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■霊夢6 チリーン…チリーン… 風鈴の音が、博麗神社に響く。 喧しい蝉の鳴き声はまだ聞こえはしないが、うだるような暑さの中、僕と霊夢は縁側で横になっていた。 「暑い…」 「…次暑いって言ったら罰金よ」 「ううう…」 チリーン…チリリーン… 生暖かい湿気を含んだ風が、僕たち二人の横を通り過ぎていく。 「仕方ない」 僕は呟くと立ち上がり、縁側の庇の下から出た。 疑問符を浮かべる霊夢を横目に僕は神社の境内のとある場所に向かった。 「霊夢、井戸を借りるよ」 ──────────────────────────────────────────────── 手押し式の井戸から溢れる冷たい水。 流石井戸水。一年通して温度の変わらないってのは素晴らしい。 僕は桶いっぱいに水を溜め、それをおもむろに被った。 「うひゃ~~! これは効く~!」 骨の髄まで冷やされる快感に僕は思わず叫んでしまった。 続けてもう一杯。 ─バシャーン─ 「あら、面白いことやってるのね」 てくてくと歩いてきた霊夢が僕に声をかける。 「霊夢もやるか? 冷たくて気持いいぞ」 水の入った桶を見せる。 「遠慮しておくわ。服も着ているし、そんな事しなくても他に方法が ─バシャーン!─ 言い終わる前に、僕は水を霊夢にぶっかけていた。 「涼しくなったかい?」 顔に張り付いた髪の毛を救い上げ、ぷるぷると顔を左右に振る。 「…やったわね?」 ニヤリと、無邪気な顔を浮かべた霊夢が飛んできた。 その後はもうぶっかけ合いだ。もちろん水の。 桶を奪い合い、頭から背中から、お互いに遠慮なく水をかけ合う。 ひとしきり水をかけ合った後、僕のほうから停戦を持ちかけた。 「流石に、もう、疲れた…」 「そうね、もう終わりにしましょうか…」 霊夢の方も結構疲れていたようだ。肩で息をしている。 「んじゃまぁ着替えますか。この気温だと外に干しておけばすぐに乾く…ッ!?」 その時僕は気付いた。いや、気付いてしまった。 わなわなと震え霊夢を睨む僕に、向こうも気付いた。 「どうしたの?」 腕をゆっくりと挙げ、霊夢の一部分を指差す。 「霊夢…お前、”サラシ”はどうした?」 ? と疑問符を浮かべ、霊夢が自分自身の胸を見る。 サラシを巻いていない状況で水をかけ合ったものだから、その…なんていうか、服が素肌に張り付いてて、その… 暫く霊夢は硬直し、そのままゆっくりと顔を上げた。 ものすごい笑顔だった。 ただ目が笑ってなかった。ついでに背後にドス黒いオーラが見えていた気がする。 「あなた、まさかコレが目当てで…」 「違う! 誤解だ霊夢! 僕は決して霊夢のT☆K☆Bを見たいがためにこんな事をしたんじゃなくて 問・答・無・用 博麗神社の境内で爆発音が起こった。 後日 「博麗神社にて真昼間から汗水垂らしながらの(小文字で”水の”)ぶっかけバトル!」 とかふざけたタイトルで新聞を出した烏天狗の小娘を霊夢と美味しく頂きました。 もちろん性的な意味で。 4スレ目 592 ──────────────────────────────────────────────── 俺にあまり力はないけどいっしょに幻想卿を護ろう。→霊夢 4スレ目 676 ──────────────────────────────────────────────── 231(魔理沙2)のパラレル、ひらたく言えば霊夢ルート 博麗神社にて ほうきを上手に使うコツ。それはごみを引きずるようにゆっくり掃くことだ。 あせって勢いをつけてしまうのは素人の犯しがちなミス。これではごみが飛び散りいつまでやっても掃除は終わらないだろう。 最初はじれったく感じるに違いない。しかし、なんでもそうだが、意識して続けていれば思っていたよりも早く慣れるものだ。 僕ほどの達人になると自然な動きの中で行うことも可能。いや、それだけではない。 僕の体には、咲夜や妖夢でさえ手出しのできない人間の身体能力の限界に肉薄しなければとうてい実行できないような驚異の(省略)。 その掃除法を可能にしているのはヒラメ筋を中心とした日々の弛まぬ筋力トレーニングであり、(省略)。 とはいえ、これを習得するにはあまりにも多くの月日を必要とするので(省略)。 そんなあなたのために開発されたのがこの○○スペシャル(省略)。 ○○スペシャルはあなたに快適な掃除(省略)。 ○○スペシ(省略)。 (省略)。 「なんてこった。こんな素敵なアイテムがたった一万円だなんて、今すぐ買うしかないね? 霊夢?」 「あんた、いったい何の話をしているの?」 「……」 それはこっちが聞きたかった。 「いや、掃除はまじめにやってるよ? 屋内はもうすっかり片付いたから、あとは外をかるく掃けばおしまい」 葉っぱのぎっしり詰まった賽銭箱にかけたまま、さぁ褒めろ、と言わんばかりに胸を張ってみせた僕に対して霊夢は。 「ふーん。そのへんはさすがよね。やっぱり」 と、えらく淡白な反応を示してくれた。 彼女のそっけない態度にはとうに慣れている。僕は気にせずにこの後の予定について彼女と話し合うことにした。 「掃除は午前中に終わるから、昼はゆっくり休んでそれからつまみの準備をはじめれば問題ないと思うよ」 「そうね。お昼は用意するからあがって行きなさいな。おにぎりくらいしか用意してないけど」 どこからともなく聞こえてくる鬼の悲鳴を聞き流しながらうなずいてみせる。 その申し出は正直ありがたかった。仮住まいの食糧倉庫は昨晩を以ってお役御免となっている。 今夜の宴会まで食事にはありつけまいと考えていたので願ってもいない言葉だった。 そうと決まれば話は早い。境内の掃除を丁寧かつ速やかに済ませてしまおう。 合言葉は「ゆっくり急げ」だ。 目が覚めてまず目に入ったものが木々の枝葉とまばらに見える青空だったことに軽く驚いた。 しかし、それも今のいままで僕が枕代わりにしていたものが霊夢の腿だったことに気がつき、吹き飛んだ。 即座に起き上がる。午睡のために中断した仕事のことが頭にあった。 すると、それを妨げるものがあることがわかる。彼女の手がちょこんと肩にのっかっていたのだ。 ただそこに置かれているだけ。そんな小さな手を退けることに、どういうわけか僕はためらいを覚えた。 大木に背を預けたまま目を閉じている霊夢をちらりと見やり、上半身を半端に持ち上げた状態で様々なことを考えるでもなしに考えてみる。 お昼のおにぎりは本当に大きかった。萃香は何を食べたのだろうか。鬼がおにぎり食えないって、そりゃただの冗談じゃないのか。 夜は少しいいものを食べさせてやりたいものだ。宴会。夕飯の支度。 かくて思考はループし、残った仕事を再確認するはめになってしまった。 今晩の宴会に出すものを用意しなければならない。僕は再び起き上がって台所へ向かうことに決めた。 肩にかかった霊夢の手を両の手でそっと包み込んで腿の上に乗せる。さっきまで僕の頭があった場所だ。 ぽた。 今度こそはと立ち上がろうとした僕の耳に水の落ちる音が届いた。 見上げると瑞々しい緑のむこうに気味が悪くなるほど青い空が広がっている。 それではと振り返ると、果たして霊夢の袴が幽かに滲んでいた。 鮮やか赤がくすんでゆく様をじっと眺め、それからじりじりと視線を上げる。 するとやはり霊夢がはらはらと涙を流して―――いなかった。 彼女の顔には泣いていたような形跡はまったくない。寝息も至極穏やかで、まるで図ったかのようだった。 「……あれ?」 「……」 思わず天を仰ぐ。狐にでも化かされたか? 再び袴に目をやるともう乾いてしまっている。夏ももう終わりだというのに。太陽も最後の一仕事と張り切っているのだろう。 こうなると、先ほどの水音も袴の染みも本当にあったのか疑わしくなる。 幻だったのかもしれない。それは実に魅力的な考えだった。ここではこんなことは日常茶飯事なのだ。 だいたい、霊夢に泣くようなどんな理由があるというのか。少なくとも、僕にはそんなものは思いつかない。思いつかないのだ。 もう振り返るまい。先ほどの出来事を幻と決め付けると、立ち上がって風を切る音がするほどの勢いで木立の外へと歩き始める。 ――むきになっちゃって。 いつから見ていたのか。霧状になった萃香が茶化してくるがきっぱりと無視して木々の間から抜け出る。視界がさっと開ける。 彼女の言葉遊びに付き合う気などまったくない。 そもそも、僕はむきになんかなっていないのだから何を言われようが痛くもかゆくもなかった。 知らず握り締めていたこぶしから力を抜き、少し大げさに肩をすくめてみせる。いまの僕はさぞ嫌なやつに見えることだろう。 ――へぇ、そういう態度とっちゃうんだ。それなら「…………な……で」……え? 歩みが止まる。 いま、何が聞こえた? 「おい」 ――私じゃないよ。声、ぜんぜん違ったろ? そう。それはわかっている。彼女ではない。僕でもない。ならば残るはひとりだけだ。 しかし、いま訊ねているのはそういうことではない。 「そうじゃなくってさ。『何て言ってたんだろう』って意味」 ――あ、ああ、そういうことか。たしかに人間の耳には聞き取り難かったかもね。えっと、「――――――――――」かな? 眩暈がした。 空を見上げる。 あの手を伸ばしても届かぬ高みにある青い何かを見つめているうちに、ふっと、このまま誰にも気づかれずに消えてしまいたいと思った。 遠くから歓声が聞こえる。 もうじき僕とは縁がなくなる人々の声。 それをかみ締めながら、僕は一人の妖怪と対峙している。 八雲紫。 特異な能力を持つものが多くいる幻想郷においてなお突出した能力を持つ女。 幻想の中の幻想。一人一種族の妖怪。 彼女がいま、僕の敵として目の前に立とうとしているのだ。 これを脅威と言わずして何と言おう。 「宴も酣」 しかし。 「楽と苦の境界」 どうしたわけだろう。 「じきに酔いつぶれて倒れてしまう」 いまの僕は。 「翌日彼女達を襲うのは地獄のような二日酔い」 ちっとも。 「そして、大切な友人を失ったという埋めることのできぬ寂寥」 ちっとも彼女を恐れてなんかいない。 「○○。あなたがここに留まらぬと言うのなら、私は殺してでも引き止める。それでいいかしら?」 ――その瞬間。何かがズレた。 遠くに見える薄明かり。みんなが火を囲んで酒を飲んでいる風景。 先ほどまで確かにそこにあったはずのものが、いまではどこか白々しい。 まるで、壁にかかった絵を見ているような感覚。 はっきりとわかる。僕はあそこに帰れない。 「わからないなりに事態を把握しているみたいね。こういうこともできるの。 さぁ、いますぐ私に殺されるか外へ帰るのを止めるか、選びなさい」 そう捲し立てると、紫はプイとそっぽを向いてしまった。 そんな彼女のほうへ僕は一歩一歩進んでいく。一歩。二歩。三歩。 そうしてお互いの息がかかりそうなほど接近し、彼女がこちらに向き直った瞬間。 僕はヒョイと脇に退いた。 訝しげな紫を尻目に僕はさらに進む。神社の焚火を目指して歩き、歩き、歩く。 ふと、背後の紫がどんな表情をしているか気になった。 が、すぐに振り払う。放って置いてもすぐにわかることなのだ。僕は歩数を数えながら進み続けた。 歩数が三桁に突入するかという頃、再び目の前に八雲紫が現れた。 むき出しになった木々の根の形状。枝葉のつき方。すべてが先ほど僕達が立ち会っていた場所のものと一致していた。 ループしている。 自分の予測が的中していたことに若干の満足を覚えながら、紫の表情を伺う。 無。 いまの彼女からはどんな感情も読み取れそうにない。そんな表情。 しかし、不意に。 「覚悟は」 仮面に亀裂が入る。 「できているのよね?」 殺される覚悟はあるのか。そう訪ねる彼女の顔はなぜか悲しみに歪んでいた。 それを見て、鈍感な僕もようやく気がついた。僕が彼女を恐れるはずがない。 「あなたは僕を殺せない」 なぜなら。 「三回。あなたが注意を喚起した回数です。もしも本気なら、二回目以降はなかったでしょうね」 なぜなら、彼女は僕をこんなにも気遣ってくれている。 黙ったまま彼女とすれ違う。 今度は何ごともなく戻ることができるだろう。 徐々に近づいてくる明かりを見つめながら、いつか誰かが言った言葉を口ずさむ。 「『行かないで』か」 4スレ目 883-885 ──────────────────────────────────────────────── さて、僕がこの幻想郷に来てどのくらいやら。 運が無いのかどうなのやら、妙な妖怪に襲われて、そこを霊夢に救われて。 その後はいろんな人と宴会やって、散々言い訳並べて片づけを9 1の割合でこなしたり、もちろん9割は僕だ。 「ふー、しかしここに来て1年なのに向こうで10年を過ごしたような気分だよ」 夏の夜空を眺めつつ、神社の縁側でお茶をすする、もちろん、一番茶などという気の効いたものは無いので出がらしだ。 「それだけ人生が充実してていいんじゃないのー?」 「まぁそうなんだけどね、濃厚な人生ってことなのかな」 いつの間にか僕の横にいた霊夢がいつものようにお茶をすする、これだけ見ると茶のみ仲間みたいだ。 しばらくの静寂、夜の縁側に響くのは茶をすする音。 「偶には静かな夜もいいわね」 「うん、最近萃香のテンション高かったせいか連日宴会だったからね、こうやって2人で話す暇なんて無かったよ」 「ねぇ、○○」 「どうしたんだ?霊夢」 すると霊夢は僕の体に寄り添い、呟いた。 「しばらく・・・・、こうしててもいいかしら?」 「うん、気の済むまでご自由にどうぞ」 「ありがとう、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」 「死ぬまで、いや、死んでもこうして隣にいてくれるかな?」 「私も既にそのつもりよ、これからも末永くよろしくね、○○」 前スレまでROMってたけどふと触発されて描きたくなった、満足はしているが後悔はしていません。 自分の脳内の8割を占めてた妄想を拙著な文章力で書いてみたらなにやらぐだぐだというかなんというかorz 5スレ目 58 ──────────────────────────────────────────────── やったよ霊夢、ついに紅をノーマルでノーコンティニュークリアできたよ! 「おめでとう。(でも貴方が下手糞だったおかげで私は何度も何度もボロクソだわ、魔理沙も使いなさいよ)」 だから約束どおり紅魔湖にスワンボート浮かべて二人っきりで一緒にk 「あら?あなた紅をクリアする前から妖々夢なんか買っちゃったじゃない。 あっちは放りだすつもりなの?」 くっ・・・わかったよ、今は霊夢の腋でがまんするよ! 「ちょ、いや!変なとこ触らないで!(飲みかけの暑いお茶を○○にぶっかけます)」 うわっちゃ、熱い!熱い!溶けっ!! さて、妹様に会うためまたがんばります 5スレ目 114 ──────────────────────────────────────────────── ツンデ霊夢が縁側にて この暑さのため、霊夢は普段の髪型ではなく、後頭部付近の全ての髪を ポニーテールにまとめていた。 したがって、腋はおろか、その白いうなじまでが綺麗に露出していて ○○は劣情を催してしかたがない。最近流行りのアレを試すことにした。 「なぁ霊夢」 「茶菓子ならもう無いわ」 即答、茶菓子をきらせた霊夢はご機嫌斜めの様子だ。 先手をとられたかたちの○○は、それでも意を決して巫女に胸中を伝える。 「そうじゃなくて、さ」 「何よ」 「押し倒してもいいか?」 「・・・なんですって?」 霊夢の目つきが変わり、その冷たい視線が○○を貫徹する。 ○○、やはり霊夢相手にこの台詞はまずかったのではないかと後悔する。 彼女の袖からは針が数本、顔を出しているではないか。 「・・・いや、ごめん。なんでもないんだ、許してくれ」 「・・・ふん」 針を引っ込めた霊夢は、蔑みの表情を浮かべ、言った。 「何よ。そんなことを一々聞いて、女の子一人押し倒す勇気もないの?」 「れ、霊夢」 「それとも、○○は、女が、怖い?」 茶化すような台詞に俺はついかっとなって (省略されました。続きを表示するには指先ひとつでダウンさ!) 5スレ目 172 ──────────────────────────────────────────────── 「あー、暑いわ暑いわ暑くて溶けそう」 「暑いな」 霊夢がだらしなくだれている。 「沢に水浴びにでも行くか」 「それはめんどくさい」 「そりゃそーだが、このまま寝ることもできんだろ」 この暑さじゃなぁ……。 「あー、そうだ。いいこと思いついたわ。ちょっと出かけてくる」 「え?」 縁側の床の冷たさを身に取り入れようとしているだらしない姿 勢のままで霊夢がふわふわと宙を飛んでいった。 「あっちは……紅魔郷だよな」 そういえば、時を操るメイドなんて非常識なのがいたっけ。 彼女の力なら、空気中の分子の動きを緩やかにして気温を下げる なんていう芸当ができるのかもしれない。 それをあてにして行ったというのなら――おとなしく待とう。 いい加減、俺もこの暑さには参っていた。 そして、正午頃、霊夢が喜色満面の笑みで帰ってきた。小脇に ズタボロの氷精を抱えて。 「……チルノじゃないか」 ああ、彼女なら好きなように氷を作れるし、彼女自体体が冷たい。 「あー、ひんやりして気持ちいいわ」 「……災難だな、チルノ」 「はーなーせー!!」 「離すもんですか。アーヒャッヒャッヒャ! ○○さんもくっつきなさいよ。冷 たくて気持ちいーわよ」 ほい、と霊夢からチルノを渡される。 思わず抱きとめて、その冷たさに感動する。 「あわわわ……!」 チルノの狼狽した声が聞こえる。それもそうだな。いくら見た 目がガキンチョだとわいっても女の子だ。異性に密着されれば、 平静ではいられないだろう。 ……そういうことに気づいてはいたが、かといってチルノを解放 するほど正気を保っていられるわけでもなかった。 なにせ── あ つ い その一言に尽きる。 暴れるチルノを、俺は頬ずりしかねんばかりに抱擁する。 が、それが不意に収まった。 怪訝に思って、チルノの顔を見ると、紅潮していた。 「な、なに? あたいは忙しいんだからね! 涼みたいんなら、 早く済ませてよね!」 そう言って、今度はチルノの方から、くっついてきた。 Oh, It s coooooooool!!!! さあ、幻想郷の端っこで抱き合おう! とばかりにチルノ を抱きしめようとしたら──霊夢にチルノをひったくられた。 「○○さん、もう十分でしょ?」 「エエ、モチロン」 霊夢が怖い。そう答えるしかなかった。 しばらく、霊夢がチルノを堪能しているのを眺めているばかり で、ムラムラ──もとい、イライラしてきた。もちろん、暑さ で、だ。勿論、やーらしいことも少しは考えているけどさ。 「○○さん、○○さん。こっちきて」 霊夢に呼ばれて、ようやく俺にもチルノに触らせてくれるのか、 と喜び勇んで寄っていくと──いきなり、霊夢に抱きつかれた。 「あ……え……?」 「ほ、ほら、どう? わたしだって冷たくて気持ちいいでしょ?」 確かに霊夢の体は冷たくなっていて、気持ちよかった。 「ああ、気持ちいい──けど、霊夢が体冷やしすぎになっちゃう じゃないか」 「ん? 別にいいじゃない。○○さんも涼しくなれるし」 「女の子が体を冷やしちゃ──」 「ああ、もう。うるさいわね。だったら○○さんが暖めてよ」 いや、そうは言ってもね。チルノに逃げられたらどうすんのよ。 そう思って、チルノを見ると、氷のような透明な羽を広げたまま 大人しくしていた。 どことなく、羨ましそうにしているように見えて、俺は── 「チルノもおいでー」 と誘った。 チルノが突進してくる。 ……ちょっと待て。その勢いはさすがにまずい。 と言おうとしたが、間に合うはずもない。 「ぬぐっ!?」 霊夢が肺を押し潰されて、ひしゃげた息を吐いた。 一通り、咳き込んだ後、霊夢は霊気を立ち上らせて一言言った。 「くぉら、チルノ……」 「あ、あたい、今日は大蝦蟇と果たし合いの約束してたんだった。 そうだった。じゃあね!」 そう言って、チルノは天狗もかくやと思われるほどの勢いで飛ん でった。 「……霊夢が脅かすから、逃げられたじゃないか」 「いいじゃない。まだ、わたしだって冷たいでしょ?」 「まあね」 霊夢と一緒に縁側に座り、身を寄せ合うことにしよう。霊夢の心 地よい冷たさが、熱気にむしばまれるまでは。 22時間どころか36時間orz 5スレ目 216 ──────────────────────────────────────────────── ※冷房を20℃に設定して、三十分お待ちください ――少女冷却中―― 「……ただいまー」 長すぎる冬のある日。昼前に霊夢が飛び出していって、半日経って博麗神社に帰ってきた。 「ど、どうした、霊夢? ずいぶんボロボロじゃないか」 「うるさいわね」 「げ、それ血じゃないか。薬箱どこだっけ?」 「かまどの脇に置いてあったような――なかったような」 「とってくる」 「ん、お願い」 「癪だわ。というか癪だわ」 土間から薬箱を持って戻ってくると、何やら霊夢がぶつぶつ呟いている。 「薬あったぞー、そら脱げ、やれ脱げ」 「はーい……」 霊夢は服を脱いで、背中をこちらに向けた。 切り傷やら擦り傷に軟膏を塗ってやる。 ちなみにサラシは巻いたままである。 残念じゃないさ。ああそうさ!(゚⊿゚) 悲しくなんて――ない!(゚Д゚) 「いたた」 「我慢してくれぃ。にしても、珍しくこっぴどくやられたな」 「あの@のせいで力が抜けたわ」 「アットマーク?」 「こっちのことよ。もう全部塗ってくれた?」 「ん、手際悪くてすまんな。まだだ。でも、もうちょい」 「早く済ませてね……っくしゅん!」 「んー、寒いなぁ……ほい、終わり。風邪ひくなよー」 「ありがと」 霊夢が服を着る。 包帯が必要なほどの深い傷がなかったのは何よりだが、 傷ついて帰って来るというのは心配だった。 どこに行っていたのか、聞いてみたがはぐらかされる。 気にするな、ということだろうか。 「お風呂、入りたい」 霊夢が唐突に言った。 「あいよ」 風呂を沸かしに行った。 霊夢が風呂に入ったので、薬を塗り直した。 二度手間なのに、なぜかほのぼの。 湯冷めしたのか、霊夢がもう一度くしゃみした。 暖めてやろうと思って抱きすくめると、抵抗された。 離れると、恨めしい顔をされた。どないせーと?(;´Д`) 囲炉裏を挟んで、雑談する。 が、どうにも辛気くさい話題しかない。 里では来年の作物の実りが心配だという声が多い。 病人も増えるばかりで、なかなか減らない治らない。 「茶葉が心配だわ」 「そうだな」 お約束な霊夢の言葉に、少し苦笑して頷いた。 パチパチ……パチ…… お互いに黙ると、時折炭が爆ぜる音がことのほか大きく響く。 炭も残り少ない。まあいいか。この天候だ。 木もどんどん枯れていっているから、薪は山に入ればいくらでもある。 とはいっても、はげ山になってしまえば、来年以降どうしようもなくなる。 ……あー、先行き不安だ。 でも、まあ――なんとかなるさ。 「もう寝るわ」 「おやすみ」 「おやすみなさい」 霊夢が寝てしまい、一人で囲炉裏の火を見つめる。 「……なんとかなる、とは言っても、なんとかするのは霊夢なんだよな」 うーむ、歯がゆい。 ま、いいや。寝よ寝よ。 翌朝。 起きると、咳が出た。 縁側に出てみると、積雪が高さを増していた。おまけに風まで強い。 「あっちゃー、風邪ひいたかな」 昨夜、自分が注意しておいて自分が風邪ひいちゃ世話ない。 「飯炊くついでに暖とろっと……」 土間に行く途中、霊夢とでくわした。 「おはよう」 「おはよう……顔、赤いわね」 「微熱はあるかも。でも頭痛もしないし、大事ないだろ」 「そう? だといいけど。ああ、雪おろしはわたしがしておくわ。落ちると危ないし」 「そりゃ助かる。じゃ、飯作ってくる」 「ん、お願いね」 かまどに薪を放り込んで着火。 火付けの松葉はたっぷりあったが、それすら心許なくなってきている。 春が来ない 春が来ない 何処行った? 年季の入った竹筒で風を吹き込みつつ、炎が燃え上がるのを待つ。 しかし、なかなか火の勢いが強くならない。おまけに煙も多い。 「あーあ、連日の雪で湿気たか……」 さらに息を強く吹き込もうとして――うかつにも煙を吸い込んだ。 「けほっ、うげほけほっ……ごほごほ」orz うずくまって咳き込む。 「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」 激しく咳き込む音を聞きつけて、霊夢が文字通り飛んできた。 「ん ケホケホ 大丈夫。ゴッホゴッホ 煙吸い込んだだけ」 「はぁ、もう……びっくりさせないでよ」 「ごめんごめん」 「…………」 霊夢がこっちに指先を伸ばし、かすらせるように頬を撫でた。 「霊夢?」 呼びかけてみても、反応らしい反応を見せずに、ずっと目を見つめてくる。 「……朝ご飯を一緒に作ろうと思ったけど、任せるわ」 「ああ、任された」 もとよりそのつもりだったし。 麦と粟を混ぜたご飯、大根たっぷりのみそ汁、それに漬け物三種類。 それが朝餉。 なぜか、霊夢は外出寸前の格好だった。 「急ぎでどっか行くみたいだけどさ、手袋ぐらい外したら?」 「あ、ああ、そうね」 「「いただきます」」 と二人で唱和するやいなや、霊夢が猛然と飯をかっ込み始めた。 霊夢は三分で食い終わり、勢いよく立ち上がる。 「ごちそうさま! ちょっと出かけてくるわ!」 「あ、待った」 「何? 急いでるんだけど」 「お茶。飲んでいったら?」 霊夢がガツ食いしてる間に準備しておいた。 「そうね、ありがと」 ずずずずずずずずず 一気に湯飲みから茶を吸い上げる霊夢。 よく火傷しないなあ、と感心する。 「いってきます!」 「あ、待った」 「今度は何!?」 「手袋」 「……ありがと」 「と、マフラー」 「…………ありがと」 「怪我しないようにな」 「……うん」 見つめ合うのが照れくさくて、二人して咳払い。 霊夢が玄関に向かうので、それに着いていく。 雪を踏むと裾が濡れるので、敷居から少しだけ出て霊夢を見送る。 「いってらっしゃい」 霊夢が宙で一旦止まった。 そして反転して、こちらに寄ってきた。 触れるだけの淡いキスをする。 「春を、取り戻してくるわ」 自信に満ちた穏やかな笑みを浮かべて、素敵な巫女はそう宣言した。 次第に小さくなっていく霊夢を見て、思う。 「雪おろしでもして待つとしようか」 願わくば、これが最後の雪おろしとなりますように、と。 ――そんな、白銀の春でした―― ===後書き=== 霊夢、妖々夢bad endの夜。 うーむ、甲斐甲斐しい○○だ。 最後の霊夢の笑顔は妖々夢のchoose girlの立ち絵を想像してください。 マフラーは脳内補完で。霊夢だけマフラーしてないんだもんなぁ。 あ、魔理沙はストール? 霊夢は○○が風邪を引かないうちに春を取り戻そうと急いだということで。 しかし、春の異変は正味洒落にならんと思うのですが。 5スレ目 231(うpろだ 52) ──────────────────────────────────────────────── 霊夢に「牛タンっておいしいよね」って言ったら、 「そうね、人間の舌も牛タンだったらいいのにね」って言われた。 「そしたら何も食べてなくても、常に牛タンの味がしておいしいのに」だって。 たしかに、人間の舌っていつも口の中にあるのに味がしないなー。 霊夢と話し合った結果、それはもしかすると ずっと同じ味の舌が口の中に入ってるから味覚が麻痺してるんじゃないか? ということになって、お互いの舌を舐め合って確かめてみることにした。 そしたらすごい!霊夢の舌おいしい!! まろやか! お互いに相手の舌を舐めながら「おいしいよー」「おいしいねー」 「デリシャスだよー」「デリシャスだねー」ってやってたら、気が付くともうこんな時間だった。 この実験で、お互いの舌を舐め合えばおかずは要らないことが判明したので、明日から 「一ヶ月間お互いの舌の味と白米だけで生活する貧乏カップル」っていう黄金伝説を達成しようと思う。 5スレ目 264 ──────────────────────────────────────────────── 季節は廻る。 この世界でも、もともと僕がいた世界と同じように廻っていく。 --------------------------------------------------- -パチパチッ! パチッ!- 桜島の御岳のような白い煙を上げ、落ち葉の山が燃える。 黒く炭化してきた部分が見えれば、落ち葉を追加していくのみの単調な作業。 -パチッ!- 乾燥した木の実が火の中で弾ける。 火をつけた時の太陽の位置と、今の位置を比べてみる。 (そろそろかな…) と思うと同時に漂ってくるほのかに甘い香り。 「ドンピシャだ。おーい霊夢ー! 焼き芋焼けたぞー」 縁側で一人お茶を啜っている霊夢が答える。 「持ってきてー。そっちに行くのが面倒ー」 「だめです、こっちまで来なさい。んじゃないとあげないよ」 「ウソうそ嘘。今行くってば」 霊夢がやってくるのを確認し、落ち葉の山を崩していく。 目的のブツを見つけてご満悦な僕と霊夢。互いに顔を見てから、思わず笑みがこぼれる。 傍に置いておいた文文。新聞を手に取り、「ソレ」を包む。 「どうだ。出来立てのほやほやだぞ。味は保障する」 パクァと二つに折り、「ソレ」…焼き芋を霊夢に渡す。もちろん大きいほうを。 「熱いから気をつけなよ」 「あふっ! はふ…ん~おいひい」 満面の笑みで答える霊夢の顔を見て、僕のちょっぴりの苦労も吹き飛んだような気がした。 --------------------------------------------------- 縁側で二人座り、焼き芋を食べる。 二人とも若干猫舌なのか、ふぅふぅ息をかけ冷ましながら食べる。 遠くで鳥が鳴いている。僕たちの会話は、無い。 けど、こうしているだけで幸せだった。 「貴方が来てもう1年経つのね」 以外にも、最初に口を開いたのは霊夢からだった。 いつもは僕の問いかけに答えるくらいだったのに。 「そうだな。いつの間にか季節が廻っていった、って感じだね」 「ぼーっとしてるとあっという間よ?」 「年がら年中ぼーっと縁側でお茶啜ってるどこかの巫女さんには言われたくない」 ケケケッと子供のような笑い方をして霊夢をからかう。 「ふふふっ…どうだか…」 コロコロと笑いながら、霊夢も焼き芋を口に運ぶ。 僕も自分の焼き芋に目を落とし、ほどよく冷めてきていた残りを口に放り込む。 もぎゅもぎゅと咀嚼して…ッッ!? 「むぐっ!! くぁwせdrftgyふじこlp」 まずい。非常にまずい。芋が喉に詰まった。 ドンドンと胸を叩く。だが足りない。手元にあった湯のみを手に取り一気飲みする。 「ゴクゴクゴクッ! ッッ…! …くはぁ~、助かった…」 「まったく、何やってるのよ! 大丈夫?」 霊夢が心配した様子で僕の顔を覗き込んでくる。 「大丈夫…もう大丈夫。いやしかし焦った。久しぶりに焼き芋なんて食べたからかな」 「心配かけてもぅ…」 そう言うと霊夢は炊事場に歩いていき、しばらく湯飲みを持って戻ってきた。 「はいお茶。入れてあげてきたから飲みなさい」 「あざーっす。ん…熱っ!」 熱い。入れたてだから当然なのだが。 「くぉぉ…熱い…」 「何やってるのよほんとに…」 心底霊夢が呆れている。 「しょうがないわね」 そう言うと霊夢が湯のみを取る。 「良くこの湯のみを見ててね」 霊夢が湯飲みに手をかざし、何かを唱える。そして一口。 良く見て、とジェスチャーで湯飲みを指差したので僕は覗き込もうとしたその時、 -ちゅ コクン- その時の僕の顔は滑稽だっただろう。目が点、まさに文字通りだったに違いない。 霊夢はそっぽを向いている。表情は見れない。 たっぷり10秒固まってから僕は口を開いた。 「霊夢」 「…なによ」 霊夢はまだそっぽを向いている。 「霊夢」 「だからなによ」 「お、おかわり、頂戴…?」 「ッッ!」 バッと振り向く霊夢の顔は真っ赤だった。 最初は目を見開いてびっくりしていたが、すぐに笑顔に変わる。 「…甘えん坊さんね」 「なんとでも言え」 霊夢はクスッと笑うと、お茶をもう一口含んだ。 (省略されました。今週撮り溜めした深夜アニメを見てくるので、続きを読むには中の人がデスノの内容に満足するまで待って下さい) 5スレ目 863(うpろだ0058) ──────────────────────────────────────────────── 夢スレより転載。いいねー 何か妙な夢を見た。 場所は何処かの和室。障子の隙間から縁側と庭が見えたから、神社だったのかも知れない。 俺の前には布団が敷かれ、そこに座ってる寝間着姿の霊夢。 (寝間着と言ってもパジャマの類では無く、時代劇で出てくる様なヤツ) 霊夢は右手を肩から吊っていた。どうやら怪我をしたらしい。 夢の中の俺は怪我で不自由な霊夢の世話をする為に、里から呼ばれた様だ。 たわいも無い会話(内容は忘却)を交わしたり、お茶を入れて二人で飲んだりする内 霊夢が「肩を揉んで欲しい」とか言い出した。 で、まあ、みんなの想像通りw肩を揉むついで?に後から霊夢に抱きついたんだが すごく細かった。肉付きもそれ程無く、そもそも肩幅が小さい。 後から抱きしめた俺の手が、前で交差してそのまま反対側の自分の肩に届く位小さかった。 まさに「少女」という感じだった。 それを感じた瞬間、俺はもうネチョい気分とかそんなモンはぶっ飛んでしまった。 『こんな細い身体で、人間を守る為に妖怪達と渡り合ってるんだ』 と思うと何だか無性に涙が出てきた。 抱きつかれた時はジタバタ抵抗してた霊夢も、俺の様子がおかしいのに気付いたらしい。 俺の方を見上げながら「どうしたの?」とか聞いてくるんだ。 俺は恥ずかしさから懸命に涙を堪えるんだが、止まらない。 霊夢がそれを見て「何で泣いてるのよ?」と怒気混じりの声で聞いてくる。 俺は仕方無しに感じたままを話した。 すると霊夢は俺の腕の中で振り向くと、怪我をしてない方の手を伸ばし俺の頭を撫でてきた。 「バカね、アンタが気にする事じゃないでしょう。……でも、ありがとう」 とか言ってな。俺は堪らず霊夢の髪に顔をうずめ、マジ泣きしちまった。 そんな感じでちょっとイイ雰囲気の所だったんだが、障子の向こうから魔理沙?の 声がきこえてきた所で目が覚めてしまった。 思わず「それ、何てエロゲ?」と自己ツッコミをしてしまった orz でも俺の頭を撫でてくれた時の霊夢は、すごく可愛かった。 夢の中とはいえ「俺はこの娘を守る盾になりたい」と本気で思ったよ……。 6スレ目 46(本文は夢の中で出会った東方キャラとの出来事を語るスレ 711) ──────────────────────────────────────────────── 霊夢とこんな会話を毎日してみたいと思いました。 面白くもなくありきたりで短い話です。 懲りもせずにまた書いたのかと思う方もいるかも知れませんが、どうか一度読んでみてください。 朝、俺は未だ眠り掛けの頭を覚醒させる為に顔を洗う。 そして居間に行く。 すると彼女が起きていたのかもう座っていた。 「おはよう、霊夢」 俺はいつものように朝の挨拶をした。 朝起きたら挨拶をするのは常識だ。親しい相手ならそれはなおさらだ。 「あら、おはよう○○。今日は少し早いのね」 彼女も挨拶を返してくれる。 いつも返してくれるのだが、何時聞いても嬉しくなってくる。 だから俺は、彼女に微笑みもう一度挨拶をした。 6スレ目 171 ──────────────────────────────────────────────── 朝食を食べる。霊夢が作ってくれた料理を食べている。 「○○、今日の料理はどう?」 彼女の作る料理は、外の世界で俺がいつも食べていた物とは違い絶品だ。 だから俺は、いつものように正直な気持ちを伝える。 「うん。すごく美味しいよ」 俺は穏やかにそう答えたのだった。 彼女の作る料理は本当に美味しい。 言っておくが、別に外の世界の料理が不味いというわけではない。 だが、最近では冷凍食品などが多いからか余計に美味しく感じる。 まあ、その、なんだ…… 彼女が俺の為に作ってくれたと言うこともある。 俺の事なんか意識もしてないだろうが…… それでも嬉しいものは嬉しい。これで霊夢も俺のこと意識してくれたらなと思う。 まあそんな事、天地がひっくり返ってもないと思うが…… なら、少しでもこの時間が長く続くことを願う。 俺はそんな事を考えながら箸を進めるのだった。 それは幻想郷の巫女と共に暮らす一人の男の願い。 ありふれた日常が続いてほしいと思う純粋な願いだった…… 6スレ目 190 ──────────────────────────────────────────────── 香霖堂。 幻想郷にあり、唯一外の世界の物が扱っている店だ。 まあ、扱っている物は外の世界の物でもいろいろある。 日用品だったり、何かの一部だったり、かなりの貴重品だったりもする。 希に兵器っぽい物もあるが…… まあ気のせいだろう。 俺はやることもないので、香霖堂の前に来ていた。 よく来るので断言できる。 暇なときはこの店に来るに限る。 店に入る。店の中は少し古ぼけていて、店らしくはない。 でも、俺はこの店のことを気に入っている。 そして俺はこの店の主を呼んだ。 「こんにちは~。霖之助さんいますか~」 少し時間が経つ。そして返事が返ってくる。 「やあ、○○。今日は何の用だい?」 そのあとに、俺より年上の男性が店の奥から出てきた。 俺は霖之助さんと話をする。 「あの時は必死でした。死にたくなかったから……」 俺が幻想郷に来た時の話だ。 この話をしたのは、助けてくれた霊夢以外は霖之助さんが初めてだ。 「君も大変だったんだね」 すると、霖之助さんはそう言って労ってくれた。 俺が幻想郷に迷い込んでから出来た知り合いは何人かいる。 その中でも、霖之助さんは一番話しやすいと思う。 意外かも知れないが事実だ。やはり俺が男だからだと思う。 女の子が相手では、話すとどうしても気を使う。 その点霖之助さんは男なので話しやすい。 どういう訳か幻想郷には、男の人が少ない。 人里から離れたところに住んでいるからだとは思うが、それでも少なく感じる。 交流が霊夢の知り合いだけ、と言うこともあるが。 真剣な話は終わり、今度は霖之助さんが俺に聞いてくる。 「○○、霊夢とは上手く行っているかい? 」 それはかなりの不意打ちだった。 「なっ!!」 予想もしていなかった言葉に俺は驚く。 当たり前だ。この気持ちは霖之助さんにも教えていないのだから。 俺が他の人にも知られているかも、と不安になったときに霖之助さんは言った。 「驚いているようだね。大丈夫、僕以外は誰も気付いてないみたいだから」 霖之助さんの言葉にとりあえずは安堵する。 すると、当然の疑問が湧いてくる。 その疑問を聞いてみることにした。 「何時、気付いたんですか?」 すると霖之助さんは笑みを浮かべて 「何時も何も、君の話の大半は霊夢の事じゃないか。すぐに気づいたよ」 と答えた。 そして「同じ男だからね、解るものだよ」とも言った。 失敗した。そう思った時に霖之助さんは言った。 「今なら、僕の知っている霊夢の事を教えてあげるよ」 霊夢との仲は特に進展がない。 「お願いします」 俺は諦めて霖之助さんに相談することにした。 少年相談中 「最後に言うよ。彼女の周りには人が多い、けど彼女は一定の距離を取ろうとする。だから君から仕掛けるんだ」 霊夢は意外と直球な言葉に弱い。だから俺の方からアプローチ掛けると効果が高い。 結論を言えばこう言うことが解った。 辺り見回す。後1、2時間ほどで太陽が沈みそうだ。 あまり遅くなると妖怪に達に襲われ THE・END だろう。 だからさっさと帰ることにした。 「それではまた今度」 俺は帰るので挨拶をした 「ああ、また今度。霊夢との事頑張ってね」 霖之助さんも挨拶をしてくれる。 最後に何か言っているが無視だ無視! ……顔が赤くなんてなって無いからな! 帰り道を歩きながら、ふと思う。 俺は、様々な人に助けられている。 本当に俺は、良い人達に出会えたな…… 本来ならば今頃俺は、野垂れ死んでいたか妖怪の腹の中にいる。 その筈なのだが、偶然出会った彼女に助けて貰った。 他の人にも助けて貰ったのだが、彼女には……霊夢には一番助けて貰った。 そこから始まっていたのだと思う。 俺の恋は…… 「でも、俺の想いは実らない……」 相談に乗ってくれた霖之助さには悪いが、そんな気がする。 結局俺は臆病なのだ。 霊夢への思いは本物だと言える。 だからこそ、思いを告げられない。 言えばいまの関係が壊れるから。 そして、一緒にいられなくなる…… そんな事は嫌だから…… 失う事が怖くて、踏み出す勇気を持てない。 肝心の所で何も言いえない。自分の想いを口に出せない…… そんな奴だから…… だから言えない。 もう少しだけ勇気がほしい。 俺は一人そう思うのだった…… 後書き ここまでお読みいただき、ありがとうございます。 最初に言いますが、俺の中では香霖は良い人です。 変態ではありません。 それはともかく、今回は○○の葛藤がメインの話になります。 本当は告白までしようかと思ったのですが、俺なら一度はこう思う筈なので変更しました。 読んでいる方の中には、少しは共感できる人も居るかと思います。 ヘタレと思う方は、心の中で思う存分罵ってください。 では、今回はこれで。 6スレ目 198(うpろだ0077) ──────────────────────────────────────────────── 「この神社でお前と一緒に幻想郷を見守っていきたい。ダメかな? ……ありがとう。ああ、神職の勉強もするから、仲良くやっていこうな、霊夢。 ん? いや、ちょっと寒かっただけだ。 まるで幻想郷の全てを敵に回したみたいな、凄い悪寒が背中を」 6スレ目 256 ──────────────────────────────────────────────── 「あ、霊夢さん!!お帰りなさい今手当てを…あ、あれ?」 「あー大丈夫大丈夫。傷1つ無いから」 「え、で、でも…紫さん達は酷い怪我って聞きましたし」 「あーなんかねー。敵の弾が当たりそうになると何故か低速移動してるのよねーな・ぜ・か。ね?」 「れ…霊夢さん!!」 「何?」 「最高です…カッコ良いです…。俺、惚れ直しました」 「嬉しい事言ってくれるじゃないの」 6スレ目 302 ────────────────────────────────────────────────
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職業データ 博麗霊夢 「楽園の巫女」をダーマ神殿にて使用。 HP MP AT DF AG 備考 ・いやぁ、マスターはええな、これ ・万能型 ・腋巫女ハァハァ(違 by山頂 とうい( 習得スキル 名前 習得SP 消費MP 攻撃側/防御側 備考 @霊符「夢想封印」 50000 80000 回数攻撃 無し @夢符「二重結界」 100000 100000 敵全ステDOWN 自分防御素早さUp 無し @神技「八方鬼縛陣」 150000 20000 止めかき消し 無し @夢境「二重大結界」 200000 90000 止めユカリ5体召喚 無し @神技「八方龍殺陣」 250000 150000 止め鼻 無し @境界「二重弾幕結界」 300000 170000 止めHMP回復 無し @「夢想天生」 350000 200000 敵全ステDOWN、味方全ステUP、回数攻撃 無し 万能怖い( 攻撃技の火力は・・・普通だよな(
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■霊夢14 カチャカチャカチャ パクパクパク 「ごちそうさま!!それじゃあ行ってくるな霊夢」 「……今日も遅くなるの?」 「そうだな、だから夕飯もいらないよ」 「うん、行ってらっしゃい」 最近○○とあまり話せてない 普通に喋ったのはどれぐらい前だろう、少なくとも2週間はまともに話せてない 朝はこうして朝ごはんを一緒に食べているけど 食べた後は紅魔館の図書館や香霖堂に行って夜遅くまで帰ってこないのがざらだ そして夜帰ってきたらお風呂に入ってすぐに寝てしまうから話が出来ない 話も出来ないのだから肌を重ねることもキスだって最近は全然してない ザッザッザッザ 「○○は私のこと嫌いになったのかな……」 一人境内を掃除しながら考える 確かに私は胸が貧相だしお世辞にも可愛らしい性格をしているとは言えない 「……はぁ、もう少し胸が大きかったらな……」 ニョキッ 「なに辛気臭い顔してるの?」 「きゃあ!?紫!突然出てこないでよ!!」 胸を見ながらため息をついてると突然紫が出てきた いつもなら大して気にならない胸が今はみるからに「男を誘ってますあんたみたいな貧乳はお呼びじゃないです」 って感じでむかつく 「……で、何しに来たのよ 私は今掃除中で忙しいの、用が無いなら邪魔だからさっさと帰って冬眠でもしなさい」 「あら怖い、それじゃあ巫女さんが怖いから退散しようかしらね」 何しに来たんだろうまさか本当に私の邪魔でもしに来たんだろうか ……紫ならありえるわね 「あ、そうそう恋に悩む巫女さんに一つアドバイス ○○が好きなんでしょ?それなら信じてあげなさい」 「っ!!!分かってるわよ!!!」 「それじゃあまた来年ね」 スゥ そういうと紫はスキマの向こうに消えて行った 「○○を信じろ…か、そんなこと言われなくても分かってるわよ 私は○○彼女なんだから……」 そうよ、私が○○のこと信じなくて一体誰が信じるのよ そう考えるとなんだか心が軽くなってきた 「今度来た時はおいしいお茶でも入れてあげようかな」 紫に少しだけ感謝しながら私は掃除を続けた ホーホーホー 「○○、まだ帰ってこないかな」 夜も更けて闇はその色を濃くしていた いつもならそろそろ○○が帰ってくるはずだ ガラッ 「ただいま霊夢」 「お帰り!○○!!」 「良かった、起きててくれたんだ」 「晩御飯は一緒に食べれてないけど○○にお帰りって言いたかったから……」 「そっか…そういや最近まともに話できなかったよな、ごめん」 「いいわよ、寂しかったけどこうして○○が一緒にいてくれるんだし」 「そのお詫びといってはなんだけどこれ…」 そう言うと○○がポケットから取り出したのは 「指…輪?」 綺麗なルビーが付いた指輪だった 「○○、これは?」 「今日はほら、クリスマスだろ?それでクリスマスプレゼントにって思ってさ」 そうだ、最近○○のことばかり考えてたから気づいてなかったけど 今日は確かにクリスマスだ 「俺全然霊夢の役に立ててないから せめてプレゼントは想いを込めた自作のものを送りたいって思ったんだ それでパチュリーさんから想いを込める魔法を習ったり、霖之助さんから錬金術や加工技術を習ったんだ」 「だから朝から出かけて夜遅く帰ってきたの?」 「ああ、時間が無かったし、どうしてもこの日に間に合わせたかったからな でもその所為で霊夢に寂しい思いさせちゃったけどな」 「そんな事無い!!本当に、本当に嬉しい」 ○○は本当に私のことを想って、どれだけ愛してるか指輪を通して伝わってくる それなのに私は○○のことを疑って…… 「あ、私プレゼント用意してない……」 そうだ、○○はこんなに素敵なプレゼントを用意してくれたのに私だけ何も用意できてない 「いいよ別に」 「でも私だけ貰っても……」 「俺が欲しいのは一つだけ霊夢と一緒の未来だ」 「それって……」 「愛してるよ、霊夢」 「っ!私も!!!」 そして私は○○に抱きつき久しぶりに○○と口付けをした これから先の未来を連想させるような甘く幸せな口付けを ~おまけ劇場~ 協力者達の酒宴 「今晩はお二人さん」 「やあ、そろそろ来る頃だと思ってたよ」 「その調子だとあの二人、上手くいったようね」 「ええ、貴方達のおかげよ それにしても少し意外ね」 「何がだい?」 「霖之助さんもパチュリーもこんなことに協力するような性格じゃないじゃない」 「失礼なことをいうな、まあ自分でもガラじゃないとは思ってるけど 霊夢は娘みたいなものだからね、娘の恋路を応援するのは親として当たり前だろ?」 「それはどちらかと言うと母親の役目じゃないかしら?」 「どっちでもいいじゃない、それにしても今回は疲れたわ 神社に行こうとするレミィを止める為にロイヤルフレア撃った後 妹様のいる地下室に入れて入り口を封印したり、おかげでしばらく紅魔館には帰れないわね」 「お疲れ様、でもどうして手伝う気になったの?」 「別に…ただ、昔を思い出しただけよ」 「そう、それじゃあ折角だし乾杯でもする?」 「何に乾杯するんだい?」 「そうね……幸多き恋人達とその協力者達に」 「「「乾杯」」」 チンッ 11スレ目 486 ─────────────────────────────────────────────────────────── そのひとはお前が一番傷つかない方法で俺たち別れよう、と言った。なので私は一生懸命に考えてみた。私が一番傷つかない方法? 例えば彼が私の細かいところ全部が鼻について一緒にいるのも嫌でなんかもう気持ち悪い気分悪い生活に支障をきたすもうホント無理なんで別れよう、となる。 「あのな俺はお前にこんな事言うのはすごく心苦しいんだけど、ある時期を境に俺は霊夢のやることなすこと全てが”不快だ”としか感じられなくなってしまったんだよ。 お前がアイスを食べるときスプーンを何度もぺろぺろと舐める仕草が気に食わないし歯磨き粉の蓋を開けたまま放置する癖にも本当に嫌気が差す。 おかしいだろどうして開けたものを閉じることが出来ないんだ?元あったものを元に戻す努力をしないで放置したままその場を去れるのか? お前がやっていることはほんの些細だが確かに大いなる破壊だ。 元あったものを元に戻すことが出来ない、それはただただ世界の中で破壊なんだ。お前は破壊者だ。 理由はそれだけじゃないからな霊夢。 こんなことを別れる男に告げられるのはお前だって気分が悪いだろうが俺はこれまでこの何十倍もの不快な気持ちを腹の中にためこんで日々を過ごしてきたんだ。 なあ霊夢俺は我慢が出来ないんだよ。 どうしてお前はスプーンを舐める?歯磨き粉の蓋を閉じられない?電気をつけっぱなしで眠る?俺の上着を勝手に着る? 下着と靴下は混ぜて置くなと何度だって言ったのにどうしてお前はそんな簡単な俺の要求を聞き入れてはくれなかったんだ? 下着と靴下を共に入れておかなければならない重大な訳がお前にはあったのか?あったとしたら何故お前は俺にそのことを教えてくれなかったんだ? 俺たちは今までなんだって一緒に共有して過ごしてきたじゃないか。 俺は何度だってお前にスプーンを舐めないように歯磨き粉の蓋は閉めるように電気は寝るときは消すように、 上着は何曜日にそれを着るか俺は決めて生活してるからそのリズムを崩さないように出来るだけ触れないで欲しい、ほら理由だって伝えたじゃないか! それなのにお前は何故俺の月曜の青い上着を金曜に勝手に羽織った?霊夢には自分の服があるはずなのに。 俺は分からないんだ。だから不快なんだ。 だってお前は俺の頼みなんかこれっぽっちも聞いてくれないじゃないか。何故聞いてくれないのかも教えてくれないじゃないか。 お前は俺をこんな遠くまで引っ張ってきて開けっ放しにして放置しているんだよ。 お前は俺を破壊してるんだよ。俺はもう耐え切れない。霊夢と一緒に生活していくのは無理だ。 俺には過去確かにお前が必要だったよ。 俺はお前がいつか俺の願いを聞き入れて、 スプーンを舐めないでいてくれると歯磨き粉の蓋を閉めてくれると、 電気を消して俺の隣でぐっすり眠ってくれると上着をそのままにしていてくれると靴下と下着を別々の引き出しに入れてくれると信じてた。 でももう時間切れだ。 俺たち潮時だったんだよ。お前だってそう思っていたんだろう? 俺たち、おしまいなんだ。 霊夢、さよなら。俺はこれから幸せになるよ。歯磨き粉の蓋は永遠に閉じたままだ。 破壊者は消える」 最後の『破壊者は消える』というのが如何にも○○っぽいかっこつけで、 全てでっちあげで思いつきで考えてみた○○の台詞の割にはなかなか素敵だと私は思った。 これなら私は傷つかずに○○とおさらばできるかもしれない。 そしてついでに○○が実際それが嫌だったか私は知らないけど、 スプーンをぺろぺろ舐めてしまう癖とか歯磨き粉の蓋を開けっ放しにしてしまう癖とか電気とか上着とか下着と靴下などなどの下らない癖も直せるかもしれない。 だけどいつかそれが直って、幾らかきちんとした女に成長した私はあの昔の男(それはつまり今の○○だ)と、 今の私なら理解しあえたかもしれないのに、私はもう彼にとって破壊者ではないのに、などと アイスを食べるたび歯磨き粉の蓋を閉めるたび電気を消して布団に潜るたび寝巻きに着替えるたび下着と靴下を分けて引き出しに仕舞う度思い出して苦しくなる・・・ そんな大変な目にあってしまいそうなのでこの案は却下した。 第一○○が口うるさいおばさんのようだ。 ○○はそんな些細なことであんなにヒステリックに文句を言ったりしない。 彼は繊細な見た目とは裏腹に器の大きな男だったのだ。 「○○、私が歯磨き粉の蓋をいつも閉め忘れることに対して何か不満を持ったことはある?」 「いや別に。俺もお前のすぐ後で歯磨きしてたから開ける手間が省けて逆に好都合だったよ」 やっぱり却下だ。 それでは次を考えていこう。では○○に新しく好きな女が出来たというパターン。 「霊夢、どうか悲しまないで聞いてくれ。 いや、お前は悲しむだろうな。俺は本当に、お前に対して酷いことをしてしまった。 これは、ただ、ただ・・・何を言い訳しても許されない。 何を言ったって結果は、俺がお前を裏切ったという醜い結末にしかならないんだ。 霊夢、俺はお前のことが嫌いになったとか、お前のどこが悪かったとか、そんなことは全然ない。 お前は聡明で美しいし、それに俺たち相性だってよかった。 俺たち二人は愛し合っていたよな。二人で一緒に暮らすようになってからも、俺はお前に対して不満なんかなかったし、お前はとても好ましかった。 今だって俺はお前を好ましいと思ってる。本当だ。 本当なんだ、・・・だけど。 俺は、出会って、しまったんだ。わからない、うまく言えないけど、俺は、その人を、愛してしまった。 病気みたいに、運命みたいに。彼女しか見えなくなってしまったんだ。 本当に、本当に・・・ごめん、霊夢・・・。 何故、彼女なのか、彼女だったのか、わからない。けど、俺にはどうしても彼女なんだ。だから、こんな結果になって・・・。 霊夢、どうか俺のことを、殴ってくれ。嫌ってくれ。 最低最悪の男だったと思って、言いふらしてくれたって構わない。 霊夢、俺はお前が好きだった。だから、お前をこんなに傷つけてしまう自分が、憎いよ。 でも、駄目だ。ごめん、・・・ごめん、霊夢。 俺のことを、忘れてくれ。俺の幸せは祈らなくて、いい。死んでしまえと思ってくれて、いいんだ。 だけど、ただ、俺はお前に幸せになってほしいと、心から思ってる。 だって、霊夢、俺はお前を好きだったんだ。 俺が、悪い。俺がいけなかった。霊夢。本当に、ごめん。・・・霊夢。 お前をしあわせにできなくてごめんな」 自分で考えて泣きそうになってしまった。○○、かっこいいなぁ・・・。 まるでどこかの物語のラストシーンのように、美しい瞳から涙をぽつりと零す彼の姿が脳裏に浮かぶ。 すごい、これならあまりの綺麗さに胸打たれて私あんまり傷つかないで済むかもしれない。 が、しかし。 やっぱり浮気の末捨てられるのって後味悪いものだ。 なんか私の方が相手より劣ってました!と公言してしまうようなものじゃない。 いやそれは別に事実だったらそれでもいいんだけど、私が一番傷つかない方法を模索してるのに微妙に自分を貶めちゃうってどうなのよ。 すごく嫌。じゃあこれも却下。 というか○○が私と何年も一緒に暮らしてて不愉快な気持ちを抱いたことなかったかどうかなんて私には分からない。 実はすっごく不愉快だったかもしれないじゃない。それじゃあまた最初の「歯磨き粉の蓋~」に戻っちゃうんだけどね。 「○○って正直私と付き合ってる間浮気とかしたことあるの?最後だし教えなさいよ」 「浮気は無いな。他の女に目を奪われそうになったことは多々あるけど」 「ええ、それ浮気じゃないの?○○にとっては違うのかしら」 「だってそれ容姿とか体だけだろ?俺どうしてもこの人じゃないといけない、って思ったのは後にも先にも霊夢だけだよ」 恥ずかしくなってきたので却下。 じゃー、次。これいってみよう。私が浮気。 「その男が好きなのか?霊夢。なあ、俺よりその男が? 俺よりその男と一緒にいたいとお前は思うわけか。俺ではお前を幸福にするのは無理というわけか。 俺との抱擁はもう何の意味もないと。俺とのキスはお前の愛する人への罪悪感と恋情を募らせるだけだと。 ・・・ごめん。俺は、怒ってるわけじゃない・・・いや、怒ってる、な。やっぱり。 だって俺はお前がとても大切だったから。 ・・・その人じゃなきゃ、もう駄目なのか?お前が、こんなことを言い出すってことは、・・・そういうこと、なんだよな。 じゃあ、俺の出番は、もう、お終いだ。 霊夢、俺は、お前を憎む。お前を想う。 霊夢、好きだった。とてもとても。もう嫌いだ。霊夢。霊夢霊夢霊夢霊夢。 ・・・これで最後にしよう。俺たちはもう知らない人間同士になるんだ。 霊夢、今までありがとう。俺はお前が大嫌いだ。霊夢。お願いだから俺の前からいなくなってくれ。 俺はお前がまだ恋しいんだ。手を伸ばしてしまう、・・・だからはやく」 あ、あ、これ、いいー! 胸がときめいた。 私の想像の○○の台詞、さっきから良い線ばっかりついてくるなぁ。 だけど、こんないいこと言われちゃって、手を伸ばしてしまうとか、言われちゃって、結局別れられないじゃない。 そもそも私は浮気なんかしてなくて他に好きな男がいるどころか現在進行形で○○が好きなんだから本当の別れの場面でこんなこと言われても駄目だ。 ○○への愛と未練が募るばっかりで全然、駄目。 つまり、傷つくのよ。 他の考えよ。 「霊夢、何か思いついたか?」 「うーん、もう少し。あとちょっと」 却下、と。 あ、じゃあこれならどうかしら。激しく罵られる。 「あ・の・な、俺はお前なんか最初から大っ嫌いだったんだよ。 そりゃあ一瞬可愛いかな?と思った時期もあったけど、そんなわけあるかと自分に突っ込みたいくらいだよ。 よく俺お前なんかと恋人やってられたよなぁ? ちょっと優しくしてやっただけですぐ勘違いして赤くなるしどこの生娘だよこれ、空気読めない巫女だな!って勢いだったし、 料理は下手だ掃除は出来ないダラダラしすぎ腰が弱い体力もあんまりない風邪を引いたら三割増でワガママ泣き顔もまたぜんっぜん萌えないしな。 萌えるって何か知ってるか?お前と全く逆の女に贈られる言葉だよ! お前に入った生殖器なんて可能なことなら切り落として新しく穢れないものを再生してもらいたいよ。公衆便器が! とにかくもうお前の顔なんか見るの真っ平御免だね。気分が悪くなる。吐きすぎて吐きすぎて胃液しか出なくなる。 さようなら。さようならさようならさようなら霊夢さん!! さっさとこの部屋から出て行けよ、そして小汚い男に優しくしてもらって喜べばいいだろう? 塵一つ残さず消えてしまえ。お前が嫌いだ! 殺さなかっただけ有難いと思ってくれよ。お前の血なんて見たら俺は本当に気持ちが悪くて失神しちまうから。 綺麗で一人でお死になさい。さ・よ・う・な・ら!!」 なんか○○じゃない人みたいになってしまった。 ○○はもっと知的に他人を罵ると思う。 やっぱり考えているのが私だから本当の○○の台詞になんかならないのだ。 そして私は結局どれでも傷ついてしまうと思う、弱いのね。 鋼の心臓を手に入れられるようにもっと修行しないと。 これから受ける傷が癒えたら考えよう。もし癒えなかったら、ああ私は一生弱いまま○○を思ったまま憎んだまま嫌ったまま愛したまま生きていこう。 私は、○○の顔をもう一度じっと見て、今日が最後なのだと改めて思った。 涙は多分これから遅れて流れ出す。 「○○」 「ああ」 「○○が今一番私に言いたいことを言って」 ○○は私を見て困ったように微笑んで、冷たい手のひらで私の額を撫でた。 唇をちろりとピンク色の舌で舐め、○○が声を出す。 「霊夢、俺はお前を愛してる。今も、これからも」 じゃあどうして?だからこそなんだよ。 もう何十回も繰り返した会話がもう一度再現されそうだったので私は口をつぐんで、やっぱり○○の顔を見ていた。 私はもしかして、一番自分に傷をつける方法を選んでしまったのかもしれなかった。 ○○がゆっくりと私から離れていく。 「お前を愛してる」 却下。は聞き入れられなかった。この部屋に私がひとり。涙はまだ流れず。遅いわよ声だけが先走って涙を孕む 11スレ目 520 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○がそれを見てはじめに思ったことは、そんなんじゃ寒くないのかなぁ程度の事だった。 イエスだかノーだか知らない人の誕生日にかこつけて色々とお祝いをする日。俗に言うクリスマス。 ここ幻想郷でも決してそれは例外ではなく、いつもよりかは割かし盛大な宴会が催された。博麗神社で。 だが平素と違ったのはあくまで規模だけだったらしく、客たちは会が終わるなりいつものようにさっさと帰ってしまった。 薄情だと言っている暇も無い。 そしていつも通り○○は片付けを一人で終え、洗い物で冷えた手を温めようと居間に来た時にそれを見つけた。 即ち、畳の上でぐでーっと寝転がっている霊夢の姿を。 「霊夢ー?」 些か心配になって呼びかけてみる。が、返事は無い。 顔を覗き込んでみるとすやすやと息を立てて眠っているようだった。後、若干お酒臭かった。 どうやら酔いつぶれて眠ってしまっているようだ。 「また、呑みすぎちゃったのかな」 僅かな期待と八割ぐらいの諦めを胸に、ゆさゆさと肩をゆすって声をかけてみる。 これで霊夢が起きたのなら明日は槍でも降るだろうと○○は思った。割と本気で。 「霊夢ー、こんな所で寝てると風邪引くよー?」 が、○○の予想通り起きる気配は無い。 なので今度は頬をぺちぺちと張ってみる。 ○○は結構大胆だった。 「霊夢ー?」 それでもやはり霊夢は起きようとしない。 仕方がないので○○は断念して、ここでこのまま寝かせてあげることにした。 寝室から布団を持ってきて被せる。 そういえば昨日はやたらと萃香たちに絡まれてたなあ、と○○は思い出しながら同情した。 宴会の席での天狗や鬼は怖いものである。 出来れば回避、それが出来ないならせめて飲む量をセーブくらいはしたいものだ。無理だろうけど。 溜息が自然と出た。 「んー」 霊夢がゴロリと寝返りを打った。 その声や様子からして、体調は一概には良い状態にあるとは言えないようだ。 仕方あるまい。 霊夢たちは酒をよくアルコールを摂取する方だとは言ってもその体はまだ発展途上(内部環境的な意味で)。 ○○ほどに成熟しているわけでもなければ、妖怪のように特別身体的に発達しているわけではない。 よって宴会の後も無事でいられるのは○○だけということが殆どだ。 だから○○は自分から進んで宴会の片付けも請け負うし、またそれが当然だと思っている。 出来ることは出来る人がやるのが一番だ。 だからこそ○○も霊夢に頼っている部分がある。 しかしこうして思い返してみると明らかに○○が日常生活の中で担っている部分の方が多いのだが、それを気にしないのが○○の人となりとも言えた。 「うー」 霊夢がまたひとつ唸る。 何も知らない人が見たら、その姿はちょっと気分の悪そうな年相応の少女にしか見えないだろう。 実際、○○の目にもそう映っていた。 でも、霊夢は違った。 一人で、ずっと、我慢して過ごしていた。少なくとも一年程前までは。 その事に○○が気付いてからは、霊夢も徐々に○○を頼るようになっていった。 それは○○にとっても嬉しいことだったし、霊夢もそれ以前よりは幾らか明るくなった気がする。 そうやって過ごしていくうちに霊夢のそういった一面はあまり意識しないようになっていった。 しかし○○は偶にこうやって思い出すことがあった。 霊夢の、その小さな体に秘められた強さというものを。 そして、自覚することが、あった。 「…………」 ○○は霊夢の傍に座り込んだ。 寝相の所為でずれかかっている布団を掛けなおし、改めてその体に目を向ける。 小さな、体だった。 そして霊夢の頭をスッと持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。 その際、黒い艶やかな髪が手に触れた。 その髪を手にとってみる。 髪はさらさらと手から零れ落ちた。 何度か繰り返す。 綺麗だな、と○○は思った。 そんな事を繰り返すうちに、主に疲労が原因で○○の意識は闇へと落ちていった。 霊夢が目を開けるとすぐ前に誰かの顔が超どアップで映っていたので、声にならない悲鳴と共にとりあえず夢想封印を叩き込んだ。 放たれた光球は狙いを外すことなく全て目の前の人物へと飛んで行き、その人物は障子を突き破って外へと吹き飛んだ。距離にして約10m。 その人物が○○であると霊夢が認識したのは、それから数秒後の事だった。 「あいったたたたた……霊夢?」 頭を抱えながら○○が起き上がる。 というかあれだけの攻撃を受けておいて「痛い」で済む辺り、○○もどんどん人間離れしてきていると言える。 慣れだろうか。 ○○の一声で霊夢は我に返った。 「あ、うん、私、霊夢」 まだ動揺しているのか、霊夢の言葉は途切れ途切れで意味不明瞭だった。 「ごめんね、驚いた?」 「そりゃ、まあ」 「どうも寝ちゃってたみたいだ」 ははは、と苦笑を浮かべながら体に付いた汚れを手で払いながら○○は家の中に戻ってくる。 ○○に怪我がなかった事にほっとしつつ、霊夢は先程から気になっている事があった。 ぶち破ってしまった障子の修理も気になるが、それはひとまず置いておくことにする。 「あの、○○」 「ん、晩ご飯ならまだ作ってないから待ってて」 「ああ、そう。――――じゃなくて」 危うく流されかけるところだった。 霊夢は霊夢でマイペースな所はあるのだが、○○のそれは霊夢を遥かに超越するものなので気を付けていないといけない辺りが手強かったりした。 咳払いなどして気分を改めながら、霊夢は○○に問うた。 「何で膝枕なんかしてたのよ」 台所に行きかけていた○○の足がピタリと止まり、霊夢の方に向き直った。 その時霊夢が見た○○の表情は何とも言えないもので、そこから何かしらの感情を読み取ることは困難を極めた。 しばらくお互いに何も言わない時間が過ぎる。 相変わらず○○は微妙な表情をしたままで、霊夢は炬燵に入ってないのでいい加減体が冷えてきた。 やっとのことで○○が口を開いたのは、霊夢がもう炬燵に入っちゃおうかしらなどと考えた時の事だった。 「霊夢」 「ん」 少し、表情が分かりやすいものになった。 そこから垣間見えた感情は、労り。 「――――晩ご飯、宴会の残りでもいいかな?」 「……ええ、構わないわ」 言いたくないことがあるならそれでいいだろう。 無理に聞きだす必要もないし、またそんな事をする気も起こらなかった。 炬燵に足を入れて天板に顔を乗っける。 ひんやりと冷たい感触が霊夢の頬に返ってきた。 やっぱり枕にするなら○○にしてもらおうか、と霊夢は思った。 やがて、○○がいくつかの料理を持って帰ってきた。 残り物と言えど、盛大な宴会の後だったのでそのメニューは中々に豪華だった。 「もう調子は大丈夫?」 「万全とは言えないわね。あー、あの二人め、無理やり飲ませるんだから」 体の不調を訴えつつも、ひょいひょいと料理を口に運ぶ霊夢。 どうやら腹はどんな状態であっても減るものらしい。 ○○はそんな霊夢の姿を微笑みながら見ていた。 「あ、そうだ。霊夢」 「んー?」 何か思い出したように○○が上を向いた。 霊夢は口をもごもごさせながら声だけ返して、もう箸は次の獲物に伸びていた。 「メリークリスマス」 霊夢の箸の動きが止まった。 幾分呆気に取られながら霊夢は○○の方へ視線を向ける。 そこには相変わらずにこにこと笑みを浮かべる○○の姿があった。 やがて霊夢も顔を弛緩させて。 「ええ、メリークリスマスね」 こんなクリスマスも悪くないかな、と思った。 夕餉後のおまけとか 「ご馳走様」 「まあ僕が作ったわけじゃないけど、お粗末様」 「で、○○」 「うん?」 「私はまだプレゼントを貰ってないわ」 「僕もあげた覚えが無いな」 「まだ今日中なら受け付けてるわよ」 「それは良かった。もう受理してもらえないかと思ったよ」 「え、あるの?」 「自分から催促しておいて何言ってるかな。 (ガサゴソ)はい」 「……何、これ」 「ストール」 「って何かしら」 「肩に掛けて使うんだよ。ほら、霊夢見るからに寒そうだからさ」 「こんなもの、何処に売ってたの?」 「作ったんだよ、無かったからさ」 「え」 「うわ、何その意外そうな顔」 「だって、そんなの見かけたこと無い」 「そりゃ気付かれないようにやってたしね」 「何でよ?」 「ばれちゃ面白くないだろ? 善行は気付かれないようにやれってね」 「ふーん……ありがと」 「どういたしまして」 「………」 「………」 「何も言わないのね」 「言って欲しいかい?」 「意地悪」 「霊夢ほどじゃないな」 「どうだかね。 ま、私はあなたの思っている通り何も用意してないわけで」 「言わなくてもいいのに」 「うっさい。こっちにも面子があんのよ」 「はいはい、それで?」 「だからあなたが何か私に要求があったら聞いてあげる券を今ここで発行します。今日限定で」 「聞くだけ?」 「場合によっては履行も可」 「随分と限定的だね」 「いちいち水を差さない。で、どうするの?」 「うーん……特に思いつかないし、いいや」 「何それ」 「いやぁ、してもらいたい事はいつもやってもらってるから満足だし」 「それじゃあ私の立場ってもんが無いのよ。 いいから言いなさい。言うの。言え」 「最早脅迫だね」 「あーもー、埒が明かない! こうなったら私がしたいと思う事をしまーす」 「主旨変わってない?」 「あんたが悪いのよ、何も言い出さないから。 ほら、こっち」 「全く強引だなぁ。 っと――――――んぅ」 「――――――――っは」 「…………………」 「…………………何よ」 「照れるくらいならやらなきゃいいのに」 「うるっさい!大体なんであんたはそんなに平気なのよ! あー、何か腹立ってきた!もう今夜は寝かせてあげないんだからね!!」 「何気に爆弾発言だね」 そんな聖夜の一日後。 11スレ目 528 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「愛してる」 会話が途切れた時、物は試しと言ってみた。 「そう。ありがと」 彼女は素っ気ない返事をよこしてからさっさと席を外してしまった。 あっさり躱されたなぁ。 なにか面白くなくて、話し相手もいないので手持ち無沙汰に湯飲みを啜った。 お待たせと声がかかり、ぼーっとしていた僕のすぐ隣に彼女が腰を下ろす。 「あのさ――」 ――さっきのは冗談なんだけど。 「何?」 いつもより嬉しそうに湯飲みを覗き込む顔に、続きを言い出せなくなる。 彼女はまごつく僕を見て柔らかく微笑んだ。 「冗談でもね、言われると嬉しい言葉ってあるのよ」 「そうかな」 「そうなの」 とん、と肩に寄せられた僅かな重みと赤いリボン。 なんだか無性に恥ずかしくなってきて、逃げ場も失った僕は遠くに広がる自然の彩りに集中した。 きっと夜になっても終わらない、神社の紅葉観賞会。 辺りの木々は朱に染まり、日々近づいてくる冬の足音。 触れ合う肩から伝わってくる温もりに、僕は大きな欠伸をした。 10スレ目 366 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○:僕。人間。怠け癖全開の人。イチャつくよりは一緒にゴロ寝。 甲斐性? きっとそれなりには。 霊夢の一応旦那様。 霊夢:ご存じ博麗の巫女。紅白。腋がたまらん。 怒ると おんみょうだま が さくれつ するぞ! ○○の一応嫁。 「嗚呼……炬燵が温い。しあわせ♪」 博麗神社の一室。 "博麗神社の眠れるナマケモノ"こと僕は、炬燵に潜りこんでその温かさを噛み締めていた。 本当なら料理の仕込みとか、やらなくちゃいけないんだけど、 手早くしてしまえば本当に数分で仕上がってしまうのだ。 ……ズボラ料理? 上等じゃないか。 お腹が膨れればいいんだよ、膨れれば。 そういう理由から、僕はギリギリまで炬燵から動くつもりはない。 そんな言い訳(?)を考えているうちに、縁側に続く戸が開いた。 「……またここにいたのね、○○。 台所にいないからもしやと思ったら……」 「やあ、霊夢」 「やあ、じゃないでしょう、やあ、じゃ。 貴方にも仕事を与えているのだから、ちゃんとして貰わないと」 ――追い出すわよ? と視線で語られる。言葉にされるよりもちょっと怖い。 「まき割りも済んだし、里への買出しも終わってるよ。ご心配なくー」 「……ご飯は?」 「ちゃっちゃと作る予定。それよりも霊夢も炬燵で温まらないかい? そんな格好じゃ寒いだろう」 冬の真っ盛り、雪だって積もっているにも関わらず、彼女はいつも同じ格好のままだった。 去年、見ている方が寒いと僕がプレゼントしたマフラーはきっちりとまいていたけど。 「あんたね……」 「ほらほらー、あたたかいよー? ぬくぬくだよー?」 ぽふぽふと自分のスペースの隣を叩いて誘う。 「……仕方ないわね。しばらく付き合ってあげるけど、それが終わったら○○もちゃんと仕事しなさいよ?」 「了解ー」 やれやれ、とジェスチャーまじりに霊夢は溜息一つ。 すたすたと僕の真向いに座る。 「なっ……」 「ど、どうしたの?」 「霊夢が、隣に座ってくれない……」 「はい?」 「仮にも僕は、君の旦那様なのにっ」 「……」 「嗚呼、これが噂に聞く倦怠期ってやつか! ……よよよ」 「違うわよっ! ……ただ、ちょっと、恥ずかしくて」 顔を赤くしてそこだけは否定する霊夢。 大袈裟に拗ねてみただけなんだけど、まさか本気で対応されるとは。 「恥じらうことなんてないじゃないか。僕達は曲がりなりにも夫婦だよ? そっちから来てくれないなら……」 「何?」 「こっちからいくまでさ! 必殺、トンネルドライブ!」 炬燵の中へ体を潜らせ、一気に向こう側へと突き進む。 布団を突き破った先は、霊夢の真横。 驚きと呆れの混じった表情を眺めつつ、彼女の身体を捕える。 「捕まえたー」 「ちょっ……あんたドコ触ってんのよ! 離しなさい!」 「嫌♪」 顔を真っ赤に染めながら抵抗する霊夢。 それがかえって嗜虐心を煽ることに彼女は気づいていないのだろうか。 「ここか、ここがええのんかー」 「あっ、ちょっとそこはだめだってば! ……んっ」 「ふふふ」 「いい加減に……ふぁっ……しなさ、いよ……」 そろそろ止めないと霊夢が怒りだしそうだ。ぴくぴくしてるし。 霊夢をいじっていた手をぱっと放す。 「……○○、あんたね……」 息をちょっと荒くしながら拳を震わせる霊夢。 そんな姿さえも僕にとっては愛おしく見える。 恐らくそのまま放っておけば放たれるであろう鉄拳ごと、彼女を抱きしめた。 「っ!?」 僕の突然の行動の連続にとうとう対応仕切れなくなったのか、彼女は緊張した猫のように身体を固くする。 「れいむー?」 「……な……何よ」 「いつも御苦労様です」 えらいえらい、と彼女の頭を優しく撫でる。指も使ってさらさらと髪の感触を楽しむ。 あまり抵抗しないのは緊張してるから、かな? 「でもね、最近色々と頑張り過ぎだと思うんだ。たまにはこうやって休まないと、ね?」 彼女はこの幻想郷を守る博麗大結界を管理している。 それだけでも大変だと思うのに、連日のように妖怪退治したり、神様にケンカ売ったり、宴会開いたり。 そうやって頑張る姿が好きだからこそ、一緒になっているのだけれど…… たまに疲れた顔をしているのを見て、それを僕に気付かせまいとしているのを知って……黙っているほど野暮じゃない。 「○、○……」 先程いじり倒したせいか、それとも別の理由からか、彼女の眼尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。 それを指先で拭いつつ、言葉を続ける。 「せめて今だけは、他の事を忘れて。僕だけを見て、僕の事だけを考えて」 今までやってきたこと、今もしていること。 偉業とも呼べる数々を成し遂げたくせに、硝子のように細い体をそっと抱き締めて。 精一杯の口付けを交わす。 「っ、んぅ……ぷは……○○……」 拙いながらも必死に応えてくれる霊夢。 この一時が永遠に続けばいいのに。 「……続きはベッドで……と、霊夢?」 長いキスも終わり、しばらく抱き締め合っている内に、霊夢は腕の中で眠ってしまっていた。 そろそろ晩御飯の支度にかからないといけないのだけれど、 炬燵の中な上に服の裾を彼女に掴まれている。 (……起こすのは、無粋だよね) そっと霊夢の髪を指で梳きながら、安心しきった寝顔を眺める。 (晩御飯は……一緒に作れば、いいか) きっと僕一人では彼女の足元にも及ばない。仕事の手伝いなんて以ての外だろう。 でも、心の負担くらいは、受け入れてあげたい。 彼女には、笑っている顔が、よく似合うのだから。 いつ彼女がここへ帰ってきてもいいように、笑顔でいられるように。 僕はここで出来ることしようかな、と思った。 「これからもずっと、一緒にいようね、霊夢」 11スレ目 915 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ねぇ、○○」 「何?」 「……なんでもない」 誰かから聞いた事がある。 雨は誰かの代わりで泣いているからあんなに冷たいのだと。 そうだとしたら今降っている雨は誰の代わりに泣いているのだろう。 さわさわと縁側で囁く雨。朝からずっとこの調子だ。 昨日はからからに晴れて冬とは思えないくらい暖かかったのに。 今は少し着込まないと寒いくらいだ。 こたつの上に置いてあるみかんの入れ物に手を伸ばして中の一つを手元に持ってくる。 橙の皮を向くと、特有の柑橘の匂いがした。 お昼を食べたとはいえ、やはりこたつにみかんは付き物である。そう一人で考えて皮を向いていく。 だるそうに背中を丸めてみかんの皮を向く俺とは対照的に、正座をしてこたつに入ってくる彼女。 食器洗いが終わったのだろう。ふぅとため息をついてお茶を淹れるように指示してくる。 言われた通りに彼女のお気に入りの湯のみにお茶を注ぐ。香りと共に湯気が立つ。 「よく降るわねぇ、洗濯物が出来ないわ」 少し熱いのだろう、ちびりちびりと飲みながら霊夢はお茶を啜っている。 こたつに入っている俺の横で、同じくこたつに入りながら彼女はぼんやりと外を見ている。 俺とは反対方向の縁側を、どこか鬱陶しそうに。 俺はみかんを食べ続けながら、霊夢に言葉を返す。 「まぁ仕方ないんじゃないのか? 降る時は降る」 何処か適当に返事をしながらお茶を飲む霊夢を見る。 夜の闇のような髪。動きに合わせながら肩からさらりと零れていく。 真っ白い肌に少し赤味が差した頬。少女特有の、いや、女の子特有の柔らかい輪郭。 何処か切なげに影を落とす長い睫。俺とは全然違う、生き物。 どちらも喋らない。外から降る雨の音が部屋を満たしていく。 雨と縁側を背景に見る霊夢は何処となく儚い気がして、思わず視線を逸らした。 なんとなく、雰囲気がいつもと違う。雨のせいか。 それとも、この沈黙のせいだろうか。よくわからない。 鼓動が、早い。けれど、嫌なものじゃない。 それでもなんとなく癪だったのでみかんを一気に口に放り込む。 甘いような酸味が口に広がる。いつも食べるみかんより少し酸っぱい気もする。 「ねぇ、○○」 ふいに霊夢が呼びかける。か細い声。 少しビックリしてしまって、咀嚼しかけたみかんが変なところに入りそうになる。 なんとか胃に押し込んで返事をした。 「何?」 唇に柔らかい感触。閉じた瞼。長い睫。 さらりとした髪が俺の頬に触れる。 不自然なほど近い距離で、瞼を閉じた綺麗な顔が見える。 ふわりと漂う、霊夢の、匂い。 ゆっくり彼女が離れる。ほんの少しだけ紅潮した頬と、潤んだ瞳。 小さい、声で。それこそ聞き取れないような声で。 「……なんでもない」 そう言うと、飲んでいた湯のみも放っておいて何処かへと姿を消してしまった。 少し急いたような彼女の足音はもう聞こえない。 時間が、止まっている。部屋を包む雨の音が少し大きくなった気がする。 なんなんだ。よくわからない。どうして。 ぐるぐると自問自答しながら、ゆっくりと自分の唇に触れる。 先ほどとは全然違う感触。全てが違う。 身体が熱くなった。指ではない、柔らかな感触を思い出す。 霊夢のふんわりとした仕草、風のように目の前に来て。 キス、された。そう思う。 初めてだ。生まれて初めて。 それこそ、身体が熱くなるような感じも。初めてだった。 紅白の衣装を着た彼女の家に住み始めたのはもう随分前の事。 それまではお互い何も意識はしてないし、むしろ他人のように接していたつもりだった。 外の世界から来た俺に特に興味を示す訳でもなく、ただ住処を与えてくれた。 衣食住には困らなかったし、俺も霊夢に干渉するつもりもなかった。 数日前、新しい家が決まった俺に、やっぱり特に何も聞かずに良かったわねと声をかけてきた。 引越しまでまだある。だから今日も特になにもしないで二人でこたつに入っていた。 「なんなんだよ…、一体…」 誤魔化すように自分の頭を掻く。 霊夢と全然違う、少し固い髪。 彼女を思い出している自分に気付いて、見惚れていた理由も、何処となく速い鼓動も、いつも感じる安心感も、納得がいって。 あぁ、そうか、と一人で呟いた。 しばらく、引越しを見送ろう。そして霊夢に聞こう。色々。 誰よりも不器用な彼女は表に出せないだけで、誰よりも寂しかったのかもしれない。 彼女の部屋の前にきて、すすり泣く声が聞こえた時、そう思った。 今日の雨は、一段と冷たかった。さわさわと音を立てて、幻想郷を濡らしていた。 end. 12スレ目 22 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ねぇ○○、抱きついてもいい?」 昼飯も食べ終えて何をするわけでもなく居間で炬燵に入りながらボーっとしていた俺に霊夢が突然聞いてきた 「何だよ突然」 「いいじゃない、ね?いいでしょ?」 「ああ、いいよ」 ギュゥ 「……んん、○○の匂いがする 昔どこかで嗅いだことがあるような匂いでそれで安心する匂いがする…」 霊夢が俺の首に手を回し抱きついてくる それと同時に女の子特有の甘い香りが鼻腔の奥にまで漂ってきた 「○○が居てくれるなら私は他の何もいらない だから…だからずっと一緒に居て」 「ああ、約束だ俺は霊夢と一緒にいるよ」 「嬉しい……」 最近の霊夢はよく俺に甘えたがる まるで甘えることで自分がここにいることを確認するかのように 霊夢は弱くなった、それは力の方ではなくて心のほうがだ 誰も深く干渉させなかった霊夢が俺という存在を引き入れた結果 心にスキマが出来てしまったからだ それは博麗の巫女としては駄目なことかもしれない 紫にも 『貴方といれば霊夢は弱くなる、それは幻想郷にとっては害以外のなんでもないわ』 と言われた でも、それでも俺はそれがいくら悪いことでも 『お願い…お願いだから私と一緒にいて、○○が一緒なら私は頑張れるから』 俺に縋り付いて泣きながら告白する霊夢を突き放すことなんて出来なかった だから、だから俺は強くなると決意した 霊夢が弱くなったのなら代わりに俺が強くなればいい どこまで出来るかわからないけどそれでも俺は霊夢の為ならどんなことでもしてみせる ガバッ 「なにボーッしてるの?」 「ああ、霊夢のことを考えてたんだよ」 思案していると突然霊夢に押し倒された 考え事をしてたため俺の体はろくな抵抗を出来ず畳の上に転がった 「そうなんだ…嬉しい」 「霊夢は何考えてたんだ?」 「そんなの勿論○○のことに決まってるじゃない」 「そっか」 「ねえ、それより……しよ?」 「おいおい、昼間からか?」 「○○と愛し合うのに時間と場所なんて選ぶ必要なんて無いわよ」 「せめて場所は選んでくれ…」 求められるのは嬉しいけどいつか宴会の途中で求めてきそうで怖いな… どっちにしろ俺には霊夢を拒むことなんてできはしない それに俺だって霊夢と愛し合うのは好きだ 「いいよ、霊夢、しよっか」 「うん、愛してるわよ○○……ん…たくさん、しよ?」 「ああ、俺も愛してる」 そして俺たちは今日も愛し合う これが罪だと言うのなら受け入れよう 霊夢と一緒なら地獄に堕ちるのも悪くない 12スレ目 64 ─────────────────────────────────────────────────────────── 寒空の下、お茶を飲みながら縁側に腰掛けて・・・寒い。 「なぁ、霊夢」 そこにいた紅白の人物に語りかけてみた。 「何よ」 お決まりの台詞だな。だがそれがいい。 だから俺は、その素っ気無い態度を崩したくなったんだな。うん。 「好きだ」 そう、一言だけ告げた 「・・・」 あれ?やばい俺滑っt 穴があったら入りたい。 沈黙は続く。逃げちゃダメだッ! 「あの・・・霊夢・・・さん?」 「・・・なによ」 返答が変わってない。怖い。俺、どうする。 そこで思考がストップした。 唇になんだか暖かい感触がしたが、一瞬だけだった。 「・・・私も」 「それだけじゃ判らん。ちゃんとした文章で頼む。」 俺はもちろん判った上で、そう言った。 「・・・何よ。意地悪」 俺もそう思う。だから俺は行動で示すことにした。 「霊夢。これからも、よろしくな。」 そう言って、今度は自分から、深く、口付けた。 12スレ目 77 ─────────────────────────────────────────────────────────── ホーホーホー 「いい夜ね、こんな夜は静かにお酒を飲むに限るわ 藍、貴女も飲むでしょ?」 「はい、ご相伴に預かります」 ホーホーホー 「宴会の席で飲む騒がしいお酒もいいけどこうして静かに飲むお酒もまた格別ね」 「そうですね、紫様」 「今はこの静かな酒宴を楽しみまsy「うわあぁぁーーーん!!ゆがりぃーーー!!」……短い酒宴だったわね」 「……そうですね」 「どうしたのよ霊夢、こんな夜分遅くに」 「うぅ…ひっく、うえぇ、○○が」 「○○がどうかしたの?」 「きょ、今日初めて○○とすることになってそれで、その……」 「なに?はっきり言ってくれないと分からないわよ、なにか変な性癖でもあった?それともイ○ポ?」 「違うわよ!!ちょっと…色々あっただけよ」 ~時を戻すこと一時間前~ 「……霊夢、いいか?」 「わ、私は○○となら……」 「ありがと」 チュッ 「んぅ……はぁっ!……はぁはぁ」 「もしかして霊夢、キスするの初めて?」 「○○以外にされたくないわよ」 (やべっ、興奮してきた)「じゃあそっちの方も」 「そ、そうよ、初めてよ、だからちょっと不安で……」 「そっか、大丈夫、俺も初めてみたいなものだし」 「……初めてみたいなもの?じゃあ○○は私以外の女の人とやったことあるんだ」 「え?あ、その……他の女性とはやったことあるような無いような……」 「こぉんの浮気者!!!」 神霊 夢想封印 「うぎゃー筋肉マーン!!」 ~そして時間は現在に~ 「と、言うわけなのよ、酷いと思わない?」 「……あのね、霊夢、○○も男性なんだから女性経験の一つや二つはあるわよ」 「でも!」 「デモもストもないわよ、いいじゃない、リードしてもらえるんだし 第一今は霊夢が○○の恋人なのよ、○○が経験あってもそれは過去の女 別に浮気してるわけじゃないんだしいいじゃない」 「……それも、そうだけど」 「それに霊夢貴方○○に夢想封印してそのままほったらかしでしょ? 帰らなくていいの?」 「あ!!わ、私帰るわね!!」 「はいはい、あんまり痴話喧嘩を飛び火させちゃだめよー」 「はぁ、慌しい事で」 「お疲れ様です、紫様」 「なんか他人ののろけを聞いてたらムカムカしてきたわね 藍、朝まで飲むわよ」 「じゃあおつまみを作ってきますね なにがいいですか?」 「貴女に任せるわ」 10スレ目 536 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霊夢、俺と結婚しよう。嫌とは言わせない 10スレ目 995 ───────────────────────────────────────────────────────────
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霊夢37 Megalith 2011/02/16 ある初夏の日、ふと出かけた山歩きのさなか、現世から迷い込んだ世界、幻想郷。 岩場から落ちて大けがを負っていた俺を助けてくれたのは博麗神社の巫女、霊夢。 巫女衣装にはちょっとほど遠い不思議な衣装に最初は面食らったが、 流れる黒髪、赤いリボン、そしてその愛くるしさと性格から、 怪我を負って療養していた俺はだんだんと霊夢を好きになっていった。 怪我が癒え、霊夢の為に神社に居候することを決め、俺は霊夢と一つ屋根の下に暮らすようになり、 そんな生活を数ヶ月繰り返して、俺は霊夢に告白した。 霊夢も初めは初めてのことで驚いてはいたが、向こうも満更ではなかったようで、 俺の思いを受け入れてくれた。 この時俺は、この幻想郷で一生暮らす事を誓ったのだが・・・ 周りの連中から揶揄と祝福を受けながら暮らす俺たちに、幻想郷を統べる妖怪の賢者、 八雲紫が降りてきた。 なんでも噂をかぎつけて祝福がてら冷やかしに来たそうだが、本心は別のところにあり なんでも10月で1年で1度だけ下界に戻れる時があり、今回は俺に顕界の里帰りをさせてくれるという。 せっかく戻る機会、是非とも俺は霊夢を外の世界に連れて行ってあげたかった。 二つ返事で承諾すると、1週間という期間限定で外の世界に送ってくれるという。 旅支度を調え、不思議なスキマを通り抜け、俺は霊夢と元の顕界、俺の故郷と実家に連れて行った。 実家ではずっと失踪していた息子が妙齢の若い娘が付いてきたことでてんわやんわとなり、 霊夢は引っ張りだこだった。 あの巫女服も意外に受けが良かったし、お袋は嫁でもないのに洋服などを買い込む始末。 また外の世界は初めての霊夢には色々な場所へ連れて行った。 流石にスペカや空を飛ぶ能力は封印してもらったけど。 そんな生活を送り、いよいよ6日目となり、幻想郷に戻る日が近づいてきた・・・ ギュルルン、ギュルルン・・・ 霊夢「ちょっと、このバイクって奴?すごく匂うんだけど・・・」 ○○「まああっちでは油をそんなに使う訳じゃないからな、確かにきついかも知れない」 霊夢「でも、こっちの人間って不便よね。あたし達と違って空飛べる訳じゃないから こうやって乗り物に頼らないといけないし・・・」 ○○「そうかもしれないけど、このバイクは別だ。霊夢が空を飛んで感じる、風の流れを 同じように感じられる、良い代物だよ」 霊夢「ふーん。でもこのヘルメットとかあと上着?、とっても重くて面倒よ。 あーあ、幻想郷だったら空飛んで楽ちんなんだけどなー」 ○○「まあ物は試しって事で。そりゃ!」 そして俺はアクセルを回す。 ブロロロロオロ!ドクドクドクドクドクドク! ようやくエンジンが暖まりかかったようだ。 ○○「よーし、じゃあ信州の旅に出発だ・・・とりあえず神奈子様と諏訪子様がこっちに来ているって言うし。 しかししばらくこっちとお別れだが、良いのか?」 霊夢「まあ、こっちの旅も結構堪能したから良いわよ。それに良いお茶も一杯買ったし。 ありがと、○○」 ○○「ええ、どう致しまして。じゃあ俺が乗ったら霊夢、後ろに乗って」 霊夢「わかったわ。でもちゃんと運んでよ?」 ○○「霊夢が重くなければね」 霊夢「・・・こっちの世界でもスペカは実現可能よ?」 ○○「今回はお茶とかそういうのがあるからだよ」 霊夢「・・・もう」 赤と黒のアクセントが光る俺のモタード型XR400。 こいつも今でこそ手元にあるが既に生産が止まっており、いずれ幻想郷に流れ着くことは確実だ。 っていうより昨年からオフロードのバイクが続々香霖堂近くで確認できた。 香霖堂の店主、霖之助さんにはバイクというものがなんだか概念を説明したが、 バイクの修理を出来るエンジニアが幻想郷にはまだ流れ着いていないらしい。 しかし最近の常連、河童のにとりが興味津々に内燃機関をのぞき込んでいるのをよく見た。 河童集団が最近よく見られるのはそういうことなのだろうか。 いずれはエンジンを解析するに違いない。その時には幻想郷で乗り回せるかな? ガソリンが流れ着くか、わき出るかは微妙だけど。 そして、一番重要なこと。 それは俺が下界に次に戻ってくる保証もない・・・ 親父とお袋には旅に出ると行っておいたが、本当の事は密かに置いて来た手紙に記しておいた。 親不孝な息子でゴメンよ。 最後に一家で取った写真を1枚だけ、ポッケに忍び込ませる。 感傷に浸ってもしょうがない。 俺には霊夢という大事な存在がある。 それを守る為のエゴくらい、許してくれ・・・ じゃあ霊夢、行こうか。 ○○「よーし霊夢、しっかり掴まってろよ!」 霊夢「じゃあ帰りますか、博麗神社へ」 スタンドを外しアクセルを回す。 さて、目指すは長野のあの神社。 とりあえず旅の祈願とこちらに戻ってきた二柱へのご挨拶を経て、北信にて紫様と待ち合わせたのち 霊夢と一緒に幻想郷に戻る。 また神隠し扱いか・・・顕界にご迷惑をかけっぱなしだなぁ、アスファルトの光景を流しながら考えていると 霊夢「すごい・・・景色が流れて・・・何か風も見える・・・」 ○○「そうだろ?長野はもっと凄いんだぜ。とっておきを霊夢に魅せてやるよ」 霊夢「こういうのも、また悪くないわね・・・」 ○○「いつでも乗せてやるよ。霊夢が望むなら」 霊夢「・・・うん」 都内を抜けて高速道路に乗る。バイクは快調だ。 そしてやってきた諏訪。本宮と秋宮をそれぞれ参拝したあと、約束の前宮へ。 諏訪子「やっほー霊夢。良い神社でしょ-。湖とか温泉とか色々みていってよ-」 神奈子「まあ博麗神社もこれくらいの規模があれば、参拝客には困らないと思うが、どうかな」 霊夢 「・・・アンタら、幻想郷に戻ったら絶ー対ーぶちのめしてやるから」 ○○ 「オイオイ霊夢、物騒なことはやめろって!。こっちでは曲がりなりにも一の宮の神様・・」 霊夢 「そんなのアタシには関係ないわ。大体この前宮ってさっきの所と比べるとかなり貧相なところじゃない」 ○○ 「さっき見てきた神社2つに比べればそうかもしれないが、ここは4つで1つの神社なんだぜ・・・」 霊夢 「え、ええええ!?」 諏訪子「そうなんだよねー。○○、あとで春宮連れて行ってあげてよ。どうせ北に向かうんでしょ?」 神奈子「もちろん翡翠のおみくじは引いて帰ってくれ。きっと幸運間違い無しだ、○○」 ○○ 「諏訪子様、神奈子様・・・お心遣い大変痛み入ります・・・」 霊夢 「○-○-?!早苗みたいな言葉遣いして、あんたどっちのみーかーたーなーのーよー?!」 ○○ 「あああ、霊夢さん落ち着いて落ち着いて!俺は霊夢さんしか見てないから!好きだから!愛しているから! それに諏訪子様と神奈子様は神様なんだし!!」 霊夢 「な、な、なにどさくさに紛れて変な、ちょ、ちょっと、て、照れるじゃないのよ!!」 諏訪子「あれー、あの翡翠って縁結びの効果あったっけ-?神奈子-?」 神奈子「さあ。でもおみくじ引く前だから、関係ないんじゃないの?それにしてもお熱いこと。 私達も当てられそうだわ」 霊夢 「うーーーー、絶対あとでコテンパンに・・・」 ○○ 「ま、まあ、お、俺も悪かった・・・でも霊夢さ、さっきの言葉は、神様に誓って、嘘じゃないから・・・」 霊夢 「し、知らない!!ちょっと○○、こんな居心地の悪い神社、とっととおさらばするわよ! 諏訪子!神奈子!次にあったらアタシの奥義を見せてあげるんだから!」 ○○ 「失礼しましたー」 諏訪子「なんかあーうーのも、ちょっとうらやましいよね、神奈子」 神奈子「ああ、用事が終わったら留守番している早苗を連れて行ってあげるか・・・」 こうして俺は機嫌の悪い霊夢を道中なだめながら春宮に行き、そして宿泊地に向かった。 紫様との待ち合わせは木島となっていた。見せたい物があるらしい。 でも流石に諏訪から木島への道は長いので、今日は山田温泉で泊まることにした。 霊夢「あーさっぱりした。あそこの温泉って良い感じね」 ○○「古くから秘湯で有名だからね。ただ混浴がないのだけは残念なんだが(笑)」 霊夢「・・・もう、いやらしいんだから・・・」 ○○「でもどうだい霊夢、長野の風は」 霊夢「そうねー、何となくあっちの風に似ている気がする」 ○○「秋なんかは特に心地よい風が感じられるぜ。けど冬は雪が多いからこんな風を感じる事は出来ないんだ・・・」 霊夢「ふーん」 ○○「明日は山間の中を通るから、綺麗な景色がよく見られるよ」 霊夢「ほんとに?」 ○○「ああ、途中でおやき買って2人で食べよう。もちろんお茶付きでね」 霊夢「アンタにしてはイキなことするじゃない。じゃあせっかく買ったお酒で乾杯するわよ。昼間の分、付き合いなさい」 ○○「へいへい。ただ飲み過ぎてどうなっても知らないよ-」 霊夢「・・・・・別にアンタだから、良いんじゃないのよ・・・」 ○○「・・・・・」 俺は買ってきた真澄の生搾りに手を付けることにした。 ○○「あー、このキリッっとした感じがたまらないねー」 霊夢「外のお酒も美味しいものね-」 ちょっと紅潮した霊夢の顔がとても愛おしい。 ○○「霊夢、そんな離れてないで、もうちょっとこっちにおいでよ」 霊夢「も、もう・・・何しようって、いうのよ・・・」 ○○「二人で寄り添ってお酒飲むだけですが、何か」 霊夢「・・・・それだけで、終わらないくせに・・・」 まあ、こういう話も、悪くないわな。ではいただきまーす。 山田温泉でしっぽりしたあと、俺と霊夢を乗せたバイクは小布施を経由して中野に抜ける。 途中の小布施は今が栗の旬、故に栗強飯をお昼に食べる。 霊夢「あんまり強飯って食べたこと無いけど、結構美味しいのね」 ○○「ああ、今が旬だからな。もしかしたら穣子様と静葉様が途中立ち寄っていったかも知れないけどね」 霊夢「こんどあっちでもこういうのせびってみようかしら」 ○○「おいおい・・・」 そして中野を抜け野沢方面に抜け、俺はある古びた駅舎のある所にたどり着いた。 旧木島駅。 今はバス以外誰も見かけることのない場所。 そして、そこには約束通り、あの人がいた。 霊夢「なんでこんな所を待ち合わせの場所にしたのよ?」 紫 「あら、ご愛想ね。こういう所こそ待ち合わせに良いでしょ?誰も居なくて」 紫様が駅舎の前で突如実体化した。霊夢は気配で察知したらしい。 ○○「紫様、ご無沙汰です」 紫 「あら○○、久しぶりの外の世界はどうだった?」 ○○「はい、まあ色々と・・・」 紫 「そう、でも満更ということでも無いでしょ。霊夢をお友達に紹介し回ったのかしら?」 霊夢「紫!、そ、そこまで言わなくたっていいでしょ!」 紫 「あらー、ご名答のようですわね。妬けること妬けること」 ○○「からかわないで下さいよ紫様、確かに親や友達に自慢、いえ紹介しまわったのは事実だし。 霊夢「○○・・・もう・・・・」 紫 「その様子だと、”きのうは おたのしみ でしたね。”」 霊夢「・・・・!」 ○○「!?」 紫 「あらあらうふふ、初々しいわぁ」 霊夢「・・・・あとで覚えて置きなさいよ、紫」 ○○「は、はははははは」 しかしこんなやり取りをしていて、外の世界ではコスプレイヤー以外ではまず見られない ドレスと導士服を着こんでいる紫様を見ても誰もいぶかしげないのは、やっぱり賢者故の能力なのだろうか。 紫 「さて○○、いよいよ幻想郷に戻るときが来たようだけど、やり残したことはある?」 ○○「紫様、こいつとこのヘルメット2つ、家に戻しておいて下さい」 紫 「ずいぶんお安いご用ね。それだけでいいの?」 ○○「はい、もしかしたらあっちでご対面できる、かもしれない曰く付きのバイクですからね。 駄目になるなら家で駄目になって欲しいし・・・」 霊夢「○○・・・」 ○○「でも、最後に霊夢と一緒にツーリングできて良かったですよ」 紫 「そう、分かったわ」 ○○「よろしくお願い致します」 紫 「さて、じゃあ2人とも戻る前に、ちょっと見せたいのものがあるのよ。その駅の中に入ってくれないかしら」 霊夢「え?こんな古びた建物の中に?」 ○○「ここって既に廃線になっているところですよ?紫様でもご存知ですよね?」 紫 「だからこそよ。さあ、2人とも入って頂戴」 霊夢「何を考えているのかしら、紫は」 ○○「うーん」 ちょっと引っかかる物を感じながら駅舎の中に入る。 駅はホームだけが残り、構内はレールが取り払われ、雑草が怏々と茂る光景が目に映る。 霊夢「なによ、古びた建物と雑草が茂る所じゃない・・・」 ○○「そうだ・・・ってえええ?」 気が付いたら俺と霊夢は駅のレールの上に立っていた上に前から電車が近づいている。 霊夢「な、なによあれ、あれって」 ○○「ちょ、ちょっとこれって、霊夢ぅぅぅぅぅ!!」 反射的に霊夢を抱き寄せ、俺は目をつむった・・・ 紫 「はい、お疲れさま-」 紫様の声を聞いたとき、俺と霊夢は元の場所にいた。 霊夢「ちょっと紫!!冗談にも程があるわよ!こんな所でアンタのスペカ見せて○○になんかあったらどうするのよ!!」 ○○「あ、あれって確か・・・」 紫 「どう、実際の廃線「ぶらり廃線途中下車の旅」のスペカの感触は」 霊夢「え?アレって」 ようやく引っかかるものが取れた。 ○○「そうですよね、ここって長電木島線の終着駅。そしてアレは・・・」 紫 「○○が良く乗っていた地下鉄の電車。この駅と路線と共に、既に幻想入りした、古き良き思い出・・・」 ○○「そうですよね・・・」 紫 「○○、貴方は、また幻想郷入りすることによって、その存在がどんどん忘れ去られることになるでしょう。 それでも貴方はあっちに行くことに躊躇いがなかったか、ちょっとだけ試させてもらったわ」 ○○「紫様・・・俺は・・・」 紫 「それ以上は言わなくてもいい事よ。幻想郷は総てを受け入れる。それはとても残酷なことって、貴方も知っているでしょ?」 ○○「はい、もちろんです」 紫 「あの時、霊夢を確かに庇った。その事実だけで貴方の決意は十分理解したわ」 霊夢「ちょ、ちょっと、紫。どういうことなの・・・よ?」 紫 「あらあら、知らないというのは本当に罪と言う事だわ。全く貴方は本当にハクレイノミコの自覚があるのかしら?」 霊夢「アンタが勝手に話を進めているからでしょ-!!」 ○○「オイオイ霊夢、もう良いだろ。紫様は俺に本当にあっちに戻る決意を確認したかったんだ。俺は普通の人間だし スペカが使えるわけでもない。でも、だからこそ霊夢と一緒にいたいし、自分が忘れられても霊夢と一緒なら それでいい。そういうことさ」 霊夢「○○・・・」 思わずお互い見つめ合ってしまった。顔が赤い。 しばしの静寂のあと、 紫 「あー、お二人とも?そろそろ、いいかしらねー」 ○○「あ、はい」 霊夢「な、なによぉ・・・」 紫 「じゃあ、貴方たちを幻想郷に戻すわよ。いいかしら」 ○○「お願いします」 霊夢「さっさとやっちゃってよ」 紫 「私は残った仕事を片付けてからそっちに戻るから。それじゃまた後で」 そうして、俺と霊夢は上から来るスキマに包まれた。 現世の画像が歪み、幻となり、消えた後紫と目玉が多く光る空間に包まれる。 あんまりこの光景って好きじゃないんだけどなっー・・・ 気が付くと、俺と霊夢は神社の境内に立っていた。 霊夢「あー、戻ってきたわ-。何だかんだ言って、自分の家っていいわよねー」 ○○「そうだな」 霊夢「じゃあ、買ってきた荷物とか置いて、お茶にしましょ?アンタのオススメのこのおやきを食べながら」 ○○「蒸し器あるかい?蒸かし直すと美味しいんだよ?」 霊夢「えーと庫裡にあったかしら。ちょっと探してみるわ」 ○○「じゃあ荷物はやっておくよ」 霊夢「○○、お願いね」 霊夢は言った。「自分の家っていいわよねー」と。 俺の家はここではない。 けど、これから俺の家になる。そう思える気がした。 霊夢と暮らす幻想郷の話は、多分一杯書き留められる事になるだろう。 今はワープロが流れ着いている。阿求さんにも教えてあげよう、物語を書き連ねることを。 あと、俺と霊夢の話もね。 この紅い服の巫女が、俺の、永遠の巫女となりますように。 糸冬 旧イチャスレ上げた自分の作品を若干修正を施し、改めて上げなおしました。 Coahは便利さね、読むのには。 しかしもう2月なのに10月頃の話題のそんなSSで大丈夫か? あーでもバイク乗りてー。 信州また旅行して-、そして霊夢に乗(ry Megalith 2011/07/06 「――で、あなた達って、いつ結婚するのかしら?」 「「……だからありえないって」」 幾度目かわからない問い掛けに、幾度目かわからないまったく同じタイミングで回答。 意図はしていないのだが、何故かよくこうなる。 そろそろ煎じすぎて出涸らしな感が否めないが、なるものは仕方ない。 「そんな事言われてもねぇ。貴方達、一緒に何年も暮らしているでしょう? 皆"そういう"認識にもなるってものよー?」 頬に手をあて困惑を混ぜた苦笑いを浮かべているのは、 ここ幻想郷では知らぬ者がいないであろう、大妖怪の八雲紫である。 ……ゆかりっちと呼んだら蹴られた事は忘れない。絶対にだ。 因みに隣で俺とシンクロしやがったのは、博麗霊夢。俺の家主である。 ちらと見やると目が合った。おい何故俺を睨む。何も非はないだろうが。 「わたしがこいつとくっつくとか、天地がひっくり返ってもありえないから」 「……そいつにはまったくもって同感だな。地獄の閻魔が仕事をサボるくらいありえないぜ」 「あ、あらそう。なら聞くけど……その気がないならどうして一緒に暮らしているのかしら」 これまた幾度目か分からない問い掛けだな。二人揃って溜め息をつき、簡潔に回答する。 「「今更引っ越(させる)すのも面倒だし、二人なら家事の手間も幾らか省ける。利害の一致ってやつだ(よ)」」 幻想郷へ迷い込み、保護してくれた霊夢の家に居候になり、 もうどれくらい経ったっけか。三年?四年?忘れた。 里へ降りる話は何度も来ていたのだが、自他共に認める超面倒くさがりだった俺は、 引っ越すのを延ばし延ばしにしていた。しているうちに誘いも消えてしまい、今に至る。 俺と霊夢の関係は、そんな惰性の延長線上に存在していた。 段々頬を引きつらせていく大妖怪に疑問を覚えつつ、会話を続ける。 「で、買い物途中の俺達を呼び止めて何の用だゆかりっ「蹴るわよ?」――紫、さん」 「ああ、うん。そろそろまた宴会の季節ってことで、皆うずうずしちゃって……」 かく言う私も、と頬を掻くゆかりっち。 歳を考えろ歳と脳内で呆れていると、不意に左腋に痛みが走った。 痛みの元へ目をやると隙間が閉じていくのが見えた。野郎、思考まで読めるのか。 「アンタが解り易すぎる面してるだけよ。……で、場所貸せっていうんでしょ?」 俺を一瞥してから紫に視線を戻す霊夢。 そんなに分かりやすいのかと落ち込む俺の横で、どんどん話は進んでいた。 取り残されてはかなわぬと聞き耳を立てる。 ――日時は今夜。面子はほぼフルセット。暇人だらけだなオイ。 ――食材と酒は各自持ち込みか。咲夜ちゃんや苦労人こと鈴仙あたりが 過不足なくしっかり用意してくれるだろう。 ……そろそろ場所を提供する霊夢への謝礼の話だが……出番だぜ、俺。 聴覚から視覚へ優先度を渡してやると、両の掌をあわせて 分かりやすい"お願い"のポーズを取っている紫の姿が見えた。 何故かそういうポーズが似合うのはこの際気にしない。しないんだってば。 「というわけなんだけど――ダメ?」 「んー、"水道水"を三ぼ「六本だ」――またアンタは人の……はぁ、どうする?紫」 霊夢の出した甘めの条件を咄嗟に上書く。 ――こいつはとかく金品には疎いところがある。 自分が楽しけりゃそれでいいのよとは霊夢の弁だが、 少しくらいプラスアルファが出るように俺が口を出す毎日だ。 ……お前だって出がらしの茶ばかりは嫌だろう? うんざり気味の顔をした霊夢から視線を外し、ぐぬとたじろぐ紫相手に交渉を始める。 「さ、三本半で何とか」 「五」 「むむ……四!」 「四――と四半。それでダメなら余所を当たるんだな」 「むー……もう、仕方ないわね。それで手を打ちましょう!」 「おう、毎度あり。後で納品よろしくな」 高めに吹っかけて狙い目で落とすのは商談の基本だ。 半ばやけくそといった感じの紫と、営業スマイルの俺。 勝者は一目瞭然だ。 自慢してやろうと隣を向くと―― 「……話はまとまった? ほらさっさと買い物の続き済ませるわよ、○○……ぁふ」 ――すげえ退屈そうな顔した奴がいた。もれなくあくびつき。 得意げな気持ちも見る間に萎れていく。 ……そうだな、お前は昔っから興味の無いことに関しては ほんとどうでもいいってスタンス取る奴だったな。 畜生。 「……ああ、終わったよ。終わりましたよ。そんじゃまたな、紫さん」 「あっ――紫も食材くらいは持ち込んでよね? 咲夜あたりが何とかするだろうけど、うちはそんなに余裕ないから。 それじゃ、また後で」 ひらひらと別れの挨拶代わりに手を振り、歩きだす。 それに気付いた霊夢も手短に挨拶を済ませ、直ぐに隣に駆け寄ってきた。 「置いてくなばか」 「すまんすまん。……なあ、買い出し、何残ってたっけ」 「アンタ、それわたしに聞くの何度目?」 「さて、忘れちまったなぁ」 「三回目よ。……まさかもうボケが……」 「うっさい。大体俺はまだ二十代で――」 喧々囂々と尽きぬやり取りを繰り広げながら歩いていく二人を見、 一人残された紫はぽつりと呟いた。 「……どうみても仲のいい恋人か夫婦にしか見えないのよね。 私の目も曇ったのかしら……」 「「「かんぱーい!」」」 時は過ぎて夜の境内。 最初の音頭を取るだけ取り、後は皆好き勝手に騒いでいる。 俺はというと、霧雨の嬢ちゃんや各界の大物といった 馴染みの面子に一通り挨拶だけ済ませた後、一人裏手の縁側でくつろいでいた。 「騒ぐ酒も悪かないんだがな」 やはり静かに愉しむ酒は旨い。 あそこにいると愉しむよりも騒がしさが先に立ってしまう。 なんとなく静寂に浸りたかった俺は、酒瓶片手に退散していたのだった。 脇に置いているのはお察しの通り"水道水"。 盃をくいと傾け残りを煽り、頭上に輝く月を見上げ―― ふと人の気配がしたので視線だけ動かす。 そんな気はしていたけれど、やはり霊夢がきていた。 「あ、やっぱりここにいた」 「いちゃ悪いかよ」 「べーつにー。ただ、もう少し位皆の相手しなさいよね。 もっと話を聞きたいって人達もいるんだから…… 紫に関しては、アンタが秘蔵の酒をふんだくったせいで荒れてたけど」 「あー、開始した時からジト目で睨まれてたから予想はしてた。 しかし、お前もこっちに来たって事は落ち着いたのか?」 「全然。付き合いきれないわよあんなの。 どうせ暴れて幽香あたりに沈められて終わりじゃない?」 心底面倒臭いといった風に肩を竦める霊夢。 お前、自分の後見人的人物になんちゅう…… 「隣」 「勝手にしろ。ただし盃は一つしかない」 「ん」 呆れ顔の俺なぞ見なかったかのように、隣にすとんと腰を落とす。 「月がきれー……」 「……だな」 「お饅頭みたい」 「いや煎餅だろ」 「えー」 他愛ない会話を聞きながら、酒瓶を手に取り盃を満たす。 ……つまみか何か拾ってくればよかったな。失策だ。 「あ、早速飲んでる。なくなっちゃうじゃない」 酒瓶のラベルを見咎めた霊夢が口を尖らせる。 「お前らと違って俺はゆっくり飲むから問題ない。 そもそもお前と二 三で分けたろうが。これは俺んだ。」 ただでさえいつも分け前は多めにしてやってるってのに。 これ以上俺から何をむしり取ろうってんだ? 「アンタの物は半ば私のモノだし。ちょっと味見ー」 「あ、おい!」 言うが早いか、霊夢は俺が手に持っていた盃にぐいと身を乗り出し、 こくこくと先程注いだ酒を飲み干してしまった。 「ぷは。んー、やっぱり美味し」 必然的に近くなってしまった距離から、幸せそうに頬を緩める顔を見て、 ――黙ってりゃ可愛いのに。 なんて昔零した事を不意に思い出した。 「つまみないの?つまみ――○○、どうかした?」 目の前に突き出される、さらさらした黒髪、 芯が強そうだがまだ少し幼さを残す瞳、すらっとした鼻筋、柔らかそうなくちび―― ええい、落ち着け俺。 「……いや、何でもない。つまみは品切れだ。残念だったな」 「ふーん、そう……ならいいわ」 それほど重要でもないのだろう、どうでもよさそうに相づちを打つと、 また霊夢は俺の隣にちょこんと座った。 視界から麗夢が消えたことで幾らか落ち着きを取り戻す。 こいつにはもうちょっと慎みって奴を教えなければならんらしい。 出会った頃からちっとは淑やかさを身に付けたかと思ったが、まだまだだな。 「……ね」 「ん?」 右肩に僅かな重みを感じた。 「今日で、五年目」 「……もうそんな経ったか。つかよく覚えてんな」 幻想入りをした当人が既に忘れかけているのだが、彼女は律儀に覚えているらしい。 「何となくかしら……うん、何となくよ」 「そうか」 「別に出会いが衝撃的だったからというわけじゃないからね」 「はいはい」 「むー……その言い方、ちょっとむかつくわ。てい」 「ぎゃーす」 ぽかりと威力のない拳が飛んできた。 三発目あたりでミットに収めるように、左手で受けとめる。 「……ねぇ、○○?」 「何だ?」 左手の中で拳が開かれ、俺の指に小さく絡む。 「……天地が一回転したら、わたし達はどうなるのかしらね」 「――サボった勢いそのままに辞表も提出、ってか」 「そ」 お互い何を言いたいかは分かっている。伊達に長い付き合いしてるわけでもない。 ――隣にいる霊夢。 まだ俺の胸元位までしか背の無かった彼女は、今では俺の肩より上になる位までに成長した。 ガキだガキだと思って、意識しないようにしていたが―― 「"私"はもう、子供じゃないよ?」 「っ」 考えを読まれたような気がして、思わず霊夢の顔を見る。 怒っているわけでもなく、ただじっと俺の顔を見る、一人の女の顔がそこにあった。 「出会った頃の、聞き分けのないガキじゃ、もうないんだからね」 「すまん」 「貴方の隣に並び立てるくらいは、大きくなったわ」 「……そうだな」 絡み付く指を優しく握り返し、右手で彼女を抱き寄せる。 「お前ももう立派な大人だよ。……だから、漸く言える」 「そうね、私もずっと温めて来た気持ち、漸く口に出来るわ」 「「……好きだ(よ)」」 ――初めてのキスは、アルコール臭かった。 翌日。 太陽がまだ低いうちではあるが、至って普通に目が覚めた。 何も変わらない、いつも通りの朝だ。 強いて違いを挙げるならば、あの後宴会場を一人で片付けた為、体の節々が痛いくらいか。 「くぁ……んぎぎ」 草履を履いて、庭で思い切り背伸びをする。 ごきごきと体の節々が快音をあげた――うん、気持ちいい。 「おっさんくさー……ぁふ」 開け放っていた襖から、目を擦りながら霊夢が姿を覗かせる。 「うるせぇ。お前もやってみれば分かるさ。存外気持ちいいんだぜ?」 「んー……そうねー……」 よたよたと眠気を隠そうともせず、庭へ出てくる霊夢。 危なっかしい足取りで俺の隣へ来たかと思うと、 「ん~~――ぁ、あら?」 盛大に伸びをした反動か、バランスを崩してしまった。 咄嗟に手を伸ばし、抱き抱えるようにして支える。 「思い切り良すぎだバカ」 「……えへ、○○ー」 驚いた顔をしていたのも束の間、蕩けた顔のまま俺に抱きついてきた。 いや、あの、うん。こいつ誰? 昨日からのあまりの変わり様に、軽く思考が停止しかける。 「……昨日、途中から姿消してたから何かやっていたことは予想してたけど……」 腕のなかのやわらかい感触を持て余していると、不意に横合いから声がした。 「一体何が起こったの?○○……」 困惑やら驚愕やら色々な感情をミックスした顔をした紫が、隙間から顔を出していた。 「あのね、紫、知ってる?」 俺から離れようとしない霊夢は、顔だけ紫に向けるとこう言った。 「昨日、天地は二度ひっくり返って、一周したのよ?」 「……だそうだ」 口を塞ぐことも忘れた紫と、立ち尽くす俺と、俺にしがみつく霊夢と。 あんまり普段と変わらない気はしたが、俺の腕の中の温もりだけが、少しだけ違って感じた。 後日、「ついに」とか「やっと」とか、そんな修飾子がふんだんに使われた状態で 俺たちの挙式が新聞記事となるのだが、それは別段話すような事でもないので割愛させて頂く。 今が少女なら、数年経てば彼女らも立派な女性になるはずなわけで。 妄想の勢いのままに書き散らかしてしまいました。 改良すべき点などありましたら、どんどんご指摘くださいませ。 Megalith 2012/02/14 今日は2月14日 外の世界ではバレンタインデーと呼ばれる日だ。 その日は自分の愛する異性に日頃の感謝を込めた贈り物をする。 近年の日本では、女性から男性へチョコ等の甘いものを贈るのが一般的になっている。 と言っても、幻想郷にそんな風習はない。 幻想郷に来てから二年が経つが、そんな素敵なイベントは起きたことがない。 「随分と気の抜けた顔してるわね○○」 なんてことを考えていると、一人の少女が俺の家を訪ねてきた。 彼女は『博麗 霊夢』 幻想郷の異変を解決するスゴ腕の巫女さんだ。 霊夢との付き合いは二年前、俺が幻想郷に迷い込んだ時からだ。 記憶も曖昧に幻想郷を彷徨っていたところを彼女が保護してくれたことが切欠だった。 保護されてしばらく一緒に暮らした後に、俺は今住んでいる人里はずれにある家に移った。 住居を移った後も彼女との交流は続いている。 「おぉ霊夢か、どうした急に」 「近くに来たから寄ってみただけよ、上がっていい? 」 「別に構わないけど… 」 突然の来訪に驚いたものの、霊夢を家に上げる。 普段は俺の方から彼女の神社を訪れるので、彼女から訪ねてくるのは珍しいことだった。 「今日は良いお菓子があるの」 「……明日は大雪か」 「どういう意味よ」 珍しいことが重なるものだ。 いつもはお金にうるさいドケチの霊夢が手土産を持ってきたと言うのだ。 天変地異を疑いたくもなる。 「待っててくれ、今お茶を淹れるから」 「出涸らしは嫌よ」 霊夢を居間に座らせ、俺は台所へお茶を淹れにいく。 珍しいことが重なったとはいえ、今はまだ平和な日常だ。 まだ慌てるような時間じゃない。 「相変わらず質素な家ね、ちゃんと暮らせてる? 」 「住めば都だ、余計なものは必要ない」 「ふ~ん」 お茶を淹れて戻ってみると、霊夢が持ってきたお菓子を広げていた。 俺の家への感想も言っている。 ボロ家で何が悪い。 「おっ、美味そうなおはぎだな」 「私の手作りよ、ありがたく頂戴しなさい」 「そりゃありがたいな」 霊夢が持ってきたお菓子は『おはぎ』だった。しかも手作り。 甘そうな餡子が食欲をそそる。 「それじゃ、いただきます!」 「召し上がれ」 早速お茶と共にいただかせてもらう。 やはり和菓子にはお茶が一番。 「美味いな」 「そう? 気に入ってくれてよかった」 俺がおはぎの感想を述べると、霊夢が笑顔を浮かべる。 その笑顔にドキッとしてしまったのは内緒。 「しかし、どういう風の吹きまわしだ? 」 「えっ? 」 「いや、霊夢が手土産持って俺のところに来るなんて珍しいからさ」 「あら、私の好意が迷惑だった? 」 「迷惑ではないけど、なんか調子狂うな… 」 俺の知っている霊夢はいつも我が道を行く人間だった。 それも邪魔する者は全て蹴散らしていくぐらい、周りを寄せ付けない強さを持った。 その霊夢が突然こういった形で好意を向けてくることに違和感を感じざるを得なかった。 「まぁ強いて言うなら、たまには素直になってみようかなって… 」 「どういうことだ? 」 「分からないならいいわ」 「なんだそりゃ」 そんなやり取りがあった後、霊夢が帰る時となった。 「今日はありがとな、美味しいお菓子貰っちゃって」 「いいのよ別に、残りもちゃんと食べてね」 「あぁ、それじゃまたな」 「○○! 」 玄関先で別れ家に戻ろうとしたその時、突然霊夢が俺を呼びとめた。 「どうした霊夢? 」 「ハッピーバレンタイン! 」 そう言い残し、霊夢は飛び去っていった。 俺はしばらく呆気にとられた後、ようやく意味を理解した。 「あいつ、なんで急にお菓子なんて持って来たかと思えば… 」 スキマ妖怪あたりの入れ知恵だろうか。 こちらの世界にバレンタインはないと思って油断していた。 とにかく今は家の中に戻って、残った霊夢の好意を味わうとしよう。
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■霊夢4 霊夢もの第3話、Eパートです。 いきなり霊夢サイドからスタートです。 フランドールのほか、ついにあいつが出てきます。 ではどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ああもうまったく! 何でこういう時に見つからないのよ!」 今、私は○○の手当てをするために薬箱を探している。 ○○はここにはいない。近くの森の、私が張った結界の中で待ってる…はず。 もっとも、○○の怪我の責任のいくらかは私にあるのだから、本当に待っているのかはちょっと自信が無い。 事の起こりはパチュリーの持ってきた一部の号外、そこに載っていた写真だった。 ○○と魔理沙が、手を取り合い見つめ合っている写真…。 それを見た私と、アリスと、パチュリーの3人は、『魔理沙があいつにたぶらかされた』と思った。 …日頃から魔理沙にべったり(本人は否定しているけど)なアリス。 いつも迷惑そうにしている影で、魔理沙の来訪を待ちわびている様子のパチュリー。 二人はこの写真と、載っていた記事を見て、○○の殲滅を決定した。 アリスは一足早く○○を見つけて攻撃し始め、一歩送れて神社に着いたパチュリーは、私に事態を説明してくれた。 あの写真が目に入った瞬間、頭が真っ白になった。 え? なにこれ? いつの間にあの二人が? どうして? 頭の中に訳の分からないものが渦巻き、記事の内容も上手く認識できない中、魔理沙の証言とやらが目に入った。 『あいつの事か? 結構好きだぜ』 絶対○○が魔理沙をたぶらかした、そうに違いない。私が決めた、今決めた。 そうしてパチュリーとともに飛び出した私は、程なくアリスと合流、そして○○を見つけ出した。 アリスとパチュリー、そして私。3人とやり合う事になった○○は…生き残りはしたものの、怪我をした。 私達はといえば、揃いも揃って呆けていた。 なぜ? よく分からない。とりあえず負けかけた…というのは確かなように思う。 呆けた頭がはっきりするにつれ、目の前が見えてくる。 そこには、倒れ臥している○○。 全身から血を流し、片足が焦げ、そのままうつ伏せでピクリとも動かない。 まるでそのさまは、○○が… 「……!」 目を閉じ、頭を振ってわきあがったいやなイメージを消す。 そうだ、大丈夫。 ○○はちゃんと目を覚ました。 いろいろ聞きたい事はあるけど、とりあえず死んではなかった。 ○○はちゃんと生きていたんだ。 せっかく膝枕してやったのに、飛びのかれた時はさすがにちょっとムッと来たけど。 …まあ、どけと言ったのは私だし、今まで戦ってた相手だって考えれば、仕方ない気がするけど…ちょっとだけ 傷ついたかも。(←彼は照れてただけです) …大体、冷えた頭で冷静に考えてみれば、こちらの根拠…と言うかソースは、あの天狗の書いた新聞だ。 そう、あの天狗なのだ。 『疑ってかかってやっと話半分』なんてことの多いあれを、インパクトのある写真を見たからとはいえ頭っから信じきるなんて… 私とした事が。 他の二人も大体同じ結論に至ったのか、なんだかばつが悪そうだった。 まあ、殲滅は事情を確認してからでもいいよね、うん。 そう思って、実行に移そうとした、時。 悪い事は重なる。 事もあろうに、あの傍迷惑な妹が号外を読んだというのだ。 アリスやパチュリーと同じくらい、魔理沙のことを思っている。…いや、誰はばからず好きと公言していると言う点では一番 積極的と言えるあの吸血鬼、フランドール・スカーレット。 今彼女は、大急ぎでここを目指している。 目的は一つ。あいつを…○○を壊す事。 そうする事で、魔理沙を取り戻せる。そう考えているのだろう。 …それが間違いだと気付きもしないで。 もし号外の内容が正しいなら、それをしてしまえば魔理沙は「切れる」。 そして、フランの事を敵とみなして、そのまま二度と、元の関係には戻れない気がする。 間違っているなら、…おそらくこちらの可能性が高いが…なおまずい。 だって、やるだけ無駄だから。 …とりあえず、○○の怪我の応急手当だけでもしておかなければならない。 このまま行けば、○○はなす術もなくフランに消し飛ばされる。 だから必死に薬箱を探しているのに、 「何で見つからないのよ、もう!」 こんな事なら、○○だけでも連れて来ればよかった…、…! 連れて…来れば? 「そうだ…」 何故気付かなかったのだろう。 今○○を一人にしてはいけない。 フランの目的は『○○を壊す事』だ。 『ここに来る事』じゃない。 つまりフランがなにかの偶然で、○○を見つけたら…! 「っ!」 思うやいなや神社を飛び出す。 お願いだから間に合って…! すでに日はとっぷりと暮れ、星が見え始めていた…。 「あー、一応聞いてもいいか?」 「何?」 「人から聞いた話なんで外れてたら謝るが…あんたがフランドール・スカーレットで間違いないか? レミリアの妹の」 「あってるよ」 「そうか…」 思わず手で顔を覆い、そのまま天を仰いで『oh my god...』などど言いつつ神に文句をぶちまけたくなる。 両腕が痛いし、転びそうなんで出来ないがね。 実際のところ、非常にやばい。 こっちの戦闘能力はほぼゼロ。戦う事はおろか逃げる事もまず不可能。こんな状況でどうしろと? …向こうは殺る気満々だし… 「魔理沙に変な事したでしょ」 「覚えが無い」 「魔理沙をおかしくしたんでしょ」 「まったく知らん」 「魔理沙を『てごめ』にしたんだって?」 「してたら多分俺生きてない」 多分無意味だろう問答を続ける。しかしものの見事に平行線だな… とか思ってたら、向こうが痺れを切らしたらしい。 うわ早っ! 「あーもう、もういいよ。消えちゃえ!」 「やだ」 「うるさーーーーい!! 禁忌『レーヴァティン』!!!」 彼女の持っていた杖が炎を纏った巨大な剣へと変わる。やば…! 炎の剣が、森を、薙いだ。 私の目の前で、あいつは、消えた。 やっとたどり着いたそこには、もうすでにフランがいて、 なにかを叫びながら、フランが、剣を… 「…○○っ!」 弾かれた様に飛び出し、一目散にそこへ降りたつ。 そこは地面が大きく抉られ、木々は一瞬で灰か炭に変じ、その難を逃れた木も一部が燃え盛っていた。 「あ…」 思わずその場にへたり込む。地面はまだ熱かったが、そんな事さえわからなかった。 …間に、あわなかった…。 「…ちぇっ」 そんな私の耳に入るフランの舌打ち。 思わずキッとそちらを睨む。 「何霊夢? …いいからそこどいて、危ないよ」 「…! あ、あんた…っ!」 文句を言い終わるより早く、高まる魔力にその場を飛びのく。 直後、フランの放った魔力弾がそこを直撃、更なるクレーターを作った。 「ぐっ…フラン! あんた…」 「やっぱり生きてた。だめじゃん、ちゃんと消えなきゃ」 「え…?」 土煙が晴れ、クレーターがはっきりとその姿を現す。 その中央にいたのは… 「○○!」 そう、レーヴァティンによって跡形も無く消えたはずの○○だった。 でも何故? どうやってあんなところに? 「モグラみたいだね。私は見た事無いけど。…まあいいや、今度ははずさないから」 そのフランの言葉にはっとする。 そうだ、今はそんな事よりフランを止めなきゃ! 「フラン! ちょっとま…」 「禁弾『カタディオプトリック』!!」 爆音とともに天空高く放たれた光弾が、急角度で地上へ…○○めがけて落ちていく。 私はとっさに○○をかばいに入った。 迫ってくる光弾を受け止めるべく、結界を展開する。 …着弾。また着弾。そしてまた着弾。 ○○が全く動かせそうに無い現状、かわすのではなく受け止めるしかないが、さすがにきつい。 渾身の力を振り絞って耐えるが、もう結界にほころびが入り始めている。 このままじゃ、二人もろとも…。でも、だからって○○を見捨てる事はできない。しかし… 結界が限界を迎え、さらに光弾が降り注ごうとした。 …その時。 「ブレイジング…スタァァァァァァァァッ!!!!!」 叫び声とともに、彗星が私達とフランの間を駆け抜ける。 光弾はその輝きに飲まれ、消滅してしまった。 …遅いわよ、もう…。 「…魔理沙?」 フランが呆けた声を出す。 「よっ。…珍しい所で会うな、フラン」 そういって片手をあげたのは、たった今駆け抜けた彗星だったもの。 そう…今回のキーパーソンの一人、霧雨魔理沙だった。 なんだかいきなりめまぐるしく状況が変わり始めた感がある。 霊夢たち3人との決戦、妹様襲来警報、レーヴァティンを如何にか避けたが、あっさり見破られ絶体絶命、そこに現れたのが… 「…魔理沙?」 いつか来るとは思っていたが、このタイミングとは。 まあ、運がよかったと言うべきか。 この調子なら、生き残れそうな気がしてきたからだ。 「霊夢…」 俺は、とりあえずかばってくれた霊夢に声をかける。 霊夢は、俺のほうを振り向くとほっとしたように言った 「良かった…生きてて…」 「全くだ」 自分でもそう思う。何せあのよけ方は賭けだったからなぁ… 「間に合ったみたいね」 「肝を冷やしたわよ、全く…」 そういって降りてきたのはパチュリーとアリス。 二人とも疲れた顔をしている。 「パチュリー、アリス…」 「よう、お二人さん。如何にか生きてるよ。…二人が魔理沙を?」 俺の問いかけに二人は首を振って答えた。 「ちょっと違うわ。実は妹様を見つけるために、一度街道に戻ってから魔力探査をしてみたんだけど…」 「ぜんぜん見当はずれな方…つまりあんたのいる方に反応が出たのよ。大急ぎで戻ってきたわ」 「その途中、ちょうど号外の事で神社に行こうとしていたらしい魔理沙と鉢合わせしてね?」 「事情を話して、ついてきてもらったってわけ」 なるほどね。全く、最後の最後でやっと運が向いてきたか。 上空では、魔理沙とフランが弾幕ごっこしつつ言い争いをしている。 「だから、それは誤解だって言ってるだろ!? 私はあいつに恋愛感情なんか持って無いっての!」 「嘘だ! じゃあ何で魔理沙はあの写真の中で、あいつとあんなふうに手なんてとりあってたのさ!」 「だから前話したろ!? あいつのスペルカードは特別で、私達みたいなのが魔力を充電してやらないと使えないんだって! あいつはいつもリストバンドの下にカードをしまってるから、わざわざ取り出すよりそのまま充電したほうが手っ取り早くて 楽なんだよ!」 「二人で恋人みたいに見つめ合ってたくせに!」 「あれはあいつが手を握られたくらいでドギマギしてたから、からかってやってる最中だったんだよ! あの後すぐにあいつに からかうなって思いっきり怒鳴られたんだからな! マジで!」 ……。 「あー、アリスさんにパチュリーさんや…すまんがあの魔理沙の証言を以って、俺の主張と代えさせていただきたいんだが…」 「…ええ、よーく分かったわ…」 「…ごめんなさい」 「ァリス、ハャトチリ?」 「ゲンキダシテー」 ず~ん…と沈んだ顔で謝ってくる二人。慰める人形。…まあ、誤解が解けたようで何よりだ。 「霊夢も、OK?」 「え、あ、ええ…」 霊夢も、なぜかあわてた様子だったが…とりあえず分かってくれたようだ。良かった良かった。 「OKじゃないよ。全く、せっかく邪魔な無礼者が消えてくれると思ったのに…」 「え?」 見上げるとそこには、どこか残念そうな顔をした、紅い少女が立って(と言うか浮いて)いた。 霊夢たちが彼女に気付き、驚きの声を上げる。 「…レミリア!」 そう、レミリア・スカーレット。 紅魔館の主、『永遠に紅い幼き月』とも呼ばれる『紅い悪魔』、吸血鬼である。 あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 37です。 「3話目」、Eパートでした。 ほんとにFパートまで行っちまった…orz 勘のいい方は気付かれたかもしれませんが、実は霊夢、ある根本的なところを勘違いしています。 このあたりはFパートで語られる予定なので、そちらのほうにどうぞ。(マテ ここでなんとレミリア登場! …いや、さきのあらすじ(エピローグとルビをふる)をお読みの方なら予想がついたかと思われますが、 これから彼女が最後の?爆弾を落としてくれる予定です。お楽しみに。 さて、Fにかかるか…ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=(;-_-)/ゼンリョクダッシュ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 霊夢もの第3話、Fパートです。 とつぜん登場したレミリア、その真意やいかに? 今回フランドール関連で、かなり強引、或いは俺的解釈全開と思しき展開があります。 ○○の態度が気に障るかもしれませんので、ご注意を。 ではどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 傍迷惑な号外から始まった誤解の連鎖。 その結果、アリス、パチュリー、さらには霊夢、挙句の果てにはフランドールと、 幻想郷最強クラスのお歴々に殺されそうになった俺だが、 魔理沙の援軍もあってようやっとその誤解が解けて一安心…という所に、 不穏当な発言とともにやってきた一人の人物がいた。それは… 「…誰かと思えばちみっこか、何だよこんなときにこんなところで」 「ちみっこいうな! 何度言ったら分かる!」 「…あんた、ホント度胸あるわね…」 「古今東西、一般人でレミィにそんな口が叩けるのは多分彼だけでしょうね…」 紅魔館の主たる吸血鬼、レミリア・スカーレットだった。 「…で? どういうことだよ、なんか俺に消えてほしそうな発言だったが?」 「まさしくその通りだよ。無礼者な上に邪魔者と来ては、いくらなんでも看過できない話だ、全く」 「わけが分からん…」 無礼者呼ばわりはまあ分かる。俺はこいつの事を主に『ちみっこ』と呼んでいるからだ。 おまけにタメ口だし。 だが、俺がこいつの事をそう呼ぶようになった…と言うか、怖がらなくなったそもそもの原因は、こいつの自爆によるもの なんだがなぁ… 俺がここに来てすぐ、魔理沙が俺の歓迎会を開こうと言い出した。 要は理由をつけて宴会が開きたかっただけなんだろうが、そのおかげでさまざまな幻想郷の住人と会い、交流をもてたのだから ありがたい話ではあった。 さすがに冬の真っ盛りの時期と会って、参加人数はそんなでも無かった(例えばマヨヒガ組は完全欠席)が、それでも好奇心などでか わざわざ集まってきた面々がいた。 そのうちの一人が彼女、レミリアである。 初めて見た彼女は威厳に満ち、近づきがたい雰囲気を持っていた。 絶対的な『格の差』とでも言うのか、とにかく『敵わない』と言うイメージと、近付き難さを感じていた。 …が、しかし。 珍しく(本当に珍しい話らしい)悪酔いした彼女が、俺の前で『ある事』をしてしまったことで、それらの雰囲気が消し飛んだ。 俗に『れみりゃ変身』と呼ばれる、本来新月のときまれに発生すると言う…所謂、幼児化である。 はっきり言って、お子様だった。これでもかと言うくらい。 そしてかわいかった。 それを見てしまったことで、危うく彼女の御付のメイド長に『殺人ドールの刑』に処せられる所だったが。 …まあとにかく、これがきっかけで彼女に対して…何と言うか、耐性のようなものを持ってしまったのだ。精神的に。 おかげで、普段のノリで彼女と会話が出来るのだが、それが彼女には『無礼』と映っているらしい。 …あるいは、恥ずかしいところを見られたので、目撃者を消したいとか? 「お前、そこまで…」 「何の話だ?」 …声に出てたか、いかんいかん。 だが、邪魔者とはどういうことだ? 皆目見当がつかないが…。 と言うか、むしろそれ以上に… 「なあ、ひょっとして今回の件、裏で糸を引いてたのはお前なんじゃないのか?」 「「「えっ!?」」」 そばにいた霊夢、パチュリー、アリスの3人が驚きの声を上げる。 確かに『まさか?』だが、こいつは確か『運命を操る程度の能力』を持っていたはず。それを使えばあるいは… 「…察しがいいな、○○。そう、今回の黒m「くろまく~」…」 ちゅどんっ! 「そう、今回の黒幕は」 「いやいや待て待て、今なんか撃ち落としたろ!? 通りすがりの何か撃ち落とさなかったか!? おい!」 「気にするな。 割り込むほうが悪い」 「そーなのかー!?」 絶対違うと思うがなぁ… あ、なんか冬っぽいふくよかそうな妖怪がピクピクしてる。 「話がそれたな。戻すぞ、いいか?」 「はあ…」 「何か気が抜けるわね…」 「同感」 俺も。 アリスなんかまだポカンとしてるし。 「今回の件、黒幕といってもいいのは…ほかならぬこの私だよ。○○」 「どういうこと? レミィ。…あの号外は天狗の書いたものでしょう?」 「そうだよパチェ。あれは天狗が書いたものだ」 「な…ならなんで黒幕があなたなのよ。矛盾するじゃ「そういう事」ない…って、霊夢?」 再起動したアリスの問いをさえぎるように、霊夢が言う。 どうやら理解したようだ。 「レミリア…あなたひょっとして、私達に○○を消させようとした?」 「「な!?」」 そう、レミリアはおそらく、誰よりも先にあの号外に目を通し、あの号外を利用して俺が命の危険に遭う様に『運命改変』を 施したのだ。 初めは、自分と関係性の薄いアリスを使って。 それで消しきれないとなると、パチュリーや霊夢を。 いずれも、冷静に考えれば誤解と分かる程度のそれに『気付かない』と言う形を以って。 それらが回避された…いや、回避されそうだと分かった時点で、最終的にはフランドールと言う『切り札』までも切ってきた。 …さすがにことごとく運やら何やらで回避されたのは予想外だったろうが…。 「つくづくしぶとい奴だよ、お前は。…まあ、私もこれで消えるならそれまで、程度の気分で干渉したから、別に生き残ったとしても どうと言う事はなかったんだがね」 「…フランドールにはマジで殺されかけたな」 「あれはいけるかと思ったんだが」 「じゃあ、なんで?」 「…霊夢が俺をかばったからか?」 「私が?」 「あのままだと俺はともかく、霊夢が無事じゃすまない…そう思ったんだろう。だから魔理沙を『間に合わせた』…違うか?」 「その質問に関しては『Yes』と答えておくよ」 「…なんで!?」 霊夢がレミリアに詰め寄る。まあ、確かに。 俺もよく分からなかったが、今ならなんとなく分かる。 レミリアが『霊夢を守るため』に『改変』を行った事、俺を指しての『邪魔者』呼ばわり。これらのことを考えれば…。 「やっぱあの号外だろ、動機は」 「そうね」 「レミィ…」 「だからそれがわかんないのよ! あれに載ってたのは『魔理沙と○○の事』でしょう!? フランはともかく、何であんたが!?」 ……。 「…は?」 「え?」 「はい?」 「ん?」 「…な、何よ」 いや、一瞬思考が止まったぞ。今霊夢はなんと言った? 「…なあ、パチュリー。霊夢にはあの号外、見せたんだよな?」 「え、ええ。確かに見せたわ」 「ならなんであんな台詞が出るわけ?」 「私に聞かれても…」 「…パチェ、あれを読んだときの霊夢の様子は?」 「え、えっと…」 ヒソヒソ話の末、パチュリーが必死にそのときの情景を思い出そうとする。頑張れパチュリー、君だけが頼りだ。 「確かあの時は、号外の最初…あの記事の部分を見た瞬間固まったのよ。一度。その後、からくり人形みたいにギギギッと音を 立てそうな動きで首を上下させて記事を読んでいたようだったわ…。すぐ私に号外を返して、外へ飛び出していったんだけど」 「…つまりその時、何らかの…、例えば例のこいつと魔理沙のツーショット写真でも見て、固まった…思考停止したまま、首だけが 無意識に動いていた…という風にも考えられるわけだ」 「…つまり、霊夢はあの記事を完全には把握していないと?」 「おそらく」 通りで。あいつが怒るとしたら魔理沙と霊夢自身の両方に関してのはずだから、おかしいなーとは思っていたんだが…。 しかしこれはこれで厄介な気がするがどうでしょう。 「あー…霊夢?」 「何よ」 そうこうしている間にレミリアが霊夢に説明をしようとしていた。 プリーズウェイト! その説明待った! こっちの死活問題に~! 「どうもあの号外の内容について誤解があるみたいだが、あれは…「違う違う違う!ちがあぁぁぁぁぁう!!!」何だ!?」 叫び声の方を見る。そこにはまだやりあっていた魔理沙とフランドールの姿。 叫んだフランドールは…なんかめったやたらにレーヴァティンを振り回していた。森が燃える~。 「いけない…。水符『プリンセスウンディネ』!」 パチュリーの展開した水の魔法が、森についた火を消し止める。良かった、これでここが焼け野原にならなくてすむ。 しかしフランドールのほうへ向かった水は、彼女の剣が発する熱でかなり蒸発してしまっているようだ。 恐るべし、吸血鬼の底力。 で、当の本人は… 「あいつは魔理沙をだましてるんだ、あいつは魔理沙にへんな事しようとしてるんだ!」 「だから何度も言ってるだろ? それは誤解だ。あいつは別に…」 「嘘だ!」 「嘘じゃないよ、ほんとだって!」 「あいつは魔理沙を取ろうとしたんだ!」 「取られてないって」 「嘘だぁぁぁぁぁっ!!!!」 それだけで吹き飛ばされそうな殺気を噴出させながら、フランドールは…泣いていた。 泣きながら、なおも叫んだ 「あいつは魔理沙を取ったんだ! 私から魔理沙を取ったんだ!」 「だから違うって!」 「あいつが来てから魔理沙が来なくなった。パチュリーの所に行く事はあっても『私の所』には来なかった!」 「…」 「あいつが魔理沙を取ったんだ! あいつが来なきゃ魔理沙はきっと…」 「自分に会いに来てくれた…か?」 ポツリと呟いた俺の言葉。だがしかし聞こえていたらしい。彼女は俺を睨みつけ、さらにヒートアップする。 やれやれ、自分で自分をピンチにしてどうするんだか、俺は。 「あんたを壊せば元に戻る! 魔理沙は会いに来てくれる! だから私は…!」 その姿は、まさしく駄々をこねる子供そのものだった。 泣きながら、その手にした杖…今は巨大な炎の剣と化したそれを振るう様を、俺はただじっと見ていた。 事態の変化にやっと追いついたらしい霊夢たちがカバーに入ろうとするが…遅い。 その剣が、俺に迫り、そして… 後ろから彼女を抱きしめた奴によって、止められた。 抱きしめたのは、魔理沙。 魔理沙を振りほどこうと暴れる、フランドール。 そんな彼女の耳元で、魔理沙は、言った 「ごめんな、寂しい思いをさせて」 暴れていた剣が、止まる。 その瞬間、切っ先は俺の眼前、10cm程のところだった。 俺は、動けなかった。 …俺は、動かなかった。 魔理沙に抱きつき、泣きじゃくるフランドール。 誰もが、黙ってその様を見ていた。 「…で? 結局お前にとって魔理沙は何なんだ?」 俺を、除いて。 一つ、たとえ話をしよう。 あるところに、人形遊びの好きな子がいた。 その子は近所の友達とは遊ばず、いつも一人、家の中で人形達と戯れていた。 何故友達と遊ばないのか? そう聞いた大人がいた。 そうしたら子供は答えた。 「だって友達は都合が悪いと、私の遊びたいときに遊んでくれない」 「人形達なら、いつだって、私の好きな時に応えてくれる」 …そしてこうも言ったそうだ。 「人形達なら飽きたとき、いつでも自由に捨てられる」 …とな。 お前にとって、魔理沙は何だ? この話で言う、どっちにあたる? …そうか、ならいい。それならいい。 もう一つ、たとえ話をしよう。 もしも、魔理沙が不治の病にかかったら? それも、明日をも知れぬ命だ。 その病は、治すにはたった一つの方法しかない事が分かった。 例えばお前が血を吸って吸血鬼化したとしても、その病は治らない。 確実に、死ぬ。いや…消える。 魂をも蝕む、その病によって。 お前なら、どうする? そうだろうな。方法が一つなら、そうだろう。 だが、これには副作用がある。 これで助かった奴は、心が、死ぬんだ。 二度と自分から話しかけない。 二度と自分から笑いかけない 二度とお前に応えない。 魔理沙が、魔理沙じゃなくなるからな。 それでも、命を救うには、この方法しか、ありえない。 命をとるか、心をとるか。 お前なら…どうする? そうだな。 決められるわけが無い。 そういうものだ。それで正しいと思うよ、俺は。 …思うに、魔理沙も、それと同じ状態だったんじゃないか? …程度はどうあれ。 「どういうこと?」 「いやなに。たいした事じゃないがね…」 問いかけるフランに、俺は肩をすくめて言った。 「今回の事で分かったろ? 魔理沙は別に、お前の事をないがしろにしたわけじゃない。お前の事は、むしろ大事に思ってる。 …ただ、時間的な理由とかで、先に解決しておきたい事があったから、それを優先させただけでな」 「…」 「…もっとも、お前の言うとおり、その原因のほとんどは俺だろうがな」 「…」 大分彼女も落ち着いてきたようだ。話を聞く気になっている。 「例えば、パチュリーには会いにいったって話。あれは俺が頼んだ事なんだよ。…俺が外から来たって事は知ってると思うが、 外には妖怪の類なんていないからな、つまり当時の俺はなんら自衛の手段を持ってなかった」 「それで?」 「だから魔理沙に相談したんだ。保護されるだけじゃダメダメだろ? どうにか自衛の手段がほしかったんだよ」 「ああ、それで私はパチュリーんところに行ったわけだ。あそこなら資料に事欠かないしな」 そう魔理沙が肯定する。しかし彼女はまだ釈然としない様子だ。 「…でも、その後は? …魔理沙はあんたのところに通ってたって…」 「その事については俺もよく分からんが…想像はつく」 「どんな?」 「…お前さんは、俺があと1ヶ月と半月くらいで幻想郷(ここ)からいなくなるって知ってたか?」 「え!?」 …知ってるわけ無いか。号外で始めて俺のことを知ったようだったしな。 「つまり、外に興味を持っていた魔理沙が、俺から何らかの話を聞くには、急を要する必要があったんだ」 「…私に会うよりも?」 「お前らは、魔理沙さえ長生きすればそれこそ100年は会ったり話したり出来るだろ? 俺はそうは行かなかったんだよ。 …ここを出たら、基本的にもう二度とここに来る事は無いからな」 「あ…」 「あるいは…お前への土産話か何かにでもするつもりだったんじゃないか?」 「えぇ!?」 言われて彼女は魔理沙を見るが、魔理沙は応えずそっぽを向いた。 ただ、微妙に顔を赤らめ、さらにばつ悪げに頬を掻いていたので、割と彼女にはバレバレだった。 「魔理沙…」 フランドールの顔にやや明るいものが混じる。 …今のうちに言っとくか。 「…聞いた話じゃ、お前さんは500年近く地下にいたんだって?」 「え、あ、うん…」 「それだけ待ってやっと出来た友達なら、会えなくて寂しいと感じるのは当然だろうな…」 「…」 「…でもさ、逆に言えばそれは、500年近く『我慢出来てた』って事だよな?」 「?」 「確かに、友達の存在を知らないで過ごす500年は、知った上で待つ1年よりも過ごしやすいかもしれないが… 要は発想の転換だよ」 「発想の転換?」 「『自分は500年近く我慢出来てた。なら今更数ヶ月程度、我慢できないわけが無い』…とか」 「あー…」 「俺の件に限って言えば、『どうせあいつは後2ヶ月足らず、私と魔理沙は80年。今我慢したっておつりが来る』…とかな?」 「そっか…そんな考え方があるんだ…」 「すぐに出来るって訳でも無いだろうがな。おまえは別に一人って訳でも無いだろ? 姉貴がいる、メイド長がいる、門番さんに、 パチュリーや小悪魔たちも。みんなお前がつらいときに、きっと支えてくれるだろう面子ばかりだ。いつだって頼っていいんだ。 そう考えればもう1つ2つ、出来る我慢も増えるだろ。頑張れがんばれ…な」 「…うん」 …なんか、めっちゃ臭い事言った気が…まあいいか。 そう思ったのもつかの間だった。 「…○○が」 「ん?」 なにやら俺とフランドールを除く皆が驚愕の表情でガタブルしている。 なんだなんだ? 「○○が壊れたぁぁぁぁぁーっ!」 「上海蓬莱気を付けて! ○○が何かまともっぽい事言ってるわよ!?」 「えーと、この危機的状況を如何にかする方法は…」 「おい、無事か? 頭は大丈夫か? ちゃんとバカか?」 「○○! ○○しっかりして、ねえ!」 ……。 「お…お前ら…」 「○○、いいから落ち着け、今医者を連れてくるから!」 「永遠亭に連絡…いえ、精神科医はどこ!?」 「人形達を使って探してみる!」 「頼む、事態は急を要する!」 「○○~っ!」 「俺を何だと思ってるんだぁぁぁ~~~っ!!!!!」 あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 37です。 「3話目」、Fパート終了~。 Gパート…orz 何か○○が壊れてます。 今回はかなり来てます。 …ええ。最後のみんなのうろたえっぷりは私自身の心情です(マテ いよいよ次はGパート、第3話のエピローグに入ります。 長かった…! …Hパートだけはやらんぞ、絶対…。(超不安) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 霊夢もの第3話、最終Gパートです。 よ~やっと終わりました~! そういうわけでエピローグです。 ではどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うー…」 どーも、○○です。 今動けません。 あの号外による大騒動からはや3日、神社の周りは平和そのものです。 騒動の反動だと思うと、何か微妙な気分ですが。 「あの後も急展開だったからなぁ…」 「いや、私達は真面目だぜ?」 「真面目すぎるくらい真面目よ」 「むしろあなたが不真面目ね」 「まあいつもの事だがな」 「だから落ち着いて? いつもどおりバカでいいのよ?」 「もういいよ…」 5人がかりでの暴言にさめざめと涙を流す。 何かもうどうでもいいや… 「あ…あは…あはははは!」 「?」 突然フランドールが笑い出した。 「フラン…?」 「あは、あはは、あははははははは!」 「…くっ…ふふ…」 「○○?」 「はははははははは!」 後はもう大爆笑。 みんな徐々に笑い出し、みんななんだかもう色々吹っ切れた感じだった。 「ほんとにごめんね、魔理沙も、○○も…」 「あー、まあ私があんまり会いに行かなかったのもあるからな、気にするな」 「こっちもいいよ、気にしてない。…ま、さっき話した事だけ、気に留めといてくれればいいや」 「うん!」 心底申し訳なさそうに謝るフランドールに、魔理沙と俺がそういうと、彼女はちょっと涙の残る、でも満面の笑顔で頷いた。 「フラン…」 「お姉様…」 そして向き合う姉妹。 本来なら地下に…そうでなくとも紅魔館の中にいなくてはならないはずのフラン。 本来なら、ここは無断外出をした妹を姉が叱る場面なのだが… 二人の間の空気は、とても穏やかだ。 「お姉様ごめんなさい。勝手に外に出ちゃって…」 「いいのよ、フラン。今回あなたは大事な事を学べたようだから。…でも、こんな無茶はもうこれっきりにしてね」 「うん!」 そんな、口調まで変わって…って、あれが地だしな。うん。 しかしまあ、変に威圧的な口調になるより、ああいうお嬢様然とした口調の方がよっぽど威厳を感じるのは何でかね? …あっちも地なんではあろうが…。 「それと…今日は結果オーライだからいいけど、どうせ殺るならもっと真面目に殺らないとどこまでも生き延びるわよ。 この人間生命力だけはゴキブリ並みだから」 「おーいこらぁ! こっち見ながら何不穏当な事唆しとるかぁ!」 いやマジ、縁起でもないから。 「うん、頑張る」 「そこは頑張るな~!」 「あははっ、冗談だよ、冗談」 「冗談に聞こえんて…」 思いっきり脱力する。勘弁してくれ… 「あははははっ! …じゃあお姉様、私、館に戻ってるね」 「ええ、そうしてて。私は後始末してくから」 「はーい! 魔理沙、またね!」 「ああ、また近いうちになー」 「○○!」 「ん?」 「今日はありがと…それじゃね」 「おう。じゃあな、フランドール」 「フランでいいよ。じゃ、また!」 「…ああ。またな、フラン!」 こうして、皆が見送る中小さな紅い台風はお家へ帰っていきました。 にしても… 「まさかとは思うが…おいちみっこよ、ひょっとして実はこの展開を読んでたんじゃないのか?」 「「「「はぁっ!?」」」」 突然の俺のぶっ飛んだ発言に、皆が驚きの声を上げてこちらを見る。 そんな中レミリアだけが、こちらを見ぬまま冷静な声で聞き返してきた。 「…どうしてかしら?」 「いや、なんとなく浮かんだだけだがね…。何かこう不意に、今までの騒動全部が、この瞬間のための布石であったかのように 感じられたんだよ」 …周りの視線が再びイタイものを見るものになってくる。 「あ、あんた…」 「いくら何でも…そこまで突飛な…」 「さんざバカ呼ばわりしといて今更常識求めんなよ!? …で、どうなんだ?」 俺の問いかけにレミリアは… 「さあ、どうかしらね?」 そういって、振り向きざまに片目をつぶり、笑いかけてきた。いたずらっぽい表情で。 「…まあ、いいけどな」 俺もそういって、話を終わらせた。 …って、あれ…? 「どうでもいいけど、フランが飛び出したときはまだ日が出てたよな? どういうわけか今回は平気だったが…もしもの事が あったらどうする気だったんだ?」 「あ…」 間抜けな声を上げて固まるレミリア。…おいちょっと待てまさか…。 「…考えてなかったのか?」 「あー…だ、大丈夫よ。読み取った運命じゃ大丈夫ってなってたし、うん」 「考えてなかったのな…」 それでいいのか、紅い悪魔。 そう、気が緩んだ瞬間。 「…あっ…だだだだだ…がっ…!」 今まで感じなかった全身の痛みが、一気に襲ってきた。 「お、おい○○、大丈夫か!?」 「大丈夫じゃないだろ。あれだけのダメージの上に、土の盾があったとはいえフランの魔法弾を直でくらったんだ。…骨の一つや 二つは砕けてるんじゃないのか?」 「な!?」 「レミィ、それホント!?」 「このクレーターが何で出来たと思ってる? 霊夢がカバーに入る直前まで、こいつは一人でフランと向き合ってたんだよ。 …どうやってか、レーヴァティンまでかわして」 「レーヴァティンを!? あの怪我で!?」 「あー…種明かしゃ簡単だぜ? あれは…。ただ穴掘っただけだし」 「穴? …ああ、なるほど…」 「まず、地面に倒れこむ。土の符の力で、自分の真下に、自分が入れるだけの穴を掘る。後は上に、土をかぶせる…これを大急ぎで やった。それだけだよ。…それだけしか出来なかったとも言うが」 「いや、無理するな!」 「いいから黙ってなさい!」 「うーい…」 言ってそのまま横たわる。 …いや、体勢的にはぜんぜん変わらんけど。 「とにかく医者を呼ばないと…永遠亭に…」 「いやその必要はない」 「レミィ!?」 「何で必要ないのよ!」 「何で咲夜がここにいないと思う?」 「え?…あ!」 「お待たせしました、お嬢様」 「待たせたわね」 「いや、いいタイミングだったよ」 そういって現れたのは、レミリアおつきのメイド長、十六夜 咲夜(いざよい さくや)。 そして、永遠亭に住む蓬莱の薬師、八意 永琳(やごころ えいりん)だった。 「…片足は第2度の火傷、両腕は筋肉がずたずた、さらに全身の骨が骨折もしくはヒビ…か」 「そんなにひどかったの!?」 「…よく今までしゃべったりとか出来てたな…」 「まあ、痛みとか感じてなかったからな…」 「それは痛みを通り越したって言うのよ…」 「あうあうあう…」 俺の発現に呆れ顔で言うメイド長と、何か壊れ気味の霊夢、つーか落ち着け。 「…ふう、どうやらあの号外、珍しく半分は本当だったようね」 「え?」 ため息とともにメイド長が聞き捨てならない台詞をはく。 待てメイド長それは禁句… 「だから、『霊夢と魔理沙と○○が三角関係になっている』って…あんたの心配ぶりなら、つまり半分は本当ってことでしょ?」 「…え?」 嫌ーーーーーーーーーー! 「え? だってあれって○○と魔理沙の…え? 私? え? あれ?」 「…総員、対騒音防御」 「畏まりました」 「了解」 「ほら、あなた達も」 「ハーイ!」 「ミザルイワザルー」 「消音結界準備OK…」 「よし、いつでもいいぜ」 いや、俺動けないっすから! 耳塞げないっすから! ざんねーん! 「な…何よそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!?????」 …そして、霊夢の絶叫を最後に、俺は意識を失ったのだった…。ちゃんちゃん。 「全く、何で私があんたなんかと…」 ここ最近の霊夢の口癖となりつつある台詞。 顔で苦笑(わら)って心で泣いて、俺はその台詞を聞き続けている。 「…ほら、あーん」 「あー…まぐっ」 今食べさせてもらってるのは永琳先生特製レシピによる薬膳粥だ。 どーもよく分からんが、このお粥をちゃんとした栄養と一緒に食べていれば回復が早まるらしい。 つくづく天才って…と言うか幻想郷ってすごい。下手なギャグ漫画なら再現できるぞ、この調子じゃあ。 …現実に俺がそういう状況っぽいし。 「晒し者にはなりたくなぁーーーーーーい!」 「黙って食べる!」 「はい…あーん」 何で食べさせてもらってるかって? だって俺今両手使えねーもん。 今回の件で、何だかんだと言っても多大な迷惑をかけたということで、アリスとパチュリーが正式に謝ってきた。 別にいいとは言ったのだが、向こうが納得してくれなかったので、交換条件を出す事にした。 今回散々お世話になったカードのバージョンアップをお願いする事にしたのだ。 ボロボロになったり、行方不明になった木刀とかの代わりを…というのも考えたが、彼女らの得意分野を考えてそっちの方にした。 フランも謝ってきたが、あれはあの時決着が付いたという事でOKということにしたので、とりあえずは、『彼女を愛称で 呼ばせてもらう』というので納得してもらった。 レミリアに関しては…ノーコメントの方向で。 むしろ世話になった永琳さんのほうは、俺の治療のために新しい調合で薬を作ったそうなので、その試用経過をレポートにして 出してもらえばいいという事だった。 …で、残った霊夢に関しては… 「ほら、こぼれてるわよ!」 「あ、すまん…」 「全くもう、世話が焼けるんだから…」 …という感じで、俺の世話を焼いてもらっているのである。 「しっかし、あれだけの怪我が完治まで1週間強とは…常識を疑うよ。全く」 「あの薬師はそこらへんがとんでもないからね…まあ、リハビリやなんかもあるから、もうちょっとかかるだろうけど」 「それでも十分すごいよ…っと、ご馳走様」 「はい、お粗末様」 かちゃかちゃと食器を片す音。 こういう時って、あの台詞が似合うよな 「いつもすまないねぇ…ケホケホ」 「『そんな事は言いっこなしよ』…とでも言ってほしいの?」 ジト目で返された。いいじゃんか、暇なんだから。 「こっちは忙しいの。あんたがいない分仕事は増えるし、あんたの世話でさらに増えるし。全くなんで私がこんな…」 ブツブツ言う霊夢。うう、面目ない。 「全く、早く良くなって、少しは手伝いなさいよね」 「うい~っす」 努力します。 「じゃあ、私は片付けとかがあるから」 「うす」 そういうと霊夢は、食器を持って出て行った。 …さて、暇だ。 「…とっとと出てきなさい、萃香」 「なに~?」 目の前に小さな娘が現れる。 その頭には立派な角。 幻想郷でも見かけなくなったという幻想のきわみ…『鬼』の伊吹 萃香(いぶき すいか)だ。 「ちょっとあんたに言っておきたい事があってね」 「ん~?」 聞いているのかいないのか、いつでも酔っ払っているこいつは、その赤ら顔でフラフラしながら、台所へ向かう私についてくる。 「…で? なーに?」 食器を水桶に付けてすぐ、萃香が聞いてくる。 私は戸棚に向かいながら、話を切り出した。 「あんたでしょ? 家に届いた号外を隠したのは…、それも、ひょっとして紅魔館に届けなかった?」 「え?あれ? あー…ばれた?」 失敗しっぱい、とばかりに舌を出す萃香。 『ばれた?』じゃないわよ… 「あんたね、そのおかげでとんでもない事になったんだから…分かってんの?」 「えー? でも面白かったし…それに霊夢もまんざらじゃなかったんじゃないの? あいつの世話して」 「どこが? めんどくさいだけじゃない! あいつってばちょっと目を離すとすぐ無茶して怪我して、ちょっとは大人しく してるかと思ったら今度は食事やら何やらでいちいち世話が焼けるし! ホント私が見て無いとダメダメなんだから!」 「…ラブラブじゃん…」 …プツン 私はあるものを戸棚から探し出す。 こんなときのために常備しておいたものだ。 散々引っ掻き回してくれた上に、ここまで事実無根な事をのたまってくれたお礼は… 「たっぷりしないとね…フフフフ」 「霊夢? …それ…!」 取り出した『それ』を、入れ物である枡から一掴み取り出す。 萃香の顔が瞬時に真っ青になる。 私は『それ』を振りかぶり… 「私とあいつは…」 「ちょっとまって霊夢! 落ち着いて! お願いだからそれだけは、ね!?」 「何でもっ!なあぁーーーーーーーーー一い!」 「痛ーーーーーーーーーっ!!!!」 「…なんか、季節はずれの節分に泣く鬼の声みたいな悲鳴が…」 「ぐ、具体的ですね…」 俺もそう思う。 「…で? 何の用なんだ? このデバガメ天狗」 「デバガメって…取材活動と言って下さいよ」 そう。俺の部屋には来客がいた。 霊夢を通してって訳ではないようだが…いいのかね? まあいいけど 客の名は射命丸 文(しゃめいまる あや)。 鴉天狗にして、『文々。新聞』の記者。そう、件の号外を書いた、迷惑の張本人だ。 「お前の『真実の号外』とやらで俺がどんな目にあったと思ってるんだ? …この程度ならまだましだろ」 「うう…それを言われると弱いです…」 「で? 用件は何なんだよ」 「あ、はい。今回、私の号外が原因で大怪我をさせたようなものなんで、一言お詫びに…と」 「ほー」 なかなか殊勝な心がけだ。 …本当にそれだけなら。 「で、他には? 今なら気分がイイから(←注意)、質問くらい答えてやれなくも無いぞ?」 「本当ですか!? いえ、実は今回の大騒動の渦中の人に、この件の感想をぜひ聞かせていただきたいと…」 …判決、有罪。 「…雷って、さ」 「…はい?」 「空気を裂いて大地を穿つもの…なんだよな」 「はあ、そうですね…」 「そう、空気を、裂くんだ。…風とか、風とか、風とか」 「あ、あの…?」 「他にこうも言うよな、悪い事をした子が怒られるとき、『雷が落ちた』…って」 「えと…」 「あのね文さん、俺、今体は動かないけど、『イメージだけなら出来るんだよ』」 「……(汗)」 「さて、問題です」 「な、何でしょう?」 「騒動の原因と思しき人が、謝罪にかこつけて全く反省していないと自ら暴露するような行動を取った時…渦中の人はどんな風に 思うでしょう?」 「……(滝汗)」 「今日は日本晴れかぁ…。こういう日に落ちる雷を『青天の霹靂』って言うんだって?」 「あ、あの、私急用を思い出したので、これで!」 言うが早いか、外へ飛び出す文。 しかしあわてているのか、襖やらなにやら閉めずに行って、結果部屋から飛んでいく彼女が丸見えだったりする。 対するこちらはあわてず騒がず、『すでにイメージから何から準備完了状態の』雷符に意識を向ける。 …エネルギー全使用、充填率120%。 後はただ一言、『キーワード』を呟くだけ 「…『落雷(ヴォルク・タン)』」 どごぉぉぉぉぉぉん!! 「あ~~~~~~…」 …復讐、完遂。 「いい空だ…寒いけど」 世は全て事もなく、本日は、晴天なり。 あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 37です。 「3話目」、Gパート、そして全パート、終・了! 長かった…。 でもHパートはやらんで済みました…。 ちなみに、最後に○○が呟いた『キーワード』は、とあるTRPGの同名の魔法から取りました。 何か使ってみたくなったもので…。 まさかここまで長引くと思いませんでした。本当にきつかった。 書いてて楽しかったから良いんですけど、途中どうつなげようかとか色々悩んでかなり参りました。 後半はなんだか強引とも言える展開で、好評をいただいた前半部に比べてどうだろう? とかかなり不安です。 楽しんでいただけるといいのですが。 第4話は予定では5話との前後編もの。今回よりさらに長くなるだろう事が今から予想されます。 詰め込む癖を如何にかしないと…orz では、またいずれ。 359 備考:激しく続きキボン! ─────────────────────────────────────────────────────────── 「霊夢…」 「ん……」 霊夢の細い身体をしっかりと抱き締め、柔らかな唇を奪う さらりとした黒髪を弄りながら、舌を滑り込ませて吸上げる 「ん~~」 声にならない声を挙げるも、悦に浸ってるのか抵抗の様子は無い 「ぷはっ……」 息が苦しくなりそうなところで、糸を引く唇を離す 「ちょ、ちょっと……新年の挨拶ぐらいできないのあんたって人は」 ぶぅ、と紅い頬を膨らませながらの抗議 「おお? 挨拶なら今しただろ。俺はどうも定型の挨拶が嫌いでな。一年で最も白々しい一瞬と言っていい」 「もう……莫迦…」紅潮しつつ微笑を浮かべる霊夢。嫌がってるようには見えない そう、今は午前零時──新年を迎えた丁度その時である 「それでだな…」 上着のポケットから小さい包みを取り出し、霊夢に差し出す 「これ、受け取ってくれないか。クリスマスの代用って言っちゃ何だけどな」 「え……いいの?」 如何にも期待感満々な笑みを浮かべ、包みを開ける霊夢 「あ……」 淡いピンク色のリボン。霊夢の知己だという古道具店で偶然見つけたものだ 霊夢は物思いに耽るかのようにそっと目を閉じる 「ありがと……大切にするわ」 身体を寄せてくる霊夢を、優しく抱き締める。互いに無言のまま、しばし静かな時が過ぎていく 就寝の準備をすべく布団を敷く 厚手の式布団に、毛布、柔らかい掛布団。これなら寒くは無いだろう 後は等身大の霊夢抱き枕でもあれば、朝をも忘れる夢心地に間違いは無いが、無いものは 仕方あるまい 横になり、毛布に包まった時、静かに襖が開いた。隣部屋の霊夢が顔をのぞかせる 「…ねぇ」少しの沈黙の後、もじもじとした様子で霊夢が切り出す 「ん?」 「……一緒に、寝ていい?」 ドキン、と俺の心臓は早鐘のように鳴り始める 「あ、ああ…構わないとも」 返事をする前から霊夢は一方的に布団に入ってくる 「左腕、横に出して」 霊夢の求めに応じ左手を伸ばすと、霊夢は頭を乗せて枕代わりにする 「腕枕なんて…迷惑かしら?」 「…別にいいさ。おやすみ、霊夢」 「はい、おやすみなさい」 聞こえるのは冷たい風の音と、軽やかな彼女の寝息 冬の静かな夜は、時間まで積もる雪の中に埋没してしまったのだろうか 左腕は肘の先からもう感覚が薄れ、手の部分が完全に冷たくなってしまっているのがわかる 腕が壊死するとはこういうものなのだろうか だが、眠れない原因はそれだけではあるまい 自分の愛した少女が、真横で無防備な寝姿を晒している 霊夢と恋人関係になってからまだ日が浅い。同じ布団で寝るのも今夜が初めてだった なのに、霊夢は── …何とも思っていないのだろうか? …信頼してくれてるのだろうか? ……全てを承諾しているのだろうか 俺の中で、暗い何かが燃えあがる ──我慢できない 霊夢の身体を求め、空いてる右腕を差し出した時 「○○……」微かに聞こえる、自分の名前 その一言ではっと我に返る 寒いのか、霊夢は寝返りをうつと背中を丸めて布団の中に潜り込む 起きてしまった様にも見えたが、またすぐに軽やかな寝息を立てる 自分のことを──夢見てくれている 俺は拘束の解けた左腕を布団に入れる。暖かい毛布と冷たい手で奇妙な感覚を覚える 空が白み、部屋の中が少し明るくなったように感じる 「おやすみ…」小声で、そっと囁いた ──寒い 身を切るような冷たさに思わず目を覚ます 隣にいるはずの霊夢の姿は無い。もう起きているのだろう 懐中時計に目をやる──九時 霊夢は寝坊に煩い。正月から怒鳴らせるのも嫌なので起きる事にする 襖を開けると、部屋には紅の大輪が咲いている──紅白では無く、紅い着物姿の少女がそこにはあった。頭の上には淡いピンクのリボン── 霊夢は俺の姿に気づくと、振り返って膝を正す 「明けましておめでとう御座います」霊夢は手を畳に置き、深々と礼をする。普段からは想像 の付かない可憐でおしとやかな姿に、思わず目を奪われる 「あ、ああ…おめでとう」眠い目を擦りながら、返事を返す 「お雑煮、出来たわよ」はぁ、と霊夢は溜息を付きながら促す 外は昨日から変らず大雪。正月としての風情など何も無い だが暖かい雑煮を食べ、甘酒を口にすると正月らしい気分にはなった だが睡魔には勝てそうも無く、盛んに欠伸が出ては涙目を擦る 「何であんたそんなに眠そうなのよ」 誰のせいだ、とも思った 「霊夢こそ、よく寝てたな…」 「おかげさまで、ね」 「うー……」 満腹になり、酒が入ったせいだろうか。急激に眠気が襲ってきた 「ここで寝たら風邪引くわよ。ちゃんと布団で寝なさい」 「うーん、正月の昼から寝るなんて何か申し訳無いんだよな」 「まぁそうだけど…こんな大雪じゃ誰も来ないわよ」 確かにそうだろう。今日は誰もがこたつむり化してるに間違い無い 「腕……痛かったでしょ」 「あぁ…」 ちゅっ、と唇が触れ合う 「おやすみなさい。今度はいい夢見てね?」 「物足りないな。また添い寝でもしてもらおう」霊夢の腕を引っ張り、寝室に連れ込む 「も、もう……着替えるの時間かかるのに……」 布団の中でお互いに寄り添う。寒さを凌ぎ、互いに確かめ合うように 「さっき、言い忘れちゃったわ」 「ん?」 「今年も…宜しくお願いします。って」顔を赤らめながら微笑を浮かべる 「いや…今年からだ」華奢な身体を壊さぬように抱き締める。 「霊夢……俺……お前が……」 霊夢は一瞬驚愕の表情を見せるが、俯くように小さく頷く 「うん……」 その言葉を聞いた途端、俺は半ば飛び掛るように霊夢の唇を奪う 忘れることの出来ぬ、記念すべき新年が幕を開ける 363 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霊夢「あけましておめでとう」 ○○「おめでとうございま~す」 ○○「新年を迎え、心機一転の幻想郷」 霊夢「今年もよろしくお願いします」 ○○「さて、年をまたいでなんか書いてみようと頑張ってみる件、正しくはなぜか俺達に代理でしゃべってもらおう企画。後半になりましたが…」 霊夢「何しようかしらね」 ○○「…は?」 霊夢「考えて無いらしいのよ、どうも」 ○○「うちの作者って…」 霊夢「行き当たりばったりよねぇ…」 霊夢「とりあえずSSの感想をば」 ○○「 363氏の霊夢もの~」 霊夢「…(真っ赤)」 ○○「…(真っ赤)」 霊夢「…○○?(もぢもぢ上目遣い)」 ○○「だめ(真っ赤)」 霊夢「…なんで?(涙目)」 ○○「絶対理性がもたないから」 霊夢「うー…(しょんぼり)」 ○○「というか今仕事中だし、ね?」 霊夢「うん…」 ○○「… 363氏、GJ! …しかし、なんだかこっちめちゃくちゃあてられて…。あー、顔が熱いっす(真っ赤)」 霊夢「これからの暮らしのいいお手本として、参考にさせていただきます。あの…ありがとう!(真っ赤)」 ○○「新年早々出勤という事で、ご苦労様です」 霊夢「お仕事頑張ってね!」 霊夢「…後で添い寝、絶対添い寝(耳うち)」 ○○「マジ?…って言うか、マイク音ひろってる、音ひろってる!」 霊夢「え!?え、あっ…あう…(さらに真っ赤)」 ○○「あはははは…(汗)」 霊夢「う~!(コタツもぐりこみ)」 ○○「って、おい、恥ずかしいからってコタツの中なんかに入ってどう…何やってるか中でぇぇぇっ!?(混乱)」 (しばらくお待ちください) 霊夢「…っぷはぁ!(飛び出し)」 ○○「…またこうなるのかよ…(げっそり)」 霊夢「だって私達の場合これが基本だもん(ぬくぬく)」 ○○「…また四十八手がどうとか言われるぞ?」 霊夢「いいの! あったかいから」 ○○「……あ~、何か続行困難になってきました。まことに勝手ながら、この辺でお開きに…」 霊夢「え? 続けないの?」 ○○「ネタも無い上にこの体勢でどうやって?」 霊夢「む~…しょうがないか」 ○○「 365(95)氏もあけましておめでとう! あなたにもいい年でありますように!」 霊夢「まとめ人さんもおめでとう! 今年もよろしく!」 ○○「 368氏、 369氏、そして職人の皆さん、ROMの皆さん」 霊夢「改めて…」 ○○&霊夢「あけましておめでとう! 今年もよろしくお願いします!」 ○○「じゃ、初詣に行くか」 霊夢「すぐそこだけどね(べったり)」 ○○「……」 ○○(何でかな?急に「にわやえ」なんて単語が浮かんだ…) というわけで、今年もよろしくお願いします。 今回の実験・・・・・・・・・・多分失敗 370 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「・・・・・・ぅん?」 「おはよう、○○」 「ああ…おはよう、霊夢」 「○○ってホントに朝は弱いのね。正月だからって寝過ぎはよくないわよ」 「いやぁすまん。早起きってのはどうも苦手で…」 「そういえば霖之助さんの所で読んだ本に、朝早起きが出来ない人っていうのは血行が悪い、 って書いてあったわよ」 「へぇ、そーなのか。・・・・・・だからって霊夢…」 「電気アンマはやめてくれよ・・・・・・」 朝の血行(一部)良好 博麗神社の元旦はとても静かだ。普通の神社で見かける人ごみや四方八方から投げられるお賽銭やそれを狙う賽銭泥棒 なんてのは霊夢にしてみたら幻でしかない。もしかしたら霊夢の幻想が現実世界で具現化しているのではないかと思って しまうほどである。そんな中、俺と霊夢は… 「やっぱり正月の朝はお雑煮よねぇ」 「こたつに入りながら喰う雑煮は黄金の組み合わせだよな。これで鶏肉がはいってりゃ文句無しなんだが…」 「文句があるなら食べなくていいのよ(怒」 普通に朝食をとっていた。 「幻想郷で過ごす初めての正月がこんなにもダラけたもんだとはなぁ。(ゲップ)」 「あら、これが普通よ。それとも私と過ごす正月はそんなに退屈?」 「滅相も無い」 俺がこの幻想郷に迷い込んで初めて会ったのがこのぐうたら巫女、霊夢だった。 深い森の中で危うく妖怪の餌になる寸前に助けられたのだ。 その後帰る当ての無い俺に霊夢は人間の里なら自分を保護してくれるだろうと教えてくれたが 助けてくれた恩ぐらいは返したいと言う俺に霊夢は 「じゃあウチの家の手伝いでもしてもらおうかしら」と行った。 そんなんお安い御用だっつ~の、とそのときの俺はやる気マンマン男、略してマン男だった。 が、しかし。 初の宴会手伝い、妖怪だらけの面子に終始ビビリまくる。興味本位で剥かれそうになるので全力で逃亡。 洗濯物を取り込んでいるところをパパラッチ天狗に隠し撮りされ、新聞に『下着ドロ、白昼堂々の犯行!!』と書かれる。 霊夢やその他の幻想郷住民から半殺しに会う。全治一ヶ月 二回目の宴会手伝い、流石に周りの面子にも慣れてきたので親睦を深めようと試みる。ちっこい鬼の女の子に力試しと して腕相撲を申し込まれる。全力を出すも見事に完敗、そして脱臼。全治五日 ここで生き抜くには力が必要だと思い白黒魔砲使い魔理沙から弾幕ごっこを学ぼうとする。勉強するより体で感じた方が 飲み込みも早いだろうと言われ初っ端からまさかの実戦投入。アステロイドベルト(Luna)を時間一杯避け続けろと言われ るが開始十秒で被弾。魔理沙の持っていたポ○の油で事なきを得る。 三回目の宴会手伝い、おもちゃ扱いされることも無くなりほぼ全員と交流をもてるようになる。突然幻想郷のえらい方で ある紫さんにお酒を勧められる。断るわけにはいかないので一杯頂く。しかし、飲んだ酒は『ニコラシカ』だったので 失神しそうになる。なんとか踏ん張ってみたものの健闘虚しく倒れてしまい、しかも運悪く霊夢の上に倒れこんでしま った。その後どうなったか覚えていないが、気づいた時には永遠亭の診療室の中だった。全治三ヶ月 「いやぁ、よく今まで生き延びれたよな、ホントに」 今までの事を振り返ってみたら不意に涙がこぼれた。 「全くだわ。どんだけあたしに迷惑かけてきたと思ってるのよ」 「そう言われてもなぁ…。でも家の事や宴会の手伝いなんかは一生懸命やったつもりだよ」 「それはあるはね。おかげで私の心にも少しはゆとりってものができたもんだわ」 「それ以上ゆとりを持ってどーすんだ…」 霊夢の言葉を聞いてふと考えた。 俺はまだ霊夢に全ての恩を返せてないのかもしれない。と、言うより助けてもらった後の方が迷惑かけた量が半端じゃな いだろう。そう思ったら何かせずにはいられない。 「なぁ、霊夢」 「んっ…何?」 「俺に何かしてもらいたいことって、ないか?」 「…えっ?」 霊夢は少し驚いた顔をした。 「俺は霊夢に助けられてその恩を返すためにここでお世話になってる訳だろ?でも実際は恩返しするどころか迷惑かけてる ことのが多い。だから少しでも多く霊夢のためになることがしたいんだ」 「・・・・・・」 俺が自分の気持ちを伝えると霊夢はうつむいてしまった。 「あれ、霊夢?どうした?」 呼びかけに答えない。 (あっれ~、何かまずいこと言っちまったか?それともまるで役に立たないダメ男、略してマダ男がなにでかい口きいてん だよ!なんて怒ってんのか?やべぇよ新年早々永遠亭でご厄介なんて洒落になんねぇぞオイィィィ…) 頭の中で様々なBADエンディングを思い浮かべていると霊夢が不意に口を開けた。 「・・・・・・何でも・・・・してくれるの?」 いつもの霊夢の口調ではない。 「えっ…?あ ああ、何でもしてやるよ」 心なしか少し顔が紅くなっている。 「えっとね・・・・・実はさっきから・・・・・お願いしたいことが・・・・・あってね・・・」 今の霊夢からは普段では想像できないほどの恥ずかしがってるオーラが出ている。そんな霊夢を目の前にした○○は (ちょっ…なんだこの空気?霊夢もありえないぐらいモジモジしてるし…。も、もしかして霊夢…俺と××したいとか言う じゃ…。いや、××だけでなくもっとディープな△△や目も当てられない様な☆☆なんかも…挙句の果てには二人揃って X・Y・↓・↑なんて決めてみたり!?ウッヒョホーイ!こんな異郷で正月の昼間からハッスルできるなんて!夢なら覚めんといてー!!) 一瞬にして頭の中が春一色になってしまった。妄想が音速の速さでひろがっていく○○に霊夢は言葉を続けた。 「・・・・じゃあ・・・・おねがいしても・・・・いい?」 「お、おおおおオッケイぃい!何でもよござんすよ!」 満面の笑みで霊夢の願いが告げられた。 「境内のお掃除、よろしくね」 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「あ~~~~~、さぶい~~~~~」 霊夢からの死の宣告をしっかりと受け止め、○○は雪の積もった境内を黙々と掃除していた。 「はぁ…期待を大きくしちまった分現実を受け止めるのが重くなっちゃったなぁ。ってか霊夢もなんであんな思わせぶりな 表情するんだよ…」 多少の愚痴を吐きつつも自分で言い出したことなので○○は手を止めるはけにはいかなかった。かじかんだ手さすりながら掃除していると遠くの方から何か飛んできた。 「おぉ~、年明けからしっかりと雑用してるなんて偉いもんだな」 「そりゃどうも。初詣だったらそこの賽銭箱に…」 「私がそんな金持ってる様に見えるか?」 「…見えないな」 今年一番の参拝客(?)、霧雨魔理沙は新年の挨拶に来たのだが、当の霊夢はこたつの中で熟睡していたので 掃除中の俺の話し相手になってくれた。(もちろん掃除は手伝わない) 「それにしても…」 「ん?何だ?」 「良くもまぁこんな家事手伝いを続けてるよなぁ。嫌になったりしないのか?」 魔理沙が呆れ口調で尋ねてきた。 「んな訳ないだろ。俺は好きで今の事を続けてるんだからな」 「なるほどな、真性のマゾヒストってヤツか」 「断じて違う!」 「ジョークだぜ、ジョークw」 こんな会話を続けながら掃除も半分は終わってきた。だいぶ疲れもでてきたので少し休むことにした。その休憩中に ○○は魔理沙にある事を尋ねた。 「なぁ魔理沙、一つ訊いてもいいか?」 「私のプライベートなことについては一つも教えられないぜ」 「そんなこと訊かねえよ…。・・・・霊夢って、俺のことをどう思ってんのかな?」 「ハァ?」 「あ、いや、そーゆう意味じゃなくって…。俺って霊夢の役に立ってるのかなって思って…」 「お~お~、そっちか。・・・・ヌフフ・・・・なるほどねぇ」 「な、なんだよ?なるほどって…」 「いやぁなに、こっちの話だ。まぁ率直に言うとお前が霊夢の役に立ってるかどうかなんて知らんよ」 「…そっか」 魔理沙の口からは気の利いた言葉など微塵も出ず、○○は落ち込むしかなかった。 「オイオイ、何を柄にも無く落ち込んでるんだ?」 「いやぁ、俺だってナイーブな一面もあるんだよ…」 「何言ってんだか。・・・・ん、そーいえば…」 「何だ!?霊夢が何か言ってたのか?」 つい声を荒げてしまい魔理沙も少し驚いてしまった。 「おおぅっと、まぁ落ち着けって。別に何か言っていたわけではないさ。ただ…」 「ただ?」 「少しだけ、変わった気がするな」 変わった?あの霊夢が? 「俺からしてみれば幻想郷の住人はみんな変わってると思うんだが」 「私は普通だぜ、ってそういう意味じゃない。○○が来てから霊夢の性格は変わったと思うんだ」 「へぇ。どんな風に?」 「今まで霊夢は周りの奴に対してもの凄く無関心だったんだ。それが最近じゃお前に対しては何かと口を挟むようになった」 「それは俺がへまなことばっかしてるからだろ」 「単にそれだけじゃない気もするがな」 「どういうことだよ、それ?」 「要するにだな、お前の存在が霊夢にとってマイナスなわけじゃない、ってことだな」 「・・・・・そっか・・・」 どこをどう要したのかわからないが、それを聞いて○○は少し安心した。 「さてと、私はそろそろ帰るぜ」 「ん、霊夢に会わなくていいのか?」 「私が挨拶に来たことを言っといてくれればいいさ」 「おう、わかった。伝えておくよ」 そのまま魔理沙は俺に背を向け、片手をヒラヒラ振って少し日の落ち始めた空を音も無く飛んでいった。 「さてと、残りを片付けっかな」 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 日が全て落ちる前にやっと境内全体の掃除が終わった。 「くっはぁ~、やっと終わったぁ…」 この境内では雪かきから始まり濡れた落ち葉をかき集めるという作業がとても重労働に思えた。 「こんな地味に疲れることを霊夢はずっと続けてきたのか…。ほんと、霊夢には頭が上がんないよなぁ」 あまりにも周りが静かなのでついつい独り言を始めてしまった。 「しかもこの境内をずっと一人でだもんな。こんなのしょっちゅうやってたら発狂するよな、俺だったら」 自分で言ったことに笑っている内に一つだけ気づいたことがあった。 「・・・・・ずっと・・・・・一人で?」 少し前に魔理沙から聞いたことがあった。自分と霊夢は昔からの付き合いではなく知り合ったのもここ何年か前なのだと。 魔理沙に限った話じゃない。今の宴会に集まる人たちだってほとんどがそうだ。 「俺がここに来るずっと前から、霊夢は一人でここで生活してて、妖怪退治にいって、冬になったらこんな風に雪かき して…、何年も続けてきたんだろうな…」 そう考えたら少し胸が苦しくなった。 「・・・・もっと頑張らないとな」 「何を頑張るの?」 「ぬおぁっ!」 ちょっとした決意表明の直後、背後から聞こえた声におもわずみょんな悲鳴を上げてしまった。 「れ、霊夢?いつからそこに?」 「『こんな風に雪かきして…』からだけど」 「そ、そっか…。すぐに声かけてくれればいいのに」 「だって、ブツブツ独り言いってるもんだから、さすがに躊躇しちゃったわよ」 「あぁ、それもそっか…ごめん」 「別に謝らなくても…。まぁいいわ、お掃除お疲れ様。お風呂沸いてるわよ」 「うん、わかった…」 そう返事すると霊夢は「体冷えきっちゃうわよ」と言って家の中に入ろうとした。 「・・・・・なぁ、霊夢」 霊夢は歩みを止め振り返った。 「ん、なあに?」 「今まで俺は霊夢に色々と迷惑かけたり、その度に助けられてきた。たぶん、というか確実にこれからも色々と霊夢の手を 焼かせるようなこともあると思う。…でも」 霊夢は何も言わずに立っている。 「いつか・・・・いつか霊夢を心から支えられる男になりたいって、決めたんだ。 だから・・・・・今年も・・・・・世話になってもいいか?」 自分の今の気持ちを伝い終えた。お世辞にも良い言葉だとは言えないだろうし、他人からしてみればとても安っぽい言葉かも しれない。だけど、これが今の自分の本当の気持ち。 「・・・・・・・霊夢?」 「・・・・・・・・・・・・フフ」 少し間を空けてから不意に霊夢は笑い出した。ギャグを言ったつもりじゃないのだが… 「なっ…何で笑うんだよ!」 あんな事を言った後に笑いが起こると流石に恥ずかしくなってきた。 「あ、ごめんなさいね。新年の挨拶にしては凄く真剣な感じがしたもんだから、ついね」 「…そーですか」 一気に体から力が抜けていくのがわかった。 「あぁ~、ま~そーいうわけだから。んじゃあ俺は風呂に入らせてもらうよ」 そう言って霊夢の横を通り過ぎ母屋に向かおうとした。 「一つだけ・・・・訂正さしてくれない?」 後ろから霊夢の声がした。振り返ってみるとそこにいる霊夢の顔が 今まで見たことの無い、とても優しく、人懐っこい笑顔をしていた。 「『今年も』じゃなくて・・・・・『これからもずっと』よ」 後書き===================================================================================================== ども、328でっす。石は投げないで下さい… 今までは皆さんの勇姿を遠くから見ていただけでした。 しかし!多くのすばらしい作品をみるたびに自分の妄想が膨らんできてしまい、 やっとこさ吐き出す決心がつき、今回は投稿させてもらいました。 初めてSSを書いたもんですからおかしい部分も多々あると思いますが… いやぁ37氏や363氏の様に甘さ全開には書けませんでした! 甘さ控えめな上に微妙なネタを盛り込んでしまい、なんともしょっぱいものになってしまいました。 このSSを見てほくそ笑んでくれたら幸いです… おまけシナリオ============================================================================================= 「う~寒い。早く暖まらんとな」 震える体を抑えて風呂場へと向かう。 「ほら、風邪ひかないうちに早く入っちゃいなさいよ」 「はいはい。…何か霊夢ってお母さんみたいだよな」 そう言うと霊夢の顔が少し紅くなった。 「な、何変なこと言ってんのよ…」 「いやぁさ、子供の頃にも母親から同じようなこと言われた気がするんだよ。 今日みたいに家の周りが雪でいっぱいで、子供にしたら最高に遊べる環境だったんだよ。」 霊夢の表情もすぐに元に戻って、俺の話を静かに聴いてくれている。 「夕方遅くまで友達と遊んで家に帰るとさ、母親が今みたいに風呂沸かしてくれてるんだよ。 そういえば子供の頃は母親と一緒に風呂入ってたな。いや、ホント子供の頃だけだぞ。 で、俺も背中とか流してもらったけど、あれはよかったな。人に背中を流してもらうのってなんかスゴク気持ちもんだと 思うんだよ。霊夢もそう思わないか?」 そう言って振り返ると霊夢はいつもより少し真剣な顔をしていた。 「アレ?…霊夢?」 「・・・・・・・・・・・わかったわ」 一言そう言うと霊夢は家の奥に歩いていった。 「え、何だ?…わかったって…何を?」 カッポ――――ン そんな音が今にも聞こえてきそうだ。○○は湯船に肩まで浸かって考えていた。 「むぅ~~~、霊夢のやつ、何がわかったていうんだよ?いきなり俺が母親の話を始めたから俺をマザコンだと思ったのか? いやいや、そうだとしたらまずいぞ…何がまずいか自分でもわかんねぇけど」 などと自問自答していると戸口の方から声が聞こえた。 「○○ー、湯加減どう?」 「おーう、バッチグ~だぞ」 「そう?それは良かったわ。・・・・・じゃあ、入るわよ」 「どーぞー・・・・・・・ってオイ、入るって…」 と、ツッコミをいれようと戸口の方に顔を向けた。 カララッ 乾いた音と共に戸口が開き、湯煙の向こうに霊夢の姿がぼんやりと見えた。その霊夢の姿は… 「れ、っれれれれっれりえれっれ・・・・れいみゅ?」 「何?どうかした?」 バ ス タ オ ル 一丁! 「ちょっ…おまっ……何してんの!?」 「何って…背中流してあげようと思ったんだけど」 「えっ?・・・・あっ!わかったって、そっち!?いや、でも、あれは、こーゆーいみでいったわけじゃねぇんだげど…」 「何ワケのわかんないこと言ってんのよ?…ほら、はやくしなさいよ」 「え、ちょ、ちょっと待っ…」 今、俺はとんでもない状況に陥っている ある意味生命の危機 しかし 人生で初の女の子との入浴イベント 天国か地獄かを決める唯一の鍵は 俺の理性 「どお?背中痛くない?力強すぎたりしないかな?」 「いえっ丁度いいっす…」 「でもやっぱ男の人の背中って大きいわよね。洗い甲斐があるってもんだわ」 「そ…そうかな?」 頭の中に浮かんでくる卑猥な考えを押さえつけるのに必死で、霊夢の言葉に相槌を打つのはやっとのことだった。 (やばいぞやばいぞやばいぞ…。今まで生きてきてこんなにおいしいイベントは初めてだ…。だがもしここで自分の 欲望にかられたら、それこそ幻想郷住人からは女の敵とみなされLWの雨あられ、死んだところで三途の川はあの 巨乳死神に渡してもらえないだろうし、裁判長にはラストジャッジメントで消し炭に…チクショーこんな所で輪廻 の環からはずれてたまるかっつ~の!でもどうせなら死ぬ前に間近に霊夢のバスタオル姿を脳裏に焼き付けてやろ うじゃないか!いよっしゃ~見るぞ、見てやるぞ!ビビッタリなんかするもんか!) チラッ ←ビビリ 「・・・・・・・・・・」 初めて見る霊夢の素肌は、外で見た雪よりも一層白くて、スラッと伸びる手や足はいつも見せる力強い弾幕ごっこ をやってのけている姿からはとても想像できないほど華奢なものだった。 (そして、このバスタオルの下には、まだ俺の知らないもう一つの幻想郷が…) 「・・・・・・・・あっ!ちょっと○○!」 「えっ?あぁっ!!ごめんなさい!別にそういう意味で言ってみたわけじゃn」 「何ワケわかんないこと言ってるのよ!?それよりも鼻血出てるじゃない!」 「え?あ、ホントだ…」 漫画のキャラかよ…俺… 「一体どうしたのよ!?もしかしてのぼせたんじゃ!?」 (いや、ほとんどアンタの所為だよ…) 「と、とにかく止血しないと…。ティッシュ取って来るわ!」 そういって霊夢は戸口から出ようとした。 「い、いや大丈夫だよ、すぐに止まるから」 「そんな事言ったって…」 俺が呼び止めて霊夢が振り返った瞬間、霊夢の体に巻いてあった一枚に結界が… 「あっ」 「!!!!!!!!!!!(絶句)」 落ちた 「? アレ?」 気づくと霊夢は少し恥ずかしそうな顔をして突っ立っていた。格好はチューブトップに短パンという今までに見たことの 無い服装で。 「何だよ、ちゃんと服着てたんじゃないか。なんでそんな紛らわしいことを…?」 そういうと霊夢は顔を真っ赤にして 「なっ!何でって…! 男の人の前でチューブトップに短パンなんて恥ずかしいでしょ!?」 (そーゆー問題じゃねぇだろ…。やっぱ変わってるわ、この巫女。ってか何であんな服もってるんだよ…) おまけ後書き================================================================================================= 正直に言います。今回はこれが書きたかったんです…本編はコレに繋げるための前フリでした(爆 ちなみに元ネタは某家庭教師マンガからもってきました。 384
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霊夢2 131 夜の博麗神社。 今日は宴会も開かれないと言う事で、彼と霊夢は早めに夕食を済ませ ちゃぶ台で向かい合って食後のお茶を飲んでいた。 「ねえ、○○」 「んー?」 のほほんとした感じで応える彼。 「アレ、して欲しいんだけど…」 そう彼に言う霊夢の声は、普段の彼女とは思えないような、恥じらいを含んでいた。 「えぇ? 一昨日したばっかじゃん」 「だって凄く気持ちよかったし…。お願い、ね?」 「ウム、他ならぬ霊夢の頼みとあっちゃ仕方ないな」 (きっ…、きたきたきたぁ――――ッ!!) 霊夢達の居る部屋の壁一枚向こうで、幻想の突撃取材班・射命丸 文は 心の中で雄叫びを上げつつ、Yes!! Yes!! と言わんばかりに 無言でガッツポーズを繰り返していた。 (霊夢さんとこに彼が転がりこんで一ヶ月、そろそろ何か進展があるんじゃないかと踏んでいましたが…) そう、文は今夜霊夢と彼が二人きりになるのを見越し、張り込み取材を敢行したのだ。 (まさかドンピシャとは…! これは是が非でも明日の一面にさせてもらいますよ!) 鼻息も荒く、文は再び壁に耳を近づけた… 「ん…じゃあ、お願いね」 「了解」 「ねえ、私の…汚くない?」 「大丈夫、綺麗だよ」 「んっ…」 「やっ、くすぐったいっ」 「ほら、もっと力抜いて…」 「んっ! お願い…もっと…奥まで…っ!」 「ってこんな記事が書けますかーーっ!!」 壁一枚向こうで繰り広げられる幻想郷に、完全に平静を失った文が ばーん!と襖を開け放ち乱入すると、そこには 「…」 「…。」 彼と、彼の膝枕で耳掃除をしてもらっている霊夢がいた。 「あんた、何してるの?」 「ていうか鼻血出てるぞ」 「えーと… ドウモー 文々。新聞でしたー これからも御ひいきにー」 搾り出す様にそれだけ言うと、文は天狗の鼻よりも赤い顔をして全速離脱していった…。 「何あれ…勧誘?」 「でもあいつ、普段から此処にも新聞届けに来てるだろ」 「まあいいわ…それより続き、お願いね?」 「ああ。奥のがまだ取れてないからな」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 142 彼女はちょっと変わった女の子だった。 いつも率先して事件を追って、彼女は事件を解決する為に奔走する。 初めてそれを見たのは、割と最近のことだ。 彼女は花に包まれていた。 正確にはここ、幻想郷が花に包まれると言う事件が起きた。 その時に、ちょうど彼女を知ったのだ。 人里の人間で、彼女を知らない者は居ない。 彼女は巫女である。 既に妖怪と戯れていると噂される、あの巫女である。 何故、既に神社は妖怪の手に落ちたと考えるものばかりなのだろう? 巫女の――友達と言う事を考える者は誰も居ないようだ。 いや、恐らく分かっていて、それを否定しているのだ。 「…慧音様」 無理は承知で、ここの里を守護する慧音様に会いに来た。 彼女と面識がある慧音様ならば、なぜ彼女が妖怪と一緒にいるのか、 ということを知っているのかもしれない。 「博麗の巫女の事か?」 「えぇ」 「物好きだな…。この里であの巫女に興味を持つものが居るなんて 思ってもいなかった」 呆れ気味に慧音様はつぶやくが、どことなく嬉しそうにも感じられた。 そう、例えるなら…失ったものを再び見つけた子供のように。 「…博麗の巫女は自分で好きに妖怪を呼び出している訳ではない。 そうだな、言うなれば引き寄せてしまうのだ」 引き寄せる? つまり彼女のもとには自然と妖怪が集まってしまうと言う事か。 「異変を解決するたびに、妖怪が増えるのも考えものだがな」 慧音様の苦笑は、ある意味で現実的な気がした。 異変が解決するたびに妖怪が増えると言うことは、やはり 神社は妖怪の手にあるようなものだ。 「…ところで、何故巫女のことなど聞こうと思った?」 それは…自分でも分からない。 「…分かりません」 「そうか」 おかしそうに笑う慧音様に何となく腹がたった。 「博麗神社に行って直接、彼女を見てみればいい」 そう言って、送り出していった。 ほとんど着の身着のままで博麗神社に向かう。 途中、妖怪に襲われるも何とか逃げ切った。 所詮妖怪相手に、人間が勝てる訳が無い。 逆に勝てる人間の方が珍しいくらいなのだ。普通なら。 とにかく妖怪から逃げ切ると、神社へと続く階段がようやく見えてきた。 本当に長い階段を上りきると、そこに居たのは二人の少女。 片方は誰もが見たことのある巫女、そしてもう片方は見たことの無い 白黒の魔法使いだった。 「おい、参拝客みたいだぜ」 「ん?参拝する人が居るなんて珍しいわね」 巫女がそれでどうする? という言葉を辛うじて飲み込み、真っ向から彼女を見る。 間違いなく、幻想郷の異変の際に、見かけた紅白の巫女。 博麗…考えてみれば名前は知らなかった。 博麗の巫女の肩書きだけで、名前を呼ぶ人なんて里には居はしなかった。 「いらっしゃい、素敵なお賽銭箱はそこよ」 「あぁ…いや、僕は――」 「ふぅん、どうやら珍しくこの神社に参拝客じゃないみたいだな」 その様子を見てか、白黒の魔法使いが笑いながら物珍しそうに 僕を見る。 「まぁ、博麗の巫女を見に来ただけだし」 「私?」 「見事に見世物入りだぜ。良かったな霊夢」 「嬉しくない」 白黒の反応に、博麗の巫女が返す。 何となく微笑ましいやり取りだった。 「後は慧音様からの預かり物を届けに」 これは本当だ。 『博麗の巫女に会いに行くならばついでに、この手紙を渡しておいてくれ』 と言われたのだ。 何が書いてあるかは、僕も知らない。 「人里の人間だったんだ。とりあえず、ありがとう」 手紙を渡すと、隣に居た白黒もその手紙を覗き込む。 「ふむふむ」 さほど重要ではないのか、博麗の巫女は流し読みをしている。 「へぇ、お仕事ってわけか」 少年のような笑みを浮かべて、白黒が僕を見る。 「ちょっと待ってて、返事くらい書くから」 これでは文通だ。 いや、それで間違っていないのか? 慧音様の手紙を、僕が渡して、その返事を博麗の巫女が書いて、僕が渡す。 うん、これは体よい運搬係だ。 「終わり。じゃ、これ慧音に届けておいて」 「あぁ」 その手紙を受け取る際、彼女の手が触れた。 暖かい。人里では『妖怪と関わる巫女の考えは知れない。きっと身も妖怪だろう』 と身も蓋もないことを子供達に教えていたが、それはどうなんだろう? 「あぁ、日が暮れてきたわね。魔理沙、彼をちょっと送ってあげて」 「面倒くさいぜ」 「いや、そんなハッキリと言われても…僕も困るんだけど」 「大体、霊夢が送っていけばいいじゃないか。私にその役目を押し付けるのは どうかと思うぜ?」 「いや、まぁ…僕のことは気にしないでくれ。今の時間帯なら、運が悪くない限りは 妖怪に出会うことも無いと思う」 時刻的には今は夕方、急いで走れば夜中ギリギリには何とか人里まで戻れるだろう。 「仕方ないわね。ほら、お札一枚あげるから、これでどうにかしなさい」 本当に一枚だけお札を渡された。 それでも、その一枚のお札が、頼もしく見えるのは気のせいではない。 相当な霊力が、この一枚のお札に詰められている。 下手をすると、これをぶつけて霊力を弾けさせれば、人間にも効果があるのかもしれない。 「それじゃ、確かに受け取ったよ」 手紙とお札を持って、僕は博麗神社を振り返る。 やっぱり博麗の巫女はちょっと変わっていたが、人里の皆が 思っているような冷たい人物でもなかった。 「…手は暖かいし、やっぱり人間だよな」 改めてそれを確認した。 それよりも慧音様に早いところ、この手紙を届けに行かなければ。 せっかく急いだ意味が無い。 「…あぁ、ちゃんと届けてくれてありがとう」 「いいえ、普段から守って頂いているお礼だと思えば安い物です」 結局、受け取ったお札は使う事無く里まで辿り着いた。 もっとも使わない状況に越した事はないのだが。 早速手紙を届けに行くと、慧音様はその手紙を読み始める。 重要な事が書いているようでとても熱心に読み進める。 「ふむ…」 「どうかしたんですか?」 「お前も、少し前から畑を荒らす妖怪については聞いているだろう?」 どのくらい前かは忘れたが、そのことは聞いたことがある。 ある日の朝、収穫しようとした農作物が見事に盗まれており、それなりに 危機が起こった事がある。 里の皆や、僕も山狩りを行ったが、成果はゼロ。 いや、負傷者が居るから、言ってみればマイナスである。 死者が出なかったことは幸いだが、危険があることには違いない。 特徴は不明だが、どうやら爪を使って大人達を負傷させたらしい。 一匹で行動しているらしく、外見が狼ということ以外には分からない。 「それについて、一応専門である博麗霊夢に手伝ってもらおうと思ってな」 「なるほど」 妖怪退治は彼女の専門だ。 それに、慧音様が居れば妖怪の退治など容易いに違いない。 「…ところで、お前は博麗の巫女に会ってどう思った?」 「どうって…」 「そうだな。率直な感想で構わない」 率直な感想と問われてパッと出てくるのは… 「人里の人が思っているような人じゃなかった、って事でしょうか」 「そう感じたか…なるほど」 慧音様は考えごとをするように、僕の方と手紙を見直した。 「何か?」 「いや、そうだな。お前に手伝ってもらうのも悪くは無いかもしれない」 「妖怪退治ですか?」 それなら願ってもない。元々、慧音様を手伝うつもりだったし。 何より、博麗の巫女を再び見ることが出来る。 何かを含んだような慧音様の表情が、なぜか気になった。 僕も、まだ彼女の本質を知らなさすぎる。 「期待している。妖怪退治は三日後だ」 「はい!」 僕は礼をしてその場を後にした。 それからの僕の生活は慌しいものだった。 まずは足手まといになる可能性が、高いため自分に合う武器を 見繕い、それを振って感覚を確かめる。 やっぱり、攻撃を重視して斧を持つことに決めた。 「精が出るな」 「あ、はい」 「山狩りは明日の夜だ…。お前の家に博麗の巫女に迎えに来させるから ついてくればいい」 「分かりました」 あの巫女が迎えに来るのか…。 そもそも、僕の家も人里から少しだけ離れた場所にあるから 問題は無いのかもしれない。 きっと、人里に彼女が現れれば奇異の視線で見られることは間違いないからだ。 その日はずっと斧を振り続けた。 きっと筋肉痛になるだろうが、その程度なら、身体を解すだけで、 少しはマシになるはずだ。 次の日の夜。 本当に博麗の巫女が来た。 寒いのかろうが暑かろうが、きっとその巫女服を変える気は無いんだろうな。 と考えながら、僕は彼女の後に続いた。 「あぁ…そうだ。このお札」 三日前に借りたままのお札を返したほうがよかった気がし、彼女にそれを渡す。 「ん…あー、それ返さなくてもいいわ」 それを押し返された。 何でも彼女曰く、これからきっと必要になると言うことだ。 「ちゃんと来たな二人とも」 「そりゃね。魔理沙は来れないって」 「そうか…少しは期待したんだが」 魔理沙とは、確かあの白黒魔法使いのことだったか? 彼女も予定などがあってどうやら来れないようだ。 「それで、山狩りらしいけど。どうするの?」 「二手に分かれた方がいいだろう。私は一人でも問題ない。お前は 霊夢と一緒に組んだ方がいい」 博麗の巫女が山の地理を知っているとは思えない。ならば僕に 案内させた方が少しはマシだと言うことなのだろう。 「それじゃ、よろしく」 「あぁ、よろしく」 博麗の巫女の手に再び触れた。 人間の彼女の手はやはり暖かかった。 松明を片手に歩き回る。 弓を背負い腰に斧と言う重装備に比べて、博麗の巫女は巫女服と 札に針に陰陽玉という至って簡単な装備だった。 まぁ、どれもきっと、僕の振るう武器よりも遥かに威力を持った 装備なのだろうが。 「……」 「……」 会話なんてありはしない。 妖怪が蔓延るこの時間で、騒げば格好の的である。 「居ないな」 「…そうね」 正直、拍子抜けした。 山に居るはずの例の妖怪は、何故か姿を現さなかった。 僕たちはそれでも狼の妖怪を探して歩き回る。 子供の頃から住んでおり、それでもなお、この山の深さは分かりきっていない。 …いや、それなりに働けるようになってからは来てないから、うろ覚えな 部分もあるのか。 「…あ」 ほんの少し昔。 洞穴を見つけたことがあった。確かそこを、子供らしく遊び場にした覚えがある。 そこには―― そう、何か居たはずだが、忘れてしまった。 「どうかしたの?」 「いや…隠れる場所の心当たりが思いついただけ」 「そう、なら多分そこね」 博麗の巫女は疑ってすらいない。 きっと知性は高くないだろうが、雨風防げる巣くらいは作っているだろう。 僕達は、早速その場所に向かう事にした。 「…何があったんだっけ?」 洞穴の前まで到着したが、僕はそこに何が居たのか、全く思い出せないでいた。 とても重要な事だった気がするのだが、記憶に無い。 子供の頃の話だと言えばそれまでだが、喉まで出かかっているのに 思い出せないと逆に気持ち悪い。 まぁ、とにかく妖怪退治だ。 「…ここみたいね」 「うん…」 そこら辺に感じられる妖気のせいで、麻痺してしまいそうだが 間違いなく、ここに居ることは分かる。 そう、言うなれば霧の中で煙を向けられているような感じだ。 肌に纏わりつくような感じと、はっきりとこちらに向けられている 妖気が、間違いなく敵がこちらに気付いている証拠だ。 「…来るわよ」 「…ん」 背の弓を持ち構える。狙いは洞穴の中だ。 恐らく、これを打ち込めば即座に戦いになるだろう。 「…撃って!」 しゅっ 軽い風切り音が鳴り、吸い込まれるように洞穴へと矢が飛んでいく。 二つの開かれた目が、飛び出した。 それは間違いなく、狼の妖怪で、里の人間を傷つけたものだった。 「お出ましね」 札と針を持って博麗の巫女も構える。 「パスウェイジョンニードル!」 針を投げつけ、それは真っ直ぐ妖怪を狙いつける。 だが妖怪はそれを回避しようともせず、その身体で受け止めた。 「…!?」 その異常な様子に気付いたのか、彼女も一旦様子見とばかりに 攻撃の手を休める。 「……」 妖怪は僕たちの方を睨みつけるだけだ。 「どういうことだ?」 「…さぁ、それでも油断はしないように」 彼女の警告を受けながら、何故か、僕はこの妖怪に違和感を感じていた。 無論、この奇怪な行動もだが、どこかで見たことが―― 何となく一本の線で繋がった気がした。 「…博麗の巫女、僕が洞穴に入るから…援護してくれないか?」 「何か分かったの?」 「多分」 確証は無い。それでも少しは『ある事』を期待しているのだ。 「それと悪いけど…あの妖怪を生かしておいてくれないか?」 「難しい注文ね」 「…信じてるから」 多分、彼女なら殺さずに無力化することも無理ではないと信じている。 「それじゃ、始めましょうか」 札を取り出して、投げる体制に入る。 恐らく、あの妖怪は何か守っている。そして、それも博麗の巫女は勘付いているだろう。 「夢想封印――集!」 放った札は、空に舞い大きく螺旋を描き、一つの球体を生み出した。 そして一つが二つに、二つが四つに、四つが――八つに。 そのまま妖怪に向かって、その球体全てが集まってくる。 無茶苦茶だと思いながら、僕も走り出す。 ――やはり居た。 妖怪狼の子供だ。 「…弱ってはいないけど」 眠っているようで手を出しても気付かれていないが こんな環境では弱るのは目に見えていた。 とりあえず抱きかかえて、外に出る。 「やっぱり居たよ!」 彼女の方に大きな声で声をかける。 こちらの方に気付いたのか、警戒したように、妖怪は唸る。 子供を人質に取られた親だ。 警戒するのは無理もない。 「…子供に餌をあげるために、畑を荒らしたってわけ?」 「妖怪は何でも食べるからね」 「はぁ…色んな意味で無駄骨だった気がするわ」 がっくりと肩を落とす。僕は子供を地面に降ろし、手を上げて離れる。 それなりに距離を取ると、妖怪は子供に近づいてきた。 「それで、どうするの?退治する?」 「…いや、これから山の向こうに行くように説得する」 「…相手は妖怪よ?」 「それでも」 あの妖怪は聞いてくれる気がした。昔の事を覚えていれば、だが。 僕が子供の頃に、あの妖怪狼は確かに居た。 僕と同じように子供で、ただの狼だと思って遊んでいた。 大人になってからは来ることはなかったけど。 まさか、妖怪だったとは… 「…はぁ」 その事情を聞いて、博麗の巫女は本当に呆れたようにため息をつく。 「ま、いいわ。それじゃ後は任せるわよ」 と呟きながら、彼女は空へと舞う。 「慧音には事情を言っておきなさいよ」 分かっている。 心配をかけたとは思えないが、一応言っておかなければなるまい。 二日後、僕は再び博麗神社を訪れた。 博麗の巫女に礼を言うためだ。 あの後、朝日が昇るまで説得をして、理解したかどうか知らないが 子供をつれて妖怪は洞穴を離れていった。 畑も荒らされていないようで、ちょっとだけ安心した。 「あら、いらっしゃい」 掃除をしていたのか、巫女は手に箒を持っていた。 「…とりあえず、お礼に来たんだけど」 風呂敷包みを降ろして、中から野菜を取り出す。 「畑は荒らされなかったから、多分もう大丈夫」 「あの妖怪は?」 「どこか別の所に移動したみたいだ。あ、これ慧音様からの礼状」 それを受け取る博麗の巫女は、年相応の表情で満足そうに頷いた。 …それを不覚にも、可愛いと思ってしまった。 「どうかした?」 「や…何でも」 慌ててそっぽを向く。 「それじゃ博麗の巫女、ありがとう」 「あ、待ちなさい」 去ろうとした途端に呼び止められた。 「博麗の巫女って言い方、止めてもらえない?」 「…分かったよ。霊夢」 にこりと笑う。やはり彼女も年相応なのだろう。 そして僕も…どうやら、彼女に好意を持ってしまったらしい。 「それで帰ってきたと?」 神社から帰って報告をすると、慧音様は不服そうに唇を歪める。 「…それ以上に何をしろと?」 「いや、非常に残念だ」 何が残念なのか分からないが、とっても良くない予感がした。 慧音様も、ちょっとだけ変わっているのは、この時解った。 「…こうなれば、全員に招集をかけて…ぶつぶつ…」 なぜか考えごとに突入した。 「それじゃ、失礼します」 僕は礼をして、いつものように去る。 家に帰ってから、畑を見なければならないからだ。 「…様子は良し。あと少しで他のも収穫できそうだ」 霊夢に渡した野菜は、里のみんなのと大半が僕の畑からだ。 別に深い理由は…ないはずだ。霊夢から貰った札を見る。 結局貰ってしまったが、使う機会はほとんどない気がする。 「とりあえず、今日も日課の修行をしよう…」 自分の無力はよく解っている。 だからこそ、資本である身体を鍛える事にした。 そして、その辺りから、唐突に僕の日常は変化した。 なぜか、慧音様が博麗神社への用事を、執拗に僕に言い渡すようになった。 まぁ、それくらいならば問題はないのだが、そのおかげで霊夢と関わっている 人間や妖怪の知り合いが増えた。 霊夢と二人っきりになる機会がなぜか増えた。 嬉しい事は嬉しいのだが、どうしてそう言う時、他の妖怪達が訪れないのかも 疑問になってきた。 「さーて、今日は楽しい宴会よ。あなたも参加するんでしょう?」 楽しいと言っても、彼女の場合、準備片づけを全てこなすのが面倒だ とも言っている。 「…どういう心境の変化?」 「あなたが片付けと準備を手伝ってくれるでしょ?」 いや、確かに手伝うつもりだけど。 「人数結構来るから、大変よねぇ」 「…その分、片付けも準備も時間が掛かる、と」 まぁ、霊夢と居れる時間が増えるのはありがたいと言えばありがたいのか? 彼女は、やっぱり人間である。 あの妖怪を逃がしたように人間味はとてもある。 だが、時々物憂げな表情になるわけも分からない。 「さ、準備しましょう」 お酒、食べ物。準備しなければならないものは沢山だ。 みんな、唐突に現れて唐突に去っていく。 嵐のような集団だった。 無論、嵐なんだから片付けるのも人間だ。 そして、この日僕は初めて片付けと準備の重労働を感じた。 よくも毎回毎回こんな事が出来るな、と半ば感心してしまった。 「お疲れさま」 「あぁ…ありがとう」 お茶を差し出されて、受け取る。 湯気が出るほど熱いお茶だった。 「大変だね。これは」 「分かってくれる?」 「まぁね」 …そこから会話が途切れる。 空に月は浮かび、雲すら出ていない。 見えるのは夜空と、星と満月。 「……」 「……」 息の音が響く。 「…あのさ」 「ん?」 「僕は…霊夢が好きだから」 「…ありがと」 こんな幻想的な雰囲気だから、僕はこういうことが言えたのかもしれない。 「霊夢は――」 「…あなたのこと、嫌いじゃないけどね」 それはイコール、どちらでもないだ。 『む、いけないぞ。○○、押し切らねば』 『霊夢にも春が来たかな…と思ったんだが。これじゃ遅そうだぜ』 『春はとっくに返したでしょう』 『幽々子様、分かってボケているでしょう?』 『いい雰囲気なんですけどねえ…シャッターチャンスがきません…』 「…?」 「どうかした?」 「誰かに見られている気がしただけ…気のせいかしら?」 視線は確かに感じるが、きっと気のせいだろう。 虫とか鳥とか、きっとそのあたりだと思う。 霊夢がすぅーっと息を吸い込む 「…いい?私は博麗の巫女なの…私の子供はこの先、ずっと幻想郷を守らなければならない」 「…だろうね」 「だからこそ、よ」 きっと、強靭な子供が必要となるだろう。だからこそ、貧弱な僕は対象に入らない。 「さ、お話は終わり」 「…それでも、僕は諦め切れない」 僕は…想っている。 「いいんじゃない?」 突然、そんな声が響いた。 「紫!?」 「…どういうことですか?」 現れた妖怪――八雲紫に対して、僕は疑問をぶつける。 本当に、どういうことだろう。 「必要なのは、気持ちでしょう?」 「…あんたが言う台詞じゃないでしょ?」 「あら、これでも人の気持ちくらいは分かりますわ。霊夢の偽りもね」 偽り、その言葉を聞いた途端、霊夢は紫を睨みつけた。 「偽ってないわ」 「恐れているんでしょう?いつか自分が、関係を崩壊させるかもしれないと言う事を」 「恐れてない!」 紫の言葉に霊夢は語気を荒くして、答える。 いや、もう既にそれは叫びだった 「霊夢、僕は…」 「想いが人を強くする…。子供とか、そんなことは関係ないでしょう? 愛しているか、どうか。貴女は…どっち?」 ――霊夢は言葉に詰まる。 「…好きよっ…!好きに決まってるでしょ!」 「なら、よし」 にこりと、不敵な笑みを浮かべて、紫は浮かび上がる。 「ついでに、デバガメをしているのも、暫くスキマ送りにしておくから あとは二人で楽しみなさい」 ふふふ…と怪しい笑い声を浮かべて、境内の裏に向かった。 『ぎぃやぁぁぁぁ!』 そこから、断末魔が聞こえた。 「…ホントにデバガメしてたんだ」 何となく予想はついてたけど。 もしかしたら、僕は最初から彼女に惹かれていたのかもしれない。 「…なに、笑ってるの?」 「いや…一生涯の宝物が…手に入って嬉しいんだ」 僕は、彼女を抱きしめた。 既にお茶は冷たくなっていた。 だけど僕の気持ちは熱く、暖かかった。 後書き ===社会の裏=== 自分の為に長文妄想すると… やっぱり、色々おかしくなるなぁ ===社会の裏ここまで=== この530(仮名)の長文妄想に書ける物などあんまりない! と、まぁ…霊夢ですね。 始めはこんなに変になるなんて思ってなかったんです。 …すいません。お目汚しです。 シリアス文章(?)なんで後書きもあまりネタに走らず… 普通に…終わらせます。 読んでくれた方、ありがとうございました。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 172 1日目 気が付けば私は見知らぬ土地に立っていた。 とりあえず近くにあった鰻屋で1杯やることにした。 隣に座っていた女性がいきなり、 「人の話を聞くことが、あなたに積める善行です。私の話しを聞きなさい!」 と言われて説教が始まった。 5時間ほどで女性は満足して帰っていくが…女性は金を払っていなかった。 歌が下手な店主に2人分の金額を請求されるが当然払えるわけでもなく… 『あっUFOだ!』 と指差し、振り向いてる隙に逃げた。 何が悲しくてこんな事をしなければならないのだろう。 2日目 夜の川原を歩いていたところ、触角をつけた少女を発見する。 →つかう →さとうすい →セルフ わたしはぜんしんにさとうすいをかけ、さけんだ! 『おれのむねにとびこんでこい!』 しょうじょはわたしをいちべつすると、 「キモッ」 とびさっていった。 ざんねん!!わたしはきらわれてしまった!! 冷たい水の中で体を洗いながら私は泣いた。 3日目 風邪を引いてしまった私は永遠亭でお世話になった。 薬師の技術に感心しながら内部を散策する。 『せっかくだからこの赤の襖を選ぶぜ!』 開けないように注意された襖を開ける。 「MVPが取れなかったじゃない、あのBOTの所為で…あら……お客様かしら…」 あまりのプレッシャーに私は襖を閉め、自分の愚かさを呪った。 しかし神は私を見捨てた、襖が開き私を中に引きずり込んだ。 単なるNEETとか、カリスマ不足だとか そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしい恐怖の片鱗を味わったぜ・・・ 4日目 森の中にある謎の店に入る。 すると中に居た男が褌一丁で飛びかかってきたので、 『君がッ 泣くまで 殴るのを止めないッ!』 三日分の思いを男にぶつけた。 しばらくすると落ち着いたらしく話を聞くと、 「久しぶりに客が来て、嬉しくなってやった、正直反省している」 その言葉にカッとなった私は地獄突きをかました。 ここは地獄なのだろうか… 5日目 辿り着いた神社で巫女さんにお茶をご馳走になる。 そんなささやかな事で涙した。 「大丈夫?」 『ちょっと辛いことがあって』 「そう、お替り要る?」 『もらえるとありがたい』 安らぎの時間を過ごした。 賽銭を奮発しておいた。 6日目以降 あれから私は神社にお世話になる事にした。 隣にはいつも彼女がいる。 ただそれだけでいい。 賽銭から始まる恋もあるのかもしれないな…… ─────────────────────────────────────────────────────────── 218 初冬の朝。 突然障子が開かれ、部屋に光が差し込む。 「起きなさい!何時だと思ってるの?」 霊夢だ。心なしか怒っている様にも見える。 「ああ…おはよう、霊夢。」 「おはようじゃないでしょ?今日は朝から境内の落ち葉を掃くって言ってたじゃない。」 そう言えばそんな事言っていたな…。 だが、この布団の心地よさは捨てるのは実に惜しい。 「ああ、そうだった。」 俺は手を差し出す。 「何?」 疑問に満ちた目で俺を見る 「起こして。」 「はぁ…。まったく…。」 霊夢はため息を吐き、俺の手を掴んだ。手の感触が伝わってくる。 俺はそれを…力を込めて引く! 「きゃっ…!」 バランスを崩した霊夢が倒れてくる。 丁度霊夢が俺に覆いかぶさっている形になる。 「な、な、何するのよ!」 霊夢の頬は赤く染まっている。多分、俺の頬も赤い。 「ん、春度補給。」 「もう…そんな事言って…。あっ…。」 俺は霊夢を抱きしめてキスをした。 「ぷはっ…。」 流石に苦しくなり、唇を離す。 「このまま時間が止まればいいのに…。」 「メイドにでも頼んでみるか?」 「バカ…。」 結局、二人で布団から出たのは昼になってしまった。 霊夢とイチャつきたかった。後悔はしていない。 …しかし描写下手だな俺。 テンコー! ──────────────────────────────────────────────────────── 363 「霊夢…」 「ん……」 霊夢の細い身体をしっかりと抱き締め、柔らかな唇を奪う さらりとした黒髪を弄りながら、舌を滑り込ませて吸上げる 「ん~~」 声にならない声を挙げるも、悦に浸ってるのか抵抗の様子は無い 「ぷはっ……」 息が苦しくなりそうなところで、糸を引く唇を離す 「ちょ、ちょっと……新年の挨拶ぐらいできないのあんたって人は」 ぶぅ、と紅い頬を膨らませながらの抗議 「おお? 挨拶なら今しただろ。俺はどうも定型の挨拶が嫌いでな。一年で最も白々しい一瞬と言っていい」 「もう……莫迦…」紅潮しつつ微笑を浮かべる霊夢。嫌がってるようには見えない そう、今は午前零時──新年を迎えた丁度その時である 「それでだな…」 上着のポケットから小さい包みを取り出し、霊夢に差し出す 「これ、受け取ってくれないか。クリスマスの代用って言っちゃ何だけどな」 「え……いいの?」 如何にも期待感満々な笑みを浮かべ、包みを開ける霊夢 「あ……」 淡いピンク色のリボン。霊夢の知己だという古道具店で偶然見つけたものだ 霊夢は物思いに耽るかのようにそっと目を閉じる 「ありがと……大切にするわ」 身体を寄せてくる霊夢を、優しく抱き締める。互いに無言のまま、しばし静かな時が過ぎていく 就寝の準備をすべく布団を敷く 厚手の式布団に、毛布、柔らかい掛布団。これなら寒くは無いだろう 後は等身大の霊夢抱き枕でもあれば、朝をも忘れる夢心地に間違いは無いが、無いものは 仕方あるまい 横になり、毛布に包まった時、静かに襖が開いた。隣部屋の霊夢が顔をのぞかせる 「…ねぇ」少しの沈黙の後、もじもじとした様子で霊夢が切り出す 「ん?」 「……一緒に、寝ていい?」 ドキン、と俺の心臓は早鐘のように鳴り始める 「あ、ああ…構わないとも」 返事をする前から霊夢は一方的に布団に入ってくる 「左腕、横に出して」 霊夢の求めに応じ左手を伸ばすと、霊夢は頭を乗せて枕代わりにする 「腕枕なんて…迷惑かしら?」 「…別にいいさ。おやすみ、霊夢」 「はい、おやすみなさい」 聞こえるのは冷たい風の音と、軽やかな彼女の寝息 冬の静かな夜は、時間まで積もる雪の中に埋没してしまったのだろうか 左腕は肘の先からもう感覚が薄れ、手の部分が完全に冷たくなってしまっているのがわかる 腕が壊死するとはこういうものなのだろうか だが、眠れない原因はそれだけではあるまい 自分の愛した少女が、真横で無防備な寝姿を晒している 霊夢と恋人関係になってからまだ日が浅い。同じ布団で寝るのも今夜が初めてだった なのに、霊夢は── …何とも思っていないのだろうか? …信頼してくれてるのだろうか? ……全てを承諾しているのだろうか 俺の中で、暗い何かが燃えあがる ──我慢できない 霊夢の身体を求め、空いてる右腕を差し出した時 「○○……」微かに聞こえる、自分の名前 その一言ではっと我に返る 寒いのか、霊夢は寝返りをうつと背中を丸めて布団の中に潜り込む 起きてしまった様にも見えたが、またすぐに軽やかな寝息を立てる 自分のことを──夢見てくれている 俺は拘束の解けた左腕を布団に入れる。暖かい毛布と冷たい手で奇妙な感覚を覚える 空が白み、部屋の中が少し明るくなったように感じる 「おやすみ…」小声で、そっと囁いた ──寒い 身を切るような冷たさに思わず目を覚ます 隣にいるはずの霊夢の姿は無い。もう起きているのだろう 懐中時計に目をやる──九時 霊夢は寝坊に煩い。正月から怒鳴らせるのも嫌なので起きる事にする 襖を開けると、部屋には紅の大輪が咲いている──紅白では無く、紅い着物姿の少女がそこにはあった。頭の上には淡いピンクのリボン── 霊夢は俺の姿に気づくと、振り返って膝を正す 「明けましておめでとう御座います」霊夢は手を畳に置き、深々と礼をする。普段からは想像 の付かない可憐でおしとやかな姿に、思わず目を奪われる 「あ、ああ…おめでとう」眠い目を擦りながら、返事を返す 「お雑煮、出来たわよ」はぁ、と霊夢は溜息を付きながら促す 外は昨日から変らず大雪。正月としての風情など何も無い だが暖かい雑煮を食べ、甘酒を口にすると正月らしい気分にはなった だが睡魔には勝てそうも無く、盛んに欠伸が出ては涙目を擦る 「何であんたそんなに眠そうなのよ」 誰のせいだ、とも思った 「霊夢こそ、よく寝てたな…」 「おかげさまで、ね」 「うー……」 満腹になり、酒が入ったせいだろうか。急激に眠気が襲ってきた 「ここで寝たら風邪引くわよ。ちゃんと布団で寝なさい」 「うーん、正月の昼から寝るなんて何か申し訳無いんだよな」 「まぁそうだけど…こんな大雪じゃ誰も来ないわよ」 確かにそうだろう。今日は誰もがこたつむり化してるに間違い無い 「腕……痛かったでしょ」 「あぁ…」 ちゅっ、と唇が触れ合う 「おやすみなさい。今度はいい夢見てね?」 「物足りないな。また添い寝でもしてもらおう」霊夢の腕を引っ張り、寝室に連れ込む 「も、もう……着替えるの時間かかるのに……」 布団の中でお互いに寄り添う。寒さを凌ぎ、互いに確かめ合うように 「さっき、言い忘れちゃったわ」 「ん?」 「今年も…宜しくお願いします。って」顔を赤らめながら微笑を浮かべる 「いや…今年からだ」華奢な身体を壊さぬように抱き締める。 「霊夢……俺……お前が……」 霊夢は一瞬驚愕の表情を見せるが、俯くように小さく頷く 「うん……」 その言葉を聞いた途端、俺は半ば飛び掛るように霊夢の唇を奪う 忘れることの出来ぬ、記念すべき新年が幕を開ける ─────────────────────────────────────────────────────────── 370 霊夢「あけましておめでとう」 ○○「おめでとうございま~す」 ○○「新年を迎え、心機一転の幻想郷」 霊夢「今年もよろしくお願いします」 ○○「さて、年をまたいでなんか書いてみようと頑張ってみる件、正しくはなぜか俺達に代理でしゃべってもらおう企画。後半になりましたが…」 霊夢「何しようかしらね」 ○○「…は?」 霊夢「考えて無いらしいのよ、どうも」 ○○「うちの作者って…」 霊夢「行き当たりばったりよねぇ…」 霊夢「とりあえずSSの感想をば」 ○○「 363氏の霊夢もの~」 霊夢「…(真っ赤)」 ○○「…(真っ赤)」 霊夢「…○○?(もぢもぢ上目遣い)」 ○○「だめ(真っ赤)」 霊夢「…なんで?(涙目)」 ○○「絶対理性がもたないから」 霊夢「うー…(しょんぼり)」 ○○「というか今仕事中だし、ね?」 霊夢「うん…」 ○○「… 363氏、GJ! …しかし、なんだかこっちめちゃくちゃあてられて…。あー、顔が熱いっす(真っ赤)」 霊夢「これからの暮らしのいいお手本として、参考にさせていただきます。あの…ありがとう!(真っ赤)」 ○○「新年早々出勤という事で、ご苦労様です」 霊夢「お仕事頑張ってね!」 霊夢「…後で添い寝、絶対添い寝(耳うち)」 ○○「マジ?…って言うか、マイク音ひろってる、音ひろってる!」 霊夢「え!?え、あっ…あう…(さらに真っ赤)」 ○○「あはははは…(汗)」 霊夢「う~!(コタツもぐりこみ)」 ○○「って、おい、恥ずかしいからってコタツの中なんかに入ってどう…何やってるか中でぇぇぇっ!?(混乱)」 (しばらくお待ちください) 霊夢「…っぷはぁ!(飛び出し)」 ○○「…またこうなるのかよ…(げっそり)」 霊夢「だって私達の場合これが基本だもん(ぬくぬく)」 ○○「…また四十八手がどうとか言われるぞ?」 霊夢「いいの! あったかいから」 ○○「……あ~、何か続行困難になってきました。まことに勝手ながら、この辺でお開きに…」 霊夢「え? 続けないの?」 ○○「ネタも無い上にこの体勢でどうやって?」 霊夢「む~…しょうがないか」 ○○「 365(95)氏もあけましておめでとう! あなたにもいい年でありますように!」 霊夢「まとめ人さんもおめでとう! 今年もよろしく!」 ○○「 368氏、 369氏、そして職人の皆さん、ROMの皆さん」 霊夢「改めて…」 ○○&霊夢「あけましておめでとう! 今年もよろしくお願いします!」 ○○「じゃ、初詣に行くか」 霊夢「すぐそこだけどね(べったり)」 ○○「……」 ○○(何でかな?急に「にわやえ」なんて単語が浮かんだ…) というわけで、今年もよろしくお願いします。 今回の実験・・・・・・・・・・多分失敗 ───────────────────────────────────────────────────────────
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霊夢7 うpろだ82 「あ、雪だ」 ひらひらと空から舞い降りてくる氷の結晶を目に留め、思わずそう溢した。 そして今日はそれほどに気温が低いのだという事を今更ながら気付き、少し身震いをした。 寒い。 「う~、早く終わらせるかな」 雪を見るのは好きだが長時間こんな冷え切った屋外にいるなどという風変わりな趣味は無い。 今の自分に与えられた責務をさっさと終えるべく、僕は暫し止めていた手を再び動かし始めた。 参道に積もった雪を雪掻きで退かす。 また雪が降ってきたからもう一度雪掻きしなきゃいけないよなぁ、と多少欝な気分になるが仕方ない。 粗方雪を除けた事を確認し、足早に神社に戻る。 「うぬぅ、手が、足がぁ……」 すっかり冷え切った体を暖めるべく炬燵のある居間へと向かう。 と、そこには先客がいた。 「あら、もう終わったのかしら」 炬燵の住人は天板に頭を乗せたまま首だけをこちらに向けて話しかけてくる。 傍から見たらだらしないと思われる事だろうが、今ではもう慣れてしまった。 慣れって怖いなぁ、と何となく感慨に耽ってみようとしてやめる。年寄り臭いし。 「大体はね。あぁ、寒い寒い」 返事だけ返しそそくさと炬燵の中に滑り込む。 悴んだ手に熱がじわりと染み込んできた。 「そういえば、また雪が降ってきたよ。早く春にならないかなぁ」 少しでも熱を得ようと手を摩りながら、向かいに座る人物に話しかける。 視線をこちらに向け、あら、そうとだけ返しまた元の位置に戻す。 この一見冷たそうに見える反応も幾度と無く経験してきたものだ。 きっと彼女は誰に対してもこういう風なのだろう。 何度か霊夢が他人と交流するのを見ていてとなんとなく思った。 特に成すべき事も無く、いい歳した二人が炬燵でだれる。 僕たちは基本的にこうして過ごす事が多かった。 無駄に動いて貴重なエネルギーを消費するのももったいない、というのが霊夢の言い分だ。 まぁ、最もではあるが。 「っと、もうこんな時間か」 思い出したように立ち上がる。 そろそろ昼食の時間だから準備をしなくては。 ここの神社は食料が少ないから遣り繰りして献立を考えなければいけない。 「そういえばまだ卵と鶏肉が余ってたから親子丼にしてもいいかなぁ……」 などと主夫じみたことを考えながら台所に向かう、そんないつも通りのお昼前だった。 「あ、そういえば」 僕の作ったホウレン草のお浸しを摘みながら霊夢が思い出したかのように言った。 「何だい?」 「これから霖之助さんの所に荷物を取りに行きたいんだけどね」 「うん」 「昼から"お仕事"があって行けないの」 その聞きなれたようでどこか特別な響きを持つ言葉を、僕は今までに何度か聞いた事がある。 とりあえず霊夢が言わんとすることは分かった。 「ん、じゃあ霖之助さんの所には僕が行っておくよ」 「察しがいいわね」 まあね、とだけ軽く返す。 さて、そうと決まったらなるべく早く昼食を終えなければ。 こういう時は早く行って早く帰ってくる事が望ましい。 夜になってしまったらたまったもんじゃない。 「ごちそうさま」 「はい、お粗末様」 食事を終え食器を洗い終わり、早速外出の準備をする。 今日は寒い。 しっかり厚着をしていかなければ。 「はい、これ」 準備を終えた僕は、霊夢に数枚の護符を渡された。 僕独りで出掛けるのだ。用心するに越したことは無い。 今までこれのお世話になった事は無いが、お世話になる事は無いままであって欲しいものだ。 「ん、ありがと」 「夜になる前には帰ってきなさいよ」 「善処するよ。霊夢も気を付けて」 そして寒そうな格好のまま飛び立つ霊夢を見送る。 気になったので指摘した事はあるが、何故か頑なしてあの服を着ている。 呪いの装備の一種だろうか、などとくだらない事を考えながら僕も歩き始めた。 「こんにちはー」 「いらっしゃい。――あぁ、君か」 そこの店主はカウンター越しの椅子に座りながら本を読んでいた。 僕の方へ挨拶だけするとまた本へ目を落とす。 僕はというと、霊夢から受け取ったメモを見ながら目的の品を探し始めた。 「えーっと、茶葉とお椀と……」 広いとは言いにくい、どちらかといえば狭い店内を物色して回る。 時折僕が興味のあるような品も見つかるが、大抵は電気や動力を必要とするもので此処では活用し難かった。 「ま、不便だと感じたことは無いしいいんだけど」 誰に言うわけでもなく一人零す。 さて探していた物も大方見つかり、それらを鞄にしまい込んだら今度は霖之助さんの元に行く。 「はい、これどうぞ」 「ん、いつもすまないね」 「いえいえ、こちらのほうが気が引けちゃうぐらいですから」 そういって僕が手渡したのは南瓜の煮物や大根の漬物といった料理だった。 霊夢や魔理沙はここの品物を有無を言わさず頂いていくが、僕にはどうも堪え難い。 等価交換とまでは行かないけど少しでも埋め合わせをしようという、まあ僕の良心の表れだ。 「君の作るものはとても僕の口に合う。感謝しているよ」 「光栄ですね」 お金を払ってもいいのだが、此処では商業が発達しているワケでもないっぽいので貨幣の価値はあまり無いのだろうと思ったのだ。 この行動はあくまで自分を納得させるためであり、偽善と言っても差し支えない。 しかしその行いに相手の喜びも伴ってくるなら話は別だ。 幸い霖之助さんも嫌がっている様子は無いのでこうして続けているわけである。 「じゃ、暗くなる前に帰ります」 「そうした方がいい。今後とも御贔屓に」 そうした彼の言葉に少し違和感も感じるが、彼はあくまでやりたいからやっているだけであってそこは僕が口出しするところではない。 会釈だけして香霖堂を出る。 ふと見上げた空にはもう既に猩々緋の色が掛かっていた。 「のんびりはしていられないな」 僕は一言呟くと神社への道を歩き始めた。 「んぅ?」 しまった、誰もいないからといって変な声を上げてしまった。 まあ誰もいないんだからいいかと自己完結し、再び先ほど目に留めたものを見上げる。 見上げるという言葉から分かるようにそれは僕の遥か上空を飛んでいた。 「あれ……霊夢、だよなぁ」 遠目だから自信無さげな言葉になるが、あの紅と白を基調にした服をそう間違えることも無いだろう。 その空飛ぶ不思議な巫女さん(らしき人物)はゆっくりと降下して行き、割と僕から離れていない所に着陸したようだった。 「ふむ……」 どうしようか、と考えてみる。 何をしているのか知りたいという探究心はある。いや、好奇心と言った方が適切か。 だがここは少し道を外れると森と呼んだ方が相応しい程の木が生い茂っていて、確かに危険ではある。 少しの間思索に耽る――振りをする。 一人なのにそんな事しても空しいだけだという事は敢えて考えない。 僕の心は初めから決まっていたようなものだ。 僕は平生から何か気になった事には飛びつかずにいられないタチだった。 こういった時に疑念や警戒が生まれる前に何かしら期待を抱いてしまうのは不注意だと思うが仕方が無いと諦める。 さて思い立ったが吉日、善は急げという言葉もあることだし、さっさと霊夢らしき人物のところへ向かうとする。 そうして僕は何の不安も抱かないまま意気揚々と鬱蒼とした森の中へ進んでいった。 後悔というのは呼んで字の如く、後から悔やむという事だ。 確かに後悔は事後しか出来ないことであり、また後悔先に立たずという教訓の様に役に立たないものである。 だったら後悔なんてしなければいいじゃないかと昔考えた事もあったなあと何となくこの現実からいい感じに逃避したい気分になっていた僕だが やっぱり現実は現実として受け止めなければ。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだって結局のところ何が言いたいかというと。 僕様大ピンチ。 霊夢を探していたつもりが何時の間にか妖怪らしき生物と鉢合わせ。 ていうか、妖怪と遭遇するのは初体験だ。 あちら側はまだ僕に気付いた様子は無い様で、だけど何かには感づいた様で辺りをキョロキョロ見回している。美味くない状況だ。 咄嗟に木の陰に隠れた僕だが、さあこれからが問題だ。 どうしよう。 迂闊に動いても状況が悪化するだけだろう。 ていうか先刻から鼻につくこの血の臭いのようなものは何ですか。 あの生物からのものだろうか。 何だか泣きたくなってきた。 このままアレが立ち去ってくれれば万事オッケィなのだが現実はそうも易しくない。 こんな形で世智辛い世の中を痛感したくなかった。 とまあ、こんな事ばかり考えていても埒が明かない。 よくよく辺りを見回してみると、森はそう遠くないところで途切れているようだった。 距離は目測で100メートルほど。 走れば物音で確実に気付かれるだろうが、あの見た目妖怪と僕は割と距離が開いている。 足に自信があるわけではないが行けない事も無い。 どうしよう。 暑い訳でもないのに頬を汗が伝う。 これが俗に言う冷や汗というやつかー、などと楽観的なことを考える余裕は最早無い。 ここで功を焦って失敗したら笑い話にもならない。 「何もやらないよりはマシか……」 近くにあった手頃な棒切れを拾う。 これを別の投げて音を立てればそれでいくらか錯乱できるだろう、と素人見積もりではあるが考えた。 「……ぃよし」 覚悟を決める。 こうなってしまった以上僕が考えられる策は他に無い、これが最善だ。 二、三度深呼吸を繰り返して、歯を食い縛り押し寄せる恐怖を捻じ伏せる。 ポケットの中の護符を握り締め心を落ち着け…… 「――ふっ!」 決して大きな音は立てない様、最小限の動きで出来るだけ遠くに棒切れを投げる。 そして隙が出来た直後に、森と平地の境界まで全力で駆け抜ける。 駆け抜ける……はずだった。 「――――な、ぁっ?」 今自分はどんなに絶望に満ちた表情をしているのだろう。 それは全てが予想外、いや計算不足。 棒切れを投げるべく妖怪の方向を向いた僕が見たのは、 ――目前で豪腕を正に振り上げんとする、その異形の姿。 気付かれていた、その事に気付かなかった。気付けなかった。 もう遅い。 全てを諦める暇さえ与えられないまま、目の前の絶望は腕を振り下ろしてきた。 だがここでおかしな事が起こる。 吹き飛んだのは僕ではなく、眼前の妖怪だった。 「……」 今度は声すら出ない。 二度も連続する予想外の事態に、僕はただ呆然とするしかなかった。 と、そこで第三者の声が掛かる。 「無事かしら」 はっ、と我に帰った僕が目に留めたのは―― ――正に僕が探していた、博麗霊夢その人だった。 「霊夢……」 探していた人がやっと見つかっても素直に喜べない僕だった。 述懐させてもらうと、先ず彼女の見た目が酷く平素の彼女とかけ離れていたという事だ。 「何?」 そう事も無げに話す彼女の巫女装束には、至る所――とまではいかないが、概ねの場所に唐紅の色が染み付いていた。 霊夢のその風体は僕に充分すぎるほどの畏怖の念を抱かせた。 ――と、またここで事態は急変する。 「が、があああああああッ!」 此の世のものとは思えない様な声――いや声と呼ぶのかどうかすら怪しい―が耳を劈く。 その音の発生源が、狂瀾怒濤の気合と共に霊夢に飛び掛った。 対する霊夢は妖怪を一瞥し、何やら針を構える。 「おおおおおおおおおっ!」 僕が危ない、という声を上げる間も無く、妖怪はその腕を霊夢に叩きつける。 轟音が発生し、巻き込まれた木は粉々に吹き飛んだ。 だが、妖怪が腕を上げても其処に霊夢はいない。 「あれ……?」 傍観者の僕でさえ分からなかった。 次の瞬間、霊夢は妖怪の後ろに現れ―― 「――パスウェイジョンニードル」 言葉と共に無数の針を妖怪の背に縫いつけた。 「ーーーーーーーーッ!」 上がる血潮。 早や意味も持たない奇声を発しながら、妖怪は闇雲に腕を振り回す。 だがそんな攻撃が相手に届くわけも無く、霊夢は再び構え、宣言する。 「――収束、エクスターミネーション」 再度僕が妖怪の方に目を向けた時、そこには既に蛋白質の塊しかなかった。 「大丈夫?」 事の後、霊夢は僕に話しかけてくる。 「あ、うん……」 何とかそう返す僕は、恐怖からだろうか、自然と目を背ける。 あの瞳は……ダメだ、見ていられない。 何でも良いから感情があるのなら、まだその方が百倍マシだった。 それは、何も感情の色を灯していない眼。 目の前の光景に対して、先の妖怪に対して、そして……僕に対して。 瞬時、悪寒が背中へ齧りついた様な錯覚を覚える。 それと共に震え出す体躯に、霊夢は気付いていたのだろうか。 「それでいいの」 突如場が凍り付く様な、絶対零度の響きを持った声が発せられる。 「今回の一件であなたなら理解した筈」 何を、なんて野暮なことは聞かない。 「何があってこんな所に来たのかは知らないけど、二度目は無いと思いなさい」 軽い好奇心からこんな事態になってしまった自分の愚行を悔やむ。 命を落とす危険性は十二分にあったというのに…… 「――帰るわよ。神社はすぐ其処だから」 対面して初めて分かった恐怖から、未だ僕は体を動かす事は出来なかった。 せめて何か言おうと霊夢の方に顔だけ向けた時。 「――――あれ」 この場に全く似つかわしくない、そんな声を上げてしまう様なものを、僕は見た。 それは何と形容したら良いのか分からない。 哀思、苦悶、果てには憂惧といった様な雑多な負の感情が入り混じった表情が、振り返り際の霊夢の顔に浮かんでいた そして直後、僕の頭に一つの仮説が浮かぶ。 あくまで仮説だ。きっと間違っている可能性の方が高い。 だけど。だけど僕はそれを切り捨てられなかった。 信じていたかったというのもあるかもしれない。 でも、彼女は。霊夢はひょっとして―――― 思考は一瞬。僕は即座に体に喝を入れる。 動け、動くんだ! そして表情だ、作り笑いでもいい。 ――なんとかして、彼女を安心させなくては。 「いやーぁ、驚いたなあ」 頭を掻きながら霊夢のほうに向き直る。 声はいつも通りに出す事が出来た。 ちゃんと笑えているかどうかが心配だ。 そしてゆっくり歩み寄る。 幸い、霊夢はまだ動き出していなかった。 「えっ……」 一瞬。ほんの一瞬だけ霊夢は酷く驚いたような表情を浮かべ、また元に戻す。 「や、それにしても助かったよ。ありがと」 危ないところだったからね、と付け加える。 霊夢はどこか落ち着かない様子で「どう、いたし、まして……」とだけ返した。 「それじゃあ帰ろうか」 何時の間にか僕の方が先導を握っていた。 霊夢は返事はせずに頷いて、腕で自分の体を抱きながら寒そうについて来た。 あれで大丈夫なのかと危惧していたが、やはり寒いものは寒いらしい。 と、そこで僕は思いついた。 「霊夢、これ」 はい、と自分の着ていたコートを差し出す。 「それじゃ見てるほうまで寒くなるからね」 僕の対応にちょっとだけ困惑した表情を浮かべた霊夢であった。 が、やがてコートを受け取り、少しだけ紅潮した顔をそそくさとコートに埋める。 「……ありがと」 「どういたしまして」 その後の感謝の言葉は聞き逃してしまいそうなほど小さいものであった。 しかし、それでも僕を喜ばせるには充分過ぎた。 二人で並んで神社までの道のりを歩く。 こうして肩を並べることは初めてではなかったが、その距離がいつもより近く感じられたのは僕の錯覚だろうか。 兎も角、これで推測は確証に一歩だけ近づいた。 霊夢は――本当は自分のことを怖がってほしくないんじゃないだろうか。 僕はそんな彼女に大いに興味を持った。 それは少なくとも趣味や仕事に対して向けるようなものではない。 折角なら、ありのままの霊夢でいて欲しいなぁ。 そんな事を考えながら、いつもとは少し違って感じる帰り道を二人して歩いていったのであった。 その後部屋に戻った僕が先の事を思い出し、震えていたなどという情けない話はここだけの秘密だ。 ──────────────────────────────────────────────── 6スレ目 363 冬ですね。なんか外ではざっくりと雪が降ってます。寒いです。 俺が元居た場所も豪雪地帯だけど、この降り方は豪雪っていうレベルじゃねぇぞ! 幻想郷に来て、神社に居候させてもらって大分経つ。と言っても人間的に大分なだけかな。やっと一年くらい。 そんなこんなで霊夢にお世話になり、ここで暮らしている訳なのだが・・・。 こんな寒い時期だと言うのに、彼女はどうやら妖怪退治。寒さに強い妖怪が、冬に乗じて里に襲撃をかけたとか。 妖怪退治と防寒対策、両方しなくちゃならないのが博麗の巫女の辛い所だな。 と言ってもいつも露出気味の肩には防寒対策の欠片も施されていないようだが。アイデンティティだとか言ってたよ。 コタツに入ってぬくぬくしていると、唐突に縁側の襖が開き、ビュウと吹き込む風と共に霊夢が現われた。 うぅわあからさまに寒そう。顔なんか蒼白になっちゃってるよ。どっかで見たCMの犬みたいにプルプルしてるよ。 「・・・さ、寒い」 蚊の鳴くような声ってこう言う声なんだろうな、と思った。 「・・・結界張ってなかったのか?」 「けけけ結界あっても、寒、しゃ、寒いもんは寒いのよ・・・・・・」 大分呂律が回ってないんだぜ? ふと思うといつの間にか霊夢は炬燵に潜り込んでいた。炬燵の天板に顎を乗っけて、水にふやけたスポンジみたいな顔している・・・。 「・・・あったきゃ~い・・・」 「あー・・・お疲れ様」 「うー」 何と言うか、膝の上で寝てる猫を連想させるような表情だ。ああ何て言うか撫でたい愛でたい。 「よし」 「?」 顔だけ傾けて疑問の表情を浮かべる霊夢の背後に座ると、俺は霊夢を後ろから抱きしめる。 「ちょっ、なにすっ・・・」 「うひゃー冷や冷や。どっかの氷精に負けず劣らずだな」 「・・・ぇぅあー。あたかい」 初めは驚いていたものの、霊夢はすぐさっきのふやけた顔に戻った。頭撫で撫で。 「・・・頭撫でんなぁ」 「いいじゃん、可愛いから撫でてるの」 「・・・うー」 小さく恥ずかしそうに唸る彼女の肩は声と一緒で小さくて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうで、愛おしかった。 「・・・もうちょっと強く」 「え?」 「な、なんでもないっ」 きっと赤面しているのであろう霊夢に、俺はかすかに微笑んだ。 聴こえないふりをして、俺はほんの少しだけ、抱きしめる腕にかける力を強くしたのだった。 ────────────────────────────────────────────────
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霊夢38 Megalith 2012/06/19 消費税増税の話で持ち切りの世論では、他の欠乏に目が行くとは○○には思えなかった。 彼はくだらない情報番組を映すTVを消して、ベッドの上にごろんと寝ころんだ。天井のドーム型の蛍光灯は未点灯で、日当たりが悪いためか、部屋は結構に暗い。 網戸からは、子供たちの嬉々とした喚声が部屋の中まで響いた。おそらく、すぐ近くの寺で遊んでいるのだろう。○○は、やんちゃをしていた幼少の砌を思いだし、エアコンをつけないで過ごすのも、中々具合が良いものだと思った。 程なくすると、○○は蝉の声に気が付いた。そこにあることがあまり当然過ぎて、まったく気に入っていなかったのだ。それはあまりに蝉に申し訳ない。少しばかりの人生を削って、鳴いているのである。それに耳を傾けないのは、どうにも趣がない。 そう思い、さて、何をする訳でもなく耳を傾けていると、○○は微睡に落ちた。ベッドの上で眠ってしまったのだ。 そして、目を覚ましたのはポストに何かが落とされた時であった。 彼は重たい体を起き上がらせ、扉の内側にある郵便受けから、落とされたのであろう一枚の手紙を手に取った。ついでに、寝汗でしっとりとした肌がどうにも気持ちわるかったので、彼は小さなタンスから、一枚のタオルを取り出した。 「あつっ……」 汗が伝う首元や蒸れた脇を拭き、濡れたタオルをベッドに投げる。そして、彼は無意識に、背の低いテーブルからエアコンのリモコンを取って、冷房をきかせた。エアコンは音を上げて、動きだし、冷風を吐き出し始めた。 彼は紺色のクッションに腰を下ろして、先ほど取ってきた突然の手紙をテーブルの上にひとまず置く。 それは真っ白な封筒である。中には一枚の紙が入っているようだ。 彼は「ストーカーか?」と疑りながら封筒を開き、紙を取り出す。 三つ折りだ。黒い文字がびっしりと並んでいることが裏からでも分かった。 「…………、」 開く。 そこには綺麗な字で何行にも渡って、文字が並んでいた。 ○○は恐怖心を覚えたが、心してそれを読むことを決めた。 ○○さんへ。 お久しぶりです、○○さん。 あの日みたいに元気にしてますか? もし元気があったのなら、私は嬉しい限りです。 いや、そもそも○○の元気がない姿なんて私には想像できませんから、私はずっと嬉しいのかもしれませんね。 それはそうと、そちらでの生活は上手くいってますか? 私の方は大変ですよ。男手が減ると結構いろんなことがきついです。 まき割とか、お風呂掃除とか、洗濯物とか。とにかくいろんなことがいっぱいになりました。昔に戻ってしまいましたね。 そういえば、○○さんって料理も掃除もなんでもできましたよね。 実は私、嫉妬してたんですよ、○○さんのこと。ずっと一人でやってきた私を軽くあしらうなんて少し許せなかったんです。でも、謝りません。 だって、○○さんが何でもできるのが悪いんであって、私は悪くないんですから。 彼は胸が酷く詰まり、読むことを止めた。 色あせつつあるあの日が浮かび上がるが、それを彼は頭を振って、消した。 夢路に乗るために、自分はあの場所から旅立った、戻ったのだ。どんな結果であろうが殊勝に受け止めなければならないはずである。そうしないと、良心の呵責が彼自身を許さない。 ○○は大きく息を吐いて、読むことを再開する。 そうだ。魔理沙と□□が結婚することになったんですよ。 たった付き合ってから1ヶ月で結婚ですよ? あの奥手な魔理沙が結婚なんて夢にも思いませんでした。 でも、もう私たちは二十歳だし、結婚してもおかしくない歳だから、本当はそんなに驚く必要はないんですけどね。 あと、紫が外来人に負けました。妖怪の賢者って呼ばれてるくせにこてんぱんにされて、泣きべそかいてましたよ。○○さんに見せてあげたかったです。 新聞でも一面を飾っていたので、一緒に渡してあげたかったんですけど、紫が全部回収してしまったので、渡せませんでした。でも、その外来人と紫は今は仲良くやってますよ。 相手は友人としてだと思いますけど。 それと、アリスが子供を産みました。 その前にアリスは△△と結婚して、夫婦になったことを知りませんよね。○○さんがそちらに戻ったのが、三年前ですから、その後すぐに結婚したですよ。魔理沙がわんわん泣いて、すごかったんですよ。 私も泣きそうになりましたけど。 それで、アリスの子供はアリスにそっくりですごく可愛いですよ。最近、私の名前を憶えて、呼んでくれます。お菓子とか買ってあげたくなりますよ。まぁ、お金はありませんけどね。 子供たちの声が消えて、蝉時雨が彼の部屋に降る。 夏の熱気がやけに冷めているように○○には思えた。 それで私の近状です。 私はお見合いをすることになりました。 相手は良家の息子です。性格も見た目も申し分ありませんが、私はあまり嬉しくありません。お見合いを提案した紫が言うには、短命だから早く子供を作って欲しいということです。 私には人権はないのかと訴えたんですが、聞き耳を持ちません。 困った賢者です。やっぱり恋する乙女は盲目なんですね。 とにかくお見合いをすることが決まったんです。 そういえば、こうやって恋愛関係のお話をすることは、◎◎さんの一件以来ですね。 あの時は、結局フラれてしまいましたけど、あの時、○○さんは私のことを抱きしめてくれましたよね。 あの時、すごく嬉しかったんですよ。 味方が居てくれるって思って、とっても嬉しかったんです。 だから、感謝したくてこの手紙を書きました。 手紙は不自然にそこで終わっていた。 いや、終わった訳ではない。残り数行に文字の書いた跡が残っているのだ。 ならば、その数行に書いてあった文字を差出人は消したということである。 ○○は封筒の裏を見る。 そこには何も書いておらず、真っ白であった。 ――――卒爾に彼は立ち上がり、エアコンも窓もそのままにして、部屋を飛び出す。 扉を開くと、彼の視界に嘘みたいな青空が広がった。 「アイツ……」 彼は外付けの階段を駆け下り、アパート前のきつい上り坂になっている道へ出る。見回すが人はいない。 さらに彼は、体力が続く限り、街並みの影が垂れる道々を必死に駆け、そして、彼は長い上り坂の頂上でその足を止めることになった。体力が尽きたのであった。 「…はぁ、はぁ、はぁ」 大きく波打つ胸。無限にしたたるかと思える汗。荒い呼吸。酸素が脳まで回っていないのか、感覚がぼんやりとして、妙に頭が重かった。 彼は息を落ち着かせて、汗でしとどになった額を手の甲で拭き、頭をもたげた。 ……そこには見覚えのある夏の青空があった。 まるで海のような青で、まるで海のように広い。 そして、そこに浮かぶうず高い入道雲は、彼女が夢見た大きな旅客船のようであった。 おそらく、あの船は大きな汽笛と水飛沫をあげながら、こちらに向かってくるだろう。 その時に自分は何ができるのだろうか? 「…………」 彼女のすむ場所には海はない。 彼女は海を知らない。 だが、この空にある海はどこまでも繋がっているのだ。 ……大空の潮風はゆるやかに吹き渡り、木立はそよいだ。 ――――○○さん 突然、彼女の声が聞こえた気がして、彼は振り返った。 味方が居てくれるって思って、とっても嬉しかったんです。 だから、感謝したくてこの手紙を書きました。 だけど、私はダメです。 感謝したら終わってしまう気がしまうんです。 だから、ここに誓います。 博麗霊夢はずっと○○さんが好きです。 この後はあえて書きません。 皆さんが各々想像してみてください。 うpろだ0043 今日は晴れではなかった。 かといって、雨が降っている訳でもない。 分厚い雲に覆われた今日の空模様は、曇りだった。 春が過ぎて初夏に差し掛かろうというこの頃、それは同時に梅雨の季節でもある。 唐突に雨が降ることも珍しくはないし、明日は雨どころか数分後には雨ということもありうる話だ。 だから、この時期はあまり外に出る機会が少ない。 ただ気温が上がるだけならばまだマシだが、さらに湿度が上がることで蒸し暑さというものが生まれる。 いつもの渇いた暑さとは違う、体に纏わりつくかのようなあの暑さは、いつになっても慣れない。 それもあって、更に外に出ることを面倒くさがって出ることがなくなっていく。 自然と、家で一日を過ごすことはそうも珍しくもないのだ。 「暇ね」 「そうだね」 それと全く同じこと、同じ行動をとるのは俺に限った話ではない。 世界に俺一人しかいないのならば話は別だが、そうではないのだ。 同じ場所に住み、暮らしていればお互いに同じになることだってある。 テーブルの向かい側でだらけている巫女も、外に出ようとは思わない。 ………この時期に限らず、という後付けは俺の心の中に留めておこう。 「…………暇ね」 「…………そうだね」 同じ言葉を繰り返す霊夢に、俺も同じ言葉を返す。 だからどうしたというのか、他人の思考を読み取る能力もない俺に何を期待しているのか。 単に返してほしかっただけなのか、それは分からない。 少し色褪せた紙の上に書かれた活字の世界が、今の俺が見えるものだ。 寝転がって本を読んでいる今、霊夢がどんな顔をしているのかはよく見えない。 額面通りの言葉を受け取ったところで、何を考えているのかを知るにはあまりに足りなすぎた。 何もかもが真横になった世界で霊夢を見ようと遮る本を避けると、何かを漁る姿が見える。 ………一体何をしているのだろうかと思いつつ見ていれば、綿毛のついた一つの棒を取り出してこちらに歩み寄ってきた。 「ん」 俺の目の前で正座した次の行動は、自らの膝を叩いてのアピールだった。 数回同じことをした後に霊夢の顔を見れば、こちらをじっと見つめてきている。 霊夢が何を言いたいのか、何をしたいのかは、わざわざ悩んでまで考えることでもなかった。 「…………っと」 じゃあそれに従いますか、ということで立ちあがって霊夢のもとへと向かう。 数歩で届いたその場所にたどり着いて、もう一度寝転がる。 頭を霊夢の太ももへと乗せて、滑らない位置に固定する。 先ほどまで開いていた本は、とうの昔に閉じていた。 「あんたも飽きないわね、そんなに面白いの?」 「少なくとも何もしないよりは、遥かに面白いよ」 「………ふぅん」 返ってきた言葉はそれだけで、霊夢はそれ以上会話を繋げようとしなかった。 これから話しながら作業するわけにもいかないということなのか、あるいは単純に興味がないだけか。 そんなことを気にしてもいいのだが、今だけしか味わえないこの枕を堪能した方が有益だった。 そして、俺が霊夢の膝枕に夢中になっていると、霊夢は俺の耳を触り始めた。 "今からするわよ"というその開始の合図に、俺は少し身構える。 「力入れないで、やりにくいのよ」 「ごめん、どうも他人にやられるのは慣れてなくてね」 この年になって、そんなことを他人任せにやるなんてのは限られた条件をクリアしなくてはならない。 今までは自分でやる多数派だった、しかし最近になってやってもらう少数派に回った。 急激な変化についていけないでいる、というのが実情であり戸惑っている。 "中々慣れないな"と言葉を漏らした時に、"ずっと続けば、いつか慣れるんじゃない?"と霊夢はそう返してきた。 そうならば、いずれ当たり前のようになる日が来るんだろうとは思う。 が、しかしそれがいつになるのかは、全くもって想像もつかないけれど。 「じゃあ始めるわよ、手元が狂っても怒らないでね」 「霊夢なら大丈夫でしょ」 耳の穴の中に、ゆっくりと棒が侵入していく。 普段から何か入れているわけでもないので、内心あまり気分は良くない。 こんな状態でリラックスしろと言われても、逆に緊張するというのが本音ではある。 ただ、何度も繰り返したのが功を奏したのか、霊夢は注文してくることはなかった。 これも慣れがそうさせたのかな、と一人そんなことを思う。 何度も棒の出し入れを繰り返されるうちに、徐々に耳の通りが良くなってきている気がする。 自分では見ることが出来ないので、一体どれだけ積もりに積もった垢があるのかは知らない。 普段あまり手入れをすることもないから、見たらかなり酷いことになっているのだろう。 …………霊夢が一番最初に俺の耳の中を見た第一声は、"こんなので本当に聞こえてるの?"だった。 あれから綺麗にする機会は以前よりも増えているが、それでも霊夢曰く"まだまだ"だとか。 一体、俺の耳の穴はどうなっているのか。 一度見てみたいが、やっぱり見たくないような、そんな曖昧な気分だ。 「………相変わらず凄いわねぇ、どうしたらこうなるのかしら?」 「体質によって変わるみたいだよ、俺は多い方だったってこと」 「実に掃除の甲斐がある耳の穴ね」 「悪いね」 「いいのよ、私が好きでやってることだから」 肩を叩かれて、次は片方の耳だと無言でそう返ってきた。 寝返りを打てばいいだけだが、霊夢がやりにくそうに渋い顔をするからやらない。 わざわざ立ちあがって、逆側に霊夢の太ももへと頭を寝かせた。 「今更なんだけどさ、重くないの?」 「重いわよ」 「………よくやる気になるね」 「言ったでしょ?好きでやってるのよ」 なんでもないことだと、さらりと言ってのける霊夢。 顔は見えないけど、多分いつも通りの顔しているんだろうなと容易に想像がついた。 実に霊夢らしいというか、そういうところは全く変わり映えしないなぁと思う。 でも決して嫌いじゃない、むしろ俺にとっては好ましいことだった。 時に歯に着せない物言いは傷つけることもあるけど、裏表のないストレートな言葉は分かりやすくて有難い。 喜怒哀楽がはっきりしているからこそ、嬉しい時は嬉しいと言ってくれるから。 変に穿った見方をしなくてもいいし、ねじ曲がった解釈も必要ない。 そんなことで神経をすり減らすこともない、本心を出してもいいと思ったから。 …………………だからだろうな、とそう納得する。 「最初は紫に言われてやってみたけど、今は良かったと思ってるわ」 「でも本当は、入れ知恵だって気が付いてたんじゃないの?」 「………いいじゃない、やってみたかったのよ」 「………………そうか、じゃあ仕方ないね」 入れ知恵だとしても、騙されていると分かっていてもやりたいという気持ちを抑えきれなかったようだ。 憧れとか、希望とか夢とか、そういうものを抱いていたのだろうか。 もしそうだとしたならば、断ることなく受け入れたことは正解だったということになる。 後になっての答え合わせにマルを貰えたことには、間違えなくて良かったと振り返る。 そして霊夢に助言した紫さん、ありがとうございました。 今はいない彼女に向かって、心の中でそう呟く。 「……………………」 眼が動くギリギリまで眼球を動かしてみれば、視界の隅で頬を赤くする霊夢がいた。 その反応を見て、本当にやりたかったんだなということを再確認する。 恥じらいもあったんだろうけど、更にそれを上回るくらいだったということ。 そう、それだけのこと。 「………終わったら、人里にでも行ってみる?」 「甘いものでも食べたり、何か買い物でもしたりしてさ」 霊夢に提案を持ちかける。 あんなにも外に出る気が全くしなかったのに、今はもうそんなことはない。 いや逆にどこかに行きたくなった、何かしたくなった。 せずにはいられなくなった、それは唐突に。 同じだ、膝枕をしたくなった霊夢と同じだ。 「………うん」 「もう終わるから、準備して行きましょう」 了解の合図を受け取って、これから向かう場所へと思いを馳せる。 何をしようかなとか、何があるかなとか。 霊夢は笑ってくれるかなって、そんな姿を想像した。 霊夢と居候01(うpろだ0060) 年の瀬。一年か終わる日になっていた。 博麗神社も、珍しく忙しそうにしている。 ただ、忙しくしているのは、今年はただ霊夢だけではなかった。 ざっと音がして、神社の裏手に空からの来客があった。境内に降りなかったのは、屋台の資材が用意してあって危なかったからだった。 「よう、霊夢。珍しいな、こんなに神社が忙しそうなのは」 「魔理沙は暇そうね。手伝ってく?」 「謹んで遠慮しておくぜ」 降りてきた少女――霧雨魔理沙はそう言って、縁側に座っている博麗霊夢の隣に腰掛けた。そして、霊夢が眺めていた方に視線を向ける。 青年が一人、掃除をしていた。里からの手伝いとか、そういうものではない。今現在、博麗神社に居候している外から来た者だった。 神職の付ける装束を着て仕事をしている姿は、それなりに様になっていた。青年も魔理沙が着ていたことには気が付いていたようで、ぺこり、と頭を下げる。 そして、また青年は掃除の続きを始めた。他にも、神社の境内には新年を迎える用意がしてある。 「馴染んでるな、あいつ」 「そうね、便利よ。いろいろやってくれるし」 「正月の用意くらい自分でやれよ」 「さっきまではやってたの。後はやるからって言われたからね」 霊夢はそう言って、手元の茶を飲んだ。そして魔理沙も気がつく。部屋の中にいれば寒くないのに、わざわざ境内の見えるところで霊夢は茶を飲んでいるのだ。 「魔理沙も飲む?」 「ん、もらう。あいつの分はいいのか」 「終わったら入れてくるわ。冷めるもの」 魔理沙は野暮なことを――本人はそう思ったことを突っ込みはしなかった。そっか、とだけ言って、ずずと茶を啜るだけにとどめた。 霊夢は特に何も言わず境内を眺めている。相変わらず何を考えているのかよくわからない。何かミスでもしたときに指摘するつもりなのかも知れない。 しばらくそうしていた後、霊夢が席を立った。魔理沙は問おうとして、青年が掃除用具をまとめて片付けようとしていることに気が付く。 新しい茶を入れにいったのだろう、と推測して、青年が来るのを待つ。 「こん、にちは」 やってきた青年は、そう魔理沙に礼をした。よう、とだけ魔理沙は返した。そのやりとりの間に、霊夢が帰ってくる。 「お、待たせ、した」 青年は訥々とした様子で、霊夢に向かってそう口にした。少し吃るところがあり、口数は多くない。 「お疲れさま。お茶飲む?」 「いただき、ます」 「ちょっと熱いけど」 「さ、むかった、から、大丈夫」 霊夢の手から湯飲みを受け取り、青年も縁側に座った。ふう、と湯飲みの中身に息を吹きかける。 その様子に、ぱちぱちと目を瞬かせているのは魔理沙だった。その様子を不思議に思って、青年は首を傾げる。 どうしたのか、と聞いているのだと察した魔理沙は、ああいや、と少しだけ言葉を濁した後に応じた。 「……お前、結構喋るんだな」 こく、と青年は頷いた。ず、と茶を一口啜って、口を開く。開いた後に、少し躊躇いがちに言葉が出てきた。 彼は別に躊躇っているわけではなく、一音目が出難いのだった。 生まれつきにそういったものがあり、詰まった後でもするっと次の言葉が出てくれれば詰まらないのだが、再度詰まると本当に言葉が出なくなる。 障害、とまではいかないが、そういう体質なのだ、とは一度聞いた。だから、魔理沙もそんなに喋らないものだと思っていたのだ。 「……話し、たくないわけじゃ、なくて。言葉出すの苦手で」 「ああ、うん、わかった。大体わかった。無理するな」 こくりと頷いて、青年は茶をまた啜り、のんびりとした表情でほうと息をついた。 喋らないからと言って怖いと言うこともなく、こうしているとどこにでもいるような人物にしか見えない。 極端に言葉を出したがらない以外は、感情表現も豊かであるし、笑いも悲しみもする。気配りもするしきちんと働きもする。つまりは普通の人間であった。 「別にコミュニケーションとれないわけじゃないもの」 「うん、普通にどうやって意志疎通してるのか不思議だったけど、納得した」 魔理沙は頷いて、ほとんど冷めてしまった湯飲みの中に追加の分を注いだ。 青年がここに来て、まだ三ヶ月ほどであった。雪に道がほとんど閉ざされるまでは、ちょっとした手伝いや森近霖之助のところにも行っていたらしい。 ただそれでも、幻想郷に慣れるにはまだ時間が短すぎる。しばらく神社に住んでいるから、だいぶわかってきてはいるが、ここは少しばかり里とは違う。 まあ、心配してもどうしようもないことだ。否応なしに慣れねばならないものである。魔理沙はそう思って茶を啜る。 それからしばらく他愛もない話をした後、魔理沙は湯飲みを盆の上に置いた。 「じゃ、また後で来るぜ」 「はいはい」 「また、後ほど」 ひらりと手を振って、魔理沙は箒に乗ると空に駆け上がっていった。それを見送るように、青年はしばらくその後を見上げていた。 「どうしたの?」 「あ、いえ」 霊夢の問いに、彼は少しばかり照れたような顔をした。 「いつ、見ても、空を飛ぶのはいいなと」 「……そんなにいいものかしら」 首を傾げる霊夢に、青年はただうんうんと頷いただけだった。 もう少しで日が沈む、という時刻になって、神社に来客があった。社殿前を片付けていた青年が境内の方に出る。 上白沢慧音だった。彼も何度か会ったことがあったから、その姿は覚えていた。慧音は青年に気が付くと、軽く挨拶をしてくる。 「やあ、こんにちは」 「い、らっしゃい、ませ」 「……ああ、話せるのか」 慧音がやや驚いたような声を上げた。青年は少し考えて、そういえば言葉を直に交わすのは初めてだったと思い出す。 だから、軽く頷いて、苦笑気味に告げた。 「一、応。あまり、得意ではないです」 「うん、話せないと思ってたから、本当に指示を受けるだけのところの仕事を探したんだが……」 「いえ、助かります」 青年は大きく礼をした。話すのは苦手で、接客など以ての外だった。人付き合いは好きなのだが、それとこれとは別であった。友人として接するのと、商売として接するのは次元が全く違う。 ふと、友人なども慣れた相手になると、話す前に大体の予測を付けてくれるようになっていたことを思い出していた。不思議なものだが、そういう慣れというのも人間にはあるらしい。 もはやそんな相手も、外の世界には残っていないが。 「とりあえず、春先からの働き口はあったから、そこに優先的に入れるようにはしたよ」 「あ、りがとう、ございます」 訥とした口調で、彼は礼を言った。それに慧音が何か返す前に、奥から霊夢が出てきた。 「あれ、どうしたの、慧音」 「ああ、彼の仕事の話をしに。後でまたこちらにも顔を出すけれど」 霊夢は頷いて、彼の方をちらりと見た。彼はただ頷いた。そういうことだと言っていた。 「一旦また戻るの?」 「うん、年の瀬なのだけど、まだ少し」 「師走とはよく言ったものね」 「違いない。年を越してしまうかもしれないから先に。よいお年を」 「ええ、よいお年を」 「よい、お年を」 青年も最後だけ会話に加わった。テンポのよい会話には入り難い。ただ、聞く専門でいるのも嫌いではなかったから、その性格だけは救いであった。 慧音は軽く手を上げて、夕闇の迫る空へ浮かび上がっていった。青年と霊夢は並んでそれを見送った。 慧音を見送った後、居間に移って青年と霊夢は向かい合って茶を飲んでいた。 もうじき忙しくなるから、その前に一服しているのだった。しばらく無言で茶を飲んでいたが、不意に霊夢が口を開いた。 「春になったら、あんたはどうするの」 「働き、ます」 「そうじゃなくて」 霊夢は首を振った。青年にはいくつか選択肢がある。外の世界に帰ること。幻想郷に留まって里で暮らすこと。そして他にも。 そのうち、外の世界という線は、実は消えていた。 幻想の境を越えてしまったとき――紫に神隠しをされたわけでなく、偶発的な事故によってこちらに零れ落ちたとき、彼は向こうの時間軸と大きくずれてしまっていた。 帰っても、彼を知る者はなく、彼が帰る場所もない。 それを知ったときは流石にショックだったらしく、普段から話さない彼がさらに無口になって沈み込んでしまった。密かに泣いていたのかも知れない。 霊夢は慰めなかった。下手な慰めは逆効果なのを、本能に近い部分で知っていた。 だから淡々と日常の仕事を――幾分か軽めなものを――振った。彼も応じた。ただ働く方が楽なのだった。 結局、否応なしに彼は幻想郷で生きることになった。里には下りられなかった。 秋の終わり頃に起こった不意の大風でいくつか家屋が倒れており、外から来た新参者の住居に割く労力がなかった。 途方に暮れた彼に対し、状況が整うまでという話で霊夢は神社への居候を許した。そもそも最初からこのときに至るまでも居候していたから、別段変な話ではなかった。 春になるまでにはどうにかなるだろう、という里からの話にも、霊夢は「そう」と返しただけだった。そのときに彼の仕事についての斡旋の連絡も受けた。 それらについて彼は何を思ったのかは知れない。彼はそのことについて何も言わなかったし、今も言わない。 もっともその話のときに彼はそこに居らず、戻ってきた彼に霊夢が慧音との話を説明したのだった。そのとき彼は慧音に丁寧に礼をしただけだった。 ただ声が咄嗟に出なかったらしいが、それを見て慧音は彼が話せないものと勘違いしたらしい。それが幸いになったとも言える。 「春になったら、里に下りるのかって話」 「ああ」 彼はため息のような声を出した。少しだけ目を伏せて、だが何も言わなかった。言葉に迷っているのか、言わずにいたいのか、どうにも判然とはしなかった。 霊夢は促さなかった。それはただ彼自身が決めることであって、霊夢が何かを言うべきことではなかった。 それをわかっているのかいないのか、彼はぽつりと呟いた。 「霊夢、さんは」 どう思うのか。その言葉の先を悟った霊夢は、首を横に振った。 「あんたの好きにすればいいわ。私が決めることじゃないもの」 こくりと彼は頷いた。決断は自分ですべきものであった。誰にも出来ないことだった。 彼はなにも言わなかった。だから霊夢も何も言わなかった。無言のまま、しばらく二人は茶を啜っていた。 不意に来客の気配がした。どちらにとって奇貨になっていたのかはわからない。青年が先に視線を逸らして時計を確かめた。 もうそろそろ、屋台なども準備をする時間だ。魔理沙も戻ってきたのかもしれない。 「人、かな」 「どうかしら。人でない奴らも来るからね」 青年は笑って、準備の手伝いをすると言いおいて部屋を出た。霊夢も立ち上がった。 部屋を出て社殿の方に出てみれば、賑やかになってきている境内が見えた。 屋台もちらほらと出始めている。このまま、年明けまで騒ぎ明かすのだろう。 青年も手伝いに入っていた。屋台同士の間の確認や、資材を見て行っている。何か手伝えることはがあれば手伝ってくるのだろう。 それを見ながら、霊夢は息を吐いた。白い息が、少しの間だけ闇を漂って消えていった。 雪は深い。まだ春は遠い。 遠く除夜の鐘が聞こえてきた。命蓮寺の鐘だろうか。 一年が終わる。それはまた次の一年を生きるということ。 覚悟も達観も諦観もなくても、この世界で生きていかねばならない。 それは何ともまた残酷なものであり、幻想郷はそれら全てを受け入れるのだった。 今はただ、それだけだった。 霊夢と居候02(うpろだ0021,旧うpろだ0060続き) 冬の只中。あらゆるものが白く染まる季節だが、それでも生きていかねばならない。 青年は額の汗を拭いながら、雪かきを続けていた。 神社ではない。里での日雇いの仕事だった。今年はとかく雪が多いとかで、こうした日雇いの仕事も度々あるのであった。 神社に何もせず世話になっているのも気が引けるので、こうして日銭の稼ぎに出ていたりはする。 後少しというところで、休憩が告げられた。この分ならば日が落ちる前には神社に帰れそうだった。 休憩所で茶をもらい、それを啜っているといきなり背後から声をかけられた。 「よう」 「あ」 知り合いの姿に、青年は一言二言声を詰まらせた後、曖昧な笑みを浮かべて一礼した。 本当は飛び上がりそうな程驚いたのだが、どうにも鈍い所為でそういう反応になる。 かわりに、吃音の癖のあるためか、言葉は全く出てこなかった。 「ああ、無理はしなくていいぜ。驚かせたか」 「う、ん。大丈、夫。魔理沙、何か」 辛うじてそれだけを口にする。何か用があって話しかけたのか、と聞きたかったが、その後の言葉が出てこなかったのだった。 「別に用って程じゃなかったんだが、見かけたんでな。里にいるのは珍しいな」 「春まで、でも、日雇いくらいは」 「律儀な奴だなあ」 青年は、再び曖昧な表情で応じた。霊夢のところに居候していて、神社のことも手伝ってもいるが、さすがにそればかりというわけにはいかない。 春からは里に仕事を用意してもらっているが、だからといってそれまで無為徒食というわけにもいかないからだった。 魔理沙はそれに気が付いたのかどうか、話の方向を変えた。 「雪かき、危なくないのか」 「組作ってる、し。俺は、雪を運ぶのもやってる、から」 「ああ」 雪を捨てる場所までは当然のことながら距離がある。幾つか組を作ってのことだから作業は早いが、雪を運ぶ頻度もそれに応じて上がるだろう。 「大変だな」 「神社でも、やってるから。運動不足には、ならずにすむ」 今度はきちんと笑って、ずず、と茶を飲み干す。休憩が終わる号令が響いてきた。 「すまん、休憩の邪魔したか」 「いや、大丈夫。気分転換に、なった。後少しだし」 「じゃ、私はこれから神社に行くから、霊夢にそう遅くならないって伝えておく」 「ありがとう」 別にいい、というような仕草と共に、魔理沙は寒空に上っていく。 見送った後、青年は近くにおいてあったスコップを手にした。言ったからには、早めに終わらせたいところだった。 「というわけで、仕事してた」 「そう」 親友の報告に、霊夢は気のない声で応えた。ずず、と何を考えているかわからない顔で茶を啜っている。 魔理沙としても予想外の反応というわけではなかったので、炬燵に手足を突っ込んで温まることにした。 「あいつ働き者だなあ」 「そうね。単に居候してるだけなら追い出してるかも知れないけど」 「霊夢本当にやりそうだからなあ」 魔理沙はそう言いながら、茶が入った湯のみを炬燵から出した両手で包んだ。会話している間に霊夢が入れてくれていた。 その後一つ二つどうでもいい話をしていると、夕日の明かりが障子を叩いた。 「遅いな。割と早く上がるって言ってたんだが」 「雪道だからね。でももうそろそろじゃないかしら」 霊夢は茶のおかわりを自分の湯飲みに入れた。魔理沙も図々しく湯飲みを差し出す。差し出しながら、首を一つ傾げた。 「晩飯はどうするんだ?」 「帰ってから作るけど?」 「ああ、そうじゃなくて」 魔理沙が意外そうに言ったのを見て、霊夢が逆に不思議そうな表情をする。 「何か変? 帰ってからじゃないと冷めるでしょ」 「いやまあ、そうだが」 魔理沙が意外なのは霊夢がそこまでの気遣いをしてやっていることなのだが、直接口には出さない。 丁度そのとき、戸をノックする音がした。青年が帰ってきたのだというのは魔理沙にもすぐわかった。 霊夢は立ち上がると部屋を出ていった。出迎えるのは珍しくない。彼がとにかく喋らないため、実際に顔を合わせないと会話がしにくいのだ。 魔理沙は炬燵で手足を温めながら、部屋が寒くならないように丁寧に閉められた障子を通して聞こえてくる声に耳を傾けた。 「材料? もらったって? じゃあ、鍋にしましょ。あ、魔理沙も来てるから大丈夫」 霊夢の声だけが聞こえてくる。どうやら、今日の報酬には何か食料も含まれていたらしい。二人分の足音が近付いて、途中で止まった。 「ああ、湯に先に入ってきて。こっちは鍋の用意してるから」 「……本当に仲良いよなあ」 呆れたような魔理沙の声は小さくて、当の本人達の耳には届かなかった。 台所で魔理沙が食事の用意をしていると、針妙丸が姿を現した。 「こんばんは」 「よう」 「霊夢に誘われたから出てきたよ」 魔理沙は曖昧に頷いて、針妙丸に出汁の具合を見るように小さな器に分けて渡した。 「あ、おいし。いいんじゃない?」 「それじゃこんなものか」 満足そうに頷く魔理沙を見ながら器を置いて、針妙丸はきょろと周りを見回しながら尋ねる。 「霊夢は? 向こうにもいなかったけど」 「あいつを呼びに行ったよ」 「そっか」 針妙丸は相槌を打って、少しどこか呆れ気味のため息をつく。魔理沙はそれを見逃さなかった。 「どうなんだ、あいつら」 いろいろな意味を込めた言葉を口にしながら、鍋が冷めないように蓋をする。後はこれを運ぶだけで良い。 「仲良いよ。端から見てると焦れったいくらい」 「やっぱりそうか」 鍋の具合を見ながら、魔理沙はうんうんと頷く。 「あいつ、春になったら里で働くって言うが、ここから出て行くのかな」 その問いに、針妙丸はわからないというように首を傾げた。 「さあ、出て行くつもりなのか、そうでないのか」 「何か言ってないのか」 「霊夢は何も言わないし、あの人も何も言わないし」 「そっか」 魔理沙は曖昧に頷いた。特にそれ以上は突っ込まない。 霊夢とは長い付き合いだが、浮いた話は特になかった。だからこそ逆に突いてやるべきなのかもしれないが。 「あら、いいわね、お鍋って」 「うお、いきなり出てくるな」 空間が歪む嫌な音と共に、八雲紫が顔を出した。本来冬眠中のはずの彼女が出てきたことに、魔理沙は訝しむ。 「何だ、冬眠はやめたのか?」 「たまには起きることもありますわ。中休みみたいなものよ」 「そんなものか」 魔理沙は適当に受け流した。どうせきちんと理由を聞こうとしても答えないだろうことはわかっていた。 紫は曖昧な笑みのままその態度を受け入れて、ふと思い出したといった様子で尋ねる。 「霊夢は?」 「ここの居候を呼びに行ってるよ。ああ、でも遅いな」 実際はそれほど時間は経っていない。待っている時間は本人達が思っているよりも長く感じるものだった。 「見てきましょうか?」 「それで野暮になるのも、なあ」 魔理沙は曖昧な返しをした。実際にはその可能性は低いと思っていた。どうにも、もどかしい距離感なのだ。 「では、待つとしましょうか」 くすり、と紫は怪しげな笑みを浮かべて、良いお酒でも持ってきましょうか、と隙間の中に入っていった。 「もう出来るわよ。ご飯」 「あ、あ。ごめん、すぐに」 青年の部屋を訪ねて、霊夢はそう彼に告げた。薄い明かりだが、作業する分に支障はない。 外から月明かりが入ってきているのもある。雪に反射して、ほんのりと明るい。互いの表情を見るのに支障はない程度には明るかった。 「片付け?」 「服を、かたしてただけ、だから」 青年の言葉に嘘はなかった。洗濯するにも、冬は時期を見計らわないといけない。 「次の晴れには一気に洗濯かしら」 「うん、手伝、う」 「よろしくね」 そのときにはまたいろいろと冬の間の作業もしなければならないだろう。 雪かきもそうだが、また買い出しにもいかねばならない。まだ当分はそうした生活が続くはずだ。 冬が過ぎたら、もう少し過ごしやすくなるのだが。そうなったら。 どちらが先にその思いに至っていたのかはわからない。何も言わない。霊夢も彼も。どうするかさえも。 先に口を開いたのは霊夢だった。けれどもその内容は簡単なもので。 「さ、行きましょう」 「は、い」 応えて、青年は霊夢の方に身体を向けた。向けた瞬間、ぐらりとバランスを崩した。 畳の上には何もなかったはずなのに、何かに足を取られたような転び方だった。 そのまま倒れ込み――倒れ込むときに、霊夢を巻き込んでしまう。 「っ……!?」 青年も霊夢もかわせなかった。畳の上にそのまま倒れ込む。 柔らかい感触が手のひらに触れる。 捕まえてしまった腕は細かった。 触れてしまった身体が温かいのは、きっと暖かい部屋で温まっていたから。 視線が近い。いつも静かなその瞳が、僅かに驚いたように見えて―― そう思った瞬間、天地が逆転した。 投げられたのだと気が付いたのは、したたかに背中を壁に打ち付けた後だった。 上下ひっくり返ったままずり落ちる。重力に引かれるままに情けなく畳に転がった。 「……ごめん、つい」 「い、いや、こちらも悪、かっ」 言葉に詰まりながら、慌てて身体を起こして謝罪する。霊夢は何事もなかったかのように立ち上がって、ぱんぱんと手をはたいた。 「お鍋、そろそろ出来てるはずだから」 障子に手をかけて、霊夢はちらりとだけ振り返った。 「先に、行ってるわ」 「は、い」 こくりと頷き、青年は身を正して起きあがった。 起きあがった後、自分の手をしばらく見つめ、そして一つ小さく息を吐いた。 長くもない廊下を歩いている途中、霊夢は立ち止まって呟いた。小さいが、はっきりとした声で。 「紫でしょ、さっきの」 「あら、余計なお世話でした?」 空間の歪む音とともに、紫が隙間から上半身を出してくる。 「余計なお世話とかそう言うのではなくて。何故あの人に」 「あら、ちょっとした悪戯ですわ。妖怪はそうした悪戯をするものでしょう?」 「誤魔化さないで」 「誤魔化してないわ。悪戯を仕掛けたのは、何も彼に対してだけではないもの」 その言葉を聞いて、霊夢は静かに紫を見やった。瞳の光は鋭く射抜くかのようだったが。それに対して紫はあら怖いと言っただけだった。 「何が狙い? もう彼は幻想郷の住人よ。獲物にするには当たらないはずだけど」 「ええ、そうですわね。彼は我々の食事にはなりません。彼自身が危険なことをしない限りは」 「ならばどうして」 霊夢の言葉は静かに詰め寄るかのようだった。感情が含まれていない分、その言葉には凄みがあった。 紫はくすりと笑って、それがまるで稚気の現れだと言わんばかりに核心に触れてみせた。 「触れることも避けていたようだったから、少しお手伝いしたつもりだったのですけど」 「この場で退治されたいようね」 「あら、怖い。でも、嫌ではなかったのでしょう?」 「ゆか――――」 言い掛けた言葉と放たれた札は、虚空を貫いて行ってしまった。 紫が去った空間を睨みつけて、霊夢はそっと自分の身体を抱くように両腕を自分の肩に回した。 一つ大きくため息をついて、そして何事もなかったかのように歩みを進め、居間に戻る。 「おう、霊夢遅かったな。あいつは?」 「すぐ来るわ」 魔理沙の言葉にそう告げて、炬燵の中に足を入れる。炬燵の中は暖かかった。 卓の上にはすでに鍋が用意されている。 「ん。あ、紫がさっき来て酒持ってきて――というか今出してきたんだけどさ」 「そうそ、隙間の中から」 針妙丸が、小さな彼女用の器に酒を入れてもらっている。 霊夢は紫をちらりと見た。紫は涼しげな表情のまま、霊夢にも酒を勧める。 「あら、そんな顔しなくても霊夢の分もありますわ」 霊夢はそうじゃない、と言いたげであったが、特に何も言わずに自分の分のぐい呑みを差し出した。 間もなくして、遅くなりましたと辿々しく告げて青年が入ってきた。 「すまんな、先に食べてた」 「いや、遅れたのは、こっちだから」 言いながら、青年も炬燵の中に足を入れる。ほうと一つほっとしたようなため息をついた。 そうぬくぬくし始めてた青年の前に、霊夢は鍋の中身を適当によそって置いてやる。まだ十分に量はあるにはあったが、そうしたかったのだった。 「あ、りがとう、ございます」 「何だ、甲斐甲斐しいな、霊夢」 「ほっとくとあんたが全部食べるでしょうが」 軽口に軽口で返して、霊夢は自分の分もよそった。いただきます、と手を合わせた彼に、今度は紫から声がかけられる。 「貴方も如何?」 「あ、え、あ、いた、だきます」 酒を勧められて、青年は遠慮がちにぐい呑みを差し出す。とくとくと注がれたそれを手に一つ礼をして、口を付ける。 どうもこの青年は紫が苦手なのか、それとも慣れていないのか、妙に萎縮する。 当人曰く、他の妖怪よりも何だか怖い、くらいの感じ方らしいが。 「それにしても、寝てなくていいの、紫」 「たまに起きもしますわ。また寝ますけれど」 「ずっと寝てればいいのに」 相変わらずの言葉を告げた霊夢に、まあまあと適当な返しをしながら、紫は酒のおかわりを注いでくる。 「誤魔化されないから」 「あら、誤魔化されてくれてもいいのに」 霊夢と紫の応答に、青年は素直に首を傾げていた。こうした会話に、彼が口を挟むことはない。 不思議そうな顔をしていたものの、また鍋を食べ始める。空腹だったのか、すぐに空になってしまったそれを、今度は自分でよそっていた。 「また降り始めたな」 不意に魔理沙が呟いた。こもった空気を入れ換えるために障子を少しばかり開けていたのだった。 いつの間にか、雲が月を隠していた。静かに雪が降り始めている。 「あー、また冷えそうだねえ」 「あったかい、布、追加しようか」 針妙丸に向かって、青年が首を傾げた。 彼女が部屋にしているところも寒くなりすぎないように霊夢が配慮してやってはいるが、それでも寒いことはある。 「あ、それは助かるかなあ」 「うん、霊夢さん」 「いいわよ。押入かどこかに余ってたはずだからそこから持って行って」 じゃあ、後で取り出す、と青年は応じて、手元のぐい呑みをくいと傾けた。 「私の分の布団も頼む。どのみちこれでは足止めだからな」 「最初から泊まるつもりだったでしょう」 霊夢は呆れたように首を振った。まあなと魔理沙は笑う。 青年はその二人を見比べて、何度か口を開閉させた後ただ頷いた。そちらもそうする、という意思表示だった。 「次は春かしらね、私は」 紫は何気なくそう言って、彼のぐい呑みにもう一つ注いだ。青年は一礼してまたそれを口に運ぶ。 「貴方も里で働くのでしょう? ああ、安心して。余程自分から命を捨てようとしない限り大丈夫よ」 「感謝、します」 「礼は必要ないわ。それが決まりですもの。そして、春になったらどうするの?」 紫の問いに、興味深げな視線を向けたのは針妙丸と魔理沙だった。霊夢はちらとも見ずに酒を飲んでいる。 青年は口を開閉させて、けれども言葉がすっと出てこなかったのか、ぺこりと一つ頭を下げた。 「勘弁してほしい、というところかしら」 紫の言葉に、青年は何度も頷いた。仕方ないわね、というようにため息をついて、紫は態度を崩した。 「酔わせたらもう少しいろいろ聞けるかと思ったんだけど」 「そんな理由で酔わせるな」 「まあまあ霊夢、意外に面白いかもしれないぞ。ほら、もっと飲め」 魔理沙に薦められて、青年は困ったように霊夢に助けを求める視線を向けた。 「……後で、布団の用意を自分ですることになっても知らないわよ、魔理沙」 「…………この時期にごろ寝は怖いな」 魔理沙が薦めを緩めて、青年はほっと息を吐く。 「あり、がとう」 「どういたしまして」 霊夢は素っ気なくそう答えて、開いている障子の向こう側の景色に視線を移した。 外はまだ雪が深々と降り続いていた。 何もかもを埋めてしまうかのように、静かに降り続いていた。 うpろだ0045 「ふぁ~ぁ~」 縁側に寝そべりながら外の風景を眺める。 庭に植えられている桜も散り、新緑が芽生える初夏。 昼寝するには持ってこいの気候だ。 「このまま寝ちまおうかなあ……ふぁ」 溢れ出る欠伸を抑える事もせず、全身を弛緩させ、怠惰を貪る。 休日というのはこうでなくちゃな。 「食べた後すぐ寝っ転がると牛になるわよ」 居間の方から声が聞こえる。 首だけ振り向くと、お盆を手にした霊夢が呆れを抑えきれない表情でこちらへと向かって歩いていた。 霊夢と俺は夫婦という関係にある。 数年前、外の世界から幻想郷へ迷い込んだ俺は紆余曲折あって霊夢と結婚する事になった。 結婚後、俺は博麗神社へと住み込み、霊夢と生活を共にしている。 「はいお茶。飲むでしょ?」 急須を傾けてお茶をお椀へと注ぐ。 断りを入れながらも既にお茶を注いでいるのは、朝食後の一服が俺達の生活に組み込まれている為か。 こういった細かい所に、結婚生活の喜びを感じ、思わず頬が緩みそうになる。 「ありがと。頂きます」 「はい」 夫婦二人、肩を並べて縁側でお茶を啜る。 庭の風景を眺め、風が木々を揺らす音を聞きながら、静かな時間が流れる。 時折思いついたように、お互いが話したい事を話し、相手が頷いて。 話が終わるとまた静寂が訪れる。 言葉を交わさずとも満たされた気持ちになれるというのは、数年前の俺からしたら考えられない事だろう。 急須の中身が空になる頃、俺の隣に正座していた霊夢がおもむろに足を崩す。 所謂女の子座りというヤツだ。 霊夢は傍にあるお盆に載せてあった木箱を取り出す。 霊夢がこちらへ向き、自身の膝を両手でぽんぽんと叩く。 「今日もするんでしょ?」 「……おねがいします」 これも、俺達の生活習慣の一つなのだろう。 互いの仕事が休みの日、俺は霊夢に耳掃除をしてもらっている。 いつから始まったかは正確に覚えていないが、切欠は今でも覚えている。 結婚前、博麗神社に遊びにきていた俺は、居間にあった耳かき棒を借りて耳掃除をしていた。 幻想郷に耳かき文化がある事を知らなかった俺は、長い間耳掃除をさぼっていた。 たまたま見つけた耳かき棒を借りて、セルフ耳かきを行っていたが、 長期間放置していた為か、耳垢が外耳にこびり付き、上手く取れずにいた。 そこに霊夢が現れ、耳掃除をしてくれる事になった。 頭を振り回しながら耳かきしている俺を見て不安に思ったようだ。 その後、博麗神社に遊びに行ったら霊夢に耳をかいて貰うという事が恒例となり、 結婚後も続いている、という訳だ。 ちなみに、いつもして貰って悪いという事で、俺が霊夢の耳掃除をしてあげたいと提案したら鼻で笑われた。 急須の乗ったお盆を端へ避け、霊夢の太腿へ寝転がる。 霊夢の身体に対し、頭を垂直に向けて太腿へと乗せている為、逆さではあるが霊夢の顔を真正面から見る事になる。 幻想郷にきたばかりの頃は少女らしい、幼い顔つきをしていた彼女であったが、 今では女性らしい落ち着きを湛えた表情を見せる。 「何ボサッとしてんの? 右耳、向いて?」 「……おう」 見とれていた、なんてとてもではないが口には出せない。向こう一ヶ月はからかわれる事になるのが目に見えている。 思わず勢い良く顔を左側に向けてしまう。恥ずかしがっているのが丸分かりだが、仕方がない。 そんな事を気にした様子もなく、先程取り出した木箱の中から、竹製の耳かき棒、ちり紙を取り出す。 「じゃあ、始めるわよ。まずは外側からね」 ちり紙を使い、耳の外側部分を擦る。 「あんたお風呂の時耳洗ってないでしょ? 垢溜まってるわよ」 しょうがないわねー、と言いながらも、窪みの部分まで丁寧に擦り上げ、綺麗にしてくれる。 普段はだらけている印象が強いが、本気を出した彼女の仕事は誰よりも丁寧で繊細だ。 ただ、その本気が特定の分野のみでしか発揮しない事が何よりも問題である。 まあ、数少ない分野の内に耳掃除が含まれている事はありがたい所ではあるが。 そうこうしている内に外側の掃除が終わった様だ。 残りカスを細い指を使って優しく払ってくれる。 「じゃあ、耳かき棒入れるわよ。痛かったらちゃんと言いなさいよ?」 幻想郷における耳かきは、現代日本のそれと余り変わりはない。 先端は匙の様になっており、反対側には梵天もついている。 匙の部分が耳の穴の入口に触れる。 すーーーっ 表面をなぞる様に棒が走らされる。 入口付近の浅い部分を、円を描くようにかきあげる さりさりっ…すすーー 時折細かい耳垢を巻き込みながら、徐々に奥へ奥へと進入していく。 「どう? 痛くない?」 繊細な作業をしている所為か、声のトーンを落として囁く様に霊夢が尋ねてくる。 耳元を吐息が撫ぜて、こそばゆさに身が震えそうになる。 「……うん。大丈夫」 そんな様子を悟られたくなかったので、平静を装う様に反応してしまう。 「そう。じゃあ続けるね」 耳の穴の中に生える産毛を撫でながら、奥へと進んでいく。 つつーー…かりっ、かりっ 時折、薄く張り付いた耳垢を見つけては、匙を器用に使って剥がしていく。 「おっ、綺麗に取れたわね~」 一旦耳かき棒を取り出し、取れた獲物を掌に載せる。 「見たい?」 「遠慮しとくわ……」 「あっそう。中々良い作品なんだけど」 大人っぽい表情を見せるようになっても、こういう所はまだまだ子供っぽい。 まあ、そこもまた可愛い訳なんだが…… 取り出した耳垢をちり紙の上に乗せ、耳かきを再開する。 「ここ、溜まってるわね。そろそろ本気をだそうかしら」 再び耳の中に進入した匙が、皮膚に触れる かさっ…かりっ…かりかり 霊夢の言葉通り、本格的に耳垢をかき始めた様だ。 匙の動きに合わせ、耳の中から頭全体へと細かな振動が伝わってくる。 「……んっ」 心地の良さに、思わず声を漏らしてしまう。 「今の気持ち良かった?」 俺の反応に気を良くしたのか、霊夢が訊ねてくる。 「……おぅ」 声を漏らしてしまった恥ずかしさと、耳かきの気持ち良さで、つい反応がおろそかになってしまう。 「そう」 満足気な声。横を向いているので顔は見えないが、さぞ良い笑顔をしている事だろう。 かさ…かりっ、ぺりっ… 「んぁあ!?」 一際強い衝撃が脳髄に叩き込まれる。 どうやら大きな塊を一気に引き剥がしたらしい。 一瞬の痛みの後、途方もない快感が耳の中に広がる。 「大丈夫!? 痛かったの?」 霊夢が心配そうに声を掛けてくれる。 「大丈夫。 いきなりだったからびっくりしただけだよ」 強い刺激を脳に直接放り込まれ、声を抑える事ができなかった。 「続けても平気?」 「むしろお願いしたいかな……」 あの気持ち良さをまた体験したいが為、改めて霊夢に耳を差し出す。 ぐっ…ぐぐっ… ある程度耳垢を取り終えた所で、霊夢はかき方を変えてくる。 今度は耳の中をマッサージするように、壁に圧力を掛けながらスライドさせる。 ぐぐっ、かさかり…ぐぐー 耳内に少量残っている粉状の耳垢を、匙を使って器用に払い、また押し付ける様にマッサージを行う。 耳の中には無数のツボがあるという話を聞いた事があるが、あながち嘘ではないかも知れない。 「どう? ここ、気持ち良いでしょ?」 霊夢が耳の奥の壁に匙を押し付ける。 背筋を通って全身に快楽が広がっていく。 「うん……」 耳垢を取る時のような、鋭い刺激を伴う気持ち良さとは違う、 優しさを孕んだ、全身に染み渡るような気持ち良さ。 じわじわと快楽に侵食され、意識が落ちてくる。 眠くなってきた…… 「でしょ? あんた、いつもここ押すと気持ち良さそうに反応するのよね」 どうやら弱点を握られている様だ。 まあ、膝枕されて耳に棒を突っ込まれている時点で、生殺与奪の権利は彼女にあるのだが。 「……? どうしたの? 眠いの?」 「……うん」 彼女が何を言っているのかは理解できるが、自身の反応が鈍くなってきている。 「ちょっと、今日買出し行くんでしょ? お酒、今日の分ないわよ?」 「うん……」 段々自分がどう反応しているのか分からなくなる。彼女が何を言っているのかも聞こえなくなってきた。 「まっ……しょう……わね。あん……わたしが……」 「……くー」 彼女が散々文句を言っている所で、俺は意識を手放した。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「まーた寝ちゃったか」 片方を掃除し終えた所で、もう彼の意識は無かった。 耳かきをしてあげるといつもこうだ。 片耳を終えた頃には、大体寝てしまっている。 「よいしょ……っと」 横に向いたまま眠っている彼の顔を正面に向ける。 安らかな寝顔。子供みたい。 「よしよし」 くしゃり、と頭を撫でてやる。少し癖のある髪が、私の手に絡んで、解けていく。 髪、伸びてきたわね。次の休みに切ってやらないと。 「……んー」 頭を太腿に擦り付けられる。 彼の癖だ。枕の上でやっている所は見た事がないから、どうやら私の膝枕限定の様だ。 普段そのようには見えないが、性根は甘えたがりなんだろうか。 「……かわいいなあ」 ぐうたらで、お酒に目がなくて。 でも、私の事、大事にしてくれて。 そんな彼が、愛おしくて堪らない。 彼の頭を撫ぜながら、寝顔を見る。 結婚前から続けている習慣の一つだが、未だ飽きそうにない。 時間が許すなら、一日中だって見続けても良い。 まあ、その前に私の膝が限界を迎えるだろうけど…… 彼が寝付いてから結構な時間が経った。 私はまだ彼の頭を膝に乗せ、寝顔を見たり、頬を突っついたり、と幸せな時間を過ごしていた。 しかし、ここで一つの問題を思い出す。 「どうしよう。買い物行かないと今日分のお酒がないわ……」 それどころか、明日から食べる物もない。 今日は絶対に買出しに行かないとまずいんだけど…… 「……くかー」 起こせない。 こんな幸せそうな顔して眠っている旦那を、私は起こす事ができなかった。 何より、そんな旦那の顔をまだ見ていたいから、起こそうという気がまったく湧いてこない。 「こりゃあ、買い物は昼過ぎかなー」 今日も私は彼が自然に目を覚ますのを待つ。 「何で起こしてくれなかったのさ」 眠そうな眼を擦りながら、彼が私に問う。 「私も寝ちゃってたのよ。大体、あんたが寝るのが悪いんでしょう?」 「そうなんだけどさ……気持ち良過ぎてつい、なあ……」 段々声が尻すぼみになっていく。 このやり取りも、いつも同じ。 私達の大切な習慣だった。 私達はこれからも、数多くの習慣を積み重ねて、日々を生きていく。 夫婦の関係というものは、こうやって少しずつ形作って行くものなのだろう。 「さあ、急ぐわよ。あんたの好きな銘柄、売り切れるわよ?」 霊夢と居候03(うpろだ0056) 「お世話になりました」 ぺこ、と博麗神社の居間で頭を下げたのは少名針妙丸だった。 聞かされた二人の人間は、目を瞬かせて互いに視線を送る。 「出てくの?」 人間の片方、博麗霊夢が首を傾げる。針妙丸は頷いた。 「今すぐってわけじゃないけど。逆さ城もあのままにしておくわけにはいかないから」 私が管理しないとね、と言いながら、針妙丸は小さな椀の茶を空にした。 「お、かわり、いる?」 訥々とした語りの青年――針妙丸と同じく、この神社に居候している男が、そう急須を手にした。 やや吃音の気はあるものの、それ以外は普通の人間だ。 神社に居候しているがために、幻想郷に変な馴染み方をしてしまっているところはあるが。 「あ、いる。ありがと」 素直に頷いた針妙丸の椀に、新しい茶が注がれる。それを見ながら、ああ、と霊夢が頷いた。 「この前紫と話してたあれこれ?」 「そうそ。そろそろ小槌の魔力も回収できるし、ってね」 また茶を啜りながら、針妙丸はこくりと頷いた。彼女の手元には、打出の小槌がある。 一騒動を起こしたそれも、もう何事かを起こす様子はなさそうであった。 霊夢は何度か頷いて、非常に彼女らしい了解の言葉を告げた。 「まあ、勝手にしなさいな。それでも春まではいるんでしょ?」 「うん、ちょっと雪が緩んできてからの方が有り難いから、それからでいい?」 「いいわよ」 霊夢はこともなげに承諾した。そういう人物だとわかっている。 「じゃ、もう少しだけだけど、よろしくお願いします」 ぺこ、と針妙丸は頭を下げた。 その後、霊夢が茶の追加を入れにいったところで、針妙丸が青年に尋ねた。 「ねえ、貴方はどうするの?」 その問いに、青年は一つ首を傾げる。 「霊夢は今みたいに、『勝手にすればいい』としか言わないと思うけど。春になったらさ」 言わんとするところを察したのか、彼はこくりと頷いた。 「……そ、うとは、言われてる、から」 「うん」 口を開閉しながら言葉を出そうとするのを、針妙丸は急かさずに待った。急かすと逆に言葉が出てこないことを知っているからだった。 「……か、ってに、しようと、思ってる」 「……霊夢も霊夢なら貴方も貴方だね。はっきりさせた方がいいと思うけど」 呆れたような、けれども逃げを許さないような口調で、針妙丸は告げた。 「そ、うだね」 青年は、その厳しい言葉に笑みを浮かべた。ずるいことをしている自覚はあった。 針妙丸はそれを洞察したようだった。大仰にため息をつく。 「自覚があるならさらに性質が悪いね」 「う、ん。ずるい、ってのは、わかってる」 「人間っていうのは、こうもずるいのかな」 「……にん、げん、っていうより、俺が、だと思う、よ」 余計性質が悪い、と針妙丸は首を振った。けれども彼女はきちんと釘は差したし、差された方もそれを理解していた。 その、数日後のことであった。玄関先で声がするのが耳に入って、青年はそちらに足を向けた。 「ああ、いいところに」 「ど、うも」 上白沢慧音が、玄関で霊夢と会話していた。立ち話も、とは思ったが、霊夢が軽く首を横に振った。様子に気が付いた慧音が笑う。 「すぐに戻らねばならないから。今日は少しましだが、明日はまた雪が降りそうだから準備をしておかないと。ここは大丈夫か、霊夢?」 「おかげさまで。しばらく閉じこめられても大丈夫なようにはしてるわよ」 霊夢は苦笑気味に肩を竦めた。慧音からすれば、霊夢という存在は博麗の巫女であると同時に、里から離れて生きている少女でもあるのだろう。 妹紅が過保護だって言うのもわかるわ、と冗談混じりに応じて、霊夢は本題を促した。 「ああ、貴方のことなのだが、里の家の割り当てがそろそろ始まるんだ」 青年は頷いた。春になれば、本格的に彼も里での仕事が始まる。この世界に生きていくしかないと決めた以上、働かねば生きていけない。 幸い、働き口はもう決まっている。何度かもう顔合わせもしていたし、業務内容の確認もしていた。まだ始まるまではわからないが、第一印象は悪くなかった。 「それで、その、貴方の希望も聞いておこうと思って。すぐでなくてもいいが、数日中に連絡をくれると有り難い」 「わ、かり、ました」 やや歯切れの悪い慧音の言葉に、青年はそう応じて頭を下げた。 「うん、ああ、お願いするよ。霊夢、そういうことだから」 「ええ」 霊夢は表情のない声で応じた。慧音は少しばかり気がかりそうな表情をした後、ではまた、と挨拶をして帰って行った。 後には二人だけが残された。僅かな沈黙の後、先に口を開いたのは青年の方だった。 「……霊夢、さん」 「…………いつも言ってるでしょ。それに、わかってたことだし」 好きにすればいい、という言外の言葉を、霊夢は口にしなかった。青年も問い返さなかった。 だが、もうはぐらかす時間は終わりを告げ始めているのだと、それだけは確実だった。 その日の風呂上がり、寝衣代わりの甚平の上に書生羽織を羽織った姿で、青年は家の中を歩いていた。 人を探していた。部屋の中にいるかと思ったが、そこにはいなかった。針妙丸に聞いても知らなかった。 眠そうにしていたのを邪魔したのを謝罪した後、また探している。部屋にいないとなれば、後は。 「……さ、むい、のに」 小さい呟きが、我知らず漏れた。白い息が零れて消える。 ようやく見つけた姿は、凍えそうな程寒い縁側で悠然と湯飲みを傾けていた。 近寄りがたい雰囲気すら持っている少女に、青年は口元を一つ引き締めて近付いた。 「ひ、える、よ」 「少し上せたから」 「なお、さら」 青年は、やはり寝衣の上に半纏だけを着込んで座っている霊夢を見て眉をしかめた。 「お茶をもう一杯だけ。それでいいでしょ」 何を言っても聞かないだろうことを察して、青年は盆を挟んだ反対側に腰を下ろす。 話さねばならないことがあった。それで探していたのだが、見つければこんな寒いところにいたというわけだ。 早く部屋の中に戻って欲しいが、何か思うところがあるのだろうか。 湯飲みは二つ用意されていた。一つは霊夢が使っている。もう一つを勝手に使うことにして、急須から茶を注いだ。茶は少し温くなっていた。 しばらく、ただ茶を啜った。何から話し出せばいいか、青年は考えていた。言いたいことはたくさんあるのに、だからこそ言葉がなかなか出てこなかった。 言葉に詰まることに困ったことは多々あれど、こうした詰まり方は初めてだ、と目を細めて苦笑する。 「春になったら、里に降りるの」 口火を切ったことが霊夢であったことに、青年はわずかに驚いた。だが、表情には出さず、ただ言葉を返す。 「…………霊夢、さんは、俺に、勝手にしろ、っ、て」 「ええ、言ったわ。好きにすればいいとも思ってる」 霊夢はそう言いながら茶を啜った。声から感情は読み取れない。 読み取れないから、結局は自分から言わなければならないのだ。 「かっ、てに、しようと、思ってるけど」 「うん」 「……貴女の、許可、が、ないと、流石に」 「……それは」 霊夢は言い差して首を振った。 「はっきり言いなさい。曖昧な言い方で逃げるのはなしにして」 その言葉は、きつい弾劾のように見えて、事実は異なっていた。 少なくとも、青年はそう受け取った。避け続けていたことを告げなければならないと思った。 ずるい逃げ方をしていたツケが回ってきたのだ。 「……ここにいて、いいですか、霊夢さん」 青年の瞳も声も静かだった。その分、霊夢もまた逃げることは出来なかった。 「……ええ、好きにして」 霊夢の言葉を、青年は誤解しなかった。軽く首肯して、茶をまた啜った。だいぶ熱は取れていた。 こと、と音がした。霊夢が自分の湯飲みを置いた音だった。音は軽かった。 「……私の傍は、きっと面倒よ。妖怪は来るし、あれこれのことはあるし。ここは博麗だしね」 「……それでも」 それでも、と青年は繰り返した。ああ、やはり逃げることは出来ないのだ。 はあ、と一つ大きく息を吐く。白い息が、夜闇に溶けて消えた。 「……貴女に、惚れたから。好きです、霊夢さん」 言葉は突っかからなかった。彼にしては珍しいことだった。霊夢は、小さく息を吐いた。やはり白かった。 沈黙は長くは続かなかった。霊夢がその口唇をそっと開いて言葉を口にした。直接的な言葉ではなかった。 「貴方は」 「は、い」 「……魔理沙のことは呼び捨てで呼ぶのに、私にはそうしないのね」 青年は目を瞬かせた後、ゆったりとした笑みを浮かべた。 「……呼ん、でも、いいなら」 「……貴方が、そうしたいなら。好きにして」 少し目を伏せて応じた霊夢に、青年は頷いた。今回も、やはり青年は霊夢の言わんとすることを誤解しなかった。 手元の湯飲みを飲み干して盆に置く。とっくに空になっていた湯飲みの隣に、音を立てずに置いた。 立ち上がり、軽くなった盆を片手で持ち上げて、青年は霊夢に空いた方の手を差し出す。 「霊、夢。冷える、から。お茶も、なくなった」 「……ええ」 霊夢はその手を取って立ち上がった。手はひんやりと冷えていた。青年は眉を顰めた。 「やっ、ぱり、冷たい」 「……そうね」 「……暖めない、と」 「……うん」 霊夢は頷いた。青年は霊夢が立ち上がったのを見た後に一度手を離し、障子を開けて霊夢を促した。 大人しいままの霊夢が中に入った後、青年も後について入ると、後ろ手に障子を閉めた。障子の中で、影が少しだけ動いた。 外では、雪がまたちらつき始めている。 結局、翌日里に降りることは出来なかった。雪が強くなって外に出られなかったのだった。 そのさらに次の日になって、青年は慧音に神社に残る旨を告げるために里に出てきていた。霊夢も一緒に来ている。 「ああ、そうするのか」 慧音は諒解半分、納得半分のような頷きで返した。青年は申し訳なさそうな顔をして、もう一度詫びた。 「す、みま、せん。折角、いろいろ、してもらった、のに」 「いや大丈夫だよ。それならそれでまた割り当てもあるから」 宥めるように言って、慧音は付いてきている霊夢にも話を振った。 「霊夢もそれでいいんだな?」 「ええ。私の家だし、そこは承知してないとオーケー出さないわよ」 「ならいいんだが」 慧音は曖昧に頷いた。霊夢の態度の素っ気なさと、いつもと変わった様子のない青年から、それでいいのかどうかわからなかったのだ。 恋人同士にも見えない二人が、そうして大丈夫なのだろうかと。 だが、これ以上言葉を重ねるのはよくない気もしたし、野暮になるような気もした。どちらにしろ、確信が持てないままでいる。 「さ、買い出しに行くわよ」 「う、ん。では、先生、これで」 青年は頭を下げると、先にさっさと歩き出してしまった霊夢の後を追いかけ始めた。 「霊夢、速、い」 「貴方が遅いのが悪いの。また雪が降り出す前に帰りましょう?」 慧音は遠くなるそのやりとりを見て、ああ、と優しげに微笑う。 考えているほど心配する必要はないのかもしれない、と思ったのだった。 それが事実である、ということを正確に知るまでには、もう少し時間が必要ではあったが。 幾分か買い出しをし、その荷物を両手に抱えた状態で青年は霊夢に尋ねた。 「……いい、の、か」 「何が?」 「その、っ、と」 言葉を選ぶように、同時に何かが突っかかったように口を開閉しながら、青年は時間をかけて問いを口にした。 「……一緒、に、歩いていると、そういう関係に、見られる、と、思う」 青年が霊夢のところに居候しているのは周知の事実だが、二人で里を歩いたことはない。 しかも、割と近しい距離で歩いている。そういう間柄と他人に邪推させるには十分だった。 青年は、それによる霊夢の評判を気にかけたのだった。青年が素性のよくわからない外来人であることに間違いはない。 だが、霊夢の返答は涼しいものだった。 「貴方は嫌?」 「そうでは、ない、けど」 「ならいいじゃない。別に嘘を吐いているわけでもないわ」 どうせ春になって貴方が降りてこなかったらわかることでしょ、と霊夢はこともなげに告げる。白い息が風に乗って消えていった。 「早いか遅いかだけよ、大したことじゃないわ」 「……ん」 彼は頷いた。そう、自分は霊夢の傍にあると決めたのだから、それでいいのかも知れない。 不意に、霊夢が片手を伸ばした。首を傾げていると、片方の手の荷物を奪われた。 「あ」 「さっさと帰りましょ。陽が落ちるのも早いわ」 重ねられた手に、青年は頷いた。今日の手はどちらも冷えていた。 「はや、く、帰って、炬燵と、火鉢に、火を」 「ええ」 霊夢は微笑んで同意を示した。陽が傾く前の里を、二人でそうして歩いていく。 雪解けはまだ遠い。 けれども、蕾が綻ぶように開き始めた想いは、一足先に春を迎えるのだろう。 この先に、何が待っているのかはまだわからないとしても。 それでも、今はただ、この想いをただ大事に咲かせよう。 35スレ目 322 323 325 322 恋をしていままでどうやって飛んでたかわかんなくなって焦る霊夢さん 323 322 最近幻想郷に迷い込んだ○○のことが気になって仕方がない霊夢さん なぜか飛べないことに気付く 霊夢「な、何で.........!?」 脳内(も、もしかして体重が増えたとか!? いや、このごろお金ないしそれなのに ○○との食事は無理してしっかりおかず作るから自分だけの食事は野草を食べる 始末だからそんなことはないはず! だったら何で!? 自分では飛ぼうと しているのに、体は全く浮かない...はっ!) 霊夢「まさか!!」 数日前 ○○「そういえば、霊夢の能力って飛ぶことだったけ?」 霊夢「...なによ? 地味だって言いたいの? 別にいいのよ能力なんて。 それに、私はそれ以上に強そうな能力もちでも普通に勝てるしね」 ○○「さすがは博麗の巫女だな。でも、少し寂しくもなるなぁ」 霊夢「えっ...ど、どういうこと!?」 ○○「いやさ、霊夢って移動するときはほぼ確実に飛んで移動するだろ?」 霊夢「そうだけど......なんか関係あるの、それ?」 ○○「俺って一般人だから空飛べないし、霊夢の移動は空だろ? そうなるとさ、なんか、霊夢が俺よりずっと遠い所にいちゃうような気がして...」 霊夢「なによそれ? 別にそんな遠くまで行かないし、私だって、歩きの移動もあるわよ」 ○○「......そうだよな、うん。悪い、今のはただの独り言だ。忘れてくれ」 霊夢「はいはい」 そして現在 脳内(ま、まさか○○のあの言葉!? じゃあなんで? 忘れろって言ったかから 忘れたはずなのに...そもそもこのこと覚えてた時点で忘れてないじゃない! じゃあもしかして、○○がああ言ったから、私は○○と歩きたいから...) ......意識しないで、飛ぶことを拒否してるの......!? 再び 脳内(何で何で!? 飛ぶのと○○と歩くのは別でしょ! それが何で飛びたくないに つながるのよ! そ、そりゃ、○○とそんなことはしたいとは思うわよ? でも、何で...ああもう! 何でばっかりじゃない! ううー...どうすれば...?) 1.思い切って○○に相談する 2.他の幻想メンバーに相談する 3.解決できない。現実は非常である 石は投げないでください。 325 322 ぼかぁそっからの覚醒イベントみたいなのとか好きだけどね 恋してうまく能力使えない~時に異変が起こって ボスに苦戦してそのせいで○○が危なくなって そうして初めて自分の恋慕の気持ちを認めてからの 霊夢「『幻想浪漫飛行』博麗霊夢!!」 って名乗り口上からの クッソ強なってて無双する展開 35スレ目 345 (35スレ目の 343に対して) 魔理沙「おおっ、私だ!私が出てるぜ!」 文「あやや、押さないで下さいよ。よく見えない。」 香霖「ふむ、僕も出るのか。熱意が伝わってくるね。」 阿求「私の出番、セーブ係くらいなんでしょうねえ」 朱鷺「出番あるだけいいじゃない」 正体不明「お嬢さん方、くよくよしてても始まりませんぜ。『待てば海路の日和あり』と言うじゃあありやせんか。 なあに、この旦那なら末は太宰か芥川、名文の限りであっしらを活写してくれますぜ。 かあーっ、しみるねえ。」 ルナサ「……あなた誰」 霊夢「……」 魔理沙「霊夢は嬉しくないのか?お前が主人公っぽいぜ。このこのー。」 霊夢「回りくどいのよ。こんなもの作らなくても、私は…」 魔理沙「おおっ?」 霊夢「何でもない。ところで、いつ始まるの、これ。」 魔理沙「ボタン押さないとダメだぜ。」 霊夢「そうなの。ふうん、けっこうおもしろいわね。あ、私。 …え、何、これ。こんな話なの?ふーん…」 魔理沙「お、怒ってるのか?その、あいつも悪気があったわけじゃないと思うぜ…。」 霊夢「いい。」 魔理沙「はあ?」 霊夢「いいじゃない!あいつとイチャイチャできるなんてッ!このゲーム最高! ねえ、ここからどうやって先行くの?」 魔理沙「試作だからそこまでだぜ。続きは作ってもらわないと」 霊夢「作ってもらえばいいのね!」 魔理沙「おーい、帰ってこーい。」 20分後、神社に拉致られてカンヅメにされる○○の姿があったとさ。 35スレ目 386 霊夢「また会えるから、絶対」 霊夢「だから、さよならなんて言わないわ」 霊夢「またね!!」 35スレ目 414 皆の前で堂々とチョコを渡して外堀を埋めにかかる霊夢さん
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東方Project或いは幻想郷に於けるヒーロー(誤字でなく) 強烈な個性らしい個性を持たず、飄々としてるというか、ふらふらしているというか、ダラダラしている 彼女の目元を隠してしまえば、そのままギャルゲの主人公として通せそうな勢いであるが 「博麗の巫女」というジョブ名がそれを阻む そういう意味では非常に巫女(原義的な)らしいキャラクターと言える 東方Projectが巫女さんSTGであるだけに、魔理沙並に登場頻度は飛び抜けて多い 霊夢「なんか・・・コレいやらしいわね」 すると霊夢は俺の腕の中で振り向くと、怪我をしてない方の手を伸ばし俺の頭を撫でてきた。 01-011 01-015 01-031 01-041 01-043 01-053 01-102 01-123 01-124 01-166 01-169 01-196 01-227 01-237 01-240 01-242 01-294 01-295 01-303 01-313 01-320 01-321 01-339 01-363 01-366 01-368 01-384 01-392 01-396 01-407 01-408 01-414 01-417 01-422 01-423 01-433 01-435 01-441 01-464 01-476 01-479 01-506 01-510 01-511 01-516 01-522 01-523 01-541 01-552 01-572 01-575 01-583 01-617 01-619 01-623 01-624 01-633 01-636 01-657 01-688 01-719 01-754 01-770 01-787 01-801 01-807 01-841 01-854 01-855 01-879 01-894 01-910 01-911 01-924 01-932 01-940 01-950 01-956 01-981 02-009 02-051 02-059 02-065 02-130 02-136 02-140 02-148 02-152 02-178 02-182 02-192 02-199 02-200 02-224 02-243 02-249 02-273 02-285 02-294 02-306 02-311 02-371 02-374 02-384 02-404 02-409 02-418 02-462 02-496 02-509 02-510 02-512 02-523 02-525 02-547 02-552 02-577 02-583 02-593 02-599 02-618 02-620 02-628 02-655 02-665 02-677 02-686 02-692 02-705 02-711 02-734 02-738 02-747 02-758 02-776 02-781 02-785 02-786 02-802 02-819 02-829 02-857 02-861 02-866 02-870 02-873 02-883 02-898 02-912 02-923 02-935 02-941 02-961 02-978 02-983 02-984 以上、156件
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霊夢24 うpろだ1136 俺は幻想郷に来てから博麗神社に居候させてもらっている 霊夢いわく「じゃあ、庭の掃除と買出しよろしく」とのことである サッサッサッ 「おっす○○遊びに来てやったぜ」 魔理沙か掃除の邪魔だ帰れ 「……恋符「マスターs」 悪かったからスペカだけはやめてくれ 「初めからそう言えばいいんだぜ?」 はぁ……掃除の邪魔はするなよ? 「そんな事はわかってるぜ、後で霊夢に何されるかわからないからな」 霊夢か……怒ると怖いからな 「誰が怒ると怖いって?」 ヒィ!ついに来たか 「そんなことは言わなくてもわかるぜ?」 ちょっおま煽るなって 「ふーん、まぁいいわ、あなた達お茶飲むでしょ?今持ってくるから」 鼻歌を歌ってるなんて機嫌が良いんだな霊夢 「そういや昨日久々に参拝客が来たって言ってたからな、そりゃ機嫌もいいはずだぜ」 なるへそ、俺が買い出しに言っている間にそんな事があったのか サッサッサッ なぁ魔理沙?お前も少しは手伝うとかないのか? 「私は見ているだけで手伝っているんだぜ?」 あっそう …… 「……」 ……代われ疲れた 「まったくしょうがないな、魔法使い直伝の箒捌きを見せてやるぜ?」 (あっ、魔理沙の手が触れた) 「な、ななな、何してるんだよ○○!」 しょうがないだろ? 「い、いいから早く貸せって!」 ??? 夕時 「ずいぶんと魔理沙と仲がいいみたいじゃない?」 なんだ霊夢、見ていたのか 「ええ、あなたたちを見ているととても楽しいわ」 ふーん、周りからはそうみえてるんだな俺たち 「さて、ご飯にするから手伝って頂戴」 へいへーい (何か機嫌悪いな霊夢) パクパク…… 「もぐもぐ……」 ごっくん なぁ霊夢? 「何よ?食事中に話しかけるなんて貴方らしくない」 俺が魔理沙の事好きっていったらどう思う? 「な!?」 どう思う? 「べ、別にどうも思わないと思うけど!」 ふ~ん、そーなのかー 「……多分ね、って何言わせるのよ!バカ○○!」 いやさ、さっきの霊夢機嫌悪かったからさ、焼きもちでも焼いたかな~と思ってさ 「……もういいわ、お粗末さまでした。片付けやっておいて、もう寝る」 お、おいっ霊夢!? (さっきはびっくりしたわ……まさか○○にあんな事いわれるなんて 魔理沙となんて私が許すなんて思っているのかしら! ってまだ私の気持ちをちゃんと言ってないのに、何考えてるんだろう私……) トントン 霊夢~起きてるか~? 「ま、○○!?」 さっきはゴメンな、変な質問して 「べ、別に……」 でもさ俺ちゃんと考えてみたんだ、そしたら真っ先にお前の顔が出てきて…… 「え、え!?」 魔理沙のことも好きだけど、それ以上に霊夢のことが好きだからさ 「○○……」 じゃ、じゃあ俺も寝るな 「あっ、待って○○!」 何だ霊夢? 「あ、ありがとうね!私も○○のこと好きだから!」 お、おうありがと、じゃ、じゃあなお休み 「お、お休み!」 (ま、○○に好きって言われた!夢じゃないわよねこれ!) 次の日の朝 おーい 「むにゃむにゃ……」 おーい起きろー 「ぐーぐー」 霊夢~起きろ~ 「すやすや……」 ……襲うぞ? 「はっ、お、おはよう○○!」 ……お前起きてたんじゃないのk 「さっ!朝ごはんにしましょ!」 霊夢…… 「ごめんなさい」 はぁ……もう少しで取り返しのつかないところになるところだったぞ 「わ、私○○だったら……ごにょごにょ」 ???霊夢??? 「いいから!さっさと庭掃いてきて!」 はいはい 俺の中ではツンデ霊夢がジャスティス ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ05 幻想郷と外界を隔てる博麗大結界。その境界に位置する博麗神社。 その社に一人の青年が立っていた。 神社をずっと見つめ続け何かを思い出そうとしているようだ。 「何かうちに用?」 そう声をかけられ声のした方を向くと一人の少女がそこにいた。 腋が大きく開いた独特の紅白の巫女服を着て頭には大きなリボンが結ばれていた。 「ここは博麗神社。私はその神社の管理をしている博麗霊夢。その恰好からするとあなた、外来人のようね」 「はく……れい……?」 博麗という言葉を聞き○○の目から涙がこぼれだした。 「ちょ!? ど、どうしたのよ!」 「え? あ、あれ? 俺どうして……?」 自分でも訳の分からない感情が溢れ、拭っても拭っても涙が止まることはなかった。 そんな○○を見て一瞬霊夢の顔に悲しみが浮かぶがすぐに消えた。 「何か訳ありのようだから少し休んでいったら? お茶ぐらいなら出してあげるから」 「すみません。博麗さん……」 彼の背を押すように二人は境内に入って行った。 居間に○○を案内して台所でお茶の準備をしながら霊夢は呼びかけるように口を開いた。 「紫、いるんでしょ?」 突然空間に亀裂が入ってスキマが開きそこから一人の女性が現れた。 「呼んだかしら?」 「どういうこと? ○○がまたここにやって来ているんだけど?」 「私のせいじゃないわよ。彼が自力で結界を越えてしまったのよ。無意識にね」 そう。彼は一度この幻想郷に迷い込んだことがあった。 その時も同じように霊夢に出会い、さまざまな事件、出来事が起き、やがて二人は愛し合うようになっていた。 しかし無重力の巫女が一人に特別な感情を持つことは許されない。 断腸の思いで霊夢は紫に彼の記憶を封印してもらい、外の世界に戻って行ってもらったのだ。 「ほんと、変わってなかったわ。あの頃と……。声も、姿も、仕草も……」 「…………」 俯いた霊夢の表情は紫からは見ることはできないが察するにとても辛い状況であることは分かる。 踏ん切りをつけたとはいえ一度はお互いに愛し合った相手だ。未だ○○に対する感情は残っているのだろう。 そんな彼女を見つめながら紫は話を進めた。 「たぶんこのまま○○を外に出しても彼は帰ってきてしまうわ。だから賭けをしましょう」 「賭け?」 「そう。彼が貴女を思い出すことができたらここに残す。できなければもっと強い封印をかけて外に帰すわ。どう?」 「……いいわ」 「そうそう。直接的なアピールはだめよ? あくまで彼自身に思い出させるのよ。じゃ頑張って」 そう言い残して紫はスキマの中に消えていった。 霊夢は途中だったお茶の準備をして居間に戻った。 「ごめん。ちょっと来客があったものだから」 「ああ、気にしてませんよ」 お茶の入った湯呑みを渡しゆっくりとお茶を飲む。 しばらくお茶のすする音だけが部屋に響く。 そして霊夢が口火を切った。 「で、どうして急に泣き出したりなんかしたの?」 「さぁ……? 自分でもよく分からないんですけど……でも」 「でも?」 「ここの神社、何故か初めて来た気がしなくて。 そして博麗さんの名前を聞いたら、何か大切なものを無くしているのにそれが思い出せなくて……それがすごく辛い……ッ」 「そう……」 ○○の慟哭に霊夢は胸が張り裂けそうになった。 貴方の探し物はここにあると。失ったものは目の前にあると。 しかしそれを言うことは許されない。 ぎゅっとスカートを握り霊夢は己の感情を殺そうとした。 「見つかるといいわね……。貴方の大切なもの……」 霊夢は逃げ出そうとしていた。もう嫌だ。これ以上一緒にいたら辛くて辛くておかしくなってしまう。 しばらくどこかに行ってしまいたい。 いたたまれなくなり、霊夢は立ちあがるとお茶の換えを持ってくると言いその場を去ろうとした。 彼女が○○の前を横切り、髪に結ばれた赤いリボンが揺れると○○に膨大な記憶が流れ込んでくる。 ―――ちょっと、大丈夫? こんな所で行き倒れてないでよ。 「――――――――――――――――」 大切な名前。 思い出した記憶はかけがいのないものと思った。 ―――まったく、無茶するんだから。 弾幕ごっこの中に飛び込んできた時はびっくりしたわよ。 え? ■■が心配だったから? ……もう、こっちに心配かけてちゃしょうがないでしょ。 「―――――――――――――――む」 ―――ねぇ○○? いつまでも一緒にいてくれる? くそっ、彼女、彼女を思い出さないといけないのに、頭にモヤがかかって、たいせつな、■■が。 ―――○○ってさ、私の髪いじるの好きだよね。 えっ? 嫌かって? ううん、むしろ触ってくれるのが嬉しいかな……。 「――――――――――、 む」 ―――思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ。 ここで思い出さなければきっと後悔する。 ―――えっ!? プレゼント? 私に? ……ありがとう。すごくうれしい。大切にするね、○○がくれたリボン。 「れ―――――いむ」 思い当たった。 彼女のこと。 俺を救ってくれた少女。ふわふわとして掴み所がない幻想の巫女。 誰にでも平等で、縁側とお茶が似合う、赤いリボンが可愛い小さい背丈をした俺の大切な――― 「れいむ―――れいむ、れいむ、れいむ、れいむ、れいむ、 れいむ、れいむ、れいむ―――――!!!」 気がつくと○○は霊夢を後ろから強く抱きしめていた。 今まで離れていた時間を取り戻すためのように。 「ごめん、今まで忘れていて……」 「あ、ああ……」 「ただいま、霊夢」 後ろからまわされた手に自分の手を重ねる。 その上にぽろぽろと霊夢の目からこぼれた涙があたる。 「もういちど……あなたに、そう呼ばれたかったの……○○ぅ……」 二度と離れることのないように○○は腕の力を強め、霊夢を抱きしめ続けた。 霊夢もまたその力強さに心から満たされていた…… その様子をスキマから覗いていた紫はスキマを閉じるとにこやかな笑みを浮かべた。 「ヒントつきとはいえ、私の封印を打ち破るなんて、○○の愛は本物ってことね。よかったじゃない霊夢。祝福してあげる」 ――――ああ。 手には大切なぬくもりがある。 かつて共に求めあった互いのぬくもり。 一度は手放し、二度と届かないはずだった、だけど、 幻想の地で再び。 つよく、つよく、抱きしめる。。 柔らかい肌に、暖かい陽を受けるように心が満たされていく。 この手には、かけがえのない少女が―――― ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1210 「霊夢~お茶っ葉買ってきたから煎れてくれ~」 「そんな気を使わなくていいっていってるでしょ。でもまあ貰える物は有難く貰っておくわね。」 「あいあい。じゃあちょっくら上がるよ。」 「どうぞ。」 夏の博麗神社。○○は最近の日課に成りつつある霊夢のもとにお茶を届けるミッションを今日も終え また最近の日課に成りつつあるそこで一息着くという自分への課題もクリアしようとしていた。 なぜ届けることになったかというのは想像にお任せします。 「なあ霊夢」 「何?今煎れたから持ってくけど」 「まあ持ってきてくれてから話す」 カチャン 「どうぞ。」 「どうも。」 「で何なの?」 「あぁ。最近霊夢可愛いな~と思って」 「何よ突然。誉めてもお菓子さえ出ないわよ」 「お菓子はそこまでいらないかな。いや、そうじゃなくてさ」 「何なの?言いたい事があるなら言いなさいよ」 「唐突過ぎるが、好きだ。」 本当に唐突だ。 「そんなお礼まがいみたいな事今頃しなくていいわよ。お茶だってもらってるんだし」 冷静な彼女はそう笑いながら返す。 「(まだ信じて無いか)いや、そう言うんじゃ無くて単純に。愛してる。意味分かるよな?さらに英語で言うとI LOVE YOU。」 唐突な上に突拍子もない事を言うもんだ。彼女はそう思った。 「…そんなに言って恥ずかしくないの?」 「そりゃ少しは恥ずかしいさ」 ○○はニヤケながらそう答える。顔を戻そうとしてもニヤケる。 「私も聞いてて恥ずかしいわよ…」 ここに居る冷静な彼女の口元も緩んでいる 「で、お答えは」 「有難う。私もよ。好きじゃ無かったらこんなに毎日上がってくるやつうるさくて堪らないわ」 「案外あっさりですねぇ」 と、冷静を装っても彼女の用にはなれなりのが○○。やはりニヤける。 「これからはお茶を飲んだあとでもダラダラしていく?」 「お言葉に甘えてそうします。ちなみに今日のお泊まりは許可されますでしょうか?」 「だ~め。」 「そりゃないっすよ」 「これが終わってから!ん!」 「(もしかしてこの状況…霊夢が俺にチューを求めてますか?目を瞑って口を近づけてくる……)・・・」 「まだ?」 「あ!すいません…」 決めるときにまで情けない男だ。 チュッ 「○○…大好き。」 「ありがとう。霊夢。で、何でこんな茶を持ってくるだけの俺を好いてくれるんだ?」 「少し情けないところがまたかまってあげたくなるのよ。」 やっぱり、というか。情けないと言われた。 「俺ってそんなに情けないかね?」 「私の前に現れた時から情けないっぱなしよ」 「俺だめだなぁ・・・」 ぱなしな○○は肩を落とす。 「でも私を悲しませるなんてことは無い。寧ろ楽しませてくれる。私から見たらすごく素敵な男性よ?○○は。」 「霊夢…有難う。」 「で、私を彼女にした以上、毎日私の元に来て毎回イチャついてあげるのよ?」 彼女の顔がまた緩んだ。そして○○の肩もあがる。 「じゃあ、今日から実行させていただくわ」 ギュッ 「…でも突然抱きつくのもどうかと思うなぁ・・・」 やはり突拍子も無い男だ。彼女は少しだけ不満を漏らす。 「あぁごめんごめん」 「では突然抱きついたお返しに私からもっ。」 ギュゥッ 「…もう霊夢かっわいいなぁぁぁぁぁ!!!」 「知ってる。○○もかわいいわ。充分」 「俺はそれでもかっこいいとは呼ばれないか。残念だ」 「人には人のよさがあるのよ。」 彼女が言うんだからそうなんだろう。○○はそう考えた。 「そうか。ありがとう。これからも当然の用にお茶を煎れてもらいに来たりそれ以外のことをしたりしにくるわ。」 「それ以外ってなによ。それとあんまりお茶堂々と飲んでたら私の周りの人間やら妖怪やらに馬鹿にされるわよ。」 今の二人は緩みっぱなしである。緩みっぱなしの幸せである。そろそろ締めてほしいもんだ。 ・・・ 魔理沙が来て「私は御呼びじゃないのか?お前ら暑苦しいぜ。夏に限らず」などと冗談混じりの茶々を出されて恥ずかしそうにイチャつくのをやめる霊夢。 それはそれでまたいいなぁと思う○○であった。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1221 霊夢の湯飲みを割ってしまった。 「ごめん。明日の昼までに割った代わりを持ってくるから明日もお茶を用意していつも通り待ってて」 「分かったわ。待ってるわよ」 こんな会話を交わしたのにもかかわらず寝坊してしまった。走ればギリギリ間に合うか。そんな時間だったので兎に角走る。 「霊夢に怒られる・・・ヤバイヤバイ・・・」 俺は森を走る。季節も季節なおかげで冷や汗交じりの汗が吹き出る。 間に合わなかったらきっと霊夢は怒るだろう。 ・・・ なぜか俺は椅子に寝ていた。 「おっ!○○!気づいたか!」 そしてなぜ魔理沙に顔を覗き込まれているんだろう。 「いや~。私が低空飛行の練習してるときに目の前に飛び出すとはラッキーだな。そんなやつなかなかいないぜ?」 ・・・ハッ!!!そういえば霊夢の家に向かってる途中だった!! 時間は無い。 「やばっ!!!ッッ!!!」 「動くな動くな。私は痛くないけど、私の箒に当たった方は動けないほど痛い。」 ハァ・・・これはアレか。 神社に向かってる途中に魔理沙にぶつかり気を失って神社の途中にある椅子に寝させてもらってた訳か。 そして霊夢は怒ってるだろう。 「すまんな・・・。私が言うのもなんだが何かお礼をしたほうがいいかな?」 色々と急いでる今の俺にその言葉はありがたい。 「いつもなら謝ったらそれでいいんだが、生憎だが今日は少し頼みたいことがある」 「なんだ?なんでもしないがなんでもするぜ?」 遅れたことを謝りに行かなきゃなぁ。 「霊夢んところにつれてってくれないか?」 「お安い御用だ。今日はさらにお安く無料で連れてって行ってやろう」 「お願いします・・・」 箒に載せてもらい、魔理沙にしがみ付く。 「・・・○○?」 「おお!霊夢!今こいつとおまえん家いくところだったんだよ!」 霊夢からの殺気が目に見える。多分勘違いしているんだろう。魔理沙といちゃついてると。 すぐに弁解せねば。 「○○?昼までに私の所に来てくれるって言ったわよね?」 「すいません。遅れました。今から魔理沙と向か「それで何?こんなところで魔理沙といちゃついてた分け?」 「いやいや、それは誤解d「そうだぜ?何か不具合でもあるか?」 またこいつは話をややこしくして・・・魔理沙は冗談のつもりだろうが今の霊夢に冗談は通じない 俺はそれを冗談であることを霊夢に伝えるとともに、そういう雰囲気ではないことを魔理沙に言う。 「魔理沙?こういうときに冗談はよくな」「夢想封印」 光弾が辺りを包む 魔理沙が飛ぶ。それに掴まってる俺も一緒に飛ぶ。 予想通り凄い怒ってる。 「ちょ・・・霊夢!冗談だぜ!冗談!こいつはお前のところに行こうとしてた!」 「じゃあなんで?なんであんなところで魔理沙に抱きついてたのよ・・・○○?」 魔理沙の弁解は説得力が無い。いつもどおり嘘の嘘だと思われてるんだろう。 「霊夢!スマン!さっき俺が霊夢の家に向かってる時に魔理沙と事故ったんだよ。」 「え?魔理沙と事故る?魔理沙は空を飛ぶのよ?○○は歩いて来てたのよね?」 お札を持ってここまで浮いてきた。怖い。 「いや、霊夢。それは私が低空飛行の練習をしていたからだ。ぶつかるのもしょうがないぜ。」 「それは嘘じゃないのね?○○?」 うっ。怖い。でもこのたまたま低空飛行をしていて、たまたまぶつかった(まぁ俺は走るのに夢中で目に入ってなかったわけだが)という嘘のようなことを信じさせなければ ならない。 「そうなんだ霊夢。お前の事を考えていて魔理沙が目に入らなくてぶつかったんだ。それで魔理沙に介抱してもらってた。」 少しだけフォローと取れるような取れないようなセリフも追加しておいた。 「そうなの魔理沙?」 「○○がおっしゃるとおりだぜ。「お前の」○○にぶつかってすまなかったな。○○動けないみたいだから連れてってくれ。」 魔理沙は微妙にニヤついてる。 「はぁ。あんたがそういうのならそうなんでしょうね・・・」 流石は魔理沙。霊夢の機嫌を直した上に事実を突きつけてくれた。 「・・・じゃあ○○。そういうことなら一緒に帰るわよ?」 「あ、ハイ。」 と、ここで大事なことに気がついた。 「湯飲みが無い!」 確か手に持ってたはずだが、魔理沙にぶつかったときに無くしたのかも知れない。 「それならここにあるぜ?」 すっと魔理沙がポケットから出す。 「これお前のだったのか。どこぞの誰かの落し物だと思って、保管させてもらう予定だったぜ。警察と魔法使いの家は落し物保管所でもあるからな。」 霊夢に手を引かれたもう片方の手に、魔理沙がポンッと湯飲みを置く。 「じゃあごゆっくり。だぜ。」 こいつのごゆっくりの意味はいくつあるんだろうか。 「ありがとな。魔理沙。」 「とりあえず○○を助けてもらったことには感謝するわ。ありがとう魔理沙。あと勘違いは・・・ゴメン」 「礼には及ばないぜ。魔法使いは人助けもする。そして勘違いは誰にでもあるものだぜ?」 じゃあね。と、俺と霊夢は魔理沙に挨拶をする。 俺は霊夢に手を引かれつつ痛いが、少し動けるほどに直った体を体を動かす。 「○○?大丈夫?」 「あぁ。まぁ大丈夫だ。それより霊夢。すまんな。」 「魔理沙と一緒にいたことならもういいわよ。私の勝手な誤解だったし。寧ろ私が謝るべきよね」 「いや、そっちじゃなくて昼遅れたことなんだけど・・・」 「あぁ。そんなこと?」 「そんなことて。俺的には結構必死だったんだよ?・・・大分遅れたけど」 「○○が無事だったからもうなんでもいいわよ。そこら辺の妖怪にでも襲われてるのかと思ったから来たのよ」 「霊夢・・・」 「それが魔理沙とイチャついてるようにみえたから・・・」 彼女が頬を赤らめる。 「私ったら勘違いも甚だしかったわ」 「いやいや、俺も遅れて本当にすまんかった。あと霊夢が、魔理沙とイチャついてるように見えたことに怒ったのは嬉しかった。あの時は本気でビビッタけど。」 「・・・そりゃ大好きな人が他の人に取られたのに冷静で居られるほうが不思議よ・・・」 霊夢が俺から顔をそらす 俺も少し恥ずかしくなってきた。こんなに改まって好きだと言われると赤面は免れない。 「ありがとう霊夢。これからも仲良くしていこうな」 とりあえず今の俺の精一杯の言葉だ。 「私からもお願いするわ。それと私の一方的な仲直りの証。」 と、いって彼女の唇が頬に触れた。 「なんか、ありがとう。霊夢。本当に本当にこれからもよろしくな」 「・・・さぁ、あと1分くらいで着くわよ」 「着いたらお茶頼むな。俺の大好きな霊夢。」 「私の大好きな人の頼み。お安い御用よ」 霊夢がまた足を進める 心なしか彼女の足取りは軽い。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1242 「こんにちはー」 「あら、いらっしゃい。素敵な…」 チャリーン 「お賽銭箱はここでしょ?」 「台詞取らないで。また慧音のお遣い?」 「あぁ、そうだよ。生活に必要な食べ物、雑用品、消耗品とか」 「よく続けられるわね。並みの人間だったら、まず来たがるような 場所じゃないのに」 「うーん、そうなるとぼくはもう只の人間じゃあないのかな」 「…涼しい顔して物騒な事言うのね。ある意味そうかも。ところで お茶飲む?」 「いただきます…とその前に出すもの出しちゃおう」 ひょい ごとごと かちゃかちゃ 「…見てていつも思うんだけど、その『ブラックボックス』?よく そんなにたくさん物が入るわね。どうやって手に入れたの?」 「森近さんから慧音さまに渡って、慧音さまがぼくにくれたんだ」 「魔理沙には見せちゃ駄目よ?あいつに一度『借りてくぜ』って 持ってかれたらほんとに死ぬまで返ってこないと思うから」 「あはは…気をつけます。置く場所は物置と厨でいい?」 「そうね、そうして頂戴」 「ねぇ」 「うん?」 「いつも慧音のお遣いで来るけど、いいの?」 「いいって、何が?」 「例えば嫌だなーとか思ったり、面倒くさいなーとか思ったりした ことない?」 「ん…ないよ」 「今日一日の予定が決まってて、そんな中にお遣い頼まれたら?」 「普段は慧音さまの寺子屋で助手をしているから、お遣いを頼まれ ても不自然さは無いと思うし、それに」 「それに?」 「休日もそんなに予定らしい予定は入ってないんだ。町に出て本屋 さんに行くか、時々遊びに来る慧音さまとぼくより小さい子供達の 相手をしてることが多いかな」 「他に遊び相手はいないの?」 「昔はいたけど、今は皆ばらばら。ある人は対妖怪襲撃の警備隊に 入って、ある人は町に出て商人として生きてる。寺子屋を出てすぐ 結婚した人もいるし、そんな中に入るのは迷惑だと思ってね」 「ふーん…」 「霊夢はいつもここにいるんだよね?」 「そうね。時々人里に買い物か、霖之助さんのお店に行ったりする くらいで、普段はここでまったりしてるわ」 「変なこと聞くけど、寂しいとか思ったりした?」 「ないわね。一人でいることが当たり前だったから。宴会で人妖が 集まることはあるけど」 「…ああ、それ阿求さんの書いた幻想郷縁起にもあったような…」 「でもね、あれ大変よ?宴会が終わった後片付けはみんな私一人で やらなくちゃならないんだもの」 「そりゃ大変だ…今度手伝うよ」 「それは助かるわね」 「僕はそろそろ戻るよ。人里の門が閉まっちゃうからね」 「あら、もうそんな時間?待ってて」 「?」 「はい、これ」 「これって、霊夢の博麗護符(アミュレット)だよね。いいの?」 「作ろうと思えばいつでも作れるから大丈夫よ。それに帰っている 途中で妖怪に襲われて死なれたりしたら、流石にばつが悪いわ」 「ん、ありがとう。それじゃ、また来るよ」 「…また来るの?大して面白くも無い場所なのに…」 「そんなことはないよ」 「え?」 「僕はいつも、楽しんでるよ?ここに来るのも、ここに来て霊夢と 話をするのも。時々やって来る魔理沙やレミリア達と話したりする のも、楽しい。飽きたりなんか、絶対無い」 「…!」 「霊夢が迷惑でなければ、だけどまた来たい」 「…別に、迷惑じゃないわ」 「慧音さまにもよろしく伝えるよ。それじゃまた!」 「…変な人」 「あら、素直じゃない紅白の巫女のオンボロ神社はここかしら?」 「うわぁ、いきなり顔出すなぁ!それとオンボロは余計!」 「うふふふ、ごめんあそばせ。『霊夢が迷惑でなければ、だけど また来たい』『…別に、迷惑じゃないわ』だって。初々しい恋人 同士みたいじゃない。可愛い可愛い」 「ぬ、盗み聞きしてたのね!?声色までご丁寧に真似して!」 「あら、人聞きの悪い。私は通りかかったところを偶然聞いただけ ですわ。それに、霊夢は実際そんなことを言ったし、言われていた じゃないの」 「うぅ~スキマの中にいたくせに都合のいい解釈をぉ…」 「いじけないのいじけないの。あんなふうに言われて一瞬頬が赤く なった霊夢なんてレアものの光景ね、鴉天狗が地団太踏んで泣いて 悔しがって、羨ましがるわ。それじゃあね」 「…はぁ。何しに来たのよまったく」 「あ、それとね。彼、霊夢のこと意識してるわよ」 「…?だから何よ」 「そこから先は霊夢次第、それだけ。お休み~」 「言うだけ言って帰っちゃうんだから…はぁ」 …しかし、これは彼と博麗の巫女の物語の序幕が上がっただけ。 ここから先の物語は、どう紡がれていくのだろう… それは運命を操る紅い悪魔にも、歴史を創造し時に喰らう半獣の 賢人にも決して先が読めない不思議な物語。ここから先はあなた次第。 終 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1320 ○○と霊夢は波乱にみちたドラマの様な大恋愛の末、ついに結ばれて結婚するに到った。 そりゃもう、語るには一行では不可能なのだがそれはそれ、結果からすれば後は甘ったるい新婚生活の日々が続くはずだった。 しかし、ある日霊夢の元に一通の手紙が届けられる事でそれが脆くも崩れ去る。 「前略 霊夢へ ごめん。 俺の所為でここから去らないといけなくなった。 この手紙を読む頃には、俺はもう居ないだろう… けれど心配しないでくれ、いつか必ず帰ると約束するよ。 ○○」 「…○○!!一体何があったの!?」 霊夢は血相を変えて○○捜索へと飛び出した。 ○○が行きそうな所や、幻想郷の要所全てを駆けずり回り、結局成果は上がらなかった。 手紙が届いてから既に一週間、霊夢の顔色には陰りがありありと見れた。 「霊夢…全然寝てないんだろ?○○の捜索は私も手伝ってやるからさ…少しは寝なよ」 「……ありがとう魔理沙。でも、もしかしたら○○の身になにかあったらって思うと…落ち着いていられないっ!」 ここ数日、霊夢はずっと○○を探しつづけて、まったくと言っていいほど睡眠を取っていなかった。 もしかしたら神社に帰ってきてるかも、そう思って一旦帰ってきた霊夢だが○○の姿は無かった。 ○○が失踪し霊夢が毎日幻想郷を飛び回っていると聞いた魔理沙は心配して様子を見に来たが、そこにはお日様の様な、どこかぽわぽわした霊夢の姿は無く、暗くやつれ森の中を飛び回ったのか服もボロボロになった酷い姿の霊夢だった。 「手紙には必ず帰るって書いてあったんだろう?信じて待ちなよ」 「でも…!」 霊夢は魔理沙の制止を振り払って飛び出そうとする。 しかし極度の疲労で飛び上がれず、へなへなと崩れ落ちてしまった。 「…なぁ霊夢、もし○○が見つかっても、そんな酷い格好で会って○○はなんて言うかな…」 そう言われてついに霊夢は顔を伏せ社内へと戻った。 「とりあえず後は私に任せろって!知り合いにも声かけて手伝って貰うように言っとくからなっ!」 魔理沙はそういって神社を後にした。 「…○○…どこ行っちゃったのよ…○○……あいたいよぉ…ぐす…」 ○○発見の知らせが届いたのは、その次の日の事だった。 「…その…なんだ、人里に買出しに来てた藍に聞いたんだが、…紫の所にいるらしいぜ」 なんだか、ばつの悪そうな顔で魔理沙が言った。 「なんで○○が紫の所にいるのよ!?それに聞いてないわよ!」 「いや…実はだな…」 しかし霊夢は魔理沙の言葉の続きを聞くことなく飛びだして行ってしまった。 「あ!霊夢っ!まてって!く、なんてこった追いつけねぇぜ!どうなってやがる!」 道中、氷精やら猫又やら天狐やらが出てきたが問答無用で撃墜していく姿は、ある意味暴徒。 バン! 激しい勢いで紫の住むマヨイガの屋敷のふすまを蹴飛ばし入る。 「あらあら、だめじゃない霊夢。一体何があったのかしら?」 「とぼけるのもいい加減にしなさい!○○がここにいるのは分かっているのよ!!」 鬼気迫る勢いの霊夢を冷めるような目で見つめる紫。 「…そう、残念ね、○○ならもうここには居ないわ」 「っ!?…どういう事かしら……事と次第によっては容赦しないわよ…」 静かに、かつ地獄の底から吐き出される様な重い響きで霊夢はゆっくりと尋ねた。 それを見つめながら紫は不気味な笑顔で言い放つ。 「今、○○は幽々子の所に居るはずよ……そう、冥界の白玉楼にね」 「ゆかりぃぃいいいい!」 霊夢の手から激しい弾幕の渦が怒涛の如く紫へと打ち放たれる。 しかし紫は目を細め、うっすらと笑みを浮かべたままスキマへと潜りこんだ。 「勘違いしないで、○○はちゃんと生きているわよ。ちょっと冗談が過ぎたかしら」 霊夢のすぐ真後ろから上半身だけを覗かせながら紫は霊夢をなだめる。 「お詫びに白玉楼へ連れてってあげるから、そんな目で睨まないで。……怖いじゃない」 霊夢は鋭い目つきで紫を睨み続けていたが当の本人は言葉に反して涼しそうな顔だった。 「……ふぅ、もういいわ。事情は後できっちり教えてもらうから覚悟しなさいよ?」 「いやねぇ、そこまで怒ることないじゃない」 そう言いつつも紫は霊夢の腕を引っ張ってスキマの中へ入って行った。 「ちくしょう…霊夢に会いたいなぁ」 「○○!」 ○○は聞き覚えのあるその声に驚き振り返った。 「霊夢!」 「○○!」 霊夢は一直線に○○の胸元へ抱きついた。 しかし勢い余って○○は霊夢を抱いたまま、その場で円を描く様にくるくると回る。 「霊夢、何故ここに?」 会えて嬉しい、しかし本来ならここに霊夢はいないはずである。 「○○があんな手紙一枚残していなくなるからじゃない!」 バッと顔を上げ怒りながら霊夢は言うが、 「……心配した、凄く心配したんだから…えっぐ、えっぐ」 いままでの緊張がついに解けたのか、ついに霊夢の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていった。 「…ごめんな…心配させて、なんて言えばいいのか…」 「はいはい、水をさす様で悪いけど、感動の再会はもういいかしら?」 振り向けば紫と幽々子、妖夢が揃ってこちらを見ていた。 微妙に妖夢が涙ぐんでいるのはきっと感受性が高いせいだろう。うん。 「あ、あははは」 ○○は恥ずかしそうに頭をかいているが、霊夢は知ったことかと頭を○○の胸元に、ぽふっとうずめ抱きついたまま放そうとしなかった。 「それでどういう事かしら?」 漸く落ち着いたのか場所を居間に変え、妖夢の淹れたお茶を飲みながら霊夢は面々に尋ねた。 「う~ん、教えてもいいけど、一応言っておくわね?私達のところにいた事を黙ってる様に言ったのは、そこにいる○○よ?」 紫が○○を指しながら話を振った。 「ええ!?ちょ、ちょっと○○どういう事よ?」 「あ~、なんだ、これには海より深い事情がですね」 「海ってなんですか?「妖夢は黙ってて!」みょん!?」 空気を読まない妖夢の所為で、○○と霊夢の間に微妙な空気が漂った。 「……えー…言わないとダメ…ですか?」 「ダメ」 ○○はしどろもどろになりながら焦ったように紫は幽々子の顔を見たり、どっかそっぽ向いたり。 「……○○……私ね、ずっと探し続けてたの。そりゃもう寝る暇も惜しんで駆けずり回ったわ。 だからね。 り ゆ う。 言いなさい」 「ひぃ」 後日、紫は天狐にこう言ったそうだ。 霊夢に対して戦慄したのは、あの時を置いて他には無いと。 「霊夢が留守にしている時、その紫さんや幽々子さん達と賭け麻雀しまして…」 「…それで?」 「そしたら大負けしちゃって…あは、あははは、霊夢さん顔がすごいです」 「……で?」 「…取り返す為にさらに麻雀しましたら…なんというかダルマ式に凄い金額になっちゃいまし…あわわ」 「………いくら負けたの?」 「……ざっと10万え~ん、わぁ~お」 「……」 霊夢は顔を伏せ、腕はわなわなと振るえ口からはギリギリと音が聞こえてくる。 「いや、あのっ、そのっ!支払えないから肉体労働で働いて返すという事になりましてっ!つまりですねっ!」 「○○さんのおかげで私も少し暇をいただけたりと助かってまして!」 なぜか妖夢が○○のフォローにまわっているが、ここでは焼け石に水だ。 「……こぉのダメ亭主!!甲斐性なし!!!あんたなんか一生紫や幽々子のところで働いてろ!!!!」 つまりは鬼が降臨する。 「あらいいのぉ?遠慮なく貰っちゃうわよ?」 間髪いれずに答えたのは紫だった。 「いいわね、うちにもぜひお願いしたいわ、たまには妖夢に暇も出したいもんね」 さりげなく便乗する幽々子。 「ゆ、幽々子さまっ!」 それを聞き感動する妖夢。 「っ!だめっ!○○は私のなんだから!あんた達にはあげないわよ!」 それを聞き霊夢は一転、○○の腕をぎゅっと握って奪われないように威嚇した。 「…本当にごめんな…俺がしっかりしてればよかったのに…ほんとダメな男だよな俺って…」 「○○…ううん、○○が無事だって分かったからいいの」 「微妙に言いくるめられてるわね」 「惚れた弱みってやぁねぇ」 「…○○さんって本当は手玉にとっちゃう様な方だったんですか…幻滅です」 蚊帳の外では言いたい放題だったりする。 違うぞ、というかそもそもの原因はお前らだろうが!○○は心の中でそう叫ばずにはいられなかった。 ───────────────────────────────────────────────────────────