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【元ネタ】史実 【CLASS】アーチャー 【マスター】 【真名】デイヴィッド・クロケット 【性別】男性 【身長・体重】185cm・75kg 【属性】秩序・善 【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運B 宝具C 【クラス別スキル】 対魔力:D 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。 単独行動:A マスター不在でも行動できる。 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。 【固有スキル】 勇猛:B 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。 わずか三歳でクマを退治したといわれ、西部きっての向こう見ずとも謳われる。 狩猟:A 狩人としての技能。 獣属性を持つ相手との戦闘の際相手には不利な補正を、自分には有利な補正を与える。 仕留めた獣には穴一つないとまで言われた。 戦闘続行:B 不屈の闘志。 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、武器が残っている限り戦闘を続行出来る。 【宝具】 『皮帽子の英雄(デヴィー・クロケット)』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1人 今なお語り継がれる西部の英雄。「若者の憧れ」という彼の英雄としての在り方の具現。 レンジ内に存在する男子の憧れ、羨望の対象であればあるほど クロケットの英雄としての格が上昇する。 憧れる男子の数に応じて戦闘中優先的に幸運を引き寄せる他、 攻撃によるダメージや命中率が上昇する。 【weapon】 『無銘・猟銃』 クロケットの愛用した猟銃。 【解説】 アメリカテネシー州に生まれた軍人・政治家。 州の民兵として先住民討伐に参加した他、メキシコ独立戦争にも参加。 アラモの戦いにて捕えられ処刑される。 アメリカでは西武の英雄の一人として有名でデイビー・クロケットの唄という歌にもなっている。 型破りで向こう見ず、勇猛な正義漢というイメージが強い。 狩猟が得意だったが、わずか三歳で熊退治をしたとされているのは流石に伝説であろう。 宝具皮帽子の英雄はレンジ内の羨望を集めて信仰へと変える信仰補正ブースター。 手っ取り早い話毎日日中子供達とよく遊んでいればそれなりに効果が出てくる。 舞台がアメリカであれば信仰補正自体も上昇しそれなりに強力なサーヴァントとなるだろう。
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おしおきだべぇぇ---っっ!!! 出典:【タイムボカンシリーズ】 今作品からは、煙がどの機体でも撃墜したか、された時に爆発に合わせてドクロ型の煙の形に変更され始める。(作戦成功か、作戦失敗を含む。) 機体ユニットのサイズがが小さければ小さく、大きければ大きいドクロの煙を起こす。 同じサイズでも、コストが低ければ小さく、高ければ大きいドクロの煙が吹き出る。 ドクロの煙が高コストの機体の爆発が起きれば吹き出る時間が長くなる。 平均15-40秒間によっては、機体により持続時間が異なる。 例) サザーランド(どのタイプでもいい)は煙が小さく、ランスロットだったら煙がやや大きめ。 アシュセイヴァー?だったら煙が大きく吹き上がる。 サイコガンダムMk-II?は煙のサイズがめちゃでかく、煙の持続時間が非常に長い。
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クロバット No.169 タイプ:どく/ひこう 特性:せいしんりょく 入手可能ソフト:ルビー/サファイア/FR/LG/エメラルド/ダイヤモンド/パール/プラチナ HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早 85 90 80 70 80 130 ばつぐん(4倍) --- ばつぐん(2倍) でんき/こおり/エスパー/いわ いまひとつ(1/2) どく いまひとつ(1/4) くさ/かくとう/むし こうかなし じめん 覚える技 レベルアップ ズバット ゴルバットクロバット ズバット ゴルバットクロバット ズバット ゴルバット クロバット GBAホウエン GBAホウエン GBAカントー GBAカントー DS DS DS 技 威 命 タイプ 分類 PP - - - - - - 1 クロスポイズン 70 100 どく 物理 20 - 1 - 1 - 1 1 いやなおと - 85 ノーマル 変化 40 1 1 1 1 1 1 1 きゅうけつ 20 100 むし 物理 15 6 6 11 11 5 5 5 ちょうおんぱ - 55 ノーマル 変化 20 11 11 6 6 9 9 9 おどろかす 30 100 ゴースト 物理 15 16 16 16 16 13 13 13 かみつく 60 100 あく 物理 25 21 21 21 21 17 17 17 つばさでうつ 60 100 ひこう 物理 35 26 28 26 28 21 21 21 あやしいひかり - 100 ゴースト 変化 10 31 35 31 35 25 27 27 エアカッター 55 95 ひこう 特殊 25 36 42 36 42 29 33 33 くろいまなざし - - ノーマル 変化 5 41 49 41 49 33 39 39 どくどくのキバ 50 100 どく 物理 15 46 56 46 56 37 45 45 くろいきり - - こおり 変化 30 - - - - 41 51 51 エアスラッシュ 75 95 ひこう 特殊 20 技マシン マシン 技 威 命 タイプ 分類 PP 技06 どくどく - 85 どく 変化 10 技10 めざめるパワー - 100 ノーマル 特殊 15 技11 にほんばれ - - ほのお 変化 5 技12 ちょうはつ - 100 あく 変化 20 技15 はかいこうせん 150 90 ノーマル 特殊 5 技17 まもる - - ノーマル 変化 10 技18 あまごい - - みず 変化 5 技19 ギガドレイン 60 100 くさ 特殊 10 技21 やつあたり - 100 ノーマル 物理 20 技27 おんがえし - 100 ノーマル 物理 20 技30 シャドーボール 80 100 ゴースト 特殊 15 技32 かげぶんしん - - ノーマル 変化 15 技36 ヘドロばくだん 90 100 どく 特殊 10 技40 つばめがえし 60 - ひこう 物理 20 技41 いちゃもん - 100 あく 変化 15 技42 からげんき 70 100 ノーマル 物理 20 技43 ひみつのちから 70 100 ノーマル 物理 20 技44 ねむる - - エスパー 変化 10 技45 メロメロ - 100 ノーマル 変化 15 技46 どろぼう 40 100 あく 物理 10 技47 はがねのつばさ 70 90 はがね 物理 25 技49 よこどり - - あく 変化 10 技51 はねやすめ - - ひこう 変化 10 技58 こらえる - - ノーマル 変化 10 技66 しっぺがえし 50 100 あく 物理 10 技68 ギガインパクト 150 90 ノーマル 物理 5 技78 ゆうわく - 100 ノーマル 変化 20 技79 あくのはどう 80 100 あく 特殊 15 技81 シザークロス 80 100 むし 物理 15 技82 ねごと - - ノーマル 変化 10 技83 しぜんのめぐみ - 100 ノーマル 物理 15 技87 いばる - 90 ノーマル 変化 15 技88 ついばむ 60 100 ひこう 物理 20 技89 とんぼがえり 70 100 むし 物理 20 技90 みがわり - - ノーマル 変化 10 秘02 そらをとぶ 90 95 ひこう 物理 15 秘05 きりばらい - - ひこう 変化 15 タマゴ技 GBA 技 威 命 タイプ 分類 PP ○ でんこうせっか 40 100 ノーマル 物理 30 ○ おいうち 40 100 あく 物理 20 ○ だましうち 60 - あく 物理 20 ○ かぜおこし 40 100 ひこう 特殊 35 ○ ふきとばし - 100 ノーマル 変化 20 ○ のろい - - ??? 変化 10 × わるだくみ - - あく 変化 20 × さいみんじゅつ - 70 エスパー 変化 20 × しねんのずつき 80 90 エスパー 物理 15 × ブレイブバード 120 100 ひこう 物理 15 同時遺伝不可 さいみんじゅつ & ブレイブバード/わるだくみブレイブバード & わるだくみわるだくみ&でんこうせっかのろい&ブレイブバード ※ブレイブバード&しねんのずつきはプラチナでしねんのずつきを教えてもらえば両立可能。 教え技 FL Em XD Pt 技 威 命 タイプ 分類 PP ○ ○ ○ すてみタックル 120 100 ノーマル 物理 15 ○ ○ ○ ものまね - 100 ノーマル 変化 10 ○ ○ ○ みがわり - - ノーマル 変化 10 ○ ○ いびき 40 100 ノーマル 特殊 15 ○ こらえる - - ノーマル 変化 10 ○ ○ いばる - 90 ノーマル 変化 15 ○ ねごと - - ノーマル 変化 10 ○ ○ スピードスター 60 - ノーマル 特殊 20 ○ さわぐ 50 100 ノーマル 特殊 10 ○ たつまき 40 100 ドラゴン 特殊 20 ○ ねっぷう 100 90 ほのお 特殊 10 ○ あやしいかぜ 60 100 ゴースト 特殊 5 ○ エアカッター 55 95 ひこう 特殊 25 ○ しねんのずつき 80 90 エスパー 物理 15
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【検索用 くろはいおれっと 登録タグ VOCALOID く 才能 曲 曲か 鏡音リン 鷲屋】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:才能 作曲:才能 編曲:才能 唄:鏡音リン 曲紹介 曲名:『クロ・バイオレット』 才能氏のVOCALOID処女作。 イラストは 鷲屋氏 が、動画は才能氏自身が手掛ける。マスタリングは まさしげ(俺はこれで戦争を止めてみせる。)氏 が担当。 歌詞 (本人投稿動画概要欄より転載) ねえなんでそんな顔してるの? いいことなんてなんもないし 心臓の臓を刺していると すでに気付いてる 何故また来てねって言うの? 今更言うこともないし 水撒いてやっているのにさ 花だって咲いてる はぁ あげ続けて約三年 1000000円ほどの縁不当最大編 点と点結ぶ崩落点依然落ち込んでく不貞 「うるせえ」「うぜえ」余生の瀬に大賛成している風情の学生 先生 私こうでしか生きらんない ブラックなフレーズで踊りましょ? ここには愛とか正義だとかあるわけないし笑 フラットなステージで遊びましょ? どこにもないような世紀末をみせてあげるから となりのグラデーション 足枷にしかならないし 吐き出したい汚名や嘘も 全て隠してる なぜ身体も隠しているの? さめざめして声が出ない 耳元で縋っているよ 全て愛してる はぁ 行ったり来たりを何十年 1000000年ほどの現実に思えちゃって だって待ってたって立っている性の目が見えなくて 失態 期待のない彩の才脳大都会埋葬の会場 採用 なんもない性の回想想毎度再度愛想採用 咲き続けて約10年 100000000円ほどの縁不当改善点 点と点結ぶ最前線偽善は自分で気付け うるせえ うぜえ余生の瀬に大賛成してる風情の学生 先生 私ここでしか生きらんない ブラックなフレーズで踊りましょ? ここには愛とか正義だとかあるわけないし笑 フラットなステージで遊びましょ? どこにもないような世紀末をみせてあげるよ ブラックなフレーズで踊りましょ? ここには愛とか正義だとかあるわけないし笑 フラットなステージで遊びましょ? どこにもないような世紀末をみせてあげるから またおぼえておいてよね? クロ・バイオレット コメント 名前 コメント
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出展元:ONEPIECE(クロ) スレ内での呼称:クロ 二つ名:『百計のクロ』 備考 登場回 登場回(回想) AAまたは、声のみ DATA更新 [] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] | | | | | | ! ! □マスターデータ | | | | | | .i i ,. . . . . . . . 、 L」、 ├i、 | | i i ├─ □真名:クロ / ヽ }ニヽ }.=}_i´.} .i i // / ,r‐‐、 '; iニi .iニlニニ}r.ソ // .├─ □性別:男 i / ', '; '; iニl !ニi!ニiニY // ! { ̄ ̄ ´ ヽi } /ニニYニリニi!レ'、くゝ' .└─ □属性:??? マムヽ i ,.<イf )イニニニソニ'ニリ/ニソ'´ ヽ } '____ 、 }_ィ¨ィyヘイニニニニニニニ/‐‐'´ r`、{ 七D}ニ'`¨‐イニニニニニニニシ'´ ヽ℡ ー' ミ , |ニニニニニシ'´ ` ト、 ‐‐=‐ iニシレ'´ム}‐ッ ∧ ヽ __ァ'∨ ニ=‐ _イi ',ヽ {ス ミイ>、 , ィイニi/ {i i レij/レl/レ`'ニムiニニニ>、 ,ィイニニニニ/ i i Yニニニニニム┐ニニニニ>、_ rニニニニシ´`! ___ .ト‐、! / マニニニニニムiニニニニニニニi! iニニニニi{´ノ _イ / i / マニニニニニムニニニニニニニi iニニニコ ,ィイiト, ヽ、 i、 / iヽ、マニニニニニムニニニニニニi iニニニニニイニニヘ i ト,i∨ ,ィ'´ iニマニニニニニムニニニニニi![] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][]【周囲評価の流れ】1回目◆クロ:中立(42) 「ニヤリ」 出展元:ONEPIECE(クロ) スレ内での呼称:クロ 二つ名:『百計のクロ』 備考 2回戦でのキリトの対戦相手、交渉決裂時に「丁度良いサンドバック」扱いされボコられた。 裏世界で名を馳せた策略家であるが、実は巻き込まれ枠。 戦略そのものは流石に優れており、2回戦を勝ち抜いていれば、同盟の条件でドッペル陣営も絡め取られていた可能性がある。 聖杯への願いは、表向きの職業の執事として世話をしているお嬢様の乗馬の趣味を止めさせることww(あれは危ない) キリトとの決戦は紙一重で敗れたが、その強さは相当のものだったらしく、見ればよかったとスレ住民を後悔させた。 癒し枠として一条陣営の後継者を期待されていただけに惜しい人を亡くしたものだ… 名前 コメント 登場回 2回戦:1日目:夕方 死の嵐 2回戦:2日目:- 月下の百計 2回戦:3日目:- 凡人はただ剣を握る 2回戦:4日目:幕間 百計の歩み 2回戦:5日目:朝 夢の残骸 登場回(回想) AAまたは、声のみ 1回戦:7日目:- バーサーカーデータ + 新規マスター募集 DATA更新 2回戦:5日目:昼 管理者特権
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628 名前: 長目 投稿日: 2006/08/30(水) 02 01 51.96 ID Ow5ywfEI0 9『XY XY(後編)』 ------------------------------------------------------------------------------- 天才の部屋のドアに飛びついた俺は、合い鍵を使って鍵を開けた。 力一杯にドアノブを引くが、がちんと音がしてすぐに止まってしまう。 キーチェーンはかけないのが俺たちの間の不文律だったのだが、 兄がかけてしまったのだろうか、今はそれが扉を繋ぎ止めている。 俺「くそっ!」 葛「ユウキちゃん!」 部屋にとって返した葛が、工具を手にして駆け寄ってきた。 俺は妙に大きなニッパー受け取ると、力任せにシリコンチューブごとチェーンを切断する。 力の込めすぎで指が痛んだが、気にしている暇はない。 部屋に飛び込むと、キッチン、リビングを駆け抜け、寝室の扉を壊れそうな勢いで開けた。 そして、すぐさま電気をつける。 ベッドの上には兄と、その下に組み敷かれている天才の姿があった。 天才がいつかの時の以上の、悲痛な悲鳴を漏らす。 ……っ! 兄「W....What....」 俺「何してんだっ!」 怒鳴りつけざまに、背後から兄の襟首を掴む俺。 兄の身体は女の力でも簡単に引きずり倒すことができた。 ベッドから転げ落ち、もんどりうつ兄。 俺「てめえ……何してんだよ!」 630 名前: 長目 『クロ/クロ』9-2 投稿日: 2006/08/30(水) 02 04 37.54 ID Ow5ywfEI0 身を起こした兄はヒステリックな声で叫んだ。 兄「S....Shut up! You don t disturb me, fuckin bitch!(う、うるさい! 邪魔するなクソ女め!)」 兄「I need him!(僕はこの子がいないと駄目なんだ!)」 コイツの言葉はほとんど分からない……が、コイツがしていたことの意味は分かる。 ……まさか、コイツ……。 葛「ユウキちゃん。それより今は」 ひどく冷静な――いや、感情を押し殺した声が聞こえた。 葛が、俺と兄の間に割って入る。 ――そうだ、天才は? 俺は兄を葛に任せ、ベッドの方を振り返った。 ベッドの上で自分の肩を抱いて震えている天才。 完全な恐慌状態だ。 かっ、と頭に血が上るのを感じた。 俺「……!!」 俺は兄を睨みつけると、天才を抱き起こした。 俺「おい、大丈夫か! 俺だ! 分かるか!?」 天才の肩を揺さぶる。 朦朧としていた瞳の焦点が、俺の目で結ばれた。 天「……あ」 俺の腕に飛び込んでくる天才。 まるですがるように、俺に抱き付いている。 俺はその細い身体を抱きしめ返した。 634 名前: 長目 『クロ/クロ』9-3 投稿日: 2006/08/30(水) 02 12 51.06 ID Ow5ywfEI0 天才を胸に抱いたまま、俺は兄を睨みつけた。 奴は一瞬、その視線にひるんだようだったが、再び何かをわめき始めた。 兄「You ve no idea what our minds!(お前らに分かるものか!)」 兄「Only him! Only he understand my pain!(この子だけがボクの苦しみを分かってくれるんだ!)」 うまく聞き取れないが、言い訳がましい言葉を並べ立てているのは俺でも分かった。 コイツ……! 何か言ってやろうと、乏しい英語の語彙の中から言葉を探していると…… 葛が一歩前に出た。 葛「So, I don t understand your mind at all.(ええ、知りませんよ、あなたの気持ちなんて)」 いつもの間延びしたそれは影も形も見えない、強い語調。 葛「But, I know prof loves Yuhki.(でも、先生がユウキちゃんを好きなのは知っています)」 のんびりとした性格を表しているような垂れがちの目が、今は釣り上がっていた。 葛「I ll protect her.(私は先生を守りたいだけです)」 兄との距離を、一歩一歩、ゆっくりと縮めていく。 葛「Therefore, If you torment her....(ですから、もし、あなたが先生を苦しませるのなら……)」 それはまるで、彼という国を侵す軍隊のようだった。 葛「I LL NEVER FORGIVE YOU.(許しませんよ)」 ――葛が、キレている。 635 名前: 長目 『クロ/クロ』9-4 投稿日: 2006/08/30(水) 02 16 52.08 ID Ow5ywfEI0 葛「ARE YOU OK?(わかりましたか?)」 低い声で、一言一言区切るように告げる葛。 視線だけで人くらいなら殺せそうな目で、兄を睨め下ろす。 否定か、悲鳴か、兄が蚊の鳴くような声で、「n....no....」と漏らすのが聞こえた。 あと一歩で兄に手が届くだろう、という距離に葛が迫ったその時、 天「――待って」 俺の腕の中から、天才が身を乗り出した。 天「お兄ちゃんを、責めないで……」 葛「先生……」 やりきれないといった表情で、葛が天才に振り返る。 天「お願い……」 天才に懇願され、葛は渋々といった体で、兄から離れる。 俺「……とにかく、今日は俺の部屋に来い」 俺「これじゃ話もくそもねぇ」 天「……うん……」 俺は天才に手を貸して、立ち上がらせた。 だが足に力が入らないのか、うまく歩くことができない。 俺は少し考えて、天才を抱え上げた。 兄「Wait....!(待て……!)」 引き留めるようにこちらへ手を伸ばす兄を、俺は睨め下ろす。 俺「Go away.(帰れ)」 辛うじて掘り出したその言葉だけを吐き捨てて、俺たちは部屋を出た。 636 名前: 長目 『クロ/クロ』9-5 投稿日: 2006/08/30(水) 02 18 18.83 ID Ow5ywfEI0 葛「カフェオレです~」 甘いものの方が良いと思って、とつけ加えて、葛は天才にマグカップを差し出した。 天「ありがとう」 だが、天才の手は震えてしまって、カップをうまく持てない。 その手を支えてやる。 天「ありがとう」 再びそう言って、天才はカップに口をつけた。 しばらくして、ようやっと落ち着きを取り戻したのか、 天才はかしこまって俺たちに礼を言った。 天「二人とも、ありがとう」 葛「いえいえ~」 俺「気にすんなよ」 天才はカップをテーブルに置く。 そしてぽつぽつと、言葉を手探りで探すように語り始めた。 天「あれはね……お兄ちゃんが悪い訳じゃないの」 ひざの上で手を組んだ天才は、兄がああなった理由を話し始めた。 遡ると、それは天才の両親が離婚した時から始まったのだそうだ。 コイツと兄は母親の元へ引き取られ暮らしていた。 だが母親は次第に、兄へ対して性的な虐待を始めるようになる。 天「私は……そのことに気付いてたけど……」 天「でも、何もしてあげられなくて……」 やがて兄は女性を極度に嫌悪するようになり…… そして、ある日、兄は―― 天「ママと同じように……」 ――天才を、襲った。 637 名前: 長目 『クロ/クロ』9-6 投稿日: 2006/08/30(水) 02 20 23.19 ID Ow5ywfEI0 天才は吐き気を覚えたように、小さくむせ返った。 俺はその背をさすってやる。 俺「分かった……もういいから……」 俺「もう、言わなくていい……」 たしかに虐待は連鎖すると聞いたことがある。 俺が聞いた例の多くは、被虐待者が自分の子に同じことを行ってしまうケースだが、 天才の場合、年の離れた兄弟でそれが起きてしまったのだろう。 葛「でも……そんな……」 葛が自分の口元を押さている。 俺はぎりっと歯を噛みしめると、独り言のように呟いた。 俺「お前が暗闇を怖がるのは……兄貴のせいだったんだな……」 闇の部屋と、兄の記憶、それらが密接に結びついている気がした。 天「……うん」 天才はそれを肯定すると、自分の下腹を掻き割かんばかりに握りしめる。 天「でも、違うの」 天「お兄ちゃんが悪い訳じゃないんだよ」 天「それは私がお兄ちゃんに何もしてあげられなかったから……」 俺「そんな訳あるかっ!」 つい、声を荒げてしまった。 俺「お前が悪い訳……ないじゃないか……」 天「……ありがとう」 天「でも、それを言ったら、お兄ちゃんだってそうなんだよ」 俺「…………」 天「だから……あの人を責めないであげて」 638 名前: 長目 『クロ/クロ』9-7 投稿日: 2006/08/30(水) 02 22 48.45 ID Ow5ywfEI0 俺「だからって、なんでお前がこんな目に……!」 歯がみする俺。 対して天才は小さく笑った。 天「大丈夫。“私が大人しく犠牲になれば”――なんて考えてないから」 天「悲劇の主人公なんて、似合わないでしょ」 天「この連鎖は断ち切らないと」 天才は葛を見て、聞いた。 天「――キョウコちゃんも気付いてるでしょ? 私が男だって」 葛は小さく頷く。 天「私が女の身体になれたら……この連鎖は終わるの」 静かに微笑む天才。 俺「…………」 その笑顔は弱々しく、しかし他の意見を聞き入れない頑なさを感じさせた。 しばらくの間、昼間のものとはまた違った種類の、重い沈黙が部屋に下りた。 それを破ったのは、葛だった。 葛「あの~、もう遅いですし、先生は休んで下さい」 時計を見てみれば、その針はすでに10時を半分ほど回っていた。 もうこんな時間か。 葛「これからどうするかは、明日また話しましょう~」 俺「あぁ、そうした方が良い」 天「……でも……」 葛「私、先生の部屋を見てきますね~」 と言い残して、葛は席を立った。 639 名前: 長目 『クロ/クロ』9-8 投稿日: 2006/08/30(水) 02 24 40.50 ID Ow5ywfEI0 葛がいなくなった部屋で、天才は無言で俺の服の袖を掴んでいた。 俺「眠れなさそうか?」 天「……ううん、大丈夫」 天「でも……」 ぎゅっと、一際強く袖が握りしめられる。 天「今日は帰りたくない……」 ――そうだよな。 自分が襲われかけた部屋で寝ろなんて、無理な話だ。 俺「良いよ。今日は俺の部屋に泊まってけ」 戻ってきた葛によると、兄はもう部屋にはいなかったらしい。 葛「ですけど~、ユウキちゃん、今日は先生を泊めてあげてくれませんか~?」 俺「あぁ、分かってる」 我が意を得たりと微笑んだ葛は、俺に綺麗にたたまれた服を手渡した。 葛「これ、先生の着替えです」 そうか、これを取りに行ったのか。 葛「では~、また」 葛は天才の頭をひとなですると、自分の部屋へと戻っていった。 俺は立ち上がると、部屋中の電気という電気を点けて回った。 天才はずっと俺の後ろについてきている。 トイレの電気を点け、バスルームの前に立つ。 俺「……寝る前に風呂に入った方が良いよな」 俺「あったまって、さっぱりしてこいよ」 と、俺は渡された着替えを脱衣所のカゴに入れた。 640 名前: 長目 『クロ/クロ』9-9 投稿日: 2006/08/30(水) 02 28 00.08 ID zRRod8vW0 天「ちゃんとそこにいてよ?」 俺「あぁ、ここで待ってるから」 天才は磨りガラス越しに姿が確認できる位置に俺を立たせると、 何度も繰り返し確認をしながら風呂場へ入っていった。 サァァァァァァ……。 シャワーの音をBGMにして、俺はこれからのことに考えを巡らせる。 結局、思考は同じところをぐるぐると回っただけだったが。 携帯の時計を見る。 天才が風呂場に入ってから、すでに30分は経っていた。 ――長すぎないか? 振り返ると、天才はさっき見たの同じ場所で、まだシャワーを浴びている。 俺「おい? 大丈夫か?」 声をかけるが、反応がない。 さっと青くなった俺は、風呂場の扉を開けた。 俺「待て! おい、待てって!」 服が濡れるのも構わず風呂場に飛び込むと、天才の手からタオルをひったくる。 天「……あ」 俺「お前……何してんだよ」 天「ちょっと、こすり過ぎちゃったかな……」 失敗を見咎められたように、天才は苦笑する。 ――これがちょっとか? 真っ白な肌は、ところどころ擦り傷のように真っ赤になっていた。 天「ねぇ、服、濡れちゃってるよ」 俺「そんなのはいいんだよ」 俺「……もう、上がろう」 641 名前: 長目 『クロ/クロ』9-10 投稿日: 2006/08/30(水) 02 29 22.32 ID zRRod8vW0 俺は洗濯機に濡れた服を放り込み、パジャマに着替えた。 まぁ、風呂に入る手間が省けたと思えばいい。 俺「さて、寝るか」 髪を乾かし終え、バスタオルを肩にかけた俺は、 ソファの上でひざを抱えている天才に振り返った。 俺「ベッドはお前が使え」 天「え……じゃあ、君は?」 俺「まぁ、ソファかな。暖房もあるし大丈夫だろ」 天才を立たせ、入れ替わりにソファに寝ようとする。 だが、天才はそれを阻んだ。 天「……やだ」 俺「けど、じゃあ……」 天「怖いの……」 俺「…………」 天「……いつも独りで暗い部屋にいたの」 天「お兄ちゃんが、電気を消して待ってろって……」 天「ママにはもう寝たんだって思わせて……お兄ちゃんがドアを開けるの……」 天「独りは、それを思い出しちゃうから……」 天「いつもは我慢できたけど……」 天「……でも、今日は……」 天「お願い……今日だけでいいから……」 天「……一緒に、いて」 642 名前: 長目 『クロ/クロ』9-11 投稿日: 2006/08/30(水) 02 30 59.88 ID zRRod8vW0 俺は天才の手を引いて、寝室に入った。 ベッド脇の椅子に肩のバスタオルを放り投げる。 天「ごめんね……わがままばかり言って……」 俺「何を今さら。気にすんなよ」 申し訳なさそうに萎縮する天才を、俺は笑い飛ばした。 思えばこの四ヶ月半、天才に振り回されっぱなしだった気がするな。 不思議なもので、それはそれで楽しかったと思える。 俺「来いよ」 ベッドにもぐり込んだ俺は、布団を持ち上げて天才を招き入れる。 天「うん」 天「お邪魔します」 俺「なんだそりゃ」 思わず笑ってしまう俺。 おずおずと天才は布団の中に入ってきた。 頭を横たえると、そこには先客がいた。 いつぞやにもらって以来枕代わりにしていた、ぬいぐるみのペン助だ。 黒くてのっぺりした瞳がこちらを見ていた。 その瞳に、俺たちの姿が映っている。 ……お前は、ちょっと外してろ。 俺は椅子に乗っていたバスタオルを手に取ると、ペン助の頭にかぶせた。 643 名前: 長目 『クロ/クロ』9-12 投稿日: 2006/08/30(水) 02 34 18.45 ID zRRod8vW0 もうそろそろ日付も変わる頃だろうか。 右手に天才の体温を感じながら、眠れずにいると…… かすかに、天才の嗚咽が聞こえた。 俺はできるだけ優しく囁くような声で聞く。 俺「どうした? 怖い夢でもみたか?」 腕に力を入れて、抱き寄せてやる。 天「! だっ、駄目……!」 それに反して、天才は慌てて俺から身を離そうとする。 ――が、俺の腕の勢いに負け、二人の身体が密着した。 俺「……!」 天「やだ……離れて……」 泣きながら腕の中でもがく天才。 俺の下腹に、天才の男の『それ』が当たっていた。 成人のそれとは比べるべくもないが―― それは、たしかに硬くなっていた。 天「ここ……君の匂いがして、良い匂いで……落ち着いたと思ったんだけど……」 天「そしたら……こんな……いやだ、こんな時にまで……」 天「これじゃ、お兄ちゃんの時と同じ……」 天「……私も……お兄ちゃんと一緒だ……」 天「……こんな、男の身体なんて……」 俺「…………」 天「……っく、うぇぇ……」 それ以上は言葉にならなかった。 天才はただただ俺の胸を涙で濡らす。 644 名前: 長目 『クロ/クロ』9-13 投稿日: 2006/08/30(水) 02 36 38.46 ID zRRod8vW0 俺「……何も、変なことじゃねぇよ」 俺はさらに強く天才を抱き寄せた。 俺の胸に耳を当てさせる。 俺「……聞こえるか?」 天「…………」 きっと聞こえているはずだ。 ――俺の早鐘のように打っている心臓の音が。 俺「男と違って分かりにくいけど、女の身体だって同じなんだよ」 俺「こうなれば、誰だって興奮するんだ」 俺「俺だってそうだ」 俺「勝手になっちまうことを、気にしたってしょうがないだろ」 俺「俺は気にしねぇし、お前だって気にすることはねぇ」 天「でも……」 俺「それに……俺だって、この前の温泉の時、寝てるお前に……あー、笑うなよ?」 俺「……キス、したくなったし……」 天「え……」 俺「実際にしてはいないぞ!? でも、そういう気分になることもあるってことだよ」 天「う、うん……」 天才が小さく頷いたきり、会話に妙な間が空いてしまう。 ……くそ、言わなきゃ良かった。 俺「とにかく寝ろ。こういう時は悪い方悪い方に考えちまうモンなんだ」 天「……わかった」 それでようやっと天才は落ち着いたらしい。 俺の胸で小さく囁いた。 天「おやすみ」 645 名前: 長目 『クロ/クロ』9-14 投稿日: 2006/08/30(水) 02 38 38.04 ID zRRod8vW0 ――朝、眠りから覚めると、隣にあるはずの天才の感触がなかった。 目を見開き、跳ね起きる。 ベッドの傍らで、白いシルエットが着替えをしていた。 俺は枕元の眼鏡を取ってかける。 明確になった視界に映るのは、まぎれもなく天才の姿だ。 天「おはよう」 俺「……はぁぁ」 天「どうしたの?」 俺「いや……お前がいなくなっちまったかと」 天「そんな映画みたいなことしないよ」 と、天才は笑う。 天「――ごめんね、不安にさせた?」 その笑顔は、俺のよく知る、いつもの天才の笑顔だった。 良かった。なんとか立ち直ったみたいだ。 んー、と伸びをした天才はその表情のまま、突然俺に告げた。 天「研究室へ行こう」 俺「……ん?」 その言葉が意味するところが分かりかねて、俺は疑問符を浮かべる。 天「あれから4ヶ月半――」 天「元々、骨格の安定までの概算が4ヶ月で、残り2ヶ月は余裕を持っておいただけだし」 天「現状、君に大きな問題は起こってない」 天「――頃合いかな」 俺「お前……何言って……」 天才は、朝日を背に、笑顔でこう言った。 天「今度は、私が手術を受けるよ」
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サイボーグクロちゃん hello 管理人 フリフン素材区分 P 備考 江東電気鉄道社 管理人 イギリス超特急素材区分 PU 備考 さむず堂 管理人 サムズアッパー素材区分 PU 備考 リンク切れ
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クロオビSシリーズ【剣士/ガンナー】 共通項目 値段 防御 火 水 雷 氷 龍 各値 5250z 30 3 3 3 3 3 総合 26250z 150 15 15 15 15 15 最大総合 82825z 210 - - - - - 防具強化 LV2 LV3 LV4 LV5 LV6 LV7 防御力 32 34 36 38 40 42 強化素材 鎧玉 上鎧玉 上鎧玉 上鎧玉 堅鎧玉 重鎧玉 費用 1100z 1445z 1445z 1445z 1780z 4100z 部位 名称 スキル系統 スロット 生産素材1 生産素材2 頭 クロオビSヘルム 胴系統倍加 --- マレコガネ*4 タツジンチケット*6 マボロシコイン*10 リオコイン*12 胴 クロオビSメイル 匠+2 地図-2 装填数+2 食事+1 O-- マレコガネ*4 タツジンチケット*6 キンピカコイン*6 ガルルガコイン*10 腕 クロオビSアーム 胴系統倍加 --- マレコガネ*4 タツジンチケット*8 レックスコイン*13 ショウグンコイン*12 腰 クロオビSフォールド 匠+2 地図-2 装填数+2 食事+1 OO- マレコガネ*4 タツジンチケット*6 グラビドコイン*10 ガノスコイン*12 脚 クロオビSグリーヴ 匠+2 地図-2 装填数+2 食事+1 OO- マレコガネ*4 タツジンチケット*6 ディアブロコイン*12 ドスガレコイン*10 スキル系統 頭 胴 腕 腰 脚 計 発動するスキル あと少しで発動しそうなスキル 匠 +2(+6) +2 +2 +6(+10) 斬れ味レベル+1 地図 -2(-6) -2 -2 -6(-10) 地図無効 装填数 +2(+6) +2 +2 +6(+10) 装填数UP 食事 +1(+3) +1 +1 +3(+5) 早食い 胴系統倍加 E E ※()内は胴系統倍加後の数値 生産素材1 必要素材合計 ガノスコイン*12ガルルガコイン*10キンピカコイン*6グラビドコイン*10ショウグンコイン*12タツジンチケット*32ディアブロコイン*12ドスガレコイン*10マボロシコイン*10マレコガネ*20リオコイン*12レックスコイン*13 あと少しで発動しそうなスキルとは±5ポイント以内で発生、かつ既に発生しているスキルの強化系or弱化系ではないスキルのことです。 ただし、その強化系or弱化系が±4ポイント以内で発生する場合か、強化系スキル発動に元となるスキルから10ポイント必要な場合は、±5ポイント以内なら含みます。
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赤竜のドクロ ドロップするモンスター レッドドラゴン 主材料とする家具 画像 家具名 主材料 副材料 サイズ 備考 ドラゴンのオブジェ 赤竜のドクロ×1 赤竜の鱗×30飛竜の翼×2飛竜の尻尾×1石化の巻物×1 赤竜のドクロ 赤竜のドクロ×1 赤竜のドクロ(大) 赤竜のドクロ×3
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鮮やかに青い空から、まっすぐに降りそそぐ日射しが目にまぶしい。 午睡の日差しはどこかくたびれて、憂鬱で、重たげな気配が立ちこめはじめるのに、朝の陽ざしにはそれがない。深く呼吸をすると噎せるほど、においたつような水粒の空気、鮮やかな木々の緑の反射。 夏だった。 商業都市の大通りは、夜のあいだ閉鎖されていた大拱門(アーチ)が開かれるとともに、羊毛組合(ギルド)、そうして革細工、製粉、仕立て、それと木工へ向かう荷を積んだ馬車が行き来し、一気に喧噪を増す。 今日も暑くなるかな、まだ夜気の名残りがただよう石畳を見るとはなしに眺めながら、ロワジィは縁石に腰かけ、露店で買った茶をすすりながら往来を眺めている。 「可愛いくないなぁ。物思いに耽っても年増だと可愛くないなぁ」 声が背後からかけられる。馴染んだと言いたくはないが、付きまとわれて五年もすると、いい加減厭でも馴染んでしまった。それがすこし癪だ。 小男イーヴの声だ。 いつの間にか背後に来ていたらしく、何とはなしにロワジィが目をやると、同じように手に露店で買った茶と紙包みを持ち、こちらを眺めている。 「隣に座っても?」 「二人分離れて座るならどうぞ」 素気ない言葉にもめげる様子を見せない。ああもうほんっとうに可愛くねぇ。ぶつぶつと愚痴を吐きながら、指定された通りに二人分離れた縁石にモグラは腰を下ろす。 不愉快になるなら近づかなければいいだけの話だ。だのに顔を出す。 実際問題、このモグラとロワジィの関係というものは、説明を求められても説明のしようがない、不可解な関係だった。 互いになにがしかの契約を結んでいない。 旅は道連れ、どこか目的の町まで同道しようと話したわけでもない。 それでもつかず離れずの距離にモグラがいる。 時々は数日、あるいは半月ほど、ふらりと周囲から姿を消して、そのうち気づくといつの間にかまた戻っている。おそらく、彼自身の護衛の仕事をこなしているのだろうと思われたが、あらためて聞いたこともない。 同じ仕事を選ぼうとしたこともなかった。 野宿の際にも、きっちりひとりとひとり分、個別に天幕を張っていたし、食事も別。互いに手慣れた野天の支度であったので、たとえば作りすぎたのでおひとつどうぞ、の会話もない。 だから奇妙な関係というよりない。 他人よりは身近な、けれど同行者というには離れすぎているおかしな空気。その距離が、モグラの遠慮ではないことだけは確かだ。 そのまま、五年。 ああそうか、不意にロワジィは気がつく。もう五年も経っているのだ。 それはそのまま、ロワジィが、商業都市であるこのトルグの町を去ってから過ぎた年数だ。 長いのだろうか。短いのだろうか。 勿論この町へ訪れるのも、あれ以来だった。しばらくは大陸の北の側の国々を回って稼いでいた。北を選んだ理由は特にない。なんとなく、寒い方へ気が向いただけだ。 「この町」 「あ?」 「なんだか、つい先週くらいまでいたような気がする」 「なにそれ」 「変わらないね」 色とりどりの垂れ幕、看板、道路標識がごちゃごちゃとしながら整然と並んでいる様子も変わらない。 うかうか歩いているだけで荷馬車に轢き殺されそうになるほど往来が激しいのも、何も変わらない。 どころか一層に、かまびすしさは増していた。 町を揚げての夏の大祭なのである。 昔この町を開拓したといわれる、数名の聖人の栄誉を称える、という名目で、実に七日間、無礼講の乱痴気騒ぎが繰り広げられるのだ。 この時ばかりは、大拱門(アーチ)は外側に向けて大きく開かれ、通行人を検査する衛兵の管理もだいぶゆるくなる。夜を徹しての祭りとなるので、普段は閉門する夕刻の時間が過ぎても門は開かれたままだ。 大陸統一されるより前は、それでも不意の強襲に備えて夜間は半門になったと言うが、皇国に統一されてよりのちは、開催期間中は開かれっぱなしになった。 それだけ時代が穏やかになったということだ。 普段は出入りできない時間まで、門扉が開かれているとなると、当然、訪れる観光客は多くなる。 「こうして、たくさんの人を見るといつも律義に思うんだけどさ」 ふとロワジィは言った。 「ん?」 「あたしがたとえばならず者退治をたのまれて、そいつらをぎったぎたに圧してるときも、こうやって、ここは毎日こんな風に賑やかで、喧しくて、活気に満ちてるんだなぁって」 「え、意味わかんない、どういうこと」 「なんかね、人の数だけそれぞれ別の人生があるっていうのが、途方もないことだなとか思うのね。……だって百人いたら百通りなのに、ここ、万単位でいるでしょう。気が遠くなりそう」 「なに田舎から出たての人間見たいなこと言ってんの。地方回ってて頭ゆるんだの」 「悪かったわね」 横目で軽く睨んでやる。毎度毎度、口さがなく彼女の揚げ足をとる。飽きないものなのだろうか。 モグラに付きまとわれた当初は、いちいち言動に腹が立ったものだけれど、最近は聞き流して放っておくことを覚えた。話しかけて、返ってくるだけましだと思う。毒舌だろうが辛口だろうが、枯れ木に話しかけるよりはずっといい。 「なあ、」 「なに」 「来てよかっただろ?」 「……うーん、」 言われてロワジィは口ごもる。よかったのだろうか。よく判らなかった。 「祭り行かない?」 半月ほど前に誘われたのはそんな文句だった。え、いきなりなに。怪訝な顔でロワジィはモグラへ目をやる。 「祭りって、」 「なんかね、ものすごくにぎやかな祭りらしいのよ。俺も、話には聞いてたけど、まだお目にかかったことはなくてさぁ」 ここ数日、どこかに姿をくらましていた小男が、ふらりと宵の口に宿へ姿を現したのだった。 ロワジィの選ぶ宿は安宿だったから、相部屋で雑魚寝が基本だ。それでも普段複数宿が並ぶときは、小男は彼女と同じ部屋になるようなへまはしない。相手の寝姿も、見たところで、けったくそ悪いだけなのは、お互い理解している。 だから、顔を見せるということは、用事があるということだ。 「いつ」 「来月の頭から一週間。このあたりの護衛の仕事も、めぼしいのはなくなって、ショボいのばっかりになってきただろ。そろそろ次に動く、ってんならいい頃合いだと思ってな」 そのときは、まだわりと北寄りの町にいたのだ。 「来月頭まで、半月ほどあるけど」 「だからさ。今から移動しはじめたら、ちょうど、祭りドンピシャするでしょ」 「どこの」 聞く手前から、なんとなく嫌な予感がした。モグラが口を開く間から、彼が言う言葉が判る、そんな気がした。 「ト、」 「――行かない」 ああやっぱり。町の頭文字を口にした瞬間に、きっぱりと拒否する。 「……最後まで言わせろよクソが」 「最後まで聞いたってろくなことにならないでしょう」 「なんだよあんたビビってんの」 渋面になったロワジィを見て、俄然嬉しそうな顔になる。揉み手をし、にやにやと小馬鹿にした笑いを浮かべるその彼へ、冷たい視線を流して、 「ビビってなんかない」 彼女は口の中で素早く呟いた。 「そういうのじゃないから」 「じゃあ別に行ったっていいじゃないのよ」 「だって、もしかしたら、いろいろ差しさわりがあるかもしれないじゃない」 「差しさわりってなに」 「……二度と会うこともないはずのあんたと、なんでか知らないけどあのとき鍛冶屋で会って、そのあともこうして何度も顔を突き合わせて話をしているってところが、もう、その確然たる証拠なんじゃないの」 「運命だったよね」 「冗談でもやめて」 「わりと本気だし」 「余計いや」 話しているうちに鳥肌がたってきたので、ロワジィは無意識に二の腕をさすった。モグラと運命。考えるだけで首をくくりたくなる。 「じゃあ、やっぱりあんた、ビビってんじゃん」 「……だから、ビビってなんか、」 むっとなってロワジィは顔を上げた。小馬鹿にする笑いを浮かべたモグラが、しっかり距離をとって彼女を眺めている。 これはきっと、殴られないための距離だ。 「だって考えてもみろよ?」 顔をしかめる彼女へ、小男が肩をすくめて言う。 「トルグに定住登録している人間だけで、七万。祭り期間中に出入りする人間が、例年通りだと十一万。合わせてざっと二十万弱の人間が、入れ代わり立ち代わりわいわいやってるってのに、そんな、あの町でしみったらしく生活している木工職人ひとりに、ばったり会うわけないじゃん。曲がり角で、出合い頭にぶつかっちゃった☆とか、そういうの、物語の中だけよ?現実見ろよ。どれぐらいの確率だと思ってんの」 「それは、そうだけど、」 言われたらその通りのような気もする。 気になってはいたのだ。 ギィの勤め先を木工組合(ギルド)に斡旋してもらい、本来ならそこで、きちんと男が仕事をこなしていけるか、不自由はないか、契約上に誤りはないか、ロワジィは確認するつもりでいた。過保護と言われたらそれまでだけれど、山を下りて右も左も判らぬうちに、身ぐるみはがされ、有り金を巻き上げられて叩き売られた、男の不運と不器用さを知っているので、彼女は最後まで面倒を見るつもりでいた。 だのに、逃げた。 いまでは判る。自分はあの時、はっきりと建前を放り出して、男から逃げたのだ。 ――世話になった。でももうあんたは必要ないから。そう言われるのは怖かった。 置いてゆく側と、置いてゆかれる側、どちらがいっそう辛いか、彼女は知っている。 だから、逃げた。 置いてゆかれる前に、自分が男の手を離した。 駆け足気味に話を進めて、否と言えない状況に男を追い込んで、それじゃあがんばってね、偽善で固めた笑顔で応援するふりをした。 なにか言いかけた男の言葉を遮って、気がつかないふりをした。 大陸の北側へ向かったのも、うっすらとそのあたりが理由だ。寒くて凍える地方で、震えて体力を使い果たしたら、何も考えずに眠れるのではないか。 かじかむ手を温める大きな掌はもうないから。 「でも、なんであたしを誘うの」 「え、」 「別にあんたひとりで行ったっていいわけよね?どうしてあたしを誘うの」 ふと湧いて出た疑問を、ロワジィはそのまま男にぶつけた。考えてみればおかしな話だ。旅慣れしている彼が、トルグまで一人で向かえないはずもないし、むしろ一人の方がなにかと身軽で便利なはずだった。 「観光客だけで十一万でしょう。宿とるだけでも大変じゃない。あんたひとりで行った方が、ずっと楽でしょうに」 「それは、……なんていうの?俺のやさしさ?」 「え?」 「やさしさ?」 「ごめん言いなおさなくていい」 言いながら眉間の皺を揉む。 「若くない女が、ひとりで、毎日毎日、血と汗と埃だらけの肉体労働に明け暮れてて、なんだかとっても気の毒だなあって」 「なにそれ」 「だって俺が誘わなかったら、あんた誘うような奴いないじゃん?……祭りとか、そういう息抜き的なことしないで、ただひたすら怖い顔して、ばっさばっさ悪いやつなぎ倒して、稼いだ金地元に送金して、その繰り返し。年老いていくだけでしょ。可哀そう。あのね、人生、苦あれば楽あり的な、時々は楽しいことしておかないと、皺増えるばっかりよ?自分へのご褒美って判る?眉間の皺消えなくなるよ?」 「あんたが増やしてるんでしょうが」 「やだ、俺に転嫁?責任転嫁?……ただでさえ、ぴちぴちの天使ちゃんたちと比べると、もう月とスッポンになってるのに。お手入れ怠ったら、皺になるばっかりとか、可哀そう。売れ残り可哀そう」 「……あんたね、喧嘩売ってんの」 「売るわけないじゃん。あんたに殴られたら、華奢な俺吹っ飛んで、お亡くなりになっちゃうじゃん。年増に殴られて死ぬとか、一番最悪な死に方じゃん。な?行こうぜ?」 「言葉の前半と後半がまったくつながりを見ないけど」 「年増が細かいこと気にするなよ。はい、行くね?行くよね?じゃあ、行くってことで」 「でも、」 「行く」 「……わかった」 勢いで丸め込まれた感がぬぐえないまま、ロワジィは頷く。これ以上モグラと会話を交わしたところで、のらりくらりと揚げ足をとられて腹が立つだけだからだ。 ――それに、どうせ会わない。 そうも思う。 トルグへの道のりにこれと言って変わったところもなかった。 同じ町に向かうからと言って、並んで歩くこともせず離れて進むのも同じ。 中途あまり治安のよろしくない場所を通る過程で、二度三度、女と小柄男の道行きと見て、追い剥ぎが襲い掛かる素振りを見せもしたが、ロワジィが鉞を腰から引き抜き、モグラが数矢威嚇の射撃を行うと、恐れをなしてそれ以上襲い掛かってくることはなかった。ならず者でも命は惜しいらしい。 こういう時、弓は便利だと思う。 山に入り、獣を追ったこともあるので、ロワジィも弓を構えたことはある。それでも十中一、二というあたりの的当てぶりだ。巧くはない。 弦を引く力はある。けれど的を定める一瞬に、こめる集中の気迫、のようなものが弱いのだと思う。これはもう性質だ。 ――お前は弓が下手なのだから、勢子をするか、罠を使え。 村で名手と言われていた男から、指導を受けた末にそう言われた。 静ではなく動が強い、そういうことなのだろう。 巧くなるのは諦めた。 ……おおざっぱなのだろうな。 自分ではそう思っている。 だから、藪の中だろうと、相手が動いていようと、こともなげに百発百中をうたうモグラの腕は正直うらやましい。 腕だけ、だけれど。 半月ほどかけてたどり着いた町の外観を見て、ロワジィと小男は宿をとることを速攻で諦めた。これは無理だ。 まず人間が、外門におびただしく列をなしている。拱門をくぐり、中に入るのを待つ列である。 そうして、すでに宿をとることを諦めた集団もあり、町の外壁へ沿うようにして、露営の幕を張っている。 「通は、翌年の予約をもう済ませてあるんだよ」 あんたら初心者だね。 その露営の場所取りすら足の踏み場もないほどで、それでもなんとか二人分、周囲に気を使いつつ天幕を張ったときには、ロワジィも小男もぐったりしていた。 その様子を見た隣人に、笑いながら言われてしまう。 話好きのその男によると、さらに本当の大祭通は、前年に宿をとり、まず数日はそこへ寝泊まりし、そうしてわざわざ外壁沿いの露営群へ混じってくるのだそうだ。 「やっぱり外が、祭りの雰囲気を感じるには最高だからね」 「はあ、」 判ったような判らないような、二人とも頷きながら首をひねっていた。通の思考とやらは斜め上過ぎる。 「でも、」 縁石に腰かけ、祭りに浮かれる面々を眺めながら、やっぱりお祭りっていいね、ロワジィはうっすら笑い、手にした茶を飲み干した。 「来てよかった」 「なんだ、」 意外そうに驚いて、彼女を眺めていたモグラは、すこししてから目をすがめる。 「年増でも、そういう可愛い顔もできるんだな」 「なにそれ」 「自分の心に正直が一番ってこと」 「なにそれ」 「これ」 言って小男は、服の隠しから折りたたまれた書き付けを取り出し、二本の指の間にはさんでしばらく逡巡したあと、ほら、言ってロワジィへ折りたたんだまま差し出した。 「なに、……?」 「まあ見ろ」 顎をしゃくって促され、四つにたたんだそれを彼女は開いて目を落とす。 「……ブランディーヌ、ドロシー、オルガ、パトリシア……、?……???」 「あ間違ったそっちじゃねぇわ。こっち」 ものすごい勢いで書き付けを回収され、もう一枚折りたたんだものを渡される。 「なんとなく予想がつくけど、今のなに」 「あ?これ?俺がトルグで目を付けてる店の、天使ちゃんの名前。超かわいいの」 「ごめんね犯罪ぎりぎりのあんたの嗜好を聞いたあたしが莫迦だったわ」 年増年増とロワジィを莫迦にする小男こそ、四十を超えているはずで、その四十男が自分の娘ほどの相手に欲情するというのが、個人の勝手だとは知りながら、やはり理解に苦しむ。 まあ、玄人相手にしか手を出していないだけましなのかな、そう思いながら渡されなおした紙を開いて、一瞬でおのれが真顔になるのを感じた。 ――387番地、工房通り、商業区。 これがなにかだなんて、聞かなくてもさすがに判る。 「……行って来いよ」 目を落としたきり、無言になったロワジィへ、つまらなさそうにぼりぼりと脇腹を掻きながらモグラは言った。 「やさしい俺さまが集めた情報によると、組合(ギルド)の寮住まいは相変わらずで、そこから通いで仕事をしているんだと。製材だの組合から請け負ってるところらしいな。祭り期間中も、工房は別に休みをとるわけでもなく、いつもと変わらず仕事してるそうなんで、まあ、普通にあのデカブツも仕事してんじゃねぇの」 「――でも、」 「なんだよ。ここまで来ておいて、えー会うだなんてそんなこと、ぜんっぜんなーんにも考えていませんでしたあ、なんてカマトトぶって許される年でもないのは判ってんだろ」 「でも、」 「でもじゃねぇ。あの時に、俺付き合わせて、あほみたいに泣いたのはなんだったわけ。俺、二日酔いってのは経験あったけど、マジで三日酔いはお初だったわ。感動したわ」 「でも、」 「行けよ」 普段とは違うその声の静かさに、ロワジィは顔を上げる。珍しく小男にからかう色はない。眼差しは真剣だった。 「行って、きちんと、ケリつけてこい」 「……、」 お膳立て。きっとそうなのだろう。 ……ここで逃げたら、一生こいつに軽蔑されるわね。 それは悔しいと思う。 しばらくうつむいて、それからひとつ深呼吸すると、覚悟を決めロワジィは頷く。隣の縁石に腰かけたまま、器用に片頬杖をついていた小男は、彼女が頷いたのを見取って鼻を鳴らした。 「ひとつだけ忠告しといてやるが、そのこわばった怖い顔のまま行くなよ。年増なりに精いっぱい可愛らしく、にこやかに行け」 「……失敗した。もっとお祭りらしく、めかしこんでおくんだった」 「なにしても今さら変わんねぇよ。おら、さっさと行っちまえ」 棘のある軽口に救われる気がする。そうして、ああそう言えばずっと救われてきたのかもしれないな。ふと思った。 口には死んでも出す気はないけれど。 観光客がひしめく中央区を抜け、書き付けにもあった、商業区へロワジィは踏み入れる。大祭に祭り上げられている聖人の名を冠した区である。 喧噪はだいぶんましになった。 それでも遠目から、昼から上がる花火の音や、昼間から酒に酔っぱらったものの騒ぎ声、指笛の音、そうしてこの際ついでにと、商業都市の倉庫や工場が立ち並ぶあたりも観光して帰ろうとする、場慣れしていないものの姿も、そこかしこに見受ける。 自分もその場慣れしていないひとりだなと思う。 倉庫や工場の軒下にも、中央区よりは控えめとはいえ、大祭の飾り付けがあちらこちらになされ、そぞろ歩くには、いっそ押し合いへし合いする大通りよりもゆっくりと見られる分、こちらの方が穴場と言えるのかもしれない。 丁寧に飾り付けられたそれを、けれど歩いているロワジィはまったく見る余裕もなかった。 ひどく緊張して歩いている。 こわばるなにこやかに行けと、モグラから背を押される形で、書かれた住所へ向かっていたが、祭りの飾りつけに紛れて外壁に表示されている番地が、次第に握りしめた数字に近づいてくるにつれ、こめかみあたりがどくどくと疼いて、まともに歩けているかどうかの自信もない。 ……どうしよう。 野盗が立てこもる巣窟へ突撃するときよりも、ずっと怖いとは思わなかった。 ……いったいどういう顔をしたらいいんだろう。 なんだか泣きそうだ。 あれから五年経っているのだと、先ほど気がついた。 その数字は長いのかどうかと、そのとき彼女はふと思ったけれど、よくよく考えれば、決して短い年月ではないはずで、だったから、ギィにはギィの、トルグで木工職人として五年分暮らしてきた生活があるはずなのだ。 まず、捨てるように逃げた自分に対して、いい感情があるとはあまり思えない。 恨みごとのひとつやふたつもあると思えたし、そうでなければ、きれいさっぱり自分のことはなかったことにして、新しい生活を一からはじめている最中かもしれない。 好いた女のひとりもできただろうか。 それとももしかすると、自分が考えるほど、男は彼女に対して思うところがないかもしれない。 恨まれているだの捨てただの、言えなかった言葉があるだのと後悔しているのは自分ばかりで、実際のところ、男はそれほど、自分に執着するものを持たないのではないか。 底抜けにやさしい男だった。ひとが良い男だった。 そのひとの良さを、おのれへ向けられた好意と勘違いして、惚れた腫れたと勝手に盛り上がっていたのは、自分だけではなかったか。 なにしろ、男と過ごした期間はたったの半年ほどなのだ。 そうなると、新しい日常があり、普段通りに仕事をしている男のところへ、のこのこと今さら顔を出して、自分はいったいどうしたいのだろうと思う。 ……久しぶり、とでも言うの?言ってどうする? 穏やかな暮らしを手に入れた男を、ただ引っ掻き回しに行くだけではないのか。 引っ掻き回してどうしたいのだろう。ケリをつけてこいとモグラには言われた。 けれど、ずっと心の隅にわだかまったままの、おのれの気持ちがすっきり晴れたら、それでいいのだろうか。 おのれに会うことで、相手が昔を思い出し、不快になることには目を向けずにいいのだろうか。 過去は美化される。思い出が実際以上のものになることを、ロワジィは知っている。 だからそれは、ただの自己満足の延長ではないだろうか。 途方に暮れるうち、向かう足取りは次第に重くなり、頭の中にがんがんに響く鼓動は息苦しさの頂点に達し、ついには書き付けの住所まであと二区画、というところで、ロワジィは一歩も進めなくなった。 怖い。 傍目にも、真っ青になり立ち止まった彼女はわりと不審に見えたのだろう。もし、あんた、かけられる声がして、ロワジィはのろのろと視線を動かした。 声をかけたのは辻占だ。 なぜこんなところに辻占が、とふと思いはしたが、考えれば今は夏の大祭期間中で、彼らが普段店を構える中央区は、どこも祭りで混雑している。 うかうかしていると踏まれるほどで、だから、ゆっくり腰を落ち着けて占いでも、という雰囲気では決してない。 ここは商業区ではあるけれど、こうして彼女のように、祭りの喧騒からすこし頭を冷やしたい人間が紛れ込んでくる。そこそこの稼ぎがあるということなのだろう。 「祭りの観光のおひとだろう。道に迷ったかね、誰かとはぐれたかね、それとも気分でも悪いかね」 「ああ、……ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたものだから……、大丈夫」 「そう」 よろしければ、あんたをひとつ占ってあげようか、いくつかの色石を取り出し、卓上へ転がし唆す辻占へ、 「悪いけど、……そう言うの、信じてないから」 言って首を振りかけ、ああ、と思い直して彼女は辻占に近づく。 近づくと、ぷうんと甘ったるい匂いが濃くなって、ふとその芳香を彼女は辿った。辻占の衣装だ。くちなしの花がいくつか挿してある。 白い花が懸命に開いて、香を漂わせているのだった。 「……でも、やっぱり占ってもらおうかな」 「気が変わった」 「占いでもなんでもすがりたい気分なの」 言うとふふふ、と深くかぶったフードの下から辻占は笑いを漏らす。 「なにを占おうか」 「そうね……、」 唇に指をあてて、ロワジィは思案する。 「なんでもいいの、」 「なんでも」 「……じゃあ、道に迷って、誰かとはぐれて、今最悪の気分のあたしが、元気になるような結果の占いが、いいな」 こわばった頬を無理に上げて、彼女が笑っておどけてみせると、一瞬目を開いた辻占が、はは、とおかしそうに声を立てて笑った。 「これはまた欲張りな相談だ」 「そうよ、欲張りなの。業突く張り」 つられて無理にでも笑うと、先ごろよりはすこし心が軽くなる気がした。そうだ、自分は欲張りだ。おかしくなる。 あれもやりたい、これもやりたいで、手に持ちきれなくなるまで胸に抱え込んで、とうとう持ちきれなくなって落としてしまったのだ。そうして落ちて壊れてしまった欠片を見て、ふて腐れて涙ぐんでいる、自分勝手でどうしようもない人間だ。 「大きなお肉をくわえていたのよ」 彼女は言った。 「それで充分だったはずなのに、川に映った肉まで欲しがって落として、……両方なくしてしまったの」 「その肉を探している」 「そう。落としてしまった方の肉をね」 「――そこまでおのれが判っているのなら、あやふやな道しるべはいらないだろうよ」 辻占は続けて先とは違う意味で笑う。そうして、衣装に挿していたくちなしの花を一刺し抜き取ると、ほら、言って彼女へ差し出した。 「え、」 「お守りだよ。あんたが、大事なものを見つけなおせるように」 「……そうね」 頷き、ロワジィは受け取り、その甘いにおいを放つ白い花に鼻を寄せてから、無造作に髪に挿し入れた。 「ありがとう。百人力ね」 「見つけなおせるはずだよ」 「やってみる」 顔を上げて、彼女は建物に表示された番地をもう一度見上げる。書き付けの住所まであとすこしだ。 気まぐれのやりとりがありがたいと思った。先までの絶望的な気持ちは消えている。 だったけれど、 「……でもなぁ……、」 心が決まったとはいえ、小便をかけられる蛙ほどには面は厚くなく、平然と工房を訪れる勇気はさすがに出ない。 それに、モグラの聞き込んできた情報が正しいのなら、店は通常通りの操業をしているはずで、仕事の注文でもないロワジィが、勤務時間中にただその店で働く職人を訪ねるというのは、店にとっても迷惑な話だろう。 すこし離れた路地から、やや身を隠すようにして、彼女は示された住所の先を眺めていた。 通りと通りが交差する点に小広場が設けられており、その広場をぐるりと面する形で作業場が連なっている。この広場はほとんどが木工の店舗のようだ。 店舗と言っても、中央区にあるような、商いをするスペースのあるそれではなく、木材が出し運びしやすいように、広く間口を設けてあり、がらんとした土間に資材が積んであったり、職工の道具が置いてあったりで、店と呼ぶよりは、製材所か木工所と呼びたいところだ。 ……失敗したかな。 そうも思う。 事ここまで至れば、怖じ気づくのも滑稽で、ロワジィはもう逃げる気はなかった。 どうにでもなれ。 度胸というよりはやけくその開き直りである。 であったけれど、どうせ声をかけるのなら、別に勤め先を訪れる必要はなく、それこそ男の住まいのある寮のあたりで待てばよかったのではないか。 そう気がついた。 小男に番地の書かれた書き付けを渡され、さあ早く行って来いと尻を叩かれて、そうか、行くのか、では行かねばと何も考えずに工房まで来てしまった。 来てからどうしたものかと思案している。 年増の考えなし。小男ならそう小馬鹿にして言ったかもしれない。 立ち並ぶ工房は、どこもちょうど午前の休憩が終わったところのようで、姿の見えなかった作業員たちが、思い思いに店の奥から姿を現し、作業に取り掛かる。 みなのんびりとした表情だった。いまは夏の大祭中で、たしかに通常通りに操業はしているのだろうけれど、目まぐるしく出荷に追われるほどの忙しさはないのだろう。 そこまで思い、そのままあちらこちらの作業場を見比べていたロワジィの視界の端に、遠目で見ても大きな図体が飛び込んだ。 ……ああ。 ぎゅっと心臓が掴まれたように痛んだ。 心臓が掴まれるというのは、本当に、文字通り、掴まれるのだなと、彼女は頭の片隅で思う。 姿を現した作業員どものひとりに、ギィがいる。 いる、と気がついた瞬間から、そこから目を離せない。 視線に力はないと、以前思ったことがあったけれど、今この瞬間自分の物に関しては、その保証はできないと思った。なにかの思念の力がこめられていそうだ。頼む。気づいてくれるな。会いに来たというのに、そう祈ってしまう。 棚に置いてあったらしいおのれの道具を男は手に取った。それから他のものと工程でも確認しているのか、図面を見ながら会話し、頷いている。 工房からの距離があるので、ロワジィには男の声は聞こえない。ただ固唾をのんで見守るばかりだ。 確認が終わると、頼んだよとでも言うようにひとつ大きく背中を叩かれ、それから話していたものが男から離れてゆく。男はやれやれと頭を掻き、角材の上にかがみ込んだ。 鑿(のみ)を手に取りかがみ込み、柄頭を叩きはじめる。かつ、かつ、と小気味よく穴が穿たれてゆく音がした。 その規則正しく穿たれる音にすこし救われる気がして、ロワジィは路地角からそっと男を見た。 変わらなかった。 大きくて力強い盛り上がった肩も、ぶ厚い胸板も、鑿を手に、淡々と仕事を始めるその姿勢も、手元にそそがれる真剣な視線、だのに全体的にのっそりとした冬眠あとのクマのように感じるその仕草も。 元気でやっているようだった。 他のものと談笑していた様子に、仕事先でうまくやれているようだなと思った。 五年のうちに、精悍になった気がする。 世間知らずで年も若い、まだ甘さの抜けなかったあのときと比べると、大人の渋みと言おうか、頬が角張り、ますますいかつい顔になったなと思う。 懐かしかった。 なんだか胸がいっぱいになってしまう。息が苦しい。 ……どうしよう。 眺めているロワジィの胸のうちに、怖気がちらと顔を出す。 どうにでもなれと思った。 逃げる気はないと覚悟が決まったはずだった。 しかし、どうにも腰は引けていて、なにかちょっとしたきっかけさえあれば、今すぐにでもこの場を立ち去ってしまいそうだ。 だめだ、あのひとを今さら引っ掻き回す権利なんて、やっぱりあたしは持ってない、申し訳なさと弱気と、それから、おら、行っちまえ。どやしつけたモグラの顔、――大事なものをあんたは見つけられるはずだよ。辻占の不思議な笑み。それぞれが頭の中で交錯して、次第に不安が体いっぱいに充満し、かつ、かつ。鑿の音から耳をふさぐようにして、ロワジィは思わず足を後ろに退きかけた。 瞬間、一陣。 ひょうと風が吹いた。 それは路地から広場に向かって吹いたもので、とくだん強くもなく、洗濯物をはためかせたり、木の葉を揺らすほどのものもなく、ただの気まぐれ、無風状態のところに吊り下げられた風鈴の短冊をわずかに揺らし、揺らしたはいいが鳴らすほどには力のないもの、けれどロワジィの髪に挿したくちなしの花からこぼれた香りがその風に乗り、そうして材木に屈み下を向いていたギィがふと惹かれるように顔を上げ、そのまままっすぐに、上げた視線をロワジィに向けた。 かつん。 音が止まる。 男の目が見開かれたのが判る気がした。 それから男は弾かれる勢いで立ち上がり、勢いで道具を突き崩し、おいどうしたなにかあったかと掛けられる声に頓着することもなく、文字通りなにもかも放り出して、ただロワジィを視界に入れたまま、工房の軒をくぐり、まろびながら一直線に彼女へ向かってやって来る。 その顔はこわばり、鬼のようなと言っても差し支えない形相をしており、え、どうしよう。先とは違った恐れと迷いが、彼女の中に急激に湧きおこり混乱する。 どうしよう。駄目だ。見つかっちゃった。どうしよう。 ――見つかったなら逃げないと。 姿を見に来たのに、会いにきたのに、追い詰められ、一気に湧きおこった思考にぐちゃぐちゃになったロワジィは、混乱したままじりじりと路地裏に後退する。 身を翻(ひるがえ)し、男へ背を向けかけた彼女へ、 「――行くな!!」 とどろくような男の声が押しかぶせられた。路地に殷々と響く、腹の底から吠える獣の怒号だった。 その声に竦んだ。一歩も動けなくなる。狩りと同じだ。反撃を受ける相手に近づきすぎたのが悪い。音を出すな。気配を殺せ。風上には決して立つな。 それができなければ狩る側と、狩られる側は真逆になる。 判っていたはずなのに。硬直する彼女の腕を、近づいた男が荒々しく握り掴んだ。――ああこれはもう駄目だ。 奥歯を噛みしめ、目をつぶる。 時間の速さだとかいうものは、結局当人の感覚によるものだ。そのときのロワジィは完全に時間の概念が吹っ飛んだ状態だった。 実際のその間が数拍のものだったのか、あるいは四半時ほどは軽く過ぎていたのかはよく判らない。 ものすごく長いこと立ち続けている気もしたし、ほんの一瞬のような気もした。 そうやって、しばらくきつく目をつぶった末に、いい加減目をつぶることにも疲れて――、おそるおそる目を開けたロワジィは、同じように固くこわばり、じっとおのれを見据える男の真顔を目に入れた。 「……あ、」 ぎりぎりと肉に食い込む男の指が痛い。 「あの、……、」 「逃げないで、くれ」 ロワジィの声に押しかぶせるようにして男が言った。恐ろしく低い声だ。怒り狂っているのだろうか。よく判らなかった。 黙って頷いた彼女を見て、こたえを信用したのか、男が力を抜いた。放された腕が痺れている。……どれだけ力任せに掴んだんだろう。ふと思う。そう言えば男は素手で猪も倒していた。だとすると、力任せに見えて、相当加減されていたのかもしれない。 「……あの、」 「話がしたい」 またしばらく沈黙が流れたので、おずおずと口を開いた彼女へ、早い口調で男は言った。ロワジィはまた頷く。 「話がしたいが、ここでは、……、」 言って男は、……待っていてくれ。目で彼女を制して、仕事場へ一旦戻る。何事かと表へ顔を出していた数人の男へ近づくと、ぼそぼそと手短に言葉を交わして、またこちらへ向かってやって来る。 その間、ロワジィの思考は麻痺していた。その様子を見ても、もうあまり何も感じない。ただ、ああ、職場の人間に仕事を抜けることを断ってきたのだろうな、そんなように思った。 「行こう」 彼女のもとへ戻ると、男はそう言って彼女の手を取り、先に歩き出す。黙ってロワジィは引かれるままに、後ろに付き従った。 どこに連れて行くのか聞く気にもなれなかったけれど、話がしたいと男は言った。おそらく自室にでも向かっているに違いない。 町並みを眺める気にもなれず、のろのろと視線を落とすと、おのれの手を取る男の腕に、飾り紐が変わらず結ばれていることに気がついた。 彼女の手首にも、同じようにそれは結ばれている。 男の手で丁寧に結ばれた彼女の紐は、この五年の間に何度も切れた。色褪せ、ほつれ、いい加減ぼろぼろで、みすぼらしいものになっていた。 こんなものを未練たらたらで身につけているから、いつまでたっても思いきれずにいるのではないかと思うこともあった。けれどどうしても、外すことも捨てることもロワジィにはできなくて、切れるたびに丹念に繕い、結びなおした。 男の腕に巻いてあるそれにも、何度も繕い直したあとがある。 じっと見ているうちに、視界が涙でぼやけてよく見えなくなった。 「……着いた、」 滲んだ視界のまま手を引かれて歩いていたロワジィは、男の声に顔を上げる。 連れてこられたそこは、寮の一室ではなかった。 やや高台に位置する小さな公園、とでも言ったような場所で、遊具はないものの腰を下ろせるベンチや花壇が設えられている。 いまはほかに人の姿はなかったが、商業区で働くものの憩いの場なのだろうと思われた。 ぼやけたままでは邪魔なので、目じりにたまった涙を拭うと、明らかにぎょっとして男の肩が揺れた。彼女が泣いていたことに今気づいたらしい。 「すまない、」 先だってのこわばり、鬼の形相はなりをひそめて、おろおろと弱り顔になる。 「その、手、痛かったか」 「……違う、」 「話がしたい、……厭だったか」 「ううん、ごめん、違うの」 首を振りながらもう一度涙を拭い、彼女はあらためて連れてこられたあたりを見回し、 「……ここ、」 呆然と呟いた。 壮観、と言っていいように思う。 高台のそこからは、町の中心部が見下ろせるつくりになっていて、それもちょうど大祭の賑わいが百花繚乱、目にまぶしいほどだ。 豆粒ほどの馬車が碁盤目の通りを行き交い、風になびく飾り旗、吹き流し、思い思いに着飾り、祭りを楽しむ人の波。 「ここは他より高くて、風が抜ける。暑い日は、よく、ここで飯を食う」 「……、」 息を飲むロワジィの横に立って、男が口を開く。 「通りを歩くのも悪くないが、こうやって、すこし離れて眺めるのもいいと思う」 「……、」 「こんな見晴らしがあんたは好きだろうなと、ずっと思っていた」 「……、」 なんとこたえていいか判らなくて、ロワジィは通りの喧騒を見下ろす。 話がしたいと言ったのだから、きっと自分は黙って、まず男の言い分をまるきり聞くのが筋と思えた。きっと男には言いたいことが山ほどあるに違いない。 だが口を噤んで彼女が待っているのに、男も見せたかったと言ったきり、黙って顎をさすり、大祭を見下ろしている。 「……あの、」 それでもしばらくは黙っていようと、観念して町の様子を眺めていたロワジィだったが、ここに連れてこられたときは真上にあった太陽が、じりじりと次第に午後の傾きになった時点で、さすがに口を開く気になった。 「あのね」 「――うん、」 「見た、し、とてもきれいだと思う、けど」 「うん」 「今、なにを考えてるの」 「今か」 言われて男は笑った、苦笑いだ。 「――なにを考えているかな」 またしばらく沈黙。 今度は言葉を選んでいるようだったので、じっとロワジィは待つ。 「――言いたいことが、あった」 そうしてようやく、ぼつんと男が呟いた。うん。彼女は頷く。 「五年前のときも、それからここに住んでからも、あんたに言いたいことが、いろいろあったはずだった」 「うん」 「でも、……、……もう、ない」 「え、」 がしがしと困ったように頭を掻き、男は町並みから彼女の顔へ目を戻す。 「もうない」 「……ないって、」 その顔は困惑した苦笑で、だから彼女は、男が冗談やからかいでそう言っているのではないことは理解できた。そうして、 「……今朝」 「うん、……?」 また不意に男が口を開いた。 「今朝、はじめて寝坊して、慌てて支度をして、部屋を出た」 「うん」 「本当に寝坊するのは、はじめてだったんだ」 「うん」 「だが、……、あんたに会うと判っていたら、寝坊なんてせずに、もっときちんと髭を当たっておくべきだった、だとか、せめてもうすこしヨレてない服を着るべきだった、だとか、そんなせんのないことばかり、ぐるぐると考えている」 大真面目な顔でそう言って弱っている。聞いてロワジィはつい笑ってしまった。 「なにそれ、」 「本当に、それしか浮かばない。困った」 「ふ、」 「ふふ、」 つられて男も笑う。そのまま二人でくつくつと忍び笑いを漏らしているうちに、おかしくなってきて、仕舞いには顔を見合わせて笑いあった。緊張はいつの間にか解けている。 笑っていると、男が腕を伸ばし、ロワジィの手を握った。抵抗しなかった。繕った組み紐がその答えだと思った。 「五年、」 男は言った。うん、ロワジィは応える。 「金を貯めた」 「うん、?」 男の意図が読めなくて、頷きながら彼女は男を見上げる。斜め上の男も、彼女を見ていた。 「俺に何が足りないのか、俺なりに考えて、なにをするにも資金が根本的に俺にはないと思って、――金を貯めようと思った」 「……、」 「五年。酒も、煙草も、女もやらなかった。とくに欲しいものもなかったから、ほとんど使うこともなかったし、……、そこそこ、貯まったと思う」 「……、」 「あの時俺は、置いて行かないでくれと駄々をこねることしかできなかった。今は、あんたがついて来るなと言ったって、ついてゆけるだけのものがある。だから、俺はもう遠慮しない」 「……、」 「俺はあんたと行きたい」 「……待って、」 見つめる黒い瞳に、熾火のように籠もった熱がある。男の言葉の先を聞くのが怖くなって、ロワジィは手を上げ、無理矢理遮ろうとした。 「あたし、そういうつもりで来たわけじゃ、」 その手をやわらかに掴み、男はロワジィを覗きこむ。 「あんたと生きたい」 「待って、」 駄々をこねる子供のように、弱く首を振る彼女へ、男がきっぱりと言い重ねる。 「待たない。俺はもう十分待った」 「でも、だって、……、」 「ロワジィ」 「――」 「あんたが好きだ」 言われてロワジィは短く息を吸った。このひと、なんて取り返しのつかないことを言っているんだろう。信じられない思いで、まじまじと彼女は男を見返す。 男の目に揺るぎはない。 「あんたが好きだ。そうしてあんたも、俺のことを好きなんだと、俺は勝手にうぬぼれている」 「……ギィ、」 「会いに来たというのはそう言うことだろう。違うか」 「……、」 「俺は浮かれているだろうか。俺は思い違いをしているか。ずっと会いたかったあんたに会えて、のぼせあがって、あんたの気持ちをまるで無視して、とんでもないことを言っているか。厭ならどうか教えてくれ。俺は莫迦だから、はっきり迷惑だと言われないと、判らない」 「……迷惑だとか、別に、そうじゃない、そうじゃないけど、……でも、……、」 「ロワジィ。あんたが好きだ。――あんたはどうだ」 へどもどと言葉を探して言い淀むロワジィへ、真っ向上段から切り下ろして男は言った。ええ、心底返事に窮して彼女は眉を下げる。 「どうって」 「あんたは俺が好きだろう」 「えええ……、」 断言されてうつむいた。嫌いじゃない。そんなこと判りきっている。嫌いだったらそもそもこうして五年間、ぐずぐずと未練がましく悩んだりしないし、会いに来るはずもない。 小男にドヤされたときに否定すればいいだけの話だ。 ……でも、だからって。彼女の気持ちを推し量ろうと、じっと見下ろす男の目に困り果ててしまう。 「そんな、……そんな、どうして好きか嫌いかの二択しかないのよ。中間とか、その、もうちょっと曖昧な部分っていうか、そういうの、あるでしょう」 「ない」 「ええ、……」 ばっさり切って捨てられて余計に動揺する。 「だって、それにあたし、あんたに会いに来たのは、その、まずは五年前のことをいろいろ謝ろうと思って」 「いらない」 「ええ……、」 「謝るも何もない。どちらが悪いわけでもない。済んだ話だ。それより、これからの話をしよう」 「――、」 「ここで暮らして判ったことがある」 男は上唇をなめ、また話し始めた。こんな熱に浮かされたように能弁な人間だったろうか。顔を上げ、男を眺めながらロワジィは思う。五年の間に男もまた変わったのだろうか。 「『ひとりで食べる飯は味気ない』」 「……それって、」 ぽかんとなってロワジィは呟く。男と旅していた時分に雇ったきっかけを聞かれて、話した覚えがあった。 「自分でない、誰かの作る飯はうまい、そんなようにあんたが言っていただろう。……あんたが言っていたあのとき、俺にはさっぱり意味が判らなかった。誰が作っても、飯は飯だと、そう思っていた」 「……うん、」 「でも、違った。寮の炊事場でひとり分作って、部屋で食べて……、まずくはない。――だが、うまくもない。ひとりで食う飯は何の味もしない」 「……、」 ロワジィ、言って男は彼女の手を握る力をすこし強めた。 「あんたと食う飯は、いつだってうまかった。理屈じゃない。本当に、うまかったんだ。俺はあんたの飯が食いたい。あんたが作ってくれたら、俺はいくらでも食う」 「……、」 「俺の飯を作ってくれ」 「……、」 「俺と一緒になってくれ」 「……、」 「あんたの飯は俺が作るから」 「なに、それ」 聞いて思わずロワジィは噴き出した。なんて珍妙な、一世一代の告白なんだろうと思った。告白なのだろう。あんたといたい、男はそう言っている。まっすぐ彼女を見つめ、握った手に汗をかき、気の毒なほど彼女を口説き落とすことに一所懸命だ。 笑っちゃ悪いと思いながら、それでもどうにもおかしさを隠せず、笑いながらロワジィは男を見返した。男はくそ真面目に彼女を見ている。 ――両手いっぱいの花をおくりたかった。 以前に男が彼女へそう言ったことがある。 その時それは叶わなかったけれど、たとえそれが花でなくたって、こんな風に、両手にいっぱい、かかえきれないほど真摯なまなざしを注がれて、 「はい、」 これ以上なにを望むというのだろうと思う。 ロワジィは頷いた。 「こちらこそよろしくお願いします」 こたえると、笑っていたはずなのに、何故か視界がブレて、頭を下げた拍子に涙がこぼれる。 「不束者ですけど。……どうぞよろしくお願いします」 悲しいわけでも、嬉しいわけでもない。気分はしんとしている。不思議な涙だと思った。 顔を上げると、男は先と同じように、しゃちほこばって彼女を見ている。目が合うと、視線ををわずかに眇めて、くちなし、と短く呟いた。 「うん、」 「あまいにおいだ」 「うん、?」 「あんたみたいだ」 そう言って、男は照れたようにちいさく笑った。 (20180706)