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赤まりさは困惑していた。 目を覚ますと優しい家族のいる見慣れた森のおうちではなく見知らぬ場所にいたのだから当然だろう。 「ゆぅ、ここどこぉ?」 やっぱり、何処をどう見ても辺り一面見たことの無い場所だった。 それに家族の姿もなかった。 「おきゃーしゃん!おねーしゃん!れいみゅー!どこー!?」 仕方がないので家族を探しならが見たことも無い場所を歩くまりさは美味しそうな、それも適度に弱った虫と適度に千切られた野菜くずと見たことの無い黒っぽいものを見つけた。 「ゆゆっ!むしさんとはっぱしゃんがあるよ!」 家族探しで体力を消耗しお腹が空いていた赤まりさは美味しそうな虫に飛びつこうとする。 しかし、その瞬間、体の内側から今までに感じたことの無い猛烈な痛みを感じた。 「ゆぎぃぃぃいいいいいい!?いだい!いだいよおおおおおおお!!」 「ゆあああああああああああああああん!!ゆっぐ!・・・ゆっぐ!」 しばらくそこで泣きじゃくっていたが、誰も助けに来てくれないので諦めてまた虫に飛びついた。 すると、またしても先ほどの痛みが赤まりさに襲い掛かる。 「ゆぎょおおおおおおおおおおおおお!?」 先ほどと同じように苦しみ、のた打ち回るが誰も助けに来ない。 また助けを求めるのを諦めたまりさは、今度は野菜くずのほうに飛びついた。 が、その瞬間、さっきと同じように激痛が赤まりさを襲う。 「ゆげえええええええ!!?」 そして、3度目になるのた打ち回ってから、泣きじゃくり、諦めるという一連の行動を繰り返すと、しぶしぶ君の悪い黒い塊に口をつけた。 「ぺ~ろぺ~ろ・・・ゆゆっ!?にゃにこれ、しゅごくあまいよ!!」 思いのほかその黒いものが美味しく、ほかの2つを食べたときのように痛みに邪魔されなかった赤まりさはその黒いものをたらふく食べ、お腹がいっぱいになったところで眠りについた。 翌朝、赤まりさが目を覚ますと、そこには野菜くずと昨日の黒い物体が置かれていた。 「ゆゆっ!あまあまがいっぱいあるよ!」 当然、赤まりさは甘くて痛みを伴わない黒いものを真っ先に食べた。 その後で野菜くずに舌を伸ばすと、やはり苦痛が襲ってきたので、今後虫と野菜くずには近づかないことにした。 「きょうもおきゃーしゃんたちをゆっくちさがすよ!」 そう言って元気良く見たことも無い場所の探索を再開する赤まりさ。周囲を壁に囲まれている上に障害物がないのだから見渡していないものはいるはずもないのだが。 「ゆ~ゆ~ゆゆゆ~♪」 赤まりさは歌いながら見たことも無い場所をのんびりと歩いている。 どうやら、家族探しというのは建前で、ここには自分以外誰もいないことを理解しているようだ。 逆に言えば、外敵もいないため、大声で歌いながら散歩しても大丈夫だと判断したらしい。 そんな調子で家族探しと言う名の散歩をしているとお腹の空いてきた赤まりさの目の前に例の甘い黒い塊と白い皮のお饅頭が降って来た。 「ゆゆっ!またあまあまだよ!」 大喜びで黒い甘い物に飛びつく赤まりさ。その時、野菜くずを食べようとした時のあの痛みが襲いかかって来た。 「ゆっぐえええええええええええ!?!」 またしてものた打ち回りながら涙を零す赤まりさ。しかし、助けを求めることは諦めているので痛みが引いたら、すぐに泣き止んだ。 「ゆぅ・・・あまあまさんもいぢわるするんだね!」 「ならいいよ!まりしゃはこっちのしろいのをちゃべりゅもんっ!」 黒い塊に文句を言ってから、白いお饅頭に噛り付く赤まりさ。 「ゆゆっ!?・・・うっめ、これめっちゃうめぇ!」 あの若干しょっぱい皮の中から溢れ出す黒い塊。 その味こそ今までの黒い塊と変わりがなかったものの、皮のしょっぱさが黒いものの甘さを引き立てていて、黒い塊単体とは比較にならないほどに美味。 まりさは、夢中になってお饅頭を食べ、食べ終わったところでお昼寝をした。 夜中に赤まりさが目を覚ますと、そこには先ほどの白いお饅頭と自分より小さなリボンを失った赤れいむの死体が転がっていた。 「ゆぎゃ!?なにごでええええええ!!ごんなにょゆっくちできにゃいよおおおお!!」 同族の亡骸を見たことで酷く取り乱した赤まりさはその赤れいむだったものを体当たりで視界の外に追いやると、ホッと一息ついて白いお饅頭に飛びついた。 しかしその瞬間、先ほどの黒い塊のときと同じように体内を強烈な痛みが駆け巡り、赤まりさは激痛のあまりに動くことが出来なくなる。 「ゆぎぃぃいいい・・・またなのおおおおお・・・!?」 苦しみながらも、もう白い饅頭も食べられないことを悟った赤まりさは、酷く落ち込んだまま辺りにほかの食べ物がないことを確認し、再び眠りにつきました。 そして翌朝。目を覚ました時、目の前にはいつものように食べ物が置かれておらず、ただ昨日の赤れいむの死体が転がっているだけだった。 どれだけ散歩を続けても、どれだけ歌を歌っても全く食べられるものが見つからなかった。 「ゆぅ・・・おにゃかしゅいたよお・・・」 「しろいのさんどきょお?」 「かきゅれてないででてきちぇね!」 しかし、何を言ったところで出てこないものは出てこない。 そうして、気がつけば赤まりさは2日近く何も食べなかった。 「ゆぅ・・・」 空腹で目を覚ました赤まりさの目の前に転がっているのは昨日の赤れいむの亡骸。目を凝らしてみると、その少し潰れた体からあの黒い塊が漏れ出していることに気がついた。 「ゆゆっ!くろいのしゃんだよ!」 寝ぼけていたのかも知れないが、空腹に負けた赤まりさは赤れいむから漏れ出していたその黒い塊を舐めた。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 そう口走りながら、赤れいむから漏れる黒い塊を一心不乱に舐め続ける赤まりさ。 「黒いのもっとたべちゃいよ!」 その欲求に従う赤まりさは今度は赤れいむの死体の傷口に口をつけて、そこから中身を吸い始めた。 「ゆっへ、えっはゆえぇ!」 それでも飽き足りなかった赤まりさはついに赤れいむの死体に噛り付いた。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!!」 久しぶりに空腹を満たした赤まりさは心地よい眠りについた。 翌朝、目を覚ますと今度は自分より若干小さい、ちゃんと帽子を被った赤まりさの死体が転がっていた。 お腹が膨れたことで正常な思考を取り戻していた赤まりさはさっさとそれを視界の外へ追いやる。 それから、いつものように歌を歌いながら見慣れた場所になってしまった見知らぬ場所の散歩を開始した。 「ゆぅ・・・今日も何もなかったよ・・・」 そう言って赤まりさはお昼寝を始めた。が・・・ 「ゆぅぅううう・・・おにゃかがしゅいてねみゅれないよおおおお・・・」 空腹のせいで眠れないらしく、落ち着き無く、先ほど押しのけた赤まりさの死体のうろうろしている。 「ゆぅぅうう・・・でも・・・ゆっくちできにゃいよおおお・・・」 やはり意識がはっきりしているときに同族を食べる意思は無いらしい。 しかし、この前と違って「同族は美味しい」と理解してしまっているため、いざとなったら食べることを選択肢に入れている。 そうやってしばらく右往左往していると、空から突然野菜くずや餡子、虫などが降って来た。 「ゆゆっ!?おいしそうなものがいっぱいだよ!」 同族食いへの嫌悪感や、空腹による思考能力の低下、長期間の経験の欠如による忘却。 それらの要因が重なっていた赤まりさは満面の笑みを浮かべてそのご馳走の山にかぶりつこうとした。 が、瞬間・・・ 「ゆぎゃあああああああああああああ!?」 しばらく味わっていなかった痛みが久しぶりに体中を駆け巡った。 「ゆぎぃぃいいいい!ゆぐぅう・・・!ゆっぐ・・・」 そして、自分がそれらを食べることが出来ないのを思い出した赤まりさは、死人のような表情で小さな赤まりさの死体を食べ始めた。 「うっめ、めっちゃうめぇ!」 そうは言うものの、正気を失っていた昨日と違って双眸からは涙が溢れ出している。 微笑んでいるように見えるその表情はどこか引きつっているようにも見える。歓喜の声はどこか不自然に裏返っている。 やがて、小さな赤まりさを食べ終えた赤まりさは目を閉じた。 眠りにつくまで赤まりさの口からはずっと「ごめんにぇ・・・」という言葉が漏れていた。 そして翌朝。 今度はまりさの目の前に赤れいむの死体と、瀕死の赤れいむが転がっていた。 「ゆぅ・・・ゆぎゅぅ・・・いぢゃい、いぢゃいよおおお・・・」 「ゆっ!?だいじょうぶ?ゆっくちしっかりしてね!」 急いで駆け寄った赤まりさ。しかし、その赤れいむの有様には驚愕するしかなかった。 「ゆぎぇ!?な、なにごれえええええ!?」 酷く小柄で、同じ赤ちゃんの自分と比べても半分近い大きさしかなく、その上両目を失っている。 そして、底面をこんがり焼かれてしまっていて、二度と歩くことのかなわない体にされてしまっていた。 赤まりさは必死に手当てをしようとするが、傷を舐めるぐらいしか出来ない。 「ゆっ!?しょうだ!おいちいものをあげるから、ゆっくりまっててね!」 そう言って赤れいむをあやすと、まりさはおもむろに赤れいむの死体に近づいていった。 小さな赤ちゃんでも食べられるようにそれを噛み千切ろうとした時、またしてもあの痛みが赤まりさを襲った。 「ゆぎぃいいいいいいいいいい!?」 そして、その瞬間に赤まりさは理解した。 自分は、あの子を、食べるしかないのだ、と。 「ごべんね!おいしいのみつからにゃかったよ!」 瀕死の赤れいむに泣きながら詫びる赤まりさ。 けれど、赤れいむはその声に応じる余裕などなく、ただひたすら「いちゃいよおおお!くりゃいよおお!」と泣き喚くだけ。 赤まりさはそんな赤れいむが息を引き取るまで、ずっと寄り添っていた。 「おねーぢゃん・・・ありがちょー・・・もっちょいっちょにゆっきゅちちたかったよ・・・」 そんな言葉を残して旅立ってしまった赤れいむ。 「ごべんねぇ、れいむぅ・・・」 自分が何もしてあげられなかったことを悔やみながら、赤まりさは苦しそうな、しかし少しだけ幸せそうな表情の赤れいむの亡骸に口をつける。 が、無常にもあの痛みがそれを阻む。しかも、その痛みは長く続き、赤まりさは痛みに負けて意識を手放した。 赤まりさが目を覚ますと、そこに赤れいむの死体はなく、代わりに別の赤れいむがさっきの赤れいむと同じ有様で横たわっていた。 「ゆぅううう・・・いだいよぉ・・・」 小さな体をよじって苦しんでいる。しかし、自分は死んだゆっくりを食べられないことを学習した赤まりさにとって、それはもはや餌でしかなかった。 「ゆ、ゆっくりしんでね!」 そう言うと赤れいむが何か返事をする前に噛み付いて柔らかい皮を食いちぎる。 「―――っゆぎゃああああああ!」 その蛮行に赤れいむは悲鳴を上げるが、逃げることも抵抗することも出来ない。 その叫びを聞きながら、苦悶の表情を眺めながらも赤まりさは「これがれいむのためなんだよ!」と赤れいむに、そして何より自分自身に言い聞かせながら美味しい餌を食い漁った。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 赤れいむを美味しくいただいた後、眠りについた赤まりさが目を覚ますと、元気な愛らしい赤れいむが自分の頬ずりをしていた。 「おねーしゃん、れいみゅといっちょにゆっくちちようね!」 舌足らずな言葉、純真無垢な笑顔。そして自分よりずっと小さい体躯。 どうやら赤まりさは何時の間にか子まりさと呼ぶにふさわしい大きさにまで成長していたらしい。 自分が大きくなっていた喜びと、自分を慕ってくれる家族が出来た喜びに子まりさは満面の笑みを浮かべる。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」 赤れいむの返事を聞き終えると、2匹はぴったりとくっついて頬をすり寄せ合った。 それから、2匹は時間を忘れて遊び続けた。 「ゆぅ~、おねーしゃん!おなきゃしゅいたよ!」 「ゆっ!ゆっくりがまんしてね!まりしゃもおなかしゅいたよ!」 しばらく遊んでいると突然空腹を訴え始めた赤れいむにそう言い聞かせる子まりさ。 しかし、赤ちゃんにとって我慢は非常につらいものであり、また、なぜ我慢しなければいけないのかわからない赤れいむはすぐに泣き出してしまった。 「ゆえええええええええん!おにゃがしゅいだよおおおおおおおお!ゆっきゅぢできにゃいよおおおおお!」 「ゆぅ・・・わかったよ!まりしゃがなにかさがしてくるよ!」 そう言って少しの間だけ赤れいむを泣き止ませることに成功した子まりさは何も無いだろうとうすうす感じながらもいつもの場所を行ったり来たりした。 が、予想通りいくら探しても食べれそうなものは何も見当たらない。 「おめんにぇ、おちびちゃん!なにもみつからなかったよ!」 「ゆわあああああん!おねーしゃんのばきゃあああああ!」 「どほぢでそんなごどいうのおおおおおおお!」 「れいみゅゆっきゅちちちゃいよおおおおおおおお!」 「まりしゃだってゆっくちちちゃいよおおおおおお!」 そうやってしばらく喧嘩しながら泣きじゃくっていると、赤れいむは泣き疲れて舟をこぎ始めた。 「ゆうううう・・・おにゃか・・・しゅいた・・・よぉ・・・」 そのことに気づいたまりさは泣くのを止め、赤れいむが寝冷えしないように頬を摺り寄せ、自分も眠りについた。 翌朝になると、昨日のことをすっかり忘れていた赤れいむは無邪気に自分に甘えてきた。しかし、食糧難だけは一向に解決する気配がなく、2匹とも徐々に痩せ衰えて行った。 「おねーしゃん、れいみゅおなきゃしゅいたよ・・・」 赤れいむは弱々しく呟くが、子まりさのその欲求を満たす術は無い。 「ゆっくりがまんしてね!」 だから、そう返すのが精一杯だった。 それから1日経ち、2日経っても何処にも食料は見当たらなかった。 そして、そうやって食事抜きの生活が5日目に突入した日、赤れいむが子まりさに猛然と飛び掛ってきた。 「ゆゆっ!おちびちゃんなにするの!?」 「でいびゅおなきゃしゅいだよおおおおお!」 「やめでね!まりさをたべないでね!」 「れいみゅをゆっきゅちしゃせてきれにゃいおねーしゃんなんかゆっくちちね!」 昨日まで一緒にゆっくりしていた妹分から浴びせられる罵声。そしてじわじわと皮を食い破っていく幼い歯。 その痛みを感じたとき、子まりさは思った。 死にたくない、と。 「いぢゃいよおおおおお!どほぢぢぇこんにゃことぢゅるにょおおおお!?」 気がついたら赤れいむを壁に叩きつけていた。 自分から仕掛けたことも忘れて泣きじゃくる赤れいむ。 しかし、子まりさはその姿を見ても昨日までのように可哀そうとは思わず、ただ憎たらしいだけだった。 「まりさをたべようとするわるいこはゆっくりしんでね!」 はき捨てた子まりさは泣きじゃくる妹分の頭上へと飛翔し、全力で赤れいむを踏み潰した。 久しぶりに空腹を満たした子まりさが目を覚ますと、美味しそうに野菜くずを食べる赤まりさの姿があった。 「ゆゆっ!おねーしゃん、まりしゃといっちょにゆっくちちてね!」 どこかで見たような舌足らずな言葉と無邪気な笑み。その既視感の正体も忘れて、子まりさは可愛らしい妹分の愛嬌のとりこになった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅちちちぇっちぇね!」 元気良く言葉を交わした2匹は頬ずりをして友愛を確認すると、2匹だけの世界を駆け回って遊び始めた。 「おねーしゃん!まりしゃおなきゃがしゅいたからやさいしゃんたべりゅよ!」 「だめだよ!やさいさんはあぶないよ!」 「しょんにゃことにゃいよ!しゃっきもちゃべれたもん!」 「・・・それもそうだね!じゃあ、まりさといっしょにたべようね!」 2匹そろって美味しそうな野菜くずに向かって行くが、いざ食べようとした瞬間、子まりさの体内から激痛が襲ってくる。 「ゆぎいいいいいいい!?」 「ゆぅっ!?おねーしゃん、どーちたにょ!?」 「な、なんでぼないよ・・・ゆがああああ、ゆげぇ・・・」 痛みを必死に堪えながら赤まりさに微笑みかけようとするが痛みのせいでそれすらも上手くできない。 「ま、まりさだけでもおやさいをたべてね・・・」 「ゆぅ・・・わきゃったよ!ゆっきゅりたべりゅよ!」 そう言って赤まりさは野菜くず食べはじめた。 「うっみぇ、きょれれめっちゃうめぇ!」 子まりさはその赤まりさの幸せそうな姿をただただ眺めるばかりだった。 翌日も、その翌日も子まりさと赤まりさは一緒に遊んだ。 赤まりさは良く遊び、良く食べ、良く眠り、非常にゆっくりとした生活を送っている。 一方の子まりさは空きっ腹を抱えならがも赤まりさに付き合い、野菜くずを食べようにも痛みが怖くて食べられず、酷い空腹で眠ることもままならない。 それでも仲良くしていた2匹の関係に終わりをもたらしたのは、4日目の夜中の出来事だった。 突然の激痛で目を覚ますと同時に絶叫する羽目になった子まりさ。 赤まりさはその傍に寄り添い心配そうに子まりさに声をかけ続けていた。 「おねーしゃん、だいじょーびゅ?」 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・らいじょうぶだよ・・・ゆ?」 そんな赤まりさに心配をかけまいと必死に笑顔を取り繕う子まりさだったが、不意に口の中の異物感に気づき、それを吐き出す。 「ゆゆっ!?どほぢでおやざいがぐぢのながにいいいいいいい!?」 無意識の内に食べてしまったのだろうか? とにかく、子まりさはこれを口にしたせいで痛い目にあってしまったのだと判断した。 「おねーしゃん、おいちかっちゃでちょ!」 「ゆ?どういうこと?」 「おねーしゃんがしゅききりゃいしゅるからまりしゃがたべさちてあげちゃんだよ!」 「・・・まりさがこれをたべさせたの?!」 その事実を知った途端、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。 悪気は無いのかもしれない。けれど、自分が食べたくても食べられないものを貪り、眠れない自分の隣で安眠し、疲労困憊の自分を好き勝手に連れまわす赤まりさの振る舞いの全てが、自分を苦しめるためのもののように思えてきた。 被害妄想以外の何者でもないだろう。しかし、本人にとってはその妄想こそ真実。 「しょーだよ!おいちかったでちょ!まりしゃのことほめちぇね!」 そんなことを口にすると同時にえへんとふんぞり返って胸を張る赤まりさ。 しかし、それが命取りになった。 「ゆっくり・・・しねええええ!」 響き渡る絶叫とともに跳躍した子まりさは思いっきり赤まりさの上に圧し掛かり、何度も何度も踏みつけた。 「どほぢ・・・ゆげっ!?」 「まりさをっ!!」 「やべでっ!?」 「いぢめるっ!!」 「おねーぢゃん!?」 「ごみくずはっ!!」 「ゅぅ・・・ゅ・・・」 「ゆっくり!!」 「・・・・・・ゅぅ・・・」 「しねっ!!」 鬼のような形相で赤まりさを踏み潰した子まりさは、漏れ出したものを丹念に舐めとる。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 そうして、自分の周りがきれいになったところで4日ぶりの安眠へといざなわれていった。 「うっみぇ、きょれめっちゃうみぇ!」 目を覚ますとまたしても赤まりさが美味しそうに野菜くずを食べていた。 今までに食べた2匹にも負けない純朴な笑みと無垢な瞳。 それを見た子まりさは思った。 なんて美味しそうな餌なんだろう、と。 「ゆゆっ!おねーしゃん、めをしゃまちたの?」 「まりしゃといっちょにゆっくちちよーね!」 その一片の邪心も感じさせないお願いを聞いた瞬間、子まりさは赤まりさの頭上へと飛び上がった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅちちちぇっちぇ、ぐぇ!!?」 それは一緒にゆっくりしようという意味ではなく、ただおとなしく食べられてくれということに他ならない。 それは相手に自分の好意や厚意を示すものではなく、ただその言葉を聞くと動きを止めて返事する習性を利用するための戦術に他ならない。 ゆっくりにとってもっとも基本的なその言葉を最後まで言い切ることさえかなわなかった赤まりさはその一撃で一切身動きが取れないほどの痛手を負ってしまった。 「・・・ゅっぅぃ・・・ぃぁぁっぁょ」 赤まりさにはまだ息があった。しかし、動かないならば生きていようが死んでいようが同じこと。 子まりさは口の中に広がるであろう甘みに胸を躍らせながら、何かわけのわからないことを呟く餌にかじりつく。 その死にかけの餌の甘みは今までに食べたどの餌よりも甘かった。 その味をしめた子まりさは今度もきっと死ぬ前にゆっくり食べよう、と思った。 それからの子まりさの生活は非常にゆっくりしたものだった。 朝起きれば美味しいご飯が転がっている。 お腹が空いていなければちょっと行儀が悪いがそのご飯と遊んだってかまわない。 とにかく、自分の好きなように遊ぶだけ遊んで、食べたいときに食べて、目を覚ませばすぐに美味しい食べ物が補充されている。 きっと自分ほどゆっくりしたゆっくりはいないだろう。 そう思えるほどに子まりさの生活は充実していた。 そんなある日、まりさが目を覚ますと目の前には自分と同じくらいの大きさのゆっくりれいむがいた。 子まりさは自分と同じ大きさであったからなのか、その個体を餌と判断することなく、元気良く声をかけた。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 「まりさはまりさだよ!」 「れいむはれいむだよ!」 わけのわからない自己紹介の後、子まりさはれいむの傍へ寄って行き、頬ずりで親愛の意を示した。 それから、「いっしょにおさんぽしよう!」と誘う子まりさ。しかし、れいむは断った。 「どほぢでええええええ!?」 まりさのことがきらいなの!?と問い詰めるまりさに首を振ってそうゆゆってではないことを伝えたれいむは「あしがうごかないの」と呟く。 「ゆゆっ!それならまりさがずっとそぱにいてあげるよ!」 そうして子まりさがれいむに頬を摺り寄せると、れいむも動かない体で頑張って頬ずりを返してくれた。 淡い淡い初恋。 この子とずっと一緒にゆっくりしていたい。 ゆっくり特有の、そして発情期間近特有の惚れっぽさでそう思った子まりさ。 すると、突然地面が揺れ始める。 今までの自分達の行動との因果関係も、何の前触れも無い振動に戸惑う2匹。 「ま、まりさ、こわいよおおおお!」 「ゆゆっ!だいじょうぶだよ!まりさがまもってあげるよ!」 そう言って、いっそう力強くれいむに頬を摺り寄せる子まりさ。 しかし、その振る舞いがまずかった。 「ゆぅ~?なんか変な気分だよ!」 「ゆぅう・・・れいむもなにかへんだよ!」 揺れの最中に突然自分達を包み込んだ不思議な快感。 それに酔いしれ、その正体を究明しようと試みる2匹は揺れの最中の自分達の行動を真似る。 そして、自分達の頬をすり合わせる行為をもっと激しくすればその快感を得られることに気づいた2匹はひたすらそれを繰り返した。 足の不自由なれいむには大変な行為なので、ずっと子まりさが主導権を握って、時が経つのも忘れ、揺れが止まったことにも気づかずにその行為に溺れた。 続く? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1572.html
赤まりさは困惑していた。 目を覚ますと優しい家族のいる見慣れた森のおうちではなく見知らぬ場所にいたのだから当然だろう。 「ゆぅ、ここどこぉ?」 やっぱり、何処をどう見ても辺り一面見たことの無い場所だった。 それに家族の姿もなかった。 「おきゃーしゃん!おねーしゃん!れいみゅー!どこー!?」 仕方がないので家族を探しならが見たことも無い場所を歩くまりさは美味しそうな、それも適度に弱った虫と適度に千切られた野菜くずと見たことの無い黒っぽいものを見つけた。 「ゆゆっ!むしさんとはっぱしゃんがあるよ!」 家族探しで体力を消耗しお腹が空いていた赤まりさは美味しそうな虫に飛びつこうとする。 しかし、その瞬間、体の内側から今までに感じたことの無い猛烈な痛みを感じた。 「ゆぎぃぃぃいいいいいい!?いだい!いだいよおおおおおおお!!」 「ゆあああああああああああああああん!!ゆっぐ!・・・ゆっぐ!」 しばらくそこで泣きじゃくっていたが、誰も助けに来てくれないので諦めてまた虫に飛びついた。 すると、またしても先ほどの痛みが赤まりさに襲い掛かる。 「ゆぎょおおおおおおおおおおおおお!?」 先ほどと同じように苦しみ、のた打ち回るが誰も助けに来ない。 また助けを求めるのを諦めたまりさは、今度は野菜くずのほうに飛びついた。 が、その瞬間、さっきと同じように激痛が赤まりさを襲う。 「ゆげえええええええ!!?」 そして、3度目になるのた打ち回ってから、泣きじゃくり、諦めるという一連の行動を繰り返すと、しぶしぶ君の悪い黒い塊に口をつけた。 「ぺ~ろぺ~ろ・・・ゆゆっ!?にゃにこれ、しゅごくあまいよ!!」 思いのほかその黒いものが美味しく、ほかの2つを食べたときのように痛みに邪魔されなかった赤まりさはその黒いものをたらふく食べ、お腹がいっぱいになったところで眠りについた。 翌朝、赤まりさが目を覚ますと、そこには野菜くずと昨日の黒い物体が置かれていた。 「ゆゆっ!あまあまがいっぱいあるよ!」 当然、赤まりさは甘くて痛みを伴わない黒いものを真っ先に食べた。 その後で野菜くずに舌を伸ばすと、やはり苦痛が襲ってきたので、今後虫と野菜くずには近づかないことにした。 「きょうもおきゃーしゃんたちをゆっくちさがすよ!」 そう言って元気良く見たことも無い場所の探索を再開する赤まりさ。周囲を壁に囲まれている上に障害物がないのだから見渡していないものはいるはずもないのだが。 「ゆ~ゆ~ゆゆゆ~♪」 赤まりさは歌いながら見たことも無い場所をのんびりと歩いている。 どうやら、家族探しというのは建前で、ここには自分以外誰もいないことを理解しているようだ。 逆に言えば、外敵もいないため、大声で歌いながら散歩しても大丈夫だと判断したらしい。 そんな調子で家族探しと言う名の散歩をしているとお腹の空いてきた赤まりさの目の前に例の甘い黒い塊と白い皮のお饅頭が降って来た。 「ゆゆっ!またあまあまだよ!」 大喜びで黒い甘い物に飛びつく赤まりさ。その時、野菜くずを食べようとした時のあの痛みが襲いかかって来た。 「ゆっぐえええええええええええ!?!」 またしてものた打ち回りながら涙を零す赤まりさ。しかし、助けを求めることは諦めているので痛みが引いたら、すぐに泣き止んだ。 「ゆぅ・・・あまあまさんもいぢわるするんだね!」 「ならいいよ!まりしゃはこっちのしろいのをちゃべりゅもんっ!」 黒い塊に文句を言ってから、白いお饅頭に噛り付く赤まりさ。 「ゆゆっ!?・・・うっめ、これめっちゃうめぇ!」 あの若干しょっぱい皮の中から溢れ出す黒い塊。 その味こそ今までの黒い塊と変わりがなかったものの、皮のしょっぱさが黒いものの甘さを引き立てていて、黒い塊単体とは比較にならないほどに美味。 まりさは、夢中になってお饅頭を食べ、食べ終わったところでお昼寝をした。 夜中に赤まりさが目を覚ますと、そこには先ほどの白いお饅頭と自分より小さなリボンを失った赤れいむの死体が転がっていた。 「ゆぎゃ!?なにごでええええええ!!ごんなにょゆっくちできにゃいよおおおお!!」 同族の亡骸を見たことで酷く取り乱した赤まりさはその赤れいむだったものを体当たりで視界の外に追いやると、ホッと一息ついて白いお饅頭に飛びついた。 しかしその瞬間、先ほどの黒い塊のときと同じように体内を強烈な痛みが駆け巡り、赤まりさは激痛のあまりに動くことが出来なくなる。 「ゆぎぃぃいいい・・・またなのおおおおお・・・!?」 苦しみながらも、もう白い饅頭も食べられないことを悟った赤まりさは、酷く落ち込んだまま辺りにほかの食べ物がないことを確認し、再び眠りにつきました。 そして翌朝。目を覚ました時、目の前にはいつものように食べ物が置かれておらず、ただ昨日の赤れいむの死体が転がっているだけだった。 どれだけ散歩を続けても、どれだけ歌を歌っても全く食べられるものが見つからなかった。 「ゆぅ・・・おにゃかしゅいたよお・・・」 「しろいのさんどきょお?」 「かきゅれてないででてきちぇね!」 しかし、何を言ったところで出てこないものは出てこない。 そうして、気がつけば赤まりさは2日近く何も食べなかった。 「ゆぅ・・・」 空腹で目を覚ました赤まりさの目の前に転がっているのは昨日の赤れいむの亡骸。目を凝らしてみると、その少し潰れた体からあの黒い塊が漏れ出していることに気がついた。 「ゆゆっ!くろいのしゃんだよ!」 寝ぼけていたのかも知れないが、空腹に負けた赤まりさは赤れいむから漏れ出していたその黒い塊を舐めた。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 そう口走りながら、赤れいむから漏れる黒い塊を一心不乱に舐め続ける赤まりさ。 「黒いのもっとたべちゃいよ!」 その欲求に従う赤まりさは今度は赤れいむの死体の傷口に口をつけて、そこから中身を吸い始めた。 「ゆっへ、えっはゆえぇ!」 それでも飽き足りなかった赤まりさはついに赤れいむの死体に噛り付いた。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!!」 久しぶりに空腹を満たした赤まりさは心地よい眠りについた。 翌朝、目を覚ますと今度は自分より若干小さい、ちゃんと帽子を被った赤まりさの死体が転がっていた。 お腹が膨れたことで正常な思考を取り戻していた赤まりさはさっさとそれを視界の外へ追いやる。 それから、いつものように歌を歌いながら見慣れた場所になってしまった見知らぬ場所の散歩を開始した。 「ゆぅ・・・今日も何もなかったよ・・・」 そう言って赤まりさはお昼寝を始めた。が・・・ 「ゆぅぅううう・・・おにゃかがしゅいてねみゅれないよおおおお・・・」 空腹のせいで眠れないらしく、落ち着き無く、先ほど押しのけた赤まりさの死体のうろうろしている。 「ゆぅぅうう・・・でも・・・ゆっくちできにゃいよおおお・・・」 やはり意識がはっきりしているときに同族を食べる意思は無いらしい。 しかし、この前と違って「同族は美味しい」と理解してしまっているため、いざとなったら食べることを選択肢に入れている。 そうやってしばらく右往左往していると、空から突然野菜くずや餡子、虫などが降って来た。 「ゆゆっ!?おいしそうなものがいっぱいだよ!」 同族食いへの嫌悪感や、空腹による思考能力の低下、長期間の経験の欠如による忘却。 それらの要因が重なっていた赤まりさは満面の笑みを浮かべてそのご馳走の山にかぶりつこうとした。 が、瞬間・・・ 「ゆぎゃあああああああああああああ!?」 しばらく味わっていなかった痛みが久しぶりに体中を駆け巡った。 「ゆぎぃぃいいいい!ゆぐぅう・・・!ゆっぐ・・・」 そして、自分がそれらを食べることが出来ないのを思い出した赤まりさは、死人のような表情で小さな赤まりさの死体を食べ始めた。 「うっめ、めっちゃうめぇ!」 そうは言うものの、正気を失っていた昨日と違って双眸からは涙が溢れ出している。 微笑んでいるように見えるその表情はどこか引きつっているようにも見える。歓喜の声はどこか不自然に裏返っている。 やがて、小さな赤まりさを食べ終えた赤まりさは目を閉じた。 眠りにつくまで赤まりさの口からはずっと「ごめんにぇ・・・」という言葉が漏れていた。 そして翌朝。 今度はまりさの目の前に赤れいむの死体と、瀕死の赤れいむが転がっていた。 「ゆぅ・・・ゆぎゅぅ・・・いぢゃい、いぢゃいよおおお・・・」 「ゆっ!?だいじょうぶ?ゆっくちしっかりしてね!」 急いで駆け寄った赤まりさ。しかし、その赤れいむの有様には驚愕するしかなかった。 「ゆぎぇ!?な、なにごれえええええ!?」 酷く小柄で、同じ赤ちゃんの自分と比べても半分近い大きさしかなく、その上両目を失っている。 そして、底面をこんがり焼かれてしまっていて、二度と歩くことのかなわない体にされてしまっていた。 赤まりさは必死に手当てをしようとするが、傷を舐めるぐらいしか出来ない。 「ゆっ!?しょうだ!おいちいものをあげるから、ゆっくりまっててね!」 そう言って赤れいむをあやすと、まりさはおもむろに赤れいむの死体に近づいていった。 小さな赤ちゃんでも食べられるようにそれを噛み千切ろうとした時、またしてもあの痛みが赤まりさを襲った。 「ゆぎぃいいいいいいいいいい!?」 そして、その瞬間に赤まりさは理解した。 自分は、あの子を、食べるしかないのだ、と。 「ごべんね!おいしいのみつからにゃかったよ!」 瀕死の赤れいむに泣きながら詫びる赤まりさ。 けれど、赤れいむはその声に応じる余裕などなく、ただひたすら「いちゃいよおおお!くりゃいよおお!」と泣き喚くだけ。 赤まりさはそんな赤れいむが息を引き取るまで、ずっと寄り添っていた。 「おねーぢゃん・・・ありがちょー・・・もっちょいっちょにゆっきゅちちたかったよ・・・」 そんな言葉を残して旅立ってしまった赤れいむ。 「ごべんねぇ、れいむぅ・・・」 自分が何もしてあげられなかったことを悔やみながら、赤まりさは苦しそうな、しかし少しだけ幸せそうな表情の赤れいむの亡骸に口をつける。 が、無常にもあの痛みがそれを阻む。しかも、その痛みは長く続き、赤まりさは痛みに負けて意識を手放した。 赤まりさが目を覚ますと、そこに赤れいむの死体はなく、代わりに別の赤れいむがさっきの赤れいむと同じ有様で横たわっていた。 「ゆぅううう・・・いだいよぉ・・・」 小さな体をよじって苦しんでいる。しかし、自分は死んだゆっくりを食べられないことを学習した赤まりさにとって、それはもはや餌でしかなかった。 「ゆ、ゆっくりしんでね!」 そう言うと赤れいむが何か返事をする前に噛み付いて柔らかい皮を食いちぎる。 「―――っゆぎゃああああああ!」 その蛮行に赤れいむは悲鳴を上げるが、逃げることも抵抗することも出来ない。 その叫びを聞きながら、苦悶の表情を眺めながらも赤まりさは「これがれいむのためなんだよ!」と赤れいむに、そして何より自分自身に言い聞かせながら美味しい餌を食い漁った。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 赤れいむを美味しくいただいた後、眠りについた赤まりさが目を覚ますと、元気な愛らしい赤れいむが自分の頬ずりをしていた。 「おねーしゃん、れいみゅといっちょにゆっくちちようね!」 舌足らずな言葉、純真無垢な笑顔。そして自分よりずっと小さい体躯。 どうやら赤まりさは何時の間にか子まりさと呼ぶにふさわしい大きさにまで成長していたらしい。 自分が大きくなっていた喜びと、自分を慕ってくれる家族が出来た喜びに子まりさは満面の笑みを浮かべる。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」 赤れいむの返事を聞き終えると、2匹はぴったりとくっついて頬をすり寄せ合った。 それから、2匹は時間を忘れて遊び続けた。 「ゆぅ~、おねーしゃん!おなきゃしゅいたよ!」 「ゆっ!ゆっくりがまんしてね!まりしゃもおなかしゅいたよ!」 しばらく遊んでいると突然空腹を訴え始めた赤れいむにそう言い聞かせる子まりさ。 しかし、赤ちゃんにとって我慢は非常につらいものであり、また、なぜ我慢しなければいけないのかわからない赤れいむはすぐに泣き出してしまった。 「ゆえええええええええん!おにゃがしゅいだよおおおおおおおお!ゆっきゅぢできにゃいよおおおおお!」 「ゆぅ・・・わかったよ!まりしゃがなにかさがしてくるよ!」 そう言って少しの間だけ赤れいむを泣き止ませることに成功した子まりさは何も無いだろうとうすうす感じながらもいつもの場所を行ったり来たりした。 が、予想通りいくら探しても食べれそうなものは何も見当たらない。 「おめんにぇ、おちびちゃん!なにもみつからなかったよ!」 「ゆわあああああん!おねーしゃんのばきゃあああああ!」 「どほぢでそんなごどいうのおおおおおおお!」 「れいみゅゆっきゅちちちゃいよおおおおおおおお!」 「まりしゃだってゆっくちちちゃいよおおおおおお!」 そうやってしばらく喧嘩しながら泣きじゃくっていると、赤れいむは泣き疲れて舟をこぎ始めた。 「ゆうううう・・・おにゃか・・・しゅいた・・・よぉ・・・」 そのことに気づいたまりさは泣くのを止め、赤れいむが寝冷えしないように頬を摺り寄せ、自分も眠りについた。 翌朝になると、昨日のことをすっかり忘れていた赤れいむは無邪気に自分に甘えてきた。しかし、食糧難だけは一向に解決する気配がなく、2匹とも徐々に痩せ衰えて行った。 「おねーしゃん、れいみゅおなきゃしゅいたよ・・・」 赤れいむは弱々しく呟くが、子まりさのその欲求を満たす術は無い。 「ゆっくりがまんしてね!」 だから、そう返すのが精一杯だった。 それから1日経ち、2日経っても何処にも食料は見当たらなかった。 そして、そうやって食事抜きの生活が5日目に突入した日、赤れいむが子まりさに猛然と飛び掛ってきた。 「ゆゆっ!おちびちゃんなにするの!?」 「でいびゅおなきゃしゅいだよおおおおお!」 「やめでね!まりさをたべないでね!」 「れいみゅをゆっきゅちしゃせてきれにゃいおねーしゃんなんかゆっくちちね!」 昨日まで一緒にゆっくりしていた妹分から浴びせられる罵声。そしてじわじわと皮を食い破っていく幼い歯。 その痛みを感じたとき、子まりさは思った。 死にたくない、と。 「いぢゃいよおおおおお!どほぢぢぇこんにゃことぢゅるにょおおおお!?」 気がついたら赤れいむを壁に叩きつけていた。 自分から仕掛けたことも忘れて泣きじゃくる赤れいむ。 しかし、子まりさはその姿を見ても昨日までのように可哀そうとは思わず、ただ憎たらしいだけだった。 「まりさをたべようとするわるいこはゆっくりしんでね!」 はき捨てた子まりさは泣きじゃくる妹分の頭上へと飛翔し、全力で赤れいむを踏み潰した。 久しぶりに空腹を満たした子まりさが目を覚ますと、美味しそうに野菜くずを食べる赤まりさの姿があった。 「ゆゆっ!おねーしゃん、まりしゃといっちょにゆっくちちてね!」 どこかで見たような舌足らずな言葉と無邪気な笑み。その既視感の正体も忘れて、子まりさは可愛らしい妹分の愛嬌のとりこになった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅちちちぇっちぇね!」 元気良く言葉を交わした2匹は頬ずりをして友愛を確認すると、2匹だけの世界を駆け回って遊び始めた。 「おねーしゃん!まりしゃおなきゃがしゅいたからやさいしゃんたべりゅよ!」 「だめだよ!やさいさんはあぶないよ!」 「しょんにゃことにゃいよ!しゃっきもちゃべれたもん!」 「・・・それもそうだね!じゃあ、まりさといっしょにたべようね!」 2匹そろって美味しそうな野菜くずに向かって行くが、いざ食べようとした瞬間、子まりさの体内から激痛が襲ってくる。 「ゆぎいいいいいいい!?」 「ゆぅっ!?おねーしゃん、どーちたにょ!?」 「な、なんでぼないよ・・・ゆがああああ、ゆげぇ・・・」 痛みを必死に堪えながら赤まりさに微笑みかけようとするが痛みのせいでそれすらも上手くできない。 「ま、まりさだけでもおやさいをたべてね・・・」 「ゆぅ・・・わきゃったよ!ゆっきゅりたべりゅよ!」 そう言って赤まりさは野菜くず食べはじめた。 「うっみぇ、きょれれめっちゃうめぇ!」 子まりさはその赤まりさの幸せそうな姿をただただ眺めるばかりだった。 翌日も、その翌日も子まりさと赤まりさは一緒に遊んだ。 赤まりさは良く遊び、良く食べ、良く眠り、非常にゆっくりとした生活を送っている。 一方の子まりさは空きっ腹を抱えならがも赤まりさに付き合い、野菜くずを食べようにも痛みが怖くて食べられず、酷い空腹で眠ることもままならない。 それでも仲良くしていた2匹の関係に終わりをもたらしたのは、4日目の夜中の出来事だった。 突然の激痛で目を覚ますと同時に絶叫する羽目になった子まりさ。 赤まりさはその傍に寄り添い心配そうに子まりさに声をかけ続けていた。 「おねーしゃん、だいじょーびゅ?」 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・らいじょうぶだよ・・・ゆ?」 そんな赤まりさに心配をかけまいと必死に笑顔を取り繕う子まりさだったが、不意に口の中の異物感に気づき、それを吐き出す。 「ゆゆっ!?どほぢでおやざいがぐぢのながにいいいいいいい!?」 無意識の内に食べてしまったのだろうか? とにかく、子まりさはこれを口にしたせいで痛い目にあってしまったのだと判断した。 「おねーしゃん、おいちかっちゃでちょ!」 「ゆ?どういうこと?」 「おねーしゃんがしゅききりゃいしゅるからまりしゃがたべさちてあげちゃんだよ!」 「・・・まりさがこれをたべさせたの?!」 その事実を知った途端、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。 悪気は無いのかもしれない。けれど、自分が食べたくても食べられないものを貪り、眠れない自分の隣で安眠し、疲労困憊の自分を好き勝手に連れまわす赤まりさの振る舞いの全てが、自分を苦しめるためのもののように思えてきた。 被害妄想以外の何者でもないだろう。しかし、本人にとってはその妄想こそ真実。 「しょーだよ!おいちかったでちょ!まりしゃのことほめちぇね!」 そんなことを口にすると同時にえへんとふんぞり返って胸を張る赤まりさ。 しかし、それが命取りになった。 「ゆっくり・・・しねええええ!」 響き渡る絶叫とともに跳躍した子まりさは思いっきり赤まりさの上に圧し掛かり、何度も何度も踏みつけた。 「どほぢ・・・ゆげっ!?」 「まりさをっ!!」 「やべでっ!?」 「いぢめるっ!!」 「おねーぢゃん!?」 「ごみくずはっ!!」 「ゅぅ・・・ゅ・・・」 「ゆっくり!!」 「・・・・・・ゅぅ・・・」 「しねっ!!」 鬼のような形相で赤まりさを踏み潰した子まりさは、漏れ出したものを丹念に舐めとる。 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 そうして、自分の周りがきれいになったところで4日ぶりの安眠へといざなわれていった。 「うっみぇ、きょれめっちゃうみぇ!」 目を覚ますとまたしても赤まりさが美味しそうに野菜くずを食べていた。 今までに食べた2匹にも負けない純朴な笑みと無垢な瞳。 それを見た子まりさは思った。 なんて美味しそうな餌なんだろう、と。 「ゆゆっ!おねーしゃん、めをしゃまちたの?」 「まりしゃといっちょにゆっくちちよーね!」 その一片の邪心も感じさせないお願いを聞いた瞬間、子まりさは赤まりさの頭上へと飛び上がった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっきゅちちちぇっちぇ、ぐぇ!!?」 それは一緒にゆっくりしようという意味ではなく、ただおとなしく食べられてくれということに他ならない。 それは相手に自分の好意や厚意を示すものではなく、ただその言葉を聞くと動きを止めて返事する習性を利用するための戦術に他ならない。 ゆっくりにとってもっとも基本的なその言葉を最後まで言い切ることさえかなわなかった赤まりさはその一撃で一切身動きが取れないほどの痛手を負ってしまった。 「・・・ゅっぅぃ・・・ぃぁぁっぁょ」 赤まりさにはまだ息があった。しかし、動かないならば生きていようが死んでいようが同じこと。 子まりさは口の中に広がるであろう甘みに胸を躍らせながら、何かわけのわからないことを呟く餌にかじりつく。 その死にかけの餌の甘みは今までに食べたどの餌よりも甘かった。 その味をしめた子まりさは今度もきっと死ぬ前にゆっくり食べよう、と思った。 それからの子まりさの生活は非常にゆっくりしたものだった。 朝起きれば美味しいご飯が転がっている。 お腹が空いていなければちょっと行儀が悪いがそのご飯と遊んだってかまわない。 とにかく、自分の好きなように遊ぶだけ遊んで、食べたいときに食べて、目を覚ませばすぐに美味しい食べ物が補充されている。 きっと自分ほどゆっくりしたゆっくりはいないだろう。 そう思えるほどに子まりさの生活は充実していた。 そんなある日、まりさが目を覚ますと目の前には自分と同じくらいの大きさのゆっくりれいむがいた。 子まりさは自分と同じ大きさであったからなのか、その個体を餌と判断することなく、元気良く声をかけた。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 「まりさはまりさだよ!」 「れいむはれいむだよ!」 わけのわからない自己紹介の後、子まりさはれいむの傍へ寄って行き、頬ずりで親愛の意を示した。 それから、「いっしょにおさんぽしよう!」と誘う子まりさ。しかし、れいむは断った。 「どほぢでええええええ!?」 まりさのことがきらいなの!?と問い詰めるまりさに首を振ってそうゆゆってではないことを伝えたれいむは「あしがうごかないの」と呟く。 「ゆゆっ!それならまりさがずっとそぱにいてあげるよ!」 そうして子まりさがれいむに頬を摺り寄せると、れいむも動かない体で頑張って頬ずりを返してくれた。 淡い淡い初恋。 この子とずっと一緒にゆっくりしていたい。 ゆっくり特有の、そして発情期間近特有の惚れっぽさでそう思った子まりさ。 すると、突然地面が揺れ始める。 今までの自分達の行動との因果関係も、何の前触れも無い振動に戸惑う2匹。 「ま、まりさ、こわいよおおおお!」 「ゆゆっ!だいじょうぶだよ!まりさがまもってあげるよ!」 そう言って、いっそう力強くれいむに頬を摺り寄せる子まりさ。 しかし、その振る舞いがまずかった。 「ゆぅ~?なんか変な気分だよ!」 「ゆぅう・・・れいむもなにかへんだよ!」 揺れの最中に突然自分達を包み込んだ不思議な快感。 それに酔いしれ、その正体を究明しようと試みる2匹は揺れの最中の自分達の行動を真似る。 そして、自分達の頬をすり合わせる行為をもっと激しくすればその快感を得られることに気づいた2匹はひたすらそれを繰り返した。 足の不自由なれいむには大変な行為なので、ずっと子まりさが主導権を握って、時が経つのも忘れ、揺れが止まったことにも気づかずにその行為に溺れた。 続く このSSに感想を付ける
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初作品です、暖かい目で見てやってください 現代設定、バッジは付けてません 転落ゆん生モノ?です。 ゆる虐め・ゲスありません、たぶん。 非血縁まりさ一家 時は平成大不況、派遣として悠々自適な生活を送っていたお兄さんは家計がピンチだった。 「しまった…誘われた時に社員になっておくんだった!!」 今日も暇な仕事を終えノー残業でしっかり退社。 狭いボロアパートの一室で夕飯を食べながら、背筋の寒くなるニュースを嫌々チェックしていた。 勤め先の工場では既に顔見知りが減ってきている。 比較的気に入られていた自分はかろうじて残っているとはいえ、いつ職を失うか分かったものではない。 そういえばスキマ妖怪に会いたいと常々言っていた仲のいい同僚は真っ先に消えていた。 幻想入りしたのだったらとっても羨ましいぞ! 「まずい、これはマズイぞ」 先の見えない不況は工場の操業期間を大幅に削減していった。 もちろん無駄な労働力は必要ないのであるからして、お兄さんのお先は比較的真っ暗。 さらに貯金はスズメの涙ほどしかない。 今クビになったら…そう考えるお兄さん。すぐにガックリとうなだれてしまった。 「「ゆっ!ゆっ!」」 と、部屋の隅から声が聞こえてきた。もちろんゆっくりである。 「ゆっくりおひるねしてたよ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってね!」 一匹は生体のまりさ。ゆっくちー!と煩く騒いでいるのは赤まりさだ。 二匹ともお兄さんの飼いゆっくりである。 「ああ、起きたのか。おはようお前ら…」 「ゆっくちー!」 …煩い 甲高い声は耳が痛くなるな 「おにーさんがおしごといってるあいだはたいくつだよ!」 「あーそうだな」 「ゆっくち!ゆっくち!おにーしゃんあしょんで!」 「あーどうしようかな」 知人のゆっくり愛好家にもらったモノだから詳しくは知らないが、この二匹は別に親子というわけではない。 二週間ほど前に生体まりさを引き取って欲しいと言われて了解したら、なぜか小さいのもセットだった。 飼い主が留守にした時、一匹だとすることがないため意図せず部屋を荒らすこともあるという。その対策らしい。 親子ではないとお互い認識はしているが、継母と継子のような関係は心地いいようだ。 ちなみにこの二匹、あくまで主観だが躾はかなりしっかりしている。 留守にしても特に散らかすわけでもなく、隅にダンボールで作ってやった家を「ゆっくりぷれいす」と称して日がな一日ゆっくりしている。 「まりさ、おにーさんはおしごとでつかれてるんだからむりいっちゃだめだよ!」 「ゆぅ…」 こんな風に人のことも考えられる程度には頭が良い。 生体まりさがお兄さんの不機嫌さを察していたかどうかは定かではないが。 「おにーしゃん、あちたはゆっくちできる?おちごとなの?」 赤まりさがおずおずとお兄さんに尋ねる。 「明日は休みだからゆっくりするぞ」 「ほんちょに?あしょんでくれる?」 目をウルウルさせながらこっちを見つめてくる赤まりさ。 キャンキャンうるさいがこういうとこはかわいい。 だが。 「それは無理」 「ゆっ…?」 なにせ百年に一度の大不況。今の仕事がいつまで続けられるか分からないが、早めに備えて動くべきだろう。 ハロワいってみっか…とか漠然と考えていたお兄さんは、赤まりさの願いを粉砕した。 「ゆっ…ゆっ…ゆわああああああああん!」 「ゆゆっまりさ!ゆっくりはしらないとあぶないよ!」 赤まりさはよほどショックだったらしい。 目をこんなにして→(><)泣きながらゆっくりぷれいすまでダッシュしていった。 …どう贔屓目に見てもダッシュというより匍匐前進だが。 「おにーさんひどいよ!おちびちゃんにはもうすこしやさしくいってあげてね!ぷくー!」 そういって膨れる帽子付き饅頭。 やさしくってどうしろと…。 「悪かったよ…。ほら、お前ら飯まだだろ、これ持ってって食え」 「ぷひゅるるるるる。ゆゆっ、おいしそうなおにぎりさんだね!おにーさんありがとう!」 わざわざ擬音を口に出すとこも間抜けだな。 「おちびちゃん!おにーさんがごはんをくれたよ!いっしょにたべようね!」 おにぎりを咥えてぽいんぽいんとぷれいすへ跳ねていくまりさ。 ぷれいすの中からはゆっゆっと小さく嗚咽が聞こえていたが、そのうち二匹で食べ始めたようだ。 「「むーしゃ、むーしゃ」」 「しあわせー!!」「ちあわしぇー!!」 呑気なもんだ。 お兄さんは考えことをしながら、ダンボールで作ってやったゆっくりぷれいすをボーっと見ている。 こいつらが来た時に作ってやったっけなぁ…きれいに使ってるみたいだ ちゃぶ台の上には夕飯の残骸とテレビのリモコン。 ブラウン管の中には高そうなスーツを着たアナウンサーとゲストが美味そうな洋食を食っていた。 うぃっしゅうぃっしゅ言ってるゆっくりみたいな喋りでもイケメンはこの待遇か… 「…」 なんだか急に脱力感が… 「…」 お兄さんは電気を消すと早々に布団にもぐりこみ、何も考えないように眠りについた。 翌日、お兄さんは早々と出かけてしまった。 お仕事もないのにまったくゆっくりしていない。 最近は段々元気もなくなってきている気がする。 「おちびちゃん!ゆっくりおきてね!」 「ゆっ…ゆっくひぉきるよ…」 ゆっくりぷれいすの外から呼びかけて赤まりさを起こす。 返事は帰ってきたがまだまだ眠そうにしている。 よちよちと出てきた赤まりさはまりさと顔を合わすと挨拶をした。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってにぇ!」 「ゆっくりおきてね!ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くしゅぐっちゃいよ!おかあしゃん!」 どんなゆっくりでも望むゆっくりした時間がそこにはあった。 「おかあしゃん!つぎはまりしゃがしゅーりしゅーりしてあげるね!」 「ゆゆっ!ありがとうおちびちゃん!」 ちなみにこの生体まりさ、赤まりさを呼ぶときに癖がある。 普通に接するときは「おちびちゃん」、叱る時など少しきつい口調の時は「まりさ」と呼ぶようだ。 赤まりさは最初は「おねえしゃん」などと呼んでいたが、少し懐くと「おかあしゃん」と呼び始めた。 恐らく生体まりさがそう促したのだろう。 そのおかげか、お兄さんに番が欲しいとか子供が欲しいと言い出すことはなかった。 「ゆっくちおめめぱっちりだよ!」 「「ゆっくり(ち)していってね!!」」 今日も一日ゆっくりしよう。 以前ご飯をくれていたお兄さんの部屋より狭くて散らかってるけど、寒くもないし暑くもない、ゆっくりできない敵もいない。 よく言うことを聞く可愛いおちびちゃんがいるのだから、まりさは今とってもゆっくりできている。 おにーさんはあまり構ってくれないけど、ちゃんとご飯もお水も用意してくれるし、時々はあまあまもくれる。 まりさはなんてゆっくりしたゆっくりなんだろう。もちろんおちびちゃんもだ。 「ゆっ…おにーしゃんいないの?」 「おやすみだけどおにーさんはでかけたよ!きのういってたよ!」 「ゆぅ…」 「まりさがあそんであげるからね!ゆっくりあそぼうね!」 「ゆっくちー!」 赤まりさは随分お兄さんに懐いていた。 それはまりさに対してよりもだ。 それもそのはず、二匹の餌は全てお兄さんが用意しているのだ。 昨晩はぷれいすにいる赤まりさにまりさが持っていく形になったが、いつもは並んでお兄さんにご飯をもらう。 当然、赤まりさはご飯もあまあまも用意してくれ、まりさよりも遊びのバリエーションの多いお兄さんによく懐いた。 といっても、遊んでもらったのは最初の数日だけだったが。 まりさは若干の寂しさを覚えながらも、それも仕方のないことと割り切っていた。 お兄さんがまりさたちをゆっくりさせてくれている。 まりさも赤まりさと立場が逆なら、きっとお兄さんによく懐いただろうことはよくわかっているのだ。 二匹はお兄さんが帰ってくるまで、その日もゆっくりして過ごした。 「まずい…こんなに状況が悪かったとは…」 帰ってくるなりちゃぶ台の前で頭を抱えたお兄さんはそう呟くと、それ以降ずっと考え事をしているようで、まりさたちに全く構ってくれなかった。 対照的にゆっくり二匹は大はしゃぎである。 「おにーさん!ひまならまりさたちとあそんでね!おちびちゃんもさみしがってるよ!」 「おにーしゃん!あしょんで!あしょんで!」 「おにーさんきいてるの!?きこえないふりしないでね!」 まりさがお兄さんの横で話しかけても、赤まりさがお兄さんの周りをピョンピョン跳ねながらお願いしても、お兄さんは反応しなかった。 「ゆぅ…おちびちゃん、おにーさんはきっとおでかけしてつかれてるんだよ…。きょうはおにーさんをゆっくりさせてあげようね?」 「ゆぅー!ゆぅーっ!!」 まりさが赤まりさを諭そうとしても赤まりさは納得できないようである。 涙目になりながら顔を真っ赤にして、じたばたぷるぷると騒いでいる。 「どうちてあしょんでくれないの!?まりしゃはおにーしゃんとあしょびたいよ!」 善良な個体とはいえまだ赤ゆっくり。 遊びたい盛りの子供に我慢を覚えさせるのはやはり難しいことなのだろう。 「まりさ!わがままいうとおにーさんがゆっくりできないでしょ!」 「なんでおかあしゃんもそんなこというの!?まりしゃはたかいたかいもぷかぷかも、ずっとがみゃんしてたのに!」 お兄さんは面倒くさがりというわけではないが、基本的にゆっくりに対して興味の薄い人だった。 ゆっくりの好むものや生態についての知識は「そういえば聞いたことがある」程度のものでしかない。 そのため「手間をかけなくて大丈夫」という知人の言葉を必要以上に信用していた。 「たかいたかい!ぷかぷか!やって!あしょんでぇ!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 とうとう堪えきれなくなった赤まりさはボロボロと涙をこぼしながら泣き出してしまった。 サイズが小さいとはいえゆっくりの声は普段でもそれなりに大きい。 それが出せる限りの大声で泣き出したのだから、ボロアパートの壁や床など突き抜けてしまうほどである。 さすがのお兄さんもこれには反応せざるを得なかった。 「おい、お前らちょっとうるさいぞ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ゆあぁぁぁん!!」 「おちびちゃん、なきやんでね!ないちゃだめだよ!」 「何やってんだよ…マジで…」 ドバドバと涙を流す赤まりさの足元には既に砂糖水溜まりができ始めていた。 それをみてウンザリした様子のお兄さん。 まりさは赤まりさを泣き止ませようと必死だ。 「ほらおちびちゃん、だいすきなおうただよ!ゆゆゆゆ~ゆ~ゆ~ゆっゆゆ~♪」 「ゆあぁぁぁぁぁぁん!!」 「おかあさんがおもしろいかおするよ!べろべろー!ばー!?」 「ゆあぁぁぁぁん!!」 「おちびちゃんあれみて!とってもゆっくりできるうーぱっくがとんでるよ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁん!!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 「ゆぅぅぅぅぅ…ないちゃだめっていってるでしょお!どぼちてなくのぉぉぉぉぉぉ!?」 泣き止まない赤まりさに業を煮やしたまりさも、とうとう大声を張り上げて怒り始めてしまった。 既に砂糖水は畳に染みを作っている。 「はぁ…あれどこにやったっけな…」 お兄さんは立ち上がると押入れをゴソゴソと探り出した。 まりさは泣き止まない赤まりさの前で、必死の形相で赤まりさに怒っている。 「まりさ!なきやまないとまりさもおこるよ!」 「ゆあぁぁぁぁん!なんでおぎゃあざんぞんなごどいうのぉぉぉ!!??あしょんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「わがままいうまりさとなんてあそんであげないよ!!ゆっくりりかいしたらなきやんでね!!!」 「ゆあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!あじょんでくれないといやぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ゆっ…ゆっ…おちびちゃんなきやんでよぉぉぉぉぉ!!!」 既に堂々巡りである。 というかまりさも泣き始めている。 軽い混乱状態にあるゆっくりに期待するのも酷というものだろう。 それにしてもすごい量の涙だ。泣き過ぎでカラカラに乾いたりしないのだろうか。 「おっ、あったあった。」 お兄さんが押入れから目当ての物を探し当てた。 「さすがにこれじゃ騒音で文句言われかねんからな…シミもこれ取れるのか?」 そうブツブツ言いながらお兄さんは、先ほど探し当てた透明な箱の中に泣き続ける赤まりさを放り込んだ。 ちなみにこの箱はかなりの防音性能を誇っている。 そして中のゆっくりが苦しくないように通気性もばっちりだ。 しかし内部からゆっくりの涙などの液体が漏れ出てくることはない。 どうやってそれらの機能が両立されているのかは知らない。 「・・・・・・!!・・・・・・・・・・!!!!!」 「ゆ、おちびちゃん!ゆっくりなきやんだんだね!いうこときいてくれてまりさうれしいよ!」 おお、防音防音。 「ゆ?………………おにーさんたいへんだよ!おちびちゃんのこえがでなくなっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 おお…そうきたか… 「おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!おがあぢゃんがなんどがじであげどぅがらねぇ!」 「お前もかよ…箱は一個しか貰ってないんだが…」 「ゆっ!ずりずりぼでぎないぃぃぃぃぃ!!??おにーさんおちびちゃんがぁぁぁぁl!!」 「あーうっさいうっさい。ちょっと黙れって」 「ゆぎゅえっ!」 赤まりさにすりすりしようと箱に向かって突進を続ける騒音饅頭を軽く踏みつけて黙らせる。 足下でうねうね柔らかいものが動く感触は気持ちいいような悪いような…。 「おい、まりさ落ち着け」 「む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」 はぁ、とため息をつくお兄さん。 優秀なゆっくりだと思っていたが、こんなに豹変するとは聞いていなかった。 赤まりさを見つめながらも足から逃れようとジタバタ動くまりさ。 赤まりさは箱に入れられたことにも気付いていないのか、まだ泣き続けている。 と、突然 ドンドンドンドンドンとドアを叩く音が響いた。 割と尋常な叩き方ではない。 「ちょっと大家ですけど!いるんでしょ!」 ドアを叩いている人は間違いなく大家さんだ。 そして要件は間違いなく騒音だろう。 お兄さんの顔は引き攣って青ざめている。 「ゆゆゆっ!だっしゅつしたよ!」 その隙に、拘束の緩んだ足からまりさが抜け出した。 自慢の帽子が少しクシャクシャになったが気にしている場合ではない。 「おちびちゃん!いまおにーさんがなおしてくれるからね!まっててね!」 まりさが大声で赤まりさに呼びかける。 「あっ!やっぱりいるんじゃないちょっと!早くあけなさいよ!」 ドンドンドンドンドンと、ドアを叩く音がまた響いた。 このアパートはペット禁止だった。 今までの二週間は比較的穏やかに過ごしていたために気づかれることはなかった。 隣の部屋には聞こえていたかもしれないが、静かにゆっくりしているゆっくりだったので見逃されていたのだろう。 しかし、今回の騒音は流石に容認できるものではなかったようだ。 大家にもゆっくりを飼っていることがバレてしまったし、畳のシミも見つけられてこってりしぼられた。 「ゆっくりを飼った結果がこれだよってか…」 さすがにもう飼っていられない。 この不況で仕事も危ういのに、住所不定にだけはなりたくない。 手間も金もそんなにかからなかったとはいえ、お兄さんはまりさたちをあっさり手放すことにした。 まりさを譲ってくれた知人に連絡を取ろうとしたが音信不通になっていた。 「あれもこれも、不況のせい政治のせいってね。…こいつらは自業自得ってことで」 「ゆぅ…おにーさん…」 「おにーしゃん、まりしゃあまあまもっとほしいよ!!」 今日は天気が良かったので少し遠出してピクニックだ。 このあたりは街中とはいえ人通りも少なく自然も多い。 ゆっくりがゆっくりするには最高の場所だろう。 「あまあまはもうないんだ、かわりにたかいたかいしてあげるぞ?」 「ゆっ!まりしゃたかいたかいのほうがいいよ!ゆっくりあしょんでね!」 まりさは落ち着かない様子でこちらと周囲をチラチラと見回している。 辺りには捨てゆっくりと思われるゆっくりが数匹いるようだ。 こいつらはバスケットの中で眠っていたようなので知らないだろうが、ここに来るまでに数匹のゆっくりがすり寄ってきた。 「おにーさん!れいむはとってもいうことをきくよ!おにーさんのおうちでもっとゆっくりしたいよ!」 「わかるよーちぇんはやくにたつゆっくりなんだよー!だからかってほしいんだよー!」 「むきゅ…おにーさん…ぱちぇをおねーさんのところにつれていって…」 どいつもこいつも薄汚れてボロボロだった。 あまりにしつこかったのと、まりさたちが起きた時にまとわりつかれても邪魔なために蹴り潰した。 今日からまりさたちもこいつらのようになるのかと思うと複雑な思いだ。 「ふぅ、お兄さんは少し疲れたから向こうで休憩してくるよ。まりさたちはせっかくの外なんだからいろいろ探検してくるといい。」 「ゆっ!いいのおにーしゃん!?」 「ゆゆゆっ!だめだよおちびちゃん!まりさもおにーさんといっしょにいるよ!」 「ゆぅーっ!どうちて!?ぷくぅー!!」 「俺はどっちでもいいけど…いいのか?これから新しい仕事が始まるから全然構ってやれなくなるぞ?お外に来れるチャンスなんて多分ないだろうなあ」 「おかーしゃん!まりしゃたんけんしちゃいよ!」 「ゆぅ…」 結局まりさは赤まりさに押し切られる形で探検に出かけた。 「ゆっくり探検していってねー」 終わり 最後まで見ていただいてありがとうございました。 書いた人:有機野菜
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初作品です、暖かい目で見てやってください 現代設定、バッジは付けてません 転落ゆん生モノ?です。 ゆる虐め・ゲスありません、たぶん。 非血縁まりさ一家 時は平成大不況、派遣として悠々自適な生活を送っていたお兄さんは家計がピンチだった。 「しまった…誘われた時に社員になっておくんだった!!」 今日も暇な仕事を終えノー残業でしっかり退社。 狭いボロアパートの一室で夕飯を食べながら、背筋の寒くなるニュースを嫌々チェックしていた。 勤め先の工場では既に顔見知りが減ってきている。 比較的気に入られていた自分はかろうじて残っているとはいえ、いつ職を失うか分かったものではない。 そういえばスキマ妖怪に会いたいと常々言っていた仲のいい同僚は真っ先に消えていた。 幻想入りしたのだったらとっても羨ましいぞ! 「まずい、これはマズイぞ」 先の見えない不況は工場の操業期間を大幅に削減していった。 もちろん無駄な労働力は必要ないのであるからして、お兄さんのお先は比較的真っ暗。 さらに貯金はスズメの涙ほどしかない。 今クビになったら…そう考えるお兄さん。すぐにガックリとうなだれてしまった。 「「ゆっ!ゆっ!」」 と、部屋の隅から声が聞こえてきた。もちろんゆっくりである。 「ゆっくりおひるねしてたよ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってね!」 一匹は生体のまりさ。ゆっくちー!と煩く騒いでいるのは赤まりさだ。 二匹ともお兄さんの飼いゆっくりである。 「ああ、起きたのか。おはようお前ら…」 「ゆっくちー!」 …煩い 甲高い声は耳が痛くなるな 「おにーさんがおしごといってるあいだはたいくつだよ!」 「あーそうだな」 「ゆっくち!ゆっくち!おにーしゃんあしょんで!」 「あーどうしようかな」 知人のゆっくり愛好家にもらったモノだから詳しくは知らないが、この二匹は別に親子というわけではない。 二週間ほど前に生体まりさを引き取って欲しいと言われて了解したら、なぜか小さいのもセットだった。 飼い主が留守にした時、一匹だとすることがないため意図せず部屋を荒らすこともあるという。その対策らしい。 親子ではないとお互い認識はしているが、継母と継子のような関係は心地いいようだ。 ちなみにこの二匹、あくまで主観だが躾はかなりしっかりしている。 留守にしても特に散らかすわけでもなく、隅にダンボールで作ってやった家を「ゆっくりぷれいす」と称して日がな一日ゆっくりしている。 「まりさ、おにーさんはおしごとでつかれてるんだからむりいっちゃだめだよ!」 「ゆぅ…」 こんな風に人のことも考えられる程度には頭が良い。 生体まりさがお兄さんの不機嫌さを察していたかどうかは定かではないが。 「おにーしゃん、あちたはゆっくちできる?おちごとなの?」 赤まりさがおずおずとお兄さんに尋ねる。 「明日は休みだからゆっくりするぞ」 「ほんちょに?あしょんでくれる?」 目をウルウルさせながらこっちを見つめてくる赤まりさ。 キャンキャンうるさいがこういうとこはかわいい。 だが。 「それは無理」 「ゆっ…?」 なにせ百年に一度の大不況。今の仕事がいつまで続けられるか分からないが、早めに備えて動くべきだろう。 ハロワいってみっか…とか漠然と考えていたお兄さんは、赤まりさの願いを粉砕した。 「ゆっ…ゆっ…ゆわああああああああん!」 「ゆゆっまりさ!ゆっくりはしらないとあぶないよ!」 赤まりさはよほどショックだったらしい。 目をこんなにして→(><)泣きながらゆっくりぷれいすまでダッシュしていった。 …どう贔屓目に見てもダッシュというより匍匐前進だが。 「おにーさんひどいよ!おちびちゃんにはもうすこしやさしくいってあげてね!ぷくー!」 そういって膨れる帽子付き饅頭。 やさしくってどうしろと…。 「悪かったよ…。ほら、お前ら飯まだだろ、これ持ってって食え」 「ぷひゅるるるるる。ゆゆっ、おいしそうなおにぎりさんだね!おにーさんありがとう!」 わざわざ擬音を口に出すとこも間抜けだな。 「おちびちゃん!おにーさんがごはんをくれたよ!いっしょにたべようね!」 おにぎりを咥えてぽいんぽいんとぷれいすへ跳ねていくまりさ。 ぷれいすの中からはゆっゆっと小さく嗚咽が聞こえていたが、そのうち二匹で食べ始めたようだ。 「「むーしゃ、むーしゃ」」 「しあわせー!!」「ちあわしぇー!!」 呑気なもんだ。 お兄さんは考えことをしながら、ダンボールで作ってやったゆっくりぷれいすをボーっと見ている。 こいつらが来た時に作ってやったっけなぁ…きれいに使ってるみたいだ ちゃぶ台の上には夕飯の残骸とテレビのリモコン。 ブラウン管の中には高そうなスーツを着たアナウンサーとゲストが美味そうな洋食を食っていた。 うぃっしゅうぃっしゅ言ってるゆっくりみたいな喋りでもイケメンはこの待遇か… 「…」 なんだか急に脱力感が… 「…」 お兄さんは電気を消すと早々に布団にもぐりこみ、何も考えないように眠りについた。 翌日、お兄さんは早々と出かけてしまった。 お仕事もないのにまったくゆっくりしていない。 最近は段々元気もなくなってきている気がする。 「おちびちゃん!ゆっくりおきてね!」 「ゆっ…ゆっくひぉきるよ…」 ゆっくりぷれいすの外から呼びかけて赤まりさを起こす。 返事は帰ってきたがまだまだ眠そうにしている。 よちよちと出てきた赤まりさはまりさと顔を合わすと挨拶をした。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってにぇ!」 「ゆっくりおきてね!ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くしゅぐっちゃいよ!おかあしゃん!」 どんなゆっくりでも望むゆっくりした時間がそこにはあった。 「おかあしゃん!つぎはまりしゃがしゅーりしゅーりしてあげるね!」 「ゆゆっ!ありがとうおちびちゃん!」 ちなみにこの生体まりさ、赤まりさを呼ぶときに癖がある。 普通に接するときは「おちびちゃん」、叱る時など少しきつい口調の時は「まりさ」と呼ぶようだ。 赤まりさは最初は「おねえしゃん」などと呼んでいたが、少し懐くと「おかあしゃん」と呼び始めた。 恐らく生体まりさがそう促したのだろう。 そのおかげか、お兄さんに番が欲しいとか子供が欲しいと言い出すことはなかった。 「ゆっくちおめめぱっちりだよ!」 「「ゆっくり(ち)していってね!!」」 今日も一日ゆっくりしよう。 以前ご飯をくれていたお兄さんの部屋より狭くて散らかってるけど、寒くもないし暑くもない、ゆっくりできない敵もいない。 よく言うことを聞く可愛いおちびちゃんがいるのだから、まりさは今とってもゆっくりできている。 おにーさんはあまり構ってくれないけど、ちゃんとご飯もお水も用意してくれるし、時々はあまあまもくれる。 まりさはなんてゆっくりしたゆっくりなんだろう。もちろんおちびちゃんもだ。 「ゆっ…おにーしゃんいないの?」 「おやすみだけどおにーさんはでかけたよ!きのういってたよ!」 「ゆぅ…」 「まりさがあそんであげるからね!ゆっくりあそぼうね!」 「ゆっくちー!」 赤まりさは随分お兄さんに懐いていた。 それはまりさに対してよりもだ。 それもそのはず、二匹の餌は全てお兄さんが用意しているのだ。 昨晩はぷれいすにいる赤まりさにまりさが持っていく形になったが、いつもは並んでお兄さんにご飯をもらう。 当然、赤まりさはご飯もあまあまも用意してくれ、まりさよりも遊びのバリエーションの多いお兄さんによく懐いた。 といっても、遊んでもらったのは最初の数日だけだったが。 まりさは若干の寂しさを覚えながらも、それも仕方のないことと割り切っていた。 お兄さんがまりさたちをゆっくりさせてくれている。 まりさも赤まりさと立場が逆なら、きっとお兄さんによく懐いただろうことはよくわかっているのだ。 二匹はお兄さんが帰ってくるまで、その日もゆっくりして過ごした。 「まずい…こんなに状況が悪かったとは…」 帰ってくるなりちゃぶ台の前で頭を抱えたお兄さんはそう呟くと、それ以降ずっと考え事をしているようで、まりさたちに全く構ってくれなかった。 対照的にゆっくり二匹は大はしゃぎである。 「おにーさん!ひまならまりさたちとあそんでね!おちびちゃんもさみしがってるよ!」 「おにーしゃん!あしょんで!あしょんで!」 「おにーさんきいてるの!?きこえないふりしないでね!」 まりさがお兄さんの横で話しかけても、赤まりさがお兄さんの周りをピョンピョン跳ねながらお願いしても、お兄さんは反応しなかった。 「ゆぅ…おちびちゃん、おにーさんはきっとおでかけしてつかれてるんだよ…。きょうはおにーさんをゆっくりさせてあげようね?」 「ゆぅー!ゆぅーっ!!」 まりさが赤まりさを諭そうとしても赤まりさは納得できないようである。 涙目になりながら顔を真っ赤にして、じたばたぷるぷると騒いでいる。 「どうちてあしょんでくれないの!?まりしゃはおにーしゃんとあしょびたいよ!」 善良な個体とはいえまだ赤ゆっくり。 遊びたい盛りの子供に我慢を覚えさせるのはやはり難しいことなのだろう。 「まりさ!わがままいうとおにーさんがゆっくりできないでしょ!」 「なんでおかあしゃんもそんなこというの!?まりしゃはたかいたかいもぷかぷかも、ずっとがみゃんしてたのに!」 お兄さんは面倒くさがりというわけではないが、基本的にゆっくりに対して興味の薄い人だった。 ゆっくりの好むものや生態についての知識は「そういえば聞いたことがある」程度のものでしかない。 そのため「手間をかけなくて大丈夫」という知人の言葉を必要以上に信用していた。 「たかいたかい!ぷかぷか!やって!あしょんでぇ!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 とうとう堪えきれなくなった赤まりさはボロボロと涙をこぼしながら泣き出してしまった。 サイズが小さいとはいえゆっくりの声は普段でもそれなりに大きい。 それが出せる限りの大声で泣き出したのだから、ボロアパートの壁や床など突き抜けてしまうほどである。 さすがのお兄さんもこれには反応せざるを得なかった。 「おい、お前らちょっとうるさいぞ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ゆあぁぁぁん!!」 「おちびちゃん、なきやんでね!ないちゃだめだよ!」 「何やってんだよ…マジで…」 ドバドバと涙を流す赤まりさの足元には既に砂糖水溜まりができ始めていた。 それをみてウンザリした様子のお兄さん。 まりさは赤まりさを泣き止ませようと必死だ。 「ほらおちびちゃん、だいすきなおうただよ!ゆゆゆゆ~ゆ~ゆ~ゆっゆゆ~♪」 「ゆあぁぁぁぁぁぁん!!」 「おかあさんがおもしろいかおするよ!べろべろー!ばー!?」 「ゆあぁぁぁぁん!!」 「おちびちゃんあれみて!とってもゆっくりできるうーぱっくがとんでるよ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁん!!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 「ゆぅぅぅぅぅ…ないちゃだめっていってるでしょお!どぼちてなくのぉぉぉぉぉぉ!?」 泣き止まない赤まりさに業を煮やしたまりさも、とうとう大声を張り上げて怒り始めてしまった。 既に砂糖水は畳に染みを作っている。 「はぁ…あれどこにやったっけな…」 お兄さんは立ち上がると押入れをゴソゴソと探り出した。 まりさは泣き止まない赤まりさの前で、必死の形相で赤まりさに怒っている。 「まりさ!なきやまないとまりさもおこるよ!」 「ゆあぁぁぁぁん!なんでおぎゃあざんぞんなごどいうのぉぉぉ!!??あしょんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「わがままいうまりさとなんてあそんであげないよ!!ゆっくりりかいしたらなきやんでね!!!」 「ゆあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!あじょんでくれないといやぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ゆっ…ゆっ…おちびちゃんなきやんでよぉぉぉぉぉ!!!」 既に堂々巡りである。 というかまりさも泣き始めている。 軽い混乱状態にあるゆっくりに期待するのも酷というものだろう。 それにしてもすごい量の涙だ。泣き過ぎでカラカラに乾いたりしないのだろうか。 「おっ、あったあった。」 お兄さんが押入れから目当ての物を探し当てた。 「さすがにこれじゃ騒音で文句言われかねんからな…シミもこれ取れるのか?」 そうブツブツ言いながらお兄さんは、先ほど探し当てた透明な箱の中に泣き続ける赤まりさを放り込んだ。 ちなみにこの箱はかなりの防音性能を誇っている。 そして中のゆっくりが苦しくないように通気性もばっちりだ。 しかし内部からゆっくりの涙などの液体が漏れ出てくることはない。 どうやってそれらの機能が両立されているのかは知らない。 「・・・・・・!!・・・・・・・・・・!!!!!」 「ゆ、おちびちゃん!ゆっくりなきやんだんだね!いうこときいてくれてまりさうれしいよ!」 おお、防音防音。 「ゆ?………………おにーさんたいへんだよ!おちびちゃんのこえがでなくなっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 おお…そうきたか… 「おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!おがあぢゃんがなんどがじであげどぅがらねぇ!」 「お前もかよ…箱は一個しか貰ってないんだが…」 「ゆっ!ずりずりぼでぎないぃぃぃぃぃ!!??おにーさんおちびちゃんがぁぁぁぁl!!」 「あーうっさいうっさい。ちょっと黙れって」 「ゆぎゅえっ!」 赤まりさにすりすりしようと箱に向かって突進を続ける騒音饅頭を軽く踏みつけて黙らせる。 足下でうねうね柔らかいものが動く感触は気持ちいいような悪いような…。 「おい、まりさ落ち着け」 「む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」 はぁ、とため息をつくお兄さん。 優秀なゆっくりだと思っていたが、こんなに豹変するとは聞いていなかった。 赤まりさを見つめながらも足から逃れようとジタバタ動くまりさ。 赤まりさは箱に入れられたことにも気付いていないのか、まだ泣き続けている。 と、突然 ドンドンドンドンドンとドアを叩く音が響いた。 割と尋常な叩き方ではない。 「ちょっと大家ですけど!いるんでしょ!」 ドアを叩いている人は間違いなく大家さんだ。 そして要件は間違いなく騒音だろう。 お兄さんの顔は引き攣って青ざめている。 「ゆゆゆっ!だっしゅつしたよ!」 その隙に、拘束の緩んだ足からまりさが抜け出した。 自慢の帽子が少しクシャクシャになったが気にしている場合ではない。 「おちびちゃん!いまおにーさんがなおしてくれるからね!まっててね!」 まりさが大声で赤まりさに呼びかける。 「あっ!やっぱりいるんじゃないちょっと!早くあけなさいよ!」 ドンドンドンドンドンと、ドアを叩く音がまた響いた。 このアパートはペット禁止だった。 今までの二週間は比較的穏やかに過ごしていたために気づかれることはなかった。 隣の部屋には聞こえていたかもしれないが、静かにゆっくりしているゆっくりだったので見逃されていたのだろう。 しかし、今回の騒音は流石に容認できるものではなかったようだ。 大家にもゆっくりを飼っていることがバレてしまったし、畳のシミも見つけられてこってりしぼられた。 「ゆっくりを飼った結果がこれだよってか…」 さすがにもう飼っていられない。 この不況で仕事も危ういのに、住所不定にだけはなりたくない。 手間も金もそんなにかからなかったとはいえ、お兄さんはまりさたちをあっさり手放すことにした。 まりさを譲ってくれた知人に連絡を取ろうとしたが音信不通になっていた。 「あれもこれも、不況のせい政治のせいってね。…こいつらは自業自得ってことで」 「ゆぅ…おにーさん…」 「おにーしゃん、まりしゃあまあまもっとほしいよ!!」 今日は天気が良かったので少し遠出してピクニックだ。 このあたりは街中とはいえ人通りも少なく自然も多い。 ゆっくりがゆっくりするには最高の場所だろう。 「あまあまはもうないんだ、かわりにたかいたかいしてあげるぞ?」 「ゆっ!まりしゃたかいたかいのほうがいいよ!ゆっくりあしょんでね!」 まりさは落ち着かない様子でこちらと周囲をチラチラと見回している。 辺りには捨てゆっくりと思われるゆっくりが数匹いるようだ。 こいつらはバスケットの中で眠っていたようなので知らないだろうが、ここに来るまでに数匹のゆっくりがすり寄ってきた。 「おにーさん!れいむはとってもいうことをきくよ!おにーさんのおうちでもっとゆっくりしたいよ!」 「わかるよーちぇんはやくにたつゆっくりなんだよー!だからかってほしいんだよー!」 「むきゅ…おにーさん…ぱちぇをおねーさんのところにつれていって…」 どいつもこいつも薄汚れてボロボロだった。 あまりにしつこかったのと、まりさたちが起きた時にまとわりつかれても邪魔なために蹴り潰した。 今日からまりさたちもこいつらのようになるのかと思うと複雑な思いだ。 「ふぅ、お兄さんは少し疲れたから向こうで休憩してくるよ。まりさたちはせっかくの外なんだからいろいろ探検してくるといい。」 「ゆっ!いいのおにーしゃん!?」 「ゆゆゆっ!だめだよおちびちゃん!まりさもおにーさんといっしょにいるよ!」 「ゆぅーっ!どうちて!?ぷくぅー!!」 「俺はどっちでもいいけど…いいのか?これから新しい仕事が始まるから全然構ってやれなくなるぞ?お外に来れるチャンスなんて多分ないだろうなあ」 「おかーしゃん!まりしゃたんけんしちゃいよ!」 「ゆぅ…」 結局まりさは赤まりさに押し切られる形で探検に出かけた。 「ゆっくり探検していってねー」 終わり 最後まで見ていただいてありがとうございました。 書いた人:有機野菜
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/2212.html
初作品です、暖かい目で見てやってください 現代設定、バッジは付けてません 転落ゆん生モノ?です。 ゆる虐め・ゲスありません、たぶん。 非血縁まりさ一家 時は平成大不況、派遣として悠々自適な生活を送っていたお兄さんは家計がピンチだった。 「しまった…誘われた時に社員になっておくんだった!!」 今日も暇な仕事を終えノー残業でしっかり退社。 狭いボロアパートの一室で夕飯を食べながら、背筋の寒くなるニュースを嫌々チェックしていた。 勤め先の工場では既に顔見知りが減ってきている。 比較的気に入られていた自分はかろうじて残っているとはいえ、いつ職を失うか分かったものではない。 そういえばスキマ妖怪に会いたいと常々言っていた仲のいい同僚は真っ先に消えていた。 幻想入りしたのだったらとっても羨ましいぞ! 「まずい、これはマズイぞ」 先の見えない不況は工場の操業期間を大幅に削減していった。 もちろん無駄な労働力は必要ないのであるからして、お兄さんのお先は比較的真っ暗。 さらに貯金はスズメの涙ほどしかない。 今クビになったら…そう考えるお兄さん。すぐにガックリとうなだれてしまった。 「「ゆっ!ゆっ!」」 と、部屋の隅から声が聞こえてきた。もちろんゆっくりである。 「ゆっくりおひるねしてたよ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってね!」 一匹は生体のまりさ。ゆっくちー!と煩く騒いでいるのは赤まりさだ。 二匹ともお兄さんの飼いゆっくりである。 「ああ、起きたのか。おはようお前ら…」 「ゆっくちー!」 …煩い 甲高い声は耳が痛くなるな 「おにーさんがおしごといってるあいだはたいくつだよ!」 「あーそうだな」 「ゆっくち!ゆっくち!おにーしゃんあしょんで!」 「あーどうしようかな」 知人のゆっくり愛好家にもらったモノだから詳しくは知らないが、この二匹は別に親子というわけではない。 二週間ほど前に生体まりさを引き取って欲しいと言われて了解したら、なぜか小さいのもセットだった。 飼い主が留守にした時、一匹だとすることがないため意図せず部屋を荒らすこともあるという。その対策らしい。 親子ではないとお互い認識はしているが、継母と継子のような関係は心地いいようだ。 ちなみにこの二匹、あくまで主観だが躾はかなりしっかりしている。 留守にしても特に散らかすわけでもなく、隅にダンボールで作ってやった家を「ゆっくりぷれいす」と称して日がな一日ゆっくりしている。 「まりさ、おにーさんはおしごとでつかれてるんだからむりいっちゃだめだよ!」 「ゆぅ…」 こんな風に人のことも考えられる程度には頭が良い。 生体まりさがお兄さんの不機嫌さを察していたかどうかは定かではないが。 「おにーしゃん、あちたはゆっくちできる?おちごとなの?」 赤まりさがおずおずとお兄さんに尋ねる。 「明日は休みだからゆっくりするぞ」 「ほんちょに?あしょんでくれる?」 目をウルウルさせながらこっちを見つめてくる赤まりさ。 キャンキャンうるさいがこういうとこはかわいい。 だが。 「それは無理」 「ゆっ…?」 なにせ百年に一度の大不況。今の仕事がいつまで続けられるか分からないが、早めに備えて動くべきだろう。 ハロワいってみっか…とか漠然と考えていたお兄さんは、赤まりさの願いを粉砕した。 「ゆっ…ゆっ…ゆわああああああああん!」 「ゆゆっまりさ!ゆっくりはしらないとあぶないよ!」 赤まりさはよほどショックだったらしい。 目をこんなにして→(><)泣きながらゆっくりぷれいすまでダッシュしていった。 …どう贔屓目に見てもダッシュというより匍匐前進だが。 「おにーさんひどいよ!おちびちゃんにはもうすこしやさしくいってあげてね!ぷくー!」 そういって膨れる帽子付き饅頭。 やさしくってどうしろと…。 「悪かったよ…。ほら、お前ら飯まだだろ、これ持ってって食え」 「ぷひゅるるるるる。ゆゆっ、おいしそうなおにぎりさんだね!おにーさんありがとう!」 わざわざ擬音を口に出すとこも間抜けだな。 「おちびちゃん!おにーさんがごはんをくれたよ!いっしょにたべようね!」 おにぎりを咥えてぽいんぽいんとぷれいすへ跳ねていくまりさ。 ぷれいすの中からはゆっゆっと小さく嗚咽が聞こえていたが、そのうち二匹で食べ始めたようだ。 「「むーしゃ、むーしゃ」」 「しあわせー!!」「ちあわしぇー!!」 呑気なもんだ。 お兄さんは考えことをしながら、ダンボールで作ってやったゆっくりぷれいすをボーっと見ている。 こいつらが来た時に作ってやったっけなぁ…きれいに使ってるみたいだ ちゃぶ台の上には夕飯の残骸とテレビのリモコン。 ブラウン管の中には高そうなスーツを着たアナウンサーとゲストが美味そうな洋食を食っていた。 うぃっしゅうぃっしゅ言ってるゆっくりみたいな喋りでもイケメンはこの待遇か… 「…」 なんだか急に脱力感が… 「…」 お兄さんは電気を消すと早々に布団にもぐりこみ、何も考えないように眠りについた。 翌日、お兄さんは早々と出かけてしまった。 お仕事もないのにまったくゆっくりしていない。 最近は段々元気もなくなってきている気がする。 「おちびちゃん!ゆっくりおきてね!」 「ゆっ…ゆっくひぉきるよ…」 ゆっくりぷれいすの外から呼びかけて赤まりさを起こす。 返事は帰ってきたがまだまだ眠そうにしている。 よちよちと出てきた赤まりさはまりさと顔を合わすと挨拶をした。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしていってにぇ!」 「ゆっくりおきてね!ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くしゅぐっちゃいよ!おかあしゃん!」 どんなゆっくりでも望むゆっくりした時間がそこにはあった。 「おかあしゃん!つぎはまりしゃがしゅーりしゅーりしてあげるね!」 「ゆゆっ!ありがとうおちびちゃん!」 ちなみにこの生体まりさ、赤まりさを呼ぶときに癖がある。 普通に接するときは「おちびちゃん」、叱る時など少しきつい口調の時は「まりさ」と呼ぶようだ。 赤まりさは最初は「おねえしゃん」などと呼んでいたが、少し懐くと「おかあしゃん」と呼び始めた。 恐らく生体まりさがそう促したのだろう。 そのおかげか、お兄さんに番が欲しいとか子供が欲しいと言い出すことはなかった。 「ゆっくちおめめぱっちりだよ!」 「「ゆっくり(ち)していってね!!」」 今日も一日ゆっくりしよう。 以前ご飯をくれていたお兄さんの部屋より狭くて散らかってるけど、寒くもないし暑くもない、ゆっくりできない敵もいない。 よく言うことを聞く可愛いおちびちゃんがいるのだから、まりさは今とってもゆっくりできている。 おにーさんはあまり構ってくれないけど、ちゃんとご飯もお水も用意してくれるし、時々はあまあまもくれる。 まりさはなんてゆっくりしたゆっくりなんだろう。もちろんおちびちゃんもだ。 「ゆっ…おにーしゃんいないの?」 「おやすみだけどおにーさんはでかけたよ!きのういってたよ!」 「ゆぅ…」 「まりさがあそんであげるからね!ゆっくりあそぼうね!」 「ゆっくちー!」 赤まりさは随分お兄さんに懐いていた。 それはまりさに対してよりもだ。 それもそのはず、二匹の餌は全てお兄さんが用意しているのだ。 昨晩はぷれいすにいる赤まりさにまりさが持っていく形になったが、いつもは並んでお兄さんにご飯をもらう。 当然、赤まりさはご飯もあまあまも用意してくれ、まりさよりも遊びのバリエーションの多いお兄さんによく懐いた。 といっても、遊んでもらったのは最初の数日だけだったが。 まりさは若干の寂しさを覚えながらも、それも仕方のないことと割り切っていた。 お兄さんがまりさたちをゆっくりさせてくれている。 まりさも赤まりさと立場が逆なら、きっとお兄さんによく懐いただろうことはよくわかっているのだ。 二匹はお兄さんが帰ってくるまで、その日もゆっくりして過ごした。 「まずい…こんなに状況が悪かったとは…」 帰ってくるなりちゃぶ台の前で頭を抱えたお兄さんはそう呟くと、それ以降ずっと考え事をしているようで、まりさたちに全く構ってくれなかった。 対照的にゆっくり二匹は大はしゃぎである。 「おにーさん!ひまならまりさたちとあそんでね!おちびちゃんもさみしがってるよ!」 「おにーしゃん!あしょんで!あしょんで!」 「おにーさんきいてるの!?きこえないふりしないでね!」 まりさがお兄さんの横で話しかけても、赤まりさがお兄さんの周りをピョンピョン跳ねながらお願いしても、お兄さんは反応しなかった。 「ゆぅ…おちびちゃん、おにーさんはきっとおでかけしてつかれてるんだよ…。きょうはおにーさんをゆっくりさせてあげようね?」 「ゆぅー!ゆぅーっ!!」 まりさが赤まりさを諭そうとしても赤まりさは納得できないようである。 涙目になりながら顔を真っ赤にして、じたばたぷるぷると騒いでいる。 「どうちてあしょんでくれないの!?まりしゃはおにーしゃんとあしょびたいよ!」 善良な個体とはいえまだ赤ゆっくり。 遊びたい盛りの子供に我慢を覚えさせるのはやはり難しいことなのだろう。 「まりさ!わがままいうとおにーさんがゆっくりできないでしょ!」 「なんでおかあしゃんもそんなこというの!?まりしゃはたかいたかいもぷかぷかも、ずっとがみゃんしてたのに!」 お兄さんは面倒くさがりというわけではないが、基本的にゆっくりに対して興味の薄い人だった。 ゆっくりの好むものや生態についての知識は「そういえば聞いたことがある」程度のものでしかない。 そのため「手間をかけなくて大丈夫」という知人の言葉を必要以上に信用していた。 「たかいたかい!ぷかぷか!やって!あしょんでぇ!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 とうとう堪えきれなくなった赤まりさはボロボロと涙をこぼしながら泣き出してしまった。 サイズが小さいとはいえゆっくりの声は普段でもそれなりに大きい。 それが出せる限りの大声で泣き出したのだから、ボロアパートの壁や床など突き抜けてしまうほどである。 さすがのお兄さんもこれには反応せざるを得なかった。 「おい、お前らちょっとうるさいぞ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ゆあぁぁぁん!!」 「おちびちゃん、なきやんでね!ないちゃだめだよ!」 「何やってんだよ…マジで…」 ドバドバと涙を流す赤まりさの足元には既に砂糖水溜まりができ始めていた。 それをみてウンザリした様子のお兄さん。 まりさは赤まりさを泣き止ませようと必死だ。 「ほらおちびちゃん、だいすきなおうただよ!ゆゆゆゆ~ゆ~ゆ~ゆっゆゆ~♪」 「ゆあぁぁぁぁぁぁん!!」 「おかあさんがおもしろいかおするよ!べろべろー!ばー!?」 「ゆあぁぁぁぁん!!」 「おちびちゃんあれみて!とってもゆっくりできるうーぱっくがとんでるよ!」 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁん!!ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 「ゆぅぅぅぅぅ…ないちゃだめっていってるでしょお!どぼちてなくのぉぉぉぉぉぉ!?」 泣き止まない赤まりさに業を煮やしたまりさも、とうとう大声を張り上げて怒り始めてしまった。 既に砂糖水は畳に染みを作っている。 「はぁ…あれどこにやったっけな…」 お兄さんは立ち上がると押入れをゴソゴソと探り出した。 まりさは泣き止まない赤まりさの前で、必死の形相で赤まりさに怒っている。 「まりさ!なきやまないとまりさもおこるよ!」 「ゆあぁぁぁぁん!なんでおぎゃあざんぞんなごどいうのぉぉぉ!!??あしょんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「わがままいうまりさとなんてあそんであげないよ!!ゆっくりりかいしたらなきやんでね!!!」 「ゆあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!あじょんでくれないといやぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ゆっ…ゆっ…おちびちゃんなきやんでよぉぉぉぉぉ!!!」 既に堂々巡りである。 というかまりさも泣き始めている。 軽い混乱状態にあるゆっくりに期待するのも酷というものだろう。 それにしてもすごい量の涙だ。泣き過ぎでカラカラに乾いたりしないのだろうか。 「おっ、あったあった。」 お兄さんが押入れから目当ての物を探し当てた。 「さすがにこれじゃ騒音で文句言われかねんからな…シミもこれ取れるのか?」 そうブツブツ言いながらお兄さんは、先ほど探し当てた透明な箱の中に泣き続ける赤まりさを放り込んだ。 ちなみにこの箱はかなりの防音性能を誇っている。 そして中のゆっくりが苦しくないように通気性もばっちりだ。 しかし内部からゆっくりの涙などの液体が漏れ出てくることはない。 どうやってそれらの機能が両立されているのかは知らない。 「・・・・・・!!・・・・・・・・・・!!!!!」 「ゆ、おちびちゃん!ゆっくりなきやんだんだね!いうこときいてくれてまりさうれしいよ!」 おお、防音防音。 「ゆ?………………おにーさんたいへんだよ!おちびちゃんのこえがでなくなっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 おお…そうきたか… 「おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!おがあぢゃんがなんどがじであげどぅがらねぇ!」 「お前もかよ…箱は一個しか貰ってないんだが…」 「ゆっ!ずりずりぼでぎないぃぃぃぃぃ!!??おにーさんおちびちゃんがぁぁぁぁl!!」 「あーうっさいうっさい。ちょっと黙れって」 「ゆぎゅえっ!」 赤まりさにすりすりしようと箱に向かって突進を続ける騒音饅頭を軽く踏みつけて黙らせる。 足下でうねうね柔らかいものが動く感触は気持ちいいような悪いような…。 「おい、まりさ落ち着け」 「む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」 はぁ、とため息をつくお兄さん。 優秀なゆっくりだと思っていたが、こんなに豹変するとは聞いていなかった。 赤まりさを見つめながらも足から逃れようとジタバタ動くまりさ。 赤まりさは箱に入れられたことにも気付いていないのか、まだ泣き続けている。 と、突然 ドンドンドンドンドンとドアを叩く音が響いた。 割と尋常な叩き方ではない。 「ちょっと大家ですけど!いるんでしょ!」 ドアを叩いている人は間違いなく大家さんだ。 そして要件は間違いなく騒音だろう。 お兄さんの顔は引き攣って青ざめている。 「ゆゆゆっ!だっしゅつしたよ!」 その隙に、拘束の緩んだ足からまりさが抜け出した。 自慢の帽子が少しクシャクシャになったが気にしている場合ではない。 「おちびちゃん!いまおにーさんがなおしてくれるからね!まっててね!」 まりさが大声で赤まりさに呼びかける。 「あっ!やっぱりいるんじゃないちょっと!早くあけなさいよ!」 ドンドンドンドンドンと、ドアを叩く音がまた響いた。 このアパートはペット禁止だった。 今までの二週間は比較的穏やかに過ごしていたために気づかれることはなかった。 隣の部屋には聞こえていたかもしれないが、静かにゆっくりしているゆっくりだったので見逃されていたのだろう。 しかし、今回の騒音は流石に容認できるものではなかったようだ。 大家にもゆっくりを飼っていることがバレてしまったし、畳のシミも見つけられてこってりしぼられた。 「ゆっくりを飼った結果がこれだよってか…」 さすがにもう飼っていられない。 この不況で仕事も危ういのに、住所不定にだけはなりたくない。 手間も金もそんなにかからなかったとはいえ、お兄さんはまりさたちをあっさり手放すことにした。 まりさを譲ってくれた知人に連絡を取ろうとしたが音信不通になっていた。 「あれもこれも、不況のせい政治のせいってね。…こいつらは自業自得ってことで」 「ゆぅ…おにーさん…」 「おにーしゃん、まりしゃあまあまもっとほしいよ!!」 今日は天気が良かったので少し遠出してピクニックだ。 このあたりは街中とはいえ人通りも少なく自然も多い。 ゆっくりがゆっくりするには最高の場所だろう。 「あまあまはもうないんだ、かわりにたかいたかいしてあげるぞ?」 「ゆっ!まりしゃたかいたかいのほうがいいよ!ゆっくりあしょんでね!」 まりさは落ち着かない様子でこちらと周囲をチラチラと見回している。 辺りには捨てゆっくりと思われるゆっくりが数匹いるようだ。 こいつらはバスケットの中で眠っていたようなので知らないだろうが、ここに来るまでに数匹のゆっくりがすり寄ってきた。 「おにーさん!れいむはとってもいうことをきくよ!おにーさんのおうちでもっとゆっくりしたいよ!」 「わかるよーちぇんはやくにたつゆっくりなんだよー!だからかってほしいんだよー!」 「むきゅ…おにーさん…ぱちぇをおねーさんのところにつれていって…」 どいつもこいつも薄汚れてボロボロだった。 あまりにしつこかったのと、まりさたちが起きた時にまとわりつかれても邪魔なために蹴り潰した。 今日からまりさたちもこいつらのようになるのかと思うと複雑な思いだ。 「ふぅ、お兄さんは少し疲れたから向こうで休憩してくるよ。まりさたちはせっかくの外なんだからいろいろ探検してくるといい。」 「ゆっ!いいのおにーしゃん!?」 「ゆゆゆっ!だめだよおちびちゃん!まりさもおにーさんといっしょにいるよ!」 「ゆぅーっ!どうちて!?ぷくぅー!!」 「俺はどっちでもいいけど…いいのか?これから新しい仕事が始まるから全然構ってやれなくなるぞ?お外に来れるチャンスなんて多分ないだろうなあ」 「おかーしゃん!まりしゃたんけんしちゃいよ!」 「ゆぅ…」 結局まりさは赤まりさに押し切られる形で探検に出かけた。 「ゆっくり探検していってねー」 終わり 最後まで見ていただいてありがとうございました。 書いた人:有機野菜
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お化けまりさ 前作「スーパー赤ゆっくりボール」の虐待シーンの後のお話です。 前作の状況説明も多少入れてますが、伝え切れていないと思います。 お時間あれば、前作も軽く目を通してやってください。 基本、良いゆっくりが登場しますが、非道い目に遭います。 直接的な虐待よりも、ゆっくり同士の三文芝居がメインです。 精神的にジワジワ責める系? 前回の話が好みだった方にはつまらない内容かと思います。 じゃあ、それ以外の方はつまるのかと言ったら・・・ねぇ・・・ なんか長いです。途中で飽きる長さです。 そして全体に漂う低クオリティ それでも我慢できるかも・・・?と思える方は読んでやってください。 そこは仄暗い土蔵の中。 「づぶれでねっ!づぶれでねっ!! ゆっぐりじないで、はやぐづぶれろぉぉっ!!」 全身をヌラヌラとした液体で輝かせ、奇声を上げているのは、 毎度お馴染み、ゆっくり、ではなく虐待お兄さん。 地団駄を踏むように、何度も何度も激しく地面を踏んでいる。 いや、踏んでいるのは地面ではなく、 足下に転がるテニスボール大のゴムボールだった。 「きゅりゅ・・・ちぃ・・・ゆびげぇっ!?」 「や゛め゛ちぇ・・・ぶゆんっ!!」 「い゛・・・ぢゃいよ・・・ぼびゅ゛んっ!?」 お兄さんの足で何度も何度も踏み潰されるそのゴムボールも、 お兄さんに負けず劣らずの奇声を上げている。 そのボールの正体は、ゆっくりを弾力性の高いゴムで包んだ、 スーパーボールならぬ、スーパー赤ゆっくりボール。 しかもテニスボール大をしてはいるが、 このゆっくり、本来はピンポン玉大の赤ちゃんまりさ。 とてもゆっくりできない不味いごはんを お腹がハチ切れんばかりに無理矢理詰め込まれて 今のこの大きさまで拡張されてしまったのだ。 踏まれることで、体がペシャンコに潰れんばかりの圧力を外側から受け、 内側からは、大量に詰め込まれたごはんの成れの果てであるうんうんが、 赤まりさの饅頭皮を破らんばかりの圧力をかける。 にも関わらず、頑丈なゴムで全身を覆われた赤まりさは、 命の源である餡子を体外に漏らすことはなく、 それ故に、死ぬこともできないまま、 体の内外からその身を潰される痛みと苦しみを延々と味わっていた。 そんな赤まりさを、すぐ傍で眺めているゆっくり達がいた。 赤まりさの両親であるつがいのゆっくり、父まりさと母れいむ。 赤ちゃん思いの親ゆっくりであったが、 お兄さんによって、足をこんがりと焼かれて動けなくされた上で、 目の前で大切な可愛い赤ちゃん達が虐待を受ける様を見せられ続け、 完全に心が折れてしまった今は、皮がふやける程に涙を流しながら、 赤ちゃんが苦しむ姿をただ呆然と眺めるばかり。 そして、そんな親と、苦しむ赤まりさを虚ろに眺める、別の赤ゆっくり。 黒い三角帽子を被った、赤ゆっくりまりさ。 …いや、本当にこれはまりさ種なのだろうか? そう思える程、異様な姿をした赤ゆっくりだった。 黒い餡子の塊。 その中に浮かぶ、剥きだしの二つの眼球と、 剥きだしのピンク色の歯茎と白い歯。 この赤ゆっくりには、饅頭皮が無かった。 そして、饅頭皮の替わりに全身を覆う、透明なゴムの層。 目と口のついた葛饅頭のようにも見えるソレには、 まりさのような金髪も、れいむのような黒髪も生えていない。 皮も髪も、全てお兄さんによって剥ぎ取られた。 お兄さんによってスケルトン赤まりさと名付けられた その不気味な赤ゆっくりは、 接着剤で貼り付けられた黒い帽子だけが、 元のゆっくり種を判別する目印となっていた。 今潰されている赤まりさは、 スケルトン赤まりさと同じ蔦から生まれた妹まりさ。 だが、スケルトン赤まりさは、妹の窮状を目にしても、 何の感情も湧いてこなかった。 妹赤まりさは、不気味な姿になった自分を見て、 怖がり、怯え、お化け呼ばわりをした。 そんな妹の苦しむ姿を見て、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも、 何も感じることはなかった。 そして、大好きだったお父さんも、優しかったお母さんも、 自分の事を、お化けじゃないよと口では言いながら、 一度も自分の事を見ようとはしなかった。 もはや、この赤まりさは、この家族達を家族として捉えていなかった。 どこかの、どうでもいいゆっくり達。 だから、彼らが自分に対してどのような態度を取ろうと、 何の感情も湧かないし、 彼らが人間から何をされていようと、何の感情も湧かない。 そうして心を閉ざすことで、自分を守ることしかできなかった。 「どおじでっ!?ど!お!じでっ!づぶれないのぉぉっ!!!」 全体重をかけて赤まりさを潰しにかかる虐待お兄さん。 グリグリと押しつけられる靴底の下で、テニスボール大の赤ゆっくりボールは、 厚さ1センチ半までにひしゃげていた。 「ぶべぇっ・・・ぎゅ・・・りゅ・・・ぢぃぃぃ・・・・・・」 赤まりさの顔の部分は、靴の脇からはみ出し、苦悶の声を上げている。 圧迫され続けて潰れてしまった目玉は既になく、目がある筈の場所には、 黒い餡子を覗く穴がポッカリと開いているだけだ。 そして、踏みつける足が退き、 ひしゃげたボールはその弾力性により、中身ごと元の丸い形状に戻る。 「おにぃ・・・しゃん・・・ いちゃいよ・・・いちゃいの・・・やめちぇ・・・にぇ・・・ まぃしゃ・・・ゆっきゅり・・・しちゃい 「ゆ゛っぐりじないで、ざっざとじねぇっ!!!!!!!!!!!!」 バチュンッ!!! ゴムボールが弾ける音と共に、赤まりさは弾け飛んだ。 「ん゛ほお゛ぉぉぉっっ!!!!! ずっぎじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ぢ、ぢ、ぢ、ぢ、ぢあわぜぇぇぇぇぇっっ!!! ぢあわぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!」 ペチャッ ただのうんうん滓になって飛び散った赤まりさが、 スケルトン赤まりさのゴムの顔面に張り付く。 その、妹だったものと、奇声を上げるお兄さんを見ても、 スケルトン赤まりさには何の感情も湧いては来なかった。 -------------------------------- 「ひぃ・・・ひぃ・・・・ふふ・・・ふふふふ・・・ゆふひへへへ・・ 今の見たぁ?まりさちゃんの妹、バチュンッって!バチュンッって! づぶれたよぉ・・・ざぁいこうだったよぉ・・・ゆゆぅん♪」 口の端から涎を垂らし、泥酔しているかのようなフラフラとした足取りで、 スケルトン赤まりさの元に歩いてくる虐待お兄さん。 辺りには、栗の花にも似た香りが漂っているが、 ゴムで覆われた赤まりさには、その匂いは届かない。 お兄さんが足をもつれさせてドサッと転ぶ。 だが、痛みを感じている様子もなく、笑みを浮かべたままだ。 そして、地面に転がったまま、手を伸ばしてスケルトン赤まりさを掴んだ。 赤まりさはブルブルと震え出す。 潰される事も、殺される事も、今の赤まりさは怖いとは思わなかった。 むしろ、そうして欲しいとすら、心のどこかで願っていた。 にも関わらず、恐ろしかった。 目の前の人間の内にある悪意そのものが。 「はぁ・・・はぁ・・・お化け顔のまりさちゃぁん・・・ まりさちゃんはぁ・・・お家に帰らせてあげるねぇ・・・」 赤まりさに優しい笑顔を向け、そう語る人間。 この人間は、この笑顔で、 いつも元気だった妹のまりさを、すーりすーりさせて欲しいと頼んだ後に、 すり潰した。 この人間は、この笑顔で、 優しかったお姉ちゃんれいむを、虐めたりなんかしないよ?と言った後に、 踏み潰した。 この人間は、この笑顔で、 一番仲の良い姉妹だったれいむに、美味しいごはんだよと言って、 ゆっくりできない毒のごはんを食べさせた。 その人間の笑顔が、赤まりさにはたまらなく恐ろしかった。 そして、恐怖のあまり、失神した。 -------------------------------- 「ゆぅ~・・・あんまり、きのみさんがないよ・・・ これじゃ、ゆっくりできないよ・・・」 森の中、狩りに精を出す成体サイズのゆっくりれいむ。 しかし、戦果ははかばかしくないようである。 その時、近くでガサガサと草を踏む物音がした。 「ゆっ!?」 すわ捕食種かと、緊張し、身構える。 だが、木々の間から姿を現したのは、一人の人間の男だった。 「ゆっ!にんげんさん!ゆっくりしていってね!」 捕食種ではなかったと安堵し、 ゆっくり挨拶を交わそうとする、れいむ。 どうやら、人間の中には、ゆっくりにとって捕食種以上に 恐ろしい者がいるという知識は、生憎と持ち合わせていないようだ。 それとも知ってはいるが、こちらが何にもしなければ、 相手も何もしない、とでも思っているのか。 いずれにしても、平和な事である。 「やあ、れいむ、ゆっくりしていってね。」 穏やかに挨拶を返す男の様子を見て、 れいむは、この人間はゆっくりできる人間だと認識した。 「ここはれいむのゆっくりプレイスかい?」 「ゆっ!ここはれいむのゆっくりぷれいすだけど、 みんなのゆっくりぷれいすでもあるよ! おにいさんも、ゆっくりしていってね!」 男の質問に、ボインボインと飛び跳ねながら、れいむが答える。 どうやら、何でもかんでも自分の所有権を主張するような ゲスなゆっくりではないようだ。 「そうかい。れいむはとってもゆっくりとしたゆっくりだね。」 「ゆっへん!」 れいむが得意げな表情を浮かべて胸を・・・胸?というか下腹を反らす。 「ハハハ、じゃあ、お兄さんも少しゆっくりさせてもらおうかな。」 そんなれいむの様子を見ながら、 男は手近にあった大きめの石の上に腰を降ろす。 そして、持っていた包みを開き、 餡子たっぷりのおはぎを頬張り始めた。 「ゆぅ・・・」 どこか羨ましそうに、男の食事の様子を眺めるれいむ。 「ん?れいむ、おはぎを食べたいのかい?ほら、一つあげるよ。」 「ゆ?!いいの?おにいさん?」 朝から休み無く狩りを続け、お腹が空いてはいたが、 すぐにガッつく事もなく、改めて確認を取るれいむ。 ゆっくりにしては、珍しく礼儀正しい。 ひょっとすると、自身か親が、 人間の飼いゆっくりだった事でもあるのかもしれない。 「うん、いいよ。一杯あるから。」 男が答えながら、れいむの目の前におはぎを置いてやる。 「ゆっ!ありがとう!おにいさん!」 れいむは、ポインと一際高く跳ねてお礼を言う。 それから、おはぎに口をつける。 「むーしゃ、むーしゃ!しあわせぇ~♪」 聞く人が聞いたら、その場で蹴り潰してしまいそうな喜びの声を上げる。 だが、その表情がすぐに曇る。 「ゆ・・・しあわせぇ・・・」 「あれ?どうしたんだい?れいむ。美味しくなかった?」 男の問いかけに、れいむが慌ててゆんゆんと首を横に振る。 「ち、ちがうよ!とってもおいしいよ!」 「ならいいけど・・・その割には元気ないね?」 「ゆぅん・・・ねえ、おにいさん、このあまあまさん、 れいむ、おうちにもってかえってもいい?」 「ん?れいむに上げたものだから、れいむの好きにしていいよ。 でもどうして今食べないんだい。」 男が尋ねる。 その瞳には、今までとは違う色が浮かんでいた。 まるで美味しそうな獲物を見つけた獣のような瞳の色だ。 だが、れいむはそんな男の変化には気づくことなく、 問われるがままに事情を話し出す。 れいむには小さな子供と赤ちゃん達がいること。 一週間前、つがいだったまりさが一匹で狩りに出た後で大雨が降り出し、 遂にまりさは帰って来なかったこと。 そのため、今はれいむが一匹で子供達を育てていること。 もうすぐ雪が降り始める時期なので、 冬籠もりに備えて食料を備蓄しなければならないが、 元々狩りの苦手なれいむ種であることもあり、 思うように餌が集まらず、焦っていること。 普段のごはんを少しずつ備蓄に回しているが、それでも足りず、 子供達にもひもじい思いをさせてしまっていること。 だから、せめて、このあまあまさんをお家に持って帰り、 たまには子供達に美味しい物を食べさせて、 ゆっくりさせてあげたいと考えたこと。 男に優しくしてもらった事で、 日々の子育てと狩りの両立とで張りつめていた物が切れたのか、 悲しげな表情で、時にゆぐゆぐと涙さえ浮かべながら、 身の上を語る。 「そうなのか・・・ゆっくりも苦労しているんだね。」 聞いていた男も、嗚咽を抑えるかのように口を手で覆いながら、 れいむに同情の言葉をかける。 その手の下では、口が歪な笑顔の形を描いていることなど、 れいむには知る由もない。 「ゆぅ・・・」 力なく俯いて声を漏らすれいむ。 「でも、れいむ、れいむみたいな子供思いのお母さんに育てて貰えて、 れいむの子供達はとても幸せなゆっくり達だね。」 「ゆっ・・・」 れいむが少しだけ表情を緩ませ、照れ臭そうに笑う。 「・・・れいむ、ちょっとお兄さんの話、聞いてくれるかな?」 「ゆ?なーに、おにいさん?」 「うん・・・この赤ちゃんを見て欲しいんだけど・・・」 そう言いながら、男が懐から取り出したのは、 一匹の赤ちゃんまりさだった。 「ゆっ!?あかちゃん・・・? ゆゆ~?なんだかゆっくりできないあかちゃんだよ・・・」 困ったような表情で首を傾げながら、感想を漏らすれいむ。 れいむの言う通り、その赤まりさは何かが違っていた。 まず、その赤まりさには、お口が無かった。 本来お口がある筈の場所は、肌色の"皮"に塞がれてしまっていたのだ。 次に、髪の毛。 まりさ種特有の金髪は他のまりさ種と変わらない。 れいむも、つがいだったまりさや、その落とし子である子まりさを 見ているので見紛う筈もない。 だが、その金髪は、まりさ種であれば生まれ落ちた時から 皆が結っている筈の三つ編みを結ってはいなかった。 サラサラのストレートな金髪が、 帽子の脇からただダラリと垂れ下がっているだけ、 そんな印象であった。 そして、何より不自然さを感じさせたのが、目だった。 赤まりさは眠りに落ちているらしく、 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・」と寝息を立てていた。 にも関わらず、その目は楽しそうに笑っているかのような形で 見開いたままだったのである。 そして、その眼球は、本来あるべき位置よりも 5ミリほど落ち窪んでいた。 落ち窪んだ眼球の上を塞ぐように、 透明なゴムの層が覆っているのだが、 れいむにはそれが何かまではわからなかった。 「うん・・・そうなんだ・・・実はね、この赤ちゃん、 村で悪い人間に虐められていた所をお兄さんが助けたんだよ。 ただね、一応治療はしたんだけど、あんまりにも怪我がひどくて、 お口や、目は治しきれなくて・・・こんなになっちゃったんだ・・・」 「ゆっ!ひどいよぉ! かわいいあかちゃんに、どうしてそんなことするのぉ・・・」 れいむが涙目で悲しげに呟く。 「・・・ホントにごめんな、れいむ。」 そんなれいむの言葉を受けて、男が謝る。 「ゆっ?わるいのは、あかちゃんにひどいことをした、にんげんさんだよ! おにいさんは、いいにんげんさんだよ! おにいさんは、あかちゃんのけがをなおしてくれたよ?」 涙を流しながら、飛び跳ねて男を元気づけようとするれいむ。 「ぐすん、ありがとうれいむ。」 口でぐすんと言いながら、男がれいむの慰めに答える。 「見ての通り、この赤ちゃんは、お口がなくなっちゃったんで、 ごはんも食べられないだろう?特別なお薬を飲ませてあげたけど、 それでも・・・あと一週間くらいしか生きられないと思うんだ・・・」 「ゆぅぅ・・・そんなぁ・・・なんとかならないの?おにいさん?」 「お兄さんも手は尽くしたんだけど・・・ダメだったんだ。 だから、せめて、生きていられる間だけは、この赤ちゃんには ゆっくりしてもらいたかったんだけど、 お兄さんはゆっくりの赤ちゃんの育て方なんてわからないしね。 この森に帰そうかと思って来たんだけど・・・」 「このあかちゃんのおかあさんたちは?」 れいむは、そう聞いてしまってから、 自分がゆっくりできない質問をしてしまったと気づく。 小さな赤ゆっくりが一匹で、 遠い人里に降りて行くことなどありえない。 必ず、家族が、親たちが一緒だった筈だ。 その親がここにいないということは。 「もう・・・みんな・・・悪い人間に・・・くっ・・・」 男が肩を震わせる。 予想通りの答えに、れいむも肩?を落とす。 「ねぇ、れいむ。 この赤ちゃん、こんな変な顔になっちゃって、どう思う? 可愛くないと思う?」 「ゆっ!そんなことないよ!あかちゃんはみんなかわいいんだよ!」 れいむは本心から、力強くそう答えた。 「でも、れいむはそう思っても、 れいむ以外のゆっくりは、そう思ってくれるかな?」 「ゆぅ・・・それは・・・」 れいむが言い淀む。 確かに男が言わんとしている通り、 れいむの仲間のゆっくり達にも、 見た目が少し他と違うゆっくりを差別して苛める者も 少なからずいる事を知っていた。 誰も守ってくれる者がいない状態で、そういう者達に見つかれば、 この赤ちゃんもきっと苛められてしまうだろう。 「れいむ、れいむの子供達は、この赤ちゃんを見たら・・・苛めるかな?」 「ゆっ!!れいむのこどもはそんなことしないよ! もしそんなことをしたら、れいむがせいさいするよ!!」 ぷっくうと膨れながら、子供達の名誉を守るため、 男の言葉に抗議するかのように、れいむが捲し立てる。 「うん、そうだよね。れいむの子供達ならきっと大丈夫だよね。」 男のその言葉に、れいむがようやく膨らせた頬を引っ込める。 「ねえ、れいむ。お願いがあるんだ。 この赤ちゃん・・・れいむがゆっくりさせてあげてくれないかな?」 「ゆっ!?」 突然の申し出に、驚きの声を上げるれいむ。 確かに、この可愛そうな赤ちゃんはゆっくりさせてあげたい。 その気持ちに偽りはない。 そして、れいむの元以外で、 この赤ちゃんがゆっくりできる場所があるかもわからない。 今はどのゆっくり達も、冬籠もりの準備で忙しい時期であり、 そのためか、心にゆっくりが足りないゆっくり達が増えている。 しかし、忙しいのはれいむも事情は一緒。 果たして、この赤ちゃんに構ってあげられる時間がどれだけあるか。 「ゆぅ・・・でも・・・」 自分の家族と、目の前の赤ゆっくりを天秤にかけ、逡巡するれいむ。 普通のゆっくりであれば、即座に天秤は一方に傾く所であるが、 心優しいれいむには、その決断はできないでいた。 そんなれいむの心情を見透かしたように、男が言葉をかける。 「そうだったね。今はれいむ達はごはんを探すので忙しいんだよね。 どうだろう? 赤ちゃんを引き取ってくれたら、ごはんはお兄さんがあげるよ。」 そう言いながら、男は背負っていた籠から大きな風呂敷包みを取り出すと、 れいむの目の前でそれを開いた。 そこに山のように積まれていたのは、 干した芋や柿、クルミや栗等の木の実、炒った豆、角砂糖、ビスケット、 小魚や猪肉の干物と言った、栄養価が高く保存の効く食べ物の数々。 それから、新鮮な林檎や梨、大根や白菜と言った新鮮な果物と野菜。 人間が森に来る前に里で買い求めた物だった。 そして、もう一つ大きな風呂敷包みを取り出すと、 こちらには甘い匂いを漂わせる大量の餡子の塊。 ゴクリ と思わずれいむは喉を鳴らす。 人間にとってもちょっとしたご馳走であるその食料の山は、 ゆっくりであるれいむにしてみれば、 一生かかっても巡り合えないかもしれないような宝の山だった。 これだけあれば、今すぐ冬籠もりに入ったとしても、 食料にはまったく事欠かない。 いや、多すぎるぐらいだろう。 普段なら、冬籠もり中は節制しながら食料を食べてゆく所であるが、 これならば、育ち盛りの子供達にも、 毎日たっぷりとごはんを食べさせてあげられる。 「い、いいの?こんなに?」 れいむの声がうわずってしまうのも無理はなかった。 「勿論だよ。 その替わり、この赤ちゃんが誰かに苛められたりしないように、 れいむにはいつもこの赤ちゃんと一緒にいてあげて欲しいんだ。 どうかな?お願いできるかな?」 元より、れいむはこの赤まりさを助けてあげたい気持ちはあった。 その上で、最大の懸念であった、食料の問題が一気に解決するとあらば、 最早断る理由など何もなかった。 無論、男がれいむに隠している事実を知らなければ、だが。 「うん!わかったよ!おにいさん! れいむ、このあかちゃんのこと、いっぱいゆっくりさせてあげるよ!」 心からの笑みを浮かべ、れいむはそう答えた。 -------------------------------- 「ゆぅ・・・なにしてるの、おにいさん・・・?」 男の膝の上に置かれたれいむが少し不安そうな声を出す。 男は、れいむの赤いリボンに、細い鎖をクリップのような金具で留めている。 鎖は、細いが頑丈な作りの、1メートル程の長さの物だ。。 何だかわからないが、大事なリボンに何かをされているとなれば、 れいむが不安がるのも無理はない。 「んー?ああ、この赤ちゃんはね、足も怪我してて自分では動けないんだ。 だから、お散歩の時とかには、れいむに引っ張ってもらいたいんだ。 そのために、赤ちゃんを繋いでるんだよ。」 答えながら、鎖のもう一方の端に付いたネジ状の金具を、 事前に赤まりさの饅頭皮、ならぬ、厚さ5ミリのゴム層に 埋め込んでおいたネジ穴にねじ込む。 更に接合部に強力な接着剤を垂らして補強する。 これでちょっとやそっとの力では、鎖から外れることはない。 「ゆぅ・・・そうなんだ・・・ でも、そんなことしたら、あかちゃん、いたがったりしない?」 れいむが心配そうに聞いてくる。 「それだったら大丈夫だよ。ほら。」 そう言って、男が赤まりさをれいむのほっぺたにグイと押しつける。 「ゆっ!?なんだか、かたいあかちゃんだよ!?」 自分の子供達とすーりすーりした時の、 もちもち、プニョプニョした柔らかい感触とは全く違う 固い感触にビックリした顔を浮かべるれいむ。 「うん。治療に使ったお薬のせいでね、 この赤ちゃんの皮が固くなっちゃったんだ。 でも、そのお陰で地面を引きずっても大丈夫。それに・・・」 今度は、赤まりさを摘んで持ち上げると、 地面から15センチほどの高さの所から落とした。 ボヨン!ボヨン!ボヨン! と勢いよくバウンドを繰り返す赤まりさ。 全身を弾力性のあるゴムで覆われているが故である。 「ゆゆぅ~!とってもげんきなあかちゃんだね♪」 そのジャンプ力に驚嘆の声を上げながらも、嬉しそうに笑う。 「こうやって誰かが動かしてあげれば、元気に跳ねられるからね、 皆で一緒に遊んであげて欲しいんだ。 こうやってれいむに繋いでおけばどっかに行っちゃうこともないしね。」 「ゆっ!ゆっくり、りかいしたよ!!」 そんな会話を交わしながら、 男がれいむのリボンに取り付けた側の鎖の環に、細い釣り糸を通した。 そして、その釣り糸をれいむの左右のもみあげに、 もみあげを纏めている布の上からきつく縛りつける。 釣り糸は長さに余裕があるので、れいむのリボンともみあげの間で ダランと垂れ下がっているだけであり、れいむは何も感じていない。 男は、完全に自分を信用し切り、 こちらに背を向けているれいむの後頭部を見ながら、 ニヤリと笑った。 「これでよし!じゃ、れいむのお家に行こうか。」 「ゆ?おにいさんもれいむのおうちにくるの?」 「うん。だって、れいむだけじゃ、このごはん運べないだろ?」 「ゆ!そうだね!れいむうっかりしてたよ!」 もう少し警戒心が強ければ、自分の巣の位置を知られるということは 極力避けそうなものであるが、このれいむはすっかり相手を信用し切り、 そんな考えは思い浮かばないようである。 そうして、一人と一匹は森の奥へ向かって歩き出した。 -------------------------------- 「じゃ、赤ちゃんのこと頼んだよ。れいむ。」 「ゆっ!れいむにまかせてね!おにいさん! あと、おいしいごはんさんくれて、ありがとうね!!」 れいむが巣にしている洞穴の前で、互いに別れの言葉を交わす。 そして、れいむは新しい家族を連れて子供達が帰りを待つ洞穴へと、 男は、元来た道を辿って、森の中へと消えていった。 「ふぅ・・・・・・・」 れいむと別れた男が溜息を吐く。 「ふ・・・ふふ・・・ウフフフフフ・・・・・・うまくいった・・・・」 やがて笑い声に変わる。 「ハハハ、あのアホ饅頭、俺の完璧な演技力にコロっと騙されやがったよ! 『おにいさんは、いいにんげんさんだよ!』(裏声)だって!ハハハハ! ハハ、ゲホッ!ゲフッ!ちょゲホッ!!入った・・・ゲホッ!」 ちなみに、ここまでのれいむとの会話は 全て棒読み台詞でお送りしていましたが、 ゆっくりの餡子脳では、判別がつかなかったようである。 「はぁ・・・はぁ・・・ いやぁ、でも良いゆっくりに出会えてホント、良かった・・・」 しみじみと語る虐待お兄さん。 あのれいむと出会う前にも、何匹かのゆっくりに遭ったが、 大事な赤まりさを任せられるような、 ゆっくりとしたゆっくりはいなかった。 それどころか、 「ゆっ!おいしそうなにおいがするよ! おじさん!れいむにおいしいごはんをよこしてね! よこさないとれいむおこるよ!」 「れいみゅもおこりゅよ!ぴゅんぴゅん!」 出会い頭にいきなりぷくぅと膨れて餌を要求するモノ。 「ゆっひゃっひゃっ! ゆっくりしていない、へんなかおのあかちゃんなんだぜ! ひょっとして、じじぃがうんだこどもなのかだぜ!」 「おお、ぶきみぶきみ」 赤まりさを見てゲラゲラと笑い声をあげるモノ。 「おちびちゃんたち!ちゃんとおねえちゃんについてきてね!」 「ゆゆ~ん♪おにぇちゃんとおしゃんぽ♪」 「たのちいね~♪」 「ゆ~♪ありしゃん!まりしゃとあしょぼうね♪」 「ゆ!おっきいにんげんしゃん!れいみゅとあちょんでにぇ!」 「「「あちょんでにぇ!!!」」」 果ては、子れいむに引き連れられて、 ゆぅゆぅ♪と楽しげな声を上げて散歩する 赤ゆっくりの群れまで出やがったぁ。 どれもこれも、ゆっくりできないゆっくりばかりだった。 だが、そのゆっくり達も、あのれいむ一家の食料として、 饅頭の責務をきちんと果たしてくれる事だろう。 地面に染み込んだ連中を除いて。 「アイツ、次会ったときに、俺のした事教えてやったらどんな顔するかなぁ。 楽しみだなぁ・・・ ああ、クソ。楽しみで落ち着かねぇな。赤ゆ潰してぇ。 音楽でも聴いて気を静めるか・・・」 懐から聴診器のような物を取り出し、耳にはめるお兄さん。 その聴診器は、懐に仕舞われた缶のような物から伸びている。 「ん?あれ?あんま聞こえないな?電池切れた?」 そう言って懐から取り出した缶の蓋を開き、中身を掌の上に転がす。 「ゆ・・・・・ゆ・・ぼっ・・・・ゆ・・・・げぇ・・・・・」 そこには、息も絶え絶えの様子で、微かに嘔吐の声を漏らす赤れいむ。 その赤れいむもまた、饅頭皮こそ残ってはいるが、 スケルトン赤まりさと同じように全身をゴムの層で包まれていた。 大量の赤唐辛子を飲み込まされ、 辛い物を拒絶するゆっくりの餡子機能故に嘔吐しようとするが、 ゴムの層に阻まれそれすらも許されず、 ただひたすら嘔吐だけを繰り返すナマモノ、えずき赤れいむである。 しかし、既に数時間もひたすら嘔吐を続け、 餡子を排出しようとする体内の動作のために、 餡子筋(?)を使い続けて体力を消耗しきっていた。 「あれぇ?れいむちゃん、疲れちゃったのかなぁ? 待っててねぇ。 今、お兄さんが栄養たっぷりのごはんさん上げるからねぇ♪」 笑顔で語りかけるお兄さんと目が合い、 赤れいむが微かに首を振ったように見えた。 もうやめちぇ、もうころしちぇと懇願するかのような目で。 お兄さんはオレンジ色の液体が詰まった注射器を取り出すと、 それをゴム層の上から、赤れいむに注射する。 スケルトン赤まりさに与えてあるのと同じ、 濃縮未還元1000%オレンジジュース。 ドロリとした半ゼラチン状のそれが、 衰弱し切った赤れいむの体内に吸い込まれてゆく。 ドクン!ドクン! 優に赤ゆっくり一週間分の活動エネルギーに相当するソレを注入され、 途端に活力を増し、活動を再開する赤れいむの餡子。 赤れいむの意志とは無関係に。 「ゆっ!?れいみゅ、みょうやじゃ!みょう・・・ゆぼっ!?!? ゆげぇぇぇっ!!ゆげっ!!やじゃょゆぼぉぉぉっっ!!! たしゅけちゆげぼぉぉっ!!ゆげぼっ!ゆっぶ!!ゆっげべぇぇっっ!!!」 数時間前と同じように元気よく嘔吐を始める赤れいむ。 その様子を満足げに、優しい笑顔を浮かべながら眺めるお兄さん。 と、そのとき、 ポツリ と、冷たい物が頬を濡らすのを感じた。 「赤ゆ潰してぇ・・・おっと!降り出して来たか。早く戻らないと。」 慌てて、再びえずき赤れいむを缶の中に戻すと、聴診器を耳に当てる。 手製のゆぉーくまんから聞こえる、えずき赤れいむが奏でる音楽に、 うっとりとした表情で聞き惚れながら、足早に帰路についた。 つづく
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お化けまりさ 前作「スーパー赤ゆっくりボール」の虐待シーンの後のお話です。 前作の状況説明も多少入れてますが、伝え切れていないと思います。 お時間あれば、前作も軽く目を通してやってください。 基本、良いゆっくりが登場しますが、非道い目に遭います。 直接的な虐待よりも、ゆっくり同士の三文芝居がメインです。 精神的にジワジワ責める系? 前回の話が好みだった方にはつまらない内容かと思います。 じゃあ、それ以外の方はつまるのかと言ったら・・・ねぇ・・・ なんか長いです。途中で飽きる長さです。 そして全体に漂う低クオリティ それでも我慢できるかも・・・?と思える方は読んでやってください。 そこは仄暗い土蔵の中。 「づぶれでねっ!づぶれでねっ!! ゆっぐりじないで、はやぐづぶれろぉぉっ!!」 全身をヌラヌラとした液体で輝かせ、奇声を上げているのは、 毎度お馴染み、ゆっくり、ではなく虐待お兄さん。 地団駄を踏むように、何度も何度も激しく地面を踏んでいる。 いや、踏んでいるのは地面ではなく、 足下に転がるテニスボール大のゴムボールだった。 「きゅりゅ・・・ちぃ・・・ゆびげぇっ!?」 「や゛め゛ちぇ・・・ぶゆんっ!!」 「い゛・・・ぢゃいよ・・・ぼびゅ゛んっ!?」 お兄さんの足で何度も何度も踏み潰されるそのゴムボールも、 お兄さんに負けず劣らずの奇声を上げている。 そのボールの正体は、ゆっくりを弾力性の高いゴムで包んだ、 スーパーボールならぬ、スーパー赤ゆっくりボール。 しかもテニスボール大をしてはいるが、 このゆっくり、本来はピンポン玉大の赤ちゃんまりさ。 とてもゆっくりできない不味いごはんを お腹がハチ切れんばかりに無理矢理詰め込まれて 今のこの大きさまで拡張されてしまったのだ。 踏まれることで、体がペシャンコに潰れんばかりの圧力を外側から受け、 内側からは、大量に詰め込まれたごはんの成れの果てであるうんうんが、 赤まりさの饅頭皮を破らんばかりの圧力をかける。 にも関わらず、頑丈なゴムで全身を覆われた赤まりさは、 命の源である餡子を体外に漏らすことはなく、 それ故に、死ぬこともできないまま、 体の内外からその身を潰される痛みと苦しみを延々と味わっていた。 そんな赤まりさを、すぐ傍で眺めているゆっくり達がいた。 赤まりさの両親であるつがいのゆっくり、父まりさと母れいむ。 赤ちゃん思いの親ゆっくりであったが、 お兄さんによって、足をこんがりと焼かれて動けなくされた上で、 目の前で大切な可愛い赤ちゃん達が虐待を受ける様を見せられ続け、 完全に心が折れてしまった今は、皮がふやける程に涙を流しながら、 赤ちゃんが苦しむ姿をただ呆然と眺めるばかり。 そして、そんな親と、苦しむ赤まりさを虚ろに眺める、別の赤ゆっくり。 黒い三角帽子を被った、赤ゆっくりまりさ。 …いや、本当にこれはまりさ種なのだろうか? そう思える程、異様な姿をした赤ゆっくりだった。 黒い餡子の塊。 その中に浮かぶ、剥きだしの二つの眼球と、 剥きだしのピンク色の歯茎と白い歯。 この赤ゆっくりには、饅頭皮が無かった。 そして、饅頭皮の替わりに全身を覆う、透明なゴムの層。 目と口のついた葛饅頭のようにも見えるソレには、 まりさのような金髪も、れいむのような黒髪も生えていない。 皮も髪も、全てお兄さんによって剥ぎ取られた。 お兄さんによってスケルトン赤まりさと名付けられた その不気味な赤ゆっくりは、 接着剤で貼り付けられた黒い帽子だけが、 元のゆっくり種を判別する目印となっていた。 今潰されている赤まりさは、 スケルトン赤まりさと同じ蔦から生まれた妹まりさ。 だが、スケルトン赤まりさは、妹の窮状を目にしても、 何の感情も湧いてこなかった。 妹赤まりさは、不気味な姿になった自分を見て、 怖がり、怯え、お化け呼ばわりをした。 そんな妹の苦しむ姿を見て、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも、 何も感じることはなかった。 そして、大好きだったお父さんも、優しかったお母さんも、 自分の事を、お化けじゃないよと口では言いながら、 一度も自分の事を見ようとはしなかった。 もはや、この赤まりさは、この家族達を家族として捉えていなかった。 どこかの、どうでもいいゆっくり達。 だから、彼らが自分に対してどのような態度を取ろうと、 何の感情も湧かないし、 彼らが人間から何をされていようと、何の感情も湧かない。 そうして心を閉ざすことで、自分を守ることしかできなかった。 「どおじでっ!?ど!お!じでっ!づぶれないのぉぉっ!!!」 全体重をかけて赤まりさを潰しにかかる虐待お兄さん。 グリグリと押しつけられる靴底の下で、テニスボール大の赤ゆっくりボールは、 厚さ1センチ半までにひしゃげていた。 「ぶべぇっ・・・ぎゅ・・・りゅ・・・ぢぃぃぃ・・・・・・」 赤まりさの顔の部分は、靴の脇からはみ出し、苦悶の声を上げている。 圧迫され続けて潰れてしまった目玉は既になく、目がある筈の場所には、 黒い餡子を覗く穴がポッカリと開いているだけだ。 そして、踏みつける足が退き、 ひしゃげたボールはその弾力性により、中身ごと元の丸い形状に戻る。 「おにぃ・・・しゃん・・・ いちゃいよ・・・いちゃいの・・・やめちぇ・・・にぇ・・・ まぃしゃ・・・ゆっきゅり・・・しちゃい 「ゆ゛っぐりじないで、ざっざとじねぇっ!!!!!!!!!!!!」 バチュンッ!!! ゴムボールが弾ける音と共に、赤まりさは弾け飛んだ。 「ん゛ほお゛ぉぉぉっっ!!!!! ずっぎじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ぢ、ぢ、ぢ、ぢ、ぢあわぜぇぇぇぇぇっっ!!! ぢあわぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!」 ペチャッ ただのうんうん滓になって飛び散った赤まりさが、 スケルトン赤まりさのゴムの顔面に張り付く。 その、妹だったものと、奇声を上げるお兄さんを見ても、 スケルトン赤まりさには何の感情も湧いては来なかった。 -------------------------------- 「ひぃ・・・ひぃ・・・・ふふ・・・ふふふふ・・・ゆふひへへへ・・ 今の見たぁ?まりさちゃんの妹、バチュンッって!バチュンッって! づぶれたよぉ・・・ざぁいこうだったよぉ・・・ゆゆぅん♪」 口の端から涎を垂らし、泥酔しているかのようなフラフラとした足取りで、 スケルトン赤まりさの元に歩いてくる虐待お兄さん。 辺りには、栗の花にも似た香りが漂っているが、 ゴムで覆われた赤まりさには、その匂いは届かない。 お兄さんが足をもつれさせてドサッと転ぶ。 だが、痛みを感じている様子もなく、笑みを浮かべたままだ。 そして、地面に転がったまま、手を伸ばしてスケルトン赤まりさを掴んだ。 赤まりさはブルブルと震え出す。 潰される事も、殺される事も、今の赤まりさは怖いとは思わなかった。 むしろ、そうして欲しいとすら、心のどこかで願っていた。 にも関わらず、恐ろしかった。 目の前の人間の内にある悪意そのものが。 「はぁ・・・はぁ・・・お化け顔のまりさちゃぁん・・・ まりさちゃんはぁ・・・お家に帰らせてあげるねぇ・・・」 赤まりさに優しい笑顔を向け、そう語る人間。 この人間は、この笑顔で、 いつも元気だった妹のまりさを、すーりすーりさせて欲しいと頼んだ後に、 すり潰した。 この人間は、この笑顔で、 優しかったお姉ちゃんれいむを、虐めたりなんかしないよ?と言った後に、 踏み潰した。 この人間は、この笑顔で、 一番仲の良い姉妹だったれいむに、美味しいごはんだよと言って、 ゆっくりできない毒のごはんを食べさせた。 その人間の笑顔が、赤まりさにはたまらなく恐ろしかった。 そして、恐怖のあまり、失神した。 -------------------------------- 「ゆぅ~・・・あんまり、きのみさんがないよ・・・ これじゃ、ゆっくりできないよ・・・」 森の中、狩りに精を出す成体サイズのゆっくりれいむ。 しかし、戦果ははかばかしくないようである。 その時、近くでガサガサと草を踏む物音がした。 「ゆっ!?」 すわ捕食種かと、緊張し、身構える。 だが、木々の間から姿を現したのは、一人の人間の男だった。 「ゆっ!にんげんさん!ゆっくりしていってね!」 捕食種ではなかったと安堵し、 ゆっくり挨拶を交わそうとする、れいむ。 どうやら、人間の中には、ゆっくりにとって捕食種以上に 恐ろしい者がいるという知識は、生憎と持ち合わせていないようだ。 それとも知ってはいるが、こちらが何にもしなければ、 相手も何もしない、とでも思っているのか。 いずれにしても、平和な事である。 「やあ、れいむ、ゆっくりしていってね。」 穏やかに挨拶を返す男の様子を見て、 れいむは、この人間はゆっくりできる人間だと認識した。 「ここはれいむのゆっくりプレイスかい?」 「ゆっ!ここはれいむのゆっくりぷれいすだけど、 みんなのゆっくりぷれいすでもあるよ! おにいさんも、ゆっくりしていってね!」 男の質問に、ボインボインと飛び跳ねながら、れいむが答える。 どうやら、何でもかんでも自分の所有権を主張するような ゲスなゆっくりではないようだ。 「そうかい。れいむはとってもゆっくりとしたゆっくりだね。」 「ゆっへん!」 れいむが得意げな表情を浮かべて胸を・・・胸?というか下腹を反らす。 「ハハハ、じゃあ、お兄さんも少しゆっくりさせてもらおうかな。」 そんなれいむの様子を見ながら、 男は手近にあった大きめの石の上に腰を降ろす。 そして、持っていた包みを開き、 餡子たっぷりのおはぎを頬張り始めた。 「ゆぅ・・・」 どこか羨ましそうに、男の食事の様子を眺めるれいむ。 「ん?れいむ、おはぎを食べたいのかい?ほら、一つあげるよ。」 「ゆ?!いいの?おにいさん?」 朝から休み無く狩りを続け、お腹が空いてはいたが、 すぐにガッつく事もなく、改めて確認を取るれいむ。 ゆっくりにしては、珍しく礼儀正しい。 ひょっとすると、自身か親が、 人間の飼いゆっくりだった事でもあるのかもしれない。 「うん、いいよ。一杯あるから。」 男が答えながら、れいむの目の前におはぎを置いてやる。 「ゆっ!ありがとう!おにいさん!」 れいむは、ポインと一際高く跳ねてお礼を言う。 それから、おはぎに口をつける。 「むーしゃ、むーしゃ!しあわせぇ~♪」 聞く人が聞いたら、その場で蹴り潰してしまいそうな喜びの声を上げる。 だが、その表情がすぐに曇る。 「ゆ・・・しあわせぇ・・・」 「あれ?どうしたんだい?れいむ。美味しくなかった?」 男の問いかけに、れいむが慌ててゆんゆんと首を横に振る。 「ち、ちがうよ!とってもおいしいよ!」 「ならいいけど・・・その割には元気ないね?」 「ゆぅん・・・ねえ、おにいさん、このあまあまさん、 れいむ、おうちにもってかえってもいい?」 「ん?れいむに上げたものだから、れいむの好きにしていいよ。 でもどうして今食べないんだい。」 男が尋ねる。 その瞳には、今までとは違う色が浮かんでいた。 まるで美味しそうな獲物を見つけた獣のような瞳の色だ。 だが、れいむはそんな男の変化には気づくことなく、 問われるがままに事情を話し出す。 れいむには小さな子供と赤ちゃん達がいること。 一週間前、つがいだったまりさが一匹で狩りに出た後で大雨が降り出し、 遂にまりさは帰って来なかったこと。 そのため、今はれいむが一匹で子供達を育てていること。 もうすぐ雪が降り始める時期なので、 冬籠もりに備えて食料を備蓄しなければならないが、 元々狩りの苦手なれいむ種であることもあり、 思うように餌が集まらず、焦っていること。 普段のごはんを少しずつ備蓄に回しているが、それでも足りず、 子供達にもひもじい思いをさせてしまっていること。 だから、せめて、このあまあまさんをお家に持って帰り、 たまには子供達に美味しい物を食べさせて、 ゆっくりさせてあげたいと考えたこと。 男に優しくしてもらった事で、 日々の子育てと狩りの両立とで張りつめていた物が切れたのか、 悲しげな表情で、時にゆぐゆぐと涙さえ浮かべながら、 身の上を語る。 「そうなのか・・・ゆっくりも苦労しているんだね。」 聞いていた男も、嗚咽を抑えるかのように口を手で覆いながら、 れいむに同情の言葉をかける。 その手の下では、口が歪な笑顔の形を描いていることなど、 れいむには知る由もない。 「ゆぅ・・・」 力なく俯いて声を漏らすれいむ。 「でも、れいむ、れいむみたいな子供思いのお母さんに育てて貰えて、 れいむの子供達はとても幸せなゆっくり達だね。」 「ゆっ・・・」 れいむが少しだけ表情を緩ませ、照れ臭そうに笑う。 「・・・れいむ、ちょっとお兄さんの話、聞いてくれるかな?」 「ゆ?なーに、おにいさん?」 「うん・・・この赤ちゃんを見て欲しいんだけど・・・」 そう言いながら、男が懐から取り出したのは、 一匹の赤ちゃんまりさだった。 「ゆっ!?あかちゃん・・・? ゆゆ~?なんだかゆっくりできないあかちゃんだよ・・・」 困ったような表情で首を傾げながら、感想を漏らすれいむ。 れいむの言う通り、その赤まりさは何かが違っていた。 まず、その赤まりさには、お口が無かった。 本来お口がある筈の場所は、肌色の"皮"に塞がれてしまっていたのだ。 次に、髪の毛。 まりさ種特有の金髪は他のまりさ種と変わらない。 れいむも、つがいだったまりさや、その落とし子である子まりさを 見ているので見紛う筈もない。 だが、その金髪は、まりさ種であれば生まれ落ちた時から 皆が結っている筈の三つ編みを結ってはいなかった。 サラサラのストレートな金髪が、 帽子の脇からただダラリと垂れ下がっているだけ、 そんな印象であった。 そして、何より不自然さを感じさせたのが、目だった。 赤まりさは眠りに落ちているらしく、 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・」と寝息を立てていた。 にも関わらず、その目は楽しそうに笑っているかのような形で 見開いたままだったのである。 そして、その眼球は、本来あるべき位置よりも 5ミリほど落ち窪んでいた。 落ち窪んだ眼球の上を塞ぐように、 透明なゴムの層が覆っているのだが、 れいむにはそれが何かまではわからなかった。 「うん・・・そうなんだ・・・実はね、この赤ちゃん、 村で悪い人間に虐められていた所をお兄さんが助けたんだよ。 ただね、一応治療はしたんだけど、あんまりにも怪我がひどくて、 お口や、目は治しきれなくて・・・こんなになっちゃったんだ・・・」 「ゆっ!ひどいよぉ! かわいいあかちゃんに、どうしてそんなことするのぉ・・・」 れいむが涙目で悲しげに呟く。 「・・・ホントにごめんな、れいむ。」 そんなれいむの言葉を受けて、男が謝る。 「ゆっ?わるいのは、あかちゃんにひどいことをした、にんげんさんだよ! おにいさんは、いいにんげんさんだよ! おにいさんは、あかちゃんのけがをなおしてくれたよ?」 涙を流しながら、飛び跳ねて男を元気づけようとするれいむ。 「ぐすん、ありがとうれいむ。」 口でぐすんと言いながら、男がれいむの慰めに答える。 「見ての通り、この赤ちゃんは、お口がなくなっちゃったんで、 ごはんも食べられないだろう?特別なお薬を飲ませてあげたけど、 それでも・・・あと一週間くらいしか生きられないと思うんだ・・・」 「ゆぅぅ・・・そんなぁ・・・なんとかならないの?おにいさん?」 「お兄さんも手は尽くしたんだけど・・・ダメだったんだ。 だから、せめて、生きていられる間だけは、この赤ちゃんには ゆっくりしてもらいたかったんだけど、 お兄さんはゆっくりの赤ちゃんの育て方なんてわからないしね。 この森に帰そうかと思って来たんだけど・・・」 「このあかちゃんのおかあさんたちは?」 れいむは、そう聞いてしまってから、 自分がゆっくりできない質問をしてしまったと気づく。 小さな赤ゆっくりが一匹で、 遠い人里に降りて行くことなどありえない。 必ず、家族が、親たちが一緒だった筈だ。 その親がここにいないということは。 「もう・・・みんな・・・悪い人間に・・・くっ・・・」 男が肩を震わせる。 予想通りの答えに、れいむも肩?を落とす。 「ねぇ、れいむ。 この赤ちゃん、こんな変な顔になっちゃって、どう思う? 可愛くないと思う?」 「ゆっ!そんなことないよ!あかちゃんはみんなかわいいんだよ!」 れいむは本心から、力強くそう答えた。 「でも、れいむはそう思っても、 れいむ以外のゆっくりは、そう思ってくれるかな?」 「ゆぅ・・・それは・・・」 れいむが言い淀む。 確かに男が言わんとしている通り、 れいむの仲間のゆっくり達にも、 見た目が少し他と違うゆっくりを差別して苛める者も 少なからずいる事を知っていた。 誰も守ってくれる者がいない状態で、そういう者達に見つかれば、 この赤ちゃんもきっと苛められてしまうだろう。 「れいむ、れいむの子供達は、この赤ちゃんを見たら・・・苛めるかな?」 「ゆっ!!れいむのこどもはそんなことしないよ! もしそんなことをしたら、れいむがせいさいするよ!!」 ぷっくうと膨れながら、子供達の名誉を守るため、 男の言葉に抗議するかのように、れいむが捲し立てる。 「うん、そうだよね。れいむの子供達ならきっと大丈夫だよね。」 男のその言葉に、れいむがようやく膨らせた頬を引っ込める。 「ねえ、れいむ。お願いがあるんだ。 この赤ちゃん・・・れいむがゆっくりさせてあげてくれないかな?」 「ゆっ!?」 突然の申し出に、驚きの声を上げるれいむ。 確かに、この可愛そうな赤ちゃんはゆっくりさせてあげたい。 その気持ちに偽りはない。 そして、れいむの元以外で、 この赤ちゃんがゆっくりできる場所があるかもわからない。 今はどのゆっくり達も、冬籠もりの準備で忙しい時期であり、 そのためか、心にゆっくりが足りないゆっくり達が増えている。 しかし、忙しいのはれいむも事情は一緒。 果たして、この赤ちゃんに構ってあげられる時間がどれだけあるか。 「ゆぅ・・・でも・・・」 自分の家族と、目の前の赤ゆっくりを天秤にかけ、逡巡するれいむ。 普通のゆっくりであれば、即座に天秤は一方に傾く所であるが、 心優しいれいむには、その決断はできないでいた。 そんなれいむの心情を見透かしたように、男が言葉をかける。 「そうだったね。今はれいむ達はごはんを探すので忙しいんだよね。 どうだろう? 赤ちゃんを引き取ってくれたら、ごはんはお兄さんがあげるよ。」 そう言いながら、男は背負っていた籠から大きな風呂敷包みを取り出すと、 れいむの目の前でそれを開いた。 そこに山のように積まれていたのは、 干した芋や柿、クルミや栗等の木の実、炒った豆、角砂糖、ビスケット、 小魚や猪肉の干物と言った、栄養価が高く保存の効く食べ物の数々。 それから、新鮮な林檎や梨、大根や白菜と言った新鮮な果物と野菜。 人間が森に来る前に里で買い求めた物だった。 そして、もう一つ大きな風呂敷包みを取り出すと、 こちらには甘い匂いを漂わせる大量の餡子の塊。 ゴクリ と思わずれいむは喉を鳴らす。 人間にとってもちょっとしたご馳走であるその食料の山は、 ゆっくりであるれいむにしてみれば、 一生かかっても巡り合えないかもしれないような宝の山だった。 これだけあれば、今すぐ冬籠もりに入ったとしても、 食料にはまったく事欠かない。 いや、多すぎるぐらいだろう。 普段なら、冬籠もり中は節制しながら食料を食べてゆく所であるが、 これならば、育ち盛りの子供達にも、 毎日たっぷりとごはんを食べさせてあげられる。 「い、いいの?こんなに?」 れいむの声がうわずってしまうのも無理はなかった。 「勿論だよ。 その替わり、この赤ちゃんが誰かに苛められたりしないように、 れいむにはいつもこの赤ちゃんと一緒にいてあげて欲しいんだ。 どうかな?お願いできるかな?」 元より、れいむはこの赤まりさを助けてあげたい気持ちはあった。 その上で、最大の懸念であった、食料の問題が一気に解決するとあらば、 最早断る理由など何もなかった。 無論、男がれいむに隠している事実を知らなければ、だが。 「うん!わかったよ!おにいさん! れいむ、このあかちゃんのこと、いっぱいゆっくりさせてあげるよ!」 心からの笑みを浮かべ、れいむはそう答えた。 -------------------------------- 「ゆぅ・・・なにしてるの、おにいさん・・・?」 男の膝の上に置かれたれいむが少し不安そうな声を出す。 男は、れいむの赤いリボンに、細い鎖をクリップのような金具で留めている。 鎖は、細いが頑丈な作りの、1メートル程の長さの物だ。。 何だかわからないが、大事なリボンに何かをされているとなれば、 れいむが不安がるのも無理はない。 「んー?ああ、この赤ちゃんはね、足も怪我してて自分では動けないんだ。 だから、お散歩の時とかには、れいむに引っ張ってもらいたいんだ。 そのために、赤ちゃんを繋いでるんだよ。」 答えながら、鎖のもう一方の端に付いたネジ状の金具を、 事前に赤まりさの饅頭皮、ならぬ、厚さ5ミリのゴム層に 埋め込んでおいたネジ穴にねじ込む。 更に接合部に強力な接着剤を垂らして補強する。 これでちょっとやそっとの力では、鎖から外れることはない。 「ゆぅ・・・そうなんだ・・・ でも、そんなことしたら、あかちゃん、いたがったりしない?」 れいむが心配そうに聞いてくる。 「それだったら大丈夫だよ。ほら。」 そう言って、男が赤まりさをれいむのほっぺたにグイと押しつける。 「ゆっ!?なんだか、かたいあかちゃんだよ!?」 自分の子供達とすーりすーりした時の、 もちもち、プニョプニョした柔らかい感触とは全く違う 固い感触にビックリした顔を浮かべるれいむ。 「うん。治療に使ったお薬のせいでね、 この赤ちゃんの皮が固くなっちゃったんだ。 でも、そのお陰で地面を引きずっても大丈夫。それに・・・」 今度は、赤まりさを摘んで持ち上げると、 地面から15センチほどの高さの所から落とした。 ボヨン!ボヨン!ボヨン! と勢いよくバウンドを繰り返す赤まりさ。 全身を弾力性のあるゴムで覆われているが故である。 「ゆゆぅ~!とってもげんきなあかちゃんだね♪」 そのジャンプ力に驚嘆の声を上げながらも、嬉しそうに笑う。 「こうやって誰かが動かしてあげれば、元気に跳ねられるからね、 皆で一緒に遊んであげて欲しいんだ。 こうやってれいむに繋いでおけばどっかに行っちゃうこともないしね。」 「ゆっ!ゆっくり、りかいしたよ!!」 そんな会話を交わしながら、 男がれいむのリボンに取り付けた側の鎖の環に、細い釣り糸を通した。 そして、その釣り糸をれいむの左右のもみあげに、 もみあげを纏めている布の上からきつく縛りつける。 釣り糸は長さに余裕があるので、れいむのリボンともみあげの間で ダランと垂れ下がっているだけであり、れいむは何も感じていない。 男は、完全に自分を信用し切り、 こちらに背を向けているれいむの後頭部を見ながら、 ニヤリと笑った。 「これでよし!じゃ、れいむのお家に行こうか。」 「ゆ?おにいさんもれいむのおうちにくるの?」 「うん。だって、れいむだけじゃ、このごはん運べないだろ?」 「ゆ!そうだね!れいむうっかりしてたよ!」 もう少し警戒心が強ければ、自分の巣の位置を知られるということは 極力避けそうなものであるが、このれいむはすっかり相手を信用し切り、 そんな考えは思い浮かばないようである。 そうして、一人と一匹は森の奥へ向かって歩き出した。 -------------------------------- 「じゃ、赤ちゃんのこと頼んだよ。れいむ。」 「ゆっ!れいむにまかせてね!おにいさん! あと、おいしいごはんさんくれて、ありがとうね!!」 れいむが巣にしている洞穴の前で、互いに別れの言葉を交わす。 そして、れいむは新しい家族を連れて子供達が帰りを待つ洞穴へと、 男は、元来た道を辿って、森の中へと消えていった。 「ふぅ・・・・・・・」 れいむと別れた男が溜息を吐く。 「ふ・・・ふふ・・・ウフフフフフ・・・・・・うまくいった・・・・」 やがて笑い声に変わる。 「ハハハ、あのアホ饅頭、俺の完璧な演技力にコロっと騙されやがったよ! 『おにいさんは、いいにんげんさんだよ!』(裏声)だって!ハハハハ! ハハ、ゲホッ!ゲフッ!ちょゲホッ!!入った・・・ゲホッ!」 ちなみに、ここまでのれいむとの会話は 全て棒読み台詞でお送りしていましたが、 ゆっくりの餡子脳では、判別がつかなかったようである。 「はぁ・・・はぁ・・・ いやぁ、でも良いゆっくりに出会えてホント、良かった・・・」 しみじみと語る虐待お兄さん。 あのれいむと出会う前にも、何匹かのゆっくりに遭ったが、 大事な赤まりさを任せられるような、 ゆっくりとしたゆっくりはいなかった。 それどころか、 「ゆっ!おいしそうなにおいがするよ! おじさん!れいむにおいしいごはんをよこしてね! よこさないとれいむおこるよ!」 「れいみゅもおこりゅよ!ぴゅんぴゅん!」 出会い頭にいきなりぷくぅと膨れて餌を要求するモノ。 「ゆっひゃっひゃっ! ゆっくりしていない、へんなかおのあかちゃんなんだぜ! ひょっとして、じじぃがうんだこどもなのかだぜ!」 「おお、ぶきみぶきみ」 赤まりさを見てゲラゲラと笑い声をあげるモノ。 「おちびちゃんたち!ちゃんとおねえちゃんについてきてね!」 「ゆゆ~ん♪おにぇちゃんとおしゃんぽ♪」 「たのちいね~♪」 「ゆ~♪ありしゃん!まりしゃとあしょぼうね♪」 「ゆ!おっきいにんげんしゃん!れいみゅとあちょんでにぇ!」 「「「あちょんでにぇ!!!」」」 果ては、子れいむに引き連れられて、 ゆぅゆぅ♪と楽しげな声を上げて散歩する 赤ゆっくりの群れまで出やがったぁ。 どれもこれも、ゆっくりできないゆっくりばかりだった。 だが、そのゆっくり達も、あのれいむ一家の食料として、 饅頭の責務をきちんと果たしてくれる事だろう。 地面に染み込んだ連中を除いて。 「アイツ、次会ったときに、俺のした事教えてやったらどんな顔するかなぁ。 楽しみだなぁ・・・ ああ、クソ。楽しみで落ち着かねぇな。赤ゆ潰してぇ。 音楽でも聴いて気を静めるか・・・」 懐から聴診器のような物を取り出し、耳にはめるお兄さん。 その聴診器は、懐に仕舞われた缶のような物から伸びている。 「ん?あれ?あんま聞こえないな?電池切れた?」 そう言って懐から取り出した缶の蓋を開き、中身を掌の上に転がす。 「ゆ・・・・・ゆ・・ぼっ・・・・ゆ・・・・げぇ・・・・・」 そこには、息も絶え絶えの様子で、微かに嘔吐の声を漏らす赤れいむ。 その赤れいむもまた、饅頭皮こそ残ってはいるが、 スケルトン赤まりさと同じように全身をゴムの層で包まれていた。 大量の赤唐辛子を飲み込まされ、 辛い物を拒絶するゆっくりの餡子機能故に嘔吐しようとするが、 ゴムの層に阻まれそれすらも許されず、 ただひたすら嘔吐だけを繰り返すナマモノ、えずき赤れいむである。 しかし、既に数時間もひたすら嘔吐を続け、 餡子を排出しようとする体内の動作のために、 餡子筋(?)を使い続けて体力を消耗しきっていた。 「あれぇ?れいむちゃん、疲れちゃったのかなぁ? 待っててねぇ。 今、お兄さんが栄養たっぷりのごはんさん上げるからねぇ♪」 笑顔で語りかけるお兄さんと目が合い、 赤れいむが微かに首を振ったように見えた。 もうやめちぇ、もうころしちぇと懇願するかのような目で。 お兄さんはオレンジ色の液体が詰まった注射器を取り出すと、 それをゴム層の上から、赤れいむに注射する。 スケルトン赤まりさに与えてあるのと同じ、 濃縮未還元1000%オレンジジュース。 ドロリとした半ゼラチン状のそれが、 衰弱し切った赤れいむの体内に吸い込まれてゆく。 ドクン!ドクン! 優に赤ゆっくり一週間分の活動エネルギーに相当するソレを注入され、 途端に活力を増し、活動を再開する赤れいむの餡子。 赤れいむの意志とは無関係に。 「ゆっ!?れいみゅ、みょうやじゃ!みょう・・・ゆぼっ!?!? ゆげぇぇぇっ!!ゆげっ!!やじゃょゆぼぉぉぉっっ!!! たしゅけちゆげぼぉぉっ!!ゆげぼっ!ゆっぶ!!ゆっげべぇぇっっ!!!」 数時間前と同じように元気よく嘔吐を始める赤れいむ。 その様子を満足げに、優しい笑顔を浮かべながら眺めるお兄さん。 と、そのとき、 ポツリ と、冷たい物が頬を濡らすのを感じた。 「赤ゆ潰してぇ・・・おっと!降り出して来たか。早く戻らないと。」 慌てて、再びえずき赤れいむを缶の中に戻すと、聴診器を耳に当てる。 手製のゆぉーくまんから聞こえる、えずき赤れいむが奏でる音楽に、 うっとりとした表情で聞き惚れながら、足早に帰路についた。 つづく 選択肢 投票 しあわせー! 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ここは人里はなれた森の奥深く 比較的餌が多いその場所はゆっくりプレイスであったが いましがた、発情ありすの集団が襲いほとんどのゆっくりは命を落とした。 1匹の赤ありすがいた。 集団発情ありすから生まれた赤ありすは 生まれながらに性欲が強く 赤ちゃんのうちからすっきりをしたかった。 「ちゅっきりしたいわ!とかいはのありしゅははやくちゅっきりしたいわ!」 「ゆゆ~ん!ゆゆ~ん!」 生まれながら親はなく ただ1匹の孤独な赤ありす お家もなく、明日の餌もなく、言葉を交わす友達もいない。 「にゃんでありしゅはおかーしゃんがいにゃいのぉ!」 ただ、その日を生きるために苔や小さな虫を食べ命を繋いでいた。 「ゆっ!ゆっ!」 まずは、お家がなくてはゆっくりできない。 赤ありすは落ち葉を集めて重ねてその中に潜り込んだ。 若葉が多く冷たくゆっくり出来ないが、野ざらしで寝るよりはマシだ。 そのままニガイ若葉を少しづつかじり食事にする。 「まじゅいわ、じぇんじぇんとかいはじゃにゃい!」 そこへ楽しそうな一家の声が聞こえてくる。 「ゆっくりしていってね~♪ゆっくり~♪」 「「「ゆっゆっゆ~♪」」」 親れいむと子まりさが3匹、赤れいむが3匹、赤まりさが2匹のゆっくり一家だ。 この一家は少し離れた川辺までピクニックへ行ったため発情ありすから難を逃れ 今しがた巣へと帰ってきたのだ。 9匹のゆっくり一家が巣穴に入っていくと 見つからないように赤ありすは、葉っぱを被りながら様子を伺う。 「すっきりできしょうなまりさがいたわ!でもおやがいるからきけんね!」 赤ちゃん達は親れいむと「すーりすーり」をして幸せそうにしている。 子まりさは姉妹で巣の中を走り回り追いかけっこ 果物やキノコ、赤ありすではとってこれない美味しそうな食べ物を食べている。 「ゆ~ん・・・しょこはありすのおうちよ! そのたべものもまりしゃも、おかーしゃんもありすのものなのに・・・ゆぐぐ!」 勝手な事を言って悔しがる赤ありす。 その時、赤ありすは閃いた! 「ゆっくちできるほうほうをおもいついたわ!」 夜が更けるまで赤ありすはジッと息を殺して待った。 深夜0時 「ゆっくち、しーしーしたくにゃったよ おうちでしーしーするとおかーしゃんにおこられるから おそとでしーしーすりゅよ」 寝ぼけまなこで赤れいむが外に出てきた。 「あれはだめでゃわ」 赤ありすが赤れいむに聞こえない声でぼそりと呟いた。 しーしーを済ませた赤ありすは巣穴へと戻っていく。 深夜1時 「ゆ~ん、しーしーしたくにゃったよ おみずのみしゅぎちゃったよ」 今度は赤まりさが外に出てきた。 「まりしゃだわ!しゅっきりさせてもらうわね!」 赤まりさは巣穴からすぐ傍の木の根へしーしーをする。 ちょろろろろ・・・ 後ろ向きのため近づいてきた赤ありすに気づかない。 スッっと頭の上が軽くなった。 帽子をとられたのである。 「ゆっ?」 違和感を感じて振り向くと、そこには発情した赤ありす。 あっという間にのしかかられ、小刻みにぷるぷると震えだし性交へ入る。 「ちいしゃなまりしゃきゃわいいわぁぁぁあああ、ぬほぉぉおおぉお!」 「ゆ!やめちぇね、まりしゃのすてきなおぼうし・・・ゆ”ゆ”ゆ”!」 「「しゅっきりー!」」 赤まりさは、あっという間にすっきりさせられた。 帽子を取り返そうと、自分から赤ありすに密着した結果である。 赤ありすは赤まりさが絶命する前にお帽子を被ると 黒ずんで動かなくなった赤まりさに興味が失せ、巣穴へと潜り込んでいった。 このまま赤まりさに成りすますつもりである。 その夜、赤ありすはおかーさんれいむの横で 「すーりすーり」と身を寄せて眠りについた。 くしくも、この赤ありすの片親はれいむ種であったのだが、それを赤ありすは知らない。 おかーさんとお家と餌と、すっきり出来そうな姉妹達を手に入れた喜びに 生まれてはじめてゆっくりした気持ちで眠ることが出来た。 まりさの帽子さえ被れば、親や姉妹がまりさだと思ってくれるという短絡的な作戦であったが 実は的を射ている。 ゆっくりは飾りで固体を識別するため、赤まりさだと信じて疑わないだろう。 そして、殺害方法にスッキリを用いたことで、死に至るまでの時間差が生じて 帽子に死臭がついていないため、死体から盗んだことにならないのだ。 仮に死体から盗んだ飾りである場合、たちどころにゆっくりに気づかれ 集団リンチを受けてしまうことだろう。 それらの問題を偶然とはいえ赤ありすはクリアーした。 「おかーしゃん・・・ありしゅはちあわちぇだよ・・・」 その声に少しだけ目を覚ました親れいむは舌を伸ばし赤まりさ(赤ありす)を舐めてあげた。 「ゆ~ん・・・おかーしゃん・・・くしゅぐっちゃい」 赤ありすの瞳には涙が滲んでいた。 続くかも? 過去の作品:ゆっくり繁殖させるよ! 赤ちゃんを育てさせる 水上まりさのゆでだこ風味 ゆっくり贅沢三昧・前編 ゆっくり贅沢三昧・後編 作者:まりさ大好きあき このSSに感想を付ける
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「ゆっゆっ、ゆ~っ」 赤まりさは、お帽子をコレクション置き場に持っていった。 「ゆゆん、こっちのおぼうちにはまけりゅけど、これもにゃかにゃかだよ!」 一番のお気に入りの帽子の隣に、今回の帽子を置いてみると、やはり一番の座は動かない。 「ふっ! ふとんがふっとんだ!」 突然、震えるだけだった子まりさが叫んだ。ぽんぽん遊びによって姉妹が二匹殺され、自分たちもその後を追うことから逃れられぬことに絶望して心が壊れてしまったのだろうか? 「お、おとーさんだああああ! おとーさんがいるぅ! たすかるよ! まりさたち、たすかるよ!」 しかし、その口から出てきたのは、希望に満ちた喜びの声。その声に触発されて、他の子供たちも明るい顔になる。 「ゆゆゆ! どこ? おとーさんどこ?」 「ゆわーん、おちょーしゃーん、たすけちぇー!」 「おちょーしゃんがきたなら、もうゆっきゅりできりゅよ!」 「ほら、あそこだよ!」 子まりさの視線の先には、いた! 一家の大黒柱。強くて狩りが得意で優しいみんなのおとうさんまりさ。 「ゆあああん、たすけてー!」 「おちょーしゃーん!」 みんな、多少なりとも傷付いていたが、最後の力を振り絞ってぽよんぽよんと跳ねて行く。 「う? う? うー?」 子ふらんたちは、何が起こったのかと不思議がっている。どこにも、こいつらの親のまりさなどいないではないか。 「ゆゆ?」 赤まりさも不思議そうにしている。 「おとーさーん!」 「おちょーしゃーん!」 しかし、なにやら自分の方へと向かってきているので、跳ね飛ばされてはかなわないと思って横に避けた。 「おとーさん!」 「ゆわわわわん、きょわかったよー!」 「あいつらだよ、あのふらんたちが、おねえざんといぼうとを」 「おちょーしゃん、あいつらやっちゅけて!」 子供たちがそうやってすがったのは……赤まりさのコレクションの中でも一番お気に入りの帽子だった。 「うー」 子ふらんの一匹が、その帽子をくわえて浮き上がる。 「ゆ! おちょーしゃん!」 「おとーさんがぁぁぁぁぁ!」 「だ、だいじょーぶだよ! おとーさんはあのぐらいじゃやられないよ!」 子ふらんは、なんとなく帽子をくわえたものの、どうしようか迷った。迷った挙句、姉妹の長女である子ふらんの上まで行って、帽子を落とした。 ぽふっ、と、長女ふらんの頭の上に、ゆっくりまりさの山高帽が乗っかる。 「うー、おとーさんなのー」 ふざけて、長女ふらんは言ったが、それへの反応は思いもよらぬものだった。 「おとーさん!」 「おちょーしゃん!」 ゆっくりの子供たちが、そのふらんの元へと我先にと跳ねてきて、その後ろに隠れたのだ。 「う? う? うー?」 てっきり、それでこれがただの帽子で、おとうさんなどどこにもいないことを悟ってまたゆんゆんといい悲鳴を聞かせてくれるだろうと思っていた子ふらんは困惑する。 「おとーさん、がんばれ!」 「おとーさんはつよいんだよ! あやまるならいまのうちだよ!」 「おちょーしゃん、さいきょー」 「きょれでゆっきゅちできるね!」 そんなゆっくりたちを見ていたふらん一家の赤まりさは、三匹の姉ふらんたちを呼び寄せて、なにやらひーそひーそと内緒話を始めた。 「ゆっ! ひーそひーそしてる!」 「きっと、おとーさんをやっつけるさくせんをはなしてるんだ!」 「ゆゆん、そんなのおとーさんにはいみないよ!」 「ゆゆーん、そうだよ、おとーさんはつよいんだから!」 「ゆっきゅち! ゆっきゅち! おちょーしゃんちゅよーい」 子供たちは、もうすっかり助かったと思い込んで、そのおとーさんとやらが、 「うー?」 と、自分を除け者にして内緒話をしている妹たちを少し不安そうに眺めているのには気付かない。 「うー! おおきいまりさはゆっくりしね!」 「うー! ふらんたちのあそびをじゃまするな」 「うー! ちびのあまあまをこっちにわたせー」 「う? う? う?」 三人の妹ふらんたちに突然そう言われて長女ふらんはますます戸惑う。 「おとーさん、れいむたちをまもってね!」 「おちょーしゃんがいればだいじょーぶだよにぇ!」 事態が全く予想できない方向へ行ってしまい、長女ふらんは何をどうしたらいいかわからない。まさか、妹たちまでもが自分をこいつらのおとうさんまりさだと思うわけはないはずなのだが。 「うー、ゆっくりしね!」 すぐ下の妹ふらんが突っ込んで来た。 「うー!?」 「うー!」 激突。妹ふらんが弾き飛ばされる。 「ゆゆーっ! おとーさんすごーい!」 「しゃすがおちょーしゃんだにぇ!」 子供たちは大歓声だ。 「うー、こいつつよい」 飛ばされた妹ふらんは、悔しそうに言った。 「……」 対する、長女ふらんは何か考えるような面持ちである。 「うー、つぎはふらんがいく」 そう言って、別の妹ふらんが突っ込んでくる。 「うー!」 だが、やはり先ほどと同じように、跳ね返されてしまう。 「うー、やられた」 またまた子供たちの大歓声が上がる。 「……」 長女ふらんは、だんだんと事態が飲み込めてきた。 今までの二回の体当たりは、いかにも長女ふらんが二匹を撃退したように見えるが、実際はそうではない。妹たちは、当たるか当たらぬというところで、自ら後ろに飛んだのだ。 「うー! おとーさんはつよいのー!」 長女ふらんがそう雄叫びを上げると、子ゆっくりたちは大喜びで父を讃える。対するふらんたちは、にやり、と笑った。長女が全てを飲み込んだと悟ったのだ。 それからは、もうおとーさんの独壇場と言おうか、次々に襲い掛かる子ふらんたちを片っ端から跳ね飛ばしていった。 「おとーさんすごーい!」 「おちょーしゃんさいきょー!」 そんな声を聞いて、親ふらんに押さえつけられていた母れいむが声を上げる。母れいむは、子供たちがぽんぽんされている間も声を限りに騒いでいたが、うるさいので親ふらんによって子供たちの方が見えないように位置を変えられて口を塞ぐように押さえられていたのだ。 「お、おぢびぢゃんだぢ、ばりさ……ばりざがいるのっ!?」 少しずつ、ずりずりと位置を変えて、ようやく声を出せたのだ。 「おかーさん、もうだいじょうぶだよ! おとーさんがたすけにきたんだよ!」 「ちゃすけにきちゃんだよ!」 「ゆゆゆゆゆっ!」 母れいむは、感極まった声を上げる。死んだと思っていたまりさが、今この大ピンチに颯爽と現れたというのだ。 「うー」 再び口を塞ごうとした親ふらんだが、なんか面白そうなので放っておいた。 そして子ふらんたちは―― 「ひーそひーそ」 また、なにやら赤まりさを加えた四匹で内緒話を始めた。 「ゆゆん、どんなさくせんをたててもむだだよ!」 「おちょーしゃんにかてるもにょか!」 「ゆーん、ゆっきゅちできりゅよ」 もうすっかり安心している子供たちであったが……。 「うー、こっちきて」 子ふらんの呼びかけに、おとうさんまりさがパタパタと(まあ、パタパタ飛んでる時点でおかしいのだが)とあっちに行って、なにやら一緒になってひーそひーそし始めると、さすがに怪訝に思った。 「お、おとーさん、なにしてるの!」 「はやくそいつらをやっつけてよ!」 「おちょーしゃん、ひーしょひーしょしにゃいで!」 「ゆゆぅ」 だが、一度安心するとゆっくり――特に子供のゆっくり――は容易に物事への楽観視を止めることはない。 「ゆゆ、きっとふらんたちがこうさんしてるんだよ」 「そうか、それでゆっくりゆるしてもらおうとしてるんだ」 「ゆふん! ふりゃんたちはよわむしだにぇ」 「このおうちをもらわにゃいとゆるせにゃいよね」 「あのあまあまももらわにゃいとね」 「ゆゆーん、ゆっくりできるね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 広いおうちと山のようなあまあまを賠償として奪い取ることを決め付けた子供たちは、ゆっくりできそうな未来へ思いを馳せる。 「うー」 やがて、おとうさんが戻ってきた。その後ろには子ふらんと赤まりさを、まるで付き従えるようにしている。それを見て、ますますふらんたちが降伏したのだと確信した子ゆっくりたちは沸き立つ。この広いおうちもたくさんのあまあまも自分たちのものだ、と。 「うー、ごめん。ふら……おとーさんは、ふらんたちのかぞくにいれてもらうことにしたの」 「……ゆ?」 子ゆっくりたちは理解できない。いや、これは理解しろというのが無理な話だろう。 「……ゆ?」 「……ゆゆ?」 「……ゆゆゆ?」 「……ゆゆゆゆ?」 ゆっくりりかいできないよ、なにをいってるの? と、その顔というか全身にはそう書いてあった。 「うー、おまえらはもうじゃま。ゆっくりしね」 いつまで経っても理解しそうにないのに面倒臭くなったのか、長女まりさは一匹の赤まりさに噛み付くと、中身の餡を吸い上げた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ ゆ゛っぎゅ……ぢでき……に゛ゃい」 「ゆわわわわ!」 「にゃ、にゃにするにょ、おちょーしゃーーーーん!」 赤ゆっくりなど、子ふらんが一気に吸い込めばあっという間に中身を吸い尽くされてしまう。 「うー、ぺっ」 皮だけになった赤まりさを吐き出す。もちろん、とっくに死んでいる。 「うー、おまえらもゆっくりしね!」 「お゛どうざん、や゛べでえええええ!」 「おぢょーじゃん、でいぶだぢのごちょ、ぎりゃいになっぢゃの?」 「ばりざ、いいごにじでだよ、おがーざんのい゛うごどぎいでだよ」 「お、おがーざん、だずげでええええええ!」 頼みの綱のおとうさんの信じられない裏切りに、子れいむがおかあさんに助けを求める。 「ゆゆゆゆ! どうしたの、いったいなにがあったの!?」 声は出せるものの、依然として子供たちの方が見えない位置に押さえ付けられていた母れいむが、突然ゆっくりできなくなった子供たちの声を聞いて叫んだ。 「おどーざんがあああああ!」 「おどーざんが、でいぶだぢをい゛らない゛っで」 「おぢょーしゃん、ふら゛んだぢのな゛がま゛にな゛るっでえ」 「まりじゃだぢは、じゃま゛だっちぇ、ゆ゛っぐりじね、っでえ」 「ゆゆゆゆゆゆゆ! そんなわけな゛い! ばりさは、ばりさはそ゛んなごど!」 愛する子供たちの必死そうな声と言っても、到底、母れいむには信じられることではなかった。 「うー、ゆっくりしね」 「うー、そろそろおなかへってきた」 「ゆわーーーん!」 今にも、虐殺が開始されるというその時、 「ま、まりざも、まりざもな゛がまにじで!」 子まりさが、言った。 「まりじゃも、まりじゃも!」 途端に、赤まりさもそれに続く。 彼女らの頭にあるのは、もう何をしても助からないという絶望と、それと相反する希望。 ――あの子みたいに、家族になれば。 あの、赤まりさのように、このふらん一家の一員になれば助かるのではないか、という一縷の望み。 自分たちが恐怖し、苦痛にのたうつ間も、終始ニコニコと笑ってゆっくりしていた赤まりさ。自分もああいうふうになりたい。ずっと、羨ましく思っていた。自分だって同じまりさだし、それに同じまりさのおとうさんも、ふらん一家に入るとのことだ。きっとお願いすれば、自分たちだって――。 「うー?」 またもや思いもよらぬ行動に子ふらんたちはどうしたものかと思う。 「おねーしゃん」 そこで声を上げたのは赤まりさだ。この子は、狩りの手伝いだけでなく、色々と面白い提案をする。さっき、帽子をかぶった長女ふらんをおとうさんと言い出したゆっくりたちを見て、しばらくそのフリをすること、その後で、フリをしたまま裏切って見せて絶望させることも、この赤まりさが提案した。類稀なる素質を持った赤ゆっくりであった。普通ならばどうやってもゲスにしかなりえないような赤まりさだが、ふらん一家の一員である以上、その才能は、家族にとっては大いに使えるものであった。赤まりさが、なんだかんだで子ふらんたちに可愛がられているのもそのせいであった。 三度、ひーそひーそと内緒話をするふらんたちと赤まりさ。そこで、赤まりさは悪魔のごときアイデアを出す。そして……通常種にとっては悪魔というしかない性質を持つ子ふらんたちは、それにすぐさま賛成した。 「うー、なかまにしてやってもいいけど、じょーけんがある」 「ゆ?」 「うー、うちのかぞくになるなら、まえのかぞくをすてる」 「ゆゆ? つまり、どうすればいいの?」 条件を出してくるということは、それをクリアすればいいということだ。苦し紛れに喚いたお願いだったが、なにやら受け入れられそうな目が出てきたことで、子ゆっくりたちは俄然その気になってきた。 「うー、そこのれーむをゆっくりころせ!」 「ゆっ!」 「ゆゆゆ!」 そこのれーむ、とは母れいむのことである。つまり、母れいむに引導を渡して前の家族との決別を行動で表せれば、うちのファミリーに入れてやろう、ということである。 「そ、ぞんなごと、でぎるわげないでしょおおおおお!」 「じょんなゆっぎゅぢでぎないごと、れ゛いみ゛ゅはじないよ!」 子れいむと赤れいむは、真っ先に拒絶する。 「ゆぅ……」 「ゆゆっ」 対して、子まりさと赤まりさ。特に拒絶の言葉は口にしない。 その間にも子れいむと赤れいむは、ふらんたちを罵り続ける。そんなゆっくりできないことはしない! そんなゆっくりできないことをやれというおとーさんもふらんもゆっくりしんじゃえ! と。 「……おかーさんをゆっくりころしたら……ほんとうになかまにしてくれるの?」 「……ほんちょーに、してくれりゅの?」 やがて、子まりさと赤まりさが、ゆっくりと口を開いた。 「う? うー、ほんとう!」 「うー、ふらんはうそつかない」 と、どの口で言うのか、そう言ったのは、まりさの帽子をかぶった長女ふらんであった。 「ゆゆ、やるよ」 「ゆっきゅち、やりゅよ」 「ゆゆゆゆ?」 驚いたのは、子れいむと赤れいむだ。一体何を言い出すのか。 「れいむ、どいて」 「れいみゅ、どいちぇ」 「な、なにいってるの! おかあさんをころしたりしたら、ゆっくりできないよ!」 「しょーだよ、まりしゃたちはげしゅだったんだにぇ!」 しかし、まりさたちの目の色は既に変わっていた。 「どかないれいむはゆっくりしね!」 子まりさ渾身の体当たり。子れいむがふっ飛ぶ。いくらなんでもいきなり攻撃はされないと思っていたところに不意打ちを貰ってしまった。 「ゆっきゅちちね!」 赤まりさは、赤れいむに体当たり。ぽよん、と飛ばされた赤れいむに追い打ちをかけようとした赤まりさだったが、子まりさに制止されて止まる。 「ゆっくりしね!」 その直後、赤れいむは降って来た子まりさに潰されて死んだ。 赤ゆっくり同士が体当たりをし合ってもそう効果は無い。だから、子まりさは、自分の一撃で手っ取り早く赤れいむを始末したのだ。 「ゆゆゆ! な゛にずるのぉ、ばりざあ!」 と、言いつつころりと転がっていた体を起こした子れいむも、いまいち切迫した事態を把握しているとは言い難い。赤れいむが殺されたのに気付いていないせいもあったが、その声は未だに姉妹喧嘩の際に上げる抗議の声に似た響きを持っていた。 「ゆっくりしね!」 「ゆっきゅちちね!」 すぐに、二匹のまりさに攻撃を受けてしまった。赤まりさの攻撃など大して効かなかったが、同じ程度の大きさの子まりさに何度も体当たりされて、やがて子れいむは動かなくなった。 「ゆゆ! あとは、おかーさんだよ!」 「ゆゆ! おきゃーしゃん、まりしゃたちのゆっきゅちのために、ゆっきゅちちんでね!」 凄まじい形相で母れいむに向かうまりさたち。 「う?」 母れいむを押さえるためにその上に座っていた親ふらんだが、さすがにそのゆっくりしていない鬼の形相には多少怯んだ……というか、引いた。 「ゆっくりどいて! そいつころせない!」 「ゆっきゅちどけぇ!」 「うー」 別に邪魔する必要も感じなかったので腰を上げ、二匹の方へ母れいむを蹴り転がしてやる。 「ゆゆゆ、おちびちゃんだち、まりさは、どこ?」 とにかくもう、母れいむの中では、音声だけで得た情報のどこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのかゴチャゴチャになってわからなくなっている。しかし、とにかく求めたのは番の愛するまりさであった。子供たちは、まりさが裏切ってふらんたちの仲間になったと言っていたが、もちろん、母れいむはそんなことは信じていない。 「ゆー、おとーさんはあっちだよ! それよりも……」 「おきゃーしゃん、ゆっくりちんでにぇ! そうしにゃいと、まりしゃたちがゆっきゅちできにゃいんだよ!」 「ゆゆゆ、落ち着いてねおちびちゃんたち、おかあさんにゆっくりしねとかいったら駄目だよ!」 この期に及んで、そんなことを言っている母れいむだったが、そう言いつつ、目は愛するまりさのことを探していた。 「ゆゆ! まりさ……のお帽子!」 「ゆ?」 「ゆゆ?」 母れいむの言葉に、今にも飛び掛ろうとしていたまりさたちが動きを止める。 「うー、おとーさんなの」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、どこがばりさな゛のっ! ふら゛んでじょおおおお!」 さすがに、母れいむはおとうさんまりさの正体を見破った。 「うー、ばれたか」 「うー、ばれちゃしょーがねえの」 おとうさんのフリ作戦で既に散々楽しんだ後なので、ふらんたちはそれには執着しなかった。あっさりと妹ふらんが長女ふらんの頭からまりさの帽子をくわえて持ち上げる。 「ゆゆゆゆゆ! おどーざんじゃながっだのぉぉぉぉぉぉ!」 「だましちゃな゛ぁぁぁぁぁ!」 まりさたちは、あらん限りの呪詛の言葉を投げかける。約束を信じて姉妹殺しまでして、その上母殺しまでやらかそうとしていたのだから、それも当然だろう。 「うー、おとーさんはうそだったけど、なかまにしてやるのはほんとう」 しかし、長女ふらんは涼しい顔でそう言った。 「ゆゆゆ? それってつまり……」 「おきゃーしゃんをきょろせば、にゃかまにしてくれりゅの?」 その約束が生きている、ということを聞いて、色めき立つまりさたち。母れいむは、赤まりさの口から自分を殺す、などという言葉を聞いて愕然としている。 「うー、ふらんうそつかない」 十秒前ぐらいまでとんでもない大嘘をつき続けていたのを棚に上げて、平気な顔して長女ふらんは言った。 その背後に、赤まりさが見えた。さっき殺した赤れいむの死体を食べている。 「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー」 「うー、ゆっくりしろー」 子ふらんが、その頭を羽で撫でている。 「おねーしゃんありがちょー、ゆっきゅちしてりゅよ!」 そのサマは、まさにゆっくり。自分と同じまりさが、とってもゆっくりしている。強いふらんたちに守られて、食べ物もたくさん貰って、ゆっくりしている。自分たちと同じまりさが……。 「お、おがーさんは、ゆっぐりじねえ!」 「ゆっきゅぢぢねえ!」 「ゆゆゆ! おぢびぢゃんだち!」 子まりさと赤まりさは、母れいむに体当たりした。優しくしてくれた母れいむを殺そうとする非道な行為。しかし、それへまりさたちを駆り立てたのは、あの赤まりさのゆっくりぶりであった。 子れいむたちが、あくまでも母殺しを拒んだのは、赤まりさのことを羨みつつも、所詮自分たちはああはなれないと確信していたからだ。同じ通常種と一くくりにされているが、れいむとまりさでは、やはり違う。 だが、まりさたちにとっては、そうではなかった。全く同じ、完全に同じ種類のまりさがあんなにゆっくりしているのだ。自分たちにだって、そうする資格はある。そうする権利はある。 「やべで、おがあさん、おごるよ!」 「ゆっぐりじね、ゆっぐりじね!」 「ゆっぎゅちぢね!」 母れいむは、怒声を上げるも、直接反撃はしなかった。もうこの状況ならば誰も非難はしないだろうに。 「おがあざん、ばりさだちのゆっぐりのだめにじね!」 「ばりじゃだちは、ゆっぐりじぢゃいよ!」 その言葉を聞いて、もう母れいむは何も言わなくなった。自分は、一生懸命この子たちをゆっくりさせてきたつもりだが、もうふらんたちに捕まってしまったこの状況では、自分の力でこの子たちをゆっくりさせることは不可能。ならば――。 なんの抵抗もしないとは言っても、成体サイズの母れいむには、赤まりさはほとんどダメージは与えられない。子まりさが必死に何度も体当たりし、さらには親ふらんにやられた傷口に噛み付いてそれを広げたりして、ようやく母れいむを死に追いやることができた。 まりさたちは、泣いていた。ゆっくりを全てに優先させると言っても、やはり、ひどい仕打ちをしたでもなく、精一杯に優しくしてくれた親を殺すことなど、望んでやったことではなかった。 「……ゆ゛っぐり……じでね、おぢびぢゃ……ん」 母れいむの最後の言葉が、まりさたちの心に突き刺さっていた。 「まりさ……ゆっぐり、じようね、ごれから」 「……ゆっぎゅちずるよ」 目的を達成しつつも、まったくゆっくりしていないまりさたち。それでも、これで、これからはゆっくりできる。あの赤まりさのように、ふらんに守られてゆっくりできる。 振り返った。そこには、自分たちを仲間に迎え入れてくれるふらん一家がいるものだと思っていた。 「……うー」 しかし、なんだかふらんたちはおかしな様子だった。はじめて見る表情。まりさたちの家族をゆっくりさせないでしていた残虐な笑顔でも、まりさたちの家族を喰らってニコニコしている笑顔でもなかった。 それは……ある種の恐れであった。捕食種でも最強の一角であるふらんたちが、たった二匹の、子まりさと赤まりさに対して向けるような表情ではないが、ふらんたちは、まりさたちに攻撃された母れいむがもうこれ以上やったら本当に死んでしまう、というほどに傷付いても、なおまりさたちが攻撃を止めぬのを見てから、ずっとこんな表情でまりさたちを見ていた。 「ゆ、ゆっくり……なかまに……」 「ゆっきゅち、にゃかまに……」 まりさたちのその声には答えず、しばし沈黙。 「うー、なんでおかあさんころしたの」 やがて、その沈黙が破られた。まりさたちにとっては信じられないような言葉で。 「ゆ……ゆ……ゆ……」 さすがに、すぐに答えることができない。 「ふ……ふら゛ん゛がや゛れ゛っでいっだんでじょおおおおおおおおおおお!」 「に゛ゃにいっぢぇるの゛! はやぐ、はやぐまりじゃだぢをにゃがまにじでね!」 「……うー、おかあさんをころすようなやつはなかまにできない」 「うー、そうだね」 「うー、ふらんもそうおもう」 「ゆゆぅ、きょのまりしゃたち、きょわいよぉぉぉ!」 ふらんにはあっさり拒否され、赤まりさには泣かれる始末である。 親ふらんが、怖がる赤まりさを抱き上げて後ろに下がっていった。 「だがら゛、ぞれはぶら゛んだぢが、やれ゛っでいっだんだよ!」 「ぞうじたら、にゃがまにじでぐれるっで!」 まりさたちの言うことは全くその通りである。 「うー、ほんとにやるとはおもわなかった」 しかし、一蹴された。 「うー、ふつうおもわない」 「うー、あいつらがおかしい」 「うー、ひどいやつら」 子ふらんたちは、親ふらんを見た。親ふらんは、頷いた。好きにしろ、という意味だ。 「うー」 子ふらんたちが集まってひーそひーそと内緒話を始める。しかし、出る結論など最初から決まっているのだ。内緒話は、三秒で終わった。 「うー、おかあさんをころしたひどいやつらは、ゆっくりしね」 「うー、ゆっくりしね」 「うー、こんなやつら、ゆっくりしないでさっさところそう」 「うー、そうしよう、ゆっくりしないでさっさとしね」 それは、親殺しへの裁き。 追い詰められた弱者が、その弱さゆえに犯してしまった罪への、強者による裁き。 その強さゆえに、自分たちはそんなことはしない、という確信の元に振り下ろされる倫理の刃。 「ゆ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「ゆ゛ぴゃあ゛あ゛あ゛あ゛」 泣き叫ぶこと以外許されぬまりさたちは、その唯一許されたことを、殺されるまでやり続けるしかなかった。 ふらんたちの手にかかる寸前に見えたのは、親ふらんに寝かし付けられて、ゆっくりとした寝顔でゆぴぃーと眠っている赤まりさ。 そして、死ぬ寸前に上げた声は、 「お゛があざん、おどうざん、だずげでええええ!」 「おぎゃあじゃん、おぢょうじゃん、だじゅげぢぇええええ!」 「ゆっへっへ、ゆっくりさせられたくなかったら、あまあまをよこすのぜ!」 「よこすのじぇ!」 強盗まりさの親子は、その日も獲物を見つけて仕事に励んでいた。 「ゆぴ?」 「おちびでもよーしゃしないのぜ!」 「しないのじぇ!」 「あまあまほちいの?」 「ほしいのぜ、まりささまはおなかがぺーこぺーこなのぜ」 「ぺーきょぺーきょなのじぇ」 「しょれなら、まりしゃをおうちにつれていっちぇ!」 「ゆゆ? おうち、このちかくなのぜ?」 「ちかくなのじぇ?」 「うん、まりしゃあんよがいちゃくておうちにかえれにゃくてこまっちぇちゃの、おうちにつれていってくれちゃら、おれーにあまあまをあげりゅよ!」 「ゆっゆっ、そんなのおやすいごようなのぜ。……おちびのおうちにはあまあまはどのぐらいあるのぜ?」 「あるのじぇ?」 「たーくしゃん、だよ。おちょーしゃんは、きょれでふゆさんもだいじょーぶ、っていってちゃよ」 「それはすごいのぜ。それじゃ、おうちにいくのぜ。おれいははずんでくれなのぜ」 「はずんでくれなのじぇ」 「うん! まりしゃのおうちで、ゆっきゅちしていっちぇね!」 もちろん、強盗まりさはおうちに着いたらこのおちびのまりさも両親も殺して、おうちと食べ物を全ていただこうと思っている。これで、今年の冬は優雅に越せる。 「ゆっへっへ」 強盗まりさは、素晴らしい未来に今からゆっくり過ごす冬が楽しみであった。 がさがさっ―― そばの繁みが音を立てたのはその時だった。 終わり ※作者はふらんが大好き。 このSSに感想をつける
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「ゆっゆっ、ゆ~っ」 赤まりさは、お帽子をコレクション置き場に持っていった。 「ゆゆん、こっちのおぼうちにはまけりゅけど、これもにゃかにゃかだよ!」 一番のお気に入りの帽子の隣に、今回の帽子を置いてみると、やはり一番の座は動かない。 「ふっ! ふとんがふっとんだ!」 突然、震えるだけだった子まりさが叫んだ。ぽんぽん遊びによって姉妹が二匹殺され、自分たちもその後を追うことから逃れられぬことに絶望して心が壊れてしまったのだろうか? 「お、おとーさんだああああ! おとーさんがいるぅ! たすかるよ! まりさたち、たすかるよ!」 しかし、その口から出てきたのは、希望に満ちた喜びの声。その声に触発されて、他の子供たちも明るい顔になる。 「ゆゆゆ! どこ? おとーさんどこ?」 「ゆわーん、おちょーしゃーん、たすけちぇー!」 「おちょーしゃんがきたなら、もうゆっきゅりできりゅよ!」 「ほら、あそこだよ!」 子まりさの視線の先には、いた! 一家の大黒柱。強くて狩りが得意で優しいみんなのおとうさんまりさ。 「ゆあああん、たすけてー!」 「おちょーしゃーん!」 みんな、多少なりとも傷付いていたが、最後の力を振り絞ってぽよんぽよんと跳ねて行く。 「う? う? うー?」 子ふらんたちは、何が起こったのかと不思議がっている。どこにも、こいつらの親のまりさなどいないではないか。 「ゆゆ?」 赤まりさも不思議そうにしている。 「おとーさーん!」 「おちょーしゃーん!」 しかし、なにやら自分の方へと向かってきているので、跳ね飛ばされてはかなわないと思って横に避けた。 「おとーさん!」 「ゆわわわわん、きょわかったよー!」 「あいつらだよ、あのふらんたちが、おねえざんといぼうとを」 「おちょーしゃん、あいつらやっちゅけて!」 子供たちがそうやってすがったのは……赤まりさのコレクションの中でも一番お気に入りの帽子だった。 「うー」 子ふらんの一匹が、その帽子をくわえて浮き上がる。 「ゆ! おちょーしゃん!」 「おとーさんがぁぁぁぁぁ!」 「だ、だいじょーぶだよ! おとーさんはあのぐらいじゃやられないよ!」 子ふらんは、なんとなく帽子をくわえたものの、どうしようか迷った。迷った挙句、姉妹の長女である子ふらんの上まで行って、帽子を落とした。 ぽふっ、と、長女ふらんの頭の上に、ゆっくりまりさの山高帽が乗っかる。 「うー、おとーさんなのー」 ふざけて、長女ふらんは言ったが、それへの反応は思いもよらぬものだった。 「おとーさん!」 「おちょーしゃん!」 ゆっくりの子供たちが、そのふらんの元へと我先にと跳ねてきて、その後ろに隠れたのだ。 「う? う? うー?」 てっきり、それでこれがただの帽子で、おとうさんなどどこにもいないことを悟ってまたゆんゆんといい悲鳴を聞かせてくれるだろうと思っていた子ふらんは困惑する。 「おとーさん、がんばれ!」 「おとーさんはつよいんだよ! あやまるならいまのうちだよ!」 「おちょーしゃん、さいきょー」 「きょれでゆっきゅちできるね!」 そんなゆっくりたちを見ていたふらん一家の赤まりさは、三匹の姉ふらんたちを呼び寄せて、なにやらひーそひーそと内緒話を始めた。 「ゆっ! ひーそひーそしてる!」 「きっと、おとーさんをやっつけるさくせんをはなしてるんだ!」 「ゆゆん、そんなのおとーさんにはいみないよ!」 「ゆゆーん、そうだよ、おとーさんはつよいんだから!」 「ゆっきゅち! ゆっきゅち! おちょーしゃんちゅよーい」 子供たちは、もうすっかり助かったと思い込んで、そのおとーさんとやらが、 「うー?」 と、自分を除け者にして内緒話をしている妹たちを少し不安そうに眺めているのには気付かない。 「うー! おおきいまりさはゆっくりしね!」 「うー! ふらんたちのあそびをじゃまするな」 「うー! ちびのあまあまをこっちにわたせー」 「う? う? う?」 三人の妹ふらんたちに突然そう言われて長女ふらんはますます戸惑う。 「おとーさん、れいむたちをまもってね!」 「おちょーしゃんがいればだいじょーぶだよにぇ!」 事態が全く予想できない方向へ行ってしまい、長女ふらんは何をどうしたらいいかわからない。まさか、妹たちまでもが自分をこいつらのおとうさんまりさだと思うわけはないはずなのだが。 「うー、ゆっくりしね!」 すぐ下の妹ふらんが突っ込んで来た。 「うー!?」 「うー!」 激突。妹ふらんが弾き飛ばされる。 「ゆゆーっ! おとーさんすごーい!」 「しゃすがおちょーしゃんだにぇ!」 子供たちは大歓声だ。 「うー、こいつつよい」 飛ばされた妹ふらんは、悔しそうに言った。 「……」 対する、長女ふらんは何か考えるような面持ちである。 「うー、つぎはふらんがいく」 そう言って、別の妹ふらんが突っ込んでくる。 「うー!」 だが、やはり先ほどと同じように、跳ね返されてしまう。 「うー、やられた」 またまた子供たちの大歓声が上がる。 「……」 長女ふらんは、だんだんと事態が飲み込めてきた。 今までの二回の体当たりは、いかにも長女ふらんが二匹を撃退したように見えるが、実際はそうではない。妹たちは、当たるか当たらぬというところで、自ら後ろに飛んだのだ。 「うー! おとーさんはつよいのー!」 長女ふらんがそう雄叫びを上げると、子ゆっくりたちは大喜びで父を讃える。対するふらんたちは、にやり、と笑った。長女が全てを飲み込んだと悟ったのだ。 それからは、もうおとーさんの独壇場と言おうか、次々に襲い掛かる子ふらんたちを片っ端から跳ね飛ばしていった。 「おとーさんすごーい!」 「おちょーしゃんさいきょー!」 そんな声を聞いて、親ふらんに押さえつけられていた母れいむが声を上げる。母れいむは、子供たちがぽんぽんされている間も声を限りに騒いでいたが、うるさいので親ふらんによって子供たちの方が見えないように位置を変えられて口を塞ぐように押さえられていたのだ。 「お、おぢびぢゃんだぢ、ばりさ……ばりざがいるのっ!?」 少しずつ、ずりずりと位置を変えて、ようやく声を出せたのだ。 「おかーさん、もうだいじょうぶだよ! おとーさんがたすけにきたんだよ!」 「ちゃすけにきちゃんだよ!」 「ゆゆゆゆゆっ!」 母れいむは、感極まった声を上げる。死んだと思っていたまりさが、今この大ピンチに颯爽と現れたというのだ。 「うー」 再び口を塞ごうとした親ふらんだが、なんか面白そうなので放っておいた。 そして子ふらんたちは―― 「ひーそひーそ」 また、なにやら赤まりさを加えた四匹で内緒話を始めた。 「ゆゆん、どんなさくせんをたててもむだだよ!」 「おちょーしゃんにかてるもにょか!」 「ゆーん、ゆっきゅちできりゅよ」 もうすっかり安心している子供たちであったが……。 「うー、こっちきて」 子ふらんの呼びかけに、おとうさんまりさがパタパタと(まあ、パタパタ飛んでる時点でおかしいのだが)とあっちに行って、なにやら一緒になってひーそひーそし始めると、さすがに怪訝に思った。 「お、おとーさん、なにしてるの!」 「はやくそいつらをやっつけてよ!」 「おちょーしゃん、ひーしょひーしょしにゃいで!」 「ゆゆぅ」 だが、一度安心するとゆっくり――特に子供のゆっくり――は容易に物事への楽観視を止めることはない。 「ゆゆ、きっとふらんたちがこうさんしてるんだよ」 「そうか、それでゆっくりゆるしてもらおうとしてるんだ」 「ゆふん! ふりゃんたちはよわむしだにぇ」 「このおうちをもらわにゃいとゆるせにゃいよね」 「あのあまあまももらわにゃいとね」 「ゆゆーん、ゆっくりできるね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 広いおうちと山のようなあまあまを賠償として奪い取ることを決め付けた子供たちは、ゆっくりできそうな未来へ思いを馳せる。 「うー」 やがて、おとうさんが戻ってきた。その後ろには子ふらんと赤まりさを、まるで付き従えるようにしている。それを見て、ますますふらんたちが降伏したのだと確信した子ゆっくりたちは沸き立つ。この広いおうちもたくさんのあまあまも自分たちのものだ、と。 「うー、ごめん。ふら……おとーさんは、ふらんたちのかぞくにいれてもらうことにしたの」 「……ゆ?」 子ゆっくりたちは理解できない。いや、これは理解しろというのが無理な話だろう。 「……ゆ?」 「……ゆゆ?」 「……ゆゆゆ?」 「……ゆゆゆゆ?」 ゆっくりりかいできないよ、なにをいってるの? と、その顔というか全身にはそう書いてあった。 「うー、おまえらはもうじゃま。ゆっくりしね」 いつまで経っても理解しそうにないのに面倒臭くなったのか、長女まりさは一匹の赤まりさに噛み付くと、中身の餡を吸い上げた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ ゆ゛っぎゅ……ぢでき……に゛ゃい」 「ゆわわわわ!」 「にゃ、にゃにするにょ、おちょーしゃーーーーん!」 赤ゆっくりなど、子ふらんが一気に吸い込めばあっという間に中身を吸い尽くされてしまう。 「うー、ぺっ」 皮だけになった赤まりさを吐き出す。もちろん、とっくに死んでいる。 「うー、おまえらもゆっくりしね!」 「お゛どうざん、や゛べでえええええ!」 「おぢょーじゃん、でいぶだぢのごちょ、ぎりゃいになっぢゃの?」 「ばりざ、いいごにじでだよ、おがーざんのい゛うごどぎいでだよ」 「お、おがーざん、だずげでええええええ!」 頼みの綱のおとうさんの信じられない裏切りに、子れいむがおかあさんに助けを求める。 「ゆゆゆゆ! どうしたの、いったいなにがあったの!?」 声は出せるものの、依然として子供たちの方が見えない位置に押さえ付けられていた母れいむが、突然ゆっくりできなくなった子供たちの声を聞いて叫んだ。 「おどーざんがあああああ!」 「おどーざんが、でいぶだぢをい゛らない゛っで」 「おぢょーしゃん、ふら゛んだぢのな゛がま゛にな゛るっでえ」 「まりじゃだぢは、じゃま゛だっちぇ、ゆ゛っぐりじね、っでえ」 「ゆゆゆゆゆゆゆ! そんなわけな゛い! ばりさは、ばりさはそ゛んなごど!」 愛する子供たちの必死そうな声と言っても、到底、母れいむには信じられることではなかった。 「うー、ゆっくりしね」 「うー、そろそろおなかへってきた」 「ゆわーーーん!」 今にも、虐殺が開始されるというその時、 「ま、まりざも、まりざもな゛がまにじで!」 子まりさが、言った。 「まりじゃも、まりじゃも!」 途端に、赤まりさもそれに続く。 彼女らの頭にあるのは、もう何をしても助からないという絶望と、それと相反する希望。 ――あの子みたいに、家族になれば。 あの、赤まりさのように、このふらん一家の一員になれば助かるのではないか、という一縷の望み。 自分たちが恐怖し、苦痛にのたうつ間も、終始ニコニコと笑ってゆっくりしていた赤まりさ。自分もああいうふうになりたい。ずっと、羨ましく思っていた。自分だって同じまりさだし、それに同じまりさのおとうさんも、ふらん一家に入るとのことだ。きっとお願いすれば、自分たちだって――。 「うー?」 またもや思いもよらぬ行動に子ふらんたちはどうしたものかと思う。 「おねーしゃん」 そこで声を上げたのは赤まりさだ。この子は、狩りの手伝いだけでなく、色々と面白い提案をする。さっき、帽子をかぶった長女ふらんをおとうさんと言い出したゆっくりたちを見て、しばらくそのフリをすること、その後で、フリをしたまま裏切って見せて絶望させることも、この赤まりさが提案した。類稀なる素質を持った赤ゆっくりであった。普通ならばどうやってもゲスにしかなりえないような赤まりさだが、ふらん一家の一員である以上、その才能は、家族にとっては大いに使えるものであった。赤まりさが、なんだかんだで子ふらんたちに可愛がられているのもそのせいであった。 三度、ひーそひーそと内緒話をするふらんたちと赤まりさ。そこで、赤まりさは悪魔のごときアイデアを出す。そして……通常種にとっては悪魔というしかない性質を持つ子ふらんたちは、それにすぐさま賛成した。 「うー、なかまにしてやってもいいけど、じょーけんがある」 「ゆ?」 「うー、うちのかぞくになるなら、まえのかぞくをすてる」 「ゆゆ? つまり、どうすればいいの?」 条件を出してくるということは、それをクリアすればいいということだ。苦し紛れに喚いたお願いだったが、なにやら受け入れられそうな目が出てきたことで、子ゆっくりたちは俄然その気になってきた。 「うー、そこのれーむをゆっくりころせ!」 「ゆっ!」 「ゆゆゆ!」 そこのれーむ、とは母れいむのことである。つまり、母れいむに引導を渡して前の家族との決別を行動で表せれば、うちのファミリーに入れてやろう、ということである。 「そ、ぞんなごと、でぎるわげないでしょおおおおお!」 「じょんなゆっぎゅぢでぎないごと、れ゛いみ゛ゅはじないよ!」 子れいむと赤れいむは、真っ先に拒絶する。 「ゆぅ……」 「ゆゆっ」 対して、子まりさと赤まりさ。特に拒絶の言葉は口にしない。 その間にも子れいむと赤れいむは、ふらんたちを罵り続ける。そんなゆっくりできないことはしない! そんなゆっくりできないことをやれというおとーさんもふらんもゆっくりしんじゃえ! と。 「……おかーさんをゆっくりころしたら……ほんとうになかまにしてくれるの?」 「……ほんちょーに、してくれりゅの?」 やがて、子まりさと赤まりさが、ゆっくりと口を開いた。 「う? うー、ほんとう!」 「うー、ふらんはうそつかない」 と、どの口で言うのか、そう言ったのは、まりさの帽子をかぶった長女ふらんであった。 「ゆゆ、やるよ」 「ゆっきゅち、やりゅよ」 「ゆゆゆゆ?」 驚いたのは、子れいむと赤れいむだ。一体何を言い出すのか。 「れいむ、どいて」 「れいみゅ、どいちぇ」 「な、なにいってるの! おかあさんをころしたりしたら、ゆっくりできないよ!」 「しょーだよ、まりしゃたちはげしゅだったんだにぇ!」 しかし、まりさたちの目の色は既に変わっていた。 「どかないれいむはゆっくりしね!」 子まりさ渾身の体当たり。子れいむがふっ飛ぶ。いくらなんでもいきなり攻撃はされないと思っていたところに不意打ちを貰ってしまった。 「ゆっきゅちちね!」 赤まりさは、赤れいむに体当たり。ぽよん、と飛ばされた赤れいむに追い打ちをかけようとした赤まりさだったが、子まりさに制止されて止まる。 「ゆっくりしね!」 その直後、赤れいむは降って来た子まりさに潰されて死んだ。 赤ゆっくり同士が体当たりをし合ってもそう効果は無い。だから、子まりさは、自分の一撃で手っ取り早く赤れいむを始末したのだ。 「ゆゆゆ! な゛にずるのぉ、ばりざあ!」 と、言いつつころりと転がっていた体を起こした子れいむも、いまいち切迫した事態を把握しているとは言い難い。赤れいむが殺されたのに気付いていないせいもあったが、その声は未だに姉妹喧嘩の際に上げる抗議の声に似た響きを持っていた。 「ゆっくりしね!」 「ゆっきゅちちね!」 すぐに、二匹のまりさに攻撃を受けてしまった。赤まりさの攻撃など大して効かなかったが、同じ程度の大きさの子まりさに何度も体当たりされて、やがて子れいむは動かなくなった。 「ゆゆ! あとは、おかーさんだよ!」 「ゆゆ! おきゃーしゃん、まりしゃたちのゆっきゅちのために、ゆっきゅちちんでね!」 凄まじい形相で母れいむに向かうまりさたち。 「う?」 母れいむを押さえるためにその上に座っていた親ふらんだが、さすがにそのゆっくりしていない鬼の形相には多少怯んだ……というか、引いた。 「ゆっくりどいて! そいつころせない!」 「ゆっきゅちどけぇ!」 「うー」 別に邪魔する必要も感じなかったので腰を上げ、二匹の方へ母れいむを蹴り転がしてやる。 「ゆゆゆ、おちびちゃんだち、まりさは、どこ?」 とにかくもう、母れいむの中では、音声だけで得た情報のどこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのかゴチャゴチャになってわからなくなっている。しかし、とにかく求めたのは番の愛するまりさであった。子供たちは、まりさが裏切ってふらんたちの仲間になったと言っていたが、もちろん、母れいむはそんなことは信じていない。 「ゆー、おとーさんはあっちだよ! それよりも……」 「おきゃーしゃん、ゆっくりちんでにぇ! そうしにゃいと、まりしゃたちがゆっきゅちできにゃいんだよ!」 「ゆゆゆ、落ち着いてねおちびちゃんたち、おかあさんにゆっくりしねとかいったら駄目だよ!」 この期に及んで、そんなことを言っている母れいむだったが、そう言いつつ、目は愛するまりさのことを探していた。 「ゆゆ! まりさ……のお帽子!」 「ゆ?」 「ゆゆ?」 母れいむの言葉に、今にも飛び掛ろうとしていたまりさたちが動きを止める。 「うー、おとーさんなの」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、どこがばりさな゛のっ! ふら゛んでじょおおおお!」 さすがに、母れいむはおとうさんまりさの正体を見破った。 「うー、ばれたか」 「うー、ばれちゃしょーがねえの」 おとうさんのフリ作戦で既に散々楽しんだ後なので、ふらんたちはそれには執着しなかった。あっさりと妹ふらんが長女ふらんの頭からまりさの帽子をくわえて持ち上げる。 「ゆゆゆゆゆ! おどーざんじゃながっだのぉぉぉぉぉぉ!」 「だましちゃな゛ぁぁぁぁぁ!」 まりさたちは、あらん限りの呪詛の言葉を投げかける。約束を信じて姉妹殺しまでして、その上母殺しまでやらかそうとしていたのだから、それも当然だろう。 「うー、おとーさんはうそだったけど、なかまにしてやるのはほんとう」 しかし、長女ふらんは涼しい顔でそう言った。 「ゆゆゆ? それってつまり……」 「おきゃーしゃんをきょろせば、にゃかまにしてくれりゅの?」 その約束が生きている、ということを聞いて、色めき立つまりさたち。母れいむは、赤まりさの口から自分を殺す、などという言葉を聞いて愕然としている。 「うー、ふらんうそつかない」 十秒前ぐらいまでとんでもない大嘘をつき続けていたのを棚に上げて、平気な顔して長女ふらんは言った。 その背後に、赤まりさが見えた。さっき殺した赤れいむの死体を食べている。 「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー」 「うー、ゆっくりしろー」 子ふらんが、その頭を羽で撫でている。 「おねーしゃんありがちょー、ゆっきゅちしてりゅよ!」 そのサマは、まさにゆっくり。自分と同じまりさが、とってもゆっくりしている。強いふらんたちに守られて、食べ物もたくさん貰って、ゆっくりしている。自分たちと同じまりさが……。 「お、おがーさんは、ゆっぐりじねえ!」 「ゆっきゅぢぢねえ!」 「ゆゆゆ! おぢびぢゃんだち!」 子まりさと赤まりさは、母れいむに体当たりした。優しくしてくれた母れいむを殺そうとする非道な行為。しかし、それへまりさたちを駆り立てたのは、あの赤まりさのゆっくりぶりであった。 子れいむたちが、あくまでも母殺しを拒んだのは、赤まりさのことを羨みつつも、所詮自分たちはああはなれないと確信していたからだ。同じ通常種と一くくりにされているが、れいむとまりさでは、やはり違う。 だが、まりさたちにとっては、そうではなかった。全く同じ、完全に同じ種類のまりさがあんなにゆっくりしているのだ。自分たちにだって、そうする資格はある。そうする権利はある。 「やべで、おがあさん、おごるよ!」 「ゆっぐりじね、ゆっぐりじね!」 「ゆっぎゅちぢね!」 母れいむは、怒声を上げるも、直接反撃はしなかった。もうこの状況ならば誰も非難はしないだろうに。 「おがあざん、ばりさだちのゆっぐりのだめにじね!」 「ばりじゃだちは、ゆっぐりじぢゃいよ!」 その言葉を聞いて、もう母れいむは何も言わなくなった。自分は、一生懸命この子たちをゆっくりさせてきたつもりだが、もうふらんたちに捕まってしまったこの状況では、自分の力でこの子たちをゆっくりさせることは不可能。ならば――。 なんの抵抗もしないとは言っても、成体サイズの母れいむには、赤まりさはほとんどダメージは与えられない。子まりさが必死に何度も体当たりし、さらには親ふらんにやられた傷口に噛み付いてそれを広げたりして、ようやく母れいむを死に追いやることができた。 まりさたちは、泣いていた。ゆっくりを全てに優先させると言っても、やはり、ひどい仕打ちをしたでもなく、精一杯に優しくしてくれた親を殺すことなど、望んでやったことではなかった。 「……ゆ゛っぐり……じでね、おぢびぢゃ……ん」 母れいむの最後の言葉が、まりさたちの心に突き刺さっていた。 「まりさ……ゆっぐり、じようね、ごれから」 「……ゆっぎゅちずるよ」 目的を達成しつつも、まったくゆっくりしていないまりさたち。それでも、これで、これからはゆっくりできる。あの赤まりさのように、ふらんに守られてゆっくりできる。 振り返った。そこには、自分たちを仲間に迎え入れてくれるふらん一家がいるものだと思っていた。 「……うー」 しかし、なんだかふらんたちはおかしな様子だった。はじめて見る表情。まりさたちの家族をゆっくりさせないでしていた残虐な笑顔でも、まりさたちの家族を喰らってニコニコしている笑顔でもなかった。 それは……ある種の恐れであった。捕食種でも最強の一角であるふらんたちが、たった二匹の、子まりさと赤まりさに対して向けるような表情ではないが、ふらんたちは、まりさたちに攻撃された母れいむがもうこれ以上やったら本当に死んでしまう、というほどに傷付いても、なおまりさたちが攻撃を止めぬのを見てから、ずっとこんな表情でまりさたちを見ていた。 「ゆ、ゆっくり……なかまに……」 「ゆっきゅち、にゃかまに……」 まりさたちのその声には答えず、しばし沈黙。 「うー、なんでおかあさんころしたの」 やがて、その沈黙が破られた。まりさたちにとっては信じられないような言葉で。 「ゆ……ゆ……ゆ……」 さすがに、すぐに答えることができない。 「ふ……ふら゛ん゛がや゛れ゛っでいっだんでじょおおおおおおおおおおお!」 「に゛ゃにいっぢぇるの゛! はやぐ、はやぐまりじゃだぢをにゃがまにじでね!」 「……うー、おかあさんをころすようなやつはなかまにできない」 「うー、そうだね」 「うー、ふらんもそうおもう」 「ゆゆぅ、きょのまりしゃたち、きょわいよぉぉぉ!」 ふらんにはあっさり拒否され、赤まりさには泣かれる始末である。 親ふらんが、怖がる赤まりさを抱き上げて後ろに下がっていった。 「だがら゛、ぞれはぶら゛んだぢが、やれ゛っでいっだんだよ!」 「ぞうじたら、にゃがまにじでぐれるっで!」 まりさたちの言うことは全くその通りである。 「うー、ほんとにやるとはおもわなかった」 しかし、一蹴された。 「うー、ふつうおもわない」 「うー、あいつらがおかしい」 「うー、ひどいやつら」 子ふらんたちは、親ふらんを見た。親ふらんは、頷いた。好きにしろ、という意味だ。 「うー」 子ふらんたちが集まってひーそひーそと内緒話を始める。しかし、出る結論など最初から決まっているのだ。内緒話は、三秒で終わった。 「うー、おかあさんをころしたひどいやつらは、ゆっくりしね」 「うー、ゆっくりしね」 「うー、こんなやつら、ゆっくりしないでさっさところそう」 「うー、そうしよう、ゆっくりしないでさっさとしね」 それは、親殺しへの裁き。 追い詰められた弱者が、その弱さゆえに犯してしまった罪への、強者による裁き。 その強さゆえに、自分たちはそんなことはしない、という確信の元に振り下ろされる倫理の刃。 「ゆ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「ゆ゛ぴゃあ゛あ゛あ゛あ゛」 泣き叫ぶこと以外許されぬまりさたちは、その唯一許されたことを、殺されるまでやり続けるしかなかった。 ふらんたちの手にかかる寸前に見えたのは、親ふらんに寝かし付けられて、ゆっくりとした寝顔でゆぴぃーと眠っている赤まりさ。 そして、死ぬ寸前に上げた声は、 「お゛があざん、おどうざん、だずげでええええ!」 「おぎゃあじゃん、おぢょうじゃん、だじゅげぢぇええええ!」 「ゆっへっへ、ゆっくりさせられたくなかったら、あまあまをよこすのぜ!」 「よこすのじぇ!」 強盗まりさの親子は、その日も獲物を見つけて仕事に励んでいた。 「ゆぴ?」 「おちびでもよーしゃしないのぜ!」 「しないのじぇ!」 「あまあまほちいの?」 「ほしいのぜ、まりささまはおなかがぺーこぺーこなのぜ」 「ぺーきょぺーきょなのじぇ」 「しょれなら、まりしゃをおうちにつれていっちぇ!」 「ゆゆ? おうち、このちかくなのぜ?」 「ちかくなのじぇ?」 「うん、まりしゃあんよがいちゃくておうちにかえれにゃくてこまっちぇちゃの、おうちにつれていってくれちゃら、おれーにあまあまをあげりゅよ!」 「ゆっゆっ、そんなのおやすいごようなのぜ。……おちびのおうちにはあまあまはどのぐらいあるのぜ?」 「あるのじぇ?」 「たーくしゃん、だよ。おちょーしゃんは、きょれでふゆさんもだいじょーぶ、っていってちゃよ」 「それはすごいのぜ。それじゃ、おうちにいくのぜ。おれいははずんでくれなのぜ」 「はずんでくれなのじぇ」 「うん! まりしゃのおうちで、ゆっきゅちしていっちぇね!」 もちろん、強盗まりさはおうちに着いたらこのおちびのまりさも両親も殺して、おうちと食べ物を全ていただこうと思っている。これで、今年の冬は優雅に越せる。 「ゆっへっへ」 強盗まりさは、素晴らしい未来に今からゆっくり過ごす冬が楽しみであった。 がさがさっ―― そばの繁みが音を立てたのはその時だった。 終わり ※作者はふらんが大好き。 このSSに感想をつける