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ストーリー参考:X-FILES シーズン1「三角フラスコ」 X-FILE課が設立された後、あの長門が俺たちを殺そうとしたり、 喜緑さんが俺たちを救ってくれたり、『機関』のスポンサーが アメリカ政府になったことを鶴屋さんに告げられたりと、 俺の周りではSOS団時代と違った新しい歯車が回っている事を 常に気にせずにはいられなかった。ただ、ハルヒとそのことに ついて話し合ったことはなかった。お互い、『何を信じればいいのか』 ということが胸につっかえていたのだろうと思う。 そしてついに回っていた歯車は急速にスピードを上げ、俺たちの 前に危機として襲い掛かってきたのだった・・・ 一台の車がパトカー2台とカーチェイスを繰り広げている。車は暴走したかの ごとくスピードを上げ倉庫が立ち並ぶ場所へと逃げ込んだ。 『応援を送ります。現在位置を報告してください。』 警察無線がけたたましく鳴る。 「現在エイプリル通りから造船所のほうを西へ向かって走行中。」 『了解。応援を送ります。』 追いかけられている車はついに袋小路に入り込んだ。 ”警察だ!車を止めろ!” 車は荷物にぶつかりスリップして止まった。止まった車から1人の男が 運転席から逃げ出し、近くの柵を乗り越えて逃亡しようとした。 しかし、すぐに駆けつけた警官に取り押さえられ柵から引き離された。 「動くな!地面に付け!」 警官が怒鳴る。しかし男は必死に抵抗を続ける。男は油断した警官から 警棒を取り上げると次々と警官を倒していった。そのとき応援に駆けつけた 若手警官が電気ショックガンを男に発射した。しかし、男は何の変化も 受けなかった。男はショックガンの電極を抜くと一目散に桟橋へ駆け込んで いった。 「止まらないと撃つぞ!」 警官が威嚇する。しかし男は止まることなく桟橋の端に向かって走っていった。 ”パンパン”警官が銃を男に発射した。しかし男は止まることなく走り続け、 ついに海へ飛び込んでいった。 「確かに命中したはずなのに・・・どこへ行ったんだ・・・出血がひどいはずなのに」 警官はまるで信じられないという顔で海を見つめた。桟橋の端に着いた警官が 見たものは赤い血ではなく、緑色の液体だった・・・ あたしは家でテレビを見ながらソファーに横になっていた。その時電話が鳴り、 受話器をとって耳に当てて、 『8チャンネルを見ろ。』 この一言だけ言って電話は切れた。 「ったく。なんなのよもう・・・」 そういいつつTVのチャンネルを8チャンネルにした。そのチャンネルでは 夕方、車の追跡激が行われたという現場からのニュースを流していた。 あたしは急いでビデオに録画を始めた・・・ 次の日あたしはオフィスで録画しておいたニュースを繰り返し見続けた。 「ハルヒ、さっきから何十回も見てるぞ。一体何を探しているんだ?」 キョンがあきれたような口調であたしに言った。 「あたしもわからないわ。」 そう答えるとあたしは怪しいと思われる人物が写っている画像をプリントした。 「彼・・・ディープスロートがテレビを見ろって言ったのか?」 キョンが言ったディープスロートというのは以前から私に情報をもたらして くれている初老の男性のことだ。最初にあったのはエレンズ空軍基地事件の時だった。 「そうよ。」 「警察はなぜその男を追いかけてたんだ?」 「ニュースではスピード違反としか伝えていないわ。」 「スピード違反にしては随分大げさな報道だな。」 「絶対になにかあるわ。」 そう言いつつ今度は1台の車が写った画像をプリントした。 「ニセの情報なんじゃないか?」 「どうして?」 「彼は前にも嘘をおまえに伝えたろ。」 そう、彼は以前宇宙人が捕獲されたという事件があったとき、 あたしたちの身を案じて一部嘘の情報を教えたことがあった。 「いや違うわ。彼は何かを知らせたかったのよ。きっとなにかあるに 違いないわ。だからあたしに電話してきたのよ。」 「だとしたら一体何を?」 「それをこれから探すのよ。」 あたしたちは現場へと向かった。そこで事件を担当している警官に 説明を求めた。 「昨夜は3つの捜査機関が動員されてたんだ。」 「たかがスピード違反なのに?」 あたしはオフィスでプリントした写真を見せながら、 「この私服の男だけど、署の人間なの?」 「いや、ちがうな。知らない男だ。昨夜は人がうじゃうじゃいたからな。」 「容疑者は逃げた形跡もなく遺体も出ないの?」 「見ての通り捜索中だ。ダイバーも動員してるしそのうち見つかるだろう。」 「でも、もう18時間も経ってるわ。おかしいんじゃない?」 「いや、海底の探索には時間がかかる。それよりも、FBIがなぜこの事件に?」 「容疑者の男の顔が手配中の逃亡犯に似て・・・」 「ほう、それは不思議だ。人相は発表していないのに。」 「差し支えなければ車を見たいんだけど。」 「署の駐車場にある。」 俺たちは担当している警察署に向かった。 「所有者はゲイザスバーグのレンタカー会社だ。店は盗まれたものだと 言ってるが。これじゃ車の線を洗うのは無駄なんじゃないか。」 俺はハルヒに言った。 「きっと何かあるはずよ。」 ハルヒはオフィスでプリントした車の写真を見ながら車の周りを探ってた。 「この写真じゃナンバーも見えないわね・・・」 ハルヒが車の正面に立ったとき、 「ちょっとキョン、見てみて。」 「なんだ。」 「ほら、写真の車にはガラスにシールが貼ってあるわ。」 「でもこの車には貼ってないな・・・」 「車が違うってことよ。」 俺たちは一旦オフィスに戻り改めてビデオを検証してみることにした。 「この写ってるシールは『使者の杖』と呼ばれるもので医学のシンボルらしい。」 「ってことは車の持ち主は医者ね。画質を補正してみたんだけど、ナンバーは ”3AYF”ね。」 「前半部分はどうなんだ?」 「隠れてて見えないの。だからそれしか分からないわ。」 そういうとハルヒは電話を取り、 「ダニー、ハルヒよ。車の割り出しをして欲しいの。ナンバーは 一部しか分からないんだけど、多分持ち主は医者よ。よろしく頼むわ。」 電話の先でダニーが調べている間私はキョンに、 「偽装工作のために車をすりかえられたのよ。」 と言った。 「何のためにだ?」 「持ち主に何か秘密があるに違いないわ。」 俺たちは判明した車の持ち主がいると思われるメリーランド州の ゲイザスバーグにあるエムゲン社を訪れた。 そこでは1人の男が白衣を着て研究をしていた。 「ハルヒ、とりあえず尋問は俺がやるから、部屋を注意深く見ていてくれ。」 「わかったわ。」 そうハルヒとやり取りした後、俺は男に声をかけた。 「ベルービ博士?」 「そうだが。」 「FBIです。お話が。」 「悪いが今忙しいんだ。」 「実は昨日起きた事件に博士の車が使われたもので。」 「私の?」 「銀色のシエラをお持ちですよね?」 「何に使われた?」 「犯罪です。ご存じない?無くなった事も?」 「初耳だ。」 「あの車は普段家政婦が使っているから・・・」 そのとき、ハルヒが檻に入った実験用のサルに触ろうとした。その途端 サルが興奮し始めた 「危ない!興奮させないでもらいたい。」 「ごめんなさい。可愛かったもので・・・」 「これは実験動物なんだ。」 そう男が言った後俺は、 「何の実験を?」 「それは尋問かね?」 「いいえ。」 「だったらもう帰ってくれ。仕事が山ほど残っているんだ。」 「どうも。」 そういうと俺とハルヒは黙って研究室を出た。 「ハルヒ、噛まれなかったか?」 「大丈夫。でもちょっと危なかったわね。もうすぐ17時ね。博士の家に 行って話を聞きましょう。」 「いや、断る。」 「どういう意味?」 「こんな無意味な捜査に付き合いきれないってことだ。謎めいた電話に 振り回されて謎々を解くのはもうたくさんだ。」 「ヒントは出てるわ。」 「あれがヒントか?そもそもあのディープスロートって何者なんだ? 本名は?」 「彼は機密を知る立場にいるだから用心深いのよ。」 「ただのゲームかもしれないじゃないか。駆け引きを楽しんでいるん じゃないのか。」 「じゃあ、彼は私を試しているとでもいいたいわけ?」 「いや、オモチャにされてるんだよ。」 結局収穫の無いまま夜になり、あたしは家に帰ってきた。アパートの 入口に入ろうとしたとき、 「少し帰りが早すぎやしないか。」 その声はディープスロートだった。 「遅くなると母親が心配するのよ。」 ディープスロートは近づいてきて、 「失望したよ。熱意が薄れたようだな。」 「なぜよ?」 「真実を追い求め夜を徹して捜査しているものと思っていたのに。」 「あんな情報じゃ少なすぎるわ。」 「今提供できるのはあれだけだ。」 「ニュースが?」 「どこまでわかったんだ?」 「何も分かってないわよ。」 「まったく・・・君に見えていないだけだ。」 「まって、あたしは今まであなたの条件に従い何の注文も出さなかった。 でも、いい加減勿体ぶるのはやめてちょうだい。」 「私に頼りすぎては困る。」 「なら言うけど、あたしのほうこそ謎々ゲームはもうたくさんよ。 いつまでもあなたの言う通りに動くと思ったら大間違いよ。」 「涼宮捜査官。私を信じろ。あと一歩で君は真実に触れることができる。」 「後一歩で・・・何の真実よ。」 あたしのその言葉を聞くとディープスロートは夜の闇へと消えていった。 エムゲン社の研究室にて夜を徹してベルービ博士が研究を続けていた。 博士が顕微鏡をのぞいていると研究室のドアが開いた。 「誰だ?」 返事が無い。 「返事をしてくれ。」 「残業かしら。」 若い女性の声が聞こえた。 「何しに来たんだ?」 女性は博士に近づいた後、 「彼は生きてるんでしょ?連絡はあったのかしら。」 「頼む。今すぐ帰ってくれ。」 檻のなかにいるサルたちが興奮し始める。 「誰か知らんがFBIならもう質問に答えたろ。」 「なんと答えたのかしら?」 「私は何も知らん。何度聞いても同じだ。」 「セケア博士はどこ?」 「何の話かわからんな。」 女性は黙ってサルを見つめる。 「頼む。重要な仕事の最中なんだ。邪魔せんでくれ。」 「あなたの仕事は・・・もう終わりよ。」 そういうと女性は博士の首につかみかかった。とても女性とは思えない 力で締め付けていた。 その光景をサルたちは興奮しながら見ていたのだった・・・ 次の日、エムゲン社の研究室にてベルービ博士が死亡したとの連絡を 受けた。あたしとキョンは急いでエムゲン社の研究室向かった。 研究室内はめちゃめちゃに荒らされており、博士は首をつった状態で 発見されたらしい。 「現場検証の責任者は郡の保安官になってるな。中間報告を見る限り では自殺と記述されてるな。」 「自殺ですって?」 「自分で室内を荒らしたうえで死んだらしいと。」 「方法はなんて?」 「この報告書によると・・・丈夫なガーゼで首を縛り、その片端を ガス栓に結んで飛び降りたとあるな。」 「目撃者はいるの?」 「誰もいないらしい。」 「昨日あった感じでは綺麗好きでこんなことをするような男には 見えなかったけどね。」 「死に方も問題だな。」 「不自然よ。自殺にしては少し念入りすぎてるわ。確実に死ぬために 首吊りと飛び降りをいっぺんにやるなんて聞いたことが無いわ。」 「ベルービ博士の経歴は・・・と。テレンス・ベルービ。74年に ハーバードを卒業。専門は”ゲノム”か。知ってるか?」 「遺伝子の解析でしょ。科学史上最も野心的な研究のひとつよ。」 「さすがだな、ハルヒ。」 「キョンとは頭の出来が違うもの。」 「へいへい。でも、それがどうかしたか?」 「ゲノムの研究をしている人は大勢いるけど、銀色のシエラを所有し 首にガーゼを巻いてバンジージャンプしたのは彼一人よ。」 「でも、それだけじゃ一昨日の事件とは繋がらないな。」 あたしは調整装置の中にあった三角フラスコを取り出して底を 見てみた。”純度調整”と書いてある。 「見る視点が違っていたのかもしれないわ。問題はそこね。きっと それは目に見えない何かで結ばれているんだと思うわ。ところでこれ なんだと思う?」 あたしは取り出した三角フラスコをキョンに見せた。 「なんだろうな・・・液体が入っているが・・・研究材料の1つじゃないか?」 「この三角フラスコの中身ちょっと興味があるわね・・・私は知り合いがいる 大学に行って解析してもらうわ。キョンはその間にベルービ博士の自宅を 捜索してちょうだい。」 「わかった。でもハルヒ、その液体がサルの尿なら捜査は終わりだぞ。」 俺はハルヒに言われたとおりベルービ博士の自宅へ向かった。家に着いた もののベルを鳴らしても誰も出てこない。そこで家の横を観察してみたところ 1つだけ窓が開いてる箇所があった。俺はそこから侵入し家の中を捜索し始めた。 何か出てくれないとハルヒはまた癇癪起こすな・・・と心配しつつ・・・ あたしは今ジョージタウン大学の微生物部にいる。さっきの三角フラスコの 中身を知り合いの女性研究者に調べてもらっているところだ。 「細菌の培養液だと思うけどどこでこれを?」 「ある事件の現場よ。」 「最近の事件は随分科学的なのね。」 「何か出てくれるといいけど・・・まあ、あまり期待してないわ。」 「まって、この液体何でもないどころかただものじゃないわ・・・見て。」 そういうと彼女はモニターを見るように促した。 「これは何?」 「サイズは細菌だけど全然違うわ。こんなの見たの初めてよ。」 「つまり?」 「細菌なら普通は左右対称なんだけど、これは・・・なんていうか妙だわ。」 「正体が分かるかしら?」 「そうね、凍結破断してみれば解るかも。凍結させて薄く切って断面構造を 調べるの。多少時間がかかるけど・・・待てる?」 「ええ、急がないわ。お願い。」 俺がベルービ博士の自宅を捜索してからだいぶ時間が経った。依然として 有力な物証などは得られていない。外も暗くなり時計を見るともう19時を まわっているところだ。やれやれと思いつつ、博士の机の椅子に座り卓上 スタンドの明かりをつけた。それから机の引き出しを探ってみると、なにやら 通話記録のようなものが出てきた。よくみるとほとんど同じ番号にかけている。 俺は早速FBIに電話した。 「ダニーか、すまない今度は電話番号を調べて欲しい。555-2804市外局番301だ。 持ち主を調べてくれ。ここの番号は555-7571だ。よろしく頼む。」 俺は電話を終えると通話記録を元の場所に戻した。更に別の引き出しを調べて みるとどこかの鍵の束が見つかった。俺はこの鍵束をズボンのポケットにしまった。 その時電話が鳴った。 「早いな。」 「テリー君なのか?」 FBIのダニーではなく別な男からの電話だった。俺は調子を合わせて、 「ああ、誰かな?」 「撃たれてるんだ。3日間も水中にいたんだ。」 「今どこにいるんだ?」 「今公衆電話だ。」 「すぐ迎えに行く。場所は?」 「テリー・・・」 それ以上喋らない。どうも様子がおかしい。 「もしもし」 すると別の男の声で、 「もしもし、この人凄いケガをしてるよ。手当が必要だ。」 「場所はどこだ?」 「俺、救急車呼ぶよ。」 「待ってくれ!」 電話は切られてしまった。と、その直後また電話がなった。 「切らないでくれ。」 「持ち主がわかったぞ。」 「ダニー、君か。」 「住所を。」 「まってくれ、今書きとめる。」 俺は紙とペンを取るため椅子を回し窓のほうに向けた。すると外に 青色のバンが止まっているのが見えた。なんとなく怪しい・・・そう 思っていると、 「キョン」 「ああ、聞いてるよ。続けてくれ。」 「この持ち主はゼウス倉庫会社だ。住所はパンドラ通り1616。」 「助かったよ。ありがとう。」 電話が終わると既にバンは消えていた・・・ 暗闇の中を救急車が走る。さっきキョンに電話した男が搬送されている途中だった。 「患者は40代の白人男性。心拍も血圧も低下。」 救急隊員が現状を無線で報告する。 「それから右上半身の傷から緑色の液体が出ている。」 『緑色だと?肺喚起の反応は?』 「いやダメだ。静脈が浮き出て気息音が激しくなってる。皮膚も土色に。」 『緊張性気胸だ。胸膣の圧力を減少させろ。』 「注射器で減圧する。」 そういうと救急隊員は針を男に突き刺した。すると注射器から ガスが噴出し救急隊員たちが苦しみだした。救急車は蛇行運転になり やがて止まった。 『どうしたんだ?救急隊応答しろ。』 救急隊員たちが倒れるのを見届けると男は注射器を抜いた。 『おい救急隊、何があったんだ!応答しろ!』 男は救急車の後部ドアを開けると夜の闇に逃げていった・・・ あたしは大学から携帯電話でキョンに電話をかけた。 『キョンだ。』 「あたしよ。今どこ?」 『手がかりがあると思われる場所に向かってるところだ。』 「手がかりがあったのね。」 『それと、彼は生きていたよ。』 「彼って?」 『逃亡者さ。博士の家に電話があった。』 「どこからかけてきたの?』 『わからない。ハルヒのほうはどうだ。』 「ジョージタウン大学にいるわ。変なものが見つかったわ。」 『ひょっとして例の液体からか?』 「ええ、緑色の物体よ。」 『どんなものなんだ?』 「最近の一種で中にウイルスが生息しているの。どうやら博士は これを培養していたみたい。その細菌には葉緑素のようなものも。 こんな細菌、研究室の人も初めて見るそうよ。」 『博士は何のために培養していたんだろうな?』 「普通ウイルスを増殖させるのは生物に注入するためだわ。これは 遺伝子治療と言う実験段階の技術よ。」 『たぶんサルを使って実験してたんだな。他には?』 「今、細胞培養とDNA分析をしてもらってるわ。とにかくただ事では なさそうよ。こんな細菌は数百万年前にさかのぼっても───地上に 存在した形跡が無いらしいの。」 そのハルヒの言葉と同時に俺はゼウス倉庫会社についた。 「ちょっとキョン、聞いてるの?」 『ああ、引き続き検査を続けていてくれ。』 「わかったわ。そっちも何かあったらすぐ連絡をちょうだい。」 『わかった。じゃあ切るぞ。』 俺はゼウス倉庫会社の倉庫に進入した。鍵束から適当な番号を選び その部屋に入ってみた。そこで見たものは・・・驚くべき光景だった。 人間が水槽の中で実験のようなことをされているのだ! 部屋の中を一通りまわってみると、1つの水槽だけ空っぽのものが あった。 ───ここでは一体何が行われているんだ・・・そしてこの空っぽの 水槽の中の被験者はもしかして・・・ あたしは疲れのためか大学の休憩所にあるソファーで寝ていた。 そこに知り合いの研究者がやってきて私を起こした。 「ごめんなさい、つい居眠りを。」 「涼宮捜査官、見せたいものがあるの。」 「なにかしら。」 「これはあなたが持ち込んだ細菌のDNA塩基配列よ。」 「いわゆる遺伝子ってヤツね。」 そういうと遺伝子構造を表した書類を見せられた。 「塩基対と呼ばれるものでヌクレオチドでできているの。DNAには 4種類のヌクレオチドがあるの。地球上のあらゆる生物はこの4つの 組み合わせによって作られているの。今見ているのはあの細菌の 遺伝子の連鎖よ。普通遺伝子の連鎖には切れ目がないけど、でも この細菌にはそれがあるの。」 「どうしてなの?」 「理由は解らないわ。でも私なら今すぐに政府機関に連絡するわ。」 「何を発見したの?」 「第5・第6のヌクレオチドでできた塩基対よ。新しいDNAよ。あの 細菌は自然界に存在し得ないものなの。つまりあの細菌は・・・ 地球外生命体よ。」 「なんですって・・・」 俺はある程度調べを終えるとすぐに倉庫から出た。そして車に 向かって道を歩いていると・・・さっきの青いバンが表れ中から 男が2人出てきた。俺はとっさに反対方向へ歩き出した。ある程度 歩いたところで前方からも1人走ってくるのが見えた。やばい! 俺はすぐ近くの木で出来た柵を乗り越え一目散に走って逃げた。 ある程度走ったところで横道に隠れ、銃を取り出し銃を構えて 今走ってきた道を見た。しかし追いかけてきた様子もなく、俺は そのまま夜の暗闇の中へ走って逃げた・・・ 家に戻ると電話が鳴っていたので急いで取った。 「もしもし」 『キョン、なにやってるのよ!もう朝よ、一晩中電話してたのよ!』 「すまない。まずいことが起きてしばらく隠れてたんだ。」 『キョン、例の細菌だけど自然界には存在しないらしいわ。 地球外生命体の可能性があるって。」 「待ってくれハルヒ。」 『なによ?』 「俺のほうも今すぐお前に見せたいものがある。」 あたしとキョンは一緒にゼウス倉庫会社の倉庫に来た。 「ちょっと待ってくれハルヒ。」 「なによ。」 「なんというか・・・お前に謝らなければならん。俺が間違っていた。」 「当たり前じゃない。でも、気にしないで。」 「でも俺は・・・お前の足を引っ張るようなことばかりして・・・これからは改めるよ。」 「ふふん。キョンもだんだんわかってきたじゃない。」 「おれは科学を絶対視するあまり解明されていることしか信じようと しなかった。でも昨夜見たものは・・・俺の理解をはるかに超えていた。」 「じゃあその神の領域をも超えているようなものを見せてもらいましょうか。」 俺とハルヒは、俺が昨夜入った部屋の鍵を開け、電気をつけた。しかし そこには何もなかった・・・ 「水槽が、人間を入れた水槽が5つあったんだ。コンピュータ管理も されてて。彼らは水中で生きていたんだ!」 「どこにいったのかしら?」 その時ディープスロートがやってきた。 「神のみぞ知る・・・だ。既に処分されているだろう。」 「誰が処分したの?」 「わからない。」 「嘘よ。」 「私の能力にも限界というものがある。情報機関の内部には”影の政府”が 存在しその中の一部が権力の中枢を握って秘密活動を行っているのだ。」 「昨夜3人の男に追跡された。」 「ああ、それは単なる脅しにしか過ぎない。相手はプロだ。殺しにも 慣れている。」 「ベルービ博士も彼らに殺されたの?」 「多分な。」 「なぜよ。」 「あれだけ調査してもまだ分からんのか。」 「博士は地球外ウイルスを培養して人体実験をしていたんじゃないのか?」 「そうとも。研究は今に始まったことではない。細菌は1947年から存在していた。」 「ロズウェルね。」 「ロズウェル事件は氷山の一角にすぎない。博士は実験に成功し、口封じの ために殺された。彼はこの部屋で人体に対する初のDNA移植を行っていたのだ。 6人の末期患者が自ら進んで申し出てきた。その1人セケア博士はベルービの 友人だった。遺伝子移植治療の成果はすさまじく、DNA移植を受けた結果 6人の患者の容体はみるみる快方に向かっていった。セケア博士も正常な 肉体を取り戻し、おまけに超人的な体力と水中でも呼吸できる力を身につけた。」 「だから3日間も水の中で隠れ通すことが出来たのね。」 「でも、何で逃げるんだ?」 「元々セケアは生きていてはならん男だ。この実験は政府が極秘に進める 研究の一環だった。実験後は彼らは用済みだ。生きていては秘密が漏れる 恐れがある。事故で救急車に運ばれでもしたら?セケアの血液成分は異質で かなりの毒性もある。それをマスコミがかぎつければ・・・」 「だから抹殺命令が出たのか。」 「そうだ。でもセケアはベルービからそれを聞いてしまった。」 「1つどうしても分からないことがあるわ。なぜ最初から教えないで今頃 詳しい情報を?」 「証拠隠滅の動きが早まったからだ。ベルービも殺され、ここにいた人間も 抹殺された。証拠がなければ君らも立証は出来ない。急いで証拠を集めろ。 今ならまだ間に合う。セケアを探して保護するんだ。この件で君らと話すのは これきりだ。」 そういうとディープスロートは部屋から出て行った。 あたしとキョンはしばらく考えた後倉庫から出た。 「あたしは研究室へ戻って分析結果を取ってくるわ。」 「俺はセケアを追う。」 「どこへ?」 「さあな。感が頼りだ。」 あたしがジョージタウン大学に着くと依頼していた知り合いは研究室に いなかった。しょうがないので休憩室に行ってみた。 「すいません、カーペンター博士はどこに?」 そういうと研究員の一人が、 「カーペンター博士の家族全員が交通事故でお亡くなりに・・・博士自身も・・・」 なんてことなの・・・証拠がどんどん消されていく・・・ 俺は再度ベルービ宅へ行くことにした。今回は面倒なので正面玄関の鍵を FBI特製のピッキングセットを使って開けて入った。ってか最初もこうすれば よかったな俺。中に入ると上の階から物音が聞こえた。どうやら天井裏に 誰かがいるようだ。俺は天井裏へ行くと、 「セケア博士?」 呼びかけてみたが反応が無い。天井裏を少しずつ探っていると、いきなり 後ろから男に襲われた。 「待て!」 男は聞き入れなかった。俺を殴ると胸倉をつかんだ。 「助け来たんだ。」 そういうとセケア博士とおもわれる男は胸倉をつかんだまま静止した。 と、その時”パン”と言う銃声が聞こえセケア博士が倒れた。正面を 見るとガスマスクをした男が銃を握っている。セケア博士の傷口から 毒性のあるガスが流れ出した。俺は目を開けられなくなりよろめき始め そして気絶した。 ガスマスクの男がセケア博士に止めを刺しているとき1人の若い女性が 天井裏に上がってきた。 「あんたはいいな、マスクがいらないんだからな。」 「まあね。それよりきちんと仕事をしておくのよ。」 「わかってるさ。それよりこいつはどうする。」 「あらあら奇遇だこと、この男は・・・このまま連れていくわ。」 キョンに連絡がつかない。あたしはキョンのアパートへ向かった。 キョン・・・どこにるの・・・嫌な思いがあたしの心に積もる。 キョンの部屋の呼び鈴を押した時、 「ここにはいない」 背後からディープスロートの声がした。 「キョンは今どこにいるの!」 「分からん、私も知りたいよ。」 「きっと何かあったに違いないわ。」 「無事だ。」 「どうしてわかるの?」 「彼を殺せば目立ちすぎるし、証拠を君にぶちまけられては困る。」 「証拠はもう無いわ。彼らに抹殺されたのよ!」 「涼宮捜査官、君にしかキョン捜査官は救えない。証拠はまだ存在する。」 「どこに?」 「警戒が厳重な場所だが君なら何とか潜り込める。」 「潜り込むって・・・場所は?」 「それは・・・フォートマリン隔離施設だ。」 「そこに何があるの?そしてどうすればいいの?」 「”源”だよ。全ての始まりだ。それを手に入れろ。そうしたら彼らと 交渉してキョン捜査官を取り戻す。」 「う・・・」 俺は薄暗い廃工場と思われる場所で目を覚ました。朦朧とする意識の 中で周りを見渡すと、自分は柱に縛られ、周りには誰もいない状態だった。 「なんだったんだあのガスは・・・気絶するほどとは・・・」 「ずいぶんと長い昼寝だったわね。お久しぶり、キョン君。」 うつむいて今までのことを思い出していたとき、はるか昔に 聞いた女性の声が聞こえ、近づいてきた。 「お、お前は・・・なぜここに!」 声の主はハルヒと出会ってすぐ、俺を殺そうとし、更に長門が 暴走して時空改変を行った際に俺にナイフを付きたてた女、朝倉涼子だった。 「あらあら、久しぶりに会ったっていうのにご挨拶なこと。」 「お前は長門によって消されたはずだ。なのに何でここにいる?」 「うふふ、知りたい?まあいいわ大サービスで色々教えてあげる。」 朝倉は教師が生徒に授業をするような態度で行ったり来たりしながら話し始めた。 「私は新しい任務のために再構成されたの。バックアップとしてではなく単独個体としてね。」 「新しい任務・・・?」 確か高校卒業の別れ際、長門もそんなことを言っていたことを思い出した。 「情報統合思念体が自立進化の道を探っているのは既に知ってるわよね。」 「ああ。」 「あなたは情報統合思念体がこの星に興味を持ったのは涼宮さんのため だけかと思っているかもしれないけど、実際にはもっと昔からアプローチ していたのよ。」 「昔から・・・?ハルヒを観察するだけじゃなかったのか?」 「あなたたちが高校時代には涼宮さんの監視が私たちの目的だったわ。 事実あなたを殺して涼宮さんの出方を見ようともしたし。」 高校時代に殺されかけた嫌な思い出が蘇る・・・ 「でも高校卒業後、涼宮さんの力がなくなると、もはやその意味はなくなった。 そこで情報統合思念体の中でも少数派だったこの星の住人と直接接触し、 共に人類を支配下において自立進化の道を探ろうとする流派が台頭して来たの。」 「俗に言われている『宇宙人』ってやつか」 「そうね。そんな感じで言われてるわね。UFOとかも。で、その流派が今は 主流派となり活動を行ってるわけ。」 「で、その任務にお前や長門が選ばれてるってわけか。」 「まだ大勢いるけどね。でも、まさかあなたに会えるとはね♪」 「俺は会いたくなかったけどな。」 「ほんと、つれないこと。長門さんだったらホイホイついていくのに。」 「そうだ!長門はなんで俺たちのことを覚えていないんだ?」 「長門さんの記憶が封印されているためよ。初期化も考えたらしいけど 今まで蓄積していた知識なども考慮すると封印したほうがいいというのが 結論だったみたい。ま、私にはどちらでもいいけど。」 「封印・・・それでか・・・」 俺は空軍基地で長門に襲われた一件を思い出した。 「喜緑さんはどうなんだ?」 「あの人は特別ね。未だに穏健派に属していて、穏健派は各派の暴走を 押さえるのが目的なの。喜緑さんはいわば監査官ってところね。」 「喜緑さんだけは昔から立場が変わってないってことか・・・」 「そうね。でもなんであなたたちを助けたのかはわからないけど。まあ、 今回はここの情報を遮断フィールドで覆ってるし、助けに来ないと 思うけどね。」 「俺を殺すつもりか?」 「まあね。それが命令だし。人間最後まで片をつけないとね♪」 お前人間じゃないだろ・・・などと思いつつとりあえず絶体絶命だと言うことは 理解できた。 「それじゃ、私はまだ用事があるから失礼するわ。おとなしくしててね♪」 そういうと朝倉は闇に消えていった。 「ハルヒ・・・今頃どうしているだろうか・・・」 俺は悲嘆にくれながら月明かりが差し込んでくる窓のほうを見た・・・ あたしはキョンを救う鍵を手に入れるべくフォートマリン隔離施設へ 向かった。ディープスロートが用意してくれた偽のIDで難なく潜り込む事が できた。あたしはエレベーターまで行くと最重要フロアまで一気に登った。 フロアに着くとあたしは”氷雪学”の研究施設を目指した。その施設は すぐわかり、その部屋に入った。部屋に入ると”ガチャン”という音と共に ドアがロックされた。奥の部屋に入るには更にIDカードでの認証が必要なようだ。 あたしはIDカードを差し込んだ。その途端スピーカーから声が聞こえた。 扉の横に警備員が待機していた。 『名前は?』 「涼宮ハルヒ。」 『所属は。』 「連邦政府。」 『パスワードを。』 パスワード?そんなの聞いてなかったわ・・・わたしが考え込んでいると、 『パスワードを言ってください。』 警備員に怪しまれ始めていた・・・その時ある言葉があたしの頭に浮かび 上がった。 「純度調整」 そう言った瞬間、ドアのロックが開いた。あたしはドアの中に入り、 「ここに署名を」 と言われ、それに従い名前を書いた後目的の部屋に入っていった。 部屋の中は冷凍保管室だった。いくつかのケースが保存されており、 その中のひとつを探し出してケースから中の容器を取り出した。 容器を開けて中身を見るとそれは・・・宇宙人の胎児だった・・・ 「これが”源”・・・」 これがあればキョンが救える。あたしは容器の中身を元に戻すと 容器をダンボールに入れ、冷凍保管室を後にした・・・ ───待っててねキョン、今助けるわ! 俺は殺される・・・死刑執行を待つ死刑囚のような気分だった。 うなだれていると奥の方から小柄な人影がこっちにやってくるのが見えた。 「長門!」 そう、それはかつての、いや、俺は今でも仲間と思っている長門有希だった。 長門は俺の前に立ち無言でいる・・・俺を殺すのは長門なのか・・・?そう考えて いると長門が突然口を開いた。 「なぜ...あなたは私を知っているの...?」 「共に活動した仲間だからだ。」 「私はあなたと活動した記憶は無い...」 「それはお前の記憶が封印されているんだ!思い出してくれ俺を!」 「封印...?私は最初からこの記憶しか持っていない...」 「ちがう!それは情報操作されているんだ!お前は、俺の、俺たちの大事な 仲間なんだ!」 「なか...ま?」 「そうだ、無口で寡黙でそれでいていつもみんなを見守っていてくれていた 存在、それが長門有希、お前なんだ!」 「みんなを...見守る...」 そういうと長門は右手で頭をかかえた。 「お前はそんな命令しか聞かない人形じゃなかった。最初は無表情だったが 徐々に人間らしい感情を持ってきた、そんな女の子だったじゃないか!」 「かん...じょう...」 「思い出せ!SOS団で活動したことを!最初にお前と行った図書館のことを!」 「SOS団...図書館...」 そういうと長門は直立不動になり目を閉じた。 「封印シーケンス無効化。自律動作開始。これより自発的行動に移る。」 「長門・・・思い出してくれたのか!?」 「キョン...あなたに会いたかった...」 長門は目を開け微笑みながら涙を流し、俺を見た。 「俺も会いたかった、長門・・・」 「私は記憶を封印されていた。でも深層心理下ではいつもあなたを想っていた。」 「長門・・・」 「私はあなたを助ける。とりあえずここを脱出する。」 そういうと長門は俺が縛られていたロープを切ってくれた。と同時に、 「あらあら、長門さん裏切るつもり?」 闇の中から朝倉が現れた。 「裏切るのではない。元の自分に戻っただけ。」 「あなたは今昔の立場では無いわ。だから裏切りよ。」 「なんとでも言うといい。でも私は彼を守る。」 「ふふふ・・・あの時の再来かしら。でも今は私はあなたのバックアップ じゃないわよ。同等の機能を持つ!!」 そういうとあたり一面が砂漠化した。 「くっ、情報操作か!」 「私から離れないで。あなたを絶対に守ってみせる。」 「出来るかしらね・・・行くわよ!」 長門と朝倉の激しい戦いが始まった。朝倉のターゲットはどうやらまずは 俺らしい。俺に向かって執拗に攻撃してくる。それを防いで反撃する長門。 「あら、なかなかやるわね。でもこれはどうかしら!」 そういうと朝倉は俺たちの周りに電撃をまとった黒い球体をいくつも 出現させていた。そして一斉に俺たちに向かってその球体が向かってきた。 長門はその瞬間体を発光させて全部の球体の攻撃を受けた。 「長門!大丈夫か!」 俺に当たるのを防ぐために攻撃をもろに受けてしまった長門は、 体がボロボロになり倒れていた。俺は長門を抱きかかえた。 「大...丈夫。遮断フィールドである程度防いだ。」 「しかしもう体がボロボロじゃないか。」 「ボロボロでも...絶対にあなたを守ってみせる。それが私の使命。意思。」 「長門・・・ありがとう・・・」 「あらあら、焼けるラブシーンだこと。涼宮さんが見たらどう思うかしらね。 でも、次の攻撃で終わり。どうせ涼宮さんも後を追うだろうからあの世で見せ付けてあげて♪」 朝倉は右手のを俺たちにかざすと俺たちの頭上、周りに膨大な炎が出現した。 「これはもう長門さんじゃ防げないわよ。覚悟を決めることね。」 そういうと炎が一斉に俺たちに向かってきた・・・万事休すか! 俺は目をつぶった。しかし次の瞬間、炎は全て消えていた。 「どういうことだ・・・」 「まさか・・・あなたが現れるなんて・・・」 朝倉は信じられないと言う感じで俺の後ろを見ていた。振り向くとそこには 喜緑さんが立っていた。喜緑さんはすぐに俺たちのところへやってきて長門の 体を治してくれた。 「遅くなりました。長門さんがこの空間の隙間から連絡をしてくれたので ここが分かりました。間に合ってよかった・・・」 「喜緑江美里ありがとう。助かった。」 「いいんですよ、長門さん。あなたはやっと本来の自分を取り戻してくれました。 私はこのときを待っていました。彼や涼宮さんのために。あなたのために。」 「喜緑さん、どうして俺たちを助けてくれるんですか?」 「長門さんと共に朝倉さんと戦わねばならないので簡潔にお話します。 私の属する穏健派は現在の情報統合思念体の主流派の行動があまりに行き過ぎて いるという考えを持ち始めました。そこで涼宮さんやあなたを助けることで 主流派の暴走を食い止めようと考えたのです。」 「だからあの時長門に襲われた俺たちを助けてくれたんですね。」 「はい。さあ、時間がありませんキョン君あなたをこの空間から脱出させます。 その後は急いでそこから遠くに逃げてください。」 「わかりました。長門また負担をかけてすまん。これが終わったらまた会おう。」 「了解した。あなたも気をつけて。」 「では行きます。」 そういうと俺は情報統制空間から脱出した。 「さあ、朝倉さんあなたの暴走を止めさせていただきます。長門さん準備は いいですか?」 「いつでもいい。」 「くっ、まさかあなたが出てくるとはね・・・さすがに2人がかりで来られては 勝てないわ。今回は逃げさせてもらう。でもこれはお土産よ!」 砂漠化した情報統制空間中で連続して大爆発が起きた。そして情報統制空間は 消えた。 俺は廃工場の外に転送されていた。一刻も早くここを離れなくては・・・そう思うと とりあえず廃工場から全力で離れていった。と、その時! 『ズドーン・・・ズドーン・・・ドカーン───』 廃工場がいきなり大爆発を起こした。 俺は爆風で少し吹き飛ばされ倒れた。が、怪我もなかったのですぐに立ち上がり、 「長門───!!喜緑さん───!!」 大声で叫ぶも燃え上がる廃工場からは何の返事もなかった・・・ 「くそっ・・・せっかくまた会えたのに・・・」 燃え上がる廃工場を見ながら俺は涙を流しつつ拳を地面に叩きつけた。 だが、長門や喜緑さんの犠牲を無駄にしてはならない。そう考えると涙を拭き 立ち上がった。 「しかし・・・一体どこへ行けばいいんだ・・・」 そのとき、月明かりに照らされた人影から声が聞こえた。 「キョン君、こっちです!早く!急いで!」 その人影は・・・未来から来た高校時代の天使、朝比奈みくるさんだった。 「朝比奈さん、なんでここに!?」 「訳は後です。規定事項が迫っています。そこに涼宮さんもいます。私に ついて来て下さい!」 「わかりました、いきましょう。」 俺と朝比奈さんは急いでその場を後にして、朝比奈さんに指定された場所に 向かった。 その時俺は気が付かなかった、近くの物陰で監視されていたことを。 監視していた女性が無線機を取り、 「スネーク、彼が逃げました。そちらに向かっています。」 『もうすぐ取引が終わる。問題ない。』 「わかりました。気をつけて。」 『そちらもすぐに撤収しろ。以上だ。』 無線機の先の男は車のハンドルを握りながら一粒の涙を流していた・・・ あたしは車でディープスロートとの待ち合わせの場所に向かった。しばらく 待っているとディープスロートを乗せた車がやってきた。 「涼宮捜査官、例のものは持ってきたかね。」 「ええ、ここにあるわ。」 「じゃあ早く私に渡すんだ。」 「いやよ、あたしが直接交渉するわ。」 「いいかね、この段取りをつけたのは私だ。私でないと相手は信用しない。」 「そうね・・・わかったわ。」 あたしは持ってきた宇宙人の胎児をディープスロートに渡した。 ディープスロートは受け取ると車を少し先に進ませた。あたしは車に戻り サイドミラーを調節してディープスロートの車が写る様にした。その時 あたしの車の横を黒いバンが横切りディープスロートの車の横で止まった。 ディープスロートは車を降り、バンから出てきた男に宇宙人の胎児を手渡した。 と同時にディープスロートは男から撃たれた!!バンの男はすぐに車に乗り込み 走り出した。あたしは車を降りると、 「キョンは!キョンを返してー!」 と叫びながらバンに走って近づいていったが逃げられてしまった。追いつけない ことを確認するとあたしは撃たれたディープスロートのところへ走っていった。 「う・・・嘘でしょ・・・なんで・・・」 撃たれて倒れていたのはディープスロートではなかった。高校時代SOS団副団長、 古泉一樹君だった・・・ 「ハルヒー!」 あたしの後ろからキョンの声が聞こえた。振り向くとキョンがこっちに走って きていた。と、その後ろをみくるちゃんが追いかけて走ってきていた。 「ハルヒ大丈夫か?」 キョンが心配そうに話しかけてきてくれた。 「ええ、大丈夫。でもなぜみくるちゃんがここに・・・」 「訳は後で話す。で、どうなったんだ?」 「キョン、これを見て・・・」 俺はハルヒがどいた先を見つめた・・・そこには銃で撃たれた古泉がいた! 「古泉!何でお前が!?」 「ふふふ、ディープスロートの正体は僕だったんですよ。」 「ディープスロートの正体が?どうやって・・・」 「『彼ら』の技術を使って『機関』が開発した特殊偽装装置を 使いました・・・ぐっ!」 「喋るな、病院へ連れて行くから待ってろ。」 「もう助かりませんよ・・・だからここで話せるだけお話します。」 「なんで・・・なんでこんなことを・・・命をかけてまで・・・」 「僕は以前言いましたよね、『SOS団に危機が迫った時1度だけ機関を 裏切ります。』と。」 「だからって・・・こんな・・・こんなことってあるかよ・・・」 俺は涙を流しながら古泉を抱きかかえた。後ろではハルヒ・朝比奈さんも 涙を流していた。 「『機関』はすでに情報統合思念体の新主流派と接触を持っています。 ありとあらゆるところに根を張り巡らしていることでしょう・・・」 「それで『機関』のスポンサーがアメリカ政府になったのか・・・」 「まあ・・・そんなとこ・・・ろ・・・です。」 抱きかかえる古泉の命が弱くなっていくのを感じる。 「高校時代は・・・楽しかった・・・ですね。」 「ああ、今でも戻りたい気分だ。最初は嫌だったけどな。」 「世界で・・・我々だけですよ、あれだけの・・・楽しみを得られたのは。」 「そうだな。そのことを世界中のやつに自慢してやりたいよな。」 「SOS団に入れて・・・本当によかった・・・です。」 「俺もお前と会えて本当によかったよ。」 古泉の命が今まさに燃え尽きようとしている・・・ 「まさか・・・僕はあの人に撃たれるとは・・・思いま・・・せん・・・でした。 いいですか、涼宮さん、キョン君。これからは誰も・・・信じ・・・ては いけ・・・ま・・・せ・・・ん。」 そういうと古泉は息を引き取った・・・ 「古泉───!」 俺は古泉の体を抱え大泣きした。 「なんで、なんで古泉君がこんな目にあわないといけないの!? キョンどうなってるの!?」 ハルヒが俺に泣きながら問いかけてきた。 「ハルヒ、お前には話していないことがある。とりあえずオフィスへ 戻ろう・・・」 そういうと俺はハルヒの車に古泉をのせハルヒ・朝比奈さんと共に FBIのオフィスに向かった・・・ FBIのX-FILE課のオフィスには俺・ハルヒ・朝比奈さんがいる。 俺は今までのことを全てハルヒに話した。そしてハルヒは落ち込みながら、 「そう・・・やっぱり有希は宇宙人だったのね・・・いつかキョンが喫茶店で 言ってた3人の話って本当だったんだ・・・」 「今まで黙っていて御免なさい、涼宮さん・・・」 朝比奈さんが申し訳なさそうに言う。 「いいのよ、事情が事情だったしね・・・でも、なんで今日古泉君が 撃たれるのを止められなかったの!?未来からならわかるんでしょ!?」 「それは・・・」 「ねえなんで!?、みくるちゃん。なんで・・・」 ハルヒは涙を流しながら朝比奈さんに詰め寄っていた。 「よせハルヒ。古泉が撃たれる事は規定事項だったんだ。これが変わって しまうと未来まで変わってしまう。だから止められなかったんだ。」 「そう・・・よね。ごめんなさい、みくるちゃん。問い詰めたりして。」 「いえ、いいんです。私も止めたかった。でも・・・」 朝比奈さんも泣き出した。 「長門は記憶を取り戻し俺を助けてくれて犠牲になった・・・古泉は 最初から命の危険をおかしてまで俺たちを助けてくれた・・・失った ものが・・・大きすぎる・・・」 「キョン君・・・」 「キョン、でも有希はまだ生きているかもしれないわ。だって宇宙人 なんでしょ。しかも喜緑さんもいたんでしょ。」 「ああ・・・そうだな。まだ希望は捨てられないな・・・いや、またきっと 会える日が来る。」 「みくるちゃんはこれからどうするの?」 「わたしは本来の時空に戻ります。今回はキョン君のサポートとして命令を受けたので・・・」 「そう・・・また会えるわよね。」 「ええ。きっと。それでは涼宮さん、キョン君気をつけて。」 そういうと朝比奈さんは部屋を出て行った。もうこの時空にはいないだろう。 「キョン、真実ってなんなんだろうね・・・」 ハルヒがか弱く俺に問いかける。 「さあな・・・今はわからん・・・でもいつかわかるさ。」 「そうね。」 「今日はもう遅い。とりあえず帰ろう。」 「私はまだもうちょっと1人でここにいるわ。先に帰ってて・・・」 「わかった。あまり考えすぎるなよ。」 「ありがとう。キョン・・・」 俺は天井を向きながら考え事をしているハルヒを残し家に戻っていった。 俺は家に戻りベットに横になって色々考えていた・・・ 長門のこと、喜緑さんのこと、朝倉のこと、古泉のこと・・・などを。 考えながら、うとうとしていると突然電話が鳴った。 「もしもし」 『キョン・・・X-FILE課が閉鎖になることになったわ・・・』 「なんだって!」 『スキナー副長官からの直々の命令よ。私たちはバラバラに 転属になるわ。』 「そんなこと・・・許されるもんか!!」 『あたしは明日もう一度命令の取り消しを求めてみるわ。』 「俺も一緒に行くぞ。」 『ありがとう、キョン。あたしは絶対に諦めないわ、真実を求めるまで!』 「ああ、そうだな。死んでいった古泉のためにもな。」 『じゃあ明日またオフィスで会いましょう。おやすみ。』 「ハルヒ、おやすみ。」 そう言って俺は電話を切った。X-FILE課が閉鎖だと!これも真実に 近づきすぎたためか?俺はやりきれない気持ちで一杯だった。 未来は変えられないのか・・・いやきっといつかこの絶望の未来を 変えてみせる。その時まで俺はハルヒと共に戦う。そう決心した・・・ 最後に俺たちや同じように閉塞した絶望に襲われている人たちに1つの メッセージを送りたい。 ───Fight the future(未来と戦え) <終章・終> 涼宮ハルヒのX-FILES あとがき 涼宮ハルヒのX-FILESを応援してくださった方、ご覧になってくださった方、 支援してくださった方、本当にどうもありがとうございました。 涼宮ハルヒのX-FILESはとりあえず全5話で完結になります。 この各5話は参考ストーリーのシーズンがバラバラですが、一応本家シーズン1を想定 したものとなっています。 最初の発端は「スカリー役のキョンが朝倉に拉致されたら面白いのでは」と言うもの だったのですが、この拉致される本家X-FILESシーズン2からは国家による陰謀色が 強くなり、モルダー役のハルヒでは少々役不足になると考え、陰謀色が薄いシーズン1 のみを想定してSSとして書かせていただきました。 なお、本家X-FILESではシーズン1~6までで1つの陰謀話になっています。 涼宮ハルヒのX-FILESにおいては私の作成能力不足のためいくつか伏線を残す結果と なってしまいました(文章においても変なところが多いですが・・・)。 ただ、これらを回収するにはシーズン2以降の話をかなり書かなければならず、 かなり長くなってしまうため不本意ながら断念しました。 本家X-FILESでは陰謀の絡まない単発ストーリーがまだいくつかあります。 機会があれば短めな外伝としてそれらをSSとして書くことも考えています。 最後になりますが、ある一曲を紹介したいと思います。 それは日本でシーズン3が放映された際のエンディングテーマでTWO-MIXの曲である 「TRUE NAVIGATION」です。 この曲はモルダーとスカリーのお互いの信頼関係がテーマの曲ですが、 ハルヒ・キョンに当てはめてもまったく遜色が無い曲だと思っています。 私はシリアス版ハルヒ・キョンのテーマだと思いながら執筆中に聞いていました。 どんな形になるかわかりませんが、長編次回作が出来ましたらまた恥ずかしながら 発表させてもらいたいと思っています。 それまでは小粒な作品などをちょくちょく書きたいな・・・と。それでは。
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ゆっくりと扉を開けて俺たちは部室に戻ってきた 中ではそれぞれがそれぞれの指定席に座り、…朝比奈さんは立っているのが指定に近い感じがするのだが いつもどおりの、古泉は微笑、長門は無表情、朝比奈さんは怯えた表情をしていた …あれ?いつもどおりじゃない人間が一人いるな、たまになら見るが、朝比奈さんは何に怯えているんだ? …あぁそうか、そうだよな 朝比奈さんは俺にキスしたんだった そりゃ、ハルヒに何されるかわかったもんじゃない ま、予想どおりといったところだろうか、ハルヒが朝比奈さんの方を向いて話し掛けた 「みくるちゃん」 それは普段のハルヒからは想像しがたい優しい声だった まるで母親が自分の子供をあやすような それでも朝比奈さんはびくっとしていたがな 「ありがとう、ね」 いったい、何がありがとうなんだ? 誰か俺に説明してくれ …あとで古泉にでも聞くか それを受けた朝比奈さんは溢れんばかりの満面の笑みで元気よく 「はい!」 とだけ言った そのあとだが、恐らく今回は大体を知っていたであろう未来人・朝比奈さんが持っていたバスタオルで体を拭いたあとハルヒは朝比奈さんの、俺は古泉の持ってきていた着替えに着替え、団活を開始した この準備の良さをみると、古泉も知ってやがったな 八つ当りとは言わないが、いつもどおり、俺は古泉とのボードゲームに連勝し、長門は本を読みふけ、朝比奈さんは給仕にいそしみ、ハルヒはネットサーフィンに興じている 対戦中、何度かハルヒと目が合ったのは心にしまっておこう やはり、いつもどおり長門が本を閉じる音で部活が終わる なんかいつもどおりの一日だったな、確かに世界は急に色を変えないよな それが変わっていたら8割方ハルヒのせいだ 部室をでたあとハルヒが手を握ってきた 俺は少し慌てたがもう3人とも知っているんだろうな、と考えそのままにした 5人で歩く帰り道、いつもは先頭にいるハルヒは一番後ろの俺の横で少しはにかみながら歩いている 代わりに先頭を行くのはハードカバーを文庫本に持ちかえ、それを読みながら歩いている長門で、その後ろで古泉と朝比奈さんが談笑しながら歩いている 幸いにも雨は止み、控えめに赤い太陽が顔を出している 横を見れば顔を朱に染めたハルヒがちゃんといる 俺はハルヒに耳打ちしていた 「そっと抜け出さないか?二人で」 ハルヒは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに100Wの笑顔に戻すと大きく頷いた 長門にはバレていただろうが、いやもしかしたら全員にバレていたかもしれない 前の3人に気付かれないよう、こっそり脇道にそれた そのまま歩いて辿り着いたのは、この春休みに思い出深い、花見と、ハルヒの告白と…長門のマンションの近くの公園 桜達は、すでに花びらを落とし、早くも来たるべき夏に向けて準備をしていた しかし、抜け出してきたのはいいが、いったい何をしたらいいんだろうな とりあえず、ラブラブしたらいいんだろうが、そんな経験がない俺には何をもってラブラブというのかわからん 「おっ!キョン君にハルにゃんじゃないかっ!!」 突如後ろから聞き慣れた元気な声が聞こえる 振りむけばやはりというか鶴屋さんだった 「手なんかつないじゃって、ラブラブだね!お姉さん少し羨ましいにょろよ?」 ハルヒは照れている 顔が真っ赤だ 恐らく、冷静に観察してる俺も真っ赤だろう 「ええ、付き合うことになったんです」 それでも俺は某3倍早いMSのように赤いであろう顔に押さえ込まれないよう、できるだけ冷静を保って言葉を出す しかし、それも無駄な努力だったようで鶴屋さんは腹を抱えて大笑いしていた 「あっはっはっは!…そんな真っ赤な顔で…ぷぷ…真面目に言われてもねぇ…はっはっは…まぁ末長くお幸せに!これは鶴にゃんからの贈り物っさ!」 鶴屋さんはそう言って何かを俺の手に握らせる 「ハルにゃんを泣かせたらあたしが承知しないよ~!」 走りさりながら手を振る鶴屋さんを見送ったあと俺は手の中のものを確認した それを見た俺は苦笑する以外に選択肢はなく、覗き込んできたハルヒは顔をさらに赤くしていた 鶴屋さんはなぜ、こんなものを持ち歩いてあるのだろうか 俺はその0.03㎜の贈り物を使う日がいつ来るか考えていた
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「で、最初は誰から接触すればいいわけ?」 ハルヒは机の上に座ったまま、俺に言う。 さて、誰からにしたものか。本来であれば、俺の世界と全く同じようにしたいところだが、このハルヒはそれを却下したし、 そもそもこいつが力を自覚している時点で、どうやってもおなじようにはならんおかげで、正直それで大丈夫なのかという 不安があるのも事実だ。 だが、ここでふと思いつく。 とにかく、3人に接触して平穏かつ良好な関係が築けると証明してやればいい。それだけなら、何も3人同時に 一緒である必要はないはずだ。その後、ハルヒに納得させた上でもう一度最初から――今度は3人同時に接触して、 SOS団を結成すればいい。 そう考えると、まず一番接触しやすい奴から選ぶべきだな。宇宙人は、あのハルヒの情報統合思念体に対する警戒心から考えて、 一番最後にすべきだろう。未来人ははっきり言って知らないことも多いことを考えると、予定外な事態に陥る恐れもある。 こうなると最初は超能力者――古泉か。機関はまだうさんくさいところも多いし、わからない点も多いが、 同じ時代の人間という点、さらに超能力はハルヒが作り出した閉鎖空間内だけという限定的なものだ。 普通に接触する限り大した弊害が発生するとも思えない。 ……1番手があのインチキスマイル野郎なのは少々引っかかるが。 「超能力者……ねえ」 ハルヒはジト目で俺を見ていた。とは言っても、何もやっていないわけではなく俺の指示通りに時間平面を構築中なんだそうだ。 全く長門並のことをやれるハルヒって言うのも妙な気分だぜ。 「で、具体的に必要なものはあるわけ?」 「閉鎖空間とその中で暴れる神人を倒せる力をそこらへんの人間にばらまけばいい」 「閉鎖空間と神人って?」 ハルヒはそう首をかしげた。そういや、ハルヒはそのことは知らないのか? 「お前さんがキレると、別の誰も入って来れない――今俺たちがいるところみたいな空間を作り出して、 そこの中ででっかい巨人を暴れさせている」 「あー、あれのこと」 思い当たる節があると、ポンと手を叩くハルヒ。 「なんだ知っているのか?」 「うん、たまに頭に血が上ったときとかストレス解消代わりに暴れさせているの。無人だから誰の気兼ねもなく暴れられるし、 結構スカッとするものよ」 「お前な……」 あっけらかんと言うハルヒに、俺はただただ呆れるばかりだ。 「俺の世界だと、お前は無自覚にそれを作っているから、誰かが止めてやらなきゃならん。そんなわけで、 その役割を与えられた超能力者がいるって訳だ」 「ふーん、あんまり関係のない人間を巻き込むのは気が進まないけど、まあ仕方ないか」 そう言ってハルヒは目を閉じて、何やらつぶやき始めた。恐らく情報操作って奴だろう。 こんな一美少女高校生にゲーム感覚に作り替えられる世界ってのもいろいろな意味で問題があると提言しておきたいね。 そんなわけでSOS団団長改め創造神ハルヒ様の作業完了後、俺たちもその時間平面――世界に入ることにする。 時間は俺とハルヒが北高に入学したときからだ。もちろん、二人とも北高に入学する設定にした上でだ。 ちなみに俺は全く別のボンクラ高校に入学する予定だったので、それをいろいろ改変して北高に入学させるのに苦労したと ハルヒに散々愚痴られたけどな。 ◇◇◇◇ 「東中出身、涼宮ハルヒ! この中に超能力者がいたら今すぐ来なさい! 以上!」 俺の背後で威勢のいい声が響く。もちろん入学式、最初の授業での自己紹介だ。 俺の自己紹介の後、ハルヒは事前の打ち合わせ通りの言葉で自らをアピールした。宇宙人と未来人は前に述べたとおり、 余り手を広げるのは得策ではないということで上げていない。ああ、ちなみに異世界人はもともと言う予定はないぞ。 なんせ、今の俺が異世界人だからな。もうここにいるってこった。 周りの人間は苦笑・あるいは戸惑いの視線を一斉にハルヒに向けるが、ほどなくして担任の岡部の空気の流れを断ち切る 咳き込みとともに、自己紹介は続行された。 俺はハルヒをちらりと見ると、厳しい視線のままじっと黒板の方を見つめていた。そういや、初めてあったときは ロングヘアーだったっけ。このハルヒは俺の世界のハルヒと違ってどんな理由でこの髪型にしたんだろうな。 しかし、俺はすぐに別の視線を感じてそちらへと振り返った。そこには―― 「……ちっ」 思わず舌打ちしたくなるような女が一人。朝倉涼子だ。二度も俺の殺害を試みた猟奇殺人鬼である。 柔らかで人当たりの良い笑みをこっちに向けてくるが、俺はできるだけ視線を合わせないように軽くうなずく程度の挨拶を 返しておき、全く別の方向に顔を背けた。 俺とハルヒの正体――実態と言った方がいいか――をこいつに知られるわけにいかない。なおかつ、こいつから命を狙われる心配 までしなきゃならん。ある意味、最大の要注意人物だ。 ◇◇◇◇ 俺とハルヒは昼休みこっそりと非常階段へ移動して、状況確認を始める。 「で、あんな感じで良かったわけ? クラス中の空気が固まっていたけど」 「本来なら、あれに宇宙人・未来人・異世界人がプラスされていたんだ。それにくらべりゃ、ショックも少ないだろうよ。 それにハルヒが超能力者に興味津々であることも十分に示せたわけだしな」 そんな話をしながら、俺は校庭や周辺の民家を見渡す。ハルヒの言うとおり、どこに情報統合思念体の手先が いるかわからんおかげで警戒しっぱなしだぜ。万一、この話を聞かれれば一瞬にして全てがパアになっちまうからな。 「安心して。監視はうまい具合にあたしがごまかしているから。で、あんたのいう古泉一樹ってのはいつ現れるのよ。 休み時間の間に学校中廻って見たけど、該当するような人物はいなかったけど」 「その前に機関の方はばっちり組織化されているんだろうな? それがいないと古泉も現れなくなる」 「それは問題ないわ。過去3年間のあたしの周辺を活動している連中に、インターフェース以外にもう一つの組織が 増えていたから。見たところ、普通の人間だから恐らくあんたの言っている機関っていう連中でしょ。 しっかし、こいつらインターフェース以上にしつこいわね。3年間まるでストーカーのようにあたしを監視続けている。 今だって遠近距離からこっちをじっと見ているし、クラス内にもエージェントらしき人間もいるわ」 なるほどな。なら状況は似通っているわけだ。となると、古泉はのちに転校してくることになるはず。いや待てよ…… 「古泉が転校してきた理由に、長門と朝比奈さん――ああ、宇宙人インターフェースと未来人がお前に接触してきたことが 理由に挙げられていたっけ。それで転校を迫られたとか」 俺はふと思いつき、 「なあ、今ならまだ俺のいうSOS団を作るのはまだ遅くないんだがやってみる気はないか? お前が文芸部室を乗っ取れば、 そこに長門有希がいるし、2年に行けばきっと朝比奈さんだって――」 「しつこいわよ。さっきも言ったとおり、あたしは全員まとめて接触なんていう危険なことはしたくないの。 それにあんたの所の世界がのほほんと進んでいるからといって、成功例として見ている訳じゃない」 むすっと否定しやがるハルヒ。全くこのハルヒも変わらず頑固者だよ。 しかし、このままでは古泉は北高に転校してくるのか? あの時の話しぶりだと予定を繰り上げてまで来たとか言っていたが。 俺はしばらく考えてみたものの、未来の事なんて予知できるわけもないので、 「とりあえずタネは蒔き終えているんだ。後は芽が育つのを待とうぜ」 「全く脳天気な考え方ばかりだわ。ま、確かにこっちも動きようがないから待つしかできないけどさ」 素直にハイと言えんのか、こいつは。まあいい。古泉に対してはしばらく様子見でいくとしよう。 俺はその他の話に移る。 「情報統合思念体の方はどうなんだ? 何か動きを見せているのかよ?」 「今のところは見ているだけね。わざわざインターフェースを同じクラスに送り込んできているけど、 目立って何かをしようとはしていないわ。連中のことだからどんなことが起点になって考えを変えるかわかったもんじゃないけど」 「クラス内ってのは朝倉のことか」 ハルヒは俺の問いかけに、ちらりと視線を外し、 「そうよ。あいつ今まで何度もあたしを襲ってきた目を離せない要注意人物なんだから。何だか知らないけど、 あたしが能力を自覚している・していない関係なく攻撃してくるみたいね。鬱陶しいったらありゃしない」 「あいつは情報統合思念体の中でも過激派に属しているらしいからな。ハルヒを突っついて、何の蛇が出てくるのかみたいんだと」 俺は朝倉の事について、あっさりと教えてしまった。このハルヒになら別に隠す理由はないからな。多くの情報を渡して 共有しておいた方が何かと動きが取りやすくなるだろうし。 その情報にハルヒは思案顔で、 「なるほどね。あいつらも一枚岩じゃないってことか。そうなると、朝倉は一部勢力の意思で動くけど、その動きに過剰反応して、 あたしのことがばれたら今度は情報統合思念体全体が……ああっ、もうややこしいわねっ! もっとわかりやすく動きなさいよ!」 俺に言われて困る。だが、ハルヒのいらだちももっともだ。これではろくに反撃もできない。 しかし、そんなときのための長門のはずである。 「俺の世界じゃ、朝倉は長門――六組の生徒だが、それのバックアップってことだった。朝倉の一方的な行動はできるだけ 奴らの内部で処理させる動きを取った方がいいと思うぞ。こっちから反撃もろくにできないしな」 「わかっているわよ。とにかく、その古泉一樹って奴が来るのを待っていればいい訳ね」 そうハルヒは言いながら教室に戻った。 俺はそれを確認すると、独自の行動を開始する。どうしても確認しておきたいことがあったからだ。 まず向かったのが、一年六組――長門有希の確認だ。さっき朝倉の対処は長門に任せればいいと言ったが、 肝心の長門がいなければ話にならない。 おれは教室の入り口から覗いてみると、ハルヒ以上に誰も寄せ付けないオーラを拡散させて、教室の一席でもくもくと 本を読みふけっている長門の姿が確認できる。 ほっ。これでさっき言ったことに問題はなくなるな。頼むぜ、長門。朝倉が襲ってきたら助けてくれよ。 後もう一人。長門は情報統合思念体なんだからいる可能性は十分にあったが、問題は朝比奈さんの方である。 この世界にも未来人はいるのだろうか? 俺は朝比奈さんのいる二年二組へ向かい、教室内を見渡す。見知らぬ下級生が覗いていることに、一瞬注目を浴びてしまうが、 その視線を強引に無視していると程なくそれは収まる。その間に、俺は朝比奈さんの姿を確認したが―― いなかった。鶴屋さんは別の女子生徒の環に入ってけたけたとあの豪快な笑いを見せているが、朝比奈さんはいない。 なぜだ? やはりハルヒの介入がなければ未来人は存在しないことになるのだろうか? だがこれで一つ決定してしまったことがある。 この世界――今の状況でSOS団の成立はなくなった。 事情を知らん人間が隣で聞いていたらこう言うかも知れない。似たような人を探して来いよ、ハルヒならすぐ見つけてくるさと。 だが、俺にとってSOS団はもう誰一人の変更も許さない。朝比奈さんでなければならないのだ。 俺は激しい脱力感に身を引きずりながら、自分の教室の席に戻る。ハルヒは人の気も知らず、仏頂面で外を眺めているだけ。 ……一ヶ月か。昨日自宅で過ごしたが、今まで通りの家族がいて、俺の部屋も全く変わらない形であったため、 別の世界に来ているという印象はなく、それなりに安心して過ごすことができた。 学校でも谷口・国木田コンビは健在だったおかげで、弁当をともにする関係は維持できる。そう言った意味で違いは そこまで大きくないのだが…… たった一つ、そしてもっとも必要なSOS団が存在しないこと――もちろん、俺が北高入学時にはまだできていなかった からなくて当然だが、あの長門の読書モード、朝比奈さんの温かいお茶、古泉とのボードゲーム……この世界にはこれらが 一つも存在していない。 それを認識したとたん、俺は寒気を伴う寂しさに襲われて思ってしまう。 ――あのSOS団の部室に帰りたい。 ◇◇◇◇ 一ヶ月の待機後、ようやく変化が訪れた。俺の記憶通りに、古泉が転校してきたのである。ただ出会いは異なっていた。 俺がSOS団ホームシック状態のダウナーな気分で自転車を駐輪場に止め、とっとと早朝強制ハイキングコースに 入ろうとしたとき、予想外の組み合わせに声をかけられた。 「おはよう」 振り返ってみれば、そこには朝倉涼子の姿があった。いつもどおり柔らかな笑みを浮かべている。 問題なのはその背後にいる人物だ。さわやかな容姿に、細身の身体、身長は俺よりもやや高く、柔らかい笑みと目、 モデルに採用すればそれなりに注目を浴びられるレベルであろう北高男子生徒。 「おはようございます」 続けて来たのは、あのニヤケスマイル顔の古泉だ。朝倉と古泉、まさかこんなコンビでファーストコンタクトになるとはな。 明らかに俺の知っている展開とは違う。そもそもこの二人には接点というものが全くなかった。 やはりこの世界は俺の時と同じように動いてはいない。欠けているものが多すぎるんだから無理もないんだが。 「ああ、おはよう。背後のは彼氏か?」 俺はできるだけ古泉と初対面であるという様子を取り繕った。正直、古泉だけならいろいろ初接触時のやり方について、 自分なりにシュミレートしていたんだが、朝倉がセットというのは全く考えていなかった。 少しでも不審な行動や言動を取ればたちまち正体を見破られかねない。 朝倉は半分困り顔で手を振り、 「いやだなぁ。あいにくまだ独り身よ。この人は古泉一樹くん。今日、わたしたちの学校に転入してきたんだって。 でも、うちの学校って駅から遠いでしょ? 道に迷っちゃったらしくて困っていたところにわたしが通りかかったのよ。 この制服で同じ学校の生徒だろうと思ってわたしに声をかけてみたんだって」 淡々とした説明だった。道に迷って偶然会ったのが朝倉。普通なら違和感を憶えることもないだろうが、 宇宙人と超能力者が偶然に出会える可能性はいかほどものもだ? 少なくとも、年末ジャンボの五等より高いって事はないだろう。 結論。朝倉の言うことを信じない方が良さそうだ。となると、何らかの目的で俺に接触しようとしているってことか。 「こちらはどなたですか?」 「ああ、さっき話した彼よ」 「ほう、この人が……」 朝倉と古泉の会話を聞くに、どうやら事前に俺の話をしていたようだな。ますます狙って二人そろって接触してきたとしか 思えん。さて、どうしたものか。 俺は一つよろしくと頭を下げると、3人で学校に向けて歩き出す。 古泉は朝倉の背後から俺の顔をのぞき込むように顔を近づけて、 「お噂は聞いています。あの涼宮ハルヒさんと大変親しいようですね。かなり気むずかしい性格のようですが、 何かコツでもあるんですか?」 「別に親しいってわけじゃねえよ。ただあいつが一方的に俺を振り回しているだけだ」 やれやれと俺の嘆息。これは実際事実だからな。この一ヶ月間、SOS団を設立したわけでもないのに、24時間態勢で あちこち引っ張り回され、おかげでホームシック気味が少しだけうんざり分に変換してくれたほどだ。 力を自覚していても、あの突拍子もない行動力は全く変わってねえ。もっともその動機は不思議な何かを探す好奇心ではなく、 不思議な何かから身を守るための警戒心であるところが大きな違いであるが。 これに朝倉は意外そうな表情を浮かべ、 「あらそうかしら? わたしが話しかけてもなーんにも答えてくれない涼宮さんが、あなたとなら気軽に話しているじゃない。 コツがあるなら本当に教えて欲しいな」 さらなる朝倉からの追求に、俺はここは一旦考える素振りを見せる。高校入学式で初めて出会って一ヶ月間程度の設定である以上 昔から知っているような態度を悟られるとまずいからな。 上り坂の角度が急になった辺りで、俺は軽く頭を振る。 「解らん」 それに朝倉は柔らかな笑いを一つ返し、 「ふーん。でも安心した。涼宮さん、いつまでもクラスで孤立したままじゃ困るもんね。 一人でも友達ができたのは良いことだわ」 そういや、以前――俺の世界の時も同じ事を言われたな。あの時は委員長になったから委員長らしいことを言っているんだろうと 思っていたが、今思えばハルヒの安定化を望んでいたのかもしれん。一応長門のバックアップってことらしいから、 情報統合思念体主流派の遠くから見守り政策に沿って動いているはずだし。 ――結局は暴走して俺を殺そうとしたが。 「友達ねぇ……」 俺は首をかしげる。 俺にとってハルヒってのは何なんだろうか。元の世界だと友達って言うよりはSOS団団長だな。 俺は雑用係としてこき使われているだけであり、またハルヒの暴走に歯止めをかけている唯一の良心と言ってもいい。 じゃあ、今いる世界のハルヒと俺は何なのだろう? 友達じゃないのは確実だ。馴れ合っているわけでもなく、 一つの目的に向かって共同歩調を進めている。協力者と言った方が適切かも知れない。 そんな俺の複雑な気分を無視して朝倉は話を続ける。 「その調子で涼宮さんをクラスに溶け込めるようにしてあげてね。せっかく一緒のクラスになったんだから、 みんな仲良くしていきたいじゃない? よろしくね。これから涼宮さんに何かを伝えるときは、 あなたから言ってもらうようにするわ」 「さしずめ、あなたは涼宮さんのスポークスマンと言ったところのようですね」 おいコラ古泉。俺の反論台詞を封じるんじゃない。お前はしばらく黙っておいてくれ。 朝倉は俺の渋い顔を見て、納得していないことを悟ったのか、両手を可愛らしく合わせて、 「お願い」 あの時と全く同じ事を言われた。まさか古泉とセットの状態で言われるとは思わなかったけどな。 俺が溜息+肩を落としていると、今度は頼んでもいないのに古泉が今度は自己紹介を始めた。 「初めまして。僕は古泉一樹と申します。今日付で北高の一年九組に転校することになりました。 これからいろいろとお会いする機会があると思いますので、どうぞよろしくお願いします。特に――涼宮さんに関しては」 ……やっぱりハルヒ絡みで近づいてきたようだな。意図をビンビンぶつけてきやがる。 俺はしばらく黙っていたが、やがて立ち止まって二人の顔を見渡し、 「何が目的だ?」 「……はて、それはどういうことでしょう?」 しらばっくれる古泉を俺は睨みつけ、 「とぼけんなよ。どう見ても、二人してハルヒに対して興味津々じゃねえか。だったらハルヒに直接接触した方がいいだろうに、 なぜか俺にそんなことを言ってきている。なら、俺に聞きたいこと、あるいは言いたいことがあるんじゃないのか?」 「あら、思ったより自意識過剰なのね」 返ってきたのは朝倉の淡々とした声。わずかながら嘲笑じみた笑みも篭もっている。 「あたしがさっき古泉くんに涼宮さんのことを話しただけなの。彼はそれに興味を持っただけ。 どうしてそんなに警戒しているのかな?」 ぎくりと俺の心臓が破裂するほどにふくれあがり、全身に冷や汗が流れ出た。まずい、俺の疑心暗鬼が作り出した妄想に 大きなミスをやらかしてしまったのか? 「なーんてね♪」 そこで朝倉がぺろっと舌を出して、びっくりカメラでしたーと言わんばかりのおどけっぷりを見せた。 この野郎、からかいやがったな。 ここで古泉が朝倉をフォローするように、 「あなたのおっしゃるとおり、僕たちはちょっとあなたに話があります。それもそうそう信じてもらえるかどうかわからないような レベルの話でしてね。唐突に出会っていきなり言うのも戸惑いを増幅させるだけなので、今日はちょっとばかり挨拶をと」 「…………」 俺はいらだちを込めたうめきを上げる。古泉らしいと言えばそうだが。 こんな話をしている間に、すでに北高の校門に到着してしまった。話ながらだとハイキングコースも短く感じるな。 ここで古泉は手を振って、 「では僕は転入手続きなどで寄るところがありますので、ここで失礼させていただきます。さっきの話の続きはまた、 そうですね。今日の放課後にでもしましょう」 そう俺たちから離れていった。 朝倉はいつもの笑みを浮かべて、 「じゃあ、わたしたちは教室に行きましょう」 そう二人で自分のクラスへと足を向けた。 ◇◇◇◇ 「ようハルヒ」 「…………」 始業ぎりぎりに来たわけではないが、とっくに席について数十分状態に自分の席で気難しい顔つきで座っているハルヒに 声をかけてみるが、まるっきり無視されてしまった。 と、ハルヒの視線が微妙に朝倉に向けられていることに気が付く。 ハルヒは朝倉が自分の席に座ったタイミングで、はあっとため息を吐くと、 「朝っぱらから朝倉と二人で登校するとは随分堂々としているわね。あんた、あいつらの危険性を本気で認識しているわけ?」 「おい、教室でその話は――」 「大丈夫よ。ごまかしているから」 気にするなと手を振るハルヒ。なら、遠慮する必要もないんだな。 「朝倉から接触されたんだよ。超能力者と一緒にな」 「あんたの言う古泉――一樹だっけ? ついに転校してきたの?」 ああ、どうやら二人で何やらたくらんでいるみたいだがな。 ハルヒはキッと俺を睨みつけると、 「何か余計なこと言わなかったでしょうね? 今のところ、奴らに動きはみえないけどさ」 「挨拶されただけだよ。もちろん、お前絡みについて散々思わせぶりなことを言っているけどな。続きは放課後だそうだ。 たぶんお前さんについてだろうよ」 「ふーん、ってことはどうやら機関ってのが本格的に動きそうってことね。あんたの狙ったとおりに」 「さて、それはどうかな」 俺はかいまつんで、自分の時との違いを説明してやる。あの時は、長門→朝比奈さんと告白されて、 むしろ古泉は俺の方から問いつめたような展開だったからな。朝倉と一緒に来るなんて想定外も良いところだ。 「本当に大丈夫なわけ? どうも信用ならないのよね、あんたの言っていることは」 何今更なことを言いだしやがる。とはいえ、ここまで違ってくると不安になるのは俺も同じだ。 ………… いいや大丈夫だ。出会いが違っても、古泉は古泉だった。あのうさんくさいスマイルも周りくどい言い回しもあいつそのもの。 ならば、俺の世界と同じように古泉との関係を築けるのは不可能ではないはず。 俺は頭を振って仕切り直すと、 「とにかく、俺ができるのはアドバイスまでだぞ。これをどう生かすのかはお前がやることだ。 このままだと放課後に古泉から自分は超能力者だとカミングアウトされることになる。ついでに朝倉からも 自分は宇宙人だと言われる可能性もな。どう動くつもりだ? 向こうが動いた以上、こっちも様子見って訳には いかないんじゃないのか?」 それに対してハルヒは得意げな笑みを浮かべて腕を組むと、 「もちろん考えているわよ。向こうの動きを待つ必要はないわ。まず古泉一樹って奴をこっち側に引き入れて、 それをコネに機関って組織を乗っ取る。見れば、結構大きな組織に成長しているみたいだからね。 うまく扱えば、あたしの隠れ身として使えるかも」 おいまさか機関を自分のものにする気か? 関係ない人間を巻き込みたくないって言っていたのはどこへいっちまったんだよ。 「関係ない人間を巻き込んでリスクを増やすのは嫌なだけ。これだけ大きな組織になれば、使いようによっては ことをうまく進められるかも知れない。昼休みにこっちから仕掛けるわ。まずは古泉ってやつの身柄を確保する」 どうやらがぜん乗り気になってきたらしい。もっとも俺の世界とは違い、どうやらこのハルヒは機関を道具として 使うつもりのようだが。 俺はイマイチ釈然としないものの、それに同意して頷くことしかできなかった。 ◇◇◇◇ 俺は昼休み弁当も食わずに非常階段のところでハルヒを待っていた。二人で行くのも微妙だから、ハルヒがとっつかまえて ここに連れてくるんだそうだ。今頃、九組へ傍若無人に乗り込み、その辺の生徒を適当につかみ上げて、 転校生はどこかと聞き出した後、恐らく顔の良いあいつのことだろうからお弁当がらみで女子に囲まれているところに ダイブするかのごとく中心部に飛び込み、そのまま有無も言わさずにここまで引っ張ってくるだろう。 一気に九組の女子全員を敵に回したのは確実だろうな。いや、相手が相手だから野良犬にでもかまれたと思って諦めるか? 東中時代を知っている奴がいれば、飽きるまでの辛抱よ、ぐらいで済ますかも知れんが。 「ヘイ、お待ち!」 一人の男子生徒の袖をがっちりキープしたハルヒがやってきた。しかも、出前でも持ってきたような言葉まで言ってやがる。 全く力を自覚していても基本的な性格はかわらんね。 「一年九組に本日やってきた即怪しすぎて第1候補にしておけない男子生徒、その名も古泉一樹くん!」 朝に自己紹介なら済んでいるからもうしなくて良いぞ、ハルヒ。ただ、古泉はそんな俺の考えを無粋だと判断したのか、 改めて俺の方に握手の手をさしのべて来て、 「古泉一樹です。どうぞよろしく」 俺は自分の名を名乗りつつ、その握手に答える。 ハルヒは俺たちの手を遮るように割り込み、両手を上げて、 「あたし、涼宮ハルヒ! 古泉くんは知らないだろうけど、現在絶賛超能力者を募集中なのよ! で、その第1候補にあなたが選ばれたってわけ」 「んで、そんなこいつの偏執的妄想の確認のため、お――あんたはここに連れてこられたって訳だ。 済まないな、昼休み中だってのに」 「いえ、特に予定はありませんでしたし、転校生のせいかクラス中からの奇異の注目を浴び続けることに少々うんざりしつつ していましたので、ちょうど良い余興かと」 淡々と古泉はいつものインチキスマイルを浮かべ続ける。 しかし、ハルヒ。いきなり超能力者と決めつけて古泉に接触するなんてちょっとまずいんじゃないか? 少なくとも俺の世界の時は、怪しい転校生と決めつけてSOS団に入れさせようとしただけなんだが。 超能力が使えるんでしょ、的な熱烈視線をハルヒから浴びせられ、古泉は困ったなと頬をぽりぽり書いている。 実際に使えるのは事実だが、ハルヒにそれを教えるわけにも行かんだろうからな。ん、ということはこの時点で、 機関はハルヒが力の自覚ができていないと認識しているのは確実か。 ハルヒはあの泣く子も逃げ出す強力熱視線を向け続けていたが、古泉のニヤケ微笑みを崩すのはすぐには無理かと判断したようで 「ふん、黙っていれば疑惑が深まるばかりよ。絶対に化けの皮をはがしてやるわ。今日からあたしたちと一緒に行動してもらう。 その中で隙を見つけてみせるから!」 めっちゃくっちゃな言い分だが、これぞハルヒと言えるだろう。 古泉は困ったポーズをとり続けていたが、 「一緒に行動するのはいいんですが、具体的にどうすればいいのでしょうか?」 「とりあえず、登下校は必ずあたしと一緒にいなさい。昼休みもここで必ず集合。お弁当もここで取るわよ。 キョン、さっきからマヌケ面で聞いているけどあんたも一緒だからね」 うおいちょっと待て。これから俺のスクールデイズはハルヒ分100%かよ。ただでさえ、俺の後ろでむすーっと しているってのに、今度は唯一ハルヒからの解放時間である登下校と弁当タイムまで没収なんて残酷にもほどがある。 ああ、さらば谷口・国木田、お前たちとの平穏な弁当時間は、唐突だがハルヒによってボッシュートされちまったよ。 あと今日放課後の古泉・朝倉との密談も後回しだな。 そんなわけで俺・ハルヒ・古泉の奇妙な関係で結ばれたグループが誕生した。 ◇◇◇◇ その日の放課後、SOS団もないため全員帰宅部である俺たちは、終業のチャイムが鳴ったとたんに 一斉に学校から飛び出していく。もちろん古泉も一緒だ。 「部活なんてやっても無駄なんていわないけど、あたしにとっては必要ないものね。ここの学校の部活は普通のばっかりだし。 もっと超常現象研究会とかあるけどさ、他人がやったのとか写真とか集めているだけで自分で実戦しようとしないのよ。 そんな研究に何の意味があるのかと問いかけたいわね。やっぱり自分でやれるようになってこそおもしろいものじゃない」 「そうですね」 ハルヒは古泉をまくし立てるように話ながら、下校の下り坂を下りていく。俺はその後ろをコバンザメのようにくっついて歩く。 当の古泉はイエスマン状態になってはいはいと頷くばかりだ。ただたまには聞き返したりもする。 「涼宮さんは全ての部活に仮入部されたと伺いましたが」 「そうよ」 「何か良い部活はなかったのでしょうか? 僕のつたない耳のみの情報網でも涼宮さんは文武両道に 大変優れた方であると聞いていますので、どこの部でも快く受け入れてもらえると思いますよ」 そう、古泉が来るまでの一ヶ月間の間、俺はつじつまあわせになるかもしれないと考え、ハルヒに全ての部活への仮入部を させていた。俺の時とできるだけ同じようにしておきたかったというのが一番の理由だ。ハルヒの奴はツマランを連発して 文句ばっかり言っていたが。 「はっきり言って全然ダメね」 「ほう、その理由とは」 「ミステリー研究部はただの推理小説マニアの集まり、UFO研究会なんて新聞記事をスクラップしたのを 見てニヤニヤしているだけよ。実際に探しに行こうとも思わないんじゃ、活動自体が無意味ね」 「なるほど」 古泉はニコリと答えるだけ。 ハルヒはその後も一方的にべらべらとしゃべり続け、古泉はうんうんとうなずくだけの下校タイムとなった。 ◇◇◇◇ 「じゃあ、僕はここで」 「うん! じゃあ、また明日の朝ここでね! あ、何かあったら電話で連絡するから」 別れ際に早速明日の古泉の予定を乗っ取るハルヒだ。何というか、いつも見ていたとはいえ、改めてみると とんでもない傍若無人ぶりだな。今更だが。 古泉は特に問題ないという感じで、気色悪い笑みを浮かべると手を振りながら人混みの中へ消えていった。 ハルヒはその姿が見えなくなった時点で、ふんと偉そうに胸を張り、 「なっかなか、人間的にできている人みたいね、古泉くんって。話しやすいし」 どうみても一方的にお前が話すのを、うんうん頷いているだけにしか見えんが。お前にとってはこれ以上ないくらいに やりやすい相手かも知れないけどな。だからこそ、良心ストッパーの俺の存在が重要になるって構図だ。 まあそれはさておき。 「で、初接触の感想はそれだけか? これからのプランはあるんだろうな? 俺が後できるのはせいぜいお前と古泉の間に入って 微調整してやることぐらいだからな」 「わかっているわよ、そんなこと」 ハルヒはふふっとあくどい笑みを浮かべて、 「当面の目標は古泉くんをあたしの部下に仕立て上げた後、機関って組織の乗っ取り。これで行くわ」 どうやら目的がはっきりして楽しくなってきたんだろうか、ここ一ヶ月むすーっとしっぱなしだったのは打ってかわって、 俄然やる気になってきたようだ。 ん、待てよ? ひょっとして俺も明日の朝、ここでお前と待ち合わせなきゃなならんのか? 「あったり前でしょうが。発端はあんたなんだから、きちんと責任を持って付き合ってもらうわよ。遅れたら死刑!」 ハルヒの笑顔を見ていると、明日から始まるドタバタ非日常が頭の中に浮かんできて疲れが何だかましてくる気がするよ。 ……やれやれ。 ◇◇◇◇ 「遅い! 罰金!」 翌日、眠い目をこすって俺的登校予定時刻-30分(ハルヒ指定時刻)にやってきてみれば、ハルヒと古泉は すでに到着済みだった。ハルヒに至っては待ちくたびれたと言わんばかりに腕を組んで俺を睨みつけているときたもんだ。 ただ、久方聞いていなかった懐かしい言葉を言われて、ちょっとほっとしてしまう俺もどうかしていると思うがね。 「まだお前の言っていた時間にはなっていないぞ」 「あたしを待たせるなんて数十光年早いのよ。もっときっちり早く来なさいよね」 無茶苦茶な理論を並べるな。大体光年は時間じゃない。 そんな俺たちに古泉はただニヤニヤしているだけだった。 んで、俺たちはプンプンしながら歩くハルヒを先頭に、学校への道のりへと足を踏み出す。と、ここで隙を見つけたとばかりに 古泉が俺に急接近してきて、 「昨日はすみませんでした。まさか、初日の昼休みから涼宮さんに声をかけられるとは想定していなかったもので」 「放課後の話の件か。気にしてねえよ。ハルヒの思いつきはいつものことだからな」 「しかし、この分ではしばらく例の話はできそうにありません。こちらも時間を調整しますので、決まり次第あなたに連絡します」 「こら! 二人で何こそこそしゃべってんのよ!」 俺と古泉の密談に気が付いたのか、ハルヒがこっちにつばを飛ばして怒鳴ってきた。 ◇◇◇◇ 昼休みだ。 ハルヒは弁当とボードゲームを取り出し、 「昨日あんたと電話で話したときのものを用意してきたけど、本当にこれでいいわけ? 家の倉庫を引っかき回して、 オセロしか見つからなかったんだけど」 「ああ、それで十分だよ。あいつは思いの外ボードゲーム好きみたいだからな」 以前、ダイヤモンドゲームなんていう骨董品に含まれそうなほどのゲームで俺に対戦を挑んできたほどだ。 暇つぶしの方法としてはそれなりに気に入っているんだろうよ。 ハルヒの持ってきたのは、ボードは折りたためる小型のタイプで、磁石でくっつけるタイプだから狭い非常階段でも 問題なくできるだろう。さてさて、あとは古泉が素直に来ていることを祈るだけだが。 ずかずかと目的地に向かうハルヒに、俺も弁当を持って付いていこうとする。おっと、その前にメシの友だった 谷口と国木田に一声かけておいて―― だが、察しの良いことに二人はにやけたツラをこっちに向けて、国木田は手を振り、谷口は手を合わせてナームーとか ほざいてやがる。人をなんだと思っているんだ。 俺はそんな二人を無視して、とっとと非常階段へ向かった。 到着してみれば、すでに古泉は弁当を持ってスタンバイ状態だ。 「あれ、もう来ていたんだ」 「ええせっかく誘われたので、待たせるのも失礼かと思いまして。授業が終わり次第すぐこちらに」 「へえ、感心感心。ほらバカキョン、あんたも古泉くんの姿勢をきちんと見習いなさいよ」 んなこと言われても困る。 さて、ここからお弁当+お遊びタイム開始だ。本来なら文芸部室でしているようなことだが、SOS団がないんだから 仕方がないか。 ハルヒは古泉についてあーだこーだ聞き出そうとしている。やれ出身校は、誕生日は、趣味はなどなど。 まあ、初対面の人間が親しくなり始めてから聞くような内容だな。それを面倒くさがってマシンガンのように 質問攻めで聞き出そうとするのはハルヒの傍若無人ぶりがあってこそだし、それにネガティブな反応を見せず、 かわすところはかわして答えるところはさらっと答える古泉は、まあ確かに良いコンビかも知れない。 ……ただ、古泉のこの振る舞いは演技らしいが。 で、昼休み終了後、ハルヒは弁当とボードゲームを片づけずつ、 「古泉くん、弱すぎよ。本当にこれ好きだったわけ?」 「いつまで経っても強くならないのがあいつの特徴だ。俺の世界じゃ、お前じゃなくて俺の相手をしていたわけだから、 わざと負けている訳じゃないと思うが」 そんな俺の返答に、ハルヒはふーんと余り納得していない様子であった。 ◇◇◇◇ それから二週間、同じような日が繰り返された。 朝、古泉と一緒に登校し、昼休みは弁当喰ってボードゲームに興じ、下校も3人で返る。 たまにゲーセンとかによってUFOキャッチャーや太鼓のゲームに興じたりもした。休日はハルヒがいつもの駅前に 俺と古泉を呼び出して一日遊び倒して廻る。 ハルヒはことあるごとに超能力者であることを見破ってやるわと、古泉に勝負をけしかけていたが、 元々そんなものを持っていない古泉がそれを発揮することもなく、一度も勝利することなく全敗街道まっしぐらである。 とは言っても、ハルヒも古泉の超能力がどういうものだか知っているんだから、ただの演技に過ぎないが。 ただSOS団ではないとはいえ、俺は今の生活が多少マシになってきていると感じていた。 古泉・ハルヒとつるんで一緒に遊んでいることはそれなりに楽しくなってきていたし、まあ退屈になることもほとんどなくなった。 休日も、無駄遣いにならない程度に楽しめている現状だ。唯一の問題点と言えば、出費の大半が大半が俺の罰金おごりのおかげで 懐具合が寂しくなる一方ぐらいである。軽い問題ではないけどな。 あと、少しハルヒの様子が明るくなってきたのも感じている。古泉が来るまでの一ヶ月間のむすーっ状態はどこへやら、 ハルヒは毎日が楽しくて仕方ないようで、情報統合思念体の脅威をほったらかして、古泉と俺との遊びに時を忘れるほどに のめり込んでいるようだ。以前に聞かされた長門のパトロンの目的を聞いている以上、少々脳天気すぎやしないかと たまに不安にもなるが、逆に俺の言っているSOS団の存在――古泉のみでもハルヒは十分に楽しめると言うことが 立証できているようで、内心俺もほっとしている気分である。 しかし、当然ながらそんな日々はいつまでも続くわけがない。保留となっていた古泉・朝倉からの話とやらをされるときが ついにやってきたのだ。 いつものようにハルヒ・古泉と一緒に下校する際に、こっそりと古泉からくしゃくしゃに丸められた紙を手渡された。 古泉と別れた後にその内容を読んでみると、 【今日の午後七時に甲陽園駅前公園に来てください】 そう書かれていた。この内容は長門からもらったものに似ている。 もちろんこの内容はハルヒの目にも入っていて、 「……どうやら、向こうもぼちぼち動きを見せるのかしらね。あんたの世界だと、こういうイベントはあったの?」 「イベントって……まあいい。確かにこの時期に呼び出しは受けた。古泉にではなく、何度か言っているインターフェースの 長門からの呼び出しで、自分は宇宙人だと告白されたよ」 「なるほどね。キョンをあいつら側に引き込むって事か……」 あごに手を当てて思案顔になるハルヒだが、それはちょっと違うぞ。 「今回がどうかはわからんが、前の長門の告白は……そうだな、どちらかというと俺に対して警告がしたかったように思えた。 実際にその後に朝倉のおかげで、命の危機にさらされたからな。後は俺はハルヒにとって重要な人物になっていることも 伝えようとしていたようだし」 「あんたが重要な人物ねぇ……確かに、今のあんたはあたしにとって重要な情報源ではあるけど、 あんたの世界じゃあたしは力を無自覚だし、あんたは何でもない平凡な一般人。そんな重要だとは思えないわ。 自意識過剰なんじゃない?」 「知らねえよ。あの話しぶりじゃ、俺がSOS団を結成した――ようは、宇宙人・未来人・超能力者を集めるきっかけを 作ったかららしいけどな」 ハルヒはうさんくさそうな目で俺を見つめるばかりだった。 ◇◇◇◇ 夏が近くなったというのに、やたらと冷え込む夜に俺は指定された公園へとやってきた。 できるだけ、俺の世界の時と同じようにしておこうと思い――特に意味はないんだが――一旦家まで戻って 当時と同じ服装に自転車でここまでやって来ている。 公園に設置されている時計の針は六時五〇分をさしている。まだ古泉の姿はなかった。 ちなみにここで話した内容は即座にハルヒに報告するように手はずを整えている。ただし、録音やこっそりと携帯で 会話の内容を伝える案はハルヒによって即座に却下された。今日、俺がここに呼び出された理由について、 俺が知っているわけがないというのが機関、ひいては情報統合思念体の認識であるはず。事前に準備をしていたら、 怪しさ大爆発で即刻ボロが出るだけだと。事実確かにそうだろうな。あの時はかなり適当――というか理解できなかったが、 今回はできるだけ話の内容を理解して、憶えなければならない。かといって興味津々全開で質問しまくるのも却下だ。 凡人一般人の俺があの電波話を聞かされたときに取るべき態度というのは、理解できん知らんが正しいのだから。 こいつは難題だぞ。いかん、何かテスト前みたいな緊張感に身が震えてきた。 「あら、早いのね」 突如かけられた言葉に、俺は驚いて身を震わせてしまった。いきなり失敗だ。何をそんなに緊張しているんだと突っ込まれたら どうする。落ち着け落ち着け…… 俺は平静さを保つふりを心がけつつ、声の主の方へ振り返った。見れば、古泉・朝倉コンビが北高の制服のまま、 それぞれの笑みを浮かべてこちらに手を振ってきている。 さて……ここからが本番だ。 「まいっちゃった。まさか涼宮さんが一直線に彼の元にたどり着くとは思っていなかったから。 何か感じるものがあったのかしらね?」 一瞬、知るかとか返しそうになったがすんでのところで喉の奥に引っ込める。ハルヒのことを何も知らないのに、 その反応はないだろうからな。だから、こう返す。 「……何の話だ?」 俺の反応に朝倉は一瞬きょとんとすると、ああそうかとポンと手を叩き、 「そうね。最初から話さないとわからないか。ちょっと長い話になるんだけど、結構冷えてきたからわたしの家で話さない? あなたはどう?」 「僕としては、円滑に話を進められればどこでも問題ありません」 淡々とその提案を受け入れる古泉。 朝倉の家か……あの時思ったのとは別の意味で、「マジかよ」だな。壁という壁にナイフコレクションでも 飾ってあったりしないだろうな? 俺はうろたえつつも狼狽しないように心がけていたつもりだが、それを緊張と受け取ったらしい朝倉はにこやかな笑みで 「そんなに緊張しなくても良いよ。罠とか仕掛けている訳じゃないし、取って食べたりしないから」 お前に言われると洒落になってねえよ、マジで。 とは言っても、ここでべらべらとしゃべるわけにもいかんだろうから朝倉の提案に乗って、マンションへ向かうことにする。 そろそろ本格的に冷えてきたしな。 たどり着いた先は、あの長門も住んでいるマンションの505号室。朝倉の部屋だ。 「遠慮なく入って。気にすることはないから」 そう朝倉は自室に俺たちを招き入れる。俺は古泉と一旦顔を見合わせるが、大丈夫ですよと言ってずかずかと上がっていく 古泉の後に続いて、玄関から部屋の中に入った。 部屋の構造自体は長門のものと一緒だったが、あの殺風景で何もないリビングとは違い、テレビやタンス、戸棚など ごくごくありふれた内装になっている。部屋の真ん中には冬にはこたつに変身するだろうテーブルが置かれていた。 俺と古泉はあらかじめ準備されていたようにテーブルのそばに置かれていた座布団の上に座る。 「ちょっと待っててね。せっかくのお客さんだから、茶菓子だけっていうのも殺風景だし、夕食もまだでしょ? 簡単なものを作るわ」 いつの間にやらエプロンを身につけた朝倉が、髪の毛を整えるようにばさっとそれを振り上げ、台所で料理作業を始める。 何というか、本当に生活感あふれるその姿に、俺は一瞬感心と好意じみた感情を持ってしまうが、即刻頭からそれを振い落とした。 あいつは二度も俺を殺そうとした危険人物だぞ、あっさり篭絡されてどうする俺。 「いいですね、朝倉さん。器量よし、気配りよし、性格よし、おまけに才色兼備。付き合うなら彼女のような人物が 理想的だと思いますよ」 「……そう……かもな。俺の友人がAAランク+を付けていたよ」 谷口のランク付けを持ち出して、できるだけ俺の感情を出さないように心がけた。 ところが、これに古泉はどんな曲解解釈を行ったのか、 「おっと失礼しました。あなたにはすでに涼宮さんがいましたか。別に浮気の勧めではありませんので、 気を悪くしたのであれば謝りますよ」 何でそこでハルヒの名前が出てくるんだ。あのな、俺とハルヒは何でもないんだよ。元の世界ではSOS団団長と雑用係であって ここではただの協力者だ。そもそも恋愛感情自体をハルヒは否定しているんだから、そんな関係になるはずもない。 例え――絶対にあり得ない話だが、俺がハルヒにストレートな恋愛感情を持ったとしても、けっ飛ばされて終わるだけさ。 ――と言ってやりたいんだが、そうもいかん。仕方なく、 「どいつもこいつも勘違いしているようだが、俺はハルヒに引っ張り回されているだけであって、 別に男女の付き合いとかそんな関係じゃない。朝倉は確かに……まあいいやつかもしれないが、あいにく今はそういう気分じゃ ないんでね。ハルヒともどもお前に譲っておくよ」 「何の話?」 気が付けば、湯気が立ち上る鍋を持つ朝倉の姿が。その中からは醤油風味の良い香りが漂ってきた。 もう作ったのか? さすが宇宙人と言えばいいのか。 濡れたタオルをテーブルに敷き、その上に置かれた鍋の中には厚切り大根やはんぺん、こんにゃく――おでんが浮かんでいる。 「あまり待たせるのも問題だから、あり合わせで作ってみたの。食べてみて」 そう俺たちの前に皿と箸を並べ始める。 朝倉の手料理。ナイフやカッターの刃でも仕込んでありそうで、口にもしていないのに口内に鉄の味がじんわりと広がった。 そんな俺の気持ちなんて全く気づかずに、古泉はいつもの笑顔でごちそうになりますと言って、箸を進め始める。 「あなたも遠慮せずに食べちゃって良いわよ」 そう言って朝倉も自分の料理に手を付け始めた。毒は……入っていなさそうだな。いやまあ、朝倉の宇宙人的変態パワーなら 俺を殺すのにそんな回りくどいことはせずに、血管に直接毒を注入してくるだろうが。 俺は一応の礼儀のつもりで軽く頭を下げ、無言のまま箸を取りおでんを口に運ぶ。 「…………」 何だろうか。きっと感涙して津波が俺の背後から迫ってくるような旨さなんだろうが、あいにく朝倉に対する警戒心からか 味わうことに全く集中できず、まるでインフルエンザに冒された舌で物を食べている感覚だ。 しばらく3人とも黙ったまま箸を進める。俺もようやく雰囲気に慣れてきて、味も認識できるようになってきた。 うん、素直にうまいと言っておこう。 だが、このままただ朝倉料理の試食会を続けているわけにも行かない。 鍋の中身が半分になったぐらいで、俺は一旦箸を置いて、 「で、俺に用事ってのは何なんだ? メシを食べさせてくれるのは嬉しいが、それだけなら全部喰ったら とっとと帰らせてもらうぞ。俺も暇じゃないからな」 俺の言葉に、古泉と朝倉は顔を見合わせると二人とも箸を置いた。どうやら余興は終わりのようだな。 さて、どう来る? 最初に口を開いたのは朝倉だった。正座したまま、てを膝の上に置き優雅に語り始める。 「ねえ、涼宮さんのこと、どう思っている?」 「またハルヒのことか。さっき古泉にも言ったが俺とハルヒは――」 「そうじゃなくて」 凛とした朝倉の声。それは冷たくとがり俺の口を止めるには十分すぎる圧力を感じた。 そして、次に朝倉は核心について語り始める。俺が以前に長門にされた話だ…… 「涼宮さんは普通じゃない。そして、わたしも彼も」 ――朝倉涼子の正体と目的。つまり情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用インターフェースであり、ハルヒの観察。 ――情報統合思念体の存在とその説明。 ――この地球に現れた正体不明の情報フレア、涼宮ハルヒ。 ――そのハルヒには、情報統合思念体の自律進化の可能性があること。 ――そして、最初の情報爆発以降この3年間何も動きを見せなかったハルヒに、強い影響を与える人物が現れた。俺のことだ。 俺はぼんやりと長門から初めて聞かされたトンデモ話に重ねてその話を聞いていた。あの時は全く理解できず、 また受け入れるつもりもなかったっけな。 一通り朝倉が説明を終えるのを見計らって、俺は古泉を指差し、 「こいつも同じだって言うのか?」 「それは違います……」 続いて古泉が自分が超能力者であることを語り始めた。 ――自分は機関に所属している超能力者であること。 ――三年前突然超能力を持ったことを自覚し、同時にその役割を知らされたこと。 ――今、自分たちのいる世界は三年前にハルヒが作り出した物かも知れない。 ――機関はハルヒを神のようなものとして考えている。 ――そのため機関上層部は神の不興をかうことなく、ハルヒが平穏無事に過ごして欲しいと願っている。 ――自分の超能力は特定の条件下でしか発動しない。 ――ハルヒのストレスが最高潮に達したとき、現実から隔絶された閉鎖空間を作る。 ――その中で神人と機関が呼んでいる巨人が暴れるため、それを狩る能力をハルヒから与えられた。 ――ここしばらくは閉鎖空間も発生せず世界は落ち着いている。 ざっと話されたのはこんな感じだ。古泉から超能力者をカミングアウトされたときと実際に閉鎖空間に招き入れられたときに 話したことと同じだな。わかりにくいたとえ話はなかったが。 二人が話し終える頃には、熱々だったおでんも冷たくなりつつあった。俺はただそれを黙ったまま聞いていただけである。 一度聞いたことのある話だったから復習みたいなもんだったからな。呆れや衝撃よりも、そういやそうだったっけぐらいの なつかし話を聞かされた感覚だ。 しかし、この余裕の反応がちとまずかったらしい。二人は呆然と俺を見つめている。やばい。俺を凡人だと認識している以上、 もっとオーバーなリアクションを取った方が良かったか? 「驚きましたね。突然こんな話をしたというのに、あなたは全く驚いている様子がありません」 「ホント。もっと唖然とした態度を取るかと思っていたのに。ひょっとして――」 朝倉はすっと目を細め、こちらを勘ぐる口調で、 「もう知っていたとか?」 ぎくり。俺の心臓が飛び出るほどに激しく鼓動した。まずい……これはまずい…… だが、今までの超常現象遭遇体験のおかげか、自然と口が開いた。 「……俺がそんなヨタ話を信じているように見えるか?」 自分でも驚くほどにけだるい声を上げていた。全力全開で呆れているぞ、俺はとアピールするには十分すぎるほど。 これに朝倉はニコリとちょっと困り気味の表情を浮かべて、 「だよねー。いきなりこんな話をされても困っちゃうわよね」 「ですが、今僕たちの話したことは紛れもない事実です。あなたが信じようと信じまいとその現実は変わりません」 珍しく真顔の古泉に、俺はやれやれと嘆息する。演技・本気、半々で。 さあ、ここからは俺のターンだな。聞きたいことは山ほどあるんだが、あいにく初めて聞かされた馬鹿話を 俺は余り信じていないフリをしなければならない。それをコミで聞くことは…… 「とりあえずだ。おまえらの真剣ぶりはよくわかったよ。それを考慮して今の話を信じるかどうかは 家に帰ってのんびり風呂に入りながらでも考えておいてやる。でだ、今から話すのは信じたからではなく、 どちらかというと興味本位でエンターテイメント的に受け入れた上での質問だ」 我ながらよくわからん前置きをしつつ、続ける。 まず確認しておきたいことが一つ。 「何で俺にそんな話をしたんだ? 俺はどこにでもいるような平凡な一般人だ。そんな話をされても正直言って困る。 だが、言った以上何らかの目的があるってことになるんだが」 「つまりですね、あなたは涼宮さんに誰よりも近い位置にいるということです。 そのため、僕たちの協力者になって欲しいんですよ。機関が望んでいる涼宮さんの安定に貢献していただきたいと」 そう古泉が答えた。朝倉も同意するように頷く。 てか、朝倉は頷くはずがないんだがな。平穏どころか俺をぶっ殺してハルヒの動揺を誘おうとしたんだからむしろ逆だろ。 そう突っ込みたくなるが、とりあえず言えるわけもないので腹の中に飲み込むしかない。 「ようは俺にお前らの仲間になれと?」 「そういうこと。あと涼宮さんの情報も逐一提供して欲しいわね」 朝倉の言葉に、俺は腕を組んで考えるフリをする。やれやれ、以前はただのカミングアウトに過ぎなかったが、 この世界ではちと状況が違うようだ。俺が機関、あるいはインターフェースの手先になれってことだからな。 だが、こんな話をあっさりと飲むわけにも行かん。ハルヒと相談する必要もあるからな。 「わかった。風呂の中でお前らの話を信じられたら、検討しておく」 この話はここまでだ。これ以上聞いておく必要はないからな。ここらでおいとまする頃合いだろう……ボロを出す前にな。 ………… ………… ……いや、一つだけ聞いておきたいことがある。さっきの話の中に欠けている物があったからな。 しかし、聞くべきか? 信じていない奴が聞くことなのか…… しばらく悩んだが、結局俺は聞くことにした。これは俺の命に関わることだからな。 「情報統合思念体と機関、その中はきちんと思惑は一致しているんだろうな? 実は反乱勢力があって、 そいつらがいきなり襲ってきたりするのは勘弁だぞ」 「……痛いところをつかれましたね」 古泉は鋭い目を俺に向けた。朝倉も笑みを隠し、真剣な表情に移行している。 「実のところ、機関の思惑は一致していません。大半が先ほど伝えましたとおり、涼宮さんの安定を願っていますが、 中には涼宮さんの力に注目し、それを利用したり負荷を与えてどういった行動を取るのか知ろうとしている強硬派もいます。 もちろん、機関内部でそう言う人たちは少数派であり、多数派によって厳しく監視していますので 即座に何かをしでかすと言うことはありませんが、彼らがあなたに何かの危害を加える可能性はゼロではありません」 「あら、あなた達も一緒なんだ。わたしたち情報統合思念体も一枚岩ではないわ。主流派は大人しく涼宮さんが変化を起こすのを 見ているけど、中にはわざと問題を起こして強制的に涼宮さんに変革を起こそうとする急進派もいる」 二人の説明に、俺はため息を吐く。ようは俺の世界と同じって事だ。つまりこの先俺は命を狙われる可能性がある。 ハルヒの付随物としてめでたく俺も認定されてしまったわけだ。 だが、古泉と朝倉はまた笑みを浮かべると、 「ご安心下さい。機関は24時間態勢であなたと涼宮さんの安全を確保しています。強硬派の好きにはさせません」 「あたしたちも同じよ。急進派の動きはわたしたちの方で食い止めるから気にしなくて良いわ」 そう言うわけにも行かないがな。特に、朝倉の発言と行動には大きな矛盾があるわけだし。 おっともう一つ聞くことがあった。これはなにげに重要なことだ。 「機関と情報統合思念体の主流派ってのは、きちんと思惑は一致しているのか? そこにも齟齬があるとか言うと 話がややこしくなってくるんだが」 俺の指摘に、二人は顔を合わせて意思の疎通を図り始めた。そして、古泉が口を開く。 「それも残念ですが、完璧にとはいきません。目的が似ているから、暗黙の協力関係が成り立っているだけです。 状況によってはこの先どうなるか、それは涼宮さん次第ですね」 ◇◇◇◇ 俺は夕飯のごちそうを終えると、そそくさと朝倉のマンションから立ち去った。自分の秘密を悟られることなく、 相手からできるだけ情報を引き出す。その重圧による疲労のせいか、俺の足はとんでもなく重くなり、自転車のペダルも まるで後部の荷台に力士でも乗せているかのような重みを持っていた。 宇宙人と超能力者が同時に俺に接触して、そして正体と目的を明かす。しかも、片方は嘘をついている可能性が高い。 俺の世界の時とは明らかに異なっている。未来人がいないことやハルヒの力の自覚の時点でいろいろ根本から異なっているんだから そう言った違いが出てくるのは当然の話とも言えるが、ならばそれによってこれから起きることの何が異なってくる? 朝倉の言っていることが嘘ではないのなら、次に待ち受けているはずの朝倉襲撃イベントはなくなるはずだ。 それがなくなれば、次にあったのは――ええと、古泉との閉鎖空間ツアーか。それがあるかどうかはハルヒ次第だな。 ここのハルヒは意図的に閉鎖空間を作ってストレス解消に暴れているわけだし。その次はハルヒが世界に絶望して 改変してしまおうとすることになるが、これは絶対にあり得ないと言って良い。力を自覚している以上、そんなことを やれるような奴じゃない。あれは無自覚だからこそできる芸当だろう。 そうなるとその後の野球大会やら七夕になるが、今から考えて結構時間が空く。そこまで本当に何も起きずにいるのか? イベント発生率が最大だったこの期間に何も起きないというのは正直想像しがたい。 ならば言えることは一つ。今後起きることは予測不可能と言うことだ。明日何か起きるかも知れないし、 ひょっとしたらこのまま情報統合思念体はハルヒの力の自覚を悟ることもなく、平穏無事に事が進むかも知れない。 「遅かったわね」 考え事に没頭していたせいか、気が付けば自宅前までたどり着いていた俺を自宅の玄関先で待ち受けていたのはハルヒだった。 寒いせいか、私服に薄めのコートを羽織ってずっと待ってたわよと言いたげな顔つきで立っている。 「なによ。人がこの寒い仲間っていたのに、朝倉の家でのんきにご飯までごちそうになっていたわけ? 本当に状況を理解してる?」 そう俺を睨みつけてきた。何でメシを食っていたってわかるんだよ。まさか超パワーでのぞき見していたんじゃないだろうな? 「あんたの口からぷんぷんおでんの臭いがしているのに、いちいちそんなことするなんて労力の無駄よ無駄」 確かに俺の全身からはおでんの臭いがプンプンだ。これじゃ気が付かれて当然か。 ハルヒは、歩きながら話しましょ、と言って歩き始める。俺は仕方なく自転車から降りて、手押し状態でその後を追った。 「今は機関の目を捲いているし、情報統合思念体の監視もごまかしているわ。気にせず、何を見てきたのか教えて」 俺はハルヒに宇宙人・超能力者についてカミングアウトされたことについて適当に話す。すでに知っていることだったのか、 最初は大して興味を示さなかったハルヒだったが、情報統合思念体と機関も一枚岩ではなく、ハルヒに対して強硬姿勢を見せる 連中もいることを話すとやや顔色を変えた。 「やっぱり……そう言うことを考えている連中も今回もいるって訳か」 ハルヒは立ち止まり、すっと空を見上げた。その目はどことなく悲しげで――寂しげでもある。 そして、続ける。 「今まで何度もどうすればいいのか試行錯誤を繰り返してきた中で、必ずそう言う連中があたしにちょっかいを出してきた。 その結果、あたしが力を自覚していることが見破られ、最後はリセットをかけることしかできなくなる。 正直言って、あんたの存在を見つける前はうんざり気味だったわ」 「…………」 俺は何も答えられない。 「あんたを連れてきて、その話を聞いたとき最初は疑問だった。だけど、この二週間久しぶりに何もかも忘れて 楽しめた気がするのよ。今までずっと――どこか情報統合思念体におびえて隠れていないとならなかったから。 だからあんたや古泉くんと遊びまくっているとそんなこと全部忘れられた。あたしは今の状況が続いて欲しいと思っている。 古泉くんもいい人だしね。そして、あたしがそんな脳天気な状態でも誰もちょっかいを出しても来なかった」 ハルヒはここまで言うと、俺の方に振り返りふふっと笑みを浮かべて、 「あんたの言うとおり、超能力者の作ったのは間違いじゃなかったかもね。機関ってのがあたしを監視しつつも、 手を出してくる脅威を旨くさばいているのかもしれない。情報統合思念体も意図はわからないけど、静観している。 こんな状態は初めてよ。ありがとう、あんたのおかげで久しぶりにちょっと希望が持てるようになったわ。 あ、でも乗っ取る野望は捨てた訳じゃないわよ? どうせなら完全にあたしの手中に収めた方がいいしね」 俺はその屈託のない笑みに俺は思わず目を背ける。いや、やましいことはないんだがなんつーかこっぱずかしい。 だが、俺の言っていることを信じてもらえたのは、素直に喜んでおくか。俺の世界がそんなに簡単にぶっ壊れないと言うことを ハルヒが一部とは言え認めたも同然だからな。 ハルヒは俺の方を振り向いたまま離れ、 「そろそろ遅くなってきたから帰るわ。じゃあ……また明日、いつもの場所で古泉くんと一緒に」 そう言ってハルヒは小走りに家路についた。 そうか。ハルヒもこの世界がうまくいきつつあることを自覚しているんだな。それにしても、このハルヒは今まで どのくらい苦難の道を歩んできたんだろうか。ずっと一人で情報統合思念体と戦い、その干渉から逃れようと もがき続けていたのか? それがどのくらいの重圧なのか、俺には想像すら付かない。 まあ、どのみち今の状況が続けば、俺の仕事も思ったより楽に終わりそうだ。とっとと終わらせて あのSOS団団長涼宮ハルヒの元に帰らないと、罰金額が増加の一途をたどりそうだしな。 ……しかし、甘かった。 ◇◇◇◇ 翌日の朝もここ二週間と何も変わらなかった。朝、ハルヒ・古泉と一緒に登校して、授業を受ける。 しかし、昼休み前に状況が一変する。 教室中に広がる悲鳴。そして、それをかき消すヘリコプターから発せられるもの凄い轟音と暴風に窓が激しく軋んだ。 「……なによなになに!?」 ハルヒが飛び上がって、窓から離れた。俺も抜ける腰を必死に支えて、逃げるように窓から離れた。 なんせ、俺たちの教室の窓に張り付くようにあの――戦争映画かなにかで出てきそうな戦闘ヘリがこちらを睨んでいるんだから。 そして、やがてその機体前面下部に付けられている回転式の機関銃みたいなものが火を噴く―― ~~涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(後編)へ~~
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「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。」 出典 涼宮ハルヒシリーズ CV 平野綾 童実野高校の一年生でありSOS団の団長。 退屈と平凡をとことん嫌い、目新しい出来事や非現実的な事象を好み 自分が面白いと思ったことならば平然と他人を巻き込む性格。はっきり言って厨二病。 自覚はないが自分のいる世界を自分の思ったとおりに作り替える「情報改変」と言う能力を保有しており、 それ故情報統合思念体や「機関」と呼ばれる組織からの監視を受けている。 …が、カオスワールドでの彼女はその能力を失っており、監視の必要性は薄れているのが現状。 しかし、ナナと接触時に既視感を覚えるなど、何かの鍵を握っているのは相変わらずのようである。 チームKCに加わったのも使命感や因縁などは一切関係なく ただ「面白そうだから」と実に短絡的。 だがチーム内にハルヒ以上の変人が多いのと原作に見られる奇行がなりを潜めているためか 相対的に常識人と化している。 戦闘面では特に何かに特化している訳でもなく平均的だが 装備できるイクイップスキルが多いという利点がある。 また第2部再合流時にはその間の修行のおかげで ドルオーラとエビルデインをイクイップスキルなしでも使えるようになり いくつかの呪文・特技を覚える。また職業もSOS団長→超勇者にかわる。 なお彼女が覚える呪文や特技はドラクエのゲームや、 漫画『ダイの大冒険』『ロトの紋章』が元ネタとなっている。 ベホマ、ムーンサルト→ドラクエのゲーム ドルオーラ、無刀陣→ダイの大冒険 エビルデイン、幻魔剣→ロトの紋章 初戦闘時の朝倉戦、加入時のネーナ戦は負けイベント、 おまけにネーナは弱点の飛属性を突きまくるという結構嫌なデビューである。
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俺は植物園の南側に小隊を集結させていた。とはいってももはや無事な生徒は10名しかいなかったため、 学校から補充要員として送られてきた生徒10名を加えて総勢20名となっている。 現在の状況はこうだ。植物園北側は古泉の小隊が押さえて、敵の侵入を阻止している。 エスパー戦闘経験のある古泉の度胸はとてもよく、敵の攻撃をものともせずに押さえ込んできた。 一方の南部が問題だ。鶴屋さん部隊も俺たちと同じく包囲状態になり、完全に孤立してしまっていた。 さらにここ2時間近く連絡すら取れない状態に陥っている。そのため、長門の支援砲撃ができない。 闇雲に撃ち込んで、間違って鶴屋さんたちに当たれば本末転倒だ。 それを救出するべく俺たちは森との境界線に陣取っているんだが、 向こうも南部への移動を阻止するように抵抗が激しく、鶴屋さんの救出どころか、植物園から森に侵入すらできていない。 何とか森との境界にある小さい丘に身を隠し、敵の銃撃を受けないようにしているだけである。 「ガンガン撃ち込んでくれ、長門!」 俺は膠着状態を打開するために、徹底的に砲撃をさせていた。向こうが壁を作って通さないというなら、 こっちは完膚無きまでそれを破壊しつくまでだ。しかし―― 「だめだね。まだこっちに向かってガンガン銃撃してくるよ」 「どこに潜んでいやがんだ。さっきからあれだけ撃ち込んでいるってのによ!」 国木田の言葉に俺は吐き捨てるように怒鳴った。ここに来て、砲弾を受けても効果なしなんて言うインチキを 始めやがったんじゃないだろうな? また、目前で4発の迫撃弾が着弾した。轟音と砂が顔に降りかかってきたので、あわてて頭を下げる。 「油断するとヘルメットごと頭を持って行かれるかもね」 となりで物騒なことをひょうひょうと言うのは国木田だ。どうしてこいつはこんなに度胸が据わっているんだ? 俺はずれたヘルメットをかぶり直しつつ、 「砲撃で効果がないってなら、別の方法を考えないと――ん?」 そこまで言って気がつく。先ほどの着弾以降、敵側からの銃撃がぴたりと収まっていた。 ようやくクリティカルヒットだったか? 「よし……一気に前進するぞ。ついてこい」 俺は慎重に腰をかがめながら立ち上がり、丘を登り始める。同時に小隊全員がそろそろと俺についてきたが…… 「……ぶっ!」 情けない声とともに、俺は丘の下に引きずりおろされた。だれかに服を強引に引っ張られたようだが―― 同時に丘の向こうで悲鳴が飛んできた。さらに、身体に銃弾がめり込むいやな音と血しぶきも一緒にだ。 あわてふためいた生徒たちが次々と丘の下に飛び込んでくる。 「キョン、大丈夫かい!?」 俺を丘の下に引きずりおろしたのは国木田だった。何を考えているんだと怒鳴りそうになった瞬間、 その意味を理解する。頭の上を飛び越えていく銃弾の荒らしと、丘の向こうから聞こえてくる絶望的なうめき声を聞けば、 どんなバカでも理解できるはずだ。 答えは簡単。またしても、敵の罠に引っかかったのだ。砲撃の着弾と同時に、銃撃をやめる。 やったと思った俺たちがのこのこ丘を越えてきた時点で狙い撃ち。こんな単純な手に引っかかるとはバカか俺は! 俺はそろりと丘から頭半分を出し、どうなっているのかを確認した。そこには血まみれになった生徒二人が 倒れている。一人は突っ伏したまま動かず、もう一人は痛みのあまりうめいて手をばたつかせていた。 あまりの悲惨さに思わず身を乗り出して手を出そうとするが、それを阻止すべくまた敵の銃撃が始まる。 数発が負傷した生徒に命中し、さらなる悲鳴を上げた。奴らには情ってモンがないのか!? 「助けないと!」 俺は飛び出して行こうとするが、またも国木田に制止させられる。 「冷静に! とにかく、こっちも撃ちまくって向こうの頭を下がらせるんだよ。その隙に救出するべきだね」 「く……わかった。すまんが頼む」 国木田の案を受け入れて、俺は生徒たちに一斉射撃を命じた。全員一気に立ち上がるとそこら中の茂みに向けて乱射を始める。 敵側の銃撃が収まったことも確認せずに俺は丘から身を乗り出し、負傷した生徒を丘の下に引きずりおろした。 同時に動かなかった生徒を小隊の一人が同じように引きずりおろす。 俺が助けた方は、名前も知らない女子生徒だった。全身の銃弾を浴びて、傷だらけどころかぐちゃぐちゃだ。 「ハルヒ! 負傷者だ! ひどい怪我なんだ! 誰かよこしてくれ!」 『わかった! 何人か向かわせるわ!』 無線連絡後、ハルヒ小隊の何人かが、その女子生徒を回収していった。すでに瀕死の状態だったが、 それでもまだ生きている以上、こんな弾の飛び交う場所に置いては置けなかった。 「くそっ……」 俺は丘の下で座り込み、ヘルメットを取ってため息をつく。やりきれなさすぎる。 鶴屋さんたちを助けたいがどうすることもできない。無理につっこめば、こっちの犠牲が増えるばかりだ。 救出する方が損害大では意味がない。どうすればいい? いっそ鶴屋さんたちが自力で戻るのをここで待つか? 包囲状態とはいえ、そのままでいるわけもないし、こっちに移動してきているはずだ。 だったら、それを向かえ入れた方が…… と、突然そばにいた生徒から無線機を渡される。古泉からの連絡らしい。 「なんだ古泉。今はおまえの話を聞くような気分じゃないぞ」 『それだけ言えるならまだ無事と言うことですね。安心しました』 全然安心できねえよ。あっちもこっちもめちゃくちゃで、頭がおかしくなりそうだ。 いや、普段の俺だったらとっくにおかしくなっているだろうよ。ちくしょう、一体どれだけ俺の頭の中をいじくりやがったんだ。 『それはさておき、そっちの様子はどうですか?』 「その前におまえの方を教えてくれ。聞く前にまず自分から言うもんだろうが」 自分でもそれは違うだろと自己つっこみをしてしまったが、古泉は苦笑しているような声で、 『こっちはなかなか派手な状態ですよ。北部一帯で防御戦を引いて何とか敵の植物園侵入を阻止していますが、 向こうも焦っているんでしょうか、携帯型のロケット弾ぽいものを持ち出してきました。 さっきからそれの雨あられですよ』 それでも防御線を守りきっているのか。本当にたいした奴だな。ハルヒの見る目も。 『そろそろ本題に移りましょうか。どうやら、そっちは未だに鶴屋さんのところにたどり着けていないようですね』 「ああ、腹立たしいがその通りだ。敵の抵抗が厳しい上に、砲撃が全くきかねぇ。これじゃどうしようもない。 正直、侵入はあきらめて鶴屋さんが戻ってくるのを待ったほうがいいかと考え中だ」 『それは待ちぼうけになるからやめた方が良いですよ』 なに? それはどういう意味だ? 『ここに来るまでの間に、涼宮さんと鶴屋さんの無線連絡を耳に挟みましてね、いえ、盗み聞きしたわけではありません。 すごい剣幕で話しているからいやでも耳に届いたんですよ』 ハルヒと鶴屋さんが言い争い? 全く想像ができないぞ。どういうことだ? 『完全に聞いたわけではありませんが、大体想像がつきます。鶴屋さんは、目的であったロケット弾発射地点を 制圧するまで撤退するつもりはありません。たとえ、誘い込むための罠であってもです』 「うそだろ……」 俺は唖然としてしまった。さらに古泉は続ける。 『気持ちはわからなくないですね。あなたの方は、逃げた敵の掃討だったので、 罠とわかればあっさりと撤退が可能です。実際にそうなりましたしね。しかし、鶴屋さんの方は違う。 たとえ、罠であってもここで発射地点を制圧しなければ、北高への攻撃は続行されるでしょう。 結局はまた制圧に向かうことになる。それでは同じ事の繰り返しです。ならば、どんな犠牲を払ってでもとね。 できることなら犠牲を出したくないという涼宮さんとは完全に対立するでしょう』 ハルヒは自分で何でもやりたがるタイプだ。間違っても自分の作戦で他人が死にまくっても平然としているような奴じゃない。 そんなことになるくらいなら、ハルヒ自身がやろうとするだろう。今思えば、植物園にハルヒ小隊を置くと 頑固に言い張ったのも、指揮官が前線に出るなんてという考えと、できるなら自分が戦っていたいという考えの ぎりぎりの妥協点だったかもな。 そして、鶴屋さん。正直なところ、鶴屋さんの人物像はつかみづらい。すごい人であるという認識程度だ。 今回だって包囲状態に陥ってもなお発射地点制圧をすると強弁できるなんて常人には―― 待てよ? ひょっとして鶴屋さんは最初からこれが罠であるとわかっていたのか? 『僕もそう思いますね。鶴屋さんは罠の可能性を強く疑っていたのではないでしょうか。 だからこそ、たとえ罠だとはっきりしても目的を変更するつもりはない。そう言うことでしょう。 また、あの時、罠である可能性をしてきた僕の意見に対して何も言わなかったのは、 罠であろうがなかろうが関係ないということだったのでは』 鶴屋さん……あなたって人はっ……どこまで俺たちの上を行くつもりなんですか? しかし、そうなると未だに鶴屋さんが帰還しないと言うことは、制圧もできていないと言うことだ。 『そうでしょうね。だからこそ、あなたには鶴屋さんのところへ向かってほしいんです。 救出ではなく加勢としてね』 古泉の言葉で俺の腹は決まった。何としてでもここを突破する。それしかない。だが、どうすりゃいい? 『確証はありませんが、敵の動きは涼宮さんの性格を強く意識しているように思えます。 今回の待ち伏せを考えてみてください。敵は北山公園で待ちかまえると同時に、遠距離から北高を攻撃しました。 この場合、我々にはいろいろ選択肢があります。たとえば、こちらの砲撃で徹底的に北山公園南部を砲撃する―― これは長門さんが効果が薄いと言っていましたが。また、校庭にヘリコプターもありましたから、 あれで発射地点を確認し、少数部隊でピンポイントで叩く。砲撃に耐えながら、学校に完全に立てこもって 籠城という手段もありますね。考えればもっといろいろあるかと。 しかし、涼宮さんの性格上、確実に北山公園全土制圧を一番に考えるでしょう。 やられっぱなしなんてもっとも嫌がりますし、ピンポイント攻撃だと相手が逃げ回って延々と追いかけ回すことに なりかねません』 また頭上を飛んでいく銃弾が激しくなってきた―― 『このようにたくさんの可能性がありながら、敵は誘い込んで待ち伏せという手段をとっていました。 完全にこちらの動きを読んでね。涼宮さんの性格を知っているからこそ、迷わずにその手を採用したんです。 そして、自らが決定した作戦のせいでたくさんの犠牲者を出したことになれば、 涼宮さんに与えるダメージは半端ではありません』 「ハルヒの考えを読んでいたとは限らないだろ。敵はこれだけの世界を簡単に作り出しちまうんだ。 なら、俺たちは常に監視されていて、こっちの動きが筒抜けの可能性だってある」 『ええもちろんです。しかし、たとえそうであっても敵の目的が涼宮さんであることには違いありません。 それを最優先に動いてくるはずです』 なるほどな。なら敵はロケット弾発射地点を死守したりすることよりも、ハルヒに精神的苦痛を与えることを 最優先に考えているって事か。 『話が早くて助かります。敵の動きと涼宮さんの考えと照らし合わせれば、おのずと敵の動きも読めるのではないでしょうか。 今言えることはそれくらいですが――おっと、ちょっとこっちも活気づいてきてみたいですね。 あとはお任せします。ではまた』 そこまでで通信は終了。俺はサンキュと無線を持った生徒にそれを返す。 さて、どうするか。敵は砲撃ものともせずに、俺たちの鶴屋さん小隊との合流を阻んでいる。そこまで粘る理由は? そりゃ、包囲状態にした敵――鶴屋さんたちと増援の俺たちの合流を許すわけがない。いや待て、その考えじゃダメだ。 こうやって、俺たちが何もできずにただ時間がたっていることにハルヒは相当のいらだちを覚えるはずだ。 だから、こうやって俺たちの足止めを行っている……よし、この考えで良い。 そうなると、敵はできるだけ鶴屋さんの孤立状態に陥らせることに専念するはず。では、どうする? 「……ちっ」 結局、相手の考えを読んだところで何も変わらねぇ。敵の目的と俺たちの目的が完全にぶつかっているからだ。 なら、ここからの鶴屋さんの場所に向かうのはあきらめて、数名で北山公園のすぐ南にある光陽園学院に行き、 そこから北上して行くか? いや、敵は信じられないことを平然とやっているんだ。その動きを読まれて、 すぐに防御線が築いてしまう恐れもある。 だったら目的を変更してやればいい。俺の目的は鶴屋さんへの加勢なんだから……加勢に行かない? ふざけんな。 そんなまねができてたまるか。じゃあ、いっそ南部を手当たり次第砲撃するように長門に指示するとか……鶴屋さんを殺す気か? ん、ちょっと待てよ? ハルヒは全員の植物園までの撤退を望んでいるという。だが、鶴屋さんはそれを拒否して、 未だに発射地点制圧を行っているんだ。ならそれは敵にとって想定外の事態じゃないか? 鶴屋さんの後退を阻止するのではなく、発射地点を防御しなけりゃならないからな。 でも、発射地点は敵にとってさほど重要なものではないと思える。俺たちをここに誘い込むだけの利用価値のはず。 さっさと鶴屋さんたちに破壊させて、包囲状態にでも何でも置けばいい。だが、確信を持って言えるが、 鶴屋さんたちはまだ発射地点を制圧できていない。何の証拠もないが、無線連絡が取れなくても、 あの人なら何らかの手段で俺たちにそれを伝えるはずだ。絶対に。 俺はふとあることを思いついて、無線機を取る。話す相手は朝比奈さんだ。場違いな相手じゃないかって? だが、俺たちの中で一番鶴屋さんのことを知っているのは、朝比奈さんであることに間違いないだろ? 『キョンくん! 大丈夫なんですかぁ!?』 焦りきったマイエンジェルの声に俺はいくらかの癒しパワーを受け取ってから、 「ええ。何とかまだ生きていますよ。ところでちょっとお話が」 俺は今の状況を端的に話す。俺が知りたいのは鶴屋さんならどうするのかとか、 鶴屋さんならどのくらいできるだろうとかだ。 朝比奈さんはう~んといつも以上に悩みながら、 『そうですねぇ……わたしが言えるのは鶴屋さんは本当にすごい人です。だから、そんな危ない状況でも 簡単に抜けられちゃうんじゃないかなぁって思うんです。でも、何でこんなに時間が……』 今の会話に俺は何かを感じた。どこだ? すごい人の部分か? そんなことは俺もわかっている。 簡単に抜けられちゃう……ここだ。そうだ、包囲状態でも攻撃を続ける鶴屋さんなら 植物園までの後退は簡単にできるんじゃないか? だからこそ、敵は鶴屋さんを引き留めるために 発射地点を死守する必要がある。それなら、理屈が合うってもんだ。 『でもぉ……ひょっとしたら……』 「朝比奈さん」 まだ独白のように続ける朝比奈さんの言葉を遮り、 「ありがとうございます。おかげで考えがまとまりましたよ。すごく助かりました」 『え……えっ?』 何が何やらわからない朝比奈さんがかわいらしすぎてもだえそうになるが、ここは我慢だ。それどころではないからな。 「じゃあ、また学校で会いましょう。戻ります」 『待って!』 突然、朝比奈さんからせっぱ詰まった声が飛ぶ。 『鶴屋さん……いえ、みんな無事なんですか? ここからじゃ、一体何が起きているのかさっぱりわからなくて……』 今にも泣き出しそうな――いや、もう涙ぐんでいるのかもしれない声が無線機から漏れてきた。 俺はどう答えるべきかしばし考えた後、 「大丈夫ですよ。SOS団はまだ健在です。鶴屋さんもきっとぴんぴんしていますよ』 俺は事実だけを言った。でも、谷口は死んだとは言えなかった。 朝比奈さんは俺の言葉にほっとしたのか、 『がんばってください。また学校で』 そう言って無線を終了した。すみません、朝比奈さん。 そこに国木田が丘の下に滑るように降りてきて、 「で、キョン。どうするのさ」 「今はこのままだ。しばらくしたら絶対に変化が起きる。そしたら、こっちも動くぞ」 国木田は俺の自信めいた口調に疑問符を浮かべながらも、また丘の上の方に戻っていった。 これから起きることは二つだ。まず第一に鶴屋さんが発射地点を制圧する。そうなった場合、 あらゆる手段を使ってでも、俺たちにそれを知らせてくるだろう。次に鶴屋さんたちが全滅する――考えたくもないが。 だが、この場合は敵が発射地点の防御を行わなくなることから、植物園に対する攻撃の動きが変化するはずだ。 今はどちらかが起きるのを待つ。これでいい。 ◇◇◇◇ 変化は意外に早く起きた。俺が待ち始めてから15分後、一発のロケット弾が北山公園南部から発射されたという 長門からの無線連絡が入ったのだ。同じ頃に、南部でひときわ大きい爆発音がとどろいている。 ただし、発射されたロケット弾は 『こちらは攻撃を受けていない。確認した限りでは、北山公園から東側に向けて発射された。今までとは明らかに違う』 以上、長門からの報告。もう俺は即座に確信し、ハルヒへと連絡する。 「おい、長門からの話は聞いたか?」 『聞いたわよ! これは鶴屋さんからの敵制圧の合図に違いないわ! さっすがSOS団名誉顧問だけのことはあるわね!』 「ああ、俺もそう思う。で、俺はどうすりゃいい?」 『とにかく、あんたがぼさっとしている間に向こうはけが人とかでているに違いないわ。 とっとと助けに行きなさい! 以上、命令終わり!』 やれやれポジティブ思考が復活しつつあるようだ。でも、その方がハルヒらしくて安心できるけどな。 「さてと……」 敵はしつこく俺たちに向けて銃撃を続けている。これからどうするか。ハルヒは助けに行けと言った。 なら、敵はそれを阻止するように動くのか? いや待て、それでは今までと大して変わらない。 もっとも大きな精神的ダメージを与える方法は? 俺は結論を出したとたん、笑い出しそうになった。ひょっとしたら初めて敵を出し抜けるかもしれないと思ったからな。 また、俺は無線で長門に連絡し、俺たちの動きを阻止している敵にめがけて、10発ほど砲撃を行うように指示する。 そして、数分後的確な砲撃が俺たちの目前に降り注いだ。今まで以上の轟音に俺は耳を押さえて、鼓膜を守った。 着弾音の余韻が通り過ぎると、辺りに静寂が戻ったことを【確認】する。 「また罠かな?」 国木田は警戒心を表していたが、俺はそれを無視し、一人で丘の上に立ち上がった。 「キョン! 何をやって……え?」 抗議の声を止めたところを見ると国木田も気がついたらしい。まったく弾丸は飛んでこないことに。 俺はそのまま小隊の生徒たちを待機させたまま一人じりじりと前進し、森の中に数歩はいる。砲撃のすさまじさを 表すように地面が穴だらけになっていた。しかし、敵は一人もいない。 確認完了だ。俺は右手を挙げて、小隊を前進させて森に入らせた。 ◇◇◇◇ 「やあ……キョンくんひさしぶり……でも、ダメじゃないか……敵は……」 鶴屋さんの力ない声が耳に流れ込んでくる。ほとんどかすれ声だった。だが、言おうとしていることはわかる。 同時に俺の背後ですさまじい銃撃戦が始まった。俺たちが来た道から背後を突くように、 敵が襲ってきたからだ。だが、この攻撃をわかっていた俺たちにとって、それは背後からの攻撃にはならない。 完全に迎え撃つ準備はできている。 しばらく激戦が続いたが、やがて敵は長門の砲撃を受けて下がっていった。 「すごいね、キョン。何でわかったのさ?」 「俺だって学習能力ぐらいはあるんだよ」 国木田の指摘を軽く流して、俺は周囲を見回す。鶴屋さんがいたのはやはりロケット弾発射地点だった。 すっぽりと森に穴が開いたような場所に一台のトラックが置かれている。その上には ロケット弾を載せるための鉄レールを平行に並べ柵状にした棚が乗っていた。いわゆるカチューシャロケットと言われる 多連装ロケットランチャーだ。こんなもんで俺たちを攻撃していたとはな。 敵の動きは大体読めていた。ハルヒは鶴屋さんたちを助けに行けと言った。そして、敵はすんなりと鶴屋さんのもとに 俺たちを招き入れた。理由は簡単。今度は俺たちを包囲状態にするためだ。北山公園に俺たちを誘い込んだのと 同じ手法である。ハルヒが決定して、そのせいで俺たちが大損害、となればまたまたハルヒに与えるダメージはでかいと 踏んだのだろう。だがな、甘いんだよ。そうそう何度も同じ手が通用してたまるか。 だが、予想外なことも一つだけあった。最悪なものだ。 「ふふっ……そっかぁ……キョンくんも気がついたんだねっ……」 鶴屋さんは息も絶え絶え、寄りかかるように座っている木の根元には血だまりができようとしていた。 周りにいる鶴屋さん小隊の生徒4人も不安げな表情で見つめている。 そう、鶴屋さんは銃撃を受けて今にも息絶えようとしている。くそったれ! やっとここまで来れたってのに! 「鶴屋さん! ようやく来れたんです。早く学校に戻りましょう!」 俺は鶴屋さんを背負おうと彼女の肩に手をかけるが、そばにいた鶴屋さん小隊の生徒から制止される。 衛生兵の役割を担っていた彼は、動かせない。動かせば死ぬだけと沈痛な口調で言った。 「そんな……やっと目的を果たせたんだ! 連れて帰らないと! 大体、おまえら何で指揮官を守ってねえんだよ…… ってそうじゃねえだろ! くそっ! 何言ってんだ俺は!」 あまりの言いように、自分自身に怒りが爆発する。鶴屋さんは自分の配下の生徒たちを力なく見回し、 「責めないでよ……みんな必死にやったさ。無能なのはあたし自身。結局、守れたのはたったの四人だけっさ……」 鶴屋さん小隊の人間から聞いたことだが、植物園から南部に小隊が入ってすぐに攻撃を受けたらしい。 その後、包囲状態に置かれようとしたが、先手を打った鶴屋さんが小隊をさらに3~4人に分けて、 北山公園南部一帯に散らばせた。そのため、敵はその散らばった小隊を追いかけ回し、 鶴屋さんたちはロケット弾発射地点を探し回る。まるで鬼ごっこ+缶蹴りだ。 鶴屋さんたちは空き缶=カチューシャロケットを探し続け、ついに目的を果たした。 目的を果たしたと同時に、散らばった生徒たちは植物園に戻るように指示していたらしいが、 ハルヒに確認した限りでは誰も戻ってはいない。ここにいる生徒以外は全滅したと言うことだろう。 さらに鶴屋さんまでもが…… また、俺の背後で銃撃戦が始まる。しつこい連中だ。いい加減、あきらめろ! 「キョン、このままだとまた包囲されるよ」 「んなことは言われんでもわかるさ……!」 国木田の言葉に、俺は焦燥感だけが募る。このまま鶴屋さんをおいておけるわけがない ――今までさんざん【仲間】を置き去りにしてきただろ? わかっているさそんなことは……! 「行ってほしいなっ……わざわざあたしをえさにしている敵の思惑に乗ってほしくないにょろよっ……」 「わかっています……わかっているんです……!」 どうしても踏ん切りがつかない。だが、それでもつけなければならない。 俺は絶望的な思いで言う。 「つ、鶴屋さんっ……。朝比奈さんに……朝比奈さんに伝えることは……!」 のどが悲鳴を上げるほどに力んで言葉を出しているのに、それ以上口を開くことができなかった。 でも、鶴屋さんはそれを待っていたのか、にっと笑顔を浮かべて、 「悪いけどみくるにはだまっておいてくれないかなっ……きっと気絶なんかしちゃってみんなに迷惑かけちゃうかも」 「わかりました……!」 「あと、あたしの仲間も連れて行ってっ……最期の最期までバカみたいにあたしについてきてくれた大切な仲間っさ……」 「もちろんです……!」 もうここまで来ると俺は鶴屋さんの顔を見ることすらできなかった。受け入れられない現実を拒否したいのか、 耳すら閉じたくなる。 「じゃあキョンくん!」 突然、かけられたいつもの鶴屋さんの声。俺ははっといつのまにか下がっていた頭を上げると、 普段と変わらない笑顔を浮かべ、俺の方にぐっと腕を突き出した鶴屋さんがいた。 「また学校で!」 その言葉と同時に、鶴屋さんは全身の力が抜け落ち、頭も完全にたれた。元気よくつきだしていた腕も、 力を失って地面に向かって落下する。 すいません鶴屋さん。絶対に元の世界に戻ってまたいつものように騒ぎましょう。でも、ここにいて、 果敢に戦い抜いた今のあなたのことも絶対に忘れません……! 俺は目に浮かんでいた涙をぬぐい、周りにいた鶴屋さん小隊の残りを見回す。皆一様に指揮官の死に涙していた。 これは絶対に作られた感情ではなく、本人の本来の意志によるものだと確信できるほどに悲しんでいるのがわかった。 「これから、おまえらは俺の指揮下に入る。問題ないな?」 4人とも、潤んだ目をしっかりと俺に向けて頷く。 国木田たちと敵の戦闘はますます激しくなりつつあった。もはや一刻の猶予もない。 俺は無線機を持った生徒を呼びつけ、ハルヒに連絡する。 「おいハルヒ、聞こえるか?」 『何よキョン! 鶴屋さんたちのところについたなら、早いところ戻ってきなさい! 当然、鶴屋さんたちもつれてね! 30分以内じゃないと罰金――』 「鶴屋さんは死んだ」 俺の言葉でハルヒは絶句した。叫びたいのを必死にこらえるようなうめきと、何と言って良いのかわからないという 不安定な吐息が無線から流れ込んでくる。 「いいかハルヒ。これから俺が言うことに黙って従え。いいな?」 『…………』 「いますぐ、古泉たちをつれて北高に戻れ。俺たちが戻るのを待つ必要はない」 この言葉に激高したのか、ハルヒは砲弾の着弾音以上の声で、 『バ、バカなこと言うんじゃないわよ! いい!? あんたたちが戻るまで死んでもここを死守するから! 絶対に帰ってくるのよ! 絶対絶対絶対よ! 見捨てるなんて絶対にしないから……帰ってきて! 絶対!』 「良いかよく聞けハルヒ!」 俺の怒鳴り口調にびびったのか、錯乱状態だったハルヒの口が止まる。 「冷静に聞けよ。今、俺たちはまた敵に包囲されようとしているんだ。敵の狙いは、植物園に俺たちが戻るのを阻止すること。 今おまえが俺たちを放って学校に戻るなんて、敵は頭の片隅にすらねえはずだ」 『あんたたちはどうするつもりよ! 玉砕なんて死んでも許さないんだからね!』 「俺たちはこのまま北山公園を南下して、光陽園学院前に出る。そして、学校東側から戻る。 安心しろ。絶対に学校に戻るから心配するな」 ハルヒはしばらくぶつぶつと聴き取れない抗議めいたことを言っていたようだが、やがて、 『……わ、わかったわ……絶対に帰ってきなさいよ!』 「当然だ」 話し合いがまとまったので、俺は無線を終了しようとするが、 『待ってキョン!』 ハルヒがなにやら確認したいらしい。しかし、なかなか言い出せないのか、しばらくうなったような声を上げていたが、 『鶴屋さん……鶴屋さんはどうするの……?』 「……俺の口からいわせないでくれよ。すまん」 『……ゴメン』 そこで無線が切られた。おっと一つ言うことを忘れていた。 『……なに? まだなんかあるの?』 悪い知らせと思ったのか、びくびくとした様子が手に取るようにわかった。 「すまないが、朝比奈さんには鶴屋さんのことは言わないでくれるか? 鶴屋さんからの遺言なんだ。 万一、聞かれたときは――あー、足をくじいたから近くの民家で、このばかげた戦争が終わるまで隠れているって言ってくれ」 『了解……』 そこで今度こそ無線終了。さて、 「よし、このまま南下して学校に帰るぞ! ついてこい!」 俺の空元気な声が飛んだ。 ~~その4へ~~
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涼宮ハルヒの組曲 すすみやはるひのくみきよく【登録タグ:sleeping inoopy アニメ メドレー 曲 曲す 曲すす 涼宮ハルヒの憂鬱】 曲情報 作詞:?? 作曲:?? 編曲:sleeping inoopy? 唄:?? ジャンル・作品:メドレー アニメ 涼宮ハルヒの憂鬱? カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり オンボーカルワイプあり コメント 名前 コメント
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午前中。休み時間とは名ばかりの、次の授業への移行時間かつ執行猶予時間の際。 俺は……古泉は登校しているのだろうか、長門はどうしているだろうかなどを自分の席に着いたまま黙考していた。 「どうしたんだい? あまり元気がないみたいだけど。なにか悩みでもあるの?」 国木田はこちらへと近づきつつ俺に問いかけ、俺は背後にハルヒが居ないことを確認すると、 「……悩みが多すぎるのが悩みだな。正直まいってるよ」 「ふうん。てかさ、涼宮さんも何だか元気がないみたいだね。ひょっとしてケンカした?」 普通は聞きにくいようなことを飄々と聞いてきた。国木田よ、俺とハルヒはケンカするほど仲が良いわけじゃ……。 いや、あるのか。いつも俺がボッコボコにされてるが。国木田はなおも飄々と、 「聞きにくいって? もしかして、キョンと涼宮さんのケンカは犬も食わない感じになってるの? それなら、僕がそれを聞いちゃったのは野暮だね。ごめん、謝るよ」 謝られたが、考えてみれば野暮なことはないよな。そして、 「……勝手に俺たちを夫婦にするのはよしてくれ。それより、ハルヒが元気ないって?」 あいつが? ……俺には、息巻いて不思議探索に精を出そうとしていたようにしか見えなかったが。 「キョンは気付かなかったの?」 「……俺には世界を作り変えちまいそうなほど元気に見えたがな。もしハルヒがそうだってんなら、多分、俺がまだポエムを書いてないのが原因だろう」 「おいおい、いい加減早く書いちまえよな? お前なら、いままで恋愛経験がなくても関係ねえ。涼宮とのアレコレでも書いてりゃいいじゃねえか」 谷口がどこからか沸いてきた。谷口、俺はハルヒと、それこそ人に言えないようなもんしかしてないぜ。 「それは大胆だねキョン。ここは学校だし、そういった情事的な告白は自重した方がいいんじゃない?」 俺の言葉に国木田がひどい齟齬を発生させちまった。こいつが耳年増なことを言ってるのは、人畜無害そうなツラしてるのが原因だろうか。谷口は国木田に、 「バカ言え。こいつにそんな甲斐性があったら困るってよ。ムッツリな奴ってのはそんなんじゃねえ」 「誰がムッツリだ。おいお前たち、いや、アホその一とその二。妙な勘違いしてやがると俺の怒号より先に、ジェットエンジンを積んだ地対地ハルヒミサイルがアホを感知して飛んできちまうぞ。俺はそれの巻き添えを喰らいたかないね」 「勘違い、ねえ」と声を揃える二人。もといアホ供。そのなかでも特にアホな方が、 「……しかしもう一年になるんだな。お前と涼宮が、一緒に過ごすようになってから」 ――この谷口の台詞は、まんま俺が自分の部屋のカレンダーを見て思った言葉と一緒だった。 四月。ハルヒと出会った日付に、俺が記した印。 記憶をなくしちまった異世界の俺は……その印を見て、何を思っているのだろうか。 「俺はなキョン。涼宮とお前が出会ったのは良いことだったと思ってんだ。あいつが奇行をするのは変わっちゃおらんが、中学の頃のそれとはダンチだぜ」 右手を肩の位置ほどまで掲げながら、やれやれとばかりに話す谷口。 ――俺は話の内容より、谷口の姿を改めて見たことによって一つ思い浮かんだことがあった。すぐさまそれを聞こうと、 「……そういえば谷口。お前は、ハルヒとずっと一緒のクラスだったよな?」 「ん? ああ、中一の時から現在進行形でそうだろ。なにを今更言ってんだ?」 「聞きたいことがあるんだが」 もしかして、こいつはハルヒが異世界を作っちまったヒントを知ってるんじゃないだろうかと思った俺は、「あいつさ、中学の頃から宇宙人やら諸々を探し回って、不思議なものと会いたがってたんだろ? それでさ、なにか……他に変わったことしちゃいなかったか? もしくは、あいつの悩みでも願いでもなんでもいいんだ。教えてくれ」 そうだ。異世界じゃそういったハルヒの願いは叶ってる。その世界がそんなイレギュラーな事態になってるんなら、他に……何かがあるはずなんだ。若干の期待を込めつつ聞いた俺に谷口は、 「知るか」 という端的な答えを出した。冷たい言い方に俺がすこし傷ついていると、 「中学の涼宮の行動はオールラウンドに変わってたぜ。それこそ全部が変だったもんで、それがあいつの普通になってたくらいだ。……そりゃ今でも変わんねぇが、高校に入ってから変わったもんが一つあるな」 谷口は、話の後半部分になるとニヤニヤした顔を俺へと向けて話していた。やめとけ。マジモンのアホみたいだぞ。 とは言わず、それは何だと聞き返すと、 「高校に入ってから涼宮に告白したヤツがいたんだが……涼宮は断ったらしい。中学の頃じゃ考えられねーよ。でな、東中出身のヤツらの間じゃ眠り姫伝説ってのがあったんだ」 もちろん眠り姫ってのは涼宮だ。と続けて、 「眠り姫ってのはつまるところ、涼宮が寝ぼけたこと言いながら正気の沙汰とは思えん行動ばっかやってたからさ、皮肉で付けられたあだ名だよ。そんで、あいつが目を覚ますのは、あいつにちゃんとした男が出来たときだって言われてた」 また谷口は俺をアホ面で見ながら、 「涼宮が男をとっかえひっかえしてたのは、いつまでたっても現われやしない王子様を探してたんじゃねえかって噂が立っててさ。で、あいつは眠ったまんまで王子様が誰だかわからねーから、とりあえず全員オーケーしてたんだろって話だ」 「馬鹿言え。ハルヒが王子様を探してる? あいつが全員の申し入れを受けてたのは、単に断るのがメンドーだっただけだろ」 「それは違うんじゃないかな? そっちのほうが面倒じゃん。涼宮さんなら、斬り捨て御免でサヨナラすると思うけど」 「だが……」 ……と俺は言いかけて停止した。谷口の話を聞いて、一つ不安な考えが頭をよぎっちまった。こいつらとハルヒの恋愛観について侃々諤々としてる場合じゃない。 眠り姫。 スリーピング・ビューティ。 まさか……あの、閉鎖空間から抜け出たときの行動をやれなんて言わないよな? ……俺がなんとも言えない気持ちになっていると、 「でもさ、涼宮さんはその人の告白を断ったんでしょ? じゃあ、もう涼宮さんは王子様を見つけちゃったの?」 「――なっ!」 思わず驚嘆の声を発した俺に、 「何驚いてんだよキョン? いつになく素直な反応じゃねえか」 「うん。まるで好きな人に彼氏がいたのが発覚したみたいな反応だったね」 アホがアホなことを言ってきた。こいつらにアホ言うなとは無理かもしれないと思いつつ、 「お前等がアホらしいこと言ってるからだ。あいつに男なんかいやしないし、第一、今でもハルヒは天真爛漫な行動してるじゃねえか。谷口の予測も外れてるってことだ」 そう言うと、谷口は何故か盛大に嘆息した後に、 「噂は噂だ。与太話でしかねえよ。けどな、じゃあなんで涼宮はそいつの告白を断ったと思う? 俺が言うのは業腹だが、そいつは中々の良識人だったぜ。見た目だって悪かねえ」 「そりゃSOS団があるから……」 「ああ、わかった気がするよ。谷口の言いたいこと」 俺の言葉を途中で止めた国木田は、 「涼宮さんは、今度は王子様と一緒になってキテレツな行動をやり倒してるんだね」 「そういうこった」 俺の目の前に二つのアホ面が広がった。 つまり、こいつらは俺が王子様だと言いたいらしい。なんとアホな。谷口、国木田よ。俺が王子様に見えるんなら、俺が跨っている馬はハルヒだぞ。むしろ、俺がじゃじゃ馬に乗っかってるから王子様に見えるのか? 何処をどう見たら、無残に振り回されまくりの俺の格好がそう思えるんだろうね。 俺はそんなことを考えながら二人を追っ払い、少々残念な気持ちをそのまま溜息として吐き出していた。 実を言うと俺は、谷口がこの異世界問題の解決の糸口を持ってきてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。 そう。長門が世界を改変し、俺以外のみんなの記憶が消えちまった時、あいつは俺とハルヒを引き合わせるキッカケをもたらしてくれた重要人物だったからだ。そして、この谷口は―― 残念以外のなにものでもなかった。 そして昼休みになる。俺はいつものトリオでの昼食会を辞退し、文芸部室へと足を運んでいた。 理由なら沢山ある。長門の様子だって気になるし、ポエムだって書かなきゃならない。教室じゃ恋のポエムなんぞ書けるはずもないため、どうせなら部室で長門と肩を並べながら頑張るのも良いかなと考えたのだ。長門にとっても、戦友がいたほうが退屈しないで済むだろうしさ。古泉は……まあ、気にならないわけではないが来てないとしても俺にはどうしようもないことだし、そもそもあいつが学校にまで来れない理由というのがわからん。よって、俺は数ある懸案事項の中で、ポエム作成と長門についての問題を優先して選択し対応することにしたのだ。 そんな雑多なことを考えながら部室へと到着し、扉を開いた俺は…… 「うお」 室内の長門の様子を目に入れて思わず声を漏らす。 「……今日は、本読んでないのか」 長門はこちらへと振り返ることもせず、顔を窓際へと向けたまま、自分の席に閑寂と着座していた。 「長門?」 俺が呼びかけてみても、一ミリの返答すら返ってこない。 「……機関誌借りていいか?」 「…………」 沈黙を了解の合図とした俺はかつての長門を見習い、ポエムの作成に温故知新的な希望をもって小説誌を開いた。 ……が、何故か俺は自分の小説ではなく、長門の小説を読み返したいと思いながらボンヤリとページを捲っていた。 「………ん?」 長門の小説を探していた俺は、機関紙が検索を終えてパラリと閉じられたことに違和感を感じた。なぜなら、俺はあいつの小説を見つけることが出来なかったのだ。 そして何度か再検索してみるものの、一向に長門の小説は姿を見せない。 というより、ない。 それが俺の勘違いでないというのは、目次として記されている作品掲載順序と実際の順番の不一致が証明してくれている。 そう。本来ならあるべきはずの場所に、あいつの小説がポッカリと消えてしまっているのだ。 「………?」 ――なにかがおかしい。嫌な予感がする。何か……とてつもなく大きなものが俺を待っている気配が、この部室内からですら漂っている。 「長門」 もちろん返事はない。しかし、それがもちろんのことになったのはつい先程のことだ。これも、本来なら変なんだ。 「……機関誌なんだが、お前の小説は何処へ行った?」 「…………」 無言で部室の隅を指差す。俺はまるで札を貼られたキョンシーの如く何も考えず諾々とその指示に従い、長門が指差す先へと歩き出した。 「………?」 壁に突き当たった俺は、またもや沈黙と疑問符を浮かべることとなった。 ここには、円筒状のゴミ箱しか置かれていない。 行動の選択肢が一つしかなかったため、俺は何を思うわけでもなく、ゴミを漁るというあまり宜しくない行動に出た。 ……そして思わぬ収穫物を手に入れた俺は、ここで、やっと意識を取り戻すこととなる。 「――誰が……こんなことしやがった」 俺が手にしているのは……長門の小説だ。見事なまでの手際で切り取られたであろう数枚の紙の姿に、俺はそれを認めることが出来ないでいた。 いや待て。待て待て。わからん。不愉快よりも、不可解さが先に来る。 何が起きてる? いつ始まった? どうしてこうなってる? 真っ白になった頭の中で数々の疑問がひしめく中……俺は思わぬ言葉を、紛れもない長門の声で耳にする。 「わたしがやった」 ……は? なにをだよ。 「それ」 俺は手元を見る。そこにあるのは、もちろん…… 「―――長門っ!?」 質問するには不明なことが多すぎた。俺は長門を一瞥し、そして普段とは違うこいつの雰囲気を認識するやいなやすぐさま駆け寄り、あいつの肩を掴みながらあいつの名前を叫ぶ。 「……なっ……お前、どうして……」 そして長門の双眸と目を合わせた俺は……そこにあるものを感じ、狼狽を隠せずにいた。 「今のわたしには、必要ないものだったから」 そう話す長門の瞳の中には…… 何も、存在していなかった。 今つくづく思う。昨日までのこいつには、いや、初めて出会ったときだってそうだ。無感動ながらも、確かに何かが存在していたのだ。 しかし、俺の目の前にいるこの長門には……何もない。あの黒い瞳はまるで乾いた氷のようにくすみ、光を失ってしまっている。初めて俺は……こいつの姿に虚無というものを見て、例えようのない戦慄を覚えた。 何かが起きてる。それは間違いない。この長門がおかしいってのも間違いない。 じゃあ、何で……長門はおかしくなっているんだ? 《あの日》を思い出したからといって、流石にこうまでなるとは考えにくい。ってことは、なにか他の原因でこうなっちまってるんだ。考えろ。どこかに……ヒントがあったはずなんだ。 昨日は何があった。なにかおかしかったところは?(帰り際にあったな)もしかして、長門は誰かに妙なことでもされたのか?(長門が?)じゃあ誰に?(あいつはどうだ)大体、長門をこんな風にして何の得がある?(ある。あいつには)今日何かおかしなところはあったか?(あいつは来ているか?)機関誌は……(最近あいつがずっと読んでたな)。 「……ふざけるな」 これは俺の馬鹿げた思考に対する言葉だ。くそ。何考えてんだ俺は。わかってるじゃないか。 古泉が……こんなことするわけねえだろうが!(機関はどうだ?) ――いい加減にしろ。そうだ、原因を考えたところでどうなるわけじゃない。今必要なのはトルストイ的思考方法だ。 まず、現在一番優先すべきことはなんだ?(そりゃもちろん長門を元に戻すことだ)それを果たすには?(思いつかないね)じゃあどうする。(何が出来る?)俺に出来るのは……(俺に出来ないなら……) 「喜緑さん……!」 あの人なら何か知っているはずだ。確証はないが、もとよりここで俺が無為に思考を巡らせるよりは彼女に何かしら聞いてみた方が上策というものだろう。 だが、ここの長門はどうする? 下手に校舎内を引っ張って連れて歩こうものなら、ハルヒが追尾してきたりだとか俺が破廉恥な輩だという無用の心配が生徒や教師間に蔓延ってしまうかも知れん。そんなもんに構ってる暇などありゃしない。 俺が行動を決めかねていると部室の扉がガチャリと音を立て、 「……おや」 立ち尽くす俺の姿に少々驚きつつ、見慣れたハンサム顔が進入してきた。 「いえ、長門さんが心配だったのでね。僭越ながらここへやってきたわけです。お邪魔なら引き返しますが」 何も聞いちゃいないのに訪れた理由をいつものスマイルで話す古泉に、 「古泉、これ頼む! あと、長門もだ! 俺は今から喜緑さんの所に行ってくる! 理由はすぐ解るはずだ!」 「……ど、どうしたんですか?」 俺は古泉の胸元に長門の小説を押しやり、されるがままにそれを受け取った古泉は当惑しながら俺に説明を求めた。 「何がどうなってるかは知らんが、事態は風雲急を告げまくりだ! よろしく頼……」 一目散に扉へと駆け出していた俺は途中で足と言葉を止め、唖然としている古泉を見ながら、 「……古泉。俺は、お前を信じてるぜ」 たとえ『機関』が――いや、誰が長門をこうしちまったとしても……古泉は、目の前の長門を守ってくれるはずだ。 俺はそれ以上足を部室に留めることなく、一路喜緑さんの元へと駆け出した。 とは言うものの、俺が目指したのは生徒会室だった。目的地に着いた俺はすぐさまドバン!と無作法にも勢いよく扉を開き、 「……なんだキミは。ここはそちらのイカガワシイ部室と違い、ひどく真面目に学内活動に取り組んでいる場所なのだ。無礼な入室の是非は推して測るべきだと思うがね」 突然の闖入者に呆れ顔の生徒会長。少しも怯んだ様子が見受けられないのは感嘆だ。 「そういえば、機関紙の上稿の件があったな。詩集は完成したのかね? もっとも……キミのその様から鑑みるに、期日の延長でも哀願しに来たと考えるのが妥当な判断だが」 肩で息をしている俺に、会長は訝しげに言い放つ。 「……それも頼んでおきますよ」 ちゃっかりしたことを言う俺に、 「ふん。その程度の用件でわざわざ参られては、こちらが困るというものだ。期日を設定したのはそちら側だろう。そもそも今の私は、奇怪な団体に付き合ってる暇など皆目持ち合わせてはいない。この度の生徒会からの要求も実の所、便宜上の活動内容が欲しかっただけなのだ。詩集とやらはあのお祭り女が勝手に決めたことだ。今回、生徒会側はキミたちに契約不履行の罰則を何も提示してはいない。勝手に四苦八苦でも七難八苦でも起こしていたまえ」 会長があまりにも正当なことを言っているのでちょっと逆らおうと思った俺は、 「……少しばかり要求を急ぎすぎだった感は否めませんがね。せめて二学期から活動を求められれば良かったんですが」 「ふん」 いわれのない非難を受けて呆れ返ったような息を吐き、 「キミは喜緑くんの、折角の厚意を無下にするつもりかね。当初の生徒会側の申し入れを提案したのは彼女だ。……理解したのなら、早く退出したまえ。こちらは昼食をロクに摂れぬ程忙しい身なのだ」 「待ってくれ。俺はそれで来たんじゃないんだ……いや、ないんです。喜緑さんはいないんですか?」 「ほう。キミが我が生徒会秘書と謁見したいというのは何故だ」 答えてるヒマはない。いるかいないかどっちかだけ答えてくれ……という俺の質問は愚問だった。清濁併せ持つというか本来黒い会長がこの喋り方だってのは……。 「会長。どうやら彼はわたしに火急の用があるみたいです。すみません、少し席を外していて頂けないでしょうか?」 「……む。私とてヒマではないのだが。キミも良く知って……」 会長にニッコリと微笑む喜緑さん。これ以上会長が話しを続けていたらどうなるかわかったものじゃない。 「……よかろう。だが、手短に済ませたまえ」 絵に描いたような渋々とした風情で歩き去る生徒会長。生徒会活動に精力的なあの人の邪魔をするのは少々気が引けるな。 「構いません。わたしたちはここで、お弁当を食べていただけでしたから」 一転して会長に越権行為疑惑が浮上した。ちくしょう。権力を傘にきて、喜緑さんにちょっかい出してやいないだろうな。 「いえ。会長は素晴しい殿方ですよ?」 明るく言い放っているが、この人は会長の本性を知っているのだろうか。知らないとは思えないが……。 ――って、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃない。 「喜緑さん! あなたに聞きたいことがあるんだ! 長門の様子なんですが……」 急に笑顔のトーンを落とし、喜緑さんは悲しむ口調で、 「……はい。彼女に異変が発生しているのは知っています……その原因も」 ――よし、ビンゴ。当たりだ。原因が判明すれば、後はなんとでも対策は講じられる。 「……あいつはどうしちまったんですか? 多分、誰かに干渉されて――」 喜緑さんはゆるやかに首を横に振り、 「そうではありません。彼女は……禁を破り、死を願ってしまったんです。そして情報統合思念体からの処分を受け、現在の状態に保持されています」 「な……。あいつらが、長門を――?」 ――待て。思念体にとって長門は……世界人仮説を解明するとかいう、進化の希望だったんじゃないのか? それがあいつらの最重要目標だったはずだ。なのに、禁を破っちまったからといってホイホイとあんな状態に変えちまうのか? いや……もしかして、解明の作業には影響しないのだろうか? だがな、だからといって長門をあんな風にしちまうのは許され――って、 「ちょっと待ってください。長門が……死を願っただって? 死にたいなんぞを思ったってことですか?」 喜緑さんは視線を落としながら軽い困惑の色を顔に貼りつけ、 「……はい。長門さんのパーソナルデータが消去されていることから、それは間違いありません」 「長門のパーソナルデータが消えた? ……何となく意味は掴めるんですが、どういうことなんです?」 俺の質問に、喜緑さんはまるでカマドウマ事件をもたらした際のたじろぎ気味な雰囲気で、 「言うなれば……彼女はもう長門さんではないんです。現在の彼女は、いままでの長門さんの行動形式を思念体から暫定的に付加された、素体が一緒なだけの別人なんです。そして……」 更に沈み込み、唇を噛み締めるような様子で…… 「――もう、わたしたちが知っている長門さんが帰ってくることはありません。……彼女の中に存在する思念体は長門さんのものですが、これからどうしようとも……あの長門さんと同一のパーソナルデータが形成されることはありませんから……」 「………うそだろ」 ……喜緑さん。頼むから、そんな顔をしないでくれ……。それじゃ……。 まるで、打つ手がないみたいじゃないか……。 ――打つ手が……ない? いや……あるのか……? 「…………」 俺は揺らめく意識とおぼろになった現実感の中で、懸命に思考を成り立たせようと煩悶していた。 ……大人の朝比奈さんは言っていた。今日、長門の為に《あの日》へ飛ばなければならない、と。 だが、行ってどうなる? ――そう、そこなんだ。この現在は過去の延長なんだから、過去の空白を埋めても今が変わるわけじゃないはずだろ。 つまり……それは、長門がこうなっちまう現在を変えろってことなのか? だが、それは危険なんだ。俺たちは、歴史がどう変わるかなんて予想出来やしない。大人の朝比奈さんにいいようにされちまう可能性があるんだ。それに……。 長門が復調することは、大人の朝比奈さんにとって不利益なんじゃないか? 思念体は俺に、世界の矛盾を消して元の姿に戻さないかと提案してきた。それは、大人の朝比奈さんが消えちまうってことだ。ああ。そうだよ。そもそもが宇宙人や未来人や超能力者の上の繋がりは、純粋な利害関係で目的が一致してたから互いに敬遠していただけだ。思念体が長門を見限った今、『機関』や朝比奈さんの『未来』があいつを助けようなど考えるわけがない。 ……だが、最も頼りになる奴らは、長門を助けることに微塵の躊躇もありはしないんだ。 ――俺たち、SOS団には。 そして、今は俺の判断が一番重要な意味を持っているんだ。長門や古泉、恐らくは朝比奈さんも背後の黒幕から行動を制限されている。俺の行動如何によって、事態はあらゆる方向に進行してしまうのだ。世界の分岐点とやらがあるのなら、今が一番大事なポイントだ。 よく考えろ。俺に何が出来る? 俺の朝比奈さんに大人バージョンの彼女の存在を打ち明けてみるか……もしくは、博打だがハルヒに俺がジョンスミスだと名乗り出るかだ。危険度を考慮すれば前者だが、効果を考えるなら後者だ。どっちに………。 「………くそ」 どちらを選んだとしても、あまり良い結果が出るとは思えない。 ……それに現在俺の中では、上の奴らに向けているものとは別の怒りが大きくなり、思考することを邪魔している。 ――長門。お前は今大変な状況だが、一つ……言わせてくれ。 なにやってんだ。お前は。 死を願っただって? んなもん、願い事でも何でもねえ。お前は、死ぬほど悩んでたんだろうが。それで死にたくなったんなら、なんでこうなっちまう前に俺に言わねえんだ。いや、俺じゃなくてもよかった。ハルヒでも、朝比奈さんでも……古泉でも。そうさ、お前は一人で抱え込み過ぎるから《あの日》を起こしちまったんだろうが。……いや、それは俺が気付くべきだったよな。お前は何も悪かない。 けどな、長門。俺は誓ったんだ。お前に二度と……あんな思いはさせないと。 それはSOS団のみんなだって一緒だ。だから、俺たちはお前の悩みでも何でも共に背負って行きたいんだよ。 だが、お前がそれを教えてくれなきゃ……俺たちは、寄り添いようがなだろうが……。 長門。お前に一番必要なのはさ、自分が抱えてる悩みを仲間に伝えること――――。 ――ドクン。 ……この瞬間、俺の心臓がまるで今始めて鼓動し、その存在を知らしめるかの如く高く鳴り響いた。 「まさか……」 頭の中では、一人の少女の……笑わない仮面が笑ったような笑顔の映像が勝手にフィールインされていた。 「――喜緑さん! あいつは……朝倉はいないんですか!? いや、とにかく聞きたいことがあるんだ!」 慌てふためく俺を見ることなく、喜緑さんは視線を落としたまま、 「朝倉さんは……現在、思念体内に存在していません。彼女のパーソナルデータのバックアップも、失われています……」 「…………」 ――決まった。 俺は、行かなければならない。二度と行きたくはなかった《あの日》に。 そして俺は……二度と会いたくはなかったヤツに、今一番会いたいと感じている。 そう。朝倉は……長門の願いを、あいつの悩みを聞いているんだ。 ……《あの日》はまだ、終わっちゃいなかった――。 第三楽章・臨
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涼宮ハルヒの24 シーズンⅡ~それぞれの休日~ 2キョン4 2ユキ4
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第六章 とりあえずあの未来人…これからは俺(悪)としておく、によると俺はあの二人を何とかせねばならんようだ。 長門なら朝倉と一対一なので大丈夫だろうが古泉はあのアホみたいな顔をした巨人約50匹と戦っている、一匹でも数人がかりなのにな、かわいそうなこった。 やはり俺とハルヒが最初に閉鎖空間に閉じ込められたときと同様、ほかの機関の超能力者は入って来れないようで一人で戦ってるように見える。 俺は走って病院の駐車場に走った、窓から見るに古泉は病院に近いところににいる神人から倒しているようだったので。比較的近くにいたのですぐに古泉の下まで来れた。 「古泉!大丈夫か?」例の赤玉姿なのでやつの状態はわからないので聞いてみた。 「大丈夫です、涼宮さんはのほうは大丈夫ですか?」古泉は非常につらそうに言った。 「ああ、いろいろありすぎたが多分大丈夫だ。半分はな。」手伝えることが無いのはわかっていたがとりあえず聞いてみた。 「半分?まあいいでしょう、あなたが大丈夫だと言うなら大丈夫です。実はほんのちょっと前にわかったんですが、涼宮さんの能力を消去できるツールがあるようです。いったいどこにあるのかはわかりませんが存在していることは確かのようです。できればそれを探してきていただけませんか?恐らく近くにあるはずです。 一応言っておきますが何故わかったのかと言うとわかってしまうのだから仕方がありません。」 そんなモンが近くにあるのか?タイミングがよすぎるだろう。だがここはしかたない。 「わかった、探してくる。それがあれはハルヒは普通の人間戻ってこの巨人どもも消えるんだな?それまで持ちこたえてくれよ」 俺は古泉がニコッと微笑んだように見えた。そして古泉は返事をしなかった。 とりあえずそのツールとやらを探そう、古泉によるとこの近くにあるんだよな、とりあえず情報が少なすぎる、長門なら何かわかるかもしれない。 とりあえず病院内で朝倉と交戦中の長門のところに行って聞いてみることにする、なに場所なら簡単だ、どっかんどっかん言っているところがそうに違いない。なぜ病院が崩れないのかが不思議だ。 朝倉の目的は恐らく俺なので攻撃してくるだろうが長門が何とかしてくれるだろう。全く長門には頼りっぱなしだ。俺は恐らく長門と朝倉が戦ってるであろう場所を目指し走った。 爆音地に着くとやはり朝倉と長門がいた、長居は無用なのですぐに用件だけ伝えた。 「長門!古泉によるとハルヒの能力を消すツールがこの辺にあるらしいんだがどこにあるのかわからないか?」 すると高速で朝倉のどっかの細目の警官のような突きを交わしながらなんと俺のほうを指差した。 何?俺?俺がそのツール?いやいやありえねーよ、そんなわけが無い。まさかそんな真実があったなんて、やっぱ俺の正体も何かしら隠されてたのかー…などと喜んでいいのか悲しんだらいいのかよくわからん状態になってたら長門が「その後ろ。」 やっぱり?でー俺の後ろ?俺の後ろには何も無いぞ?と思った瞬間さらに長門が心を読んでいるのか「もっと。」だと。 なるほどね、ヒントはもらった。 つまりはこの方角のずっと先にあるってことね。「サンキュー長門。」 そうして走り出そうとし後ろを向いたとき、長門がそっと言った。「sleepingbeauty…」 またこれか…今はそんなこと気にしてる場合じゃない。「サンキュー長門」と言いなおしとっとと外に出た。 そして俺が長門の指した方向を見て俺はおどろいた、なんと見覚えのある大豪邸だ、言うまでも無くあれは鶴屋邸だ。 そうするとそのツールとは恐らくあのオーパーツの事だろう、そういえば10cmくらいの棒って…そんなお菓子があったような…、 なるほど。だいぶ話が見えてきたな。などと考えつつ鶴屋邸を目指した。病院から鶴屋邸までは5分も走れば何とかなる。 5分たったころには俺は鶴屋邸に着いた。 とりあえずとっととオーパーツを探そうとしよう。ここも閉鎖空間の範囲内なので誰もいないので大丈夫なはずである。 泥棒のような感じで嫌なのだが世界がかかってると言うことになると話が変わってくる、俺は鶴屋邸に不法侵入…もとい家宅捜索を開始した。 手当たり次第に探すのも効率が悪いので金庫などを調べてみようと思う。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………あれ? 金庫ぶっ壊したり手当たりしだい金目のものを隠してあるような場所を探してみた が見つからない。 30分は探しているが見つからない。 どこにあるんだ、俺はある場所以外を懸命に探していた。 それは鶴屋さん本人の部屋である。 いくらなんでもそれは鶴屋さんに悪いと思ったからだ。 しかしなんとか世界を救うためと自分に言い訳をして彼女の部屋に入った。 そして俺は驚嘆した、なんと例のオーパーツがなんと彼女の学習机の上においてあったのだ、メモのようなものもあった。 「キョン君がんばってくるにょろよ。」 全く…この人には驚かされてばっかりだ。 わかってるのかわかってないのか、なにものなんだろうか。 ていうか何をがんばるのか、その辺を詳しく書いて欲しかったな。 さて長居は無用である、すぐに病院に戻って何とかしなければならない。 古泉を何とかしてやらないとな。 俺は必死に病院を目指し走った。 しかしこれはどうやって使えばいいんだろう、古泉は何も言ってなかった。 ハルヒに向かって振ればいいのか? 1つだけ心当たりがあるのだが…恐らくこれは無いので今は考えないでおこう。 あれこれ考えているうちに病院に着いた。 俺は古泉に一礼し病室へと急いだ。 長門もまだ戦っているようで爆発音が鳴り響いていた。 朝比奈さんは気絶したまま、未来人も腕組んで壁にもたれてて、ハルヒは朝比奈さん(大)と話ていた。 一応聞いてみる。 「ハルヒ、この金属棒でお前を何とか直せるかも知れん。やり方とかわかるか?」 当然ハルヒがわかるわけも無く、首を横に振った。 「おい、そこの未来人。これの使い方わかるか?ていうかわかるだろ。教えてくれ。」 未来人は顔色一つ変えずに「教えない、これは俺の規定事項だ。お前にとってもそうだろう?朝比奈みくる。」 「ええ、そうね。でもこれは私の抵抗、キョン君。あの時の…最初のヒントを思い出して頂戴。」 最初のヒント…白雪姫か。 「わかりました。」 俺は考えた、ここは閉鎖空間であり、長門はsleepingbeauty、朝比奈さんは白雪姫。 やっぱあれか。じゃあこの金属棒はどうするんだろう。今は考えてばかりいる場合ではないような気がする。 何かしらの行動を起こしてみるか。 じゃあやはり学校に言ってみるか。あの時のようにすればいいのかもしれない。 思い立ったが吉日だ。 「おい、ハルヒ。お前外に出る余裕あるか?学校に行ってみよう。何かわかるかもしれない。」 ハルヒは一瞬考えて首を立てに振った。いつも主役なのに空気過ぎないか?お前。 とりあえずハルヒと俺だけの二人だけで学校に向かうことにする。 第七章