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IX/ 宿を出た抜き身の刀を持つ濤羅に、一瞬の間をおいていくつもの鋭い視線が突き刺さる。 即座に相手が標的の一人だと見抜いたのだろう。それからの傭兵たちの行動は際立って いた。すぐに己の獲物を持ち出した。 高級街ということもあってか、通行人は姿はまるで見受けられない。この場にいるのは 敵ばかりだ。つまり、間違える心配はない。 「っふ」 呼気とともに一閃。飛んできた矢の内、壁に突き刺さるものは体捌きでかわし、店内に 入る恐れがあったものを一つ残らず斬り払う。内功を繰れずともこの程度は容易い。 地に落ちた矢のなれはてを見届けると、濤羅は一度納刀した。とたん、紋章が光を失い、 体中に満ちていた不思議な力が消える。代わりに内息が満ちてくる。 戦いになれば邪魔になるだけの鞘をあえて持つ理由はこれだった。柄ではなく鞘ならば、 握っていても内功に支障はない。 だが、そのような理由を傭兵らが知るはずもない。刀を納めた濤羅を諦めたものと見た のだろう。一度は動揺していたというのに、今ではみな一様に笑みを浮かべ、矢を番える 者はその動作すら鈍かった。 哀れなのは、己達だというのに。 真正面からかかってくる男たちに向かって、濤羅は一直線に駆け出した。距離はおよそ 15メートル。詰めるまでに一度は、矢の襲撃があるだろう。だが、濤羅はそれを恐れない。 いつ放たれるかわかる上に真っ直ぐにしか飛ばない矢など恐れる道理はどこにもない。 数歩走ったところで遂に放たれる矢の意を感じた濤羅は、わずかに腰を落とすと、その 走りを軽功へと移し変えた。意に遅れて飛んできた矢がその緩急の差に追いつけるはずも なく、虚しく濤羅がいた空だけを貫いてあらぬ方へと飛んでいった。 その光景が信じられなかったのだろう。あるいは、見ることすら叶わなかった者もいた かもしれない。傭兵たちは驚愕に一瞬身を固めた。そう、固めてしまった。眼前の傭兵も 例外ではない。懐に入られているというのに、まるで木偶のように立っている あまりにも致命的な隙。それを濤羅が見逃すはずもなかった。 「破っ!」 金属板をつなぎ合わせただけの粗悪な鎧に身を包んだ男の腹部に、まるで初めからそう あることが自然だったかのような滑らかさで、濤羅の掌打が深く突き刺さる。此度は手加 減が加えられていない、正真正銘の黒手烈震破。その一撃の前に、たかが鎧など役に立つ はずもない。五臓六腑をことごとく破壊された傭兵は、痛みを感じるまでもなく絶命した。 言葉もなく、口から血を零しながら崩れ落ちる傭兵。だが、それでもまだ、他の者達は 正気を取り戻さない。 その隙、貰った――濤羅がそう思ったときには、体は既に動いていた。崩れ落ちる男の 体を利用して、別の傭兵の死角、背後へと回り込む。そのまま無防備に見せている背中に 肩口から靠を叩き込む。 勁は、何も掌に限るものではない。達人ともなれば、全身の如何なる場所からも正しく 勁を発せられる。濤羅もその一人だ。それに打たれた男もまた、あっさりと絶命した。 「き、貴様ぁ!」 ようやく我に返った男が、激昂しながらも剣を振り上げる。だが、その反撃は余りにも 遅きに失していた。 ふわりと、身を翻した濤羅に従って身に纏った外套が浮かび上がる。それが男の眼前を 掠め過ぎ――その一瞬生まれた死角をついて繰り出された濤羅の踵が、布地もろとも男の 首筋を打ち抜いていた。 長衣の裾を目眩ましに繰り出す、電光石火の後ろ回し蹴り。本来なら剣術に交えて使う 隠し技である、戴天流の臥龍尾である。 隠し技と言っても、内力の込められた一撃だ。その衝撃は生半なものではない。それを 急所である首に受けた男が無事であるはずがない。 瞬く間に三人をしとめた濤羅は、しかし、一息つく間もなく疾走した。未だ傭兵たちが 混乱の中にいる間に、可能な限りかずを減らさなければならない。 一歩目の踏み切りは左前方。軽功に支えられた濤羅の体は、ただそれだけで建物の外壁 へと迫っていた。その勢いを殺すことなく真上に跳躍。慣性に従って迫り来るその壁を、 もう一度爪先で蹴りつけたときには、既に濤羅の体は屋上へと飛び出していた。 見下ろす濤羅の視界には、弓矢を構えた二人の傭兵。濤羅の動きを追いきれなかったの だろう。彼らは未だ先ほどまで濤羅がいた場所へと矢を向けていた。 そのうちの一人に向かって、濤羅は宙空で身を捻りざま鞘から抜刀。まさか真上から、 それも斬撃が降ってくるとは思いもすまい。濤羅はあっさりとその首を掻き切った。その 落下する途中で体を戻す力を利用して残る一人の頚動脈も裂き――着地したときには既に 濤羅の剣は既にその鞘に収まっていた。 悲鳴すらそこには残らない。だから、向かいの建物の上に位置するもう一人の射手も、 濤羅の次の行動に気付くことすらできなかった。 「疾!」 足元に倒れ付す男の矢筒から引き抜いた矢を、濤羅は全身を捻りながらヒョウの要領で 投擲する。足裏はしかと地面を踏みしめ、足首から膝、膝から腰、腰から背中、背中から 腕へと正しく勁を伝えたのだ。その身から放たれた矢は剛弓のそれに勝るとも劣らない。 「ぐ、があ」 その一矢に喉を射抜かれた傭兵の口から漏れたのは、悲鳴ではなく絶命の息吹だ。その まま力なく体は傾ぐと、屋根上から地面へと落下してく。 「お、おい……あれ」 ようやく濤羅の姿を認めた内の一人が、震える指先で屋根の上を指し示す。 外套をはためかせながら、濤羅は悠然とその場に立っていた。今五人もの人間を屠った というのに、その顔には何の感慨も浮かんでいない。 背後に二つの月を従えるその様はもはや人のものではなかった。 「……ありゃなんだ、神代の怪物か?」 冗談とも恐れとも知れぬその声を否定するものは、その場に誰もいなかった。
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XII/ 振り下ろされる巨大な岩の拳を、濤羅は慌てるまでもなく飛びのいて避けた。更にもう 一歩距離をとったところで、辺り一帯に轟音が響いた。距離をとった濤羅すら、わずかに 肌を振るわせる。 見れば、ただの一撃で足場にしていた建物の屋根は跡形もなく消し飛んでいた。 アサルトギアの装甲にすら通用する二十ミリ携行レールガンに匹敵する破壊力だ。幸い にして屋根跡から覗く限り住人はいなかったが、いたとすれば確実に命はなかったろう。 だが、それを前にして濤羅が注視したのは破壊を巻き起こした巨大な岩人形ではなく、 その肩に座った人影にである。月の光に照らされて、朧な輪郭に確かな影が与えられる。 名は知らない。聞いたことがあるかもしれないが、濤羅は覚えていなかった。ただ敵と してのみ、その顔を覚えている。 「フーケ!」 その名を補うように叫んだのはルイズだった。更に離れた位置にいるルイズでは、その 顔を見ることは適わない。だが、それでも彼女には悔いがあった。彼女を一度捕まえた時、 自分は何もできなかったという悔いが。 夢に見るほどに強く思っていたルイズが、たかが顔の一つ程度で判断を誤るはずもない。 「へえ、覚えていてくれたのね」 風に靡く後ろ髪を手で押さえながら、人影――フーケは嬉しそうに言った。ただし、目 だけが笑っていない。鋭く尖らせた瞳はただ濤羅のみに7注がれていた。 言葉もなく視線が交わされる。 フーケは百万言弄しても恨みが晴れることはなく。濤羅はかける言葉など何一つない。 だから、その沈黙を破ったのはまたしてもルイズだった。 「何で貴女がここにいるのよ。牢屋にいるはずでしょう!!」 理解できぬと首を振り、魔法を使えぬのに杖を突きつける。目を見開き、唇を戦慄かせ、 歯を食いしばり――そのどれもが、平静を欠いた証だった。 だが、欠けたところを補うのが使い魔の役割である。 狼狽するルイズに注意が向いていることを確認すると、濤羅は足場にしている建物から 飛び降りた。衝撃は足首と膝で吸収したが、それでも無視できぬほどの音が鳴る。二人の 注意が、間に立つ濤羅へと注がれた。 そのうちの一つ。フーケのものを無視して、濤羅はルイズへと向き直る。距離はあるが、 目線は同じ高さだ。 「出てきたのなら、また捕らえればいい。そうだろう?」 離れたルイズに向けられる柔らかな視線。まるでフーケなどいないと、いたとしても、 そんなものは何ら問題にならないと、涼やかに笑う。 そうして濤羅はフーケと向き直る。伝えるべきは全て伝えた。ならば後は、従者として 命令を待つばかりである。 濤羅は知っている。彼女が、フーケを捕えた夜、己だけが何も出来なかったと後悔して いることを。涙で枕を濡らしながら、夢に見るほど強く思っていることを。 だからこれはあの夜の焼き回し。違うのはただ一点、ルイズの言葉が口火を切ること。 「いいわ、濤羅! そんなやつ、ふっ飛ばしちゃいなさいっ!」 淑女らしかぬ蓮っ葉な命令。それを背に受け濤羅の体が弾丸のようにはじけ飛ぶ。 「はっ、返り討ちにしてやる!」 歪なフーケの笑い声を号令に、ゴーレムがその巨大な右腕を上げる。その動き、濤羅を 迎え撃つにはあまりに鈍重だ。意が通わぬため捉えることは出来ぬが、視覚一つで十分に 事足りる。 そしてあの巨体だ。重量からすれば、右腕と左腕を同時に動かすことなどできはしまい。 大地を踏みしめる足裏に力を込め、岩の腕(かいな)が振り下ろされる前に懐に飛び込 もうとし、だが、その判断とは別に濤羅の体は横に飛び跳ねていた。 着地し、岩人形と相対しながら濤羅は己の動きの理由を悟る。 振り下ろされた岩人形の右腕の半ばから先が無くなっていたのだ。泥へと姿を変えて。 叩きつけられた衝撃で、泥はあたり一面に飛び散っていた。飛沫だけでも質量でいえば 相当なものだ。人一人を殺す威力はないだろうが、到底無視できるものではない。 だが、それ以上に厄介なのは足場を奪われることだった。軽功を纏う濤羅ならば動けぬ ことはないだろうが、それでもやはり動きは鈍る。 それでも攻撃が残る左腕や両足から繰り出されればやり過ごせないことはないが、敵が 奥の手を持っていたとき、それに対処できる保証はない。 濤羅は魔法を知らぬのだ。足場にしようとした岩人形の肌が泥に変わるやもしれぬし、 あるいは懐に入り込んだ瞬間、土砂のように体を崩すこともありえる。 確実な保証など実戦では望むべくもないが、やはり一足で懐に飛び込むのは危険だった。 これ以外にも何か手があると考えるべきだと、積み重ねられた経験が告げていた。 「っく」 まずい相手だった。相手の手の内は読めず、かといって様子を見れるほどの余裕が今の 濤羅にはない。濤羅の双肩に、傭兵達との戦いの疲労が重く圧し掛かる。 ともすれば肺腑からこみ上げようとする汚血を喉の奥に飲み込みながら、濤羅は呼吸を 整えた。あと動けて数分。場合によっては更に短くなるだろう。それまでに勝負を決める ことができなければ、例えフーケに殺されずとも、自然と濤羅は死ぬだろう。 「どうした、ちょろちょろと動き回るのはもうやめかい?」 岩人形の肩に腰掛けるフーケが濤羅の緊張を感じ取りせせら笑う。杖を振り、岩人形の 右腕を再生させる間も、その顔に張り付いた優位の笑顔は一度として消え去らない。 考える暇もあらばこそ、すぐさまその右腕を振りかざし――そしてその瞬間に濤羅は心 を決めた。 膝を曲げ、腰を落とし、死の恐怖から逃げるのではなく、むしろそこに飛び込むように 濤羅は身を撓ませた。 唸りをあげて豪腕が迫る。掠めるだけで意識を脳髄ごと持って行きそうな一撃を前に、 濤羅はただ見据えるだけで何の対処も見せようとしない。 今更避けようにももはや遅い。散弾のごとき泥の飛沫は濤羅を決して逃すまい。 勝利を確信し、フーケが笑みを深める。彼女の復讐は今ここに成るのだ。 ――だが、その心の間隙を突かずして、どうして内家剣士を名乗れよう。 撓ませていた体を一気に跳ね上げると濤羅は跳躍――いや、飛躍した。横でもなく後ろ でもなく、それこそ死地に飛び込むように前に向かって濤羅は飛翔していた。 まさに番えられた矢が放たれるがごとく。 地面から弾かれたように飛び出す濤羅を、鈍重な岩人形が捕えられるはずもなく、腕は 虚しく地面のみを叩く。だが、それで終わりではない。むしろフーケからすればこちらが 本命なのだ。飛翔する濤羅の背に泥の散弾が襲い掛かる。 ならば、飛沫より更に早く動けばいい。 何もフーケに届く道は岩人形の懐からに限らない。襲い掛かる腕とて、フーケに繋がる 道には変わらないのだ。 濤羅は慌てず両の手を眼前の岩肌に押し付けた。跳馬の要領で向かい来る腕の力までも 自らのベクトルに変え、濤羅の飛翔は更なる高みへ――いくはずだった。 「なっ!!」 勁を込めた双掌。それを受けた岩肌が風化したかのようにぽろぽろと崩れ落ちたのだ。 驚愕の暇も有らばこそ、ぽっかりと浮かんだ空洞に手を取られると、濤羅の体は駒の ように回転しながら弾き飛ばされた。 反転する濤羅の視界に映る泥の飛沫。その輪郭が徐々にはっきりと、そして大きくなり。 そして濤羅が衝撃に供えようと歯を食いしばった瞬間だった。柔らかな風が、濤羅の身を 包んだのは。 抱き上げらるような感触に肌を泡立てながら濤羅が体勢を整えると、まるでそのときを 計っていたかのように足裏に岩作りの建物の感触が伝わった。同じくして風が凪ぐ。 誰が――誰何の声を上げる必要はなかった。体に染み付いた戦いの本能は、濤羅に敵を 忘れることを許さなかったのだ。忘我の淵にありながら、濤羅の視線は正しくフーケを、 そしてその背後に立つワルドを捕えていた。 ワルドの手にはレイピアを象った杖がある。渦巻く風は、触れるだけで肉を切り裂くだ ろう。それを首に突きつけられたフーケには、もはや指一本動かす余裕はない。 「捕縛されてくれるね、ミス・フーケ」 帽子の奥のワルドの瞳はどこまでも鋭く、声はそれ以上に硬かった。ともすれば、その 切っ先よりも鋭く、そして硬かったろう。 ワルドの本気を感じ取ったのか、フーケは反抗する気配すら見せず杖を手放した。三十 メートルの高さから杖が地面へと落ちていく。 岩畳に落ちて、からん、と乾いた音が辺りに響いた。それを契機としたのか、岩人形は 巨大な自重を支え切れず、足元といわず、全身の到るところから崩壊を始めていた。 もはや最後まで見届けるまでもなく。間違いなく自分達の勝利だった。 安堵の息が、胸の内を突いて出る。 いや、安堵したとすれば、杖が地に落ちたときだろうか。その音を聴いた瞬間、濤羅の 全身はまるで梁が落ちたかのように弛緩していたのだ。余すところなく、心の臓までも。 「う、あ……」 視界が明滅する。耳元では遠雷のような低い音が轟々と鳴り響き、回転する世界の中、 自分が立っているかどうかすらあやふやになる。 一瞬の気の緩みが、体中の気息を乱していた。命を拾った感傷に浸る余裕すら濤羅には 与えられなかったのだ。 頽れかかる膝を震わせながら、濤羅はただ調息のみに専心する。 内傷を癒す径絡の順路、中涜(ちゅうとく)から風市(ふうし)、環躍(かんやく)へ と氣を運び、淵液(えんえき)の間から戻して循環させる。 異変に真っ先に気づいたのは、主たるルイズだった。誰もが捕えられたフーケに注意を 向ける中、彼女だけが濤羅から一時も目を離さなかったのだ。 「タオロー!!」 使い魔の死。漠然とそれを感じ取ったルイズが悲鳴を上げる。だが―― その必死で極まりない声に一瞬意識を逸らした、逸らしてしまった濤羅の呼吸が、致命 的なまでのずれを生んだ。 全身の瘧という瘧を集めたかのようなどす黒い血が迸る。ついに濤羅は膝を折り、身を 屈めて咳き込んだ。そのたびに毒々しい血の花弁が地面を飾る。 「っタオローーー!!」 そんな、必死な声を出すな――脳裏に浮かぶ涙交じりのルイズの顔に笑ってそう告げよ うとして、そしてそれを最後に濤羅の意識は闇に包まれた。
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VIII/ その日の晩は、明日アルビオンに出立することもあって随分と豪勢な食事が振舞われた。 事情を知らぬキュルケやタバサも察しているのだろう。特に問い詰めることもせず、素直 に宴を楽しんでいた。あのワルドですら、酒の勢いも手伝って上機嫌な風だった。 楽しんでいないのは、唯一濤羅だけだ。酒も飲まず出された食事にも大して箸をつけず。 主のルイズは愛想がないことはいつものことだと早々に判断し、キュルケやタバサも既に 彼の食事を見たことがあるので気にとめない。大人のワルドは楽しみ方は人それぞれだと 特には触れず……ただ、ギーシュだけがそれを不満に思っていた。 「どうしたんだい、使い魔くん。全然楽しんでないじゃないか」 飲んだ酒の量はやはり大したことはないのだが、ついにアルビオンが目前になった今、 緊張で酔いの周りが早くなっている。昨夜と同じように随分と酔いが回っていた。 格が違うワルドには絡めない。かといって、一緒にいる女性らは粉をかけるには相手が 悪すぎる。この席でギーシュが共に酒を楽しめるのは――あるいは、酒に逃げられる――、 平民とはいえ濤羅だけなのだ。 だが、すげなくその手を払いのけられたギーシュな悲しそうな表情を浮かべた。 「何をするんだ。寂しい男の独り者同士、酒を飲み交わそうじゃないかー。明日には死ぬ かも、むぐぐ」 相変わらず軽いギーシュの口を表情一つ変えることなく濤羅は塞いだ。貴族相手にする 行動ではないのだが、咎める者は誰もいなかった。口を塞がれたギーシュ本人を除いて。 ふがふがと、漏れる呼気が濤羅の指先に伝わる。こう慌てている内は手を離せない。怒 りに任せて何か重要なことを叫ぶ恐れもある。 ふう、と濤羅が呆れ混じりの息を吐こうとしたときだった。首筋を撫でるような、例え 洋のない不思議な感覚が走った。 石造りの厚い壁を見る。どこも変わったところはない。石は石のままだ。だが、濤羅が 見ていたのは、さらにその奥、石壁の向こうだった。 幾度となく濤羅の身を救った剣士としての、あるいは凶手としての勘。それは確かに、 幾重にも鋼を重ねたような殺意を感じ取っていた。 宿の外に、誰かいる。それも複数。背後にも感覚を伸ばしてみれば、逃げ道を塞ごうと している者達の気配もあった。 濤羅が放つ鋭い殺気に、まずギーシュが動きを止めた。そのあまりの硬さに、呼吸すら 忘れる。一度見たことがあるキュルケやタバサですら、わずかにその表情を硬くした。 テーブルから声が消え、周りの喧騒だけがやけに響く。 平静にしているワルドだけだった。ギーシュの口から手を離し、傍らに立てかけていた 刀へと持ち替えた濤羅の警戒の理由を問おうとして、しかし、その先をルイズは言った。 「何か、いるの」 その声は震えていた。どうしようもないほど恐怖に震えていた。ルイズは、濤羅のこの ような姿を見たことがない。争いから縁遠かった彼女にとっては、ただの殺気ですら荷が 重い。それが剣鬼たる濤羅のものであれば、直接向けられたものでなくても震えがくる。 それでも、主としての矜持でそれを押さえ、質すべきことを己の従者に問いかけた。 その声に、タオローは鉄を連想させる硬さで頷いた。 「囲まれている。いや、囲まれようとしているといったほうが正しいか」 「……その根拠を、聞いてもいいかな?」 「気配だ。それも複数。十や二十は下らない」 「おいおい、僕は人数ではなく、根拠を聞いてるんだが」 呆れたように、ワルドが肩を竦めた。しかし、その瞳は確かに鋭い。一挙手で杖を抜く、 それが可能な程度には、彼もまた警戒のほどを高めていた。 「ミスタが言うからには、何かあるんでしょう」 「実例もある」 キュルケが胸から杖を取り出し、タバサも身の丈ほどのワンドを握り締めた。 「お、おい、まだ本当と決まったわけじゃ」 「それで、どうするのかしら。それだけの人数で囲まれたら、守りきれないわよ」 ギーシュを遮りながら口を開いたルイズは、しかし、何を、とは言わなかった。店内を めぐった視線だけで十分だった。関係のない彼らを巻き込みたくないと、彼女は心の中で そう言ったのだ。 彼らもまた貴族だ。魔法が使える彼らをそ知らぬ顔して巻き込んでしまえば、いくらか 力になるだろう。それでもルイズはそれを拒否した。あるいは、選択肢に浮かぶことすら なかったかもしれない。 妹のためにと、多くの無辜の人を巻き込んだ濤羅とはまるで正反対だ。 こんな俺が、どうして彼女の使い魔に選ばれたのだ――怒りにも似た自嘲が濤羅の心に 重く圧し掛かる。だから、どうするべきかなど考えられるはずもなかった。視線が自分に 向けられていることにも気付かない。 嘆息が、聞こえた。 「……このような任務では、半数でも目的地に着けば成功とされる」 わずかな逡巡の気配を見せた後、ワルドが重々しく口を開く。その発言が意図するとこ ろは明瞭だ。 「逃げろって言うの! 囮を置いて」 弾けたようにルイズが叫んだ。突然の大声に周りのテーブルから好奇の視線が集まるが、 それに気も留めず、ルイズは真っ向からワルドの瞳を見据えている。 「これだけの人数でも守りきれないのよ。その半分じゃ……」 無理やりにでも、ここの客を巻き込むしかない。ルイズはそれを許容できない。 人知れず濤羅は後悔した。誰にも襲撃を告げなければ、もめることもなくこの場にいる 客を巻き込めたはずだ。 そして、そんな汚いことを考える自分が許せなかった。誰にも何も言えず、ただ倭刀の 鞘を強く握り締める。 眼前では、怒りで顔を紅潮させているルイズをワルドが宥めているところだった。 「ルイズ、誇り高い僕のルイズ。君の怒りはわかる。でも聞いてくれ。それ以外に方法は ないんだ。そして、僕たちに失敗は許されない。それはわかるだろう」 「わかる、わかってるわよ、それぐらい。でも、でも――」 俯き、目を逸らすルイズ。その姿はあまりにも小さくて、つい濤羅が手を伸ばしかけた ときだった。顔が跳ね上がり、そしてその瞳には先ほどよりも強い意志の光が宿っていた。 「私は、貴族よ。 魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない。敵に背中を見せない者を、貴族というのよ」 かぶりを振って、ルイズはワルドに向けていた硬い表情を捨てる。次に浮かんだのは、 柔らかな微笑だった。 「付け加えるなら、無関係な人を巻き込むような者も、貴族とは呼べないでしょうね」 その一言で、方針が決定した。 「よく言った。ミス・ヴァリエール。何、心配することはない。僕のワルキューレにかか れれば、たかが傭兵の二十ばかり、軽く片付けてやるさ」 「ふう、口だけは勇ましいんだから。これだからトリステインの貴族は戦に弱いのよ」 「でも、それに付き合うあなたもお人好し」 誇らしげに胸を張るギーシュにキュルケは嘆息し、タバサは彼女が浮かべた笑顔を冷静 に指摘した。 ワルドもここにいたって説得を諦めたのか、苛立ちと呆れ交じりに肩を竦めていた。 「やれやれ、仕方ない。それでは本格的に囲まれる前に打って出るか。 さて、それでは作戦だが――」 ワルドが朗々と説明しようとする。だが、それを待たず、濤羅は既に出口へと向かって いた。その手に持つのは既に鞘から抜かれた抜き身の倭刀だ。 「お、おい、使い魔君!」 目も綾な刃物の光に当てられ、俄かに騒然となる店内の中、慌ててワルドが手を伸ばす。 それを肩越しに視野に入れると、濤羅はわずかに口角をあげた。 ワルドの背後にいたルイズは、力強く頷いていた。血に汚れた己でも、彼女の誇りの助 けになる。ならばそれで十分だった。 扉に手をかける。これから死地に飛び込むはずの濤羅。しかし、その挙手はどこまでも しなやかで緩い。あるいは、いや、間違いなく、先ほどまでよりも纏う空気は柔らかだ。 その軽やかさのまま、なんでもないといった風に濤羅は口を開く。 「俺が先陣を切る。奴らが混乱したところを狙え」 それだけを告げ内息を整えると、濤羅は一気に宿の外に飛び出していった。
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発売日 2002年3月29日 ブランド Nitro+ タグ 2002年3月ゲーム 2002年ゲーム ニトロプラス キャスト スタッフ 企画:NitroPlus 脚本:虚淵玄 キャラクターデザイン:中央東口 サブキャラクターデザイン:Niθ 2DCG監督:なまにくATK 原画:中央東口,Niθ CG彩色:なまにくATK,コンジローム伯爵夫人,すなぎも,ガガンボ レイアウト:なまにくATK 彩色設定:中央東口 美術監督:もえら 3DCGワーク:イム,Mr.K,パーヤン,麻生さん プログラム:Pg. スクリプト:虚淵玄 ムービーワーク:もえら デザインワーク:yoshiyuki 題字:篠原榮太 Sound Produce:ZIZZ Producer:磯江俊道 Co-Producer:江幡育子 Composer:磯江俊道,大山曜,神保伸太郎 Guitar&Bass:大山曜,神保伸太郎 胡弓:馬高彦 サウンドワーク:小池正一(New File Entertainment),四倉もっち,にこひげお,もえら,でじたろう 進行管理:まさかり デバッグ:小山光,ささやきのシャー(アージュ),超爆救世種ア・リ(アージュ),管理人@R(オーバーフロー),Nitroplus All Staff 広報:ジョイまっくす,たきしたまさはる サポート:かたうぃっく 協力:アージュ,オーバーフロー,サーカス Special Thanks:tororo,メイザーズぬまきち,ヨシダという生き物 プロデューサー:でじたろう 監督:虚淵玄 製作:Nitro+ テーマ曲 「涙尽鈴音響」 作編曲:大山曜 作詞:江幡育子 Engineer:磯江俊道 歌:いとうかなこ
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X/ 上と思えば下。下と思えば横。重力の頚木から外れたかのように駆ける濤羅を前にして、 空を飛ぶ術を持たぬ傭兵たちはなす術もなく一人、また一人と倒れていく。 いや、例え彼らが空飛ぶ翼を持とうと変わりはあるまい。メイジでもない彼らに、空を 飛んだ経験などないのだから。 まして彼らには油断があった。例えメイジ相手だろうとこの人数ならばと。その小さな 間隙を縫うのが内家の技だ。剣を握るのを抜き打ちの一瞬に限れば、濤羅は未だ達人だ。 黒い影が通り過ぎるたび傭兵は糸の切れた人形のように崩れていく。だが、真に濤羅が 抜き出ているのは一撃で傭兵を倒すその技ではない。 最も相手からの攻撃を受けず、かつこちらは最も攻撃に適した位置へ。瞬間の判断だけ でその綱渡りのような所業をこなすその様は、それだけで絶技と呼べるほど。 才能だけで届く境地ではない。積み重ねた功夫のみがそれを可能とする。そこはもはや 想像すら及ばぬ領域である。 だが、濤羅の戦う様を見て、なおかつその修練の過激さを理解できないことを理解して なお、タバサが胸に抱いたのは恐怖でも感歎でもなく、憐憫にも似た何かだった。 一対多数という絶望的な状況をどれほど繰り返せばあの境地にたどり着けるのだろうか。 そう、あれほど見事に磨き上げられた技を持ちながら、それが発揮されたのは卑しい暗 殺の場面だったのだ。 実戦を知らぬ者にはわかるまい。経験豊富なだけでも駄目だろう。 だがしかし、同じ暗がりに住むタバサにはわかる。あまつさえ、その先さえも。 「……あれは、死にたがりの戦い方」 笑いと宣言とともに放ったキュルケの炎が――ラ・ローシェルは石の街だ。建物に燃え 移る恐れはほとんどない――暗い路地裏を照らしあげる。その明るい光に照らされてしか し、タバサの瞳には翳りが差していた。赤い炎を映す眼鏡のその奥にあるのは、友達と共 にいる時には忘れられたはずの、復讐者の瞳だった。 冷徹な思考に後押しされたタバサがルーンを唱える。ワンドから放たれた風の魔法が、 炎をいっそう猛らせる。明日に満月を控えた二つの月と燃え盛る炎に照らされたこの場は 一時だけ夜を忘れる。 そう。この場にて夜の闇に包まれるのは、タバサの心ただ一つだけだった。 XI/ 「なるほど。傭兵程度では彼に手出しはできないだろう。並みのメイジでも同様だ。 囲まれていると言われたときは撤退も考えていたが。これなら確かに追い返せそうだ。 いやしかし、名にし負う以上の手錬れだな、彼は。これは昼間の手合わせも加減された と見るべきか。まさか剣もほとんど抜かずにここまでできるとは」 周りに、そして自分に言い聞かせるようにワルドは呟いた。飄々とした口調だったが、 その中には隠し切れぬ激情が聞いて取れる。だが、体に染み付いた経験は、思考とは別に ワルドにルーンを唱えさせていた。 炎に焼かれまいと飛び出してきた傭兵にエア・ニードルが襲い掛かる。 いくつもの苦悶の声が鳴り響く。傷を負ったとて意識がある者が大半なのだろう。だが、 そこから更に反撃を許すほどワルドの魔法は甘くない。もはや彼らは戦力の体をなさない。 濤羅の必殺には劣るが、こと集団戦においてはワルドとて負けてはいなかった。戦場で 最も味方の足を引っ張るのは負傷兵だ。本来戦えるはずの人間の手までも煩わせる。 まして彼らは魔法が使えぬ傭兵たち。撤退するにしろ、ゴーレムの力を借りることすら できない。死者と、それに倍する負傷兵が増えるほど、自然、引く決断は早くなる。その 見極めができぬようでは傭兵失格だ。 もはや趨勢は決した。あとは追い詰めすぎない程度に攻め続ければ、混乱を立て直して 撤退していくだろう。ならばドット一人とトライアングが二人いれば十二分に事足りる。 事実、もはや多くの傭兵たちは及び腰だ。逃げ出す者も少なくない。 更に数度エア・ニードルと唱えると、これ以上の精神力の浪費はまずいと判断し、周り を警戒しながらもワルドは構えていた杖を下ろした。これから先の困難を思い空を仰ぐ。 その折、今まさに空を駆けていく濤羅の姿を認めた。 吹き荒れる風、巻き起こる爆発。それらを受けて、濤羅の疾走はさらなる飛翔へ。未だ 戦意のある傭兵たちを、まるで花を手折るかのような手早さで打ち据えていく。 はためく外套は彼の翼か。ワルドをしてそう夢想させるほど、濤羅の動きは彼の理解を 超えていた。震えが沸き起こるほどの渇望が胸の内をついて出る。 ――欲しい。 さらに新たな巨大な人影が現れたことにも気付かぬほど、ワルドの視線は熱く濤羅に注 がれたままだった。
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II/ その夜、ルイズはいつものように不機嫌だった。極秘任務だったはずなのに、あの憎き ツェルプストーの女とその友人が勝手に着いてきてしまったからだ。そして彼女らをさも 当然のように受け入れている濤羅にも腹が立つ。まして、彼女らのほうが——ありえない ことだが——自分よりも濤羅と打ち解けているように見えるなど。 もはや、懐かしの、そして憧れだった婚約者との出会いの喜びはとうに消えうせていた。 「おやおや、どうしたんだい、僕の可愛いルイズ。怒ってる顔もチャーミングだが、君に 似合うのはやはり笑顔だ。僕のために笑っておくれ」 心をくすぐる甘い言葉は、確かに男に慣れぬルイズには刺激が強い。常ならば、顔を赤 らめ恥じ入ってることだろう。ワルドからというのも大きい。しかし、それを許さぬのが 眼前の光景だった。 キュルケと濤羅の距離がずいぶんと近い。彼女にしては珍しいことにボディータッチの 類をしていないのだが、いつされたっておかしくないはずだ。気に食わない。 タバサはキュルケの隣で黙々と料理を食べながらも、時折濤羅の手元に料理を手ずから 運んでいた。濤羅からは手を伸ばしにくい皿から取っているのだが、普通、貴族が平民に わざわざ労力を割くものだろうか。濤羅とはまた別種の無表情が邪魔をして、その意図は いまいち読み取れない。気に食わない。 そしてギーシュは……一人酔っている。気に食わない。 ワルドと二人きりになったようなテーブルで——その方が嬉しい筈なのに——ルイズは 人知れず小さな拳を握り締めた。 「ちょっと、タオローは私の使い魔よ!」 やおら立ち上がるルイズ。折り悪く、その肩を抱こうとしていたワルドは、空を切った 手を所在なさげに振りながら苦笑した。 「ルイズ、食事ぐらい好きにさせたらいいじゃないか。彼だって人間なんだ」 「でもおかしいわ。私の使い魔なんだから、本当だったら私の隣に座ってるべきなのに、 タオローの隣にいるのはツェルプストーじゃない。逆隣にいるのはギーシュはいいとして、 色狂いツェルプストーが私の使い魔の側にいるなんて! 大体、使い魔が主から一番遠い 席に座るなんてどうかしてるわ!」 こちらを見上げる濤羅を、力を込めて睨み付ける。細いというよりもただ単純に険しい だけのその瞳は、ランプの炎に照らされて、刀剣さながらの鋭さを湛えている。 妖しく揺れるその光にルイズが一瞬飲まれそうになったとき、唐突に瞳の中の炎は消え た。濤羅がまぶたを閉じたのだ。 動悸が激しい。高く胸を打つ鼓動を服の上から押さえ、ルイズは知らぬ間に止めていた 息をゆっくりと吐き出した。落ち着きを取り戻そうと瞑目する。一度息を吸い、肺の中で 遊ばせた後、膨らんだ肺を萎ませる。 そうしてルイズが再び目を見開いたときには、濤羅もまた同じように目を開けていた。 ルイズが落ち着いたからだろうか。幾分その鋭さは消えて見える。錯覚でなければ、一瞬 笑みを浮かべたのかもしれない。 目を白黒させるルイズを尻目に、言葉もなく濤羅は立ち上がった。一歩二歩とルイズに 近づくと、そこで歩みを止める。 「すまない、席を替わってもらえないか」 「わかった」 眼鏡をかけた小柄な少女——タバサとの席の交代はあっさりとしたものだった。誰もが 何も言えぬまま、二人は席だけを替えると、そのまま何事もなかったかのように食事へと 取り掛かる。 「……座らないのか?」 見上げる従者の視線には色はなく、純粋に本心から尋ねていることがわかる。 素直に言うことを聞いた使い魔を褒めればいいのか。それとも、馬鹿にされたと思って 怒ればいいのか。あるいは、使い魔が隣にいることを子供のように喜べばいいのか。 胸の内の感情を持て余して、ルイズは荒々しい音を立てながら座り直した。それだけが 彼女にできる精一杯の抵抗だった。 「やれやれ、僕のお姫様はずいぶんと欲張りさんだ。婚約者と使い魔、両方隣にいないと 気が済まないなんてね」 その言葉に、キュルケとギーシュが相好を崩す。タバサは変わらずサラダを食べている。 そして言ったワルドの瞳もまた、決して笑ってはいなかった。 III/ 貴族の子女らが泊まるだけあって、その宿の造りはずいぶんとしっかりしていた。床は きしまず、壁の塗装がはげているところも欠けているところもない。廊下に灯されていた ランプも、油がいいのだろう。赤く綺麗に揺れていた。 その中を、濤羅はギーシュに肩を貸しながら歩いていた。泥酔しており、その足取りは 支えらながらもずいぶんと危うい。時折思い出したかのように腕を振り回しながらわけの わからぬことを口わめいては、吐き気を覚えて口を押さえている。 実のところ、濤羅が見る限りギーシュはそれほどワインを飲んでいなかった。あれだけ 早馬で駆けた後に酒を飲めば、疲れも相まってずいぶんを回りは速いだろう。だが、真実 ギーシュをこうまで酔わせているのは、任務についているという高揚感と——それ以上の 恐怖だった。 他の皆が部屋に行こうとしても、彼は進んで部屋に行こうとはしなかった。楽しく華や いだ食事の席で、酒を一緒に飲もうと笑っていた。呆れた視線で見られようと、彼女らが 席を離れた後ですら、彼は酒を手放そうとしなかった。 その気持ちが、凶手に身をやつしていた濤羅にはよくわかった。彼がアンリエッタ姫に 寄せる心酔は本物だろう。あるいは、麻薬を用いずとも天にも昇る気持ちだったかもしれ ない。だが、薬はいつか切れる。恐怖に耐え切れずにその気持ちが切れようと、誰が責め られよう。 ワルドの実力の一端を目の当たりにして任務の困難さを思い知ったギーシュが酒に逃げ ようとしたのは、不自然でもなんでもなかった。 それでも、ギーシュは泣き言一ついわなかったのだ。不安を誰にも告げず、胸の内に のみ留めたその勇気は、確かに彼が貴族の一員だと証明しているのだ。 「ぼかぁ、やるろぉ! 父上と兄上の、そしてグラモン家の御名を汚さぬよう、立派に 姫でもがぁっ」 まだ、そのひよっこ。それも殻のついたくちばしの黄色い雛にしか過ぎぬが。 危うく大声で密命を叫びそうになった、そして今も叫び続けるギーシュの口を押さえて、 濤羅は辿り着いた部屋の前でどう扉を開ければいいのか、一人途方にくれていた。
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鬼哭街ファンとして応援させて頂きます -- TAROu (2007-10-18 21 34 13) 応援ありがとうございます。うひょーと思わず言ってしまうほどGJです!! -- 鬼の中の人 (2007-10-18 22 32 33) 私も応援させてもらおうかなニヤソ -- 名無しさん (2007-11-04 03 27 54) たまらねー!! 鬼哭街とゼロ大好き人間なのでいつまでもワクテカで待ってますぜ。しかしいいタオロー…… -- 名無しさん (2007-11-07 18 05 52) これはよいタオロー。個人的に鬼哭街/Zero は大好きなので作者さんには頑張ってほしい。タオロー可愛いしな! -- 名無しさん (2007-11-14 23 42 50) 密かに更新? それなら投下乙と言う他ない! -- 名無しさん (2008-03-26 05 05 51) わっふるわっふる -- 名無しさん (2009-03-19 00 53 07) シックスに見えるな -- 名無しさん (2009-06-05 23 25 45) 鬼哭街は神ゲーだったな~これは支援するしかないw -- 名無しさん (2009-12-15 13 18 55) 名前 コメント
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タグ おっとり 曲名れ DAMにて配信中 歌 いとうかなこ 作詞 江幡育子 作曲 大山曜 作品 鬼哭街 -The Cyber Slayer-OP 鬼哭街 サウンドトラック
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キャラ・物語共に『鬼哭街』メインの短編シナリオ(全7話) ○『鬼哭街』主人公がやたら強いかが分かる。 覚悟・不屈・底力・高レベル切り払いは凄いぜー。 ○他にもスバット・コブラ・素子といった等身大最強クラスの味方が多い。 ×味方は恐ろしく強いが、敵雑魚も強いため常に集中・鉄壁などをかけてないとあっさり死ぬかも。 ×かなり状況説明を省いているので、何で主人公が殺し回っている 理由などが分かりにくい。 ×そのため参戦作品の内容を詳しく知らないと、意味不明なシーンが多い。 まとめ 物語は全体的にダーク気味。EDがややあっさりしてるのが残念。 個人的には、他のSRCシナリオでは見かけない『鬼哭街』『Hello,world.』『PhantomOfInferno』があるのが気に入った。
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鬼哭街 444 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 本日のレス 投稿日:2005/11/05(土) 00 41 35 「鬼哭街」上下巻 虚淵玄(角川スニーカー) 6点 日本刀を持った武侠ヒーローが最愛の妹を奪還するためにアジアンノワールな未来上海で暴れる話。 ゴーストを5分割され、5体の愛玩用義体と化した妹という設定は面白かった。 その義体の所有者5人を主人公が誅しつつ、 妹のゴーストを五分の一ずつ回収していくというストーリーも自然。 エロゲのノベライズのくせに(偏見)文章がキモくなく、テンポもよく一気に読めた。 ただし武侠もののお約束なのかもしれないが、延々と続く技の応酬や 上段からの連撃のなんのといった戦闘描写はまるごと飛ばし読みさせていただきました。 好きな人にはたまらないんだろうけどね。 あと五分の二までゴーストを回収した時点での妹のキャラがキモすぎ。 「あにさま」とか、キモイを通り越して笑ってしまった。つくづく異質な文化だなー 上海らしさがゼロなのも減点。武侠な設定さえ成立すれば別にどこだっていいような話の内容。 いろいろと辻褄が合わなかったりするけど、まあ勢いに免じて許そうかという気になった。