約 1,120,793 件
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/28.html
夏休み。それは子供から大学生まで老若男女誰もが喜ぶであろう夏真っ盛りの行事、否、休みである。 勿論、生徒会長である僕も学校に赴き業務を行ったり、学業を疎かにしないために図書館や自室で勉強したり等を欠かしていないものの、それでも休みという響きはとても好ましく思う。 「──だから、今日も勉強のつもりであったのに……急に呼び出して何のつもりだオカ研!」 僕は今日、郊外にある貸し出しも行っている廃校に呼び出された。 呼び出した主──否、主犯達はオカ研の三人。 右から赤いジャージの宮野、黄色いパーカーの墨木、青いシャツの雨之が目の前に並び、申し訳なさそうな顔一つせずに突っ立っていた。 むしろ、こう、何か企んでるような顔をしている。 最初に口を開くのは墨木であった。 「まあ、落ち着いてって。ちゃんと理由あって呼んだんだぜ?」 「……理由は?」 少々訝しむ表情で理由を尋ねる。 次に口を開くのは宮野であった。 「ほらほら、いつも報告書出せー! とか、書類出せー! って言ってるじゃないすか?」 「……? 確かに言ってるが……それは君達、オカ研が報告書をちゃんと出さないからで──」 僕がいつもの様に説明しようとすれば間に入る様に雨之が口を出す。 「だからぁ、オカ研の報告書を兼ねてメンバーで脅かしするんで、生徒会長にはオカ研の成果で驚いて貰おうと思ってまして」 「……えっと……つまり、オカ研の報告書として肝試しを体験しろと?」 「そういうことです」 理屈はわかるがそれを本当にやる奴があるか? とは、思う物の、中々こうして報告を示すという事をして来なかったオカ研にしては第一歩と言うべきか。 素直に頷きたくは無いが、第一歩を無下にも出来ないかと考えて首を縦に振る。 「わかった、一先ずはこれを夏の活動の報告書として受け取ろう。ただし、後日しっかりと書類でも提出する事! 遅延を認めるだけだからな!」 「はいっす!」 「了解」 「はーい」 「宜しい。じゃあ準備をしてこい!」 その言葉を最後に、僕は三十分の間、炎天下の中で放置されたのだった。 勿論、日陰には避難して、水分補給も欠かしていないが、だとしても遅い。 てっきり連絡でもあるかと思ったが、そんな物も無く。 思えば、三人しかいないから三人で肝試しの脅かし役をやったら誰も呼びに来れないのでは無いか? そう思い始めた頃、ふと視線を廃校の玄関に向ける。 幼い子供、小学生低学年くらいの少女だろうか、少女が廃校の中に入っていくのが見えた。 「君、そっちは今部活動で使われて……行ってしまった……」 これはうっかりオカ研の騒動に巻き込まれたら危ないな。 そう思えばすぐに立ち上がって同じように玄関へと向かう。 「おーい、誰かいるかー」 玄関から中に声を掛けるが、シンッと空しく響くだけで、何の声も返って来る事は無く。 先程の少女の姿も近くには無い様でもある。 仕方ないかと廃校の校舎へと足を踏み入れる。 「オカ研ー、どこだー」 辺りを見渡しながら足を進めて廊下を歩き続ければ、少女の後ろ姿を見つける。 どうやら階段を上がって行く所であった。 オカ研が少女に何かをしてしまう、なんて事になりかねないために階段の方へと早歩きで向かう。 すると、横の方で何かが動いた気がするため目を向ける。 「生徒会長じゃないっすか」 「何をやってるんだ君は……?」 犬の着ぐるみを着た──身体の大きさ的に宮野朱美がそこにいた。 「うらめしがおーっす!」 「本当に何をやってるんだ君は……?」 「いや、脅かしのために来たんすけど……」 「顔も出さずに前見えるのか……? いやいや、それよりも、少女がこの校舎に迷い込んだんだ、他のメンバーが何かしてしまう前に探すぞ、宮野」 「なんと……そういう事なら了解す! 探すしか無いっすね!」 「私は二階から探すから一階を頼んだぞ」 そんな話をしながらもこんな物かと思いつつ、少女が迷い込んだ事を説明して手分けして探す事にする。 そして今度こそ階段を上って少女を追う形で探し出す。 二階に上がって、辺りを見渡せば廊下の奥を曲がる少女の姿が見えた。 それを追って廊下を進み、ふとよく見れば綺麗に掃除のされた廃校だと思い当たる。 貸し出しされている辺り、定期的に掃除が入っているのだろうか、それともオカ研が意外にも掃除したのか。 そう考えながら歩いていれば、教室に中に不自然な影を見つける。 中に視線を送り、しっかりと確認すればそこにいるのは棺桶の中に入って吸血鬼のコスプレをしている墨木隆平であった。 中から此方に気付いたのか声を掛けてくる。 「おっ、生徒会長じゃねえか」 「おっ、では無い……何をやっているんだ……?」 「ヴァンパイア的な怖がらせ方をしようと思ってな?」 「血でも吸うのか……? ではなく、女の子が校舎に迷い込んだみたいなんだ。君も探してくれないか?」 「マジか、そりゃあ探さないとだな……」 「という事で僕は女の子を追うから君は二階を見ておいてくれ」 そう伝えれば手分けして探す事にして、廊下の奥へと向かって少女と同じ所を曲がれば階段に当たる。 一階に行ったなら宮野が見つけるだろうと、此方は三階に上がる事を選ぶ。 少女はどこへ行ったかと再度見渡せば今度は教室の中に入るのが見えた。 そちらへ向かおうと歩き出す。 誘われる様に歩いて行き、教室の扉の前に立ち、扉に手を掛けて、少し開けた瞬間だった。 「生徒会長、何してんですか」 「うおっ!? あ、雨之か……」 肩に手を置かれ、ビクリと大きく驚きながら後ろを見る。 そこには和風の格好をした雨之晴矢がいた。 「なぁにやってるんですか、生徒会長?」 「あ、ああ……少女がこの教室に入って行ったのが見えて……」 「だとしたら見間違いじゃないかな……その教室、ボロボロで危ないからって施錠されてるし」 「何!?」 そう言われれば扉にまた手を掛ける。 しかし今度は開く素振りも無くガチャガチャと空しく施錠された扉を開けようとする音がするだけだった。 「おかしいな……確かにここに……」 「きっと少女なんて見間違いなんじゃないですか? 例えば、そう……」 雨之が間を置いて話す中、僕が首を傾げながら待っていれば、此方を見ながら小さく答える。 「本物のおばけ、とか」 「まさかそんな……」 思えば、宮野も墨木も少女の姿を見ていない。 僕だけが見ていた少女。 まさに幽霊やおばけの類いだとしたら──。 「……なーんてね、廃校とは言え、曰く付きな訳じゃないし、目の錯覚か何かじゃない?」 「……それも、そうだな……」 眼鏡の位置を正しながら気にしない、という事を選んだ。 事実、少女が入って行ったと思われる扉は開かないし、宮野と墨木が見てなかったというのも、目の錯覚だとすれば解決はする。 あの二人には余計な手間を取らせてしまったかもしれない。 「……とりあえず今日は帰ろうか……肝試しどころでは無くなってしまったからな……」 「それもそうですねぇ、二人に連絡してさっさと帰りますか」 雨之が携帯を取り出し、二人に連絡を入れながら、僕も雨之と共に帰ろうと振り替えれば。 『あと少しだったのになぁ』 後ろからそう聞こえた気がした。 でも、きっとこれも、幻聴や空耳の類いなのだろう。 ところで、話は戻るが、もしも雨之に止められていなければ、あの扉は開いていたのだろうか? なぜかって? だって、あの時、あの扉は──少し、開いたのだから。
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/22.html
天亡怪灰(てんもうかいかい) 概要 キャラクター一覧 + メインキャラクター 城戸天凱 本編 番外編
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/51.html
一話【黎明:死灰復燃(しかいふくねん)】 遥か昔、魔法や超能力と呼ばれた物があった。 それはいつの日からか一般的になり、国や都市の繁栄の一助となった。 そして二十年──無色事変と呼ばれる事件によって世界は混乱の世へと移り変わった。 無色事変は無事解決したが、その傷跡は深々と残り続ける。 なによりこの世界と別の異世界との繋がりは断てず、異世界から現れる魔獣や人工生命体の侵攻は続いていた。 「という事で……どうか協力して頂けますよね? 燎火(かがりび)シエンさん」 「はぁ……何度来たって断るだけだよ」 ここは俺が開いている事務所の一室。 テーブルを挟んで目の前のソファに座る、鮮やかな紫色の髪を黒いリボンで髪を一つ縛りに纏めた軍服の少女はキキョウ。 そして、そんな華やかな印象を持つ彼女の対面にあるソファに座るだらしない大人の一人である俺は何でも屋の燎火シエン。 事の始まりは一週間前のこと、彼女は突然事務所にやってきた。 政府の運営する対異世界防衛機関、通称ADPという組織に属するキキョウは噂を辿って俺の元までやってきたとのことだった。 さて、話を戻そう。 「何度来たって俺はもう戦わねえよ。協力する理由も無い」 「いいえ。貴方は戦う理由があるはずです」 というような問答をずっと続けている。 かれこれ一週間、俺も彼女も飽きないものだと思いながら俺は断り続けて彼女は頼み続ける。 根比べに負けた方がまた明日と告げて次の日に持ち越す、なんて少し奇妙な関係性になってきた。 そんな日々も、まあ悪くない気はするが、それでも俺は協力することは出来ないだろう。 「異世界からの侵攻は止まることを知りません……この先に何があるかわからない以上、今は一人でも多くの人手が欲しいんです。だからどうか……」 「一緒に戦うねぇ……俺にそんな資格は無いんだよ」 キキョウの言葉を遮りながらそんな言葉を呟く。 彼女の真剣な言葉や思いは伝わってくるが、それでもこれは変えられない。 「人は勝手に助かって勝手に生きて行くものだ。俺は助けないし、助かりもしない……俺よりもっとマシな奴でも探した方がよっぽど良いと思うぜ」 俺はソファから立ち上がり、玄関扉まで歩いて扉を開ける。今日はキキョウに帰れと伝えるように視線を投げかけよう。 キキョウもここまでかと言いたげに息を漏らして立ち上がる。 彼女は玄関扉の前で軽く頭を下げ、一言だけ告げて去っていく。 「私は諦めません。貴方は必ず人の為に戦ってくれる……そんなお人です」 キキョウの方を見る事もせず、足音が遠くなっていくのを聞くだけ。 俺は静かに扉を閉めながら、キキョウの言葉をなんとか飲み込もうと考え込む。 「……俺が、人の為に……いや、そんなの……無理に決まってるじゃねえか……ははっ……」 事実は事実として、歯痒く感じながらもその結論を受け止める。己を嘲笑しながら扉の前で崩れる。 今でも思い出すのは二十年前の思い出。 俺はあの時、人の為に事を成すというのを止めたのだから。 ■ 「シエンさん!」 「なんだ!」 「一緒に戦いますよね!」 「嫌だ!」 「頑固者!」 今日も今日とて問答を繰り返す。 テーブルを挟んで立ち上がり、対面しながら変わらない日々をまた重ねる。 この問答には意味は無い、そんな風に見えるがキキョウは変わらずここに来る。 ──一度だけ問い掛けた事があった。 キキョウに対して『いつまで続けるのか』と。 キキョウは俺のその言葉に『頷くまで諦めるつもりは無い』と、断言した。 少し、表情が綻ぶような気分だ。 「……頑固者はどっちなんだかな」 「おや? どうかしましたか?」 「いいや……今日はコーヒーでも出してやろうかと思ってな」 安物ではあるがコーヒーでも淹れてやろうと俺は立ち上がってキキョウにコーヒーを飲むか問う。 たまには年長者らしく労おうじゃないかと考えた。しかし、それならいつも年長者らしくありたい所ではあるが。 キキョウはその言葉を聞けば喜ぶように笑顔を浮かべて言葉を重ねる。しかし一瞬苦しそうに顔を歪め、元の笑顔を浮かべれば口を開く。 「いいですね。是非ともご馳走になりたい所で……っ! ……いえ、今日は……この辺りで帰りましょうかね」 「……どうしたんだ、いつもより元気が無いぞ……あぁ、どうせ依頼なんて無いし、ソファで横になっててもいいぞ」 一瞬歪めた表情が気になった。 それだけの事ではあるが、ソファに横になる事を勧めておくことにした。 異世界のモノと戦う組織に所属している以上、日頃の疲れも溜まっているだろう。体調が悪いならばという善意であるがと考えていれば、キキョウはゆっくり話し出す。 「……いえ、平気ですよ。ちょっと目眩がしただけです」 「それなら、余計に休んだ方が良くないか?」 「私、枕が変わると寝られないんですよね」 「いや、どんな理由だよ」 元気に振る舞うキキョウを見ながら、少し心配になってしまうがここは素直に見送って早めに休むようにだけ言っておく事にしようかと考える。 「キキョウ」 「はい? なんでしょう」 一先ず『今日は早く帰って休め』と言おうと口を開いた時だ。 ──外の方、それも少し遠くから爆発の音が聞こえた。俺とキキョウは揃って音の方角を見る。 室内からではよくわからず、何事かとすぐに玄関扉まで走って扉を開ける。 「……」 「……街が燃えて……まさか、魔獣の……!」 キキョウは遠くで燃える町並みを見ればすぐに走り出す。 それを止めようと俺は手を伸ばして止めようとするが、その手は届かずキキョウは真っ直ぐ走って行く。 「……キキョウ……」 俺は、その場で立ち止まったままだ。 キキョウが去り、俺がその場で立ち止まったまま暫く経った頃、まだ外からは燃える音が聞こえる。 足が竦んで動けないなんて訳でもない。動きたいのに動けない訳でもない。 誰かを守る資格が無いから動けない。 俺が動かないのはそんな理由でしか無かった。 情けない、と自分でも感じる。 しかし、覆す事の出来ない事実が俺を縛り付ける。 重い重い鎖が纏わりつくような、そんな身体を動かそうとするのは大変なんだ。 だから、俺はここで立ち尽くし続ける。 「ああ、あわよくば、このまま朽ちて行くのも良いのかもしれない」 そんな言葉を呟いて己を嘲笑う。 そして目を閉じる。 『貴方は必ず人の為に戦ってくれる……そんなお人です』 キキョウの言葉が脳裏に蘇る。 眩しく輝くような、そんな言葉が視界を開く。 ──あぁ、そうだ。 「俺に誰かを守る資格は無いな……けど、それで人を守らない理由にしたらいけない、よなぁ……」 真っ直ぐ被害の元へと走り出したキキョウを思い出す。 そうだ、人を助ける事に理由はいらない。 誰かに偽善だと罵られても、俺が俺である為に必要なことだろう。 ──それならば、この扉を開いて走り出すだけ。 「……俺は、燎火シエンだ……もう、今までの俺とは違う」 俺は懐からバンダナを取り出して額に巻き付け、しっかりと後頭部で結べば正面を見据える。 「早く行かねえと……魔獣の被害は広がってるよな……」 真っ直ぐとドアノブに手を伸ばす。 扉を開けて、俺は誰かを守るために走り出す。 ■ 燃える街を己の足で走り出し、被害が拡がって行く横で逃げ遅れた人々がいないか見ながら、足を止めずに進む。 先に此方に向かったキキョウの姿も探しながら走り続け、街の中心へと向かっていく。 「誰か! まだいないか! キキョウ! 何処だ!」 大きな声で声掛けをしながら被害の確認を続ける。幸いにも付近に逃げ遅れた人はいない様子だ。 それと同時に不安なのは燃え盛る街の被害が大きなものになるだろうということ。 これ以上、被害が増える前に魔獣を討伐するべきだろうと焦る気持ちがある。 肝心の魔獣は街の中心へと向かったのだろうか付近には見当たらない。それがまた焦る気持ちを加速させる。 「キキョウもあっちに行ったのか……?」 大通りに出て、街の中心へと走り出そうと一歩足を踏み出す。しかし、大通りから中心へ続く道とは反対の道が視界に入れば前に出した足を引っ込めてそちらへと走り出す。 ──逃げ遅れたであろう子供の姿が見えたからだ。 「おい、大丈夫か」 「あ……」 「逃げ遅れか……」 子供は少年のようだが足を怪我しているらしく、道の端から動けずにいるようだった。 「今安全な所に連れてく……と言ってもここら辺の避難場所はどこだっけ……」 心配した俺が駆け寄りながら声を掛けるが、少年は首を振って声を荒げる。 「き、来ちゃ駄目だ!」 「……えっ?」 その声が聞こえた瞬間に風を切るような音と共に上空から何かが飛び降りる音が聞こえた。 すぐに上を確認すれば、正体がわからずも少年を庇いながら正面に飛び込むように転がる。 「危なっ……クソ! 大丈夫か?」 「お、俺は平気……そ、それより、前……前……!」 「……ガキを餌に誘き寄せて狩りとは……随分狡猾な魔獣だな……」 正面を背に庇いながら、飛び降りて来たライオン型の魔獣の姿を確認して警戒を強める。その表情は罠に掛かった獲物を見る獅子の姿その物に見えた。 俺は立ち上がり、一度少年を見る。 足を怪我していてこの場から逃げるのは困難に見えた。そこまで計算しているというのかこの魔獣は。 長く戦って来なかった為に、この場をどう切り抜けるか不安になるが、警戒したまま姿勢を低くして対面する魔獣を見据える。 「……時間は稼ぐ……なんとか逃げれるか? ……なんて、難しいか……」 そうなれば目の前の魔獣を倒して一緒に避難するか、魔獣の気を引いて別の場所に連れていくかのどちらかしか無いと考える。 どちらにせよ、魔獣とある程度は渡り合える力が無ければならない。 「……っ」 今、俺の顔を見れば苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。 過去の栄光に縋るのはごめんである。 だからこそ、やるしか無いと気合いを入れて両手の拳を握り締めて、ライオン型の魔獣と渡り合うつもりで睨み付ける。 「グ、ガラァァァ!」 「……っ! 来い!」 魔獣の雄叫びに一瞬怯みながらも動きを見定める。 魔獣が此方に走り込む。それと同じく俺も魔獣に向かって走り出す。 肉薄する勢いで近付けば魔獣はその手を振り上げ、肉を引き裂く勢いで引っ掻くような攻撃を繰り出す。 俺は魔獣の腕をすれすれで左に反れるようにして避けながら、魔獣の身体に勢いを付けて拳を叩き込む。 ──しかしその一撃は大したダメージにはなっていないようで、すぐにまた空いている手を振り上げて凶悪な引っ掻き攻撃を繰り返す。 俺もまた、その攻撃を避けて、拳を打って、避けて、打ってを繰り返す。 やはりと言うべきか、俺の一撃一撃はそこまで驚異にはなっていないようだった。 「ぐっ……!」 遂に魔獣の爪は俺を捉える。咄嗟に身体を庇うように前に出した右腕を引っ掻かれる。 血が吹き出て辺りに飛び散り、激痛が身体を走る。 傷は浅く無いのは明白で、後方へ飛び退きながらも右腕を押さえながらその傷を見る。 深々と引っ掻かれた傷がそこにしっかりと刻まれていた。 「が……はっ……!」 「グルル……」 漸く獲物を捉えた事で、魔獣は自信に満ちているのが分かる。 それに引き換え、俺は怪我を負ったことでより動きが鈍くなるのが分かった。 ──意を決して人を助ける事を決めたくせに、一人も助けられずに終わる。 そんな結末が見えて身体が揺れる。 「……ははっ……これも運命って、奴かなぁ……クソッ……」 魔獣に壁際へと追い込まれ、ここで最後かと魔獣を見る。獲物を狩る準備は出来たと言いたげな表情に笑いが溢れる。 こんなところで終わってしまうなんて、本当に最悪だと俺自身も笑ってしまう。 ──ああ、過去に縛られず、出し惜しみなんてするんじゃなかったと、ここで後悔する。 せめて、少年を助けたかった。街は平気だろうか。 ──キキョウは無事だろうか。 そんな事を考えながら、終幕に応じて目を閉じた。 「シエンさん!」 エンディングかと思われた幕を、切り裂くような軽やかな声がその場に響く。聞き覚えのあるその声に目を開いて、上空へと視線を向ける。 彼女の身長よりも大きく、冷たく光るも、その洗練された刃を輝かせる鎌を持ったキキョウがライオン型の魔獣に目掛けて落ちてくる所だった。 「お、おまっ!?」 「えーいっ!」 俺が驚いている隙に、キキョウは鎌を振り下ろして魔獣を両断する。魔獣は鋭い雄叫びを上げながらその命を途切れさせた。 キキョウは仕事は完了したと言わんばかりに魔獣の亡骸の上に立って、額の汗を拭っていた。 しかしその姿の所々に切り傷や出血があるようで、なんとなく空元気に見えてしまった。 それでもキキョウは平気そうに俺を見て話し掛ける。 「良かったです、シエンさん。無事そうですね……深々~な怪我はあるみたいですが」 「あ、ああ……俺は平気だよ……それよりキキョウこそボロボロじゃねえか……」 「私は平気です! これくら……いてて……」 陽気を気取ってはいるが、鎌を落として左腕を押さえる仕草をする。よく見れば服の切れ目から血塗れの包帯が見える。 事務所で顔を歪めた理由はこれかと考え、慌ててキキョウに駆け寄る。 「俺よりよっぽど酷い怪我じゃねえか……手当て……いやそれより避難か……?」 「大袈裟ですよ……それより、逃げ遅れた子がいるんですよね?」 キキョウは怪我をした少年を見ながら俺に告げる。 少年は魔獣が倒されたのを見て一安心しているようだった。 しかし、それとこれとは話が違うとキキョウに詰め寄る。 「確かに怪我人はいるが、俺もお前も怪我人だろうが」 「そうですね。でも私はまだ戦えます。シエンさんはあの子と一緒に……」 「怪我の酷さはお前が一番だよ!?」 そこまで言えばキキョウは拗ねるように頬を膨らませる。 「しかしシエンさん、さっきろくに戦えて無かったでしょう? 魔獣、大して傷もありませんでしたよ」 「そ、それは……そのぅ……」 俺は頬を掻くようにして目を逸らす。 しかし問題はそこでは無かったようで、続けてキキョウは口を開く。 「……戦えないならすぐ逃げてください……大物は残ってます」 「……大物?」 「はい。多分そろそろ……来ます」 キキョウは鎌を持ち直し、空を見る。俺は釣られて空を見上げる。 暫く空を見上げていれば、暗い影が辺りを覆い尽くす。 その発生源は──大きな羽を持ったドラゴン型の魔獣であった。 その大きさに俺は息を飲む。その大きさに気圧される勢いがあった。 キキョウは物怖じせずにドラゴンを見上げる。 しかし、傷は深いようで時折苦痛を見せていた。 「……早く、シエンさんは彼を連れて逃げてください」 「……」 ドラゴンが羽を羽ばたかせる度に強風が吹く。その風にもまた気圧される勢いがあるように思えた。 だからこそ、だからこそ俺は。 「──情けねえ……」 「えっ?」 「──俺は、俺が情けねえよ」 キキョウは見る限りまだ学生の齢だろう。 そんな彼女が身を挺して魔獣と戦うというのに俺は過去の出来事を理由に本気で立ち向かわなかった。 その事実が、とても情けなく感じた。 俺はキキョウに近付いて声を掛ける。 「少年連れて……そうだな、建物の陰にでもいてくれ」 「えっ? ……ち、ちょっと、シエンさ……」 俺はキキョウの言葉を聞かずにそのまま前に出る。 風が俺の身体を強く打ち付けて来る。 それでも逃げずにまた一歩前に出る。 対面、とは行かないがドラゴンと対峙して見上げる。 「ふう……使うまいと思ったけど……誰かを助けるなら、使うべきだよな」 俺は魔獣に向けて左腕を上げる。魔獣はその動作だけで察したのか警戒を強めていく。 俺は左腕の先に全神経を集中させる。燃える炎を左手に集めるように意識を続ける。 「俺の炎は──全てを燃やし尽くす」 「グガァァァ!」 その言葉と共にドラゴン型の魔獣は雄叫びを上げる。 キキョウは戸惑いながらも少年を連れて建物の陰に隠れたようだ。これで俺も少し本気を出せると考えて、息を吐き出す。 魔獣に向けて上げていた左手の先から特大の火柱が上がる。その火柱は魔獣に向かって勢い良く燃やし尽くすつもりで飛び掛かる。 魔獣も抵抗するように炎の息を吐き出して炎同士が拮抗する。 しかしその時間も束の間で、此方の炎が圧倒して魔獣を焦がす。 「グルガァ!」 炎を避けるように魔獣は身を翻すが、俺はその動きを許さぬように地面と壁を蹴って魔獣の元へと飛び上がる。 「逃がす……かっ!」 飛び上がって魔獣の元へと近付けば、右足に炎を集めて魔獣の腹を蹴り上げ、そのままビルに勢い良くぶつける。 窓が割れてビルも崩れていくが、魔獣はすぐに体勢を立て直して此方に向かって飛び掛かる。 魔獣の飛び掛かりの勢いのまま俺は大きく飛ばされ、建物の上を跳ねるように転がる。魔獣は俺を追いかけるように羽ばたきながら、俺に向けて炎を吐き出す。 すぐさま起き上がり、魔獣の炎を避けるように建物と建物の間を跳び跳ねて誘導する──キキョウと少年がこの隙に逃げれるようにと考えて。 そして元いた場所から距離を取ったならば、適当なビルの上で立ち止まり、魔獣を見据える。 魔獣は俺を捕捉すれば息を吸い込んで特大の火炎をお見舞いしようと溜め込む動作をする。 「今度は本気も本気だ」 俺は、ドラゴンに向けてまたとびっきりの火炎をぶつけるつもりで左腕を上げる。 今度は格好よく決めさせてくれよ。 左腕に全神経を集中、炎の力を集めて魔獣へと撃ち出す。 「──『英雄の火炎(ヒーローフレイム)』」 爆発のような大きな音を立てて炎が魔獣に向けて迸る。 火炎は空気を、床を、空を、空間を焦がすように燃やし尽くす。魔獣はその火炎に抵抗も出来ずに、身体を燃やされていく。 辛うじて動けるようで、燃える身体を羽ばたかせてふらふらと遠くへ翔んでいくのが分かった。 追いかけてもいずれはその命は尽きると理解して俺はその場で倒れる。 「やべえ……つ、疲れた……」 一先ず、一度休むことにしよう。 ■ あれから数日後、街は復興を行いながら平和な日々を過ごしている。 キキョウの所属する組織の協力もあってこの付近にまた魔獣が現れる心配は無くなったらしい。 とはいえ、完璧な仕組みでは無いとかで必要に応じて討伐や点検が必須とのこと。 さて、そんな日常でまたキキョウが俺の事務所へと訪れた。 「シエンさん!」 「なんだ!」 「協力してください!」 あれから数日経って、キキョウは充分な休息も取れて体調や怪我もある程度、万全になったようだ。 そんな俺自身も治療の甲斐あって、怪我はほとんど治った。 そのため、いつものような問答を繰り返す。 だからこそ、今回も同じように答えよう。 「──いいぞ」 「え~、なんでで……なんでですか!?」 「おっ、珍しく驚いてるな」 「当然です! ずっと断ってきたのに……」 そりゃそうか、と考えながら笑う。そんな態度にキキョウは不服そうに頬を膨らます。 少し申し訳ないので謝りながら理由を説明することにした。 「悪い悪い……いや、お前が俺に言ったんだろ? 俺は人の為に戦ってくれるって」 「それは……確かに言いましたね?」 「それがさ、多分そのとおり……だと思ったからだな」 この前の一件で、俺は誰かの為に戦えると分かった。 そして──その力があると分かった。 だから。 「俺は戦うよ。人の為に、誰かの為に」 「……そう、ですか……」 キキョウはそれを聞けば黙り込んで考える。 しかし、すぐに笑顔になって俺を見る。 「それは良かったです! それでは、早速機関の方に案内しましょうか?」 「行動が早いな……まあ、いいや。そりゃ勿論、歓迎されるぜ」 「ありがとうございます。シエンさん……いえ、『焔の英雄』燎火シエンさん」 「……それは……慣れないから止めてくれねえかなぁ……」 俺は立ち上がって未来への一歩を歩む。 誰かの為に、人の為に戦う俺になる為に。 ■ 燃え尽きた竜は山の奥の洞窟に倒れていた。 静寂に包まれた洞窟の中でこれも全て、あの火炎の男のせいだと竜は想う。 今は鋭気を養って復讐するのだと竜は思考する。 いつか必ず、竜は復讐をとげるのだ、と考えて凍結した。 ──洞窟は突然氷に包まれた。 パキリと洞窟に踏み入れる足音が聞こえる。 洞窟に厚着をした髪の青い大柄の男と魔法使いのような服装をして杖を持つ橙色の髪の小柄な少女が踏み入れる。 「うぅー……寒いねぇー……」 「トウジが寒がりなだけよ……あと、この氷はトウジのせい……」 「そうだけどー……は、はっくしょん! ……まあ、いいやー。リサ、転ばないように気を付けてねー」 二人の男女は洞窟の奥で凍った竜の元まで歩く。 男が興味深そうに凍った竜を見れば、軽くつついて見せる。 その瞬間、ピキッとヒビが入って凍った竜は凍りとなって割れる。 「う~ん、この程度だったかー……残念だー」 「まあ、手負いだし……ここまで燃やしたのは例の元英雄さん……だけど」 「そうらしいねー……でも……」 男はこの場に用は無くなったと言いたげに踵を返して歩き出す。 少女は呆れた様子で男の背を追いかける。 「おれの方が強いでしょー」 「当然よ、だってトウジは『規格外』だもの」 二人の姿はいなくなり、こうして洞窟は再び静寂へと戻るのであった。
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/29.html
「頼むオカ研! 手伝ってくれ!」 扉をガラガラと開ける音の後、すぐに聞こえてきたのはそんな元気な声。 俺達四人が顔を上げて扉から聞こえた声の主へと視線を向ける。 「えっと……お前は映画研究会の……山波だよな?」 「そう! 山波和斗! 映画研究会部長だ!」 「で、何の用だよ?」 「そうだった! 手伝ってくれ! オカ研!」 俺と朱美、緑樹が呆気に取られている中、部長が対応してくれたためになるほどと頷く。 映画研究会とは、文字通り映画を研究し自分達で制作をしている部活動メンバー達である。 確かこの秋の文化祭が終わった事で代が変わって新しい部長になったと聞いていたけれど、その関係だろうか。 そう思いながら部長と山波の様子を見続ける。 「まあ、落ち着けって。手伝ってくれって何を手伝えばいいんだ?」 「ああ! そうだな!」 山波は元気良くそう叫べば改めてと話し始める。 「実はだな……この度、俺は映画研究会の部長となった! のだが……実はそれに伴って人手が足りなくなったのだ!」 「あれ、映研ってそんな人手無かったっけ?」 ふと気になって俺も口を出してしまった。しかしそう思うのも事実で、確か元々の人数が多めの部活動だったはずだと認識していた為である。 俺のその言葉を聞けば山波は少し暗い表情を浮かべながら、ゆっくりと口を開く。 「うん……実は……三年生が引退したのだが……それと共に受験に専念すると言って一人……兼部していたから片方に専念すると言って一人……補習で一人……体調不良と怪我で二人……旅に出たのが一人……転送されたのが一人……結果今は三人しか残っていないんだ……!」 旅と転送って何? 「そうか……大変なんだな映画研究会……」 「いや部長。もっと大変な所あるぞ」 「そして新規フィルムを撮らねばならないのに人手が足りないのだ! 改めて頼むオカ研!」 という事から現在に至り、何故か生徒会室前にオカ研四人と映研三人で立っている。 「では! 改めて俺は映画研究会部長の山波和斗だ!」 「映画研究会で脚本を主に担当している藍染静香です」 「僕は機材を主に取り扱ってる。祭囃子振袖だよ」 「三人合わせて! 映画研究会!」 いや生徒会室の前で煩いなこの映研部長。 そろそろ生徒会長が怒鳴り込んでくる頃合いじゃないかな。 「こらぁ! 喧しいぞ映研! オカ研も一緒か君達は!」 なんか巻き込まれてる。 「よっ、生徒会長。報告書出せーってうるさいから口頭で教えに来たぜ」 「なるほど……書類として出せば良いだろうが!」 「まあまあ、落ち着くっす」 「はぁ……それで今回はこんな大人数で何の用だと言うんだ?」 本題は何かと生徒会長が促せば映研のメンバーは待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべて一歩前に出る。 「今回はオカ研と共同で映画撮影と行きたいのだ!」 「その為の許可取りと、それから学校を撮影に使いたく思って、そちらの許可取りもしに来ました」 「まあ学校内で撮影は収めるし迷惑は掛からないと思うんだけどどうかな?」 「ちなみにタイトルは決まっているぞ! 藍染!」 「『ハロウィンホラーナイトムービー・スクールオカルトナイト【学校の七不思議を明かせ】』です」 生徒会長が呆気に取られながらも内容を聞けば考え込むように黙り込む。 流石に許可出来ないとか言い出すような気がするけれど、どうなるものか。 そんな風に思っていれば生徒会長は口を開く。 「まあ、いいだろう。学校の備品を壊さないのであれば許可が出るか学校側に掛け合っても良い。ただし監視として私も着いていく。それくらいは飲んでくれるな、映研」 「よし! 第一関門クリアだな!」 わいわいと映研が騒いでいる中、ふと緑樹が俺に近づいて耳打ちをしてくる。 「なんか生徒会長さん映研に甘くありませんー? というよりオカ研に厳しいんですかー?」 「まあ部長が報告書溜めてるし、その分は厳しいかも」 そんな風に話しつつ、ふと映研に目を向ければはしゃぎつつも次の問題を話し始めるようだった。 「さあ! 次の問題だが! 今度は人手だ!」 「あれ? 私達オカ研の四人と映研の三人だけじゃダメなんですかー?」 緑樹は右手の指を四本、左手の指を三本立てて、合計七人ですよーと言いたげに首を傾げる。 しかし映研の部長はそれに対して首を横に振って答える。 「実は……俺は役者しかやってきていなくてな……脚本の藍染は逆に役者が出来ず、機材担当の祭囃子も機材の扱いで手一杯だろう……そうなると監督とカメラが足りず、役者も少なくなってしまうのだ」 「あぁ、なるほどです。つまり監督役とカメラ役を抜いたら残り三人だけですか」 「おいおい、じゃあオレ達だけじゃまず撮れないじゃねえか」 「いや! 手段はあるぞ! カメラを持つ役兼カメラにすれば一人増やせるからな! ……それでも役者が出来るのは四人なんだが……」 映研の面々に我らが部長までもが唸りながら考え込む中、俺自身もどうすべきかと考える。 しかし人手不足はどうしたって回避出来る物では無い。 「……あっ」 「どうした晴矢?」 「生徒会長に役者頼めばいいんじゃねえ?」 その言葉を聞いた全員が生徒会長を見る。 まさか自分に来るとは思わなかったようで、生徒会長も驚いた様子で首を横に振る。 「ま、待つんだ。私は役者とかやったことないし……なんだその丁度良いみたいな表情は……ま、待て……」 一人確保。 さて、他に誰か協力してくれる人はいないかと皆で手分けして探している所まで進んだのだが。 残念ながら皆未だに探せていない様子だった。 俺自身もどうした物かと学校内を見渡しながら中庭のベンチでコーラを嗜んでいる所だった。片っ端から声を掛けてはいるが、それでもやはり捕まらない物で、いやはや困った。 そんな時だった。 「辛気臭い顔ね」 「ん?」 そんな声を聞いて顔を上げると、とある少女が立っていた。その顔には見覚えがある。というか普通に同じクラスの少女である。 「えっと……紫絡か。どうしたんだ?」 「それ、こっちの台詞よ。あんたこそどうしたってのよ、雨之君」 そんなに表情に出てたかなと自分の頬を引っ張りつつ、彼女の問いかけに答える事とする。 「映画を撮るんだけど、役者が足りなくてさ」 「へぇ、映画ねぇ……」 紫絡はそこまで言うと考え込む。 何を考えているのかわかった物では無いが、一応何か言うのであればと待つつもりでいる。 「その映画、出てもいいよ」 「……なんだよ、興味でもあったか?」 「そんな所かな。詳しいコト教えなさいよ」 こうして、今回のメンバーが揃ったのだった。 ■ 「で、撮影開始日なんだけど……」 俺がそう呟けば、他のメンバーはうんうんと頷く。 それは全然問題ない。なんならメンバーも欠ける事無く当初のメンバーは勢揃いである。 学校も休みであり、生徒会長権限で今日だけは部活動も映研とその関係者以外は校内では停止という事になっている。 だからこそ、一つ問題点がある。 「……なんで俺が監督なんだよ! そこは墨木部長とかで良くねぇ?」 「いいや! 墨木にはやって貰いたい役があったからな!」 そこで口を挟むのは山波。 やって貰いたい役があったなら仕方ないな。 「としても俺しかいなかったかよー……」 「まぁ、なんでも出来る雨之先輩ですし、監督の一つ二つは余裕ではー?」 「それは否定しない」 緑樹の言葉を聞けばなら仕方ないなと引き受ける。 別に自称してるつもりは無いがここでなんでも出来ると言われて嫌な気持ちは無いからである。 「まあ、監督と言っても脚本や演出、演技等に関して自分の思う指摘や賛美をすれば良いだけです」 「そういう物なのか?」 藍染が声を掛けてアドバイスをくれるが、それでもまだピンとは来ず。 しかし要するに状況に応じて批評をするだけならばと考えれば楽ではあるかと考える。 いやもっとやる事はあるんだろうけど。進行役とか。 ともかく、みんな準備が済んでいるらしいからと脚本に改めて目を通す。 今回の映画はホラードキュメンタリー風映画、という事で学校の七不思議を調査するべく探索をするオカ研の三人と協力者の三人による恐怖の学校譚、だそうだ。 最初はオカ研の三人でこっくりさんの録画をするシーン。 「それじゃあ、まずはこっくりさんを……オカ研の部室で」 俺の声と共に各々がオカ研の部室へと向かう中、ふと校舎の窓に人影が見えた気がした。 「……? 先生とか補習の生徒かな……」 部活動を停止させただけで、校内で準備をする生徒や補習の生徒、先生方はいるワケだし不思議な事は無い。 だから、気に留める必要も全く無いのだが──。 「……あ、やばい。皆もう行っちゃった」 慌ててオカ研の部室へと向かう。 脚本の流れは分かりやすく、最初はこっくりさんに七不思議を調査するように言われ、協力者を集めて校内の探索を始めようという物である。 「それじゃ、シーンワン。スタート!」 俺の掛け声と共に一瞬の間を置いてオカ研役の墨木部長、朱美、カメラ役も兼ねてる緑樹がこっくりさんを始める。演技に違和感も無く、自然な雰囲気で進む。 というか俺らオカ研がこっくりさん慣れをし過ぎているだけな気がする。 『こっくりさん、こっくりさん──』 こっくりさんを呼び出し、こっくりさんが七不思議を調べろと告げた後。 ここからが皆の演技のシーンだ。さて、どうなるか。最初は朱美の台詞だ。 「え、エェー! 七不思議ヲシラベロナンテー!」 「ごめん待ってカットカットカット」 「ふっ、完璧すぎたっすか」 「逆だよ」 ここまで片言になるとは思わなかった。 そう考えながらも朱美に話をする。 「えっと……緊張してるのかわからないけど……別に演技する事に集中するよりはいつも通りのオカルト関係だと思って話してみたらどうだ?」 「なるほどっす……」 ぶっちゃけこれ、本人役本人みたいな映画だし。 「という事でもう一回、スタート!」 「えぇ!? 七不思議を調べろってなんすか!」 一気に自然になった。朱美はこの調子で良いかもしれない。 となると他の二人だが、果たして。 「……」 「まあ、やるしか無いんじゃないですかー?」 「そうっすね……部長、どうするっすか?」 「……」 「待って、カットで」 なんか抜けあるよね。というか部長の台詞が抜けてるよね。 「部長、どうした?」 「……ああ……」 「もしかして体調悪い? なら代役立てて一旦休んで……」 「いや……」 「どうしだよ部長」 「オレ、緊張して……大きい声が出せなかった」 だから残りの二人は上手く話せてたのかぁ、と納得した。 というか緊張するのかよ。 「カメラ回ってると上手く話せないってか?」 「バスケ部時代も大会のインタビューとかで緊張してたからな!」 「胸を張る所では無い」 さて、どうした物かと考えていれば、山波が部長に声を掛ける。 「ふっ! 安心しろ墨木!」 「何か良い手があるのか!?」 「緊張してしまうなら! なんか、手のひらに人って書いて飲むと良いらしい」 おまじないだった。 「えっと……山波。それ多分ただのおまじな……」 「人! 人! 人! 入! 人!」 「部長、変なの混ざってる。書き順違うぞ」 こんなので上手く行くのか不安だが再開である。 「七不思議? この学校にそんなのあったのか」 「まあ、やるしか無いんじゃないですかー?」 「そうっすね……部長、どうするっすか?」 「やるしか無いなら、そうすべきだな……確か歴代のオカ研が集めた情報が何処かに……あった」 まじで効いてた。 というか緑樹は普通に出来てるし。なんなんだこいつら。 とか言っているうちに冒頭のオカ研部室パートは撮れたのであった。 「幸先不安だけど……山波はともかく、生徒会長と紫絡は出来るのか?」 ふとそんな事を呟けばそれを聞いた二人は口を揃えて。 「出来るぞ」 「出来るよ」 「自信があるようで結構……ん?」 自信のある二人に圧倒されつつ、また人影が見えた気がした。部室の窓から誰かが覗いていたような、そんな感じ。 「気のせいかな……」 誰も気付いていないようだし、気のせいだと判断して次の撮影場所へと向かう。 そして、二人の自信は確かな物であった。 「ちょっと、なんでアタシが協力しなきゃいけないワケ!?」 思ったよりもしっかり演技をこなす紫絡。 その振る舞いは演技の天才と言うべきか。 「僕が協力してやると言っているんだ。感謝したまえ」 生徒会長もそつなく演技をこなす。 もしかして生徒会長、オカ研の報告書取ること以外なんでも出来るのか? 「七不思議か、いいぜ。興味あるしな!」 そして山波も、当然ながら役者が得意というだけあって上手くやっている。 この映画、中々良い物に仕上がるのではないか? 「はい、カーット。一旦休憩」 俺も俺で監督の立場が馴染んできた頃合いだ。 しかし、ずっと人影がこちらを見ている気がして少し気になってしまう。撮影中、ずっと視線を感じるような感じだ。 物好きな生徒が後を追いかけているという所なのか。わからないが。 「休憩終わったら夕方のシーンやるぞー。準備しっかりとねー」 「はいっす!」 「はーい」 「おう」 「任せろ!」 「はい」 「はいよー」 「承知しました」 「わかった」 「任せなさい」 ■ 無事に撮影は終わった。 違和感という名の視線はずっと続いていたが、それも撮影が終われば気になる事は無かった。 緑樹と祭囃子がパソコンで編集作業をしていた。 どんな様子かと覗き込めば、スムーズに編集を行っているのがわかった。 「スムーズですけどー、泣く泣くカットする場面もありますけどねー」 「まあそれが映画って物だからさ」 「映画ってそんな感じなんだ……ん?」 一瞬、何か変なものが映っていた気がする。 「どうしましたー?」 「……いや……」 二人が見て気にならないなら気のせいだろうと判断して続けて貰った。 役者の皆も達成感で満足している事だし、違和感にとやかく言うのもよろしく無いだろう。 「まぁ、ひとまず終わった事を祝うかぁ」 なんて呟いて、ついに映画の公開日だ。 この日は外部から関係者や友人も招いて公開する映画を見て貰おうという日だ。 タイトルと同じく、ハロウィンという日の公開であるために街も少し浮き足立っている気がする。 俺達、オカ研もポップコーンと飲み物を携えて上映のための視聴覚室へと入る。 既に映研のメンバーに生徒会長は揃っており、紫絡とその友達だろうか、上品な方と大学生らしき男性もいる。 映画を観る目的の生徒も複数人集まっているらしく、遅く到着した俺達は後ろで立ち見となるらしい。 「折角の監督と役者は後ろで立ち見かよ」 「いいじゃないっすか! 結末は知ってるっすし」 「だな。むしろ客の様子をしっかりと見れるからな」 「……」 しかし一人黙り込む緑樹。やはり後ろで立ち見が納得行かなかったのだろうか。 その気持ちはわかるぞ。そう考えて緑樹に声を掛けようとして部屋が暗くなる。 時間になったようだ。 『こっくりさん、こっくりさん』 『七不思議を調べろってなんすか!』 『七不思議? そんなものがあったのか』 『これは解決するしかないですねー』 『なんだあれは!』 『やだぁ、怖い怖い』 『も、もう嫌だ!』 『うわー!』 ENDの文字が流れる。 観客は怖かっただの、面白かっただの、あの子が可愛い。あの人がかっこいい等話しながら帰っていく。 しかし観客は気付かず。こうして観て、監督をしたからわかった事があった。 撮影している時はわからなかったが、何処かしらに此方を見ている謎の少女がいた事に。 もしかして、緑樹が始まる前に黙っていたのは、この事に気付いていたからなのか。 それとも、一緒にいたのは緑樹では──。 少なくとも、見終わった後に緑樹はすぐに帰ってしまった。 「雨之君、こんな話知ってる?」 「なんだ?」 「怖い話をすると幽霊が近寄る、みたいな話があるんだって」 「へぇ……それがどうした?」 俺は休み時間に紫絡と話していた。 そんな時に唐突にこんな話をしたのだった。 「ああ、気付いてないならいいか」 「なんだよ……気になるな」 「だって……」 「あの子、貴方を見ているから」
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/26.html
窓も閉じられ、カーテンで光も遮断され、机の上の蝋燭のみが明かりとなるとある教室にて、男女三人が集まりとある儀式を行おうとしていた──。 「それじゃあお前ら……やるぞ?」 「うす!」 「いいぜ」 「せーの……」 『こっくりさんこっくりさん、お出でください』 シン……と部屋は静寂に包まれ、何も起きず。 なんだ、やっぱりオカルトはオカルトか、三人がそう思った時だった。 「コラァ! オカ研! 書類出さんか!」 「げぇっ! 生徒会長!」 「なぁにが『げぇっ』だ。オカルト研究会部長の墨木隆平!」 生徒会長がビシィッと指差す相手は我がオカルト研究会部長の墨木隆平先輩。 元はバスケ部らしく身長も体格もデカいのが特徴。 なんでも三度の飯よりオカルトが好きということでオカルト研究会に入ったらしい。 生徒会長はズカズカと部室の中に入りながら今度はオカルト研究会唯一の女子生徒へと言葉を掛ける。 「そもそも君は陸上部だろう! 何故ここにいる!」 「ウチっすか? いやぁ、陸上部大変すから! 大会にも出たし……オカ研面白そうっすし!」 「な、なんだってぇ!?」 彼女は宮野朱美。 オカ研唯一の女子で元陸上部の活発女子。 赤味がかった茶髪と体育会系な喋り方が特徴的。 「い、移籍したならまあいい……聞いてないぞ僕は……ゴホン! それよりも、雨之晴矢!」 「はいはい、なんですか?」 「オカ研に所属しながらも他の部活動の助っ人をしまくるな! ここは便利屋か!」 「まあ、オカ研わりとそういうところあるんで」 そして、生徒会長が最後に目を付けたのは勿論この俺。 特出すべき点は特に無いけれど、強いて言うなら生徒会長の言う通り色んな部活の助っ人をしたりしながらオカ研に通うのがこの俺。 雨之晴矢である。 「全く君達は……で、今日も活動報告書を出さずに何をしていたのだ!」 「あ、部長、十円玉動き出した」 「おっ! 本当だ!」 「やったっすね!」 「話を聞けぃ!?」 さて、それではこっくりさんはどう動いているのか見てみよう。 「えっと……か、え、り、ま、す……だそうっすよ」 「……生徒会長……お前が騒ぐから……」 「なっ……わ、私のせいか!?」 時にこっくりさんというのは人間の心理的に指が自然と動く現象を利用してると言われているらしい。 つまり、生徒会長が来た途端に『帰ります』となったということは、三人満場一致でこの場から去りたくなってるという事だろう。 そう考えていると帰りを知らせるチャイムが鳴る。 今日は学校が早く終わるとの事で早い時間だがもう帰らないといけない。 「くっ……君達に構ってたらこんな時間に……また今度活動報告書取りに来るからな! 墨木隆平はしっかり用意しとくように!」 「あ、うん……覚えてたらな?」 そう言って生徒会長は去っていった。 「……そういや、生徒会長の名前ってなんすっけ?」 「ああ、確か……えっと……なんだったかな?」 「こっくりさんに聞いてみたらどうよ?」 「それっす! こっくりさんこっくりさん! 生徒会長のお名前は?」 十円玉がゆっくりと動き始める。 漢字はわからない物の、動くならば一応名前はわかるだろう、きっと。 「つ、か、さ、れ、い、し、濁点……つかされいじって名前らしいぜ」 「ああ、確かそんな名前だったな!」 「ほうほう……あ、早く校舎から出ないといけないっすね……こっくりさんこっくりさんお帰りください……っす」 こうして俺達は十円玉から手を離して荷物を纏めて帰りの準備を始める。 急ぎでもあるしこっくりさんの後処理はまた今度とする事に決まった。 「あ、部長。帰りにラーメン屋行こうぜ」 「おっ、いいな。朱美も来るか?」 「行くっす! ウチチャーシュー麺チャーシュー大盛り!」 「じゃあオレは豚骨ラーメン大盛りにするか……晴矢はどうする?」 「鍵閉めて……っと……俺特製味噌ラーメンの気分かな」 ガヤガヤとどのラーメンを食べるか話しながら帰る。 しかし、俺達の目が届かない部室内では、十円玉が人知れずゆっくりと動きだす。 『いいえ』
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/42.html
紫絡(しがらみ)クレハ 名前:紫絡クレハ 年齢:17 性別:女 身長/体重:162cm/56kg 性格:生意気 職業:魔法使い 一人称/二人称/三人称:アタシ/あんた/アイツ 好き:強い自分 サンドリヨン お菓子 嫌い:弱い自分 猫 朱矢 属性:全 メインカラー:紫 サブカラー:赤 詳細:逢魔刻に現れる魔法使いの一人。 紫の称号を持つ天才の魔法使い。
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/48.html
エクサナル(えくさなる) 名前:エクサナル 年齢:? 性別:男 身長/体重:186kg/74kg 性格:研究熱心だが研究以外には冷徹 職業:時空間の科学者 一人称/二人称/三人称:私/君/彼、彼女 好き:研究 嫌い:愚か者 属性:深淵 メインカラー:青 サブカラー:白 詳細:外側の人狼科学者。
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/33.html
宮野朱美(みやのあけみ) 名前:宮野朱美 年齢:17 性別:女 身長/体重:162cm/56kg 性格:元気! 職業:高校二年生 一人称/二人称/三人称:ウチ/あんた/あいつ 好き:走る事 肉 嫌い:野菜(苦めのやつ) メインカラー:赤 サブカラー:橙
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/39.html
氷室(ヒムロ)トウジ 名前:氷室トウジ 年齢:20 性別:男 身長/体重:196cm/98kg 性格:マイペース 職業:魔獣狩り 一人称/二人称/三人称:おれ/君/あの人 好き:温かい 嫌い:寒い 属性:氷河 メインカラー:水色 サブカラー:青
https://w.atwiki.jp/gatoikazuti/pages/40.html
リサ(りさ) 名前:リサ 年齢:? 性別:女 身長/体重:156cm/52kg 性格:冷静 職業:魔法使い 一人称/二人称/三人称:わたし/あなた/あの人 好き:トウジ、優しい人 嫌い:弱い自分、悪い人 属性:医療 メインカラー:橙 サブカラー:紫