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常に頭を悩ませる諸問題のせいで深く皺が刻まれた顔。 長い年月に頑なになった目に赤い光が映っていた。 非常灯だけが点灯する廊下に幽鬼のように現れたマスクド・ライダー… 最も早くその怪人の存在に気付き、取り上げた雑誌の記者がつけた呼び名で少しずつ民衆の間で親しまれるようになった怪人の足元に、また犯罪者が転がされていた。 帰宅間際、人気の失せた地上本部で日課の筋肉トレーニングを済ませたレジアスの口元に微かに笑みが浮かんだ。 日が没しても中々下がらない暑さのせいで額に浮かぶ汗をハンカチで拭き、レジアスは怪人に言う。 「良くやった。後のことはワシに任せてもらおう」 凶悪な犯罪者を逮捕できたことを素直に喜びながら、怪人の甲冑の如き皮膚下にある無駄のない肉付きやちょっとした動きを冷静に観察する。 怪人は何も言わずに佇んでいる。仮面に遮られ、怪人が何を思っているのかを窺い知ることは何人にも出来ぬように思われた。 薄く笑みを浮かべたレジアスがゆっくりと歩み寄り、二人の距離は狭まっていく。 地上本部の数多くの実権を握り、多大な影響力を行使できる事実上の地上本部総司令であるレジアスと怪人との関係は突然生まれた。 今日と同じく、怪人は突然現れ自分で捕らえた犯罪者をレジアスに引き渡して去っていった。 何故かと引き渡された犯罪者を牢にぶち込みながらレジアスは頭を捻った。 今のように犯罪者を引き渡してくるのだが、その理由は皆目検討が付かない。 その上素性もわからない。 目的も。名前もだ。どんな音楽を聞くのか。筋肉についてどう考えるかも知らない。 昆虫を模した姿は恐ろしく、怪人が犯罪者を捕らえた場所は壊滅させられていることを考えれば、レジアスが体一つで対面するのは危険な存在だ。 相手のことは全くわからず、今もこうして地上本部の警備を潜り抜けて姿を現した。 入局以来30年近くに渡って盟友と一位を争い続けたナチュラルビルダーだったが、最近は贅肉がついてしまった上に魔力を全く持たないレジアスなど瞬きをする間に殺してしまえるのだ。 警戒して当然の存在だった。 だが、レジアスはこの怪人に対していつのまにか好意を持つようになっていた。 地上本部の戦力増強の為にレジアスが裏では犯罪者に兵器開発を依頼しているからではない。 何度目だったか、怪人が犯罪者を連れてきた夜…その日に限ってゆっくりと去ろうとする怪人のしぐさに、何の感情も見せない飛蝗の仮面が切なげに見えた。 冷静に考えればそれは恐らく偶然合わさった角度や、灯りの加減のせいであろうとは思うのだが、レジアスの中にあった怪人に対する疑念は不思議と消え去っていた。 普段のレジアスを知る者達が聞けば耳を疑うような話。 レジアス自身でさえそれには同意するのだが、腹には一物もない。 己の過失から失ってしまった部下であり友人だった男に向けていた感情に似た気持ちが沸いていた。 「だがマスクド・ライダー。貴様のやっていることは犯罪だ」 レジアスは鼻息荒く言い放つ。 例え怪人に襲われるのが犯罪者だけだったとしても、好感を持っていようとも地上本部は怪人を捨て置くわけにはいかなかった。 「地上の治安を守るのは、ワシら管理局の責務だ。貴様のようなならず者の仕事ではないわ!」 怪人がやっていることは法に照らし合わせれば犯罪となる部分が多数存在する。 その上、犯罪者達は、この怪人を警戒して有能な魔導師や武器を集めていくことだろう。 もしその影響で犯罪者達が武力を増したとしたら、地上本部の戦力で対抗できるのかは甚だ疑問だ。 レジアスは手を打つであろうし、何より今建設中の「アインヘリアル」と呼ばれる地上防衛兵器があればどうとでもなるかもしれない。 しかし怪人の力に更に頼るしかなくなるやもしれない… 怪人が心変わりをして犯罪を起こさないことを祈り、いや…この怪人はいい奴だから心変わりして犯罪者となるはずがない、などと楽観的な考えを持つわけにはいかないのだ。 怪人は何も答えなかった。 視線を避けるようにレジアスよりも遥かに上にある顔を伏せて犯罪者を置き去りに背中を向けようとする。 「マスクド・ライダー…! ワシの部下になれ」 怪人は足を止めた。触覚を揺らしながら肩越しに振り返り、レジアスに爛々と光る複眼を向ける。 「犯罪者が司法取引を行った後管理局で働いている例は少なくない。そうして自らの派閥を強めるというのもよくある話だ」 返答はないがレジアスはそれを気にする風もなく、拳を握りしめてより自信に満ちた力強い口調で語りかけた。 「ミッドチルダ地上の平和を守るには、陸には…! お前の力が必要なのだ。破格の待遇で地上本部に迎え入れると約束する」 予め用意しておいたカードを出しながらレジアスは言った。 カードの使用場所から怪人の生活圏を割り出す目的で用意されたそのカードには、これまで怪人が捕まえた犯罪者達に見合う報酬が振り込まれている。 金額には一切嘘はない、むしろレジアスの要望で色が付けられている。 目的は目的として、レジアスにしてみれば怪人が受け取るべき正当な報酬だったからだ。 「…断る。俺は管理局が信用できない」 怪人は受け取ろうともせずに乾いた金属質の声で返事をした。傷ついたような表情を一瞬だけ見せてレジアスは尚も熱心に言い募った。 地上本部から魔導師・人材の引き抜きが日常茶飯事に行われ、地上の戦力が揃わない現状を強く訴えた。 「確かに管理局にも黒い噂は事欠かん…ワシ自身の手も汚れておらんとは言わぬ。だが、」 「すまない。言いたいことはわかるが、それでもまだ俺は…」 首を振り、口を濁す怪人は何かに迷っているようにも見える。 静まっていく彼らの間に、レジアスが強く噛み締めた歯がギシリ、と鳴る音がやけに大きく響いた。 「断れば…ワシはいずれ貴様を指名手配する。しなければならん! そう言ってもか!」 「わかっている。それでもだ」 レジアスは険しい表情の中に、苦いものを含ませた。 微かな変化に気付いたのか怪人はそそくさとレジアスの前から立ち去っていく。 「強情な奴め。そこを、曲げてはくれんのか………」 背を向けた怪人にレジアスは苦みきった声でそう言った。 今の状態。怪人が自由意思で犯罪者を捕らえている状態ならば、本局から引き抜かれる心配はない。 盟友であったゼスト・グランガイツとその部下達のような有能かつ本局からの誘惑に耐え切れる者などそうはいないのだ。 そういう意味では、怪人に断られたことは許せないことではないという気持ちも沸いているが、そう考える以上に…レジアスにとっては残念だった。鍛え抜かれた大胸筋が咽び泣いている。 * レジアスに勧誘されても光太郎はそんなことがあったなどとは全く感じられない、至って普段どおりの生活を営もうとしていた。 少なくとも同居しているウーノの目にはそう映っていた。 ドレスシャツと夏向けの薄い生地のジーンズを着たウーノの姿に少し困ったような顔をし、外出の用意をする光太郎の姿を見ていたウーノは初夏を迎え、眩しすぎる程の日差しに目を細めながら外へ出る。 困り顔をしているのはスカリエッティの所にいた頃に作ったウーノの体にフィットするドレスシャツに気付いたのかとも思われたが、視線の先を見るにどうも違うらしい。 どうやら光太郎は屈みこむとお尻や種類によっては下着が見えてしまうローライズのジーンズがお気に召さないようだった。 暑い日差しに目を細める彼女に続き、光太郎も家から出てくる。 ウーノの服装を見る光太郎の視線と同じように、ウーノも光太郎の服装を見てもの言いた気な眼差しを向けた。 光太郎もウーノと同じ色のジーンズを履いている。こちらにはオレンジ色の糸を使ったステッチが入っていた。 スタイル等が良く丈も合っており良く似合っているが、何故わざわざそんな安物を着たがるのかウーノには理解しづらかった。 低家賃のアパートに住んでいるとは思えない安くない生地と職人の技術で作られたスーツを何着も持っていたのだが、光太郎のたっての願いで何着かは売却してわざわざ購入したという経緯も心象を悪くしていた。 歩き出した二人は今日の予定やレジアスの勧誘があったという大きなニュースに紛れて話そびれた他愛ない出来事を報告しあいながら細い道から、多少大きな道路に面した道へと出た。 二人はそこで別れ、ウーノは一人街の中央へと向かっていった。 同居人が暑さに少し参っているのに気付いた光太郎の申し出もあって、彼女は今日一日は休むことになっていた。 働く人々を尻目に一日暇になったウーノは一軒のカフェへと立ち寄った。 古い建物を改修した店内に客は少なく天井近くの壁に付けられたテレビに流れるニュース番組で凶悪な事件を読み上げる声だけが響いていた。 奥のテーブルに着いた女性がウーノに手を振る。 それに気付き、微かに相好を崩したウーノが手を振った女と可愛らしいワンピースを着た少女のいるテーブルに寄っていく。 ウーノは店員に熱いコーヒーとミルクが半々のカフェ・オ・レを、砂糖大目で注文すると、普段のボディスーツの変わりに可愛らしい服を着てきた妹を褒めた。 負傷した片目を無骨な眼帯で覆った妹は今はウーノの代わりにスカリエッティの世話の大半をしているはずだった。 「ウーノと比べられて困っているよ」 久しぶりに再会した妹、チンクは彼女らしからぬ微かな疲れを見せてそう零した。 聞く所によるとウーノが突然いなくなり仕舞っていた必要な道具や研究材料、未整理のデータから調味料の位置までわからなくなり大変らしい。 その上料理の味が違ったりスカリエッティの言外の要望まで汲み取れずにしかめっ面をされることもよくあると語り、沈痛な表情でケーキを口に運ぶチンクに二人は苦笑いをした。 そこへ店員が注文したカフェ・オ・レを運んでくる。 置かれた持ち手のないカップを手に取りウーノが口をつける間に、入店した際に手を振った女性がうなだれるチンクにしみじみとした口調で同情して見せた。 姿形は二人と全く似ていないが彼女も二人の姉妹でスカリエッティのことはよく知っていた。 ウーノ、トーレに並んで古い稼動暦を持ち彼女は固有技能「偽りの仮面」と名づけられた変身能力で潜入諜報活動をしている彼女はその任務上気苦労を強いられているのかいやに説得力のある優しい声だった。 一しきりチンクを慰めた彼女は、今度はウーノに目を向けた。 「ドゥーエ、気持ちは嬉しいけど私に慰めは必要ないわ」 「フフ、旦那が仕事をしなくて困ってるんじゃなかったかしら」 彼女が教育を担当しクアットロにも引き継がせたスカリエッティそっくりの軽薄な笑みを浮かべるドゥーエ。 先日までは同じ笑みを浮かべることも多かったはずだが苛立った声でウーノは返事を返した。 「ドクターの邪魔になりそうな相手は片付けてくれるし、私の分で暮らしていくには十分よ」 「ウーノ、それってなんだか駄目亭主に聞こえるんだけど…ドクターに利用されてるとも知らないで」 「分かっているから性質が悪いわ」 微かに沈んだ声を出すウーノをドゥーエは興味深そうに見る。 研究所にいた頃は世話役だったチンクも気遣わしげな視線を姉に向けている。 今のウーノと光太郎の状況はほぼ完全にスカリエッティの耳に届いている。 そのため他の姉妹と一緒にウーノがいなくなってできた穴を埋めているチンクも凡その事情は掴んでいた。 気を取り直すようにウーノはまたカップに口をつけた。 「それと、彼は夫じゃないわ」 「え? 嘘でしょ」 ドゥーエは酷く驚いたように目を見開いた。 その反応にウーノは気分を害して自然とカップを持つ手に力が篭っていった。 ドゥーエは機嫌を損ねたことが分かってもなお信じられないといった風にチンクの顔とウーノの顔を交互に見つめる。 「そのコウタローってゲイ? 健全な男性って聞いてたからてっきり妹達にはとても言えないような…」 「ドゥーエ! い、幾らなんでも二人に失礼だぞ!」 若干顔を赤くしたチンクがテーブルを叩く。 そうしてやっとウーノの言葉を信じたのか、困ったように眉を寄せて腰掛けた椅子を軋ませながら、背もたれに倒れこんだ。 「ん………」 微かに吐息を零して頬を片手で撫でるドゥーエは、スカリエッティそっくりの笑みを浮かべるとウーノに軽く流し目を送った。 「困ったわね。ドクターは期待してるみたいだったけど」 「ドクターが?」 「貴方とコウタローが信頼関係を築けるのか。そっちの機能はどうなのか。子供が出来るのか。どんな子供が生まれるのか」 クククでもフフフでも構わないが、満面の笑みを浮かべたスカリエッティがそう言っている姿を幻視したウーノとチンクの表情が引きつった。 全身改造を受けた改造人間である光太郎がそんな機能まで備えているかどうか。 人間の姿、RX、ロボライダー…彼女らの想像を超える変身を遂げる光太郎をどちらと断言することは彼女らには出来なかった。 ナンバーズにそんな機能まで備わっているということ自体初耳ということもあったが…何よりスカリエッティならば、その為に自分達が知らぬ間に何らかの改造を行っていても何らおかしくはなかった。 スカリエッティの計画の中には、スカリエッティが万が一捕らえられた場合の措置として極小サイズのカプセルに収められたスカリエッティのクローンとなる「種」を簡易な外科的処置で埋め込む事も含まれている。 これによりある技術を応用して体内に仕込まれているスカリエッティのクローンが約一ヶ月で記憶を受け継ぎ新たなスカリエッティとして産まれてくる。 遠い昔、旧暦時代の権力者の間では常識とされた準備だが、期間的にそれは全く別の手段だと考えていた。 これについてはスカリエッティや危機に陥る度に『不思議なことが起きる』光太郎自身も本当の所は分からないのかもしれない。 スカリエッティがどんな結果が出るにせよそれを実験する為のリスクを負う決定をしたのは間違いないようだが。 「ドゥーエ、私はそんな話初耳だぞ」 「? クアットロから聞いた話ですもの。ほら、彼の基本的な能力も計りきれてなかったでしょう? だからその辺りは全く分かってないんですって」 厳しい表情で言うチンクに、何を怒っているのか分からないとでも言うようにドゥーエは笑ったまま返事をした。 ウーノは目を細めて何も言わなかった。 他の誰かがクアットロから…と言ったなら信憑性は薄まるが、クアットロは教育役を務めたドゥーエを半ば心酔している。 ドゥーエの口から出たクアットロから…という言葉はほぼ確実と言ってもよかった。 「貴方が無理なら私でもいいけれど…もう切欠は作ってあるし」 「……というと?」 掠れた声で尋ねるウーノにドゥーエは悪戯を成功させた子供のように得意げに言う。 「マスクド・ライダーって何度か強姦魔から女性を助けてるんだけど、フフ。その一人が私だし…彼のバイト先のお得意様でもあるわ。首にしないよう彼に分かるように手を回してあげたしね」 とても感謝されたわよと言うドゥーエをウーノとチンクは敵に向けるような目を向ける。 でも、とドゥーエは二人の視線など気にせずにどこか芝居がかった、媚るような動きで自分を抱きしめた。 「余り興奮させると砕かれてしまいそうだし、もっと肉体増強された妹達に任せた方がいいかしら。二人はどう思う?」 彼女の肉体増強レベルは姉妹の中ではそう高い方ではなかった。 常人よりは遥かに強靭だったが、トーレや今後増えていく姉妹達に比べれば劣っている。 何時変身するとも分からない光太郎の相手をするにはリスクが高すぎるとドゥーエは考えていた。 「駄目に決まってるでしょう。仮にうまくいっても、貴方の体にどんな影響があるかわかったものじゃないわ」 ウーノとしては光太郎の耳に入っていないことを祈るばかりだ。 この話を聞いて激怒する光太郎の顔を思い浮かべウーノはげんなりした。 不愉快気にそう言われ、ドゥーエは居住いを正して二人に別の話題を振る。 それぞれに不満を零したり興味のある話題について話し合った彼女らが分かれたのはそれから数時間後のことだった。 * ナンバーズ達の間で交わされる会話に一時自分が上がった事など知る由もない光太郎はバイトを早々に終えて廃棄都市区画をアクロバッターに駆って移動していた。 相変わらず決まった仕事がなく、真っ当な人々より犯罪者の方が言葉を交わした人数が多くなった光太郎は時折複数ある廃棄都市の様子を少しでも感じ取ろうとしていた。 首都とその近郊にある7つの廃棄都市はどれも酷い有様だが、それでも少なからず人の気配があることを光太郎の超感覚は察知していた。 わざと大きな音を立てて走らせアクロバッターが撒き散らす騒音に怯える犯罪者達も現れだしていた。 強盗するために入った店から慌てて出て行く強盗犯。 金品を巻き上げようとしていた手から杖を落として逃げ出す魔導師。 怪しげな取引現場で息を潜め、過ぎ去ったと思った瞬間に降り注ぐ瓦礫の飛礫に大怪我を負って仲間か管理局の救援を待つ悪党共。 都市の状況はどこもさほど違いはなかった。違うのは廃棄都市に限っては、一見静かな地区ほど内に秘めた闇は危険だということだ。 平穏に見える区画は耳を澄ますと悲鳴が聞こえてくる時があった。 その日もまた、RXへと変身した光太郎は不意にアクロバッターを停止させた。 誰かが呼ぶ声がした。 空気を振るわせた音ではない。 進化を続ける肉体の新しい力に光太郎は気付こうとしていた。 生命の気配を感じ、聞こえないはずの叫びに気付こうとしていた。 爛々と赤い光を宿す二つの複眼を。 その間にある第三の目とも言うべきセンサーを。 RXは廃ビルや崩れた建材が転がる道へと向ける。 始めは気のせいだと思っていた。 だが先日、スカリエッティの所にいたウーノ達のような少女らが生み出されようとしているのに光太郎は気付き…不完全な命を消し去っていた。 それを思い出して、不必要に強く握り締めた黒い拳が地面へと振り下ろされた。 RXパンチが廃棄都市に微かな振動を起こす。 舗装された道路や地下道をぶち抜き、光太郎は地下に築かれた空間へと降りていった。 一見真っ黒なブーツにも見える極小の鉤爪を備えた足先が研究施設の床を音もなく踏みしめる。 瓦礫を床にばら撒き、施設に損傷を与えながら現れた怪人に驚き、白衣を着た男達が様々な反応を見せている。 白衣を着た者達の奥に光太郎は巨大なガラスケースが複数確認できた。そこに浮かぶ小さな女児も、見つけた。 恐らくは一歳前後の赤子の瞼が薄く開く。 左右で目の色が違う女児が意志の見えない目でRXを見た。 光太郎が聞いた声はその子や周りに並ぶケースから聞こえていた。 夜闇のような男達も、研究施設も一切合財を飲み込んでしまいそうな黒に染まる怪人が握りしめた拳が音を立てる。 複眼に写る彼らの引きつった表情。冷静に助けを、警備員を呼ぶ姿やそれに安堵して研究を再開しようとする姿。 誰かの意思によって非合法な研究を行う為に作られた施設。ケースの中に浮かぶ女児や、失敗作と見なされた者達。 女児の隣のケースに浮かぶ見覚えのある宝石。ロストロギア『レリック』…全てが昆虫の物を模した真っ赤な複眼に映っていた。 映りこんだそれらが、四肢を動かす熱量を生み出す燃料として蓄えられ(記憶され)ていく。 静かに光太郎は告げた。 「例え貴様等が誰かを救うために研究を行っていたとしても、その子達を苦しめる貴様等を俺は許さん…!」 散発的な魔法や防衛施設が動き出していた。 背中に魔法の砲撃が当たっているが、光太郎は歯牙にもかけなかった。 以前より更に進化していた体の表面を魔法が流れていく。水滴が弾かれるようにRXの体表に弾かれた魔法が施設を傷つけ、流れた光の一滴が研究者を巻き添えにする。 一瞬毎に恐慌に陥っていく彼らを光太郎は一人残らず制圧していった。 「生きられるのは、この子だけなのか…」 科学者達、警備員を悉く倒し、飛蝗怪人の姿をトラウマとして残しながら意識を刈り取られた彼らを入ってきた穴から放り出した光太郎はロボライダーへと姿を変えて呟いた。 ロボライダーのハイパーリンクを用いて研究内容を吸収した光太郎は女児をケースから出し、レリックとを抱える。 初めて水槽から出され、自分を見つめる女児を抱き上げた光太郎も自分が開けた穴から出ようと上を見上げる。 大穴から降り注ぐ日の光がスポットライトのように光太郎を照らし黒光る怪人の姿に、女児は瞬きをした。 光太郎はそれに気付いて微かに笑う。だがその脳裏に、突如稲妻が走った。 一度そのレリックの爆発に巻き込まれた光太郎はレリックについてウーノに尋ねていた。 レリックは高エネルギーを帯びる『超高エネルギー結晶体』でその為外部から大きな魔力を受けると爆発する恐れがあると… 『超高エネルギー結晶体』…自分の腹部に埋め込まれたキングストーンが思い浮かんだ。 手に掴んだ『レリック』、詳しくは残されていなかったが何かの計画の為にレリックに合わせて生み出された子供… 「信彦…」 愚かな考えだと光太郎は頭を振った。 重ねてしまうのは信彦を犠牲にしたことに負い目を持つ自分の悪い癖なのだと。 ボルテックシューターを二、三度放ち、RXの姿へと戻った光太郎は高く跳んだ。 ロボライダーからRXに姿が戻っていくのを少女は不思議そうに見ていた。もう助からない不完全な生命を飲み込み、施設が破壊されていく。 光太郎の呟きが聞こえたのか、赤子が小さく声をあげた。 「俺は仮面ライダーBlackRX…安心してくれ」 「…?」 言葉が通じないことは分かっていたが、上昇が止まり一瞬だけ浮遊感に包まれながら光太郎は女児を見つめて言った。 「俺は味方だ」 いや…信彦の、自分の為に光太郎は何も分からない赤子に向かってそう言わずにはおれなかった。 自分で開けた穴から飛び出した光太郎は放り出した男達の白衣を奪い取り女児を包んだ。 本当ならもっとちゃんとした、柔らかい布で包んでやりたかったがそんな用意はない。出来れば早くちゃんとした施設に連れて行ってやりたいと思った。 そして意識を失い死屍累々と転がる科学者達の向こう側に眼を向け、庇うように、体をずらす。 「セインか。今度は何の用だ?」 「む。またばれちゃいました?」 光太郎に指摘され五メートルほど離れた地面から、戦闘機人の少女が顔を出す。 どこから嗅ぎ付けているのか、光太郎の動きは未だにスカリエッティに筒抜けであるらしい。 それが光太郎を少し苛立たせる。 水色の髪をセミロングにした戦闘機人の少女は愛想笑いを浮かべながら転がる科学者達に同情するような視線を向けた。 死んでるわけではないが、彼らの体験を思うと同情せずにはいられなかった。 「何の用だ?」 「ドクターのお使いです。光太郎さん、その子私達に預けてもらえません?」 セインは、光太郎が抱える少女をチラッと見る。 「その子の面倒私らならちゃんと見れますからね。私達と同じようなもんですから」 「…君達はいいところもあるな」 光太郎は抱えた子供とレリックを見る。 「普通ですよ。で、返事を聞かせて貰えます?」 光太郎から言われたのが意外だったのか、少し照れたように言うセインには任せても大丈夫かもしれない。 だが、スカリエッティがこの赤子をまっとうに育てるとは全く思えなかった。 「断る。お前達こそ抜け出さないか?」 「せめて自分の身分証くらい持ってから言わないと説得力ないですよ?」 軽く苦笑して言うセインは指摘を受けて乾いた笑い声をあげる光太郎から視線を逸らし、まだ気絶している白衣の男達を見てげんなりした顔で視線を戻した。 「あれでも私達にとっては創造主ですし、姉妹達のこともあります。軽々しく裏切れないですよ」 「そんなつもりじゃないんだが。すまない…!?」 光太郎は何かに気づいて顔をあげた。 きょとんとするセインに低い声で言う。 「セイン、今日はもう引くんだ。誰かこっちに飛んでくる。今まで会った魔導師では一番早い」 どう受け取ったかはわからないが、セインは地面に沈んでいく。 セインの身を案じての発言ではなかった。 既に地上本部の長であるレジアスに犯罪者として追うと告げられている自分だ。 抱えている赤子のことを考えれば、話をこじらせる可能性のあるセインは邪魔だった。 光太郎はセインが去ったことを確認しようともせず、接近してくる金色の頭を見上げていた。 腕の中の赤子よりはずっと年上だが、まだ若い。 いいとこ高校生か中学生位の可愛らしい少女だった。 堅い表情をしている。目や、無骨な杖を構える姿は勇ましい。 可愛らしいというよりは美人という言葉が似合いそうな容姿をしていたが、金色を見て光太郎の脳裏に浮かぶのはクライシス帝国の最強怪人ジャークミドラ。 あれに比べれば、光太郎と光太郎が開けた穴の周りに転がる白衣の男達を見て警戒した少女に金色の刃を出し巨大な鎌になった杖を向けられてもなお、光太郎の目には微笑ましく映った。 「時空管理局執務官フェイト・T ・ハラオウンです。マスクド・ライダー、貴方に幾つか質問があります。ゆっくり、その女の子を下ろして武装を解除して手を挙げてください」 「…わかったよ。だけど、変身は解除できない」 変身という単語を聞き、フェイトの目が細まる。 「何らかの魔法…?」 恐らくは光太郎に聞こえないつもりで囁かれた呟きを耳にしながら、光太郎は白衣に包んだ赤ちゃんを慎重に地面へ置いた。 固く砂利の散らばった地面を見て一瞬躊躇う光太郎の頭上にフェイトの声がかかる。 「何故ですか?」 警戒心と共に魔法を行使しようとしているのか黄色の恐らくは魔力が彼女の体の中で動くのが光太郎にもわかった。 優しげで一見、善人そうな少女に(と言ってもこの世界に着てから自分の眼力の無さに足を掬われっぱなしだが)光太郎は言う。 「俺は管理局を信用していない」 確かに一瞬で人間の姿に戻ることは可能だ。 だが、顔を覚えられ探し回られでもしたら光太郎の今の生活が終わってしまうのは間違いない。 自分の暮らしは最悪どうとでもなるが…瞬時にウーノを切り捨てる判断を光太郎はすることが出来なかった。 理由の一つにウーノが浮かんだことは光太郎自身意外だったが。 フェイトの表情は、それを聞いて微かに険を増した。 「わかりました。そのままで結構です」 ですが、とフェイトはいつでもバインドがかけられるように準備を行いながら言う。 「ですが、少しでも攻撃する素振りを見せたらこちらもそれ相応の対応をさせていただきます」 「ありがとう。それと先にこの子を安全な所に預けたい。話はその後にしてくれないか?」 「…その子は?」 「この科学者達にここの地下で生み出され実験体にされていたらしい…」 周囲に横たわる白衣の男達や地面に開いた穴から一つの可能性として頭に浮かんでいたらしく、フェイトに動揺した様子はなかった。 微かに険を増した目で地面に転がった者達を一瞥し、フェイトは首を振る。 断られたことにこちらも大した動揺も見せず、光太郎は両足に力を込めていた。 それに気付いたフェイトは慌てて今にも飛び退きそうな光太郎を呼び止めた。 「待ってください! マスクド・ライダー。勘違いしないで、貴方を捕まえたりその子に危害を加える気はありません。念のためにその子の体を調べさせて欲しいだけなんです」 「…調べるだと?」 スカリエッティと出会う羽目になった経験から光太郎は訝し気な声を出す。 「まだまだ問題の多い技術ですから。管理局にはとても腕のいいドクターが何人もいますし、その後の事も。必要ならちゃんとした専門の施設に預けます」 「…信用できないな。検査すると言われて俺はスカリエッティのところに連れて行かれたぞ」 アクロバッターに援護をさせようと呼びかけながら、光太郎は時間稼ぎに自分の経験を言おうとする。 その為に挙げた名前は、思いも寄らぬ劇的な効果をあげた。 フェイトの雰囲気が変貌していた。 「スカリエッティ…? 次元犯罪者のスカリエッティのこと!?」 怒り、嫌悪。複数の感情が入り混じる赤茶の瞳。微かな焦燥に険しさを増した表情は幼さの残る顔立ちのせいで光太郎を不安にさせた、 「答えてくだ…!」 知っているのか? そう尋ねようとした光太郎に先んじた怒鳴りつけるような言葉は、子供の泣き声にかき消された。 光太郎の腕の中で静かにしていた赤子は、フェイトの様変わりに驚き、今の声で泣き出してしまったようだ。 杖を光太郎に向けたまま目に見えておろおろし始めるフェイトに嘆息して光太郎は一つ条件をつけることにした。 「…俺は管理局を信用できない」 「そ、そんなことはありません。私が責任を持ってその子を預かります」 少しムッとした顔で言うフェイトの可愛らしい瞳は危うく信用し頷いてしまいそうな真摯な光を湛えている。 だが光太郎はゆっくり首を振った。 「すまないが君だけじゃ不安が残る。時空管理局本局のクロノ・ハラオウン提督に連絡を取れないか? 君と同じ執務官でもあると言っていたんだが」 「お知り合いですか?」 「以前世話になった」 アクロバッターが光太郎の呼びかけに答え、威圧するような騒音など一切起こさずに瓦礫を乗り越えてやってくる。 光太郎に寄り添うようにして止まったバイクに、赤子とフェイトの視線が集まりフェイトは警戒を解いた。 「クロノ・ハラオウンは私の義兄です。兄が預かったバイクの持ち主は貴方なんですね?」 一瞬間を置いて、光太郎は頷いた。 そうでしたかと納得した様子で白衣の男達全員にバインドをかけて拘束していくフェイトに光太郎はついていけずに首を傾げる。 バインドを掛け終えたフェイトは「彼らを引き渡すまで少し待ってください」と笑顔で言うと、まだ泣いている赤子をあやし始めた。 その赤子はこの後紆余曲折を経てハラオウン家に引き取られることになる。 警戒する光太郎と再会し、光太郎が次元犯罪者のもとにいたことを聞かされたクロノが、内通者の存在を疑ったことと、その赤子と共に光太郎から渡されたロストロギア『レリック』を管理局に渡す条件として(最も後者は建て前に過ぎなかったが) 赤子の名前はヴィヴィオ。ヴィヴィオ・ハラオウンとなった。 ヴィヴィオはリンディと共に地球へ移り住み、翠屋という店を営むご近所さんにも可愛がられすくすくと育っていく。 光太郎はそれを暫く見守り、ヴィヴィオの前から姿を消した。 南光太郎は失われた世界、怪魔界から…正確には怪魔界に侵略された地球から迷い込んだ改造人間である。 そんな自分に関わらぬよう距離を置いたのかも知れない、と新しい義妹にも甘過ぎるクロノはヴィヴィオに言った。 管理局にいるとも他の仕事に就いたともどちらともつかない言い方をして肝心なところははぐらかした。 だが光太郎が姿を消しても、暗い研究施設のケースから助け出された記憶は強くヴィヴィオの中に残った。 ヴィヴィオの心にはいつまでも黒い太陽が輝いていた。 火種が絶えない次元世界で、才能と人手不足を盾に就労年齢は低下の傾向にある。 そして有能であれば犯罪者をも積極的に登用し、重要なポストを与える管理局で… 地球で暮らそうとも、そこで新たな一大派閥となろうとするハラオウン家で、ヴィヴィオの気持ちを止められる者はいなかった…! ヴィヴィオは、地球の芸能人や華々しい活躍をする管理局のエースオブエースに憧れるより先に、マスクド・ライダーに憧れるようになったのだ! 数年後、小学校に上がる年頃となったヴィヴィオに、翠屋の看板娘が尋ねた時それは判明することになる。 「将来の夢かー。ヴィヴィオは何て書くの?」 作文を書いていたヴィヴィオは、不敵な笑みと子供らしからぬジョジョ立ちに若干引き気味の隣のお姉さんの問いに胸を張って答えた。 「このヴィヴィオ・ハラオウンには叶えたいと思う夢があるの!」 だがそうなることなど露とも知らぬ光太郎は、同居人のウーノに今夜は遅くなる旨を伝えフェイトに赤子を渡した。 前へ 目次へ 次へ
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テッカマンデモンによるフォーグラー投擲より、時を遡ること数分前。 “巨大”という言葉で言い表すことさえおこがましく感じられるような人造の星の中、 操者たる少女――エロスの鐘の煩悩寺は生き延びてからずっと恐怖で震え続けていた。 自身を包む淡い緑色の光も、揺り篭にも似た穏やかな振動も、彼女を一向に癒しはしなかった。 先刻の戦いにおいて少女は全てを注いだ守りごとその心すら砕かれた。 あの四重防御は間違いなくエロスの鐘の煩悩寺と呼ばれる一人の書き手の全力だったのだ。 それを、ただの一撃で。 吸血鬼といえども死に損ないの。 業物といえども一切の神秘を宿さない剣に。 砕かれた。破られた。否定された。 柔らかな革張りの椅子の上でぼんやりと見上げた空は、全てを飲み込むかのような月も星もない闇一色。 「……ぁあ………ぁぁああ……」 今の彼女の心の色そのものの空。 月が消えた理由を煩悩寺は知らない。けれども、月が消えたことが導く一つの事実が、少女を更に打ちのめした。 ミスターマダオは、瀕死だったあの吸血鬼は、月の加護さえ失っていた。 そんな弱体化に弱体化を重ねた相手に負けた自分は一体何なんだろう。 今の自分はまさに空気じゃないか。 居ても居なくても変わらない存在。 誰にも、何にも影響を与えられず、物語の流れを変えることもできない、路傍の石。 間一髪でマダオを殺すことはできたが、果たしてあれは自分が殺したといえるのだろうか? マダオに止めを刺したのは厳密には自身の力とは言えない支給品で。 自分で操縦したわけでもなく、オートメーション化されたフォーグラーが曖昧な意思を汲み取り勝手に動いたおかげな、あの一撃は。 別に煩悩寺だからこそ行えたわけではない。誰でも可能だったのだ。 ああ、だったら自分だからこそできることは何だろう。私だけの価値は? 煩悩寺は問う。何度も何度も自分に問う。 生きて居たいから。死にたくないから。自分の生を認めてくれる理由(フラグ)を探し続ける。 マーダーは駄目だ。 ならばいっそ自分が対主催に転向すればどうか――と、そんな考えが首をもたげる。 対主催として動けば、心持しだいで大した戦力の無い人間でも活躍しうる機会を得れられるのだから。 しかしやはりそれは一瞬で霧散してしまった。 告げたところで、彼らが注目するのは『エロスの鐘の煩悩寺そのもの』ではなく『主催者の同一存在であること』の方だけだ。 それなら何も自分である必要は無い。 予約被りに定評のあるtu4氏。 OPにも登場し、今は孤城の主という一大イベントに参加しているらしい一人の書き手。 聞いた話では彼女は自分の予想通り永遠神剣の力を、更にはフォルカやヴァッシュの力をも振るったらしい。 バトルマスター達から手に入れたその情報がより一層少女の心を蝕む。 エンジェルアーム。アニロワ2ndの力。 あろうことか煩悩寺が目標とした己が半身はギャルゲロワに止まらずアニロワ2ndの領域すら侵したのだ。 勝てると思っていた。 作品のバリエーションや投下量では継続時期の都合上、tu4に分があるのはわかっていた。 だが、質では決して負けていないと、そう思っていた。 本当に? エロスの鐘の煩悩寺。 好きなアニメは舞-HIME。 好きな属性はヤンデレ。 得意なジャンルはエロ描写。 これのどこにtu4に勝てる見込みがあるというのか? ギャルゲロワ2ndにおいてあいつは思う存分舞-HIMEのキャラを書いている。 ヤンデレキャラ代表の楓や言葉はギャルゲ出身でやはりギャルゲロワ1,2でも登場している。 エロ描写なんてやはり元が18禁であるギャルゲロワの方が、全年齢対象のアニロワよりも規制が薄いじゃないか。 「……あは、あはは。私が死んでも、代わりはいるんだ」 代わりなんてものじゃない。 どう考えても彼女の方が圧倒的に自分より優れているじゃないか。 対地球破壊爆弾戦、対熱血王子戦では対主催側と協力していたとも言う。 改心フラグもばっちりだ。 彼女がいれば、私は誰からも必要とされはしまい。 「やっぱり、私は、要らない子なんだ……」 嫌だった。 もう、これ以上チートな参加者やジョーカーに会って自分のちっぽけさを思い知りたくはなかった。 生きていくのも辛いが、死ぬのはもっと怖かった。 だから、彼女は逃げることを選択した。 激戦区であるのは明らかな病院とは対極の南東へとフォーグラーの全速力で。 フォーグラーの巨体が故に発見されるという考えはあえて見ない振りをして。 縋ることのできる最後の力を一時といえども手放せなかったから。 大丈夫。孤城の主といえばロワにおける一大集団戦イベントの象徴だ。 10人前後の書き手達が参戦しているに違いない。 第三回時の放送時点で生存者は残り25名。 度重なる情報交換に加え自身の体験も合せた上で、それ以後の死者もある程度は把握している。 静かなる ~Chain-情~、管理人・したらば孔明、 エロ師匠 、蘇った現代の熱血怪人、King of 脳内補完、 仮面ライダー書き手、コ・ホンブック、漆黒の龍、ミスターマダオ。 ギャグ将軍と速筆魔王LX、彼らに情報を流したというコロンビーヌ、バトルマスターと蟹座氏。 神視点では無い、あくまでも個々の参加者視点での情報の為、いくらか漏れがあるかもしれないが、それでも計9人。 少なくとも9人も死んでいるのだ。 残り15人程度の大半が病院へと集結しつつある今、私は安全だ、安全に違いない。 都合のいい考察のもと、病院へと向かう参加者たちと鉢合わせる危険も考慮せず、ただただ強者達の巣窟から逃げ出して。 かくして少女は自らの甘えの報いを受けることとなる。 無限に広がる宇宙。 この表現は何も例えでは無い。 宇宙は誕生以後膨張を続けており、そもそもの誕生直後の宇宙すらその体積は無限大だとされている。 だが、今この世界に限って言えば多くの科学者達が打ち立てたこの理論は通用しない。 ビッグフリーズ、ビッグクランチ、ビッグリップ。 彼らが予想したどの理論とも違う展開で宇宙は終焉を迎え、崩壊したのだから。 無限をも薙ぎ払った有限たるマナの爆発で。 そのかって宇宙だった空間(便宜上『空白』と称しよう)と会場たるロワの星の境にに一人の男が漂っていた。 いや、違う。 流されるのではなく男は自らの意思で空白地帯を調査しているのだ。 彼の名前は影の繋ぎ師。またの名を仮面ライダーBLACK SRX。 宇宙崩壊を引き起こした少女の本来の標的であり、全ジャンル主人公最強スレにおいてさへ優勝できうる力を誇るチート戦士であった。 「どうやらロワの舞台への悪影響は今の所無いみたいだな」 影の繋ぎ師がtu4氏との決戦後即座に地上へと帰還しなかった理由は二つある。 一つはネオバスクを中心とした体の再生。 いかなSRXの再生力とはいえ世界を100回は滅ぼす攻撃を受けたのだ。 5分やそこらで傷を癒せはしない。むしろ1時間ほどで後遺症を残しているとはいえ全快しているのだから恐ろしい。 そしてもう一つが宇宙崩壊の影響を見定めることだ。 当たり前だがロワ史上前例がない事態な為何が起こるか分からない。 しかも繋ぎ師の『なりきり』対象は優勝による一人鬱エンドすら没ネタとして存在したあの光太郎だ。 自らの戦いの余波でロワが会場ごとズガンされるという最悪の展開が頭に過ってしまったのは仕方のないことであった。 ところがどうだろう。 確かに先程まで宇宙であった空間は今や侵入可能区域が僅かに残るくらいの空白地帯と化している。 しかし当の会場自体には太陽や月の消失により空が闇に覆われた以外に一向に変化が現れないのであった。 常識ではいくらなんでもありえない。まあ、このロワでは今更な感じもするが一応納得できる答えもある。 「この舞台や宇宙もWIKI管理人によって一から創造されたということか!」 ありえる話だ。 三大ロワ時代ならともかく、今やロワの舞台は基本異世界にあることが多い。 彼に力を貸したディーに至ってはギャルゲロワ本編の会場を世界ごと作り上げたほどである。 書き手ロワ2に於いては参加者ですらある意味でWIKI管理人によって生み出された存在だったのだ。 会場のある世界が主催者お手製であったとしてもなんら不思議はない。 「むしろそう考えれば今の状況も説明できる!」 まさか宇宙にまで飛び出して戦うとはWIKI管理人も予想していなかったに違いない。 故に、彼女が本腰を入れて創造したのはむしろ会場の方だ。 この世界がまずロワの会場として機能することを前提として作られていたのなら、 只の背景に過ぎない宇宙の消滅如きでそう簡単に揺るぎはしまい。 「とりあえずは一安心だ、待っていてくれ、みんな!」 いざという時はキングストーンフラッシュの万能性に賭けるつもりだった繋ぎ師は、ひとまずの安全を見届けるや否や大気圏へと突入する。 少しでもエネルギーの足しにする為に熱を力とするロボライダーへの事前の変身も忘れない。 ロワ会場を覆う確率変動結界も創生王の前には効果を為さず。 膨大な熱エネルギーを得た繋ぎ師は熱圏を抜け、中間圏へと至る。 一気に下がった気温への対処として素早くバイオライダーにフォームチェンジ。 マイティアイ改を以て雲を透視し、急いで眼下の陸地を確認しようとした影の繋ぎ師は、次の瞬間絶句することとなる。 「何だ、あれは!?」 視界を埋め尽くすのは巨大な、余りにも巨大すぎる黒い球体。 天才科学者フォーグラー博士によって造られた破壊と殺戮と略奪の化身。 星と見間違うほどの規格外の大きさ。 中央に位置するマグマのように赤い眼。 地球を静止させる神如き機械――――大怪球フォーグラー。 F-5エリア上空。奇しくも、今ここに、二つの『黒い太陽』が相見えることとなった。 彼女を乗せて無軌道に大怪球は動く。 重力制御を持って地に触れず進行するため、内部に伝わる振動は非常に少ない。 その進路では重力に押しつぶされた木々たちの悲鳴が響いているが、それはそれ。 そんなことは彼女の知ったことではないし、知らない以上それはなかったことと同義である。 ここはひどく静かだ。 ここには誰もいない。 誰も彼女に関わらない。 誰も彼女の行為を咎めない。 誰も彼女を惨めにしない。 これまでのことも、 これからのことも、 先ほどモニターに映った光景も。 何も考えない。 思考を破棄し、何も考えず、すべてに対して目を閉じる。 そうすれば、いろんな恐怖はおさまり震え止まってゆく。 誰とも関わらず、何も考えない。 それが、彼女に残された唯一救いだった。 だが、その安息も打ち破られることとなる。 「俺は影の繋ぎ師と言うものです!殺し合いには乗っていません!黒い機体に乗っている人、どうか返事をして下さい!」 惨めな自分から逃げ出した先で、よりにもよって出会ってしまったのだ。 こと単純な戦力という意味ではこのロワ中最強の男と。 「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 上空からカラオケマイクを手に迫りくる青年。 語りかけてくる彼の声に煩悩寺の体が総毛立つ。 なぜこちらに向かってくるのか。 心当たりならある、自分は殺人者で、彼は対主催だ。 自分を裁きに来たのだと彼女は思った。 実際はそんな事実はない。 正確には彼が目指しているのは彼と彼女の間に位置する病院である。 だが、そんなことは彼女は知らない。 知らない以上それは真実と同義である。 だから、彼はやってくる。 少なくとも彼女の中では。 彼が来る。 彼女に向かって。 彼が来る。 彼女を殺しに。 彼が来る。 彼女を追い詰めるために。 いやだ。いやだ。いやだ。 最弱な自分を最強の彼に見られるのはいやだ。 これ以上惨めな思いをするのはいやだ。 死にたくない。 生き辛い。 どうか私を、これ以上追い詰めないでほしい。 独りがいいんだ。 独りなら、私は何も考えず穏やかでいられる。 だから、放っておいてほしい。 どうかここには、来ないでほしい。 かぶりを振って鬱屈とした心で、ただひたすらに少女はそう願った。 その願いに答えるように、 ――――――シャガ。 眠たげだった大怪球の目が見開かれた。 オートメーションされているが故にフォーグラーは彼女の意志を忠実に汲み取り実行する。 与えられた指針は拒絶。 故に、フォーグラーは実行する。 より確実で強力な、影の繋ぎ師をこちらに近づけぬ方法を。 その手段を彼女は知っている。 この大怪球は何をしようとしているのかを彼女は知っている。 自棄になって思考を破棄してはいても、アニロワ2の書き手なのだ。 フォーグラーの力は誰よりも知っていると自負できる。 ――だからこそ、恐怖した。 無機質な瞳から奔った一陣の閃光が。 波のように大地が沸き立ち崩壊させていく。 触れる全てが蒸発するように消えてゆく。 草原を薙ぎ払う。 平原を撃破する。 街道を粉砕する。 大地を蹂躙する。 大気を蹂躙する。 蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。 抗いようのない破壊という名の理不尽が世界に振りまかれる。 この地上全てを薙ぎ払うかに思われた破壊の嵐。 それほどの攻撃が、 「天上天下、光王爆砕けええええん!!」 影の繋ぎ師がトり出した鮮血の思わせる濃い赤を纏った陽光の如き黄金の大剣に、一撃のもと斬り払われたのだから。 絶望に取り残された少女を乗せた大怪球。 この大怪球に助けられた時、彼女は最後の望みを託した。 この大怪球こそが、唯一安らげる場所だったはずなのに。 嗚呼、ここに来て、お前までもが裏切るのか。 「ぁぁ……、うああああああああああああ!!」 嘆きの時間は終わらない。 「っく、やめてくれ、俺は二度もあなたを殺したくはない!」 マイティアイ改。 影の繋ぎ師の誇るチート技能の一つであるそれは透視能力も兼ねている。 フォーグラーの装甲がどれだけ厚かろうと、コクピットまで丸っとお見通しなのだ。 びくりと、中の少女が震えたのが分かる。 無理もない。今の言葉で彼女も気がついたのだろう。 俺が予約被りに定評のあるtu4氏を殺したことに。 「君の考えた通り俺はtu4氏を救えなかった。いや、違う、そうじゃない」 今でもtu4氏のことはバカだと思う。 死んでしまったら終わりなのに。 空気キャラ達もきっとあなたほども愛してくれる人がいるだけでも満足だったはずなのに。 貴女が死んだあとに生まれる新たな空気キャラの為にも、生きる道を選ぶべきだったとそう思う。 それでも。 彼女は誰よりも誇り高く死ぬことを選んだのだ。 なら、救えなかったと嘆くのは彼女の死を侮辱するということだ。 失くしてしまったのが悔やまれるが、バトルマスターさんから譲り受けた携帯電話のWIKIで俺はコクピットに座る少女を知っている。 エロスの鐘の煩悩寺。 俺が殺したtu4氏と同一存在である書き手。 だからこそ知っていてほしいと思う。 もう一人の彼女であるtu4氏の死に様を。 影の繋ぎ師は語りだす。 WIKIで知り、その眼で見たtu4氏の生き様を。 彼女が成し遂げ、残した、生の証を。 そのことが煩悩寺を追い詰めるとは思いもしないで。 影の繋ぎ師。仮面ライダーBLACK SRX。 彼は、強かった。強すぎた。 故にわからない。力無き悪党の苦しみを。 煩悩寺の顔から表情が消え、再び重力レンズ砲が放たれる。 「っく、許せとは言えない!!怨んでくれても構わない!俺は君から目標と半身を奪ったのだから。 それでも、この道を俺は進むと決めたから。手荒な真似で行かせてもらう!!」 見当違いの謝罪とともに影の繋ぎ師が思い描くは一つの光景。 熱血王子との戦いで同郷の友である漆黒の龍と自分と共に、tu4氏が並んで戦ったあの時の情景。 今はもう取り戻すことのできない過去だけど。 せめて、せめて眼前の少女だけは助けてみせる!! 「力を貸してくれ、漆黒さん、tu4氏!!来い、ドラグブラッカー!!否」 SRXの力により生み出したカードを、デイバックより現れた黒龍へとかざす。 ―― SURVIVE ―― 「黒炎龍ドラグブレイザー!!」 「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」 繋ぎ師は告げる。生まれ変わった龍の名前を。 ドラグブレイザーは応える。亡き主の願いを背負って。 黒炎龍の背に乗り、連射される重力波をかわしつつ、更なるカードをベントインする。 ファイナルベントのカードは『S』の字で始まらないが故に作れない。 様々な要因を束ねた奇跡のような必殺技である真覇猛撃ライダー烈破も使えまい。 十分だ。 バーッストサバイブの技が模写できずとも、『本来の』リュウガサバイブ及びその元となった龍騎サバイブの技なら使える。 フォーグラーを貫くにはそれで事足りるのだから。 ―― STRANGE VENT ―― ―― FINAL VENT ―― ドラグブレイザーが光に包まれ再び姿を変える! エグゾートを吹かし大空を行く漆黒のバイクへと!! 既に煩悩寺の位置は透視能力で確認済みだ。 狙うはコクピットの真横の位置。 フォーグラーを貫くと同時に煩悩寺を抱きかかえ、爆発するよりも早く脱出する! 少々強引だが、これが俺の見出した最良の一手!! 「行くぞ!!ドラゴンファイヤーストーム!!」 バイクに騎乗しアクセルを強く踏み込む影の繋ぎ師。 だが、必勝を期した彼の突撃は。 「ちょおっと待ったあ!!」 割り込んできた速筆魔王LXの一声で不発に終わることとなった。 272 1000%SPARKING METEOR 投下順に読む 273 オーガは子豚を無思慮に蹂躙す 272 1000%SPARKING METEOR 時系列順に読む 273 オーガは子豚を無思慮に蹂躙す 261 最後の空気王 影の繋ぎ師 273 オーガは子豚を無思慮に蹂躙す 272 1000%SPARKING METEOR エロスの鐘の煩悩寺 273 オーガは子豚を無思慮に蹂躙す 271 カウントダウンツ・ヘブン wiki管理人 273 オーガは子豚を無思慮に蹂躙す
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『今でこそ犯罪者に向けられているが、その拳はいつ何時市民へと向けられるか分かったものではない。現に! 奴が犯罪者を捕まえる過程で破壊した建物には歴史的な建造物も含まれておる! これこそ奴がただ勝手気ままに暴力を振るう無法者である証拠である!』 「時空管理局地上本部のレジアス・ゲイズ中将は記者の質問にこう答えられ、また時空管理局地上本部は市民の間でマスクド・ライダーと呼ばれ親しまれつつあるこの怪人"BLACK"を指名手配しました。 これについて管理局創設当初から多大な援助を続けるミッドチルダ有数の資産家オルシーニ家のうら若き当主であり、先日首都クラナガンにマスクド・ライダークラブを開かれたジュリア・オルシーニ氏からコメントを頂いております」 『黒い怪人だからBLACKとはまた安直だが、マスクド・ライダー"BLACK"なら少しはいいかな? 私は彼の胸に書かれている文様が"RX"と読めることからRXと呼ぶことを提唱したいのだが…ん? ああ、彼が捕まったら保釈金を払う用意はある。これでいいかね? ああ最後に一つ、RX。これからも私をワクワクさせて…』 ミッドチルダでは稀にいる才覚の持ち主らしくどう見ても十になるかならないか位の偉そうな小娘のコメントが流れる途中でウーノは不愉快気に眉を寄せてテレビを切った。 光太郎は恐らく今日は帰ってこない。 ヴィヴィオという赤子を助けてから、光太郎は管理局内で勢力を伸ばしつつある新興の家ハラオウン家と連絡を取っている。 今日はヴィヴィオの様子を見に来ないかとクロノ・ハラオウンに誘われて出かけていった。 光太郎が非合法の研究所で保護した幼子はヴィヴィオと名付けられ、ハラオウン家に引き取られることになっている。 管理局の調査では、保護した研究所で生み出された人造生命体であることと約300年前の古代ベルカ時代の人物が元になったということまで分かっているらしい。 これ以上詳しく調べるのは聖王教会の協力か無限書庫のユーノ・スクライア司書長の休暇を犠牲にして資料を漁ってもらわなければ困難らしく、調査は今は打ち切られている。 ユーノ・スクライアの顔色が、最後にいつ休暇を取ったのかを尋ねるのも憚られるものだったからだ。 この話をした時のドゥーエの様子から、ウーノにはヴィヴィオの正体に一つ心当たりがあった。 ハラオウン家の養女フェイト・テスタロッサ・ハラオウンがスカリエッティを執拗に追いかけているのでウーノはこの問題に関わらないようにしていたが、恐らくは間違いないだろう。 詳しい話まで聞くつもりはウーノになかったし口を挟むつもりもなかった。 光太郎には気付かなかったと言えば良いし、スカリエッティの不利になるかもしれないので現状は静観でいいと判断していた。 それよりもウーノにとって切実なのは光太郎の態度から見るにハラオウン家を気に入っているようだということだ。 そのハラオウン家といい、この女といい光太郎に協力するという者が少しでも現れて来たのは非常に気に入らない。 このままでは光太郎の中でウーノの地位が危ぶまれてしまうからだ。 ウーノの情報で動いていたからスカリエッティにとってよい結果も引き出せる可能性がある。 他に信頼の置ける情報源が出来てしまってはウーノの情報を必要としなくなるかもしれないではないか…誓ってそれだけである。 そう、それだけだ。言い聞かせるように何度か確認しウーノは妹達と会う為に家を出て行った。 * その頃光太郎は、第97管理外世界の海鳴市を訪れていた。 友人の手引きで日の昇る前、人通りの少ない時間を見計らって第97管理外世界へと移動した光太郎は、まず故郷の地球と表面的にはそっくりな第97管理外世界の地球を郷愁と物珍しさに満ちた表情で歩き回った。 故郷とこの世界との違いを肌で感じ、開店する時間を待って図書館に立ち寄って本を漁る…光太郎はウーノの懸念に全く気付いてはいなかった。 そうやってわかったのはこの世界には仮面ライダーはいないらしいということだ。 先輩の姿を、仮面ライダーという漫画や特撮の中に見つけた光太郎の表情は、悲しいような、嬉しいような…相反する感情が混ざり合ったなんとも言えぬ表情を浮かべた。 「…どうでした?」 「ん?…ああ、探し物は終わったよ」 そうすることで多少なりとも光太郎の気持ちを読み取ろうとするかのように、金色の目を真っ直ぐにあわせ尋ねるフェイトに光太郎は言葉を濁した。 「ありがとう」と休暇を取り光太郎に街を案内してくれたフェイトに礼をいい、光太郎は彼女と共にハラオウン家に向かった。 探し物も理由も説明しようとしない光太郎の態度は不満だったが、フェイトには一歩踏み込んで尋ねることはできなかった。 子供相手にならそうでもないのだが、自分より年上の大人の男性に対してはまだまだ経験が足りない。 親友なら「お話聞かせて欲しいの」と踏み込んでしまうのだろうけど、とフェイトは光太郎を先導しながら思った。 「光太郎さんこっちです」 「ま、待ってくれよ」 「クロノ、貴方と会うのを楽しみにしてるみたいですよ」 でも…まさかあの怪人の中身がこの人だなんて。 黒髪黒目、整った顔立をしていてスタイルも良い。服装の趣味も自分の義兄に見習わせたいくらいと、マスクド・ライダーの姿からは想像できない。 光太郎の外見をフェイトはそう評価していた。 この世界に来た当初、十数年程流行がズレた世界からやってきた光太郎の服の趣味は洗練されたとは言いがたかったのだが、最初はチンクに、最近はウーノによって矯正されているのだった。 二人は並んでハラオウン家に向かった。 ハラオウン家は管理世界にも家を持っているらしいのだが、数年前の事件の折にこの世界でマンションを借りてからそこに住み続けている。 フェイトに案内され、光太郎は今その家の前に到着した。 少し待っててください。 そう言ってフェイトが中に消えると、光太郎は少しだけマンションから見える街並みを観察した。 部屋はマンションの上の方の階にあり、そこから見える街並みは光太郎を和ませる。 ミッドチルダで暮らすよりもこの街の方が穏やかに暮らせるのかもしれない。 そう思っていると家の扉が開き、光太郎の知らない女性が顔を出した。 「いらっしゃい。貴方が光太郎さん?」 「はい。あの、貴方は…クロノのお姉さんですか?」 「お上手ね。私はリンディ・ハラオウン、クロノの母親ですわ」 光太郎より年上の息子がいるとは思えない若々しさを保つリンディは嬉しそうに笑う。 「す、すいません…」 「謝らなくってもいいのに。さ、中に入ってくださいな」 恐縮したまま、光太郎はクロノの母、リンディ・ハラオウン総務統括官に促されるまま家に上がる。 よく掃除された、清潔感のある玄関を通りリビングまで通された光太郎は促されるまま席につく。 「クロノは…」 「ごめんなさいね。あの子、急な仕事が入って一足違いで出て行ってしまったの」 「そ、そうだったんですか!? 困ったな…」 どうしたものかと光太郎は呻いた。 クロノがいなくても目的を果たすことはできるのだが、初めて訪れる友人の家に当の友人がいない間に上がりこむことに光太郎は少し抵抗があった。 「御気になさらないでくださいな。あの子が悪いんですから」 向かいに座りながら言うリンディに相槌を打ち、光太郎はフェイト達にあやされているヴィヴィオへと視線をやった。 検査の結果ではヴィヴィオは平均より高い魔力を持つだけで特におかしな点はないとお墨付きを頂いていた。 人造生命体であるがゆえに未知の能力を秘めているかも知れないとも言われていたが。 優しい眼差しを二人目の養女に向ける男性をリンディは観察していた。 人を見る目はそれなりにあるつもりだったが、何度見ても目の前の青年がミッドチルダの一部で有名人となっているマスクド・ライダーとはとても思えなかった。 リンディがなんとなく分かるのは、光太郎は誰か大事な人を亡くしたのだろうということだ。 隠しているようだが、整った横顔の上に時折過ぎる憂いの色に覚えがあった。 かつてロストロギア『闇の書』を輸送する任務で夫のクライド・ハラオウンが命を落としてすぐの頃、毎朝見たものと同じ色だ。 クロノが少し童顔なことを差し引いても、リンディの息子であるクロノよりも1才年下らしい光太郎の憂いを覗かせた横顔は、クロノより十も上に見えた。 だがクロノから聞いた話や今こうして言葉を交わした感想としては、逆にクロノよりもずっと幼い印象を受ける。 詳しくは尋ねていないのでわからないが、故郷を離れて色々とあったらしく不安定になっているようだった。 闇の書事件も無事解決しクロノも一人立ちしたせいかもしれないが、母性本能をくすぐられてリンディは微苦笑を浮かべていた。 余り見るのも失礼に当たる。リンディは視線を外しずっと角砂糖を入れ続け、飽和した砂糖がほんのちょっぴりカップの底に溜まったコーヒーを出した。 笑顔で受け取った光太郎は口をつけ、「ありがとうございます……ブッ」 そして噴出した。 「ゲホッゴホッ…な、なんだこれは!?」 「あら光太郎さん。そんなにむせてどうしたのかしら? さ、これで拭いてくださいな」 「あ、ありがとうございます…こ、これは」 差し出されたハンカチを受け取りながら、光太郎は砂糖が沈殿したコーヒーを見つめる。 コーヒーを見つめる表情はリンディの顔に浮かぶ笑みとは逆の深刻な表情だった。 「甘くておいしいでしょう? 今日はクロノもいないし、私が淹れさせてもらったわ」 「そ、そうですね! と、とても個性的な味でちょっとびっくりしちゃいましたよ」 「でしょう! 底に砂糖が溜まってるから上澄みだけ飲むのが通の飲み方よ」 上澄みだけを飲む飲み方も幾つかあることは知っていたが、何か違うんじゃないか? そんな気がしたが、苦笑いを浮かべたまま真剣な顔で暫しコーヒーとリンディを見つめた光太郎は、覚悟を決めてグッと飲み干した。 胸焼けでは済まされない甘さが、光太郎を襲う! 微かに震えながらそれを飲み下した光太郎の前には、二杯目の甘い、まったりとしていてどろりとした黒い飲み物が出されるのだった。 ヴィヴィオをあやしていたフェイトは、やせ我慢をして二杯目を飲み干す光太郎を見て苦笑いを浮かべている。 「母さんそれくらいで止めた方が…光太郎さん、苦い顔してるよ?」 「そうかしら? 残念ね。慣れればおいしいと思うんだけど…」 そう言って自分の分を飲む母の隣にフェイトは腰掛けた。 膝に光太郎の方へと行こうとしているのか手足をばたばたさせる義妹を乗せる。 「はは、疲れている時にはいいと思いますよ…」 「光太郎さん…やせ我慢も程ほどにしてください。ねぇヴィヴィオ~やせ我慢は体に悪いよね~?」 膝に乗せたヴィヴィオの顔を覗き込んで尋ねると、ヴィヴィオは小さく首を傾げた。 小さな両手を持って上下に動かす娘に玩具にしないのと注意して、リンディは苦笑を浮かべた。 義妹が出来て以前より家にいる時間が増えたのは嬉しいのだが、フェイトがまだまだ子育てをするには少し早いようだ。 リンディは再び光太郎に目を向ける。 「ところで光太郎さん」 呼びかけられ、膝に乗せられたままのヴィヴィオの手に指を与えていた光太郎はリンディを見た。 ヴィヴィオに指を握られたままの光太郎に言う。 「良かったらフェイトのお友達にも会ってあげてくださらないかしら?」 「母さん、それ私が言うつもりだったのに」 「…それは構いませんが、一体どうして」 相槌を打った光太郎に少しむくれるような顔を見せたフェイトが言う。 「はやては貴方の大ファンなの。それで貴方の話を聞いて一度会って見たいって。それと…」 言いづらそうに、フェイトは光太郎の硬い指を強く握って放そうとしないヴィヴィオの後頭部に視線を落とす。 窓から入る光を反射して、額から垂れたフェイトの髪とヴィヴィオの幼い子供の柔らかい髪が黄金に輝いていた。 不思議に思いながらもフェイトを待つ光太郎を顔を下げたまま、上目遣いに見てフェイトは言う。 可愛らしい少女からのお願いに光太郎は困ったような顔をして、ヴィヴィオに差し出していた手を引いた。 指を追って身を乗り出すヴィヴィオを慌てて押えるフェイトとリンディに光太郎は首を振った。 「すまないけど、俺は」 「光太郎さん、一度会ってみてからもう一度考えてあげてくれないかしら…」 断りの言葉を遮って口を挟むリンディと視線で訴えかけてくるフェイト…母娘二人の視線に光太郎は渋い顔をした。 二人はどうして光太郎が躊躇うのか理解できていない様子だった。 管理世界には人造魔導師を始めとした非合法な研究によって生み出された魔導師が多数いるが、彼らはその力に疑問を持たない。 姿においても、人型の昆虫がいるくらいで写真で既に見ている彼女らには心構えもある程度は出来ている。 だが光太郎にとっては進んで見せるものではない。 故郷の地球では戦いに巻き込まないように正体を隠して戦い続けるのが常であり、余程信頼を置く者でなければ正体は隠していた。 要は慣習の違いなのだが、フェイトの膝に座るヴィヴィオを見て光太郎は頷いた。 クロノ達は信頼の置ける人物だし、ヴィヴィオの件では世話になっている。 大半はその借りを少しは返したいという気持ちからだった。 残り少しは、余り深く考えずに郷に入れば郷に従おうと思ったからだが。 頷くと同時に、光太郎がたった今入ってきたばかりの扉が開き、ダダダッと騒々しい足音を立てて一人の少女が現れる。 茶色がかった黒髪をショートカットにし、瞳を好奇心に輝かせたその少女は光太郎に向かって軽くおじぎをした。 「初めまして光太郎さん。うちは八神はやてっていいます。よろしゅうお願いします!」 無邪気な笑顔を向けてくるはやてに光太郎が返答に困っていると、はやての後ろから赤い髪をポニーテールにしたスタイルの良い凛々しい女性が入ってくる。 見たところ二十歳前後くらいの女性の足取りは訓練された人間のもの。鋭い眼差しは光太郎を値踏みしているようだった。 恐らくはこの二人がその友人なのだろうが、困惑する光太郎を見かねてか困ったような笑顔を浮かべてフェイトが言う。 「…はやて。せめて呼ぶまで待っててって言ったのに…」 「ごめんフェイトちゃん、あのマスクド・ライダーに会えるって思たらいてもたってもいられんかったんよ」 「リンディ総務統括官申し訳ありません。主はやては何故かとても楽しみにしておりまして…」 はやてと名乗った少女とそう言って頭を下げる女性の振る舞いを光太郎は少し不思議に思った。 家族だと聞いたばかりなのだが、何故か年上のはずの女性の方が一歩引いた場所にいる。 不思議に思う光太郎を他所に女性…「剣の騎士」の二つ名を持ちはやての守護騎士(ヴォルケンリッター)のリーダーを務めるシグナムは垂れた頭を挙げて、提案した。 「光太郎。私は今すぐでもやれますが、いつやりましょうか?」 「あ、あなたねぇ。光太郎さんはお客様なんですから…」 「構いません。先に済ませちゃいましょう」 そう言うと、光太郎は甘ったるいどろどろとしたコーヒーを飲み干して、席を立ち上がった。 決闘趣味とも言える趣向を持つシグナムは、自分より背の高い光太郎と視線を交わし不敵な笑みを浮かべた。 渋っていたわりにやる気のある光太郎と最初からやる気満々のシグナムをフェイトの膝に座るヴィヴィオは色の違う瞳で見つめていた。 光太郎が受けたことで、マンションの周りには速やかに結界が張られていく。 マンションの屋上に立った光太郎は結界が張られ外界との間に薄い壁が出来た周囲を不思議そうに眺める。 原理はよくわからないが、これで気兼ねなく戦える…らしい。 その間にシグナムは戦う準備を整えていた。 彼女も魔導師だとばかり思っていた光太郎は、戦闘準備を終えて光太郎を待つシグナムの姿を見て面食らっていた。 鞘に収められた剣を片手に、大きな胸など体の線が見えるボディスーツの上からジャケットを羽織っている。 下半身もスカートのようになっているもののスリットから太ももが露になっていて、なんだか昔やったゲームに出てくる戦士のように見えた。 なにより、なまじ人間を超えた視力を有するせいで一瞬とはいえ肌が露になったのがとても気恥ずかしい。 顔が赤くなっているのがばれないかと光太郎はひやひやしたが…既に臨戦態勢となったシグナムにそんな様子は見られなかった。 「どうした? まさかそのまま戦うというのではないだろうな」 気付かれていないようであるし、ただの手合わせとはいえ気持ちを戦いへと向けた光太郎は気持ちを速やかに静め……無言で肩幅に足を開いた。 人間の姿のままでも、彼の足は猟犬の速さを有していた。 ベルトの位置で左手を大地に向け、右手が太陽へと手を伸ばす。 その手は人間の姿のままでも岩を砕き、鉄の板を容易く突き通すが目の前の超常の力を有する美女を相手にするには恐らく足りない。 シグナムが怪訝そうに眉を潜め、観客としてその場にいるフェイト達も首を傾げる中、ただ一人"わかっている"人間であるはやては目を輝かせていた。 天を指す右手がゆっくりと下ろされ、中心に至ると横へ真一文字に振るわれる。 ベルトの、キングストーンの位置にあった左手も薙ぎ払うように横へと振るわれ、空を掴み引き寄せられた。 その瞬間、光太郎の目の奥。 スカリエッティが魅せられた火花は巨大な光に変わった。 ベルトから一瞬、太陽の如き閃光が迸り、この空間を覆っていた結界を消し飛ばす。 閃光の中で光太郎の姿は変貌していった。 黒い飛蝗人間へ、そして更に黒い甲冑の如き皮膚が体を覆い、飛蝗怪人へと…光太郎は一瞬の内に変貌を遂げた。 軽く曲げた左拳を前に、握り締めた右拳を腰に構えた光太郎…いや、RXが姿を現す。 変身に伴い全身へと行き渡った莫大なエネルギーの残滓が微かにベルトで輝いていた。 「俺は太陽の子、仮面ライダーBLACKRXッ!!」 「あ、あの…光太郎さん? 母さん、急いで結界を張りなおして!」 慌てて叫んだフェイトをきっかけに、シグナムは突進した。 一息で構えをとったままのRXへと距離を詰め、流れるような動作でアームドデバイス"レヴァンティン"を抜刀する。 マスクド・ライダーはシグナムの間合いに入っても、抜刀したレヴァンティンを振り上げても微動だにしなかった。 今回はミッドチルダに潜伏していた犯罪者を複数挙げた実績を考慮してか、主からも加減無用と言われている。 非殺傷設定にはしてあるが、RXは魔導師ではない為場合によっては大怪我を負う可能性もあるというのに、だ。 つまり存分に真剣勝負にのめり込めるということ。 シグナムは未だ動きを見せないマスクド・ライダーに構うことなく刀身を振り下ろす。 胸に刻まれたRXの文様へと刃が迫っていく一瞬が、集中力で引き伸ばされシグナムにはとても長く感じられた。 彼女の感覚では、RXが今から何をしようが間に合わない。幾らRXの皮膚が頑丈であろうと深手を負わせるだけの自信をシグナムは持っていた。 だがそのまま切り裂かれるかと思われたRXは、機械兵器や魔導師の結界と防護服を物ともせぬ魔剣レヴァンティンの刃をいつの間にか左手で掴んでいた。 全身を使い一刀に込めた力も気迫も、シグナムが一撃に込めた全てのエネルギーが始めからなかったかのように無造作に止められていた。 掴まれたレヴァンティンはその場所に固定されたかのように動かない。 自分の体力では引く事も押すこともできない。 微かに腕を動かしたシグナムはそう悟ると、左手に掴んだ鞘を振るおうとしているかのように重心を傾け、鞘を持った左腕を動かした。 それに気付いたRXが、右手を出すと同時にレヴァンティンが圧縮魔力を込めたカートリッジをロードした。 刀身の付け根にあるダクトパーツがスライドし、魔力増強の為に組み込まれた魔力増強のシステム"カートリッジシステム"の特徴でもある排莢が行われる。 薬莢が吐き出され、爆発的にシグナムの魔力が跳ね上がると共にレヴァンティンの柄から剣先へ向かって炎が燃え上がる。 吹き上がる魔法の炎によって微かに力が緩むのをシグナムは見逃さなかった。 鋭さを増した刃を引き戻し、再びレヴァンティンを振り上げる。 驚異的な力で刃を固定していたRXの左腕へ向けて、裂帛の気合と共に炎を纏ったレヴァンティンの刃が振り下ろされた。 「紫炎一閃ッ!!」 そのまま胴まで。否途中にある物は全て切り裂くつもりで放たれた斬撃はRXの腕に食い込んだ。 しかし、そこまでだった。硬い金属同士が衝突したような音が鳴り、レヴァンティンが弾かれる。 刹那驚愕に囚われるシグナムへ、それまで動きを観察していたRXが襲いかかった。 傷つけられた前腕を気にも留めず、RXは腕を伸ばし弾かれたレヴァンティンの腹を左手の甲で叩く。 甲高い音が鳴った。軽く手首のスナップをきかせただけの一撃がなまくらな剣など粉々に砕き、並の剣士の腕から剣を弾き飛ばすのに十分な威力を持っていた。 そのどちらにも当てはまらないシグナムとレヴァンティンは、見た目とは裏腹に重過ぎる一撃に持っていかれそうになる腕を堪える。 筋に痛みが走ったが、シグナムは表情を変えることなくその場から飛び退く。 それを追って、屋上の床を蹴ったRXの左拳がシグナムの腹に突き刺さった。 いや、かろうじて鞘を間に入れ直撃を防ぐことに成功したシグナムは、鞘を突き抜けて肺腑を突く衝撃を後ろへ飛ぶことで更に多少なりとも逃がす。 喉の奥から上がってくる熱いものを吐き出すのを堪えながら、シグナムは確かめるようにレヴァンティンの刃とRXの腕を見比べた。 「…ッ」 紫炎一閃が通じない…いや、と黒い腕に走る傷を見てシグナムは思う。 決定打にならないとは。 魔法による強化を受けずにこれほどの力を持つ相手は久しく見えたことがなかった。 驚愕と体に走る痛みを歯を食いしばって耐えながらシグナムは、体の奥から歓喜が湧き上がってくるのを感じた。 「面白い…ッ! お前の力、全て見せてもらう。レヴァンティン!」 "Explosion." シグナムがレヴァンティンを振るうのを合図に、再びレヴァンティンがカートリッジをロードする。 過剰なカートリッジロードは制御不能や暴発をまねく危険性があるが、シグナムは後数回カートリッジロードを行うことが可能だった。 刀身の付け根にあるダクトパーツで、三度スライドと排莢が行われる。 レヴァンティンには片刃の長剣以外にも鞭状連結刃へ刃を変えるシュランゲフォルムと大型の弓となるボーゲンフォルムがあったが、三度カートリッジをロードしてもフォルムに変化はなかった。 クロスレンジは同等の速度で動き、パワーで上回るRXの方が有利かもしれないが引く気はなかった。 今見せられたRXの反応速度では鞭の先端を叩き落し、矢を避けるかもしれない…シグナムは頭に浮かんだ建前を鼻で笑った。 フォルムを変えないのは、何より心が躍るからだ。 シグナムの足元に三角形の魔方陣が現れる。 小さな円を隅に配置し、中央で剣十字が回転する古代ベルカ式魔方陣。 技量ではシグナムが勝っているが、彼女には力が足りない。 カートリッジで一時的に増した魔力が体全体に行き渡り、シグナムに力を与えていく。 「行くぞッ」 裂帛の声を上げ、魔法による強化を終えたシグナムが床を蹴った。 RXも同時に床を蹴り、体を低くしてシグナムへ一直線に向かってくる。 それに対しシグナムは宙を舞い、上空から剣を振り下ろした。 初太刀をシグナムの左側へかわすRXへ、魔法により空中を自在に舞うシグナムは追撃を行う。 重力を無視した動きに微かに対応が遅れるRXへ、フェイントを交えた斬撃が見舞われる。 物理的な法則を無視して行われる落下や浮上に惑わされ、RXは面白いようにフェイントに引っかかり手足を強打される。 真正面から打ち合ったかと思えば、頭上から剣を叩きつけ、着地したかと思えば滑るように低空を飛び距離を置く相手にRXは次第に防戦を強いられていく。 それを見る観客達は、思い思いの感想を口にする。 シグナムと翻弄されるRXの動きを辛うじて目で追いながら、その道に関する造詣の深いはやては知ったような顔で深く頷いた。 「んーやっぱり仮面ライダーの弱点は空戦やね」 フェイト達も頷く。 RXの拳圧が強風となって髪を揺らした。 「そうだね。もしかしたら遠距離攻撃や広範囲も対応できないのかも」 「それは多分、間違いないと思うんよ」 「どうして?」 「だって仮面ライダーやもん」 「?」 はやての返答に怪訝そうな親子を見て、わかってないなと言いたげな顔ではやてはため息をついた。 そして目を輝かせながらもはやての頭の中では、光太郎をどうすれば引き抜けるだろうかと考えが膨らもうとしていた。 臨海空港で起こった大規模火災の現場を体験し、定めた夢。 自分の部隊を、それも少数精鋭のエキスパート部隊を持つという夢にどうすれば参加してもらえるだろう?と。 最初は翻弄されてばかりだったが、RXは徐々にシグナムに慣れてきている。 胴体や頭部へ受けた一撃はなく、両手足が何より強力な盾となってレヴァンティンを受け止めていた。 何発もカートリッジをロードし強力になった斬撃を受け腕が傷だらけになっているようだが、その傷がこうして戦っている間にも少しずつ治っていくのもはやては見逃していなかった。 魔導師で部隊を組む場合、隊員は特性に基づいて陣形中のポジションを割り当てられる。 そうして各々の部隊の中でどのように動くのかを徹底して訓練していくのだが… 二人の戦闘を見ていると、単身で敵陣に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守るフロントアタッカーにRXがどうしても欲しいと思ってしまう。 攻撃時間を増加させ、サポートの必要性を減らすため、防御能力と生存スキルが重要となるポジションにRXが入れば、その部隊の能力がどれ程上がるものか。 「はやてちゃんダメよ。そんな目で見ちゃ…」 物欲しそうな目で亀のように縮こまって攻撃を凌ぎ、隙を窺うRXを見るはやてを咎めるようにリンディが言う。 「彼は存在自体が管理局法で違法になる可能性が高いわ」 「…リンディ総務統括官でも無理ですか?」 「無理とは言わないけど……簡単な話じゃあないわ。彼の出身世界、彼の体…皆興味深々でしょうね。私も、なのはちゃんやフェイトについてもらいたいんだけど」 抱きかかえたヴィヴィオをあやしながら言うリンディにフェイトは表情を曇らせた。 リンディもそれを見て抱きかかえたヴィヴィオの手を握ったまま押し黙る。 フェイトとはやての親友、なのはは蓄積された負担の所為で瀕死の重傷を負ったことがあった。 教導隊所属になり、昔ほど無茶をする機会は減ったが…なのはをよく知る者は口を揃えて「なのはだから心配なんだ」と言っている。 なのはが重体になった時、彼女の両親を説得した分ある意味フェイト達よりもショックを受けたリンディはその気持ちが強かった。 今実力を見たリンディはなのはか、あるいは二の舞にならぬようにフェイトの手助けをして欲しいと考えていた。 速やかに管理局に引き入れそれを実現するにはリンディでもかなりのコネを使わなければならないだろうし、RX…光太郎には迷惑な話でしかないが。 押し黙った彼女らを置いて、二人の戦闘に決着がつく。 レヴァンティンがRXの首の前で止まり、RXの拳がシグナムの鳩尾の前で止まっていた。 * 二人の戦闘が終わり、光太郎が再びハラオウン家に戻って談笑している頃。 干してあった洗濯物を畳み、食器も洗い終えてお茶で一服していたウーノは、ニュースを見てお茶を吹いた。 「けほっ…! けほ」 キャスターも戸惑った様子で読み上げた最新ニュースは、幼稚園バスを襲う覆面の男達を獣人の男性が蹴散らしたという話題だった。 その銀髪の獣人についてはウーノも知っている。 八神はやての守護騎士の一員『盾の守護獣』ザフィーラ。 蹴散らされている者達はウーノも初めて見る。 だがそのベルトのバックルに描かれたデザインのタッチはどこかで見た覚えがあった。 慌ててISを使って情報を調べて見ると…ベルトのバックルに描かれた絵はやはり妹の、ウェンディが描いた絵と良く似ているような気がした。 証拠となるものは何もない。似ているような気がするだけだ。 だが、ウーノはスカリエッティの犯行に違いないと確信していた。 「チンクは何をしてるの!? あれほどドクターの自由にさせちゃ駄目って言っておいたのに…!」 その後、犯人は煙のように溶けて消えた。 手がかりとなるものも一切残らず、同一犯による犯行も行われなかったが、その犯行は一部の者達の記憶に強く残った。 前へ 目次へ 次へ
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光太郎がこの世界に来てから三度目の秋が訪れた。 ミッドチルダの秋は短く、すぐに冬が訪れる。 その為か現在光太郎が住まう廃棄都市区画近辺では、既に冬に向け衣類や防寒具が店先に並んでいた。 三人…光太郎とウーノの暮らしはセッテが加わっても然程変わっておらず、短い秋を楽しもうと季節の野菜や果物を買い、帰り道を歩いていた。 途中古本屋と露天を覗いてウーノが並べられた商品の中から、外出時、べスパを運転する際にと少し古いタイプのカイロを購入して光太郎に渡す。 「ありがとう…変わった色だな?」 どこか別の管理世界から輸入したらしい、得体の知れない皮製のケースに入った金属製の薄っぺらいカイロを受け取った光太郎は、カイロに眼を落として言う。 ポケットの中に入れやすいサイズで皮製のケースに入っているのは直接触ると火傷しかねない温度まで熱くなってしまうからのようだ。 「その姿の時は寒いんでしょ。管理外世界(番号は忘れたわ)の惑星ポポルにいるカエルの皮だったかしら」 「……何ていうか、胡散臭さいな。しかもカエル?」 「何よ?」 「あ、ありがたく使わせてもらうよ。でもよくわかったな」 「去年冬にコーヒー豆をきらした時、少し震えてたでしょ」 財布を仕舞い、マフラーを直しながら歩き出すウーノに少し遅れて光太郎と光太郎の傍に無言で立っていたセッテも歩き出す。 魔法が発達しているとはいえ非常に珍しいカートリッジを挿して、込められた魔力を燃料にして発熱するらしいカイロを弄りながら歩く光太郎をウーノは軽く嗜める。 明日は久しぶりにシグナムの相手を務める予定だったので早速使ってみようと決めて、光太郎はカイロをポケットに仕舞った。 シグナムとの関係は続いているが、回数自体は減っていた。 ハラオウン家に預けたヴィヴィオが大きくなり、シグナムもよく顔を出しているらしい。 いい子で皆に可愛がられている、ということだった。 大した悪さもしないからちょっと物足りないくらい、とは母親であるリンディの弁だ。 そういえば、と不意に光太郎は黙って隣を歩いているセッテに顔を向けた。 共に暮らして暫くたったが、セッテはあまり二人の会話に口を挟もうとはせず、光太郎の挙動を観察することが多かった。 元々話し下手というか人間味の薄い性格らしいと既に理解している光太郎達は何も言わず、セッテのしたいようにさせていた。 今もセッテは光太郎を観察していて二人の目があった。 「どうして俺が兄なんだ?」 「ではパパとお呼びしましょう」 「ど、どういう意味だっ!?」 「セッテ。もう少し最初から話さないと私にもわからないわ」 狼狽する光太郎に少し前を歩くウーノから助け舟が入った。 「貴方が私の戦闘形態のオリジナルに当たる方だからです。パパよりは兄様の方がいいだろうと言われたのですが、間違いだったようですね」 「い! いやそのままでいいぜ」 「…わかりました。光太郎兄様。帰ったらまたバイクの整備を手伝ってもらえませんか?」 「ああ、勿論構わない」 セッテの頼みに光太郎は二つ返事で頷いた。 光太郎がアクロバッターやベスパを持っているようにセッテも一台のバイクを持っている。 お金を貯めて買ったものではない。一緒に住む事が決まると直ぐに何処かからセッテの元にバイクが届いたのだ。 一見するとそのバイクはミッドチルダでそこそこ有名なメーカーのバイクだった。 だがウーノの他の二人から比べると用心深い性格と、RXの目は誤魔化されない。それは擬態に過ぎなかったのだ。 本性はどこかアクロバッターを意識したデザインをしたセッテをサポートするだけの性能が与えられたバイクだった。 光太郎がスキャンした情報を正確に設計図としてチラシの裏に書き込むと、それを見たウーノは使われている技術から言って間違いなくスカリエッティの生み出した作品だと断言している。 ついでにスキャンしたとはいえフリーハンドで設計図を引いて見せた光太郎にウーノ達は感心したことを記しておく。 「光太郎ってそんな特技があったのね」 「以前ワールド博士の設計図からライドロンを作ったお陰かな」 感心していたウーノは返された返事に興ざめしたような顔をみせた。 「冗談はいいわ。貴方にそんなこと出来るわけないじゃない」 「嘘じゃないって! 見てろ、今から全部チラシの裏に書いてやるから! セッテ、悪いけど向こうからチラシを持ってきてくれ!」 躍起になった光太郎に言われ、セッテがゴミの日に出すために溜め込んであるチラシを取りに行くのを尻目にウーノは席を立った。 「はいはい。頑張ってね」 チラシの裏に書き込まれた専門家が書いたような設計図―それもクライシス帝国の学者が設計した超マシンのもの、を見せられたウーノはまた別の意味でため息をついた。 詳しくは割愛させていただくがウーノは一言「この人、早くなんとかしないと…」と零したらしい。 ともかくセッテはそれを愛車として使うことにした。 最初光太郎はすぐにスクラップにしてしまおうとしたのだがウーノに勿体無いと一言で却下されて今に至っている。 「ふぅん?」 「なんだ?」 前を歩いていたウーノの思わせぶりな反応に光太郎は眉を潜めた。 「光太郎はドクターが作った物なんて触りたくないんじゃない?」 「奴がどんなつもりで生み出したかは知らないが、今は一緒に人を助ける仲間だからな」 道端の売店で売られている新聞の写真に視線をやりながら光太郎は応えた。 そこにはライダーの記事が載せられていて、共に活動しているライダー…セッテと彼女が乗るそのバイクが写真には写っていた。 「単純ね」 「そんなことはないぜ」 ウーノがフッと鼻で笑う。 光太郎は聞き逃さずに抗議したが、全く相手にはされなかった。 反論は無視されて、話題はすぐにセッテから振られた今晩の夕飯や明日のことに変わる。 だがそれを気にする風も無く光太郎は二人と古い路地を歩き、アパートへと戻っていった。 家に近づくにつれて光太郎の表情に微かな変化が訪れた。 光太郎の超感覚が三人の部屋の前にいる何者かの気配を伝えてきていた。 セッテも遅れて気付き、光太郎の指示を仰ぐようにちらちらと光太郎の目を見る。 そんな能力はないウーノの方は、部屋に近づくなり怪訝そうな顔をした光太郎とセッテが視線を交わすのを見て気付いていた。 ウーノは変身しない所から見て、脅威ではないのだろうと考えていた。 「光太郎さんお久しぶりです」 戻ってきた光太郎を見てそう言っておじぎをした少女に光太郎は困ったような顔をして挨拶を返す。 「やっぱりフェイトちゃんか。こんな時間にどうしたんだ? 悪いがヴィヴィオのことなら…」 「ち、違います。今日は仕事の依頼に来ました」 慌てて頭を振るフェイト。 ヴィヴィオを助け出した時に知り合ったクロノの義妹で、今はヴィヴィオの義姉でもある少女をウーノとセッテは胡乱げな目で見つめた。 執務官の制服が様になって よく手入れされ腰の辺りでリボンで結ばれた金色の髪が、沈んでいく夕日に照らされていた。 眩しく黄金に輝く髪が女性へと成長しつつある少女を彩っていて、ウーノは思わず自分の製作者に文句を言いたくなるほどであった。 「シグナムから話は聞いています」 「殴り合いならご免だぜ。彼女だけでも困ってる位なんだ」 「くす。シグナムはヴィヴィオの相手をしながら嬉しそうに話してくれましたよ?」 「ねぇ光太郎―夕飯の用意もあるし早く済ませてくれないかしら?」 困ってはいるのも確かだろう。だが、それ以上にどこか楽しげに言う光太郎とそれを見て笑いながら脱線しようとするフェイトに釘を刺すようにウーノが言う。 セッテは姉の邪魔にならないようにどこからか取り出した最近お気に入りの新聞(―その新聞社はマスクド・ライダーの記事をよく掲載している上に好意的な書き方をするのだ)を読み始めていた。 助けた女の子からのお礼が書かれている辺りを見ながら、セッテはさり気なく光太郎に助けを求めるような目をやった。 「ご、ごめんなさい。すぐに済みますから」 少したじろぎながら、軽く謝罪をしてフェイトは気持ちを切り替えたのか凛々しい表情で光太郎を見た。 「光太郎さんにはレリックの輸送の護衛を依頼したいんです」 「レリックだと…」 呟く光太郎の脳裏に、光太郎がスカリエッティと袂を別ち、ウーノらと奇妙な同棲をすることになった原因が浮かび上がった。 体を焼く膨大なエネルギーと、消滅していく人々の姿を幻視した光太郎の拳が硬く握り締められた。 * 数日後、光太郎は普段見せない硬い態度で異世界から移動する船に乗り込んでいた。 時折周囲を刀のような鋭い眼差しで撫で、スカリエッティのところにいた頃作ったスーツを着込む姿に隙はない。 依頼したフェイトは驚いたものの、執務官の制服を着て隣に立つ姿は普段通り冷静に職務をこなしていた。 移動の合間にヴィヴィオと会うように説得する時は熱く語りかけ、保護者になっているという子供のことを話す時は年相応の表情をしていた。 突然この厄介な荷を運ぶことになり、人手が足りないので協力を依頼したのだが…フェイトやリンディには別の思惑もあった。 光太郎がレリックに対して思う所があるのはクロノ経由で知っていた。 レリック絡みの任務なら積極的に協力してくれるのではという予想は当たった。 後はこの運搬中に管理局…自分達との関係を深め、今後も協力してくれるきっかけにしたいと彼女らは考えていた。 そして折を見てヴィヴィオと会わせてしまおう、なども。 それは光太郎も…正確には同居人のウーノがフェイト達はそういうつもりだろうと釘を刺していたが、光太郎は気にしちゃいなかった。 今も、相槌をうつ光太郎の意識は抱えたトランクに向けられていた。 トランクにはもう二年以上も前に空港の大火災を引き起こしたロストロギア『レリック』が入っている。 以前と同じく空港を通る事。人員不足により人手は二人だけであることも同じだった。 ふと気になり、部外者にこんな重要な物を運ばせて良いのかと問うてみたが、フェイトは自分もいますしと不思議そうな顔をしていた。 あ、と何かに気付いたようにフェイトは不満そうに顔を顰めた。 「もう、私だって執務官なんですよ?」 「あ、いやそういう意味じゃない「もっと私を信用してください。なのはと出会うきっかけになったあるロストロギアの事件の時なんて、9歳の魔導師が責任者だったんですから」 「9歳? いくらなんでもそれは無茶だろ!?」 光太郎が自分を認めていないと感じたらしいフェイトに光太郎は驚いて聞き返した。 フェイトはやっぱりと、以前と余りにも酷似した状況に緊張する光太郎を地球の常識からすると若すぎる自分を信頼出来ていないのだと決め付けた。 「こちらの世界では能力が認められればこれが普通なんです」 「あ、ああ…そう」 呻くように言う光太郎を連れてフェイトは歩いていく。 その後ろ姿からは光太郎が普段暮らしているミッドチルダを守る地上の陸士部隊が束になっても敵わない程の魔導師にはとても見えなかった。 初めて行く管理世界への移動もそこでの受け取りとそこからの輸送は何の滞りも無く進んだ。 面倒な手続きも全てフェイトがこなしてしまい、何の襲撃も無く日程だけが進んでいく。 光太郎はトランクを抱えて、彼女の後を子供が親に手を引かれ出かけるようについていくだけだった。 時に大人達と交渉するフェイトの仕事振りに光太郎は感心し通しだった。 そうして、トランクを持って、空港へと戻ってきた光太郎は以前爆発を起こした場所とそっくりのホールで思わず足を止めた。 行きかう人々の喧騒も、建物の内装も殆ど変わらない。 突然足を止めた光太郎に、前を歩いていたフェイトが気付いて足を止めた。 行きかう人々の邪魔になっている光太郎をフェイトが呼ぶ。 「光太郎さん? どうかしましたか」 「いや…なんでも」 その時だった。光太郎の前に見覚えのあるウィンドウが開いた。 映ったのは見覚えのある部屋と焦っている同居人達の顔。 「光太郎…! 急いでそのトランクを破棄して!!」 「どういうことだ…まさか!」 「ええ。あの時と同じよ! そこに入っているレリックは…!!」 最後まで聞く必要はなかった。 やはり……! そんな言葉が胸に浮かび、光太郎の体を動かした。 「光太郎さん? どうし…くっ!」 光太郎はフェイトにトランクを投げつけて、開いた掌を天に向けて突き出した。 何事かとフェイトを除く高速戦闘などとは縁の無い周囲の客達の目には幾つもの残像が見えたであろう。 それほどの速さで十字に振るわれた腕が巻き起こした風が華奢な者達を吹き飛ばす。 「駄目です! ここじゃあ…!」 突風に足を踏ん張って耐えたフェイトはその動きを見て光太郎を止めようとして叫び光太郎の目の奥、巨大な光に変わっていくスカリエッティが魅せられた火花に魅せられて息を呑んだ。 腹部に浮かび上がったベルトから一瞬、太陽の如き閃光が迸る。 光太郎は人から黒い飛蝗人間へ、そして更に黒い甲冑の如き皮膚を持つ飛蝗怪人へと変貌を遂げる。 軽く曲げた左拳を前に、握り締めた右拳を腰に構えた光太郎…いや、RXは変身に伴い全身へと行き渡った莫大なエネルギーの残滓で微かにベルトを輝かせながら名乗りを挙げた。 「俺は太陽の子、仮面ライダーBLACKRXッ!!」 そして光太郎の行動はそれでは終わらなかった。 RXの姿が青い閃光と化しフェイトの前から姿が消えた。 「え…?」 一瞬遅れてフェイトは、遅れてやってきた取られた瞬間のトランクであるはずの何かの感触に息を呑んだ。 しっかりと受け取ったはずのトランクは何処かへと消えてしまっていた。 何処へ消えたのか。 考える暇もなく遠くで生まれた大きな光に強く照らされ、余りの眩しさにフェイトは目を閉じた。 太陽が増えたかのような強烈な光。フェイトはそれを周りの一般人に混じって見上げた。 まだ驚きの抜けない頭の中で先ほど変身する直前の光太郎が言っていた事と空港、レリックなどの言葉が繋がり、以前救助を行った空港の災害がフェイトの脳裏に浮かび上がった。 「光太郎さんはまさか…」 どんな手を使ったのかフェイトにもわからなかったが、トランクを奪い去った光太郎はあそこまで瞬時に移動したのだろう。 恐らくそこでレリックが暴走したのだ。 死んでしまったのではないか…そう考えて青ざめたフェイトは、光の中に浮かぶ小さな人影を見つけて安堵の息を吐いた。 よく考えれば、あれほどの災害を引き起こしたものと同じレリックの暴走であるにも関わらず、この程度の距離でこの空港には何の被害も出ていないのはおかしい。 衝撃波の一つも届いてこないのは恐らくはあの光の中で光太郎が何かしているのだろう。 まさか力尽くで押さえ込んでいるとはフェイトも思いもしなかったが。 走りだし、三角形のプレートを取り出したフェイトの体が金色の光に包まれる。 執務官の制服を基にしたバリアジャケットを纏って空へ飛び立った。 そのまま加速を続け、光が収まっていく爆発現場へと急速に近づいていく。 その間にも収まっていく光に目を細めていたフェイトは、光の周囲を見て今起きたレリックの爆発の威力を想像し背中に冷たい汗が流れた。 上空の雲は消滅し、青い空がどこまでも広がっていた。 一部のビルが溶けて融解しているのも目に入り、光の中心地にいる光太郎の身が心配だった。 その時だった。急速に弱まっていく光から青い人影が海へと落下していくのが彼女の目に入った。 「バルディッシュ!」 主人の求めに従って魔力が込められたカートリッジがリロードされる。 増大した魔力を使って加速したフェイトは、海面へと激突するギリギリで青いライダーの体を抱きとめた。 RXの黒い昆虫を思わせる体と比べ、スマートな体格をしている。 昆虫の外骨格を模した硬い鎧のような印象はなくしなやかで、腕に伝わってくる感触も何処か柔らかい。 「光太郎さん、ですか?」 「ああ。ありがとうフェイトちゃん、助かったよ」 初めて見るバイオライダーの姿に半信半疑に尋ねられた光太郎は、RXの姿に戻って頷いた。 ゲル化して移動することも出来なくは無いが、二度目とはいえ精神的な疲労感から光太郎は身を任せた。 が、すぐに太陽の光を浴びてRXは全快した。 「体は大丈夫ですか?」 「全然大丈夫さ。ほら、どこも怪我なんてしてないだろ?」 「それもそれで信じられないんですけど…」 フェイトが苦笑した瞬間、光太郎は口ごもりながら下ろしてもらえないかと申し出た。 瞬時に全快した途端自分より年下の少女に抱きかかえられて空を飛ぶのが光太郎にとってはどうにも恥かしく感じられていた。 「ちょっと恥かしい」 「一つ約束してくださったらすぐに下ろしてあげますよ」 「…なんだ?」 間近にある少女の顔から顔を逸らす光太郎に、フェイトはこういうことには定評のある親友のことを脳裏に描き口を開いた。 「お、お話…聞かせて欲しいの」 「は?」 「え!ええっと…! その、ごめんなさい」 親友の口調で言ってみたものの、それが思いのほか恥かしかったらしく今度はフェイトが顔を赤くして顔を逸らした。 光太郎は口調に違和感を感じて赤く染まった彼女の耳たぶを眺めた。 「こんなことが出来るのに、どうしてヴィヴィオと会ってくれないのか話を聞かせて欲しいんです」 「シグナムから聞いてないか?」 「…教えてください。教えてくれたら、私にも協力できることがあるかもしれないから」 フェイトの目は真剣だった。 今回同行する間にも義妹のことを光太郎に話してきたフェイトの表情は信じられる。 話したくは無いが、ヴィヴィオの家族である彼女には話しておくべきなのかもしれないと光太郎は思った。 「………わかった」 光太郎は暫く悩んだ末、建物の影に入った瞬間を見計らい変身を解いた。 人間の姿になったせいでフェイトは最初光太郎が味わっていた恥かしさを味わう羽目になり、誰かに見られていては困ると光太郎の顔を隠しながら飛ぶ事に集中しようとする。 建物の陰に隠れて飛び続けるフェイトの顔をぼんやりと見ながら、どこから話そうか光太郎は頭の中を整理しようとした。 光太郎が接触を拒む理由は、クライシス帝国との戦いで世話になった叔父夫妻を死なせ、まだ幼い彼らの子供達に銃を取らせてしまったことに起因している。 クライシス皇帝を倒し、そのままこの世界へと来てしまった光太郎は残された子供達がその後どうなったか知る術はない。 先輩ライダーや共に戦った仲間達がいるからそう心配することはないと楽観的に考えるようにし、深く考えないようにしてきたが… ゴルゴムとの戦いで全てを失い、疲れ果てていた光太郎を迎え入れてくれた家族を守れなかったことは、光太郎の心に未だ残る傷の一つだった。 話しだすのを待っているらしく沈黙するフェイトに気付き、光太郎は考えを止め内心を語った。 「…俺は怖いんだ。ゴルゴムの時も、クライシス帝国と戦った時も、俺は大事な人達を守れなかった。信彦もおじさん達も…俺は、またいつか同じような敵が現れた時にヴィヴィオから家族を奪い去ってしまうんじゃないかって不安が、消えないんだ」 一度言葉を切る光太郎の憂いに満ちた顔をフェイトは信じられない面持ちで眺めながら、人目につかない適当な場所に降り立った。 「それでも関わりを完全に絶てないのは、俺が臆病だからだ。覚悟したつもりでも、まだ一人になるのは耐えられない…」 まだ先輩達のようにはなれないのだと自嘲気味に語る光太郎にまだ困惑しているフェイトは、その場で上手く言葉を返す事が出来なかった。 自分が全て無くしたと思った時になのはが手を差し伸べてくれた。 そうして親友になった。なのはのようにはうまく出来ないと落ち込むフェイトを見て光太郎は誤魔化すような笑みを浮かべた。 「すまない。年下の女の子に言うようなことじゃあなかったな。ヴィヴィオが望んでくれるのは嬉しいけど、悪いな」 * その頃フェイトと同じく一般人に混じって光太郎を眺めていたスカリエッティは、チェーン店のコーヒーを飲みながら先ほどの光景を思い出して恍惚としていた。 まだどこか別のところを見ているような目を隣に座るセインと何故か最近口うるさいチンクに目を向ける。 「チンク、今の映像は後で入手できるかね?」 尋ねられたチンクは眉間に皺を寄せ、ずずーッとカフェラテを一息に飲み干してからスカリエッティを睨みつけた。 「ああ。それは出来ると思うが…ドクター、本当に爆発するなんて聞いてないぞ!」 「何を言っているんだね。私は危険はないと言っただけさ。対応が間に合ったりして爆発しないとは言っていないよ」 「いいや言った! 何度も確認したじゃないか!」 「そうだったかな? それはすまないね」 スカリエッティはどうでもよさそうにそう言うと、今回の成果を整理し始めたのかニヤニヤしながら明後日の方向を眺め始めた。 適当な手駒がなかった事もあり、わざわざ横流しされたレリックを管理局に返還し、爆破させた目的は達成されたのだ。 もうこの場に留まる理由は無かった。 未だ見ていないRXの能力を見ようとしてまさか不定形のゲルっぽい物体に姿を変えて高速移動するとは…予想の斜め上どころではなかったが。 「…まあいい。先ほど光太郎は私達に気付いたかもしれない。早く戻りましょう」 「ああそうだね。ちょっと熱心に見すぎたらしい」 全く悪びれないスカリエッティを殴り倒そうかと真剣に考えて拳を震えさせるチンクの手を、苦労してるなぁと他人事のように乾いた笑いを浮かべたセインが掴んだ。 どうしようもない男だとは思うが、流石に手を出すのは拙い。 「じゃあ行きますね」 セインに抱えられ、床に沈んでいく男を見送って店内で一斉に安堵のため息が零れた。 薄笑いを浮かべたまま体にぴったり張り付くボディスーツを着た幼女と少女を連れた白衣の男がいなくなっただけで、店内は全く別の店になったかのようだった。 前へ 目次へ 次へ