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ルイズはその魔法を即座に思い出した。 『ライトニング・クラウド』 雷を発生させる凶悪な攻撃魔法、それが扉にいた四人のワルド、風の遍在に よって放たれたのだ。 青白い光が空気中をジグザグに走り、炸裂。よくて大怪我、悪ければ死亡。だが、 ルイズとキュルケ、タバサは怪我ひとつしていなかった。 失敗した、わけではないはずだった。空間を叩き割る音、それがいまも耳鳴り として残っている。 耳鳴り、とは。 「ンドゥール!」 ルイズが呼びかけるが、返事はなかった。彼は杖を突いたまま立ち、微動だに していない。心配は杞憂に終わったのか、いや、そうではなかった。彼はただ、 倒れることを拒否しているのだ。耳の穴から真っ赤な液体が流れ出しているにも かかわらず。 「保険が効いたみたいだ」 ワルドが服のほこりを払い、立ち上がった。ウェールズたちは逆に窮地に立たさ れてしまった。一人と四人、計五人のワルドに囲まれている。式の前からすでに 作り上げていたのだ。ンドゥールは呪文を聞いていたかもしれなかったが、どの ようなものかはわかるはずもない。 「……よくぞ四人も遍在を作り上げるものだ。その技量には敬服しよう。しかし、 同じことができないとは考えなかったのか」 ウェールズが腕を押さえながら言った。苦渋に満ちた顔。 「そんなことはない。だが、詠唱の暇は与えなければ問題はない!」 戸から四人のワルドが襲い掛かる。杖は魔法を付加され、鋭利な刃物と化している。 ウェールズが女子たちを守るために立ちはだかろうとする。しかし、一体はふわりと 彼を飛び越し、四人に向かっていった。 「もらった!」 遍在のワルドが持つ杖、その切っ先がンドゥールの肩を突き刺した。もちろん 頭部を狙ったものだったが、ほんの一瞬早くルイズが彼を突き飛ばしたのだった。 「いい判断だよ」 本体のワルドがその遍在を自分の下に引き寄せた。 「しかし、先延ばしにしたに過ぎない。婦女子方、覚悟はよろしいかな」 笑ってそんなことを口にする。ンドゥールに止めを刺さないのは、いつでもできる からである。聴覚を破壊されては、ただの死んでいないだけの男だ。そんな死に 際の相手より生きて牙を剥いている方に目を向ける。集団で戦う際には当たり前だ。 それが、普通の相手であったならばだが。 ワルドは嘗め回すようにルイズたちを見やる。三人は杖を向け、戦う意思を見せて いる。どうも大人しく命を絶ってはくれなさそうであった。トライアングル二人と、いまだ 自分の力を理解していないメイジ、実質二人のスクウェアを相手にするには不足である。 それに、敵はまだいるのだ。 礼拝堂に突如大きな振動が襲ってきた。 「なによ今度は!」 ルイズが声を上げる。響きは外から聞こえてくる。それだけでなく大地が不規則な震動を している。明らかに自然の現象ではない。疑問に答えるように、いやらしさを含んだ優しい 声でワルドが言った。 「攻城が始まったのだよ。約束を守ると思っていたのかい?」 ルイズとンドゥールの二人は横っ腹を空気の塊で殴られた。力は強く、大きなゴーレムに 殴られたかのようだった。 キュルケが炎を生み、タバサが氷の槍を作り向かわせた。だが両者とも強力な風に煽られ あらぬ方向へ飛ばされてしまった。しかし、二人のワルドは優位さを確かめるよ うに静々と近寄って きている。 「ルイズ。君は諦めないのだね」 「当たり前だわ。殺されるのは嫌だもの」 「でも、どうやってだい? 後ろの級友も不安げな顔つきだ。味方を巻き込んで自爆してくれるのなら 手間も省けるんだが」 嫌なところを突かれた。 (でもわたしにはこれしか戦う方法がないんだもの。仕方ないじゃな……まだあったわ。戦う術は なにも魔法だけじゃない) ルイズは地面に転がっていたデルフリンガーを拾った。手にずしりとくる重たさだが、 振れないことはない。むしろちょうどいいぐらいだ。剣もよろこんで手伝うといってくれた。 「伝言だ! 時間を稼げ、だとよ!」 デルフリンガーがそう言った。それはンドゥールが、あのような状況でもいまだ諦めて いないこと、勝利を模索していること。 それは勇気を与えてくれる。不屈の魂がルイズの幼い身体を奮い立たせる。 彼女は剣を構え、まさしく騎士のような姿を取った。 ワルドは驚きながらも若干楽しそうに声を上げた。 「すばらしいよ。君はいい。妻になってほしかった女性だよ」 「ぜえったいに、いや!」 強い拒絶。その後に小さな笑いが起こった。 「見事に振られたわね。あんたは退場なさい!」 キュルケが火を放つ。タバサもタイミングをずらし、氷の槍を打ち出した。 風の盾で火を防いだのでこと受けきることはできない。ならばと、二人のワルドは 蝶のように舞い、華麗に避けて見せた。その最中にも魔法の詠唱をしていた。 それは風の魔法を使うタバサにはわかった。先ほどと同じもの。 『ライトニング・クラウド』 二つの雷が絡み合いながら三人に襲い掛かった。 炸裂、またしても空気を叩き割る音がした。ところが、タバサもキュルケも無傷のまま だった。静電気すら起こっていない。その理由は、目の前の小さ な少女がその身で 庇ってくれたからだった。 ルイズは、立っていた。二つの足と一つの剣で身体を支えていた。両腕が焼け爛れ、 今にも気を失ってしまいそうだった。だが彼女は朦朧とした意識である疑問にぶつかっていた。 それは単純なことである。 なぜ生きているのか―― 彼女はおちこぼれではあったが勉強には熱心だった。そのためワルドの使った魔法がいかな 威力か、それは頭に入っている。だからこその疑問。まず、 二重で受けてしまえば生存できる はずがないのだ。 「……イズ!」 誰かの声が聴こえた。心配してくれるのがよくわかった。 頭の中は衝撃で混濁している。家族や友達、使い魔の顔が浮かんでくる。そして、憧れていた 男の顔も。いまそれは憎き敵である。忘れてしまいたい。記憶を消してしまいたい。でも、それ は逃げだ。敵から逃げてはいけない。 戦わなくてはいけない。ルイズは叫んだ。 「キュルケ! タバサ! わたしが守るから好きにやって!」 「……わかったわ!」 今度はキュルケはより巨大な炎を作り出した。さらにタバサは風を吹かせ、その炎を圧倒的な 津波へと成長させる。それが飛んだ。 あまりの巨大さ、避けれるものではない。ワルドは二人で力を合わせ、その攻撃に飲み込まれ ることのないように竜巻を作った。ワルドたちの目前で炎が壁となり視界を包む。だが、所詮、 それだけ。時間が経つにつれ徐々に勢いを弱め、彼の眼に三人の姿が映りこだした。 このとき、ワルドは不思議に思った。とっておきの攻撃を防いだのだ。 それなのに、なぜ、してやったりとした顔をしているのか。 視界が開けたまさにその瞬間、背後から答えが襲ってきた。 「ざまあ!」 キュルケが歓喜の声を上げた。彼女の自慢の使い魔、フレイムがワルドの背後から炎を 吹きかけたのだ。至近距離からのそれ、人間に耐え切れるようなものではない。見事に ワルドの一人は消し炭になってしまった。 が、惜しいことに本体ではなかったようである。すぐさまフレイムは魔法で殴り飛ばされた。 「ひどいことをするわ。人の使い魔に」 そうぼやきながら、キュルケは事態が悪くなったことを悟る。もはや小細工は通用しない だろう。ウェールズも三人が相手なため徐々に押され始めている。助けは来ない。 ンドゥールは意識が戻ってきているのかゆっくりと体を起こし始めているが、戦力にはな らない。耳から血が出ているということは鼓膜を破られたのだ。 無音の暗闇に彼は閉じ込められている。 「さあ、もう十分だろう」 ワルドは笑っている。彼にとってこれはお遊びなのだ。子供が蟻をいたぶるのと同等。 それだけの実力差がある。キュルケはつばを飲む。汗が体中に浮かんできていた。額 に前髪が張り付い ていて、うっとおしかった。 「タバサ、あなたの使い魔は来れないの?」 「できない。レコン・キスタが邪魔」 キュルケが舌打ちする。 ワルドが呪文の詠唱を始めだした。キュルケも対抗して魔法を唱える、が、杖の先から 炎は出てこなかった。魔力が尽きてしまったのだ。タバサは氷の槍を飛ばす。それは、 またしても軽々と避けられる。 詠唱が終わった。 『ライトニング・クラウド』 今度こそ死んじゃうかも。ルイズは雷を眺めながらそう思った。 悔しくてたまらなかったが身体の痛みが意識を朦朧とさせ、感情は爆発しなかった。 だから静かに思った。アンリエッタとの約束が守れなかった。ウェールズを守れなかった。 ワルドを倒せなかった。キュルケやタバサ、ギーシュを巻添えにしてしまった。 ただ一人の使い魔、ンドゥールになにもできなかった。 ごめん 青白い蛇はルイズに迫ってくる。彼女はそれを見て、死を嫌った。嫌ったものの、 受け入れるしかないと諦めたまさにそのとき、ひょうきんな声がした。 「思い出したぜえ!」 手に握っていたデルフリンガーが雄たけびを上げた。途端、その錆びついた刀身が 太陽のような輝きを放ち、殺意を持った雷という蛇を『食って』しまったではないか。 「雷を二発も食らったショックで思い出した! 俺はよお、あまりに暇だったんで身体 を変えてたんだ!」 輝きが収まると、そこにはいま磨き上げたかのような剣があった。 白銀のような美しい刀身だ。 「おい娘っこ、あいつの魔法は全部俺が止めてやる!」 「もっとはやく、気づきなさい、よ」 憎たらしい口を利かせたが、ルイズはほっとした。防御はこれでいい。あとは、後ろの 二人が、やってくれる。 そう『安心』して、彼女は気絶した。 「あとは私たちに任せなさい」 キュルケは倒れるルイズを抱きとめ、額にキスをしてデルフリンガーを取った。 びゅん、と、振ってからワルドに剣先を突きつける。ちらとウェールズを見るもこちらに 気を向ける余裕はなさそうだった。だったら自分たちだけでなんとかしてみよう。 「ねえ、ちょっと作戦があるんだけど」 「……わかった」 タバサに伝え終えると、キュルケはゆっくりと足をすすめ始めた。ワルドの杖はいま、 風の魔法が掛けられてあるようだった。白い竜巻のようなものがついている。確実に それは彼女の肉体を貫くだろう。 キュルケは脳内でどう動くかを考える。先日のンドゥールとの決闘からして、剣で戦って も勝ち目はない。どう攻めても防がれ、胸かのどか額に穴を開けられるだろう。ならば どうしたらいいのか、簡単なことだ。 彼女は地面を 蹴った。 ワルドは迎え撃とうと、風のように静かに迫った。技量は天と地ほどの差がある。彼の勝利 は必然。 だからキュルケは、振りかぶった剣を目前で止めた。 「ほお!」 杖先は剣の腹に衝突した。キュルケはわかっていた。振り下ろそうと、払おうと、突きをしようと、 すべて避けられるか流されるかして杖先で貫かれるということを。だから彼女は、それらすべて をしなかった。戦わなかった。防御に徹した。 それすらも難しくあったがワルドの慢心が可能にした。 しかし、そんなことをしたところで止められるのは一瞬だが、その一瞬さえあれば作戦は完成 する。キュルケはすぐさま後ろへ跳んだ。 ワルドは見た。タバサ、彼女の周囲には、先ほどまでとは比べ物にならないほどの氷の槍が 浮かんでいるのを。十や二十どころではない。彼は後ろに下がり壁を作る詠唱を始めた。 おそらくそれでも防ぎきれない。ならばあとは肉体を駆使しかわすだけしかない。 風の壁を作る。氷の槍が飛来する。一撃でも食らえば致命傷になりかねない太さだ。 銃弾のごとき速度をもったそれらが風と衝突した。拮抗は一瞬、風は易々と槍を弾き飛ばしたかのように 見えた。だが、実際は違う。ワルドもそれに気づいた。 槍は、風の力を利用し方向を変えただけだったのだ。 新たに切っ先が向いたのは、ウェールズを狙っているワルドの遍在たち。急ぎ意思を送り、背後に迫る 脅威をどうにかするべく命令する。だが、ワンテンポ遅い。無傷ではすまないと判断し、一人が腹に槍を ぶち込まれながらも呪文を詠唱する。他の二人は避けながら時間を待つ。やがて呪文が完成し、今度 こそ風は槍を散らしていった。 「甘く見ていたよ。なかなかやる」 ワルドは遍在たちを一旦自分の下に引き寄せた。五人が三人になっているが、これは キュルケの計算違いだった。本来ならさっきの作戦で遍在を全て倒して、ウェールズに とどめを決めてもらおうとしたのだ。 「タバサ、まだいける?」 小声で尋ねると、否定の返答がされた。これで魔力が残っているものはいなくなった。 ウェールズが彼女たちのもとにやってきて、眼前にたった。 「援護を感謝しよう」 「あら、どういたしまして。でも、どうします?」 「なに、勝算はないことはない。外の戦よりも遥かにましだ」 ウェールズは笑っていた。たしかに、三人を相手にするだけなのだから十倍以上の軍勢 とは比べようもない。 だが、そんな彼の笑みを吹き飛ばすことが起こった。 大地からより大きな震動が伝わってきた。 それはこれまでのものとは大きく違っていた。 真下からなにかが上ってきているのだ。 ウェールズはとっさの判断で四人をその場から突き飛ばした。 直後、彼の足元から何かが生えてきた。 「な、なんだこれは!」 ウェールズにはわからない。しかし、キュルケにはわかった。多少小さくなっていようと 間違いなかった。ほんの数ヶ月前、自分たちを殺そうとした女盗賊、フーケのゴーレム だった。本人はウェールズの目の前にいる。 彼女は高笑いを上げ、ウェールズに詰め寄った。 「やあ、久しぶりじゃないかっていっても覚えてないでしょうねえ。あんたはまだガキだったもの」 フーケはうろたえているウェールズを一発、素手でぶん殴り地面に蹴り落とした。 彼はレビテーションを唱え、床に静かに降り立つ。頬を押さえフーケを見上げた。 「まさか、サウスゴータ家のものか」 「そのとおりだよ。なんだ、覚えてるんじゃないか」 フーケは笑っていた。どうやら二人の間にはなにがしかの関係があるようだが、それはいまは どうでもいい。 問題は勝算が消えてしまったことである。 「そうそう、こいつらを渡しておくわ。なかなか頑張ったわよ」 彼女はゴーレムの中からギーシュとヴェルダンデを引っ張り出してきた。気絶しているギーシュ をヴェルダンデが担いでウェールズたちの下に走った。 「言っとくけど、俺ができるのは魔法の吸収だかんな。あんなゴーレムを土 に戻すのは無理だぞ」 「役立たずねえ」 「うっせえ」 デルフリンガーに軽口を叩くも、キュルケの心には敗北感が広がり始めていた。 ウェールズも同様だろう。苦々しい顔をしている。 ワルドがゴーレムの影から姿を出す。もう一度魔法を使ったのだろう、五人に戻っていた。 これでもうウェールズに勝ち目は、なくなった。 ワルドが告げた。 「観念したまえ。王族らしく自決させてやるぞ」 「断る!」 「ではどうするのだ?」 ウェールズは苦虫を噛んだ。これでは勝てない。勝てるはずがない。それならせめて客人だけ でも助けたい、と、彼は思っているが、目の前の敵がそれを許すはずがない。己の裏切りを知る ものを生かしはしない。 ワルドはこの戦いが終わるとトリステインに戻り、そのまま魔法衛士隊に戻るだろう。誰もが婚約者を 失った彼に同情する。そして愛しい姫のそばに居座る。許せられない。しかし、それを止める力がない。 悔しさで死んでしまいそうだった。 ワルドが近づいてくる。ウェールズが睨む。 歩みは止まらない。 彼らに死が着々と 近づいてくる。だが、ウェールズはそんなものが怖いのではない。あの愛しい姫と、 勇敢な客人をみすみす死なせてしまうのが怖いのだ。 このとき、彼は始祖ブリミルに願った。みっともなく、助けてくれと。 それは、叶えられる。もっともそれはそんな大昔に死んでしまったものではなかった。 自分が間諜ではない証拠に、やろうと思えばいつでも殺せると証明した、物騒な男だった。
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前ページ次ページ鋼の使い魔 せっかくの虚無の曜日が暮れてとっぷり。 トリステイン魔法学院内にある大会議室はオールド・オスマンを首座に座らせて教師という教師が集まり、非常に重たい空気を作っていた。 陽も落ちかけた頃に突如として現れたゴーレムが宝物庫を破壊し、収蔵されていた無二のマジックアイテム『破壊の杖』が 盗賊『土くれのフーケ』によって盗み出されてしまった。 その慎重にして大胆な犯行に学院の管理者たる教師たち一同は責任の所在と今後の対策について、 議論とは名ばかりの自己保身や責難に明け暮れた。 「当直のものは何をしていたのだ!」 「衛兵など当てにならぬ!今後はこのようなことが無いよう国軍に警護をまかせるべきではないか」 「当直を行っていなかったミセス・シュヴルーズには損失の弁償を…」 「そんな!私だけじゃなく他の方々も満足に当直なんてなさっていなかったでしょう!」 「国軍を安易に学院内に留まらせるのは学院の自主性の放棄じゃないか?!」 まさに議会踊って進まず。このような状態が3時間は続いていた。 好々爺の姿勢を崩さずそのやり取りを見守っていたオールド・オスマンであったが、さしもの業を煮やし取り乱す教師たちを一喝する。 「静まらぬか。皆の者」 半ば立ち上がりながらも喧々と口角泡を吹いて立ち回っていた教師達は、齢300とも称されるこの老メイジの放った覇気に当てられて 喉を詰まらせた。 「ここにおるほぼ全員が学院に賊が入り込むとは考えていなかった。無論、宝物庫の壁には強固に固定化を仕込んでおったが、所詮人の技。 事実盗賊めにまんまと破られて『破壊の杖』を持っていかれた。 詰まる所、今回の責任は学院の管理者たる我々全員にあると、わしは思うが如何かねミスタ・ギトー」 「お、おっしゃるとおりに……」 一際激しく責任者を探すべくなじっていたギトーは名指しされて鼻白んだ。 オスマンは咳払い一つ、いくつか空いた席が置かれて座っているコルベールに聞く。 「で、賊を直接目撃したものはおるのかね」 「はい。こちらに集まってもらってます」 コルベールは平素と変わらぬ態度で――ただし、その顔は幾分か険しい――会議室の隣に繋がるドアを叩き、中の者を呼び寄せた。 開けられたドアから入ってくるルイズ、ギュス、キュルケ、タバサ。 本来はギーシュも広場に居たため目撃していたはずなのだが、ゴーレム倒壊による負傷のため現在は医療室へ運ばれている。 ただし、勤務医の報告によると、ギーシュ・ド・グラモンは土砂崩落に巻き込まれた負傷に付随して、一種の欠乏症からくる 健康障害も患っていたことをここに記しておく。 閑話休題。オスマンは立ち並ぶ四人に対して暖かい目で迎えた。 「ふむ。詳しく話してくれるかの?」 一礼して一歩進み出るルイズ。他方ギュスターヴにも教師達の視線が集まってくるが、それは学院の会議室という厳かな場所に許可を与えたとはいえ平民が入り込んできている、という事への不快さを露にしたものだった。 「私はあの時、広場で魔法の練習をしていました。偶然広場に居たギーシュが塔の上に人影が見えたと言って、その後地鳴りが起こって 壁の向こうから大きな土のゴーレムが入ってきました。私はそれを撃退できないものかと遠くから魔法を打ちましたが、何度目かに命中して ゴーレムが崩れました。落ちてくる土から逃げる為に建物の中に一度はいり、土煙が収まってから外に出た時には、土の山だけで 賊が居なくなっていました」 「賊の特徴は覚えておるかの」 「黒いローブを身に着けていましたが、顔はおろか男か女かも分かりません……」 杖を振って賊を追い払うことに夢中で賊の顔形が頭から無かった事を心深くからわびるルイズに、あくまでも教師として 優しさと厳かさの混じった声で語りかけるオスマン。 「よいよい。生徒でありながら勇敢に杖振るったことを褒めてやろう。しかし一歩間違えば命の危険もあったのじゃ。そのことを忘れぬように」 はい、とルイズ。オスマンは教師達へ向きなおし、彼らに問う。 「さて。手がかりらしいものが何も残されておらぬ。どうするべきかのぅ」 「王宮に報告するべきではないでしょうか」 当直であったために最も非難を浴びていたミセス・シュヴルーズが積極的に手を上げる。 「ならぬ。先ほど言ったように今回の責任は我々全員にあるのじゃ。この件で王宮の官吏どもから非難と処罰があれば、我々は 責任を取らされて職を辞し、学院の管理運営は最悪アカデミーの傘下に吸収される、という事もありうるじゃろう。 そのような事があってはならぬ。ゆえに我々だけでフーケを捕縛、ないし『破壊の杖』を奪還せねばならぬのじゃ」 アカデミーとは学院と同じく国が置いた王立の機関の一つであるが、その目的は学術的な意味での魔法に関する研究である。 ただし学院とは違い、積極的な宮廷や地方貴族らからの寄付や義捐などを募り、内部の党派閥の激しい機関であることが知られている。 そのような連中に次代の貴族を育てる学院の運営を任せられない、ましてや不祥事をきっかけにしてなど。 オスマンの言葉に色を無くす、シュヴルーズ始め教師達。ことは己の職の安否にすら繋がるものと恐々とし始める。 ただなお、首座のオスマンは冷静にこの大事な会議の場に欠席する秘書の存在を気に掛けた。 「そういえば、ミス・ロングビルの姿がおらぬのう」 「どこに行ったのでしょうか。自室にはご在宅ではありませんでした」 明確に答えることが出来ないコルベールはそう言うしかない。 そこに勢い良く会議室の両開きの扉をと開け放って飛び込んできた人影があった。そこに室内の全員が視線を集める。 「遅れました!申し訳ありません皆さん」 「ミス・ロングビル!大変ですぞ!賊が侵入して宝物庫を荒らしていきましたぞ!」 「存じておりますわ。私、真っ先に宝物庫を確認して賊の後をつけるべく調査して参りましたの」 息を切らせ汗ばみ、額に髪が張り付いていたミス・ロングビルは、コルベールの言葉に答えながらたたずまいを直してオスマンの元に寄った。 「仕事が速くて助かるのぅ……」 「で、結果は?」 ミス・ロングビルは懐からなにやらメモ書きのようなものを取り出してそれを読み上げる。 「近在の農家などに聞き込みをしてみましたところ、ここから馬で4時間ほどの場所にある廃屋に、近頃見知らぬ人の出入りがあるとのこと。 ゴーレムの侵入した方角とも合わせて、おそらくそこがフーケと名乗る賊の棲家ではないかと思われます」 「上出来じゃ、ミス・ロングビル」 報告に満足したオスマンは再度教師陣に目を移し立ち上がった。 「さて諸君。再度言うがこの件は我らだけで解決せねばならぬ。故に今からフーケ捜索の有志を募る。我こそはと思うものは杖を上げよ」 オスマンの言の後、無言の時間が流れた。オスマンは大きく咳払いをしてもう一度教師達をみたが、教師達は互いに見合わせるだけで 何もする事が無い。そうして四半刻がゆっくりと流れた。 流石のオスマンも苛立ってくる。 「ええい、この中にフーケを捕らえようというものはおらんのか?貴族の威信にかけて汚名を雪ごうというものは」 ぐ…と杖を握る腕を震わせる教師一同。相手は巨大なゴーレムを作り出せるほどの優秀なメイジあることは明白。 しかも今から賊の住処を荒らしに行くというのだ。よっぽど自分に自信のあるものでなければ杖を上げることは出来ない。 オスマンはコルベールを見た。目を伏せ、ただじっとしている。汗一つ、震え一つ見せないその姿をオスマンは無念そうに眺めていた。 やがて上げられた杖がまず一つ。それは教師達からではない。 「ミス・ヴァリエール!」 「行かせてくださいミセス・シュヴルーズ」 会議室の隅に立ったまま待機していたルイズはじめ四人。一歩進み出てルイズは制止しようとするシュヴルーズに応えた。 「貴方は生徒ではないですか。ここは我々教師達に任せておくのです」 「そうは言っても、だれも杖を上げないではないですか」 たじろぐシュヴルーズ。そのとおりだ。現に止めるシュヴルーズ自身、杖を上げなかったのだ。ルイズを止めておける資格が無い。 そのやり取りを見ていた後の二人も杖を掲げた。 「ミス・ツェルプストー!それにミス・タバサも!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。でもタバサ、貴方はいいの?」 キュルケは脇に立つ友人に目を向けた。タバサは一旦掲げた杖を少しおろし、ルイズに、そしてキュルケに向けて一言。 「心配」 言葉少ない友人の気持ちに心を暖めるキュルケだった。 そんなやり取りをじっと見ていたオスマンは、ふむ、と一言言って教師達へ話した。 「では、彼女ら3名を捜索隊として遣わす」 「オールド・オスマン!」 「それとも君がいくかね?ミセス・シュヴルーズ」 「ぃ……いえ、私は…」 「彼女らは一度賊を見ておる。それにミス・タバサはシュバリエの称号を持つ優秀なメイジじゃし、ミス・ツェルプストーもゲルマニアの 高名なメイジの家系として優秀なトライアングルメイジじゃ」 シュバリエとは国が貴族へ与える爵位の一つだが、領地を与えられぬ無領地爵位でありながら、実戦能力等の実力によって 与えられるものであり、優秀なメイジの証でもある。 しかし、とオスマンは言葉切ってルイズを見る。 「ミス・ヴァリエール。本当に捜索隊に志願するかの」 「……はい!」 ルイズの目ははっきりと開かれオスマンを見ている。その態度に満足したオスマンは、 「うむ。では明朝未明より捜索隊として君達に外出許可を出す」 「「「「杖に賭けて」」」 「ミス・ロングビルには道案内をたのむぞ」 声をかけられたミス・ロングビルは心穏やかにそれを了承した。 「了解しました」 誰にも分からぬほどに笑いながら。 明朝、捜索隊として集められた一同は、用意された馬車に乗り込み、朝の澄んだ空気の中、出発した。 道中は森まで街道を行き、途中から徒歩による探索になるという。 「ミス・ロングビル。手綱など御者に持たせればよろしいのに」 案内人のミス・ロングビルは自ら馬車の手綱を取る事を願い出て、二頭引きの馬車を操っている。 「いいのです。私は貴族の名を捨てたものですから」 「よろしければ、事情を教えてもらえます?」 沈黙が二人に流れる。ロングビルは少しだけ、表情を曇らせたが、努めて空気を汚さぬように振舞った。 「……とある事情で廃名されまして。家族を養わなければなりませんので街に出て働いていたのですが、そこをオールドオスマンに 秘書として雇ってもらいましたの」 興味津々に聞いていたキュルケのシャツが何者かに引かれている。キュルケが振り向くと、小柄な友人が首を振って言った。 「野暮」 「それもそうね。ごめんなさいな、ミス」 「いいえ。慣れていますので…」 その言葉にほんの少し憂いを残す。 一方、馬車の別一角。ルイズは無理矢理同行させたギュスターヴの愚痴を叩き伏せるのに夢中だった。 「何も自分から厄介を拾いにいくこともないだろうに」 「何言ってるのよ。学院に賊が入ったのよ。これを放置するのは貴族の名折れよ」 「いつの時代も貴族ってやつぁ、大変だーな嬢ちゃん」 研ぎ終わったデルフがギュスターヴの腰に指されている。短剣とつりあうように左右に指された剣はギュスターヴの心象に 一応の安心感を与えていたのだが、この場においては多方向からの言葉に対応しなければいけない分、不利である。 「しかしだなぁ。何で俺まで引き連れるかね」 「ギュスターヴ。あんたは私の使い魔なんだから。腕に覚えがあるんでしょ?手伝って当然でしょ」 「当然って言われてもなぁ…」 「ま、いいじゃねーか。俺様は賛成だぜ。相棒の腕が早く見てーからな」 「……昨日みたいにでかいゴーレム出されたらあんまり出番もないんじゃないかなぁ……」 「ぶつくさ言わないの!使い魔だと分かってるなら主人の助手くらい承諾しなさい」 「そうだぜ相棒。もう馬車は出てるんだから嫌嫌言ってもしょうがねーぜ」 サラウンドで会話をするのは非常に面倒である。朝早くから馬車に揺られてそんなことをするのは気が削がれていく。 「分かったよ…」 うんざりしながらも渋々と首を縦に振るギュスターヴなのだった。 馬車が進んで3時間半。街道を外れた森の手前で馬車を止め、そこから徒歩で森に入って奥、ほんの少しだけ開かれた場所に あばら家が見える。 「農家からの聞き込みでは、おそらくここと思われます」 森の茂みの中、わずかにうねって身体を隠しておけるところに集まった5人。 「で、中はどうやって確かめるの?中に賊が居れば外におびきだす囮になってもらわなくちゃいけないけど」 キュルケは作戦を立てた。まず一人ないし二人で小屋に近づき、中にいれば陽動して外に出して挟撃する。 居なければ小屋の中で待ち伏せて賊の帰りを待つ、というものだ。 それを聞いたタバサは杖でルイズを指し示す。 「行くべき」 「私?」 そう、と答える。 「一番最初に杖をあげた。私もついて行く」 その言葉にキュルケが不思議そうにタバサを見た。 (自分から他人に近づいていくタバサって珍しいわね) 「引き受けたわ。見てなさい」 ルイズはタバサをつれて茂みを遠回りして廃屋に近づいていく。 残された三人は、周囲に賊が張り付いていないかを探す。 「ミス。つかぬ事をお聞きしますが、属性とクラスをお教えいただけます?」 「土のラインです。……!」 「なにか?」 ロングビルが何かに反応した。 「何か人影のようなものが見えましたわ。ちょっと見てきます」 険しい顔でロングビルが森の奥へ入って行き、木々の陰に見えなくなった。 キュルケはふと、自分がギュスターヴと二人きりになれたのを好機に話しかけて、自分への興味を持ってもらえないだろうか、と思い始めた。 「ミスタ・ギュスは今回の事件どう思われて?」 「…なぜ俺に聞く?」 ギュスターヴは腕を組んで木に寄りかかって聞いている。 「この捜索隊にあまり乗り気じゃなさそうだったみたいだし」 「そうだな…もし、俺が賊だったら。こんな中途半端な距離にある廃屋に潜んだりしない。 夜を通して移動して国境を越える。そうすれば追っ手はひとまずこないからな」 (あら、結構口が辛いわね。でも年の割に若々しい感じで素敵) キュルケは暗に自分の立てた作戦の不備を突かれているのだが、本質的に賊捜索に真剣なわけではないから気にしないことにした。 むしろ、このあばら家を探し出したロングビルの情報元があやしいかも、なんて思い始めた。 「では、この情報はガセ?」 「そうとも言えない。……そうだな。例えば賊が何らかの事情で現場から余り離れることが出来ないとか、或いは……」 「或いは?」 「…何か目的を持ってここに潜み、捜索隊を待ち伏せるとかな」 あばら家に徐々に近づいていくルイズとタバサ。ルイズは足元に罠があるかも、と観察しながら歩いていたが、 よく見ると自分達のほかに、あばら家の周りには真新しい足跡がいくつかついている。 「ボロボロの小屋なのに人の使ったような跡があるわね。賊が使っていたに間違いなさそうね……」 そっとあばら家の外壁に張り付いて窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。 タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。古い蝶番が軋みを上げて動き、仄かな日光があばら家の中へ入るが、やはり中に人が居ない。 慎重に慎重を重ねて覗き、人が居ない事を再度確認して中に入ったルイズとタバサ。あばら家の中にも新しい足跡は残されていた。 ほかには腐りかけの藁や農具のようなものが置かれていて、その中に比較的綺麗な布で包まれて立てかけられているものがあった。 ルイズはそれを手にとって開いてみる。中には不可思議な装飾の施された、杖。 「これが『破壊の杖』?普通の杖に見えるけど……」 次の瞬間、あばら家の外から轟音が聞こえる。地鳴りのような振動があばら家の弱りきった土台越しに足元を震わせる。 「何?なんなの?!」 「ここは危険。脱出する」 飛び出そうと二人は出入り口に駆け寄ろうとした寸前、出入り口に土の塊がぶつかる。土の塊は砕けて出口を塞いでしまった。 「ゴーレム!」 ルイズの叫びが中に響く。 外で待っていた二人には静かな時間が流れている。ミス・ロングビルは人影を探しに行ったきりで戻ってこない。 もしかしたら迷ってるのかしら、などと考えていたキュルケは、あばら家の更に奥の森からごごご…と音を上げて 持ち上がっていく土の山が見えたとき、緊張に身体をこわばらせた。 やがてそれは草木交じりの身体をした巨大なゴーレムに変形し、小屋を見下ろしている。 ギュスターヴは腰の剣に手をかけ、キュルケも杖を構えた。 「昨日のと同じゴーレム?!」 「多分な。二人を小屋から脱出させるぞ」 小屋に駆け寄る二人、しかしわずかに遅く、ゴーレムの拳があばら家に落ちる。落ちた拳は切り離されて土砂の塊となって あばら家の出口を塞いでしまった。 「タバサ!ルイズ!」 叫ぶキュルケ。ギュスターヴはキュルケの脇に立ちデルフを右手で抜いた。 「ゴーレムをひきつけるぞ!」 鞘から抜かれたデルフリンガーは、握りにも新しい布が巻かれ、丁寧に研ぎ澄まされた刀身が日光を受けてきらりと光る。 「俺様の出番だな。期待してるぜ相棒!」 袈裟斬り気味に振りかぶってゴーレムに飛び掛るギュスターヴ、キュルケも杖をゴーレムに向けて唱える。 「フレイムボール!」 「『かぶと割り』!」 ファイアボールよりも巨大な火球が発射してゴーレムの胸に当たり、露出していた樹木の枝が焼けて落ちる。 ギュスターヴの剣戟が腹に当たって衝撃が土を抉るように削り落とした。二人の攻撃で大きく一歩半、ゴーレムはよろめいた。 その振動は気を抜けば足首を痺れさせて立てなくさせる。 ガッシャン、と小屋から窓の割れる音が二人を振り返させる。背に背負ったあばら家の窓を割って這い出してきたタバサとルイズ。 その手にはしっかりと『破壊の杖』が握られている。 「ふひー」 「ルイズ!」 「『破壊の杖』を見つけたわ!あとはフーケだけよ」 そのやり取りを見逃さない。ゴーレムの拳が降ってくる。ギュスターヴは急いでゴーレムの足元から逃れた。 「ギュスターヴ!」 「ここは危険だ。一度引くぞ」 口笛を吹くタバサ。森の上空に青い軌道を残して飛ぶするシルフィードがゴーレムを中心に何度も旋回し、ゴーレムの動きを阻んだ。 鬱陶しそうに両拳を振り回すが、シルフィードの動きについていけないゴーレム。 「今の内」 「逃げるわよルイズ。『破壊の杖』は回収できたんだから長居する必要は無いわ」 あばら家を背に森の中へ逃げ込もうとするキュルケとタバサ。少なくとも盗まれたものが手元に戻ってきた以上、危険であれば それ以上する必要は無い、というのは正常な判断に思われて、ギュスターヴはそれに倣う。しかし、 「ルイズ?」 「私は引かないわ」 ルイズは逆だった。注意が上に向けられているゴーレムをじっと見る。 「私は貴族よ。賊を恐れて逃げ出すなんて出来ないわ」 「駄目だルイズ。見るんだ。ゴーレムの上に賊が乗っていない。フーケは森に潜んでゴーレムを動かしてるんだろう。 ゴーレムを倒しても賊が見つからないんじゃ意味が無い」 きゅいーっ!と上空のシルフィードが悲鳴を上げる。巡航速度以上のスピードで狭い空間を飛び回るのは飛行に長けた風竜でも限界がある。 「そうよルイズ。第一まともに魔法が使えない貴方じゃゴーレムの足止めも出来ないわよ 「黙りなさい!」」 吼えるルイズ。 「貴族とは、魔法を使えるものを言うんじゃないわ。敵に背中を向けないものを貴族というのよ!」 ルイズの目にはゴーレムしか写っていない。ゴーレムに走り寄りながら杖を向けた。 「ルイズー!」 「見てなさい!フレイムボール!」 キュルケの制止を振り切って詠唱、やはり爆発。ゴーレムの胸が爆発の衝撃で抉れ飛ぶ。 しかしこれがゴーレムの注意をシルフィードから足元へ移させてしまった。 「もう一度!フレイムボール!」 なおも詠唱、爆発。ゴーレムのわき腹が吹き飛ぶが、痛みを感じないゴーレムにとって身体を支える程度の強度があれば問題は無い。 ゆっくりと片足を上げてゴーレムがルイズの頭上に迫る。 「フレイムボール!フレイムボール!フレイムボール!」 遮二無二連発するルイズだが、ゴーレムの体がいくら傷つけられても、落ちてくる足が止まることはない。 「ルーイズ!」 キュルケの悲壮な叫びが森に響く。降ろされたゴーレムの足がルイズの居た場所を踏み潰していた。 「無茶はしてもらいたくないな。ルイズ」 「はぇ…」 ルイズはその時、ギュスターヴの片腕に抱かれて意識を朦朧とさせていた。 ギュスターヴはとっさに駆け出し、ゴーレムの足が落ちる寸前、ルイズを捕まえて脱出したのだ。 抜き身のデルフリンガーが『左手』に握られて、右腕にしっかりとルイズを抱きしめている。 左手の甲に刻まれたルーンが、仄かに光っている。 「おお、思い出したぜ相棒!」 「何?」 「…ちょ、ちょっと、ギュスターヴ!さっさと私を降ろしてよ!」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ひとまず抱き上げたルイズを降ろす。 「で、何だって?デルフ」 「思い出したぜ相棒。お前さんは『ガンダールヴ』だ」 「「『ガンダールヴ』?」」 ルイズとギュスターヴ両方の質問の声が重なる。 「あらゆる武器を使うことができる伝説の使い魔ってやつよ。心を奮わせて俺を握りな。体から力を引き出してやれるぜ」 試しにギュスターヴはぐっと強くデルフを握り、呼吸を変えて神経を集中させると、ルーンが一層の輝きを増す。 「ルーンが光ってる……」 「嬢ちゃん、ここは相棒に任せて下がりな。使い魔が賊を倒せたら主人の手柄になるんじゃねーの?……それでいいだろ、相棒」 「仕方が無いな…下がってろ、ルイズ」 「ギュスターヴ……。…ごめんなさい」 再度シルフィードで撹乱されていたゴーレムは、シルフィードがあばら家の前に下りると首らしき部分を下に向ける。こちらを見ているようだった。 「タバサ。皆を乗せて森を出るんだ」 「貴方は?」 「少しばかり時間を稼ぐ」 「ギュスターヴ!……ちゃんと帰ってきなさいよ」 無言で頷くと、シルフィードは飛び上がって馬車を留めた場所に向かって飛んでいった。 「さて相棒。どうするかね?こんなでかいゴーレムを」 ゴーレムは足を落とす、腕を落とす。それを『ガンダールヴ』の力を試すように動き回りかわしていく。 「とりあえずルイズ達が安全な位置まで移動できる時間を稼ぐぞ。タバサの使い魔が飛んで馬車の準備が出来るまでだ。その後は」 「後は」 「……あれを壊す。覚悟しろデルフ。折れるんじゃないぞ」 「まかせときな」 ギュスターヴは、このとき初めて左手でデルフを構えた。ゴーレムは足元のギュスターヴを認識して拳を落とそうと踏み込むが、 ギュスターヴは自分から踏み込んで、ほぼゴーレムの真下に立つ。 袈裟に構えて腰を落とす。両足から両脚、膝、腰、背筋から腕、そして手首にかけてに神経を集中させる。 「『ベアクラッシュ』!!」 一声。高く飛び上がったギュスターヴの一撃が、ゴーレムの肩に叩きつけられた。炸裂音にも似た衝撃がゴーレムの右肩を走る。 ギュスターヴの剣技の中で一、二を争う剛剣は、『ガンダールヴ』の力も合わさって深々とゴーレムの身体を進み、深く入った亀裂が 右腕を支えきれなくなって折れる。落ちる右腕を確認してからゴーレムの身体に食い込むデルフを抜いて、ゴーレムの体の上を走る。 飛び上がるようにジャンプし、デルフをゴーレムの胴体に振り込んだ。 「『天地二段』!」 削撃音を響かせてゴーレムが切り裂かれていく。地面に達した瞬間にデルフを水平に払うと、ゴーレムの足首が切れ飛んで、 衝撃で仰向けにゴーレムは倒れた。倒れることで森が揺れて、驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。 「まだだぜ相棒。ゴーレムは再生できる。操ってるメイジが居る限りな」 「その通りよ。とはいえ只の平民が私のゴーレムをここまで壊せるなんてね」 背後から声かけられたギュスターヴ。声の主はミス・ロングビルだったが、彼女はギュスターヴの背中にナイフを突きつけている。 「ミス・ロングビル。何を」 「その名前はちょっと違うねぇ。私の名は、『土くれのフーケ』さ」 握っていた剣を降ろすギュスターヴ。振り向くことも出来ず、ただ背中からの声に耳を傾けた。 ギュスターヴは抑揚の無い声で話しかけた。 「近くに居るだろうとは思っていたが、賊の正体が貴方だったとはな」 「主人を逃がすために一人で戦うなんて立派だねぇ。でもここまでさ。アースハンド!」 地面から延びる土の腕がギュスの足を絡め取る。 「何!?」 次に崩されたゴーレムが盛り上がって山になる。そして先ほどより小さいゴーレム――それでも、3メイルはある――が2体、形成されて ギュスターヴの前に立った。 「そこで暫く遊んでな。私はあの嬢ちゃんたちから『破壊の杖』をもらってくるから」 フーケは悠々と森を出て行く。足を止められて追うことが出来ないギュスターヴは、拳を突き出してくる2体のゴーレムをデルフでいなすしかない。 「どうするんだよ相棒。このままじゃやばいぜ」 「少し時間が掛かるが始末は出来る。あとはそれまで、ルイズたちが無茶をしないでくれていれば……」 シルフィードが森を抜けて馬車を止めた場所で降りた時、丁度ミス・ロングビルが森から飛び出してルイズたちの視界に入った。 「ミス・ロングビル!ご無事ですか?」 「はい。ゴーレムが見えたので一度森を脱出しようと思いまして。……その手のものが『破壊の杖』ですね」 「はい」 ルイズは手にしっかりと『破壊の杖』の包みを握っていた。 「改めさせていただきたいので、こちらへ……」 破壊の杖を持ってルイズはロングビルに近寄った。ルイズがロングビルの手に届いた瞬間、羽交い絞めにするように押さえつけられたルイズの首に、ロングビルの手に 握られたナイフの刃が当てられる。 「ミス・ロングビル?!」 「大人しくしな!じゃないとこいつの首が落ちるよ!」 粗野な言葉遣いと目の前に出来事に動くことが出来ない。 「あなたが賊……土くれのフーケだったのね」 「そうさ」 ルイズが苦しげにロングビル……土くれのフーケに言った。フーケはひたひたとナイフを当てながらけらけらと笑って話す。 「頑丈な宝物庫の壁を壊してくれて例を言うよおちびさん。でもね、せっかく手に入れた『破壊の杖』なんだけど、使い方がさっぱり分からなくてね。 どう見てもただの杖なのに振っても何をしても反応が無い。だから人の来ないこの森まで捜索隊をおびき出して襲えば、 『破壊の杖』を使うやつがいるんじゃないかと思ったんだけど…どうやら、無駄だったみたいね」 「わたしをどうするつもり?」 「ひとまず私が馬車で逃げるまで大人しく捕まってな。後で馬車から降ろしてやるよ」 フーケの顔が嗤っている。あの穏やかで美しかったロングビルの豹変にルイズをはじめ三人は戦慄した。 「嘘よ。薄汚い賊が離しなさい。キュルケ、構わないで私ごとフーケを打ちなさい!」 「そんなことできるわけないでしょ!」 「賊に捕まって好きにされる方が屈辱よ。早く打ちなさい」 ルイズが盾になってキュルケの魔法はフーケに届かない。そのことにキュルケは歯噛みしていたが、タバサはなぜか視線が少しずれて森を見ていた。 「麗しい友情ってところかい?まぁいいさ。そこで私が逃げるのを大人しく見守ってておくれよ」 フーケはルイズを引きずりながら馬車に向かって移動する。タバサがじわりと詰め寄ろうとすると、ルイズを引き寄せてナイフを首に当てなおす。 「動くんじゃないよ!本当にこいつを殺すよ」 「タバサ、やめて。ルイズが死んじゃう!」 キュルケは何も出来ずに叫ぶ。しかしタバサの目は冷静だ。静かに声を出す。 「大丈夫。彼がいる」 「彼?」 キュルケの脳裏にいまだ森から出てこない平民の使い魔が浮かぶ。フーケはそれを見越していたのだろう。可笑しくてたまらないとばかりにニヤニヤしている。 「あの平民の使い魔だったら、今頃森の中で私のゴーレムと殴り合いをしているよ。暫くは動けないはずさ」 「それはどうかな?」 背後に背負った森から何度か聞き覚えのある声が聞こえて、不意にフーケは返事をしてしまった。 「え?」 振り返った瞬間に視界に入り込んだものは、突進するギュスターヴ。手にはデルフリンガーではなく手製の短剣を握っている。 ギュスターヴは短剣を立てず、寝かせてフーケに当てて体勢を崩した。 「あうっ!」 それを逃さず倒れたフーケに剣先を突きつける。ルイズがフーケの腕から逃げてギュスターヴの背中に隠れた。 「『追突剣』……もう逃げられないぞ、フーケ」 ギュスターヴの空いた手にはフーケの杖が握られている。『追突剣』の際にフーケの懐から奪い取ったのだ。 フーケは起き上がってナイフを構えたが、背後に杖を構えたキュルケとタバサが間合いを詰めると、やがてナイフを捨てて両手を挙げた。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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No.013 フリードニアの使い魔 使いやすい2マナ再行動1マナ魔道師の内の一枚。 主にアルージアの修道女は一致Fでの回避、女エルフの狂魔道師とは堅牢さで差別化されている。 F維持力に欠けるクリーチャーの多い火であることも重要で 脇さえ押さえれば狂魔道師と同じ堅さを発揮できる。 もちろん機巧偏重型のデッキに対する強撃も強力で 相手にとってみれば放置できないが一撃で落とせない嫌味なクリーチャーとなりうる。 コメント 名前
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前ページ次ページ暗の使い魔 夜空に煌々と双月が輝く頃。ルイズは自室のベッドで夢を見ていた。 それは、幼い自分が懐かしきヴァリエールの領地にいる夢。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 ルイズの母が、そんな事を言いながら彼女を探し回る。姉たちと比べて出来の悪い自分を叱る為だ。 夢の中でルイズは、そんな自分を叱る母から逃げまわっていた。 召使達が、ルイズの事をひそひそと噂しながら通り過ぎる。 「ルイズお嬢様は難儀だねぇ。上のお姉さま方はあんなに魔法がおできになるっていうのに」 庭園の中庭で茂みに隠れながら、ルイズはそんな噂話を悲しい思いで聞いていた。 だれも自分の事を分かってくれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、ルイズは彼女が『秘密の場所』と呼ぶある場所へと行くのだ。 そこは、ルイズが唯一安心できる場所。人の寄り付かない、うらぶれた中庭の池。 季節の花々が咲き乱れ、池のほとりには小さな白い石で作られたあずまやが建っている。 見るものが息をつくようなのどかな風景である。そして池には小さなボートが一艘。 ルイズは何かあると、決まってそのボートの中に逃げ込むのだ。 ルイズは用意していた毛布に包まりながら、ぐすぐすと泣き出した。 と、そんな時、霧の中からマントを羽織った立派な貴族が現れるのをルイズは見た。 年の程は十六歳ほどであろう。つばの広い羽根突きの帽子をかぶり、その顔は窺えない。 しかし、ルイズにはそれが誰であるかわかった。 幼い夢の中のルイズは、その白い小さな頬を染める。 そして、身を起こしその立派な貴族を恥ずかしそうに見つめるのだ。 「ルイズ、泣いているのかい?」 「子爵さま……。いらしてたの?」 ルイズは泣き顔を見られまいとふと顔を背ける。しかし、彼女の胸の高ぶりはおさまらない。 憧れの人に、自分の恥ずかしいところを見られた。それにも関わらず、彼女の顔は熱をもったままだった。 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 ルイズはさらに頬を染めて俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事が嫌いかい?」 子爵がおどけた調子で言う。それに対してルイズは一生懸命首を横に振りながら言う。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 ルイズははにかんで言った。帽子の下で、優しげな顔がにっこりと微笑み。 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」 そういって手が差し伸べられた。 「子爵さま……」 ルイズは小さく頷くと、立ち上がりその大きな手をとろうとした。しかしその時、彼女はあることに気がついた。 「あれ?何これ」 みるとそれは子爵の手ではなかった。煤に汚れた逞しい腕に、枷が嵌っている。その手が伸びる腕は筋骨隆々である。 バッと見上げるとそこにあったのは。 「さっさと行くぞお前さん」 使い魔の官兵衛の顔であった。 「な、なによあんた!」 官兵衛がぐいとルイズの腕を掴む。 「ちょ、ちょっと何するのよ!」 見ると夢の中のルイズは十六歳の彼女に戻っている。官兵衛の強引な態度にルイズは思わず声をあげる。 「何って、これから晩餐会だろう?エスコートしてやるからさっさと来い」 「な、なによその言い方。レディに対して!」 あまりの言い草にルイズは抗議した。しかしそんなルイズの態度に官兵衛は。 「ああもう、まどろっこしい!」 そういってルイズを軽々と抱き上げた。 「きゃっ!ちょ、ちょっと!」 いきなりの事にルイズは顔を赤らめた、そして。 「ルイズ。お前さんは小生のものだ。一緒に天下を取ろう」 「なっ!」 ルイズの顔から火が出そうな台詞を、官兵衛は平然と口にした。 いつになく真剣な表情の官兵衛。精悍な顔立ちが、その雰囲気をより一層際立たせる。 そんな官兵衛に、魚のように口をぱくぱくさせながらルイズは。 「い、いいいやよ……。ばっかじゃない?なんであんたなんかと」 声を震わせ、顔を俯かせながらそう呟いた。 「ルイズ」 官兵衛が今度は優しげにルイズに言う。「なによ」とルイズが顔を上げると。 息の掛かりそうな程近くに、官兵衛の顔があった。知的な瞳にルイズの表情が写る。その中のルイズの顔は―― 「やや、やだそんな……」 まるで幼子のようにしおらしい表情をしていた。そのまま官兵衛の瞳が閉じられ、顔が近づいてくる。 ルイズはハッと息をのみ、固く目を閉じた。ルイズの唇に官兵衛のそれが重なろうとした、その瞬間。 「なあぁぁぁぁぁぜじゃあああああっ!!」 「きゃあ!」 ルイズは現実にたたき起こされた。夜中にも関わらず、響き渡るみっともない叫び声に。 暗の使い魔 第十三話 『異国の男』 「よう相棒!随分と騒がしい目覚めだなっ」 壁に立てかけられたデルフリンガーが、カチャカチャと喧しく喋る。 「ハッ!ゆ、夢か……!ちくしょう刑部め!」 官兵衛は、藁のベッドから飛び起きるなり、そう呟いた。 忌々しそうに枷を振りかざしながら、官兵衛は悔しげに歯を食いしばった。 「一体全体どうしたってんだ?ニワトリだってもう少し遅起きだぜ」 「ああ、不快な夢を見た」 いつもに比べ落ち着かない様子で、官兵衛はその場に足を投げ出した。 しばしの間、沈黙していた官兵衛も、やがて落ち着くと。ゆっくり口を開いた。 「……もう大丈夫だ。気にするな」 「気にするな、じゃあないでしょうが!」 その時、ポカンと、官兵衛の頭に調度品が飛んできた。 見事にクリーンヒットしたそれがガランガランと床に転がり、官兵衛は頭を抑えた。 「毎回毎回、よくも人が気持ちよく寝ている所を起こしてくれたわね!」 見ると腰に両手を当て、ルイズが険しい形相でそこに立っていた。 ルイズ自身まだ眠いらしく、眼を時折手で擦りながらも官兵衛を睨みつける。 「いてて!何しやがる!」 ぶつけた箇所を擦りながら官兵衛が言う。それに対してルイズは。 「だって何度目かしら?こうして起こされるのは。この前は地震のオマケ付きだったわね!」 ルイズが近くにあった乗馬用の鞭を手に持った。そして官兵衛にツカツカと近づくと。 「ばかばか!ばか!」 頬を真っ赤にしながら彼を叩きだした。 「痛っ!何だ急に?」 「うるさい!いつでもどこでも!ご主人様を何だと思ってるの!」 ルイズの止まらない癇癪を身に受けながら、官兵衛はげんなりした。 起こしてしまっただけで、なぜこうも怒られにゃあならんのか。年頃の娘の扱い、というのはどうにも苦手な官兵衛だ。 まったく自分なんて久々に目覚めの悪い夢を見たというのに、この娘っ子は。 そこまで考えた時、官兵衛はピーンと閃いた。 「(ははあん。さてはこの娘っ子!)」 官兵衛は、真っ赤な顔で怒るルイズを見て何かに気がついたようだ。 「おい……」 「あによ!」 官兵衛が、嵐の如く唸るルイズの腕を、ガシッと掴む。鞭が彼の顔寸前で止まった。 そのまま壁際に押しやる官兵衛。 「はなして!はなしなさい!この大型犬!」 「もういいルイズ。安心しろ」 官兵衛が珍しく、静かな声色でルイズに語りかける。その普段ない官兵衛の様に、おもわずルイズはドキッとした。 「(な、なによコイツ……)」 先程夢で見た官兵衛の様子と、目の前の彼が不意に重なる。それを感じて、ルイズはさらに頬を赤らめた。 官兵衛は満足げに頷くと、こういった。 「見たんだろう?(怖い)夢を……」 「は、はあ!?」 ルイズは、先程自分が見た内容の夢を反芻する。 そうだ、自分は夢を見た。自分の使い魔が生意気にも私に想いを告げ、あろうことか口付けを。くくく口付けを……。 そこまで考えて、羞恥で顔が沸騰しそうになる。 「な、なによ!私がどんな夢をみようと勝手でしょう!?」 そんな様子を見て官兵衛は、ルイズが悪夢にうなされ、それを看破されて恥ずかしがっている、と踏んだ。 口調を変えず官兵衛が言う。 「小生も見たんだ、夢を……。いまだに鼓動がおさまらん(恐ろしくて)」 「はえ!?」 思わず口が開きっぱなしになるルイズ。 「(官兵衛も見ていた?同じような夢を?そそそそれに、ドキドキしている!?)」 その言葉に、甘ったるいものを感じ、脳内が麻痺する。 官兵衛の足りない言葉が誤解を生んでいるのだが、そんなことは露知らず。 「小生だってそうなる事くらいあるんだぞ?恥ずかしいが、仕方無い」 官兵衛はポリポリと頭を掻きながら、笑みを浮かべた。満更でもなさそうな表情であった。 ルイズの胸が早鐘のように鳴る。 「(ななな何ときめいてるのよ、こんな大男に!だいたいコイツは使い魔じゃない! なによ!ご主人さまの夢見てドキドキするなんて!身の程知らず!生意気!ばかうつけ!)」 心の中で、そんな言葉を繰り返しながらも、ルイズは官兵衛と目をあわせられなかった。 官兵衛が顔を覗き込んでくる。まるでこちらの感情を窺うかのように。 「ルイズ」 夢の中と同じように、官兵衛が真剣な声色で名前を呼んだ。 その言葉に俯いていた顔を上げ、彼の瞳を見やるとそこには。 「(やだ……!)」 夢の中とまるっきり同じ、幼子のようなしおらしい表情のルイズが写りこんだ。 ぎゅうっと目を瞑る。きっとこれから夢の中と同じように……。そう思うと身構えずにはいられなかった。 「(なによ、舞踏会で踊っただけじゃない。 そりゃあ私も少し、すこ~しだけ!頼もしいとか思ったり、守られて嬉しいとか思ったりしたわ! でもそれだけでこんな、ああこんな!どうしよう!こんな使い魔に!)」 ルイズは熱く熱せられた頭で、その瞬間をいまかいまかと待った。 時間にして数秒にも数分にも感じられた。長いのか短いのかわからない。 その時間が、沈黙が、何よりも心地よかった。ある一言でブチ壊されるまでは。 「漏らしてないな?」 「………………は?」 ピキーンと空気が固まる。 甘ったるかったルイズの桃色の空気が、風に吹かれてすっ飛んだ。 場違いな、肌寒い風に。 「……なんですって?」 「だから漏らしてないか聞いたんだ。怖い夢を見たんだろう?」 その言葉が耳から入り、神経に伝わり、大脳に入って情報に変換され、理解に至るのに、ルイズは果てしなく長い時間を費やした。 理解した途端、彼女の幸せな想像が、繊細なガラス細工の様な心情が、無造作に打ち砕かれたのだ。 ルイズの全身が小刻みに震えだす。 そんな様子を気にもとめず、官兵衛は続けた。 「小生もな。ガキの頃は悪夢でよく漏らしたもんだ。その度に父上に呆れられたもんだが――」 得意げに言いながら、官兵衛はルイズの震える肩をポンポンと叩いた。ルイズの拳が固く握られる。 そして官兵衛は、まずは深呼吸!気を落ち着けるのが一番だ!などとのたまいながら胸を張ったのだった。 それを聞いてか聞かずか、ルイズは深呼吸を始める。すうはあと、目を瞑り呼吸を整えた。 そして次の瞬間であった。ルイズの怒りのオーラを纏った鋼の拳が、官兵衛の鼻っ面に叩き込まれたのは。 「ぶべらっ!!」 圧倒的運動量を秘めた物体が、顔面に激突する。 情けない声とともに、官兵衛の巨体が部屋の端から端まで吹き飛んだ。 そのまま、反対の壁際に置かれた高価なアンティークの机に頭を叩きつける。 衝撃で机上に飾られた花瓶が落ちてきて、官兵衛の頭にヒットしかち割れた。 三連コンボを喰らった官兵衛は、鼻から一筋の血を垂らし、ふらつく頭を押さえながら目前を見やった。 見るとそこにいたのは、桃色の頭髪を逆立たせながら屹立する一匹のオーク鬼。 それが、手にした杖先から赤黒いオーラをたぎらせ、徐々にこちらに近づいてくる。 「……ゲホッ!ちょ、ちょっと、待て、お前さん。」 そのあまりの圧力に咳き込みながら、官兵衛は口を開いた。 近づいたルイズがこちらを見下ろす。 「ねえ?デカ犬?」 「デ、刑事?」 官兵衛は、花瓶から降りかかった水を払うように首を振る。視界が良好になり彼女の表情が窺える。 その顔は無表情だったが、目は伝説のオロチのように血走り、爛々と輝いていた。マグマのような怒りをたたえて。 「な、なんでそんなに怒るんだ?一応、いちおう、小生は心配して――」 「黙れい」 ルイズが低い声色でうなる。 「今度と言う今度は許さないわ。ご主人さまを前にして、始祖ブリミルをも恐れぬ不敬の数々……」 ルイズが杖を掲げる。 その先端に光が収束していく。 その失敗爆発の前兆に顔を照らされ、ルイズは言い放った。 「死をもって償うがいいわ……!」 杖が振り下ろされた。 目前に集中するエネルギーを感じながら、官兵衛は思った。また眠れない日々がやってきた、と。 そんな頃、トリステイン城下町の一角に聳え立つ、チェルノボーグの監獄内。 その人物は静かに、鉄格子入りの窓から覗く双月を眺めていた。 「全く、とんだ災難だったよ」 土くれのフーケは杖を取り上げられ、ここチェルノボーグの狭い独房内に身柄を拘束されていた。 逃亡の際、天海からつけられた傷は、水のメイジの手によって綺麗に元通りになっている。 しかし傷はなくなったが、フーケはあの長髪の男を未だ苦々しく思っていた。 自分が杖を持たない人間に遅れを取った事、容易く裏切られ捕まってしまった事。 彼女のプライドを傷つけるには十分であった。 だがそれに加えて、自分を捕まえたあの黒田官兵衛という男。 「大したもんじゃないの!あいつらは!」 彼女は、彼らには素直に賞賛の意を示していた。 あの時彼らが破壊の杖に細工をしていなかったら。あそこに駆けつけていなかったら。 自分はあの天海に始末されていただろう。 結果として捕まってしまったが、自分の命を救ってくれた彼らには感謝していた。 「クロダカンベエ……。妙な名前だけど中々面白い奴だったね」 フーケは独房の天井を見上げながら、向かいの独房の男に向かってそんな話をしていた。 「そうかい……」 男は少し考える素振りを見せた後、静かにそう呟いた。歳若い男の声だった。 「と、こんな所かね。私を捕まえた連中の話は」 「おお、ありがとうよ。」 語り終えたフーケに静かに礼を述べる男。そしてしばらくの後に、そっと呟いた。 「こっちに来てる奴が、俺以外にもいやがるとはな」 男の言葉にフーケは首を傾げた。フーケが思わず聞き返す。 「……?どういうことだい」 「いいや、こっちの話だ」 フーケは男の答えに興味を惹かれた。「へぇ」と短く呟きながら、彼女は男に言った。 「じゃあさ、あんたのことを教えておくれよ」 「何?」 今度は男が怪訝な様子でフーケに聞き返す。フーケは構わずに続けた。 「いいだろう?私はあんたの聞きたいことを話したんだ。あんたも色々と教えてくれても罰は当たらないんじゃない?」 「そりゃそうか?まあいいぜ、ここで会ったのも何かの縁だしな」 男の答えに表情を明るくしながら、フーケは鉄格子越しに身を乗り出した。と、その時であった。 「待ちな。だれか来る」 男が低い声でフーケを制した。聞けば、拍車の音の混じった足音が、コツコツと階段を下りてくるのが聞こえた。 看守ではない。看守であれば足音に拍車の音が混じろう筈はなかった。 「気いつけな」 「ああ」 男の言葉にフーケが身構える。すると、鉄格子の向こうに白い仮面をつけたマントの男が姿を現した。 マントの影から長い杖が覗いている。どうやらメイジであるらしかった。 「おや!こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね」 フーケはおどけた調子で目の前の男に言う。仮面の男は答えず、さっと杖を引き抜いた。フーケは思わず後ずさる。 しかし、仮面の男はくるりと反対側の独房に杖を向けると、杖を中の男に向けた。そして短く呪文を呟き杖を振るった、瞬間。 ばちんと周囲の空気が弾けて、仮面の周囲から、電流が牢の男に一直線に伸びた。 「ぐあっ!」 電流が胴体に命中し、男は力なく床に崩れ落ちる。バチバチと男の体中を強力な電気がほとばしった。 「野郎ッ……!」 男は力を振り絞り立ち上がろうとしたが、ガクリと倒れ伏す。 ぴくりとも動かなくなる男を、フーケは青ざめた顔でじっと見ていた。 牢の男を邪魔そうに見やった仮面の男は、くるりとフーケに向き直り、口を開いた。 「そう怯えるな土くれ。話をしに来ただけだ」 「話?」 牢の奥でフーケは油断無く身構えながら、仮面を睨みつけた。 「随分と物騒な挨拶だけど、私にどんな話があるっていうんだい?」 「まあ聞け土くれ。それともこちらで呼んだほうがいいか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケの顔が強張る。それは自分が捨てる事を強いられた過去の名前だった。なぜそれをこの男は知っているのか。 ますます警戒を強めるフーケ。 「あんた、一体何者?」 震える声を隠す事もできずに、フーケは男に問うた。しかしそれに答える素振りも見せず、男は笑いながら言う。 「単刀直入に言おう。我々と一緒に来い。マチルダ」 「何だって?」 「我々は一人でも優秀なメイジが必要だ。聖地奪還の為にな。」 男の言葉にフーケは、フンと鼻を鳴らした。男は静かな口調で続ける。 「まずはアルビオンだ。アルビオンの王朝は近いうちに倒れる。我々貴族派の手によってな。 そして無能な王族に代わり我々が政を行った暁には、ハルケギニア全土を統一する。 我らの手で聖地を奪還するのだ。」 「ちょっと待ちな、聖地を取り戻すだって?あの屈強なエルフ共から?夢幻もいいところだよ」 フーケが呆れたように男の言葉を遮った。かつてハルケギニア中の王達が幾度と無く兵を送り、失敗してきた聖地奪還。 強力な先住魔法を扱うエルフの恐ろしさは彼らも良く知っているはずだ。それをあろう事か目的の一つとして掲げているのだ。 馬鹿馬鹿しい。フーケは心底そう思った。 「生憎だけど、そんな絵空事に付き合うつもりはさらさら無いね。」 「ほう、たとえ死んでもか?」 杖の切っ先が静かに、しかし無駄の無い動きでフーケを捉える。 それを見て、フーケは観念したかのように構えていた腕を下ろした。仮面の男が続ける。 「お前は選択する事が出来る。我々『レコン・キスタ』の同志となるか、或いは――」 「ここで死ぬか。でしょ?」 「そういう事だ。先程の男のようになりたくなければな」 男は満足げに頷いた。と、その時であった。仮面の男のマントが突如としてごう!と燃え上がった。 「何!?」 フーケも仮面も目を疑った。見ると仮面の足元に、赤々と燃え盛る一本のナイフが突き立てられているではないか。 咄嗟にマントを脱ぎさる仮面の男。そして目を向けた先には。 「あ、あんた!」 フーケは向かいの独房をみて叫んだ。 「やってくれるじゃねぇか」 燃え盛る炎に照らされ、その男は何事も無かったかのようにそこに佇んでいた。 男の鍛え上げられた上半身が、赤々と輝く。仮面の男が短く舌打ちし、再び杖を構えた。 「仕損じたか」 再び呪文を唱えようとする仮面。しかしその詠唱は、檻の中から投下された一本のナイフで遮られた。 まるで矢のような速度で迫る飛来物を、サーベルのような杖で叩き落す仮面。 しかしどこに仕込んでいたのか、無数のナイフが檻の中から次々と飛んでくる。 そして次の瞬間、何とそれら全ての物が赤熱し炎を発したではないか。 「ぐおおっ!」 その内の一本を捌ききれずに、再び仮面の衣服に火が燃え移った。 狭い通路内で逃げ場も無く、仮面の男は炎に包まれる。そして次の瞬間、男は燃え盛るマントを残して霞のように姿を消した。 チャリンと、金属音が廊下に響き渡る。みるとそれは独房の鍵の束であった。 仮面が消え去るのを見ると、独房の男はフゥと息を吐いた。 そして向かいの独房で唖然と一部始終を見ていたフーケを見ると。 「大丈夫かよ?」 そういって歯を覗かせ笑った。フーケがハッと我に帰り、手を伸ばし鍵を拾う。 そしてガチャリと独房の扉を開け外にでると、鉄格子越しに男に近寄った。 「あんた、なんで生きてるんだい?」 「あぁ?随分じゃあねぇか」 男が眉をひそめながら言う。 「さっき喰らったやつならよ、この通りだ」 男が自分の胸を指差す。そこには先程の電撃で出来たであろう火傷の跡が出来ていた。しかし程度は見た目程に酷くはない。 あれほどの魔法を受けておいて、軽い火傷で済むとはどんな身体だろう。フーケは呆れてため息をついた。 「全く、でもありがとう。助かったよ」 フーケは廊下に残されたマントの燃えカスを見ながら、男に言った。 「いいってことよ。俺もいきなり訳分からんもん喰らって、頭にきた所だしよ。それよりも――」 「ああ」 フーケは男の独房に鍵を差し込んだ。ガチャリと鍵が開き、重い音と共に鍵が開かれる。 中から長身の男が、背負った上着をたなびかせながら悠々と歩き出てきた。 「いいのかい?そんな簡単に逃がしちまって。俺が極悪人だったらどうするつもりだい」 「極悪人は見ず知らずの私を助けたりしないだろう?それに――」 フーケはニヤリと笑い、男の目を見据えた。 「目を見ればあんたがどんな人間かわかるよ。長年盗賊やってないからね」 フーケの言葉に一瞬戸惑いの表情を見せた男だったが、すぐに口を空けると。 「ハハッ!アンタおもしれえな!気に入ったぜ」 そういって、声をあげて笑い出した。 トリスタニアで最も堅牢な筈のチェルノボーグの最下層に、豪快な笑い声が響き渡る。 そして、騒がしく牢獄を駆け抜けるのは二人の賊。 一人は、貴族の金銀財宝を根こそぎ奪い、トリステイン中を掻き乱した世紀の大盗賊、土くれのフーケ。 そしてもう一人―― 「あったぜ!やっぱりこいつがなきゃあ締まらねえ!」 囚人の持ち物を保管する倉庫から出てきた男は、手にした得物を得意げに振り回した。 風を払い、地面に突き立て、鋼の音を響かせる。その豪快な様におお、とフーケは感嘆の声を漏らす。 それは長さ三メイル以上はあろう豪槍。荒々しく鎖が巻かれたそれの穂先には、さらに巨大な白銀の碇。 それを男は、軽々と片手で取り回して見せた。 「いくぜぇ!こんなしみったれた場所からはおさらばだぜ!ハッハ!」 瞬間、男の手にした豪槍が赤熱して炎を吹き出した。 炎の槍が、男の頭上で旋回する。 振りかぶられた槍が男の手を離れ、吸い込まれるように塀に激突した。 どおん!と地響きが鳴り響く。 その瞬間、生じたのは閃光と爆音。 厚さ数メイルにも及ぶ石壁が弾け飛び、さらに業火に焼き尽くされて消滅した。 それを見て、彼女は声ひとつ出なかった。あらゆる砲撃もかなわぬ堅牢の防壁を、いとも容易く砕いた目の前の男に。 フーケは目を見張って、男を見つめた。 そこに立つのは異国の男。 逆立つ銀髪、紫色《しいろ》の眼帯。 同じ紫色の衣を纏い、大海制すは七の海。 男がいた乱世では、彼を指してこう呼ぶ。 四国の主。 海賊の長。 西海の鬼神。その名は―― 天衣無縫 長曾我部元親 進撃 暗の使い魔 第二章 『繚乱!乱世より吹き荒れる風』 前ページ次ページ暗の使い魔
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Mathieu まてゅー 委員長の魔女の手下。その役割はクラスメイト。 足に履いたスケート靴で糸の上を優雅に滑走するが それぞれは魔女が糸で操ってるだけであり意思を持たない。 概要 委員長の魔女・Patriciaの使い魔。 Patriciaの縮小版のような使い魔で、ひざまくらという商品を彷彿とさせる。 プリーツスカートを穿いた下半身のみの姿をしており、空から大量に降ってきたり、Patriciaのスカートから発射されたりする。一応外敵を邪魔しているようだが、落ちてきて糸の上をスケートするだけで、攻撃らしい攻撃はしてこない。 親の魔女と違いスカートの中身が見放題だが、ちょうちんブルマを穿いているので視聴者のご期待には添えない。 劇団イヌカレーによれば「魔女といえどもパンツチラリは許しません」とのこと。 その上、Mathieuは男性名である。女装が疑われるが、姓に使われることもあるので断定はできない。 ポータブルでのドロップアイテム MathieuはAGI強化ポイントをドロップしティーチャーはDEX強化ポイントを落とす。 ティーチャーについては詳細はないのでまとめて表記する。 名前 コメント
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな陽光が照らす朝。 朝食をとる為に食堂へと向かい、朝日が差し込む廊下を歩く影が二つ。ルイズとその使い魔=ジャンガだ。 「はぁ…」 「…何度目だよ、そのため息は?」 ルイズのため息にジャンガは顔をしかめる。 「仕方ないでしょ……他の皆は使い魔とのコミュニケーションもとっくに終えて、共に過ごしているっていうのに、 私は召喚から”4日”も経った今日、初めてアンタを連れているのよ?」 ”4日”の部分を強調し、ルイズは振り返らずに答える。彼女が憂鬱なのもまぁ無理も無い事ではある。 ジャンガは召喚から三日三晩経った昨日の時点で目が覚めてはいた。 だが怪我はまだ完治しておらず、念の為にともう一日休息を入れたのである。 その為、召喚から計4日と言う開きが出てしまったのだ。 ただでさえ皆に馬鹿にされている彼女にしてみれば、これは非常に致命的な弱みでもあった。 このまま食堂に行けばどうなるか…考えただけでも更に気持ちが沈む。 「はぁ…」 更に鬱な気分になり、彼女の口から再びため息が漏れた。 学生達が食事をする『アルヴィーズの食堂』は既に大勢の生徒で賑わっていた。 三つ並んだ、やたらと長いテーブルにはロウソクやら花が飾られ、所狭しと豪華な料理が並んでいる。 ちょっと油断をすれば直ぐに腹の虫が鳴き出す香ばしい匂いの中、ルイズはジャンガを引きつれ足を進める。 案の定、周りからは嘲笑が聞こえてきたが、彼女は全力でそれらを無視。 ジャンガに席を引かせると着席する。 「で?」 「”で”……って?」 「俺は何処に座ればいいんだ?」 ルイズの左右の席には既に着席している生徒が居る。 自分の席は何処かと辺りを見回す。ルイズはそんな彼のコートの裾を引く。 振り向いた彼にルイズは床を指差した。 ジャンガが視線を向けると、そこには罅の入った皿が一つあり、豪華な料理とは比べる事などできないほど、 粗末なスープと如何にも硬そうなパンが乗っていた。 「おい…何だこいつは?」 「この席に座っていいのは貴族だけなの。使い魔は本来なら外で待っているのよ? あんたは私が特別に計らってあげたから床。感謝しなさいよ?」 「……」 無言のままジャンガは床に座った。――額にハッキリと青筋を浮かべながら…。 朝食が終わり、午前の授業が始まった。 食堂でもそうだったが教室に入った途端、ルイズは生徒達に嘲笑や罵声を浴びせられた。 それにも彼女はやはり無視を決め込んだ。 そんな彼女と生徒達の様子を見つつ、ジャンガは他の使い魔達と共に教室の後ろの方で壁に凭れ掛かっていた。 暇潰し程度に授業の内容を聞きながら、ただ呆然と時間が過ぎるのを待った。 やがて暇を潰すのにも飽き、船を漕ぎ出した時、生徒達が急に騒ぎ始めた。 「んだぁ…?」 騒がしい声にジャンガは顔を上げる。 見ればルイズが席を離れ、先生(ミセス・シュヴルーズとか言ったか?)の方へと歩いていく。 そんなルイズに周囲の生徒達は一様に鬼気迫る表情を浮かべ、「やめて、ルイズ」などの言葉を投げかける。 食堂や教室に入って来た時などの嘲笑とはまた違うその雰囲気にジャンガは不可解な物を感じた。 「なんだってんだ…一体?」 そうこうしているうちにルイズは教卓の前に立った。 「では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」 優しく促す教師=ヴァリエールの言葉にルイズは緊張の面持ちで教卓の上の石ころを見つめる。 その様子を静かに見ていたジャンガだが、ふと一人の生徒が扉を開けて出て行くのに気付いた。 ゆっくりと扉を閉め、タバサは教室を後にする。 ルイズが魔法を使おうとすればどうなるかは誰もが承知の事実。 故に誰もが必死にルイズを止めようとしたのだ。 あの教師は少し気の毒だが、今年就任したばかりで彼女の事を知らないのだから致し方ない。 それにタバサにしてみれば気に留める必要もない。…何せいつもの事なのだから。 教室を離れた後は読書をしつつ、次の授業の事を考えればいい。 タバサは本に目を落としながら、静かに読書できる場所へと歩みを進める。 「授業中に抜け出すたぁ、良くねぇな~?」 唐突に聞こえてきた聞きなれない声にタバサは顔を上げた。 見れば壁に凭れ掛かりながら、こちらに顔を向けている長身の男が立っていた。 左右で色と見開き方の違う月目が自分を見つめている。 「…ジャンガ?」 「キキキ、嬉しいねぇ…俺の名前を知っているたぁな?」 何時の間に先回りしたのだろう?多少気になったが、タバサの興味をさらうほどではない。 タバサは本へと目を戻し、ジャンガの前を通り過ぎようとする。 「おいおい、無愛想だな…?」 「……」 タバサは最早顔も上げず、読書を続けながら歩みを進める。 そんな様子に舌打するジャンガ。 「まだ授業は終わっちゃいねぇぞ…?不味いんじゃないのか?」 「…いいの」 「おいおい…」 「多分…授業続けられない」 「そりゃ、どうい――」 ――その時、ジャンガの声を遮り、学院内を揺るがす爆発音が響き渡った。 「な、なんだぁ?」 突然の事にジャンガは両目を見開き、爆発音の聞こえてきた方向=教室の方を振り返った。 タバサは全く動じずにその場を立ち去ろうとする。その背にジャンガは声を投げかけた。 「お、おいっ!?今の何だ?」 「…彼女の魔法…」 タバサは振り向かずに一言。 「はっ?」 「…行ってみれば分かる…」 そう言い残すと彼女は今度こそ、その場を後にした。 ジャンガはその背を暫く見送っていたが、やがて教室へとその足を向けた。 「……」 教室へと舞い戻ったジャンガは言葉を失った。 あの爆発音からある程度予想はしていたが、目の前の状況は多少それを上回っていた。 教室内は爆発の名残であろう煙が充満し、壁や天井には罅が無数に入り、窓ガラスは残らず割れていた。 床や机には砕けた壁や天井の欠片が散らばっている。 ふと、目を向けた先の床ではシュヴルーズが倒れている。 時折痙攣しているところから目を回しているだけのようだ。 爆発の状況などから考えて、おそらくは爆心地に近い所に居たのだろう。 不幸と言えば不幸だが、これだけの大爆発の爆心地にいて目回している程度で済んでいるのは幸運と言える。 と、シュヴルーズの近くの煙の中から人影が立ち上がった。…ルイズだ。 顔は煤だらけ、服やスカートはボロボロ、路地裏で生活している奴と比べても大差無い…いや寧ろ酷い。 ルイズはこんな状況下でありながら、全く動じる気配を見せず、取り出したハンカチで顔の煤を拭き取る。 「慣れてるな…」 ある意味、感心したジャンガは思わず声を漏らした。 「だから言ったのよ!」 突然、響き渡った声にジャンガは目を向ける。キュルケが怒鳴り散らしているのが見えた。 しかし、やはりルイズは動じる気配を見せずにハンカチを動かす手を止めない。 「ちょっと失敗したみたい」 そんなルイズに生徒が一斉に騒ぎ出す。 「どこがちょっとだよ!」 「今まで成功の確立ゼロじゃないか!?」 「ゼロのルイズ!!」 『成功の確立ゼロ』……その言葉にジャンガは彼女が何故『ゼロのルイズ』と呼ばれるのかを知った。 (なるほどねぇ…) ジャンガは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ルイズを見た。 (ゼロ……つまり”無能”って事か…。キキキ…ピッタリじゃねぇか) 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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次の日の朝 銀時は雑用を終えて、部屋でゴロゴロ二度寝していた。 「ギントキ、街にいくわよ」 突然入ってきたルイズは言った。 「は、何で?」 眠ったままの体勢で銀時は心底めんどくさそうに言った。 「剣を買いにいくのよ、その木刀だけじゃあ私の事護れないじゃない」 「別に『洞爺湖』だけでも十分だろう、休みの日ぐらい休ませろよ」 「いいから仕度する!!」 ルイズの金切り声に銀時はむっくり起き上がる。 「へいへい、まあくれるつうならもらうけどよ・・」 「タバサ。今から出掛けるわよ! 早く支度しちゃって頂戴!」 「虚無の曜日」 キュルケは朝起きた後、再び銀時にアプローチしようとルイズの部屋に行ったがもぬけのからだった。 昨日、銀時に冷たくあしらわれたせいで、キュルケの情熱の炎はさらに勢いを増したらしい。 今までの男達はキュルケに無条件にチヤホヤし、夢中になっていった。 キュルケ自身もそれが当たり前だと思っていたが、銀時は違った。 ―私今まで子供だったのね、男はやっぱりああいう大人の魅力をもってなきゃあ。 銀時の出すダルさを大人の魅力だと解釈したらしい。 ずいぶん過大評価されたものである。 銀時とルイズが馬で出て行くところを見たキュルケはすぐさまタバサ部屋に行き 今に至るというわけである。 キュルケの友人であるタバサはいかにもめんどくさそうに答えた。 しかしキュルケはそんな友人の読んでいる本を取り上げ、掲げた。 「わかってる。あなたにとってこの日がどんな日かあたしは痛いほどよく知ってるわよ。 でも、今はね、そんなこと言ってられないの。恋なのよ、恋!」 タバサは首を振るだけである。 「あぁもう! 恋したのあたし! ほら使い魔のサカタギントキ、それであの人があのにっくいヴァリエールと出掛けたの! だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの! わかった?」 タバサは坂田銀時という言葉に少し反応を示した。 「わかった」 「あら、貴方にしてはずいぶん物分りがいいのね、とにかく馬に乗って出かけたのよ。 貴方の使い魔じゃなきゃあ追いつかないのよ!助けて」 タバサは何もいわずに準備を始めた。 「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」 友人のキュルケの頼みというのもあるが、タバサ自身坂田銀時に興味を持っているからだった。 その後2人は、タバサの使い魔、風竜、シルフィードでルイズ達を追った。 「腰が痛てえ・・」 「情けないわね、これだから平民は」 「仕方ねえだろ、久しぶりなんだから」 ルイズにつれられて馬に乗った銀時だったが、攘夷戦争時代は良く乗ったが 最近はもっぱら源付のため腰を痛めていた。 トリステインの街並みを見渡す。 銀時は前にやったヴァーチャルリアルティーのRPGを思い出した。 街はそのときの街にそっくりである。 ただ違いがあるとすればここは間違いなく現実(リアル)であるということだ。 銀時はキョロキョロ何かを探すように街を見る。 「何やってるの、あまりキョロキョロしない、田舎者みたいで恥ずかしいわ」 「長老とかはいねえのか、いたら武器にしようと思って」 「は?あんた何言ってるの?」 相変わらずこの男のいってることは分からないと思った。 「狭めえ」 銀時は大通り歩きながらいった。 かぶき町の大通りはこれの5倍ぐらいあった。 主に通るのが人だからだろうか。 「この先にはトリステインの宮殿があるの」 「へ~、宮殿に行けば魔王を倒すイベントでも起こるのか」 「わけわかんない、女王陛下に拝謁してどうするのよ」 「いたいけな使い魔がご主人様からドメステックバイオレンスの被害を受けていることを訴えるな」 「ドメ?意味わかんないけどなんかむかつくわね、それより財布は大丈夫」 「ああ、ここに、あり?」 銀時は懐を探るが財布の感触が無い。 「まさか、すられたの」 良く見るとルイズ達から逃げるように去っていく男がいた。 「俺の財布!!」 ルイズの財布だけなら銀時は怒らなかっただろう、ただ銀時の数少ない私物である財布も一緒に すられたのだ。 厨房の手伝いをすることで小遣い程度の銅貨が入っている。 一旦そうと決めたら銀時の決断は早かった。 ちょうど目の前に止まっていた馬車に乗り込み走らせる。 「ああ、馬車どろぼう!!」 馬車の本来の持ち主が後から叫んだが銀時はこれを無視した。 ルイズはただ呆然としていた。 一時間後 ガド!! 衛士の詰め所の壁を蹴り飛ばす銀時の姿があった。 「たく、なんでスリ捕まえたのに説教されなきゃならないんだ!!この腐れ衛士」 横にいるルイズは怒りで震えている。 「あんたね!!私が貴族じゃなかったら説教どころじゃすまなかったのよ」 結局銀時は馬車を街中で暴走させた挙句、捕まえたスリを半殺しにしたのだ。 衛士たちが駆けつけ、捕まったのは銀時の方だった。 ルイズのとりなしで何とか逮捕は免れた。 「スリが出るのはてめえらの職務怠慢だろうが、この税金泥棒。 ああ、むかつく、ションベンかけていこう」 銀時はチャックを開けてションベンを詰め所にかけようとする。 「きゃあぁぁ!?ちょっと何出してんのよ」 ルイズは顔を真っ赤にして目を手でふさいだ。 「何って?ナニですけど」 「そういうこと聞いてじゃないわよ、ホント最低!!」 しばらく2人で歩いていると隣にいたはずのルイズが消えた。 「あれ?まいったな、あいつ迷子か」 自分が迷子になったという発想は銀時にはなかった。 「あら、こんなところにいたのね、ギントキ」 突然不意に呼ばれて振り返る銀時。 そこには赤と青の髪を持つ少女がいた。 ―これで金髪がいりゃあ信号みてえだな。 どうでもいい事を考える銀時。 「ああ、たしかキョンと谷口」 銀時、その間違え方はいろいろやばいから。 「キュルケよ」 「タバサ・・(怒)」 2回も間違えられ心なしか怒っているタバサだった。 タしか合ってないし。 「そういえば、タバサのことは知ってるの」 「ああ、前ちょっとな、って言うかこんなところまで何の用だ」 「もちろんダーリンに会いに来たのよ」 「おれは鬼ごっこで宇宙人に勝って地球を救った男じゃねーぞ」 「・・・よくわかんないけど、おごるわよ、ダーリン」 その言葉に銀時はビクンとする。 「それはパフェ的なものでもいいのか・・」 「ええ、何でも」 「そうか、そいつは良い、ぜひ行こう、早速行こう」 逆に銀時の方がキュルケのほうを引っ張るようにメシ屋に入っていった。 「・・・うん・・うめえ・・あ、お姉ちゃんパフェおかわり・・」 銀時に呼ばれたウェイトレスはこいつまだ食うのかよという顔で注文を受ける。 ちなみにこれでパフェ10杯分だ。 「ダーリンが甘党なんて知らなかったわ、でもそこが可愛い」 恋は盲目とはこのことである。 ―でもこれはチャンスよ、これでダーリンをうまく餌付けして、そこから・・ キュルケがあらぬ妄想に入ってたが急に袖を引っ張られたのに気づいた。 「何、今ちょっと大事なことを考えてるのよ」 タバサは目をむかいのほうに向ける。 向かい合っていたはずの銀時がいないのだ。 「え~!!ちょっとダーリンは・・」 「帰った」 パフェを15杯食ったところで銀時は満足して『ごっそさん』とだけいってそのまま店から出てしまった。 タバサはこれには呆れたが止めるまもなく行ってしまったのだ。 「あ~、うまかった、満足、満足」 どこにあったのか爪楊枝で歯をシーハーさせながら歩く銀時。 「あー!!ギントキ、勝手にどこ言ってたのよ」 銀時ははぐれていたルイズに見つかった。 「あれ、ルイズ、おめえ迷子だったじゃあ」 「迷子なのはあんたのほうでしょう」 「俺は迷子じゃねえ、人生という道には迷ってるけどな」 「全然うまくないわよぉぉ!!いいから行くわよ」 ルイズにつれられて銀時が来た所は街の裏通りだった。 日も当たらず不衛生なそこに銀時はかぶき町の裏通りを思い出した。 「ビエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺なんだけど・・」 ルイズはキョロキョロ探す。 「あ、あった」 目的の武器屋を見つけたルイズはそこの扉を開けた。 武器や入るとしょぼくれた感じの店主がパイプを吸っていたがルイズを見ると あわてて猫なで声で対応した。 「旦那、貴族の旦那、うちは全うな商売してまさぁ、お上に目をつけられることなんか、 これっぽっちもありません」 そう言ってる時点で全うな商売はしていないといってるも同然なのだ。 銀時は大都市江戸一番の繁華街かぶき町で商売をしている。 もちろんそこでやっている商売は全うな物ではないものがたくさんある。 おかげで銀時の嗅覚は鋭くなっている。 実際こんなところで武器屋を開いている時点で胡散臭い。 ―うさんくせぇ、雑誌の裏にある『私はこれで幸せになりました』ってかんじで札束の風呂に入っている 広告よりうさんくせぇ。 そんなことは知らないルイズは店主に適当に見繕うように言っている。 銀時はとりあえず剣を見たがどれも使えないナマクラばかりだった。 腐っても侍の銀時である。 日本刀と西洋剣の違いはあれ刀を見る目ぐらいはある。 店主はルイズにレイピアを見せ高く売りつけようとしていたが奥から ガツーン、ガツーンと音がしているのに気づいてそっちを見ると なんと銀時が剣を片っ端から机や壁に切りつけ何本かの剣は折れている。 「ちょっとぉぉぉ!!あんた何してんのぉぉぉ!!」 店主は絶叫した。 「試し切りだけど・・」 「試し切りって・・・」 店主は折れた剣を見て呆然としている。 「それよりどれもナマクラじゃねえか、まともな剣はねえのかよ」 銀時のただならぬ雰囲気に気づいた店主はそのまま奥から剣をとってくる。 「これなんかいかがですか」 店主が持ってきたのは1.5メイルほどある立派な剣だった。 「これいいわねえ」 ルイズはこの剣が気に入ったようである。 店一番の業物といわれたのが良かったようである。 しかし、銀時はやたら派手派手しい外見とその大きさに実用性のなさを感じた。 「つーか、これ駄目だろう、高そうだしでけえし・・・」 「良いの、これにするの」 ルイズは逆にむきになっている。 「使うのは俺だぞ」 「うるさいわね、おいくら?」 店主はもったいぶって散々この剣がいかに立派か語った後、 「エキュー金貨で2千、新金貨で3千」 「立派な家と森付きの庭が買えるじゃない」 ルイズは目を丸くする。 「新金貨百しかもってないわ」 「馬鹿、言うなよ」 銀時は小声でいった。 ここは強引に値切るところである。 それゆえに相手に弱みを見せてはいけない。 ―こいつ一人で買い物したことないな。 この世界の貨幣価値は分からないがルイズのたとえから相当高いのが分かる。 銀時の世界の刀も高いがそこまでではない。 ふと銀時は腰にぶら下がっている『洞爺湖』を目にやった。 『洞爺湖』は通販で売られている消費税込みで11760円の代物であり 恐らくこの世界の金貨一枚分もしないであろう物だがそれでも 銀時にとってはたいそうな買い物である。 銀時は『洞爺湖』をみてニヤリと笑った。 「へ~、そんなに高いなら相当頑丈なんだろうな、この木刀で試し切りしてもいい」 「へい、かまいませんが・・」 ―何いってるんだ、この男、木刀が剣に勝てるわけないだろう。 この時店主はたかをくくっていた。 『洞爺湖』を台で固定し銀時は思いっきり剣を振る。 折れたのはその大剣のほうだった。 「あーーー!!!」 店主は信じられないものを見るようね目で絶叫した。 「何これ、鉄も切れるんじゃなかったの、銀ちゃんだまされたよ、非常に傷ついたよ 精神的慰謝料請求したろか、こら」 「い・・いいがかりだ!!被害者はむしろあっしのほうだ!!」 店主はほぼ逆切れしている。 「ぶひゃひゃひゃひゃ!!今までいろんな客見てきたけどおめえみてえに面白い客ははじめてだ」 急に店の奥から声が聞こえた。 「何だ?」 店主はそれを聞いて頭を抱えている。 「おいここだよ、ここ」 なんと声の主は一本の剣だった。 「げ、剣がしゃべってやがる、気持ちワル!!」 「初対面にむかって気持ちワルはねえだろうがぁぁぁ!!てめえも死んだ魚みたいな目で 気持ち悪いんだよ」 「うっさい!!天パー」 「天パーはてめえだろうがぁぁぁ!!」 「いや精神的にモジャモジャしてるっていうか」 「わけわかんねえぇぇよ!!なんなんだこいつ」 銀時と剣とやり取りに呆然としているルイズと店主。 「それってインテリジェンスソード」 剣の名前はデルフリンガーという意思を持つ魔剣らしい。 「それよりおめえなかなか剣を見る目があるな、その上『使い手』か、 こいつは良い、俺を買いやがれ」 「おめえさびしがり屋ですか、大丈夫だよ、おめーなら一人でもやっていけるさ」 「てめえに俺の何が分かるっていうんだよ!!馬鹿かてめえは」 「馬鹿って言うほうが馬鹿なんです~」 「ガキか!!てめえは!!」 銀時のデルフリンガーの言い争い最早わけのわからなくなってきていた。 しかし、今まで見ていた店主はついに切れた。 「出てってくれー!!その剣やるから出てってくれー!!」 銀時達はデルフリンガーもったまま追い出された。 「これでおめえとは相棒だ、よろしくな」 「別にいいんだけどな、っていうかあの店主から慰謝料請求できなかったじゃねえか」 「おめえはどこまで強欲なんだ」 街を銀時はデルフをもったまま歩く。 「何、おめえはしゃべれるんなら何か必殺技とか使えるんだろうな」 「何だ、必殺技って・・」 「卍○とかだよ」 「何だよ、○解って・・」 「できねえのかよ、ちっ、使えねえな」 「ものすごく理不尽な理由で俺見下されてねえか」 「おめえの名前はマダケンだな」 「なんだよ、マダケンって」 「まるでだめな剣の略だ」 「ふざけんなー!!俺にはデルフリンガーっていう立派な名前があるんだよ」 「うっさい!!マダケン」 「ちょっと私をさっきから無視するんじゃないわよー!!」 ルイズの声が街中に響いた。
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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早朝、朝靄が漂う魔法学院の玄関先に私とルイズは立っていた。ただ立っているわけではない。王宮からの馬車を待っているのだ。 王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世との結婚式はゲルマニアの首府ヴィンドボナという場所で、2日後のニューイの月の1日に行われる。 その結婚式の場でルイズは巫女として『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげなければならない。 つまり、ルイズはヴィンドボナに行かなければ行かなければいけないのだ。お姫様がヴィンドボナへ行く際、一緒に行くことになっている。 そのためお姫様のいる宮殿から王宮の馬車が迎えに来るというわけだ。学院に帰ってくるのは大体1週間後だろう。 ちなみに私はルイズの使い魔ということで随伴しなければいけないらしい。 ルイズは『始祖の祈祷書』を胸に抱えながら、私はデルフを使って足元にいる猫を地面に押し付けあることを考えながら時間を潰していた。 あることというのは無論最近の生活についてだ。特に生活が苦しいところは無い。『幸福』ではないが前に比べ随分と充実している。 しかし、不満が無いわけではない。今私が大いに不満に思っていることはルイズと同じベッドで眠っているというところだ。 なぜルイズなんかと一緒に寝なくちゃいけないんだ?ルイズがキュルケのようにボンキュボンならむしろ喜んで一緒に眠るがルイズにはそういった魅力が感じられない。 ルイズは13歳か14歳ほどだろうから当然かも知れない。だが、そうなると一緒に寝ているときは邪魔なのだ。何故他人のことに配慮して眠らなくちゃいけないんだ。 一人で好きなときに好きな体勢で眠りたい。つまり自分のベッドがほしい。それが今の切実な願いだった。 剣を売った金で画材を買おうと思っていたが変更してベッドを買ったほうがいいかもしれないと本気で思っている。安物なら買えるだろう。 それと、 「ルイズ」 「なに?あ、ヨシカゲ!あんた何時までいじめてんのよ!」 「ミー!」 そう言ってルイズは猫を助けようとデルフを蹴飛ばそうとしてくる。 だが、デルフに蹴りを当てさせるわけにはいかないので、猫をいじるのを止めデルフをルイズの蹴りの場所へ移動させる。 猫はその隙をつきどこかへ走り去っていった。しかし、これでいい。猫をヴォンドボナへ連れて行く気がなかったので離れてくれて助かった。 「まったく、趣味悪いわ」 「そんなことはどうでもいい。ルイズ、トリステインに帰ってきてからでいいんだが、服を買ってくれないか?」 「服?」 「そうだ。私の服だ」 そう、服。今現在私は衣服の替えを持っていない。それはなかなか由々しきことだ。この先一張羅で生きていくわけにもいかない。 人が寝しまっている間に自分の服を洗濯したり、夜じゃあまり乾かないので生乾きで着たりと面倒くさいしな。 「そういえば、あんたそれしか服持ってなかったわね」 「ああ、さすがにもう色々と限界だ。使い魔に必要なものぐらいは買ってくれるよな?」 「ま、まあ……今までよく働いてくれたからそれぐらいしてあげてもいいわね。それと同じ服を何着か作らせればいいんでしょ」 「ああ、助かる。ついでに手袋と帽子の予備もあればもっと助かる」 よし、衣服の問題は無事解決したな。しかし、こういったことはルイズが私に賃金をくれれば起こらないんだがな。だが、自分の使い魔に金を渡す奴がいるか?いるわけがない。普通使い魔ってのは下等動物(竜やなんかは例外だ)だ。 そんな文明もない奴らに金を渡しても意味がないからな。私は人間だが、使い魔だからルイズは金をくれない。わかりやすい方程式だ。わかりやすくてむかついてくる。 幽霊でも金が要る世の中なのに金が手に入らないなんて。剣を売れば自分の自由な金が手に入るが所詮一回こっきりだしな。どうせならルイズに賃金でもくれるように交渉してみるか? 「あれ?だれかしら?」 「あ?」 交渉するべきか否かを悩んでいる所に、ルイズの声が聞こえてきた。その声に反応しルイズを見るとルイズは玄関外の朝靄を見つめている。 いや、人影を見詰めている。人影はこちらになかなかの勢いで近づいてきている。やがて朝靄が薄れ始め、人影がはっきりし始めた。 「あれは……、王宮の使者だわ」 「王宮の使者?」 王宮の使者は髪を振り乱し必死の形相でこちらへ走りよってきた。尋常と言える様子ではないことは一目瞭然だ。使者は私たちに気がつくと私たちに近寄ってきた。 「ハァハァハァハァ……き、きみたち」 「ど、どうかしたんですか?」 ルイズも使者の様子におどいた様子で少し焦っている。 「オールド・オスマンは今どちらに?と、取り急ぎ伝えねばいけないことが……」 そういえばオスマンは今何をしているのだろうか?オスマンも私たちと一緒に宮殿へ行くことになっていたはずだ。準備に手間取っているのだろうか? 「オールド・オスマンなら学院長室にいるかと」 「ありがとう。では急ぐので」 そう言うと使者は学院長室を目指し走っていった。 「ねえ、いったいなにがあったのかしら」 「さあな。少なくともいいことではなさそうだったけど」 あの使者の眼にあったのは焦りと悲しみだった。そんな感情を抱いている時点でいいことのはずがない。 「なんだか胸騒ぎがするわ。わたしも行ってみる」 「じゃあ私はここで王宮の迎えを待っておこう。迎えが来たときに誰も居なかったじゃあっちもこっちも困るからな」 というか、いくらよくないことが起ころうと、私に害が及ばない限り知ったこっちゃない。 「……わかったわよ!勝手にしなさい!」 ルイズはどこか怒ったような声を出すと使者のあとを追っていった。やれやれ、何を怒っているんだか…… まあ、そんなことはどうでもいい。迎えが来るまで暇だな。何をして時間を潰そうか……。デルフと喋るか?そうだな、そうしよう。 デルフを完全に抜きはなつ必要は無い。喋れる程度に抜けばいいんだ。そうすれば不意に見られたとしても怪しまれる心配は殆んどない……と思いたい。 さて、何を話そうか。いや、そんなの考える必要は無いな。会話の内容は重要じゃあない。真に重要なのは会話をするということなのだ。 デルフを喋れる程度に引き抜く。 「おはよう相棒」 「ああ」 「相棒ってよ。あれか?好きな子ほどいじめたいってやつか?」 は?抜いて早々何を言ってるんだこいつは? 「何で?って顔だな。だってよ。相棒はあのこねこのことが好きなんだぜ。なのにいじめてるじゃねえか。もし好きじゃねえって言うなら相棒が気づいてないだけさね。ってか、これ前にも話したような気もするけどな」 デルフ、お前はあの猫が気にっているのか?なかなか話題に出すことが多いが、まさか気に入っているのか? ちっ!私は別に好きだからいじっているわけではない!猫自体は……まあ、デルフほどではないが愛着を感じ始めていることは確かだ。 だが、勘違いするな!暇だからいじっていただけだ!それだけなんだぞ! なんてことは口が裂けてもいえない。だから私は、 「ふ~ん」 とだけ返しておいた。自分が好感を抱いている者に素直な感情を発露するには多大な勇気が必要だ。私も早くそんな勇気を身につけたいものだ。 そんなとき、不意に何かが私の足に触れた。下を見るとそこには、 「ほら、こいつも相棒のことが好きだとよ」 どこかへ去ったはずの猫が私の足に前足を乗せ私を見上げている。 「……肩、乗るか?」 「ニャー」 ……首輪を買うのもいいかもしれないな。 そんな気持ちを黙殺しようと努力しながら私は猫を抱き寄せた。
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前ページ日本一の使い魔 「ダーリーン。」 ルイズにとって忌々しい声が聞こえる。早川に飛びつくキュルケ。キレるルイズ。我関せずで読書のタバサ。 「なによツェルプストー。何してるのアンタ?」 「あらヴァリエール、いたの?私はダーリンに会いたくて来たの」 早川は苦笑いを浮かべキュルケを見ると、背中に見事な見た目の剣を背負っている。 女性が持つにはかなり不釣合いな為、早川は尋ねた。 「この剣はどうしたんだい?」 「これは何処かのケチな貴族が、ケンにみすぼらしい剣を贈ったって言うじゃない? 私はケンにはこの剣がふさわしいって思ったから。この剣は差し上げますわ」 ケンは贈り物を受け取り礼を言うと、これから起こる事を考えそっと移動する。 「だ、誰がケチな貴族でっすって?何で人の使い魔に許可無く渡してるの?」 早川は両手を広げ肩をすくめる。 すると、タバサが早川の隣にやって来て何かを渡す。 「なんだい?くれるってのかい?」 コクリと頷き呟く。 「シルフィードがお世話になった」 二人の様子にルイズとキュルケは言い争う事を忘れる。 「ほぉー、きれいなペンダントだ。ありがとう。」 タバサの手をとり、軽くしゃがみ手の甲にキスをする早川。頬を染めるタバサ。 「「えぇぇぇーっ」」 「そろそろ帰りましょうかツェルプストー」 「そ、そうねヴァリエール」 二組はそれぞれ学院に帰るのだが、キュルケは思った。 「(私にはキスしなかったはね。ケンはタバサみたいなのが好みなのかしら、でも私がダーリンを)」 そしてルイズは考えるのをやめた。 そしてデルフリンガーは鞘に入れられたまま忘れられていた。 学院についた早川は二本の剣を交互に握り、自分の体の変調を確かめるように振るっている。 「なぁ相棒よ」 「なんだデルフリンガー」 「俺の事はデルフって呼んでくれ、それよりもよ相棒だって気が付いてるんだろ?その剣がナマクラだって」 「まぁな、でも言ったらレディが可哀想だろ?」 「相棒はキザだねー」 遠くから徐々に争う声が聞こえ肩をすくめる。 「お客さんだ」 「大変だな相棒」 ルイズとキュルケの二人が杖を相手に向け、叫ぶ。タバサは早川の横で興味無さそうに立っている。 「「決闘よ!」」 なぜこうなったかと言えば、早川には二本も剣は要らない。どちらの剣を使うのが相応しいのか 言い争い、それが拗れて決闘騒ぎになったのだ。 キュルケは『ファイヤーボール』を唱え、 ルイズは火球をかわし、『ファイヤーボール』を唱えるが火球は現れず見当違いの場所に爆発が起こる。 自分のファイヤーボールが避けられた事にムキになったキュルケは、もう一度火球をルイズ目掛け撃つ。 キュルケは後悔していた。このままだと自分がムキになって放ったファイヤーボールがルイズの顔に命中してしまう。 しかし、何かが目にも留まらぬ速さで火球を掻き消した。 早川はこのままではと思い、煌びやかな大剣を投げる。左手のルーンが光り、 想像していた勢いを上回る速さで飛んでいく。 投げた大剣が火球を掻き消し勢い衰える事なく学院の壁に亀裂を作り大剣が砕ける。 その様子に四人は 「(やりすぎたか、それにしてもこの力)」 「(ダーリン凄いわ!)」 「(あそこは宝物庫……)」 「(えぇー100%変身いらないじゃん)」 その様子を陰から見ていたロングビルは驚愕した。 「なんなんだい、あの使い魔。まぁ、せっかくのチャンスだし、利用させて貰うよ。出ておいでゴーレム!」 ロングビルが杖を振ると巨大な土人形が現れ、宝物庫の壁を殴る。 「な、何なのよアレ?」 「私に聞かれたって知る訳ないでしょ?タバサは何か知ってる?」 「おそらく『土くれのフーケ』のゴーレム。そして狙いは宝物庫」 「止めなくちゃ!」 ルイズが杖を振るうと、壁を殴るゴーレムの右腕に爆発が起きる。それに続けとばかりに、 タバサが『ウィンディ・アイシクル』、キュルケは『フレイム・ボール』を唱える。 しかしゴーレムの一部を吹き飛ばすが、すぐに修復してしまう。 邪魔者に気付いたゴーレムは三人を踏み潰そうと足を上げる。 タバサとキュルケは状況を冷静に判断し、退却という選択をする。 しかし、手柄を立てようと躍起になっていたルイズは判断を誤り退却が遅れた。 「ルイズのバカ!何やってんの!」 無常にもゴーレムは虫けらを踏み潰すかのように踏みつける。 顔をしかめるキュルケとタバサ。しかし、この男が黙って見ているはずが無い! 「チッチッチ、無茶はいけませんぜ。」 ルイズが目を開けると、ゴーレムが踏み潰した場所から数歩離れた所で早川に抱きかかえられている。 早川がデルフリンガーを片手に構え、テンガロンハットのつばを上げ 「デルフ、デビュー戦だ」 「おうよ!相棒!」 フーケは早川の処分が先決と考え、早川を始末するようゴーレムに命じる。 振り下ろされる巨大な拳、踏みつける足。なぎ払う掌。 その全てを後方宙返り、バックステップ、前方宙返りなどと華麗にかわしながら切りつける。 しかし、剣で切りつけただけでは再生するゴーレムには焼け石に水であった。 その様子を後方で見ていたルイズは、前に出てゴーレムに向かって杖を振る。 丁度、ゴーレムが早川を払おうと振り回した腕がルイズのいる場所に、ルイズの目線に土の塊が迫ってくる。 土の塊が徐々に大きくなり、もうダメだと目をつぶると横から衝撃を感じる。ふと目を開けると早川が放物線を 描き飛んでいく様が見えた、地面に叩きつけられ転がっていく自分の使い魔。 とっさに早川の元へと走る。キュルケもそれに続く。 「「ケーーーーン!」」 邪魔者がいなくなったゴーレムは壁を数発殴り穴を空ける。ぽっかりと空いた穴に黒いフードを被った 人物が入り、何かを抱えてゴーレムの肩に乗る。三人への攻撃を警戒していたタバサは、シルフィードを呼び ゴーレムを追いかける。しかしゴーレムが学院の壁を越えるとゴーレムはただの土くれに姿を変えた。 ゴーレムの主は森の木々に隠れ姿を消していた。 ─────ボツネタ───── ゴーレムに吹き飛ばされ、意識が飛びながらも立ち上がる早川。 敵を正面に保ったまま、両手を右側へ水平にピンと伸ばす。 そして、伸ばした腕を左斜め上までゆっくりと回し、静止させる。 そこから右腕のみを引き拳を握り元の場所へと突き出しなだら左腕を腰に構える。 高らかに叫ぶ 「変ー身!V3ァーーーー!」 ルイズ「絶対ダメーーーー!あんた(作者)!絶対叩かれるわよ!反応良かったら 使って見ようかなとか思ってるんでしょ!ダメだからね!!」 前ページ日本一の使い魔