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※ この作品はアリス×ゆっくり系1を元にして別の人が書いた続編です。 これはゆっくり虐めスレが東方キャラ虐めスレから分離する前の作品です。 よってアリス虐めが前面に出ています 以上のことを留意しつつ読む方は進むをクリックしてください。我慢ならない方はブラウザの戻るをクリックしてください。 進む
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※ この作品はアリス×ゆっくり系1を元にして別の人が書いた続編です。 ゆっくりパチェがマラソンさせられている場面を たまたま上空を飛んでいたゆっくりみすちーが目撃していた。 すぐにでも助けてあげたいと焦るゆっくりみすちーだが、 少し離れたところには、とても静かな微笑みでゆっくり魔理沙を抱いている一人の女性が。 抱かれているゆっくり魔理沙は下を向いたままピクピクと震えてた。上空からでは表情はわからない。 少し近づこうと思ったゆっくりみすちーだったが、 ハッと アリスの表情とその裏に篭るどす黒い狂気渦巻く何かを感じ取った。 (ここで私が助けに行ってもゆっくりところされちゃう!!) ゆっくりみすちーは急いで親友のゆっくりあややに相談しに行った。 その後、ゆっくりあややの調べでゆっくり霊夢がアリスに殺されてしまったことや ゆっくり魔理沙が酷い虐待を受け続けていることが明らかになる。 この事実を知った2匹のゆっくりは、幻想郷中の仲間にこの事を知らせた。 「魔理沙をあいつから助けよう!!」 「魔理沙をゆっくりさせてあげよう!!!」 仲間思いのゆっくり達が 足こそ無いけど皆立ち上がった。 湖で氷精と遊んでたゆっくりも、 紅魔館の裏で一方的な鬼ごっこをしていた姉妹のゆっくりも、 白くて巨大なゆっくりも、 春とともに嫌な顔でやってくるゆっくりも、 半分幽霊のゆっくりも、 竹林の腹黒いゆっくりも、 ちょっとキモい顔のゆっくりも、 ネトゲー中毒のゆっくりも、 花畑の隣で農業を営んでいるゆっくりも、 そいつに無謀にも蹴りを入れるゆっくりも、 年中飲んでいるゆっくりも、 魔理沙も知らない地中のゆっくりも、 そしてアリスにそっくりなゆっくりまでもが、 みんなみんな力を合わせて、仲間の救出と復讐を心に誓った。 争い事を嫌い、平和にゆっくりする事を好むゆっくり達が戦いを決めた。 ゆっくり霊夢が殺された、あの日から1週間。 遠くから夜雀の歌声が聞こえる。星がゆっくり瞬く満月の夜。 アリスの家の灯りが消えるのを、 河童からこっそり借りてきた光学迷彩スーツを纏ったゆっくりにとりが確認した。 音が立たないようゆっくりと敵陣から離れ、待機している仲間のところへ戻る。 アリスの家から約1km離れたところにある小さな洞窟。 そこには幻想郷中から集まったゆっくりがびっしり集まっていた。 この小さな洞窟は魔法の森に元からあったもので、 大きさやアリスの家への距離が丁度いい隠れ家という事でゆっくり達がここに集合したのだ。 「灯りが消えたよ!」 自分達の存在が周囲にバレないよう、エクスクラメーションマークが1つで収まるような小声で仲間に伝える。 「みんなそろそろ準備してね! 魔理沙を助けるよ!」 将軍役に抜擢されたゆっくりえーりんの合図で、待機していたゆっくり達が武器を持つ。 武器といっても、木の枝やら尖った石やらいまいち殺傷性のないものばかりだが、 多分ゆっくり達は真面目だ。 マーガトロイド邸の照明が消えてから約30分後。アリスは自分のベッドで眠り始めていたが、 ゆっくり魔理沙は窓際でガラス越しに満月を見つめていた。 ちょっと潤んだ瞳で、じっと満月を見つめていた。 大きなお月様に映って見えるのは、 今は亡き親友達、ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーの顔。 もう自分の下にはやってこない、平和で楽しくてゆっくりできた日々。 みんなでちょうちょを追いかけて、 ぽかぽか原っぱでお昼寝して、 そんなゆっくりした日々が、ゆっくり魔理沙が見たお月様には映っていた。 とっても綺麗だけど、決してとどかないお月様に映っていた。 「う・・・ ゆ゛・・・・・」 また、泣きたくなった。 「れぃむ・・・ ぱじゅりぃ・・・・・ いやだよう・・・ ゆっぐり・・・ じたいよ・・・・」 (大丈夫! もうすぐゆっくりできるよ!!!) 突然、どこからか声が聞こえたような気がした。 窓からあたりを見渡すと、魔法の森には場違いな可愛らしい花の咲いた茂みがもぞもぞとこっちに来ている。 しかもそれは1つじゃない。いくつもの場違いな茂みが、アリスの家を囲うように揃い、 そしてゆっくりもぞもぞと近づいてきているのだ。 そんな無意味な擬態で敵陣へ攻め込む兵に気づいたのは 囚われの身であるゆっくり魔理沙と、それを監視していた冷たい人形1つ。 「シャンハーイ!!シャンハーイ!!」 上海人形の警戒警報にアリスが目覚める。 それとほぼ同時に、ゆっくり達は擬態を脱ぎ捨て、敵陣へと飛び掛った。 「ゆっくりしね!!!」 ゆっくりフランの、おそらくこの軍の中では破壊力のある方であろう突撃が玄関の扉を貫いて小さな穴を空けた。 「な、何よこいつら!?」 「魔法使いめ!! 魔理沙をゆっくりさせろ!!!」 その穴から雪崩れ込む様々なゆっくり達。 寝巻きのまま驚くアリスだが、すぐに自分の危機を理解し、スペルカードを手に取り応戦できる体制をとった。 その様子をゆっくり魔理沙は震えながら見ていた。 体が震えて、見ている以外に何もできなかった。 みんなが 助けに来てくれた。 見ず知らずのゆっくり達が 助けにきてくれた!! でも・・・ 誰かに助けを求めると、その誰かが不幸になってしまう。 ゆっくり魔理沙の心配通りの出来事が目の前で繰り広げられていた。 アリスと上海人形の放つ弾で、簡単に吹き飛ばされていくゆっくり達。 決死の思いで枝やら石やらを投げつけるが、体制を整えたアリスに通じるわけがない。 ダメだ・・・ もうダメだよ・・・・ この人に逆らっちゃ ゆっくりできないよ・・・・ ゆっくり魔理沙は、また泣きたくなった。 武器はほとんど投げつくしてしまい、覚悟を決めたゆっくり兵が、アリスに向かって体当たりを仕掛ける。 小さな弾一発で撃墜される。 被弾して吹き飛び、壁にべちっと叩きつけられる。 覚悟、突撃、被弾。 覚悟、突撃、被弾。 何十匹ものゆっくりとたった一人の魔法使いが、そうした戦いを続けていた。 アリスが実力を全然出していないことを、ゆっくり魔理沙はよく知っていた。 人形1体を使うだけでこちらの攻撃が完封されてしまうのだから、 今棚に眠っている何体もの人形が動き出したら、どうなってしまうだろうか。 ゆっくりを迎え撃つアリスの顔は、いつの間にか子供と遊ぶときような笑顔になっていた。 「やめて!みんなをいじめないで!!」 必死にアリスに叫ぶゆっくり魔理沙。 それに気づいてか気づかずか、アリスは魔理沙の頭をわしっと掴み、ゆっくり兵達につきつけてこう言った。 「ふふふ、ゆっくりの皆さん。今から魔理沙が大切なお話をするそうよ。 よーく聞いてあげてくださいね。」 急な展開にゆっくり魔理沙も、ゆっくり兵達も驚く。 だがこの時、魔理沙はアリスに何を求められているかわかった。 そしてその要求通りにしなければ皆がどうなってしまうかも理解した。 「う・・ う゛う・・・ み みんな゛・・・ わ わだじは・・・ 今 じあわぜでずから・・・・」 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で語るゆっくり魔理沙。 今自分の右手にいるそれに、アリスは悦び「ふふふ・・・」と小さく口から漏らしている。 「でずがら・・・ みんな゛・・・・」 大粒の涙が、床に滴り落ちている。 「アリズに・・ め、迷わグ・・・ かげないで・・・・」 ゆっくり兵達が、静かな瞳で魔理沙を見つめる。 「ゆ゛ ゆっぐりじで・・・ いっ・・ いっで・・・・」 「ゆっぐり・・・ じ・・・ で・・・・・・ 」 ( (みんなで一緒に ゆっくりしようね!!!) ) !!? 突然、聞き覚えのある声が聞こえた。 懐かしくて、暖かくて、もう二度と聞けないと思ったあの声・・・・ ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーが そこにはいた。 ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーは、そっとゆっくり魔理沙に近づいて、涙をそっと舐めとってくれた。 ( (魔理沙、今度こそゆっくりしようね!!!) ) 「・・・え?」 ( (今ここで頑張ったら、 こんどこそみんなでゆっくりできるね!!!!) ) 「うん・・ そうだね!今度こそ みんなでゆっくりしたいね!!」 ( (そう、だから今は・・ ) ) 「どうしたの?魔理沙。」 目を閉じて、眠るように動かなくなったゆっくり魔理沙をアリスは軽くゆする。 「今度こそ・・・」 「え?」 ( (・・・だから今は、ゆっくりがんばってね!!!) ) 「今度こそみんなでゆっぐりずるんだああああああああああああ!!」 アリスの手を振りほどいたゆっくり魔理沙が、アリスの咽喉におもいっきり噛み付いた! 「があああっがっがああっごおあああ!!」 いきなりの魔理沙の襲撃。 喉を噛まれ悲鳴を上げるアリス。 「ご・・ この饅頭がぁ!!」 魔理沙を何とか振りほどき、思いっきり投げて壁に叩きつける。 アリスの表情には、さっきまでのような笑顔は全く無い。 そしてこのチャンスをゆっくり兵は見逃さなかった。 「ピチューンしていってね!!!」 ゆっくりグルがアリスの後頭部から思いっきり蹴りをぶちかます。 蹴りは見事に命中し、アリスはバランスを崩した。 ゆっくりグルに続き、他のゆっくり達も一斉にアリスに飛び掛る。 倒れたアリスに何十匹ものゆっくりが乗っかり、これでもかこれでもかと踏み、噛み、石で抉りと畳み掛ける。 アリスがダメージを負った事で上海人形も行動が乱れ、その隙にゆっくりルーミアとゆっくりゆゆこが食い壊した。 「や・・・や゛め・・・ やめで・・・・・」 ゆっくり兵達に埋もれながら助けを請うアリスだが、勿論その助けの声が聞く者は誰もいない。 その光景をゆっくり魔理沙はじっと見ていた。 さっきまでの震えていたゆっくり魔理沙とは違い、明日ゆっくりできることを信じているゆっくり魔理沙だった。 「魔理沙!今のうちにこっちへ!!」 ゆっくり魔理沙が声の方向 壊れた玄関扉の方を向くと、司令塔であるゆっくりえーりんの姿があった。 えーりんに言われるがままに家の外へ出る。 暗くてよくわからなかったが、家の側の大きな木の上に、これまた大きな丸い物体があるのをゆっくり魔理沙は見た。 「みんな、撤収! 撤収~!!」 ゆっくりえーりんの号令で、アリスに群がっていたゆっくり兵は一斉に家の外に逃げた。 アリスの攻撃で気を失っていたゆっくり兵は、別のゆっくり兵が担いで持っていった。 「ガハ・・・ ハァ・・・ ハァ・・・」 刺し傷噛み傷だらけで自室に大の字で倒れているアリス。 その目には先程のゆっくり魔理沙のような涙が溢れている。 「なんで・・・ な゛んで わだし・・ だげ・・・・・ ハァ・・・・ ハァ・・・・」 「無様だね!! なんでアナタはこんな目に遭うんだろうね!!!」 窓の外から、ゆっくりアリスが傷だらけのアリスに話しかけていた。 「な・・ な゛によ・・アンダ・・・」 「それはね・・ アナタがひとりだった結果がこれだよ!!!」 それだけ言い残して、ゆっくりアリスは逃げていった。 (ふん・・ 何がひとりだった結果よ・・・! みんな魔理沙のせいよ・・!魔理沙があんな奴だから!魔理沙が私よりも紫もやしなんかへ行くから! 魔理沙が腋巫女ばっかりに構うから!! 魔理沙が!! 魔理沙が! 魔理沙が!!!) ずるずる・・ ずるずる・・・ 嫉妬心渦巻くアリスの上方。マーガドロイド邸の天井のさらに上から、麺をすするような音が聞こえた。 「すぐおいしい・・ すごくおいしい・・・♪」 (な、何よこの歌・・・) とアリスが思ったのも束の間 巨大なゆっくりレティが木から飛び降り 家屋の天井を貫いて そして 大の字で倒れているアリスの上に ・ ・ ・ 魔法の森の奥深く、 七色の人形遣いと呼ばれていた魔法使いが住んでいた屋敷は、 今ではゆっくり達の遊び場となっている。 寒い日は暖炉に火を点して、みんなで持ち寄った材料で暖かいシチューを作るのだ。 雨で外じゃ遊べない日には、やっぱりみんなで集まって楽しく歌でも歌うのだ。 あまりにもゆっくりとしたこの屋敷には、湖の氷精や蛍の妖怪、近所の魔法使いなどがたまに遊びにやってくる。 以前ここに住んでいた者が話題になることはあまりない。 不思議なことに、この屋敷には天井に大きな穴が空いた部屋が1つある。 その部屋には2つのお墓があって、1つには赤と白の花が、もう1つには紫色の花が供えられている。 黒い帽子をかぶった金髪のゆっくりが毎日やってきて供えているとの噂だ。 部屋の中にありながら、太陽の光も月の光もよくあたるこの2つのお墓には、 春先になるとちょうちょが近くにゆっくりと集まってくるらしい。 そう、ここは誰もがゆっくりできる場所。 「おーい、ゆっくり私! 今日は友達を二人も連れてきたぜ!」 「全く、やけに図書館から連れ出したがるから何かと思えば。 ・・・でも確かに凄い数ね。紅魔館の裏にも何匹かいるけど比べ物にならないわ。」 「はー、これだけの人がうちにお賽銭入れてってくれないかしらね。」 「みんなこんにちは!! 今日もゆっくりしていってね!!!」 End
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ゆっくりって蝶を食べてるんですね。だから幻視したかも。 蝶を追いかけ回してた仲の良い複数のゆっくりが太陽の畑に迷い込む。 蝶々花々、見渡す限りのご馳走に思わずどっきり。 「新しいゆっくりポイント発見だね!!」 思わぬ収穫に仲間達と向かい合って皆でにっこり。 向日葵に蝶が止まった所を狙い定めてダイビング捕食。向日葵は重さに耐えれずにぽっきり。 「おいしいね!!」「もっといっぱい食べようね!!」「ゆっくり食べようね!!」 折れた花に群がるゆっくり達。皆が満足するだけの花を折って食べ、跳ねて蝶を食べお腹がぽっこり。 広大な向日葵畑。花のと葉の砦は自分達の隠れ家にはうってつけだと考え、皆でにっこり。 畑の中に移動し食後の運動を兼ねて隠れ家作り。心行くまでゆっくりできるスペースを確保するため円形に向日葵をばっさり。 沢山の食料が見つかり満足。太陽もポカポカで気持ちがよくゆっくり達は自然とまったり。 満腹で暖かな日差しに包まれて、皆で輪になりぐっすり。 良い場所を見つけて幸せを感じ、皆の寝顔はにっこり。 「…ゆ゛っぐり゛ぃ!!??」 体に何か入ってきたような感覚に襲われた紅白のゆっくりの突然の悲鳴にみんなびっくり。 「どうしたの!!」「びっくりさせないでね!!」「しっかりしてね!!」 苦しむ紅白の周りに心配になったほかのゆっくり達が見守るように囲んでひっそり。 パチン。ゆっくり達の後方で何かを弾く音がしたと同時に周りを格子状のつたに囲まれてどっきり。 「むきゅー!!」「これじゃゆっくりできないよ!!」「ゆっくりどかすよ!!」 3匹のゆっくりがポヨンポヨンと勢いをつけてつたに体当たりしたらざっくり。 「ゆ゛っぐりぃぃぃ!!」「いだい!!いだいよぉぉ!!」「むぎゅーぅ!!」 つたを除けようとしたゆっくりの悲鳴。よく見るとつたには鋸の様に細かい無数の刃がびっしり。 2匹は全身に無数の裂傷を負って地面にばったり。1匹がつたに絡まり絶命してぽっくり。 「もっどゆっぐりじだがっだよぉぉぉ!!」皆が叫ぶも返事はさっぱり。 理不尽だよ、ゆっくり皆でのんびりしていたのに。程なくして最初に悲鳴をあげたゆっくりがむっくり。 「痛かったけど大丈夫!!」「良かった!!」「元気になったね!!」 しかし1匹は絶命し2匹は瀕死、仲間を助けたくてここから出る方法を皆で考えても思いつかなくてがっくり。 「…あらあら。今日はお客さんがいっぱいね。」 突然、ゆっくり達の後ろから女性の声。振り返ると緑の髪をした綺麗なお姉さんが日傘をさしてにっこり。 救いの手が来たと歓喜。ピョンピョンと飛びはねながらお姉さんに助けを求めるゆっくり。 「おねえさん!ココからだして!!」「友達が危ないの!!」「わかるよー!!このままじゃ死んじゃうよ!!」 お姉さんはつたの檻の中で突っ伏す2匹と、つたに絡まって中身をむき出しにし絶命した1匹を見てにっこり。 「あらあら…。お友達が2人も死んじゃって可愛そう。」と言ってにっこり。 2人?聞き間違ったのかなと皆で首をこっくり。しかしそんな疑問よりも仲間が苦しんでいるのににっこりしているお姉さんに憤りを見せる。 「おねえさん!友達が大変なのにひどいよ!!」「ゆっくり謝っていってね!!」 それでもニコニコしているお姉さん。おもむろに綺麗な指を弾いてパチンと弾いた。 「「「???」」」 ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆでゅでゅ…、ゆっくり達の近くからぐぐもったような変な音がした。 最初に苦しんだゆっくりが出していることに気づいて驚愕した。うめき声を上げ痙攣しながら苦しみだした。 「どうしたの!!」「ゆっくり元気になってね!!」 小刻みに震え体表に何かが浮かんでくる。何かが脈動し醜く変形するゆっくり。恐怖から他のゆっくりは震えながら固唾を呑んで見守った。 断末魔。 「ゆ----------!!!」 …ブチィ!!と何かが引き千切れる音。苦しんでいたゆっくりの側面…頬辺りから植物のつぼみが突き出した。つぼみは外気に触れるとビクビクと小さく脈動した後に紅白の花を咲かせた。 「ひぃぃぃぃ!!」「わからないよ!?わからないよ!!」「ちーんぽ!!」 恐怖が他のゆっくりに伝染する。2匹目の仲間が目の前で花を咲かせ絶命した。虚空を見つめ、側面に花を咲かせている図は滑稽で理解不能で更なる恐怖を煽った。怖くて逃げ出そうとしたゆっくりが小石に躓き、つたで傷つき突っ伏していたゆっくりの上に勢いよくつっこんだ。傷から中身をひり出しながら痙攣し、絶命した。ゆっくりたちがまた絶叫する。転んだゆっくりの顔は後悔と混乱で蒼白、餡を浴びて汚れた。 「うふふ…。意外と綺麗なお花ね。それと、お友達またへっちゃったね。」お姉さんは日傘をいじりながら事も無げに言い放ってにっこり。 「早くここから出して!!」「うー!!うー!!」 ゆっくりたちは早くこの恐怖から開放されたかった。この場所にいたら自分も花になってしまうのでは?逃げたい。半狂乱状態でお姉さんに懇願する。ここから逃げ出せるなら、救いの手が差し伸べられるのならばどんな事でもしてみせれる気さえした。 「いいわよ。一人だけなら。」目を細めながら言った。…お姉さんはとてもにこやかだ。 お姉さんがパチンと指をならした。…ただ指を鳴らしただけだった。新たな『つた』も『花』も生えない。だが、トリガーは弾かれた。 呆然とするゆっくりを尻目に黒大福が2匹目の裂傷しているゆっくりをふみつけた。何度も何度も体全体を使ってトランポリンのように跳ね続けた。吹き出る中身。 「ゆっくりあっちに逝ってね!!」「むぎゅぅぅん!!」 飛び散る餡。絶叫するほかのゆっくり。もう動かなくなっているのに狂ったかのように跳ね続けている。黒大福は本気だった。仲間のために知らなかったとはいえ命を張った仲間を、友を踏みつぶしている。 その光景が、今度は狂気が伝染する。このままおとなしくしてたらゆっくりできない体になる。嫌だ。自分だけがゆっくりするんだ! 1匹堕ちれば後は総崩れ。この中にいるのは全員敵。排除しないとゆっくりできない。 「ゆっくり死んでね!!」「早くゆっくりさせてね!!」 自分だけが助かりたい。ここから逃げ出したい。ゆっくりたちが体全体を使い相手をつたのほうへ弾き飛ばそうとする。踏み潰そうとする。餡が飛び散る。狂気が、殺意が加速する。 日傘を揺らしながら、その光景をにっこりと見つめるお姉さん。 「ぢーんぼぉぉ!!」「痛いんだね!!わかるよー!!」 断末魔。白髪ゆっくりがつたに絡まった。何を理解したのか尻尾のついたゆっくりはわかるよー、と白髪ゆっくりを押し付け、傷を確実に広げていく。痛みで気絶したら後は軽い圧力だけで死に至る。止めのために踏みつける。 あちらこちらで悲鳴とブルュブリュと止めを刺す音が聞こえる。絶命の度にお姉さんはにっこりした。 「ゆっく…しっかり死んでね!!」「いだい!!わ゛がらないよぉー!!」 決着がつきそうだ。黒大福が尻尾を咥え自分を中心に尻尾ゆっくりをくるくると回転させて、十分に勢いをつけたところで、 「ぷはっ、ゆっくり飛んで死んでいってね!!」 口を離した。十分に加速したゆっくりはつたに押し付けられ二つに崩れた。 餡がつたの先にボトリとおち、周りをキョロキョロとみわたしたあと 「ゆっくり!これで、私は、私だけがゆっくりできるよ!!」 たった一人、生き残った黒大福は勝利の余韻に浸って、返り餡を落とすことなく檻の中心でふかく目を瞑ってゆっくりしていた。 「…さ、約束ね。」お姉さんが指を鳴らすとつたが消えた。 「ゆっくりできる!!おうちかえる!!」 黒大福はお姉さんに一礼するとさっさと、そこら中に散らばった餡や皮を踏みつけながら鼻歌交じりでその場から去って行った。 もう、かつての友など気にもせずに。 黒大福を笑顔で見送って 「…向日葵達が殺され理不尽に土に還らされた。家畜のような存在のエゴの為に。だからそいつらを理不尽な手段で土に還した。」 残されたお姉さんが言った。 数分後に…パチンと指をならした。笑ってはいなかった。 それから数日して、天狗が向日葵畑の上空を通過しようとした際に何かに気がついた。この前までは確かに一面の黄色だったはず。だが、今は違う。畑の一部が人為的に円形に空いており薄い青色の月見草や紅白の薔薇、水芭蕉、鬼灯など場違いな花が仲良く並んでいた。 ここの管理者らしくない対応だったが、近くでそれらをみて、確かに取り除くのには惜しい、見事に綺麗な草花だと思った。 主曰く「花びらが散って土に還るまでこのままよ。それにこの子達は今はもう元通りで仲良しよ。咲く時期も近いもの。」 女である私でも惚れ惚れするぐらい綺麗に微笑んだ。……こっそり写真も撮った。 そう言われてみれば、『仲良し』確かにそんな気もする。だが、『今はもう?』『元通り?』イマイチ意味が解らない。 これらは異変の前触れ?実は既に異変発生?わずかばかりそういう事を期待したがどうやら空振りだったようだ。 だが、滅多に取材できない相手だけに天狗はチャンスとあれこれ聞こうと考えた。が、珍しく上機嫌な太陽の主と仕事抜きでのんびりするのも悪くは無い気がした。今日だけは主も拒まないだろう。 …不思議とこの場所はなんだかゆっくりできる気がした。 さらに数ヶ月が過ぎた。太陽の畑から数分歩いた森の中にボロボロに汚れた黒い繊維質のゴミクズが転がっていた。ゴミクズのそばには白くて可愛らしいクロッカスが孤独に咲いていた。 クロッカスの花言葉は「信頼」「裏切らぬ事」。 裏切り者の嘘つきは最後まで嘘つきだった。
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0339の続…き?な、な、なにぃコレぇ。 農業がはやってますね。だから幻視したのかも。 文々。新聞の欄外コラム『文の一枚』に太陽の畑の主の微笑みが掲載されて数ヶ月が過ぎた。 結局ネタが無くてコッソリ取った一枚を無断で使用したのだが、幸いにも本人からはお咎めは無かった。 もっとも、彼女を慕う上級妖怪達から「(ネガごと)ゆずってくれ たのむ!!」と追い掛け回されたので完全に無事とは言えないが。 それはさておき、日々が過ぎ、季節が一周したころ、太陽の畑は平穏そのものであった。 主は日傘を揺らしながら歌を口ずさみ、向日葵達に聞かせ歩いていた。 もう少しで歌い終える…所だったが、向日葵たちが畑に誰かが来たと穏やかに伝えてきた。 「この時期は殆どの者が活発だものね。」などと考えながら、歌を中断させた愚か者の方へ歩を進めた。 程なくして侵入者が視界に入った。緑髪の小さな子供が息を切らせながらそこにいた。そして主を確認するなり 「予定よりも早く着いちゃったから屋敷じゃなくて畑にいるかなと思ったけど、正解だったね。」と笑顔で言った。 ああ、この子達が穏やかだったのは、侵入者では無く、予定より早い来客を伝えたかったからか。 「ええ…、正解よ。でも、予定までかなり時間があったでしょう?そんなに急がなくても間にあったじゃない。」 愚か者などと考えてた事など一転して、穏やかな口調で答えた。 この子達に歌の続きを聞かせてから屋敷に戻るから先に屋敷で待っていなさいと伝えたら、「えへへぇ」とだけ言って私の後について来た。 …んもぅ。気にせず続きを歌うことにしよう。これ以上待たせたら退屈だろうから。 日傘がゆれるのを目で追いながら、太陽の主の後をついていく。 急いできた理由は単純にこの歌を聴きたかったから。 きっと彼女を知っているものでも、とても透き通った綺麗な歌声を持っていることを知っているのはここに住む虫達と向日葵と私くらいしか知らないだろう。…私のちょっとした自慢だ。 友達の夜雀とは違い、静かで穏やかな歌だから、仮に他の者が知ったらなおさら意外であると感じるであろう。 …彼女は誤解されていると思う。友達の氷精も幽香が怖いらしく、以前、彼女の話をしたら 「違う…あたい、が…最強なんだからね」「最強…さいきょう…」とうわごとの様にくりかえだした。彼女のトラウマだったらしい。 「うん、チルノちゃんが最強だからね。大丈夫だよ。」「大丈夫、だいじょうぶ。」彼女のお姉さんのような大妖精が氷精の頭を撫でながら笑顔でなだめているのをボーッと眺めたこともあった。 食い気が宵闇な友達は誰だかわからず「怖いのかー。」猫又の友達は幽香は怖い存在であると教わったと言った。 確かに怖い所もあると思うけれども、それは彼女の性格と圧倒的な力、そして独自の世界観がそうさせているのだと私自身は考える。 大地を敬い、生命を敬う。大地から育ち大地へと還る、そのサイクルを至上と考える。彼女が怒る事はそれらへの冒涜。冒涜者には漏れの無い制裁を加える。その制裁の過激さが彼女に悪評を与えてるのではと。…もっとも世界観云々は本人が言っていた訳じゃないからただの推察なんだけど。 あれこれ考えていたら歌が終わった。彼女がこちらに振り返る。 「…おしまい。リグル、予定通り私の屋敷でティータイムにしましょう。お菓子も用意してあるから。」にこりと微笑む。 こんな綺麗な笑顔の幽香が、皆に怖いと思われているのは、自分が馬鹿にされることよりも不愉快だった。 お茶の時は私が幽香に話をする。友達の氷精が大蛙に飲み込まれかけたんだとか、友達の夜雀が騒霊シスターズとCDデビューしたんだよとか…。 それら他愛も無い話を幽香は「へぇ…。相変わらずお馬鹿な子ね。」とか「それは知らなかったわ。どんな曲なのか楽しみね。」などと相槌を打って聞いていた。 ……楽しい時間も過ぎ、自分の住処に戻ろうとその旨伝えたら、 「わかったわ。…今日は楽しかった。またいらっしゃいな。」と答えてくれて嬉しかった。 嬉しくて小躍りでもしてしまいそうであったが自粛できた。 が、次の瞬間。 「「!?」」 畑に何かいる事に気づいた。幽香には花が知らせてくれたようで、私には虫が知らせてくれた。 急いで駆けつけると、そこには一匹の饅頭が向日葵をじーっと眺めていた。 幽香の顔から笑顔が消えた。表情が消えうせて怒気すら感じられた。 私は知っている。こいつら饅頭が私の仲間を喰らい、さらに幽香の庭で向日葵を食い散らかした事を。 私は知っている。黙って見逃そうとした幽香の期待を裏切り、あろう事か自分達の家にしようと言い出し向日葵を押しつぶした事を。 私は知っている。その後の結末を。虫が見ていた。だから知っている。 私は幽香がすぐにでもこの饅頭を土に還すものだと思っていたが、そうはしなかった。 「そこのあなた?何をしているのかしら?」ひどく優しい声で問いた。 饅頭はそこで初めてこちらに気づいたらしく、跳ねながら言った。 「このお花、きれーだね!!おーきいね!!なんていうの!?」 怒気が薄れたのを感じた。だが、まだどうなるか解らない。 「この子達は向日葵。ひまわりっていうのよ。」答えた。 「ひまわり!!ひまわり!!ゆっくり覚えたよ!!」興奮気味に饅頭が答えた。 興味津々に向日葵を見つめる饅頭。緑色の髪?で幽香っぽくもあr、ない。 「そう。それで、この子をどうしたいのかな?」興奮するそれに重ねて問いた。 「ひまわり!!どうすればできるの!?」饅頭。 風向きが変わる気がした。私は会話を見守るしかない。 「種と水と大地と愛情。」簡潔に幽香。 「ゆっくりできそう!!」できると豪語する饅頭。 「難しいわよ。目の前のひまわりじゃ満足できないのかな?」問う、幽香。 「これはおねーさんの!!ゆっくりしちゃだめ!!自分のでゆっくりしたい!!」饅頭は言い切った。 幽香の怒気が完全に消えた。 「…そう。解ったわ。」幽香が指を鳴らした。パラパラと植物の種が生まれた。それをどこからか出した布袋につめて目の前の饅頭の前に屈み、渡した。 「それがこの子達の種よ。それを土に植えなさい。そして毎日、話を聞かせ、水を与え、大地にお願いしなさい。」と言って微笑んだ。 「うん!!ゆっくりとしっかり育てるよ!!」饅頭は嬉しそうにして、早速その場から少し離れた場所をその辺の木の枝を使って耕し始めた。 幽香は微笑んでいた。この前の惨劇の続きは回避されたようだ。 一週間過ぎた日、私は幽香に招待された。嬉しくて小躍りしてたら親友達に見つかって変な目で見られた。 急いで向かうと、幽香は日傘を揺らして向日葵たちに歌を聞かせ歩いていた。 そしてそれを真似るかのように、そこから少し離れたとても小さい畑で饅頭が「ゆー♪ゆー♪」といいながらウネの周りを回っていた。 ウネからは既に饅頭よりも背が低いくらいの芽がでて育っていた。明らかに成長が早すぎるが、幽香の計らいであろうと結論づけた。 「あら、今日も早いわね。」幽香がこちらに気づいて微笑んだ。 幽香と談笑して、帰りに饅頭にプレゼントとして麦わら帽子を被せてやると 「ありがとう!!ゆっくりできるね!!」と饅頭は感謝の意を示した。撫でてやったら喜んだ。悪い気はしなかった。 更に一週間して、その日も招待された。 饅頭の畑も立派になり、柵やちょっと憎たらしいの顔をした案山子までできていた。 「明日には花が咲きそうだよ!!ゆっくり見ていってね!!」勢いよく声をかけられたので 「うん。大きい花が咲くといいね。」と答えた。 「咲くよ!!ゆっくり頑張ったから!!」そういって仕上げとばかりにせっせと仕事に戻っていった。 今日のティータイムは珍しく幽香から話をしてきた。 「あの饅頭、ちゃんと花を育て切れそうね。意外だったわ。」と、嬉しそうに言った。 「うん。本当に意外だったよ。」幽香の言葉に相槌を打った。ああ、このままお話していたいなぁ。 「…リグル、今日は私の家に泊まっていきなさい。明日の朝、一緒にあの饅頭の成果を祝ってあげましょう。」幽香は事も無げに言った。 「うん。そうだね、祝ってあげよう。」…ん?あれ? 「夕食は私が作るわ。リグルは嫌いなものあったかしら?」えっと、無農薬なら…ってそうじゃなくて 「女の子なんだから、もっと身支度に気を使いなさいな。綺麗な髪が台無しじゃない。」目を細めながら髪を撫でられる。手の温もりが。 「うちのお風呂、大きいから私がお手入れしてあげるわ。」あわわ、あわわ 「ベッドはひとつだけだから一緒でいいわよね?」ひぇぇぇ!! その後の私はベッドに入るまで頭が真っ白で幽香になすがままにされていた、様だ。そんな気がする。 「このポタージュのトウモロコシ、太陽の光を沢山浴びてるから美味しいわよ。」と白いエプロンをつけた幽香にあーんさせられたりした、気がするし、 「リグルの肌、もっと綺麗になるわよ。日々のお手入れはきちんとなさい。」と背中にやわらかい感触を感じながらそういわれた気がするし、 「おやすみなさい、リグル。」と、今まさに目の前で言われた気がする。 …何とか眠れた自分に拍手したい。私、頑張ったよ。 翌朝、そんな幸せな私の気分も、吹っ飛んだ。 「ゆっくりしていってね!!」「ゆっくり食べていってね!!」「ゆっくり美味しいね!!!」 幽香と私は呆然とした。饅頭の畑を無数のゆっくりが占拠していた。 黒大福が何か踏みつけていた。茶色の、繊維質の、円形の。 幽香が畑に近づいていく。そこで占拠していたゆっくり達が一斉にこちらに気がつく。 「お姉さんたちもゆっくりできる人!!?」「ここは私達のおうちだよ!!」「ゆっくりくつろいでいってね!!」 折れた案山子に乗っかるゆっくり。何が楽しいのか、柵を倒してはしゃぐゆっくり。 モグモグと口を動かすゆっくり。咲く寸前で折られた向日葵。 「ここに、いた、子はどうした、のかな?」幽香がたずねた。多分、いや確実に解っていてたずねた。 「ゆっくりできない子はいらないよ!!」「皆の食事を邪魔したからゆっくりどかしたよ!!」「ゲラゲラ!!」 「だから皆でゆっくりさせたよ!!」「ゆっくりできてよかったね!!」 ゆっくり共がサッっとどくと、真ん中にはあの饅頭が動かないでいた。傷は遠目から見ても深いと解るくらいひどいし、息すらしてないしのは明白だった。 「ゆっくりあっち逝ってね!!」「うー♪うー♪」 リーダーと思わしき黒大福はその畑の主の亡骸を更に踏みつけ、冒涜した。 私は激怒のあまり、体中の力で、持てる力を使い、その場にいたゆっくり共を皆殺しにしようとした。事実、できる。だが次の瞬間、 幽香が、笑った瞬間、動けなくなった。私の体のありったけの力も消し飛んだような感覚。むせ返るような死の予感。私だけじゃない、あのゆっくり達にも、花も虫も、空気でさえ動けなかった。時間は止まっていない。だって、汗が、震えが、涙が止まらない。 「お前達は、土に還す事無く、消す。」 …風見幽香が本気で怒った。それは大事件の前触れであり、集まった魔力の膨大さがそれを容易に想像させた。 手から日傘を離し、両の手で魔力の放出先の示した。 「ゆっぐり、して!!」「やめてね!!やめてね!!」 示した先は当然、ゆっくりたちの固まり。目で死した饅頭を見つめると、その体を植物のつたが包み込むようにして地に潜った。 頭の弱いゆっくり達も目の前の圧倒的な存在の逆鱗に触れたことにようやく気がついたようだ。 「助けて!!何でもしますから!!」あの黒饅頭が引き金を引いた。 放たれた。 黒白の魔法使いが得意技としているアレだった。ただ、規模が違うだけだった。 何も残らなかった。体も塵一つ残らなかった。魂すらも消し飛んだであろう。 ゆっくり共を容易に消し飛ばした光の束は、すき間に飲み込まれ、別の場所から現れ、すき間に飲み込まれ…いつの間にか空中にできたすき間の輪をぐるぐるとループした。 それから程なくして、紅白の巫女や黒白の魔法使い、すき間妖怪など、幻想卿に住むものならば誰でも知っている有名人が現れた。 「幽香!あんた、あんな馬鹿でかいマスタースパークを撃ったら結界がどうなるか解ってるんでしょ!!?」 「おいおい、どうしたらあんな癇癪起こせるんだ?お前ほどの大妖怪が。」 「私が起きていなかったら、まったく。幽香ちゃん、説明。」 幽香は目を瞑ったまま何も言わない。幽香、早く、説明しなきゃダメだよ。幽香、誤解されちゃうよ。 私は、何とか体を動かせた。その場から歩むだけでも全身から汗が吹き出た。でも、歩いた。歩いて、すき間妖怪達の前まで行った。行けた。 「私が、私が見ていたから、知っているから、幽香の代わりに事情を説明するから、幽香をそっとしてあげて。」 カラカラだった喉から、何とか言葉を紡げた。 その様子を見かねたのか、すき間から出されたお茶を出された。ありがたかった。 一飲みにし、事情を説明し終わると、紅白の巫女も黒白の魔法使いも何も言わなかった。 「まあ、そうね~、一週間くらい夜が明るくなるだけだし。どうせ寝てるから~。」すき間妖怪もよくわからないが納得した?ようだ。 黒白と紅白は皆に異変ではない事がわかったと説明するからと去っていった。 残ったのはすき間妖怪と私だけ。幽香は遠くを見たままだ。 「あなたは」すき間妖怪。 「あなたは幽香ちゃんのそばにいてあげなさい。一週間。ちゃんと面倒見られるのよ。」そういってすき間で帰った。 面倒を見られろって、あんた。本当によく解らない妖怪だ。 私は幽香の隣まで歩いた。幽香は動かない。でも、幽香が何かアクションを起こすまでは、傍にいようと思った。 何分たったか解らない。 「リグル…。」信じられないくらい小さな声だった。 「なあに?」答えた。 「ありがと…。」今度の声は普通の大きさだった。 「うん。」次は私の番。 「幽香、あの子を土に還してあげよ?」言った。 「…そうね。」指を弾いた。 地中からあの饅頭を包んだつたが現れ解き放った。二人で穴を掘ってそこに饅頭を埋葬した。土をかぶせ、墓標を立て、汚れてしまった麦藁帽子を立てかけた。 それから一週間、幽香とすごした。はじめの3日は本調子でなかった幽香も4日目からは元の調子に戻っていた。たっぷりとお世話された私は真っ赤になったり真っ白になったりしていた。幽香は楽しそうに笑っていた。 頭を撫でられながら、話をしていた。ふと、氷精と大妖精が頭をよぎった。「幽香見たいな姉が欲しかった」6日目の夕方、告白した。 幽香は微笑んで言った。 「今更ね。あなたは私の妹よ。花と虫の相性は最高なのよ。」嬉しかった、と思う。平衡感覚が崩れたせいかちょっと床が冷たかった。 1週間目。あの饅頭の墓に花を供えてあげようと二人で様子を見に行った。 今週の文々。新聞の欄外コラム『文の一枚』は大きくて綺麗な向日葵だった。それはこちらを見て微笑んでいるようだった。
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ゆっくり消しゴム。 今幻想郷で人間の子供達や精神の幼い妖怪の間で小さなブームとなっている文房具だ。 ゴムとは言うものの実際にはゴムではなく一匹の生き物である。 最近あらゆる方面で人気の高い生命体ゆっくり、その中でも3立方センチメートル程のちいさなものがこのゆっくり消しゴムとなる。 その愛らしい見た目と手頃な小ささからゆっくり消しゴムはいわゆる昔のたまごっちの様なブランドを子供たちの間で獲得したのだった。 「見ろよオレの!これ希少種のれみりゃっていうんだぜ!」 「いいなー私なんかせいぜいみょんぐらいしかないんだよ」 「そんなのまだいいさ、僕なんてやたら帽子がずれるまりさしかないんだよ」 互いに自分のゆっくりを子供たちが見せ合ってる中、その様子を木陰に隠れながらうらやましそうに見つめる一人の少女がいた。 彼女はチルノ、幻想郷の中でも比較的幼く子供らしい気質の妖精であった。 字も書けない彼女にとって消しゴム等というものは今まで必要の無いものであったが、 最近の子供たちの手に握られている奇妙な物体を見ると彼らの笑顔のせいもあってかどうしても欲しくて仕方なくなった。 とは言うものの養殖栽培で作られているゆっくり消しゴムは通常自然で手に入る事はほとんどない。 チルノはその無い頭を極限にまで回転させ、知恵熱で二日寝込み、その三日後に教職に就いている慧音のことを思い出した。 「あたいったら天才ね!」 全快したチルノは早速慧音のもとに向かいゆっくり消しゴムを一つくれるように頼み込んだ。 理由はどうあれ文房具を必死に欲しがるチルノに多少の好感を抱いた慧音はチルノにある提案をした。 「それじゃあゆっくり消しゴムと鉛筆、紙もわたしてあげよう。そのかわり、私に手紙を書いてきなさい。約束できるか?」 この約束に多少戸惑いはしたがそれもそれで面白いかも、とすぐに思い直しチルノは大きく首を縦に振った。 「ゆっくりしていってね!」 満面の笑みでチルノを見つめておなじみの言葉を発しているのはゆっくり霊夢、ゆっくり消しゴムの中で最も手に入りやすいものだった。 それでもチルノにとっては久しぶりに出来た宝物だったのだ。 チルノはすぐに湖の表面に手頃な氷の机を作り、渡された紙に手紙を書きはじめた。 字のお手本も既に慧音からもらっていたので準備は万端である。 大きな文字でお手本を見ながら好きな事を書くチルノをゆっくり霊夢はゆっくりしながら・・・ いや、ゆっくり霊夢はゆっくり出来ていなかった。なぜなら彼女は辺り一面凍り付いた氷上で敷物も敷かれずに置かれていたからである。 「ゆっゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!」 あまりの寒さにお決まりの台詞も言えないゆっくり。せめて紙の上にでもと体を動かそうとした瞬間 「ゆっ!?」 自分の体がその場所から全く動かないどころかその場所との接着面に鋭い痛みを感じるゆっくり。 そう、彼女は低温の氷の机の上にぴったりと張り付いてしまったのだ。 こうなるといくら頭の弱いゆっくりも自分が体を動かす事で鋭い痛みが走るという事には気づいた。 しょうがない、この氷の妖精が手紙を書き終えるまでゆっくり待つしかないか・・・ だがそうと割り切っても周りの低温と氷の机は自分の体の熱を奪っていく。たまらずゆっくりは 「早く手紙を書いてね!」 とチルノに向かってめずらしい応援をとばした。だがそれがいけなかった。 「うるさいなあ!急がすから失敗しちゃったじゃないかあ!」 ムカッときたチルノは机に張り付いているゆっくりを鷲掴み、容赦なく剥がしとった 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 そんな叫び声等おかまい無しにチルノはゆっくり霊夢を紙に押し付けむちゃくちゃに擦り付ける。 そう、ゆっくり霊夢は消しゴムなのだ。 本来この使い方が正しい使い方なのだがその使用時のあまりの断末魔に耐えかねて 消しゴムとして使用する人々が減り今の流行に落ち着いたのだ。 しかし、チルノは消しゴムというものをよく知らなかった事、手紙を書く事に躍起になっていた事もあって ゆっくりの悲鳴を全く気にしなかった。 「やめてええええええええ、ゆっくりしたいよおおおおおおおおおお!!!」 粗方消しきって満足するチルノ、それとは対照的に顔面を机の上に押し付けたままへたっているゆっくり。 だが、ゆっくりの悲劇はこれだけでは終わらなかった。 ここでゆっくり消しゴムの構造について簡単に説明しなくてはならない。 この小型のゆっくりは急激なストレスや物理的ダメージを与えると体から汗とは違う特殊な体液を出す。 この体液こそ鉛筆の線を綺麗に消しとってくれるゆっくり消しゴムの秘密なのだ。 さてそうなると今氷の机の上に顔面から突っ伏しているゆっくり霊夢は今すぐ顔、いや体を上げようと思うべきだった。 「ん゛?ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」 気づいた時には既に遅かった、さっき以上に顔面が氷にべったりと張り付いて身動きがとれなくなっていたのだ。 しかもタイミングの悪い事にちょうどチルノはまたも失敗した字を紙に書き込んで悔しがっていたのだ。 「だから・・・うるさいってばー!!」 その声に体をびくっとふるわせるゆっくり。寒いにもかかわらず額を汗がつたう。 「ん゛ー!ん゛ー!ん゛ん゛ん゛・・・ぃぃいぎゃああああああああああああ」 さっきと同様に躊躇なく机からゆっくりを引きはがすチルノ。その異常な声に流石のチルノも驚き手を離した。 そのためゆっくりは勢いよく放物線を描いて氷が張っていない湖面の方向へ飛んでいき見事に着水した。 「ぐぼ・・ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ・・・・」 氷が張っていないとはいえ水の温度は5度程度、ゆっくりの少ない体力を奪うのには1分も必要としなかった。 ゆっくりできなかったよ! 薄れる意識の中ゆっくりは静かに思った。 「大丈夫?ねえ、大丈夫!?」 目が覚めるとゆっくり霊夢は濡れたまま湖のほとりにいた。どうやらぎりぎりのところをチルノが救い上げてくれたらしい。 「ごめんね、放り投げたりして。あんたが大きな声だすからびっくりして・・・」 誰のせいだと思っている。もうろうとした意識の中で軽くそんな事を思ったが今はどちらかといえば助けてくれた事への 感謝の気持ちの方が勝っていた。 「これからはゆっくりと大切に使っていくからね!」 笑顔をで発せられたゆっくりという単語に自然に反応し言葉を返すゆっくり霊夢 「うん、ゆっくりしていこうね!」 だがゆっくりは気づいていない。チルノがこれからもゆっくりを「使っていく」ということに。 そして何故ゆっくり霊夢が悲鳴を上げていたのかを、まだチルノは理解していないという事にも・・・
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最近、ゆっくりをゆっくりさせないという過激な行為が流行っているようだが ゆっくりは、ゆっくりしてこそゆっくりではないだろうか? そこで、ゆっくりを存分にゆっくりさせることにした そうは言っても、市販されているゆっくりは管理された環境で適度にゆっくりしているのが常だ どうせゆっくりさせるなら、野生のゆっくりにしたい 方針が決まったので、ゆっくりせずに住み慣れた家を抜け出す 向かった先は、村外れの畑 道中、ゆっくりフランを見かけた 「ウー! ウー!」とうなり声を上げながら、殺意をみなぎらせて飛んでいる ゆっくりレミリアでも追いかけているのだろうか? 暴れられると厄介なので、沈黙を決め込む そうして、次に見つけたのは――どこにでもいる霊夢型だった 畑の中で、むしゃむしゃと大根をかじっている ほんの一瞬、先ほどのゆっくりフランをけしかけてみたいという衝動に駆られたが―― 今回の目的は、あくまでもゆっくりしてもらうこと 争いは望むところではない ゆっくりに気付かれないよう、ゆっくりと距離を縮めていく もうちょっとで手が届くというところで、ゆっくりがゆっくり振り返った 「だ、だれ?」 プルプルと体を震わせる、ゆっくり霊夢 その瞳には、怯えを含んだ光があった けれど、愛想よく「こんにちは」と挨拶をしてやると――ゆっくりの警戒心は、どこかへ飛んでいったようだ 「こんにちは! ゆっくりしていってね!」 ぴょんぴょんと、元気良く飛び跳ねるゆっくり霊夢 「じゃあ、少しだけ」 誘いに応じ、土の上へと腰を下ろした 「ゆっくり食べていってね!」 食べかけの大根を差し出すゆっくり 土まみれの上によだれ付きのそれは、贔屓目に見ても食欲のそそるものではない 「お腹は減ってないの」 「ゆ?」 「そう、さっきご飯を済ませたばかりで」 言いながら、ゆっくりに手を伸ばす ふにゃりという感触が心地良かった そのまま抱き上げると、ゆっくりは不思議そうに見上げてくる どうやら捕まったという意識は無いようだ 「もっとゆっくりできる場所があるんだけど、そこへ行かない?」 キラキラ輝く瞳を見ながら、そんな提案をした 「うん! ゆっくりあそぼうね!」 道すがら、ゆっくりは盛んに話しかけてきた 「ゆっくりしていってね!」「ゆっくりしようね!」「どこにいくの?」「なにしてあそぶ?」 だが、今回の目的はゆっくりしてもらうこと 会話をすることではない 通りかかる者もなく、芝居を続ける必要もなかった だから、何も答えない 黙々と歩き続けていると、ゆっくりの様子がおかしくなってきた 「ゆ、ゆっくりしていってね!」「ねえ! おしゃべりしよう!」「ゆっくりこたえて!」 答える必要は無かった 家まで戻ってくることができたのだ ここまで来れば、人目を気にする必要は無い 後は、ゆっくりにゆっくりしてもらうだけ 台所へ向かい、鳥もちを用意する それを、ゆっくりの底面に塗りつけた 「ゆ!?」 奇声を上げ、もがくゆっくり その力は思っていたより強く、腕の中から抜けられてしまう 飛び出したゆっくりは、放物線を描いて宙を舞い―― 「……ゆぶっ!?」 ――床の上に転落した 綺麗に落ちたせいだろうか? ゆっくりは転がることもなく、べっとり床にくっついた 想定外の場所だったが、ここに固定してしまうのも良さそうだ 「ゆ、ゆー!? ゆっくりうごけない! ゆっくりうごけないよ!」 言いながら、ずりずりと這い進むゆっくり 鳥もちの量が足りないせいか、ゆっくりとなら動けるようだ 言っていることと矛盾している 「あなたは、ゆっくりしたいんでしょ?」 鳥もちを手にとって、ゆっくりに貼り付けた 「やめて! ゆっくりやめて!」 「だったら動かなくてもいいよね?」 「ゆっくりうごきたい! ゆっくりたすけて!」 「動かなくてもいいじゃない。あなたは、ゆっくりしていたいんでしょ?」 「やだあああ! うごきたい! ゆっくりうごきたいよ!」 そうこうするうちに、ゆっくりの全身を固めてしまった 少しやりすぎた気もするが、脱出される心配はなくなったわけだ そろそろ、仕事の続きをしないといけない 騒ぎ続けるゆっくりを放置して、書斎へと足を向ける 背後からは「ゆっくりたすけていってよー!」という叫びが聞こえてきたが――気にするほどのことでもなかった 東の空から、星が昇り始めた そろそろ夕食の時間である 筆を止め、台所へ向かうと――ゆっくりは、泣き疲れて眠っていた ゆっくりしていて、良いことだ けれど、それも料理を始めるまでのこと 食べ物の匂いをかぎつけて、ゆっくりが目を覚ます 「おなかすいた! おなかすいたよ!」 「二度言わなくても大丈夫。耳は良い方だし」 「なにかたべたい! ゆっくりたべたい!」 「ご飯なんか食べないで、ゆっくりしていれば?」 「食べないとゆっくりできないよ!」 「食べなくてもゆっくりできるようになってね」 そんなやり取りを、食事の完成まで繰り返す とても楽しい 「それじゃあ、私はご飯をいただきます。あなたは、ゆっくりしていてね」 「やだああ! なにかちょうだい! おなかすいたよ!」 ゆっくりが騒ぐ中、台所でした食事は――いつもよりおいしかった 真夜中 耳に届いた「ゆっくりしていってね!」という言葉で目を覚ます ロウソクを片手に台所へ行くと、ゆっくりがだらしなく口を開けていた 少し離れて、一匹の蜘蛛 ゆっくりの舌が届くかどうかという場所をうろうろしている 夜の蜘蛛は殺せと言うが、今回は話が別だ 拾い上げ、窓の外へと逃がしてやった 「ゆ、ゆっくりしていってよー!」 泣き叫ぶゆっくり 「行儀が悪いのね。もっと、ゆっくりできるようになりたい?」 言いながら、ゆっくりの口をこじ開ける 「やべへえ! ゆっぐりやべへえ!」 「何て言っているのか、分からないなあ……あまり、耳は良くないの」 ゆっくりの舌を引き出し、鳥もちを塗りつける そのまま、床に貼り付けてあげた 「ゆ゛……! ゆ゛……!」 ゆっくりの声は随分小さくなった これでゆっくりと眠れそうだ 翌朝 台所へ行くと、ゆっくりは真っ赤に顔を腫らしていた 昨晩は、まったくゆっくり出来なかったに違いない 床の水溜りは、ゆっくりの流した涙の跡だろうか? 「ねえ、ここから出たい?」 呼びかけて、舌に絡めた鳥もちを外してやる 「おうち……! おうちにかえりたい……!」 「出してあげようか?」 「……え?」 ゆっくりが、顔を輝かせた 畑で会った直後のように 「ゆっくり出たい! ゆっくり出して!」 「はいはい、今出してあげるね」 ゆっくりの両脇に手をかけて、一気に引っ張ってみる 中身のあんこが大きくずれる感触が、指先に伝わってきた 「ゆ゛!? ゆっぐりぃぃ! ゆっぐりやめでぇぇぇ!」 手を離すと、ゆっくりがぜえぜえと息をついた 「なに? やっぱりゆっくりしていたい?」 「ゆ゛、ゆっぐりじだぐない! ここからだぢで!」 「そう」 もう一度、ゆっくりに手をかける そのまま一気に引きはがそうとすると、またゆっくりが絶叫した 「やめでっ! やめでぇぇぇ!」 力を抜くと、ゆっくりは目をうるませた 「ゆ、ゆっぐり……もっとゆっぐりたずげで……」 「それは駄目。ゆっくりするか。急ぐか。どちらもなんて欲張りすぎでしょ?」 「やだああ! ゆっくりたすけて! ゆっくりたすけてよぉぉ!」 「どうしたい? ゆっくりしたい? それとも、ゆっくりしたくない?」 「ゆっぐりじたい! ゆっぐりじだいよおぉぉ!」 「なら、そのままゆっくりしていってね!」 ゆっくりが最後に喋ってから、一か月ほども経っただろうか? 今や、ゆっくりの皮はひび割れ、傷口からは干からびた餡子がのぞいていた これ以上のゆっくりは望めそうにない状態だ そろそろ、次の個体をゆっくりさせてやる頃かもしれない ゆっくり霊夢を見つけた畑へと、足を伸ばす そこでは、数匹のゆっくりが慧音先生に捕まっていた 「一体、どうしました?」 「ゆっくりは作物を荒らすからな。退治しているんだ」 先生が、手にしたクワを振り上げた 「こいつらは肥料になるから、救いはあるんだが」 ぐちゃっという音がして、一匹のゆっくりが自然に還る 「ゆっくりやめてえぇぇ!」「ゆっくりたすけてぇぇ!」「ゆっくりしたいよぉぉ!」 泣き叫ぶゆっくりたち それで、こちらの腹は決まった ゆっくりしたいと宣言した、帽子をかぶったゆっくり それを、優しくつかみ上げる 「このゆっくり、譲ってもらってもいいですか?」 「それは構わないが……阿求も、ゆっくりを食べるのか?」 複雑な表情をする慧音先生 ゆっくりを食べることに抵抗があるらしい 「いえ、ゆっくりさせてあげようかと」 「物好きだな……まあ、一匹ぐらいならいいさ。好きにしなさい」 「ありがとうございます」 礼を言い、ゆっくり片手に畑を出る 残されたゆっくりたちは、一匹、また一匹と悲鳴を上げながら潰されていった そんな中、抱えていたゆっくりが目を潤ませる 「おねえちゃん! たすけてくれてありがとう!」 完-
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夕闇が迫っていた。 傾いた日差しがアリスの影を伸ばす。 影の先には、「ゆっくり魔理沙」が一匹。震えながらアリスに向かい合っている。 「日暮れ前に帰ると言っていたのに、こんな時間まで何をしていたのかしら?」 穏やかに問いかけるアリス。 逆光となり、その表情はうかがい知ることはできない。 ゆっくり魔理沙の頬に流れる動揺の汗。 「ゆっ、ゆっくりしていたよ!!!」 取り繕うようにピョンピョンと飛び跳ねて、精一杯の笑顔を浮かべてみせるも。 「へぇ」 ごく短い応答にその動きも凍りつく。 「私とあなたとの約束は、そんなことで破られたの」 呟きながら、歩み寄ってくるアリス。 「魔理沙って名前のつくものは皆そうね。今日だって一緒に過ごす約束だったのに、欲しい本を思い出したなんて 勝手な理由でパチュリーの所へ……!」 不満を吐き出しながら、うつむき加減に近づいてくる。 ぷるぷると魔理沙の丸い体が震える。 本当は逃げ出したい。 だが、逃げだした際の末路は、この少女に拾われてからの数ヶ月間で嫌というほど思い知らされていた。 ゆっくり魔理沙は口をゆがめ、いやいやと全身を震わせる。 「ゆっくりした魔理沙がわるかったです!!! ごめんなさいいいいいい!!!」 おいおいと嗚咽をこぼしながらの哀願に、アリスは屈みこんでゆっくり魔理沙と視線を合わせる。 「みっともなく泣かないで。別に怒ってないわよ」 涙でぼやかえた魔理沙の視界には、子供をなだめるようなアリスの笑顔。 頭を優しく撫でるアリスの手に、ゆっくり魔理沙の表情もとろんと落ち着く。 「ほんとう?」 「ええ、怒ってないわ、あなたに何かあったのかと心配しただけ。さあ、早く帰りましょう」 アリスの細い腕に抱き上げられるゆっくり魔理沙。 柔らかな膨らみと穏やかな心音。 少しだけ残っていた魔理沙の緊張も心地よさに解けていくのだった。 翌日、ゆっくり魔理沙は機嫌よく野へ遊びに行く。 昨日の埋め合わせでやってくる魔理沙を迎えるため、今日も外に放りだされたゆっくり魔理沙。 「ゆっくりー!!!」 いつもは家に押し込められているだけに、開放感に勢いよく体も弾む。 このまま、ずっとゆっくりできたらどんなに幸せなことだろう。 だが、どんなに逃げてもなぜか必ず捕まった。 そして、「おしおき」を受けることになる。 前回の脱走では、深い森の奥、枯れた木のウロに逃げ込んで眠っていた。だけど、目が覚めると窮屈で透明な箱の中。 「ゆー?」 境遇を理解できないまま、とりあえず抜け出そうとする。 だが、上下左右、みっちりと詰め込まれてどうすることもできない。 その強制的な「ゆっくり」が、アリスによるものだと気づくのに時間はかからなかった。 横を向くことも許されない固定された視界の端っこに、背を向けて紅茶を口にするアリスの姿。 「おねえさん!!!」 呼びかけてみるも、反応はない。 「おねえさん、ここからだして!!!」 重ねた呼びかけも無視される。 「苦しいよ!!! だして、お願い!!!」 口調に懇願がこもりはじめても、アリスは振り向きもしない。 空しい呼びかけも、応える声がないまま過ぎていく時間。 三時間、何の変化もなく過ぎた頃、席から立ち上がって食事の支度を始めるアリス。 いつも美味しい食べ物を用意してくれた記憶に、ゆっくり魔理沙は「もうそろそろ出してくれるかな」と淡い希望が 芽生え始める。 「おねえさん、おなかすいたよー!!!」 表情の変化すら困難な箱の中、かろうじて愛らしい笑顔を形作るゆっくり魔理沙。 しかし、アリスが作った料理は一人分。淡々と食事を済ませると、魔理沙の視界から消えて、そのまま戻ってくる ことはなかった。 ようやく、ゆっくり魔理沙はアリスの怒りの深さを思い知る。 「ごめんなさい!!! もう逃げたりじまぜんがらっ、だじでぐだざい!!!」 箱を震わしての必死の謝罪。 だが、許されるどころか、もはや省みられることもなかった。 しまい込んで忘れ去ったオモチャのように、ゆっくり魔理沙から完全に興味を失ったアリス。 アリスの家において、ゆっくり魔理沙はもはやオブジェ以外の何物でもない。 そのまま、一日、二日、三日……そして、一週間。 放置されたゆっくりの体は、声を上げる力も失い、少しずつ干乾びていく。 ゆっくり魔理沙は、全身がひび割れそうな、びりびりとした猛烈な痒みに悶えるものの、身動き一つできない。 癒されることのない痒みと痛み。あと、どれだけ苛み続けられれば許されるのか、あるいは死ねるのか、ひたすらに 残された時間が狂おしい。 それだけに、アリスが近づいてきたその時は、ゆっくり魔理沙の期待が燃え上がった。 「おねえさん、いい子になるから!!! だから、だしてください!!! おねがい!!!」 媚を売るように笑顔で呼びかけるも、アリスの手はその箱の近くに置いていた人形を手にとり、そっけなく引き上げていく。 「い゛がな゛い゛でええええ!!! だじでよおおおおおお!!!!」 追いすがる、絞り上げるような声がアリスに届くことはなかった。 放置は続く。 霞んでいく、ゆっくり魔理沙の表情。 一ヶ月後、ようやく箱から出されたゆっくり魔理沙。しかし、しばらくの間、虚ろに壁をながめるだけの生物と化す こととなる。 そういうわけで、「箱」以来、ゆっくり魔理沙は脱走を試みることすらしなくなっていた。 それに、最近はアリスも優しく接してくれるようになってもいるのだし。 昨日のアリスの抱擁を思い浮かべて、魔理沙は嬉しげに森の奥へと飛び跳ねていくのだった。 森の奥、うっそうとした木々の向こうに、陽光の差し込む野原が開けていた。 陽だまりを受けて鮮やかに輝く草むらに、ゆっくり魔理沙は身をおどらせた。 「ゆっくりしていってね!!!」 跳ねながらいつもの言葉を口にする。 すると、にわかに木立が揺れる騒々しい音。 「今日もゆっくりしようね!!!」 言葉とともに姿をあらわしたのは、二匹のゆっくりたち。 一匹はよく見かける「ゆっくり霊夢」で、丸い顔に気色を浮かべて勢いよく近づく。もう一匹は「ゆっくりパチュリー」で、 あまり外にでないことと、病弱ですぐ死ぬために希少種とされていた。 ゆっくりパチュリーは他の二匹に比べ、どこか青白い顔。それでも、ゆっくり魔理沙に向けて懸命ににじり寄っていく。 待ち受ける、ゆっくり魔理沙の表情に浮かぶ心配げな眼差し。 「ゆっくりきてね!!!」 「むきゅーん!!!」 魔理沙に応じるその鳴き声も、この種特有のものとされている。 ゆっくりパチュリーは飛び跳ねることができないのか、じりじりと這いよって、ゆっくり魔理沙の元へぴったりと寄り添った。 「みんなで、ゆっくりしようね!!!」 魔理沙の真上に飛び乗るゆっくり霊夢。 三匹、押し合いへし合い、頬をすりよせている。 アリスに捕まる前からの友達との邂逅に、ゆっくり魔理沙も満ち足りた笑顔だった。 そんな三匹の前を、白い蝶がふわふわと通り過ぎる。 「待って、ちょうちょさん! ゆっくりしていってね!!!」 風に吹かれるがまま漂う蝶々を、思い思いに追いかけていく三匹。 やがて、白い蝶々は蜜を求めて野の花に止まった。 戦闘を駆けるゆっくり霊夢が、勢いよく飛び込んでいく。 「ゆっくりいただきます!!!」 ぱっくり開いた口で、蝶々をまるごと飲み込んで、花ごともぐもぐと咀嚼する。 「霊夢だけ、ずるい!!!」 ゆっくり二名が飛び上がって抗議すると、ゆっくり霊夢は魔理沙の元へ。 いきなり、ぺったりと唇を合わせる。 そのまま、口の中のものを、ぺっ、と渡した。 獲物を受け取った魔理沙は、頷いて最後尾を息を切らしてついてきたゆっくりパチュリーに向き合う。 パチュリーは、荒い息のまま、そっと目を閉じた。 「魔理沙、ゆっくりシてね……」 そんな仕草に、なぜか戸惑った様子でゆっくり魔理沙が口付け。 「む、むきゅうー!!!」 「……!!!」 途端に吸い上げられ、身動きのとれなくなるゆっくり魔理沙。 やがて、ぴくぴくと震えて、色合いが若干紫がかってくる。 「ゆっくり離してね!!!」 ゆっくり霊夢が魔理沙の帽子を噛んで、懸命に引っ張る。 ちゅーっぽんっと、小気味いい音がしてばらばらに弾む二匹。 「……ぷはあ」 満足げなゆっくりパチュリーと、白目をむくゆっくり魔理沙。 ゆっくりたちの繰り広げる楽しげな一幕。 しかし騒動の最中のため、三匹とも聞き逃していた声がある。 無機質な響きを持つ、不思議な声。 「シャンハーイ」 それは、上空から見下ろす、一体の人形の呟きだった。 まだ、日暮れまでは時間があったが、アリスを怒らせないため、名残り惜しそうな友達に別れを告げるゆっくり魔理沙。 懸命に転がってかけていき、一息にアリスの家へ。 アリスは家の外、ゆっくり魔理沙に背を向けて立ち尽くしていた。 「ゆっくりしないできたよ!!!」 慌てて、する必要のない言い訳を口にするゆっくり魔理沙。 「おかえり」 簡潔なアリスの答えだが、返ってくるまで時間を要した。 やがて、アリスの肩がかすかに震え始める。 どうやら、声もなく笑っているらしい。 「ゆー?」 アリスの様子に小首……いや、全身を傾げて疑問を呈するゆっくり魔理沙。 「あのね……魔理沙がうちにきたんだけど、予定を取りやめて霊夢のところの宴会に参加しようぜって、言い出して」 うふふうふふふと、笑いはかすれた声になって、ひそやかにゆっくり魔理沙のもとへ届く。 「なんで、私と二人っきりでいる時に霊夢が出てくるのよ?」 そんなことを聞かれても、ゆっくりは答えられない。 ただ、異様な主の様子を見守るだけだった。 「なんで、私と話すよりもパチュリーの、あの喘息女の図書を漁る方を選ぶのかしら」 アリスの言葉は誰の返事を期待しない罵りと化す。 「そして! 何で、あなたはあの憎たらしい奴と同じ顔をしているのよ!」 「ゆ、ゆっくり、ゆっくりしていってね!!!」 ようやく振り向いたアリスの怒気こみ上げる表情に、ゆっくりはすくみあがっていた。 つかつかと歩み寄り、その顔面そのものを両手で掴まれても逃げる素振りもできない。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ! ゆっくりしてえええ!!!」 ぎゅうううううっと、細腕とは思えないアリスの力で締め上げられるゆっくり魔理沙。 変形して、もはや人の顔の面影もない。 「ねえ、魔理沙。こんな思い、私だけがするのは不公平だと思わない?」 頷かなければ、ぶちまけられる。 ゆっくり魔理沙は同意を涙目で訴えて、ようやくその万力から開放された。 「そう。なら、あなたにもしなければならないことがあるわ」 面白いことを考え付いちゃった。そんな素振りで手を組み合わせて、はにかんだようなアリスの微笑。 そっと、ゆっくり魔理沙の耳元に口をよせて、何事かささやく。 魔理沙の表情は、囁かれる度に火箸を押し当てられたかのように、苦痛の色合いの濃くなる表情。 反対に、囁き続けるアリスの表情は恍惚にとろけそう。 「ねえ、魔理沙。やらなければどうなるか、わかっているわね? あなたと、あなたのお友達が、ね」 いつにも増して可憐な笑顔で念を押す主を、ゆっくり魔理沙は心の奥底から恐怖した。 翌日、いつもの遊び場となる野原にゆっくり魔理沙がやってくると、茂みから顔を覗かせるゆっくり霊夢と パチュリーの二匹。 だが、二匹は魔理沙の後をついてきた人間に、不審げな視線を向ける。 「あの人も、ゆっくりできる人?」 ゆっくり霊夢の視線の先にいる人物とは、アリスだった。 上海人形を肩にのせ、無表情でゆっくりたちを眺めている。 だが、ゆっくり魔理沙は仲間たちの疑問に取り合わない。 「霊夢とパチュリー、よく聞いてね!!!」 強張った顔で告げるゆっくり魔理沙の言葉に、きょとんとして魔理沙を注視する二匹。 そのため、アリスが口の端をゆがめるように笑ったのを、二匹を見逃す。 「パチュリーは病弱で足手まといの癖に、べったりしてきて気持ち悪いよ!!!」 思いがけない魔理沙の言葉に、目を見開いて衝撃をありままに体現するパチュリー。 「目障りなので、家で永遠に寝こんでいればいいと思うよ!!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」 「パチュリーはゆっくりしね!!!」 魔理沙の追撃に、ガクガク揺れながら、一歩、二歩、ゆっくりパチュリーが遠ざかっていく。 その様子を微笑みで見つめているのはアリス。 学芸会で主役となった子供を見守るように、ゆっくり魔理沙を見つめていた。 「そんなひどい魔理沙とはゆっくりできないよ!!! 謝って!!!」 一方、ゆっくり霊夢は体を激しく弾ませて魔理沙に詰め寄る。 ゆっくり魔理沙はしばらく詰め寄られるがままに後ろに転がっていく。 が、アリスが視界に入って踏みとどまり、叫んだ。 「霊夢なんかと、ゆっくりしたくない!!! 霊夢は餡子が腐ったみたいな匂いがするもん!!!」 「!!!」 今度は霊夢が白目をむく番だった。 「臭いのは大嫌いだよ!!! 大嫌いな霊夢とゆっくりしたくない!!! 目の前から消えてなくなってね!!!」 あれだけ躍動的に弾んでいたゆっくり霊夢の体が、もはや微動だにしない。 しかし、時間の経過と共に震えだす。凍りついた表情の双眸からは、ぽろぽろと零れ落ちる涙。 「ま゙り゙ざびどい゙! びどい゙! びどい゙いいいい!」 ぷるるると、全身を震わせる霊夢。 受け止める魔理沙は身じろぎ一つできな。 「魔理沙なんが、も゛う゛、じら゛な゛い゛!!!」 一際高く弾んで、枝をへし折りながら茂みの奥へと消えていくゆっくり霊夢。 よろよろと、その後に続くパチュリー。何度か振り向きつつ、森の奥へ。 後には無言のゆっくり魔理沙と、アリスだけが残された。 「よく、できました」 アリスが音を立てない拍手をゆっくり魔理沙にささげる。 その言葉に振り向く魔理沙。 「ゆっ、ゆっ、ひっく……!!!」 堪えていた涙が、友達が消えた後はとめどなく流れている。 「よしよし」 アリスは、アリスの教えたとおりの言葉を友達に伝えて一人ぼっちになった、ゆっくり魔理沙の頭を撫でてあげた。 至福の笑み。 「うふふふ、魔理沙も同じ目にあわせてられれば、私が慰めてあげられるのにね」 先ほどの光景に、どんな想いを重ねているのだろう。 アリスが一人ごちた、その時だった。 「おー、アリスじゃないかー!」 頭上から降り注ぐ、気楽な声。 アリスは弾かれたように虚空を見あげる。 「ま、魔理沙! なんでこんなところに!」 アリスの狼狽の向かう先は、箒に跨った本物の魔理沙の姿。 「いやな、茸狩りにいそしんでいたわけだが、ゆっくりどもが勢いよく走っているのを見かけて、興味本位でよってみた」 縁を感じる遭遇だが、アリスは喜びよりも背を伝う冷や汗を感じる。 もう少し遅れていれば、自分の醜い部分を魔理沙にさらけ出すはめになっていた。 胸を撫で下ろしながら、アリスは取り繕いをはじめる。 「ええ、この子がお友達と喧嘩したみたいで、慰めていたのよ」 言いながら、ゆっくり魔理沙の頭をごしごしと撫でつけ、押さえつけるアリス。 地に下りた魔理沙は、アリスの手の下で縮こまり、涙をこぼすゆっくり魔理沙に向けてかがみこんだ。 「この、ゆっくり私バージョンが、か? それは私としても気になるな。早く仲直りしろよ」 自分と同じような格好の生き物が相手なのだから気味悪がればいいのだが、魔理沙は気のいい笑顔でゆっくり魔理沙を 慰めに入る。 魔理沙の視界の外で、苛立ちを浮かべるアリス。 今だけは早く帰ってほしい。まずはそれが第一だが、同時になぜ魔理沙は自分以外にこんな優しさをほのめかす のだろうという不満にもつながる。 「ええと、魔理沙。この子のことは任せて、茸狩りを続けて……」 離れ欲しいと促すアリスの言葉だが、生憎、不意に目の前に現れた乱入者によって阻まれる。 「ゆっくり考えてきたよ!!!」 茂みから飛び出してきた、ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーだった。 よく見れば、二匹とも涙の跡が乾いていない。 それなのに、ゆっくり霊夢たちがゆっくり魔理沙を見つめる視線は、この上なく優しげだった。 「魔理沙の気持ちを知らなくて、ごめんなさい」 ぺこりと、沈み込むように霊夢のお辞儀。 「もう嫌な思いをさせないよう、遠くに引っ越すから、安心してね!!!」 その言葉に、ゆっくり魔理沙の眉が悲しみにゆがむ。 だが、頭の上にのせられたアリスの手の冷たさを思い出して、何とか堪えていた。 一方、霊夢とパチュリーの目は潤みだし、唇は嗚咽がこぼれないよう、真一文字に結ばれていた。 「……っ!!!」 けれど、想いを伝えるために霊夢は口を開かなくてはならない。 「……まりさ!!! もう……会えなくなるけどっ……!!!」 一度あふれた滂沱の涙を、霊夢もパチュリーも止めることができない。 涙声を絞り出す。 「これからも……わ、わだじだぢのぶんま゛で、ゆ゛っぐり゛じでい゛っでね゛!!!」 後には、二匹の押し殺した嗚咽が低く響き渡っていた。 ……アリスの手のひらを、ゆっくり魔理沙の深いあえぎが伝わってくる。 心を押さえつけるその限界に、もはや余裕はない。 「おい、このままでいいのか、ゆっくり私! 違うだろ、このままでいいわけがないぜ!」 なのに、人間魔理沙が一人、熱く語りだす。 いつもはそこが大好きな部分なのに、たまらなくウザく感じるアリス。 魔理沙の言葉と、アリスの刺すような視線。 そのベクトルの異なる力に押し出されて、ゆっくり魔理沙は前に踏み出す。 「霊夢、パチュリー、もう一度よく聞いてね!!!」 こいつ、ばらす気か!? 言葉の強さに、思わず息を呑むアリス。 一際、その手の圧力を強めて睨みつける。 ゆっくり魔理沙は、体を震わせて叫んだ。 「これで、新しい友達とゆっくりできるよ!!! さようなら、大嫌いな霊夢とパチュリー!!!」 勝った! 緩みそうになる口元を必死に抑えるアリス。 「お前!」 「魔理沙、仕方ないわよ。この子の意思ですもの」 声を荒げる魔理沙を、アリスは完璧に沈痛な面持ちで制止した。 寂しげな笑顔だけを残して、後ろを向く二匹のゆっくり。 静かに遠ざかるその背中に、アリスが気を緩めたそのときだった。 「でも゛!!!」 隙をついて、アリスの手から逃れたゆっくり魔理沙が二匹の下へ転がって走っていく。 その声に振り向きかけた霊夢とパチュリーに、呼びかけるゆっくり魔理沙の顔は、堪えに堪えた涙でくしゃくしゃだった。 「だいぎらいな二人でも、い゛っじょに、ゆっぐり゛じだいです! だがら、い゛がな゛い゛でええええ!!!」 「……ま゛り゛ざああああああ」 暖かい涙をこぼして、ゆっくり魔理沙を迎え入れる霊夢とパチュリー。 再び三匹となった一群は、そのまま森の奥へ走り出す。 「ま、待ちなさい!」 「行かせてやれ、アリス」 追いかけようとしたアリスの前を塞ぐ、魔理沙の腕。 「アリスは、あいつの仲直りの口上が気に食わないかもしれないが、あいつも私に似て素直になれない奴なんだぜ」 いや、そんなことじゃねーよと、張っ倒したいアリス。 だが、魔理沙の次の言葉に追う気が粉砕された。 「ところで、アリス。私たちは親友だよな」 「え、えええ!? なに、なんなの、突然!」 一瞬で、ゆっくりのことが吹き飛ぶアリス。 湯気が噴出しそうな顔を手のひら抑えながら、魔理沙を見つめた。 「そ、そうね、親友かもしれないわね。見る人によっては!」 一緒にお風呂に入る、同じ布団で寝る、後ろからそっと抱きしめる。親友としてできそうなこと、あれこれ 妄想するアリスだった。 一方、魔理沙はぽりぽりと頭をかきだす。 「それじゃあ、許してくれるよな」 「へ?」 アリスが間抜けに呟く。 なにやら雲行きが怪しくなってきた。 「いや、明日あたりアリスに丸一日付き合うつもりだったけど、フランの奴がどうしても弾幕遊びがしたいって、 紅魔館から呼ばれていてさ。ほら、あいつ手加減できないから、私も丸一日付き合わないといけなくなる。悪いが、 丸一日付き合うという話自体、なかったという方向で」 「え、えええ!?」 「そういうことで、じゃあなー」 驚愕に硬直するアリスを置いて、自分勝手に青空へと飛び出していく魔理沙。 一人佇むアリスの頬を、冷たい風が草むらを震わせて流れていく。 「……一人に、なっちゃった」 寂しげな呟きも、風の音にまぎれて消えていった。 三匹のゆっくりは、ゆっくり霊夢の寝床に身を寄せ合っていた。 うっそうとした藪の奥の、風の穏やかな洞。 すでに日は没し、暗がりに包まれてはいたが、アリスの家のように閉じ込められる寒々とした暗闇ではない。 傍にいる仲間の温もりが嬉しい、心地よい闇。 一息ついた三匹は目線を交わし、深く身を屈め、揃って一気に飛び上がる。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくり魔理沙の暴言も、仲睦まじい合唱に、しこりを残した気配もない。 これで完全に仲直り。 そして、あの魔女にさらわれる前の楽しかった日々に戻ったのだ。 こみ上げる幸福感に、ゆっくり魔理沙の頬を伝う幸せの涙。 「みんなと……ゆっぐりでぎで嬉じいい」 その涙は、ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーが舐めとった。 三匹は、かつてのように身を寄せ合い、そのまま眠りにつく。 夢に見たのは、野原を転げまわり、バッタを追っかけ、日向ぼっこでゆっくりと時を過ごす、幸せな明日の光景だろうか。 眠りこける三匹の元へ届くのは、月の光と梟の鳴き声。 だからだろうか、梟の鳴き声に似たその声を、聞きつけるものはいなかった。 それはどこかで聞いた、無機質な声。 「ホーラーイ」 夜陰に潜む、人形の呟き。 翌朝。 藁をしきつめた寝床で眠ったはずなのに、横たわるゆっくり魔理沙の体は、冷たさと固さを感じていた。 「ゆー?」 寝ぼけ眼が、次第に鮮明になっていく。 品の良い調度品、暖かな暖炉、そして棚を埋め尽くす人形の軍団。 「ゆっくり!?」 なぜ、アリスの家に。 飛び上がろうとする魔理沙。だが、天井を押さえつける透明なガラスの板に、飛び上がることもできない。 「ゆっ!」 悪夢がよみがえるゆっくり魔理沙。 ただ、依然と若干違うのは箱の構成。 横幅と高さはぴっちりとしているが、前後に細長くスペースがあって、少しだが動き回ることができた。 「あら、起きたの」 頭上からの声に見上げると、そこには穏やかな微笑を向けるアリスの姿。 ゆっくり魔理沙の体の色が、血の気を失って土気色。食欲をあまりそそらない色になる。 「ご、ごごごごごめんさい!!! もうしないから、ここから出してね!!!」 許されないことがわかっていながらも、必死に弁明を口にした。 だが、次のアリスの行動は予想外のものだった。 「出たいのね?」 アリスが蓋の留め金をいじると、苦もなく開くガラス箱。 箱の中に手が差し込まれて、ゆっくり魔理沙はアリスの手で引き上げられる。 「これは昨日、人間用につくったものなの。だからそれなりに余裕はあったでしょう」 こくんと頷くゆっくり魔理沙。誰のためにつくったのかは、怖くて聞けない。 そのまま、椅子に腰掛けるアリスの膝にのせられて、髪を櫛でとかされるゆっくり魔理沙。 昨日のことは夢だったのだろうかと思い始めた頃だった。 「あんな野原で寝るから、髪がぼさぼさになるのよ」 アリスの呟きに現実のことと知る。 そして、沸きあがる不安は、隣で眠っていた仲間たちのこと。 「ゆっくりしてたみんなは!!!」 「大丈夫よ」 アリスは親切に、ゆっくり魔理沙を抱えて窓辺へ。 そこには野外を元気に走り回るゆっくりパチュリーの姿が。 アリスの人形を一体頭にのせて、かつてない元気のよさで飛び跳ねていた。 それにしてもこのパチュリー、ノリノリである。 「霊夢はまだ眠っているみたいね」 アリスの言葉が示す通り、室内に向けられたゆっくり魔理沙の視界の端に、ソファーの影に隠れ気味にゆっくり霊夢の 頬が見える。 全員の姿を確認して一息つくゆっくり魔理沙を、アリスはくるりと向きを変えて真正面から見つめていた。 「それでお願いがあるのだけど、みんな、揃ってうちにきてもらえないかしら? その、私一人じゃ寂しいからね。 全員一緒にいたいなら、皆、面倒を見てあげるわ」 その提案に、魔理沙に広がる驚きの表情。 「もちろん、自由に遊びに行ったりしてもいいのよ」 それは、すごく嬉しいことかもしれない。 住人を除けば、暖かな寝床と美味しいご飯。素晴らしい環境なのだから。 それに、今のアリスはまるで憑き物が落ちたのかのよう。 微笑に陰りがなかった。 「うん!!! アリスも、みんなとゆっくりしようね!!!」 「まあ、嬉しい。ところで、昨日から何も食べてないからお腹が減ったでしょう。今、用意するわ」 言われて、ようやく空腹に気づくゆっくり魔理沙。 恐らく、緊張感が解けて感覚が戻ってきたのだろう。 「ゆっくり支度してね!!!」 「大丈夫よ、準備していたから」 魔理沙の気遣いに笑顔を返したアリスは、布をかけてあった皿を掴みあげる。 「私の知り合いに中国という方がいて、この前、料理を教えてもらったの」 魔理沙の前に差し出されるお皿。 「餃子っていう食べ物よ」 布が払いのけられて、アリスの言う餃子が姿をあらわした。 ふわりと漂う香ばしさと、こんがりと狐色の焦げ目が、ゆっくり魔理沙の食欲をそそる。 「わぁ、美味しそう!!! おねえさん、これ本当に食べていいの!!!」 「あなたに食べさせるためにつくったのよ」 アリスの笑顔に後押しされ、その餃子にむしゃぶりつく。 ほっくほくの皮。そして中の具から染み出す旨みにと甘さが、ゆっくり魔理沙の口に広がっていく。 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 「ふふふ」 素直な反応が嬉しいのか、満足げに魔理沙の髪を撫でるアリス。 だが、皿をも嘗め尽くす勢いで餃子を貪っていた魔理沙が、ふと動きを止める。 「おねえさん……」 その声は震えていた。 「この餃子……なんかおかしいよ……シュっご……く……」 ぷるぷると身を震わして、半開きの口からだらしなく流れるよだれ。目じりにたまる涙。 「どうして? 慣れている味だと思うのだけど」 アリスは、その魔理沙をテーブルにのせて、静かに立ちあがる。 向かう先には、ソファー。そして、その影には未だ眠り続けていると聞くゆっくり霊夢の姿があった。 「だって、ほら」 ソファーの影から、けりだされるゆっくり霊夢。 いや、霊夢だろうか。 そのゆっくりは、額から上を切り取られていたため、アリスには見分けがつかない。 それでも、魔理沙にはわかったようだ。 「れ゛い゛む゛ううううう!!!」 ゆっくり魔理沙の声が聞こえたのか、ぶるんと震えるゆっくり霊夢の体。 「ゆっゆっゆっゆ」 しかし、目をひんむいた霊夢が壊れたうめきをあげるだけ。 アリスはその霊夢を、真上から覗き込んだ。 「大分減ったわね」 まるで、米びつを覗き込んで嘆息する主婦のよう。 少なくとも、生き物に向ける口調ではなかった。 「おねえさん、霊夢を、霊夢の中身をどうしたのおおお!!!」 「あらあら、知っているくせに」 わき上がる、ケラケラと抑えの利かないアリスの笑い。 「今は、あなたの口の中よ」 一瞬の沈黙。 「ぱぴぷぺぽっ!!! ぱぴぷぺぽおおおお!!!」 絶叫と共に、やみくもに壁にぶち当たろうとするゆっくり魔理沙。 「ゆっ!?」 だが、アリスが目配せすると、それまで棚を飾っていた人形たちが一斉に魔理沙に襲い掛かる。そのうち一匹の手には、 細く鋭い釘。 「ひぎい!」 ゆっくり魔理沙は床に縫いとめられていた。 「あらあら、お友達とお揃いになったわね」 アリスは視線を魔理沙から外し、窓の外で。 そこでは、相変わらずゆっくりパチュリーが走り回っていた。 青白い顔で、息も絶え絶え、涙とよだれを垂れ流しながら。激しく咳き込んでは、びくりと跳ね起きてなおも走り続ける。 そのゆっくりパチュリーの頭の上には、無表情の上海人形。手には五寸釘の根元を握る。その先は、ほとんどの部分が ゆっくりパチュリーに埋め込まれていた。 かろうじて走り続けていたパチュリー。だが、息を切らせてとうとうへたりこんだ。 「あああああ!!!」 途端に、ぐりぐりとひねりこまれる五寸釘。 のけぞって、いやいやと首をふるゆっくりパチュリー。 「や゛め゛で、や゛め゛で! 走りますう!!!」 のたうちながら、よたよたと動き出す。 べしょべしょの顔を濡らしながら感動のフル24時間マラソンはいつまでも続いて行くようだ。 けれども、パチュリーの体力と持病はそれを許さない。 「げほっ、がはっ……!!! ゆっぐり、じだいいいい!!!」 咳き込んで、のたうつパチュリー。 上海人形はアリスの指示通り、無表情のまま五寸釘でえぐる。 「む゛ぎゅーーーん!!! ゆっぐりでぎないよおお!!!」 パチュリーが泣き叫ぶ先には、窓辺に腰掛けるアリスの姿。 だが、アリスは背をむけていて、もはやその姿を見てもいない。 「……本を餌に魔理沙を釣る女と、同じ格好をしているのが悪いのよ」 死刑宣告に等しい言葉を吐き捨てながら、アリスは床に這うゆっくり魔理沙へと、かがみこむ。 「ところで魔理沙。あなたの一番好きな子を教えて。誰にも言ったりしないから」 なぜか、年頃の女の子のようなことを聞く。 だが、ゆっくり魔理沙にはわかっていた。 ここでアリスの名前以外を挙げれば、その相手は死ぬ。 「アリスが、アリスが一番大好きだよ……ぶぎゃっ!!!」 魔理沙の懸命な言葉は、口にねじ込まれたアリスの靴先に遮られた。 ゆっくりと靴を引き抜くアリス。 「だぜ、よ」 修正点を手短に伝えた。 「うん! 魔理沙は、アリスのことが誰よりも大好きだぜ!!!」 「……もう一度」 「アリスが大好きだぜ!!!」 その言葉にぷるぷると震えるアリス。 「ああもう、嬉しいわ!」 言うなり、渾身の力でゆっくり魔理沙を抱き上げるアリス。 締め上げられながら、魔理沙は一言も声をあげない。 ゆっくり魔理沙は、諦めていた。 ここにいることしか、もう自分は許されないのだと。 誰かに助けを求めると、その誰かが不幸になってしまう。 「アリス、ずっと一緒にいるぜ」 呟きながら、ゆっくり魔理沙は思う。 零れ落ちる涙も枯れてしまえばいいのに。 涙で滲んでぼやける視界。 その中で、幸福そうに微笑むアリスだった。 こうして、アリスとゆっくり魔理沙の幸せな毎日はまだまだ続いていく。 めでたし、めでたし。
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「いだい、いだいよ!!」 「やめでー、もうやめでー」 「ままー、まま、どこー」 「れいむ!!れいむ!!」 「ゆぎぃ!!ゆぎぃ!!やめで!!」 巨大なすり鉢にゆっくり達は落ちて行く。 回転するすり鉢の内側には荒い紙やすりが貼られていて、ゆっくり達は死ねない程度に痛めつけられる。 運悪く仲間とぶつかったり、目に紙やすりが当たり、それが致命傷となるものもいるが 強引に抜け出そうとするものもいる。すり鉢と言っても傾斜はとても緩やかだ。 ゆっくりでもがんばれば抜け出せる。運よく抜け出したものは仲間が傷つく様を見せ付けられるだけだが、 すり鉢の回転が止まり、ゆっくり達がすり鉢から這い上がってくる。 抜け出した何匹かは仲間を労わり、傷を舐めてやる。 しばらくすると餌が運ばれてくる。動けるようになったものはまだ動けないものに優先的に餌を運んでやる。 運ばれてくる餌の量は多い。群全体に行き渡り、なおかつ備蓄ができるぐらい貰える。 今日は大きく負傷したものや死んだものはいなかった。群の長のゆっくりれいむはそれを喜んだ。 「よくないよ!!」 ある若いゆっくりまりさが叫ぶ。周りのみんなの顔が青ざめる。 「めったなこといわないでね!」 群の長も若いゆっくりまりさを宥める。 まだ餌を運んできている兎がいるというのに。 「よくないよ!どうして、まりさたちがいじめられなきゃいけないの!!」 若いゆっくりまりさの周りからゆっくり達がいなくなる。 「まりさ、あやまってね。うさぎさまたちにあやまってね!!」 群の長は必死に若いゆっくりまりさに言うが、若いゆっくりまりさはがんとしてやめない。 「いじめるのはよくないことだよ!!」 一羽の兎が若いゆっくりまりさに近づく。 若いゆっくりまりさは逃げずに、身構える。内心、怖くて仕方なかったが、震えを押さえ兎を睨む。 兎は両手を高く広げ、若いゆっくりまりさに背を向け、ゆっくり達に語りかける。 「このゆっくりの言う事は正しい。我らはお前達を傷つけ、お前達から奪い、お前達に強いた。お前達は不当に扱われた!!」 他の兎たちがおろおろしだす。だが、この兎はやめない。 この実験はこういうものだ。常に状況が変化する。 「勇気あるゆっくりまりさはそれを君達に伝えた。君達はどうかこの勇気に答えるか、それとも」 兎が群の長を指差す。 「長の言う通り、我らへの服従、一方的で絶対的なこの支配を受け入れるか、選べ!!」 ゆっくり達がざわつく。村の長も若いゆっくりまりさも何が起こったか分からない。 「まりさのほうがただしい!!」 誰かが叫んだ。その後も同じ言葉が続く。 わあわあとゆっくりの群が騒がしくなり、 皆、ゆっくりまりさの周りに集まる 「選んだ。君達は選んだ。君達は我らの支配に反抗する」 「そうだよ。まりさたちはもうおまえたちにいじめられないよ!!」 「いいや、違う」 「ゆゆ!!」 「お前達が選んだのは反抗、それに対し我らの選ぶのもまた反抗。我らはお前達を撃退し屈服させまた支配してやる」 「ゆ!・・・のぞむところだよ!!ゆっくりかくごしてね!!」 鼻息荒く、若いゆっくりまりさは言い返す。 「ならば我らと君達に垣根は無い。ルールも、慈悲も、我らと君達はこれより対等な敵同士だ」 そう言い放つと兎は群の長であるゆっくりれいむを踏み潰した。 「絶対にお前達を屈服させてやる。屈服しない奴は全員殺す。酷い言葉で罵って声も出ないほど痛めつけて家族や友人の前で惨めに殺してやる!!」 兎は大声で怒鳴り散らす。それでもゆっくり達は挫けなかった。 若いゆっくりまりさの元、自分達の活路を見出すため、立ち上がったのだ。 目は希望に溢れ、声には力強さがある。 「お前達が私を睨む目を抉り出してやる。お前達が私を罵る声を奪い取ってやる。お前達にお前達が弱者である事を思い出させてやる!!」 そう喚くと兎は部屋を出て行った。他の兎たちもそれに続く。 扉は閉まらない。いつも堅く閉ざされていた扉が閉まらない。 「あそこからにげれるよ!!」 ゆっくりれいむが言う。 「まって!!」 それを若いゆっくりまりさが制止する。 「きょうはきずついてるこもいるよ。きょうはゆっくりしようね」 みんな、新しい群の長に賛同した。 「やってくれたわね」 八意永琳に前に三羽、兎が並んでいる。 二羽はしゅんと項垂れているが、一羽は反省の色すらない。 「申し訳ありません。永琳様」「本当に言葉もありません」 「いいのよ。あとは私が対処するわ。あなた達は下がって良いわよ。ただし」 永琳は一度ため息をついてから続ける。 「てゐ、あなたは残りなさい」 二羽の兎はてゐを庇おうとするが、別に咎める訳じゃないという永琳の言葉を信じて退室した。 「さて、ご苦労様、重畳ね」 「敵を欺くにはまず味方から」 「では、次の段階に移行して。あなたの裁量で良いわ。別に全滅でも構わないから」 「じゃあ、永琳様に協力して欲しい事があるんです」 てゐはクスクスと笑い。永琳に耳打ちする。永琳もつい口元が緩む。 「分かったわ、責任重大ね」 ゆっくり達は身体を休めていた。 そこへ一人の女の人がやってくる。 「助けてください!」 そう言うと、女の人は倒れこんだ。 「ゆゆ?どうしたの、おねーさん」 「だいじょうぶ?ゆっくりよくなってね!」 興味があるのか、元気なゆっくりは女の人を取り囲み声をかける。 「ああ、ゆっくりさん達、この群の一番偉い人は誰ですか?」 「まりさだよ」 後ろから声がする。ゆっくり達は新しい群の長のために道を明ける。 「あなたが」 「このむれのおさのまりさだよ。どうしたの?」 「聞いてください。私も兎たちに苛められていた哀れな人間なんです。今、私は隙を見て逃げ出してきたんです。どうか助けてください」 「ゆゆ?おねえさんたちのむれはどうなったの?」 「私以外、誰も・・・」 「ひ、ひどい!!」 「ドアが開いているという事はあなた達も兎と戦う事にしたんですね?」 「そうだよ。まりさたちはたたかうんだよ!!」 「餌が運ばれなくなります。そこの対策は大丈夫ですか?」 「たくわえがあるよ」 そう言うと群の長は部屋の隅にある餌の方を向いた。 「ええ、あれだけあれば。ですが、武器はありますか?」 「ぶき?ぶきはないよ・・・」 「では、兎たちがもう使っていない武器庫があります。私に案内させてください」 「ゆゆ?!いいの?」 「ええ、そこには食料もありますから、戦いには必要でしょ?」 「ありがとう。おねーさん、ゆっくりあんないしてね」 ゆっくりまりさと数匹のゆっくり達は女の人の案内で武器庫に辿り着いた。 辿り着いたと言っても、ゆっくり達がいる部屋の二つ隣の部屋なのだが、 「これが武器です。さ、銜えて」 武器、スポーツチャンバラで使うようなエアーソフト剣だ。 ここに置いてあるのは長剣と言われる刃が100cmあるものと、小太刀と言われる刃が60cmある奴だ。 長剣は大柄なゆっくりや力のあるゆっくりでないと振り回せないだろうが、小太刀なら比較的力の弱いゆっくりでも振り回せるだろう。 他にも刃の短い短剣や柄の長い槍や柄の両端に刃がついている棒や杖、あと盾もあるがここには置いていない。 ゆっくり達がそれを銜え、振り回す 「これならかてそうだよ!!」 「そう、私は別の部屋で仲間を探すわ。あなた達もがんばってね」 「うん、おねーさんもがんばって」 女の人は廊下の奥へ消えていった。 群の長達も部屋に戻る。群の長達が戻り仲間に武器を行き渡らせた頃にはもうみんなすっかり疲れ果てていた。 「ゴールデンラズベリー賞でした」 「あら、そう、次も主演でお願いするわ」 てゐと永琳がハイタッチを交わす。 「次は私達の番だから」 「ええ、がんばってね」 てゐは永琳を見送ると、他の兎たちに檄を飛ばす。 「もう少しでこの実験室と廊下は消灯となる。我らはその闇に乗じて奴らを撃破する」 他の兎たちはみな防具とゆっくり達と同じエアーソフト剣を持っている。 閉所での同士討ちを防ぐため、長い得物ではなく小太刀か刃が45cmの短剣、それに盾を持っている。 「これは卑怯か?否、我らは奴らより多くの選択肢を持ち、我らは奴らより冷徹な選択ができた。ただそれだけである」 廊下の明かりが消え、兎たちの得物を持つ手に力が入る。 「我らは兎、うさぎうさぎ何見て跳ねる。バカなゆっくり見て跳ねる」 てゐ達、兎は消灯から2時間後、偵察兵に部屋の様子を探らせた後、襲撃を決行した。 夜行性の兎にとって闇は敵ではない。 息を殺し、ゆっくりに近づき、剣を振り上げる。 てゐが挙げていた手を降ろすと同時に剣も振り下ろされた。 「叩け!!我らが敵を叩きのめせ!!」 てゐが叫ぶと、兎たちもそれに続く。 酷い言葉でゆっくり達を罵り、激しい言葉でゆっくり達を脅かす。 「この無能が!」「お前達が私たちに勝てるものか!」「餡子うめぇ!!」「どうだ、痛いだろ!!」 「鈴仙、好き、愛してる!!」「油断したな、バカが!」「痛がれ、もっと痛がれ!」「逃げろ、地べたを這いずり回れ!!」 「思い知れ!!」「ほら、こうだ。お前なんてこうだ!!」「おい、お前何食ってんだよ!!」 「おりゃ!!」「さっき鈴仙好きって言った奴誰だよ。表出ろ!!」「だから、お前、食うなって!!」 ゆっくり達は闇雲に逃げ惑うばかり、しばらくすると。 「よし、引き上げるぞ。バーカ」 「バカ」「アホ」「マヌケー」「餡子美味しかったよ」「能無し」「鈴仙抱いて」「また来るからな」 口々に好き勝手言い、兎たちは部屋を去った。 明かりが点く頃になり、ようやく被害が分かってくる。 身体を齧られているものもいるが、その他は案外無事だった。 あるものは残り傷ついたものの治療をし、あるものは武器庫に餌を取りに行った。 するとそこへ、またあの女の人がやってきた。 「まりさ、調子はどうかしら?」 「きのう、くらいうちにこうげきされたよ」 「あなた達、このドアの閉め方を知らないの?」 ちょっとまってね。と女の人はドアの隣の壁を調べ始める。 「あったわ。これよ」 カバーを外すとそこには赤いボタンがあった。 ボタンの位置はちょうどゆっくりの口当たりの高さだ。 「これを押せば」 女の人がボタンを押す、するとドアが閉まった。 「ね、このボタンで閉めれば外からは開けられないわ。寝る時はこれを使って」 「ありがとう、おねーさん」 「どういたしまして、じゃあ、私は行くわね。あなた達もがんばって」 女の人はまた廊下の奥に消えていった。 昼ごはんをみんなが食べ終わった頃、 防具と長剣、それに盾で武装した兎たちが部屋にやってくる。 「ゆゆ!!またきたな!!」 兎の一羽が前に出る。 持っているのは長剣ではなく、長い棒でその先にはゆっくりれいむが括り付けられている。 「この者は我らに反抗し、一方的な敗北をした無能な群の長である。この群れは自分達の行いを反省し、我らに服従しその証として長の命を差し出した」 ゆっくりれいむが泣き叫ぶ。まだ死にたくない。もっとゆっくりしたいと、 「我らは寛大にもこの者の処断のみで、我らに反抗した群を許した。お前達も寛大な我らの慈悲を賜りたければただちに降伏せよ!!」 「やめで、れいむはわるぐないよ!!わるいのはうざぎだちだよ!!」 それを見ていた兎たちは口々にゆっくりれいむを罵倒する。 「こいつ敗北者の分際でまだ言うか」「お前達は負けたのだ。お前達の命は我らのものだ」「弱者が強者に逆らうからだ」 「やめてね。そのれいむをはなしてね」 「敵の言う事なの聞くものか!!!」 長い棒を持っている兎は一際大きな声で怒鳴る。 群にいた赤ちゃんのゆっくり達はみな泣き始め、子どものゆっくりの中にも泣いてるのがいた。 「お前達は我らの敵だ。敵なら敵らしく我らを殺して、このゆっくりれいむを奪い取ってみろ!!」 長い棒を持った兎がそう言うと、他の兎たちが剣を構える。 「慈悲だ。今回は我らから攻撃はしない。ただし、そちらから攻撃すればこちらとて容赦はしない!!見ていろ!!」 兎は持っていた長い棒を振り回す。 「やめで!ゆっぐりでぎない!!もっどゆっぐりじたい!!」 「ゆ!!」 群の長は剣を持ち飛び出そうとするが、それをゆっくりパチュリーに止められる。 「むきゅー、まりさ、まってね」 「パチュリー、はやくしないとれいむが!!」 「まりさ、ここでたたかったらあかちゃんたちもきずつくわ。あのれいむはむれのこじゃない。がまんしてね」 「パチュリー・・・」 「みんなつらいし、みんなとびだしたいけど、がまんしてね」 兎はそんなやり取りに目もくれず、棒をまわす。 「やめで、だずげで、だずげて!!」 剣を構える兎たちに隙は無い。 「ゆぐぅ、ゆ・・・ゆげぇ!!」 餡子を吐き出してもまだ止められる事のない回転、 反抗してこないと分かると、兎たちは構えるのをやめる。 そして、ゆっくりれいむへの罵声を続ける。 「弱者に死を」「反逆者に死を」「能無しに死を」 回転が止められた頃には、ゆっくりれいむは餡子を吐きすぎて絶命していた。 もっとゆっくりしたかったと無念の言葉すら言えずに。 「我らの怒り、とくと見たか、我らの怒りの矛先、次はお前らに向くぞ!!」 そう言い放つと兎たちは帰っていった。 「ど、どうしよう、まりさ」 「ゆっくりあやまろうよ」 「なにいってるの、たたかって、れいむのむねんをはらそうよ」 「そうだよ。あんなやつらにぜったいまけないよ」 群れは二つのグループに分かれてしまった。 「ゆっくりきいて!!」 そこへ群の長である若いゆっくりまりさが大声で語りかける。 「まりさはみんながうさぎにあやまりたいなら、さっきのれいむみたいにころされるよ!!」 「ゆゆ?いいの?」 「まりさ、だめだよ!!」 「でも、また、あんなひどいめにみんながあうのだったら、まりさはしんでもしにきれないよ!!」 まりさの力強い声に、 「そうだ。うさぎをやっつけよう」 「う、うん、まちがってたよ。ゆっくりゆるしてね」 「まりさ、かっこいい」 みんなが賛同する。 「たたかおう!!」 「「「「「たたかおう!!」」」」」 その様子をモニターで見ている永琳はこの上なく楽しそうだった。 「本当に勝てると思っているのでしょうか」 鈴仙は心配そうにモニターを見つめる。 「元軍人の意見としては?」 一度ため息をついてから、鈴仙は言う。 「無理でしょう。てゐなら物理的、精神的に攻撃してきます。今はこのまりさ、求心力がありますが、結果が言動に伴ってこなければこの群の忠誠心は瓦解します」 「次はどんな計略で来るかしら」 「おそらくは内部から忠誠心に打撃を加えてくるでしょう」 「あれ、違うみたいよ」 「ええ?」 モニターにはてゐと武装した兎を十数羽ほど従えて部屋に入ってきた様子が映し出される。 『昨晩はゆっくり眠れたかね?』 マイクがてゐの声を拾う。 「あの子、ほんとノリノリですね」 「他の兎たちも感化されちゃってて楽しいわよ」 『よるはみんなねてるじかんだよ。ゆっくりできないの?!』 『何で夜に攻撃しちゃいけないの?バカなの?死ぬの?』 「いつにも増して口が悪い」 「あら、ここでやってしまうのかしら」 「たぶん、やられたフリをして油断させるんじゃないでしょうか」 『おまえたちはひきょうなことをしないとかてないんだね!!ゆっくりにげかえってね!!』 『全員、正面を睨みつけろ』 『ゆゆ、まりさたちがそんなのでこわがるわけないよ』 『全軍抜刀』 兎たちは剣を構える。中には二刀流のものまでいる。 『ゆゆ?!みんなけんをもってね!!』 『ゆっくりしすぎだな!!お前ら!!』 兎たちが一斉にゆっくりに襲い掛かる。 「あら、畳み掛けるみたいね。てゐにしては急ぎすぎかしら」 「じゃ、私はこれで」 「見ていかないの?」 「・・・いえ」 そう言って鈴仙は退室した。 迷い竹林の中、えーりん実験室の地下にはすっきりルームというものがあった。 そこにはゆっくりたちが集められていた。 「弱者のお部屋」と達筆な文字で書かれた部屋に因幡てゐはいる。 ここはゆっくりたちの反抗心を見る施設、 ゆっくりたちはここに弱者、被支配階級として連れて来られる。 「ちかのへやではゆっくりできない」 ゆっくりたちの宿舎でそんな噂を少し流してやると、 噂には尾が付き鰭が付き、ゆっくりたちにとって地下の部屋に連れて行かれる事は不幸となっていた。 「ゆべぇ!!!」 「もっどゆっぐりじぎゃ!!!」 「みゃみゃー、みゃみゃどぎびぃ!!」 「ゆっくりしげばぁ」 「もうやめで!ゆぎゅ!!」 「れいむのおめめ、みえなくなちゃった」 「むーしゃ、むーしゃ」 「まりさ、れいむをたべないでね!!」 「みんな、がんば、ゆぎゅ!!」 「こうさんするよ。ゆっくりしないでゆるしてね!!・・・ゆぎゃああああ!!」 一方的な敗北、 兎にまぐれで剣を当てても全く効果が無い。 対して、兎たちの一撃は全てが必殺の一撃。 「まりさ、ぜぎにんどっでじんでよ!!」 敗戦濃厚となると一気に群れは瓦解する。 策など用せずとも、こうなる結果だった。 群の長である若いゆっくりまりさは同属から押し出され、前線に送られる。 「いました。こいつです」 「お前が群の長だな」 「そ、そうだよ!!」 「来て貰うぞ」 ゆっくりまりさは透明な箱に入れられ、戦場から持ち出され、 戦いを眺めている、てゐのすぐ隣に置かれる。 「見ろよ」 「ゆ?」 「お前を見殺しにする奴らの末路だよ」 「ゆゆ?!まりさがしねば、みんなはたすかるんでしょ?!」 「何言ってんの?約束?した?」 「だって、れいむは」 「ふーん、で、あんたとその約束した?」 「ゆゆ、ひきょうだよ」 「よく言われるし、それ褒め言葉」 しばらくすると戦いが終わる。一匹たりともゆっくりは生き残っていない。 ゆっくりまりさを除けば。 「さ、こいつを解放して引き上げるか」 透明な箱から投げ捨てられたゆっくりまりさ、 死体の転がる部屋に置き去りにされた。 「んー・・・」 紫はビデオを見ながら唸っている。 「あら、渋かったかしら?」 「いや、お茶は美味しいのよ。とっても」 「じゃあ、何か?」 「この映像よ」 「どうかしたの?」 「ちっともゆっくりが反抗してない」 「ええ、反抗なんてさせないもの」 「・・・」 紫は不満そうに煎餅を齧る。 「もっと反抗をさー。例えば貴女が殺されるとか」 「死なないもの」 「・・・てゐちゃん的にはどうなの?」 紫は隣でぶーたれてるてゐに話を振る。 「リテイク希望ー」 「えー、弱いものは弱いままで終わります。強者は常に傍若無人って感じで良いじゃない」 永琳は不満そうな二人に不満そうに言う。 「この前の群も、ゆっくりれいむを差し出して終わりにしたら。もっと傍若無人にって二人が言うから・・・」 永琳は続ける。 「均衡がいいのよね。せめぎあってて実は余裕で勝てるみたいな」 紫の言葉にてゐは何度も頷く。 「えー、それじゃ弱者の実験にならないじゃない」 強者達のお茶会は続く。 ~あとがき~ えーりん実験室シーズン2は八雲紫を迎えてのゆっくり虐待ショーです。 「永琳×ゆっくり系15 幸せな生活」までがシーズン1です。てゐがそう言ってました。 チルノの裏、独裁者ボタンの話の中でうちのSSが言われてたのが嬉しかったです。 感想も嬉しいですが、覚えてもらえるというのはこの上なく嬉しいです。 財布の中身が243円なのも忘れるぐらい嬉しいです。 by今日、銀行行かないとまた手数料取られる118
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夕闇が迫っていた。 傾いた日差しがアリスの影を伸ばす。 影の先には、「ゆっくり魔理沙」が一匹。震えながらアリスに向かい合っている。 「日暮れ前に帰ると言っていたのに、こんな時間まで何をしていたのかしら?」 穏やかに問いかけるアリス。 逆光となり、その表情はうかがい知ることはできない。 ゆっくり魔理沙の頬に流れる動揺の汗。 「ゆっ、ゆっくりしていたよ!!!」 取り繕うようにピョンピョンと飛び跳ねて、精一杯の笑顔を浮かべてみせるも。 「へぇ」 ごく短い応答にその動きも凍りつく。 「私とあなたとの約束は、そんなことで破られたの」 呟きながら、歩み寄ってくるアリス。 「魔理沙って名前のつくものは皆そうね。今日だって一緒に過ごす約束だったのに、欲しい本を思い出したなんて 勝手な理由でパチュリーの所へ……!」 不満を吐き出しながら、うつむき加減に近づいてくる。 ぷるぷると魔理沙の丸い体が震える。 本当は逃げ出したい。 だが、逃げだした際の末路は、この少女に拾われてからの数ヶ月間で嫌というほど思い知らされていた。 ゆっくり魔理沙は口をゆがめ、いやいやと全身を震わせる。 「ゆっくりした魔理沙がわるかったです!!! ごめんなさいいいいいい!!!」 おいおいと嗚咽をこぼしながらの哀願に、アリスは屈みこんでゆっくり魔理沙と視線を合わせる。 「みっともなく泣かないで。別に怒ってないわよ」 涙でぼやかえた魔理沙の視界には、子供をなだめるようなアリスの笑顔。 頭を優しく撫でるアリスの手に、ゆっくり魔理沙の表情もとろんと落ち着く。 「ほんとう?」 「ええ、怒ってないわ、あなたに何かあったのかと心配しただけ。さあ、早く帰りましょう」 アリスの細い腕に抱き上げられるゆっくり魔理沙。 柔らかな膨らみと穏やかな心音。 少しだけ残っていた魔理沙の緊張も心地よさに解けていくのだった。 翌日、ゆっくり魔理沙は機嫌よく野へ遊びに行く。 昨日の埋め合わせでやってくる魔理沙を迎えるため、今日も外に放りだされたゆっくり魔理沙。 「ゆっくりー!!!」 いつもは家に押し込められているだけに、開放感に勢いよく体も弾む。 このまま、ずっとゆっくりできたらどんなに幸せなことだろう。 だが、どんなに逃げてもなぜか必ず捕まった。 そして、「おしおき」を受けることになる。 前回の脱走では、深い森の奥、枯れた木のウロに逃げ込んで眠っていた。だけど、目が覚めると窮屈で透明な箱の中。 「ゆー?」 境遇を理解できないまま、とりあえず抜け出そうとする。 だが、上下左右、みっちりと詰め込まれてどうすることもできない。 その強制的な「ゆっくり」が、アリスによるものだと気づくのに時間はかからなかった。 横を向くことも許されない固定された視界の端っこに、背を向けて紅茶を口にするアリスの姿。 「おねえさん!!!」 呼びかけてみるも、反応はない。 「おねえさん、ここからだして!!!」 重ねた呼びかけも無視される。 「苦しいよ!!! だして、お願い!!!」 口調に懇願がこもりはじめても、アリスは振り向きもしない。 空しい呼びかけも、応える声がないまま過ぎていく時間。 三時間、何の変化もなく過ぎた頃、席から立ち上がって食事の支度を始めるアリス。 いつも美味しい食べ物を用意してくれた記憶に、ゆっくり魔理沙は「もうそろそろ出してくれるかな」と淡い希望が 芽生え始める。 「おねえさん、おなかすいたよー!!!」 表情の変化すら困難な箱の中、かろうじて愛らしい笑顔を形作るゆっくり魔理沙。 しかし、アリスが作った料理は一人分。淡々と食事を済ませると、魔理沙の視界から消えて、そのまま戻ってくる ことはなかった。 ようやく、ゆっくり魔理沙はアリスの怒りの深さを思い知る。 「ごめんなさい!!! もう逃げたりじまぜんがらっ、だじでぐだざい!!!」 箱を震わしての必死の謝罪。 だが、許されるどころか、もはや省みられることもなかった。 しまい込んで忘れ去ったオモチャのように、ゆっくり魔理沙から完全に興味を失ったアリス。 アリスの家において、ゆっくり魔理沙はもはやオブジェ以外の何物でもない。 そのまま、一日、二日、三日……そして、一週間。 放置されたゆっくりの体は、声を上げる力も失い、少しずつ干乾びていく。 ゆっくり魔理沙は、全身がひび割れそうな、びりびりとした猛烈な痒みに悶えるものの、身動き一つできない。 癒されることのない痒みと痛み。あと、どれだけ苛み続けられれば許されるのか、あるいは死ねるのか、ひたすらに 残された時間が狂おしい。 それだけに、アリスが近づいてきたその時は、ゆっくり魔理沙の期待が燃え上がった。 「おねえさん、いい子になるから!!! だから、だしてください!!! おねがい!!!」 媚を売るように笑顔で呼びかけるも、アリスの手はその箱の近くに置いていた人形を手にとり、そっけなく引き上げていく。 「い゛がな゛い゛でええええ!!! だじでよおおおおおお!!!!」 追いすがる、絞り上げるような声がアリスに届くことはなかった。 放置は続く。 霞んでいく、ゆっくり魔理沙の表情。 一ヶ月後、ようやく箱から出されたゆっくり魔理沙。しかし、しばらくの間、虚ろに壁をながめるだけの生物と化す こととなる。 そういうわけで、「箱」以来、ゆっくり魔理沙は脱走を試みることすらしなくなっていた。 それに、最近はアリスも優しく接してくれるようになってもいるのだし。 昨日のアリスの抱擁を思い浮かべて、魔理沙は嬉しげに森の奥へと飛び跳ねていくのだった。 森の奥、うっそうとした木々の向こうに、陽光の差し込む野原が開けていた。 陽だまりを受けて鮮やかに輝く草むらに、ゆっくり魔理沙は身をおどらせた。 「ゆっくりしていってね!!!」 跳ねながらいつもの言葉を口にする。 すると、にわかに木立が揺れる騒々しい音。 「今日もゆっくりしようね!!!」 言葉とともに姿をあらわしたのは、二匹のゆっくりたち。 一匹はよく見かける「ゆっくり霊夢」で、丸い顔に気色を浮かべて勢いよく近づく。もう一匹は「ゆっくりパチュリー」で、 あまり外にでないことと、病弱ですぐ死ぬために希少種とされていた。 ゆっくりパチュリーは他の二匹に比べ、どこか青白い顔。それでも、ゆっくり魔理沙に向けて懸命ににじり寄っていく。 待ち受ける、ゆっくり魔理沙の表情に浮かぶ心配げな眼差し。 「ゆっくりきてね!!!」 「むきゅーん!!!」 魔理沙に応じるその鳴き声も、この種特有のものとされている。 ゆっくりパチュリーは飛び跳ねることができないのか、じりじりと這いよって、ゆっくり魔理沙の元へぴったりと寄り添った。 「みんなで、ゆっくりしようね!!!」 魔理沙の真上に飛び乗るゆっくり霊夢。 三匹、押し合いへし合い、頬をすりよせている。 アリスに捕まる前からの友達との邂逅に、ゆっくり魔理沙も満ち足りた笑顔だった。 そんな三匹の前を、白い蝶がふわふわと通り過ぎる。 「待って、ちょうちょさん! ゆっくりしていってね!!!」 風に吹かれるがまま漂う蝶々を、思い思いに追いかけていく三匹。 やがて、白い蝶々は蜜を求めて野の花に止まった。 戦闘を駆けるゆっくり霊夢が、勢いよく飛び込んでいく。 「ゆっくりいただきます!!!」 ぱっくり開いた口で、蝶々をまるごと飲み込んで、花ごともぐもぐと咀嚼する。 「霊夢だけ、ずるい!!!」 ゆっくり二名が飛び上がって抗議すると、ゆっくり霊夢は魔理沙の元へ。 いきなり、ぺったりと唇を合わせる。 そのまま、口の中のものを、ぺっ、と渡した。 獲物を受け取った魔理沙は、頷いて最後尾を息を切らしてついてきたゆっくりパチュリーに向き合う。 パチュリーは、荒い息のまま、そっと目を閉じた。 「魔理沙、ゆっくりシてね……」 そんな仕草に、なぜか戸惑った様子でゆっくり魔理沙が口付け。 「む、むきゅうー!!!」 「……!!!」 途端に吸い上げられ、身動きのとれなくなるゆっくり魔理沙。 やがて、ぴくぴくと震えて、色合いが若干紫がかってくる。 「ゆっくり離してね!!!」 ゆっくり霊夢が魔理沙の帽子を噛んで、懸命に引っ張る。 ちゅーっぽんっと、小気味いい音がしてばらばらに弾む二匹。 「……ぷはあ」 満足げなゆっくりパチュリーと、白目をむくゆっくり魔理沙。 ゆっくりたちの繰り広げる楽しげな一幕。 しかし騒動の最中のため、三匹とも聞き逃していた声がある。 無機質な響きを持つ、不思議な声。 「シャンハーイ」 それは、上空から見下ろす、一体の人形の呟きだった。 まだ、日暮れまでは時間があったが、アリスを怒らせないため、名残り惜しそうな友達に別れを告げるゆっくり魔理沙。 懸命に転がってかけていき、一息にアリスの家へ。 アリスは家の外、ゆっくり魔理沙に背を向けて立ち尽くしていた。 「ゆっくりしないできたよ!!!」 慌てて、する必要のない言い訳を口にするゆっくり魔理沙。 「おかえり」 簡潔なアリスの答えだが、返ってくるまで時間を要した。 やがて、アリスの肩がかすかに震え始める。 どうやら、声もなく笑っているらしい。 「ゆー?」 アリスの様子に小首……いや、全身を傾げて疑問を呈するゆっくり魔理沙。 「あのね……魔理沙がうちにきたんだけど、予定を取りやめて霊夢のところの宴会に参加しようぜって、言い出して」 うふふうふふふと、笑いはかすれた声になって、ひそやかにゆっくり魔理沙のもとへ届く。 「なんで、私と二人っきりでいる時に霊夢が出てくるのよ?」 そんなことを聞かれても、ゆっくりは答えられない。 ただ、異様な主の様子を見守るだけだった。 「なんで、私と話すよりもパチュリーの、あの喘息女の図書を漁る方を選ぶのかしら」 アリスの言葉は誰の返事を期待しない罵りと化す。 「そして! 何で、あなたはあの憎たらしい奴と同じ顔をしているのよ!」 「ゆ、ゆっくり、ゆっくりしていってね!!!」 ようやく振り向いたアリスの怒気こみ上げる表情に、ゆっくりはすくみあがっていた。 つかつかと歩み寄り、その顔面そのものを両手で掴まれても逃げる素振りもできない。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ! ゆっくりしてえええ!!!」 ぎゅうううううっと、細腕とは思えないアリスの力で締め上げられるゆっくり魔理沙。 変形して、もはや人の顔の面影もない。 「ねえ、魔理沙。こんな思い、私だけがするのは不公平だと思わない?」 頷かなければ、ぶちまけられる。 ゆっくり魔理沙は同意を涙目で訴えて、ようやくその万力から開放された。 「そう。なら、あなたにもしなければならないことがあるわ」 面白いことを考え付いちゃった。そんな素振りで手を組み合わせて、はにかんだようなアリスの微笑。 そっと、ゆっくり魔理沙の耳元に口をよせて、何事かささやく。 魔理沙の表情は、囁かれる度に火箸を押し当てられたかのように、苦痛の色合いの濃くなる表情。 反対に、囁き続けるアリスの表情は恍惚にとろけそう。 「ねえ、魔理沙。やらなければどうなるか、わかっているわね? あなたと、あなたのお友達が、ね」 いつにも増して可憐な笑顔で念を押す主を、ゆっくり魔理沙は心の奥底から恐怖した。 翌日、いつもの遊び場となる野原にゆっくり魔理沙がやってくると、茂みから顔を覗かせるゆっくり霊夢と パチュリーの二匹。 だが、二匹は魔理沙の後をついてきた人間に、不審げな視線を向ける。 「あの人も、ゆっくりできる人?」 ゆっくり霊夢の視線の先にいる人物とは、アリスだった。 上海人形を肩にのせ、無表情でゆっくりたちを眺めている。 だが、ゆっくり魔理沙は仲間たちの疑問に取り合わない。 「霊夢とパチュリー、よく聞いてね!!!」 強張った顔で告げるゆっくり魔理沙の言葉に、きょとんとして魔理沙を注視する二匹。 そのため、アリスが口の端をゆがめるように笑ったのを、二匹を見逃す。 「パチュリーは病弱で足手まといの癖に、べったりしてきて気持ち悪いよ!!!」 思いがけない魔理沙の言葉に、目を見開いて衝撃をありままに体現するパチュリー。 「目障りなので、家で永遠に寝こんでいればいいと思うよ!!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」 「パチュリーはゆっくりしね!!!」 魔理沙の追撃に、ガクガク揺れながら、一歩、二歩、ゆっくりパチュリーが遠ざかっていく。 その様子を微笑みで見つめているのはアリス。 学芸会で主役となった子供を見守るように、ゆっくり魔理沙を見つめていた。 「そんなひどい魔理沙とはゆっくりできないよ!!! 謝って!!!」 一方、ゆっくり霊夢は体を激しく弾ませて魔理沙に詰め寄る。 ゆっくり魔理沙はしばらく詰め寄られるがままに後ろに転がっていく。 が、アリスが視界に入って踏みとどまり、叫んだ。 「霊夢なんかと、ゆっくりしたくない!!! 霊夢は餡子が腐ったみたいな匂いがするもん!!!」 「!!!」 今度は霊夢が白目をむく番だった。 「臭いのは大嫌いだよ!!! 大嫌いな霊夢とゆっくりしたくない!!! 目の前から消えてなくなってね!!!」 あれだけ躍動的に弾んでいたゆっくり霊夢の体が、もはや微動だにしない。 しかし、時間の経過と共に震えだす。凍りついた表情の双眸からは、ぽろぽろと零れ落ちる涙。 「ま゙り゙ざびどい゙! びどい゙! びどい゙いいいい!」 ぷるるると、全身を震わせる霊夢。 受け止める魔理沙は身じろぎ一つできな。 「魔理沙なんが、も゛う゛、じら゛な゛い゛!!!」 一際高く弾んで、枝をへし折りながら茂みの奥へと消えていくゆっくり霊夢。 よろよろと、その後に続くパチュリー。何度か振り向きつつ、森の奥へ。 後には無言のゆっくり魔理沙と、アリスだけが残された。 「よく、できました」 アリスが音を立てない拍手をゆっくり魔理沙にささげる。 その言葉に振り向く魔理沙。 「ゆっ、ゆっ、ひっく……!!!」 堪えていた涙が、友達が消えた後はとめどなく流れている。 「よしよし」 アリスは、アリスの教えたとおりの言葉を友達に伝えて一人ぼっちになった、ゆっくり魔理沙の頭を撫でてあげた。 至福の笑み。 「うふふふ、魔理沙も同じ目にあわせてられれば、私が慰めてあげられるのにね」 先ほどの光景に、どんな想いを重ねているのだろう。 アリスが一人ごちた、その時だった。 「おー、アリスじゃないかー!」 頭上から降り注ぐ、気楽な声。 アリスは弾かれたように虚空を見あげる。 「ま、魔理沙! なんでこんなところに!」 アリスの狼狽の向かう先は、箒に跨った本物の魔理沙の姿。 「いやな、茸狩りにいそしんでいたわけだが、ゆっくりどもが勢いよく走っているのを見かけて、興味本位でよってみた」 縁を感じる遭遇だが、アリスは喜びよりも背を伝う冷や汗を感じる。 もう少し遅れていれば、自分の醜い部分を魔理沙にさらけ出すはめになっていた。 胸を撫で下ろしながら、アリスは取り繕いをはじめる。 「ええ、この子がお友達と喧嘩したみたいで、慰めていたのよ」 言いながら、ゆっくり魔理沙の頭をごしごしと撫でつけ、押さえつけるアリス。 地に下りた魔理沙は、アリスの手の下で縮こまり、涙をこぼすゆっくり魔理沙に向けてかがみこんだ。 「この、ゆっくり私バージョンが、か? それは私としても気になるな。早く仲直りしろよ」 自分と同じような格好の生き物が相手なのだから気味悪がればいいのだが、魔理沙は気のいい笑顔でゆっくり魔理沙を 慰めに入る。 魔理沙の視界の外で、苛立ちを浮かべるアリス。 今だけは早く帰ってほしい。まずはそれが第一だが、同時になぜ魔理沙は自分以外にこんな優しさをほのめかす のだろうという不満にもつながる。 「ええと、魔理沙。この子のことは任せて、茸狩りを続けて……」 離れ欲しいと促すアリスの言葉だが、生憎、不意に目の前に現れた乱入者によって阻まれる。 「ゆっくり考えてきたよ!!!」 茂みから飛び出してきた、ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーだった。 よく見れば、二匹とも涙の跡が乾いていない。 それなのに、ゆっくり霊夢たちがゆっくり魔理沙を見つめる視線は、この上なく優しげだった。 「魔理沙の気持ちを知らなくて、ごめんなさい」 ぺこりと、沈み込むように霊夢のお辞儀。 「もう嫌な思いをさせないよう、遠くに引っ越すから、安心してね!!!」 その言葉に、ゆっくり魔理沙の眉が悲しみにゆがむ。 だが、頭の上にのせられたアリスの手の冷たさを思い出して、何とか堪えていた。 一方、霊夢とパチュリーの目は潤みだし、唇は嗚咽がこぼれないよう、真一文字に結ばれていた。 「……っ!!!」 けれど、想いを伝えるために霊夢は口を開かなくてはならない。 「……まりさ!!! もう……会えなくなるけどっ……!!!」 一度あふれた滂沱の涙を、霊夢もパチュリーも止めることができない。 涙声を絞り出す。 「これからも……わ、わだじだぢのぶんま゛で、ゆ゛っぐり゛じでい゛っでね゛!!!」 後には、二匹の押し殺した嗚咽が低く響き渡っていた。 ……アリスの手のひらを、ゆっくり魔理沙の深いあえぎが伝わってくる。 心を押さえつけるその限界に、もはや余裕はない。 「おい、このままでいいのか、ゆっくり私! 違うだろ、このままでいいわけがないぜ!」 なのに、人間魔理沙が一人、熱く語りだす。 いつもはそこが大好きな部分なのに、たまらなくウザく感じるアリス。 魔理沙の言葉と、アリスの刺すような視線。 そのベクトルの異なる力に押し出されて、ゆっくり魔理沙は前に踏み出す。 「霊夢、パチュリー、もう一度よく聞いてね!!!」 こいつ、ばらす気か!? 言葉の強さに、思わず息を呑むアリス。 一際、その手の圧力を強めて睨みつける。 ゆっくり魔理沙は、体を震わせて叫んだ。 「これで、新しい友達とゆっくりできるよ!!! さようなら、大嫌いな霊夢とパチュリー!!!」 勝った! 緩みそうになる口元を必死に抑えるアリス。 「お前!」 「魔理沙、仕方ないわよ。この子の意思ですもの」 声を荒げる魔理沙を、アリスは完璧に沈痛な面持ちで制止した。 寂しげな笑顔だけを残して、後ろを向く二匹のゆっくり。 静かに遠ざかるその背中に、アリスが気を緩めたそのときだった。 「でも゛!!!」 隙をついて、アリスの手から逃れたゆっくり魔理沙が二匹の下へ転がって走っていく。 その声に振り向きかけた霊夢とパチュリーに、呼びかけるゆっくり魔理沙の顔は、堪えに堪えた涙でくしゃくしゃだった。 「だいぎらいな二人でも、い゛っじょに、ゆっぐり゛じだいです! だがら、い゛がな゛い゛でええええ!!!」 「……ま゛り゛ざああああああ」 暖かい涙をこぼして、ゆっくり魔理沙を迎え入れる霊夢とパチュリー。 再び三匹となった一群は、そのまま森の奥へ走り出す。 「ま、待ちなさい!」 「行かせてやれ、アリス」 追いかけようとしたアリスの前を塞ぐ、魔理沙の腕。 「アリスは、あいつの仲直りの口上が気に食わないかもしれないが、あいつも私に似て素直になれない奴なんだぜ」 いや、そんなことじゃねーよと、張っ倒したいアリス。 だが、魔理沙の次の言葉に追う気が粉砕された。 「ところで、アリス。私たちは親友だよな」 「え、えええ!? なに、なんなの、突然!」 一瞬で、ゆっくりのことが吹き飛ぶアリス。 湯気が噴出しそうな顔を手のひら抑えながら、魔理沙を見つめた。 「そ、そうね、親友かもしれないわね。見る人によっては!」 一緒にお風呂に入る、同じ布団で寝る、後ろからそっと抱きしめる。親友としてできそうなこと、あれこれ 妄想するアリスだった。 一方、魔理沙はぽりぽりと頭をかきだす。 「それじゃあ、許してくれるよな」 「へ?」 アリスが間抜けに呟く。 なにやら雲行きが怪しくなってきた。 「いや、明日あたりアリスに丸一日付き合うつもりだったけど、フランの奴がどうしても弾幕遊びがしたいって、 紅魔館から呼ばれていてさ。ほら、あいつ手加減できないから、私も丸一日付き合わないといけなくなる。悪いが、 丸一日付き合うという話自体、なかったという方向で」 「え、えええ!?」 「そういうことで、じゃあなー」 驚愕に硬直するアリスを置いて、自分勝手に青空へと飛び出していく魔理沙。 一人佇むアリスの頬を、冷たい風が草むらを震わせて流れていく。 「……一人に、なっちゃった」 寂しげな呟きも、風の音にまぎれて消えていった。 三匹のゆっくりは、ゆっくり霊夢の寝床に身を寄せ合っていた。 うっそうとした藪の奥の、風の穏やかな洞。 すでに日は没し、暗がりに包まれてはいたが、アリスの家のように閉じ込められる寒々とした暗闇ではない。 傍にいる仲間の温もりが嬉しい、心地よい闇。 一息ついた三匹は目線を交わし、深く身を屈め、揃って一気に飛び上がる。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくり魔理沙の暴言も、仲睦まじい合唱に、しこりを残した気配もない。 これで完全に仲直り。 そして、あの魔女にさらわれる前の楽しかった日々に戻ったのだ。 こみ上げる幸福感に、ゆっくり魔理沙の頬を伝う幸せの涙。 「みんなと……ゆっぐりでぎで嬉じいい」 その涙は、ゆっくり霊夢とゆっくりパチュリーが舐めとった。 三匹は、かつてのように身を寄せ合い、そのまま眠りにつく。 夢に見たのは、野原を転げまわり、バッタを追っかけ、日向ぼっこでゆっくりと時を過ごす、幸せな明日の光景だろうか。 眠りこける三匹の元へ届くのは、月の光と梟の鳴き声。 だからだろうか、梟の鳴き声に似たその声を、聞きつけるものはいなかった。 それはどこかで聞いた、無機質な声。 「ホーラーイ」 夜陰に潜む、人形の呟き。 翌朝。 藁をしきつめた寝床で眠ったはずなのに、横たわるゆっくり魔理沙の体は、冷たさと固さを感じていた。 「ゆー?」 寝ぼけ眼が、次第に鮮明になっていく。 品の良い調度品、暖かな暖炉、そして棚を埋め尽くす人形の軍団。 「ゆっくり!?」 なぜ、アリスの家に。 飛び上がろうとする魔理沙。だが、天井を押さえつける透明なガラスの板に、飛び上がることもできない。 「ゆっ!」 悪夢がよみがえるゆっくり魔理沙。 ただ、依然と若干違うのは箱の構成。 横幅と高さはぴっちりとしているが、前後に細長くスペースがあって、少しだが動き回ることができた。 「あら、起きたの」 頭上からの声に見上げると、そこには穏やかな微笑を向けるアリスの姿。 ゆっくり魔理沙の体の色が、血の気を失って土気色。食欲をあまりそそらない色になる。 「ご、ごごごごごめんさい!!! もうしないから、ここから出してね!!!」 許されないことがわかっていながらも、必死に弁明を口にした。 だが、次のアリスの行動は予想外のものだった。 「出たいのね?」 アリスが蓋の留め金をいじると、苦もなく開くガラス箱。 箱の中に手が差し込まれて、ゆっくり魔理沙はアリスの手で引き上げられる。 「これは昨日、人間用につくったものなの。だからそれなりに余裕はあったでしょう」 こくんと頷くゆっくり魔理沙。誰のためにつくったのかは、怖くて聞けない。 そのまま、椅子に腰掛けるアリスの膝にのせられて、髪を櫛でとかされるゆっくり魔理沙。 昨日のことは夢だったのだろうかと思い始めた頃だった。 「あんな野原で寝るから、髪がぼさぼさになるのよ」 アリスの呟きに現実のことと知る。 そして、沸きあがる不安は、隣で眠っていた仲間たちのこと。 「ゆっくりしてたみんなは!!!」 「大丈夫よ」 アリスは親切に、ゆっくり魔理沙を抱えて窓辺へ。 そこには野外を元気に走り回るゆっくりパチュリーの姿が。 アリスの人形を一体頭にのせて、かつてない元気のよさで飛び跳ねていた。 それにしてもこのパチュリー、ノリノリである。 「霊夢はまだ眠っているみたいね」 アリスの言葉が示す通り、室内に向けられたゆっくり魔理沙の視界の端に、ソファーの影に隠れ気味にゆっくり霊夢の 頬が見える。 全員の姿を確認して一息つくゆっくり魔理沙を、アリスはくるりと向きを変えて真正面から見つめていた。 「それでお願いがあるのだけど、みんな、揃ってうちにきてもらえないかしら? その、私一人じゃ寂しいからね。 全員一緒にいたいなら、皆、面倒を見てあげるわ」 その提案に、魔理沙に広がる驚きの表情。 「もちろん、自由に遊びに行ったりしてもいいのよ」 それは、すごく嬉しいことかもしれない。 住人を除けば、暖かな寝床と美味しいご飯。素晴らしい環境なのだから。 それに、今のアリスはまるで憑き物が落ちたのかのよう。 微笑に陰りがなかった。 「うん!!! アリスも、みんなとゆっくりしようね!!!」 「まあ、嬉しい。ところで、昨日から何も食べてないからお腹が減ったでしょう。今、用意するわ」 言われて、ようやく空腹に気づくゆっくり魔理沙。 恐らく、緊張感が解けて感覚が戻ってきたのだろう。 「ゆっくり支度してね!!!」 「大丈夫よ、準備していたから」 魔理沙の気遣いに笑顔を返したアリスは、布をかけてあった皿を掴みあげる。 「私の知り合いに中国という方がいて、この前、料理を教えてもらったの」 魔理沙の前に差し出されるお皿。 「餃子っていう食べ物よ」 布が払いのけられて、アリスの言う餃子が姿をあらわした。 ふわりと漂う香ばしさと、こんがりと狐色の焦げ目が、ゆっくり魔理沙の食欲をそそる。 「わぁ、美味しそう!!! おねえさん、これ本当に食べていいの!!!」 「あなたに食べさせるためにつくったのよ」 アリスの笑顔に後押しされ、その餃子にむしゃぶりつく。 ほっくほくの皮。そして中の具から染み出す旨みにと甘さが、ゆっくり魔理沙の口に広がっていく。 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 「ふふふ」 素直な反応が嬉しいのか、満足げに魔理沙の髪を撫でるアリス。 だが、皿をも嘗め尽くす勢いで餃子を貪っていた魔理沙が、ふと動きを止める。 「おねえさん……」 その声は震えていた。 「この餃子……なんかおかしいよ……シュっご……く……」 ぷるぷると身を震わして、半開きの口からだらしなく流れるよだれ。目じりにたまる涙。 「どうして? 慣れている味だと思うのだけど」 アリスは、その魔理沙をテーブルにのせて、静かに立ちあがる。 向かう先には、ソファー。そして、その影には未だ眠り続けていると聞くゆっくり霊夢の姿があった。 「だって、ほら」 ソファーの影から、けりだされるゆっくり霊夢。 いや、霊夢だろうか。 そのゆっくりは、額から上を切り取られていたため、アリスには見分けがつかない。 それでも、魔理沙にはわかったようだ。 「れ゛い゛む゛ううううう!!!」 ゆっくり魔理沙の声が聞こえたのか、ぶるんと震えるゆっくり霊夢の体。 「ゆっゆっゆっゆ」 しかし、目をひんむいた霊夢が壊れたうめきをあげるだけ。 アリスはその霊夢を、真上から覗き込んだ。 「大分減ったわね」 まるで、米びつを覗き込んで嘆息する主婦のよう。 少なくとも、生き物に向ける口調ではなかった。 「おねえさん、霊夢を、霊夢の中身をどうしたのおおお!!!」 「あらあら、知っているくせに」 わき上がる、ケラケラと抑えの利かないアリスの笑い。 「今は、あなたの口の中よ」 一瞬の沈黙。 「ぱぴぷぺぽっ!!! ぱぴぷぺぽおおおお!!!」 絶叫と共に、やみくもに壁にぶち当たろうとするゆっくり魔理沙。 「ゆっ!?」 だが、アリスが目配せすると、それまで棚を飾っていた人形たちが一斉に魔理沙に襲い掛かる。そのうち一匹の手には、 細く鋭い釘。 「ひぎい!」 ゆっくり魔理沙は床に縫いとめられていた。 「あらあら、お友達とお揃いになったわね」 アリスは視線を魔理沙から外し、窓の外で。 そこでは、相変わらずゆっくりパチュリーが走り回っていた。 青白い顔で、息も絶え絶え、涙とよだれを垂れ流しながら。激しく咳き込んでは、びくりと跳ね起きてなおも走り続ける。 そのゆっくりパチュリーの頭の上には、無表情の上海人形。手には五寸釘の根元を握る。その先は、ほとんどの部分が ゆっくりパチュリーに埋め込まれていた。 かろうじて走り続けていたパチュリー。だが、息を切らせてとうとうへたりこんだ。 「あああああ!!!」 途端に、ぐりぐりとひねりこまれる五寸釘。 のけぞって、いやいやと首をふるゆっくりパチュリー。 「や゛め゛で、や゛め゛で! 走りますう!!!」 のたうちながら、よたよたと動き出す。 べしょべしょの顔を濡らしながら感動のフル24時間マラソンはいつまでも続いて行くようだ。 けれども、パチュリーの体力と持病はそれを許さない。 「げほっ、がはっ……!!! ゆっぐり、じだいいいい!!!」 咳き込んで、のたうつパチュリー。 上海人形はアリスの指示通り、無表情のまま五寸釘でえぐる。 「む゛ぎゅーーーん!!! ゆっぐりでぎないよおお!!!」 パチュリーが泣き叫ぶ先には、窓辺に腰掛けるアリスの姿。 だが、アリスは背をむけていて、もはやその姿を見てもいない。 「……本を餌に魔理沙を釣る女と、同じ格好をしているのが悪いのよ」 死刑宣告に等しい言葉を吐き捨てながら、アリスは床に這うゆっくり魔理沙へと、かがみこむ。 「ところで魔理沙。あなたの一番好きな子を教えて。誰にも言ったりしないから」 なぜか、年頃の女の子のようなことを聞く。 だが、ゆっくり魔理沙にはわかっていた。 ここでアリスの名前以外を挙げれば、その相手は死ぬ。 「アリスが、アリスが一番大好きだよ……ぶぎゃっ!!!」 魔理沙の懸命な言葉は、口にねじ込まれたアリスの靴先に遮られた。 ゆっくりと靴を引き抜くアリス。 「だぜ、よ」 修正点を手短に伝えた。 「うん! 魔理沙は、アリスのことが誰よりも大好きだぜ!!!」 「……もう一度」 「アリスが大好きだぜ!!!」 その言葉にぷるぷると震えるアリス。 「ああもう、嬉しいわ!」 言うなり、渾身の力でゆっくり魔理沙を抱き上げるアリス。 締め上げられながら、魔理沙は一言も声をあげない。 ゆっくり魔理沙は、諦めていた。 ここにいることしか、もう自分は許されないのだと。 誰かに助けを求めると、その誰かが不幸になってしまう。 「アリス、ずっと一緒にいるぜ」 呟きながら、ゆっくり魔理沙は思う。 零れ落ちる涙も枯れてしまえばいいのに。 涙で滲んでぼやける視界。 その中で、幸福そうに微笑むアリスだった。 こうして、アリスとゆっくり魔理沙の幸せな毎日はまだまだ続いていく。 めでたし、めでたし。
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妖怪の山を越えたところに、人間や妖怪が寄りつかず、しかもいろいろな花が咲き 蝶やバッタなどがたくさんいるというゆっくりたちにとって夢のような世界があるらしい、 ということがゆっくり達の間で話題になっていた。最近森の近くでは食用のために野生の ゆっくりが日々捕まえられており、森に住むゆっくりはおびえながら生活していた。 「このままじゃゆっくりできないよ!!!」 そんなある日ゆっくり霊夢はこう叫んだ。ゆっくりらしくないその若干の焦りを 含んだ声を聞きまわりのゆっくりたちが集まってきた。 「わかるよわかるよー!」 「ちんちんちーんぽっ!」 「はやくゆっくりできる場所にいこうね!」 集まってきたのはゆっくりちぇん、ゆっくりみょん、ゆっくり魔理沙だった。 4匹とも夢の世界のうわさは知っていた。ならば話は早い。4匹は満場一致で 妖怪の山の先の夢の世界を目指すことにする。 「ゆっくり目指そうね!!!!」 かくしてこの4匹の旅が今始まった。 妖怪の山は不気味な雰囲気に包まれていた。人間は物好きなやつ以外は積極的に 入ることはないし、妖怪同士でも縄張りがあり、あまり奥にはいると危険である と認識されている。この山の危険さは、あまりものを知らないゆっくり達にもそれ となく感じ取れるものであった。 「ゆっくりさがそうね!!!」 そう声を掛け合いながら、いつ妖怪に襲われるかわからない恐怖を紛らわせつつ 4匹は川沿いに山の奥へと進んでいった。実際には、その恐怖よりも理想の場所への 期待のほうが大きかった。無論その場所は本当にあるかはわからないのだが・・・。 山の旅は予想外に順調であった。 「これメチャうま!」 ゆっくり魔理沙が飛んでいる蝶をほおばる。 「ぜんぶたべないでね!」 「ちーんぽ!」 「わかるよわかるよー!」 4匹の楽しそうな会話が聞こえる。食料には困らなかったし川のせせらぎは心地よかった。 そして何よりまだ妖怪に出くわしていない。4匹はもうこのあたりに住んでしまおうか という気にさえなった。しかし次の瞬間そんな気分は打ち砕かれることとなる。 「ゆ”っゆ”っっ!!!」 ゆっくり霊夢が声を震わせた。川辺に自分と同じ種類のゆっくりが真っ二つになって 捨てられているのを発見してしまったのだ。中の餡はかき混ぜられグチャグチャになっている。 他の3匹もゆっくり霊夢の異変に気づき、その遺体を発見し、同じように絶句した。 涙目になっている一同に追い討ちをかけるかのように背後から何者かが迫る音が聞こえてくる。 ザッザッザッザッ・・・ 足音が近づくにつれ4匹の脳裏に不安がよぎる。今近づいてきている者によって自分達も あのゆっくり霊夢のようにされるのではないかと・・・。しかし、後ろを振り返る ことも逃げることもできなかった。恐怖で体が動かないのだ。次の瞬間ゆっくりちぇんの 体が宙に浮いた。 「わからないよわからないよー!」 しっぽを掴まれたゆっくりちぇんは完全にパニックに陥っている。 「ゆっくりおろしてね!!!」 3匹が必死にお願いをする。しかし大きなリュックを背負った少女はそんなことお構いなしに ゆっくりちぇんを胸の位置まで上げ、両手で抱いた。 「こんなところでゆっくりが見られるとはな・・・。どうしたんだ?」 その少女は河童のにとりであった。 「ゆっくっ!ゆっくり離してね!」 河童の質問にも答えようともせずゆっくりたちはひたすらお願いした。 「大丈夫大丈夫。かっぱはゆっくりを食べたりなんてしないよ。私は通りすがりののエンジニアさ。」 河童はゆっくりちぇんの頭を撫でながら言った。 それを聞いてゆっくりたちは安心した。どうやらあの犯人はこの河童ではないようだ とゆっくりたちは感じた。 「えんじにあ?わからないよー!」 今度は逆にゆっくりちぇんの方から質問を投げかけた。 「エンジニアってゆうのはね、人間や妖怪がゆっくりできるような物を作る仕事さ。」 「じゃあかっぱさんもゆっくりできるひと?」 「そうだよ。」 ゆっくりたちの顔から笑顔がこぼれる。完全にこの河童を信じたようだ。 「けどそんなことよりここから先は危険だ。もしよかったらウチでゆっくりしないか?」 妖怪の山で唯一信頼できる相手の誘いを断る理由もなかった。4匹のゆっくりは遠慮なく 河童の家に行くことにした。 ほどなくして河童の家に着いた。家というよりは研究所といったほうがいいだろう。 4匹のゆっくりはもともと野生だったためこのような建物に入るのは初めてだった。 「すずしー!」 「これならゆっくりできるね!」 「ちんぽー!」 あまり広くはないが空調の効いた部屋、ところ狭しと並べられた実験器具などが ゆっくりたちの興味をそそった。 ゆっくりたちと河童はきゅうりを食べながら楽しいひと時を過ごした。 「実はわたしはゆっくりのための機械を発明している最中なんだ。」 話の途中でそう切り出した河童は、広いテーブルの上にその機械を置いた。 四角い上の開いた箱があり、その箱から数10センチ上のところにアームが設置してあり、 先端には何か金属製の網のようなものがたくさん複雑に構成されていた。 「これでどうやってゆっくりするのー?」 もともと大自然で生活していたゆっくりたちは何の機械なのか想像もつかない。 「ひひひ。これはまだ完成していないからね。教えられないけど体験させてあげてもいいよ。」 河童はそう言い笑みを浮かべた。 「やるーやるー!ゆっくりするー!」 真っ先にそういったのは好奇心旺盛のゆっくり魔理沙であった。 そうすると河童はゆっくり魔理沙を抱え、さっきの機械の箱のほうにゆっくりの顔を 上向きにして入れ、動かないように固定した。次いで口は閉じないように固定した。 「ひょっほいたいよ”ー!」 自由を奪われたゆっくり魔理沙は少し不安であった。他の3匹は興味津々にそれを眺めている。 「じゃあ今からスイッチを入れるからね。あんまり暴れないでね。」 「ゆっふひおしへね!」 カチッ! スイッチが押される音がした。ウィーンとアームが下がってくる。アームの先端が 開かされた口に入ったところでいったんとまった。 その瞬間河童の表情が変わった。笑っている。いや、今までも笑顔であったが何か 方向性の違う笑みであった。そして2番目のスイッチが押された。 カチッ! 「ゆ”ゆ”ゆ”ゆうううう”!!!!あ”あ”あ”あああ!!!」 ゆっくり魔理沙の表情が激変した。 この瞬間、アームの先端の複雑な機構がゆっくり魔理沙の口の中で開き暴れだした。 ゆっくり魔理沙から声にならない悲鳴が漏れる。自分の中の”餡”がかき混ぜられて いるのだ。 「が”っ”ば”ざ”ん”も”う”や”め”でえええええ!!!!」 おそらく幻想郷に存在するゆっくりの中でこのような経験をしたのはゆっくり魔理沙が 初めてだろう。ゆっくり魔理沙は混乱していた。得たいの知れないものが自分の中に 入り、自分の中身が混ぜられている。理解できない。ただただ恐怖が襲う。 ゆっくり魔理沙の目からとめどなく涙が流れる。 他の3匹はというと全く状況が掴めない。ゆっくり魔理沙の表情は確認できないし あのアームがどんな働きをしているのかもわからない。ただゆっくり魔理沙の叫び声に 不安がつのる。 「も”う”い”い”で”す”う”ううううう!!!!」 「いや、もう少しだ。」 河童はいたって冷静だった。 スイッチが押されて2分後やっとアームの動きが止まり、箱から出ることができた。 ゆっくり魔理沙にとってその2分間は何時間にも感じられた。 他の3匹が心配そうにゆっくり魔理沙の元へ駆けつける。 「こ・・こん”な”ひどい”こ”と”するか”っぱさんとはゆ”っく”りできないよ!!!」 ゆっくり魔理沙が涙目でゆるんだ口でこう言い放った。明らかに恨みをもった 言い方であることは他の3匹にも察しがついた。 「ひどいよかっぱさん!!!しんじてたのに!!!」 3匹が河童に言い寄る。 「うるさいよ!!わたしはまださっきの黒いゆっくりに用があるんだよ!!」 興奮気味にそう言うと河童は光り輝くものを右手にかざし、一気にゆっくり魔理沙へとそれを 振り下ろした。 バーーーーンッ! 河童がにやける。 テーブルに衝撃が走ったときにはもう遅かった。 「ゆ”っ・・・・」 他の3匹が見たときにはすでにゆっくり魔理沙は真っ二つであった。 「幽霊の鍛えた包丁は切れ味が違うな。うんうん。」 河童は再び冷静さを取り戻した。一方で3匹の脳裏には河童と出会うすぐ直前の 出来事が思い浮かんだ。真っ二つで餡の出ていたゆっくり・・・。あの犯人が まさかこの河童だったとは・・・。 「ま”り”さ”ああああああ!!!!!」 涙を流しながら3匹が駆け寄るが無論すでに意識はない。 「おかしいなぁ。今度こそ完璧にこし餡になる予定だったのになぁ・・・。」 そう、この機械、つぶ餡種が大多数を占めるゆっくりを無理やりこし餡にしてしまおう というもので、例のゆっくり加工場から依頼されていたものなのだ。 「よしっ!」 河童がつぶやくと残った3匹のゆっくりへ目をやる。3匹は恐怖に打ちひしがれている。しかし そうとばかりもしていられない。3匹は河童のその普通ではないまなざしを感じ取り、急いで 出口へ向かい逃げ出した。ゆっくりもがんばればこれくらいの速度は出せるのかと河童は 感心した。部屋が狭かったしドアも開いていたため3匹はすぐに外へ出ることができると 考えた。 「まだ実験は成功してないんだよ!」 河童の声が聞こえたがもうそんなことは関係ない。涙を堪え、前をしっかり見て外へ飛び出した。 (もう妖怪の山に入るのはよそう・・・) しかし、その想いは叶えられなかった。河童の腕がのび、開いていたドアは外へ飛び出す直前に 閉じられた。 グシャ という鈍い音が3回ほどドアから聞こえた。 「ゆ”っっ・・・!!ゆ”っっ・・・!!」 3匹は床に落ち、泣いた。これからされるであろうことを想像し・・・。 「実験材料に逃げられちゃ困るんでね。」 河童は今度は3つの箱にそれぞれ1匹ずつ入れ、ゆっくり魔理沙と同じように固定した。 もう3匹は動くこともできなければお互いの顔を見ることはできないし、 言葉を掛け合うこともできない。 「つぎは熱しながらやってみようかな・・・。それとももっと口を裂いて・・・。」 河童のつぶやく声が聞こえる。エンジニアの魂があらゆる方法を提案しているのだ。 3匹は箱が涙に満たされて自分が溺れるのではないかというほど泣いた。 カチッ ウィーン 「ち”っち”ん”・・・!!」 河城研究所に機械音が響く。また1匹のゆっくりが実験台にされてゆく・・・ ~数日後~ [こしあん派にうれしいニュース 河城研究所の発明でこしあんゆっくりが身近に] 新聞の見出しに大きく出されたこの話題はたちまち幻想郷中に広がった。 「霊夢ー!例のこしあん買ってきたぜ★」 「あら魔理沙奇遇ね。わたしもあなたと食べようと思って・・・。」 「幽々子様!今日はうわさの饅頭がおやつですよ!」 「あら妖夢。気が利くようになったわね。」 「橙。今日はうわさのこしあんゆっくりを買いに行こう!」 「はい!藍しゃまぁ!」 今日も饅頭屋は大賑わい。加工場で行われることも知らずに・・・。 BAD END NO.1 河童は信じずゆっくり妖怪の山を越えよう! /*--------------------あとがき------------------------*/ 最後まで読んでくれた人ありがとう。 これが私の始めての作品です。 今までの設定とか(ってあるのかな)ほぼ考えずに書いてしまいました。(勝手につぶ餡種が多いとか) あとちょっとでもいいので感想を書き込んでもらえたらうれしいです。 P.S. みょんには「ちーんぽ!」って言わせたいがために出演してもらいました。 どうもすみませんでした。 続編はきっとないです。