気者って辛い、具体的には軽装で来たのが悔やまれる。 「上着貸してやるよ」 「え、でも」 「私がぶっ倒れたせいで急いで来たんだろ、ほら」 強引に着せられた上着からは、篝さんの匂いがした。 夜風にポニーテールをなびかせた篝さんは、だいぶ痩せたその横顔で、どこか遠くを見ているようだった。 私は、篝さんを止めないと、と思う。 「篝さん、ゲームは作り終わったのに、倒れるほど何してたの?」 うーん、と困ったように唸りながら、篝さんは空き缶を拾って駐車場脇のゴミ箱へ投げた、見事なホールインワン。 「私、思ったんだけどさ、みんな、そんなに時間割けないと思うんだ。ゲーム作るのって、やっぱ時間がかかるから。だからもうちょっと手軽で、流行って、なんかいいものないかなーって、思ってね」 「見つけたの?」 私の声はきっと、私たちに吹き付ける風よりも低い温度だっただろう。 だって、この人は……まだ気づかないのか? 嬉しそうに語る篝さんの声色は、私の気を滅入らせた。 「動画が流行ってるじゃん。ニヨニヨ動画。今、とりあえず有名ジャンルの動画作っててさ、そこで得た技術をこなかがに還元すれば、またこなかが動画が増えると思うんだよね。結局、立ち絵素材が豊富だから、ニヨニヨの動画も流行ってると思うんだけど、ほら、板に投下されてる、今日の小なみ、とかあるじゃん、あれを動画にしてアップするとかさ。なんとかこなかがを盛り上げて」「篝さん」 私は、体を壊すほどの篝さんの愚かさが、まったくの無意味だと篝さんに告げなければいけない、と思った。 いい加減、眼を覚ますべきなんだ。我々は。 「もう、こなかがは終わりなんだよ、動画なんか作ったって、誰も見ないし、誰もついてこない。篝さんは幻影を追いかけてるだけで、現実がぜんぜん見えてないよ。もう十分、こなかがはその役目を終えたのに」 こなかがは、その役割を終えた。 それが真実じゃないのか? 篝さんはそんな私の言葉を聞きながら、夜の病院の駐車場のさらに向こう、車道を流れる車のランプを見ていた。光の河、遠い場所を見る表情のままで、篝さんは私に言った。 「終わりってのは……誰が決めるんだ?」 熱のある、声だった。 「そんなの、もう、誰がどうみても終わってるじゃん、理屈じゃなく」 「終わってない。全然、終わってないよ」 篝さんが私の方を振り返ると、その眼には狂気に近い光が宿っている。 「私が終わらせない、私はまだ、すべてをやり尽くしてない、手はまだある。私たちには、やり残したことがある」 「動画なんか作ったって、誰か参加すると思ってるの!? ゲームだって誰も参加しなかった、動画だって同じだよ、無駄だよ、『流れは止められない』!!」 「動画や、ゲームや、楽しいことをしてれば人は集まってくる。動けば、走れば、人はついてくる」 「冷静に周りを見てよ、篝さん」 私は、狂気に満ちた篝さんの目を見返した。 「走ってるのはもう、篝さんだけだよ」 私の言葉が夜の風に流されて消えるまで、篝さんは黙っていた。 やがて篝さんは、シルバーガンの台詞だけを呟く。 「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 いきなり、篝さんは私に背を向けた。 「篝さん!」 「私には、まだ道が見えてる。動画ジャンルはまだ流行ってる、そこにはまだ、熱を持った奴等がいるんだと、信じたい」 篝さんは夜の暗がりに消えた。 ──私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」 ……… 数日が過ぎ、かがみの部屋。 私が篝さんとのことをかがみに話すと、かがみは少し首を傾げて私に言った。 「それはもう、止まるまで放っておくしかないんじゃないか?」 かがみの言うように、話して止まるような雰囲気ではなかった。 「う、暴走してるような感じだし、たしかに」 うーん、とかがみは迷ったように呟く。 「でもまあ、ss書く人も減ったわよねえ」 こなかが人口自体が激減している。 いや、でも同人誌を書く人や、ファン自体はまだまだ居る気がするし、そこまで残った人なら、そう簡単にはこなかがを捨てない筈だ。 それなのに、そういう人はBBSには寄り付かない、しかし、何故? 「そりゃあ、サイトなりなんなりで書けば安全だけど、BBSって変なことになったりするじゃない。面倒な事態が持ち上がったりさ。それに、ここまで人が減ったら、BBSでやってもサイトでやっても客の数変わらなくない?」 「うーむ、確かに。まさに終焉だよ……なのに篝さんは、どうしてそれが分からないんだろう?」 人の話なんか聞きやしない。 「でもさ、こなた、篝さんは何かいろいろやってるけど、私たちって何もしてないじゃない? そういう人間が止めたって、説得力がないんじゃないかな。ただ外野から、古いジャンルにしがみついて、って馬鹿にしてるのと、一緒にならない?」 「う、かがみ厳しいね」 「法学部志望だから、公平じゃないといけないからね」 確かにそうだ、私は口だけで篝さんを否定する人になっていた、よくある漫画で出てくる悪役と一緒。 いまどきそんな事してるなんてありえなーい、とかいうやつ。 そうなっているという自覚がしかも、かがみに指摘されるまでなかった。暴走している篝さんを止める、という大義名分のせいで。 「なに本気で凹んでるの?」 「反省してるのだよ、かがみん」 かがみはアホ毛が萎れた私にどこまでもクールに言う。 「そういうの、似合わないわよ」 「反省が似合わないって、考えなしの馬鹿じゃん、それじゃあ」 「あら、違うの?」 「ほんと厳しいね、かがみん」 「優しくしてほしい訳?」 「いや、猫撫で声のかがみんとか若干気持ち悪い、金魚相手の時のかがみんとか」 「殺す」 ぎゃーぎゃーとかがみと話しながら、私はふと、こなかが全盛時代のss書きの人々はどうしているのだろう、と思った。 「メッセのアドレスは登録しっぱなしなんだし、話してみればいいんじゃない? 最近は話してないけども」 「うん、なんでこなかがを書かなくなったのか、とか聞いてみる」 私は、サインインしていた、かつてのこなかがss書きの一人、シゴ子さんに話を聞いてみることにした。避難所の番号が、H5-455だからこういう名前、だそうな。 「こなかがssを、書かなくなった理由?」 455さんは、聞けば簡単に教えてくれた。 「感想が、少なくなっていったから……かな」 シンプルな理由。 「こんな事を言ったらね、いろんな人に怒られたんだ。見る専にも、ss書きにも」 感想乞食、感想は強制するものではない、私はGJだけでも十分、欲張りすぎ、etc……。 「たぶん、私が弱いから悪いんだとは思うんだ……でもね、自分の書いたものに自信がある訳じゃないし、『感想がかえってこないと、人格自体を否定されている』ような気になっちゃうの。もちろん、そんな風に思っちゃだめってわかってる。でも無理なの、ほかの人はたくさん感想貰ってたり、『熱』のある感想を貰ってるのに、自分のssだけ、GJが二回だけだったりとかするとね、心が折れちゃうの、ポキン、って」 「それは、他人と比べちゃうってこと?」 「だってそりゃ、比べちゃうよ、どうしても……。自分のssの感想はあんなだけど、他の人の感想はあんなだったとか、すごく、凄く気になるよ。ss書くのってとっても時間がかかるもの、凄くがんばって書いて、GJ一つで流されたら、すごく、すごく悲しい。だからまるで『悲しむためにss書いてる』みたいになっていって……書けなくなっちゃった」 素直な言葉、それだけに、私にとって455さんの言葉は重かった。 「篝さんは、感想なんて気にしないって言ってたけど……」 「そりゃあ、篝さんぐらい書けたら平気なのかもね。それにあのひとは、根拠があろうがなかろうが、自分に絶対の自信のある人だから……でも私はそうじゃない、『感想がほしいの』そう思うこと、言うことは、本当に悪いことなの?」 そして、今のこなかがBBSでは感想は貰えないという訳だ。 私は、やはり455さんの物言いには違和感を覚えたけど、その違和感の正体は分からなかった。 他のss書きにも話を聞いてみる。 H4ー53、へいしさん、と呼ばれているss書きに話を聞いてみた。 「こんだけ年月たったら、書きたいことだって書きつくすだろ、そりゃ」 へいしさんの物言いも、シンプルだった。 「俺がこなかがで書きたいものは全部書いた。だから書かなくなった。そりゃ、アイディアが浮かぶこともあるが、結局、BBSのルールじゃ『無茶』が出来ない」 「無茶?」 「こなみがスタンド能力に目覚めたり、巨大ロボットに乗ったりするようなssはノーサンキューだし、昔書いたちょっと黒い感じのssも、bbs的にはあんまりよくなかったりするだろ。それが悪い訳じゃないが、そういう窮屈な場所でいつまでも書かなきゃいけない理由はない。かがりが大学の法学部で水野蓉子と出会う、とかいうssが脳裏をよぎったりもするが、BBSとしては微妙だろ。だからこなかがBBSは、滅ぶべくして滅ぶというか、単純に役目を終えただけだ。俺はむしろ、そっとしておけよ、と篝に言いたいね」 「へいしさんの中では、こなかがBBSは終わってるってこと?」 「そうだ。『こなかがは書き尽くされた』もう研究され尽くしている。それでも続けるならオリジナル要素や、自由度を望むしかないが、BBSはそういう場所じゃない。こなみとかがりがいちゃいちゃしてて萌えるssが見たいなら、保管庫の中を探せばいい、『新しく書かれたものは、どこかでもう書かれたもの』だろ?」 本当に、そうかな? 過去と内容が被るからって、本当に意味がないのかな? でもへいしさんは、自分が正しいと信じて疑わないようだった。 私はメッセからサインアウトする。 「うーん、かがみん、時代はこなかがに厳しいねえ」 「厳しいっていうか、自然な流れって気がするけど……」 「感想がないと、悲しいし、辛い、かあ……」 「まあでも、普通の話よね」 私はかがみが好きだけど、それは何かの見返りのためなんだろうか。 確かに、かがみが私に冷たかったら、私は凄く凄く悲しい。 自分の存在を否定されているみたいに感じる。 でも、でも……。 それでも私は、かがみを嫌いにはなれないよ。 「こなた?」 ポッキーをくわえたまま首を傾げるかがみは可愛い。 何度だって言いたくなる、かがみは可愛い。 ……可愛い。 「感想だけが全てじゃない、そう思いたいけど……」 「まあでも、書くも書かないも自由だし、別にいいんじゃない? 感想が貰えないから書かないって、分かりやすくていいじゃない」 「うん……」 書くべきことは終わった。 そんな風に割り切れるものなのかな。 かがみから得られるものは終わった、とか思える時は、私には永遠に来ない気がする。 私はずっと、かがみが好きだから。 篝さんと同じく、私は愚かだ。 だけど篝さんと違うのは、同性同士の恋愛にかがみを巻き込まないように配慮できることだ。 好きだけでは、生きていけない。 それにもし、この想いを告げてかがみに拒絶されたら、私は耐えられない。 「こなた……」 不意に、どこか呆然とした様子でかがみが呟いた。 「どうしたの?」 「篝さんが、2chに晒されてる」 篝さんは、どこまでも愚者であることをやめない。 私は……。 ……… ──無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 ──道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 篝さんがニヨニヨ動画で晒されるようになった経緯は、理解不能な複雑怪奇なものだった。 とにかく、あらゆるところに悪意が溢れていた。 そして篝さんは、動画を作るのをやめた。 完全に、動画製作者を取り囲む政治的事情のせいらしかった。 「一度さ、ジミーさんもへいしさんもシゴ子さんもさ、全員で篝さんに会ったら? 篝さんが心配だし」 かがみはそう言う。 私達はかがみの提案に従い、篝さんを囲むオフ会、みたいな感じで集まることにした。 連絡をすれば篝さんは何事もなかったように、「お、私がこなかが動画を作るの、手伝ってくれるの?」とだけ答えて、私は……嫌な予感がした。 ……… 都内某所で集まった私達の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。 こなかがはもう私達には関係がなく、そうなると──私達はどこまでも他人だから。 ただ、篝さんだけがその空気を読まなかった。 「みんな元気そうじゃん」 とパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、篝さんは言った。 「篝さんこそ、元気なの? だいぶ、晒されたみたいだけど」 「あー、あれね」 篝さんは、苦笑してみせた。 「なんつーかさ……時代に取り残されたのかな」 恥ずかしそうに頭を掻いた篝さんの目は、未だに濁らない。 「人気ジャンルだっつーから、魂を持つ人がいるんだろーな、って思ってたんよ。でもたぶん、魂なんて言ってんの、私だけだったんだな、って。みんなさ、麻雀やネトゲしてて、創作者の集まりでも創作の話しねーし、なんだろうな……」 巨大なジャンルに触れた筈の篝さんは、何故か疲れた顔をしていた。 「再生数が多いとさ、神みたいにあがめられるんだよ。私が作品の話をしたらさ、王様みたいにふんぞりかえってる奴が言うのさ、お前のしてほしい評価を言ってみろって。プロの作品としての評価か、同人としての評価か、個人の趣味としての評価か、って。もう質問の意図も態度もわかんねーけど、なんか傲慢な態度だったよ。だから私は事実として同人だから、同人としての評価を聞いたんだ」 「どうなりました?」 「句読点を多くしろ、ってさ。死ぬほど、どうでもいい批評だったよ。句読点で面白さの本質も魂も変わりゃしねえ、でもそのことより、そういう句読点みたいなどうでもいい評価をさ、周りの取り巻きみたいな奴らが『さすが、ためになる批評だねえ』って褒めそやすんだよ。タイトルのつけ方とか、紹介文の書き方とかさ、中身の話をしやがらねえ。ひたすら、外形の話、再生数を増やすための話しかしなかった……」 篝さんが、珍しくため息をついた。 「なんつーかな…………面白さって眼にみえねえから、眼に見える再生数の話しか信じないし、出来ない、そんな時代になっちまってたんだな……」 石のような物体は言った。見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのか、と。 篝さんは、疲れ切った声で言う。 「『人間は、物語の表面しか楽しめない』、熱い三流なら上等だ、って有名な麻雀漫画が言うだろ? でも実際、熱い人間に会ったら、その意味を忘れちまう。腹が立つのはさ、斑鳩の二次創作してるやつが、再生数多い奴に良いように言われてるんだよ。句読点男が、本当に作品を良くしたいなら、俺が指導してやる、とか、俺は元プロ的なことをやっていた、とか吹きまくってさ、みんなそれにひれ伏しちまう。句読点如きの話しか出来ない奴にだ。そうじゃない、斑鳩ってのはそうじゃねえだろ!? 何百万本売れようが、RPGなんて見向きもしない連中が作った、最高の魂を持ったSTGだろ!? 数じゃねえ、売れ行きじゃねえ、たとえプロに、神様のようにあがめられるプロに……大江だろうが富樫だろうが京極だろうが賀東だろうが、だ! 誰に文句を言われても曲げねえ、曲がらねえ! そんな意地と意志と魂だけが価値を持つんだ、それが信じられない人間に、斑鳩を語る資格はねえ!」 「ずいぶん、好き勝手吼えるじゃないか」 と、冷ややかな声を浴びせたのは、へいしさんだった。 「要はあれだろ? 動画の世界でちやほやされなかったから拗ねてるだけなんだろ? それで切れて、動画つくりもやめて愚痴か? 底が割れたな浅見篝」 「てめえみてえな下種と一緒にすんなよ」 かがりさんはパーカーのポケットに手を突っ込んだままへいしさんをにらみつけ、へいしさんは眼鏡の奥の目を、篝さんを侮蔑するように冷ややかに細めた。 侮蔑を恐れない、汚辱を恐れない、孤立を恐れない、だから、篝さんはへいしさんの侮蔑に全く怯まずに言った。 「私は、人を増やそうって数に頼る発想や、BBSを盛り上げようとか、そういう考えが誤っていたと知っただけだ。仮にもう一度、こなかがが人気ジャンルになったからって、何なんだ? その結果が生み出すものに、本当に価値があるのか? それをもう一度考える必要があるのを知った」 「はっ、言い訳乙。お前はさ、自分の慣れ親しんだこなかがBBSが盛り上がって、ちやほやされたいだけなんだろ? 誰もお前のssなんて待ってねーし、読まねーよ、誰も、お前なんて求めてない。『こなかがなんて、もう誰も求めてない』んだよ!!いい加減分かれ!」 ──正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 人々は去った。 誰も、もうこなかがを待っていない。 管理人が去り、職人も去った。 全ては消え、ただこなかがBBSという荒野だけが残った。 その荒野の真ん中で── ──篝さんは笑った。 「関係ねーよ」 理屈で負けて怯むなら、魂は要らない。篝さんだけが私たちの中で唯一、魂を持っていたのだ。 「こなかがはもう、時代じゃねーんだ、ってか。そうかもな。だがSTGが時代じゃなくなっても、それでもシルバーガンはそこにある。誰が求めてるとか、時代がどうとか、関係ねー、関係ねーよ。私は私のために、私の信じるもののためにssを書く。時代が読める賢いお前らにはわかんねーだろうが──私には、意地がある」 シルバーガンで、私達は石のような物体を倒せなかった。 そしてシルバーガンの結論は、かつて感動したゲームらしいゲームのクローンを再生産していくこと、だった。 井内ひろしは言っている。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… 「シルバーガンの結論じゃ、石のような物体は倒せなかった。斑鳩で石のような物体を倒せたのは、死と引き換えだ。一度、ゲームは死ななきゃならない。こなかがBBSも同じだ……。新しく、仕切りなおさなきゃいけない、だから」 篝さんは言った。 「私が、こなかがBBSを終わらせる」 へいしさんが鼻で笑った。 「何言ってんだお前、薬でもやってんのか? さっきから一人で盛り上がって、痛いんだよ!! いい加減現実を見ろメンヘラが!!」 「なんだそりゃ、やっすい言葉だな」 篝さんに、へいしさんの言葉は響かない。 『熱』のない言葉では、篝さんには届かないのだ。 「私達が自由を見れるかどうか、もうすぐ分かる。4月25日、私は私にとって終わりのssを書く。こなかがBBSを終わらせるためのssだ」 「うぬぼれんな、お前が百万本ssかいたって、何一つ終わりはしない」 「タイトルは決まってる、この状況ならこれしかないだろ? このタイトルしかない。全てを終わらせるss、そのタイトルだ」 いいから聞け、と、篝さんは言った。 「レイディアント・シルバーガン」 そうだ、篝さんならそうする、そのタイトルをつける。限りなく特別なSTG、しかし。 「私は、帰る」 「はあ?集まったばかりだぞ!」 「あんたら、私と話すことなんかあるのか? 私にはもう、私の意地と魂しか関係がない。だから、あんたらと話す意味はない」 「篝さん!」 それは、間違っている。一人になっては駄目なんだ。どんな時でも。 「いずみん、私を止めたきゃ、魂を示せよ、それしか、道はない」 「篝さん!待って!」 篝さんは、一度も振り返らない、立ち止まらない。 あとにはただ、取り残された者達だけがいた。 「ほんと、痛い奴は困る。自己陶酔のナルシス」「ねえ」 へいしさんを遮るように、それまで黙っていたかがみが口を開いた。 「みんな、このままでいいの?」 「はあ?別に浅見が何書こうが知ったことじゃねえよ。それより、これからカラオケに」「本当に?」 かがみは、もう一度、『みんな』に問う。 「『みんな、本当に、こなかがBBSがこのままで、いいの?』」 かがみの問いに、一瞬、全員が沈黙した。 全員、かつてこなかがを、こなかがbbsを、愛した人だったからだ。 「篝さんは、4月25日に、最後のssを投下するって言ってるけど、その日に、何かできることがあるんじゃないかなって」 「柊」 と、へいしさんがかがみの言葉を遮った。 「お前らは、見る専だから気軽に言うんだ。『俺たちはもう、他の楽しいことを見つけてる』。こなかがに割く時間はない」 455さんが目を逸らす。 「篝さんと被って、感想が貰えないと、悲しいから……」 ジミーさんは天を仰いだ。 「もう何も思いつかない、こなかがは書けんよ」 「そう……なら、仕方ないね」 所詮、ネットの片隅の出来事。 こんな下らないことで大騒ぎして、私たちは愚かだ。 たとえば、高校時代の青臭い勘違い。 仲のよい同性の女の子を好きになったこと。 時が過ぎれば、綺麗な思い出に変わる。 本当に? 「こなた?」 「ちょっと、頭を冷やしてくる」 私は休日の街中を歩き出す。 篝さんは、4月25日に終わりのssを投下するという。 私たちにできることは……。 終わらないと示すためにssを投下する? だが、誰もそんなことはしない。もう、こなかがは終わっている。 私は最後の決断をするために、ゲームセンターに向かった。 レイディアントシルバーガンをするために……。 前 レイディアント・シルバーガン 2 コメントフォーム 名前 コメント 私は2010年になってかららきすたを知り、今日初めてココに来ました。 どのSSも愛情に溢れていて、おかげで、かがみとこなたを原作以上に好きになりました。 本当に良いものを読ませて貰いました。感謝です。 -- 名無しさん (2010-03-27 13 28 45) この作品に書かれていることは限りなく現実に近いのですよね・・・ かつては共に楽しんだやつらもここにはいない・・・ 作者様はこの状況に区切りをつけるおつもりなのですね・・・ 4月25日・・・ 頑張って下さい。 -- 白夜 (2010-03-25 01 23 07) オリキャラだけども個人的には篝さんかなり好きかも ていうか続きがめっちゃ気になる -- 名無しさん (2010-03-23 23 05 44) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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何気ないこと(3)こなた視点 いつもの帰り道。寄り道して、クレープ屋でいつものクレープを食べる。 私はチョコバナナクレープ。チョコとバナナと生クリームがたっぷりでおいしいはずなんだけど、今日はどうしてだろう。あんまりおいしく感じない。まぁまだ一口も食べてないんだけどネ。 「ねぇ、こなちゃん。具合悪いの?」 つかさが不安そうな表情でこっちを見てる。 「そんなことないよー!」 「でも、一口も食べてないよねぇ?」 む、つかさの癖に追い討ちを掛けてくるとは・・・。やるな、お主。 確かに、私は買ったクレープにまだ一口もつけてなかった。具合が悪いわけでも、お腹が空いてないからでもないんだけどさ。 「ちょっと考え事してたんだヨ。アニメの録画がずれてないかとかさ」 適当なことをいっていると思う。今日は、アニメなんて深夜アニメだけでこの時間にやっているものはないんだから。 なんかだかなーこのモヤモヤした感じは。思うにそれが私を物思いにふけらせている気がするヨ。 「泉さん、本当に大丈夫ですか?」 片方の頬に手をあてて、心配そうに私を見つめているみゆきさん。いやーいつもながら、萌える仕草ダネ。 「だから大丈夫だってば、二人ともどうしたの?」 私はいつものように明るく切り返した。 「いえ、大丈夫なら良いのですが・・・」 元気な姿を見せてもちょっと心配そうな顔のままなみゆきさん。私って今日、そんなに変カナ? 「はぅぅ、こなちゃーん、ゆきちゃーん、クレープが」 バサバサという音が聞こえたと思ったら、つかさが涙声を上げていた。見ればカラスが器用にも、つかさからクレープを奪っていっていた。つかさの頼んだ、ミックスフルーツクレープは、よくカラスが持っていくんだよね。なんでかわからないけどさ。 「つかさ、これあげるヨ。私、今日なんか食欲ないからさ」 そう言ってから、つかさに自分のクレープを渡す。 「ほんとに?ありがとう、こなちゃん」 つかさが笑顔に戻った。なんだかほっとした気がする。でもいつもならこの役回りは私じゃないんだけど・・・。 しばらく、もくもくとクレープを食べる二人を凝視にならないように見つめていた。みゆきさんは、イメージ通り上品な食べ方ダネ。つかさも、ほっぺたにチョコレートと生クリームが少しついてるところがなんだか、つかさっぽいなぁ。 今、つかさとみゆきさんは、バルサミコ酢をつかったパフェについて検討中だ。といっても、つかさが少し目をきらきらさせながらしゃべっているのを、微笑を湛えたみゆきさんが相槌を打っているだけなんだけど。 なんだか、今日は物足りないなぁ。こう、なんていうか・・・んー。なんでかな?すごくモヤモヤして物足りない。二人にあって、私に無いもの。 クレープじゃないことは確かだね。つかさがおいしそうに食べてるのをみてるとあげたことが良かったことにしか見えないし。 「今日、おねえちゃん。どうしたんだろうね。お昼はちょっと変だったけど、調子が悪そうには見えなかったんだけどなぁ」 つかさがふと思い出したようにいう。 そうか、かがみがいないんだ。だから物足りなくて、もやもやして。私は二人に心配をかけてしまうような元気のない表情をしちゃってるのかもしれない。 「かがみがいたら、カラスも恐れをなして寄ってはこないだろうにねぇ」 私がそう言っても、あの怒っているように見えて、その実、うれしそうで寂しそうな吊り目の友人からの突っ込みはない。 「あはは、こなちゃん。それはひどいよー」 つかさが笑いながら言う。実際、かがみがいてもカラスは来ただろうけどネ。でも何かを期待していってしまう。 何も気兼ねしなくていい存在に甘えてつい、少しきついことを言ってしまう。 かがみが相手なら絶対大丈夫。そんな根拠のない核心を勝手に作って。 もしかしたら、お昼に言った事はかがみを傷つけてしまったのだろうか。それで、かがみが一人で帰ってしまったとしていたら、どうなってしまうんだろう。 なんだか言いようのない不安が競りあがってくる気がした。 それを紛らわすために、みゆきさんに抱きついて、ちょっとかがみに言わせればセクハラ発言をして場を盛り上げた。 二人は笑ってくれるし、受け止めてくれる。でも・・・なんか物足りない。モヤモヤしたままだった。 帰りの電車も、座れなかったから私はみゆきさんに抱きついたり、つかさに寄りかかったりいろいろ悪戯してみたけど、もやもやは晴れることは無かった。 「ただいまー」 って言っても、今日は返事は無いんだっけ。お父さんは、締め切り間近の所為でホテルに担当の人と缶詰だし、ゆーちゃんは風邪をこじらせて部屋で寝てるはずだし。 私は電話の受話器をとって、元に戻した。電話をすれば長くなるかもしれないから、その前にゆーちゃんの様子を見に行かなくちゃ。 そっと、ゆーちゃんの部屋のドアをあけて中をみると、ぐっすりと眠っていた。机の上には小さめの土鍋が空になっておかれていた。 もしかしたら、ゆい姉さんきたのかな?いくら、ゆーちゃんが心配とはいえ、仕事中なのに世話をしにきて大丈夫なのかねぇ。 でも、モヤモヤで頭がいっぱいで、ゆーちゃんのことを忘れて寄り道していた私が言えた義理じゃないよね。部屋に入って土鍋を確認するとまだ中は乾いてなかった。それに薬を飲んでぐっすり眠っているこの様子だと、ゆーちゃんの晩御飯は終わりと考えても問題ないかな。 そのあとのことはゆーちゃんが起きてから考えよう。 私は子機を取りにいくのももどかしくて、携帯で、かがみの家に電話をかけた。携帯にかけなかった理由は自分でも良くわからなかった。 何コール目かわからないけど、しばらくして出たのはつかさだった。 「もしもし、柊ですが」 なんだかそういう事務な答え方をするつかさが珍しく感じる。つかさにいうと、こなちゃんのくせにーといわれそうだけどネ。 「あ、つかさ。さっきぶりー」 「あー、こなちゃん、さっきぶり~」 事務的な声がいつものつかさに戻った。それだけで少しほっとする。でも、モヤモヤはとれない。こびりついたシミのように取れない。 「ねぇ、つかさ。かがみ、今いるかな?ちょっと話したいことがあるんだけど」 何を話したいのか、明確にはわからなかった。ただ、そう、このモヤモヤして物足りない感じはかがみの声をきけば消える。そんな気がしていた。 「ごめんね、こなちゃん。お姉ちゃんもう寝ちゃったみたいなの」 体調が悪かったからかな。それとも寝た振りで私を避けているのかな。よくわからないけど前者は心配で、後者は突拍子もない不安だった。 「そっかー。じゃぁさ、かがみが起きたら電話してもらえるように言ってもらえるカナ?」 「うん、わかったよー、こなちゃん」 「じゃぁ、また明日ね」 「うん、また明日~」 電話を切って机に放り出して、私はベッドに転がった。 なんかすごく物足りない。すごくモヤモヤする。 私は考える。かがみのことを。 明日は、話せるかな?少しふざけるのやめたほうがいいかな? でもかがみには、素直には無理だけど甘えられるんだよね。くっついたり、だきついたり。それで顔真っ赤にして怒らせちゃうこともあるけど、かがみがいれば、こんなモヤモヤも不安も。 明日謝ろう。きっと昼休みに反応が冷めていたのは私の所為。多分、傷つけちゃうことを言ったんだと思う。だから謝ろう、できるだけ素直に。 が、しかし。柊かがみが、私達三人を避け始めたのは、この次の日からだった。 何気ないこと(4)へ 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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空はもう完全に暗くなっていた。 街灯が街を薄暗く照らす中を、私は走り続ける。 早いペースで吐かれる白い息が、夜の寒さを証明する。 はぁ、はぁ……げほっ……はぁ、はぁ………。 ずっと走り続けていたせいか、両脚に激痛が襲う。 体力も、とっくに限界を超えている。 「ぁっ………」 ふわりと私の身体が宙に浮き、そのまま地面に倒れる。 「いたた………」 こんな、なんにもないところで転んじゃうなんて……。 もしこなたに見られたら、またからかわれちゃうな……。 『かがみぃ~、こんなところで転んじゃうなんて、もしかして、ドジッ娘属性もあったのかな~? ツンデレにドジッ娘……。よくゲームにでてくるパターンだねぇ~?? また1つかがみんの魅力に気づいちゃったよ~♪ でも、俺の嫁なんだから、ちゃんと身体を大事にしてよね~?』 こなたのニヤニヤ顔と独特間の延びした声が浮かぶ。 ―――こなただけじゃない。 『信じてます、かがみさん』 うん―――。そうだよね―――。 『お姉ちゃんが、できないことなんてないよ!』 みんな、私を信じてくれてる――。みんな、私を支えてくれてる――。 『こなたを……頼んだよ』 近くからも―――。 『……あの子を……お願いします』 彼方からも―――。 みんなの気持ちを、無駄にできない。 私の覚悟を、曲げられない!! 「しっかり……しなさい……!今だけでいいから……!!」 振り疲れた腕を叱咤し、疲労困憊の脚に力を込め、なんとか立ち上がる。 痛っ……。 今までとは違う痛みを感じ、見ると、右脚から赤い鮮血が流れていた。 転んだ時に怪我しちゃったみたいね……。 でもこれくらい、どうってことない。 こなたへの気持ちを我慢していた頃に比べたら、ちっとも辛くない。 『わあぁ!お姉ちゃん、その脚どうしたの!?』 『かがみさん、すぐ消毒しましょう!菌が入ってしまうと大変です!』 『かがみん何してたの?もしかして獣人と戦闘してその程度の傷っていうわけじゃ……』 頭だけは、ちゃんと働くみたいね………。 『誰が戦闘するか!』 私も、『いつものみんな』の中に入る。 こなた、聞こえてる? 私はね、そんないつもの風景を取り戻しに来たの。 あなたを取り戻しに来たの。 わたしを―――――取り戻しに来たの。 それだけを、その場所だけを目指して、走り出した。 さっきまでの疲れが嘘のように消え、脚の傷の痛みなんて少しも感じなかった。 まるで、昼に屋上の空を祝福していた神様が、今度は私を祝福してくれてるみたいだった。 ―――ありがとうございます、神様―――。 心の中でお礼を言った。 見慣れた建物が、見えてきた。 そう、そこは―――学校。 やっと着いた……!! こんなにも望んで、強い思いを抱いて校門をくぐるのは、初めてだった。 「こなた……!!」 早く探さないと……!! 校舎の中は昼とは違い、多分つかさなら怖がってその場から動けなくなるくらい、真っ暗。 ………………私も正直、怖い。 けれど今はそんなこと言ってられない。 感覚を頼りに教室を目指し、月明かりに照らされた廊下を駆け抜け、扉を開ける。 そこには暗闇に覆われた光景が広がっていた。 「こなた……?」 呼び掛けた相手の有無を確認するように、名前を呼ぶ。 存在が認知出来るのは、机と椅子と窓と黒板。 ………こなたの姿はなかった。 まだ――。 まだ1つしか見てないじゃない。 まだこなたがいないって決ったらワケじゃないわ。 ――窓には、少し陰った月がうつっていた。 私はやみくもに探し回る。 けれどその姿はない。 こなた、何処にいるの……!? こなた、こなた、こなた……!! ねぇ、隠れてないで、出てきてよ!! こなた、お願いっ!!私の願いに応えて……!! 私はその名前を呼び続けた。 けれど声は闇に吸い込まれていくだけだった。 最後の教室――――。 私はすがるような思いで扉を開ける。 熱いものが込み上げてきて、視界が歪む。 そこにも、私の求めてる姿はなかった――――――。 まだ……まだ……。 そう思いたい。だけど、もう探す場所がない。 もう一度探してみよう……。 ほんの数十分前まで気にならなかった疲れと痛みが、徐々に襲ってくる。 それでも私は来た道を戻りながら、一つひとつ見て回る。 けれど、どこの教室もあるのは暗闇だけ。 漆黒の空にたった一つ浮かぶ光。 空の教室を見る度に、その光も暗雲に覆われていく。 さっきまで私の中であんなに強い意志という名の光を放っていた心は、 今ではとても弱々しい、今にも消えてしまいそうなほど儚いものになっていた。 スタートラインだった教室。 今、そこに私は戻ってきた。 これが最後。 ………怖い。 もしこなたがいなかったら………。 ううん、いない確率のほうが高い……。 『扉をあける』という、誰でも日常的にやっていること。 今の私にはそれが計り知れないほどの恐怖の対象だった。 ―――こなた―――。 震える手で、扉を開けた。 ――――あったのは、どこまでもつづく暗闇。 ………こなたぁ……。 ねぇ……どこなの……? ……もしかして……違ったの……? こなたの望んでいたことは、私の望んでいたことと違ったの……? 私の中の僅かな光さえも、闇に――――。 月明かりが照らす僅かな光の中。 そこにうつるもの――――。 私の心の闇の中を、一筋の光が差し込み始めた。 小さな身体。 蒼の長い綺麗な髪。 頭に象徴を主張するようにあるアホ毛。 右目の下の泣き黒子。 エメラルドグリーンの瞳。 私の目にうつるもの―――。 一筋の光が、一瞬で大きくなった。 「こなたぁっ!!!」 私はその名前を呼んでいた。 また走り出していた。 さっきまでの辛さを少しも感じなかった。 私の心は、完全に光を取り戻していた。 そこは―――― ―――3年C組。私のクラス。 こなたはいてくれた。 私が思ったところに。 その小さな身体をさらに小さくして、膝を抱えて座る姿がそこにあった。 「こなた……!」 私はただただ嬉しくて、その名前を呼ぶ。 「か、かがみ……?」 こなたは対照的に、暗く小さな声で私の名前を呼んだ。 「本当にかがみなの………?夢とかお化けじゃない……?」 「そうよ……」 「さっきのも、夢じゃなかったんだ……」 こなたはびっくりしたような顔になった。 「こなた……な、なにやってたのよ……?」 息があがってしまい、単純な言葉しか話せないのが、もどかしい。 「今日休んだ分のノート写させてもらいたいから、かがみが来るのを待ってようかなって……」 「何時間……待つつもりなのよ……!」 「6時間でも12時間でも24時間でも……。かがみが朝に登校するのを待ってるつもりだったよ。 ほら私、ネトゲのモンスターの出現待ちとかで、待つのには慣れてるしね」 放課後から朝まで。 半日を越える時間。 わざわざ制服をきているし、本気で待つつもりだったんだろう。 「もう……!何言ってんのよ……!」 こなたが言っていることが建前だっていうのは分かる。 ……何で……。何でそこまでするのよ……。 私のためにそこまでしてくれたのはすごく嬉しい。 だけど、こなたがそんな辛い思いするようなことしなくていいのに……。 悪いのは私なんだから、辛いのは私だけで良いのに……。 「……かがみはどうしてこんなところに……?もしかして、忘れ物? 人に見られちゃマズイ物だから、夜に取りに来たのかな~?」 「バカ……。アンタを探してたのよ……!」 「えっ………?」 こなたは驚いたような顔になる。 「かがみが、私を……?」 「そうよ!な、なんかおかしいの!?」 もう息は整っていた。 「かがみはやっぱり優しいね……。私なんかのこと、探してくれてたんだ……」 「当たり前じゃない……!」 だって、こなたに会いたかったから……! 「…………ありがとう」 「私がそうしたかったからやったのよ。だから、お礼を言われる資格はないわ」 そう、これは私の意志――――。 だから私は今、こうしてこなたの前にいれる。 「私もかがみに会いたかった……。だから、学校に来たんだけど、もう放課後で……。 かがみがいるわけなかったんだよね……」 「こなた………」 待たせてごめんね……。 もっと早く気づいてあげればよかったのに……。 「かがみ、ごめん」 「こなたは謝らなくていいの。だって―――」 「何も言わないで良いよ。私、分かってるから……」 「違うの!」 「私、何か怒らせることしちゃったんだよね。だから、私のこと、最近避けてるんだよね……」 「こなたのせいじゃ―――」 言い終わる前に、言葉が止まった。 小さな身体が、小さな声が、小さく震えていた。 「ごめん……ごめん……なさい……。私……何でも……するから……かがみが…… して……欲しいこと……絶対……するから……許して……かがみ……お願い……」 こなたが……あのこなたが、泣いてる……。 いつもふざけたことばっかり言ってるこなたが……。 いつも私の宿題を写してばっかりのこなたが……。 いつも猫口で私の名前を呼んでくれるこなたが……。 いつも私の隣にいてくれたこなたが……。 私の好きな――ううん、愛してるこなたが……。 そのこなたが、泣いている。 こなたに悲しい涙を流させてるのは誰――? ――私だ。 なら、私のすべきことは何―――? ――それは、私が一番よく知ってる。 「こなた、ごめんね………」 「えっ……?」 私は、こなたをぎゅっと抱き締めた。 「謝らなくちゃいけないのは、私……。ごめんね……。 私にもっと勇気があれば、こなたにこんな悲しい思いをさせずにすんだのに……」 「かがみ……どうゆう……こと……?」 私は、こなたを抱き締めていた手を離し、こなたと向き合う。 「私、こなたのことが好き。世界中で一番好き。誰よりもこなたを愛してる」 「えっぇっ……?」 こなたの顔が、見たことがないくらい真っ赤になっている。 「ずっと、自分の気持ちを抑えてた……。こなたに迷惑かかるって思って。 それにもし伝えて、それで断られたら、こなたと、それからつかさやみゆきとも一緒にいられなくなるって……」 辛かった。でも、それが最善の策だと思ってた。 「だから、こなたと少し離れて気持ちを消そうって思ったの。 でも逆に、気持ちはどんどん大きくなっていちゃって……」 そう、自分の気持ちにウソはつけない。 「こなたが今日休んで……つかさとみゆきに呼び出されたわ。 そこで二人に言われて、やっとこなたと向き合う勇気が持てたの」 こなたは呆然としていたけど、すぐハッとなったように慌て始める。 「でも私、背も小さいし、胸もないし、オタクだし、アニメとゲームとマンガの 話ばっかりだし、勉強出来ないし、宿題も写してもらってばっかりだよ……?」 「バカ……。そんなところも全部好きなのよ」 こなたの全部。良いところも悪いところも。 その全てを、私は好きになったんだ。 「かがみ……」 こなたが、顔を伏せる。 「でも、女………だよ………?」 こなたもやっぱりそう思ってたんだ……。 でも、私の答えはもう出てる。 「私もずっと悩んでた……。でもわかったの。 私は一人の人間として、こなたを好きになったんだから、性別なんて関係ないって」 「ぁっ……」 「だから、こな――」 「かがみッ!!」 こなたが抱きついてきた。 「私もかがみのことが好き!」 「こなた……!」 私もこなたを抱きしめ返した。 「私も怖かったんだ……!かがみ、普通に彼氏とか作りたいみたいだったから……。 だから、身近に自分のことを好きだと思ってる『女』がいたら、距離を置かれると思った。 そしたら、今までみたいに、かがみと一緒にいることも出来なくなる……。 それだけは、絶対嫌だったんだ……。だから、隠そうと思った。 少しかがみに触れたり、私の嫁だって言うくらいなら良いよね、って自分に言い聞かせて、 それで我慢しようとしてたんだ。でもかがみはそれも嫌がってるみたいだった――。 だから、もう私はかがみの近くにいることを諦めたんだ……。 もう、私にはかがみの近くにいる資格をなくしちゃったから……」 それって――――私と同じ―――。 「でも、私は耐えられなくなっちゃったんだ……かがみが近くにいてくれないことに。 資格がないのに会おうとするのは、違反だってわかってたよ。 でも、自分の心にウソをつけなかった。 だから、無理やりにでも明日学校にくるまで、かがみを待ってることにしたんだ」 すごい……。こなたは私と違って、強いのね……。 「こなたは、自分でちゃんと正しい答えをだせたんだ……」 「実は……そうでもないんだよね……」 こなたはあはは、と笑いながら言いにくそうに言った。 「えっ?」 「実は私も、つかさやみゆきさんに色々言われてね……。 でも私、悪い想像ばっかりしちゃっててさ。それじゃダメだ!って思って、 今日休んでずっと考えた。それで、行動に移そうって決めたんだ」 「そうだったんだ」 つかさ、みゆき……本当にありがとう。 もし二人がいなかったら、私たちはきっと今ここにいなかった。 二人には、感謝してもしたりないわ……。 「ね、かがみ。私からも言わせて」 その時のこなたの顔は、力強かった。 「う、うん……」 「私もかがみのこと、1億年と2千年前から愛してる!!」 こなたの言葉が、私の心に何度も木霊する。 ――嬉しい。 私とこなた、ちゃんと繋がってる。そんな気がする。 でも、不思議……。照れくさくなると、つい憎まれ口を叩いちゃう。 「もう、こんなときにもアニメネタか」 「いいじゃん。そうゆうところも好きでいてくれてるん……でしょ?」 「ば、バカ……。恥ずかしいこと言わせるな……」 「自分で言ったことなのに照れてるかがみ萌え♪」 こなたは、もういつものこなたに戻っていた。 「う、うるさいわね……!もう、せっかくのムードが台無しよ」 「むふふ、かがみ、かっこよかったよ~?あんなこと言われたら、誰でもイチコロだよ♪」 「そ、そうゆうこなたも、さっき私のお願い、なんでも聞いてくれるって言ったわよね」 「い、言ったけど、それが?」 泣いたことが恥ずかしかったのか、こなたは少し顔を赤くして言った。 「それじゃ、一つ聞いてもらおうかしら」 「でも良いの?一回限定だよ?」 「そんなこといつ言ったのよ?」 「七つの玉で召喚される大きな龍だって、一回でしょ?」 また適当な言い訳を……。 ま、でも良いわ。 何回でもだったら、何か弱味を握ってるみたいだし、それに―――。 「それじゃ、こなた……」 「かがみ、ここは全年齢対象の板だからね?それを踏まえた発言をしてよね?」 「そんな変なことなんて言わないわよ!」 もう……!まぁ、でも今の方がこなたらしいんだけどね……。 「で、なに?」 不思議そうに眺めてくるこなた。 私は、いつもと変わらない口調で言った。 「もう『俺の嫁』って言うの、やめてくれる?」 「えっ、なんで……?」 さっきまでの顔から一変、こなたの顔は不安の色に染まる。 色んな表情を見せるこなた。 もう少しこの顔をみていたい気もするけれど、憂慮したままじゃ可哀想だしね……。 「それはね――――こなたが『俺の嫁』だからよ」 ふふ、こなたがまた顔を真っ赤にしてる。 「か、かがみ……それって……」 私はそれ以上何も言わなかった。 お互いの考えは同じだから、言葉にする必要ないから。 「ねぇ、こなた」 「なに?」 「あれ、見てよ」 私がこなたを抱き締めていた片手で、ある物を指差した。 こなたが、うわぁっ、と驚いたような表情をする。 「満月だ……」 黒い夜空に浮かぶ、真ん丸な月。 さっきまであんなに翳っていたはずの光……。 それがいつしか、神々しく輝いていた。 吉田兼好は陰りがあるほうが良いって言ってたけど、私はそんなことないと思う。 だって――――。 「私たちの未来は、きっと円満よ」 「それは、鏡じゃ……?」 「月は私なの」 「え?それってどう言うこと?」 「……ヒミツ」 「むむ、隠し事なんて、酷いなぁ」 「仕方ないわね。こなたがウサギだからよ」 「えぇっ!何で私がウサギなのさ!」 「私に会えなくて、寂しくなって目を赤くしちゃったじゃない」 「むむぅっ……かがみのイジワル……」 「良いじゃない、好きな子にはイジワルしたくなるものよ?」 「それって、小学生の男の子と同じLvだよ……」 「な、何とでも言いなさい」 「むむむ~~」 私はこなたの耳元でこっそりと囁く。 「そうすれば、私たち、毎日一緒にいられるでしょ………?」 「うわ……か、かがみ、大胆……だね」 「ふふ、こんなときくらい、素直になってもいいじゃない?」 「やっぱり普段は素直じゃなかったんだね」 「ば、バカ………そうゆうのは言わないものよ……」 『色々』の一言ですませられないくらいたくさんのことがあった……。 そして私は今――――こなたとここにいる。 お父さん、お母さん。 『かがみ』って名前をつけてくれて、ありがとう―――。 私、神様の恩恵をうけれたよ―――。 私とこなたの回りにいてくれている、みんな――― ――――ありがとう―――― この世界には、約60億人もの多くの人がいる。 その60億人の中で、私とこなたは出会えた。 そして私たちは今――――‘辛’さが‘幸’せになった。 「こなた」 「何?かがみ」 「もうこなたのこと、離さないわよ」 「望むところだよ、かがみん♪」 わたしの目にうつるもの。 それは、泉こなた。 ――――最愛の人。 うつるもの-Oath of Eleven-へ続く コメントフォーム 名前 コメント b(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-01 23 49 50) 月は太陽の光をうつして輝く... つまりそういうことか -- 名無しさん (2021-01-24 18 21 31) やばい、感動してしもた…。 -- 名無し (2010-05-16 07 41 58)
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『騎馬戦・その2』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 不意にみさおの周囲の景色が歪む。いや、正確には彼女の見ていた外の世界が。 (あ、あれ?) 彼女には何が起きたのか把握できない。ただ、鍛え抜かれた肉体が非言語レベルでの警告を発していた。ここは危険だ、逃げろ、と。わずかに残された理性が行動を開始しようとする。しかし圧倒的な多幸感の前に、たちまち抵抗も空しく押し潰されてしまう。 (なんか、すっごくいい気持ちだ……) そのまま彼女の意識は闇に呑まれた。 そして。 みさおの顔から表情が消える。眼に獣のごとき紅い光が宿る。筋肉という筋肉にかつてない緊張が走る。身体が三割ほど膨れ上がる。 「……Va……」 そこに存在しているのは、かつて日下部みさおと呼ばれた何かだった。 ◇ 「ナイスフォロー、さすがみゆき」 間一髪でつかさがみゆきにキャッチされるのを見届けたかがみは、改めてみさおを睨みつける。 「今度はこっちの番よ。日下部、覚悟はできてるんでしょうね」 「Va?」 もしかがみが怒りに我を忘れていなければ、みさおの異変にいち早く気づくことができたかも知れない。こう見えても中学以来、五年近くの付き合いである。彼女がやっていいことと悪いことの区別がつく人間だ、というくらいは理解していたはずなのに。全てが終わってからしばらくして、かがみはそのことに思い至ることになるが、それはまた別の話である。 首から上は激情に支配されていたかがみだが、肩から先は極めて冷静だった。慣れ親しんだドグファイト・スイッチを指だけでオン。HUD(ヘッドアップディスプレイ)の表示はガン・モードに替わる。自動的にロックオン。だが最適射撃体勢をとる前にみさおが動く。かがみはただちに戦闘機動を開始。大推力にものをいわせて急旋回。逃げるみさおを追撃する。照準環に入る。射程内。トリガーを引く。みさお、右にブレイク。HUDの残弾表示の数字があっという間に減る。命中しない。 「くっ」 思わずかがみは奥歯をかみ締める。やはり高機動能力では向こうが一枚上か。 後下方に敵騎、の警報音。反射的にブレイク。大G加速。あざ笑うようにみさおが下方を高速ですり抜けていく。照準する余裕もない。急ロール。距離を取って体勢を立て直す。 かがみはストア・コントロール・パネルをちらりと見る。RDY GUN、RDY AAMⅢ-4、RDY AAMⅤ-4、RDY AAMⅦ-6──対空兵装は完全武装。ミサイル発射レリーズに指をかける。心に迷いが生じる。これを押したらもう引き返せない。 不意にインカムの呼び出し音が鳴り響く。 「はい、こちら柊」 『桜庭だ。お楽しみのところ悪いが、少し話がしたい。すまんが運営席まで戻ってくれ』 「でも……」 『日下部の相手なら、あとでいくらでもさせてやる』 「話というのは」 『なに、ちょっとしたことさ』 まるで世間話でも始めようといわんばかり。だが、かがみは、この桜庭ひかるという教師がある種の韜晦癖の持ち主であることを知っている。 (暗号化通信でも話せないヤバイ内容ってことか) FC(射撃管制)レーダーがみさおを捉えている。HUDにキュー。ブリップの脇にHシンボル。高速接近中の表示。 (つかさの容態も気になるし。しかたない、一度戻るか) 「了解。戻ります」 かがみ騎、MAXアフターバーナー。戦場から離脱する。最高速度で劣るみさお騎は追いつけない。 ◇ 一方、一対四で防戦中だったこなたにも異変が起きていた。 「つかさ、つかさ、つかさ、つかさ……」 何も見えない。 何も聞こえない。 何も感じられない。 こなたの脳内でリフレインされる、つかさが吹き飛ばされる瞬間の映像。 「つかさを、返せーーーーーっ!」 種が、割れる。 「な、なんだ。急に動きが──」 圧倒的優位に立っていたはずの四騎は、突然のこなたの反撃に対応し切れない。 「ハルカ、右にブレイクッ!」 「へっ?」 坂本美緒の警告と迫水ハルカのハチマキが奪われたのは、ほぼ同時だった。 (なんだあいつ、反応速度が今までとは桁違いだ) 危険を感じた美緒は列騎に指示を飛ばす。 「智子、宮藤、一旦引いて距離を取れ。体勢を立て直して、ジェットストリームアタックをかける」 「了解っ!」 生き残った三騎は思い思いの方向に離脱する。 「お願いします、仇を取ってくださいよ~」 ハチマキを奪われリタイアしたハルカが、瓶底眼鏡をずり上げながら情けない声で叫んでいた。 スーパーフェニックスが吼える。こなたは姿勢を変化させずに美緒騎の後を追い上昇する──騎首をもたげることなく、対地水平姿勢のまま上昇増速。 「狙いはあたしか。ずいぶんと舐めてくれる」 こなたは六発の中距離仮想高速ミサイルを発射。美緒騎のMTI(移動目標インジケータ)上に仮想ミサイルの航跡が合成シミュレートされて表示される。 来るぞ。美緒はMTIからHUDに目をうつす。最初の五騎はこれで一方的に潰滅したのだ。 美緒騎、C組の新型高速ミサイルを発射。四発。これもシミュレート。ミサイル迎撃成功。その前に美緒騎は魔法障壁を展開しながら高機動回避に入っている。残りの二発の敵ミサイルはなおも接近、十秒で美緒騎に達する。美緒騎は騎首を敵ミサイルに向けたまま螺旋を描き、第一弾を回避。二発目を高速射撃で撃墜、瞬時に騎体を右にスライド、三発目にそなえて騎体をバンクさせずにジグザグ機動、こなたに接近する。こなたは逃げずに突っ込んでくる。真正面から。 突然、こなたはエアブレーキを開いて急減速した。速度を殺す。ダイブ。急降下。 美緒は目を見開く。こなたのふるまいは騎馬戦のセオリーからはずれている。 美緒騎、こなた上空を亜音速で通過。 一瞬、美緒はこなたを見失う。とっさに騎首を下げ、そのままロールせず順面のまま逆宙返り。美緒の頭に血がのぼり、視界が真っ赤になる。レッドアウト。思わずループ径をゆるめ、こなたを捜す。上後方に敵騎、の警告音。急反転上昇旋回。こなた、最大AOA、ガンサイト=オープン。上昇に移る直前の美緒騎をロックオン。もちろん実弾射撃はしない。ファイア。射程ぎりぎりでのこの攻撃は運営席の戦術シミュレータにより失敗と判定される。美緒騎、ただちに反撃。 急旋回した美緒騎はこなたの左後方に占位。こなた、アフターバーナー点火。亜音速から大G加速。すかさず美緒騎は騎首をこなたに向けて、振る。騎体がぐいと回転。ロックオン。自動射撃。射程外。短距離高速ミサイル発射。四発。こなた、突発的に一六Gをかけて仮想ミサイル群を回避。 「なんてやつだ──あいつは……泉こなたは化け物だ」 (作者:もう少し続けてもいいですか?) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『騎馬戦・いんたーみっしょん』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― こなた:……なんか、妙なところで引きになってますネ。 かがみ:話によると、作者の中の人があそこまで書いたら朝になってた、ってことらしいわよ。 こなた:あー、なんかわかるなぁ。深夜のテンションって、ときとして異常なものがあるけど、いざ朝になって見直してみたら『なんて恥ずかしいことしてんだ、私は』みたいな? かがみ:まあ、わからないでもないかな。でもそう言うからには、あんたもそういう経験とかあるの? こなた:そりゃぁ……(何故か頬を朱に染める)。ほら、昨日だって一晩中あんなことやこんな──。 かがみ:はいストーップ! アブない発言禁止ーっ! こなた:……むぅ、読者の人はむしろそっちの方を期待してんじゃん(ブツブツ)……。 かがみ:何か言ったか。 なんなら一度、拳で教育が必要か? こなた:えー、気を取り直しまして。なんかみさきちがヤバイ雰囲気ですよ。暴走? かがみ:こなたも種割れしてたしね(笑)。あ、それと桜庭先生が私のことを呼び戻したりしたのも、気になるといえば気になるわね。 こなた:なるほど、未回収の伏線がいろいろあるわけだね。これはやっぱり続編に期待でしょうか、解説者のかがみさん。 かがみ:誰が解説者だよっ。まあでも、確かにあのまま終わらされちゃ、演じてるこっちとしても後味悪いもんね。 こなた:ではそのあたりの期待感なども盛り込みつつ、上手にまとめていただけますかね。 かがみ:そこで私にふるのかよ。たまには自分でやったらどうなんだ? かがみ:いやまあ、そこはそれですよ、お代官様。あとでタンマリと山吹色のカスティラが……。 かがみ:いらねーよ。 こなた:じゃあ、こういうのは? (こなたがかがみの席に回りこみ、耳元で何ごとか囁く) かがみ:(耳まで朱に染めて)……ホ、ホントに? こなた:万事このお姉さんに、泥舟に乗ったつもりで任せなさいっ! かがみ:し、しかたないわね。今日のところはだまされてあげるわ。 こなた:一見不満そうに見えてそれでもきちんと役割はたしてくれるかがみ萌え。 かがみ:萌えって言うなっ! (コホン)では、今後を楽しみにしつつ応援していただければ、またなにか新しい展開があるかもしれないので、引き続き応援をよろしくお願いします。 こなた:では最後に、恒例のお約束のあれを。 かがみ:はいはい。では、せーのっ! ふたり:バイニー! (2008.10.16 都内某スタジオで収録) 坂本:うーむ、はたしてあたし達は次回も出番あるのだろうか。 宮藤:はいはいはーい。あたし実は、高良さんの胸にすっごい興味があるんです。 坂本:……宮藤、お前だけは出なくていいから。 宮藤:えーっ、なんでですかー? 坂本さん酷いですよ~! P:OH! ユ○カは、コナタのことが心配じゃないですか? Y:そ、そんなことないけど。でもあの、本当に大丈夫なのかな、これ? H:いや、だからさパ○ィ。あの戦闘に介入するなんて、無茶を通り越して無謀という気がするんだけど。 P:問題ありませーん。我らソレス○ルビーイングのガン○ムマイスターには、この地球上の争いゴトを根絶する、という大儀があるのデ~ス! M:……いつに間に、そんなことに……。 (Fin) コメントフォーム 名前 コメント まてwwこれはなんなんだwww もはやらき☆すたじゃねぇww -- 名無しさん (2008-10-25 13 46 16) カオスだがやっぱり面白いw これからも枕元で毎晩囁いてみますので、これからも楽しい作品お願いします。 GJ!! -- にゃあ (2008-10-23 04 41 48) いろんな意味でカオスだ… -- 名無しさん (2008-10-19 02 13 36)
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「いやー、大丈夫だよ!ほ、ほら!回りに人もちらほらいるしさっ!」 ホントは人なんていない。私達だけが歩く夜道。 「それにさー、いいよって言われると逆にさ・・・ねぇ?」 頭が真っ白な中奮闘する私。内緒にするって決めたんだ。これ以上、かがみに迷惑は、かけたくないんだ。 「・・・バカ。」 「え?バカって?」 そう言い終わらないウチに、私は包まれる。春の陽気のような温かさ。私に安らぎを与える匂い。心地よい空間。 思考が現状についてきてくれない。本当に真っ白。 「あんたの事よ・・・私に恥かかせる気?」 やっと分かった。私は今、かがみの腕の中。だからこんなにドキドキするんだ。 柔らかい感触。優しい雰囲気。全てが私をおかしくさせる。 「え、あぅ・・・」 「ねぇ、こなた。これでも・・・ぎゅってしてくれないの?」 糸が切れる。作り物の私が壊れる。我慢しないでいいんだ。この想い、止めなくて、いいんだ。 「かがみ・・・」 何も言えない。気のきいたセリフも、ムードを作る言葉も、出てこない。 だから、3つの音を繋いだ単語を口にして、思いっきり抱き締めた。 「全く。待ちくたびれたわよ。あんた、いつまでたっても言ってくれないんだもん・・・」 「・・・ごめん。」 「い、今だって、ホントは凄く恥ずかしいんだからねっ!」 「あぅ・・・」 「でもね・・・私は、今幸せだよ。こなたは?」 ホントにバカだな。恐がって、怯えて、動けなかった私。想いを届ける事さえしなかった私。 でも、今なら言える。これはかがみへのお礼。勇気を出してくれた、私に勇気をくれた、愛しい人への大切な想い。 「んー、やっぱりかがみは私の嫁!」 「言うと思った!」 笑い合う薄紫と深青。交われば何色になるのかな?何色にだって慣れる。全部私達しだい。 「ずっと一緒だよね、私とかがみ!」 「・・・うん!」 未来は赤色?黄色?それともオレンジ?分からない。だって、これから始まるから。私とかがみの第2章。 さぁ、始まるザマスよ!