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「オレは、姫のしあわせを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」 ラプソーンを倒し、皆がそれぞれの生活に戻ってから三カ月が経った。 明日は、ミーティア姫と、あのチャゴス王子との結婚式。 ククールは、さっきからエイトに結婚式をぶち壊すようにけしかけている。 でもエイトは首を縦には振らない。ミーティア姫のことだけじゃなく、自分を今まで育ててくれたトロデ王や、トロデーンの人達のことを思ってしまって動けないでいる。エイトはそういう人。 「・・・わかった。お前がどうしても動かないっていうなら、オレがやる。明日、姫様を大聖堂からさらって逃げる」 ククールのその言葉に、私は心臓が止まるかと思った。 「よく考えたら、近衛隊長なんて肩書背負っちまったお前と違って、オレは騎士団を抜けた身軽な体だしな。最初からオレがやるべきだった。じゃあ、そういうことで。無理言って悪かったな」 そう言ってククールは宿屋を出ていってしまう。 唖然としているエイトとヤンガスを残して、私は彼の後を追う。 さっきの言葉を、本気で言っているのかどうか確かめたかった。 ククールはすぐに見つかった。彼はとても目立つから。階段の途中に立って大聖堂を見上げていた。 「ゼシカ? お前、女の子がこんな時間に一人で出歩くなよ。・・・って、何かこういうセリフ、もうそろそろ言い飽きたな」 私の気配に気づいたククールは振り返って、呆れたように言う。 その響きがカンに障った私は、つい声を荒げてしまう。 「だったら、言わなきゃいいじゃない! そうやって保護者ヅラしないでよ。私、ククールのこと兄さんみたいだなんて思ったこと、一度もないんだからね!」 ククールは私の顔をしばらくジッと見つめてて、それからちょっと寂しげに笑った。 「そうだな。ゼシカの兄貴はサーベルト一人で充分だよな。前に言ったあの言葉、取り消すよ。変なこと言って悪かった」 ・・・違う。違わないけど、違うの。こんな言い方したいんじゃない。だけど、訂正するよりも先に、訊きたいことがある。 「さっきの話、本気で言ってたの?」 今の私には、他のことを考える余裕はない。 「ククールは、ミーティア姫のこと、どう思ってるの?」 「そりゃあ、姫様は美人で可愛くて、健気だからな。幸せになってほしいと思ってるよ。あんなチャゴスなんかにくれてやるのは、もったいなさすぎる」 「愛してる、わけじゃないの?」 「そう訊かれると、違うっていうしかないな」 ククールはあっさりと言い放つ。 「そんな軽い気持ちでよくあんなこと言えたわね。もし捕まったら、きっと死罪よ。あんた一人の問題じゃなくて、いろんな人に迷惑がかかるのよ。同情でそうするんだったら、無責任すぎるわよ」 「同情で何が悪い?」 刺すようなククールの言葉の響きに、私は何も言えなくなった。 「同情でも何でも、助けが必要な時は誰にだってあると思うぜ」 それはわかるわ。でも私が言いたいのはそんなことじゃない。 「それに、捕まるようなヘマはしないさ。ゼシカも知ってるだろうけど、花嫁っていうのは父親にエスコートされて、外から入場する。その時に乱入してルーラを使えばいい。 行き先は、そうだな。レティシアあたりがいいか。普通の奴らは追ってこられないし、あそこの服装はオレ好みでもあるしな」 ・・・確かに、そのやり方ならうまくいきそうだわ。 わかってる、ククールは勝てない勝負は決してしない人。成功するとわかってるから、あんなこと言い出したんだって。 「あとは、あの時のパーティーメンバーが見逃してくれれば、それでOKだ。それともゼシカ、オレたちをチャゴスの奴に売ってみるか?」 私は一瞬で頭に血が昇った。 「バカにしないで!」 ククールを殴ろうとするが、あっさりとかわされてしまう。 「危ねえな、こんなところで暴れるなよ。悪かった、冗談だって。そういうことする奴は一人もいないって信じてるよ。そうでなきゃ、こんなにペラペラ喋るかよ」 冗談だっていうのは、もちろんわかってる。でも私にとっては冗談じゃすまない。私、ミーティア姫に嫉妬してる。旅をしている間、私だけに差し出されていた手が、今度はミーティア姫に伸ばされる。 私と同じだけククールと旅をして、彼が本当に優しい人だってこと、ミーティア姫はきっとちゃんとわかってる。始めはエイトのことを想っていても、いつかはククールの事を愛するようになるかもしれない。そして、ククールはそんなミーティア姫を決して裏切ったりしない。 私は自信がない。そうなった時に、ククールが言ったように、醜い感情にかられてチャゴス王子に二人を売らないなんて言い切れない! 好きなのよ。私はククールを愛してるのに! 私はバカだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。 会えなくなって初めて自分の気持ちに気が付いて、何度もククールに会いに行こうと思った。でもククールが私を守ってくれていたのは、世話の焼ける妹を見るような気持ちだったんだって知らされて、どうしても訪ねてなんていけなかった。 だけど、こうしてミーティア姫の護衛の同行を頼まれて、また会えるんだと思ったら、その前にこの気持ちに決着をつけたいと思った。妹じゃイヤだって。ククールのこと、お兄さんだなんて思えない。男の人として好きなのって、そう伝えたかった。 だから覚悟を決めてドニの町まで会いに行ったのに、その時ククールは出かけていて会えなくて。しかも、それを教えてくれたのが、ククールと今お付き合いしてるっていう踊り子さんで、ククールは今、その人の部屋で寝泊まりしてるってことまで教えてくれた。 確かにショックだったけど、私にそれを、どうこう言う権利はないのはわかってる。 だけど、それならどうして女の人をもう一人連れてきたりするの? それって二人ともに対して失礼じゃないの? ・・・でもそういうククールを最低だと思うのに、どうしても嫌いになれない。やっぱり好き。自分でもバカだと思うけど、どうにもならない。 花嫁強奪。それも一国の王女を一国の王子から奪うなんて危ないこと、してほしくない。 今よりも遠くには行かないでほしい。 でも言えない、どうしても。私は意気地無しだ。拒絶されて傷つくのが怖いのよ。 そして運命の夜が明けた。 ククールとヤンガスが起き上がって出て行くのがわかったけど、私はそのまま寝たふりをしていた。何となく、ククールと顔を合わせたくなかったから。 エイトは、まだ目を覚ます気配はない。一晩中ベッドに腰掛けて考えこんでたみたいだから無理ないけど。 でも私なんて横になってても眠れなくて、そのまま朝になっちゃったっていうのに、こうやって最終的に寝てるエイトも、やっぱりよくわかんない。 旅の間は、どこでも、どんな状況でも熟睡してる姿を頼もしいと思うこともあったけど、呑気者なだけなのかも。 そもそも、エイトが自分でミーティア姫をさらってくれれば、ククールが代わりにやろうなんて言い出さなくて済んだのに。その辺り、わかってるのかしら。 ・・・ごめんね、エイト。今のは八つ当たり。相手は仕えてるお城のお姫様だもんね。そんなこと簡単にできるはずないよね。 『好き』って一言さえ言えない私に、そんなこと思う資格なかったわ。 そろそろ結婚式が始まってしまう。エイトはまだ眠ってるけど、私もとりあえず宿屋を出た。 大階段の下で、ククールとヤンガスが何か相談してるらしき雰囲気。本当にミーティア姫をさらって逃げるつもりなのかしら。 そう思って見ていたら、いきなりヤンガスがククールの向こう脛を蹴飛ばした。遠目に見ても、すごく痛そう。 「一応これで勘弁してやる。今度はちゃんとやれよ」 私が近づくと、珍しくヤンガスが真面目な口調でククールに言っているのが聞こえた。 「じゃあ、アッシはエイトの兄貴を呼んでくるでげす。あ、ゼシカの姉ちゃん、おはようでがす」 ヤンガスは普通に私に朝の挨拶をして、宿屋へと歩いていった。 「何やってたの?」 私が訊いてもククールは何事もなかったような顔をする。痛む足はおさえてるくせにね。 「いや、別に何も」 そうやって、私はいつも仲間外れ。何よ、いいわよ、もう。 ・・・ククールを止めるなら今が最後のチャンスなのよね。でも何て言えばいいの? 私は散々助けてもらっておいて、ミーティア姫を助けるのはやめてって? 言えるわけないじゃない、そんなこと。 エイトが起き出してきた。もう結婚式は始まってしまっている。 「あんだけ人が多けりゃよ、どさくさにまぎれて、何かやらかしても大丈夫なんじゃねーかな」 ククールはあっさりと言う。人が多いとか少ないとか、そういう問題じゃないと思うわ。 「ミーティア姫様もガンコよね。いくら先代の約束でも、イヤなら、やめればいいのに・・・」 ・・・イヤだ、こんな自分勝手なこと言うの。だけど思っちゃうのよ、どうしても。こんな結婚無かったことにしてくれれば、ククールだって無茶なことしなくて済むのにって。 「一国の姫君ともなると、そういうわけにも、いかないのかな?」 フォローの言葉のつもりで付け足したけど、だからって私の醜い感情が消えてくれるわけじゃない。 「あとオレたちは仲間だ。お前が何かするつもりなら、ちからを貸すぜ」 ククールの言葉に、それまでうつむき加減だったエイトが顔を上げた。その目には輝きが戻っている。 「ほら、行ってこい。姫様が待ってるぜ」 ククールに背を押され、エイトは弾かれたように階段を駆け上がっていった。 「はあ~っ、やっと行ったか。全く世話の焼けるヤツだぜ」 エイトの背中を見送るククールの目は、とっても優しかった。でも何だか、もう自分の役目は全部終わったって感じ。 「・・・ククールは、行かないの?」 「何で、オレが?」 「何でって、昨夜言ってたじゃない。ミーティア姫をさらって逃げるって」 「その時ちゃんと言ったろ? エイトが動かないならオレがやるって。あいつが自分でやるなら、オレの出る幕じゃないさ」 ・・・何よ、それ。要するにエイトにハッパかけただけってこと? 「ま、エイトが最後まで渋るようなら、姫様をさらった後にエイトのヤツもぶん殴って、レティシアに強制連行するつもりだったけどな」 ・・・やりかねないわ、この人なら。でもこんなこと言ったって、多分ククールは信じてたと思う。エイトが自分の意志でミーティア姫を迎えに行くこと。 だけどどっちにしても、エイトとミーティア姫を結び付けるつもりだったってことで、自分が姫と暮らすつもりは無かったってことよね。私一人でヤキモキしてバカみたい。 「でも退路は確保してやらないとな。大聖堂の警護の騎士団員は腕の立つヤツが揃ってそうだしな」 そうね。私、自分のことばかりで、エイトのこともミーティア姫のこともちゃんと心配してあげられなかった。そのお詫びをしなくちゃ。 それに、煉獄島に押し込められたお返しをするチャンスでもあるんだわ。 「ゼシカ、手加減て言葉知ってるよな?」 またククールが見透かしたようなことを言ってきた。 「失礼ね、当たり前でしょ」 ・・・ベギラマくらいはいいかなって思ってたけど、メラで勘弁してあげるわ。 エイトが大聖堂に乗り込むより先に、ミーティア姫とトロデ王は式場から逃げ出していた。 一国の主としては間違った行動かもしれないけど何だか嬉しい。土壇場で自分の気持ちに正直になってくれたミーティア姫も、王であることよりも娘の幸せを願う父親であってくれたトロデ王も。 騎士団員たちを蹴散らした私たちは、エイトたちが乗っている馬車が見えなくなるまで、その姿を見送った。 また私たちは解散して、それぞれの生活に戻る。そして・・・。 そして? それでいいの? エイトたちは国同士の結婚をぶち壊してまで、自分たちの想いを貫いたのよ? 私には失うものなんて何もないのに、何をためらってるの? 「ククール~! 見てたわよ、すごくカッコ良かったー!」 私がやっとの思いで絞り出そうとした声は、バニーさんの声であっさり遮られた。 「エイトさんに会わせてくれてありがと。でもお姫様と駆け落ちしちゃうんだもの、つまんない。ねえ、そっちの丸くてワイルドなお兄さん。あたしのヤケ酒に付き合ってくれない? 一人で飲むのは寂しいの。でも飲むだけよ、パフパフとかはナシよ」 「アッシの場合はヤケ酒じゃなくて祝い酒でがすが、それで良ければ付き合うでがす」 意外なほとアッサリとお誘いを受けたヤンガスは、ククールを上目使いで睨んで言った。 「さっきの話、覚えてるな? これ以上ゴチャゴチャしてると・・・」 「わかってるって。今度は大丈夫だ、ちゃんと言う。もう蹴られるのはゴメンだしな」 何? 言わないと蹴られる言葉? ヤンガスは今度は私の方を向く。 「いいでがすか、ゼシカの姉ちゃん。ククールに泣かされるようなことがあったら、すぐにアッシに言ってくるでげすよ」 「うるせえよ、いいからサッサと行け」 ククールが追い払うような仕草を見せる。私は全然ついていけない。 「じゃあね~、ククール~」 ヤンガスとバニーさんは、キメラのつばさを使ってどこかへ飛んでいってしまった。 「ほんとにそのお嬢様、強いんだ」 今度は踊り子さんが声をかけてきた。 ・・・この二人は今、一緒に暮らしてるのよね。ってことは、この場のお邪魔虫は私ってことで、私がどこかに消えた方がいいのよね。 「いいよ。もうこれで許してあげる。お嬢様、ククールのことよろしくね。ククール、このコのことまで泣かせたら、承知しないんだから」 ・・・えっ? ククールが申し訳なさそうにうなだれる。 「ああ、わかってる。本当に・・・」 「ゴメンなんて言ったら、別れてやらないよ」 「・・・ありがとう」 「そう、それでいいの。じゃあね、二人とも、お幸せに」 そう言って踊り子さんも、キメラのつばさでとんでいってしまう。 「とりあえず、オレたちも移動しよう。騎士団員たちが追ってきたら面倒だ」 そしてククールはルーラの呪文を唱えた。 着いたのはリーザス村の入り口。私の頭は本当に置いてけぼりで、何がおこってるのか考えが追いつかない。 「ゼシカ・・・」 ククールの手が、私の前髪を掻き上げる。そこまでは三カ月前の別れの時と同じ。 でも、今ククールの唇が重なっているのは額じゃなくて、私の唇。 「・・・愛してる」 今、何がおきてるの? 「今までごめん。オレは本当に意気地無しで、ゼシカに悲しい思いさせてきた。でももう逃げない、約束する。ようやく勇気が持てた、自分の気持ちに嘘はつかない。許してくれるのなら、ゼシカとずっと一緒に生きていきたい」 ククールの目はとても真剣で・・・でも、私はすぐには信じられない。 「だって・・・じゃあ、なんで女のひと二人も連れてきたりするの? それでそんなこと言われたって、信じられないわよ」 ククールはちょっと目を泳がせて、それからようやく聞き取れるような声でボソリと呟いた。 「断れなかったんだ・・・」 ・・・何だか、急に納得いってしまった。 「・・・そうよね。ククールって、意外と押しに弱くて、頼まれたらイヤって言えないところあるわよね」 エイトの寄り道も、文句言いながら全部付き合わされてたものね。 「ん、まあ、そうなんだけど・・・。ほんとゴメン。なんていうか、こんな情けないヤツで。多分この先、いろいろガッカリさせることあると思うけど、出来るだけ直すようにするから」 「・・・知ってるわ。他の人の為だと大胆だけど、自分のことになると結構臆病なところあるのよね」 でもそれは誰でも同じ。私だってそうだったもの。 「嘘つきなのも、見えっ張りなのも、意地悪なのも、単純なところあるのも、お調子者だったりするのも、全部知ってるわ」 それをうまく隠せてると思ってるあたりが、またマヌケなのよ。 「クールぶってるのがカッコいいって勘違いしてるところや、見た目は大人っぽいけど中身は子供なところも、全部知ってるわよ。今さら何を見たってガッカリなんてするわけないじゃない」 ククールはガックリと肩を落としてしまった。 「前からそうじゃないかと思ってたけど、ゼシカ、男の趣味悪いんじゃないか? どこがいいんだよ、こんなヤツ」 もうダメ、なんてカワイイ人なの! 好きになる以外、どうしようもないじゃないの。 「そういうとこ、全部よ!」 いろいろ言いたいこともあるけど、今はいいわ、全部許せちゃう。 我慢できなくて、ククールに抱き着いた。ククールもちゃんと抱き返してくれる。 「信じられないかもしれないけど、ほんとにずっとゼシカだけ見てた」 「知ってたわ・・・ずっと」 そうよ、気づいてなかってけど知っていた。ククールがどんなに私を優しく見ていてくれたか。だから私は自分の信じた道を進むことが出来た。 「愛してる」 声と身体の振動で二重に伝わる言葉。今度こそ本当に信じられる。 「私も、愛してる」 ようやく素直に伝えられた言葉。幸せすぎて怖いくらい。 また仲間たちは解散して、それぞれの暮らしに戻って、そして・・・。 そしてその後はこう続くのよ。 二人はいつまでも、仲良く幸せに暮らしましたって! <終> そして-前編
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「い、いやっ、ククールやだ、やだや…、ちょっ…」「ヤダってゼシカ嘘つくなよ…もう限界だろ…」「おねがい…ッ おねがいだから、だめ、まって…ッ、いれないで、まっ…」「んなの…、無理だって…ッ!!」「いや、やだ、あ、あ、あ、…………~~~ッッッ!!!!!!」ゼシカの声にならない叫びが尾を引いた。夜も更けた宿の調理場を借りて、まだ眠くないからと2人でココアを飲みながら話し込んでいた。決してそんなつもりはなかったのに、成り行きでいつのまにかこんなことになってしまった。はじめて結ばれてから、まだ数えるほど。慣れないどころかこのテの知識が徹底的に皆無だったゼシカにとって、一回一回のセックスでなされる全ての行為がはじめてで、あまりにも衝撃的なことばかり。その一つ一つを丁寧に、優しく、そしてそれはもう楽しんで教え込んでいるククールは、「恥ずかしくて、信じられなくて、でも、したくないわけじゃない」はじめての性に翻弄されまくっているゼシカにもうメロメロであった。メロメロゆえに抑えが効かない。挿れないでと言われれば挿れてしまう、若い下半身。あんな愛撫も、こんなプレイも、まだまだ一向に慣れそうにない幼い精神とエロい身体。そんな現状でこの夜2人は、調理場の机にうつ伏せての、後ろからのセックスにふけっていた。なるべく気を付けたが、若干汚してしまった調理場を何事もなかったように片してから、ククールはゼシカを抱き上げて部屋に帰った。そういえばお互いの部屋以外でしたのは初めてだ。こんなイケナイことしてる自分たちを誰かに見られたらどうする?誰か来るかもしれない、誰か聞いてるかもしれない…そんな風に責めれば責めるほど、やっぱりゼシカの身体は敏感に反応した。うんうんいい調子だ…ククールが悦に入りながら一人コクコクと頷いていると、ベッドに降ろしたゼシカがハァッ…と、明らかに震えながら深い息を吐きだしたので、ククールは驚いて自分もベッドに腰掛けうつむいた顔をのぞきこんだ。「どうした?寒いか?」ゼシカは腕を交差するようにして自身を抱きしめながら小さく首を横に振る。「震えてる。……さっきのか?痛かった?もしかして」髪やひたいに何度も優しく口付けながら尋ねると、ゼシカが再び否定するように首を振る。「ちが、う…。…ごめんなさい、大丈夫…」「嘘つくなよ。どうした?言って」どう見てもいつもの行為のあととは違う。慣れない快楽に翻弄されて茫然自失になっても、こんな…どちらかと言えば怯えているような反応を見せたことなんてなかった。怯えている?何に?オレに?「ごめん…怖かった?あんなとこでするの、もうイヤ?」大切に大切にゼシカの小さな体を抱きよせて腕の中におさめると、ゼシカもそっと身体をあずけてくる。しばらくそのままでお互いの体温を交換していた。ゼシカが落ち着くのを、じっと待つ。やがてゼシカがククールの胸の中で、くぐもった声で呟いた。 「―――こわかった…の」「うん…なにが?」「…わたし、やだって…言ったのに…」そう言われて、ククールは記憶をたどる。実際あの極限の興奮状態のさなか、覚えていないことも色々ある。やだって、…あれか。 「挿れないで、って?」途端、カアッ!!と一気にゼシカが全身を朱に染めた。ククールはククールで、まさにその時のことを思い出し、イヤらしい笑みが押さえられない。「だってお前、仕方ねぇじゃん。あそこまでやっといて挿れるのはナシなんて、絶対無理…」「ちがうっ!!そうじゃなくて…」「多分気付かれてねぇから大丈夫だよ、宿主じいさんばあさんだったから」「ちがうったら!あ…っ。……………それもだけど、でも、そうじゃなくて」ゼシカはククールの腕の中から抜け出し、背中を向けてぺたりと座りこんでしまう。「…こわかったのよ…」「だから何がだよ。言ってくんないとヤダって言ってもまたやっちゃうぞ」わざと意地悪な響きでそう言って先を促すが、それでもゼシカはしばらく黙ったままだった。告げるのに相当の勇気を要するようだ。ククールはぼんやりとそれを待ちながら、彼女の少し乱れたツインテールとうなじ、薄いシルクの寝着にうつる無防備な艶めかしい身体のラインを眺めやって、あーもっかいヤりてーなぁ などと考えていた。「………………ククが、したい…なら、私も、する…けど」しぼりだされるような小さな声。「ホントは…いや… ………。 ……………………。 …………………………………………ぅ」「え?」「…………………………………………ぅしろからは…」一瞬 呆然としたのち、ククールは あぁ、と納得する。自室以外は初めてだったが、そういえばバックでしたのも初めてだった。しかもベッドの上じゃなく机で立った状態で…という、いささかアクロバティックな。「ゼシカはバックいや?」「ばっく…」「あぁ、後ろからするの」「い、イヤっていうか…」耳まで真っ赤にさせて、ゼシカは一生懸命答える。「……ククールの顔が、見えないのが…不安で…。なんにも掴めないし、なんだかもう… どこかに放り出されちゃいそうな気がして…怖かったの…」普段、ゼシカは快感に耐えきれなくなると、精一杯の力をこめてククールの背に腕を回す。完全に余裕がなくなると、知らずに爪を立て、ククールの背に何度か傷をつけたこともある。大きな声が抑えきれそうにない時は、最初にククールがそうしていいと言ったように、彼の肩を噛んで必死に耐えた。でも、今日みたいな態勢では、そのどれもができなかったのだ。わななく指先は必死に机の端を掴んで、でもその頼りなさは、襲い来る感覚を何も軽減してはくれなかった。耳に直接吹き込まれるのは荒い息遣いだけで、今自分にこんなことをしているのが誰なのか、何度もわからなくなった。そして、声も…。 ククールはハッとして唐突に気づき、慌ててゼシカの腕を手に取った。そこにはやっぱり傷が。もしかしなくてもゼシカが自分でつけた噛み痕が、わずかに血をにじませている。「うわ…っ、ごめんゼシカ、マジごめん。気付かなかった…」「だ、大丈夫よこれは。それより私こそごめんね、私、いつもククールにこんな」「背中のひっかき傷と噛み跡は、男の勲章。それよかお前にこんな痕残させるとかありえねぇ」口づけて、舌を這わせながら、ククールは呪文を唱えてその傷を消し去る。「…そうだな…。こんなことになるなら、もうバックはしないでおくよ」「あっ、でも、でもね、いいの、私、ククールがしたいなら、私、別に…」「我慢するなって言ってるだろ。あれは成り行きで後ろからになっただけで、別にどうしても そうしたいわけじゃねぇよ。オレだってゼシカの可愛い顔見ながらしたいし」「…うん…」手を差し伸ばしてもう一度抱き合う。「怖かったか…ごめんな」改めて謝る。順調に教え込んできたつもりだったが、本当にまだ慣れてないんだな、と思う。身体ばかり成熟していて快楽に貪欲なのに、心はまだまだ付いていけず混乱しているのだろう。かわいそうに悪いことをした、と思う反面、その二面性のなんと魅力的なことか。「でもさ、ゼシカ…ちゃんとイったよな?」怖かったのならイケなかったのでは、と思いついて、いや確かにイっていた、と思いおこす。腕の中でゼシカは顔をあげることができず、小さく頷いただけだ。怯えてはいても、身体が委縮してしまったわけではなかったのだろう。…というかククールの記憶では、むしろいつもより感じていたような。いつもより若干乱れていたような。(…てことはやっぱりゼシカって天性のマゾヒストかもな)心は嫌がっているのに、強引にされてしまったことで身体はより感じて達してしまうのだ。ついでにあのシチュエーションにも、本人の意思を置いて、身体はかなり反応していた。そんな自分に戸惑っている、未だ純情以外のなにものでもない無垢なゼシカに、イヤ、やめて、恥ずかしい、と言われれば言われるほど、ククールもまた、己の中の何かが目覚めていくのに気づかないふりはできなかった。(オレも自分がこんなサドだとは知らなかったぜ)実際 彼女の泣き顔は媚薬だ。昼間に見たらみっともなく狼狽するしかないが、ベッドの中で流されるゼシカの涙は、もっと幾らでも泣かせてみたいという思いにさせられる。 (――――――でも、まだ、もうちょっとは自重しないとな)ゼシカの中の性の気質は、まだ芽生え始めたばかりだ。たやすく摘み取ってしまっても、乱暴に踏み荒らしてしまってもいけない。ゆっくりと、丁寧に育てていかなくては。…彼女自身は気づかないようなやり方で、少しずつ少しずつ、いつかオレのサディスティックな欲のすべてを、壊れずに受け入れられるようになるまで。「……クク?」ハッとして我に返ると、ゼシカが心配そうな顔で見上げていた。己の意識の底にある昏い願望がバレないように、咄嗟に笑顔を取り繕う。…とりあえずは。「じゃあゼシカ。明日は対面座位でしような♪多分ゼシカがいちばん好きな体位じゃないかと思うし」「たいめざ…何、それ…。また私、そんなのわかんないよ…」「いーのいーのゼシカはわかんなくて。オレが全部教えてやるんだから」そう、オレが。オレだけが。自分の胸に寄り添って眠るゼシカを見つめながら、ククールは己にそう誓った。
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172 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/19(木) 13 10 18 ID CuGjFctL0 ゼシカの方が直接攻撃が強いとククールの立場がなさそう いやいや、防御面では圧倒的にククールの方が優秀なんだから、攻撃力は ゼシカの方が上でも何の問題も無いでしょう。 (スカラ+マホトーン+マホカンタ+大防御+ベホマ+諸々の状態以上系の弱耐性) この鉄壁の守りを崩すには、ラリホーマで眠らせるか、マダンテ決めるしか無いけど、 スーパーリング装備したら、まず眠らせられないし、マダンテのターンに大防御されたら 双竜打ちするMPまで無くなっちゃう。 どちらかというと、ククール有利だね。 でも、夫婦喧嘩でククールに勝ち目が無いっていうのは、全く同意見。 きっとサーベルトと同じで、ゼシカが泣いたら、ククールが謝って終わりになると思う。 奥さんが強い方が夫婦は円満だしね。 あー、なんか、すごい長文になっちゃったよ。 173 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 00 42 38 ID wqW99KMk0 ゼシカが泣いたら そこらへんの女のようにしおらしく泣くんじゃなくて、 ククをさんざ罵倒して蹴って殴って雷落としながら、興奮してボロッと涙が出ちゃう感じが良いな ククール「…って、ちょ、オイ待てよ、泣くなっ!」大慌て 174 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 01 37 23 ID VSMrgAsR0 そうだな。これらのレス読んで改めて考えてみると、 この2人衝突が多くなりやしないかなーとちょっと心配だ。 ゼシカはたぶんに世間知らずで子供っぽいところが結構あるし ククールだって精神的に脆そうというか繊細というか かなり正確に心の機微を分かる人間でないと支えきれないんじゃないかと。 ゼシカはその辺大丈夫かな… 175 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 08 11 39 ID vNgve3MJ0 大丈夫じゃない? 確かにククールは繊細ではあるけど、あの兄貴の逆恨みイヤミを10年以上も 浴びせられてたのに歪んでしまわなかったんだから、芯の強さは折り紙つきでしょう。 兄貴に比べたらケンカした時のゼシカの罵倒なんて、きっとククールにとっては 「あー、もう、ストレートで可愛いな、チクショウ!」ぐらいのもんじゃないかと。 で、泣いてるゼシカにハグして、チューして、あんなことやこんなことして、 ますます二人は仲良くなってくんだよ。 ……何で、朝からこんなテンション高いんだろ……。 さ、仕事行ってこよ。 180 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 21 24 02 ID hgASB9ys0 ククールは繊細なのに必要とされたいタイプだから全面的に支えられるとダメなように思う。 ゼシカは世間知らずだからククールがフォローしなきゃいけない部分もあるし、 逆に幸せに育った人間にしかない図太さみたいなものもあるからククを支えていけるんじゃないかな。 182 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 01 18 38 ID d7m0Ahyt0 幸せに育ったゼシカのいい部分がククを支えるだろうし、 苦労背負ってきたククのいい部分がゼシカを成長させるだろうし。 それなりに相互補完で納得してると思う。 「腹立つとこもめちゃめちゃあるけど、結局多分相性はいいんだな」って。 184 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 16 05 35 ID tmF5hWysO ○チェロがボロボロになって去っていく場面で、 ゼシカが、ゼシカだけがククールに口を挟んだことが何か良かった。 二人の仲が他人行儀のままでは、ああいう風には言えなかったろう。 それまでの間に深い仲になる何かがあったんだろうニヤニヤ 185 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 22 11 34 ID r9xQh3NB0 その場面のゼシカ、本当にいい子だよな~、と思った。 それこそ最近このスレで言われてる、ゼシカがククールを支えられる部分で、 二人の相性の良さを象徴してる場面だよね。 もしゼシカが苦労して育ってたら、気を回しちゃって、そっとしておいてやろうとかして あんな風にククールに駆け寄ったり出来なかったような気がする。 きっとあの場面のククールは、あれだけのことをやらかしたマルチェロの命を助けたことを、 完全に正しいことだと思い切れてなかったろうから、ケガの手当てもしてやれって 詰め寄るゼシカの言葉に、内心すごく救われてたんじゃないかな。 だからこそ、暗黒魔城都市のククールは、それを引きずってた様子もなく 戦いに集中できたんだと、勝手に思ってる。 186 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/24(火) 13 05 18 ID KLHaPMxY0 主人公やヤンガスは苦労人だから逆に声をかけられないんだよね。 主人公はシステム的な問題でもあるけど。 でも暗黒魔城都市でのククールはガキの頃のことばっか思い出す、 みたいなこと言ってなかった?あれはどういう意味なんだろう。 ところで攻略本での暗黒魔城都市のセリフは笑ったよ。 ついにオレにホレたか?って… 187 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/26(木) 01 07 46 ID MVY760fm0 惚れたんじゃない?
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ここは砂漠の教会。 昼間はぎらぎらとした太陽が、容赦なく照りつけるこの一帯。 すでにベルガラックのユッケが竜骨の迷宮の入り口で待っているというが、 迷宮への道のりは、思ったより厳しかった。 遠い道のり、慣れない暑さに一行はほとほと参りながらひたすら目標を目指していたが、 「あ…暑すぎる!ワシはもう我慢できん!」 この状態では逆に探索の効率が下がるわい!というトロデの言葉で、 一行は教会の影に馬車を停め、しばしの休憩を取ることとなった。 各々水を飲んだりと、ほんの少しの涼を求める。 「はぁ…砂漠ってば木陰もないんだから、この暑さは本当に参るわね…」 ゼシカはひと息つきながらうんざりといった表情でつぶやいた。 豊かな胸元に汗の粒が光る。 「俺なんて一番厚着だから最悪だぜ?」 ゼシカを尻目に、ククールはどうだとばかりに自慢にならない自慢をしてみせた。 ククールはマントと上着、さらに手袋もはずし、手のひらでぱたぱたと顔に風を送っている。 「マヒャド、覚えたてだけど味わってみる?涼しくなるわよ~」 クスっと笑ってゼシカは舌を出した。 「え、遠慮しとく…でもな、マジで暑すぎるって…ほれ」 そう言ってゼシカの頬に手の甲を押し付ける。 「ちょっと、どこ触ってんのよ!」 ククールはふにふにと柔らかいゼシカの頬に触れた途端、嬉しそうな顔になった。 「あーー、ゼシカのほっぺた、冷やっこくて気持ちいいな…」 「バカ、あんたが熱すぎるだけなの!…もう、いつまで触ってんの!」 顔を赤らめながらゼシカはククールの手を振り払う。 まったく、油断するとコイツはいつもこうなんだから…。 「おいおい、何もそんな嫌がるこたねーだろ?」 「アンタのそういう所を黙認してたらね、体がいくつあっても足りないのっ!」 「へいへい…俺が悪ぅございました」 肩をすくめてククールはゼシカの隣に座り込んだ。 まったく…とぶつぶつ言いながらも、ゼシカもククールの横へ腰を下ろす。 影になっているとはいえ、風も吹いていないので暑さはあまり変わらない。 相変わらずククールは暑そうにして、ほんの少しだが肩で息をしている。 さっきのふざけた表情はもう消え失せて、いつもの端正な横顔がそこにあった。 筋の通った鼻筋にも汗の粒が光っている。 ゼシカは、先程ぶっきらぼうに手を振り払ったことを少し後悔した。 「ん?…どした?」 ククールは自分の右手を見てゼシカに問いかけた。 右手の上にはゼシカの小さな左手がちょこんと乗せられている。 ゼシカは目を合わせずにうつむき、 「…だって、アンタの手、ほんとに熱かったんだもん。…これなら少しは涼しくなるかなって」 「心配してくれてるのか?」 「うっさいわね!つべこべ言うと手、離すわよ」 「…ハイ」 しばらく大人しく従っていたククールだったが、 やがて手のひらをゆっくりと返し、ゼシカの指をからめた。 ほんの少しだけ、ゼシカの指がぴくんと跳ねる。 「…そのままな」 ぽつりとククールのその言葉に、ゼシカはさらに恥ずかしそうにうつむいた。 自分の鼓動が伝わってしまうのではないかと、さらにゼシカの鼓動は早くなっていく。 「なんか体温、同じくらいになってきたな…」 「……バカ、私が熱くなったの」 ゼシカがぽつりと言う。自分でもかなり恥ずかしい台詞だと思った。 「嬉しいこと言ってくれちゃって。よし!とりあえず俺は3日手を洗わないって決めた!」 「またバカなこと言って…」 「俺は本気だぜ?」 「もう…知らない!」 冗談でも、真っ直ぐにそんな嬉しそうな瞳で見られてはたまらない。 ゼシカは立ち上がってぷいっとエイト達の方へ走っていった。 その顔は暑さのせいかはわからないが、真っ赤になっていた。 ひとり取り残されたククールは、小さくなっていくゼシカの背を見つめながら 「ったく…キツいんだか優しいんだかわかんねぇな、俺の姫さんは…」 そう言って右手の甲にくちづけた。 「…さーて、そろそろユッケちゃんの元へいきますかね!」 そしてククールもゆっくりと立ち上がり、馬車へと向かっていった。 自身もまた、胸の高鳴りを感じながら────
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お騒がせ兄妹の護衛をなんとか終え、ベルガラックのカジノが華やかに再開したあとのこと。「実際アッシらがいなかったら、フォーグもユッケも竜骨の迷宮で行き倒れてたかもしれねえでげすよ」「もしそうなったら跡取りが亡くなったってことで今ごろカジノは人手に渡ってたかもしれないわね…」ヤンガスの言葉にゼシカは頷いて、事態が丸くおさまって本当によかった、と胸をなで下ろした。しかしそこに水を差してきたのはククールだ。ふんと鼻で笑って肩をすくめ、「…その方がよかったんじゃねーの?この先兄妹ゲンカが起こるたびに カジノが閉鎖したら、客もいい迷惑だろ」ゼシカは一瞬目を丸くして、それから はあっ、とわざとらしいため息をついた。「それがあなたの本心じゃないくせに、わざと冷たく突き放したことを言ってカッコつけるのはよしなさいって」思わずこぼれたゼシカのツッコミに、ククールはぎょっとして、珍しく動揺を顔に張り付けた。「うっ うるせーな!」「よかったじゃない。兄妹は仲直り、カジノも無事復活。素直に喜んでおきなさいよ」「…うるせぇっつーの」ククールはろくに言い返しもできず、不機嫌に背中を向けて先に行ってしまった。その後ろ姿に、残った仲間たちは顔を見合わせてクスリと笑うのだった。 *「…か・わ・い・く・ねえぇぇええーー」「あはは」酒場でグラスをテーブルに叩きつけたククールに、爽やかな笑いを返すのはエイトだ。「何がおかしい」「あ、ごめん」そう言いつつあっはっはっはと声をあげて笑うエイト。ククールは頬をひきつらせるが、無視を決め込んでひとり言のように呟いた。「かわいくねぇ。あんなにかわいくない女マジではじめてだぜ。ムカつく」「ほぅほぅ」「あんな顔してよーギャップありすぎんだろ。黙ってればいいのに口開くとアレだよ。何様よ。言いたいこと言いやがって。あー腹立つ。カワイクねぇ」「ふんふん」「おまけに魔法は最強でムチはつぇえし胸はアレだしケツもアレだしなんなのアイツ」「くっくっく」怒り心頭のククールに対して、何がおかしいのかエイトは終始ニコニコニヤニヤしている。「おい気持ち悪く笑ってねぇで。なぁ、お前だって思うだろ?」「なにが?」「アイツ、ホントに可愛げがないったらありゃしねぇ。史上最強にかわいくない女だよ」「ゼシカはかわいいよ」「はぁ?どこが」「ククールもかわいいけど」「…きめぇ」「あははは」げんなりしたククールが、ブツブツ言いながらも愚痴をおさめて飲むに徹したので、お互いしばらく無言で酒やつまみを消化していた。「―――…あんなにかわいい女はじめてだよ。おかげで退屈しないで済みそうだ」やがてエイトが微笑みを浮かべたままポツリと言葉をおとしたので、ククールはぎょっとした。「…なんだって?」「美人だし身体はエロいし、なんと言ってもあの気の強さがたまらない」「…エイト?」「それにオレを見る時のあの目ときたら!精一杯の抵抗と虚勢はわかるけど、オレに惹かれてるのは隠しようがないらしい。そのくせ触れられるのは許さない」「……おい」「あの顔とあの幼稚さに対してあのボディというギャップが、どうしようもなくそそる。一日中からかってても飽きないね。怒らせた顔がまた極上にかわいいのさ」「…………。」「かわいいね、ホント。さすがのオレも、あんなに可愛い女はじめてだよ。 どうにかしてやりたくなる。最高にかわいい。―――史上最強に、かわいい」「………………………………。」いまやククールは絶句していた。非常に嫌な予感に襲われたからである。限りなく聞き覚えのある言葉の羅列…エイトがにっこり笑って、悪びれなく言った。「仲間になったばかりの頃のククールのセリフだよ」確かに、覚えはある。聞き覚えではなく、言った覚えが。「……~~お前……」「いやー、なんとなく思いだしただけなんだけどね」ぼく記憶力いいんだよねーなどと嘯くエイトは確実に確信犯だ。「あの頃はさっきみたいに、ゼシカのこと毎日毎日かわいいかわいいって言ってかまってかまってからかってからかって燃やされて、へらへらへらへらしてたなぁ、と思って」「…あのな…」「そのククールがいまや“あんな可愛くない女見たことない”だもんね。いやぁ、人間変わるもんだよね」「うるっせぇぞエイト!!!!」頭を抱えたククールが悔し紛れに怒鳴っても、エイトにはのれんに腕押しである。「不思議なのは、あの頃より今の方が、断然君たちの仲がいいように見えるってことかな」困ったようにわざとらしく首をかしげ、両手を広げてククールに問いかけた。「“かわいくない”のに、どうしてだろうね?」爽やかなのかふてぶてしいのか、掴みどころのない笑顔はもはやエイトの特技だ。ククールが苦虫を噛み潰したような顔でエイトを睨む。頬がわずかに赤いのは、酒のせいのはずだ。「…………お前はホンットにかわいくねぇ」「ククールはかわいいけどね」「死ねッ」 *「ククール!」エイトに勘定を押し付けて酒場から一人帰る途中、聞き慣れた声がしてイヤイヤながら後ろを振り向いた。思った通り、そこには胸元を魅力的に揺らしながら走ってくるツインテール。「…お前な…夜になったら一人で出歩くなって何度…」「どこにいたのよ?まぁいいわ、ちょっと付きあって」「聞けよ」酒場での色々なアレのせいで、彼女の顔をまともに見られないククールのいつもより弱々しい小言など完全にスル―して、ゼシカは彼の腕に手を回して強引に引っ張った。「なんだよ、酒場ならもう行かねぇぞ」「違うわよ。連れてって」「どこに」連れてってと言いながらスタスタ進むゼシカに、ククールは怪訝な顔を向ける。ゼシカは子供のように無邪気に、満面の笑みを浮かべて夜空に浮かぶネオンを指さした。「カジノ」再開したばかりのカジノに浮足立っているのは住人ばかりじゃない。そのうち情報が行き渡れば、他の町や地方からも待ちかねた客が大挙して押し寄せるだろう。本格的に混む前に、一通りめいっぱい遊んでおきたいの、とワクワクするゼシカ。「ヤンガスに言われたの、一人では絶対行くなって。だからあなたを探してたのよ」「ヤンガスと行けばよかったんじゃねーの?」ククールはぶっきらぼうに答える。「ダメよ。本人も言ってた、自分は賭けごとに向いてないって。エイトも経験ないって言ってたから、どうせなら詳しいククールと行った方が絶対楽しめるじゃない」「詳しいねぇ。どうせイカサマは禁止なんだろ?」「当たり前でしょ!もしバレたら、あの兄妹に何言われるかわかったもんじゃないわよ」「再開したのは半分オレ達のおかげなのに、結局カジノで金落としてるんじゃ、オレらは貧乏くじで、アイツらは完全においしいとこ取りだな」「それをなるべく落とさないために、あなたを連れてくのよ」相手が付いてきてくれるとカケラも疑っていないその様子が、なんとなく面白くない。無理やりに立ち止まって腕を振り解き、不思議そうな表情で振り返るゼシカに、言ってやった。「……正直、もう眠いし、風呂入りたいし、メンドクサイんだけど」本当は、どんな理由であれ自分を選んでくれたのが嬉しいし、これから楽しいデートをできるのが間違いない状況に、心躍らないわけがない。だから精一杯の仏頂面で、精一杯の虚勢で、精一杯の抵抗をしてみる。ゼシカは心底驚いた顔でまじまじとククールを見つめていたが、しばらくしてふいに眉尻を下げ、小さな声で言った。「…そうなの…ごめん、私、浮かれちゃって」垂れ下るツインテールに、こみあげる罪悪感がククールをじりっと苦しめる。もうすでに後悔している。…早すぎないか、自分。「えっと…じゃあ、とりあえず一人で行ってみる、ね。大丈夫チラッと見てくるだけにするから。ヤンガスには内緒にし…」「いや待て。一人でだけは行かせない」「だって」ゼシカの細い腕を掴むと、戸惑いに満ちた瞳がククールを見上げる。いつもなら絶対に見られない、不安に揺れる弱々しい表情。ゼシカが再びククールの腕に腕をからませ、控え目ながらそっと寄り添ってきた。彼女の豊かすぎる胸がククールの腕に押し付けられる。見上げてくる潤んだ瞳。「…お願い、一緒にきて?……ククールじゃないと、ダメなの」…………………………くそぅ…かわいい…っククールが心の中でそう思ってしまったのは、敗北宣言に等しかった。上機嫌でカジノに向かって進んでいく少女と、腕を取られ、半ば惰性のように付いていく青年。「…ゼシカさん。…胸、当たってますけど」ククールは遠い目をして半笑いだ。一方のゼシカはクスッと微笑み、「おいろけスキルも、役に立つでしょ」付いてきてくれるわよね?と、大変キュートにウィンクをして見せるのだった。ククールは複雑な笑みと、諦観に満ちたため息を同時に吐きだす。もちろん。お望み通り、華麗にエスコートいたしますよ、お嬢様。オレは君の騎士だから。いつの間に、こんなに勝てなくなっていたのだろう、と思う。いまやすっかりおいろけスキルを使いこなす、こんな危険な小悪魔に。ウブな彼女を翻弄して楽しんでいたのは、そう昔のことでもないというのに。「…かわいくない」「なんですって?」「なんでもないです」満足げによし、と頷く彼女は、やっぱりどうしようもなく可愛くない。…わけがない。かわいいかわいいと連呼していたあの頃より、今の方がよっぽど愛しく感じているのはなぜだろう。勝てなくて、ムカつくのに、腹が立つのに、それが彼女と自分の距離の近さの証明なのだとわかっているから、悔しいような、でもそれだけじゃない、くすぐったいような胸の内。目前に巨大なカジノが近づいてきた。煌びやかなネオンに、否応なしにテンションが上がる。「わーすっごーい!間近で見ると全然迫力がちがうのね!!このネオン素敵!!」ククールの腕にしがみついたまま、ゼシカはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。ククールはふんと鼻を鳴らし、皮肉な笑みを浮かべる。「どいつもこいつもこの灯りに惹かれて集まり、有り金と魂を吸い取られるわけだ。飛んで火にいるなんとやら、そのまんまだな。なんとも滑稽だぜ」ゼシカはその様子をじぃっと見上げ、それから、はあっとわざとらしいため息をついた。「…それがあなたの本心じゃないくせに、わざと冷めてるフリして、かっこつけるのはよしなさいって」「―――うっ、うるせーな!!!!!」「ほんっと、ククールってかわいいんだから」「かわいくねぇっつってんだろ!!!!!」思わず声を張り上げてしまった時点で、図星であることを露呈してしまっているわけで。ゼシカはクスクス笑い続け、ふてくされたククールが「やっぱやめる」ときびすを返すのを、ゼシカの腕が自然に掴まえた。見上げてきた彼女の笑顔には、ただ純粋な好意があるだけで、思わず脱力してしまう。ククールの決まり悪そうな表情など気にもせず、ゼシカは大きな扉に手をかけた。「カジノ好きなんでしょ?」「…。」まだブスッとしている彼に、ゼシカは屈託なく笑いかける。「一緒にめいっぱい楽しもうね、ククール」子供のようにはしゃぐその表情に、ククールは次第、色々なことがバカらしくなってしまった。つまらない意地や矜持など、彼女の前ではなんの役にも立たないのだ。「…あぁ」あきらめて笑い返すと、彼女はククールの腕を掴む手にぎゅっと力をこめ、嬉しそうに見上げてくるのだった。かわいかろうが、かわいくなかろうが。オレはきっと永遠に、ゼシカには勝てないのだろう。輝かしい勝利だけを求め遊びに興じる人々の中で、ククールはそんな風に確信して、一人笑った。
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どうしていままでわからなかった? ――…ちくり。 胸をさす小さなトゲに気づいたのは、あの不思議な泉へ行ってから。 泉の水の効果で、一時的に呪いのとけたミーティア姫は、その限られた時間のすべてでエイトと話をすることを望んだ。 エイトと話をするミーティア姫は、とてもうれしそうに笑って、きらきらしてて。 エイトは、姫さまの望みを叶えてやることにひたすら一生懸命で。失われた時間を取り戻すように。 ふたりは話す。 ああよかった、と安心する傍ら、私のなかで次第に大きくなってゆく、この痛みはなんなの? ―――いいえ、私、ほんとはこの気持ちがなんなのか知ってる。たった今気づいたばかりだけどね、 自嘲気味に鼻で ふ、と笑ったあと、ゼシカは遠くでなおも楽しそうに会話しているエイトとミーティアに背を向けた。 …バカじゃないの、 そう、小さくつぶやいてうつむいた。 今ごろ気づくなんてね。 …私は、エイトが好きだったのよ。 「おーーこわ、けっこうひどいこと言うんだなゼシカちゃん」 聞き覚えのある軽薄な声にゼシカはぱっと顔を上げた。 ――ククール、 こんなときに、一番会いたくない奴に会った。 「ひどい、ってどういうこと?」 言われた意味がわからずゼシカは眉をひそめてククールに訊ねた。ククールはニヤニヤと薄笑いを浮かべてゼシカをちらりと見やる。 …なによ。 その目で私を見ないで。 ゼシカはククールにまっすぐ見つめられるのが苦手だった。 幾多の女性を虜にしてきたであろう、彼の青い目。視線。そんなものに自分のペースが乱されると思うとしゃくだった。 そんな彼の視線から逃れるべく、ゼシカはぷいとそっぽを向いた。するとククールが口を開く。 「女の嫉妬は怖いねぇ」 ゼシカは、ククールの言葉をとっさには理解できなかった。 …? 一瞬の静寂のあと、言葉の意味を理解したゼシカはかっとなって手をあげた。 「ちがっ……!」 ―バカじゃないの、― あの言葉の意味は。幸せそうな二人に妬いて嘲ったわけじゃなくて。 …ただ、自分がふがいなくて。 ふと気づくと、思わず振り上げたゼシカの右手は、ククールの頬に届かぬうちに、彼の左手によって制されていた。 ――放してよ、 ゼシカは低くつぶやき、ククールをにらみつけた。ククールは相変わらず薄笑いを浮かべたままだ。 ……やだね、 そう言って彼がゼシカを見下ろすと、ふたりの視線がぶつかった。 苦手なククールの視線から逃れるべく、ゼシカは慌てて目を反らそうとした。だがその刹那、ぐっと顔を向きなおされた。 それはククールによるものだった。ゼシカの顎に彼の手が添えられている。 彼はまだ薄笑いを浮かべている。だが、その青い瞳はまっすぐにゼシカを見つめている。瞬きさえ惜しむように。 ゼシカは直感した。 奴は自分の言葉の真意を見抜きつつこんなことを言ってくるのだと。 …最低、と投げかけ、ククールをにらんだ。今度は決して彼の瞳から目を背けぬように、せいいっぱい。 「いつもこうやって女の子落としてるんでしょ?」 そう言ってゼシカは ふふ、と口元だけで笑ってみせた。 「まあね。でもゼシカは、特別」 そうさらりと言ってみせるククールに、ゼシカはあきれて顔をしかめた。 「…バッカじゃないの」 次の瞬間、ククールが放った言葉はゼシカの予想からはまったくかけ離れたものだった。 「その言葉を待ってたよ」 ――は? ゼシカはわけがわからず茫然としてしまった。そんなゼシカをよそに、ククールは言葉を続ける。 「ゼシカはさ、俺にはエイトと話すときみたいにかわい~いことは言ってくんなくてさ」 ゼシカの顔がかっ!と火をつけたように赤くなる。エイトと話していると、何だか安心して、自分らしからぬ弱気なことまで言ってしまうことは自分でも何となく自覚していた。 でも――こいつ、こんなことまで知っていたなんて! いつエイトとの会話を聞かれていたのだろう。恥ずかしくてムキになったゼシカは再び手をあげようとするが、まぁ最後まで聞け、とまたもやククールに制された。 「俺にはキツーーいことばっかり言うけど、それも含めて本音を話すだろ?」 「自分を責めるのなんかやめちまえよ。あの言葉は俺にだけ言ってればいいんだ」 ―バカじゃないの― いつも軟派なククールに対して呆れてゼシカが投げかける言葉。 「俺はいつも、君を受けとめる準備はできてるんだぜ?マイハニー」 そう笑ってククールはゼシカの肩を抱きすくめた。薄っぺらそうな響きの言葉とは裏腹に、強く。 「ちょっ………!」 ゼシカは抗議の声を上げた。が、めずらしくすぐに抵抗するのをやめ、ククールの腕のなかでぽつりとつぶやいた。 …………バカじゃないの。 その声は、心なしか震えていて、涙混じりだった。
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潮時・翌朝の時系列のククゼシ ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※ 「……ん」うっすらと目を開けると、目の前に眠たげなククールの顔があって、ゼシカの意識はすぅっと上昇した。肘をついた手で顔を支えて寝そべりながら、自分の前髪を指先で意味なく弄んでいる手の平が目に入り、ゼシカはその手を無意識に取る。「…寝てた…?」「いや…そんな時間経ってないよ」ベッドの上で、指をからませ合いながら睦言を交わすこの時間。いつもはだらしなく垂れ下ったククールの表情が今日はなんだかとても疲れて見えて、ゼシカはシーツで胸を隠しつつ体を起こし、上からその顔を覗き込んだ。「どうしたの?疲れた…?」「…疲れたというか…」不機嫌とも取れる表情に、ゼシカは途端に身を竦ませる。性に無知な自分がいつかおかしなことを仕出かさないかと、ゼシカはいつもひそかにビクビクしている…「ゎ、わたし何かした…?」「…………んー…」「ご、ごめんなさい、なに?言って、お願い」取り乱すゼシカに対して今度こそ呆れたようなため息がつかれると、ゼシカは不安に満たされ泣きそうになった。ククールは体を起こし、そんなゼシカのおでこをこづく。「何したってお前…なんつうことをさせるんだって話だろ…このバカ」「え?…えぇ?な、なに?なんの話?」「んっとに…ハァ……。どーすんだよ…オレ、アローザさんに殺されたくねぇぞ…」「へっ?お母さんが、どうし…」突然ククールがゼシカのお腹にシーツの上からピタリと手の平を当て、「どうすんだよ、デキてたら」「―――……え?」「本気で気づいてねぇの?オレ、お前の中に思いっきり出しちゃったんだけど」ゼシカはきょとんと自分のお腹を見る。そしてそのまま、しっかり10秒間。絶叫しながら思い切りベッドに背をぶつけたと思ったら、今度は顔をリンゴのようにして絶句するゼシカに、ククールは根の深いため息をハーーーーーーーッとつく。「マジで無意識かよ…ホント始末におえねぇな…」「やややややだっ、どうしっ、な、なん…ッ、ば、バカッ!!バカバカ!!なにすんのよ!!バカッ!!」「ってなぁ…今さら言われても」「だって!!どうするのよっっ!!ど…っ、どうするのよ…っそんな…っ…ぁ、赤ちゃん、なんて…!」「いやいや別に、一回出したら一回妊娠するってわけじゃないからな?」「……………………。……そ、そっか…」混乱しすぎて涙目になったゼシカだが、冷静に諭され、そうよね、と一瞬落ち着く。そして、「…っで、でも!!違うわよっそうじゃなくてっ…ど、どうして…。…ぃ、いつもは、………ッ、外に、…てくれる、じゃない…!!」「ゼシカのせいだろ。ゼシカがあんなこと言うから」「あんなことって何よ!!私なんにも言ってな…」「“抜かないで”って言ったんだよ、お前」「は?」「オレが抜こうとしたら、お前泣きながら“抜かないで”っておねだりしたんだよ」「~~~~~~ッッ!!」落ち着いて考えると非常に猥褻な話題。ゼシカはこれ以上ないくらい赤面しながら息を詰まらせ反論する。「ッッ、言ってない!!!!!」「言った」「……っだ、だったとしても…!なんでその通りにするのよ…っ、ダメなのわかってたくせに…!」「いーかげんにしろ。あの状況でンなこと言われてそれでも抜ける男なんてこの世にいない」反論も思いつかず押し黙るゼシカと、額に手を当ててため息が止まらないククール。 ゼシカが今にも謝りだしそうなのを察して、ククールは不毛な言い合いだと気づく。「…ごめん、ゼシカは悪くないよな。つーかどう考えてもオレが悪いんだし。気にすんな」うつむくゼシカを片手で抱きよせ、明るい声で、「ま、多分大丈夫だろ。大丈夫じゃなかったらその時はその時だ」「……ごめんなさい」「あーだから謝るなって。悪いのは確実にオレだから」そもそも、ゼシカとの大切なセックスをどうしても無粋な薄ゴム一枚で邪魔されたくないというただの子供じみたワガママで、最初から付けようともしなかった自分が悪いのだ。いずれこうなることは目に見えていたのに。でもゼシカはククールが最も安全な選択肢を最初から捨てていたという事実に気づいていないので納得できない。ククールの胸に顔を埋めて、小さく首を振る。「……でも、…もし、大丈夫じゃなかったら…わたし」「だからそれは」「わたし、…ククールの邪魔になるわ…」「バカなこと言うな。…謝るのはオレだよ。アルバート家の大切な後継ぎのお前に、取り返しのつかないことをしでかしたことになる」「それなら一緒よ。…私は、ククールの自由な未来を…奪いたくないもの…」「別に、オレの方はノープロブレムだぜ?子供ができたって旅は続けられる」ゼシカが少し驚いて顔を上げると、ククールは片目をつむって見せた。「2人旅が3人旅になるのも、悪くないだろ?」目を丸くして少し困った顔になる。それから小さく笑って「バカ」と付け足し、ゼシカの方からククールに口付けた。「…本気で言ってくれてるの?」「じゃなかったら最初から絶対中になんか出さねぇよ。だから多分本当は、…それを望んでたんだ」「……私も…ククールの赤ちゃん、ほしい……――んっ」口唇から滑り落ちるように告げられたお互いの情熱的な告白に煽られ、触れ合うだけのキスがすぐに深いものに変わる。夢中でお互いの身体に腕を回して、貪り合った。ゼシカがキスに酔いしれているうちに、ククールの指先が背中をゆっくりと辿り、徐々に下降していく。お尻の割れ目をぬるりとなぞられて、ゼシカは一瞬にして我に返った。「…ッなにしてんのよ」「だってお前が赤ちゃん欲しいって言うから、さっそく子作りの続きを」「誰が“今の”話してるのよバカッッ!!!」思い切り突き飛ばされてもヘラヘラしたままのバカをふくれっ面で睨みつけ、そしてそんな風に開き直れない自分を少しだけ恨んだりもする。…自分達はたった今、永遠の愛の誓いを交わしたも同じだというのに。それを認められない、どこまでも素直じゃない自分が憎い。そしてそれをすっかり認めてご満悦なこの男が、憎らしい。子供みたいに喜んで。…バカ。自嘲気味なため息はただの照れ隠しだと、ゼシカも、ククールもわかっている。ゼシカは虚勢を張るのを諦める。明日になればどうせ自分はまた素直じゃない可愛くないコに戻ってしまうだろうけれど、今は意地を張ることがとてもバカらしく感じた。ホントに、バカみたい。私たち。また抱き合って、飽きずにキスして、肌のあたたかさを全身で交わし合う。こんなにもお互いが好きで、嬉しくて、楽しくて、みっともないほどに溺れて、もうどうしようもない。でもこれが「しあわせ」だと言うのなら、そうなんだろう。だってそれ以外にこの気持ちを表す言葉が思い浮かばないもの。 「…バカ」「うん」 「バカ……」「ゼシカ、愛してる」「……わたしも」「私も、なに?」「………。…なんでアンタっていつもいつもそう…」見つめてくるククールの真摯な蒼い瞳に、ゼシカは魅入られた。そして最後の羞恥心と強情を、諦めたようにあっさりと捨て去る。「―――愛してるわ、ククール。…だいすきよ…」言い終えないうちに口唇をふさがれ、シーツの海に倒れこむ。ククールの心底嬉しそうな顔に、ゼシカは苦笑した。ふと思い出し、重なった2人の身体の間に手を滑り込ませ自分のお腹に手を当てると、ククールが小首を傾げる。ゼシカはふわりと微笑む。告白大会の延長のつもりで、ちょっぴり頬を染め、勇気を出して言ってみる。「……………またいつか、たくさん出して、…ね?」もちろんそれは、大胆な愛の告白以外のなにものでもなかった。それ以外に意味を持たせたつもりは、とりあえずゼシカにはない。ククールの下半身がどう受け取ったかは別として、だ。今日何度目か知れない強烈な誘惑スキルパンチを受け、ククールは無言で身悶える。「……~~~ッお前なぁ」「なぁに?…ふぁ…あぁ疲れた…なんだか一気に眠気が…」「いやいやお前、今のはさすがに」「ホントにいきなり来た…ダメ、もう寝ちゃう…」「ちょ、お前、待て待てコラ…」ごそごそと身体を丸めはじめたゼシカに、ククールはなぜか焦って声をかける、が。「――クク!」「はいっ」「…………寒い」「…はい」お姫様のご指名が飛ぶとククールは条件反射でピシッと返事を返し、言われるままに剥き出しの冷えた肩に手を回して胸の中に納めてやった。そしてまもなくゼシカからは穏やかな呼吸が聞こえ始める。取り残されるのは途方に暮れた紳士ひとり。腕の中でスヤスヤ眠っているこの子供がさっきまでベッドの中で男を煽りまくっていた天下のお色気誘惑マスターだなどとは、すでに信じられないような幼女の寝顔だった。ククールはため息をつく。そして、かすかに隆起する彼女の薄いお腹にそっと手を当てた。……どんな未来がそこにあったとしても、オレはもう何一つ後悔しないだろう、と。後悔と、惰性と、諦観だけで紡いできたこれまでの人生を、すでに懐かしく振り返ることができそうなほどの充足感。乾いた心を外側から包み込み、内側から満たしてくれたこの存在を、死ぬまでこの腕から手放さないと、誓った。そしてゼシカも、オレとの未来を望んでくれた。この現実を「しあわせ」だとしか言い表せない。願わくば彼女もそう思っていてほしい。「――――…ありがとう、ゼシカ」明日もあさってもその先もずっと、貴方がしあわせでありますように。ゼシカの額に口づけを落として、ククールも安らぎに満ちた眠りについた。 *「いい加減に起きなさいよこの寝ぼすけ!!もうお昼になるわよ!?」「んんん…あー…もういいじゃんもうちょっと寝かせろよ…」「もう十分すぎるほど寝てるでしょうが!情けないわね」「…お前がこんだけ疲れさせたんだろー…」「は?なによそれ」「昨日お前が無駄にエロいから、オレもエッチ頑張っちゃたんだろ…あ痛っ」「自分のスケベを棚にあげて勝手なこと言ってるんじゃないわよっ!バカッ!」確かに、すでに身支度をしっかり整えて毅然としているゼシカからは、昨夜の妖艶で乱れた姿など想像もつかない。太陽が昇っている間のゼシカには、月を背負うククールは絶対にかなわないのだ。ククールに反撃が許されるのは夜の帳が降りてから…自分達は、そういう風にできているらしい。ならば逆らうのも無駄というもの。ククールは怠惰に起き上がり、プリプリしながらコーヒーを淹れているゼシカに後ろから抱きついた。「おはようございます」「…オソよう」カップを受け取りながら、もう片方の手でゼシカのお腹に手を当てる。「…膨らんでないな」「当たり前でしょ!」「まだしばらくは、2人旅、楽しもうな」ククールはそっと耳元に囁く。ゼシカはうつむき、頬を赤くして、バカ、とだけ。そして肩越しに振り返り、怒ったような表情のままククールを見上げた。ククールは速やかにご要望に応じ、そっとおはようのキスを交わす。今日も2人だけの旅がはじまる。誰にも邪魔されない、しあわせに満ちた一日が。 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※
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潮時・翌朝の時系列のククゼシ ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※ ククールは慎重に様子をうかがいつつ、口唇を合わせたままそっと、彼女の下腹部で重ね合わせたお互いの指を、濡れた裂け目の中に侵入させた…「―――ッッん!!」急激にもたらされた異物感に、ゼシカは驚いて身体を跳ねさせる。しかしククールの口付けはなにごともないように優しく穏やかに続けられるので、ゼシカはもうどこに気を置けばいいのかわからなくて、混乱するものの抵抗する気力を奪われていく。ククールの指が、器用にゼシカと自分の中指を蠢かせ内側の粘膜を優しく擦ると、腰が自然に浮いた。強くないゆるやかな快感がじわりと沸き上がる。息が上がって、口づけが苦しい。「…気持ちいい?」 口唇の合間でククールが囁くと、ゼシカは息を大きく吸いながら、くたりと頷く。素直なゼシカにククールは微笑むと、口づけを、今度は乳房へと移動させた。「あっ…ん」色づく部分を大きく含んで甘噛みされると、痺れるような快感が走る。感じることに没頭しかけているゼシカを、ククールの低い声がすぐに引き戻した。「ゼシカ…こっち」「…ぇ…?」ずっとゼシカの体内でゆるやかに快感を生み出し続けていた指が、ゼシカのお腹側の性感帯を力をこめて撫であげると、ゼシカは声を上げ、否応なしにそこを意識せざるを得なくなる。自分の信じられない場所に侵入している、いやらしい自分自身の指の存在を。「お前の中、どんな風か教えて?」「…ヤッ、ア、ぁ…あ、…。……………あつ…ぃ…」「…濡れてる?」湿った温度と、からみつく粘液を、指先にじっとりと感じながら、ゼシカは頷く。ククールが、再びゼシカの胸を愛撫しだした。強い力で先端を抓られると、「ひゃ、ぅ…ッ!」全身が跳ね、胸にもたらされたはずの刺激が下半身に襲い来る。瞬間的に飲み込んでいる指が締め付けられたのを感じた。そして新たな体液で指先が濡れたことも。「……きゅ…て、なった…」初めて実感した自分の身体の反応をゼシカはただ素直に口にし、荒い息のままククールをぼんやりと見上げる。ククールは嬉しそうに破顔し、うん、と頷いた。「それが、ゼシカが気持ちいいとオレも気持ちよくなるってこと」「わたしが…きゅってしたら…クク、気持ちいいの…?」「最高に」「……こんなに濡れてるの……、…変じゃ、ない?」「変じゃない。もっと濡らしていいよ。そして、もっとオレを気持ちよくしてくれる?」「うん…」 ククールはゼシカと自分の指をシンクロさせて狭い内側を優しく侵しながら、待ち焦がれるように震える乳房を、空いた手と口で今までよりも若干激しく噛み、揉みしだいた。「あっ、ア…、ククール…ッ、ヤだ…ッ、や、ん…」「指、どんどん締めつけてるの…わかるだろ…?」「アンッ、アッ!ん、ぅん…ッ、……やだ、あっ」「いつもゼシカのココは、オレをこんなにキツく締め付けてるんだぜ…抜かないで、って」身体は官能にゆだねてしまっても、心にわずかに残った羞恥心がククールのあからさまな挑発に反応する。ゼシカが身体を強張らせると、連動するかのように中がきゅううと締まった。「んんん…ッッ、あぁっ、あっ、ヤだ、ヤだぁ、ダメ…!」ゼシカは首を大きく振って乱れた。小さく暴れた拍子にククールに掴まれていた指が離され、自らの体内からズルリと抜け出て力なくシーツに落とされる。ハァハァと息を荒げながら濡れそぼった指先を呆然と見た後、ゼシカは腕を緩慢に持ち上げ、それをククールの口元に近づけた。ククールが優雅にその手を取り、味わうかのように舐めはじめるのを、恍惚とした顔で見つめる。それはどこか、姫君の手甲に誓いの口づけを捧げる騎士のような、ロマンティックな光景にも見えた。騎士はぴちゃりと音を響かせて、姫君が零した 淫らな雫を恭しく舐め取っていく…ゼシカはゾクリと身を震わせた。ただ指を舐めるだけの行為が、このうえなく卑猥に思えて。「…ね、クク…私も、ククールをいっぱい気持ちよくしてあげたいから…だから、…だから、 ―――……もっと私のことも、気持ちよく、して…ほしい…。……私、変なこと言ってる…?」戸惑う瞳がたまらなく愛しく、かわいい。ククールは安心させるように笑い返して、ゆっくりとゼシカに覆いかぶさった。小さくキスして、瞳を合わす。「……仰せのままに」 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※
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ククールが死んだ―――そんな知らせが届いたのは、彼がゴルドに発った翌日のことだった。「…ゼシカ、とりあえず僕たちは起きてるから。何か知らせが入ったらすぐに知らせるから、君はちゃんと寝るんだよ」小さな部屋の真ん中で椅子にぽつんと腰かけ、テーブルに重ねた手を乗せたまま身じろぎひとつしないゼシカに、エイトは小さくため息をつくしかなかった。すぐに闇が訪れて、この部屋は真っ暗になるだろう。エイトはランプに火を点けて、扉を閉めた。―――ゼシカの瞳には、何も映っていなかった。マルチェロとの戦いの後。しばらくの間、ククールは心を整理する時間を必要とした。仕方のないことだった。時だけがすべてを解決すると本人も仲間たちもすでに知っていたから、時折上の空になる自分に苦笑したり、仲間にさりげなく背中を叩いてもらったりしながら、少しずつククールは最後の決戦に挑むための気概を取り戻し始めていた。そしてその間、彼のそばにずっと寄り添えたのは、唯一ゼシカだけだった。ククールが望んだわけではない。ゼシカもそれを強要したわけではない。頻繁に言葉を交わすことも、特別に触れ合うこともなく、ただ、そばにいた。ただの仲間ではなく、ましてや恋人同士なんかじゃ決してない。かけがえのない存在。今はただそれだけで、2人は満足だった。「…あんな大惨事起こしやがって、あの…馬鹿」ククールが無表情に呟いたのをゼシカは聞く。「…どれだけの人が犠牲になったと思ってんだ…」ゼシカはそっと彼に近寄り、テーブルの前から彼の顔をのぞきこんだ。「行ってみたら?ゴルドに」「…なんで?」「今でもたくさんの人がケガに苦しんでるのよ。アンタの回復魔法、こういう時にこそ使うべきなんじゃないの?」目からうろこが落ちたように、ククールは彼女の顔をまじまじと見つめた。「気分転換にもなるでしょ。行って、あの人がしでかしたこと、もう一度しっかり心に刻み込んでくればいいわ。 …二度と後悔しないように、ね」次の日、ククールはエイトに決戦までの日をもう少しだけ伸ばしてほしいと頼み、ゴルドに向かった。ゼシカは共に行かなかった。お互いそんなやり取りもせず。「若くて可愛い女の子だけじゃなくて、ちゃんと老若男女分け隔てなく治療するのよ」「おっと、釘刺されといてよかったぜ。まさしくそれが目的になるとこだった。さすがゼシカ」「バカ。……いってらっしゃい。アンタも、十分気をつけてね」「あぁ。行ってくる」それだけのそっけない別れ。それだけで全てが通じ合っていた。ゴルドで突然地盤が裂け、その場にいたククールが裂け目に飲み込まれた――そんな知らせが入ってきた一行は真相を確かめるためすぐに現地に向かったが、危険すぎるためゴルド一帯はすでに全面立ち入り禁止になっており、関係者のエイト達も例外なく締め出された。ただ、回復魔法でケガ人を癒し続けていたククールという青年が巨大な大地の裂け目に落ちたというのは事実であり、捜索救出に全力をあげている…ということだけしか知らされなかった。もちろん反発――とくにゼシカはとにかく中に入れろと本気で抗議したが、これ以上“犠牲者”を増やすわけにはいかないと、相手も絶対に譲らなかった。仲間達には、それ以上どうすることもできなかった。自ら確かめることも助けに行くこともできないのなら、あとは無事を祈るしかない。「絶対にそんなのウソよ、アイツのことだもの生きてるにきまってるわ、そのうち何事もなかったようにひょっこり帰ってきて、へらへら笑って適当に謝るのよ、あぁもう中に入れたら私が直接行って探してきてやるのに!そして思いっきり殴ってやるんだから、ホント世話ばっかりかけて…ッ!!」ずっと、ずっと、飽きることなくククールの悪口を言い続けながら、ゼシカはゴルドの壊れた入口に張られたバリケードの前から動かなかった。何時間も居座り続け、陽が落ちてきた頃にはゼシカはもう一言も発さず、拳を握りしめてじっと地面をみつめるばかりだった。エイト達が半ば強引に彼女を宿に連れ帰る時、周囲のヤジ馬たちは口々に、落ちた青年の生還は絶望的だろうと囁きあっていた――その日から、長い長い数日が過ぎた。ただ待ち続けることの辛さに、全員が精神の限界を感じ始めていた。中でも。「…ゼシカが、このままじゃもたないよ。薬でも飲ませて無理やりにでも眠らせないと」「ほとんど飲まず食わずでろくに寝もしねぇんじゃあ、あんな細っこい身体すぐにイカレちまいやすぜ…」エイトとヤンガスはため息をつく。何もできないというのはこうも苦しいものか。それは、彼女に対しても同じだった。エイトは血が出るほどに拳を握りしめ、床を見つめて呟く。「――…死体もないんじゃ、信じられるわけないだろ…バカククール…!!」信じられないのではなく、信じたくない。彼は絶対に生きていると信じられるのは、今ここに彼の姿がないからこそ。それだけの根拠のない希望にすがるしかないのだ。大地の裂け目に落ちたとすれば、亡きがらなど見つかるわけはない…エイトは消しても消しても浮かんでくるその思考を打ち消し、じっと扉を見つめた。今にも「ひょっこりと」あの銀髪の色男が帰ってきそうな気がして。 *柄にもなく緊張しながら、ゼシカがいると言われた部屋の扉をコンコンと叩く。返事はない。もう一度だけ叩いてしばらく待ち、静かに扉を開いた。あまりにも暗い部屋。今夜は月すら出ていない。窓と家具の形がぼんやりとわかる程度で、人の気配すら感じられない。本当にいるのだろうか?「…ゼシカ?」緊張のためか妙にかすれた声が出る。手探りでランプを見つけ出し火を点けると、ようやく室内が見渡せた。…ゼシカは、居た。窓際の椅子に座り、テーブルに突っ伏して身動ぎ一つしないで。眠っているわけじゃないのは、どこも弛緩していない身体の線を見れば一目瞭然だった。こわばった細い肩。交差した腕に食い込む震える指。テーブルの隅には追いやられた食事。いつもの元気なツインテールではなく、乱れた長い髪が机上に広がっていた。さっきの呼びかけは聞こえなかったのだろうか。「………ゼシカ」反応は、ない。足音を立てるのもなぜかはばかられ、躊躇しながらも、ゆっくりゆっくりと、彼女の背後に立つ。「……ゼシカ」今度はもう少しはっきりと、本人に対して呼びかける。彼女が伏せた頭を小さく横に振った気がした。…聞こえている。「ゼシカ…ごめん。心配かけた」もっと近寄り少しかがんでみるが、やっぱりゼシカは顔を上げない。「…なぁ、怒ってんのか?謝るから、顔、見せてくれよ…」急激に不安になり懇願するように告げると、今度こそゼシカは大きく首を振ってますます小さく身を縮こませ、己の腕の中に顔を埋めた。決して顔をあげようとはしない。途方に暮れ、しゃがみこみ床に膝をついて、うつ伏せたままの彼女を見上げた。―――意を決し、剥き出しの細い肩に手を伸ばす。どうしてこんなに緊張するのか自分でもわからない。きっと、彼女が今にもバラバラに壊れてしまいそうに見えるからだ…指先が、肩に触れた。冷たく冷え切った肩。ゼシカが確かにピクリと反応する。「ゼシカ」祈りを込めて名を呼びながら、勢いのままに力を込めて肩を揺すった。―――その瞬間。ガバッ!!と。唐突に顔をあげたゼシカの目と、彼の目が間近でぶつかった。「―――――ッ…。……わるい。驚かせたか…?」「…………」慌てて肩から手をどけ、目を見開いて無表情に自分を見つめるゼシカを見つめ返す。ゼシカは妙なほどじっと、ひざまずき自分を見上げる彼の顔を凝視した。やたらと長く感じられる沈黙が過ぎて、やがてゼシカがポツリと言葉を落とした。「……………………ク…ル?」「…あぁ。ちゃんと帰ってきたぜ」「……ククー…ル…?」「ごめんな。心配かけたよな。でもなんとか、生きてるからさ、この通り」「…………ぅ、そ」「ウソじゃねぇよ」ゼシカの目に映る“ククール”が、困ったように笑う。そしてゼシカに向かって大きく腕を広げた。「なんなら、抱きついて確かめてみる?オレならいつでも大歓げ――…うわっ!」その言葉を待たず、ゼシカは椅子から飛び降りるようにククールの頭に抱きついた。ククールは尻もちをつきながらほとんど押し倒されるような態勢で、ゼシカの身体を受け止める。小さな身体は冷たかった。そして震えていた。ゼシカはククールの胸に顔をうずめて、彼の名を何度も呼ぶ。そしてククールはそのひとつひとつに答えた。やがて叫びは嗚咽に変わり、涙がククールのシャツをまたたくまに濡らしていく。「…っひ、あ、く、ククール…ッ、クク、クク…ッ!!ううぅうぅ…っ!…うわぁああ…っ!!」「ゼシカ…ごめん、ゼシカ…ごめんな。…ごめんな…」彼女の激しい嘆きに驚きながら、それをこの上なく嬉しく感じ、ククールは思いのままに力を込めれば今にも壊れてしまいそうな小さく細いその身体を、できうる限りの優しさで抱きしめた。冷たい床に座り込んだまま、2人は気のすむまでそうして抱き合い、お互いの存在を確かめあっていた。 *少しゼシカが落ち着いたのを確かめて、ククールは彼女の頬に手をかけて顔を上げようとした。しかし、ゼシカはかたくなにククールの胸に顔を押し付けたまま、シャツを握る指を離そうとしない。「…ゼシカさん。顔、見たいんですけど」困ったように言ってみるが、思った通り無言で顔を横に振るばかりだ。そりゃあまぁ、これだけ泣きじゃくったわけだから、ひどい顔であることは確かだろう。無理強いはすまい。ゼシカのかすれた声がくぐもってククールの耳にかろうじて届く。「……ほんと、に、…帰ってきたの…?」「あぁ。ここにいるのは正真正銘本物のカリスマ騎士ククール様だぜ?」「ほんとに…?」「ほんと」「……」何がそんなに不安なのか。ゼシカはククールの背中に腕を回してぎゅっと力を込める。ククールは、さっきからあまりに意外なゼシカの行動に思わず赤面してしまう。普段の彼女からはとても想像できない、まるで小さな子供のようだ。しかしそれほどに心配させてしまったのかと思うとたまらず、ククールは彼女の丸い後頭部を優しく撫でた。「もう安心していいから…本当にごめんな…」また、胸の中で小さな嗚咽が聞こえ始める。そしてそれが聞こえなくなった頃、ククールが少し身体を離してみると、ゼシカは彼に抱きついたまま眠っていた。もしかしたら、気が抜けて気を失ったに近いのかもしれない。それくらい彼女の顔は疲れていた…「……ごめんな、ゼシカ」胸が痛み、心から謝罪して、軽い身体を静かに抱きあげベッドに寝かせる。かわいそうに。ろくに食べもせず、眠れもしなかったのだろうと容易に想像がついた。こんなにも想われていることが、ククールには歯がゆかった。信じられない気持ちだった。それでも、彼女の存在を神に感謝せずにはいられなかった。―――ふと、ゼシカの握りしめられた手の中に鈍く光るものを見つける。そっと指を開かせると、そこにあったのは“騎士団の指輪”だった。ククールは苦しみにも似た表情で指輪ごとその手を握った。何も、言葉にできなかった。広がる赤い髪をなでつけ、前髪をよけると、おでこにキスをする。頬に残る涙の跡が痛々しくて、そこにも口唇を這わせ、塩味のするそれを…舐めとる。深く考えないまま口唇にも口付けようとして、ハッと留まった。(…どさくさにまぎれて)自分自身にあきれ、どうせキスするなら起きてる時がいい、と言い訳して、ククールは立ちあがった。これ以上こうしていたら、無防備に眠る彼女に何をしでかすかわかったもんじゃない。置いていくのは少し躊躇したが、ククールは引かれる後ろ髪を振り切って、静かに部屋を出た。 もしも君が死んだら 後編