約 3,146,610 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5564.html
第四章『消えなさい!あたしの弱さ!』 キョンの机やあたしの机を懐かしむ暇はない。おぼつかない足取りを正しながら、一年五組の出入り口を跨いだ。 ――ピンポンカンコーン。 いきなり鳴り響くチャイムの無機質な音。 『みなさんこんにちわ、ENOZです』 五組の黒板上に取り付けられたスピーカーから流れてきたのは、あたしの声だった。 『Lost my music!』 同時に、体育館のある方角から、かすかにドラムの軽快な音が聞こえてきた。 「誰かいる……わけないわね。でも、なにかがある」 足は自然と体育館へと進み出した。 体育館の中には予想通り誰もいなかったが、今すぐにもバンドがライブを行うかのように、ステージに楽器一式が設置されていた。 「懐かしいな……。もう三年か」 ステージによじ登り、マイクとギターを軽く握った。高一の文化祭でのライブは本当に楽しかった。ただ、もうちょっとしっかりした演奏をしたかったわ。 ――ダン!ダン!ダンダンダン! 「え!?」 ドラムソロが広い体育館内に響いた。 「これ、God Knowsのイントロ?」 ドラムに続いて、派手なギターサウンドにベース音が鳴りだした。 「乾いた心で――駆け抜ける」 あたしは歌った。なんでかわからないが、歌うべきだと感じたからだ。ギャラリーがいないのが残念だけどね。 「だから!私!ついていくよどんな辛い世界の闇の中でさえ!きっとあなたは輝いて!超える!未来の果て弱さゆえに魂壊されぬように!My way重なるよ今 二人にGod bless……」 ――ダーン! フルコーラスを完璧に歌え終え、言いようの無い高揚感が体中に満ち溢れた。 ――コツ。 「イタッ!誰よ!?あたしのオツムに……って何これ?」 気分の良い気持ちに浸ってる途中、カチューシャのすぐ後頭部あたりに、CDケースが直撃した。レーベルのない綺麗なCDだが、そのおかげで何のCDかはわからない。 「これを何かに使えってことかしら?」 体育館を出た瞬間、世界が変わった。 「え!?食堂!?」 そこは本館と体育館を結ぶ渡り廊下ではなく、あたしがいつも利用していた食堂だった。 ―ーザー!ザー! 耳を痛めつける恐怖の不協和音。だが姿は見えない。 「また化け物!?出てきなさい!」 ――ガシャン! ガラスを破って食堂に侵入してきたのは、カラスを思わせる黒い翼とヤギの頭蓋骨を合わせ持った、半人半獣の悪魔だった。 ――ボォォォォォォォォ! 低い呻き声を上げながら、ヤギもどきは飛び掛ってきた。 「くっ!ちょこまかと!!」 ――パン! ダメだ。ヤギの軌道を逸らすことはできたが、肝心の弾丸は当たらなかった。空を飛んでるから素早すぎる。 「ならこいつの出番ね!」 背中に背負っていた猟銃を下ろし、空飛ぶヤギに狙いを定めた。 ――ボォォォォォォォォ! ヤギの滑空に恐れず、充分に弾き付けてから……、 「吹き飛びなさい!」 ――ドガァァァン! 猟銃から散弾が飛び散り、ヤギの頭蓋骨をぶっ壊した!イダダダダダ……肩が外れるかと思ったわ。 食堂の床で、苦痛にのたうち回るヤギもどきに近づき、 ――グシャ! 鉄パイプを振り下ろした! 「くたばれ!くたばれ!くたばれ!!」 ――グシャ! ――グシャ! ――グシャ!! 「これで止めよ!」 ――グシャ! 最後はブーツのかかとで首の骨を踏み潰し、完璧に絶命させた。体液が顔にかかったが、そんなことは今更気にならない。 「驚かすんじゃないわよ……ん?」 こと切れたヤギもどきの背中に、キズ文字で何かが書かれていた。 『ちゅうぼうきんむしゃへ れいぞうこのなかに、しんせんなレバーがあるので、 きょうのBランチはレバニラいためでおねがいします』 こんな奴をご用聞きに使うな!と、思わず大声でツッコミを入れてから、業務用冷蔵庫の中からレバーを取りだした。絶対に何かに使うはずだ。 「うぐっ!なによこのにおい!」 豚レバーを冷蔵庫から取り出すと、目の前の流し台から、鼻を腐らせるような刺激臭が漂ってきた。 迷わず、用意されていた消臭用の洗剤で流しを消毒した。ゲホゲホ!吐きそう! 「おえっ……気持ち悪い~……ん?底にメモが……」 『タンパク質と混合することで酸素が発生。火をおこすことも。これにより、緊急時には消毒薬と精肉で火をおこすことも可能である』 …………はいはい。これも持ってけってことよね。放火でもしろなんて言うんじゃないわよね。……なんか本当にありそうで恐いわ。 洗剤も一緒にデイバッグにつめ、食堂を出て行くことにした。早く旧校舎の部室棟に行かなきゃ。 曲がり角に教室の入り口、階段、天井、床。全てにおいて恐怖が潜んでいると仮定しながら慎重に進んだおかげで、ベストの胸ポケットから鳴る不協和音に耳を煩わせることなく、旧館部室棟入ロに到達できた。 「あと少し……あと少しで」 謎が解ける。呼吸を整え、出入ロを開放した。 両開きの扉を内側に開いた瞬間、目の前を全て邽じるような巨大な絵画が飾られていた。 絵画は中央に火刑に処されている黒衣の魔女が描かれており、その魔女も、焼かれながらも恍惚の表情をつくっていて、不気味な画だ。 『火は全てを解き放つ』 額縁に少さく記載されており、 「ここでレバ一と消毒薬を反応させて……」 あとは火と種火になりそうな紙ね。 まずは火。あたしは天井の蛍光灯を無理矢理引きはがし、中から配線コ一ドを引っ張り出した。よし、エナメル線を剥き出しにし、あとはスイッチを入れれば、簡易発火装置の完成ね。 「残るは種火か……。あ、そうだ」 デイバッグから目的の物をさがすため中味をあさる。え一と……あった。 あたしが取り出した物、それは故郷に戻るきっかけになった、「キョンから届いた『白紙の』手紙」だ。 「……ごめんね」 キョンに短く謝罪をしてから、レバ一に消毒薬をかけた。 うぅぅ・・・少し臭いけど、この気化した混合物に手紙を当てがい、気体の中にコードをのばした。スイッチオン! 「キャッ!」 火花が飛び散り、絵画はいきおいよく燃え上がった。 「ふう……。ちょっと危険だったけど、なんとか成功ね」 良い子は真似しちゃダメよ?へ?あたしはいいのよ。危物破損しまくってるし、不法侵入もしたし。 絵画の燃えカスを踏み分け、やっと懐かしい部室棟の廊下と対面を果たせたわ。 「あとはこのCDね」 レーベルのないCDか。一体何が記録されてるのかしら? 懐かしい匂いを少しだけ感じながら廊下の踏み板を一歩一歩踏み越えて行き、「そこ」にたどりついた。 「みんな……」 旧文芸部室であり、SOS団のアジト。そして……あたしの全てがつまった場所。 「キョン……。本当にここにいるの?」 キョンは死んだ。 でもここにいる。 SOS団のドアに目線を配ると、ノブの下に縦が細長い切れ込みみたいな物がはしっていた。……なにかのスロット? 「ああ。きっとこれかこれね」 バッグから、体育館にてあたしのオツムに直撃したCDと、有希の部屋で見つけた機関誌の中に挟まれていたDVDを取り出した。とりあえず……CDから試してみよ。 スロットはCDを拒むことなく、すんなりと受け入れてくれた。 『星空見上げ私だけのヒカリ教えて あなたはいまどこで誰といるのでしょう―――』 廊下のスピーカーが歌う曲は「Lost my music」だった。 あたしの声とENOZの伴奏が途切れた時、旧文芸部室が解放される音が耳に届いた。 あたしはいったい何をしたのか? キョンはあたしを待っているのか? 「怖いよ?自分の中の真実を知ることが」 でも、 「引き返すわけにはいかない!」 みくるちゃんのコスプレ衣装。 有希のハードカバーだらけの本棚。 古泉くんのボードゲームコレクション。 文芸部室の木造のドアを開くと、冷蔵庫、笹、団長腕章など、あたしたちのSOS団を証明する物が『ここにあることが当たり前だ』と主張しているかのように存在していた。 蹴り飛ばしたドアを越え、この部屋であたしの体温を一番奪っていた椅子に腰を下ろした。 「やることはわかってるわ」 PCを起動させ、CDホルダーを開く。 「教えて!キョン!!」 「あんたまた大学サボって佐々木と会ってたんだって!?」 「会っちゃわりーかよ!あいつは俺の親友だぞ!?」 他の大学生に比べたら、それなりにいいランクのマンションの部屋で、あたしはキョンに怒鳴り声を上げた。 「そうやって遊び呆けてると本当に留年するわよ!?言いなさい!あんた佐々木とどこでなにしてたのよ!」 こいつはこいつはこいつは!!あたしの気も知らないで!このナマクラキョンが! 「…………」 飴玉を舐めるみたいに口をもごもごと動かし、キョンはバツが悪そうに黙りこくってしまった。 「なんで黙るのよ!?あ、あたしに言えないことなの!?」 あたしたちは別に付き合ってるわけじゃない。でも、いつの間にかキョンの近くにいるのが心地よくて、いつまでもいっしょにいたいと思っていた。だからこそ、こいつの沈黙は許せない。よりによって佐々木と!あたしが一番厄介だと思っていた佐々木と! 「ふざけんじゃないわよ!!あんたはあたしの下僕なんだから!とっとと白状しなさいよ!!」 「うっせー!!大体彼女でもなんでもないおまえには関係ねーだろうが!!」 キョンの言葉が耳に届いた瞬間、何かが壊れた気がした。あんたなんかあんたなんかあんたなんか! 『死んじゃえぇぇぇぇぇぇぇ!!』 衝動のおもむくままに、あたしの両手がキョンの胸を突き飛し。 キョンの頭が、背後のテーブルの角に。 直撃した。 「キョン!!」 あたしの声にもキョンは無反応。 「ねえキョン!これはあんたの体の張ったギャグってことくらいわかってるんだからね!だから早く起きなさいよ!」 今起きたら許してあげるから!他にもあんたがあたしのプリンを勝手に食べたことも、昨日佐々木と会ってたことも、なんでも許すから! でも、キョンは目を閉じたまま何も応えてくれなかった。 「……嘘でしょ?」 イヤぁアアああァアアアア! 部室の全てを破壊するかのような絶叫を最後に、灰色のディスプレイに戻った。 「キョンくん~は、どこにいるのかな~。あ!ハルにゃん!」 妹ちゃんが部屋に入ってきた。 「ね~?キョンくんはいた~?」 「……いなかった」 「そっか~じゃあどこにいるのかな~?」 「……もう会えないわ」 「……どうして?」 「あたしがキョンを殺したから」 そう。いまから三日前の七月四日。あたしはキョンの住むマンションにいった。理由はキョンと佐々木がデートしていたという情報を手に入れたからだ。ちょっととっちめて、罰ゲームをさせるだけのつもりだった。 「だった」。だけど気がついたらキョンの亡骸を抱いており、部屋の真ん中で、壊れたように立ち尽くしていた。 「嘘だよ!ハルにゃんはそんなことしない!」 「したのよ!あたしがキョンを殺したのよ!」 そこから先は覚えていない。気がついたら「ここ」にいた。 「ハ、ハルにゃんはキョンくんが嫌いになったの!?」 「違う!今でもキョンが大好きよ!」 好きだからこそ、佐々木と会っていたことが許せなかった。 「ハルにゃんのバカ!!」 妹ちゃんは大粒の涙を流しながら、部室から出て行った。 「……ごめん……ごめん……妹ちゃん……」 嗚咽と涙は留まらず、あたしはその場でいつまでも泣き続けた。 「……ケリをつけないと」 涙を拭い、立ち上がる。やるべきことはわかってるわ。これを終わらせないと、あたしはキョンに謝ることができない。 「朝倉……涼子」 鉄パイプを握りしめ、部室を後にした。 「こんにちわ。涼宮さん」 部室を出ると、そこは旧館の廊下ではなく、中庭だった。 キョンの大輪の笑顔を見た思い出の中庭。 「無視?ひどいなー」 「黙りなさい」 冷たく言い放つ。 「イヤよ。それが私の役割だからね」 朝倉が指を華麗に鳴らした瞬間、 「キョン!」 全身を真っ赤に濡らしたキョンが、朝倉の背後の木から落ちてきた。 「……ハ……ハル……グボォ!」 「ごめんなさい。感動の再会を邪魔しちゃったみたいね」 朝倉のサバイバルナイフがキョンの胸を開き、中から心臓を取り出した。 「朝倉ぁ!」 「さすがキョン君。綺麗な心だったわ」 キョンの心臓だった物をゴミみたいに投げ捨て、不気味な微笑をこちらにみせる朝倉。 「……あれ?どうしたの?涼宮さん?」 だけどあたしの瞳は臆することなく朝倉の微笑を強い眼光で真っ向から睨み返す。 「……あたしは弱かった……誰かに叱ってほしくて、許されたかった。だからあたしにはあなたが必要だった」 キョンを殺した罪、それを「もう!ダメじゃない!」と叱ってほしかった。でも……、 「本当はわかっていた。そんなことはムダだってことくらい」 「ム……ムダ?」 朝倉はあたしの強い眼光に押されるかのように、一歩引き下がる。 「自分を許せるのは他の誰でもない自分だけなのよ!!たとえ何年かかってもいい!!あたしがあたし自身を許すことができるまで、あたしは死ぬわけにはいかないの!」 あたしの思いに呼応するかのように、朝倉は背後の木の幹に叩きつけられた! 「ふ……!ふざけるな!あなたは死にたがっていたはず!なのに!」 はあ?天下無敵宇宙最強のSOS団の団長様にむかって、どの口が言うのかしら?あたしが死にたいわけないじゃない。 「消えなさい!」 ここまで疲労と恐怖を共にし、相棒と言っても過言ではない鉄パイプを強く握り、うろたえている朝倉の正面に仁王立ちをした。 「あたしの弱さ!」 鉄パイプは朝倉の脳天を叩き割り、アスファルトに叩きつけられたトマトのように中身が飛び散った。 これはただの殺害じゃない。あたしが自分の弱さを克服したことと同義だ。そして。 「……フフフ。もう私はいらないみたいね。あ~あ、まさかあなたに否定されるなんてね~。残念」 「何の話よ?」 「さあ……ね?じゃあね涼宮さん。あなたの覚悟、空の上から見守らせてもらうわ」 朝倉は灰色の粒子になりながらも、最後には穏やかに微笑んで、灰色の世界に溶けていった。 「そろそろスタッフロールが流れてるころね」 終わった。これで全てが終わった。 「そう。本当に……全……て……」 そこまで言ってから、あたしは涙を流していることに気づいた。いや、気がついてはいたが、認めたくなかった。 「……キョン……ごめんね」 鉄パイプを投げ捨て、地面に膝から崩れ落ち、赤ん坊みたくワンワンと醜く大泣きをしてしまった。 「……キョンに会いたいよぉ……」 「呼んだか?」 低くてけだるそうな声が、あたしの耳に届いた。 「……キョン?」 どうやら元々狂っていた頭が、ここに来て、ついにぶっ壊れたようだ。キョンはもうどこにもいないんだから。 「おいおい、まさか俺を俺の皮をかぶった宇宙人なんて言うんじゃないんだろうな?俺以外に誰がいるんだよ」 間違いない。このグチグチな言い方はキョンだ。 「なんであんたがここにいんのよ!!」 だってあんたはあたしが殺し…… 「知るか。気がついたらここにいたんだよ。つーかお前泣いてるのか?」 「う、うっさい!雨よ雨!だからこっち見んな!」 「へいへい。そいつは悪かったな」 と言いつつも、あたしはこいつが一瞬だけニヤッと笑ったことを見逃さなかった。 「だ、だいたい何しに来たのよ!?」 キョンに会いたいとは思った。でも、今まさに大泣きしていたわけだし……つまり、出てくるならもっと空気読め! 「さっきも言っただろ?しらねーって」 「このバカキョン!」 手を振り上げた瞬間、キョンはあたしに殴られるのかと思ったのか、まぶたを強く閉じた。 「……バカキョン。探したんだからね?」 振り上げた手をキョンの頭から背中に回し、あたしはキョンを優しく抱きとめた。 「……すまん。ハルヒ」 「なんであんたが謝るのよ。悪いのはあたしじゃない…………ごめんなさい。本当にごめんなさい!」 謝って済んだら警察は要らない。何をしたって、あたしがキョンを殺した殺人鬼なのは覆らない。でも謝らなきゃ、あたしは鬼畜以下になってしまう。 「いいさ。こうやって、お前の腕の中に帰ってくることができたんだからな」 はずかしいセリフ。……でも嬉しい。 「もうどこにもいかないで……。あたしのそばにいて」 「……それは団長命令か?」 「違うわよ!あたしからのお願いよ!だからずっといなさい!あたしはあ、あ、あんたのことが大好きなんだから!」 今までずっと言えなかったことを、今、やっと言えた。 「ありがとうハルヒ。俺もお前が大好きだぜ。……だがすまんな。お前と一緒には帰れない」 なんでよ!? 「こういうことだ」 するとキョンはさっきの朝倉同様、足元から灰色の粒子に変わっていき、 「キョン!?」 「やれやれ。どうやら時間切れらしいな」 「ふざけんじゃないわよ!気合でなんとかしなさい!」 「ムチャクチャ言うな。これが自然の摂理だろ。灰は灰へ。塵は塵へ。それを覆すわけにはいかんのさ」 「待って!」 だけどあたしの手は消え始めたキョンの体を捉えられず、無様に何度も空をかいた。お願い!行かないで!せっかく分かり合えたのに! 「ハルヒ!」 その瞬間、あたしの体はキョンに抱き寄せられ、 「俺はここにいる!」 そう宣言し、 「いつまでもおまえの心にいる!だからずっと一緒だ!」 刹那、唇に当たる柔らかい感触。 あたしは唇にキョンの体温を感じなくなるまで、ずっと目をつぶっていった。 「ありがとう……キョン……」 最終章『ただいまっ!』に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1474.html
(※古泉×朝倉です) あたしね、好きな人がいるの。 とってもとっても大事な、あたしの好きな人。 でもあたしは、何でその人を好きになったのかを覚えてないの。 どうしてかなって考えると胸が苦しくて、でも、何も分からないままで。 もしかしたら、これは知らない誰かの気持ちなんじゃないかなあ、なんてことまで考えちゃった。 これって変な妄想だよね? でも、そのくらい、この恋はあたしにとって不可解な物だった。 ねえ、これはあたしの恋心? 誰かの恋心? あたしは知らない。でも、知っている。 これは恋、あたしだけの恋。 だって、あたしは本当にあの人が好きだもの。 これはあたしのあの人のためだけの、小さな小さな恋物語。 誰かのためじゃない、あたしのための恋物語。 去年の5月頃、あたしは一度この学校から転校した。 親の仕事の都合での転校、それも直前まで連絡の無いギリギリの物。 全く、勝手な話だよね。 夜逃げか何かだと思われちゃったのかもなあ、って思うけど、今のあたしにはそんなことは関係無い話。 うん、そういうことにしておこう。 だってほら、人生前向きに考えなきゃつまらないじゃない? 年度が変わって4月になって、あたしはもう一度この学校に通える事になったんだしね。 これもまた親の仕事の都合なんだけど、正直慣れない海外生活よりこっちの方がありがたいかな。 だって、海外の学校ってやっぱり居辛かったんだもの。 それにね、あたしには、帰って来たい理由が有ったの。 あたしね、好きな人がいるの。 その人はあたしと入れ替わるくらいの、あたしが転校するよりほんのちょっと前にこの学校に来た人で、あたしは、その人のことを殆ど知らないんだけど。……でも、好きなの。 どうしてかなあ、どうしてだろう。 この一年近くの間、ずーっとその人のことを考えていた気がするんだよね。 変だよね。他にもいろんなことが有ったはずなのに、海外生活の記憶は曖昧で、あたしの頭の真ん中にいるのは、その人だけなの。 ううん、恋って不思議だなあ。 ああでも、やっと会えるんだ。 あの人に、また会えるんだ。 嬉しいなあ。 一度転校した生徒がもう一度転校してくるって、どんな感じなんだろう。 あたしはそっちの立場になったことが無いから分からないんだけど、あたしが来た直後の教室はちょっとざわめいていた。 年度の節目でのクラス替えが有った後とはいえ、去年同じクラスだった子も居るから当然だよね。 先生が事情を説明してくれているけど、皆ちゃんと納得してくれたかな? 何だか、一人凄い驚いた顔している子が居るなあ……。あ、確かキョンくんだっけ。そうだ、思い出した。 キョンくんの腕を、隣に居る女の子が引っ張っている。 あ、あの子は長門さんだね。クラスは違ったけど同じマンションに住んでいたから知っているんだ。そっか、今度は長門さんも同じクラスなんだね。 ああでも、あたしが今度住むことになるのはあのマンションじゃないんだ。 もう少し学校から遠いマンションで、今度は家族と一緒に。 でも、両親は後れてやってくることになってくるから、あたしはまだ一人暮らし。 本当言うと、6月か7月辺りに引越し予定なのを、あたしだけ無理を言って繰り上げさせてもらったんだよね。 新学期に間に合いたかったし(実際は始業式より二週間くらい遅れちゃったけど)、何より、彼に早く会いたかったから。 午前中の休み時間は、クラスメイトに掴まりっぱなしだった。 ううん、本当は早く彼のクラスに行きたかったんだけど、仕方ないよね。 あたしはクラスメイトからの質問に答えたり授業を受けたりしながら、お昼休みを待った。 昼休みになったら、さすがに抜けられるよね。 彼がお昼休みにどこに居るかは、分からないんだけど。 ええっと……、あ、でも、あの人達なら知っているよね。 あたしは、教室の一角で固まっている女子二人男子一人の組み合わせを見た。 さっきのキョンくんと長門さんと、それから涼宮さん。 この三人はクラスから浮いて居るってほどじゃないけど、ちょっとだけ雰囲気が違う感じがするかな。 キョンくんは割と普通だと思うんだけど、涼宮さんは全然他人と交わらない子だったし……。でも、今は違うのかな。ちょっとだけど、他の子達とも話しているみたいだし。 良かった、涼宮さんも去年より周りと打ち解けているみたいで。 あたしが涼宮さん達とに彼の居場所を聞いてみようと思ったのは、彼も涼宮さんが作った団体の一員だったから。 確か転校初日に涼宮さんが彼を浚っていっちゃったんだっけ。 えっと、名前は……、そうそう『SOS団』だっけ。 どんな団体なのか良く分からないけれど、彼も、今でもその一員なのかな。 「あ、ねえねえキョンくん」 昼休み、漸く人の輪から抜けられそうになったところで、あたしはキョンくんに話し掛けた。 涼宮さんと長門さんは教室に居ない。二人とも学食組なのかな。 ちなみにあたしはお弁当。一応手作りだよ。 「……朝倉か」 「久しぶりだね、キョンくん」 「……何か用か?」 何か、凄く警戒されている気がする。 何でだろう……。あたし、キョンくんに何かしたかなあ? 涼宮さんが皆と仲良く出来るよう協力してねって言ったりはしたけど、それ以外には何も無かったと思うんだけど。 「ねえキョンくん、この時間に古泉くんがどこにいるか知っている?」 「……は?」 キョンくんが、本気で目を点にしていた。 点って言うのは勿論比喩なんだけど、本当にそうとしか言いようがない。 「えっと、知らない?」 「いや、ちょっと待て……。古泉って古泉一樹か?」 キョンくんが一度首を振ってからあたしに確認してくる。 他に同じ苗字の心当たりが有ったのかな。 「うん、そうだよ」 「……」 「知らないの?」 「……ああ、すまん」 何だ、知らないんだ。 「そっかあ、残念だなあ。あ、ありがとキョンくん」 あたしはキョンくんに背を向け、教室を出るべく歩き出した。 お弁当を食べなきゃとは思うんだけど、それより今は彼の居場所が気になるんだよね。 「あ、待ってくれ朝倉」 「何?」 キョンくんに呼ばれて、あたしは振り返る。 「ああ、えっとだな……。お前、何で古泉の居場所を探しているんだ?」 「……言わなきゃいけない?」 ここは教室。 あたしとキョンくん以外にも、10人以上生徒が居る。 今のやり取りで充分バレバレって気もするけど、出来れば、こんな場所では言いたくないかな。 「……あ、いや、いい」 「じゃあ、またね」 あたしは今度こそ教室を出た。 あたしは教室を出た後で、彼が何組か聞いてなかったことを思い出した。 ちょっとうっかりしていたかも……。でも、理系クラスは二つしかないから、見つけるのは難しくないよね? あたしは理系クラスの片方で古泉くんがそのクラスに在籍している事を確認したけれど、生憎彼は不在だった。 ううん、どこだろう……。 やっぱり、この時間は学食かなあ? あたしは学食へと足を運んだ。 一年近く経っているとはいえ通った事のある場所だから、道に迷う事はない。 難なく学食に続く渡り廊下まで辿り着いたあたしは、 そこで、彼を見つけた。 心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けながら、あたしはその場に立ち尽くしていた。 ああ、駄目だ。 言いたいこととか、伝えたいこととか、全部吹っ飛んじゃった。 こんな場所で告白しようなんて思ってなかったけど、最初の挨拶だって何度も何度も練習したのに……。 駄目、全部吹っ飛んじゃった。 彼が、あたしの脇を通り過ぎていく。 ああ、神様。 お願い、あたしの心臓の音が彼に聞かれませんように。 「……朝倉さん?」 彼が、あたしの傍で足を止めた。 間違いなくあたしの名前を呼んで、あたしの方を見ている。 やだ、どうして。 どうして、彼があたしの名前を知っているの? 転校前のあたしなんてただの別のクラスの女の子で、彼とは何の接点も無い筈なのに……。 ああもう、どうしよう、どうしたら良いの。 全然わかんないようっ。 「あ、あの……」 あたしはゆっくりと彼の方に向き直った。 これがアニメとか漫画だったら、ギギって効果音が入ってそう。 あたし今、思いっきり不審人物かも。 「ああ、いきなり呼び止めてしまってすみません。朝倉涼子さんですよね?」 「は、はいっ」 あたしはその場で大きく腰を折った。 何か声が思いっきり上ずっている気がするんだけど、細かい事を気にしている余裕なんて全然無い。 「また転校してきたんですね」 「あ、はい……。親の仕事の都合で、戻ってこられるようになって……、あ、あの、古泉くんは、どうしてあたしの名前を知っているんですか? あ、あたしは、ええっと、涼宮さんが……」 うう、説明し辛い。 頭が回らないし、そもそも、こんなことを正面切って言って良いのかどうかも分からないし。 「僕も涼宮さん絡みですよ。あなたの転校はいきなりでしたからね。そのとき涼宮さんが色々言っていたんで、僕もあなたの名前を覚えていたんです」 ああ、そういうことか。 涼宮さん、古泉くんが来た時も謎がどうとか言っていたっけ。 あたしが転校しちゃった時も、似たようなことを考えたのかな。 あたしの転校も急だったからなあ。 「そうだったんだ……」 「ええ、そういうことです。疑問は解決しましたか?」 「はい……」 「それでは、僕はこれで」 古泉くんが、そのまま立ち去っていこうとする。 ダメ。 行かせちゃダメ。 せめて、せめて一言でも、何か次に繋がる言葉を探さないと。 そうでないとあたしは、ただの転校生で終わっちゃう。 それじゃ、ダメ。 これは、神様があたしにくれたチャンスなんだ。 お願い、神様。 あたしに、勇気をください。 「あ、あの……」 あたしは、勇気を振り絞った彼に話し掛けた。 去っていこうとしていた彼が、ゆっくりと振り返る。 「まだ何か有りましたか?」 「あ、あの……その、えっと……、古泉くん、今日の放課後、時間、有りますか?」 ああ、言葉が上手く出て来ないよう。 もっと気の聞いた言い方とか、さり気無い言い方とか、興味を引く言い方とか……、ううっ、だってまさか、古泉くんがあたしのことを知っているなんて思わなかったんだもん。 「……SOS団の活動時間の後でしたら、大丈夫ですが」 やった、OKだ! 「あ、あの、今日の放課後……教室に来てもらえますか、二年五組に」 「ええ、構いませんよ。時間が何時になるかはっきり分からないのですが、それでもよろしければ」 「そんなっ、下校時間より前だったら何時でも構わないです!」 贅沢なんて言わない。 来てくれなかったら悲しいけど、来てくれるんだったら、下校時間5分前でも3分前でもいいっ。 だってだって、必要なのは時間の長さじゃないんだもの。 ただ、二人っきりなれれば……え、ああ、そうか、早すぎてもダメなんだよね。 ううん、SOS団の活動時間ってどのくらいまでなんだろう。今の古泉くんの口ぶりだと、きちんと決まっているわけでも無さそうだし、ここで時間を指定しなおすのも変だし……。 あー、もう、あたしのバカバカ。 何でもっと考えて喋れないんだろう……。 「あの、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」 ぐるぐる考えていたら、何時の間にか古泉くんがあたしの近くまで来ていた。 はうう、まともに顔が見れな、い……。 無理、今のあたしには無理だから! 刺激が強すぎるようっ。 「えっ、あ、いえ、全然、全っ然大丈夫です。……ほ、放課後の件、よろしくお願いしますっ」 あたしは一歩下がって大きく礼をすると、そのままダッシュで廊下を引き返した。 何やっているんだろうなあ、あたし。 約束はしてもらえたけど、これじゃあ印象最悪だようっ。 教室に戻ったあたしは誰の顔も見ないでとりあえずお弁当を食べ終えた。 こういう時は頭がいっぱいになって何も食べられないって方がそれらしいのかも知れないけれど、何もしてないっていう状況に頭も心も耐えられなかったみたい。 お弁当、誰かにあげたり見せたりすることもあるかなと思って頑張って作ったつもりだったんだけど、味は全然分からなかったなあ。 午後の授業を上の空で聞いていたあたしは、ホームルームが終わった後、教室で彼を待ち続けた。 教室から生徒が一人消え、一人消え……、30分くらいで、あたし一人になった。 がらんとした教室、たった一人のあたし。 誰かを待つあたし。 あれ、 以前にも、こんな状況が有ったような……。ううん、気のせいだよね。 あたし、こんな風に誰かを呼び出したことなんて無い筈だし。 それからもう10分くらい待っていたら、唐突に教室のドアが空いた。 古泉くんが、そこに立っていた。 「お待たせいたしました」 爽やかな笑顔が、昼間より一段暗くなった教室に映えていた。 「あ……」 あたしの頭の中が真っ白になる。 SOS団がどんな団体か知らないけど、普通に考えたらホームルーム終了後一時間足らずで終わる部活動なんてそうそうない。 要するに、あたしはまだ心の準備が全然出来ていなかったのだ。 「あ、あの……」 古泉くんは、教室の入り口から一メートルくらいの所に立ったまま、窓辺に居るあたしの方を見ている。 穏やかな見守るような視線、暖かさを感じさせる人好きそうな微笑み。 それがあたしだけのためのものじゃなくても、あたしに向けてくれているという事実が嬉しい。 ああ、でも、緊張しちゃうな。 本当に言いたいことは一つだけなのに、どうして、こんなに迷うんだろう。 どんな伝え方をしたら、ちゃんと伝わるかな。 ちゃんと、本気だって思ってもらえるかな。 あたしのこと、好きになってもらえるかな? 「あの……、あたし、古泉くんのことが好きなんです」 あたしは精一杯の勇気を振り絞って、告白した。 結局気のきいた言葉なんてちっとも浮かばないままだったけど、目を逸らさずに言えたのは、自分でも偉かったと思う。 「それは……」 古泉くんが、不思議そうな顔をしている。 ああ、うん、そうだよね。 違うクラスの、殆ど話したことも無いような女子にいきなり告白されたんだもんね。 びっくりするのが当たり前だよね。 「あ、あの……、ごめんなさい、迷惑、だよね?」 あたしはしゃべり辛い敬語を辞めて、彼に問い掛けた。 自爆路線まっしぐらな気がしてならないんだけれど、何か言わなきゃ間が持たない。 あたしの心が、もってくれない。 「……いえ、そんなことはありませんよ。ただ、あまりに突然だったので驚いていたんです。ただ……」 「あ……」 「返事は、少し待っていただけますか?」 「え?」 ごめんなさいされると思って覚悟を決めようとしていたのに、彼の答えはあたしの予想とは外れる物だった。 えっと……、待って、欲しいって。 それって、可能性は有るってことなのかな? 期待出来るってことなのかな? それとも、間を持たせることで出来るだけ傷つけないようにしているとか……。ああ、どうしても考えが悪い方へ向うなあ。 「さすがに、今すぐには答えを出せませんので。あんまり長くお待たせするのは悪いと思うのですが……。そうですね、一週間ほど待っていただけますか?」 「……うん」 「ではそれでお願いします。返事はまた放課後、この教室で、ということでよろしいでしょうか?」 「……」 あたしは無言で首肯する。 古泉くんの口調は優しくて、そして滑らかだ。 きっと、女の子に告白されていることに慣れているんだろうな。 明らかに万人向けの優しさに少しだけ癒されながらも、あたしの心は沈んでいく。 どうやら、古泉くんが返事まで時間が欲しいと言っていた理由は、あたしの悪い想像と一致するらしい。 ああ、やっぱり、ダメなんだ。 「では、今日はこれで」 「あ、あの……」 気がついたら、踵を返しかけた古泉くんのブレザーの端っこを掴んでいた。 あ、あたし、なんてことしているんだろう……。 「どうしましたか?」 「い、一緒に帰らない? あの、坂を降りるだけでも……。だ、ダメかな?」 元々、ダメ元なんだから。 だから、だから……、あたしは、出来るだけあたしらしく彼に接したい。 好きって思ってもらえなくても、恋人になれなくても、すこしても、あたしを知って欲しい。 だから、出来るなら、少しでも一緒に……。 「ええ、かまいませんよ」 古泉くんが、人懐っこい微笑を浮かべてそう言ってくれた。 その瞬間、あたしの心は羽が生えてどこかに飛んでいくんじゃないかってくらい舞い上がっていた。 ああ、もう、何考えて良いか分かんないかも……。 帰る道すがら、古泉くんはこの一年間で有った事を話してくれた。 一緒の下校をOKしてくれた時には思考がショートしていたあたしも、漸く人の話がまともに聞ける状態に戻っていたみたい。 自分から自主的に何かを話すってことはまだちょっと難しいんだけど……。ううん、でも、古泉くんの話が聞けるだけでも嬉しい。 古泉くんは、主にSOS団の活動内容に関することを話してくれた。 SOS団って言うのは『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団』の略称なんだって。 正式名称を聞いても何だかよく分からない団体には変わりなかったけど、今までに有った出来事を語る古泉くんは、何だかとっても楽しそう。 楽しそうな古泉くんを見ていると、あたしも楽しくなってくる。 こういうのって、良いなあ。 あたしの想いは、多分、受け入れてもらえないけれども、こうやって話が出来るだけでも、結構、幸せかも知れない。 幸せの余韻を残しつつ帰宅したあたしだったけど、残念ながら夢の中で彼に会う、みたいなことは出来なかった。 夜寝たと思った次の瞬間朝目覚めた感覚になるって分かる? ちょうど、そんな感じだったのよね。 寝覚め自体はスッキリしているんだけど、何だかちょっと釈然としない。 睡眠時間なんて元々カウントされない物かも知れないけど、何だかちょっと損した感じかも。 そんな風に目覚めてから学校へ行く道すがら、あたしは登校途中の古泉くんを見かけた。 古泉くんは、キョンくんや涼宮さんと一緒にゆっくり坂を登っているところだった。 どうも、古泉くんと涼宮さんが何か話しているところに、キョンくんがツッコミを入れているという構図みたい。 キョンくんがちょっと疲れ気味な気もするけど、三人とも楽しそうだなあ。 何だか、良いなあ……。 SOS団、かあ。 「あ、おはようございます、朝倉さん」 話し掛ける勇気なんて全然なかったのに、古泉くんの方からあたしに話し掛けてきた。 う、うそぉ……。 「え、あ……、お、おはよう」 真っ赤になって頭を下げるあたし。 ううう、挨拶さえまともに出来ないなんて重症すぎるよ。 ああでも、彼の方から挨拶してもらえるなんて、嬉しすぎる。 幸せ者だなあ、あたし。 「あ、あの……、昨日は、ありがとう」 あたしは何とか顔を上げて、彼にお礼を言った。 昨日この坂道を一緒に歩けたのは、本当に嬉しかった。 「いえいえ、たいしたことでは有りませんよ」 「あら、昨日古泉くんを呼び出したのって朝倉さんだったの?」 涼宮さんが、ひょいとあたしと古泉くんの間に割り込んできた。 古泉くんが、涼宮さんの方を見てから、あたしの方を見た。 ええっと、あたしに答えを求めているのかな? 「……う、うん。そうだよ」 「へえ、そうなんだ。人に呼ばれているから早く帰りたいって言っていたから何かと思ってたんだけど、そういう用事だったのねえ」 涼宮さんが、何だか、噂好きのおばさんみたいな顔つきになっている。 ちょっと意外な表情かも……。って、今のあたしにそんなことを一々考えている余裕は無いんだけど。 えっと、あの、その……。ううう、何て言えばいいんだろう。 ああん、出来るだけ迷惑かけたくないのにぃ。 「おい、ハルヒ」 「……ま、良いわ。野暮なことは聞かないでおいてあげる」 キョンくんが涼宮さんの腕を引っ張り、涼宮さんがひらりとその身を翻し、今度は涼宮さんがキョンくんの腕を掴んで、あっという間に坂を登って行っちゃった。 えっと……。 「あ、あの……」 「ああ、すみません。名前を出すつもりは無かったのですが」 「う、ううん。あたしのせいだから、気にしないで。……でも、涼宮さん、あんな顔もするんだね。一年前じゃ、ちょっと想像出来なかったかも」 他人の人間関係に興味を持つ涼宮さんなんて、一年前は全く想像できなかった。 涼宮さんって、そういうことには凄く無関心に見えたし。 「彼女もこの一年で結構変わりましたよ。元気なのは相変わらずですが」 「……そうだね」 ぱっと現れてぱっと去っていったあの行動力と坂を登る時のパワフルな姿は、一年前、それも、部活を作ると言った直後くらいの彼女を思い起こさせた。 涼宮さんは、とっても元気な子。 ちょっと、羨ましいかもなあ。 そう言えば、古泉くんにとって涼宮さんって何なんだろう? 怪しげな団体に転校初日に連れ込まれたっていうのに、一年間もずっと付き合っているなんて、もしかして……。 ううん、でも、それは無いと思う。 無い、と思う。 どうしてとは言えないんだけど、何となく、そういう感情とは違う気がするの。 ……あたしの、思い込みかも知れないけど。 それからの一週間は、何事も無く過ぎていった。 時々教室で大声をあげている涼宮さんを見たりしたけど、あたし自身は何も無かったし、涼宮さんやキョンくんや長門さんがあたしに話し掛けてくることも無かった。 古泉くんもクラスが違うからあんまり会わなかったし、廊下ですれ違ったり登校中に出会ったときに挨拶を交わすくらいだった。 ドキドキは持続中だけど、告白した日に比べればあたしも大分落ち着いてきた。 彼のことが好きなのは変わらないけれど、授業中に上の空になることも減ってきたし、ちゃんと周りにも目を向けられるようになった。 ……振られることが怖いから、逃げているだけってことなのかもしれないけど。 あたしは、古泉くんのことが好き。 誰よりも好きだって自身も、ちゃんとある。 でも……、恋って、自分一人でするものじゃないよね。 待ち人だった一週間は、言い換えれば死刑執行宣告を待つための時間のような物だったのかも知れない。 答えについては、全然期待できないと思っていたから。 「……イエスと、お答えしたいと思っていますよ」 だからあたしは、約束の放課後の教室で古泉くんが答えを教えてくれた時、一瞬、その言葉が理解出来なかった。 「え……、あ、あの、あのあの……」 い、今、なんて言われたんだろう。 あ、頭の中真っ白を通り越して、透明になって何もなくなったところを風が通り抜けていくみたい。 言うつもりだった言葉まで、風に乗ってどっかへ飛んで行っちゃったのかも……。 「ほ、ホントに……。い、良いの?」 「ええ、良いですよ」 「あ、う、うそぉ……」 思わず、声に出ちゃった。 あああ、あたし何言っているんだろう。 「嘘じゃ有りませんよ」 「け、けど、あたしじゃ……」 「一週間考えた末、あなたは充分魅力的な女性だと判断したんです。……それとも、何か不満がお有りですか?」 「ぜ、全っ然! う、嬉しいよ。ほ、本当に……」 ああ、もう、本当、夢みたい……。 だってだって、だめだって思ってたんだよ。 あたしはただの他のクラスの転校生。一回転校してからまた転校してきたっていうちょっと変わった経歴持ちだけど、古泉くんにとっては顔見知り以下だっていうのは間違いないと思う。 あたしは古泉くんがこの学校でどんな評価を受けているか知らないけど、彼は結構かっこいいから、女の子にもてるんじゃないかな。 そんな彼が、どうさてあたしを選んでくれたのか……、ううん、ここは気にするところじゃないの、あたしが、彼につり合うだけの女になれば良いんだもんね! その日、あたし達は他愛ない話をして帰った。 一週間前とは違う、最近見たドラマのこととか、聞いている音楽の話とか、授業のこととか。 古泉くんは理系クラスだから受けている授業の内容があたしとはちょっと違うんだけど、彼が話してくれた物理の先生のエピソードはとっても面白かったな。 そうそう、それとね。 今度の日曜日に、デートをするって約束したんだよ! 街に出て映画を見るっていう定番コース? 定番も何も、あたしにはデートの経験自体無いんだけど、ドキドキしちゃうなあ。 えへへ、楽しみだなっ。 それから、日曜までの時間はあっという間に過ぎていっちゃった。 あ、デートのことを考えすぎていて授業を疎かに、何てことにはなってないわよ。 古泉くんは進学クラスだから、あたしもそれに釣り合う位にはならないとね! 幸い授業には着いていけないなんて事も無く、あたしは教師に当てられてもちゃんと答えられたし、小テストでもそこそこ良い点を取っていた。 でもこの間の小テストでは涼宮さんと長門さんに負けちゃったのよね……、長門さんはともかくとして、全然勉強している風に見えなかった涼宮さんに負けちゃったのは悔しいなあ。 はあ、もっと頑張らないとね。 日曜日、わくわくしながら集合場所へ向ったら、20分も前だっていうのに古泉くんはもうやって来ていた。 うそ、早すぎ! できれば先に来たかったんだけどなあ……。 「おはようございます、朝倉さん」 古泉くんが、すっごい素敵な笑顔であたしの方を見てくれている。 カッコいいなあ……、ああ、何かぽーっとしちゃいそう。 「あ、おはよう……、ごめんね、待たせちゃったみたいで」 「いえ、僕が早く来すぎてしまっただけですよ。……何時もの癖かも知れないですね」 「癖?」 「ええ、SOS団で集合する時は、皆早めに来ることになっているんです。何しろ遅れた人には罰金というルールがありますからね」 「そうなんだあ……」 「ああ、早く来すぎてかえって気を遣わせてしまったことは謝ります。すみません、朝倉さん」 「ううん、気にしないで!」 古泉くんは何にも悪くないよ。 あたしが悪いってわけでも無い気がするんだけど……、うん、そうだ、ここはね、二人とも早く来た分長く一緒に居られるって風に考え直せばいいのよね。 そうそう、そう思えばお徳だわ。早起きは三文の得って諺もあることだしね。 「そう言っていただけると助かります。では、行きましょうか」 古泉くんはそう言って、あたしにそっと手を差し伸べてきた。 えっと、これは……、手を、繋ごうってことなのかしら? 古泉くんってもしかして、結構積極的なのかな? それとも、恋人同士だったらこれくらい当然ってこと? ううん、経験の無いあたしには全然分からないよ……。 で、でも、でも、でもね。 あたしは、凄く、嬉しい……、うん、嬉しいの。 それは、本当だから。 「うんっ」 あたしは舞い上がりそうな心を抑えつつ、古泉くんの手を取った。 男の子の手って、大きいなあ……。何だか不思議。でも、嬉しい。 転校してきた頃には、こんな風になれるなんて全然想像できてなかったのに……。 勇気を出して告白して、本当に良かったな。
https://w.atwiki.jp/anison-rap/pages/93.html
【曲名】 来て来てあたしンち 【アーティスト】 平山綾 【歌詞】 http //www.jtw.zaq.ne.jp/animesong/a/atasinchi/kitekite.html 【作詞】 大地丙太郎 【作曲】 エドワード・エルガー 【編曲】 武藤星児 【作品】 あたしンち 【メディア】 TVアニメ 【テーマ】 ED主題歌 【初出】 2002年 【備考】 エドワード・エルガーの行進曲『威風堂々』第1番中間部がモチーフ。ラップ部分はアニメの声優さん?
https://w.atwiki.jp/chaos-tcg/pages/3196.html
友達からのお付き合い 読み:ともだちからのおつきあい カテゴリー:Event 作品:真剣で私に恋しなさい!! 【使用】〔自分の手札を相手の【スタンド】のキャラの体数分控え室に置く〕 Battle 目標のバトルに参加している自分のキャラ1体は、そのバトル終了時まで、バトルによるダメージを受けず、バトルによるダメージを与えられない。その後、このカードをバックヤードに置く。 それで山猿、名は何と申したかの illust: MJ-087 C 収録:ブースターパック 「真剣で私に恋しなさい!!」
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1605.html
梓「唯先輩好きです付き合ってください」 梓「…普通過ぎて駄目だ」 梓「唯先輩に告白するんだからもっとインパクトを出さないと」 梓「唯、愛してる。俺と付き合ってくれないか?」 梓「…どこかのホストみたい」 梓「こんなんじゃ駄目だ。そ、そうだもっと猫っぽくしよう」 梓「猫ミミを付けてと」 梓「唯にゃん先輩好きだにゃんだから付き合って欲しいにゃん」 梓「…何やってんだろ私」 梓「こ、こういう事はもっと自然にならないと」 梓「自分の気持ちを素直に言おう」 梓「唯先輩前から好きでした。唯先輩への気持ちが収まりません…」 梓「唯先輩の事が頭から離れません。だから唯先輩私と付き合ってください」 梓「…こんなもんかな」 梓「あっ、もうこんな時間」 梓「これから唯先輩と会う場所は告白が成功すれば末永く幸せになれると言う神社」 梓「絶対、絶対に絶対に成功させないと」 梓「準備も出来たし行こう」 唯「あずにゃん好きです付き合ってください」 唯「…駄目だ~普通過ぎるよ」 唯「それに告白する時にあだ名って変だよね…」 唯「梓、愛してる。私と付き合ってくれない?」 唯「…こんなの私のキャラじゃないよ」 唯「そうだギー太を弾きながら告白しよう」 唯「ギー太を持って」 唯「あずにゃんジャガ好きだよ~ジャガ付き合って~ジャン」 唯「…何やってんだろ」 唯「ギター持って告白する人なんていないよ…」 唯「自分の気持ちに素直にならないと駄目だよね」 唯「あずにゃん前から好きでした。あずにゃんへの気持ちが収まりません…」 唯「あずにゃんの事が頭から離れません。だからあずにゃん私と付き合ってください」 唯「…これでいいかな」 唯「あっ、もうこんな時間だよ」 唯「告白が成功するといいな」 唯「見守っててねギー太」 唯「行ってきます」 唯「あずにゃん~待った?」 梓「いえ、私も今着いたところです」 唯「星が綺麗だね」 梓「そうですね」 唯「…」 梓「…」 唯「あずにゃん、何か話があるって」 梓「唯先輩の方こそ話があるって」 唯「…あずにゃんが先でいいよ」 梓「いえ、唯先輩が先に」 唯「…」 梓「…」 梓「じゃ、じゃあ私から話しますね」 唯「うん」 梓「あの…その…私たち出会ってから結構たちますよね」 唯「そうだね。もう2年以上たったもんね」 梓「それで…初めて見たギター姿は格好良かったです」 唯「うん」 梓「なのに軽音部に入ってみればまるで音楽用語は知らないし」 梓「いつもケーキやおかしを食べてばかりで」 梓「練習しましょうと言っても全然練習はしないし」 唯「あ、あずにゃん?」 梓「あげくに人には変なあだ名を付けてくるし」 唯「変なってあずにゃん酷いよ」 梓「いつもところ構わず抱きついてくるし触ってくるし」 梓「変なメールや変な電話を突然かけてくるし」 唯「うぅ…面目ない」 梓「突拍子もない事を言い出してみんなを困らせて」 梓「でも…でも…そんな唯先輩の事が頭から離れないんです」 唯「え」 梓「気がつけばいつも唯先輩の事を考えてるんです」 梓「唯先輩好きです付き合ってください!!」 唯「…」 梓「…」 唯「…」 梓「…」 唯「あずにゃん…」 梓「…私なんかじゃやっぱり駄目ですよね」 唯「私もあずにゃんの事が好きだよ」 梓「え」 唯「本当は私も告白するつもりだったんだけど先にこされちゃった」 唯「でも言うね」 唯「あずにゃん前から好きでした。私と付き合ってください」 梓「唯先輩…よろしくお願いします」 唯「うん、こっちもよろしくね」 梓「はい」 唯「やったーあずにゃんと恋人同士になったよ」 唯「じゃああずにゃんさっそく」 梓「?」 唯「恋人になった記念にチュー」チュー 梓「そ、そういうのはまだ早いです!!///」 唯「あぅー。恋人同士になったのに…」 唯「(でもあずにゃんと恋人同士になれたからいいや…あ)」 梓「(唯先輩と恋人同士…えへへ、これも練習の成果…)」 唯梓「(練習の意味なかったかも)」 終わり ギー太を弾いて告白する唯ちゃんはギター漫談家みたいで見てみたい!その告白バージョンを求むWWW -- (名無し) 2011-07-23 19 46 03 良かったの〜。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 17 00 13 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/mousouyomi/pages/953.html
▲【プランクトンの壁】 ◆91(戦闘可能の壁) >ミジンコ並み>精子>ちいさなクルマ>5056×10^3ピコメートルの成人男性>テレヤ・サン >メイドウイルス=南極大陸>アンチメタルウイルスプロト>金属に触れると死んでしまう体にする >鈍速丸>勃起したちんぽ>赤くて小さい豆腐>氷=そよ風>山田>フェムト宇宙の住人 >リス>無限小太郎>覇羅減他大魔王>二次元の成人男性>一次元の成人男性>小さな成人男性 ▼【勝利可能の壁】 【名前】勃起したちんぽ 【属性】ちんぽ 【大きさ】成人男性の勃起したちんぽ 【攻撃力】成人男性の勃起したちんぽ 【防御力】成人男性の勃起したちんぽ 【素早さ】成人男性の勃起したちんぽ 【特殊能力】白い液体を噴射する この白い液体を浴びた対戦相手は妊娠する 【長所】立派 【短所】グロテスク 【備考】女性には負けない 629 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/03/23(火) 21 36 16 ID oATPqYv8 勃起したちんぽ考察 妊娠能力はあるが戦闘能力はない(ちんぽ並の大きさではなくちんぽそのものなのでほとんど動けない)。 よって存在の壁上。 317 : ◆2DA.uefT9k :2015/12/14(月) 22 27 14.54 ID YdsJ28i5 赤くて小さい豆腐、フォーニ、勃起したちんぽ、山田、ちいさなメダルは戦闘可能だし戦闘可能の壁直上に入れてもいいと思う。 仮に鈍足丸以下に入れるとしたら、 勃起したちんぽ>フォーニ>赤くて小さい豆腐>山田>ちいさなメダル かな。 フォーニの攻防が微弱とは、重力に逆らえない程度の筋力とみなす(徒手筋力検査でpoorと表現される筋力)。 山田は無限分の1レベルの大きさ、ちいさなメダルはあらゆる級の小ささ。
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/5054.html
autolink() FT/SE08-19 カード名:あたしの決意 ルーシィ カテゴリ:キャラクター 色:緑 レベル:1 コスト:0 トリガー:0 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《鍵》? 【自】バトル中のこのカードがリバースした時、あなたは自分の山札の上から1枚を公開する。そのカードが《鍵》?のキャラなら、あなたはこのカードを思い出にしてよい。(公開したカードは元に戻す) N:おとなしくしないと痛い目みるよ!!! H:元気でね、お父さん レアリティ:C illust. 11/12/02 今日のカード。
https://w.atwiki.jp/p_ss/pages/2155.html
Side K あ〜あぁ あ〜ちゃんとはぐれちゃったぁ… のっちは何を追いかけとったんかね? どうせ、ろくでもないのじゃろうけど… 私は屋台が並ぶ通りから少し外れて、池の淵の石に腰掛ける あんまり動き回っても、たぶんすれ違いとかしそうだし、しばらくココにいよっと ガヤガヤ聞こえる音に、自分もさっきまであそこに居たんだな〜なんて思って あ〜ちゃんは、あそこで私を探してくれとるんじゃな〜って妙に嬉しくなった 「あれ、奇遇じゃのぅw」 なんて声を掛けてくるから誰かと思えば… 「彼女とデートじゃないん?w」 少しからかうみたいに言ってくるのが、感に障る ここの入り口で、あ〜ちゃんと無視して置いてきた男だ 「はぐれただけです」 「ふ〜ん。ゆかちゃん、だっけ?オレめっちゃ好みのタイプなんじゃけどw」 「は?」 「やwだから好みなんよ」 「じゃなくて、なんで名前…」 「え?あぁ、さっき彼女が言っとったじゃろ?」 あ、そういえば言ってた… 「ね、はぐれたんなら、オレと一緒に回らん?」 「嫌です」 「うわwめちゃストレートw」 ん〜見た目は悪くないけど…なんかチャラい… やっぱ、あ〜ちゃんのが百倍カッコイイ わんわん! (あ〜ちゃん!ゆかちゃんおった!) あ、のっち 男の後ろから走って足元まで来たのっちを抱き上げて、のっちが来た方を見ると そこには真顔のあ〜ちゃん そのままコッチに近づいてきて、男の後ろで立ち止まる 「またあんたなん」 「そっすねー」 あ〜ちゃんの方へ向きを変える男 「…ゆかちゃんコッチ」 視線を私にくれて、自分の後ろを指差すあ〜ちゃんに言われたように、のっちを抱えて立って男の横を通り過ぎようとしたら いきなりグイッと引っ張られて、男が抱きしめてきた 「オレ、ゆかちゃんに一目惚れしちょうたけぇw」 はぁ?何コイツ!! あ〜ちゃんの顔もヒクついて 次の瞬間、あ〜ちゃんがズンと男に近づいたかと思ったら 「い゛っだぁww」 あ〜ちゃんに思いっきり足を踏まれた男が悲鳴を上げて、私から手を離した そして今度はあ〜ちゃんの後ろにグイッと引っ張られて、あ〜ちゃんが守ってくれる 「じゃけぇ、あたしのゆかに触んな!このチャラ男がぁ!」 ふぇw///本日二度目w にゃーwあ〜ちゃんカッコええww 「ったぁーwなん?あたしのってなんなのそれ?キミのじゃないじゃろ?」 さっきまで私が座っとった場所に座って、足をさすってる男 「そんなんそのままじゃ!…ゆか」 あ〜ちゃん、相当ご立腹の様子… やっぱ、百倍じゃなくて百万倍じゃな〜なんて、ぽ〜っと考えとった私は不意に呼ばれて 「はへ?」 間抜けな返事をした瞬間、顔をあ〜ちゃんに引き寄せられて 「ぅwん!」 いい感じのキスをされていた私… 目の前の男も固まってる そりゃ、いきなり女の子どうしのキス見せられたらそうなるわw ふはぁと唇を離したあ〜ちゃんが男に向き直る 「っちゅう訳じゃけぇ…てぇ、ん?」 けど、男はまだ口が半開きで固まっとるみたいで… 「…よし、ゆかちゃん行こ」 少し考える素振りをした後、何もなかったかのように、私の手を引いて賑やかな祭りの中へと向かいだすあ〜ちゃん 「ぇ、あの人放っといて良いん?」 「ゆかちゃんに手ぇだすヤツなんて知らんもぉん」 「ははは…」 えっとぉ…ご愁傷様でしたぁ…w 「あ〜ちゃん結構探した?」 「え?あぁ、あんまりー。多分ゆかちゃんならあんまりそこから動かないだろうなぁと思ったけぇ。それに、あの辺行ったらのっちが走り出して、またぁ?って思ったらゆかちゃんだったw」 「そっかwのっち見つけてくれたんだぁ」 嬉しくてのっちの頭を撫でる わうw(やったぁwゆかちゃん撫で撫でだぁw) 褒められてご機嫌なのっち 「あ、そういえば、途中でのっちに会ったんよ」 「ん?」 (のっち?のっちなん?) 「あw人のほうね?」 「あー、来とるんじゃ」 「それが、じんべぇ着よってからぁ。しかも似合っとるけぇ、ありゃぁ、絶対女子にモテとるな」 「結構、告白とかされるみたいじゃよ?」 「やっぱり…」 「でも、本人あんま興味ないみたいw本人曰く今はネコのかっしーにゾッコン中らしからw」 「あぁ…今日も逃げられてたなぁ…」 その姿が簡単に想像できて、笑ってしまう 「へへw…よし!もっかい仕切りなおしで、楽しんじゃお?」 「うん!」 わん!(のっちもぉ!) 「はいはいwあんたもね?」 くぅw(わわwあ〜ちゃん撫で撫でなのらw) あ〜ちゃんの言葉通り、思いっきり楽しんで リンゴ飴買って、お好み焼き買って、あ〜ちゃん得意のヨーヨーのぽんぽんに私の得意な金魚すくいに…色々して、ホント楽しくって… 帰るのが勿体無いくらいで… でも、時間は過ぎて… 帰り道のっちは、はしゃぎ疲れて眠って私の右腕の中 反対の手はあ〜ちゃんと繋がって 「あ、帰ったらスイカパーチィが待っとるけぇw」 「うんwしよしよ?」 祭りはまだこれからよ? あ〜ちゃんはそう言って笑う うん きっと忘れられない、二人だけのお祭り… 今日のあ〜ちゃん、絶対忘れんよ? ひひwまた忘れられない日が増えたねw —つづく—
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1526.html
(※古泉×朝倉です) あたしね、好きな人がいるの。 とってもとっても大事な、あたしの好きな人。 でもあたしは、何でその人を好きになったのかを覚えてないの。 どうしてかなって考えると胸が苦しくて、でも、何も分からないままで。 もしかしたら、これは知らない誰かの気持ちなんじゃないかなあ、なんてことまで考えちゃった。 これって変な妄想だよね? でも、そのくらい、この恋はあたしにとって不可解な物だった。 ねえ、これはあたしの恋心? 誰かの恋心? あたしは知らない。でも、知っている。 これは恋、あたしだけの恋。 だって、あたしは本当にあの人が好きだもの。 これはあたしのあの人のためだけの、小さな小さな恋物語。 誰かのためじゃない、あたしのための恋物語。 去年の5月頃、あたしは一度この学校から転校した。 親の仕事の都合での転校、それも直前まで連絡の無いギリギリの物。 全く、勝手な話だよね。 夜逃げか何かだと思われちゃったのかもなあ、って思うけど、今のあたしにはそんなことは関係無い話。 うん、そういうことにしておこう。 だってほら、人生前向きに考えなきゃつまらないじゃない? 年度が変わって4月になって、あたしはもう一度この学校に通える事になったんだしね。 これもまた親の仕事の都合なんだけど、正直慣れない海外生活よりこっちの方がありがたいかな。 だって、海外の学校ってやっぱり居辛かったんだもの。 それにね、あたしには、帰って来たい理由が有ったの。 あたしね、好きな人がいるの。 その人はあたしと入れ替わるくらいの、あたしが転校するよりほんのちょっと前にこの学校に来た人で、あたしは、その人のことを殆ど知らないんだけど。……でも、好きなの。 どうしてかなあ、どうしてだろう。 この一年近くの間、ずーっとその人のことを考えていた気がするんだよね。 変だよね。他にもいろんなことが有ったはずなのに、海外生活の記憶は曖昧で、あたしの頭の真ん中にいるのは、その人だけなの。 ううん、恋って不思議だなあ。 ああでも、やっと会えるんだ。 あの人に、また会えるんだ。 嬉しいなあ。 一度転校した生徒がもう一度転校してくるって、どんな感じなんだろう。 あたしはそっちの立場になったことが無いから分からないんだけど、あたしが来た直後の教室はちょっとざわめいていた。 年度の節目でのクラス替えが有った後とはいえ、去年同じクラスだった子も居るから当然だよね。 先生が事情を説明してくれているけど、皆ちゃんと納得してくれたかな? 何だか、一人凄い驚いた顔している子が居るなあ……。あ、確かキョンくんだっけ。そうだ、思い出した。 キョンくんの腕を、隣に居る女の子が引っ張っている。 あ、あの子は長門さんだね。クラスは違ったけど同じマンションに住んでいたから知っているんだ。そっか、今度は長門さんも同じクラスなんだね。 ああでも、あたしが今度住むことになるのはあのマンションじゃないんだ。 もう少し学校から遠いマンションで、今度は家族と一緒に。 でも、両親は後れてやってくることになってくるから、あたしはまだ一人暮らし。 本当言うと、6月か7月辺りに引越し予定なのを、あたしだけ無理を言って繰り上げさせてもらったんだよね。 新学期に間に合いたかったし(実際は始業式より二週間くらい遅れちゃったけど)、何より、彼に早く会いたかったから。 午前中の休み時間は、クラスメイトに掴まりっぱなしだった。 ううん、本当は早く彼のクラスに行きたかったんだけど、仕方ないよね。 あたしはクラスメイトからの質問に答えたり授業を受けたりしながら、お昼休みを待った。 昼休みになったら、さすがに抜けられるよね。 彼がお昼休みにどこに居るかは、分からないんだけど。 ええっと……、あ、でも、あの人達なら知っているよね。 あたしは、教室の一角で固まっている女子二人男子一人の組み合わせを見た。 さっきのキョンくんと長門さんと、それから涼宮さん。 この三人はクラスから浮いて居るってほどじゃないけど、ちょっとだけ雰囲気が違う感じがするかな。 キョンくんは割と普通だと思うんだけど、涼宮さんは全然他人と交わらない子だったし……。でも、今は違うのかな。ちょっとだけど、他の子達とも話しているみたいだし。 良かった、涼宮さんも去年より周りと打ち解けているみたいで。 あたしが涼宮さん達とに彼の居場所を聞いてみようと思ったのは、彼も涼宮さんが作った団体の一員だったから。 確か転校初日に涼宮さんが彼を浚っていっちゃったんだっけ。 えっと、名前は……、そうそう『SOS団』だっけ。 どんな団体なのか良く分からないけれど、彼も、今でもその一員なのかな。 「あ、ねえねえキョンくん」 昼休み、漸く人の輪から抜けられそうになったところで、あたしはキョンくんに話し掛けた。 涼宮さんと長門さんは教室に居ない。二人とも学食組なのかな。 ちなみにあたしはお弁当。一応手作りだよ。 「……朝倉か」 「久しぶりだね、キョンくん」 「……何か用か?」 何か、凄く警戒されている気がする。 何でだろう……。あたし、キョンくんに何かしたかなあ? 涼宮さんが皆と仲良く出来るよう協力してねって言ったりはしたけど、それ以外には何も無かったと思うんだけど。 「ねえキョンくん、この時間に古泉くんがどこにいるか知っている?」 「……は?」 キョンくんが、本気で目を点にしていた。 点って言うのは勿論比喩なんだけど、本当にそうとしか言いようがない。 「えっと、知らない?」 「いや、ちょっと待て……。古泉って古泉一樹か?」 キョンくんが一度首を振ってからあたしに確認してくる。 他に同じ苗字の心当たりが有ったのかな。 「うん、そうだよ」 「……」 「知らないの?」 「……ああ、すまん」 何だ、知らないんだ。 「そっかあ、残念だなあ。あ、ありがとキョンくん」 あたしはキョンくんに背を向け、教室を出るべく歩き出した。 お弁当を食べなきゃとは思うんだけど、それより今は彼の居場所が気になるんだよね。 「あ、待ってくれ朝倉」 「何?」 キョンくんに呼ばれて、あたしは振り返る。 「ああ、えっとだな……。お前、何で古泉の居場所を探しているんだ?」 「……言わなきゃいけない?」 ここは教室。 あたしとキョンくん以外にも、10人以上生徒が居る。 今のやり取りで充分バレバレって気もするけど、出来れば、こんな場所では言いたくないかな。 「……あ、いや、いい」 「じゃあ、またね」 あたしは今度こそ教室を出た。 あたしは教室を出た後で、彼が何組か聞いてなかったことを思い出した。 ちょっとうっかりしていたかも……。でも、理系クラスは二つしかないから、見つけるのは難しくないよね? あたしは理系クラスの片方で古泉くんがそのクラスに在籍している事を確認したけれど、生憎彼は不在だった。 ううん、どこだろう……。 やっぱり、この時間は学食かなあ? あたしは学食へと足を運んだ。 一年近く経っているとはいえ通った事のある場所だから、道に迷う事はない。 難なく学食に続く渡り廊下まで辿り着いたあたしは、 そこで、彼を見つけた。 心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けながら、あたしはその場に立ち尽くしていた。 ああ、駄目だ。 言いたいこととか、伝えたいこととか、全部吹っ飛んじゃった。 こんな場所で告白しようなんて思ってなかったけど、最初の挨拶だって何度も何度も練習したのに……。 駄目、全部吹っ飛んじゃった。 彼が、あたしの脇を通り過ぎていく。 ああ、神様。 お願い、あたしの心臓の音が彼に聞かれませんように。 「……朝倉さん?」 彼が、あたしの傍で足を止めた。 間違いなくあたしの名前を呼んで、あたしの方を見ている。 やだ、どうして。 どうして、彼があたしの名前を知っているの? 転校前のあたしなんてただの別のクラスの女の子で、彼とは何の接点も無い筈なのに……。 ああもう、どうしよう、どうしたら良いの。 全然わかんないようっ。 「あ、あの……」 あたしはゆっくりと彼の方に向き直った。 これがアニメとか漫画だったら、ギギって効果音が入ってそう。 あたし今、思いっきり不審人物かも。 「ああ、いきなり呼び止めてしまってすみません。朝倉涼子さんですよね?」 「は、はいっ」 あたしはその場で大きく腰を折った。 何か声が思いっきり上ずっている気がするんだけど、細かい事を気にしている余裕なんて全然無い。 「また転校してきたんですね」 「あ、はい……。親の仕事の都合で、戻ってこられるようになって……、あ、あの、古泉くんは、どうしてあたしの名前を知っているんですか? あ、あたしは、ええっと、涼宮さんが……」 うう、説明し辛い。 頭が回らないし、そもそも、こんなことを正面切って言って良いのかどうかも分からないし。 「僕も涼宮さん絡みですよ。あなたの転校はいきなりでしたからね。そのとき涼宮さんが色々言っていたんで、僕もあなたの名前を覚えていたんです」 ああ、そういうことか。 涼宮さん、古泉くんが来た時も謎がどうとか言っていたっけ。 あたしが転校しちゃった時も、似たようなことを考えたのかな。 あたしの転校も急だったからなあ。 「そうだったんだ……」 「ええ、そういうことです。疑問は解決しましたか?」 「はい……」 「それでは、僕はこれで」 古泉くんが、そのまま立ち去っていこうとする。 ダメ。 行かせちゃダメ。 せめて、せめて一言でも、何か次に繋がる言葉を探さないと。 そうでないとあたしは、ただの転校生で終わっちゃう。 それじゃ、ダメ。 これは、神様があたしにくれたチャンスなんだ。 お願い、神様。 あたしに、勇気をください。 「あ、あの……」 あたしは、勇気を振り絞った彼に話し掛けた。 去っていこうとしていた彼が、ゆっくりと振り返る。 「まだ何か有りましたか?」 「あ、あの……その、えっと……、古泉くん、今日の放課後、時間、有りますか?」 ああ、言葉が上手く出て来ないよう。 もっと気の聞いた言い方とか、さり気無い言い方とか、興味を引く言い方とか……、ううっ、だってまさか、古泉くんがあたしのことを知っているなんて思わなかったんだもん。 「……SOS団の活動時間の後でしたら、大丈夫ですが」 やった、OKだ! 「あ、あの、今日の放課後……教室に来てもらえますか、二年五組に」 「ええ、構いませんよ。時間が何時になるかはっきり分からないのですが、それでもよろしければ」 「そんなっ、下校時間より前だったら何時でも構わないです!」 贅沢なんて言わない。 来てくれなかったら悲しいけど、来てくれるんだったら、下校時間5分前でも3分前でもいいっ。 だってだって、必要なのは時間の長さじゃないんだもの。 ただ、二人っきりなれれば……え、ああ、そうか、早すぎてもダメなんだよね。 ううん、SOS団の活動時間ってどのくらいまでなんだろう。今の古泉くんの口ぶりだと、きちんと決まっているわけでも無さそうだし、ここで時間を指定しなおすのも変だし……。 あー、もう、あたしのバカバカ。 何でもっと考えて喋れないんだろう……。 「あの、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」 ぐるぐる考えていたら、何時の間にか古泉くんがあたしの近くまで来ていた。 はうう、まともに顔が見れな、い……。 無理、今のあたしには無理だから! 刺激が強すぎるようっ。 「えっ、あ、いえ、全然、全っ然大丈夫です。……ほ、放課後の件、よろしくお願いしますっ」 あたしは一歩下がって大きく礼をすると、そのままダッシュで廊下を引き返した。 何やっているんだろうなあ、あたし。 約束はしてもらえたけど、これじゃあ印象最悪だようっ。 教室に戻ったあたしは誰の顔も見ないでとりあえずお弁当を食べ終えた。 こういう時は頭がいっぱいになって何も食べられないって方がそれらしいのかも知れないけれど、何もしてないっていう状況に頭も心も耐えられなかったみたい。 お弁当、誰かにあげたり見せたりすることもあるかなと思って頑張って作ったつもりだったんだけど、味は全然分からなかったなあ。 午後の授業を上の空で聞いていたあたしは、ホームルームが終わった後、教室で彼を待ち続けた。 教室から生徒が一人消え、一人消え……、30分くらいで、あたし一人になった。 がらんとした教室、たった一人のあたし。 誰かを待つあたし。 あれ、 以前にも、こんな状況が有ったような……。ううん、気のせいだよね。 あたし、こんな風に誰かを呼び出したことなんて無い筈だし。 それからもう10分くらい待っていたら、唐突に教室のドアが空いた。 古泉くんが、そこに立っていた。 「お待たせいたしました」 爽やかな笑顔が、昼間より一段暗くなった教室に映えていた。 「あ……」 あたしの頭の中が真っ白になる。 SOS団がどんな団体か知らないけど、普通に考えたらホームルーム終了後一時間足らずで終わる部活動なんてそうそうない。 要するに、あたしはまだ心の準備が全然出来ていなかったのだ。 「あ、あの……」 古泉くんは、教室の入り口から一メートルくらいの所に立ったまま、窓辺に居るあたしの方を見ている。 穏やかな見守るような視線、暖かさを感じさせる人好きそうな微笑み。 それがあたしだけのためのものじゃなくても、あたしに向けてくれているという事実が嬉しい。 ああ、でも、緊張しちゃうな。 本当に言いたいことは一つだけなのに、どうして、こんなに迷うんだろう。 どんな伝え方をしたら、ちゃんと伝わるかな。 ちゃんと、本気だって思ってもらえるかな。 あたしのこと、好きになってもらえるかな? 「あの……、あたし、古泉くんのことが好きなんです」 あたしは精一杯の勇気を振り絞って、告白した。 結局気のきいた言葉なんてちっとも浮かばないままだったけど、目を逸らさずに言えたのは、自分でも偉かったと思う。 「それは……」 古泉くんが、不思議そうな顔をしている。 ああ、うん、そうだよね。 違うクラスの、殆ど話したことも無いような女子にいきなり告白されたんだもんね。 びっくりするのが当たり前だよね。 「あ、あの……、ごめんなさい、迷惑、だよね?」 あたしはしゃべり辛い敬語を辞めて、彼に問い掛けた。 自爆路線まっしぐらな気がしてならないんだけれど、何か言わなきゃ間が持たない。 あたしの心が、もってくれない。 「……いえ、そんなことはありませんよ。ただ、あまりに突然だったので驚いていたんです。ただ……」 「あ……」 「返事は、少し待っていただけますか?」 「え?」 ごめんなさいされると思って覚悟を決めようとしていたのに、彼の答えはあたしの予想とは外れる物だった。 えっと……、待って、欲しいって。 それって、可能性は有るってことなのかな? 期待出来るってことなのかな? それとも、間を持たせることで出来るだけ傷つけないようにしているとか……。ああ、どうしても考えが悪い方へ向うなあ。 「さすがに、今すぐには答えを出せませんので。あんまり長くお待たせするのは悪いと思うのですが……。そうですね、一週間ほど待っていただけますか?」 「……うん」 「ではそれでお願いします。返事はまた放課後、この教室で、ということでよろしいでしょうか?」 「……」 あたしは無言で首肯する。 古泉くんの口調は優しくて、そして滑らかだ。 きっと、女の子に告白されていることに慣れているんだろうな。 明らかに万人向けの優しさに少しだけ癒されながらも、あたしの心は沈んでいく。 どうやら、古泉くんが返事まで時間が欲しいと言っていた理由は、あたしの悪い想像と一致するらしい。 ああ、やっぱり、ダメなんだ。 「では、今日はこれで」 「あ、あの……」 気がついたら、踵を返しかけた古泉くんのブレザーの端っこを掴んでいた。 あ、あたし、なんてことしているんだろう……。 「どうしましたか?」 「い、一緒に帰らない? あの、坂を降りるだけでも……。だ、ダメかな?」 元々、ダメ元なんだから。 だから、だから……、あたしは、出来るだけあたしらしく彼に接したい。 好きって思ってもらえなくても、恋人になれなくても、すこしても、あたしを知って欲しい。 だから、出来るなら、少しでも一緒に……。 「ええ、かまいませんよ」 古泉くんが、人懐っこい微笑を浮かべてそう言ってくれた。 その瞬間、あたしの心は羽が生えてどこかに飛んでいくんじゃないかってくらい舞い上がっていた。 ああ、もう、何考えて良いか分かんないかも……。 帰る道すがら、古泉くんはこの一年間で有った事を話してくれた。 一緒の下校をOKしてくれた時には思考がショートしていたあたしも、漸く人の話がまともに聞ける状態に戻っていたみたい。 自分から自主的に何かを話すってことはまだちょっと難しいんだけど……。ううん、でも、古泉くんの話が聞けるだけでも嬉しい。 古泉くんは、主にSOS団の活動内容に関することを話してくれた。 SOS団って言うのは『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団』の略称なんだって。 正式名称を聞いても何だかよく分からない団体には変わりなかったけど、今までに有った出来事を語る古泉くんは、何だかとっても楽しそう。 楽しそうな古泉くんを見ていると、あたしも楽しくなってくる。 こういうのって、良いなあ。 あたしの想いは、多分、受け入れてもらえないけれども、こうやって話が出来るだけでも、結構、幸せかも知れない。 幸せの余韻を残しつつ帰宅したあたしだったけど、残念ながら夢の中で彼に会う、みたいなことは出来なかった。 夜寝たと思った次の瞬間朝目覚めた感覚になるって分かる? ちょうど、そんな感じだったのよね。 寝覚め自体はスッキリしているんだけど、何だかちょっと釈然としない。 睡眠時間なんて元々カウントされない物かも知れないけど、何だかちょっと損した感じかも。 そんな風に目覚めてから学校へ行く道すがら、あたしは登校途中の古泉くんを見かけた。 古泉くんは、キョンくんや涼宮さんと一緒にゆっくり坂を登っているところだった。 どうも、古泉くんと涼宮さんが何か話しているところに、キョンくんがツッコミを入れているという構図みたい。 キョンくんがちょっと疲れ気味な気もするけど、三人とも楽しそうだなあ。 何だか、良いなあ……。 SOS団、かあ。 「あ、おはようございます、朝倉さん」 話し掛ける勇気なんて全然なかったのに、古泉くんの方からあたしに話し掛けてきた。 う、うそぉ……。 「え、あ……、お、おはよう」 真っ赤になって頭を下げるあたし。 ううう、挨拶さえまともに出来ないなんて重症すぎるよ。 ああでも、彼の方から挨拶してもらえるなんて、嬉しすぎる。 幸せ者だなあ、あたし。 「あ、あの……、昨日は、ありがとう」 あたしは何とか顔を上げて、彼にお礼を言った。 昨日この坂道を一緒に歩けたのは、本当に嬉しかった。 「いえいえ、たいしたことでは有りませんよ」 「あら、昨日古泉くんを呼び出したのって朝倉さんだったの?」 涼宮さんが、ひょいとあたしと古泉くんの間に割り込んできた。 古泉くんが、涼宮さんの方を見てから、あたしの方を見た。 ええっと、あたしに答えを求めているのかな? 「……う、うん。そうだよ」 「へえ、そうなんだ。人に呼ばれているから早く帰りたいって言っていたから何かと思ってたんだけど、そういう用事だったのねえ」 涼宮さんが、何だか、噂好きのおばさんみたいな顔つきになっている。 ちょっと意外な表情かも……。って、今のあたしにそんなことを一々考えている余裕は無いんだけど。 えっと、あの、その……。ううう、何て言えばいいんだろう。 ああん、出来るだけ迷惑かけたくないのにぃ。 「おい、ハルヒ」 「……ま、良いわ。野暮なことは聞かないでおいてあげる」 キョンくんが涼宮さんの腕を引っ張り、涼宮さんがひらりとその身を翻し、今度は涼宮さんがキョンくんの腕を掴んで、あっという間に坂を登って行っちゃった。 えっと……。 「あ、あの……」 「ああ、すみません。名前を出すつもりは無かったのですが」 「う、ううん。あたしのせいだから、気にしないで。……でも、涼宮さん、あんな顔もするんだね。一年前じゃ、ちょっと想像出来なかったかも」 他人の人間関係に興味を持つ涼宮さんなんて、一年前は全く想像できなかった。 涼宮さんって、そういうことには凄く無関心に見えたし。 「彼女もこの一年で結構変わりましたよ。元気なのは相変わらずですが」 「……そうだね」 ぱっと現れてぱっと去っていったあの行動力と坂を登る時のパワフルな姿は、一年前、それも、部活を作ると言った直後くらいの彼女を思い起こさせた。 涼宮さんは、とっても元気な子。 ちょっと、羨ましいかもなあ。 そう言えば、古泉くんにとって涼宮さんって何なんだろう? 怪しげな団体に転校初日に連れ込まれたっていうのに、一年間もずっと付き合っているなんて、もしかして……。 ううん、でも、それは無いと思う。 無い、と思う。 どうしてとは言えないんだけど、何となく、そういう感情とは違う気がするの。 ……あたしの、思い込みかも知れないけど。 それからの一週間は、何事も無く過ぎていった。 時々教室で大声をあげている涼宮さんを見たりしたけど、あたし自身は何も無かったし、涼宮さんやキョンくんや長門さんがあたしに話し掛けてくることも無かった。 古泉くんもクラスが違うからあんまり会わなかったし、廊下ですれ違ったり登校中に出会ったときに挨拶を交わすくらいだった。 ドキドキは持続中だけど、告白した日に比べればあたしも大分落ち着いてきた。 彼のことが好きなのは変わらないけれど、授業中に上の空になることも減ってきたし、ちゃんと周りにも目を向けられるようになった。 ……振られることが怖いから、逃げているだけってことなのかもしれないけど。 あたしは、古泉くんのことが好き。 誰よりも好きだって自身も、ちゃんとある。 でも……、恋って、自分一人でするものじゃないよね。 待ち人だった一週間は、言い換えれば死刑執行宣告を待つための時間のような物だったのかも知れない。 答えについては、全然期待できないと思っていたから。 「……イエスと、お答えしたいと思っていますよ」 だからあたしは、約束の放課後の教室で古泉くんが答えを教えてくれた時、一瞬、その言葉が理解出来なかった。 「え……、あ、あの、あのあの……」 い、今、なんて言われたんだろう。 あ、頭の中真っ白を通り越して、透明になって何もなくなったところを風が通り抜けていくみたい。 言うつもりだった言葉まで、風に乗ってどっかへ飛んで行っちゃったのかも……。 「ほ、ホントに……。い、良いの?」 「ええ、良いですよ」 「あ、う、うそぉ……」 思わず、声に出ちゃった。 あああ、あたし何言っているんだろう。 「嘘じゃ有りませんよ」 「け、けど、あたしじゃ……」 「一週間考えた末、あなたは充分魅力的な女性だと判断したんです。……それとも、何か不満がお有りですか?」 「ぜ、全っ然! う、嬉しいよ。ほ、本当に……」 ああ、もう、本当、夢みたい……。 だってだって、だめだって思ってたんだよ。 あたしはただの他のクラスの転校生。一回転校してからまた転校してきたっていうちょっと変わった経歴持ちだけど、古泉くんにとっては顔見知り以下だっていうのは間違いないと思う。 あたしは古泉くんがこの学校でどんな評価を受けているか知らないけど、彼は結構かっこいいから、女の子にもてるんじゃないかな。 そんな彼が、どうさてあたしを選んでくれたのか……、ううん、ここは気にするところじゃないの、あたしが、彼につり合うだけの女になれば良いんだもんね! その日、あたし達は他愛ない話をして帰った。 一週間前とは違う、最近見たドラマのこととか、聞いている音楽の話とか、授業のこととか。 古泉くんは理系クラスだから受けている授業の内容があたしとはちょっと違うんだけど、彼が話してくれた物理の先生のエピソードはとっても面白かったな。 そうそう、それとね。 今度の日曜日に、デートをするって約束したんだよ! 街に出て映画を見るっていう定番コース? 定番も何も、あたしにはデートの経験自体無いんだけど、ドキドキしちゃうなあ。 えへへ、楽しみだなっ。 それから、日曜までの時間はあっという間に過ぎていっちゃった。 あ、デートのことを考えすぎていて授業を疎かに、何てことにはなってないわよ。 古泉くんは進学クラスだから、あたしもそれに釣り合う位にはならないとね! 幸い授業には着いていけないなんて事も無く、あたしは教師に当てられてもちゃんと答えられたし、小テストでもそこそこ良い点を取っていた。 でもこの間の小テストでは涼宮さんと長門さんに負けちゃったのよね……、長門さんはともかくとして、全然勉強している風に見えなかった涼宮さんに負けちゃったのは悔しいなあ。 はあ、もっと頑張らないとね。 日曜日、わくわくしながら集合場所へ向ったら、20分も前だっていうのに古泉くんはもうやって来ていた。 うそ、早すぎ! できれば先に来たかったんだけどなあ……。 「おはようございます、朝倉さん」 古泉くんが、すっごい素敵な笑顔であたしの方を見てくれている。 カッコいいなあ……、ああ、何かぽーっとしちゃいそう。 「あ、おはよう……、ごめんね、待たせちゃったみたいで」 「いえ、僕が早く来すぎてしまっただけですよ。……何時もの癖かも知れないですね」 「癖?」 「ええ、SOS団で集合する時は、皆早めに来ることになっているんです。何しろ遅れた人には罰金というルールがありますからね」 「そうなんだあ……」 「ああ、早く来すぎてかえって気を遣わせてしまったことは謝ります。すみません、朝倉さん」 「ううん、気にしないで!」 古泉くんは何にも悪くないよ。 あたしが悪いってわけでも無い気がするんだけど……、うん、そうだ、ここはね、二人とも早く来た分長く一緒に居られるって風に考え直せばいいのよね。 そうそう、そう思えばお徳だわ。早起きは三文の得って諺もあることだしね。 「そう言っていただけると助かります。では、行きましょうか」 古泉くんはそう言って、あたしにそっと手を差し伸べてきた。 えっと、これは……、手を、繋ごうってことなのかしら? 古泉くんってもしかして、結構積極的なのかな? それとも、恋人同士だったらこれくらい当然ってこと? ううん、経験の無いあたしには全然分からないよ……。 で、でも、でも、でもね。 あたしは、凄く、嬉しい……、うん、嬉しいの。 それは、本当だから。 「うんっ」 あたしは舞い上がりそうな心を抑えつつ、古泉くんの手を取った。 男の子の手って、大きいなあ……。何だか不思議。でも、嬉しい。 転校してきた頃には、こんな風になれるなんて全然想像できてなかったのに……。 勇気を出して告白して、本当に良かったな。
https://w.atwiki.jp/mskk/pages/49.html
奥沢美咲[あたしの大事なもの]☆4 属性 クール スキル名 レペゼン・ハロハピ 左エピソード名 美咲a.k.a.……? 右エピソード名 あたしの世界 左エピソード概要 「ハロー、ハッピーマイワールド!」直後の帰り道、ハロハピが居場所と認める美咲。3バカに美咲=ミッシェル問題を理解をさせる機会を自ら放棄するシーンなど。 右エピソード概要 世界を笑顔に!について、今は「世界」を「自分の見える範囲の世界」なら、なんとか出来るのかもしれないと信じれるようになった美咲 左エピソードオススメ度 ☆☆☆ 右エピソードオススメ度 ★★★★