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51 『約束』1/4 ◆JbyYzEg8Is [sage]2005/09/07(水) 20 13 42 ID mtnG8Ja3 約束 55 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/07(水) 21 00 41 ID rZE41WgB 51 なんて切なくていい話なんだ…・゚・(ノД`)・゚・ しかし、そうなったらゼシカママンの反応が気になるなw 57 51[sage]2005/09/08(木) 23 05 12 ID uLRMnVgU 55 ありがとうございます。 55 ゼシカママ、もちろん大反対でしょうw 普通に恋人として紹介しても反対しそう。っていうか、してほしい。 恋は障害があった方が燃えるから。 58 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 00 27 03 ID t9KGkZU/ 57 恋は障害があった方が燃えるから 激しく同意同意同意ーーーーー(;´Д`)!! あまつさえ、彼が各地で浮名を流しているのをママンの耳にも入ってたりしてたら (過去にリーザスの女も口説いてたりしてw)そりゃもう大変。 兄を理想としていた由緒正しきリーザス家のあなたとあろう者が あんな見た目だけのチャラチャラした男に騙されるとは何事ですか!とまくしたてるママンに 私も最初はそう思ってたけど彼は違うの!とまたもや母娘で口論バトル。 ククなんかはどう出るんだろう。 やべぇ萌えが止まらない… このあたりのエピソードも職人さんに書いて欲すぃ。 59 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 01 00 56 ID BXh11q3p 58 ちょwwwwwwっうぇwっをまwwwwww早まりすぎワロス 60 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 01 05 41 ID f8mr2hEf 障害はママンだけではなく、屋敷の前に立っていたあの青年が怒濤の反撃に出て三つ巴の 戦いになるとか、 その前にあのがきんちょを攻略しないと屋敷には入れてもらえないような気がしてきたり。 無事にモシャスを習得してうっかりゼシカになっちゃった彼女を間違って口説いちゃったり。 「モシャスの次はルーラだ」とかなんとかで、そりゃあもう楽しい展開が……。 ……ククールにとっては最難関のダンジョンになり得るんじゃないだろうか、リーザス村。 とりあえずママンの方針としては、ルーラを使わせないために呪文封じor天井のある場所へ避難 などなど、前途多難なんじゃないかと考えてたら楽しくなってきました。 61 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 01 57 38 ID NTWFV6SE ククのことだからママンも口説いた前科ありとか 62 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 07 21 19 ID Dw6leEJA 60 あのがきんちょってポルクとマルクの事? この2人も色々思い浮かべるものがあるなぁ。 「ゼシカねえちゃんを取ったーーーー(大泣)!!」とククに突っかかり 一生懸命なだめすかす2人。いや、ありえないかな… 63 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 17 53 16 ID brMRskv7 エンディングまでには二人は既に一線を越えていた ↓ しかしトロデーンの宴会でククールが別の娘にちょっかいを出して、 喧嘩になり、そのまま別れた ↓ 数ヶ月後に再会した時にゼシカはヨリを戻そうとしてたが、 ククールが女連れでガックシ。 ↓ しかし直後にククールの連れた女が消えてるので、 やはり二人はヨリを戻したのであった。 64 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/09/09(金) 22 57 45 ID uM878bEq それはなかなか面白い。 ゼシカとくっついてからもやっぱ浮気すんのかなー… 浮気癖はそうそう簡単に直らないと言うしちと切ない
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ドルマゲス追跡時以来、久しぶりにベルガラックを訪ねた一行は、成り行きでギャリング家の家督騒動に首を突っ込んでしまっていた。 一行はギャリング兄妹からひと通りの依頼内容を聞き屋敷を出た後、その依頼をどう受けるかについての相談を町はずれですることにした。 「ユッケを嫌っているわけじゃないけど、護衛するなら私はフォーグがいいな」 口火を切ったのはゼシカだった。それにすかさずククールが茶々を入れる。 「さてはゼシカ、ユッケちゃんがオレに惚れたらヤバいって思ったんだろ?」 「何を馬鹿なこと言ってんの?」 負けず劣らず、ゼシカの応酬も素早いものだった。 ゼシカは片手を腰にあて、もう片方の手の人差し指をククールの鼻先に突きつけて話を続けた。 「だってユッケはベルガラックで一番のお嬢様でしょ?街の人たちから見て得体の知れない一行よりは部下をつけた方がいいんじゃないかって思っただけよ」 「おいおい、まるでオレらが悪い虫みたいな言い方だな」 「「オレに惚れたら」なんて言ってるんだから、どこから見ても悪い虫じゃない」 「そんなのアッシはどっちでもいいでげすよ」 色々な意味で馬鹿馬鹿しい、といった空気を漂わせるヤンガスの冷めた一言が割り込んだおかげで、ゼシカとククールの妙なやりとりは一旦止められた。 「オレは断然ユッケちゃんだね。エイトも護衛をするならユッケがいいよな?」 全くもう人の話を全っ然聞いてないんだから…と言いたげに、ゼシカは冷ややかな視線でククールを見ながら肩を落とす。 ククールに意見を求められたエイトはその様子を見ながら暫く考え、口を開いた。 「ゼシカの話も分からないでもないんだけどさ。部下の人たちと僕たちを比べたら、多分僕たちの方が戦力的に勝ってると思うんだ」 「闇の遺跡での事を考えりゃ、確かにそうでげすな」 うんうん、と、ヤンガスが頷く。 「で、僕たちがユッケさんの護衛をすれば、フォーグさん側との戦力バランスが五分に近づくと思うんだ」 「二人の勝負の為に、できるだけフェアな環境を作ろうってことね?」 「うん、そういう事。それでいいかな、みんな?」 「兄貴の言う事に間違いはねえでげすから、アッシは賛成でがすよ」 ヤンガスがそう言う中、ククールは無言でエイトの側に歩み寄り、その正面に立つと両手でエイトの肩をガッシリと掴む。 「うむ。見事な騎士の選択だ。やっぱ女のコを守ってこその騎士だぜ」 そう言いながらバシバシとエイトの肩を叩き始めた。 「騎士は関係ないでしょ、騎士は!」 やたらと嬉しそうな様子のククールを呆れ顔で見ながらゼシカは言った。 「騎士なら男女の別なく守るもんでしょ?普通」 「イヤだね。フォーグに誓願立てたわけじゃあるめーし」 「ほらやっぱり!結局ユッケとお近づきになりたいだけ……」 何故か言葉は途中で途切れ、ゼシカは黙り込んでしまった。 「あれ?どうかしたのゼシカ?」 ゼシカはククールの言葉の中にあった、聞いたことのない言い回しが気になって仕方がなかった。 気になったら確かめなければ気がすまないのがゼシカの性分だ。 しかし言葉の主であるククールに聞くのが癪だと思ったゼシカは、エイトの呼び掛けをこれ幸いにとエイトに向かってその疑問を投げ掛けた。 「ねえエイト……「誓願立てる」って、何?」 「ああ」 エイトは柔らかい笑みを見せながら話し始めた。 「騎士が主君に忠誠を誓うことを、誓願を立てるって言うんだよ」 「ふうん」 ゼシカは瞳を丸くしてエイトの説明に耳を傾ける。ククールの不純な動機のことはすっかり蚊帳の外となってしまっていた。 「僕も近衛兵に登用して戴いた時にやったんだよ。玉座の間で、大勢の見届け人がいる前で、正装して」 「へえぇ、なんかかっこいいね……」 今まで旅をしてきた中で三つの国の玉座の間に入る機会に恵まれたゼシカは、エイトの語る儀式の様子を脳裏に思い描いていた。 茨に覆われてはいたものの、トロデーン城の玉座の間は吹き抜けになった高い天井と大きなシャンデリアと広さが印象的で、その豪華さは三国の中で文句なく一番だった。 そこを舞台に行われた王室の儀式は、さぞかし盛大で荘厳なものだったのだろう……。 丸くなっていたゼシカの瞳は、いつの間にかうっとりとした状態に変わっていた。 「端から見りゃかっこいいかもしれねぇけどよ?当の本人は必死なんだぜ」 だよな!と、ククールが再びエイトの肩を叩きながら言った。 「作法間違えてねぇか、セリフ間違えねぇか、ってな」 「そうなんだよねー」 頬を掻き、苦笑いをしながらエイトが頷く。 やけに具体的なククールの言葉を聞いて、ゼシカは現実に引き戻された。 そしてハッとする。 「ええっ!?もしかしてククールもやったの?その儀式」 「当たり前だろ!失礼な…。オレだって騎士のはしくれだぜ」 大袈裟に仰け反り本気で驚くゼシカの側にククールは歩み寄り、話を続けた。 「マイエラ修道院のは、聖堂騎士団の指輪を授かる儀式でもあったけどな」 「そんな大事な指輪を、あんたってばホイホイと他人に渡したのね」 「ちゃんと戻ってきたんだからいいじゃねーか」 にやりと笑い、そう言いながらククールは右手でゼシカの右手を取る。 「指輪ならいらないわよ?」 「違うって!話のついでに誓いの言葉、聞いてみないか?」 一度首をもたげてしまったゼシカの興味は治まらなかった。 「うん……折角だから聞いてみようかな」 ゼシカの回答を得たククールは目をつぶり、深呼吸をする。 「では、リクエストにお応えして…」 一言、また一言と、異様ともいえる間隔を空けながらククールは誓いの言葉を綴っていった。 「平和な時、いくさの時、生きる時も、死す時も」 ゼシカはその様子を見て素直に感心していた。 (ふうん…。普段ふざけてばかりいるけど、やることはちゃんとやってきたんだ、ククールってば) 「この時より以後、主君が我を解きたもうまで」 マイエラ修道院のどの場所で儀式は行われたのだろう? 入ってすぐの広間だろうか?それとも噴水のある中庭だろうか? 「神の腕(かいな)に我が魂が抱かれるまで」 (うわぁ…これ、すごくかっこいい………) 聞き慣れない文体であることも手伝って、ゼシカは再び夢心地となりつつあった。 ふっ、と不意に右手が僅かに下へ引かれたことでゼシカは我に返り、ククールの姿を見て唖然としてしまった。 先程まで立っていたはずのククールが跪いているではないか! その姿だけでも衝撃的であったのに、続くククールの言葉と行動はゼシカに更なる衝撃を与えた。 「我が主君、ゼシカに忠誠を誓います」 そんな言葉を言われた後、手の甲に恭しく口づけをされてしまっては、ゼシカは顔を引きつらせ赤面するより他はなかった。 「…以上が騎士側の一連の流れ、さ」 立ち上がってさらりと言ってのけるククールを見て、ゼシカは何か言いたげに口をパクパクとさせていたが、全く言葉にならない。 成り行きとはいえ自分から希望した状態なので、文句の言い様もなかった。 「ほんとは最初っから跪くんだけどな。でもそうしてたらゼシカ、多分最後まで聞けなかっただろ?」 ククールはいつものように、にやりと笑いながら言う。 「………もうっ!!」 ゼシカは地団駄を踏むと、くるりと三人に背を向けた。 「もう……恥ずかしすぎてみんなの顔見てられないじゃない!!」 そう言い放つと脱兎の如くその場から駆け出して行ってしまった。 「気が強くても、あれで根は純情な娘っ子だ。からかうのも程々にしといたらどうでげす?」 呆れた口調のヤンガスに、ククールは彼方にあるゼシカの後ろ姿を見つめたままポツリと言った。 「別にからかったつもりじゃないんだけどな」 一旦言葉を途切った後、振り返ったククールは努めて軽薄な口調で続けた。 「あーそうそう。今の見届け人はお前らってことで、よろしくな」 「ええーっ!!?」 「ななっ!?どうしたんでげす兄貴!?」 ヤンガスはエイトの今までにない驚き様に驚いただけだったが、エイトは別の理由で心底驚いていた。 「そ…それって、その…言葉は変だけど二股になるんじゃ?」 「言うにことかいて二股かよ!…人聞きの悪い」 予期せぬ言葉に噴き出した後、ククールは真顔でエイトの疑惑を否定した。 「オレが請願を立てたオディロ院長は召されてしまったんだから、さっきまでオレはフリーだったんだぜ?」 「あ、そうか。そういう事になるのか」 エイトは拍子抜けするほどあっさりと納得する。 肝が据わっているのか深く考えていないのか、そのあっけらかんとした表情からはどちらとも伺い知ることはできなかった。 二人のやり取りでようやく状況を把握できたヤンガスは、深くため息をつく。 「なるほど。ゼシカの姉ちゃんと同じく、アッシも一生縁がないと思ってた事を背負い込まされたわけでがすな…」 そう言って途方に暮れるヤンガスの肩を、エイトはポンポンと叩いて慰めた。 「さてっと!頃合いを見計らって我が主君殿のご機嫌を伺わないとな」 「夕暮れ前にはギャリング家にご挨拶に行きたいから、それまでに頼むよククール」 了解、と手で返事をしながら、ククールはゼシカの走り去った方角へと向かった。 (やっぱ主君側の言葉までは説明できなかったか……) 儀式の続き。 主君が騎士に下賜する言葉は、ククールの記憶では確かこういうものだった。 「そなたの誓いをこの胸にとどめ、その働きに報いを与えよう」 「忠誠には愛。武勇には栄誉。不忠には復讐で報いよう」 歩きながらククールは苦笑する。 (不忠には………多分メラゾーマだよな、ゼシカの場合……) ~ 終 ~
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黒と静寂が世界を包む頃。 森の中に一際明るく、そして激しく辺りを照らす光があった。 光の破片は天へと昇り、ゆっくりと紺に溶け込む。 パチパチという音に合わせて柔らかく形を変える炎の周りには、野営の準備に勤しむ仲間の姿があった。 馴れた手つきでテントの骨組みを組み立てる青年が言った。 「遅くなってごめんね。どうしても今日中にこの地点までは着きたかったんだ。」 もう片方のテントの方が作業は進んでおり、骨組みに布を被せながらゼシカは言った。 「気にしないで。貴方のこと信頼してるから。」 「兄貴の言うことに間違いはないでがす。」 「あはは、ありがと。ゼシカ、ヤンちゃん」 作業を続けながらエイトはゆっくりと振り返る。 火に照らされながら気持ちよさそうに眠るミーティアと、馬車の中で大きな鼾をかいて眠るト ロデ王を見つめてぽつりと言った。 「…ミーティアと王様にも悪いことしたね。」 「そんなことあの二人は何とも思っちゃいないでがすよ。」 自分用のテントの仕上げに、布と地面を固定する。 きゅっと最後の紐を引っ張り、しっかり引き締まったのを確認すると、ずっと手元にあった視 線を上げてゼシカは言った。 「だいたいエイトは気にしすぎ………… って、あれ? …ククールは?」 てっきり居るものと思ったが、もう片方のテントを組み立てているのはエイトとヤンガスだけ であった。 「サボリじゃないでげすか?」 「明日飯抜きにしてやる」 初めての事ではなく、えらくあっけらかんと言い放つ仲間達。 ゼシカは呆れたように眉を寄せるとため息をついた。 「ちょっと探してくるわね。」 どうせそう遠くは行っていない。 ゼシカは草むらを掻き分け、風の吹く方へと歩いて行く。 生茂った木々の終わりを抜けると足場のよい場所へと出た。 崖状の、辺りの地形が見渡せる場所に、ククールは一人腰を降ろしていた。 「ちょっと、準備サボって何でこんな所にいるのよ?!」 「…見つかったか」 少しも悪怯れない様子で苦笑いをするククール。 真っ直ぐククールの方へ近づくゼシカは、そのまま強制連行するのかと思いきや、その隣にど っかり腰を下ろした。 「…不安、なんでしょ?」 「そういう訳じゃないさ。 ……まあ、そりゃ全く不安はないって言ったら嘘になるけど。」 「うん。きっと、みんな同じ気持ち。 もう、誰が死ぬのも見たくないもの…。」 …海峡の街であった出来事や、遥か雪国であった出来事。 少しの沈黙の間、二人はそれぞれ想いを廻らせた。 「…ねえ、祈ってよ。」 初めにそう切り出したのはゼシカだった。 「はあ?」 「あんた、仮にも僧侶でしょ? だから」 「生憎とオレはあんまりカミサマなんざ信じちゃいないんだがな。」 軽くため息混じりに吐き出す。 「私もよく分からなかったけど……今は、ちょっとだけ、いるんじゃないかって思うわ。 私達が出会ったのも、暗黒神とか何とかを封印しに行くのだって、運命だったんじゃない かって。」 「ゼシカは幸せに育ったんだな。」 ククールのその言葉が皮肉に聞こえ、ゼシカは思わずムッとする。 「神様……か」 いつものふざけた表情とは違い、いつになく真面目な顔で語りだす。 「オレは今までいろんな奴を見てきた。 ―歪んでいる人間ほど、全てを手にして幸せになっていくものさ。 その裏では毎日食ってくのに精一杯な、マトモな人間だっている。 …そんな奴らを見てると、とてもこの世に神様がいるなんて思えないね。」 ククールは一息つき、視線を遠くに移して、言葉を続けた。 「……所詮世界ってのはそんなもんなんだ。 例えば、オレみたいな人間が居なくなったって初めから居なかったかのように、何も変わ らず世界は廻り続けるのさ。」 ゼシカが見てきたものと、ククールの見てきたものは違う。 そしてゼシカはきっと限られた世界の中で、幸せに育ってきたのだろう。 それ故妙に説得力を帯びていた言葉も、やはり最後だけは引っかかった。 「…それ、本気で言ってるの?」 怒鳴りつけてやろうと思った。 ククールとって、ゼシカ達は所詮それだけの存在だったのだ。 一体どれほどの時間を共有したのだろう。 生きてきた時間に比べればほんの短い間だけれど、ゼシカにとって、それは仲間と呼べる関係 になるには十分な時間だった。 そう思っていた。 きっと、エイトやヤンガス、トロデやミーティアも同じ気持ちだろう。 それなのに、ククールにとってはそうではなかったのだ。 居ても居なくとも変わらない存在なんて仲間と呼べるはずはない。 ククールにとって自分達は一体何なのだろう? そう思うと腹が立って仕方がなかった。 「…っ」 しかし、言葉より先に出たのは頬を伝う雫だった。 「………え?」 気付いたククールは目を見開いた。 涙は頬を落ちてスカートを濡らす。 …時々、遠くを見ているような、どこか寂しそうにする眼をゼシカは知っていた。 ククールがふいに何処かへ行ってしまいそうになるような感覚も。 彼の本心に触れた今、己が抱えていた不安の正体を知ってしまったのだ。 一滴落ちてしまえば止まらなくなり、次々に溢れ出す感情の形を、ゼシカは手で抑えることし かできなかった。 いつも気丈なゼシカが泣いていて、そして泣かせたのは自分かもしれない。 自分が何をしたかと必死に頭を廻らせるが、焦りと動揺で上手く思い出せない。 すすり泣く声が一層ククールを追い詰める。 「わ、悪い! 別にゼシカを否定したり、そういうつもりは…」 咄嗟に言葉を紡ぐが、それでもゼシカが泣き止む気配はない。 それどころかククールの声は全く届いてないように思われた。 「た、頼むから、泣き止んでくれ…」 そっとゼシカの髪を撫でる。 女を宥める時の条件反射のようなもので、ゼシカを包もうと腕を伸ばしたその時だった。 「何? どうしたの」 後ろの草陰から姿を現したのはエイトだった。 野営の準備が終わったので二人を探しにきたのだ。 途中ゼシカのすすり泣く声を聞いたのだろうか、少し慌て驚いた様子でククールとゼシカを同 時に見た。 (助かった…) ゼシカの親友であるエイトなら、彼女を任せるには打って付けだろう。 ククールはエイトに助けを求めようとするが、既にエイトはククールのことなど眼中になく、 その視線はある一点に集中していた。 呆然とゼシカを見つめた後、一瞬鋭い視線がククールを襲ったのは気のせいだったか にこやかな表情で問い掛けた。 「……ククール? ゼシカに何したの?」 そう聞くも、どうやら自身の中では確かな答えを出しているようだ。 表情とは裏腹に紫のオーラと殺気が身を纏う。 クールは生命の危険を感じた。 (ぜってー何か誤解してる!) 「いや、オレは何も…」 ゼシカに弁護を頼もうと見やるも、溢れる涙を手で拭うので精一杯で、全く状況を把握できて いなかった。 「…嫌がるゼシカに無理矢理一体何をしたの?」 「だから何もしてねえって!」 「女の子にムリヤリ手を出すなんて最低だよ!!」 エイトの抜いた剣が光り輝く。 天に掲げた剣から鋭い閃光が駆け抜けた。 「いや~、そんなことだろうと思ったんだよね。いくら節操無しのククールでも仲間を無理矢 理、なんてさ。」 テントの中で、治療を終えた青年が呑気な声をあげた。 「お前…、人を殺しかけといてよくぬけぬけと…」 実際、ゼシカがあと一歩のところでエイトを止めてくれていなかったら今ごろククールは 棺桶の中だっただろう。 もしもゼシカがいなかったら……想像しただけで背筋が凍った。 「ベホマかけてやったんだからいいじゃん」 「そうでがす。プラマイゼロでがす。」 「お前らね」 死ななかったからよかったものの、やはり何だか腑に落ちない。 「…クソ。 馬姫さんに言いつけてやる。」 「姫はクックルのアホの言うことなんて信じませんー」 意地悪く吐いた後、取って代わって少し真面目な顔つきでエイトは言葉を続けた。 「それに、ゼシカを泣かせたのは本当なんだろ? 早く行ってきなよ。 …ゼシカには、今日の見張りは僕達でするからゆっくり休んでって言っておいたから。」 「まったく女を泣かせるなんて最低でがす!」 「そうは言っても心当たりないんだがな…」 首の後ろを掻きながら考えるが、やはり心当たりはない。 ククールにとってあの言葉はそれほど深い意味はなかったのだ。 「ククールってさ、結構鈍感だよね。」 「うわー、お前には言われたくねー…」 「とにかくさ、何があったかは知らないけど、当たって砕けてきなよ」 「砕けてはこねえよ」 「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行くでがす」 「言われなくても行くよ、馬鹿」 仲間に促されてククールは重い足取りでテントを出た。 (まあ女を泣かせたままにするのも男が廃る) 焚火跡を挟んで対極側にもう一つ小さなテントがある。 ククールは近づき、テント越しに話し掛けた。 「…あー…あー…、なんだかよく分からんが一応謝っておく、悪かった。」 「………。」 灯りは点いていなかったが、確かにゼシカが起きている気配はあった。 ククールは多少気不味さを感じながらも、静かにゼシカの言葉を待った。 「…本気でそう思ってるの?」 そう話すゼシカの声は、至って落ち着いた、少し低い声色だった。 「…………あ?」 「さっきの、続き。 …あんたが昔どんなだったかは知らない。 だけど、今も、私たちと一緒に旅をするようになった今だって、あんたは自分が居なくて も、私たちが心配…………か、悲しまないとか、思ってるの? 何も変わらないって、 そう思ってるの?」 「………。」 「ふざけないでよ。 ……あんただって死なせない。絶対全員生きて帰るんだから。」 ゼシカの一言一言が深く響く。 「あんたにとって私たちって何なの。仲間じゃ…ないの?」 テント越しに、言葉を交わす。 お互い顔は見えなかった。 「…なんとか言いなさいよ。」 「……『私達』なんだ? 『私』じゃなくて?」 低く、静かにククールは言った。 笑いを含んだその言葉には、少しだけいつもの調子が戻っていた。 「『私も、みんな』、よ!」 「そっか。…ゼシカはオレに居てほしいんだ?」 「だから『私やみんな』だってば!」 茶化した風に言う言葉の裏で、必要とされることが嬉しいことだったと、ククールは初めて知 った気がした。 「…ゼシカ。出て来いよ。」 「嫌よ。寒いから。あんたが入ってきなさいよ。」 「そんなこと言っちゃっていいの? オレ、男だぜ?」 「変なことしたら大声でエイトとヤンガス呼ぶからいいわよ。 ギガスラッシュと烈風獣神斬で今度こそ棺桶行きね。」 「…冗談だよ」 テントの出入り口である布を軽く捲り上げると、ククールは中を覗き込んだ。 そのすぐ傍に居たゼシカもククールを見上げる。 そんなに時間が経ってるわけではないのに、お互い顔を見るのはひどく久しぶりな気がした。 「元気そうな顔見て、安心した。」 ククールが本当に安心したように柔らかく微笑むものだから思わず吹き出してしまう。 「ふ。何よ、それ。」 そう言って、つられたように微笑むゼシカの顔は、すっかりいつもの顔だった。 自分の中にくすぐったい気持ちを感じながらククールはそっと自分の方へゼシカを抱き寄せた。 何とはなしに、いつもの不真面目なククールとは違う気がした。 そして、今のククールが本当の姿のような気がしたから、ゼシカもまた、振りほどけないでいた。 ただただ自分の顔が染まっていくのを感じていた。 捲れた布の隙間から、そよそよと心地よい外気が流れる。 それはククールの背中越しに、ゼシカの前髪を小さく揺らした。 ククールは俯けた頭を、そのままゼシカの肩に軽く乗せた。 「ゼシカに会えて、よかった。」 肩に置いた頭を持ち上げて、額に持っていき、そっと唇を置く。 柔らかく、暖かい感触がゼシカに伝わった。 「あ、あんたねえっ 調子に乗りすぎよ!」 顔を真っ赤にしたゼシカはククールを振り払うと、拗ねたように背中を向けた。 サイテー、信じらんない、とぶつぶつ怒るゼシカに、ククールは目を細めて愛しそうに微笑んだ。 ――かつて、世界は閉じられていた。 欲しいものは手に入らなくって、いつだって、手を伸ばしても遠ざかっていくだけで。 仲間を仲間だと思っていない訳ではなかった。 実際、救われた部分も沢山あることを自覚している。 一緒に旅をするようになって新しく見えてきたものだって数え切れないほどある。 ただ、何度呼んだって、振り返ることのない背中を知ってるから。 苦しい感情から逃げ出したくて、何も求めず生きようとした時期もあったから。 なかなかそういったことを現在と結び付けられずにいたのだ。 (けど、そうだな、今は――) 「ゼシカ」 「なによ?」 不機嫌そうに眉を上げて。それでも振り返ってくれる君がいるから。 「また明日、おやすみ」 捨てたものじゃないな、と、ククールはそう思った。 「……おやすみ」 ゼシカは捲り上げた布の合間から、去って行くククールの姿を見つめて言った。 ククールがテントに戻ったのを確認すると、緊張の糸が切れたように体重全てを預けてころん と横になった。 まだ、顔が暖かい。 (眠れるかな……) 「…合意ならいいんだよ、僕は。別に。」 テントに戻ったククールが、目を逸らしながら何処か詰まらなそうに言うエイトと、ニヤニヤ しているヤンガスに、動揺と気恥ずかしさを覚えたのはゼシカが知らない話。
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初期(なんなのこの軽薄男!こういうタイプだけは信用できないわ。 そりゃそれなりに事情を抱えてはいるみたいだけど…。 ………やっぱりダメだわ!なるべく2人きりにならないようにして距離を保とうっと) 中期(……なんでこの人自ら人に嫌われるようなことばかり言ったりしたりするのかしら。 本当は優しくてちゃんと仲間を気遣える人なのに。まぁ女好きってのは変わらないんだろうけど。 ………実はククールって、すっごく傷つきやすいんじゃないのかな…) 後期「ねぇククール…。どうして私に…私達にまで、そうやってバリケード作るの? そんなに私達は信用できない?仲間としてククールを安心させてあげられてない? …私、悔しいのよ。あなたのその凍り付いたままの気持ち、溶かしてあげたいの…」 末期「ねぇククール。私が炎使いでよかったでしょ?(ウィンク☆)」 「そうだな。ゼシカのメラはオレにとっての特効薬だぜ(色んな意味で)」
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4人で暇つぶしに始めたポーカーは、ククールの全戦連勝。すでに夜も深い。エイトとヤンガスは もう寝ると言って部屋に引き上げてしまった。残ったのは、負けず嫌いのお嬢様と煩悩まみれの僧侶。 「…ゼシカ、お誘いは嬉しいけどオレも正直眠い」 「ダメよ、あと一回!あと一回だけつきあいなさい!さっきはいいところまでいったもの、次はいけるわ」 辟易していたククールの顔に、ふいに浮かぶ悪巧みのほほえみ。 「…いいぜ、じゃああと一回だけ。そのかわり、次でゼシカが勝てなかったら、罰ゲームな」 一瞬きょとんとしたゼシカの顔がわずかに赤らみ、キツくククールをにらみつける。 「…………イヤらしいこと考えてるなら燃やすわよ」 「バカだな、紳士は女性の弱味につけこんで手を出すなんて真似しねぇの。単純にその方が楽しいだろ? 罰は…そうだな。じゃあ、”指文字当て”で」 「なに、それ?」 「手の平とか、…背中とか?見えないところに指で文字書いて、なんて書いてるか当てるのさ」 「ふぅん。………別にいいけど、そんなのが罰ゲームになるの?」 「やってみりゃよくわかる」 「で、なんでククールがそんなに嬉しそうなのよ」 「やってみりゃ、よーくわかるよ」 怪訝そうなゼシカに、こみあげる笑いをおさえつつ、ククールはサラリとそう言った。 ククールはソファに腰掛け、長い足を組んで上半身だけを横に向けた。 そこには、ククールに背中を向けてソファの上に乗っているゼシカ。 準備は万端。そう、もちろん最後の勝負に勝ったのはククールだった。イカサマしたかどうかは このさいどうでもいい。目の前には、最高にいい女の剥き出しの背中が無防備にさらけ出されている。 その肌を目を細めて眺めていると、沈黙に耐えかねたのかゼシカがこちらを小さく振り返った。 怒ったような困ったような表情で、無言でククールを見ている。 この状況で、そんな目で、男を見ない方がいいぜ、お嬢さん。内心で苦笑しながら、 ククールは左手の手袋を口でくわえて、わざとゆっくりと外していく。ゼシカはそれをじっと見ている。 「……じゃ、やるぜ?ゼシカ」 「…………もったいつけてないで早くしなさいよ」 明らかに不安を帯びた声音とは裏腹な強気なお誘いに、ククールは小さく吹き出す。 身を乗り出したククールを見てゼシカは慌てて前に向き直ると、無意識に全身を思い切り強張らせた。 はじめは大胆にではなく、羽根のようにそっと指を辿らせる。 きめ細やかですべらかな肌。日に晒されながらも白く美しい背中。なんの警戒心もなく目の前に 差し出されている、そのうなじや、華奢な肩に、ツインテールの後れ毛。 いつも自分の目の前にありながら、触れたことなどほとんどなかった。 文字なんか書いちゃいない。時折ピクリと反応する背中を愛おしく思いながら、その感触を確かめる。 「………わかった?」 「………わかんない」 深夜の部屋に、男と女が2人きり。聞こえるのはもう何度繰り返されたかわからない囁くような問答と、 小さな息づかいだけ。お互い口にはしないものの、明らかに昼間の自分達とは違う濃密な空気に、 ゼシカは戸惑い、ククールは酔っていた。 姿勢を正して座っていられなくて、ゼシカはいつのまにか少しだけ前のめりになり、 手許のクッションをギュッと握っている。背中がくすぐったくて、熱い。ククールの長い指が 自分の背中を這い回っていると思うと、気持ち悪い…のに。気持ち悪いだけじゃない気が、する…。 ゼシカは意を決して声をあげた。 「く、ククール。………もう、やめましょ」 「……なんで?ゼシカまだ当ててないじゃん」 「だ、だからって。こんなのキリがないわ。罰ゲームだっていうなら、他のものにしていいから… ………これ以上、これは、続けたくない」 「………………………ふぅん」 不満気なククールの呟きにゼシカが背中を向けたまま硬直していると、離れていたククールの指が 再び背中に触れてビクッとしてしまう。指先だけじゃない、手の平全体で触れている。 「じゃあ…………。…………今から書くの、全身全霊で、感じて、当てて」 「え…?」 指が、ことさらにゆっくりとゼシカの背中をすべった。しっかりと意味をもつ言葉をつづりながら。 ゼシカは目を見開いた。ククールは、書き終わると無言のまま返答を待っている。 ゼシカの顔が赤いような気がするのは気のせいだろうか?耳も、背中も、ほんのりと染まっている。 「……………………………………………………わかんない」 長い沈黙の末に、ゼシカはそう答えた。 それを聞いたククールは、心底楽しそうにクックッと笑いながら指を離した。 ゼシカは顔どころか全身を赤く染めてうつむいている。 2人の特別な夜もお開きに近づき、ゼシカがようやく肩の力を抜いてため息をついた時。 「…………!!!!!」 最後の戯れとばかりにゼシカの背中に口づけを落としたククールが、背後で囁いた。 「………今のは、わかる?」 「………………………ッッ、~~~~~バカッッッッ!!!!!!!」
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ゼシカが珍しく風邪をひいた。しかもかなりひどい風邪だ。もちろん命に別状はないが、高い熱がなかなか引かず食べられないので体力消耗が激しい。ゼシカのベッドの周りに心配そうに集まるエイト、ヤンガス、トロデ王。ひたいの濡れたタオルをこまめに変え、汗をふいて、水を飲ませれば、もうしてやれることはない。薬を飲めば少なくとも熱の苦しさは減るのだが、そのためには何か食べなくてはならない。しかし何か食べられる?と聞いても、ゼシカは力なく首をふる。トロデが、食欲がなくても多少なり食べないと回復が遅れるばかりじゃぞ、と諭しても、ゼシカはどこか子供のように顔をしかめてふるふると首を振るばかり。仲間達はため息をついた。「――――ゼシカ」突然開かれたドアと共に飛び込んできたその声に、ゼシカはうっすらと目を開けた。持ってきた荷物を下ろして、ククールはゼシカのベッドに腰掛ける。「どうだ?なんか食べたか?」ゼシカだけでなく同時に仲間達にも向けられた問い。しかしわずかに顔をそむけたゼシカと苦笑を浮かべる仲間の反応に、ククールはまったく、と呟く。「食いたくねぇのはわかるけど、そのままじゃ しんどくてちゃんと寝ることもできねぇだろ。 せめて薬飲んで熱下げないと」「…ら、ない」「そんなしっかり食べなくていいんだよ。おかゆか何かもらってきてやるから、ちょっとだけでも食べて」頬に手の平を当てて熱さを確かめながら、な?と首をかしげる。ゼシカは不満そうに眉をひそめるものの、黙ってククールを見つめている。「それとも何かリクエストあるか?」汗ばむ額にかかる前髪をそっと後ろに流してやりながら訊くと、しばらくもぞもぞと落ち着かなげにしていたが、やがてかすれた声で答えた。「――――ククー…ルの、…お芋の…甘いの…」一瞬なんのことかわからなくてえ?と聞き返すと、「前、に、作ってくれたの…甘いの…あれが、食べたい」ククールは あぁ、と頷いた。以前野宿の途中に、さつまいもを練乳でやわらかく煮込んだ簡単なおやつを作ったことがある。修道院時代に、幼い修道士たちに何度か作ってやったりした。ゼシカはそれをひどくお気に召して、とってもおいしいこれ大好きありがとうククール!と無邪気に笑ってくれて、ひまつぶしに作っただけだがしてよかった、と思った記憶がある。あんなもんでいいならいくらでも作ってやるよと、ククールは厨房を借りようと立ち上がった。しかし。「………ゼシカ?」ゼシカの手がククールの服の裾をつかんでいる。ハッとしたゼシカはすぐにその手を放したが、表情は何か言いたくてたまらない様子だ。しばらく待っていたが何も言い出さないので、ククールはもう一度ベッドに座り直す。「どした?」伸ばされた手を握ってやる。ゼシカは何度も目線を合わせたりそらせたりしながら、しばらくしてようやく小さな小さな声で囁くように言った。「―――……いっちゃうの?」すがるような弱弱しい視線に、ククールは一瞬目を見開いて、それからクスリと笑った。病気の人間はとかく甘えたで寂しがりと相場は決まっている。「行かないと作れねぇだろ?どうしてほしいんだよ」おかしそうに笑うククールに、ゼシカはうぅ、と唸り、だって、と言い訳するがあとが続かない。「2、30分もあればできるよ。それとも待ってられない?ゼシカがそう言うならオレはここにいるけど」意地悪なフリをした、本当は慈しみと愛しさに満ちた声音。ククールが顔を覗き込むとゼシカは少し躊躇したのち、不満いっぱいの顔で、まってる、とぼそり。よしよしいい子いい子とからかうように頭をなでると、ゼシカは口唇をとがらせ、「……でも…すぐかえってきてよ」「ちゃんといい子でおねんねしてたらな」恨めしそうなゼシカの目線に、ククールは静かな笑みを浮かべた。そっと手を離して立ち上がるとまた寂しげに見上げてくる潤んだ瞳に、捕えられ、そらせず、ククールは苦笑した。シーツに手を付いて身をかがめ、彼女に至近距離で顔を近づける。「…口唇でいい?」その意味を読み取って、ゼシカは頬を赤くする。「…いいわけないでしょ…」「そう?してほしそうに見えたんだけど。…じゃあ、まぁ」こっちで。そう囁きつつ、ちゅっ、と音をたてておでこに落とされるキス。ゼシカは呆れたように赤面しながらもどこか安心したように身体の力を抜いて、去っていくククールを見送った。ククールが部屋を出て行ったあと、ゼシカは再びふっと目を閉じた。しかし彼のせいなのかどうかわからないがかなり喉の渇きを覚えたので、首をめぐらせて水を探す。すると視界のすみから腕が伸びて、エイトが水差しからコップに水を注いでくれた。ゼシカは内心ギョッとする。今の今まで、部屋の中にエイト達がいたことを忘れていたのだ。「水飲む?あ、起き上がるのつらい?よければ吸水もらってくるけど」「あ、…うん、…だ、大丈夫」平静を装い笑って手を振る。起き上がれないほどではない。時間をかけて身体を起こし、ベッドの背にもたれてコップを受け取った。顔が熱い。冷たすぎない水がおいしい。「あとで、もう一つ部屋とれないか聞いてくるよ。多分その方が、治り早いよね?」しばらくしてエイトがにっこり笑ってそう言った。きょとんとしたが、徐々に言葉に隠された含みを読み取って、ゼシカはさらに顔を蒸気させる。(あいつ…、わかってたくせに!バカッ!)今さら、ついさっき仲間達の前で、2人して何をしていたか思い出して腹が立つ。ハメられたような気がして悔しい。にこにこ笑っているエイトに「ここで大丈夫だよ」とぼそぼそ呟いて、もそもそと布団に潜り込んだ。ちがうのに。いつもは私あんなじゃないのに。風邪で弱ってるから心細いだけよ。そばにいてほしいだけ。それだけよ。心の中でひたすら言い訳していると、余裕いっぱいのククールの顔が思い浮かぶ。そして唐突に、やっぱり寂しい と自覚する。ゼシカはポツリと小さく彼の名を呼んで、目を閉じた。15④sage2009/04/22(水) 00 48 28 ID 2XTK2dRe0頭を撫でられている、と思ううちに徐々に意識が上昇し、ふいにパチリと目を開いた。ゼシカの視線にまず天井が映り、すぐにベッドに座って自分のひたいに手を当てているククールの顔を見つける。「…クク…」「まだ寝てていいぜ」いつのまにか寝てたんだ、と思い、ふとただよう甘い匂いに気づく。「………つくってくれた?」「あぁ。食べるか?」こくんと頷く。「起きれるか?」ククールは皿を手にとってゼシカを振り向く。そう聞かれ、なぜかゼシカの頬がほんのりピンクに染まった。ククールが ?と小首を傾げると、ゼシカは彼をじっと見ながら、枕の上で小さく頭を横に振った。吐息だけで口唇が「むり」と告げる。ククールは一瞬 虚をつかれ、それから優しく笑った。とろりとした中身をスプーンでよそって、横になったままのゼシカの口元に近づける。「まだあったかいぜ。ちょっとずつでいいからな」ゼシカは上目づかいにククールを見つめながら、戸惑ったような表情でそれを口にくわえた。少し咀嚼して、ゆっくりと飲み込む。「…おいし…」花がほころぶような笑顔に、ククールも微笑む。ゼシカの表情はたちまち弛緩し、もっと、と素直に甘えた声を出した。はいはい、と答えながら差し出すスプーンをゼシカが躊躇なくパクリとくわえるのに、愛しくも笑いがこみあげる。「皿ごと喰うなよ?」「…そんなことしないもん」クックッと笑われて、ブスッとするゼシカ。それでも、少しずつ皿の中身を胃に入れていく。ククールはそんなゼシカが、心底から可愛くて仕方ないと思った。実は、ゼシカのリクエスト料理を作って部屋に戻る途中、ククールはエイト達と廊下で出会っていた。「僕たちちょっと宿のご主人に部屋のこと聞いてくるね。もし一人部屋でも空いてたらぼくとヤンガスはそっちに移るから、君たちはこのままあそこを使って。トロデ王にはそろそろ姫様のところに戻っていただくし」「ゼシカは?」「大丈夫だよ。自分で起き上がって水飲んでたし、今はそこまで辛くないみたいだ」「起きてた?自分で?そうか…よかった」「今少し寝ちゃったみたい。何かあったら呼んで」「あぁ、サンキュ」仲間のさりげない気遣いに感謝する。…ぶっちゃけオレ達と同じ部屋にいたくなかったのかもしれないが。仕方ない。ゼシカが素直に甘えてくるものだから。しかも犯罪的に可愛く、しかも自覚なしで。今のうちに可愛いゼシカをとくと堪能しておこうと考えてしまうのは、男として当然だ。しかし彼女が自分で起き上がったと聞いて、安堵すると共に心のどこかで期待していた「はい、あ~ん」はできないのか、といささか残念に思ったのも事実。だから。ゼシカが隠し事をしている時のバレバレな表情で首を振り「起きられないから、食べさせて」と意志表示したときは、なんというか猛烈に、言葉にしようのない愛しさを感じた。皿なんか放り投げていきなりキスしたいくらいに可愛かった。しかし、ちゃんと踏みとどまる。ゼシカの可愛すぎる「うそ」に、気づかないふりをしてあげる。ゼシカは3分の2くらいを食べ終えると、ごめんね、もういい、と言った。頭を撫でてよく食べられました、とからかうと、もう、と不満をもらすが笑ってそれをかわして荷物の中から薬を取り出す。「じゃあ最後にこれ飲んで、ちゃんと寝ような」「…にがいの?」「甘いよ」「あまい?」ゼシカは怪訝な目で彼を見上げた。ニッと笑ったククールが皿の中で何かをしていると思ったら、スプーンでそれをすくって自分の口に運んだ。そして突然ゼシカに顔を近づける。「―――や、ちょ…んぅ…」抵抗する間もなく口唇をふさがれた。薄く開いた口唇の間にあたたかいものが入り込んでくる。甘い、甘い、甘いもの。ゼシカは無意識にそれを飲み込み、引き続き口内で優しく動いている彼の舌にされるがままになっていた。(…あまい)甘いおやつより、もっともっと甘い。しだいにゼシカも自分の舌をククールの口内に忍び込ませ、その甘さを味わうことに没頭する。息を紡ぐのが難しくなるくらいに口唇をはみ舌をからめて、やっとそれを解いた時には、熱のせいなのか、薬のせいなのか、ククールのせいなのか、ゼシカの瞳はとろんと溶けていた。「……おいしかった?」「うん…」「オレも」「…………。…………り」「え?」「……おかわり」ククールは目を丸くし、息をとめた。いつもの強気など微塵も感じさせないゼシカのすがるような瞳が、ククールの次の行動を待っている。引力のように引き寄せられながら、再びククールの顔がゆっくり下降していく。「――――――お前、カワイイにもほどがあんだろ……」“おかわり”する直前に抗議のように呟くものの、しかしその威力に逆らえるはずもないのであった。
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***マルチェロの策略によって煉獄島に投獄され、そこからようやく脱出できた時、世界は一変していた。いや…半ば予想通りだったのか。新法王就任式までは、なんとか数日の猶予があった。一か月間も劣悪な環境に耐え、みな弱り体力が著しく低下していた。こんな状態で乗り込んでいっても結果は見えている。話し合いの末、ギリギリまで体力を回復し、万全の状態で戦いに挑もうということになった。ここ数日のククールは、誰も話しかけられないほど荒れていた。体力回復など待たなくても今すぐ戦える、悠長なこと言ってないで早くアイツを倒すんだ、と。ククールは一刻も早く、この世でただ一人の肉親の暴挙を止めたかった。だけどやはり現実的にそれは無茶な話で、結局、彼の意見は受け入れられず。―――ドニ。ククールはこのところ毎晩、酒場で飲んでいる。馴染みの顔に囲まれて、わざと、完全に悪酔いしている。仲間たちはそれを知りつつ口出しはできずにいたが、ある日、今日もドニに向かおうとするククールに、見かねたゼシカがついに声をかけた。「私も連れて行って」と。その頃、ククールとゼシカは何度か体を重ねている、恋人同士といってもいい関係になっていた。飲み始めの頃はククールを諌めながら酒の量を制御させていたが、元々機嫌が最悪な彼とは当たり前のように何度も口論になり、酔いも手伝ってまともな会話はできなかった。それでもゼシカは決してキレず、なんとか最後までククールを見守る気でいたが、ククールに「酒がマズくなるから帰れよ」と言われた瞬間、何かをあきらめてしまった。まだ宵の口にもなっていなかったのに、ゼシカは席を立ち、一度宿に戻る。それでもキメラの翼で仲間たちの元に帰る気持ちはなかった。それから何時間か経って、深夜になる前に、燃やしてでも宿に連れ帰る気で彼を迎えに行ったが。――ゼシカは結局、また一人で帰ってきた。大きな息をつきながら扉を閉め、ベッドに倒れるようにうつ伏せる。頭の中はぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか答えの出ないまま、逃避するように瞼が降りる。 次にゼシカが目を開けたのは、身体をまさぐる不埒な手の感触に気づいたからだった。ぎょっとして身を起こそうとすると、身体を仰向けにされ、手首をシーツに押しつけられる。「……ククール」うわずった声には驚きと戸惑いが入り混じり、そして咎める視線。ククールは見下ろし、すぐにかまわず彼女の服に手をかけた。「ちょっと…!やめて」ゼシカはその手を強く払いのけた。見下ろしてくる目は正気とは言い難い。…かなり、酔っている。「やめなさいよ…酔ってるくせに」「酔ってねぇ」「ウソつかないで。酔っ払いとこんなことする気、ないわ」抵抗しようと思えばどうにでもしようがある。殴ってもいいし蹴り上げてもいいし、いざとなれば魔法だ。だけどその前に、ゼシカは言葉でククールを説得にかかった。「…ククール。こんなことでごまかさないで、ちゃんと話しましょう」「……」「したいなら…あとで、………する、から。今は」「うるさい」ククールの瞳に瞬間的な怒りがよぎったのを感じたと同時に、口唇を口唇でふさがれた。無遠慮にゼシカの服の中に侵入してきた大きな手の平に、素肌を撫でられてゾクリと鳥肌が立つ。「…んう…ッ―――ッイヤ!なんなのよいきなり…ッ」今度こそ暴れる。このまま力づくで事に及ぶつもりなのだ。今までのククールは、ゼシカが本気で抵抗の意思を見せたら、それ以上は決して強要しなかった。酔っているからなのか、それとも他に理由があるのか。今のククールはゼシカの抵抗などおかまいなしだ。攻防は、ほんの数分で片が付いてしまう。片手でまとめた両手首を渾身の力で握られ、太ももを挟むように上からのしかかれば、上半身も下半身も、ゼシカにはどうもがいてもその拘束から逃れることはできなかった。本気を出されたら、こんなにも抵抗できなくなるのかと、あまりの力の差にゼシカは愕然とする。ギリギリと手首にかけられる力が痛い。ゼシカが痛がっているのをわかっているはずなのに、ククールはそれを緩めようとはしない。「…つ…っ…ククール、やめて」「抱かせろよ」「いや」「じゃあ、犯す」信じられない一言にゼシカは目を見張る。ククールは空いている片手で上着をずり上げ、ブラジャーの上から胸を乱暴に揉んだ。「やめてよバカッ!!や―――んぅうっ…!」キスで叫びを封じられる。抱かれるのではなく、犯される。考えただけで身の毛がよだつ。ゼシカは心の中で絶望に近い嘆きを叫んだ。 でも、ともう一人の自分が冷静に、乱暴をするククールを見つめている。でも、彼はきっと本当はこんなことがしたいんじゃない。それがわかるから、苦しい。押し隠された彼の本心を考えるだけで、切ない。―――誰だって、弱いから。どうしようもない時だってある。こんな方法でしか思いを発散させられない時だって。怒りや苛立ちや悲しみを、誰かにぶつけなければ壊れてしまう時だって、あるのだ。ただの逃避でしかないとしても、その相手に私を選んでくれただけでもいい、と自分に言い聞かせる。ククールのそれを受け止めてあげるのが私の役目なら。理解してあげるのが私の役目なら。そう。仕方ない…そんな風に、彼を…赦す。受け入れる。ゼシカは抗うのをやめた。全身から力を抜き、されるがままに白い素肌を晒した。ゼシカの変化を感じ取り、ククールは声を抑えるためだけの口付けをやめ、口唇をそのまま耳元へ、首筋へ、鎖骨へ、胸へと、すべらせていった。歯型とキスマークを何度も付けられ、ゼシカは神経質な痛みに眉をひそめる。いつもだったらこんな場所に痕はつけない。ゼシカが本気で怒るのを知っているからだ。つまりククールも、ゼシカが彼を「許容」したのをわかっているのだ。「…ククール…」ゼシカは彼の頭を愛しむように抱いた。もう完全に、ゼシカはククールにその身の全てを捧げる気持ちになっていた。―――ふいに鼻孔をつく匂いに、まどろみかけたゼシカの意識がピクリと反応する。不快な、どうしても気になってしまう、その匂い。お酒の匂いよりもよっぽど強烈にゼシカの嗅覚を刺激する。気にしないフリをしようと思った。気付かないフリをできればよかった。けれど、視線の先には、シャツからはだけた彼の胸元が見えて…「―――イヤ」最初とはうってかわって従順にククールの愛撫を受けていたゼシカが、唐突に体を捻った。ククールは気にもせず、再び強引に先を進めようとするが、ゼシカは再び抵抗した。「イヤ…やっぱり…いや」「…なんだよ、今更」「……シャワーくらい浴びてきて」「うるせぇな」黙らせるためだけに、ククールの指先がスカートをまくり上げゼシカの下着に手をかける。咄嗟に、ゼシカの平手がククールの頬に飛んだ。逸らされた顔をゆっくりと正面に向けたククールの冷徹な視線に、ゼシカは恐怖を感じた。…今のククールは、ただの「男」でしかなかった。愛情よりも、欲望だけを優先する。目の前にいる女を、思いのままにすることしか考えていなかった。 「ちょっ――イヤ…!!!!」抵抗など簡単にいなして、下着の上から割れ目を深くなぞる。「なんだよバカみたいにイヤイヤって、ハジメテでもねぇくせに」わざと羞恥を煽ると、案の定ゼシカは顔を真っ赤にして声を詰まらせた。触れたゼシカのそこは、湿り気がある程度で、まだ濡れているというほどではない。しかしククールは耳元で低く笑いながら、揶揄する。「…もう濡れてるぜ?もしかして抱かれるより犯される方が、お前、好み?」―――――――!!!!!!!いきなり頬をかすめた鋭い刃の正体が氷だとわかり、さすがにククールは押し黙った。ゼシカが瞳に涙をあふれさせ、それをこらえながら睨み上げてくる。その表情は、それはそれで色っぽかった。酔いはまだちっとも覚めていない。なんだか、ヤケになっている。何もかもがバカらしい。めんどくさいめんどくさい。全部全部バカみたいだ。くそ、くそ、くそ…ゼシカ、お前もオレを認めないのか?お前すらオレを受け入れてくれないのか?オレのこと好きなんだろ?ならヤらせろよ。アイツのこと忘れさせてくれよ。そんな言葉が渦を巻いて、意味を伴わずククールの脳内を飛び回る。体の下でまるで処女のように震えている女の、見上げてくる視線が無性に癪に障った。ククールは薄ら笑う。それにゼシカは無意識に怯える。「………………そんなに、嫌かよ。オレとヤるのは」「……アンタがイヤなんじゃ…ない」「そうか?お前が嫌がらなかったことなんか、今まで一度もねぇだろ」「それは…」単なる照れ隠しだ。ククールだってそれはわかっているはず。ゼシカが何も言えないでいると、ククールが はっ、と鼻で笑った。「…そうだよな、お前オレしか男知らねぇもんな。だからわかんねぇんだよ、オレの良さが」「………なによ、それ」「オレはよくわかるぜ?他の女と比べてお前とのセックスがどれだけ相性いいのか。どれだけ度を超えてキモチイイのかがな」ゼシカがカッと全身を染めた。それに気を良くしたククールが、ニヤリと笑う。「――――お前も、一回オレ以外の男と寝てみたら? そしたらわかるだろ、オレとのセックスの良さが」 そう言ってから、ククールはハッとした。ゼシカの表情を見て、気付く。――――――言ってはいけないことを言ったと。ゼシカは蒼白な、しかし無表情で、ククールをじっと見上げていた。ククールは視線を逸らし、小さく舌打ちした。何も言い訳が浮かばない。最悪だ。腹が立つ、ゼシカに?違う、自分にだ。何か言えよ。そしたら言い返してやるから。気まずい空気の中に、ゼシカのかすれた声が聞こえた。「……。…………本気で言ってるの?」その声が想像よりもあまりに感情がなくて、彼女の真意がわからずククールは声を詰まらせる。視線を合わせるのすら怖くて彼女にまたがったまま黙っていると、ゼシカが無言でククールの体を押しのけて起き上がり、静かにベッドを降りた。服装の乱れを直すその後ろ姿に、ククールは触れることも、声をかけることもできないでいた。このままでいれば、ゼシカが離れていくことはわかっているのに、体が石のように固まって動かない。のどが張り付いて声が出ない。立ちつくしたゼシカの後ろ姿はいつものようにしゃんと伸びて、後ろの人物に確固たる離別を決意しているように感じられた。その華奢な背中が、今にも「さよなら」と告げそうな幻想に襲われて、ククールは背筋を凍らせる。咄嗟にベッドを飛び降りその腕を力任せに掴み、振り向かせた。「―――――あのなぁ!!本気なわけ…っ」しかし掴んだ途端それを力の限りに振り離され、ククールは弁解すら最後まで言えなかった。あらゆる負の感情がないまぜになり、カッと頭に血が昇りまともな判断ができなくなる。ククールは自分が何をしたかったのかを忘れ、衝動的に彼女を壁に押し付け、強引に口唇をふさいだ。「―――ッッ!!!」ゼシカは貪られるような口付けを屈辱にすら感じ、悔しさを必死で耐えた。堪え切れずあふれた涙をボロボロこぼしながらでは、抗う指に力は入らない。そう、それは悔し涙だった。薄目を開けて、ぼやける視界の中で2人の目が合った時、ゼシカは全てを拒絶した。ガリ、と嫌な音が脳内に響く。2人の口の中で血の味がする。ゆるんだ拘束と同時にゼシカはククールを思い切り突き飛ばし、部屋を飛び出した。 かなりの間、言葉も出ず呆然としていた。しかし自分の両手を見つめ、失ったぬくもりを実感するにつれ、残された自分のみじめさに気付く。「―――――クソ…ッッ!!!ああぁあッッ!!!クソ…!!!」床を踏み鳴らして、ククールは吼えた。何度も何度も叫んで、このやり場のない苛立ちを発散させようと。だけどどうにもならない。何も変わらない。アイツは帰ってこない。……あんな風に泣かせるつもりはなかった。怒鳴って、殴って、燃やしてくれたならどんなにラクだったろう。怒りながら泣かれたなら、こんなに胸がつぶれるような思いはしなかった。―――キスしているのに。それなのになぜ、あんな目をするんだよ。あんな…諦めきった…絶望したような目を。酔っ払いの相手なんか適当にしてくれればよかったんだ。大人しく抱かれてくれれば、オレだってこんな…「…………クソ…………」ククールは顔を覆ってベッドに座り込んだ。酔いなのか、なんなのか、思考がぐちゃぐちゃで吐きそうだ。後悔で、吐きそうだ…追いかけなくてはならないとわかっている。だけど怖い。今のオレに何を言う権利があるだろう?もしかしてこれで「終わり」なんじゃないのか。少なくともアイツの中で、オレとの関係はあの瞬間に終わったんじゃないのか?あんな目をしていた。傷つけたんだ。ひどく傷つけた…自分が傷ついていたから、一番大事な奴をそれ以上に傷つけて、同じ場所に堕としたかったんだ。―――最悪だ。 *** 傷つけた・後編
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マイエラ修道院、サヴェッラ大聖堂に次ぐ三大聖地のひとつ聖地ゴルド。 エイト達一行はマルチェロを追ってこの地に来ていた。 シンボルである巨大な女神像は今はなく、代わりに巨大な穴がぽっかり口を開けていた。 辺りはすっかり暗くなったというのに、この寒空の下穴を前に銀髪の青年がひとり瓦礫に腰掛けている。手には金の指輪。 「ちょっと、そこのお兄さん!」 不意に掛けられた声にククールは声の主を探して振り返った。 「ゼシカか・・・」 怒っているような、心配しているような表情のゼシカが歩み寄ってきた。 「アンタ、まさかこの穴に飛び込もうなんて考えてないわよね?」 ゼシカの言葉に黙ってニヤニヤしているククール。 「な、なによぉ」 「オレの事心配してるんだ?」 「なっ、ばか言わないでよ!何で私が・・・」 言い掛けて止めてしまった。マルチェロの事で落ち込んでいるであろうククールを気遣いここまで来たのに、これではいつもの調子になってしまう。 「そりゃ・・・心配してるよ」 それでも恥じらいからか声が小さくなってしまう。 「あー、あー、アンタその指輪どうするつもり?」 今度は照れ隠しに声が大きくなってしまった。 自分でも顔が赤くなってるのがわかる。 「コレ?んー・・・わかんね。コレをどういうつもりでアイツがオレに渡したのかも。」 指輪を見つめるククールの瞳。ククールの瞳はいつも悲しみの色を湛えている、とゼシカは思った。 「・・・騎士団長に・・・なれって事じゃないの?」「はぁ?やだよ。オレはね、あんなヤツの跡を継ぐ気はないね」 「うふふ。そうだね。何よりアンタには勤まりそうもないし」 「ム・・・言ってくれちゃって」 フンと鼻を鳴らし、また穴を見つめる。 わずかな沈黙の後、口を開いたのはククールだった。「ゼシカには、話してなかったよな?」 「?」 「アイツ・・・マルチェロは最初は優しかったんだ・・・」 それからククールは自分の事、マルチェロの事を話しはじめた。 ゼシカはククールの瞳から目が離せなかった。いつもおちゃらけたククール。聖職者であるにも拘らず不真面目なククール。ときどき寂しそうなククール。 兄との確執は知っていたが、こんなにもククールは愛情に飢えていたのだ。あの笑顔の裏にはこんなにも苦しみが隠されていたのだ。自分はそれに気付きながらもわかってあげられていなかった。 情けなかった。ククールの事をわかっているつもりになっていたのだ。 笑いながら何でもない事のように話を続けるククール。でも本当は心が悲鳴をあげている。そう思うとゼシカはたまらなく切なくなった。 話し続けるククールの視界が急に遮られ、自分を包む空気が温かく感じられた。「え・・・?」 あまりに突然な出来事にそれがゼシカの腕の中であることに気が付くのにしばらく掛かってしまった。 「ゼ・・・シカ・・・?」「アンタ・・・ずっとひとりぼっちだったのね」 ゼシカの心臓の音が聞こえる。ククールはゼシカの胸に頭を預け目を閉じた。 「私が・・・居るからね」「ゼシカはあったかいなぁ・・・」 「ククールもあったかいよ・・・」 そう言うとゼシカはククールの額にキスを落とした。 今日はなんだか自分でも変だ。とても素直になれる。ククールは立ち上がりゼシカの頬にキスを返し、強く抱き締めた。 「ありがとな。・・・でもオレ、そんなに弱くないぜ?」 「・・・うん。知ってるよ」 わかっていた。ただ、たまらなく目の前の男を抱き締めたかっただけな事も。 「ばかだな・・・。こんなに肩が冷えてる」 自分を気遣いこんな寒空の下に来てくれたゼシカに申し訳なく思い包み込むように抱き締めた。 ゼシカの冷えきった肩に、頬にキスをする。 ゆっくりとお互いの唇が近づく。 「あー、やっぱりタンマ」ゼシカの手がククールの唇を遮った。 「・・・モガ。・・・なんだよぉ、折角いいムードだったのに・・・」 文句を言っているククールを無視してゼシカはニコニコと笑顔。 「魔王を倒して無事帰って来られたら、続きはその時。ね?」 「は?そんなん帰って来られなかったら、このままお預けじゃねーか?」 んー、と再びキスを迫る。「ダーメ」 ククールの腕からするりと抜けると代わりに手を繋ぎ促した。ククールの手を引きゼシカは歩き出す。 「行こ。みんなが待ってるよ」 「そりゃ、ないぜー!」 ゴルドの寒空にククールの声が響き渡った。 2-無題2 続編
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*小さな宿屋のあるじに借りた台所で、一番に目覚めたゼシカがテーブルに簡単な朝食の準備をしていると、エイトやヤンガスが順番に起きてきた。最後にのっそりと現れた、低血圧なはずのクク―ルと目が合った瞬間。「おはようゼシカ。ハッピーバレンタイン」「……。」ゼシカは心底うんざりした顔で、ニコニコ笑うそのバカつらを見る。「…おはよう。何を期待してるのか知らないけどアンタにあげるものなんかないわよ」「またまた。何もチョコレートじゃなくたってオレは全然かまわないんだぜ? なんならゼシカ自身にリボンをつけてプレゼントしてくれても…って、ちょっとベタすぎるか」「バカじゃないの?うちのパーティはいつも金欠なんだから、そんな無駄な出費するわけないでしょ。そんなこと期待してるのアンタだけよ」「だから金のかからないものでいいんだよ。ゼシカの愛がこめられてるならなんだって」「こめる愛なんかありません」にべもないゼシカの態度にククールはたちまち不機嫌になる。「マジかよ?ホントになんもねぇの!?」「ないって言ってるでしょ!あるとしたら朝ごはんくらいよ。ぐだぐだ言ってないで手伝って」「ウソだろ~そりゃないぜゼシカさんよ~」がっくりと肩を落とした色男は情けない声をあげながら、渡された皿をテーブルにのろのろと運んだ。エイトやヤンガスがクスクス笑っている。彼らはククールが数週間も前から、この日を浮足立って待っていたのを知っている。本人は隠しているつもりなのだが、ことあるごとにゼシカってバレンタイン知ってんのかな、とか、知ってても当然サーベルト兄さん☆にしかあげたことねぇんだろうな、とか、アイツの手作りチョコなんて考えただけでゾッとするよな、とか。クールぶっているがまったく成功しておらず、バレンタインチョコなど掃いて捨てるほどもらってきたであろう色男がそわそわと話す様は、少し滑稽で、なんとなくかわいかったりした。ククールは一皿運んだだけで椅子に座り込み、頬づえをついてブツブツと文句を言っている。それを見て、ゼシカは盛り付けたサラダをテーブルに置きながら呆れた。「甘いものそんなに好きじゃないくせに。そんなにチョコが欲しいなら自分で買ってくればいいじゃない」「2月14日に男がチョコレート買いに行くとかどんな罰ゲームだよ。女の子がくれるからいいんだろ」「あっそ」ゼシカはツンとあごをそらして踵を返す。尚もククールはグダグダとテーブルに突っ伏し、「あ~つまんねーの~~……。……ドニにでも行ってこうかな…」まったくそんな気もないのだが、惰性でなんとなくそう呟いた。今日ドニに行けば、間違いなく大量のチョコが雨あられと渡されるだろう。取り巻きに飛びつかれ、抱きつかれ、キスされ、女の子たちにもてはやされるククール。そんな光景が容易に思いつく。「……。」ゼシカは無言で4人分のカップを用意する。背後では、まだ何か不満をもらし続けているバカな男。「………………コーヒー、いる人」はーい、がす、うぃ、と3人分の返事が聞こえた。レトロなやかんがピーーーと音を立て、しばらくするとトレイにカップを乗せたゼシカがテーブルに戻ってきた。エイト、ヤンガスの前にカップを置いて、最後に突っ伏しているククールの前にドンと置く。そして自分は再び流しの前に戻り、洗い物や後片付けを始めた。すっかり不貞腐れていたククールだが、コーヒーのいい香りに誘われ顔を上げ、まだ何やらしつこくボヤきながら、ゼシカの淹れてくれたコーヒーを飲む。「……ん?」すぐにククールは口を離し、カップの中をのぞいた。あれ?「おいゼシカ、これコーヒーじゃ…」「――おかわりはないから!」しかし唐突にゼシカがその声を遮ったので、ククールは目を丸くした。ゼシカは背を向けたまま、小さな声でポソリと告げた。おそらくは、ククールに対して。「……だから、味わって飲みなさいよ」ククールはしばらく考えて。そして。―――あぁ、と気付く。カップの中身は苦いコーヒーじゃなくて、…甘いココア。でも香りはしているから、自分以外の連中にはコーヒーを淹れたのだろう。それを知られたくなくて、ゼシカはあんな風に言ったのだ。今この空間で、2人の間だけにある秘密。ククールのカップだけ中身が違うこと。内緒にして、と。ククールは頬がゆるむのを隠せなかった。気のせいか若干ぎくしゃくした動きで洗い物をしているゼシカの後ろ姿はかたくなで、もうしばらくは決してこちらを振り返らないことは確かだった。多分顔はトマトのように赤いに違いない。それならば、と正面に座りなおして、改めてココアを口に含む。多分自分基準で砂糖を入れたのだろう。それは普段なら絶対にククールが飲むことのない甘ったるさ。でも今は、この甘さが幸せで、最高に愛しい。思わずのどの奥でクックッと笑いがもれたククールを、仲間たちが不気味そうに見ていた。さりげなさを装ったゼシカがテーブルに戻り、全員が朝食を終えた頃、エイトがふと尋ねる。「そういえばククール、さっき言ってたけど、今日ドニに行くのかい?」だったらついでに買ってきてほしいものが…などと計画的なことを言い出したエイトに、ククールは笑って首を振った。「いや、行かねぇ」「でも今日行ったらお望みのチョコが死ぬほど貰えるんじゃねぇんでがすかい」「ゼシカが淹れてくれたコーヒーが最高に甘かったから、他のチョコなんてもういらない」ククールはすでに空のカップを持ち上げ、ウィンクして見せる。いつもブラックの彼が甘いコーヒー?2人は顔を合わせて首をかしげた。途端にゼシカがガタンッ!!と音を立てて立ち上がり、ククールの手からカップを奪い取って、彼の後頭部をバシッと叩く。まったくめげず、ククールは「ごちそうさま」とニヤける。ゼシカは悔しいような表情でそれを睨むと、すぐにカップを流しの中に突っ込んだ。証拠隠滅。でも、この甘さをなかったことには絶対できない。それは今まで貰ったチョコレートなど足もとにも及ばない至高の甘さだったのだから。「――ハッピーバレンタイン」ククールが嬉しそうに囁くと、消えそうな声でゼシカが「バカ」と呟いた。 *
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「おい、待てよ。待てってば!」 「うるさいわね、ほっといてよ」 「何怒ってんだよ?」 「怒ってなんかいないわよ!あの女の子と仲良くしてれば?」 バタバタとトロデーン城の廊下をゼシカとククールが怒鳴り合いならが歩っている。城の者達が振り返り二人を見ていた。 ラプソーン討伐後の城での宴の席でククールの悪い癖が出た。こともあろうにゼシカの目の前で小間使いの少女を口説き始めたのだ。その夜のことだ。 「やっぱり怒ってんじゃねーか」 「怒ってなんかない、って言ってるでしょ!連いて来ないで!」 バタンと勢い良くククールの鼻先でドアが閉まった。今夜はトロデーン城に泊まる事になっていたので各自に部屋があてがわれていた。ゼシカの部屋はミーティアが選んでくれたとても女の子らしい部屋だった。至る所に花が飾られ、バスルームまで付いていた。 「・・・おーい、ゼシカ」「・・・」 「ったく、いい加減にしないと、こっちが怒るぞ?」応答はない。完全ムシを決め込むつもりだ。 フー、と息を吐きククールはこの場を離れる事にした。頭に血ののぼったゼシカを説得するのは困難だと思われたからだ。 落ち着いた頃にまた来よう。 自室のベッドに突っ伏したままゼシカは部屋を離れていくククールの足音を聞いていた。 ふん。何よ。ちょっと諦めが早いんじゃないの? またムカムカと腹が立ってきた。でも同時にたまらなく泣きたくなった。 「ばか・・・」 呟いて涙をこらえた。 どうせククールなんて、どの女でも一緒なのよね。そう考えるとまたククールがあの小間使いと仲良くしているのではと不安になってきた。 ククールはきっと忘れているのだ。聖地ゴルドでのあの夜のことを・・・。 イライラした。我慢できない。でもここで追い掛けたりなんかしたらククールの思うツボのような気がした。 じっとしていられなくて部屋の中を行ったり来たり。まるで動物園のクマである。 ゼシカだってククールの事は気になる。だからこそ、腹も立つのだ。 「あー、もう!何で私があんなヤツの事でイライラしなきゃなんないのよぉ!」落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせ深呼吸した。 無理!一度気になったら解決するまで落ち着くはずがない。部屋を飛び出した。 …………… 部屋の外にはククールが壁を背にして立っていた。 「あ・・・」 「おっ、思ったより早く出て来たな。お姫さま」 一気に顔が赤くなっていく。動揺が隠せない。 「あ・・・アンタ、どっかいったんじゃないの?」 「行ったよ。でも、戻ってきた。こんな状態のゼシカほっとけないし」 「ほ、ほっとけばいいじゃない。そうすればあの可愛い女の子と仲良くやれるのに。」 言っているうちにまた腹が立ってきた。 「どーせ、誰にでもアンタは私と同じ事言ってるのよね。君を守る騎士になるなんて言ってたけど、あのセリフも口説き文句のうちのひとつなんでしょ?私は騙されな・・・」 ククールの指がゼシカの唇を押さえた。 「ゼシカ、焼きもち焼いてるんだ?」ニヤリ。 あまりにもククールの顔が近くにあるので、また顔が赤くなってしまった。 「や・・・焼きもちなんて・・・」 やいてないもん。赤くなった顔を見られたくなくてゼシカは顔をそむけた。 こんなにも美人なのにゼシカは恋愛関係に結構縁がなかった。 そんなゼシカがとても可愛い。 ゼシカの唇にククールの唇が重なる。とても簡単なフレンチキス。 「!」 「ゴルドでの続き」 ラプソーンを倒したらキスをさせる、というゴルドでの言葉をククールは覚えていた。 忘れていると思ったのに。だから腹を立てていたのに。 「もう・・・ムカツク」 「あ?」 「ムカツクって言ったのよ!私一人でヤキモキしてアンタは涼しい顔してて、ばかみたいじゃない!」 ムカツクを連呼しながらククールの胸を叩き続ける。その両手を押さえ、もう一度キスをする。 「かわいいなぁ、ゼシカ」「ばか!何すんのよ!」 ばかばか。 埒があかないのでククールはゼシカを抱きあげると、ズンズン歩きだした。 「きゃあ!ちょと、何よ!?」 「廊下じゃムードがないからオレの部屋行って続き」しれっと言い切るククールに一瞬ア然としてしまった。 「やだ、おろしなさいよ」「ぃやだね」 ジタバタと腕の中で暴れるゼシカに構わずククールは自室へと入る。 ゼシカをベッドに押し倒し、覆いかぶさる。 ドキドキドキドキ。これは本当に自分の体なのだろうか。まるで体のあちこちに心臓があるかのように脈打っている。 ククールの真剣な顔から目が離せない。 「・・・ま、またいつもの冗談でしょ?」 「ゼシカ、オレは男だぜ?ここまで来たらもう止まんねぇよ」 「こ・・・心の準備も出来てないし!」 「怖いのか?・・・怖かったら目閉じてろ」 もうこうなったら覚悟を決めるしかないんだろうか?ククールは相変わらず真剣な顔をしているし、心臓はバクバク言ってるし、もうゼシカは頭の中がグチャグチャになっていた。 グッと目を閉じる。 「・・・・・・」 「・・・プ・・・ククク」ククールの声が聞こえる。目を開けるとククールが真っ赤な顔で笑いを堪えていた。 瞬時に理解した。騙された! 「ククール!アンタねぇ!」 起き上がりククールを殴り付ける。 「騙したわね!」 「ち、ちげーよ。だってさ・・・あははは」 まだ笑っているククールに更に腹が立つ。バシバシとパンチの応酬。 「信じらんない。ムカツク!」 「わ!ごめんごめん。だってさ、ゼシカがあんまり可愛いんだもん」 可愛いの単語に殴り付ける手が止まってしまった。 「・・・何よ、それ」 「それにさ、ゼシカが嫌がってるのに出来ねーだろ」ベッドの脇に移動して俯いてしまったゼシカを覗き込むが、プイとまた顔を背けられてしまった。 やっぱり可愛い。 「・・・こう見えてもオレ、ゼシカを大切に思ってんだぜ・・・」 え?またドキっとした。 上目遣いでチラッとククールを見るとこころなしか彼の顔が赤く見える。 ククールでも女に対して照れたりする事があるのだろうか?様子を伺っていると、それに気付いたククールにコツンと頭を小突かれた。 「・・・ったく、オレにこんな事言わせんのお前だけだよ」 まったく、と言いながら今度はククールが背を向けてしまった。ククールの耳は真っ赤になっていた。 ゼシカはそれに気付くと、何だか恥ずかしいのもおあいこのような気がしてエヘヘ、とこっそり笑った。 2-無題2