約 4,315,482 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/8299.html
憂「えっ?」 唯「私だって高校生だよ!恋の一つや二つしてみたいんだよ!」 憂「こ、恋って!おねえちゃん!」 唯「ラブラブしてみたいの!こう、いちゃいちゃって!」 憂(い、いちゃいちゃ!?おねえちゃんがいちゃいちゃ……いちゃいちゃ……) 憂「……あ、相手は誰ッッッ!!!!」 クワッ 唯「これから探すんだよ~♪」 唯「憂はそういうのないの?いちゃいちゃしたーいみたいな」 憂「わ、私は……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 唯「うーいー」 だきっ 憂「わ!おねえちゃん」 唯「えへへー、憂だーいすきっ♪」 なでなで 憂「えへへ、私もおねえちゃんだーいすきっ♪」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 憂「……うん、いいよね!いちゃいちゃ」 唯「でしょー?」 唯「だからいちゃいちゃしたいのー!いちゃいちゃしてドキドキしたい!」 憂「うん!そうだね、おねえちゃん!」 ムフー 唯「でも具体的にどうすればいいんだろう……」 憂(そんなの簡単だよ!私といちゃいちゃすればいいんだよおねえちゃん!!) 唯「うーん」 憂「なんて言えねえええええ!!!」 唯「わっ!どうしたの?憂」 憂「な、なんでもないよおねえちゃん!!」 唯「うーん」 憂「うーんうーん」 憂(来たるべき日のために私といちゃいちゃする練習しない?…いや、これじゃあからさますぎる) 唯「うーん」 憂「うーんうーんうーん」 憂(妹をぎゅってすると彼氏ができるって雑誌で見たよ!……いや、彼氏できちゃまずいし) 唯「うーん」 憂「うーんうーんうーんうーん」 憂(おねえちゃん結婚して!!!!!!!……いや、落ち着け私) 唯(……すごい一生懸命考えてくれてるなあ。ありがとう、憂!) ジーン ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ けいおんぶ! 唯「二人で考えたけど、特に何も思い浮かばなかったんだよー」 澪「こ、恋……か //// 」 紬「すてき!」 キラキラ 唯「みんなはしたことないの?燃えるような恋!」 澪「そ、そんなこと言われても! //// 」 律「女子校だしなぁー」 唯「そこなんだよねぇ~」 ハフー 唯「ていうかさ」 唯「恋ってなに」 律「うお、これまた答えにくい質問を」 紬「うふふ♪」 澪「恋……か。そうだな……」 唯「おお、澪ちゃん!」 律「そういやこういうのは澪の専売特許だったな!」 紬「教えて澪ちゃん!恋ってなんなの?」 澪「……灰色熊さんが持ってきたクラッシュゼリー」 唯「え?」 律「へ?」 澪「甘くて冷たくて柔らかくて……」 唯「う、うん」 澪「気がつけば私の後ろにくまさんが」 律「……」 澪「いまはだめ。食べおわるまでまって……」 唯「えーと……恋?」 律「……だめだ。あたしらみたいな素人じゃ解読できん」 澪「……よだれを垂らして見てるのはゼリー?それとも……」 唯「恋ってなんだろうねー」 律「なー」 紬「そんなに難しく考える必要ないと思うけど」 唯「ムギちゃん!何か知ってるの?」 紬「人を好きと思う気持ちに理屈なんて必要ないのよ、唯ちゃん」 律「うおお!なんか大人の意見だ!」 紬「唯ちゃんは、いちゃいちゃ……ぎゅって抱き合ったり、ちゅっちゅってキスしたら楽しいだろうな、って思う人はいる?」 唯「ぎゅってしたり、ちゅっちゅってしたり……あっ!あずにゃん!」 紬「ふふっ、もしかしたらその気持ちが恋なのかも♪」 唯「そっか!わたし、あずにゃんに恋してたんだね!」 律「いやいや」 紬「うふふ♪」 キラキラ ガチャ 梓「おくれましたー」 唯「あーずにゃーーーーん!」 ガバッ 梓「にゃー!!」 唯「あずにゃん、だいすきー!ちゅっちゅー!」 ムチュー 梓「ふぎゃあ!なにするんですかーっ!」 唯「愛してるよあずにゃーん!つきあってー♪」 ギュウギュウ 梓「にゃーっ!いつも以上に、しつこっ……澪先輩、助け」 澪「……その時私はこう言うの。くまさん?まだ満足してないんでしょう……」 梓(あ、だめだこれ) ギュウギュウナデナデチュッチュッチュ 唯「ぷはー」 ツヤツヤ 梓「ううう……」 げっそり 律「おつかれー」 梓「助けてくださいよ!」 律「いやー、他人の恋路を邪魔しちゃアレだしー?」 ニヤニヤ 梓「恋路じゃないですっ!」 唯「恋路だよ、あずにゃん!」 梓「えっ」 唯「わたし、ついさっき気づいたの!」 唯「あずにゃんのことが好きです!つきあってください!!」 梓「は?」 唯「愛の告白だよ!あずにゃん!」 梓「いや、ごめんなさい」 唯「即答!?」 ガーン 唯「失恋したー」 メソメソ 律「おーよしよし」 紬「元気出して唯ちゃん。次はきっとうまくいくわ!」 ふんす 梓「なんなんですか。いったい」 律「んー、なんか唯が恋をしてみたいらしくてな」 梓「はぁ。……それでなんで私なんですか」 唯「だってあずにゃんのことぎゅーってしたりなでなでしたりするの好きだし……」 梓「そういうことなら憂にしてください」 唯「うえーん……え、憂に?」 梓「憂に言えば喜ぶと思いますよ」 律「そりゃ確かになぁ」 ニシシ 紬「うふふ♪」 ツヤツヤ 唯「憂かぁ……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ひらさわけ! 唯「でね、ムギちゃんが難しく考えちゃだめだよって教えてくれてね」 憂「うんうん(おねえちゃんかわいい♪)」 唯「それでね、あずにゃんに告白したんだー」 憂「ブーーーーッ!?」 唯「う、うい?大丈夫!?」 憂「げほっげほっ、うん、大丈夫……」 憂(あんのドロボウ猫が!) ギリッ 唯「でね、そういうのは憂にしてくださいって」 憂(あの幸福の招き猫が!) ニヘラッ 唯「でも憂じゃそんな感じしないんだよねー」 憂「ええっ!?」 ガーン 唯「ほら、家族だし」 憂「そう……だよね」 ズーン 唯「生まれた時から籍も入ってるしさ」 憂「えっ」 唯「恋人っていうよりは、夫婦って感じじゃない?」 憂「おねえ……ちゃん!」 ジーン 憂「おねえちゃーん!」 がばっ 唯「わわっ」 憂「おねえちゃんだいすきー!夫婦としてすきー!」 ぎゅう 唯「あはは、わたしも憂のこと大好きだよー♪」 なでなで 憂「はうぅ……♪」 ポワワン ギュウギュウナデナデチュッチュッチュ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ つぎのひ! 紬「あらあらまあまあ♪」ツヤツヤ 律「それで昨日は憂ちゃんとイチャイチャしてたわけだ」 唯「うん、でも憂は家族だから、ちゃんと恋人見つけないと」 律「……それは不倫というものじゃないのかしらん」 唯「夫婦ってのはたとえ話だよー」 紬(憂ちゃんはそうは思ってないと思うけど……) 唯「うーん、あずにゃんには振られちゃったから、あとは……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ガラガラ 澪「あっ、唯」 唯「のどかちゃーん」 和「あら、唯?どうしたの」 澪(あ、私に会いにきてくれたんじゃないんだ) シュン 澪(べ、べつに寂しいわけじゃないぞ) 唯「あのね!……」 和「そうね……ね…」 澪(……なんかきまずい) 澪(トイレにでもいってこよう……) ガラガラ 和「そうなんだ」 唯「あははは!けっさくだよねー」 和「ねえ唯、何か用があって来たんじゃないの?」 唯「はっ、そうだった!」 和「もう、しょうがない子ね」 唯「あのねあのね」 唯「和ちゃん、私とつきあって!」 和「いいわよ?」 ざわ…… ざわ…… 唯「ほんと?やったー!」 和「別にいいけど、生徒会終わってからでいい?」 唯「えっ?」 和「?」 唯「ちっがーう!そういう放課後にどこかつきあってーみたいな感じじゃなくってー!」 和「どういうことよ」 唯「だからつきあってほしいの!愛の告白なのっ!」 ザワザワ 和「はぁ。あなたねえ。そういうのは冗談で口に出すものじゃないのよ」 唯「本気なのー。本気の恋愛がしたいのにー。」 和「……なるほど、そういうことね」 和「恋愛がしてみたいのが第一で、今は適当な相手を探してる最中ってところ?」 唯「えっ、なんでわかったの?和ちゃんすごい!」 和「……愛の形としては間違ってはいないと思うわ」 唯「おおっ」 フンス 和「ええ。付き合ってから愛が芽生えるって人も多いから」 唯「そうなんだ!」 和「でも私は忙しいから付き合うのはちょっと無理だわ。他の人を探しなさい」 唯「ちぇー。」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 澪「ふう、すっきりした。心はすっきりしないまま…」 ガラガラ 澪「あ、唯」 唯「ぶつぶつ」 スイー 澪(……スルーされた) ズーン 唯「あずにゃんと和ちゃんには振られちゃったし、あとは……」 唯「りっちゃん相手にはなんかそんな気しないから、あとは澪ちゃんとムギちゃんだよね」 唯「うーん、いちゃいちゃちゅっちゅして楽しそうなのは……」 唯「……どっちもいいなあ」 テヘヘ 唯「でも、どっちかっていえば……うーん」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ けいおんぶ! 唯「ということで、澪ちゃん私とつきあってー!」 澪「ええっ?」 梓「えええっ!?」 紬「アハーーーン♪」 キラキラキラキラ 澪「な、なんで私なんだ?唯…」 唯「だって澪ちゃんかわいいもん!」 澪「かわいい…って、そ、そんな //// 」 唯「だからつきあって!」 澪「う……うん //// 」 律「あ、おちた」 梓「だめですーっ!!」 ドカーン 唯「わっ!びっくりした」 梓「ふ、不順異性交遊は認められません!風紀が乱れますっ!」 律「同性だけどな」 唯「ぶーぶー。あずにゃんのいけずー」 澪「そ、そうだぞ梓。今まで何も言わなかったのになんでいきなり」 梓「そ、それは…… //// 」 紬「!」 ピキーン 紬「きっと梓ちゃんも澪ちゃんのことが好きなのねー♪」 梓「ムギ先輩!?」 律「三角関係か……なるほど」 梓「律先輩まで!」 澪「あ、梓…… //// 」 梓「あう…… //// 」 唯「そうだったんだ!知らなかったよー」 梓「ゆ、唯先輩っ!」 唯「あずにゃんも澪ちゃんのこと好きだったんだね!」 梓「……そ、そうですよっ!」 梓「新歓ライブで澪先輩のこと見てからずっと憧れてたんです!」 梓「それから軽音部に入って、外から見てるだけじゃわからない澪先輩の魅力をたくさん知って…」 梓「いつからか、憧れだったのが好きって気持ちに変わってたんです!」 梓「でも、でも、口に出すのは怖くて、気持ちを伝えて、拒絶されるのが怖くて!」 梓「……それでも、ずっと!ずっと想って来たんです!この気持ちは誰にも負けませんっ!!」 梓「だから、だから遊び半分の唯先輩に持ってかれるなんて許せないんですっ!!!」 澪「梓……」 ジーン 梓「ですから、唯先輩!澪先輩は渡しませんからっ!」 キッ 澪(私を巡って二人が……) ドキドキ 唯「じゃあいいよ。澪ちゃんあげる」 澪「え」 梓「へっ?」 唯「ムギちゃーん、つきあってー♪」 ムギュ 紬「あらあら♪よろこんで♪」 ナデナデ 梓「……」 澪「……」 梓「……はっ!あ、あの」 澪「え、あ。うん」 梓「あの!さっきのは……その、じょうだん、っていうか」 モゴモゴ 澪「じょうだん……」 梓「だ、だからその、忘れてくださいっ!」 ダダッ 澪「いやだ!」 梓「えっ」 澪「……忘れるなんて、いやだ。……やだよ」 ポロッ 梓「澪……先輩」 澪「さっきの、ちょっと……嬉しかったんだぞ」 グスッ 梓「澪せんぱぁい!」 タタッ 唯「ムギちゃん!一緒に燃えるような恋しようね!」 ギュー 紬「うん♪がんばろうね、唯ちゃん!」 スリスリナデナデ 梓「み、澪先輩……私も、その…… ////」 澪「あ、ああ //// こんな感じか?」 ナデナデ 梓「はぅ…… //// 澪先輩、大好きです //// 」 澪「梓…… //// 」 律「……」 律「燃えるような恋がしたい」 End. 戻る
https://w.atwiki.jp/monosepia/pages/3322.html
いろいろブログ&サイト【TOP】 / 日本の歴史 ■ 明治・その時代を考えてみよう 歴史のなかの一時期、明治という時代に焦点をあてて様々な点からの考察をこころみています。宜しければ見ていってください。 ■ 正統史観年表 自虐史観=東京裁判史観=戦勝国史観=植民地教育=戦う気力を抜く教育=戦う人は悪い人=軍民分割統治=団結させない個人主義教育の洗脳を解き、誇りある歴史を取り戻そう! ■ しばやんの日々 (※ 歴史雑記多数。太平洋戦争雑記、コミンテルン雑記、切支丹雑記では日本人奴隷の輸出についても書かれている。) ■ ぴゅあ☆ぴゅあ1949 (白州次郎・下山事件・造船疑獄・昭電疑獄・帝銀事件・M資金など戦後史を追求している。- monosepia) ▲ 白州次郎インデックス ■ イシタキ・ファイル (※ 近代史、部落史のカテゴリーあり。) ■ 前坂俊之オフィシャルサイト 地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える ▲ 前坂俊之〔Wikipedia〕 日本のジャーナリスト、ノンフィクション作家、評論家、日本近現代史、日本政治思想史研究者 .
https://w.atwiki.jp/strawberrypie/pages/12.html
<平成17年> ・平成15(行ヒ)215 法人税更正処分取消請求事件 平成17年12月19日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【判示事項】 外国税額控除の余裕枠を利用して利益を得ようとする取引に基づいて生じた所得に対して課された外国法人税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることが許されないとされた事例 【裁判要旨】 外国税額控除制度を濫用する取引に基づいて生じた所得について外国の法令により課された法人税に相当する税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることは許されないとされた事例 【参照法条】 法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条 ・平成16(受)1573 敷金返還請求事件 平成17年12月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例 ・平成15(受)1980 土地所有権確認請求事件 平成17年12月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可がされていない埋立地が土地として私法上所有権の客体になる場合 【裁判要旨】 公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可を受けていない埋立地であっても,同法35条1項に定める原状回復義務の対象とならなくなった場合には,土地として私法上所有権の客体になる 【参照法条】 公有水面埋立法(昭和48年法律第84号による改正前のもの)2条,22条,35条1項,民法86条1項,162条,国有財産法3条 ・平成16(オ)402 土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 A名義の不動産につきB,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,Aの共同相続人であるXは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,上記登記の全部抹消を求めることができる ・平成14(行ヒ)325 違法公金支出金返還請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 情報公開条例に基づき多数の食糧費の支出に関する文書の写しの交付を受けた日から約4か月後にされた住民監査請求について地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由がないとされた事例 ・平成17(受)560 不当利得返還請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項 2 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項 【裁判要旨】 1 貸金業法17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項 2 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業法17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項 【参照法条】 (1,2につき)貸金業の規制等に関する法律17条1項,43条1項,利息制限法1条1項 ・平成17(あ)204 電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件 平成17年12月13日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 新株の引受人が会社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によってした新株の払込みが無効であるとして商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記録をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例 【裁判要旨】 甲社の増資の際,新株の引受人である乙社において甲社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によって行った新株の払込みが無効であるとして,商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記載をさせた行為について電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例 【参照法条】 商法280条の7,刑法157条1項 ・平成17(受)1398 社員総会決議無効確認等請求事件 平成17年12月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 公共嘱託登記土地家屋調査士協会の総会において社員の除名決議をするに当たり除名事由が具体的に特定して示されたとはいえないとして決議が無効とされた事例 ・平成17(許)18 間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年12月09日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするために債権者において債務者の不作為義務違反の事実を立証することの要否 【裁判要旨】 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない 【参照法条】 民事執行法172条1項 ・平成17(受)715 損害賠償請求事件 平成17年12月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,速やかに外部の医療機関へ転送されていたならば重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえないとして,国家賠償責任が認められなかった事例 ・平成16(行ヒ)114 小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求事件 平成17年12月07日 最高裁判所大法廷 判決 その他 東京高等裁判所 【判示事項】 1 都市計画事業の認可の取消訴訟と事業地の周辺住民の原告適格 2 鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業の事業地の周辺住民が同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有するとされた事例 3 鉄道の連続立体交差化に当たり付属街路を設置することを内容とする都市計画事業の事業地の周辺住民が同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有しないとされた事例 【裁判要旨】 1 都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は同事業の認可の取消しを求める訴訟の原告適格を有する 2 鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業認可の取消訴訟において事業地の周辺に居住する住民が原告適格を有するとされた事例 3 鉄道の連続立体交差化に当たり付属街路を設置することを内容とする都市計画事業認可の取消訴訟において事業地の周辺に居住する住民が原告適格を有しないとされた事例 【参照法条】 (1~3につき)行政事件訴訟法9条,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項(1につき)都市計画法(平成7年法律第14号による改正前のもの)13条1項,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)61条,公害対策基本法19条,環境基本法17条,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)24条,25条,45条(2につき)東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成14年東京都条例第127号による改正前のもの)2条3号,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)2条5号,13条1項,別表3号 ・平成16(あ)2199 未成年者略取被告事件 平成17年12月06日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 母の監護下にある2歳の子を別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った略取行為につき違法性が阻却されないとされた事例 【裁判要旨】 妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例 【参照法条】 刑法35条,刑法224条,民法818条,民法820条 ・平成17(許)19 債権差押命令申立て一部却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年12月06日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権と民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」 【裁判要旨】 健康保険法上の保険医療機関,生活保護法上の指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たる 【参照法条】 民事執行法151条の2,151条,社会保険診療報酬支払基金法1条,15条1項,2項,健康保険法63条3項1号,76条,国民健康保険法36条3項,45条,生活保護法49条,53条,児童福祉法20条,21条の3 ・平成14(オ)1615 損害賠償請求事件 平成17年12月01日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 1 学校教育法21条1項,51 条,教科用図書検定規則,旧高等学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第44号)に基づく高等学校用の教科用図書の検定と憲法13条,21条,23 条,26条(合憲) 2 学校教育法21条1項,51条,教科用図書検定規則,旧高等学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第44号)に基づく高等学校用の教科用図書の検定における文部大臣の裁量的判断と国家賠償法上の違法 ・平成16(あ)2172 逮捕監禁,営利略取,殺人,死体遺棄被告事件 平成17年11月29日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 殺人,死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続に法令違反は存しないとされた事例 【裁判要旨】 殺人,死体遺棄の公訴事実について,被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが,弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして,裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続には,上記弁論において弁護人が,証拠関係,審理経過を踏まえた上で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたとみることができるなど判示の事情の下では,法令違反は存しない。 (補足意見がある。) 【参照法条】 刑訴法30条,刑訴法293条2項,刑訴法379条,刑訴規則211条,憲法37条3項 ・平成16(あ)2571 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件 平成17年11月25日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項にいう「つきまとい等を反復してすること」の意義 【裁判要旨】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項の「ストーカー行為」とは,同条1項1号から8号までに掲げる「つきまとい等」のうち,いずれかの行為をすることを反復する行為をいい,特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではない。 【参照法条】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条 ・平成17(し)380 裁判官がした証拠保全における押収の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件 平成17年11月25日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 京都地方裁判所 【判示事項】 捜査機関が収集し保管している証拠を証拠保全手続の対象とすることの可否 【裁判要旨】 捜査機関が収集し保管している証拠は,特段の事情が存しない限り,証拠保全手続の対象にならない。 【参照法条】 刑訴法179条 ・平成15(受)278 配当異議事件 平成17年11月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【判示事項】 【裁判要旨】 根抵当権の実行としての競売の申立書に被担保債権及び請求債権の表示としてされた「金8億円 但し,債権者が債務者に対して有する下記債権のうち,下記記載の順序にしたがい上記金額に満つるまで。」との記載が被担保債権の一部について担保権の実行をする趣旨の記載ではないとされた事例 ・平成17(受)721 診療費等請求事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 公立病院における診療に関する債権の消滅時効期間 【裁判要旨】 公立病院における診療に関する債権の消滅時効期間は,民法170条1号により3年と解すべきである 【参照法条】 民法170条1号,地方自治法236条1項,会計法30条 ・平成16(あ)1478 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 防衛庁調達実施本部の実施する指名競争入札の運用が同本部の提示した最低価格で落札されることが長年続くなど形がい化していたとしても指名業者による受注調整行為について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号の罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 防衛庁調達実施本部の実施する指名競争入札の運用が当初入札が不調となった後同本部の提示した最低価格で落札されることが長年続くなど形がい化していたとしても,同本部においてこれを指示,要請し,あるいは主導したものではなく,指名業者の入札における自由競争が妨げられていたというわけではないなど判示の事情の下では,指名業者が,長年の慣行に従って,前年度の受注実績を勘案して受注予定会社を決定した上,同社が受注できるような価格で入札を行うように受注調整をした行為について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号の罪が成立する。 【参照法条】 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条6項,3条,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号 ・平成16(受)1434 損害賠償請求事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効の起算点 【裁判要旨】 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効は,民法724条により,被害者が損害及び加害者を知った時から進行する 【参照法条】 民法166条1項,同法724条,商法798条1項 ・平成17(ク)626 過料不処罰決定に対する特別抗告事件 平成17年11月18日 最高裁判所第二小法廷 決定 却下 広島地方裁判所 【裁判要旨】 民訴法209条1項の過料の裁判についての訴訟の当事者の申立権 ・平成15(行ヒ)231 損害賠償代位請求事件 平成17年11月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 仙台高等裁判所 【裁判要旨】 地方自治法237条2項の議会の議決があったというためには,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する ・平成16(あ)385 業務上過失致死被告事件 平成17年11月15日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 大学附属病院の耳鼻咽喉科に所属し患者の主治医の立場にある医師が抗がん剤の投与計画の立案を誤り抗がん剤を過剰投与するなどして患者を死亡させた医療事故について同科の科長に業務上過失致死罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 大学附属病院の耳鼻咽喉科に所属し患者の主治医の立場にある医師が,抗がん剤の投与計画の立案を誤り,週1回投与すべき抗がん剤を連日投与するとともに,その副作用に適切に対応することなく患者を死亡させた医療事故において,その症例が極めてまれであり,科長を始めとして同科に所属する医師らに同症例を取り扱った経験がなく,上記抗がん剤による治療も未経験でその毒性,副作用等について十分な知識もなかったなど判示の事実関係の下では,治療方針等の最終的な決定権を有する同科長には,上記抗がん剤による治療の適否とその用法・用量・副作用などについて把握した上で,投与計画案の内容を具体的に検討して誤りがあれば是正すべき注意義務を怠った過失と,主治医らの上記抗がん剤の副作用に関する知識を確かめ,的確に対応できるように事前に指導するとともに,懸念される副作用が発現した場合には直ちに報告するよう具体的に指示すべき注意義務を怠った過失があり,業務上過失致死罪が成立する。 【参照法条】 刑法(平成13年法律第138号による改正前のもの)211条前段 ・平成14(あ)1396 被告人Aに対する公正証書原本不実記載,同行使,有印私文書偽造,同行使,被告人Bに対する公正証書原本不実記載,同行使各被告事件 平成17年11月15日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 定款に株式譲渡制限の定めのある非上場会社の一人株主がその全株式を同社の債務の担保のため譲渡担保に供するなどした後に同社の役員の解任及び選任等の株式会社変更登記申請を行い同社の商業登記簿の原本にその旨記載させた行為につき公正証書原本不実記載罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 定款に株式譲渡制限の定めのある非上場会社の一人株主が,その全株式を同社の債務の担保のため譲渡担保に供した後に,同社の役員の解任及び選任等の株式会社変更登記申請を債権者の関与なく行い,同社の商業登記簿の原本にその旨記載させた行為は,上記譲渡担保の契約当事者の合理的な意思解釈として,株主共益権を債権者に帰属させる旨の合意があったものと認められる判示の事情の下では,公正証書原本不実記載罪に当たる。 【参照法条】 民法369条(譲渡担保),商法204条1項,商法241条1項,刑法157条1項 ・平成16(行ヒ)46 損害賠償請求事件 平成17年11月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 市の助役が民間団体の開催する会合に出席した際の会費相当額として支出された市長交際費が社会通念上相当と認められる範囲を超えるものとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(許)22 担保不動産競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年11月11日 最高裁判所第二小法廷 決定 破棄自判 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 根抵当権者が競売の申立ての際に提出した登記事項証明書に,当該根抵当権の登記のほかに譲渡担保を原因とする同人への所有権移転登記が記載されていても,同登記事項証明書は,民事執行法181条1項3号の文書に当たる ・平成15(受)281 損害賠償請求事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影する行為と不法行為の成否 2 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう,姿態を撮影した行為が不法行為法上違法とされた事例 3 人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否 4 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とはいえないとされた事例 5 刑事事件の法廷において身体の拘束を受けている状態の被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例 【裁判要旨】 1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。 2 写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。 3 人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。 4 刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。 5 刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。 【参照法条】 (1~5につき)民法709条,710条,憲法13条 (2につき)刑訴規則215条 ・平成17(行フ)2 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 仙台市議会の議員が所属会派に交付された政務調査費によって費用を支弁して行った調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書及びその添付書類が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例 【裁判要旨】 市の議会の会派に所属する議員が政務調査費を用いてした調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書が,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例 【参照法条】 民訴法220条4号ニ,地方自治法100条13項,仙台市政務調査費の交付に関する条例(平成13年仙台市条例第33号)1条,2条,3条,12条 ・平成13(行ヒ)243 損害賠償請求事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 広島高等裁判所 【裁判要旨】 市と外国都市との間の高速船運航事業を目的として設立された第3セクターに対する市の補助金の交付が地方自治法232条の2所定の「公益上必要がある場合」に当たるとされた事例 ・平成14(行ヒ)112 所得税更正処分等取消請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 非上場株式の低額譲受けに係る給与所得,その低額譲渡に係る譲渡所得及びその新株の有利発行を受けたことに係る一時所得の各計算において,評価差額に対する法人税額等相当額を控除した純資産価額を基に同株式を評価すべきであるとされた事例 ・平成16(受)1939 檀信徒総会決議不存在確認等請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 宗教法人の責任役員及び代表役員を選定する檀信徒総会決議の不存在確認の訴えにつき確認の利益があるとされた事例2 責任役員又は責任役員代務者と称して宗教法人の運営にかかわってきた檀信徒が責任役員及び代表役員を選定するための檀信徒総会を招集することが許されるとされた事例 ・平成15(あ)163 銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 反目状態にあった男の運転する自動車に意図的に衝突されて自車が転覆したため同人とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を護身用にズボンのポケットに移し替えて自車からはい出した後に路上で携帯する行為について違法性が阻却されないとされた事例 【裁判要旨】 反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。 【参照法条】 刑法35条,刑法36条1項,銃砲刀剣類所持等取締法22条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号 ・平成17(オ)153 詐害行為取消請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号に該当する行為についてした否認の効果が及ぶ目的物の範囲 【裁判要旨】 更生会社の管財人が旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号に該当する行為についてした否認の効果は,当該行為の目的物が複数で可分であったとしても,目的物すべてに及ぶ 【参照法条】 旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号,会社更生法86条1項1号,民法424条1項 ・平成14(行ツ)187 市道区域決定処分取消等請求事件 平成17年11月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 仙台高等裁判所 【裁判要旨】 昭和13年に決定された都市計画における道路に含まれる土地に建築の制限が課せられることによる損失について,憲法29条3項に基づく補償請求をすることができないとされた事例 ・平成14(行ヒ)144 損害賠償請求事件 平成17年10月28日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【判示事項】 1 町が公の施設を存続させるためその管理及び運営を委託している権利能力のない社団の赤字を補てんするのに必要な補助金を交付したことが地方自治法232条の2に定める公益上の必要を欠くとはいえないとされた事例 2 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟における請求の放棄の可否 【裁判要旨】 1 町が自然活用施設の運営を委託している団体に対してした補助金の交付が地方自治法232条の2所定の「公益上必要がある場合」に当たらないとはいえないとされた事例 2 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において,原告である住民が請求を放棄することはできない 【参照法条】 (1につき)地方自治法232条の2,244条1項,挾間町陣屋の村自然活用施設の設置及び管理に関する条例(平成2年挾間町条例第15号)2条(2につき)地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,民訴法266条 ・平成15(行ヒ)320 勧告取消請求事件 平成17年10月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 医療法(平成12年法律第141号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病床数削減の勧告は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる ・平成17(し)406 勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しないとの裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年10月24日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 新潟地方裁判所 【判示事項】 公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しなかった裁判官の処分に対する不服申立て 【裁判要旨】 公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができる。 【参照法条】 刑訴法40条1項,刑訴法280条1項,3項,刑訴法309条2項,刑訴法429条1項2号,刑訴規則86条 ・平成17(行ヒ)106 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成17年10月18日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 1 特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に係る事件の上告審係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定したことにより原判決を破棄する場合に,上記無効審決を取り消す旨の自判をした事例 2 特許を無効にすべき旨の審決の取消訴訟の係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定したことにより上記無効審決を取り消す場合に,訴訟の総費用を特許権者に負担させた事例 ・平成17(許)11 文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年10月14日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄差戻し 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」と公務員が職務上知ることができた私人の秘密 2 民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」の意義 3 いわゆる災害調査復命書のうち行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分は民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するが労働基準監督官等の調査担当者が職務上知ることができた事業者にとっての私的な情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しないとされた事例 【裁判要旨】 1 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」と公務員が職務上知ることができた私人の秘密 2 民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」の意義 3 いわゆる災害調査復命書のうち,行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分は民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するが,労働基準監督官等の調査担当者が職務上知ることができた事業者にとっての私的な情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しないとされた事例 【参照法条】 (1~3につき) 民訴法220条4号ロ (3につき) 労働安全衛生法91条,94条,100条 ・平成17(あ)660 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反被告事件 平成17年10月12日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」5条違反の罪の公訴事実が多数回にわたり多数人に譲り渡した旨の概括的記載を含んでいても訴因の特定として欠けるところはないとされた事例 【裁判要旨】 4回の覚せい剤譲渡の年月日,場所,相手,量,代金を記載した別表を添付した上,「被告人は,平成14年6月ころから平成16年3月4日までの間,営利の目的で,みだりに,別表記載のとおり覚せい剤を譲り渡すとともに,薬物犯罪を犯す意思をもって,多数回にわたり,大阪市内において,Aほか氏名不詳の多数人に対し,覚せい剤様の結晶を覚せい剤として有償で譲り渡し,もって,覚せい剤を譲り渡す行為と薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡す行為を併せてすることを業とした」旨を記載した公訴事実は,「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」5条違反の罪の訴因の特定として欠けるところはない。 【参照法条】 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律5条,8条2項,刑訴法256条3項 ・平成17(許)14 遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年10月11日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄差戻し 大阪高等裁判所 【判示事項】 相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否 【裁判要旨】 相続が開始して遺産分割が未了の間に相続人が死亡した場合において,第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は,実体上の権利であり,第2次被相続人の遺産として遺産分割の対象となる 【参照法条】 民法896条,898条,899条,900条,903条,907条,家事審判法9条乙類10号,家事審判規則104条 ・平成15(行ヒ)295 公文書非公開決定処分取消等請求事件 平成17年10月11日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格に関する情報が,「公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報」に当たり,旧奈良県情報公開条例所定の個人に関する非開示情報に当たらないとされた事例2 土地開発公社が個人に対して支払った建物,工作物,動産,植栽等に係る補償金の額に関する情報が旧奈良県情報公開条例所定の個人に関する非開示情報に当たるとされた事例 ・平成14(あ)1431 商法違反,背任,有価証券偽造,同行使,有印私文書偽造,同行使被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 商社の理事兼企画監理本部長が同社から給与等の支給を受けていなくても商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たるとされた事例 【裁判要旨】 甲商社から巨額の融資を受けていた不動産会社のオーナー経営者乙が,甲社の不動産開発等の業務を担当する理事兼企画監理本部長に就任し,甲社社長の指揮命令に服しながら,対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,甲社の企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたなど判示の事実関係の下においては,乙は,甲社から給与等の支給を受けていなかったとしても,商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項 ・平成15(あ)59 商法違反,法人税法違反被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 会社の絵画等購入担当者の特別背任行為につき同社に絵画等を売却した会社の支配者が共同正犯とされた事例 【裁判要旨】 甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持していた関係があり,丙がそのような関係を利用して前記絵画等の取引を成立させたとみることができるなど判示の事情の下では,丙は,乙らの特別背任行為について共同加功をしたということができる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)60条,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)65条,刑法(平成3年法律第31号による改正前のもの)247条 ・平成14(あ)1431 業務上横領,商法違反被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 商社の代表取締役社長が行った巨額の融資につき特別背任罪における加害目的が認められた事例 【裁判要旨】 商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法247条 ・平成17(あ)684 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,器物損壊被告事件 平成17年09月27日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証の証拠能力 【裁判要旨】 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要がある。 【参照法条】 刑訴法321条1項2号,刑訴法321条1項3号,刑訴法321条3項,刑訴法322条1項,刑訴法326条 ・平成17(行ツ)71 選挙無効請求事件 平成17年09月27日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 衆議院議員選挙を無効とする判決を求める訴えは,衆議院の解散によって訴えの利益を失う ・平成16(受)1847 損害賠償請求事件 平成17年09月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 売主から委託を受けてマンションの専有部分の販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者に専有部分内に設置された防火戸の操作方法等につき買主に対して説明すべき信義則上の義務があるとされた事例 ・平成13(行ツ)82 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 平成17年09月14日 最高裁判所大法廷 判決 その他 東京高等裁判所 【判示事項】 1 公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が在外国民の国政選挙における投票を平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時全く認めていなかったことと憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書 2 公職選挙法附則8項の規定のうち在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分と憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書 3 在外国民が次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えの適否 4 在外国民と次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができる地位 5 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合6 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙までに国会が在外国民の国政選挙における投票を可能にするための立法措置を執らなかったことについて国家賠償請求が認容された事例 【裁判要旨】 1 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が国政選挙において投票をするのを全く認めていなかったことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。 2 公職選挙法附則8項の規定のうち,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。 3 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。 4 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民は,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録され ていることに基づいて投票をすることができる地位にある。 5 国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。 6 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには,上記国民に上記選挙権の行使を認める制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,上記国民の国政選挙における投票を可能にするための法律案が廃案となった後,平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が上記投票を可能にするための立法措置を執らなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきであり,国は,上記選挙において投票をすることができなかったことにより精神的苦痛を被った上記国民に対し,慰謝料各5000円の支払義務を負う。 (1,2,4~6につき,補足意見,反対意見がある。) 【参照法条】 (1,2,4につき)憲法15条1項,3項,43条1項,44条(1,6につき)公職選挙法(平成12年法律第62号による改正前のもの)21条1項,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)42条,住民基本台帳法15条1項(2~4につき)公職選挙法第4章の2 在外選挙人名簿,42条,49条の2,附則8項(3につき)行政事件訴訟法4条(5,6につき)国家賠償法1条1項,憲法41条 ・平成14(行ヒ)72 審決取消請求事件 平成17年09月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項所定の「売上額」の意義 2 損害保険業の事業者団体の構成事業者につき私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3において準用する同法7条の2第1項所定の「売上額」 【裁判要旨】 1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項所定の「売上額」は,事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値をいう。 2 損害保険業の事業者団体の構成事業者である損害保険会社について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3において準用する同法7条の2第1項所定の「売上額」は,損害保険会社が損害保険の引受けの対価として保険契約者から収受した保険料の合計額である。 【参照法条】 (1,2につき)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項(2につき)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成9年法律第87号による改正前のもの)8条1項1号,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3 ・平成14(受)989 損害賠償請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 帝王切開術を強く希望していた夫婦に経膣分娩を勧めた医師の説明が,同夫婦に対して経膣分娩の場合の危険性を理解した上で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえないとされた事例 ・平成14(行ツ)36 保険医療機関指定拒否処分取消請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 1 医療法に基づく病院開設中止勧告に従わないことを理由とする健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項に基づく保険医療機関指定拒否処分が適法であるとされた事例2 医療法に基づく病院開設中止勧告に従わないことを理由として健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項に基づいてされた保険医療機関指定拒否処分は憲法22条1項に違反しない ・平成16(受)1222 預託金返還請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力 【裁判要旨】 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,その帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けない。 【参照法条】 民法88条2項,民法89条2項,民法427条,民法601条,民法896条,民法898条,民法899条,民法900条,民法907条,民法909条 ・平成16(あ)2716 住居侵入,強盗致死,強盗傷人,強盗被告事件 平成17年08月30日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 裁判官が公訴棄却の判決をし又はその判決に至る手続に関与したことと再起訴後の審理における刑訴法20条7号本文所定の除斥原因 【裁判要旨】 裁判官が公訴棄却の判決をし,又はその判決に至る手続に関与したことは,その手続において再起訴後の第1審で採用された証拠又はそれと実質的に同一の証拠が取り調べられていても,再起訴後の審理において,刑訴法20条7号本文所定の除斥原因に当たらない。 【参照法条】 刑訴法20条7号,刑訴法338条 ・平成17(し)346 検察官送致決定に対する特別抗告事件 平成17年08月23日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京家庭裁判所 【判示事項】 少年法20条による検察官送致決定に対する特別抗告の許否 【裁判要旨】 少年法20条による検察官送致決定に対しては,特別抗告をすることはできない。 【参照法条】 少年法20条,刑訴法433条 ・平成16(あ)2723 貸金業の規制等に関する法律違反,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 平成17年08月01日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 1 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項所定の行為が反復累行された場合の罪数 2 貸金業の規制等に関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)47条2号,11条1項に違反して無登録で貸金業を営む行為と出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為との罪数関係 3 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等の取得につき仮装する行為と出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為とが併合罪の関係にあるとされた事例 【裁判要旨】 1 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項所定の行為は,反復累行されても,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し,併合罪となる。 2 貸金業の規制等に関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)47条2号,11条1項に違反して無登録で貸金業を営む行為と,業として金銭の貸付けを行う中で個別的に出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為とは,刑法54条1項の観念的競合又は牽連犯ではなく,併合罪の関係にある。 3 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息の取得につき継続的に事実を仮装する意図で,架空人名義の銀行預金口座を入手し,同口座に元金及び利息を振り込ませることにより,上記架空人が犯罪収益等を取得したものであるように仮装したなど判示の事実関係の下においては,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項に該当する上記行為と,個別的に上記制限超過利息を受領する行為とは,刑法54条1項前段の観念的競合ではなく,併合罪の関係にある。 【参照法条】 刑法45条,刑法54条1項,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項,貸金業の規制等に関する法律2条1項,貸金業の規制等に関する法律3条 ・平成17(許)4 一部文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 決定 東京高等裁判所 【判示事項】 1 捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に当たるとされた事例 2 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押許可状の文書提出命令の申立てに対して刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされた事例 3 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押令状請求書の文書提出命令の申立てに対して刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例 【裁判要旨】 1 警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する。 2 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押許可状の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法 47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同許可状を証拠として取り調べる必要性が認められ,同許可状が開示されたとしても今後の捜査,公判に悪影響が生ずるとは考え難いなど判示の事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきである。 3 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押令状請求書の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同請求書を証拠として取り調べる必要性は認められるものの,被疑事件につき,いまだ被疑者の検挙に至っておらず,現在も捜査が継続中であって,同請求書には捜査の秘密にかかわる事項や被害者等のプライバシーに属する事項が記載されている蓋然性が高いなど,同請求書を開示することによって,被疑事件の今後の捜査及び公判に悪影響が生じたり,関係者のプライバシーが侵害されたりする具体的なおそれが存するという事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとはいえない。 【参照法条】 民訴法220条3号,民訴法220条4号ホ,刑訴法47条,刑訴法110条,刑訴法218条1項,刑訴法218条3項,刑訴法219条,刑訴法222条1項,刑訴規則155条1項,憲法35条 ・平成16(受)443 親子関係不存在確認等,相続回復,土地所有権確認等請求事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 遺言書作成当時の事情,遺言者の置かれていた状況等を考慮することなく遺言書の記載のみに依拠して遺言書の条項の解釈をした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成16(行ヒ)343 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 登録商標「国際自由学園」が商標法4条1項8号所定の他人の名称の著名な略称を含む商標に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(行フ)4 文書提出命令に対する許可抗告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 決定 東京高等裁判所 【判示事項】 1 法務省が外務省を通じて外国公機関に照会を行った際に同省に交付した依頼文書の控えにつき民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり同法220条 4号ロ所定の文書に該当する旨の監督官庁の意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断に違法があるとされた事例 2 外務省が外国公機関に交付した照会文書の控え及び同機関が同省に交付した回答文書につき民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の監督官庁の意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断に違法があるとされた事例 【裁判要旨】 1 難民であると主張する外国人に対する外国官憲作成名義の逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し,法務省が外務省を通じて同国公機関に対して照会を行った際に同省に交付した依頼文書の控えにつき,監督官庁が,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり,同法220条 4号ロ所定の文書に該当する旨の意見を述べ,同文書の所持者である法務大臣が,同文書には,同国の内政上の諸問題,調査の際に特に留意すべき事項,調査に係る背景事情等に関する重要な情報等が記載され,その中に同国政府に知らせていない事項も含まれていると主張しているなど判示の事情の下においては,上記記載の存否及び内容について審理して,同文書が提出された場合に我が国と他国との信頼関係に与える影響等を検討することなく,上記意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断には,違法がある。 2 難民であると主張する外国人に対する外国官憲作成名義の逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し照会するために外務省が作成して同国公機関に交付した照会文書の控え及び同機関が同省に交付した照会に対する回答文書につき,監督官庁が,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり,同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の意見を述べ,上記各文書の所持者である外務大臣が,上記各文書は,公開しないことが外交上の慣例とされる口上書と称される外交文書の形式によるものであり,発出者ないし受領者により秘密の取扱いとすべきことを表記した上で相手国に対する伝達事項等が記載されていると主張しているなど判示の事情の下においては,上記記載の存否及び内容,口上書の形式によるものであるとすれば上記慣例の有無等について審理して,上記各文書が提出された場合に我が国と他国との信頼関係に与える影響等を検討することなく,上記意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断には,違法がある。 (1につき補足意見,2につき補足意見及び意見がある。) 【参照法条】 民訴法220条4号ロ,民訴法223条3項,民訴法223条4項1号 ・平成16(あ)2554 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,出入国管理及び難民認定法違反被告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 規制薬物の譲渡を犯罪行為とする場合における「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」2条 3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に係る同法11条1項1号の没収及び同法13条1項前段の追徴に当たり取得費用等を控除することの可否 【裁判要旨】 規制薬物の譲渡を犯罪行為とする場合における「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に係る同法11条1項1号の没収及び同法13条1項前段の追徴に当たっては,規制薬物の対価として得た財産から当該財産を得るために犯人が支出した費用等を控除すべきではない。 【参照法条】 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律2条3項,11条1項1号,13条1項 ・平成17(あ)202 覚せい剤取締法違反被告事件 平成17年07月19日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した上記尿につきその入手過程に違法はないとされた事例 【裁判要旨】 医師が,治療の目的で救急患者の尿を採取して薬物検査をしたところ,覚せい剤反応があったため,その旨警察官に通報し,これを受けて警察官が上記尿を押収したなどの事実関係の下では(判文参照),警察官が上記尿を入手した過程に違法はない。 【参照法条】 刑法134条1項,刑訴法218条1項,刑訴法239条,刑訴法317条 ・平成16(受)965 過払金等請求事件 平成17年07月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 貸金業者の債務者に対する取引履歴開示義務の有無 【裁判要旨】 貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。 【参照法条】 民法1条2項,民法587条,民法709条,貸金業の規制等に関する法律19条,貸金業の規制等に関する法律施行規則16条 ・平成17(行ツ)73 選挙無効請求事件 平成17年07月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 衆議院小選挙区選出議員の選挙において当選人となった議員が辞職したことにより選挙訴訟の訴えの利益が失われる場合 【裁判要旨】 衆議院小選挙区選出議員の選挙を無効とする判決を求める訴訟は,当該選挙において当選人となった議員が辞職した場合において,その選挙に関し,辞職した議員以外の者が繰上補充又は当選人の更正決定により当選人となる可能性がなく,かつ,上記訴訟の結果選挙の一部のみが無効とされる可能性もないときは,その訴えの利益を失う。 【参照法条】 公職選挙法33条の2第7項,公職選挙法95条2項,公職選挙法96条,公職選挙法109条,公職選挙法112条1項,公職選挙法113条1項,公職選挙法204条,公職選挙法205条1項,公職選挙法208条1項 ・平成14(行ヒ)207 勧告取消等請求事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 名古屋高等裁判所 【判示事項】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告と抗告訴訟の対象 【裁判要旨】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。 【参照法条】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7,健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項,行政事件訴訟法3条1項,2項 ・平成15(行ヒ)250 非公開決定処分取消請求事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 1 土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格に関する情報が名古屋市公文書公開条例所定の非公開情報(所得,財産等に関する個人識別情報のうち通常他人に知られたくないと認められるもの)に当たらないとされた事例2 土地開発公社が個人に対して支払った建物,工作物,立木,動産等に係る補償金の額に関する情報が名古屋市公文書公開条例所定の非公開情報(所得,財産等に関する個人識別情報のうち通常他人に知られたくないと認められるもの)に当たるとされた事例 ・平成16(受)1611 第三者異議事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用 【裁判要旨】 第三者異議の訴えの原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されない。 【参照法条】 民事執行法23条,民事執行法38条1項,民訴法115条,民法33条,商法52条 ・平成16(オ)1653 売掛代金請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 被告が,抗弁として主張する弁済の事実に対応する書証を提出しているものと誤解していることが明らかであるにもかかわらず,裁判所が,同抗弁に係る立証等について釈明権を行使せずに同抗弁を排斥したことには,釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例 ・平成13(行ヒ)348 公文書非公開決定処分取消請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 市の局長等の交際費の支出に関する文書で交際の相手方が識別されるものの情報公開条例所定の非公開事由(事務事業の目的を損ない,又は適正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの)該当性 ・平成15(受)1284 損害賠償請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 証券取引における適合性原則違反と不法行為の成否 2 証券会社の担当者による株価指数オプションの売り取引の勧誘が適合性原則から著しく逸脱するものであったとはいえないとして不法行為の成立が否定された事例 【裁判要旨】 1 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる。 2 証券会社甲の担当者が顧客である株式会社乙に対し株価指数オプションの売り取引を勧誘してこれを行わせた場合において,当該株価指数オプションは証券取引所の上場商品として広く投資者が取引に参加することを予定するものであったこと,乙は20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,乙の資金運用業務を担当する専務取締役らは,株価指数オプション取引を行う前から,信用取引,先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い,証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,乙は,株価指数オプションの売り取引を始めた際,その損失が一定 額を超えたらこれをやめるという方針を立て,実際にもその方針に従って取引を終了させるなどして自律的なリスク管理を行っていたことなど判示の事情の下においては,オプションの売り取引は損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性がある極めてリスクの高い取引類型であることを考慮しても,甲の担当者による上記勧誘行為は,適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえず,甲の不法行為責任を認めることはできない。 (2につき補足意見がある。) 【参照法条】 民法709条,証券取引法2条22項,証券取引法43条1号,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)54条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号 ・平成16(受)930 損害賠償請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 公立図書館の職員が図書の廃棄について不公正な取扱いをすることと当該図書の著作者の人格的利益の侵害による国家賠償法上の違法 【裁判要旨】 公立図書館の職員である公務員が,閲覧に供されている図書の廃棄について,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは,当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。 【参照法条】 国家賠償法1条1項,図書館法2条,図書館法3条,憲法13条,憲法19条,憲法21条1項 ・平成16(行ヒ)4 審決取消請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に分割出願がされもとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときにおける補正の効果が生ずる時期 【裁判要旨】 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。 【参照法条】 商標法10条1項,2項,68条の40第1項,商標法施行規則22条4項,特許法施行規則30条 ・平成14(行ヒ)181 固定資産評価審査決定取消請求事件 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 固定資産課税台帳に登録された土地の価格についての固定資産評価審査委員会の決定の取消訴訟において同委員会の認定した価格が裁判所の認定した適正な時価等を上回っていることを理由として同決定を取り消す場合における取消しの範囲 【裁判要旨】 固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格についての固定資産評価審査委員会の決定の取消訴訟において,裁判所が,同期日における当該土地の適正な時価又は固定資産評価基準によって決定される価格を認定し,同委員会の認定した価格が上記の適正な時価等を上回っていることを理由として同決定を取り消す場合には,同決定のうち上記の適正な時価等を超える部分を取り消せば足りる。 【参照法条】 地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)341条5号,地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)411条1項,地方税法(平成 11年法律第15号による改正前のもの)432条1項,地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)433条1項,地方税法(平成11年法律第 15号による改正前のもの)403条1項,地方税法349条1項,地方税法359条,地方税法434条1項 ・平成15(行ヒ)353 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 商標法4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,当該商標登録が同号に違反する旨の記載があることをもって足りる ・平成16(受)2134 預金払戻,不当利得返還請求事件 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 札幌高等裁判所 【裁判要旨】 相続財産である預金債権について一部の共同相続人が銀行からその相続分を超えて払戻しを受けても他の共同相続人に当該超過分を支払うまでは当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生しないとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(あ)764 公職選挙法違反被告事件 平成17年07月06日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者と公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」 【裁判要旨】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者は,いまだ選挙運動を行っていなくても,公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」に当たる。 【参照法条】 公職選挙法225条1号,公職選挙法225条3号 ・平成17(し)125 控訴申立棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年07月04日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 電子複写機によって複写されたコピーであって作成名義人たる外国人である被告人の署名がない控訴申立書による控訴申立ての効力 【裁判要旨】 電子複写機によって複写されたコピーであって,作成名義人たる外国人である被告人の署名がない控訴申立書による控訴申立ては,同書面中に被告人の署名が複写されていたとしても,無効である。 【参照法条】 刑訴法374条,刑訴規則60条,外国人の署名捺印及び無資力証明に関する法律1条1項 ・平成15(あ)1468 殺人被告事件 平成17年07月04日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が入院中の患者を病院から運び出させた上必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が,入院中の患者を病院から運び出させた上,未必的な殺意をもって,患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させたなど判示の事実関係の下では,不作為による殺人罪が成立する。 【参照法条】 刑法199条 ・平成16(行フ)7 訴えの変更許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年06月24日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は,指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たる ・平成16(受)997 特許権侵害差止請求事件 平成17年06月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 専用実施権を設定した特許権者がその特許権に基づく差止請求をすることの可否 【裁判要旨】 特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができる 【参照法条】 特許法68条,77条1項,2項,100条1項 ・平成15(受)900 損害賠償等請求事件 平成17年06月16日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 我が国における加熱血液製剤の製造承認等に関する雑誌記事等の執筆者がその記事等に摘示されている事実を真実であると信じたことには相当の理由があるとして名誉毀損による不法行為の成立が否定された事例 ・平成13(行ヒ)263 県営渡船情報非公開処分取消請求事件 平成17年06月14日 最高裁判所第三小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 公開請求の対象を公文書と定めている情報公開条例の下において,実施機関が,公開請求に係る公文書に請求者が公開を求めた事項以外の情報が記録されている部分があることなどを理由として,当該部分を公開しないことは許されない ・平成16(受)1888 損害賠償請求事件 平成17年06月14日 最高裁判所第三小法廷 判決 札幌高等裁判所 【判示事項】 損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合 【裁判要旨】 損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない。 【参照法条】 民法404条,民法709条 ・平成14(受)1250 未払賃金請求事件(通称 関西医科大学付属病院研修医賃金請求事件) 平成17年06月03日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項所定の臨床研修を行う医師と労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条所定の労働者 【裁判要旨】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項所定の臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条所定の労働者に当たる。 【参照法条】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項,労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条,最低賃金法(平成10年法律第112号による改正前のもの)2条 ・平成16(受)29 自動車損害賠償保障法に基づく損害てん補請求事件 平成17年06月02日 最高裁判所第一小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務の履行期と履行遅滞 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たっての過失相殺と国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額の控除との先後 【裁判要旨】 1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除する。 【参照法条】 民法412条3項,民法722条2項,自動車損害賠償保障法施行令21条14号,自動車損害賠償保障法72条1項,自動車損害賠償保障法73条1項,国民健康保険法58条1項 ・平成15(行ヒ)108 原子炉設置許可処分無効確認等請求事件 平成17年05月30日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するか否かの判断 2 原子力安全委員会等における2次冷却材漏えい事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 3 原子力安全委員会等における蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 4 原子力安全委員会等における1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 【裁判要旨】 1 どのような事項が原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのかという点は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられている。 2 高速増殖炉の設置許可の申請に対する原子力安全委員会及び原子炉安全専門審査会による安全審査において,2次冷却材ナトリウムの漏えい事故が発生した場合に漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止するために床面に鋼製のライナを設置するという設計方針が当該原子炉施設の基本設計を構成するものとして審査の対象とされたこと,床ライナの溶融塩型腐食という知見を踏まえても,床ライナの腐食対策を行うことにより前記の直接接触を防止することが可能であり,床ライナの腐食については後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階において対処することが不可能又は非現実的であるとはいえないこと,漏えいナトリウムによる床ライナの熱膨張については,床ライナの板厚,形状,壁との間隔等に配意することにより前記認可以降の段階において対処することが十分に可能であることなど判示の事情の下においては,前記設計方針のみが前記許可の段階における安全審査の対象となるべき原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に当たるものとした主務大臣の判断に不合理な点はなく,また,原子力安全委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 3 高速増殖炉の設置許可の申請者が行った蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全評価のための解析条件が,伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生じた水酸化ナトリウムの噴出流による損耗作用とその化学的腐食作用との相乗効果によって,隣接伝熱管が破損すること)が支配的であるという考え方を基に設定されたものであったこと,当該原子炉施設については,伝熱管からの水漏えいを検知して伝熱管内の水又は蒸気を急速に抜くなど高温ラプチャ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生ずる高温の反応熱のため強度が低下した隣接伝熱管が内部圧力によって破損すること)の発生の抑止効果を相当程度期待することができる設計となっており,現在の科学技術水準に照らしても前記解析条件が不相当であったとはいい難いことなど判示の事情の下においては,前記解析条件を前提に前記事故を想定してされた解析の内容及び結果が原子力安全委員会における具体的審査基準に適合するとしてされた同委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 4 高速増殖炉の設置許可の申請者が,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象(外部電源喪失により1次冷却材ナトリウムの炉心流量が減少し原子炉の自動停止が必要とされる時点で,制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象で,炉心崩壊をもたらす事故を起こす代表的事象)における起因過程での炉心損傷後の炉心膨張による最大有効仕事量を約380メガジュールと解析したこと,同申請者が,海外の評価例,関連する実験研究等を調査し,米国の国立研究所が開発した解析コードにより,保守的条件設定によって生ずる遷移過程の再臨界の場合であっても,その機械的エネルギーが380メガジュールを超えないことを確認したこと,この値を踏まえて構造物の耐衝撃評価に当たっては膨張過程における最大有効仕事量として500メガジュールが考慮されたが,この圧力荷重によってナトリウムが漏えいするような破損は原子炉容器等に生じないと解析され,原子力安全委員会は,この解析評価について,事象の選定,解析に用いられた条件及び手法が妥当なものであり,解析結果が同委員会における具体的審査基準に適合する妥当なものであると判断したこと,同審査基準は,前記事象の安全評価の目的を,技術的観点からは起こるとは考えられない事象をあえて想定して事故防止対策に係る基本設計に安全裕度があることを念のために確認することとしていることなど判示の事情の下においては,同委員会等における前記事象に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 【参照法条】 (1~4につき)核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条,24条2項,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号,4号 (2~4につき)核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)6条の2第1項1号,動力炉・核燃料開発事業団法(平成10年法律第62号による改正前のもの)2条1項,動力炉・核燃料開発事業団法施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)1条,行政事件訴訟法3条4項 ・平成15(受)1771 弁護士費用請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第4号の規定による訴訟が訴えの取下げにより終了した場合は同条7項にいう「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には当たらない ・平成16(受)1742 自治会費等請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員がいつでも当該自治会に対する一方的意思表示によりこれを退会することができるとされた事例 ・平成16(行ツ)178 差押処分無効確認等請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 札幌高等裁判所 【裁判要旨】 農業災害補償法(平成11年法律第69号による改正前のもの)が定める水稲等の耕作の業務を営む者と農業共済組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組み(当然加入制)は憲法22条1項に違反しない ・平成16(行ヒ)332 遺族共済年金不支給処分取消請求事件 平成17年04月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 私立学校教職員共済法に基づく私立学校教職員共済制度の加入者で同法に基づく退職共済年金の受給権者の男が重婚的内縁関係にあった場合に,遺族共済年金の支給を受けるべき配偶者に当たるのは内縁の妻であるとした事例 ・平成16(受)2030 損害賠償請求事件 平成17年04月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 犯罪の被害者は,証拠物を司法警察職員に対して任意提出した上,その所有権を放棄する旨の意思表示をした場合,当該証拠物の廃棄処分が単に適正を欠くというだけでは国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができない ・平成16(あ)1595 出入国管理及び難民認定法違反被告事件 平成17年04月21日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為につき不法残留罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為については,同人において,上記申請に当たり虚偽の申出をしたほか,審査のため入国管理局が求めた出頭要請等にも誠実に対応していないという本件事実関係(判文参照)の下では,上記通知の到達の有無や上記申請が不許可となったことについての同人の認識の有無を問わず,不法残留罪が成立する。 【参照法条】 出入国管理及び難民認定法21条,出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの)70条1項5号,刑法35条,刑法38条 ・平成12(受)243 国家賠償請求上告,同附帯上告事件 平成17年04月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 広島高等裁判所 【判示事項】 1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否することができる場合 2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず弁護人が同庁舎内における即時の接見を求め即時に接見をする必要性が認められる場合に検察官が執るべき措置 3 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否するに際し立会人の居る部屋でのごく短時間の「接見」であっても差し支えないかどうかなどの点についての弁護人の意向を確かめることをせず上記申出に対して何らの配慮もしなかったことが違法とされた事例 【裁判要旨】 1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官は,同庁舎内に,その本来の用途,設備内容等からみて,検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等が存しない場合には,接見の申出を拒否することができる。 2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人がなお同庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官には,捜査に顕著な支障が生ずる場合でない限り,秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(面会接見)であってもよいかどうかという点につき,弁護人の意向を確かめ,弁護人がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある。 3 弁護人が,検察官から,検察庁の庁舎内には接見のための設備が無いことを理由に同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否されたのに対し,接見の場所は被疑者が現在待機中の部屋でもよいし,検察官の執務室でもよいなどと述べて,即時の接見を求めたこと,弁護人は,勾留場所が代用監獄から少年鑑別所に変更されたことをできる限り早く被疑者に伝えて元気づけようと考え,接見を急いでいたこと,ごく短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとまではいえないことなど判示の事情の下においては,検察官が,立会人の居る部屋でのごく短時間の「接見」(面会接見)であっても差し支えないかどうかなどの点についての弁護人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法である。 【参照法条】 刑訴法39条,国家賠償法1条1項 ・平成16(あ)971 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂被告事件 平成17年04月18日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 道路を走行中の普通乗用自動車内におけるけん銃発射行為が銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,31条のけん銃等発射罪に当たるとされた事例 【裁判要旨】 国道を走行中の普通乗用自動車内において,助手席に乗車していた被害者に対し,背後からけん銃を突き付け発射した行為(判文参照)は,銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,31条のけん銃等発射罪に当たる。 【参照法条】 銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,銃砲刀剣類所持等取締法31条 ・平成13(行ヒ)25 処分取消請求事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否 2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした請求に対する登記機関の拒否通知と抗告訴訟の対象 【裁判要旨】 1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者は,登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらなくても,国税通則法56条に基づき,過誤納金の還付を請求することができる。 2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し,登記機関のする拒否通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。 (1につき反対意見がある。) 【参照法条】 (1,2につき)登録免許税法31条1項,同法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項 (1につき)国税通則法56条1項,同法(平成11年法律第10号による改正前のもの)15条2項14号,3項6号(2につき)行政事件訴訟法3条1項,2項 ・平成16(あ)1618 傷害,強姦被告事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所 【判示事項】 刑訴法157条の3,157条の4と憲法82条1項,37条1項,2項前段 【裁判要旨】 刑訴法157条の3,157条の4は,憲法82条1項,37条1項,2項前段に違反しない。 【参照法条】 憲法37条1項,憲法37条2項,憲法82条1項,刑訴法157条の3,刑訴法157条の4 ・平成16(あ)2077 監禁致傷,恐喝被告事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 恐喝の手段として監禁が行われた場合の罪数関係 【裁判要旨】 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても,両罪は,牽連犯の関係にはない。 【参照法条】 刑法45条,刑法54条1項,刑法220条,刑法249条 ・平成17(し)23 強姦未遂保護事件に関し保護処分に付さない決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件 平成17年03月30日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べと抗告裁判所の裁量 2 少年保護事件の抗告裁判所が非行事実の認定に関し家庭裁判所において検討していない点について行った事実の取調べが合理的な裁量の範囲内にあるとされた事例 【裁判要旨】 1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べは,少年保護事件の抗告審としての性質を踏まえ,合理的な裁量により行われるべきである。 2 少年保護事件につき検察官のした抗告受理の申立てに基づく抗告審において,非行事実の認定に関し,家庭裁判所が検討していなかった共犯者のアリバイ供述等の信用性を検討しなければ,被害者の供述等について最終的な信用性の判断ができないなど判示の事情の下においては,抗告裁判所が上記アリバイ供述等の信用性に関して必要な事実の取調べを行うことは,合理的な裁量の範囲内にある。 【参照法条】 少年法32条,少年法32条の2,少年法32条の3第1項,少年法32条の4,少年法32条の6 ・平成16(あ)2145 傷害被告事件 平成17年03月29日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続け被害者に慢性頭痛症等を生じさせた行為が傷害罪の実行行為に当たるとされた事例 【裁判要旨】 自宅から隣家の被害者に向けて,精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら,連日連夜,ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして,被害者に精神的ストレスを与え,慢性頭痛症等を生じさせた行為(判文参照)は,傷害罪の実行行為に当たる。 【参照法条】 刑法204条 ・平成15(受)1590 車両通行妨害等禁止請求事件 平成17年03月29日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 通行地役権者が承役地に車両を恒常的に駐車させている者に対し車両の通行を妨害することの禁止を求めることができるとされた事例 ・平成16(行フ)5 訴状一部却下命令に対する抗告事件 平成17年03月29日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している複数の建物の固定資産課税台帳の登録価格についてされた審査申出の棄却決定の取消しを求める各請求が互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たるとされた事例 【裁判要旨】 同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している同一人所有の複数の建物について,固定資産課税台帳に登録された同一年度の価格につき需給事情による減点補正がされていないのは違法であるとしてされた審査の申出を棄却する固定資産評価審査委員会の決定のうち,所有者が各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める各請求は,互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たる。 【参照法条】 行政事件訴訟法13条6号,行政事件訴訟法16条1項,民訴法9条1項 ・平成17(し)91 保釈請求却下の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月25日 最高裁判所第三小法廷 決定 さいたま地方裁判所 【判示事項】 被告人の配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹からの保釈請求を却下した裁判に対する同人らの不服申立ての許否 【裁判要旨】 被告人の配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹は,自ら申し立てた保釈の請求を却下した裁判に対し,刑訴法352条にいう「決定を受けたもの」又は同法429条1項にいう「不服がある者」として抗告又は準抗告を申し立てることができる。 【参照法条】 刑訴法88条1項,刑訴法352条,刑訴法429条1項 ・平成16(し)316 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月18日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 1 刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対する回答について成人である被請求人から委任を受けた母親のした刑の執行猶予言渡しの取消決定に対する即時抗告の適否 2 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対する即時抗告について被請求人から権限の委任を受けた母親が被請求人を代理してした即時抗告の適否 【裁判要旨】 1 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対し,成人である被請求人の母親は,被請求人から刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対する回答について委任を受けていたとしても,即時抗告をする権限を有しない。 2 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対し,被請求人の母親は,被請求人から即時抗告に関する権限の委任を受けたとしても,被請求人を代理して即時抗告をすることはできない。 (2につき反対意見がある。) 【参照法条】 刑法26条,刑訴法349条,刑訴法349条の2,刑訴法355条 ・平成14(し)18 再審請求棄却決定に対する異議申立棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月16日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 刑訴法435条6号の証拠の明白性を否定するなどした原判断が是認された事例(いわゆる狭山事件第2次再審請求) ・平成15(あ)434 収賄被告事件 平成17年03月11日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して告発状を提出していた者から現金の供与を受けた行為につき収賄罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が,同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して,告発状を提出していた者から,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたときは,同警察官が同事件の捜査に関与していなかったとしても,刑法197条1項前段の収賄罪が成立する。 【参照法条】 刑法197条1項,警察法64条 ・平成13(行ヒ)40 県職員野球観戦旅費返還請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員の応援等を目的とする旅行命令は違法であるが,発令に至る経緯や当該出張には別の目的もあったことを考えると,上記旅行命令に伴い知事の職員が専決によりした旅費の支出命令は違法とまではいえないとされた事例 ・平成14(受)1954 賃料請求本訴,同反訴事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 賃借人の要望に沿って建築され他の用途に転用することが困難である建物について3年ごとに賃料を増額する旨の特約を付した賃貸借契約が締結された場合において賃借人のした賃料減額請求の当否を判断するために考慮すべき事情 ・平成16(行ヒ)278 消費税更正処分等取消請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 青色申告の承認を受けた法人が帳簿書類を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合の法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号所定の青色申告承認の取消事由該当性 【裁判要旨】 青色申告の承認を受けた法人が,法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの)126条1項に規定する帳簿書類を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は,法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号所定の青色申告の承認の取消事由に該当する。 【参照法条】 法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの)126条1項,法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号,法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)153条 ・平成13(オ)656 建物明渡請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合 2 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり抵当権者が直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる場合3 第三者による抵当不動産の占有と抵当権者についての賃料額相当の損害の発生の有無 【裁判要旨】 1 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。 2 抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。3 抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。 【参照法条】 民法369条,民法709条 ・平成14(受)1565 土地明渡請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 土地の賃借人が,土地を無断で転貸し,転借人が同土地上に産業廃棄物を不法に投棄したという事実関係の下では,賃借人は,賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務として,上記産業廃棄物を撤去すべき義務を負う ・平成16(受)1271 売掛代金請求及び独立当事者参加事件 平成17年02月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 動産売買の先取特権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡 【裁判要旨】 動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。 【参照法条】 民法304条,民法322条,民法467条 ・平成15(受)995 損害賠償請求事件 平成17年02月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合の当該支払の効力2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが当該報酬につき同訴訟提起後に株主総会の決議を経たことを主張することと信義則 ・平成12(行ヒ)126 消費税決定処分等取消請求事件 平成17年02月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 事業者が消費税の課税期間に係る基準期間中の課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除された場合における当該基準期間中の消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項所定の課税売上高の算定 【裁判要旨】 事業者が,消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項に該当するとして,課税期間に係る基準期間において課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除された場合に,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条2項,28条1項を適用して当該基準期間における課税売上高を算定するに当たっては,免除される消費税相当額を控除することなく,課税資産の譲渡等の対価の額を算定すべきである。 【参照法条】 消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条2項,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)28条1項 ・平成13(行ヒ)276 所得税更正処分取消請求事件 平成17年02月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額は,受贈者が同資産を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たる ・平成16(受)1019 更生担保権優先関係確認請求事件 平成17年01月27日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保しそのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合において当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときの上記売却代金からの弁済受領額 【裁判要旨】 不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し,そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合において,当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには,債権者と保証人は,両者間に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り,上記売却代金につき,債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受ける。 【参照法条】 民法249条,民法264条,民法502条1項 ・平成10(行ツ)93 管理職選考受験資格確認等請求事件(通称 東京都保健婦管理職選考受験資格確認等請求事件) 平成17年01月26日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 1 地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法3条,憲法14条1項 2 東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法3条,憲法14条1項に違反しないとされた事例 【裁判要旨】 1 地方公共団体が,公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。 2 東京都が管理職に昇任すれば公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員に就任することがあることを当然の前提として任用管理を行う管理職の任用制度を設けていたなど判示の事情の下では,職員が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた東京都の措置は,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。 (1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。) 【参照法条】 憲法14条1項,労働基準法3条,労働基準法112条,地方公務員法(平成10年法律第112号による改正前のもの)58条3項,地方公務員法13条,地方公務員法17条,地方公務員法19条 ・平成16(行ヒ)141 所得税更正処分等取消請求事件 平成17年01月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例 【裁判要旨】 米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること,親会社は,上記代表取締役が勤務する子会社の発行済み株式の100%を有してその役員の人事権等の実権を握り,同代表取締役は親会社の統括の下に子会社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができ,親会社は同代表取締役が上記のとおり職務を遂行しているからこそ上記権利を付与したものであること,上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。 【参照法条】 所得税法28条1項,所得税法34条1項 ・平成16(許)26 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年01月20日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 広島高等裁判所 【裁判要旨】 定期金の給付を命ずる仮処分の執行と民事保全法43条2項 ・平成13(受)704 破産債権確定,解約返戻金請求事件 平成17年01月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 広島高等裁判所 【判示事項】 破産債権者が破産宣告の時において期限付又は停止条件付であり破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が成就した債務に対応する債権を受働債権とし破産債権を自働債権として相殺をすることの可否 【裁判要旨】 破産債権者は,破産者に対する債務がその破産宣告の時において期限付又は停止条件付である場合には,特段の事情のない限り,期限の利益又は停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が成就したときにも,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)99条後段の規定により,その債務に対応する債権を受働債権とし,破産債権を自働債権として相殺をすることができる。 【参照法条】 破産法67条2項,破産法71条1項1号,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)99条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)104条1号 ・平成14(行ヒ)103 過少申告加算税賦課処分取消等請求事件 平成17年01月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 国税の納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い納税者が税額の全部又は一部を免れた場合における国税通則法70条5項の適用の有無 2 税理士に所得税の申告を委任した納税者が脱税を意図しその意図に基づいて行動したとは認められないとした認定に経験則違反の違法があるとされた事例 【裁判要旨】 1 国税通則法70条5項は,国税の納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用される。 2 納税者が,土地の譲渡所得を得た年分の所得税の申告を委任した税理士から,委任に先立ち,実際に出費していない土地の買手の紹介料等が経費として記載されたメモを示され,多額の税額を減少させて得をすることができる旨の説明を受けた上で,同税理士に上記の申告を委任したものであり,同税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるなど判示の事情の下においては,税理士に申告を委任する者は法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように節税することを期待して委任するのが一般的であることなどを理由として,上記納税者が脱税を意図し,その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には,経験則に違反する違法がある。 (2につき補足意見がある。) 【参照法条】 国税通則法68条1項,国税通則法70条5項,民訴法247条,税理士法1条
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4063.html
トランスフォーマーシリーズ デストロン編 我が右腕レーザーウェーブ。頼りがいある光の銃 命令遵守の行動でワシを守る………。 無口なる笛サウンドウェーブ。空飛ぶコンドル操りてワシを守る……。 僕の巨人デバスター。合体戦士。あらゆる物を作りてワシを守る…… そして最後にもう一人……記す必要なきスタースクリーム…… この4人を引き連れてワシはここにやって来た……… サイバトロン編 神の左手グリムロック。勇猛果敢な神の獣。鋼の牙と怪力で導きし我を守る。 神の右手はオライオン。心優しき運転手。あらゆる考えを生み出して、導きし我を運ぶ。 神の頭脳ホイルジャック。知恵のかたまり、神の頭脳。あらゆる物を作りて導き我を助ける。 そして最後にもう一人………記す事がはばかれる……スカイファイヤー…… この4人を引き連れて、私はここにやってきた…… 破壊大帝編 神の左手メガトロン。勇猛果敢な神の銃。融合カノン砲で導きし我を守る 神の右手がギガトロン。心優しき破壊神。あらゆる姿に形を変え導きし我を運ぶは地海空 神の頭脳はガルバトロン。狂気のかたまり破壊の王。あらゆる狂気を吐き出して導きし我を脅迫する そして最後にもう一人……名を記す事さえはばかれるモノマネ好き…… この3人を引き連れて……私はここにやってきた…… 平成ライダー編 神の左手ゼロノス。勇猛果敢な神の盾。手の剣と肩の銃で導きし我を守りきる。 神の右手キバ。笛つかう蝙蝠。あらゆる魔獣を操りて、導きし我を運ぶは巨大な城 神の頭脳はゾルダ。悪知恵の固まりスーパー弁護士。あらゆる策を弄して導きし我に法律的な助言を呈す そして最後に只の人間氷川誠……… この4人を引き連れて私はここにやって来た……… ジャンプ主人公達 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。巨大な盾と変形する鎧で導きし我を守りきる 神の右手ヴィンダールヴ。心優しき神の×。あらゆる物を召喚し、導きしわれを悩ませる 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵の固まり大魔道師。あらゆる策を使い手導きし我を救う そして最後にもう一人……空の彼方より来た最強戦士……… この4人を引き連れて私はここにやって来た……
https://w.atwiki.jp/kurotoko/pages/22.html
■慣れないことをしようとしても失敗するだけ ※引く順番: 唯⇒夏希⇒ゆたか⇒みちる⇒紗霧⇒英美⇒唯 ■ ■ 昼休み。 二年Aクラスの教室、三好ゆたかの机の周辺に、少女たちがたむろしている。 ゆたかの机の上には、ばらばらで整頓されていないカードの山。少女たちの手にもカードがある。 少女たちは全員、周囲の席から拝借した椅子に腰掛けている。 「では」 「どうぞ」 英美が扇状に広げたカードたちの中から、紗霧の指が一番左端のそれをひたりと摘まむ。 「……こちら」 英美の肩がぐっと強張る。それを見て、紗霧はカードを摘まんでいた指を離し、そのひとつ隣を迷いなく引き抜いた。一拍置いて、手に取ったそれの数字を見た顔が微笑む。 「はい、あがりですね」 「なんでよー!」 数字の揃った2枚の手札を捨て山に置く紗霧は、古河みちるに続き二番手の上がりだ。 満足げな顔を悔しそうに横目で見ながら、英美は唯の手札から1枚を抜き取った。 「揃わないーなんでー」 引いたカードと手札とを照らし合わせる。が、数字は重ならない。 不揃いのカードが3枚と、先程から付き合いの切れない、不気味に笑う魔女が1枚。 昼休みのカードゲーム、ババ抜きは今日も英美が劣勢だった。 「せんぱいはすぐ顔に出ちゃうんですから」 「分かりやすいときもありますね」 「そうかなあ」 唯とみちるの言い草に、英美は不満げに眉を寄せる。 「あたしみたいに初めっから笑ってればいいんですって」 そう自慢げに言う夏希は、表情を隠すため『カードを引かれる際には常にめいっぱいの作り笑いを浮かべる』という戦法をとっていた。その成果か、勝率はそこそこ悪くない。 「それはそれで難しいと思うのよ」 「いやいや、そんなことはないですよ」 「でも、正直あの作り笑いは不気味ですよ」 「マジで!?」 さらりと差し込まれた唯の本音に、条件反射的に夏希が叫ぶ。 「すごい不自然ですし」 「それはしょうがねーじゃん! それが目的なんだし!」 「あはは」 笑いながら、唯は体を前傾に、椅子から少し身を乗り出した。そして、夏希が胸元に構えているカードに手を伸ばす。 「どれにしましょうかねー」 「ふふふふふ」 瞳をギラつかせた夏希がにやにやと笑う。作り笑いの迎撃態勢。 唯のカードは1枚、対して夏希は残り3枚。唯は相札を引ければ上がりだ。これで唯が上がれば、残るのは英美、ゆたか、夏希の3人になる。 うかうかしている場合ではないと、英美は自分の手札のシャッフルに勤しもうとして、自分の手元にジョーカーがいることに気付いた。 「(あれ? そもそもジョーカー絡まないんだから、なっちゃん作り笑いする必要ないんじゃ…)」 「これです! …よしっ、あーがりー!」 英美が顔を上げると、わーい、と唯が諸手を挙げていた。 「うぇーマジでか! そろそろやばいなあ」 言葉のわりに楽しげな夏希が引くのは、ゆたかの手札だ。 「はい、どうぞ」 「あたれー」 ゆたかが差し出した2枚から、夏希は随分と気楽にカードを抜いた。ジョーカーが英美の手札にあるのはこれまでの英美の反応からモロバレだったため、夏希は自分の当たりにだけ期待していればいい。 「うう、当たんねえ!」 はずれ。悶える夏希を、紗霧が微笑みながら眺めている。 「次は私の番ですね」 「あ、うん」 ゆたかに声をかけられ、英美はそちらに体を向けた。 ゆたかの手札は残り1枚。上がる可能性も、ジョーカーを引く可能性もある。勝負どころだ。 「それでは、いきます」 「は、はい。どうぞ」 気合の篭もったゆたかの声に、思わず英美は引き気味に手札を構えた。 ゆたかはそれを追うように、先ほどの唯と同じようにぐいっと上半身を前傾させて手を伸ばす。 英美は何気なく視線を手元から前へ向け、息を呑んだ。 「(あっ!)」 前かがみになったゆたかの襟元に空いている隙間を、英美は見た。 奥が覗ける。胸元が見えてしまっている。清楚な印象を抱かせる控えめなレースの装飾も、普段であれば絶対に見えない、鎖骨から胸骨にかけての肌色も。 致命的な先端部分までは見えないものの、それが逆に強く英美の目を惹き付けた。 「(?)」 横から視線を感じ、英美は手札を晒しながら、目だけを右へ向けた。 夏希が笑っていた。先ほども見た、あの不気味で不自然な笑みだ。 「(私を見て笑ってる? いや違う、この子……まるで“私はもう十分に堪能した”とでも言いたげな顔をしている!)」 瞬間、英美の脳裏に思い浮かんだのは、つい先ほど、今と同じ顔で不気味に笑っていた夏希と、その夏希の手元からカードを引く唯の姿だった。 不自然なまでに手元に構えられた手札。身を乗り出して前屈みになる唯。それは今現在の英美とゆたかの位置関係と、完全に一致している。 「(にまにま)」 「(か、完全に同類だと思われている)」 いやいや、と英美は内心で首を左右にぶんぶんと振った。 夏希にどんな目で見られようと、そんなことは問題ではない。 「(注意しなきゃ)」 英美がまず思ったことはそれだった。相手が気付いていないのをいいことに『この光景を堪能してしまおう』などという考えは、英美の頭には欠片も浮かばなかった。 「これです」 「あ、」 そのとき、折り悪くも英美の手元からカードが1枚抜き取られ、ゆたかの体が離れていった。タイミングを外されて、英美は口を半開きにして硬直する。 ゆたかは英美の様子をさして疑問に思うこともなく、今引いたばかりのカードの数字に目を移し、肩を竦めて手札の中に入れた。揃わず、だ。 「(えと、ええと、)」 言い出す機会を逸し、狼狽する英美。ここで言い出すか? と考えて、いやいや、と思い直す。ここで言い出したら完全に事後じゃないか。堪能した後で注意したと思われるに決まっている。『見てたんですね! 変態』とか言われるに決まっている。それは避けたい。見てない。ちょっとしか見てない。だからノットギルティを主張したい。 そうだ、次に前かがみになったタイミングで言えばいいんだ。『あ、見えそうだよ、気を付けて』と。これなら自然。まさに自然。 そうと決まれば、まずはゲームを進めることにするべきだろう。次は、英美が夏希からカードを引く番だ。 「んふ」 「……」 ギリギリ不自然にならない程度の遠い位置で、夏希が待ち構えていた。 堪えきれないといった風に、夏希は口を閉じたまま含み笑っている。エロスに濁った眼がギラついていた。 「英美先輩の順番ですよー」 「ウン、ソウダネ」 夏希の思惑通り、英美は上半身を乗り出して手を伸ばした。 ただし、自分の手札を持った左手を胸元に添えた状態でだ。ガードされた胸元に隙はなかった。 硬直する夏希からカードを引く。揃った。ペアの2枚を山に捨て、英美の残り手札は2枚、うち魔女1枚。 「無念……!」 「う、うん」 何に対してか悔しがる夏希に、引きながらも応える英美。 その2人を眺めながら、紗霧は微笑んでいた。唯は声をあげて笑っていた。みちるは含み笑いを隠すため、口許に手を当てていた。 そして三好ゆたかは―― 「……っ!」 三好ゆたかは、顔をほのかに火照らせていた。 そう。英美の様子を見て、彼女はようやく気付いたのだ。先ほどの自分の体勢と、英美と夏希の不審な挙動の意味に。 「ちぇー……次あたしですね。よしあがった。トイレー」 硬直したままのゆたかの手札を1枚引き抜いてアガリを宣言すると、夏希は席を立った。 現在ゲームに残っているのは英美とゆたかの2人のみ。次はゆたかが英美のカードを引く番だ。 「それでは、次は私が引きますね」 「(きた!)」 英美はまず、注意する際の言葉を考えた。『あ、胸元見えそうだよ。気をつけて』。これだ。さも今気付いたかのようで、かつ、いやらしくない。最初の『あ、』がポイントなのは言うまでもない。 では言うタイミングはどうか。見えそうだよと言うからには、見えそうになっていなくてはならないだろう。これは間違いない。見えそうでもないのに『見えそうだよ』などと言えば変態認定は免れない。ゆたかの胸元が見えそうな状態になったら言う。すかさず言う。これだ。いける。 状況は英美の味方をしている気がした。勝利の予感があった。 「(いつでも来なさい!)」 タイミングを見誤ってはいけない。ゆたかの胸元が見える瞬間を見逃してはいけない。 じっと。英美はゆたかの胸元を注視した。凝視した。英美は真剣だった。真剣な眼差しをゆたかの胸元に向けていた。その瞳には真摯な光があった。 「(たいへん凝視していらっしゃる!?)」 ゆたかの目から見た英美は、それはもう変態そのものだった。 カッと見開いた、怖いほどの迫力を宿した目が見つめる先はゆたかの胸元。一瞬を見逃すまいとまばたきをしないせいで目が充血して、その危うさに拍車をかけている。 半開きになった口が浅く呼吸を繰り返し、何か言いたげに開閉を繰り返している。 「さあ、ほら、カード引いていいよ」 息を荒くしながらそんなこと言われても困る。そんなに見たいのか。そんなにか。 ゆたかは心の中で叫んだ。 これから起こる惨劇に備え、みちるは音を立てずに椅子をずり動かして退避の体勢。 唯は『やれやれ、またか』とでも言いたげに嘲りの笑みを浮かべた。 紗霧は表面上は無表情で動向を注視している。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 【条件分岐】 Q.ゆたかの英美への好感度が70以上ある? →はい いいえ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「……ふぅ」 ひとつ息をついて心を落ち着かせ、ゆたかはおずおずと英美の手札に右手を伸ばした。 ただし、胸元を左手で押さえた体勢で。 「あっ」 その瞬間、英美がどう思っていたかは定かではない。 胸元を見ていたことに気付かれて焦っていたのかも知れないし、ただ単純に気付いてくれて良かった、と思っていたのかも知れない。ひとつだけ確かなことは、 「(そんなに、)」 確かなことは、次の瞬間、英美の頭は真っ白になったということだけだ。 「(そんなに見たいなら……!)」 英美は自身の目を疑った。次に頭を疑った。 それでも目だけは食い入るようにその光景を見つめていた。 熱を帯びた頬。 強がり顔で恥じらいながら、窺うような視線には少しの怯えを滲ませて。 どうぞと言わんばかりに、英美だけに向けて、左手の指で摘み、広げられた胸元。 「……~~!」 数秒で我慢の限界に達したゆたかは、英美の手元からカードを一枚抜き出して元の位置に戻った。 しかし、英美の精神を沸騰させるには、その数秒だけで十分だったようだ。 「……………………ほわっ?」 しばらく放心していた英美は、自分の鼻から垂れた液体の感触で我に帰ることとなった。 それに気付いた周囲の少女たちも声をあげる。 「あら、血が出ていますよ」 「おやおや」 「い、い、今ティッシュ出しますっ」 ゆたかの暴挙が有耶無耶になっていく空気の中、ひとり唯だけは唾でも吐き出しそうな顔をしていた。 **あくまでも救い ■ ■ 謎があれば、人はそれを調べ、あるいは人に尋ねることで答えを得ようとするだろう。隠蔽された秘密があれば、人はそれを解明し、時には邪推し、またある時は暴こうとするだろう。 不明とは火種であり、好奇心は燃料だ。燃え上がった知的好奇心という名の欲望を抑え込むのは、難しい。 ■ ■ 昼休みの喧騒の中。三好ゆたかは一人、自分の教室である2-Aクラス前の廊下にいた。 昼食を終えて早めに戻ってきたはいいが、教室では折り悪く弁当組にゆたかの机を使われていたせいだ。声を掛けて机を返して貰う必要もないかと、ゆたかはこうして壁に寄り掛かっている。 「……出ませんね」 手元の携帯電話の画面を見つめながら、三好ゆたかはそう呟いた。 画面に表示されている検索サイトのテキストボックスには、『電動 丸い 玩具 ピンク』という言葉が並んでいる。 「(やはり、ただの玩具としか思えませんが)」 つい先日の話、ゆたかはある玩具を拾得した。いや、正確には、玩具と思われる正体不明の物体を、だ。 結果だけ見るなら、落とし物は無事に持ち主の手に戻ったわけで、一件落着と言えるだろう。しかしゆたかにしてみれば、自分はただあの玩具を手に持っていただけだというのに、松島英美は涙目で逃げるわ彩水唯からは汚いものでも見るかのような目で見られるわ、思い返してみれば随分と散々な目に遭ったものだ。 しかも、最も納得いかないのは、当事者に説明を求めても逃げられるかはぐらかされるかで、あの拾得物がどんな用途で使う何物なのか未だに分かっていないことだ。曰く『ただのマッサージ器だ』という説明を受けてはいたが、今となってはそれが真実だとは到底思えず、内心穏やかではいられない。 そういった事情から、ゆたかはこうして携帯電話からあのアンノウンについての調査を行っていたわけだが――商品名か通称くらい分からないことには、無理だ。結果が出ない。 「ふぅ」 「こんにちは」 「はい、こんにちは。……会長?」 いつもの癖で半ば自動的に挨拶を返しながら顔を上げ、ゆたかはわずかに目を見開いた。そこにいたのは、穏やかな微笑を湛えた奥村紗霧生徒会長だった。 「どうも。そんなため息をついて、どうかなさいました?」 「あ、いえ、大したことではありませんので」 風紀委員と生徒会の連携で顔を合わせる機会は多いが、立場を抜かせば『友人の友人』程度の関係でしかない。そんな相手に相談に乗ってもらうほどの話ではないはずだと、ゆたかは愛想笑いを浮かべた。 「大したことでないのなら、三日も前から暗い顔はしませんでしょう?」 「え? あ、あの」 「いえ、実はですね。誰とは申しませんけれど、三好さんのご様子がおかしいという話を、少し前に聞いていたものですから」 「それは……その、すみません」 ゆたかは少し俯き、顔を赤らめた。 誰かは分からないが、余計なことを話してくれたものだ。私の周囲の人間で、三年の奥村会長に相談を持ちかける人間と言えば――最も確率が高いのはやはり、秘密を隠している当事者で、かつ三年の――いや、本当に誰かは全く分からないけれど、余計なことを話してくれたものだ。全く。ほんとに。あの人は。もう。 「親しい人には相談し辛いこともありますでしょう。私で良ければ、話してみてくれませんか?」 「いえ、そこまでご迷惑をお掛けするわけには」 「そのお気持ちがあるのなら、相談に乗らせてくださいな」 「……うぅ」 微笑みが目に眩しい。相手が完全な親切心から言っているであろうこと、他の人から話がいってしまっていることなどを考えると、ノーと言うことは躊躇われた。 「本当につまらない話なんですが」 そうしてゆたかは、事の顛末を紗霧へ話し始めた。 かくかくしかじか。 「それで、こうして自分で調べてもみたのですが、一向に正体が掴めないものですから」 「そういうことでしたか」 話の大まかなところを話し終えたところで、ゆたかはふと思いついて訊ねてみた。 「そうだ、会長は心当たりはありませんか? その、あのマッサージ器のようなものの正体が何なのか、について」 「ふ、む……済みません、見当もつきません」 「そうですか、いえ、ありがとうございます」 悩むような間を置いて返ってきた返事はしかし、ゆたかの望み通りとはいかなかった。小さな落胆に、ゆたかが肩を落とす。 「けれど三好さん。貴女、ソレの正体を知って、それからどうなさるおつもりですか?」 「? どうする、とは、」 曖昧な問いに当惑しながら、ゆたかは鸚鵡返しに問い返した。紗霧の表情がやけに冷たく見える。いつの間に笑みを消したのだろう。 「例えばその正体を知ったとして、それを貴女は皆さんに話されるのですか?」 「え……いえ、その、話せ、ません」 「――――」 それきり紗霧は沈黙した。真っ直ぐにゆたかの目を見つめたまま、ゆたかの答えを待っている。 ゆたかは、紗霧の言いたいことを理解した。理解してしまった。つまり紗霧は、ゆたかにこう言いたいのだ。 『皆が自分に対して口を閉ざすのは何故?』 『ゆたかに真実を伝えない理由は?』 『それは誰のため?』 『それを考えた上で、貴女はまだ知ろうとするの?』 「……」 沈黙の視線のうちに込められた糾弾に、ゆたかは思わず視線を逸らした。自分のしていたことが急に恥ずかしく思えてきて、唇を軽く噛む。私は一体何をやっていたのか。それを、皆がどんな気持ちで見ていたのかも知らずに。 「そんなに暗い顔をなさらないで下さい、三好さん。貴女だけが悪いわけでは、決してないのですから」 「え……?」 全ての過ちを赦す慈母の微笑みに、ゆたかは逆に戸惑った。こんな悪い自分に、何故この人はこんな優しい笑みをくれるのだろう? 「秘密にされたら知りたくなるのが道理です。せめて隠す理由くらい知らないことには、三好さんが調べたくなるのも当然の話」 「そうですけど、でも、やはり秘密を無闇に暴き立てるのは」 「直接聞いてみればいいんですよ。隠す理由を」 「理由を、直接?」 「そうです。今回足りなかったのは、対話と歩み寄りです。今の三好さんの気持ちを素直に伝えれば、皆さんもきっと分かってくれるはずです」 「今の、気持ち……」 「偉そうなことを言いましたけれど、実際さして大した理由もない可能性だってありますし、ね」 最後にそう、おかしそうに笑いながら言い残して、奥村紗霧は去っていった。 残されたゆたかはその背中を尊敬の眼差しで見送りながら、彼女のことを想った。会長へ相談を持ちかけてくれたに違いない彼女へ。 そうして紗霧の言う通り、今の気持ちを素直に伝えるために、今日の放課後の予定を尋ねるメールを作成し始めた。 ■ ■ 廊下の角を曲がり、ようやく背中に感じていた視線がなくなったことを確認してから、紗霧は小さく笑った。 不明とは餌であり、好奇心は猫だ。走り出した猫を捕まえるのは難しい。しかし道を用意してやれば、その方向を誘導することは、かくも容易い。 ■ ■ 自室にて。 松島英美はテーブルの前に正座して、膝の上に置いた両手をぐっと握りしめながら、長いことその物体をじっと凝視していた。 窓から見える爽やかな青空とは対照的に、思いつめた顔で。気恥ずかしそうに。その目に、僅かな好奇心を覗かせながら。 まっさらなテーブルの上に、ぽつねんと小さな何かが置かれている。 その物体は、2つのパーツとそれを繋ぐ細いケーブルで構成されていた。片方は2センチ程度の小さな楕円球で、もう片方は小さなツマミの付いた長方形。2つのパーツとそれらを繋ぐ紐の色は、全て白い。色は違うが、つい先日、ゆたかが拾ったという持ち主不詳の落とし物とほぼ同型の物だ。 「……」 もちろん、と言うべきか、これは英美の私物ではない。朝起きて、自分の部屋の床にこれが転がっているのをついさっき発見したところだ。 そして持ち主は既に判明している。昨日……金曜日の放課後に遊びに来た後輩、伊織夏希だ。学校からの帰り、英美の家に寄り道をしていった彼女がこれを“置き忘れて”いった。たった今メールで本人に確認したから間違いない。 学校での件も持ち主は夏希だったのでは? と英美は推測していたが、直接夏希に訊ねてはいない。もし夏希が持ち主だったとしたら、つい『これは私の物ではありません』と言ってしまう気持ちは英美にも簡単に想像がついた。こんな恥ずかしいものを他人に拾われて、『それは私の持ち物です!』と言える人間がいるだろうか。いや、いるわけがない。 どうしたらこんなものを学校のトイレや他人の家に忘れてくることが出来るのか英美には分からなかったが、深くは考えないことにした。人には大なり小なり秘密があるものだ。うん。 しかし詳しいことの追求はしないにしても、これを夏希に返すときには、『今後またどこかに置き忘れたりしないように注意しなさい』と言っておこう、と英美は決めていた。前回と今回は運良く何事もなく終わったが、教師や他人に知られたときに困るのは夏希なのだから。 「うん?」 テーブルに置いていた携帯電話がチカチカと光を放ちながら、ポップでキュートなメロディを奏で始める。メールだ。 送信者の名前を確認して、英美は首を傾げた。夏希からだ。忘れ物の引き取りは明日にしよう、ということで先ほど話はついたはず……だが、はて、まだ何か話すことがあっただろうか? 「て、ちょ、しないよそんなこと!」 本文を確認して、英美は思わずそう叫んだ。 メールにはこうある。 『洗って綺麗にしてありますから、興味があったら使ってみて下さい! よければ!』 よければ! ではない。何も良くはない。お前は一体何を言っているんだ! 「だ、大体、話に聞いたことくらいあるけど、使い方も分からないし、それに、そんなこと出来る時間も、ないし」 今日はこれからゆたかが遊びに来ることになっている。だから、昼間は無理だ。夕方からは時間が空くけど、出来てもやらないよ。もちろん。 えっと、こういうの使うのって、風呂入ってからのほうがいいのかな……じゃなくて、どうせ汚れる? んだし、風呂入ってからのほうが――って、いやいや、使わないけどね! 「……興味も、ないし」 左手に携帯電話を持ったまま、右手がおそるおそる前に伸ばされる。テーブルの上に鎮座ましましている、未知の塊へ。 興味はないんだけども! 全然ないんだけども! 単4電池とかでいいのかな。変な形の電池だったら―― 「きゃわー!?」 左手の携帯電話が電話着信のハードロックを喚き立てる。 英美は驚いて叫びながら机上の物体Xを引っ掴んで、隠すように両手で包み込み胸元に寄せた。激しい動悸を手で押さえるように。 「び、び、っくりしたよ、一体誰、」 着信:三好ゆたか 「……あ、そっか、だよね」 当然。納得。であった。 今日は家で話をしたいとのことで、どこにも遊びに行かず英美の部屋でゆっくりする予定になっていたのだ。だから、 「ゆたかが来る前に、これはどこかに隠さなきゃ、だよね。えっと、えっと」 ぴ、と通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てながら、英美は立ち上がった。 第一級隠匿指定物の隠し場所を求めて視線を巡らせる。 「はい、もしもし」 戸棚、ベッドの下、机、クローゼット……相応しい隠し場所かを考える。 その過程、置時計で時間を確認した。11時、ほぼ丁度。ん? 『もしもし』 受話口から聞こえてくる声。 それと同時。部屋にチャイムが響き、来客を告げる。 「ちょ、」 もしもしわたしゆたか。いまあなたのへやのまえにいるの。 「ごめん、ごめんちょっと待ってね? 今開けるから」 『はい』 右手に携帯電話、左手に大変いかがわしい物を持ったまま、英美はものすごく慌てていた。 「えと、えーと、えい!」 後で考えてみれば、机の中にでも隠しておけばよかったと思うが、この時の英美の頭の中は限りなく透明に近い白だった。 何を思ったのか、英美は左手に持ったそれをポケットにねじ込んだ。 そして入り口の鍵を開けて、ゆたかを招き入れた。 ■ ■ 「あの、英美さん」 「うん?」 部屋に招き入れられて、いつもの位置に腰を下ろして。 世間話もそこそこに、ゆたかは本題を切り出した。 「この間の、落とし物の玩具の話なんですが」 「あ、あー、うん」 英美が気まずげに目を逸らす。 「(アレがなんなのか分かっちゃったのかな……うわー、謝ったほうがいいかなあ)」 あんなものの解説をするのは恥ずかしい、というだけの理由で逃げ回っていたのが英美だ。 積極的にゆたかのことをからかおうとしていた唯ほどではないにせよ、自分にも責はある、と英美は思った。 「あのね、ゆたか、その」 「いいえ英美先輩、まずは聞いてください。私は、貴方に謝らなければなりません」 「え?」 なぜ自分が謝られなければいけないんだろうか。英美にはわけがわからなかった。 アレの正体が分かって『なんで黙ってたんですか!』とか、あるいは未だに分からなくて『なんで教えてくれないんですか!』とか、そういう話ではないのだろうか? 「私は今日まで、あれが一体何なのかについて調べていました。本日までの調査の結果として、結局、まだ何も分かってはいなかったのですが」 「……うん」 とにもかくにも、声の調子から改まった話だということだけは分かる。 ベッドにあぐらをかいていた英美は、居住まいを正して聞く態勢を取った。 「皆さんが知っているのに、私にだけ教えてもらえない。それが許せなかったんです」 ゆたかの声は落ち着いていた。言葉とは裏腹に、表情も至極穏やかだった。 少なくとも今は、怒ったり悲しんだりといった激情とは無縁のように、英美には思える。 「けれど、あの落とし物が何なのか皆さんが教えてくれなかったことにも、理由があるんですよね」 「ん……?」 英美はもぞもぞと尻の位置を直した。視線が、少し、その。 「隠し事をされるのは哀しいですが」 「う」 「皆さんのことを思えば」 「うう」 「私がしていた行為は、皆さんへの裏切りに他なりません」 「ううう」 眩しい。 信頼に満ちた瞳が。 「なので、今後は気にしないことにしようと思います」 「(そんな)」 そんなことを言われても困る。 そんな風に思われても困る。 「でも……いえ、往生際が悪いですね、すみません」 「や、」 この話はこれで終わりです、ご清聴ありがとうございました、と。 ゆたかは正座の姿勢のままで、深々と頭を下げた。 「――――」 そのお辞儀に、英美は言葉をなくした。 なんだろうこれは。なんなんだろう。私はただ。ただ恥ずかしくて。それで黙って。 「(なんで?)」 それが一体全体なんでこんな展開になるのか。 なんでこんな悟った風の笑みを浮かべさせることになったのか。いったいそしてぜんたい。 かと言って『あれはエログッズだったんだよ!』なんて今更言えるか? そんな空気か? 「こっちこそごめん!」 英美は感極まって、居ても立ってもいられず……いや、居てもいられず立ち上がり、ほとんど叫ぶようにこう言った。 先のことは全く考えていなかった。 そのしゅんかんにポケットから、ぽーんととびだす、しろいアレ。 「あっ」 勢い良く伸び上がった英美の腰のポケットから飛び出したソレは放物線を描き、床にクッションを置いて座っていたゆたかの目の前に着地した。 「あ、これ」 「はわ!?」 思わずといった風に手を伸ばすゆたかに先んじて、英美はベッドから飛び降り、落としたソレを慌てて拾い上げた。 取りこぼしそうになりながらも両手で胸に押し付けるようにソレを抱え、そのままぺたりとカーペットに腰を下ろし、猫背になって目を逸らす。 指の隙間から、白いコードがはみ出ていた。 時、既に遅し。 「英美さんも持ってたんですね」 英美の視界がぐるぐる回る。ぐるぐる。ぐるぐる。 「はわ、はう、ちゃわ」 ちがうこれはなっちゃんのでだから あれちがうゆーちゃんは知らないんだっけでも 「もしかして、流行っているんでしょうか……」 こんなのが大っぴらに流行してる街なんていやだ! 「こ、、や」 と英美は思ったが、ゆたかのほうは『流行の話を教えてもらえないなんてさみしいなあ』みたいな顔をしていた。 だから違うんだってば。大変な誤解。ほんとうにひどい誤解なんです。 「話すよ!」 「え?」 一瞬の沈黙。 英美はテンパっていて、ゆたかは普通に落ち着いていた。 無知と既知との埋められない溝がそこにある。 「え……っと、宜しいんですか?」 「い、いいよ!」 勢いに任せて、英美はそう言った。 わたしには別に隠す理由なんてないんだ。ただ、そう、話すのがちょっと、かなり、すごく、ものすごーく、恥ずかしいだけで! 「それは確かに、私としても望むところではありますが……」 できればもう少し落ち着いて、考えなおしてもらっても構いませんが、と、ゆたかの目はそう言っていた。 しかし、ここで止まって後で知られたほうが英美としてはよほど恥ずかしい。走るべし。走り抜けるべし。 「えとね、あのね、そんなに大した理由もないんだ。実は」 「そうなん、ですか……?」 ゆたかの目が眇められる。 怖い。 「ちょ、あ、違う、言い方まちがえました。じゃなくてその、」 まって。わかって。いま言うから。いま。そしたらわかるから。 「その、あの、その」 「……」 100%菩薩だった笑みに、若干の陰りが見えてきた。 まずい。早く言わねば。一秒ごとに危険指数が上昇していく。 「びっくりしないで聞いてください」 「これは」 「その」 ■ ■ 「……なことに使う道具なの」 「え?」 俯いて、目を逸らして、小声で、赤面しながら。 もごもご、と口の中でだけ呟いた言葉は、当然のようにゆたかには聞き取ることができなかった。 「だから、その、もごもごで」 もにゅもにゅ。 妙に身をくねらせながら、英美の態度ははっきりしない。 ゆたかも、そろそろ苛立ってきた。 「すみません、もう少し大きな声で言って頂けませんか?」 ずずいと身を寄せ、耳をそばだてるゆたか。 英美の顔の赤みが増す。 「だから、その……えっちなこと」 ん? 「え?」 なんだって? 「だから、えっちなこと! えっちなことに使うの!」 今度はゆたかが赤くなる番だった。 絶句。赤面。戦慄。羞恥。 「なっ、なっ、なっ」 目を閉じたままがーっと言って、やり尽くした感のある顔で英美は思いっきり顔を逸らした。 ゆたかはあまりの衝撃から少し仰け反った姿勢で、英美の手元からちらりと見えるそれを思わず凝視。 赤い顔がふたつ。 「黙っててごめんね……!」 「そこで謝られても困ります!」 むしろ黙ってて欲しかった! 言わなくてもいいって言ったのに! と今更ながらに、本当に今更ながら思うゆたかだった。 「だからその、説明できなかったのは、そういうわけで」 「へ、へえー」 今度のもごもごは、ゆたかにもよく理解できた。 あの日よく分からなかったアレコレも。あの小娘はあとで説教。 「ということでした……」 観念したのか、それとも秘密を共有する人間ができて少しは楽になったのか、英美は固く握っていた両手を広げ、ゆたかの眼前に差し出すようにして、その全貌をあからさまにした。 「へ、へえー」 その事実を知ってから見ると、物の見え方も全く違ってくる。 「そうだったんですか。これが。はあー……」 ゆたかは興味津々にそれを観察した。 これが、その、そういうアレコレに使うものなのか。言われてみれば、 「いえ、しかし、玩具にしか見えません、よね」 「ん、うん、だね……」 結局、ただの丸くて震えるだけのものだ。 露骨に怪しい形をしているわけでもないし。色も清潔感の溢れる白。 「……」 「…………」 少しの沈黙のあと。 「……どうやって使うんでしょう?」 ゆたかは頭の中に浮かんだその疑問を、そのまま口に出していた。 尋ねるでもなく、自問自答でもなく。思わず。 「そ、それはほら、えっと、」 英美も使ったことはない。あるわけがない。 けれど話には聞いたことがある。局部に押し付けて使うのだ。確か。 「なんかこう、そういうところに、さ、ほら」 「あ、あぁ、はい、その、そういう所にですよね。ええ」 お互いが、お互いの『そういうところ』を、ちらちらと盗むように見る。 「こ、こうかな……なんて」 乾ききった笑みを浮かべながら、英美は試しにローターの球体部分を自らの右の胸に押し当ててみた。 電池が入っていないから、当然動かない。にも関わらず、英美は自分の鼓動が早まっていくのを自覚した。 そして、そんな英美を止めるでも咎めるでもなく見つめるゆたかも、同じような心持ちでいた。 「試しに、ですけど」 「うん」 新しい世界、知らない世界。 一人じゃないから、怖くない。一人じゃないから、いつでも笑い話にできる。覗き見るくらいなら。たぶん。 この時点ではまだ、二人とも、そんな風に思っていた。 「使って、みます?」 「……っ」 言ってしまった。言われてしまった。 まだ大丈夫。笑い飛ばしてもいい。 でも、じゃあ――どうする? 「…………でんち」 「あ、」 ぎこちなく英美は立ち上がり。 「でんちとってきます」 ゆたかはその背中を、無言で見送った。 **落ち葉を蹴っ飛ばしたりはしない。 昨晩の話になるが。 三好ゆたかは天気予報で明日の最高気温を確認していたから、寒いのは分かっていた。明日は大分冷え込むようだからと、厚い上着を出しもした。だが、 「……」 風を見ていなかった。手袋を持ってきていなかった。 ダウンジャケットで確かに体は温かいが、鞄を持つ右手は言わずもがな、ポケットに入れている左手もどんどん冷たくなってきていた。 放課後の帰り道。 「えっと、ゆたか」 「はい、なんでしょう」 温かそうなニットのポンチョとグローブをモフモフと見せびらかしながら(ゆたかの主観である。念のため)、ゆたかの左側に並んで歩く松島英美は、言いにくそうにだがこう尋ねた。 「暗い顔してるけど、どうかしたの?」 「……いえ、別に」 横目で英美を見ながらの返答は、今のゆたかの手と同じように冷たかった。 「そ、そっか。ごめんね、変なこと聞いて」 あはは、と愛想笑いを浮かべる英美。 その一瞬前に悄然としていたのを横目でしっかり目撃して、ゆたかは狼狽えた。 「あ! いえ! そうではなくてですね!」 「う、うん?」 ゆたかは八つ当たり気味に黙秘しようとしていた自分を恥じながら、左手をポケットから出して英美の目の前でぶんぶんと振る。 「つまらない事なんですが、手袋を持ってこなかったものですから」 「あ、そっか、そうだったの」 目の前でひらひら動く手が寒そうに震えているのを見て、英美はさっとそれを両手で包んだ。 「(はわっ)」 思わず立ち止まるゆたかに合わせて、英美も足を止める。 「あ、ごめん、痛かった?」 「い、いえ」 公衆の面前でんなになにを、などとゆたかが考えているうちに、英美が手袋を外す。 今度は手と手が直接触れ合った。 「わー、すごい冷えてる」 「え、ええ、まあ、それは、そうでしょうね」 ほう、と安心してしまう内心を押し隠して、ゆたかはあくまで冷静を装った。 素っ気ない返事にもめげず、英美の手の動きは優しい。 「あったかい?」 「それは、ええ」 さすりさすり。 「……」 「…………あの」 さすりさすりさすりさすり。 「うん?」 「もう大丈夫です。行きましょう」 心地良さよりも恥ずかしさと申し訳なさが先に立って、ゆたかはそう言った。 と言いつつも、手を振りほどきはしないわけだが。 「でも、まだもう片方あるし」 「いいですから」 両手やるつもりだったのか。 ゆたかは空いていた右手で英美の手をそっと押しのけて、さっさと歩き出すことにした。 「あ、右手も今すごい冷たかったよ!」 「それほどでもありません」 つかつかと歩くゆたかに追いすがり、英美が食い下がる。 「手袋貸すよ」 「それでは英美先輩の手が冷えます」 「私はいいよ」 「よくありません」 「じゃ、じゃあ半分こ」 「……はあ」 善意を断り続けるのも疲れる。落ち込まれる前に観念して、ゆたかは差し出されていた手袋を受け取った。 そして、それを右手に装着する。 「(あ、あったかい)」 まだ残っていた英美の温もりが、かじかむ右手を包む。 右手がだいぶ楽になった。ありがたい。 「さあ、行きましょう」 「待って待って」 顔が弛緩していないか左手で確かめながら、ゆたかが先を歩く。 それを英美が慌てて追いかける。 「あ」 「わ」 英美が追い付いて隣に並ぶのと、ゆたかが左手を下ろしたのはほぼ同時だった。 英美の右手とゆたかの左手――互いに手袋をしていない手が触れ合って声をあげたのも、ほぼ同時だった。 「えっと、」 『いい?』と、窺うような視線。 視線を外してそっぽを向いて、ゆたかがこくりと頷く。 両手を温かくして、2人は帰宅した。 **あるものしりとり 夏希ばーさす遥 「あるものしりとり?」 「そ。今ここにある物の名前だけしか使えないっての」 「へえー。オモシロソだね。それじゃ、最初どうしよっか」 「『り』スタートだろ。んじゃーあたしからな。『理科』」 「『か』かあ。か、か、か、かー……あ、『カラス』」 「『水曜』」 「う、『ウノ』」 「『の』ってなんだ、なんかあるか、ないだろ、の、『のり』」 「あらビック! えと、んーーー『リフ』!」 「なにそれ音楽的な意味でか。グレーゾーンだなあ」 「大丈夫、問題ないさ」 「んじゃあ『フェルマータ』。教科書のどっかにはある。多分」 「むむ。『たくわん』」 「胃袋の中にか。ていうかアウト」 「しまった、1落ちした!」 「残機制なのかよ!?」 「『たまごやき』でー」 「……これで残機ゼロだからな。『教科書』」 「『しょ』? 『よ』?」 「どっちでも」 「『賞状』」 「うn――じゃなくて、『運動部』」 「なんで言い直したの?」 「深い意味はない」 「ほむ。『部活』」 「んー…………つち、『土踏まず』」 「おお」 「ふはは」 「『ず』ってむずかしいなあ」 「降参か。いいぞ降参で」 「『ずらし押し』」 「あたしの体を押すな! ってかそれ名詞じゃねーし!」 「(ふんっ)」 「ドヤ顔をするな。まあいいや、『しま』」 「パンツが?」 「どう見てもソックスだろーが!」 「すとっぷばいおれんす!」 「次、『ま』」 「まnモゴモゴ」 「別のにしろ!」 「んじゃあ、えーと、『万札』」 「あるのか今」 「あ、あるよ!」 「確かめていいか?」 「と、友達に噂とかされると恥ずかしいし!」 「じゃあしょうがねーなー。あー、と、『土』」 「『ちんこ』!」 「ねーだろ!」 「じゃあ出す」 「いややめろださなくていいコラやめろやめろやめろ」 「えー」 「あたし降参!」 「なんと!」 「帰るぞ!」 「よしわかった!」 **ニャーさまをぼんやり鑑賞するの会 文房具屋に行ってきた、その帰り道のこと。 「あら」 車のほとんど通らない、住宅地の隙間を縫うような小道で。 三好ゆたかは猫を見かけた。 「ニャー」 誰とも知れない他人の家の駐車場のど真ん中に、首輪のない猫がくてりと転がっている。車はない。どこかに出掛けているのだろう。 あらん限り背伸びをするように体を捻って伸ばしながら、こちらを向いて我が物顔でニャーと鳴いた猫の頭は上下が逆で、明後日の方向を向いた後肢はなんと卑猥に90度まで開脚していた。 今日はぽかぽかといい陽気で、程よく温もったコンクリートがいかにも気持ち良さそうである。 ゆたかはしゃがみ込み自分の足に頬杖をついて、その猫をぼんやりと眺めた。 遠くの公園から小さな子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。 温かな陽射しでゆたかの頭もほくほく温もる、日曜午前11時のこと。 **もちのきもち 1-Aの前方窓際には、白くて大きなヒーターが据え置かれている。 教師最優先で暖気を提供する小憎らしいやつだが、そのパワフルさには定評がある。あまりにもパワフルすぎるため、目の前に立っていると即座に尻が焼ける。 「――――」 それでも付き合いようはある。今まさに伊織夏希がしているように、横からもたれ掛かるのが彼と上手に付き合う最良の方法だった。 ヒーター脇にある丁度いい高さの石の棚に腰を掛け、上半身全部をヒーターに預けるように横になる。ペタリと頬に付けた鉄の箱は、ほんのり暖かい。 「ぐぅ」 片方の耳を白い彼に押し付けて、こうこうと乾いた風の音を耳の奥で聴いていると、先ほど満たしたばかりの腹が眠気をもりもり作り出す。 倦怠感に身を任せ、夏希の意識がゆっくりと沈んでいく。 「すぅ、すぅ」 吐息は徐々に規則正しく、大きく深く。 クラスメイトたちの雑談をBGMに、夏希はそのまま夢の世界へ 「モフり」 「……んぅ」 は、入れなかった。 背中に重り。モフり。誰。 「あれ、反応にぶいです」 「んん」 彩水唯は不満そうな声色で不満顔を浮かべたが、夏希は頓着しない。 「つまんなーいでーすよー」 「んん」 抱きつくように密着されても、耳元で囁かれても、頬の肉をむにむにと引っ張られても、夏希は無反応を貫いた。なにしろ眠い。眠いのだ。 あと実は、適度な重みも密着されるのも、耳元に息がかかったり顔をぺちぺちされたりするのもイヤじゃなかった……というか気持ちよかった。 「あ? んー、ナツさんの体あったかいですね。んー」 睡眠に入る直前は、最も体温が高まるという。 腰から首すじまでぺたりと密着してみると、人肌の温もりが唯の眠気も誘う。 「んー、なんか、ねむ……」 「んん」 1名様入りました。 「追加で1名様はいりまーす! いらっしゃいませー!」 その光景を発見した春咲遥が、迷いなく両手を広げて飛び込んだ。 「はわっ?」 「ぐぇえ!?」 2人分はさすがに重すぎた。 潰れた両生類のような鳴き声をあげて、夏希が悶絶する。唯を背負ってもまだ許容範囲内だったヒーターの角が、夏希の脇腹にメリメリと食い込んでいる。痛い。超痛い。マジで。 「痛てぇっつーのぉおお!」 あまりの痛みに一瞬で覚醒。 枕にしていた両腕をフル活用して、背中に乗っていた2匹の小動物を跳ね飛ばした。 そして丁度いい位置にあった教壇に座り込んだ遥をビシッと指差して、ツッコむ。 「重いわ! さすがに!」 「てへ」 「反省の色がねぇ!」 「あはは……」 鏡餅の一番下の気分を味わって、すっかり眠気が飛んでしまった。 しょうがないので適当に雑談をして過ごした。 あと、遥のことは1回殴った。 **余計なことを言わないこと 『Yeah!』 ――何が悪かったのか。 松島英美は自問する。何故こんなことになってしまったのか。初めはただ、借りてきた映画のDVDを一緒に見ようという、ただそれだけの話だったはずなのに。 真っ先に思い浮かぶのは、先日この部屋に遊びに来た妹の顔だ。 『Oh……Ah!』 しかし、妹に落ち度はない。あの自分なんかより綺麗でカッコよくて頭が切れて要領のいい妹は、しっかりとクギを刺しておいてくれたではないか。それこそまさに、『うっかり誰かに見られないように注意してね』と。 『Yes! Come! Come on!』 悪いのは、こんなモノが入れてあるのをうっかり忘れて、そして間抜けなことに『あれ、何のビデオが入ってたんだっけ?』などと再生ボタンを押してしまった自分のほうだ。 だからこの状況は、誰のせいにすることもできない。 「…………」 隣で黙り込んでいる三好ゆたかも。 『――Please!』 『こっくぷりーず!』などと(なんだろう、この味噌汁を作ったのは誰だ!的な……?)全裸で叫んでいる白人の美女と、その美女に噛み付いて食べようとしている(そうとしか見えない)やたら筋肉質な白人の男性を映し出しているうちのテレビも。 自分でなんとかしなくてはならないのだ。 ■ ■ まず何よりも先に行うべきは、この膠着した状況からの脱却だ。 今この部屋に横たわっている“気まずい沈黙”は長ければ長いほど重圧を増し、また三好ゆたかの怒りは加速度的に増していくだろう。怒り心頭に達したゆたかのアクションを固まって待つだけの人形になるのは愚策でしかない。 英美は萎縮した自分を奮い立たせリモコンに手を伸ばした。停止ボタンを確認し、押す。 『Oh, Ple――』 ぷつん、と。音が消える。肌色多めだった画面が黒で占められる。これで第一段階はクリアした。次は今回の件についてしっかり話し合う。 ごめん、と謝るだけでは勿論ダメだ。しっかり事情を説明し、悪いのは英美なのだと理解してもらう。嘘もつかないし誤魔化しもしない。常に真摯たれ。正直こそ美徳なのだ。 「あのね、」 すぐ隣に座るゆたかに、英美はまず微笑みを向けた。 そのあと。 押し倒された。 ■ ■ 天井が見える。仰向けになっている。背中には少し固い感触。毛の深い絨毯。目の前には端正な顔。眼鏡がややズレている。瞳を閉じて、頬は紅潮していた。 「(あわ、ぅわ)」 英美は動揺していた。動揺する以外のことをする余裕がなかった。 悲鳴もあがらなかった。より正確には、あげられなかった。 「……ん」 口を塞がれていた。 「(うわわわわわわ)」 やわらかなモノが意識の大半を塗り潰してゆく。 ほとんど何も考えられないのに、唇の感触だけがやけにハッキリしている。 「……っ」 わずかに残った英美の理性が思い至ったのは、『突然だからって拒んだら傷付けちゃう』だった。イヤじゃないよという言葉に代えて、床に放り出していた両手をゆたかの背中にそっと添える。 「はぅ」 返ってきたのは鈍い快感だった。英美の両足の間に割り込んできた膝頭が、ショーツの上からアレな場所をぐりぐりとこね回してくる。 緩慢で大雑把な刺激だが、自分で位置を調節すればその限りではない。英美は腰の位置を調節し、気持ちのいい場所をゆたかの膝頭に押し付ける。 「ど、どうですか?」 「……ふへ?」 すっかり惚けた表情をしていた英美は、ゆたかの問い掛けで我に返った。 「その……欲求不満、だったんですよね?」 「――――」 その問い掛けで、英美は停止した。 「最近あまりこういったことが出来ていませんでしたし、それであの、あんなモノを購入してまで遠回しな要求を!」 「……」 ふにふにと乳房を揉み上げられながら、英美は沈黙した。 「そんなに不満を抱えていたことに気付かなくて、本当にごめんなさい」 「……………………う、うん」 そして、申し訳なさそうに謝罪するゆたかに、英美は頷き返した。 嘘が相手を幸せにすることもある。正直なだけでは世間は回らないのだ。 「気にしてないよ、大丈夫。こっちこそごめんね、あんな変なもの見せちゃって」 言いながら英美は、ゆたかの腰を抱き寄せた。 ボロが出ないうちに会話を切り上げ、なし崩し的に誤魔化そうという魂胆だった。平穏を守るために、隠しておかなければならない現実もあるのだ。 「そ、そんなことより、ゆたかも、ね」 「あっ」 ゆたかを横にころりと転がして体勢を入れ替える。 潤んだ瞳で見上げてくる可愛い恋人に、英美は覆い被さった。 **柚瀬吉佳チュートリアル ■ ■1.エッチウーマン 賑わうカウンター、押し寄せる生徒達の行列から少し離れたところ。 観葉植物の大きな鉢の端に腰掛け、唯と五十鈴は人を待っていた。 「むー」 まだそれほど待ってはいないが、焦りは強い。こうしている間にも席はどんどん埋まってゆく。 食堂組にとって、昼休み開始直後の一分一秒の価値は平常の三倍なのだ。 「腹が減ったぞーい」 「そうですねー」 五十鈴がぼやく。唯は立ち上がり、混雑の中から先行組を探してみた。 すぐに発見できた別働隊の四人は、丁度空いている席に座るところだった。こちらの不遇も知らず楽しそうな笑顔が並んでいる。 背中を撫でさする五十鈴の手を払いながら自問する。なぜ、なぜチョキを出した。 「おぉお待たせしやしたァ!!」 「んきゃーっ!」 侠気溢れる挨拶と共に背後から自分の胸を鷲掴みにされ、衆目も鑑みず彩水唯は泣き叫んだ。 一見乱暴なようで繊細、露骨に露骨なその手付きに犯人をぴたり特定し、唯が身をよじる。 「やーです! 離してください柚瀬先輩!」 「うんしかしね三好くん、育ち盛りのこの蕾を手ばいでっ?!」 足の甲に踵を落とし、怯んだ隙に手の内から逃げ出す。 抱きしめられて苦しかったのか、唯は妙に赤い顔をしていた。 「遅っそいです先輩。もうみんな先に行っちゃってます」 「ごーめんごめん待たせちゃったかなー! ね! メンゴ!」 片手を謝罪の形にして唯に笑いかけているのが、三年の柚瀬吉佳だ。 八重歯が覗く笑顔は、爽やかと言うより豪快に感じられる。背は高く肉付きのいい体つきをしていて、トレードマークのウルフカットは背中まである金髪だ。 「ややや遅かったですな。謝罪はいりませんが謝ってください!」 元気良く挙手をしながら、五十鈴が得意げにそう要求する。 明城五十鈴は時たまこうして矛盾した日本語を使いたがる悪癖があった。 「メンゴメンゴ」 「おっおぅっ」 手刀で頭をびしびし叩かれ、五十鈴がよろける。 「ほら、遊んでないで早く並ぶよ。唯ちゃん、先行こっか」 「あ、はい」 「待ちたまえよ!」 先行組から五分遅れで、ようやく三人も列に加わった。 ■ ■2.メニューはいつも三種類 「なーに食べよっかなー」 「Aランチ! A!」 「ほう、アタシの唐揚げと勝負するのかい」 じりじりと進む列の中から、三人は掲示されたメニュー表を見上げる。 唯はBランチのムニエルの残数を気にしながら、今日のAランチは人気筆頭ハンバーグであり、唐揚げ定食は出ていないことに気付いて疑問符を浮かべた。 「あれ、先輩。今日は唐揚げないですよ。ハンバーグです」 「なに!? いやいや、あるじゃないか。ほれあれ」 吉佳が指差すのは、固定メニュー側のカウンター、その一角にあるカレーコーナーだった。 カレー。チーズカレー。唐揚げカレー。 消え入るような声でやっぱりカレーなんだ、と呟く唯。 ああ、この人にはもう見えていないのだ。カレーコーナー以外のメニューは何一つ。 「カレー定食があったらねえ」 「カレー定食ですか?」 唯は想像してみる。今日のAランチのハンバーグ部分をカレーに置き換える。 「(……それはただのカレーライスでは)」 味噌汁とサラダ付きの。 「か、考えてみると、吉佳さんとお昼を一緒に食べるのって初めてなんですよね!」 「あれ? そうだっけ?」 「たぶんですけど」 カレー定食の話題をなんとか避けたところで、すぐ隣から奇声が発せられて、二人は言葉を止めた。 「ぬおおーっ」 五十鈴が気の抜ける雄叫びをあげながらぴょこぴょこ跳ねている。 Aランチの残数が気になっているのだろう。何しろAのハンバーグ定食は絶品と名高く、あっという間に売り切れるレア定食なのだ。 「たかいたかーい!」 「ぬおおお!? 高い! 高い!」 その必死な姿を見かねた吉佳が五十鈴の脇に両手を差し込み、体をぐいと高く持ち上げる。 五十鈴は二メーターほどの高みから、人垣の向こうのカウンターの奥にあるハンバーグの残数を覗き見た。 「見えました! 感謝です!」 そう言って吉佳のほうへ顔を向ける五十鈴。しかし、 「…………」 「も、もういいですよ! 下ろしてくださって!」 吉佳は動かない。爽やかな笑顔で五十鈴の体をより高く持ち上げ、言い放つ。 「たかいたかーい!」 そこで、周囲の視線が自分に集まっていることに気付き、五十鈴が慌て始める。 手足をばたばたと動かしてみるが、その手足はどこにも触れない。 「おろしたまえ! おろしたまえ!」 間抜けな光景に、人ごみの中からくすくすという笑いが漏れる。 知った顔がいたのか一層強くもがき始める五十鈴を、吉佳はようやく地上へ下ろした。 「これは虐待ではないかと思いますよ!」 「やーだな、ただのスキンシップじゃん。楽しかった? たかいたかーい」 吉佳がぽんぽんと頭を撫でる。 思わず笑った唯に対しても、五十鈴はびゅーびゅーと抗議の声を張り上げた。 ■ ■3.それは宇宙レベル なんとか空いている席を見つけ、三者三様の挨拶と共に昼食が始まる。 「いただきます」 「いただきまーす」 「いただきません」 「あ、じゃあソレもらうよ。いやーアリガトウ五十鈴くん」 「ああ! やめたまえ!」 お盆を持って騒ぐ二人をよそに、唯はさっさと魚の切り身を口に運んだ。 二人には悪いが、自分はさっさと昼食を済ませてあっちに合流したいのだ。 もくもくと小さな口を動かしながら視線を送るその先には、松島英美の姿がある。 そのテーブルには、英美、ゆたか、夏希、小夜が座っていた。 彼女らは既にほとんど食べ終えてしまっていて、残すはデザートのみといったところだ。 急げば、あちらがダベっているうちにこちらが追い付くのも不可能ではないはず。 「んぐんぐ」 唯があまり噛まずに三口目を嚥下したところで、なぜか吉佳が席を立った。 持ち上げた盆の上にあるカレー皿は、なんと既に空。 「え? ええ?」 「アタシちょっとあっち行ってくるねー」 英美達のいるテーブルを親指で差し示し、吉佳が席を立つ。 「やっぱりもう一杯……いや、ダメだ、ダメ、金が」 ぶつぶつと何事かを呟きながら食器を返し、英美達のところへ歩いてゆく背中を、唯は呆然と見送った。 **おや、ゆたかのようすが…… 放課直前、帰りのSHR中。 ぴんと背を伸ばして担任教師の話す連絡事項に耳を傾けていた三好ゆたかは、ぱたぱたと忙しない足音に反応して廊下へ目を向けた。 出入り口の小窓から一瞬だけ見えたその3つの横顔は、どれもゆたかの知り合いだった。1年の3バ……彩水唯、伊織夏希、春咲遥の3人だ。 姫室小夜か明城五十鈴あたりに用事があるのだろう、足音はゆたかのクラスを通り過ぎ、隣のBクラスのあたりで停止した。 「はい、先生からは以上です」 「きりーつ」 ゆたかが廊下に意識を傾けている間に、AクラスのSHRは終わりを迎えていた。 ガタガタと机を鳴らして生徒たちが立ち上がる。壁を挟んだ隣のクラスからもほぼ同時に机と椅子の動く音が聞こえてくる。 うっかり机に伏して眠っていた数人が寝ぼけ眼で顔を上げたあたりで、日直の号令が掛かる。 「礼」 静かにしていた鬱憤を晴らすかのように、弾ける勢いで生徒たちが動き出す。 いち早く教室を出ようとする者と、他のクラスから雑談のために外から入ろうとする者。出入り口周辺は激しい出入りが引きも切らず、とても外へ出られたものではない。 一度ゆたかは自分の席に座り直して、混雑が収まるのを待つことにした。 「やい小春、終わったわよ!」 「終わったね。今日もお疲れ様ー」 「帰るよ! そんでアタシ、今日は大福が食べたい!」 「うーん、ごめんねしーちゃん。今日は部活に顔を出そうかと思うんだ」 「ぎゃー!?」 他クラスの生徒も加わって、いくつかのグループがさっそく騒ぎ始めている。 ゆたかはかしましいお喋りたちに背を向けて、何も書かれていない黒板をぼんやりと眺めた。 「ゆたかさんゆたかさん」 「はい?」 古河みちるだ。 首だけだったのを体ごと向き直り、ゆたかは話を聞く体勢を整える。それを待ってから、みちるは人差し指を立ててこう提案した。 「もし時間があったら、一緒にBクラスに行ってみませんか?」 廊下を通る3人に、みちるも気が付いていたらしい。 特にこれから用事もないしと、ゆたかはホイホイとみちるに付いてBクラスの教室へ行くことにした。 Bクラスでは、見知った顔が姫室小夜の席の周囲に群がっていた。先ほど廊下にいた唯、夏希、遥の1年3人に、2年Bクラスの姫室小夜と明城五十鈴で合計5人。 引き戸を開けて教室内に踏み入ったところで、彼女たちの話し声が聞こえてくる。 「だぁって、あんなおっきいなんて思わなかったんですもん!」 「んだね、あたしも一番初めのときは大変だったよ」 「口に入れてみると意外と大きいんだよね」 前を歩くみちるの歩きがよれた。昼間のしかも学校で、楽しそうな顔をしてこの人たちはなんの話をしているのか。 怒っているであろうゆたかを宥めようと、みちるが振り向く。 「?」 「……」 向けられた視線に小首を傾げるゆたかは、一見冷静そうに見えた。 が、みちるは誤魔化すように笑って前に向き直った。怒気は隠せていなかった。 「なかなかうまく飲み込めぬのですよね!」 「でも、噛むのはよくないわ。危ないもの」 「気を付けないとですね」 もちろん、内心ゆたかは憤慨していた。 例の薬のことはゆたかも既に知っている。あんな破廉恥でいかがわしい薬を使って得られるものなんて、得られるものなんて―― 「(……、…………はっ!?)」 さっさとあの話を中断しないといけない。 ゆたかは若干赤面しながらつかつかと歩を進め、唯と夏希の後ろで立ち止まった。 みちるは無言で、半歩引いた位置に控える。 「こんにちは」 「はい? あ、先輩。おつかれさまです」 「うわ、っと。どもです」 場にいる5人が口々に挨拶をしてくるのにまとめて「はい、こんにちは」とだけ返しながら、ゆたかは唯たちの自然体っぷりに困惑していた。 今まで自分たちがしてきた話への羞恥心はないのだろうか。 「な何の話をしていたのですか?」 どもった。 気にせず、夏希がさらりと回答をする。 「唯ちゃんがカプセル薬を飲み込めないって話をしてたんですよ」 「え?」 ゆたかは思わず聞き返した。 それをどう思ったのか、当の本人が口を挟んできた。 「飲み込めないことはないですよう」 「代わりに水でお腹いっぱいになったみたいだけどね?」 「むぐぐ」 「かぷ……?」 かぷせるやく。 確認するように口の中で呟く。 「あの、先輩はどうです?」 「……ぁゎ」 恥ずかしいのは自分のほうだった。こんな昼間のうちからそんな自分の想像していたような話なんかするわけがないではないか。常識的に考えて! 皆がカプセルがどうの話している間に自分はなんてなんてなんてことを―― 「先輩?」 「な、なんでしょう、か」 呼び掛けられてゆたかが我に返ると、唯が顔を覗き込んでいた。 なんとか澄ました顔を作って返事をしてはみたが、うまく出来ているかどうかはゆたか自身かなり疑問だ。 「だから、ゆたか先輩はカプセルのお薬がばっと飲める人ですか? って」 「それは勿論。当然です」 なんだそんなことかと、ゆたかはさらりと答えて見せる。 落ち着いてきた。冷静だ。 「じゃあ、みちる先輩は?」 「すみません、右に同じです」 「むー」 不満げな唯を、周囲の声が茶化す。 「ふふ、やっぱり唯ちゃんだけみたいね~」 「しょうがないしょうがない」 「んはは」 「ぷー! 彩水後輩、ぷー!」 「うわあ納得いかないです! 特に最後の人!」 五十鈴に馬鹿にされたのがそんなにショックだったのか、唯はその場にいる人間をざっと見回したあと、夏希に頭から抱きついた。 「ナツさあん、あの変態がいじめるんですよう……」 「よし、おまえが悪い!」 「そうね、悪いわね~」 「これはもう悪いですね」 「よくわかんないけど悪いね!」 「この変態! ちび! メガネ!」 「こんなに責められるほど悪くないと思うのですが!?」 計算ずくの訴えで形勢はあっという間に逆転した。 びゅーびゅー喚く五十鈴を見かねてか、ゆたかが口を開いた。 「さっきから見苦しいですよ彩水さん。子供ですか、全く」 「んなっ」 泣き真似をやめて図々しく五十鈴を罵っていた唯の顔が衝撃に歪む。 どう言い返してやろうか考えて、そこで唯は先ほどゆたかの様子が変だったことを思い出した。思い出して、閃いてしまった。 「そういえばー、さっき先輩なんか様子変じゃありませんでしたかー?」 「そうですか?」 平静を装ってはいるが、顔を作っているのが唯にはバレバレだった。理由は分からないが、明らかに動揺している。 唯の頭の中に早くもファンファーレが流れ出す。 「ほんとにお薬きちんと飲めるんですかあー?」 「なんで飲めない貴方にそんなことを……飲めます、当たり前じゃないですか」 「それじゃあ実演して見せてくださいよう。今、ここで」 「今……?」 そこで唯はくるりと振り返って、夏希の顔を仰ぎ見た。 意地の悪い笑みでしきりにウィンクをして、夏希に何かを訴えかけている。 「ナツさん、あれ1粒貰えませんか?」 「アレって?」 「ほら、ダイエットサプリあったじゃないですか。この前飲んでたやつ」 「この前って……アレは」 「1粒くらいいいじゃないですか。いっぱいあるんですから。ダイエットサプリ」 「わっ、とと、おいおい」 唯は勝手に夏希のカバンに手を突っ込み、赤と黒のカラーリングのカプセルの詰まった小瓶を取り出してしまった。 「さあ三好先輩。飲んでみてくださいよお。それともまさかやっぱり?」 「……」 暫しの沈黙の後、ゆたかはやれやれといった調子で頷いた。 「言い掛かりもいいところですが、よいでしょう。たかが薬ひとつです」 「あ、水はお持ちですか?」 「都合よく。すみませんがひとつ頂きますね、夏希さん」 「あー、えー、あー、はい、どうぞ」 夏希は投げやりに頷いた。もうどうにでもなーれ。 「ではいざ。んむ」 唯はゆたかのことを本当に『実はうまく薬を飲めるなんて嘘なのではないか?』などと疑っているわけではない。ただ意識を逸らせればよかった。 ダイエットサプリなどでは断じてない、その薬の効用から。 「……飲みましたよ。納得いきましたか?」 唯が隠れて取っていたガッツポーズは、ゆたかの位置からは見えなかった。 「えーはい、了解です。疑ってしまってすいませんでしたどうも」 「はい? ま、まあ分かって頂ければ私としては別にええ」 あっさり身を引いた唯に拍子抜けしてか、ゆたかの言葉もどこか上滑りだ。 「サプリですか」 「サプリねえ~」 物言いたげに自分を見る小夜とみちるの視線を意識しないようにしながら、聞いてもないのに夏希は言い訳がましくサプリの解説を始めた。 「ええはい、どっかの薬屋で衝動買いしちゃったやつでして」 実際は買ってなどいない。 「効果はあったんですか?」 「ええまあ、ある程度は」 体の一部が目に見えて変わる。 「飲むだけでいいんですか?」 「それでもいいけど、適度な運動をすると効果が高まる、らしいよ」 そ知らぬ顔で訊ねてくる唯に、これが厚顔かと夏希はやや引きつった笑みで答えてやる。 「(運動……)」 運動と聞いて、ゆたかは近くにいた遥の顔を見た。 「?」 「(……いやいや)」 やはり思いつく顔はひとつだけだ。 「そろそろ私は失礼します」 「そうですか? それじゃあ」 「お疲れ様でした」 「また明日」 「ういすー」 運動について軽く訊ねるだけ。あるいは一緒に少しくらいジョギングとか―― そんなことを目論みながら、三好ゆたかは教室を去った。向かう先はグラウンド、部活をしてる彼女の元へ。 その後。 「唯! 唯ちゃん! どうすんのアレ!」 「だーいじょぶですようナツさん。家に帰る頃に効果が出て、朝起きたらなくなってる感じですよ。ね」 「まあうんそりゃあそうなんだけど、明らかにうちらの仕業だってバレるよね」 「怒られるのは誰なのかしら~」 「……ナツさん?」 「よくわかってるね? 唯ちゃんのせいなのにね? なんであたしなんだろうね?」 「わたしそろそろかえらなきゃいけないんですそれじゃあさよn」 「待てコラ。さて唯ちゃん、きみに個人的な制裁を加える。手伝えハル」 「あいわかった!」 「に゛ゃーっ!」
https://w.atwiki.jp/zakki_etc/pages/46.html
私見による評価 どちらかといえば、本業の片手間でやってる雰囲気はあるけど… 少なくとも、艦これの運営は度重なる通信エラーや、Twitterでの誤字等がありながらも『ユーザーから愛される運営』として有名(運営「通信エラーが頻発してます、ごめんなさい」ユーザー「頑張れ運営!」といった具合)。 が、基本的には「いろいろとやらかす運営」なので、提供してるゲーム(特に18禁コンテンツのもの)はやらないことを推奨。 ここを編集
https://w.atwiki.jp/83452/pages/15345.html
【と、彼女は言った】 律「えー、それではー、澪の大学卒業を祝して!!」 「「「「「かんぱーい!!」」」」」 澪「いやぁ、悪いな、なんか」テレテレ 唯「照れてる場合じゃないよー、澪ちゃん!」 律「そうだぞ、無職の澪さん」 澪「うるさい。夢追い人になるって決めたんだ」 紬「澪ちゃんカッコイイ! イマドキの若者って感じね!」 梓「それ絶対褒めてませんよね」 憂「あはは……」 ――あれから色々なことがあった。 とりあえず、澪と梓は寮を抜け、図々しくも私達の住居に押しかけてきた。さすがに部屋数が足りるか怪しかったので、澪は私と同室に、梓はムギと同室になった。 そしてそれを期に放課後ティータイムは再始動。それ自体は何より喜ぶべきことなのだが、そこで唯一問題になったのは、憂ちゃんが澪に遠慮して抜けたがったこと。 もっとも、憂ちゃん以外の全員が引き止めようとしたためにそれは叶わなかったが、憂ちゃんもなかなかに意地っ張りで、とりあえずはサポートメンバー扱いにしておいた。 まぁライブには毎回出て貰ってるんだけどな! 唯と並ぶと絵になるし。 そしてメンバー唯一の大学四年生だった澪は就職活動をしなかった。 もっとも、再始動した放課後ティータイムの勢いが絶好調すぎてデビュー間違いなしと囁かれているから誰も気に留めはしなかったのだが。 だが、澪は澪で「全員が卒業するまで待つ」と言って聞かない。どいつもこいつもワガママだ。 まぁ、今はとりあえずそれに乗っておく形になっている。澪が待ちきれなくなったなら、いつでも大学なんて辞めてやるんだけど。 あとの皆は順当に進級して、それくらいかな。忙しかったけれど、そこまで大きな変化というのは無かったかもしれない。 メンバー全員が同じ所に住んでるのをいいことに、何かにつけてこうして家で酒盛りをするくらいか。 そう、特に大きな変化は何も無く。 澪「…おい律」ボソッ 律「…なんだ、澪」グビ スクリュードライバーを飲みながら澪と囁き合う。 澪「お前、唯と進展はないのか」 律「」ブー 梓「律先輩きたなっ!?」 律「お前は急に何をのたまうんだ!?」 澪「お前も早く卒業しろってことだよ」ポンポン 律「何をだよ!?」 唯「うへぇ…びちょびちょ」 憂「お姉ちゃん大丈夫? はいタオル」 唯「ありがとー…」 律「……スマン、唯。タオル貸せ、拭いてやる」 唯「いいよー、それくらい自分でできるって」 律「私のせいなんだから。ほら」 唯「んむー……あ、ちょっと待って」 タオルを奪い取って拭こうとした私を唯が制する。 何をするかと思えば…… 唯「ぺろ……あ、なかなか美味しい?」 律「ひ、人が吹き出したやつを舐めるな汚い!」 唯「むー、じゃあそれ一口ちょーだい?」 律「い、いいけど、もっと気にすることあるだろ!」 唯「ほえ?」 ダメだ、こいつにはきっと何かが欠けている。 私が気にしすぎってわけではないはず、決して。 澪「間接キッス! 間接キッス! ヘーイ」ヘーイ 紬「へーい」ヘーイ 律「ガキ臭い煽りだなおい」 唯「………」 律「…ん? どうした、飲まないのか?」 唯「ん…やっぱいいや///」 律「なんだ、もう酔いが回ったのか? 相変わらず弱いなー唯は」 唯「あはは……///」 梓「ちくしょうちくしょうちくしょう」 澪「どーすんだよあの鈍感夫婦」 紬「タイミングよくすれ違ってるわねぇ」 憂「がんばって、お姉ちゃん!」 澪「…でも逆に考えれば、私達にもチャンスはあるってことか?」 紬「まぁ、奇跡でも起きればあるかも?」 梓「…やめときましょうよ。悔しいですけど、このままが一番丸く収まる気がします」 澪「……そうかもな。あー、飲むぞムギ!」 紬「今日はマッコリとどぶろくを混ぜてみようと思うの!」 梓「うい~……仲良くしようよぉ…」 憂「あはは……よしよし」ナデナデ 唯「……いつの間にか向こうが出来上がってる」 律「ははっ、私と唯が除け者にされてるのはなんか変な感じだけど……楽しいな、こういうのも」 唯「……うん、そうだね」 楽しいと胸を張って言える毎日。これが、私達の日常。 いろいろあったけれど、そしてきっとこれからもいろいろあるけど、それでも変わらない日常。 変えちゃいけない日常。 ……もう、あんな思いはしなくないから。だから私は、私達は、この日常を壊さないために、頑張れる。 全部、唯のおかげ。 私達を一つにしてくれて、私達の心も一つにしてくれた。 本当に、いくら感謝しても足りないけれど。 律「……ありがとな、唯」 唯「ん? 何が?」 律「全部だよ、全部」 唯「そっか」 もう何度目かわからない「ありがとう」だけど、唯は私のありがとうに「どういたしまして」と返したことは無い。 何故だろうと、疑問に思ったこともないわけではないけれど。 唯「……りっちゃん、ありがとね」 律「何が?」 唯「全部だよ、全部」 律「……そっか」 もう何度目かわからない、このやり取り。 「どういたしまして」では出来ない、お互いの感謝を示すやり取り。結局は、これが心地いいからなんだと思う。 もし、ありがとうの言葉に上位互換があったら。大ありがとうとか、超ありがとうとか、そういうのが正式な日常用語として存在したら、言い合いになっていたんじゃないかな。 でもそれだとキリがないから、やっぱり「ありがとう」の言葉を往復させるだけで充分だと思う。 「ありがとう」がいつも往復できる、それが私と唯の距離。 そして、私は今のこの距離に心地良さを感じている。 ……まぁ、もし何かあったら、もっと近くなるかもしれないけどさ。 でもそれは、慌ててまですることじゃないと思う。 律「……な、唯」 唯「なにが?」 律「…いつまでも一緒だよな、って話」 唯「……うん!」 ――そう言って笑う唯の笑顔は眩しくて。 その笑顔に、言葉を一つ、捧げるなら――― 今度こそおしまい 戻る
https://w.atwiki.jp/zakki_etc/pages/1.html
@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ @wiki更新情報 @wikiへのお問合せフォーム 等をご活用ください @wiki助け合いコミュニティの掲示板スレッド一覧 #atfb_bbs_list その他お勧めサービスについて 大容量1G、PHP/CGI、MySQL、FTPが使える無料ホームページは@PAGES 無料ブログ作成は@WORDをご利用ください 2ch型の無料掲示板は@chsをご利用ください フォーラム型の無料掲示板は@bbをご利用ください お絵かき掲示板は@paintをご利用ください その他の無料掲示板は@bbsをご利用ください 無料ソーシャルプロフィールサービス @flabo(アットフラボ) おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧 まとめサイト作成支援ツール バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、お問合せフォームからご連絡ください。
https://w.atwiki.jp/erogekisei/pages/12.html
半分ネタで半分本気です。 333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 02 10 11.94 ID GG6PX2TvO いっそのことイギリス人陵辱ゲー作って宣戦布告したらいいのに 731 名前:名無したちの午後[sage] 投稿日:2009/05/29(金) 02 06 03 ID KkO0scIC0 エロゲ業界は政治献金しろって話はそんなに非現実的か? こんな叩かれやすい業界は政治家に守ってもらうのが一番だと思うんだけどな 金か人数か、どっちか揃えないと今の状況覆らないと思うけどな 政治を動かすのは金と票だろ 751 名前:名無したちの午後[sage] 投稿日:2009/05/29(金) 02 09 01 ID ltPEZ5bUP 今のソフ倫の理事メンバーじゃ、政治家へのパイプすら作れないよ。 396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 02 25 56.22 ID KvZvP4ZcO 今回の件はTBSに抗議した方がいいのかな? 400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 02 26 31.84 ID MY3Hxgq40 抗議つか、ソフ倫に言えばいいんじゃないの 418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 02 30 04.21 ID TXb14rg3O 400 今のところはそれが一番いい気がする さっきから貼られてる自称関係者の話によると六月二日に話し合いが行われるらしいからそれまでに意見を送ればいくらか加味されるかもしれない 893 名前:名無したちの午後[sage] 投稿日:2009/05/29(金) 02 38 59 ID nIgDPJ7V0 凌辱モノはDVD-PGで出そうぜ 490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 02 40 44.01 ID GG6PX2TvO 陵辱っぽいシーンになったら画面の端っこに ※これは合意の上で行われています ってテロップ出しとけば解決じゃね? 274 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/05/29(金) 00 07 19 ID qGKFVKSJ0注:このゲームの全ての性的描写は合意の元に行われています。 嫌がっているような台詞は、全て演技ですと書いておけば問題なし ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄)/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∧_∧ (`・ω・´) ∧_∧ / \ ( )それだ!.__| | .| |_ / ヽ||\  ̄ ̄ ̄ ̄ / .| | |||\..∧_∧ (⌒\|__./ ./||. ( ) ~\_____ノ| ∧_∧ / ヽ すげえ! \| ( ) 天才だろ! | ヽ \/ ヽ | |ヽ、二⌒) / .| | | .| ヽ \∧_∧
https://w.atwiki.jp/yonta3/
いろんなものをまとめるところ tokio さて、どうしようか?