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終幕――誰も知らない物語 ◆Wv2FAxNIf. 死の淵から救われたV.V.は、ラプラスの魔と共に多くの世界を見た。 多くの世界の過去を、現在を、未来を見た。 しかしV.V.達の干渉を受けた数多の世界は今、進むべき道筋を変えている。 V.V.達が見た未来と同じ未来は訪れない。 この先の未来を知る者はいない。 故に、ここから先は。 誰も知らない物語。 ▽ 家の前に立っていた。 小洒落たデザインの白い家、紛れもなくスーパー弁護士・北岡秀一の自宅だ。 陽はまだ高いが、閑静な住宅街に北岡以外の人影はない。 道路のカーブミラーから唐突に出現する姿を見られずに済んだのは幸いだった。 北岡は胸を撫で下ろして玄関へ向かう。 しかし、足が止まる。 北岡が所有する車は二台あるが、駐車場にはそのうちの一台しか停まっていなかった。 それはつまり、北岡の秘書・由良吾郎が外出している事を意味している。 バトルロワイアルに巻き込まれる直前の状況を思い返してみれば、北岡は不治の病に侵されてまともに歩く事も出来なかった。 そんな中で北岡が姿を消した――それもゾルダのデッキと共に。 そうなれば、吾郎は北岡を探すだろう。 必死になって、躍起になって、血眼になって探すだろう。 確かめるまでもない、由良吾郎はそういう男なのだ。 吾郎が一人で危険な事に首を突っ込んでいないかと心配していると、耳に良く馴染んだエンジン音が聞こえてきた。 そのまま立っていると、猛スピードで迫ってきた車が乱雑なハンドリングと急ブレーキで北岡の真横に停車する。 車から飛び出して来たのは、今まさに思案していた由良吾郎である。 「先生……!!」 吾郎の目には涙が浮かんでいた。 掴み掛かるような勢いで北岡に接近してきた吾郎は、そのまま何も言わずに俯いてしまう。 「その……ごめん、吾郎ちゃん。 ちょっと、野暮用があってさ」 「いいんです……先生が無事なら、それで」 涙ながらに話していた吾郎だが、ふと顔を上げた。 北岡がこうして真っ直ぐに立ち、普通に会話している事への疑問に数秒遅れで思い至ったのだろう。 無言の問いに、北岡は逡巡する。 「あのさ、吾郎ちゃん……話が、したくてさ。 冗談とかじゃなくて、真面目に聞いて欲しい。 話したい事が、たくさんあるんだ」 「聞きます」 大真面目に即答した吾郎に少し笑ってしまいそうになる。 ほんの数日ぶりだというのに、酷く懐かしく思えた。 何から話したものかと考えを巡らすうちに、北岡は大切な事を思い出した。 「――あ、令子さん!! 吾郎ちゃん、時間は!?」 「何日前の話ですか。 先生の姿が見えなくなってすぐに連絡して、またの機会という事に」 新聞記者・桃井令子。 何度断られてもしつこく食事に誘い、今回初めて了承を得られたランチデート。 千載一遇のチャンスを棒に振ってしまった。 デートをすっぽかすとは、スーパー弁護士北岡秀一にあるまじき失態である。 北岡は露骨に肩を落とした。 吾郎のお陰で令子を待ちぼうけにさせるのは免れたが、今後のデートの誘いが成功する確率は低い。 もっともV.V.に呼び出されていなければ、それこそ待ちぼうけにさせてしまっていたかも知れないのだが。 「まぁ、しょうがないかな」 北岡はそれ程のショックを受けなかった。 心象はますます悪くなっただろうが、それでも諦めずにいれば、これっきりという事もないだろう。 また明日にでも電話を掛ければいい。 直接令子の職場まで会いに行ってもいい。 今の北岡には、時間がある。 「先生……病院はいいんですか」 「……うん、まぁ、その事も話すよ。 とにかく、痩せ我慢とか気休めとかじゃなくて……もう大丈夫なんだ。 俺は嘘吐きだし、人を騙すのも実は結構楽しんでるけどさ。 これはホントだから、吾郎ちゃん涙拭きなよ」 北岡と話しながら、吾郎の目からは滂沱の涙が落ちていた。 それだけ心配していたのだろうし、やはり信じられないのだろう。 ――健康で頑丈な体がある癖に、御主人様が死んだら自分も一緒に死ぬなんて、ただの馬鹿じゃないか……! 少し前に、北岡はそんな事を言った。 相手を殴りたいと思う程度には苛立っていた。 しかしこうして吾郎を見ていると、「そういうものなんだな」と納得出来た。 北岡が死ねば吾郎も、健康だろうと頑丈だろうと関係なく死にに行くのだろう。 そういう生き方しか出来ない人間もいる。 それと同じように、自分よりも他人の命を優先するような道しか選べない人間もいるのだ。 北岡はそれを痛感し、同時に自分が決してそうはならない事を、なれない事を確信している。 思い返していると、やはり不満だとか、後悔だとか、嫌なものが胸に溜まってきた。 相変わらず泣いている吾郎に向けて、北岡は語る。 「敵も味方も、俺の嫌いなタイプだらけだったわけ。 振り回されるこっちはたまったもんじゃないのよ、一人可愛い女の子がいたけど癒しはその子ぐらいだったんじゃないかな。 高校生だし、別にロリコンってわけじゃないから幻滅しないでよね。 あ、その子暫くしたらうちで秘書として雇うかも知れないから。 吾郎ちゃん、嫉妬しないでね」 密度の濃かったあの時間の事を話そうとすると、脈絡がなくなる。 思い付いたままを口に出してしまう。 常に理論武装をしている弁護士北岡らしくない話し方だった。 「けどさ……あの連中は。 あの子に、あんな事はさせなかった。 俺だけだよ、二度も助けられて……二度も、あんな思いさせたの。 ホントに……俺よりよっぽど、まともな奴らだったよ」 もっと先に説明しなければならに事があるはずなのに、上手く纏まらない。 悔しさや、今まで縁遠かったはずの類の感情が先走る。 「先生……もしかして、なんですが」 「何よ」 「…………友達、出来たんですか?」 「……………………冗談よしてよ」 勘弁して欲しい。 緊急時、非常時だったからこその共同戦線であって、そうでなければ関わりたくもない人種だ。 暑苦しい、騒がしい、鬱陶しい。 それなのに少し名残惜しさを感じてしまっている自分にも気付いていた。 実に、不本意ながら。 「とにかくさ……令子さんとのデートもパーになっちゃったし、吾郎ちゃんと話がしたいんだよね。 俺の話を聞いて欲しいし、吾郎ちゃんの話も聞きたいな」 吾郎は涙を拭く暇も惜しんで何度も頷いた。 今は信じていないかも知れないが、話せば必ず聞いてくれるし、分かってくれるだろう。 吾郎から向けられる無条件の信頼を、北岡は心地よく受け止める。 「ありがとね……吾郎ちゃん」 何から話すか、まだ考えていない。 気持ちが日常から剥離していて、普段吾郎の前でどんな態度を取っていたのかまだ良く思い出せない。 しかし不思議と焦りはなかった。 あれだけの事をした後なら、大抵の事は何とかなると思えてしまう。 それに、今日のうちに話し切れなければ明日話せばいい。 明日終わらなければ明後日話せばいい。 「時間は、たくさんあるからさ」 こうして吾郎と過ごす一年後、五年後、十年後を考える。 「もしライダー同士の殺し合いで生き残れれば」という不確かなものではなく、確かに存在する『明日』。 そこにはつかさもいるのかも知れない、狭間や上田もいるかも知れない。 まだ見えない、しかしいずれ訪れるその未来が、とても楽しみだった。 ▽ 夜だった。 自宅マンションに戻った上田はテレビを点け、日付と時刻を確認。 数日が経過していたが、たまたま大学の休みと重なっていたお陰で無断欠勤は免れた。 給与にも評価にも響かない。 軽く涙が出そうになる程度に嬉しかった。 ほんの少し前まで生きるか死ぬかの話をしていたのだが、上田は即座に俗事へ頭を切り替えたのだった。 すぐに大学に連絡を取って手続きを行う。 フィールドワークを名目に大学を長期間空ける、いつもの事であったので電話口の相手も慣れた対応だった。 そしてデイパックに残っていた保存食を口にしてからシャワーを浴び、寝間着に着替えてベッドに潜り込む。 ローゼンの部屋で休んだとは言え、緊張と運動の連続で疲弊し切っていた為、微睡む暇さえない。 時々目を覚まし、適当に冷蔵庫から出したミネラルウォーターで喉を潤してはまた寝直した。 はっきりと目が覚めたのは正午。 翌日ではなく、翌々日だ。 満足するまで寝た上田は大量に炊いた米を貪る。 健康そのもの、男らしくオカズもなしに三合の白米を掻き込んでいく。 その後優雅に身支度を整え、部屋の隅に置いたままだったデイパックに自分のPCを詰め込んだ。 部屋を出て、向かうのは駐車場。 空いた助手席にデイパックを乗せ、上田の愛車・次郎号は軽快に走り出す。 目的地までの道のりは頭に入っているので、ナビや地図は不要だった。 時間もさして掛からない。 「あんれ、上田先生でねーの!!」 到着したアパートの前には、鍋をつつく大家・池田ハル。 それに彼女の配偶者であるジャーミー君に対し、上田は爽やかな会釈をする。 そして開閉した衝撃で取れてしまった次郎号のドアを直した後、アパートの奥へと足を踏み入れた。 ある部屋の前で、深呼吸。 ついでに屈伸をして適度な運動。 テンションが上がってきたのでその場で腹筋も行った。 心を落ち着けてドアノブを回そうとすると、鍵が掛かっている。 四桁の数字を合わせる形式の安っぽい錠だ。 「ふふ……YOU、学習能力がないな。 既に一度、私に破られた事を忘れたか?」 以前使った数字を使う。 カチリカチリと一桁ずつ回していき、――開かない。 「はっはっは、この程度では私の足止めにしかならない」 上田は鞄からメモ用紙とボールペンを取り出し、今確認した四桁の数字を書き込む。 そしてまた一桁ずつ回し、0000に合わせる――開かない。 0000をメモし、0001に合わせる――開かない。 0001をメモし、0002に合わせる――開かない。 0002をメモし、0003に合わせる――開かない。 0003をメモし、0004に合わせる――開かない。 0004をメモし、0005に合わせる――開かない。 開かない。 開かない。 開かない。 三時間後、部屋の前には数字が羅列された大量のメモと外れた錠前が! 天才物理学者らしい完璧な戦術により、部屋への侵入を果たした上田。 見回してみると案の定、ケージの中の亀とハムスターが飢えて弱っていた。 ここが主の不在になった部屋であると、言外に告げている。 「…………」 仕方がないので、無責任な飼い主の代わりに上田が餌を与えた。 すぐに元気を取り戻した彼らだが、上田に感謝する気配を微塵も感じさせない辺りが飼い主にそっくりである。 狭い部屋の中、大きすぎる図体を縮めつつ寝転がってみる。 洗濯物が出しっぱなしになっていたので取り込んでおいた。 下着を観察してみるが、名前の書かれたそれの色気のなさは流石だった。 道すがら購入しておいたわらび餅を食べ始める。 また体を動かしたくなってきたのだが、家具を壊してしまいそうなのでやめた。 不愉快に冷たい壁に背中を預け、ぼんやりと思考を巡らす。 他にも思いつく限りの暇潰しをした。 時折ハムスターや亀がごそごそと動き、外から大家達の声が聞こえる以外は静寂そのもの。 時計がペースを乱す事なく時間を刻んでいく。 窓の外が暗くなっていき、やがて闇に包まれた。 0時。 日付変更線を超えた。 部屋には誰も訪れない。 約束をしていたわけでも、賭けをしていたわけでもない。 だが上田次郎は、納得した。 山田奈緒子という女は、もうこの部屋に帰って来る事はない。 元より覚悟はしていた。 金糸雀達の話でほぼ確信していた。 そして「もしかしたら」という僅かな思いも、ここで潰えた。 持ってきていた封筒と百円玉をちゃぶ台の上に並べてみても、何も起こらない。 「君が来れば、寿司と餃子を死ぬ程奢ってやろうと思っていたんだがな……」 偶然、ただの気紛れで、奢ってやってもいい気分になっていたのだが。 こんな機会を逃すとは、あの女には運がないようだ。 胸がない、金がない、運がないの三重苦である。 「さて……」 上田は気分を変え、鞄からPCを取り出した。 勝手にコンセントに繋ぎ、部屋の中央に鎮座したちゃぶ台に乗せて立ち上げる。 そしてアタッシュケースに詰められていたUSBのうちの一つを接続した。 同時に開くのは新規のWordファイル。 USB内の音声を聞きながら、上田はひたすらキーボードを叩く。 このUSB群が他の誰でもなく上田次郎の手に渡った事には、必ず意味がある。 少なくとも上田はそう思っている。 あの会場で散っていった者達。 彼らの姿を留めて世に知らせられるのは、権威と文才を兼ね備えた上田にしか出来ない事だからだ。 出版、大ヒット、重版出来、映画化、思わず上田の口からは不気味な笑い声が漏れた。 狂ったように回し車を回し続けるハムスター。 脱走しようと足掻く亀。 マイペースなペット達に囲まれながら、上田は悩む。 絶対の自信をもって挑んではいるものの、執筆にあたって心配事は少なくない。 どの程度実名を伏せるべきなのか。 著作権は大丈夫か。 そもそも殺し合いなどという非常識にして悪趣味な催しを、ノンフィクションとして出版して良いものなのか。 懇意にしている出版社はあるが、受け入れて貰えるかは怪しい。 いっそ今流行りのWeb公開というものを考えても良いかも知れない。 何しろ返品や売れ残りの心配をする必要がない点が大変好ましかった。 しかし、一番の不安は世に公開した後にある。 公開したものが本当に世界的なムーブメントを生んでしまったらどうすれば良いのか。 彼らの、そして上田の激しいまでの生き様が上田の筆によって描かれるのだ、その可能性も大いにあり得る。 そうなれば、最も問題になるのは上田を演じる役者だろう。 上田のような完璧な人間を演じられる役者など存在しない、つまり上田自身が上田役として抜擢されてしまう。 日本科学技術大学教授として日々を忙しく生きている身としては、非常に困る。 それに上田の姿が茶の間に流れるとあっては、上田に心を奪われた人々は上田なしには生きられなくなるだろう。 Jiro Dependence Cyndrome――上田がかつて危惧していた事態が実現してしまう。 過ぎたる天才は、時に世界の毒となり得てしまうのだ。 「ふぅ」 頭を冷やした。 天才上田次郎には執筆以外にもう一つ、やるべき事があるからだ。 それは本業の天才物理学者としての仕事――あのバトルロワイアルの間に見聞きした現象の解明だ。 ギアス、自在法、錬金術……挙げればきりがない。 これらを解き明かせば、世界最高峰の科学者のみに与えられる栄誉『科学と人類大賞』の受賞と賞金五千万とんで七千円は手にしたも同然。 著作がますます売れて花の印税生活まっしぐら。 人生の勝ち組待ったなし。 そう、全ての事象は科学によって証明出来る。 超常現象はあり得ない。 上田の基本姿勢であり、山田奈緒子もまたそれを信じていた。 信じようと、していた。 霊能力など存在しないと、自分は霊能力者などではないと、信じたがっていた。 自称霊能力者のペテンにあっさりと引っ掛かる上田だが、本当に揺らぎやすいのはカミヌーリの血を引く奈緒子の方だった。 だから、上田が証明する。 バトルロワイアルの会場で奈緒子を困惑させた多くの出来事を、全て解き明かす。 そうすればあの胸の貧しい女でも、「ありがとう」の一言ぐらいは口にするだろう。 安心して、あのだらしなくかつ色気のない寝顔を無防備に晒して眠れるだろう。 天才物理学者上田次郎。 晴れやかな『明日』を思い描き、今は亡き友人を想う。 ▽ 狭間偉出夫は扉の前に立った。 nのフィールドの中に浮かぶ、無数の扉のうちの一つ。 この扉の先には、狭間が元居た世界が広がっているはずである。 狭間が堕とした高校、魔界。 じんわりと背に嫌な汗が滲む。 狭間はバトルロワイアルを通じて変わった。 しかし過去は変わらない。 世界の在り方が少々変わったところで狭間の犯した罪は消えないし、消えてはならない。 全校生徒の前で魔神皇を名乗り、学校を魔界に堕とした事も。 それに伴って犠牲者が出た事も。 変えようのない現実だった。 この扉を潜り、人と会えば。 糾弾される。 罵倒される。 罪を問われる。 イジメよりもずっと厳しい現実が待っている。 それは、背負っていくと覚悟していても―― 背中を押してくれる者はいない。 思い出が押してくれると言っても、結局押すのは自分だ。 一時だけ共にあった蒼嶋も、既にいない。 ――狭間君ってば、今更こんな事ぐらいでぶるっちゃうわけですかー!? ――シャドームーンよりも学校のオトモダチの方が怖いんですかー!? もし居れば、そんな風に。 歌い出しそうな程に高いテンションでやかましく、狭間を囃し立てて背中を押したのだろう。 しかしいないからと言って、何か変わるわけでもない。 自分の力で、歩いていける。 もう、開けると決めているのだ。 狭間は立ち止まるのをやめ、最初の一歩を踏み出す。 元居た場所――狭間自身の精神世界。 愛に、友情に、全てに飢えたかつての狭間の心を映し出した世界。 負の感情に満ち、汚れて濁った醜い世界。 狭間が蒼嶋のヒノカグツチによって胸を貫かれた地。 目前に控えるのは、狭間が不在の間に体を休めていた『宿敵』。 レイコと共に狭間の精神世界まで踏み込んできた『宿敵』――。 蒼嶋では、ない。 想定していた通りだった。 蒼嶋が死亡した世界と同期され、そして世界は蒼嶋の不在に合わせて“代わり”を立てたのだ。 蒼嶋に代わってレイコの隣りに立つのは、レイコと同じ制服を着た“少女”だった。 その姿を見て、狭間は目を見開く。 優れた頭脳を駆使し、あらゆる可能性を考えていたはずだった。 それなのに、喉から言葉が出ない。 レイコ達もまた驚きを隠せない様子だった。 倒したはずの狭間がほぼ無傷のまま復活したとあっては無理もないだろう。 まして今の狭間は、別人のようなものなのだから。 狭間は深呼吸をしてから、二人に向けて語り掛ける。 「もう、いいんだ」 その一言を契機に精神世界が崩れた。 そして新たに構築される。 凶々しく醜悪だった色が剥がれ落ち、突き抜けるような晴天が姿を見せ始める。 歪んだ世界の残骸が欠片となって舞い落ちるその空間に、陽の光が満ちた。 レイコが狭間に駆け寄り、抱き締める。 「もう一人にはしないから」と涙を浮かべるレイコに――狭間は首を横に振った。 「いいんだ……欲しかったものは全部、貰ったんだ。 色んな人達に、教えて貰った。 僕は、自分で歩いていける」 狭間偉出夫と離れ離れになり、他人として生きていた実の妹・レイコ。 あのバトルロワイアルで彼らに出会っていなければ――レイコに縋る事しか出来なかっただろう。 レイコを巻き込んで、共に堕ちていく未来しか選べなかったかも知れない。 しかし今の狭間は戸惑うレイコの肩に手を置いて、優しく遠ざけた。 そして狭間は『宿敵』に向き直る。 「君の名前を、教えて欲しい」 ヒノカグツチを携えた『彼女』。 蒼嶋が居たはずの、居るべきであった場所に居るその少女は、不思議そうに首を傾げた。 「知ってるはずだよね?」 「それでも、聞きたいんだ。 君の口から……」 訝しんだ様子ではあったが、『彼女』がそれ以上渋る事はなかった。 胸を張り、姿勢を正し、凛とした声で『彼女』は名乗る。 「レナだよ」 改めて、狭間は言葉を失った。 狭間と同じ高校生である『彼女』は、狭間が知る『竜宮レナ』よりもずっと大人びていた。 良く似た容姿を持ちながら、可愛らしい、と形容するよりも美しい、と言った方がずっと近い。 明るい茶がかった髪。 何もかもを見透かすような、静かに燃えるような――それでいて優しい青い瞳。 まさしく『竜宮レナ』が成長していれば得ていたであろう姿を前に、狭間は目を奪われ、言葉を奪われ、立ち尽くす。 これはラプラスの干渉によって、本来独立して存在していた世界同士が混ざり合い、因果が絡み合った結果だ。 よりによって狭間の前に再びレナが現れた事は、奇跡と言う他ない。 敢えてこの奇跡に理由を付けるなら、あのバトルロワイアルで蒼嶋がレナを庇って死んだ為か。 あの自己犠牲が、こうして狭間の居た世界に影響したのかも知れない。 ……分かっている。 どう理屈をこねたところで、『彼女』は『竜宮レナ』ではない。 あの世界のあの時代、あの雛見沢、あの仲間達、そしてバトルロワイアルでの経験、全てがあっての『竜宮レナ』だった。 狭間を魔人皇に――そして人間にしたレナは死に、もう決して戻らない。 狭間達の記憶の中にだけ息づいている。 目の前にいるのは偶然姿が良く似た、名前が同じ別人だ。 それでも―― 「……レイコ、それにレナ」 声を絞り出す。 涙を堪え、声が震えないよう抑え、話し掛ける。 この出会いが、この偶然が、この奇跡が、嬉しかったから。 「僕の話を、聞いてくれないか。 取り返しのつかない事をしたと、分かっている。 全部が元には戻らないし、一生を懸けても償えるとは思っていない。 でも、今は……君達と話がしたいんだ」 全てを知って欲しかった。 縋る為ではなく、共に堕ちる為でもなく、これから並んで歩いていく為に。 二人の女性は微笑み、頷いた。 狭間の声に耳を傾けている。 いつかに蒼嶋が言ったように、狭間の声は確かに他者へと届いていた。 「……ありがとう」 魔神皇になった理由。 魔人皇になった理由。 人間になった理由。 死せる者達の。 DEAD ENDの。 因果応報の。 寄り添い生きる獣達の、物語。 海にも陸にも負けはしない、一点の白すらないこの紺碧の空。 狭間偉出夫は『明日』に向けて、第二の生を歩み始める。 ▽ ――行ってきます。 最後の会話で、そう告げた。 狭間達との一時の別れとは違う、永別。 「さよなら」とは、どうしても言えなかった。 しかし、それが最後になると分かっていた。 分かっていて、「さよなら」から逃げた。 それなら、あの言葉は。 「さよなら」と何も変わらない。 あの時に限った話ではない――別れが多すぎた。 再会は少なく、離別ばかりが積み重なって―― 深夜だった。 街は静かで、通りには誰もいない。 「世界の改変」と聞いて不安になっていたのだが、柊家は柊家のままそこにあった。 帰りたかった家が、目の前にある。 沢山悩んで、生きると決めた。 帰りたいと思った。 だが北岡達がいなくなった今、つかさは心細さで再び揺らいでしまう。 扉の向こうまで同じとは限らない。 同じ名前の別の家族が住んでいるかも知れない。 あり得ないとは言い切れない、そんな不安があった。 そしてつかさの知るままの家族がそこに居たとして、今のつかさを受け入れてくれるのかと。 或いは受け入れられてしまって良いのかと――ぐらり、ぐらりと、自分の中にある芯が揺れるのを感じる。 玄関の戸に手を掛けようとして躊躇う。 自分の手が赤く赤く汚れて見えて、綺麗なものに触るのが怖かった。 腕と首に残った痣が疼いて、扉がとても遠くに見えた。 一緒に帰って来れなかった妹、友達や後輩、新たに知り合った人々を思うと、近付けない。 開けられない。 自分一人が帰ってきてしまった。 手を汚して。 大勢の人に迷惑を掛けて、優しさに助けられて、ここにいる。 だから。 つかさは手にしていたデイパックを抱き締める。 かがみの衣類、こなたの水着、ジェレミアの仮面、アイゼルのレシピ。 持ち帰ってきた『記憶』。 自分は一人ではないのだと、もう一度思い出す。 「……返さなきゃ」 死んでいった人達には、何も返せない。 殺した人達にも、何も返せない。 だからせめて、自分に出来る事を。 あの場で起きた事を、自分のした事を、言われた事を、忘れない。 受け取った優しさを、自分の周りにいる人達に伝えていく。 時が流れれば、記憶を美化してしまうかも知れない。 風化してしまうかも知れない。 けれど優しくされた時の気持ちだけは、きっと残り続ける。 それを周りの人へ渡していく、広げていく、繋げていく。 腕と首に残った痣と一緒に――ずっと、覚えている。 春の陽気。 夏の暑さ。 秋の風。 冬の雪。 幾つ季節が巡っても、この気持ちだけは変わらない。 そして、立派なレディになる。 調理師になる。 北岡の助手になる。 錬金術士を目指してもいい。 後悔を、罪悪感を、自己嫌悪を、何もかも乗り越えていける願いと夢で胸を満たす。 大切な人達の願いを無碍にしない為に、もう二度と自分を嫌わない。 意を決して戸を引くと、開いて光が漏れ出した。 深夜なのに鍵が掛かっていない。 つかさとかがみが行方を眩ませたから――二人がいつ帰って来ても良いように、開けたままにしてくれているのだ。 心配しながら帰りを待っている家族の事を思い浮かべると、目に涙が浮く。 あんなにも重そうに見えた扉は、ほんの少し力を入れただけですんなりと開け放たれた。 扉を開けて最初に目に入ったのは、目蓋を泣き腫らした母。 それに父、二人の姉。 この時間まで帰りを待っていてくれた家族。 世界が変わってしまっても、変わらずに残っていてくれたもの。 自分を無条件に愛してくれる人達。 安心したつかさはその場に座り込んでしまった。 泣くまいと思っていたのに、大粒の涙が玄関を濡らす。 抱き締めてくれた家族の温かさが後ろめたく、そしてそれ以上に嬉しかった。 言いたい事が沢山あった。 話したい事が幾らでもあった。 それでも、最初の一言は決めていた。 「ありがとう。ただいま」 【北岡秀一@仮面ライダー龍騎 生還】 【上田次郎@TRICK 生還】 【狭間偉出夫@真・女神転生if... 生還】 【柊つかさ@らき☆すた 生還】 この物語の結末に幸いあれ。 多ジャンルバトルロワイアル 完結 時系列順で読む Back 終幕――見えない未来 Next IF 投下順で読む Back 終幕――見えない未来 Next IF 176 終幕――見えない未来 柊つかさ 179 新世界交響曲 狭間偉出夫 北岡秀一 178 蒼穹 上田次郎 177 IF
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誰も知らないあなたの仮面◆yy7mpGr1KA ぱらり。ページをめくる音が小さく響く。 ぱらり。ページをめくる感覚が指先に伝わる。 ぱらり。紙とインクのにおいが仄かに漂う。 ぱらり。文字を読み、行間を読み解く。 ぱらり。物語の全てを丹念に味わう。 ぱたん。しおりを挟んで本を閉じる。 最早おなじみになりつつある、サーヴァントがコーヒーを淹れる光景に目を移す。 「食事の後すぐによくそれが読めるね…… ああ、砂糖がなくなりかけていたから買い足した方がいいかもね」 「ありがとう。ふむ、コレは習慣のようなものだからね。内容は二の次、とまではいかないがそう影響はしない。 確かに些かグロテスクといえるところはあるが……それも含めて興味深い」 読んでいた本を収め、自分の分を受け取る。 本のタイトルは『グリム童話集』。先日古物商で購入したものだ。 「シビュラの管理下では刺激の強い物語は殆ど淘汰されてしまった。学術的資料として原典に近い物語を知ることはできたけれど、こうして童話に触れるのは貴重な経験なんだ。 知識としても、物語としても、感覚の調整としても…とても有意義なひとときだ」 かちゃり、とコーヒーをテーブルに置く。 ちらり、とテレビのニュースに目を向け、そこに流れるアイドルの名を視界に収める。 「『シンデレラ』も希釈され、大きく形を変えた物語だ。魔法使いの生み出すカボチャとネズミの馬車が有名だが、この童話集にはどちらも登場しなかった。 魔法使いの代わりに小鳥がシンデレラにドレスや靴を与えていたよ。そしてその小鳥はシンデレラの二人の姉が王子を騙そうとする不正を暴く。 さらに姉妹の眼を啄んでシンデレラの周りから二人を完全に追いやり、彼女を幸せにする」 本を手に取り、きちんと本棚の一角に収めつつ語り続ける。 「〈小鳥〉とは〈臆病な大衆〉の象徴。〈目〉は邪視に始まる〈悪意〉、〈罪〉を意味する。体の一部を啄むのは鳥葬による罪の浄化、ひいては〈死〉のメタファーだ。 つまり原典における『シンデレラストーリー』とは罪を負った人間を大衆が死罪にすることで幸せになること、とも解釈できるわけさ」 「……そう聞くとさほどおかしなものではないね。描写は大分残虐だったけど」 少しだけ目を通した物語を思い返し、その描写も想起して僅かに眉をしかめる。 「専門家が耳にすれば鼻で笑うようなものかもしれないがね。象徴学なんかは専門じゃないんだ。 ……ちなみにその象徴学でネズミは疫病を媒介する死の象徴で、カボチャは愚鈍の象徴だ。昨今のシンデレラは死に引き回される愚者であるという解釈も成り立つのさ」 照れ隠しか、愉快なジョークでも口にするのか笑みを浮かべている。 「残虐だからと大切な本質を切って捨て、見た目を華美にすることに囚われて滑稽な物語を紡ぐ。実に愚かしいと思わないかい?」 それは物語のことでもあり、人間のことでもある。 そう、目で語る。 「ここにきて幾度か食事を楽しんだ。シビュラの管理下での食事は99%以上がハイパーオーツという麦を基にした合成食品なんだ。 もしかすると今まで生きてきて本当に『食事』をとったのは初めてかもしれない、そう思ったよ。そのくらいここでの食事や君の淹れてくれたコーヒーは……美味しかったよ。 栄養価やバランスと言う意味では間違いなく合成食品の方が格段に優れているにも関わらずね」 「それは光栄だね」 簡素に答え、二杯目を注いだり配達物に目を通したり。 無関心気に、しかしその実噛みしめて、耳を傾けて。 「童話はより童に向けた物語になった。食事はより効率的になった。しかしその過程でより本質的な何かを失ってしまっている。 ……人間もまた、その本質を見失っているんじゃないか」 原典の童話に描かれるような人間らしさを。 だからこそ興味がある。 NPCとは人間か?人形か? 自らの意思を、人間らしさを彼らは保持しているのか。 「だとしたらこれはその人間性の発露、といえるかな」 「ん?なにかな」 フェイトが手に取ってみせたのは配達物の中にあった封筒。 聖杯戦争参加者の皆様へ、と書かれたその封筒の中身はジョーカーと言うマスターに対する討伐令。 「こんな序盤から討伐令が出されるほどの違反。よほどの問題行為をやらかしたんだろう」 「……確かに機械的に従うことはしない、自らの意思で振る舞う人間らしい行動と言えるかもしれないね」 届いた書面に目を通し、その意図を吟味する。 「何らかの違反、もしくはルーラーに対する反逆行為をした者がいるわけだ。 その動機は…ルーラーや聖杯戦争に対する反抗なのか、それとも無関係で身勝手な振る舞いの結果なのか? 反抗であるならば『聖杯戦争』という現状を受け入れ難いか、もしくはただルーラーが気に入らないだけの単純なものか」 「幼稚な反抗であってほしくはないね。できれば僕の知るような義憤でもって反旗を翻す革命家であってほしいと思うけど…」 かつての友、造者主の唱えた救世を否定し、退けた英雄。 その父親、彼もまた造物主との戦いに勝利した偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)。 彼らのように殺し合いと言う現状を打開しようとした者ならば興味もわくが 「そうではなさそうだね」 「恐らくはそういった意思や思想のあるものじゃない、ただの犯罪行為でしかないだろう。 白塗りの雑なメイクに加えてジョーカー、道化師という通り名。そして早期での違反行為…… キラー・クラウン、殺人ピエロと呼ばれた男がいる。33人を強姦し、殺害した連続殺人犯だ。 ジル、あるいはジャック・ザ・リッパーしかり悪名高い犯罪者にはこうした通称のようなものがつくことがある。 ジョーカーと言う通称もそれではないかな。具体的な所業は分からないが、まず間違いなく典型的な無秩序型の犯罪者」 「だとすると、ただサーヴァントという力に酔ったというわけではないか」 断片的な情報から手配された男について考察。 容貌に加え、違反行為。バーサーカーという戦術構築においては戦力外のクラスにもかかわらずルーラーに処断されず、マスターに討伐令が下されている。 日常的に犯罪行為を行ってきた人物であろうと二人、共有する。 接触するか無視するか、褒賞に見合う程度の相手か。 「動機は……物欲型や支配願望型の線は薄いかな。それなら聖杯戦争に違反するほどの動きにはならないだろう。 神からの啓示などといって浮浪者や売春婦などに手を出す幻想型?滅ぼすべき集団がいると勝手に決めつける使命思考型? これらも物欲型などと同じ理由で考え難い。 となると、快楽型か承認欲求型……もっとも不規則で理不尽な動機だ。それこそ、ルーラーに対して犯罪行為を行ってもおかしくない」 「分かりきったことだが、こうして要素を並べるととんだ危険人物だね……行くのかい?」 「『人間は人間にとっての狼である』。狩る者であり、同時に狩られる者でもあるんだ。それは個の意思と欲求で決まる。 ジョーカーはきっと誰よりも己の意思を貫いている『人間』だ。原典の童話に描かれるような残虐で自由な『人間』だ。 彼は僕らにとって狩る者なのか、狩られる者なのか、それを見分けることができる者なのか。 その思想、意思、能力……とても、惹かれる人物だ。彼が承認に飢えているならば僕がそれを満たそう。ぜひ会って話してみたい」 この世に孤独でない人間などいない。 だからこそ人は人を知ろうとする。 フェイト・アーウェルンクスがネギ・スプリングフィールドに関心を抱いたように。 槙島聖護が狡噛慎也に興味を抱いたように。 ジョーカーもまた誰かを求めているのではなかろうか。 見せつけたい相手は特定の誰かなのか、不特定なのか。 それは……『槙島聖護』でも構わないのか。 「了解、マスター」 「では行こう。幸い縛られるスケジュールはもうない」 聖杯戦争の参加者に与えられる仮初の身分。 再現されたセーフハウスと同様槙島聖悟にもそれは与えられていた。 池袋近郊の女子校の教師。それが彼の『東京』における役割…のはずだった。 しかしすでにその職は辞している。 安定した収入や人脈を長期にわたって得られる職というのは数年単位で見れば魅力的かもしれないが、この聖杯戦争が数年にわたるということはまずない。 ならば日雇いの労働など即座にリターンが得られるものに従事する方が今は賢明だ。 この広い東京で職を辞する程度でマスターだとばれる危険は薄い。 もしばれるならそれは情報収集に相当長じているか身近にマスターが存在するということ。演じることで浪費する時間や労力を別のことに向けた方が有意義だ。 物品や住居などはもともとの自分の持ち物と変わらないのだから社会的地位のように捨てはしない。 しかし誰かが定めた職に就くなどという、かつて見てきたシビュラの奴隷のような真似はごめんだった。 だから己の意思で辞めた。 そうして得た自由な時間。 今まではNPCで色々試そうと準備を重ね、これから本格的に動こうとしていたがジョーカーのことを知った以上そちらを優先する。 NPCはいくらでもいるが、ジョーカーはもしかすると話す前に誰かに倒されてしまうかもしれないのだから。 準備の一つ、買い込んだ工具から釘打ち機と釘を取り出し、愛用の剃刀と共に持って出ようとする。 「君は僕の知っている教師とは随分違うよ…… ああ、行くのは構わない。向かうのはここに書かれた場所だよね?でもこの手紙をどこまで信用していいものかも考えた方がいいんじゃないかな?」 「……裁定者のサーヴァントというはそこまで信を置けないのかい?」 「聖杯戦争もルーラーも皆平等にスタートなんて妄言、まさか信じないだろう?」 マスターの能力の差異はさておき、与えられるサーヴァントの実力差。 個性など言えば聞こえはいいが、こと単純な戦争ならばセオリー通り三騎士が有利。 参加者ごとの仮初の身分。 拠点に物資、職と大きなお世話も交じっているが恵まれている。しかし他全ての主従がこうであるとは限らないし、職が変われば生活スタイルも変わる。 それは戦争における時間の浪費と言う不平等を生み出す一因となる。 手紙を読むタイミング。 情報と言うのは刻一刻と価値を変える。 この手紙が届いたのは昨日配達物を確認してから次に確認するまでの間のいつか。 もしかすると昨晩の段階でこれを知った参加者がいるかもしれない。 もし今朝忙しくてこれの確認ができなかったなら、討伐令のことを知ったのは今日の夜にまでもつれ込んだかもしれない。 「確実に知らせるなら念話に映像投影、使い魔などを僕なら使う。それができなくとも直接手紙を渡すなりして参加者の認識の差異をなくすべきだ。 にもかかわらずこの形式。褒賞の香りは確かに甘いけど、その下に毒があるんじゃないかと勘繰ってしまうね」 「手紙の内容にも何らかの意図や差異があるかもしれない、か」 容姿を知ったことがマイナスになる可能性はある。 このピエロメイクは誰にでも真似できるものであり、逆にこれを解かれては誰がジョーカーか分からない。 NPCにメイクをして囮にされてしまうかもしれないし、メイクをせずに大衆に紛れての不意打ちなどを許してしまう可能性もある。 居場所の候補は有効な情報かもしれないが…… 既にジョーカーが移動していた場合無駄足になる。 むしろ当てなくさまよう参加者が有利になることもないとは言い切れない。 情報は生ものだ。 時間が経ち腐ったそれの価値は激減する。 にもかかわらず伝達に遅れの生じる可能性のある手紙を用いた。 知らないという罪と不要な情報を知り過ぎる罠。 どちらも不利。 悪法もまた法なら悪平等もまた平等。そんなひねくれた仮説まで浮かんでしまう。 それを踏まえると…… 「ジョーカーのことを知られたくない参加者、もしくは優先的に知らせたい参加者、あるいは褒賞をあたえたいお気に入りがいる。 だが全員に討伐令を知らせないわけにはいかない。逆をいえば討伐令さえ伝えれば最低限問題はない。 手紙に何か付記されていたり、逆に何か欠けていることがあるかも。確実に読んでほしければ手渡せばいいし、知られたくないなら乱雑に放って置いてもいい。 つまりこの手紙も通達以上の意図が籠められている可能性があるということか」 「ジョーカーを探す、という方針はいいよ。ここは工房敷設に向かないから、引き続きの外出はキャスターとしても望むところだ。 ただこの手紙をどこまで信じるか。丁寧に配達されたとみるか、粗雑に手渡されなかったとみるか」 僕らをジョーカーと接触させたいのか、させたくないのか。 あるいは警戒されているのか、贔屓されているのか。 もしくは……ルーラーサイドが何らかの理由で僕らとの接触を避けた、あるいは避けさせられているのか。 「もっと言えばこれが本当にルーラーからの手紙なのか。封と手紙さえ用意すれば偽造することも難しくはなさそうだよ」 「さすがにこれは本物だろうね。次からは警戒の必要もあるし、今後僕らが偽造することもあるかもしれないが」 僅かながら手紙への疑心。 根本になるルーラーへの、聖杯戦争への不信。 警戒心は高まる。 しかしそれでも彼の意思は変わらなかった。 「『この世は舞台である。誰もがそこで一役演じなければならない』。 台本通りに動くだけでなくアドリブで魅せるのが名優だ。思い通りに動く演者などそれこそ人形で十分。 ここがデウス・エキス・マキナの掌の上でも僕はハムにもマリオネットにもなるつもりはない。己の意思で動くだけさ。 この情報を知らせるのがただの役目ではなく誰かの意思ならば、僕はその真意も知りに行きたい」 「……決まりか」 そこに意思があるならば、たとえ神でも問い質してみせる。 それが槙島聖護の意思。 【A-2/新宿区、歌舞伎町のマンション/1日目 朝】 【槙島聖護@PSYCHO-PASS】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]剃刀、釘打ち機 [道具]釘打ち機のマガジン×2 [所持金]裕福 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を楽しみ、そのなかで様々な『人間』の意思を確かめる 1.ジョーカーに強い興味。会って話してみたい 2.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる 3.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい [備考] ※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。 ※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。 ※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。 ※池袋近郊の女子校の教師として勤めるはずでしたが辞めました。 ※NPC相手に色々試す準備をしていました。釘打ち機はその一環です。 他にどんなことをしていたかは後続の書き手さんにお任せします。 【キャスター(フェイト・アーウェルンクス)@魔法先生ネギま!】 [状態]健康 [装備]指輪(魔法の発動体) [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:戦いと、強い意志を持つ人間を求める 1.ジョーカーに関心。ショーゴと共に探す 2.工房敷設に適した霊脈を見つける 3.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる 4.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい [備考] ※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。 ※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。 ※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。 [道具解説] 釘打ち機@現実 通称ネイルガン。 装填数20発、使用空気圧2MPaくらい。威力はコンクリート壁に穴をあけるくらい。 マガジン交換で釘をセットするタイプなので、カバーあけてマガジンを排出・セットすればすぐにリロードできる。釘のサイズは32~50mm。 射程距離は20mくらい、ただしまともに狙える有効射程距離は10mもあればいい方。 本来は先端に何かがふれていないと釘を打てないので銃器のようには使えないのだが、先端スイッチを改造することでフルオートでの発射が可能となる。 PSYCHO-PASS一期で槙島および手引きされたヘルメット集団が主に飛び道具として用いた武器。 現実出典とするがイメージはそこ。 BACK NEXT 010 シナリオフック 投下順 012 私の鳥籠の中の私 008 Who is in the center it is chaos? 時系列順 012 私の鳥籠の中の私 BACK 登場キャラ NEXT 000 DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 槙島聖護&キャスター(フェイト・アーウェルンクス) 019 GOSSIP→PERSONA
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『誰も知らないけど失敗してました』 こう見えて、忠汰は、よんた藩王に恩義を感じている。 国民が少ないからというのはもちろんあるだろうが、それでも、封土目当てに訪れた人間を即決で拾いあげ、土地を与えるなどということは、なかなかできるものではない、と思っている。 それに恩人の仇討のために戦おうとする姿勢もいい。過去をみれば、その手の動機で始まった戦争はろくなものではないと思わなくもないが、まぁ、友誼に応えて命を張ろうというのは、素直に格好いいと思う。人も物も金もないくせに。 だから忠太は、(もらえる予定の)封土分ぐらいは働かなくては、と決意した。 何か役に立とうと、今、よんた藩国に必要なものを考えたのである。 資金は…自分では無理だ。 資源は…自分では無理だ。 犬士は…イッパイいる。 国民は…そうだ、人が少ない、人を集めよう!! ------------ ふと、ちゅ~たは思い出した。身内も勧誘できないヤツが赤の他人の勧誘などできるか!と、保険会社に就職すると第一に言われるらしい。うん。もっともだ。じゃあ自分も身内→昔の友達でも試しに勧誘してみるか。久しぶりに連絡をとるいい機会だし。 その日の授業が終わった後、さっそく旧友X君にメールしてみる。 このX君、変なこだわりと思いがけない行動力を持った大変ユニークな人物である。 かつてガンパレでソックスハンターと絢爛舞踏を同時にやった事とオレより先にリアル彼女を作った事以外はちゅ~たの中では評価はかなり高かった。 ちなみに彼は陸上の長距離もしていた。今思うとまんま野口やん。 実に1年ぶりの連絡である。まずは様子見だ。 ち「久しぶり~。どう?第二次黄金戦争参加してる~?」 X「あ、また儀式魔術やってるんや。毎回終わったのをまとめて流し読みするだけやわ」 ち「あ、今なら新人さん大募集してるよ~。とりあえず覗くだけでも覗いてみたら?」 X「ふーん。まぁ、仕事終わったら見てみるわ」 よし!この段階で、ちゅ~たはX君の勧誘は8割方成功するだろうと思っていた。X君アイドレスに興味持つ⇒ちゅ~たにメールが送られてくる⇒ちょうどオレも新しく藩国に参加した所やから一緒にどうよ?⇒よんた藩国にX君勧誘成功!という予定である。 ところが、二日経ってもメールが来ない。 仕事忙しいのかな、アイドレスに興味を持てんかったんかな、などと思っていると、 三日後の昼に X「とりあえず国民登録して、アイドレス始めてみたw」 … …… なんですと?! そう、ちゅ~たは忘れていたのだ。 彼は、X君は、 突然単身でオーストラリアへ放浪の旅へ出るほど行動力バツグンなのだ!! (ちなみにこの時、豪州の地で死んだらMDプレーヤーを譲ってくれるという約束があったが、一月ほどで無事帰ってきた。) …彼がどの藩国になんという名前で所属しているのか、あえて聞きはしませんでした。 ただ、同じく帝国だそうなので、敵ではナイということだけでよしとしておこうと思います。 --------------- こうして、誰も知らないところで、忠汰は藩王の恩義に報いることが出来なかった。 で、うなだれていた忠汰だったが、 ふと、顔を上げて、つぶやいた。この話を文章にしてやろう。そんでもってわずかでもなんか貰おう。じゃないと藩王に合わせる顔がない… (文:忠汰)
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『誰も知らないけど失敗してました』 こう見えて、忠汰は、よんた藩王に恩義を感じている。 国民が少ないからというのはもちろんあるだろうが、それでも、封土目当てに訪れた人間を即決で拾いあげ、土地を与えるなどということは、なかなかできるものではない、と思っている。 それに恩人の仇討のために戦おうとする姿勢もいい。過去をみれば、その手の動機で始まった戦争はろくなものではないと思わなくもないが、まぁ、友誼に応えて命を張ろうというのは、素直に格好いいと思う。人も物も金もないくせに。 だから忠太は、(もらえる予定の)封土分ぐらいは働かなくては、と決意した。 何か役に立とうと、今、よんた藩国に必要なものを考えたのである。 資金は…自分では無理だ。 資源は…自分では無理だ。 犬士は…イッパイいる。 国民は…そうだ、人が少ない、人を集めよう!! ------------ ふと、ちゅ~たは思い出した。身内も勧誘できないヤツが赤の他人の勧誘などできるか!と、保険会社に就職すると第一に言われるらしい。うん。もっともだ。じゃあ自分も身内→昔の友達でも試しに勧誘してみるか。久しぶりに連絡をとるいい機会だし。 その日の授業が終わった後、さっそく旧友X君にメールしてみる。 このX君、変なこだわりと思いがけない行動力を持った大変ユニークな人物である。 かつてガンパレでソックスハンターと絢爛舞踏を同時にやった事とオレより先にリアル彼女を作った事以外はちゅ~たの中では評価はかなり高かった。 ちなみに彼は陸上の長距離もしていた。今思うとまんま野口やん。 実に1年ぶりの連絡である。まずは様子見だ。 ち「久しぶり~。どう?第二次黄金戦争参加してる~?」 X「あ、また儀式魔術やってるんや。毎回終わったのをまとめて流し読みするだけやわ」 ち「あ、今なら新人さん大募集してるよ~。とりあえず覗くだけでも覗いてみたら?」 X「ふーん。まぁ、仕事終わったら見てみるわ」 よし!この段階で、ちゅ~たはX君の勧誘は8割方成功するだろうと思っていた。X君アイドレスに興味持つ⇒ちゅ~たにメールが送られてくる⇒ちょうどオレも新しく藩国に参加した所やから一緒にどうよ?⇒よんた藩国にX君勧誘成功!という予定である。 ところが、二日経ってもメールが来ない。 仕事忙しいのかな、アイドレスに興味を持てんかったんかな、などと思っていると、 三日後の昼に X「とりあえず国民登録して、アイドレス始めてみたw」 … …… なんですと?! そう、ちゅ~たは忘れていたのだ。 彼は、X君は、 突然単身でオーストラリアへ放浪の旅へ出るほど行動力バツグンなのだ!! (ちなみにこの時、豪州の地で死んだらMDプレーヤーを譲ってくれるという約束があったが、一月ほどで無事帰ってきた。) …彼がどの藩国になんという名前で所属しているのか、あえて聞きはしませんでした。 ただ、同じく帝国だそうなので、敵ではナイということだけでよしとしておこうと思います。 --------------- こうして、誰も知らないところで、忠汰は藩王の恩義に報いることが出来なかった。 で、うなだれていた忠汰だったが、 ふと、顔を上げて、つぶやいた。この話を文章にしてやろう。そんでもってわずかでもなんか貰おう。じゃないと藩王に合わせる顔がない… (文責 忠汰)
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作詞:40㍍P 作曲:40㍍P 編曲:40㍍P 歌:Fukase 翻譯:黑暗新星 誰也不知道的幸福結局 很久很久以前。 在某個地方有一個老爺爺和一個老奶奶, 在小小的家中度過著簡樸的生活。 在河邊洗衣時,突然有巨大的桃子順水流來。 在山上砍柴時,突然發現了閃著光芒的竹子。 ……但並沒有發生這樣的事情, 只是度過著平穩的每一天。 住在同一個家中,吃著同樣的米。 雖然沒有任何一件戲劇性的事情。 但那對兩人來說也是美妙的故事。 晚安。可喜可賀,可喜可賀。 很久很久以前。 在某個地方有一個老爺爺和一個老奶奶, 在小小的家中度過著簡樸的生活。 被救下的海龜帶著前往龍宮城。 在老爺面前讓枯樹綻放美麗的花朵。 ……但並沒有發生這樣的事情, 只是度過著平常的每一天。 一同度過歲月,皺紋也不斷增加。 雖然回過頭去就連腳印也沒留下。 但那對兩人來說也是美妙的故事。 早安。故事開始,故事開始。 不去尋找遺失的東西,也不去尋求讓他人注意自己。 只是將微小的幸福, 互相分享著一路走來。 那一天與彼此相遇,與彼此墜入愛河。 雖然並沒有期待戲劇性的事情。 還請讓兩人輕輕地度過平靜的每一天。 直到陷入永眠之日為止。 晚安。可喜可賀,可喜可賀。
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アノトキアノバショデボクトキミハデアッタ。 ヨルニナルトヘンシンスル。 マンゲツノトキハヨウチュウイ。 オモイダセルカ...ゲッコウヲアビナガラギラギラヒカル メ ハコワクテ、ワライダシソウナクライ、ブキミナヨルヲ。 ソノトキハモウニゲラレナイ、アソビ・・・エイエンニ、 コワガラレテモシカタナイ、ボクハソゥアクマナンダカラ。 アクマッテイッテモタダノオオカミガノロイヲウケテ、ソノオオカミガ ボクナノダカラ。マジョカカミサマニ、シメイヲアタエラレタ。ソレハ キミトバクガデアウコト。 キミハデアッテシマッタコノボクト。 モウニゲキレナイアンコクノセカイヘヒキズリコマレルゾ モシニゲラレタラ、ニガシタナラバ・・・アクマハニガシタニンゲンノカワリニアンコクノセカイヘイクコトニナッテシマウ。 ――――ボクハナンダカワカラナイ、セカイヘイクノハイヤダ。 ズットヒトリデハナクテ、オクテナボクノジブンノセカイヘヒキコモリタイ。 ヒキコマセタインダ・・ キットカミサマハオコルダロウ?ソウイウコトナラバ、 ボクガキミヲボクノ、ジブンダケノセカイヘ、 ヒキコンデシマエバイイ。 キットカミサマハオコルダロウ? ケレド、ムダダオコッタッテ ボクガキケルマイ。 ジブンノセカイヘハイッテシマッタボクハ ゼンセイノアルカナタビダチニデル。 ソウ、モウボクハ14サイ。 ――――。シッテイルカ。 アクマガイキカエレル、シケンヲウケルニハ14サイノタンジョウビ。
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nonsubject―誰も知らない御伽噺― 作者:you 「お前には選択肢が3つある。 一つ目は、このまま死ぬこと。 二つ目は、あの女のような吸血鬼として生きること。 そのどちらも嫌だというのなら――」 nonsubjectシリーズその2。 魔法省調停課の面々の関わる事件を中心とした、一話完結モノ。 各話によって視点は異なるが、シリーズ通しての主人公はナギサ。 ちなみに、当初の予定では主人公はキリサキだったとか、何とか。 First:「廃墟にて」 少女は真新しき廃墟の街を駆ける。 かつて、家族や友人だった『モノ』達に、追われて。 Second:「その真実」 当たり前の日常というモノは、いつだって、あっさりと終わりを告げる。 仕方ないことだよ、と彼女は言うけれど。私だって、そう思うけれど。 やっぱり納得いかない。 私はただ、一時の安息が欲しかっただけなのに。 この世界を統べる神――あるいは愚者と言い換えてもいい――は、私にそれすら許してはくれない。 全くもって、身勝手だ。 interlude:「交渉」 魔法省に訪れる、一人の少女。 調停課課長・カエデ?と、ルーキー・ヒロが応対することとなったその少女は、人類の恐れる「災厄」の一人だった。 彼女が極東の地、日本に訪れた理由は、果たして……? 以下未定。 関連項目 nonsubjectシリーズ 魔法省 調停課 ナンバーズ 関連人物 ナギサ キリサキ ヒロ キキョウ 明菜 紫乃 フィフス
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黄の王国に 双子が生まれた 女児と男児 だが、その男児は男になる事は出来なかった 子を成せない男、欠落した男児を王に据える事はできない ならば 女児を王女に。 男児は召使に。 同じ顔なら、いずれ身代わりにも使えるだろう 生まれたのは女児一人だけ そういう事にしてしまえば良い 王家に劣悪なる血が生まれたなど、あってはならないのだから 悪 ノ 召使 僕たちは双子だった。 よく覚えている。二人だけで遊んだ日々を。 あれは、いつの事だったろう。 大人たちが、遊んでいる僕たちを引き裂いた。 積み木が、乾いた音を立てて崩れた。 君は、連れて行かれる僕を呆然と見ていた。 引き裂かれて数年が経った。 僕は召使として教育され、孤獨の中をただキミの姿だけを思う。 そしてついに出逢った。 真赤なドレスを着た王女。 キミは――― 「よろしくね」 ―――そう言った 「よろこんで」 僕はそう答えた。 もう名前で呼び合う事が無くても キミと触れ合う事さえなくなったとしても ただ、キミは居てくれたなら キミの側に居れたなら それだけで 何もいらない 君は王女 僕は召使 それだけで充分。それ以上、何を望む? だから、君が君であるためならば 僕は―――君を守り続けると誓う 僕は君の召使。 不完全な僕は、君にすべてを押し付けてしまった。 ならば、僕は君が笑い続けられるように生きていこう。 喩え、悪となってでも。 君との再会から数年が経ち 君と共に隣国へと行った時 緑のドレスを着た女の子が 僕に微笑んだ 豪奢で寂しい城しか知らない僕は その柔らかい笑顔に 生まれてはじめて 恋をした でも、緑の彼女の隣に居たのは 青い髪の男 海の向こうの国の青 その青は、王女の思い人 青と緑の恋が 仲睦まじげなその二人から感じられた 王女は何も言わなかった でも、その瞳の奥に冷たい炎が滾っているのを 僕は 知っていた 「緑の国を滅ぼしなさい」 そう大臣に告げた後、君は僕に向かって言った 「あの女は 生きていてはいけないと思わない?」 その瞳は 言葉以上の意思を 僕に伝える 僕は、君に頭を垂れた 君がそう望むのなら、僕はそれを叶えよう 脳裏に浮かぶ、あの柔らかな笑顔 赤い絨毯に音も無く染みた水 僕は、自分が泣いているのだと 気付いた 赤い鎧を着た女剣士。 近衛隊長をしていた女傑の剣士。 彼女が、烏合の民を率いて城を目指している。 長年に渡る戦で、兵は疲弊していた。 戦慣れしていない民に推されてしまう程に 近づいていた。 破滅の足音が。 これが報いなのだろうか。 この国への 君への 僕への そしてその報いが、君の命を奪おうというのなら 僕はあえて それに抗おう まだ新しい給仕服を持って、僕は王女の部屋の扉を開けた 気丈な振りをして、それでも怯える君 僕は、持っていた服を差し出した 「僕の服を着て、早くお逃げください」 君は、驚いた顔をして、僕を見た。 「幸い、僕たちは双子です。召使の格好をしていたなら、誰にも分からないでしょう」 君は、泣いた 安堵なのか、気が抜けたのか、それとも――― 「大丈夫だよ、リン」 僕は、そっと君の肩に僕の上着をかけた。 「ほら、泣かないで。早くしないと、誰かが来てしまう。だから」 僕は、髪を結っていたリボンをほどいた。 そして、君の髪留めを外す。 リボンで、君の髪を結った。 「ね。見てごらん、リン。こうしたら僕そっくりだよ。だから安心して」 君は、うなずいた。 そして、僕は君の最後のお召し替えをした。 絹の絢爛な黒のドレスから、使用人の粗末な男物の服へ。 そう。これが、最後のお召し替え。 最後に、わざと髪を乱し、これで僕と見分けがつかなくなる。 「レン」 ―――ありがとう そう言って君は、泣き笑いの顔をした。 ―――どういたしまして 僕は、そう答えた ―――後でまた会おう 僕はそう 嘘 をついた ―――どこで? そう君は聞いてくる ―――じゃあ、城下の広場、その西のはずれで ―――わかった。待ってるから 僕は、クロゼットを開ける クロゼットには、秘密の抜け道 それは、城下の郊外にある森へと続いている 抜け道の入り口をくぐりながら、君は僕を振り返った そして、僕の手を握る 「レン。絶対待ってるから」 そう言った君は、王女の君じゃなく―――引き裂かれる前に触れ合った―――リン 「リン。絶対追いかけるから」 追いかけたりは出来ない。また、嘘をついた。 抜け道を進むリンに、僕は思わず呼び止めてしまった。 「……リン!」 リンが振り向く。 王女ではなくなったリンに、僕は 「―――またね」 そう言って、抜け道の隠し戸を閉じた。 椅子の背にかけたリンのドレス ほどいたままの髪。 僕は、もう決めていた。 素肌に、まだリンのぬくもりが残ったドレスに袖を通す。 髪を梳いた。 ヒールを履いた。 ドレスの裾を広げ、形を正す。 いつも僕がリンにしていた事を、今は僕自身にする。 最後に髪留めを留めようとして、指を切った。 赤い血。 君と同じ血。 髪留めを留め、僕はその血で、そっとくちびるをなぞった リン。君が悪だと言うのならば、僕にだって同じ血が流れている。 ついに、破滅がやってきた。 扉が破られ、赤い鎧が僕を見た。 瞠目する、女剣士。 「この、無礼者っ!!」 僕は、リンの声でそう言った。 あとは―――言うまでも無い。 女剣士が止める間もなく、怒れる民たちは僕を取り押さえた。 牢へと連れて行かれる間に思った。 前にリンと呼んだのは、いったい何時の事だったろうか。 前にその手に触れたのは、いったい何時の事だったろうか、と。 最後に、リンの名前を呼べて 最後に、リンの手に触れられて それだけで、僕はもう大丈夫だった。 たとえこの先に待ち受けるのが、死だったとしても―――。 広場には断頭台。 僕は牢に入れられて数時間もしないうちに連れ出された。 ドレスは着たまま。 女剣士が、言葉も無く僕を見ていた。 ドレスを剥ぎ取ろうとした民を止めたのは、彼女だった。 教会の時計は間もなく三時 もうすぐ、鐘が鳴る。 鐘楼から視線をさっと走らせて、ただ一箇所に、目が吸い込まれた。 使用人の姿をした君が、そこに居た。 君は、何かを叫んでいる。 だけど、その声は怒れる民衆の怒号に消える。 首切りが、僕を断頭台に連れて行く。 「空を見ていたいわ。うつ伏せは嫌」 僕はそう言った。 首切りは、眉をしかめ、女剣士をうかがう。 彼女は、うなずいた。 首を断頭台に乗せる。 青い空。 留め具が、僕の首をしっかりと押さえる。 そして―――鐘が鳴り響く。 終わりを告げる三時の鐘が。 君なら……リンなら、何を言っただろうか。 僕のくちびるは、知らず、君の口癖を紡いでいた。 ―――――あら。おやつの時間だわ――――― 西のはずれの森で、わたしは待っていた。 いつまで待っても来ない。来ない。 やがて、森の外が騒がしくなってきた。 ―――悪の娘の処刑――― すべてが、消える感覚。 あの時、なぜレンは残ったの。 なんでレンは、自分の服をわたしに着せたの。 なんで、わたしは……それに気付かなかったの。 ただ一人の、双子の姉弟なのに―――。 わたしは、広場に駆けていった。 お父さまが作った広場。 民の幸福を願った広場に、古い断頭台が、見えた。 人の波に飲まれながら、わたしは必死に前へと進む。 民たちの頭のむこう、わたしのドレスを着た、わたしの写し身。 「レン!!!」 怒りに震える民たちの揺らめきで、レンの姿が見えなくなる。 「わたしよ! わたしが悪の娘!! だからお願い、殺さないでぇッ!!」 自分でも、自分の声が聞こえない。 「双子なの! 双子の弟なの……お願い、お願いします! やめてぇーッ!!!」 もし神がいるというのなら、お願い。 レンをたすけて 「レェェェンッ!!」 叫びはとどかない。 レンは、断頭台へと歩みを進める。 臆した様子もなく、いっそ凛として。 断頭台のそばで、レンはあたりを見渡すように―――そして、目が合った。 「レン…! レン!!」 見えているはずなのに、声は届かない。 レンは、ほのかに微笑んだ。 赤茶けた口紅を引いたくちびるが、その目が、一瞬だけ優しげに笑った。 君は首切り役に何かを囁き、断頭台へと乗った。 仰向けで、空と断頭台の刃を見つめながら。 首を押さえる留め金が閉じる。 いくら叫んでも、わたしの声は誰の耳にもとどかない。 清浄な鐘の音が、響いた。 教会の鐘。午後三時。 場違いな清らかな音色に、人々は声を失った。 わたしも、またその一人。 鐘が鳴り響く中、わたしは、わたしの声を聞いた。 ―――――あら。おやつの時間だわ――――― 刃を吊った紐が断たれる。 陽を照り返し、一瞬だけ煌く断頭の刃。 わたしと同じ色をした髪が、落ちるのを―――――― わたしは、叫んだのだろう。 人々の歓声の中、ただ一人、慟哭の叫びを挙げた。 わたしの召使。 わたしの、ただ一人の、双子の弟。 慟哭の叫びさえ、響くことを許されない。 森のはずれ。 気付けば、わたしは森を抜ける所だった。 足には、草で切れた無数の傷。 歓び詠う民たちの姿に、耐えられなかった。 わたしが死ぬはずだったのに。 レンは分かっていたんだ。 王女がいなくなれば、民たちはかならず召使を探すと。 顔の似た召使に、王女が化けたかも知れないと疑われると。 だから、王女は死ななければならない。 召使が生き残るために。 わたしを、生かすために――― 森を抜けた時、目の前に立った赤い影。 赤い、鎧。 わたしは、語る言葉を持たなかった。 彼女もまた、そうなのだろう。 だけど、通り過ぎようとするわたしに、彼女はこう言った。 「あれが、彼の望みだった」 足が、止まる。 「王女の声で、彼は言ったわ。無礼者、ってね」 わたしは、何も言えない。 「止める間も無かった。ただ、もう止まらないと言うのなら……私は彼の望みを通してあげたかった」 だから、ドレスは脱がさなかった。 だから、真相を知りながら、処刑した。 ―――悪の娘とうそぶいて、わたしのレンを処刑した――― 「もう、王女はいないわ」 冷たい声で、彼女は言った。 後ろで、シャンという剣を抜く音。 首に向けられた、冷たく鋭い気配。 風が、無情に流れる。 冷たい刃をつきつけたまま、時が止まる。 やがて、鋭い冷気をわたしの首に残したまま、剣をおさめる音。 「行きなさい」 彼女は、森の中へと消えていく。 わたしは、その場にくずおれた。 とめどなく流れ落ちる涙。 泣き叫びたいのに、もう声も出ない。 ただただあふれ出す涙だけが、止まらない。 民はきっと、同じ涙を流したのだろう。 わたしがそれを知らなかったから、今度はわたしが流すことになった。 レン。 もし、わたしたちがただの双子だったら……ただの双子になれたなら―――。 教会の鐘。 僕の姿をした、君の姿。 鳴り響く鐘の音を聴きながら、僕は空へと思いを馳せた。 もしも、生まれ変わったら―――また、双子に生まれたら。 その時はまた、遊んでね。リン――――― 運命の糸が切れる音を、聴いた。 どうか君は 君だけは いつまでも わらっていて―――― ある国に生まれた双子 姉は王女に 弟は召使に 運命を分かたれた 哀れな双子の狂おしい物語 悪逆非道の王国 その頂点に立った少女と その召使 王女の身代わりとなって死んだ召使のことを 誰も知らない fin
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公式ページ 2014年の七夕イベント。おおおおおおおん!ひどいわひどいわ!おおおおおおおおおおん!! 今回はランスが追加された他、大剣・片手・笛にG級派生が追加された。 しかしながらGR1止まりなので戦力としては・・・そろそろイベ武器にGR5解禁してもいいのよ? クエスト いま愛に生きます HR/SR 11~ 目的地 雪山(温暖期) メイン フルフル1頭討伐 アナザー サブA ギアノス5匹討伐 サブB ギルドフラッグを山頂に設置 何処かで聞いたようなクエスト名だが多分気のせい。 ちなみに温暖期なのでギアノスは普通に居るはずである。繁殖期だったらえらいことになってたのは確定的に明らか メインで新作ランス+狩猟笛(狩猟笛の素材はアナザー枠で出現)、サブAが大剣、サブBで片手剣の生産素材が出る。 アナザー枠以外の限定武器生産素材は10個確定+1%設定であり、また個別にブースト対象外設定となっている(他のモンスター素材にはかかる)。 余談だが、今年より親方印/HCのキー素材が廃止され、このどちらかへの分岐までがいつでもできるようになった。 出会った二人?愛の逃飛行? HR/SR 31~ マストオーダー ???の捕獲 ランポス5匹討伐 特殊条件 持込は弾限定 G級派生の素材入手クエ。 マストオーダーの???はイャンクックなのだが、関係ないリオレイアも徘徊している(狩猟しても失敗にはならない)。 エリア9に行けばイャンクックに遭遇できるため、討伐しないようにだけ気をつけて捕獲をしよう。 装備は任意なので捕獲名人をつけるのもいいし(ペイント弾or自動マーキングとの併用)、団部屋レスタの手を借りてもよい。 ん?出会った二人・・・愛の逃避行・・・クック・・・レイア・・・イャンガルルガ・・・あっ 報酬はG級強化素材「東方の織り糸」が30個確定+1%設定、最新のランスには使用しない。 こちらもそれ以外のクック素材にはブーストが乗る。
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観音開きの扉を開き、火の灯った蝋燭片手に階段を降り、扉を閉める。 次に、拘束具に体中を締め付けられ、あちこちに擦り傷を負った男を仮面越しに一瞥、近寄ると口枷と目隠しを外す。すると、血の混じった唾液が口の端から零れて落ちた。 しかし、酷い臭いだ。まあ仕方ない、排泄物やら血ヘドやら膿やら、敢えてそうした物の掃除や治療はしていないのだから。 しかし、酷い言葉だ。まあ仕方ない、開口一番に悪口雑言を吐く程に、コイツは俺が憎いのだから。 だが、本音を言えば少し不快だ。誰が誰の命を握っているか、解らせてやるとしよう。 戸棚の中から、長い針を引っ張り出して火に掛ける。真っ赤に熱したそれを左の眼球に近付け、触れるか触れないかの所で一端停止。 安心にほんの僅か表情が緩んだ所で、ゆっくりゆっくり、蝸牛の這うよりなお遅く。押し込んでゆく。 熱でぶつぶつと泡立ち、濁ってゆく角膜。立ち上る煙。激しい呻き声。 水晶体をじわじわと白濁させながら突き進むと、感覚がほんの少し変わる。そこでゆっくりと、眼球内部を掻き混ぜるように針を動かした。 更に進んで暫くして、視神経を突いた手応え。拙いな……傷が脳に達する前に止めておこうか。 おっと、まだ寝かせないぜ? 右手親指の爪と肉の間に同じく熱したナイフを差し込み、そのまま爪を剥ぎ… おっと失敗。仕方なく中途半端にぶらりと下がった状態の爪を摘み、力を入れて根元から引き抜く。あまりの痛みにスッキリお目覚め、ってな 熱した針を次々と、体中に突き刺してゆく。ああ、勿論急所は外すからご安心を。 嗚呼、肩から腕に掛けて無数に突き立てた針。これなんか、蝋燭立てに持ってこいじゃないか? 物は試しだ。早速蝋燭を突き刺して火を点ける。 じわじわと炙られ、肌は高熱に熔けた蝋に覆われる。 さて、この行為にも飽きた。次は水責めかな、石抱き、鞭打ち、電気ショック。いや、それとも最近仕入れた毒薬を試してみようか。 ……一つ鋸を引いてみるのも、悪くないかもしれないな それにしても良い声だ……くく、アイツを傷付け犯し嬲り弄んだ男、機関内部組織「OST」の一人、此処で逢ったが百年目。 まだまだ夜は永いんだ――――たっぷり、愉しもうぜ?