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秋祭り2日目~夕方2 これでも、それなり以上には経験を積んだつもりだった。 とある事情によって都市伝説と戦うことになって数ヶ月。 そのなかには危険なんかいくらでもあったし、「あれ、これマジで死ぬんじゃね?」と 思わされたことも一度や二度ではない。 《ジェットばあさん》と契約した時などMS5(マジで死にます5秒前)な状態だった。 しかし、それら全てを合わせても、今後ろに迫る脅威には及ばないと断言できる。 「…っ、あああああぁぁぁぁァァァッ!」 全力で叫ぶ。そうでもしないと、この恐怖を振り切ることなどできないから。 《夢の国》のマスコットでなく、ましてや黒服なんかでもないその恐怖の名は。 “全裸のハゲたムキムキ筋肉ダルマがいい笑顔を(本当に、憎らしくなるほどこの上なくいい笑顔を)満面に浮かべ凄まじい勢いで後を追ってくる”。 「たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇ!!」 叫んではみても、周囲には人っ子一人いないのでなんの意味もない。 《ジェットばあさん》の能力を発動させようとしても、条件が満たされないのでそれもできない。 ……《ジェットばあさん》の発動条件は“目の届く範囲に自分よりも速いものがある”こと、“ある程度封鎖された空間内である”こと、 “自分に危害が加えられる”ことの三つの内のどれかを満たすことだ。 先程の戦闘では、グーフィ〇の斬撃の余波によってその条件が満たされた。 今のこの状況ではその条件が一つも満たせない…というか、満たしたくない。 一度背後のマッチョマンに捕まってしまえば、“自分に危害が加えられた”と見なされ発動もできるだろう。 しかし、その手段はどうも嫌な予感がしてならない。 あのマッチョに捕まった瞬間何かが終わってしまうような、それと同時に何かが始まってしまうような、そんな気がする。 「だーもうちくしょう、不幸だーーーーーーっ!!」 叫びつつもさらに自らの足に力を込め、日が傾きつつある街をこっちは駆け抜けていった。 前ページ次ページ連載 - 女装少年と愉快な都市伝説
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学校からの帰り道、私は初めて万引きをした。 最近できたばかりの雑貨店で、瑪瑙のブローチを万引きした。 黄色と黒の縞々で、中央に非ユークリッド幾何学的にねじれ曲がった三本のラインが入った不思議な不思議な金細工のブローチ。 前から欲しくてしょうがなかったのだけど、私のお小遣いでは買えないし、どうせお父さんもお母さんもあの店のものは買ってくれない。 大人たちはあの店に近寄ってはいけないなどと言っているのだから。 店番のおばあさんは何時も眠っているし、万引き自体はとても簡単だった。 やり方も他の子から教えてもらったのだ。 皆がやっている。私は悪くない。心のなかで何度も繰り返しながら私はブローチをポケットに入れた。 家に帰ると両親は居らず、妹が一人でテレビを見ていた。 私はこっそり自分の部屋に戻ってブローチを眺めた。 その時、背後からいきなり妹に声をかけられた。 どうやら私のブローチに興味を示したらしく、自分にも見せて欲しいのだという。 私は断った。これは私のものだ。私だけの宝物だ。私以外の誰にだってこれを持つ資格は無い。 どんなところにあったとしても私はこれを奪いとろうとしただろう。 妹は素直に私の言うことを聞かず、私の手からブローチを奪い取った。 私はそれを取り返そうと彼女と取っ組み合いの喧嘩をする。 そうしていると玄関のドアが開き、母が帰ってくる。 彼女はすぐにここまで来て、私と妹が喧嘩している姿を見る。 私は母に怒られることを覚悟した。 だが母のとった行動は意外なものだった。 彼女もそのブローチを見るなり取っ組み合いに参加し始めたのだ。 私の髪を引っ張り、妹の頬を引っかき、彼女もまたブローチを手に入れようと必死である。 やっぱりそうだ。これはそれ程に価値のあるものなのだ。 だったら絶対に渡すわけにはいかない。私も母を殴り、妹を蹴って自分だけブローチを手に入れようとする。 妹が母親の足を捕まえた。そしてその拍子に母はバランスを崩してタンスの角に頭をぶつける。 キヒィという悲鳴を上げて母は動かなくなってしまった。 私は怖くなって妹に向けてあんたが殺したんだあんたが殺したんだと連呼しながら掴みかかった。 半狂乱になった妹は筆箱から鉛筆を取り出して私の喉に突き刺す。 私は慌てて彼女の目を指で突き刺して彼女にブローチを目で見れないようにしてあげた。 こうすれば手に入れた所で意味は無い。いい気味だ。 笑おうとした所で呼吸が上手くできなくなって、私と妹はその場に倒れてしまった。 ……それからどれほどの時が過ぎただろう。私は何故か意識を失わずにその場に倒れている。 家のドアが開く音。多分お父さんが帰ってきたのだ。何故か私の部屋に足音が一直線に向かってくる。 娘の部屋に勝手に入る気なのだろうか? だとしたら最悪だ。私の部屋の前で足音は止まり、扉は開く。 其処に居たのは見たこともないような色彩のボロ布を纏ったみすぼらしい老人だった。 ガイ・フォークス・デイのマスクをしているのでそれが本当に老人かどうかすら解らない。そんな雰囲気がしただけだ。 老人は私の目を取り出して妹の潰れた眼窩にはめ込んだ。 何故それが解ったのかというと老人は一個ずつ目を取り出してはめ込んだからだ。 痛みは無い。でも今にも気が狂いそうなほど怖い。それを声にすることはできないけど。 老人は次に私の頭を切り開いて、私の脳みそを取り出した。彼は母の頭も同じように切り開いてから私の脳をその中に入れた。 何故それが解ったのかというと今度は私の視界が母親のものになったからだ。 そして老人は何も言わずに部屋から出て行き、後には私の死体だけが残った。
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―――2011年 12月30日――― 「……ではやっぱり……」 『ああ……宝富ーを始め、めぼしいプラモデル・玩具専門店の本店を探ってみたが……そのような商品を販売した形跡は一切なかった』 「そうですか…………有間、君」 『……本来こういった件は、「R-No.」戦闘班の中でも「物品」に所属する者が担当すべきだが……』 「……いえ、この件は……この件だけは、私に……!」 『わかっている。この一ヶ月で、君も「殺人鬼」もかなり経験を積み、成長した。万が一彼と戦闘になっても遅れは取るまい。 だが君が、知り合いだという事で温情をかけようとしている可能性も否めないのだ……少なくとも、上層部から見れば、な』 「ありがとうございます、大尉……大丈夫です。今までの仕事と何ら変わりません。「組織」の傘下に入るよう説得をして、せめて協力関係にまでは持っていく。仮に力に溺れている、または都市伝説に支配されている場合は契約を切らせ……記憶を、消す」 『そうだ。良い連絡を期待している』ブツッ……ツー、ツー、ツー…… 「ふん、やはりあの男も契約者だったか。だからあの時忠告したはずだが……」チラッ 「………で………」 「……こんな大規模な都市伝説、いつ過激派に見つかってもおかしくなかった。私たち穏健派で対処できればいいのだが……」チラチラッ 「……んで……なんで、貴方なん……ですか…………ぅぁぁぁぁぁぁぁ…………!」 「紫亜をここまで悲しませるとは…………うむ、喉笛を引き裂く程度で済ませておいてやろう!」 ※この物語は、平穏とライガーたちを愛する一人の契約者の日常的な非日常を描いたものです。過度な期待はしないでください。 ※後、時間軸の関係でまだ2011年を抜け出せていません。 予めご了承ください。 では、【未発売キットを製作すると発売決定する都市伝説】をお送りいたします。 「……くぅ、すぅ……むにゃ……ありま、くん……えへへ」 「……という訳だ。わかったら早く貴様の都市伝説を呼び出せ、そして紫亜に土下座して詫びろ」 「……ああ、よくわかったぜ。お前がいるべき場所は紫亜の隣じゃなくて病院だって事がな」 「今なんと言った貴様あああああああああああ!私の話をちゃんと理解していたのか!?」 「やかましい、お前こそ今何時か理解してんのか!?そもそもそんなふざけた話信じられるわけないだろ、ボケ!」 「よーしよく言った今ここで死ねっ!」 「上等だ、かかってこ…………」 瞬間、背筋に悪寒が走った。ヤバイと思う間もなく、その場から飛び退く。 さっきまで俺が座っていた場所に……拳ほどの大きさの石が降ってきた。 『私の能力も紫亜が広げてくれたようなものでな、相手の視覚外に物体を―――』 「…………マジ!?え、じゃあ本当にあんた、紫亜の彼氏とかじゃなく…………!」 「いずれそうなる予定だ!だが今日くたばる貴様には関係ない、紫亜を泣かせる奴は何人たりとも生かしてはおかんわああああああああ!!」 紫亜の彼氏、いや都市伝説【ベッドの下の殺人鬼】が吼えるとほぼ同時に、俺はフル装備のまま外へと飛び出していた。 そのまま走って逃げる俺を、【殺人鬼】と石礫が追いかけてくる…………ああもう、どうしてこうなった! 今からおよそ30分程前、正確にはAM6 00頃。 新しい朝の習慣となりつつあるホッピングバトルの為、何時ものようにフル装備を着込んでいると ピンポーンとチャイムが鳴った。 「ん、誰だこんな時間に……はーい、どちら様ー?」←インターフォン 『あの、有間君……古田です。……ちょっと、上がらせてもらってもいいですか……』 「何だ紫亜か。どうした、こんな朝早くに。また未知の物質でも生成したか?」 紫亜は料理が苦手だ。初めて紫亜の家へ遊びに行った時、窓から立ち込める紫色の煙には驚いたものだ。以来、たまに俺が料理を作りに彼女の家へ行く事になったのだが、未だに何を混ぜたらカレーライスからあんな色の煙が出るのか想像もつかない。最近は得体のしれない物体を作り次第、俺に相談するようになったが……油断すれば「ダークマター」の悲劇再びである。 ちなみに俺が来るまでは、料理を失敗した時はうまい棒等の駄菓子で腹を埋めてたらしい。 こいつ、よく今まで生きてたな。 が、そんな俺の予想とは裏腹に…………いつになく真剣な声で、紫亜は続けた。 「大事な話、なんです……有間君にとっても、私たちにとっても……」 「……そっか。まってろ、今チェーン外すから」 さすがにそこまで言われては、「だが断る」と締め出すわけにもいかない。 俺は玄関の鍵を開け、紫亜を中へと入れた……のだが。 「さて貴様、何故我々が来たかはもうわかるだろう。「組織」に従うか記憶を消されるか、どちらか選べ」 「……誰?てか、何言ってんのこの人?」 「さ、殺人鬼さん……!どうして、何でここにいるんですか!?」 「紫亜を一人きりで男の所へ行かせる訳がないだろう、死角に『飛び』ながら後を付けさせてもらった」 「あー、この人が例の彼氏か……初めまして、友人の有間出井といいます」 「か、彼氏!?何でそんな発想に行くんですか有間君ー!」 紫亜、まさかの彼氏同伴。あれか、「今日から結婚を前提にお付き合いします」とかわざわざ宣言しにきたのか? もしそうだとしたら流石に容赦しないぞ。お前らのガンプラ一つ一つにガイロス帝国のマークを彫り込んでくれる。 そんなわけで取り敢えず話を二人から聞いてみたんだが…………正直、交際宣言の方がマシだった。 途中から流しながら聞いてたので、主な内容を確認してみよう。 ①目の前の青年は、一ヶ月ほど前に紫亜と契約した都市伝説【ベッドの下の殺人鬼】だ。 ②彼と紫亜は都市伝説とその契約者を管理(?)する「組織」に所属している。傘下に入るか、契約を破棄して記憶をすべて消されるか選べ。 (ここで紫亜が泣き出してしまい、慰めているうちに寝てしまった。今は完全に熟睡している) ③俺は日本全国に影響を与えるほどの都市伝説と契約したはずだ。今すぐ本性を表し、紫亜に土下座して詫びろ。 ④なお、契約理由は彼女に惚れたため。紫亜可愛いよ紫亜(略 どう考えてもおかしい人です、本当にありがとうございました。 しかもこの男、紫亜への執着だけは本物だ。④だけで20分近くしゃべってたし。危ない。色んな意味で危なすぎる。 紫亜は今でこそ明るくなったが、未だに昔の事を引きずっているのか他人には強く出られない場面をよく見かける。 恐らく彼氏の妄想に付き合いきれず俺に助けを求めたんだろうが、泣き出すまでとは……余程、堪えてきたんだろうか。 「くぅ……すぅ……」 寝ている紫亜を横目で見ながら、「ごめん」と小さく謝る。 「(一ヶ月も……紫亜がこんな事になっているのに気付かなかった……何が友達だ、俺の大馬鹿野郎!)」 恋愛は人の自由とは言うが、流石に紫亜をこんな男の毒牙にかけるのは納得できない。というより、俺自身が嫌だ。 隙あらば何時でも通報できるよう、俺はケータイに110をセットしてチャンスを伺っていた――― 「それが何で寒空の下、殺人鬼と命懸けの鬼ごっこやってんだよー!」 「待たんかあああああああああああああああああ!!」 拝啓、まだ見ぬ機獣達よ。俺、今日死ぬかもしれません。 (後半へ続く) 前ページ次ページ連載 - 俺とプラモと都市伝説
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噂をすれば 噂をすれば-都市伝説設定 『噂をすれば影』 服部琴葉が契約している都市伝説。 噂話をしたものを近くに転移させることが出来る。 噂話をするものは、自分と、噂話をする相手の両方が知っている必要がある。 『カメラに撮られると魂が抜ける』 長谷部映の契約している都市伝説。 カメラに撮ったものの魂を抜いて写真に閉じ込める。 全身がはっきり写っているものでないといけない。ピンボケ、ブレ、小さすぎると魂が抜けない。 写真を破ったり鋏で切ったりすると魂は消滅する。 抜けた魂は肉体の近くに写真を置いておけば元に戻る。 撮った写真をph○toshopで編集することにより、肉体や都市伝説の改造が可能。 ムービーモードで撮ると、意識を残したまま魂を閉じ込められる。そのまま合成も可能。 『エロ本にバターを塗ると黒塗りが透ける』 その4から足助透が契約した都市伝説。 壁などにバターを塗ると向こう側が見える。 向こう側からこちらは見えない。 塗ったバターは見えないが、べたべたする。 『関西人の体の半分は小麦粉で出来ている』 小長谷務義の契約している都市伝説。 体の成分が小麦粉になり、出血などを抑えられる。 怪我をしたとき、小麦粉を摂取することで回復する。 体の半分位までなら失ってもすぐには死なない。 『ペンローズの三角形 』 数学者ペンローズの考案した不可能図形。 蘇賀芳江の契約している都市伝説。 視界内で、主観的に起こりそうに見えることを実現する。 書き手含めみんな良く分かってない能力。 たとえばPSPの「無限回廊」のゲームのようなことが起こる。 片目をふさぐことで、遠近感の無視も可能 『嘘つきは泥棒の始まり』 臼緒雄介の契約している都市伝説。 嘘をついて、相手がそれを信じたとき、相手のものを盗む。 ページ最上部へ
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【???サイド】 「ほほぅ、これはこれは……路地裏のお嬢さーん、こんばんはー」 …………隊長……皆……置いていかないで………… 「うわぁお、見事に目が死んでらぁ……何が貴方の身に起きたか、にはぜーんぜん興味ありませんが……」 …………みん、な…………殺す……駄目……約束……でも…… 「その恐怖、その嘆き、その絶望、何より矛盾したその覚悟!他の心無い『私達』はともかく、慈悲深い『私』のハートにピン、ときました!」 …………ぇ…………だ、れ…………? 「というかー、私もこのままじゃ朝日と共に消し飛んじゃう運命ですし……そこの包帯さーん!貴方今『死にたい』ですかー?」 ……………………死にたく、ない…………………… 「って事は『生きたい』という事ですよね?よし来た交渉成立、これからよろしくお願いしまーす!じゃあまずは―――」 ―――その身体、ちょーっと借りさせて下さいな♪ ※この物語は、平穏とライガーたちを愛する一人の契約者の日常的な非日常を描いたものです。過度な期待はしないでください。 ※二週間ぶりの本編ですので、一部キャラ崩壊を起こす危険性があります。 では、【未発売キットを製作すると発売決定する都市伝説】第五話をお送りいたします。 【出井サイド】 ―――都市伝説同士は惹かれあう。以前紫亜から聞いた言葉だ。 その時は『どこの幽波紋だ』とあまり気に止めてなかったが、今なら何となくわかる。 強い磁力が周りの鉄を引き寄せるように、都市伝説と関わった者もまた……厄介事を引き寄せてしまうんだろう。 「……くぅ……」 「今まさに、我が家の玄関で熟睡してるこの包帯女みたいにな……はぁ」 2012年1月2日。 新年初の婆さんとのバトルを終え帰宅した俺を待っていたのは、玄関先で眠る一人の少女だった。 背中の日本刀。左手以外ほぼ全身を白い包帯で包まれたその姿(何故か左手部分の包帯は真っ黒だったが)。 もうこの時点で普通じゃないのに、輪をかけてヤバイのがその格好……あちこち見える肌の色からすると……間違いない。 この娘、全裸に直接包帯巻いてやがる。おかげで見事なボンキュッボンが丸分かりだ。 「……あれ?そういえばこんな都市伝説、紫亜から聞いてたような……」 「んうぅ……」ゴロン 「わ、馬鹿、寝返りをうつな!見える、色々と見えるから!」 不味い、こんな所を人様に見られでもしたら……俺の社会的立場は一瞬で地に落ちてしまう! 「しょうがない、連絡も兼ねて部屋まで連れていくか……どっこいしょ」 「ムニャ……すぴー……」ムニュ 「…………………………」 どこが、とはあえて言わないが。色々と柔らかかったです。 とりあえずベッドに寝かせ、紫亜に連絡しようと携帯を手にとった時。 「……うー……」 「お、起きた。……何かまだ寝ぼけてるっぽいけど」 ゆらゆらと揺れていたその目が、俺の方を向いてピタリと止まる。 次の瞬間、突然ビクッとなって後ずさる彼女。思わずこっちもビクッとなった。 まあ、寝てる間に知らない部屋の中で知らない人間と出逢えば、そりゃ驚くか。 「落ち着け、怪しい者じゃない……というか、まずお前が怪しい。お前は誰だ?」 すると謎の都市伝説(仮)は右手でこちらを指さして、 「………トンカラ、レン……と、言え………」 「トンカラレン?……とんから、れん……名前か?」 名前があるって事は、都市伝説じゃなくて人間か?取り出した携帯を充電器に繋ぎ直す。 そして俺の中で彼女の位置づけが、謎の都市伝説(仮)から謎の包帯痴女(仮)にランクダウンした。 「何で家の玄関で寝てた?どこから来た?」 「……わかんない……何も、わかんない……」 ……?どうも要領を得ない。 「言えない」ならともかく、「わからない」とは……まさか。 「君の名前、『とんから れん』でいいんだよな?」 「……とんから、れん……?とんから、てん……とんから、りん……?」 「……もしかして、思い出せないのか?」 「とんから……とん、から……誰?私、誰……?」 頭を抑えながら、苦しそうにしている包帯痴女。どうやら記憶喪失とかいう奴らしい。 取り敢えず『とんから』と言うのが名字で間違いないと思う(『遁殻』かな?)。 それで次に、名前以外に思い出せるものはないか聞いてみたんだが……。 「私……私……!?あ、あぁ、あぁぁぁぁ……!?」 「おい、急にどうし―――」 『おお、目覚めたか若き同士よ!』 『偉いぞ、だいぶ字も覚えてきたな。覚えるのが早くて、私も教えがいがある』 『何と……天より与えられし武勇とは、この事か……若き同士よ、お前の優勝だ!』 『我々はトンカラ※※!殺人衝動を克服した、正義の集団トンカラ※※だ!』 『人と都市伝説……いつかきっと手を取り会える日が来るはずだ。私はそう信じている』 『……いい、か……誰も、恨む……な……』 「ぅぁぁ……うぁぁぁぁぁぁぁ……隊長……たい、ちょう…………!」ポロポロ 「た、隊長?というかまず落ち着け、一体何を思い出したんだ!?」 彼女が落ち着くまで数十分近くかかった。今は泣くだけ泣いた後、疲れてまた眠ってしまったようだが。 しかし、途切れ気味の話の中で聞こえた単語を元に状況を整理すると、彼女は何らかの都市伝説らしい。 そして…………。 「……彼女の家族を「組織」が皆殺し……!?どういう事だ、紫亜から聞いた話と全然違うぞ」 紫亜の話が本当なら、あいつの所属するR-No.とやらはいわゆる穏健派に位置するらしいし――――――穏健派? そうか!わざわざ『穏健派』などという言い方をするという事は……「組織」内に複数の派閥が存在している、という事か! 仮にそいつらを『過激派』とすると、同じ「組織」の仲間をあっさり殺すのも理解できる……無論、納得はしかねるが。 「要するに違う派閥の奴らは味方ですら無い、か……胸糞悪い」 「組織」も一枚岩じゃないんだな。横目で眠っている包帯少女を見ながら、そんな事を思った。 時折また「隊長、隊長」と呟くような寝言が聞こえる。彼女の中でこの隊長という人物は、相当大きな存在だったのだろう。 何でも身寄りのない彼女を引き取り、家族と共に人と都市伝説の共存を考えていたらしい。 そんな人や自分の家族をこの子は一晩で、それも彼女自身の目の前で奪われたんだ…………どれだけのショックだっただろうか。 自分の名前を忘れてしまうほど…………。 「…………」ソッ 「……ぁ……えへへ……」ナデナデ 傍へ近寄って頭を撫でてやると、悲しげな寝顔が少しずつ和らいでいくのがわかる。今の俺にはこんな事ぐらいしかできないけど。 でも、せめて…………。 「せめて……夢の中だけでも、幸せに……」 「ムニャ……たいちょう……だい、すき……」 日が完全に登りきるまで、俺は彼女の頭を撫で続けていたのだった。 自分の腹の音でハッと目が覚めた。どうやら撫でているうちに、自分もベッドに突っ伏して寝てしまっていたようだ。 というか、ベッドの中にあの包帯少女がいない!? 「一体どこへ……?これは?」 枕の上に置いてあったのは、ノートの切れ端を使った書き置きだった。 〔助けてくれてありがとう。でも私といると、あなたも危険。思い出せないけど、危険〕 「だから、迷惑かけないように出ていったって?……ふざけんな!」 あの話が本当なら、彼女は今も『過激派』の連中に追われてる事になるじゃないか! いや、それ以前にあんな格好で街を歩いてたら、間違いなく人の目に留まる! 警察などに補導されたら、もう手の出しようが―――そうだ! 「―――紫亜の所属は『穏健派』!『過激派』に襲われてる都市伝説の少女がいると分かれば、手を貸してくれるかもしれない!」 すぐさま俺は、登録してあった紫亜の番号へ電話をかけた。 『……はい、紫亜です。どうしました、有間君?』 「紫亜、悪いんだがすぐ『穏健派』の人達と連絡が取れないか?悪い奴らに終われてる都市伝説の子が……!」 『お、落ち着いてください有間君!えっと……まず、その子の特徴は?』 「ああ、そうか……えっと、追われているのは女の子だ」 『はい』 「まず、日本刀を背負っていてな」 『…はい』 「全身が白い包帯で包まれてて」 『…はい…?』 「あ、そうそう『とんから』って名字らしい」 『トンカラ………えぇぇぇぇぇぇ!?』 途中、紫亜がパニックに成りかけたものの、何とか『穏健派』の上司達に連絡を取ってくれるよう頼む事が出来た。 しかしまさか【トンカラトン】という名前だったとは……見つけたら、教えてあげなきゃな。 「ありがとう紫亜、恩に切る!俺の方でも探してみるから!」 『あ、待ってください!もしその話が本当なら、《ο-No.》が動いてます!今の有間君じゃ』ピッ 紫亜の言葉を最後まで聞かず、俺は通話を終わらせる。 そして着たままだったフル装備状態で、家を飛び出した。 (後半へ続く) 前ページ連載 - 俺とプラモと都市伝説
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とっぷり静かに夜がふける さぁさ、都市伝説の時間の始まりだよ さぁさ、みんな出ておいで 楽しい楽しい時間だよ 知ってるかい? 人々が噂すれば、都市伝説は生まれてくる たとえ、その始まりが作り話であろうとも たとえ、その始まりがささやかな嘘であろうとも たとえ、その始まりがただの勘違いであろうとも それでも、都市伝説は生まれるのさ だって、みんなが噂するから だから、都市伝説は生まれるんだ それじゃあ、噂しなければいいって? 無理無理、そんなの無理なのさ だって、人々は噂せずにはいられない 誰かに話さずにはいられない …都市伝説には、そんな魔力があるんだよ? 「…赤マントがやられたそうで」 こちらの報告に、彼女はあら、と驚いたような声を出した が、すぐに笑って、作業を続ける 「相手はだぁれ?」 「『トイレの花子さん』。人間とは契約済です」 あらあら、と まるで、世間話でもしている主婦のように、彼女は笑っている 同士の死に悲しむ様子は微塵もない 「多分、現場は女子トイレでしょ?」 「はい」 「やっぱりね。可哀想な赤マント。相手と場所が悪かったわね」 くすくすくす 彼女は笑う、ころころ笑う 鏡に書いたそのメッセージに満足しつつ とても楽しそうに笑う 「仕方ないわよね。あの子は、私たちの中でも、一番の小者だったもの」 言いながら、彼女は服を着始める …にしても、彼女はどうして、作業をはじめる前に服を着ないのだろう 長年彼女と付き合ってきているが、それだけが謎だ 「……さて、と。行きましょうか」 「どちらまで?」 「あなたが、送ってくれるなら、どこでも」 くすくすくすくすくすくすくす どこか、狂気を感じさせる笑み だが、私はそれに恐怖は感じない 自分と彼女は同士である そして、彼女の能力は、発動条件があるから…彼女の誘惑に屈しない限り、私は彼女に頃される事はない そもそも、彼女の能力に殺傷能力があるのか、否か? …私には、その事実はわからないのだが 「地獄行きだったら、どうなさるおつもりで?」 「あら、それもいいわねぇ」 くすくす 笑うその笑顔は、妖艶で ぞくり、背筋を悪寒が走る …知っている この笑顔は、男を誘う笑顔だ 獲物を誘う笑顔だ だから この笑顔に惹かれては、いけないのだ 彼女とともにホテルを出る …彼女が、男と入ったその個室 そこの鏡に残したメッセージを見て、男はどう思うやら 真っ赤な唇で 『エイズの世界へようこそ!』 と、そう書かれた…そのメッセージに 自分が運転するタクシーお後部座席に座り、女はすやすや眠っている …さて、どうしようか 彼女の片割れの所にでも、送るとしようか できれば、彼女とはあまり関わりたくないのだ 同士ではあるのだが…時折、彼女の行動にはついていけなくなってしまう 「…はぁ」 運転しながら、小さく、小さくため息をつく …自分たちは都市伝説だ そして、自分も、彼女も、あまり人間に歓迎される都市伝説ではない たとえ、歓迎されない生まれ方をした都市伝説であっても、改心し、人間と友好関係を築こうとする者たちもいる …だが それでは駄目だ、と唱えるのが、自分たちだ 都市伝説は、都市伝説らしく振舞うべし 衝動を抑える必要などない だから、彼女は男を誘い一夜を共にし、あのメッセージを残す だから、自分は酔った客を乗せ…地獄へと送り届ける それが、自分たち 人間の噂話から生まれた都市伝説 これでいい 自分たちはその道を選んだのだから、後悔などない …だが、それでも 同士が、人間と契約した都市伝説に倒されるたびに 次は自分なのでは、と 恐怖に支配されてしまうのだった ほらほら、都市伝説の時間だよ? みんなどうしたの?出ておいでよ? ねぇねぇ、君はどうするの? 君はどんな都市伝説? 人を助ける? 人を襲う それとも、人間なんかに関わらない? どんな生まれであろうとも 後の行動を決めるは君次第 後悔しなけりゃ、どうでもいいのさ …たとえ、それによって 誰かの命を奪おうとも 誰かに命を奪われようとも 結局は、自分が選んだ結末なんだから、さ fin 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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すぐ近くのスピーカーから流れる無粋な機内放送で私は微睡みから急速に引き戻された 僅かな苛立ちと共に窓の外を眺めればそこには故郷の青くて虚ろな空がある 機内アナウンスは大雪の為の遅延を詫びていたが長旅で鈍化した私の思考にはそれらの遅れが些事にしか感じられなかったのだ そうして私は窓の外を行き過ぎるいくつもの雲の欠片を飽きることなく眺めていた さて、着陸待機の為に幾度空港の上を旋回したのだろうか 私以外の乗客は口々に文句を言っている しかしそれもまた今の私にはどうでもいいことだ 何故なら私は今まで見た夢のことで頭が一杯だったからだ 私は夢の中で少年に戻ってた まだ若くて美しかった母が居た。そして事故で亡くなった筈の弟が居た。私たちは皆、雲の上にあるラピュタという名前の国で幸せに暮らしていた そしてその国の王は父で、私と弟は父を崇める歌を母から習っていた その歌を歌いながら私は弟と遊んだ 時には月の裏側やアマゾンの森の最奥にある台地なんかに行って些細な冒険を楽しんだりもした そこに行くまでには白いカヌーを二人で漕いで空を飛ぶのだ このカヌーは城に住む魔術師の老人が整備をしてくれた この老人に習った魔術が私たちの旅を幾度も助けてくれたのを覚えている 懐かしい気持ちが私の身体の中に満ち溢れていた 私は人目も憚らずに夢で聞いた歌を歌い出す すぐにCAが駆けつけてくるが私は構わずに歌い続ける 次に男性が私の歌を止めようとしたが、既に私の喉は私のものではなくなっていた 皆が頭を抑えて苦しみ始める こんなに素敵な旋律なのに皆は何故泣き叫ぶのだろう ついに乗客の一人が私を絞め殺そうとしたその時、機内に悲鳴が木霊した 私は首を絞められながらも視界の隅に映った窓の外の光景を見て驚いた 巨人が飛行機の隣を飛んでいた 蒼く燃え盛るだけで実体の無い頭部、無数の木の枝を束ねて作った身体、異常にひょろ長い手足 青い光を身体中の隙間から発するそれは間違いなく夢に見た私の父だったのだ 私は彼に向けて手を伸ばし笑う 彼もこちらに手を伸ばして微笑む 飛行機の壁は容易く砕けて沢山の人々が空中に投げ出されていく どこからか聞こえる父を讃える為の大合唱の中、顔をひきつらせた沢山のなにも知らない愚者達が大地へと還っていく しかし私一人だけは全ての美しいものが存在する場所へと行くのだ そう、ラピュタへ
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7月18日 羽田から千歳まで飛行機で戻る。 私は師であった教授の遺品の中に有ったとある書物を頂いた。 彼は生前、文化人類学の研究者として名を馳せていたのだがとある南方の島に行って以来様子がおかしくなり、そのまま山奥に隠棲して生涯を終えている。 愛弟子である私にすら何が有ったかを明かさなかった。 彼の遺した本とフィールドワークのメモを解き明かすことでもしかしたら彼が何を発見したのかがわかるかも知れない。 この日記を書いている時点で飛行機の機材の到着が遅れたというアナウンスが入った。 やれやれ、異常気象に合わせてこれでは北海道に帰るのが遅れそうだ。 7月19日 見てはいけないものを見てしまった。 私は一刻も早くここから離れなくてはいけない。 教授の研究を狙う者がこんなに居るだなんて私は思わなかったのだ。 どうやら家には帰れそうにない。 私を狙う者は既に家にも手を回しているだろう。 留守電には出てくれなかったが私の愛する妻と二人の娘が無事であることを願うばかりだ。 7月20日 私は今ホテルの一室でこの日記を書いている。 ここならばしばらくは追手もかからないだろう。 教授のメモの内容の要約については後の方に纏めて書いた。 信じられないことだが、教授の本に載っていた魔術は本物だ。 解読する中で私もまた使い方を理解してしまった。 それにしても雪が酷い。 ホテルは停電してしまったそうだ。 今は自家発電装置で賄っているが……いつ駄目になることやら。 先程から窓の外で何かが歩いているような気がする。 巨人? いいやまさか……。 やけに外が明るいおかげで日記を書けて幸運だったと思っておこう。 念の為に後で確認してみよう。 追記→巨人は居た。どうやら私は本当にわけの分からない世界に居るらしい 7月21日 私の携帯に妻の弟から連絡が入った。 どうやら私の妻と子が奴らの手にかかったらしい。 そうなるとこの状況で生きている彼ももはや信用ならない。 私は携帯を捨てた。 教授は、何を研究していたのだ。 彼が自らの書物にまとめていたのは見るも悍ましい黒魔術の数々だった。 呪殺、召喚、異形との混血、普段の私であればそれはくだらないオカルトだと一笑に付しただろう。 だが今私が置かれているこの異常な状況からすればそれらはまだ正気にも思える。 毒が恐ろしくて食事は缶詰ばかりになってしまった。 私はおそらくもうすぐ死ぬ。 だが真実を、この真実だけは確かめなくてはいけない。 それが私にできる最後の…… 7月22日 新聞を見ると妻の弟の家が出ていた。 強盗が入ってきて彼らを皆殺しにしたらしい。 するとあの時既に彼は死んでいた……? やはりあの電話の指示に従わなくてよかった。 もしかしたら私の妻と娘も生きているかもしれない。 今はそれだけが希望だ。 教授の遺したこのメモが正しいのならば私があの場所に行きさえすれば…… 7月23日 ついに私は私の故郷についた。 故郷の人々は私を変わらず受け入れてくれる。 あの玩具屋の主人も年齢を感じさせない若々しさで私に挨拶までしてくれた。 この不況でもなくならない玩具屋とは大したものだ。 ……少しメランコリアにとらわれてしまった。 今の私にはやらなくてはいけないことがあるのだった。 私が、私が世界を救わなくてはいけないのだ。 もしこの日記を見ている人が居るならばそれは恐らく私が失敗したということである。 願わくば私の、教授の遺志を継いで頂きたい。 君の力になる全てはこの日記の裏に記してある。 敵の名前は“ようぐそとほうふ”だ。 私は明日、この本に記された聖地、月山(ツクヤマ)へと行く。 君の健闘を祈る。 ※ ※ ※ 「――――良い夢は見れたかな?」 私の故郷には月山という霊峰が有る。 私の身の回りで続く異常事態を止め、異形の招来を邪魔するにはそれしか無いのだ。 山道をひた走る私の前に真紅の外套を纏った青年が立っていた。 「そこをどけ、今の私にはやらねばならぬことが有る」 「どかないと言ったら? 財団の奴らを殺したみたいに俺も殺すのか? その本から勉強した魔術ってやつで? 面白いねえ見てみたいねえ!」 青年は青い石のペンダントを指でいじりながら挑発的な笑みを浮かべる。 「退かないならば……」 私の頭にビリビリと電撃が走る。 激痛、嘔吐感、めまい、その他あらゆる不快感が腹の底からこみ上げる。 教授の遺したメモに有った呪文を唱えると私の前に壁が現れて、そのまま壁が青年へと向かう。 「温いな」 青年は腰から紫と金で彫刻された艶やかな短刀を取り出し、壁に向けて斬りかかる。 ガラスの割れるような音と共に私の呼び出した壁は砕け散る。 馬鹿な、ありえない。これは、これはあの青い炎の巨人すら退けた…… 青年は流れるような動作で銃を抜き取り、私に向けて五発ほど撃ちこむ。 だがそれは無駄だ。私とて防護策は怠って無い。 肉体を保護する呪文もまた教授のメモにある。 私が世界を救う、救わねばならぬのだ。 どんな強敵が現れようともここで倒れる訳にはいかない。 私こそが今、英雄なのだから。 弾丸は私の身体に当たるが弾かれて何処かへ消える。 「良いことを教えてやるよ あんたの手に入れた魔術書の名前は“緑の本” 効果は妄想の実現及び外なる神との一時的な契約 あんたが一生懸命学んだつもりの魔術は神の気まぐれで あんたの繰り返してきた戦いとやらはあんた自身の内に秘めていた妄想さ」 「ふん、馬鹿なことを言うな!」 用意していた火炎瓶を投げつける。 破壊した所で仕込んだ薬液が青年を焼く二段構えだ。 これならば刀で切られた所で…… 「馬鹿はあんただ」 青年は手をギュッと握る。 すると瓶がその場で何かに押しつぶされたように圧縮されて小さくなり、消えてしまう。 「その本は見る者によって内容を様々に変える だがそれは絶対に作者の願望を映し出し、それを作者に実現させる あんたは家族を奪われた悲劇の戦士にでもなりたかったのかい? まったく幾つだよ あんたはこんなもの手に入れた時点でまず真っ先に家族の元へと帰るべきだったんだ 本当に本当に馬鹿にしてるぜ」 青年は懐から再び拳銃を取り出して、今度は私の持っていた本を狙う。 私は反応できない。だが何故本を? 本の内容なら既に私の頭の中に入って…… 本は突如輝きだして銃弾を弾いた。 当たり前だ。今度の追手はこんなことも知らないのか。 「その本が映し出す内容は千差万別 しかし共通点はもう一つ有る これはあんたの願いとは無関係だ それはね、その願望の終着点として……ヨグ=ソトースを呼び出すのさ」 「ヨグ……? 貴様何故その名前を!」 青年の銃口が私の額を狙う。 『お前が封じようとしていたモノをお前自身が呼び出す そしてそれを嘲笑する そのためだけに作られた悪趣味な魔導書なのさそれは』 青年の言葉が何故だか私の耳に張り付く。 嘘とも思えない、わけの分からない説得力がその言葉には有った。 「私は……私は信じないぞおおおおおおおおおおおおお!」 私は全ての力を込めて再び呪文を唱えた。 視界が白く霞み、私の意識は途絶えた。 ※ ※ ※ 「う……あ……」 「残念だったな、俺のほうが十秒ほど起き上がるのが早かった」 青年は私を見下ろしている。 どうやら相打ちになったものの彼のほうが先に目を覚ましたらしい。 「安心しろ、魔術書の担い手たるお前が死ねば、お前の妄想が起こした全てのことは無かったことになる」 信じられない。 私が、私の魔術書が……。 「お前は不運なことに通り魔に会って死んだ可哀想な只の人間として死ねる」 私の信じた物が……教授の遺志が……。 「教授は気づいていたんだよ 一度読んだらもうアウトだって だから山奥に籠もってたんだよ あんたもどうしても平和に生きたければそうするしかなかった 俺が来た時もあの人喜んでたぜ、やっと死ねるってさ」 「お、お前が教授を……」 「ああ、悪いか? あんたも同じように只の人間として死ねる あんたの妻子も無事、親戚連中も無事 何もかもが平和 そして唯一欠けてしまったあんたを皆が悼む まあマシだぜえ死に方としてはさ」 青年は私から奪い取った本をライターで燃やす。 本を奪い返そうと伸ばした手は青年の足に踏み潰された。 本の最後の一片が燃え尽きて風に消えた時、私は私の心のなかから執着のようなものが消えていくのを感じた。 何故私は世界を救わなくてはいけないと思ってたのだ。 その為にとてつもなく大きな物を犠牲にしてしまった。 結局私はあの本にどうしようもなく魅せられていたのだろう。 もう取り返しはつかない、ならばせめて……。 「……私が死ねば、妻子は助かるのか?」 「ああ」 「……せめて、楽に頼む」 青年は深くため息をついて俯く。 「くふっ……」 突然青年が笑い出す。 何を考えている……? 「ははっ!」 「な、なんだ!?」 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあああああっはははっっはっはっはっはっは! ふへえはあああははははははっはあ! あんたも馬鹿だなあ本当に馬鹿だ!救いようがなく愚かで本当に楽しい奴だなあ! 呪いが解けた? 妻子は助かるのか? あんたの見る夢はあんたが目覚めるしか無いし、一度消えた命は二度と帰らねえよ! そうじゃなきゃこの世に生きる意味すらねえや! お前一人のせいで皆死んだ! バカみてえに死んだ! 本当に笑えたよ! いいコメディだった最高だった感動した! 本当になんでこんな簡単に俺の言うこと信じちゃうんだよ馬鹿だなあ馬鹿だねえこれだから人間ってのはやめられねえなああああああああひひひひひひっひっひっひぃ……ひうぃ……」 青年は悪魔的な笑顔を浮かべて私を嘲り笑う。 「お、お前は……」 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 「そうさ、これが現実だ!」 私の首に短刀が振り下ろされた。 この鮮やかに乱れ飛ぶ鮮血は……ああ、これは、これは本当だ。
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都市伝説能力集 これはお遊びとして行ったものであり、本編での強さとは関係ありません。 テンプレ用 本スレ投下にもどうぞ。 破壊力 - 持続力 - スピード - 精密動作性 - 射程距離 - 成長性 - 契約コスト - A:超スゴイ B:スゴイ C:人間と同じ D:ニガテ E:超ニガテ 契約コスト A よほど器が小さくない限り、多重契約も問題なし。ほぼノーコス B ほとんどの多重契約に問題なし。 C 単独契約ならなんら問題は無いレベル。複数契約に組み込むと危険 D 器の大きさによっては単独契約でも少々危険なレベル。 E 心の器をかなり食う、コストパフォーマンス最悪レベル。 契約した瞬間に人外の扉を開くことになる、単独でも契約者が危険なほどの負担をかける 上記の一覧を参考に、それぞれの欄にA~Eのいずれかに当てはまるものを埋めていく。 基本的にトータルの能力値が低いものほど契約コストは低く、逆にトータルの能力値が高い場合などは契約コストは高い傾向となる。 詳しくは回答欄を参考の事。 これまでの回答者 合わせ鏡の悪魔/本体:アクマ/合わせ鏡のアクマ 破壊力 A 持続力 B スピード C 精密動作性 D 射程距離 B 成長性 D 契約コスト C 合わせ鏡の中に自分の死に顔が見える/本体:三面鏡の少女/三面鏡の少女 破壊力 - 持続力 E スピード A 精密動作性 E 射程距離 E 成長性 C 契約コスト A ※直接的な破壊力は一切無し 磯良/本体:女性/恐怖のサンタ 破壊力 A 持続力 C スピード B 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 C 契約コスト D ※破壊力は人体限定 一年生になったら/本体:子供/一年生になったら 破壊力 C 持続力 A スピード B 精密動作性 A 射程距離 C 成長性 E 契約コスト C 色々/本体:禿の黒服/はないちもんめ 破壊力 A 持続力 B スピード A 精密動作性 C 射程距離 A 成長性 B 契約コスト - ※金色モードなら破壊力・スピード・射程距離はA超えるかも 丑の刻参り/本体:俺/恵みと裁きの蜘蛛 破壊力 D 持続力 A スピード C 精密動作性 A 射程距離 B 成長性 C 契約コスト C エロい人は髪が伸びるのが早い/本体:黒服H/黒服Hと呪われた歌の契約者 破壊力 C 持続力 A スピード B 精密動作性 C 射程距離 B 成長性 C 契約コスト B ※黒服H個人の契約コストもB ※持続力は黒服Hの場合に限る(普通であればC~D) エンジェルさん/本体:情報屋/エンジェルさん 破壊力 E 持続力 C スピード D 精密動作性 B 射程距離 E 成長性 C 契約コスト B 置行堀/本体:老人/古きもの 破壊力 A 持続力 A スピード B 精密動作性 B 射程距離 C 成長性 E 契約コスト C 重いコンダラ/本体:少年/女装少年と愉快な都市伝説 破壊力 B 持続力 B スピード E 精密動作性 D 射程距離 C 成長性 B 契約コスト A 怪人アンサー/本体:情報屋/エンジェルさん 破壊力 B 持続力 C スピード D 精密動作性 B 射程距離 B 成長性 C 契約コスト B かごめかごめ/本体:青年/かごめかごめ 破壊力 C 持続力 A スピード C 精密動作性 B 射程距離 B 成長性 D 契約コスト - ※外であれば持続性・射程距離以外すべてC~D 必ず当たる占い師/本体:青年/占い師と少女 破壊力 C 持続力 B スピード A 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 E 契約コスト D ※物に「破壊される運命」を与える事が出来る為破壊力はあるが、人や動物には使用できない為C ※見るだけで能力の対象となり、またどんな精密な運命も与えられる為スピード、精密動作性、射程距離はA ※契約者を得る以外、既に能力的には極められている為、成長性はE ギザ十/本体:俺/ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 破壊力 E 持続力 B スピード E 精密動作性 E 射程距離 E 成長性 E 契約コスト A 九死に一生/本体:なし/正義の鉄槌 破壊力 E 持続力 E スピード B 精密動作性 A 射程距離 C 成長性 E 契約コスト C 恐怖のサンタ/本体:サンタ/恐怖のサンタ 破壊力 E 持続力 A スピード D 精密動作性 C 射程距離 E 成長性 E 契約コスト C ケサランパサラン/本体:Tさん/Tさん 破壊力 ? 持続力 A スピード C 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 D 契約コスト E ※Tさんとしての契約コストは「B」 原発周辺の巨大生物/本体:なし/正義の鉄槌 破壊力 A 持続力 A スピード A 精密動作性 B 射程距離 B 成長性 B 契約コスト D コーラを飲むと骨が溶ける/本体:ヤンデレ弟/ヤンデレ弟 破壊力 A 持続力 B スピード B 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 D 契約コスト C 結界都市『東京』/本体:なし/「結界都市『東京』」 破壊力 A 持続力 A スピード B 精密動作性 B 射程距離 B 成長性 E 契約コスト - 幸運の眉毛コアラ/本体:コアラショタ/『首塚』 破壊力 E 持続力 A スピード E 精密動作性 B 射程距離 A 成長性 ? 契約コスト A 座敷童/本体:妹ちゃん/合わせ鏡のアクマ 破壊力 D 持続力 A スピード C 精密動作性 A 射程距離 B 成長性 A 契約コスト C ジェットばあさん/本体:少年/女装少年と愉快な都市伝説 破壊力 B 持続力 B スピード A 精密動作性 C 射程距離 C 成長性 D 契約コスト C 時間掌握の逢魔ヶ時/本体:俺/恵みと裁きの蜘蛛 破壊力 D 持続力 C スピード B 精密動作性 B 射程距離 A 成長性 C 契約コスト B 地震発生装置/本体:少年/女装少年と愉快な都市伝説 破壊力 A 持続力 D スピード C 精密動作性 B 射程距離 D~A 成長性 E 契約コスト D 死人部隊/本体:中年/はないちもんめ 破壊力 A 持続力 A スピード B 精密動作性 D 射程距離 A 成長性 E 契約コスト C ジャック・ザ・リッパー/本体:なし/喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 破壊力 C 持続力 B スピード A 精密動作性 A 射程距離 B 成長性 E 契約コスト E スリーピー・ホロウ/本体:彼女(女子大生)/騎士と姫君 破壊力 A 持続力 B スピード C 精密動作性 B 射程距離 E 成長性 D 契約コスト D 隻腕のカシマ/本体:碓氷サチ/喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 破壊力 B 持続力 B スピード B 精密動作性 C 射程距離 C 成長性 C 契約コスト B ※特殊能力「四肢を奪う(切り落とす)場合のの破壊力は「A」 戦争状態の購買/本体:なし/占い師と少女 破壊力 E 持続力 B スピード A 精密動作性 A 射程距離 C 成長性 B 契約コスト C 大悪霊/本体:ご先祖様/ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 破壊力 A 持続力 A スピード A 精密動作性 D 射程距離 B 成長性 E 契約コスト E 滝夜叉/本体:コアラショタのパパ/蝦蟇と髑髏は黄金の夢を見るか? 破壊力 A 持続力 B スピード B 精密動作性 C 射程距離 B 成長性 E 契約コスト E 厨二病/本体:青年/わが町のハンバーグ 破壊力 A 持続力 C スピード B 精密動作性 D 射程距離 D 成長性 B 契約コスト - トイレの花子さん/本体:俺(少年)/花子さんと契約した男の話 破壊力 A 持続力 B スピード B 精密動作性 B 射程距離 B 成長性 C 契約コスト - (テリトリー内でのステータス) 人間の身体にはリミッターがかけられている/本体:無し/正義の鉄槌 破壊力 A 持続力 C スピード A 精密動作性 C 射程距離 D 成長性 B 契約コスト C ※最大1週間程度まで持続しますが、「代償」の関係であまり長時間は使用できません。 はないちもんめ/本体:少女/はないちもんめ 破壊力 ? 持続力 A スピード ? 精密動作性 A 射程距離 C 成長性 A 契約コスト B ※破壊力・スピードは操った対象次第 花子様/本体:花子様(主導権的な意味で)/トイレの花子様 破壊力 B 持続力 B スピード B 精密動作性 A 射程距離 B 成長性 A 契約コスト D ※漫画・アニメ技のパクリで結構変動アリ。 ※ヤンデレ気味なので浮気するとnice boat.あとMじゃないと多分無理。 ハーメルンの笛吹き/本体:上田明也/ハーメルンの笛吹き 破壊力 E 持続力 B スピード D 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 D 契約コスト E 白面金毛九尾の狐/本体:青年/はないちもんめ 破壊力 C~A 持続力 A スピード B 精密動作性 B 射程距離 C 成長性 E 契約コスト - ※変身能力により、ある程度変動する 火之迦具土神/本体:男神/正義の鉄槌 破壊力 A 持続力 B スピード B 精密動作性 B 射程距離 A 成長性 E 契約コスト E ブラックドッグ/本体:ザクロ/合わせ鏡のアクマ 破壊力 B 持続力 A スピード A 精密動作性 A 射程距離 B 成長性 C 契約コスト D ※射程距離は『火を吹く』能力を考慮の上 フロントガラスのハンバーグ/本体:青年/わが町のハンバーグ 破壊力 D 持続力 D スピード C 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 B 契約コスト B ポロリ温泉伝統製品初の支援型モルスァ試合専用ガン/本体:なし 破壊力 A 持続力 C スピード B 精密動作性 E 射程距離 E 成長性 D 契約コスト A ※銃を投げるだけなのでこれ以上の成長はほぼない マゾサンタ/本体:少女/恐怖のサンタ 破壊力 E 持続力 B スピード C 精密動作性 A 射程距離 C 成長性 A 契約コスト B 魔法の銃弾/本体:男/魔法の銃弾と狼少女 破壊力 A 持続力 B スピード A 精密動作性 A 射程距離 A 成長性 E 契約コスト B 村正・蜻蛉切/本体:上田明也/ハーメルンの笛吹き 破壊力 A 持続力 E スピード A 精密動作性 E 射程距離 E 成長性 E 契約コスト C 恵みと裁きの蜘蛛/本体:俺/恵みと裁きの蜘蛛 破壊力 ? 持続力 C スピード B 精密動作性 B 射程距離 A 成長性 C 契約コスト A ※破壊力は蜘蛛の糸の使い方による。 例えば、情報収集用なら伝達力はあるが直ぐに切れやすく、攻撃用ならコンクリート塊もゆで卵の様に輪切りに出来る。 夢の国の地下トンネル/本体:黒服D/とある組織の構成員の憂鬱 破壊力 E 持続力 C スピード C 精密動作性 D 射程距離 A 成長性 D 契約コスト B ※黒服D本体のコストはD リカちゃん人形/本体:同上/Tさん 破壊力 B 持続力 E スピード E 精密動作性 C 射程距離 B 成長性 ? 契約コスト B 輪廻転生/本体:マスター/喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 破壊力 C 持続力 C スピード C 精密動作性 C 射程距離 C 成長性 A 契約コスト B
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vs因縁の相手 ハロウィンから数日ほど経った、ある夜。 時刻は深夜。 普通ならばとっくに家に帰っているはずの時間に、こっちは西区のとある五階建ての廃ビルの中を歩いている。 ビルの中を吹き抜ける風がほっぺたをなぞっていき―――いつも感じているはずのそれに、なぜか酷く寒気を感じた。 四階へと上がり、真っ暗な中に一つだけ見える、ぼんやりとした灯りを目指す。 元々そんなになかった距離はすぐにゼロになり、こっちはそのまま、その部屋へと入っていく。 その、中には―――。 「―――おー、おー。後を追けてくる奴がいっからどんなのが来てンのかと思ってたら―――あんたみてェな、可愛い嬢ちゃんとはなァ?」 ―――見る者にまるで爬虫類のような印象を与えるその男は、そう言ってにやりと笑った。 ―――少し、時間は遡る。 この日も"身体が女の子になっている"というのを免罪符に街で遊び呆けていたこっちは、ちょうど家に帰る途中だった。 「学校行かないのは楽だけど、さすがにずっと行かないわけにはいかないよなあ………」 この前出会ったお婆ちゃんにもらった上着を、羽織りなおしながらぼやく。 いやまあ行きたくないわけじゃないんだけど、勉強が嫌だ。特に英語。 その点、街を歩いているのはいい。色々と面白いし。 そう思い、この一週間ほどの間にあったことを思い出す。 ―――うん。文句なしに楽しかった。 友人の家に泊まりにいったり、ゲーセンでガンアクション系のゲームを制覇したり。 あのもふもふもよかったなあ、と手をにぎにぎする。 お婆ちゃんに会ったときに一緒に会ったあのトト○的なもふもふ動物はとてもよかった。もふもふ大好き。可愛いは正義。 そんな緊張感の欠片もないことを思い―――ふと、右に顔を向けた。 ―――その行動に、特に意味はなかった。 なぜそうしたのかとそう訊かれたとしても、強いて言うならなんとなく……としか答えられない程度の、本当にただの気まぐれでの行動。 しかしその気まぐれは―――ある意味最高である意味最悪な、そんな光景を―――こっちに見せた。 向けた顔の先にあった小さな路地。 見えたのは、その路地を歩く一つの背中。 そしてその背中は、それが纏う雰囲気は、絶対に忘れることなんかできなくて―――。 「―――っ!!」 違う路地へと消えたその背中を、気づくとこっちは追っていた。 「―――で、だ。マジな話、あんた誰なンだよ? お前みてェなロリ爆乳、お知り合いになった覚えはねェンだが?」 目を細め、値踏みするようにこっちを観察する男。 「そんなステキ体型した奴、忘れるはずがねェし………いや、どっかで会ったよォな気がしねェでもねェなァ」 「…………半年くらい前、片田舎の廃工場の中。こっちはお前にボコボコにされて全治一ヶ月。ついでに高校も受けれなかった」 「あァ? やり合った奴は大概そのまま喰っちまうし、逃がすことなんて………いや、半年くらい前っつったな………まさかお前、あの時のガキかァ?」 目を見開き、興味深そうに訊いてくる。 ………憶えててくれた、か。 その事実に多少の安堵と苛立ちを感じつつ、答える。 「・・・そう。お前に挑んで無様に逃げ帰った、そのガキだよ」 「ほうほうほう。なんでメスになってやがンのかは置いとくとして、中々ステキなサービスじゃねェか」 なんたって、と男は言葉を切り、 「―――とびきりの肉を俺にプレゼントしてくれるってェ魂胆なンだろォ? オスよりメスの方が、大人よりもガキの方が美味いからなァ!」 クヒャハハハ! と男は笑い声をあげる。 自らと同じ"人間"を、本当にただの"食べ物"としか認識していない、その態度。それを見て、こっちは改めて覚悟を固める。 今この場で固めなければいけない、その覚悟を。 「……残念だけど、お前はこっちを喰えないよ」 「………ほォ?」 笑うのを止め、男はこっちに向き直った。 それを正面から睨み付け、言い放つ。 「なぜなら。こっちが死ぬときには―――もう、お前は死んでるから」 こっちのその言葉に、男は一瞬きょとん、とし、そして顔を伏せて―――。 「………く、くく。ヒヒ、ハハ、ヒャアッハハハハハッ! ククッ、ハハハハ・・・ッ」 ―――笑った。 さっきよりも楽しそうに、さっきよりも面白そうに、さっきよりも馬鹿らしそうに―――笑った。 「ククッ、ハハハッ………あンまり笑わせるンじゃねェよ! 前やり合った時、お前どンだけボコられたと思ってンだァ!? お前ごときが、この俺に勝てる筈がねェだろォがァ!」 そう言って、指をパチン、と鳴らす。 すると―――まるで闇から浮かび上がるように、人影が現れた。 それは、"自分"。 男の自分自身の姿が、今目の前にある。 「俺の能力はとっくに判ってンだろォ? だったら―――独りじゃあ絶対に勝てねェってコトくれェ、理解出来てンだろォが」 そう、顔を笑みに歪ませ言い捨てる男を守るかのように、"自分"が前に出た。 "それ"の名前は、《ドッペルゲンガー》。 この男が契約している、都市伝説の一つだ。 「……《ドッペルゲンガー》に出会った奴は死ぬ。故に、《ドッペルゲンガー》とその本人がやり合ったら、本人が必ず負ける。たとえどんなことが起ころォが、たとえどんな策を弄しよォが―――無様に負けて、殺される。それでもお前は、俺を殺せるってェのかァ?」 にたにたと。 答えがわかっているかのようににやつきながら、男はこっちに尋ねてくる。 …………それだけじゃあ、ない。 《ドッペルゲンガー》は確かにとんでもなく厄介だが、あいつの恐ろしいのはそこだけじゃない。 以前戦ったときに確認した、《世の中には同じ顔の人間が三人はいる》による分身能力。 さらに最悪なのは、《臓器の記憶》による能力の吸収だ。あいつは、相手を喰うことでその能力を自分のものとすることができる。 つまり今目の前にいる男は、まるでマンガや小説の中に出てくるような、どうしようもない化物なのだ。 だが。 「…………勝てるさ」 「………ンだと?」 「お前に勝てる、って言ったんだ」 男を見据え、絶対の自信とともに、言う。 そう。 今日あいつと出会ったのは、確かに完全に偶然だ。 でも、いずれは戦うのだということはわかってた。 だから、準備はできている。 やるべきことも、狙うべきことも。 「―――ほォ。言うじゃねェか」 男は笑みを消し、鋭い目で―――恐らくは、野生の肉食動物が獲物を狙うその目で―――こちらを見据える。 「まァ、言うだけなら誰にでも出来る。やれるンなら、やってみろ」 その言葉とともに、"自分"が動き出した。 ざり、と地を踏みしめ、こっちと全く同じ、戦うための構えをとる。 そして―――。 「「―――思い込んだらっ!」」 二つの自分の声が重なり、その手の中にローラーが生み出される。 間髪入れずに、全く同じモーション、全く同じタイミングでローラーがそれぞれの手から放たれて。 重厚な金属同士がぶつかる硬質な轟音とともに、殺し合いは始まった。 ローラーを投げつけたと同時に上着を壁際に投げ捨て、全力で前に向かって走り出す。 まだ空中にある二つのローラーのせいで相手のことは見えない。 それでも迷わず突撃し、落ちつつあるローラーと床との間を床に身体を張りつかせるようにして抜けていく。 だが、 「………つっ!」 背中が薄く、しかし一直線に切り裂かれる。 視界の端に、"自分"がローラーの合間から鎌を持った手を伸ばしていたのが見えた。 (……痛・・・でも、これで《ドッペルゲンガー》はやり過ごせた。 今この瞬間なら、百パーセントの負けはない……!) 空中のローラーを掴み、細かくステップ。 タイミングを外し、それでもスピードは殺すことなく、ローラーに自分に出せる全力を注ぎ込み―――。 「…………っっっ、ああァッ!!」 今この場で勝つことのできる唯一のチャンスに、最大の一撃を男に叩き込んだ。 ズン! という衝撃が、ビルを揺るがす。 ………これで仕留められなければ、《ドッペルゲンガー》とやりあう羽目になる。そうなったら、万に一つも勝ち目はない。 この選択は、賭けだった。成功するかもわからない、失敗したら負け確定の、そんな分の悪い賭け。 それでも、それに賭けた。賭けざるをえなかった。 これだけが、たった一つの"自分一人でこの男を倒せる方法"だったから。 …………その、結果は。 「―――ってェな。下手したら、ヒビ入っちまうところだったぞ」 「………くっ」 文字通り、命を賭けた渾身の一撃は―――男の両手を使わせることしか、できなかった。 降り降ろしたローラーは、男の頭上でクロスされた腕によって受け止められている。 こっちの攻撃が男に及ぼした変化を他に挙げるとするならば、それは男の足がコンクリートを砕き、床にめり込んでいることくらい。 ―――賭けは、失敗した。 その事実に歯噛みし、男から距離をとろうとする。 が、 「逃がさねェよ。この痛みの礼を、してやらなくちゃならねェからなァ」 ローラーが、男の手に掴まれていた。 焦るこっちを、直後浮遊感が襲う。 目まぐるしく変わる視界に変わらず映るのは、ローラーを両手で抱えた男の姿。 自分がローラーごと無理矢理振り回されている、ということに気づき、ローラーから手を離して壁に着地する。 「……っつ・・・!」 振り回された勢いを全て足で殺したせいで足首が痛んだが、それでも休むことは許されない。 背筋が粟立つのを感じ、とっさに横に飛ぶ。 刹那、飛来したローラーが、寸前までこっちがいたところのコンクリートを、轟音とともに粉々に砕き潰した。 「………、はぁ、はぁ……」 息を荒くし、男の様子を確認する。 男はローラーを投げた体制からジーンズのぽっけに手を突っ込んだ自然体。そして戻ってきた《ドッペルゲンガー》はすでに男のそばに控えていた。 「………まァ、よくやった、ってとこか」 手を握ったり開いたりしながら、男は呟く。 「今の一撃、だいぶ効いたぜェ? こんな痛かったのは久しぶりだ。……いや、そもそも攻撃食らったのが久しぶりか?」 男がそうしゃべっている間にも、こっちは頭を回転させる。 考えるのは逃げる方法。馬鹿正直に逃げたとしても、振りきれはしないだろうから。 目くらましは……たぶん、ダメだ。前やったのと同じ方法がまた通じるとは思えない。 こっちがそう悩んでいる間も、男は言葉を続ける。 「まァ、これまで敵討ちに来た奴らは俺自身に触れることすら出来なかったからなァ。そいつから考えっと、お前はそこそこ頑張ったっつってもいいわけだ。だから―――」 周囲の空気が、徐々に重く変わっていく。 全身にいやというほど感じる悪寒にこっちは考えるのをやめ、男に向かって構えをとった……いや、とらされた。 あまりのプレッシャーに、背中を冷や汗が流れていく。 「―――少しだけ、本気を出してやる。精一杯、死なねェように逃げ回れよォ?」 そう男が宣言した、その時。 本能が最大限に警鐘を鳴らし、身体を反らす。それについていけなかった髪の毛が数本、突きだされた包丁によって断ち切られた。 包丁を持つ人影は、おそらく日本でもっとも有名な都市伝説の一つ。 長い黒髪に口元にはマスクをした、その女の人は―――。 「―――《口裂け女》っ!?」 転がるようにして距離をとり、叫ぶ。と同時に背後に気配を感じ、上半身を前に倒しながら右足で蹴りあげた。顎のあたりを蹴りあげられて宙を舞ったその小さな人影は、白いブラウスと赤いスカートを身に付けていた。 宴会の時に出会った、あの可愛らしい花子さんとその契約者さんの姿が思い出される。 「こっちは、《花子さん》………がっ!?」 左腕に衝撃と激痛が走る。顔を向けると、中年くらいのおじさんの顔をした犬がこっちの肩に食らいついていた。 すぐに右手でその頭を鷲掴み、破裂させる。 (………っ、意味がわからない! こんなにたくさんの都市伝説と契約なんて、できるはずが、―――っ!) 考える間もなく、首筋を狙って巨大な剣が降り下ろされる。身体を前に投げ出すようにしてかわすが、そこに《口裂け女》からの追撃。顔の薄皮一枚のところで避け、逆に左手に生み出した鎌で両腕を切り落とした。 さらに襲いかかってくるのは、さっき首筋を狙ってきた《首無し騎士》。振り下ろされた大剣を鎌で受け止め、そのまま刀身に沿わせるように動かしてその剣を握った指を削ぐ。取り落とした大剣を奪い、その鎧ごと真一文字に両断した。 これで終わったか、と大きく息を吸い、 「―――おいおい、休むなよォ。まだまだ終わンねェぜェ?」 響いた声とともに、背中に激痛。刃物が突き刺さって身体にありえない空間が生まれる、嫌な感覚も混じっている。 痛みを堪え、傷が拡がるのにも構わず身をよじって後ろを見ると、 「―――また、《口裂け女》………っ」 二人目の《口裂け女》の姿が。 後ろに飛びすさりつつ、考える。 これで、確認した男の都市伝説の数は八つ。しかもそのほとんどが全く関係のないもので、それなのにあいつは都市伝説に飲まれていない。 ………普通に考えたら、こんなことはありえない。ありえるはずがない。 でも現実に起こっている。なら、そこには理由がきっとあるはずだ。考えろ、考えろ、考えろ! 「……はあっ、ふっ!」 背後に感じた気配に、身体を反転させて鎌を振るう。こっちの目をついばもうと飛びかかってきていた四本足の鶏が、真っ二つになって落ちていった。 「さて、悩ンでるみたいなんでヒントをサービスしてやろォじゃねェか。まず、俺の能力の中でもとびっきり凶悪なのはなんだァ?」 さっきあごを砕かれた《花子さん》がそれでもなお向かってくる。その足元を蹴りつける……と見せかけてその軌道を急激に変化させ、《花子さん》の顔面にハイキックを叩き込む。吹き飛んで壁に叩きつけられた《花子さん》に、止めに鎌を投げつけた。 肉と骨を断ち切る音を背後に、こっちは男の言葉について頭を働かせる。 男の能力で最悪なのは………《臓器の記憶》。でも、それの能力は食べた相手の能力を自分のものにするだけのはずで、こんないくつもの都市伝説を操るようなものじゃないはずだ。 そう考えながら、次いで現れた毛むくじゃらの野人を仕留めようと、右手を振りかぶり―――その手に走った痛みにガクン、と動きが止まる。 右手に目を向けると、キラキラと光を反射する糸のようなもの―――たぶん、ワイヤーだろう―――が絡みついているのが見えた。それを辿ると、そこにはバイクに跨がった首のないシルエット。……《首無しライダー》、か。 「ヒントその二ィ。都市伝説との契約っつゥのは、一体どういうことかなァ?」 男の声が聞こえてくる。 都市伝説との契約は………その都市伝説自体が強くなるということと、もう一つ。契約者に力を与えること、契約者がその都市伝説と繋がることでもあったはずだ。 血が噴き出すのにも構わず右手をワイヤーごと握りしめ、全力で引っ張った。抵抗しきれなかった《首無しライダー》の身体が宙を舞う。左手でその飛ぶ軌道を修正し、勢いをつけてその身体を野人に向かって叩きつけた。 思い込んだら、と一言呟き、もつれあって壁際に転がった二人に止めを刺すため、生み出したローラーを投げつける。 「さて、第三のヒント………っつーかもうほぼ答えだなァ。俺の《臓器の記憶》の能力ってのは、相手の内臓を喰うことによってそれを自分自身と同化させ、その結果として相手の力を貰い受けるっつーもンだ。実際の形はこの際置いといて、このあたりの要素はなンかと似てると思わねェかァ?」 高速で飛んでいったローラーは、正確に《首無しライダー》と野人のいる地点に突き刺さる。 が、それと入れ替わるように飛び出した野人の拳が、転がったこっちのお腹を捉えた。 こっちの身体はまるで小枝のように吹き飛び―――そして、背後に生まれた黒い影に呑まれた。 生臭い匂い。生暖かくべたべたとした感触に鳥肌が立つ。 その中でこっちは、今の男の言葉を反芻する。 それはつまり―――そういうこと、なのだろうか。だとしたら、こいつの能力は、凶悪なんてものじゃなくなる。 (…………これは、ますます死ぬわけにはいかない、か) 頭上にある壁に両手をあてる。 伝わってくるぐにゃ、という感覚を無視し、能力を全開にした。 ―――生き物の身体が炸裂する嫌な音が耳に響くと同時に、血が滝のように降り注いだ。 頭上に開いた穴から身体を滑り出させる。そこでやっと、今まで自分が呑まれていたものの正体がわかった。 「………《下水道の白いワニ》、かな」 呟いた瞬間、突き込まれた毛むくじゃらの腕を肘と膝で挟んで潰す。ゴキ、と音がして、その腕は変な方向にねじ曲がった。 そのまま腕を引っ張り、野人のみぞおちに左肘を突き下ろす。骨の砕ける感触。さらに右手で野人の頭を掴み、身体の回転を利用して一気にへし折った。 そして、男に向かい合う。 「おーおー、やるねェ。ま、回答は………言うまでもないかァ」 「・・・お気遣い、どうも。ようするに、実体のある都市伝説を食べちゃえば、その都市伝説と契約したのと同じようになって操れる、ってことだよね?」 ………契約は人と都市伝説との間に繋がりを作る。この男は相手を喰らうことで無理矢理に繋がりを作らせる。 この男は相手を喰らうことで無理矢理に力を与えさせる。契約は人と都市伝説とに力を与える。 詳しいことはよくわからないけれど、たぶんこういう理由で、この男は食べた都市伝説を支配することができるんだろう。 「お、せェいかい。賞品やる代わりに美味しく頂いてやっから、感謝しろよォ?」 男の言葉とともに、さっきまでとは比べ物にならないくらいの数の都市伝説たちが文字通り湧き出てきて、男の姿は完全に見えなくなった。 一番始めに突っ込んできたのは一人の《口裂け女》。彼女が突き出したハサミを床に沈み込むようにして避け、そこから一気に足を跳ね上げる。 全身のバネをフルに使って放ったその蹴りは、ガードした腕を砕いてその《口裂け女》の胸元に突き刺さった。そのまま押し込み、《口裂け女》の身体をふき飛ばす。 次に目に入ったのは、包帯を巻いた性別不詳。注射器を持っているあたりからして、《注射男》だろうか? 迎え撃ち、その頭を砕く。 ―――が。 「……あ、なっ・・・!?」 相打つように、こっちの腕に突き立てられた注射針。その薬のせいだろうか、身体から力が抜け、床に膝をついてしまう。 それと同時に、こっちに覆い被さる無数の影。 そして、全身をくまなく焼き尽くす灼熱感。 ―――身体中を、都市伝説たちの刃が貫いた。 わかるだけでも包丁、鎌、ハサミ………左の脇腹の特大の異物感は、《首無し騎士》の大剣だろうか。 その反対、右の脇腹には、大きなネコのような動物の爪と牙が突き立っている。バキン、という音とともに、あばら骨が噛み砕かれるのを感じた。 大量の血が一気に失われる喪失感。声をあげる余裕すらなく意識が一瞬で遠のき、目の前が赤一色に染まった。 「―――でけェ口叩いといて、この程度で終わりかァ?」 耳元で囁かれた言葉も、遠いどこかのことのような気がする。 痛みすら感じず、少しの心地よさを感じながら、意識は闇へと溶けていき―――。 「クハハッ、お目覚めの時間だぜェ!」 ―――突如身体の中心を貫いた衝撃に、一気に意識が引き戻された。 強制的に回復させられた神経が、気が狂いそうになるほどの激痛と、凄まじい速さでの浮遊感を伝えてくる。 痛みを堪えながら、なぜ浮遊感なんかを感じているのかに疑問を持とうとした、その時。 さっきとは比べ物にならないほどの衝撃が、こっちの身体を襲った。 「―――っ!」 悲鳴すらあげることのできない、その痛み。 内臓が全て爆発したかのような錯覚を起こさせたその衝撃は、こっちのあばら骨数本をへし折っただけでなく内臓にもダメージを与えた。 それでも収まりきらなかった分の衝撃が、背中と密着しているコンクリートに蜘蛛の巣状の亀裂を入れる。 こっちのお腹に拳を突き立てているのは、あの男だった。どうやらお腹を殴られたまま、壁へと叩きつけられたらしい。 「ハハハッ! さァて、頂きま―――って、うォっ!?」 痛みに歯を食いしばり、血を吐きながらも振るった鎌は、紙一重のところでかわされた。 こっちの身体を壁に押し付けていた男の腕が離れたことで、こっちの身体はずりり、と壁からずり落ち、床にしりもちをつく。 ただそれだけの衝撃で、身体中から血が噴き出した。出血多量なのだろうか、視界が霞む。 もうすでに、こっちは満身創痍となっていた。 「クックク、まだやるかァ? いいねェいいねェ、やっぱそれくらい足掻いてもらわねェと、食事も楽しくねェからなァ!」」 男の笑いとともに、さらに追撃。 空気を切り裂いてこっちに向かって飛んでくるのは、いつも自分自身が使っているあのローラーだ。 驚異的な速度と重量でもってこっちを潰そうと飛んでくる鉄塊に向かって、 「ふっ、………ああああああアアアアッ!」 今にも抜けていきそうな力を必死に留め、全力で腕を振るう。 ゴン! という轟音が鳴り響く。 「う、ああっ……!」 ローラーを弾いてその軌道を逸らした代償は、振るった左腕の破壊という形で表れた。 腕全体のところどころで皮が裂け、肉が見えている。………飛び出している白いものは骨だろうか。指は全て奇妙な方向へと反り返り、腕自体のシルエットも歪んでいた。 意識を失うことすらも許されない、地獄のような激痛が全身にくまなく染み込んでいく。 ……片腕は潰れ、全身に無数の刺し傷。あばら骨ももう折れていないものの方が少なくて、床には大きな血だまりが。 いっそのこと、死んでしまった方が楽だと思えるような、そんな状態。 ―――でも、まだだ。………まだ、こっちは死んでない。死ぬわけにも、いかない。 ちょうどそばにあった、戦い始めに脱ぎ捨てた上着―――白かったはずの生地が、赤く染まっているそれ―――をまだ動く右手で手繰り寄せ、羽織る。 「………なんだァ、まだやんのかァ? …………わっかンねェなァ、もう死んだ方が楽ンなれるだろォに、なんで諦めねェ? お前が死ぬ覚悟決めよォが、相討ちを狙おォが、俺を殺ることなんざできねェってわかってンだろォが」 ……皮肉なことに、痛みが逆に意識を鮮明にしてくれる。とはいっても、危ない事には変わりない。 できるだけやりたくはなかったやり方で逃げる事を決めた。酷い事にはなるだろうけど、死ぬよりはマシだと信じる。 「………うん。無理、だね。こっち一人じゃあ、お前には勝てっこないよ。そんなこと、始めからわかってはいたさ」 「……はァ? じゃあ、なんでだ? なんでお前は、そんなズタボロの雑巾みてェになるまで頑張った?」 「はあ…っく、痛……。覚悟をね、決めるためだよ」 「覚悟、ねェ。どうせ、死ぬ覚悟っつゥンだろォ? ンなもン決めたって無駄じゃねェかと、今死ぬ寸前までお前をボコった俺としては思うンだが?」 「あは、ははは……。そんなんじゃ、ないよ」 見当外れのことを言った男を笑ってやる。 これだけ痛めつけられたんだ、これくらいの仕返しはいいだろう。 そう思いながら、穿いていたズボンのポケットの中から"あるもの"を取り出す。 「…………ンだと? じゃあ、なんだっつゥンだァ?」 「あはははっくくく……げほっげほっ。………簡単なことだよ。独りで勝てないんなら、仲間と戦えばいいだけの話なんだ。つまり―――人を巻き込む覚悟をしたっていう、それだけのことだ」 ―――そう。 もう、覚悟は決めた。 どうせこいつがいれば、いろんな人が危険に晒される。いろんな人が犠牲になる。 だったら、みんなみんな巻き込んでしまえばいい。個人でやりあって各個食べられていくくらいなら、そっちの方がはるかにマシだ。 この学校町に来て、出会った人たちの顔が思い浮かぶ。 こんなことに巻き込んだら、嫌われてしまうかもしれないけど…………死んでしまうよりは、断然いい。 "あるもの"を握り締め、男と向かい合う。これで、逃げる準備はできた。 男は、なにかを考えているようだった。 「―――ほォ。成る程なァ、確かにその通りかもなァ。《ドッペルゲンガ―》にしろなンにしろ、数が増えりゃあやりにくくなる。…………よし、賭けといこうじゃねェか」 「……………、賭け?」 「そォだ。お前がその状態で、俺から逃げ切れたらお前の勝ち。捕まれば俺の勝ち。俺が勝ったらその場でお前を踊り食いだァ。だがお前が勝ったら、お前のその覚悟を試すお膳立てをしてやるよォ」 「………つまり?」 「お前が勝ったら都市伝説の関係者は喰わねェってことだよ。ついでにそいつら片っ端から集めて、まとめて相手してやる。いつになンのかはわかんねェけどなァ」 ………とんでもない、破格の条件だろう。 でも、不安は残る。この男としては、その賭けを守るメリットがないだろうから。 「おいおい、疑ってんのかァ? 俺は約束は守る男だぜェ。っつゥか、元々この街の都市伝説は全部喰っちまうつもりだったしなァ」 一度に一気にいくかチマチマいくかの違いだけだから問題ねェ、と男は言う。 …………信じようと、思う。なんとなくだけれど、この言葉だけは、信用できるような気がした。 ―――あとはもう、逃げるだけだ。 右手を床につけ、能力を発動。コンクリートの微細な粉末を大量に舞い上げ、視界を奪った。 「ハハッ、いきなりかァ! いいぜェいいぜェ、そうじゃねェと面白くねェ! だが、こンな前にも使った手が通じると思ってんなら―――踊り食い確定だなァ?」 聞こえてくる言葉は無視し、上着―――《火鼠の皮衣》を頭から被るようにする。 「―――ねえ、こんな話、知ってる? とある炭鉱で爆発事故が起きて、炭鉱夫たちがみんな死にました。でも、それは爆発物の取扱いを間違えたとか、そういうのじゃありませんでした」 こんなことになるなんて、《火鼠の皮衣》をくれたおばあちゃんには感謝してもしきれないなあ、と微笑み、続ける。 「空気中に小さな小さな粉末が大量に撒き散らされたときそこに火種があると、空気の燃焼がとんでもなく速くなって、その空間自体が一個の爆弾みたいになるらしいよ? ………ちょうど、今みたいに」 「…………はァ? いや待てお前、まさか―――ッ!?」 男が息を飲む気配を感じながら、こっちは窓に向かって駆け出し―――同時に、手に持っていた"あるもの"を、床に擦りつけた。 "あるもの"とは、マッチ。 床に擦りつけられたそれは、その摩擦によって炎を生み―――。 「―――粉塵爆発って、知ってる?」 ―――その部屋の中を、爆炎が薙ぎ払った。 黒焦げになったビルの一室。 男は、そこに一つだけある窓から外を見ていた。 「…………もう、無駄かァ? いやしっかし、まさか自爆に近い真似までして逃げるとは思わなかったなァ。つかあのザマで爆発まで食らったらマジで死にかねねェぞ、あいつ」 呆れたような調子でそう言う男。 だけどすぐにその顔に笑みを浮かべ、 「まァ、駄目元で追ってみっかァ。捕まりゃ恩の字、捕まらなくても楽しみはあるしなァ」 そう呟くと、男は窓から飛び降り、夜の闇の中へとその姿を消していった。 「―――はぁ、はぁ……やっと、いって、はぁ、くれた、な」 その様子を上から見ていたこっちは、ようやくほっとして呟くことができた。 今のこの身体で走ったりなんかしたら、確実にガタがくる。というかもうきてる。 だから粉塵爆発を起こした瞬間に、爆風に身体を焼かれながらも窓から飛び出し、その勢いを利用してビルの屋上近くまで駆け上がったのだ。 その判断は、たぶん正しかったと思う。 でも、 「…………………ぁ」 満身創痍の身体は、すぐに限界を迎え―――べしゃり、とこっちは地面に叩きつけられた。その衝撃こそ全身に走ったけど、もう痛みすら感じない。 一応は無事なはずの足を動かそうとしても、動かない。………というか、足の感覚すらもなかった。 ……ダメだ、終わってたまるもんか。死んで、たまるか! そう思ってはいても、目の前が暗くなっていく。 最期の力を振り絞り、なんとか右手が地面から離れた。 そのまま這っていこうとし―――そこにいる、細身の黒い人影に気付く。 「………ぁ、………ぇ……」 助けを求めようとしても、声が出ない。 最期に、その影がこっちに向かって手を伸ばしてきてくれたのが見えて。 ―――こっちの意識は、途絶えた。 「…………これは、酷い、ですね……」 濃い血の匂いと、肉の焼ける匂い。 そして少女の全身の傷を見て、私は思わず呟く。 その日私はいつものように、都市伝説を探すために、夜の街を歩いていた。 その最中、突然響いた爆発音に、それが聞こえてきた方向へと向かい、見つけたのが―――目の前に倒れている、満身創痍の少女。 意識を失ったのだろうか、だらりと力の抜けた身体の状態を確認し………危険な状態だと、そう判断する。 こんな路上で少し治療した程度では、駄目かもしれない。それに、もしこの少女にこのような傷を負わせた存在が、まだ付近にいるとしたら、危険だ。 取り出した霊薬でできる限りの応急処置を施し、私はその少女を背負って、今自分の契約者達と住んでいる家へと急いだ。 前ページ次ページ連載 - 女装少年と愉快な都市伝説