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登録日:2023/03/09 Thu 21 28 40 更新日:2023/10/10 Tue 00 50 55NEW! 所要時間:約 10分で読めます ▽タグ一覧 ちゃおホラー ブラッディ・リリィ 小学館 新感覚ロマンチック・リリィ・ホラー 漫画 透明少女と少女 阿南まゆき 雑に身体能力が高い燈子ちゃん あなたと手をつないで どこまでも堕ちたい… 『透明少女と少女』はちゃおデラックスホラー2011年7月号に掲載されたホラー短編。 作者は百合とホラーとミステリーに定評のある阿南まゆき。 この時期阿南まゆきがよく描いていた百合ホラーガールズホラーもの。 少女同士の友情を起点とした人間の狂気を描いた作品。 主人公の燈子は孤独な女の子。だがある日美沙という友だちが出来ることになる。 仲良くなっていく二人だが、美沙はとある窮地に陥っていた。 そして美沙を守るため、燈子は徐々に狂気に堕ちていく……。 ということで少女間の絆のダークさを描いたホラーであり、オカルト要素はなし。 せいぜい燈子の身体能力が人間離れしていることくらいしかオカルト要素はない。 その分人間の狂気を描いている。 2013年に阿南まゆきのホラー短編集『ブラッディ・リリィ』に収録された。直訳すると「血まみれの百合」。 レーベルがちゃおであることが最大のホラーな例の短編集である。 後述するが本作は雑誌版と単行本版で微妙に違いがある。 【ストーリー】 私のあだ名は透明人間 私は人よりも気配がしないらしい 実の母親がそう言うのだから他人はもっとそうだろう 私から話しかけない限り誰も私に気が付いてくれない 私はいつもこの世界でひとりぼっちだ 高校生の樋口燈子は小さいころから存在感が薄くいつもひとりだった。 母に話しかければ驚かれ、クラスメイトに声をかければ不気味がられる。 誰にも気が付かれない孤独な生活に心を痛め続ける毎日。 趣味の発明を楽しむことで日々を紛らわせていた。 そんなある日、燈子に話しかける者がいた。 私同じクラスの原田美沙 何してるの? 彼女の名前は原田美沙。美沙に話しかけられたことは燈子にとって驚くべきことだった。 燈子は入学してから誰かに話しかけられたことは一度もなかったのである。 自分が見える美沙の存在に戸惑う燈子。だが美沙は朗らかに「私にはちゃんと樋口さんが見えているよ」と言うのだった。 このことは一度だけではなく、美沙はよく燈子に話しかけてきてくれた。 彼女は私の目をまっすぐ見つめてくれた 彼女は私がどこにいても見つけてくれた こんなこと人生で初めてかもしれない こうして二人はよく遊ぶように。 ある日燈子は彼女の明るい雰囲気に気圧され、思わず「原田さんみたいな明るい人が友だちだったら楽しいだろうね」と言ってしまう。 そんな燈子に美沙は「私たちもう友だちじゃない!」と明るく手をつなぐのだった。 美沙はこれからは燈子と名前で呼び合いたいと申し出る。 それに対し燈子もおずおずと「美沙」と呼ぶ。 そうして二人は親友のような間柄になるのだった。あと何故か背景に百合の花が咲いていた。 彼女の手はやわらかであたたかくて… 私は自分の存在理由を見つけた気がした けれども、二人の幸せは長くは続かなかった……。 少しして美沙はだんだんと元気がなくなっていったのである。 心配する燈子に対し、美沙は涙ながらに事情を話し始めた。 美沙の家が営む地元の商店街には危機が起こっていた。 近所にオープンした大きなスーパー「お得マート」。そのスーパーに美沙の商店街のお客が取られそうになっているのだ。 お得マートはわざわざ商店街まで来てビラを配るなど、悪質ないやがらせまでしていた。 このままじゃうちのお店つぶれちゃうかもしれない もしかすると引っ越さなくちゃいけなくなるかもしれない! その言葉に燈子は衝撃を受ける。せっかく仲良くなった美沙と別れることになるかもしれない。 涙を流す美沙に、燈子はそっと手をつなぐ。あの日とは逆に燈子が美沙を慰められるように……。 この手をはなしたくないよ… そうして一緒に帰り美沙の家の近くまで寄ると、また商店街ではお得マートの店員が宣伝をしていた。 美沙が慌ててやめるように言うが、店員は聞く耳を持たない。 それどころか周りに見えないようにしながら、美沙を突き飛ばしてしまう。 「こんなボロ商店街オレたちが何もしなくても勝手につぶれんだろ」と美沙にささやきかけると、店員はまた宣伝に戻っていった。どうしようもない理不尽に、美沙は涙を流すしかなかった……。 これは燈子が怒りを燃やすには十分な出来事であった。 それから燈子はとある計画を企てた。自分の力でお得マートを潰すため。 燈子が用意したのは花火から取り出した少々の火薬と、先日発明した明かりのつく目覚まし時計。 しばらくして燈子は小型の爆弾を完成させた。彼女の計画とはお得マートでボヤ騒ぎを起こすこと。 そして燈子は黒いコスチュームに着替えると行動を開始した。 深夜。燈子は閉店後のお得マートに忍び込んでいた。どうやって店内に侵入したんだ……? 店の中にはまだ先ほどの店員が残っていた。だが燈子の透明人間としての力により気が付かれることはなかった。 燈子は調理室に忍び込むとガスの元栓を開け、小型爆弾を置いた。あとは自分のいた痕跡を消すと店から去るのだった。 あとはお得マートの末路を確認するだけ。 そうしてタイムリミットは徐々に近づき……ゼロになると同時に、爆音と共にお得マートが吹き飛んだ。 私の美沙にいじわるした罰よ 闇と炎の中、燈子は狂ったように笑うのだった。 店から燈子までの距離と爆発の規模を考えると、燈子まで衝撃が来そうなものだが普通に無傷だった。 この事件で住民から批判を受けたお得マートは撤退していった。もちろん本当の犯人が見つかることはなく……。 そうして燈子と美沙の日常には平穏が戻ってきたのだった。 それから少しして、商店街には少しずつお客が戻ってきた。そのおかげか美沙は少しずつ元気が戻ってきている。 美沙は優しい性分ゆえに事故のような形で町から出ていくことになったお得マートのことが心残りだった。 そんな彼女に対し燈子は「美沙は自分の幸せだけを考えていればいいのよ」と優しい言葉をかける。 そして燈子は、そっと美沙を抱きしめる。 ねえ…美沙 ずっと私の友達でいてれる? …ええ もちろん だって燈子は私のためになんだってしてくれるから 美沙は抱き合いながら、燈子には見えないよう邪悪な笑みを浮かべていた。 全て美沙の計画通りだった。美沙の行動はお得マートを潰すためのもの。 美沙が燈子の友だちになったのは、単に彼女を利用するためだけだったのである。 孤独な彼女の心に付け入り、自分の操り人形にするために……。 そうすれば燈子は勝手にお得マートに敵意を向けてくれるはずだから。 その結果美沙の思惑通り燈子は店を潰したのだった。美沙にとって燈子とは都合のいい駒でしかない。 そして燈子は、美沙が自分を利用していることに気が付いていたというか、鏡と窓ガラスの間で抱き合っていたため、反射で美沙の邪悪な笑みが見えた けれどそれでもよかった。燈子は分かっていながら美沙のために動いていたのである。 どんな理由であれ、美沙は初めて自分に気が付いてくれた人間なのだから……。 たとえ操り人形だとしても、美沙が自分を見つめてくれるならもう求めるものは無かった。 美沙の心の中には悪魔が住んでいるけど 私の中にもいるの 美沙を泣かす人はみんな死んでしまえばいいと思っているもの 邪悪でかわいい美沙 なんでもあなたのお望みどおりに 抱き合う二人の影は、まるで悪魔のようにいびつなものになっていた……。あと背景に何故か百合の花が咲いていた。 【登場人物】 ◆樋口燈子 透明少女。 阿南まゆき作品特有のチートスペック少女。自分から動かない限り誰にも気が付かれないステルス能力、目覚まし時計と少量の火薬で爆弾をつくる破壊工作スキル、鍵がかかっているであろう閉店後のお得マートに当然のように侵入する謎の能力を兼ね備えた超人。 同作者のミステリー作品「ナゾトキ姫は名探偵」に出演していればかなり凶悪な犯人になれただろう。 「孤独な少女」よりかは「工作員として稀有な才能を持った少女が平和な日本で生まれてしまった」が近いかもしれない。 何より恐ろしいのは美沙に対する狂愛。たとえ利用されているだけだとしても、初めて自分を見つめて手を差し伸べてくれた美沙は、大切な人なのである。これからも美沙の愛のため彼女のお望み通り行動していくのだろう。 ちなみに『ブラッディ・リリィ』の主人公は大体殺人歴があるが、みなナイフによる刺殺をしている。ガス爆発を引き起こしたのは燈子だけ。 ◆原田美沙 少女。……タイトル通りだとこう表記するしかない。 明るく朗らかな少女だがそれは表の顔。実際は他人を利用することも厭わない邪悪な悪魔。 お得マートについて伝えた時に「引っ越すかもしれない」と強調したのが何気に策士。美沙が大好きな燈子はそれ言われたら動かざるを得ない。 これほどの策士が何故反射で邪悪な笑顔がバレるというポカをしたのかは不明。もしかしたら燈子は本性を知ったうえで自分に従ってくれると考えたのかもしれない。 よくよく考えると彼女も何気にすごいことをしている。燈子が工作員なら美沙は諜報員。 彼女の行動は「お得マートを潰すために燈子と友だちになった」というもの。シレっと言っているが裏を返すと燈子が店を潰すだけのスキルを持っていると知っていたということになる。つまりステルス能力持ちの燈子を見つけ出し、本人に気が付かれないよう調査し、「コイツならやれる」と判断したということ。だからどうやったんだよ……。 リリィ×ダリア(*1)といい、桐子×芳花(*2)といい、『ブラッディ・リリィ』の女子組はやたらハイスペックである。 ◆お得マートの店員 見えないように美沙を突き飛ばしたり商店街で営業妨害したり、それなりに悪役として頑張っていた。 敗因は目的のためなら手段を選ばない美沙と、美沙のためなら殺しも厭わない燈子という最凶タッグを敵に回したことだろう。 モロに爆発に巻き込まれているが生死は不明。まあ『ブラッディ・リリィ』に登場する男性キャラは軒並み死んでいるため、この人も怪しい気がするが……。 【余談】 雑誌掲載版との違い 加筆修正されたため雑誌版と単行本版では多少違いがある(ここまで紹介したのは単行本版)。 全体的に加筆されている部分は多い。何も書かれていない白背景が書き込まれたりスクリーントーンが追加されたり。 また燈子の後半の黒いコスチュームは雑誌版ではベタ一色だったが、単行本版だと陰影が追加されている。コスチュームに着替えた直後のコマは燈子の表情や翻るスカートなども描き直された。 一番違うのがラストページ。 まずはイラスト。雑誌版では抱き合う二人の姿が引きで描かれていたのに対し、単行本版ではアップになっている。加筆された美沙はもはや人間とは思えない邪悪な顔芸をしている。 また「美沙の心には~」から始まる燈子のモノローグは雑誌版ではかなり短い。 邪悪でかわいい美沙 あなたが望むならお望みどおりに あなたが私の手をはなさないかぎりね 単行本版と比べると「みんな死ねばいいと思っているもの」のくだりがなく、「手をはなさないかぎりね」とあるので結構印象が違う。 雑誌版の燈子はあくまで相互利用関係だが、単行本版では完全に心酔しきっている。 雑誌版は「あなたの手をつないでどこまでも堕ちたい」→「彼女の手はやわらかであたたかくて」→「この手をはなしたくないよ」と来て最後に「あなたが私の手をはなさないかぎりね」でオチる構成になっている。 ちなみに雑誌掲載時のアオリ文は「新感覚ロマンチック・リリィ・ホラー」だった。 この手の話でいつも言われることだが。せいぜい背景に百合の花が咲くくらいしかリリィ要素のない本作を「リリィ・ホラー」と名付ける理由は不明。 ほんとうにあったこわい恋愛 本作はちゃおホラーコミックス『ほんとうにあった恋愛』に収録……されていない。 されたのは同じく『ブラッディ・リリィ』作品の『ふたごみたいなふたり』。 『透明少女と少女』は収録されていないのだが、『ほんとうにあったこわい恋愛』の表紙には何故か燈子と美沙が写っている(『透明少女と少女』の扉絵の流用)。 理由は不明。 そしてこの手の話でいつも言われることだが。少女同士の狂愛を題材とした『ふたごみたいなふたり』が『ほんとうにあったこわい恋愛』に収録された理由は不明。 ちなみに『ふたごみたいなふたり』の雑誌掲載時のアオリ文は「大反響! 戦慄のリリィ・ホラー」だった。 『ふたごみたいなふたり』以前に公式で「リリィ・ホラー」とされたのは『ブラッディ・リリィ』と『透明少女と少女』(*3)。 あんなぶっ飛んだのがちゃおっ娘から大反響だったのか……。 それにしても、結局リリィ・ホラーってなんなんだよ……。 追記・修正をお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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雨上がりの学校町。 ひとりの少女が白杖をついて歩いていた。 かつかつ、かつかつと杖の先端で足下を確かめる動きは滑らかで、この杖が確かに少女の「目」なのだと云うことがよくわかる。 「ったく、重いわね・・・これも引っ越し屋に頼めばよかった」 キャリーを引きずった若い女が前から歩いてきた。太股のあたりまである三つ編みにされた金褐色の髪が印象的だが、それは少女にはもちろん見えることはない。 ふたりは狭い歩道ですれ違おうとしたが、女の後ろから走ってきた自動車が、追い越しざまに音を立てて泥水を跳ね上げる。 「ひゃっ!」 「きゃっ!」 女は跳ね上がる泥水は避けたものの、バランスを崩して少女にぶつかり少女が転倒してしまう。 「あ・・・」 「ご、ごめんなさい!ケガはない?」 慌てて少女を抱え起こし、その手に杖を握らせるが 「服が・・・」 少女の着ていたコートは胸元のあたりから裾まで泥に汚れ、水滴を滴らせている。 「この寒さでこれじゃキツいわね・・・私にも責任があるし、よかったら洗って乾かすから、家に来てくれない?」 「黒いパピヨン」の看板が出された、小さな洋品店。 その奥の居室にある、こぢんまりとした応接セットに腰掛けた少女は、ジンジャーティーに遠慮がちに口を付ける。 「もうすぐ乾くから、それまでお茶でも飲んでてね」 「すみません、わざわざ」 「いーのよ、悪いのは人に泥水はねた車なんだから」 サテンのリボンで飾られた蒼いベルベットのコルセットにボレロを羽織り、 バレリーナのチュチュのようなシフォンのスカートを纏った典雅な印象とは裏腹に、ホントに最低よねー、と女がからからと笑った、その時。 軽やかな音がして、入り口の扉が開く。 「いらっしゃい!・・・ごめんなさいね、開店、明日からなの。なにぶん今日はこんなでね」 ドアを開けてすぐの、本来店舗であるスペースにはいくつかの飾り棚があるだけで、後は無造作に段ボールが転がっている。 「あの、なにかお店をなさってるんですか?」 ぱたりとドアの閉まる音と共に、少女がぽつりと呟く。 「ええ、自己紹介もまだだったわね。私は此処で、明日から洋品店を開くのよ」 女は「月夜野 せせり」と名乗り、愛想良く笑う。 「そうですか、お洋服屋さん・・・それなら、女の子、沢山来るんでしょうね」 「ええ、出来れば貴女みたいな娘にも、是非うちの服を着て貰いたいわ」 続く
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マオ ◆MaWILE3YiI 概要 故あって父親に旅に出されてから1年、背も大きくなってこの地に帰ってきた。 灰色のフードを目深にかぶった少女。 ミラーとマコトの娘。 一人称はマオ、もしくは わたし。 粗雑な言葉遣いが目立つものの、どこかに幼さを残している。 グレーの髪、グレーの瞳。 髪は腰ほどかそれ以上は長く、フードをかぶっているときは服の内側に隠している。 身長はそれほど高くなく、体つきは12~14歳くらいの少女のそれ。 …年にしては大きな胸元を除いては。 しかしひざ下ほどまであるだぼだぼな黄色いパーカーを着ているせいで体格がわかりにくい。 とくに胸元。 ちなみに下はスパッツを愛用している。 それと、時折クチートのような配色がされた手袋をしている。 …ずっと昔、どこかで見たことがある気がするが…? 常にフードをかぶってはいるものの、顔を見せたくないとかそういうわけではないらしい。 人と話すことが苦手というわけでもなさそうな。 実際はグレーで長い髪を隠すため。 母であるマコトが持っていた大あごを変化させる能力が受け継がれていて、彼女の長い髪の毛は大あごを変化、擬態させたもの。 大あご状態にしているときは、クチートらしい髪型に近づく。 …たまーに大あごに戻して、普段窮屈にしている分羽を(あごを?)伸ばしていることがある。 変化させっぱなしは疲れる、らしい。 なお手癖が悪いので注意。 でもどろぼうは使えないので成功率は低し。 かみついたりじゃれついたりうそなきしたりおどろかしたり。 いたずら好きの甘えん坊であることは間違いないのだが、素直じゃない。 どろぼうといいいたずらといい、まったく。誰に似たのか。 服の割に寒がり。 暖かいものを求めて右往左往。 でもちびっ子だからってむぎゅーしてはいけません 荷物を狙われます。 そのためにこんな格好している説も?
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17 :【オクトレディ】(1/4):2006/05/13(土) 00 42 52 ID b0EYG269 ひとまず記念にSSを書いてみました。 山無し意味無しオチ無しですが、どうか御勘弁を。 とある異世界……カードに魔物や魔法を封印し使役することができるようになった世界。 カードの魔物を使役できる人間はカードマスターと呼ばれていた。 広い海、大きな空、焼けた砂浜、そんな中でカードマスター達の訓練は行われていた。 「このっ馬鹿野郎っ!不用意に怪しい所に近づくなと何べん言えばわかるっ!」 そう言って男子教官が思いっきり女子生徒のほっぺたを叩き罵り声を上げる。 (うわっ、あの教官、まただよ……一々うっさいこと言ってるんじゃないよ)(しっ、聞かれたら減点だよ) 「そこの喋ってる二人、減点2だ」 後ろを振り向きもせず教官はボードに記録を書く。 「まったくなあ……いいか、魔物封印のカードも万能ではない、その魔物の属性や種族に合った物を選ばないと大変な事になる…… 」 (何度目だよ)(てめえの授業は聞き飽きた)(あーあ、はやくカードマスター認定試験受けたい……) 「後ろの3人減点1な」 「……まったく、あの鬼教官……いつもぶつくさぶつくさ……」 「そうだよ、『減点を返して欲しかったら何で減点されたかを100回書いて提出するように』って……んなことやってられないよ!」 「あーあ、同期はもう1回目の試験受けてるのにな……」 そう休憩時間中にもらしながら少女達は思い思いに教官への愚痴をこぼす。 試験官は《遠隔通話》のカードを取り出して使った。 魔法カードは基本的に使い捨てなので、安いカードはバラではなく束で売っていたりする。 《遠隔通話》は基本的に束買いが基本な継続ヒットカードである。 「どう?あなた達のクラスは?」 「駄目だな。魔力はでかい奴が何名かいるが、心構えがなってない……今回は全員落としてかまわんか?」 「まだ1週間よ。だいたい1週間目の試験で受かる子って前から試験してた子だけよ?だからせいぜいあの子達を教育しなさい 彼女みたいな子を増やしたく無かったらね」 向こうからの声に仕方なく返事をして、教官は黙り込んだ。 18 :【オクトレディ】(2/4):2006/05/13(土) 00 44 53 ID b0EYG269 「あっ、あそこで泳いでる人発見!」 そう一人が言って声を張り上げた。 「あのー、このあたりの海危険って聞いたんですけど、泳いでて大丈夫なんですか?」 「えっ?私この近くに住んでるけど泳いでで危険な目に合った事は無いわよ」 「だったら、私達も泳いで構いませんか?」 「ええ、どうぞたっぷり泳いでちょうだい」 「やりー!」「教官が帰って来れないように《魔法障壁》張っちゃえ!」「ついでにもうひとつえい!」 幾重にも砂場の周りに《魔法障壁》が張られて見張りの生徒も全員が遊びほうける。 「気持ち良いわよ……さああなたもいらっしゃい……」 一人取り残されていた少女に対して泳いでいた女性が声をかける。 「でもこのあたりの海には色んな魔物が出る可能性があるって……」 「あんなの先生の脅しだって。そんなことより気持ちいいよ!」 そう言って、残った一人に声をかける女子生徒たち。 「でも……」 残った少女がこわごわとしながら、海へと入ろうとした瞬間だった。彼女の足元に触手が巻きついたのは。 「きゃっ!」 小さな悲鳴を上げて、少女が海へと倒れこむ。 「うふふふふふ……お馬鹿さん……海は私達の住処。危険などあるわけありませんわ」 「「きゃああああああああああああああああああああああああっ!」」 声を張り上げて海で泳いでいた少女達が叫び声を上げる、海草が次々と生えてきて彼女達の体に腕へ足へ巻きつき、さらに無数 の魔物達が彼女達を取り囲むように現れ始める。 「さて、あの教官があなた達の作った魔法結界に戸惑ってる間にあなた達をカードマスターの卵どもを魔物のエサにしてあげますわ」 「助けて~~」「死にたくないよ~~」「教官~~もう約束破りませんから」 「泣いてわめいても無駄ですわ……まったくあの男が集めた人員なのですからすごい人材なのかと思えば……少し拍子抜けですわ 」 泳いでいた女性はぬっっと上半身を陸へと持ち上げてその異形の下半身を見せる。 巨大な蛸。それが彼女の下半身であった。それを陸に残っていた少女の体に絡み付ける。 その女性……名を【オクトレディ】は少女の足を蛸足の中心にある穴に入れる。 「痛い痛いよぉ……」 ずぶずぶと少しずつ少女の体はオクトレディの体内に入っていく。 「さて、魔法障壁が消える前に貴方を頂くとしましょう」 「残念だが、それは無理だ」 凄まじい轟音を立てて、魔法障壁が砕け散る。 「せっ先生!!」「すっ素手で魔法障壁を!」 19 :【オクトレディ】(3/4):2006/05/13(土) 00 47 10 ID b0EYG269 生徒達が驚愕の表情を浮かべる。 「きっ貴様!!」 「出来は悪いがそれでも俺の生徒だ。守らせてもらうぞ」 超跳躍、【オクトレディ】に飛び蹴りを喰らわせる。食べられかけた少女が吐き出され、砂浜に転げる。 「先生、一体どんな魔法を使ったんですか!」 「魔法?否!これは鍛え上げられた自分の筋力!!」 そういいながら、先生はカードデッキを取り出す。 「そしてこれが俺の魔力だ!来たれ大地の魔獣!地を作る物【グランドン】!!」 カードが解き放たれ、その巨体が姿を現す。それと同時に海だった場所が砂浜へと変化し彼女達は海草と共に陸へと上げられる。 彼女達を縛っていた海草は、忽ちの内に力をなくし彼女達は用意に脱出した。 「さて、本来なら魔物はなるべく封印する所だが……」 「ひっ!!」 「俺の生徒達を計画的に襲った貴様を封印するだけならば、後々に禍根を残す……」 そう言って、先生はカードデッキに手を取る。 「全員!そいつから直ちに離れろ!手持ちの最強の魔物使うからな! 鋼鉄の腕に鋼鉄のナイフ、刃は硬く、棘は鋭き!食える物なら椅子も食い!食えぬ物ならパンも食らわぬ……来たれ【機械蜘蛛 の料理人】!」 空間が歪み、その巨体が姿を現す。八本の足には様々な道具がついておりゆっくりとかしゃかしゃ唸りを上げる。その姿はまるで機 械の蜘蛛。 前足の二本を【オクトレディ】に振り下ろすと【オクトレディ】の足が切れる。 「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」 声にならない叫びを上げている間に【機械蜘蛛の料理人】はその足をむしゃむしゃと食べる。ふむふむとしばらく考えたようなそぶり を見せて、ゆっくりと体から液体を取り出す。 「DCS?」 少女の一人が疑問を抱くが誰も答えない。 「どうやら、貴様を食べる手段が決まったようだな」 そのねっとりとした液を【オクトレディ】の上にかけると、そのまま口へと持って行く。 【オクトレディ】が叫び声を上げる。 「助け……」 ぶちゃり。 20 :【オクトレディ】(4/4):2006/05/13(土) 00 49 17 ID b0EYG269 「……先生の恋人も魔物に?」 「ああ、ひどい最後だったよ」 夜、キャンプファイヤーを囲んでの反省会。 協会からはひとまず、事件後の要報告と、これからの場所の変更が言い渡された。 「……元気一杯で、好奇心一杯だった。そのせいかな。後進がそうならないようにがんばるようになったのは」 そう言って言葉を区切る。 「でも、先生、魔法障壁破れるパンチが撃てるんだったら、【オクトレディ】もそれで倒しちゃえば良かったのでは?」 「あのなあ、万が一絡まれてデッキ落としてみろ、全員死亡だぞ。それでも良かったのか?」 その問に疲れたように答える先生。あっそうかと一同が納得しかける。 「ところで、先生あの先生の最強の魔物……【機械蜘蛛の料理人】ですけど、まさか先生がパンチ1発でのしてカードにした……とか いうオチは無いですよね?」 恐る恐る女生徒の一人が聞く。 「まさか……あいつはラッシュを100回は当てただろ?《火炎球》も5枚使ったし、《治癒》は20枚全部使ったな…… まああんときは向こうから襲ってきたからな。自分でも良く勝てたと思うよ。 お前達も強い魔物を手に入れる前に自分も強くなれよ」 先生ごめん、私達先生みたいに強くなれない。女生徒達は全員があの魔物を手に入れることを諦めた。 その後彼女達は試験を全員合格した後、強いカードマスターになったと言われている。 只彼女達が武器を持っていたのは、師に追いつこうとする努力だったのか、師に追いつけない妬みだったのか判るすべは無い。 END 名前 コメント すべてのコメントを見る
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紫の涙 誰も居ない街を、一人の少女が歩いていた。覚束ない足取りで、トボトボと。一歩踏み出す毎に、降り懸かる恐怖に胸を痛めながら。 この街には、誰も居ない。人間はおろか、犬も猫も。鼠などの小動物から小さな昆虫まで、何も居ない。 普段なら居て欲しく無い筈の生き物でも、こうもこぞって消失されると、流石に気味が悪かった。 それも深夜となれば尚更だ。 暗い街を照らすのは、雲に隠れ、不気味な光を放つ小さな月と、一定感覚で立ち並ぶ街灯だけだった。 街灯も、全てに明かりが灯っている訳では無い。 いくつかはチカチカと点灯し、今にも消えそうな弱い光を放ち、またいくつかは光を燈さない街灯さえあった。 真夜中のゴーストタウンとでも例えるに相応しいこの街を歩く少女には、そんな街灯が不気味で仕方が無かった。 暗い月や街灯は、少女にさらなる不安や恐怖感を与え、その表情を泣き顔へと変えさせる。 「つかさ……こなた……」 震える声でいつも一緒にいた友人達の名を呼ぶ少女。呼んだ所で、誰も答えてくれないのはとうに解っていた筈なのに。 少女は、いつだって友人や妹達と行動を共にしていた。それ故に、こんな何の音も立たない深夜の街を歩く等、生まれて始めての経験だった。 「……つかさ……どこ行っちゃったのよ……」 少女の瞳に、うっすらと浮かぶ涙。ついさっきまで一緒にいた筈の妹は、ここには居ない。 『お姉ちゃん!』 心に浮かぶ、妹の笑顔。いつもマイペースな妹であったが、こんな状況においては頼もしかった。 出来る事なら、いつまでも一緒に……家族揃って、平和に笑っていたかった。 そんな願いも虚しく、突如奪われた日常。 確かに、平和過ぎる日常に刺激が欲しく無かったと言えば嘘になる。 だが、今はとにかく帰りたいと思った。奪われた日常に、戻りたくて仕方が無かった。 少女はふと、いつも読んでいたライトノベルを思い出した。 その主人公は、ある日出会ってしまった少女の影響で、宇宙人未来人超能力者と邂逅してしまい、日常の素晴らしさを日々痛感していた。 今の少女なら、その主人公の気持ちが解る。「何も起きないから奇跡」……と、今なら思える。 ならば、何が少女を此処まで脅えさせるのか。簡単な事だ。おそらく、ここに連れて来られたであろう人々は皆自分と同じ筈だ。 記憶に蘇る、首から上が無くなった少女の姿。まだ自分と、そう年齢も離れていない筈の少女は、目の前でその首を爆ぜさせた。 その記憶が、自分にも同じ事が起こりうるという恐怖感をさらに煽る。 少女は、いつの間にか巻かれていた首輪を、その手に触った。途端に手が奮え、その瞳から大粒の涙を零させた。 この少女は表情の変化が激しい。 いつもは強気な彼女なのだが、ポーカーフェイスには程遠い性格であるが故に、一度崩れた表情は中々直らないのだ。 「嫌だ……こんなの、嫌だよぉ……」 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、少女はその場にうずくまった。 プライドの高い彼女は誰かに涙を見せるのをあまり好まない。 誰も居ないのは、幸か不幸か。だが、それでも誰かに会いたいと思う二律背反。 「大丈夫だよ」「実はドッキリだったんだよ」そんな言葉を、誰かにかけて欲しかった。 そんな時浮かぶのは、いつだって親友の表情。 長い青髪を靡かせて、「泣き顔も萌えるねぇ」等と言ってくれれば、どれだけ救われる事だろうか。 「そうだ……前にもこんな事あった……」 ふと思い出した少女は、涙を吹きながら、呟いた。 友人全員がグルになっての擬似殺人事件。 その時だって、友人達が次々と死んで行くという事実に打ちひしがれていた。 もしかしたら、これだってまたドッキリかも知れない。また皆に騙されたのかも知れない。 そんな考えが少女の頭を過ぎる。が、すぐに否定。 「今度のは流石に有り得ないわよ……バカ……」 何せ、自分は死ぬ瞬間を目撃したのだ。 周囲はほとんどが知らない人。そんな中で、妹と寄り添いながら目撃してしまったのだ。 トリックだとしても、手が混みすぎている。 一瞬だけでも持ってしまった期待はすぐにかき消え、少女の心は再びどん底へ突き落とされた。 正真正銘、至って普通の、平和な人生を歩んで来た普通の女子高生に、いきなり殺し合え……等と言っても、そうすぐに割り切れる筈が無い。 「――帰りたい……家に帰りたいよ……」 少女は、零れ落ちる涙を拭い、立ち上がった。ずっとここにいたって仕方が無い。 悲しいし、寂しいし、怖い。その感情はどう考えても揺るがない。だが、今ここで泣き続けたって、何にもならない。 少女は、黙々と立ち上がった。 途端に、冷たい風に吹かれ、少女は両腕をさする。 冷え込む夜の風は、完全防寒とは言えない少女の服装には少々寒さを感じた。 季節で言えば冬に差し掛かった秋くらいが相応しい服装。一応はカーディガンを着ているが、それも大して暖かくは無い。 「(どこか……建物に入ろう……)」 呟き、周囲を見渡す。 だが、延々と並ぶ喫茶店やスーパーは、どこもドアは閉められている。 立ち並んだよく解らない小さな会社のビルも、全て完全密封。気味が悪い。 少女は、どこか一息入れる事が出来る場所を求めて、歩き出した。 しばらく歩道を歩き続けた少女は、とある交差点で立ち止まった。 いや、立ち止まる必要など無いのは解っているが、いつもの癖で止まってしまうのだ。 車も何も無い筈なのに、信号は赤……青と点滅している。少女はそれを不気味に感じながらも、交差点を曲がった。 その先に、一つの喫茶店を見付けた。 「……ハカランダ……?」 看板に描かれた店名を読み上げる少女。初めて聞く店だ。 少女は恐る恐る喫茶店―ハカランダ―に近付き、ドアに手をかけた。 「(開いてる……?)」 緊張する。入って、もしも誰かがいたらどうしよう。もし、その誰かが自分を殺そうとする人物だったら……。 そんな不安が少女を襲う。こんな時浮かぶのは、マイナスイメージばかりだ。 「あの……誰か居ますか……?」 結局、勝ったのは好奇心だった。半ば投げやりだったのかも知れないが。 少女は、言いながらゆっくりと中に入った。 ――結果、誰も居ない。 真っ暗な室内に、少女の声が響く。 安心した少女は、ドアをゆっくりと閉め、店内に備えられたイスに座った。 普通の喫茶店と何も変わらない。いくつか備え付けられたテーブルに、それを囲むイス。 少女は、引きずっていたデイバッグを、テーブルの上に置いた。 同時に「ガチャンッ」と音が鳴り、一瞬脅える少女。が、すぐに自分が置いたデイバッグの音だと気付き、一安心。 「(何が入ってるんだろう……)」 ゆっくりとデイバッグを開け、中を探る。 最初に出したのは、500mlのペットボトルが一本。中身は普通のミネラルウォーター。 次に、2枚の紙。地図と、名簿だ。 どっちにしろ、こう暗くては地図も名簿も見えはしない。朝まで待ってから、じっくり読もう。 一先ず保留し、次に少し大きめの「何か」を取り出した。 「何これ……ベルト……?」 無機質な暗いグレー色をしたベルト。バックル部に何かを差し込むような窪みがある。 デイバッグ内の体積の大半をこのベルトが占めており、さっきの音もこれの音だろうと予想。 ベルトの右側には、大きなX字型をした何かが付いていた。色は黄色く、これが何に用いられる物なのか、さっぱり解らない。 「こっちはカメラ……?」 反対側についているのは、デジタルカメラ。見た感じは何の変哲も無い普通のデジタルカメラだ。 そして、次に手を出したのは、バックルの反対側に付いた黄色い何か。 ベルトから外し、じっくりと眺める。表面にはまたしても黄色い「Χ」マーク。 「双眼鏡……かな?」 それを手に取り、じっくりと見詰める少女。二つの除き穴から、双眼鏡であろうと推測。 結局、このベルトらしき物体が何なのかは解らないまま、デイバッグ物色は終わった。 所謂支給品と呼ばれる物を除くと、他には何も入っていなかった。出来る事なら、自分の身を守ることが出来る何かが欲しかった。 銃でも、剣でも何でもいい。使うつもりは無いが、いざとなればハッタリにでも使えると思ったのだ。 「こんな訳の解らないベルトだけで殺し合えっていうの……?」 机に並んだのは、ベルト。水。地図と名簿。たったそれだけ。 いつまで続くかだって解らないこの戦い、ずっとここに隠れておく……というのも考えた。 だが、こんな水一本だけではいつかは餓死してしまう。 何を考えても、マイナス方向のイメージしか浮かばない。デイバッグに期待していただけに、その落胆も大きかった。 少女は頬杖をつきながら、窓の外を見遣った。怪しく光る月。どこかで、つかさも同じ月を見ているのだろうか? 「こんな時……あいつならどうするのかな?」 少女はまたしても、親友であった青髪少女を思い出す。 ……だが、心の中の親友は、何も教えてはくれない。 少女は再び、机に無造作に置かれたベルトに、その紫の視線を送った。ふと、頬を伝う涙。 「つかさ……」 妹の名を呼び、机に突っ伏す少女。室内に響く、鳴咽混じりの泣き声。 少女は、知らなかった。 眼前に放り出されたこのベルトが、未来さえ欺く男が使っていた最高の武器だと言う事を。 そしてそれは、その少女と同じく、巨大な、透き通る様な紫の瞳を持つ「X」の戦士の物である事を。 命を奪う紫の力を手にしてしまった少女の名は、「柊かがみ」。 だが、そんな事を知る由も無いかがみには、どうすることも出来ない。 何をすればいいのかも解らなかった。 【柊かがみ@なの☆すた】 【一日目 現時刻AM0 32】 【現在地 D-5 ハカランダ】 [参戦時間軸]2話終了後以降。なのは達と仲良くなり始めた頃 [状態]健康。涙で顔がぐしゃぐしゃ [装備]特に無し。 [道具]支給品一式・カイザギア一式(カイザフォン除く)@マスカレード [思考・状況] 基本 誰も殺したく無い。つかさと家に帰りたい。 1.つかさに会いたい…… 2.今は頭が一杯で、何も考えられない……せめて朝までは何も考えたくない…… 3.取りあえず、朝になるまではここに隠れていよう…… [備考] ※カイザギア一式を、ただの訳の解らない装飾品ベルトだと勝手に思い込んでます ※デイバッグに、カイザフォンだけは入っていませんでした。カイザフォンの行方は後続の書き手さんに任せます ※なのは・フェイト(姿は19歳。StS基準)とは友達ですが、まだ名簿を見ていない為にこのゲームに参加しているという事は知りません。 ※OPで一緒にいたつかさの存在だけは確認しています 003 本編投下順 005
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■残念系少女とは…?■ 1994年12月05日生まれ(射手座)のA型。 現在、岩手県の田舎に住んでいる。 身長は150cmあるかないかのあたり。 体重は身長の平均体重。 夜行性で朝が苦手。 隠れオタク(多少ばれつつある…) 性格・ 根暗野郎 極度の人見知り 内気 趣味・ 読書(漫画も含む) 落書き 二コ動観賞 音楽鑑賞 切り絵 やってること・ ついったー ⇒@yu_2424 アメーバブログ
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スクリプトは新サイトに置いてあります
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自律戦闘型少女 タイトル:自律戦闘型少女 作者:因幡 白兎 掲載号:2014年新歓号・2014年初夏号・2014年クリスマス号 序章 彼女は、ふと気が付くとそこに存在していた。 何時からかは分からない。 そこが何処かも分からない。 ただ、そこに存在していた。それだけの事。 そこには、煌々と光る灯りの他には、小さなPCやベッド以外、何も無かった。寂しいラボの、小さな部屋。少女はその中で独り佇んでいた。 腕を伸ばせば、磁器のように白く綺麗な肌が見える。 髪に触れれば、指の間からさらさらと流れ落ちる全く癖の無い長髪の手触りを感じる。 目の前の電源を落としたモニターに顔を近付ければ、冷やかな氷の様な光を放つ碧眼に真一文字に結ばれた桃色の唇と、まるでビスクドールのように整った自らの顔が見える。尤も、彼女は自らの顔がいかにたぐいまれなる美しさを持つか分からなかったのだが。 彼女は僅か十五歳にして、既にあらゆる分野の深い知識を持っていた。数式を見せれば瞬く間に解を導き出し、大抵の言語を使いこなし、どんな機械も扱えた。 しかし、とある重要な要素が一つ、ぽろりと零れ落ちていた。 ……いや、頭の中に知識はあった。 ただ、それがどう言うものか分からなかった。 「数式ならば、解けるのですが」 彼女は頭の中にある知識の通り、小さく小首を傾げてみる。 それは誰もが微笑まずにいられないような愛らしい仕草だったのだが……どこか少し物足りなく思えたに違いない。 「このエラーだけが、自己修復できないのです」 少女は小首を傾げたまま、呟く。 [疑問]はあった。[好奇心]もあったが、それ以上では無かった。 [疑問]は感じても、それに付随する筈の知る歓びや無知な自分への憤りが、[人間らしい感情]が、彼女の中にはたったの一ビットすらも無かった。 思考パターンを模倣した[見せかけの感情]すら、彼女は持っていなかったのだ。 何故か? 単純な話だ。 人を、何の呵責もなく殺せるように調整された。 ただ、それだけの話。 彼女は、自律戦闘用に様々な調整を施された、所謂[人間兵器]とでも言うべき者だったのだ。 しかし、そんな少女を必要とする者はもう居なかった。 少女が投入される筈だった戦争は彼女が目覚める前に終結を迎えたのだ。 国は滅び去り、少女が居た小さなラボは忘れ去られ、隠れるように樹海の奥深くに佇んでいた。 ――もうどのくらい此処に居るのだろうか。 少女は[疑問]を感じ、逆算する。 衛星からの情報をかき集め、時刻を確定させる。 「189516057秒、ですか」 少なくとも、目覚めてからは6年と少し。それだけの時間、彼女は独りでそこにいた。 そこまで思い至ったとき、ラボの電気が落ちた。 正規の電源装置がついに壊れたらしい。 給電が受けられないとなるともう何日も動けないだろうと考えた少女は、記録されたデータの通りに風力と太陽光を併用した独立電源で動く非常用コールドスリープシステムを起動させた。 もしかしたら二度と目覚める事は無いのかもしれない。 しかし感情を持たない彼女には、そんな事は気にならなかった。 一章 時を呑み込んだ樹海 何年の月日が経ったのだろうか。 廃墟を呑み込んだ樹海の奥。 忘れられたラボの扉が、開く筈の無かった鍵が、開けられた。 野戦服を着た青年が、不思議な形の鍵を持って立っている。 「見たことも無い合金だな、面白そうだけどこのままじゃ持って帰れないしなぁ…………よいしょ」 青年が手に力を込めると、超硬合金製の筈である扉の一部が千切れた。 人間どころか、重機すら出せないような力を指先で発揮した青年。 金の糸のように美しく輝く金髪、好奇心と言う名の光を帯び、宝石のように輝く緑色の瞳。その整った顔立ちは、名のある俳優と並べても全く見劣りしないだろう。 野戦服に全くそぐわない顔をしているのに、妙に似合っているようにも感じる。 そんな、違和感の塊のような青年は、ラボに足を踏み入れる。 「百年近く前の遺跡って聞いたからさぞ荒れてんだろうなとか思ったけどさ、そんなでもないな」 「あぁ、意外と保存状態が良い」 後ろからは、これまた野戦服よりも高級なスーツの似合いそうな容貌の東洋風の美男子が現れる。 「ここには何があるんだろう、蓮」 「あぁ、楽しみだな、ウィリー」 心の底から楽しそうに、まるで歌うように言う金髪の青年――ウィリーと、表情を変えないまま、声だけは嬉しそうに言う黒髪の青年――蓮。 対極にも思える二人の青年は、なかなかどうして綺麗に調和しているように見えた。 そんな二人は、開かれたラボのゲートをくぐり、電力不足で止まったセキュリティやトラップを素通りして、奥へと進んでいく。 小さなラボとは言え、未知の区域の探索には時間がかかる。早くも数時間が過ぎた頃。 「ウィリー、もうそろそろ帰ろう」 暗くなってきた辺りを見て、蓮はウィリーに呼び掛ける。 しかし、ラボの奥から返ってきた返答を聞き、彼はラボの更に奥へと歩き出した。 「蓮、この部屋、人が居るぞ」 子供のように好奇心に満ちた目をしているウィリー。 「居るって……百年前の遺跡に何で人間の生命反応が」 「だから気になるんじゃないか!」 さらに目を輝かせ、二人は例の鍵でロックを解除する。独立電源で作動した扉が開くや否や、走って部屋の奥へ進むウィリー。その先で何かを目にした彼は、言葉を失わずに居られなかった。 その視線の先にあったのは、液体の満たされた大きなカプセル。 その中に入っていたのは――ビスクドールのように整った顔立ちの十三歳前後に見える少女だった。 「……コールドスリープか。喪失技術だな…………凄い」 喪失技術。ロストテクノロジー。魔術大国との、世界をほぼ二分した戦争で滅びた技術大国の遺跡に眠る、超科学の結晶だ。 魔術と違って技術は魔力を持たなくても努力次第で扱える。技術には、魔術に無い「強み」がある……。 その考えは定着し、かつての魔術大国は魔術と技術の融合を目指したが……いかんせん機械工学の能力が無かった。 よって、旧技術大国のエンジニアの力を借り、遺跡から発掘された技術を再現し、魔術を用いて改良し、この国の住民は生活に利用していた。 「……コールドスリープは滅亡時点で実用化されていなかった筈」 後から歩いてきた蓮が無表情のまま、声だけは疑問を孕ませて呟く。 「元のまま蘇生できるのが人間だと最長でも一年だから実用性に欠けたらしいしな」 そこまで言ってから、ウィリーは眉間に皺を寄せる。 「なら何でこいつは百年も――」 その時。金属のひしゃげる耳障りな音がウィリーの声を遮った。 「部屋への侵入者――過去の最終ログを参照。結果3343916759秒前。……およそ百六年前にスリープ。身体機能を走査――異常無し」 立ち込める冷気と煙の中から、まるで小鳥の囀ずるように澄んだ可愛らしい声が聞こえる。 数秒後煙が晴れると、濡れた足音を響かせ、首筋の給電プラグを引き抜いた少女が無機質な床に降り立った。 「……嘘だろ? すげぇ!」 驚喜に打ち震える表情を浮かべるウィリーと、珍しく片眉を上げて驚いたような顔の蓮を一瞥した少女は、氷のように冷ややかな声で呼び掛ける。 「ログに無い人物。走査――紹介状及び所員証、無し。…………あなた方は、誰ですか?」 「俺らか? 俺はウィリアム=アルバート。ただの魔術師だよ。こっちの無愛想なのが影崎蓮」 「……お前がただの魔術師なら他の連中は何なんだ」 にこにこしながら言うウィリーと呆れたように呟く蓮。少女は、魔術師と言う肩書きに反応した。 「……魔術師…………敵性と判断」 その一言と共に彼女が地を蹴ると破裂音と共に金属の床が爆ぜた。文字通り爆発的な加速。常人ならば、この一瞬の攻撃により無力化、いや殺されていただろう。 そう、常人ならば。 「……おっと」 楽しそうな笑顔を全く崩さずに、ウィリーが音速に近い速度で鳩尾に伸びた少女の腕を一度受け流して勢いを殺し、掴んだ。 「…………っ」 ウィリーの腕を振り払い、後ろに飛び退いて距離を取る少女。 しかし、彼女の体を何かが掠めた。体をひねって回避すると、それはそのまま壁に突き刺さる。 「……唐突に襲い掛かられてもな」蓮が無表情のまま腕を引くと、少女の視界が反転した。 壁に突き刺さった数本の苦無から伸びる糸が、蓮が腕を引くことにより張り詰めて、少女の脚を払ったのだ。 「……っぐ!」 咄嗟に頭を庇い、意識が飛ぶことは防いだが、脚に糸が絡んで動けない。 魔術師を名乗る二人組に、目立った術式も使われないうちに敗れたのである。常識で考えてただ者ではない彼らを前にして、少女は抵抗するのをやめた。 「……やっぱアンドロイドじゃ無いみたいだな。名前は?」 ウィリーがそう言いながら近付くと、少女はウィリーの顔を直視し、 「名前など、有りません。少なくとも記録されていません」 なんの感慨も感じない、といった声で返答する。 確かに彼女には、彼女の知る限り名前が無かった。人間兵器となるべく調整された彼女には、名前も、家族も必要無かったのだ。 「識別番号なら存在します。私の識別番号は270-Aです」 「識別番号って……。それじゃまるで機械扱いじゃないか」 低く呟くウィリー。それを見て、少女は床に仰向けに倒れたままでかくん、と首をかしげる 「番号が存在すれば、支障はありません」 「お前、悲しくないのか?」 「私には感情と呼ばれるモノが存在しません」 感情を押し殺した声で問うウィリーの熱を持った視線と、押し殺す感情すら持たない少女の零度の視線がかち合う。 数秒間のやや気まずい雰囲気の沈黙を破ったのはウィリーだった。 「…………聞いたことがある。終戦間際、ヒトと思えない身体能力を持つ人間兵器が存在したと。お前みたいな奴の事なんだろ?」 「……………………」 ウィリーは全く表情を変えない少女を見つめて、その顔を柔らかな笑みに変え、少女に提案した。 「お前、俺んちに来ないか?」 「……理由を述べてください」 [疑問]を感じ、その氷のような碧眼でウィリーの目を見つめて言う少女。 「キザったらしいかも知れないけど、死ぬ事に恐怖を感じられるように成って欲しいからだ。死ぬのが怖いって感情を持たないのは、大切な物を持ってないからだ。そんな可哀想な奴を、俺は放っておけない性分でな」 零度の視線に、今度は優しくも少々くさい台詞で返し、ウィリーは笑った。 その時、少女の中で小さな変化が起きたらしい。少女の思考回路は、前なら有り得なかった答えを弾き出したのだ。 「……分かりました」 感情を持たない筈の、少女の心がわずかながらに動いたのかも知れない。 この青年はもし自分が拒否したとしても危害を加えたりはしないだろうと推測しつつも、彼女は何故か断ると言う選択肢を選ばなかったのである。 「……そうか! それじゃ、名前が要るな!」 心底嬉しそうに、ぱぁっと顔を輝かせたウィリー。 「お前の番号、270-Aだろ?じゃあ、お前の名前はニーナだ!」 「…………安直だな」 蓮が呆れたように呟くが、少女はその名を反復する。 「……ニーナ。……記録しました」 「おい、お前、それでいいのか……」 苦笑する蓮と、嬉しげなウィリーを交互に見ながら、少女――ニーナは、ウィリーから貰った[自分の名前]を脳内に記録した。 その瞬間、彼女の頭に小さな痛みが走る。が、ニーナはその微かな痛みを特に重要な異常とはとらえなかった。コールドスリープから目覚めたばかりだ、この程度の身体の不調は十分にあり得た。 「……よっし! 今日からお前は俺たちの家族だ!」 「……すまん、今のお前は流石にロリコンにしか見えん」 「なっ!?」 仲良さげに軽口をたたきあう二人を見ながら、ニーナは脳内に無く、意味も推測できないある言葉に対し、脳内にある知識の通りに小首を傾げた。 「………………ろりこん?」 少女が眠りについてから数百年が経っているのだ。そんな彼女には良くも悪くも、知らない事が多かった。 「……お前はまだ知らなくて良いんだ……行こうか」 無表情のまま小首を傾げたニーナを見て、蓮は嘆息しつつゆっくりと歩き出す。 歪な三人組は、沈む間際の燃えるように紅い夕日を背にして帰途についた。 ――数日後。 邸宅の窓から射し込んだ突き刺さるような白い日差しで、ウィリーは目を覚ました。眠気を振り切るように軽く伸びをしていると、横から唐突に声が掛けられる。 「お早うございます」 「うぉぉっ!?」 知らぬ間にすぐ脇に立っていた、相変わらず氷のような無表情を貫くニーナを見て驚くウィリー。 するとニーナは無表情のまま、小鳥のように小首を傾げて問うた。 「何故驚いているのですか?」 「あぁ、いや、なんでもない」 ニーナが持っていた朝食のトレイを見て、大方メイドの内の誰かに持っていくように言われたのだろうと納得したウィリーは、銀でできた上品なトレイを受けとる。 「……訊きたい事が有ります」 「んー?」 しばらくして朝食を食べ終わったウィリーが無駄に様になる優雅な仕草で紅茶を飲んでいると、ニーナが小さく可愛らしい、しかしやはり平坦な声で疑問を口にした。 「あなたは"ろりこん"と呼ばれる括りに入る人間ですか?」 「ぶっ!?」 ニーナが無表情のまま口にした疑問を聞いて、ウィリーは盛大に紅茶を噴きだした。 「っげほ、げほ、い、いきなり何て事を言うんだよ!?」 ウィリーが激しく咳き込みながら抗議の声を上げると、ニーナはにこりともせずに返答する。 「……この屋敷の住人十八人のうち、少女が大多数を占めていましたから」 「あー……それはだな、魔術師見習いの身寄りが無い奴とかの面倒を見てやってるだけだよ」 ウィリーは、魔術師の素質は有るのに身寄りも金も無く、学校で魔術を習えない子供達に学資を提供すると共に屋敷に住まわせ面倒を見ていた。面倒見の良いウィリーや実は子供好きな蓮は、そんな不幸な子供達を放っておけなかったのである。 彼らは二人とも財産家であり、費用は資産の運用などで手に入れていた。 この地方の魔術師志望者のうち七割が女性なので、必然的に屋敷に住む子供達も少女が占める割合が高いのだ。特に今期は、十人の子供逹の全員が女だった。 「あなたはろりこんでは無いのですね? 分かりました」 「……何でそんな事を訊くんだ?」 「メイド長が『あいつやっぱりロリコンなんじゃないかしら』と言っているのが聞こえたので」 「…………マリーか。あいつの言うことはあまり気にするな」 無駄に完成度の高い声真似を聴いて、ウィリーは苦笑した。 この家に住み込みで家事等をしているマリーは、ウィリーが最初に面倒を見た子供達の内の一人でもある。 試験に合格し、晴れて一人前の魔術師になれた彼女は、ウィリーに礼がしたいと住み込みで働き始めたのだ。今では家事の手伝いや子供の相手をする数人のメイドを束ねるリーダーをこなしている。 ニーナは、この家に来た際に聞いたその情報を頭の中で繰り返す。 だが、一つ引っ掛かる点があった。 見た目からしてマリーは十代後半辺りだ。しかし、マリーの面倒を小さな頃から見ていたと言うウィリーや蓮は、どう見ても二十代前半か、行って二十七、八歳。十代前半の少年が七、八歳の少女を育てることがあるのだろうか? 「………………」 ニーナが無表情のまま考え込んでいると、ウィリーが心配そうに声をかけてきた。 「どうした? 何か気になることが有るのか?」 「……何でもありません」 稀にそんなことも有るのだろうかと判断したニーナの返答を聞き、安心したらしいウィリーは立ち上がった。 「じゃあ、散歩でもするかな」 そう言って彼が指を鳴らすと、昨日も、その前の日も着ていたのとそっくりな野戦服が、何もなかった筈の虚空から出現する。 転送魔術としては中級の部類に入る術式である。これを使いこなせれば一人前と言っていいだろう。 「魔術で着用したりはしないのですか?」 「どうせ魔術で着ても同じような労力使うしな」 ニーナの問いに対して、もそもそと着替えながら、ウィリーがあくび混じりに言う。 多芸な魔術師ならば、掃除や洗濯、料理も魔術でこなせなくはないのだが、家事の類いは人間がやった方が大抵の事は上手くいくのだ。 細か過ぎない日常の作業で、人間がやったのと同じ完成度を目指した場合は集中力が必要になり、そのような遣り方に慣れていない者がやると逆に疲れると言う事をウィリーが説明していると、出入口の扉が開かれ別の人物が姿を現した。 「ウィリーさん、蓮さんが広間で呼ん……で?」 そこに立っていたのは、十七、八歳に見える少女だった。件のメイドのマリーである。少しつり目気味で、ニーナの氷のように冷ややかなものとは違う海のように深い優しげな色の瞳が印象的。明るい栗色の髪はポニーテールに纏めている。 彼女は黒の長スカートに白エプロンをつけ、ホワイトブリムを着用していた。所謂メイド服、家事に適した服装である。 着替える途中で半裸のウィリーを見て硬直していたマリーは、やっとの事で正気に戻ったらしくゆっくりと二人のもとへ歩み寄る。 「……あんたね、いたいけな子供に何見せてるのよ…………?」 「何って、俺はただ着替えて」 「女の子の前で着替え始めるとか変態! やっぱりロリコンなんじゃない! うわぁぁぁん」 唐突に怒りだしたかと思うと、ウィリーにとっては全く身に覚えのない罵倒の言葉と共に何やら丸っこいモノを投げつけて何故か泣きながら走り去るマリー。 「……全く、何だったんだ?」 マリーが投げた物を拾い上げたウィリーは、それを魔術で造り上げた影の箱に放り込む。 マリーが投げた物は、先程ウィリーが野戦服を出したのとほぼ同様の魔術で出現させたらしい閃光手榴弾だった。 こんな危険なものを投げられたと言うのに全く動じずに回収し、着替えを済ませたウィリーは首をかしげながら部屋を後にする。 それを見てどうやら「よくあること」のようだと判断したニーナは自らの部屋へと歩き出した。 ニーナと別れ、曲がりくねった迷宮のように難解な廊下を進み、階段を降りて広間へ出るウィリー。 そこに居たのは、少し面倒臭く思っているだろう雰囲気を漂わせる蓮と、威厳を感じさせる老人だった。老人は少し古めかしい貴族服を着込み、脇には剣が置かれている。一線を退いた騎士であるらしく、胸元には数多くの勲章の略章が縫いとられていた。 「おぉ、ウィリアム。実は君と蓮君に頼みがあってね」 老騎士は少しぎこちない笑みを浮かべ、少し言いにくそうに話を切り出す。 「爺さん、俺は、国関係の仕事はもうやめたんだよ」 ウィリーが苦笑しつつ返答すると老騎士は少し眉をしかめ、言った。 「いや、個人的に我が友に頼みたいのだよ」 「……どうしたんだよ、爺さん?」 普段なら職務上仕事を一応持ってはくるものの、ある事情を判って引き下がってくれる老騎士が引き下がらないのを見て、ウィリーは少し真剣な顔になる。 「あの亡国の残党が、反乱を企てているらしい……私が調べたいところだが生憎こう言うときに限って仕事が入っていてね」 少し困ったように顎をさすりながら言う老騎士。 「調べて欲しいという訳か」 蓮が僅かに眉をしかめる。彼が引き下がらないのを見て、断れない部類の面倒な依頼だと判断したらしい。 「……そう言う事だ。残党が徒党を組んで連絡を取りあっていることすら最近まで知らなかったものでね……彼らのネットワークには我々は入れないからな。だからと言って放って置くわけにもいかんのだが、国はどうも本気にしていないらしい」 「そう言う事なら丁度ピッタリの奴が居るけどさ……ニーナ!」 ウィリーが呼ぶと、ニーナがぱたぱたと駆けて来て……着ているワンピースの裾を押さえながら、二階から延びる階段の最上段から一階まで軽やかに飛び降りた。 とん、と軽い音をさせて着地したニーナは、三人の方へ歩み寄る。 「……お呼びですか」 「あぁ。お前、旧ネットワークにアクセスできるか?」 ウィリーの問いにニーナは数秒首をかしげて考えた後に頷き、平坦な声で返答する。 「あのラボにあった端末ならおそらく可能です。必要ならラボまで行く必要がありますが」 「……だとさ」 その会話を聞いていた老騎士は、驚きを隠せないと言った表情になる。 「その子は……?」 「遺跡で百年一人ぼっちだったから引き取った」 「……報告は?」 老騎士は少し目を細めてウィリーを見た。 遺跡で何か重要なものを発見した場合、探索者は議会に届け出る事が定められ、議会で重要なものと認められた物は、魔道具の研究者――エンチャンターや彼等に協力しているエンジニアに引き渡されて研究される決まりだったが、ウィリーはその規則を破る常習犯だった。 「報告したらあそこのマッドエンチャンターどもに研究されるだろう、可哀想だよ」 「……またか。私は責任を持たんからな?」 またウィリーが規則を破った事を理解し、苦笑する老騎士。 「……議会とかに言うなよ?」 「さて、どうしようか? あの事も含めて報告してしまおうかな?」 ニヤニヤと、少し楽しそうな笑顔を浮かべる老騎士。どうやらちょっとしたウィリーの弱みを握っているらしい。 「……おいおい、頼むよ爺さん……分かったよ、協力するから」 「そうか、それは助かる」 「で、でも、ニーナがいいと言ったらだからな?」 「私は構いません」 「…………そうですか」 ウィリーのせめてもの抵抗のようなものは、ニーナの言葉で脆くも打ち砕かれたのだった。 「参ったなぁ……もう国からのめんどくさい仕事は受けないって決めてたのになぁ……」 老騎士が帰った後、だるそうに言いながら支度を始めるウィリー。 枝を打ち払う為だろうか、小型の鉈を腰に帯びる。そして何に使うのか、宝石の欠片らしきものをケースに入れて携帯した。 連は、面倒くさそうにのろのろと忍具を服のあちこちに仕込み始めた。袖の中には、先日ニーナの足をすくったあのギミックが仕込んである。どうやらガス作動式の射出機構らしく、存外にハイテクな代物だった。 ウィリーに貰った動きやすい服を着こんで支度ができたニーナが二人の方へ足を踏み出すと、何か硬いものを踏んだのを感じた。 見ると、ウィリーが落としたのか、木漏れ日のように優しい輝きを放つ宝石がある。 「……落とし物、ですね」 ウィリーに渡そうと拾い上げた瞬間、石が一瞬だけ輝きを増した。 「………………」 ニーナが無表情のまま石をじっと見つめていると、ウィリーが石をつまみ上げた。 瞬間、光が弾ける。 日光のように鋭く、燦然とした輝き。しかしそれは、日光のようには目を焼かない、不思議な光だった。 ニーナは、その光から目が放せなかった。脳の制御を離れて、目が光を見てしまう。 「拾ってくれてありがとな、っと」 いつの間にか横に立っていたウィリーが容器に石を入れると、その輝きは収まった。 容器をじっと見つめるニーナに、ウィリーが問う。 「……お前、魔術が使えるのか?」 「わかりません。少なくとも今まで使ったことは有りません」 「…………そうか」 何かを考えるように目を細めたウィリーだったが、すぐに普段の表情に戻って歩きだした。 「まぁ、そのうち分かるだろ」 蓮が工具を持って彼に続き、その後ろからニーナも歩き出す。 「……さぁ、楽しい樹海探索だ」 大袈裟に肩をすくめながらウィリーが呟く。 三人は、再びラボが存在する樹海の奥へと向かったのである。 二章 憂鬱森ガール 深い樹海を、ただ一人で歩む可愛らしい少女。 小柄なその少女のふわりと柔らかくウェーブのかかった淡い金色の髪はバレッタで軽く纏められ、両家の御嬢様と言った感じの些か樹海にはそぐわない雰囲気を醸し出していた。しかし服装は探索向きのコンバットスーツであり、ただの気まぐれな散策では無いことを思わせる。 長いこと道なき道を歩いてきたのか、その艶やかな髪には沢山の小枝や葉がからんでいた。 綺麗に整った形の眉を疲弊しきった感じに八の字にしており、気だるげな曇り空のような濃い灰色の瞳と相まって無気力な表情。 薄桃色の唇を不満を表すように尖らせて、ぶつぶつと文句を言いながら歩いていく。 彼女はある少女を捜していたが、上官からの情報が不正確なせいで正しい目的地になかなか辿り着けないでいた。やっと少女が最後にログを残した正確な位置が判ったと思えば深くて暗い樹海の中。もう正直うんざりしていたのだ。 空腹だ。何か食べたい。携帯食料は支給されているが、量が足りないし全然美味しくない。意地でもこんな物を食べるものかと、少女は頑として携帯食料に口をつけずに動いていた。 ふらふらとした少し危うげな足取りで、目的地へとやっとの事で辿り着いた彼女は、怪訝な顔で首をかしげる。 開ける者など居ない筈の超硬合金製の扉のカギが開いていたのだ。 「鍵が、開いて……?」 怪訝に思いつつも、彼女は建築物の奥を目指して進む。その扉の端が小さく千切られていた事、そして扉以外のすべての外壁に張られていた保護結界には気が付かないまま。 「……むぅ、扉も開いてます……もう起きたのですか?」 閉め切っている筈の幾つかの扉が開いているのを見て、探し人が少し早めに目覚めたのだろうかと考え、少女は歩を進める。 侵入者の可能性など……まして、探し人が連れていかれた可能性など、彼女は全く考えていなかった。 ウィリー達は、再びニーナが眠っていたラボを訪れた。 「……おかしいな、ここの扉は閉めた筈なんだが……中に誰か居る気配がする」 半開きの扉を見た蓮がいつも通りの無表情で不思議そうに言うと、ウィリーも怪訝な顔をした。 「確かに。俺達の他に探索者が居るのかな……ニーナ、ちょっとここで待ってろ」 二人は警戒しつつラボ内に入っていく。暫くして、何やら小さな物音を聞き付けた蓮がニーナが眠っていたラボ最奥の部屋の扉のノブに手をかけ勢い良く押し開けると、鈍い衝突音と共に妙な声が聞こえた。 「うゅッ!?」 尻尾を踏まれて痛みに驚く子猫のような声。 見ると、扉の後ろで小柄な少女が後頭部を押さえて蹲っている。 「い、痛いです……っ……!?」 目を潤ませながら振り返った次の瞬間、蓮の後から入ってきて扉を閉めたウィリーと目が合った少女は飛び退く。 足首だけで軽く二メートルは後退した少女を見て半歩だけ後ろに下がった二人に向かい、彼女は問いかけた。 「……貴方は誰ですか?」 「……えーと、俺はウィリアム=アルバート。只の魔術師だよ」 「魔術師……敵性と判断します!」 魔術師と聞いた途端に地を蹴り、ニーナをも凌駕するスピードで飛来した少女を、ウィリーは華麗な体捌きで受け流す。 「危ない危ない、まだ蓮が喋ってないのに来るとは」 「ニーナという前例があった事が幸いだったか……用心しといて正解だ」 そう呟きながら蓮が飛ばした苦無を、三角跳びの要領で扉を蹴って素早く飛び退き回避する少女。蓮が腕を掲げると、苦無はまるで意思があるかのように複雑な軌道を描いて彼の手の中に戻る。 「……割と良い動きだな…………寝起きのあいつは引っ掛かってくれたが」 「まぁこいつは寝起きでも無さそうだしな……少し急がないと、ニーナも待たせてるし……」 少し考えるふうにしていたウィリーは、ポーチ内の容器から一欠片の小さな宝石を取り出す。 「久し振りに、こいつでも使うか」 手に取った瞬間に光を増したその石で、ウィリーは空中に光の軌跡を描いた。不思議なことに軌跡は消えることはなく、それどころか枝分かれしながら伸びて複雑に絡み合い、そこには見る間に幾何学模様が描き出されていく。一般的に魔法陣と呼ばれるモノである。 「……!」 少女は魔法陣を完成させまいとウィリーに狙いを付け、ハンドガンを抜き放って撃とうとする。 しかしそのハンドガンの銃身を蓮の鎖分銅が打ち上げた。狙いが外れ、破裂音と共に撃ち込まれた弾丸は、空しく壁に弾痕を刻む。 「蜘蛛の巣」 たった一言、詠唱と呼べるのかすら疑わしい程に短い言葉をウィリーは呟き、石を指で弾き飛ばした。 鈴の音色にも似た澄んだ快音が響き、石とともに放たれた魔法陣は壁に反響し、床に跳ね返り、リズミカルな音を響かせながら部屋の中を光の尾を引いて駆け巡る。 「…………っ!?」 やはり消えること無く空中に留まる光の尾は、瞬く間に光の網を作り上げていった。 慌てて再び狙いをつけた少女が石を撃ち落とすと、魔法陣が停止し、破片が小さな音をたてて地面に転がる。 しかしその時、光の網は既に部屋中に張り巡らされていた。 「捕獲、っと」 ウィリーが楽しげな笑みを浮かべて、手を打ち合わせながら宣言する。瞬間、凄まじい速度で光の網が少女に向かって収束した。少女は成す術もなくぐるぐる巻きにされてバランスを崩し、あっけなく前のめりに倒れ込む。 「はい、俺の勝ち」 ウィリーが歩み寄って笑顔で宣言すると、簀巻きにされた少女はゆっくりと転がって上を向いた。 「ふ、不覚です……やっぱり狭い所での戦闘は苦手なのです……」 「ニーナ、来ていいぞ」 蓮が呼ぶと、ニーナがラボの中に入り、こちらへ近付いてくる。 それを見た少女は、驚いたような声で言った。 「にー……270❘A!? 何でこいつらと一緒に居るんですか!?」 「知り合いだったのか?」 「当たり前ですっ!」 ウィリーが問うと、彼女はぐるぐる巻きのままころころ転がってニーナの近くに寄った。可愛らしいが些か滑稽だ。 「何だ、近頃計画されてる旧技術大国勢の反乱計画絡みか?」 「そうですっ、私は270❘Aを探していたのです! 近く魔道研究都市跡で行われる作戦の決行の際に私と同じ部隊に……あぁっ!?」 ウィリーが冗談で、子供でもそうそう引っ掛からないであろうかまをかけると、少女はものの見事に引っ掛かった。喋ってはならないことを喋ってしまったらしく慌てて口をつぐむが、どう考えても激しく手遅れである。 「魔道研究都市跡ねぇ……うちの近所だな」 「ゆ、誘導尋問です! 酷いですっ」 涙目で下唇を噛む少女。だが後半は誰が聞いても明らかに自爆だった。 「まぁとりあえず、お前には家に来て貰うからな」 「な、何でですかぁ! 放してください! 私を拷問しても作戦についてはこれ以上何も知らされてな…………っ……」 蓮が騒々しい少女の首筋に鍼を打ち込んで昏倒させると、ウィリーが魔術で顕現させた外套を首筋を隠すように被せ、軽々と背負う。 「……じゃあニーナ、調べ終わったら蓮と一緒に帰ってきてくれ。俺はこの子と先に帰るからさ」 「……分かりました」 確認を済ませ、ラボを出て家へと向かったウィリーを見届けた蓮とニーナは、作業を始める。 ウィリーが持参して設置していった小型発電装置を用いて端末に電力を供給し、ニーナが軽やかなブラインドタッチで次々と引き出していく情報を、蓮が書き留める。ニーナの細い指先がキーボードを叩く音と、蓮が走らせるペンの音のみが、静寂に包まれたラボに響く。元来が無口な質の二人であるだけに、無駄口一つ無いまま時間は経った。 「……終了です」 情報の収集が終わったことを知らせるニーナ。 「あぁ、ありがとう」 メモ帳を仕舞い歩き出した蓮だったが、彼は道中で不思議そうにニーナに問いかける。 「そう言えば、お前はなぜ俺たちに協力してくれたんだ? 別にあそこで断っても良かったんだぞ?」 するとニーナは暫しの沈黙の後に口を開いた。 「あなた方は、私に死ぬことに対する恐怖とは何なのかを教えてくれると、そう言いました。ならば対価としての労働は当然ですから」 そう返答しながらも、ニーナの脳内では、理論では説明できないモノが発生していた。 〝なんとなく〟手伝いたい。 そんな感覚が、ニーナの中に芽生えていた。 実際「対価としての労働」と言う理屈は、説明できない事象を解決しようとした結果の、普通の人間で言う言い訳のような物だったのである。 「対価としての労働、か。まぁ何にせよ助かった。礼を言う」 ぽんぽんと頭を撫でる蓮。 ニーナは何故かその時、自分の心拍数の上昇を感知した。 「……大した運動もしていない筈ですが」 「ん?」 「特に支障はありません」 「……そうか」 噛み合っていない会話に微かに眉を潜める蓮。 ニーナも会話に些少な齟齬が発生しているらしい事には気が付いていたが、大した問題でもないので蓮を置いて先に歩き出した。 その頃、調理場ではマリーがフライパンを振るっていた。何故かと言えば、起きるや否や少女が空腹を訴えた為である。 調理場に置いてある小型テーブルに付属する二つの椅子の内一つにウィリーが座っており、もう一方には先ほどの少女がちょこんと腰かけていた。 「うぅ……お腹がすいたのですよぅ……言われた通り通信機も切りましたからぁ……」 ぐでっ、とだらしなくテーブルに突っ伏す少女。 「マリー、電波は?」 「ん、電波は感じないし本当に電源切れてるみたい。……ほら、食べなさい」 マリーは、彼女が得意とする電波を探知する魔術で通信機の電源が切れているらしい事を確認し、出来立てのスクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコン、そして今日の朝に庭の菜園から収穫してきたばかりの瑞々しいレタスを挟んだベーグルサンドを皿にのせて持ってくる。皿がテーブルに置かれるや否や少女は目を輝かせてベーグルサンドをぱくつき始めた。 「おいひぃでふ!」 口一杯に頬張りながら嬉しそうに笑う少女。それを暫く目を細めて眺めていた二人だったが、少女が一個目を食べ終わった所でウィリーが本題を切り出そうとするのを見て、マリーは厨房の扉を開ける。 「また何かあったら呼んで」 「ありがとな、助かった。……で、お前。いつ頃にその作戦が実行されるんだ?」 「黙秘権を行使、です」 「没収」 「あぅ……喋ります、喋りますから食べさせてくださいー」 あっさりと前言を撤回し、まるで餌をねだる子猫のように皿に手を伸ばす少女。 ウィリーが皿を返してやると、彼女は心底嬉しそうに再びベーグルサンドに手を伸ばす。 「えぇと、作戦の決行は一週間後の正午あたりです、もきゅもきゅ」 「行儀が悪い。没し」 「んぐ、ごめんなさい! 返して!」 「人数は?」 「私と270❘Aと、あとは十数人くらいです」 内容は軽く暗記しているらしく、すらすらと答える少女。 「そうか、分かった。……と言うか、俺が言うのもなんだけどさ、こんなに簡単に作戦の情報を喋って良かったのか?」 「……もうあっちに戻る気も無いです。あわよくばここに居たいなぁと」 少女は三つ目のサンドに手を伸ばしながら、何でもないように言う。見た目に似合わず、結構大食いな質のようだ。 「は?」 「もう正直うんざりなんですよ、あの場所。仕事はだるいし上官は煩いし。敵に捕まったって、離れる丁度良い口実ができましたし! 此方の方が格段にお料理も美味しいし! それに」 少女はくすっと笑い、一言。 「どっちに付くよりもここに居た方が楽しそうですから」 「どっちに付くよりも……?」 怪訝な顔をするウィリー。が、帰ってきた蓮とニーナの話を聞くうちに、少女の不可解な発言の事などすぐに忘れてしまった。 二人が持ち帰った情報は、予想よりはるかにスケールの大きい物だったのだ。 「……大規模な反乱?」 「あぁ。時期にして一月程後に、平和ボケした魔法士とか魔術師を倒して、ある計画を実行に移す、と奴等は言っているらしい……首謀者の名は不明だがな」 「何の計画か知らないけど随分ストレートだな……」 ウィリーは呆れた顔をする。しかし蓮は少しだけ眉間にしわを寄せて、首を横に振った。 「意外と妥当な案かもしれない、確かにうちの軍には平和ボケした文官よりの奴が多いしな……哀しい事に」 「そう言えばそうだったな……」 ウィリーは頭を抱える。 世界が統一国家となって早百年以上。ごく稀に小規模な騒ぎを鎮めたり行きすぎた領主を威圧する以外には軍が出動する用件もない平和な時代が続いており、軍は上記の理由で出動する数個の部隊を残して存在理由を問われるレベルにまで形骸化が進んでいた。 まず反乱など端から想定していないのだから呆れたものだ。 「……反乱の規模はどのくらいなんだ?」 「人数的にはこっちの軍で言う二個師団位の規模はありそうだな」 「……思った以上に多いな」 二個師団と言えば、戦時中においてそこそこ軍事力のある国の首都を危なげもなく制圧できたレベルの戦力である。兵の練度によっては、平和ボケの進んだ此方の軍は苦戦する事が必至であり、最悪撃破されてしまう事も考えられた。 「兵の練度はどうなんだ?」 続けて質問しようとするウィリーの袖を引っ張る少女。 「お兄さんお兄さん」 「……何だよ?」 ウィリーが怪訝な顔で少女の方を向くと、少女はニコニコしながら機密情報を洩らした。 「あいつら、戦争末期の人型戦機を運用する気らしいですよ?」 「…………そんなこと喋っていいのか、お前」 「いいんです。もうあっちには戻りませんから!」 蓮の冷静なツッコミに、少女は頬を膨らませる。どうやら本当に戻る気が無いようだ。 「……型番を教えて頂きたいのですが」 そこにそれまでずっと黙って聞いていたニーナが質問すると、少女は口を尖らせる。 「むぅ、さっきから何でそんなに他人行儀なんですかっ」 少女が台詞通りにムッとした顔でニーナに詰め寄ると、ニーナは首をかしげて微かに眉をひそめ、返答した。 「……他人行儀? 過去ログ参照――該当者、無し。……識別番号――273❘A。……申し訳ありません、記録にありません」 「わ、私の事を忘れたんですかっ!?」 感情の一切感じられないニーナの謝罪とは対照的な可愛らしい叫び声をあげる少女。 「ニーナちゃんをそんな子に育てた覚えはないのですっ!」 「……? 貴女に育てられたという記録は存在しません」 「しくしく、お互い名前で呼びあいいちゃつく仲だったと言うのに百年ぽっちで忘れてしまうなんて私は悲しいですっ」 小首をかしげるニーナと、今度は露骨な泣き真似を始める少女。どこか噛み合っていない二人の会話に、ウィリーが口をはさんだ。 「ちょっと待て。今、名前で呼びあうって言ったか?」 「む? そうですよ! 昔は『フレデリカさん、こうで良いのでしょうか?』なんて言って私に抱きついたりしてたのにニーナは薄情者なのですっ」 無駄に完成度の高い、到底いちゃついているとは思えない冷めた声の声真似をする少女。どうやら彼女はフレデリカと言う名前で、嘘をついていないとすればニーナと少なくともそこそこ仲が良かったらしい。 しかし、ここで彼女以外の頭に浮かんだ疑問を代弁するかのように蓮が問いかける。 「……名前があるのか?」 「本名がわからないって言うから、私が付けてあげたんです!270❘Aだからニーナです」 「……全く同じ思考とは恐れ入る」 蓮が呟いて眉間を押さえる。フレデリカは良く聞こえなかったらしく三人の顔をかわるがわる見ているが、蓮は説明が面倒なのでそれには触れずに話を進める。 「で、フレデリカ……だったか、お前はニーナを連れ帰りに来て俺達と鉢合わせたと」 「そういう事なのです。でも実際叩き起こされたようなものだったし美味しいものも貰えずに働かされてたので嫌々だったんですけど……」 うんざりしたような顔で愚痴をたれるフレデリカ。そこに疑問を感じたニーナが口をはさむ。 「……私たちの食物の摂取は最低限で良い筈ですが?」 筋肉などが戦闘用に人工の物に置き換えられている彼女達は、給電さえ受けていれば置き換えられていない幾つかの臓器などを維持するための僅かな食物の摂取で生命を維持できる。ニーナには、必要以上に豪華な食事を摂取する理由が理解できなかったのだ。 そんな彼女の言葉を聞いたフレデリカは、驚愕の表情を浮かべた。 「に、ニーナ、何を言ってるんですか!? 前二つは冗談だったにしてもあんなに食いしん坊さんだったのに! まるで……」 そこまで言って、フレデリカは何かに気がついたように黙り込む。 細い眉を寄せ、暫く真剣な顔で考えた後、フレデリカは口を開いた。 「ニーナ、もしかして……、昔の記憶を、まるっきり思い出せないんですか?」 その問いに、わけが分からないと言う風に黙って首をかしげるニーナ。 「……まぁ、あんなに長いコールドスリープから目覚めたばかりですし、それはまぁ、仕方無いんですけど…………あぁ、そうだ」 ニーナの反応を見たフレデリカはそう言いつつも明らかに落ち込んだ顔でしょんぼりと肩を落としたが、直ぐに先程までの調子に戻るとウィリーに向き直った。 「ウィリーさん、これどうぞっ」 彼女は自分の着けていた通信機等を取り外し、皿の脇に置く。 「解析していいですよ? こっちにいる以上、私はもう使いませんし」 「……いつの間にこっちに来る事が前提になったんだ?」 「だめ、ですか?」 突っ込み役と化した蓮の指摘に、フレデリカは涙目上目遣いで小首を傾げると言う自らの可憐さを自覚した仕草で迎え撃つ。しかし蓮には効果が無いようで、溜め息をついて更になにか言おうと彼が口を開いた所に、思わぬ援軍が現れた。 「いいじゃないか蓮、協力してくれるならありがたいし!」 「……お前は少しくらい疑うことを覚えろ。いつも思うがよく そんなことで今までやってこられたな」 完璧に乗り気なウィリーに対照的に、あくまでフレデリカを疑う蓮。するとウィリーは、笑いながら暴論とも取れる反論を述べ始めた。 「だって一々疑ってたらきりがないじゃないか、そんな事言ったらニーナだって罠かも知れないし俺や爺さんも敵と内通してるかも知れないしさ」 「……分かった分かった、別に許さないとは言ってない」 こうなるとウィリーがこの上なく頑固な事を知っている蓮は、ため息をつきながらも諦める。そして彼はフレデリカの方を向くと、念を押すように質問した。 「ただフレデリカ、何処かに別の通信機を隠してるなんて事は無いんだろうな? このバカはどうも調べる気も無かったらしいが」 「ぐぬぬ、随分疑うじゃあないですか……持ってないですよ!何ならここで全部脱ぎましょうか?」 そう言って早くも着ていたコンバットスーツの臀部ジョイントを外し始めるフレデリカ。 「いや待て、ここで脱ぐのはやめてくれ、面倒な事になるから……マリー! この娘調べといてくれ」 「はーい、了か…………い?」 ウィリーの呼び掛けに応えつつ扉を開けたままのポーズで固まるマリー。ウィリーと蓮がその視線の先を見ると、フレデリカが首だけをこちらに向けてきょとんとしている。 コンバットスーツの下半身部分を脱ぎかけ、こちらに向けて熊のプリントされたインナーを着用した尻をつき出すような体勢で。 「…………遅かったか」 こめかみを押さえて苦笑いする蓮の横を素通りし、マリーはウィリーの肩を掴む。 「痛い痛い痛いって、どこにそんな力が……」 「…………アルバートさん?」 そう呼び掛けた彼女の顔は可愛らしい満面の接客スマイルだが、細められた彼女の目には暗い炎が燃えたぎっている。 「え、何でいきなり名字呼び「来てください」え、ちょっ」 ずるずると椅子ごと引き摺られていったウィリーを横目で見て蓮は溜め息をつき、ニーナの方を向く。 「……仕方ないな。ニーナ、フレデリカをあいつの所まで連れていってボディチェックを受けさせてくれ」 「…………わかりました」 ぽかんとして突っ立っていたフレデリカを連れて出ていくニーナを見送り、蓮はやれやれと首を振る。 「マリーの奴、少しやりすぎだ……お陰で……」 こいつを渡しそびれたじゃないか 彼は誰も居ない室内で、誰にも聞かれる事のないように胸の中だけで呟いた。 間章 彼女は、今日も目が覚めるとそこに居た。 王の娘として生まれて十七年目の数十年前から、 王都の城の、閉ざされた頂上近くの部屋に。 何をするでもなく存在していた、それだけの事。 そこには、薄暗い上品な灯りの他に、本棚やベッド、鏡台、 豪奢な調度品が揃っていた。沢山のぬいぐるみだってある。大きく充実した部屋。しかし彼女はその中で独り座り込んでいた。 腕を伸ばせば、磁器のように白く綺麗な肌が見える。 髪に触れれば、指の間からさらさらと流れ落ちる全く癖の無い長髪の手触りを感じる。 目の前の磨き抜かれた鏡に顔を近付ければ、温かな焔の様な光を放つ赤眼に真一文字に結ばれた桃色の唇と、まるで絵画のように整った自らの顔が見える。 彼女は、自らの顔がいかにたぐいまれなる美しさを持つかも、十分に理解していたし、それなりに誇ってもいた。 そして彼女は、幼い時分からあらゆる分野に凄まじい才能を発揮していた。術式を見せれば瞬く間に暗記し、大抵の言語を使いこなし、どんな魔法も発動できた。 しかし、とある重要な要素が一つ、壊れてしまっていた。 ……それは誰にでもあるものだった。 ただ、それをどこに向ければいいのかが分からなかった。 「どんな魔法も発動できるのに」 彼女は昔のままに美しい頬に、昔と違う涙を伝わせる。 それは誰もが慰めずにいられないようないじらしい仕草だったのだが……どこか少し狂気を孕んでいるように見えたに違いない。 「なんでこれだけが、制御できないの?」 少女は涙を流したまま、呟く。 怒りがあった。悲しみも、喜びもあった。それ以上では無かったのに。 彼女の、世の中への悲しみが、自分への憤りが、人間らしい感情が、彼女にはこの上なく恐ろしかった。 思考パターンを模倣した[見せかけの感情]すら持っていない傀儡が、羨ましかったのだ。 何故か? 単純な話だ。 感情が、彼女の過剰に過ぎた力を暴走させた。 ただ、それだけの話。 彼女は、天性の人間離れした魔力を持っていた。所謂[生まれついての魔法師]とでも言うべき存在だったのだ。 しかし、そんな少女を必要とする者は居なかった。 少女はその魔力に付随する回復力故に老化が極端に遅く、笑えば花が咲き乱れ、拒絶すれば周囲の全ては氷に閉ざされ、怒れば燃え盛る炎が辺りを焼き尽くした。 どんなに押さえようとしても、その現象を完全に押さえつけることは叶わない。 そんな彼女を民衆は。 「化け物」と呼んだ。 彼女は、塔から一歩も出なくなった。 そんな彼女をよそに国は繁栄し、長い間対立していた国を打ち倒すことに成功しようとしていた。 少女が居た塔の部屋を誰一人、父王すらもが見ようとせず、いつしか民衆は彼女を忘れ去った。ただ一人、昔は兄と慕っていた従兄が気にかけてくれたような気もするが、それすらも忘却の彼方だった。 彼はとっくに戦地へ赴いていた。 ――もうどのくらい此処に居るのだろうか。 少女に見えるその存在は[疑問]を感じたが、考えるのをやめた。 知ったとして何になる。どうせここからは出ない。出てはいけないのだ。 「何年目かなんて、どうでもいい」 少なくとも、考えるのを諦めるくらい。それだけの時間、彼女は独りでそこにいた。 そこまで思い至ったとき、部屋の灯りが不規則に瞬く。 従兄の張ってくれた結界が不安定になっているらしい。 いつになるかは分からないが、次に目覚めたら自分で張り直そう。 そう考えて、彼女は再び目を閉じる。他にやることが無さすぎるせいか、眠る時間がどんどん増えているのだ。 もしかしたら二度と目覚める事は無いのかもしれないと、突拍子も無いことを考える。 しかし危うくも人間らしい感情を保っている彼女は、むしろそれを願う自分に気がついた。 扉を叩く音など、耳に入らなかった。 三章 躁鬱淑女 「……ほう」 そう一言呟き、顎をさする老人。ウィリー達に調査を依頼したあの老騎士である。 「……正直それ程だったとは予想外だ……奴等の目的は?」 「それがわかんないんだよな……爺さんは何か心当たりあるか?」 ウィリーは机にぐでんと突っ伏し顔だけをあげる。 あれから数日調査を続けたが、一向にあれ以上の成果は上がらなかったのだ。 「…………いや……心当たりは無いな」 少し考えるような間を開けた後、老騎士は申し訳無さげに言う。 彼はゆっくりと腰を上げ、外套を羽織ってポケットを探ると、ウィリーに何かを投げ渡す。何か小さな物がくるまれた紙片のようだ。 「何だ、これ?」 「すまんな、何かが分かったら連絡してくれ」 ウィリーの問いに答えずに、ゆっくりとした足取りで館を後にする老騎士。 ウィリーは彼を見送ると、廊下でいそいそと紙片を開く。 「マッドエンチャンターに研究されてからでは遅いからな」 そう書かれた紙片には、電子端末で解析する小型記録媒体が包まれていた。 「こういうことするからあんな閑職回されんだよ」 苦笑いしながらも、ウィリーの声はどこか嬉しそうに聞こえる。 老騎士の役職は、第十三騎士団長。役目は、反乱の鎮圧と示威である。あの「形骸化していない」部隊の殆どがここに属する。 とは言っても殆ど反乱など起きない世の中、ここ十年近くは訓練くらいしかやることもなく、新米には実戦経験が皆無の者すら居る始末。 そして、近衛騎士団副長だった彼が団長に任命されたのは三年前。左遷されたも同然だった。 ウィリーのような規則違反を繰り返した結果の決定だと噂されていたが、このぶんだとまだ懲りずに違反をしているらしい。 そんな老騎士を、ウィリーは非常に気に入っていた。 その時、くつくつと笑っていたウィリーに横合いから声がかけられる。 「……何をにやにやしてるんですか、気ン持ち悪い」 見ると、いつの間にかすぐ後ろに立っていたマリーが変なモノを見たような冷ややかな目でウィリーを見ていた。 「あぁ、マリーか。どうかしたか?」 「フレデリカ=テッセンを名乗る子の各種検査が終わりましたけど……、体の八割強が人工の物に置き換えられててわけがわからないってあの人が言ってましたよ?」 「あいつでも分かんないのか……じゃあ他の誰にも分かんないだろうし、もういいや」 この屋敷で医務を担当している女性の顔を思い浮かべ、手をひらひらと振って笑うウィリー。 ウィリーと共に学んでいた才能ある魔法師で、丁度医師が居らず困っていたウィリーに頼まれて屋敷で働くことを選んだ女性である。 ウィリーよりも幾らか歳上なのだが、医療に用いる魔法や術式を組み換えて老化防止に活用している為に同年代か少し下くらいにしか見えず、それを自慢にしていた。 「もういいやって……」 「で、フレデリカは?」 「…………もうすぐ起き出して来る筈ですけど」 飽くまで暢気なウィリーに呆れを隠せないマリー。そんな彼女の横をすり抜け、小柄な少女がウィリーに飛び付いた。 「なんなんですか! なんなんですかアレ!」 長身のウィリーの肩に腕を回し、四肢をフル活用してしがみついてガタガタと体を震わせているその少女は、誰あろうフレデリカである。 「アレ?」 「ととと惚けないで下さい!」 フレデリカは首をかしげるウィリーに必死の形相で詰め寄る。紛れもない、強い恐怖の念からくる表情に見えた。 「ただの検査だって言ったじゃないですか! なんで注射器投げて来るんですか! ニンジャなんですか!?」 「…………あー」 その言葉に、納得が行ったように頷くウィリー。そんな彼にフレデリカは更に強くしがみつき、襟に手を掛ける。 「あーじゃないのです! 私は死ぬかと――」 「貴女が逃げるからですわ」 「ひぃぃっ!?」 背後から聞こえた柔らかな声に身をすくませ、瞬時にウィリーから剥がれて彼の背後へ回るフレデリカ。 「穿刺検査が怖いと言ってお逃げになるから痛くないようにして差し上げようと」 「その遣り方が怖すぎるのです!」 「お逃げになるなら投げねば当たらないではありませんか? 私はどうにも足が遅くて」 「その思考回路が既に怖いです!」 「……嫌われてしまいましたわぁ」 気の抜けるようなふわふわとした声で全くもってふわふわとしていないエキセントリックな内容を喋るその女性は、フレデリカの発言に落ち込んだらしく、肩を落として項垂れる。 「うぅ、私はなぜ何時もこうなのでしょう……ただ貴女を愛でていたいだけですのに」 「愛でッ!?」 女性のこぼした愚痴に、更にガタガタと震えるフレデリカ。 「ち、近づかないで下さいぃ!」 涙目でそう半ば叫ぶように言う彼女に対して、それまで黙って見ていたウィリーは申し訳無さげに苦笑いした。 「ソフィア、相部屋になるんだからあまり虐めてやるなよ」 「相部屋! 相部屋あ!? こんなクレイジーな似非淑女と相部屋ですか! 断固拒否しますっ」 ウィリーの台詞を聞いたフレデリカは、半ば泣きそうになりながら叫び声をあげる。 「く、クレイジー……」 女性――ソフィアの方も心底傷付いた表情で涙を浮かべる。しかし彼女はクレイジーと言われた事自体より、フレデリカに言われたという事実にショックを受けているらしい。 「……申し訳ありません、私、駄目だと解っておりますのに……幼少期に色々ありまして、人との距離の測り方が、解らないのです」 途端にしおらしくなり、少し困ったような微笑みの形を崩さない糸目に大粒の涙を溜めるソフィア。 幾ばくかのあどけなさを残す美しい女性が微笑みつつも涙を今にも溢れさせようとしていると言う、西洋画の大家が描き出したかのようなその光景は、何故か自分の方が悪いことをしたかの様な罪悪感にも似た感情をフレデリカに抱かせた。 「私、今宵より医務室の寝台で寝る事と致しますわ……」 「え、あ、その」 「私のせいで、傷付けてしまって、申し訳ありません……。御機嫌よう」 「ま、待ってください!」 突然生まれたその感情はフレデリカの胸中を見る間に圧迫し、彼女は思わずソフィアを呼び止める。 「引っ掛かったな」 ウィリーの小さな呟きは、フレデリカには届かない。 「あの、わ、私も言い過ぎました」 「……私に気を使って下さらなくても良いのです、拒絶されて当然の行為をはたらいてしまったのですから」 「そんな、私も貴女の事を考えないであんな事」 「大丈夫です、……私には傷つく資格もありませんわ。あんな見苦しい言い訳までして……」 「相部屋でもいいですから……っ」 その時、漸くソフィアの脚が止まった。 「……本当に?」 「ほ、本当ですっ」 振り返った彼女の、どこを見ているのか分かり難い糸目に見据えられ、フレデリカは何故か気圧されて頷く。 「……有難う御座いますっ! 私、嬉しゅうございます♪」 袖でぐしぐしと目を拭う淑女らしからぬ行為に及んだ後、神速で肉薄し、フレデリカの手を取るソフィア。 「そうと決まれば御部屋を片付けねばなりませんわ! 失礼致しますっ」 とたた、と心底嬉しそうに軽やかな足音を響かせながら走り去るソフィア。後に残されて呆気に取られているフレデリカに、ウィリーの言葉が掛けられた。 「……あー、あんなんだが基本的にはいい奴なんだ、仲良くしてやってくれ」 「……ほんとに、何なんですかあの人」 フレデリカの問いに、ウィリーは少し寂しそうな表情になり、答える。 「人って言って良いのかは知らねーけどさ、アレだ、両親を早くに病気でなくした、まぁ孤児って奴で、人との距離を測れないんだ」 「……ほんとに?」 「嘘だけど」 涙さえ浮かべていた顔をころりと笑顔に変えるウィリーに、フレデリカは少女らしからぬ唸り声をあげる。 まぁ、孤児ってのはホントなんだけどさ そう小さく呟いたウィリーの声には気がつかぬまま。 三章半 追憶 十二月二一日 「あ、そう言えば」 「何ですか?」 ある日の夜。私は、大好きな人と、寮の自室で談笑していた。 「明日の五限は何をするんでしたか、先生が仰っていたのに忘れてしまいました……」 「ほんとに忘れっぽいですねぇ、薬草学の実地調合演習ですよ」 私の大好きなお友達。何時も明るくて、才能もあって、優しくて、物腰がやわらかくて、少し食いしん坊で、私と同じで熊が大好きで、そして何よりも私なんかと仲良くしてくれて。 今年のお誕生日には、十二本の蝋燭を立てたケーキまで作って来てくれた。 クラスも選択科目も違ってしまったから学校では近頃会わないけれど、寮監の目を盗んで毎晩お話に来てくれて。 嬉しかった。 「面倒ですわ」 「ほんとにね」 点呼までの短い時間だから、扉を隔てての立ち話。前よりも少し大人びた声。 私の大好きな時間。 その時、先生の声がした。 「おい、何時まで喋って……またお前か」 あらら、見つかっちゃった。……しょうがない、謝ろう。 「えっと、ごめんなさい。*****さんとのお話が面白くてつい」 そう言うと、先生は溜め息をついた。扉の向こうでは肩を竦めて首を振っているに違いない。 「あのなぁ、……あいつが起きてる筈がないだろう」 ……どうやったのか、私のお友達は先生に気づかれずに逃走を成功させたらしい。 ぐぬぬ、寝たふりしてればよかった。 「もう寝なさい。……何時までも夢見心地じゃいかんぞ」 「はーい……」 私は渋々ベッドに潜り込む。 先生のケチ。ここ数ヵ月顔も合わせてないんだから、ちょっとくらい許してくれてもいいのに。 …………一度くらい、扉を開けてお話ししたいな。 十二月二二日 「もうすぐ聖誕祭ですわ」 「私達は十字教徒ではないですよ?」 今日も扉越しに交わす会話。話は、三日後の聖誕祭の話題になった。 「それでも御目出度い日です」 「それも、そうですね」 お友達は私の台詞に、少し呆れながらも同意してくれる。 五分間ほど楽しく語らった後、私はためらいつつもあの話を切り出した。 「聖誕祭の日は、少しだけ扉を開けてお話ししません?」 「うーん……それはダメです」 少し考えて、お友達は私のお願いを拒否した。 意外だった。あっちも私の顔を見たいと思ってくれている筈だと勝手に決めつけていたから。ちょっぴりショック。 「貴女が扉を開けたら、私が壊れてしまう」 壊れる? 「どういう意味ですか?」 「……あはは、変な言い方をしてしまいましたね! 一度顔を見たら、私が我慢できなくなってしまいそうで」 ほんの少しだけ言葉に詰まったような感じがしたけど、気のせいだったんだろうか? 「だから、ダメですよ」 「…………分かりました」 少し辛かったし、残念だった。 私の大好きなお友達。私の大切なお友達。私としては、我慢してくれなくてもいいんだけどな。 かおがみたいな。 十二月二三日 「明日の前夜祭には出席するのですか?」 「私は……しません。できれば貴女とお話がしたいのですが……大丈夫かな」 はにかみながら、そう言ってくれたのがとても嬉しい。前夜祭にも出ずに、私とお話がしたいだなんて。 「……先生に怒られますよ?」 「廊下を警戒しながらなら大丈夫でしょう?」 あう。やっぱりまた扉越しのお話しになってしまった。 お喋りできるのはとても嬉しいけれど、少しがっかりでも、よかった。また明日もこうして、お話ができる。しかも、何時間も二人きりで! 私の大好きなお友達。私の大切なお友達。そしておかしいって言われるだろうけど、私の初恋の人。 ……でも、かおが、みたいな。 十二月二四日 今日は前夜祭。先生も生徒もほぼ総出で楽しむ、学内でも一、二を争う一大イベント。 皆前夜祭に行ってしまって、いつもより更に静かな、がらんどうの寮。 自室とその前の廊下に、二人きり。 「前夜祭、盛り上がってるみたいですね」 「そうですねぇ、去年よりきっと盛り上がってますね」 「行ってきても、いいんですよ?」 「いいえ、貴女と一緒にお喋りしている方が楽しいです」 私は顔を赤らめる。こんな事を言ってくれるなんて、もしかして相思相愛? ……いやいや、早合点はダメだ。火傷をする。クラスメートはそれで恥をかいて、三日間くらい放心状態だったじゃないか。 私は冷静を心掛けながら、お喋りする。けっこう大変だけど、やっぱり楽しい。 扉越しだからかたまに聞こえ難くなるけど、それもそんなには気にならない。 「どうしたんですか、今日は。何時もより歯切れが悪いですよ?」 ……一時間経たない内に見破られてしまった。やっぱり隠し事はできないな。 正直に言った方が、いいんだろうか? 「…………っ」 でも、声が出ない。 怖い。想いを口にすれば、この関係が崩れてしまいそうで。軽蔑されそうで。だから。 「せめて、少しでもいいですから」 大好きな貴女の。 「お顔が、見たいですわ……」 「……それは、駄目です」 「何で……?」 やっとの事で絞り出した声は、拒絶された。 「駄目ったら、駄目です」 「理由になってませんっ」 「一昨日言いましたよ?」 「納得、できません……!」 「…………兎に角、ダメです」 「~~~~っ!!」 押し問答はもうたくさんだ。先生に大目玉を食らったって、構わない。私は扉に駆け寄った。 「ダメ、開けちゃ……!」 「もう限界ですわ…………!」 彼女の制止を耳にとめず。 彼女の言葉を遮って。 私は扉を開ける。 扉が開いた。 その扉の先には。 私が大好きな彼女は。 私の大切な初恋の彼女は。 居なかった。 何で? どうして? 私のお友達は何処に 理解できない 消え去って 扉の先に誰も 声だけが ……その声は何処から。 何処から? 「あぁ、そうでした」 〝私の口から〟あの娘の物だった声が発せられる。その声は、さっきまでとは違って、ひどく冷たく感じられた。 先生は、「起きてる筈がない」と言った。その通りだ、あの娘は二度と起きてはこない。 「私は」 クラスも選択科目も違う彼女は、前日に予告されたばかりだった私の受ける授業を知っている筈がなかった。 「私の大切なお友達は」 彼女は一昨日言ったのだった、「私が壊れてしまう」と。私はその忠告を聞かず、扉を開けた。開けてしまった。 数瞬の沈黙を砕こうとするかのように、無駄に豪奢な柱時計の針が零時を指し示す。 「「去年の暮れに、とっくに戦争で行方知れずに成ったのでした」わ」 十二月二五日。 鐘が、鳴った。 そして、どれだけの年月が経ったのだろう? 私の前には、 …………………………かちり
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登録日:2010/10/03 Sun 03 34 41 更新日:2022/01/31 Mon 00 40 49NEW! 所要時間:約 3 分で読めます ▽タグ一覧 fortissimo ワルキューレ 召喚せし者 戦乙女 Walkure 戦略破壊魔術兵器 Unknown 能力 Unknown BATLE STATUS 破壊力 Unknown スピード Unknown 射程距離 Unknown 持続力 Unknown 機密動作性 Unknown 魔力総量 Unknown 成長性 Unknown fortissimo/Akkord Bsusvierの登場人物 芳乃零二の窮地に現れる謎の女性『召喚せし者』 黒のウェディングドレスを纏い戦場を駆ける戦乙女のようなその姿からその呼び名が付いた 圧倒的な実力を持ち、誰もが苦戦するゲームマスター有塚陣すら手玉に取るほど その正体・能力は全てが謎に包まれている 基本的に黙して語らずだが、声を聞いた皇樹龍一には聞き覚えがあるものだった 以下ネタバレ その正体は星見学園生徒会長、雨宮綾音その人 戦略破壊魔術兵器 ストリングロード 形状 ウェディンググローブ 能力 無に還った少女(ブリーシンガメン) BATLE STATUS 破壊力 A スピード C 射程距離 魔力次第 持続力 S 機密動作性 C 魔力総量 C 成長性 F その能力は「運動エネルギー自在」とでも呼ぶべきもの ストリングロードから放たれる魔力のピアノ線は、触れたものの運動エネルギーを零にすることで絶対の盾『無に還った少女』に 逆に無限といえる運動エネルギーの増加により、あらゆるものを切断する絶対の剣『裏切りの女神(ダウィンスレイブ)』となる 欠点は、範囲を広げるとその分魔力消費が増え、維持が困難になる点が挙げられる 龍一・なぎさのデートをフォローした帰りの零二の前に綾音の姿で現れ、この島の異常性を指摘する が、そこに現れた怒れる陣によって『悠久の幻影』に引き込まれ、その正体を現す しかし、自分の力に奢り、いけしゃあしゃあと話し続ける陣を問答無用で拘束。声も出せず、指一本動かせない状態で放置し、零二に事情を説明する 全ては零二を守るためだ、と その立ち位置ゆえ友達も少ない自分に、初めて、それも会ったばかりのその場で対等であってくれた零二に心奪われた綾音は、密かにそのマホウでもって零二を守り続けていたのだと だが、その狂気とも言える偏執に染まった綾音は、親友である里村紅葉や鈴白なぎさ、さらになぎさの想い人である龍一さえも、零二に危害を加えるなら殺すと、躊躇いなく言ってのける そんな歪んだ偏愛を零二は理解出来ず決別。残った陣の『ギャラルホルン』を破壊し、その魔力を得て『悠久の幻影』を解除した そして、自分がオーディンと繋がっていると見た、最も零二の障害と成りうる龍一を尾行。アウロラの滝にて戦闘に入る あらゆる攻撃を無効化する『無に還った少女』、マングローブ林さえ切り開く『裏切りの女神』により優位を維持し、遂に龍一のマホウを捕縛 だが、「相手の魔力を自分の魔力に変換・蓄積する」という『雷光を打ち砕くもの』の性能を知らず、逆にその魔力を強化してしまう そして、莫大な魔力を確保したことにより龍一が放つ、必殺の神話魔術『統べてを超越せし九つの雷光』に貫かれ、この『最終戦争』から敗退した ――「残る『召喚せし者』は自分たちだけ」という、不吉な言葉を残して 追記・修正よろしく △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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「……おい、まだ向かわないのか?」 あなたが件の洞穴の入口を開けてから、それなりの時間が経った。 それでも尚一向に入ろうとしないあなたを、スプリング・デイが咎める。 彼女には、あなたを洞穴に急がせる理由があった。 が――時既に遅し。 「ヒャハハハッ! こんな所に居やがったかァ!!」 拠点に大きな声が響く。 振り向くとそこには、全身に犬のような毛が生えた少女がナイフを構え立っている。 「ふむ、やはり出たか……駄犬め」 スプリング・デイは、落ち着いた――と言うより、既に予見していたかのような――様子で応じた。 その様子が気に入らなかったのか、現れた少女は更に語気を強める。 「あァ!? このファング様に大層な態度取ッてくれるじゃねェか!!」 「フン、弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだ」 スプリング・デイの尊大な態度を受け、ファングと名乗った少女は早くも沸点に達した。 「Grrrrr!! 許せねェーッ! くそッ! このファング様を! ファング・ザ・ハウンドドッグ様を愚弄しやがってーッ!!」 ファング・ザ・ハウンドドッグ。それが彼女の名らしい。 「騒がしい奴は苦手なんだ。 ……おい、先に簡単にヤツの説明をしておく」 この状況でも、スプリング・デイは落ち着いた様子であなたに語りかける。 「奴は【レイダー】 ……私達【メイデン】と似て非なるものだ。 奴らは複数の人の魂から成る擬似生命体で、その性質ゆえ身体の維持のために人間の魂を欲する。 つまり――ヤツに対して遠慮は無用と言う事だ。 例え姿がどのようなものであったとしてもな」 スプリング・デイはそこまで言うと、するどい爪を出し構えを取る。 「何にせよ、ここは何とか――凌ぐぞ!」 「アォォーンッ!!!」 研ぎ澄まされた牙と凶刃が、あなた達に襲いかかった!